Tumgik
#短編
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⭐Amazonロマンスカテゴリー(Kindle)ベストセラー(ランキング1位)[2019]⭐ 龍を待ち続けた娘、娘を愛し続けた龍の弟。仙界を舞台にした切ない中華ファンタジーラブロマンス
📕火龍の花嫁 (BLIC-Novels)📕
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🩷恋した相手は、決して好きになってはいけない相手だった🩷 幼い頃に炎を司る龍王・火龍から花嫁と定められた三娘(さんじょう)。しかし年頃を過ぎてもその相手は迎えに来ず、彼女は国王からの求婚に応じることを決めた。 婚礼当日、いざ輿に乗ろうとしたそのときとっさに逃げ出してしまった彼女は、亡き母の私室でかつて結納の品として受け取ったものを放り投げた。そうすることで火龍のもとへ行けると聞いていたからだが、床に落ちた赤い宝玉が粉々に砕けた直後に立ち上がった炎に包まれ三娘は気を失った。 意識を取り戻したところ、見知らぬ場所で見知らぬ男に抱きしめられていた。三娘がいたのは、神々や仙人たちが住まう仙界。そこで彼女を待っていたものは驚くべき真実と自分を愛し続けた男の一途な思いだった。
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reijimix · 1 year
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 雨なのに、音がない。
 テールランプが、車道に赤く溜まって、一向に流れない。もう暗い夕空。渋滞したまま、エンジンだって止まっている。
 雨だけど、音はしてない。
 看板が点り、輝きを増している。牛丼屋の、回転寿司の、コンビニの、いろいろな光が強くなっている。
 雨の中、音を聞かない。
 スピーカーは沈黙。そうだ電波も停まって、ずいぶん経ったのだ。ボタンを押し、何かしら流れ出すのを待ち、ボタンを押し、何も流れないことを確かめている。
 渋滞、停波。信号、雨。
 こうして帰り道に溜まる理由。帰るさきってものをつくる理由。こんな風にして、途中の経過に溜まっている。
 車内で、何度も誕生日を迎えていた。いや、何度も迎えてきたように、思えてきた。
 音はない。
 ハッピーバースディを、大声で歌ってみる。見えているものは、本当は、もうずっと前に終わってしまっていて、この世など、すでにないかも、しれないじゃないの。
 渋滞のまま、信号が赤と青を繰り返す。フロントガラスに、その色の雨粒が現れる。点々と、小花のように生まれて、崩れて、視界の暗いほうへ下っていく。
──────『雨だけど音はしない』
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travelfish0112 · 5 months
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新宿駅 0:34分発
5年間、その時間が経過する間に世界がこんなにも変わってしまうなんて想像してなかった。
5年間って約44000時間くらいで、小さい時で考えたら5〜10歳への移り変わりは確かに重大。でも、2005年と2010年で変わった事って、あまり思いつかない。結局ずっとDSやってただけだし。
でも、2019年から2024年にかけて、あまりなかも世界が様変わりしてしまった。
2018年、大学生だった私は聖蹟桜ヶ丘駅の近くに住んでいた。
2023年、社会人になった私は5年ぶりに夜の京王線に乗っていた。
0:34発だった最終列車は、0:18発になっていた。でも、相変わらず混んでいた。
新宿で会社の忘年会を適当にやり過ごしていたが、結局上司に捕まり、二次会まで付き合わされた。0時近くでやっと解放された私は、甲州街道改札でストリートミュージシャンたちの喧騒をふと見て、昔連れられて行ったライブハウスを思い出した。
名前を調べてみると、1年前に閉店して、今は違うライブハウスになっていた。
ライブハウスって居抜きとかあるのかな、なんて下らない事を考えていたら、ふとあの時飲んだ薄いコーラと、底が異様に濃いジントニックを思い出した。フロアは暗くて、端のテーブルの方にミュージシャン気取りが固まっていて、そこから流れてくるタバコの煙でいつも臭かった。
でも、あそこで知らないバンドを見るのが好きだった。
そんな事を思い出していた私は、高円寺に住んでいるのに、何故か京王線のホームに向かい、最終の八王子行きに滑り込んだ。
クリーム色に赤色の帯を巻いた列車は、軽快に夜の街を駆けていく。そして、少しずつ止まる駅で客を降ろしていく。
