鳴尾・武庫川女子大前駅
こんばんは。
・
僕は電車で手持ち無沙汰になるといつも路線図を探す。
路線図が近くにあるとラッキーなんて思ったりしてしまう。
行ったことのない駅、読み方の分からない駅、そんな土地に思いを馳せて、どんな街なのか、あれこれ妄想に耽ってみる。
・
先日、午後に空きができた。
ちょっとプチ旅でもしたい。
でもどこに行ったらいいものか。
そんな訳で、ルーレットを作り、行く場所を決めた。
服屋をしているのだがら、折角ならその日の装いに当店の取引先のアイテムを着ていこう。
結果、「阪神本線」の「鳴尾・武庫川女子大前駅」に「YUKI SHIMANE」のアイテムを着て行くことが決まった。
降りたことのない駅に期待は高まり、先月の"YUKI SHIMANE" のイベントで、デザイナーからも着用して違和感が無いと、お墨付きをもらったこのトップスをコーデに取り入れて行くことにした。
蛍光イエローのニットキャップに、青のパンツ、そして、水色と黄色がアクセントになったスニーカー。
派手な色のアイテムばかりになるのだが、"YUKI SHIMANE"のトップスが全てを受け止めてくれた。
"YUKI SHIMANE" のトップスを最大限活かしたコーデになるのではないか。
自画自賛。
そんなコーデが組めたと思う。
基本、この旅は事前に何があるかなんて調べない。
全て、行き当たりばったりの旅だ。
でも、一つだけ決めていたことがある。
阪神本線を引いたからには、必ず南側へいこう。
海を見にいこう。
それだけは決めて電車へ乗り込んだ。
・
夕方ということもあったせいかなのか、大学前の駅にしては思った以上に静かだ。
改札をくぐり、まずは南側へ。
43号線沿いに歩き、武庫川女子大学前の歩道橋を渡り、路地へと入る。
ここからは、面白そうな雰囲気のある方へと、ただブラブラと向かうだけだ。
・
早速、歩いて数分経つと、公園を見つけた。
シーソーやブランコなど定番の遊具から、見たことのないジャングルジムのような遊具まで。
公園の半面はグランドのようなスペースになっており、小学生がサッカーをしている。
陽射しが傾く公園の片隅でそんな様子を見つつ、赤く色づいた木々を見上げる。
夕日が照らす木々の葉は、一層赤く、美しく見えた。
・
公園を後にすると、今度は銭湯が見えてきた。
青空に映える銭湯の煙突。
そんな風景が、どこか懐かしい気持ちを呼び起こす。
思わず、立ち止まり煙突を眺めてしまう。
そして、少し先には、酒屋が並ぶ。
チラッとみると、どうやら角打ちができるようだ。
まだ16時過ぎだというのに、既に店内には常連さんがいる。
なんだかそんな様子を見たら、妙に信頼がおける店のような気がして、
「今日の帰りはここで1杯引っ掛けてから帰ろう。」
なんて心に決めた。
しばらく、細い路地をフラフラと彷徨っていると大きな通りに出た。
「臨港線」と書いてある。
なんて、響きの良い路なのだろうか。
素敵な名前「臨港線」。
そう、心の中で呟きながら道路を横断すると、徐々に海の気配が漂い始める。
すると、西日の中に、一際高くそびえる建物が目に入る。
その正体が気になり、海へ行く前に寄り道がてら、その建物を目指して歩き始める。
徐々に近づくにつれ、その建物が周囲の他の建物に比べ、異様に高いことを実感する。
そして、ついにその麓まで来ると校門が見えた。
遠くから見えた建物は、武庫川女子大学付属中学・高等学校の時計塔だった。
校門前でそれを見上げていると、中から生徒が出てきた。
皆、校門で振り返って、校舎に礼をして帰路へ着く。
それは学生だけでなく、中で働く職員の方も行っていた。
西日がさす校舎に向かって礼をする姿が、どこか儀式的で、思わず目を奪われてしまった。
・
さて、進路を再び南へ。
おそらく海はもう目と鼻の先だ。
あちらこちらにコスモスが咲く、小さな川沿いを歩いていると、支柱が連なる建物を発見した。
西日を浴びて、不気味な雰囲気を醸し出すその建物。
どうやら公園の一部らしい。
その支柱は、少しだけ階段を登った場所にあり、下には広場が見える。
僕は、その建物を「鳴尾のパルテノン神殿」と名づけた。
不思議なもので、名前をつけた途端、先ほどまで放っていた不気味な雰囲気は一瞬で取り払われた。
僕は「鳴尾のパルテノン神殿」に立ち、周囲を見渡す。
下の広場では、バレーボールをやっていたり、ランニングをしていたり、親子で野球をしていたり。
どこか懐かしい風景が目の前にあり、小学生の頃、友達と日が暮れるまでボールを追いかけていた頃を思い出した。
・
少し離れた場所から夕陽の差す「鳴尾のパルテノン神殿」を振り返ってみると、さっきより、ちょっと威厳に満ちているような気がした。
もしかすると、鳴尾の謎の公園の建物も、僕が「パルテノン神殿」と名づけたことで、その自負が芽生えたのかもしれない。
そんなことを思いながら公園を後にした。
そしてようやく、今日の一つの目的でもある海へ辿りついた。
夕日が沈む直前の海。
あまりの美しさに、頭を空っぽにして見入ってしまった。
・
水面にも空にもオレンジのグラデーションが広がる。
空を見ると、飛行機雲が見えた。
あの飛行機はどこへ向かうのだろうか。
青からオレンジのグラデーションに彩られた空を走る飛行機雲を眺めながらそんなことを考えていた。
そしたら、いつの間にか飛行機雲は消えていた。
・
日も沈み、あたりが暗くなり始めた頃、僕は海を後にした。
帰りは来る時と違った道を選んで、フラフラとしながら帰路に着いた。
・
勘を頼りにして、来る途中に見つけた酒屋を目指す。
この旅に地図など不要だ。
全ては、その日の出会い次第。
もし、見つからなければ、それはそういった運命なんだろう。
・
すっかり日も沈み、あたりは暗くなる。
各家ではご飯の準備をしているのだろう。
街を歩いていると様々な匂いが漂ってくる。
・
フラフラと鳴尾の住宅街を彷徨していると、暗闇の中に例の煙突のシルエットが見えた。
「見つけた。」
前まで行くと、常連の方々が中で盛り上がっている。
一瞬怯み、思わず通り過ぎてしまった。
でも、ちゃんと戻って来れて、ここで入らなかったら僕はきっと後悔する。
それに、この街で僕はまだ誰とも話せていない。
・
思い切って中に入ってみた。
すると、一瞬皆が止まった。
・
「1杯飲んでもいいですか?」
なんかいつもと比べて、声が変な感じに出た。
すると、常連さんが荷物を寄せて、席を作ってくれた。
「何飲む?」
「瓶ビールを」
「大中どっち?」
「中で」
「アサヒとキリンがあるけど」
「キリンで」
全国共通。
居酒屋で行われる儀式的なやりとりを一通り終わらせると、クラシックラガーの瓶が目の前に出された。
クラッシクラガーの瓶を見ると、なぜか安心してしまう。
ビールの中で、最も安心を与えてくれるのがクラッシクラガーだと僕は思っている。
この店に入って良かった。
この時点で確信に変わった。
・
ただ、さすがに急に入ったため気まずい。
酒だけが進む。
常連さんの会話の後ろから、冬眠を前に、猪が街に出てきたという被害を伝えるニュースが聞こえてくる。
「そういえば、昔、営業で向かった芦屋の山手で猪を見たなぁ。
あれも今頃だったかなぁ」
ビールを片手に猪との思い出を振り返る。
・
「なんでここに来たんだ」
それはあまりにも唐突な出来事だった。
急に、常連さんに話しかけられた。
「あっ。なんとなく、駅をふらっと降りて、気づいたらここに。」
油断していたこともあり、気の利いた一言も出なかった。
「なんだそりゃ。笑」
確かに、僕も「なんだそりゃ」だわと思った。
「ですよねぇ。本当に。でも、夕方に見た時に、この店には来たいと思ったんですよ。」と素直に伝えた。
「お兄さん。つまみここから好きなの選びな。」
ソーセージを1本とった。
「大将。このソーセージ。私につけといて。」
