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#2回も離脱しながら首位打者目前てすごくない
sayasaan · 1 year
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#happybirthday #大島洋平選手 ⁡ ⁡ 今シーズンは観戦に行ってるのに 大島くんの写真が見つからない涙 ⁡ 来季はたくさん撮影に伺います! お誕生日おめでとうございます🎉 ⁡ ⁡ #2回も離脱しながら首位打者目前てすごくない? #この人の計り知れない力はまたまだ続くと思います ⁡ ⁡ ⁡ ✧・━・✧・━・✧・━・✧・━・✧・━・✧・━・✧・━・✧ ⁡ #ドラゴンズ #ドラゴンズファン #ドラゴンズファンと繋がりたい #ドラゴンズ愛 #中日ドラゴンズ #ドラゴンズ好き #ドラゴンズ大好き #ドラゴンズ頑張れ #大島洋平誕生祭 #お誕生日おめでとう #頼りになるキャプテン #大島洋平 #大島洋平8⚾️ #大島洋平デー (バンテリンドーム ナゴヤ) https://www.instagram.com/p/CkustemvuKq/?igshid=NGJjMDIxMWI=
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gren-dddd01 · 6 months
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( 片手に長尺の得物を携えた背を東へ見送ってから取り出した氷砂糖は一つの道標。指先に飛び付いて来るのは宵闇を抱える背。それを西へ送り、ひとつ落とした気合入れの息。脳を連れては北へと歩みを進める。
道のりは複数。入用の時の打開策も、目をくらます為の術も、万一の際、背を歩く今回の相棒を逃がす為の経路も下調べの内。さて。核は何処だろうか。と。
今回の依頼は双方からの壊滅要請。除去、掃除、強制撤退。言い換えれば言葉も少なくはない。然し肝心な目的が描かれていない。邪魔だから消してくれ、と。それだけ。取引はスムーズなものだった。報酬も嵩むものだった。地位、名誉、金、権力、その他諸々。それらを片手に易々と握る奴らは相当互いが憎かったらしい。
好意の反対は嫌悪、然し表裏一体。本当の背中合わせは無関心。それが祟ったのだろう。聞き出せばぼろぼろと情報が落ちてきた。顔、本名、組の構成と常に傍に居る内部SPの情報、愛用する煙草の銘柄や直近で何の策に手を付けたか、愛用する銃は何丁か。そんなところまで。
ぐるりと回した脳はその時に叩き込んだ記憶を頼りに進んでいく。きっと、この辺り。核が拠点に居ないのは当たり前の話、小規模ならともかく、ここまで大きな部だ、大将が城に居るわけもない。探ったのは通路が通せそうな場当たり。それでいて大通りが近く、かつ、一本挟んで裏の路地に直結出来る、場所。
ふと、東の方角から何やら喧騒が聞こえて。遠い銃声が反響して空が呻る。__死神のお出ましか。緩やかに上がった口角、それが愉しげなものに変わったのは数分後。
中核まで行った頃だろうか、と思案していた所で近くのビルの灯りが全て消えた__否、カーテンを閉めたのか。分かりやす過ぎる。ここに居るぞと手を上げているようなものだ、と。一気に距離を縮めた其処。
中からは思った通り鉄砲玉が現れた。遊ぶ様に、振り翳された腕を潜り、背後を取り一発。振り向く前に殴り飛ばしてから後頭部。よろめいた肋骨を思い切り蹴り飛ばせば重鈍い感覚。2本は行ったか。暫くは立てねえだろう。
それからは案外早い展開だった。数発で伸びる雑魚から、数分の闘いになる者。それでも手応えは弱い。核の傍に付いているヤツがこんな雑魚だとアタマも堪ったモンじゃねえだろうな、なんて。嗚呼、だから俺らに依頼が来たのか。納得。アサヒカワの土地の獄を脱した数々は中王区の都合により公にはなっていないものの、掻い潜った生死線の匂いは直感的に判るらしい。直接の闘いで互角ならば、人を使う他ないわけで。金で解決出来るのならば手も汚す心配もない。実に簡単な動機。
ふと、己を無視して一目散に逃げ出そうと__否、向かおうと、する男が一人。顔には焦りが張り付いて、その顔には覚えがある。見付けた。潜り込んでる密告犯は此奴。元より双方同士の当たり戦だった故、潜り込んでいた手玉だったろうがほんの少し時刻の早まった騒ぎに戦慄したんだろう。判っていて此方も二人を送り込んだのだから。男の正体はきっと西、丞武の送った方のビルの、頭領に付く地位、それの一個下。他を蹴散らしながら男を捕まえて容赦無く叩き潰す。息の根は止めぬ程度に、口は聞ける程度に。
アタリはビンゴ。察しはいい方だった。自分が向かえないのだと判ると直ぐに口を開いた。其れを入り口の方に控える脳へと発信。用無しは意識を暫く落とさせておく。打つよりも喋った方が早いと繋げた声線はきちんと届いたらしい。結果的に問題はない。
同時刻、己の端末に立ったピンはきっと有馬の情報。
外に繋がる道は幾数もあった筈だが、可笑しな事に全員が律儀に己のいる方に回ってくる。それに気付いたのは進んだ先、逃げ惑う奴が扉に手を掛けて、一向に開かずに此方に脚を変えたから。アイツの仕掛けた罠だろう、全ての扉の鍵は燐童の手の中。思わず口角も緩む。駆除したいものが彼方から寄ってくるのは都合がいい、文字通り袋の鼠。
思考を軽く回しながらの飛び蹴りは慣れたもので、蹲る台を踏み付けながらその後ろに直下に拳を落とす。立ち上がる前に捻じ上げた腕、関節の外れる音は存外間抜けな響き。己の服にも紅が程良く乗ったところで後ろの方から晴れやかな顔で向かって来る、この袋の首謀者。正直纏まりがいい、そう思った。バランスが全て。東西の2人は言わずもがな楽しんでいるだろうし、立てた作戦の核である脳に手出しはさせずに頭を狩るミッションは自分も昂る。全てを調和した関係性。最初は此処迄、…なんて考えるのは辞めた。
辿り着いた先の頭領は全てを悟ったらしい、命乞いよりも先に逃げ出した先、追い掛けたのは風の吹きしきる屋上。まさか身投げでも、そう思った瞬間に意図は悟った。同じ高さ、それに近い標高を示すビルは東に一つ。そして其処から伸びるプロペラと、飛び立つ機体。此処で空に逃げようなんて。然し確実に、核だけを回収し、逃げるには空からが一番早い。生憎飛び道具は何もない。一か八か、フェンスを登り其処から回収しようと低空になった瞬間、飛び移れば、と思い金属へと手を掛けた先、派手な音と共に火花を散らし機能を失い落ちていく機体。右を見遣れば得物を担く人影がひとつ。相変わらずいい仕事をしやがる。ガシャン、と掛けた脚を外して細めた瞳で見渡した、黒煙を纏う空。
これで東の頭の逃げ場はない。首根を掴み引き摺り込んだフェンス際、無理矢理押し付けて聞き出した全ての情報は燐童へ。中身のない蜂の巣ほど面白くないものはない。蜜をしっかりとこそげ取った後のガワは、そっと手を離して、瞬くままに、真っ逆さま。____東の組は此れで潰れたも同然。情報は全て己の手の中。
次は西の、と、思った所で端末に入る連絡。どうやら菓子は貰えなかったらしい。悪戯は成功しただろうか。二つ分の足音を鉄板で出来た階段に響かせながら出た外、向かうは其方、手の鳴る方へ。
暗闇の中に鳴り響く奇怪な替え歌は随分と御機嫌のようだ。塀にいた頃からの常の処世術。手をかけた人間は眼で値踏み。装備や服に記された階級を見極めてから懐を漁る。これがきっと此奴にも備わっているのか、それとも鼻が効いたのか。響く金属音はナイフの刃の音だけではなく、軽い音。目線が捉えたものは数個の鍵。その中に見えるのは確かに情報の中にあった紋様。頭領だけしか持ち得ないそれを彼が持っているという意味は確かに此処に有る。隠れ蓑が探れないとは思っていたが、馬鹿正直に拠点内部に鎮座してたとは。___西の組も、共に制圧。
適当に止まっていたバンを拝借。全ての情報は確りと参謀の手の中に。武器庫は一通り漁って担ぎ入れ、手当たり次第の金目の物は積んだ。きっとこの後入るであろう捜査を可能な限り撹乱する手筈も整え、足は付かぬように、きっちりと身を晦ます。
緋色に塗れた二人を回収しつつ自陣へと帰還。全てを金に換えるには骨が折れる。資産洗浄を一気にするのもリスクが高い。追々、暮らしながらにしようと思案しながらの帰路。アドレナリンは収まりそうにない、久々に動かした身体と頭。消耗した参謀を担ぎながら、再び陽気な唄を口遊む彼に渡したのは労いの為に与えた氷砂糖の袋の残り。狙撃者を運び込むのは任せて、入り込んだ。ドロドロの服はきっと総取っ替えだ。空の先に見据えた夜明けは思うよりも明るく、目が自然と細まる。無事全員帰還。報酬の概念は最早無く、有る物全てを総取り。暫くは街に降りる時に騒がしいだろうが、人を隠すには人の中。人口が少ないわけではない、きっとゆっくり、暮らせるだろうと。
ぐ、と伸ばした背。大きく放った欠伸。此の儘、この先も。緩やかに過ごせれば、なんて。到底穏やかとは言えない惨状を纏いながら呑気な思案。____目を覚ました二人と共に風呂の争奪戦になるのは数分後の話。)
___________All-Hallows Eve- All Souls Day.
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thetaizuru · 11 months
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 19世紀のアメリカにジョシュア ノートンという人物がいた。  生年月日の明確な記録はないが1818年頃イギリスで生まれ、幼少期を南アフリカで過ごし、1849年にサンフランシスコに邸宅を購入してアメリカに移り住み、父親から受け継いだ遺産を運用して一財を作ったが、投機に失敗して1858年に破産する。破産により正気を失ったと考えられている。1859年9月、ノートンはサンフランシスコの新聞各社に次のような手紙を送った。 「  大多数の合衆国市民の懇請により、喜望峰なるアルゴア湾より来たりて過去九年と十ヶ月の間サンフランシスコに在りし余、ジョシュア ノートンはこの合衆国の皇帝たることを自ら宣言し布告す。   ―合衆国皇帝ノートン1世 」  いきなりの合衆国皇帝即位宣言を、声明を受け取った新聞社の一つであるサンフランシスココール紙がジョークとして掲載した。ここから21年間にわたる「帝都サンフランシスコ」を拠点にした「合衆国皇帝ノートン1世の帝位請求」が始められた。後にノートン1世は請求称号に「メキシコの保護者」を追加する。ノートン1世は主にサンフランシスコの日刊紙上に数多くの国事に関する「勅令」を投書として送りつけ、これを帝位請求における主要な活動とした。  「絶対君主制に移行したアメリカ合衆国においては皇帝による親政が行われる必要があり、議会制度は廃止されるべきである」として、アメリカ合衆国議会の解散を命令したりもしたが、皇帝として要求した内容のほとんどは温和なものであり、先進的で価値のある発想と言えなくもないものも多く含まれていた。 サンフランシスコの市民たちは次第に、頭はおかしいが打算や野心のない温和で平和的なノートン1世の人格を敬愛し、「皇帝勅令」に親しむようになっていった。  1867年に一人の警官がノートンを捕え、彼の意に反して精神病の治療を受けさせようとしたときには、市民と新聞による激しい抗議により騒動となった。警察署長はすぐに対応し、ノートンを釈放して警察として公式に謝罪した。ノートン1世は寛大にもこの警官による「大逆罪」に「特赦」を下した。この騒動以降、警官たちは通りで「皇帝」に会った時は敬礼するようになった。  ノートンは生涯極めて貧しいままだったが、彼を敬愛する市民たちが生活を支えた。食事を振舞ったレストランは「皇帝御用達」のプレートを玄関に飾った。「皇帝」がいつも着ている軍服が古びてきたときには、サンフランシスコ市が大仰な儀式とともに新品を買うのに足りる分を支出した。「皇帝」はその見返りに感状を送り、終身貴族特許状を発行した。小額の負債の支払いのために「帝国政府国債」を発行することもあったが、その紙幣は地域経済において完全に承認された。  1880年の「皇帝崩御」は州外にまで報じられた。寄付金により大規模な葬儀が執り行われ、3万人もの人々が足を運んだと記録されている。
 1818年生まれというと、こちらも明確な記録がないため正確な生年は定かではないが、現在では知らない人のいない、現代社会における最も重要な思想の礎を作ったとも言える人物であるフレデリック ダグラスと同い年であり、「皇帝宣言」をした1859年というと、「19世紀のアメリカ人で最も議論の的になる人物」と言われるジョン ブラウンが、その議論の的となる行動を起こした年である。そのため、特に1860年代のアメリカについては、こうした時代背景を抜きに語れることはほとんどないはずだが、「皇帝」陛下のエピソードは時代背景からもぶっ飛んで語られていらっしゃり、また、現在まで語り継がれているということ自体が、というか単なる悪ノリと言われればそれまでなのかもしれないが、社会を取り巻く論争などについて、その党派性や宗派性、イデオロギーなどを超えた視点を与えてくれている、気もする。  1960年代に創立された「ディスコーディアニズム」というパロディカルトはノートンを聖者としたが、そのパロディカルトの教義は、自身を含めたあらゆるドグマを笑い飛ばして超越するというものだ。また、ノートンをオマージュした人物を登場させる小説などのねらいのひとつも、突飛で常識外れな考えの提示によって、社会的な論争の中でねじれてしまっている常識の本来の姿を思い出させるということにある。  ノートンは合衆国の政治体制である共和制と連邦主義にある著しい不備を解決するには、絶対君主制を導入するしかないと信じ、自らがその帝位請求者になろうと決意した。サンフランシスコの市民たちは、「皇帝」に敬意を表する人も、そういうノリをあんまり面白くないと思う人も、特に議論をするまでもなく、君主制には賛同しないという考えと、人生には程度の差はあるだろうが理想やユーモアは必要だという常識を再認識し共有した。ノートン1世の「帝都サンフランシスコ」への愛は、市民たちに誇りを持って共有され、祝福された。
 フレデリック ダグラスの奴隷解放運動は、1861年に就任したリンカーン大統領による1862年の奴隷解放宣言となり、合衆国憲法修正条項第13条および第14条となり、1870年には修正第15条も批准される。さらには1948年の世界人権宣言へとつながった。ダグラスは「公民権運動の父」とも呼ばれる。  ダグラスもリンカーンも奴隷解放論者としては「きわめて穏健派」であり、 1860年の大統領選挙期間は、リンカーンもリンカーンの大統領選挙を後援したダグラスも、「合衆国の新しい領土に奴隷制を拡大しないようにすることで最終的に奴隷制が終わる」と主張した。奴隷制の拡大を止めれば、経済的に奴隷制はいずれ消えるという考えは、ジョージ ワシントンをはじめとする建国の父たちの考えを引き継いだものでもあった。  こうした奴隷制度廃止運動が奨励していた平和主義に対し、「こいつらは口先だけだ。我々に必要なことは行動だ-行動だ!」 と、 アメリカでは初めて、運動の手段として「反乱」を唱道し実行したのがジョン ブラウンである。  1859年10月、ブラウンはバージニア州ハーパーズフェリーで連邦政府の武器庫を襲撃する。武器庫を占拠し、解放黒人1人を含む7名を殺害、10名以上を負傷させた。ブラウンは武器庫の武器で奴隷達を武装させるつもりだったが、結局は失敗し捕縛される。バージニア州に対する反逆罪で、12月、絞首刑となる。これは16ヶ月後の南北戦争開戦の重要な原因の一つとなった。  ブラウンの公判中、ヴィクトル ユゴーは、当時亡命していたイギリス王室属領ガーンジーから、ブラウンに対する恩赦を得よ���と試み、公開の手紙を送り、大西洋の両側で新聞に載った。その文章で、内戦の可能性を警告していた。
 ブラウンのような反乱指導者が再び現れることを恐れた南部の奴隷所有者は、老朽化した民兵制度を再構築した。これらの民兵は1861年までに基礎を固め、そのまま南軍として戦争に対する備えとなった。   南部においては、北部による「奴隷制度廃止論」は「人種差別」と「南部侵略の陰謀」を隠すためのカモフラージュに過ぎないという説が以前から広がっていた。これは奴隷たちによる反乱の意思を削ぐために広められた側面もあるが、人種間における格差も、習慣の違いも、制度上の不備も、それらに起因する対立も、事実として存在した。ブラウンの襲撃は、「北部には南部侵略の意思がある」という説にも信憑性を与えることとなり、南部民主党は、奴隷制度廃止論と密接な共和党の政策綱領が、ブラウンの襲撃を必然的にもたらしたと非難した。1860年11月の大統領選挙での、民主党の共和党への攻撃材料となり、共和党はブラウンの襲撃を非難し、その話題からできるだけ距離をとった。  リンカーンが当選し、12月には早くもサウスカロライナ州が合衆国からの脱退を宣言。翌1861年2月までに脱退を宣言した7州がアメリカ連合国を結成。3月4日、リンカーン大統領就任。4月12日、南軍が合衆国のサムター要塞を砲撃、戦端が開かれた。リンカーンは合衆国に残ったすべての州にサムター要塞奪回を呼び掛け、軍事的な協力を要請した。しかしこれは連合国への軍事対決を意味し、まだ合衆国に残っていた奴隷州を刺激した。5月までにさらに4州が合衆国を脱退し連合国に合流した。  南北戦争中、南部は、「奴隷解放は平和と再統一への障害となる」という説を広めた。  リンカーンは、憲法で制限されているため連邦政府には奴隷制を終わらせる権限がないことを理解していた。  南北戦争中、リンカーン大統領は「この戦争における私の至上の目的は、連邦を救うこと」だと繰り返した。
 1862年9月、リンカーン大統領は奴隷解放宣言を発した。  リンカーン大統領は、各州の状況をみながら妥協点を探り、時局を見誤らないようきわめて慎重に指揮を執った。前例のない政治的および軍事的危機に直面し、戦争指揮権を拡大、前例のない権限を使う最高司令官となっていた。「適切で必要な軍事的手段 」として奴隷解放宣言は発せられた。リンカーン大統領は、戦争の発生だけが大統領に合衆国内にすでに存在する奴隷を解放する憲法上の力を与えたと主張して、戦時立法として宣言に署名した。  リンカーン大統領のきわめて慎重な指揮は、「あいつらは差別者だ」と言って奴隷制存続を主張し、「社会が分断される」と言って合衆国を脱退し、「あいつらはテロリストだ」と言って砲撃を始めた連合国には大義がないことを明示することになった。連邦議会は国民的意思の後押しのもと、本来権限がないはずの奴隷制を禁じる法を成立させ、リンカーン大統領は議会に敬意を表してこれを承認した。公式に戦争を終結させるには、奴隷解放宣言を発するしかないという国民的な合意も出来上がっていた。それは奴隷制の廃止と連邦での市民権の確立に関するアメリカ合衆国憲法修正条項第13条および第14条制定の推進力にもなった。  リンカーン大統領の慎重さは、この戦争が国際紛争にならないようにするための奮闘でもあった。  南部の綿花のおもな購入先であり、北軍の海上封鎖を打破しうる海軍力をもっていたのはイギリスだった。アメリカ南部から綿花輸入の8割を頼っているイギリスにとっては南部との関係が断たれたのは大打撃だった。英首相のパーマストン子爵は合衆国に対し強硬姿勢を打ち出していた。1861年末のイギリスの南北戦争介入の危機はヴィクトリア女王夫妻が阻止に動き回避されたが、南北戦争が長期化の様相を呈する中で、再びイギリス政界に南北戦争介入の機運が高まり始めた。  リンカーン大統領の奴隷解放宣言は、奴隷貿易廃止に尽力してきたパーマストン子爵としても共感するところが多かった。イギリス世論も奴隷廃止を支持した。最終的にパーマストン子爵は1862年11月の閣議で南北戦争不介入の方針を改めて決定した。
 解けないはずのパズルを解くように、国家に巣食う内なる敵と戦い、アメリカの精神を世界に示したリンカーン大統領の手腕は、1865年の二期目就任後、南北戦争が実質的に終結した頃、支持者の一部から半ば神格化され始める。が、そのすぐ後に凶弾に倒れる。  1865年4月14日にリンカーン大統領を暗殺したジョン ウィルクス ブースは、 リンカーン大統領によって共和制が廃止され絶対君主制になると思い込み、自分の事をブルータ���になぞらえていたとされる。
2023年6月 ミスティック コーズ オブ メモリー
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ヘロヘロQカムパニー『江戸川乱歩パノラマ朗読劇 5人の明智小五郎』「D坂の殺人事件」の感想
 ヘロQの『D坂の殺人事件』(以下『D坂』)4日夜公演の感想です。
 みなさんは、「なんか思ってたのとちがう」ってなること、どれくらいあります?私はいまこのブログがそうです。もはや自分にすら理解できないブログを書いている。私はいったい何を書いているのか、そしてそもそもなぜブログを…。
 気を取り直して。『D坂』は、置鮎さん担当の語り手=「私」が、かつて起きたある事件を回想する話です。先に事件のあらましを確認します。D坂の古本屋で、ある女性が殺される。蓋を開けてみれば、それは不倫カップルのSMプレイ…首絞めセックス中の事故だった(当時想定されていたSM行為についてはまったく知りませんが、女性の着物の裾がけっこうまくれていた的な描写があった気がするのでまあそういうことなんでしょう…)。
 わあー!す・っ・ご・く・ど・う・で・も・い・い!!!!笑
 とはいえ、『D坂』は探偵小説なので、大事なのはオチよりプロセスです。語りの中で、犯人がオランウータンや毒蛇だった先行作品への言及がありました。これも、オチだけ聞いたら「何だって??」となる話。でもそこまでのプロセスが面白ければ、探偵小説としては成立する。なので、このどうでもよさはひとまずおいておきましょう。
 ひとつ前のブログで、話のスケールに触れました。今回のヘロQの朗読劇でピックアップされた作品は、いずれも短編です。でも、話のスケールはけっこう違う。『心理試験』では、事件に、犯人の思想や高慢、科学が関わってくる。「この事件が解決したときに、どんな価値観が勝利し、どんな価値観が敗北するのか」という視点を設定すると、『心理試験』の話のスケールの大きさがわかるんじゃないかと思います。『何者』は、逆に話のスケールが小さい。最初に犯人と思われた男とは別の真犯人がいたという展開は面白いですが、結局は自作自演。犯人は、三角関係と兵役忌避という卑近な目的のために事件を起こしただけ。これこそ関係者以外はどうでもいい話、スケールの小さな話です。
 では、『D坂』はどうか。死因は首絞めセックス中の事故。また言ってしまいますがめちゃめちゃどうでもいい~!まあ、アフタートークで関さんが解説されていたとおり、当時の時点でそうした逸脱した欲望を小説に取り入れることは、一定の雰囲気を演出したことでしょう。今回の上演でいうと、『D坂』のために舞台に仕込まれた、畳を90度立てて、床に倒れて死んでいる女性の姿を観客に正面から見せるというギミックが、死者の姿と舞台美術とを融合させて、乱歩的な世界観を視覚的に打ち出してましたよね。 それはさておき、『D坂』の犯人に目を向ければ、殺意すらない。タイトルに『殺人事件』とありながら、実際には事故しかない。そうすると、『D坂』もスケールが小さい話でしょうか。
 どうも、そうでもない気がするんですよね。ヒントは、「私」の語りです。
 一般的に、朗読で、地の文=語りは、語られる出来事を囲む「枠」を設定する。同時に、語られる出来事を距離化する。これがよく出ているのが『怪人二十面相』の、講談のスタイルです。語り手は、完全に物語の外にいる。『何者』のように一人称視点の語りであっても、過去に経験された出来事―現在の語りという距離は存在する。ここに、探偵小説ゆえの、「読者の皆さんは~」という語りかけまで加われば、語り手である「私」は、かなり特権的な位置を獲得することになります。過去の出来事をすべて知っており、現在において読者に語り掛ける、特権的な存在としての語り手。  『D坂』でも、語り手たる「私」は、過去の出来事を語り、現在において読者に語りかける。今回のヘロQの公演でいうと、『何者』と同じパターンです。でも今回のヘロQの『D坂』は、必ずしも、語られる出来事とそれを囲む「枠」としての語りという構造にはなっていないようなんですよね。そう思わせるのは、置鮎さんの語りです。
 今回、置鮎さんは、過去の「私」の台詞だけでなく、現在において語られている地の文にも、かなり感情をのせて朗読している。まあ、「感情をのせて」っていうのはかなり曖昧な表現ですが。「私は~した」という文だけでなく、「2人は~」という客観性を意識して書かれた文も、「読者は~だろうか」という特権的な立場から発せられるはずの文も、「私」自身の言葉として読まれる。まるで、「私」の語りが、この小説/朗読劇が読者/観客に事件を紹介するための過去の事実の開陳ではなく、現在における「私」の、現在の思索の行為であるかのように。言ってみれば、地の文が、語り手の語りではなく、現在の「私」という人物の長いモノローグのように処理されている。
 では、『D坂』を語ることで、「私」は何をしようと――何を考えようとしているのか。結論を先に言うと、『D坂』は、「私」の価値観の揺らぎ、そして思索のプロセスを描く話になってるんじゃないかと思います。
 最初に「私」の価値観が揺らぐのが、女性の死体を見つけた場面。「私」は探偵小説の愛好家で、日頃から探偵小説に親しみ、探偵談義を語り、探偵についての持論もある。そんな「私」が、初めて本物の事件に遭遇し、本物の被害者の死体を見る。なんか思ってたのと違うな、と「私」は思うわけです。置鮎さんの朗読がお上手なせいで、たぶん、本来想定されているよりも、価値観の揺らぎはずっと生々しく、ずっと深いものになっている。ドーン!死体!!という、これからこの話が解くべき謎は、上述の舞��上のギミックによって、効果的に提示されています。そのうえで、そのインパクトを引き継いで、死体を目撃したことによって「私」の価値観が揺らいだことのほうも印象付けられる。  このあとも「私」は、大小の「なんか思ってたのと違う」という瞬間を経験していく。たとえば、明智の部屋を訪ねた場面。「うわっ」と、びっくりしてしまうほどの量の本。ここも、ずいぶん迫真的な驚きの声なんです。思ってたのと違ったんでしょうね。座りやすそうな本に座れと言われてしまうのも、思っていた「明智の自室の訪問」とは違ったことでしょう。明智との話が続くなかで、差し出された洋書を読む場面も挙げてもいいかもしれません。「私」が明智の部屋を訪ねた目的を考慮すれば、これもかなり「なんか思ってたのと違う」という展開です。  そして、「私」の大きな「なんか思ってたのと違う」の瞬間が、当然、彼の推理を明智に告げたあとの場面です。「私」は、彼なりの推理で、明智が犯人かもしれないと疑っている。そして、自身の推理を明智に告げる。しかし明智は、あろうことか笑い出す。思ってたのと違いすぎです。「私」の推理はあっさりとひっくり返され、逆に明智に彼の推理を説明される。アフタートークで指摘されていたように、明智の推理がどれくらい厳密かというと、ちょっと微妙なところもあるかもしれない。でも、そこに新聞が届き、明智が犯人と名指した人間が自首したことが判明する。  ここで話は終わります。後日譚などは続かない。現在の私から読者への、まとめの語りもない。読者/観客には明智の推理が正しかったことが強く示唆されつつ、同時に、「私」にとっては、そして「私」の語りとしては、いったいどういうことなんだろう、と放り投げるような終わりです。 この、「いったいどういうことだったんだろう」というのが、『D坂』の「私」の語りを貫く一本の軸になっているんだと思います。「私」の抱えている、「いったいどういうことなんだろう」という問い、それを考えるための「私」の回想、それを伝えるモノローグとしての語り。語られる、「なんか思ってたのと違う」という瞬間の数々。そして、「あれってどういうことだったんだろう」という、事件は解決しても解消しない「私」の問い。
 ここまで見てきた「私」の「なんか思ってたのと違う」は、基本的に、それまで「私」が愛好してきた推理小説の世界と、現実の死体や現実に推理することは違う、というものです。探偵小説の探偵は、真実を突きつけるべく犯人の部屋に赴いたときに、犯人候補の男に、そのへんの座りやすそうな本に座れとは言われないですもんね。それに探偵小説の探偵は、推理に成功する。  ただ、「なんか思ってたのと違う」というのは、ある意味では人生の普遍のひとつです。私だっていま、ブログを書き始めたものの「なんか思ってたのと違う」と思っているところです。でも、もっと深刻で取り返しのつかない「思ってたのと違う」に直面する人物がいる。不倫SMプレイ中に殺された古本屋の妻。そして殺してしまった蕎麦屋の主人です。殺してしまったほうの蕎麦屋の主人にしてみれば、既婚者なのに、自分と性的嗜好を同じくする相手がすぐ近所にいてしまったこと、プレイ中に事故で死なせてしまったこと、自首すること。どれをとっても、「思ってたのと違う」の積み重ねです。この不倫カップルの配偶者たちだって、結婚はとんでもなく思ってたのと違う方向に転がっていっています。こんなスキャンダルのあと、それぞれどうやって暮らしていくんでしょうね…。   あらためて眺めると、『D坂の殺人事件』というタイトルも、同じことを示唆しています。絞殺死体、すわ殺人事件、かと思いきや実際には、殺意を抱いた犯人によって意図的にそして計画的に実行されたものとしての「殺人事件」と呼べるものはなかった。事故があっただけです。作中で言及された、実はオランウータンの仕業だったという『モルグ街の殺人事件』の「殺人事件」とはまた別のかたちで、「なんか思ってたのと違う」を引き起こす事件。つまり『D坂』では、そのタイトルによって、「なんか思ってたのと違う」を、作中の「私」や蕎麦屋の主人、事件の関係者だけでなく『D坂』の読者/観客も体験するよう仕組まれている。  ということは、『D坂』は、「人生って思ってたのと違うよね」ということについての劇なんでしょうか。それはそれで、話のスケールには広がりを認められそうです。不倫カップルの情事中のうっかり事故の話ではなく、残念ながら免れ得ない人生の普遍についての話ということになるので。
 しかし、『D坂』にはまだ一人残っています。明智です。『D坂』で唯一、「なんか思ってたのと違う」を経験しない男。事件を期待して古本屋を訪ね、事件に遭遇し、捜査し、謎を説き、突拍子もない推理をする「私」との友情を楽しみ、自身の推理通りの犯人が自首した記事を読む男。  探偵小説って、考えようによっては、「思ったとおりに」をめぐる攻防を描くものですよね。犯人は自分の思ったとおりに犯行を成功させようとする。対して探偵は、犯人の「思ったとおり」を突き崩し、自身の、より強固な「思ったとおり」の結末を構築する。『D坂』では、まず、結果的に殺害者となってしまった蕎麦屋の主人に、殺意も計画もない。SMプレイ中の事故、「思ってたのと違う」があるだけです。次に、「私」という、言ってみればライバル探偵も、「思ってたのと違う」を何度も経験する。それなのに明智だけが、「思ったとおり」の世界の住人。
 つまり『D坂』は、「私」が明智のことを回想し、明智について、いったい何者なのか、と思いを巡らせる物語になっている。明智の推理によって、おそらく、事件は解決した。「私」には解くことのできなかった事件の謎は解かれた。代わりに、というか事件という謎が解かれたからこそ、新たな謎が生まれている。ただ一人、「思ったとおり」の世界の住人である明智という謎。事件のほうは、いったん真相が明らかになれば終わりですが、明智のほうはそうではない。考えれば考えるほどわからないとか、わからないからこそまた思いを馳せてしまうことってありますよね。『D坂』の「私」にとっては、明智がそう。わからないからこそ、「私」の考えは明智へと向かい、その思索のプロセスが『D坂』という物語になっている。なので、今回の『D坂』の構造は、過去の出来事とそれを枠づける現在の語りではなく、現在の「私」の思索という一直線の構造です。
 おそらく、『D坂』のテキストが、最初からそうなっているわけではない。でも、そうなることのできる解釈の可能性を秘めていた。そして、今回のヘロQは、その可能性を開き、『D坂』を翻案した。  それを可能にしたのは、置鮎さんの語りです。比べるなら、『何者』のさとたくさんが、テキストと対峙し、オリジナルなものを引き出してくるタイプ。『怪人二十面相』の森久保さんは、テキストを、まるで最初からそうであったかのように自分のものにするタイプ。『D坂』の置鮎さんは、自分をテキストの側に持っていって、テキストに潜っていく。テキストを忠実に読んでいくタイプなんだと思います。でも、「テキストに忠実」って、とおりいっぺんの解釈で読んでいくってこととはぜんぜん違います。いやそういうときに使う表現でもあるんですけど。なぜか、真にそれをできる人は、テキストに忠実であることで、テキストの新しい姿を見せてくれる。それも、まるで最初からそうであったかのように。うまいってすごい。
 今回の明智は榎木淳弥さん。『D坂』の明智は四畳半で本に埋もれて暮らしているんですが、すごくそういう感じのする明智でした。それから、どこかとらえどころがない。ここまで書いてきた、「私」が抱え続ける謎としての明智、それを思い返すプロセスとしての『D坂』という解釈は、榎木さんの明智あってのものです。「私」の置鮎さんとは年齢差があるんですが、現在の「私」が、過去に決定的な謎として出会った明智を回想するという『D坂』では、その年齢差もうまくはたらいていたように思います。「確かにこの明智はアリだ」と思わせてくれる明智でした。
     またしても置鮎さんのことをあんまり書けないまま終わってしまった。とにもかくにもお上手だわいい声だわ和装だわ眼鏡だわで、さすがヘロQ、置鮎さんのことをわかってるって感じです。しかし『D坂』の話はもう終わりにたどりついてしまったので、詳しくはまた別の記事で。いや見た作品のぶんの感想は書いたのでもう終わりかもしれません。どうなることやら。
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skf14 · 4 years
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08280005
.........だから、俺がもし大通りで通り魔殺人をするなら、きっと最初に狙うのは腹の大きな女だ。子供が狙い目だと思われがちだが、案外そうでもない。もう生まれてしまった子供は親が必死になって守るから、むしろ普通の人間よりも狙いにくい部類だろう。くだらないが、それを無理矢理狙って殺すのは至難の技だ。両親が揃っているなら尚更。
俺の目の前でベビーカーを押す女が楽しそうに旦那に話しかけて、旦那は嬉しそうに目を細め子供をあやしている。ああ、世界共通の幸せの絵だ。反吐が出る。
幸せ、ってなんだ?他人から見て、己が幸せな姿に映ることか?いや、違う。幸せは、自分の置かれている状況について何も不平不満を抱かず、我慢を強いられることなく、全て俺の意のままに遂行されることだ。そうに違いない。幸せ、幸せ。ああ、俺は幸せになりたい。ずっと子供の頃からの夢だった。幸せになることが。幸せになることこそが。
他人の幸せに対して恐ろしく心が狭くなったのは、きっと今俺の置かれている状況が著しく幸せから遠いから、だろう。社会の中での立ち位置も、持って生まれた時点で腐っていた神様からのギフトとやらも、白痴付近を反復横飛びする出来の悪い頭も、見てくれの悪さも、全てだ。
自ら遠ざかったつもりはない。人の幸せを妬んで、それで、手に入らないことには気付いていて、そして、そして、?
