有る‼︎
吉祥寺で何度か亀川千代を見かけたことがあった。サンロードからホープ軒に折れる角のところですれ違った。当時の彼女がバイトしてたタワレコにも来たっていってた。井の頭線で目の前に姫カットのおじさんが立ったから亀川千代みたいだと思って、手元のスマホで亀川千代の写真を検索して見比べたらまさに亀川千代その人だった。まなこがほぼ正円で、ツンと尖った鼻筋がくちばしのようで、賢明なふくろうみたいだった。
*
日課の晩酌を���めて、夕食後に外へ走りに出た。しかも2日も続けて。偉すぎる。近くの橋梁を3往復する。二粁と五〇〇米余になる。毎日続けようとも思わないし断酒したわけでもないけれど、春の夜風は気持ちよい。裸眼で見上げる橋梁のナトリウム灯がぼやけてきれい。
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先に床に就いた家人を起こさないように引き戸を開けて暗い寝室に入り込むと、遮光カーテンが半開きで、磨りガラスの窓が戸外の白い光に明滅していた。規則性があるような、ないような、変拍子みたいな。車のパッシングのようにも見えたけれど、向かいのアパートの共用階段の照明が切れかかっているのだとすぐにわかった。呼吸が歌だ。鼓動がリズムだ。
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近隣住民などによれば、同夜の現場は周辺の道路が封鎖されるなど一時騒然となり、さながら「立てこもり事件」の様相だったという。結果的に武装警官による大捕物となったわけだが、先述した逮捕容疑は「同居人の腕を叩いた」という軽微な傷害で、しかも捜索差押許可状も逮捕状も発付されていなかった。それどころか――、
「そもそも“被害者”が被害を訴えておらず、被害届も出ていないんです」
そう呆れるのは、男性の弁護人を務めた青木康之弁護士(札幌弁護士会)。道警の捜査の端緒は、第三者からの情報提供だったという。
●当事者「事件にするつもりない」→警察は執拗に事件化
緊急逮捕から1週間ほど溯る3月22日、かの部屋に住む2人の間で他愛ない言い争いがあり、男性が女性の腕を叩くという出来事があった。“被害者”に怪我はなく、もとより被害の認識もなかったが、のちにこれが深刻な家庭内暴力事件に仕立て上げられたのは、女性が何の気なしに痴話喧嘩の顛末を打ち明けた相手が親族と共通の知人だったことによる。
話を聴いた知人は早合点し、あるいは不必要に気を回し、女性の親族に連絡、これを受けた親族が本人を飛び越して警察に相談を寄せてしまった。相談を受けた札幌中央署は同28日深夜、そのマンションを訪ねて女性への聴取を試みる。これが、問題となる緊急逮捕の前夜のことだった。
中央署の捜査員らはその夜「とっくに仲直りしてるし、事件にするつもりなんかない」という女性の訴えを聴き入れず、署への同行を求めてきた。あまりに執拗な要請に根負けし、女性は警察官らに従わざるを得なかったという。
被害を届け出るつもりのない“被害者”は、ひたすら事件化を促す説得を受け続け、翌朝6時までその身柄を拘束されることに。ほぼ不眠のままで職場への出勤を強いられた女性はその日午後、仕事を早退してペット霊園や自動車販売店を訪ねる予定があったが、職場で待ち構えていた中央署員に引き続き拘束され、否応なく自宅マンションへ連れ戻される。
捜査員たちは自宅近くに停めた車両内に女性を事実上軟禁し、新たな要求を寄せてきた。マンションのカードキーを貸して欲しい、と。驚いた女性がこれを拒んでも、警察は「1階のオートロックを開けるだけ」と食い下がってくる。気圧された女性は承諾せざるを得なくなり、「絶対に部屋には入らないで」という条件をつけてキーを手渡した。
ほどなく、それを手にした捜査員らはオートロックを突破して目的の居室がある6階へ直行、女性との約束をあっさり破って玄関ドアからの入室を試みた。在室していた同居人男性が不意の訪問者らに驚き、強盗の襲撃かと身構えることになったのは、すでに述べた通りだ。
筆者が開示請求して入手した道警の『犯罪事件受理簿』。しかし、女性側は事件化する気はないとして、被害届は出していない
