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#黒部峡谷
kyotomoyou · 2 years
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【富山県】黒部峡谷 . (2018/11/13撮影) . #黒部峡谷 #黒部峡谷トロッコ電車 #宇奈月温泉 #黒部峡谷鉄道 #黒部峡谷鉄道トロッコ電車 #黒部峡谷トロッコ列車 #富山県 #黒部観光 #黒部旅行 #旅行 #日本旅行 #国内旅行 #旅行好き (黒部峡谷 / Kurobe Gorge) https://www.instagram.com/p/Cj-iiWlPc2-/?igshid=NGJjMDIxMWI=
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halkeith · 2 years
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黒部峡谷鉄道に乗って黒薙へ #HDR #K50 #PENTAX #絞り制御復活 #黒部峡谷鉄道 #黒薙駅 #お盆休み #黒薙温泉 #電気機関車 #黒部峡谷
台風の影響が心配だったが、なんとか持ちこたえた。ということでやってきたのは黒部峡谷鉄道トロッコ電車。 黒部川沿いをくねくねと蛇行しながら走る。車窓から?窓無い場合はなんて言えばよいのだろう。 後曳橋を渡る電車。絵になる。 ホーム越しの機関車もかっこいい。  ここからは車窓からの眺め。 宇奈月駅を発車すると温泉街が目に入る。 うなづき湖と湖岸にそびえる新柳河原発電所。ここはドイツかと思わせる。 猿もいっぱい住んでいる。猿用の橋なんて使われるのだろうかと思っていたが、カメラでは捉えられなかったけど確かに猿が渡っていた。 トンネルの中はひんやりで肌寒い位。 20分位の乗車で黒薙駅に到着。 ここからは黒薙遊歩道を歩く。 レトロな水路橋を横目に絶壁に作られた道を歩く。 結構急な階段を上り下り黒薙温泉に到着。お堂を参拝し一休み。 温泉には入らなかったが、湯けむりがもくもくと、温泉を視覚で楽しんだ。 …
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jackybean · 2 years
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… 延対寺荘の2日の夕食と3日の朝食。 川のせせらぎを見ながらの朝食が優雅でなんとも。。 2日目の夕食にもバイ貝の釜飯あったけどもれなくおにぎりになった。。朝食も普段の晩御飯よりたくさんあるよ(笑) 3日にウロウロ散策してたんですけど、旅館の風呂から見えてた変な鉄構造物ね、、 遠くから見ても明らかに落ちそうだったんですが想影展望台ってなってるから行ってみたら案の定通行止めww 明らかヤバいよね💧 調べると、スペインの建築家、エンリック・ミラーレスが設計したもので大空に鳥が飛び立つ雄姿を造形したそうです。。でも朽ちたのね、、 #富山県 #黒部峡谷 #黒部峡谷トロッコ電車 #黒部峡谷鉄道 #黒部峡谷トロッコ列車 #富山観光 #宇奈月温泉 #延対寺荘 #延対寺荘フォトコンテスト2022夏 #温泉旅館 #entaijiso #宇奈月 #想影展望台 #kurobegorge #kurobegorgerailway (宇奈月温泉 延対寺荘) https://www.instagram.com/p/Cg6zkjxBHLO/?igshid=NGJjMDIxMWI=
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ari0921 · 2 years
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「宮崎正弘の国際情勢解題」 
令和四年(2022)7月26日(火曜日)
    通巻第7414号
 カリスマ性ゼロ、教養の浅薄さ。嘘の情報しか入らない孤独
   習近平はいずれ中国現代化の成果をすべて破壊するだろう
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 重慶にはよく行った。山あり谷あり。奇岩、高い崖の間に深い谷間、天然の要害都市だ。古代の「巴」という王朝は、この谷間のような空間に成立した。
現代では、孫悟空が空を飛ぶように崖と台地を高い鉄塔を組んだ道路が立体的につなぎ、未来都市のような空中回廊のごとき建築構造物の塊となった。メトロよりモノレールが発達し、橋が交通渋滞の原因。高速道路が無数に交錯する。
 四川省の名物は麻婆豆腐。猛暑で湿気が強く、食べ物は腐りやすいから猛烈に辛い香辛料を使用し、味をごまかす。重慶人は火鍋が得意。何回か食べたが、なじめない。胃袋がよじれる。
巴という古代王国は太陽信仰、成都の北で発掘された三星堆遺跡は古代史常識をがらりと変えた。中華四千年の歴史というのは黄河文明史であり、黄河より遠大な長江には、もっと古い文明があった。河母都遺跡などが戦後しられるようになった。
 地形的には嘉稜江に幾本もの河が合流し、三峡ダムが近いため長江の運搬ターミナルとしても重要な戦略拠点である。駐在員こそすくないが重慶には日本領事館も置かれている。
 蒋介石はこの重慶に臨時首都をおいて、終戦後は共産党と延々と「国共合作」の交渉を行った。会談の場所は重慶に残っているが、蒋介石は最後に毛沢東に巧妙に欺された。重慶は喜びが重なるという意味で政治都市としての機能を果たした。
1997年、この重慶市が四川省から分離独立し「特別市」扱いを受ける。人口が3100万、北京、上海、天津とならぶ四大重要拠点、したがって重慶市党委員会書記は、共産党に序列でも高位、現在は習近平の茶坊主、陳敏爾がトップに居座っている。そのまえは共青団のホープといわれた孫政才が赴任したが、醜聞に巻き込まれ、失脚した。
 前置きがながくなった。
重慶市書記として薄煕来が大連市長から商務部長をへて赴任したのは2007年だった。筆者はたまたま、重慶を二回ほど連続して取材したタイミングと重なり「唱紅打黒」の現場を何回も見たのだ。
 公園に市民が集まってジャズや社交ダンスにふけるのではなく革命歌を唱う。ぎこちない合唱団の時代錯誤、薄気味が悪いが、共産党員は競って歌声大会に邁進した。というのも、薄煕来が奨励し、これが「共同富裕」の合い言葉となって、個人的野心を実現し、政治局常務委員を狙っていた。当時のチャイナウォッチャーの間では、長身でハンサムでカリスマ性に富んでいた指導者として薄の政治局常務委員入りは確実と読んでいた。
 ▲クーデタ未遂、公安vsマフィア
当時の政治情勢をいえば、習近平なぞ、「どこぞの馬の骨」でしかなく、対比的に同じ太子党でも、薄煕来には、明らかなカリスマ性があった。薄は薄一波の息子、かたや習は習仲勲の息子で、ともに親の七光りで異例の出世街道にあった。薄が先輩格であり、習は兄貴分として仰ぎ見ていた。
薄は大連市長から遼寧省省長、2004年に商務部長。そして07年に重慶特別市書記に栄転し、マフィアを相手に綱紀粛正、反腐敗キャンペーンで地元やくざをかたっぱしから逮捕し、重慶市民の喝采をあびた。大連からひきつれてきた公安局長の王立軍が大活躍し、実際にマフィア十数名を処刑した。
この王立軍が、土壇場で薄煕来を裏切り、成都の米国領事館に機密書類とともに駆け込んだ。亡命を希望したが、オバマ大統領は決断が出来ず、多くの権力闘争の機密が漏れて、薄は立場を失った。
2011年に薄煕来は夫人の谷開来が英国人を毒殺したことがばれ、突然、失脚した。カリスマに飛んだ指導者が消え、木偶の坊のように体格だけは良い男が、院政を敷いていた江沢民の眼鏡にかなった。この間に北京ではクーデタ未遂事件が起きたというが、戦車が動いたのは事実で、それがクーデタだったのか、どうかは謎である。
しかし習近平は僥倖に恵まれた。最大のライバルだった薄が不在となって、権力基盤を固めるには、反腐敗キャンペーンという武器を浸かって政敵を潰していく。最大最強の協力者が王岐山だった。
しかし軍と公安をてなづけたとはいえ、習近平に何かがかけている。
それは、カリスマ性だ。薄煕来にはあった。安倍元首相には強いオーラがあったという人が多い。トランプにもカリスマ性があり、オーラを感じた人は多いだろう。いまのバイデンにはない。
過去十年の習近平のパフォーマンスを映像で追う限り、まるでオーロがないことに気がつくだろう、また教養のかけらを感じさせない。
偉そうに思想をかたるときなど、薄気味が悪く鳥肌がたつ。個人崇拝だけを求��、中国の夢をたたえるとき、ぞっとするものを感じないか。
江沢民の三個代表論も、胡錦濤の科学的発展観も、何が何だか正確には分からないが、市場経済を発展させ、中国人の生活水準を豊かにしようとしていることだけはわかった。
 習近平は、「中国的社会主義市場経済」をぶちこわし、トウ小平路線を基本から否定した。この暴走を誰も阻止できない。諫言できないとう皇帝支配のぬきがたい体制は、間違いなく中国経済を根底的に破壊する。
その兆候が銀行の取り付け騒ぎ、不動産ローン支払いボイコット、若者たちの何もしないいう無言の抵抗。解答がすでに出始めている。
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yotchan-blog · 8 days
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2024/4/20 15:02:46現在のニュース
