Tumgik
kachoushi · 25 days
Text
風月句会
2023年2月18日
Tumblr media
於:川崎市多摩市民館
坊城俊樹選
坊城俊樹選 特選句
Tumblr media
坊城俊樹選 特選句
総門を白く散らして梅の寺 斉 俯ける金縷梅の香や山門に 芙佐子 恋の猫山内忍び振り返る 斉 日溜りに小さき影なし猫の恋 白陶 腰かけて白きオブジェの暖かし 久子 鳥もまた盛んなるかな猫の恋 白陶
坊城俊樹選 並選句
雲押し上げ苞をこぞりて辛夷の芽 文英 石仏の穏やかな顔猫の恋 白陶 大仏に羽織着せたき余寒かな 経彦 大寺の好文木や香は四方に 幸風 蒼空を雲のあはひに草青む 亜栄子 椿大樹こぶりの紅をつらつらと 眞理子 しだれ梅蜜吸ふ鳥の声降り来 秋尚 梅東風のそっと触るるや母の塔 眞理子 まんさくのそろりはらりとほどけ初む 千種 閑けさやメタセコイアの芽吹く声 三無 帰り来し如くに椿墓碑に落つ 三無 よちよちと母の手逃れ草青む 斉 寺庭に右往左往と猫の恋 芙佐子 三姉妹じゃれあふ春の散歩道 眞理子 朝の日をたっぷり孕む句碑の梅 亜栄子 古刹なる椿赤白梅紅白 千種 零れ散る梅に染まりし甃 芙佐子 仰ぎ見る椿やさしく俯きて 久子 浅春の背ナの日ざしや母の塔 斉 三椏の花に任せる寺の門 三無 太陽と呼応するかに犬ふぐり 芙佐子 三椏の香に会ひたくて廣福寺 眞理子 大寺に集ふ中にも孕み猫 幸風 ものの芽の擡げてをりし土堅き 斉 春空へ飛翔の構へ母子像 芙佐子 白梅のささやくやうに句碑に揺る 慶月 
0 notes
kachoushi · 25 days
Text
風月句会
2023年1月21日
Tumblr media
於:川崎市多摩市民館
坊城俊樹選
坊城俊樹選 特選句
Tumblr media
坊城俊樹選 特選句
寒の雨誦経とよもす陽子墓碑 文英 寒林を登り来よとて母の塔 千種 顔消えし元禄仏へ寒菊を 慶月 道祖神寄り添ふ寒の雨うけて 慶月 就中陽子の墓所の蕗の薹 幸風 裸婦像の背にたばしる寒の雨 幸風
坊城俊樹選 並選句
蠟梅の雨に濡れたる香りかな 秋尚 冬木の芽すでに蕾と呼べるもの 久 霜柱砕き下駄行く出で湯街 経彦 寒林を映して明き水溜り 千種 観音の悴む指や鐘二つ 亜栄子 万蕾の綻び初めし句碑の梅 三無 大寺の太き三椏花ざかり 幸風 ひとり拝す寒雨に濡るる年尾句碑 秋尚 早梅の雨にほぐれてしまひけり 千種 城主墓傾く熱燗捧げたし 慶月 傘たたむ寒九の雨や酒処 幸風 その中の落ちぬ滴が冬木の芽 千種 鐘くこともなき撞木へと蝋梅香 慶月 寒の雨野仏伏し目女坂 文英 としあつ師偲ぶ老梅香の高し 亜栄子 万両の雫膨らみ切って落つ 秋尚 観音の涙か寒の雨止まず 慶月 不器用に生きて屋台のおでん酒 経彦 さっぱりと記念樹剪りて新春の句碑 三無 老梅や寺の庇の冥さにも 亜栄子 熱燗や薀蓄三昧里訛 亜栄子 楪の縅のやうな茎の赤 久子
0 notes
kachoushi · 25 days
Text
零の会
2024年1月6日
Tumblr media
於:国立オリンピック記念青少年総合センター
坊城俊樹選 岡田順子選
坊城俊樹出句
Tumblr media
坊城俊樹出句
神の森へと絢爛の春著かな おちよぼ口紅を差したり春著の子 ハスキーな初鴉とて神のもの 春著とは後ろ姿のありにけり 去年今年神の焼そば食らはんと 神苑の神乗り移る初鴉 神宮の八手の花は交信す まぶだちを亡くせし朝の初御籤 去年今年菊紋美しき大鳥居 去年隔つ菊の御紋の大鳥居
坊城俊樹選特選句
Tumblr media
坊城俊樹選特選句
ドッグラン鼻と鼻とで交はす賀詞 荘吉 裸木のはるかを白く光る街 要 頰切るは鷹の翔つ風かもしれず 順子 人波をこぼれながらの初詣 光子 焼芋の煙たなびく志んぐうばし 和子 群衆といふ一塊の淑気歩す 順子 寒雀神馬と分かちあふ日差し 光子 寒雀入れ神苑の日のたまり 光子 寒の水明治の杜のまま映す 小鳥
坊城俊樹選▲問題句
晴れし日の雪吊龍の手に化けて 小鳥
坊城俊樹選並選句
大前に縦一列で冬帽子 荘吉 はじまりもをはりも青き初御空 和子 馬場の日にふくら雀の落ちて来し 光子 弦を背に颯爽とゆく小春かな 風頭 参宮橋より白日の冬木立 小鳥 輪飾の紙垂の歪みもめでたけれ 和子 神木の黙しぼんやり春を待つ 三郎 鎖樋垂らして永く竜の玉 順子 白き手首して清正の若水を 順子 清正の井へと恵方の歩の続く��はるか 初声の想ひありしか本殿へ 三郎 小春日や亀石に吾も甲羅干し 風頭 悴める指に解きて恋みくじ はるか 笹鳴や旋毛に当たりつづける日 緋路 青空に深く沈みて冬の鳥 和子 参道を逸れ神域の淑気かな 六甲 神宮の鳥居の罅も淑気かな 佑天 楪や隔雲亭は夢の跡 順子 寒椿落つれば湧くや清正井 眞理子 京訛り唇紅く寒の紅 三郎 江戸よりの井戸の名水ぬるき冬 眞理子 皇后の大もみぢ枯れても落ちず 慶月 積樽も淑気を帯びて並びけり 佑天 百年の落葉溜りのほつかほか 慶月
_______________________________
岡田順子出句
Tumblr media
岡田順子出句
潔き新玉ぶりを隈笹に 頰切るは鷹の翔つ風かもしれず 国の春へロマネ・コンティの献樽を 楪や隔雲亭は夢の跡 鎖樋垂らして永く竜の玉 帷のごとく陽に鎖し白障子 なんでもなくて冬草の青ければ 群衆といふ一塊の淑気歩す 寒天を逆しまにして蒼き井戸 白き手首して清正の若水を
岡田順子選特選句
Tumblr media
岡田順子選特選句
跼り清正の井を初鏡 昌文 本殿につぶやく寒紅をつけて 光子 楪の浴ぶる日我にゆづらるる 慶月 肺胞に沁み込んでゆく淑気かな 緋路 冬草や喧騒去りて井戸残し 眞理子 馬見えぬ乗馬倶楽部の六日かな 六甲 寒鯉来おのれの色の水を分け 緋路 寒椿落つれば湧くや清正井 眞理子 寒の水明治の杜のまま映す 小鳥
岡田順子選▲問題句
遠近法その中を往く初詣 荘吉
岡田順子選並選句
初日記驚天動地で始まれり 佑天 去年隔つ菊の御紋の大鳥居 俊樹 一連の真珠を胸に初句会 光子 枯菖蒲妄想の中春を待つ 風頭 神の森へと絢爛の春著かな 俊樹 一枚の青空歌ふ初鴉 和子 補聴器を外し砂利踏む初詣 軽象 清正の井へと恵方の歩の続く はるか 清水の写すみ空の冬木の芽 きみよ 鳥居新た杉のひらけて寒に入る 小鳥 吉祥の天へ跳ねたる寒雀 はるか 冬日燦々熊笹の隈閃々 風頭 笹鳴や旋毛に当たりつづける日 緋路 神木の葉擦れ大鷹睥睨す 眞理子 明治旧り樹間に満つる淑気かな 眞理子 寒鯉の水重さうな一と揺らぎ 昌文 拭きあとの白き硝子と日向ぼこ 和子 百年の落葉溜りのほつかほか 慶月 ひよつこりとシャンパンを手に雪女 きみよ 大前に縦一列で冬帽子 荘吉
0 notes
kachoushi · 25 days
Text
風月句会
2023年12月17日
