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#噂のこの串かつあのおでん
studiodazzfonkyass · 1 year
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タグ失礼します! 「噂のこの串かつあのおでん」 先週末なんとか 予約取れてサクッと 行ってきました♪ やはり最強に美味しくて 楽しくなっちゃう 素敵なお店でした🎶 広島で かなりの 人気店なので 中々予約取れませんが💦 もし空いてましたら それはラッキーなので 是非‼️ 行ってみてくださいませ🎶 #広島 #広島グルメ #広島グルメレポート #噂のこの串かつあのおでん #美味しいもの好きな人と繋がりたい #美味しいだけじゃ無い #空間がすき #人気店すぎる https://www.instagram.com/p/CnjMDtAvdiq/?igshid=NGJjMDIxMWI=
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pigu2870 · 2 months
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週末の走行 2024/2/15-19
Miniz-Cup-Championships-Finals
さてやってまいりました。2023シーズンの集大成、ファイナルチャンピンシップです。その1。レース編は次回。
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オリジナルペトロナスカラーにしか塗れない症候群なので、今回もペトロナスR8で行きます。12Cも良いようですが、周りと同じことをしていてはアドバンテージないですからね。
本戦の様子の前にまずは時系列で2/15木曜日から。
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久しぶりに飛行機に乗りました。道外に出るのは久しぶりですね。たぶんラジコンしてなきゃ道外に出てませんでした。
ファイナルの舞台が中部国際空港ということで、名古屋まで飛びます。会場が空港のイベントホールというのは便利ですね。名古屋感はないですが。
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空港に降り立ってからは、会場のイベントホール前のスペースで温度・湿度の確認です。思ったより温度高めということは、グリップ高めが予想されるのかな?湿度も北海道よりは少し高いようです。
グリップ感に悩まされそうだなと思いながら後発隊の仲間にデータを送ります。
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そうこうしてたらチェックイン時間になったので、空港近くの東横インにチェックイン。空輸不可の荷物も送っていたので受け取ります。
値段そこそこサービスそこそこで良いですね東横イン。気に入りました。面倒な荷物の扱いも丁寧でとても良いです。
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早めに到着して、繁華街で呑めるように仕向けておいたので早速ミュースカイに乗って名古屋の街に繰り出します。名古屋タワー、札幌テレビ塔と同じような感じで親近感がわきます。
しかし、ここまで来るまでに地下鉄乗り換えなど迷ったんですけどね。さすが中部の都会です。
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途中、名古屋駅で噂のララちゃんも見れました。意識してなかったんですが、テレビで見たことあるなーという潜在意識が働きました。思ったよりみんな写真撮らないんですね。
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そして繁華街、栄でイケてる車がいました。本州はこの類の車が結構走ってるんでしょうか。いい光景ですね。あまりにも素敵だったので一枚パシャリ。
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栄で手羽先を食べます。とてもおいしい。本場は甘ダレが非常にいい味を出しています。あんまりお肉にタレって好きじゃないんですが、これはとても好きな味です。美味。
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名古屋駅に戻って2件目を探します。
駅前広場でGRヤリスを展示してました。WRカーと限定モデル市販車合わせて4台。さすがは豊田市の隣、トヨタのお膝元ですね。結構人だかりができてました。
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そして2件目はサキュバスシーシャバーです。せっかく名古屋に来たのでちょっとは遊んでおきます。シーシャって初めて吸ったんですけどなかなかにイケます。ただ、深めに吸うと酸欠になるのかクラっとします。それもまたたまらないですね。
女の子もサキュバスの凝った服装をしていてシーシャを吸う姿がセクシーだったので満足です。2時間呑んで、ドリンクもあげて1万円でおつりがきました。お安めでいいですね。
21時ごろになって、おとなしくホテルに戻って就寝。
空港線の本数が少なくて少し焦りました。通勤通学の路線じゃないので終電が早いんですね。
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翌朝、2/16目覚めです。部屋の窓からの景色は特によくはありません。空港の隣なので仕方ないです。
奥に見える建物が愛知国際展示場。この日はK-POPアイドルのライブがあるようでした。
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朝ごはんを食べず、早速名古屋城に向かいます。観光モード全開ですね。またこの日も地下鉄乗り換えで迷子になります。梅が咲いてました。いい香り。
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お城ってはじめて見たんですが、歴史を感じますね。(語彙力)
1時間半ほど散歩して満足です。(飽きた)
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シャチホコもいました。名古屋👍
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昨日サキュバスの子にオススメしてもらった味噌煮込みうどんです。おいしかったです。微妙に茹で上がってないような食感ですが、こんなものだそうです。お味噌がおいしい。
しかし、高い。2700円くらいでした。日常的に食べるものではないんでしょうね。
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この時点でまだ12時くらいと、時間があったので大須の方にも行ってみます。
まずは大須観音。何の神様がいるかわかりませんが必勝祈願しておきます。
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大須商店街。狸小路の2~3倍くらいの規模感ですかね。いろんなお店があって見てるだけで楽しい。ガチャガチャ回したりしました。そしてコンカフェも多いです。メイドカフェが路面店なのは驚きです。
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入りやすいところにコンカフェがあったら入りますよね。とりあえずオリジナルドリンクで小休止。女の子が元気で可愛らしかったのでチェキも撮っておきました。偉いので延長せずに出ます。
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名鉄空港線に乗る兼ね合いで、大須から名古屋駅に戻るより、金山駅に向かった方が効率が良いと判断できたので、金山付近の串物屋に入ります。美味しいんだけど少し高めでした。まぁひとまず満足。
その後結局ガールズバーで少し呑んでからホテルに帰還です。
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ホテルに戻って20時くらい。急いでバッテリーを全放電します。4パック分の放電が終わるまで我慢して起きてるつもりでしたが、気づいたら寝落ちしてました。液晶の光でぼんやりしながら朝方に二度寝。
充電を開始してちょうどいい時間には起きれました。
レース当日編は次回に...。
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yoshkawa · 10 months
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【グルメ】名古屋メシに三重さんま寿司に、東海グルメは侮れない
【この記事のポイント】 ・物産展で購入した『世界の山ちゃん』の手羽先、『矢場とん』のみそかつ、『畑辰』のさんま寿しは、どれも東海地方を代表する個性的な味。 愛知と三重の物産展、せっかくなのでそれらしきものを購入してきました まずは『世界の山ちゃん』の手羽先とみそ串カツ。 山ちゃんを初めて食べたのは前職で名古屋に半年ほど赴任していた時だから… かれこれ30年ほど前のこと。 千種駅の近くにあった店舗、確か階段を昇って入ったような記憶が残っています。 えらく辛い手羽先。 そんな印象でしたけど、その後は『風来坊』ばかりになり、再び行ったのは東京に進出してからだったかな。 今日では首都圏にも20店舗以上あり、さほど珍しくなくなりましたよね。 とはいえ、年に1回も行っておらず、たまに食べると胡椒の刺激に感動するものです。 娘は初めて食べるそうで、��これが噂の……
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taoziyouzi-nikki · 1 year
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2022/11/22
桃 白川と串焼き?
授業を終えて、急いで電車に乗る。18時半新宿に着く。イタリアン食べよう、カレーにしよっか、お寿司もいいね、串焼きあるよ、で店に入った。店を出た時に向かいに本来入ろうとしていた串焼きさんを発見。新宿の街で2人で爆笑した。たしかに串焼きなかったよね。なにやさん?結局このテキトーな感じが合うのよね、なんて言って。
夜パフェは2時間待ち。散歩しながら時間を潰して、2000円のパフェにありつく。20分足らずで完食し、終電のために爆走する。
柚 🐀🐁
空きコマの度に家に帰って寝る。講義でも寝る。爆睡。担当の院生と談笑。誰が何と噂してようと、この人のこと勝手に好きだし、仲好くして欲しいなあ、という気持ち。
何かずっとお腹空いてる、!夜ご飯食べてちょっと飲んで、やっぱりお腹空いて、ほろ酔いの中カレーを温めた。
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nigebanigenige · 2 years
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#326_1016
1016
酒の場、女は女としての振る舞い、男は男としての振る舞いを求められるのつらい 推しはあまりにも過集中で偏っていて良いのは変わらない 前提を共有していないあいだのコミュニケーションは探り探りになって難しい 過度なリアクション、相手への異常な興味 そういうの個人のアイデンティティを超えてを女は求められすぎだと思う  
午前中、例にももれず課題本を頑張って読み、とりあえず出すことを目標に出し、まだ手を付けてない方に想いを馳せながら電車に乗った 近くのカメラ屋さんが知らなかったけど すごくフィルムの品揃えが良くて灯台下暗し感があった 証明写真をとり、フォームを出す 入館証の写真になるらしい 顎を取り戻したいが 就活のときのスーツの写真よりは目が生きていて良かった とりなおし正解 渋谷まで行って��あ雑誌読まなきゃとおもいながらフライターグいって修理に出してたリュックを回収 あっさり接客良くも悪くもある 学割聞いているうちにもういっこほしくなっちゃうな カバンだけなんだな適応されるの 八丁堀までぐだぐだしながら到着してココナッツカレーが美味しくて 足りない噂話をする 声が小さくなる 食べたあとの食欲ってやばくてミニストップでサンドイッチ買おうとしてしまった かわいいカフェでカフェラテ買って、串カツ田中をモチベーションに 家行って雑誌よんで半分課題を終える 横で友達はエンコードしている 捗った 脂質はあれだけだめだと言われたのに美味しいからたべちゃうよね ウーロンハイとかくハイメガジョッキの残りをストローでがんばって吸う 浅草橋 ほぼ初対面みたいなひとたちとの飲み会、しんどいな 急に諦めて存在感を薄くしてしまう 場を仕切るひとをみて私もこう見えているのかなとちょっと辛くなる 役割が明確な飲みの場ほど辛いものない 終電あるふりして友達から会議終わった連絡が来たので逃亡 どうしてもsauna、というかこの1日を良かったことにする何かが欲しくてサウナに直行した わたしは弱い 風呂でもやもやを話した ちょっと言い過ぎかもしれないが、聞く聞いてもらうの関係性を壊そうとする動作がないのが嫌だな すでにそこそこの共通言語がある人たちに興味を持とうとするのも、途中で諦めちゃうな モヒートすすってやりすごした
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vstranslations · 3 years
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Aklo ft. Norikiyo - Hyakusenman - Lyrics
song (spotify) Japanese/Romaji/English lyrics under the cut
また足し算から引き算 数えてく一二三 そんで割り算から掛け算 桁が変わる百千万[FV1]  また足し算から引き算 数えてく一二三 そんで割り算から掛け算 桁が変わる百千万
右に付け足す "0 0 0" 視界は良好 Lego Lego Lego SNSと的外れ世論 ご馳走様です うるせぇよ 兎角浅瀬見れば群がるビギナー 巷の噂? 誰がクリティカル? 100万円よりゃおりゃ好きにやる 金主なんか要らねぇ おりゃウシジマ 語らずもってくAmbitious 敵は己 後は税務署 "諦め" て言葉が載ってねぇ辞書 背負い倍で回収 抜かりねぇMisson え? もういいっしょ… それ後遺症? 手垢にまみれた夢を拾う それ時代遅れなエロビデオ 擦るバカ 黙らす腕を披露 俺は国産上手に焚いてく ** チキンはもちろん隅で妬いてる ** 前にポイントは串でもう突いてる 故に暖簾出しゃ諭吉が付いて来る
 また足し算から引き算 数えてく一二三 そんで割り算から掛け算 桁が変わる百千万 また足し算から引き算 数えてく一二三 そんで割り算から掛け算 桁が変わる百千万 Gotta Make a Move 計画はでっかく 他との違い見せつけステータス別格 ナメてる契約結ばない選択 2度見した電卓今日もプチ贅沢 そんなスマートな方でも無いのかも 損した話とか何度でも まだ回収できない分未だにある おいしい話たまには裏ある Trust Nobody これNo Joke Shit また誰か押し売り骨董品 また何処かで誰かが保証人 俺は頼まれる度にNo Sorry I’m a Self Made 味わった底辺 金より価値あるいろんな経験 過ぎ去った平成 至って冷静 Ima Get My Money Right, Keep It Coming YEN YEN
また足し算から引き算 数えてく一二三 そんで割り算から掛け算 桁が変わる百千万 また足し算から引き算 数えてく一二三 そんで割り算から掛け算 桁が変わる百千万
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Mata tashizan kara hikizan kazoeteku ichi ni san sonde warizan kara kakezan keta ga kawaru hyaku-sen man mata tashizan kara hikizan kazoeteku ichi ni san sonde warizan kara kakezan keta ga kawaru hyaku-sen man
Migi ni tsuke tasu zero zero zero shikai wa ryoukou Lego Lego Lego SNS to mato hazure seron gochisou sama desu urusee yo tokaku asase mireba muragaru biginaa chimata no uwasa? Dare ga kuritikaru? hyaku man en yorya orya suki ni yaru kinshu nante iranee orya ushijima katarazu motteku ambitious teki wa onore ato wa zeimusho akirame te kotoba ga note nee jisho seioi bai de kaishuu nukari nee mission e? mou ii ssho… sore kouisho? teak ani mamireta yume o hirou sore jidai okurena ero bideo kosuru baka damarasu ude o hirou ore wa kokusan jouzu ni taiteku chikin wa mochiron sumi de yaiteru mae ni pointo wa kushi de mou tsuiteru yue ni noren dasha yukichi ga tsuite kuru
Mata tashizan kara hikizan kazoeteku ichi ni san sonde warizan kara kakezan keta ga kawaru hyaku-sen man mata tashizan kara hikizan kazoeteku ichi ni san sonde warizan kara kakezan keta ga kawaru hyaku-sen man
Gotta Make a Move keikaku wa dekaku hoka to no chigai mise tsuke suteetasu bekkaku nameteru keiyaku musubanai sentaku nidomi shita dentaku kyou mo puchi zeitaku sonna sumaato na hou demo nai no kamo son shita hanashi toka nando demo mada kaishuu dekinai bun imada ni aru oishii hanashi tama ni wa ura aru Trust Nobody kore No Joke Shit mata dareka oshi uri kottouhin mata dokoka de dareka ga houshounin ore wa tanomareru tabi ni no sorry I’m a Self Made ajiwatta teihen kane yori kachi aru ironna keiken sugi satta heisei itatte reisei Ima Get My Money Right, Keep It Coming YEN YEN
Mata tashizan kara hikizan kazoeteku ichi ni san sonde warizan kara kakezan keta ga kawaru hyaku-sen man mata tashizan kara hikizan kazoeteku ichi ni san sonde warizan kara kakezan keta ga kawaru hyaku-sen man
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Add more in, subtract some out; counting my money like 1, 2, 3 Divide it out, multiply it up; watch the numbers climb to a billion Add more in, subtract some out; counting my money like 1, 2, 3 Divide it out, multiply it up; watch the numbers climb to a billion
Tack them on the right – “0 0 0” Prospects lookin’ good, lego lego lego People’s opinions are different than what social media says “Thanks for the meal”, God, how pretentious Beginners flock to things that look good on the surface What’s the word? Which stocks are critical? I’ll throw a million yen at it, no need to get analytical I don’t need backers, I’m like Ushijima * I just take what I want, I’m ambitious; My enemies are myself and then the tax office “Giving up” isn’t something I know how to do I’m gonna collect double what I owe; a flawless Misson Huh, aren’t we done? You feelin’ after effects? I pick up a dream covered in fingerprints To the idiots wasting money on old porn videos: shut up and watch me work I stoke the domestic market so skillfully ** Those jealous cowards just sit to the side, ya see ** I think you’ve heard enough on that point from me, so won’t you be kind and fork over the money?
