Tumgik
#両開き門扉
elle-p · 5 months
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Persona 3 FES novel -Alternative Heart- pages 166/167 transcription.
---黒い霞が晴れると、そこは星々の輝く、宇宙女思わせる空間だった。わたしたちは、見えない大地に立っていた。この場所は⋯⋯間違いない。二ュクスとの決戦の場所だ。体の自由が利いた。あのポロニアンモールと同じく、そこは動ける過去だった。わたしたちが見上げる先に “彼” の後ろ姿があった。ほの赤い滅びの光となって、わたしたちに迫るニュクスの前に、“彼” が立ちはだかった。
前髪を揺らしながら “彼” が、滅びの光に指を伸ばす。
「これが、あの人の残レた奇跡⋯⋯」
指先が滅びの光に触れた瞬間、永遠に続くとも思えるほどの広大な壁が現れ、滅びの光をすっかりと覆いつくした。その壁の唯一の途切れ目である、巨大な金色の門扉が重々しい音を立てて閉ざされた。その扉の中央---観音開きの門扉にまたぐようにして、周彫像と化した “彼” の上半身が現れた。広げた両腕から仲びたイバラが、幾重にも扉に走っている。
黄金に輝く扉は “彼” によって、強く硬く閉ざされていた。
真田さんと順平さんの肩を借りて、やっと立っているメティスが、扉を見上げながら言う。「これは “彼” の命そのものです。“彼” は、自分自身の魂を使って、二ュクスを封印したんです。でもきつと、この封印は、ニュクス自身を抑えるためのものじゃない」
「どういうことだ?」 真田さんが訊いた。
金色の扉の下に広がる黄金色の雲海を突き破って、黒く巨大な手が現れた。その手が、封印の中心である “彼” の彫像をつかみ、ぐいぐいと引っ張った。
真田さんの問いかけには答えずに、メティスが確信したように言った。「やっぱり、彼の村印の目的は、ニュクスを抑えこむことじゃない」
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kinemekoudon · 2 years
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【6話】 「大麻を所持していたが不起訴にしたい」と言ったら弁護士にキレられたときのレポ 【大麻取り締まられレポ】
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パトカーが警察署に着くと、まずは3階の取調室に連れて行かれ、ガサのときにいた女の刑事によって取調べが始まった。
女刑事は「大麻を所持したことを認める?」だとか「逮捕されたことをどう思う?」などと質問をしてきたので、僕は白々しく「認めません」とか「不服です」などと虚偽の弁解をしておいた。
質問は10分ほどで終わり、女刑事が「調書の文言に問題なかったら、ここに拇印押して」などと作成した調書の確認を求めてきた。僕は(完全黙秘にしておくべきか…?)と数秒勘ぐっていたが、(罪を否定するくらい問題ないか…)と思い、拇印を押した。
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それから口腔内細胞を採取された後、警察署の1階で大型の機材による指紋の採取や全身の写真撮影などが行われ、僕の生体情報が事細かに収集される。
諸々の手続きが終わり、一度取調室でコッペパン2本と紙パックジュースだけの昼食を済ますと、僕は3人の刑事に囲まれながら、2階にある留置場の前に連れて行かれた。留置場の入り口は、分厚く大きい鉄製の扉で閉ざされ、厳重に管理されていた。
入場前に刑事たちに簡易的な身体検査をされると、前にいた刑事が指差し確認をしながら「前方ヨシ!後方ヨシ!大扉ァー!解錠ォー!」などと無駄に大声をあげる。さらに、それに呼応して残りの2人が「「おーとびらー!かいじょーっ!」」と声を揃えて大声をあげる。
すると留置場内からも「「おーとびらー!かいじょーっ!!」」という大声が聞こえ、大扉がゆっくりと開かれる。そうして僕の腰縄が留置担当官に引き渡され、ついに留置場に入ることになる。
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留置場内は、天井の蛍光灯のみ照らされた薄暗い雰囲気で、留置官の顔は刑事とは違って目に生気がなかった。留置官は僕の手錠と腰縄を外すと、2畳ほどの事務室に僕を連れて行き、留置手続きを始めた。
留置官はまず、身体検査を行った。僕はてっきり全裸にされて陰茎から肛門まで調べられると思っていたが、Tシャツとパンツを着用したまま、金属探知機を全身に当てられたり、スクワットをさせられたりするだけで少しがっかりした。
身体検査が終わると、留置場貸し出しのグレーの上下スウェットと茶色の便所サンダルに履き替えさせられる。便所サンダルには“5”という数字が書かれており、留置官に「場内では5番って呼ばれるから。収容者とも番号で呼びあうように」などと無愛想に告げられた。
それから、留置官が僕の荷物を机の上に出すと、留置場に持ち込める物と警察での預かりになる物とに仕分けを始めた。荷物の内容はほとんど持ち込み可能であったが、ステテコに関しては紐が首吊りに使われる恐れがあるとの事で、紐を抜いた状態で持ち込む事になった。
そうして留置手続きが終わり、僕は留置官の案内のもと、居室の近くに設置してある各人のロッカーに自分の持ち物をしまった。
僕のいた留置場は、4人まで収容出来る6畳程度の部屋が15室ほどあった。すべての部屋は前面に鉄格子の扉があり、奥には和式便所と洗面だけ設置されていて、生活スペースには硬いカーペットが敷いてあった。
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また、僕のいた留置場はどの居室も1~2人だけ収容されている居室しかなく、幸いなことに、僕の入った居室は自分だけの貸し切りであった。
僕は留置官に連れられ、2号室の居室に入ることになった。隣の1号室には、国籍不明のアジア系の青年が鉄格子を両手で掴んだ状態で、僕が居室に入るまでこちらを凝視していて少し気味が悪かった。
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留置官に居室の扉を施錠されると、僕は一旦、居室の中央に行ってごろんと大の字に寝転がった。そしてしばらく天井を見つめた後、ごろごろと左側に転がり、壁際に行ってみる。
壁を眺めていると、鉛筆で書かれた落書きや、2、3日前につけられたと思われる新鮮な鼻糞が付いていたので、主にその鼻糞を眺めていた。
鼻糞を観察していると、留置官がこちらにやって来て「5番、当番弁護士さん来たから用意して」などと伝えてきたので、僕は留置官の案内で、居室の前の廊下を進んだ先にある面会室に入った。面会室は映画のセットそのもので、少し高揚した。
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弁護士を待っている間、僕は(弁護士は守秘義務があるし、全て包み隠さず話しても大丈夫なんだよね…?)などと懸念していたが、(どうせ杞憂に終わるだろう)と思い考えるのをやめた。
しばらくすると、アクリル板で隔てられた向こう側の部屋のドアが開き、当番弁護士が入ってきた。弁護士は茂木健一郎をぶくぶくに太らせたような見た目をしており、目つきは鋭く、どこか横柄な雰囲気が漂っていた。
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茂木似の弁護士はドカッとパイプ椅子に腰掛けると、適当に自己紹介を済ませた後、ふがふがと鼻息を荒くしながら「今回はどのようなことがあったんですか?」などと、まるで興味がなさそうな口調で聞いてくる。
僕は、“友人と共に売人から大麻を買ったが、大麻は売人の車の中に放置された状態で警察に見つかった”などと包み隠さず話し、「…それで、3人で共謀のうえ大麻を所持した疑いで逮捕されたんですが、自白しないで不起訴を狙おうと思ってます」などと真面目に伝える。
しかし茂木は僕が話している間、メモもとらずに正気を疑うような顔をしていた。しかも僕が話し終わると「…えっと。大麻を買って所持していたんですよね?」などと意味のない確認をし、「他の2人は自白するでしょうから、不起訴処分は無理ですよ」などと半笑いで言ってきた。
僕は少しムカついて「たしかに車内で大麻は見つかってますけど、誰の所有物かは明らかになっていないので、嫌疑不十分だと思うんです。それに、他の2人は自白するような人ではないですね」などと反論してやる。
すると、茂木は鼻息を荒くしながら「そうだとしても罪を犯したわけですから、反省して正直に供述するべきです」などとぬかしてきたので、僕は呆れた表情で「いや、せっかく不起訴を狙えそうなんで、黙秘でいこうと思ってます」となどと生意気に言い返す。
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茂木は犯罪者に口答えをされたことが癇に障ったようで、わなわなと身を震わせながら「薬物から離れた環境で暮らした方があなたのためになると思っているので、無罪を主張するならあなたの弁護はお引き受けできません」などと正義面して説教をかましてくる。
僕は少し戸惑って「弁護士って、依頼人の弁護をするのが仕事ですよね?」と尋ねると、茂木は「罪を犯したのに無罪を主張するのは、弁護士倫理に反するので、あなたの弁護はできません」などともっともらしいことをほざく。
僕は「じゃあ他の弁護士さんに依頼するんで、大丈夫です」などと言うと、茂木は「当番は1人までしか接見できませんので、国選が嫌であれば、お金を払って私選に依頼するといいでしょう」などと、貧乏人には痛手だろうがというニュアンスを含んだ口調で蔑んでくる。
僕は「そうですか。いい当番弁護士に当たるかどうかって運次第なんですね」などと皮肉を言ってから、「まあ黙秘するだけなんで、弁護士の方は必要ないですね」などと一丁前に言ってやった。
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茂木は口を閉じて鼻で深く息を吸い込み、怒りを堪えた表情を見せた後、「はい。それでは本件は弁護士倫理に反するので、私はお断りします」などと言って席を立つと、こちらに一瞥もくれず面会室から出て行った。
僕はヤブ弁護士なんぞの世話にならずに済みせいせいしていたが、自分の居室に戻り、(本当に弁護士なしで大丈夫なんだろうか…)などと考えながら、独りポツンと座っていると、次第に心細くなってくるのであった。
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つづく
この物語はフィクションです。また、あらゆる薬物犯罪の防止・軽減を目的としています( ΦωΦ )
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patsatshit · 7 months
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現代に蔓延する上っ面の多様性の背後には、互いに認め合い、尊重するためにはそれぞれがそれぞれに誰かの役に立たなければならないという暗黙の目配せがそこかしこに溢れている。取ってつけたような「弱者救済」というポーズの背後に、どれだけの排他精神が蠢いていることか。高齢者、子ども、障がい者、生活困窮者、クィアをある種の符号に落とし込んでマーケティングに利用するのは、いつだって政治的悪辣の最たるものである。本来は音楽という鐘楼に集いし落伍者たちの解放区として機能していたクラブやライブハウスに於いてさえ、いつしか高い倫理観が求められるようになり、暗黙のドレスコードにより、世にも奇妙な選民思想が根付き始めている。互いに認め合い、互いを支え合うことを前提とした空間に、自分のような人間の居場所がなくなりつつあると感じることが少なくない。音楽が爆音で鳴り響く暗闇のなかには聖職者もいれば犯罪者もいる、心優しき英雄もいれば屑のような悪党もいる、互いの胸のうちに共通するものは何もなく、もちろん自発的な歩み寄りもない。鳴り響く猥雑な音楽だけが両者を辛うじて暗闇の内側にとどめ、足もとの溝を埋めていく。いまの時代、そういう多元的な現場や空間はもはや存在しないのかもしれない。
(『僕のヒーローアカデミア』233話より)
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前置きが長くなってしまったが、タラウマラには日々、様々な事情を抱えた「世の人」たちが入れ替わり立ち替わり訪れる。それは決して居心地の良いものではないし、少なくとも当店にとって、彼らは何の役にも立たない。どちらかと言えばこちらのストレスになるだけだ。それでも彼らはやって来る。そういう人たちをこの社会から見えにくくしているのが無自覚なダイバーシティが夢想するユートピアであり、権力者たちが吹聴する「美しい国」の実態なのだと思う。
(世の人①:東淀川を代表するファッショニスタ)
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まず最初に紹介したい人物が、自他とも認める東淀川のNo.1ファッショニスタ、清水氏だ。氏の特徴を挙げるとすれば、とにかくオシャレ、ひたすらオシャレ、無慈悲にオシャレ。この人がひとたび領域を展開したら、その術式から逃れる術はなく、世の中で最も役に立たないゴミのような服飾情報を一方的に脳内に流し込まれ、結果、見事に誰もが骨抜きにされる。かつて偶然にもその場に居合わせたWD sounds のオーナーLIL MERCY氏さえも凍りつかせた脅威の人物だ。自身の首元を指して「これは希少なFENDIのネクタイだ」と豪語するので、恐る恐るネクタイ裏のタグを確認すると、なんとブランドロゴではなく素材を示すflannelの文字。どつくぞ。そんな清水氏の母親が昨年亡くなったのだが、ある日、沈鬱な表情でタラウマラを訪れた氏が朴訥と胸中を吐露し始めた(聞いてもいないのに)。ずっと母の介護に身を捧げてきた自分としては、親の死を簡単に受け入れることができず、いまは食事も喉を通らない。母が使っていたベッドの上で呆然と天を仰いで、そのまま朝を迎えることも珍しくない、日に日に自身の身体が痩せ細ってきたことを自覚しており、周囲の者からも心配されている、というような内容をエモーショナルに語る。さすがに気の毒だと思い、親身になって耳を傾けていたのだが、次の瞬間、この男の口から耳を疑うようなセリフが飛び出した。「俺はもともとスタイルが良いのに、これ以上痩せたらモデルと間違えられるんちゃうやろか。ほんでこのベルトもかっこええやろ?」。恐ろしいことに、またしても僕は氏の領域に引きずり込まれていたのだ。その後もお決まりのファッション自慢を嫌というほど聞かされ、全身から血の気が引いていくのを感じた。最愛の母親の死さえも、己のファッショントークの「振り」に使う正真正銘のク◯である。しかも亡くなって間もない、死にたての状況で。
