Tumgik
#我家では帆布さんと勝手に呼んでいる
mofdogs · 1 year
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約半年ぶりに、 フェイてんちょに会って来たよー ٩(๑´3`๑)۶ #はじめてのおつかい #ボスのつかい #いや勅使としよう #いや勅使じゃないな違う #やっぱおつかいか…(笑) #いや宮島には絶対また着たかったのよ #宮島帆布 #宮島 #我家では帆布さんと勝手に呼んでいる #珈琲ご馳走様でした #勝手にカフェ宮島帆布 #次は奥様が居てはる時に行きましょう #ペキニーズ店長 #お昼時にすみませんでした #コッペン食べ過ぎました #みゆまま気を使わせてすみませんでした #好きよ❤︎╰(*´︶`*)╯ (宮島帆布) https://www.instagram.com/p/ClJJAYDpq1_/?igshid=NGJjMDIxMWI=
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xf-2 · 4 years
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清華大学の法学者、許章潤氏が7月6日、当局に拘束された。(12日に釈放されたが、その件についてはのちに述べる。7月8日公開「習近平政権が改革派言論人を逮捕してまで封殺したかった『批判の中身』」参照、以下、許先生と表記する)。
許先生が捕まったという知らせが入ったのが、7月6日の昼過ぎ、友人の大学教授、Tさんからのメッセージだった。
許先生と親交のあり、共通の友人である北京のKさんから「許先生の自宅の周囲に20台ほどの車が停まり、許先生が連行された」と涙ながらに電話があり、筆者にも伝えてほしいとことづてがあったという。早速Kさんに電話を掛け、同様の内容を直接聞いた。
以前も少し書いたと思うが、許先生とは3年前、来日した中国の自由派知識人グループから案内役を頼まれた旅行で知り合った。
箱根で、許章潤・清華大学教授(筆者撮影)
箱根と伊豆を2日半で回る旅で、筆者は宿や食事の手配からレンタカーの運転、観光地でのガイド役と、彼らの短い旅を満足してもらえるよう、できる限りの「おもてなし」をした。夜、箱根の静かな温泉街を、許先生と2人で歩いたのを覚えている。
ただ正直なところ、その時は許先生について多くを知らず、ましてやその後彼がこのような運命をたどるとは、全く予想していなかったので、あまり深い話はできなかったが、大変物静かな印象だった。
翌日、元箱根から箱根湯本に戻るバスが観光客で満員となり、かろうじて1人分の座席が取れたので許先生に勧めたところ、「クーティエンジュン(古畑君、彼は私のことをこう呼ぶ)は私たちのために大変な思いをし、疲れているのだから座ってください」と固辞され、1時間近く運転席の横で静かに立っていた。全く偉ぶったところがなく、しかも辛抱強い人だと感心した。許先生とは帰国後、メールのやり取りを続け、何本か論文を送ってもらった。
許先生はその約半年後、東大の訪問学者として再び来日、約半年間を東京で過ごしたが、その間の2018年7月、習近平政権を厳しく批判する「我々の現在の恐れと期待」をネットで発表した。帰国が迫っている先生にできればお会いしたいとダメ元でメールを送ったところ、すぐに返事があり、T教授とともにお会いした。
「自分は帰らなければならない」
その時の経緯は以前も書いたが、帰国すれば危険が待っているのではとたずねたところ、「自分は帰らなければならない。国外で声を上げても仕方がない。国内にもこういう声があるということを示さなければならない」と決心を語られたのだった。
ただ正直なところ、先生はその時、清華大学を辞めさせられ、地方の大学に左遷されるのではないかと話しており、学術会議などで再び国外に出られるかどうか、それが大学や当局が自分をどう見ているかの判断基準となるだろうと語ったが、その後の運命は彼の予想を上回る苛烈なものだった。
許先生とは、帰国後も微信などで連絡を取り合っていた。しばしばアカウントが停止されるため、友人から新しいアカウントを教えてもらっては、連絡を取り、無事を確認した。最後に連絡をとったのは5月。「また連絡が取れましたね」「いつか会える日を心待ちにしています」とのメッセージを送り合った。
だが、処分が厳しくなり、教育や研究の機会を奪われると、許先生が書く内容は以前にもまして厳しくなり、当局の逆鱗に触れるのではないかと心配していた。
だから今回のニュースを知っても、「とうとう来るべきものが来たか」というのが正直な印象だった。先生自身も、今年初めに出した「激怒する人民はもはや恐れていない」の中で、「自分がこの文章を発表することで処罰されることも覚悟しており、これが最後の執筆になるかもしれないが、責任逃れはしない」と覚悟を述べていた。
香港問題が引き金か
とはいえ、今回の「買春」という容疑は先生の上述のような人柄を考えたら、全くもって理解できず、許しがたい。
米コロンビア大学のアンドリュー・ネイサン教授はVOAのインタビューで次のように批判した。「(拘束に)驚きはしなかったが、ショックだったのは、中国政府がこの憲法の下でいかなる違法行為をしていない、非常に傑出した教授をこれほど厳しく弾圧したことだ。言論の自由を行使した許氏に対し、当局は『買春』という罪を着せた。このことで恥をかくのは許氏ではなく、中国政府の方だ。今回の事件は、中国の体制がいかに全体主義化したかを示している」
だが、「香港国家���全維持法(国安法)」を香港基本法の原則に反して導入し、言論統制を一気に進めた香港への対応や、攻撃的な「戦狼」外交を見ても、体制維持のためには外国から何を言われようがなりふり構わず突き進む「振っ切れ感」が今回の許先生への対応につながったとの指摘もされている。ある中国人学者の知人はこう語っている。
「習近平は許章潤氏を憎んでいたが、ずっと我慢していた。おそらくは世論への配慮だろう。だが香港問題で、共産党は赤膊上陣(上半身裸で戦いに加わる、何も気にすることなく物事を行う)し、横暴にも香港の自由を奪った。覆っていた布をすべて取り去ったのだから、何のためらいもなく以前から捕まえたかった許氏を捕まえたのだろう」
「香港問題と今回の事件は関係があるだろう。どのみち恥知らずのことをしたのだから、もう1つそれを重ねるのを恐れることはなくなったのだ」
さらに「習近平は決して自分に対する批判を許さない。共産党を厳しく批判しても、彼は許すかもしれないが、自分に対するたとえ温和な批判でも、決して許さず、必ず報復する。ある友人が警察に呼び出された時、警察からは『政府を罵ってもいいが、習主席を絶対に罵ってはいけない』と言われたという」と語った。
最近でも習近平を「権���を渇望する道化役者」などと批判した著名企業家、任志強氏や、新型コロナウイルスへの対応を批判、習の引退を求める文書を発表した法律家、許志永氏らが当局に拘束されている。
それでも許先生を知る知識人の中には、自分たちの思いを許先生は1人で代弁してくれたという声がある。友人で作家のY氏は、筆者に次のように述べている。
ちなみにY氏によると、許先生は1989年の天安門事件当時、中国政法大学の教員で、自らデモやハンガーストに参加したのだという。
「誰かが真実を語らねばならない」
「許章潤先生はここ2年の間、共産党が自分の権利を奪ったことを厳しく批判、特に習近平本人の行為について厳しい批判をしていた。これが逮捕された真の理由だ」
「ある会合で、彼は『どんな時でも、誰かが立ち上がって本当のことを言わなければならない』と語っている。彼はこのことを自分の責任だと感じていた。彼の一連の文章が発表されると、中国の知識人の間に大きなセンセーションを生み、多くの人は彼の勇敢さをほめたたえたが、一方で政府から報復されるのではないかと心配する人もいた」
「ここ数年中国の言論の自由はますます悪化している。体制に異を唱える人々の立場はますます厳しくなっている。許先生の言論は時代の問題を鋭く突き、最も危険な話題から逃げることがなかった。彼はだがこれにより自分にどのような結果が及ぶかは分かっており、すでにそのための準備をしていた」
「彼が警察により連行されたという情報はソーシャルメディアで大きな関心を呼んだ。多くの人が彼の待遇が不公平だと感じ、共産党政権による残酷な管理強化の現れだと受け止めた」
このように語るY氏に「許先生の思想には自分も賛同するが、現在の厳しい言論統制の下で、やり方がやや急進的ではなかったか。他の表現の方法もあったのではないか」と聞いてみた。これに対し彼はこう語った。
危険を知りつつも…
「彼の言論は『急進的』ではなく『危険』と言うべきだ。確かに、最も危険な言論であり、間違いなく報復されるであろう言論だった。だが、許先生の文章が広く尊重されるのは、彼の道徳的勇気のためだ。彼は国民全体に向かって、多くの人々が言いたいが言う勇気がないことを敢えて語ってくれた。現在の中国では、(直截的ではない)よりましな表現方法など私も思いつかない。隠喩式の、指桑罵槐(しそうばかい、遠回しに批判する)の言論すら削除され、処罰される。許先生はこの点を見抜き、思い切って立ち上がり、正々堂々と自分の主張を明確に述べたのだ」
そして、最後にこう語った「ある会合で、彼は次のようなことを言っている。つまり、勇敢とは、危険を知りつつも、それでもやらねばならぬことをやることだと」
つまり、彼は為政者に決しておもねることなく、言うべきことを正々堂々と言う、危険な道を自ら選んだ。このことが彼に対する共感を生んだのだ。
香港の著名な作家、顔純鈎氏もフェイスブックへの投稿で、次のように許先生を評価している。
「許章潤先生は今日最も勇敢な読書人(知識人)である。彼は民間の正気(正しさを貫く気概)を代表し、埋没することない民族精神を代表している。共産党は彼を捕まえたが、彼の声を消し去ることはできないばかりか、人々により深い影響を与え、彼の歴史的な地位はより崇高なものとなるだろう」
許先生が拘束される直前、彼のこの間の主要な論文をまとめた著書が米国から出版された。許先生はこの「戊戌六章」という著書の序文で、次のように書いている。
「立憲民主、人民共和の国家を」
「この書の目的は、人々の思考を刺激し、精神を凝集し、心を合わせて『中国の問題』を解決し、『立憲民主、人民共和』の公共の邦家(国家)を作るためにある。このような大きな転換をしなければ、中国は現代世界の体系に生き残ることはできず、人々の平安や文化の発展など論外だからだ。この公共の邦家がなければ、祖国は党の全体主義の植民地であり、人々はみな搾取される人質にすぎない。この世の中の正しい道に逆らい、赤い帝国へと突き進むのならば、行き止まりが待っているだけだ」
そして「中国が100年の紆余曲折を経て、再びスタートラインに戻るには、世界文明の体制に順応し、その正しい道をひたすら進み、新たな中国の文明を建設し、新しい中国を作ることにかかっている。さもなければ、ここ数年の中国のように再び世界の主流から孤立するのであり、その危機がすでに現れている。大きな転換が実現しなければ、天地は荊棘(いばら)のようであり、人々は安住することができない。人々が恐れおののき、国全体が不安に満ちたなら、この国土と人々はどうして平安を保つことができるだろうか」
つまりは中国が憲政による民主主義を実践し、国や社会の大転換を図ることが、新たな社会参加の力を得て、世界の中で再び輝くことにつながる正しい道だと指摘しており、全くそのとおりである。だが現在の体制はこれに背き、国家主席終身制に代表される権力集中と憲政民主の否定、毛沢東時代への思想的回帰、そして国際的な協調路線からの離脱による危険な道を歩んでいる、つまりある著名な民主活動家が指摘したように、「改革」も「開放」も否定したのだ。
なおこの本は、許先生がこれまでに発表した論文をまとめたもので、香港での出版を予定していたが、香港の出版業者が難色を示したため、米国で出版されることになったという。グーグルで電子版の購入が可能なので、許先生の思想に興味のある方はぜひ先生を応援する意味でもクリックしてほしい。
さて、前述のように、今回の拘束は、香港問題と関係があるとのある知り合いの中国人が指摘している。
以前本欄でも書いたのだが、許先生と並ぶ著名な自由派知識人の張千帆・北京大学教授は、「英中共同声明」や「香港基本法」の精神に則り、一国両制度を完全に実施すれば、香港社会は安定すると述べていた。(「反発と羨望が入りまじる「香港デモ」中国社会の複雑な受け止め方」参照)
だが習近平政権はこれとは正反対の対応を取った。高度な自治という約束を破って、中国本土並みの厳しい言論統制を敷き、香港から自由と民主を奪おうとしており、すでに「物言えば唇寒し」という雰囲気が生まれており、フェイスブックでも中国に批判的な投稿がほぼ消えてしまった。
中国のネットでは、「港独(香港独立派)の害虫を退治する殺虫剤」などと「国安法」を称賛する文章もあるが、筆者の知る多くの中国人は、微信などのSNSで、この問題について沈黙を保っている。
それについて、友人のJ氏が許先生の問題と合わせて、次のように語ってくれた。少々長いが引用する。(前述のY氏を含めいずれも安全性が高いとされる通信アプリを使った。)
人々は分かっている
「西側国家は国安法について、中国が(人の意見に耳を貸さず)ひたすら独断専行していると批判している。だが中国は耳を貸そうとせず、2つの世界の分裂はますます深刻になっている」
「この問題は体制内外の両面から見る必要がある。体制内の人間は恐らく、5割くらいの人は(香港問題を含め)どういうことか分かっている。だが妄議中央(中央をデタラメに論ずる、共産党の方針を批判すること)が許されない規定に加え、18回党大会以降、(国家主席)任期を撤廃し、監視機関を強化し、国家機関を私物化し、無数のアプリによって公務員に対し(習近平に対する)個人崇拝の雰囲気を生み、人々を疲弊させ、(国や社会の)問題について考える時間を与えないようにするなど、体制内の人々の思想を統制し、自ら知り得た政府の内幕を外部に知らせないようにしている。同時に千万もの五毛党(お抱えネットユーザー)らを使ってネットを一掃し、虚偽の“民意”を作り出して権力者に奉仕している」
「一方、体制外の人々の2割は(真相を)分かっているだろう。だが高圧的な統治の下、ネットや現実社会の中で“真相”を語ったら、間違いなく当局による厳しい監視体制により、どんなに軽くても当局の呼び出しを受ける。(ましてや)許教授に降りかかる結果はすでに目に見えている」
「中国本土の人々が国安法をどうみているか?私の周辺の体制内の人間は決してこの問題に触れようとしない。人々は『立派に死ぬより見苦しく生きる方がいい』という処世術を持っている。だから何も語ろうとしないということが、彼らはどういうことか理解しており、つまりは(暗に)反対の態度を表明しているのだ。心から賛成しているのなら、口に出して言うだろう」
「香港はかつて最も人気のある留学先だった。学生は香港の大学の学歴を得ることは名誉だった。だが今彼らの夢を壊そうとしている人がいる。この国安法がどうして大衆の支持を得るだろう?だが(暴政の下で)人々は恐れて口に出せず、道で人とあっても目で合図するしかない。このことが民衆の態度をよく表している」
「外国の反対を権力者は全く意に介さない。それは、(1)防火長城(GFW、ネット規制)により真相を覆い隠している。(2)14億人の韭菜(ニラ、いくら刈っても生えてくることから、いくら搾取してもすぐに代わりがきくこと)を抑えておけば、必要な金はすぐに手に入り、外国の金など大したことではない。(3)彼らは中国を70年統治し、人々の生殺与奪の権利を握っている。人々は跪いて運命を受け入れるしかない―からだ。彼らはさらに14億人を従わせるのに満足するだけでなく、中国モデルを世界に拡散しようとし、その第1歩に香港を選んだのだ」
「彼らにとって、香港は(民主化運動を武力で弾圧した)1989年の北京のようだ。当時彼らは(西側からの制裁を受けたが、)幸運にも西側政府や資本から許しを得て、騙すようなやり方で世界貿易機関(WTO) に入り、山河を汚染し腐敗によって得た金で表面的な経済の繁栄を手に入れた。そして今彼らは香港で賭けに出た。だが彼らは勝てるだろうか?」
「実際には中国は彼らが吹聴するほど富強ではなく、各方面は崩壊に瀕し、骨まで腐っていると言える。でなければなぜあれだけ多くの官僚や金持ちが子女や財産を海外に移すだろうか。彼らはこの国がどのようであるか当然最も理解している。彼らはこのボロ船がいつかは沈むと分かっている。彼らはこの政権の巻き添えを食いたくないのだ。彼らこそ最もお見通しなのだ」
「中国人の中の中国人」
「許章潤さんは、権力者にとっては1匹のアリにすぎず、踏み潰すのに何の力もいらないだろう。だが中国の歴史の中では、彼は時事の良し悪しを論じ、権力者に向かって敢えて『ノー』と言う勇士であり、正々堂々とした中国人の中の中国人だ。彼は将来の中国の歴史の中で、その名前を刻むだろう」
彼やYさんのように、香港問題を含めて一定以上の知識と外国の情報にアクセスできる人々は事の本質を理解しており、許先生を支持している。問題は彼らが声を上げられないということだ。
許先生はこうした言論環境の中で、敢えて自分が声を上げたのだ。先生が書かれた「この世の中、いつも誰かが出てきて語らなければならない」という文章に、先生のこうした思いが述べられている。詳しくは紙幅の関係で紹介できないが、彼は最後にこう述べている。
「この世の中、いつも誰かが出てきて理を説かなければならないのだ。そうすることで人々が住むのにふさわしい世の中となる。誰が最初に声を上げるか、それは法律の天賦の才を持つ法律家が言うべきだ。社会には弁護士という職業がある。人々は弁護士を育てたのは、彼らに理を説いてほしいからだ。理にかなった、安寧な日々を人々が送るために、法律家、そして億万の同胞よ立ち上がれ!」
本稿を編集部に提稿後の12日、許先生が釈放され、自宅に戻ったというニュースが飛び込んできた。この件について、北京にいる友人、Kさんは筆者に次のように語った。