Add more in, subtract some out; counting my money like 1, 2, 3 Divide it out, multiply it up; watch the numbers climb to a billion Add more in, subtract some out; counting my money like 1, 2, 3 Divide it out, multiply it up; watch the numbers climb to a billion
Gotta Make a Move, I’ve got big plans I’m different from them, I’m a very important man I won’t seal the deal if you underestimate me Checked the numbers again; I can afford a little luxury “This is the only smart thing to do,” I’ve made bad choices like that on occasion or two There’s still money I haven’t made back Nearly every good deal has some kind’a catch Trust Nobody, this is No Joke Shit Again people try to push some antiques and someone somewhere will provide their guarantee Every time I’m asked a favor, I say “no sorry” I’m a self-made, I’ve been at the lowest of the low It’s not money - experience makes you grow The Heisei era came and went quietly, though Ima Get My Money Right, Keep It Coming YEN YEN
Add more in, subtract some out; counting my money like 1, 2, 3 Divide it out, multiply it up; watch the numbers climb to a billion Add more in, subtract some out; counting my money like 1, 2, 3 Divide it out, multiply it up; watch the numbers climb to a billion
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*Ushijima is probably a reference to the manga “Ushijima the Loan Shark”
**These two lines are both (very well made) puns based on multiple homonyms. The other meaning of these lines is “I skillfully stoke a fire for the chickens / and of course I roast them over the coals”
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tezzo-text · 4 years
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201005 九月の読書など
9月は忙しかった……。ということでろくに本を読んでない。今日は久しぶりに二子玉川の上海で飯を食ったが、唐揚げがピーナッツっぽい風味でおいしかった。ピーナッツ油(?)で揚げてるんだろうか。二子玉川に行くといつも上海かケンタッキー・フライド・チキンで迷う。上海は半端な時間は閉まってるのでケンタッキー多し。でもフライド・チキンて本読みながら食えないのが難点よね。手が油まみれになるから…。 -
200916
阿川弘之『葭の髄から』 文春文庫(2003) https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784167146078
201004
阿川弘之『人やさき 犬やさき 続 葭の髄から』 文春文庫(2007) https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784167146085
盆に父の実家へ行くと、芥川賞の時期だからか、あるいは単に暇だからか、父は文藝春秋を買って持っていった。いつだかの巻頭随筆で、阿川弘之が高松宮家の侍女長を紹介した記事が興味深く(微温的皇室ウォッチャーでもあるので…)切り抜いて取っておいたが、ふとそれを思い出して連載の文庫版を買ってみた。
ま、読んでみればそう拡張高いわけでもなく、『この国のかたち』ほど教養深い内容でもなく、素朴に保守的な随筆という感じだが、やっぱり出てくる話々におっと思うところが沢山あった。戦中の話では、たとえば高級将校でさえ終戦を論じていなかった時すでにその気配を察知していた株屋の話、海軍は陸軍と違って知英派・知米派を登用し続けていた話など。戦後では香淳皇后の崩御時に宮殿で棺に祗候する不思議な儀式の話、本来「べし」というべきところに「べき」は誤用という話などが興味深かった。
その中で、素直にためになったと思ったものもある。阿川弘之は根っからの戦中派、海軍出身なのもあってベッタリとした国粋主義者というのではないがとことん親米反中で、2000年4月の石原慎太郎による「三国人」発言には「やること言ふこと、今回の件に限らず、群を抜いて爽やかな感じがある」と共感している。
そこはどうにもならんが、しかし「あんまり人の気分をすつきりさせたり、御自分ですつきりしたりなさるのは考へものですよ。」と述べ、嗜めとしてある言葉を載せている。同誌で中西輝政京大教授がギリシャの歴史家ポリュビオスの言葉を引いていたのを紹介しているもので、ひ孫引きになるがそのまま引用してみる。
「物事が宙ぶらりんでどつちにも決らない状態のまま延々とつづくこと、これが人間の魂を一番参らせる。その状態がどちらかへ決した時、人は非常な気持ちよさを味はふ。ただし、それが国の指導者に伝染したら、その気持ちのよさは国の滅亡をもたらす。ポリュビオスがカルタゴの滅亡について論じた此の言葉は、英国では軍人も政治家もよく知ってゐて、エリートは物事の決らない気持悪さに耐へねばならぬといふ教育をされてゐる。残念ながら日本にはさういふ文化が無かつた」 -
201005
藤野裕子『民衆暴力』 中公新書(2020) https://www.chuko.co.jp/shinsho/2020/08/102605.html
・明治期の大規模な制度改革(徴兵制、学制、地租改正、賎民廃止、違式詿違…)の中で、1872年の『徴兵告諭』で「血税」という言葉が使われた。これがきっかけの一つとなって、「徴兵されると「異人」に血を抜き取られる」「西洋人は小児の生き血を取って薬を練る」「西洋式の病院に行くと、患者は鉄串の上に乗せられ知らぬ間に身体の「膏」(脂、あぶら)を抜かれ、笑いながら死ぬ」という噂が流れたが、この頃の一揆はそういう社会不安をベースにしていたらしい。今、納税者として税のおもみをアピる時にも「血税」と言いがちだが、このオカルティックなニュアンスが脳裏にあるとなんとなく不気味な感じがしていいかも…。
・上記のような時代、いわゆる「新政反対一揆」が多く起きた。これらについては60-70年代に充実した研究がされていて、民衆発の抵抗運動としてある種の評価をされている。ただし、それらは地元役人宅、学校、交番などと同時に近隣の被差別部落も襲撃の対象にしており、権力への抵抗とシンプルには言えない。
・日比谷焼き打ち事件の原因には日露戦争後のさまざまな世論が関係しているが、それが暴力として発露した背景には、都市部・男性・社会的経済的に低層と目される・日頃から暴力と親和性のある・しかし侠気もある肉体労働者たちの存在がある。焼き打ちには彼らのような労働者たちが参加していて、彼らの暴力が合流したことで予想外の規模に発展した。このように暴力はコンセプトと別に成分としてあり、それが合流、結集、委譲されることで民衆暴力が成立することがある。
・その明確な例として出されているのが関東大震災後の埼玉県本庄警察署での一連の事件である。本庄町は検挙者が群馬方面へ移送されるルート上にあり、多くの朝鮮人が警察署に収容されていた。県が朝鮮人に対する攻撃を正当化するような通達を出したことと、東京から避難してきた人たちの流言から、9月4日夕から町民の自警団が署へ集まり、到着したトラックに乗せられていた朝鮮人を虐殺、その後5日未明にかけて署内にも侵入して70名以上の朝鮮人を虐殺した。さらに証拠を消すため死体を山林で焼き、埋めている。
その描写はほんとうに凄まじいが、本当に恐ろしいと思ったのは翌6日の事件のことである。虐殺のあった翌日夜、再び町民約1000人が集まり、今度は本庄警察署自体を襲撃、放火寸前まで行く。実は半月前からお祭りでの神輿担ぎに関する問題、遊郭についての問題などで町民は署長に反感をもっており、今回の襲撃の背景にはそれがあった。さらに自警団が「朝鮮人を本庄署に連行したところ「司法権の侵害だ」と怒られた」こと、前日の襲撃の際「村磯所長に「一般大衆は手を出すな」と言われ、「今までたのむといっておきながら、何事��」となり「署長を殺せ」」となったことも直截の原因だった、とある。一つの暴力が被差別者へも権力者へも向けられている点では、これは新政反対一揆と同じである。ただ一揆においては少なくとも一つらなりの不安・不満が複数の対象に向かったのに対し、ここでは国や県の通達によって自警団に暴力が委譲された結果、それを使って何ができるか、理由はどうあれもっと使いたい、という感情が暴力行為を惹起しているように思える。
・わしは、暴力は、ものごとを繊細で豊かで複雑な状態から、シンプルな状態に、ときに無にするものと思うが、どの部分が許されざる暴力であり、どの部分が時代を進展させる原因になった暴力か、という風に分けられない点で、ものすごく複雑でもある…と思った。あとがきでも書かれているが、では原理として暴力はすべて許されざるものとしていいのかというと、それこそシンプリファイというもので、暴力に頼るしかないほどの状況に追い詰められた人々への追い討ちの暴力のように思えてしまう。
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oka-akina · 4 years
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日本語から日本語への翻訳——伊藤なむあひ「天使のマーチャン・ダイジング」
日本語から日本語へ翻訳、やってみました。 伊藤なむあひさんがツイッターでつぶやいていて、よかったら交換こさせてくださいと手をあげたもの。 他の人が書いた小説を自分の言葉で翻訳してみる、同じ日本語だけどきっとちがいが出る…みたいな試み。 くわしくはこちらの記事をどうぞ。 なむあひさんがおかわだの「さなぎ」という小説を翻訳してくださっています。
なむあひさんの挙げていた、 ・話の筋を変えない ・要素を増やしたり減らしたりしない はわたしも意識したところです。内容や意味合いはいじらず、できるだけ情報の開示順もそのままで、どれくらい「文体」みたいなものが出るだろう。
なむあひさんの「天使のマーチャン・ダイジング」という作品でやらせてもらいました。とてもとても楽しく、勉強になる体験でした。  原文はこちらです。よかったら読み比べてみてくださいませ。
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天使のマーチャン・ダイジング 伊藤なむあひ (オカワダアキナ翻訳)
 本日ポイント5倍デー、そのスーパーマーケットの入り口には棒が立っていて、棒は天使の体を突き刺している。そのための棒だ。ひとびとは串刺しの天使を見つけると店へ吸い込まれてゆく。ポイントデーは曜日や日にちで決まっているわけではなく気まぐれで、朝、入り口の棒に天使が刺さっていたらそのしるし。それだけだ。エンゼルマートは今日も繁盛している。  ライバルたちはこぞって商売の秘密を探ろうとした。価格も売り場も内装も、エンゼルマートに目立ってすぐれたところはなく、店の立地はむしろ悪かったのだが、わざわざ遠くの町から、いや飛行機に乗ってだって、客はどんどんやってきた。老いも若きも男も女も、みなエンゼルマートを目指した。秘密は「天使のマーチャン・ダイジング」だった。エンゼルマートには独自の経営術があり、店は三代続いている。  初代はごく小さな商店だった。二畳あるかないか、掘っ建て小屋ともいえないような狭い店だった。大戦後のどさくさに拾い集めた天使の肉片を加工し売ったのだ。  いや天使の肉とはいわずに売った。山で獲ったウサギだとかめずらしい川魚だとか、天使を食べたことのある人間なんてほとんどいなかったから誰にもばれなかった。焼け野原みたいな村はいつも食い物が不足していた。肉はよく売れた。タダで拾った肉に値段をつけ、店はたいそう賑わい儲かった。  店に名前がついたのは二代目になってからだった。商いはだいぶ大きくなっていた。初代が亡くなり、それは不可解な死だったのだが息子は弔いもそこそこにともかく店を継ぎ、店に名前を与えた。『天使商店』、彼は往来から見えるところに大きく掲げた。そして、この店で扱っていた肉はすべて天使の肉であったと客に申し開いた。  客は驚き、怒った。二度と来ないと言う者、金を返せと怒鳴る者、殴りかかろうとする者さえいた。いっとき売り上げは半分近くまで落ち込んだ。二代目は、けれども、天使の肉は安全であると根気強く説いた。家の地下に作った「養天場」、そこではいかに衛生に配慮しているか、高い栄養価、人肌より少し温かいくらいの湯に二十四時間浸けておくなどの天使肉調理のコツ、初代が残したノートや自分が丁稚をやって得た知識。それから現在調べ得る天使についての情報すべて、彼は惜しみなく与えた。  はたして彼のやり方はうまくいった。みるみる業績は回復し、過去最高の売り上げを記録した(もちろん帳簿というものが存在している中での話だ、会計は記録であり記録を信頼することにより成り立つ比較の話だ)。そうしてそこにとどまらず、二代目の商売は右肩上がりに伸びてゆき、やはり初代同様、謎めいた死を遂げた。  俺は二代目から、つまり親父からだが、いつかこういう日が来るだろうときかされていた。世間はかれらの死を商売敵の恨みを買ったものだろうと噂していたが、そうではない。祖父も父も禁をやぶった。そのためむごたらしく死んだ。  ふたりの死に方はよく似ていた。こうだ。両手両足二十本の指が蝋燭みたいに亡骸の周りを囲んでいた。目玉と睾丸が入れ替わっていた。抜かれたすべての体毛で人型の人形が編まれていた。舌は二十四枚にスライスされ、その隙間には切り取られ二十三枚にスライスされた性器が挟みこまれていた。黄ばんだ胆汁が体じゅうに塗りたくられていた。抜かれたすべての骨で、残った肉のかたまりの上に神社みたいなやしろがつくられ、てっぺんには心臓がのせられていた。とてもおごそかに。  親父も祖父も馬鹿だったのだ。商売はうまかったかもしれないが経営はからきしだ。俺は物心ついたときからずっと二人を見てきた。二人の死も目の当たりにした。絶対にあんなヘマはやらない。  俺のエンゼルマートの入り口の棒にはストッパーがついていて、天使は俺の腰のあたりでうつ伏せに刺さって固定されている。手足はぶらりと垂れ下がっている。今日は小雨が降りそうだよ。俺が言うと、天使は苦しそうに顔を上げ、微笑んだ。そしてまたがくんと頭を垂れた。地面に何か見つけたみたいな仕草だ。  俺はそれを見届け、品出しに戻った。俺一人の店だ。もともと家族経営でやっていたが親父は死んだし、ほかに誰も雇っていない。  店に並ぶのはすべて天使の加工品で、商売はもはや肉だけではない。親父から少しずつ店を任されるようになり、骨も髪も爪も、体液さえ、俺は天使のすべてを利用するようになった。天使は人間と似ているが人間ではない。人間よりも知能が低く、体力に劣り、寿命も短い。下位の生き物だ。天使に一切の権利はない。天使に一切の自由はない。天使に一切の意味も、価値もない。  串刺しの天使を見つけたひとびとが続々店に集まってくる。俺は店の中にいて、ガラス越しに天使を見ている。入り口に押し寄せる客たちが天使にぶつかった。天使は棒に刺さったまま、風ぐるまみたいにくるくる回っていた。  俺は店の明かりをつけ、トーキングマシンのスイッチを入れる。軽快な音楽が鳴り響く。本日ポイントデー、今日だ、今日こそがお得だ、それがいかにあなたを幸福にするか、トーキングマシンは親父の声で叫び出す。親父の声が、ガラスのこちら側で喧しく歌う。  俺はもう一度、串刺しの天使に目をやる。ほら、小雨が降ってきた。寒そうだなあと俺は思う。俺の経営はなんら法に触れない。むしろ国から推奨されている。これこそが正しい国民の姿であると、俺は理解している。だけど天使のマーチャン・ダイジングには反しているのだ。俺はぜんぶを了解していて、俺が思うのはそれだけだ。
ーーーーーーーーー
やってて思ったことなど
・いったいこれはどうやって書かれたのだろう? すごくわくわくした。文章の骨組みに手をつっこんでさわっているような感じ。読者として読んでいるときとはちがう感覚。
・わたしはたぶん誤読している。本作を初めて読んだのはブンゲイファイトクラブの後のタイセンEだったと思う、つまり半年くらい前なんだけど、今回翻訳作業をやるうちに作品の捉え方が変化していった。もしかしてわたしはふだんぜんぜん小説を読めていないのでは…と思った。
・翻訳をやればやるほどわからなくもなった。本作はわかろうとして読むものではないのかもしれない。いや翻訳するなら自分の中でこうだという答えがいると思ったからあれこれ考えてみたんだけど(ふだんの読書ではわたしはわりとわからないまま読み進める)、うーん。だとしても明確な答えをもたないままやることもできたかもしれない。わたしはけっこう頭がかたい。
・エンゼルマートについて、語り手は第三者のように語りはじめながら、途中から「俺」の話になるところ。歴史が自分ごとになるところ。ここがやはり肝だと思うので、そこらへんを自分の言葉でやるならどうするか。「俺」の話になってからのテンションのちがいとか。
・天使のマーチャン・ダイジングとはなんだろう。祖父と父は持っていたもので、自分はそれに反している? 祖父と父の原始的な商売…、自然(ここでは焼け野原だけど)から採集したものに値段をつけて売る、ひとびとに不足しているものを売るから儲かる。隠していたことを打ち明ける、いったんは客が離れるが、正直さはやがて客の心をつかみ、儲かる。やがて祖父も父もひどい死に方をする。なぜかは明らかにされない。天使を使って商売をし、成功させると、その代償にひどい死に方をする?