(世の人②:東淀川のジャコメッティ)
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次に紹介したいのは、東淀川のジャコメッティ。ある日の営業日、下駄履きのおっさんがタラウマラに訪れ、店内の書棚を一瞥して咆哮した。「ここの本ぜんぶキミらが読んでるんか?やとしたら相当わかってるな!」。僕たちは当店取り扱い書籍はすべて自分たちで読んで、仕入れ、仕入れて、読んでいることを伝えた。するとおっさんの眼は鋭く輝き「キミらは大阪の文化を1ミリ底上げしとるな。大阪で1ミリってことは世界で1ミリってことや!気に入った!儂の家にある本を全部キミらにあげよう、今夜でも我が家に取りに来なさい」と快活に言い放った。その後もジャコメッティやカフカ、折口信夫について興味深い話を聞かせてくれた。おっさんの名は矢嶋博士、淀川とともに生きる彫刻家であり歌人であった。博士から自宅住所と電話番号を書いたメモを受け取り、タラウマラ閉店後にお伺いすることを約束した。博士は帰り際に「もし良かったら、儂の家にある本ぜんぶとキミらのジャコメッティを交換しよう」と言った。僕は何となく話題を逸らして、夜を待った。タラウマラ閉店後に近所のキンキーガールりんちゃんを誘って矢嶋宅へと向かった。ゲトーなアパートのゲトーな階段を上がりゲトーな玄関を開けると、果たしてそこは博士のアトリエ兼寝床であった。三畳一間に所狭しと並べられた謎の彫刻と珍奇植物、藁と見紛う敷布団とヘドロ化したホルモン、呑みさしの酒瓶、そしてあっち系のアダルトコンテンツが視界を過ったことは記憶に留めておこうと思った。博士は「何を突っ立っとんねん、腰おろして寛ぎなさい」と着座することを薦めてくれたので、僕は「どこに?」という言葉をかろうじて飲み込んで、藁のような敷布団に腰を下ろした。ぴったり寄り添うようにりんちゃんの背中がある。博士は1,000冊つくって50冊しか売れていないという自著『淀川。よ』(幻冬舎)を僕たちに1冊ずつプレゼントしてくれた。「芸術家なんて世間様に認められたら負けや。儂はいまの生活で十分幸せやから、死ぬまで作品を作っていくだけや。売れたいなんて思ったことない」という博士の言葉に負け惜しみや諦念は微塵も感じられず、寧ろ清々しい。りんちゃんの興奮が伝わってきた。僕たちは小一時間ほど色んな話をして、席を立った。「階段の上に本を置いてるから全部持っていきや!頑張れよ、若者たち」と言って博士は扉を閉めた。ゲトーなアパートのゲトーな階段の上に大量の書籍が置かれていたが、なんとその8割程度が司馬遼太郎の著作だった。ジャコメッティを交換条件として差し出さなかった自分を心から讃えた。僕たちは自転車のカゴに大量の司馬を積み込んで帰路に着き、その足ですべて「本の森」に寄贈した。
(世の人③:ラッパーの母)
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最後はタラウマラの元スタッフであるマリヲ君の実母を紹介する。この方は初来店時に食パンの差入れを持ってきてくれて、淡路商店街で食パンと言えば、当時の人気店「熟成純生 食パン専門店|本多」(2022年9月に閉店)のものに違いないと早合点し「そんな高級なやつ頂いて良いんですか?」と言うと「え?そこのイズミヤで買ったやつよ、え?こっちの方が良かった?」とテヘペロ。なんと僕には廉価食パンを差し出し、ご自身用に高級品を隠し持っていたのだ。2度目の来店時は前回購入してくれたAFTERのTシャツ(画像参照)のコーディネートを見せに来てくれたのだが、タイミング悪くパンク修理の最中だった僕は、店内で少しお待ち頂きたい旨を伝えて作業に注力した。ところがパンク修理を終えて顔を上げると、マリヲ母は嘘のように店内から姿を消していた。それから何度かタラウマラにやって来ては、僕の目を気にしてか、まるでプッシャーマンのような所作で袖の下からマリヲくんに小遣いを渡していたり、連日おばあちゃんの就寝時の写真を送ってきて、マリヲくんが「ばあちゃん元気そうで良かった」と返信すると「おばあちゃんじゃなくて、おばあちゃんが着てるパジャマを見て欲しかった」と返す刀がぴこぴこハンマー。よく見るとパジャマの花柄はすべて微妙に違っていた。そうかと思えば「おばあちゃん、明日あたり死にそうです」と唐突に不安を煽るメッセージを送りつけてきたりもする(因みにおばあちゃんはいまも元気にご存命)。或いは道頓堀川で殺人事件が起きた際には被害者の男性が我が子でないかと執拗に心配していた。報道で被害者はベトナム人男性だと報じられているにも関わらず、だ。
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そして、日々の寂寥感を紛らわせるようにSiriというバーチャルアシスタントと夜毎ピロートークを繰り広げていたある時期のマリヲくんが、酔った勢いでSiriに「好きだ!」と告白した瞬間、マリヲ母から「私も!」とLINEメッセージが届いたとき(別の文脈でのやり取りをしていたらしいが、偶然タイミングが重なったようだ)には膝から崩れ落ちた。やはり異能の子は異能、この親にしてこの子あり、ということだろう。
(マリヲ母については息子の著書に詳しい)
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yachch · 1 year
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アフターヘブン 試読
「おかえりなさい、アンナ。――あなたが生まれ、育まれたグルダに」
 真珠を守る貝のように硬くこわばり、かすかに震えるフランギスの細い腕の中で、アンナはその声を聞いたのだった。  左足に重心をずらそうとして靴のかかとが霜を踏み砕き、その下に広がるぬかるみへと沈みこんでいく。夜の間に凍った地面は太陽のひかりにあてられ、生クリームのようにやわらかく溶けはじめていた。後退しようとすればするほど深みにはまっていく気がして、アンナは据わりの悪い椅子に座るようにその腕の中にとどまるしかない。 ――なにもしらないひとがこの場を目撃したなら、祖母と孫が別れを惜しんでいるようにみえるだろう、とアンナは思う。  ふたりの背後にそびえ立つのは寄宿舎学校の門で、アンナは真新しい制服を着ているのだから。そうした断片的な情報から、規律の厳しい学校生活に入る孫と、その孫を心配する心優しい祖母という構図をあてはめてみることはきっと難しくない。  でも、それは真実から遠くかけ離れた想像だ。  アンナが寄宿舎学校に入ることは事実でも、ふたりは血縁関係にはあたらない。おたがいを家族と認識しあう仲でもない。謙遜でも何でもなく、ただの他人だった。三十年とすこし前、この国で多くの批難を浴びながらも施行された法律によって、たまたま結びつけられただけの。 「ここに来るまでに、ずいぶん身体が冷えてしまいましたね」  抱擁を解くと、フランギスはアンナの冷えた首に自分のマフラーをそっと巻きつけた。  抱きしめられていたのはわずかな時間��ったのに、ようやく解放された気がしたのはアンナがずっと緊張していたせいだろう。他人と触れ合うと頭が真っ白になって、全身から汗が噴き出して、そして逃げ出したくなる。フランギスが悪いわけではなく――ふたりは法律によって結ばれた関係だが、フランギスは一貫してアンナを尊重してくれている――誰に対してもそうなのだから、そういう性分と言うほかなかった。 「暦の上では春を迎えたけれど、この時期のグルダは寒いとあれほど言っておいたのに。お前でもうっかりすることがあるんですね、アンナ」  ええ、まあ、とアンナはあいまいに笑う。そんな彼女の首もとでしっかりマフラーの結び目をこしらえてから、「さあ、行って」とフランギスがささやいた。 「私はここであなたを見送ります。心配しないで、私はあなたの代理人ですから、またいつでも会えますよ。困ったことがあったら――」  ぬかるみを跳ね飛ばしながら走ってくる乗用車が目に入り、アンナはとっさにフランギスの腕を引く。しかし弾丸のように飛びかかってくる泥を避けるには、その行動はいささか遅すぎたようだ。 「アンナ、何がみえますか? 私に教えてください」  黒いガウンの裾が泥で汚れるのにも動じず、フランギスはじっと周囲の音に耳を澄ましていた。それでは埒があかないと思ったのか今度はアンナに説明を求める。  通り過ぎるかと思われた乗用車は門からすこし離れた場所で停まっていた。 「一台の車が……門の前に停まっています。窓が黒くて、スモークガラスって言うんでしょうか、乗ってるひとはみえないし、降りてくる気配もないし……誰かを待っているんでしょうか?」 「車体の色、タイヤの大きさ、あと、ナンバーは?」  いつになく焦った様子で、フランギスは次々と質問を重ねていく。  そのひとつひとつに丁寧に回答すると、フランギスは「そう」と小さな溜め息を漏らしたきり、今度は押し黙ってしまった。そのまま宙を仰いだ目線の先を追いかければ、木々の枝にわずかに残された枯れ葉が目に入る。 ――あの枯れ葉は、冬の間、風にも雪にも負けずあの場所にとどまり続けていたんだろうか。 「きっと、天国からお迎えが来たんでしょう」  葉が風にちぎりとられるのと、門の脇にある通用口からひとりの少女が飛び出してきたのはほぼ同時の出来事だった。寒空の下、コートもはおらずに出てきた制服姿の少女は、ふたりなど目に入らないとばかりに押しのけて例の車輌まで駆け寄る。 「あたしに時間をちょうだい! まだ帰りたくない!」  大きな声で叫んだ少女に呼応するように運転席の窓がわずかに開いた。そこで何を言われたのか、少女はずるずるとその場に座り込むと力なく握った拳で地面を叩いた。 「そんな……もうすこしで卒業できたのに……あたし……」  ぬかるみに膝まで浸かって、少女はすすり泣いた。がんぜない背中は悲しいくらい痩せて、ブラウス越しにでも浮き出た肋を両手でつかんでしまえそうだった。  呼吸すら忘れてその背をみつめるアンナの片袖を、後ろから誰かが引く。 「行きなさい、アンナ。ただでさえ到着が遅れてしまったんですから、先生がたもお待ちかねですよ」  爪弾かれたように振り返ったアンナをフランギスは穏やかに諭した。 「でも……、フランギス先生、」  アンナの口を冷たい手でそっとふさいで、フランギスは無言で首を振った。背後にいる少女の存在に触れることは禁忌だとでも言うように。  通用口をふさぐ赤錆びた扉が、勢いを増した風に揺れてぎいぎいと軋む。その音に混ざって、かすかに嗚咽の声が聞こえてくる。  アンナは自分の胸の中で熱いものと冷たいものがせめぎ合うのを感じた。  「――アンナ」  結局、フランギスの呼びかけを無視してでもアンナはその子に声をかけることにした。ハンカチを差し出すと、その子ははしばみ色の目でじっとアンナをにらみつけた。  宙を舞ったナナカマドの枯れ葉がひらりと泥海に落ちる。油をかぶったように黒く濡れた両手を握り込みながら、少女はきつく下唇を噛みしめた。 「……あんたは何回目なの?」  続けざまに少女が「あたしはもう十回よ、十回もくり返した!」と叫ぶと、ぎゅっと力の入った目尻から涙がぽろりと一粒こぼれ落ちた。 「だから、これで完全におしまい。――あんたは、うまくやれるといいね。あたしが帰るところが天国なら、ここは……、」  少女が後部座席のドアを開くと、車内に焚きしめられた奇妙な香りが周囲に拡散した。その香りを香りと認識する間もなく、アンナの意識は急にぼんやりする。  意識がもうろうとしたのはほんの数秒だったが、気が付けば車は跡形もなくなっていた。  道のむこうをみればすでに車影は遠く、ベールがかかったように垂れこめる深い霧の中に入りこもうとしている。白い霧に吸い込まれると、車は完全にみえなくなった。  『ここは』――続くことばが何だったのか、アンナはしばらく思い出そうとこころみたが、しびれを切らしたフランギスに呼びかけられて考えるのをやめてしまう。ガムのようにへばりついてくる泥を靴の先でかきわけながら元いた場所に戻る。  フランギスはアンナを叱らなかった。  彼女に見送られて、アンナは先ほど少女が飛び出してきた通用口から学校の敷地に足を踏み入れた。どこからともなく現れた守衛が即座に扉に鍵をかける。錆びた格子越しにフランギスと向き合うと、実は自分は投獄されたんじゃないかという突拍子のない妄想にアンナにとり憑かれた。 「ああよかった」  扉の格子に力なく指をからませて、フランギスがふと溜め息を漏らした。 「ここまでお前を送り出せて。最後の力をふりしぼって、私の善性がそのほかのすべてに勝ったように思います」  そう不可解な発言をするとともに、フランギスは目を細めた。眼球という感覚器官を失った暗い視界の中、何とか一条の光をさぐり当てようとするように虚空を凝視する。  ここに来てから、フランギスはふだんよりもすこしだけ感情的になっているようだ。長い冬を耐え忍んだ病人が春のきざしにふと心身の緊張をゆるめて死に至る、そんなあやうさを秘めているようにもアンナには感じられた。 「行ってきます、先生。またお会いできる日を楽しみにしています」  もしかして、これが今生の別れになるんじゃないか―そんな不安に駆られつつも、アンナはあたりさわりのない挨拶を口にすることしかできない。 「いってらっしゃい、アンナ」  フランギスの声を背に、アンナは自分を待ち構える森をみあげた。
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kasa51 · 11 months
