Custom order furniture
プレイマウンテンのオリジナル家具について改めてお話ししたいと思います。
私たち〈Landscape Products〉の家具の多くは受注生産です。
つまりストックの用意はなく、1点1点をオーダー毎に製作します。
そのため、ご購入後すぐにお渡しということは難しく、製作期間として約6~10週間程度のお時間をいただきます。
お待ちいただくことについては心苦しいのですが、この方法は特注オーダーに対応しやすい という利点があります。
家具を購入する上で最も大事なことはサイズです。いくらデザインが好みでも、サイズが大きすぎたり小さすぎたりすると不便さを感じるケースがあると思います。
そういった問題を出来るだけ解消できるように、プレイマウンテンではお客様の希望に沿った家具の提案・制作をおこないます。
サイズはもちろんのこと、素材や色、形状などを用途に合わせて制作いたします。
例えばこのダイニングテーブル。
無垢の天板とスチールの脚が直線のみで構成されているシンプルなデザインが特徴のロングセラーな定番家具です。
基本のサイズはw1500xd800xh700(mm)。
大人4人がゆったりと使えるサイズに設定しています。
いくつか選べる天板の中で最も人気の種類はナラの節あり無垢材。
北海道の工場で材料を加工しています。
ここ数年のコロナ禍において、自宅で作業をしたりパーソナルなスペースを設ける方が増えたように感じています。
これまでダイニングテーブルとしての用途がほとんどだったこの家具を、デスクとして扱いやすい形状にアレンジして欲しい。 という声も多くいただきます。
そこで、プレイマウンテンの店内でご覧いただけるよう、ディスプレイ家具としてデスクタイプのテーブルを制作しました!
Photo: Reiko Toyama
Styling: Fumiko Sakuhara
サイズはw1200xd600xh720(mm)にリサイズし、天面には*マーモリウム材を起用。
脚色は天板の色味にあわせてブラックからオフホワイトに変更しました。
その結果、プライベートなスペースにフィットする収まりのいい印象のテーブルになりました。
*マーモリウム材
床材として使用されることが多い建材。私たちは家具にはもちろん、プロダクトの素材としても活用しています。
デザイナーのAlvar Aaltoが好んで使った素材としても有名です。テーブルやスツールのトップにリノリウムが使用されている家具をご存じの方は多いかもしれません。
マーモリウムもその1種です。
マーモリウム材についてはこちらの投稿もご覧ください。
現在、店頭では上記にあるデスクタイプのTights Tableを実際にご覧いただけます。
もちろん、このデザイン以外にも多くの選択肢がありますので、お客さまとお話しながら希望に沿った家具の提案をいたします。
店内には素材や仕様の選択肢をよりわかりやすくお伝えするためのサンプルも豊富に取り揃えています。
お気軽にご相談ください。
ご自身の選択を形にしてゆくプロセスは特別感があって、楽しい時間です。
オーダーしたあとの家具が届くまでのワクワク感も含めてインテリアをたのしんでもらえれば嬉しく思います。
今中義貴
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2023年03月27日月曜日笠原裕介はこんなことをしていました
7:10~:20 笠原裕介は...食事飲食をしました(白御飯一杯盛膳、大根味噌汁、ほうれん草のお浸し)
飲食後に茶碗や汁椀や箸をソフトスポンジで洗った、飲食後にサワイ製薬リスペリドンOD錠3mg飲んだ服薬した