フィギュア「ブルーム・オン・アイス」 「かなだい」花咲かす氷上の舞(毎日新聞, 2024/4/20 15:02:07) 「抜本的な改革になっているのか」 宝塚歌劇団が再出発するために(毎日新聞, 2024/4/20 15:02:07) 岩谷産業会長・牧野明次さん 「水素社会」の夢を次代に (人間発見) - 日本経済新聞([B!]日経新聞, 2024/4/20 14:51:49) 「成瀬を育ててくれた」 作家の宮島未奈さん、滋賀県の読者に感謝(毎日新聞, 2024/4/20 14:47:08) 観光特急「かんぱち・いちろく」お披露目 博多―別府間、地元産の杉を内装に([B!]産経新聞, 2024/4/20 14:45:23) 熊本市動植物園のモノレール、26日再開 半年前に4台追突、6人けが | 毎日新聞([B!]毎日新聞, 2024/4/20 14:42:54) トロッコ電車が運行再開 黒部峡谷鉄道、能登地震で一部不通([B!]産経新聞, 2024/4/20 14:39:26) 久大線の自然、触れに来て JR九州、新観光列車「かんぱち・いちろく」 26日運行開始 | 毎日新聞([B!]毎日新聞, 2024/4/20 14:35:46)
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eiji-t · 2 months
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Title: 人知れず五彩相あう青嵐 / A chaotic blue storm [ lush wooded forest. Summer season word in haiku ] unknown to people Technique: 紙に鉛筆 / pencil on paper Size:H455×W455×D15mm Year:2024年
宇奈月温泉開湯100周年の夏、黒部峡谷の中にわずかに開けた宇奈月温泉のある河岸段丘から川岸に降りた対岸を撮影した���7〜8階の高層ビルに相当する高さの岸壁が目前に迫る峡谷独特の風景。 木々が雑然と共生している多様性=「五彩相あう」は、人間界で昨今、価値を上げているダイバーシティー(多様な人材を活かす戦略によって生産性や個々の幸福度の向上を目指す考え)の象徴ともいえるが、そもそも現代人の視点で今更発見しなくても自然に在る必然だ。 古代より山に生きる人々は、山の形を見ただけで水脈を探し当てることができたとのことで、この制作を通して、生ける御神体としての山々と相対してきた古代の修験道者や非定住職能民の視点に少しでも近づくことができたかどうか....わからない。黒部の源流は自分のルーツのひとつでもあるが、この作品 / 風景が開湯200周年の100年後も変わらず残っているかどうか。
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moko1590m · 3 months
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記録に残っている被害では、1918年1月9日に新潟県南魚沼郡三俣村(現在の湯沢町)で発生した泡雪崩が集落を襲い、158人もの死者を出したものが最大である(三俣の大雪崩)。 このほか、雪深く気温が低い厳冬期の黒部峡谷は泡雪崩が発生しやすく、1938年12月27日に富山県下新川郡宇奈月町志合谷(現在の黒部市)で発生[1]した泡雪崩では、黒部川第三発電所建設に伴うトンネル工事の作業員が宿泊していた鉄筋コンクリート一部木造の宿舎で、木造であった3階および4階部分[注 3]が川の対岸600mまで吹き飛び84人の死者[注 4]を出している。なお、一連の黒部川での電源開発工事では、出し平ダムで34人、竹原谷で21人の泡雪崩による死者を出している。 富山県五箇山(現在の南砺市域)では、1829年1月17日[注 5]、細島にて8軒21人が、1940年1月28日、漆谷にて5軒8人が犠牲となっている[4]。 近年では1986年1月26日に新潟県西頸城郡能生町(現在の糸魚川市)の柵口(ませぐち)地区で泡雪崩が発生し、死者13人、重軽傷者9人、家屋全壊16戸、同半壊3戸の被害[注 6]を出している。雪崩は最大速度180km/h、走行距離1,800m、デブリ量10 - 30万m3と推測されている(柵口雪崩災害)。
泡雪崩 (ほうなだれ)- Wikipedia
下新川郡宇奈月町志合谷   しもにいかわぐん うなづきまち しあいだに
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trivia-jp · 4 months
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立山黒部アルペンルート 富山の名所
立山黒部アルペンルートは、富山県を中心に広がる観光ルートであり、壮大な自然景観やアクティビティが楽しめる人気の観光地です。以下にその特徴を挙げてみます。 1. 壮大な景観 立山黒部アルペンルートは、立山連峰や黒部川など、壮大な自然景観が広がります。特に雄大な山々や渓谷、清流などが見どころです。 2. 様々な交通手段 アルペンルートでは、様々な交通手段を利用して景色を楽しむことができます。立山黒部雲上展望台からの立山連峰の眺めや、立山ロープウェイ、黒部峡谷鉄道、黒部ダムなどを巡ることができます。 3. 立山富山アルペンルート この観光ルートは、立山を核に展開し、観光スポットや自然景観を結ぶルートです。立山室堂や立山黒部アルペンルートの起点となる室堂駅も人気のスポットです。 4. アウトドアアクティビティ 立山黒部アルペンルートでは、トレッキングやハイキング、冬季にはスキーやスノーボードなどのアウトドアアクティビティを楽しむことができます。 5. 自然の美しさと季節の変化 四季折々の美しい自然を楽しむことができます。春や夏は新緑や鮮やかな花々、秋は紅葉、冬は雪景色が見どころです。
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Tateyama Kurobe Alpine Route Famous places in Toyama
The Tateyama Kurobe Alpine Route is a tourist route that spreads around Toyama Prefecture, and is a popular tourist destination where you can enjoy spectacular natural scenery and activities. Below are some of its features. 1. Magnificent scenery The Tateyama Kurobe Alpine Route offers spectacular natural scenery, including the Tateyama Mountain Range and the Kurobe River. The majestic mountains, valleys, and clear streams are especially noteworthy. 2. Various means of transportation The Alpine Route allows you to enjoy the scenery using a variety of transportation options. You can enjoy the view of the Tateyama Mountain Range from the Tateyama Kurobe Kumojo Observation Deck, as well as visit the Tateyama Ropeway, Kurobe Gorge Railway, Kurobe Dam, and more. 3. Tateyama Toyama Alpine Route This sightseeing route revolves around Tateyama and connects tourist spots and natural scenery. Tateyama Murodo and Murodo Station, which is the starting point of the Tateyama Kurobe Alpine Route, are also popular spots. 4. Outdoor activities On the Tateyama Kurobe Alpine Route, you can enjoy outdoor activities such as trekking and hiking, and in winter, skiing and snowboarding. 5. Natural beauty and seasonal changes You can enjoy the beautiful nature of each season. The sights are fresh greenery and bright flowers in spring and summer, autumn leaves in autumn, and snowy scenery in winter.
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kachoushi · 1 year
