製造業で採用したい カッコいい作業着ブランド4選
制服をリニューアルしただけで高校の人気ランキングが変わるように、作業着をリニューアルしたら人気が高まったという企業があります。
制服も作業服も、学校選び・企業選びの本質ではないけれども、毎日着るものだからこそ、スタッフのモチベーションや企業イメージの向上に大きく影響するのは事実。
とはいっても、どうしたらいいのかわからない…。
本記事では、作業着のリニューアルを検討しているみなさんに「カッコいい作業着ブランド」と、作業着をつくる際のポイントをご紹介します。
【ブランド1】
Dickies(ディッキーズ)
日本ではあまり認知度の高くないディッキーズですが、実はワークウェア市場の約70%の世界トップシェアを誇るワークウェアブランド。アメリカ三大ワークブランド(ディッキーズ・カーハート・ベンデイビス)のひとつでもあります。
人気の理由は、オーセンティックなアメカジテイストを基調としながらも時代に合ったデザインであること、そして耐久性などの優れた機能性。
第二次世界大戦ではアメリカ陸軍の制服としても使われました。1922年に創業して依頼、ワークウェアへのニーズを製品に落とし込む姿勢が受け継がれています。
↑ちなみに弊社ナミックスのジャケット(ブルゾン)もディッキーズ
アメリカンなワークウェアというくくりではLeeもぜひ検討を。
古き良きアメリカンなデザインのものが多く、Leeがルーツのヒッコリーストライプ柄も魅力です。
【ブランド2】
BURTLE(バートル)
2023年ワークウェアブランド売上ランキングでは218億円と、ダントツNO.1のブランド。
先進的なデザイン、豊富なラインナップ、耐久性、コストパフォーマンスと全体的なバランスに優れているため、多くの会社が選びやすいブランドです。
従来の野暮ったい作業着とは異なり、タフでワイルドなイメージでありながら、スリムなシルエットなので、着姿もスマート。電動ファン付きモデルなど、ユニークなアイテムも多く、レディースラインも充実しています。
前回の記事で取り上げた西田製作所さんはバートルを採用しています。
👇西田製作所さんのユニフォームについてはコチラ
【ブランド3】
PUMA(プーマ)
アスリートに提供してきたスポーツウェアで培った技術を作業着に反映させ、動きやすさにこだわりました。機能性と快適性を併せもった独自の高ストレッチ素材は、体に沿った自然なシルエットをつくってくれます。
スポーティなスタイルはさすがPUMA、やっぱりカッコいい。作業着のほかにも、セーフティシューズ(安全靴)や作業グローブも揃えています。
ナミックス社員が履いているのはプーマのセーフティシューズです。
【ブランド4】
TS DESIGN(TSデザイン)
アウトドアテイストの作業着や、スーツ型作業着、無重力パンツなど、他メーカーとは一線を画すラインナップをもつブランドです。
“カッコいい作業着”というより、“作業着らしくない作業着”を選びたい場合には、ぜひ候補のひとつに。
ハードな現場にはもちろん、軽作業やサービス系、配送業やイベントスタッフなど、さまざまな業界で採用できそうです。
【ポイント1】
大切なのは自社らしさを表現すること
次に作業づくりのポイントをお伝えします。まずは、作業着専門のブランドに縛られずに、選択肢を広げて考えること。
例えば、アディダスのインナーやモンベルのジャケット、ユニクロのチノパンのように、スポーツ、アウトドア、ファストファッションなども候補にして選べば、よりオリジナリティの高い作業着になるかもしれません。
もちろん、最終的に作業着ブランドを選んでもまったく問題はありません。大切なのは自社らしさを取り入れて表現することです。
【ポイント2】
既製品にひと手間かけて自社仕様に
また既製品をそのまま使うのではなく、ちょっと工夫して独自性を演出することもおすすめします。
ジャケットの胸に社名を刺繍するのは一般的ですが、フォントを選べないお店も多く、単に社名を文字で書くだけ…というときには、ワッペンにすればデザインの自由度が高まります。
↑英語表記にするだけで、従来の作業着感を払拭
↑こだわりのデザインもワッペンなら実現可能
↑ワッペンの数や、貼る場所にもこだわってみる
↑弊社ナミックスはロゴのワッペンとコーポレートカラーのジッパープルを追加。ジッパープルを加えるだけでも結構雰囲気がガラリと変化。
↑作業着の背中は大きなキャンパスです。ロゴやビジョンなど、メッセージを入れるのも良いでしょう。
小さなカスタマイズの積み重ねは、単なる作業着から特別なユニフォームに変える力を持っています。そう、作業着ではなく「ユニフォーム」と呼びたいですね。ぜひオリジナリティを高めて、スタッフと会社の魅力をアップさせましょう!
【まとめ】
製造業で採用したい
カッコいい作業着ブランド4選
(1)ブランド4選はこれ!
→アメカジテイストなら
Dickies(ディッキーズ)
→クールでスタイリッシュなら
BURTLE(バートル)
→スポーティなら
PUMA(プーマ)
→作業着っぽくないなら
TS DESIGN(TSデザイン)
(2)大切なのは自社らしさを表現すること
→従来の作業着カタログだけから選ばない!
(3)既製品にひと手間かけて自社仕様に
→ワッペンや小物、背面のプリントで独自性を!
