Aさんへ ⑲
Aさんこんばんは
先日、むすめたちと映画をみました
結論から申しますと全私が震撼し涙するおもてたんと違うでした。原作コミックからはいった私の、実写版に対峙する心構えが甘かった。私の非です
映画あと回転寿司にて次女が熱々の茶碗蒸しをひっくり返しテーブルを舞台に見事なプリンとなり、
回転寿司あとコーヒー店にて嗜みましたシトラス(きっとあれはライム。)シロップ含有パッションフルーツブラックティーから超高級ホテルのトイレの芳香剤の香りを感じ、いよいよ……、いよいよ本格的な夏の到来。夏の足音を捉えた次第です。
夏がくる。
しかしAさん、私の心は既に遥か晩夏にあります。ビコーズ
至近の市民プールが昨年閉鎖したことにこれほど歓喜している人間はK県S市の平らは広し近年人口増加傾向と言えど稀かと思います。早く、一刻も早く、
「プールなくなっちゃったのよ。残念よね。」
を娘たちに伝えたい。伝えたいのです。一昨年の夏休み、3日連続で娘二人を連れてオープンからクローズまでを流れるプールの水中で過ごした結果、冷え性が悪化し朝、回る洗濯機の水流を見るだけで酔ってしまうまでになった私にはそれを伝える権利があると思うのです
今後、わたしがダイエットを嗜む場合、プールにだけは通いません。いえ、通えません
よたばなしが過ぎました
梅雨は体調の揺らぎを覚えやすい季節です
どうぞAさん、ご自愛くださいませ
Sより
*********
『カロル絡む。カリム、カルム。枯れぬカルマ。』
彼は否定したけれど私はやっぱりネイビーだと思う。
それは、ほとんど黒に近く青より深い濃紺色のこと。
朝がくる直前の一番暗い空の色。
「いま自分がいる場所は絶望なのかもしれないって思う夜に言葉はなんの力にもならない。
絶望は暗いからなにも見えなくて、もちろん希望なんてひとつも見当たらない。
夜中、一人で、疲れて不安で永遠にこの夜にとどまっていたいと思う。朝がくれば否応なしに新しい一日が始まって、止まっているわけにはいかないぜって突きつけられる現実にうんざりするから。絶望の底にも更なる絶望があるんだってことを知ってしまう。辟易する。
なのにさ。
夜中、一人で暗い部屋でベッドの上で寝返りを繰り返してそのうち寝返る気力もなくなって、ぼんやり「あー、このまま朝がこなければいい。」って思いながらでも怖くて仕方ない自分もいたりする。「せめて朝がきて世界が明るくなればいい。」なんて思ったりもする。
このひとことが人生を変えたとか、世界を変えた偉人の言葉。とかさ。前向きに生きるためのヒントとか、いかにもな、まさに今の俺みたいな人が読むんだろうなって本をさ、片っ端から乱読して、なにか、なにかこの今を救う言葉がないかって探すんだ。
健全な状態なら胸打たれるんであろう涙を誘うハートフルな小説とかさ。
でも読んでも言葉はただ乾いたまま通りすぎる。白い紙に五十種類の文字と漢字が羅列してるなってことしかわからなくて、黒い文字がありとあらゆる組み合わせで言葉になってきちんと行儀よく、上から下へ整列してる風にしか見えない。
羅列って。
普通に使ってるけど実はよくわかってないよなって羅列の意味を調べて、ほら、やっぱり合ってたとか思ったりしてさ。音楽もね。あー、この人は日本語を音にのせて歌っている。としか感じない。何も自分の中に止まらず耳を通りすぎる。これは絶望のなかなんじゃないかと思うような時に、本も音楽も友達からのLINEも何の役にも立たない。って言いながら結局トルコ行進曲だったんだけどね。
探り漁ってたどり着いたピアノのトルコ行進曲をなんとなく、ぼんやりぼんやり聞いて小学生の時の運動会を思い出す。
玉入れの砂っぽい玉の感触とグラウンドの埃の匂いを思い出してアラタが「お前すげえ入れてたな」って褒めてくれた言葉と、笑顔を思い出す。ぼんやり眠くなってきて寝る。
夜の怖さも朝がくるプレッシャーも薄れて、ただ、とりあえず眠くなる。結局、言葉の苦しみは言葉で救うしかないんだ。って思いながら寝る。人で味わった痛みを溶かすのは結局人なんだ。
一番暗い、たぶん絶望って思う夜の中にもなにかしらの希望はきっとある。きっと希望はあるだろうっていう頼りない願望がかがり火になる。
希望の色はきっと、夜が明ける直前の一番暗い空みたいな色だと思う。絶望の色ととても似てるから見つけにくいけれど、きっとある。」
問わず語りを閉じ、フフっとタカシくんは笑う。私の頬を撫でる。
タカシくんが教えてくれた希望の色。夜明け前の空の色。彼はその色が似合う人だったと、今も私は思う。