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各地句会報
花鳥誌 令和5年4月号
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坊城俊樹選
栗林圭魚選 岡田順子選
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令和5年1月4日 立待俳句会 坊城俊樹選 特選句
年賀状投函ポスト音を吐く 世詩明 大冬木小枝の先まで空を突く 同 猫寺の低き山門虎落笛 ただし 福の神扱ひされし嫁が君 同 石清水恙の胸を濡らしつつ 輝一 阿弥陀様お顔に笑みや秋思かな 同 去年今年有縁ばかりの世なりけり 洋子 潮騒の聞こゆる壺に水仙花 同 羽根をつく確かなる音耳に老ゆ 同 時々は絵も横文字も初日記 清女 初電話友の恙を知ることに 同 暁に湯気立ち上がる冬の海 誠 大寒のポインセチアに紅のあり 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年1月5日 うづら三日の月花鳥句会 坊城俊樹選 特選句
初暦いかなる日々が待ち受けん 喜代子 おさんどん合間に仰ぐ初御空 由季子 病院の灯消えぬや去年今年 同 雪掻に追はれつつ待つ帰り人 さとみ 海鳴りや岬の水仙なだれ咲く 都
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年1月7日 零の会 坊城俊樹選 特選句
あをき空うつし蓮の枯れつくす 和子 蓮枯れて底の地獄を明るめる 軽象 枯はちす揺り起こすなり鐘一打 三郎 破れ蓮の黄金の茎の高さかな 炳子 枯蓮の無言の群と相対し 秋尚 弁天の膝あたたかき初雀 慶月 面差しの傾城名残青木の実 順子 男坂淑気を少し漂はせ 三郎 恵方道四方より坂の集まり来 千種 葬儀屋の注連縄なんとなく細い いづみ いかやきのにほひに梅の固くあり 要 枯蓮のやり尽くしたる眠りかな 佑天
岡田順子選 特選句
枯はちす揺り起こすなり鐘一打 三郎 鷗来よ枯蓮の幾何模様へと 俊樹 そのあとは鳶が清めて松納 いづみ 毛帽子にまつ毛の影のよく動く 和子 北吹けりもう息をせぬ蓮たちへ 俊樹 蓮枯れて水面一切の蒼穹 和子 人日の上野で売られゆくピエロ 三郎 石段に散り敷く夜半の寒椿 悠紀子 恵方道四方より坂の集まり来 千種 よろづやに味噌づけ買うて寒に入る 眞理子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年1月7日 色鳥句会 坊城俊樹選 特選句
双六やころころ変る恋心 朝子 下の子が泣いて双六終りけり 孝子 短日は数が減るかもニュートリノ 勝利 歌留多とり式部小町も宙に舞ひ 孝子 小春日や生ぬるき血の全身に 睦子 骨と皮だけの手で振る賭双六 愛 京の町足踏み続く絵双六 散太郎 粛々と巨人に挑む年始 美穂 来世から賽子を振る絵双六 愛
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年1月9日 武生花鳥俳句会 坊城俊樹選 特選句
双六の終着駅や江戸上り 時江 たかいたかいせがまれて解く懐手 昭子 てのひらの白きムースの初鏡 三四郎 火消壺母のま白き割烹着 昭子 木の葉髪何を聴くにも左耳 世詩明 街筋の青きネオンや月冱てる 一枝 姿見に餅花入れて呉服店 昭子 はじき出す男の子女子のよろけ独楽 時江 一盞の屠蘇に機嫌の下戸男 みす枝 初詣寺も神社も磴ばかり 信子 御降や傘を傾げてご挨拶 みす枝
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年1月9日 花鳥さざれ会 坊城俊樹選 特選句
初明かり故山の闇を払ひゆく かづを 万蕾にある待春の息吹かな 々 小寒や薄く飛び出る鉋屑 泰俊 勝独楽になると信じて紐を巻く 々 仏の前燭火ゆらすは隙間風 匠 筆箱にニトロとんぷく老の春 清女 二千五百歩小さな散歩寒に入る 天空
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年1月10日 鳥取花鳥会 岡田順子選 特選句
鋳鉄製スチームの音古館 宇太郎 始業の蒸気雪雲を押しあげて 美智子 溶けてなほ我にだけ見ゆる時雨虹 佐代子 失ふはその身ひとつや冬の蜂 都 寒灯下遺影に深く法華経 悦子 大木を伐られ梟去つたらし 史子 枯木立通り抜けたる昼の月 益恵
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年1月10日 萩花鳥会
人生の余白少なし冬の薔薇 祐子 裸木が絵になる空を展げゆく 健雄 山茶花や気は寒々と花紅く 俊文 守らねばならぬ家族や去年今年 ゆかり 一椀に一年の幸雑煮膳 陽子 故郷で一つ歳とる雑煮かな 恒雄 昼食後一枚脱いで四温かな 吉之 亡き人に届きし賀状壇供へ 明子 逆上がり笑顔満面四温晴 美惠子
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令和5年1月13日 さくら花鳥会 岡田順子選 特選句
初生けを祝成人と命名す みえこ 薪焚の初風呂済ませ閉店す 令子 御降りに濡れても訪ひぬ夫の墓 同 初詣光􄽄現れて良き日かな あけみ 注連飾父の車の隅に揺れ 裕子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年1月14日 枡形句会 栗林圭魚選 特選句
閼伽桶の家紋色濃し寒に入る 多美女 養生の大樹潤す寒の雨 百合子 勤行の稚の真似事初笑ひ 幸風 いつもならスルーすること初笑 秋尚 臘梅に鼻近づけてとしあつ師 三無 寒椿堂裏の闇明るうす 多美女 多摩堤地蔵三体春立ちぬ 教子 均しある土の膨らみ春隣 百合子 掃初の黒御影拭き年尾句碑 文英 悴んで顔を小さく洗ひけり 美枝子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年1月15日 風月句会 坊城俊樹選 特選句
飛石を跳ね蝋梅の香に酔うて 炳子 木道の先の四阿雪女郎 幸風 その奥に紅梅の蕊凜として ます江 黒き羽根なほ黒々と寒鴉 貴薫 不器用に解けてゆきぬ寒椿 千種 入れとこそ深き落葉へ開く鉄扉 同 谷あひに弥生の名残り水仙花 炳子 椿落つ樹下に余白のまだありて 三無 木道まで香り乱れて野水仙 芙佐子 寒禽の群を拒まぬ一樹かな 久子
栗林圭魚選 特選句
山間の埋れ火のごと福寿草 斉 空昏く寒林よぎる鳥の影 芙佐子 厚き雲突き上ぐ白き冬木の芽 秋尚 福寿草労り合ひて睦み合ひ 三無 そのかみの住居跡とや蝶凍つる 炳子 水仙の香を乱しつつ通り抜け 白陶 入れとこそ深き落葉へ開く鉄扉 千種 竹林の潤み初めたる小正月 要 椿落つ樹下に余白のまだありて 三無 せせらぎのどこか寂しげ寒の水 白陶
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年1月16日 伊藤柏翠記念館句会 坊城俊樹選 特選句
若きより板に付きたる懐手 雪 北窓を塞ぎさながら蟄居の間 同 昨夜の酔ひ少し残るや初鏡 かづを 九頭竜や寒晴の綺羅流しゆく 同 除夜の鐘八つ目を確と拝し撞く 玲子 初明り心の闇を照らされし 同 一点の客観写生冬の句座 さよ子 翳す手に歴史を語る古火鉢 同 笑つても泣いても卒寿初鏡 清女 餅花の一枝華やぐ奥座敷 千代子 年賀状手描の墨の匂ひたつ 真喜栄 若水を汲むほどに増す顔のしわ 同 裸木村は大きな家ばかり 世詩明 春炬燵むかし昔しの恋敵 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年1月18日 福井花鳥会 坊城俊樹選 特選句
水仙や悲恋の話知りしより 啓子 堂裏の菰に守られ寒牡丹 泰俊 餅花やなにやらうれしその揺れも 令子 左義長の遥けし炎眼裏に 淳子 寅さんを追つて蛾次郎逝きし冬 清女 飾り焚く顔てらてらの氏子衆 希子 御慶のぶ一人一人に畏みて 和子 眉を一寸引きたるのみの初鏡 雪 初髪をぶつきら棒に結ぶ女 同 束の間の雪夜の恋に雪女 同 マスクして睫毛に化粧する女 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年1月20日 さきたま花鳥句会
凍星や夜行列車の窓あかり 月惑 葉牡丹や鋳物の町の鉄の鉢 一馬 どら猫のメタボ笑ふか嫁が君 八草 小米雪運河の小船音もなく 裕章 老木に力瘤あり春隣 紀花 竜神の供物三個の寒卵 ふゆ子 医学書で探す病名寒燈下 とし江 おごそかに雅楽流るる初詣 ふじ穂 人のなき峡の華やぐ柿すだれ 康子 小正月気の向くままの古本屋 恵美子 寒梅や万葉がなのやうに散り 良江
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年1月21日 鯖江花鳥句会 坊城俊樹選 特選句
福引の種考へてゐるところ 雪 枯れ行くは枯れ行く庭の景として 同 懐手して身も蓋も無き話 同 思ひ遣り言葉に出さぬ懐手 昭上嶋子 言ひかねてただ白息を吐くばかり 同 きさらぎや花屋はどこも濡れてをり 同 父の碑を七十余抱き山眠る 一涓 藪入りを明日に富山の薬売り 同 人日や名酒の瓶を詫びて捨つ 同 一陣の風に風花逃げ廻る 世詩明 安座して児の母となる毛糸編む 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年1月22日 月例会 坊城俊樹選 特選句
舞ひ上がる金子銀子や落葉掻 千種 春近し湯気立つやうな土竜塚 昌文 寒林や父子のだるまさんころんだ 慶月 紅梅のどこより早く憲兵碑 同 冬帝に囲まれてゐる小さき者 いづみ 出征を見送る母子像の冷え 昌文 青銅となりて偉人は寒天に 千種 火の雨を知る大寒の展示館 いづみ