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大津閘門 / panorama
flickr
大津閘門 / panorama by kazu saito Via Flickr: 大津閘門は1889(明治22)年完成です。 琵琶湖疏水は、各種用水・水力発電などに利用されましたが、舟運のための運河でもありました。 疏水路の水位は琵琶湖の水位よりも低くつくられため、舟が行き来するときに両側の水門を開閉し閘室内部に水を注排水することにより、琵琶湖と疏水路の水位差を調整します。水位差は当時は1メートル以上、現在は数十センチだそうです。 写真向かって左側の部分の鉄製(完成当時は木製だったそうです。)の門扉が船の通り道の閘門です。右側は水が流れる制水門です。 閘門の開閉の電動化工事はほぼ完成し近いうちに琵琶湖疏水船は閘門を通り琵琶湖まで運行される計画らしいです。
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yasukoito-blog · 2 months
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卒業証書
 箪笥の奥にあった丸い筒から、卒業証書をひっぱり出してみた。端正な楷書で私の名前が揮ごうされている。これは一体誰が書いてくれたものだろう。学校長、担任、もしくは専門の人でもいたのかしら。私の学年はひと組40名で3組あったから、最低でも120名は書かなければならない勘定になる。大変な仕事だったことと拝察される。これまで、思いを巡らせたことはなかった。今更になって気が付くというのも、なんとも情けないことである。
 奥中山高原にある三愛学舎は、知的障害を持つ子供のための学校である。生徒の年齢は高校生くらい。本科の3年と専攻科の2年、あわせて5年の月日を過ごした後、社会へ旅立っていく。ここで書の授業を持たせていただいてから15年、卒業証書を手掛けるようになってからは10年になった。子供たちと一緒に過ごすことができるのは本科の3年間、授業は全部で12回。限られた時間の1分1秒は欠片となって、私の中に堆積する。
 書の授業のあと、生活の時間から昼食までを生徒たちと過ごす。調理をしたり、買い物に出かけたり、時には畑の草取りもする。書の時間とは違った側面を出しあうことで、信頼関係を重ねていく。その一挙手一投足を、見逃してはならない。彼らは関心と無関心を肌で感じ取りながら、外界との距離を測っている。ガラスのハートは両刃の剣、壊れやすく傷つきやすい。こころの扉を開けてもらうこと。1枚の証書を紡ぐ、これが第一歩である。
 今年度の卒業生は本科、専攻科ともに12名ずつ、合計24名となった。毎年の事ながら、証書に名前を記すときはいつも緊張する。顔と名前の一致は当然の事、その生徒と交わした些細な会話、その場面が、映像が、名前に代わる。持てる欠片を残らずかき集め、線におこす。おそれ多くも、この子たちのために私ができることといえば、卒業証書の名前を偽りなく書くことだけである。たとえその先に、箪笥の肥やしという避けがたい宿命が待ち構えていたとしても、である。
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zattadoodle · 4 months
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貰い火
ベルティストン兄弟 兄上呼びに賭けます
※捏造多い
※ベルティストン兄の中で、家族<領主としての役割 なのか 領主としての役割<家族 なのかはわかりませんが、わからないなりの話です
ランバネインは兄と一緒に育った。それはアフトクラトルではどちらかといえば珍しいことだった。特に大きな領地を持つ家においては、彼らのように親密な家族は少ない。実際、ランバネインは両親と会話をしたことがない。政略結婚で結ばれた彼らはお世辞にも仲が良いとは言えず、子どものこともあまり愛してはいないようだった。けれどランバネインは一度もそれを気にしたことがなかった。兄がいたからだ。ランバネインの兄、ハイレインは、それほど優しくもなく、大して弟の面倒を見ることもなかったが、ランバネインは兄に愛されていることを確信していた。それだけで十分だった。
ランバネインは兄の泣いているところを見たことがない。物心ついた頃には、彼は既に大人びた表情をして、口を固く結んでいた。屈託なく感情を表現することは、環境が彼に許さなかったのだと、ランバネインは思う。それでも彼は不満などないようだった。理由は知らない。恐らくそういうことが苦にならない性質なのだろう、兄は、とランバネインは思うことにして、それきり考えることをやめた。
領主の跡継ぎとしてアフトクラトルに産まれてしまった以上、いくつもの星を潰し、何千人という人間を殺しながら、陰謀と駆け引きの渦巻く中で、死ぬまで生きていかなくてはならない。そのことに文句を言っても仕方がない。しかし矢面に立つのが自分でなくてよかった、とランバネインは思った。声を上げて笑う余裕もないなんてぞっとしない。
総括して、ランバネインは兄が貧乏くじを引いたことには同情していた。しかし兄の境遇にはそれほど思うところもなかった。何を思ったところで無駄だからだ。
ある寒い日、ランバネインと兄が会食から帰宅したのは深夜のことだった。
「腹が減ったな」
と、広間の重い扉を開けながらハイレインがぽつりと言った。空腹からか疲労からか、どことなく口調がぼんやりしているようだ、とランバネインは思った。ハイレインがそういうところを見せるのは弟と二人きりの時だけだった。
「俺もだ。いくらでも美味そうなものがあったというのに」
ランバネインは言った。ベルティストン家に連なる配下が催した今回の会食には、気を遣われたのか貴重な肉もふんだんに並んでいたが、結局食べずに出てきてしまった。
兄が外では食べ物を一切口にしないので、ランバネインもいつからかそれに倣うようになっていた。といっても、兄のように毒や何やを警戒しているわけではない。食事のひとつもできない兄が可哀想だからでもない。ならなぜなのかと問われれば、ランバネインには答えることができない。多分、犬が飼い主の真似をするようなものだろう、と幾分自虐的なことを考えることはあるけれど。
ハイレインは広間から続く厨房の戸口に突っ立って、しばらく何もない空間を眺めていたかと思うと、唐突に、ランバネインが全く予期しなかったことを言った。
「何か作るか」
壁に掛かった見慣れない調理器具の使い道を想像していたランバネインは、振り返って兄を見つめた。思い出す限り、彼が料理らしいことをしているところを見たことは一度もない。せいぜいパンを切って皿に置いたのを見かけた程度だった。
「料理などできるのか?」
思わず、遠慮なく訝しげな声を上げてしまう。ハイレインは少し顔をしかめた。
「やり方は知っている。そう難しいものを作る気はない」
ハイレインは厨房の奥の貯蔵庫に入り、野菜をいくつか抱えて戻ってきた。泥のついた野菜と兄という頓珍漢な取り合わせに、ランバネインは声高に笑いそうになったが、気分を害されては料理が自分の口に入らないかもしれないので、なんとか堪えた。
ハイレインは袖を捲り上げて、溜め水で野菜を洗い、たどたどしい手つきで刃物を取り出した。ランバネインは意味もなくそれを観察していたが、ハイレインに呆れたような視線を向けられたので、炉火にトリオンを追加するためにその場を離れた。
十五分ほど経ったころ、ハイレインが広間のテーブルにスープ鍋を運んできた。
ランバネインが椅子に座って大人しく待っていると、目の前に木の器が置かれた。ハイレインはやや投げやりな手つきでスープを取り分け、ランバネインの向かいに腰を下ろした。
「ありがとう、兄上」
ランバネインが言うと、ハイレインはなんともいえない表情を浮かべた。どうしてそんな居心地の悪そうな顔をするのだろうとランバネインは訝しんだが、スープを一口飲むとその理由が分かった。
とんでもなく不味かったのだ。水は塩辛く、野菜の切れ端は生煮えで内側が冷たい上、味がない。なんという野菜なのか、奥歯でも噛めない硬さの破片が混じっていて、ランバネインは思わず首を傾げた。
「歯の硬さを試されているようだ」
ハイレインはひげを触られた猫のような不満げな顔をしてランバネインを見ていた。
「無理に食べることはない」
「いや、食うさ。折角だからな。兄上の作ったものを食う機会などそうはあるまい」
ハイレインはため息をついた。呆れたのかほっとしたのか、よくわからない。ハイレインは自分の皿にもスープを取って、無表情で口に運び始めた。
兄にもできないことがあるのだな、とランバネインは思った。もちろん、作り笑いとか部下に優しい言葉をかけることとか、ハイレインが苦手とすることは枚挙にいとまがないのだが、それはそれとして。
食べ物の味の良し悪しをハイレインが認識しているというのも、ランバネインには新たな発見だった。部下に献上された最高級の酒を飲んだときも、幼いころ飢饉で草の根を食べたときも、ハイレインの表情は大して変わらなかったものだが。
「それにしても、哀れなものだな」
ランバネインが言うと、ハイレインは匙を置き、肘をついたまま上目遣いにランバネインを見た。青い目だ、とランバネインは思った。高温の炎のような。
「主を失った家というものは」
ランバネインは笑ってみせた。今夜招かれた家はもともとエネドラを当主に戴いていた氏族で、つまり先の遠征で殉死した彼の代わりに擁立された新たな当主をハイレインに紹介するために今度の会食は開かれたのだった。傍系から呼び寄せられた当主はまだ若く、与えられた地位に困惑していた。エネドラが暮らしていた頃は殺伐としていた居城は、今はその刺々しさすら失って、水を抜かれた水槽のようだった。天井の高さばかり目についた。
その一族はベルティストン家に連なる氏族の中では有力だったが、エネドラの死を機に没落してもおかしくはない。あの家の者たちにとって当主の死はあまりにも突然だった。ランバネインはあの邸宅でうつむきながら食卓を整えていた使用人たちの今後を考えて、やはり笑った。
「次善策は用意してあるだろう」
ハイレインはそう言って、さしたる感情を浮かべないまま、塩水のようなスープを啜った。何を考えているのだろうとランバネインは思う。そして、馬鹿馬鹿しい、この男の考えていることが自分にわかったとしても、何にもなりはしないのに、とも思う。
「しかし美味い話はないものだ。あの角、名うての研究者をかき集めて開発に当たらせたというのに、折角の適合者を殺してしまうのではなあ」
野菜くずを口に運びながらそう言うと、ハイレインは顎を上げて、ランバネインをひたと見つめた。ランバネインは思わず身構えた。
「エネドラから得られたデータは膨大だ」
ハイレインは低い声で言った。
「次の世代に植え付けられるトリガー角はもっと完璧なものになる」
ランバネインは閉口して、まじまじと兄を見た。
この期に及んで兄は──ベルティストン家のことを考えているのだ、とランバネインは思った。トリガー角の技術は門外不出だ。エネドラほどの逸材を失っても、トリガー角の調査研究において他の領主たちより一歩先んじることができれば、ベルティストン家の権力は強まる。
ランバネインは幼い頃からエネドラを知っている。エネドラの本来の性格を知っているし、言動がどうしようもなく変質してからも、率直で話が早いところは嫌いではなかった。腹を割って話すような仲ではなかったが、長く付き合ったなりの思い入れも少しはあった。ハイレインだってそうだろうとランバネインは思う。そして、それでも、ハイレインはエネドラの死になんの感慨もないかのように振る舞っている。
このひとは、真面目すぎるのかもしれない、とランバネインはふと思った。とても真面目に、ベルティストン家に全てを捧げようとしている。もちろん、好きでそうしているのだろうけれど。
鍋を空にして一息つくと、ハイレインは食器を持って立ち上がった。ランバネインはそれを手で制して、皿とカトラリーを重ねて持ち、鍋と一緒に厨房へ運んだ。ハイレインはなぜか後ろからついてきた。
石造りの流し台へ鍋と食器を放り込むと、ランバネインは兄の方を振り向いた。
「美味かった」
兄は片眉を上げ、意外そうにランバネインを見た。
「世辞とは珍しいな」
「世辞ではない。また作ってほしいくらいだ」
ハイレインは疑問符を隠しもしなかったが、ややあって頷いた。
「暇があれば、このくらい何度でも作ってやる」
思ったよりも好意的な返事だったので、ランバネインは思わず口角を上げた。「そうか」と呟くと、ハイレインは言った。
「おまえは俺の家族なのだから」
その言葉を聞いて、ランバネインは少しばかり面食らった。そういう表現をされるのは、初めてではないにしろ、久しぶりだった。
兄の温かい言葉に、諸手を挙げて喜べたらよかったが、どうしてもそれはできなかった。もし兄がこの言葉を贈ったのが、ランバネインでなく屋敷に仕える小間使いたちの誰かだったら、その誰かは舞い上がって感涙に咽び、ハイレインという男に家族として認められた栄誉を国中に触れ回ったことだろう。ランバネインは自分がそうした立場でないことを惜しんだ。彼に愛された幸運を素直に喜ぶには、自分は彼のことを知りすぎている、と思った。
「しかし、兄上は、必要とあらば」
ランバネインは言った。
「俺のことも切り捨てるのだろう?」
ハイレインは顔を上げた。一瞬だけ、苦しげな、曖昧な表情を浮かべたような気がしたが、ランバネインがそれを確信するよりも前に、彼はいつもどおりの澄ました顔に戻っていた。
「嫌なのか」
「まさか」
言ってしまってから、ランバネインはふと、怒るべきなのだろうか、と思った。切り捨てる想定をされていることに対して、そんな彼の非道さに対して、何かしら苦言を呈すべきなのだろうか。けれども実際にそのことは自分の神経に障らないのだから仕方がないと思い直す。兄もまさか否定されると思って言っているわけではないのだし。
やはり自分でなければよかったのだと思う。ハイレインに愛されるのが自分のような者でなければよかった。もし自分が彼のこうした現実主義に憤るような人間なら、彼はこんなことを言わなかったはずだ。許してしまうから駄目なのだ、自分は、ハイレインが自分を切り捨てることを許してしまうから、彼が彼自身をも切り捨てることを止められない。
「理解しているだろうが」
ハイレインは言った。
「おまえを犠牲にするとしたら最後の手段になる。もし俺が死ねばおまえが領主だ。自覚を持て」
