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kinemekoudon · 1 year
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スマホを解析されて、薬物売買のログを見せられたときのレポ
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―逮捕から7日目。この日は2回目の検事調べが予定されており、今回はワゴン車による単独の護送ではなく、護送車での複数人共同の護送になるとのことで、僕は初めて護送車に乗れることを少し楽しみにしていた。
朝8時30分頃、点呼とともに居室から出され、留置場の出入り口扉の前に連れていかれると、扉の前には既に2人の収容者が縦一列に並ばされており、僕はその2人の後尾に立つよう指示をされる。そして例によって身体検査をされると、いつもよりキツく手錠をかけられる。
その後、留置官が先頭の収容者の手錠の間の輪に、通常より長い腰縄を通してから腰に巻き付け、同じ要領で、その長い腰縄を中間の収容者、そして後尾の僕に巻き付け、見事に3人を数珠繋ぎにすると、その長い腰縄を自分の腰につけているフックに括りつけ、後尾に立つ僕の後ろについた。
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それから、3人の前後に警官が3人ずつついた体制で、地下の駐車場まで連行され、しばし駐車場で待機をしていると、白色と灰青色のツートーンカラーで、黒色のスモークガラス窓のマイクロバスがやってきて、3人の手前に停車した。
僕はその時まで、護送車とは、青地に白のラインが入っている、窓に金網のついたバス型の車だと思っていたので、実際の護送車がひどく凡庸なことにがっかりした。
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上が護送車、下は人員輸送車(警察官を輸送する���)
そうして、3人は連結されたまま護送車に乗せられる。護送車の車内は、右側2座席に左側1座席の3列配置で並んでおり、窓には鉄格子が嵌められていて、運転席との間には壁があって全く見えないようになっていた。
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また、護送車は周辺地域の警察署を順繰りにまわり、地検に移送する被疑者らを拾っていくシステムのようで、すでに15人ほどの先客が座っていた。
彼ら15人は、非常に長いロープで数珠つなぎにさせられており、全員が上下グレーのスウェットに茶色の便所サンダルの恰好で、手錠をかけられ、姿勢よく無言で着座しているので、捕虜の集団のようだった。
車内にいた警官らによって、3人は各自指定された座席に座ると、3人を連結していた長い腰縄が外され、今度は15人を連結している非常に長いロープに括り付けられる。
18人の被疑者と1本のロープによる数珠が完成すると、1人の警官が、「車内では会話や目配せはもちろん、足を組むのも禁止する」などという護送車内の規則を、大声かつ歯切りのよい口調で説明していた。
車内に5人ほどいる警官らも、これだけの逮捕者を移送するというだけあってか、非常に緊張感を持った面持ちで、ちょっとでも無駄に声を発したら怒鳴られそうな緊迫感がある。
僕は幸い、右側2座席の窓側の席であったので、外の景色でも見て気を紛らわせていようと思った。なんだったら、前回の単独移送では、両隣に警官が座っていて、窓はほぼ塞がれている状態だったので、久しぶりに外の景色を見られることは楽しみだった。
そうして、護送車が出発する。捕虜同然の惨めな状態というのもあってか、留置場では見ることのない格好や表情をした道行く人々を見ると、外の世界は自分とはもう関係がないように思えてきて、非常にセンチメンタルな気持ちになる。梅雨時で曇天模様だったのがまだ救いであった。
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出発からおよそ1時間が経過し、護送車が地検に到着する。護送車のドアが開くと、地検で待機していた警官がドア横に立ち、日本陸軍の点呼のような厳格さを感じる大声で「第三系統! 総員十八名!」と号令をする。車内の被疑者らが数珠つなぎにされたまま、1人ずつ車内から降りていくと、その警官はやはり日本陸軍のように「一!二!三!…」と点呼をとっていた。
数珠つなぎのまま連行され、待合室のある広間に出ると、そこには前回よりもはるかに多い、100人弱の被疑者らがおり、見るからに力士のような者からヤクザのような者まで、前回より威圧感のある男が多く集結していて、全体的に迫力があった。
また今回は人数が多いためか、警官の人数が多く、警官らはみな厳格な号令と点呼を行い、鋭い眼光で被疑者らを監視しているので、今までに味わったことのない張り詰めた空気が漂っている。
それから例によって、待合室という名の牢屋で、座る者の事など考えていない直角の硬い椅子にすし詰め状態で座らされ、時間もわからないままひたすら待ち、昼食時にコッペパンを食べ、いつ自分が呼ばれるか分からないまま、またひたすら待つ。相変わらず地獄。
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おそらく3時くらいになってようやくお呼びがかかり、僕は一人の警官に連れられて、検事のいる部屋に入室した。あくまで検事が起訴か不起訴かを決めるので、入室の際、僕は少しでも検事の心証を良くしようと、礼節を重んじている風の挨拶を決め込む。
前回同様、義務的な質問などがされ、黙秘権について告知がされるので、僕はここぞとばかりに、昨日弁護士にアドバイスされた通りに、「担当の弁護士さんから抗議書が送られていると思いますが、昨日、留置担当官の方に「ブチ殺す」などの脅迫を受けて、警察や検察の方を信用できなくなったので、取り調べには協力できません」などと、あくまで被害者ぶった深刻な表情で言う。
すると検察官は、こちらの会心の一撃をまるで意に介さないような表情と口調で「わかりました。その件についてはこちらでも事実確認と調査を行ってまいります」などと流暢に返事をし、「ただ、本日は見ていただきたい資料があるので、応えられるものに関しては応えていただけませんか?」と尋ねてきた。
僕はその見せたい資料とやらが気になったので、「資料は見せていただきたいですが、黙秘はします」と応えると、検察官はそれを了承し、A4サイズの紙が200枚ほど綴じられている分厚いバインダーを取り出して、付箋の貼ってあるページを開き、僕に見せてきた。
そのページには、僕がプッシャーから薬物を買おうとやり取りしていた、Telegramのログ画面の写真が貼り付けてあった。
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僕はまず、そもそもスマホの解析承諾をしていなかったので、無断で解析をされていたことに度肝を抜かれたし、露骨な薬物売買の証拠を見せられて、少し動揺が出てしまった。
ただ幸い、今回一緒に逮捕されたプッシャーとのやり取りのログは完全に消去していたし、見せられたログは、僕が「在庫はいかがですか?」と尋ね、プッシャーが「こちらになります」と隠語で書かれた薬物のメニュー表を画像で添付して送り、僕がそれを既読無視しているという、購入の意思を見せていない内容ではあった。
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メニュー表のイメージ
ちなみにTelegramにはパスコードロックをかけていなかった。
検察官は僕が動揺している隙に、「これは、あなたが薬物を購入しようとして、売人にコンタクトをとったものじゃないですか?」と単刀直入に質問をしてくる。
僕は、このログについてはどうとでも取り繕って否定できそうだったので、つい否定をしたくなったが、下手に喋ってボロを出しては検察の思う壺なので、「黙秘します」と応える。
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それに対し、検察官は無言で頷き、プッシャーが提示していたメニュー表の画像を指さして、「この“罰”っていうのは、コカインのことですよね?」と尋ねてくる。
僕は反射的に、「いえ、罰はMDMAの隠語です」と本当に危うく口走りそうになったが、一呼吸置いて「黙秘します」と応えると、検察官はやはり無言で頷き、再び付箋の貼ってある別のページを開いて、僕に見せてくる。
そのページには、一緒に捕まった友人の吉岡とのLINEでのやり取りの写真が貼ってあり、どう見ても薬物を言い表した代名詞でのやり取りや、それに付随して、「悟ってる時の顔」などと言って、僕がLSDのピーク中に目を瞑って微笑んでいる顔写真を吉岡に送りつけている赤面不可避のログも載っていた。
当然、これらに関する質問にも黙秘を貫いたが、検察官は少し呆れた表情で、「…うん。でもね、小林さん(一緒に捕まったプッシャーの本名)のTwitterアカウントのリンクが、吉岡さんからあなたに送られているんですね」などと言って、今度はそのログの写真を見せてきた。
僕は吉岡とは完全にクロな証拠のやり取りをしていなかったつもりでいたので、これにはさすがに焦りを感じたが、そのメッセージの前後に脈絡はなく、リンクだけが送られているという内容のログではあったので、これだけでは証拠として不十分であろうとは思った。
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検察官は続けて、「この小林さんのアカウントにコンタクトを取って、小林さんから大麻を購入したんじゃないですか?」と名推理をしてきたが、僕はなんとか無表情をキープしたまま、「黙秘します」とだけ言っておいた。
検察官は表情を変えず、「わかりました。それでは本日はこれで以上です」などと言って、この日の取り調べは終わることになり、僕は当然、調書への署名・押印を拒否して、部屋を後にした。
つづく
この物語はフィクションです。また、あらゆる薬物犯罪の防止・軽減を目的としています( ΦωΦ )
#フィクション#エッセイ#大麻#大麻取り締まられレポ
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kinemekoudon · 1 year
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【13話】 留置官に「ブチ殺すぞ」と言われたので弁護士にチクっておいたときのレポ 【大麻取り締まられレポ】
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――逮捕から6日目。いつものように、頼んでもいないのに朝食が出てくる。ベトナム人はいつものルーティーンのように、味噌風味のお湯が入った容器にソースと醤油を入れて啜っている。
僕は昨日、自弁のカツ丼を食べて舌が肥えてしまっていたので、味噌風味のお湯を啜る気にはならず、もはや視界に入っているのも煩わしく感じたため、味噌風味のお湯の入った容器をゴザの上から床の上に移動させて食事を続ける。
すると、ヤクザ風の留置官が「オイ5番! ゴザの上に置いて食えよ? こぼしたら床が汚れるだろォ?」などと恫喝めいた口調で僕を叱ってくる。僕は一瞬頭にきたが、(たしかにコイツの言い分は一理ある)と思い、素直に「はい」と答えて、その容器をゴザの上に戻した。
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朝食後、この日は留置場内にある風呂場に入れる日であったので、順番を待ち、留置官に自分の番号を呼ばれてから風呂場へ向かう。
風呂場の前に立っている留置官からリンスインシャンプーを借りると、その場で少し待つように指示される。留置官は風呂場に向かって「19番、あと3分~!」などと言って、早く風呂場から出るように催促している。
19番が出てくると、留置官から入場の許可がおりたので、脱衣所から風呂場に入ると、髪を洗っている男の背中に彫られた般若と目が合った。
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僕は和彫の刺青を生で見たのは初めてだったし、そもそも浴場で大きな刺青を見るのも初めてだったので、これにはなかなか面を食らった。和彫の男は隣の居室でよく騒いでいたギョロ目のじじいで、目が合うと、「おう5番!!」などと完全に音量を間違えている大きな声で挨拶をされた。
風呂場は6人分程の身体を洗うスペースと、3人程入れそうな大きさの浴槽があり、定員は3人に絞られていたので、割とゆとりのある空間だった。
僕は悪臭を放っていた頭皮と髪を洗い、石鹸を泡立��て手で体を洗ってから浴槽に入る。浴槽は垢が浮いていて気色悪さはあったが、そんなことはどうでもよくなる程、熱い湯に全身が浸かる気持ちよさに蕩けてしまう。
時間も忘れて蕩けていると、タイマーで入浴時間を計っていた留置官が「5番、あと3分!」などと急かしてきたので、しぶしぶ風呂場を後にする。
風呂場から出ると、留置官から綿棒を2本提供されたので、その場で耳掃除をし、耳糞のついた綿棒が多く捨てられているバケツに綿棒を捨てる。
入浴後、同じ居室のベトナム人と筋トレやヨガをして、漫画の続きを読み、昼食を終えてうたた寝をしていると、ヤクザ風の留置官とギョロ目のじじいによる、完全に音量を間違えている会話が聞こえてきて、目を覚ます。
「なあ6番、三浦春馬って知ってるか? 俳優の」「あ、よく知らねっすけど、知ってます」「あぁ…じゃあやっぱ有名なんだなあ」「おれはそういうの全然興味ねぇんですけど…それで、三浦春馬がどうしたんですか?」「自殺したんだって、首吊り」
寝ぼけ眼で寝転がっていた僕はそれを聞いて仰天し、膝立ちになり、ヤクザ留置官の方を見て「え!?」と声を発する。するとヤクザ留置官は「あ゛?」と何故か威嚇をしてきたので、僕は無視してまた寝転がった。
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それから仰向けの状態で漫画の続きを読んでいると、首が痛くなってきたので、長袖のスウェットを脱いで、それを枕にし、再び漫画を読んでいた。
すると、しばらくしてヤクザ留置官が「何やってんだこらァ!」と急に大声で怒鳴ってきた。僕は目を丸くしてヤクザ留置官の方を見ると、ヤクザ留置官は「てめぇ枕にしてんじゃねえぞ!」と怒鳴ってくる。
僕はムカついて反射的に舌打ちをし、「うっせーな…」と小声でぼやきながら、枕にしていたスウェットを手に取って着ようとすると、ヤクザ留置官は鬼のような剣幕で「てめぇ…! 次やったらブチ殺すぞッ!!」と場内に響き渡る大声で怒鳴ってきた。
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僕は大声で露骨な脅迫をされたことで、急激に心拍数が上がり、身がすくんだ。しかしこれは好機だと察知して、「…あ、今ブチ殺すぞって言いました?」などと震えた声で聞き直す。
すると、ヤクザは若干ひるんだ表情で、「……ブチこむって言ったんだよ!」などと言うので、僕が「ブチ殺すって言いましたよね?」と再度聞き直すと、ヤクザは「日本語分かんねえのかァ!? ブチこむって言ったんだよ…! 刑務所に…」などと咄嗟に出たらしい言い逃れをしてくる。
僕は負けじと「ブチこむでも脅迫ですよ? それにここにいる人たちは全員ブチ殺すぞって言ったのを聞いてると思うんで、言い訳しても無駄ですよ」などと平静を装って言い返す。
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すると、ヤクザ留置官は見事に何も言い返せなくなったようで、わなわなと顔を震わせて立ち尽くしていたので、僕は手元にあった便箋とペンを手にとり、「すみません、あなたのお名前を教えてもらえますか?」と尋ねる。
ヤクザ留置官は「…教えねーよ」と言うので、僕が「なんで教えられないんですか?」と尋ねると、「教えちゃいけない規則なんだよ」などと言い返してくるので、「その規則見せてくださいよ」と言うと、「見せちゃいけないことになってるんだよ」などと幼稚な返答をしてくる。
僕は埒があかないと思い、「ええと…16時25分。50代くらいの、暗いレンズのメガネをかけて、髪を七三分けにした男性警官に「ブチ殺すぞ」と大声で脅迫をされました…」などと、わざとらしく声に出しながら、声に出した内容を便箋に書く。
さらに補足として、ヤクザ留置官の特徴をメモに取り出すと、ヤクザ留置官はおもしろいくらいにシュンとして、事務机のある椅子に無言で座った。
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僕は既にヤクザ留置官の特徴を十分にメモしていたが、ヤクザ留置官を虐めるのが楽しくなっていたので、「ええと…肌はやや赤黒く、耳は若干潰れており、ええと…よく見えないな……あ、一重まぶたで…」などと言って、ヤクザ留置官の特徴を執拗に記録する。
ヤクザ留置官は、さすがに僕の挙動に不安になったのか、帽子を深く被ったり、マスクを鼻の付け根が隠れるほどに覆ったりし始めたので、僕は「私が男性警官の特徴をメモにとっていると、帽子を深く被ったり、マスクで顔を隠したりしていました」などと記録しながら実況をしてやる。
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すると、ヤクザ留置官は顔をうつ向かせて体を丸めだし、とうとう玉のようになってしまったので、「これだけ特徴書いておけば誰だか分かるか…よし!」などと台詞じみた独り言を言って、ようやくペンを置く。ふとベトナム人の方を見ると、ベトナム人は隅っこのほうで気まずそうな表情をしていた。