「許先生が釈放されたが、これで終わったわけではない。恐らく当局は、許先生を拘束し、国内外のメディアや社会、学者がどのような反応をするか、試してみたのではないか。それを踏まえて、次の手を打ってくる恐れがある。いずれにせよ、許先生は当局が最も警戒する知識人であり、我々もまだ安心できない」
我々としても、引き続き許先生の動向に関心を持ち、不当な処遇を許さないというメッセージを送り続けることが必要だろう。許先生には、ぜひ再び学者として活躍の場が与えられてほしい。そして日本を再び訪問し、前回の旅の続きをともにしたいと心から願っている。
(本稿は筆者の個人的見解であり、所属組織を代表するものではない。)
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95 Nana
ルドが廃后ミフレッセを倒すと、従えていた道化たちもまた衣服だけを残して無と消え、派手な色彩の布が血だまりのかわりにむなしく床を飾った。道化と渡りあったバルナバーシュとナナヤは顎をくだる汗をぬぐい、みながしばらく無言に支配されていたが、駆けこんでくるマックスの明るい吠え声でようやく詰めた息を吐き出すことができた。だが、憂慮からバルナバーシュは眉をひそめる。
「そういえば、アセナはどうした? この砦についた時から姿が見えないが」 「分からない。急に道を外れて岩山を登っていって、そのうち戻ってくるかと思ったんだけど。心配だ……」
ナナヤはあの白い狼を、ハインの忘れ形見に感じているようだった。
砦の広間と回廊には、甲冑や赤いマントを鎧ったまま息絶えた数えきれない騎士たちが、壁や武器に身をもたせて不動とともに座していた。装備は永い時のなかで汚れを被っていたが、ふいの明かりを受けてきらめく兜は今なお誇り高い。砦で決戦の地を守りながら、決闘者たちの帰趨を見定める者たちだったのだろうか――三人と一匹は、彼らを慎重に横切りながら進んだ。今にも起きあがり道を阻むのではないかと思われたが、不注意にもバルナバーシュが騎士のひとりに足をひっかけてしまい、床に蹴倒すと、耳障りな音をたてて甲冑はばらばらに崩れ、中からは大量の灰と骨片が散乱するのだった。
「ここなら火を焚ける」
先行するナナヤが調度品もない殺風景な広間を見つけると、そこで一行は野営を決めた。糧食はどうにか足りているが、明日には狩りをせねばならないだろう。この険しい土地では、獣を探すことすら困難だとしても。白狼のアセナは、家族同然に世話を焼くナナヤに少しでも食事を分け与えるために別れたのかもしれなかったが、真意は定かではない。
不寝番を交代で務めながら、かがり火をひとり見つめるバルナバーシュは、ミフレッセのこと、そして決戦の地であいまみえるであろうフェリクス達のことを考えた。
「進歩の前には一度、古いものを壊さねばならない、か……」
あぐらをかく膝に横たえた銀剣アルドゥールの、手入れの行き届いた刀身に、陰鬱にくもる己れの顔が映りこむ。フェリクスらも廃后と同じ願いのもと、エターナルデザイアーの破壊に臨むはずだ。そして彼らは、過去からの亡霊ではない。現実を生きる者たちであり、我々と同等か、それ以上の願いと全身全霊をもって挑んでくるのだ。その覚悟を腹に決めながら、アラミティク廟塔でともにした冒険、レオ鉱山で語り合った夜が、今では遠い日になりつつあることに、バルナバーシュはなすすべのない寂寞の念を感じていた……。
翌朝、一行がエソルテル砦を抜けると、辺りは開けて苔むした丘々が続き、さらに越えた先の広大でなだらかなくぼ地には、新緑の爽やかな高原が茂っていた。洞窟の天井のように上方を覆う薄黄色の厚い雲から、その高原だけに自然光がさしつらぬいてそそぎ、目にすることもない色とりどりの野花が煌々たる恩寵のもと咲き乱れている。ヤナギランのあわいに野うさぎの影が走り、朝霧の露にしめり、濃密な雨と草と土の香りに満ちる大気に、旅路に煤けきったみなの心身は洗われるようだった。
彼らは地勢を知るナナヤの案内のもと、そこで少なくない時間を狩りや採取に費やし、透きとおる池を水場に休息をとった。リスが下生えを軽やかに踏む足音、白い鳥の群れが陽の輝きをよぎり、虫がゆるやかに舞い、狐が連れ合いを呼ぶ嬉しげな鳴き声が聞こえる。かつて讃えられ、文明によってヒトより忘れ去られた天然の美と憩い――複雑な天候と地形の成せる園か、それとも神秘がはたらいているのか……バルナバーシュは闇沙漠でかいま見た、昔日に魔法使いクレスオールが魔王にあらがった戦いにより荒れ果てたアストラの地のビジョンを思い起こし、そうして夜が近づくにつれ、確かにこの高原が神々の座に近い、ただならぬ土地であることを悟った。陽が落ちてもここは完全な闇とはならず、地上が不思議な淡い光を発して、草花や冒険者たちを優しげに照らしているのだ。光は白いが、時おり結晶に通したかのように七色に分かれて彼らの装備に散らされる。ハインと一度来たというナナヤもまた、現象に驚いているようだった。
「前はこんなことは起きなかった。どうしてだろう」 「砦のこともそうだが、ハインと私たちでは、どうやら歩んできた道が違うらしいな。とすれば、夜になにかが起きるのかもしれない」 「そういえば、階段が見あたらない。あの崖伝いに延びているはずなんだけど」
ナナヤの指さした高原の果てに、黒大理石の巨塔と見まごう堂々たる絶壁が、穏やかにそよぐ草原に突き立ってそびえている。峨々として圧倒し、頂上は暗い夜の雲に隠されてヒトの目に触れることを排していた。息を呑むほどに途方もなく、バルナバーシュには自然物ではなく、はるかいにしえに栄えた神代の遺構のようにさえ思えた。フェレスの導きなくして拓かれず、また七つのパワースポットで己れの力と願いを示し、イススィール――現次元の大いなる加護を得られぬ限り、決してヒトが挑んではならぬ道なのだと。
「まさか、あれを登っていくの?」
ルドが驚嘆した言下に、絶壁の怒れる影に無数のプリズム光がひらめいて、三人は全身をあふれんばかりのゆたかな色彩にひたし、目は不毛な美しさによって長く眩惑させられた。各々がかざした腕をのけると、絶壁の右手と左手に二つの大階段が現れていた。真珠母色にうつろう半透明の材質で造られ、壁に沿い、傾斜もゆるやかにうねりのぼっていくもので、その果てはやはり雲のなかへ隠れていた。その夢見る光彩に惹かれながらも、みな一様に待ち受けるものを予期して胸騒ぎを覚え、地を踏みしめながら階段へと向かっていった。
バルナバーシュはかたわらのルドに、気にかかることを打ち明けた。
「イススィール綺譚には、この高原も、絶壁も――そもそも階段は本来、砦から延びていたらしい――書かれていなかった。薄々感づいてはいたが、ここはもう、かつてのイススィールではないのかもしれない」 「でもバルナバーシュさんはたしかに、フェレスに導かれてここまで来たんですよね」 「ああ、そうだ」
きびしい顔でバルナバーシュは言った。ルドが彼の腕をつかむ。
「なら、偽物であるはずがありません。パワースポットの力だって本物だった。だからきっと……きっと大丈夫です。信じましょう」
二人はいま、揺らぎや迷いをひどく恐れていた。浮き足立ち、後ろを振りかえるのを、あの階段は決して許さないのだろう。今もこれまでも、苦難を極めるのは明確な敵ではなく、己れ自身との戦いに違いなかった。
左の階段のそばにはひっそりと、墓としめす立て石があり、その下に眠る者が誰かを悟った二人は胸のつぶれる思いにさいなまれた。マックスの尾は力なく垂れ、ナナヤがひざまずいて唇の内でなにごとかを呟いたが、聞き取られないまま地にこぼれていく。
「まえに闇沙漠で、グレイスカルが言ってた。この階段はアストラで敗れた者の数だけ段が増える、呪われた道なんだ……死者たちの怨嗟で支えられている……踏み外せばまっさかさまに、アビスの底まで落ちて囚われる。そして二度と帰り立てなくなるんだ。ハインもここで死んだ……傷だらけで、全身の骨が折れていて、痛みと、恐怖にゆがんだ顔で……」
息を詰まらせて語りながら、立ち上がり、ナナヤはルドの肩につかみかかった。
「頼む、左の階段には行かないでくれ。あたしはもう、恩人の、ああもむごたらしい死にざまは見たくないんだ」 「ナナヤ……」 「ルド、あんたはあたしが憎いんだろ。許せないんだろ。あたしは、あんたを傷つけたいがために、あんたの大事なひとを刺し殺そうとした卑怯者だ。その罪をまだつぐなってない。ここであんたたちが死んだら、止められなかったら、あたしはまた……」
立ち尽くす機械の少年にもたれるように、ナナヤは膝をつき、そのまま泣き崩れた。
「もう、一人になりたくない。なりたくないよ……」
ルドはひざまずくと、弱々しく震えるナナヤの両肩を支え、涙に濡れた顔を上げさせた。かたわらではバルナバーシュもまた、片膝をつき、彼らを静かに見守っている。
「それなら、一緒に階段を上ろう。そして僕たちの背中を守って」 「でも、あたしはフェレスを持っていない」 「僕も持ってない。でも願いはある。誰にも負けるつもりのない願いが――湖で君にああも阻まれたって、僕たちは生きて、ついにここまで来れた。僕は確かに、君がバルナバーシュさんを殺そうとしたことを、どうしたって許せない……でも、それは僕と君の問題だ。君が何からも許されない存在だなんて思ってない。そんな世界は、悲しすぎるから。だから、僕たちは行かなくちゃならない。希望を見つけたいんだ……それはハインさんもきっと、同じだった……」
少女のすすり泣く声だけがしばらく、彼らのあいだを流れた。バルナバーシュが重い口を開く。
「左と右ではどう違うのか、君は知っているのか」 「……グレイスカルから聞いた話だと、左には恐ろしい魔物がいるらしいんだ。だから、勇気を試す階段なんだと言ってた。ハインは自分が臆病だと思っていたから、それで挑んだのかもしれない」 「なら、あえて左を選ぶ必要はないわけか」
バルナバーシュは、腹を固める思いから長い溜息を吐き出した。
「だが、イクトルフの門で私たちはハインに、彼の勝利を託され、それをしかと引き受けている。彼の捨てきれぬ来歴と願いが、この階段の――怨嗟の礎にもなっているなら、仇を取らねばなるまい」 「こ、この馬鹿野郎……! 頑固、クソオヤジ!!」 「馬鹿でなければフェレスの主はつとまらん。それだけ罵倒できる気力があれば、階段までついてこれるな? さあ、立て。左に行くぞ」
出帆とばかりに二人ははかばかしく立ち上がり、ルドがナナヤに手を貸して彼女も引き上げた。真珠母色の神秘の力を発する階段は、どちらも夜の闇へとはるかに続いているかに見える。ナナヤはまなじりを決し、ハインの辿った軌跡を見据えていた。
「今なら、ハインがミュウじゃなくてグッドマンの導きを選んだのが分かるよ。なにがあいつを変えたのかは知らない。ひょっとしたら、あたしと会ったことが原因なのかもしれない……でも、あいつは正体の分からない奇跡よりも、ヒトが乗り越えていく意志ってやつを、最後は信じようとしていた。そして、エターナルデザイアーのために――こんないまいましい階段のひとつになるために、あいつは死ぬ必要なんてなかったんだ。それがあたしの願い……だから、ルド、バルナバーシュ、あんたたちがエターナルデザイアーの復活を望むなら、やっぱり最後までは一緒にはいけない。もしあたしにもフェレスがあったなら、粉みじんに破壊してやりたかったよ。でも今はただ、守りたいんだ。二人が階段を踏み外さないように。二人があたしやハインの希望も見つけようとするのを、あたしの手で守ってみせる」
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shibaracu · 4 years
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●★相撲の呼び方
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●★相撲の呼び方 浅学広知 頭の中を 駆け巡り   自由律 派生して 何処へ行くやら 当て知らず 一捻りしてみた。対した句ではないけど。   面白い言葉がドンドン生えてくる。 頭の中で次から次へと。 時々 ど忘れして思い出すのに一苦労。   「スマヰ」→「すまひ」→「すまふ」→「すもう」 コレは何となく判るけれども「スマヰ」は何処から来たのか。 「スマヰ」と言う言葉が初めから有りそれから派生したのなら解る。 でも何も無いものに名前を最初から「スマヰ」と付けているのはどうも腑に落ちない。 調べても答えは出てこなかった。   「捔力」「角觝」「角力」までは何となく判るけれども 手乞(てごい)これは何か。 ●大東流合気柔術 / 大東流の歴史 / 幕末まで http://www.daito-ryu.org/jp/bakumatsu-made.html 合気の源流をさかのぼれば、古来の手乞(てごい)に行き着きます。 日本最古の書の一つである『古事記』に出てくる建御雷神(たけみかづちのかみ)が建御名方神(たけみなかたのかみ)の手をとって 「葦を取るように、つかみひしいで投げた」という話がそれです。 この手乞は、相撲の始めともいわれ、『日本書紀』に出てくる野見宿禰(のみのすくね)、当麻蹴速(たいまのけはや)の伝説から、 さらに平安時代の宮中での相撲節会(すまいのせちえ)、鎌倉時代の武士の相撲にまで伝承されたものです。相撲節会は全国から力士を集め、 天皇の御前で相撲をとるものですが、今日の相撲とは異なり、土俵もなく、手乞から発した武技の要素が強いものでした。仁明天皇(810-850) の詔勅にも「相撲節は単に娯遊に非ず。武力を簡練する、最もこの中にあり」とあることからもうかがえます。   日本の古武道の総元締めのようである。 縄文ではほとんどが争い事が無くて過ぎ去っていた。 弥生になると貧富の差も少しずつ出て来てトラブルも増え欲も増えてきたのだろう。 其処に手乞(てごい)が登場してきたのだろうね。 何時の時代も欲とトラブルは付いて来る。 手乞(てごい)の奉納が相撲や他の武術に別れていった。 「花道」というものもそのあたりで出てきたのではないだろうか。 相撲と歌舞伎 全然違う道で 今でも使用されている。 色んな物の「捔力」を辿るのも当事者なれば良いけど傍で見ている分には存分 ツマラナイ部分も有るけど。 昔を夢想してみるのもタマには良いのでは無かろうか。 日本を愉しむために。   ●かつてあった いにしえの捔力 相撲 - NAVER まとめ https://matome.naver.jp/odai/2144586653443338701 2018/04/23   ●安岳3号墳相撲図 https://www.kyuhaku.jp/exhibition/exhibition_pre104.html 向き合って対戦する手搏(しゅはく)の図 https://www.kyuhaku.jp/exhibition/images/topic/104/p02.jpg 向き合って対戦する手搏(しゅはく)の図。相撲のルーツに当たるものか?   ●高句麗の古墳壁画 https://twitter.com/i/web/status/818813202481823744 黄海南道 安岳3号墳 中国集安 舞踊塚 集安 長川1号墳 集安 角抵塚 東京城出土「陶製八角壺」の小児角抵図 『遼史』には酒宴の際に契丹人が角抵をした記述がある 鳥居龍蔵「契丹の角抵」『燕京学報』29(1941年)『鳥居龍蔵全集』に再録 塞外民族にも存在した。 https://twitter.com/i/web/status/818813202481823744   ★相撲の呼び方 http://bit.ly/zLBgiN ・「すもう」の呼び方は、古代の「スマヰ」から「すまひ」→「すまふ」→「すもう」に訛った。 ・「捔力」(『日本書紀』)、「角觝」(江戸時代において一部で使用)、さらに漢字制限(当用漢字、常用漢字、教育漢字)により前者の用字を一部改めた「角力」という表記も有る(いずれも読みは「すもう」)。 ・古代には手乞(てごい)とも呼ばれていたと言う説も有る。(手乞とは、相撲の別名とされ、相手の手を掴む事の意、または、素手で勝負をする事を意味する。) ・大相撲を取る人は「力士」(りきし)や「相撲取り」といい、会話では「お相撲さん」とも呼ばれ、英語圏では「相撲レスラー」と呼ばれる事もある。   ★古武道 - Wikipedia http://bit.ly/zobimK 『日本書紀』に捔力で相手を蹴り殺したとの記述があり、この時代の捔力が相撲の起源とする説もある。これは蹴り技など用いていたと推測され、現代の相撲(大相撲・ アマチュア相撲)とは異なるものである。   ★相撲捔力(かくりき)起源神話?http://bit.ly/yaNwpP 相撲(捔力)の起源は約2000年前です 日本初の正史『日本書紀』の中の垂仁天皇紀に書かれています 日本書紀は681年天武天皇の命で編纂が始まり40年後に完成 当時の国際語?であった漢文で記され中国王朝を意識しています   ★角界の源流を探る(1)「久延毘古」考 - 記紀雑考シリア語の残像 http://bit.ly/wPUCXV 日本書紀の垂仁天皇七年「秋七月己巳朔乙亥」(7月7日)の箇所に、今日の相撲のルーツに当たる事柄が載るが、ここで「相撲」が「捔力」に作られるのは、いわゆる月宿傍通暦(http://d.hatena.ne.jp/ywrqa/20090821/1250811501)において、「7月7日」が【角】に当たることと無関係ではないだろう(今日も相撲界のことを角界と言う)。    四方に求めむに、豈我が力に比ぶ者有らむや。    何して強力者に遇ひて、死生を期はずして、頓に争力せむ。 (日本書紀)    誰ぞ、我が国に来て、忍ぶ忍ぶ如此物言ふ。    然らば、力競べせむ。故、我先ず其の御手を取らむ。      (古事記)   ★「相撲の起源」と「花道」について http://bit.ly/y0qOYt 今日は相撲の起源について調べてみました。 「相撲の起源」  相撲は日本で一番古い格闘技で、弥生時代にはその原型があったといわれています。  「すもう」は古くは「すまひ(い)」と言い、日本書紀には「争・捔力・相撲」などの漢字が当てられています。  「すもう」の名前は、「相手の力に負けまいとして抵抗する」と言う意味の動詞「争ふ(すまう)」の名詞で「力や技を争うこと」を「すまい」といったところから「すもう」に  なったようです。   ★花道 - Wikipedia http://bit.ly/y17ZwN 花道(はなみち)は、歌舞伎等が行われる劇場で、舞台から客席を縦断するように張り出した部分。 舞台から一続きの廊下のように見える。 役者が舞台上に出入りするために使い、下手(しもて=客席から向かって左側)よりにあるものを本花道、上手(かみて)よりを仮花道という。 仮花道は臨時に設置されることが多く、常設の劇場はまれである。   起源は能楽の橋懸に由来するとされる。 歌舞伎では花道から登場する人物は、七三の位置(花道を十等分して舞台から三分目と四分目の間)で一旦動きを止め、短い演技(長いこともある)を見せるのが定石である。 本格的な花道には七三にすっぽんと呼ばれる小型のせりがあり、脚本・演出にあわせて使用される。   観客から見て二次元的な存在の舞台上から、役者が客席側に出ることで三次元的な演出を可能にしている点で、演劇史上特筆すべき装置といえる。   ・相撲で、力士が土俵に向かい、また控え室に戻るための道も花道という。 ・転じて、華々しい去り際を言う言葉。ある分野で活躍した人物が、華々しく見送られるときなどに言う。 ・去り際以外にも、華々しい人生の歩み方を言うこともある。   ★相撲節会 - Wikipedia http://bit.ly/yHcWAH 相撲節会(すまひのせちえ)とは、奈良・平安時代にかけて行われた宮中の年中行事。 射礼や騎射(後に競馬)と並んで「三度節」とも呼ばれた。   記紀にも相撲に関する記事が多く見られ、相撲自体は古くから行われていることは確実 であるが、相撲節会の最古の記録は『宮中行事秘事』などに伝えられる聖武天皇の神亀 3年(726年)に諸国より相撲人(今日の力士)が貢進されというものである。   ★相撲節(前) http://tsubotaa.la.coocan.jp/shis/ss03.html ★相撲節(後) http://tsubotaa.la.coocan.jp/shis/ss04.html 日本の史書に「相撲」という文字が最初に出てくるのは、「日本書紀」雄略天皇13年( 469) 9月の記事である。