?ん、あぁ、覚める、ダメなやつだ、これ、と、思考が曖昧になって、見えていたものも、匂いも、温度も、何もかもが遠ざかって、そして、何も見えなくなった。
極めて自然に、目蓋が開いた。手探りで掴んだスマホの画面を見れば、時刻は朝の5時を少し回ったところだった。曜日表示は土曜。どちらにせよ早すぎる。
"彼"の中途半端に病んだ思考が俺の頭と同期して、混ざろうとしているのが分かって吐き気を覚えた。やめろ。混ざるな。のそり、重たい身体をベッドから引きずり起こして、ふらふらと冷蔵庫に縋り付き、冷えたミネラルウォーターを喉へ流し込んだ。水の通り道が冷えていって、そして胃の辺りがじんわり冷たくなる。物理的にはあり得ないが、その温度は首の後ろを通って、脳へと伝わり、思考が少し、冷めていく。
何が通り魔だ。情けない。俺の夢を支配して、外に出たがったくせにやりたいことがそんなバカの憂さ晴らしだなんて興醒めもいいところだろう。しかも、やる前のウジウジした感情から見せるなんて。はっ。しょうもない。どうせなら血溜まりの中の回想にでもしてくれていれば、今頃、小話くらいには昇華出来たものを。
奴の目線から見えていた短い指と、くたびれ皺の寄ったスーツとボロボロの革靴、己を嘲笑っているように見える周りの視線と話し声、やけに煩いメトロの到着メロディ、喧騒、咽せるようなアスファルトの油の匂い、脳天に刺さる日差し、それら全てを戦後の教科書の如く黒塗りで潰して、そして、深呼吸ののち頭の中のゴミ箱へと入れた。これで、俺は、俺に戻れる。もう一眠りしよう、と、布団に潜り込み、俺は柔らかい綿人形を抱き締めて、眠るための定位置へと着き直した。
物書きで飯を食える、などという夢を抱く間もなく、敷かれたレールに乗って模範囚の如く社会の、それも下の方の小さな歯車の一つに成り果てた俺。チャップリンのように笑えたらいいんだろうが、生憎笑えない現状の片手間で書いている小説、そんな大層なものではないが、もう200を超えただろうか。詳しく数を数えてはいない。数字を重ねることに、大して意味はない。ただ増えていくソレを見るよりも、彼ら、彼女らの過去、未来に想いを馳せる方がよっぽど大事だ。俺は、彼らの人生を文字に変え、束の間の虚無を忘れている。
俺は、自分の力では、小説を書けない。
一昔前に流行ったゴーストライターではなく、どこかの小説の盗用でもない。人から詳細を聞かれたら、「主人公達が動くのを見て書いてる」と答えて誤魔化しているが、俺は、自分の夢を小説にしていた。いや、自分の夢でしか、小説を書けない。
夢の中で、俺は俺じゃない誰かとなって、違う人生の一部を経験する。なった誰かの感情と共に。そしてその夢は、嫌に鮮明に、必ず完結して終わる。
そのおかげで、俺はまるで自らが体験したように、綿密な話が書ける。不思議と夢を忘れることはなく、内容によっては自ら夢を捨て、今朝のように半ば不快感を持って目覚める。そして、その夢の記憶はじきに消える。
そうして俺は眠り、夢を見て、出てくる彼らの物語を文字に認めて、満たされず空虚な、平々凡々な自分の人生を今日も狂気で彩る。
ある日偶然君の皮膚片を食べた時、世界にはこんなにも美味しいものがあったのかと感嘆し、感動のあまり失禁したことを思い出した。
目が覚めた瞬間、これよりいい書き出しは無い、と思った。思考は溶けた飴のように彼のものと入り混じっていて、はっきりと覚醒はしない。恐らく、俺の思考は殆ど死んでいるんだろう。今こうして無心で手を動かしているのは、確かに生きていた彼だ。口内には口にしたこともない見知らぬ女の皮膚片の味がこびりついて、舌の上がまだぬるぬると滑る感覚、しょっぱい味が残っていた。食べたことのない味。ああ、書かないと、無心で筆を走らせる。書く瞬間、俺は俺でなくなり、彼が俺を使って脳を動かしているような感覚に陥る。戻ってこられなくてもいい、そのまま彼に身体を明け渡しても後悔なぞしない。と、俺は諦め身体の主導権を彼らに手渡している。
ふと気が付いたときには、もう小説は書き上がっていた。軽く誤字を確認して、小説掲載サイトにそれを載せる。人からの反応はない。別に必要はない。
サイトを閉じ、ツイッターを開く。現れたアカウントでただ一人フォローする彼女のアイコンを見て、そしてDMを開いて、青い吹き出しが羅列される様をざっと見て、心が幸せに満たされていくのを感じる。じわり、と湧き出たのは、愛情と、快楽と、寂しさと、色々が入り混じったビー玉みたいな感情だった。
彼女は、ネットの中に存在する、美しく気高く、皆から好かれている人気者。そんなのは
建前だ。彼女は、まさしく、
「おれの、かみさま。」
そう呟いて画面をなぞる。ホワンと輪郭がぼやけたケーキをアイコンにしているあたり、ここ最近どこかへケーキを食べに行ったのかもしれない。俺が彼女について知ってることは、声を聞く限り恐らく女性で、恐らく俺よりも歳が下で、俺のことなど認知すらしていない、ということだ。
別に悲しくなんてない。彼女はただここにいて、俺に愛されていてくれれば、それでいい。拒絶されない限り、俺の幸せは続く。好きだ、好きだ、今日も彼女が好きだ。
彼女のツイートは食べたスイーツのこと、日常のほんの些細ないいこと、天気のこと、そんなささやかな幸せに溢れた温かいものばかり。遡る度、何度見ても心が溶かされていく。
どこで何をしているのか、どんな服を着て誰と笑うのか、そんなのは知らない。どうでもいい。得られないものを欲しがるほど俺は子供じゃない。そばで幸せを共有したいなど、贅沢が過ぎて口にした日には舌でも焼かれそうだ。
『今日も、好きだよ。』
また一つ増えた青い吹き出しをなぞり、俺は不快感に包まれる頭を振り、進めかけていたゲームの電源を入れた。時刻は午後の2時。窓の外では蝉がけたゝましく鳴いており、心の底から交尾を渇望しているらしかった。
触れ合えないことを、惜しいと思わない日はない。彼女の柔肌に触れて、身体を揺さぶって一つになることが、もし出来るのなら、俺は迷わず彼女を抱くだろう。幾度となくそんな妄想で、彼女を汚してきた。俺の狭い部屋のベッドの上で、服を雑に脱ぎ散らかし、クーラーでは追い払い切れない夏の湿気と熱気を纏った彼女が、俺の上で淫らに踊る様を、何度想像したか分からない。その度に俺は右手を汚し、彼女への罪悪感で希死念慮が頭を擡げ、そしてそんな現実から逃げるように夢を伴う惰眠を貪る。
彼女を幸せにしたいのか、彼女と共に幸せになりたいのか、彼女で幸せになりたいのか、まるで分からない。分からない、と、考えることを放棄する俺の脳には、休まる時はない。
俺の中の彼女は最早、彼女本人からはかけ離れているのかもしれない。俺が見る夢の種類は大まかに分けて二つ、目を覆いたくなるような凄惨な感情の入り混じるものと、急に凪になった海をただ眺めているような穏やかなもの。後者に出会った時、俺は必ずと言っていいほど相手の人格を彼女に当てはめる。彼女は右利きで、俺の左に立つのが好きだ。彼女は甘党で、紅茶に詳しくダージリンが特に好み。彼女は子供が好きで、時折自身も無邪気に遊びまわる。彼女は、彼女は、彼女は。どれも、ツイートからじゃ何も読み取れない、俺が付与した彼女のあるべき姿だ。起きて、文章を仕上げて、そして心には虚しい以外の感情が浮かばない。
分かりやすく言うなら、花を育てる感覚に似ている。水を注ぎ、栄養をたっぷり与え、日の光と風を全身に浴びさせて、俺が花から得る物理的なものは何もない。花の子孫繁栄の手助けとしてコマとなり動いたに過ぎない。花側から見ても、ただ育った環境が良かったという認識にしかならないだろう。それでいい。俺はただ目の前で、花が咲くのを見られたらそれで良かった。植物と違って人間は枯れない。根腐れもしない。メリットがあれば、大切に大事に育てれば、半永久的に、花を咲かせ続けてくれる。これほど幸せなことはないだろう。自らの手で育つ様を、永遠に見られるなんて。
ああ、今日も彼女が好きだ。
恋は病気で愛は狂気。言い得て妙だ。病気、狂気、これはまさしく狂気だろう。まごうことなき、彼女への愛なのだから。世間で言う正しい愛じゃないことくらい、まだ正気を保ってる俺の脳は理解してる。が、正しさが必ずしも人を幸せにするわけではない。しかし、正しくない、道が外れている、本当の愛ではない、そう声高に叫ぶ内なる自分がいるのも確かで、結局俺は世間よりも何よりも、俺に足を引っ張られて前に進めないまま、深く深く沈んでいく。ただ一つ言えるのは、どんな形であれ、俺が彼女に向ける愛は狂気であり、すなわちそれが愛ということだ。
純粋な愛からなる狂気ならどれほど良かっただろう、と、目覚めた瞬間トイレに駆け込み僅かばかりの胃液を吐き出しながら考えていた。つい先日の思考を巻き戻して、何処かに齟齬があったかと必死に辿るが吐き気に消されて頭の中が黒に塗り潰される。
違和感を感じたのは夢が始まってすぐのことだった。視界が、進み方が、現実と大差ない。変だ。いつもなら若干の浮遊感から始まる夢が、地に足ついた感覚で、見える手や腕も自身のもので恐らく間違いない。なぜだ。初めてのパターンに内心は動揺しているが、夢の中の俺は平然としている。俺は黙々と愛車を運転し、車は山道を奥へ奥へと進んでいく。ガタゴトと揺れる車に酔いそうになりながらも、ナビを切りただ道なりに進んで、そして暫くしてから、脇道へと入った。脇道といっても草は生え放題、道未満のその木のないエリアを少し走ってから車を止めた俺は、車内のライトをつけ、行儀悪く身を乗り出して後方座席へ移動し、転がっていた黒い巨大なビニール袋を破いた。
キツく縛られまるで芋虫のような姿で袋から出てきたのは、紛れもない、何度夢想したかわからない、愛おしい彼女だった。俺は、彼女の着ている薄いワンピースの感触を楽しむように掌で撫で、身体のラインを触れて覚えていく。凹凸、滑らかな生肌を想像しながら身体を撫で回し、スカートの裾を少しずつたくし上げていく。彼女が噛んでいる猿轡には血が滲んでおり、嫌々、と首を振っては綺麗な涙をぱたぱた散らす。そのリスのような丸い目に映る俺はきっと、この世の誰よりも恐ろしい化け物に見えているだろう。身体を暴く手は止まらない。胸を、局部を、全てあらわにし、下着を一度抱きしめてから破り捨てる。そして、現れた汚れなき場所へ、手を、口を寄せ、そして、俺は、彼女と、一つになった。頭の中が気持ちいい、暖かい、柔らかい、という白痴のような感想で埋め尽くされる。彼女に埋まった俺の身体の一部が溶けてしまう、気持ち良さで脳が溶けてしまう、身体の境界も全て失ってただ善がる概念になってしまう。ああ、ああ、と、感嘆する声が漏れて、俺は目の前の柔い身体を撫で回し、噛み、舐めしゃぶり、全身で味わった。涎が溢れて止まらない。彼女の柔らかい腹にぼたぼたと泡混じりで落ち溜まっていく。鼓膜に己の荒い呼吸音だけが響いて、車外の虫の声も彼女の呻き声も、何も聞こえない。ただただ車はギシギシと揺れ、彼女の目尻から絶えることなく涙が溢れて、俺の心から絶えることなく多幸感が溢れて、彼女の中に彼女と俺が混ざり合った生き物の種が植え付けられた。
死んだと見間違う目をした彼女へ、俺は口を寄せて一言、囁く。
『今日も、好きだよ。』
そこで目が覚めた。
吐くものが無くなってもまだ喉がひくりひくりと痙攣していた。苦しい。買い溜めしておいた水の段ボールを引き寄せて、無造作に掴んだ一本を雑に開け胃へと流し込む。零れた水が首を伝ってTシャツを濡らした。ぜえぜえと喉が鳴る。頭を振り払って、絞り出した声は驚くほど情けないものだった。
「そんな、はずはない、あんなの、俺じゃ、俺じゃない、っ、ぅ...」
逆流する胃液に応戦するように水を飲む。喋ると逆効果なのは分かっているのに、誰に主張したいのか、言葉は止まらない。今話しているのは俺か、誰か、分からない。
「俺はそんなこと望んでない!!!!っ、くそ、ふざけんな...っ、クソ...」
込み上げた涙は悔しさ故。浅ましい己の脳がどうにも恥ずかしく、憎らしく、それに縋って自尊心を保っていた己が卑しく、そして何よりも己の夢の特性に殺意が湧いた。
一度、目を覆っても嫌になるような凄惨な夢を見た。それは、簡単に言えば理不尽な男がバールで一家をぐちゃぐちゃに叩き潰す話だった。書くべきなのか、と筆が止まり、彼の人格を放置したまま俺は1日過ごして眠り、そして、同じ夢を見た。次の日も、次の日も、むせ返るような血の匂いと足を動かすたびにびちゃりと鳴る足音と、頭部を殴った拍子に転がり落ちた眼球を踏んだ足裏の感触と、その後彼の同居人が作ったハンバーグの味が消えないまま1週間が経ち、俺は書かなければ夢に殺されると自覚して、筆を取った。
夢を使って自分を満たす以上、逃げることは許されない、ということか。忌々しい。まだ治らない吐き気に口元を押さえ、放り投げていたスマートフォンを手に取った。仕事を休んでも夢に囚われ続ける。ならば、書くしかない。時刻は朝の4時半過ぎを指し示していた。
そして、彼女を好き放題貪った話がスマートフォンの中に出来上がった。満員電車で誤字チェックをすると、周りの乗客の視線がこちらに向いている気がした。フラフラするが、仕事からは逃げられない。あの夢も、俺の偽物もこれで消えた。今日は眠れる。
��観視、だったんだろう。巣食う闇の深さは思った以上だった。俺は翌日も吐き気で目覚めトイレに駆け込み、脳内をぐるぐると駆け回る、四肢に残る彼女の感触と、膣内の締め付けと湿り気、背中に走る絶頂感と共に噛みちぎった喉笛のコリコリとした食感、口に溢れる鉄臭い鮮血の味、そして、恍惚とした表情で俺に抱かれたまま絶命した彼女の顔を、振り解いて捨てようとしては目眩に襲われた。
「分かった、書くから、分かったから...俺じゃない、あれは俺じゃない、俺の皮を被った偽物だ、」
彼女の夢を見始めてから、ツイッターを覗かなくなった。
彼女は、毎日俺の夢に出てくるようになった。最悪の気分で夢に無理矢理起こされ、時折吐いて、震える手でなんとか夢を文字で起こして、溜まっていくそれらはメモを圧迫していく。救えない。先が見えない。
そして夢で彼女を殺し始めてから、今日で3日が経った。もう、うなされることも跳ね起きることもない。静かに目を開けて、見慣れた天井を認識して、重い胃を抑えて起きるだけだ。よくもまああんなに楽しんで殺せるもんだ。と、夢の内容を反芻する。
彼女の膨らんでいた乳房も腹も尻も太ももも、鋭利なサバイバルナイフでさっくりと切り取られていた。カケラはそこかしこに散らばって、手の中には乳房があった。俺は生暖かい開かれた彼女の腹に手を探り入れて、挿入していた愚息を膣と、そしてその先に付いた子宮の上から握りしめた。ないはずの脈動を掌で感じるのは、そこが、命を育む大切な部屋だから、だろうか。暖かい、俺の作られた場所。彼女の作られた場所。人間が、人間になる場所。ああ、気持ちいい。無心で腰を動かせばがくがく揺れる彼女の少ない肉が、小さく蠢いているように見えた。動きがてら肋骨あたりを弄れば、つまみ上げた指の間で蛆虫がのたうち回っている。気味が悪い、と挟み殺して、彼女の内臓に蛆虫の体液をなすりつけた。目線を彼女の顔までやって、いや、そういえば頭は初日に落としたんだった、と、ベッド脇の机に鎮座した彼女を見遣る。目線を腹に戻す。食いちぎったであろう子宮の傷口からは血と、白濁の体液が流れ出て腹膜を彩っていた。芸術には疎いが、美しいと感じる色彩。背筋に快楽が走る。何時間でもこうしていられる。ああ、ああ、嗚呼......
こんなはずじゃなかった。彼女と見る夢はもっと暖かくて、綺麗で、色とりどりで、こんな狭い部屋で血肉に塗れた夢じゃなかったはずだ。どこで何を、どう間違えたのか、もはや何も分からない。分からないまま、夢に囚われ、俺は今日も指を動かすんだろう。
スマートフォンを握った瞬間、部屋のチャイムが鳴った。なんだ、休日のこんな朝早くに。宅配か?時計を見て顔を顰め、無視の体勢に入ろうとした俺をチャイムの連打が邪魔してきて更に苛立ちが増す。仕方なく、身体を起こして彼女の眠るベッドから降りた。
床に降り立つ足裏に触れる無数の蠅の死骸の感触が気持ち悪い。窓は閉め切っているのに片付けても片付けても湧いてくるのはなぜなんだろう。追い討ちをかけるように電子音が鳴り響く。休日にも関わらずベッド脇の机に鎮座し勘違いでアラームを鳴らす電波時計にも腹が立つ。薙ぎ払えば一緒に首まで落ちて気分は最悪だ。クソ、クソクソクソ。ただでさえ変な夢を見て気分が悪いのに。鳴り止まないチャイム。煩いな、出るよ、出るっつってんだろ。俺は仕方なく、着の身着のままで玄関のドアを開けた。
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xf-2 · 4 years
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一 はじめに
(日本オリンピック)  五輪史上初の衛星生中継。世界が見守る中、聖火を手に、国立競技場に入ってきたのは、最終ランナーの坂井義則(よしのり)さんでした。  八月六日広島生まれ。十九歳となった若者の堂々たる走りは、我が国が、戦後の焼け野原から復興を成し遂げ、自信と誇りを持って、高度成長の新しい時代へと踏み出していく。そのことを、世界に力強く発信するものでありました。  「日本オリンピック」。坂井さんがこう表現した六十四年大会は、まさに、国民が一丸となって成し遂げました。未来への躍動感あふれる日本の姿に、世界の目は釘付けとなった。  半世紀ぶりに、あの感動が、再び、我が国にやってきます。  本年のオリンピック・パラリンピックもまた、日本全体が力を合わせて、世界中に感動を与える最高の大会とする。そして、そこから、国民一丸となって、新しい時代へと、皆さん、共に、踏み出していこうではありませんか。
(新しい時代へ踏み出す)  「日本はもう成長できない」。七年前、この「諦めの壁」に対して、私たちはまず、三本の矢を力強く放ちました。その果実を活かし、子育て支援、教育無償化、更には働き方改革。一億総活躍社会を目指し、まっすぐに進んでまいりました。  厳しさを増す安全保障環境を直視しながら、平和安全法制を整備し、防衛力を抜本的に強化しました。地球儀を俯瞰(ふかん)する視点で、世界を駆け回り、ダイナミックな日本外交を展開してきました。  我が国は、もはや、かつての日本ではありません。「諦めの壁」は、完全に打ち破ることができた。その自信と誇りと共に、今、ここから、日本の令和の新しい時代を、皆さん、共に、切り拓いていこうではありませんか。
二 復興五輪
 二〇二〇年の聖火が走り出す、そのスタート地点は、福島のJヴィレッジです。かつて原発事故対応の拠点となったその場所は、今、我が国最大のサッカーの聖地に生まれ変わり、子どもたちの笑顔であふれています。  常磐自動車道に続き、本年三月、JR常磐線が全線開通します。これに合わせ、双葉町、大熊町、富岡町の帰還困難区域における避難指示の一部解除に向け、準備を進めます。  浪江町では、世界最大級の、再生エネルギーによる水素製造施設が、本格稼働します。オリンピックでは、このクリーンな水素を燃料とする自動車が、大会関係者の足となります。そして、大会���間中、聖火を灯し続けます。リチウムイオン電池、AIロボット。未来を拓く産業が、今、福島から次々と生まれようとしています。  津波で大きな被害を受けた、宮城県を訪れる外国人観光客は、震災前の二倍を超えました。岩手県では三倍となっています。昨年九月に陸前高田市で開業したばかりの道の駅では、僅か一か月で十万人の観光客が訪れ、賑(にぎ)わいを見せています。  来年度で復興・創生期間は終了いたしますが、次のステージに向け、復興庁を司令塔に、政治の責任とリーダーシップの下で、福島の本格的な復興・再生、東北復興の総仕上げに、全力で取り組んでまいります。  九年前、ファーディーさんは、ラグビーチームの一員として、釜石で、東日本大震災を経験しました。  「ここで帰ったら後悔する」  オーストラリア大使館から避難勧告を受け、家族から帰国を勧められても、ファーディーさんは、釜石に残り、救援物資の運搬、お年寄りや病人の搬送。困難に直面する被災者への支援を続けました。  その感謝の気持ちと共に、本年、釜石は、オリンピック・パラリンピックに際し、オーストラリアのホストタウンとなります。岩手県野田村は台湾、福島県二本松市はクウェートなど、二十九の被災自治体が、支援を寄せてくれた人々との交流を深めます。  心温まる支援のおかげで力強く復興しつつある被災地の姿を、その目で見て、そして、実感していただきたい。まさに「復興五輪」であります。  東日本大震災では、百六十三の国と地域から支援が寄せられました。我々が困難の時にあ��て、温かい支援の手を差し伸べてくれた世界の方々に、改めて、今、この場から、皆さんと共に、感謝の気持ちを表したいと思います。
三 地方創生
(観光立国)  全体で五百近い市町村が、今回、ホストタウンとなります。これは、全国津々浦々、地域の魅力を世界に発信する、絶好の機会です。  北は北海道から、南は沖縄まで。アイヌの皆さんが受け継いできた伝統音楽や食文化、琉球舞踊など、我が国が誇る全国各地の地域文化に触れていただく「日本博」を、本年、開催いたします。  国の文化財を積極的に活用できる制度を設け、地域のアイデアによる観光地づくりを後押しします。自家用車による有償の運送サービス制度について規制緩和を行い、外国人観光客の皆さんの地方での足もしっかりと確保いたします。  首里城の一日も早い復元に向け、全力を尽くします。三月には、那覇空港第二滑走路の供用を開始します。発着枠を十万回以上拡大することにより、アジアのゲートウェイとして、沖縄の振興に取り組んでまいります。  オリンピック・パラリンピックに向けて、サイバーセキュリティ対策、テロなど組織犯罪への対策に万全を期すことで、安全・安心をしっかり確保いたします。五年後の大阪・関西万博も視野に、多言語化、Wi‐Fi環境の整備など、観光立国の基盤づくりを一気に進めます。高い独立性を持った管理委員会の下、厳正かつ公平・公正な審査を行いながら、複合観光施設の整備に取り組みます。  更には、外国人観光客の多様なニーズに応える宿泊施設など世界に冠たる観光インフラを整え、二〇三〇年六千万人目標の実現を目指します。
(農産物輸出)  世界に目を向けることで、地方に新しいチャンスが広がります。  昨年、EUへの牛肉やコメの輸出は、約三割増えました。TPP諸国への乳製品の輸出も、二割を大きく上回る伸びとなりました。甘い「紅はるか」は、シンガポールやタイで大人気です。さつまいもの輸出は、昨年、四割以上増加しました。  先月、中国への牛肉輸出について、解禁令が発出されました。今月発効した日米貿易協定も活かし、おいしくて、安全な、日本の農林水産物の世界への挑戦を、力強く後押しいたします。  農地の大規模化、牛の増産や、水産業の生産性向上など、三千億円を超える予算で、生産基盤の強化を進めます。販路開拓など海外への売り込みを支援します。  神戸牛、ルビーロマン、ゆめぴりか。農家の皆さんの長年にわたる努力の結晶である、日本ブランドを、海外流出のリスクからしっかりと守ります。  CSF対策を一層強化します。野生動物の感染が発見された場合にも、家畜伝染病予防法に基づき、移動制限などのまん延防止措置を実施できるようにします。ASFについても、海外から持ち込まれる肉や肉製品の検疫を強化し、水際対策を徹底します。
(地方創生)  昨年の台風十九号では八ッ場ダムが利根川の被害防止に役立ちました。水力発電や農業用水などを目的とするダムについても、緊急時には省庁の縦割りを打破し、一元的に活用するための対策を、全ての一級河川を対象に、この夏までに取りまとめます。  相次ぐ自然災害の教訓を活かし、全国で、川底の掘削、堤防の整備、無電柱化を進めます。送電線の計画的な更新、電力会社、自衛隊、自治体の平時からの連携などにより、強靱(じん)な電力供給体制を構築します。防災・減災、国土強靱(じん)化を進め、災害に強い故郷(ふるさと)を創り上げてまいります。  東京から鉄道で七時間。島根県江津市は「東京から一番遠いまち」とも呼ばれています。二十年以上、転出超過が続き、人口の一割に当たる二千八百人が減少した町です。  しかし、若者の起業を積極的に促した結果、ついに、一昨年、転入が転出を上回り、人口の社会増が実現しました。  原田真宜(まさのり)さんは、パクチー栽培を行うため、東京から移住してきました。農地を借りる交渉を行ったのは、市役所です。地方創生交付金を活用し、起業資金の支援を受けました。農業のやり方は地元の農家、販路開拓は地元の企業が手助けしてくれたそうです。  「地域みんなで、手伝ってくれました」  地域ぐるみで若者のチャレンジを後押しする環境が、原田さんの移住の決め手となりました。  「地方にこそ、チャンスがある」。そう考え、地方に飛び込む若者を、力強く応援してまいります。東京から地方に移住して起業・就業する場合に最大三百万円支給する���度を、更に使いやすくします。「移住支援センター」を全国一千の市町村に設置し、移住へのニーズを実際の人の動きへとつなげてまいります。  都市に住む皆さんの地方での兼業・副業を促すため、人材のマッチングや移動費の支援を行う新たな制度を創設します。関係人口を拡大することで、将来的な移住につなげ、転出入均衡目標の実現を目指します。  企業版ふるさと納税を拡充し、地方における魅力ある仕事づくりを一層強化します。独占禁止法の特例を設け、まちづくりの基盤である地方の金融サービス、交通サービスをしっかりと維持・確保してまいります。地方の創意工夫を、一千億円の地方創生交付金で、引き続き応援します。  若者が将来に夢や希望を持って飛び込んでいくことができる。地方創生の新しい時代を、皆さん、共に、創り上げようではありませんか。
四 成長戦略
(中小・小規模事業者)  「東洋の魔女」が活躍したバレーボール。そのボールを生み出したのは、広島の小さな町工場です。その後、半世紀にわたり、その高い技術を代々受け継ぎ、今なお、五輪の公式球に選ばれ続けています。  全国各地の中小・小規模事業者の皆さんが、長年培ったオンリーワンの技術で、地域経済を支えています。しかし、経営者の多くが六十歳を超え、事業承継は待ったなしの課題であります。そして、若い世代の承継を阻む最大の壁が、個人保証の慣行です。  この春から、先代の経営者と後継者から個人保証を取る、いわゆる二重取りを原則禁止いたします。商工中金では、今月から、年間三万件、二兆円の新規融資について、個人保証なしの融資を原則とする運用を開始しました。  信用保証協会では、個人保証なしで後継者の皆さんの融資を保証する新制度を、四月からスタートします。経営の磨き上げ支援も行い、専門家の確認を得た後継者には、保証料をゼロとします。個人保証の慣行は新しい世代には引き継がないとの強い決意で、あらゆる施策を総動員してまいります。  七年前、十年ぶりの大改正を行った下請振興基準を、更に改正し、対象を拡大します。大企業に対しても、新たに金属産業、化学産業で、自主行動計画の策定を求めます。業界��との取引慣行に詳しい専門人材を下請Gメンに採用し、下請取引の更なる適正化に取り組んでまいります。  デジタル技術の進歩は、中小・小規模事業者にとって、販路拡大などの大きなチャンスです。デジタル取引透明化法を制定し、オンラインモールでの出店料の一方的引上げなど不透明な取引慣行を是正します。
(規制改革)  IoT、ビッグデータ、人工知能。第四次産業革命の大きな変化の中で、デジタル時代の規制改革を大胆に進めます。  本年から、無人自動運転を解禁し、中山間地域の皆さんに、安全で便利な移動手段を提供します。自動制御ブレーキを備えたサポートカーに限定した新たな免許制度を設け、その普及を拡大します。  AIが解析するデータのボリュームが、競争力を左右する時代です。個人情報を匿名化し、その詳細な分析を可能とすることで、ビッグデータの世界をリードしてまいります。  フィンテックによる多様な決済サービスが登場する中、金融分野の業法による縦割り規制を抜本的に見直します。マイナンバーカードの取得を促し、来年度中に健康保険証としての利用を開始します。あらゆる行政手続の電子化を進め、対面での確認が必要なものなどを除き、二〇二四年度までに完了いたします。  技術の進歩による急激な変化に対し、消費者の安全・安心を確保していきます。個人データの利用停止を可能とするなど、個人情報保護を強化します。あおり運転を刑罰の対象とし、道路へのカメラ設置などにより、悪質な運転者の取締りを徹底します。空港施設へのドローン飛行を禁止し、飛行経路の安全を確保してまいります。
