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汐里は風呂に入っている。
お泊りのための装備は一式完備してるし、なんなら歯ブラシとコップのセットは二つなかよく並んでるし、なんていうかまあ、半同棲状態だ。なんだ���んだで週に2回か3回くらいは来てるんじゃないだろうか。お泊りは週1あるかどうかである。
はあ……汐里のぱんつでもかぶろうかな……。
ひとまず、なにも考えてないとほんとにふらふらとぱんつかぶって、思ったよりきついにおいにものすごい興奮のしかたするとかそんなことになりかねないので、どうでもいいことを説明する。
まずこの部屋に関してである。
この都市の中心部に近い場所にあって、間取りは2DK。家賃はなんと驚くなかれ65000円だ。DKが6畳で、それと別に6畳が二間。初めて一人暮らしをするんだとしたら贅沢にもほどがある広さである。
もちろんこれには裏がある。
まず築50年という常識を外れた古さである。しかもエレベーターなしの5階だ。これだけで家賃はぐんと下がる。
そのわりに中身が新築同様なのは、リノベというやつを経ているからである。もともと雑居ビルだったものを改築したらしい。そのため、1階1室という賃貸としてはまれにみる好条件になっている。騒音を気にする必要もなし。深夜にシャワーでも洗濯でも
ちなみに2階は雀荘。1階はちかごろ増えたネパール系の料理屋。
実家からはスクーターだと15分、公共交通機関だと45分というわけのわからない状態になっているが、これはこの山坂の多い町で、電車をうまく利用できず、バスも直通していない、という説明をすれば、地元の人間ならたいてい「なるほど」と納得してくれる。
ちなみに、この交通の不便さが、汐里が俺の家に立ち寄るもうひとつの言い訳になっている。早い話、汐里の学校まで行くのに、こっちのほうがはるかに近いんだよね。自宅からだとバス電車バス急坂、みたいなわけのわからないルートを通ることになり、通学には50分くらいかかる。ここからだと電車で一本徒歩5分である。自転車なりスクーターなりでの通学が認められているならまだしも、かのお嬢様学校でそんなもんが許可されるはずもなく、現状に至る。
ほんとなー、いろんな条件が重なって身動きとれない感じがある。
正直なところをいえば。
もし、兄妹ですとか世間体ですとか、そのへんのいろんな条件が撤廃された場合、俺はその場で汐里に告白するどころか、なんなら求婚までする可能性がある。なんなら告白即セである。
かわいいかかわいくないかでいえば、死ぬほどかわいい。ぱんつもかぶれる。むしろかぶりたい。なぜ俺はそこまでぱんつに執着するのか。つまり性的な意味でも汐里のことは大好きである。いつからかって? わりと最初から。
それを知ってか知らずか、汐里の態度がやけに挑発的なのもきつい。
「お兄ちゃん、お風呂終わったよー」
水回りから居間に続くドアを開けて汐里が姿を現した。
「あいよ。……って汐里」
「なに、お兄ちゃん」
「そこにすわんなさい」
「体育座りで?」
「バスタオル1枚のそのかっこで体育座りしたら、大変なことが起きるでしょう?」
「大変なことってなにかな。汐里よくわかんない」
こいつ。自宅じゃそんなだらしないかっこで室内をうろうろすることなんて一度もなかったくせに。
「やっぱ座るのなしで。早く服着てこい」
「ちらっ」
バスタオルの裾をめくる汐里。
全体的にほっそりとした体型のなかで、太ももは思ったより充実してたりする。なお汐里にそれを報告すると、兄妹の縁を切られるもよう。
顔挟まれてえなあ。
「どしたのお兄ちゃん、修行してるインド人みたいな顔して」
「修行のさまたげになる女体は排除の方向で」
「女体! 私、自分の体を女体って表現されたのうまれてはじめてかも!」
奇遇だな。俺も女性に向かって女体なんて単語使ったの、たぶん生まれてはじめてだよ。
「なんでもいいから着替えてこい……」
「はーい」
とまあ、一事が万事この調子なのである。
実際俺、よくここまで耐えてるなと思うわ。
「さて汐里、俺はこれからだいじな話をしようと思うんだが」
「うん。なにお兄ちゃん」
「まず、これは話し合いをする体勢じゃないな?」
「お風呂上がりの妹のいいにおいをたっぷりお届けするサービスだよ」
「……」
ああくそ。そのサービスめっちゃ有効。いまなら10万円ちょうだい?っておねだりされたら黙って渡すかもしれない。
汐里は俺の隣に座って、べったりとくっついている。身動きするたびにゆるいスウェットが複雑な動きをして、布の下にある汐里の体の線をいやおうなしに想像させる。
「どう? ふにょんってする?」
訂正。すでに触覚の領域だった。はい。大変にふにょんとします。一方で俺の肉体の一部は大変にふにょんとしない事態になりそうです。あーくそ、襲いたい。余裕のなさが直球の妄想になって炸裂する。
「まず離れろ」
「えー」
「えーもハイホーもない」
「ハイホー」
「……」
「それ、どこで使う日本語?」