夕食後、弁護士がやってきたので、今日の一連の騒動を報告すると、弁護士は「それはいいネタを掴みましたね!」などといつになく興奮した様子で、「検察も人間ですから、勾留している被疑者が警察から脅迫されたとなれば、身内の弱みを握られているようなものなので、起訴に踏切りづらくなるものですよ」などと言う。
弁護士は続けて、「私からは担当の検察官宛に抗議書を送付しますが、これから警察や検察の取調べの際には、留置担当官から脅迫をされて、警察や検察を信用できなくなったので、取調べに協力はできませんと言って、黙秘と署名拒否をしてください」と僕にアドバイスをする。
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僕は普段の悪態が幸いして、思いがけない武器を手にしたことに胸が高鳴っていたが、弁護士は水を差すように、「ただ、次の検察の取調べは注意してください。そろそろ共謀で捕まっている友人や売人がなにか自白しているかもしれませんから、検察が知り得ない情報を語っていたら、忘れずに覚えておいてください」と忠告する。
弁護士が帰り、自分の居室に戻ると、しばらくしてヤクザでない留置官が「5番、明日地検入ったから」と伝えてきたので、少し不安になりそわそわしていたが、就寝前にデパスを飲んだら、そんなことは忘れてぐっすりと眠ることができた。
つづく
この物語はフィクションです。また、あらゆる薬物犯罪の防止・軽減を目的としています( ΦωΦ )
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kinemekoudon · 1 year
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【12話】 留置場は娑婆より愉快なユートピアだったときのレポ 【大麻取り締まられレポ】
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夕食を食べ終わり、持参していた村上龍の「限りなく透明に近いブルー」を読む。ヘロインを打った村上龍が黒人女と騎乗位でセックスをしながら、黒人男にイラマチオをされ、黒人男に口内射精をされると黒人女にイカせてくれと叫んでいる。
僕は(この本は一体なんなのだろう…)と考えていると、担当の弁護士が来たらしく、面会室に向かった。弁護士はすでに面会室におり、当番弁護士から国選弁護人に移行する手続きとして必要な用紙を机に並べていた。
弁護士はそれらの用紙を見せながら、「無事に国選弁護人として就くことができましたので、あらためて不起訴を目指して一緒に頑張りましょう」などと言って僕を励ます。僕がやれることは黙秘だけとはいえ、やはり味方の存在は非常に心強いし、安心感を与えてくれる。
※ちなみに、国選弁護人選任の資力申告はちょろまかすことができます。
国選弁護人制度は、資産が50万円以下の人が依頼できる制度ですが、裁判所が得られる被疑者の資産情報は被疑者が自己申告した情報のみで、しかも裁判所はその情報の真偽を調査する専門の部署を持っていません。また、そもそも被疑者は身柄を拘束されているので、「自分の資産が50万円以下だと“勘違い”していた」と言い訳がきくのです。
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弁護士は続けて、「ご両親には事件について説明済みです。ご両親は初めは非常に動転していましたけど、黙秘していれば不起訴になる可能性はあると伝えたら、とりあえず安心していました。それに、不起訴を狙うことを応援するとも言っていました」などと報告してくれた。
父親はともかく、母親は無駄に規範意識の強い人だったので、今回の事件において、正直に罪を償うことよりも、前科をつけないために罪を隠蔽した方がいいと考えてくれているのはかなり意外に思えた。
また、両親は警察署の近くまで来て、漫画を30冊くらい差し入れしてくれていた。僕は両親から受けた恩をありがたく思ったが、それよりも親の過保護的行為を気恥ずかしく感じてしまい、3分くらい静かに悶えていた。
弁護士は最後に「前に留置場から送られていた手紙の通りに、お父様からお勤めの会社に冤罪で勾留されている旨を連絡されたそうですよ。会社としてはとりあえず問題なさそうで、今は休職扱いになっているそうです」などとも報告してくれたので、僕は(仕事先の方は不起訴さえ獲れればなんとでもごまかせそうだ)と一安心できた。
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――逮捕から5日目。朝食を食べ終わり、自分のロッカーの中を確認すると、昨日両親が差し入れしてくれた漫画が5冊入っていた。差し入れされた書籍は1日5冊までしか場内に持ち込めないルールなので、約30冊ある漫画は、6日に分けて、留置官によって僕のロッカーに入れられるシステムになっていた。
漫画は、偶然かねてから読みたいと思っていた「ゴールデンカムイ」の1~5巻であった。僕は活字しか娯楽のなかった状況も相まって、幼年の頃にゲームを買ってもらった時以来の昂揚感を覚えた。
僕は早速、ゴールデンカムイを手に取って居室に戻る。僕はうつ伏せで肘をついた状態でゴールデンカムイを読む。疲れたら横向きになって、それも疲れたら、仰向けに寝転がって足を組み、両手を上に上げた状態で読む。
ゴールデンカムイは食事のシーンの描写がリアルで、肉汁や湯気などがすこぶる美味そうに表現されているので、読んでいるだけで唾液が分泌されてくるし、猛烈に腹が減ってくる。
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腹の減りすぎで頭が回らなくなり、一旦読むのをやめて横になっていると、留置官がやってきて「5番。今日から違う居室に移ってもらうから準備して」などと唐突に言われ、僕は漫画とチリ紙を持って鉄格子の前に立った。
移動となる居室は、不法滞在で捕まったがコロナのせいで入管が満員なために約6カ月間留置されている不憫なベトナム人青年のいる居室であった。僕はこのベトナム人とは、運動の時間に何度か話していたので、すぐに打ち解けることが出来た。
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そうしてベトナム人のいる居室に入り、ベトナム人と身の上話などをしていると、昼食の時間になった。今日は自弁の日で、僕は前日に500円のカツ丼を注文しており、ゴールデンカムイのせいで猛烈に腹が減っていたので、非常に楽しみであった。
※留置生活の現金について(飛ばしていいやつ)
現金は警察が領置しており、自弁や日用品を購入すると領置されている金額から各購入代が引かれる仕組みです。また、逮捕時に持参していた現金か差し入れでもらった現金からのみ購入することができるので、予め現金を持参できる環境であれば持参するに越したことはないです。
カツ丼は、この留置場のある警察署の食堂で出ているものと同じようで、500円にしてはかなりクオリティーの高い弁当だった。かたやベトナム人は自弁を頼んでおらず、事情を聞くと現金がなく買えないそうなので、僕は同情してカツを食べるか聞いたが、ベトナム人は「大丈夫。貰うと怒られるから」と言って断っていた。
コッペパンを割り、中に小さいミートボールを砕いて入れて食べているベトナム人の隣で、僕はあったかいカツ丼を食べる。カツ丼は涙が出るほど美味かった。
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昼食後はベトナム人と駄弁っていた。僕がベトナム人に「大麻吸ったことある?」と聞くと、「群馬のカラオケにベトナム人に大麻を吸わせてくれる店長がいたから、友達とよく大麻を吸いに行ってた」などと話していた。
しばらくして、互いに身の上話をするのに飽きてくると、今度は便せんとペンを使って一緒に五目並べを始める。留置場では文字を書くこと以外にペンを使用してはいけないという謎ルールがあったので、互いにコソコソしながら○×を書いていたが、ベトナム人が何度も想定外の手で僕を詰ませてくるので、僕は反射的に「うわー」などとデカい声を出してしまう。
そうして留置官に「文字を書く用途以外でペンを使うな」と叱られると、今度はベトナム人に日本の各風俗システムについて便せんを黒板代わりにして講義したり、猥語の漢字の書き方を教えてあげたりする。
ベトナム人に猥語を教えるのに飽きて、再びゴールデンカムイの続きを読んでいると夕食の時間になり、頼んでもいないのに勝手に飯が出てくる。食べ終わった食器は配膳口に置いておくと勝手に回収されている。
夕食後はベトナム人と便せんの紙を破いて紙相撲をする。紙相撲をしてはしゃいでいると、やはり留置官に見つかって「文字を書く用途以外で便せんを使うな」と叱られる。
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程なくして、留置官から弁護士が来たと伝えられたので面会室に行くと、担当の弁護士ではない女の弁護士が座っていた。女弁護士は細い眼鏡をかけて皺のないスーツを着ており、生真面目さが窺える見てくれをしていた。事情を聞くと、女弁護士は父親が仕事関係で世話になっている弁護士で、父親に依頼されて来たそうだ。
女弁護士は「お父様は国選弁護人の方に少し不安があるということで、一応私とも面会してから担当の弁護人を決めてはどうかとおっしゃっており��した」などと言っていたので、僕も一応、これまでの経緯と不起訴を狙いたいという主張を述べてみると、女弁護士は「たしかに私も最初の弁護士の方と同じように、罪を認めて情状酌量を求めるのがご自身のためにいいと思います」などと私選にもかかわらず役立たずなことを言っていた。
僕はそもそも、被疑者段階では黙秘するだけでいいわけだし、弁護士費用がもったいないと考えていたので、「でしたら僕の主張と食い違っているので、国選の方にお願いしようと思います」などと言ってきっぱり断った。
その後、入れ違いで担当の弁護士がやってきた。言われてみれば、たしかにこの弁護士はどこか抜けているところもあるが、実際毎日のように面会に来てくれていることに救われているし、その熱心さによって完全黙秘をする精神性が補強されているのは間違いないので、僕には最適だと思った。
面会が終わると消灯時間を過ぎていたので、睡眠薬を貰い、用意されていた布団に入る。僕は気の合う友人と楽しい漫画、自動で出てくる飯と薬、働かなくていい環境を手に入れて、娑婆のくだらない日常よりも断然愉快な思いをしたことに至極満悦しながら就寝した。
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つづく
この物語はフィクションです。また、あらゆる薬物犯罪の防止・軽減を目的としています( ΦωΦ )
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kinemekoudon · 1 year
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【11話】 大麻所持で起訴されたくなかったので、裁判官や刑事に黙秘しておいたときのレポ 【大麻取り締まられレポ】
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――逮捕から3日目。例によって、6時半に留置官の「起床―!」という大声で目を覚ました後、掃除やら片付けやらのルーティーンをこなし、朝食をとり、運動場で日光浴を済ますと、すぐに留置官から「5番、移送」と声がかかる。
今日は勾留質問というイベントがあることをあらかじめ伝えられていたので、手錠と腰縄をかけられると、昨日に引き続きワゴン車に乗せられ、両隣に留置官が座った。
勾留質問とは、地裁の裁判官が被疑者の言い分を聞いて、勾留の必要性があるかを検討し、勾留を認可するか却下するかを決定するというイベントなのだが、弁護士曰く、薬物事犯は確実に拘留が決定するらしいので、裁判官が“検討する”フリをして、拘留認可の通知を出すという作業に、形式上付き合わされるだけなのである。
※ちなみに、令和3年「犯罪白書」によると、大麻取締法違反の勾留決定率は約99.8%です(勾留却下率0.2%)。また、否認や黙秘をした場合、ほぼ確実に20日間(“勾留の”最長期間)拘留され、弁護士以外の全ての人と面会ができなくなるという“接見禁止”がつきます。
ワゴン車が地裁の地下駐車場に着くと、地下の入口から、50人くらいが一堂に集められた広間に連れて行かれ、地裁での規則を説明されたのち、2畳ほどの待合室に入れられる。その待合室の中は、片側に硬い木のベンチと奥に便器が剥き出しで置いてあるだけの殺風景な部屋で、必要十分な機能を備えた裁判所らしい待合室だと思った。
1人の留置官が僕と一緒に待合室に入り、もう1人は待合室の外で待機していた。最初は裁判所の規則通り静かにしていたが、10分もすると退屈に耐えきれなくなり、僕は留置官と世間話を始めた。
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その留置官は、珍しくヘラヘラとした顔つきをしている柔和な印象の男で、身の上話を聞くと、元々モデルガンを収集していたガンマニアで、モデルガン好きが高じて、拳銃を所持できるからという幼稚な動機で警察になったという馬鹿げた人間だった。
そいつは最近結婚したそうなのだが、嫁が真面目で性格が厳しいらしく、モデルガンのほとんどを捨てられたそうだが、何十万円もする高価なモデルガンだけは、同棲開始前に嫁にバレないよう押し入れに隠しておいたので捨てられずに済んだという話を得意げにしていた。
や���て、ようやく呼び出しがかかり、裁判官の待つ小部屋に連れていかれる。待機の時間は朝から夕方まで続いていたが、その留置官と雑談していたおかげで、地検の待ち時間より長かったにもかかわらず、待ち時間を短く感じることができたので幸いだった。
裁判官の待つ小部屋では、対面に机を介して阿佐ヶ谷姉妹風のおばさん裁判官、その隣に書記官が座っており、おばさん裁判官は見るからにこの業務を面倒くさく思っていそうな、やる気のない面構えをしていた。
おばさん裁判官は、黙秘権の説明と本人確認のための人定質問をしてから、勾留請求書に書かれている被疑事実を読み、「何か言いたいことはありますか?」と僕に尋ね、僕が「黙秘します」と答えると、「それでは、逃亡・証拠隠滅の恐れがあるので、10日間の拘留を認め、接見を禁じます」と告知し、僕が「はい」と応えると、勾留質問はこれにて終了となった。
僕の陳述を親身に聞くフリすらしないおばさん裁判官の無機質な対応に、僕は少し不快に思ったが、どのみち拘留になるわけだし、早く終わるに越したことはなかったので、流れ作業をしてくれてありがたいと思うことにした。
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そうして、勾留質問が終わると、再び待合室で数十分待機させられた後、駐車場に駐めてあるワゴン車に連れ戻され、同行の警官の一人が裁判所から拘留決定通知書を貰ってくるまで、1時間ほど待機させられた。
それから1時間ほどかけて署まで戻り、留置場の居室に戻る頃には、19時位になっており、夕食の時間からだいぶ遅れて食事をとることになった。
ガンマニアの留置官と喋って退屈を紛らわせていたとはいえ、長時間手錠をかけられ、座らされていることにかなりカロリーを消費していたので、弁当一つでは満足できなかった。
食後、ニューヨークの嶋佐似の留置官が「5番、これ接見禁止の通知書」と言って、一枚の紙を鉄格子越しに渡してきて、「もし抗告するなら…」と言ってきたので、食い気味に「大丈夫です」と言って紙を受け取った。
暇つぶしに接見禁止の通知書をしばらく眺めていると、裁判所のババアの顔が浮かんできて、今になって腹が立ってきたので、紙をくしゃくしゃに丸めて壁に向かって思いっきり投げ、嶋佐に怒られるまでしばらく壁当てをしていた。
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――逮捕から4日目。朝の9時半頃、朝食を食べ終え、再度寝ていると、嶋佐が「5番、取調べ」とだけ無機質に言うので、寝ぼけまなこで立ち上がり、鉄格子の前に立つ。
留置官に連れられ、留置場の出入り口前に着くと、壁に両手のシルエットマーク、その下の床に両足のシルエットマークが印された場所があり、そのマークの上に立ち、手をつくように指示をされる。
壁に手をつき、直立する僕の身体を留置官が上からまさぐり、便所サンダルを脱がされ、足の裏まで確認されると、壁を向いた状態で手錠をかけられる。未だに手錠をかけられると、警察モノの映画でも撮影しているのかと錯覚するくらい、他人事のように思えてしまう。
手錠をかけられた後、嶋佐が腰縄を巻き付けてキツく縛ってきたので、「ちょっとキツいです」と申し出ると、「キツくしないといけないんだよ」などとラチのあかないことを言ってきたので、「昨日はこんなにキツくなかったんですけど」などとゴネると、隣にいたガンマニアの留置官が「取調室に行くまでの間だけだからさ。我慢してよ」と柔和になだめてきたので、僕はガンマニアに免じて大人しく従った。
場内から出ると、廊下には前に取調べをしてきた女刑事を含む3人の刑事が立っていて、女刑事を先導に、2人の刑事が腰縄を握って、僕の後ろにつく形で階段を上る。
ひとつ上の階へ上がると、「薬物乱用やめよう」とか「ダメゼッタイ」だのと書かれているバカデカいポスターが間隔なしにびっしりと壁に貼られている廊下を進み、刑事課の横を通った先にある取調室に入る。
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取調室のパイプ椅子に座ると、手錠と腰縄を外され、外した腰縄でパイプ椅子に腰のあたりくくりつけられ、女刑事が湯飲みに入った熱い茶を持ってきて、「それじゃあ取調べ始めるね」などと優しい口調で言い、対面のパイプ椅子に腰掛ける。