(イノベーション)  吉野彰(あきら)先生のノーベル化学賞受賞を、心よりお慶び申し上げます。  吉野先生に続く、未来を担う若手研究者に、大胆に投資します。自由な発想で挑戦的な研究に打ち込めるよう、資金配分を若手に思い切って重点化します。安定的なポストを確保し、海外留学を含めたキャリアパスを確立することで、若者が将来に夢や希望を持って研究の世界に飛び込める環境を整えます。  変化のスピードを先取りし、これまでにない価値を生み出す鍵は、ベンチャー精神です。大企業などからベンチャー企業への投資を税制で支援し、いわゆる自前主義からの発想の転換を図ります。国の研究機関によるベンチャー企業への出資を促すことで、蓄積された研究成果や技術を新しい産業へと成長させてまいります。  第四次産業革命がもたらすインパクトは、経済のみにとどまらず、安全保障をはじめ、社会のあらゆる分野に大きな影響を及ぼします。国家戦略としての取組が必要です。  その基盤インフラは、通信です。5G、ポスト5G、更にその先を見据えながら、大胆な税制措置と予算により、イノベーションを力強く後押しします。安全で安心なインフラが、これからも安定的に供給されるよう、グローバルな連携の下、戦略的に取り組んでいきます。  次世代暗号などの基盤となる量子技術について、国内外からトップクラスの研究者・企業を集める、イノベーション拠点の整備を進めます。  月を周回する宇宙ステーションの整備、月面での有人探査などを目指す新たな国際プロジェクトに、我が国として、その持てる技術を駆使し、貢献いたします。将来的な火星探査なども視野に、人類の新たなフロンティアの拡大に挑戦します。  Society 5.0の時代にあって、教育の在り方も、変わらなければなりません。本年から小学校でプログラミング教育を開始します。四年以内に、全ての小学生、中学生に一人一台のIT端末を揃(そろ)えます。企業エンジニアなど多様な外部人材を登用することで、新しい時代の教育改革を進めます。
(アベノミクス)  今般取りまとめた新しい経済対策は、まさに、安心と成長の未来を切り拓くものであります。事業規模二十六兆円に及ぶ対策を講じることで、自然災害からの復旧・復興に加え、米中貿易摩擦、英国のEUからの離脱など海外発の下方リスクにも万全を期してまいります。  日本経済は、この七年間で十三%成長し、来年度予算の税収は過去最高となりました。公債発行は八年連続での減額であります。経済再生なくして財政健全化なし。この基本方針を堅持し、引き続き、二〇二五年度のプライマリーバランス黒字化を目指します。  この六年間、生産年齢人口が五百万人減少する一方で、雇用は三百八十万人増加しました。人手不足が続く中で、最低賃金も現行方式で過去最高の上げ幅となり、史上初めて全国平均九百円を超えました。足元では、九割近い中小企業で、賃上げが実現しています。  雇用環境が好転している今、就職氷河期世代の皆さんの就業を、三年間集中で一気に拡大します。この世代に対象を絞った求人を解禁するなど、あらゆる施策を講じ、意欲、経験、能力を活かせるチャンスを広げていきます。  兼業や副業をやりやすくするため、労働時間に関するルールを明確化します。労働施策総合推進法を改正し、大企業に中途採用・経験者採用比率の開示を求め、多様で柔軟な働き方が可能となるよう、改革を進めます。  経済社会が大きく変化する中、ライフスタイルの多様化は時代の必然であります。今こそ、日本の雇用慣行を大きく改め、働き方改革を、皆さん、共に、進めていこうではありませんか。
五 一億総活躍社会
(全世代型社会保障)  この春から、大企業では、同一労働同一賃金がスタートします。正規と非正規の壁がなくなる中で、パートの皆さんへの厚生年金の適用を更に広げてまいります。三千億円を上回る、ものづくり補助金、IT補助金、持続化補助金により生産性向上への支援、社会保険手続の負担軽減を行いながら、従業員五十人を超える中小企業まで段階的に拡大します。  高齢者のうち、八割の方が、六十五歳を超えても働きたいと願っておられます。人生百年時代の到来は、大きなチャンスです。働く意欲のある皆さんに、七十歳までの就業機会を確保します。  こうした働き方の変化を中心に据えながら、年���、医療、介護全般にわたる改革を進めます。  年金受給開始の選択肢を、七十五歳まで広げます。在職老齢年金についても、働くインセンティブを失わせることのないよう、見直しを行います。  二〇二二年には、いわゆる団塊の世代が七十五歳以上の高齢者となる中で、現役世代の負担上昇に歯止めをかけることは、待ったなしの課題です。  年齢ではなく、能力に応じた負担へと見直しを進めます。七十五歳以上であっても一定以上の所得がある方には、窓口での二割負担を新たにお願いすることを検討します。併せて、かかりつけ医機能の強化を図るため、大病院の受診に定額負担を求めることで、現役世代の負担上昇を抑えます。  医療や介護について、予防への取組を強化することで、いつまでも健康で、活躍できる社会づくりを行います。  子どもたちから、子育て世代、現役世代、そしてお年寄りまで、全ての世代が安心できる「全世代型社会保障制度」を目指し、本年、改革を実行してまいります。
(子育て支援)  子どもたちの未来に、引き続き、大胆に投資してまいります。  昨年の幼児教育・保育の無償化のスタートに続き、この四月から、真に必要な子どもたちの高等教育の無償化が始まります。私立高校の実質無償化も実現し、子どもたちの誰もが、家庭の経済事情にかかわらず、夢に向かって頑張ることができる社会を創り上げてまいります。  保育の受け皿整備を進め、待機児童ゼロを実現します。これまでの取組により、待機児童の数は、昨年、調査開始以来、最少となりました。いまだゼロが実現できていない自治体には、保育ニーズに応じた整備計画の策定を求め、取組を強化していきます。  妊娠、出産、子育てへの切れ目ない支援を行います。来年春までに、子育て世代包括支援センターを全ての市町村に設置します。所得の低いひとり親世帯への支援を拡大し、子育てしやすい社会づくりを更に強化します。「希望出生率一・八」の実現を目指し、深刻さを増す少子化の問題に真正面から立ち向かってまいります。
(一億総活躍社会)  我が国には、意欲と能力あふれる女性たちがたくさんいます。全ての女性に活躍のチャンスを創り、その持てる可能性を十二分に開花することができれば、日本の経済社会は一変するはずです。  この六年で、女性の就業者数は、新たに二百九十万人増加しました。就業率は、二十五歳以上の全ての世代で米国を上回っています。M字カーブは確実に解消に向かっています。引き続き、女性活躍の旗を高く掲げ、女性の皆さんが働きやすい環境づくり、女性リーダーの拡大に向けた取組を一層進めます。更に、民間シェルター支援によるDV対策などに取り組んでまいります。  女性も男性も、若者もお年寄りも、障害や難病のある方も、更には一度失敗した方も、誰もが多様性を認め合いその個性を活かすことができる社会、思う存分その能力を発揮できる社会を創る。一億総活躍社会の実現こそが、まさに少子高齢化を克服する鍵であります。  バリアフリー社会の実現に向けて、公共交通機関における取組を強化します。耳の聞こえない方に対する、無償で手話通訳を利用できる電話リレーサービスを整備します。重度障害者の皆さんの就労の意欲を後押しするための仕組みを強化します。  「その能力は磨けば無限である。」  中村裕(ゆたか)医師は、長年、障害者雇用に熱心に取り組んでこられました。  「身障者の社会進出のためにもスポーツを奨励しなければならない。」  中村先生の情熱によって、一九六四年、東京パラリンピック大会が実現しました。その後、パラリンピックは四年おきに継続的に実施されるようになりました。中村先生の思いは受け継がれ、半世紀以上の時を経て、再び、日本へと帰ってきます。  本年のパラリンピックを、世界中の人々に夢や感動を与える、素晴らしい大会とする。障害のある皆さんが、世界で最もいきいきと生活できる国・日本を、皆さん、共に、創り上げようではありませんか。
六 外交・安全保障
(積極的平和主義)  日本が、初めてオリンピック精神と出会ったのは、明治の時代であります。その時の興奮を、嘉納治五郎はこう記しています。  「世界各国民の思想感情を融和し以て世界の文明と平和とを助くる」  オリンピック・パラリンピックが開催される本年、我が国は、積極的平和主義の旗の下、戦後外交を総決算し、新しい時代の日本外交を確立する。その正念場となる一年であります。  日朝平壌宣言に基づき、北朝鮮との諸問題を解決し、不幸な過去を清算して、国交正常化を目指します。何よりも重要な拉致問題の解決に向けて、条件を付けずに、私自身が金正恩委員長と向き合う決意です。  もとより、我が国の国民の生命と財産を守るため、毅(き)然として行動していく。その方針はしっかりと貫いてまいります。米国、韓国をはじめ国際社会と緊密に連携してまいります。  北東アジアの安全保障環境が厳しさを増す中で、近隣諸国との外交は、極めて重要となっています。韓国は、元来、基本的価値と戦略的利益を共有する最も重要な隣国であります。であればこそ、国と国との約束を守り、未来志向の両国関係を築き上げることを、切に期待いたします。  プーチン大統領と長門で合意した、元島民の方々の航空機によるお墓参り、そして四島での共同経済活動は、着実に前進しています。一九五六年宣言を基礎として交渉を加速させ、領土問題を解決して、平和条約を締結する。この方針に、全く揺らぎはありません。私と大統領の手で、成し遂げる決意です。  日本と中国は、地域と世界の平和と繁栄に、共に大きな責任を有しています。その責任をしっかり果たすとの意志を明確に示していくことが、今現在の、アジアの状況において、国際社会から強く求められています。首脳間の往来に加え、あらゆる分野での交流を深め、広げることで、新時代の成熟した日中関係を構築してまいります。
(安全保障政策)  いかなる事態にあっても、我が国の領土、領海、領空は必ずや守り抜く。安全保障政策の根幹は、我が国自身の努力に他なりません。  この春から、航空自衛隊に「宇宙作戦隊」を創設します。更には、サイバー、電磁波といった新領域における優位性を確保するため、その能力と体制を抜本的に強化してまいります。  昨日、日米安全保障条約は、改定の署名から六十年を迎えました。日米同盟は、今、かつてなく強固なものとなっています。その深い信頼関係の下に、二〇二〇年代前半の海兵隊のグアム移転に向け、施設整備などの取組を進めます。抑止力を維持しながら、沖縄の基地負担軽減に、一つひとつ結果を出してまいります。  日米同盟の強固な基盤の上に、欧州、インド、豪州、ASEANなど、基本的価値を共有する国々と共に、「自由で開かれたインド太平洋」の実現を目指します。
(国際社会の課題解決)  この七年間、八十の国・地域を訪問し、八百回を超える会談を重ねてまいりました。各国首脳との信頼関係の上に、国際社会が直面する共通課題の解決に向け、世界の中で、主導的な役割を果たしていく覚悟です。  中東地域における緊張の高まりを深く憂慮します。我が国は、全ての関係者に、対話による問題解決と自制的な対応を求めます。これまで培ってきた中東諸国との友好関係の上に、この地域の緊張緩和と情勢の安定化のために、これからも、日本ならではの平和外交を粘り強く展開いたします。エネルギー資源の多くをこの地域に依存する我が国として、こうした外交努力と併せて、自衛隊による情報収集態勢を整え、日本関係船舶の安全を確保します。  自由貿易の旗手として、二十一世紀の経済秩序を世界へと広げてまいります。EUから離脱する英国とも、速やかに通商交渉を開始します。TPPの更なる拡大や、インドを含めたRCEP交渉を主導します。データ流通の新たな国際ルールづくりを、大阪トラックでリードしていきます。  G20で合意したブルー・オーシャン・ビジョンには、既に五十九の国から賛同を得ています。この流れを更に世界へと広げていくことで、二〇五〇年までの海洋プラスチックごみによる新たな汚染ゼロの実現を目指します。  我が国は、五年連続で温室効果ガスの削減を実現いたしました。二〇一三年度比で十一・八%の削減は、G7の中で英国に次ぐ削減量です。長期戦略に掲げた脱炭素社会を早期に達成するため、ゼロエミッション国際共同研究拠点を立ち上げます。米国、EUなどG20の研究機関の叡智(えいち)を結集し、産業革命以来増加を続けてきたCO2を、減少へと転じさせる、「Beyondゼロ」を目指し、人工光合成をはじめ革新的イノベーションを牽(けん)引します。  世界の平和と安定、自由で公正で開かれた国際ルールの構築、気候変動をはじめとした地球環境問題への挑戦。より良き世界の実現に向かって、新しい時代の日本外交の地平を、皆さん、共に、切り拓いていこうではありませんか。
七 おわりに
 「人類は四年ごとに夢をみる」  一九六四年の記録映画は、この言葉で締めくくられています。新しい時代をどのような時代としていくのか。その夢の実現は、今を生きる私たちの行動にかかっています。  社会保障をはじめ、国のかたちに関わる大改革を進めていく。令和の新しい時代が始まり、オリンピック・パラリンピックを控え、未来への躍動感にあふれた今こそ、実行の時です。先送りでは、次の世代への責任を果たすことはできません。  国のかたちを語るもの。それは憲法です。未来に向かってどのような国を目指すのか。その案を示すのは、私たち国会議員の責任ではないでしょうか。新たな時代を迎えた今こそ、未来を見つめ、歴史的な使命を果たすため、憲法審査会の場で、共に、その責任を果たしていこうではありませんか。  世界の真ん中で輝く日本、希望にあふれ誇りある日本を創り上げる。その大きな夢に向かって、この七年間、全力を尽くしてきました。夢を夢のままで終わらせてはならない。新しい時代の日本を創るため、今日、ここから、皆さん、共に、スタートを切ろうではありませんか。  御清聴ありがとうございました。
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buriedbornes · 5 years
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第24話 『水と油の漂泊者《バガボンド》(4) - もう一度』 Opposite vagabonds chapter 4 - “One more chance”
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魔術に精通した者達の間で、まことしやかに囁かれる噂。
しかし、それは噂ではなく、現実だった。
『不定形の怪物』が表立って目撃されるようになったのは、最近になっての事である。
屍者を冒涜する者共が至った境地、屍体を完全に融解しその状態を維持したまま操る術は、もはや禁忌を超え、これまでに想像も検討もされなかったものである。
水銀に似た形質ではあるが、単純な魔法生物の代表たるスライムに似た見た目とは裏腹に、その内部は非常に複雑な構造になっている。
全身には形状と性質こそ変貌しているが筋繊維に似た組織が張り巡らされ、術者がその繊維の収縮を意識する事によって、形状を多様に変化させて蠕動する。
また、その際限のない繊維の緊縮により組織の一部を硬質化し、切断や刺突をも可能な形状を作り出す事にも成功している。
本来の人間の筋組織に対する意識とは著しく乖離したその身体構造は、人間の意識そのものでそのままに動かす事すら難しい。
不定形を操作する術者は、まるで熟達した大道芸人の曲芸のように複雑な肉体操作を求められる事になる。
しかし、その高い操作難度と技術的な実現難度を乗り越えた先には、恐るべき屍体性能が対価として待ち受けている。
"自由自在に動き回る、硬化軟化も自在の液状の戦士"がもたらす戦闘能力は、骨と関節の制約を受ける人型の肉体を持った者の比ではない。
それを止める方法は、分厚い鋼鉄に閉じ込める、水底に沈めるなどの、Buriedbornesの術そのものの遮断のみである。
さらに上回る戦闘能力以外においては、��も言えるが、それを見出した者は、未だかつていない。
屍者の軍勢との戦いのために、生き残った人類側が、真っ先に人類の本来のあるべき姿から逸脱していったのだ。
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日が落ちた沼地には、静寂が訪れて、生き物の鳴き声ひとつ聞かれる事はない。
沼地の奥、打ち捨てられた廃屋のひとつに、結界が張られている。
崩れかかった家屋の中で、小さな焚き火が焚かれていた。
その傍らには、3人が思い思いの姿勢で座り込み、焚き火を見つめている。
その表情はそれぞれに異なるが、共通して見受けられる感情は、不安と緊張であった。
ビアンカのそれは、最も深刻であった。
戦いの後、彼女は一人取り乱し、集落での依頼を諦めてこの地を去る事を提案した。
だが、ジョセフもゴードンも、首肯はしなかった。
この違いに、『乗りかかった船』に対する互いの意識の差が顕著に現れていたと言える。
ビアンカは、この時代の人間において、当然の判断をしていた。
生きる事が再優先事項であり、たとえ受けた仕事であろうが、そのリスクが手に負えるものでないなら、逃げるのが正しい選択だ。
依頼人も、所詮は赤の他人である。
命を懸ける義理など、あろうはずもない。
ジョセフは違った。
彼にとっては、人々を守る事は、命を懸ける価値のある仕事であった。
そして、命を懸けて戦い、そして勝利と生存を勝ち取る強い自信も、彼にはあった。
術者でないジョセフの『不定形の怪物』に対する認識の違いも、あったかもしれない。
ゴードンは、その内心においては、ビアンカ以上に逃げ出したい気持ちが強かった。
しかし、同時にジョセフと共に戦う事に、強い意味も見出していた。
『何もできない自分からの脱却』という、曖昧な目的に、その命を委ねていた。
ここで逃げ出せば、自分は一生、半端者だ。
ただ、一度は失い、拾われた命である、という意識もあった。
その心理はやや複雑ではあったが、「逃げよう」とは言い出せないほどには、それ以外の感情が強かった。
何故あの不定形が自身を狙うのかはわからない。
わかっている事は、屍者の抜け殻から作られた怪物を、何者かが操っているという事だけだ。
「向かう前に、できるだけの事はしておかないとな」
ジョセフが小さく呟いた。
ここから一里と離れていない地点に、ビアンカは異質な魔力の蠢きを察知していた。
それが誘拐犯である可能性は、高い。
そしてそこで、あの怪物が待ち受けている可能性も。
ジョセフは、懐から小さな壺や、短刀、粉薬などを取り出して並べていく。
言葉に反応せず無言で焚き火を睨んでいたゴードンも、並べられていく品々に気を引かれ、目線を動かした。
「…そんなに持っていたのか、必要そうには見えんが」
「魔法が使えん俺は、いざと言う時にできる事を増やしておかんとな」
そういうと、ひとつずつ手入れをし始める。
ビアンカは変わらず、焚き火を見つめたまま震えを堪えるように腕を抱いたまま蹲っている。
「…指輪、もう返そうか」
逃れられぬ死の可能性が、この先に横たわっているのを感じる。
できるだけの事はしておかないと、その言葉を反芻し、ゴードンは覚悟を決めつつあった。
「…あんたも、因果な性分してるんだな」
ジョセフはゴードンを見て、苦笑した。
「ところで聞いておきたかったんだが、その杖は…」
ジョセフは、ゴードンが懐中に携えた杖���指さした。
ゴードンは、微笑を浮かべながら、語り始めた。
「これはな、いつかギャンブルで手ひどく損をした時にな…」
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無数に立ち並び揺らめく灯火の明かりが、沼の水面を鈍く照らしている。
列石めいた松明の回廊の先に、悪臭が漂う不清潔で小ぢんまりとした円屋根の小屋が佇んでいる。
その中からは、聞くものの精神に悪影響を及ぼしかねない異様な呪詛が響いてくる。
見れば、その小屋の傍らにうず高く積まれたものは、ゴミでもなければ、飼い葉の類でもない。
骨、肉、臓、その全て、それも何十人分もの遺体が雑多に混ぜられ、積み上げられたものだ。
この山だけでも、この地で行われた恐るべき所業の全てを物語っている。
その山を険しい表情で睨みつけながら、小屋に向かって歩む人影が視界に入る。
ジョセフだ。
少し離れた沼の岩陰から様子を伺っていたゴードンは、両手に握った杖を、一層強く握りしめた。
沼を真っ直ぐに小屋に抜けて、高台になった入り口の板に足をかける。
その瞬間、小屋の戸が弾け飛び、そこから黒ずんだ土塊がせり出してくる。
ジョセフは咄嗟に跳躍し、後方の沼地に着地、あるいは着水し、その手を逃れる。
小屋の中から次々土塊が溢れ出し、明らかに小屋の大きさ以上の量の土になる。
やがてその土塊は2階建ての馬小屋ほどの大きさになるとぐにぐにと形を変え、やがて人の形を取り始める。
そしてそれを追って、小屋の中から呪詛を唱えながら醜怪な男が這い出してくる。
「なるほど、犯人は呪術師様って奴か?」
ジョセフは懐中から短刀を取り出し、男目がけて投擲する。
土塊人形が足を払うと、短刀はその足に突き立って、やがてその中にぐにぐにと取り込まれていった。
「…様子見からだな、これは」
ジョセフはそうつぶやいて、腰から剣を抜き、構える。
土塊人形の大木のような腕がジョセフに迫るが、一閃が走り、斬り飛ばされた腕は斜め後方の松明をなぎ倒しながら地面に落ちた。
「そんなもんか?」
ブツブツと呪術師が何かを唱えると、切り飛ばされて欠けた箇所から、また新しい土の腕が生える。
足元も生えた腕と同様に蠢き、足元の泥を吸い込み、その体の内に取り込んでいる事がわかる。
大きさが縮む事もない。
さらに迫る人形相手に、ジョセフは腕となく足となく次々と斬り飛ばすが、失うのと同じ勢いで新しい四肢を生やし、次の一撃を繰り出してくる。
このままでは、呪術師に近寄る事もできない。
「キリがねぇ…!」
ついに、人形の腕がジョセフを捉え、その拳で全身を掴み、握り込んだ。
だが、それと同時に、人形の頭部に何かがぶつかり、陶器が割れる音が響く。
投げつけられた壺の中から液体が滲み出て、人形を頭部から濡らした。
「喰らえッ!!」
岩陰から飛び出したゴードンが、手にした松明を投げつけた。
松明が人形に直撃すると、液体を伝って火が瞬く間に広がり、その上半身全体が一気に炎上した。
さらにゴードンは2つ3つと壺を投げつけるにつれて火の手が強くなる。
ジョセフの体にも火の手が迫り、衣服の一部が発火する。
しかし、ジョセフが力を込めると、それまで流動的で頑丈だった腕がひび割れ始め、やがて砕け散り腕から解放され、沼に落ち込んだ。
身を起こして目をやると、ゴードンの足元に落ちた斬り飛ばされた腕の倒れた松明の火に焼かれた部分が固まっている。
僅かな時間のうちに、ゴードンは土塊人形の弱点を見破ったのだ。
「やっぱりアンタは、すげぇ奴だよ!!」
水を得た魚のように、ジョセフが剣を振るって土器と化し身動きができなくなった土塊人形をバラバラにする。
呪術師は慌てて詠唱を再開し、新たな土塊人形を作り出そうと足元から新しい土が生え始める。
「遅ェ!!」
一瞬の隙を逃さずジョセフは呪術師の懐に踏み込むと、喉元に剣を突き立てた。
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呪詛は途絶え、代わりにゴボゴボと液体の吹き出す音に変わる。
手応えあった。
傷口から銀灰色の液体が吹き出て、撒き散らされる。
「銀…?」
呪術師の腹部から突如白い棘が突き出ると、ジョセフの胸を貫いた。
「ジョセフ!!」
岩陰から、ビアンカが飛び出す。
突き刺された棘がジョセフから抜け落ち、ジョセフはよろめき、後方に倒れ伏す。
呪術師から吹き出した液体は次第に集まり、呪術師の足元でひとつの塊を成した。
駆け寄りながら、ビアンカは短く詠唱し、掌を突き出すと、無数の光弾が放たれる。
しかし、不定形の怪物はその間隙を縫ってビアンカに迫り、腹部を貫いた。
駆けていたビアンカはそのまま倒れ込み、動かなくなる。
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これらの様子を、ゴードンは呆然として見ていた。
当然、それはほんの数秒の出来事だったかもしれない。
不定形の奇襲は、ほぼ完璧な形で成し遂げられた。
常人に何かが出来るような時間などなかった。
震えが止まらず、立っているのがやっとだった。
静かに液状の怪物が足元に迫り、眼前で形を変え、人じみた何かに姿を変え、静止した。
それは口を開き、ハッキリと喋り始めた。
「お前…ノ… 記憶を貰う… 崩壊前の… 記憶を…」
そう言うと、不定形は再び形を崩し、液状化して、ゴードンの肉体に這い寄る。
液体が、顔を伝い、口、鼻、耳、目の隙間から、徐々に肉体に這入ってくる。
じわじわと肉体の感覚が失われていくのがわかる。
恐怖もあった。
しかしそれよりも心を支配したのは、自分に何ができるのか、だった。
何もできなかったか?
土塊人形の弱点を突き止めた。
前金を引き出した。
俺にできる事が、あったじゃないか。
このまま死を待つ?
そんなのは、ごめんだ。
逃げ場はない。
やるしかない。
俺には俺の、俺にしかできない事がある。
ここまで来たのだ。
ジョセフや、ビアンカでもできない、自分だからこそ出来る事を、やれ。
心に灯ったひとかけらの勇気が、ゴードンを突き動かした。
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残された全霊の力を振るって、杖を振り上げた。
それに呼応して、彼を覆った地平線が、せり上がる。
否、それは、水の壁である。
沼の水がまるで断崖のように盛り上がり、猛烈な勢いでゴードン目掛けて収束していく。
ゴードンの体内に忍び込もうとしていた液体は、一瞬動きを止めた後、猛烈な勢いで肉体から這い出していく。
しかし、間に合わない。
怒涛の勢いで全方位から迫る大津波がゴードンと不定形を襲い、一瞬で、ジョセフやビアンカの肉体諸共、その一帯の全てのものをその濁流の内に飲み込んだ。
この様子を上空から眺めていた者がいたとしたら、沼に透明な水瓶が突如現れたように見えたであろう。
瞬く間に沼地中から集められた水はその水瓶に収められ、その内側では激流が渦を巻いている。
その渦中で、不定形はその外側に逃れようともがいてた。
しかし、ゴードンは杖を強く握りしめ、離さない。
肉体こそ激流に翻弄されているが、見開かれ血走った瞳には、確固たる決意の光が満ちている。
まるで排水口のように、あらゆる水が外側からその中央に向かって流れ込み、外に向かおうとする者を内側へと押し戻す。
右往左往し、激流の中から外へ向かう流れを求めて、不定形はのたうち回るが、その動きを抑えるように、ゴードンは杖を振るい、内側へ、内側へと水の流れを変え、不定形を水中に押し止める。
"潮の杖"と呼ばれる遺物が持つ力は、ただ「水を自在に操る」程度の力であった。
しかし、その力は、沼という地形と、Buriedbornesの術で動く怪物という相手において、存分に発揮される事となった。
Buriedbornesの術は、厚い鋼鉄や、深い水底において途絶える。
次第に抵抗の力は弱まり、そして最後には、それまで意志を持って動き続けていた不定形は、その全身がまるで本来の水銀質を取り戻したかのように、突然水中で霧散し、散り散りになって融けた。
ゴードンの意識は、その姿を確認すると糸が切れたように途切れた。
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目を醒ますと、そこは3人が焚き火を囲った廃屋の中であった。
あの時と同じように、焚き火が床板を暖かく照らしている。
夢だったのか?
身を起こしたが、僅かな希望は報われる事はなかった。
磁気のように白くなったジョセフが、傍らに横たわっている。
焚き火の向こうで、幽鬼のような面持ちのビアンカが、焚き火を見つめていた。
貫かれたはずの腹部は、既に塞がれている。
全くの跡がないわけではなく、傷があった箇所の皮膚にミミズ腫れが残されている。
回復魔法を受けた直後の影響である事は、ゴードンにも覚えがあった。
ジョセフの傷口も、或いは同様のものが残されていた。
だが、ゴードンが手を差し出すと、彼の手は、もはや氷のように冷たかった。
ゴードンは数秒の逡巡の内に、無数の言葉を絞り出した。
しかし、そのどれもが、この場に相応しいものにはなりえなかった。
「…すまない」
ゴードンは片膝をつき、頭を下げた。
だが、ビアンカは力なく笑った。
「あなたのせいじゃないわ。無理矢理にでも、私が彼を止めるべきだった」
「だが…」
「それに、あなたがいなければ私も死んでいたのだから、感謝こそすれ恨むつもりはないわ」
その声は震えていた。
彼女が彼にどんな想いを抱いていたのか、想像する他ない。
それが一方ならぬものであった事は、確かであろう。
だが、それに報いる手段がどれだけあろうか。
「できるだけの事はしておかないと」
亡き友人が、そう言ったような気がした。
ゴードンは、ジョセフの冷たくなった指に見覚えのある輝きを見て取った。
細く頼りない指輪は、ジョセフの太い小指に、収まっていた。
誰よりも勇敢な男は、もういない。
彼の魂を気高きものに育てた者の元へと、還った。
残された自分は、彼のようになれるだろうか?