「俺は領主という柄ではないのだがなあ」
「そういう浅はかなところは好かんとミラが言っていたぞ」
当てつけのように付け足された言葉に、ランバネインは思わず笑った。
「わかっとらんな兄上。あの女は意外と俺のような男が嫌いではないのだ」
「おまえにあれは御せないだろう。寝首を掻かれるのが落ちだ」
「あの女がその気になれば、兄上とてひとたまりもあるまいに」
顎を反らせたランバネインにつられたように、ハイレインもほんの少し笑った。人を小馬鹿にするような響きのある、間近で見てやっとそうとわかる程度の笑みだった。
彼は昔からそういう、ともすれば溜め息と間違えるような、呆れたような控えめな笑い方をする男だった。幼い頃はそれが癇に障ると感じたこともあったような気がする。しかし一体何故だったのだろうとランバネインは思った。彼の笑顔は疑いようもなく稀少で価値がある。それを見るといつも、霧の立ち込める湖で、鳴き声しか聞いたことがなかった渡り鳥の姿を初めて目にしたような、そんな気持ちになれるのだ。唇の吊り上げ方や鼻の鳴らし方が少しばかり不遜でもそれがなんだというのだろう。
ああやはり、自分は彼を愛している、とランバネインは思った。この城の外から見た兄がどれだけ残酷で陰険でも、その事実は変えられない。この世でたったひとりの、ランバネインの兄。
きっとこの男を愛している限り、寝床で死ぬことはできないのだろうけれど。別にそうしたいわけでも���いのだから、とランバネインは思って、またひとしきり笑った。
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disolucion · 6 months
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08 作戦決行
作戦決行の二十時まであと五分ほど。 夕食を食べ終わってからじりじりと、その時を待っていた。 すると、ノックもなしにパウラさんがやってきた。 いつもと恰好が違う。上はTシャツだが上着のようなものを持っている。 救急隊員の制服なのか。
「セーフハウス、ダメ。エンバハダ、オクル  ソトデ、マッテ、マス」
また去ってしまった。 彼女にとってまあまあ危ない橋なんじゃないのか。 鼓動が早くなる。わけがわからない。 でも、この機を逃せば警察か海軍に連行される。 やらずに失敗するより、やって失敗しろ、だ。
―――――
病室のあるフロアのトイレにのろのろと向かう。 するとトイレの前にプラスチックの立て札が置かれていた。 清掃中の札だろうか。警官に苦笑いを向ける。 そしてエレベーターに乗り一階まで降りる。無論、警官も一緒。
一階のトイレの個室を端からチェックすると、 便器の脇に紙袋の置かれているブースがあった。 扉を閉めて鍵を掛ける。 音の出ない布の袋とかにしとけよ!と思いつつ、そーっと袋を開ける。 さっきパウラさんが着ていた制服と帽子が入っていた。 着替えを済ませて紙袋に着ていた入院着を入れ、腹に入れた。
ブースを出て、音を立てないように古い窓ガラスを開ける。 身を乗り出すと、さっき鎮痛剤は飲んだが肋骨が痛む。 我慢して、そっと外に出る。ドサっという音を立ててしまった。 身を低くして辺りを見回すと、 建物の角のところでパウラさんが手招きをしている。 なるべく早く、でも音を立てないように進む。
救急車の後ろのドアを開けてもらい、乗り込む。 運転席にはヨハンソンがスタンバイしている。 パウラさんも乗り込んで来たが、彼の表情は変わらない。
「では、行きます」
彼はそれだけ言って、車を発進させた。
―――――
すごく狭いというわけではないが、大通りではない道をゆく。 パウラさんは前を見て、どの道を走っているのか確認している。 そして、おれの手を握っている。
不意に携帯の着信音が鳴ってドキッとする。 パウラさんの携帯だった。 短いやり取りがあって通話が終わった。 バックミラー越しにヨハンソンの顔色を伺うが変化がない。 パウラさんに目を向けると、 大丈夫だから、というようにコクリとした。
さっきから大通りを避けている気がする。 警察も海軍も追ってきている雰囲気はない。 そろそろトイレ長すぎるだろって気付くはずだが。
交差点、赤信号で停車する。 おれの手を握るパウラさんの手にぎゅっと力が入る。 なにかが起きようとしているのが伝わる。 信号が青に変わった瞬間、 車は急加速して直進する。
「ヤメロイマヒナバ!」
パウラさんが叫んで、おれの腕を引っ張る。 後部ドアを開け、一緒に車から飛び降りる。 後ろから車が来てなくてよかった。
肩のあたりを地面に打ち付けたが、 パウラさんが抱えるようにしてくれたおかげで、他はなんともなかった。
「コレ!」
走れって言ってるのだろう。 パウラさんの方を見ると、地面にへたり込みながら右を指している。 右前方へ目を向けると、日の丸の旗がたなびいでいた。 まるで映画のワンシーンのように広い通りを突っ切り右方向へ走る。
建物がどんどん近づいてくる。 ヨハンソンの救急車も、警察車両も、見えない。 200mほど全力疾走して息が上がり始める頃、 日本大使館のすぐのところまで来た。 振り向いても、パウラさんはもう見えない。
「早く!こちらへ!」
若い女の子の声が聞こえた。 大使館の門の前で、若い女の子が手を挙げている。 何度も飛び降りた交差点のほうを見ても、パウラさんの姿は見えない。 ゼエゼエなりながら女の子まで辿り着く。
「ハナダ ミツルさんですね?」 「そう…です…」 「とにかく中へ」
鉄格子の扉が開いて、敷地の中に入ることができた。
「君が…パウラさんの…ともだちか?」 「そうです。ここの職員の、サクラです」 「すぐに、連絡を、してください… パウラに… パウラ…」
へたり込んで、髪がくちゃくちゃになって、 走れ!って叫んでるパウラさんの姿が、フラッシュバックする。
その姿は徐々に暗くなって、やがて真っ暗になった。
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team-ginga · 6 months
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映画『キングダム エクソダス(脱出)』
 Wowowでラース・フォン・トリアー監督のテレビドラマ『キングダム エクソダス(脱出)』(2022)を見ました。
 『キングダム』シリーズの三作目にして完結編です。
 ファーストシーズンが1994年、セカンドシーズンが1997年ですから、ファーストシーズンから数えて28年、セカンドシーズンから数えても25年が経っているわけです。
 ヘルマー医師を演じたエルンスト・フーゴ・イエアゴーはすでに死去、ドルッセ夫人を演じたキルステン・ロルフェスの生死はわかりませんが、年齢を考えれば亡くなっていても不思議はありません。
 前作の登場人物で続けて登場しているのは……リトル・ブラザーを産んだユディット、巨大化してビッグ・ブラザーと名前を変えた(?)リトル・ブラザー、ユディットの恋人でありことあるごとにヘルマーと対立していたクロウスホイかな。
 ヘルマーの愛人であった女医や解剖用の遺体の首を切り取って持っていた医学生のモッゲも出ていますが、私の顔認識能力が低いこともあってすぐにはわかりませんでした。
 物語は深夜、カレンという老婆がテレビで『キングダム』を見ているところから始まります。
 カレンは「これじゃダメよ。こんなの中途半端よ」と言ってキングダム病院へ向かいます。我々視聴者の気持ちを代弁してくれたわけで、「よう言うた! 褒めてつかわす」ですね。
 カレンは病院の警備員(なのかな)と話して中へ入れてもらおうとしますが、当然ながら入れてもらえません。警備員は「そういう人が来るのは久しぶりだ。ドラマのせいで病院の評判が落ちた。全てはフィクションでラース・フォン・トリアーの妄想なのに」と言います。
 なるほど、そうきたか。そういう設定なんですね。
 でもフクロウが飛んで(なぜ病院の中にフクロウがいるのかわかりませんが、いるのだから仕方ありません)不思議な力が働いたのか、回転扉が勝手に動き出し、カレンは病院内に入ることができます。
 カレンは病院内をさまよううちに地下で何かの彫像を見つけます。ラストでも出てきますが、この彫像、一体何の彫像なんでしょう。よくわかりませんが、「エクソダスは両刃の刀なり」という文字が刻んであります。
 気を失っているカレンを病院の職員ブルワー(だっけ)が見つけます。ブルワーはカレンを気に入ったのか病院のコンピュータをハッキングしている女性カレに頼んでカレンを夢遊病患者として入院させます。
 カレンは実際、夢遊病患者であり、霊能力者でもあります。つまり前二作のドルッセ夫人の役回りで、ブルワーは夫人の息子の役回りというわけです。
 前作では幽霊救急車、つまり病院に来ているはずなのに迎えに出���とどこにも姿がない救急車が出ていましたが、今作ではそれが幽霊ヘリコプターにバージョンアップ(?)されています。で、そのヘリコプターに乗って現れるのがヘルマー医師の息子ヘルマーJrです。
 前二作同様に群像劇で、パソコンでトランプの一人遊びばかりしている院長や、冷凍のエンドウ豆を枕に昼寝をする習慣があるポントビタン医師長や、ポントピタンがエレベーターに乗るたびに現れ、ポントピタンに話しかけてくる車椅子の女性(これが前二作でヘルマーの愛人だった女医のようです)や、「警察に訴えてやろうか。それとも病院中のチョコレートを買い占めて食べさせてやろうか」というような変わった言葉使いをする医師ネイヴァー(彼は自分の目玉をスプーンでくり抜いて、また元通りに戻すという荒技ができます)などの人物も登場しますが、物語の軸になるのは、カレンの物語とヘルマーJrの物語です。
 比較的シンプルでわかりやすいヘルマーJrの物語からいきましょう(あ、当然ながら以下ではネタバレしています。ご注意を)。
 ヘルマーJrはことあるごとに「デンマーク人はクソだ」と言っていた父親に輪をかけてデンマーク嫌いのスウェーデン人ですが、父親の死の真相を知るためにキングダム病院に赴任して来ました。
 そんな彼のあとをアンナという女医がずっとついてまわります。気があるのか……って誰でも思いますよね。ヘルマーJrもそう思って、執務室で二人きりのときに「お尻をぶってもいいかな?」というメールをアンナに送ります(お尻フェチなんでしょうか。本人が目の前にいるのになぜメールを送るのかわかりませんが、送るんだから仕方ありません)。
 アンナはスカートを捲り上げて「右のお尻がいい? 左がいい?」と色っぽく言った後、態度を豹変させ「弁護士に訴えます」と言います。
 困ったヘルマーJrは、病院内のトイレで開業している(!?)スウェーデン人の弁護士に相談しますが、弁護士はアンナの代理人でもある(?)ため「言われた通り示談に応じなさい」と言われてしまいます。
 そんなことがあってもアンナはヘルマーJrにつきまとうのをやめません。あるときアンナはずっとズボンの前を手に持っています。病院用のズボンが大きすぎるので、持っていないと落ちてしまうのだそうです。
 アンナとヘルマーJrは二人でエレベーターに乗り込みます。すると突然停電し、アンナは床にヘビがいると思って(なぜそう思ったのかわかりませんが、思ってしまったのだから仕方ありません)、一緒にいたヘルマーJrに抱きつきます。当然ズボンが落ちて、下半身は剥き出しになります。
 その瞬間、電気がつきエレベータの扉が開きます。外にいるのはドラマ『キングダム』のファンで病院見学に来た観光客たちーー多くは日本人でみんなスマホで写真を撮ります(この辺り完全にコメディーです)。
 恥をかいたアンナはヘルマーJrにレイプされたと弁護士に訴え、ヘルマーJrは再度賠償金を払う羽目になります。
 キングダム病院にはスウェーデン人のコミュニティーがあります。ヘルマーJrはアンナの仲介で(アンナもスウェーデン人のようです)コミュニティーに参加します。
 ヘルマーJrは、目玉を自由自在にくり抜くことができるネイヴァー医師と喧嘩になり一方的に殴られます。警察に訴えると息巻くヘルマーJrをポントピタンが宥め、伝統に従って内々で裁判を開くことになります。
 「ひきがえる」、「阿片窟」から裁判長と陪審員がやってきます。この「ひきがえる」、「阿片窟」が何を意味するかは後で明らかになります。前二作にいた医師クロウスホイが歳をとって引退した医師たちをドアに「ひきがえる」と書かれた部屋に集めて、そこでアヘンを吸わせていたのです。
 老いさらばえた裁判長は、「昔ある村で鍛冶屋が殺人を犯した。しかしその村には鍛冶屋は一人しかいない。鍛冶屋がいなくなると村は困ってしまう。村にはパン屋が二人いた。そこで裁判長は鍛冶屋の代わりにパン屋を死刑にした」という故事を持ち出し、ネイヴァーの有罪は明らかだが、ネイヴァーはナントカの専門家で一人しかいないから、代わりにヘルマーJrに罰を与えるという判決を出して、そのまま息を引き取ります(無茶苦茶な話ですが、この辺りはナンセンス・コメディーだと思ってください)。
 そのためヘルマーJrは、木の枠で頭と両手を固定され、周囲をみんなが踊りながら尻を蹴り上げるというこれまた無茶苦茶な罰を受けることになります。
 怒ったヘルマーJrは、スウェーデン人のコミュニティーに反乱を呼びかけます。名付けてバルバロッサ作戦ーーできるだけ仕事をサボって病院の業務に支障が出るようにするという作戦ですが、あまり効果はありません。
 反乱にはやはり武器が必要だと言うヘルマーJrにアンナがピストルを差し出します。翌日、ヘルマーJrは神経外科の会議でポントピタンに銃を向けます。
 そのタイミングでヘルマーJrのスマホにメールが来ます。「父ヘルマー・シニアはデンマーク人だった」というメールで、デンマーク嫌いのヘルマーJrからすれば非常にショッキングな情報ですが、ヘルマーJrはそのままポントピタンを撃ちます。
 でも銃口からは水しか出て来ません。アンナが渡したピストルは本物そっくりの水鉄砲だったのです。
 ヘルマーJrとアンナに前回と同じ刑罰ーー頭と両手を拘束されてみんなからお尻を蹴られる刑罰ーーが与えられた後、再度スウェーデン人コミュニティーの会合が開かれます。目玉を自由自在にくり抜けるネイヴァーが目玉を手に持って覗いています。
