Vol.164 外来化学療法はiPod&イヤホン持参が吉!? 音楽療法の新エビデンス
大谷翔平選手(野球)のMLBでの大活躍、井上尚弥選手(ボクシング)の4階級制覇、とスポーツ界で大きなニュースが続いてますが、女子サッカーW杯も見逃せません。
娘のおかげで、私も女子サッカーに注目するようになってきたのですが、日本ではプロリーグができたものの、なかなか「マイナー」な競技のイメージから抜けきれていないのが現状です。
これを打破するためにも、やはりW杯での活躍は不可欠。まずは予選リーグを無事通過しましたので、決勝リーグで、2011年・15年当時のような躍進を再び期待したいですね。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【記事1】 私のがんにも関係ある?「HER2陽性」は乳がん/胃がんのみにあらず
───────────────────────────────────
「HER2陽性」のタイプがあるがんというと、乳がんや胃がんを思い浮かべる方が多いかと思います。
以前のメルマガで、実は大腸がんにもHER2陽性タイプがわずかながらあって、代表的な抗HER2抗体薬のトラスツズマブ(ハーセプチン)が効果を発揮した、というお話を紹介しました。
■「Vol.140 すごいぞSCRUM-Japan! 肺がんと大腸がんで立て続けに新治療に繋がる成果」(イシュランメルマガ)
本研究の成果もあり、大腸がんでは、「トラスツズマブ(ハーセプチン)+ペルツズマブ(パージェタ)」という抗HER2抗体薬での治療が日本で昨年承認されました。
また、HER2は肺がんにも発現しているケースがあって、HER2陽性非小細胞肺がんの二次治療として、新世代の抗HER2抗体薬「T-DXd(エンハーツ)」が承認申請を昨年末しています。
更にHER2は、他の様々ながんでも、それぞれ確率は低いものの発現しているケースがあることがわかってきています。
そこで、子宮頸がん、子宮内膜がん、卵巣がん、胆道がん、膵臓がん、膀胱がん、およびその他のがん種で「HER2陽性」と判明した患者さんで、「T-DXd(エンハーツ)」の有用性を検証しようという「DESTINY-PanTumor02試験」が進んでいます。
蛇足ですが、このような、がん種横断の臨床試験を「バスケット試験」と呼びます。
一つ一つのがん種だけだと対象となる患者数が少なく、相応の規模の試験ができないので、”まとめてドン”でやるわけですね。
この「DESTINY-PanTumor02試験」の中間解析結果の続きが出てきました。
■"ENHERTU® Demonstrated Clinically Meaningful Progression-Free Survival and Overall Survival Across Multiple HER2 Expressing Advanced Solid Tumors in DESTINY-PanTumor02 Phase 2 Trial"「DESTINY-PanTumor02フェーズ2試験において、エンハーツが複数のHER2発現進行性固形がんにおいて臨床的に意義のある無増悪生存期間および全生存期間を実証」(第一三共株式会社プレスリリース)
執筆時点で何故か、日本語のサイトにはなく、英語サイトにだけプレスリリースが掲載されてるのですが…
元々、今年のASCOで本試験の主要評価項目である客観的奏効率(腫瘍が縮小した症例の割合と考えてください)は37.1%で、安全性で特に新しい懸念点はなし、というデータは出てきており、今回の発表で有用性がさらにしっかりと示されたという感じです。
・フェーズ3まで待たずに承認申請がされるかどうか
・その場合、フェーズ2で客観的奏功率が低かった胆道がんや膵臓がんの扱いはどうなるのか
あたりが今後の焦点となってくると思いますが、今後の動向を見守りたいと思います。
※本項執筆時点(2023年7月31日)で、筆者はT-DXd(エンハーツ)やトラスツズマブ(ハーセプチン)に関し、特筆すべき利益相反はありません。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【書籍紹介】「言葉はいのちを救えるか? 生と死、ケアの現場から」
───────────────────────────────────
友人でもあり、数少ない”腕利き”の医療専門記者である岩永直子さんが、独立されたと共に、初めての書籍を書き下ろされたので、ご紹介。
■「言葉はいのちを救えるか? 生と死、ケアの現場から」(岩永直子 晶文社)
重たいテーマ設定ですが、当事者の肉声を丹念に紡いだ渾身の著です。ご興味ある方はぜひ手に取られてみてください。
岩永さんは読売新聞とバズフィードで長年活躍され、バズフィード時代にまだ乳がんしかカバーしていなかったイシュランを取材していただいたことがあります。
それが、会社の突然の経営体制の変更に伴い、医療記事を書けない状況に追い込まれ、ちょうど独立されたところです。
今、ご自身で「医療記者、岩永直子のニュースレター」という媒体でオリジナルの取材記事を連載されていますので、こちらもよろしければチェックしてみてください。
一部の記事は無料で閲覧可能で、別途有料のサポートメンバー限定記事もあります。記事を読まれて、岩永さんを応援されたいと思われた方は、ぜひサポートして頂けたらと思います。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【記事2】外来化学療法はiPod&イヤホン持参が吉!? 音楽療法の新エビデンス
───────────────────────────────────
以前のメルマガで、運動ががん治療にもたらすベネフィットについて研究する「運動腫瘍学」を取り上げたことがあります。
■「Vol.153 【記事2】運動とがんの関係を科学する「運動腫瘍学」の登場」(イシュランメルマガ)
では、「体育(運動)」に相応のベネフィットがあるとして、「音楽」はどうなんでしょう?