*********
タカシの髪には白髪がある。
流行り廃りのない代わり映えしない定型の短髪。けれど「この髪型以外タカシくんには。」と、ソノコはその頭髪に鼻を埋める度、安堵を覚える。見た目より存外柔らかいタカシの髪に、柔らかな黒と白に、頭皮に届くほどに鼻を深く埋める度に。
20代半ばに生え始めたそれは年を重ねるごとに少しづつ増え、20代の終わりに髪色はブラックではなくグレーに近くなった。
タカシはグレーに近くなった頭髪を撫でて鏡をみつめ「また増えた気がする。」ひとり呟く。
ソノコはタカシの白髪の混ざる短髪を「知的で上品だし、セクシー。」なタカシの雰囲気に似合っている。と、とても気に入っている。
タカシの呟きを聞くとソノコは���ててベッドから降り、鏡の前に立つタカシの真っ直ぐ伸びた背中を抱きしめる。湿り気の残る肩や背骨に唇を当て、どうかそのままに染めないで欲しい。と、鏡越しに目を見つめねだる。
秒後、鏡越しに、睨むに似た笑みのない視線でソノコを見下ろし、振り返るとソノコの肩をすっぽりと覆う大きな手を骨の浮く華奢な両肩にのせる。笑みの戻らない顔のままソノコをじっと深く見つめ、肩から手の平を頬に移し、包み、下唇をゆっくり何度も噛む。顔を離すとタカシは黒髪への捨てきれない未練とソノコへの愛しい呆れを込め、
「そんなことを言う女性はソノコくらいだ。」
と眉根をひそめ、力なく呟き、ため息をつく。未練も呆れも愛しさに抱きしめられ、幸せなため息となる。
***
「白髪なー。」
とタカシが嘆くのは、例えば、二人で買い物をしているとき。
「タカシくんはこれが似合うわ。もうね、絶対よ。」
と、紺色のシャツを鏡の前に立たせたタカシの胸に当てソノコが試着を催促すとき。
タカシは全体像を確認するより、ソノコを見るより早く、横に立つ、ソノコよりやや身長の低い男性店員の斜め上に向けられた視線を見つける。
悪意なくタカシの頭髪を見上げ、なにかしらの数字を計算する表情ののち歳の差カップル心中お察し致します的笑みの視線を、鏡越しに目ざとく認識すると鏡に顔を近づけ、
「白髪。」と「際立たせるよねー、」と誰に言うでもなく、呟きながら髪を撫でる。ティシャツのハンガーを丁寧にソノコに返し「検討します。」と微笑む。
タカシが白髪を嘆くのは例えば。
タカシが一人暮らしをしているマンションの、階違いに住む2、3歳の子供に満面の笑みで、
「おじさん。」
と、声をかけられるとき。
白髪の嘆きは例えば。
それを申し訳なさそうに我が子より大きなボリュームの声で、
「おにいさん、おーにーいーさーん。ね!」
と慌てて言い聞かせる母親に「すみませーん。」と謝られるとき。
タカシの嘆き、例えば。
タカシより年上であろうその母親が、
「ほんっとーにすみませんもうごめんなさい。あの、私の兄がほんの少しだけ白髪混じりですみません。ね!ごめんなさいは?おじさんのこと大好きだよね!優しいね!」
と、なにひとつ責めていないのに早口で言い訳し、我が子にいわれのない罪とそれに対する陳謝を強要し、ついでに見た目より案外深傷をおっているタカシの傷口に塩を揉み込み重ね重ね謝るとき。
例えば。
ソノコが髪を茶色に染めたとき。
「似合うね。かわいい。」
とソノコの髪に鼻をおしつけ、
「白髪なー。」
嘆き、ため息をつく。
「昼間さ、あの子またママに注意されてかわいそうだった。おじさん!の子。
ソノコそろそろ来るかなと思って下に降りたらあの子いたんだよね。おーい!って手ふってくれてさ。俺もおーい。とか言って。なんかほら、俺、ウキウキしてたしさ。子供かわいいし。で、おじさーん、って。そした��さー、いつものくだりが始まっちゃってさ。ママ慌てちゃって。また同じ説明してくれるんだよね。初めて話すみたいな新鮮なテンションでさ必死なんだよ。気の毒で見てられない。足元でしょんぼりしてるあの子の顔なんてもう直視できないよ。ただ声かけただけなのにさ。で、謝られれば謝られるほど地味ー、にくるっていうさ。あの人のお兄さんてことはさ正真正銘ど真ん中のおじさんだよね。名実ともにおじさん。そのおじさんでさえほんの少しだって。ほんのすこーし白髪がって。すこーしって。多分あれ、俺に気をつかってくれてるんだよね。でも動揺してるからさ。気配りがバグ起こしちゃってさ。「すこーしだけ、かみがしろいのよね。」って。あの子に同意求めたら真顔で俺の顔ジーって見て首かしげたからね。無言の否定。明らかに彼はおじさんも俺もほんの少しではないことを理解してる。賢いよ。だからさ、無理ないよ。
自分のおじさんより白髪の多い男だったらさ、お兄さんて無理があるよね。