 韋那部真根という木工の達人がいて、石を土台にして斧で木を削っていた。その達人は日がな一日削っても、斧の刃を欠くことがなかった。 天皇がそこに御幸して、韋那部真根に(怪訝そうに)聞いてみる。「どんなときも間違って石にぶつけることはないのか」と。韋那部真根は「絶対にありません」と答えた。 天皇は、采女を呼び集め、衣裙を脱がせて犢鼻をつけさせ、人の見ているところで「相撲(すまひ)とらしむ」(日本書紀・敬語の助動詞がないのは、 いくら天皇の行為でも感心できぬ場合を記す際には敬語をつけないという語法が平安時代にあるためという)。 案の定韋那部真根はそれを見ながら木を削り、ついつい誤って刃を破損してしまった。 天皇はこれを責め、「不逞の輩め、軽々しくも豪語しよって」と、物部(刑吏)に委ねて処刑させようとした。 この時、同僚の工匠が「あたらしき 韋那部の工匠(たくみ) 懸けし墨縄 其(し)が無けば 誰か懸けむよ あたら墨縄」と歌ってその才能を惜しむ。 天皇がこの歌を聞き、後悔して刑を止めて許した。
 ここに出てくる相撲は「女相撲」であるが、この記事の主題は相撲そのものではない。見るべきは、「褌一丁」の恰好であろう。 但しこのことは、前々項での話題に関連することであるので、これ以上は触れない。   ★すまいのせち【相撲の節】 奈良・平安時代、毎年7月に天皇が相撲を観覧し、そのあとで宴を催す年中行事。26日仁寿殿じじゆうでんで下稽古げいこの内取りがあり、28日紫宸殿ししんでんで召し合わせが行われ、そこで選抜された者が翌29日に「抜き出」という決勝戦を行なった。相撲の節会せちえ。相撲の会え。   ★骨法 (格闘技) - Wikipedia  http://bit.ly/w984HJ 伝承について 奈良時代の神亀3年に志賀清林によって「突く・殴る・蹴る」の三手が禁じ手にされたといわれ、一般的には古代の相撲の異称とされる「手乞」は禁じ手制定以前の、この武術の呼称であるとしている。 純粋な武術を「手乞」・武術を応用した医療行為が「骨法」とする。   ★大東流合気柔術の起源の謎: 合気道ブログ|稽古日記  2013年01月15日 http://aikidoblog777.seesaa.net/article/313612978.html   大東流合気柔術は、武田惣角が世に広めました。   そして、合気道は、植芝盛平 翁が創始しました。   つまり、武田惣角が合気道開祖の師匠で、   大東流合気柔術は合気道の源流となった武術ということです。   ★忍之者と武術 http://bit.ly/ylm9bp その壱:武士と礼節         ・礼式                          ・神前                          ・目上/部下/同輩                          ・立礼/蹲踞礼/座礼                          ・陣中                          ・武器類の取り扱い その弐:徒手格闘(小武器使用を含む)          ・一乗法骨法術 *技法名は、登録字体が無い為に正式な文字でないものも使用している。              手木                            強方 古代には、角力、拳打、手返、手乞等と称されていた、徒手格闘の武術を淵源とされており、従って他の古流柔術や拳法の様に、種々の武器は使用しない。 急所の名称も独特なものであり、柔術によく採用されている揚心流系の名称は皆無である。   ★力士 - Wikipedia http://bit.ly/x9u798 力士(りきし・ちからひと)とは、相撲をする人間のこと。 厳密には、相撲部屋に所属して四股名を持ち、番付に関わらず大相撲に参加する選手の総称。 相撲取り(すもうとり)とも呼ばれる。 しばしば関取(せきとり)と呼ばれることもあるが、元来は大関のことを指す異称であり、現代では十両以上の力士のことを指す。 幕下以下の力士は力士養成員(りきしようせいいん)と呼ばれる。 また、本来は神事に関わる者であるため、日常会話では親愛と尊敬をこめてお相撲さんとも呼ばれる。   わんぱく相撲や大学の相撲部などのアマチュア相撲で相撲を取る者は四股名を持たないため厳密には力士ではない。   ★関取(せきとり)http://bit.ly/xtZaWE 大相撲の番付で、幕内、十両の力士を指す。 これに対し、幕下以下の力士は取的(正しくは力士養成員)という。   ★廻し(化粧廻しを)http://bit.ly/vZl88D 廻し(まわし)は相撲競技で用いられる用具である。ふんどしの一種。 絹で作られ、相撲競技者の腰部を覆い、重心部となる腰や腹を固めて身を護り、更に力を出すために用いられる。 まわし、回し、締め込み、相撲褌とも表記され、 稽古廻しや幕下以下の力士、アマチュア競技者が締める廻しは雲斎木綿または帆布と呼ばれる硬い木綿布で出来ている。 これは転倒時の怪我の防止と身体の保護や取組みでの技を掛けることを目的としている。   ★土俵入り(どひょういり)http://bit.ly/ypDgcb 大相撲の十両以上の力士(関取)が土俵の上で行う儀式のことである。 横綱が行うものは横綱土俵入りとして区別される。   ★大銀杏(おおいちょう)http://bit.ly/vZ4vaB 大相撲において、十両(十枚目)以上の関取が結うことができる髪形である。 また、幕下以下の力士でも、十両との取組がある場合や、弓取式、初っ切り、断髪式を行う際には結うことができる。 髷(まげ)の先端が銀杏の葉に似ていることからこの名がある。 関取でも大銀杏は正式なときにのみ結うものとされており、稽古時など普段の髪形は丁髷である。 力士の大銀杏は江戸時代に武士の間で見られたものとは異なり、前頭部は剃られず月代(さかやき)にはなっていない。   ★付き人(付け人から転送)http://bit.ly/vZrK4C 付き人(つきびと)とは、一般的に、徒弟制度やその流れを汲む育成システムが存在する組織の中にあって、序列・位・格などが上位の者の側について、雑用・下働きを務める者のことである。 いわゆる「かばん持ち」などがこれにあたる。 付け人(つけびと)、内弟子(うちでし)とも呼ばれる。 徒弟制度で人材育成が行われている職種の多くにおいては、“師匠”“先輩”“上司”などの上位の立場にある人間が、“弟子”(直弟子、孫弟子、弟弟子、練習生)または“部下”などの後進の育成を行い、“弟子”は付き人として“師匠”の仕事の補助や身の回りの世話をしながら、その仕事の手順・技法・作法・慣習などといったものを習得し、師弟関係を築き上げてゆく。また、“師匠”が所用で外出したりそもそも外を回る仕事では、“弟子”もそれに付いてゆき、現地でも雑用や下働きなどをこなす。 付き人の仕事については職種によって大きく異なるが、仕事中の一般的な業務補助から私的な小間使いや雑用、移動時の自動車の運転手、ごく簡単なレベルの身辺警護、自宅に住み込んでの身の回りの世話など多岐にわたる。   ●師弟(してい)とは、師匠(ししょう)と弟子(でし)のことを指す。   ●部屋子(へやご)   https://ja.wikipedia.org/wiki/部屋子 1.部屋住み。親がかりの人。子供が自立できないで親に養われながら親元で暮らしている状態を指す。 2.江戸時代、大奥や大名屋敷などの御殿の奥女中に仕えた召使い。部屋方。 3.武家屋敷の奉公人の部屋にいる居候。 部屋子(へやご)は、日本の伝統芸能において師匠の楽屋に入り必要なことを学ぶ見習いの立場、またその制度。歌舞伎の場合は、子役の時分から幹部俳優の楽屋にあずけられ、鏡台を並べて楽屋での行儀から舞台での芸など、役者として必要なことを仕込まれる立場を指す語である[3][4]。 さらに養子となり本来世襲される家の芸を継がせる場合には芸養子と呼ばれる。 現代における部屋子の代表的な例として、三代目市川猿之助(現・猿翁)の部屋子として頭角を現し、関西の大名跡を継ぐに至った三代目市川右團次や市川弘太郎といった澤瀉屋の門人。一般家庭から十三代目片岡仁左衛門の部屋子となり、その後二代目片岡秀太郎の養子となった六代目片岡愛之助などが挙げられる。近年では、子役タレント事務所から歌舞伎公演出演を経たのちに特定の幹部俳優に入門して部屋子となるケースが増加している   ●破門(はもん)は 1.仏教において、僧が所属する教団や���派から追放されること。僧として受ける最も重い罰とされる。波羅夷(はらい)にあたる。大乗仏教ではあまり聞かず、上座部仏教ではさかんに行使された。 2.キリスト教の一部教派およびユダヤ教において、異端的信仰をもつ信者になされる措置である教会戒規のひとつ。いわゆる中世暗黒時代には、さかんに行われた。 3.芸道や武道の世界で、弟子が師匠、宗家、家元などによってその流派を追放されること。仏教の破門からの転用。 4.ヤクザ世界において、組の構成員がその組織から追放となる処分の一種。   各業界においてもこのような役割の人々が存在する。
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lostsidech · 6 years
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2: こちらハートのクイーン(2/3)
 ペアと後輩がどこにいるのかと思えば食堂で普通に楽しそうにお茶していたのでさっさと完食させて最上階まで引き立てた。翔成は正規会員ではないので本来ゲストカードなしに使ってはいけないのだが、どうせ会員たちもバッジをつけないことがままあるので後輩の姿は工夫することもなくその場に紛れていた。
 莉梨に呼ばれたことを伝えながら会長室に戻ると、何か言い合うような、女の子同士の会話が聞こえる。
 少し迷いつつ、二重扉を押し開けたとき、
「――瑠真ちゃん待って!」
「うーっ!!」
 二つの声が同時に鼓膜に突き刺さった。動物のような、と呼ぶにはさっきよりはいくぶん人格の存在を感じる唸り声だった。けれど同じように、黒髪の女子高生が瑠真に肉薄している。
 瞬間的に足がすくんだ。莉梨の傍から浴衣をはだけさせて駆け寄りながら、彼女は会長室の机に置かれていたカップを片手で掴み、武器のように振りかぶろうとする。
 場数というかペアのほうが反応が早くて割り込むように瑠真を押し退けた。瑠真もはっとして拘束用ペタルを練る。が、
「〈だめ。止まって〉」
 莉梨のりんとした声が響いたとたん、浴衣の少女が動きをとめた。
 目の前でぴたりと立ち止まった彼女は、まるで踏み出す力を失ったみたいにがくんとよろめいて手を下ろした。
「〈落ち着いて、武器を置いて〉」
 床の上にかしゃんとカップが落ちた。燃えていた彼女の目がゆっくり、炎の消えるように平常に戻っていった。
 ようやく、変にぎらついた光のない、理性のある瞳で彼女と向かい合った。
 少女は沈黙していた。少女にしてはやや筋肉質な印象もあるが、丸腰の、普通の女の子だ。さっきまでの怒りを持て余したように、頬は赤く染まっていて、こちらを見据える瞳を外すことはない。
「やっぱり特殊な方式の洗脳でも受けているのですか? 〈戻って。ここに座って〉」
 莉梨は立ち上がって、背後から少女に手のひらを向けていた。その声が強く響くと、少女はわずかに唇を噛んでゆっくりと背を向け、音もなく莉梨が指した茣蓙の上に戻る。
 望夢が力を抜いて場所をあけた。まだどきどきしながら壁沿いに会長室の中に入る。
「歌じゃなくても言うこと聞くの……?」
「そういう立場に置きました。私の言葉にだけね」
 あまりに強力な命令状態に戸惑った瑠真が疑問を口に出すと、莉梨が少しのあいだだけ目を離して簡単に答えた。
「女王のカリスマと仮称しています」
「何、それ」
 眉をひそめるが、莉梨は集中を少女に戻したらしくレスポンスが遅れた。邪魔するわけにもいかないのでもどかしい沈黙が落ちる。
 代わって横から静かな解説口調が飛んできた。それだけなら予期の範囲だったが、口を開いたのは意外というか、後輩の少年の日沖翔成のほうだった。
「莉梨さんの独自術式です。おれも電話づてで多少勉強したくらいなんですけど。『ハートの女王とタルトのジャック』、マザーグースの一編を取って、『罪人』認定した相手を強制的に改心させるカリスマ術式……」
 後輩の整然とした説明口調にも驚くものがあったが、それ以上に内容の不穏さに眉根を寄せる。つまり敵に言うことを聞かせる力っていうことでいいのか。
「翔成くん、説明ありがとう。正確には、『私を害することができない』のが女王のカリスマです」
 莉梨が真面目な口調で向こうから同意を寄越した。
「さっきのうちに『言うことを聞いてくれないと私の心が痛む。私はそれで死んでしまうかも』って言い含めておきました。効果を見る前に瑠真ちゃんが入ってきたから、十分かどうかひやひやしたわ」
 浴衣の少女がぎりっと奥歯を噛み締める音がここまで聞こえた。理由は分からないが聞く胸がざわざわする。
 莉梨が振り向いて、少女に話しかけた。
「あなたの名前は?」
「スズ。寿を重ねて、寿々」
 最初の発言だった。ごく論理的な普通の口調だ。声音としては、少女としてはやや低めかもしれないが特段変わったものでもない。
「寿々ちゃん。あなたが私の〈ジャック〉です、いい?」
 どんな顔で眺めていいのか分からなかったのでペアのほうを振り向いたが、瑠真より多少は詳しいはずの相方の少年もこのあたりは初耳のようで肩を竦めた。仕方がないので壁際から動けないままとりあえず静観することになる。
「寿々ちゃん、自己紹介を」
「……倉持寿々(くらもちすず)、一七歳。扶桑高校の二年」
「扶桑ってあの、有名な女子校ですか? ふむ。ええっと、それがどうして七花(なのか)中の門前で待ち伏せなんか?」
 莉梨は不思議そうな顔をして、すぐに核心的な質問に踏み込んだ。寿々は答えるというより、俯いて、ただ相手の言葉と、己の内にあるもので葛藤する痛みをこらえるような顔をした。
「そこの女の子が、七花西に通ってるって聞いた」
 全員の視線が瑠真にちらりと向いた。瑠真は思わず後ずさりかけた足を踏ん張って、ごくりと唾を飲んだ。
「私?」
「……明確に、あの子を狙っていたってことでいいのですか? 彼女のフルネームは言える?」
「……七崎瑠真」
 知られている。空気が凍っていた。
 瑠真の心臓が早鐘を打つ。喉元に感情の塊がせり上がってくる。
「あのさ」
 その塊に押し出されるように口を開いていた。
「アンタは、何を考えてるの?」
 寿々の瞳がこちらを見た。またぎらりと双眸が光る。
「アンタは、何?」
 空調の静かな音が白い部屋を満たした。
 どうして私なのか、と思っていた。彼女が瑠真を見る目に明確に意思がある。この子は……この、迷いのない視線は、何なんだ。どうやったら、そんなに。
 少し遅れて、莉梨がもぞりと身体を動かした。それで気が付いた。たぶん莉梨に直接帰属する質問ではないから、寿々には答える強制力が働かないのだ。けれど浴衣を着せられた黒髪の少女の瞳には、何か葛藤するような色が勝手にひらめく。
 葛藤は一瞬だった。自力で覚悟を決めたらしく、真っ直ぐにこちらを見た少女の瞳には、最初に見たような、明確な怒りの炎が傲然と燃え盛っていた。
「私は倉持寿々だわ。それ以上でも、それ以下でもない」
「なんで」
「なんでそんなことが言えるかって? あなた、どんな人間かと思って会いに来てみれば、ずいぶん軟弱で、ひよひよの赤ちゃんね」
「何?」
 声が裏返って詰まった。初対面の奇襲犯がなんて言った?