「えっ。それはさすがに、申し訳ないので。」
「いいのいいの。これくらい。」
断ろうと思ったけど、僕もきっと中津でこんな出会いがあったら、それくらいしちゃうなぁと思い、ここは気持ちよく奢ってもらうことにした。
「ご馳走様です。ありがとうございます。」
そこから常連さんと共に世間話をした。
ゴミ袋の話、大阪の話、いつもここに来ている話、世間は思った以上に狭い話。
なんだか、よくある話だ。
この駅だけが特別な訳もない。
どこでもできるたわいも無い会話。
ただ、今日の僕には全てが新鮮だった。
・
19時頃、お礼とお別れを告げ店を後にした。
暦では冬を迎えたというのに、夜になっても心地が良い。
それはほろ酔いのせいなのか。
それとも楽しい時間を過ごせたからなのだろうか。
・
駅に戻ってきた。
頭上には「阪神電車 鳴尾・武庫川女子大前駅」という文字が見える。
最初に見上げた時より、なんだか馴染みのある駅に感じられた。
この街に来れて良かった。
心から思えた。
僕は心の中で街に頭を下げた。
そして、改札をくぐり帰路に着いた。
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2月1日に公開した写真には、BALENCIAGA コピー キムがカリフォルニア州・カラバサスの自宅で蛍光色の“ル カゴール(Le Cagole)”バッグとセルフィーを撮る姿が収められている。顔は出ているものの、昨年9月のメット・ガラ(MET GALA)で披露した、全身を黒で覆った「バレンシアガ」のルックを彷ふつとさせる。
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春色ソックスの話
華やかカラーのコーデが楽しくなる季節がやってまいりましたね。私は収集癖があるのですが、特に好きで買ってしまうのがソックスとカチューシャです。今回はソックスについてお喋りいたしましょう🧦
やっぱり春、夏の暖かい季節は明るい色のソックスを履きたいですよね!デザインも華やかなものが楽しいです。上のお写真は、春夏に向けてちょっとずつ買い溜めた今年のnewソックスたちです。ちなみに全部チュチュアンナ。お安くてカワイイソックスは最高。
今朝、通勤中にめっちゃキュートな女子を見つけたのですが、その子の足元が白のルーズソックスと白の小洒落たスニーカーでした。(ブルーのトレーナーにピンクの英字、キャンディみたいなピンクの爪、いっぱい付けた華奢なリング全部のバランスがキュート!)私はカジュアル系があまり着こなせないので真似はできませんが、すっごく素敵でワクワクしました。そんなワケで、お洒落な足元だ〜いすき!という気持ちで、合わせたい靴を妄想しながら見ていきましょう♪
a、ライトブルー×ブラウン
レースの様なあみあみが入ったものです。薄手なのでこの時期ピッタリ!私は最近ブラウンのストラップパンプスのかわいさに気付いてしまいましたので、これは絶対ブラウンのパンプスに決まりですね。そもそも水色にブラウン合わせちゃうの、上級者って感じがします。数年前、リンダ・ロディン(アメリカの美容起業家/モデル)の写真を見ている時に、水色ソックスにオープントゥのブラウンパンプス、ジーンズにアウターはモコモコファーのベージュを合わせていてハートを射抜かれたことがあります💘超素敵だった!彼女のスタイリングは最高なので是非見てください。
リンダ・ロディンの記事を見つけたので貼っておきます。
b、ラベンダー×ブルーラメ
お次はパッと華やかなラベンダーカラー。これは写真だと分かりにくいのですが、水色のちいちゃいラメがきらきらしているお洒落さんです。裾に少しだけレースも付いてます。分かりにくいですが。ハッキリとしたラベンダーには、ブナンに黒で纏めちゃうのもいいですが、あえて水色とかベージュの華奢なパンプスに合わせたいです。ワインレッドもいいですね、難しそうだけど。同系色のラベンダーも濃淡変えればありかな?
c、ピンク×ふわふわ×シルバーラメ
こいつは難しいやつです。何が難しいって季節が。ふわふわ素材なので秋冬いけるんですが、色的には春先履きたいんです。しかし、もうこの時期はダメですね。ちょっと暑苦しいです。タイミングを見誤るとすぐ履けなくなっちゃいます。ちょうどいいのは2月から3月中旬くらいでしょうか。でもカワイイのでOK〜!きらきらとふわふわを掛け合わせて可愛くねえもんはねえ。これはクロスストラップの艶々黒メリージェーンがいいです。ゼッタイ!
d、サクラ色×イエローラメ
最近1回履いたサクラ色。ブルックスブラザーズで買った、ピンク地にネイビーの水玉のド派手ワンピと合わせたらあらビックリ!林家ペーパー子。いや、林家の娘か?って感じのドピンクで大変に目立ちました。おかげで幼女に絡まれる始末。私はプリキュアのピンク担当ではない。ちなみに写真では分かりませんがイエローラメが入っています。実物もめっちゃ近付かないと分かりません。控えめなきらめき。シンプルなピンクは何色でも合いますね。投げやりではなく本当になんでもいけると思います。でもピンクのワンピはやめた方がいいよ。
e、グレー×シルバー
グレー地にシルバーでレースみたいな編み目が入ったお洒落さんです。とってもお気に入りだけどまだ履けてません。もったいなくて。ブナンに黒のメリージェーンもいいですが、私は赤やベビーピンク、水色のストラップパンプスを履きたいです!抑えた色のソックス×カラーシューズは性癖(?)以前、雑誌「GISELe」でベージュソックスに蛍光イエローのパンプスを合わせていて最高でした。私もやりたいけど、蛍光イエローのパンプスは日常で使うにはかなり難易度高いですね。何着ればいいんだ。
ちなみに私はファッション雑誌は「GISELe」推しです。まじでファッションのことしか書いてない。芸能人のインタビューとかそういうのない、永遠にファッションアイテム。
f、ホットピンク×ベビーピンク×ネイビーのお花
1番派手なやつです。大好きです。水色のパンプスでいきましょう。黒のオープントゥ、ストラップサンダルも捨てがたいです。ブラウンもいけるかな。落ち着いたシックな色でメリハリ付けたいです。でも水色のパンプス履きてえ〜!派手色×派手柄、上手に履きこなせたら最高にお洒落さんですよね、憧れです。
こんな感じで、今年はハッピ〜な色と柄を揃えました!楽しい!チュチュアンナ、おすすめです。安売りしてる印象が強いですけど、エッジの効いた掘り出し物が多いですよ👯♀️ブランドソックスだと、kiwanda kiwanda が最強です。まじでこのブランドは足元お洒落の帝王。めっちゃ欲しい。まだ買ったことがありません。お洒落すぎて躊躇してしまう。機会があればkiwanda kiwandaについてもお話ししたいです。
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多動ありの子を育ててる身としては余りホッコリできないのが地味に悔しい。こんな空中に浮いてる写真がホイホイ撮れるってことは、つまり本当に常に飛んだり跳ねたりどっか行ったりをしている訳で…。
[B! 育児] 忍者のようにすぐどこかへ行ってしまう孫を案じておばあちゃんが作った『全身蛍光色コーデ』がゲームのキャラみたいで可愛い - Togetter
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ひとみに映る影シーズン2 第六話「どこまでも白い海で」
☆プロトタイプ版☆
こちらは無料公開のプロトタイプ版となります。
最低限の確認作業しかしていないため、
誤字脱字誤植誤用等々あしからずご了承下さい。
尚、正式書籍版はシーズン2終了時にリリース予定です。
(シーズン2あらすじ)
私はファッションモデルの紅一美。
旅番組ロケで訪れた島は怪物だらけ!?