●警察の不可解な対応 浮かぶ別件逮捕の可能性
被害届のない傷害事件の立件に固執するあまり“被害者”を騙して鍵を借り、約束を破って入室しようとした挙げ句、窓を割って侵入。しかも令状のない「緊急逮捕」という、異例ずくめの対応と言えた。先の青木弁護士は、捜査の杜撰さを次のように批判する。
「あくまで任意捜査だったわけですから、男性が同行を拒否できるのは当然です。警察がどうしても踏み込みたかったのなら逮捕状をとるべきで、4時間もあれば充分それができた。実際、逮捕後すぐに令状がとれているんです。
なぜ逮捕前にそうしなかったのかはわかりませんが、地上6階からは逃亡のおそれもないし、『立てこもり』と言ったって人質をとったわけでもないし、大勢の警官が武装して突入する必要なんてありませんよ」
刑事訴訟法210条では「緊急逮捕」の要件を下のように定めている。
《死刑又は無期若しくは長期3年以上の懲役若しくは禁錮にあたる罪を犯したことを疑うに足りる充分な理由がある場合で、急速を要し、裁判官の逮捕状を求めることができないとき》
要は「重大犯罪が強く疑われ、かつ令状をとる時間がない場合」ということだが、男性のケースがこれにあたるとはおよそ考えにくい。容疑は「腕を叩いた」という軽微な罪で、令状を請求する時間は短かくとも4時間以上あったはずだ。
なぜ札幌中央署が強引な逮捕に踏み切ったのかは知る由もないが、1つ推認できるのはそれが「別件逮捕」だった疑いだ。緊急逮捕後、警察は男性に薬物使用の疑いをかけて強制採尿、これに陽性反応が出たとして4月1日付で再逮捕している。
男性に薬物事件の前歴があったための対応だと思われるが、男性自身は筆者の取材に対して今回の薬物使用を否定、「2度も尿の採取に協力したにもかかわらず最終的に強制採尿された」と訴えている。警察と男性、どちらの言い分が正しいのかは現時点で検証困難だが、そもそも要件を満たさない勾留下での強制手続き自体が問題だったのは確かだ。
●裁判所、異例の更正決定 滲む警察への憤り
のちに弁護人を務め、また国賠訴訟の代理人も引き受けることになる青木弁護士が初めて男性と接見したのは、この再逮捕の2時間ほど後のことだった。
一連の経緯を知った青木弁護士はその日の夕刻、薬物事件での勾留請求を控えるよう札幌地方検察庁に申し入れた。地検がこれを聴き入れない可能性があったため、週末をはさんだ同3日には担当検察官に改めて口頭で要請し、加えて裁判所に勾留決定をしないよう意見書を出す。
しかし札幌地裁(斎藤由里阿裁判官)は同日付で勾留を決定、これに対する準抗告(不服申し立て)も翌日付で同地裁(井戸俊一裁判長)に棄却される結果に。これも不服とした弁護士は翌5日付で最高裁に特別抗告を申し立て、改めて被害者とされる女性の証言を引いて捜査の違法性を訴えた。すると――、
「翌日、裁判所から驚いた様子で電話があり、女性と連絡をとりたいと言ってきたんです」
青木弁護士がそう振り返る。さらにあくる日の7日午前、札幌地裁からくだんの女性に電話があり、裁判官3人が代わる代わるその証言に耳を傾けた。
この聴取結果をもとに「再度の考案」が行なわれた結果、同じ日の夕刻に伝えられたのは異例の「更正」決定。傷害事件での逮捕行為を違法と断じ、薬物事件での再逮捕も「違法な捜査との関連は密接」と指弾するもので、当初の勾留決定とは百八十度異なる結論だった。決定文に綴られた警察への苦言の一部を、下に採録しておく。
《捜査機関が被害者方居室の玄関ドアを開けた行為は、被害者の管理権及びプライバシーを侵害するものであり、違法な強制処分にあたる》
《窓を破壊した行為も危険かつ不利益性の高いもので、違法の程度は重大である》
《あえて詳細な事実関係を糊塗して緊急逮捕状等を請求したとみられるから、将来の違法捜査の抑止の見地からも相当でない》
最後の一文からは、裁判所の強い憤りが読み取れる。どういうことか。
本記事の半ばほどで青木弁護士が証言しているように、男性のケースでは緊急逮捕の「すぐ後」に改めて逮捕令状が示されていた。発付したのは、いうまでもなく裁判所。捜査機関を信用し、1人の容疑者の身柄拘束の必要性を認めた決定だ。これに異議を唱える弁護人の求めを2度にわたり棄却した札幌地裁は、準抗告棄却の決定でこんな認識を示していた(カッコ内註は筆者)。