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長井剛敏の公式ブログ
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思いをかたちにするスタイリスト、北村道子インタビュー portraits jan 14, 2019 7:10 pm
michiko kitamura
photographer & interviewer: chikashi suzuki
writer: tomoko ogawa
portraits/
北村道子さんが手がける衣裳や彼女の言葉に触れると見えてくるのは、北村道子という生きる哲学のかっこよさだ。その哲学が、服になり、仕事になり、彼女そのものを形づくっている。唯一無二の個性を持ちながら、約40年、一切の妥協をすることなく、今目の前にある人物とその人が着る服と対峙してきた。そんな彼女が、前著『衣裳術』から10年ぶりに、俳優34人、写真家6人との10年にわたるコラボレーションを記録した『衣裳術2』をリリースした。2000年代初頭に角田純氏がアートディレクションを手がけていた雑誌『X-Knowledge HOME』にて、北村さんを撮影したことをきっかけに出会い、以降、コラボレーションを続けるフォトグラファーの鈴木親氏を聞き手に迎え、型破りで刺激的な北村道子さんの仕事術について語ってもらった。
portraits
jan 14, 2019 7:10 pm
北村道子さんが手がける衣裳や彼女の言葉に触れると見えてくるのは、北村道子という生きる哲学のかっこよさだ。その哲学が、服になり、仕事になり、彼女そのものを形づくっている。唯一無二の個性を持ちながら、約40年、一切の妥協をすることなく、今目の前にある人物とその人が着る服と対峙してきた。そんな彼女が、前著『衣裳術』から10年ぶりに、俳優34人、写真家6人との10年にわたるコラボレーションを記録した『衣裳術2』をリリースした。2000年代初頭に角田純氏がアートディレクションを手がけていた雑誌『X-Knowledge HOME』にて、北村さんを撮影したことをきっかけに出会い、以降、コラボレーションを続けるフォトグラファーの鈴木親氏を聞き手に迎え、型破りで刺激的な北村道子さんの仕事術について語ってもらった。
Photo by Chikashi Suzuki
鈴木親(以下、鈴木):僕が、北村道子さんという存在を初めて意識したのは、大学のときに観た映画、『幻の光』(95)なんですよね。北村さんの衣裳って、何という印象もなく普通に映画としてスーっと入ってくる。でも、もう1回観るときって、ディテールをよく見るじゃないですか。そうすると、衣裳がすごく綺麗だなと思う。変なリアルさもないんだけど、ファンタジーが入っていて。何%の嘘と何%の真実みたいなものの割合を、映画ごとに全部変えているというか。
北村道子(以下、北村):それは、いつも私が思ってる思いだよね。さすが親くん、大学で先生してるだけあるなぁ!
鈴木:映画の雰囲気に合うようにスタイリングしているから、絶対作品の邪魔はしないんです。『バットマン』(05-12)シリーズの衣裳と同じ方向性ですよね。Christopher Nolan (クリストファー・ノーラン)作品と一緒で、現実だと嘘っぽいけど完全に嘘にはならない。でも、映画の中ではちゃんと映えている。逆に、ガチガチにリアルにスタイリングをしちゃうと、たぶん映画としては全く面白くない。ノーランとかがやって「エポックメイキングだ!」と言われていたようなことを、偉ぶることもなく、普通にスッとやっていたというのが、北村さんなんですよ。
北村:でも、日本では叩かれているんですよ。
鈴木:『幻の光』が?
北村:そう。まず、私の関わった映画はみんな、日本の映画監督にも叩かれているんですよ。『幻の光』に関しては、誰が送ってくれたのかはわからないけど、フランスの『Figaro』をはじめ、ドイツ、イタリアのみんながメディアで取り上げてくれたんです。あまりに取り上げてくれるから評価されるようになってきて、ヴェネチア国際映画祭で賞を取って、逆輸入的に話題になったんです。当時、主役の江角マキコさんは、基本的にモデルだったじゃないですか。モデルが「自分のために何かやりたい」という雰囲気を出してくると、私、拒否感が出てくるの。だって、江角のためにやる映画というのは、おかしいじゃないですか。それまでに、10回くらい断ったんですよ。それで、引き受ける条件として、葛西薫と藤井保を突っ込んだんです。
鈴木:それで、あの本、『ESUMI』(リトルモア )ができた?
北村:そう。その二人を入れるならと、映画を受けたんですよ。衣裳合わせも自分で5トン車借りて、是枝さんと私でやったんですよ。
鈴木:是枝さんの中でも、『幻の光』は良かったですけどね。リアルさがあるんだけど、何となく違う。現実にいないけどいそうな人物という感じがすごくして。だから、正直に言うと、ストーリーというよりは、映像が綺麗だったという印象が残ってる。
北村:どの映画でも、私は孤独で独りぼっちなんです。黒澤明監督もドローイングや着色をやっていたのと同じように、洋服を作っている。それが当然だと思うのよね。自分の中でそういうものが映画だと思うじゃない。映画というものを私はミケランジェロ・アントニオーニから出発していて、女優で一番好きなのは、モニカ・ヴィッティなんです。だから、映画を観ていて、彼女は裸足で道を歩いているという表現から、シナリオがわかるじゃないですか。全部通して観たあとは、たとえば、あそこであの椅子がどうして出てくるのか、そこをもう1回観ることを何度もしていく。そういうふうに、自分で映画の洋服の表現力というものをマスターしていったんですよ。
鈴木:それが正しい見方ですよね。
北村:それから自分で衣裳をやるようになって、「監督が描いたドローイングはないの?」と聞くと、「え?」と返ってくる。しょうがないから、それを私がやっていく。役者には絵コンテがあったほうが、わかりやすいじゃないですか。それを元にみんなやっていくようになってきたの。『スキヤキ・ウエスタン ジ��ンゴ』(08)もそうだった。それはもう、孤独になっていくよね。