7:20~:28 笠原裕介は...8分間歯磨きした
9:54~:58 笠原裕介は...北側トイレ室でお尻拭き紙3切1枚5組で排せつ大便の用をした。本日はいっぱいうんち
9:59~10:00 笠原裕介は...洗面台で手洗いすすぎ、フェイスタオルで手の拭き取りした
10:15~11:33 笠原裕介は...2週間で僕が使うトイレットペーパー、お尻拭き紙の3切1枚44組のために44組をちぎり取り折り畳んだ、
スキンケア・その他2切1枚54組のために49組をちぎり取り折り畳んだ、鼻ほじり用1切1枚12組のために7組をちぎり取り折り畳んだ。
浄化槽フタ取っ手拭き取り用の為に、2切1枚100組をちぎり取り折り畳んだ。
作業前に1切1枚のトイレットペーパーで鼻ほじりをした。芯がないトイレットペーパーやわらかコアノンロール使用。
13:58~14:12 笠原裕介は...母上が先週土曜日に利用し、2枚天日干し乾燥の床掃除用雑巾2枚を家屋内脱衣所置きのバスケットの上に積み、
1枚の床掃除用雑巾を浴室でマツキヨ7.5Litreポリバケツに1Litreの水を浸けてすすぎ洗い絞りして、品名:住宅・家具用合成洗剤
花王かんたんマイペット(R)を使い、上がり框畳の部屋の畳4.5帖や仏前部屋の畳1帖1枚の都合6枚をトリガー10プッシュ
で拭き取り5回して、タオルの使った汚れ色垢は浴室で2度すすぎ洗いして、次に正面玄関の無線機器の呼出しベルパネルスイッチ
や郵便ポスト1コの全面、上がり框の木面を拭き上げ、使ったタオルを浴室で2度すすぎ洗いして、テラス下位に留めて天日干し乾燥
14:13~:17 笠原裕介は...天日干し乾燥の洗濯ものを家屋内に取り込み、陰干しや取り込みした足拭き置きマットを敷き詰めたりしました
17:17~:23 笠原裕介は...浴室浴槽掃除(CAINZお風呂ブーツ,スコッチブライトtmバスシャインtm,ライオンバスルック7trigger,すすぎ水3gallon)
浴室ふろいす1コを水抜き台座や台座裏側面や脚下を右手でスポンジで洗い流し,サッシカバー1枚を右手でスポンジでカバーと床洗い流し、バスタブユニットを洗い流しした,使ったバスシャインtmスポンジ1コは固定シャンプー棚で洗面器に水を張りゆすぎ洗いをして洗ったスポンジをタオルバーに挟み後片付けをした
19:08~:25 笠原裕介は...バスタイム入浴した(紳士ユニクロタータンチェックパンツ、ハーフ丈セットアップ、スウェットロングパンツとスウェットプルファスナーハイネック、
紳士とうがらし厚地ゆったり靴下) 19:26~:30 笠原裕介は...居室でクリーム、ヘアトニック、綿棒耳ほじり
19:40~:50 笠原裕介は...食事飲食をしました(両手鍋のアカオアルミで煮込んだ釜揚げうどんを590Gramとかに風味かまぼこや長ねぎ刻みを薬味に
おしょうゆソースでお箸でいただいた、カットフルーツ赤りんご、ほうじ茶250ml飲用)飲食後に汁椀食器や配色ぶどう小鉢皿や箸をスポンジで洗った
飲食後にダイニングテーブル上に深型丸形配色ぶどうエナメル素材皿に3コの残り赤りんごをNewポリラップで封ししました
飲食後にサワイ製薬リスペリドンOD錠3mg飲んだ服薬した
19:51~:59 笠原裕介は...8分間歯磨きした
20:12~:13 笠原裕介は...居室で布団に仰向けになり、ロート養潤水Aを両目に1滴ずつ点眼した
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月曜日は無重力 Latimeria.