 寿々は莉梨によって座らされていた場所からふらふらと立ち上がって、床を踏みしめた。数メートルの距離を挟んで少し高い目線が対決するように迷いなく挑んだ。
「私、自分のために世界を捨てたのよ。私ひとりになって裸で向かい合ってるの。そうやってこの身体の全部で人を好きになった」
 ざわり、と会長室の空気が揺れた。それは瑠真の心象の問題だったのか、それとも全員がぴくりと反応した総体の結果だったのかは瑠真には分からない。
 何を言っている、この少女は?
「私はただの倉持寿々。嘘、名前だってどうでもいい。ただ、好きな人を好きなだけの私。そのつもりで……そのつもりで、戦うつもりで来たのに、あんたはずいぶんつまんない奴ね!」
「寿々ちゃん!」
 莉梨が論理的な答えを要求するように、手厳しく口を挟んだ。彼女に向かって白い手のひらを向けると、寿々が力を削がれたようにがくりとよろめいた。
 だが彼女はその場で踏みとどまって今度は莉梨を睨んだ。莉梨がその視線を受けて初めて、ぱっと怯んだように肩を強張らせた。
「あんたもいい子ちゃんなお人形さんだわ、ホムラグループ」
 聞いている瑠真のほうがぎょっとする台詞だった。莉梨にはたてつかないんじゃなかったのか。
 寿々は折れようとする足を支え、目を逸らそうとする頭を縛り付けるように、全身を震わせながら莉梨を見据えていた。その顔のうえにも、違う種類の感情がないまぜになって入れ替わるような小刻みな変化が何度か行き過ぎる。けれど視線だけはぶれない瞳の中から、何ともつかない透明な涙がひとつころんと零れ落ちた。
「ホムラグループもそこの女も、仲良しこよしばっかりで馬鹿みたい!」
 思ってもみない言葉だった。そこの女と示されたのはたぶん瑠真だ。瑠真は人と仲良くしようとした記憶がないし、莉梨に至っては今日が初対面だ。
 思ってもみない――的外れな言葉なら無視すればいいだけなのに。なぜか足が竦んで――
 寿々は一体、何を見ている?
「〈女王に向かって不敬です!〉」
 外から鋭い言葉が飛んだ。
 それは莉梨が唱えるような不思議な響きを帯びていたが、莉梨からではなかった。莉梨は寿々の言葉に叩かれたみたいに手を差し出したままぼうっとしていて、その叫びに我を取り戻したようにさっと頬を赤らめて振り向いた。
 日沖翔成が瑠真の隣から踏み出していた。斜め前の望夢のあたりに並び、寿々に右手を向けている。何か効果を持っていたのかただ驚いたのか、とにかく寿々はばちんと口を噤んだ。
 近くにいた望夢も隣を見てゆっくりまばたきしている。
「翔成、お前」
「おれ、たぶん、汎用からの推測しかできませんけど。莉梨さんのカリスマ演出効果って、他者由来でも働きますよね?」
 後輩はそこで咳ばらいをした。瑠真には何も分からないが、つまりホムラグループの方式の妖術というやつなのだ。少年は改めて、台詞を読むように仕切り直す。
「だったらおれは〈ハートのキング〉、でしょう? これ、恥ずかしいな。莉梨さん、自分でやってください」
「……ええ、うん、ありがとう」
 莉梨が頬を紅潮させたまま姿勢を正した。改めてスカートを翻すと、寿々を見つめて一言一句、ゆっくりと唱える。
「〈私は女王、あなたはジャック、ケーキを盗んだ罪の人。悔いて改め、罰を受け、女王の命を受けなさい。〉寿々ちゃん、はっきりさせておきましょう。あなたの好きな人というのは、何?」
 当てつけのごとき質問だった。莉梨のペリドット・アイと見つめ合う、寿々の瞳にはいっぱいの涙が溜まっていた。きっとせめぎ合う痛みをこらえる顔。
 ただただ見ているしかなかった瑠真のほうが、一瞬心臓が焦げた。ぜんぜん分からない、寿々が言っていることも気持ちも何も理解できないけれど、……こんなことを、言わせてもいいのかって。
 あなたの好きな人。それはきっと、瑠真だったらまだ訊こうとも思わない世界のことで。
「カノ」
 答えは、端的だった。
 寿々は今にも気を失いそうな蒼白な顔に、一片の迷いのない強さだけを込めて、もう一度その名前を繰り返した。
「ヒイラギ会の、『ワールドエンド』カノよ」
 ×××
  古人が愛を語った末に死ぬとか水に入るとか、正直暇を持て余した知識人一流のジョークなんじゃないかと長いこと思っていた。人生経験そう長くないが、他人がどうのを言う前に命の危険が多い生き方だ。個人的な好き嫌いはあれど、それより我が身を優先するのは生物の前提だと高瀬望夢は思っていた。
 あんな死にそうな顔をして他人(ひと)の話をする人間が実在するんだな、とそういう感想を呟く。
「それはおまえの視点も特殊な感じがするよ……」
「カナお前、何わかってんだよ」
「カナ言うな」
 ペアの後輩の少年に、気の抜けたタメ口で呆れられた。先輩ぶってつま先で小突くと嫌がって押し退けられる。
 それ以上ふざけている気分でもなかったので、ふうっと息を吐いて椅子に背中を預けた。
「翔成、汎用帆村式ってやってんの」
「……あー、ええ、理論だけ」
 椅子の背に頭をひっくりかえしてごろんと横に向けた。静かになった布団の上に浴衣で黒髪の女子高生がすうすうと寝息を立てている。
「じゃあお前があいつの思念判定するとか、そういうこともできるんだ」
「理論だけ、って言ったじゃないですか。具体内容読むとか、そこまではまだ。薬物補助使えば別ですけど」
 否定の説明を聞き流しかけて、それから頭を起こした。「薬物?」
「前のと違って危なくはないので安心してください。適当に使っちゃいけないだけ。おれ、最初にバイタライザーから生成入ったから、類似の刺激を与えたら集中がしやすいみたいなんですよね。どっちかっていうとペタル式の理論になっちゃいますけど」
 ペタル式、バイタライザー。二か月前までずぶの素人だったはずの少年の口からなめらかに業界用語が流れ出してくる。それはつまり彼の世界解釈の形成を示していた。
 二十世紀以降の人類に最も広く浸透する解釈ベースは自然科学だ。自然科学的法則に対し、他の解釈、他の世界の捉え方を容認した人間は、しばしば外れた現象を引き起こす。これが歴史慣習的に総称として異能と呼ばれる。概ね、それら思想の内容をおおまかに括って分類したのが勢力だ。
 ざっとした傾向として、自身の内の想像に信を置くのが協会式。逆に外部現象の解析を基準にするのが高瀬式。翔成が選んだはずの帆村式なら、どちらかといえば、他者の目に映る世界の在り方を軸にして世界を形成���ることになる。
 他者の目に映る世界。
「ヒイラギ会は、」
 その名を口にしたとき、声音が少し乾いていた。
「どういう思想ベースなんだろうな」
「知りません。訊いてみたらいいんじゃないですか」
 翔成は淡白だ。が、解析情報が命になる秘術師の望夢としては、敵対者の解釈理論は常に最も知りたいものの一つだった。
 カノ、と言った浴衣少女の声音をもう一度再生する。ヒイラギ会のために動いていることは間違いなさそうだ。だが、介入していた莉梨が一度、それ以上の引き出しを打ち切った。寿々の脳処理が一度限界に近づいていたからだ。
 でも、こっちだって休憩が必要だった、と望夢は思う。
 それは望夢にとっても多分に不吉な焼き印として心臓を焼いた。ヒイラギ会のカノ。
 今朝聞いたばかりの不穏な話。南天決起会とヒイラギ会の線対称。
「瑠真にはこれ以上聞かせたくない」
 ぽつんと呟く。後輩は細く、長い息を吐いて、おそらく、突き放した諦めのようなものを示した。
「瑠真さん、前にも言ってました。もしかして、山代さんってやつの関係ですか?」
「……たまたま、名前が似てる。二文字なんて重なってもおかしくないけど」
「だけど、意図があるって疑ってるんですよね」
 瑠真は部屋をあけていた。
 帆村莉梨は気を遣ったのか、彼女を追いかけて様子を見に行っている。
 不憫だな、と思う。あの強気な暴れ猫が、完全に「これは駄目だ」という蒼白な顔をして部屋を出ていった。「ちょっと席あける」と変に淡々とした口調で言い残して。「すぐ戻る」
 莉梨が再び寿々を眠らせ、瑠真を追っていってからすでに十分。手を洗いに行ったとかの話ではたぶんもうない。
「誰が主導してるのかまだ分からないけど、めちゃくちゃ悪趣味だ。ちらつかせてくる内容が、ぜんぶ俺たちを刺激するために作られてるようにしか思えない」
「『俺たち』って?」
「だから瑠真と、俺。あと春姫も」
「……共通の知り合いなんですか? 差支えなければ聞いても?」
「え。そっか」
 目を緩慢にしばたいた。ほんとうに詳しくないのだ。そういえば高瀬家と違ってホムラグループには山代姉妹をことあるごとに気にする積極的な動機は特になかった。こと翔成が関わった五月のヒイラギ会騒動についても。
「妹が瑠真の友達。今は行方不明だ。会員だったから春姫も認識してる。姉は……俺の知り合い」
「名前が似てるっていうのは?」
「姉が��乃。だけど」
「騙りで釣ってる可能性もありますよね?」
「本人なわけがない。華乃は死んでる」
 普通に返事したつもりだったのに自然と強い語調になった。
「華乃とか、美葉乃とかっていう名前を使ってあいつらがこっちをからかってるんだ。調べれば出てくるよ、あいつら去年八月のニュースで名前出てるから。っていうか」
 好きな人って。と続けかけて、自分でぱたんと口をつぐんだ。人の惚れた腫れた自体にどうこう言える立場ではない。
 単純に、倉持寿々の瞳の強い光が気になっていた。莉梨も「洗脳」と疑っていた。
 首謀者が誰にせよ、それがいちばんきな臭い。望夢が公平性を旨とする警察出身だからそう思うのかもしれないけれど……個々人の「好き」「嫌い」っていう感情を係累にして勢力を構築するのは、外法だ。暗黙の禁じ手だ。
 そんなことはないと信じたいけれど。眠る女子高生をぼんやりと眺める。
「おまえも」
 ふいに翔成に声をかけられた。翔成は基本的に敬語を使うけれど、望夢に対しては最初がそうだったから気恥ずかしいのか人称や呼び方がやや無遠慮だ。
「おまえももっと悩んでいいことじゃないの」
 その口調で、伝えられた言葉が何を示しているのか分からなくてしばし固まった。
「悩んで?」
「悩んでっていうかさ。おまえは瑠真さんが心配だって言うけど、おれからしたらおまえも心配ですよ」
「……、そう」
 そうかなと訊き返しかけて、でも一般人に近い感性をもった翔成からすればそうかもしれないと思い至った。知り合いの名前を騙って釣られているのは望夢も同じだ。高瀬望夢は生まれたときから出会う相手出会う相手、一年後には生死なんかわからないだろうという前提をもって生きてきた。たぶんそれは現代日本社会においてあまり常識的ではない。
「俺は平気だよ。慣れてるから」
 平易な言葉でそれを説明したつもりだったが翔成はあまり信用の伺えない目をしていた。
「慣れちゃだめだよ、そんなもの」
 迷いのない言葉だ。静かな声だった。会長室に他の聞き手はいない。
 望夢は後輩を黙って見つめ返した。勢力戦における後輩である翔成はときどき、ひるがえって普通に生きていくための人生にかけては、自分より先輩なのかもしれないと思うことがある。
 それをいちいち言葉にすること自体が傲慢なのだと思うけど。
 ×××
 やってしまった、ついに。鏡に向かって心の中で言う。
「瑠真ちゃん」
 追いかけてきた莉梨が明るい声で呼んだ。「ああ、うん」肩を強張らせて振り向いた。女子手洗いの入り口ドアから金髪の頭が覗いている。
「あの寿々って子、置いてきていいの」
「眠ってるのを確認しましたし、望夢さんと翔成くんが見張ってくれてますから。お邪魔じゃないですか?」
 桃色の扉をするりと潜って入ってきた莉梨が、通路すぐにある休憩椅子に腰かけた。瑠真も断りがたいのでしかめっ面をしつつ隣に座ることになる。
「気を遣わなくても、平気だよ。ちょっと考え事をしてただけ」
「いえ、私が不勉強なので教えてほしいと思って来たのです。寿々ちゃんの言い分をどう思うかってことについて。もう一回質問を始める前に」
 滑らかに述べられた莉梨の言葉が的確に瑠真の面子を立てていた。さすがに思念操作とか大声で言うだけあるな、と瑠真は苦々しく思う。やってしまった、って、会長室で狼狽を見せたあとに思ったのだ。個人的な動揺で話の腰を折り、流れを断ち切ってしまった。みんな冷静だったのに。莉梨はそのあたりのフォローに来たのだ。
「ヒイラギ会ね。分かんないよ」
 ひねくれた口調で答えを探す。
「なんで私に……狙ってやってるなら、いい趣味だなって思う」
「怖くないですか?」
「実感がない。だって何もしてこないじゃん」
 名前を知ってから今日までの二ヶ月。あるいはその前の二ヶ月。
「むしろ来るなら迎え撃って、正面から何が何だか訊いてやるって思ってた。だけど何もなくて、今になって知らない女の子なんか寄越して」
「なんで瑠真ちゃんが、とは私は思いません。私だって瑠真ちゃんのことはずっと気になっていたからです」
 莉梨はしっかりとした口調で言った。
「むしろ不思議なのは、どうやってあなたを見つけたのか、のほうです」
「……」
「ヒイラギ会の活動以前にあなたがしたことは、せいぜい三月の秘匿派対戦に参加したことです。それは春ちゃんも秘匿派警察も黙っていたし、監視はあったとしてもあなた一人に注目が集中するのは不自然。たぶん春ちゃん、あの夜協会から信用できる所属者をこぞって駆り出したでしょう? 私が春ちゃんへの牽制として選ぶのなら、もっと有名なペアにします。望夢さんへの、というのなら分からなくもないけど……」
 そこで少し言い淀んで、
「いいえ、あんまり分かりませんね。当事者の誰かから直接聞いたのでなければ、瑠真ちゃんは当時のペアとしてあの場に呼ばれていた程度の認識になるでしょう。それに、あの時点以降、望夢さんは完全に権威から切り離された一個人になっている。ヒイラギ会が対象をあなたに決めた経路は、そこではないと思います」
 莉梨は後半から早口になって言い終えた。ずっと聞きやすいと思っていた莉梨の説明がそのあたりから分かりづらくなったので瑠真は顔をしかめた。
「つまり、どういうこと? 私は大したことやってないのになぜかあの寿々って子に恨まれてるって話じゃないの」
「……だから、そこに個人の感情があるような気がする、ということです」
 莉梨は何か間違いを指摘されたかのようにさっと頬を染めて慌てて言い足した。言い分自体は寿々の言葉から連想したものに近くて瑠真はぐっと奥歯を噛んだ。
「客観的利害だけではあなたまで行き着かない。ごく私的な人間関係を経由して興味を持つような存在なんです、あなたは」
 それが何か、と考え始めるとどつぼにはまる。
 莉梨の意見を訊こうとして顔をあげてから、莉梨が口を滑らせたとでも言いたげに綺麗な瞳をぱちぱちさせて逸らしてしまったことに気が付いた。怪訝な顔で目の前の女の子を見つめる。これは帆村莉梨が、ヒイラギ会について考察しているというよりも、なんとなく、
「莉梨ちゃんの話?」
「きゃん」
 変な声をあげて莉梨が小さくなった。別に責めたつもりもなかったので瑠真のほうが困る。
「そう聞こえましたよね。自分のことになっちゃってすみません」
「いや、いいけど……でも逆に、言いたいことがあるんだったら言って……」
 莉梨はこれではヒイラギ会とかいうやつに共感を示しているように見える。身柄を狙われている瑠真としてはあまり心穏やかではない。
 莉梨はしばらく迷うように視線を泳がせていたが、やがてこほんと咳ばらいをすると、背筋を伸ばして前を見た。瑠真のほうではなく、向かいの壁の洗面鏡を見つめるような恰好だ。