鈴木:北村さんが人物像をほとんど作っているんだと思ったのは、『メゾン・ド・ヒミコ』(05)の裏話を聞いたとき。採用されなかった設定なんだけど、主演の柴咲コウはゲイのための老人ホームにいて、白いシャツに薄く赤い下着が透けている。それが、「女性の性の部分をグッと抑えているけど、残っているという表現だ」と言われたとき、もう台詞は要らないなと思った。その服だけで人物像が成り立つじゃないですか。ビジュアルで表現することって、ビジュアルだけで一気に全てが入ってくることがあるから、言葉も超えてしまうことってあって。
北村:それ、正解です。小津安二郎監督がやっていた、原節子の二の腕から見えるブラジャーに私は辿り着いたんですよ。あの時代にそういうふうにやっていたなぁって。そうやって脚本を読み込んでで、ドローイングしていくタイプなんですよ。だから、プロデューサー側から「こういう普通の長袖で綿のシャツでこういうのにしてくれ」と言われるようになったときに、「じゃあ、どっち側をあなたたちは取るんですか?」という話になった。私は、そこから衣裳合わせに行かなくなったの。
鈴木:(笑)。
北村:アクセサリーも同じで、全く合わないアクセサリーや時計をみんな持ってくるのよ。美術の小道具さんがダンボール箱で持ってくる。そういう儀式なんですよ。「ここから選んで」と言われるんだけど、私は「え、なぜこれを使わなきゃいけないの?」って。長年ダンボールに入ってて、カビ臭いもん。それで喧嘩になって、「私は降ります」ということになる。思いをかたちにして表現するときに、役者側の意見が強いんだったら、監督は要らないんじゃないのと思っちゃうのよ。
鈴木:それじゃ、映画にならないですもんね。
北村:そう。『幻の光』も、その衣裳に対する思いみたいなものがあるわけ。石川県・能登で育った自分の子どもの時代の冬というのは、やっぱりモノトーンで世界が見えてた。私がアイスランドに行ったときに、能登と同じだなと思った。それを作品の中にフィードバックしたの。私、監督って、もし日本の作品だったら、あらかじめ役者を想定しながらシナリオを書いていると私は思っていたんです。ところが、私が衣裳をやるというとき、役者は誰も決まっていないんですよ。だから、想定してやってなきゃいけない。
鈴木:だいたいの当て書き、みたいな感じで進めますよね。
北村:うん。「例えばどういう人ですか? その人、私が交渉しますよ。あなたたちがしないんだったら」という話になってくるわけですよ。
鈴木:でも、以前は衣裳部の人がやるのが衣裳だったけど、北村さん以降、衣裳という考え方で映画にスタッフとして入る人たちが出てきた。伊賀(大介)くんとか三田(真一)くんとかは、北村さんのメソッドみたいなものがあったから、その後にスッと入れたんだと思う。
Photo by Chikashi Suzuki
北村:はじまりの話をすると、私は若い頃に、ものすごい広告業界に入って、300人を前にして恥をかいたんですよ。それは、メンズウェアが何たるかを知らなかったからです。イギリスの大物の撮影で恥をかいたから、そのギャランティをいただいて、「私、1年間この国に残ります」と言って、サビルロウのリージェントストリートとボンドストリートをくまなく調べたんです。洋服について全くわかってないお姉ちゃんがイギリスに行って、ボンドストリートを歩いていくと、ここでは全部揃うんだということがまずわかったの。
鈴木:シャツ屋も靴屋も帽子屋も時計屋も全部ありますもんね。
北村:そう。とにかく、メンズをマスターすればTPOがわかる。なぜって、メンズの人たちが、女の人たちをエスコートしていくわけじゃない。
鈴木:本当にそうなんですよね。CHANELの服も、基本的にニットは男性の下着だったり、ツイードは男性のスポーツウェアだったり、男性の生活に合わせて女性はどうするかということを考えて作られていたし。
北村:そうなんですよ。勉強してから日本に帰ると、飛行機でみんなロングホースの靴下を誰も履いていないんです。みんなカジュアルな靴下を履いて、モチャモチャしてて。こんなにひどい国なんだってわかって、そういうことを良しとしている自分がいたんだと。それが日本がアマチュアリズムなんじゃないかと私が言っているところなんですよ。普通は、何も知らないことを恥ずかしいと思わなきゃいけないじゃない。私がそれだったんです。そこからですね。
鈴木:コートもチェスターやステンカラーとチェスターの間みたいなローデンコートってのがあるんだけど、そういうタイプを着ているとあの人は貴族系なんだなとわかる。日本は、そういう習慣が一切ないですもんね。
北村:そうだよね。海軍にしても、デッキシューズを履いてないじゃないですか。そういう意味で、やっぱり、衣服にステートメントがないんですよ。
鈴木:日本人だと、良くも悪くもTPOにとらわれ過ぎて、コスプレ化しちゃう人はいますよね。生活の中で着ることは普通のことなのに、儀式になっちゃってる。それに関して、北村さんの上手さが際立っていたのが、『バベル』(06)のときにカンヌのレッドカーペットで菊地凛子ちゃんに CHANEL を着せたことです。ハリウッドに行って、ハリウッド俳優に囲まれているアジア人は目立たないことが多いけど、どんだけ目立ったかっていう(笑)。でも、悪目立ちだとブーイングものじゃないですか。賛否両論がちゃんとあるように、上手く北村さんはやってるんですよ。それは、どういうふうに着せるべきかをわかっているからですよね。あの後��ぐですからね、Karl Lagerfeld(カール・ラガーフェルド)が凛子ちゃんをピックアップしたの。
北村:身も心も凛子ちゃんに尽くしました。カンヌに行くときに、まず1個だけココ・シャネルのバッグを持って行ったほうがいいと。それから、Karl LagerfeldのFENDIのバッグにドレスを詰めて、2カ月分のサングラスから靴までも全部トランクに入れて渡したんですよ。そうじゃないと、ランチやディナーのときに困るから。それで、カンヌを歩くときはこの中から着なさいって。全部、返してもらってないな(笑)。
鈴木:イブニングと昼間のドレスって全然違うけれど、日本ってそういう生活習慣はないじゃない。そのTPOは守られているのにアバンギャルドっていうのが格好いいんだけど、北村さんはそれを全部やってて。例えば、カンヌで浅野(忠信)さんが着ていたスーツ、どれだけサイズが合ってるのっていうくらい合ってた。でも、それだけじゃなくて、男性は目立ち過ぎちゃいけないんだけど、ちゃんと目につく。絶対に俳優さんに恥をかかせないんだけれど、映画と一緒で、ちょっとした違和感を出す。ネクタイだったりチーフだったりで一部だけ異物感を出してるんですよね。本当に上手い。俺が言うのも何だけど(笑)。たぶん、その人の個性をきちんと見抜いてるからできる。
北村:もう、その通り!