霊能者達の除霊コンペとバッティングしちゃった!
実は私も霊感あるけど、知られたくないなあ……
なんて言っている場合じゃない。
諸悪の根源は恩師の仇、金剛有明団だったんだ!
憤怒の化身ワヤン不動が、今度はリゾートで炸裂する!!
pixiv版 (※内容は一緒です。)
☆キャラソン企画第六弾 金城玲蘭「ニライカナイ」はこちら!☆
དང་པོ་
アブが、飛んでいる。天井のペンダントライトに誘われたアブが、蛍光灯を囲う四角い木枠に囚われ足掻くように飛んでいる。一度電気を消してあげれば、外光に気がついて窓へ逃げていくだろう。そう思ったのに、動こうとすると手足が上がらない。なら蛍光灯を影で覆えば、と思うと、念力も込もらない。
「一美ちゃん」
呼ばれた方向を見ると、私の手を握って座っている佳奈さん。私はホテルの宴会場まで運ばれて、布団で眠っていたようだ。
「起きた?」
障子を隔てた男性側から万狸ちゃんの声。
「うん、起きたよ」
「佳奈ちゃん、一美ちゃん、ごめん。パパがまだ目を覚まさなくて……また後でね」
「うん」
佳奈さんは万狸ちゃんとしっかり会話出来ている。愛輪珠に霊感を植え付けられたためだ。
「……タナカDはまだ帰って来ないから、私が一美ちゃんのご両親に電話した。私達が千里が島に連れてきたせいでこんな事になったのに、全然怒られなかった。それどころか、『いつか娘が戦わなければいけない時が来るのは覚悟していた。それより貴女やカメラマンさんは無事なのか』だって……」
ああ。その冷静な受け答えは、きっとお母さんだ。お父さんやお爺ちゃんお婆ちゃんだったらきっと、『今すぐ千里が島に行って俺が敵を返り討ちにしてやる』とかなんとか言うに決まってるもん。
「お母さんから全部聞いたよ。一美ちゃんは赤ちゃんの時、金剛有明団っていう悪霊の集団に呪いをかけられた。呪われた子は死んじゃうか、乗り越えられれば強い霊能者に成長する。でも生き残っても、いつか死んだら金剛にさらわれて、結局悪い奴に霊力を利用されちゃう」
佳奈さんは正座していた足を崩した。
「だけど一美ちゃんに呪いをかけた奴の仲間に、金剛が悪い集団だって知らなくて騙されてたお坊さんがいた。その人は一美ちゃんの呪いを解くために、身代わりになって自殺した。その後も仏様になって、一美ちゃんや金城さんに修行をつけてあげた」
和尚様……。
「一美ちゃんはそうして特訓した力で、今まで金剛や悪霊と戦い続けてた。私達と普通にロケしてた時も、この千里が島でもずっと。霊感がない私やタナカDには何も言わないで……たった一人で……」
佳奈さんは私から手を離し、膝の上でぎゅっと握った。
「ねえ。そんなに私達って信用できない? そりゃさ。私達は所詮、友達じゃないただの同僚かもしれないよ。けど、それでも仲間じゃん。幽霊見えないし、いっぱい迷惑かけてたのかもしれないけど」
……そんな風に思った事はない、と答えたいのに、体が動かなくて声も出せない。
「いいよ。それは本当の事だし。てかだぶか、迷惑しかかけてこなかったよね。いつもドッキリで騙して、企画も行先も告げずに連れ回して」
そこは否定しません。
「だって、また一美ちゃんと旅に出たいんだもん。行った事のない場所に三人で殴り込んで、無茶して、笑い合って、喧嘩して、それでも懲りずにまた旅に出るの。もう何度も勝手に電源が落ちるボロボロのワイヤレス付けて、そのへんの電器屋さんで買えそうなカメラ回してね。そうやって互いが互いにいっぱい迷惑かけながら、旅をしたいんだよ」
……
「なのに……どうして一人で抱えこむの? 一美ちゃんだって私達に迷惑かければいいじゃん! そうすれば面白半分でこんな所には来なかったし、誰も傷つかずに済んだのに!」
「っ……」
どの口が言うんですか。私が危ないって言ったって、あなた達だぶか面白半分で首を突っ込もうとする癖に。
「私達だって本当にヤバい事とネタの分別ぐらいつくもん! それとも何? 『カラキシ』なんて足手まといでしかないからってワケ!?」
「っ……うっ……」
そんな事思ってないってば!! ああ、反論したいのに口が動かない!
「それともいざという時は一人でどうにかできると思ってたワケ? それで結局あの変態煙野郎に惨敗して、そんなボロボロになったんだ。この……ダメ人間!」
「くっ……ぅぅうううう……」
うるさい、うるさい! ダメ人間はどっちだ! 逃げろって言ったのにどうし��戻ってきたんだ! そのせいで佳奈さんが……それに……
「何その目!? 仲間が悪霊と取り残されてて、そこがもう遠目でわかるぐらいドッカンドッカンしてたら心配して当然でしょ!? あーそうですよ。私があの時余計な事しなければ、ラスタな狸さんが殺されて狸おじさんが危篤になる事もなかったよ! 何もかも私のせいですよーっ!!」
「ううう、あああああ! わああぁぁ!」
だからそんな事思ってないってば!! ていうか、中途半端に私の気持ち読み取らないでよ! 私の苦労なんて何も知らなかったクセに!!
「そーだよ! 私何もわかってなかったもん! 一美ちゃんがひた隠しにするから当たり前でしょぉ!?」
「うわあああぁぁぁ!! うっぢゃぁしいいいぃぃ、ごの極悪ロリーダァァァ!!」
「なん……なんだどおぉ、グスッ……この小心者のっ……ダメ人間!」
「ダメ人間!」
「ダメ人間!!」
「「ダメ人間ーーーっ!!!」」
いつの間にか手足も口も動くようになっていた。私と佳奈さんは互いの胸ぐらを掴み合い、今まで番組でもした事がない程本気で罵り合う。佳奈さんは涙で曇った伊達眼鏡を投げ捨て、私の腰を持ち上げて無理やり立たせた。
「わああぁぁーーっ!」
一旦一歩引き、寄り切りを仕掛けてくる。甘いわ! 懐に入ってきた佳奈さんの右肩を引き体勢を浮かせ、
「やああぁぁぁーーっ!!」
思いっきり仏壇返し! しかし宙を回転して倒れた佳奈さんは小柄な体型を活かし即時復帰、助走をつけて私の頬骨にドロップキックを叩きこんだ!!