岡田順子選 特選句
狛犬の阿形の息を白しとも 俊樹 勾玉のほどけ巴に冬の鯉 千種 ただ黒し桜ばかりの寒林は 同 ボサノバを流し半熟寒卵 慶月 石に苔泥に苔あり日脚伸ぶ 和子 息白く母子像見てひとりきり 俊樹 寒林の一木たるを旨とせり 晶文
栗林圭魚選 特選句
冬の雲弛びそめたり大鳥居 要 朽木より梅百蕾の薄明り 昌文 ボサノバを流し半熟寒卵 慶月 能舞台脇座に現るる三十三才 幸風 日向ぼこして魂は五間先 俊樹 霜柱崩れ鳥居の崩れざる 同 青銅となりて偉人は寒天に 千種
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年1月 九州花鳥会 坊城俊樹選 特選句
大枯野太古は大海だつたかも ひとみ 初景色常の神木よそよそし 美穂 椰子の実のほろほろ落ちて神の留守 孝子 緋あけ色の空へ音ひき初電車 美穂 嫁が君大黒様の手紙持ち ひとみ おんちよろちよろと声明や嫁が君 睦古賀子 歌留多取対戦するは恋敵 睦吉田子 水仙はシルクロードの香を含み ひとみ
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
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pdntsubcult · 2 years
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眼窩
 眼窩の死体は、最前列の長机のうえに横たわっていた。死体はこちらに足をむけて黒板と平行に寝ていたから、前の扉から入った僕はまだ死体の顔をみていない。しかし足にまとう筋肉の質や、かすかにのぞく胸のふくらみなど、やはり統合的に成人女性の死体であることを示していた。  採光よりもデザインを優先したような窓からは、傾きはじめた陽のひかりが複雑なかたちで流れこんでくる。ふわふわと漂うチョークの粉と教室の埃とが窓のあたりであらわになり、視認した僕はそれらが右目に入りこんでしまったような感覚におちいる。十分に汚れがとれておらずところどころ白っぽいままの黒板のまえで横たわる死体は、大学の階段教室にはいたく不釣りあいだった。  反射しててらてらと��くひかる彼女の臍のあたりをながめていると、研ぎだされたコンクリート製のすべり台を思いだす。アイボリーのセメントに淡い色の種石をまぜてあり、晴天のひざしをあいまいに反射させる。その手ざわりを想起して、僕は右手の親指と人差指をしきりに擦りあわせていた。股のあいだにはささやかな陰毛が茂っている。  粉っぽい匂いのする教室のなかに入り、死体の右にまわりこんで顔がみえるような位置にまで移動する。そのようにすることが僕のなかでは、ある種の儀礼のようなものになっていたことは間違いないけれど、おそらくいつ見ても変化のない彼女の顔をわざわざ確かめてどうこうしたいといった気持ちも、これといってとくにない。ただ眼窩の死体が僕の目のまえにあらわれたら必ず、僕は必ず、彼女の顔を見さだめなければ気が済まないだけだ。  足の側から右にまわりこむと必然的に彼女の左手が正面にあらわれるわけだが、その腕はやはり女性的というか、特殊な気圧によって白く腫れた風船をほそく中身のつまったものへと変形する、そんな冗長な工程をへて造りあげられたような腕だった。爪は奇麗に整えられており(いったい誰が、死体の爪なんかを整えるのだろう)、しなやかという形容は彼女の左人差指のためだけにあるような気がしてくる。  それから僕は、彼女の顔に向きなおる。彼女は眼球をもっていなかった。眼球がそなわっている状態から後天的に取りのぞかれたのか、あるいはあらかじめ眼球をもたないでこの世に生じたのか、そのどちらが彼女をより正しく記述しているのか判別できないほどに、彼女の眼球は美しく、無いという状態をたもっていた。本来は眼球をおさめる窪みであるはずの眼窩が、はじめから露出されるために生成されたような姿でむきだしになっていた。眼窩の側壁には赤みのある襞がびっしりと刻まれていて、ほそい影を底におとしている。  襞をながめていると凹凸のパターンが徐々に文脈をおびはじめ、しだいに見知らぬ言語へと変貌をとげる。彼女の発するなんらかの意図をくみとろうと躍起になるが、その全容を把握するには彼女の眼窩を奇麗に摘出したのち、机のうえにピンセットでひろげてノートに書き写しでもしなければならないだろう。とても僕にはできそうにない。気だるい食虫植物みたいな瞼と睫毛をみて、僕はそう思う。  僕は無性に、彼女にふれてみたかった。襞の言語を解読できないかわりに、彼女の女性的なかたちをこの手で記憶しておきたいという欲求が、突如として腹の底から湧いてでた。しなだれた両の脚をなで、黒くめだつ陰毛を指でとかし、しなやかな左の人差指を優しく包み、赤らんだ眼窩をそっとなぞってその奇妙な起伏を指の腹でかんじてみたかった。  しかし不思議にも、彼女にふれてはいけないという一種の禁戒めいたものが僕を縛りつけている感覚を、僕は同時にもちあわせていた。彼女にふれることは、すなわち彼女の存在の根拠となる一つの均衡を破ることになる。  第一に彼女の腹はあきらかに停止していて、生命としての活動は確実に終えられているようにみえる。眼窩の死体が死体たるゆえんであり、彼女は物体そのものに他ならなかった。いっぽう彼女のいたるところには生命力が瑞々しく顔をのぞかせており、爪先から旋毛まで、あるいは細胞の一端にいたるまで、退廃の雰囲気をまったくといっていいほどまとっていなかった。彼女はもしかしたら、耽美な脈拍のリズムを皮膚の奥底で刻みつづけているかもしれない。物体性が彼女を覆いつくしているけれど、勇敢な心臓が彼女の全身に血をめぐらせ、おそろしい腐敗を堰きとめているのかもしれない。  生命と物体はなだらかに推移する程度問題であって、大きな峡谷が両者を分断するというよりも、さらさらとしたこまかい砂粒があちらの丘とこちらの丘とのあいだを風に運ばれて往来している、そんな直感的イメージを僕はその瞬間に得た。あるいは綱引きのあいだに立って左右にゆれながら勝利の判定をくだす小ぶりな旗でもいい。彼女は生命と物体のあいだでゆれうごいていた。もし僕が彼女にふれてしまえば、途端に彼女がそのどちらであるのかほとんど確定してしまう。たった指の先端で肌や脈の張りをかんじとってしまうだけで、砂の丘も屈強な縄も消えさってしまうだろう。  だから僕は、丘と丘のあいだにある緩やかなくぼみのなかでただ単に立ちつくし、彼女を仔細にながめる行為のみに没頭した。彼女のあらゆる細部を熟視し、さまざまなアングルから彼女の情報を取得することにより、フォトグラメトリの要領で等身大の彼女を僕の脳内に立ちあげる。彼女にたいして遂行可能な演算は観察それのみであり、彼女にかんする要素の集合は観察という演算について閉じているといっていい。すなわち彼女を観察することによって生みだされるのは彼女のみであり、そこからは派生も創出もない。ただ彼女の中から限りない彼女を見出しつづけ、生命や物体といったそれらの確定をひたすら先送りにする作業に専心する。  扉があく音がして目を移すと、そこには次の講義のために教室へやってきた男性がいぶかしむ目でこちらを見ていた。 「虫ですか?」彼が顔を突きだしながら訊いてきた。 「気持ち悪いですよね」  僕は眼前の虫を払いのけるように何度か掌を机上でふって、それから教室のうしろへと移動した。  講義がはじまると僕は、正面の壁に広々と掛かった黒板の、その右上で控えめな主張をしている禁煙の文字のふちを目でなぞっていた。その姿はちらりと気をひくように赤字でかたどられていて、意味の主体であるはずの煙よりもやや大きく禁の文字が躍りでていた。均一な矩形で構成されたその文字は、単純であるがゆえに僕の心象を掻きむしった。あらゆる文字のまえに付随して、すべてを否定し制する文字。禁は圧倒的に他者であった。僕はその他者を、ただ眺めつづけていた。  教授は、長机のうえにプリントをならべはじめる。そこにはもう、彼女の姿はなかった。
 講義が終わった受講生らが、二三人のちいさな集団を作りながらぞろぞろと建物から吐きだされる。各団のなかで取りかわされているささやかな噂話や世間話、はては睦言などに、彼らのきざむ不揃いな足音が覆いかぶさってあまく乾いた空気を醸成していた。僕はそれから逃れるため、大学の近くにある個人経営のちいさな本屋に寄る。大学からほど近い距離にあるにもかかわらず、当局から隠れるようにひっそりと建っているこの本屋は、大学がつくりだす陰にその身をねじ込み、うずくまって一部の人間だけを選りごのんでいた。  店内はよどんだ空気が立ちこめており、やけに埃っぽい。立ち読みをする人間特有の、なにかに追われているように急いでページをめくる紙の音がせまい店内で響くだけで、あとはまったくの無音だった。音と音のあいだを埋める空白は、しずかな圧力となってこの本屋の重力をよりいっそう強めていた。店の奥では白髪混じりの店主が老眼鏡をかけ直している。額には深い皺を何本もつくっており、まるでその溝にこれまで見聞きしてきた数多くのできごとを雑多につめこんだような皺だった。きつく縛られたように目をほそく尖らせて分厚い文庫本を読んでいる。あるいはその文字列の先にみえる雄大な外国の景色を見透かしているのかもしれない。そんな焦点のあわせかたをしていた。  奥にすすんで、日本人作家がならぶ棚の前でタイトルを斜め読みする。作家の名前を基準に昇順で整理されているその棚は、文庫本も単行本も関係なく収めているために背の高さが揃っておらず、なにか重大なことを吹きこんだ音声波形のように見えた。僕はその音声の一部を丁寧にクリップするように、知らない作家の、知らない作品をゆっくりと取りだして冒頭を読んだ。  