女刑事は、じゃりン子チエみたいな顔をして、表面上は男勝りに気丈に振る舞っていたが、口調や表情からは女性的な献身性が感じられた。
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女刑事は、取調べの前に黙秘権について説明をしてきたので、僕はすかさず「事件については黙秘します」と言い、「雑談でしたらしてもいいですよ」と付け加える。
すると女刑事は急に真剣な眼差しになり、「どうして?」と聞いてくる。僕は、前に弁護士に「なんで黙秘するのか聞かれたら、“怖い弁護士に黙秘でいいと言われた”とでも言っておけばいい」と言われたのを思い出し、そのままその台詞を言っておく。
女刑��は「あなたの人生に関わることなんだから、弁護士のいいなりになるんじゃなくて…」うんぬんかんぬんと言ってきたが、僕は「でも黙秘しないと弁護士に怒られるので嫌です」などと幼稚な返答をして、テキトーにあしらっておいた。
刑事調べは、僕が黙秘権を行使したため、事件とは関係のない雑談をすることになった。女刑事は僕が出身した中学校の隣の中学校に通っていたらしく、色々と共通点が多かったので、割と会話が弾んだ。
昼食の時間になり、一旦休憩ということで、留置場の居室に戻される。昼食はいつも、コッペパン2本、小さい包装に入ったジャムとマーガリンに、チョコレートペーストかピーナッツバターが各1個、小さい容器に入った2口3口で食べ終わる惣菜、果物系の味の小さい紙パックジュースかカルアップなのだが、今日は日曜なので昨日購入した自弁もついてきた。
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自弁とは、自費で購入する弁当(お菓子や飲み物も含む)のことで、日曜の昼食はお菓子と飲み物を頼めることになっていたので、この日は小さい紙パックのコーヒー90円と、どら焼き150円を頼んでいた。
どら焼きは別に美味しくもなんとも思わなかったが、コーヒーはとても美味しく感じた。僕は毎日3杯はコーヒーを飲んでいたので、4日ぶりに飲むコーヒーの苦みは舌中に染み渡ったし、何よりカフェインが効いてきて、珍しく覚醒作用をしっかりと実感できた。
昼食後、玉音放送みたいなノイズ感のニュース音声がスピーカーから流れ、それから10分ほど日本の歌が流れる。この日は福山雅治の「家族になろうよ」とかいうしょうもない歌がループでかかっていた。
それからすぐに招集がかかり、例によって手錠をかけられ、取調室に連れて行かれる。女刑事は「まだ話してくれないかな?」などと物寂しそうな風を装って聞いてきたが、僕は「無理ですね。でも、留置場に戻っても退屈なので、雑談してくれると嬉しいです」と正直に応えた。
女刑事は聞き上手だったし、僕はカフェインを摂って多弁になっていたので、それから3時間半ほど、事件に無関係な戯れ言をほとんど一方的にベラベラと喋り続けた。
「ブラジルの刑務所は半年に一度女を連れ込んでSEXができるらしい」とか「ノルウェーの刑務所はスタジオがあってギターを弾けるらしい」とか、「日本の刑務所は娯楽の重要性を軽視していて人権侵害だ」みたいなことを言っていた気がする。
夕方頃、女刑事は少し疲弊した表情で「じゃあ、今日はこのへんで…」と話を切り上げて、「調書を取らなかった」と記載された調書に僕の指印を押させた。文言に問題はなさそうだったので指印を押しておいたが、別に押さなくてもよかった。
女刑事相手に一方的に喋り散らかすという行為でストレスを発散できたようで、僕は非常に愉快な気分で取調室を後にし、留置場の居室に戻っていった。
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つづく
この物語はフィクションです。また、あらゆる薬物犯罪の防止・軽減を目的としています( ΦωΦ )
#フィクション#エッセイ#大麻#大麻取り締まられレポ
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kinemekoudon · 1 year
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【10話】 尿検査を拒否してみたら警察に恫喝されたときのレポ 【大麻取り締まられレポ】
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検事調べが終わって留置場に戻ると、時刻は17時30分になっていた。8時30分頃に出発しているので、実質9時間の労働である。たった5分、検事と会話するだけの労働に9時間。
当然、付き添いの留置官2人と運転手の警官も同じ労働時間なので、かなり無駄な費用がかかっている。そもそも、警官に支払われる給料や、僕を拘留するための費用などは全て税金で賄われているので、僕を逮捕しなければ相当な額の税金が無駄にならずに済んだわけである。
夕食の時間は17時なので、他の収容者は食事を済ませていたが、僕は特別に30分遅れで食事を摂ることになった。例によって質素な内容ではあるが、心身ともに疲弊していたので、夢中になって税金賄い飯をたいらげた。ところで、高カロリーの労働を終えたというのに、いつもと同じ量の弁当で、おかわりもできないというのは不親切だと思う。
夕食を食べ終わり、直角の硬い椅子に座らされ続けたせいでガチガチに凝り固まった腰を手で揉みほぐしていると、留置官から弁護士が来たので面会室に行くようにと指示されたので、ペンと便せんを持って面会室へ行く。
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↑収容者に貸し出されるペンはこのように改造されている。
面会室に入るなり、弁護士は早速、「今日の地検はどうでした?」などと聞いてくるので、僕は「5分程度で終わりましたが、これと言って核心的な質問もされませんでしたし、黙秘しますと言っても、そうですかと言うだけであっさり終わりました」と応える。
弁護士は「まあ最初の検事調べは捜査資料も少ないですから、これからですね」とだけ感想を言うと、「検事はどんな人でしたか?」と聞いてきたので、僕が「黙秘しますと言ったら、豹変したように怒った顔をしていて、おっかなかったです」と応えると、弁護士は「違法な取り調べを避けるための常套手段ですね。録画はせず録音だけしているので、検事の態度や表情までは記録されませんから」と言う。
僕はその言葉に納得し、「検事って公明正大ぶって狡猾ですね」などと言うと、弁護士は半笑いで「検察は警察の上司にあたる役職だから、警察より、よくも悪くも賢いと思ってもらわないと」などと言ってヘラヘラしていた。
そうして弁護士との面会が終わり、自分の居室に戻ると、すぐに留置官から「5番、取調べ」とだけ言われ、再び鉄格子の外に出される。
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留置場から出て、警察署の3階にある刑事部の取調室に連れて行かれると、若い刑事が「任意ですけど、尿検査のために尿の提出に同意してもらえますか?」と聞いてきたので、僕は(仮に大麻の陽性反応が出たとしても、大麻の使用は合法だから問題はない)と思っていたが、刑事が任意だと言うので、「任意なら断ります」と一応言っておく。
すると若い刑事は、僕が尿の提出を拒否する理由をしつこく問いただしてくるが、僕が「任意だからです」とだけ言って頑なに拒否し続けるので、若い刑事はこれでは埒が明かないという顔で一度取調室を出ていくと、いかつめの見てくれの男刑事4人を連れて戻ってくる。
そのうちの1人は、ガサのときにいたオラついた刑事で、ソイツが「やましいことなかったら、尿の提出拒否する必要ないでしょ?」などと詰めてくるが、僕は「やましいことなくても、知らない人に自分の尿を渡したくないので嫌です」と言うと、隣のインテリヤクザ風の刑事が「ほんとは大麻やってたから同意したくないんだろォ?」と声を荒らげて詰めてくる。
僕が「違いますけど、そうだとしても任意なので断る権利はあるはずです」などと応えると、オラつき刑事は瞳孔を開かせた目で「てめえ大麻やってたんだろぉ? ナメてんじゃねえぞ?」とすごんでくる。
僕は現代でも恫喝をしてくる刑事がいるのかと驚きつつも、あくまで毅然とした態度で「あ、恫喝ですか?」と尋ねる。オラつき刑事は一瞬動揺した様子で「恫喝じゃねえだろう」と言いながら、いかにも動揺を隠すように過剰に笑うと、僕の口調を真似ながら「「恫喝ですか?」って言えば、こっちがおとなしくなると思ってる?」などと煽ってくる。
僕はかなり癪に障ったが、なるべく毅然とした感じを保ちながら「いや、てめえとかナメてんじゃねえぞなんて言葉遣いは恫喝に値するでしょ。とりあえずあなたの名前教えてもらえますか?」と喧嘩腰口調で聞く。
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オラつき刑事は「教えません。なんで教えないといけないんですか?」などと挑発的にわざと丁寧語で言ってくるので、僕は「恫喝してきた刑事を把握しておきたいので、教えてください」と応える。
オラつき刑事は「嫌です。教える必要がないので教えません」などとしたり顔で言ってくるので、僕も挑発的に「恫喝してなかったら、名前くらい教えても問題ないと思いますけど。やましいことがあるから教えないんじゃないですか?」と先の刑事の言葉を引用して言う。
オラつき刑事は目を開いて口角を下げた挑発的な表情で「ちがいます。教える必要がないので教えません」などと繰り返し幼稚な返答をしてくるので、僕は「名前を教えてくれないなら、こっちも尿を提出しません」などと言って応戦する。
すると、埒があかないと判断したらしいインテリヤクザ風刑事が「任意で提出しないと、礼状とって強制採尿になるんだよ。尿道にカテーテル挿して採取することになるから、任意の段階で提出しといた方がいいんじゃないかな」とさっきとは違い、こちらに同情するような口調で言ってくるので、僕は少しビビって「本当ですか? 確実に強制採尿になりますか?」と尋ねる。
その刑事は「うん。まあ確実とはいえないけど、薬物事犯では尿は重要な証拠になるからね」などともっともなことを言うので、僕はそもそも尿を提出しても問題ないと思っていたし、尿道カテーテルはとても痛そうで屈辱的に思えたので、「じゃあ任意提出します」と素直に応じた。
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※あとで弁護士に確認したところ、やはり強制採尿になるそうです。ちなみに、逮捕状が出ていない状況で、任意で尿の提出を求められた場合、身体捜査令状が出るまで尿の提出に応じない方が賢明です。
インテリヤクザ風刑事は「うん。じゃあ、採尿してるところを確認しないといけないから、一緒にトイレ行ってもらえるかな?」などと言うので、刑事5人と一緒にトイレに向かう。
トイレに向かう間、僕は「尿は提出しますけど、恫喝されたのは事実なので、あなたの名前教えてもらえますか?」としつこくオラつき刑事に尋ねていたが、オラつき刑事は厄介そうに「だから教えられないんだって」とか「そういう決まりなんだよ」などと言って頑なに教えてくれなかった。
トイレでは、僕が立ち小便器の前で紙コップの中に放尿するのを、刑事たちが監視していた。尿を提出すると、刑事たちは去って行き、再び若い刑事だけになり、今度は「押収したパイプを鑑定に出すんですが、鑑定にあたってバラす可能性があるので、パイプの所有権放棄に応じてもらえますか?」と尋ねてくる。
僕は「尿みたいに、任意で拒否しても強制的に放棄させてくるんですか?」と尋ねると、若い刑事は申し訳なさそうに、「そう…ですね」と言う。僕は疲弊していて、早く自分の居室に戻りたかったので、仕方なく所有権放棄に応じた。
しかし、あとで弁護士に尋ねると、所有権放棄に関しては本当に任意であった。押収された物は起訴されなかった場合、返却(還付)されるのだが、当然、所有権放棄に応じると不起訴でも返却されることはない。2000円くらいのパイプだったので別にいいのだけど、なんか悔しく思う。
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つづく
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#フィクション#エッセイ#大麻#大麻取り締まられレポ
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kinemekoudon · 1 year
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【9話】 弁護士に言われたとおり取調べで黙秘してみたときのレポ・後編【大麻取り締まられレポ】
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朝8時になると、200冊ほどの書籍が並んでいるキャスター付きの本棚が運ばれてくる。この本は官本と呼ばれ、収容者が借りることのできる本なのだが、借りられる機会は1日1回、1人3冊までなので、慎重に選ぶ必要があるらしい。
留置官は先に隣のベトナム人を居室から出すと、ベトナム人は『世界の絶景』みたいなタイトルの大型本を1冊手に取り、居室の中へ戻っていく。
続いて僕の番になる。官本のラインナップは、東野圭吾や筒井康隆などの著名なエンタメ小説をメインに、歴史小説や純文学、学習まんがなども置いてあり、案外退屈しなさそうであった。
僕がどの本にしようか悩んでいると、留置官が「あ、5番はこのあとすぐ新件だから、借りてもすぐに回収することになるよ」と言うので、結局何も借りずに檻の中に戻ると、本当にその後すぐに点呼がかかった。ちなみに新件とは、最初の検事調べのことである。
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僕は初めての検事調べにまだ心の準備ができていなかったが、点呼からすぐに居室から出され、手錠と腰縄をかけられると、地下の駐車場に連れて行かれたのち、ワゴン車の後部座席の中央に、留置官2人に挟まれた状態で座らされる。ワゴン車は、運転席との間に金網のフェンスがあり、運転席と後部座席は完全に区切られていた。
僕はてっきり護送車で送致されると思っていたのだが、今回は近辺で検察に送致される被疑者が少なかったため、護送車を出すほどではないという判断になったそうだ。
ワゴン車が出発すると、僕は次第に不安になってきたので、隣の留置官に「大麻は持っていたんですけど、黙秘すれば不起訴いけるかなあと思ってるんですが、どう思います?」などと、留置官が捜査には関与しないのをいいことに、正直な悩みを打ち明けてみる。
左隣のニューヨーク嶋佐似の留置官は「持ってたなら正直に話すべきだろ。自分から正直に話したら心証がよくなって罪も軽くなるだろうし」などと想定通りのことを言うので、僕は「でも黙秘してたらそもそも無罪で済むかもしれないんですよ」と反論すると、嶋佐は「それで上手くいったとしても、一生、嘘をついたっていう罪の意識を抱えて生きていくことになるんだぞ」などと感情論で反論してくる。
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僕は「嘘はついてないですよ。何も喋っていませんから」と揚げ足をとると、嶋佐はムキになって「本当はやったのに何も言わないのは、嘘をついてるのと一緒だろう」などと言ってくるので、僕は「勝手に質問しといて、答えなかったら嘘つき呼ばわりされるのは意味が分からないです」などと屁理屈を言う。
僕は続けて「そもそも大麻を所持していたこと自体罪だと思ってないんですよ。むしろこうして拘束されていることに被害者意識を持ってるくらいなんで、黙秘をするっていうのは、大麻取締法違反で罰を与えてようとしてくる検察に対しての正当防衛だと思ってます」などともっともらしいことを言う。
嶋佐は平静を装っているが本心は苛立っている感じで「でも人を殺した人がそれと同じこと言ってたらおかしいだろ?」などと反論してくるが、僕は「殺人は被害者がいるんで、殺人だったら罪の意識を持つと思いますけど、大麻所持は被害者がいないんで罪の意識を持ちようがないです」と応える。
嶋佐は「いや…」ととりあえず口に出してから熟考して、「大麻は身体に悪影響だから犯罪になってるんだろ」と少し論点をずらして反論してくる。僕は嶋佐を言い負かすのがおもしろくなって「たとえ悪影響だとしても、自分の身体は自分のものですから、究極、自殺しようと自分の勝手だと思いますけど」などとわざと憎たらしく言ってみる。
すると嶋佐は「まあ5番が黙秘しても、これから証拠は出てくるだろうし、今のうちに自白しといた方が楽になると思うぞ」などと半ギレで議論を放棄してきたので、僕は「確実な証拠が出たら自白するか考えますけど、今は黙秘でいかせてもらいます」などと勝ち誇った感じで、留置官に言っても意味のない宣言をした。
留置官はこの議論に辟易とした様子で「まあ5番の人生だから5番の好きにしたら」と投げやりに言うので、僕は心中(その思想がまさに、自分の好きに大麻を吸わせてほしいという発想の根源なんだが)と思ったが、口に出すとさすがに空気が悪くなりそうだったので、口をつぐんでおいた。
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僕は留置官相手に自分を正当化し、言語化する中で、黙秘がいかに賢明な選択であるかという理論を確立できたので、断固たる気持ちで黙秘しようと踏ん切りがつき、不安がなくなっていた。
そうこうしている内に地方検察庁に着き、留置官に連行されながら、被疑者用の出入り口から入って、迷路のようなルートを進んでいくと、待合室がいくつもある広い空間に出る。
待合室と事務室の間の廊下には、都内のいろんな留置場から集結した被疑者たちが30人くらい並んでいて、僕もその列に並ばされ、何分か経つと、地検に勤務している警備役の警官が点呼をとり、各被疑者を各待合室に振り分けていく。