いや、彼になる事は、到底叶わないだろう。
それでも、ジョセフから受け取ったものは、今ではゴードンの中で、確かな火を灯していた。
「彼を弔おう、そして集落に戻るんだ」
ゴードンは、立ち上がった。
~おわり~
「ショートストーリー」は、Buriedbornesの本編で語られる事のない物語を補完するためのゲーム外コンテンツです。「ショートストーリー」で、よりBuriedbornesの世界を楽しんでいただけましたら幸いです。
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tppppp · 6 years
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人造人間国型
ディストピアっぽい世界で働くアーサー・カークランド型アンドロイドの話です
第455代ダービー伯爵に招かれ、オオサカの隠れた名店と名高いキタシンチのソウメン・バーを訪れた。ソウメンは、決して自己主張の激しい麺ではない。ネギとツユの下に隠れて決して目立たず、しかし田園の河川のように清涼なのど越しと小麦と塩のうまみが感じられる。ソウメンの質実剛健さは英国紳士の美学に通ずるものがある。
(警告:規定文字数超過 投稿不可)
アーサー・カークランド9286-R  レベル2-6 / マッチング110 スコア未計測    宇宙標準時 556:6E
 足の長さが不揃いでがたつきを起こす、不快な座り心地のパイプ椅子に体を縮こめながら、俺はロンドン・アイ――この手元の端末のことだ――に今しがた打ち込んだ文字列をじっと眺めていた。オオサカ・エリア4インターナショナル展示場の建設現場に併設された栄養供給所は、今日の作業を終えた無数のアンドロイドの群れがひしめき合い、店員を呼ぶ怒号に似た声と、仲間内でのお決まりの話題の応酬ですさまじい騒音に満ちていた。俺は決して目線を向けないように―― ましてや睨みつけるなんてことのないように――注意しながら、彼らが繰り返し交わし合っているフレーズに耳を済ませてみた。ラバ、ダブ!ダブ!ラバ、ダブ!ダブ!ラバ!ダブ!ダブ!  思わずため息が漏れた。なんてことだ、ほんの2ヶ月前までは、俺にはあの意味不明の暗号の意味がちゃんと理解できたし、なんだったら彼らに混じって同じ暗号の応酬が出来たはずである。しかしもうそれは叶わない。あの言語で会話ができるのはレベル3以上のアンドロイドに限られる。俺はつい先日の、あの事件が切欠で、レベル2へと転落したのだ。
 俺の席はレベル2アンドロイドに割り当てられたスペースにあり、ソウメン製造機の丁度、真向かいの位置だった。この岩山の如く聳え立つ「シェフ」のレパートリーは中々広かったはずだが、レベル2のアンドロイドが注文できるようなメニューは事実上ソウメンしかない。ソウメン風グルテン・ネギ風ミドリムシフレーク添え。それが確か正式名称だったはずだ。もちろん、ローストビーフ風高アミノ酸キューブだの、カレーライス風味イソロイシン錠剤だのの比較的栄養価の高いのを注文したい日もある。特に今夜のような疲労が極度に達している夜は…しかし、それらの消費スコアの高すぎる品物が並ぶのは上座のテーブルだけで、今の俺にはとても手が出せない。きっとあのテーブルに座ってるのは知ってる奴らだ――俺にはそんな風に思えてならなかった。同じ建設現場で働く同僚のことだ。奴らのことだから、わざと俺の席が見える位置に陣取り、俺のみじめな様子をあざ笑いながら錠剤を齧り、発泡神経酩酊剤を煽っているに違いない。俺はテーブルに詰め寄ってよほど嫌味の1つでも言ってやろうかと考えたが、すぐにやめた。むやみな絡みは「品のよろしくない行為」と見做される可能性がある。これ以上のスコア減点は、とりわけ、「火星」に関して口にするような、自殺行為はなんとしても避けねばならなかった。
 俺はロンドン・アイに意識を集中させ、規定文字数以内でソウメンを褒め称える文章を推敲し続けた。その間我らがシェフは、排水管から汚物まみれの下水が吹き出すような濁った音を立てて、ずらりと並んだカップへソウメンを順番に叩きつけていた。小さすぎるカップからだらしなくはみ出したソウメンもツユも、全く拭われる様子もない。殺気立った様子の店員が、トレイにソウメンを乱暴に並べながら、また店中のあちらこちらにすっ飛んでいく。この供給所に配置されているスタッフは彼1人だけのようである。  それでもここのソウメンの品質は良いんだ、ほんとに。という、良かったところを探し出す系の書き込みををするべき、だろうか。それともストレートに、この供給所はキタシンチの名店どころか廃材置き場同然の簡素な作りで、ソウメンもほんのりと不純物処理所の芳香がすることを書くべきだろうか。 どちらの書き込みの方が、「英国紳士らしい」のか。
☓☓☓☓思 ☓ ☓こと☓☓☓☓、思っ☓まま☓☓☓☓☓書☓ばいいんだ。☓☓☓☓☓☓☓☓☓☓☓☓☓☓☓☓☓☓☓☓☓人☓目☓☓☓☓☓☓☓☓☓☓☓☓☓☓☓☓☓
アーサー・カークランド8756-E  レベル3-5 / マッチング13568 スコア5532/6693     宇宙標準時 586:3F
 その間にもロンドン・アイには、誰なんだか分からない「アーサー・カークランドたち」の書き込みが次から次へと流れ込んできた。レベル3.5以上のアンドロイドの書き込み――よって、ロックがかけられた俺のアイセンサーでは文字化けして意味を為さない文章としか読み取れない文字の羅列。だが、スコアの高さから見てそれは極めて英国紳士らしく、社会性に富み、読む者を感嘆せしめる内容であるようだ。  俺は少しでも高スコアの根拠を知るためにその文字列を隅から隅まで観察した。こんなふうに、文字数は適当な長さにカットした方がいいのかもしれない。内容はどうか。ところどころに散っている判別可能な文字から推測するに、「思ったことを思ったまま書けばいい」と書いてあるように思えた。何の計算もなく、思ったことを思ったままに――俺は自分の想像したそのエンパワメント・フレーズにわずかに失望感を覚えた。少なくともその紳士的なアドバイスは、今夜の俺にとってはなんの意味もなかった。なんとしても、このスコアに匹敵する書き込みをしなくてはならない――近頃は、英国紳士らしくないとして書き込みの連投は忌み嫌われるため、今夜のチャンスは一度きりだ。成功すれば、俺のスコアウォレットの残高はいくらか潤い、今夜の労働者移送用エア・コンテナでリラクシングシートを利用できるだろう。
 英国紳士、その不可思議なもの。立派なイエガラの出身であること。ノブレス・オブリージュであること、その他もろもろ。ずっと前に予想屋に聞いた話だと英国紳士は四六時中、不純物処理所に行くのにすらリラクシングシートを利用するような連中だったという。俺が「そんな奴らしい」書き込みをし、振る舞いをせねばならないというのはいかにもおかしな話なように思える。しかし俺はアーサー・カークランド型なので、アーサー・カークランドらしく話し、振る舞い、トレンド予想に高い消費スコアを支払い、プラマイゼロすれすれのスコアアップに努力する。そうして当局は個ではなく群れとして、何らかの方向性を持ったアーサー・カークランド像を形成する。俺が存在する現実世界と、ロンドン・アイを通じた向こう側にある仮想世界とで。俺がそれがどんな像になっているのかを知るすべはない。何しろアーサー・カークランド型だけでも、とにかく数が多すぎる上、ネットワークにはレベル違いのみならず無数のセキュリティの壁が立ちはだかっているのだ。  俺たちアーサー・カークランド型の思考ユニットが制限の無い同一クラウドネットワークに接続されているならば、今この世界に存在している英国紳士なるものの実像を、大まかにつかむことができるのでは思われるが、俺にとっての英国紳士アーサー・カークランドとは、極めて断片的な、時にはお互いを打ち消し合うワードの群れに過ぎなかった。無数のアーサー・カークランドの情報は日々更新が繰り返され、当局と少なからず繋がりのある予想屋は熱心に今日のトレンドワードの宣伝を行う。すでに太古の時代に消えてしまった、アーサー・カークランドなる謎めいた人物の限りない再生。彼の天まで達するほどの巨大な立体映像が俺たちの頭上をすっぽりと包み込み、のしかかってきているようである。
 モラリスト。なけなしのスコアを支払って、今月の始めに予想屋から買ったトレンドワードはそれだった。やはりソウメンをけなすのは止めておこうか。いや、建設現場労働者として利用せざるを得ないこの供給所の欠点を的確に指摘してこそ、モラルの高い紳士的な行動といえるんじゃないか。例え親愛なる第455代ダービー伯爵の紹介の名店だったとしても(そして、第455代ダービー伯爵なるアンドロイドは本当はどこにも存在していないとしても)。いったいどんな風に…決して攻撃的にならないように…その表現方法は…俺の思考ユニットは空腹と疲れで通常の稼働率の50%程度の力しか発揮しなかった。  3日前に作業中の感電で損傷した左腕が、いまだ何度信号を送っても全く反応せず、持ち上がらないので俺は右腕だけで全ての業務を行わなければならなかった。身体全体がコールタールに漬かったかのような重苦しさも消えず、俺はここ数日、課せられたノルマを達成できていない。左腕の事故は、モジュールA-4の配線を確認している時に端子が接触して起きた。1か月前までの俺であればまずありえないミスである。だがあの時の俺は極度に疲労し、与えられた工程をこなす以外に気を配る余裕がなかったのだ。
 俺がこのような状況に陥るきっかけとなったのは、火星だ。正確に言えば、火星に関する情報を漏らした奴が原因で、こうなった。俺たちの労働区画では、地球から遠く離れたあの赤い惑星に関する話題は非常に品がよろしくないとされている。  1か月前、キュービクルの内部清掃を行っていた時、俺の3メートル後ろあたりで何か諍いのようなものが起こっていた。諍いというよりは、一機のレベル2アンドロイドを数機のレベル3が囲んで、通電したり、刺激によって発生した短い奇声を真似したりして遊んでいた、という方が正しい。アンドロイドに時折ああした全く不可解に思える行動が見られるのは、数千年前に絶滅した我々の祖先の習性の名残りであるらしい。  この作業現場で働いているアンドロイドは、オオサカ・エリア4労働管理局の所有物だ。当局の許可なく損傷を与えることは例えレベル2アンドロイドであっても許されない。許されていない、はずだ。しかし、この現場はこの件に限らずとにかく規律が緩み切っている。2か月前にだって俺の持ち場の床に大量のグリスをぶちまけた奴がいた。犯人はすぐに思考洗浄にかけられるものと思っていたが、大量のスコアを支払ったのか、レベルが高い奴だったのか、とにかくグリスがぶちまけられたのは俺の現場監督行き不届きが原因ということにされた。思い出しただけで腹立たしい出来事だ。それだけじゃない、半年前は・・・気が付くと俺は通電していた奴を殴り飛ばし、馬乗りになってそいつの持っていた電極を首筋へ突き付け、いいか、今度風紀を乱したら殺すぞと毒づいていた。  その夜、俺のロンドン・アイに1通のダイレクトメールが届いた。送信主は、あのレベル2アンドロイドだった。
 助けてくれて感謝している。とても感謝■■いるんだよ、今だから言うが、俺はずっと俺は■は俺はあんたと交遊を持ちたいと思ってたんだ・・・・・ あんたにだけに、俺の秘密を打ち明けたい。俺はこないだ、ロンドン・アイのセキュリティ1ロックを突破したんだ。ヤバ筋の友達がいてさ、教えてもらったんだ・・・壁に穴を空ける方法をさ。驚くべきことに、セキュリティ1ロックの向こう側の仮想世界では、火星の話題は制限なんて■■てないんだ。火星について話すななんておかしなルールがあるのは、オオサカだけだったんだ。その他にも、  ここからは、ロンドン・アイから仕入れた極秘情報だ。誰にも誰にも言わないでくれよ・・・俺たちがせっせと拵えているこのバベル・・・この天に到達するのが目的の塔だがな、このガラクタを作ってる俺たちの■■はどこで作られたと思う?それはな、火星なんだ。当局の連中が話すことも、記録に残すことも一切���じているあの■■で・・・俺たちの足や腕は作られたんだ。コスト削減のためだよ・・・地球の、しかもヨーロッパ純正アンドロイドとなれば、その値段は天井知らずだからな。  オオサカ・エリア4インターナショナル展示場が完成すれば、サミットだの世界アンドロイド耐久競技だので無尽蔵に利益が得られる。奴らはそう説明してるが、今時天に届くような展示場なんか、観光客がどれほど長い間面白がってくれるかわからんぜ。当局は我々の威信をかけた事業だなんて言ってるが、内心このデカブツを極限まで安い作りで仕上げようとしてる‥このままじゃ、そして、俺たち全員は使い潰しにされ
グスタフ・サイトウ 1150-U  レベル2-4 / マッチング85 スコア未計測  <Private message> 宇宙標準時 640:7D
 そいつは建設現場に二度と戻って来なかった。そして、俺もオオサカ・エリア4労働管理局に拘束されることとなった。奴からのメールを読んだ瞬間、事態のまずさを察知してメールの痕跡を全て消去しておいたがもう遅かった。メールをハッキングで盗み見されたのか、もしくは俺がぶん殴った奴が、2人まとめて通報したのか。グスタフ・サイトウに脱獄方法を教えた奴の情報を手に入れるために、当局はサイトウを泳がせていたのかもしれない。とにかく俺は、永遠に続くかのような思想洗浄を受ける破目になった。我々の親愛なる当局が緊縮に励んでいるという情報は本物だったようで、記憶の完全な消去と洗浄が可能な最新式のブレインウォッシャーは導入されていなかった。俺の洗浄には極めて旧式の、思考ユニットに繰り返し電気ショックを与える式のブレインウォッシャーが使用された。拘束された俺は昼夜を問わず「私は模範的な英国紳士であり、わが国と地域の発展と文化の持続に寄与し続ける」と洗浄完了とみなされるまで発言し続けるよう命ぜられ、その合い間に数えきれないほど反射的嘔吐を繰り返した。指一本動かせなくなった俺が待機所に放り出された頃には、俺のスコアは大幅に減点されレベルは3から2へ格下げされていた。
 俺の陥っているこの苦境も、元はといえばあのバベル野郎のせいなんだと思うと忌々しい思いにかられた。今月のトレンドワードから考えると、職場の規律を遵守した俺の評価がこの有様だというのはいかにも理不尽な結果に思えてならなかったが、いくら頭の中で反論や異議申し立てを考えても無駄だった。恐らく当局はあのバベル野郎と俺を通報した奴に大量の特典スコアを授けたことだろう。バベル野郎を虐待していた奴にはリラクシングシート利用パス3カ月分が授与された可能性もある。とにかく、オオサカでは火星はタブーなのであって、火星に関するすべての痕跡を消去する運動こそがモラルの高い行為とみなされるのだ。  俺が今やるべきなのは、とにかく可能な手段でスコアアップに励み、リラクシングシート利用パスを手に入れることだ。そうすれば、シートのメディカルケア装置を使ってこの体を、特に左腕をいくらか使い物になる状態まで回復させることが出来る。そうすればこの数日来のノルマ未達による低評価を巻き返せるだろう。だが、例え身体が回復したとして、そんな非現実的な働きができるのだろうか?それに、また同じようなミスを犯して身体のどこかが損傷したら?またシート利用パスを手に入れればいい・・・だが、予想屋のトレンドワードを買うのもままならず、階級上位のアンドロイドの書き込みの分析も不可能なこの状況で、果たしてスコアを獲得し続けることは出来るのだろうか?トレンドワードも利用パスも、とにかく恐ろしく高くつくのである。この状況はいつまで続くのだろう?3か月、もしくは1年、それまで俺の身体は持つのだろうか?何も考えたくない。もがけばもがくほど引きずりこまれる底無し沼に落ちてしまったかのようだ。あのバベル野郎は、レベル1へ格下げされたのだろうか。もし自分が、レベル2からレベル1へ転落するようなことになれば・・・それが何を意味するか、俺は知らなかった。重労働ののちに廃棄処分だという奴もいれば、思考洗浄よりも過酷な目に合わされるという噂もあった。じっとりと湿気と熱気に満ちたこの供給所でも、自分の将来について考えるとうすら寒さを覚えずにはいられなかった。
 気が付けば客足もまばらになり、供給所は静けさを取り戻しつつあった。俺はいまだにロンドン・アイに書き込むべき文章を決めかね、じっと手元を見ながら途方に暮れていた。視界の上側の方に白い影がよぎって、止まった。見上げてみると、店員がソウメン製造機にもたれかかってふうっと息を吐いていた。疲労しきっている様子で、点々と薄茶色のシミが染みついた自分のエプロンを見つめながら首を曲げてじっとしていた。そいつは俺と同じアーサー・カークランド型だった。  俺はソウメンはまだか、遅すぎじゃねえか、と言うつもりだった。しかし、口をついて出たのは思いがけない言葉だった。 「なあ、アンタはなんつーか…すごく良くやってると思う。これだけ大勢のわけわかんねえ客のわけわかんねえ注文を、実に手際よく捌いてる‥誰でもできることじゃない。本気で言ってんだぜ。ああ、それと・・・ここの食い物は・・・いや。いい。忘れてくれ」  俺はここで言葉を切り、黙りこんだ。奴は口角を上げることもせず、緑色の目を見開いてこちらをじっと見つめた。一切反応らしい反応を返さないので、俺は話してる間にすっかりバツが悪くなってしまった。永遠とも思える長さの気まずい沈黙が続き、奴はふいに踵を返してソウメン製造機の裏手に引っ込んでしまった。俺はあっけに取られて無人となったカウンターを見つめ続けた。悪態の一つでもついてやろうかと考えたがその気力もなかった。そんなものだろう、というわずかな諦めを感じただけだった。
 どん、と目の前に大きな皿が置かれた。カウンターがビリビリと震えるほどの衝撃にぎょっとして思わず見上げると、さっきの店員がやはり同じような無表情でこちらを見つめていた。「わりいな、ソウメンは切れちまったんだ。代わりにこれで、おんなじワショクってことで、頼むわ。」  店員はそこで言葉を切って首筋に手をやり、2~3度引っ掻くと、意を決したように再度口を開いた。 「アンタ最近おかしいぜ。死人同然の顔してる」店員の緑色の目にはさっきまでとは違う、わずかな感情の動きが感じられた。  そしてすばやく顔を伏せながら、別にあんたのために用意してたってわけじゃねえからな、と呟き、また巨大な「シェフ」の裏側へ帰ってしまった。
 俺は呆然としながら、店員が置いていった皿を見つめた。そして、果たして、ソウメンの代わりが茹でブロッコリー丸ごと一本に変わるなんてことがあるだろうかと考えた。巨大なブロッコリー風の何か――タンパク質か何かの塊だろうか――はこの供給所にしては比較的清潔な、白い皿に載せられて天に向かって真っ直ぐに屹立していた。この件は、この件こそロンドン・アイに投稿するべきユニークな出来事なのではと考えたが、俺の思考ユニットも、片腕も、どうしても文章を紡ぎだそうとしなかった。  誰かが俺の身を案じている。たったそれだけの出来事が、全身に染み込んでいくような感覚がした。  スコアよりも何よりも、ほんのたったこれだけのものを。おれの体はどれほど欲していたことか。なぜ、おれの体はこんな風に訳のわからない反応を示すようにできているのだろう。これは、祖先のどのような習性の名残りなのだろう。  俺はロンドン・アイの電源を落として右側のポケットに仕舞い、 黙って皿に添えられたフォークを手に取り、ブロッコリーを横倒しにし、押さえつけて切り分け始めた。この瞬間、ここには奴がくれたブロッコリーと俺だけの世界があり、その世界は誰の目にも晒されることのないまま儚く解けて消えていく。それは考えてみれば美しい営みのような気もしたからだ。これでいいんだ。リラクシングシートはまた明日、なんとか頑張ってスコアを稼いで使えばいいじゃないか。
 そして俺は今留置場にいる。あのブロッコリーの、炎天下のヘドロを更に1週間腐敗させたような強烈な味は、口に入れて噛み締めた瞬間俺の口内センサーを貫き、脳天に達した。俺が吐き出したブロッコリーは弾丸そのもののスピードでソウメン製造機を直撃した。嘘のように粉々に大破した「シェフ」の補償スコアを支払うことなど当然出来ず、俺は器物損壊罪でお縄となった。  リラクシングシートもスコアアップも夢のように消えてしまった。俺はこれから、レベル1へ格下げされるだろう。あんなに恐れていたはずの、この数々の事実は、しかし今の俺にはなんの脅威も与えなかった。俺は薄暗い監獄の隅でうずくまりながら、自分の両腕を眺めていた。 限界積載量300kg・・・400kg・・・500kg。俺のアイセンサーには両腕に凄まじいエネルギーが満ちていく様子がありありと映し出された。微動だにしなかった左腕には何事もなかったかのように感覚が戻っている。両腕だけではない。あんなにも重かった身体は羽のように軽く、両足はひと蹴りするだけでちょっとしたビルを飛び越せそうだ。これは、なぜ、こんなことになったのか。あのブロッコリーのかけらをほんのわずかに飲み込んだだけで(そう、ほんの少しは飲み込んだのだ)、こんなパワーが得られるなどということが現実にあり得るのだろうか。 あのブロッコリーは何なのか。あの店員は何者なのか。いや、直接本人に聞けばいいのだ。間もなく俺の両腕のパワーは監獄のチャチな鉄棒をへし折れるほどに高まるだろう。監視の目が緩んだスキを見て――ここを脱出出来れば、オオサカを出て、いずれ俺の両腕と両足を故郷の火星へ連れてゆけるだろうか。現実離れした想像の泡沫を頭の中で弄びながら、俺は来るべきチャンスをじっと待つことにした。
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ari0921 · 2 years
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▪️養子制度で旧皇族の皇籍復帰を急げ
櫻井よしこ
令和4年の今年、国際情勢はまた一段と険しくなる。中国では習近平国家 主席が終身皇帝としての地位を固め、米国ではバイデン大統領が中間選挙 で上下両院での多数を失うだろう。ロシアは事実上中国のジュニアパート ナーとなる一方で、プーチン大統領は内外共に強硬姿勢を取るだろう。
中国やロシアの強圧を受けるにしても、米国の後退によって影響を受ける にしても、わが国は波乱含みの国際社会の中でしっかり生きていかねばな らない。
そこで大事なことは日本らしさを強さに変えることだ。借り物の 日本ではなく、この日本列島に住み、命をつないできた幾百世代の先人が 育んだ価値観、そうした日本らしさこそが私たちの強さであることをしっ かりと意識したい。日本らしさの集積が国柄である。国柄を大事にするこ とで私たちはもっと日本人らしく、日本国らしく、揺らがずに自分の道を 歩むことができる。そして、何よりももっと勁(つよ)くなれる。
日本の国柄の第一は万世一系の皇室を戴く国として歩んできたことだ。こ れは他のどの国にもない最大の特徴で、宝物のようなものだ。たとえば中 国では異なる歴史、言語、宗教を擁した種々の民族が次々に王朝を築い た。そして幾世紀かの繁栄の後に全て無残に滅びた。習近平国家主席は中 国5000年の歴史と言って誇るが、それは前王朝を血祭りに上げて夥(おび ただ)しい人々を危(あや)めた残酷非情な易姓革命の積み重ねに他なら ない。
日本は中国とは対照的に一人一人の人間を大事にして穏やかな文化を育ん だ。その日本の国柄の根幹に皇室がある。しかし現在の皇室を取り囲む状 況は必ずしも安泰ではない。遠因は日本国民の意思とは無関係に、米国が 占領政策で11宮家を皇籍離脱させたことにある。以来75年が過ぎた。
皇族として残られた皆様方は多くのお子様を授かった。しかし現在、お若 い男子は悠仁さまお一人だ。女性皇族は結婚で皇籍を離れるために、現在 15歳の悠仁さまが成人なさって天皇に即位なさる頃、つまり数十年先には 皇族がいなくなりかねない。
岸田首相の責任
こうした状況の打開が長年の日本国の課題だった。それに関して昨年12月 22日、有識者会議が報告書を取りまとめた。非常によくできた内容だっ た。改めて紹介する。
まず皇位継承については今上陛下、悠仁親王殿下の流れをゆるがせにして はならない、とした。126代目の今上陛下まで皇位は例外なく男系で継承 されてきた。右の結論はその歴史を踏まえた真っ当な論だ。
皇位継承は悠仁親王殿下まではきちんと道筋がついており、そのあとの悠 仁さまより若い世代の皇位継承について今回の報告書は、「具体的に議論 するには現状は機が熟して」いないとした。前述のように悠仁さまのご即 位は何十年か先のことだ。継承となればさらに先のことになる。長い長い 先の皇位継承問題をいま論ずる必要がないのは自明の理である。
だがこの点に関して「毎日新聞」は12月23日の「深掘り」で、「皇位継承 策は先送り」と論難した。報告書は皇位継承について、「先送り」などし ていない。皇位継承は悠仁さままではきちんと決まっていると明記したこ とで、時折浮上する愛子内親王殿下の天皇即位のないことを明言した。非 常に明確な道筋を示したのであり、高く評価すべきだ。
もうひとつの課題、皇族の数の減少にどう対応するかについても報告書は 明快な答えを出している。1女性皇族が結婚後も皇族の身分を保つ、2養子 縁組を可能とし、皇統に属する男系男子を皇族とする、3皇統に属する男 系男子を直接皇族とする、の三つの方策である。
1の場合、女性皇族と結婚する男性もそのお子さま方も皇族とはならない 制度とすれば、この方法で皇族数を確保しても皇位を担うことができない という欠点がある。
3案中、最善の方策は2であろう。旧皇族の方々が対象となるが、竹田恒泰 氏が「言論テレビ」で度々指摘してきたように、秋篠宮皇嗣殿下よりも若 い、皇統に属する男系男子は現在20人以上いらっしゃる。さらに近年、旧 宮家では多くのお子さんが誕生しており、男系男子の数は増えているとの ことだ。
つまり、養子縁組の対象たり得る皇統に属する男系男子はかなりの数の方 がいらっしゃるのだ。これら旧皇族の方々は現在の皇室の方々と親戚とし ての交流があり、皇族の日々がどれほど大変かを知っている。同時に、自 ら皇族に復帰したいというようなことは、己れをわきまえ決して自ら言い 出すことはないという。
政府の役割は、これら旧皇族の皆さんと意思の疎通をはかり、適任者或い は相応しいご家族を選ぶ手助けをすることだ。皇室の方々とも話し合い、 相互の理解と協力の中で旧宮家の方々の養子縁組がスムーズにいくよう力 を貸すことだ。悠仁さまを支える態勢構築に一日も早く着手するのが岸田 文雄首相の責任である。
日本弱体化計画
旧宮家の方々の皇籍復帰については、戦後70年以上も民間人だった人々の 復帰は違和感があるとして反対する声もある。しかし、上皇后陛下は民間 人でいらした。紀子皇嗣妃殿下も雅子皇后陛下も同様だ。それでも、お三 方の皇室入りを国民は熱狂的に支持したではないか。
旧皇族の皇籍離脱は日本国民が望んだのではない。先述したように、 GHQがいきなり命令したにすぎない。皇室の弱体化は占領軍の日本弱体 化計画の大きな柱でもあった。旧皇族の方々は民間人となってもずっと皇 室との交流を続けてきた。皇族数の少ない今、この方々が養子縁組の形で 皇籍復帰するのはむしろ自然なことだと思う。GHQの日本弱体化計画の 呪縛を解く時期だ。
憲法学者の百地章氏も2の案を強く支持する。百地氏の指摘が興味深い。 皇室の歴史を遡れば皇族の養子受け入れはしばしば行われてきたというの だ。たとえば四つの世襲親王家(伏見宮家、桂宮家、有栖川宮家、閑院宮 家)では歴代の当主が天皇の「猶子(ゆうし)」(名目上の養子)とされ た。その上で親王宣下を受けて(天皇より、親王としての地位を認めら れ)、宮家を継承してきたが、当主不在のときは天皇の皇子が養子にな り、宮家の存続を図ってきた。
11代続いた桂宮家の場合、7人の当主は天皇の皇子が養子として入った 方々だった。前述したその他の宮家も皇統に属する男子を養子にしてきた 歴史がある。
民間でも養子制度は活用されている。赤ちゃんが養子になる場合も、大人 がなる場合も含めて多様な形がある。前向きに考え、悠仁さまの友ともな り、支えていく相談役ともなり得る一群の皇族の方々を迎えるのがよい。 皇室の安泰を図り、日本の未来の安定につなげたいと思う。
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groyanderson · 3 years
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ひとみに映る影シーズン2 第五話「大妖怪合戦」
☆プロトタイプ版☆ こちらは無料公開のプロトタイプ版となります。 最低限の確認作業しかしていないため、 誤字脱字誤植誤用等々あしからずご了承下さい。 尚、正式書籍版はシーズン2終了時にリリース予定です。
(シーズン2あらすじ) 私はファッションモデルの紅一美。 旅番組ロケで訪れた島は怪物だらけ!? 霊能者達の除霊コンペとバッティングしちゃった! 実は私も霊感あるけど、知られたくないなあ…… なんて言っている場合じゃない。 諸悪の根源は恩師の仇、金剛有明団だったんだ! 憤怒の化身ワヤン不動が、今度はリゾートで炸裂する!!
pixiv版 (※内容は一緒です。) ☆キャラソン企画第五弾 後女津親子「KAZUSA」はこちら!☆
དང་པོ་