戦災孤児がひろった木の棒で地面になにやら絵を描いていて、それを岩に腰かけた主人公が遠巻きにながめている。喉元に貼りつくような、やけにもたつく文章で、数行に目を通してすぐにやめてしまった。ゆらめく蛍光灯を照りかえす表紙は生焼け肉のような色をしていて、僕は視覚的な胸焼けをきたしてしまった。鬱屈とした僕は、外国人作家がならぶ棚の前に移動する。このあたりの背表紙はみな寒色であるものが多く、胸の不快感をさますにはうってつけだった。グレッグ・イーガンの「しあわせの理由」を手にとったあたりで、同じ棚の前で文庫本の束を抱きかかえている女性の存在に気がついた。肩の上あたりですぼむ髪は丹念に手入れがされていて、すべすべとした陶磁器をおもわせた。身をふるたびにその陶磁器は縦にこまかく裁断され、やがてまた一つに同化する。眼鏡はしていなかったが、眼鏡をしていないことがかえってその存在に言及するような、不思議な顔立ちをしていた。 「アズミさんが紙の本なんて珍しいですね」  あくまで彼女の吟味を邪魔しないように、彼女の思考の波にあわせるようにつとめて話しかける。  僕の存在を認識した彼女はとくに驚く様子もなく「ちょっと脚本につまっちゃって、視座をかえるためにね」と答え、それから新たな文庫本を腕のなかに加える。「私のだした課題はどんな調子?」 「可もなく不可もなく、ですね。少し漠然としたモチーフで、僕の手にはあまる印象です」 「不可じゃなければいいのよ、映画なんて」彼女は自分の抱えた文庫本群の背表紙を一瞥し、なにかの調子が整ったかのようにうなずいて僕に向きなおった。「暇ならちょっと付き合わない?」
 書店の袋をさげて、アズミさんは軽い足どりでコンクリート製の山道をすすんでゆく。逆さのコップを押しつけたみたいな滑り止め細工のある道路の、その溝のなかにはまだ本格的な季節の暑さが残留していた。背のたかい広葉樹林が頭のあたりにだけ葉をのこしてならんでいる。通行の妨げにならないように剪定された枝の断面が赤く滲んでこちらをにらんでいた。見ているとなんだか膝のあたりに擦過傷のようなするどい痛みをかんじ、それが見渡すかぎり広がっていたから、僕は人体の切断面を連想してしまってさらに痛ましい気持ちになる。この木はアカガシというらしいことをアズミさんが教えてくれた。山道に入ってから立ちならぶ樹木は数を増やし、それにしたがって蝉の鳴き声もワントーン上がる。それらは両耳のあたりでむずがゆく反響するので自分の今いる正確な位置を認識できなくなる。  アズミさんは黒の半袖をオレンジのテーパードパンツにタックインするという単純な格好をしていた。そのボトムスは腰のあたりでプリーツができるデザインで、折りかさなった橙がアカガシの断面と連関する。彼女が足をふるたびに繊維のあいだで縮こまっていた芳香があたりに蒔かれ、力強い夏の匂いとまざって胎児の生命力を予感させる。顔をのぞく彼女のくるぶしは鼻頭に似てなめらかに輝いていた。 「私のいま書いている物語はね、自然を限りなく人工的なものに置換する試みをしているの。たとえば造花なんかは、限りなく人工的という要請にはあたらない、あくまで自然を模した人工物に他ならないから。私なら造花の代わりにナットを置く」アズミさんはあいている手でレンチを回す動作をしてみせる。 「なんだか冷たいイメージですね」 「たしかにそうね、人工的なものは非常に他律的だから。他者的と表現してもいい。構成物のすべてが他人の要求からなっていて、自発的な意識はひとつもない、そうでしょう。自然はみんな自分や種が生きのこらなくちゃならないから、どうしても自立的にならざるをえない。使う人がいないと手持ち無沙汰になる人工物が愛おしくてしかたないのね」  思慮深くうなずきはしたが、本当にそうだろうかと僕は疑った。確かにSFに登場するような、廃墟と化したビルディングのなかで徘徊する案内ロボットなどの姿は愛らしい。しかし部屋の隅に設置された、ほとんど使用されていないゴミ箱なんかには、いったい誰が愛情を感じるというのだろう。  それよりももっと、自然と人工物の調和を求めたいと僕は頭のなかで想像した。自然と人工物の境目が限りなくゼロに近づき、お互いの領域を侵しあうような状態。たとえばこの神社のように。  目の前の巨大な鳥居は、自然物や人工物といった分類をするのもおこがましいと感じさせるような存在感を放っていた。全体を黒でデザインされているのは、この鳥居が神社からみて玄武の方角に位置するからだという。木々が生い茂るなかにくすんだ黒がよく映え、走る日射しをうまく吸収していた。宮大工がこの神社に鳥居を奉納したといわれても、風に飛ばされた鳥居の種子がこの土地で萌芽したといわれても納得してしまうほど、それはほとんど人工物であり、同時にほとんど自然的なものでもあった。柱に手を掛けてみるとなんだか僕の手まで吸収してしまいそうで、おもわず手を引いてしまう。 「ここは祖母によく連れてきてもらった神社でね、私がなにか悩んでいたり、心配そうな顔をするたびに私の手を引いてここまでくる。祖母が亡くなってからは、ひとりで。自分のなかに不安の種を見つけるとここにきて、その種をゆっくり、とかしてゆく、なんだか安らぐ気持ちになる」  境内に入ってから体感温度が数度さがっていた。蝉は控えめに鳴き、日光もいくらか力を弱めている。この空間にはなんらかのエネルギーが満たされていて、外部からの力にたいして明確な抵抗力を示しているようだった。敷地のなかには大きな杉の木と、その幹の太さに匹敵するほどの大きさをした一つの岩がならんでいて、それらを単独の注連縄が八の字にむすんでいる。岩は真ん中あたりで横にくぼみが走るように加工されていて、そのくびれに沿うように注連縄がまかれてあった。両者のあいだを媒介する縄は中央が垂れていて、紙垂が三枚吊ってある。僕らはそれらを横目に、かなり緩慢な足どりで境内の奥へとすすむ。  鳥居とはうってかわってかなり小ぶりな拝殿の前までゆき、アズミさんは賽銭をいれる動作をそらでした。それから二拝二拍手一拝という定められた手順を踏み、押しだまった表情でこちらに振り返る。僕はそれを斜め後ろからただ眺めていた。 「お賽銭は投げないんですね」 「お金をいれると、なんだか対価を要求しているみたいじゃない。私は神様になにも渡さない代わりに、神様になにも要求しない、お願いごとなんてもってのほか。私はあくまでも神様と対等でいたいのね」  彼女は僕をまっすぐ見つめてきたが、僕はその目にあまり良い印象を抱かなかった。彼女の目は腐敗の色をおびていて、長い時間見つめ返してしまえば最後、体の中から水分が絞めあげられてしまいそうな気配があった。より正確にいうと、瞳じたいは瑞々しさに溢れているのだが、その横溢する生命力はまなざしとなって周りの生けるものを食い荒らし、肥大に成長しているようだった。まるで養分を吸いとりすぎる樹木が周囲の土地を荒原に変え果てしまうように、彼女の瞳はただ一対だけがそこに屹立していた。  拝殿のなかには、やはり眼窩の死体が横たわっていた。がらんとした畳の上で彼女はくうを見つめている。眼窩からはなんらの放出もなく、それは同時にあらゆるものの放出を意味していた。僕にたいして少し頭を傾けており、軽くあいている口がのぞく。その口腔の奥にひろがる暗闇は、先の見えないトンネルに似ていた。途中で曲がっているために先を見通せず、あるいは袋小路にでもなってしまっているのではないかと感じさせるような、そんなトンネルに。いま周りの三方や真榊などの神具やら吊りさげられた特殊な照明器具やらがそのトンネルのなかに入りこんでしまう様子を肌でかんじた。その口腔は、眼窩と同質の存在として彼女の顔面を占拠していた。両の眼窩から飛びだした鳥居や注連縄は、やがて口腔のトンネルへと収縮してゆく。その過程の、つかのまの休息に我々は位置しているのではないだろうか。  僕はその大きな潮流に逆らって、彼女の眼窩にもういちど入りなおしたいと思った。この身を眼窩のなかにねじ込んであらゆる物事をはじめからやり直したいと思った。そうすればすべてが上手くゆく気がしたし、そうすることは彼女が僕に求めている一つの対価であるように思われた。僕はおもわず土足で畳にあがりこみ、彼女のもとまで駆けてしまいそうになる。駆けだしたはずみで雪洞がたおれ、張った和紙に火が燃えうつってしまう。畳はなかなか燃えないけれど、神具にはすぐ火がうつるだろうな。僕が彼女の眼窩に入りこめないのであれば、今すぐすべてを燃やしてしまえばいいのではないか。そんな破滅的な衝動が波うつように訪れて、それらが静まるまで僕はその場を動かないでいた。アズミさんは踵を返して神社をあとにしようとしている。  深呼吸をして、それからアズミさんを追いかけると、入るときは気がつかなかった鳥居の裏面に刻まれている���色��気になった。草書体で書かれていて、文字とも模様とも区別のつかない朱。意味を読みとることが難しかったが、僕は気がつけばその草書体と大学の階段教室の禁の文字をかさねていた。ゴシック体で印刷されたその禁の字は、眼窩の死体にかかわるあらゆる行為を修飾して明示的に禁じていた、もちろん先ほどまで僕をつつみこんでいた衝動も。  同時に、僕のなかで育ちつつあった、ある一つの不健全な接続についても修飾の触手はのびていた。それは深雪の中から首をもたげる春の子葉のように、無自覚から自覚の領域へと成長している思想である。禁の手はそれをも手厳しく非難しているような気がして、おもわず僕は赤字から目をそらすしかなかった。