「さあ」
話が進まねえ。
「わかった。離れる」
よつんばいで汐里が移動する。思わず尻を見てしまう。いまスウェットのゴムのとこに指引っ掛けてずり下ろしたらどうなるかな。世界が終わるかな。同じ破滅を迎えるのでも、発作的にスウェットずり下ろした結果終わるのって、最低に近いな。
「これでいい? お兄ちゃん」
ちゃぶ台を挟んで反対側、ここぞとばかりに頬杖をついて、少し首をかしげて俺を見上げる汐里。
「……そういう、とっておきのかわいい私みたいなのは、男つかまえるときにやっとけ」
「やる機会がないから練習してるんじゃん」
「機会を作る気もないくせに」
「そうだよ?」
なにをいまさら、という感じで汐里が言う。
「いっそ清々しいな……」
これが強者の余裕か。
「で、話って?」
「ああ、それなんだけど……」
話すべきことは決まっている。
このままだと襲っちゃいそうなので、家に来ないでください。
それをソフトに伝えるにはどうしたらいいか。
「えー、結婚には3つの袋が重要といいますが」
「え、なに……なにが始まるの……」
怪訝そうな顔で汐里が俺を見る。なんならちょっと引いてる。
「ごめん。なんの関係もなかった」
「ちなみに、3つの袋ってなんなの」
「えーと……堪忍袋と、給料袋と……あとなんだっけ……」
「ジェイク・シマブクロ?」
「どこでそんな名前を聞きかじってきたんだ……」
あと結婚となんの関係もない。
放っておくとすぐに雑談のペースになってしまう。話しやすい関係というのもよしあしである。
「えーとな、その……」
「うん」
なんてことのない表情で俺を見る汐里。
だめだ。かわいい。
目も鼻も唇も、ついでにいうなら声もかわいい。これ全部俺のものにしちゃったらどんだけ幸せだろう。
もし俺が、いま汐里に対して抱いている感情をすべてぶちまけてしまったら、汐里はいったいどんな顔をするだろう。
わからない。
あんがい受け入れられそうな気がするのが怖い。
……いや、ひょっとしたらそれは、汐里にとって「やさしい兄」を奪う行為に当たるかも知れない。
どっちにしても、こういうのは、引き伸ばしていいことはなにもない。俺は、息を吸って、吐いて、そして言った。
「おまえさ、やっぱうちに来るのもうやめろ」
「やだ」
食い気味に言われた。まあそう来ると思ってた。
いつもなら、ここから話はぐだぐだになる。けど、今日の俺は、そうはさせない。
ふつうの兄妹以上に、長い時間を一緒に過ごしてきた。友人みたいに。兄妹みたいに。だから、俺には、どう言ったら汐里が来なくなるか、もうとうの昔にわかっている。それを今日まで言わなかったのは、それが俺たちにとってルール破りになるからだ。
「ぶっちゃけ、俺の身がもたない」
「……生活の邪魔だとか?」
「それもゼロじゃない。けど、大した理由じゃない。つーかさ、おまえ、ほんとはわかってんだろ」
「エロゲやる邪魔されたくないからだ……」
「それもないわけじゃないのがタチが悪いなあ!」
妹が同じ屋内にいる状況で落ち着いてエロシーン見てられるかって話である。ちなみに俺の娯楽はエロゲで5割だ。
「じゃあ、なにさ」
「まちがいを犯したら困るからだ」
ついに、はっきりと言った。
「まちがい……?」
「俺は男だ。そんで汐里は女だ。血はつながってない。……あとはわかるだろ」
「……」
汐里は黙り込む。そして困惑したように言う。
「えっと、それってつまり、お兄ちゃんは私のことを、そういう目で……見てるってこと……?」
「言っとくが、いつもじゃないぞ」
「そんなのわかってるよ。美少女歴17年もやってると、そういう視線ってすぐわかるから」
「やっぱわかるのか」
「うん。お兄ちゃんも痴女にストーキングされればわかると思う」
そんなレアな機会はねえよ。
「あれ、でもそうすると……」
「なんだよ」
「え、いや、私、お兄ちゃんからそういう空気、感じたことないんだけど……」
「だから、いつもじゃないって言ってるだろ。たまに魔が差したみたいなときがあるんだよ」
「それって、どんなとき?」
「だから、風呂上がりとか……」
「うんうん」
「ねえ、めちゃくちゃ気まずいんだけど」
「そう?」
「逆におまえは気まずくないのかよ。ずっと兄ですってツラしてた人間が、その、なんだ、欲情してたのかもしんないんだぞ……?」
「……んー」
ほっぺたに人差し指を当てるあざといポーズをしつつ、汐里がこてんと首をかしげる。
「よくわかんない」
「わかれよそこは!」
「え、だってさ、これがほかの男の人だったら無理やめて気持ち悪いってなるんだけど」
男に向かって「気持ち悪い」だけは言わないでさしあげろ。たぶんおまえが想像するのの500倍くらいのダメージあるぞ。特に汐里みたいな美人系のそれは効果ばつぐんだ。言われた相手は死ぬ。
「お兄ちゃんだしなあ……。たとえば、お兄ちゃんが私のおっぱいとか見て、それで興奮したとして……」
想像しているらしい。いま汐里の脳内でどんな光景が展開されているのか。俺グヘヘヘェとか抜きゲの竿役みたいな顔してんの?