 色素の薄い頬がほんのりと桃色に染まっていた。
「私、ホムラグループ内でも友達少なくて。八歳のとき、望夢さんに会って、初めて同い年で、同じ立場の友達ができたって思ったんです」
「……あー」
 八歳の高瀬望夢。というビジョンが思い浮かばなくて一瞬取り残されたが、なるほどそういえば八歳なら当然望夢は高瀬家の跡継ぎ的なポジションのはず。ホムラグループ社長令嬢の莉梨と同じ立場といえばそうだろう。ペアとして雑に付き合っているとそのあたりの設定(設定?)を忘れそうになる。
 それ以前に、莉梨に友達がいなかったというのが意外だった。瑠真には笑顔でぐいぐい来るのに。
「だけど、次に会ったら、あの人、立場がぜんぜん変わってたでしょ? 莉梨とおんなじ大きな名前の責任者だと思ってたら、いつの間にか複雑な立ち位置になってるし、本人が代表とかじゃなく個人を名乗って飛び回るようになってるし。びっくりして事情を聞いて……それで、瑠真ちゃんのことを知ったんです。どこの誰でもない、ただ自分であるだけのあなたを」
「え。次に会ったときって、いつのこと?」
「すみません、語弊がありました。あの人の出奔を聞いて調べたのが先。二回目に会ったのは、今日です」
「二回目?」
 瑠真の声のほうが裏返った。学校帰りに合流した望夢と莉梨の態度を思い出す。もっと気心が知れているのかと思った。
「八歳で初対面で、次が六年後……」
「そう」
 顔だって忘れてしまう、と瑠真は思う。いや莉梨に会っていたら目立つから覚えていられるかもしれないけれど。八歳のときにそもそも友達と呼ぶほどの友達がいなかったので瑠真が比べるのは無粋かもしれない。
 十歳で会って去年まで一緒にいたあの子にだって、何を感じていたのか分からなくなりつつあるのに。
 気が滅入りそうだったので早めに切り上げた。
「じゃああの寿々って子、何を勘違いしたんだろ」
 雑談に飛んでいた話の軌道を修正するつもりで、会長室のやり取りに意識を戻した。莉梨がきょとんと振り向いた。
「勘違い?」
「仲良しばっかりって。私あれ、莉梨ちゃんが違う勢力とずっと仲良くしてるからだと思ってた。ばっかりって……言うほど、じゃないよね。春姫とも喧嘩してたし」
 正確には春姫が一方的に威嚇して喧嘩モードだったのだが、表現を省いた。協会と仲良くしているというほどのことには当たらないはずだ。他にもやや後ろ暗い部分をわざと省いたのを言い終えてうすうす自覚した。違う、そういえば、自分にも何か言われていたのを棚に上げている……
 莉梨にそれを指摘されるかと思いながら伏し目をあげると、莉梨は固まっていた。
「莉梨ちゃん?」
「あっ、はい」
 停止モードから再起。
「寿々ちゃんについては、もう一回きちんと調べましょう。その結果として、何が出てくるかまだ未知数だけど」
 莉梨は立ち上がってスカートの皺を伸ばすように裾を払った。そのまま戸口に向かう。話を誤魔化されたような気がする。
「私は戻るけれど、瑠真ちゃんはどうしますか。一緒に話を聞きますか」
「決まって……」
 追いすがって廊下に出ながら、勢い込んで肯定しかけたが、ぱたっと返事をとめた。
 廊下の正面の大窓の端に、ひらりと合図のような手のひらが翻ったような気がしたのだ。自然と足をとめて見つめると、反射光に黒髪の少女の姿が映り込んでいた。春姫だ。
 廊下から繋がる階段の踊り場の壁に背中をもたせて、窓越しにしいっと人差し指を立ててくる。
 莉梨の角度からはちょうど見えないのか、彼女は気づいていないらしい。振り向いて示すのもためらわれて黙っていると、瑠真が迷っていると受け取ったのか、莉梨は事務的な口調を作った。
「正直な話、寿々ちゃんはあなたを見ると平静を失います。正しい情報を引き出すなら、離れていてくれたほうがいい」
 お題目なら要らない、と言葉は浮かんだが、言いきれなかった。春姫のことも気になったし、同時に寿々の強い目も思い出す。目覚めれば何度でもあの視線を向けられる。尋問には邪魔だというのも正しいだろう。それは何度でも、こうあろうと思ってきた瑠真なら立ち向かわなきゃいけない敵のような気がするけど。
 あの目に、どうやって勝ったらいいのか、まだ瑠真には分からない。
「私」
 せめて鍵をひとつ伝えておこうと思った。声が震えないように押さえられたかどうか。
「誰かが、私の友達の名前、勝手に使ってると思う」
 ヒイラギ会のカノ。聞き覚えのない電話の声。八月の女の子っていう謎かけ。一年間消息のな���美葉乃。
 莉梨はどこまで知っているのかまだ分からない。けれど、その一言を聞いてぱっと理解が及んだように金髪の房を跳ねさせた。
「分かりました。あなたはどこかで待機していて。情報が出たら持っていく。友達のこと……任せてください」
 任せてください。そう言われて少し違和感はあった。瑠真は何も美葉乃の面倒を見るような立場にいるわけじゃない。
「大事な友達なんですね」
 莉梨が言った。
 違う、と言おうとして、じゃあ何なのか、自分で分からない。
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3巻 もくじ
シリーズ一
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lostsidech · 7 years
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5:All Desire
 帰る途中でふにゃふにゃ言いながら意識を失ったことを覚えていて、その時の顛末をはっきり自覚していないがおそらく先輩に背負われた。
 次に目を覚ましたときには翔成の感覚には柔らかすぎるような布団の感触に包まれていて、嗅ぎ慣れない生活圏の、たぶん女の子の部屋の匂いがした。
「……無神経じゃないですか?」
 女子寮で一人部屋って言ってたような。枕に沈んでいた横顔を起こしてぼそりと言うと、低い座卓でスマホを弄りながらマグカップを傾けていた先輩が顔を上げた。
「あ、起きた」
 日常会話のトーンである。キッチン付きワンルームの屋内は一人で暮らすには十分かもしれないが二人分の人間を容れるにはやや手狭だ。もちろん三人目以降の姿はない。
「……高瀬は?」
「電話の発信元巡り」
 顔をしかめて思い出しながら身体を起こす。確か意識が落ちる前に翔成の携帯を預けていた。ヒイラギ会の現行唯一と言っていい手がかりだ。
 腰を上げて近づいてきたベッドの隣で膝を折った。
「もしかして治癒系とかなら私より得意なんじゃないの。怪我の治り早くない?」
「……まぁ」
 痛みそのものは消えていないが、確かに体感的に覚悟していたより楽になっていた。睡眠による自然治癒だけではないだろう。医療グループの息子なんで……と軽口を叩きかけたが、やめた。それよりも訊きたいことが色々ある。
「ヒイラギ会……何かわかりました?」
「調べてはみたんだけど、フツーな名前でピンとこない。実働組からはまだ連絡ないし。私も追いかける方に入りたかったけど……逆でしょ、役割」
 逆ではないと思うが。実働組というのは高瀬望夢とバイクの用心棒ということで良いのだろう。
 七崎瑠真は二つに結んだ髪の毛の先をいじりつつ唇を尖らせる。
「ヒイラギ会っていうの、私のこと調べさせてたんだよね?」
「……です」翔成も行動を追うように言われたのでやや後ろめたさがある。たまに会いに行って電話に辻褄を合わせたくらいで、大して実行はしなかったが。
「どうして?」これは瑠真からの質問。
「特別だから……だと、思いますけど」返答しながらまだ少し喉が詰まった。「高瀬の家の騒ぎで、瑠真さんが明らかに神名さんの指示を受けて動いてたから、何者なのかって思われたんだと……」
「それ、相手が言ってたの?」
「えっ……ええ、そうだと思います」
 一月間で小出しに情報提供されたので、まとまった組み立ては翔成のほうでやったかもしれない。だが、そういうことだと解釈して電話の声と話をしてきたし、齟齬が生じることは特になかった。だから、そう思う。
 思っていたが。
「知らないのかな……」
 瑠真が苦虫を噛み潰したような顔をした。
「翔成くん、山代美葉乃(みわの)とか、華乃(かの)って名前をどこかで聞かなかった……?」
 不審な問いかけだった。
 翔成は首を傾げる。電話越しのやり取りでは瑠真と望夢、それから神名くらいの名前を教えられた程度で、おそらくその人名には聞き覚えがない。
「八月の女の子」
 瑠真が続けた。
「あんまりたくさんは言いたくないけど、ちょっといろいろめんどくさい話のある……友達。私が望夢のときに首突っ込んだのはその子に関係があったから」
「……知らない、と、思います」
 初耳だった。七崎瑠真が特別扱いをされていたのではなく、別の誰かを媒介していたということか。翔成に対して伏せられていただけで、ヒイラギ会は理解していたかもしれないが。
「やだな、分からないの」
 瑠真が苛立った語調で呟いた。
「翔成くん、ちょっと付き合って」
「何に?」
「頭の整理。杏佳ちゃん、あのメールこっちに送ってくれないかな」
 キョウカというのも知らないが友達だろうか。瑠真はなんとなく上の空だ。
「何日か前に、協会あてに、ホムラグループに気を付けろってメールを貰ってるんだよね。ホムラグループじゃないか……何だっけ? 医者じゃなくて……ともかく」
 翔成が目をしばたいていると、少女は頭を振って仕切り直す。
「この直後にホムラグループの依頼があったから、私は最初からホムラグループを警戒してた。それからアンタが望夢にちょっかいかけに行ったから、本拠地に乗り込むことになった……私、これ全部同じ誰かがやってるんだと思ってたんだけど、違うの?」
「違うのって……」
 翔成は返事に窮した。半分が知らない話だった。
「おれではない……としか」
 なるほど、翔成自身が先輩に与えた情報量から見込まれるものより、どうも積極的に動いている気がすると感じていたが他にきっかけがあったのか。翔成はヒイラギ会の一つの駒でしかない。翔成がやったのは一人でできる範囲、ヒイラギ会とホムラグループに喧嘩を売ることだけだ。協会にメールを送るだとか、依頼を出すだとか、そこまでの手回しが中学生一人の発想でできたわけがない。
 瑠真は何やら考え込んでいた。
「……これ、私の頭が悪くて、予測も何もなくただ怪しい名前を結びつけてるだけだったら言ってほしいんだけど……ヒイラギ会が私宛てにメールを送ってたってことは考えられる?」
 冗長な前置きだった。この正誤に自信がないから話していたらしい。
「はぁ」
 ぼんやりとした相槌を打ってから考えたら、ふと背筋が冷えた。
 ヒイラギ会が翔成に情報を統制し、瑠真に接触させたうえでホムラグループを警戒させるような文言を送っていたとしたら? それは最初から翔成を捨て駒にしていたのと変わりがないのではないか。ホムラグループの関係者である後輩を、彼女に疑わせるという策謀。
「わかんないな。とにかくこのピリピリしてるのが済んだら児子でも誰かにでも訊かなきゃいけない、美葉乃のこと」
 瑠真が小声で言って腰を上げた。机の上に置きっぱなしたスマートホンが震えてランプを点滅させている。
「実働組ですか?」
「うん」
 電話の相手は高瀬望夢らしかった。砕けた調子で通話を取った少女が立ったまま目をぱちくりする。
「児子から連絡があったの? アンタにどうやって?」
『翔成の携帯宛てに。家族経由で調べたんだろ』
 瑠真が音声をスピーカーモードに切り替えたので、その説明から翔成の耳にも状況が届いた。
『ホムラグループで作られたバイタライザーの生産数の齟齬を調べたらしい。こっそり融通してたのはそのヒイラギ会とかいうやつだろ? 流通記録とか、社員の記憶から出てきたって』
「まだ記憶を探ったりなんかしてるの……」
『自発的に協力する奴がいたから俺のせいじゃない、なんて言い訳してたよ。お前が会った社員じゃないの?』
 瑠真が複雑そうな顔をした。翔成の知らないところの話になっている。なんにしろ、確度の高い情報に辿り着けたことは間違いがないのだろう。やや緊張が走る。
『流通先が特定できるらしい、のでとりあえずガサ入れしてくる』
「二人で?」
『二人なわけねえだろ、最初から裏にいる勢力が特定できたら狙えって言ってあるんだ』
 誰に、が抜けていた。だが先ほど廃病院での会話でも聞いたばかりのフレーズだったので翔成にもこれは分かった。秘匿派警察のことだ。
 瑠真が顔をしかめた。当然役割として行動するはずの裏勢力に一人でなぜか対抗心を燃やした顔つきだ。
「ちなみに翔成くんが目を覚ましたので私も同行できるんだけど」
『留守番。さすがにお前が眼中にある勢力は無理』
 じゃあな、と軽い調子で電話が切れた。有無を言わせぬ報告のみである。瑠真は相方に対するとは思えない物凄いヘイトを込めた目つきでスマホを睨み付けた。翔成はそわそわしながらベッドから切り出す。
「おれも行った方が色々探れると思いますけど……」
「ダメに決まってんでしょ、アンタは恨み買ってるに決まってるんだから」
 自分が言われたことも要するに同じだとは思わないのだろうか。突っ込みどころに迷う翔成を置いて瑠真はしばらく気に食わない顔で黙っていたが、心を決めたようにマグカップを拾い上げ、水栓を捻って洗い始めた。
「ええと、瑠真さん……?」
 それが出かける用意に見えて困惑気味に声をかけると、案の定少女は振り向いて不敵に笑った。
「とりあえず望夢んちの待機拠点に行ってみる。合流できるかもしれないからね」
「馬鹿でしょうあなた?」
 思わずコメントしてしまった。瑠真は聞かなかった振りなのかほんとうに聞き逃したのか、身を翻すと、さっそうとした足取りで玄関に向かっていった。翔成が寝ている間に何をしていたのかは知らないが、何であれ彼女だって疲れているはずじゃないのか。ランナーズハイ状態なのかもしれない。
「あのですね、さっきはおれも行くって言いかけましたけど、さすがに止めますよ。あなた、高瀬やあの女の人に比べたらどっちかっていうと一般人ですよね? おれが言えたことじゃないですけど?」
「センちゃんはともかくとして、望夢は同レベルでしょ。翔成くん、留守番するなら電話置いてくから、連絡来たら相手しといて」
 あんまりにもあんまりである。というかセンちゃんってなんだ。
 こわばっていた身体をなんとか動かして戸口に飛びついたときには少女は駆け足で廊下を去っていた。追って飛び出しかけたが、廊下の向こうで瑠真から身を避けた通りすがりの女の子が思いっきり部屋着だったので思わずもう一回引っ込んだ。そうだ、ここ女子寮だ。
「せんぱいっ……」
 扉に張り付いて呪いの声が出た。やっぱり無神経だろあの人!
 背後でスマホの通知音が鳴り響いた。瑠真が置きっぱなしている携帯がもう一度光っている。すわ電話かと固まったがLINEメッセージらしかったからまだ誤魔化しが効いてよかった。おっかなびっくり取り上げる。ロック中でも表示される設定らしく、高瀬望夢からの連絡が連続で読めた。
『言い忘れたけど』『俺は落ち着くまで現場に行かないからな』『俺に対抗して来るとかは無し』
 慧眼だが遅い。
 人の端末を勝手に弄るのは気が引けたが、ロックを解除しようと四苦八苦してみた。可能なら瑠真がとっくに出ていったことを伝えたい。が、当然といえば当然だがさっぱり分からない。前言撤回、やっぱり電話で連絡を寄越してくれればその場で伝えられたんだけど!