《(捜査員らは)被害者の承諾を得た上で被害者方の窓を破壊して室内に立ち入った》
もはや言うまでもなく、この認識は事実と異なる。被害者とされた女性はそもそも警察にカードキーを預けることを拒み、それでも引き下がらない相手に「絶対に部屋には入らないで」と条件をつけてキーを渡していたのだ。無論のこと、窓を破っての突入など「承諾」するはずがない。ならば、裁判所はなぜ上のような理由で抗告を棄却したのか。
答えは1つ。捜査機関に騙されたためだ。女性を騙して鍵を入手した警察は、裁判所をも騙して男性の逮捕を正当化しようとした。今回、国賠の代理人となった青木弁護士らが最も問題視するのがその点で、裁判では道警による虚偽公文書作成などの疑いを追及していく可能性がある。
筆者が開示請求で入手した道警の『事件指揮簿』。式事件の区分について、警察本部長、方面本部長、署長のうち「署長指揮事件」にチェックがついている
逮捕のあった夜、現場では「飛び降りの危険」があるとして札幌市内の複数の消防署から救助隊など計5隊が出動したことがわかっている。道警の『事件指揮簿』などの文書によれば当初の傷害事件は「署長指揮事件」で、決して重大な事案ではなかったはずだが、現場付近には警察マニアならば一目でそれとわかる機動隊の車輌が臨場していた。
その隊員らがライフル銃を手にベランダ窓から強行突入に及んだのは、これまで繰り返し述べてきた通り。突入時に割れたガラスで住人男性は手や脚に怪我を負ったが、警察からの謝罪は今もなく、窓の修理費用の弁償もなされていない。
警察が突入時に割った窓ガラス。未だ弁償されていないという(原告提供)
武装警官が「令状なし」で窓ガラスを破って突入した瞬間 住人に「違法逮捕」と訴えられる - 弁護士ドットコム
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サラリーマン新藤剛
1.
男は立ち止まり、目の前にそびえるオフィスビルを見上げた。周囲には真新しいガラス張りの高層ビルがいくつも建っている。それらと比べると背も低く古びたこのビルが、しかし男にとっては一番恐ろしく、雨だれで汚れた外壁に威厳すら感じていた。
新藤剛は墨田商事営業部の部長である。二十五年前に入社して以来営業一筋で、数年前に部署をまとめる立場になってからも、時折こうして自ら取引先に出向くことがあった。
ミネラルウォーターを一口飲み、中身が半分ほどに減ったペットボトルを鞄にしまう。呼吸を整えるように深く息を吐いたタイミングで、後ろから部下が声をかけた。
「部長、大丈夫ですか?体調でも悪いんじゃ……」
いつも闊達で堂々としている新藤の緊張したような様子は、若い部下には見慣れないものだった。急に暑くなり始めたここ数日を思うと、体調を崩したのではないかと想像するのも無理はない。
だが振り向いた新藤は、意外にも普段通りの声色でそれを否定し、にやりと笑って見せた。
「いや、問題ない。……まあ、武者震いというやつかな」
「はあ……」
新藤はそれだけ返すとビルに向き直る。部下もそれ以上何も聞かず、二人は連れ立って自動ドアをくぐった。
2.
受付を済ませるとすぐに応接室へ案内された。新藤にとっては何度も訪れたことのある部屋だが、この場所はいつも新鮮な緊張感を彼に与える。
年季の入った黒い革張りのソファに腰掛けると、わずかに軋む音がした。新藤は案内係が出ていった扉を目の端に入れる。
ここ丸岡社は、墨田商事と付き合いの深い取引先のひとつである。今日は契約の更新と内容確認のため商談の場が設けられていた。新規の契約をとるという訳ではない。しかし新藤は、この商談を重要なものと捉えていた。ある意味では、会社の今後を左右するほどの。こんなとき、新藤はいつも心にある人物の姿を思い浮かべていた。
それは人気ドラマの主人公、高橋真太郎。平凡なサラリーマンでありながら、不正をはたらき私腹を肥やす上司や、理不尽な要求をする取引先と臆せず闘う、熱い男だ。新藤はシリーズを通してこのドラマのファンであることを日頃から公言しており、高橋真太郎は彼の憧れだった。その姿を胸に、新藤は大事な局面を幾度となく乗り切っている。