明大前で上手い事席に座れた私は、アルバムをスクロールして昔の写真を見返す。そこには髪色が今よりも少し明るい私がいた。そして、その写真は、当時の恋人が撮ってくれたモノだった。
あいつ、今何してんだろ。
インスタを開き、何人かの友人のフォロー欄を探すと、彼がいた。
「無事、娘が産まれました!」
一番最初に固定された投稿には、スリーショットと共にそう書かれていた。
5年間で世界がこんなにも変わってしまうなんて。
あの時の思い出がするすると抜け落ちていく様な感覚に陥る。小さい欠片が、特急が止まる度にその駅に落ちていく。
いつの間にか車両のお客さんは疎になり、向かいの席も空席になっていた。
窓に写る自分と目が合う。スマホの中の自分よりも髪が少し伸びて、しっかりしたコートを着ている自分と。
あの時、愛想笑いが出来なくて就活の面接で苦戦していたが、今では職場のおっさん達を笑顔でいなす事ができる。
あの時、グリルで魚を焼く事すらも出来なかったけれど、今ではお昼にお弁当を持って行っている。
でも、あの時と私は変わっていない。変われていない。
トンネルを抜けて、高架線を列車は登っていく。
日焼けた漫画の背表紙の様に、今見ている景色もまた昔の記憶になるんだろう。
あの時の私の目標ってなんだったっけ。忘れちゃったな。
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逸脱
 トンネルの入り口に蔦が絡み付いている。名前が書かれたプレートはもうすぐで文字が見えなくなってしまいそうで、まるで血脈を広げるように蔦がトンネルの中へと触手を伸ばしているようだった。僕は、いずれこのトンネルごと蔦に飲み込まれてしまう景色を思い浮かべた。
 多くの通勤者にとって、このトンネルは都心の会社へとつながる道程だった。車道の横に歩道が整備され、車が通ることはほとんどなかった。僕は、このトンネルに毎朝足を踏み入れるたびに、いつもむくむくと心の中で天邪鬼が燻り始めるのを感じる。それというのも、あまりにも綺麗に、歩行者が左と右に分かれて歩いているからである。無論、それは指示されているわけでもなく、導線がひかれているわけでもない。ただ自発的に左側通行を当然のこととして、おそらく無意識のうちに自分の体を左側に寄せるように足が動くのである。その結果、長い列が糸を引くように左右に出来上がるのである。
 それはルールとして当然だろう、という声が自分の中から聞こえてくる。しかし一方で、その行列の中にいる自分を俯瞰的に見ると、違和感を覚えるのだった。あまりにも秩序だった光景のなかに、己が埋没して窒息してしまうような気持ちになった。靴が地面に当たる音がトンネルのなかに一定のリズムで響く。皆、前を向いて、その秩序を乱すまいとするかのような空気。一列の長い行列を作ってトンネルに進入する僕らは、その出口で完成形の戦力として吐き出される企業戦士だった。僕の中の天邪鬼は「お前、真ん中を歩いてみろ」と囁いてくる。しかし、そうすることが憚られるほど、その空間は秩序だっていて、隙間というものが存在しなかった。
 しかし、その秩序のなかに一ヶ所だけ、乱れが生じる場所があった。それは、トンネルのちょうど真ん中あたり。白髪で髭の伸びた男性が、地べたにダンボールを敷いて座っている場所だった。いくばくかの生活の必要なものを詰めたと思われるリュックを横に、いつも男性はじっとうずくまっていた。まるで、一定方向に流れる川の流れが岩にぶつかり、その周りだけ曲線が膨らむように、トンネルの流れは、男性の周りだけ弛緩していた。物理法則のように、男性の周りだけ膨らむ流れは、実際にところは不明だが、多くの通行者にとって男性の存在がその場所にある物のように見えていることを強調しているように見えた。
 僕は、その男性の横を通るときいつも、大勢の靴が地面を蹴る音が、彼にはどのように聞こえているのだろうかということを考えていた。その靴の音はまるで、私たちとその男性の間に一本の線を引くように、暴力的にトンネルの中を鳴り響いていたからである。僕には、その音が、仕事をするもの、しないもの、あるいは生産活動に従事するもの、しないものという、ただその一点のみに集約された区分を強迫的に私たちに突きつけているように感じられた。
 その男性は、あるときは全く姿を見せなくなったり、そうかと思えば、夜、仕事を終えて駅に向かって歩いていると、またそこに戻っているというような具合で生活をしていた。あるときは、どこかで拾ってきた本を読んでいたり、あるときはどこかで調達してきたおにぎりやお弁当を手に持っていたり、そしてあるときは、見知らぬ誰かが、「食べてください。困ったことがあればいつでも連絡ください」とポストイットとともに食料が置いてあることもあった。男性は姿を見かけるときはいつも、静かにそこに佇んでいた。その姿が、僕には全てを達観している仙人のように見えて、いつしか僕はその男性のことを師匠と勝手に心の中で呼ぶようになっていた。