Tumblr media
於:川崎市多摩市民館 写真:柴田貴薫
坊城俊樹選 栗林圭魚選
坊城俊樹選 特選句
Tumblr media
坊城俊樹選 特選句
黒門の枡形山に裘 幸風 冬蝶を労はるやうに母の塔 幸風 眠る山起こさぬやうに歩き出す 白陶 隠れんぼ使ひ切れざる紅葉山 経彦 冬帝と対峙の富士や猛々し 三無 笹鳴や少し傾く城主墓 芙佐子 山門へ黄落の磴細く掃く 斉 黄落の野仏は皆西へ向き 炳子
坊城俊樹選 並選句
花柊枡形六丁目てふ坂の 炳子 稜線を茜に染めて神迎 亜栄子 山門を潜らざるなり冬の蠅 慶月 赤い実を数多残して大枯木 秋尚 侘助のうす紅寺塀より覗く 慶月 一門に九重の石塔返り花 斉 空を抱くメタセコイアの冬支度 三無 小流の落葉の堰をくぐる音 久子 法鼓鳴り納め観音待つこころ 慶月 年尾句碑一礼をして納め句座 芙佐子 古民家の屋根見下ろせる冬山家 貴薫 衆生指す観音の手や冬日燦 三無 案外な優男なり冬木立 千種 仏像を抱く菩提樹枯木立 ます江 空いっぱい梢を広げて冬芽立つ 斉 城址に烏合の衆や日向ぼこ 芙佐子 法鼓聴く銀杏落葉の女坂 亜栄子 群千鳥メタセコイアの軋む音 貴薫 極月の装ひ清く地蔵尊 貴薫 古寺の法鼓の渡る師走かな 久子 綿虫に逆光といふ日の射して 三無 立ち止まりくらやみ坂の冬椿 白陶 枯尾花病院跡を囲ひをり 慶月 冬帝や明るき供花を陽子墓碑 文英 病院跡の高みは葛の枯るるまま 炳子 冬紅葉残されし日を句碑に寄す 慶月 山茶花の太陽に蕊開をり 貴薫 目の高さ風の高さに枯尾花 三無 鴨浮かべ川直角に曲りたる 千種 冬ぬくし大樹の下の寄せ菩薩 久 赤き実を揺らし冬鳥姦しく 芙佐子 内室の墳墓欠け落ち冬ざるる 斉 磴上り陽子の墓碑や石蕗の花 幸風 
栗林圭魚選 特選句
Tumblr media
栗林圭魚選 特選句
蒼天に山脈低く雪の富士 芙佐子 空を抱くメタセコイアの冬支度 三無 SL に群がる揃いの冬帽子 経彦 かなしことうすれゆきたり冬霞 幸子 笹鳴の過ぐ内室の小さき墓 慶月 法鼓聴く銀杏落葉の女坂 亜栄子 古寺の法鼓の渡る師走かな 久子 冬帝や明るき供花を陽子墓碑 文英 笹鳴や少し傾く城主墓 芙佐子 枯芝の広場の狭鬼ごっこ 経彦
栗林圭魚選 並選句
ひっそりと庫裏の竹垣冬薔薇 三無 母子像や冬の日の冷えいかばかり 軽象 冬紅葉句碑に写りて華やげり ます江 赤い実を数多残して大枯木 秋尚 侘助のうす紅寺塀より覗く 慶月 冬蝶を労はるやうに母の塔 幸風 風に耐へ枝を離さぬ枯葉かな 秋尚 稲毛氏の墓道つつじの返り花 芙佐子 小流の落葉の堰をくぐる音 久子 洗堰河原拡ぐる枯葎 幸風 雪囲の上に高窓民家園 眞理子 年尾句碑一礼をして納め句座 芙佐子 冠雪の富士を戴く学府かな 斉 枯れ尾花日向に赫く息づかひ 亜栄子 鮮やかな枯葉一枚残りをり 軽象 空いっぱい梢を広げて冬芽立つ 斉 新藁をまづ打ちてより年用意 眞理子 冬帝と対峙の富士や猛々し 三無 群千鳥メタセコイアの軋む音 貴薫 極月の装ひ清く地蔵尊 貴薫 幾年や通ひし枡形納め句座 亜栄子 式部の実色たをやかに句碑に沿ふ 炳子 綿虫に逆光といふ日の射して 三無 奥津城の静寂破りて寒鴉 芙佐子 寒禽の高音を重ね森晴るる 斉 枯尾花病院跡を囲ひをり 慶月 冬の鳥飯桐ゆらし啄ばめり ます江 病院跡の高みは葛の枯るるまま 炳子 冬日浴び真っ赤に句碑の楓照り 三無 山門へ黄落の磴細く掃く 斉 朝の日に磨かれし艶冬木の芽 秋尚 すくひては落葉まく子や埋もりて 幸子 冬麗や飯桐の実の高々と 久子 記念樹の枯蔓重き年尾句碑 文英 冬木影伸びて冬木を掴みをり 白陶 鴨浮かべ川直角に曲りたる 千種 見定める一枝の枯葉落ちるまで 軽象 内室の墳墓欠け落ち冬ざるる 斉 枯菊を束ねる手元香りくる ます江 磴上り陽子の墓碑や石蕗の花 幸風 
Tumblr media Tumblr media Tumblr media
0 notes
kachoushi · 25 days
Text
零の会
2023年12月2日
Tumblr media
於:かながわ労働プラザ
坊城俊樹選 岡田順子選
坊城俊樹出句
Tumblr media
坊城俊樹出句
胼の手の婆キューピーを路地に売る 椰子ひとつイギリス館の冬天へ 十字架の墓遠望す街師走 十番館��十朱幸代と逢ひし冬 「ソーダ水の中を貨物船が通る」冬 フェリスらし嬌声冬の元町を 冬薔薇を領事の妻は纏ひしか 墓地に置く錨に遥か冬の海 冬の灯は領事仰ぎしシャンデリア 窓は冷たく望郷のピアノの音
坊城俊樹選特選句
Tumblr media
氷川丸の円窓いくつ北塞ぐ 昌文 十字架のかたちに燃る蔦紅葉 美紀 倫敦を遠く大使の冬薔薇 佑天 望郷の眠りの中に木の実降る きみよ 女学院に尖塔のかげ冬紅葉 久 冬木立の向かうをつくりものの海 緋路 昏き灯のランプシェードとポインセチア 和子 十字架を解かざる蔦の冬紅葉 光子 凍空や十字架赤き鉄であり 和子 誰も振り返らぬ早過ぎた聖樹 佑天
坊城俊樹選▲問題句
港町探偵めいたコート着て 荘吉
坊城俊樹選並選句
冬凪の港の見えるまでバスに いづみ 蔦枯れてするりと潮の匂ひかな 小鳥 煤逃げや海きらきらと広ごりぬ 眞理子 蔦枯れてフランス橋の歴史かな 佑天 著膨の先生を呼ぶ飾り窓 順子 著ぶくれの犬著ぶくれの人を連れ 緋路 ヨコハマのすべてがメリークリスマス いづみ 枯葉舞ふフランス山をくるくると はるか 冬の日は風車の影に刻まれて 緋路 豚饅も恋占ひも十二月 きみよ 一斤のパンの重みも十二月 光子 冬館キラキラ星のもれ聞こゆ 美紀 冬木立フランス山の鳥統べて 順子 郷遠し姥百合の実の枯れしまま 昌文 近づけば冬の日向のにほひの子 和子 ステンドグラスその下の懐手 小鳥 着ぶくれて片脚上げもならぬ犬 佑天 プラスチックの聖樹に朝の日の白し 緋路 銀色のリボンに巻かれ冬館 小鳥 冬空の抱へきれないほどの青 美紀 堕天使の羽に見立てて冬薔薇枯る 光子
_______________________________
岡田順子出句
Tumblr media
岡田順子出句
玉のごとフランス山の冬すみれ 冬凪や浜のガンダム動くやも 冬薔薇へ白亜の館は幻想す テディベア夢路に冬の子を待てり 吹く桃をイギリス館の厨房に 冬木立フランス山の鳥統べて 著膨の先生を呼ぶ飾り窓 茨の実赤きを冠し十字墓 冬薔薇は領事の言霊に薫り 一穢なき天空こそ冬帝の青
岡田順子選特選句
Tumblr media
岡田順子選特選句
みなと町古物を売りに行く師走 荘吉 窓は冷たく望郷のピアノの音 俊樹 氷川丸の円窓いつく北塞ぐ 昌文 冬館キラキラ星のもれ聞こゆ 美紀 冬日和トーストに染むバタと蜜 季凛 ガンダムを磔にする師走かな 緋路 革命は起こすものかも冬薔薇 緋路 誰も振り返らぬ早過ぎた聖樹 佑天 胼の手の婆キューピーを路地に売る 俊樹 古硝子歪めし冬の空はあを 久