留置場も異様な光景であったが、地検の待合室のある空間は、より緊張感が張り詰めていて、警官の態度や点呼の仕方は軍人のように厳格で威圧感があり、集められた被疑者たちは、容貌からいかにも半グレな人や大人しそうなおじさんから外国人までが全員グレーの上下スウェットを身につけているので、危うさとカオス感がある。
待合室は、鉄格子と金網の扉が一面についた、5人掛けの硬い木のベンチが部屋の両サイドにある、奥には衝立があるだけで隠れることのできないトイレと洗面が付いているだけの殺風景極まりない部屋で、入室前に警官に「他の人と会話をするな」とか「足を組むな」など厳しく注意された後、僕はキツく両手錠をされたまま待合室に入れられる。
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待合室の定員は10名で、混んでいるときは満員になるそうだが、今回は運良く、詐欺で捕まってそうなチンピラ風の若者と、傷害で捕まってそうな腕を組んで足を広げて座る低身長ガチムチの若者2人のみだった。
10時頃から待機していて、おそらく1時間は経過したであろうが、時計がないので今何時かわからず、やることもなく、自由もなく、呼ばれる気配もないので、本当に時間が長く感じる。ガチムチの若者はイライラして貧乏ゆすりをし出し、僕はそれを見て苛立ちそうだったので、目を瞑って瞑想をする。
しかし、待合室のベンチは壁にぴったり取り付けられており、背もたれは90度に近く、硬く滑りやすい材質の木でできているので、浅く腰掛けて背もたれに寄りかかることができず、姿勢正しく座るのが最も疲れない造りになっていて、リラックスすることができないようになっているので、瞑想に集中するのも難しい。
待機から体感1時間半ほどが経過し、チンピラ風の若者が警官に呼ばれ、待合室を出て行ったが、それからは何も音沙汰がなく、ついに2時間が経過し、12時の昼食の時間になった。警官によって手錠を片側だけ外され、コッペパ���2つと使い切りの個包装されたジャム2つにマーガリン1つ、棒状のチーズ1本、小さい紙パックのりんごジュースが支給される。
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質素な食事ではあるが、僕は待つことに体力と精神力を奪われて疲弊していたので、夢中になって食べてしまう。それに、なにかやることがあるというのが嬉しい。
食べ終わったゴミが回収されると、再び両腕にきつく手錠がかけられ、地獄の待機時間が始まる。ガチムチの若者は食後に小便をするのだが、見ようと思えば見えるし、放尿の音は聞きたくなくても聞こえてくる。それはそうとさすがに腰が痛いし、この仕打ちは人権侵害だと思う。
1時30分頃、ようやく警官に呼ばれ、待合室を後にする。待機時間は人生で最も時間が長く感じた。腰縄をつけられ、留置官に連れられてエレベーターに乗り、担当検事のいる執務室に入る。
執務室は待合室の4倍くらいはある広い部屋で、検事と検察補佐官がそれぞれ大きい机の前に座っていて、その前にパイプ椅子が置いてある。検事は50代後半くらいの男で、上等な眼鏡とスーツを着用し、姿勢がよく余裕のある雰囲気で、おもしろいくらいにエリート感が漂っており、先程まで見ていたワルたちとはちがう威圧感がある。
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僕は執務室に入り挨拶をし、指示されるがままにパイプ椅子に腰掛けると、留置官によって手錠をパイプ椅子に繋がれる。検事は柔和な表情で「取調べの内容は録音させていただきますが、よろしいですか?」と聞いてくるので、僕は「はい」と応える。検察補佐官はノートPCで会話の内容を記録している。
検事は続けて、僕の口から自分の名前や生年月日などを言うよう指示してくるので、僕がそれに応えると、「被疑者〇〇は、大麻成分を含有する植物片13.8gをみだりに所持した疑いで…」などと僕が犯した罪状を読み上げたのち、「あなたには黙秘権があり、言いたくないことは言わなくていい権利があります」と告知してくるので、僕は元気に「わかりました」と応える。
検事は柔和な表情のまま「こちらの罪状を犯したことについては間違いないですか?」などと質問してきたので、僕は一呼吸を置いて「黙秘します」と言う。すると、検事は急に真顔になり、「わかりました」とだけ応える。
検事は真顔のまま「現場ではあなたも乗車していた車の中で大麻成分を含有する植物片が見つかっていますが、これはあなたのものですか?」と質問してくるが、僕は変わらず「黙秘します」と応えると、検事は少し怒ったように目を開いて「わかりました」と言う。
検事は続けて「一緒に同乗していた人はあなたとどうゆう関係ですか?」と質問してくるが、僕は頑なに「黙秘します」と応える。すると検事は再び柔和な表情に戻り、「わかりました。それでは取調べは以上になります。こちらの調書に問題がなければ捺印をお願いします」などと言って、白紙同等の調書を差し出してくる。
僕は「捺印はできません」と応えると、検事は再び真顔になり「わかりました。それではこれで終わりとなります。お疲れ様でした」と言い、補佐官とともに立ち上がって頭を下げていた。
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つづく
この物語はフィクションです。また、あらゆる薬物犯罪の防止・軽減を目的としています( ΦωΦ )
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kinemekoudon · 1 year
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【8話】 弁護士に言われたとおり取調べで黙秘してみたときのレポ・前編 【大麻取り締まられレポ】
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前回のあらすじ 僕とプッシャーと友人の3人で、共謀の上に大麻を所持した容疑で捕まった僕は、接見で当番弁護士に「50パーの確率で不起訴を狙える」と言われていた。
僕は「どういう理屈で50パーなんでしょうか?」と弁護士に尋ねると、弁護士は「共謀の罪での逮捕は、他の方が自白してしまうケースが多いんです」と答える。
僕は「一緒に捕まった2人は自白しないと思うので、大丈夫だと思います」などと言うと、弁護士は「ところが、いざ捕まってみると喋っちゃうんですよ、これが。そういうケースを何件も見てきましたから」と恐ろしいことを言うので、僕は少し勘ぐって黙りこくる。
弁護士は続けて「むしろ、ほとんどの人が喋っちゃいます。黙秘を続けられる人はサイコパスみたいなひとしかいませんね」と笑いながら言う。僕が「まぁ…2人はサイコパスっぽい感じはあります」と応えると、弁護士は「そうですか。いずれにせよ、不起訴を狙うのであれば、現段階では2人を信用するしかないですからね」と身も蓋もないことを言う。
しかし弁護士は、僕が気落ちしているのを見てか「まあ、売人の車で大麻が見つかっていて、持ち主が判明していないという状況ですから、このままいけば、犯行の主体を立証できず、証拠不十分のために不起訴となる可能性は高いでしょう」などと僕に期待を持たせてくれた。
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それから1時間ほど、弁護士に今後の対策について色々と教えて貰った。ただ、僕がやるべきことは、黙秘と署名押印拒否ということであった。不起訴を狙うにあたって、黙秘は自分の利益にはならないが、不利益にもならない。また、調書の署名押印を拒否すれば、調書を証拠資料として使用することを防ぐことができるのである。
また弁護士は、国選弁護人として就いてくれることになり、僕が黙秘を続けるメンタルを保てるよう、頻繁に接見に来てくれると言うので、とても心強い味方がついてくれたと思った。
※このときに弁護士に貰った「取調べをウケる心がまえ」というプリントがよく出来ていたので、pdfのURLを貼っておきます。
接見を終えると、消灯・就寝時間の21時が過ぎ、22時をまわっていた。場内は暗くなっていたが、監視のため蛍光灯がついており、居室内も天井の蛍光灯3本中1本だけ明かりがついていた。
居室に戻ると、留置官が「今日は5番の布団敷いといたから。あと寝る前の薬あるから、このコップに水入れてきて」などと言うので、僕は洗面で水を入れ、鉄格子の前に行く。留置官は配膳口を開き、僕に手を出すように言って、薬の包装シートのプラスチック部分を押して、中の薬でアルミ部分を破り、僕の手の上に直接薬を落とす。
僕はマイスリーとデパスを飲むのは久しぶりだったので、少しわくわくしていた。僕は薬を水で流し込み、コップを留置官に返すと、布団の中に入り込む。布団は非常に粗末なもので、敷き布団はこれぞ煎餅布団といった具合に入れ綿の少ない薄く固い布団で、掛け布団は薄い割に重く、ちりちりしていて触り心地の悪い毛布であった。
寝具は粗末、天井の蛍光灯は眩しい、加えて隣室からはいびきが聞こえるので、この環境で寝るのは、睡眠に神経質な僕には難しいことであったが、こんなこともあろうかと、あらかじめ睡眠薬をゲットしておいたのである。
薬を飲んでから、1分ほどでデパスが効いてきて、強ばった筋肉が弛緩し、あらゆる不安が和らいでくるので、(今日は本当に長い一日だったけど、未体験のことばかりで結構おもしろかったな…)などと天井を見つめながら前向きな回想をしていた。
さらに10分ほど経つとマイスリーが効いてきて、眠たくなってくると同時に、思考が少し加速し、個人的におもしろい発想が連続して生成されているように感じるので、結構楽しい。そうして自分の思考にニヤけたり感心したりしていると、次第に意識が遠のき、いつの間にか眠っていた。
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――逮捕から2日目。朝、起床時間とされる6時30分の10分前に目が覚めた。6時30分になると、消えていた蛍光灯が点灯するとともに、留置官が「起床―!」と大声を出して、まだ眠っている収容者を起こす。
布団を畳み、右隣の居室のベトナム人と入れ違いで布団置き場に布団を置いてから居室に戻ると、配膳口にブラシと雑巾の入った桶が置かれており、トイレと洗面を掃除するように指示をされた。
トイレと洗面はステンレス製で、水垢や尿石もなく清潔であったが、パフォーマンスとして掃除をし、ブラシと雑巾を桶に入れて配膳口に戻した。留置官がその桶を回収すると、今度は扉を開けて掃除機を渡し、床を掃除するように指示をしてきた。床は誰かの抜け毛が多く落ちていたので、割と丁寧に掃除機をかけておいた。
掃除機をかけている間、留置官が配膳口にタオルと石鹸、コップに歯ブラシと歯磨き粉を置いていたので、僕は掃除機を留置官に返してから、洗面で歯を磨き、顔を洗った。
タオルなどを抱え、鉄格子の前で待機していると、昨日左隣の居室でいびきをかきながら寝ていた、ガタイがよく目がギョロリとした50代くらいのヒゲの男が、ロッカーに向かう際にこちらを見てきた。
ギョロ目の男は僕と目が合うと、30度くらい頭を下げて「こんにちは!」と大声で挨拶してきたので、僕は少し萎縮して「あ、ちわ…」とぼそぼそした声で挨拶を返しておいた。ギョロ目の男は続いて、僕の右隣の居室にいるベトナム人にもかしこまって大声で挨拶をしていた。
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↑ギョロ目の男は清原を老けさせてもう少し色白にさせた感じ
ロッカーにタオル等をしまい、自分の居室に戻ると、すぐに朝食の支度が始まった。今回の朝食は、コンビニ弁当のようなプラスチック製の容器の中に、白米、きゅうりの漬物少々、マカロニサラダ少々、千切りされたたくあん少々に、メインのおかずとして野菜の入った薄く丸い形をした小さい天ぷら1つが入っている質素なものであった。
朝食を終えると、時刻は7時15分だった。本を読めるのは8時かららしく、仕方がないので文字通りゴロゴロしていると、「点呼開始―ッ!」という爆音が留置場内に響き渡った。
点呼の合図からすぐに、遠くの方で「第6号室!27番!」という大きなかけ声の後、「ハイ!」という収容者の声が聞こえ、「以上1名!」という大声の後、4人の留置官が「「「「おはようございます!」」」」と大声で挨拶をし、隣の居室へ移っていく。
それから、留置官らは僕の居室の前に立ち、「第2号室!5番!」と大声を出すので、僕は寝っ転がりながら「あい」と応えると、居室の後ろの小窓の前に立っていた暗い色のレンズの眼鏡をかけたヤクザ風の留置官が「座れぇ!!」と大声で怒鳴ってくる。
僕はまぬけ面で「はい?」と言ってみると、ヤクザ風の留置官は「座れ!座って返事しろ!」と大声で指図してくるので、僕は仕方なしに上体を起こし、「はーい」と間の抜けた返事をする。
しかし留置官からのリアクションはなく、3秒ほど無音の空間になる。僕は少し戸惑った感じで「はい…」と言い直すと、留置官は「以上1名!」「「「「おはようございます!」」」」と大声を出し、次の居室へ移っていく。僕は彼らを人間らしくふるまっているNPCだと思う。
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7時30分になり、“運動”の時間になる。この運動の時間とは、留置場の敷地内にある屋根のない狭い場所に出られるというだけの時間である。また運動場では、貸し出しの爪切りや電動ひげ剃りを借りることもできる。
僕はなんとなく日差しを浴びたかったので、運動場で伸びをしていると、隣の居室にいる若いベトナム人が「何で捕まりましたか?」と急に話しかけてきた。僕は「ああ。大麻持ってたのが見つかったんだよね」と応えると、ベトナム人は「ハハ。日本人はだいたいドラッグです。若い人は大麻ですね」と言う。
僕は「そうなんだ。よく知ってるね。ここに来て結構経つの?」と聞くと、ベトナム人は「6ヶ月います」と言うので、僕は驚いて「何をしたらそんなに拘留されるの?」と聞くと、ベトナム人は「ビザが切れて不法滞在で捕まりましたが、コロナのせいで入管は人がいっぱいですから、入管が空くまでここで待機させられています」と言う。
僕は「へえ。それは不憫だなあ。辛くない?」と聞くと、ベトナム人は「もう辛くないです。ここに来て日本語が少し上手くなりました」と言う。話を聞くと、ベトナム人はこれを機に、留置場内で積極的に日本人と喋り、日本語を上達させようとしていたらしい。立派だ。
また、運動の時間が終わる寸前に、左隣の居室にいるギョロ目のじじいとも少しだけ会話をした。ギョロ目のじじいは、僕とベトナム人の会話を聞いていたようで、「おう、5番は大麻か。おれは覚醒剤だよ。よろしく」と言いながら、僕と握手をして去って行った。
つづく
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#フィクション#エッセイ#大麻#大麻取り締まられレポ
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kinemekoudon · 2 years
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【7話】 「大麻所持は不起訴を狙える」と弁護士に助言されたときのレポ 【大麻取り締まられレポ】
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居室で天井を眺めていると、留置官の一人が「5番、病院に薬もらいに行くから出て」と言うので、留置官が鉄格子の扉を解錠した後、僕は居室から出て便所サンダルを履き、留置官の後をついて留置場の出口まで歩いて行った。
留置場の出口の前には留置官が2人待機しており、出口まで案内してきた留置官が「身体検査ーッ!」と大声で号令をかけると、待機していた2人も「「しんたいけんさー!」」と大声で復唱し、3人によって身体検査をされる。
検査が終わり、留置官の1人が「身体検査ーッ、異常なしッ!」と大声を出し、もう2人も「「しんたいけんさー!いじょーなし!」」と大声を出すと、僕は手錠と腰縄をかけられた。
それから、解錠時の号令の後に大扉が開かれると、大扉の先には4人の刑事が待機しており、1人の刑事に僕の腰縄が受け渡される。大扉が閉まると、今度は刑事たちによって再び身体検査が行われた。
検査後、4人の刑事に囲まれながら、エレベーターに連れて行かれると、腰縄を握った刑事が「壁を向いたまま、奥の右角に立って」などと言うので、僕はそのように立った。
エレベーターが地下1階につくと、今度は「ゆっくりと時計回りで前を向いて」と指示をされたので、僕が時計回りに身体を動かすと、背後で腰縄を握っている刑事も、僕の背後をキープするように時計回りに動いていた。
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それから刑事らに連れられ、警察署の地下にある薄暗い駐車場に出た。目の前には、一般車両のように見えるミニバンが停まっており、その奥には15人程度の警察官が並んで立ち、こちらを見張っていた。
前に2人の刑事が乗り、僕は残りの2人の刑事に挟まれる形で後部座席に乗ると、車は警察署を出発し、病院へと向かった。移動中、運転していた若い刑事が「ほんとは大麻やってたんでしょ?」などと聞いてきていたが、僕は「本当にやってないです」などと条件反射のようにシラを切っていた。
しかしその刑事は、その後も何度も尋問してきたので、「ここで取り調べしても、調書に残せないんで意味ないと思うんですけど」などと鬱陶しげにぼやくと、助手席に座っていた中年刑事が「たしかに意味ねぇからやめろ」などと言ってケラケラ笑っていた。
病院に着くと、手錠と腰縄をつけられたまま、病院の裏口から診察室まで連れて行かれ、問診が始まる。医者は、僕が睡眠障害を患っていて、娑婆では睡眠薬を処方されていた旨を刑事から聞くと、「処方されていた睡眠導入剤は何ですか?」と僕に尋ねてくる。