・マーチャンダイジングとは「消費者の欲求・要求に適う商品を、適切な数量、適切な価格、適切なタイミング等で提供するための企業活動のこと」をいい、そうすると、天使の肉であることを祖父が隠したこと、それを父親が客に打ち明けたことなどはマーチャンダイジングの一環といえるかも。売り手・買い手それぞれの利益や正しさ。
・で、「俺」は「絶対にそんなヘマはしない」という。むごたらしい死を回避するため、祖父や父親とはちがった商売のやりかたをしている。生きている天使を店頭の幟旗のようにし(生きたまま棒で刺している)、商品は肉だけでなくさまざまな部位を扱う。トーキングマシン(呼び込み君みたいなやつ?)は父親の声。これらは国に推奨された方法らしい。天使のマーチャン・ダイジン��には反しているらしい。
・その是非にはふれないが、「なんら法にふれない」「国に推奨されている」というと、なんかこう「良心には反するけども」みたいな感じを受ける…わたしは。ということでそういうつもりでやった。天使を串刺しにする等は倫理に反しているが、国からは許されており、ひどい死に方を回避できる?
・「そりゃあ商売は上手かったかもしれないが、経営者には向いていなかった。」、祖父と父が上手だった商売とは、仕入れ・加工・販売のことだろう。では経営とは? 一般的には、利益を生み出し事業を継続させることをいうだろうけど、ここではどういうことだろう。「元々家族経営だったが、親父は死に、他に従業員も雇っていなかった。店内には俺だけ。」ってことは自分一人の仕事だしな…。いわゆる組織の話でないなら、客とか仕入先とか地域とか行政との関係かな…。みたいなことを考えたんだけどなんかすごく的外れなことを言っている気もする。
・わたしは読んでいて「棒」という語が面白かったので、アクセントにしてみたつもり。突き刺す、立てる、握る、貫く…。祖父も父も死んで自分一人になった「俺」は「絶対にそんなヘマはしない。」と言う、その象徴みたいな。
・なむあひさんの作品は、「おりーりー鳥は実在します?」、「東京死体ランド」、「星になって願いを」などなど読んでいます。そのほかアンソロジーに参加された作品もいくつか。シュールだったり奇妙だったりするけれど、いつも文章に明るさがあってとても好きです。明るさというか…なんていったらいいのかな…内容や話題はいろいろだけども根底に光があるというか、「ヘン」さを楽しんで書かれているのが伝わってくるというか…。いやまあ伝わってくるってか、読んでいる人に、ああ楽しんで書かれたものだなあと受け取らせる力というか。小説表現への希望を感じるというか。
・本作も、「惨たらしい死に方」の描写がじつに生き生きしているし、生きている天使を棒に刺して店頭に飾っている=残酷なんだけど、どことなくコミカルさが漂う。なむあひさんの世界のルールがあるというか。本作はわたしが読んだほかのなむあひさんの作品とくらべていくぶん重苦しさもあるけれど、やはりファニーフェイスだなあと思う。 また、マーチャン・ダイジングとかV字回復とか月商とか、「経営っぽい語」の挟まれてくる感が独特で、おかしみがある。
・で、この「おかしみ」は別の人が書いても難しい。こういうノリになんない。ある種のぎこちなさみたいなものが面白い…んだけど、わたしがやろうとするととたんに骨折したみたいな文になる。 ところで言い方すごい難しいんだけど…わたしは男が女がみたいな言い方はあんまりしたくないんだけど…、こういった”ぎこちなボケ”みたいなのって男性の作家のほうが上手いイメージがある。いやほんと性差の話にはしたくないし必ずしもそうとは限らない、例外はいくらでもあるんだけど、それはそれとして日々いろんな人の文章を読んでいる感想として、そういうボケ方を得意としている作家に男性が多い…という傾向はあるように思っている。この話長くなるのでやめとくけど、本作を読んだわたしの個人的な感覚として、「あっ男の人だ」というのを感じた。いわゆるマッチョとはちがう、そうではない男性のぽさというか…。
・「経営っぽい語の挟まれてくる感」はとても難しかった。語感を面白がって書かれている、遊んでいる感? 自分だとうまくいかない。ぜんぜん御しきれなくてわりとあきらめた箇所もある。 「創業以来最高(帳簿に記録が残っているなかでだが)の売上」は、もうどうしたらいいのか難しくて、「もちろん帳簿というものが存在している中での話だ、会計は記録であり記録を信頼することにより成り立つ比較の話だ」とちょっとオーバーにしてみたというか、「商売にとどまらず経営にこだわる俺」感で遊んだというか。
・本作はさらさらーっと読める、読みやすい語りなんだけど、じっさい解きほぐしてみるとすごく難しい…というかほかのひとにはあつかいの難しい、なんともいえない奇妙さがあって、「果たして、彼のやり方は誰もが想像する以上に功を奏した。」とかすごいなあと思った。
・「いたって普通の」「だというのに」「見たこともない」「誰もが想像する以上に」「一時期は昨年対比で五十%を切るかと思われた」、このあたりのちょっと大仰な感にひみつがありそう…文章の明るさとか楽しんで書かれている感の…。なんだけどうまく言えない。ほかの語とのバランスとかかなあ。
・あと「抜かれた全ての体毛で」とか「抜かれた全ての骨で」とかのトラップというかひっかけ問題というか(いやわたしが初読時読み落としていたってだけなんだけど)。「すべての体毛を抜いた・すべての骨を抜いた」なのか、「抜いた体毛の全部・抜いた骨の全部」なのか。たぶんここでは前者なんだろうけど、どっちだ?感をそのままにしたくなったので、そのままやったつもり。
・こうして自分の言葉で翻訳…とやっていると、ふだん自分は文章のノリを優先させているんだなーと思った。書きやすいほうをとっているというか、意味とか内容が多少ずれちゃっても文章の運びを優先させている。というかそもそも、書いている時点でちゃんと決めてないのかも。自分にしっくりくるノリで書いているうちに本文中の事実が定まっていくというか。小説を書いているときわたしは序盤の方が時間がかかるんだけど、書き始めはなにを書いているかわからないからなのかも。書きながら形が見えてくる、書いた文章が次を決めていくみたいな。
・だからか、事実関係を文章のノリによってずらすことなく、自分の文体に変換させていくって、すごく難しいなと思った。たとえば「暴力を振るおうとする者もいた」は自分の語りなら「暴力に訴える者もいた」にしたいところだったけど、それじゃちがうんだよな、原文は「振るおうとする」、未遂なんだよな…。自分の作品だったら、暴力はあったってことにしちゃいそう。原文の表現そのままにしてもよかったんだけど、前後のノリで「殴りかかろうとする者さえいた」にしてみた。その後主人公の「棒」とつながりそうな気がしたし(で、棒のほうが強そうだし)。
・そういうノリに従いたくなるいっぽう、わたし自身としての考え方の手癖みたいなものがあって、たとえば本作だと「誰もが想像する以上」の誰もって誰だろう?みたいなところで立ち止まる。ここをこそノリで、波にのっていきたいところなのかもしんないんだけど、そのへんはやはり作家によってちがうのだろうなあと思った。すごく面白かったです。
・長々書いたわりにまとまらずすみません。たぶん読んで書いてをやって、手を動かしてガチッとはまる感じ、なんかこう「そういうことか!」って接続していく感じは、説明するの難しいな…。これ面白いからみなさんやってみるといいと思います。わたしもまたやりたいです。なむあひさん貴重な機会をありがとうございました。めちゃめちゃ楽しかったです。
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fujimoto-h · 4 years
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白鴉例会とライムスターと「マクガフィン」とウィトゲンシュタインと『かわいいウルフ』とはじめてのコミケと『かがやき』と
 昨年末28日に白鴉例会。1作のみ。  終了後、90年代Jpopの流れる串カツ屋で忘年会。なんかいろいろ話していたはずなのだが、あの店、帰るときにくぐると記憶が消える扉を使っているようだ。
 翌日、10時ごろより新幹線こだまにて上京。東京駅からそのまま新木場駅へ向かうとちょうどいい時間で、カレー食べてSTUDIO COASTへ。見るからにでかい会場で、集まっている人もなかなかの数。早めに荷物とダウンジャケットをロッカーにしまっていたら番号を呼ばれるまでにけっこう寒くなってきた。会場に入るとまあ広い。ドリンクもやたら行列ができていたので諦める。今年いちばんの後列だったけど、まあこれだけいるし仕方ない。あ、申し遅れましたがライムスターのライブです。そしてはじまると初っぱなからMighty Crownがゲストに加わっての「予定は未定で」。つまりは逆順リスト。ここから先も秋元才加のパートナーでおなじみのPUNPEEがゲストに来ての「Kids In The Park」や、F.O.Hがゲストに来ての「ウワサの真相」など、さすが東京はちがうなあと。そして同時にやはり、とある方向へ向けて期待は高まる。逆順リストがすべて終了して3人がいったん捌け、プロジェクターでこれまでのライブの様子をダイジェストで流しているのを眺める。動画が終わると3人が見憶えのある黒スーツで登場。会場が一気に盛りあがる。そして岡村靖幸が呼ばれ、「マクガフィン」。はじめて生で岡村靖幸を見るのだったが、なんかすごく楽しそうにうたっていて幸せな気分になった。楽しさのあまりMummyDのヴァースに聴き入って、自分が担当するサビのところをうたい忘れるという。そして曲の終了とともにすぐさま袖へと捌ける岡村靖幸。噂通りだ…と感動する。というかこれでいったん終わりか…。  終了後、新木場駅前のどさん子でラーメン。幼少のころ近所にあったどさん子はいまいちだったけど、ここのは美味かった。
 30日は雨の中、龍神社へ行ったり彷徨したり。谷賢一『従軍中の若き哲学者ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタインがブルシーロフ攻勢の夜に弾丸の雨降り注ぐ哨戒塔 の上で辿り着いた最後の一行「──およそ語り得るものについては明晰に語られ得る/しかし語り得ぬことについて人は沈黙せねばならない」という言葉により 何を殺し何を生きようと祈ったのか?という語り得ずただ示されるのみの事実にまつわる物語』(工作舎)を読んでいるうち、この舞台のいちばんのハイライトだろう、あの言葉の無限の可能性についてウィトゲンシュタインが気づく場面を読んで、『論理哲学論考』を読み返したくなるという単純さ。鬼界彰夫の本も読んでみたい。mixiからずっとネット知人としていろいろこちらが勝手に勉強させていただいている吉川浩満氏が出演されたというので文化系トークラジオというのを聴いていたら馳平啓樹『かがやき』が紹介されたり、多田尋子という書き手を知ったり。夜には映画納めとしてテアトル新宿へ『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』を観に行く。リンさんやその周辺のエピソードが大幅に追加されるなどしてすずさんの人物造形の奥行きが増し、作品そのものの奥行きが増している。そして何回観てもいちばん来るのはあの時限爆弾であった。いやあ、どうか今回は不発で終わってくださいませんか、と何回観ても思う。というか何回観てたっけ。そして片渕須直×町山智浩対談を読んで、早くももう一度観たくなっている…。
 そして最終日の大晦日。なにもすることないしどうしようかとtwitterを眺めていると『かわいいウルフ』でおなじみの小澤氏がコミケに出店するというので、せっかくだし行ってみようと思い、行ってみた。ひさびさのゆりかもめ。生まれてはじめてのコミケ。東京ビッグサイト駅ではじめて降りてみたが、かなりの人出。コスプレしてる人も混じっていたりして、おかげで道に迷うことはなかったが、並んで手荷物検査受けて入場用のリストバンドを購入するまでに2時間はかかっていたと思う。この時点で東京文フリの比じゃないな、などと考える。リストバンドを買ってからもけっこう歩き、歩いているうちにもけっこう人がいる。コスプレイヤーの撮影会が行なわれているそばを通りつつ会場を目指す。やっとのことで辿りつくと、やたら広い。そして人口密度高い。控えめに言って東京文フリの1000倍はいるんじゃないか。どうにかブースを探し出し、小澤氏に挨拶。海響0号「情報技術」を買わせていただく。IT技術者の情熱やテクノロジーへの愛もまた「文学」であるにちがいない、という信条がこの冊子を創るきっかけとなったようだが、内容はたしかに面白い。これからまたじっくり読ませていただくつもり。小澤氏と名刺交換させていただいてブースを離れ、ちょっと偵察でもしようかと考えたが、もともと行列と人混みが嫌いな性分なので疲れ果てて撤収することに。ちなみにこの時点で『かわいいウルフ』は1冊しか売れておらず、まあ『白鴉』なんかはだいぶ絶望的だろうな。この人数で売れなかったら東京文フリで3冊しか売れなかったとき以上のダメージを受けることに…。  東京駅へ行って『多田尋子小説集 体温』(書肆汽水域)を求めに八重洲ブックセンターへ向かうも置いていず、検索したところ、駅を挟んで反対側にある丸善にあるというので急いで向かい、探し出して購入。読むのが楽しみ。  新幹線こだまで馳平啓樹『かがやき』(水窓出版)を読み、新大阪へ辿りついてからも読みつづけ、読了した。年内間に合った。いろんな書評で取りあげられているだけあって「かがやき」はよく書けているとは思うものの、「クチナシ」はいまいちうまくいってないのではないか、というかむしろよくこの状態で載せたなと思った。「クチナシ」以外の作品では学歴に対して不釣り合いだと見なされるような職業にやむなく就いている男性が主人公となっているところ「クチナシ」はそういった言及がないところから���えるとおそらくはその学歴などに見合った職業ということなのだろう。「クチナシ」以外の主人公の抱える鬱屈はおそらく自分の学歴とは不釣り合いな、もしくは不釣り合いだと思っている製造業に就き、機械の一部として働くことに抵抗を感じているように見受けられるが、「クチナシ」では主人公は自分の妻がある時期から子供ほしさに主人公を精液を出す機械として扱おうと医師と結託してくることに対して抵抗を覚えるようになる。この人工授精の問題が出てきてからはこの作品のテーマは男性性の危機と捉えることもできるのだが、そう捉えるには人工授精の問題が出てくるのが遅すぎるのもたしかだ。また、男性性の危機をテーマに据えたとすれば、隣人トラブルはまだしも、職場のエピソードはまったく機能しておらず、はたして筆者が男性性の危機をテーマにしていたのかどうかが疑わしい。とても中途半端なかたちで出されている作品であり、また、それだけに、筆者の持つ作家性のうち駄目な部分(変にプライドの高い主人公であるのはいいとして、客観性に欠けるため、ただただ嫌味な性格にしか読めない)が出てしまっているような気がしてならない。  帰宅後、とりあえず2019年のまとめだけを書いてアップ。そしてそのあとこの記事を書いている。