まるで自分が主人公になったような気分で、この後現れるであろう丸岡社の担当者・戸坂の顔を思い浮かべた。あの食わせ者にしてやられないようにしなければ、と気合いを入れる。
「失礼します」
ノックの音に身を固くしたが、続いて聞こえたのは来客担当であろう事務員の若い声だったので少し肩の力を緩めた。事務員が手に持っている盆から、コーヒーの香りが漂ってくる。
「お待たせして申し訳ありません。戸坂はすぐ参りますので……」
「……いえ、こちらが早めに着きましたので」
実際、約束の時間まではまだ少しあった。新藤は元来せっかちな質で、さらに今日の商談への気合いからかなりゆとりを持って到着していた。待ち時間が生まれるのは想定内だが、こちらがじりじりと時間まで待ってから向こうが現れるとなると、どうも「余裕」を見せつけられているように感じる。しかしそこで動揺しては戸坂の思うつぼだ。新藤はそう思い直し、心を落ち着けて待つべくコーヒーをありがたく頂戴した。
結局、約束の数分前に戸坂が応接室の扉を開くまでに、新藤はコーヒーをほとんど飲み干してしまった。待たせた謝罪を口にしながら戸坂が歩み寄ってくる。彼の後ろに付いて、また事務員も入室した。先ほどとは別の盆を持っている。テーブル上を一瞥して空になったコーヒーカップを引き上げ、代わりに冷水の入ったグラスを置くと、一礼して部屋を出ていった。
「今日は暑い中、ご足労いただきまして」
「いえ、こちらこそ、貴重なお時間をいただいて……」
戸坂が近づくのに合わせて新藤と部下は立ち上がり、三人は互いに挨拶の言葉を口にした。しかし形式ばったやり取りもそこまでで、戸坂は新藤の向かいのソファに腰掛けると、始めましょうか、とやや気軽な調子で新藤を見た。
対して新藤は、目力を緩めぬまま戸坂を見返し頷く。ここで気を抜いて油断を見せてはならない。戸坂は穏やかだが切れ者だ。巧みな話術でそれと気づかぬうちに主導権を握られてしまう。新藤はそう考えていた。
だが逆に、緊張を悟られるのもよくない。冷静に臨むため、新藤はグラスの水を一口飲んだ。
3.
それぞれ手元の資料に目を落としながら、契約内容を確認していく。はじめの二、三ページについて説明している間、新藤は資料をめくる毎にグラスに口をつけた。外の暑さのせいか自身の気持ちの問題か、やたらと喉が渇いたのだ。
途中、増税の影響や原料費の高騰など周辺の話題に寄り道しながらも、話は順調に進んだ。金額が絡む内容になると新藤は身構えたが、戸坂から何か指摘が入ることもない。自身が普段の落ち着きを取り戻しているのがわかる。ひと息つくように口にした水は、先ほどより少しうまく感じた。
「……ところで、前に来てくれた彼、佐々木くんでしたかね?」
「あ、ええ。佐々木がどうかしましたか?」
「いえ、実はこの間、こちらの都合で少し迷惑をかけてしまいまして。しかし彼に対応してもらって非常に助かったんです」
改めて一言お礼をと思っていて、と戸坂は手元のグラスを手に取る。そして休憩の合図とばかりに、脇に寄せられていた菓子盆を引き新藤たちに勧めた。
一見何気ない話題だが、新藤は戸坂の口元に浮かぶ意味ありげな笑みを見逃さなかった。戸坂が特定の部下について発言するのは珍しい。そもそもいつもきっちり仕事をこなす戸坂が、迷惑をかけたなどという状況にほとんど覚えがなかった。
この話題には何らかの意味があるのではないか。戸坂にとってメリットのある、何かが。
落ち着いていた心臓の音がまた煩くなってくる。新藤はそれを隠すようにグラスの水をゴクリと飲み、平静を装って勧められた菓子に手を伸ばした。
取引相手である戸坂から佐々木の名前を出され、礼を伝えたいと言われたことで、新藤としては佐々木にそれを伝言せねばならないだろう。それが戸坂の目的だとしたら。実は佐々木はスパイで、彼のほうから戸坂へ連絡しても不自然でない状況を作るとか、もしくはこの伝言自体が合図で、佐々木は戸坂と共に何か画策しているとか。
いや、佐々木は墨田商社に長く勤めている真面目な男だ。よく気がつく彼に、新藤も助けられてきた。あの佐々木がこんな裏切るような真似をするはずがない。しかし、そういう人物だからこそ疑われにくいとも考えられる……。