 僕は、師匠が駅の近くで動き回っている様子を見かけたことがあった。車がビュンビュンと走り抜ける通りの反対側で、道端で体を折り曲げながら、なにやらゴミ袋のようなものを運んでいたように見えた。それは、暑い初夏の日で、師匠にも容赦なく太陽が照りつけていた。近くで見ていたわけではないのに、額から汗が吹き出して、汗で背中に服が張り付いている様子が目に浮かんだ。師匠にとってはそれが日常だったのだろう。
 次第に、師匠は僕の決まり切った毎日の生活のなかで、唯一、僕自身という水面に波紋を引き起こす存在となっていった。師匠は孤独ではないのか、師匠にとって生きるとはいかなる意味を持つものなのか、師匠はなぜ生きているのか。そうした問いが僕の中で生まれてはぐるぐると回って、次第にそれは己の中の奥深い部分へと侵入するかのように、全て自分へと問い返されるのであった。
 事件が起きたのは、ちょうどお盆を迎えようかという8月の半ばごろだった。僕がそのことを知ったのは、ネットの記事によってだった。スマホの画面上にいつも歩いているトンネルの遠景写真が載っていた。捜査員が路上で現場検証をしている様子が写っていた。未明に3人の少年によって、ホームレスの男性が襲撃され死亡。師匠のことに間違いなかった。
 僕は、翌日、あのトンネルへと足を運んだ。入り口から出口まで、規制線が張られ、警察官が立っていた。誰もいなかった。
 師匠は誰によって殺されたのか。
 僕の頭から離れなかったのは、少年たちの供述として書かれた一文だった。
「遊びみたいなもんだった。ホームレスの人たちを見下していた」
 その一文が僕にとって大きな意味を持った。なぜなら、そうした社会の空気を作り出しているのは、自分がしている仕事そのものではないかと思ったからだった。
 ホームレスは視聴率が取れる。そんな言葉を職場でしばしば耳にすることがあった。僕は、テレビでニュース番組を作る仕事していた。ニュースと言っても、ワイドショーと大差ないようなもので、常に映像にインパクトがあるものが求められた。それが高い視聴率をとる上で鉄則とされていた。ホームレスの人たちは、だから格好のネタと認識されていて、先輩たちは、その認識を疑うこともなく口にした。しかし、どれもこれも、まるで私たちとは違う生き物を興味本位で覗き見するかのような内容のものがほとんどで、それらは単なる好奇な眼差し以上のなにものでもなかった。肥大化した大衆の欲望を刺激し続けるメディアにとって、普通から逸脱した存在は、格好の捕食対象だった。それが僕のしている仕事の本質なのかもしれなかった。
 僕が日々仕事として生産しているものとはなんなのだろうか。それは果たして社会の役に立っているのであろうか。急に僕の目の前にトンネルの光景が広がった。トンネルを歩く人たちと師匠との間に大きな溝が広がっていた。その溝をせっせと掘っているのは、他でもない自分自身だった。そして、一方の溝の縁に立って、多くの群衆が師匠に溝の中に飛び込むように囃し立てていた。僕はただそれを遠巻きに眺めているだけだった。
 師匠を殺したのは誰なのか。
 僕の目の前には、いつもと変わらぬ日常がありふれていた。いつものように、スーツを着た無数の人たちが、いつものように駅のコンコースを歩いて行く。
 あのトンネルに差し掛かろうとしていた。
「お前、真ん中を歩いてみろ」
 天邪鬼が僕に囁いてくる。
 しかし僕はいつものように、体を左側に寄せて群衆の中へと引き寄せられていく。師匠がいた場所の周りは弛緩することなく、革靴がトンネルの中を響いていた。間違いなく僕もそのなかの一人だった。
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reitomorisaki · 6 months
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『時やその水辺・八景』
1, 『池と季節』
池にむかってカエルがはねた
高く飛んでいるうちに、季節がぐんぐん、過ぎて、いって、しまって、カエルは凍った冬の池に落ちた
2, 『うつむく』
魚を見ていた犬の目は、涙がたまって水槽になり、魚もそこで泳ぎ始めた
両目の水槽がとても重たく、今日、犬は名前を呼ばれたときでも、顔を上げるのが大変だった
3, 『夜のひと瓶』
酒瓶に、夜を封じてきたと、彼らは言った
ショットグラスの黒い川、朝には揮発してしまうぞと、一人は一気に飲み干して正体をなくし、機を逸した方は揮発して心をなくした。
抜け殻は、朝の投石に使われている
4, 『夏の思い出』