ちょっと古いですが、緩和医療学会がガイドラインの中でエビデンスのレビューをまとめていますので、まずはご紹介。
■「がんの補完代替療法クリニカル・エビデンス(2016年版) Ⅲ章 各論:クリニカル・エビデンス 音楽療法」(日本緩和医療学会)
この中で、音楽療法は、
・がんの身体症状に関しては、「痛みを軽減し得るが、有用性が確立されているとは結論づけられない」「倦怠感の軽減については有用であるとは結論づけられない」とされ、それ以外の症状についてはエビデンス不足。
・精神症状の軽減については、「不安を軽減し得るが、うつの軽減には必ずしも有用であるとは限らない」とされ、それ以外についてはエビデンス不足
であることが示されています。”音楽療法”は、エビデンスそのものがかなり乏しい状況と言えそうです。そんな中、興味を惹く試験結果が出てきました。
■"Using Music as a Tool for Distress Reduction During Cancer Chemotherapy Treatment”「がん化学療法中の苦痛軽減ツールとしての音楽の活用」(Journal of Clinical Oncology)
化学療法のために来院した成人患者750名を、音楽活用群と非活用群にランダムに振り分け、前者は好きなジャンルの音楽を選択して点滴中にiPodで最大60分間聴いてもらい、後者は何もなし、とします。
介入前には、音楽活用群と非活用群の間で、「疼痛」「ポジティブな気分」「ネガティブな気分」「苦痛のレベル」で差はなかったのが、介入後はどうなったかというと…
「ポジティブな気分」「ネガティブな気分」「苦痛のレベル」について、音楽活用群で有意な改善が認められ、「疼痛」については有意差は見られませんでした。
改善の度合いがどの程度の意義かが���かりかねるところですし、点滴終了直後の気分の改善がどれくらい継続するものかなど、ツッコミどころはあるのですが、それでもエビデンス不足の中でこうした研究結果が出てきたことは素晴らしいと思います。
なにせ、追加コストも副作用もほぼ心配ないので、現場でどんどん試してみる価値はありそうです。
化学療法中の患者さんで良いなと思われた方は、次回の通院の際にはiPod&イヤホン持参で行かれてみるのも良いかもしれませんね。
********************************
「この話についてどう思うか教えて欲しい」というようなご要望、メールマガジンの内容についてのご質問やご意見、解約のご希望などにつきましては、返信の形でお気軽にメールしてください。配信した内容とは無関係の質問でも結構です。必ずお返事いたします。
メールマガジンの内容の引用、紹介、転送も、どんどんやっていただいて構いません。
イシュランの新しい試みとして、がん以外の疾患ですが、病院・医師検索サイト「皮膚ナビ」を作っております。
イシュランと同じく、実際に受診した患者さんの声がコンテンツとなってより充実したサイトに成長していきますので、読者の皆さまにおかれましても、ぜひご自身の経験に基づき、ご存知のクリニックや先生について、投票/投稿して頂けると嬉しいです。
◆皮膚ナビ : https://hifunavi.ishuran.com/
◆SNSもやっています。ぜひフォローよろしくお願いいたします。
・Facebookアカウント:https://www.facebook.com/ishuran.japan
・Twitterアカウント:https://twitter.com/ishuranjapan
・Instagramアカウント:https://www.instagram.com/ishuran_japan/
◆メルマガ会員(会員数 ”6″万人!(2022/12時点)への登録(無料)はこちらから↓
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
科学的根拠に基づきながら一般の方に面白く・わかり易く医療情報を伝えます
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
0 notes