「あなたのいま書いている物語は面白い?」アズミさんは神社からの帰り道で、台本を読むみたいに僕に尋ねた。  彼女の体躯の輪郭が、暮れかかった太陽の光にすけて二重にみえる。皆既食のように眩しい色が彼女をふちどって、ぼんやりとした棘が放射状にのびている。体の内側はほとんど真暗で、にじみや凹凸がすべて平滑化された面のなかにひときわ瞳だけが夾雑物としてめだっていた。硝子玉のようなその目はどこまでも濁っていて、彼女から眼球が取りのぞかれればどれだけいいだろうかと想像してしまう。彼女の両の眼球がもつ剣呑な雰囲気は、陽の放射にまぎれて体の闇をゆっくりと侵蝕している。 「正直、映画になってみるまでは分かりません。脚本を書いているあいだは、完璧なショットが脳内に浮かんでいるんです。これを撮ればぜったい面白い画になるというフレームが。でもそれはあくまで僕の脳がつくりだした理想的映画であって、現実にもちだした瞬間に色あせてしまうような感覚におちいるんですよ。作品が腐っていくみたいに、だんだん」僕は彼女の目をあらためて見つめ返した。 「おそらく、あなたはあなた自身を理想化しすぎているんだわ。良いものが作れるかもという感覚は大事だけど、それが作品になった時点で作品は作品の自我をもつ。あなたは作品から子離れしないといけないんだわ。いつまでも子供に自分の理想を投影しては駄目よ」 「アズミさんは、どうやって作品に自信をもっているんですか、どうやってあれだけ面白いものを書いているんですか」 「面白いものは書けないと思っている。誰にとっても絶対的に面白いなんてありえないから」アズミさんは十二分に間をとって「絶対的に面白いものを書けないのなら、絶対的に面白くないものを書いてやればいいのよ、そういうものって要は心のもちようで、自分でさえも騙してしまえばいいのよ」  焦点のあわない目を静止させたまま、単にそれだけつぶやくと「それじゃあ、私はこっちだから」とアズミさんは三叉路の一方を指さす。「また明日の放課後、部室にいらっしゃい。次はもっと、テクニカルな話をしましょう」  そういってひらひらと手を数回ふって背をむける。彼女のボトムスのオレンジは、沈んだ太陽とともに暗く見えなくなってしまった。ふられたアズミさんの手の幻影を、彼女がいなくなったあとでもしばらく見つづけていた。
 ほとんど獣道のような帰路には、明滅する街灯がぽつぽつと立っている。あまり手入れがされていないようで、すでにフィラメントが焼ききれて灯りのつかないものまである。じめじめと粘ついた空気が顔のあたりにまとわりついて、土に鼻を埋めたような匂いがする。自分の踏みだす行為にたいする単純な応答は、コンクリートとのあいだで取りかわされる乾いた足音だけで、僕はひどく孤立した気分に陥っていた。アズミさんのこしらえる印のついた領域をこれから独りで越えようとしていて、それ以降はもう後戻りできなくなってしまうのではないか。ひぐらしの声にまぎれて水のながれる音を認め、遠くの方に川があるのかもしれないと思った。かろうじて立ちつづけている金属製の柵は地面にほど近い部分に苔が群生していて、いったい彼らはどこから栄養を得ているのだろう?  幅も高さもてんでバラバラな階段を十段ほどあがれば、トンネルは見えてくる。入り口はアーチ上にひらいており、壁面は奇妙なまでに平らにならされていた。コンクリートと山との境目はツタ類の植物が茂っているために認識することができない。内部はほのかな暖色の蛍光灯があるだけで���とんど先が見通せず、僕はおそるおそる足を踏みいれる。恐怖という感情を旧弊な義務感が飲み込んでしまっているようで、ほとんど知覚できない奥深くのちいさな部分がぶるぶると震えているにもかかわらず歩みをとめようとは不思議と思わない。筋肉の繊維にしみこんで体を動かしつづけている義務感とは、このトンネルをくぐらなければ家に帰れないという事実もおそらく含むだろうが、それよりももっと強大な、このトンネルのもつ引力のようなものに従わなければならないという摂理的な事象に由来するものが大きい。入り口の淵にならべられた迫石の部分が近くの街灯に照らされて、その影がトンネルの内部と外部をちょうど境界のようにひき裂いている。僕はその敷居を踏まないように気をつけながら、なかへと入りこむ。  かすかに照らされた内部のコンクリート壁には融けだした金属の液体らしきものがこびりついている。それぞれの蛍光灯には夜の灯りに群がる蛾からその身をまもる格子状の金属キャップのようなものが取りつけられているのだが、その格子が不規則な影となって壁に映しだされるから、本来は凹凸のないはずのトンネルの壁面に溝をうみだしているようにみえる。暖色の襞をもった空間のなかで僕は、ただひたすらにねじれた奥へとすすんでいく以外の選択肢を失ってしまった。  入り口が壁に隠れて見えなくなり、まだ出口も見えていない地点、トンネルのどちらの側からも視認することのできない、ちょうど凪のような地点に、眼窩の死体は転がっていた。僕はおもわず短い声をあげてしまった。その声はさほど大きくはなかったにもかかわらず、トンネルの壁へ複雑に反響して不自然なまでに鳴りやまなかった。  腕を乱雑に投げだし、軽く折りまがった右足は左足の上に重なっている。僕はこれまで何度も眼窩の死体をみてきたが、それらはどれも自らの意志で床に伏せているような、自立的な仰臥の姿勢をしていた。ところがこのトンネルの彼女は、とつぜん事故にでも遭ったかような不意の倒れかたをかんじさせた。僕にみられることを決して想定していないような姿勢。かすかな灯りのなかで、彼女の体のなかには多くの影がうまれていた。眼窩や口腔はもちろんのこと、足のあいだや掌の内側、頬と地面のあいだにも影はあった。その影は壁に映しだされた襞をもす影と絡まりあって現実にぶらさがり、そのことが彼女にかんする一つのおそろしい可能性を示唆しはじめていた。  彼女はこの世界に存在しないのかもしれない。彼女にふれることは決して叶わず、僕の脳内が恣意的な意味づけをしたにすぎない存在である可能性。  僕はこの可能性について、これまで無意識的に検討を避けてきたのかもしれない。おそらく一番はじめに考えられる単純で現実的な彼女の解釈を、僕はもっとも遠くの届かない位置に大事にしまっていたのだろうか。リアリティのある白昼夢をみつづけ、彼女が自然物あるいは人工物であるといった結論以上に、彼女の存在じたいにかかわる確定を留保しておきたいと、僕は心からねがっているのだろうか。  もしそうであるならば、ふれたい欲求とふれてはならない禁戒とのあいだを僕は往来していることになり、それは彼女のはらむ往来と対応づけられる。しかし彼女の往来にむすびつく砂丘の綱引きというイメージにたいして、いっぽう僕のゆれうごきについての明確なイメージだけはなぜか僕の内側にひとかけらも生まれず、消化不良の煙だけが無限に生成される始末だった。しろんだ粗い煙がきのこ雲となって膨大し、つかもうとしても指のあいだを器用にすりぬけられる。その情景さえもアトーンの古い型で撮影された十六ミリフィルムみたいにグレインがまざってしまって、うまく記憶として保存できない。  そうしたわずらわしい過程をへるうちに、二重化された眼窩の襞と、その対角に位置していたはずの性的欲求とが、奇怪に絡みあって接続されてしまった。僕のなかで徐々に育ちつつあった不健全な接続が実をむすんでしまったのだった。消化不良の煙は性的欲求の煙へとたちかわり、腫れたきのこ雲をひたすら掌で打ちはらうことしかできなくなる。瞼のすきまからのぞく凹凸が、しばらくしびれて動けなくなるほどに僕の脳髄を射る。襞と色情の複雑な結び目を丁寧にほどこうと試みても、すっかり固結びされてしまって手におえないらしい。  僕は走って彼女の横を通りぬける。出口のツタ類植物は、入り口のものよりも難解にもつれて壁から垂れさがっていた。
 部室の鍵を受付に取りにゆくと、すでに鍵は別の会員に渡していると突きかえされた。アズミさんは五限も講義があるといっていたから、今日は僕が一番乗りだと思っていたのだが、他の会員が忘れ物でも取りにきたのだろうか。僕はその足で三階にある部室にむかう。コの字をした部室棟の廊下は不思議なぐらい閑散としていて、中庭をはさんで向かいのどの階の廊下にも人は歩いていなかった。それでも息をひそめる気配や他人のうなじから発せられるかすかな人の痕跡はこの棟全体を取りまいていて、まだ誰も目覚めていない早朝の住宅街をおもわせた。清掃されたキャンパスを歩きなれた靴は紊乱した部室棟のざらざらとした床に違和感をおぼえるらしく、一歩一歩の足どりがもたつく。  扉を開けると部屋の奥に設置された窓から差しこむ日の光がやけに眩しかった。部屋の電気はつけられておらず、僕は別の会員をさがして見通しのわるい部屋のなかを眺める。部屋を二分するように左手からのびているカメラやら小道具やらが収められているスチール製のラックの反対側に、誰かいるようだった。僕は風で散らばってしまったであろう脚本の束を拾いあげて机の上にまとめつつ、窓に歩みよって半端にひらいたそのすきまを閉じた。左に向きなおり人影の正体を確認する。  アズミさんは三つのパイプ椅子をならべて、その上で仰向けになりながら午睡していた。  放り出された左手が重力により溜まった血液のせいで紅潮していて、起きたときにしびれてしまいそうだった。腕を椅子の上に載せなおそうかと逡巡しながら彼女の顔に目をやった瞬間、大量の砂煙が僕のイメージを凌駕した。僕のなかでなんらかのシナプスが弾ける音を耳できき、この部屋に存在するすべての感覚の逆位相が短いあいだ干渉してなにもかんじなくなる。無限小の時間をへて感覚が復旧しはじめると、目の前の彼女はアズミさんと眼窩の死体の重ねあわせであったことがわかる。足の膨らみからつつましい胸、顔のパーツまですべては両の彼女が間違いなく共有する部位であり、僕はその矛盾を完全に容認していた。  唯一、彼女が普段と異なる点は目をとじていることで、そのことが二人の彼女の境界を融かしあっているのだと気づいた。アズミさんと眼窩の死体を識別するコードは目元のみであり、ノイズであった負の瞳が一時的にも消失している今、彼女はまさに、かの眼窩の死体とほとんどおなじ様相をなしていた。  