カーテンの隙間から差し込む、波形の光
風に吹かれてゆれるたび、海の匂いが濃くなった
母は「潮風に酔った」と仰向けになって、顔に腕を乗せたまま、それきり家事をしなくなった
5, 『夢は見てない』
電球が壊れると、部屋が夜になってしまうので、市販の太陽に交換してもらったが、ずっと昼間の太陽は眩しく、いつも目隠しをして暮らしている
6, 『霧の中』
大統領がお話に税金をかけたので、絵本はぜんぶ真っ白です
こっそりお話を書いたら、夜のようにひと色の、何者かによって盗まれてしまい、窓の外は、朝からこんなにも白い闇
7, 『国の名』
地図が足を伸ばして、歩き回って、各地の写真を撮って、でも、伸ばした足があまりにも長かったから、地図は地球の上に転んでしまって、いま、君のいた国は何と呼ばれているのですか
8, 『著者近影』
ばちんと音を立て、書斎の電球がひとつ切れた
その時、君は、君の影が壁の前を移動し、書棚の裏へ隠れるのを見た
君は部屋の明かりを全て落とした
月光が影を引きずり出し、白い壁に、君とは違う、君でない形の人影を映した
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kozen-ta-note · 2 months
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minatonohato · 5 months
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石灰光
 女が、傘を斜に持って、膝に乗せた風呂敷包の上に肘をついて頬杖をついている。揺れる市電は時間の割に人気が少なく、席に座る人もまばらなれば、目の前に障害となるように立つ男もいない。私の座る斜向かいにその女は腰掛けていて、ただじっと、床の雨染みでも見ているのか動きもしなかった。女が持つのは、使い古された渋い色の和傘に、くすんだ紫の風呂敷。女には珍しい、重たい黒色の洋風のコオトを着て、その裾からは着物の色合いが、調和を乱すように鮮やかに覗いている。泥に汚れた白足袋と、紫の鼻緒の草履。娘盛りを少し過ぎた年頃だろうかと思うのは、その少しく乱れた髪と、生活に霞んだ手の甲のためである。
 持って出た本も読み終えた私がその女に目を留めたのは、女がその背を、知らずのうちに冬の白い陽に預けていたためであった。女の背後が西側になっているのだろう、その陽光を女は一身に受けている。その女の淡い白い頬の輪郭が、私の視線を誘導させたのだ。
 先ほどまで降っていた小雨の名残が空中に分散して、光線と互いに反射しあっているのか、女の輪郭はやけに淡く光っている。それはまるで銀幕の女優のようで、その白い肌は何よりも私の目を惹いた。女はそれに動じないけれども、市電が動きを止めるたび、そのように揺れる身体をそのまま任せて、そしてその度に、陽の光の方がゆらりと揺れている。
 女本人が動きもしないのに、陽の光のほうがゆらゆらと揺れる。それは市電が動いているからであるし、外では日光を遮蔽するものがたまにあるからだろう。思えば不思議はないはずであるが、女の代わりに表情を変えていく冬の光が、私には面白く目に映った。光が表情を変える度、女はその照明に、勝手に照らされる。何度も違う角度から映される写真のように、女は勝手にその陽の光のモデルとなった。
 女は一際に美しい容姿をしている、というわけではなさそうであったが、それでもこの情景を留めておけるものなら、そうしたいと、一学徒でしかない私にすら思える。しかしながらどれだけ高名な絵描きであろうと、この光の揺らぐ光景は、絶対に描き留めきれないのだから惜しいものだ。
 その時市電が止まり、女が気のついたように数度瞬きをして顔を上げた。風呂敷に沈んだ身体を起こして、頬杖を解放する。私が手持ち無沙汰に女をまじまじと眺めていたことにも気がついていないのか、私とは反対の方向を見て、どうやら現在地を確認しているようであった。すっと伸びた背筋、そこから続く首筋、横顔は鼻筋が通り、重たく見えていた瞼は思いの外強く印象的な瞳���表した。不機嫌そうに引き結んでいた紅が彩る口元の、その端、少し下には黒子が見える。髪の生え際までの額の形と、何よりも、少し寄せられた眉のしなりが美しい。陽の光が女を捉え、女も、遠くを見渡し動きを止めるその瞬間。
 その瞬間を私は見たのだ。
 それは先ほど上野で見た洋画のどれだかのように。完璧に整った一瞬だったのである。女のポオズ、その表情、持ち物衣類から、市電車内の光景と、冬の柔らかい光の色。私が絵描きであったなら、この光景を逃す手はない。そんなものになってみようと思ったことは、生まれてこのかた一瞬たりともなかったというのに、今この瞬間に初めて私は、自らが芸術の道を選び取らなかったことを悔やみすらした。それはあまりに美しく、私の脳裏に焼きついたのである。