岡田順子選▲問題句
浜のメリーの長きまつげか冬薔薇 眞理子
岡田順子選並選句
十番館に十朱幸代と逢ひし冬 俊樹 冬薔薇は墓にも晴れの二人にも 佑天 十字架のかたちに燃ゆる蔦紅葉 美紀 ガンダムの凍ててゐるとも眠りとも 光子 寒禽はフランス山の空あそぶ 小鳥 洋館の隅に師走の募金箱 はるか 黄落に隠されてゆく巨大船 きみよ 枯葉舞ふフランス山をくるくると はるか 凩を海へ見送る倉庫街 光子 倫敦を遠く大使の冬薔薇 佑天 冬の日は風車の影に刻まれて 緋路 胼の手で選ぶ野菜を元町に はるか 望郷の眠りの中に木の実降る きみよ 冬薔薇の門をチェロ負ふ長き髪 昌文 回り落つ長き滞空時間の葉 季凛 洋館は降誕祭の灯に染まり はるか 楽器ケース背負ひて集ふ冬館 久 十字架を解かざる蔦の冬紅葉 光子 この小春百年続きますやうに きみよ 凍空や十字架赤き鉄であり 和子 情深き人よつつじの忘れ花 和子 纜の齢宥める小春潮 三郎 オカリナ売はきよしこの夜吹きながら きみよ 切株に大きな穴や日向ぼこ 和子 テディベア椅子に座らせ十二月 光子
0 notes
kachoushi · 25 days
Text
虚子自選揮毫『虚子百句』を読む Ⅳ
花鳥誌2024年4月号より転載
Tumblr media
日本文学研究者
井上 泰至
6 葛城の神臠はせ青き踏む
 大正六年二月十日、松山に帰省の途中で京阪に寄った。白鳥吟社主催堺俳句会(於開口神社)で出句。西山泊雲・野村泊月・岩木躑躅・原田濱人・島村はじめ・久保田九品太・青木月斗・大橋櫻坡子らが出席。『ホトトギス』の同年三月号「堺俳句会の記」に詳しい。
 この句会は、大阪の『ホトトギス』派の旗揚げに位置する記念碑的な一件で、その詳細は櫻坡子の『大正の大阪俳壇』に詳しい。この句は『新歳時記』にも登録された、虚子の自信作である。大和と河内の国境に位置する葛城山の神一言主は醜貌の女体と言い習わされ、夜しかお出ましにならなかったと謡曲にも出てくる(「葛城」)。
 その引きこもった神に向かって、麓の春を足で確かめて野遊びしております。「山の上からせめて密かに御覧ぜられ度い」(虚子自注「俳句朗読原文」)と悪戯っぽく詠んでみせたのである。「みそなはす」とは、「ご覧になる」の最上級敬語表現で、これまた謡曲に神を主体とした用例がある(「高砂」など)。
 「臠」の字は画数も多く、呪術的なイメージを本来持つが、虚子の字は軽く「糸」の二か所が崩されていて、内容の「滑稽」と対応している。これは活字でなく、虚子の書によってこそ鑑賞が可能で、「臠」は一句の眼目であったことが了解される。
 神や霊魂に命令形を以て呼びかける表現は、江戸俳諧からある。
  塚も動け我泣声は秋の風 芭蕉
  五月雨の空吹き落せ大井川 芭蕉
  笈も太刀も五月にかざれ紙幟 芭蕉
 これらの芭蕉句は、痛切な哀しみや祈りが託されているが、虚子は次にあげる蕪村の例などに学んだか(『蕪村句集講義』)。
  裸身に神うつりませ夏神楽 蕪村
 蕪村の敬語表現「うつりませ」は、祈りとともに一種の滑稽というか余裕があって、そこが夏の禊を「裸身」で具象化する視線と対応している。虚子も、「野遊」の軽々と晴れやかな気分を、この敬語の命令形に託した。命令形は、祈りではあるが、痛切なそれと、軽い挨拶の二種があって、この句は山本健吉の言う俳句の本質「滑稽と挨拶」の典型例と言ってよい。
 ちなみに水原秋櫻子系の俳人の命令形には、自己に執着し、自己に言い聞かせる気分の命令形が多い。
  木の葉降りやまず急ぐな急ぐなよ 加藤楸邨 
  柿若葉多忙を口実となすな 藤田湘子 
  逝く吾子に万葉の露みなはしれ 能村登四郎
 このあたり、命令形の二系統は、俳人の質や俳句観をも照らしだす「鏡」と言ったら言い過ぎだろうか(井上『俳句のマナー、俳句のスタイル』)。
7 雨の中に立春大吉の光あり
 大正七年二月十日、『ホト��ギス』発行所句会のものと『五百句』に注記される。
 実景は雨だが、「立春大吉」の御札とその文字に、心中春の光を予感し、見て取る主観句である。もちろん、雨や雨粒にはわずかな光はあるかもしれない。だとしても、それを読み取ろうとする構えから生まれた心象を詠んだ句であることに変わりはない。特にこの句で詠まれた「光」に対する予感は、「立春大吉」の文字から触発されたものであることは、肚にとめておく必要があろう。
 虚子の揮毫では、この「立春大吉」をことさら御札めいて、黒々と墨書したりはしていない。ただし、注意深く見ると「大吉」の「大」の撥ねと、後に来る「光」の字の撥ねとは、対応している。
 そもそも「大」の字の運筆は、先に左に筆先を払い、取って返して右に払うもので、本来撥る字ではない。ところがこの句の虚子の「大」は右の払いの最後が若干撥ねていて、後にくる「光」の右撥ねの呼び出しになっている。こうして一句の眼目は、「光」であることが視覚的にも確認できるところに、虚子の揮毫で句を鑑賞する醍醐味が出てくる。
 「立春大吉」とは、立春の時期に玄関や部屋の入口に張る厄除け札のことである。あたりは雨だが、外界との通路である門口に貼られた「字」から、眼には見えない「光」を感じた。その意味で中七を字余りにする「の」はこの句の重要なレトリックである。
 一般に「中八」の言葉通り、字余りの中でも、中七を字余りにするのは禁忌とされる。俳句のリズムの研究は、五七五が実は休拍・無音の一拍を加えて、六八六であること、さらに前と後の六は伸びる傾向にあることを計測・実証した(別宮貞徳『日本語のリズム』)。これを前提にすれば、中七は延ばして詠まないものなので、ここでの字余りは、おおむねダレるのである。
 ただし、上五で既に字余りがある場合、続く中八は字余りの反復となり、このダレが感じられない。所詮リズムとは反復と同義なのである。
  春や昔十五万石の城下哉 子規
 掲句も上五・中七の連続の字余りだが、掲句の「立春大吉」に、わざわざ「の」を加えた意図は何だったのだろう?類例を挙げよう。
  春ひとり槍投げて槍に歩み寄る 能村登四郎
 やはり「中八」を、堂々とやっているばかりか、上五に字余りはない。しかし、この句は「槍投げ槍に」ではいけない。あえて「て」を入れ、ひと呼吸を置くことで、投げた槍に歩み寄る主人公に焦点があたる。「槍」の繰り返しが独自のリズムを作っており、中八も気にならない(井上『俳句のマナー、俳句のスタイル』)。
 掲句で言えば、まず上五に「雨の中に」と「の」が用意周到に置かれている点が注目される。この字余りを際立たせる「の」の印象を引き継いで、「立春大吉の」の「の」があることが了解される。
 加えて、「の」の繰り返しは、求心性をもたらす。
  ゆく秋の大和の国の薬師寺の      塔の上なる一ひらの雲 佐佐木信綱