うつくしいもの。夢中のうちにすぎた夜のおわり、あかるみかけた東の空の低いところに転がっているルシフェル、たった4種類の塩基構造のくりかえしが奇妙にねじくれながら連続してつくりあげるDNAのらせん、洗いさらしの清潔なリネンと肌触りのよいやわらかいタオル、黄身がふたつ入った卵、かたちを保ったまま冬虫夏草の苗床になった昆虫、クレバスの深い溝からのぞく氷のおそろしいまでの透明さ! 寝起きの不機嫌さをまるで隠すこともなしに眉根をよせて新聞に目を通しているレミー・プグーナ。
「おはよ、レミー。よく眠れた?」
「んー、おはよう」
「コーヒー飲む?」
「んー……、ん?」
「ダッサイ寝癖、直して出なよ?」
ぱたぱたと足音が鳴るのはスリッパの底材が薄すぎるせいだ。以前に気に入って履いていた、ふわふわもこもこの白いウサギのスリッパのときにはこんな音はしなかった。しかし、足音のするといってもたかが知れたもの、なにせルチア・フェックスときたら同年代の女性にくらべはるかに小柄で、朒從のよいとはいえない薄いからだに、目方の大きいはずもない。ともすれば同じ年ごろの、少年にも劣るであろう痩身は、けして不健康や、発育の不十分のために引き起こされたものではない。たしかに、職務上で過酷な条件にあってほとんど休みのとれない日もあるし、そうでなくとも、知的好奇心と、ありあまる叡智への渇望が、睡眠という名の休息をしばしば奪ったのは事実であった。
少女らしいふるまいをルチアが放棄したのはもうずいぶん前のことになる。着飾るだけがらしさでないことは自明の理であるとは雖も、分かりやすく型に嵌められ高度に記号化されたものに、安堵をおぼえる人間がいることは理解できる。少女らしさ、子どもらしさ、右腕の時計は左利き、数秒ごとに切り替えられる広告のなかの女はしなやかな豹のような四肢を惜しげもなく晒してセックスアピール、街に日が落ちて夜がはじまっても変わらずにどこかに蠢いているひそひそ声、それから善悪。
この世界にはふたつの人間しかいない。バーニッシュか、そうでないか。性別や、肌の色、信仰のちがい、言語、いったい何をかや? 煩雑なものは多くあったが、はたしてそれらがどれほどの役に立ったというのだろう。背信者はどこにでもおり、無線機のむこう、傍受した暗号文、耳をそばだてて聞いた雑踏のノイズにまぎれた愛のことばほど不誠実なものもほかにない。汝はバーニッシュなりや? これほど無意味な問いがあっただろうか、正体を暴いたところで何かが変わるわけでもないのに。ほかの二値化できない属性よりは確かであるというだけの指標。ひとが終末の獸でないように、死人が饒舌に語ることがないように、覆らないと定められたつまらないものだ。ルチア・フェックスは科学者である。思考の飛躍にはしばしばからだは重たい枷となり、場合によれば人格すらも。ありとあらゆる主観を排除するには、みずからの外殻、朒の鎧、どうしたって座標から逃れられないそれらから、幽体離脱でもするほかにないが、俯瞰の構図もまた、視点の変換が行われただけの主観にすぎないので、あった。可能性、想像! ひとのうちに閃いて、明瞭な輪郭をもったものはすでに、手垢のついたなにものかなのだ。
「レミー」
「うん」
「コーヒー」
「タバスコ2滴でいい?」
「うん」
未だかつてこんなにも実態のない生返事があっただろうか、むろん彼の分のコーヒーにタバスコをいれるつもりなど毛頭ないけれど、リビングルームのソファで微睡みと目醒めのあいだを揺蕩っているレミー・プグーナに対する愛情についてを語ることばはどこにもない。彼は同僚である。それ以上でも以下でもないが、この家には彼と彼女の暮らしがあった。誰もが羨むようなていねいな暮らしにはほど遠い、激務のゆえにろくろく帰ることもままならない家が、それでも荒れきらないのは、かえってひとの帰らないゆえに停滞し、なにひとつ更新されない、深海のごとくに取り残されているからかもしれなかった。では彼はシーラカンスかしら、彼女は? しんしんと降り積もるのははるか天空にも思える水面でしんだかつての天使たちの死骸だ。冷えきり、もはやあらゆる熱量の励起をうけることもない水底では、朽ち果てることもなければ、魂を売りたくとも悪魔でさえ訪いがない。