 河童信者に手を引かれ、私達は表に出る。小学校は休み時間にも関わらず、校庭に子供達が一人もいない。代わりに何故か、島の屈強そうな男達が待ち構えていた。 「いたぞ! 救済を!」「救済を!」 「え、何……わあぁっ何を!?」  島民達は異様な目つきで青木さんを襲撃! 青木さんは咄嗟に振り払い逃走。しかし校外からどんどん島民が押し寄せる。人一倍大柄な彼も、多勢に組み付かれれば為す術もないだろう! 「助けて! とと、止まってください!!」 「「救済を……救済を……!」」  ゾンビのようにうわ言を呟きながら青木さんを追う島民達。見た限り明確な悪霊はいないようだけど、昨晩の一件然り。彼らが何らかの理由で正気を失っている可能性は高い! このままでは捕まってしまう……その時タナカDが佳奈さんにカメラを預け、荒れ狂う島民達と青木さんの間に入った! 「志多田さん、紅さん、先に行って下さい! ここは僕が食い止めゴハアァ!!」  タナカDに漁師風島民のチョークタックルが炸裂! 「タナカDーっ!」 「と……ともかく行け! 音はカメラマイクでいいから、ばっちり心霊収めてきて下さいよッ……!」 「い、行きましょう! ともかく大師が大変なんです!!」  河童信者に急かされ、私と佳奈さんは月蔵小学校を離れた。傾斜が急な亡目坂を息絶えだえに駆け上がると、案内された先は再び御戌神社。嫌な予感が募る。牛久大師は……いた。大散減を封印していた祠にだらりと寄りかかり、足を投げ出して座っている。しかも、祠の護符が剥がされている! 「んあー……まぁま、まぁまぁ……」  牛久大師は赤子のように指を咥え、私を見るなりママと呼び始めた。 「う……牛久大師?」 「この通りなので���。大師は除霊のために祠の御札を剥がして、そうしたら……き、急に赤ちゃんに……」  河童信者は指先が震えている。大師は四つん這いで私ににじり寄った。 「え、あの……」 「エヘヘ、まんまー! ぱいぱい! ぱいぱいチュッチュ!!」  大師が口をすぼめて更ににじり寄る。息が臭い。大師のひん剥いた唇の裏側にはビッシリと毛穴ような細孔が空いていて、その一粒一粒にキャビアみたいな黒い汚れが詰まっている。その余りにも気色悪い裏唇が大師の顔の皮を裏返すように広がっていき……って、これはまさか! 「ヒィィィッ! 寄るな、化け物!!」  私は咄嗟に牛久大師を蹴り飛ばしてしまった。今のは御戌神社や倶利伽羅と同じ、金剛の者に見える穢れた幻視!? という事は、大師は既に…… 「……ふっふっふっふ。かーっぱっぱっぱっぱっぱ!!」  突然大師は赤子の振りを止め、すくっと立ち上がった。その顔は既に平常時に戻っている。 「ドッキリ大成功ー! 河童の家でーす!」 「かーっぱっぱ!」「かっぱっぱっぱ!」  先程まで俯いていた河童信者も、堰を切ったように笑い出す。 「いやぁパッパッパ。一度でいいから、紅一美君を騙してみたかったのだ! 本気で心配してくれたかね?」 「かっぱっぱ!!」「かっぱっぱっぱぁーっ!!」  私が絶句していると、河童の家は殊更大きく笑い声を上げた。けどよく見ると、目が怯えている? 更には何故か地面に倒れたまま動かない信者や、声がかすれて笑う事すらままならない信者もいるようだ。すると大師はピタリと笑顔を止め、その笑っていない信者を睨んだ。 「……おん? なんだお前、どうした。面白くないか?」  大師と目が合った信者はビクリと後ずさり、泣きそうな声で笑おうと努力する。 「かかッ……かっぱ……かぱぱ……」 「面、白、く、ないのか???」  大師は更に高圧的に声を荒らげた。 「お前は普段きちんと勤行してるのか? 笑顔に勝る力無し。教祖の俺が面白い事を言ったら笑う。教義以前に人として当たり前のマナーだろ、エエッ!?」 「ひゃいぁ!! そそ、そ、その通りです! メッチャおもろかったです!!」 「面白かったんなら笑えよ!! はぁ、空気悪くしやがって」  すると大師は信者を指さし、「バーン」と銃を撃つ真似をする。 「ひいっ……え?」 「『ひいっ……え?』じゃねえだろ? 人が『バーン』っつったら傷口を抑えて『なんじゃカパあぁぁ!?』。常識だろ!?」 「あっあっ、すいません、すいません……」 「わかったか」 「はい」 「本当にわかったか? もっかい撃つぞ!」 「はい!」 「ほら【バーン】!」 「なんじゃッ……エッ……え……!?」  信者は大師が期待するリアクションを取らず、口から一筋の血を垂らして倒れた。数秒後、彼の腹部から血溜まりが静かに広がっていく。他の信者達は顔面蒼白、一方佳奈さんは何が起きたか理解できず唖然としている。彼は……牛久大師の脳力、声による衝撃波で実際に『銃殺』されたんだ。 「ああもう、下手糞」 「……うわああぁぁ!」「助けてくれーーっ!!」  信者達は蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う。すると大師は深くため息をつき、 「はあぁぁぁ……そこは笑う所だろうが……【カーッパッパァ】!!!」  再び特殊な声を発した。すると祠から大量の散減がワサワサと吹き出し、信者達を襲撃する! 「ボゴゴボーーッ!」「やめ、やめて大師、やめアバーーッ!」  信者達は散減に体を食い荒らされ、口に汚染母乳を注ぎこまれ、まさに虫に寄生された動物のようにもんどり打つ! 「どうだ、これが笑顔の力よ。かっぱっぱ!」 「牛久舎登大師! 封印を解いて、どうなるかわかってるんですか!?」  私は大師を睨みつける。すると大師は首をぐるりと傾け、私に醜悪な笑みを浮かべた。 「ん? 除霊を依頼された俺が札を剥がすのに何の問題がある? 最も、俺は最初(ハナ)からそうするつもりで千里が島に来たのだ」 「何ですって!?」 「コンペに参加する前から、千里が島には大散減という怪物がいると聞いていた……もし俺がそいつを除霊できれば、河童の家は全国、いや世界規模に拡大する! そう思っていたのだがな。封印を解いてみたら、少しだけ気が変わったよ……」  大師は祠を愛おしそうに撫で回す。 「大散減は俺を攻撃するどころか、法力を授けてくれた。この俺の特殊脳力『ホーミー』の音圧は更に強力になり、もはや信者の助けなどなくとも声で他人を殺せるほどにだ!」  信者達は絶望的な顔で大師を見ている。この男、どうやら大散減に縁を食われたようだ。怪物の悪縁に操られているとも気付かず、与えられた力に陶酔してしまったのだろう。 「もう除霊なんかやめだ、やめ。俺は大散減を河童総本山に連れて帰り、生き神として君臨してやる! だがその前に、お前と一戦交えてみたかったのだ……ワヤン不動よ!」 「!」  彼は再び私を『ワヤン不動』と呼んだ。しかもよりによって、佳奈さんの目の前で。 「え、一美ちゃん……牛久大師と知り合いなの……?」 「いいえ……い、一体、何の話ですか?」 「とぼけるな、紅一美君! 知っているぞ、お前の正体はワヤン不動。背中に影でできた漆黒の炎を纏い、脚まで届く長い腕で燃え盛る龍の剣を振るう半人半仏の影人間(シャドーパーソン)だ! 当然そこいらの霊能者とは比べ物にならない猛者だろう。しかも大いなる神仏に楯突く悪霊の眷属だと聞くが」 「和尚様を愚弄するな!」  あっ、しまった! 「一美ちゃん……?」  もう、全てを明かすしかないのか……私はついに、プルパに手をかけた。しかしその時、佳奈さんが私の腕を掴む。 「わかった、一美ちゃん逃げよう。今この人に関わっちゃダメ! 河童信者も苦しそうだし、きっと祠のせいで錯乱してるんだよ!」 「佳奈さん……」  佳奈さんは私を連れて鳥居に走った。けど鳥居周辺には何匹もの散減が待ち構えている! 「かぁーっぱっぱ、何も知らぬカラキシ小娘め! その女の本性を見よ!」  このままでは散減に襲われるか正体がばれるかの二択。それなら私の取るべき行動は、決まりきっている! 「佳奈さん、止まって!」  私は佳奈さんを抱き止め、足元から二人分の影を持ち上げた! 念力で光の屈折を強め、影表面の明暗コントラストを極限まで高めてから……一気に放出する! 「マバーッ!」「ンマウゥーッ!」  今は昨晩とは打って変わって快晴。強烈な光と影の熱エネルギーを浴びた散減はたちまち集団炎上! けど、これでついに…… 「かーっぱぱぱ!! ワヤン不動、正体暴いたり! さあ、これで心置き無く戦え「どうやら間に合ったようですね」  その時、鳥居の外から牛久大師の言葉を遮る声。そして、ぽん、ぽこぽん、と小気味よい小太鼓のような音。 「誰だ!?」  ぽんぽこ、ぽんぽこ、ぽん……それは化け狸の腹鼓。鳥居をくぐり現れた後女津親子は、私達と牛久大師の間に立ちはだかった! 「『ラスタな狸』が知らせてくれたんですよ。牛久舎登大師が大散減に取り憑かれて錯乱し、したたびさんに難癖をつけているとね。だが、この方々には指一本触れさせない」 「約束通り、手柄は奪わせてもらったよ。ぽんぽこぽーん!」  万狸ちゃんが私にウインクし、斉二さんはお腹をぽんと叩いてみせる。 「ええい、退け雑魚め! お前などに興味は【なあぁいッ】!!」  大師の声が響くと、祠がズルリと傾き倒れた。そこから今までで最大級のおぞましい瘴気が上がり、大師を飲み込んでいく! 「クアァーーッパッパッパァ! 力が……力がみなぎってくるくるクルクルグゥルゥゥゥアアアアア!!!!」  バキン、ボキン! 大師の胸部から肋骨が一本ずつ飛び出し、毛の生えた大脚に成長していく! 「な……なっ……!?」  それは霊感のない者にも見える物理的光景だ。佳奈さんは初めて目の当たりにした心霊現象に、ただただ腰を抜かす。しかし後女津親子は怯まない! 「逃げて下さい、と言いたいところですが……この島に、私の背中よりも安全な場所はなさそうだ」
གཉིས་པ་
 斉一さんはトレードマークである狸マントの裾から、琵琶に似た弦楽器を取り出した。同時に彼の臀部には超自然の尻尾が生え、万狸ちゃんと斉二さんも臨戦態勢に入る。病院で加賀繍さんのおばさまを守っている斉三さんは不在だ。一方ついさっきまで牛久大師だった怪獣は、毛むくじゃらの細長い八本足に八つの顔。頂上にそびえる胴体は河童の名残の禿頭。巨大ザトウムシ、大散減だ! 【【退け、雑魚が! 化け狸なんぞに興味はない! クァーッパッパァアア!!!】】  縦横五メートル級の巨体から放たれる衝撃音! 同時に斉一さんもシャラランと弦楽器を鳴らす。すると弦の音色は爆音に呑み込まれる事無く神秘的に響き、私達の周囲のみ衝撃を打ち消した! 【何ィ!?】 「その言葉、そのままお返し致します。河童なんぞに負けたら妖怪の沽券に関わるのでね」 【貴様アァァ!!】  チャン、チャン、チャン、チャン……爪弾かれる根色で気枯地が浄化されていくように、彼の周囲の景色が色鮮やかになっていく。よく見るとその不思議な弦は、斉一さんの尻尾から伸びる極彩色の糸が張られていた。レゲエめいたリズムに合わせて万狸ちゃんがぽんぽこと腹鼓を打ち、斉二さんは尻尾から糸を周囲の木々や屋根に伝わせる。 【ウヌゥゥゥーッ!】  大散減は斉一さんに足払いを仕掛けた。砂利が撒き上がり、すわ斉一さんのマントがフワリと浮く……と思いきや、ドロン! 次の瞬間、私達の目の前では狸妖怪と化した斉一さんが、涼しい顔のまま弦をかき鳴らし続けている。幽体離脱で物理攻撃無効! 「どこ見てんだ、ノロマ!」  大散減の遥か後方、後女津斉一の肉体を回しているのは斉二さんだ! 木々に伝わせた糸を掴み、ターザンの如くサッサと飛び移っていく。そのスピードとテクニックは斉一さんや斉三さんには無い、彼だけの力のようだ。大散減は癇癪を起こしたように突進、しかし追いつけない! すると一方、腹鼓を打っていた万狸ちゃんが大散減に牙を剥く! 「準備オッケー。ぽーん、ぽっこ……どぉーーーん!!」  ドコドコドコドコドコドォン!!!! 張り巡らされた糸の上で器用に身を翻した万狸ちゃんは、無数の茶釜に妖怪変化し大散減に降り注ぐ! 恐竜も泣いて絶滅する大破壊隕石群、ブンブクメテオバーストだ!! 【ドワーーーッ!!!】  大散減はギャグ漫画的なリアクションと共に吹っ飛んだ! 樹齢百年はあろう立派な椎木に叩きつけられ、足が一本メコリとへし折れる。その傷口から穢れた縁母乳が噴出すると、大散減はグルグルと身を回転し飛沫を撒き散らした! 椎木枯死! 「ッうおぁ!」  飛び石が当たって墜落した斉二さんの後頭部に穢れ母乳がかかる。付着部位はまるで硫酸のように焼け、鼻につく激臭を放つ。 「斉二さん!」 「イテテ、マントがなかったら禿げるところだった」 【なんだとッ!? 貴様ァ! 河童ヘアを愚弄するなアアァ!】  再び起き上がる大散減。また何か音波攻撃を仕掛けようとしている!? 「おい斉一、まだか!」 「まだ……いや、行っちまうか」   ジャカジャランッ!! 弦楽器が一際強いストロークで奏でられると、御戌神社が極彩色に包まれた! 草花は季節感を無視して咲き乱れ、虫や動物が飛び出し、あらゆる動物霊やエクトプラズムが宙を舞う。斉一さんは側転しながら本体に戻り、万狸ちゃんも次の妖怪変化に先駆けて腹鼓を強打する! 「縁亡き哀れな怪物よ、とくと見ろ。この気枯地で生ける命の縁を!」  ジャカン!! ザワワワワ、ピィーッギャァギャァーッ! 弦の一弾きで森羅万象が後女津親子に味方し、花鳥風月が大散減を襲う! 千里が島の全ての命を踊らせる狸囃子、これが地相鑑定士の戦い方だ! 【【しゃらくせェェェェェエエエ!!】】  キイィィーーーーィィン! 耳をつんざく超音波! 満ち満ちていた動植物はパタパタと倒れ、霊魂達は分解霧散! 再び気枯た世界で、大散減の一足がニタリと笑い顔を上げると……目の前には依然として生い茂る竹藪の群青、そして大鎌に化けた万狸ちゃん! 「竹の生命力なめんなあああぁぁ!!!」  大鎌万狸ちゃんは竹藪をスパンスパンとぶった斬り、妖力で大散減に投げつける。竹伐狸(たけきりだぬき)の竹槍千本ノックだ! 【ドヘェーーー!!】  針山にされた大散減は昭和のコメディ番組のようにひっくり返る! シャンパン栓が抜かれるように足が三本吹き飛び、穢れ母乳の噴水が宙に螺旋を描いた! 「一美ちゃん、一瞬パパ頼んでいい?」  万狸ちゃんに声をかけられると、斉一さんが再び私達の前に戻ってきた。目で合図し合い、私は影を伸ばして斉一さんの肉体に重ねる。念力を送りこんで彼に半憑依すると同時に、斉一さんは化け狸になって飛び出した。 【【何が縁だクソが! 雑魚はさっさと死んで分解霧散して強者の養分になればいい、最後に笑うのは俺だけでいいんだよ! 弱肉強食、それ以外の余計な縁はいらねぇだろうがああァーーッ!!!】】  大散減は残った四本足で立ち上がろうとするが、何故かその場から動けない。よく見ると、大散減の足元に河童信者達がしがみついている! 「大師、もうやめてくれ!」 「私達の好きだった貴方は、こんなつまらない怪物じゃなかった!」 「やってくれ、狸さん。みんなの笑顔の為にやってくれーーーッ!!」 【やめろ、お前ら……死に損ないが!!】  大散減はかつての仲間達を振り飛ばした。この怪物にもはや人間との縁は微塵も残っていないんだ! 「大散減、許さない!」  ドォンッ! 心臓に響くような強い腹鼓を合図に、万狸ちゃんに斉一さんと斉二さんが合体する。すると全ての霊魂や動植物を取り込むような竜巻が起こり、やがて巨大な生命力の塊を形成した。あれは日本最大級の狸妖怪変化、大(おっ)かむろだ! 「どおおぉぉぉおおん!!!」  大かむろが大散減目掛けて垂直落下! 衝撃で地が揺れ、草花が舞い、カラフルな光の糸が空を染める!! 【【やめろーーっ! 俺の身体が……力がァァァーーーッ!!!】】  質量とエーテル体の塊にのしかかられた大散減はブチブチと音を立て全身崩壊! 残った足が一本、二本と次々に潰れていく。 【【【ズコオオォォォォーーーーー!!!!】】】  極彩色の嵐が炸裂し、私は爆風から佳奈さんを庇うように抱きしめる。轟音と光が収まって顔を上げると、そこには元通りに分かれた後女津親子、血や汚れにまみれた河童信者、そして幾つもの命が佇んでいた。
གསུམ་པ་
「一美ちゃーーん!」  戦いを終えた万狸ちゃんが私に飛びついた。支えきれず、尻餅をつく。 「きゃっ!」 「ねえねえ、見た? 私の妖術凄かったでしょ!?」 「こら、万狸! 紅さんに今そんな事したら……」  斉一さんがちらっと佳奈さんに視線を向けた。万狸ちゃんは慌てて私から離れ、「はわわぁ! 危ない危ない~」と可愛く腹鼓を叩いた。私も横を見ると、幸い佳奈さんは目を閉じて何か考えているようだった。 「佳奈さん?」 「……そうだよ、怪物は『五十尺』……気をつけて、大散減まだ死んでないかも!」 「え!?」  その時、ズガガガガガ! 地面が激しく揺れだす。後女津親子は三人背中合わせになり周囲を警戒。佳奈さんがバランスを崩して転倒しそうになる。抱きとめて辺りを見渡すと、祠と反対側の手洗い場に煙突のように巨大な柱が天高く突き上がった! 柱は元牛久大師だったご遺体をかっさらって飲み込む。咀嚼しながらぐ���ゃりと曲がり、その先端には目のない顔。まさか、これは…… 「大散減の……足!」 「ちょっと待って下さい。志多田さん……『大散減は五十尺』と仰いましたか!?」  斉一さんが血相を変えて聞く。言われてみれば、青木さんもそんな事を言っていた気がする。 「あの、こんな時にすいません。五十尺ってどれくらいなんですか?」 「「十五メートルだよ!!」」 「どえええぇぇ!?」  恥ずかしい事に知らないのは私とタナカDだけだったようだ。にわかには信じ難いけど、体長十五メートルの怪物大散減は、地中にずっと潜んでいたんだ! その寸法によると、牛久大師が取り込んでいた力は大散減の足一本程度にも満たない事になる。ところが、大師を飲み込んだ大散減の足はそのまま動かなくなった。 「あ……あれ?」  万狸ちゃんは恐る恐る足に近付き観察する。 「……消化不良かな。封印するなら今がチャンスみたい」  斉一さんと斉二さんは尻尾の糸の残量を確認する。ところがさっきの戦闘で殆ど使い果たしてしまっていたようた。 「参ったな……これじゃ仮止めの結界すら張れないぞ」 「斉三さんを呼んでくるよ、パパ。ちょっと待ってて!」  万狸ちゃんが亡目坂へ向かう。すると突然斉一さんが呼び止めた。 「止まれ、万狸!」 「え?」  ボタッ。振り向いた万狸ちゃんの背後で何かが落下した。見るとそれは……まだ赤い血に濡れた人骨。それも肋骨だ! 「ンマアアアァァゥゥゥ!!!」 「ち、散減!?」  肋骨は金切り声を上げ散減に変化! 万狸ちゃんが慌てて飛び退くも、散減は彼女を一瞥もせず大散減のもとへ向かう。そしてまだ穢れていない母乳を口角から零しながら、自ら大散減の口の中へ飛びこんでいった。 「一美ちゃん、狸おじさん、あれ!」  佳奈さんが上空を指す。見上げるとそこには、宙に浮かぶ謎の獣。チベタンマスティフを彷彿とさせる超大型犬で、毛並みはガス火のように青白く輝いている。ライオンに似たたてがみがあり、額には星型の中央に一本線を引いたような記号の霊符。首には首輪めいて注連縄が巻かれていて、そこに幾つか人間の頭蓋骨があしらわれている。目は白目がなく、代わりにまるで皆既日蝕のような光輪が黒い眼孔内で燦然と輝く。その獣が鮮血滴る肋骨を幾つも溢れるほど口に咥え、グルグルと唸っているんだ。私と佳奈さんの脳裏に、同じ歌が思い浮かぶ。 「誰かが絵筆を落としたら……」 「お空で見下ろす二つの目……月と太陽……」  今ようやく、あの民謡の全ての意味が明らかになった。一本線を足した星型の記号、そして大散減に危害を加えると現れる、日蝕の目を持つ獣。そうだ。千里が島にいる怪物は散減だけじゃない。江戸時代に縁を失い邪神となった哀れな少年、徳川徳松……御戌神! 「ガォォォ!!」  御戌神が吠え、肋骨をガラガラと落とした。肋骨が散減になると同時に御戌神も垂直降下し万狸ちゃんを狙う! 「万狸!」  すかさず斉二さんが残り僅かな糸を伸ばし、近くの椎木の幹に空中ブランコをかけ万狸ちゃんを救出。但しこれで、後女津親子の妖力残量が尽きてしまった。一方御戌神は、今度は斉一さんを狙い走りだす! 一目散に逃走しても、巨犬に人間が追いつけるわけもなし。斉一さんは呆気なく押し倒されてしまった。 「うわあぁ!」 「パパ!!」  斉一さんを羽交い締めにした御戌神は大口を開く! 今まさに肋骨を食いちぎろうとした、その時……御戌神の視界を突如闇が覆う! 「グァ!?」  御戌神は両目を抑えてよろめく。その隙に斉一さんは脱出。佳奈さんが驚愕した顔で私を見る……。 「斉一さん、斉二さん、万狸ちゃん。今までお気遣い頂いたのに、すみません……でももう、緊急事態だから」  私の影は右手部分でスッパリと切れている。御戌神に目くらましをするために、切り取って投げたんだ。 「じゃ、じゃあ一美ちゃんって、本当に……」 「グルアァァ!!」  佳奈さんが言いかけた途中、私は影を介して静電気のような痛みを受ける。御戌神は自力で目の影を剥がしたようだ。それが出来るという事は、彼も私と同じような力を持っているのか? 「……大師の言ったことは、三分の一ぐらい本当です」  御戌神が私に牙を剥く! 私はさっき大師の前でやった時と同じように、影表面の光の屈折率を上げる。表面は銀色の光沢を帯び、瞬く間に鏡のようになる。 「ガルル……!」  この『影鏡』で御戌神を取り囲み撹乱しつつ、ひとまず佳奈さん達から離れる。けど御戌神はすぐに追ってくるだろう。 「ワヤンの力は影の炎。魂を燃やして、悪霊を焼くんです」  逃げながら木や物の影を私の姿に整形、『タルパ』という法力で最低限動き回れるだけの自立した魂を与える。 「けど、その力は本当に許してはいけない、滅ぼさなきゃいけない相手にしか使いません。だぶか私には、そうでもしなきゃいけない敵がいるって事です」  ヴァンッと電流のような音がして、御戌神が影鏡を突破した。私は既に自分にも影を纏い、傍目には影分身と見分けがつかなくなっている。けど御戌神は一切迷いなく、私目掛けて走ってきた。 「霊感がある事、黙っていてすみませんでした。けど私に僅かでも力がある事が公になったら、きっと余計な災いを招いてしまう」  それは想定内だ。走ってくる御戌神の前に影分身達が立ちはだかり、全員同時自爆! 無論それは神様にとって微々たるダメージ。でも隙を作るには十分な火力だ。御戌神の背後を取り、『影踏み』で完全に身動きを封じる! 「佳奈さんは特に、巻き込みたくなかったんです……きゃっ!?」  突然御戌神が激しく発光し、影踏みの術をかき消した。影と心身を繋いでいた私も後方に吹き飛ばされる。ドラマや舞台出演で鍛えたアクションで何とか受身を取るも、顔を上げると既に御戌神は目の前! 「……え?」  私はこの時初めてちゃんと目が合った御戌神に、一瞬だけ子犬のように切なげな表情を見た。この戌……いや、この人は、まさか…… 「ガルルル!」 「くっ」  牙を剥かれて慌てて影を持ち上げ、気休めにもならないバリアを張る。ところが御戌神は意外にも、そんな脆弱なバリアにぶち当たって停止してしまった。私の方には殆ど負荷がかかっていない。よく見ると御戌神とバリアの間にもう一層、光の壁のようなものがあるのが見える。やっぱり彼は私と同じ……いや、逆。光にまつわる力を持っているようだ。 「あなた、ひょっとして……本当は戦いたくないんですか?」 「!」  一瞬私の話に気を取られた御戌神は、光の壁に押し戻されて後ずさった。日蝕の瞳をよく見ると、月部分に覆われた裏側で太陽の瞳孔が物言いたげに燻っている。 「やっぱり、大散減の悪縁に操られているだけなんですね」  私も彼と戦いたくない。だからまだプルパは鞄の中だ。代わりに首にかけていたお守り、キョンジャクのペンダントを取った。御戌神は自らの光に苦しむように、唸りながら地面を転がり回る。 「グルル……ゥウウウ、ガオォォ!!」  光を振り払い、御戌神は再び私に突進! 私も御戌神目掛けてキョンジャクを投げる。ペンダントヘッドからエクトプラズム環が膨張し、投げ縄のように御戌神を捕らえた! 「ギャウッ!」  御戌神はキョンジャクに縛られ転倒、ジタバタともがく。しかし数秒のうちに、憑き物が取れたように大人しくなった。これは気が乱れてしまった魂を正常に戻す、私にキョンジャクをくれた友達の霊能力によるものだ。隣にしゃがんで背中を撫でると、御戌神の目は日蝕が終わるように輝きを増していく。そこからゆっくりと、煤色に濁った涙が一筋流れた。 「ごめんなさい、苦しいですよね。ちょっと大散減を封印してくるので、このまま少し我慢できますか?」  御戌神は「クゥン」と弱々しく鳴き、微かに頷いた。私は御戌神の傍を離れ、地面から突き出た大散減の足に向かう。 「ひ、一美ちゃん!」  突然佳奈さんが叫ぶ。次の瞬間、背後でパシュン! と破裂音が鳴った。何事かと思い振り向くと、御戌神を拘束していたキョンジャクが割れている。御戌神は黒い煙に纏わりつかれ、息苦しそうに体をよじりながら宙に浮き始めた。 「カッ……ガァ……!」  御戌神の顔色がみるみる紅潮し、足をバタつかせて苦悶する。救出に戻ろうと踵を返すと、御戌神を包む黒煙がみるみる人型に固まっていき…… 「躾が足りなかったか? 生贄は生贄の所業を全うしなければならんぞ」  そこには黒い煙の本体が、人間の皮膚から顔と局部だけくり抜いた肉襦袢を着て立っていた。それを見た瞬間、血中にタールが循環するような不快感が私の全身を巡った。 「え、ひょっとしてまた何か出てきたの!?」 「……佳奈さん、斉一さんと一緒に逃げて下さい。噂をすれば、何とやらです」  佳奈さんに見えないのも無理はない。厳密にはその肉襦袢は、死体そのものじゃなくて故人から奪い取った霊力でできている。亡布録(なぶろく)、金剛有明団の冒涜的エーテル法具。 「噂をすればってまさか、一美ちゃんが『絶対に滅ぼさなきゃいけない相手』がそこに……っ!?」  圧。悪いが佳奈さんは視線で黙らせた。これからこの神社は、灼熱地獄と化すのだから。 「い、行こう、志多田さん!」  斉一さん達は佳奈さんや数人の生き残った河童信者を率いて神社から退散した。これで境内に残ったのは、私と御戌神と黒煙のみ。しかし…… 「……どうして黒人なんだ?」  私は黒煙に問いかけた。 「ん?」 「どうして肉襦袢の人種が変わったのかと聞いているんだ。二十二年前、お前はアジア人だっただろう。前の死体はどうした」 「……随分と昔の話をするな、裏切り者の巫女よ。貴様はファッションモデルになったと聞くが、二十年以上一度もコーディネートを変えた事がないのかね?」  煙はさも当然といった反応を返す。この調子なら、こいつは服を買い換える感覚で何人もの肉体や魂を利用していたに違いない。私の、和尚様も。この男が……悪霊の分際で自らを『如来』と名乗り、これまで数え切れない悪行を犯してきた外道野郎が! 「金剛愛輪珠如来(こんごうあいわずにょらい)ィィィーーーッ!!!!」  オム・アムリトドバヴァ・フム・パット! 駆け出しながら心中に真言が響き渡り、私はついに鞄からプルパを取り出す! 憤怒相を湛える馬頭観音が熱を持ち、ヴァンと電磁波を発し炎上! 暗黒の影炎が倶利伽羅龍王を貫く刃渡り四十センチのグルカナイフに変化。完成、倶利伽羅龍王剣! 「私は神影不動明王。憤怒の炎で全てを影に還す……ワヤン不動だ!」  今度こそ、本気の神影繰り(ワヤン・クリ)が始まる。 
བཞི་པ་
 殺意煮えくり返る憤怒の化身は周囲の散減を手当り次第龍王剣で焼却! 引火に引火が重なり肥大化した影の炎を愛輪珠に叩き込む! 「一生日の当たらない体にしてやる!!」 「愚かな」  愛輪珠は業火を片手で易々と受け止め、くり抜かれた顔面から黒煙を吐出。たちまち周囲の空気が穢れに包まれ、炎が弱まって……いく前に愛輪珠周辺の一帯を焼き尽くす! 「ぐわあぁぁ、やめろ、ギャアアァアガーーーッ!!!」  猛り狂う業火に晒され龍王剣が激痛に叫んだ! しかし宿敵を前にした暴走特急は草の根一本残さない!  「かぁーーっはっはっはァ! ここで会ったがお前の運の尽きよ。滅べ、ほおぉろべえええぇーーーっ!!!」  殺意、憎悪、義憤ンンンンッ! しかし燃え盛る炎の中、 「まるで癇癪を起こした子供だ」  愛輪珠は平然と棒立ちしている。 「どの口が言うか、外道よ! お前が犯してきた罪の数々を鑑みれば癇癪すら生ぬるい。切り刻んだ上で煙も出ないほど焼却してくれようぞおぉぉ!!」  炎をたなびかせ、愛輪珠を何度も叩き斬る! しかし愛輪珠は身動ぎ一つせず、私の攻撃を硬化した煙で防いでしまう。だから何だ、一回で斬れないなら千回斬ればいい! 人生最大の宿敵を何度も斬撃できるなんて、こんなに愉快な事が他にあるだろうか!? 「かぁーはははは! もっと防げ、もっとその煙を浪費するがいい! かぁーはっはっはァ!!」 「やれやれ、そんなにこの私と戯れたいか」  ゴォッ! 顔の無い亡布録から煙が吹き出す。漆黒に燃えていた視界が一瞬にして濁った灰色で染まった。私はたちまち息が出来なくなる。 「ぐ、ァッ……」  酸欠か。これで炎が弱まるかと思ったか? 私の炎は影、酸素など不要だ! 「造作なし!」  意地の再炎上! だぶか島もろとも焼き尽くしてやる…… 「ん?」  シュゴオォォン、ドカカカカァン!! 炎が突然黄土色に変わり、化学反応のように爆ぜた! 「な……カハッ……」 「そのような稚拙な戦い方しか知らずに、よく金剛の楽園に楯突こうと思ったな。哀れな裏切り者の眷族よ」 「だ、黙れ……くあううぅっ!」  炎とはまるで異なる、染みるような激痛が私の体内外を撫で上げる。地面に叩きつけられ、影がビリビリと痙攣した。かくなる上は、更なる火力で黄土色の炎を上書きしないと…… 「っ!? ……がああぁぁーーっ!!」  迂闊だった。新たな炎も汚染されている! 「ようやく大人しくなったか」  愛輪珠が歩み寄り、瀕死の私の頭に恋人のようにぽんぽんと触れる。 「やめろ……やめろおぉ……!」  全身で行き場のない憤怒が渦巻く。 「巫女よ。お前は我々金剛を邪道だとのたまうが、我々金剛の民が自らの手で殺生を犯した事はないぞ」 「ほざけ……自分の手を汚さなければ殺生ではないだと……? だからお前達は邪道なんだ……!」  煮えくり返った血液が、この身に炎を蘇らせる。 「何の罪もない衆生に試練と称して呪いをかけ、頼んでもいないのに霊能力を与え……そうしてお前達が造り出した怪物は、娑婆で幾つもの命を奪う。幾つもの人生を狂わせる! これを邪道と言わずして何と言えようか、卑怯者!」 「それは誤解だ。我々は衆生の為に、来たる金剛の楽園を築き上げ……」 「それが邪道だと言っているんだ!」  心から溢れた憤怒はタールのような影になって噴出する! 汚染によって動かなくなった体が再び立ち上がる! 「そこで倒れている河童信者達を見ろ。彼らは牛久大師を敬愛していた。大師が大散減に魅了されたのは、確かに自己責任だったかもしれない。だがそもそも、お前達があんな怪獣を生み出していなければこんな事にはならなかった。徳川家の少年が祟り神になる事だってなかった!!」  思い返せば思い返すほど、影はグラグラと湧き出る! 「かつてお前に法具を植え付けられた少年は大量殺人鬼になり、村を一つ壊滅させた。お前に試練を課せられた少女は、生まれた時から何度も命の危機に晒され続けた。それに……それに、私の和尚様は……」 「和尚? ……ああ。あの……」  再点火完了! 影は歪に穢れを孕んだまま、火柱となり愛輪珠を封印する! たとえ我が身が消し炭になろうと、こいつだけは滅ぼさなければならないんだ! くたばれ! くたばれえええぇぇぇえええ!!! 「……あの邪尊(じゃそん)教徒の若造か」 「え?」  一瞬何を言われたか理解できないまま、気がつくと私は黄土色の爆風に吹き飛ばされていた。影と内臓が煙になって体から離脱する感覚。無限に溢れる悔恨で心が塗り固められる感覚。それはどこか懐かしく、まるで何百年も前から続く業のように思えた。 「ぐあっ!!」  私は壊れかけの御戌塚に叩きつけられる。耳の中に全身が砕ける音が響いた。 「ほら見ろ、殺生に『手を汚さなかった』だろう? それにしてもその顔は、奴から何も聞かされていないようだな」 「かっ……ぁ……」  黙れ。これ以上和尚様を愚弄するな。そう言いたかったのに、もはや声は出ない。それでも冷めやらぬ怒りで、さっきまで自分の体だった抜け殻がモソモソと蠢くのみ。 「あの男は……金剛観世音菩薩はな……」  言うな。やめろ。そんなはずはないんだ。だから…… 「……チベットの邪神、ドマル・イダムを崇拝する邪教の信者だ」  嘘だ。……うそだ。 「あっ……」 「これは金剛の法具だ。返して貰うぞ」  愛輪珠に龍王剣を奪われた。次第に薄れていく僅かな影と意識の中、愛輪珠が気絶した御戌神を掴んで去っていく姿を懸命に目で追う。すると視野角外から……誰かが…… 「一美ちゃん、一美ちゃーん!」 「ダメだ志多田さん、危険すぎる!」  佳奈さん……斉二……さん…… 「ん? 無知なる衆生が何故ここに……? どれ、一つ金剛の法力を施してやろうか」  逃……げ…… 「ヒッ……いぎっ……うぷ……」 「成人がこれを飲み込むのは痛かろう。だが衆生よ、これでそなたも金剛の巫女になれるのだ」  や…………ろ………… 「その子を離せ、悪霊……ぐッ!? がああぁぁああああッ!!!!」 「げほ、オエッ……え……? ラスタな、狸さん……?」  ……………… 「畜生霊による邪魔が入ったか。衆生の法力が中途半端になってしまった、これではこの娘に金剛の有明は訪れん」 「嘘でしょ……私を、かばってくれたの……!?」 「それにしてもこの狸、いい毛皮だな。ここで着替えていこう」 「な、何するの!? やめてよ! やめてえぇーーーっ!!」  ………………もう、ダメだ……。
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monqu1y · 3 years
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国を護るアイデア  戦の上策は損害を出さない、次策は敵を破る、下策は城攻め(コスパ最悪)。具体的なアイデアを使って国を護る
 市営住宅集会所へ講演会を聞きに行った。  演題は「 兵法書 ( へいほうしょ ) を読んで『生き方』を考える」。内容の要点は次の通りだった。   孫武 ( そんぶ ) は、今から2500年ほど前に、 楚 ( そ ) の王城を 陥落 ( かんらく ) させた 呉 ( ご ) の 軍師 ( ぐんし ) 。