  この庭の遅日の石のいつまでも 虚子
 掲句も字余りの「の」の反復を行うことで、光など一切ない春の雨の中、「立春大吉」の文字にのみ「光」を感じたことを焦点化して見せたのである。
 最後に、先の「葛城」の句との関係で言えば、神仏への祈りというテーマのつながりもある。このあたりに編集の妙を認めることも可能かと思う。
『虚子百句』より虚子揮毫
7 雨の中に立春大吉の光あり 
8 さしくれし春雨傘を受取りし
Tumblr media
国立国会図書館デジタルコレクションより
___________________________
井上 泰至(いのうえ・やすし)   1961年京都市生まれ 日本伝統俳句協会常務理事・防衛大学校教授。 専攻、江戸文学・近代俳句
著書に 『子規の内なる江戸』(角川学芸出版) 『近代俳句の誕生』 (日本伝統俳句協会) 『改訂雨月物語』 (角川ソフィア文庫) 『恋愛小説の誕生』 (笠間書院)など 多数
0 notes
kachoushi · 25 days
Text
星辰選集
花鳥誌 令和6年4月号
Tumblr media
令和6年1月号の掲載句より再選
坊城俊樹選
この星辰選集は、私が各月の掲載句の中で、雑詠選・撰集選・さいかち集の成績などに関係なく、改めて俳句としての価値が優れていると判断したものを再度選句したものです。 言わば、その号における珠玉の俳句ということになります。
Tumblr media
秋日傘上る高さに水平線 中里 三句 秋声や置いてけ堀の風の中 伊藤 ひとみ 華麗なる家族からつぽ蔦灯る 斉藤 いづみ 空席のまま木の実時雨のベンチ 横田 美佐子 雲と雲重なるところ秋の声 渡辺 彰子 これよりは鏡の間なり秋の声 緒方 愛 華やかに滅びゆく香や秋薔薇 栗原 和子
Tumblr media
流星のかの世に消えてゆきにけり 続木 一雄 曼珠沙華もの思ふ翳ありにけり 飯川 三無 あてどなくさ迷ふ蟻や秋の暮 秋吉 斉 蓮の実やあの世この世と飛ばしをり 田上 喜和 恐ろしき事をさらりと秋扇 村上 雪 梢に絡まれ蓑虫の空へ鳴く 田中 惠介 いにしへの子らも吹かれし秋の風 後藤 軽象
Tumblr media
月光の鏡の中で逢ふ二人 平山 きみよ 秋の蟬さらにはるけき声重ね 田丸 千種 眼裏に映る我が家や暮の秋 菊井 美奈子 柏翠忌ベレーのバッジべらんめえ 坂井 令子 留学生TENPURA抓む月見船 蒼井 音呼 姫娑羅の肌秋霖に艶めける 本間 白陶 捨案山子闇夜に踊るかも知れず 鈴木 月惑 騒がしき鶏舎の真昼曼珠沙華 津野 おさむ
Tumblr media
とんぼうの空中停止して暫し 高山 八草 コスモスの声わきあがる虚空かな 鮫島 成子 つくづくと美男葛の真くれなゐ 安原 さえこ 両の手を月にとどけと肩車 大和田 博道 神田川そつくり秋の水となる 藤森 荘吉 宇宙目差し目的不明のクラゲかな 粟倉 健二 秋出水思考停止となる刹那 小川 笙力
0 notes
kachoushi · 25 days
Text
招待席
雑詠2号巻頭
Tumblr media
巻頭の言葉
村上 雪
Tumblr media
巻頭の言葉
村上 雪
火蛾ならず此の一灯に逢はざれば 飛び交ひし火蛾の如くに残る文 虚子の火か柏翠の火か火取虫
  古浴衣旅さすらひの心にて 虚子
の句について「この古浴衣まさに金繡よりも美しく僧衣よりも悲しく」とお書きになられた柏翠先生の一文に衝撃を受け、花鳥に入門したのが昭和四十年十一月、以来実に五十八年の月日が流れました。其の間、先生のお勧めに依り『火蛾』・『天蛾』の二冊の句集を上梓、又、中子先生に御縁を賜り今日に至りました。此の度二月号雑詠に火蛾の句を以て巻頭を頂き、身に余る御選評に、私にとっては、三冊目の火蛾の句集を出した様な感激と驚きで一杯でございました。十歳の頃迄過した北海道噴火湾沿いの一漁村の家の軒場に飛んでいた夥しい火取虫、中でも大きな水色の火蛾が私の火蛾の原点になりました。此の後、火蛾の行方は火蛾まかせ。柏翠先生、中子先生をお偲びし、花鳥誌を通り過ぎた諸先輩を思い、誌友の皆様と共に、俊樹先生の御指導の元、飛び続けたいと思って居ります。  ありがとうございました。
0 notes
kachoushi · 25 days
Text
招待席
撰集2月号巻頭
Tumblr media
巻頭の言葉
渡辺 炳子
Tumblr media
巻頭の言葉
渡辺 炳子
後の月抱けばしやべる人形と 蚯蚓鳴く遥かなる人想ひをれば 立冬や勾玉のごと朝の月
 子供の頃から、月や星を見て、さまざまな事を想像するのが好きだった。  後に私の名前「炳子」は、「炳として日星の如し」という中国の故事からつけられたと知り、何となく納得した。  そのせいとも言えないが、私は月や星を詠むことが割と多い様な気がする。  三句とも亡き夫を偲んで詠んだが、あまり感傷的な言葉は使いたくなかった。  「後の月」という季語は初めて使ってみた。旧歴八月十五夜の晴れやかな感じに対して晩秋の十三夜の月は冷やかで寂しい。しかしそこに懐かしさを覚え、私の想いを託してみた。下弦の月も、早起きしないと滅多に見られないが、この日見た朝の月は雲の間に美しく黄金色に光っていた。  町田の句会がなくなり、坊城先生にお会いする機会も少なくなりましたが、この様な句をお選び戴き、心から感謝申し上げます。
0 notes
kachoushi · 25 days
Text
雑 詠
花鳥誌 令和6年4月号
Tumblr media
雑詠巻頭句
坊城俊樹主宰選 評釈
雑詠巻頭句
Tumblr media
焚上げの火の粉加勢や冬銀河 勢木 宇太郎
 神社などで行われる焚上げ。護摩などの火の粉が天に舞う。その先にあるのが銀河。極小の極大の美意識。澄んだ夜空は霊験もあり、この句が崇高なものとなる要因でもある。
見覚えの古銭掻き出す大火跡 勢木 宇太郎
 この前の地震による能登の惨状を思う。実家のあったあたりを掻き出すとコレクションにしていた古銭が。大惨事の後始末なのにその郷愁が胸を打つ。
杉苔を仮の褥に散紅葉 勢木 宇太郎
 杉苔の上にひとひらの紅葉が舞って臥せた。それを仮の褥と見た。苔の蒼さと紅葉の赤さのコントラストの美しさ。大家の日本画を見るようだ。
閂の音のあえかに雪女郎 佐藤 ゆう子
 雪女郎が尋ねてきた。閂を外す音さえも幽玄で、むしろあえかなる色さえ帯びている。こんな優雅な雪女郎も見たことは無いし、こんな句の発想も聞いたこともない。
戸のきはに残る吐息か雪女郎 佐藤 ゆう子
 そして戸を開ける。その際には雪女郎の吐息が残る。そっと聞き耳を立てて室内の様子を伺っていたから戸に息がかかった。吐息でさえ幽遠なる存在。
雲垂れて町過ぐ裾や雪女 佐藤 ゆう子
 この裾は雲の裾であって雪女の嫋やかで冷たい裾でもある。小暗くなった町をそれが包み込む。そして夜を迎える。いやむしろ雪女が翌朝に帰ってゆくときの風景かもしれぬ。とまれこれは一幅の日本画の如き句。