彼と暮らすことになった理由は特にないように思う。放っておけばプログラムや対火装備の開発に寝食わすれてとりくみ、どうしようもなく集中を欠いたりモニタの文字を追いかけるのが覚束なくなれば机のしたに毛布と段ボールをもちこんで路地裏のうすよごれた野良猫のようにまるまってねむり、偏食こそないものの、見たままに食のほそいルチアのようすを見るに見かねて、というほどレミーは面倒見が良いとは言えなかったし、実際のところ、ワーカ・ホリックなのはどちらも似たようなものだった。彼は徹底的な合理主義だ。ときに冷徹に思えるほどの諦観と、割り切った物言いをするけれど、だれの心にも焔はあり、熱はある! 光のほとんど差さない深海で生き延びてきた古代種のシーラカンスにだって。生きている化石? その通りだとも。火消し馬鹿を自他ともに認めるガロ・ティモスだけが、古式ゆかしい正義にたぎり、やれ祭りだと喧騒をたのしんでいるわけでは、なかろう、間違いに極まって、いる、みえているものがすべてだなどとは。
対外的に、ふたり暮らしにそれらしい理由をつけることはできた。どうせほとんど帰らないのだから別々に家を借りるのも勿体無いとか、前述のとおりルチアの生活の有様がひどすぎるだとか、レミーにとっては煩わしいだけの���人の斡旋だとか。危険と隣り合わせのバーニングレスキューの職務のさなかにあって、スクリーンのなかにしかないようなおだやかな暮らしに憧れがないとは言わない。そういった日常が、団欒が、彼ら、日々をすり減らしながら生きる隊員たちの慰めになり、また、かならず戻ろうという気概をもたせるのは確かで、あり、実際バリス・トラスには待つひとがあった。多くを語る時間はいらなかった。肩を寄せ、指を絡め、頬にふれて、ひみつを夜に交わしあう。それだけでよかった。
そういった安寧は、レミーにもまた、あって然るべきだし、彼もはじめは望んでいたように思う。けれど女たちはレミーを理解できず、愛されたふりをするにも耐えられず去ってゆくのだ。うつくしく聡明な男、親切で、やさしく、女の髪や、服や、化粧のわずかなちがいに気づいて褒め、頭を撫で、くちづけはあまくセックスはていねいで、かならずしもハイ・ブランドではないが、いつだって清潔な服を着て髭を剃り髪を整えている。そんな男はどこにもいない。幻想を重ねるならいつまでも夢見心地でいるほかにないが、微睡みはそう長く続かないのだ。
さきに音をあげたのはレミーだった。かわいそうに! ため息は重たく、折り重なってたおれ、溺死するのを待つばかり。色素の薄いレミーの髪をみる。すこしよれた襟のかたちをみる。文字通りの筋骨隆々としたバリスや、イグニス、新参のガロでさえも蓄えた肩のひろさや胸の厚みをレミーはもたない。しかし、いくら痩せぎすと言ったって、けして女のそれではない身体は、数日とあけずに、ルチアが日々整備と開発に勤しんでいる、旧式と揶揄された装備のいちまいのみをまとって焔のなかへ躍ってゆくことだろう。彼がルチアにとって男の機能をはたしたり、彼女を女として振る舞わせることは一度だってなかったし、これからもないと確信をもって言える。だって、くたくたにくたびれたセーフティ・ブランケットや、抱きしめすぎて毛並みのはげかけたお気に入りのテディ・ベア、手垢にまみれた月並みなことばたち……、あなたのことなんてこれっぽっちも知りたくない。
*****
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11180143
愛読者が、死んだ。
いや、本当に死んだのかどうかは分からない。が、死んだ、と思うしか、ないのだろう。