当時、僕は本当は睡眠薬を処方されていなかったが、「マイスリーです」と過去に飲んでいて好きだった睡眠薬の名前を答えた。続けて医者は「何ミリですか?」と聞いてきたが、僕は何ミリだったかは忘れていたので、「一般的な容量だったと思います」などといい加減に答えた。
しかし医者は訝しがることもなく、「5ミリか10ミリですが…では一応10ミリで出しておきますね」などと気前のいいことを言っていたので、僕は図に乗って、「あと、一応デパス0.5ミリもお願いします」などと言って、ついでに抗不安薬もゲットしておいた。ちなみに医療費はタダであった。
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警察署に着き、留置場の自分の居室に戻されると、ちょうど夕食の時間である18時前になり、留置官が各居室をまわって、食事をする際に下に敷くための丸めたゴザを配っていく。
鉄格子には“配膳口”と呼ばれる、廊下側に開き、そのまま物を置く台となる仕組みになっている小さい扉があり、食事等々の物はこの配膳口を介して受け渡しされていた。
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ゴザを敷いて待っていると、留置官でない一般のおじさんが配膳カートを押してやってきて、各居室にプラスチック容器に入った冷たい弁当と箸を配っていく。続いて、留置官がやかんを持って、各居室にプラスチックのお椀にやかんから味噌汁を注いでいく。
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僕はゴザの上に弁当と味噌汁のお椀を置くと、まずは味噌汁をすすってみる。味噌汁の味はかなり薄く、味噌汁という���り味噌風味のお湯が適当だと思う。続いて弁当を食べる。
この日の弁当の中身は、主菜として“塩味の低級豚肉の切り身1枚”とその下に申し訳程度に敷いてある“ほんのりケチャップ味のするスパゲッティ”、副菜として“大豆と千切りされたこんにゃくを異常にしょっぱく和えたヤツ”とその隣に“半分以上片栗粉の餡が占めている肉じゃが”、お新香として“桜大根少々”に、白米であった。
弁当のおかずは全体的に味が薄く、白米が進まなかったが、食べている途中で配膳口から醤油とソースが入れられたので、豚肉に醤油をかけて無理矢理味を濃くして白米と一緒に食べた。
弁当と味噌風味のお湯を完食し、空の容器とお椀を配膳口台に置いておくと、一般のおじさんと留置官が勝手に回収してくれた。回収が終わると、一般のおじさんが、味噌風味のお湯が入っていたお椀にお茶を入れてまわっていたが、お茶もお湯寄りの味だった。
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食事が終わると、僕は床にごろんと寝転がった。ぼうっと考え事をしていると、そういえば職場に出勤の連絡をしてから、パッタリ連絡が途絶えている状態になっていることを思い出し、慌てて近くに居た留置官に外部との連絡手段はあるかと尋ねた。
留置官は“警察の検閲を介して手紙を送る”か“弁護士伝いに連絡を取ってもらう”しか方法はないと言う。しかしそうなると、病院に行く前に来ていたヤブ弁護士は追っ払ってしまったので、手紙の手段しか残されていないことになる。
僕は留置官に頼んで、便せんと封筒、切手を購入し、父親宛に『突然だけど、大麻取締法違反の容疑で捕まったから、会社の人には「詳しい事情は私も分かりませんが、息子は知人のごたごたに巻き込まれ、冤罪で捕まっているようです」みたいなこと言っといて』という趣旨の文章を綴り、留置官に渡した。手紙が届くのは最短で明後日になるそうだ。
手紙を渡した後、(一般的な日本人は、仮に不起訴になったとしても、逮捕されて留置場に入ってたってだけで犯罪者と誤解するんだろうな…)などと少し悲観的な妄想をしていたが、(不起訴なのに解雇するのは不可能だろうし、悪びれず堂々としていればいい)と気を持ち直し、一旦、未来のことを思案するのはやめておいた。
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それから、本を読んで時間を潰していると、就寝時間の1時間前、20時になり、ボールペンと本が回収される。また、20時30分になると、就寝準備のため、居室から歩いてすぐの場所に布団置き場から順番に自分の布団を居室に運び、歯磨きを行う。
運んだ布団を広げようとしていると、突然、留置官が「5番、接見。当番弁護士さん」と言う。僕はなぜ当番弁護士が来たのか分からず、「弁護士ですか? 今日断ったんですけど、どなたですかね?」と聞いたが、留置官は「分からないけど、とりあえず行って。これ、ボールペンと便せんね」と言い、僕を面会室へ連れて行く。
面会室のドアを開けると、その当番弁護士はすでに椅子に座って待っていた。弁護士はロバートの秋山似の顔で、ずんぐりした体型をしており、前に来た弁護士とは対照的に、野暮ったいスーツを着ていた。
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お互いに挨拶を済ませると、弁護士は「今日、当番弁護士が来たと思いますが、その人がこの件について『弁護士倫理に反する案件だったので、お断りしました』というメッセージを残していて、私は次の当番として待機していたんですが、どういうことか気になって来たんです」などと言う。
僕はこの弁護士に期待できる気がして、『前の当番弁護士に、「売人と友達の3人で共謀の上、大麻を所持した容疑で捕まったが、大麻は売人の車に放置された状態で見つかっており、他の証拠は見つかっていないはずなので、罪を犯しはしたが不起訴を狙いたい」と話したところ、弁護士倫理に反すると言って、引き受けを拒否された』という内容を詳細に伝えた。
弁護士は僕の話に真剣に相槌を打ちつつ、事件の内容をメモに残し終わると、「はーなるほど。それは前の弁護士が悪いですね」とはっきり言い切っていた。僕はその��葉を聞き、胸のすく思いがして、「そうですよね!いやーよかったです」などと少し興奮しながら応える。
弁護士はさらに、メモを確認しながら、「うん、なるほど…。こう言ってはなんですけど、おもしろい事案ですね。たしかに、これは不起訴を狙えると思いますよ」と嬉しいことを言うので、僕は「ありがとうございます!ちなみに、不起訴勝ち取れる確率は結構高そうですかね?」と意気揚々と尋ねると、弁護士は「まあ、50パーセントですかね」と言っていた。
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つづく
この物語はフィクションです。また、あらゆる薬物犯罪の防止・軽減を目的としています( ΦωΦ )
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kinemekoudon · 2 years
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【6話】 「大麻を所持していたが不起訴にしたい」と言ったら弁護士にキレられたときのレポ 【大麻取り締まられレポ】
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パトカーが警察署に着くと、まずは3階の取調室に連れて行かれ、ガサのときにいた女の刑事によって取調べが始まった。
女刑事は「大麻を所持したことを認める?」だとか「逮捕されたことをどう思う?」などと質問をしてきたので、僕は白々しく「認めません」とか「不服です」などと虚偽の弁解をしておいた。
質問は10分ほどで終わり、女刑事が「調書の文言に問題なかったら、ここに拇印押して」などと作成した調書の確認を求めてきた。僕は(完全黙秘にしておくべきか…?)と数秒勘ぐっていたが、(罪を否定するくらい問題ないか…)と思い、拇印を押した。
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それから口腔内細胞を採取された後、警察署の1階で大型の機材による指紋の採取や全身の写真撮影などが行われ、僕の生体情報が事細かに収集される。
諸々の手続きが終わり、一度取調室でコッペパン2本と紙パックジュースだけの昼食を済ますと、僕は3人の刑事に囲まれながら、2階にある留置場の前に連れて行かれた。留置場の入り口は、分厚く大きい鉄製の扉で閉ざされ、厳重に管理されていた。
入場前に刑事たちに簡易的な身体検査をされると、前にいた刑事が指差し確認をしながら「前方ヨシ!後方ヨシ!大扉ァー!解錠ォー!」などと無駄に大声をあげる。さらに、それに呼応して残りの2人が「「おーとびらー!かいじょーっ!」」と声を揃えて大声をあげる。
すると留置場内からも「「おーとびらー!かいじょーっ!!」」という大声が聞こえ、大扉がゆっくりと開かれる。そうして僕の腰縄が留置担当官に引き渡され、ついに留置場に入ることになる。
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留置場内は、天井の蛍光灯のみ照らされた薄暗い雰囲気で、留置官の顔は刑事とは違って目に生気がなかった。留置官は僕の手錠と腰縄を外すと、2畳ほどの事務室に僕を連れて行き、留置手続きを始めた。
留置官はまず、身体検査を行った。僕はてっきり全裸にされて陰茎から肛門まで調べられると思っていたが、Tシャツとパンツを着用したまま、金属探知機を全身に当てられたり、スクワットをさせられたりするだけで少しがっかりした。
身体検査が終わると、留置場貸し出しのグレーの上下スウェットと茶色の便所サンダルに履き替えさせられる。便所サンダルには“5”という数字が書かれており、留置官に「場内では5番って呼ばれるから。収容者とも番号で呼びあうように」などと無愛想に告げられた。
それから、留置官が僕の荷物を机の上に出すと、留置場に持ち込める物と警察での預かりになる物とに仕分けを始めた。荷物の内容はほとんど持ち込み可能であったが、ステテコに関しては紐が首吊りに使われる恐れがあるとの事で、紐を抜いた状態で持ち込む事になった。
そうして留置手続きが終わり、僕は留置官の案内のもと、居室の近くに設置してある各人のロッカーに自分の持ち物をしまった。
僕のいた留置場は、4人まで収容出来る6畳程度の部屋が15室ほどあった。すべての部屋は前面に鉄格子の扉があり、奥には和式便所と洗面だけ設置されていて、生活スペースには硬いカーペットが敷いてあった。
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また、僕のいた留置場はどの居室も1~2人だけ収容されている居室しかなく、幸いなことに、僕の入った居室は自分だけの貸し切りであった。
僕は留置官に連れられ、2号室の居室に入ることになった。隣の1号室には、国籍不明のアジア系の青年が鉄格子を両手で掴んだ状態で、僕が居室に入るまでこちらを凝視していて少し気味が悪かった。
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留置官に居室の扉を施錠されると、僕は一旦、居室の中央に行ってごろんと大の字に寝転がった。そしてしばらく天井を見つめた後、ごろごろと左側に転がり、壁際に行ってみる。
壁を眺めていると、鉛筆で書かれた落書きや、2、3日前につけられたと思われる新鮮な鼻糞が付いていたので、主にその鼻糞を眺めていた。
鼻糞を観察していると、留置官がこちらにやって来て「5番、当番弁護士さん来たから用意して」などと伝えてきたので、僕は留置官の案内で、居室の前の廊下を進んだ先にある面会室に入った。面会室は映画のセットそのもので、少し高揚した。
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弁護士を待っている間、僕は(弁護士は守秘義務があるし、全て包み隠さず話しても大丈夫なんだよね…?)などと懸念していたが、(どうせ杞憂に終わるだろう)と思い考えるのをやめた。
しばらくすると、アクリル板で隔てられた向こう側の部屋のドアが開き、当番弁護士が入ってきた。弁護士は茂木健一郎をぶくぶくに太らせたような見た目をしており、目つきは鋭く、どこか横柄な雰囲気が漂っていた。
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茂木似の弁護士はドカッとパイプ椅子に腰掛けると、適当に自己紹介を済ませた後、ふがふがと鼻息を荒くしながら「今回はどのようなことがあったんですか?」などと、まるで興味がなさそうな口調で聞いてくる。
僕は、“友人と共に売人から大麻を買ったが、大麻は売人の車の中に放置された状態で警察に見つかった”などと包み隠さず話し、「…それで、3人で共謀のうえ大麻を所持した疑いで逮捕されたんですが、自白しないで不起訴を狙おうと思ってます」などと真面目に伝える。
しかし茂木は僕が話している間、メモもとらずに正気を疑うような顔をしていた。しかも僕が話し終わると「…えっと。大麻を買って所持していたんですよね?」などと意味のない確認をし、「他の2人は自白するでしょうから、不起訴処分は無理ですよ」などと半笑いで言ってきた。
僕は少しムカついて「たしかに車内で大麻は見つかってますけど、誰の所有物かは明らかになっていないので、嫌疑不十分だと思うんです。それに、他の2人は自白するような人ではないですね」などと反論してやる。
すると、茂木は鼻息を荒くしながら「そうだとしても罪を犯したわけですから、反省して正直に供述するべきです」などとぬかしてきたので、僕は呆れた表情で「いや、せっかく不起訴を狙えそうなんで、黙秘でいこうと思ってます」となどと生意気に言い返す。
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茂木は犯罪者に口答えをされたことが癇に障ったようで、わなわなと身を震わせながら「薬物から離れた環境で暮らした方があなたのためになると思っているので、無罪を主張するならあなたの弁護はお引き受けできません」などと正義面して説教をかましてくる。
僕は少し戸惑って「弁護士って、依頼人の弁護をするのが仕事ですよね?」と尋ねると、茂木は「罪を犯したのに無罪を主張するのは、弁護士倫理に反するので、あなたの弁護はできません」などともっともらしいことをほざく。
僕は「じゃあ他の弁護士さんに依頼するんで、大丈夫です」などと言うと、茂木は「当番は1人までしか接見できませんので、国選が嫌であれば、お金を払って私選に依頼するといいでしょう」などと、貧乏人には痛手だろうがというニュアンスを含んだ口調で蔑んでくる。
僕は「そうですか。いい当番弁護士に当たるかどうかって運次第なんですね」などと皮肉を言ってから、「まあ黙秘するだけなんで、弁護士の方は必要ないですね」などと一丁前に言ってやった。
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茂木は口を閉じて鼻で深く息を吸い込み、怒りを堪えた表情を見せた後、「はい。それでは本件は弁護士倫理に反するので、私はお断りします」などと言って席を立つと、こちらに一瞥もくれず面会室から出て行った。
僕はヤブ弁護士なんぞの世話にならずに済みせいせいしていたが、自分の居室に戻り、(本当に弁護士なしで大丈夫なんだろうか…)などと考えながら、独りポツンと座っていると、次第に心細くなってくるのであった。
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つづく
この物語はフィクションです。また、あらゆる薬物犯罪の防止・軽減を目的としています( ΦωΦ )
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kinemekoudon · 2 years
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【5話】 大麻を所持していたのにガサで見つからなかったときのレポ 【大麻取り締まられレポ】
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警官が4人、玄関の前に立っている。恰幅のいいオラついた警官が「大麻取締法違反の容疑で、裁判所から捜索差押えの許可が出てるから。おら、動くな」などと言って、ガサ状を見せつけてくる。
僕はガサ状を突きつけられ、(仕事はクビになるだろうし、彼女にはフラれるだろうし、薬物は使えなくなるだろうし……)などと、一瞬のうちに様々な懸念が脳裏をよぎっていた。
僕はあからさまに狼狽していたが、途中から、狼狽している様を見られるのは不利だと思って、平静を装うことにした。しかし平静を装ってみせても、家の中にある大麻やLSDが見つかるかもしれない不安で、異常なほど動悸がしていた。
(まず龍角散のど飴の袋の中にLSDがあるでしょ。それから、机の上に大麻バターがコーティングされたポップコーン…。あと、少しだけ残ってる大麻リキッドが床に転がってて、バッズはこの前吸いきったけど、おそらく床にカスが散らばってるな……)
僕は一旦落ち着いて、家の中にある“違法ドラッグの在り処”を思い出すと、所持している違法ドラッグがバレないように(なんとしても白を切ってやろう)と腹を決めた。
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そうして、ついにガサがはじまった。4人の警官が、床に置きっぱなしの本や服を片っ端から拾い上げたり、冷蔵庫の中や押入れの中のものを引っ張り出したりして、家中を隈なく探している。
最初は、スマホを押収された。スマホの中には、証拠という証拠を残していないつもりだったが、値段だけ聞いたプッシャーとのやり取りがWickrに残っているのを思い出し、少し動揺した。