さいきん読み終えた本 北村紗衣『お砂糖とスパイスと爆発的な何か──不真面目な批評家によるフェミニスト批評入門』(書肆侃侃房) 谷賢一『従軍中の若き哲学者ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタインがブルシーロフ攻勢の夜に弾丸の雨降り注ぐ哨戒塔 の上で辿り着いた最後の一行「──およそ語り得るものについては明晰に語られ得る/しかし語り得ぬことについて人は沈黙せねばならない」という言葉により 何を殺し何を生きようと祈ったのか?という語り得ずただ示されるのみの事実にまつわる物語』(工作舎) ジャン・ジロドゥ『トロイ戦争は起こらない』(ハヤカワ演劇文庫) 馳平啓樹『かがやき』(水窓出版)
さいきん観た映画 『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』(片渕須直)テアトル新宿
さいきん行ったライブ RHYMESTER『KING OF STAGE Vol.14 47都道府県TOUR 2019』東京STUDIO COAST
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oldkwaidan · 2 years
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下がる足
 天草諸島・下島の御領村と佐伊津村の村境に「さけん松」というのがある。「境の松」の佐伊津訛りである。  この松には大きな足が下がるといって、人々はおおいに恐れていた。  あるとき、豪胆な男が、その化け物を退治してやる、と出かけた。  家人には、決して心配して迎えになど来るな、と釘を刺しておいた。
 さけん松に来てみると、噂どおり、とても大きな足がぶらりと不気味に下がっている。  彼は刀を抜くと、足を木から斬り落とした。  さて帰るか、と踵を返すと、向こうから提灯が来る。  近づいてみると我が家の下男であった。  下男は主人の顔色を窺いながら言う。 「旦那様は何か恐ろしいものにお会いになったでしょう」 「いや、特に何にも会っておらぬ」  侍が否定すると、下男は食い下がった。 「お顔の色が悪うございます。きっとお会いになったに相違ありません」  そこで侍はさっき見た大きな足の話をした。  すると下男は自分の着物の裾をまくりながら言った。 「その足というのは、これくらい大きかったか?」  むき出しになった下男の足は、さっきの足そっくりであった。  また出やがったな!  侍は一刀のもとに下男を斬り伏せると、後ろも見ずに急いで御領村の小串の方へ下りていった。  川端まで来ると誰かが鍬を洗っている。見れば自分の乳母である。  乳母は侍に気づくと、声をかけてきた。 「お顔の色がお悪い。どうかなされたか」  侍が今までの話をすると、乳母が言った。 「それはこれくらい大きかったか」  裾から差し出された乳母の足がまたもや、同じ大きな足。  とうとう侍は降参して叫んだ。 「君らには勝てぬ。もう許してくれ」  続けてこうも言った。 「どうか頼むから家まで案内してくれ」  すると、空中にパッと火が灯って、ゆらゆら動き始めた。  火についていくと、彼は無事に我が家についた。  彼が門まで来ると飼い犬が急に吠え立てた。  途端に火はフッと消えて見えなくなった。  その後、侍はいろいろご馳走をこしらえ、松の根本に持って行き、家まで帰してくれた礼を言った。
 別の説によると、この松は今、御領村の芳證寺にあるという。  昔、この松によく大きな足がぶら下がっていたそうである。  実際にその足を見たという八造という老人が今も御領村に生きている。  彼が若いときのことだ。  佐伊津村からの帰り道、この松のそばを通ると、噂に聞いた大きな足が下がっている。  あまりの恐ろしさに早足で通り抜け、ようやく御領村まで戻ってくると、若者に出会った。  若者は八造を見て、声をかけてきた。 「顔色が悪いが何か恐ろしいものにでも会ったのかい」  そう親切に訊くので、八造は今見たものの話をした。 「それはこれくらい大きかったか」  若者は裾をまくって足を出した。  それはさっきの大きな足とそっくりであったという。
 (浜田隆一『天草島民俗誌』木石有情談 「(一)大きな足」)
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studiodazzfonkyass · 7 years
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過去があっての現在。 広島の先輩達は今でも その背中は広くカッコいいです♪ 懐かしい写真を今朝モー兄から 頂いたので早速UPww 僕が17歳くらいの頃だったと 思います♪ 沖田くん細!!!僕キモッww そして現在 木曜日 フラミンゴにごはん食べに 恵美とパシャリ♪ 定食もめっちゃうましでした!! #懐かしの写真 #今尚活躍中 #広島の先輩達カッケェ #僕も頑張るぞ #万馬券 #沖田くん #噂のこの串かつあのおでん #あの頃細かった #そしてキモい僕 #17歳 #フラミンゴ #ダンスパワー全開
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monqu1y · 3 years
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部下を管理する七つの技術   情報源 ( じょうほうげん ) の 複数化 ( ふくすうか ) と 符節照合 ( ふせつしょうごう ) で家来の 言行不一致 ( げんこうふいっち ) を見ぬいたり、 意外 ( いがい ) なテストで本心を確認したりして、 騙 ( だま ) されないように注意し、 信賞必罰 ( しんしょうひつばつ ) で家来たちをコントロールする方法
⦅洞察六兆[韓非]から続く⦆
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 「術」は、[法]の運用のしかた。王様が胸の中に仕舞い込んで臣下をコントロールするもの。  王様は、無数の部下、巨大な組織を制する権力者だが、生まれついての超能力者ではない。ひとりの人間が絶対的な権力者となるには、法(機構)の確率と運営のための術(徹底した人事管理)が必要なのだ。 〖王様が使うべき七つの[術]〗 01_臣下の行動と言葉を検証して、言行の不一致がないかを判断する  [法・術]に 長 ( た ) けた王様は、証拠のないことは取り上げず、普段食べない食事は口にしない。遠くのことはよく聴き、近くのことはよく見て、家来がどこにいようと、その落ち度は見落とさない。家来たちの言葉の食い違いを調べて、彼らの派閥をさぐり出す。さまざまな角度から家来の申告を成果とつき合わせて、食い違いを許さない。最初の言葉と後の成果を一致させる。法を基準として、言行を数多く見くらべて、家来を統率する。まぐれ当たりの成果には賞を与えず、職分を外れた行為は許さない。処刑すべき者は必ず処刑し、罪ある者は赦さない。  相手がどんな悪者でも私欲をとげさせない決意を 揺 ( ゆ ) らがせてはならない。   衛 ( えい ) の 嗣 ( し ) 公は、家来の一人を旅人にしたてて、関所を通過させた。  関所の役人は、彼をきびしく調べたが、金をやるとすぐ見逃してくれた。  その後、嗣公はその関所を通るとき、くだんの役人にこう言った。  「これこれのとき、お前の関所を旅人が通り、お前は金をもらって見逃してやったろう」。  役人は嗣公が何もかも見通していると思い、ふるえあがった。 02_罪には必ず罰を与えて、威厳を示す  何か事件が起こったとき、それによって利益を得る者があるならば、きっと、その者が仕掛けた。損害を受ける者があるならば、その人間と利害反する者が怪しいと見なければならない。  したがって、[法・術]に 長 ( た ) けた王様は、国が損害をこうむる事件が起こったら、それによって利益を得る者を調べる。家来が損害をこうむる事件が起こったら、その家来と利害の反する者をさがす。   晋 ( しん ) の 文 ( ぶん ) 公のときだった。  料理番が焼肉を文公にさし出した。  その肉に髪の毛が一筋ついていたので、文公は料理番を呼んで追及した。  「お前はこの髪の毛でわしがむせるのを望んだのか。でなければ、なぜ髪の毛をつけたのか」。  料理番は何度も地面に額をこすりつけてあやまった。  「わたしは死に価する罪三つを犯しました。包丁は砥石でよく砥いでありますので、名剣 干将 ( かんしょう ) のようによく切れます。肉はよく切れたのに、髪の毛が切れていません。これが第一の罪です。串に肉をさしたとき、髪の毛が見えませんでした。これが第二の罪です。炉の炭を真っ赤にして 炙 ( あぶ ) ったので肉は焼けたのに、髪の毛が焼けませんでした。これが第三の罪です。もしや、わたしを憎む者が、お側にいるのではないでしょうか」。  「なるほど、わかった」。  文公が側に仕える者たちを呼び出して取り調べると、はたして真犯人が見つかったので、それを処刑した。 03_功績を挙げた臣下には、然るべき 褒美 ( ほうび ) を���える  名御者の 王良 ( おうりょう ) が馬を愛するのは、走るから。  越王 勾践 ( こうせん ) が人を愛するのは、戦うから。  医者が患者の傷を吸い血を口に含むのは、金が儲かるから。  車職人が金持ちの増加を望むのは、車が売れるから。  棺桶職人が人の死を願うのは、人が死ねば棺桶が売れるから。   呉起 ( ごき ) が 魏 ( ぎ ) の将軍となって 中山 ( ちゅうざん ) (国名)を攻めたとき、できものをつくった兵士がいた。  呉起は自ら 跪 ( ひざまず ) いて、その兵士の 膿 ( うみ ) を吸った。  それを聞くと兵士の母は泣きだした。  「将軍が子供に親切にしてくださったのに、どうして泣くのですか」。  と尋ねた者に、母はこう答えた。  「呉起さまはあの子の父親のときにも、膿を吸ってくれた。父親は、その恩に死で報いた。あの子もきっと死ぬでしょう。それでわたしは泣くのです」。 04_情報は自分の目と耳で確認し、臣下の伝聞に頼らない〔符節を合わせる〕 《参伍の道》  三人を一単位としてそれぞれの意見を聴取し、五人を一組として過失に対し連帯責任を取らせる方法。王様が臣下の意見を聞き行動を見るのは、馴れ合っている者を罰し、しっかりした見解を持っている者を賞するため。邪な者や罪を犯している者を知っていながら告発しない者も、馴れ合っているとみなして罰する。  三人を単位として一つのことを相談させたときに意見が割れないのは、馴れ合っている証拠。  五人を一組として連帯責任性にすれば、一人が罪を犯した場合、他の四人は怒って必ずこれを責めるはず。四人全員が責めないようなら、他にも罪を犯した者が居るということ。  相談が始まってすぐに意見が割れれば、各人の能力の違いが分かる。ほんの過失程度の罪でも怒るようなら、他に悪事を犯している者はいない。 《四つの評価基準》  [地の利][天の時][物事の道理][人情]の四つの評価基準で各意見の符節を合わせれば、是非善悪を判別できる。  そもそも王様は、臣下の注視するところであるから、ふだんの態度を変え、親近の者を疎遠にしたり、疎遠の者を親近にするなど恩沢を改めてみても忠誠の度合いが分かる。  注意すれば臣下の持ち物、行動など、目にみえるものからも、推察しにくい点(かくれた悪事など)を見ることができる。  馴れ馴れしくなりあれこれ他人の仕事まで手を出しがちな近習たちには、謹んで本務を遂行するようにさせる。  遠くに使いするものとの関連のあるものを特に用がないのに再三呼び出して使者に何となく恐怖の念を持たせ、出先での悪事を 牽制 ( けんせい ) する。  臣下の過去を調べ上げて、その前歴を知り尽くす。  臣下を近習の地位につけて心の内側を知り、地方官などに任命してその外に対する態度を知る。  全てを承知しながら、とぼけて尋ねてみると隠れた面が分かる   謀 ( はかりごと ) を以って人を送り込み、相手の悪事や秘密を握って 侮 ( あなど ) りを退ける。  何か疑いがあるときは、使者に誉めるところをけなし、けなすところを誉めるなど、反対のことを言わせて、疑問を確かめる。  事が起こった場合、背後にあって利益を得た者を探し出して調査すると隠れた悪事が出てくることがある。   諌 ( いさ ) め 糺 ( ただ ) す官を設けて、独断権を持っている役人の専横を取り締まる。  忠誠とは言えない人間を登用して、 周 ( まわ ) りの 邪 ( よこしま ) な動きを観察する。  法が公平無私なものである 旨 ( むね ) 事細 ( ことこま ) かに説明して、仕事を 怠 ( おこたり ) りがちな者やでしゃばりがちな者を指導し、ときにはへりくだったり迎合したりして、正直か、おべっか使いか、人間を見極める。  小耳にしたことやちょっとした噂話を利用して、それとなく探りを入れると思いがけないことが分かる。  偽の情報を流して臣下を対立させれば、馴れ合いになっている仲間を解散させることができる。  ある事に精通することによって、臣下を恐れ入らせる。  極秘事項がもれそうな場合は、わざと別のことをもらして相手のねらいをそらす。  欲望、私怨、出世、保身などのために他人を陥れるような複雑で紛らわしい問題が起こったときは、同じようなでき事を参考にして詳しく調べ、罪を告白したらその理由を明らかにし、罪を確認した上で処罰する。  時々隠密の使者を派遣して地方を巡視させ、民がまじめに働いているかどうか調べる。働いていないようなら(仲間を使って横着を決め込んでいるのであるから)、だんだん制度を改革していって、横着の元(仲間)をばらばらにする。  下部から上部へと徐々に管理体制を整えていけば、宰相は高官を取り締まり、高官は部下を取り締まり、将校は兵士を取り締まる。使節はその福祉を取り締まり、県令は配下を取り締まり、近習は左右の者を取り締まり、そして皇后は侍従の女官を取り締まるようになる。  話が間違って広がったり、大事がもれるようでは[法・術]による統治は難しい。   叔孫 ( しゅくそん ) は 魯 ( ろ ) の宰相で、実権を握り国政を思うがままに動かしていた。  その叔孫の 寵愛 ( ちょうあい ) を受けていたのが 豎牛 ( じゅぎゅう ) であり、彼も叔孫の名を使ってやりたい放題にふるまっていた。  叔孫には 壬 ( じん ) という子供がいた。  豎牛はその壬を 妬 ( ねた ) んで殺してしまおうと考えた。  そこで策をめぐらせ、あるとき、壬を連れて魯王の御殿へ遊びに行った。  そのとき、魯王は壬に 玉環 ( ぎょくかん ) を与えた。  壬はそれをうやうやしく受け取り、すぐに身につけようとせず、豎牛を通じて叔孫の許しを求めた。  ところが豎牛はその依頼を伝えもせずに、「わたしがこのことをお願いしたところ、つけてよろしいとのことです」。  と言って、壬をだた。  壬が玉環を身につけるのを見ると、豎牛は叔孫のところへ行って、こう切り出した。  「そろそろ壬さまを殿様にお目見えにお連れしてはいかがです」。  