あの子まだちっちゃいし、なにも間違ってないのにその都度叱られてさ。
かわいそう。
でも確かにさ、五歳は老けて見えるよね。
仕事終わりで疲れてる時なんて。
十歳はいくよね。
そのうちさ。ソノコといるときにさ、親子ですか?とかさ、聞かれたらどうする?その日は近いよ。
限りなく近い。」
と、ソノコの染めたばかりの艶かな柑橘系の匂いがする茶色の髪に鼻を埋めたまま度重なるささやかな傷心を嘆く。
いつも必ずやさしい顔見知りのおじさんを見つけ、嬉々として手を振った小さな男の子と、自分を待ちわびウキウキと心弾ませてくれた大きな男が、一転、しょんぼりする様を思い浮かべ、そして、「高校生の頃もこんなに無口だったかしら。」と記憶を手繰ってしまうほど、日頃口数の少ないタカシから改行の少ないない長文の嘆きを聞き、その嘆きを聞くのは2度や3度ではないこともありソノコは、
「親子って。
そんなことあるわけないわ。
でも、そう、そうなのね。
それで元気がなかったのね。
さっき、気持ちいい?って聞いたら、今は大丈夫って言うから、なんか変ねって思ったのよ。
そうね。
でも、わかったわ。
そうよ、彼女のわがままな趣味嗜好を優先する必要はないのよ。タカシくんの髪はタカシくんのものに他ならない。
美容院行ってきたら?次のお休み。」
「ほんと?いいの?
そっかー、いいんだね。
うん。じゃあ、染めようかなー。そうだね、染めよう。
いいですか?未練はないですか?」
「ないわ。」
キッパリと答え、ソノコは目を閉じる。「タカシくん、ごめんね。
おじさんの子にもごめんなさいだわ。」
大切なことを伝えるときに目を閉じる癖のあるソノコの頬を撫で、キスをし、タカシはなぜか淋しさの混ざる複雑な笑顔をつくったあと自分の髪を撫でる。
撫で、ふと、考える。思い出す。いつかの痛い金曜夜のことを。
***
『世界中のミンナが敵になったとしてもボクだけはキミの味方だよ。』
「それってほぼ奇跡。」
ソノコと再会する直前。当時付き合っていた彼女と別れた直後。
金曜の夜を一人で過ごしていたタカシは、缶ビールと音楽番組をぼんやりと眺めていた。
若い女のグループが、一人一人自己紹介し歌い始めた。
メンバーの一人が作詞を手掛けた新曲だと紹介された。名前はおろか誰が誰なのか顔の判別がつかないままタカシは、そもそもこの団体は全員で何人なのかが妙に気になり、まばたきも忘れ、露出の高い服を着た女たちの人数を真剣に数えていると、その歌詞が耳に入った。
恋人と別れたばかりの一人の金曜の夜に音楽番組を何気なく選んだことがそもそも間違っていたのだ。
春の訪れに向け前向きな、メッセージ性の強い曲ばかりが流れ新しいスタートや再スタートを応援する。季節が変わり環境が変われば気持ちも変わる。前を向く。
そんな健全なスタートの季節に二の足を踏んでいる自分のような人間には、金曜日の夜に一人缶ビールの水滴を見つめ前の季節に止まっているような人間には、料理番組か将棋対戦当たりが妥当なのだと思う。旅番組など見た日には、自分探しなどと使い古した言い回しで手つかずの有給休暇申請をしてしまいそうだと思う。そのまま帰り道を見失ってしまいかねない。
それにしても痺れるパンチだったとタカシはビールをひとくち押し込み、かつての彼女を思い出す。
「嫌いじゃないけど、好きでもない。」
と、静かで長い別れ話の攻防の後、女から吐き出された文句は二人の交際を総括し要約されたシンプルな殺し文句は、フラれたというボディブローは、日毎、目には見えない速度でじわりじわりと心を蝕むような気がした。そのボディブロー、そのダメージ。
相手の女が最後に吐き捨てた言葉はタカシが相手に感じていた気持ちのコピーだった。コピーアンドペースト。女の顔を、すでに懐かしささえ込み上げるその顔を見つめ、タカシの思考を満杯にしたのは復縁祈願でも蛍の光でもなく「自分は、結婚はおろかまともな恋愛ができるのだろうか。」という底はかとない不安だった。
見つめ返した女から、
「毒にも薬にもならない。」
と、ボソリとゴミを捨てるようにつけ足されたとき。女の視線が鋭利な角度で斜め上を向いたこと。その視線を見逃せない自分を恨めしく感じた。
仕事の忙しさにかまけ、忙しさからの疲れにかまけ、ここしばらく自分の身なりをほったらかしにしていた。もちろんほったらかしにしたのは身なりだけではなかった。疲労を栄養に白髪が増えたことは、女から非難の視線を向けられなくとも認識していた。
不安で満杯だった思考は、どうせ終わるのだからと砂をかけたくなる思考に変わった。真実を暴く女々しい砂。