 その一瞬間に私は見惚れて、つい女を凝視していたに違いない。次に市電が揺れると、女はついに私に気がついたようにこちらを見やり、黒く細い瞳で私を睨みつけるようにした。そこでようやく我に返る。他者を見澄ましていた己の不躾さに情けない思いを抱えて、居心地悪く女から視線を外す。しばらくそうして車内外に視線を彷徨わせていたものの、自らの落ち度の手前、じわじわと女の視線が刺さる気すらする。ついには居心地の悪さに耐え切れなくなって、まだ先まで乗っているつもりだったものを、次の停車場でそそくさと降りてしまった。
 見ず知らずの女に悪いことをしたとふと息をついたのも束の間、「もし」と人を呼び止める声がする。私ではなかろうと思っていると、目の前に影がぬっと現れた。身を引くとそれは、私が先まで失礼を働いていた女当人である。
「あなた」
女が言う。私はその突然の出来事に動転してしまって咄嗟には声も出ずに、ただ女の顔を凝視していた。
「どちらかでお会いしまして?」
しかし女はそれ自体を気に留めていないのか、ぬっと顔を近づけて私を見る。
「いえ、そういうことはありません」先程は……、
と言いかけたところで、女がはっと距離をとった。
「ごめんなさい、近目なものだから。どこかで顔見知りの人のような気もして……今日は眼鏡も忘れてしまったし……」
女は風呂敷を抱えて、斜に頭を下げる。「いえこちらこそまじまじと申し訳ない」と言えば、女が怪訝な顔をするので、結果、自らの罪を一から自白することとなってしまった。
 一通りの自白を終えて、女は思いの外朗らかにそれを聞いていた。しばらくそのまま立ち話を続けていれば、冬の長い夜はすぐさまやってくる。そろそろ、と話を切り上げ、別れかけると、女はこのまま、ここで市電を待つのだと言った。私が知り合いと思って降りたから、本当はまだ先まで乗っているはずであったのだと恥ずかしそうに笑う。私もまったく同じことをしたとは打ち明けられずに、ただ女に悪いことをしたと再び苦く思う。自らはここから歩いて家まで帰るつもりであったが、女一人を置いて帰るには停車場は薄暗い。
「失礼ですが、どちらまで」
聞けば女の行先も、自分の帰る方角と似たようなところである。徒歩をやめにして円タクを拾い、先の失礼のお詫びにと同乗を誘えば、女は躊躇いながらもそれに乗った。
 帰路にも陽はどんどん暮れる。女が車を停めて降り、別れを告げるちょうどその時、点灯夫が車の横をすり抜けて、ガス灯の火が灯された。ほっと灯る火の暗さが、点々と連なっていく。女はそれをちらと見上げて、冬は日が暮れるのが早くって嫌ですね、と呟く。
 女とは、たかが数刻話した程度。なんでもない話をしていたので、その素性は当然聞いてもいない。近くに住んでいるようではあるから、もしかするとこの先も市電で乗り合わせることもあるかもしれないが、この東京ではその可能性も限りなく低いだろう。
 昼間見た女のあの一瞬を思い返す。光を受けた女の美しいひととき。その類稀なさ名残惜しさに、動き出す車から背後を振り返ると、女はガス灯の下に佇んでいて、その姿はただ暗く映るのみであった。私が振り返るのに気づいたわけはないと思うのに、女の腕が挙げられて、落ちた袖からその細さが暗がりに浮き上がる。今度は浮世絵のようなその情景に、私はソフトを挙げて、ただ、別れを告げるのだ。
もっちりデミタスさんのアドベントカレンダー(2023)寄稿です https://adventar.org/calendars/8560
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natsucrow820 · 7 months
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酩酊夜
 酷く酔った日のことである。
 日毎積もる鬱憤を晴らさんと外した箍が思った以上に理性を守っていたのだと知ったのは、脳がアルコールにすっかり浸されて、どろりと溶けた頃だった。縺れる足で勘定を終えた居酒屋から出ると、冬の始まりの肌寒い風が、ほんの少しだけ酔いを拭っていった。
 これ以上は、帰れなくなる。
 ほんやりと、一抹の理性がそう言った。ふらふらと、頼りない足取りで飲み屋街を出る為に歩を進めていく。小さな裏通りにひしめくスナックや居酒屋には色とりどりの照明が灯され、酒精にぼやけた視界には幻想的にさえ見える。響く喧噪も何処か遠く、自身が如何に酔っているかを否応なしに自覚させられた。
 ふらつく足で、裏通りを歩く。吐き出す呼気も酒臭い。明日は二日酔いだろう。苦く思う。自業自得なのだから、仕方がないが。
 そんな時にふ、と。
 視界の端に白が閃いて、思わず足を止めた。