 高瀬望夢はどこにいるんだか分からない。まだ瑠真を追いかけたほうが確実だ。翔成は窓に張り付いて宿舎の表を睨んだ。街灯の明かり越しに走っていく少女の二つ結びが跳ねるのが見えた。
「よく考えなくても」
 連絡手段も持たずに女の子が深夜の屋外に出るものではない。
 翔成は振り返って室内から自分の鞄を目で探した。あった。壁際に瑠真の通学鞄と並べて置かれている。自分のスポーツバッグに取りついて中身を確認し、小さく息を吐いた。拾い集めたバイタライザーはまだ没収されてはいなかった。
「護身用だから……」
 自分に言い聞かせ、数本掴み取ってパーカーの懐に滑り込ませる。これでいい。行こう。宿舎の目はなんとか掻い潜るしかない。
 実を言うとちょっと、憧れの先輩だと思っていた。七崎瑠真のこと。世間で言うそれとどれくらい近いのかは分からないけれど。
 動向を探らなきゃいけなかったり、ヒントを預けなきゃいけなかったりした以上に、翔成が顔を見たかったから周りをうろついていた。あの最初の日に見た、強い光に翔成はずっと焦がれていたのだ。ずっと翔成にできないことをやっていると思っていた。だからこそ、ある程度利用目的で巻き込むことを割り切れた。ある意味であまり人間として見ていなかったのかもしれない。
 でも、いつの間にか消えたな、って思う。プラスにせよマイナスにせよ、そういう感情はこの一晩で少しずつ訂正されて、別の認識に切り替わっていた。翔成にできないことっていうか……どう見ても脳直で行動しているだけだ。ここまで面倒を見てくれたことに感謝はすれど、安心して後を任せられる相手では絶対にない。高瀬望夢は彼女を信頼すぎだと思うくらいだ。
(あぁ、おれ)
 ずっと平均点で生きてきた。人に弱いところを見せず、汚いところを見せず。その結果得たものが「普通のいい子」という冠だ。けれど弱いところも傲慢なところも子供っぽいところも、この一晩でずいぶん色んな人に見られた。それが今は、悔しくない。
 消えた感情の代わりに、もっと居心地のいい、別の穏やかな気持ちがある。
(友達ができるのかな)
 だとしたらそれは、大切にしなければならない。
 ×××
  ドックにほど近い港湾部のビル街の灯が煌々と明るい。
 二十四時間と少しで随分物理的距離を動いた気がする。夜の海風の匂いを嗅ぎながら、望夢は横に立つ用心棒にぼそりと確認した。
「こうやって好き勝手足に使っていいのか」
「構わないよ。私は私で暇なときには他人の契約を取るけどね、まあ坊やは別枠ってことで。高瀬家が残ってたらそういうわけにもいかなかったけど」
 高瀬家御用達の音使い―正確には世界を音の総体として把握する、独自の解釈を持つ異能者らしい。聴覚をまどわすすべを知り尽くし、触れた箇所の振動で弱点を見抜き、刃に最適振動を加えて性能を高める。根っからの殺人者は相棒の中型バイクに軽く腰掛けて、夜闇に交じるビルの一角を眺めている。
 高瀬式の警察犬たちが仕入れ記録などを見つけられないか乗り込んでいるのがその周辺で、別経路で見に来た望夢のやることは有事の現場検証くらいで現状特になかった。
「お前は」
 夜風に問いかけの出だしが溶けた。望夢は言うべき言葉を探して、もう一度、最初に横浜で会ったときにこの用心棒が述べた言葉を逐一思い起こした。
 望夢を部屋に招いた女は、蒼い瞳を三日月状に細くして、こう言った。高瀬望夢個人に対してであれば協力していい。だって、
「世界で俺しか持ってない『秘密(プレミア)』があるって言ったよな」
「そうだねえ」
 センはニヤニヤしていた。望夢にはほとんど寝耳に水の話だ。
 灯火記念病院で話した、斎和平を思い出していた。望夢を試すような態度、三月の首謀のときだって明らかにこっちを買うような素振り。それから、語られた言葉の内容。……フィルターを通さない、絶対の真実。
 これが同じものを示しているかどうかは分からない。でも、彼は何か知っていたのかもしれない。
「その『何か』って……なんなんだ」
「さあ、部外者の私が聞けるようなものじゃなかったとしか。坊やの自覚がないなら、無意識に刷り込まれているなり、知識範囲を再構成した���果なりかもしれないね、だとしたら説明のしようもない」
 女は楽しそうだ。言っていることの意味が分かるような分からないような。望夢の胸に不安な波紋が薄く広がっていく。
「ただあの篝(かがり)が自信ありげに口にするくらいだ。保証はないけど、来たるご乱世の鍵なんだろう。見込んでお手伝いさせていただきますよ、マイマスター」
 望夢はビルの合間から遠く見える黒い海を見つめていた。篝、また父親の名前。
 もしかすると望夢自身より、この女は望夢の父親であるところの高瀬篝に詳しいかもしれない。望夢は父親をせいぜい儀礼的な面会相手としてしか知らない。
「どうやったらわかる?」
 無意識に指先で安心材料を探していた。去年一人になってから三月まで、弄るのが癖になっていた部屋の鍵束。しばらくその手癖は消えていたはずだけれど、今は無機質な感触が恋しかった。変わらない温度が欲しい。
「どうだろうね」
 女は曇り空を見上げ、港湾の空気を吸い込むように胸を動かして、囁いた。艶のある真っすぐな黒髪が夜風に無音でなびいた。
「もうすぐ、分かるんじゃないかと思うよ。なんだか最近、界隈が騒がしいからね」
 彼女の世界がどういうふうに見えているのか望夢は知らない。世界を音の総体で把握する殺し屋。彼女は町に流れている懐かしい音楽を聴きでもするかのように、首を傾けて、愛おしそうな顔をする。
 生きている世界が違う。レトリックではなくて、望夢は肌でそう感じていた。この世界はそもそもが、一人ひとり違うフィルターを通して暮らしていて、一緒にいるように見えてもたぶん誰ひとり全く同じ地平線のうえになど立っていないのだ。
 それはたぶん、大まかに同じ分類の世界解釈を採っている秘術師たちだろうが、協会色に染められた現代の一般人だろうが。
 電話が鳴った。
『あー、もしもし。クソガキのご当主様』
 お馴染みの眼鏡こと周東励一からの報告か何かだ。望夢はスピーカーを耳に押し付けてビルを見上げた。
「何か見つけた?」
『直接的な証拠はない。が、深夜に張ってる連中にカマかけたら、明らかにホムラグループだのその裏のヒイラギ会だのに関して反応を示した怪しいのがいる。衣吹(いぶき)がクロってとこまでは確認取った、あとは俺たちは知らねえ。帆村の領分だ』
「わかった……どうせ帆村も来るだろ、そもそも児子に場所タレ込まれてるわけだし」
 か��合う前に引き上げさせるか、と算段をつける望夢が次の声を発する前に、周東がついでのように付け足した。
『ところでウチは託児所ではないので、お宅の彼女と弟分を引き取って帰ってくれ』
「は?」
 意味がわからずに目をぱちくりした瞬間に不親切な電話が切れた。
 耳��押し当てたまま固まっていると、隣の用心棒が無駄にコソッと囁いてきた。音ベースの解釈持ちだけにもしかすると耳がいいのかもしれない。
「で、実際あれは坊やのカノジョなの、どうなの」
 ようやく事情はわからないが状況は察しがついた。「うるせえ……」言い返しながら額に手を当てて空を仰ぐ。場所も言わなかったのに何があったらそうなるんだ、あいつら……
 現場に急行した。下のガレージに秘匿派警察の顔ぶれが数名揃っていて、その中にしれっと(馴染んでいるつもりなのだろうがめちゃくちゃ浮いている)中学生二人が言葉を交わしている。望夢がバイクをとめさせて飛び降りると二組の目がこっちを向いて、
「あ、やっと来た」
「意思疎通の仕方くらい考えてください、あんたたち」
 開口一番責められるのはなんでだ。瑠真もまとめて後輩に怒られていることになるので若干決まり悪そうに口をすぼめている。反省するなら最初から大人しくしていてほしい。
「お前ら、なんでカモがネギ背負ってここまで……」
「広義ではアンタもカモでしょ」
「それはそうです。一人でカッコつけようとするのがおかしいんです」
 これもブーメランだが翔成は涼しい顔をしている。勝手な行動を受け入れたわけではないがそれとは違うところですこし笑みが漏れた。開き直ってこれが言えるようになったら翔成はもう大丈夫だ。
 様子から見るに、例のカフェ&バー経由で合流してここまでくっついてきたのだろう。よく許されたものだと思うが諦めて聞き入れるほど面倒くさかったのかもしれない。あるいは二人ともが。
 後ろの建物の扉が開いて、
「はいはいきみたち、ちょっといい」
 衣吹といったはずだ、ふわふわした雰囲気の女子大生が手にスマートホンを示していた。誰かと通話中だ。
「ホムラグループの児子くんからお電話よ」
「誰に?」
 子どもたちが一様にきょとんとすると、衣吹はその中から一点を指した。翔成だ。
 さっと緊張感が走った。すでにほぼ保証されたとはいえ、ホムラグループによる翔成の処遇は保留中だ。
 翔成が小さく息を吐くのが見えた。
「いいですよ。出ます」
 彼はいたって気楽に振る舞っていた。受け取ったスマートホンを耳に当てる前に、一度目を閉じたのが見えた。意図的にこごりを押し流すように。
 それから、電話口に向かって明るい口調で呼びかける。
「お呼びの日沖です。あれ?」
 けれど、その瞳がまもなく拍子抜けしたように瞬かれ、
「児子さん……じゃないですよね?」
 その声に答えて電話の向こうで笑い声がした。
 漏れ聞こえた声音でふと望夢の頭に特定人物の名前が浮かんだ。「うわ」と思わず呟いた。瑠真が怪訝な顔でこっちを見た。
 半端な知り合いでものすごく気まずいかもしれない。さりげなくふらふらと場を離れた。衣吹沙知が気がついて笑う。
   『ヒオキ・カナルくん? はじめまして!』
 それは少女の声だった。今夜、女の子から電話を受け取るのはこれが二件目だ。けれどヒイラギ会のあの、少女といえど暗鬱な声とは全く質が違う。
 澄んだ空のように明るくて、聴く者の心に無条件に陽の光を降らすような、どこか絶対的な声。
「あ……え、はい。はじめまして」
『こんにちは、私、ホムラグループ代表取締役帆村絢正(けんせい)、の娘、の莉(り)梨(り)と申します。児子が何か言ったんじゃないかしら?』
 代表取締役の娘。
 児子から何にせよ聞いた記憶は全くないが、突然の特殊な立場からのご連絡だ。思わず居住まいを正して、「はい。莉梨さん」と返事をした。そこで聞いていた瑠真が二つ結びを跳ねさせて「リリっ?」と言った。彼女のほうがどこかで聞いていたのかもしれない。それと今気づいたがあたりに高瀬望夢の姿がない。
「な……なんの御用で?」
『本当はお会いしたかったのだけど、私ふだん国外にいて、急に帰るのはなかなか難しそうなの。今も国際電話でね』
 にこやかで朗らかな電話口の声は、語り口も幼げで、もしかすると同年代かもしれない。徐々に絆されている自分に気が付いた。いや、と気を引き締める。ホムラグループ代表取締役の娘―わざわざ名乗ったということは、グループ総意を代弁しているはずだ。
 それは、反勢力の社員たちがずっと仮想敵にしていた存在のはずで、関係者を手駒のように使って、翔成の処分を決めた誰かのはずで。
「用を言ってください」
『そうね。結論を申しますと、翔成くんをスカウトしないかという話になりました』
 しごくあっさりと電話の少女が言った。
 翔成はわずかに口を開けたまましばらく黙り込んだ。さらに説明があるかと思いきや、少女は言うことは言ったとでもいうかのような満足げな沈黙に入っている。
「あの……待ってください、スカウト?」
 声が上ずった。「スカウト?」耳をそばだてていた瑠真もその場で鸚鵡返しにする。
「誰が、どこに、なんのために、ですか?」
『今回の出来事での働きを聞いて、翔成くんは家族思いで行動力のある、素敵な男の子だとお見受けしました。不幸なことにその真面目さが良からぬ手に利用されてしまったけれど、翔成くん自身がその手に疑いを抱き、拒絶することができたのも聞いています。合格です。莉梨はそんな誰かとお友達になりたいのです』
 電話越しの少女は快活に喋る。
『お友達になって、それから将来わが社を支える有望な若者の一人になってくれたら言うことがありません。そうでなくても構いません。翔成くんが行きたい道を選んでください。危ない仕事をさせようというわけではありません。もちろんやりたいのならお教えしますけど。翔成くんは今回強制的な開花に触れて、体が不安定になっているでしょう。私たちの方式で良ければ、それを体系立てて収めることができますし、さらなる得意分野も生まれるかもしれません。それから、』
「待ってください。僕だけじゃだめです」
 思わず反感のこもった声になった。しばらく素で出ていたゆるい口調が消えて、気構えて儀礼的な口調に戻っていた。
「それこそあなたの……あなたの父親の会社にいた父さんを疑い、疑わせたのはあなたたちです。それで今度は僕だけを呼び戻そうなんて、調子が良すぎる」
『とても申し訳ないことだったと思っています』
 莉梨が初めて殊勝な声になった。
『お父様たちを咎めたのもあなたを褒めるのも、同じ理由なのだと言い訳しても仕方がないのでしょうね。だけど弁解を許してください。お父様の思念を一時的に封じざるを得なかったのは、私たち上のものたちが、内部にうごめく怪しい影の正体を看破できなかったからです。それがヒイラギ会でした。あなたが動かなければまだずっと見逃していたかもしれません。だからお手柄なのです。お父様たちにかけた疑いも晴れましたよ、翔成くん』
「じゃあ……」
『そうですね、あなたの答え如何で、お父様たちの思念は完全に戻すことができるでしょう。この答え如何、というのは、好み次第、と言い換えてもいいです。あなたがホムラグループに来るなら、という脅迫ではありません。誘いを蹴って記憶だけ戻せと言われたらそうするし、あなたが望まないならお父様の記憶はお預かりすることもできます。あなた次第です。いいえ、ご家族で話し合ってもらってもよいかもしれませんね。私はいつまででも待てますから』
 翔成は一度電話から耳を話して、目の前で思いつめたような顔をしてじっと聞いている瑠真を見つめ返した。年上の少女はまごついて目をそらすようなそぶりを一瞬だけ見せたあと、眉を勇めて口の形だけでこう言った。
 じぶんでえらべ。
 もう一度電話を近付けて、
「お返事はしばらく待ってください。家族とは話し合います。……だけど、きっと記憶は返してもらうことになると思います。僕の所属先は……まだ分からない」
 決然と喋る。迷いはなかった。
 莉梨は朗らかに笑った。
『やっぱりあなたとお話できて正解だったわ。ね、きっといつか日本で遊びましょうね。どんな場所を選んでいてもいいから、立場なんて関係のない子供同士で』
 その弾んだ誘いは最初に受けた印象の同年代というより、もっと下、十やそこらの童女のようにも聞こえた。けれど、すぐに語調が変わり、同じ電話口から紡がれる言葉が、どこか大人びた、穏やかな、母親のような温度になる。
『ゆっくり見つけるのですよ。解釈を学んで、その根本にある思想を探って、自分が最も共感できる世界の掴み方を選ぶ。……そういうものなのです、わたしたちの世界は』
 また電話をします、児子かだれかを通して、というあまり嬉しくないメッセージを残して、電話が切れた。翔成は神妙な顔でスマートホンを見つめた後、礼を言って、傍で待っていた衣吹と言うらしい女性にそれを返した。
「ありがとうございました」
「しっかりしてるねえ。モテ男め」
 茶化すように言う女性に苦笑いで首を振り、黙りっぱなしの瑠真に視線を戻す。「せんぱい、心配してますか?」
「……してるわよ」
 瑠真の声音が硬かった。不機嫌の膜に包まれているが、根っこは微笑ましいくらいに事態に困惑している少女だ。
「どういう神経なの、ホムラグループ」
「大丈夫ですよ。時間はたくさんあるので。……それとも、協会に来てほしいですか?」
「ばっか、むしろ止めるわよ。向いてないって」
 そっぽを向いてしまった。その反応にけらけらと笑いながら、あぁ、これだ、と翔成は思う。こうやって自分で選びたかったのだ、己の立つ場所を、友達を。
 自分で立っている先輩たちが羨ましかっただけの子供時代は、もう、終わりだ。
   「あっちに混ざらなくていいの?」
「……混ざりたくない。なんか青春してる……」
「華のミドルティーンじゃないのかね、坊や」
 用心棒の控えている後ろのほうに取って返して引っ込んでいると年上に突っ込まれた。年上と言っても彼女だってまだ若者に混ざっていていい年齢のはずだけど。
「……冗談だ。半端な知り合いが掛けてきたからちょっと気まずかった」
 ぼそぼそと続けると、センは鼻で笑った。「おまえの口から冗談って言葉聞くと確認取りたくなっちゃうね」余計なお世話だ。知り合いって何? とかそういう社交的コミュニケーションは別に取ってくれないらしい。そのほうが気楽でいいので構わないが。
「ホムラグループのお嬢様だっけか」
 が、予想外のところから拾われた。
 視線を横にずらして建物の角に寄りかかる男に意識を移す。望夢と同様というかなんというか、別に会話の輪に入る義理もないので離れてきた周東励一だった。
「それは気まずいだろうな。あっちは有望な次期代表候補、お前は野良に逃げたお坊ちゃん」
「嫌味言いにきたの?」
「言いに来て何が悪い? どちらかと言うとお前が礼を言え今回は」
 しごくもっともだった。嫌な顔をしつつも「ありがとう、助力助かりました」と端的に答えると相手がもっと嫌そうな顔をした。そうなるだろ。知ってたから言わなかったんだ。
 腹いせなのか彼は離れていきながら、
「例のお嬢、日本に帰るらしいぞ」
 明瞭に言い残していった。夜風にニホン、という響きが場違いに響いた。そうか、あいつ海外にいるのか。
 望夢はしばらく黙って門下生を見送ったあと、長い大きな溜息をゆっくりと吐いた。順当な流れではあるけれど、面倒は避けられなさそうだ。
 終始横で見ていた傍観者ポジションの用心棒が、「青少年は大変だねえ」と所感を述べた。
 ×××
  桃色に彩られた天蓋付きベッドの真ん中で、たくさんのカラフルなぬいぐるみに埋もれながら、金髪の女の子が一人、電話に向かって話しかけていた。
「ええ、ええ、嬉しいです。児子が話していた通り素敵な男の子だったから。そうね、莉梨とも仲良くなってくれるでしょう」
 ばたんとひっくり返って、サイケデリックな青色をしたウサギのぬいぐるみを抱き締める。その動作からわくわくが抑えきれないような前向きな明るさが滲みだしている。
「もうすぐですね。ええ、はい、きちんとお勉強はしています。もうすぐ卒業証書がもらえるので、児子たちのところに帰れますね」
 少女は窓の外を見る。年中曇りがちな夜空の下に、世界一有名な時計塔の円盤が見える。
「手紙? ……ああ、望夢さんのことですか?」
 電話越しに問いかけられた少女は、照れるように笑って肩を竦めた。
「お話したいけれど、きっと莉梨にはもっとたくさんの出会いが待っているでしょう? 私はみんなのことが好きなのです。今まで出会ったひと、これから出会うひと、出会うことがない人々も。だから楽しいのです。……おやすみなさい、児子、今日もあなたに幸せを」
 電話を切る声は優しかった。世界に恋する少女はウサギを抱き締め、半身大のぬいぐるみで埋もれる布団の中で夢見るように目を閉じる。
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lostsidech · 7 years