「わかった。で、このあとどこに帰るの?」
寸でのところで、とっくに喉を通り過ぎ口内で出番を待っている言葉を飲み込んだ。心底情けないと思った気持ちが砂をかける言動のストッパーとなった。
「奇跡ってどこに売ってるんだ。」
キンと冷えた缶ビールを心底まずいと思う金曜の夜だった。味方どころか敵ですらなかった。
結局、奇跡を歌うグループの人数は把握できなかった。まずいビールに酔ったせいではなく、
「動くよねー。」
ポジションがコロコロ変わるダンスに目が追いつかなかったのだ。全部が同じ顔に見えて仕方なかった。
いつから自分は若い女を見てきれいやかわいいの前に、タイプの女を探す前に、団体の人数を把握したいと思うようになったんだろう。グループを団体と呼ぶようになったんだろう。自分はこの子達よりこの子達の親に近い歳なんだと考えるようになったんだろう。そもそもいつから自分はひとりごとを声に出すようになったんだろう。
いつだ。
ビールはまずくなる一方だった。
***
タカシは冷えたビールがまずかった夜を思い出す。
目の前の「知的で上品だし、セクシー。」と白髪を褒める女を見つめる。再会した日「すごい久しぶりね。」に続いた言葉と優しい声を思い出す。
万が一、ソノコにフラれるとき。
愛してると言った同じ口に憎しみを込め毒にも薬にもならないとフラれるとき。
きっと、フラれた次の日の朝、顔を洗う前に鏡を見て白髪まみれの髪を今日にでも染めたいと思うんだろう。
もう誰もこの髪を愛し、包容し、許容して共有し、
「タカシくんの全てをすきよ。」
と、この頭を胸の中に抱いてくれる人はいないときっと淋しくなる。結婚はおろかまともな恋愛ができるのだろうかと悩むより先に、ただ、ソノコの笑顔を思い出す。髪を黒く染め、白髪に悩むことはなくなる。
けれど。
鏡にうつる自分の黒い髪を見つめきっと、とても淋しくなるのだろうと思う。
*
目の前のソノコと、その瞳のなかにうつる自分と見つめ合いタカシは、一人だった金曜日の夜を、キンキンにまずいビールを、いまだ人数がわからない若い女の団体が歌う奇跡の歌詞を思い出す。
*********
高校生だった時から12年後本屋で偶然再会したとき
「すごい久しぶりね!」
の挨拶の次の言葉は
「髪、すごく素敵ね。」
であったことを今も鮮明に覚えている。その言葉の次に
「ありがとう。」
と、謙遜や卑屈やまた自虐の言葉を返すことはできず、それらの言葉を思い浮かべることさえさせない清潔な気持ちの良い響きにありがとう以外返すことはできなかった。
清潔な気持ちの良い響きのありがとうには懐かしさと同じ量の安らぎがあった。
*********
タカシはネイビーが似合うと思う。それは黒に近い濃紺色。ネイビーのティシャツが世界でいちばん似合うひとだと思う。けれどタカシは、
「一層際立たせている気がする。」
と、髪を撫で否定の苦笑をこぼす。
ネイビーのシャツから伸びる腕。腕組みをするときの、ひじから手首まで真っ直ぐな力強い線。遠くを見るとき少し細める目。ベッドで、眠っているときの顔も、苦しそうに響く気持ちいいの声も、眉間に寄せる皺も、耳元で聞く温かい息も。全部のタカシを好きだとソノコは思う。
「すごくおいしそうにごはんを食べているところなんて。たまらないわ。」
ソノコは目を閉じ言葉に力を込める。
「それはね、」
字幕が全部上に流れて、スクリーンが黒くなって、照明がついて明るくなった映画館でしばらく椅子から立ち上がれないくらい感動してチケットの半券を一生宝物にしたいと思う映画を観たあとみたいな。読み終わってしまうのが勿体無くて淋しくて、一旦、ページを閉じてしまう小説を一冊読んだあとみたいな。捨て曲が一曲もないアルバムを一枚聴いたあとみたいな気持ちよ。
大きな木を見上げて、風に揺れる葉っぱのカサカサって音を聞いて、その葉っぱと葉っぱの隙間から太陽がキラキラ落ちてくる。
「そんな気持ちになるの。タカシくんといると。それに、」
タカシくん眠いの?って聞きたくなってしまうような穏やかな表情はもちろん好きだけれど、怖いくらいに厳しい表情もたまらなく好き。
「つまり、タカシくんの全てがすきよ。」
目を閉じ、開く。
開いたソノコの目に自分が映っている。から、視線は確かに交わっているのだとわかる。けれど、ソノコはどこを見ているのだろうと思う。低い声、ゆっくり語るソノコの声に耳を委ねる。
そうか。
映画館にいる、
小説を読んでいる、
音楽を聴いている、
木を見上げ溢れる太陽を見上げている、
そうか、ソノコは今きっと幸せの中にいる。