「子供だからな。まだ早すぎるだろう」。  「いえ、壬さまはもう何回かお目見えになっています。  この前も殿様から玉環を賜り、さっそく身につけていらっしゃいます」。  叔孫は壬を呼び出した。  見れば、はたして玉環を身につけているではないか。  叔孫は怒って壬を殺した。  壬には 丙 ( へい ) という兄がいた。  豎牛はその丙も妬んで、殺してしまいたいと思った。  折よく、叔孫が、丙に 鐘 ( しょう ) (楽器)をつくってやった。  鐘はできたが丙はすぐに打ち鳴らすことをつつしみ、豎牛を通じて叔孫の許しを求めた。  ところが豎牛は壬のときと同じように丙をだた。  「わたしがお願いしたところ、よろしいとのことです」。  丙は鐘を打ち鳴らした。  それを聞いた叔孫は怒った。  「わたしの許しも得ずに勝手に鐘を打ったな」。  そして丙を国外に追放した。丙は 斉 ( せい ) の国へ逃れた。  それから一年ほどたって、豎牛は丙のために叔孫にわびを入れた。  そこで叔孫は豎牛に、丙を呼び戻すように伝えた。  ところが、豎牛はそれを伝えもせずに、叔孫にこう報告した。  「お呼びしたのですが、丙さまはまだご立腹なさっているようで、帰ってこようとはなさいません」。  叔孫はかんかんに怒って、人を使って丙を殺してしまった。  こうして二人の子供が死んだのち、叔孫は病気になった。  すると豎牛は、自分だけで看病し、「叔孫さまは、人の声を聞きたくないとのことだ」と称して、誰も病室に入れなかった。  そして、叔孫に食べ物を与えず、とうとう餓死させてしまった。  こうして叔孫も死ぬと、豎牛は葬式もせずに、倉から重宝をありったけ盗み出すや、斉に逃滅してしまった。  信用する者の言葉を鵜呑みにしていて、親子もろとも殺される結果になったが、それというのも、家来の言葉を事実と照合することをしなかったからだ。   龐恭 ( ほうきょう ) は 魏 ( ぎ ) の太子に従って、 趙 ( ちょう ) の都の 邯鄲 ( かんたん ) に 人質としてやられることになった。  出発するとき、彼は魏王にこういう質問をした。  「もしも、誰かが『街に虎が出た』と言ったら、お信じになるか」。  「信じないな」。  「では、二人が『街に虎が出た』と言ったら、どうでしょう」。  「いや、信じない」。  それでは、三人が『街に虎が出た』と言ったら、どうなさいます」。  「そうなると、信じるだろうな」。  「街に虎が出ないことはわかりきったことです。それなのに、三人が同じことを言ったらお信じになる。邯鄲ははるかに遠い外国です。それだけ邯鄲のことはわかりにくいのです。その邯鄲に行く私のことを、留守中とやかく言う連中は、三人どころではありません。どうか、このことをお忘れになりませぬように」。  しかし、龐恭が邯鄲から帰国したとき、大勢の言うことを信じこんだ王様に、彼は二度とお目見えを許されなかった。   斉 ( せい ) の 宣 ( せん ) 王は 竽 ( う ) (笛の一種)を吹かせるときは、必ず三百人に合奏させた。  あるとき、 南郭 ( なんかく ) (地名または姓)の 処士 ( しょし ) (学問を修めたが、現在任官していない士のこと。処は家(民間)に 処 ( お ) るの意)が、宣王のために竽を吹きたいと言ってきた。  宣王は喜んで禄を与えた。この例にならった処士は数百人に達した。  やがて宣王が死に、 湣 ( びん ) 王が即位した。  湣王は独奏曲を聴くのが好きだった。  独奏すれば下手なのがばれるため、それらの処士はみな逃げ出してしまった。   宋 ( そう ) (殷(=商)の滅滅後、その 祭祀 ( さいし ) を継がせるためにつくられた国)の宰相は、 少庶子 ( しょうしょし ) (官名)に市場の見回りをさせ、彼が帰ってくると、尋ねた。  「市場で何を見つけた」。  「いいえ、何も」。  「しかし、何かは見つけたろう」。  「そういえば市場の南門の外側は牛車がいっぱいになっていて、やっと通れるくらいでした」。  「よし、わしがお前にきいたことは誰にも言ってはいかんぞ」。  宰相はさっそく市場の役人を呼び出して叱りつけた。  「市場の門の外側は、牛糞でいっぱいではないか」。  役人はいつの間に、宰相がこんなことまで知っているのに驚いてしまい、以後は職務を怠らくなった。   斉 ( せい ) の 桓 ( かん ) 公が 孤竹 ( こちく ) を攻めたとき、 管仲 ( かんちゅう ) と 隰朋 ( しゅうほう ) が従軍した。  出発が春、帰りは冬になったため、景色がまったく変わってしまい、道が分からなくなった。  このとき、管仲が言った。  「ひとつ老馬に知恵を借りましょう」。  老馬の 鞍 ( くら ) をはずして先にやり、その後について行ったところ、道を見つけることができた。  山岳地帯で水がなくなったことがあった。  このとき、 隰朋 ( しゅうほう ) が言った。  「蟻塚の下に水があります。蟻は冬は山の南側に、夏は山の北側に巣をつくります。高さが3糎の蟻塚なら2㍍下に、水があります」。  蟻塚を掘ったところ、果たして水を得ることができた。   宋 ( そう ) の国のある金持ちの家で、ある日、雨のため土塀がくずれた。  子供が「このままにしておくと、泥棒が入るよ」と言い、隣家の主人も同じことを言った。  その夜泥棒が入って大金を盗まれた金持ちは、息子の 聡明 ( そうめい ) さに感心する一方、隣家の主人を疑った。 05_不可解な命令をあえて出し臣下を動揺させて試す   楚 ( そ ) の 荘王 《 しょうおう 》 は即位して三年のあいだ、命令を出さず、昼も夜も楽しみにふけり、「諫める者は死罪とする」と国中にふれを出した。   伍挙 ( ごきょ ) が諫めるために参内した。荘王は左に鄭の姫を抱き、右に越の女を抱いて、鐘と太鼓に囲まれて座っていた。  伍挙が言った、「謎かけをいたしましょう。丘の上に一羽の鳥がおります。三年の間飛びもしなければ鳴きもしません。何の鳥でございましょうか」  王が答えた、「三年も飛ばないのだ。飛べば天まで届こう。三年も鳴かぬのだ、鳴けば人々を驚かそう。伍挙よ、下がれ、わしにはわかっておる」と。  それから数ヶ月、王の 放埒 ( ほうらつ ) はますますひどくなった。そこで大夫の 蘇従 ( そしょう ) が諫めに参内した。  王が言った、「そちは命令を聞かなかったのか」  「この身が殺されることで、王様にお分かりいただければ、本望でございます」  王は放埒をやめると、政務を取り始めた。  三年間観察し続けた結果に基づいて、数百人を誅殺し、数百人を昇進させた。伍挙と蘇従に国政を任せ、楚の人々は大いに喜んだ。 06_知らないふりして質問し相手の知識や考えを観察する   韓 ( かん ) の 昭侯 ( しょうこう ) は 爪 ( つめ ) を切り、その一つを手の中に隠しておいて、「爪が一つなくなった。早く探せ」。と、そばの役人たちをせきたてた。  すると、ひとりが自分の爪を切って、「見つかりた」と、差し出した。  昭侯は、こうして役人の中からウソつきを見つけた。   子之 ( しし ) は 燕 ( えん ) の宰相であった。  あるとき、家の中に 坐 ( すわ ) ったまま、まわりの者たちをたぶらかしてこう訊いた。  「いま門から外に走っていったのは、白馬ではなかったか」。  「見えませんでした」。  と、みな答えたが、一人だけ、走って追いかけた。  帰ってくると��「白馬でした」と、報告した。  子之は、こうして役人の中から不誠実な者を見つけ出した。 07_思っているのと逆のことを言って相手の反応を見る  昔、 鄭 ( てい ) の 武 ( ぶ ) 公が 胡 ( こ ) を征伐しようとしたときの。  武公はまず自分の娘を胡の王に嫁入りさせ、機嫌をとっておいて、家来に尋ねた。  「これから、どこか国を攻めようと思うが、どの国がいいだろう?」   大夫 ( たいふ ) の 関其思 ( かんきし ) が答えた。  「胡を攻めるのがよろしいかと存じます」。  武公は怒り、「胡は親類の国ではないか、それを攻めろとは何事だ」と言い、関其思を死刑にした。  それを伝え聞いた胡の王が安心して鄭への備えを解いたので、鄭は胡を攻め取ることができた。 ⦅余談[韓非]に続く⦆
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kurihara-yumeko · 3 years
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【小説】フラミンゴガール
 ミンゴスの右脚は太腿の途中から金属製で、そのメタリックなピンク色の輝きは、無機質な冷たさを宿しながらも生肉のようにグロテスクだった。
 彼女は生まれつき片脚がないんだとか、子供の頃に交通事故で失くしたのだとか、ハンバーガーショップでバイト中にチキンナゲット製造機に巻き込まれたのだとか、酒を飲んでは暴力を振るう父親が、ある晩ついに肉切り包丁を振り上げたからなのだとか、その右脚についてはさまざまな噂や憶測があったけれど、真実を知る者は誰もいなかった。
 ただひとつ確かなことは、この街に巣くう誰もが、彼女に初めて出会った時、彼女はすでに彼女であった――ミンゴスは最初から金属の右脚をまとって、我々の前に現れたということだ。
 生身である左脚が描く曲線とはまるで違う、ただの棒きれのようなその右脚は、しかし決して貧相には見えず、夜明け前の路地裏を闊歩する足取りは力強かった。
 脚の代わりでありながら、脚に擬態することをまったく放棄しているその義足は、白昼の大通りでは悪目立ちしてばかりいた。すれ違う人々は避けるように大きく迂回をするか、性質が悪い連中はわざとぶつかって来るかであったが、ミンゴスがそれにひるんだところを、少なくとも俺は見たことがない。
 彼女は往来でどんな目に遭おうが、いつだって澄ました表情をしていた。道の反対側から小石を投げてきた小学生には、にっこりと笑って涼しげに手を振っていた。
 彼女は強かった。義足同様に、心までも半分は金属でできているんじゃないかと、誰かが笑った。
 夏でも冬でも甚平を着ている坊主崩れのフジマサは、ミンゴスはその芯の強さゆえに、神様がバランスをとる目的で脚を一本取り上げたのだ、というのが自論だった。
「ただ、神様というのはどうも手ぬるいことをなさる。どうせしてしまうのならば、両脚とももいでしまえばよかったものを」
 そう言いながら赤提灯の下、チェ・レッドを吸うフジマサの隣で、ミンゴスはケラケラと笑い声を零しながら、「なにそれ、チョーウケる」と言って、片膝を立てたまま、すっかりぬるくなったビールをあおった。
 彼女は座る時、生身である左脚の片膝を立てるのが癖だった。まるで抱かれているように、彼女の両腕の中に収まっている左脚を見ていると、奇抜な義足の右脚よりも、彼女にとって大切なのはその左脚のような気がした。それも当然のことなのかもしれなかった。
 彼女も、彼女を取り巻いていた我々も、彼女が片脚しかないということを気にしていなかった。最初こそは誰しもが驚くものの、時が経てばそれは、サビの舌の先端がふたつに裂けていることや、ヤクザ上がりのキクスイの左手の指が足りていないこと、リリコの前歯がシンナーに溶けて半分もないこと、レンゲが真夏であっても長袖を着ていることなんかと同じように、ありふれた日常として受け入れられ、受け流されていくのだった。
「確かにさぁ、よく考えたら、ミンゴスってショーガイシャな訳じゃん?」
 トリカワが、今日も焼き鳥の皮ばかりを注文したのを頬張ってそう言った。発音はほとんど「超外車」に近かった。
「ショーガイシャ?」
 訊き返したミンゴスの発音は、限りなく「SHOW会社」だ。
「あたし障害者なの?」
「身体障害者とか、あるじゃん。電車で優先席座れるやつ」
「あー」
「えー、ミンゴスは障害者じゃないよ。だって、いっつも電車でおばあちゃんに席譲るじゃん」
 キュウリの漬物を咥えたまま、リリコが言った。
「確かに」
「ミンゴスはババアには必ず席譲るよな、ジジイはシカトするのに」
「あたし、おばあちゃんっ子だったからさー」
「年寄りを男女差別すんのやめろよ」
「愚か者ども、少しはご老人を敬いなさいよ」
 フジマサが呆れたように口を挟んで、大きな欠伸をひとつした。
「おばあちゃん、元気にしてんのかなー」
 まるで独り言のように、ミンゴスはそう小さくつぶやいて、つられたように欠伸をする。
 思えばそれが、彼女が家族について口にしたのを耳にした、最初で最後だった。
 俺たちは、誰もろくに自分の家族について語ろうとしなかった。自分自身についてでさえ、訊かれなければ口にすることもなく、訊かれたところで、曖昧に笑って誤魔化してばかりいた。
 それでも毎日のように顔を突き合わせ、特に理由もなく集まって酒を飲み、共に飯を食い、意味のない会話を繰り返した。
 俺たちは何者でもなかった。何かを共に成し遂げる仲間でもなく、徒党を組んでいたというにはあまりにも希薄な関係で、友人同士だと言うにはただ他人行儀だった。
 振り返ってみれば、俺がミンゴスや周りの連中と共に過ごした期間はほんの短い間に過ぎず、だから彼女のこと誰かに尋ねられる度、どう口にすればいいのかいつも悩んで、彼女との些細な思い出ばかりを想起してしまう。
    ミンゴスは砂糖で水増ししたような甘くて怪しい錠剤を、イチゴ柄のタブレットケースに入れて持ち歩いていた。
 彼女に初めて出会った夜のことは、今でも忘れられない。
 俺は掃き溜めのようなこの街の、一日じゅう光が射さない裏路地で、吐瀉物まみれになって倒れていた。一体いつからうつ伏せになっているのか、重たい頭はひどく痛んで、思い出すのも困難だった。何度か、通りすがりの酔っ払いが俺の身体に躓いて転んだ。そのうちのひとりが悪態をつき、唾をかけ、脇腹を蹴り上げてきたので、もう何も嘔吐できるものなどないのに、胃がひっくり返りそうになった。
 路地裏には俺のえづいている声だけが響き、それさえもやっと収まって静寂が戻った時、数人の楽しげな話し声が近付いて来るのに気が付いた。
 今思えば、あの時先頭を切ってはしゃぎながら駆けて来たのはリリコで、その妙なハイテンションは間違いなく、なんらかの化学作用が及ぼした結果に違いなかった。
「こらこら、走ると転ぶぞ」
 と、忠告するフジマサも足元がおぼつかない様子で、普段は一言も発しないレンゲでさえも、右に左にふらふらと身体を揺らしながら、何かぶつぶつとつぶやいていた。サビはにやにやと笑いながら、ラムネ菓子を噛み砕いているかのような音を口から立てて歩いていて、その後ろを、煙管を咥えて行くのがトリカワだった。そんな連中をまるで保護者のように見守りながら行くのがキクスイであったが、彼はどういう訳か額からたらたらと鮮血を流している有り様だった。
 奇妙な連中は路地裏に転がる俺のことなど気にも留めず、よろけたフジマサが俺の左手を踏みつけたがまるで気付いた様子もなく、ただ、トリカワが煙管の灰を俺の頭の上めがけて振るい落としたことだけが、作為的に感じられた。
 さっきの酔っ払いに蹴り飛ばされてすっかり戦意喪失していた俺は、文句を言う気もなければ連中を睨み返してやる気力もなく、ただ道に横たわっていた。このまま小石にでもなれればいいのに、とさえ思った。