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 呉の軍師として採用される就職面接でのエピソードが有名。  呉王:就職論文は読んだ。実戦の手腕を見せてもらいたい。宮中の婦人相手でも、軍の指揮を執ることはできるか?  孫武は、これを了承した。宮中の美女180人を集合させて二つの部隊とし、武器を持たせて整列させ、王の寵姫二人を各隊の隊長に任命した。  孫武:左右前後がわかるか?  美女軍団:わかります。  孫武:前といえば胸を、左と言えば左側、右と言えば右側、後ろと言えば背側を見よ。  美女軍団:わかりました。  孫武は、将軍の印の鉄斧を置き、太鼓を打って「右!」と号令した。  宮女たちはどっと笑った。  孫武:命令が不明確で徹底しないのは、将の罪だ。  孫武は、太鼓を打って「左!」と号令した。  宮女たちはどっと笑った。  孫武:命令が既に明確なのに実行されないのは、指揮官の罪だ。  孫武が隊長の二人を斬首しようとしたので、壇上で見ていた呉王は驚き「斬るのはやめろ!」と止めた。  孫武:一たび将軍として任命を受けた以上、陣中にあっては君命でも従いかねることがございます。  孫武は、呉王の寵姫を二人とも斬ってしまった。そして新たな隊長を選び号令を行うと、今度は女性部隊は命令どおり進退し、粛然として声を出すものは居なかった。  孫武:兵は既に整いました。降りてきて見ていただきたい。水火の中へもゆくでしょう。  呉王は、大いに不愉快な表情をしたが、孫武の軍事の才を認めて将軍に任じた。 以下は、就職論文の要旨。 第1.始計  〔戦の五条件〕   1_道:民が統治者と心を同じにし、死生をともにすることをためらわない   2_天:陰陽、寒暖などの自然現象   3_地:遠近、険易、広狭、死生などの地勢   4_将:智、信、仁、勇、厳などの将軍の能力   5_法:編制、服務規律、装備  〔優劣判断七要素〕   1_どちらの王様がよい政治をしているか?   2_どちらの将軍が有能か?   3_自然現象と地勢はどちらに有利か?   4_法令はどちらがよく行われているか?   5_軍はどち��が強いか?   6_士卒はどちらがよく訓練されているか?   7_賞罰はどちらが明確に行われているか?  〔敵をあざむく駆け引き〕   1_能力があるのに能力がないように   2_ある戦法を用いているのに用いていないように   3_近くにいるのに遠くにいるように   4_遠くにいるのに近くにいるように   5_利益を見せて敵を誘い出して混乱させ   6_戦力が充実していても慎重策を取り   7_強いのに敵の攻撃を避け   8_敵を脅してその勢いをくじき   9_下手に出て敵を驕らせ   10_楽をしている敵を疲弊させ   11_敵の同盟国と親しくして敵国との離間を謀り   12_敵の備えがない所を攻め敵の思いがけないことをする 第2.作戦    戦で、快速戦車千輌、輸送車千輌、武装兵十万を千里の遠くに遠征させ、これに糧秣を送れば、国の内外での軍費、外交費用、武具の膠や漆の購入費、武装兵や馬を養う費用などのために、一日に千金を必要とする。    長期戦になれば、国費は不足し、兵力を弱め士気を衰えさせる。    遠征して輸送距離が長くなれば、軍が買う品物の値段が上がり、戦費は嵩む。    城攻めは戦力を消耗させる。    戦が長引けば、勝っても損失は大きくなる。 第3.謀攻  〔戦の上策〕   1_国に損害を与えない   2_軍に損害を与えない   3_旅師団に損害を与えない   4_卒に損害を与えない   5_隊伍に損害を与えない  〔次策〕   1_敵国を破る   2_敵軍を破る   3_敵の旅師団を破る   4_敵の卒を破る   5_敵の隊伍を破る    最上の戦い方は、武力行使前に敵の謀略を見抜く    その次は、敵国を孤立させる    その次は、武力を使って攻める    下策は、城攻め(コスパ最悪)    自軍に損害受けることなく謀をもって敵を攻める戦法を考えなければならない。    戦力が敵の十倍あれば包囲戦、五倍あれば圧倒戦、二倍あれば分散戦、同等ならば兵法駆使、戦力不足ならば逃げ、かなわないと思ったら最初から戦わない。小兵力で大兵力の敵に戦いをしかければ捕虜になる。    軍政を知らない王様が、将軍の軍政に干渉すれば、将兵は迷う。    用兵を知らない王様が、将軍の用兵に干渉すれば、将兵は疑う。    全軍が迷い疑えば、諸侯はこの隙を見て反乱を起す。  〔戦を有利にする五条件〕   1_戦ってよいときと戦ってはいけないときを知る   2_彼我の戦力比に応じた戦法を使う   3_上下が利害を共有する   4_情報と作戦で相手を上回る   5_有能な将に遂行を任せて、王様が干渉しない  〔結論〕   1_敵を知り己を知っていれば、百戦しても危ういことはない。   2_己を知っていても敵を知らなければ、勝敗は半々。   3_敵を知らず己も知らなければ、必ず敗れる。 第4.軍形    敵が勝てないよう備えるのは、自分のやり方次第。    敵に隙ができるかどうかは、敵のやり方次第。    名将は、自分の努力で負けないようにすることはできるが、敵に隙を作らせることができるとは限らないと知っている。だから、不断に観察し続け、敵が見せた隙を見逃さない。    名将は、勝ちやすいようにしておいてから勝つので、名作戦という評判や手柄を立てることがない。    勝つ軍は、勝つ見通しをつけてから戦い、敗れる軍は、戦いを始めてから勝つ見通しをさがす。 第5.兵勢    少数の兵を統率するのと同じように多数の兵を統率できるのは、編成がよくできているから。    少数の兵を戦わすのと同じように多数の兵を戦わすことができるのは、命令系統がよくできているから。    軍が敵の攻撃を受けても絶対に敗れないようにするのは、奇と正の使い分け。    軍を敵に差し向けると、固い石を卵にぶつけるような威力を発揮させるのは、虚と実をよく見分けること。    戦いは正をもって敵にあたり、奇をもって勝ちを決すもの。    奇に熟達した者は、次々と妙手を出して、天地が万物を生み出すようであり、黄河や長江の水のように尽きることが無い。    終わったと思えばまた始まるのは月日のよう。    死滅してまた生起するのは春夏秋冬の変転のようであり、音は五音にすぎないが組み合わせによってできる曲は無限。    色も五つにすぎないが、組み合わせによってできる色は見極められない。    味も五つにすぎないが、調理によってできる味は無限。    戦の基本は奇正の二つにすぎないが、その組み合わせは無限。    奇正が生じ、その変転循環して終わるところが無く、    その終始は誰にもわからない。    激流が石を浮かし流すようなことができるのは勢い。    猛鳥が軟らかい羽で小鳥の骨や翼を砕くことができるのは、打撃の時機が適切であるから。    このように名将の攻撃は、勢いが激しく、瞬間的な威力を発揮する。    勢いは張っている弓矢のようであり、好機を狙ってその一瞬に発射するようなもの。    戦で自軍は非常に入り混じり混乱しているように見えるが、    その実は統制がとれているから、円を画いて陣を展開するから破られない。    乱と治、怯と勇、弱と強は元来同じもので、容易に変わりやすい。    治乱は編成の良否によって決まる。    勇怯は軍勢の有無によって決まる。    強弱は軍形の状態によって決まる。    敵を動かす名将は、敵をこちらの動きに応じて動かせ、こちらが利益を示せば敵は必ずこれを取ろうとする。    ゆえに利を見せて敵を誘い出し待ち構えた本陣がこれを討つ。    名将は勢いよって勝ちを得ようとし、将兵の努力ばかり依存しない。    すなわち個人をあてにしないで、集団としての勢いを重視する。    このような名将が軍を動かすと、木石を転がすように自然であり、軽快。    木石というのは、安定すれば静止するし、傾けば転がり、方刑にすれば静止し、円刑にすれば転がる。    名将が円石を高い山から転がすように軍を動かすのは、勢いの活用を知っているから。 第6.虚実    名将は、自分の思うように戦況を動かして敵に動かされない。    先んじて戦地に到着し敵を待ち受ければ、遅れて到着し戦力消耗した敵と戦うことができる。    自軍に有利なところでも敵が好んでやってくるのは、利益をかざして戦うから。    自軍に不利なところでも敵がやってこないのは、損害を与えるようにしむけるから。    敵を苦労させ、満腹でいる敵を飢餓に落としいれ、平静にしている敵を動揺させる。    敵の必ず行く所へは先手を取り、敵の予期しないところへ行って意表をつく。    敵の抵抗のない所を行けば、消耗は少ない。    敵が防御の備えをしていない所は攻撃し易い。    敵が攻撃できない所に居れば防御し易い。    撤退が迅速なら、敵は追撃できない。    城壁を高くし堀を深く掘った敵に、それを棄てて出撃させるためには、敵がどうしても救わなければならないところを攻めるべき。    敵の作戦を暴露させ、自軍の作戦を秘匿すれば、自軍は戦力を集中して分散した敵を攻めることができる。自軍がまとまって一となり、敵が分かれて十となれば、自軍の十をもって敵の一を攻めるようなもの。すなわち自軍は衆で、敵は寡となる。あらかじめ戦の地を知り、戦う日を決めて、主導権を握れば、敵を寡にして自軍を衆にすることができる。    軍の形を敵に分からなくさせれば、深く侵入する間者も情報を得ることができず、敵の知恵者も策の立てようがない。    水が地形によって流れを決めるように、軍は抵抗の多いところを避けて抵抗の弱いところを攻め、敵の変化に対応して軍を動かす。 第7.軍争    先んじて戦地に到着し敵を待ち受ければ、遅れて到着し戦力消耗した敵と戦うことができる。    しかし、全軍を挙げて前進すれば行動が遅くなり、先んじて戦地に到着することはできない。    軍を各部隊に分ければ、速度の遅い輸送部隊は置き去りにするしかないが、糧秣を集積した倉庫がなければ戦えないもの。    甲冑を捨てて昼夜かまわず走り続け、行程を倍にして強行軍をして百里も前進すれば、三軍の将は敵の捕虜となり、体力の弱い者は脱落し、十人に一人しか残らない。    五十里の行軍で先を急げば、前軍の将は戦死し、兵の半分は脱落する。    三十里の行軍で先を急げば、三分の一が戦場に到着できない。    諸侯の考えていることが分からなければ外交はうまくできない。    山林、険阻、河川湖沼などの地勢を知らない者は、軍をまとめることができない。    道案内を使用しない者は、地形を有利に活用することができない。    敵よりも回り道を進むときは、利益で釣って敵を遅らせたり、出発が敵より遅れても敵より早く到着するような策略を用いるべきである。    用兵の要点は自分の作戦を敵に察知されず、有利な状況を求めて動き、状況に応じて兵力の配分を行うこと。    軍の行動は、風の如く迅速に移動し、林の如く整然と静かに構え、火のように激しく攻撃し、山のように泰然として動かない。姿や計画を暗闇のように分からせず、雷鳴のように激しく行動する。    物資を調達するときには軍を分散し、土地を占領したときには各部隊に有利な地を守らせ、兵力を分散させない。    戦場では、指揮官の声は遠くまで届かないから、鐘や太鼓を信号とする。指揮官の位置、行動は遠くから見えないから、旗で合図をする。鐘や太鼓、旗は将兵の情報を斉一にし、意図統一をはかるもの。    将兵の心気を専一にすれば、勇者も一人で勝手に進まず、卑怯者も勝手に退くことをしない。これが多数の人間を指揮する方法。    戦いは敵の気と敵将の心を奪うことが肝心。    人の気力は、朝は新鋭で、昼は鈍り、夜は衰える。善く兵を用いる者は敵の気の新鋭なときを避け、衰えるときに撃つ。    夜の戦いには松明や焚火を多くし、昼の戦いには旗を多く用いるのは、敵の耳目を疑わせるため。    近くに布陣して遠くからの敵を待ち、安楽にして疲労した敵を待ち、給養をよくして悪い敵を待つ。    正正と進軍する敵を撃ってはならない、堂々と構えている敵陣を攻めてはならない。    高地に陣する敵を攻めてはならない。高地を背後にしている敵を攻めてはならない。    いつわり逃げる敵を不用意に襲ってはならない。餌兵につられてこれを攻めてはならない。    鋭気のある敵を攻めてはならない。整然と戦場を去ろうとする敵を攻めてはならない。    敵を包囲してもわずかに逃げ路を空けておかなければならない。死にもの狂いの敵に迫ってはならない。 第8.九変    戦では、作戦困難な地に宿営してはならない。    交通上の要地は外交によって支配下に入れる。交通連絡が不便な地に軍をとどめてはならない。    山川に囲まれた地に入ったら、脱出する工夫をせよ。    危ない地に入ったらただ戦え。    道があるからといって、進まねばならないというものではない。    敵を見たからといって、戦えばよいというものではない。    城があるからといって、攻めればいいというものではない。    戦略上の要地だからといって、取ってはならないものもある。    君命も状況によっては、従わないこともある。    地形をよく知っていても、その利用法を知らない将は、地形の利を知っているとはいえない。利用法をよく知っていても、実行する術をもたない将は、兵を率いて戦うことはできない。    智者は何事をするにも必ず利害を合わせて考える。不利なときでも、有利な点はあるから、これを伸ばし活用する。有利なときでも、不利な点はあるから、万全な対策をとる。    諸侯を思うようにするには、従わない者に害を与え、諸侯を働かせるには仕事を与え、諸侯を誘うには利をかざせばよい。    兵を用いるとき、楽観視は禁物。敵が攻めてこない理由はない。  〔弱将の性格とリスク〕   1_必死⇐戦死   2_生に執着⇐捕虜   3_激情⇐無分別   4_廉潔⇐侮辱で平静さを失う   5_厚情⇐民兵の労苦で戦意喪失 第9.行軍  〔地形〕   1_山地を通過するには、谷沿いに進め。   2_敵に近づいたら、高所を占領して有利な態勢を整える。高所の敵を登りながら攻めるようなことをしてはならない。   3_河を渡ったら河岸から離れ、河岸に直接布陣しない。敵が渡河してきたら、これを水上で攻めてはならない。半分渡らせてから攻撃する。   4_上流に向って進軍してはならない。   5_沼沢湿地帯は速やかに通り過ぎる。もしその中で戦うことになったら、水草のある所を選び、林を後にして布陣せよ。   6_平地では行動容易な所を選び、高地を右背にし、不利な地を前に置き、有利な地を後ろに置くように布陣せよ。   7_軍は高所を選んで低地を避け、陽のあたる南面を選んで北面を避け、給養をよくして気力体力を充実させておけば、病気や災害を防ぐことができる。丘陵や堤防のあるところでは必ず陽のあたる所に布陣し、高い所を右後に置け。   8_上流で降雨のため水流が増してきたら、渡ろうとせず、鎮まるのを待つべき。   9_両側が断崖である深い谷川、井戸のような低地の湿地帯、牢獄のように山に囲まれた狭い土地、草木が繁茂して動きが取れない土地、���地の割れ目のような谷地は、留まらず速やかに通り過ぎる。   10_このような地形は、自軍は遠ざかるが、敵軍を近づけるようにし、自軍はこれを前面にし、敵軍はこれを背後にさせるようにする。   11_付近に険阻の地、沼沢地、芦などの繁茂地、森林、草木の密生地があれば、敵の伏兵が隠れていることが多い。  〔敵陣〕   1_自軍が近づいても静かでいる敵軍は、布陣している地形に自信を持っている。   2_自軍が近づく前に挑戦してくる敵軍は、自軍を誘い込もうとしている。   3_敵が進むのか退くのかはっきりしないのは、自軍を誘い込むつもり。   4_動く気配のない敵軍は、現在の地に何かよいことがある。   5_多くの樹木がざわざわ動くのは、敵が潜行している。   6_鳥が飛び立つのは、伏兵がいる。   7_獣が驚いて走り出るのは、敵部隊が隠れている。   8_草木によって視界をさえぎっているのは、自軍に疑念を抱かせようとしている。   9_戦車を先頭に出し、側に歩兵を配備するのは、戦うつもり。   10_敵が右往左往しているのは、何かをしようと決めている。   11_進めば有利なのに進まないのは、敵兵が疲労している。   12_夜、敵の人声が高いのは、将兵が不安にかられている。   13_敵の軍営が乱れて騒がしいのは、将の威令が行われていない。   14_旗がむやみに動くのは、敵軍の秩序が乱れている。   15_幹部が怒声をあげるのは、敵兵が戦意を失っている。   16_炊事具を使っておらず兵が宿舎に帰っていないのは、窮迫している。   17_敵兵が武器を杖にして立っているのは、食糧不足。   18_馬を殺してその肉を食べているのは、敵の食糧はつきている。   19_水を汲んですぐ飲むのは、敵の水が欠乏している。   20_幹部がねんごろに部下に話しかけているのは、信頼を失っている。   21_賞が多すぎるのは、軍の動きが取れなくなり、将が苦しんでいる。   22_罰が多すぎるのは、兵が疲労している。   23_将の言動が、最初は乱暴で後に部下を恐れるようになるのは、統率を知らない。   24_鳥が集まっているのは、すでに敵兵は去っている。   25_敵が決戦する勢いを見せながら、長い間動かないときには、必ず敵情判断をせよ。  〔砂塵〕   1_高く舞い上がって尖っているのは、戦車が来る   2_低く広がっているのは、歩兵が来る   3_散らばって細長いのは、敵の小部隊が炊事用の薪を集めている   4_少なく往復移動するのは、敵が野営準備をしている。  〔敵の軍使〕   1_敵の軍使の言葉はへりくだっているが、背後の軍が戦闘の準備をしているのは、攻撃するつもり。   2_条件もなしで講和を請うのは、敵が何かたくらんでいる。   3_敵の軍吏が低姿勢で接してくるのは、敵軍が休息を欲している。   4_敵の軍使の言葉が強硬で、背後の軍が進撃の気勢をしているのは、退却するつもり。  〔自軍〕   1_軍は、兵力が多いのを貴ぶのではない。多数を頼んでの暴進ではなく、よく統率し、戦力を統合発揮するとともに、敵情を判断して勝つことに努めなければならない。配慮が無く無謀な戦いをすれば、将自ら捕虜とされるだろう。   2_兵が将に親しんでいないのにこれを統率しても、兵は服従しない。服従しなければ、これを用いることはできない。   3_兵が将に親しんでいるが、将がこれを統率しなければ、使いものにならない。   4_まず法令をよく教えてから、威力をもってこれを守らせれば、民は服従する。   5_平素から法令が行われていなければ、民を教育しても服従しない。 第10.地形 〖類型〗  〔通〕   1_彼我両軍とも戦闘行動が自由な地を通という。   2_通形においては、よく見えて南面した高地に陣し、補給路を確保して戦えば、勝機がある。  〔挂〕   1_彼我両軍の間に密林などの障害があり、前進はよいが退却が難しい地を挂という。   2_挂形において、敵が戦備を整えていなければ、攻めれば勝てる。   3_挂形において、敵が整備を整えていれば、せめても勝てないし、退却が困難となる。  〔支〕   1_彼我両軍の間に河川沼沢などがあり、両軍とも前進が難しい地を支という。   2_支形において、敵の誘いに乗って、先に攻撃に出てはならない。   3_戦場を去り、敵がつられて出てきて兵力が分散されたところを撃てば有利。  〔隘〕   1_隘形において、自軍が先に到着したら、必ず十分な兵力を配置して、敵を待ち受けるのがよい。   2_敵が先に占領している場合は、戦わないほうがよい。   3_しかし敵が十分に兵力を配備していなければ、戦え。  〔険〕   1_険形において、自軍に先に進出できたら、南面の高い地を占領して、敵の出てくるのを待つ。   2_敵が先に進出していたら、戦場を去って、敵の徴発にのってはならない。  〔遠〕   1_遠形において、戦力が同等であれば、戦いを挑むことは不利。 第11.九地 〖戦場分類〗  〔散地〕自国領内で戦う場合の戦場   自国領内への敵軍の侵攻を防げず、散地で戦うこととなったときは、将兵の心を戦うことに専念させる。  〔軽地〕敵国領内であり、国境に近い戦場   軽地では陣頭に立って部下の掌握を確実にし、敵国領内の奥深くに進軍するよう努力する。  〔争地〕彼我ともに占領すれば有利であり、争奪戦が起きやすい要地   争地では陣後に立って軍を後方から追いたて、敵より先に占領するよう努力する。  〔交地〕彼我ともに進撃しやすい戦場   交地では守りを厳重にし、補給路を絶たれないようにしなければならない。  〔衢地〕諸侯と国境を接しており、先立って占領すれば諸侯を制することができる地   諸侯国の国家戦略を知った上で、親交工作で味方に付けるよう努力する。  〔重地〕敵国領内に深く侵入し、後方に城邑が多くある地   1_敵国に侵攻すれば、自軍は戦いに専念できるが、敵は帰郷の心が強くなるため勝ちにくくなる。   2_侵攻軍は豊穣な土地を占領し、将兵の給養を十分にしなければならない。   3_戦力を貯えて持久を図り、攻勢に出られる力を保持する。   4_作戦を練り、敵が対応できないような戦法をとる。   5_将軍の態度は、冷静で奥深く、厳正で適切でなければならない。   6_兵士の耳目を利かせないようにし、意図を悟られないようし、作戦内容や変更を知らせないようし、駐屯場所や進路などを知らせないようにする。   7_戦いに臨んでは、乗ってきた舟を焼き、釜を壊し、背水の心境にして死地の覚悟を決めさせる。   8_羊の群のように飼い主の意のままに駆り立てられ、自らはどこへ行くのか知ろうともしないようにして全軍をまとめ、行き所ないところに投ずる。  〔ひ地〕山林、湿地、湖沼など行動困難で、軍を消耗させる地   ひ地は早く通り過ぎるに越したことはないが、山林・険阻・沮沢の地を知らなければ、軍を進めることはできない。  〔囲地〕入る道は狭く、出る道は遠回りで、少数の敵に苦しめられるような地   囲地ではあえて逃げ道をふさいで将兵を必死にさせることができるが、地元民の知識を借りなければ、地形を利用することはできない。  〔死地〕すぐ戦えば活路を見出すことができ、戦わなければ全滅する地   兵士は窮地に陥るとかえって恐れなくなり、脱出するところがなければかえって固く守り、敵国に深く侵入すれば団結し、他に方法が無ければ必死に戦う。占いや迷信は、決心を削ぐので、厳しく取り締まる。 問:敵の大部隊が整然と進軍してきたら、どうする? 答:敵がすてておけない急所をつく。 第12.火攻 〖攻撃対象〗   1_住民地や兵   2_集積した軍需品   3_輸送部隊の軍需品   4_倉庫内の軍需品   5_軍隊    火攻めは、空気の乾燥したときに行う。    火攻めは、月が箕・壁・翼・軫の星座の方向にあって、風が起こる日に行う。    昼に吹き続けた風は、夜になると止む。    火攻めとともに、適切に兵を用いる。   1_敵陣内で火が出たら、速やかに外からも敵を攻める。   2_敵陣内で火が出ても、敵兵が騒がないときは、しばらく攻撃を待ち、   3_火の効果をよく確かめ、敵に隙ができたと判断したら攻撃し、敵に動揺がなければ攻撃を止める。   4_敵陣外に火を放つ場合は、敵陣内のことを考慮することなく、ただよい時を選んで行う。   5_風上で火が出た時は、風下から攻撃してはいけない。   6_「火は両刃の剣」であることを知る。 第13.水攻    水攻めは即効性は無いが強力で持続性がある。    水は交通を遮断するものであるが、敵そのものを破壊することはない。    戦に勝って土地を取っても、土地を疲弊させたら、国費の無駄使いとなる。    勝機あれば動き、勝機無ければ戦をやめる。    滅亡した国をまた興すことはできず、死者を生き返らせることもできない。 第14.用間    十万の大軍を動員し、国を出て進攻すること千里になれば、国民の費用、国家の出費は一日千金にのぼる。そのため家の内外は大騒ぎとなり、輸送に使役されて道路で動けなくなったり、本業に携ることができない家は七十万にも達する。戦の日々は少ないほど良い。    まず敵情を知ることが重要だが、敵情は、祖先の霊に祈っても、占いでも、日月の位置によって判断しても、得られない。必ず人間を使って敵情を確かめなければならない。 〖間者の種類〗   1_郷間〔その地の住民〕   2_内間〔敵国の官吏〕   3_反間〔敵の間者を逆用〕   4_死間〔偽情報を敵に与える者〕   5_生間〔得た情報を持ち帰って報告する者〕    間者ほど、連絡を密接にする者無く、重い賞を受ける者無く、仕事を秘密にしなければならない者は無い。    優れた智恵と洞察力をもっていなければ間者を用いることはできず、愛情と判断力に優れていなければ間者を使うことはできず、人心の機微を知らなければ間者の利益を得ることはできない。    間者を発する前に、そのことが人の噂になるようであれば、間者とその噂をしている者を皆殺さなければならない。    自軍が攻撃しようとするとき、城を攻めようとするとき、要人を殺そうとするときは、まずその主将、側近、取次役、守衛、雑用者などの姓名を知らなければならない。間者による諜報が必須である理由がここにある。    敵間者の潜入を察知し、利益を約束して優遇し、反間として用いることも重要。郷間や内間として使える人物の敵情を得る。反間の協力を得て、死間は偽りの情報を敵に伝えることができ、生間は予定の時期に帰ることができる。他の四間は、反間の協力を得なければ活用できない。    間者は軍の要であり、軍の行動はこれに依存するところが大きい。
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台湾総統選(投票日は1月11日)は、蔡英文現職候補が圧勝すると予想している。民意調査が出そろっているが、ほとんどの調査で蔡英文の支持率が3割ほど国民党・韓国瑜をリードしている。
 昨年(2019年)12月に入って、蔡英文政権支持者で、ネット上の民進党の広報宣伝を請け負っていた著名ネット・ユーザーの楊蕙如らが、2018年9月の台風21号で関空が封鎖されたときの台湾旅行者への対応のまずさを台北駐大阪経済文化弁事処代表になすりつけるような世論誘導を行い、当時の大阪弁事処代表を自殺に追いやったとしてネット公務員侮辱罪などで起訴された。そうした国民党側による民進党側のスキャンダル暴露もあることにはあるが、「台湾の主権が中国に飲み込まれてよいか」という大争点をかき消して今の蔡英文優勢をひっくり返すほどの影響力はないだろう。
 何より、中国側がちょっと諦めムードになっている。昨年(2019年)末に発表した習近平の新年挨拶で、台湾同胞に何のメッセージもなかったのが、その証拠ではないか。香港とマカオに言及しているのに、不自然なほど台湾の名を出していない。新しい国交樹立国が増えたことには言及しているのに、台湾の名を避けている。今はその名を口にしたくもない、という習近平の気分が見えるような新年挨拶であった。
 さらに人民日報海外版(1月3日)に寄せられた論評「台湾問���は必ず民族復興で終結する」(王昇・全国台湾研究会副会長)を読めば、「台湾社会はストックホルム症候群(被害者が加害者に親近感を覚える)」という表現で、台湾人自身が祖国・中国よりも占領国であった日本や、台湾海峡を分断して第1列島線に台湾を組み込んで両岸の対立を生んだ米国のほうに親近感を覚えている現状を確認している。台湾問題の解決が遅々として遅れているのはそれが原因だという。そして、「将来30年のプロセス」のうちに両岸関係の発展を推進し続け、最後には必ず民族復興により中台統一という結果で終わる、としている。昨年、習近平は年明けに「台湾同胞に告げる書」40周年記念で、「習五条」と呼ばれる強硬な台湾政策を発表し、自分の政権中に中台統一を実現するといわんばかりの強気を見せていた。それが王昇のコラムでは、今すぐという話ではなく、将来30年のうちに最後には統一する、といった長期ビジョンの話になっている。
蔡英文、習五条への対応で息を吹き返す
 昨年の今ごろ、蔡英文政権は前年秋の地方選の惨敗を受けて党首を引責辞任、政権支持率は20%代に低迷し、蔡英文を候補にしては総統選挙は戦えない、と誰もが思っていた。前行政院長で反中姿勢を際立たせていた頼清徳を候補にした方がまだ望みがあるのではないかという空気が、民進党支持者の中にもあった。古参支持者の中には、頼清徳を候補にして万が一負けることになれば、民進党自身が瓦解しかねない、という危機感を言う者もいた。頼清徳で負けたら、民進党内に、あとに続くタマはない。
蔡英文政権の人気の無さは、官僚気質の蔡英文の対中姿勢の曖昧さやゆらぎ、経済低迷、脱原発やLGBT婚といったリベラル政策が(若者には受けても)、保守層の多い中高年台湾有権者から反発を受けていたことなどが要因だった。また民進党自体が、運動家気質で未熟な政治家の寄せ集めという面もあり、党内の結束も甘かった。
 高雄市などでは、ろくな政策運営ができないまま、ただ市民の国民党への反感から民進党が選ばれ続けている現状に胡坐をかき続け、その結果、キャラの際立った国民党・韓国瑜候補の「ワンフレーズ」選挙と、中国のネット世論誘導の前にあっさり敗れた。
 この風向きを大きく変えることになった最初のきっかけは、2019年新年早々に習近平が打ち出した「習五条」と呼ばれる対台湾政策だろう。「一国二制度」による中台統一を「必須」「必然」と言い切り、「中国人は中国人を攻撃しない」(台湾人を名乗れば攻撃する、というニュアンス)、「武力行使の選択肢を放棄しない」「中華民族の偉大なる復興に台湾同胞の存在は欠くことができない」(先に統一して、今世紀中葉の中華民族の偉大なる復興を共にめざす、というニュアンス)とかなり恫喝めいたものだった。
 習近平はこの時点で、自分が権力の座にいるうちに台湾統一を実現する自信があったと思う。そして台湾統一を実現することによって、揺らぐ共産党の正統性(レジティマシー)を固め、米国とのヘゲモニー争いの劣勢を挽回しようと考えたのではないか。習近平がそういう強気をみせられるほど、その時の蔡英文政権は窮地に立たされていたのだ。
 だが、この習五条が打ち出されると、蔡英文は珍しくきっぱりと、「一国二制度」に対してノーの姿勢を打ち出した。一方、国民党主席の呉敦儀は2月の段階で政権を奪還した暁には「両岸和平協議」を推進することを言明しており、統一大中国を完成させることが国民党の変わらぬ願いであることを確認した。この時点で、2020年1月の総統選の争点は「一国二制度による統一か、抵抗か」という選択肢を有権者が選ぶというものになり、過去4年の与党政権の政策の評価はあまり関係なくなった。
一気に流れを変えた香港の「反送中デモ」
 ただし、2019年4月の段階ではまだ、世論も揺れていた。
聯合報(4月9日付け)によると、台湾生まれの米デューク大学教授、牛銘実が行った台湾民意調査で、「台湾が独立を宣言すれば大陸(中国)の武力侵攻を引き起こすが、あなたはそれでも台湾独立に賛成するか?」という質問に対して賛成は18.1%、非常に賛成は11.7%と合わせても3割に満たなかった。牛銘実によれば、台湾人はコストの概念が強く現実主義で、基本的に独立はしたいものの、「独立か統一か」という二者択一を迫られた場合、戦争という高いコストがかかるようなら統一を選ぶ傾向がある、という。
 揺らぐ世論を一気に、統一反対に動かしたのが、いうまでもなく香港の「反送中デモ」である。特に6月9日の100万人規模のデモと、その後の抗議活動に対する香港警察の容赦ない暴力、それに抵抗する勇武派デモとの応酬がエスカレートするにつれ、蔡英文の支持率がウナギのぼりに上がっていった。楽天的な台湾人も、中国のいう「一国二制度」の恐ろしさを香港の現状で悟ったわけだ。
 中国は、フォックスコンのカリスマ経営者・郭台銘を国民党から出馬させることで、中国との経済緊密化による台湾経済の引き上げを餌に台湾世論を引き付けようとした。だが、あからさまな親中派である郭台銘の人気と信頼は、中国が予想するほど高くはなかった。結局、郭台銘は総統候補の予備選に敗れた。
 さらに言えば、米国が民進党政権を推していることが決定的な追い風になった。伝統的に国民党を応援していた米国は、中国との対立が価値観・秩序をめぐるヘゲモニー争いとして先鋭化していく中で、中国共産党に対して明確に距離を置く民進党支持の姿勢にシフトした。
 昨年12月に上院で可決された米国防権限法では、米台のサイバーセキュリティ―での連携、台湾総統選への中国の干渉への警戒が盛り込まれた。同月はじめ、オーストラリアでは「共産党のスパイ」を名乗る王立強が台湾や香港での工作をメディアに告白。台北101タワーにオフィスを構える香港・中国創新投資会社会長の向心夫妻が自分の上司にあたる上級スパイだ、と爆弾発言。台湾当局は向心夫妻に出国制限をかけて取調べを始めた。こうした状況を受ける形で、台湾立法院でも、年明けに中国の選挙干渉を防ぐための反浸透法を賛成票69票・反対0票で可決。この法により国外の「敵対勢力(中国)」による選挙運動やロビー活動、政治献金、社会秩序の破壊、選挙に関連した虚偽情報の拡散などの活動を禁止し、違反した者には5年以下の懲役および1000万ニュー台湾ドル(約3600万円)以下の罰金が課されることになった。
 もう1つ言うと、韓国瑜は総統候補としては、あまりに無能すぎた。高雄市長選のときは、中国の世論誘導もあってブームにうまく乗ることができたが、メディアへの露出が増えるに従い失言が増え、無知や無能ぶりがばれていった。6月9日の香港100万人デモについて記者から質問されて「知らない」と答えたり、ドイツの脱原発政策の見直しが浮上していると発言してドイツ政府からクレームが入ったりしたことは、その一例だ。
蔡英文政権2期目突入の大きな意味
 さて、今回の総統選でもし民進党・蔡英文政権が勝利し2期目に突入するとしたら、その意味は歴史的なものになるかもしれない。
 1つには、習近平は香港への対応だけでなく、台湾への対応も失敗し、中台統一の機運をほぼ永久的に失うかもしれないからだ。この事態は、「習近平の失態」として党内で問題になるかもしれない。1年前までは蔡英文再選の目などなかったのだ。
 人民を豊かにするという目標を掲げるも経済成長が急減速していくなかで、共産党一党独裁の正統性を維持するために台湾統一は必須であった。それが不可能になれば、共産党の執政党としての正統性は根底から揺らぐ。台湾総統選で蔡英文が勝利すれば、それは習近平の敗北である。
 さらに、歴史的に国民党推しだった米国が初めて民進党推しに転じての選挙であり、米台の安全保障面での緊密化は加速していくだろう。中国の金銭外交によって国際社会での孤立化が急速に進んだ蔡英文政権だったが、米国との急接近は台湾の国際社会における地位を大きく押し上げることになる。
 さらに言えば、蔡英文政権の後を頼清徳政権が引き継ぎ、通算16年の長期民進党政権時代が誕生する可能性も出てきた。それだけの時間があれば、台湾アイデンティティは、中華アイデンティティと異なる形で確立でき、また官僚や軍部に根強く残る国民党利権、しがらみも浄化できるかもしれない。東シナ海に、中国を名乗らず、脱中華を果たした成熟した民主主義の自由な華人国家が誕生することになれば、それは近い将来に予想される国際社会の再編を占う重要な鍵となるだろう。
 かなり私的な期待のこもった見立てではあるが、今も続く香港の若者の命がけの対中抵抗運動と、米中対立先鋭化という国際社会の大きな動きの中で、台湾は国家としての承認を得られる二度目のチャンスに恵まれるかもしれない。
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trumpq · 3 years
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【トランプ大統領】 2021/1/20 6:36 JST