そもそも私が小説で脚光を浴びたきっかけは、ある男のルポルタージュを書いたからだった。数多の取材を全て断っていた彼は、なぜか私にだけは心を開いて、全てを話してくれた。だからこそ書けた、そして注目された。
彼は、モラルの欠落した人間だった。善と悪を、その概念から全て捨て去ってしまっていた。人が良いと思うことも、不快に思うことも、彼は理解が出来ず、ただ彼の中のルールを元に生きている、パーソナリティ障害の一種だろうと私は初めて彼に会った時に直感した。
彼は、胸に大きな穴を抱えて、生きていた。無論、それは本当に穴が空いていたわけではないが、彼にとっては本当に穴が空いていて、穴の向こうから人が行き交う景色が見え、空虚、虚無を抱いて生きていた。不思議だ。幻覚、にしては突拍子が無さすぎる。幼い頃にスコンと空いたその穴は成長するごとに広がっていき、穴を埋める為、彼は試行し、画策した。
私が初めて彼に会ったのは、まだ裁判が始まる前のことだった。弁護士すらも遠ざけている、という彼に、私はただ、簡単な挨拶と自己紹介と、そして、「理解しない人間に理解させるため、言葉を紡ぎませんか。」と書き添えて、名刺と共に送付した。
その頃の私は書き殴った小説未満をコンテストに送り付けては、音沙汰のない携帯を握り締め、虚無感溢れる日々をなんとか食い繋いでいた。いわゆる底辺、だ。夢もなく、希望もなく、ただ、人並みの能がこれしかない、と、藁よりも脆い小説に、私は縋っていた。
そんな追い込まれた状況で手を伸ばした先が、極刑は免れないだろう男だったのは、今考えてもなぜなのか、よくわからない。ただ、他の囚人に興味があったわけでもなく、ルポルタージュが書きたかったわけでもなく、ただ、話したい。そう思った。
夏の暑い日のことだった。私の家に届いた茶封筒の中には白無地の紙が一枚入っており、筆圧の無い薄い鉛筆の字で「8月24日に、お待ちしています。」と、ただ一文だけが書き記されていた。
こちらから申し込むのに囚人側から日付を指定してくるなんて、風変わりな男だ。と、私は概要程度しか知らない彼の事件について、一通り知っておこうとパソコンを開いた。
『事件の被疑者、高山一途の家は貧しく、母親は風俗で日銭を稼ぎ、父親は勤めていた会社でトラブルを起こしクビになってからずっと、家で酒を飲んでは暴れる日々だった。怒鳴り声、金切声、過去に高山一家の近所に住んでいた住人は、幾度となく喧嘩の声を聞いていたという。高山は友人のない青春時代を送り、高校を卒業し就職した会社でも活躍することは出来ず、社会から孤立しその精神を捻じ曲げていった。高山は己の不出来を己以外の全てのせいだと責任転嫁し、世間を憎み、全てを恨み、そして凶行に至った。
被害者Aは20xx年8月24日午後11時過ぎ、高山の自宅において後頭部をバールで殴打され殺害。その後、高山により身体をバラバラに解体された後ミンチ状に叩き潰された。発見された段階では、人間だったものとは到底思えず修復不可能なほどだったという。
きっかけは近隣住民からの異臭がするという通報だった。高山は殺害から2週間後、Aさんだった腐肉と室内で戯れている所を発見、逮捕に至る。現場はひどい有り様で、近隣住民の中には体調を崩し救急搬送される者もいた。身体に、腐肉とそこから滲み出る汁を塗りたくっていた高山は抵抗することもなく素直に同行し、Aさん殺害及び死体損壊等の罪を認めた。初公判は※月※日予定。』
いくつも情報を拾っていく中で、私は唐突に、彼の名前の意味について気が付き、二の腕にぞわりと鳥肌が立った。
一途。イット。それ。
あぁ、彼は、ずっと忌み嫌われ、居場所もなくただ産み落とされたという理由で必死に生きてきたんだと、何も知らない私ですら胸が締め付けられる思いがした。私は頭に入れた情報から憶測を全て消し、残った彼の人生のカケラを持って、刑務所へと赴いた。
「こんにちは。」