「ぎゃふッ……あヤバいボキっていった! いっだあぁぁ!!」
「やば、ゴメン! 大丈夫?」
「だ……だいじょばないです……」
と弱った振りをしつつ天井で飛んでいるアブを捕獲!
「んにゃろぉアブ食らえアブ!」
「ぎゃああああぁぁ!!!」
<あんた達、何やってんの?>
「「あ」」
突然のテレパシー。我に返った私達が出入口を見ると、口に血まみれのタオルを当てて全身傷だらけの玲蘭ちゃんが立っていた。
གཉིས་པ་
アブを外に逃がしてやり、私は玲蘭ちゃんを手当てした。無惨にも前歯がほぼ全部抜け落ちてしまっている。でも診療所は怪我人多数で混雑率二〇〇%越えだという。佳奈さんに色んな応急手当についてネットで調べてもらい、初心者ながらにできる処置は全て行った。
「その傷、やっぱり散減と戦ったの?」
<うん。口欠湿地で。本当に口が欠けるとかウケる>
「いや洒落になんないでしょ」
<てか私そもそも武闘派じゃないのに、あんなデカブツ相手だなんて聞いてないし>
「大体何メートル級だった?」
<五メートル弱? 足は八本あった>
なるほど。なら牛久大師と同じ、大散減の足から顕現したものだろう。つまり地中に潜む大散減は、残りあと六本足。
<てか一美、志多田さんいるのに普通に返事してていいの?>
「あ……私、もうソレ聞こえてます」
<は?>
私もこちらに何があったかを説明する。牛久大師が大散減に取り込まれた。後女津親子がそれを倒すと、御戌神が現れた。私は御戌神が本当は戦いたくない事に気付き、キョンジャクで気を正した。けど次の瞬間金剛愛輪珠如来が現れて、御戌神と私をケチョンケチョンに叩き潰した。奴は私を助けに来た佳奈さんにも呪いをかけようとして、それを防いだ斉二さんがやられた。以降斉一さんは目を覚まさず、タナカDと青木さんもまだ戻ってきていないみたいだ、と。そこまで説明すると、玲蘭ちゃんは頭を抱えて深々とため息をついた。
<最ッ悪……金剛マターとか、マジ聞いてないんだけど……。てか、一美もたいがい化け物だよね。金剛の如来級悪霊と戦って生きて帰れるとか>
「本当、なんで助かったんだろ……。あの時は全身砕かれて内臓ぜんぶ引きずり出されたはずなんだけど」
<ワヤン化してたからでしょ>
「あーそっか……」
砕けたのは影の体だけだったようだ。
「けど和尚様から貰ったプルパを愛輪珠に取られちゃって、今じゃ私何にもできない。だってあいつが、和尚様の事……実は邪尊教の信者だとか言い出すから……」
<は!? 観音和尚が!? いや、そんなのただの侮辱に決まってるし……>
「…………」
<……なに、一美? まさか心当たりあるの!?>
「あの」
佳奈さんが挙手する。
「あの。何なんですか? そのジャソン教とかいうのって」
<ああ、チベットのカルト宗教です。悪魔崇拝の仏教版と言いましょうか>
「じゃあ、河童の家みたいな物?」
とんでもない。
「テロリストですよ。ドマル・イダムという邪尊の力を操ってチベットを支配していた、最悪の独裁宗派です」
「そ、そうなの!?」
ドマル・イダム。その昔、とある心優しい僧侶が瀕死の悪魔を助け、その情け深さに心打たれた悪魔から不滅の心臓を授かった。そうして彼は衆生の苦しみを安らぎに変える抜苦与楽(ばっくよらく)の仏、『ドマル・イダム(紅の守護尊)』となった。しかしドマルは強欲な霊能者や権力者達に囚われて、巨岩に磔にされてしまう。ドマルには権力者に虐げられた貧民の苦しみや怒りを日夜強制的に注ぎ込まれ、やがてチベットはごく少数の貴族と無抵抗で穏やかな奴隷の極端な格差社会になってしまった。
「この事態を重く見た当時のダライ・ラマはドマル信仰を固く禁じて、邪尊教と呼ぶようにしたんです」
「う、うわぁ……悪代官だしなんか罰当たりだし、邪尊教まじで最悪じゃん……」
<罰当たり、そうですね。チベットでは邪尊教を戒めるために、ドマルの仏画が痛々しい姿で描かれてます。まるで心臓と神経線維だけ燃えずに残ったような赤黒い体、絶望的な目つき、何百年も磔にされているせいで常人の倍近く伸びた長い両腕……みたいな>
「やだやだやだ、そんな可哀想な仏画とか怖くて絶対見れない!」
そう、普通の人はこういう反応だ。だからチベット出身の仏教徒にむやみに邪尊教徒だと言いがかりをつけるのは、最大の侮辱なんだ。だけど、和尚様は……いや、それ以上考えたくない。幼い頃、和尚様と修行した一年間。大人になって再会できた時のこと。そして、彼に授かった力……幸せだったはずの記憶を思い起こす度に、色んな伏線が頭を過ぎってしまう。
<……でも、一美さぁ>
玲蘭ちゃんは口に当てていた氷を下ろし、私を真正面から見据えた。
<和尚にどんな秘密があったのか知らないけど、落ちこむのは後にしてくれる? このまま大散減が完全復活したら、明日の便に乗る前に全員死ぬの。今まともな戦力になるの、五寸釘愚連隊とあんたしかいないんだけど>
「私……無理だよ。プルパを奪われて、影も動かせなくなって」
<それなら新しい武器と法力を探しに行くよ>
「!」
<志多田さんも、来て>
「え? ……ふええぇっ!?」
玲蘭ちゃんは首にかけていた長い数珠を静かに持ち上げる。するとどこからか潮騒に似た音が聞こえ、私達の視界が次第に白く薄れていく。これは、まさか……!