 何故だか酷く惹かれて振り返る。
 色の混じり合った帳の中真っ白なスカートをひらりと揺らして、一人の女が歩いていた。アルコールに滲む視界では細かな姿形は捉えられない。ただ、何にも染まらない白だけが、目を止めていた。
 誰だろう。何とはなしに考える。分かる筈もない。記憶の中に、思い当たる女性はいない。その筈なのに、鈍った脳は無意味に回転する。そうすれば、過去の切れ端くらいにはあの白がいた気がして、却って分からなくなった。
 呆けたように佇む。
 灯りの中、躍る白。
 清廉な、潔癖な色。
 こんな世俗に満ちた場所には似つかわしくないと思う。
 また、冷えた風が吹いた。
 思わず目を閉じ、開く。
 白は消えていた。
 先程まで、何処の店に入る素振りもなく道の真ん中を悠々と歩んでいた筈なのに。それなのに名残もなく、掻き消えていた。
 酒精の見せた、幻覚だったのだろうか。
 びゅう、と吹く風は裏通りの出口から吹き込んでいた。
 もう帰ろう。
 醒めつつある脳が呟く。タクシーを捕まえる為に裏通りに背を向け、歩き出す。
 酷く酔った日のことであった。
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mayoi890518 · 1 year
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綺麗って怖い
綺麗って怖い。真っ白なものってとても怖い。
穢れを知らない純真なものが怖い。潔白が怖い。
淡々と、淡々と、淡々と。
振りかざされる正義が怖い。
純粋なものが怖い。怖い。怖い。
この世は怖いものだらけ。綺麗な物に囲まれて。
その息苦しさを踏み潰して。
この汚れた感情を、このまま何も纏わない汚らわしい物を、誰にも支配されない物を。
このまま遠くへ、遠く離れた場所へ。
それでも色濃く残り続ける穢れを置いていこう。
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minim92 · 1 year
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結構前に書いておいた推理短編です、、小説は少し書きためがあるのですが、、公開を出し惜しみしてしまう癖で、あまりアップしなかったです、、ですが、、記念的に少しずつ時間を置いてアップしようかなと思います
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秘かに未練を抱え続けている元夫婦の再会から始まる濃厚ラブストーリー。
📕別れた相手とよりを戻すまでのこと(BLIC-Novels)📕
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🩷離婚した二人の弁護士が関わったものは、複雑に絡まり合った愛を解くことだった🩷 佳乃(かの)は弁護士。大学時代の同窓で事務所のボスである高崎からいつも仕事を押しつけられている。そのせいで忙しい毎日を送っていたある日無理矢理押しつけられた仕事は、六年前に別れた元夫・風間が関わっている案件だった。 いやいやながらも別れた夫と再会し、かつて一緒に暮らしていた部屋で聞かされたのはSMのパートナー同士で交わす秘密保持契約。まったく理解できない「案件」だけにどうしたものかと頭を悩ませるが依頼人を取り囲む女性たちと関わるうちに彼女たちが抱える哀しみに佳乃は気づきはじめる。同時に契約結婚から始まった三年にわたる結婚を振り返るようになっていった。
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reijimix · 1 year
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梅雨空に浮かぶ雲の隙間から 雨に濡れた街並みが見える
逆さまの街を見上げていた猫は 陽だまりの中でゆるやかに前足を畳んで丸くなった
雲の隙間では 逆さまの傘が水たまりを遮って 雲からの粒を受け流していた
逆さまの歩道に咲く紫陽花は一雨ごとに色を変えていた
一機の紙飛行機が空を行き来して 逆さまの街から 陽だまりの中に落ち パタリと倒れて猫の隣に並んだ
雲の隙間に女性がいて 砂時計のように見下ろしていた
逆さまのカフェには 口々に歌うピエロのクッキーが並び 通行人たちを揶揄するように合唱をしていた
傘を差したまま空を見上げる子どもらは虹を待っているのだろうが 見えているのは 陽だまりの猫と紙飛行機だった
それから逆さまの雨が止み 逆さまの街は幻想的な色合いに包まれた
街灯は上空で静かな夜を迎える準備を始めた