Tumblr media
初電話卒寿は珠のごと笑ひ 鍛治屋 都
 卒寿といえばもう九十歳。彼女から初電話が来た。珠のような女学生の声で。
書初めや振袖襷姉妹 田村 美恵子
 どれも美しく着飾った姉妹を思う。何の字を書いたのか。襷をして書く字は渾身のもの。
Tumblr media
渋谷まで歩く枯芝つけしまま 渡辺 彰子
 笑った。どこから芝を付けたままなのか。しかし案外これも嫋やかなものかもしれぬ。
角曲がりゆく歳晩の日本髪 小寺 美紀
 この角が何しろ素敵。わたしは京都の万里小路や神楽坂の昔を想像する。
Tumblr media
くちびるの端で笑うて懐手 栗原 和子
 酷薄なる者の笑い。そして若くはない老練たる者の笑い。とまれその策略こそ諧謔。
筆太き辰の一文字吉書かな 田上 喜和
 この威勢の良さは見事。かなり老練たる者の書か。いや案外若き青年の書か。
Tumblr media
そのうちに獣の息に薬喰 尾田 美智子
 これは実感としてわかる。その肉から浸みる獣の匂いが我が息に伝染する。
空と云ふ自由を知らぬ飾り凧 境 雅代
 汀子の「空といふ自由」の句の本歌取と見た。ただこちらは飾り凧の悲哀で情がある。
0 notes
kachoushi · 25 days
Text
花鳥撰集
花鳥誌 令和6年4月号
Tumblr media
同人作品巻頭句
坊城俊樹選
巻頭句
Tumblr media
奥 清女 近松忌恋に泣きたる昔はも ルージュ濃く侍る老婆や近松忌 近松忌誰にも媚びず諂はず
村山 弥生 深海に眠るが如き霜夜かな 深海の寂しき闇や冬の蟹 深海魚のごとく霜夜を沈みゆく
Tumblr media
岩佐 季凜 寒灯を紅き庇へ古書の店 一粒の大きく滲む寒の雨 店頭のパラソル寒天に閉ぢる
渡辺 光子 馬場の日にふくら雀の落ちて来し 寒雀入れ神苑の日の溜り 寒雀神馬と分かちあふ日差し
Tumblr media
小川 みゆき 新米を研ぐ柔らかく柔らかく 手の届く高さの柿を捥ぎにけり 亡き夫をふと思ひ出す秋の雨
渡辺 炳子 読初の歳時記一月の重さ 繭玉や蚕飼の家の御灯明 今浮かびし言葉忘れて著ぶくれて
0 notes
kachoushi · 25 days
Text
各地句会報
花鳥誌 令和6年4月号
Tumblr media
坊城俊樹選
栗林圭魚選 岡田順子選
………………………………………………………………
令和5年1月6日 零の会 坊城俊樹選 特選句
ドッグラン鼻と鼻とで交はす賀詞 荘吉 裸木のはるかを白く光る街 要 頰切るは鷹の翔つ風かもしれず 順子 人波をこぼれながらの初詣 光子 焼芋の煙たなびく志んぐうばし 和子 群衆といふ一塊の淑気歩す 順子 寒雀神馬と分かちあふ日差し 光子 寒雀入れ神苑の日のたまり 同 寒の水明治の杜のまま映す 小鳥
岡田順子選 特選句
跼り清正の井を初鏡 昌文 本殿につぶやく寒紅をつけて 光子 楪の浴ぶる日我にゆづらるる 慶月 肺胞に沁み込んでゆく淑気かな 緋路 冬草や喧騒去りて井戸残し 眞理子 馬見えぬ乗馬倶楽部の六日かな 六甲 寒鯉来おのれの色の水を分け 緋路 寒椿落つれば湧くや清正井 眞理子 寒の水明治の杜のまま映す 小鳥
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年1月6日 色鳥句会 坊城俊樹選 特選句
一束もいらぬ楪もて遊ぶ 成子 深井より羅漢に供ふ冬の水 かおり 赤なまこ横目に買ひし青なまこ 久美子 畳みたるセーターの上に置くクルス かおり 再会のドアを開けばちやんちやんこ 朝子 半泣きのやうに崩るる雪兎 成子 火を見つめ男無口に薬喰 かおり 歳晩の一灯母を照らすため 朝子 悴みて蛇となる能の女かな 睦子 その中の手話の佳人やクリスマス 孝子 悪童に悲鳴をはなつ霜柱 睦子 凍空とおんなじ色のビルに棲み かおり かくも典雅に何某の裘 美穂 唐突に雪投げ合ひし下校の子 成子 楪や昔硝子の磨かれて かおり 奥伝の稽古御浚ひする霜夜 愛 出会ひ重ね寿限無寿限無と年惜む 美穂 冬灯一戸に遠き一戸あり 朝子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年1月8日 武生花鳥俳句会 坊城俊樹選 特選句
流れ来し葉屑も霜を置いてをり 昭子 御慶述ぶ老いも若きも晴れやかに みす枝 初春の光りまとひし石仏 ただし 神なびの雨光り落つ氷柱かな 時江 地震の中産声高き初笑ひ ただし 歌留多とり一瞬小町宙に舞ふ みす枝 まだ誰も踏まぬ雪道新聞来 ただし 奥の間に柿餅吊し賑はへり 時江 さびしさの枯野どこまで七尾線 昭子 万象の音の鎮もり除夜の鐘 時江
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年1月9日 萩花鳥句会
初句会吾娘よりホ句のファクシミリ 祐子 書き初め震何んぞ訳あり辰に雨 健雄 吹雪突き突進するエネルギー 俊文 日本の平安祈る今朝の春 ゆかり こがらしが枯葉ころがしからからと 恒雄 平穏な土地にて食べる七草粥 吉之 御降や茶筅ふる音釜の音 美惠子
………………………………………………………………
令和5年1月10日 立待花鳥俳句会 坊城俊樹選 特選句
被災地にすがりし木の芽盛んなる 世詩明 的中の乾いた響き弓始 誠 初場所の桟敷の席の晴れ着かな 同 初御空耶馬台国は何処にぞ 同 石段を袖振り上がる春著の子 同 細雪番傘粋に下駄姿 幸只
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年1月11日 うづら三日の月花鳥句会 坊城俊樹選 特選句
年上の夫に引かるる初詣 喜代子 地震起こり慌てふためく大旦 由季子 曇り拭き笑顔映りし初鏡 さとみ 地震の地にぢりぢり追る雪女 都 冴ゆる夜の天井の節をまじまじと 同 男衆が重き木戸引き蔵開き 同 寒月や剣となりて湾の上 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年1月12日 鳥取花鳥会 岡田順子選 特選句
海鳴や雪の砂丘は祈りめく 都 初電話卒寿は珠のごと笑ひ 同 針始友が未完のキルト刺す 同 授かりし神の詞や竜の玉 悦子 蜑に嫁し海山���みて老いの春 すみ子 焚上げの火の粉加勢や冬銀河 宇太郎 古傷を思ひ出させて寒四郎 美智子 枯葦の透き間に光る水一途 佐代子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年1月12日 風月句会 坊城俊樹選 特選句
寒の雨誦経とよもす陽子墓碑 文英 寒林を上り来よとて母の塔 千種 顔消えし元禄仏へ寒菊を 慶月 道祖神寄り添ふ寒の雨うけて 慶月 就中陽子の墓所の蕗の薹 幸風 裸婦像の背にたばしる寒の雨 同