「ねーえ、そこで何してんの?」
 そんな俺に声をかけたのが、最後尾を歩いていたミンゴスだった。すぐ側にしゃがみ込んできて、その長い髪が俺の頬にまで垂れてくすぐったかった。
 ネコ科の動物を思わせるような大きな吊り目が俺を見ていた。俺も彼女を見ていた。彼女は美しかった。今まで嗅いだことのない、不可思議な香水のにおいがした。その香りは、どこの店の女たちとも違った。俺は突然のことに圧倒された。
 彼女は何も答えない俺に小首を傾げ、それからおもむろにコートのポケットに手を突っ込むと、そこから何かを取り出した。
「これ舐める? チョー美味しいよ」
 彼女の爪は長方形でピンク色に塗られており、そこに金色の薔薇の飾りがいくつもくっついていた。小さな花が無数に咲いた指先が摘まんでいたのはタブレットケースで、それはコンビニで売られている清涼菓子のパッケージだった。彼女はイチゴ柄のケースから自分の手のひらに錠剤を三つほど転がすと、その手を俺の口元へと差し出した。
「おいミンゴス、そんな陰気臭いやつにやるのか?」
 先を歩いていたサビが振り返って、怪訝そうな声でそう言った。
「それ、結構高いんだぜ」
「いーじゃん別に。あたしの分をどうしようと勝手じゃん」
 彼女が振り向きもせずにそう言うと、サビは肩をすくめて踵を返した。連中はふらふらと歩き続け、どんどん遠ざかって行くが、彼女がそれを気にしている様子はなかった。
「ほら、舐めなよ」
 差し出された彼女の手のひらに、俺は舌を突き出した。舌先ですくめとり、錠剤を口に含む。それは清涼菓子ではなかった。これはなんだ。
「ウケる、動物みたいじゃん」
 からになった手を引っ込めながら、彼女は檻の中の猛獣に餌をあげた子供みたいに笑っていた。
 口の中の錠剤は、溶けるとぬるい甘みがある。粉っぽい味は子供の頃に飲まされた薬を思わせ、しかし隠し切れないその苦味には覚えがあった。ああ、やはりそうか。落胆と安堵が入り混じったような感情が胃袋を絞め上げ、吐き出すか悩んで、しかし飲み込む。
「ほんとに食べてんだけど」
 と、彼女はケラケラ笑った。その笑い声に、冗談だったのか、口にふくまないという選択肢が最良だったのだと思い知ら��れる。
 それでも、目の前で楽しそうに笑っている彼女を見ていると、そんなことはどうでもよくなってくる。こんな風に誰かが喜んでいる様子を見るのは、いつ以来だろうか。笑われてもいい、蔑まれても構わない。それは確かに俺の存在証明で、みじめさばかりが増長される、しがない自己愛でしかなかった。
 からかわれたのだと気付いた時には彼女は立ち上がっていて、俺を路地裏に残したまま、小さく手を振った。
「あたしミンゴス。またどっかで会お。バイバーイ」
 そう言って歩き始めた彼女の、だんだん小さく、霞んでいく後ろ姿を見つめて、俺はようやく、彼女の右脚が金属製であることに気が付いたのだった。
 人体の一部の代用としては不自然なまでに直線的で、機械的なシルエットをしたその奇妙な脚に興味が湧いたが、泥のように重たい俺の四肢は起き上がることを頑なに拒み、声を発する勇気の欠片も砕けきった後であった。飲み込んだ錠剤がその効用をみるみる発揮してきて、俺はその夜、虹色をした海に飲み込まれ、波の槍で身体を何度も何度も貫かれる幻覚にうなされながら眠りに落ちた。
 その後、ミンゴスと名乗った彼女がこの街では有名人なのだと知るまでに、そんなに時間はかからなかった。
「片脚が義足の、全身ピンク色した娘だろ。あいつなら、よく高架下で飲んでるよ」
 そう教えてくれたのは、ジャバラだった。ピアス屋を営んでいる彼は、身体のあちこちにピアスをあけていて、顔さえもピアスの見本市みたいだ。薄暗い路地裏では彼のスキンヘッドの白さはぼんやりと浮かび上がり、そこに彫り込まれた大蛇の刺青が俺を睨んでいた。
「高架下?」
「あそこ、焼き鳥屋の屋台が来るんだよ。簡単なつまみと、酒も出してる」
「へぇ、知らなかった」
 そんな場所で商売をして儲かるんだろうか。そんなこと思いながら、ポケットを探る。ひしゃげた箱から煙草が一本出てくる。最後の一本だった。
「それにしても……お前、ひどい顔だな、その痣」
 煙草に火を点けていると、ジャバラは俺の顔をしみじみと見て言った。
「……ジャバラさんみたいに顔にピアスあけてたら、大怪我になってたかもね」
「間違いないぞ」
 彼はおかしそうに笑っている。
 顔の痣は触れるとまだ鈍く痛む。最悪だ。子供の頃から暴力には慣れっこだったが、痛みに強くなることはなかった。無抵抗のまま、相手の感情が萎えるのを待つ方が早いだとか、倒れる時の上手な受け身の取り方だとか、暴力を受けることばかりが得意になった。痛い思いをしないで済むなら、それが最良に決まっている。しかしどうも、そうはいかない。
「もう、ヤクの売人からは足を洗ったんじゃないのか?」
「……その仕事はもう辞めた」
「なのに、まだそんなツラ晒してんのか。堅気への道のりは険しいな」
 掠れて聞き取りづらいジャバラの声は、からかっているような口調だった。思わず俺も、自嘲気味に笑う。
 学んだのは、手を汚すのをやめたところで、手についた汚れまで綺麗さっぱりなくなる訳ではない、ということだった。踏み込んでしまったら二度と戻れない底なし沼に、片脚を突っ込んでしまった、そんな気分だ。今ならまだ引き返せると踏んだが、それでも失った代償は大きく、今でもこうしてその制裁を受けている現状を鑑みれば、見通しが甘かったと言う他ない。
「手足があるだけ、まだマシかな……」
 俺がそう言うと、ジャバラはただ黙って肩をすくめただけだった。それが少なからず同意を表していることを知っていた。
 五体満足でいられるだけ、まだマシだ。特に、薄汚れた灰色で塗り潰された、部屋の隅に沈殿した埃みたいなこの街では。人間をゴミ屑のようにしか思えない、ゴミ屑みたいな人間ばかりのこの街では、ゴミ屑みたいに人が死ぬ。なんの力も後ろ盾も、寄る辺さえないままにこの街で生活を始めて、こうしてなんとか煙を吸ったり吐いたりできているうちは、まだ上出来の部類だ。
「せいぜい、生き延びられるように頑張るんだな」
 半笑いのような声でそう言い残して、ジャバラは大通りへと出て行った。その後ろ姿を見送りながら、身体じゅうにニコチンが浸透していくのを脳味噌で感じる。
 俺はミンゴスのことを考えていた。
 右脚が義足の、ピンク色した天使みたいな彼女は、何者だったのだろう。これまでどんな人生を送り、その片脚をどんな経緯で失くしたのだろう。一体、その脚でなんの代償を支払ったのか。
 もう一度、彼女に会ってみたい。吸い終えた煙草の火を靴底に擦りつけている時には、そう考えていた。それは彼女の片脚が義足であることとは関係なく、ただあの夜に、道端の石ころ同然の存在として路地裏に転がっているしかなかったあの夜に、わざわざ声をかけてくれた彼女をまた一目見たかった、それだけの理由だった。
 教えてもらった高架下へ向かうと、そこには焼き鳥屋の移動式屋台が赤提灯をぶら下げていて、そして本当に、そこで彼女は飲んでいた。周りには数人が同じように腰を降ろして酒を飲んでいて、それはあの夜に彼女と同じように闊歩していたあの奇妙な連中だった。
 最初に俺に気付いたのは、あの時、煙管の灰をわざと振り落としてきたトリカワで、彼はモヒカンヘアーが乱れるのも気にもせず、頭を掻きながら露骨に嫌そうな顔をした。
「あんた、あの時の…………」
 トリカワはそう言って、決まり悪そうに焼き鳥の皮を頬張ったが、他の連中はきょとんとした表情をするだけだった。他は誰も、俺のことなど覚えていなかった。それどころか、あの夜、路地裏に人間が倒れていたことさえ、気付いていないのだった。それもそのはずで、あの晩は皆揃って錠剤の化学作用にすっかりやられてしまっていて、どこを通ってどうやってねぐらまで帰ったのかさえ定かではないのだと、あの夜俺の手を踏んづけたフジマサが飄々としてそう言った。
 ミンゴスも、俺のことなど覚えていなかった。
「なにそれ、チョーウケる」
 と、笑いながら俺の話を聞いていた。
「そうだ、思い出した。あんた、ヤクをそいつにあげてたんだよ」
 サビにそう指摘されても、ミンゴスは大きな瞳をさらに真ん丸にするだけだった。
「え、マジ?」
「マジマジ。野良猫に餌やってるみたいに、ヤクあげてたよ」
「ミンゴス、猫好きだもんねー」
 どこか的外れな調子でそう言ったリリコは、またしても妙なハイテンションで、すでに酔っているのか、何か回っているとしか思えない目付きをしている。
「ってか、ふたりともよく覚えてるよね」
「トリカワは、ほら、あんまヤクやんないじゃん。ビビリだから」
「チキンだからね」
「おい、チキンって言うな」
「サビは、ほら、やりすぎて、あんま効かない的な」
「この中でいちばんのジャンキーだもんね」
「ジャンキーっつうか、ジャンク?」
「サビだけに?」
「お、上手い」
 終始無言のレンゲが軽い拍手をした。
「え、どういうこと?」
「それで、お前、」
 大きな音を立てて、キクスイがビールのジョッキをテーブルに置いた。ジョッキを持っていた左手は、薬指と小指が欠損していた。
「ここに何しに来た?」
 その声には敵意が含まれていた。その一言で、他の連中も一瞬で目の色を変える。巣穴に自ら飛び込んできた獲物を見るような目で、射抜かれるように見つめられる。
 トリカワはさりげなく焼き鳥の串を持ち変え、サビはカップ酒を置いて右手を空ける。フジマサは、そこに拳銃でも隠しているのか、片手を甚平の懐へと忍ばせている。ミンゴスはその脚ゆえか、誰よりも早く椅子から腰を半分浮かし、反対に、レンゲはテーブルに頬杖を突いて半身を低くする。ただリリコだけは能天気に、半分溶けてなくなった前歯を見せて、豪快に笑う。
「ねぇ皆、違うよ、この子はミンゴスに会いに来たんだよ」
 再びきょとんとした顔をして、ミンゴスが訊き返す。
「あたしに?」
「そうだよ」
 大きく頷いてから、リリコは俺に向き直り、どこか焦点の定まらない虚ろな瞳で、しかし幸福そうににっこりと笑って、
「ね? そうなんだよね? ミンゴスに、会いたかったんでしょ」
 と、言った。
「あー、またあのヤクが欲しいってこと? でもあたし、今持ち合わせがないんだよね」
「もー、ミンゴスの馬鹿!」
 突然、リリコがミンゴスを平手打ちにした。その威力で、ミンゴスは座っていた椅子ごと倒れる。金属製の義足が派手な音を立て、トリカワが慌てて立ち上がって椅子から落ちた彼女を抱えて起こした。
「そーゆーことじゃなくて!」
 そう言うリリコは悪びれた様子もなく、まるでミンゴスが倒れたことなど気付いてもいないようだったが、ミンゴスも何もなかったかのようにけろりとして椅子に座り直した。
「この子はミンゴスラブなんだよ。ラブ。愛だよ、愛」
「あー、そーゆー」
「そうそう、そーゆー」
 一同はそれで納得したのか、警戒態勢を解いた。キクスイだけは用心深く、「……本当に、そうなのか?」と尋ねてきたが、ここで「違う」と答えるほど、俺も間抜けではない。また会いたいと思ってここまで来たのも真実だ。俺が小さく頷いてみせると、サビが再びカップ酒を手に取り、
「じゃー、そーゆーことで、こいつのミンゴスへのラブに、」
「ラブに」
「愛に」
「乾杯!」
 がちゃんと連中の手元にあったジョッキやらグラスやらがぶつかって、
「おいおい愚か者ども、当の本人が何も飲んでないだろうよ」
 フジマサがやれやれと首を横に振りながら、空いていたお猪口にすっかりぬるくなっていた熱燗を注いで俺に差し出し、
「歓迎しよう、見知らぬ愚か者よ。貴殿に、神のご加護があらんことを」
「おめーは仏にすがれ、この坊主崩れが」
 トリカワがそう毒づきながら、焼き鳥の皮をひと串、俺に手渡して、
「マジでウケるね」
 ミンゴスが笑って、そうして俺は、彼らの末席に加わったのだ。
    ミンゴスはピンク色のウェーブがかった髪を腰まで伸ばしていて、そして背中一面に、同じ色をした翼の刺青が彫られていた。
 本当に羽毛が生えているんじゃないかと思うほど精緻に彫り込まれたその刺青に、俺は幾度となく手を伸ばし、そして指先が撫でた皮膚が吸いつくように滑らかであることに、いつも少なからず驚かされた。
 腰の辺りが性感帯なのか、俺がそうする度に彼女は息を詰めたような声を出して身体を震わせ、それが俺のちっぽけな嗜虐心を刺激するには充分だった。彼女が快楽の海で溺れるように喘ぐ姿はただただ扇情的で、そしていつも、彼女を抱いた後、子供のような寝顔で眠るその横顔を見ては後悔した。
 安いだけが取り柄のホテルの狭い一室で、シャワーを浴びる前に外されたミンゴスの右脚は、脱ぎ捨てられたブーツのように絨毯の上に転がっていた。義足を身に着けていない時のミンゴスは、人目を気にも留めず街を闊歩している姿とは違って、弱々しく薄汚い、惨めな女のように見えた。
 太腿の途中から失われている彼女の右脚は、傷跡も目立たず、奇妙な丸みを帯びていて、手のひらで撫で回している時になんとも不可思議な感情になった。義足姿は見慣れていて、改めて気に留めることもないのだが、義足をしていないありのままのその右脚は、直視していいものか悩み、しかし、いつの間にか目で追ってしまう。
 ベッドの上に膝立ちしようにも、できずにぷらんと浮いているしかないその右脚は、ただ非力で無様に見えた。ミンゴスが義足を外したところは、彼女を抱いた男しか見ることができないというのが当時囁かれて���た噂であったが、俺は初めて彼女を抱いた夜、何かが粉々に砕け散ったような、「なんだ、こんなもんか」という喪失感だけを得た。
 ミンゴスは誰とでも寝る女だった。フジマサも、キクスイも、サビもトリカワも、連中は皆、一度は彼女を抱いたことがあり、それは彼らの口から言わせるならば、一度どころか、もう飽き飽きするほど抱いていて、だから近頃はご無沙汰なのだそうだった。
 彼らが彼女の義足を外した姿を見て、一体どんな感情を抱いたのかが気になった。その奇妙な脚を見て、背中の翼の刺青を見て、ピアスのあいた乳首を見て、彼らは欲情したのだろうか。強くしたたかに生きているように見えた彼女が、こんなにもひ弱そうなただの女に成り下がった姿を見て、落胆しなかったのだろうか。しかし、連中の間では、ミンゴスを抱いた話や、お互いの性癖については口にしないというのが暗黙の了解なのだった。
「あんたは、アレに惚れてんのかい」
 いつだったか、偶然ふたりきりになった時、フジマサがチェ・レッドに火を点けながら、俺にそう尋ねてきたことがあった。
「アレは、空っぽな女だ。あんた、あいつの義足を覗いたかい。ぽっかり穴が空いてたろう。あれと同じだ。つまらん、下種の女だよ」
 フジマサは煙をふかしながら、吐き捨てるようにそう言った。俺はその時、彼に何も言い返さなかった。まったくもって、この坊主崩れの言うことが真であるように思えた。
 ミンゴスは決して無口ではなかったが、自分から口を開くことはあまりなく、他の連中と同様に、自身のことを語ることはなかった。話題が面白かろうが面白くなかろうが、相槌はたいてい「チョーウケる」でしかなく、話し上手でも聞き上手でもなかった。
 風俗店で働いている日があるというリリコとは違って、ミンゴスが何をして生計を立てているのかはよくわからず、そのくせ、身に着けているものや持ちものはブランドもののまっピンクなものばかりだった。連中はときおり、ヤクの転売めいた仕事に片脚を突っ込んで日銭を稼いでいたが、そういった時もミンゴスは別段やる気も見せず、それでも生活に困らないのは、貢いでくれる男が数人いるからだろう、という噂だけがあった。