「こんにちは。」
「失礼します。」
「どうぞ。」
手錠と腰縄を付けて出てきた青年は、私と大して歳の変わらない、人畜無害、悪く言えば何の印象にも残らない、黒髪と、黒曜石のような真っ黒な瞳の持ち主だった。奥深い、どこまでも底のない瞳をつい値踏みするように見てしまって、慌てて促されるままパイプ椅子へと腰掛けた。彼は開口一番、私の書いている小説のことを聞いた。
「何か一つ、話してくれませんか。」
「え、あ、はい、どんな話がお好きですか。」
「貴方が一番好きな話を。」
「分かりました。では、...世界から言葉が消えたなら。」
私の一番気に入っている話、それは、10万字話すと死んでしまう奇病にかかった、愛し合う二人の話。彼は朗読などしたこともない、世に出てすらいない私の拙い小説を、目を細めて静かに聞いていた。最後まで一度も口を挟むことなく聞いているから、読み上げる私も自然と力が入ってしまう。読み終え、余韻と共に顔を上げると、彼はほろほろ、と、目から雫を溢していた。人が泣く姿を、こんなにまじまじと見たのは初めてだった。
「だ、大丈夫ですか、」
「えぇ。ありがとうございます。」
「あの、すみません、どうして私と、会っていただけることになったんでしょうか。」
ふるふる、と犬のように首を振った彼はにこり、と機械的にはにかんで、机に手を置き私を見つめた。かしゃり、と決して軽くない鉄の音が、無機質な部屋に響く。
「僕に大してアクションを起こしてくる人達は皆、同情や好奇心、粗探しと金儲けの匂いがしました。送られてくる手紙は全て下手に出ているようで、僕を品定めするように舐め回してくる文章ばかり。」
「...それは、お察しします。」
「でも、貴方の手紙には、「理解しない人間に理解させるため、言葉を紡ぎませんか。」と書かれていた。面白いな、って思いませんか。」
「何故?」
「だって、貴方、「理解させる」って、僕と同じ目線に立って、物を言ってるでしょう。」
「.........意識、していませんでした。私はただ、憶測が嫌いで、貴方のことを理解したいと、そう思っただけです。」
「また、来てくれますか。」
「勿論。貴方のことを、少しずつでいいので、教えてくれますか。」
「一つ、条件があります。」
「何でしょう。」
「もし本にするなら、僕の言葉じゃなく、貴方の言葉で書いて欲しい。」
そして私は、彼の元へ通うことになった。話を聞けば聞くほど、彼の気持ちが痛いほど分かって、いや、分かっていたのかどうかは分からない。共鳴していただけかもしれない、同情心もあったかもしれない、でも私はただただあくる日も、そのあくる日も、私の言葉で彼を表し続けた。私の記した言葉を聞いて、楽しそうに微笑む彼は、私の言葉を最後まで一度も訂正しなかった。
「貴方はどう思う?僕の、したことについて。」
「...私なら、諦めてしまって、きっと得物を手に取って終わってしまうと思います。最後の最後まで、私が満たされることよりも、世間を気にしてしまう。不幸だと己を憐れんで、見えている答えからは目を背けて、後悔し続けて死ぬことは、きっと貴方の目から見れば不思議に映る、と思います。」
「理性的だけど、道徳的な答えではないね。普通はきっと、「己を満たす為に人を殺すのは躊躇う」って、そう答えるんじゃないかな。」
「でも、乾き続ける己のままで生きることは耐え難い苦痛だった時、己を満たす選択をしたことを、誰が責められるんでしょうか。」
「...貴方に、もう少し早く、出逢いたかった。」
ぽつり、零された言葉と、アクリル板越しに翳された掌。温度が重なることはない。触れ合って、痛みを分かち合うこともない。来園者の真似をする猿のように、彼の手に私の手を合わせて、ただ、じっとその目を見つめた。相変わらず何の感情もない目は、いつもより少しだけ暖かいような、そんな気がした。