གསུམ་པ་
気がつくと私達は、白一色の世界にいた。足元にはお風呂のように温かい乳白色の海が無限に広がり、空はどこまでも冷たげな霧で覆われている。その境界線は曖昧だ。大気に磯臭はなく、微かに酒粕や米ぬかのような香りがする。
「綺麗……」
佳奈さんが呆然と呟いた。なんとなく、この白い世界に私は来たことがある気がする。確か初めてワヤン不動に変身した直後だったような。すると霧の向こうから、白装束に身を包む天女が現れた。いや、あれは……
「めんそーれ、ニライカナイへ」
「玲蘭ちゃん!?」「金城さん!?」
初めてちゃんと見たその天女の姿は、半人半魚に変身した玲蘭ちゃん。肌は黄色とパールホワイトのツートーンで、本来耳があった辺りにガラスのように透き通ったヒレが生えている。元々茶髪ボブだった頭も金髪……というより寧ろ、琉球紅型を彷彿とさせる鮮やかな黄色になっていた。燕尾のマーメイドドレス型白装束も裏地は黄色。首から下げたホタル玉の数珠と、裾に近づくにつれてグラデーションしている紅型模様が美しく映える。
「ニライカナイ、母なる乳海。全ての縁と繋がり『必要な物』だけを抜粋して見る事ができる仮想空間。で、この姿は、いわゆる神人(かみんちゅ)ってやつ。わかった?」
「さっぱりわかりません!」
私も佳奈さんに同じく。
「よーするにここは全ての魂と繋がる母乳の海で、どんな相手にもアクセスできるんです。私が何か招き入れないと、ひたすら真っ白なだけだけど」
母乳の海。これこそまさに、金剛が欲しがってやまない『縁の母乳』だ。足元に広がる海水は、散減が吐く穢れた物とはまるで違い、暖かくて淀みない。
「今からこの海で、『マブイグミ』って儀式をする。一美の前世を呼んでパワーを分けて貰うってわけ。でもまず、折角だし……志多田さんもやってみますか?」
「え、私の前世も探してくれるんですか!? えーどうしよ、緊張するー!」
「アー……多分、思ってる感じと違いますよ」
玲蘭ちゃんは尾ビレで海水を打ち上げ、飛沫から瞬く間にススキの葉を錬成した。そして佳奈さんの背中をその葉でペンペンと叩きながら、
「まぶやー、まぶやー、うーてぃくよー」
とユルい調子で呪文を唱えた。すると佳奈さんから幾つもの物体がシュッと飛び出す。それらは人や動物、虫、お守りに家具など様々で、佳奈さんと半透明の線で繋がったまま宙に浮いている。
「なにこれ! もしかして、これって全部私の前世!? ええっ私って昔は桐箪笥だったのぉ!?」
「正確には箪笥に付着していた魂の欠片、いわゆる付喪神です。人間は物心つくまでに周囲の霊的物質を吸収して、七歳ぐらいで魂が完成すると言われています。私が呼び戻したのは、あなたを構成する物質の記憶。強い記憶ほど鮮明に復元できているのがわかりますか?」
そう言われてみると、幾つかの前世は形が朽ちかけている。人間の霊は割と形がはっきりしているけど、箪笥や虫などは朽ちた物が多い。
「たしかに……このおじさん、実家のお仏壇部屋にある写真で見たことあるかも。写真ではもっとおじいさんだったけど」
「亡くなった方が必ずしも亡くなったご年齢で現れるとは限らないんですよ」
私が補足した。そう、有名なスターとか軍人さんとかは、自分にとって全盛期の姿で現れがちなんだ。佳奈さんが言うおじさんも軍服を着ているから、戦時中の御姿なんだろう。
すると玲蘭ちゃんは手ビレ振り、佳奈さんの前世達を等間隔に整列させた。
「志多田さん。この中で一番、あなたにとって『しっくりくる』者を選んで下さい。その者が一つだけ、あなたに力を授けてくれます」
「しっくりくるもの?」
佳奈さんは海中でザブザブと足を引きずり、きちんと並んだ前世達を一つずつ見回っていく。
「うーん……。やっぱり、見たことある人はこのおじさんだけかな。家に写真があったなら、私と血が繋がったご先祖様だと思うし……あれ?」
ふと佳奈さんが立ち止まる。そこにあったのは、殆ど朽ちかけた日本人形。
「この子……!」
どうやら、佳奈さんは『しっくりくる前世』を見つけたようだ。
「私覚えてる。この子は昔、おじいちゃん家の反物屋にいたお人形さんなの。けど隣の中華食堂が火事になった時、うちも半焼しちゃって、多分だからこんなにボロボロなんだと思う」
佳奈さんは屈んで日本人形を手に取る。そして今にも壊れそうなそれに、火傷で火照った肌を癒すように優しく海水をかけた。
「まだ幼稚園ぐらいの時だからうろ覚えだけど。家族で京都のおじいちゃん家に遊びに行ったら、お店にこの子が着てる着物と同じ生地が売ってて。それでおそろいのドレスを作ってほしいっておじいちゃんにお願いしたんだ。それで東京帰った直後だよね、火事。誰も死ななかったけど約束の生地は燃えちゃって、お人形さんが私達を守ってくれたんだろうって話になったんだよ」
佳奈さんが水をかける度に、他の魂達は満足そうな様子で佳奈さんと人形に集約していく。すると玲蘭ちゃんはまた手ビレを振る。二人を淡い光が包みこみ……次の瞬間、人形は紺色の京友禅に身を包む麗しい等身大舞妓に変身した!
「あなたは……!?」
「あら、思い出してくれはったんやないの? お久しぶりどすえ、佳奈ちゃん」
それは見事な『タルパ』だった。魂の素となるエクトプラズム粒子を集め、人工的に作られた霊魂だ。そういえば玲蘭ちゃんが和尚様から習っていたのはこのタルパを作る術だった。なるほど、こういう風に使うために修行していたんだね。
佳奈さんは顕現したての舞妓さんに問う。
「あ、あのね! 外でザトウムシの化け物が暴れてるの! できれば私もみんなと一緒に戦いたいんだけど、あなたの力を貸してくれないかな?」
ところが舞妓さんは困ったような顔で口元を隠した。
「あらあら、随分無茶を言いはりますなぁ。うちはただの人形やさかい、他の方法を考えはった方がええんと違います?」
「そっかぁ……。うーん、どうしよう」
「佳奈さん、だぶか霊能力とは別の事を聞いてみればいいんじゃないですか? せっかく再会できたんだから勿体ないですよ」
「そう? じゃあー……」
佳奈さんはわざとらしいポーズでしばらく考える。そして何かを閃くと、わざとらしく手のひらに拳をポンと乗せた���
「ねえ。童貞を殺す服を着た女を殺す服って、結局どんな服だと思う? 人生最大の謎なんだけど!」
「はいぃ???」
舞妓さんがわかっていないだろうからと、玲蘭ちゃんがタルパで『童貞を殺す服』を顕現してみせた。
「所謂、こーいうのです。女に耐性のない男はこれが好きらしいですよ」
玲蘭ちゃんが再現した童貞を殺す服は完璧だ。フリル付きの長袖ブラウスにリボンタイ、コルセット付きジャンパースカート、ニーハイソックス、童話の『赤い靴』みたいなラウンドトゥパンプス。一見露出が少なく清楚なようで、着ると実は物凄く体型が強調される。まんま佳奈さんの歌詞通りのコーデだ。
「って、だからってどうして私に着せるの!」
「ふっ、ウケる」
キツキツのコルセットに締め付けられた私を、舞妓さんが物珍しそうにシゲシゲと眺める。なんだか気恥ずかしくなってきた。舞妓さんはヒラヒラしたブラウスの襟を持ち上げて苦笑する。
「まあまあ……外国のお人形さんみたいやね。それにしても今時の初心な殿方は、機械で織った今時の生地がお好きなんやなあ。うちみたいな反物屋育ちの古い人形には、こんなはいからなお洋服着こなせんどす」
おお。これこそ噂の京都式皮肉、京ことば! 要するに生地がペラッペラで安っぽいと言っているようだ。
「でも佳奈ちゃんは、『おたさーの姫』はん程度にならもう勝っとるんやないの?」
「え?」
舞妓さんは摘んでいたブラウスを離す。すると彼女が触れていた部分の生地感が、心なしかぱりっとした気がする。
「ぶっちゃけた話ね。どんなに可愛らしい服でも、着る人に品がなければ『こすぷれ』と変わらへん。その点、佳奈ちゃんは立派な『あいどる』やないの。お歌も踊りもぎょうさん練習しはったんやろ? 昔はよちよち歩きやったけど、歩き方や立ち方がえろう綺麗になってはるさかい」
話しながらも舞妓さんは、童貞を殺す服を摘んだり撫でたりしている。その度に童貞を殺す服は少しずつ上等になっていく。形や色は変わらなくても、シワが消え縫製が丁寧になり、まるでオーダーメイドのように着心地が良くなった。そうか、生地だ。生地の素材が格段にグレードアップしているんだ!