僕は彼女にふれないように、彼女の着ている白い薄手のロングシャツの、その首元のボタンにゆっくりと手をかける。絹のすべる触感の中からプラスチックの人工的な硬さをみつけて、穴の裏側から片手でボタンを通す。首元はふっと力を抜いたように軽くなり、一つ外すごとに青い筋のした鎖骨とレモン色のブラウスがあらわれてくる。臍の上あたりでボタンがうまく外れず、煩わしくなった僕はそばに置いてあったハサミを手にとり、裾の方からブラウスごと切ってしまおうとした。裾の折りかえされている部分でつまってしまったから、布を引っぱっていた左手も使って、ハサミに全体重をかける。繊維を裁断してゆくにぶい音がして、それからするどい金属同士のこすれる音が部室内にひびいた。ボタンをあけていた部分にまで一気にハサミが通り、白いシャツはめくれる形で椅子からずり落ちてしまう。半分ほど切られたブラウスの切れ目からは臍のまわりをてらてらとした皮膚が囲っていた。  僕はそれから彼女のまとう衣服のあらゆる箇所にハサミを入れ、ブラウスと下着をまったく裁ちきった。途中で勢いあまって自分の左人差指に刃がかすめてしまい、ベルベット生地のパンツの溝に数滴の血を垂らしてしまった。僕は彼女の肌についてしまわないよう膨らんだ血をベルベットでしっかりとぬぐう。  衣服をすべてとりのぞくと、僕は自分がかなり汗ばんでいたことに気がつく。脇のしたが湿って、冷えた水滴が右の肋骨をくだってゆく。彼女はより眼窩の死体に近づき、あと一歩のところまで来ていた。僕はハサミを元あった場所にもどして、彼女の横に立った。ちょうど左手が目の前にくる形で、爪は奇麗に手入れがされていた。しなやかという形容が発酵して、僕は飛躍的に幻という字を惹起した。僕は幻という字の不完全性について考えていた。幻の旁は単独で存在しない。勺にも刀にもたりないその旁は、おそらく幻の重心にあたるのだろう。図と地の関係が逆転している、つまり空白の部分こそが幻の本髄であり、窩であった。  僕は最後の一歩を踏みだすことに決めた。彼女のとじられたその瞼の奥で息をひそめる二つの眼球が、彼女の肌のところどころにしみを植えつけはじめるのではないかというおそれが僕のなかで立ちのぼったのだ。  僕はゆっくりと左手の人差指を彼女の瞼にのばす。部屋の空気は生ぬるく、指先の凝固した血液はまだ人肌の熱をもっていた。鉄のにおいがする。
 瞼は気味のわるいほど冷たかった。彼女の肌が僕の熱をずんずん奪ってしまい、奪われた先から僕の体は朽ちていく。熱を吸収した彼女の肌はこげるようにどんどん黒ずみ、ほとんど昨日の鳥居と同じ色をしていた。指先の朱はもうなにも禁じていなかった。  僕は人差指で彼女の瞼を押してみる。  そこに手応えはなかった。気体のかたまりを薄皮で包んだみたいな感触が、固まった血を媒介して僕の指の腹につたわる。もっと力を込めたら瞼が反対に曲がってしまいそうな、そんな手応えのなさだった。  僕は彼女の顔の近くにかがんで、親指で瞼をめくる。  部室の窓から差しこむ沈みかけた陽が、タイムカプセルを開けるときのように端から順番に中身を照らしてゆく。なかには赤く滲んだ襞が密集し、光の当たる場所からほそい影をうみだしはじめていた。  扉のあく音がして振りかえると、アズミさんはそこに立っていた。 「ごめん、邪魔したかな」とアズミさんはいって、早いとも遅いともつかない速度で扉をしめた。  部室には、僕一人だった。
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iyoopon · 1 year
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auが黒部峡谷鉄道で“圏外”を解消 山岳地帯の狭小トンネルにどう挑んだ? 現地でチェック! https://www.itmedia.co.jp/mobile/articles/2210/25/news059.html
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jackybean · 2 years
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… そうそう、延対寺壮はお風呂とご飯、良かったんです。。 ご飯はあっさりとしててクセがなく夏でも食べやすくて、母親も私も大満足。 量が多いので釜飯は食べ切れず次の日のおにぎりとなりました。 8月1日の夕食と2日の朝食。 部屋もお風呂もレストランも川と山が見える素敵な景観で、私が求めていた素敵な旅館でした。 従業員さんもみんな素敵でした。 #富山県 #黒部峡谷 #黒部峡谷トロッコ電車 #黒部峡谷鉄道 #黒部峡谷トロッコ列車 #富山観光 #宇奈月温泉 #延対寺荘 #延対寺荘フォトコンテスト2022夏 #温泉旅館 #entaijiso #宇奈月 #kurobegorge #kurobegorgerailway (宇奈月温泉 延対寺荘) https://www.instagram.com/p/Cg6wZYCBYDU/?igshid=NGJjMDIxMWI=
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diabeates · 1 year
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2024/4/3 12:59:18現在のニュース
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eiji-t · 2 years
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Title: OMOKAGE / Remnants [vestige, trace, image] Technique: 紙に鉛筆、アクリル絵具 / pencil on paper, acrylic Size:H403×W553mm Year:2022年
宇奈月温泉での個展にあわせ、その場の特性を象徴する対象として「黒部峡谷と橋」を選んだ。 『彼方と此方』のテーマのもと、黒部市宇奈月温泉にある『おもかげ橋』を川辺から仰ぎ見た構図により 切り取られた空はセルリアンブルーの物質、形態となって現れた。
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jitterbugs-lxh · 2 years
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揺籃
 ゆらり夢をゆきすぎて、匂いたつような、蕩けるような情欲に、かれの眸が酔うのをたしかに、みた、みてしまった、うつくしい、と、判じてしまった。とろりと甘く、そうして堪らない熱さをもったその眸に兆す情念を、朒體の、やわらかく巡る血が、いまや激症もかくやの烈しさで瀰漫してゆくのを、余所事でもみるかのような心待ちで見つめていた。風息の眸には、いつも失われた過去がある。慾に濡れて酔い、前後の不覚に陥りかけてなお、かれの眸にはうつくしい情景が浮かんでいる。遠くにけぶり、朝靄にかすみ、朱鷺に紅鶸に、地平に落ちて朱殷に染まり、留まるところの果たしてあるか、天を衝く山麓のいただきは未だ定かならず。湧水はつめたく苔むした石を滴り、密に生えた羊歯や、かがやく葉脈の原生の蘭や、這って伸びてゆく蔦や、つりがねの花、見事な枝ぶりの桑はみのりの季節に紅い実をこれでもかとつける。ひとはその葉をよく喰む蚕を育てて糸をとり、肌にもなめらかな光沢と、吸いつくようでいて、しかしけしてべたつかない布地を折った。絹とよばれるそれが高級品となり、高貴なるひとびとの肌を覆い、銀糸金糸にとりどりの錦を重ねて見事な意匠に仕立てられるのを、妖精たちは知っていた。もっとも、姿こそひとを模してはいるものの、ひとのように虫を育てて糸をとったり、家畜を育てて肉や乳やそれから毛皮などをとったり、森を切り拓いて地を均し、水を引いて穀物を育てるような生き方までも、模倣しようとは思わない。かれらは群れ、集い、雨風を凌ぐための屋根をもとめ、ときに嵐に辟易し、荒れて幾度となく地図を書き換えた河川のうねりを恐れ、同じだけ感謝し、長く生きる妖精たちからみればあまりに、無意味に思えるような営みを続けている。潰れた家を直すだろう、流された家財をもとめて、わずかなのぞみに下るだろう、たとい取り戻したとして、また数年のさきには失われるか、それでなくとも人間そのものの命が尽きるのに。子どもを慈しむのはわかる。妖精ならぬかれらの、時のくびきから逃れられない短い生にあって、子どものほかに財産はないが、しかしその子どももまた、数十年のさきには潰えるのだ。