栗林圭魚選 特選句
信州へ向かふ列車の二日かな 白陶 寒林を上り来よとて母の塔 千種 晴天の初富士を背に山降る 白陶 大寺の太き三椏花ざかり 幸風 空までも続く磴なり梅探る 久 はればれと良き顔ばかり初句会 三無 就中陽子の墓所の蕗の薹 幸風 五姉妹の炬燵の会議家処分 経彦 走らざる枯野の車両咆哮す 千種 凍蝶のポロリと落つる影哀れ れい 三椏の開花明日かと石の門 文英
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年1月13日 枡形句会(一月十三日) 栗林圭魚選 特選句
嗽ぐをどる喉越し寒の水 幸風 七福神ちらしの地図で詣でをり 多美女 七福神詣りしあとのおたのしみ 白陶 凍て鶴の青空渡る一文字 幸子 金継ぎの碗に白湯汲む女正月 美枝子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年1月15日 なかみち句会 栗林圭魚選 特選句
曇天に寒紅梅や凜と咲く のりこ 寒梅のつぼみの枝の陽の仄か 貴薫 ���空に白き寒梅なほ白く 史空 朝の日に紅色極め寒椿 廸子 我が机散らかり初めし二日かな 和魚 倒れ込む走者にやさし二日かな 三無 釦穴に梃摺る指や悴かみて あき子 夢てふ字半紙はみ出す二日かな 美貴 二日早主婦は忙しく厨事 怜 りんご飴手に兄妹日向ぼこ 秋尚 雪遊びかじかむ手の子包む母 ことこ
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年1月16日 さくら花鳥会 岡田順子選 特選句
幼子の運を担いで福引へ 実加 寒空や命尊きこと思ひ みえこ ことわざを子が覚えをりかるた取り 裕子 元旦の母と他愛もない話 同 元旦や地震の避難を聞くことに みえこ 初詣車椅子の児絵馬見上ぐ 実加
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年1月17日 伊藤柏翠記念館句会 坊城俊樹選 特選句
古里に温石と言ふ忘れ物 雪 師の墓に愛子の墓に冬の蝶 清女 寒の月見透かされたり胸の内 眞喜栄 鴨浮寝無言の中にある絆 同 降る雪を魔物と今朝を天仰ぐ 英美子 藪入りも姑の一言行けぬまま 同 庭仕事今日冬帝の機嫌よき かづを 玻璃越に霏々と追はるる寒さかな 同 正月が地獄の底に能登地震 みす枝 雪しまき町の点滅信号機 ただし お御籤の白き花咲く初詣 嘉和 若狭より繋がる水脤やお水取 やす香 水仙の香りて細き身の主張 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年1月17日 福井花鳥句会 坊城俊樹選 特選句
寒紅の濃き唇が囁きし 世詩明 お雑煮の丸と四角と三角と 同 正月の馳走其々ある謂れ 千加江 新年の風も言の葉も美しく 和子 磯の香も菰巻きにして野水仙 泰俊 捨て舟を取り巻くやうに初氷 同 左義長や炎崩れて闇深し 同 去年今年形見の時計よく動く 同 ふと今も其の時のマフラーの色 雪 天地に誰憚からぬ寝正月 同 迷惑を承知の猫に御慶かな 同 不器用も父似の一つ初鏡 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年1月17日 鯖江花鳥句会(一月十七日) 坊城俊樹選 特選句
而して九十三の初鏡 雪 蛇穴に入り人の世は姦しく 同 紅を差し眉ととのへて近松忌 同 懐手おばあちやん子を憚らず 同 鬼つ子と云はれて老いて近松忌 同 着膨れて顔ちさき女どち 一涓 歌かるた子の得て手札取らずおく 昭子 年新たとは若き日の言葉とも やす香 新年を地震に人生うばはれし 同 元旦を震はせる能登竜頭めく 同 裂帛の気合を入れて寒みそぎ みす枝 風の神火の神乱舞どんど焼き ただし 八代亜紀聞きをり外は虎落笛 清女 寒怒濤東尋坊に砕け散り 同 波の腹見せて越前浪の華 世詩明
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年1月19日 さきたま花鳥句会
月冴えて城址うろつく武者の翳 月惑 仲見世を出て蝋梅の香に佇てり 八草 枯菊や木乃伊の群の青き影 裕章 寒鴉千木の反り立つ一の宮 紀花 合掌す金波銀波の初日の出 孝江 青空に白き一機や寒紅梅 ふゆ子 初詣令和生まれの児と犬と ふじ穂 白鼻緒水仙の庫裏にそろへあり 康子 激震の恐れ記すや初日記 恵美子 お焚き上げ煙を浴びて厄払ひ 彩香 我が干支の年につくづく初鏡 みのり 家篭りしてをり冬芽萌えてをり 良江
………………………………………………………………
令和5年12月1月 花鳥さざれ会 坊城俊樹選 特選句
師を越ゆる齢授かり初鏡 雪 初笑玉の如くに美しく 同 大晦の右大臣左大臣 同 猫の名は玉と答へて初笑 同 天が下縁深めゆく去年今年 数幸 能登の海揺るがし今日の空冴ゆる 和子 しろがねの波砕かれて冴え返り 笑子 語り継ぐ越前の秘話水仙花 同 雪降れば雪に従ふ越暮し 希子 皺の手にマニキュア今日は初句会 清女 初電話親子の黙を解きくれし 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年11月 花鳥さざれ会 坊城俊樹選 特選句
蟷螂を見て戻りたるだけのこと 雪 もて余す老に夜長と云ふ一つ 同 蟷螂の緑失せつゝ枯れんとす 同 小春日や袱紗の色は紫に 泰俊 正座して釜音聞くや十三夜 同 海沿ひにギターの調べ文化の日 千加江 枝折戸をぬけて紅さす返り花 笑子 祇王寺の悲恋の竹林小鳥来る 同 大胆な構図を取りし大銀杏 和子 宿の灯も消して無月の湖明り 匠 秋の海消えゆくものにますほ貝 天空 落葉降る賽の河原に降る如く 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年12月 花鳥さざれ会 坊城俊樹選 特選句
異ならず枯蟷螂も人老ゆも 雪 世の隅に蟷螂は枯れ人は老い 同 無造作に残菊と言ふ束ね様 同 冬ざれや汽車に乗る人何を見る 泰俊 石膏でかたまりし腕冬ざるる 和子 山眠る小動物も夢を見る 啓子 路地裏の染みたる暖簾おでん酒 笑子 冬ざれや路面電車の軋む音 希子 おでん屋の客の戯れ言聞き流し 同 風を背に連れておでんの客となり かづを にこにこと聞き役おでん屋の女将 同 冬紅葉地に華やぎを移したり 同 街師走見えざるものに背を押され 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
1 note · View note
kachoushi · 2 months
Text
虚子自選揮毫『虚子百句』を読む Ⅲ
花鳥誌2024年3月号より転載