鈴木:それって、本当にわかってる人じゃないと絶対にスタイリングできないから。単純にTPOがわかればいいってことでもなくて、本人が着ている感じにプラスアルファで違和感を出していて。普通に見たらスッとはしてるんだけど、「なんか気になる」みたいな要素を探って、ズラしているというか。でも、他が完璧だから何も言えない。凛子ちゃんも未だにずっと CHANEL のファミリーだけど、アジア人でヨーロッパのいわゆる上流階級にいきなり入れるわけがないから、最初のインパクトがたぶんあったんだと思う。
北村:私、1回彼女を映画で降板させたことがあるんです。まだ菊地百合子でやっていたとき。そしたら、当時所属していた事務所の社長が凛子ちゃんを連れて、その理由を問いただしに来たんです、渋谷の私の事務所に。ちょうどそのときに、別の用事でカメラマンの小林響が偶然いたのよ。響は関係ないんだけど、あえて第三者がいたほうがいいやって思っていてもらったの。第三者によって今まで思ってなかった言葉が出てくることがあるのよ。それで、私は凛子ちゃんに、「今に絶対違う映画がやってくるから、そのオーディションを受けたほうがいい。そのために、名前はRで発音ができたほうがいい。外国では発音しやすいから」と言ったの。ハッタリだけど(笑)。「じゃあ、凛とした凛子にしよう」って。そうしたら、彼女が「私、変えます」って言ったのよ。それで社長が、「お前いい加減すぎる。この人、嘘ばっかり言ってる女なんだから」って。
鈴木:それで、菊地凛子が誕生したと。
北村:そう。彼女、その後、本当に『バベル』(06)が決まったのよ。オーディションに行くとき、「私が女優だったら、裸で行くよ!」って言ったら、「わかった! コートの下は裸にする」って言って、本当にそうしたかどうかはわからないけど、監督が「わかった、君の役を作るから」となったらしいのよね。意味あったよね、ちょっとした嘘も博打も。響がいなかったら、凛子という名前は出てこないのよ。あいつクソみたいな男だけど、よくいてくれたよ。
鈴木:写真家としてはワールドワイドなのに(笑)。
北村:凛子ちゃんって、どんな取材でも応じるよね。飛行機に乗って自分で行くんですよ。本当に少しのスペースしか露出がなくても、「大丈夫、行く!」って行くんだって。あれは見習うべき姿勢だと思うよ、女優たち。
鈴木:それは、北村さんが教育したからですよ。
北村:私はさ、親くんから洋服を学んでるよね。
鈴木:いやいや。
『衣装術2』(リトルモア)
北村:私の中で、渋谷の雑踏とか公園の隅っこで撮るというアイディアは全くないもん! もともと、『衣裳術2』(リトルモア )でまとめた雑誌『T.』の連載企画を持ってきたのは、親くんと門間雄介くんだったし。
鈴木:『T.』でもこの連載だけ、テンションが違いましたよね。でも、今なら特にそうだけど、雑誌を買ってもらうのに特別なコンテンツが絶対ほしいじゃない。昔から日本の雑誌で多いのは、だいたいプロモーション取材のタイミングで同じ顔の表紙がバーっと並んでて、独自のチョイスがない。アートディレクターの大橋 修さんはすごく抵抗して、独自のチョイスを作らないと意味がないって、北村さんという異物をページの中に放り込んだという(笑)。
北村:でも、二人とも先に辞めちゃって。そうしたら、大橋くんが「北村さん、俺は続けたいから、��回カメラマンを変えていくというのはどう?」っていう話になって。
鈴木:北村さんは、「こういうふうにしよう」と強引には、自分から言わないタイプだからね。
北村:そう、言わないです。大橋くんから、「続けてほしい」と言われたときに、「ほかの記事もファッションにはならないの?」って聞いたの。映画雑誌だから、そこは変えられないということで、「じゃあこれが最終的に書籍になるんだったら、目的がある」ということで続けて、それでリトルモアに頼み込んだのよ。
鈴木:北村さんが撮影しているシリーズも面白かったです。『衣裳術2』の表紙になった写真とか。
北村:そのときは、カメラマンが誰もいなかったんですよ。タカムラダイスケと言われても、その人の写真知らないじゃない。そしたらタカムラくんが、「北村さん俺のこと知らないから、俺がアシスタントやります」って言って。それで、凛子ちゃんの旦那の染谷将太くんを最初に撮ったんですよ。この連載で、私は親くんとのゲリラ撮影を、ものすごく覚えてるんですよ。親くんとやった新井浩文くんの撮影が、私、相当ショックだったのよ。後ろに警察官が写ってるの知ってる? あれ5分後だったら、「君、何してるんだ!」って来るやつでしょう? もう笑っちゃうよね。あれは計算して撮ってるんでしょう?