彼も、私も、孤独だったのだと、その時初めて気が付いた。世間から隔離され、もしくは自ら距離を置き、人間が信じられず、理解不能な数億もの生き物に囲まれて秩序を保ちながら日々歩かされることに抗えず、翻弄され。きっと彼の胸に空いていた穴は、彼が被害者を殺害し、埋めようと必死に肉塊を塗りたくっていた穴は、彼以外の人間が、もしくは彼が、無意識のうちに彼から抉り取っていった、彼そのものだったのだろう。理解した瞬間止まらなくなった涙を、彼は拭えない。そうだった、最初に私の話で涙した彼の頬を撫でることだって、私には出来なかった。私と彼は、分かり合えたはずなのに、分かり合えない。私の言葉で作り上げた彼は、世間が言う狂人でも可哀想な子でもない、ただ一人の、人間だった。
その数日後、彼が獄中で首を吊ったという報道が流れた時、何となく、そうなるような気がしていて、それでも私は、彼が味わったような、胸に穴が開くような喪失感を抱いた。彼はただ、理解されたかっただけだ。理解のない人間の言葉が、行動が、彼の歩く道を少しずつ曲げていった。
私は書き溜めていた彼の全てを、一冊の本にした。本のタイトルは、「今日も、皮肉なほど空は青い。」。逮捕された彼が手錠をかけられた時、部屋のカーテンの隙間から空が見えた、と言っていた。ぴっちり閉じていたはずなのに、その時だけひらりと翻った暗赤色のカーテンの間から顔を覗かせた青は、目に刺さって痛いほど、青かった、と。
出版社は皆、猟奇的殺人犯のノンフィクションを出版したい、と食い付いた。帯に著名人の寒気がする言葉も書かれた。私の名前も大々的に張り出され、重版が決定し、至る所で賛否両論が巻き起こった。被害者の遺族は怒りを露わにし、会見で私と、彼に対しての呪詛をぶちまけた。
インタビュー、取材、関わってくる人間の全てを私は拒否して、来る日も来る日も、読者から届く手紙、メール、SNS上に散乱する、本の感想を読み漁り続けた。
そこに、私の望むものは何もなかった。
『あなたは犯罪者に対して同情を誘いたいんですか?』
私がいつ、どこに、彼を可哀想だと記したのだろう。
『犯罪者を擁護したいのですか?理解出来ません。彼は人を殺したんですよ。』
彼は許されるべきだとも、悪くない、とも私は書いていない。彼は素直に逮捕され、正式な処罰ではないが、命をもって罪へ対応した。これ以上、何をしろ、と言うのだろう。彼が跪き頭を地面に擦り付け、涙ながらに謝罪する所を見たかったのだろうか。
『とても面白かったです。狂人の世界が何となく理解出来ました。』
何をどう理解したら、この感想が浮かぶのだろう。そもそもこの人は、私の本を読んだのだろうか。
『作者はもしかしたら接していくうちに、高山を愛してしまったのではないか?贔屓目の文章は公平ではなく気持ちが悪い。』
『全てを人のせいにして自分が悪くないと喚く子供に殺された方が哀れでならない。』
『結局人殺しの自己正当化本。それに手を貸した筆者も同罪。裁かれろ。』
『ただただ不快。皆寂しかったり、一人になる瞬間はある。自分だけが苦しい、と言わんばかりの態度に腹が立つ。』
『いくら貰えるんだろうなぁ筆者。羨ましいぜ、人殺しのキチガイの本書いて金貰えるなんて。』
私は、とても愚かだったのだと気付かされた。
皆に理解させよう、などと宣って、彼を、私の言葉で形作ったこと。裏を返せば、その行為は、言葉を尽くせば理解される、と、人間に期待をしていたに他ならない。
私は、彼によって得たわずかな幸福よりも、その後に押し寄せてくる大きな悲しみ、不幸がどうしようもなく耐え難く、心底、己が哀れだった。
胸に穴が空いている、と言う幻覚を見続けた彼は、穴が塞がりそうになるたび、そしてまた無機質な空虚に戻るたび、こんな痛みを感じていたのだろうか。
私は毎日、感想を読み続けた。貰った手紙は、読んだものから燃やしていった。他者に理解される、ということが、どれほど難しいのかを、思い知った。言葉を紡ぐことが怖くなり、彼を理解した私ですら、疑わしく、かといって己と論争するほどの気力はなく、ただ、この世に私以外の、彼の理解者は現れず、唯一の彼の理解者はここにいても、もう彼の話に相槌を打つことは叶わず、陰鬱とする思考の暗闇の中を、堂々巡りしていた。