Tumblr media
日本文学研究者
井上 泰至
4 山人のかきね傳ひやさくら狩
 『年代順虚子俳句全集 第二巻』明治三十九年の項に「四月中の作句と覚ゆるもの」とある中の一句。『ホトトギス』には同年七月号に載る。「さくら狩」は和歌以来の言葉で、いささか俗な「花見」に比べて、雅趣のある言葉だ。「鷹狩」同様、花を求めて歩く意がある。筵を敷いて眺める「花見」が「静」だとすれば、「さくら狩」は能動的な含意を持つ。星野立子はこう解釈する。
 桜を見に山に分け入りました。桜の名勝地吉野とか鞍馬でしょうか。山道を辿っていると百姓家か、由ある人の住居か、ある家の垣根が長く続いているあたりに出ました。どのような人が住んでいることかと思いながら通り過ぎました。桜狩というのですから花を見る目的で山路を歩いているのでありましょう。その山人の垣根づたいも一再ならずあったかも知れません。兎に角、山に住んでいる人の家の垣根づたいを過ぎ去ってなお奥の方へ分け入りつつある時の情景であります。
 散在する山間の桜なればこその「狩」である。そして、立子がほのめかすように、「山人」という言い方に一種の軽い「謎」があって、家の主人をあれこれ想像する気分も受け取れる。
 謡曲の世界を背景に見ようとする向き(清崎敏郎「研究座談会」)があるのは、脇が桜を訪ね、桜にちなんだ精霊のシテが山人の仮の姿で現れるような能を想定したのであろうが、そのような曲はない。「狩」の言葉の持つ雅趣が、そういう踏み込んだ解釈を提示させる事情は理解できる。
 中七の「垣根づたひや」という言い回しには、軽い浮かれた感じがあり、そこに山間に「一花所望」とばかり、花を求めて逍遥する気分の楽しさを感じ取ればよい。句全体もア行音が繰り返され、リズムがいい。
 なお、1番「美しき人や蚕飼の玉襷」は他者を詠んだ「他」の句。2番「山寺の宝物見るや花の雨」は自分を詠んだ「自」の句。3番「芳草や黒き烏も濃紫」は、「他」、そしてこの句は「自」ということで、虚子は意識して配したか。自他の区別は虚子が親しんだ連句の発想である。四句「や」が入った句が続いた。
5 春風や闘志抱きて丘に佇つ
 大正二年二月十一日、三田俳句会で発表されたものである。この句会は岡本癖三酔(廉太郎)が起こしたもの。『ホトトギス』には同年三月号に載る。『贈答句集』の前書には、「大正二年・俳句に復活す」とあって、小説に転じていた虚子のいわゆる「俳壇復帰」を象徴する句として位置付けられてきたが、実態は、陰影に富んでいる。
 虚子が遠ざかっている間、河東碧梧桐の活動は旺盛で、俳句の流れは碧梧桐によって、古典的世界を離れ、詰屈な文体に新奇の題材を衒った新傾向俳句が流行していた。周囲からも、当時隆盛の自然主義の影響もあって、俳句はいずれ季題中心の世界から離れると考えられていた。虚子は、当時「負け組」と捉えられていたのである(拙稿「明治末年の俳諧史―池田常太郎『日本俳諧史』をめぐって」『連歌俳諧研究』一三三号)。
 しかし実際は、大方の予想に反して虚子が平明にして余韻ある俳句、古典文芸としての俳句を主張し実践することで、後の『ホトトギス』王国を築くに至ったということになる。その時の虚子の戦略は、日露戦争後の不況と青年の「煩悶」を前提に、村上鬼城・飯田蛇笏・原石鼎ら不遇の若者の主観的俳句を拾い上げるとともに、地方の中間層を開拓して俳句の大衆化に向かうという二つの路線を用意していたようだ。作家の発掘と俳句愛好者の「市場」開拓という双方を兼ねる複眼が、虚子の戦略であった、ということになる(拙著『近代俳句の誕生』「Ⅳ 大虚子への道程」)。
 掲句へ戻ろう。強くとも、駘蕩たる春風から湧いてくる「闘志」とは、単純な情熱ではないだろう。争いを好まなかったように見えるが、虚子に「比類のない勝負師の魂」を見て取ったのは山本健吉(「俳人虚子」『俳句』昭和三十四年五月)だった。���ち負けは、彼の脳裏に常にあり、彼に盾ついた者は、たいてい最後に敗れ去り、虚子は黙殺による勝利を、常に収めている。だが、そのような意識は、ほとんど表面に現したことがないのは、自制力が強かったからだ、とも言っている。
 後に赤星水竹居の『虚子俳話録』(昭和二十四年)で、虚子はこうも振り返っている。
 私は自分の事は結局自分で解決せねばならぬと、いつも考えています。病気の時なんか苦痛をこらえながら、いっそう深くそんな事を感じます。
 俳壇復帰の直前、腸を病んで長期にわたり臥せっていたから、この句の成立に関連しては、考えておくべき問題である。こうした我慢強さが、何に由来するかと言えば、健吉の見るところ、それは自身を恃む気持ちの強さによる、ということなのである。
 水竹居も健吉も、この粘りと寡黙と忍耐強さを徳川家康のようだと比定している。
 なお、掲句と一対の次の句は、隆々とした力強い太い筆勢。特に「春」と「闘」は、力感に溢れ、一句の眼目となっている。
『虚子百句』より虚子揮毫
1 美しき人や蚕飼の玉襷
2 山寺の宝物見るや花の雨
Tumblr media
3 芳草や黒き烏も濃紫
4 山人のかきね傳ひやさくら狩
Tumblr media
5 春風や闘志抱きて丘に佇つ
6 葛城の神臠はせ青き踏む
Tumblr media
国立国会図書館デジタルコレクションより
___________________________
井上 泰至(いのうえ・やすし)   1961年京都市生まれ 日本伝統俳句協会常務理事・防衛大学校教授。 専攻、江戸文学・近代俳句
著書に 『子規の内なる江戸』(角川学芸出版) 『近代俳句の誕生』 (日本伝統俳句協会) 『改訂雨月物語』 (角川ソフィア文庫) 『恋愛小説の誕生』 (笠間書院)など 多数
0 notes
kachoushi · 2 months
Text
星辰選集
花鳥誌 令和6年3月号
Tumblr media
令和5年12月号の掲載句より再選
坊城俊樹選
この星辰選集は、私が各月の掲載句の中で、雑詠選・撰集選・さいかち集の成績などに関係なく、改めて俳句としての価値が優れていると判断したものを再度選句したものです。 言わば、その号における珠玉の俳句ということになります。
Tumblr media
拗ねてみて無茶も通させ西鶴忌 上嶋 昭子 あの雲の八月六日兄の背に 白水 朝子 息づきを深め白露の香を聞く 天野 かおり 笠松の影の暗きを施餓鬼寺 髙田 栄子 往還は深閑として日雷 水島 直光 こま犬の阿やら吽やら秋暑し 渡辺 光子 おろかなる戦の名残り夏の浜 山崎 肆子
Tumblr media
そこはかとなくむらさきの花野かな 渡辺 美穂 風蘭の最後の花の香に眠る 西村 史子 秋天を分割してはビルの窓 佐伯 緋路 浅草にもの食ふ匂ひして厄日 栗原 和子 蓑虫の昼の淋しさ吹かれゐて 棈松 政江 どつぷりと三河に生きて鯊を釣る 馬場 省吾 蟷螂の二刀流なる鎌さばき 鈴木 月惑