 もともと田舎の大金持ちの娘なんだとか、事故で片脚を失って以来毎月、多額の慰謝料をもらい続けているんだとか、彼女にはそんな具合で嘘か真実かわからない噂ばかりで、そもそもその片脚を失くした理由さえ、本当のところは誰も知らない。訊いたところではぐらかされるか、訊く度に答えが変わっていて、連中も今さら改まって尋ねることはなく、彼女もまた、自分から真実を語ろうとは決してしない。
 しかし、自身の過去について触れようとしないのは彼女に限った話ではなく、それは坊主崩れのフジマサも、ヤクザ上りのキクスイも、自殺未遂を繰り返し続けているレンゲも、義務教育すら受けていたのか怪しいリリコも、皆同じようなもので、つまりは彼らが、己の過去を詮索されない環境を求めて流れ着いたのが、この面子という具合だった。
 連中はいつだって互いに妙な距離を取り、必要以上に相手に踏み込まない。見えないがそこに明確な線が引かれているのを誰しもが理解し、その線に触れることを極端に避けた。一見、頭のネジが外れているんだとしか思えないリリコでさえも、いつも器用にその線を見極めていた。だから彼らは妙に冷めていて、親切ではあるが薄情でもあった。
「昨日、キクスイが死んだそうだ」
 赤提灯の下、そうフジマサが告げた時、トリカワはいつものように焼き鳥の皮を頬張ったまま、「へぇ」と返事をしただけだった。
「ドブに遺体が捨てられてるのが見つかったそうだよ。額に、銃痕がひとつ」
「ヤクの転売なんかしてるから、元の組から目ぇ付けられたのか?」
 サビが半笑いでそう言って、レンゲは昨日も睡眠薬を飲み過ぎたのか、テーブルに突っ伏したまま顔を上げようともしない。
「いいひとだったのにねー」
 ケラケラと笑い出しそうな妙なテンションのままでリリコがそう言って、ミンゴスはいつものように、椅子に立てた片膝を抱くような姿勢のまま、
「チョーウケるね」
 と、言った。
 俺はいつだったか、路地裏で制裁を食らった日のことを思い出していた。初めてミンゴスと出会った日。あの日、俺が命までをも奪われずに済んだのは、奇跡だったのかもしれない。この街では、そんな風に人が死ぬのが普通なのだ。あんなに用心深かったキクスイでさえも、抗えずに死んでしまう。
 キクスイが死んでから、連中の日々は変化していった。それを顔に出すことはなく、飄々とした表情を取り繕っていたが、まるで見えない何かに追われているかのように彼らは怯え、逃げ惑った。
 最初にこの街を出て行ったのはサビだった。彼は転売したヤクの金が手元に来たところで、一夜のうちに姿をくらました。行方がわからなくなって二週間くらい経った頃、キクスイが捨てられていたドブに、舌先がふたつに裂けたベロだけが捨てられていたという話をフジマサが教えてくれた。しかしそれがサビの舌なのか、サビの命がどうなったのかは、誰もわからなかった。
 次に出て行ったのはトリカワだった。彼は付き合っていた女が妊娠したのを機に、故郷に帰って家業を継いで漁師になるのだと告げて去って行った。きっとサビがここにいたならば、「お前の船の網に、お前の死体が引っ掛かるんじゃねぇの?」くらいは言っただろうが、とうとう最後まで、フジマサがそんな情報を俺たちに伝えることはなかった。
 その後、レンゲが姿を見せなくなり、彼女の人生における数十回目の自殺に成功したのか、はたまたそれ以外の理由で姿をくらましたのかはわからないが、俺は今でも、その後の彼女に一度も会っていない。
 そして、その次はミンゴスだった。彼女は唐突に、俺の前から姿を消した。
「なんかぁ、田舎に戻って、おばあちゃんの介護するんだって」
 リリコがつまらなそうに唇を尖らせてそう言った。
「ミンゴスの故郷って、どこなの?」
「んー、秋田」
「秋田。へぇ、そうなんだ」
「そ、秋田。これはマジだよ。ミンゴスが教えてくれたんだもん」
 得意げにそう言うリリコは、まるで幼稚園児のようだった。
 フジマサは、誰にも何も告げずに煙のように姿を消した。
 リリコは最後までこの街に残ったが、ある日、手癖の悪い風俗の客に殴られて死んだ。
「お前、鍵屋で働く気ない? 知り合いが、店番がひとり欲しいんだってさ」
 俺は変わらず、この灰色の街でゴミの残滓のような生活を送っていたが、ジャバラにそう声をかけられ、錠前屋でアルバイトをするようになった。店の奥の物置きになっていたひと部屋も貸してもらい、久しぶりに壁と屋根と布団がある住み家を得た。
 錠前屋の主人はひどく無口な無骨な男で、あまり熱心には仕事を教えてはくれなかったが、客もほとんど来ない店番中に点けっぱなしの小型テレビを眺めていることを、俺に許した。
 ただ単調な日々を繰り返し、そうして一年が過ぎた頃、埃っぽいテレビ画面に「秋田県で殺人 介護に疲れた孫の犯行か」という字幕が出た時、俺の目は何故かそちらに釘付けになった。
 田舎の街で、ひとりの老婆が殴られて死んだ。足腰が悪く、認知症も患っていた老婆は、孫娘の介護を受けながら生活していたが、その孫に殺された。孫娘は自ら通報し、駆けつけた警察に逮捕された。彼女は容疑を認めており、「祖母の介護に疲れたので殺した」のだという旨の供述をしているのだという。
 なんてことのない、ただのニュースだった。明日には忘れてしまいそうな、この世界の日常の、ありふれたひとコマだ。しかし俺は、それでも画面から目を逸らすことができない。
 テレビ画面に、犯人である孫娘が警察の車両に乗り込もうとする映像が流れた。長い髪は黒く、表情は硬い。化粧っ気のない、地味な顔。うつむきがちのまま車に乗り込む彼女はロングスカートを穿いていて、どんなに画面を食い入るように見つめても、その脚がどんな脚かなんてわかりはしない。そこにあるのは、人間の、生身の二本の脚なのか、それとも。
 彼女の名前と年齢も画面には表示されていたが、それは当然、俺の知りもしない人間のプロフィールに過ぎなかった。
 彼女に限らない。俺は連中の本名を、本当の年齢を、誰ひとりとして知らない。連絡先も、住所も、今までの職業も、家族構成も、出身地も、肝心なことは何ひとつ。
 考えてもしょうがない事柄だった。調べればいずれわかるのかもしれないが、調べる気にもならなかった。もしも本当にそうだったとして、だからなんだ。
 だから、その事件の犯人はミンゴスだったのかもしれないし、まったくなんの関係もない、赤の他人なのかもしれない。
 その答えを、俺は今も知らない。
   ミンゴスの右脚は太腿の途中から金属製で、そのメタリックなピンク色の輝きは、無機質な冷たさを宿しながらも生肉のようにグロテスクだった。
「そう言えば、サビってなんでサビってあだ名になったんだっけ」
「ほら、あれじゃん、頭が錆びついてるから……」
「誰が錆びついてるじゃボケ。そう言うトリカワは、皮ばっか食ってるからだろ」
「焼き鳥は皮が一番美味ぇんだよ」
「一番美味しいのは、ぼんじりだよね?」
「えー、あたしはせせりが好き」
「鶏の話はいいわ、愚か者ども」
「サビはあれだよ、前にカラオケでさ、どの歌でもサビになるとマイク奪って乱入してきたじゃん、それで」
「なにそれ、チョーウケる。そんなことあったっけ?」
「あったよ、ミンゴスは酔っ払いすぎて覚えてないだけでしょ」
「え、俺って、それでサビになったの?」
「本人も覚えてないのかよ」
「リリコがリリコなのはぁ、芸能人のリリコに似てるからだよ」
「似てない、似てない」
「ミンゴスは?」
「え?」
「ミンゴスはなんでミンゴスなの?」
「そう言えば、そうだな。お前は初対面の時から、自分でそう名乗っていたもんな」
「あたしは、フラミンゴだから」
「フラミンゴ?」
「そう。ピンクだし、片脚じゃん。ね?」
「あー、フラミンゴで、ミンゴス?」
「ミンゴはともかく、スはどっからきたんだよ」
「あれじゃん? バルサミコ酢的な」
「フラミンゴ酢?」
「えー、なにそれ、まずそー」
「それやばいね、チョーウケる」
 赤提灯が揺れる下で、彼女は笑っていた。
 ピンク色の髪を腰まで伸ばし、背中にピンク色の翼の刺青を彫り、これでもかというくらい全身をピンクで包んで、金属製の片脚で、街角で、裏路地で、高架下で、彼女は笑っていた。
 それが、俺の知る彼女のすべてだ。
 俺はここ一年ほど、彼女の話を耳にしていない。
 色褪せ、埃を被っては、そうやって少しずつ忘れ去られていくのだろう。
 この灰色の街ではあまりにも鮮やかだった、あのフラミンゴ娘は。
     了 
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benediktine · 4 years
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【リニア工事の残土処分のため? 相模原市の急斜面に「不思議な牧場」建設計画】 - ハーバー・ビジネス・オンライン : https://hbol.jp/224332 : https://archive.is/xPYzq : https://archive.is/6fmzM : https://archive.is/GsnDk : https://archive.is/h9Qzo : https://archive.is/qu8EW 2020.07.24 樫田秀樹
■《リニア新幹線の残土を捨てるためのカモフラージュ?》
 {{ 図版 1 : 津久井農場の完成予定CG(住民説明会の資料より) }}
 2018年秋、神奈川県相模原市の田所健太郎市会議員(共産党)が、筆者に「不思議な牧場計画」について話してくれた。あくまでも地元住民からの二次情報だが、以下のような内容だった。
 市の山の中に大量の残土が捨てられる。噂では、その数㎞近くで工事が行われるリニア中央新幹線のトンネル掘削の残土らしい。山の中に捨てれば不法投棄だが、山の急斜面を残土で平坦地にして「津久井農場」という牧場を建設するという。
 だが、その残土は東京ドーム1杯分にも相当する100万m^3にもなる。しかも、事業者は地元の人間ではない。自動車で1時間かかる茅ヶ崎市から通勤して、250頭もの牛がいるのに夜は無人になる。
「地元では、なぜ、わざわざ牧場計画地に斜面を選んだのか、この事業者が本当に酪農をやりたいのかが見えてこないという人がいる。牧場造成に名を借りたリニア残土捨て場であり、牧場の造成直後に事業者は『やっぱり無理でした』と牧場経営を放棄するのではとの噂もあります」
 もちろん、この話が本当なのかの確証は田所議員にはない。リニアとの関連性も断言していない。ただ、そういう噂を耳にしたということだった。
 JR東海が計画するリニア中央新幹線は2027年に開通予定で、東京(品川駅)から名古屋までを40分で結ぶ予定だ。2014年から工事に入ったが、準備工事(ヤード整備、斜坑の掘削など)は進んでいるものの、本丸であるトンネル掘削はほとんど未着手。
 一つの要因として、東京ドーム約50杯分の5680万m^3もの膨大な残土の処分地が決まっているのが全体の2割台しかないからだ。建設残土は不法投棄を防止するため、「資源」として有効活用できる場所でなければ捨てることはできない。つまり、残土を有効利用できる処分地が決まらない限り、トンネルは掘れないのだ。
 田所議員と話した2018年時点で言えば、フジタはリニア工事を愛知県、長野県、岐阜県などで進めている。津久井農場予定地の近くのリニア工事にも入札するのではと噂されていた(*後述するが2020年6月25日に津久井トンネル他東工区を {{ フジタが落札 : https://www.kentsu.co.jp/webnews/html_top/200626300023.html : https://archive.is/oZvja }} している)。リニア工事と津久井農場は関係があるのだろうか?
■《莫大なお金をかけて、なぜ急斜面の土地に牧場を作る謎》
 {{ 図版 2 : 津久井農場計画について語る鈴木秀徳氏 }}
 そこで筆者は情報を整理しようと、2019年夏に地元で反対運動を展開する相模原市緑区韮尾根(にろうね)地区在住の鈴木秀徳さんと落ち合った。
 鈴木さんは居住地のすぐ近くの斜面に地上80mの高さに残土を積む計画に恐怖と疑問を抱いていた。こういう説明だった。
 事業者である有限会社「佐藤ファーム」の佐藤誠代表は、茅ヶ崎市で若いときから酪農を営んでいた。だが、県立高校の耐震化建替えに伴う仮校舎用地として牧場用地を提供したことで、1999年に休業。津久井農場が2024年に運営開始予定というから、実に25年ぶりの牧場経営となる。それなのに、250頭もの牛を飼育する経営体制は構築されていない。
 筆者は、佐藤代表はかなりの資産家なのかと思った。というのは、相模原市では残土の受け入れ業者に対して、残土の不法投棄を防止するため、市への保証金支払いを課している。100万m^3では、4億300万円が必要となる(造成後に返金される)。
「造成工事にも数十億円はかかる」と鈴木氏は予測するが、さらに、残土を搬入するため、1日300台のダンプカーが集落の狭い道を何年もかけて延べ約25万台も通る。つまり、道路拡幅が必要となる。これにもおそらく億単位のお金がかかる。
 またこれだけの大事業なので、環境アセスメントの手続きを受けなければならない。環境調査を外部の業者に委託するために、さらに億単位のお金がかかる。
 もっともわからないのが、津久井農場の計画地は佐藤代表が1998年に購入したが、1999年の休業を見越しての土地取得だったとしても、なぜ牧場にするには使いづらい急斜面を選んだのかということだ。そして、なぜ20年以上も経っての牧場再開なのかだ。
 環境アセス手続きでは、環境調査が終わったあとに計画を文書化した「環境影響評価準備書」(以下、準備書)を公表して住民説明会を開催しなければならないが、鈴木氏と会った2か月後の2019年9月5日、その説明会が開催されるというので、筆者も参加した。まずは、鈴木氏の話を一方的に聞くだけではなく、佐藤代表の主張にも耳を傾ける必要があるからだ。
≫���―――――≪
■《事業者は「答えられません」を連発》
 {{ 図版 3 : 住民説明会 : 2019年9月5日に開催された住民説明会。佐藤誠氏はていねいにお辞儀を繰り返していた }}
 2019年9月5日19時。相模原市の串川地域センターで開催された住民説明会には、一般市民が約30人集まった。佐藤代表からは純朴な印象を受けた。市民が入室するたびに「よろしくお願いします」と丁寧に頭を下げていたその姿からは、悪い人ではないと思った。
 説明会では、佐藤代表の横に造成工事を請け負う準ゼネコン「フジタ」の社員2名と環境アセスを行った「パシフィック・コンサルタンツ」社の社員1名が座った。津久井農場計画について40分の説明があった後、私は質問の手を上げた。
「これだけの大事業なのに、総事業費の説明がない。いくらかかるのですか?」
 すると、この質問には佐藤代表が答えず、フジタの社員が「私的な牧場計画ですので、資金計画に関わることはここでは回答を控えさせていただきたい」と答えた。私的な牧場計画だから? なぜフジタ社員がマイクを?