タカシは、ソノコの瞳を、眠気を誘う愛の歌が溢れるよく動く唇を沈黙のまま見つめる。永遠に見つめ永遠に聴いていたいと願う。そして、ソノコのひと通りの説明が終わるとタカシは、
「うん。どれも全部よく分からないけどうれしいよ。ありがとう。」
笑う。
「ソノコが好きならなんでもいい。」
ソノコの首筋に顔を埋め強く抱きしめる。
泣きたくなるような幸せをソノコごと抱きしめ、タカシは目を閉じる。
*********
タカシの髪には白髪があった。
「知的で上品だし、セクシー。」なタカシの髪の色はソノコと再会した日から約一年後の3人の最後の日までブラックになることはなくずっとグレーのままだった。ソノコは時々タカシのグレーを思い、
「タカシくんはネイビーが似合う人だった。」
今も変わらず確信する。
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とっても久しぶりにTENUSISのワークショップを行います!✨
TENUSISの即売アイテムのポップアップショップは9/28(木)〜10/9(月)の期間開催します✨
ご予約は9/21(木)12:00よりコトバトフクのWEB SHOPにて始まります!
ぜひ、みなさま奮ってご参加ください❤️🔥
・・・・・・・・・・・・・・
TENUSIS™
silkscreen workshop
"barefoot sunday, the change of seasons"
2023.10.7(sat),8(sun)
atコトバトフク
いかがお過ごしでしょうか?
9月になってもまだ暑い日が続きますね。
季節の変わり目はちょっと寂しい気持ちだったり楽しみな気持ちだったり色々混ざります。
今年は10月まで暑い日が続くそうなので、まだまだ裸足で過ごせそうで嬉しいです。
ひんやりした床やシーツが気持ちいいなぁ
サンダルで出かけられるの楽ちんだなぁ
屋外でご飯を食べられる季節ありがたいなぁ
ということで、そんなことを思いながら作った版です。
一緒に刷りましょう。
《90分刷り放題♪》
○日程○
10.7(sat)
①12:00-13:30
②14:00-15:30
③16:30-18:00
④18:30-20:00
10.8(sun)
①12:00-13:30
②14:00-15:30
③16:30-18:00
④18:30-20:00
各枠定員5名
○場所○
コトバトフク
(京都府京都市中京区御幸町通三条上る丸屋町315 たけうちビル2階A号室)
○参加費とコース○
2パターンのコースがありますのでどちらかお選びください。
①こちらで用意したロンT(カラー:ホワイト,サイズ:M/L/XL)に刷る
¥12,100-ロンT代込み
※ティシャツを刷った方も+¥1,100でお持ち込み可能です
②お持ち込みのアイテムのみに刷る
¥12,100
※何点でも刷っていただけます。
お持ち込みについて
綿、麻、ウール、シルクなどの布、平らな紙、木材に刷れます。
※ワークショップでは、透明のインクを使用するため下地の色が透けます。お持ちいただくアイテムは白や薄い色がおすすめです。
○ご予約について○
コトバトフクのオンラインショップにて9/21の12:00からご予約承ります。
以下のページからご覧下さいませ。
https://kotobatofuku.stores.jp
①のコースの方はご予約時に備考欄にご希望のサイズをご入力ください。
M :着丈72 身幅51 袖丈 59
L :着丈77 身幅56 袖丈 62
XL :着丈80 身幅61 袖丈 64
※基本的にキ���ンセルは不可となります。
※空きがでた場合は飛び入りでのご参加可能です。
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2023.8.6mon_tokyo
メルボルンから東京へ帰る日。
7時半ごろ起きて、荷物をまとめる。
今回は自分のライブ旅ではない、遊びの一人旅。
12階建ての巨大ゲストハウスに5泊した。今朝は6人部屋中、わたしを含めて4人いる。カーテンを開けるのも悪いので、自分のベッド横のライトだけつけ、スーツケースにどんどん入れていく。
ゲストハウスでは、二段ベッドの一つだけが自分のエリア。
着いた時に、滞在中に何度もスーツケースを開け閉めしなくていいよう、シャワーグッズ、化粧品、着た服、着てない服など何がどこにあるかすぐわかるように与えられた一つのボックスにセットしていた。