気取られずに戸坂の意図を探るには何と返せばよいか。グラスを持つ新藤の手に無意識に力が入る。中身が少なくなったグラスの内で、解けかけの氷がカランと音を立てた。
「そうそう、先ほどのコーヒーはいかがでしたか?」
新藤が探りを入れるより早く、戸坂は話題を変えてしまった。思考を巡らしていたせいで一瞬何のことかと思ったが、待ち時間に出されたコーヒーを思い出す。
「コーヒー、ですか。美味しくいただきましたが……」
「ああ、それならよかった」
満足気に頷いた戸坂と対称的に、新藤は内心の動揺を悟られないよう必死だった。コーヒーが一体何だというのだ。普通、あえて感想を求めるようなことはしないだろう。何の変哲もない美味いコーヒーだったと思うが。
「あれは実は社員が海外で買ってきたものでして。ぜひ味わっていただきたかったんです」
「はあ……」
そう説明されても、新藤は疑いを拭えない。言葉の裏の意味を汲み取る、自分の経験と実力を信じるがゆえだった。まさかとは思うが、薬の類を盛られた可能性はないか。変わった風味には気がつかなかった��、薬の味が分かってしまった場合に備え、ごまかすために海外土産という言い訳を準備していたのではないか。その考えに至ると、緊張感のせいと思っていた動悸も、薬のせいだったのではと思えてくる。
自覚すると、心音はより大きく新藤の身体に響いた。部下はなんともないのだろうか。ちらりと隣に視線を向けると、部下は平気そうな表情で座り戸坂の話に相槌を打っている。手元の水は、新藤ほどではないが減っていた。
それを見て、新藤にある考えがひらめく。そうだ、水だ。薬を飲んでしまったのなら、水で薄めるのは効果的なはずだ。二人ともそこそこ水を飲んでいるから、まだあまり変化がないのではないか。だからこそ焦った戸坂は、コーヒーをちゃんと飲んだか確認してきたのだ。
思うが早いか、新藤はグラスを口元へ運ぶ。しかし冷たい氷が口元へ触れただけで、喉を通る水分はわずかだ。しまった、水はもうほとんど残っていない。こうしている間にさらに薬が回ってしまうのではないかと新藤は焦る。どうする。いや落ち着け、こんなとき高橋真太郎なら……。
「失礼します」
見計らったかのようなタイミングで事務員が扉をノックする。静かに三人の元へ寄ると、グラスへ減った分の水を追加した。まだたっぷり水と氷の入ったデキャンタを机に残し、一礼してまた静かに退室した。
ありがたい。新藤は早速、補充された水を飲み下す。ちょうどいいときに来てくれて助かった。
いや、だがタイミングが良過ぎはしないだろうか。新藤の脳内に新たな疑惑が浮かんでくる。もしかして、この部屋は外から監視されていたのか。もしくは、戸坂が外へ何らかの合図を送ったのではないか。
新藤ははっとして、持ったままのグラスに目をやった。むしろ水のほうに仕掛けがあったらどうする。コーヒーに意識を向けることで、安全なものと思い込ませた水を大量に摂らせる策であったとしたら。戸坂ならば、それくらいの誘導は難なくやってのけるかもしれない。
だがそのとき戸坂自身がグラスから水を飲んだのを見て、新藤は冷静さを取り戻した。そうだ、この水は目の前で同じデキャンタから全員のグラスに注がれていたのだ。そしてそれを戸坂も口にしている。つまり水に薬は入っていない。あるとしたらやはりコーヒーだ。
思い通りになるものかと、新藤はさらに水を飲む。まさかばれているとは思っていないのだろう、怪訝さを隠せていない戸坂の苦笑が可笑しかった。
やがて残っていた書類の確認が済み、商談は終了した。話を終えるまでに新藤は二杯目の水を飲み干し、デキャンタから再度注いでそれも飲んでしまった。
「それでは、本日はありがとうございました」
「こちらこそ。今後ともよろしくお願いいたします」
新藤は部下とともに、丸岡社をあとにした。体調も変化なく、勝ち誇った表情を浮かべ歩く。戸坂は薬でこちらの判断力を鈍らせ、商談を有利に進めようとでも思っていたのだろうか。その企てに勘付き逃れることができたのだ。巨悪に立ち向かう、あの主人公高橋真太郎みたいじゃないか。大仕事をやり遂げた達成感を胸に、来たときよりも堂々とした足取りで新藤は帰っていった。
4.