Tumblr media
この路地をゆけばはじまる虫の闇 小林 含香 またの世を天涯に見る葛の花 田中 惠介 花入は魚籠秋草の野のごとし 藤原 寛 落し文多し連隊跡の森 小林 敏朗 月白や息づかひやも亡き人の 佐藤 ゆう子 竹籠は秋海棠のためにあり 松島 亜栄子 噴水の歪みもとより秋暑し 田丸 千種
Tumblr media
街角に夏の残滓の転がりぬ 村山 弥生 空耳に母の呼ぶ声花野みち 池垣 真知子 ど阿呆が一糸乱れず阿波踊 津野 おさむ おはぐろは孤独を好む蜻蛉らし 村上 雪 みちのくの一雨ごとの小さき秋 赤川 誓城 虹の端刹那に燃えて野分来る 平山 きみよ 柏翠忌秋の声とし浅草に 竹内 はるか
Tumblr media
秋日傘言問橋を渡り切る 崎島 六甲 秋海棠母を想へば娘となりぬ 佐藤 恭子 ベトナムコーヒー泡の静かに消える秋 蒼井 音呼 豊なる肉置き嘆く妻の秋 山口 三四郎 蜩や五百羅漢の声明に 勢木 宇太郎 神谷バーにはバッカスもこほろぎも 岡田 順子
0 notes
kachoushi · 2 months
Text
招待席
雑詠1月号巻頭
Tumblr media
巻頭の言葉
中里 三句
Tumblr media
巻頭の言葉
中里 三句
上り来る男使ひの秋日傘 秋日傘上る高さに水平線 木洩日は鹿の子模様の秋日傘
 この度は思いがけなくも、新年の雑詠巻頭を頂き有り難く思っております。  ここ鎌倉に越して来たのは八年ほど前のことです。それ迄、世田谷の外れに暮しておりましたが、バブルの影響か我家の廻りも次第に緑が少なくなり、七十坪ほどの隣りの空地には境界いっぱいに家が迫り息苦しく感じられるようになりました。転居先は湘南の海が東に開け、西には江の島、さらに富士が臨める風光明媚な土地です。根っからの回遊癖のおかげで気に入りの散歩道を見付けるのに時間は掛かりませんでした。急坂を下り江の電の踏切を越えて七里が浜を稲村へ向きを変えます。それから再び踏切を渡り返し、七里が浜高校とプリンスホテルの間の急な坂を真っ直ぐ上って行きます。この坂はよくロケにも使われ、最近は観光客も増えて、今年も日傘が水平線を次第に上げて登って来ます。どんな人だろう。眉目秀麗な婦人か、異国の人か、夢の人か……。こんなことを覆い隠したまま秋日傘は上って来ました。
0 notes
kachoushi · 2 months
Text
招待席
撰集1月号巻頭
Tumblr media
巻頭の言葉
武山 文英
Tumblr media
巻頭の言葉
武山 文英
秋霖や閑寂なりて母の塔 天高くさはさは表裏ポプラ風 年尾忌や夜更けのコール偲ばるる
 此の度は、撰集巻頭を賜り身に余る歓びに、俊樹先生に心より感謝申し上げます。  私が長年住んでいる川崎市には生田緑地があり、四季折々散策を楽しんでいます。一句目は吟行句で、緑地内に岡本太郎の「母の塔」があります。この景観が大好きで訪れる度に感動させられます。この日は天候不順で気持が沈みがちでした。二句目は長年テニスをしており、馴染のテニスコートの一つにポプラがあり、心地良く四季を楽しみながら、ボールを追いかけています。三句目は、年尾先生が枡形の病院に入院中の就寝後のたわいの無い会話が偲ばれ詠んだ句です。  又、「ますかた」に年尾句碑があることを誇りに、中子先生、としあつ先生との想い出深い句碑守を句友と共に続けていく所存です。さらに先生方、句友、誌友の皆さまより刺激を頂きながら、この度の巻頭を励みに花鳥諷詠の真髄を刻みつつ精進して参りたいと存じます。
0 notes
kachoushi · 2 months
Text
雑 詠
花鳥誌 令和6年3月号
Tumblr media
雑詠巻頭句
坊城俊樹主宰選 評釈
雑詠巻頭句
Tumblr media
冬帝を玉座に迎へ都府楼趾 天野 かおり
 九州の都府楼趾の歴史は古い。関東人の私なんかは想像もつかないほどの悠久の時が流れる。そこに今君臨する者とは冬帝こそがふさわしい。日本より大きな都府楼趾の感覚。
都府楼の礎石に小さき時雨あと 天野 かおり
 礎石に小さい時雨のあとがあるのは現代のもの。しかしその時雨は過去千回くらい降ってきた。「天の川のもとに天智天皇と臣虚子と 虚子」の句碑はそのあたりにある。虚子は自分の卑小さを知り、時間の雄大さを知る。この句はそれに少し似ている。
五重塔からくれなゐの冬日のせ 天野 かおり
 この五重塔は極彩色に塗られている。九州福岡のそれはやはり中華文明の影響を受けているのだろう。冬日を乗せているのが豪奢である。
大枯野則天去私のここに居る 渡辺 美穂
 「則天去私」は漱石の心境。天にのっとって私心を捨て、自然に身をゆだねることである。大枯野の唯一のものはその心境そのものなのである。「私」がそれに同化するのかは知らぬ。
赴任地は裏鬼門なり漱石忌 渡辺 美穂
 赴任地は四国とて九州とていろいろあった。それを裏鬼門と漱石が認識したのかは知らぬが、その人の忌日にそれを聞いてみたいものだ。
漱石の孤影ちらつく霜夜かな 渡辺 美穂
 はたして漱石が霜夜と似ているかは知らぬ。しかし彼は孤影であるを肯う。漱石はいわば心身症だった。かれは当然孤独。霜夜はこの狂気を増進させて小説を書かせた。
Tumblr media
グラバー邸寒し小暗き隠し部屋 吉田 志津子
 グラバー邸は昼間に行くと海のせいかなかなか明るくて素敵。庭園もゆったりとしていて清潔で心豊かになる。隠し部屋があったとは。それもやはり天下騒乱の時だから当然だろう。彼は商人でありそうではなかったから。
花街の花魁道中秋祭 吉田 志津子
この花街は長崎なのだろうか。どこか京都のような気がする。私のような東人はがさつでこれは憧れでしかない。たしかに浅草にも花魁は居たのだが、どうにも生々しくて。
冬薔薇は領事の言霊へ薫り 岡田 順子
 領事はこの国にあまり居ない。長崎のその人か。横浜のその人か。薔薇は冬に限る。
Tumblr media
銀の匙絹のクロスに冬日翳 一倉 小鳥
 これもまた洋風のテーブルでの食事の様子。かなりレベルの高い貴婦人のご昼食。
街並みも運河も家も灯も聖夜 葛生 みもざ
 いま聖夜の翌日にこれを書いている。この句のような特別の時間はここに無い。
Tumblr media
氷川丸の円窓いくつ北塞ぐ 藤枝 昌文
 氷川丸は横浜の港に係留されて動かない。ずっと北窓は北窓のまま。
パライゾの見果てぬ夢を寒椿 田上 喜和
 キリスト教徒。それは外人墓地なのか。いや日本人が悲しく拘束されて死んだのか。
Tumblr media
三途から戻りし者の年忘 勢木 宇太郎
 三途の川から戻って復活した人。それがその年を忘れるようになる目出度さ。
嘘つつむやうに小さく手に咳を 栗原 和子
 嘘はしかし包んでも少し漏れてしまう。咳をしても独りであった人とは違う。
0 notes