汐里の様子を見ていると、考え込んでいるような顔が、だんだんと赤くなってきた。自分の胸のあたりを見る。それから、はっとしたように顔を上げた。
「えっ、お兄ちゃんが!? 私を!?」
「おまえ、人の話聞いてた?」
「えっ、やば、それは……ええっ!?」
胸のあたりをかばうように両腕で隠す。
「え、それってつまり、さっきお風呂から上がったときとか……」
「うん。だからこんな話をした」
「だって、それって、私あのとき、バスタオルの下はすっぽんぽんで」
「すっぽんぽん」
「だからもし、私があのとき、バスタオルをはらりと落としたら……そしたら、お兄ちゃんは……」
ごくりと、汐里がつばを飲み込んだ。なんでおまえがツバ飲み込むんだよ。それ俺の役目だろ。
「そしたら、お兄ちゃんは、エロ漫画みたいに……!」
「多大な語弊があるが、大筋ではあってる」
「いやがらない私を強引に!」
「いやがれよ」
まさかの和姦展開である。
汐里はまじまじと俺を見る。てゆうか視線がどうも顔というより下半身に向かってるような気がする。
「そりゃ、私も興味がないといえば嘘に……」
と、言いかけて、はっとしたような顔になる。ちなみに顔まっかな。
いままでに見たことがないくらいテンパった雰囲気の汐里は、いきなり立ち上がった。
「寝る!」
「おい、汐里」
「おやすみ!」
そのまま、物置兼汐里の寝室的な部屋に飛び込んでしまった。
部屋には俺ひとりが取り残される。
「えーと……」
どう判断したらいいんだろう、あれは。
とりあえず確実なことは、これがエロゲだったらオナニーシーンのフラグである。
「まさかな」
と、フラグを立てつつ、俺も自分の部屋に引っ込んだ。
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自由意思の侵害
愛する人へ。ぼくはあなたを肯定できます。神の論理性は真理の本の中に。❶哲学は②心理学と②❺絵画科学を統一し、霊に永遠性を賦与します。時間は至高の存在の反映です。光でできた宇宙の空間は実在であり、ぼくの光線構造は生きてる間に必要があれば、変わります。『自然な在り方』
大計画
地球は偶然でも奇跡の産物でもありません。1850万年前に❺金星から遣って来た一団である魂と霊の融合した存在である方々は❸地球を助けに来たのです。音楽④❺『魂』と、⑥哲学🆚❺科学にて宇宙のー惑星の『理』(ロゴス)のお陰で地球は維持されて来たのです。死は終わりではありません。『意』
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@mazdayoshihiro
#小室哲哉 心霊エネルギー、光、創造性、霊感
目には見えない程の精妙なるエンティティとマントラム。
#バッハ は宗教感情、睡眠導入、頭脳明晰化
#モーツァルト は心霊治療、空間認識力UP
#ベートーベン はキリストの再臨
#スクリャービン は化学の霊
#ホルスト は聖惑星
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#ケルト #リンディスファーン福音書 に描かれた細密紋様
リンディスファーンの福音書は、#マタイ、#マルコ、#ルカ、#ヨハネ による福音書から成る手書きのラテン語装飾写本である。#使徒 #四聖人
参考文献ー『#マイトレーヤの使命 Ⅰ,Ⅱ,Ⅲ』#イニシエートのリスト #進化段階、#光線構造 ...。
#ケルト『#リンディスファーン福音書 の見開きページ』
お互いの宗教的伝統を尊重しなさい。
神は1つで #一神教 的で在るが、世界に反映する個性は多様で #多神教 的であり、矛盾を超えて存在する。
世界が平和であるようにー。そうなるようにー。真の豊かさの為にこそ、権威や権力は必要である。
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