鈴木:一般の人は基本的に肖像権があるじゃないですか。警官は、公務員だからないんですよ。
北村:すごいよね、実際に来るんだから。
鈴木:そういうのが好きなんですよ。
北村:やっぱりね。だから目立ったところで撮影するんだ。
鈴木:そう。
『衣装術2』(リトルモア)
鈴木:撮影時間をコンパクトにやるということは、考えてはいて。撮影って、下手に長時間やることが多いでしょう? でも、テンションってそんなに持たないじゃないですか。北村さんは瞬発力が半端ないから。持続力よりは瞬発力に北村さんのすごさがあるから、それは狭い範囲でぎゅっと終わるほうが、逆に良く出るというか。新井くんの撮影は、目黒の駅の線路を挟んで前後だけだから、実質半径300mとかの移動で終わったし。
北村:ああいう撮影をするのは、親くんだけですよ。まず皇居で撮るでしょ。渋谷は交差点で撮るじゃない。あとは御苑とかね。「こんなの平気で撮ってるの?」って思って。でも、ついていくと面白いんだよね。隅っこにいて、オロオロしてるのは私だけでさ。安藤政信くんの撮影なんて、ホームレスのいる隣に連れていくのよ。
鈴木:中央公園ですかね(笑)。
北村:あれカシミアのスーツよ?本当に場所を見つけるのが、上手いのよ。「こんなところあるの?」って感じで。
『衣装術2』(リトルモア)
鈴木:でも真面目な話、違和感を北村さんが入れてくれるから、街中でも成立するんですよ。ただ、普通に街で撮ったら、ただのストリート・フォトになっちゃう。北村さんとの撮影だから、普通のロケーションがちょうどいいんです。一瞬普通に見えるけど、よく見ると違和感があるのは、たぶん普通の服じゃないというのが一番大きい理由だから。北村さんと『Purple』を初めてやったときに、凛子ちゃんがモデルだったんだけど、普通のスタイリストなら100%絶対ダメって言うくらいの台風が来て。だって、80万円くらいするコートだし、濡れるに決まってるし。でも、北村さんが言ったことで忘れられないのは、「全部濡れちゃえばわからない」っていう(笑)。
北村:だから、親くんの手口で嵐の中の池松壮亮くんの撮影もやったのよ。
鈴木:俺、すげぇなと思って。ラッキーと。北村さんは、乱暴に扱うけど、最高に丁寧にも扱うというか。普通だったら濡らして買取だけど、ちゃんとカシミアの質をわかっているから。
北村:あれが日本の洋服ならびちゃびちゃですよ。池松くんの撮影のときも台風が来て、じゃあTOM FORDを借りてこようかって。そしたら、大森克己さんはiPhoneで撮ってたらしいの。
鈴木:iPhoneは雨でも大丈夫なんですよ。フィルムのカメラはダメだけど。
北村:親くんは、フィルムで撮ってたじゃない!
鈴木:そう。正直に言うと、カメラは別に壊れても買い換えられるじゃない。でもこの台風は過ぎ去ったらもう撮れないから。
北村:でもね、Balenciaga、濡らした写真を『Purple』で使ってくれたんだよね。決められたルック通りじゃなかったのに。
鈴木:しかもそのときってNicolas Ghesquiere (ニコラ・ジェスキエール)がデザインを始めたばかりだったから、崩すのはダメだった。洋服の着方も全部指定で、「確実にやってくれ」と言われていて。しかも、広告は『Vogue』と『Purple』にしか打っていない時期で。
北村:そういや、『Purple』で押井守もやったじゃない。日本テレビまで行ってさ。
鈴木:押井守さんがまだアニメ好きだけの支持を受けていた頃、今みたいな存在じゃなくて。ちょうど、日本のモデルで誰か面白いのがいないかと話していて、『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊2.0』(08)を観てたから、北村さんに話したら、北村さんも押井さんが大好きで。『ブレードランナー』(82)の影響を受けてはいるけど、逆にハリウッドにも影響を与えたような人だから、立場上、凛子ちゃんと同じようなものだって。海外の評価が異常に高いから、これは北村さんがやるしかないでしょうと思って。
北村:会話が止まらなかったよね、二人で。『ブレードランナー』の話になって。Ridley Scott(リドリー・スコット)のことをようやく会話できる奴がいたって感じで。
鈴木:映画のプロデューサーからは、一切ファッションの要素はない人だと聞いていて、「着るかどうかはわからないですよ」と言われていて。事前に、スタッフの書かれたシートを渡しておいたら、たぶん北村さんの名前を見て押井さんはすぐわかったんだと思う。ボサボサの髪を期待してたら、髪の毛をきれいに切って待っててくれて(笑)。北村さんの用意したライダースを「これどこの?」とか言って、着る気満々で嬉しそうにしてましたよね。
北村:その後、同じのを買いに行ったんだよね。懐かしい。
鈴木:Maison MargielaのニットにMarc Jacobsのジャケットを着せたんだけど、本人が着てる感じを残すために、今だったらおしゃれなダッドスニーカーだけど、そのときは全然だった本人のスニーカーを履かせてた。
北村:私物みたいだったよね。
鈴木:北村さんって、本当にその場に生きている人だから。例えば、通常の撮影だと、俳優さんや女優さんが初めて仕事する人だったりすると、服をいっぱい持ってくるんです。逆に、僕が「これを外して」と言っても、外させなかったりする。それだけあったら、被写体本人が選びたいとなっちゃうじゃない。親切にしたら、その後の仕事に繋がる可能性があるじゃないですか。たぶん、そこまで考えてやっている。
北村:頭いいね。
鈴木:このシューティングというよりは、次の指名とかコマーシャルとかも考えてる。ビジネスとしてやってたらそれは正論なんだけど、カメラマンからすると、目の前の撮影が上手くいけばいいだけで、もしその後に被写体に嫌われようがかまわないと僕は考えてるタイプ。北村さんは俺よりもっとハードコアで、撮影で4コーディネートを使うと言ったら、4半くらいしか持ってこない。サイズが合わなかったときとか、場所によってちょっと変えるとかくらいですよね。
北村:だって重いし。
鈴木:それは、目の前のシューティングが上手くいくことをすごく考えてるから。カメラマンからすると本当に、正直に言うと超やりやすいんです。俳優さんに服について説明するのも、カメラマンがするよりも、北村さんがこれはこうだからいいって言ってくれたら、それで通っちゃう。
北村:上げるもんね。親くんはヘアメイクのAMANOくんをいびっているだけでさ。ロケバスの中、人の悪口ばっかりだからね、私たち。
鈴木:(笑)。人って、その場に生きることっていうのが、大人になればなるほどできない。子どもは単純に言うと、その一瞬を生きてるじゃない。だから、若い頃ってすごく瑞々しさもあって、大人になればなるほどその瑞々しさに憧れる。北村さんは、みんなよりも先輩なのに誰よりもその場に生きてて、その一瞬が良ければいいという考えで��よね。
北村:そう思わない?