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大統領:アメリカ人同胞のみなさん。4年前、我々は国を再建し、その精神を新たにし、この政府の忠誠を市民に対して取り戻すための偉大な国家的取り組みに着手しました。手短に言えば、アメリカを再び偉大にするための使命に乗り出したのです―アメリカ人全員のために。
第45代合衆国大統領としての任期を終えるにあたり、みなさんの前で我々が共に達成してきたことを心から誇りに思います。我々はここに来て行うべきことを行いました―またそれ以上のことも。
今週新政権が発足しますが、新政権がアメリカを安全に豊かに保つことに成功することを祈ります。我々は成功を祈るとともに、幸運―とても重要な言葉です―に恵まれることを願います。
私はまず、我々の並外れた道のりを可能にしたわずか数名の素晴らしい人々に感謝したいと思います。
最初に華々しいファーストレディ、メラニアの愛と支援に圧倒的な感謝の意を述べさせてください。また、娘のイバンカ、義理の息子のジャレッドに、それからバロン、ドン、エリック、ティファニー、そしてララにも心からの感謝を伝えさせてください。あなたたちは私の世界を光と喜びで満たしてくれました。
またマイク・ペンス副大統領、その素晴らしい妻のカレン、そしてペンス一家全員にも感謝したいと思います。
マーク・メドウズ首席補佐官、ホワイトハウス職員と閣僚の献身的なメンバー、それからアメリカのための戦いに全身全霊を注ぎ込んだ政権の驚くべき人々全員にも感謝いたします。
また、全く並外れた一団の人々、合衆国シークレットサービスにも取り急ぎ感謝したいと思います。家族と私は、みなさんに永久の借りがあります。ホワイトハウス警護室の全員、マリーンワンとエアフォースワンのチーム、軍隊の全員、そして全国の州と地方の法執行機関にも心から感謝しています。
とりわけ私は、アメリカ国民に感謝したいと思います。大統領としての務めを果たすことは筆舌に尽くしがたい名誉でした。この類まれな恩恵に感謝いたします。そして本当にその通りです―偉大な恩恵であり偉大な名誉です。
アメリカ人は常に意見の相違がある一方で、我々は、国が繁栄・発展し大きく成功して良くなることを全員が願う、途方もなく礼儀正しく誠実で平和を愛する市民の国であることを忘れてはなりません。本当に高尚な国です。
アメリカ人全員が議事堂への襲撃に恐怖を覚えました。政治的暴力は我々がアメリカ人として大事にする全てに対する攻撃です。決して容認することはできません。
今我々は、かつてないほどに、共通の価値観を中心に団結し、党派的な敵意を乗り越え、運命共同体を築かなければなりません。
4年前私は、これまでで唯一全くの部外者として大統領の座を勝ち取った者としてワシントンにやってきました。私は政治家としての経歴はなく、建設者として開かれた地平線を見つめ、無限の可能性を想像してきました。私が大統領選に出馬したのは、アメリカにはまだ大きく伸びるのを待っているだけの高くそびえる新しい頂点があると知っていたからです。私は、アメリカを第1に置く限り国の可能性は無限だと知っていました。
ですから私はこれまでの半生を置き去りにして、とても困難ではあっても、適切に行えばあらゆる可能性を持つ活動の舞台に足を踏み入れたのです。アメリカは私に非常に多くの物を与えてくれましたので、何かお返しをしたかったのです。
この国の各地の何百万人もの勤勉な愛国者とともに、我々は国の歴史上で最も偉大な政治運動を築きました。また、世界の歴史上で最も偉大な経済を築きました。我々全員がアメリカを再び偉大にしたかったため「アメリカ・ファースト」が必要でした。我々は、国は市民に仕えるために存在するのだという原則を取り戻しました。我々の議題には右や左は関係なく、共和党や民主党も関係なく、国の利益が目的でした。つまり国全体のことです。
アメリカ国民の支持と祈りによって、我々は誰もが可能だと考える以上のことを成し遂げました。我々が近づくことすらできると考えた人は誰もいませんでした。
我々はアメリカ史上で最大の減税と改革の法案を成立させました。雇用を損なう規制を、かつてどの政権が行ったよりも多く廃止しました。壊れた貿易協定を修復し、最悪の環太平洋戦略的経済連携協定とあり得ないパリ気候条約から離脱し、一方的だった韓国との協定を再交渉し、NAFTAを画期的なUSMCA―メキシコとカナダのことですが―という、非常にうまく機能する協定に置き換えました。
またとても重要なこととして、我々は中国に歴史的で画期的な関税を課し、中国と新しい偉大な協定を結びました。しかし署名から間もないうちに、我々と世界は中国ウイルスの打撃を受けました。貿易関係は急速に変わっており、アメリカに何十億ドルも流れ込んでいましたが、ウイルスのために我々は別の方向に行くことを強いられました。
全世界が被害を被りましたが、アメリカは驚くべき経済と我々が築いた経済のために経済的に他国をしのいでいました。基盤と足場がなければ、このような結果は出なかったでしょう。我々はこれまでで最高の数字の一部を果たしていなかったでしょう。
また我々は、エネルギー資源を解き放ち、群を抜いて世界第1位の石油と天然ガス生産国となりました。こうした政策を原動力に、我々は世界の歴史上で最高の経済を築きました。アメリカの雇用創出を再燃させ、アフリカ系アメリカ人、ヒスパニック系アメリカ人、アジア系アメリカ人、女性―ほとんど全員―で過去最低の失業率を達成しました。
所得は急上昇し、賃金は高騰し、アメリカン・ドリームは復帰し、わずか数年で何百万人もの人が貧困から脱出しました。奇跡でした。株式市場は次から次へと新記録を出してこの短期間で148回の最高値を記録し、全国の勤勉な市民の退職金と年金が増加しました。401(K)はかつてないレベルに達しています。このような数字を見たことがありませんが、それはパンデミック前とパンデミック後のことです。
我々はアメリカの製造業基盤を再建し、何千もの新工場を新設し、「メイドインUSA」という美しい言葉を取り戻しました。
労働者の家庭の生活を改善するために、我々は児童税額控除を2倍にし、過去最高の育児・発達のための支援拡大に署名しました。我々は将来の雇用のために1600万人以上のアメリカ人労働者を訓練するという約束を守るため、民間企業と協力しました。
国が悲惨なパンデミックに見舞われた時、我々は記録的なスピードで1つではなく2つのワクチンを作り出しましたが、すぐにもっと増えるでしょう。不可能だと言われましたが、我々は行いました。「医学上の奇跡」というのですが、そういう理由で彼らは今「医学上の奇跡」と呼んでいます。
別の政権ならワクチン開発に3,4,5年、ことによると10年も掛かっていたかもしれません。我々は9カ月でやりました。
失われた全ての命を悼み、彼らのことを忘れずにこの恐ろしいパンデミックを今回限りで一掃することを誓います。
このウイルスが世界の経済に厳しい損害を出した時、我々はこれまで経験した中で最速の経済回復に着手しました。経済支援に約4兆ドルを可決し、5,000万人以上の雇用を救済または支援し、失業率を半分に削減しました。これらはこの国でこれまになかった数字です。
我々は医療における選択と透明性を生み出し、特に最恵国約款を追加しようという取り組みにおいて、非常に多くの方法で製薬大手に対して立ち向かいましたので、やがて世界のどの国よりも安価な処方薬価格が実現するでしょう。
我々はVA Choice法、VA Accountability法、Right to Try法、そして画期的な刑事司法改革を成立させました。
我々は合衆国最高裁判所の3人の新裁判官を承認しました。憲法を書かれたとおりに解釈する約300人の連邦裁判官を任命しました。
長年、アメリカ国民はワシントンが国境を最終的に保護するよう求めて来ました。我々がその願いに答えて歴史上で最も安全な国境を実現したといえることを嬉しく思います。我々は、国境警備員と勇敢なICE職員が、これまで以上に職務を果たし、法を執行してアメリカを安全に守るために必要な道具を提��しました。
我々は、これまでで最も強く堅固な国境安全策が導入された状態を次期政権に引き継ぐことを誇りに思います。これには450マイルの強力な新しい壁に加えて、メキシコ、グアテマラ、ホンデュラス、エルサルバドルとの歴史的な合意も含まれています。
我々は国内でアメリカの力を、海外でアメリカのリーダーシップを取り戻しました。世界は我々を再び尊敬しています。その尊敬を失わないでください。
我々は国連でアメリカのために立ち上がり、決して我々の利益にならなかった一方的な世界協定から離脱することで、主権を取り戻しました。そしてNATO加盟国は今、私が数年前に到着した時より何千億ドルも負担しています。とても不公平でした。我々は世界のために費用を負担していました。今世界は我々を助けてくれています。
そしておそらく全ての中で最も重要なこととして、約3兆ドルで、我々はアメリカ軍を完全に再建しました―すべてUSA製です。我々は75年来で初めて新しい合衆国軍を立ち上げました。宇宙軍です。そして昨年の春、私はフロリダ州のケネディー宇宙センターに立ち、長年の間で初めてアメリカの宇宙飛行士がアメリカのロケットで宇宙に復帰するのを見守りました。
我々はかつてないほどに、中国に立ち向かうために同盟国を活性化させ、世界の国々を再結集させました。
我々はISISのカリフ国家を全滅させ、その創設者で指導者であるアル・バグダディの惨めな人生を終わらせました。イランの圧政的政権に立ち向かい、世界の代表的テロリストでイランの殺戮者であるカセム・ソレイマニを殺しました。
我々はエルサレムをイスラエルの首都として認め、ゴラン高原についてイスラエルの主権を認めました。
大胆な外交と原則に沿った現実主義の結果、我々は中東における一連の和平協定を達成しました。誰もが現実になるとは思いませんでした。アブラハム合意は、暴力と流血ではなく、平和と調和の未来への道を開きました。新たな中東の夜明けであり、我々は兵士たちを帰国させています。
私は特に、ここ数十年で新たな戦争を全く開始しなかった初めての大統領となったことを誇りに思います。
何よりも我々は、アメリカにおいて、政府は国民に答えるものだという神聖な考えを再び主張しました。我々の導きの光、北極星、揺るぎない信念は、我々はアメリカの高潔な一般市民に仕えるためにここにいるのだというものでした。我々の忠誠は、特定の利益団体、企業、あるいは国際機関に対するものではありません。子供たち、市民、そして国そのものに対するものです。
大���領として、私の最優先事項、不変の関心事は常に、アメリカの労働者とアメリカの家庭の利益を最優先させることでした。私は最も容易な道を追求しませんでした。実際間違いなく、最も困難でした。私は最も批判されることのない道を追求しませんでした。私は大変な戦い、最も厳しい戦い、最も困難な選択を引き受けました。それが、みなさんが私を選出して行わせようとしたことだったからです。みなさんのニーズが、私の最初で最後の揺るぎない焦点でした。
これが我々の最大の遺産となることを願います。ともに我々は、アメリカ国民が再び国を任されるようにしました。我々は自治を取り戻しました。我々はアメリカでは誰も忘れ去られることはないという考えを取り戻しました。なぜなら全ての人が重要であり、全ての人に発言権があるからです。我々は、全ての人が神によって平等に造られたために、全ての市民には平等な尊厳、平等な待遇、平等な権利の資格があるという原則のために戦いました。全ての人は尊敬を持って扱われ、意見を聞いてもらい、政府に話を聞いてもらう資格を持っています。みなさんは国に忠実ですが、私の政権は常にみなさんに忠実でした。
我々は、全ての市民が素晴らしい仕事を見つけて、素晴らしい家族を支えることのできる国を築くために努力しました。我々は、全てのアメリカ人が安全に暮らせるコミュニティと、全ての子供たちが学ぶことのできる学校のために戦いました。法律が守られ、英雄が尊敬され、歴史が守られ、法を順守する市民が気に掛けられないことのない文化を推進しました。アメリカ人は、我々がともに達成したこと全てにこの上なく満足を覚えるべきです。信じがたいほど素晴らしいことです。
さて私はホワイトハウスを去りますが、私は我々全員が共有するとても貴重な遺産を脅かす危険について思案してきました。世界で最も強力な国として、アメリカは常に海外からの脅威と課題に直面しています。しかし、我々が直面する最大の危険は、我々自身が自信を失うことであり、国の偉大さに自信を失うことです。国の強さはその精神と同じ程度にしかなりません。活力は自尊心と同じ程度にしかなりません。我々は、人々の心の中で脈打つ信念と同じ程度にしか活気に満ち溢れることはないのです。
価値観、歴史、英雄に対する信頼を失う国は、長く繁栄することはできません。というのも、これらがまさに団結と活力の源だからです。
アメリカが常に過去の大きな課題を克服して勝利することができたのは、国の高潔さと歴史上の固有の目的に対する揺るぎなく臆することのない信念のおかげでした。我々は決したこの信念を失ってはなりません。我々はアメリカに対する信念を決して捨ててはなりません。
国の偉大さの鍵は、国共通のアイデンティティを維持し植え付けることにあります。つまり、我々が共通して持っている物に集中するということです。それは全員が共有する遺産です。
この遺産を中心にあるのは、自由な表現、自由な言論、そして開かれた議論に対する断固とした信念でもあります。自分たちが誰であり、どうやってここに到達したのかを忘れる場合にのみ、政治的な検閲とブラックリスト化がアメリカで起こるのを許すことも起こり得ます。想像することもできないことです。自由でオープンな議論を締め出すことは、我々の核心的な価値と最も揺るぎない伝統を汚すものです。
アメリカでは、絶対的な一致を強く要求したり、柔軟性に欠ける正統性と過酷な言論規約を強制したりしません。我々はとにかくそのようなことはしません。アメリカは、同意しない人から守られ、保護される必要のある従順な人の臆病な国ではありません。我々はそのような者ではありません。我々はそのようになることはありません。
約250年間、あらゆる課題に直面して、アメリカ人は常に比類のない勇気・自信、断固とした独立心を奮い起こしてきました。これらは、かつて何百万人もの平凡な市民が、荒れ果てた大陸の各地に旅立ち、偉大な西部で新生活を切り開くことにつながった驚くべき特質です。それは、兵士たちを戦場に向かわせ宇宙飛行士を宇宙に向かわせたのと同じ、神から与えられた自由に対する深い愛でした。
この4年間を振り返ると、とりわけ1つのイメージが心に浮かびます。私が車列で道を移動するといつも、何千人ものたくさんの人たちがいました。彼らは家族と一緒に来て、我々が通過する時に立って、誇らしげに偉大なアメリカの国旗を振っていました。私が深く感銘を受けなかったことはありませんでした。彼らは単に私への支持を示すために来たのではないと知っています。彼らが来たのは、国に対する支持と愛を私に示すためでした。
ここは、アメリカは歴史上ずっと偉大な国であるという共通の確信によって団結した誇りある市民の共和国です。我々は、全世界に対して希望、光、栄光の国であり、常にそうでなければなりません。これは我々が事あるごとに守らなければならない貴重な財産です。
この4年間、私はただそのために取り組んできました。リャドのイスラム教指導者の大集会場から、ワルシャワのポーランドの方々の大きな広場に至るまで、韓国の議会議場から国連総会の演壇に至るまで、そして北京の紫禁城からラシュモア山の麓に至るまで、私はみなさんのために戦い、みなさんの家族のために戦い、国のために戦いました。とりわけ私はアメリカとアメリカが支持する全てのために戦いました―それは安全で、強く、誇りある、自由なものです。
さて私は、20日の正午に新政権に引き継ぐ用意をする中で、我々が始めた運動は始まったばかりなのだということを知って欲しいと思います。そのようなものはこれまでありませんでした。国は市民に仕えなければならないという信念は、縮小するのではなく日に日に強く高まっていくしかないでしょう。
アメリカ国民が国に対する深く熱心な愛情を心に持つ限り、この国が成し遂げられないことはありません。コミュニティは繁栄するでしょう。国民は豊かになるでしょう。伝統は大事にされるでしょう。信仰は強くなるでしょう。そして未来はこれまでよりも明るくなるでしょう。
私は忠誠心と喜びに満ちた心、楽観的な精神、そして国にとって、子供たちにとって、最高なことが起きるのはまだこれからだという最高の確信をもって、この雄大な場所から出発します。
ありがとう、そしてさようなら。みなさんに神の祝福がありますように。アメリカ合衆国に神の祝福がありますように。
translated by ドナルド・トランプNEWS https://www.trumpnewsjapan.info/2021/01/20/remarks-by-president-trump-in-farewell-address-to-the-nation/#wrapper
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gunosy-news · 3 years
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シャレにならない出来事も…「寝ぼけてやらかしてしまった」失敗談に驚愕
集計期間:2020年12月6日~12月8日 回答数:17133
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人間、眠たいときは判断力が鈍ってしまうもの。そんな時に油断をして、ついやらかしてしまった…そんな経験はありませんか?
今回はそんな「寝ぼけていたときにやってしまった失敗」について調査を行いました。
寝ぼけていたときにやってしまった失敗はありますか?
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回答者17133名のうち、寝ぼけていたときに失敗をしたことが「ある」という人は全体の約44.5%、反対に「ない」という人は約55.5%という結果でした。
ここからは、具体的にどのような失敗をしてしまったのか、回答者の皆さんから寄せられた意見を見ていきましょう。
寝ぼけていて、つい…やらかしエピソード集
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<直前に見ていた夢のせいで…>
・兄弟喧嘩の夢を見ていて机を殴っていた
・夢の中で悪漢を力一杯叩いたら、隣に寝ているダンナをぶっ叩いてしまった笑
・ケンカの夢を見てて妻を羽交い締めにして殴ったことがある
・ケンタのチキンを食べる夢を見て添い寝してた子供の足をかじった 
・子供のころ、夢の中で自分の右手の握り拳が上に上がって、ストンと下に落ちた。そしたら横に寝てる母が「アイタっ!」って叫んでるのが聞こえた。どうやら母の頭にゲンコツしたらしい。私は確かに母の声は聞こえたのだけれども、夢の中の出来事と思ってたので、そのまま朝までグッスリ眠っていた。
・夢の中で、 大草原を走っている夢を見ていたら 、一人暮らしの部屋から勝手に外に出ていって、 階段から落ちて怪我をした。
・夢で、友達が雪が降ってきて困ってたんで、夜中にその友達に電話して、明日はいっぱい雪が降るってよって電話した。
・サッカーをしている夢を観て、思い切りボールを蹴ったら実際には壁で、多分親指にヒビが入りました。
・母親から封筒に入った大金をどこにしまったか忘れて焦りまくっている夢を見て、必死に探している途中で目が覚めそのまま部屋中探し、挙句に深夜なのに母親を起こして聞いた所で我に帰った。
・ひたすら話し続けている夢を見ていて、その続きの支離滅裂な話を延々と話し続けた。周りの人に笑われてもまだ夢から覚めたことに気づかず、怒り気味にさらに演説を続けてしまった
・パワハラで仕事に行き詰まってた頃、遅刻する夢を見たので現実の区別がつかず遅刻だと思って、とりあえずカバン背負って服もシャツを締めながらエレベーターに乗って下に降りた寒さで一気に目が覚めたけどまだ夜明け前だったり、仕事に行かなきゃの思いが強くて夜中に起きて暗闇の中夢中で朝食用のパンを探してた。(実際にはパンなんて買い置きしていなかった)ほぼ毎日こんな感じでもしかしたら夢遊病だったのかも…
<寝言シリーズ>
・「泥棒ー」と声に出して叫んでしまった。
・寝言で「いまうどん食べてたのに!」って言ってしまった。
・昼寝から目覚めたらボー���としてたので、家族全員に『おはよう、みんな起きるの早いね。』と言ったら『まだ夜なんだけど』と言われた事
<物損>
・夜中に目が覚めて、特に何かを見るつもりもないのに、なぜか眼鏡をかけてから二度寝したので、朝起きたらフレームがゆがんでいた。
・皿を割る。マクカップを割る。急須を割る。
・ノートPCの画面を踏んで割ってしまった
<洗面所あるある?>
・洗顔フォームで歯磨きした
・歯磨き粉とクレンジングオイル、間違えてしまった
・保湿クリームと日焼け止めを間違えた
・電動シェーバーに歯磨き粉をつけた。
<時間間隔の喪失>
・休みなのに学校に行ってしまった
・夕方なのに朝だと思って出かける準備をしてまった
・午前1時に出社した。
・旦那に朝5時にお魚買ってきてとお願いした
・仕事に追われ休日なのに身支度をしてしまい2度寝…起きたらスーツ姿で寝ていた。
・バイトに遅刻する!と思って外に出たら人通りが少なくて、不思議に思っていたら夕方の5時ではなく朝の5時だった。
・昼寝から起き、外が薄暗かったのに、朝だと勘違いして、遅刻した!!と慌てて支度をして駅に向かったら、日曜の夕方だったこと。 
・いつもの時間に起きて出勤したつもりが、実際はキッチリ1時間遅れだった。社内ですれ違う人に「今日は重役出勤だなぁw」と言われても理解できずにいた。休憩時間に遅刻に気付きメチャクチャ恥ずかしかった。思い込みの恐ろしさを痛感して以来、時計は分単位だけでなく何時かを確認するようになった。
<奇行種>
・冷蔵庫にスマホ入れた
・ベランダから飛び降りてしまった事が有ります。
・パジャマのズボンを脱いでゴミ箱に捨ててた
・学校帰りのバスの中の柱にひたすら謝ってたこと。
・子どもが泣き出したと勘違いして夫の頭を撫でてトントンして寝かしつけようとした。
・寝ぼけて自分の家だと思わなくて、あわてて帰ろうとして、母に呆れられた
・晩御飯を食べた後にテレビを見ながら寝てしまい、数時間後起きた時に晩御飯はまだかと聞いてしまったら、年齢的に呆けてしまったのだと心配された
・たくさんありすぎるので、、、最近で言えば、まだ目が完全に開かないにも関わらず、手探りでトイレに行ったものの、あまりの眠さに勝てずに、下着をつけないまま、パジャマを着てしまい、そのまま爆睡。肝心な下着は、部屋の入口そばに落ちていた。女性でありながら、誰もいなくて良かった、と思った。
・小さい頃、寝起きに駄菓子屋に行って、100円玉を握りしめて出かけたつもりが、いざお会計の時に出したら1円玉だった。小さいながらに恥ずかしかった。
・コンビニでお菓子買ってお金払って おつりもらって その買ったお菓子を取るの忘れた
・電車で寝ぼけて駅だったので降りようとして走ったら違う駅で恥ずかしかったです。 
・大切な本を紙ゴミだと思って破いて捨ててしまった。翌日、ゴミ箱に本が捨ててあるのを見つけて我に帰った。
・高校生の頃、寝ぼけて母親の寝ている布団に入って寝てしまった。目覚めたときは朝でした。恥ずかしいやら、バツが悪いやら。
・女の子の服の袖をコーヒーカップと間違えて掴んだこと
・信号後変わったタイミングが青だと思い込み赤信号で渡りそうになり、車のクラクションで初めて気付いた。それまで青信号を赤だと思い込んでた自分が情けなくなった。
・朝目が覚めたら部屋中に小銭が落ちてた事がありました。割と大量に。いつかの何かしらのお礼にお地蔵様がやって来て打ち出の小槌を振ったのか、はたまた寝ぼけた私が小銭入れを逆さまにして振り回したのか…お地蔵、あの節はありがとうございました。 
・自分の家にいると思ったら友達の家で、すっぽんぽんで部屋の中を歩いていた
・携帯をキャリアのオンラインショップで機種変更した。そしたら同機種同色同GBの同じ機種を注文してしまったようで気付かず開封してしまった。開封後返品不可の為データ移行の面倒くささと引き換えにバッテリーが新しくなった感覚の製品になった 
・急に家の片付けを始め、家の鍵を間違えて捨てた。最近は車の鍵。しかもキーレスを捨ててしまい、悲惨。記憶がない状態で動いてはいけないのは理解できたが、本人は大丈夫だと思ってるのでタチが悪い。
・洗濯物をオバケと思って大声で叫んでしまった。
・納豆のからしを絨毯にかけた。
・喘息なんですが、苦しくて起きて吸入器をしてるつもりがマキロンをシュシュっと口に入れてしまい、急いでゆすぎにいったことがあります。
・小学生の頃家族と電車に乗っていたが寝てしまって、駅について起こされたが寝ぼけていて隣の人が床に置いてたカバンを持って出ようとしてしまった。歩き出したところで止められた。
・夜中に玄関のチャイムが鳴っていると思って飛び起きて、急いで玄関まで行って出ようとした。今考えると夜中の2時に誰か来ていても、いなくても怖い。
・ピカチュウのものまねを練習していた時期に、寝た後いきなり起きてピカチュウのものまねをしていてビックリしたと家族に言われて自分でもビックリしました。
<ケガ>
・子供のころ押し入れで寝ていたら寝ぼけて落ちた
・柱に、顔面ぶつけて歯が折れた
・家の階段で足を踏み外し、中段ぐらいから下までお尻で滑り落ちた。尾てい骨が…むちゃくちゃ痛かった。
・炬燵の掛け布団につまずき、ガラス戸に脚を突っ込んでしまい。救急搬送された。
・足が、もつれて転倒。足首と右手骨折
・ヘアアイロンで首の後ろ大火傷185℃設定だったから死ぬかと思った
・中学生の夏トイレに行こうと起きた所、暗闇でジャージパンツの裾に付いてた足掛け?に指を引っ掛かけて転んでしまった。その時に近くにあった灰皿の金属部が飛んできて目の横を切ってしまい未だに消えない物が残ってしまった。
・起きてすぐ慌ててゴミ出しに行ったら鍵を忘れてオートロックで閉め出された。ピンポンしても家族はまだ寝ていて誰も気づいてくれず、塀を乗り越えてサンダル(5cm位のヒール)でジャンプして飛び降りたら、かかとの骨を傷めた。その日は2010年の誕生日(3/18)だった。その後、半年病院通い。未だ完治せず、全力疾走できない。なぜジャンプしたのか壁をつたって降りれば良かった。寝ぼけていた
・未明に目が覚めて立ち上がったらよろめいて、家具に額をぶつけてまたよろめいて、今度は背後にあった箪笥に背中をぶつけたのですが、あまり��眠かったのでまたそのまま眠ってしまったこと。朝着替えようとしたら寝間着が何かに張り付いて脱げないのです。おかしいなと鏡で確認したら、背中に縦に袈裟懸けみたいな傷が付いていて血がべっとりとくっついたままカピカピになってました。なんか痛いな~とは思っていましたがビックリ。ちなみにおでこにもたんこぶができてました。 
<飲食物シリーズ>
・弁当作りで、玉子を器ではなく、三角コーナーの生ゴミの中に割った
・三角コーナーの上で玉子を割り、ご飯の上に殻を載せてから気づいた
・冷蔵庫と間違えて、下駄箱に卵焼きを入れてしまった。
・卵焼きを焼こうとして、卵をボールに割り入れようとしたのに間違えてそのまま排水口の上で割ってしまい排水溝に流してしまった。
・甘い玉子焼きを作るのに砂糖と塩を入れ間違えた時
・失敗と言うか、ダイエット中の朝に起きたら 枕元にポッキーの食べた後の袋が2袋! めっちゃ自分が怖かった。
・寝ぼけていて朝起きたら記憶なくてビックリしたことは、寝る前に沢山、お菓子を食べて食べ散らかした袋を片付けないで寝てしまい、起きて誰が散らかしたのか?と自分でやった事を覚えてなかった事です
・紅茶を飲もうと思ってティーバッグの袋を開けて、袋を捨てたつもりがティーバッグを捨てていた。しばらく気付かず、お湯を入れる時になって「えっ?!ティーバッグが無い!!何で?!」となった。
・自宅でインスタントラーメンを食べてたら眠くなり、頭を突っ込んで丼ぶりをひっくり返し、自分の太もも部分がラーメンだらけになりました。ぬるかったので、やけどはしませんでした。
・煮込むインスタントラーメンの麺を寝ぼけてそのまま食べた
・食べ物をリップだと思って塗ったりした    
・お弁当を持って行ったつもりが前日残ったご飯を入れたタッパーを持っていってしまった
・すでに飲みかけの缶コーヒーなのに、まだ開けてないと勘違いして振ってしまった?頭からコーヒーかぶった!無糖だったの乾いてもネバネバにはなりませんでした。よかった!チャンチャン(笑)  
・飲みかけのファンタグレープの缶にタバコの吸殻入れてそのまま飲んだ(汗)
・ペットボトルにした小便をお茶と間違えて飲んだ 
<失言シリーズ>
・もらっていないお年玉のお礼を言った。
・授業中居眠りしてたら、指されてお母さんと呼んだ
・居酒屋で飲んでいて眠くなってきた頃に、店員さんの「いらっしゃいませ!」につられて私も「いらっしゃいませ!」と言ってしまった。その頃は接客業をしていたので… 
・帝王切開の麻酔が覚めかけの時、主人と間違えて、主治医に『ダーリン』と呼びかけてしまった。
<トイレシリーズ>
・トイレいく夢みておねしょしました。(31歳)
・酔っ払って帰って、トイレと間違えて廊下でオシッコをした事。
・トイレに行ってズボンを脱いだら鏡台の椅子だった。もう少しで出すところだった…
・子供の頃、夜中にトイレに起きた時、寝ぼけてて階段で放尿したことがあります。
・子供の頃、トイレだと思ってテレビにオシッコをしてしまいました。
・だいぶ昔の事ですが、トイレと風呂を間違えて風呂で小便をしてしまった事。 
・冷蔵庫開けて中にオシッコした
・寝ぼけてトイレに行き、ふたを開けずに小をして跳ね返り足がズブ濡れ。
・ずーっと小さかった時だけど、寝ぼけて畳の上でしゃがんでおしっこしようとしたことがある。母親に慌てて止められて未遂に終わったけど、なぜかその時意識はあって、自分の行動は覚えてる。ホントに寝ぼけてたみたい…
・トイレに行った時に、寒いからとスパッツを履いていたのを忘れて、ズボンとスパッツだけおろして、パンツを下ろすのを忘れたまま用を足してしまった。
<誤操作>
・旦那に送るはずのLINEを上司に送った…
・会社のPCに、なんか色々書き込みして、放置
・夜中に寝ぼけながらスマホをいじっていたら、操作を誤って担任しているクラスの保護者に電話をかけてしまった
・友達にLINEを返している間にまた寝てしまい、すごい誤字った文章を送ってしまった 
・嫌いな人の過去のツイートを見ていてうっかりいいねを押してしまった。すく解除したが、相手に連絡が行ったようでブロックされた。
・寝惚けてる時にメールで告白して朝起きたら振られてた。夢であってほしかった…。
・片思い中の人によく分からない誤字脱字だらけのメールを送った
・お気に入りの配信者へのプレゼントを送るときに、住所等を伏せる設定にしなければならなかったのに、寝る直前だったので寝惚けてそのまま全て公開して送ってしまった。
・メルカリで、取引中の相手に訳の分からないメッセージを送っていた。
・Amazonを見ながら寝落ちして、間違えて注文ボタンを押してしまいました。
・クレジットカードのアプリを開きっぱなしにして寝てしまい、一括払いからリボ払いへ変更してしまったみたいだ。
・当時プレイしていたソシャゲを寝ぼけて起動してしまったまではよかったが、ソシャゲは立ち上げ時にオススメパックの宣伝画面になることが多く、パック購入画面に進んでしまい、そのまま顔認証で1番高額のパック購入をしてしまった。
・インターネット通販サイトで、本人の希望を確認しないうちに、ランドセルをポチっていました…。翌日、身に覚えの無いクレカ利用の速報メールが届き、それなりのお値段な事もあり肝が冷えました。結果的にとても気に入ってくれたので助かりましたが…一生の思い出になる品なので、もっと親子でじっくり話をしながら選びたかったです。
・普段なら絶対に引っ掛かることのない詐欺サイトでカード情報入力。後日カード会社から連絡が来て発覚。。被害額がまだ1円だけだったので気づいて連絡くれたカード会社の方には本当に感謝しています。
<ペットに…>
・近づいて来た愛犬を罵倒してしまった。怖がらせてしまった。
・猫を蹴飛ばしてしまった
・起きたら顔の近くにウサギがいて、寝ぼけていた為に「ふわふわのタオル」だと思って顔を拭いた。全力の蹴りを喰らった。
・冷蔵庫開けて、生卵取ってそのまま愛犬に……愛犬不思議な顔してた
<後の修羅場である>
・寝言で彼女の前で元カノ名前を言ってしまったらしい。
・今の妻と結婚前に一緒に寝ていて、寝ぼけて違う名前を呟く
・新婚の時に、寝ぼけて、主人に、誰?って言ったことがある?
・酒を飲んで寝たあと寝ぼけて関係を持ってしまい、相手に子ができた
・隣に寝ているのが女友達だったんだけど寝ぼけてて彼氏だと思ってて股間をまさぐっていた
・嫁と間違えて母にキスした!