ハンドクリームにリップクリームやティッシュ、アイマスク類、充電ケーブルもすぐ手の届くところへ。
タオルは、バスタオル、足を拭くためのタオル、濡れたシャンプー類を拭くためのタオル、洗顔用などばっちり用意。ハンガーや洗濯バサミも持参。短い滞在なので洗濯はしないが、洗濯バサミがあると何かと便利。古いタオルを持ってきて、使い終わったら捨てようと思っていたがまだ使えるよな、、と結局持ち帰り。ハンドクリームも、歯磨き粉も、なくなりかけのを持ってきて、使い切って捨てたかったが、なかなかなくならない。マスカラはかなりカサカサのを使い切り捨てることができた。
滞在中にライブを見に行ったりし夜遅く帰るとすでに真っ暗でみんな寝ていたが、すぐにサッ!とシャワーに行けた。我ながら、ガサガサしないプロ。
なのでサクサクスーツケースに詰め、機内持ち込み荷物はまた別にして、いつでもチェックアウトできるようにし、時間に余裕ができたので外へ。
最後の日なのでモーニングを食べようと、カフェが並ぶ小路へ。ここは南半球、季節は冬。寒いけど、屋外の席にたくさんの人が座っている。わたしもせっかくなので屋外に座る。コーヒーと、トースト、豆トマト煮込みで2200円。おお、、高い、、
でも、寒い外の席で食べた温かい朝食、とても美味しかった。店員さんも優しい。
ちなみに滞在中の朝食は、
1日目 市場でコーヒーとチーズ&ほうれん草パイロール 計600円
2日目 なし
3日目 宿の��料サンドイッチ券をもらってトマトハムチーズサンドイッチ(飲み物は水)
4日目 別の市場でファラフェルロール500円(飲み物は水、でも少ししてコーヒー飲んだ。500円)
5日目 バスツアーに参加して、車内でもらったクッキー。
とにかくオーストラリアは物価が高いが、ライブのチャージは1000円〜2000円ほどで、ありがたかった。知らないバンドでも、見てみようかなとなる値段。ビールが一杯1000円〜1500円したけども。
でも、1パイントだし飲みごたえもあるので、日本ですぐ飲み終わるライブ会場の1ドリンクよりいいのかも?
ゲストハウスに住んじゃってる人もたくさんいる。
ワーホリで日本から来て、住んでる子。街中のユニクロで働いていて、日本のサラリーマンの管理職くらいの額?をもらっているようだが、この何もかも高いオーストラリア、ゲストハウスの二段ベッドのひとつで日々やりくりしている。ゲストハウス滞在は光熱費込みで、掃除をしなくていいのは、楽かもしれないが、たくましい。
もう1人ワーホリで来たばかりの日本の子もいて、その子は疲れ切っていた。ガリガリに痩せている。帰りたい気持ちのほうが大きいという。これから楽しくなるんじゃない!?と励ます。ワーホリも、結局性格に因るところが大きいよな、、と思う。
あとはペルー、インド、フィリピン、オーストラリア国内などの人たちが何日か同じ部屋に泊まっては去って行った。
洗面所では、座り込んでお菓子を食べてる人、スペイン語?のインスタライブを見てる人など。
キッチンは同時に10人くらいは料理できるようになっていて、行くと一瞬で料理の匂いがつく。本気のカレー、本気のパスタなど作っている住人たち。冷蔵室は六畳ほどあり、みんなの食料がぎっちり。ちょっと入るだけで凍える。わたしも料理しようかと思ったが、そんなに多くの時間を宿で過ごさなかったので、しなかった。市場のイチゴを洗って食べたくらい。
カフェからの帰りにゲストハウス前の通りの写真を撮った。何度も目印にしたフリンダース駅。
9時にはチェックアウトし、二階建てバスに乗って空港へ。二階建てバスってテンション上がる。10時ごろ着いた。搭乗口が2回も変わり混乱しながらも、12:30のフライトで一旦ブルネイへ。何度も見てるドラマ「フレンズ」を見たりして機内で過ごす。
今回ブルネイ経由の格安チケットで来たのはいいが、ブルネイで帰り7時間待ち。
ブルネイ・ダルサラーム、ブルネイ・ダルサラーム、、、呪文のように唱えたい。
かつてコルネリと共に「角煮」というバンドをやっていて、なぜかブルネイ・ダルサラームという言葉にハマり?全国ツアーのチラシにまで「ブルネイ・ダルサラーム・角煮」と記載していた。何だったんだろうか。ブルネイが国だともわかっていなかったと思う。
厳格なイスラム教徒の国なので、酒がない。
売店は現金のみなので、何も買わず、オーストラリアから持ってきたポテチを一気食い。ポテチ手荷物にして良かった。
今回、一度も現金を持たず全てカードで済ませた。キャッシュレスの国オーストラリア。この場合、ワリカン時はどうするのだろうか?