 ヘルマーJrは病院のコンピュータをハッキングしている職員カレが腰に差している拳銃を抜き取り、ネイヴァーを撃ちます。今度は本物の拳銃だったらしく、弾はネイヴァーの眉間にあたり、ネイヴァーは死んでしまいますが、病院の伝統に従ってこれもまた内々に処理されることになります(おい、それでいいのか!?)。
 ヘルマーJrはまた車椅子の女性から父親の墓の場所を聞き出し、墓を掘り返します。すると牛乳パックに入った父の遺骨が出てきます(なぜ遺灰が牛乳パックに入っているのかについての説明はありません。また、墓を掘り返したのが見つかったら「事件」になるはずですが、そうはなりません)。
 牛乳パックは掃除夫が捨ててしまいゴミとして処理されてしまいますが、その前にアンナが別のパックとすり替えていました(なんというご都合主義!)。アンナは何もかも嫌になり病院を辞めてスウェーデンに帰ろうとしているヘルマーJrに牛乳パックを渡し、彼の車の助手席に強引に乗り込みます。
 なんだやっぱり好きだったのかーーと言いたくなりますが、『キングダム』はもちろん恋愛ドラマではありません。ヘルマーJrの車はデンマークとスウェーデンを結ぶ橋を渡る途中、巨大な彫像(大きさは違いますが、最初に出てきた訳のわからない彫像です)に行く手を阻まれUターンを繰り返します。
 ヘルマーJrはデンマークとスウェーデンのちょうど中間で車を停め、父親の遺灰の入った牛乳パックを海に投げて「デンマークかスウェーデンかは海が決めればいい」と言います。
 おお、なかなか感動的なシーンだーーと言いたくなりますが、『キングダム』はもちろん感動ドラマではありません。車に乗り込み発車させると、突如目の前に巨大な彫像が現れ、ヘルマーJrとアンナの乗った車は彫像に激突、大破します。
 ふーっ疲れた。
 ヘルマーJrの物語をまとめるだけでこんなに長くなるとは。
 カレンの物語はもっと長くて複雑なんですが……
 とりあえずここで一旦切ります。
追記:  デンマークとスウェーデンってそんなに仲が悪いんでしょうか。  まあ隣国同士は仲が悪いというのはよくあることですが、ここまで露骨に描いて大丈夫なのでしょうか。  日本と韓国、日本と中国も仲がいいとは言えませんが、こんなこと日本のテレビドラマでやったら大騒ぎになるだろうと思います。
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shukiiflog · 7 months
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ある画家の手記if.76 名廊誠人視点 告白
眠たいなぁ…
正面玄関 石畳 黒い門扉 …うちの人間は妙に背だけ伸びるからサイズ感としては…間違いでもないのかもね 僕は大仰なのは好きじゃない いくら由緒正しかろうとね…不必要に広い庭だとか、屋敷だとか、高級車だとか、あんまり馬鹿が露呈するようでかえって下品だろうに 世の中というのはそんな僕の趣味では回っていない いつも広い庭をみて整えてもらっている庭師さんはあちらも家を辿れば伝統芸に関してくるから、技を継承するためには突然仕事がなくなってはいけないしね… あちこちに忖度しているほうだ… 多分ね
本当に由緒正しいのなら粛々と時代に合わせて変わりなさい…一目でわかるような見目のこだわりなんてもう必要ないでしょう…そういう主張や威圧感がいまだに必要なら名廊はもうその辺のやくざと変わりない… …ってふうなことをご長老がたに進言申し上げたところ、反応は大激怒 …だからやくざだというんですよ… いい機会だから病院におしこんだ まあそれもかなり強引に進めたから…品格ある判断とはいえないのだろうけど、僕が個人的に、そろそろあの人たちを視界に入れ続けることの不快さに耐えがたくなって 勝手に決めた…
家の前で待機した車、の後部座席に乗り込む 直人さんの家まで四十五分程度かな 腕を組んで目を閉じた 眠たいなぁ…  寝よう
僕は予定を確認しないから…今日が約束した正確な日にちなのかは知らない でもなんとなく、今日だった気がする スケジュール帳の一冊も持たない 執事のような役割の人も持たない そもそも今日が何日かも数字ではよく覚えていないし… これで医者と多忙な当主の真似事がつとまるのか…昔から、こうな気がするな…と思ったことは外れない 時間とかね…日付とか なんとなくこうじ��ないかなと 思って行動すれば確実に正確なのだからそれでいい だからまあ、約束した日も、今日なんでしょう そして絢人は、いないだろう 分かっていますよ…
ゆっくり眠っていた瞼をあげて覚醒した瞬間に、車が止まって、直人さんのご自宅の前に到着した 体内時計通り 四十五分間、しっかり熟睡した
付き人が僕の代わりに車のドアを開ける 「ここからは 僕一人で大丈夫です…」 そう一言告げて、車内で待機してもらった 黒に近い濃紺のスーツの上からシンプルな白いコートだけ羽織って 手土産は用意しなかったから、手ぶらでインターホンを押す 『誠人くん、時間ぴったりだね。どうぞ』 直人さんが鍵を開けてくれた エレベーターに乗る 正面に鏡
部屋へくると直人さんがもうドアを開けて腕を組んで、ドアに寄りかかって待っていた 「…誠人です。ずいぶんご無沙汰しております、直人さん」 「誠人くんも、大きくなったね。とにかく上がって。大したものは出せないけど」 「お気遣いなく…。では、お邪魔しましょうか…」 外観のイメージとブレのない、広い室内空間、大きな窓に、日のさす明るい部屋 リビングの応接用らしい暗色のソファに座るよう言われたので、座る 僕の前のソファに、向かい合って直人さんが座る 斜め前には、明るい髪の色の青年が座っていた 「申し訳ありません…脚を組まなければ落ち着かない性分で…   そう畏まる仲でもありませんし、よろしいですか…?」 直人さんは穏やかに笑って許諾してくださった 「好きなように過ごすといいよ。本家ではなかなかそうもいかないだろうから」 足を組んで、ソファの肘掛けに腕をおいて、頭をもたせかけて、目を閉じる   いつもの体勢 「…そうでもありませんよ…   おっしゃるとおり、過ごしにくかったので、…色々変えました」 「変えた? 名廊本家を?」 「ええ… 模様替え程度に」 うっすら目を開けると直人さんは少しびっくりされているようだったけれど、すぐにまた元の顔に戻った 「髪を、伸ばしておいでなんですね…。よくお似合いです…」 「そう? 本家ではこういうのさんざんに言われるでしょう。君の感性にも合わないかと思った」 ーーー”名廊家の幽霊” 僕の、あだ名 というか、古い友人が勝手にそう呼ぶのだけど 僕は名廊本家の柱から産み落とされでもしたように見えるらしい   家と癒着している、そのさまがそう感じさせるのだ、とも言われたけれど…   実態は、そうでもありませんよ… 視線を斜め前の青年に向ける 「ご挨拶が遅れましたね…失礼しました。僕は、名廊誠人といいます。あの家を、預かる者の一人です。あなたのことは不躾ながらほうぼうから伺っていましたよ、香澄さん…。艶やかな髪と目の色をしておいでだ。あなたを名廊家の一員としてお迎えできたことを、大変うれしく思っていますよ…」 彼が、綾瀬香澄さん 「初めまして…。ご足労いただいて…すみません…」 少し恥じらわれたような笑みを浮かべていらっしゃる そのまま席を立ってどこかに行ってしまった 「ごめんね、あの子は少し人見知りするから。多分お茶を淹れに行ってくれたんだと思うよ」 直人さんが軽いフォローを入れる 養子縁組の話が耳に入っても、僕は特に綾瀬香澄について身辺調査などはさせなかった したがる馬鹿者が本家にいたのをなだめて控えさせた どういう人間か 会って見れば一目瞭然なのだから、手間を惜しまずこうすればいいんです…    こそこそと嗅ぎ回るような品のない行動は許さない 名廊はいつからそんなに何もかもに怯えるようになったのか だから僕は絢人とも定期的に顔を合わせ、話しをした あの子はどこへもいかず、家の名を貶めることもなく、静かに約束をまっとうする そう思っていたけれど…… 言及せずに泳がせたほうが分かりやすい あの子は本心をまあまあうまくごまかすほうだから でも人間の内面の変化というのは、ごまかしのきかないものだ  直人さんと会うのも 病院を受診するのも 好きにすればいいよ…    他の者の意見は知らないけれど、僕はそんなことで気を揉むほど狭量ではない  ただ…    ああ、このままではおとなしく本家に生涯じっとさせることは 無理だなと なんとなくそう感じた日にガソリンをかけた  だってかわいそうでしょう…   あの子の体は、極度の緊張状態の持続で本来の痛みや苦しみから守られていた、のだろうから …そうでもなければ、あのように不自由なく動けるはずなど、ない体だ 発狂していておかしくないけれど、あの子は正気を保っている なら どこでどう暮らしても 待っているのは地獄だからね… 「お口に合うか分かりませんが…  どうぞ…」 遠慮がちにテーブルの上に三つの日本茶が出された 「…見たことのない焼きですね…。釜本はどちらですか?」 「そんな日用品にまでこだわらないよ。僕の友人が手びねりで作って焼いてくれた貰い物。高級品じゃなくてもかわいくて僕は気に入ってるよ」 「そうでしたか…失礼しました。良い品です。窯元を教えていただければ、ご支援しますが…」 「まぁ本人はそこまで自分の名を大きくしたいわけじゃないし、困窮してもいないと思うから。申し出は嬉しいけど、名廊はこれまで通り伝統芸能を存続させる方に財を費やすべきなんじゃないかな。誰にでもできることではないしね」 「……ごもっともです…」 また斜め前に静かに座った香澄さんは、少し緊張しておられる 僕となかなか目が合わないな… 身のこなしも、態度も、風貌も、粗野ではない、見たところ髪や目も染めたりしているのではない、なら良しとしておきましょう…  名廊を知る者なら、姓がどうであろうと血を継いでいないことはすぐ理解するだろうから
さて   どうしたものか…   
「……これから僕の言うことは、まあ窓の外で鳥が囀っている程度のつもりで、てきとうに流してください…」
そう言って僕は、ひとりごとのようなかたちで話しはじめた
「辟易しています…。ここに絢人がいないことなど分かりきっているのに、疑わしい場所へは足を運ばなければ納得しない人間がいる…   ほとんどは僕が片付けましたが、家の錆はどこからでも出てくる…    ここへ僕が直接足を運ぶことにも顔を顰める人間がいるものだから…煩わしくて少々内密にここへもきました。それで手土産のひとつも包めませんでした…。まぁ、家の車を使ったので帰れば露見するでしょうが…出がけに邪魔が入らなかっただけでもいいほうでしょうかね… 絢人はかわいそうな子でした…狂った父親の隔離された部屋へ一緒に閉じ込められて、あの子はいい慰み者だった…。理人さんは絢人のことを、ぬいぐるみだとも、雅人さんだとも、直人さん、あなたのことだとも、思っていた。記��は後退しては戻るのを繰り返していた…気が触れているというより、認知症に近い症状だと思って見ていましたが…絢人の献身はただただ痛々しい結末に終わった あの子の背があんなに低いのは、おそらく幼児期からの理人さんとの性交渉の結果でしょう…  顔つきも年齢にそぐわず幼げでしょう…?  体が未成熟なうちからそういう経験を積みすぎると、あのような歪な外見にとどまってしまう症例は多いんです…    醜く愚かな子だけれど、僕は嫌ってなどいませんでしたよ… …困ったものです   絢人にあの名前で醜聞を撒かれては困る   というのは僕の言い分ではありませんが…本家全体の方針としては、つまりそういうことです …直人さんは長く画家をしてらっしゃいましたが、僕もよく作品を拝見していましたよ   あなたの描く絵を見て、深く納得したものです…  やはりあなたは生粋の名廊の人間だ …あなたのご両親について、ご長老がたはあなたの出自を大層嫌っていましたが、裏を返せば誰よりも濃く名廊の血を継いでいるということでもあるわけですし…   一昔前は家の中での婚姻も多かったのですから、繰り返しすぎなければそう忌み嫌うものでもないのですけれどね…      僕はあなたでいくつかの確信を得ました、あなたの絵で…   感謝していますよ、僕もずっと、気になっていましたから… 香澄さんの処遇については、僕から本家全体に口添えしておきましょう。…香澄さん」
ほとんど眠りかけて閉じていた瞼をあげて、香澄さんのほうを向いて呼びかける 「…はい。」 「今後も本家には関わらないことです…   勝手に調査したがる者を僕がおさえていますが、あなたが積極的にこちらに出向かれるとなると、それも難しい…。僕は大した権限を持ちませんからね…   お支えできることはしますが、その場合は僕個人にご相談ください…   僕の番号です。仕事中は切っていますが、直通で繋がります」 懐から名刺の裏に僕の携帯電話の番号を手書きした紙切れを、一枚とりだして、テーブルの上に置いた。 直人さんではなく香澄さんのほうへさし向けると、香澄さんは「ありがとうございます」と言って、裏の名刺にも目を通された 「…お医者さん…」 小さく呟かれた言葉に、応える 「ええ…医者です。大昔には名廊にも家の中で怠ける目的の手医者なんてものもいましたが、僕はそういう時代錯誤なものを好みませんし…   家に財産があろうと自分の生活費は自分で持ちますから …そうでない者も、いますけれど、僕はそうだ というだけです…」 家の財だけで遊び暮らせるとしても、普通に働いているほうが 僕の品格を落とさない と、僕は思う これにも反対者はいまだに多い 賎民にまじってせわしなく外を駆け回るなど許せないとね…   ここまでくると、失笑にしたってあまり笑えない…
くあ、と出てきたあくびを手のひらで覆い隠して言う 「…そろそろ お暇します。…横柄な態度が身にしみついたところがあり、ご不快な思いをされたかと存じますが…  ご容赦ください」 ソファから立ち上がった僕の顔を、直人さんが眉を下げて伺ってきた 「君がよければ僕のベッドを貸すけど。来客用の寝室がなくて。」 「……と、いうと?」 「様子を見ていて思い出したけど、誠人くん、幼い頃から過眠症の傾向があったから。少し眠っていったら?」 思い出した、か… 直人さんは随分変わられた…   ということは、やはり不治の病や逃れられない性質などというものでもない、と 「………いえ、帰りの車で充分です。お気遣いいただき、ありがとうございます。…では直人さん、香澄さんも、また機会があれば…お会いしましょう。御用の際には、…いつでもご連絡を」
二人して玄関先まで見送ってくださった