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3 : Pair's First United Front(2/3)
→UNITED FRONT: 朝、高瀬望夢
 翌朝、宿舎守衛の目を誤魔化すためだけに制服を着て最初の目的地に向かった。
 そもそもお仕着せで春姫に入れられた学校だが、身分偽装の意味合いが強いのであまり真面目に通っていない。進級できないと別の意味で社会をドロップアウトするので最低出席数は確認しているが、まだ一学期前半で余裕はたっぷりあるのだ。こういう話をするとペアには罵られるけど。
「まぁぁたぞろお主ら何をしておるのかと思うたら……」
「またってなんだよ。前回はお前のせいだよ」
 そういう話ではないわ、と叱る口調で言われた。朝の光は取り入れる気があるらしい裏のほうの会長室は、棚と一体になった隠し扉を大きく開け放って表の会長室の窓に向けている。こういうときに来客とかあったらどうするんだろう。さすがに会長クラスになったら先にアポイントがあるか。
 本日は湯呑で緑茶を啜りつつ少女は、
「で? 妾に何をしてほしいと? 帆村の牽制か? 小童の保護? どれもやらんぞ。協会には遠いいがみ合いじゃろう? 妾がどこかに肩入れすれば大問題じゃろうに?」
「どれもやらなくていいよ。というか、何もしないでくれ」
 小言を遮ると、春姫はものすごく不満な顔をした。
「分かったような口ぶりじゃな」
「さすがに分かるよ、お前が前線に出るのは喧嘩を買うときだけだって。今回大事になったら巻き込まれてる一般人が危ない、俺だって面倒だし」
 春姫は渋面を崩さなかった。
「じゃったら何のためにここに来た」
「お前が知らずに深追いして政治問題になるのを避けるため。っていうのと、念押しかな」
 笑いかけると、少女は金色の瞳を怪しげにぎゅっと細めた。「念押し?」
「俺がやることに手出しするなよ」
 しばらく推し量るような沈黙があった。
 湯呑を揺らしながら、少女は引きつったような笑みを浮かべる。
「それも含め、何もするなと?」
「そう」
 望夢の秘力(いちいち訂正が煩雑だが春姫に言わせれば「ペタル」である)は春姫と二分されている。正確なフィフティ・フィフティではなく、優先権は圧倒的に春姫にあって、業務時間外やあからさまな不要場面での使用を感知されるとパスを奪われることがある。春姫が派手に暴れるのに邪魔という理由で根こそぎ止められて全部持っていかれることもある。こっちの持ち物であるにも関わらず理不尽な話だが、立場上仕方がないといえば仕方がない。
 だがまさにこれから面倒ごとに突っ込もうという段になってそれでは身を守るにも心もとないのだった。春姫が動くわけにいかない盤面だというのなら彼女の戦闘行為に不可欠になる場面もないだろう。数か月前までにこんなことを打診したら即刻縛り上げられて忠誠を誓うまで放してもらえないところだっただろうが、とりあえず現状それほど裏切りは警戒されていないと踏んでの提案だった。
 春姫は片腕を肘置きに突くとその手で額を覆い、深く長い溜息を吐いた。
「お主はどういう名目で動く?」
 当然の確認である。春姫の名前が協会を背負っているように、望夢にも余計なラベルは無数に付いている。
「個人として。秘匿派警察は分解していて、当主の動きまで責任取れる状態じゃないし、協会からしたら代表名乗らせるほどもない成績下位の平会員だ。これでオーケー?」
「まだ足りんぞ。ペアの知人の問題に関わるのは私的関係ゆえであって、業務上の障りやトラブルを懸念したためではない。当然瑠真にも一言でも協会と言わせるのではないぞ、分かったか?」
「そこまで問題になるかよ」
「万一にでも難癖を付けられたら困るのは妾じゃ。良いな、分かったな」
 追い打ちして頷かされた。もとより瑠真が協会の代表を名乗りたがることはないだろう。春姫が困るかどうかは正直知ったこっちゃないが、大事にならないならそのほうがいい。
 やや趣旨の変わった質問を幾つかすると、春姫は少し驚いたあと、知らんぞどうなっても、という口ぶりでそっけなく答えを与えてくれた。
  →UNITED FRONT: 朝、七崎瑠真
  普通に登校した。今日は学校から任務スタートだ。
「おはよー、瑠真、早いね」
 目を丸くする小町(コミュニティ渡り鳥の嗜みか、だいたい通例で登校が早くてあっちこっちで喋っているのである)に顔を向けて、自分の席に荷物を置く。
「一年の教室、行った?」
「んん? 行ってない。なんかあるの?」
 首を傾げる少女に肩を竦めて、鞄からスマホだけ取り出す。貰いもののマスコットがぷらんと揺れる。
「いーや、話になってるのかなって思っただけ」
 不思議そうに見つめる小町以下クラス数名の視線をすり抜けて、瑠真は教室を後にした。とりあえず教師ならこれくらいの時間には出勤しているだろう。
 自分の担任ではなく、国語科準備室のほうだが。
  「あー、どうも。待ってました」
「生徒におもねって恥ずかしくない?」
 約束も予告もしていなかったはずだが二日連続、一年の担任国語教師は完全に諸手を挙げて歓迎の構えだった。瑠真のキツめのツッコミはそのまま机の上の茶菓子を差���出されたせいである。伊豆かなんかのお土産マークだった。
「口止め料な。今から話すことは七崎さんだけの話にしてほしい」
「私が昨日の時点で関係者だから?」
「うん。それもそうだし、親御さんにも確認取ったうえで、まああなたなら信頼できるでしょうということで」
 協会での素行などが知られたらほぼ人選ミスだ。もちろんこちらの目的とも一致しているので断る気はない。
 伊豆って書きたかっただけの普通の饅頭のパッケージをぺりぺりと開ける。
「翔成くん、家に帰らなかったんでしょ」
「そうだな。何か知ってる?」
「昨日の五時半ごろの時点で、家にはいなかったことだけ」
 嘘を吐く側に立つのに慣れていないので、冷静に答えるのに少し神経を使った。どこから話が漏れるか分からないのでできるだけ情報を伏せろ、とは望夢の指示だ。
「逆に昨日、翔成くんのことおかしいって言ってたのは何だったの?」
 緊張ついでに口ぶりも硬くなったが、今のところ疑われた様子はなかった。
 翔成の担任はふうっと息を吐いて椅子の背を軋らせた。
「参ってるように見えたって言ったあれのことか?」
「そう」
「見た感じの体調がかなり悪そうだったのは分かるよな」
 他人の見た目に鈍いせいでどれくらい重度だったかは正直よくわからない。「うん」
「俺が日沖に会ったのは早退報告の一瞬だけでな。あんまりしんどそうだったから、迎えを呼べばいいだろ、って言ったら、断られた。口では『親も仕事で』とか『帰れないほどじゃないから』って言ってたけど、ちょっと言い訳くさいと思ってな」
「どういう意味で?」
「勝手な所感だが、日沖はあれ、人に頼ることに強迫観念があるんじゃないかな」
 ひやっとして饅頭の包みを握りつぶした。瑠真にはあまり思いつかない角度の話だった。
「基本的に全然迷惑かけないやつだから、いざというときも大したことじゃない、一人で何とかしなきゃって思ってしまうとしたら怖いよなって。『ここでゆっくりしていってもいいぞ』とは思わず言ったんだけど、体調悪いの引き留めるわけにもいかんし、あっさり断られて帰してしまった」
「センセイは……」
 名前も忘れてしまっていたし、相手への呼びかけ方が分からなくて曖昧な人称になった。
「翔成くんが何を考えてると思ってるの?」
「全然わからん。そういうのはまだ目線の近い先輩たちの領分だろうよ」
 丸投げだった。だが分からなくて当然だ。ホムラグループやバイタライザー、ろくでもない裏知識を色々持っている瑠真でさえ全貌が見えない。
 人に頼ることへの抵抗。妥当だとしたら迂遠に何度も念を押してきた翔成の言動に説明が付かないこともない。だけど、と瑠真は思う。ぜんぜん間違っている目の付け所だとは思わないけれど、やっぱりそれだけじゃ腑に落ちない。
「授業出ずに翔成くん探しに行くって、話付けてもらえません?」
 あまり期待せずに提案し、案の定却下された。
「探すのは警察の仕事。生徒一人の安否でも頭が痛いのに、もう一人に特例を許したらしっちゃかめっちゃかだぞ」
「まぁそうだよね……」
「先輩はきっちり日常をこなしてくれ。そのうえで大人には分からん話があったらこっそり教えてくれ、教師としては以上だ」
 どちらにしろ学校でやるタスクをもう少し課されていたのでまだ帰れなかった。承諾して席を立ち、ついでに放課後に日沖家に寄る許可を求める。
「担任から言っといてもらったほうがいいですよね」
「向こうも話聞きたいんじゃないかなあ。頼む」
 あっさり話が進むのだった。信頼は時にそれなりに居心地が悪い。国語科準備室を出て連絡アプリを立ちあげ、ペアに定時報告した。
『担任に確認終わり』
『こっちも春姫には話つけた』
 お前は学校行かんのかい、と若干突っ込みたい。
  →UNITED FRONT: 昼 高瀬望夢
  灯火記念病院。
 どこぞの学校と似たような、そういう通称で呼ばれる病院がある。
 名前の通り、『灯火』の一人が中心になって立ち上げたと言われている。超常関連の負傷やトラウマを治療することを専門の目的とした総合病院。だがそれが表向きの話であるのは望夢たちにとっては暗黙の了解だ。
 その病棟は、刑務所に入れるわけにいかない〝超常外〟異能犯罪者の収容所になっている―
「斎(いつき)和平(かずひら)」
 名前はそうなっていた。本名かどうかは知らない。どこぞに潜り込むためだけに適当に作った名前かもしれない。
 無駄に立派なクリーム色の病院だった。世間に知られるわけにいかない異能の巣窟だとはとても思えない。周囲に建物がないので記念病院の威容だけが青空にそそり立っている。受付で面会表の記入を済ませ、足早に病室に向かった。
 ノックも無しで扉を開けると、病室のベッドに座っていた男がこちらを見て微笑んだ。
「おやおや」
 白い髪に細い体躯、不健康そうな肌の色。
 ペイルグリーンの入院着と相まって、なかば生気が消えたような印象を植え付けてくる一人の男。
「いつかは来ると思っていましたよ」
「長話は今度だ」
 望夢は先手を打って相手の話を封じた。扉は閉めたが、その傍から動くことはない。相手も了解しているのか、ベッドを離れる動きは見せない。
 高瀬式秘術師外部研究員。二か月前の騒動を指揮した張本人だ。
「用件は何ですか? 二か月前の全貌? 今の私の説明から?」
「それも知りたいけど」
 斎は静かに笑っている。少なくとも春姫によると、彼は全く戦意を喪失しているらしい。元より研究員だ。所属組織の両方から切り捨てられ、瀕死の状態で春姫に保護されて以来、驚くほど柔和に一般人然と日々を過ごしているらしかった。
 信用はできない。黙っているだけで、腹の裏で何を考えているか分からないのだから。
                          「具体的な助言が一つ欲しい」
「助言? 私が? 貴方にですか?」
「切り捨てられた時点で、力関係からは解放されてるはずだ。利益もないけど、何言ったってリスクもない。そうだろ?」
 実のところ、斎和平の名前を最初に示したのはあの周東(すとう)とかいうサイレントバーサーカーだった。『おれたちは自分の鬱憤を晴らすためには動くが、その過程でうっかりお前をゴマ粒みたいに磨り潰しても誰も責任を取らねえ。斎のオッサンのときみたいなもんだな』その親切なアドバイスに従って春姫にカマをかけたところ、案の定ここを指定された。春姫はあれで過去の敵を飼い慣らすことに悦びを覚えるという厄介な性癖を持っている。いくつ爆弾を抱え込めば気が済むのか知らないが。
 籠に繋がれた斎の心情は読めない。
「何をお求めですか?」
「身を護る方法」
 すぐに返事はなかった。
 望夢は相手を見据えながら言葉を続ける。
「具体的に言うと用心棒とかがいい。お前は外部勢力から口八丁手八丁でうちの過激派に取り入ってる、所属に関係なく力を貸してくれるフリーランスの一人や二人知ってるんじゃないかって……」
「はっはは!」
 突如相手が可笑しそうに笑った。これまで確とした感情の動きを見たことがなかったので望夢はびくりと肩をこわばらせた。
「すっかり神名(かんな)に飼い殺されたと思っていたのに、意外だ、まだまだこっち側から足を洗う気がないんですね? 好感が持てる」
「表も裏もない、目の前に転がり込んでくるんだから全部一緒だ。そういうお前はどうなんだよ?」
「どうとは?」
「とりあえずこんなところにいるみたいだけど、出されたらどうするの。フリーで所属先を探す? それとも表で身分でも買うのか?」
「いいえ、どうでしょうね」
 斎は枯れたような色の瞳に先を見るような光を灯してにやりと笑った。こんな話を高瀬式所属時にしたことがなかったので当然かもしれないが、「人間」を相手にしているのだと一瞬ぎくりとした。相手にも相手で考えていることがあるのだと。
「所属先がどうなるかは分かりませんが、少なくともこの解釈異能の世界から抜けることはないでしょうね、私はこれが面白いと思っているのだから」
「面白い?」
「世界は解釈層の重なり合いですよ。勢力を隔てるヴェールを潜るごとに見える世界がガラリと変わる、真理とされている根本からまるごとね。これが面白くないはずがありますか? じゃあ『真実』の世界、ヴェールを全て取り払った先には何があるのか? それとも何もないのか? 何もないとしたら、私たちが生活しているこの地面は実際には薄い色布の積み上げでしかないのか。考えることはいくつでもある。私はその末端で世界を見るためにここにいるのです」
 望夢は数秒返事をしなかった。斎和平のぎらぎらした目がこっちを見ていた。その目が望夢を透過してそのまま、彼が言った言葉の指す先を見ているような気がした―絶対的な真実。
意味しているところ自体はわかる、世界解釈は事象を見る色眼鏡だ。勢力を渡れば、介する色も変わる。それならそもそもの眼鏡を外して透明な景色を確かめてみたい―思いついてもおかしくないだろう。けれど、それに人生をかけるほど? 望夢だって他の解釈の論理を学んできた……だがそれはあくまで解釈闘争の中を生き抜くのに必要だからだ。
 一瞬思いを馳せかけたが、首を振って思索を振り払った。今必要なのは哲学論議じゃない、戦力へのパスだ。
「……だったら俺に貸しを作ったからって後で困るってこともないな」
「用心棒でしたか。まぁいいでしょう、間接的に神名の機嫌を取っておくと後で生きやすいかもしれませんしね」
 斎はあっさり承諾すると、ベッド脇のボードからメモを取ってさらさらと文字を書いた。それを差し出すので、取っていた距離をそろそろと詰めて受け取った。
 折られたメモを開くと端正な細い字で住所が書いてある。
「横浜?」
「基本的に対面でなければ話は聞いてもらえないと思いますので、悪しからず。現状の貴方に手を貸すとしたらこの人物がいちばん有力でしょう」
「どういう相手……?」
「あぁそれより、契約料はどうするつもりですか。まさか協会の給金で賄えるとは思いませんが?」
 望夢はうっと顔を上げた。
「それなんだけど、実家の財源へのアクセスって誰か持ってるの。去年父さんがいなくなってから、春姫が差し押さえたわけでもなさそうなんだけど」
「そんなもの、とっくに食い尽くされたに決まっているでしょう。細分化されて派閥にばらま���れてから数か月で消えましたよ。そもそも協会の台頭からとっくに半世紀、大した規模が残っていたわけでもなさそうですが」
 目をぱちくりしていると、斎は噴き出した。
「もしかして本気で当てにしていたのですか。私が最大派閥を押さえていたから知っているとでも思っていた?」
「えっと……」
 口ごもっていると、無責任に投げ出された。
「心配ないでしょう、とりあえず行ってみるのが吉です。貴方は色々特殊な人間ですから」
 特殊、と言いながら自分の頭を突いてみせる。完全に馬鹿にされたと思ったがそれにしては言葉尻に自信がある。何か思うところがあるのかもしれない。
「現状俺に手を貸すとしたらそいつだって言ったな? 事情があるのか?」
「いいえ。会えば分かります、としか。強いて言えば、性格の問題、ですかね」
「性格……」
「あぁ、それから仕事の話をするならレコードを一枚借りていきなさい」
「レコード?」
 もう一枚メモを渡された。なんとなく知っている程度のクラシックの曲名が一つ指定されている。
「それで依頼人を見分けるそうです。ね、分かるでしょう、我が強いわけです」
 分かるでしょうと言われても辟易するしかなかったが、臨機応変に使える戦力が欲しいのが事実である以上仕方がなかった。口元をごにょつかせながら諦めて斎の病室を出て、病院の出入り口へと向かう。
 昼定時だ。ペアに連絡する。とりあえず動くための戦力確保のため横浜に向かう旨。
 ほとんど敷地を出たところではっと気が付いた。
「レコードってそんなすぐ借りられるっけ」
  →UNITED FRONT: 夕方、七崎瑠真
 「翔成の先輩よね? ありがとう、いらっしゃい」
 担任のところで見た書類によると翔成の母親の名前は日沖叶恵だ。人の親と話す経験のなさから少々身構えて向かったが、考えてみれば協会の依頼で一般家庭に上がるようなものだ。
 叶恵は翔成の端正な雰囲気とはちょっと印象が違って、ごく普通に所帯じみて力の抜けた母親らしい女性だった。目鼻立ちは美人に類される素顔ではあろうが、大人しげというか、黒髪を無造作に短くして化粧っ気なく、古いエプロンをかけてサンダルを突っかけたままの恰好で出迎えられたときには少々のギャップを受けた。瑠真の母親が見栄っ張りなタイプなので同年代の母親像が固定されていたところもある。
「お邪魔します、突然で」
「突然なのは翔成だからね。上がって」
 日沖家そのものも、社長邸宅と勝手にハードルを上げていたがごく普通の一戸建てだ。通された畳のお茶の間で飲み物とお菓子を出された。それこそ普段の依頼ならさっさと食い得と頂くのだが、話題が話題なので今は控えておく。
「翔成くんのこと、聞きたいんですけど」
 エプロンを外した叶恵が正面に腰を下ろした。改めて肚を決める。必要なことを探らなくてはならない。
 まず第一に、家族がどこまで関知しているのか。
「もう警察とかには話してるんですか?」
「まぁね……一通り思いつく話はしたけど、どうやら」
「……体調不良の理由、心当たりは?」
 いいえ、という返事だった。鵜呑みにするかは別にして、例のバイタライザーについてはこっちだけが持っている情報だと思った方がよさそうだ。
 室内を見まわしつつ話題を捏ねまわす。
「ほんとはお父さんにも話聞きたいんですけど、まだ仕事ですよね。社長だし」
 見回しながら続けてそう問うと、叶恵はそうね、とあいづちを打つ。
「翔成の先輩が来ることをメールで伝えたの。早めに帰ってくると思う」
 言いながら、こちらをじっと見つめた。
「色々詳しいのね、私からお願いするつもりでいたのに」
「げっ」
 思わず硬直した。それは何の気ない言葉ではあっただろうが、瑠真からすると潜入捜査を看破されたような気持ちで心臓に悪い。
 どう振舞ったらいい、ととっさに考えた。仕事だったらこれで普通なのだ、最初から事件を探れと言われて派遣されるのだから。……普通の学校の先輩って、どういうポジションだ?