 妖精は性では殖えぬ。かれらは、生じたときに、あるいはおおきな霊力をもった大樹であったり、清廉のせせらぎであったり、どこぞなりから墜落して、きた、流星のたぐいであったり、さまざまの由来と縁をもってうまれてくるが、木に拠って生じたからといって、その姿が木そのものかといえばその限りではない。くらがりに眸をしずかに滾らせている風息もまた、木のそばで成った、ふるく力ある妖精であるが、黒くしなやかな、豹に似た生きものの姿を模していた。緩慢な所作で揺れる尾は長く、重たく、それでいてどこかこそばゆいやわらかさをはらんでいた。風息がそうしようと考えさえすれば、尾の重たい一閃ひとつで、土の幾らかは砕けたろうし、石礫ははじかれてほうぼうに飛び散ったのに違いない。かれの長い尾はけして、均整と、調律のために揺れているのではなく、また多くの獣たちがそうしたように、感情とともにあるのでも、なかった。寄せられた鼻はあたたかく濡れて、太く短い口吻のわずかにのぞく牙はするどいが、いまは食事や、あるいは闘いのためにひらかれたのでないことは明らかである。食事を終えて指をぬぐうとき、かぶりついた肉からあふれた汁に汚れた口元をなめるとき、かれは舌をぐるり動かし、うすい唇をなぞったものだった。それはあまりにも、獣の動作に過ぎたが、しかし風息も、ささやかな晩餐の同席者であり、かれの弟分たちであり、はらからである虚淮も、天虎も、もちろん、ほかでもない洛竹も、その所作に疑問を抱くことはなかったし、かれを咎めるわけもなかった。かれら妖精は森にあってうまれた。伝え聞くところによれば、悠久の、風雨を以て穿たれ形作られたという、天然の洞穴にあって生じる妖精や、細く、険しく、切りたった峡谷のはざまを抜けてゆく疾風の一陣、はたまた煮え立つ山の、いまにも噴火せんとする火口にあってうまれるものもあるという。遠くべつの場所にあって生まれても、同じく妖精であるからにははらからと、洛竹は思いたかったが、しかしあらゆる妖精たちが、思いを同じくするわけでないことは、たったこの数十年ですら痛いほど思い知らされた。多くのはらからたちが去っていった。森は失われ、霊気は散じ、おもいおもいに過ごした、まどろみのなかの百余年は、瞬く間に消えてしまった。人生は長い夢と、時のながれを果敢無んだ詩人のあったという。ときおり人間のなかにも、幸いなのかは定かならずとも、広く長い視野のあるものがあって、契機と運命の数奇があれば、仙にかわることもある。もっとも、多くの仙は、元が妖精であろうが、人であろうが、なべて偏屈で、厭世し、遷じて去ったものばかりである。隣人ではあるが友人ではなく、敵ではないが、しかし仲間というには憚られるものたちである。話をしたところでかれらの旗印のもとにくだるような生半な相手でないことは、語るまでもなく明瞭で、ある。いっそ、数に恃むばかりしか能のない人間より、よほど厄介な相手かもしれなかった。
 「風息。だいじょうぶ、だいじょうぶだよ……、哥哥。なあ。」
 かれが啼いているのじゃあないかと錯覚したのは気の迷いだろう。やわらかく掛けられた重さは遠慮がちで、文字通り組伏せた形ではあっても、洛竹のからだを、いたわっているのが判った。漆黒の毛並みは宵闇にあって、ぬばたまの色にひかっている。きれいだな、思って、右肩を押さえ、からだの上に圧し掛かるようにして鼻面を寄せてくる風息のわずかに逆立つ旋毛の毛並みを、唯一自由の利く左手でもって逆立てる。ぐ、食い込む重さの、前脚の足裏の肉球に傷ついたところはない。ふだんは人型を執って、しっくりと足のかたちになじむ沓を履き、けして急きすぎることなしに地を蹴っている風息なのだから、当然かもしれなかったが。本然にあって、しかし、かれは獣ではない。性をもってまぐわうことが、本性であるというのなら、妖精たるかれらにとって、それは生来にあるものではない。かれも、洛竹も、だれも、かれも。妖精たちは父を知らず母もまたない。大樹の洞やら、叉やら、そういったところから生じることがあったとしても、女のそれから生れ落ちる妖精など聞いたこともないからだ。ふう、ふう、と、吐きかけられる吐息は熱く、眸はますます情欲の色を濃くし、いまにも洛竹を恣にしようと、かれのなかで焔が滾っているのが判った。衣服を剥ぎ肌をあらため、唇を舐めて、細い頸筋に落ちる月光を貪るのなら、人型のままでいたほうが幾らか易かったはず、帯を解くにも、袂をくつろげるにも、獣の前脚はあまりに不向きだ。しかし、風息はどうしたってそうしなかった。少しだけ尖った、妖精らしい耳朶を舐め、為されるがままに脱力している洛竹の頸に、喉に、濡れた鼻を押しつける。ときにはべたりとねばつく舌が、顕わにされたふとい血管と、鎖骨から斜走する筋のあいだに、ぎちりと割り込みもする。かれがそうしようと試みたのなら、ただの一瞬牙を立てて、やわらかい皮膚を突き破ったのなら、忽ちに、洛竹が寝床と定めた虚も、夜明けの低い空のそれのように、朱殷にふかく濡れそぼつのに違いない。尤も、風息が己の喉を喰い破るなどとはゆめゆめおもわれないどころか、若しかれがそうするのであっても、いっそ構わないのではないかとさえ考える洛竹なのだったが。肌を暴かれること、肚を撫で、水を得た魚のするように、愛撫の手がからだの隅々を游ぎ、躍り、探ってゆくのにも、幾分慣れた。慣れてしまってはいけなかったのかもしれない、と思わないこともないが、しかし、吐息の熱いのを、寄せた鼻のさきで、やわらかく重なった唇のうえで混ぜながら、くらくらと酔っているのは、もはや風息だけとは言えなかった。だいじょうぶ。宥めるように、あやすように、言葉はあえかの吐息のあいまに、獣の黒く、うすい耳朶をうった、だろうか、遠くに葉擦れのざわめきが、鞘鳴りのように聞こえている。ほんとうは何もかもかれの言いなりになって、心も、からだも、感情も、思考も、すべて預けてしまいたいが、それは風息の望みでなかった。必要とあらば反駁し、ときにかれを諫め、過ちを判じて断ずる、良心のような役回りを、自身に求められているのだと気づくのにさほどの時間はかからなかった。旋毛から頸へ、毛並みを撫でおろすしぐさが心地よかったのか、あるいは面映ゆかったのか、刹那、手をとめ、舌をとめ、視線をとめた風息の、喉がちいさく鳴ったのを、洛竹は聞き逃さなかった。だいじょうぶだよ。兄さん。おれはだいじょうぶ。
 遠く西の国にあるという伝承では、風息の眸の色の鉱石は、果実を絞って造った酒で染められたという逸話のある、酔いを遠ざけるしろものであるという。たしかにかれが、正体をなくすほどへべれけに酔いつぶれるところなど見たことがなかったし、自制している部分もあるにしろ、酒精はかれに、かれの本然に、影響を来すはずはなかった。いつからふたりはこうして肌をなぞるようになっただろうか、少なくとも、酩酊のさなかに、じゃれあって互いを確かめたのではない。なぜってふたりは妖精なのだ。性は我々にとって、かたちを成すときに、ぼんやりと浮かんだ、根拠も意味もないものだ。妖精のなかには情欲に溺れ、肉慾をむさぼり、ひとの王朝のふかくへ潜り込んで寵愛を得ては国を傾けた伝承のあるものも、いるにはいるが、未だひとの肉を喰っているものたちのように、多くの場合、ふるく、過去の生きかたから別離れられないものたちだ。故郷を追われ、遠く茫洋たる大海の彷徨、こうして隠れ棲みながら暮らしている我々が、かれらとどれほど違っているのか、考えるまでもないことだが。肌を重ね、吐息をまじえ、風息の四肢を、情欲を、洛竹が受け容れるとき、妖精の本質から逸脱した行為を、しかし人間のそれと重ねるのを厭うているのか、かれはしばしば獣の姿で洛竹へ覆いかぶさったものだった。どちらでも構いやしないのに、ひとのそれでも、獣のそれでもない、妖精の眸が、爛々と耀いているさまは。ふたりはどうしようもなく正気で、酩酊はあまりに遠く、確かめたかたちは熱く灼けつくようだ、風息。兄さん。こんな夜伽のさなかでもなければ、もうかれを兄などと、呼べはしないだろう。もはや遠慮をなくした獣の重さは、霊力を使い切って指一本、腕のひとつも持ち上げるさえかなわない、あのときの泥のような疲労感に似ていると思ったが、はたして、自身の快楽のさきにある、堪えがたい脱力と混同していないとは、判じえなかった。
 五体は満足、いささかばかりか睡眠の、足りないくらいか。先ずは��の腕。左。それからぐるりと首をめぐらせて、つま先までを目視した。傍らで安息の寝息を立てている風息のゆたかな黒い毛並みが、規則的に上下しているのをたしかめる。すくなくとも自らの手足を見失うような不覚や混乱のさなかにはなく、寝付いたのはいったいいつ頃だっただろう、宵をすぎ、夜は更け、おそらく月が中天をゆきすぎたのちのこと。たしかに行為はあったし、朝を迎えてなお、隣にねむっているのは、ほかの誰でもない風息だった。ぎゅうと力を入れて、滞りなく指が、腕が、腹が、大腿が、意のままに操れることを探ってゆく。まぶたを伏せて十を数える。乱れる呼吸や心拍はみとめられない。深く息を吸って、肺腑のふくらみ、からだのそこかしこに、霊力の満ちているのを感じる。あまりにもお粗末で抜けの多い所作ではあるが、すくなくとも、自分という生きものの健在をひとつあきらかにする。物質世界の最小単位を原子とみるのか、はたまた量子とみるのかには論争もあろうが、いとなみの最小単位を、自分自身に置くことに違を唱えるものはないだろう。見えているもの、知っているものだけが世界のすべてではない。自分のまえでは淑やかで謙虚、感情のままに声を荒げることもなしに、ただほほえみの近似値にとじこめられている子どもたちが、はたして激昂をしらぬものとなぜ信じられよう。おそらく朝の早い虚淮はもう起きだしたころだろう。かれは物質霊というより霊気そのものに近いので、ほかの妖精たちよりも原始的なぶん、力があるが、それだけ欠けやすい。あれで寝穢いところのある天虎はまだねむっているだろうか、そうでなければ、きのうの獲物の残りを朝餉にすべく火に炙っているだろうか。風息はねむっている。かれが特別に、洛竹に甘えているとは、考えたことがなかった。属性で言えば同じく木、力の大小なら、圧倒的に風息のほうがうえだし、そもそも生じたのだって、かれのほうが幾分はやかった。もっとも、力の大きさや、生きている長さだけが、かれらの序列を定めたのではない。風息にその覚悟があり、かれに就き従うはらからたちに、意思があった。洛竹だって例外ではなく、いまはこの島でともに暮らしていない仲間たちだって同じことだ。風息がみている。みなければならない。うつくしくもはかない、失われた故郷を、まどろみの。睫毛がふるえて目ざめたなら、かれの眸にはもう、情欲の熱はないだろう。
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