エントランスに出たあたりで僕のケータイが鳴った 発信者ーーー”冷泉慧清” 「ーーーはい」 『よぉ~誠人。声を聞くのも久方ぶりだが、元気かね?』 「元気ですよ…   久方ぶりのお電話の真意をお伺いしましょうか…」 『お前さんなら見当くらい付くだろう。まぁそれだと思ったもので間違いないさね』 「……正直、心当たりが多すぎて閉口しますが…」 『どれだっていいのさ、お家騒動も結構だが、女と子供は大事にしな。俺からはそれだけだ』 「女と子供……ですか」 『今度そっちに顔ォ出すぜ。隠居爺いの世間話に付き合うのがテメェみてぇな若者の義務ってもんだ』 「…幽霊相手ならなにを話しても支障ない、と…」 『そういうこった』
また連絡するとだけ告げられて電話は切れた 相変わらず食えないご老人だ   直人さんのご学友に冷泉家の人がいらっしゃいましたね…そういえば 何を言われることやら まあ どうとでもなるでしょう
香澄視点 続き
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hariitovial · 9 months
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吸血鬼の友達(後編)
風の強い夜のこと、アルマは晩餐会に招かれていた。
数日掛かりで集めていた旅に必要な品はすべて揃い、明日にもこの屋敷を発つとケイトに告げた。 それならばと、いつもより豪華だという晩餐会へ招待されたのだ。 “晩餐会”とは言っても、参加者はいつも通りアルマとケイトの二人だけだった。 違うところと言えば、食卓の豪華な食器類と大広間の灯りの一部。 灯りは割れた窓の隙間から吹き込む強風に消されていた。
「今日はすこし寒いかもしれないけどごめんね」 「平気よ」
着席するなり、ケイトはハッとして席を立つ。
「忘れてた!すこし待ってて、先に食べててもいいから!」
そう言うと彼女は去り、アルマは大広間に一人取り残された。 アルマはとても空腹だった。 “先に食べてて”と言われても、食卓にはまだ何も並んでいなかった。
――コロコロコロ
静かにワゴンを引く音が廊下に響いている。 その音が近づき止むと、大広間の扉が開かれた。 そこにいたのは一人の使用人だった。 豪勢な料理を乗せたワゴンを引き、こちらへ歩いて来る。 待ち望んでいた香りにアルマは堪らなくなった。
「先に食べててもいいから――」
ケイトの言葉を思い出し、アルマは我を忘れるように味わった。
再び、大広間の扉が開かれる。 戻って来たケイトだった。
「アルマおまたせ!見せたかった本が……」
ケイトが抱えていた本は床に落ちた。 目の前には、血塗れで横たわる使用人と、口を赤く染めたアルマがいた。 早くなる鼓動を落ち着かせるように、ケイトは冷静に訊ねた。
「何を、しているの……?」 「先に食べててって言ったから……」
ケイトは一歩一歩、ゆっくりと近づく。 アルマの頬に手を添える。
「あなた……吸血鬼だったのね」
アルマは少しして口を開いた。
「ケイトも、吸血鬼じゃないの?」
ケイトは首を横に振る。 驚きと悲しみを孕んだ視線をお互い向けあった。 すこしの沈黙の後、再びアルマが口を開く。
「ケイトは私と同じ吸血鬼だと思ってた」 「私を吸血鬼だと思っていたの?」 「うん……。あなたの手はいつも冷たかったし、色んな人の血の匂いを纏っていたから」
ケイトは愁いを帯びた瞳で微笑んだ。
「それとケイト、ごめんなさい。あなたの部屋で見てしまったの。扉の中にあるもの」 「……そう」 「どれも同じ血液型だった。それも珍しいもの。 人間の珍しい型の血液なんて、そう手に入れられるものではないわ」
ケイトは俯き、口の端を上げたまま、ただコクリと頷いた。 胸のつっかえを抱えたアルマは続けて疑問を投げかける。
「“好き嫌いはない”と言っていたから、手に入りづらい血液ばかりあるのはおかしいと思っていたけれど……。 あれは、あれはどういうことなの?」
窓のガラスがガタガタと音を立て始める。 すると突然、強風が部屋中を駆け巡った。 灯りはすべて消え、その様子に満足したかのように風は弱まった。 大広間は暗闇に包まれた。
「あれは、私のためのものよ」 「でもケイトは吸血鬼じゃないのよね。だったら何故」
俯いていたケイトはアルマを真っ直ぐ見つめる。
「アルマ、私は人間よ。それも病気のね。 長くは生きられないみたいなの。 あの血液はその治療の為のものよ。治療の為なら多少難しくとも、珍しい血液でも集めることができるの。 けれど、どれだけ血液が集まっても何もよくはならなかった」
ケイトは両手で自身のスカートをくしゃりと掴んだ。
「日が暮れなければ会えなかったのはそのためよ。 私は日中、ずっと治療を受けているの」
ケイトは自身の震える両腕を掴む。 その仕草からは袖の下の痛々しい治療痕を容易に想像できた。
「“来客”なんて言ったけど嘘みたいなものね。ごめんなさい。 あれはみんな医者や研究者。 どれだけ苦しい治療でも、どうすることもできないみたい」
二人の間に再び沈黙が流れる。
「私は私の人生について考えたことがあるわ。 これまで生きた時間は、どれも苦しい時間ばかり。 私にとって生きることとは苦しみなの。 ずっと苦しかった……。 治療だけじゃない。 友達なんてつくることも出来ずに、ずっと孤独の中にいる。 このまま終わらせるなんて、絶対に嫌……」
アルマはケイトの苦しみを受け止めようと努力した。 しかし、掛けられる言葉はひとつも浮かばなかった。
「そんな時、あなたが現れたの。とっても嬉しかった……」
ケイトの赤くなった目からは大粒の涙が零れ、頬を伝う。 アルマはケイトを抱きしめる。
「いい友達になれると思った。あなたのことが大好きよ」 「私も」
雲に隠されていた月が現れ辺りを照らす。 それはひとつになった二人の影をはっきりと浮かばせていた。
「ああ、私も吸血鬼だったらよかったのに。 いつか読んだ本に書かれていた、吸血鬼は人間より長く生きられるんでしょ?」 「大抵はそうね」 「それなら、お願い」
ケイトは手首を差し出す。
「私を噛んで」
アルマは戸惑った。
「言っておくけど私があなたを噛んでも、あなたは吸血鬼にはならないわ」 「もう長く生きることは望まない。 けれどあなたが私の血を飲めば、私はあなたの中で生きている事にはならないかしら。 気休めでもいい、あなたの人生の中にいたい。 あなたと共にいたい、アルマ」
再び手首を差し出す。
「お願い」
アルマはそっと、月光に照らされた白く輝くケイトの手を取った。 静かに脈打つその手はいつも、あの雨の夜を思い出させた。 暗闇に浮かぶ月のような微笑みの、優しい彼女とともに。
白く透き通る肌、そっと伏せられた長い睫毛は月光を悲し気に纏っている。 暗闇にスッと浮かぶ彼女は、その抱えた孤独の闇に飲み込まれそうだった。 差し出された手を離さないようにして自身の口へと運ぶ。 冷たい牙は皮膚を刺し、ケイトを紅く染めた。
その血液がどのような味だったのか、アルマは憶えていない。 気が付けばケイトはぐったりとした様子でその場に横たわっていた。 アルマは急いでケイトを抱える。
「アルマ、お願いを叶えてくれてありがとう」 「これでずっと一緒にいられる」
ケイトは微笑むと静かに目を閉じた。 冷たい風が吹き、月は再び雲に陰った。
翌日の朝、灰色の空の下に二人の姿があった。 武骨で重たげな鞄を手に持つ少女と、全身を白で纏った少女。 門を隔てて二人は向かい合っている。
「ありがとう、ケイト」 「気を付けてね、いってらっしゃい」
短い挨拶を交わした後、アルマは歩き出した。 背に視線を感じようとも振り返ることはなかった。
時間の流れはとても早い。 アルマの中であの屋敷の記憶はもう殆ど消えてしまう程に時は過ぎていた。 音もなく、何の香りもしない。 けれどそんな冷たい雨夜に、彼女だけはいつも月をみた。
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mmmmmmori · 10 months
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ある作業員の話
CAWS、バッキーがWSになる頃の話。随所に空想。 スティーブもキャプテンも出てきません。暗い。 1日12時間労働が当たり前だし、飯食う以外の休憩時間なんてまるでないし、有給なんてとんでもないし、やたらと忠誠心を求められるし、やたらと忠誠心を表現せよとも求められるし、この職場はかなり最悪だ。 制服の仕立てはいいし、施設内の食堂の飯もずいぶん美味い、給料の支払いが遅れたこともないし、金がないわけじゃないとは思う。以前勤めていた職場の様にある朝出勤したらビルごと抵当になんてことがなさそうなのはいいところかもしれない。安定ってやつだ。 ここが新型兵器の研究所を兼ねた工場だとしか知らないが、その新兵器とやらは超最先端の化学――科学?どっちかなんてわからないままでもここでやっていくことはできる。――を用いたものらしく、そんなすごいものを開発するのに適した建物ということなのか、施設の造りはちょっとしたSF映画のようなところも気に入っている。 生体認証は当たり前で、通路は入り組み、様々な配管と様々なケーブルが這い、角は薄暗く、ところどころ旧時代のレンガが見えているのも、何もかも近未来的というよりも、説得力が増す。 つまり、自分を楽しませるための空想に耐えうる。 外界との接触はほとんどなく、時折、明らかになにかの能力を持った人間とすれ違う。そいつらは科学者だったり化学者だったり工学者だったり、もしくはちょっとした異能力者だったりもするらしい。 昔からそういうものが好きだった。 そういう、“普通”ではない何か。わくわくする。いつか誰かが現れて、お前は本当は“ただの”人ではないんだよと言ってくれると思っていた。 走るのが遅いのも、勉強がいまいちなのも、友達が少ないのも、努力が嫌いなのも、手先があまり器用じゃないのも、何かに熱中した経験がないのも、本来の力の使い方を知らない所為なんだと言われる日を待っていた。 自らに備わっているはずの秘められた力は秘められたままに、こんな場所で働くようになったんだから、これは何か、見えざる運命の手によって導かれた結果なのかもしれない。 なんて口に出せはしない、それでも、期待の熾火が体の中にまだあって、相変わらず「他人とは違う何か」に心惹かれる。 だから、仕事はきつくても、後悔はしていない。 偉いさんが来るたびに作業の手を止めて両拳を上につきだすあの習慣はどうにかならんかな、とは思っているが。 しがない1作業員の仕事はもっぱら部品の運搬と組立補助だ。施設のどこかで作られているのか、それとも外から運び込まれるのか、木箱に入ってずっしりと重いネジやら歯車を検品して、運ぶ。運んだ先で鉄板を支えるよう命じられたらそうする。椅子を運び上げる様に言われたらそうする、組み上がったモーターを持っていけと言われたらそうする。細かな部品を運搬するからか、施設内をある程度動き回ることが出来た。 だから、そう、多分様子をうかがえた下っ端の人間は、他にはいなかっただろう。 何台もの飛行機がくみ上げられ、いくつものミサイルが立ち並ぶ格納庫の、3階部分のデッキに、その人影を初めて見た。 名前も知らない上司――上官の姿に、作業員全員が手を止めて両手を拳にして突き上げる。上司は、三人、別の人間を連れていた。正確には、二人の兵士に両脇から支えられている、もしくは抑え込まれている、男を一人。 そいつは明らかに“違う”やつだった。 上司も“違う”やつではあるから、上司のお仲間かもしれない。それにしても、色々と“違って”いた。 ドッグを見下ろす視線は淀んで生気がない。そのくせ、全身からは強い緊張を感じる。良く飼いならされて、虐待され、飼いならされ過ぎて、生き物としての本性を失った猟犬のような感じだ。 全身黒づくめで、体格は妙にいい。 口は半開きで、どうやらせわしなく呼吸を繰り返している。 上司が何かを言い、そいつは頷くでもなく、両手を突き出すでもない。そもそも左側に腕がない。肩からぶら下がった袖は、肩口で縛られていて、縛り切れなかった袖口が中途半端な高さでふらふら揺れている。 上司がまた何事かを話しかけ、袖に覆われた、腕のない方の肩を掴む。 上司が顔を近づけ、男にまた何事かを言うと、彼が強く床を蹴った。 その音は格納庫に随分大きく響き渡り、3階のデッキ全体が揺れた様にも見えた。 上に突き出したままでいる両腕も、それに合わせてふらふら揺れる。その揺れを見とがめられた誰かが、殴られる音がする。あーあ、と思いながら腕に力を入れなおす。 何を思ったのか上司は一つ笑うと、何事もなかったかのように踵を返す。視線が外れて、デッキの下でもやっと腕を降ろすことが出来た。 あと5秒、揺れないように踏ん張れたら、殴られなかっただろう同僚が、これから腫れ上がるだろう、下痢もするだろう、腹を軽くかばうようにしながら、文句も言わず今までの作業に戻る。もちろん、皆そうする。腕を上げ続けるのは結構な重労働なのに、その愚痴を言う相手も見つけられず、こそこそとその場を去る。だれもがまだやらなくてはならないノルマが残っているのだ。   そのノルマ達成のために指定場所に向かうと、厳重に梱包され傾き厳禁の札の貼られた難物を、慎重な様子で手渡しされる。 傾けずに運べなんて無茶もいいところだと思うが、作っているのが兵器となると傾けたがために運び手が死ぬことも考えられるから、もちろん慎重に運ぶ。よほど衝撃に弱い物質なのかもしれない。 となると、揺らすのも避けたかった。台車を使うのは諦め、両手で抱える。これ一つではノルマを終えられはしないが、幸い重さも大きさも自分でも抱えられる程度なので、まだ今日を終えられないこと、手がふさがって走りにくいこと、つまりこれ一つ届けるのにやたらと時間がかかるだろうこと、つまり、今日の終わりはますます遠のくことを除けば、困難はない。 で、こういうやっかいな荷物の常で、行く先は格納庫でも工場でもなく、研究所内だった。内と言っても該当部署の扉の前までで、秘書だか事務員だか研究助手だかの下っ端と伝票をやりとりするのが精々だが、中は中だ。 すこし、わくわくする。 これはきっと“特別”な荷物だろう。 荷物を抱えて入り組んだ廊下を行く。 この道を覚えるのに半年かかった。覚えた先から通路が増やされたり減らされたりするのにも、今となっては慣れた。 すれ違う同僚は皆無口で、忙しそうだ。皆真面目で結構なことだ。 