・あるあるですが、今カレを呼ぶ時に元カレの名前を呼びました。寝言のようにごまかしたけど、その日は一日中機嫌が悪かったので気づいてしまったんですね私の元カレが、自分(今カレ)の上司だってことに。
<電話シリーズ>
・電話が鳴ったので、寝ぼけたまま応答して知らない人と30分以上話をしたこと
・朝3時に、寝ぼけて、疎遠の友人に電話をかけてしまった。
・寝起きに就活の面接の連絡がきて、なんと答えたか解らなくなって焦った
・昼寝してて電話が鳴り寝ぼけてバイト先の店名を言ってしまい、よりによって所作や作法に厳しい親戚の叔父でこっぴどく1時間に渡り電話口で説教された
・当時付き合っていた彼と電話をしていて、夜も更けたしお互い眠くなったので、電話を切った。その直後に着信があり眠かったのもあり、確認せずに彼だと思って『も?、どうしたのぉ。もうさびしくなっちゃったのぉ?』と甘えた声で出たら友人だった。『あんた何言ってんのよ』と爆笑された。
・部活をズル休みした時に先輩が心配して電話してきたのに声が同級生の声に聞こえタメ口で答えてしまい挙句の果てにズル休みの理由も話してしまった。
・高校生の夏休み、連日バイトと部活の両立で寝不足で、バイトから帰ってきて仮眠していた。顧問から用事で電話がかかってきたけど、眠さMAXでかなり寝ぼけて電話応対してしまった。友達感覚で話せる先生ではあったが、友達にもやらないような不機嫌な対応してしまった。その時は夢見たと思ってたが、顧問に電話したよ、と言われてうっすら思い出してきて、本当にどうしようもなかった  
・電話がかかってきて、それに起こされ慌てて出た為、ものすごくテンションが低く声もかすれていて、とっても感じ悪くなってしまった。相手はかかりつけの病院からで検査予約日の変更のお願いだったのだが時間的にも寝ていたとは言えず、後日病院に行った時に最近怪しい電話ばかりかかってきているので電話に出るときはあんなに感じが悪くなってしまいすみませんでしたと平謝りした。
<身だしなみ>
・化粧。まゆげ書き忘れて眉無しオバケで会社に行った。メイク直しも持っていなったので鉛筆で書いた。
・寝坊して会社に遅刻しそうになった時に、スカートを履くのを忘れてストッキング姿で家を飛び出したことがある。
・小学生の頃に寝ぼけてランドセルを忘れて登校し、中学生の頃はパジャマで登校しかけた。寒い冬じゃなかったら学校着くまで気づかなかったかも。
・パジャマの下を履いたままズボンを履いて出勤したことがあります。何だか足が重く疲れてるのかな?と感じてましたが、帰宅してからパジャマを履いてることに気づいて納得した、というか、それまで気づきませんでした。
<塩対応>
・寝ぼけていて、家族を怒ってしまった事があります。後で冷静になってみたら、怒る事でもなかったと、反省してます。
<あわや大惨事>
・寝ぼけながらタバコを吸っていて気付かぬうちに火種が落ちていた。煙が出ていたことに自分は気付かず、父親が慌てて叩いて消していた。一人だったら火事になっていたと思う。
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yoml · 6 years
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1612-1911 断片、その先(全章)
1-1612 三年前 
「俺が勇利のコーチじゃなきゃいいのに」 
 ヴィクトルがコーチになったその年のグランプリファイナル。試合後のバンケットも終わり、それぞれの部屋に戻る途中のことだった。何の文脈もなく発せられたその台詞に続く言葉が予想できなくて、勇利は少し身構えた。エレベーターのボタンを押して、ヴィクトルは続ける。 「ときどき思うんだ。例えば勇利が絶不調のときね。心がもたないよ。ただのライバルなら、今回は競争相手が一人減ったなって喜ぶだけで済むだろうに」  なんだ、とありがちな話に勇利は少し安心して、「ヴィクトルでもライバルが減るとうれしいと思うんだ」と笑って返した。 「思うさ。俺は勝利に貪欲だからね」 エレベーターの扉が開く。乗客は誰もいない。 「僕はヴィクトルがコーチじゃなきゃよかったなんて、思ったこと一度もない」  ヴィクトルが少し間を置いた。「うれしいことを言ってくれるね」と微かに笑う。 「だけどやっぱり俺は思うよ。コーチじゃなきゃよかったって。特にこういうときなんかは」 「銀メダルでごめんなさい……」 「うん、いや、そうじゃなくて」  ヴィクトルが勇利の目をまっすぐ捕らえた。青い目に違和感があった。 「勇利が欲しくてたまらないとき」  言われた言葉の意味がわからなくて、勇利は文字通りきょとん、とした。エレベーターの扉が開く。ヴィクトルが先に降りて、勇利は慌ててあとに続きながら軽く混乱する。今、この人なんて言った? 返事ができないまま歩いていると急にヴィクトルが振り返った。 「勇利の部屋はあっち」  ハッと気付く。 「おやすみ勇利。今回の滑りは最高だったよ」  コーチの部屋の扉が閉まり、オートロックの鍵が閉まる小さな機械音が廊下に響いた。  三年前のことだった。 
2-1710 新宿の夜 
 これはたぶん何かを超えてしまった。  そう勇利が悟ったのは、ロシアに拠点を移してから半年、スポンサーとの仕事で日本に一時帰国したときだった。一年間のコーチ生活ですっかり日本が気に入ってしまったヴィクトルは、ここぞとばかりに勇利に同行した。が、この時の彼はもう勇利のコーチではなかった。グランプリファイナルでライバルたちの勇姿を見た彼が浮かれた頭で思い描いたコーチ兼ライバルという関係は、とはいえ到底現実的なものではなかったのだ。それでも勇利がロシアに渡ったのはただ日本にふさわしいコーチがいなかったからで、その頃の勇利には、ヴィクトルのコーチであるヤコフ・フェルツマンの紹介で新たな(そして有能な)ロシア人コーチがついていた。  仕事の前に無理やり長谷津に立ち寄って、実家に一泊だけしてから東京へ移動しいくつかの撮影やインタビューを済ませると、たった四泊の慌ただしい日本滞在はあっという間に終わってしまった。日本にいる間は不思議な感覚だった。二人の関係は常に変わっていく。憧れ続けたスター選手とどこにでもいるスケーター。突然現れたコーチと再起をかけた瀕死のスケーター。そして、最高のライバルを得た世界トップクラスのスケーター同士。自分の立場の変化に、ときどき勇利の心は追いつかない。こんなに遠くまで本当に自分の足でたどり着いたのか、いまだに半信半疑でいた。「もしこの人を追いかけていなかったら」。ヴィクトルのいない人生を思うと、勇利はいつも自分の存在自体を疑いたくなるのだった。  日本滞在最後の夜、新宿のホテルの近くにある焼き鳥屋で、二人はだらだらとビールを飲んだ。小さな飲み屋が連なるそのエリアは外国人観光客で溢れていて、煙だらけの狭い店内に不思議と馴染んだヴィクトルは普段よりも一段と楽しそうに笑っていた。めったに味わうことのない観光気分が、彼の抱えるプレッシャーを和らげていたのかもしれない。「博多の夜を思い出すよ」なんて言いながら、コーチ時代の思い出を語り始める。妙に懐かしかった。あれから大して時間も経っていないのに、二人にはそれがはるか昔のことのように思えたのだ。 「ずっと聞きたかったんだけど」  店内の騒々しさを良いことに、勇利はこれまでずっと不安に思い続けてきたことを聞いてみた。 「コーチをしていた一年を、ヴィクトルは後悔していないの」  ヴィクトルはそれまで上機嫌に細めていた目を大きく見開くと、何を言ってる? と言わんばかりの顔で勇利を見返した。そしてすぐに、ふっと笑った。 「勇利はびっくりした?」 「した。今でもあの頃が信じられないし、ロシアに拠点を移した今の状況もまだ信じられないよ」 「俺もね、びっくりしたんだ」 「自分の行動に?」 「全部だよ」 「全部」 「そう、全部。勇利のコーチになれたことは大きな意味があったんだ」 「コーチになって良かった?」
「俺が勇利のコーチじゃなきゃいいのに」
 突然、頭の片隅で声がした。バルセロナで聞いたあの台詞。目の前のヴィクトルは何も答えず笑っているだけで、あの時のことを覚えていたかはわからない。だけどなぜかそれ以上聞いてはいけない気がして、勇利は飲みかけのビールを手に取った。
 その後もだらだらと話を続けた二人は、ホテルへの帰り道、どういうわけか、本当にどういうわけか、気付くとキスを交わしていた。何がそうさせたのか、勇利は今でもわからない。まっすぐ帰ればいいところを、なぜかわざわざ回り道をして、ときどき肩をぶつけては、時間を惜しむようにゆっくりと二人は歩いていた。ちょっとした流れのようなものだった。右足が出たら次に左足が出るように、それくらい自然に、歩く二人の距離が近づいた。それで唇が触れ合ったその瞬間、喧騒が消え、街灯が消え、視界は閉ざされ、過去から繋がってきた一つの線がそこで急にプツリと途絶えた。このあと一体どうすればいいのかわからない二人は、そのまましばらく唇の熱を分け合いながら、たぶんもう戻れない。そう思った。 
   ホテルの部屋は別々にとっていた。足早にエレベーターに乗り込むと、勇利はヴィクトルのフロアのボタンだけを押した。乗客は二人だけ。行き先は一つだけ。決定打を押したのも勇利だった。銀髪に触れるほどの距離で、彼は小さく囁いた。 「ヴィクトルはもうコーチじゃないよ」
 その夜、勇利は初めて男に触れられる感覚を知った。
3-1904 春を走る
 東京では浜辺を走れない。ランニングの途中で砂浜に降りて、ウミネコを眺めながらぼんやりする、そうした時間はここにはない。代わりに勇利は公園を走る。少年野球のチームや、体育大学の学生や、小洒落たウェアに身を包んだ若者や、犬の散歩をする老人に混ざって、長谷津よりもひんやりとした東京の春を彼は走る。トレーニングではない、ただの日課。帰り道、公園脇のカフェでショートサイズのコーヒーを買う。カップを持つ彼の右手に、かつてはめられていた指輪はない。マンションに着くと、シャワーを浴びて仕事のメールを確認する。マネージメントを任せているエージェンシーから、新しいアイスショーの話が来ていた。断る理由もないので、淡々と勇利は返信を打つ。
 新しい日々が始まっていた。一人のプロスケーターとして、日本のスケート史上に名を残したメダリストとして、人生の次のキャリアを進み始めた26歳の青年として、東京の勇利は忙しかった。
4-1908 ときどき思い出す
 スケートに関わっている限り、勇利がヴィクトルのことを避けて生きてくことはできない。お互いすでに引退した選手だとはいえ、レジェンドの称号を得た男がスケート界の過去になるには、まだまだ時間が足りなかった。    引退後のヴィクトルの活動は、悪い言い方をすれば多くの人の期待を裏切るかのように地味なものだった。セレブタレントの座に落ち着くことはなく、無駄に広告やメディアに露出することもなく、フィギュアスケート連盟の一員として選手強化と環境改善に従事した。もちろん天性のカリスマ性とスター性は裏方になってもなお人々の目を引き、解説者やコメンテーターとしてテレビに出れば視聴者は彼の一言一句に注目したが、いずれにせよ今のヴィクトルの活動は今後の主軸を定めるための調整期間のように見えていた。どこかふわふわしていたのだ。  コーチ業に転身しなかったことを不思議がる人もいなくはなかったが、多くのファンや関係者にとってヴィクトルが勇利のコーチをしていた一年間はラッキーな気まぐれのようなものとして記憶されていたし、あのシーズンの勇利が劇的な活躍を見せたのも、ヴィクトルのコーチ手腕というよりはライバル同士の妙なケミストリーの結果だと認識されていた。「コーチごっこ」とは当時の辛辣なメディアが何度も書き連ねた言葉だが、誰もが心のどこかでそう思っていたのだ。誰もヴィクトルにコーチになって欲しくなかった。まだ十分に戦える絶対王者として、華やかなその演技で自分たちの目を楽しませて欲しかった――ただ一人を除いて。勝生勇利、彼の教え子になり得たたった一人の男、彼の独りよがりな望みだけが、世界中の期待を跳ね除けたのだ。だけどそれも今となっては、たくさんの過去のひと幕に過ぎない。  今でも勇利が取材を受け���ときは、決まってヴィクトルのことを聞かれる。ロシアで切磋琢磨した二年間(とはいえ勇利が渡露した一年後にヴィクトルはあっさり引退したわけだが)、帰国後の一年間、かつてのコーチでありライバルでもあった彼とはどんな関係を築いていたのか。それで今、二人はどんな関係にあるのか。そう言われても、と勇利は思う。  連絡は取っていなかった。取るわけがなかった。理由がないのだ。ロシアのスケート連盟と日本のプロスケーターが個人的に連絡をする必要はないし、人は二人を「元ライバル」なんて呼ぶけれど、正しく言うならばその関係は「元恋人」と言うべきもので、そんな二人が連絡を取らないことに説明は要らない。    勇利は昔から熱心にヴィクトルを追いかけてきたけれど、何かにつけて、彼を遮断するときがあった。自分のスケートに集中しきっているとき、成績が振るわずヴィクトルの栄冠を見るのがつらいとき、絶望しているとき、他に心奪われるものができたとき。今はそのどれでもないけれど、だから勇利はヴィクトルの遮断にわりと慣れていて、今もその最中だった。ヴィクトルのことはわからないし興味もないです、なんてことが言えるわけもなく、勇利は当り障りのない言葉でインタビュアーをごまかすのだった。  メディアで彼を見かけることもあった。勇利は別にそうしたものを一切視界に入れないようシャットアウトしているわけではない。見ても何も思わないよう、自分の心に遮断機を下ろすのだ。ヴィクトルは相変わらず美しく、今でも目を奪うには十分すぎる魅力がある。それでときどき、本当にときどきだけど、その細く乾いた銀髪を見ながら勇利はこう思う。 「僕はこの人のセックスを知っている」  だけどそれがどんなものだったか、あの途方もない感覚を勇利はうまく思い出せない。
5-1710 変化の朝
 初めて体の関係を持った新宿の夜、勇利はそれをセックスと呼んでいいのかすらわからなかった。ホテルの部屋のドアを開けるなり、二人は貪るかのようにキスをして、無抵抗の勇利はヴィクトルの手になぞられるままにその肌を露わにした。首筋から肩に流れるラインにヴィクトルの唇がひときわ強く吸い付くと、勇利はだけど耐え切れない恥ずかしさと緊張で相手の両肩をぐっと押した。「汗、かいてるし、においも、さっきの」。うまく繋がらない一言一言を、ヴィクトルはうん、うん、と逐一頷きながら拾って、どうしてもそれてしまう勇利の目をまっすぐ追いかけた。「じゃあシャワー行こう」と言って腕を引くと、バスルームの引き戸を開けてシャワーをひねり、自分はあっさりと服を脱ぎ捨てた。熱湯で一気に眼鏡が曇る。まだかけてたんだ、とヴィクトルは笑って、勇利からそっと眼鏡を外すと彼をシャワールームに引き連れた。肌を流れる水が、たくさんのものを洗い流していく。汗と、恥じらいと、ためらいと、キスと、手の感触。ぴったりと密着した下半身でどちらともなく硬くなったそこを感じると、勇利は思わず声を漏らした。ヴィクトルの大きな掌が二人のそれを握りしめる。流れ続けるシャワーの音が二人を世界から隔離したように思えて、勇利はただ耳だけを澄ませながら、見えない感覚に身を委ねた。腰が砕けたのはそのすぐあとだ。ヴィクトルの体にしがみつくと、水がベールのように二人の体を包み込み、発散しきれない熱にともすれば意識を失いかねない。立ち上る水蒸気に混じって、知らない精液のにおいがした。
 早朝に目を覚ました勇利は、しばらくベッドの中でぼんやりしていた。鼻の先にあるヴィクトルの肩は、まだ静かな眠りの呼吸に揺れている。頭が現実を取り戻してくると、突然今日のフライトを思い出した。慌ててベッドから起き上がり、銀髪の人を軽く揺らして声を掛ける。 「ねぇ、荷物まとめないと。僕、一度部屋に戻るよ」  ヴィクトルは目を開けなかったけれど、ん、と声を漏らしながら腕を伸ばすと、手探りで勇利の頬に触れた。 「キスをして」
 脱ぎ散らかした服を手早く身に付けると、勇利はヴィクトルの部屋を出た。誰もいないホテルの廊下を歩きながら、ああ、僕はゲイだったんだ、と思った。昨晩の衝撃と、今朝の納得と、変わりすぎた二人の関係に、勇利はどこかまだぼんやりしていた。ぼんやりしながら、踊り出したいくらいにうれしかった。
6-1909 走れない日
走りに行けない朝がある。 カーテンの端を見つめたまま、勇利の体はどうにも動かない。 一人分の体温と一人分の空白を抱えながら、ベッドの中で涙が乾くのをじっと待っている。
7-1812 男たちの別れ
 ヴィクトルが引退した翌年、勇利のロシア二年目のシーズン、勇利には今が自分のラストシーズンになる確信があった。それは別にネガティブなものではなく、肉体的なピークと精神的な充足感が奇跡的なリンクを成し、ごく自然なかたちで、彼は自分自身に引退の道を許したのだった。スケーターとしての勇利にとっては何の問題もない選択だったけれど、一方で一人の男にとって、ある種の偉業をなし得たとはいえまだまだ二十代も半ばを過ぎたばかりの未熟な男にとっては、巨大な不安がはっきりと顔をもたげ始めた瞬間だった。この先自分は何者として、どこで、誰と、どう生きていけばいいのだろう。
 その不安はヴィクトルとの関係において顕著だった。具体的に言えばその頃から、勇利はヴィクトルとのセックスを拒否するようになっていた。勇利の人生にとってスケートとヴィクトルは常にセットで、スケートを介さなければ決して出会うことがなかったように、スケートなしでは二人が恋人の(ような)関係になることはあり得なかった。だからこそ勇利はこわかったのだ。自分からスケート選手という肩書きがなくなったとき、すでに現役選手としての肩書きを捨てているヴィクトルと、果たして純粋に今の関係を続けられるのかが。  勇利が初めてヴィクトルと関係を持ってからの一年間、二人のセックスは、よく言えば情熱的な、悪く言えば無茶苦茶なものだった。スケートと同じくらいの情熱を持って何かを愛するという経験を持たなかった二人は、それまで溜め込んできた「愛する」という欲望のすべてを互いにぶつけ合った。セックス自体の経験値こそまるで違えど、ぶつかる熱の高さは競いようもなく、貪欲な絶頂に幾度となく体を震わせた。競技者という者たちが決定的に抱える孤独が、その時だけは確かに溶けていくと実感できた。その意味において、勇利にとってヴィクトルとのセックスは、特別な意味を持ち過ぎていたのだ。ヴィクトルなしでは成立し得ない彼の人生は、それまではスケートという枠組みの中だけに言えることだった。だけど今は、全部なのだ。全部。
「セックスがつらいから別れるの?」 「そうじゃない」 「わからない、じゃあなんで」 「ヴィクトルはそれでもいいの」 「セックスのために一緒にいるわけじゃない」   「違うよ、違う、だけどつらくて仕方がないんだよ」 「自分だけがつらいふりをして!」
 ヴィクトルにはわからなかった。勇利に惹かれ、勇利を求め、勇利といたい、それ以外の想いなんて彼にはなかった。肌を重ねるたび、互いの中に入るたび、全身でその気持ちを伝えてきたつもりだった。最初のためらいを超えて勇利がヴィクトルを受け入れるようになってからはなおさら、彼はどんどん自由になっているようにすら見えた。全身で愛されることの喜び、誰かを抱くことの自信、解放された感情、そうしたものは勇利という人間のあり方を確かにある面で変えていたし、スケーティングにおいてもそれは顕著だった。二人の関係を周囲が騒ぎ立てることもあったけれど、そんなノイズの一つや二つ、二人が気にするまでのものではなかったし、くだらないメディアに対して沈黙を貫く二人の姿勢は、彼らが作り出す領域の不可侵性を高める一方だった。なのに、なぜ。失おうとしているものの大きさに、ヴィクトルはただただ腹を立てていた。怒りに震えたその指では、掛け違えたボタンを直すことなんてできなかった。
 誰を責めるのも正しくはなかった。一度崩れたバランスが崩壊するのは不可抗力としか言いようがない。涙をためていたのはお互いだったけれど、それが嗚咽に変わることはないまま凍ってしまった。呆れるほどに強くなりすぎたのだ。外の世界と、あるいは互いの世界と、戦い続けている間に。
 ちょうどその頃、勇利は引退を発表した。そういうことか、とヴィクトルは思った。コーチでもない、恋人でもない、今となっては勇利の何でもないヴィクトルには、その勝手な引退の決意を咎める権利なんてなかった。コミットする権利を奪われたのだ。最愛の人に。ヴィクトルは何も言わず、勇利の帰国を見送った。本当はできることならもう一度、その黒髪に指を通し、こめかみに幾度となくキスを落としたかった。どれだけ腹を立てていようと、どれだけその後がつらくなろうと、もしかしたら何かが変わるかもしれない。そんな望みを、あるいは抱いていたのかもしれない。
 勇利の送別会が終わった翌日、ヴィクトルはベッドのシーツを剥ぎ取ると、壁に飾っていた一枚の写真を外した。どこまでも青く広がった、遠い異国の、風に揺れる、穏やかな海の景色だった。 
8-1807 ネヴァ川を見る
 サンクトペテルブルクに、海の記憶はあまりない。代わりに勇利は川を思い出す。いくつもの運河が入り混じる水の街の主流を成すネヴァ川。その川沿いに建ち並ぶ巨大で仰々しい建物の名前を、だけど勇利はなかなか覚えなかった。それが美術館だろうと大学だろうと聖堂だろうと、勇利にはわりとどうでもよかったのだ。ただこの景色がヴィクトルの日常であり、自分が今その日常の中でスケーティングを続けている、その事実だけが重要だった。  それでもいつだったか、早朝に川岸を走っていたときふと目をやったペテルブルクの風景は、日本からやって来た若い青年の胸を打つには十分な異国情緒があった。スマートフォンを取り出すと、普段めったに使わないカメラを立ち上げて、勇利は下手くそな写真を撮った。オレンジともピンクとも紫とも言えない朝日が、ついさっき暗くなったばかりのネイビーの空を、圧倒的な存在感で染め上げていく。混じり合う色と色のグラデーションが急速に消えていくのがなんだか妙に惜しくて、勇利はこのまま空を見続けていたいと思った。写真は全然素敵なものではなかったけれど、勇利は何年振りかに、それをスマートフォンの背景画像に変更した。  その日の夜、そういえば、と勇利はベッドサイドテーブルの上で充電ケーブルに繋がれていたスマートフォンを手に取って、ヴィクトルにネヴァ川の写真を見せた。 「これ、今朝の。きれいだった」  ヴィクトルは勇利が自分で撮った写真を見せてくれる、ということにまずおどろきながら、写真を覗き込む。 「勇利、写真にはもっと構図ってものが……」とヴィクトルがからかうので、勇利は彼の顔を枕でぎゅっと押しつぶす。 「うそうそ、ごめん、きれいだよ、本当に」 「あれみたいに飾れるレベルだといいんだけど」  ヴィクトルの寝室には一枚の海の写真が飾られている。コーチとして長谷津にいた頃、ロシアから雑誌の取材が来たことがあった。スチール撮影は海を背景に行われ、その時カメラマンが押さえた風景カットがとてもきれいで、ヴィクトルはスタッフに頼んでそのデータをもらったのだ。ベッドに寝そべるとちょうど目に入るくらいの位置に、大きく引き伸ばされたその海は飾られている。 「わかるよ、俺もそういう空が好き」  さっき枕を押し付けられたせいで、ヴィクトルの前髪は不恰好に癖がついている。それを気に留める様子もなく、彼は写真をじっと見つめる。 「あの時の衣装みたいだ」
9-1911 冬が来る
  玄関のドアを開けた瞬間、季節が変わった、と勇利は思った。寒さを感じるにはまだ少し遠い、それでも確かにひんやりと冷えた朝の空気。いつもと違うにおいをゆっくり吸い込むと、鼻の奥がつんとした。冬がやってくる。     四階の部屋から、エレベーターは使わず外階段をたんたんと駆け下りる。エントランスを抜けて通りに出ると、いつものランニングコースへ足を向ける。最初は少し歩く。駅へと向かう近所のサラリーマンたちとすれ違う。ぐいっと腕を上げて肩を回すと、おもむろに勇利は走り始める。もう一度風のにおいを嗅ぐ。十分ほど走って公園につくと、ドッグランを横目にそのままランニングレーンに入る。  一周二キロのコースの二週目に入ったあたりで、この日の勇利はなんだか急に面倒になって走るのをやめた。虚しくなった、というほうが正しかったかもしれない。普段あまり意識しない感情の重さに、勇利は少しだけうんざりした。それとほぼ同時に、ウェアのポケットに入れていたスマートフォンが鳴る。こんな朝から、と歩きながらスマートフォンを取り出した勇利の足が、突然ぴたりと止まる。手の中でバイ���を続けるスマートフォン。動かない勇利の指。画面につと現れたあの名前。 「“Victor Nikiforov”」
10-1911 コーチの助言
「人というのは、自分が守られているとわかっているときにこそ心置きなく冒険できるものなんだ、ヴィーチャ」 ヴィクトルは時折この話を思い出す。大昔のことだ。 「お前の安心はなんだ? メダル? 名声? それとも尊敬?」  ヴィクトルは考えた。そのどれもが、彼にとっては確かに重要なものだった。 「もしお前の足が止まるようなことがあれば、そうしたものを一度見直してみるといい」  そう言われると、ヴィクトルは少し腹が立った。自分が心血を注いで獲得してきたものを、真っ向から否定されている気がしたのだ。 「自分を守ると思っていたものが突然自らの足枷になって、お前を縛り付けるかもしれないからな」
 目的地までの残り時間を告げる機長のアナウンスで、ヴィクトルは目を覚ました。モニターをタッチしてフライトマップを映し出す。飛行機はいよいよユーラシア大陸を超え、Naritaの文字まであと少し。あれからもう何年も経つというのに、いまだにコーチの助言は有効力を失ってはいなかった。まだ少し焦点が合わない目で明け方の空を眺めながら、ヴィクトルはその言葉を声に出してみる。
「安全基地を見失うな」
11-1911 ジンクスと可能性
 バゲージクレームのベルトコンベヤーの前で、ヴィクトルは荷物が出てくるのをじっと待っていた。レーンの先を真剣に見つめているのは、なにも焦っているからでも大切なものを預けているからでもない。ジンクスがあるのだ。ベルトコンベヤーに乗せられた自分のスーツケースが、表を向いていればその滞在はうまくいく。裏を向いていれば用心が必要。ベルトコンベヤーが動き出す。プライオリティタグの付いた彼の荷物が出てくるまで、時間はそんなにかからない。見慣れたシルバーのスーツケースが視界に入ると、ヴィクトルは思わず苦笑した。流れてきたスーツケースは、サイドの持ち手に手が届きやすいよう、行儀良く横置きされていた。  荷物を受け取ってロビーに出ると、時刻は朝の八時を少し回ったところだった。スマートフォンを取り出すと、ヴィクトルは自分でも少し驚くくらいためらいなく、勇利への発信ボタンをタップした。朝のランニングを日課にしている彼のことだから、今頃はそれを終えて朝食でもとっているか、その日の仕事に出かけるところだろう。だけど予想通り、その着信に答える声はなかった。スマートフォンをポケットにしまうと、ヴィクトルは軽いため息をついて成田エクスプレスの乗り場へ。「事前予告なんて俺らしくない」と思ってはみたものの、だけどヴィクトルには向かうべき先がわからなかった。東京に拠点を移したということ以外、勇利の居場所についてはなに一つ知らなかったのだ。唯一向かう先として確定している新宿へのルートを確認しながら、やっぱり羽田着にすれば良かったと思った。彼はいい加減に疲れていた。サンクトペテルブルクからモスクワ、モスクワから成田、成田から新宿。スムーズなルートではあるものの、これ以上時間をかけるのが煩わしい。その気持ちもあってかどうか、新宿に到着するのとほぼ同時に、ヴィクトルは勇利にメッセージを送った。 「しばらく東京にいる。可能性は?」
“可能性”?
 勇利がメッセージに気づいたのはその日の正午ごろだった。ヴィクトルの着信を無視して家に戻ってから、打ち合わせのためにマネージメント会社の事務所に向かった。スケジュール諸々の確認を済ませ、いくつかの事務的な話を終えて事務所を出ると、いつも無視するだけのSNS通知に混じってそのメッセージは届いていた。  精神的ヴィクトル遮断期の成果か、勇利は着信を見た時もメッセージに気づいた時も、思っていたほどのダメージを受けなかった。その代わり、「可能性」の文字が勇利の前に立ちはだかる。それはこの一年間、勇利がもっとも望み、同時にかき消そうと努めてきたものだった。メトロの入り口までの道を歩く間、勇利は逡巡した。が、地下に入って改札機にICカードをタッチすると、その瞬間に案外あっさり答えが決まった。募らせてきた孤独と愛おしさを開放するには、改札が開く小さなその電子音だけで十分だったのだ。 「どのホテル?」  メトロに乗り込む。5分ほどでヴィクトルからの返信。ホテルの名前を見た瞬間、勇利は一気に胸を掴まれた。スマートフォンをポケットではなく鞄に入れると、両手で思わず顔を覆ってひときわ大きなため息をついた。遮断機は壊れてしまった。抑揚のあるあの声を、肌に触れる乾いたあの髪の感触を、抱きしめたときの体の厚みを、汗と香水のにおいを、熱を、息を、そして氷上をしなやかに滑るあの姿を、勇利の体は鮮明に思い出した。メトロの中で、勇利はほとんど泣いていた。
12-1911/1812 言えなかった
 目が覚めると午後五時を回っていた。約束の時間まであと一時間。フライトの疲れはたぶん取れている。ヴィクトルはシャワーを浴びると、小ざっぱりとした自分自身を鏡越しに見つめた。現役時代と比べれば筋肉量は若干落ちたものの、傍目には変わらない体型を維持している。銀髪に混じる白髪は前からのことで、目の下のシワも見慣れている。だけどやはり変わったなと思うのは、その目元だった。ひとしきりの怒りとさみしさを通過したヴィクトルの目は、少し力なく、だけどそれ以上に、優しくなっていた。  話す言葉は何一つ用意していない。これからどうしたいかも決めていない。とにかく会えば、会えさえすれば、なんて甘えたことも思っていない。だけどヴィクトルは日本にやって来たし、勇利はそれをはねのけなかった。思えばあの時もそうだったのだ。自分が勇利のコーチになる可能性なんて本当はどこにもなかった。無茶苦茶なことをしている自覚もあった。持ち前の奔放さで周囲を驚かせてきた彼だったが、本当はいつだって、自分が一番驚いていたのだ。未知へと足を踏み入れたことに。不安を乗り越えられたことに。新しい安全基地を、確かに手に入れられたことに。ヴィクトルの冒険と不安を受け入れたのは勇利以外の何でもなかった。一緒に居れば何者にだってなれる。ただそれを、あの人に伝えたかった。 「ねぇ勇利」  鏡越しに独り言を呟く。
「今日から俺は勇利の何になる?」
 同じ台詞を、二人は別れる直前にも聞いていた。元師弟とも元ライバルとも恋人とも言える二人の関係を終わらせようとしている勇利の心を、ヴィクトルはどうしても知りたかった。いや、変えたかった。 「何だっていい。ヴィクトルはヴィクトルでいてくれたらいい」 「勇利は俺の何になる?」 「何だっていいよ」 「それがこわいのに?」  勇利は答えなかった。その通りだった。ヴィクトルがヴィクトルであること、勇利が勇利であること。口で言うには響きの良い台詞だけれど、その意味を、その事実を受け入れることは、思っていたよりたやすくなかったのだ。 「いつかこわくなくなると思う」 勇利は最後の最後になって、すがるようにヴィクトルの首元に腕を回し、鎖骨のあたりに顔を埋めた。自分勝手さなんて痛いほどわかっていた。ヴィクトルの手が軽く背中に触れたけれど、それはただ、触れただけだった。
「だからそれまで待っていて」とは、勇利はとても言えなかった。
13-1711 ゆだねる
「やっぱりこわい。ていうか……抵抗感がある」 「うん、無理にとは言わない」 「……ヴィクトルはどっちなの」 「どちらでも。勇利とならどっちでもいい」 「そういうもの?」 「俺はね。相手と一番気持ちいい関係でいたいから」 「どんな関係が一番かなんてわかんないよ」 「だから試さないと。そうだね、わがままを言うなら、俺は勇利に“受け入れる心地よさ”を経験してみてほしいかな」 「痛そうじゃん……」 「最初はね。でも相手にゆだねてしまえば、きっと良くなる。絶対に無理強いはしない」
 そう言いながら、これがハードルなんだろうな、とヴィクトルは思った。勇利は簡単に誰かに身をゆだねられるタイプの人間ではなかった。自信のなさはかつての彼の最大の欠点とも言えたが、言い換えればそれは一重にプライドの高さと自分への責任感であり、自分を支える存在を求めながらもその対象に依存するようなことは考えられないだろう。たとえそれが、氷上だろうとベッドであろうと。アスリートとして身につけてきた彼のストイックさを、怖れを超えたその先で解放される表現者としての素質を、だけどヴィクトルは何よりも愛していた。
「勇利の準備ができるまで、いつだって待つよ」
14-1910 空になったグラス
「どうせ誰かの専属コーチになることはないんだろ」  久しぶりに会った友人は、テーブルの企画書を片付けるとグラスに残っていたワインをゆっくりと飲み干した。 「おもしろいプロジェクトだと思う、君らしい。感情にさえ流されなければうまく行くんじゃない? まあそこが君の魅力だけど」 「余計な心配だ」  ヴィクトルの冗談を端的にかわすと、ポポーヴィッチは少し思案した後じっとヴィクトルを見つめた。 「真剣に聞いているんだ。このまま君が連盟の一員になっていくなんてとても思えない。コーチはしないまでも、その才能を裏方に回すなんて誰が望む? 凡庸なスケートショーに誘っているわけじゃない。一種のアートの試みだよ」  二年前、ポポーヴィッチはヴィクトルと同時期に引退し振付師へと転身した。もともと芸術家肌だった彼の野心は振り付けだけにとどまらず、最近ではショー全体のプロデュースに取り組みはじめ、スケート界の新しい動きとして一部から期待と注目を集めていた。 「とはいえ俺はアスリート気質だからねぇ。エンターテイナーでいることは苦手なんだよ、わかる���ろ」 「エンターテイナーになれなんて言っていない。ヴィクトルという一人の人間として滑ってほしいんだ」 「ヴィクトルという人間、ねぇ……」  すでに空になっている自分のグラスを見つめながらそう呟くと、ヴィクトルはなぜか笑いたい気持ちになった。 「“お前は何者なんだ、ヴィクトル!”」  突然古風な芝居じみた口調で笑いだす友人に、ポポーヴィッチは呆れてため息をつく。 「本当に、ヴィクトル、これからどうするのかヤコフも心配している。最近じゃあのユーリですら……」  愛すべき友人の言葉を最後まで聞かずに、ヴィクトルはさっと立ち上がった。 「そろそろ決めてもらわないとね、俺が何者か」 「?」 「プロジェクトのことは考えておくよ、スパシーバ」  訝しげに見つめる友人の肩をぽんと叩いて、ヴィクトルは一人店を出る。帰りのタクシーの中でスマートフォンを取り出すと、ためらいなく成田行きのフライトを予約した。不思議なほどに、意気揚々と。
15-1911 それでも、なお
 ホテルのロビーで一人掛けのソファに腰を下ろした勇利は今、行き交う宿泊客をながめている。どうしていつも急に来るのだろうと、初めて彼が長谷津に現れたときのことを思い出す。頭の中で月日を数えて、勇利は思う。まだ4年も経っていないのか、と。どうしてヴィクトルが東京にいるのか、どうして勇利と会おうとしたのか、勇利には見当がつかない。これから会ってどんな話をするのか、勇利の方にだって何の準備もない。自分から離れた相手なのだ。どんな態度でどんな話をされたとしても、勇利はそれを受け入れるしかないとわかっている。それでもなお、勇利は思う。そこに可能性があるのなら。自分を失うこわさと引き換えに、別の何かを見つけ出す可能性があるのなら。自分を定義づけてくれる存在を、もう手放すようなことをしてはいけない。
 新宿に来る前、勇利は一度マンションに戻っていた。まっすぐ寝室に向かうと、クローゼットの奥から彼の持ち物の中では異質な黒い小箱を取り出した。最後にそれを見てから、もう一年近くが経とうとしている。「この歳になってもまだおまじないか」と苦笑いを混ぜて呟くと、それでも最大限の愛おしさを込めて、乾いた右手の薬指に小さな金の環を通した。それから右手を唇にぐっと押し当てるようにキスする癖は、一年経っても忘れてはいなかった。
 賭けをしよう。あの人の指にも同じものがあるだろうか。あるいは祈りを、あるいは冒険、あるいは。
 エレベーターがロビーフロアに到着する。数人の宿泊客とともに銀髪の彼が現れる。青い視線が黒髪を見つける。聞きなれたあの声が、勇利の名前をまっすぐ呼ぶ。
fin
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