「なぜ、あなたが回答するのですか? 私は事業者の佐藤さんに尋ねているんですが」
 こう私が発言すると佐藤代表はマイクを持ったが、やはり「答えられません」という回答しか返ってこなかった。これに限らず、他の市民からの資金に関する質問には、事業者である佐藤代表が答えずフジタ社員が答えるというパターンが続いた。
■《予定地の近くで大量の残土が発生する工事は、リニアのトンネル掘削しかない》
 {{ 図版 4 : 津久井農場予定地 : 津久井農場予定地(鈴木氏撮影) }}
 会場から出た質問への佐藤代表の回答を整理すれば、計画の概要は以下の通りだ。
 佐藤代表は58歳。2024年には63歳になる。20年前までは約100頭の牛を育てていたが休業。いつかは規模拡大して牧場再開をしたいと夢見ていたという。しかし、平坦な土地を売ってくれるところはなく、山ならいくらでも売ってくれたので、1998年に土地を購入した。
 だがそこを開発しようにも、周辺地域で他業者が残土受け入れを始めたことで、佐藤ファームもその目的だと誤解されるため「今は待つように」と行政に言われて結局20年待った(これは理解に苦しむが)。そしてフジタと出会い、造成をお願いすることになった。
 佐藤氏の3人の息子(大学生)も跡を継ぎたいと言っているが、3人とも専攻は農業とは無縁で、酪農の修行もしていない。夜は無人になるが「問題ない」という。できれば地元の方を雇いたいとのことだ。
 また、残土を運ぶ市道「志田線」は道幅が5.5mしかない。フジタは「これを片側3mの2車線にして、加えて3mの歩道も設置したいが、最終決定ではない」と説明した。
 100万m^3の残土を受け入れると、10トンのダンプカー1台あたり1万5000円が入るので、25万台では40億円弱の収入になるとの試算もある。その正確な数値はわからないまでも、佐藤代表によると「それでも残土を積んでの造成にはお金が足りない」という。
 この準備書説明会は9月8日にも行われたが、参加した市民によれば(私は不参加)、やはり具体的な数字は出されなかった。「試算中です」「答えられません」との回答だけが頻発したという。
 そしてこの2回の説明会を通じて、住民が佐藤代表とフジタに突きつけた質問が「それだけ大量の残土を排出するのは、予定地の近くならリニア中央新幹線のトンネル掘削しかない。リニアの残土を受け入れるんじゃないですか?」ということだ。
 確かに、津久井農場から数kmの距離には、JR東海が2027年に開通を目指すリニアのトンネル掘削とその前段階となる斜坑掘削の工事が予定されている。
 地域住民は「あの急斜面を牧場に選ぶのは不自然。結局、津久井農場は、リニア残土を体よく埋め立てるカモフラージュじゃないのか」と見ている。これに対してフジタは「どこの残土にするかは数社と交渉中」と答えるだけだった。
≫――――――≪
■《引っ越す予定がない住民が引っ越すことになっている》
 {{ 図版 5 : 内藤さん宅 : いつの間にか引っ越すことにされていた内藤さん宅(左) }}
 津久井農場の造成で予想される問題は、沢が埋まる可能性、土砂崩れの危険性が指摘される。地元住民に直結する問題は、生活道路である市道志田線を1日に300台もの大型ダンプカーが通ることだ。そうなると犬の散歩もできなくなり、1日中排気ガスや騒音、振動に悩むことになる。
 志田線は幅5.5mしかなく、乗用車同士でもすれ違いが難しい。そのため、フジタは、その道を拡幅する必要があるが、この件を巡って、住民に不信を抱かせる事件が発生した。
 その拡幅工事には、ある家屋の立ち退きが必要となる。フジタは相模原市に「一軒の家が引っ越すことになった」と報告して計画を進めようとしたが、その家の家族はそのことをまったく知らなかった。
 コトが発覚したのは10月4日。その前日、鈴木氏は韮尾根の住民から情報収集を行っていたが、その一人である内藤ひろみさんから「9月下旬に、フジタが来訪して『工事期間中に庭を2m幅だけ貸してほしい。工事終了後に返す』との説明を受けた」との情報を得た。
 鈴木氏は翌日、相模原市環境政策課に電話で「そんな話があるのか」と尋ねると、夕方に返信の電話があり、「工事期間中、内藤さんは一時的に引っ越すことになっている」と回答した。
 驚いたのは内藤さん本人だ。
「そんな話は一度もしていません!」
 {{ 図版 6 : 相模原市の環境影響評価審査会 : 相模原市の環境影響評価審査会。正面の白いシャツが片谷会長 }}
 さらに問題は続く。
 10月9日。フジタ社員F氏が内藤宅を訪問。内藤さんの兄が「引越しとはどういうことなんだ」と問い質すと、その話を初めて聞いたというF氏は返答も説明もできなかった。この時点でフジタを信用できなくなった内藤さんは「信用できないから、土地は貸さない」ときっぱりと断った。ところが――。
 環境アセス手続きでは住民説明会のほかに、相模原市が常設する有識者で構成された「環境影響審査会」で計画が審議されるのだが、その第2回目となる11月28日、フジタは内藤宅が転居することになる資料をそのまま提出したのだ。
 20年1月20日の第3回目の審査会で、委員の一人は「引っ越す予定がない住民が引っ越すことになっている。これは誤植なのか?」と疑問を呈すると、審査会の片谷教孝会長は「地権者の同意なく着工はできない。具体的方針を出してもらう」と佐藤ファームへの正しい対応を求めた。
■《事業者は「知りませんでした。今、初めて聞きました」》
 この事件で韮尾根自治会が抱いた疑問は、「施工業者を指導する立場にある佐藤代表がこの件に関与していない」ということだった。住民約20人と佐藤代表は、2019年12月21日に話し合いを持った。
 そこでわかったのは、佐藤代表は工事の内容はもちろん、審査会で配布された資料にもまったく目を通していないという事実だった。つまり、工事のすべてをフジタに丸投げしていたのだ。だから、内藤さんの引っ越し話も当然だが知らなかった。以下、当日の録音データから書き起こす。
内藤:なぜウチが引っ越すことになったのか説明してほしい。 佐藤:把握していません。申し訳ありません。 内藤:でも(フジタ作成の)書類は佐藤さんが認めたもの。工事は承知しているんですよね。どこを拡幅するかご存知ですよね。 佐藤:知りませんでした。今、初めて聞きましたので。
 この発言に鈴木氏は徒労感を覚えた。さらに、佐藤代表の経営者としての姿勢にも疑問の目が注がれた。
住民:2020年から2024年までの5年間の工事で、どれくらいの支出があるか計算しているんですよね。 佐藤:まだ計算していないです。 住民:普通は、土地を買った時点で、大ざっぱな計算をするはず。工程表も作る。どの時点で借金が終わるかの計算もするよ。 住民:佐藤さんは、工事をフジタにまかせているの? 佐藤:はい……。
 {{ 図版 7 : 話し合い : 2019年12月26日 住民(向かって左)と佐藤誠氏(正面左)とフジタ社員(向かって右)とが話し合いを持った。その場で、津久井農場計画が佐藤氏からフジタへの丸投げだったことが明らかにされた }}
 さらに住民は、佐藤代表が某政治家に紹介されてフジタとつながったことも知った。そして5日後の12月26日、筆者の目の前で佐藤代表とフジタが住民と話し合った。ここで住民が「佐藤さんはフジタに丸投げしているんですよね」と念を押すと、フジタも「はい」と認めた。そして鈴木氏が、内藤家転居の件で「いったい誰が市役所に虚偽の報告を伝えたのか?」と問うと、フジタは「調査します」とだけ約束した。
≫――――――≪
■《住民との話し合いでも決着つかず、反対署名が開始される》
 2020年1月18日、フジタの社員6人と佐藤代表が韮尾根地区を来訪。ここでも虚偽報告の真相は明かされなかった。ただし、この計画で初期から住民との折衝に当たっていたフジタのW氏が「(市に転居の話をしたのは)一番可能性があるのは私だと思います」と曖昧に回答し、10月9日に内藤さんの引っ越し話を初めて聞いたというF氏もその後、社内で問題を精査していなかったことも明らかになった。
 さらに、住民の憤りに火をつけたのは2月10日。この日の話し合いで、佐藤代表は受け入れ残土を100万立米から60万m^3に減らすことを表明。フジタは、その場合でも「道路を拡幅したら1日160台のダンプカーによる運搬が34か月、拡幅をしなければ120台で45か月かかるので、どちらかを選んでほしい」と住民に要請した。
 これは拡幅そのものを問題視している住民の神経を逆なでしたものだった。これを機に、志田線沿いの地権者8人は「用地交渉には一切応じない」「事業者等の訪問や連絡は一切断る」とした意思表明書を佐藤ファームに送ることになる。
 また、この一連のできごとから津久井農場計画そのものを信用できなくなった住民たちは、10月から農場計画に反対する署名活動を展開。すると、地域の外からも署名に応じる人が増え、最終的には2247件が集まったのだ。
 2月には、韮尾根自治会が審査会の全委員と本村賢太郎市長にも問題の詳細を文書で送付した。この文書が汲み取られたのであろう、2020年2月26日に審査会は本村市長に宛てて「志田線の拡幅は確定していない。(事業者は)何か確定した条件で見直しての環境保全措置や事後調査を実施すること」(概要)との答申案を提出。
 本村市長は、そこにさらに「地元自治会から地域環境悪化への懸念に関する要望書が署名を添えて市に提出されたことも念頭に置き」などの文言を加え、佐藤ファームに対して「地域住民等との意思疎通を図ること」との意見を表明したのだ。
 環境アセス手続きでは、市長意見を取り入れてアセスの最終報告書というべき「環境影響評価書」を作成しなければならない。だが、市長意見に従えば、地域住民と佐藤ファームとが協議のうえで同意に至らなければ、評価書は作成されず、計画は進まないことになる。
 佐藤代表はその後「住民からの質問に丁寧に答えます」と表明し、話し合いを要望しているが、コロナ禍での外出・集会自粛の影響で7月6日時点でも話し合いは実現していない。
■《残土を受け入れの数十億円が最初から目的だった!?》
 {{ 図版 8 : 佐藤誠氏の過去を知る嶋田俊一氏 : 佐藤誠氏の過去を知る嶋田俊一氏 }}
 この取材の過程で、私は「佐藤誠代表を知っている」という男性と知り合った。相模原市緑区在住の嶋田俊一氏だ。
 約10年前、佐藤代表の父親と懇意にしていた横浜市在住のK氏から「佐藤の息子(佐藤代表)が土地を2か所、それぞれ1億円で騙されて買ってしまった。その処分に困っている。相談に乗ってくれないか」との連絡を受けた。
 嶋田氏は佐藤代表と一緒にその土地(今の津久井農場計画地)を見に行った。佐藤代表は「ここを残土捨て場にしようと思う」と説明したが、嶋田氏は「残土捨て場は谷にするべき。この急斜面では無理だ」と告げ、以後、寺院関係者に「墓地にならないか」と打診をしたが、すべて断られた。
 そして2009年には佐藤代表に「私が仕事で回収するスーパーやドラッグストアなどからの段ボールの保管場所としてあの土地を使い、とりあえず利益を出し、廃品回収業の下地を作ることを検討してみては」との手紙を送ったが、返事はなかった。
 また2か所の土地のもう1か所は、反社会勢力組織が産廃などの不法投棄を始めた。これにK氏が対処し、それを片づけさせたこともあるという。
 ところが、5年ほど前から佐藤代表とは音信不通になる。そして2019年8月、偶然にインターネットで津久井農場計画を知った。嶋田氏は「この土地の件で世話をした人間に何の連絡もないとは」と憤ったという。
 もしこの話が本当だとすれば、佐藤代表は農場などやる気はなかったことになる。ただし、フジタとつながったことで、残土を受け入れれば数十億円の金が入ってくるということで、改めて農場経営を目指した可能性も否定はできない。
 そこで筆者は4月上旬、佐藤代表に宛てて「嶋田氏の話は事実なのか、佐藤ファームの住民への説明責任、フジタを紹介した政治家とは誰か、そして万一の土砂崩れでの補償の用意はあるのか」など17の質問を手紙で送った。
 すると1週間後に佐藤ファームの顧問弁護士から「後日、弁護士から回答を入れる」との電話が入った。そして回答がFAXで入ったのは、1か月以上も経った5月22日のことだった。
 その内容は「地元説明会等において通知人(佐藤代表)自らご説明を差し上げて参りたいと考えているところであり、個別の対応は差し控えさせていただきます」という実質上の“ゼロ回答”だった。
 だがこれは、佐藤代表が地元住民から筆者と同様の質問が出されても回答すると明言したことである。実際に地元自治会は、佐藤代表に対して質疑をする予定だ。
≫――――――≪
■《フジタはJR東海から「残土の処分地を口外するな」と言われている!?》
 {{ 図版 9 : 右が内藤ひろみさん。左が韮尾根自治会の落合会長 : 右が内藤ひろみさん。左が韮尾根自治会の落合会長 }}
 5月中旬。韮尾根自治会で気になる動きがあった。フジタの意向を受けた住民のH氏が内藤さん宅を訪問。H氏は「橋本(相模原市の中心部)に引っ越せば、資産価値も上がります」と引っ越しをほのめかしたが、内藤さんは「フジタと佐藤ファームとは交渉は一切しない」と引っ越しを拒否。だがH氏は、「フジタはもう引けないところまで来ているから、道路の拡幅がなければ、別方向から残土を運ぶかもしれない」と説明した後にこう告げたのだ。
「フジタは、どの残土を持ってくるかは先行して伝えられない。JR東海から(口外を)止められているらしいんですよね」
 これはリニア工事からの残土を意味するのか? 内藤さんからこの録音データが送られてきたとき、鈴木氏ら住民は「やはりか」との思いを抱いた。そして、それが決定的になったのは6月25日。
 JR東海が、リニア工事のうち津久井農場に近い「津久井トンネル(東工区)」の施工者をフジタに決め、契約を交わしたのだ。これにより、そこから発生する60万m^3(津久井農場への搬入量と同じ)もの残土を、フジタが津久井農場に運ぶ可能性が高まった。
 すると、フジタが排出する残土を佐藤ファームが数十億円で引き取り、そこから佐藤ファームが農場造成への数十億円をフジタに支払うことになるのだろうか? 佐藤代表の話では「(100万m^3の段階で)農場造成にはそのお金だけでは足りない」ということだが、その足りない分はどう工面するのか? 佐藤代表は住民の前でそれをどう説明するのだろうか。
 JR東海の発表のあと、フジタのF氏から韮尾根自治会の落合会長に「受注したリニア工事は農場計画とは一切関係ない」との電話が入った。では、60万m^3もの残土をどこから運ぶのか? それを明かさないままでは住民合意には至らない。
 住民が知るべきことはまだまだある。たとえば、2019年12月時点で佐藤ファーム、津久井農場での牧場施設(牛舎や堆肥舎など)の建設(約4億3000万円)については未契約だった。これはいつ契約されるのだろう。
 また、膨大な残土を急斜面で造成する以上は、土砂崩れの可能性もある。そうなった場合の補償は誰が行うのか。土砂崩れを怖れて隣接する愛川町でも反対運動が起こっている。この問題を今しばらく追いかけてみたい。
<文・写真/樫田秀樹>
●樫田秀樹  かしだひでき●Twitter ID: {{ @kashidahideki : https://twitter.com/kashidahideki }} 。フリージャーナリスト。社会問題や環境問題、リニア中央新幹線などを精力的に取材している。 {{ 『悪夢の超特急 リニア中央新幹線』(旬報社) : https://www.amazon.co.jp/dp/4845113643/ }}で2015年度JCJ(日本ジャーナリスト会議)賞を受賞。
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hello-ratika · 4 years
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カレーがあった♪ 夏に食べるおでんもよい;D 楽しく美味しい夜でした (噂のこの串かつあのおでん 広島銀山町倶楽部) https://www.instagram.com/p/CCmc8xdBjx_nXK5iCQYLIpD3TFQ1UxXBeJaXVY0/?igshid=115dpfqnmv8k9
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wasite · 4 years
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WASITE.store 2020.06.25 now CLOSE(一時休業中) 今日の海 今日は「指定自動車教習所の日」 お車を運転される人のほとんどがここで運転技術を学ぶはず、 「自動車教習所」 1960年の今日、道路交通法改正により指定自動車教習所制度が始まり、 これを記念した日が、今日ってわけ。 いやー、懐かしいなぁ。 坂道発進とかめちゃ怖かったなぁ〜。 で、たまにすげー態度が怖い教官とかいるんだよなぁ。 男子高校生に人気のセクシー教官。 あと、セクハラしてくると噂される教官とか。(実際ない) 教習所には教習所独特のドラマが! それも2020年にもなれば現代ドラマ的に進化! それは、 「ほめる」 三重県にございます南部自動車学校は、その名も 「ほめちぎる教習所・合宿」だぁ!!! そのほかにも広島、京都、大阪、静岡、etcでも同様のコンセプトをベースに、 褒めちぎる教習所が開校されていますよ! 「あたしぃ〜、褒められて伸びるタイプだからぁ〜」 という若者は多い。 そんな新世代と、旧世代の教習所はうまくいくはずがない。 新世代には、新時代の教習所が求められる。 べた褒めしてくれるってよ!!! 生徒「うわぁーーーーーー!ぶつかるぶつかるぶつかる!!!」 ブレーキ。 先生「・・・、ええやん!」with 穏やかな微笑み 生徒「ふぁ?」 先生「ぶつかったらあかんからなwwwww その前にちゃんと止まれてすごいやん!」 という具合に、萎縮することなくのびのび練習! 先生の褒める技術も一流。 そのうち「7ルール」か「ガイアの夜明け」で 褒める技術が取材される日も遠くない? 昔気質のまま「自分、不器用ですから・・・」と哀愁ムンムンで素直に褒められない人。 それはそれでも不便がないなら変わる必要はない。 しかし、自動車業界は困った。 若者の免許取得率・保有率が減少していっているのです。 若者に、免許をとってほしい!と教習所は思った。 そして、「褒めよう!」と変化を受け入れた。 反対に、 フィットネエスやパーソナルトレーナーから、 「叱咤」されながら自分を追い込んで体づくりをするのも人気。 この世の中には「叱られたい」という人もいるのです。 というわけで、注目すべきは 「相手に語りかける」! 褒めるも叱るも対象者に語りかける行動の一つ。 みなさんのお仕事、ビジネス、商品に、 「語りかける」 というキーワードを付与し、 新しい価値を発見してみてはいかがでしょう? とにかく褒めるパン屋さん とかどう? あ、ピザパンいきます? いいっすねぇ〜、いいの選びますね〜。 チョココロネも!? 渋いっすね〜。 さらにレーズンパン? いや〜、完璧なチョイス。すごい。 とかね。 お手本はお笑いコンビ・チュートリアルのコント「BBQ」 BBQで具材を串に刺していくわけなんですが、 福「肉→ピーマン→玉ねぎ→肉→ピーマン→玉ねぎ」 そのレビュー・褒め方がいい。 徳「ださ!80年代やないか」 一度落とす 徳「流行りでいうたらまずピーマン、これトレンド!」 とネタが広がり、 福「ピーマン→ウィンナー→鶏肉→エリンギ→ホタテ」 徳「おい、おまえ、初めてか? それ自分で考えたのか?   NYスタイルやないか?   近代BBQの父トーマス・マッコイと同じやんけ!?」 福「ピーマン→エリンギ→とうもろこし→とうもろこし→・・・ 徳「やめとけ!今ので完成してるから! でも続けてみて・・・」 福「・・・とうもろこし→とうもろこし→ナスビ」 徳「おおおおおおい、ええな! おナスいけるやん!   おナスがすごいお前がすごいんか?」 徳「おい、お前、HPとかやってるのか?」 福「えーっと、イカ→・・・」 徳「イカ!伝説が始まったな!」 一度落としたところから褒めちぎる。 みんながみんなで褒め合えたら・・・、 ちったぁ世の中明るくなるんじゃないですかね? まずは、家族から褒めよう。 今日もよき日を。 #WASITE #ワシテ (Wasite) https://www.instagram.com/p/CB1-AB-Dczy/?igshid=1lawiw91h5ae2
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