ちなみに、通信機器としてはPCやタブレットも持っていたが、オラついた警官が「これは押収しないでおいてやる」などと偉そうに言っていたので無事であった。
それから、手巻き煙草用のフィルター、巻紙が押収された。僕が「押収された物は、問題なければ返してもらえますよね?」と聞くと、オラついた警官に「大麻を吸うときに使ったものが返ってくるわけないだろう」などと理不尽なことを言われた。
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巻紙はともかく、大麻を吸うときに煙草のフィルターを使ったことはないし、一般的にも煙草のフィルターが使われることは滅多にないので、心中でこれは不当な押収だと腹を立てていた。
続いて、机の上に放っていたモンキーパイプが押収される。モンキーパイプは任意同行の後に捨てたのだが、パイプくらいはいいだろうとタカをくくって再度購入していたのであった。
このパイプ自体に、大麻のカスが残っているということはなかったが、パイプの中にこびりついている焦げ付いた大麻を鑑定されたらマズいのではないかと勘ぐっていた。
そうこうしていると、女の警官が、LSDの入った龍角散の袋を外側からいじっていた。僕はなるべく龍角散を直視しないように気をつけながら、固唾をのんで見守っていた。
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すると女の警官は、外側を触って硬いものしか入っていないことだけ確認し、単純に“大麻は”入っていないと判断したのか、あっさりとそのまま元の場所に置いていた。
LSDがバレずに済み、僕がひとまず安堵していると、今度はオラついた警官が床に落ちている大麻のカスを見つめていた。大麻のカスは目視で0.2gほどあり、証拠品としては充分な量があった。
ただ、大麻のカスは煙草のシャグとともに床に散らばっていたからか、オラついた警官は「汚えなあ。ちゃんと掃除しろよ?」などと余計なおせっかいを言うだけで、大麻があることには気づいていない様子だった。
僕はヘラヘラしながら「すいません…ずぼらなもんで」とか言って後頭部を掻いていたが、心中では警官のザルすぎる捜索をニタニタとせせら笑っていた。
しかし油断して顔をニタつかせていると、オラついた警官は、床に転がっている大麻リキッドを拾って「これは何に使うの?」などと聞いてきたので、僕は再び動悸が激しくなった。
僕は大麻リキッドについて聞かれた時のために、一応セリフを用意していたので、できるだけ自然体を装って「あーそれは煙草のリキッドです。ニコチンが入ってます」などと無理を承知でウソをついてみた。
すると、オラついた警官は「今どきはそういうのもあるのか」などとあっさり納得して、そのまま床に置いていた。
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一応、“警察はガサ入れでどこまで差し押さえできるのか”について書いておきます(飛ばしていいやつ)。
警官が家宅捜索をする際には、原則としてガサ状が必要なのですが、このガサ状に“差押えるべきもの”として記載されていない物を差し押さえた場合、違法な捜索となる可能性があります。つまり今回のケースでは、大麻取締法違反の容疑に関する物しか差押えすることができなかったので、ニコチンリキッドと主張している物を差押えることは難しかったのです(そもそもTHCリキッドを知らなかったんでしょうけど)。
僕はあまりに上手く隠し通せていることに逆に不安になってきたが、オラついた��官が悔しそうに「ないなあ…」とつぶやいていたので、必死に探してこのザマであると確信し、胸をなでおろした。
すると、若い警官がオラついた警官にアピールするように、「ここの机ってまだ調べてないですよね? 調べます!」などと言って、大麻ポップコーンが置いてある机の上のものを、テキパキと確認しだした。
しかし、若い警官は動作がテキパキとしているだけで、肝心の大麻ポップコーンには目もくれていなかった。おそらく、エディブルという存在そのものを知らなかったのだと思う。
そうして、無事捜索が終わると、女の警官が「これから留置場に移送されるけど、留置場で使える現金とか、留置場で読みたい本とか、服も持っていけるからね」などと優しい口調で教えてきた。
僕は(大麻が見つからなくても、やっぱり逮捕はされるのか…)などと、いざ逮捕されることがわかると絶望感がすごかった。
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僕は落胆しながらも、女の警官の助言通りに、衣服や本を見繕って、持っていたリュックが満杯になるまで詰め込んだ。衣服は、Tシャツとパンツを5枚程度とステテコ、本は当時ハマっていた村上龍の小説と、『催眠術のかけ方』上・中・下巻の3冊を選び、リュックに詰めた。
それから、女の警官に「処方されている薬はあるか」と尋ねられた。当時は、病院から処方されている薬はなかったのだが、僕は根っからの不眠症なので「睡眠薬を処方されています」と嘘をついておいた。
というのも、当時は大麻のおかげで眠れていたので、大麻がない環境、ましてや留置場の中ではなかなか眠ることができないだろうと咄嗟に判断したからである。
そうして、一通り事務的な問答が終わると、オラついた警官は「大麻成分を含有する植物片13.8gを吉岡さんと小林さん(プッシャーの本名)と共謀の上、みだりに所持した容疑で……」などと逮捕状の音読を始めた。
オラついた警官は逮捕状の音読を終えると、「両腕を前に出せ。そう」などと居丈高に言い、「逮捕時刻午前10時13分」などと言って、僕に手錠をかけた。手錠をかけられると、逮捕されたという実感がありありと湧いてくるので、手錠の効力を思い知らされる。
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続けて、若い警官が手錠の繋ぎ目の輪の中に縄を通し、その縄を僕の腰に巻き付けると、犬を散歩させるリードのようにして、縄の先をしっかりと握った。
そうして、僕はそのリュックとともに警官に連行され、アパートの前に横付けされたパトカーに乗り込むのであった。
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この物語はフィクションです。また、あらゆる薬物犯罪の防止・軽減を目的としています( ΦωΦ )
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kinemekoudon · 2 years
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【4話】 ガサが入ると分かっていたのに大麻を所持していたときのレポ 【大麻取り締まられレポ】
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前回のあらすじ 僕と友人の吉岡は、プッシャーのANIから大麻とANI特製の曲げ玉(MDMAとLSD)をひいた後、運悪く職質をしてきた警察に大麻が見つかり、警���署に連行されたのであった。
――僕を乗せたパトカーが警察署に着くと、同乗していた警官は、後続の車に乗っている吉岡やANIを待たずに、僕を警察署の中へと連れて行く。
警官はそのまま3階に上がり、刑事課の脇の通路を歩いていくと、オフィス机にパイプ椅子が2つだけの、いかにも取調室という感じの部屋に案内し、ここで待つようにと僕に言いつけてどこかへ去った。
取調室で待っている間、刑事課のオフィスをじろじろ眺めていると、刑事らは事務作業の手を止めて、僕ににらみを利かせてきた。刑事課は目がパキっている刑事ばかりでおっかない雰囲気だった。
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そうこうしていると、ほぼ唯一穏やかな面をした中年男がやってきた。中年は「事情は聞いたけど、運転席の男が大麻の売人なんじゃないのかな?」などと穏やかな口調で質問してきたが、僕は「さぁ? 違うと思いますけどねえ」などと意味深にしらばっくれておいた。
それから1時間半くらい、中年のゆるい質問にいい加減に返答していると、中年は取り調べに飽きた様子で、「煙草吸うんだっけか? 喫煙所は下の駐車場なんだけど、行くか?」などと言ってきたので、ニコチン中毒の僕は喜んでついていった。
喫煙所で中年と煙草を吸っていると、中年は「前に捕まった漫画家なんかはさ、大麻吸ってインスピレーションを得ようとしてたみたいなんだよね」などと無駄話をしてきた。
僕は素知らぬ顔で「へーそうなんですね。ところで大麻ってどんな効果があるんですか?」と質問してみると、中年は「酩酊感があって、ある種のトランス状態に入れるみたいなんだよ」などと的を射た説明をしていたので、ちょっと感心した。
そうして中年と雑談をしていると、刑事課のオフィスで目をパキらせていた刑事がやってきて「運転席の男から大麻買ったんだろ? 正直に言った方がいいよ」などと煙草も吸わずに無礼な物言いで問い詰めてきた。
僕はそいつの問いかけを無視して、「こうやって気を抜いてるところを狙って、ボロ出させようみたいな作戦ですか?」と中年に話かけると、中年は「いやいや。まず取り調べ中に喫煙所に行くこと自体、滅多にないからなあ」などと言っていた。
僕は中年の方を見たまま「なんか刑事ドラマとかでありそうですよね。こういう取り調べのやり方」などと皮肉めいたことを言ってパキった刑事をあしらうと、パキった刑事は無言で僕を睨みだしたので、中年は気まずそうに煙草を吸っていた。
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取調室に戻った後、中年は「じゃあ事情聴取はこれで終わりだから、パトカーで家まで送っていくよ」などと言って、僕は再度駐車場に連れて行かれた。
僕が乗るよう指示されたパトカーには、既に友人の吉岡が後部座席に乗っていた。警官がいる手前、余計な話はできないので、僕と吉岡はニヤニヤしながら互いを見合った。
パトカーが僕の住むアパートにつくと、同乗していた警官らは、アパートの外観や部屋の扉を撮影してから、住居が確認できる書類を見せるよう僕に言って、その書類を撮影していた。
僕が警官の一人に書類を見せている間、吉岡がふざけてその警官の背中に中指を立てていたが、もう一人の警官に見られてすぐ引っ込めていた。
警官を見送った後、僕と吉岡は“大麻が見つかったのに試薬検査で反応が出ず、現行犯逮捕されなかった”という事実に、2人して抱腹していた。僕らは一旦落ち着こうとコンビニに入るも、興奮が覚めやらず、店内でこれまでの互いの経緯について話し合った。
僕が一番気になっていたのは、吉岡がANIから貰った“曲げ玉”についてだったが、吉岡はANIが職質を受けている間、曲げ玉を後部座席のシートに捨て、それが運良く警察に見つからず、難を逃れたということだった。
そうしてようやく家に戻ってから、僕らは作戦会議をした。とりあえずガサは入るだろうから、今後はネタを持たない、喫煙具も持たない、wickrのログを残さない、ということを徹底し、また内偵にも気をつけようということになった。
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そういうわけで、僕らは家に残っていたなけなしの大麻を全て吸いきった。これで大麻を吸うのは当分先になるだろうと思うと残念だったが、証拠を隠滅できたと思うと清々しさがあった。
朝になり、僕らは早速喫煙具を捨てに行くことにした。出際に職質されては元も子もないので、吉岡に偵察をしてもらったのち、僕はリュックの中に2Lのペットボトルくらいの大きさのガラスボングとモンキーパイプを入れて家を出た。
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僕らは途中で吉岡の家に寄り、吉岡の喫煙具もリュックに詰めると、“エゴデス公園”に向かった。エゴデス公園は、僕と吉岡がLSDでエゴデス(自我の死)を経験したメモリアルな公園であり、また深い池があるので、捨てるならここしかないだろうという話になっていた。
エゴデス公園に着くと、僕らは早速、池に向かってパイプを放り投げた。僕は続けて、ボングを池の中央に放った。放ったボングは、ドボンと音を立てて水中に沈んでから、一度水面に浮上すると、コポコポと音を立てながら再度水中に沈んでいった。
ボングの供養が終わると、忘れていた疲れがどっと襲ってきたので、今日のところは解散し、各々何かあれば逐一報告しようということになった。
――翌日の夜、僕はANIにwickrで電話をかけた。ANIは電話に出るなり「お前らよぉ、喋ってねえだろうなぁ?」とドスの利いた声で聞いてきたので、僕はちょっと萎縮して「喋ってないですよ」と答えた。
しかしANIは僕を警戒して「本当か? 喋ってないか?」などと同じ質問を繰り返した後、「今そこに誰かいるか?」 「今、家か? TVの音聞かせろ」などと言って、僕が警察と一緒にいないかを念入りに確認してくる。
僕がちゃんとANIに言われた通りにすると、ANIは「まぁ大丈夫そうか」などと言い、急にいつものようなフランクな口調に変わって、「お前よぉ、車ん中に大麻捨てたろ?」などと軽く笑いながら聞いてきた。
僕は「すいません。でもあの状況ではそうするしかなくて」と言い訳すると、ANIはふざけた口調で「お前だけ捕まってれば丸く収まってたのによー」などと冗談か本気かわからないことを言っていた。
それから僕は「実は大麻だけじゃなくて、曲げ玉も車内に捨てちゃったんですけど、あれバレなかったですか?」と恐る恐るANIに尋ねると、ANIは愉快なことを言っていた。
ANIの話を要約すると、ANIは自分の車で警察署に向かう際、一度車内をチェックしたところ、僕と吉岡にあげたはずの曲げ玉を発見したので、警官の目をかいくぐってその場で口に放り込んだということだった。
そして、その後の取り調べでは、職質のときに大麻の試薬検査をしていた女の刑事に、朝まで5時間も取り調べされていたという。LSDとMDMAがキマった状態で。
僕は「自白剤飲んだのに、よくも喋らず取り調べトリップを遂行できましたねー」などと茶化すと、ANIは「逆にフレンドリーに対応できてよかったけどな」などと勇ましいことを言っていた。
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――それから2ヶ月経ったが、警察からは何も音沙汰がなかった。僕はこの頃、大麻の使用は合法だし、吸うぐらいならいいだろうと高をくくって、別の友人の家で大麻を吸っていた。
――そうして3ヶ月が経つと、なぜか僕の家には、大麻のバッズやリキッドにエディブル、さらにはLSDまでもが置いてあった。
丁度3ヶ月経った日の夜、吉岡から電話がかかってきた。吉岡は「知り合いの元半グレにドラッグの師匠がいるらしいんだけど、その人に聞いてもらったら、「職質から3ヶ月もガサが入らないってことは通常ないから、この件は事件化してないはずだ」って言ってたんだって」などと嬉しそうに言っていた。
僕はその時、大麻を所持している分際で「吉岡さあ、正常性バイアスかかっちゃってるよ」などと吉岡を腐したが、日が経過するごとに(本当にそうなんじゃないか?)と思うようになっていった。
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――3ヶ月半ほど経った日の朝、在宅勤務の僕は、いつものようにパソコンで出勤ボタンを押すと、再び眠りについた。
それから約1時間後、(コンコンコンコン)とドアをノックする音が聞こえて、僕は目を覚ました。僕はふらふらとした足取りでドアの前まで行く。
「どなたですか?」と尋ねるも、返事がない。もう一度「どなたですか?」と尋ねると、ドアの向こうから「下の階の者ですが」と返事が来る。
僕は眠い目をこすりながら(朝っぱらからなんの用だよ)と少しイラつきつつドアを開けると、警察が4人立っていた。
恰幅のいい一人の男が「警察。今から家宅捜索するから」と目を血走らせながら言った。一瞬で眠気が飛んだ。
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つづく
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この物語はフィクションです。また、あらゆる薬物犯罪の防止・軽減を目的としています( ΦωΦ )
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kinemekoudon · 2 years
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DMT喫煙トリップレポート
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DMTとは?
DMTは、メキシコや南米、アジアの一部で見られる特定の植物(サイコトリア・ヴィリディスなど)から抽出して得られる白い結晶性の粉末で、マジックマッシュルームなどと同じトリプタミン系のサイケデリック物質です。
どのように摂取するの?
合成DMTは気化させて喫煙したり、注射したり、鼻で吸引したりすることができます。また、MAOI(モノアミン酸化酵素阻害薬)を摂取し、体内の特定の酵素がDMTを分解するのを防ぐことで経口摂取をすることもできます。ですが、瞬間最大強度のサイケデリック効果をもたらす方法は喫煙です。
効果時間はどれくらい?
喫煙後、20秒~40秒ほどで効き始めます。効果のピークは2~8分後で、効果は約5〜15分持続します。しかし主観的には実際の効果時間よりもはるかに長く、場合によっては「永遠」であったかのように感じることが報告されています。またDMTの喫煙は短時間で完全な幻覚を引き起こす独特の効果があり、「想像を絶する高速ジェットコースターに乗っているようだ」と表現されることがあります。
どのような感覚なの?