鈴木:本来、人生ってそういうものというか、その一瞬が積み重なっていくと良くなるし、すごく先のことを心配しても本当はしょうがないんだけど、それができる人っていうのは、立場ができればできるほど少なくなってくる。でも北村さんは、映画でも全部それをやってるから。
北村:ライブなんです。
鈴木:そう、その場を生きてる。好奇心と共に。
北村:好奇心がなくなったら、やることないんじゃないの? と思ってる。
鈴木:哲学もそうだし、最近の量子力学や物理学もそうなんだけど、結局人の思いみたいなものが全部の形を変えるとなってる。人の意思が介在したときに、実際の物が動くというのが最新の物理学の考えらしいの。北村さんって、たぶん、そういう意思が明確だから。
北村:私はけっこう若いときから三木成夫を読んでるじゃない。だから、生命って、水と油という相反するものが、実は心と体、脳と体として、そこにあるってことを最初から読んでるから、何というか、波動がどうやっても上手くいかないなというときは、「水と油だからしょうがないんじゃない?」という感じだし、素数を大事にしてるから。3とか5を。4になったら、どっかで乱したくなってくるんだよね。
鈴木:哲学と物理学が、今はほぼ一緒みたいになっている。北村さんの時代は哲学を学んで、その哲学が服になってる。実際、北村さんの思いみたいなものが衣裳に入るということは物理学が証明している。その場に強い意思がちゃんと介在している、観察者という人だからね、やっぱり。
北村:本当に先生だねぇ、親くん。
鈴木:「気持ちは伝わらない」ってよく言うけど、物理学上、今の量子学では本当に伝わっているとされていて、北村さんの撮影を見ていると、たとえ他の人と同じものを持ってきたとしても、何かが違く見える。その何かっていうのは、もしかしたら強い思いなのかもというのはすごくある。
北村:親くんと『GQ』の15年周年でTOM FORDのルックを撮影して、TOM FORDから絶賛のメールが来たんですよ。
鈴木:ヒップホップの男の子で、IOくんって子なんだけど、まぁ、きっとTOM FORDは着ないでしょ。それをポコっと着せて。普通の人が来たら、演歌歌手みたいになるのを。
北村:北島三郎だよね。TOM FORD側としては、ものすごくいいカシミアの服を用意していたんですよ。でも、私は行ったときに、「これしかないの?」って言って、ヘビメタみたいなのを使っちゃったのよ。
鈴木:やっぱり、着丈とか、スラックスの裾をブーツに入れるとか、そのバランスみたいなのが絶妙に上手い。もちろんサビルロウとかの着方がわかってるからなんだけど。本人が履いてきたブーツにそのまま入れちゃって、バッと出てきたみたいな格好良さがあって。
北村:またさ、ウィンドウにベースが並んでる、みたいな楽器屋にロケに行くんだもんね。あれは、トムちゃんが「Nice!」って言ったのわかる。
鈴木:さっき話した、同じ服でも北村さんが持ってくると違く見えるというその差って、もちろん北村さんって細かく見てるところもあるんだけど、コンセプトを全部を通して綺麗に見た後に、現場はライブにする。そこがすごく上手くて。たぶん、撮影の前までは全部緻密に考えてる。その準備がハード。写真や映像って、その場の偶然性みたいなものが入らなければ、広告になっていっちゃう。その偶然性が入ることで、エディトリアルとして一番美味しいところが撮れる。コマーシャルだったら絶対決めていくけど、北村さんはそこでも無茶苦茶するっていうのはよく聞いてるから(笑)。撮ってる側からすると、そこの要素っていうのが一番強いところ。ハプニングだけを入れるのはできるし、緻密にやれと言われたらできる人はいるけど、その両方は矛盾するじゃないですか。さっきの水と油じゃないけど、矛盾するものを両方入れられる。しかも自然に。そこが、北村さんにしかできないところですよね。
北村:ありがとうございます。
鈴木:例えばファッションって、1年か2年過ぎるとすごく古く見えちゃうところがある。30年とか過ぎるとまた新しく見えるけど、10年だとしょぼく見えやすい。でも北村さんのスタイリングって、わかりやすい表現をすると、強度があるんだよね。本人に合ってるとか、写真に合ってるとか、映画に合ってるスタイリングだから、もちろん時代性はちゃんと入ってるんだけど、いつの時代に見てもよく見えるというか。だから、10年前のものを今見ても、一切古く見えない。それがすごいなあと。
北村:それ、けっこう褒めてるよね?