 近い参照先としてぱっと思い浮かんだのが山代美葉乃だった。瞬間的に像を振り払った。山代家の叔父叔母は参考にならない。
「ええー、と」
 一瞬のうちにぐるぐるとそんなことを考えた末に、気遣いを放棄した。望夢じゃないんだから口八丁は無理だ。
 ストレートに伝えることにした。
「翔成くんの目的とバックグラウンドを考えてるの。分かったら力になれるかもしれないから」
 これでもまだ伏せたものが多かった。瑠真が一人で考えているわけではないし、誰の力になるとも断言はできない。今どこにいる、なんてことは公警察が見つけたって一緒だ。瑠真が……瑠真と望夢が知らなければならないのは、協会やホムラグループが明るみに出せない裏側がどこまで関わっているかの問題だ。
 叶恵はしばらく丸く目をしばたいて、そのあとそう、と呟きながら頷いた。
「……気持ちはありがたいけど、翔成のために無理をしないでね」
 警戒された、と反射的に思った。だけどそれは警戒じゃなかったかもしれない。一度差し出された箱の蓋を閉じて、少し手前に引かれてしまったようなものだ。……子供だから、そういう心配かもしれない。
 口を開いて、しかしこの後何を言えばいいのか分からずに固まった。望夢に対しては軽い気持ちで日沖家の探り出しを請け負ったが、こんなところで立ち止まることになるとは思わなかったのだ。
 だが、転機はあった。
「ただいま」
 表で瑠真も通された玄関戸が開く音がして、男の人の声がよく通って響いてきた。
 反射的に振り向いた瑠真の視界に、お茶の間の戸を引いて現れた男性の姿が映った。スーツ姿に洒落っ気のある髪型をして、面長の顔に丸い瞳。雰囲気は取っつきやすい。
 日沖成実、だったはずだ。翔成の父親……ホムラグループの一員。
 瑠真が何を言っていいのか固まっていたのと同様に、成実も一瞬ぽかんと口を開けて動きを止めた。
「ええと……あれ?」
 いっとき、六畳のお茶の間に沈黙が降りた。
 なぜここに見知らぬ中学生がいるか、ということか? 反射的に言い訳の必要を感じた瑠真は居住まいを正し、身体ごと向き直って早口で自己紹介した。
「翔成くんのこと聞いて、話しに来てます。二年で、先輩で」
「あっ……いや、ええと。七崎さん? ……どこかで会ったことあったっけ?」
「は?」
 今度は瑠真がぽかんとする番だった。
 叶恵も目をぱちくりしていた。叶恵からはその手の反応は特に受けなかったはずだ。
「メールで名前を伝えたわよね?」
「あ、そう……そのときは知ってる子だとまでは思わなかったんだけど、顔を見たら、ちょっと」
 瑠真からすると一切見覚えがない。授業参観の廊下か、協会のどこかの依頼ですれ違うことがあったとかだろうか?
 相手と見つめ合って探りかけたが、他人の空似かもしれないものに拘泥していても仕方なかった。本題は別にある。バイタライザーの入手経路などを探れるとしたら父親が有力だろう、と事前に打ち合わせている。畳に手を突いて話を戻しかけたとき、再び成実の言葉で動きを止められた。
「叶恵、そのぬいぐるみ、前翔成が言ってたやつかな?」
「ぬいぐるみ?」
 問われた母親より瑠真が先に反応した。ポケットに手が行って、いつも通り外側に垂れ下がっていた眼帯ネコを掴む。
「これ……が、どうかしたの」
「あぁいや、前に少し」
 父親自身も戸惑っているようだった。瑠真はマスコットを握りしめる。異物感が指先を刺激する。
 叶恵が横から解説を差しはさんできた。
「前に、翔成がお父さんと喧嘩してたことがあったの。そのきっかけが何かのキャラクターを知ってるの知らないのってことだった気がするけど、そのときのこと……?」
「うん。見せられたのと同じじゃないかな」
「待って。翔成くんがこういうマスコットを持ってて、喧嘩になったってこと?」
 瑠真はたまらず制止をかけた。翔成が声を荒げる風景、というのがまず異常事態として脳内に赤字でひらめく。きっと何か関係がある。
「あぁ、なんて言われたかな……僕にも全然ぴんとこなくて、合ってるか分からないんだけど……」
 日沖成実が顔をしかめた。思い出して、なおいぶかる仕草。
「『お父さんが渡してくれたのに、忘れたのか』って……」
 ほぼビンゴだ。
 話の必要を感じたらしい成実がスーツ姿のままで座卓に同席した。叶恵が黙って上着を受け取る。瑠真はテーブルに手を突きつつ、
「それっていつ」
「四月かなあ……?」
「四月?」
 瑠真がゲーセンでマスコットを渡されたのはつい先週だ。翔成はとっくに目を付けていた?
「あの……何か、本当に忘れたとしたら、きっかけに心当たりは……?」
 さすがに聞き方が下手だった気が自分でもした。成実が奇妙な顔で口をつぐんだ。もう一言を言っていいものかどうか胸の中で逡巡した。春姫はホムラグループの裏側にいる異能集団を何と説明した? 人心操作に長けた、妖術師―
「瑠真ちゃん」
 ぽそりと叶恵が名前を呼んだ。瑠真の思考が断ち切られた。名前そのものは翔成の担任から伝えられていたはずだが、ファーストネームで呼ばれたのは初めてだ。
「翔成のこと、どうして心配してくれてるの?」
「え」
 またちょっと固まった。ついさっき前のめりになりすぎて距離を取られたばかりなのに、またもや正面から突っ込んでいた。
 そして、その質問はこの数日間瑠真を悩ませているそれに一瞬で繋がった。翔成を……助けを求めていない誰かを、どうして追う?
「担任の先生が言ってたのが気になって。谷中(やなか)でしたっけ」
 少々苦しかったが、いま一番心境に近いとしたらこれだろう、と教師の言葉を引っ張り出していた。
「翔成くん、真面目だからって。助けてほしいって言わないかもしれないって……いや、私助けても何も、他人なんですけど」
「真面目……そうね」
 叶恵がふっと笑った。瑠真がつい語末に言い訳を付け足したのは目の前の叶恵がずっと沈みがちな顔でこちらを見ていたからだ。親を差し置いて理解者気取りの瑠真を憐れむように。仄かなやりづらさが胸を引っ掻く。
「翔成はずうっと心配かけないし、いい子のままで大きくなったのよね。だから四月によく分からないことで声を大きくしてたのを、私もお父さんもよく覚えてたんだけど……でも、それと同じくらい、負けず嫌いなんじゃないかな」
「負けず嫌い?」
 瑠真は正座を直しながら叶恵を伺った。突っ込みすぎの探偵ごっこに制止をかけられたのだとばかり思っていたが、別の角度から手がかりに導かれている気がする。
「そうかもな」
 成実が目を逸らしてこっそり相槌を打った。叶恵は笑顔を保ちつつ息継ぎをすると、
「あの子はすごく普通の、いい子だけど、それってちょっと、自分のために何かされるのが嫌っていう面倒くさい性格でもあると思ってるの。宿題は手伝われたくないから徹夜してでも見えないところでやる、怪我したら隠して笑顔で帰ってきて一人で治療する。頑固なのよね」
「それは……」
 結構度を越した真面目さではなかろうか。瑠真もある程度は共感できるが、泣き言は言ってナンボ程度には人に甘えている。
「だったら……」
「そうね、昨日から家に帰らないのも、何かに巻き込まれたっていうのがいちばん怖いけど、兆候は色々あったわけでしょう。私にだって全部は教えてくれない子だから……教えてくれずに、何かをやりに黙って出たんだって思ったら」
 ふと叶恵が言葉を切ると、さっと席を立って奥の部屋に引っ込んでいった。手に成実の上着を持ったままだったので、ハンガーに掛けにいった? 瑠真がぽかんとしていると、当の成実が申し訳なさそうに少しだけ座る位置を詰めて、こそっと瑠真に囁きかけた。
「母さん、あれで結構参ってるんだよね。ちょっとそっとしといてあげて」
「あっ」
 ごめんなさい、と言いかけたが言いそびれて口をもぞつかせた挙句に目を逸らした。だから人の親には慣れていないのだ、まともな友達なんかずっといないんだから。
 父親の成実も決して気楽な立場ではないはずだが、表面上接しやすい軽いトーンのままで、話題を繋げてくる。
「僕がまだ聞くことってある?」
���えっと」
 ポケットから飛び出たネコのぬいぐるみを握りしめて切り出そうかしばらく迷ったが、結局少し違う角度に決めた。
「灯火病院プロジェクトって知ってます?」
 成実がこちらを見つめたまま動きを止めた。
「ホムラグループの?」
「そう。こないだ子会社の流通商社で聞いた」
 成実はしばらく考えると、スーツの胸元からさっき取り出していた小物の中から革の名刺入れを取り出した。待っていると入っていた名刺から一枚を差し出される。
『株式会社帆村商事 本部 児子善也』
 関係者の名前、ということだろうか。
「帆村商事……本社?」
 ちらりと検索画面のトップで見た単語のような気がした。怪しいインターネット知識で問い返すと、成実は頷いて手のひらに字を書くしぐさをした。
「読めないだろう、それでニコ・ゼンヤ。僕も仲良かった子会社社員だったけど、こないだ本社に転勤になってね」
「はぁ、あれ?」
 どこかで聞いた話と被って聞こえた。確か、土日の依頼で監視役だった岳下が、灯火病院プロジェクトの担当者について似たようなことを言っていたはずだ。だが、そこで聞いたのは……田中とか鈴木とか、普通の名前って話だったような……?
 その担当者と同一人物かは疑問だが、知り合いの可能性は大いにある。当たって損はない調査対象だ。
「まだだいぶ時間早いから、仕事中じゃないかとは思うけど。たぶんかなり詳しい人だったはずだから、電話でアポ取ったりするといいんじゃないかな」
「ありがとう。ございます」
 話しやすさからついつい敬語が外れるが、無理やりくっつけた。翔成と何が関係あるとも言っていないから、騙しているような罪悪感はまだあった。
「何かわかったら、教えてくれるかな」
 さすがに物憂げに溜息を吐く成実に無言で頷いた。元より望夢とも最優先は家族や公的機関による捜索だと打ち合わせている。……言えることだったらいいけど。
 話が済んだような空気が流れ、ちらりと時計を見た。夕方定時連絡の時間だ。
「出ますけど、叶恵さんは?」
 腰を上げながら伺いを立てると、成実は首を振った。
「僕から挨拶しとくよ。悪いね、気を遣わせて」
「いや」
「母さんはすごく心配性なんだよな。だから僕も翔成もついつい何も言わないでおこうって考えてしまいがちなんだけど」
 それはなんとなく腑に落ちる感覚だった。瑠真の母親はまだ大声で心配だと騒ぐからいいようなものだけれど、やっぱりかなりの心配性だし、同じことを、叶恵のように黙って考えているのであればこっちだって物静かにもなるかもしれない。
 腰を上げながらアプリを立ちあげて望夢に連絡した。座ったままでまじまじとこちらを眺めていた成実が、ほうっと息を吐いてこう言った。
「でもやっぱり、どっかで会った気がするなあ」
「私?」
 頭半分の相槌しか打てなかった。悪いけど記憶がないです。
  →UNITED FRONT: 夕方、高瀬望夢
  都外に出た電車が目的駅への到着を告げた。
 大きなターミナル駅だった。望夢は人波をかいくぐって急ぎ足になりつつ、目的の住所を検索する。商品探しと移動で時間を食ってしまった。すでに午後四時を回ってぼちぼち学生の姿が見られるようになり、学校にも行かずに制服で歩き回っている違和感からは逃れられる。
 指定された住所はごく普通のアパートだった。望夢個人がフリーランスへの依頼などというものを経験するのは初めてなのでこれが相場かどうかは分からない。自宅に色々事情を抱えた依頼人を呼ぶのってリスクが大きいんじゃないだろうか、とぼんやり考える。自宅じゃないのかもしれない。
 見まわしながら階段を上り、教えられた部屋の前に立つ。角部屋だった。隣の建物と廊下の距離が近く、あまり日差しが入るとは言えない。ためらった末に普通にインターホンを押したが、返事がなかった。
「留守……」
 考えてみたら必ずいるとは限らない。他の依頼で空けているかもしれないし、生活している以上私用でいないこともあるかもしれない。最近の訪問先が引きこもりの春姫と軟禁状態の入院客だったので基準が狂っていた。溜息を吐いて後ろの鉄の手摺りにもたれかかった。時間を確認しつつ、暇つぶしのつもりでスマホに繋いだイヤホンを入れる。
 午後四時四十四分。ゾロ目だ、と思った瞬間背後からひやりと冷気を感じた。
「動くな」
 耳元で囁かれるまでもなく体が固まっていた。
 何者かに手摺り越しに手を回され、首筋に何かを当てられていた。自然と刃物だと思っていた。あからさまだ。一歩でも動いたら頸動脈を掻き切られる位置。
 二階だぞ、と麻痺したように思った。片手は隣の手摺りに突いているのが分かったが、音もなく忍び寄るには足場が不安定すぎる。……音、しなかったよな?
 ふんわりと、知らない解釈の香りがした。見知った解釈でも同じことはできるが、感じる気配が一致しない。
「坊や、異能者(アルチスト)だね。探りながら上がってきたでしょう?」
「……」
「囮? スケープゴート? なんにせよ子供なのが趣味悪い。やるなら一人でやりなよ、気に入らないな」
 聞きながら、じわじわと違和感に認識が追いついていた。女の声だ、それもかなり若い。能力に性別が関わるわけではないが、業界多数は圧倒的に男性であることを思うと大きな特徴にはなる。斎が意図的に黙っていたんだとしたら望夢に対する多少の悪戯なのかもしれない。
 はっと思い出して指だけでスマホを操作すると、肩越しに後ろに画面を向けた。「んん?」女の声が怪訝になった。
「Op.37bis……なに、仕事?」
 その声が読み上げたのはクラシックの作曲番号だ。望夢は掻き切られそうな首を動かさないように、引きつってはいるが肯定の笑みを浮かべた。
「レコード手に入らなかったから、ダウンロードなんだけど……」
 背後の気配が一瞬固まった。
 それから軽やかな爆笑が弾けた。怖いので大きく動かないでほしい。
「おもしろ! 現代っ子かよ」
「……現代っ子だよ、悪かったな」
「まぁまぁ私はデジタルとアナログの音の違いに文句を付けるタイプだけど、つまり別件だと思っていいんだね? 話が噛み合わない」
 首元から刃物が外された。自分で思っていた以上に緊張していた全身から一気に力が抜けて、��所に痛みを感じた。心臓が早鐘を打っている。
 隣の手摺をくるりと飛び越えて、背後の気配が正面に立った。やはり若い女性だ、見た目はあてにならないが大学生程度かもしれない。長い黒髪と青みがかった瞳がかなり浮世離れた印象を作っているが、ほとんど針のように細い刃物を懐に仕舞った同じ腕に買い物袋を引っ掛けているのだけがいやに庶民っぽい。ちなみに近くの中華街の有名店だった。
「別件って?」
 ようやく余裕ができて小声で訊くと、彼女は肩をすくめて自室の扉に向かった。腰まで真っ直ぐ伸びた髪が綺麗に靡いた。
「坊やが何者か知らないけど、刺激が嫌いならちょっと目を閉じてたほうがいいかもしれないよ」
 ナンバーロックを外して扉を引き開けた女の言葉に眉を寄せている間に、扉の影から倒れ掛かる影があった。
「!」
 遅れてそれが人体だと認識したとき、先程から漂っていた死の気配の正体を察した。死んでいる……、殺されている。血の色はほとんどなかった。うなじに一箇所汚れた部分があって、
最低限の労力で頚椎を切られたことを物語っている。
 反射的に口を押さえて目を逸らしたが、女は溜息ひとつで死体を押しのけると、入り口のクローゼットの中に突っ込んだ。
「組織に所属してないから、恨みを買うとすぐに手を出されるんだよね。あ、気にしないで、こいつも無所属なのは確認済み。あとで専門業者を呼ぶから」
 気にしないでというのも無茶だったが、女の白い顔を見て思わずためらった。フリーランスの用心棒……その世界は確かにこんなものなのかもしれないが、あまりに倫理観が食い違っている。
(何が俺に向いてるって言われたんだろう……?)
 脚が迷う。こんなものを戦力にしようとしている?
 女の蒼い瞳がこちらを見ていた。
「平和呆けしたガキだね。何しにここまで来た?」
「……」
 口を開くが、すぐに答えられずに俯いてしまった。事実を伝えることはできるが、それによって話を先に進めることに抵抗が芽生えたのだ。
 女は首を振った。呆れられたらしい、当然だ。
「迷うなら帰りなよ。あーあ、現場を知らない正義感ってやつ……高瀬式にいた頃を思い出すね」
 ピクリと望夢の肩が跳ねた。
「高瀬式にいた頃……って、斎(いつき)に雇われてたのか?」
「斎? 知り合い? あ」
 そこでようやく女の声が疑わしげな色を帯びた。
 俯いている望夢の顔を覗き込むように腰を折り、しばしの間をおいてにやりと笑う。
「なるほどね」
 覗き込まれているのが居心地悪くなり小さく顔を上げると、蒼い瞳と目が合った。完全に面白がる表情になった白い顔を隣の建物との隙間から辛うじて入る夕映えが照らしている。
「高瀬望夢だな?」
 ためらいながら頷くと女は得心した顔で頷いた。
「そうかい、一度会ってみたかったんだ。篝(かがり)のヤツの忘れ形見にね」
「……父さんの知り合い?」
 父親の名前が聞こえた気がした。斎が雇っていたのならむしろ本家側からは隠れた位置の契約だったのではないかと思っていたが。
 蒼い瞳が三日月形に細くなる。
「斎和平のことも知っちゃいるけどね。私を雇ってたのは高瀬篝だよ」
 返事ができなかった。望夢はそもそも一昨年の八月の死以前にも、己の父親と話したことがほとんどない。そういう家だったのだ。
 自分の知らないものが始まる嫌な予感をほのかに受け取った。
「こんなところでいつまで話すのさ。食べ物が冷めちゃうよ。中へおいで、高瀬式のお坊ちゃん」
 さらりと髪の毛を翻して、女が先に背を向けた。自分も踵を返して逃げ帰ろうか、と一瞬思った。先ほど刃物を向けられたときとは違う、徐々に押しつぶすような冷気に心臓が波打っている。
 だが、握りしめたスマートホンの熱さがほのかに望夢を引き留めていた。決行中の作戦。組織圧力の入り乱れる中で個人戦をやりたいと思ったら、まず好きに使える戦力がないと話にならない。
「……頼む」
 ゆっくり肺に溜まったものを吐き出した後、大きく吸って、足を踏み出した。
 ちなみにこのとき瑠真からの連絡はまだ来ていなかったが、この後の彼女の行動予定を知っていたら恐らく望夢は止めただろう。
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