DMTの効果は、投与量や投与方法によって、穏やかなサイケデリック状態から、人生を変えるような強力な没入体験にまで及びます。多くのサイコノートからは、通常の意識から究極に離れた、言いようのない精神世界や異次元を体験したと報告されています。また、DMTを大量に摂取すると、「存在(エンティティ)」に遭遇することもよく報告されています。
DMTトリップレポ
この日、約3ヒット分のDMTを溶媒で溶かした“DMTリキッド”を調達した僕は、友人2人とともにVAPEで喫煙することにした。3人ともDMTは初体験である。
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↑これは拾い画
深夜。3人は緊張の面持ちでソファに腰掛け、じゃんけんで順番を決める。順番は1番目に友人の大助、2番目に根本、3番目に僕が喫煙することになった。
また、息が限界になるまで吸って吐くのを1パフとし、計3パフをしたら次に回すという喫煙ルールを設け、VAPE本体をコイルが焦げないくらいの電圧にセットした。
大助は早速VAPEを手に持ち、軽く深呼吸をすると、躊躇もせずにかなり深い吸引をし、白い煙を大量に吐き出した。僕と根本は思わず(おお…!)と感嘆の息を漏らす。
大助はもう2パフを終えてVAPEを机に置くと、思案顔で「あぁ…なるほど…はいはい…」などとつぶやいていたが、次第に迫真の表情になり「これはヤバイ…これはヤバイわ…」と言いながら横になった。そして10秒ほど無言になった後、突然狂ったように高らかに笑い出した。
僕は大助の笑い方が常人のソレではないことにゾっとした。根本の方を見ると、根本もこちらを見て「いよいよオカシくなっちゃったかな…」と小声でつぶやいて不安がっていた。
大助は、すっかりビビっている僕と根本のことなど完全に関心の外という様子で、20秒ほど高らかに笑い続けた。しかし、突然真顔になって上体を起こすと、開ききった瞳孔で僕をジッと見つめながら「吸わないんすか?」と聞いてきた。
僕は大助の一連のクレイジーな挙動に全身鳥肌が立ったが、どうにか平静を装って「あぁ…そうだね。吸うよ」と言ってVAPEを手に持ち、次の番の根本に渡した。大助は僕の言葉を聞いて安心したようで、穏やかな笑みを浮かべながら目を瞑り、静かに横になった。
それから根本は、深呼吸をしてから一気に3パフをした。根本の手はプルプルと震えている。さらに根本は一呼吸置くと、もう1パフいった。
根本は4パフ目の煙を吐き出すと同時に、震えた手で僕にVAPEを渡すと、「あ…これ、目瞑っちゃうわ…」といってソファに横たわった。
僕は座禅を組み、2回ほど“深い”深呼吸をして乱れた心を落ち着かせる。そうして(もうどうなっても知らん)とばかりに、思いっきり吸引する。DMTはゴムみたいな匂いがするが、吸い心地はそんなに悪くない。
さらにもう1パフし、3パフ目に入ろうとすると、脳が締めつけられているような感覚がやってきた。そして3パフ目の途中に「キィィィーーン」という甲高い金属音のような音が聞こえてきて、少し外部幻覚が発生し始める。
3パフを終えると、1パフ目のDMTが効いてきているのを実感した。心拍数が高くなり、手が震えて、かなり緊張感がある。また記憶が段々と薄れていく感じもするが、気分は良かったので限界まで吸ってしまおうと思った。
4パフ目。DMTが明らかに効いてきている。視覚では、視界の端が全体的にぼやけてきて、視界全体の彩度がぐんぐん上がってきている。聴覚はノイズキャンセリングのイヤホンをしたように周りの音が聞こえづらくなっているが、脳内ではさっきより甲高い金属音が鳴っている。
5パフ目。握っているVAPEを軸にして、多色で眩く立体感のある幾何学模様が広がっているのが見え、既にDMTの威厳を感じさせられる。また意識は明晰なのに思考や洞察がまるでできず、ただの感覚受信機になっているような感じがした。
6パフ目。記憶がかなり薄れてきていて、今何パフ目なのか一瞬わからなくなった。聴覚は完全にシャットアウトされて、脳内ではさらに甲高い金属音が聞こえる。僕は「これから超加速度的に幻覚世界に突入する」ことを理解した。さすがにもう一吸いが限界。
7パフ目。意識が身体から離れて飛び立ちたがっているのを全身で感じるが、根性で意識を保つ。吸っている最中、6と7の違いがわからなくなったが、数字を数えるという任務から解放されたことでとても安心した。
僕はVAPEを置き、一旦落ち着こうとして、深呼吸をしようとする。すると息を吸ったのと同時に、座禅を組んでいる自分の上半身と少し重なるように座禅を組んでいる自分がいた。さらに息を吸うたびに、徐々にその上にも座禅を組んでいる僕がいて…という再帰的なイメージが見え、3メートルくらいの高さの座禅の塔が建っているように思えた。
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それから深く息を吐くと、次第に座禅の塔は上部から崩れていき、一旦本来の自分の身体だけになると、座禅を組んでいる股の下に、座禅を組んでいる自分いてさらに…の再帰構造が奥に続いていた。座っているソファの下に空間を作り出していたのはおもしろかった。
僕はもう目を開けていられなくなって、目を瞑った。すると瞼の裏は信じられないほど明るく、カラフルな幾何学模様が見え、さらにその模様はすぐに全方位を覆い、上から下へ爆速で流れて変化していくので、幻覚のワームホールに突入したと思った。
僕は早速身体感覚を忘れ、脳が作り出している内部幻覚世界に没頭するあまり、具体的な形を持たない漂うガスのようなイメージの“意識生命体”と化して、ワームホールを高速で突き進んでいた。
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幻覚のワームホールはとてもきらびやかで美しく統一感があるのに、細部はとても細やかで独特なデザインが施されている。ワームホールは進めば進むほど、より繊細で独特なデザインに変わっていくので、僕は(もっとすごいものを見せてくれ)と言わんばかりにワームホールを突き進んでいた。
ある程度すると、ワームホールを突き進んでいるというより、移り変わる部屋の連続のように感じられた。その部屋は、3次元空間を超越した次元空間で、デザインはアレックス・グレイなどのVisionary Artを彷彿させる背景やオブジェがある。
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この時点で、“僕はいま目を瞑っている”とか、“さっきDMTを吸った”などの記憶が失くなっていた。それゆえ“いま僕は内部幻覚を見ているに過ぎない”という認識はなく、もはや“現実世界がある”という認識すら失くなっている状態で、“ここが現実かどうか”と疑うこともないほどに内部幻覚世界を現実だと思っていた。
それに加えて、時間感覚は究極のフロー状態に入っているような感覚で、実際にどれくらいの時間が経過しているかまるで見当がつかない。そもそも1秒がどれくらいで1分がどれくらいなのかという指標となる時間感覚がないので、もはや時間の概念がわからない。
少し現状を理解した気になっても、それを上回るほど理解不能な異次元空間に移り変わっていき、次々と想像の範疇をはるかに超えた世界を体験できるので、本当におもしろい。
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途中、自分の想像したイメージが少しだけ内部幻覚世界に反映された。どうやら、この内部幻覚世界は、ある程度自分の想像力次第でデザインをいじれるようだった。しかしこの内部幻覚世界は超高速で絶えず変化していくため、いじるにはかなりコツがいるように思えた。
それで、僕はエンティティと邂逅したかったのだけど、受け身で待っていても会えなさそうな気がしたので、なら自分でエンティティを創造してやろうと思った。
そうして内部幻覚世界のデザインをどうにかいじくっていたら、世界の背景がうねり出し、そのうねりのデザインに擬態している2匹の小悪魔のような生命体が見えてきた。さらにその小悪魔たちは、うねりの中を華麗に泳いで中央に集まると、次第に扉のようなビジュアルに変化していく。
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↑わりかし近い小悪魔のイメージ
僕はその扉を開けようと前進する。がしかし、扉が完成しそうになった時に想像の気を緩めてしまったせいか、扉は分裂して逆再生するようにビジュアルが元に戻って行く。しかしその逆再生の過程で、2匹の小悪魔みたいな生命体はしっかりと実体を現していた。
2匹の小悪魔みたいな生命体は、時折幻覚のうねりを漂いつつ、(残念でした)と言わんばかりの嘲笑の表情でこちらを見て、ケラケラと笑っていた。
扉を開けなかったのは残念だったけど、僕はその小悪魔のような生命体から悪意は一切感じられず、ただ無邪気に戯れてきたように思えてほっこりしていた。
ビジュアルの逆再生は続いていき、次第に幻覚を構成する細部のデザインが緻密でなくなっていき、彩度も下がって暗くなっていく。また「今までトリップ中だったんだ」と認識するとともに、トリップが終わるのを感じ取って、少し寂しい気持ちになった。
内部幻覚が薄れると、一気に身体の感覚が戻ってきて、自分が地球という惑星に住むホモサピエンスであるという事実を思い出した。
時計を見ると、喫煙してからちょうど10分ほど経過していた。たしかに10分くらいのトリップだった気もするけど、10分で収まるとは思えないほど多くの未知の経験をしたので、もっとはるか長い時間を過ごしたような気もする。
効果が下がって現実に着地してから、およそ20分くらいは余韻が続いていた。僕はトリップの内容を忘れないように、その余韻の間にメモをとった。
それから大助と根本とトリップの内容について語り合った。聞いた限りだと、やはり喫煙したDMTの量に比例して幻覚の強度は強くなっていたようだった。しかしトリップの質は違えど、“今まで生きてきた中で一番すごい体験をした”という感想は同じだった。
この物語はフィクションです。また、あらゆる薬物犯罪の防止・軽減を目的としています( ΦωΦ )
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kinemekoudon · 2 years
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【3話】 大麻を所持していたのに警察に捕まらなかったときのレポ 【大麻取り締まられレポ】
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応援要請で駆けつけたパトカーが4台到着した。4台分の赤灯の光を見るとさすがに圧倒されて、スマホを持つ手が震えてくる。
僕は助手席に座ったまま、意味もないのにスマホで警官の顔を撮影しつつ「警察手帳を見せてください」としつこく迫っている。
その警官も警官で、さっさと手帳を見せればいいのに「あとで見せます」「“あとで”は“あと”です」などと憎たらしく口を濁している。
不毛な問答を続けていると、パトカーからは計10人くらいの警官が降りてきた。中にはMPD(警視庁)と印字された帽子を被った女性警官もいた。鑑識っぽい感じだ。
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↑なんのまぐれか女性警官は六角精児に似ていた
応援で駆けつけた警官らは、現場にいた警官に事情を聞くと、各自デジカメで車の写真を撮ったり、事情聴取をしたりしていた。
プッシャーのANIは、警官に大麻の所有者か疑われたようで「はぁ!?知らねえよ!俺のじゃねえよ!!」と真夜中の閑静な住宅街にもかかわらず、大声で叫んでいる。
一緒に着いてきた友達の吉岡は、警官に何を聞かれても「いや~」とか「さあ~」とか言いながら首をかしげていた。
僕の方には、鑑識の女とカメラを持った警官がやってきて、助手席の下に落ちている大麻の入ったパケを僕に指差すよう命令し、その写真を何枚か撮っていた。
写真を撮っている間、鑑識の女は「これ本当にあなたのじゃないのね?」と聞いてきたので、僕が「はい、ちがいます」と答えると、
鑑識の女は僕が答え終わるやいなや、「あ、そう。じゃあ今から予試験するから。こっち来て」などとうざい口調で指示してきた。
それから身体検査などを挟んだ後に、緑色の植物片の簡易鑑定が行われることになった。僕らは鑑識の女の元に集められ、その周りを警官らが囲った。
僕は陽性反応が出て逮捕が決定する瞬間を動画に残しておこうと思い、震える手で再び動画をまわしだした。
準備が整うと、鑑識の女は検査キットの説明を始めた。検査キットは大まかに言うと、試薬入りのキャップの中に大麻の成分を入れて振ると紫色になり、大麻でなければ色がつかないという代物である。
鑑識の女はピンセットで大麻をひとかけら摘まもうとするが、不器用なのか中々摘まめない様子で、摘まむのに3分くらいかかっていた。
それから鑑識の女はなんとか摘まんだ大麻を、2段階の工程を加えて溶液にし、紫色に発色するか否かの結果が出る試薬入りのキャップにその溶液を移そうとする。
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根が不安症にできている僕は、この結果次第では人生が終わるかのように思えて、極度に息を凝らしてキャップを見つめていた。
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キャップの溶液は限りなく透明に近い青色だった。
僕はこの色が何を指すのかわからず、呆然としていた。鑑識の女はかなり動揺した様子で「嘘でしょ?」と首をかしげて言っていた。
周りの警官も「簡易検査だから、こういうこともあるんだよね…」と呟いたり、大麻が入ったパケを指でつまんでじっと眺めたりしていた。
僕はまだ困惑していたが、周りの警官のあからさまにがっかりしたムードを見るかぎり、どうやら逮捕は免れたことはわかった。
(しかしどうしてだろう…? これ“大麻”なんだけど…)
検査キットがよっぽどポンコツなのか、鑑識の女がよっぽど不器用だからなのか。理由はわからないが、兎に角安心した。
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僕は人生でも一二を争う緊張が一気にほどけて、放心状態で立ち尽くした。鑑識の女は悔しそうに「これは本鑑定に出すから、証拠品として提出してもらうね」などと言っていた。
僕は茫然と小さな勝利を噛み締めていた。…するとすぐさま警官のひとりが、「車の中は全部調べたの?」などと言いやがった。再び緊張が走る。
僕は(運転席と助手席の間にある大麻はこの際いいとして、“曲げ玉”だけはどうか見つからないでくれ…)と祈っていた。
というのも曲げ玉(MDMA×LSD)は麻薬取締法の適用となり、大麻取締法よりも罪が重くなるからだ。
すると職質の時にいた警官が、「運転席と助手席は調べましたよ」と言ってくれたので、僕はついニヤけてしまった。
が、しかしその警官は「そうなんですね」などと空返事をして、結局車の中を調べ出した。さらに他の警官もそれに便乗して調べ出す。
僕は祈りをやめて立ち尽くし、何十秒後かに起こる悲劇をじっと待っていると、すぐに「ありましたー」という歓声が聞こえた。
声のした方を見ると、警官が嬉しそうに大麻の入ったパケを掲げていた。するとまたすぐに、別の警官が「もう一個ありましたー」とか言って大麻の入った別のパケを掲げている。
所持していた大麻がすべて見つかってしまった。
鑑識の女は息を吹き返し、さっきまでのうざい口調で「はいじゃあこれも全部予試験して、大麻か大麻じゃないか調べるから。3人ともまたここに集まってー」などと饒舌に喋りだした。
不幸中の幸いなことに、車を捜索していた警官らも、予試験が始まるので一旦捜索を中止していた。
そうして再度予試験が始まったが、僕には一つ懸念があった。今回の大麻は、たまたま車に落ちていたのを僕がネコババしたものであり、見るからにさっきの大麻とは品種が違うのである。
品種が違えば検査の結果も変わるかもしれないし、さっきは検査をミスっていただけかもしれない。どう転ぶか本当にわからない。
僕は不安から精神の防衛機制が働いたのか、(なんか、リスキーなギャンブルみたいでおもしろい)という感覚になった。
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そうして発色の結果が出るまでの1分間、鑑識の女は試薬入りのキャップを振り続ける。
僕はその間、精神をひりつかせながらも(行け!行け!行け!)などと完全にギャンブルの要領でこの鑑定の行方を見守っていた。
結果は無色透明だった。現行犯逮捕がかかった賭けに勝っただけに、ドーパミンがどぱどぱに分泌されて気持ちがよかった。
鑑識の女はまたも反応が出ずにしょんぼりしていた。それから、もう一つの大麻が入ったパケも予試験をしたが、やはり反応は出なかった。
ほかの警官も、反応が出ないなら意味がないとばかりに諦めムードになっていて、車内を調べるのをほどほどにやめていた。
そうして警官らは10分ほどかけて、なにかしらの話し合いや手続きを終えると、
僕の元にひとりの警官が寄ってきて「今から警察署に行って、ちょっと話聞いてもいいかな?」と聞いてきたので、僕は素直に従ってパトカーに乗った。
その頃野次馬が集まっていて、野次馬らはパトカーに乗る僕を軽蔑するような目で見てきた。僕は任意の善意でパトカーに乗ってあげているのに。
そしたらANIは、その野次馬を蹴散らすように「何みてんだよ!?!?見せもんじゃねえぞ?!!?」などと吠えていて、野次馬はそそくさと退散していた。僕はかなりスカッとした。