一度だけ、ライブチャージが現金のみで、ヤバ!と思い、その場にいた人たちにPayPalで送るかドリンクおごるので現金貸してください!と申し出たところ、1人の女性がチャージ代を出してくれて本当に助かった。Paypalに送ると言っても、いらないと。ダメダメ、じゃドリンクおごるから、、と食い下がるも、いいからいいからと。この恩忘れません。
旅に出て人の優しさに触れると、わたしも旅人に優しくする!といつも思う。というか、全員に優しくしたい。
旅に出ている間は旅に集中して、何も考えてない。でも体を動かす(この場合の動かすは、移動させるの意味)とかなりスッキリする。世界には知らないことがたくさんあると思うだけでも嬉しい。帰ってからまた日々何か作りたい。
ブルネイでヒートテックからティシャツに着替えたり、でもやっぱり冷房きついのでまた長袖着たり、同じ長時間乗り継ぎのインドネシアのおばさまに話しかけられて話したり、ネトフリで「アンという名の少女」を見たりしてるうちにフライトの時間が来て0時に乗り込む。乗って寝て起きたら暑い東京だ。
-プロフィール-
碧衣スイミング
38歳
東京
ミュージシャン、すいみんショップ
インスタ @aoiswimming
ツイッター @aoiswimming
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オーダー事例 川沼池谷の飼い主様
こちらからお声掛けさせていただき
アートボードを作らせていただきました!
まさにファビュラスッ!
💎とても素敵なお写真撮ってくれました!ぜひ直接ご覧になってください💎
https://www.instagram.com/p/CvBp3uzPzHl/?utm_source=ig_web_copy_link&igshid=MzRlODBiNWFlZA==
以下インスタ本文コピー
【🖼】PR
はむけんさんが
@hamuken30
ハンドメイドアカウント創立するとの事で
記念PRオーダーで制作して頂きました🖼💎
↓はむけんさんのハンドメイド垢
@crysteria2023
レジンコートで色々ビーズ装飾された
アートボードで
はむけんさんのストーリーにたまに
流れていたの見ていたので
はむけんさんまた新たな事トライしてるわぁ!
って思ってみていました🧚🏼♂️✨
土台の画像だけ私が作成し
はむけんさんがレジンアートを
ハンドメイド!この前手元に届きました🎁
歴代の我がハム達の
黒川さん🍓🦫
黒沼さん🫐🦭
黒池さん🥬🦍🎀
桃谷🌽🐖
が食べる姿が好きで
ハムスターってほっこり可愛い印象だけど
バキバキにファビュラスなキュートな
イメージにしたくて背景はPOPな
ピンクブルーのマーブル柄
にしました( ゚д゚)🏳️⚧️🏳️⚧️🏳️⚧️🏳️⚧️🏳️⚧️
キラキラビーズのレジンアートで
陽の光が当たると反射して
キラキラ放つ💎✦‧.。.:*・:.🔮
こんな可愛いのはむけんさんが
制作してるの想像するだけでナイスですね👍
今まで私はコンビニシールとかグラスとか
ティシャツのような
【実用性あるもの】【低価格】な
我が子グッズしか作成した事ないけど
このアートボードに関しては、
我が子グッズとしてみるよりも
個人的にはインテリアアートボードとして
本格的なモノに感じました🪴
ポスターで部屋の雰囲気変わるのと
同じようにお気に入りの写真でやるも良し、
自分の好きなテイストに加工した画像を
使用しても良いなぁと思いました🖼
カラーがあっても良いしモノトーンでもいいし
シンプルにお気に入りの写真でも
装飾が存在感あるので良きですね💎
もし気になる方は
はむけんさんにお話聞いて見てください🐹
はむけんさんこれから
制作楽しんでくださいね👍🧚🏼♂️
ありがとうございます🦫🦭🦍🐖
₹˝ャʓ₹˝ャʓ₹˝ャʓ₹˝ャʓ₹˝ャʓ₹˝ャʓ₹˝ャʓ₹˝ャʓ₹˝ャʓ₹˝ャʓ
新居で写真撮りました🤳
アンケート等もしっかりお答えいただきありがとうございます!
次はどんなものを作ろうかな?
画像を送るだけでオリジナルボード作成
価格は15000円〜
ご興味ありましたら
CRYSTERIA InstagramアカウントのDMからお問い合わせください!