「うちらは物の怪には勝てへんかもしれんけど、童貞を殺す服を着た女に負けるほど弱い女やありまへん。反物屋の娘の誇りを忘れたらあかんよ、佳奈ちゃん」
舞妓さんは童貞を殺す服タルパを私から剥がすと、佳奈さんに当てがった。すると佳奈さんが今着ているサマーワンピースは輝きながら消滅。代わりにアイドルステージ上で彼女のトレードマークである、紺色のメイド服姿へと変身した。けどただの衣装じゃない、その生地は仙姿玉質な京友禅だ!
「いつものメイド服が……あ、これってもしかして、おそろいのドレス!?」
舞妓さんはにっこりと微笑み、輝くオーラになって佳奈さんと一体化する。京友禅メイド服とオーラを纏った佳奈さんは、見違えるほど上品な風格を帯びた。童貞やオタサーの姫どころか、全老若男女に好感を持たれる国宝級生人形(スーパーアイドル)の誕生だ!
བཞི་པ་
「まぶやー、まぶやー、ゆくみそーれー」
またしても玲蘭ちゃんがゆるい呪文を唱えると、佳奈さんの周囲に残っていた僅かな前世残滓も全て佳奈さんに吸収された。これでマブイグミは終了だ。
「金城さんごめんなさい。やっぱり私、バトルには参加できなさそうです……」
「お気になさらないで下さい。その霊的衣装は強いので、多少の魔物(マジムン)を避けるお守り効果もあります。私達が戦っている間、ある程度護身してて頂けるだけでも十分助かります」
「りょーかいです! じゃあ、次は一美ちゃんの番だね!」
いよいよ、私の前世が明らかになる。家は代々影法師使いの家系だから、力を取り戻してくれる先代がいると信じたい。
「まぶやー、まぶやー、うーてぃくよー」
玲蘭ちゃんが私の背中を叩く。全身の毛穴が水を吹くような感覚の後、さっき見たものと同じ半透明の線が飛び出した。ところが……
「あれ? 一美ちゃんの前世、それだけ??」
佳奈さんに言われて自分から生えた前世達を見渡す。……確かに、佳奈さんと比べて圧倒的に少ない。それに形も、指先ほど小さなシジミ蝶とか、書道で使ってた筆とか、小物ばっかり。玲蘭ちゃんも首を傾げる。
「有り得ないんだけど。こんな量でまともに生きていけるの、大きくてもフェレットぐらいだよ」
「うぅ……一美ちゃん、可哀想に。心だけじゃなくて魂も小さいんだ……」
「悪かったですね、小心者で」
一番考えられる可能性としては、ワヤン不動に変身するためのプルパを愛輪珠に奪われたからだろう。念力を使う時、魂の殆どが影に集中する影法師の性質が仇となったんだ。それでも今、こうして肉体を維持できているのはどういう事か。
「小さくても強いもの、魔除けとか石とか……も、うーん。ないし……」
「じゃあ、斉一さんのドッペルゲンガーみたいに別の場所にも魂があるってパターンは?」
「そういうタイプなら、一本だけ遠くまで伸びてる線があるからすぐわかる」
「そっか……」
すると、その会話を聞いていた佳奈さんが私の足元の海中を覗きこんだ。
「ねえこれ、下にもう一本生えてない?」
「え?」
まじまじと見ると、確かにうっすらと線が見えなくもない。すると玲蘭ちゃんが尾ビレを振って、私の周囲だけ海水を退けてくれた。
「あ、本当だ!」
それは水が掃け、足元に残った影溜まりの中。まるで風前の灯火のように薄目を開けた『ファティマの目』が、一筋の赤黒い線で私と繋がっている。そうか。行きの飛行機内で万狸ちゃんを遠隔視するのに使ったファティマの目は、本来邪悪な物から身を守る結界術だ。私の魂は無意識に、これで愛輪珠から身を守っていたらしい。
「そこにあったんだ。やっぱり影法師使いだね」
玲蘭ちゃんがファティマの目を屈んで掬い取ろうとする。ところが、それは意志を持っているように影の奥深くに沈んでしまった。
「ガード固っ……一美、これどうにかして取れない?」
参ったな。念力が使えれば影を動かせるんだけど……とりあえず、影法師の真言を唱えてみる。
(ナウマク・サマンダ・バザラダン・カン・オム・チャーヤー・ソワカ)
だめだ、ビクともしない。じゃあ次は、和尚様の観世音菩薩の真言。
(オム・マニ・パドメ・フム)
……ん? 足の指先が若干ピリッときたような。なら和尚様タイプⅡ、プルパを発動する時にも使う馬頭観音真言ならどうか。
(オム・アムリトドバヴァ・フム・パット!)
ピクッ。
「あ、今ちょっと動いた? おーい、一美ちゃんの前世さーん!」
佳奈さんがちょんちょんと私の影をつつく。他の真言やお経も試してみるべきか? けど総当りしている時間はないし……
—シムジャナンコ、リンポチェ……—
「!」
—和尚様?—
—あなたの中で眠る仏様へ、お休みなさい、と申したのです。私は彼の『ムナル』ですから……—
脳裏に突然蘇った、和尚様と幼い私の会話。シムジャナンコ(お休みなさい)……チベット語……?
「タシデレ、リンポチェ」
ヴァンッ! ビンゴだ。薄目だった瞳がギョロリと見開いて肥大化し、私の影から飛び出した! だけどそれは、私が知っているファティマの目とまるで違う。眼球ではなく、まるで視神経のように真っ赤なエネルギーの線維が球体型にドクドクと脈動している。上下左右に睫毛じみた線維が突き出し、瞳孔に当たる部分はダマになった神経線維の塊だ。その眼差しは邪悪な物から身を守るどころか、この世の全てを拒絶しているような絶望感を帯びている。玲蘭ちゃんと佳奈さんも堪らず視線を逸らした。
「ぜ、前世さん、怒ってる?」
「……ウケる」
チベット語に反応した謎のエネルギー眼。それが私の大部分を占める前世なら、間違いなく和尚様にまつわる者だろう。正直、今私は和尚様に対してどういう感情を抱いたらいいのかわからなくなっている。でも、たとえ邪尊教徒であろうとなかろうと、彼が私の恩師である事に変わりはない。
「玲蘭ちゃん、佳奈さん。すいません。五分だけ、ちょっと瞑想させて下さい」
どうやら私にも、自分の『縁』と向き合うべき時が来たようだ。
?????