それから吉岡は別のパトカーに乗り、ANIは警官同行で自分の車に乗りこみ、一行は警察署に向かった。
警察署に向かっている道中、僕は自分の悪運の強さに酔いしれて、すっかりいい気になっていた。この後“本鑑定”があるのも忘れるほどに。
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つづく
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kinemekoudon · 2 years
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【2話】 大麻を所持していたら警察に見つかったときのレポ 【大麻取り締まられレポ】
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赤灯が消えたままのパトカーが一台、こちらに向かってきている。どうやら、たまたまパトロール中にここに通りかかっただけのようだった。
しかし、見るからに怪しいワンボックスカーに乗ってる手前、当然職質は避けられないだろうし、僕は現行犯逮捕されるのを少し覚悟した。
「パトカー来てますね…。ヤバいですか?これ…」などと、ヤバい事態になっているのを承知でプッシャーのANIに尋ねると、ANIは「いやぁ。パトロールだろぉ?フレンドリーに対応すればへーきへーき」といった具合に、呑気なことを言っていた。
そうこうしてると、僕たちが乗っている車の後ろにパトカーがぴったり停車した。ミラー越しにはパトカーから2人の警察官が降りてくるのが見える。
僕は1人の警察官の顔をチラっと見て、(これは執拗に職質してくるタイプの顔をしている)と直感し、持ち物検査がされるという前提で動こうと思った。
(それで…どうすればいいんだろう。ズボンの両ポケットに大麻があるでしょ、それからパーカーのポケットに曲げ玉…。警察に見られるからどこかに隠す余裕はないな…)
ここでの僕の選択肢としては、このまま所持して僕だけ捕まるか、車内に捨てて車の所有者のANIに責任を押しつけるか、だった。当然僕は車内に捨てることにした。
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僕はとりあえずパーカーのポケットに手を入れて曲げ玉を指で掴み、ポケットから手を出すタイミングで、曲げ玉を助手席の右下に放っておいた。
2人の警官が運転席の窓際に来るタイミングで、ANIは自ら窓を開けて、「おまわりさんこんばんは~~。ここ駐車してたら邪魔ぁ?」などと本当にフレンドリーな対応をしていた。
それに対し、執拗に職質してきそうな顔の警官は「いやあ。最近物騒なニュースが多いでしょ? だからお兄さんたちも、何か危ないもの持ってないかと思ってね」などとテンプレみたいなことを言う。
警官は続けて「お兄さんたちは、ここでなにしてるの?」と聞いていたが、ANIが「こいつらと今日ドライブしててさぁ、今こいつんちの近くに着いたんだけど、話し込んじゃっててさぁ」と機転の利いた返しをしていた。
それからANIが免許証の提示などを終えると、警官は妙に優しい口調で「車の中、調べさせてもらってもいいかな?」と聞いてきた。
ANIはそれまでと態度を変えず、「あー別にいいけどよ。なんも出てこねえよ?」などと言ってドアを開け、車の外に出た。職質顔の警官はANIに身体検査を迫っていた。
もう一人の警官は、運転席から上半身だけ車内に入ってきて、懐中電灯で運転席のあたりを照らし、「まあなんもないですよね」などと聞いてきた。
運転席と助手席の間に曲げ玉はあるが、僕が「ハハ。なんもないですよ」と答えると、その警官は「いやあよかったです」とか言ってすぐに車の外に出ていった。
ANIのほうを見ると、ANIは職質顔の警官に体をベタベタ触られていたので、僕も身体検査をされるんだろうと観念した。
僕は警官らがこちらを見ていない隙に、両側のズボンのポケットに手を突っ込み、大麻が入ったパケを掴んでそのまま助手席の下左右に放った。放った直後に、助手席のドア側に捨てたのはマズかったなと思った。
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ANIは身体検査が終わったようで、「だからなんもねーって言ったじゃん」と叫んでいた。職質顔の警官は「あはは。いやあ最近物騒だからさあ」とまたテンプレ文言を言っていた。
(終われ…これで終わってくれ…)と強く願うも空しく、職質顔の警官は僕が座っている助手席の方にやってきて、「お兄さんも調べさせてもらっていいかな?」と聞いてきた。
一応、職質における所持品検査の違法性について書いておきます。(飛ばしていいやつ)
そもそも職質は任意なので、応じないとしても問題はないですが、実際は警察官に取り囲まれて長時間にわたり説得を受けることが多いです。職質で身体を拘束したり、勝手に所持品を検査したりすることは強制捜査に当たるため違法ですが、薬物使用や所持が疑われる場合、説得という名目で実質的にその場から動けなくされてしまいます。
この説得があまりにも長時間にわたる場合には、職務質問が許される限界を超えて違法となる可能性があります。また、職務質問や所持品検査が、任意の範囲を超えて強制にわたる場合には、そのような捜査によって得られた証拠は裁判では使えず、違法収集証拠となる場合もあります。
つまり所持品検査を拒否し続けて弁護士に来てもらう、が最善のムーブというわけです。
僕の頭の中では思考が急速に巡っていた。(どうする…? 拒否するか…任意だし。…でも任意ってほぼ強制だよな? …まあ車に落ちてたってことで、しらを切れば大丈夫かな……いやでも助手席のドアの下に大麻が落ちてるっておかしいし、ちゅーかパケに指紋着いちゃってるよね?w)
僕はもうどうにでもなれという気持ちで、助手席のドアを開けた。助手席のドア付近下には、大麻が入ったパケが落ちているのを視界の隅で確認できた。
職質顔の警官は、まだその大麻に気づいていない様子で「今日はどこから来たんですか?」とか「なにか身分証は持ってますか?」などと質問してくる。
僕は(どうせあと何十秒後かに大麻が見つかるのに、なんだこの茶番…)と思いながら、できるだけ平静を装って質問に返答したり、身分証を提示したりしていた。
警官はついに「じゃあちょっと持ち物検査させてもらってもいいかな?」と聞いてきたので、僕は詰んだと思いながら上半身を起こそうとすると、
警官は異常な大声で、「待て!動くな!なんだこれぇ!?」とか言って、大麻の入ったパケを指さしてから、僕の方をすごい剣幕で見てくる。
僕はそれまで心臓がバクバクだったのだけど、警官の異常な剣幕を見て(いやそんな大声出さなくても…たかだか大麻に目くじら立てて…)などと逆に冷静になった。
僕が「えっ? なんだこれ?」とか白々しいことを言って大麻の方を見入ると、警官は「おい!動くな!動くなよ!?」などと面白いほどすごい剣幕で言う。
それから職質顔の警官は「午前0時31分、車内から緑色の植物片が発見されました。応援要請願います」などと差し迫った口調で、無線で連絡をしていた。
僕は(コイツ…自分に酔っちゃってるっていうか…なんか警察24時とかに影響受けちゃってる感じだな…)と思い可笑しくなったので、動画をまわすことにした。
警官は動画をまわすのはやめろとか言ってきたけど、僕は「不正なことされないように証拠を残してるだけですから、肖像権侵害にあたりませんよ?」などと“ネットでよく見るヤツ”を言ってやった。
それに対し警官は閉口していたので、続けて僕はまた、ネットでよく見る「警察手帳を見せてください」とかいうテンプレ文言を言ってみた。
警官と意味のない問答を続けていると、応援で駆けつけたパトカーが4台もやってきた。いよいよ大事になってきた感がある。
職質顔の警官は「今から薬物の検査キットで、これが大麻か大麻じゃないか調べるから。大麻の陽性反応が出たら、現行犯逮捕されるからね」などとビビらせてきた。
僕は起こるかもしれない最悪の事態が本当に起こってしまって、どこか現実感がなかった。
(捕まるの? ぼくが? 嘘でしょ?)っていう。
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kinemekoudon · 2 years
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【1話】 Twitterでプッシャーから大麻を引いたときのレポ 【大麻取り締まられレポ】
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コロナが蔓延しだした3月頃のこと。
馴染みのプッシャーのANIにwickerを送って、明日の夜に大麻10gを5万で買う約束をつけた。
ANIとはだいぶ打ち解けた仲だったので、いつもは指定場所で引いていたのだけど、今回は特別に家の近くまで配達してもらえることになった。
翌日。遊びに来ていた友達の吉岡と、家で大麻を吸ってヘラヘラしながら待っていると、ANIからそろそろ着くと電話があった。
僕はANIと電話をしている最中に、「吉岡が引っ越したばかりなんで、なんか引っ越し祝いください」と試しに要求してみた。
するとANIは「はぁ? ったくしょうがねえなあ。なにがいいの?」などと、謎に聞き分けがよかったので、僕は無遠慮に「じゃあコカインがいいです」と言ってやった。
ANIは「バカお前。コカインいくらすると思ってんの? グラム2はすんだぞ」などとしみったれたことを言うので、
僕は「コカインやったことなくて、どうせならANIさんのとこのコカインでコカイン童貞捨ててみたいんですよねー」などとプッシャー心(?)をくすぐるようなことを言ってみせると、ANIはしぶしぶ承諾してくれた。
僕はANIのことを完全に舐めていたので、「僕も半年前にここに引っ越したばかりなんで、僕の分の引っ越し祝いもちゃんとお願いします」などと念押ししておいた。
それから「家の近くに、監視カメラがなくて人通りの少ない駐車場があるんで、そこに停めてください」と頼み電話を切ると、僕と吉岡は赤目のままニタニタしながら駐車場に向かった。
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一応、Twitterで大麻を引くまでの経緯を書いておきます(飛ばしていいやつ)。
ANIがTwitterのプロフィール欄に載せていたwicker(wickerとは匿名性の高いLINEみたいなチャットアプリ)のIDを検索してチャットルームを作り、最初に自分のTwitterアカウントのスクショを撮って送り、警察のような怪しい人物じゃないことを証明する。
それから、いつどこで手押しが可能か、在庫はなにがあるか聞くと、時間と場所、メニュー表を提示してくるので、ほしいドラッグを言って時間と場所の都合をつける。あとは指定の金額を持ってその場所に行き、実際に対面でお金とドラッグを交換する。
ちなみに場所は指定される場合が多いが、プッシャーによっては配達もしてくれる。また最近は送金&郵送での取引が主流だが、取引のログを残したくない時やすぐにドラッグがほしい時には手押しが便利だとされる。
駐車場に向かう道中、僕と吉岡は内心ドキドキしていた。(ほんとに初めてのコカイン体験になるし、一体どうなっちゃうんだろう?)とちょっと不安に思っていた。
駐車場の近くまで行くと、駐車場に面した細い路地にANIの車が停まっていた。ANIの車はひと目でわかる。
黒のNOAHで、ナンバープレートや車体の下がLEDで青色に発色している。いかにもプッシャーの車という感じだ。
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↑こんな感じの。
わざわざ目立つような車に乗るなよと思いつつ、運転席に乗っているANIにアイコンタクトを取って、「そこの駐車場に車を入れて」と口パクとジェスチャーで伝えると、
ANIは窓を開けて「そこの駐車場たけえんだよ。すぐ終わるから大丈夫」と自信ありげに言っていた。
(こんないかにもな車が薄暗い路地に路駐してたら怪しすぎるだろ)と思いつつも、貧乏根性が染み付いている僕は駐車場代を肩代わりしたくなかったので、しょうがなくそのまま車に乗ることにした。
ANIは頬がこけて目の下のくまがひどいハゲ気味の本田圭佑という感じの見て呉れで、いかにもジャンキーという印象を受ける。
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いかにもな見て呉れの男がいかにもな車に乗って薬物売買をしているので、なんかの映画のキャラみたいでちょっとおもしろい。
僕は助手席に乗って、吉岡は後部座席に乗り込んだ。ANIは僕らが車に乗るなり、「おまえ家遠いんだよ。高速使って1時間半もかかったぞ」などと文句をたれていた。
僕はとにかく早く取引を済ませたかったので、ANIのぼやきをテキトーにあしらってから、「じゃあとりあえずこれ5万です」などと言って、ポケットに忍ばせていたお札を手渡す。
ANIは「おまえほんとは配達料取るんだからな。5万じゃきかねえぞ」などとぶつぶつ言いながら、後部座席に置いてあったクーラーボックスの中をごそごそと探って、大麻5gが入ったパケを2袋取り出し、僕に手渡す。
僕はヘラヘラとさーせんなどと言いながら、貰ったパケを開けて深く匂いを嗅ぐ。ANIの大麻はかなり質がいいので、匂いを嗅ぐだけでハイになった気分になる。既にハイではあるけど。
「はー。いい匂い。吉岡も嗅いでみる?」と後部座席にいる吉岡にパケを渡すと、吉岡も匂いを嗅いでご満悦の表情をしていた。
僕は大麻が入った2つのパケをポケットの両側にそれぞれ忍ばせると、「それはそうと引越し祝いありがとうございます」と例のコカインを催促した。
するとANIは「コカインはやらねえよ。つーか今日持ってねえし」などとほざいていた。
僕と吉岡は本当に初コカインに胸を膨らませていたので、心底がっかりした。ANIはその様子を汲み取ってか、「じゃあおれが今からスペシャルブレン��つくってやっから、それでいいだろ?」などと言い出した。
僕が「スペシャルブレンドってなんすか?」と聞くと、ANIは「1万円の価値はあるやつ」などと曖昧なことを言いながら、再びクーラーボックスの中をごそごそ探し出す。
クーラーボックスの中からは、錠剤が入ったパケや、液体が入った小さいボトル、空のカプセル、カプセルに粉を詰めるための器具、マイナスドライバーのような金属製の棒を取り出していた。
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↑カプセルに粉を詰めるための器具
ANIは得意げにその金属製の棒を僕らに見せつけて、「これはロケットとかミサイルにも使われてる素材でできてるんだ。なんだと思う?」と聞いてきたが、吉岡が「ああチタンか」と即答していた。
ANIはきまりが悪そうに「…そうそう。チタンは鉄の2倍の強度があるんだ」などと言いながら、緑色のドクロの形をした錠剤をパケから取り出して、チタン棒で砕き始めた。
その錠剤を砕いて粉状にすると、次は黄色のドクロ型の錠剤を取り出し、砕いて粉状にする。そうして緑色の粉と黄色の粉を混ぜて2等分にし、手際よくカプセルに入れる。
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僕は警察が来ないかヒヤヒヤしていた。もう車内に入ってから15分は経過している。もうブレンドとかどうでもいいから適当によこせと思いつつ苛立っていると、足元に3-4gほどの大麻が入ったパケが落ちているのに気がついた。
(あれ?ポケットから落っことしたのかな…)と自分のポケットを確認すると、確かに両側のポケットに大麻が入っている。じゃあこの大麻はなんなのだろう。
僕はANIに「なんか大麻落ちてるんですけど、なんすかこれ?」と聞くと、ANIは「は?知らねえよ。おまえが落っことしたやつじゃねーの?おれがそんなとこに大麻置いとくわけねーじゃん」などと、どうやら本当に知らない様子だった。
それを聞いて僕は、「あれー落としちゃったんすかねえ…」などとしらばっくれて、その大麻を頂戴(ネコババ)することにした。
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それから、ANIは液体が入った小さいボトルを手に取り、その粉が入ったカプセルの中に2滴分ほど慎重に垂らしていた。
そうしてカプセルに蓋をすると、ANIは嬉しそうに、「これが特製の曲げ玉だ」とか言って、僕と吉岡にそれぞれカプセルを渡してきた。
僕は「これMDMAとLSDですよね? どれくらいの容量入れたんですか?」と聞くと、ANIは「いやー容量はわかんねえけど相当ぶち曲がるよ」などといい加減なことを言っていた。
多少不安ではあるが、たしかに悪くなさそうなカプセルだったので、礼を言ってポケットの中にカプセルを忍ばせた。
(ふぅ…なんとかミッションをクリアできた…)と安堵していると、ミラー越しにパトカーが来ているのが見えた。心臓が一気に縮みあがった。
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つづく
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この物語はフィクションです。また、あらゆる薬物犯罪の防止・軽減を目的としています( ΦωΦ )
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