地上では 陽だまりの猫が自分の影に入り 静かな眠りを陽だまりの中へ分け与え始める
『陽だまりの猫』
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travelfish0112 · 1 year
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All day
昼間は暑いけど、夕方からは涼しくなるこの時期が好き。シャツ一枚羽織ればちょうど良くて、梅雨前だから湿っぽくもなく、あの汗ばむ暑さもまだ先。
私は伸びた髪を手櫛で梳いて、今年こそは髪を切ろう、と小さく誓う。やっぱり長いと首元があまりにも暑い。
そんなことを考えながら、私は海を見ていた。目の前の太平洋は、私の1.0の視力では地平線まで何も見えなくて、だからこそこのままずっと進んでいくと果ての世界があると考えた昔の人の気持ちも少しは理解できる。
特にやることがない時は、気づくとこの海岸まで車を走らせてしまう。
小石で出来ているこの海岸は、遊泳禁止のお陰かほとんど人が居ない。朝はぽつぽつと釣り人がいるが、夕方はあまり見かけない。
型落ちのSUVをガタガタ言わせながら海岸まで乗り入れて、海に対して平行に車を止める。そして海岸側にある助手席に周り、ドアを開けて海を見るために横向きに座る。
���ッシュボードを開けて、中からセッターを出して火をつける。喫んで、ゆっくりと煙を吐いた。上る煙は風で流れていく。
この前、斉藤 海人の3回忌だった。
私の恋人だった。
海人と出会ったのは確か5年前。あの時の私は仕事も上手くいかず、趣味も無いから発散出来ることもなかった。そして限界に達した私は仕事を辞めた。
そんな時、私は近所の中古車屋で80万で売られてた型落ちのフォレスターを衝動的に購入した。趣味も無く、大して交友関係もなかった私は、当時の同世代の人たちと比べると貯金残高はとても多い方だったと思う。でも、何も目標が無いのに貯めているのが突然馬鹿らしくなったから起こした衝動的な行動だった。
ペーパードライバーだった私は初心者マークを付けて、Googleマップで見つけた行ってみたいところにとりあえず車を走らせる、みたいなそんな事をして毎日を過ごしていた。
ある日、私はこの海岸に初めて車を走らせた。初めてきたその時から、人があまり居ないこの海岸が好きになった。景色も、雰囲気も。
1時間くらいぼーっとして帰ろうとした時、海岸の入り口でバイクに跨って何度も何度も蹴っている人が居た。
「大丈夫ですか?」
いつもは声をかけないのに、何故かその日は声を掛けた。
「いや、なんか調子悪くて……。エンジン掛からなくなっちゃいました」
そう困ったように笑いながら返した彼が海人だった。
そのバイクは、全く詳しくない私が見ても明らかに古いと分かった。正直、この場で直すのは難しいような気がした。
「何処まで帰るんですか? よかったらとりあえず送っていきますよ」
そんな言葉を私は口走っていた。正直、今でもなんであんなことを言ったのか分からない。彼も少し驚いた顔をして、少し迷ったような顔をした後、地名を言った。そこは、私が住んでいるところからもあまり離れていない場所だった。
「そこなら本当送りますよ。私の家からも15分くらいなので」
恐縮する彼を押し切って、私は彼を車に乗せた。バイクは一旦、海岸の入り口に留め置いた。軽トラを持っている友人に連絡をしたら、一緒に取りに行ってくれる算段をつけられたらしい。
こうして私は、車に初めて乗せた人が海人になった。
車で何を話したか、正直覚えていない。きっと本当に他愛もない雑談をしていたら、もう彼の家に着いた。
それからも私は時折車を海岸に走らせた。暫くしてまた就職してからも、やる事がない休みの日は海岸にいた。
海人も直した原付に乗ってたまに海岸で釣りをしていて(彼曰くここは釣れないけど人が居ないからここで釣りをしているらしい)、会ったら少しずつ話すようになった。そして、彼とは海岸でたまに会う関係から休みに会う約束をするような仲になり、気づけば海人がいない生活を考えられないくらい、お互いの生活にとってお互いが大切な存在になっていた。
付き合い始めてからは海岸待ち合わせでは無く、海人は私の家に原付で乗り付けてきて、私の車に乗り換えて一緒に海に向かった。そして海に着くと、何をするわけでも無く、たまに話して、たまに微睡んで、たまにくっつき合い、ただ海を眺めていた。
海人は海岸に着くと車を降り、後部座席のドアに持たれてセッターを吸った。いつも自分の胸ポケットに入れていて、そして忘れた時用にとダッシュボードの中にも一箱置いていった。
私は煙草を吸っていなかったけど、この海岸に流れるあの煙の匂いは嫌いじゃなかった。
そんな彼が居なくなったのは2年前。