鈴木:褒めてますよ。例えば、Joe McKenna(ジョー・マッケナ)というスタイリストも、北村さんと同じようなメソッドでやっている。海外でもそういう人って少ない。彼は、分厚いハードカバーの本とか出すような人だから。北村さんはヨーロッパで生まれていたら、ハードカバーの本をもう5冊くらい出してると思う。
北村:一応、2冊は出してるんだけどね(笑)。
Photo by Chikashi Suzuki
<プロフィール>
北村道子(きたむら・みちこ)
1949年、石川県生まれ。サハラ砂漠やアメリカ大陸、フランスなどを放浪ののち、30歳頃から、映画、 広告、雑誌等さまざまな媒体で衣裳を務める。映画衣裳のデビューは85年、『それから』(森田芳光監督)。07年に『スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ』(三池崇史監督)で第62回毎日映画コンクール技術賞を受賞した。著書に『Tribe』(朝日出版社)、『COCUE』(コキュ)、『衣裳術 2』『衣裳術《新装版》』(リトルモア)がある。2019年1月21日(月) 、東京・文化学園にて、「北村道子さんトークショウ」(17:30入場/18:00開始)を開催予定。1月10日(木)より出版社・リトルモアHPで観覧予約開始。
<書籍情報>
タイトル 衣裳術2
著者 北村道子
装幀 大橋修
価格 ¥2,000
判型 A5判 /192ページ
発行日 2018年12月
出版社 リトルモア
HP: www.littlemore.co.jp
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写真家・鈴木親インタビュー
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michiko kitamura
思いをかたちにするスタイリスト、北村道子インタビュー
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いつでも、どこへでも
(「そういう人」の、後日談)
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玄関を入ってエントランスを抜けると、すぐ右手にバスルームの扉がある。洗面台とトイレ、シャワー、小さなバスタブがあって、特に広くもなければ、かといって狭くもない。バスルームの扉の反対側には小さなキッチン。カウンターの上には必要最低限の機能だけ備わった電子レンジと電子ケトルが置かれていて、小さな冷蔵庫がカウンターの下にビルトインされている。その横に半ば無理やり、新品の洗濯機が鎮座していて、場違いな最新家電が放つ違和感を通り過ぎると真四角のワンルームがある。部屋の左側にはIKEAっぽい簡素な二人掛けのダイニングセットが置かれ、右側にはセミダブルのベッド。大きな二重窓が一つあって、小さなクローゼットがついている。世界中のどこにでもありそうな、単身者用の小さなアパート。壁には何も飾られていない。住人の個性を物語るものも特にない。クローゼットの中に、普通の人よりも多めのスポーツウェアと、やたら派手な衣装がしまわれていること以外は。部屋の隅に置かれたスーツケースの中には、いまだに荷解きされていないものさえ入っている。それがなんだったかは本人も覚えていない。
テーブルの上に、青いフレームの眼鏡が置かれている。シャワーの音が聞こえている。ベッドのシーツが乱雑によれて、デュベがほとんど落ちかけている。四角い部屋に男がいる。この部屋にはどうも似つかわしくない、小ぎれいな銀髪のロシア人。椅子に座って、惰性でスマートフォンをスクロールしている。やがてシャワーの音が止み、バスルームから黒髪の青年が出てくる。冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出して、小さなダイニングに腰かける。「相変わらず水しかないね」とロシア人は口を開く。うーん、と答えながら青年は眼鏡をかける。
「なんていうか、いつでもどこへでも行けそうな部屋」
「実際に今だけだしね」
「でもまだしばらくは先の話だろ、契約はいつまでだっけ」
「とりあえず1年で借りたけど、どうにでもなるみたい」
「短い間でも居場所はちゃんとしたいけどなあ、俺は」
「知ってる。長谷津の部屋はすごかった」
「ここ居心地は?」
「普通。不便はないよ」
「愛着は?」
眼鏡の青年は水を一口のむと、ベッドを見遣った。
「考えたこともないけど、案外あるかも。でもちょっと恥ずかしい、思い出すと」
「あの日?」
「あの日……」
「俺もね、実はわりと好きなんだよねこの部屋。よく眠れる」
「小さいからじゃない? 籠った感じが逆にいいのかも。ヴィクトルの部屋は広すぎるよ」
「どうかなあ」
ヴィクトルはスマートフォンをテーブルに置くと、頬杖をして青年のほうをじっと見た。
「そこは“一緒だから”って言おうよ」
そう言って微笑むと、青年からペットボトルを奪った。青年はまた思い出してしまう。初めてこの部屋でセックスした時のこと。不器用な自分と、堪えられなさ。解放感と、涙。歓喜。それでまた少し、恥ずかしくなる。
さっき「今だけだし」と答えたのは、少し心に来るものがあった。お互いに。
二人一緒の、夜がふける。
部屋は東を向いている。朝になれば窓からの光が四角い部屋を通り抜けて、狭いキッチンまでをギリギリ照らす。昨日のペットボトルはテーブルに置かれたままで、横には充電ケーブルにつながれたスマートフォンが一台。もう一台は、ベッドサイドテーブル上の定位置に置かれている。デュベがもぞもぞと動いて、同じくサイドテーブルの上にある眼鏡に手が伸びた。その手を、もう一人の手が乱雑に邪魔をする。