「失礼します。墨田商社様、お帰りになりました」
「ああ、君もありがとう。すまないがグラスの片付けも頼むよ」
新藤たちを会社の入口まで見送り、来客対応の事務員が応接室に戻った。戸坂は疲れを滲ませた顔で書類を揃えている。
「お疲れさまでした。ところで新藤様、随分険しい表情をされていましたが……商談中に何かありました?」
事務員に尋ねられ、戸坂はため息を吐いて肩をすくめた。
「……何も。なんてことない、ただの定例の商談だ。まったくあの人は、ドラマの見すぎなんだよ」
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大学生になって一人暮らしを始めて銭湯に行く夢
古めかしい外観のアパート(というかむしろ下宿に近い)。
変な間取り。
ドアがひとつの階につき3つくらい付いてるがどのドアを開けても共用の廊下に出る。
木と曇りガラスの引き戸でようやく個人スペースになる。
部屋にはすでに荷物があって半年以上は暮らしてる雰囲気だった。
同じアパートの住人と思しき若者が2人くらい間取りについてあーだこーだ言ってどっか行った。
曇りガラスとはいえプライバシーが気になったのでカーテン付けたいなとか考えた。
アパートと大学どちらからも近いと思われる銭湯に行く。木造だということは覚えてるが全体像はよく覚えてない。和風旅館ぽかった。
浴場は使わなかった。トイレをしに行っただけで、特に料金は払わなかった。
出口を目指しつつ建物の中をゆっくり散策。ふたつの銭湯がひとつの建物に収まってるらしかった。
ひとつの銭湯は和風度高かった。
もうひとつの方はやや綺麗だった。行列の数もこっちの方が多かった。
柱のあたりに看板が貼られてて、大学生は入湯料無料とあった。
今度来る時は学生証持ってこうと思ったが、まだ入学してないので手に入れられるのはいつになるのかなぁとか考えたところで目が覚めた。
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生活のワンシーンに、古材を取り入れてみませんか。
問touにて先日開催しました、リビセンことRebuilding Center JAPANのポップアップショップ。その会場で販売していたリビセンのオリジナルプロダクト2種類が、このたびオンラインストアに入荷しました。
リビセンでは「REBUILD NEW CULTURE」という理念のもと、解体される古い家屋や工場などの建物から、古物や古材、行き場を失ったものたちを“レスキュー”(引き取り)し、再活用する形で販売を行なっています。中でもリビセンのオリジナルプロダクトは「古材のリサイクル率をいかに高めて作れるか?」を大切に考えて製作されています。
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レスキューした食器は、食器以外にも使い道はないか?という疑問から生まれたリライフライト。
https://wazawaza.shop-pro.jp/?pid=158775313
建物を解体する中で生まれる床板などの古材と、
窓や引き戸で使われていた古いガラスを組み合わせて作ったコレクションケース。
https://wazawaza.shop-pro.jp/?pid=158775511
ものの見方を変えると、新しい使い方に繋がる。どちらもそんな楽しさを含んだプロダクトです。捨てられてしまう運命にあった古材が新たな道具となって皆さんのお手元に届いたとき、リビセンのレスキューは本当に完了となり��す。
・・・・・・・・・・・・・・・
▼わざわざオンラインストア
https://waza2.com/
▼わざわざのパン・お菓子
https://kinarino-mall.jp/brand-2482
▼【限定クーポンが届くかも】メルマガ登録はこちら
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実は筆者も、真空ガラスの威力を実感している。昨年10月、神奈川県海老名市にある我が家の窓ガラスを一部交換した。
築50年超の古い団地。南に面するリビングに、ベランダに出入りする窓が2カ所ある。高さと幅は1.7メートル余り。2枚のガラス戸が引き違いになっている。古いアルミサッシだ。
最初はペアガラスに換えようと思い、業者から見積もりを取った。サッシ工事が必要で、費用は2カ所で50万円超。とてもそんなお金は出せないと諦めた。そんな折に真空ガラスの話を聞き、リフォームを決断。約25万円で真空ガラスに交換できた。ペアガラスの場合の半額以下だ。
予算の都合で、筆者が選んだのはクリアFitという廉価版の真空ガラスだ。それでもペアガラスをやや上回る断熱性を誇っている。
リフォーム後生活してみると、やはり暖かい。もともと海老名は比較的温暖な地ではあるが、リビングの室温は夜も12~13度を下回ることはない。
フリースなどは着込むものの、エアコンやストーブはほとんど使わず、コタツだけでここまでの冬を乗り切っている。また断熱性が高まれば冷房の効きも良くなるから、夏の電気代も節約できる。
工事費半額の真空ガラスで光熱費節約… 「断熱性はペアガラスの2倍!」をリアルに体験(日刊ゲンダイDIGITAL) - Yahoo!ニュース
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