……釈迦如来、文殊菩薩、普賢菩薩……。座して目を閉じ、自分の影が十三仏を象る様を心に思い描く。本来影法師の修行で行う瞑想では、ティンシャやシンギング・ボウルといった密教法具を使う。けど千里が島には持ってきていないし、今の私にそれらを使いこなせる力もない。それでも、私は自らの影に佇むエネルギー眼と接続を試み続ける。繋がれ、動け。私は影。私はお前だ。前世よ、そこにいるのなら応えて下さい。目を覚まして下さい……
「……ッ……!」
心が観世音菩薩のシルエットを想った瞬間、それは充血するように赤く滲んだ。するうち私の心臓がドクンと弾け、業火で煮えくり返ったような血が全身を巡る。私はその熱量と激痛に思わず座禅を崩してしまうが、次の瞬間には何事もなかったかのように体が楽になった。そしてそっと目を開けてみると、ニライカナイだったはずの世界は見覚えのある場所に変わっていた。
「石筵観音寺……!?」
玲蘭ちゃんが代わりに呟く。そう。ここは彼女も昔よく通っていた、私達の和尚様のお寺だ。けどよく見ると、記憶と色々違う箇所がある。
「玲蘭ちゃん、このお御堂、こんなに広かったっけ……?」
「そんなわけない。だってあの観音寺って、和尚が廃墟のガレージに張って作ったタルパ結界でしょ」
「そうだよ。それにあの外の山も、安達太良山じゃないよね? なんかかき氷みたいに細長いけど」
「あれ須弥山(しゅみせん)じゃん。仏教界の中心にある山。だぶか和尚はこの風景を基に石筵観音寺を作ったんじゃない? てーか、何よりさ……」
「うん。……いなくなってるよね、和尚様」
このお御堂には、重大な物が欠けている。御本尊である仏像だ。石筵観音寺では和尚様の宿る金剛観世音菩薩像がいらした須弥壇には、何も置かれていない。ここは、一体……。
「ねーえ! 一美ちゃんの和尚さんってチベットのお坊さんなんだよね? ここにいるよ!」
「「え?」」
振り返ると、佳奈さんがお御堂の奥にある扉を開けて中を指さしている。勿論観音寺にはなかった扉だ。私と玲蘭ちゃんが中を覗くと、部屋は赤い壁のシンプルな寝室だった。中心に火葬場の収骨で使うようなやたらと背の高いベッドが一つだけ設置されている。入室すると、そのベッドで誰かが眠っていた。枕元にはチベット密教徒特有の赤い袈裟が畳まれている。佳奈さんがいて顔がよく見えないけど、どうやら坊主頭……僧侶のようだ。不思議な事に、その僧侶の周りには殆ど影がない。
「もしもーし、和尚さん起きて下さい! 一美ちゃんが大ピンチなんですーっ!」
佳奈さんは大胆にも、僧侶をバシバシと叩き起こそうと試みる。ただ問題がある。彼は和尚様より明らかに背が低いんだ。
「ちょ、佳奈さんまずいですって! この人は和尚様じゃないです!」
「え、そうなの? ごめんごめん、てへっ!」
「てへっじゃないですよ………………!!?!?!??」
佳奈さんが退き僧侶の顔が見えた瞬間、私は全身から冷や汗を噴出した。この……この男は……!!!
「あれ? でも和尚さんじゃないなら、この人が一美ちゃんの前世なんじゃない? おーい、前世さムググム~??」
ヤバいヤバいヤバい!! 佳奈さんが再び僧侶をぶっ叩こうとするのを必死で制止した。
「一美?」
玲蘭ちゃんが訝しんだ。面識はない。初めて見る人だ。だけどこの男が起きたら絶対人類がなんかヤバくなると直感で理解してしまったんだ! ところが……
༼ ……ン…… ༽
嘘でしょ。
「あ、一美ちゃん! 前世さん起きたよ! わーやば、このお坊さん三つ目じゃん! きっとなんか凄い悟り開いてる人だよ!」
あぁ、終わった……。したたび綺麗な地名の闇シリーズ第六弾、千里が島宝探し編終了。お疲れ様でした。
「ねー前世さん聞いて! 一美ちゃんが大ピンチなの! あ、一美ちゃんっていうのはこの子、あなたの生まれ変わりでー」
༼ えっ、え?? ガレ……? ジャルペン……?? ༽
僧侶はキョトンとしている。そりゃそうだ、寝起きに京友禅ロリータが何やらまくし立てていれば、誰だって困惑する。
「じゃる……ん? ひょっとして、この人日本語通じない!?」
「一美、通訳できる?」
「むむ、無理無理無理! 習ってたわけじゃないし、和尚様からちょこちょこ聞いてただけだもん!」
「嘘だぁ。一美ちゃんさっきいっぱいなんかモゴモゴ言ってたじゃん。ツンデレとかなんとか」
「あ、あれは真言です! てか最後なんて『おはようございます猊下(げいか)』って言っただけだし」
私だけ腰を抜かしている一方で、佳奈さんと玲蘭ちゃんは変わらずマイペースに会話している。僧侶もまだキョトン顔だ。
「他に知らないの? チベット語」
「えぇー……。あ、挨拶は『タシデレ』で、お休みなさいが『シムジャナンコ』、あと印象に残ってるのは『鏡』が『レモン』って言うとか……後は何だろう。ああ、『眠り』が『ムナル』です」
༼ ! ༽
私が『ムナル』と発音した瞬間、寝ぼけ眼だった僧侶が急に血相を変え���布団から飛び出した。
༼ ムナルを知っているのか!? ༽
「ふわあぁ!?」
僧侶は怖気づいている私の両腕をがっしと掴み、心臓を握り潰すような響きで問う。まるで視神経が溢れ出したような紅茶色の長い睫毛、所々ほつれたように神経線維が露出した肌、そして今までの人生で見てきた誰よりも深い悲壮感を湛える眼差し……やっぱり、間違いない。この僧侶こそが……
「え? な、なーんだ! お坊さん、日本語喋れるんじゃん……」
「佳奈さん、ちょっと静かにしてて下さい」
「え?」
残酷にも、この僧侶はムナルという言葉に強い反応を示した。これで私の杞憂が事実だったと証明されてしまったんだ。だけど、どんな過去があったのかはともかく、私はやっぱり和尚様を信じたい。そして、自分の魂が内包していたこの男の事も。私は一度深呼吸して、彼の問いに答えた。
「最低限の経緯だけ説明します。私は一美。ムナル様の弟子で、恐らくあなたの来世……いえ、多分、ムナル様によって創られたあなたの神影(ワヤン)です。金剛の大散減という怪物と戦っていたんですが、ムナル様が私の肋骨で作られた法具プルパを金剛愛輪珠如来に奪われました。それでそこの神人にマブイグミして貰って、今ここにいる次第です」
༼ …… ༽
僧侶は瞬き一つせず私の話を聞く。同時に彼の脳内で凄まじい速度で情報が整理されていくのが、表情でなんとなくわかる。
༼ 概ね理解した。ムナルは、そこか ༽
僧侶は何故か佳奈さんを見る。すると京友禅ロリータドレスのスカートポケットに、僧侶と同じ目の形をしたエネルギー眼がバツッと音を立てて生じた。
「きゃあ!」
一方僧侶の掌は拭き掃除をしたティッシュのようにグズグズに綻び、真っ二つに砕けたキョンジャクが乗っていた。
「あ、それ……神社で見つけたんだけど、後で返そうと思って。でも壊れてて……あれ?」
キョンジャクは佳奈さんが話している間に元の形に戻っていた。というより、僧侶がエネルギー眼で金属を溶かし再鋳造したようだ。綻んでいた掌もじわじわと回復していく。
「ど、どういう事? 一美。ムナルって確か、観音和尚の俗名か何かだったよね……そのペンダント、なんなの?」
僧侶の異様な力に気圧されながら、玲蘭ちゃんが問う。
「キョンジャク(羂索)、法具だよ。和尚様の遺骨をメモリアルダイヤにして、友達から貰ったお守りのペンダントに埋め込んでおいたんだ」
༼ この遺骨ダイヤ、更に形を変えても構わんか? ༽
「え? はい」
僧侶は私にキョンジャクを返却し、お御堂へ向かった。見ると、和尚様のダイヤが埋まっていた箇所は跡一つなくなっている。私達も続いてお御堂に戻ると、彼はティグクという斧型の法具を持ち、装飾部分に和尚様のダイヤを埋め込んでいた。……ところが次の瞬間、それを露台から須弥山目掛けて思い切り投げた!