「まだ」
「ちょっと、何時か見させて」
「まだ早いよ」
「もーー離して、眼鏡割れちゃう」
ヴィクトルは覆いかぶさるように青年の、勇利の身体に抱きついた。勇利は眼鏡を諦めて、抱かれた状態のまま窮屈そうに体の向きを変えると、相手の腕の中で最大限快適でいられる位置へと体勢をフィットさせる。結局二人同じ方向を向いてヴィクトルが後ろから抱きかかえ、いつものスプーン型に落ち着く。途中で黒髪がヴィクトルの鼻先に触れて、ん、とくすぐったそうな声が出た。眠りの温度がベッドの中を満たしている。一番心地良くて、永遠に抜け出したくない、朝の温度。
「でも寝すぎじゃない?」
「だから、ここはよく眠れるんだってば」
勇利はヴィクトルの腕を持ち上げようとするけれど、相手も力を込めるからじゃれ合うみたいなかたちになった。それで結局、ヴィクトルが勝ってまたその腕に勇利はすっぽり収まるのだ。
「ねぇ今気づいたんだけど、コーヒー切らしてる。なんにもない、水しかない」
「んー……」
「だからやっぱり起きて外出ようよ。僕おなかすいた」
「ん……」
「まだ寝てるなら僕ひとりでなんか買ってくるけど」
返事はない。
「寝たの?」
そのまましばらく間を置いて、ひと呼吸すると返事の代わりにヴィクトルはぼそっとつぶやいた。
「“いつでもどこへでも行ける部屋”」
「え?」
「ねえ勇利、どこかへ行くならたぶん今だよ」
相手の中に自分の顔をうずめるように、ヴィクトルがぎゅっと力を入れた。それから勇利の首元に、キスをした。
「一緒に住もう、ね」
身体をひっくり返して、勇利は恋人と向き合った。朝日が部屋に溢れる感傷を照らす。いつでもどこへでも行けそうな部屋は、住人を引き留めたりはしない。平凡さと引き換えに、そこにあるのは無期限の自由。部屋はむしろ、出ていくためにそこにある。本当は二人一緒なら、どこにいようと構わない。だけどそれなら、帰りたくなる場所のほうがずっといい。どうせいやでも、二人は進み続けなくてはならないのだから。まだしばらくは。
曖昧な視界の中で、勇利が見た笑顔は予想したほど自信ありげなものではなくて、思わずその頬に手を添えた。そのまま少しだけ考える。
「そしたら毎日寝過ぎちゃうよ」
「最高だね」
最高だね。
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SNBYA.H
〈SNBYA.H〉
ウォッシャブルメリノウールを使用したスポーツウェアをリリースしているスイス発祥のブランド〈sn〉が、メリノウールをこよなく愛するスタイリストの長谷川昭雄氏のディレクションの下、2022年4月スタート。
環境に優しく、快適な着心地を持つ、天然の機能素材であるメリノウールを使用したユーティリティウェアを展開しています。
ふっくらとして、なめらかな触り心地の生地は、年間を通じて使いやすい厚さ145g/m2。ナイロンにメリノウールを巻いたウールカバーヤーン構造の、18.9マイクロンという、メリノウールの中でも最も細く高品質な防縮糸を採用しています。
肌触りは100%メリノウールでありながら、家庭用洗濯機で洗濯してもヨレにくく、縮まず、高い強度を併せ持つ生地となっています。ウールが本来持つ天然の抗菌作用により、汗をかいても匂いにくく、温度や湿度を一定に保つため、蒸れにくいという特性があり、快適な着用感を楽しめます。
〈SNBYA.H〉WASHABLE MERINO WOOL T SHIRT ¥16,500
スポーツウェアでありながら、シルエットはゆったり。そして柔らかな肌触りは、かなり快適。スポーツをする時だけではなく、部屋着や寝間着、普段着としてもご使用いただけます。メリノウールはチクチク感があるから。。。といって敬遠される、敏感肌の人にもぜひ触れてみていただきたいです。
日常のあらゆるシーンで活躍するポケTは、タフなバインダーネック仕様。
筒状に丸めて収納可能なループが付属しています。
〈SNBYA.H〉WASHABLE MERINO WOOL A SHIRT ¥13,200
Aシャツ(タンクトップ)は着丈を長めに設定。インしてもアウトしてTシャツの下から見せても良い雰囲気に。寒い時期には保温ができ、暖かい時期には、吸放湿性というウールが持つ特性が発揮され、着心地を快適に保ちます。
細く柔らかな天然繊維の製品染め加工は、���質管理が緻密で高度な技術を要します。カシミヤやメリノウールなど、高級天然繊維を得意とする国内加工工場と提携し、メリノウールでは難しい製品染めが実現しました。
〈SNBYA.H〉WASHABLE MERINO WOOL SHORTS ¥16,500
ショーツは2つのハンドポケットに、
キーホルダーサイズのジッパー付きポケットが装備されています。
Tシャツ、タンクトップ、ショーツは全て裾にピスネームが。ファーストリリースのカラーはネイビーです。セットで着ればジムやランニング、バスケ、ヨガ、睡眠時まであらゆるシーンで活躍します。
内側には〈SNBYA.H〉のタグも付いています。
〈SNBYA.H〉UTILITY BAG
〈ギアリズム〉では、Tシャツ、タンクトップ、ショーツの3型をセットで販売。全て収納可能な〈SNBYA.H〉ロゴ入りオリジナルユーティリティバッグが付属される上に、スペシャルプライスでお求めいただけます。
上記、カラーはネイビーですが、5月はグレーをリリース予定。
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