指紋認証と、声紋認証とを通り抜け、セクションの区切りで門番よろしく立っている兵士に荷物と身分証を見せる。制服着てるんだからそのまま通してくれりゃいいのにと思いはすれど、とても言えない。奴ら、必要以上に無表情だし、話しかけるなんてとんでもない。 そうやって、ある扉の前に辿り着いた時だった。 通路の先、奥まった部屋の前に兵士がいる。どうしてこんなところに、と思ったと同時に、さっきの猟犬のような男が引き摺られてやってきた。この短い間に何があったのか、口の周りが真っ赤で、どうやら鼻血と、口の中も切っている様で、赤い滴は涎とも混じり合い、顎を伝い降りていた。黒い服はところどころ焦げ、足首は奇妙な方向に捻じ曲がっていた。それをまるで荷物でも運ぶかのように引き摺って、引き摺られるそいつの目は開いていたが、焦点があってなかった。 ――……死…んでんじゃ… ぞわっと気色悪い感触に襲われる。 明らかに拷問の後だ。血の匂いと、タンパク質の加熱された匂い。尿の匂い。この短時間でいったい何をどうしたらあれだけ痛めつけることが出来るのか、俺には分からない。 拷問で施設内で人を死なせるなんて、褒められた話じゃない。そうだろ? しかも相手は片腕がないんだ。 だからと言って声をあげることもできなかった。黙々と仕事に打ち込む同僚の顔が過り、声を上げたところで無意味だと思った。声を上げれば罰されると思った。腕を揺らして殴られた同僚のように。 ここがそもそもひどく気色の悪い施設なのだと、唐突に気づいて、だからと言って出来そうだと思えるものなど何もなかった。 やりたいとおもえることもなにもなかった。 いつのまにか傾いていた荷物を、抱えなおして、それから届けねばならなかった。 ぐびりと唾を呑みこんで、目の前の扉を叩く。 扉は奥に開き、白衣を着た男が出てくる。 俺は無言で荷物と伝票を差し出す。 男も無言でサインをして、荷物を受け取る。 バチッっと激しくショートする音が奥の部屋から響き、追って、内臓を全部抉り出されたみたいな、苦痛と悲痛が絡み合い、憎悪と怒りに縁どられ、それでいてどうしようもなく空虚な、聞くに堪えない悲鳴が響く。 やっと自由になった両手で、とっさに耳を塞いだ。 白衣の男は、奥の部屋に視線を投げ、それから、こちらを咎める視線で見る。 同僚が殴られた音がよみがえり、一瞬、体が激しく震える。耳を塞いだ手の平越しにも、悲鳴はまだ続いていて、それでも、その手を無理やりはがして、悲鳴に飲み込まれながらその場から逃げ出した。 それから、どれくらい経ったのか。 左側に儀腕を付けた黒ずくめの男を施設内で見かけた。 その場で蹲って泣いていた。 おわり (2014-06-18P privatter より 改稿あり)
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turkey-trip · 10 months
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#6 カッパドキアガイド
こんにちは、カサダニアンです。
 
今回の旅、カッパドキアは2泊と丸2日間観光ができる場所です。
カッパドキアを観光する際のガイドとしてもらえると幸いです。
 
この記事では、カッパドキアの見どころについて紹介します。
 
〇カッパドキアどこにある?
カッパドキアは、トルコの首都アンカラから約250㎞離れて、アクサライ~ニーデ~ネヴシェヒル~カイセリ地方に挟まれて中央アナトリアに位置しています。
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〇なぜ洞窟?
2世紀にキリスト教が知られるようになったころ、カッパドキアはさまざまな思想、哲学、東方諸宗教の入り乱れるるつぼでした。
初期のキリスト教徒はおそらく、ローマの宗教的迫害から逃れてきた人々で、キリスト教徒の大部分は、タウロス山脈全域を占領したアラブ人の支配からカッパドキアヘ避難してきた人々でした。
これらの新しい住人たちは、丘の斜面を掘り、岩を刻んで教会を造り、内部をフレスコ画で飾ります。
こうしてカッパドキアの岩石地帯は修道院や修道士の祈り、教会などの大展示場の様相を呈するようになりました。
11世紀後半にセルジュク族がやってきたときには、カッパドキアには1000を越える宗数的施設があったそうです。
カッパドキアのキリスト教社会と、イスラムのセルジュクトルコの関係は友好的でしたが、14世紀に入るとオスマン帝国に吸収されてしまいました。
キリスト教信者のギリシャ人たちは、後世のトルコとギリシャの人民交換政策により、1920年代にカッパドキアを離れることになってしまいました。
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〇カッパドキアの地形が作り出す芸術
カッパドキアの地層は地上に見られる自然の奇跡の一つであり、中央アナトリアの火山が盛んに活動し、溶岩や火山灰に覆われた「堆積期」、そして火山活動の停止と共に始まった「侵食期」に於いて、自然が持っている二つの相反する作用が作り上げた作品と言えます。
ヨーロッパのアルプス山脈同様、南アナトリアのトロス山脈も地質年代上、新生代の第三紀(6500万~200万年前)に形成されました。
この時期、中央アナトリアでは活発な地殻の変動で深い亀裂や地盤の沈下が見られ、亀裂を這って地表に噴出しだしたマグマは、エルジェス、デヴェリ、メレンディス、ケチボイドゥラン火山を作り上げたのです。
そして、度重なる激しい噴火の後、中央アナトリアでトロス山脈に並行して走る火山連ができあがったのです。
火山の吐き出した噴出物は既に形成されていた丘や谷の上に長い時間をかけてゆっくりと降り積もり、周辺一帯は巨大な台地と化しました。
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〇地下都市
石灰岩を掘って地下8階から10階の深さにまで達している巨大な地下都市です。
完全に地下部分に作られていることとその規模の大きさから、他のカッパドキアの岩窟住居とは一線を画しています。
内部は、狭い通路から生活の場、換気孔までと様々な空間がまるで迷路をも想わせます。
地下都市での生活はキリスト教時代以前からすで営まれていましたが、一時は頻繁に利用されたのはアラブ人から逃れるキリスト教徒の避難所にもなりました。
アラブ人の脅威に様々な対策が練られるもどれも効を奏せず、キリスト教徒であった地元の人々はここに隠れて敵の撤退までの仮住まいとしていました。敵の侵入の危険に備え各階ごとに、石うすのような大きな丸い石板で扉を閉じられるようになっていました。
石板の直径は1.5m、いざという時はすぐに転がすことのできる場所に置かれていました。
他にも通気孔はもちろん、非難用のトンネルも備えるなど、この地下都市は完璧な防御の役割を果たしていました。
ここを訪れた人は壁を堀った箱型ベッドにも気を取られるかと思います。
その他にも内部には教会や学校、食料や物品の貯蔵庫、ワイナリーも作られていました。
通気孔は各階を突き抜けていてその幾つかは地下水まで達しているものもあり、井戸として水を供給する役割もありました。
見学可能なのは一部のみですが、観光ルートにはそれぞれ表示があるので是非足を止めてみてください。
カイマクルの地下都市では一番多い時期では合わせて約2万人、常時でも約4千~8千人もの人々が隠れ住んでいたと言われています。
地下都市が観光客の注目を浴びるようになったのはわずか50年前くらいからのことで、その前までは村人の貯蔵室や納屋として使われていました。
地下都市の内部を観光する際はガイドについて歩くか、矢印にそって注意深く進まないとすぐに道に迷ってしまいます。
長短さまざまな狭いトンネルが四方八方に延びていたり、通路を急カーブでえぐって窪みを利用した大きな部屋があったりもします。
頭上がとても低い場所や階段を使う場所もあるので頭上だけでなく足元にも十分に注意をして下さい。
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〇ウフララ渓谷
ウフララ渓谷(Ihlara Vadisi)は、カッパドキア南方のアクサライにある、自然的・歴史的に重要な価値を持つ谷です。
ウフララ村からセリメ村まで湾曲しながら続く、全長約18km、幅約200m、深さ約150mという雄大な谷は、この地にそびえたつハサン火山から流れ込んでいたメレンディス川によって削り取られて形成されました。
現在は小川となったメレンディス川は、生命の源となって谷底の豊かな緑を育んでいます。
自然の生み出した芸術に加えて、ウフララ渓谷でもう一つ特筆すべきは、切り立った高い崖の岩を掘って作られた5000もの住居と105の教会群です。
渓谷沿いには、カッパドキアを象徴する奇岩「妖精の煙突」が並ぶヤプラク・ヒサルやセリメ村もあり、まさに大自然の美しさと歴史的遺産の両方を楽し���る、知られざる観光名所といえます。
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〇セリメ修道院
カッパドキアで最も予想外の驚きの 1 つは、アクサライから 28 km のウフララ渓谷の端にあるセリメにある素晴らしい岩窟修道院です。
セリメには、ヒッタイト、アッシリア、ペルシャ、ローマ、ビザンチン、ダニシュメント、セルジューク、オスマンの各文明がありました。
セリメ要塞修道院の最も重要な側面の 1 つは、多くの主要な聖職者がそこで教育を受けたことです。 地域の軍事本部もそこにありました。
修道院は 8 世紀から 9 世紀に建てられたものですが、建物のフレスコ画は 10 世紀後半から 11 世紀初頭のものです。
描写には、昇天、受胎告知、聖母マリアが含まれます。
セリメ修道院はカッパドキア最大の宗教建築で、大聖堂サイズの教会があります。 大聖堂の内部には 2 列の岩柱があります。
これらの柱は、大聖堂を 3 つのセクションに分割します。
教会の大きさは驚くべきものです。 セリメ修道院内の凝灰岩から直接切り出された教会の柱とアーチには、かつてそこを占めていたさまざまな世代の痕跡が今も残っています。
初期の初期のイコンはよりはっきりと見ることができますが、後に描かれた詳細なフレスコ画は、トルコ人が部屋を料理に使用したときに表面を覆う煤の年月の下でほとんど見えません。
修道院には、修道士の宿舎、大きなキッチン、さらにはラバ用の厩舎もあります。
部屋の壁はかつてフレスコ画で飾られていましたが、ほとんど残っていません。
道路から修道院まで、急で滑りやすい丘を登る短いが挑戦的な道があります。
修道院までの道のりは、まずラクダが歩くキャラバン道の一部であるトンネルのような回廊を通ります。
セリメには大きなバザールがあったので、ラクダの隊商は途中下車と保護のためにやって来ました。 、ラクダは修道院の中央部に導かれました
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〇ギョレメ・パナロマ
カッパドキアの奇岩は6000年前、火山の灰と溶岩でできた柔らかい地層が侵食されて作られました。
旧石器時代にはヒッタイト人が住んでいましたが、その後クリスチャンがローマ帝国の支配から逃れるためにこの地を利用しました。
この時移住してきたクリスチャンがギョレメの奇岩の中に教会や家を建てます。
この地の地名である「ギョレメ」とは、「見てはいけないもの」「隠された場所」という意味を持つそうです。
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〇ギョレメ野外博物館
・入場料45トルコリラ
ギョレメの谷では遠い昔、信仰を共にした共同体の生活が営まれていました。
今日、野外博物館として管理されているこの谷の一帯には、独特の形の岩山を掘って造られたキリスト教の修道院が残されています。
共同体を提唱したのはカエサリア(カイセリ)司教の聖バシルでした。
彼は時代の浮薄な風潮を逃れて、人里離れたところで広域に分散して修行する小さな宗教共同体を提唱したのでした。
凝灰岩の一本岩を掘り抜いて建てられた教会の数は多く、365の教会が造られたという伝承もありますが、その中で現在も30ほどの教会が公開されています。
むき出しの荒廃した岩山を飾るのは、僅かに換気や採光のための窓や入口の開口部だけです。
これは人を避けて信仰生活に専念するためであり、また11世紀頃、ビザンチン帝国領内で熾烈を極めたトルコ人による迫害を逃れるためでもありました。
ギョレメに教会が建てられたのは850年以降で、11世紀頃には内部のフレスコ画が完成しました。都のビザンチン芸術の直接の影響を受けているとはいえ極めて素朴な絵です。
地元の後援者の資金提供で、専門の画家が壁画を描いていることもあり、時には肖像画入りで画家や後援者の名が残されていることもあります。
綿密な学術調査によれば、この後援者は地元の有力者達だったことが判明しています。
彼らは時折ここに集まり、大切な商談を行ったそうです。
これらの絵は8世紀中頃から9世紀にかけてビザンチン一帯で行われた偶像禁止が解かれた直後に描かれたものが大半です。
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「トカル・キリセ(ブローチの教会)」
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「円柱教会」
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「エルマル・キリセ(リンゴの教会)」
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「 カランルク・キリセ(暗闇の教会) 」
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「 サンダル・キリセ (サンダルの教会) 」
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「バルバラ・キリセ」
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「ユランル・キリセ」
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〇ウチヒサール城