あの時期、私は再就職した会社で新規事業の立ち上げメンバーに選ばれ、その仕事の佳境だった。一番忙しい時は休日返上で働き、平日も早朝から深夜まで働いていた。少ない休みも、気づいたらすぐに過ぎ去っていた。
小さい飲食店を友人と経営していた海人は、私の休みに自分の休みも合わせてくれた。ただあの日は海人だけが休みの日だった。晴れて気温も高かったけど、風が強かった。
あの海岸で小学生が3人遊んでいたらしい。ただあそこは遊泳禁止だ。海岸は小石で出来ているし、水深もすぐ深くなり、何よりも潮が速い。そんな場所であの日は南風のせいで波も高かった。
海で遊んでいた3人のうち1人が足を滑らせて溺れかけていたのが見えたらしい。波を被り、見えなくなる。
そこで咄嗟に海人は海に突っ込んだ。そして海に沈む彼の掴み、陸に向かって引っ張った。その瞬間、波を被り、溺れた子はその波に押されて陸に打ち上がった。
でも海人はそのまま飲まれた。
他の小学生が近くの家に助けを求めたお陰ですぐに海人の捜索は始まった。でも、見つからなかった。帰ってこなかった。
あの古い原付だけ、海岸に留め置かれていた。
そんなこの海岸が、私は少し憎かった。それでも私はここに通ってしまう。
海人にまた会いたい。でも、私は自分で海に入っていく勇気は無い。
だから私は今日もセッターに火を付ける。せめて、少しでも思い出せる様に。そして、願わくば、少しでも私の寿命が短くなります様に。
吐いた煙は変わらず、海風に流された。
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qualiareedauthor · 1 year
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死んだ恋人と再会するために、アンドロイドは「カリオパ・ドア」と呼ばれる神話上の装置を銀河中に探し求める。それは彼女が求めるハッピーエンドへの鍵なのか、それとも彼女自身を破滅させる道具なのか?
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reitomorisaki · 7 months
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『月の彼女』動画版
初出:2013.6月 / webサイト(※別名義にて発表)
備考:10年前の短編(AIによる補助は無し)です。簡単なテキストアニメーションにしておいたことで、ファイルが行方不明にならずに残っていましたので、アーカイブとして収載しています。
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asoufuyu · 1 year
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 三角帽子を引っこ抜き、床に投げて舌打ちを一つして、クラフト氏は起床した。
 ペットのクラゲが百本足で水槽から捩り出て、寄ってくる。
「やあやあ。パイをたらふく頂いたよ。」
「そろそろドレスを変えたらどうかね。」
 クラゲの服は嘗てオウロラ色をしていたが、今は生活に疲れて茸のかさのようだった。
 クラフト氏は左手をつきながらゆっくり立ち上がり、窓際の自動演奏グリインのもとへ寄る。
「あまりご機嫌ではないな。雨をやろう。」
 天井からぶら下がった硝子の鎖を引っ張る。雨は小雨だった。
 部屋中が湿気を帯びて、クラゲのドレスより綺麗な茸がぬくぬくと生えてきた。青色と蛍光緑のものが多いようだった。
 クラフト氏はこれも床に投げ捨ててあったバスローブを羽織り、小雨の寝室を出た。クラゲも隙なく、後をついてきた。
 台所に行くと、クラゲの言った通りパイは平らげられていた。仕方ないので、朝食は��れた時計にバターを乗せて温めたものにすることにした。
「これはね…なんだかお堅い味なんだな。」
「時間というのはそういうものさ。」
 クラゲが相槌を打った。
 空に上る仕事の時間が迫っていた。クラフト氏はシャワーを省略し(小雨も浴びたことだし。)、綿の部屋へ移動した。
 綿たちは今朝ももわりと盛んに動き回っていた。クラフト氏は目を凝らして端っこをなんとか捕まえ、急いで足先から耳元まで巻きつけ、最後はマッチでもう一方の端を燃やして切った。
 これで慌ただしい朝が終わる。
 クラフト氏は七時きっかりに宙に浮かび始め、空へと上っていった。
 クラゲはしめしめと隠しておいたおやつを食べることにした。すると朝だというのに雷が家に落ち、クラゲは死んでしまった。
 空は晴れている。万事順調な朝である。
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