https://www.instagram.com/crysteria2023/
0 notes
Aさんへ ⑳
Aさんへ
Aさんこんばんは
梅雨があけましたね
から梅雨があけてしみいるアクエリアス
字余り
Aさんどうぞご自愛くださいませ
今度、T町にできたかき氷屋さんに甘酒をやりにいきましょう
Sより
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『バーンワンズブリッジ vol.初夏』
ウェザーニュースが梅雨明けを知らせた。
と、同時に熱中症とこまめな水分塩分補給、節電。そして、毎年必ず耳にする「例年にない暑さ」のデジャヴ。結局のところ晩夏にその夏を振り返ってみると真夏のど真ん中より、ニュースが伝える「梅雨の終わり」「開夏宣言」の瞬間に、夏の始まりに、その夏1番の暑さを感じると思う。つまり、耳から夏の暑さを関知する。
***
夏の始まり、フル稼働のエアコン、いつかの休日午前8時53分、インターホンが鳴った。
タカシはソノコを起こさぬようそろそろベッドから抜け出すと、床に散らばる服を身につけ、モニターで来客者を確認する前に正体を確信し、時刻を確認し玄関のドアを開ける。
「もらったけど俺食わないから。」
冷えきった室内に押し入る強引な熱風。おはようも前置きもなく平常運転の仏頂面で弟がおおきな球体を差しだした。
包丁の刃先を入れた途端自らメリメリとはち切れそうに熟れた、巨大なスイカ。スイカから仏頂面に視線を戻しタカシは少し笑う��
暑さのせいでも、暑さのなか取り扱い注意の球体に骨が折れたせいでも、早く受け取れモタモタするな。の腹心のせいでもなくましてや不機嫌でもなくむしろご機嫌さんな弟。愛弟が四季のなかで夏が一番好きなことを兄は承知している。彼には夏が一番似合うことも。「たとえどんなに暑くとも俺は夏が好きなんだ。」
タカシは慌てて被ったティシャツの裾を整え慎重にスイカを受け取る。
「いる?」リョウはサングラスを外しながら玄関に礼儀正しく置かれた高いヒールのサンダルを確認し、目線で兄に問う。緑がかった瞳。レンズが真っ黒の見覚えがあるサングラスとやはり同じく見覚えのあるベージ��のティシャツ。履き古したデニムの裾の微かな綻び。サンダルの涼しげな足元。目のなかに入れてもきっと痛くない大切な弟。
瞳の色素が薄い弟は日射しの強い日にはサングラスが欠かせない。
過日の晴天に弟を助手席にのせ走っていた時。ダッシュボードに置かれた兄のサングラスをかけ、
「これいいな。」
一言呟くと、その日からそのサングラスは弟の車のダッシュボードの上が定位置に変わった。
弟が着ているティシャツ。上品なベージュの、左の胸元にRで始まる4文字のブランドロゴがベージュの糸で刺繍されたシンプルなそのティシャツを兄はとても気に入っていた。
が、勝手に兄のクローゼットをあけ、
「これいいな。」
弟が我が物顔で着始めた。一張羅としてデートの日に着ているらしい様子を察し「また勝手に着てる。」という腹心を兄は口にせずしかしそれにしてもなかなか手元に戻らないことに業を煮やし、
「リョウくんいい加減返してよ。というかさ、俺のお気に入りのティシャツたちが無課金無返却のサブスクになってる。それむちゃくちゃ気に入ってるのリョウくん知ってるよね。
俺、最近それ1度も着てないよ。」
訴えると、
「うん。このRはリョウのRなんだ。」
妙な誇らしさで左の胸を押さえる。
「子供か。小3か。」
「タカシ。こういうのサブスクじゃなくて借りパクって言うらしいぞ。」
堂々と爽やかに笑うのだった。
でも、もう気に入りのサングラスも、ティシャツもいらない。弟の胸元のRを見つめ兄は思う。ソノコがいれば他にはなにもいらない。
「ソノコいる。昨日泊まった。今日も。連泊。リョウくんも今日夜くる?みんなでごはん食べようか。ごめんね。ソノコまだ寝てる。ごちそうさま。熟れてるね。甘そうよ。起きたらソノコに切ってもらう。夜くる?」
兄はスイカを慎重に抱え堂々と、朗らかに笑い室内に視線を向ける。その寝不足があからさまな目、玄関を開けながら引き締まった肌をティシャツで隠した兄と、朝寝の女。それらから派生する事情に察しのいい洞察力の長けた弟は「朝から晩までお前らは。」とは口に出さず、兄のように朗らかに笑う。エアコンで冷やされた冷風が室内から玄関を抜け熱を纏った体を慰める。きもちがいい。体が軽くなる。
「いや、いいよ。俺もこれから予定があるから。」
「デート?」
兄の顔でタカシは笑う。
「変わったな。」
問いには答えず兄の目を見つめ弟は呟く。
目だけが笑わない笑顔と、茶化しに包まれた懸念の声色に兄はその真意を探るべく視線で「その心は」と弟をみつめる。こういった場面で誤魔化したりはぐらかすことをしない弟の誠実さを兄は知っている。
「変わったというか。そうだよな。変わったとは違う。男だったんだよな。タカシは兄なんだとばかり思ってた。」
知らなかったよ。と見つめ返すいたずらな目は優しい。血と、長い年月をかけて築いた兄弟を繋ぐなにかが多くの言葉を重ねなくとも気持ちを伝える。兄は弟の心情を慮る。
「そうだね。俺もこんな自分を知らなかった。」
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