「何やってるんですか!?」
ティグクはヒュンヒュンと回転しながら須弥山へ到達する。すると、ヴァダダダダガァン!!! 須弥山の山肌が爆ぜ、さっきの何百倍もの強烈なエネルギー眼が炸裂! 地面が激しく揺れて、僧侶以外それぞれ付近の物や壁に掴まる。
༼ 拙僧が介入するとなれば、悪戯に事が大きくなる…… ༽
爆風と閃光が鎮まった後の須弥山はグズグズに綻び、血のように赤い断面で神経線維が揺らめいた。そしてエネルギー眼を直撃したはずのティグクは、フリスビーのように回転しながら帰還。僧侶が器用にキャッチすると、次の瞬間それはダイヤの埋め込まれた小さなホイッスルのような形状に変化していた。
༼ だからあなたは、あくまでムナルから力を授かった事にしなさい。これを吹けばティグクが顕現する ༽
「この笛は……『カンリン』ですか!?」
༼ 本来のカンリンは大腿骨でできたもっと大きな物だけどな。元がダイヤにされてたから、復元はこれが限界だ ༽
カンリン、人骨笛。古来よりチベットでは、悪い人の骨にはその人の使っていない良心が残留していて、死んだ悪人の遺骨でできた笛を吹くと霊を鎮められるという言い伝えがあるんだ。
༼ 悪人の骨は癒しの音色を奏で、悪魔の心臓は煩悩を菩提に変換する。それなら逆に……あの心優しかった男の遺骨は、どんな恐ろしい業火を吹くのだろうな? ༽
顔を上げ、再び僧侶と目が合う。やっぱり彼は、和尚様の事を話している時は少し表情が穏やかになっているように見える。
༼ ま、ムナルの弟子なら使いこなせるだろ。ところで、『鏡』はレモンじゃなくて『メロン』な? ༽
「あっ、そうでしたね」
未だどこか悲しげな表情のままだけど、多少フランクになった気がする。恐らく、彼を見た最初は心臓バクバクだった私もまた同様だろう。
「じゃあ、一美……そろそろ、お帰ししてもいい……?」
だぶか打って変わって、玲蘭ちゃんはすっかり及び腰だ。まあそれは仕方ない。僧侶もこの気まずい状況を理解して、あえて彼女と目を合わさないように気遣っている。
「うん。……リンポチェ(猊下)、ありがとうございました」
「一美ちゃんの前世のお坊さん、ありがとー!」
༼ 報恩謝徳、礼には及ばぬ。こちらこそ、良き未来を見せて貰った ༽
「え?」
༼ かつて拙僧を救った愛弟子が巣立ち、弟子を得て帰ってきた。そして今度は、拙僧があなたに報いる運びとなった ༽
玲蘭ちゃんが帰還呪文を唱えるより前に、僧侶は自らこの寺院空間を畳み始めた。神経線維状のエネルギーが竜巻のように這い回りながら、景色を急速に無へ還していく。中心で残像に巻かれて消えていく僧侶は、最後、僅かに笑っていた。
༼ 衆生と斯様にもエモい縁を結んだのは久しぶりだ。また会おう、ムナルそっくりに育った来世よ ༽
ལྔ་པ་
竜巻が明けた時、私達はニライカナイをすっ飛ばして宴会場に戻っていた。佳奈さんは泥だらけのサマードレスに戻っているけどオーラを帯びていて、玲蘭ちゃんの口の怪我は何故か完治している。そして私の手には新品のように状態の良くなったキョンジャクと、僅かな視神経の残滓をほつれ糸のように纏う小さなカンリンがあった。
「あー、楽しかった! 金城さん、お人形さんと再会させてくれてありがとうございました! 一美ちゃんも、あのお坊さんめっちゃ良い人で良かったね! 最後エモいとか言ってたし、実はパリピなのかな!? ……あれ、金城さん?」
佳奈さんが振り返ると同時に、玲蘭ちゃんは焦燥しきった様子で私の首根っこを掴んだ。今日は色んな人に掴みかかられる日だ。
「なんなの、あの前世は」
その問いに答える代わりに、私は和尚様の遺骨(カンリン)を吹いてみた。パゥーーーー……決して癒しの音色とは言い難い、小動物の断末魔みたいな音が鳴った。すると私の心臓に焼けるような激痛が走り、全身に煮えたぎった血が迸る! それが足元の影に到達点すると、カセットコンロが点火するように私の全身は業火に包まれた。この一連のプロセスは、実に〇.五秒にも満たなかった。
「そんなっ……その姿……!!」
変身した私を、玲蘭ちゃんは核ミサイルでも見るような驚愕の目で仰いだ。そうか。彼女がワヤン不動の全身をちゃんと見るのは初めてだったっけ。
「一美ちゃん! また変身できるようになったね! あ、前世さんの影響でまつ毛伸びた? いいなー!」
玲蘭ちゃんは慌ててスマホで何かを検索し、悠長に笑っている佳奈さんにそれを見せた。
「ん、ドマル・イダム? ああ、これがさっき話してた邪尊さん……え?」
二人はスマホ画面と私を交互に三度見し、ドッと冷や汗を吹き出した。憤怒相に、背中に背負った業火。私は最初、この姿は不動明王様を模したものだと思っていた。けど私の『衆生の苦しみを業火に変え成仏を促す』力、変身中の痛みや恐怖に対する異常なまでの耐久性、一睨みで他者を黙らせる眼圧、そしてさっき牛久大師に指摘されるまで意識していなかった、伸びた腕。これらは明らかに、抜苦与楽の化身ドマル・イダムと合致している!
「……恐らく、あの前世こそがドマルだ。和尚様は幼い頃の私を金剛から助けるために、文字通り彼を私の守護尊にしたんだと思う。でもドマルは和尚様に『救われた』と言っていた。邪尊教に囚われる前の人間の姿で、私達が来るまで安らかに眠っていたのが何よりの証拠だ。観世音菩薩が時として憤怒の馬頭観音になるように、眠れる抜苦与楽の化身に代わり邪道を討つ憤怒の化身。それが私……」
「ワヤン不動だったってわけ……ウケる」
ウケる、と言いつつも、玲蘭ちゃんはまるで笑っていなかった。私は変身を解き、キョンジャクのネックレスチェーンにカンリンを通した。結局ドマルと和尚様がどういう関係だったのか、未だにはっきりしていない。それでも、この不可思議な縁がなければ今の私は存在しないんだ。この新たな法具カンリンで皆を、そして御戌神や千里が島の人々も守るんだ。
私は紅一美。金剛観世音菩薩に寵愛を賜りし紅の守護尊、ワヤン不動だ。瞳に映る縁無き影を、業火で焼いて救済する!
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今朝起きて照明のリモコンのスィッチを入れたら電気が点かない。
リモコンの電池切れかと思ったが押した時にピッと音がするので
電池切れではないようだ...となると蛍光灯切れか?
照明器具の型式をネットで調べて蛍光灯を探したら既に生産終了してて
在庫分のみの販売となっていた。
昼光色が8000円、昼白色が4500円、電球色が2800円。
さすがに8000円の出費は厳しいので昼白色で妥協することにした。
明日の午前中には届くので今日いっぱいは暗い部屋で過ごさないといけない。
パソコンの光がせめてもの救いだ。
先日ACCSSというイベントに行ってきたが、
Anniversaryということもあり連日超満員だった。
何のために行ったのかというと NATIVE URBANのTシャツがお目当てである。
シンプルだけど飽きのこないデザインと肌触り良さそうな質感。
flickrで見かけて「コレは買いだろう!」と思っていた。
やっと手に入れたので同店のパンツとコーデしてアフリカへ旅立った。
ナイル川ほど大きくはないが雄大な水辺でノンビリと釣りをしてる図。
たまには野性味溢れる景色も良い。
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