・入場料10トルコリラ
ウチヒサル(Uçhisar)」とは、ギョレメとネヴシェヒルの中間にある町です。ウチヒサルとはトルコ語で「尖った砦」を意味し、巨大な岩山を掘って造られた「ウチヒサル城塞」を中心に巨岩要塞の麓に町が広がっています。
ウチヒサル城塞は3つの塔のような形をしており、カッパドキアの入口の一連の「要塞」のひとつでもあります。
ウチヒサルを遠くから見ると、無数の窓の付いた険しい岩山がそびえて見えます。これは岩壁をくり抜いて造られた部屋の窓です。
一部には、浸食作用で地滑りを起こして内部が露出してしまった部屋もあります。
そして、住宅地の下には数百メートルに渡って凝灰岩盤を掘り連ねた坑道があります。
この坑道は古代に掘られたもので、敵に包囲された際に外部と連絡を取って、水の供給を確保するために掘られたと言われています。
現在は浸食により脆くなって危険なことからここで暮らしていた人��は立ち退いてしまっていますが、数十年前まで人々が暮らしていた古い住居群も見られます。
また、ウチヒサルの岩の表面には「鳩の家」と呼ばれる無数の穴が開いていて、住民は昔からブドウ畑の肥料として使うために鳩の糞を集めていました。
鳩は赤色を好むため、巣の入口は赤色でペイントもされています。火山性で土地がやせているカッパドキアならではの生活の知恵です。
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〇パシャバー(妖精の煙突)
・入場料無料
パシャバー地区にある妖精の煙突をはじめ、カッパドキアの奇岩群は、長い長い時の中で自然の奇跡が生み出した芸術です。
中央アナトリアの火山活動によって溶岩や火山灰がこの土地に堆積し、それが風雨によって侵食されたことで、無数の表情を見せてくれるユニークな景観が形成されました。
こうして形成された凝灰岩のうち、下層の軟らかい部分が早く侵食されて細くなり、上層の硬い部分が残ると、妖精の煙突のような帽子を被った不思議な岩ができるそうです。
こうした奇岩は高さ40mに達することもありますが、自然による侵食はなお進行しており、下部の軟らかい部分がどんどん削り取られて最後には姿を消してしまうケースもあります。
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以上、日本語ガイドがいないので、この記事をガイド替わりにしてもらえると幸いです。
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kanglo · 11 months
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大人のためのアート・デザイン思考入門講座 byオンライン
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大人のためのアート・デザイン思考入門講座 byオンライン チケット:https://art-thinking.peatix.com/ https://www.facebook.com/artthinking2021 2004年にハーバードビジネスレビュー紙で「The MFA is The New MBA]という記事が発表され、日本では2017年に山口周氏著『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか』が話題をよび、ここ最近「アート思考」という言葉をよく耳にするようになりました。論理的・理性的な情報処理スキルの限界が叫ばれ、大きく世界が変わる中で、「直感」と「感性」の時代が訪れたと言われています。 アーティストは見えないものを見るようにする役割を担い、その時代や社会の中で、「問い」を私たちに問いかけながら常識を揺さぶり、今までにない価値観や意味を提示してきました。近年、ビジネスの舵取りは非常に難しくなってきています。企業は従来の古い価値観、世界観から抜け出し、直観的、感性的な創造性が求められ、ますます「アート思考」の必要性が高まっています。 また、デザイン思考は、前例のない課題に直面したり、商品やサービスの改善策、開発に行き詰まったりした際に役立つ思考法です。 近年のヒット商品には、アート思考とデザイン思考を用いて開発されたものがあります。アップルの「iPhone」や「iPod」任天堂の「Wii」その代表的な存在です。 デザイン思考はユーザーの視点で課題を捉えるのに対し、アート思考は自分の発想を元にビジネスのアイデアを生み出す思考法と言われていますが、従来型の「ユーザー中心主義デザイン」ではなく、「自分起点」から出発し、その後、デザイン思考のプロセスに入るという流れが求められるようになってきています。ユーザー観察では見えないモノコトがあり、そこにはア��ト思考の発想が不可欠です。 私たちは、アート思考とデザイン思考を使いながら、クリエイティブな発想で世界をユーモアと美しさにあふれる世界に変えることができます。そのためには、この人生の中で無意識に作り上げてしまった既成概念や思い込みから、少しだけ視点をずらしてみる、あらたな「まなざし」を学ぶ必要があります。 現代美術家の中山ダイスケさんはアートについてこのような言葉を残しています。 『アートは営み。誰の中にも備わっています。例えば「朝、窓から見える山の景色がいつもより美しい」「今日はコーヒーがおいしい」という気づきこそがまさにアート。美術館に飾られている作品だけがアートではありません。ちなみにこの生活の中の小さな気づきを掘り下げ、絵や彫刻、小説といった形にして永遠に残そうとするのが作家であり、アーティストと呼ばれる人たちです。(中略)アートとデザインはこれからの社会に確実に必要な能力でしょう。これらを身につけることで発想力豊かな「柔らかい人」になれると思います。』 まずは、本講座でアート思考・デザイン思考の世界を体験してみてください。あなた自身の視点の変化と、イメージを広げる喜びを感じていただける、充実した講座です。 (カングロ株式会社) 【ダイジェスト版動画】 センス・オブ・ワンダーの世界へようこそ!「大人のためのアート思考入門講座」 https://youtu.be/I2T8FD1lilE ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★ <講座情報> ■日程:2023年6月16日(金)、6月27日(火)、7月3日(月)、7月18日(火)、7月27日(木) ■時間:20:00-21:00   ■受講スタイル:Zoomオンライン講座 ■受講費:2,000円 ※お申込み・お支払いはPeatixからお願いします。 https://art-thinking.peatix.com/ ■アート・デザイン思考入門講座の各日程: ①6月16日(金)20:00~21:00 https://peatix.com/event/3601294/view https://www.facebook.com/events/2497318140428037 ②6月27日(火)20:00~21:00 https://peatix.com/event/3601336/view https://www.facebook.com/events/927561594965511 ③7月3日(月)20:00~21:00 https://peatix.com/event/3601345/view https://www.facebook.com/events/2850825261716750 ④7月18日(火)20:00~21:00 https://peatix.com/event/3601357/view https://www.facebook.com/events/303461982007372 ⑤7月27日(木)20:00~21:00 https://peatix.com/event/3601370/view https://www.facebook.com/events/218731950949061 ☆講座の内容は、全日程同じものです ※正式申込後のキャンセルはご遠慮いただいております ※やむを得ずキャンセルされる場合は、必ず事務局までご一報ください ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★ ※入門講座終了後、「大人のためのアート思考基礎講座」にご参加いただけます。 ■第11期アート・デザイン思考基礎講座 byオンライン 日 程:2023年8月7日(月)・8月23日(水)・9月4日(月)・9月20日(水)・10月2日(月) 全5回 時 間:19時30分~21時30分 詳 細:https://peatix.com/event/3601382/view ★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆ ■お薦めイベント! マインドフルネスアートセミナー Lesson1 感情の扉を開く https://peatix.com/event/3600153/view ★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆ ■講師:森夕花(もりゆうか)プロフィール: カングロ株式会社 取締役 執行役員COO/マスターライフコーチ・PXファシリテイタ・フィロアーツ研究会主宰 ●神奈川県横浜市出身。音楽学校のピアノ科卒業後、三井住友カードに入社。その後、ドイツのフライブルクに留学。フライブルグ市の行政と市民による持続可能な世界を目指す社会システムと、ユーゴスラビア紛争で、ドイツに逃れた難民の方々との出会いを通じて、平和で精神的な豊かさを基本とした「サステナブルな社会作り」に興味を抱く。帰国後、三井住友カードに再び戻り、お客様対応や、クレジット決済端末機の管理システム“TACシステム”の開発に携わる。 ●帰国して5年が過ぎたころ、戦争や内乱に巻き込まれ傷ついた子供達を救済するためのNGOドイツ国際平和村の存在を知り、世界の平和と心の癒しに携わることが自分自身の使命と感じ、ヒーリングセンターアルケミストでカウンセラー、セラピスト、講師を務め、2008年に独立。2015年1月、カングロ株式会社 執行役員に就任。現役ライフコーチとして、ベンチャーから大手企業の多くのビジネスリーダーを受け持ち、個々の潜在意識にアプローチし、ビジネス ・プライベート両面における、変化、成長をサポートしている。 ●2021年より京都芸術大学芸術学部芸術教養学科に在籍。創造的思考によって「モノの見方、感じ方」を変え、仕事と暮らしをより良く変化させる「アート思考講座」を開催している。 ●自らの内面の探求のため、インドに十数回訪れ、心理学、禅、認知行動学、ジョーティッシュ(インド占星術)、手相、メディカルハーブ、中医学(中医食療士)などにも深い知識がある。 ●趣味は声楽(オペラ)・読書・映画鑑賞・美術鑑賞・ぶらり旅・歴史探訪・日記を書くこと。最近はウェルビーイングを軸とした、地域コミュニティー・組織つくりに関心をもつ。 ★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆ ■プライバシー保護方針: https://www.kanglo.co.jp/privacy.html ■主催:フィロアーツ研究会/カングロ株式会社 https://www.kanglo.co.jp 協力:SDGs超実践者委員会/イノベーションサロンZ/システムD研究会/ショックコヒーレント・イノベーションクラブ/セブラルメディテーションの会/HOOPS!/ザッポス研究会/サステナ塾 #アート思考 #アートシンキング #デザイン思考 #カングロ #森夕花
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hachikenyakaiwai · 11 months
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【かいわいの時】明治四十二年(1909)6月1日:毛馬で新淀川竣工式(大阪市史編纂所「今日は何の日」)
新淀川の開削工事は、まず、これに沿って計画されている長柄運河の開削から始まった。長柄運河は、新淀川によって分断される中津川の下流に連なる伝法川・正蓮寺川・六軒家川などに給水するとともに、新淀川以南の地域における潅漑などの利水に対応すべく計画されていたが、新淀川の開削に伴って排出される不用土砂を河口に運ぶのに利用できると考えられたからである(実際には、不用土は地元の請願により周辺の低湿地の盤上げに転用され、捨土は少なかった)。新淀川の本流の工事には98年度から着手した。沖野のフランスでの知見を踏まえ、わが国で初めて大規模な機械施工が取り入れられた。当時、建設機械は国内では製造されておらず、3名の技師を各国に派遣して視察・購入させた。
新淀川と在来の河川との分合流部には樋門や閘門が設けられたが、そのうち最大のものは大川との分岐点にある毛馬洗堰と毛馬閘門であった。洗堰は、幅3.64mの水通しを10門有する総幅52.72mの規模で、両側壁と9本の堰柱に縦溝を設けここに角材を落とし込んで流水を調節するものであった。閘門は、水位差のある新淀川と大川の間を船が往来するのに用いる施設で、有効長81.81m、幅10.91mで、前後に1対の鉄製の扉をつけた。いずれもレンガ積みとし、要所に石材を配した。
日露戦争に伴う中断はあったものの、1909(明治42)年6月、淀川改良工事の主要な施設が完成し盛大な竣工式が毛馬で開かれた。時の大阪府知事高崎親章の式辞に続いて各界の来賓から祝辞が述べられたが、中でも一貫して淀川改修運動を続けてきた大橋の弁は参会者の胸を打ったという。このとき建てられた碑は今も淀川河川公園にそびえる(坂下泰幸)。「土木遺産㊲毛馬第一閘門・旧毛馬洗堰」2023(カンサイドボクスタイル)より。
(図)新淀川開削前(上)と開削後(下)の淀川 明治18年及び41年測量の国土地理院旧版地図による、着色と河川名の記入は筆者(坂下泰幸)。「土木遺産㊲毛馬第一閘門・旧毛馬洗堰」2023(カンサイドボクスタイル)より=図も。
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