思考を持つ植物になりたい、と、ずっと思っていた。人間は考える葦である、という言葉が皮肉に聞こえるほど、私はただ、一人で、誰の脳にも引っ掛からず、狭間を生きていた。
孤独、などという言葉で表すのは烏滸がましいほど、私、彼が抱えるソレは哀しく、決して治らない不治の病のようなものだった。私は彼であり、彼は私だった。同じ境遇、というわけではない。赤の他人。彼には守るべき己の秩序があり、私にはそんな誇り高いものすらなく、能動的、怠惰に流されて生きていた。
彼は、目の前にいた人間の頭にバールを振り下ろす瞬間も、身体をミンチにする工程も、全て正気だった。ただ心の中に一つだけ、それをしなければ、生きているのが恐ろしい、今しなければずっと後悔し続ける、胸を掻きむしり大声を上げて暴れたくなるような焦燥感、漠然とした不安感、それらをごちゃ混ぜにした感情、抗えない欲求のようなものが湧き上がってきた、と話していた。上手く呼吸が出来なくなる感覚、と言われて、思わず己の胸を抑えた記憶が懐かしい。
出版から3ヶ月、私は感想を読むのをやめた。人間がもっと憎らしく、恐ろしく、嫌いになった。彼が褒めてくれた、利己的な幸せの話を追い求めよう。そう決めた。私の秩序は、小説を書き続けること。嗚呼と叫ぶ声を、流れた血を、光のない部屋を、全てを飲み込む黒を文字に乗せて、上手く呼吸すること。
出版社は、どこも私の名前を見た瞬間、原稿を送り返し、もしくは廃棄した。『君も人殺したんでしょ?なんだか噂で聞いたよ。』『よくうちで本出せると思ったね、君、自分がしたこと忘れたの?』『無理ですね。会社潰したくないので。』『女ならまだ赤裸々なセックスエッセイでも書かせてやれるけど、男じゃ使えないよ、いらない。』数多の断り文句は見事に各社で違うもので、私は感嘆すると共に、人間がまた嫌いになった。彼が乗せてくれたから、私の言葉が輝いていたのだと痛感した。きっとあの本は、ノンフィクション、ルポルタージュじゃなくても、きっと人の心に突き刺さったはずだと、そう思わずにはいられなかった。
以前に働いていた会社は、ルポの出版の直前に辞表を出した。私がいなくても、普段通り世界は回る。著者の実物を狂ったように探し回っていた人間も、見つからないと分かるや否や他の叩く対象を見つけ、そちらで楽しんでいるようだった。私の書いた彼の本は、悪趣味な三流ルポ、と呼ばれた。貯金は底を尽きた。手当たり次第応募して見つけた仕事で、小銭を稼いだ。家賃と、食事に使えばもう残りは硬貨しか残らない、そんな生活になった。元より、彼の本によって得た利益は、全て燃やしてしまっていた。それが、正しい末路だと思ったからだったが、何故と言われれば説明は出来ない。ただ燃えて、真っ赤になった札が灰白色に色褪せ、風に脆く崩れていく姿を見て、幸せそうだと、そう思った。
名前を伏せ、webサイトで小説を投稿し始めた。アクセス数も、いいね!も、どうでも良かった。私はただ秩序を保つために書き、顎を上げて、夜店の金魚のように、浅い水槽の中で居場所なく肩を縮めながら、ただ、遥か遠くにある空を眺めては、届くはずもない鰭を伸ばした。
ある日、web上のダイレクトメールに一件のメッセージが入った。非難か、批評か、スパムか。開いた画面には文字がつらつらと記されていた。
『貴方の本を、販売当時に読みました。明記はされていませんが、某殺人事件のルポを書かれていた方ですか?文体が、似ていたのでもし勘違いであれば、すみません。』
断言するように言い当てられたのは初めてだったが、画面をスクロールする指はもう今更震えない。
『最新作、読みました。とても...哀しい話でした。ゾンビ、なんてコミカルなテーマなのに、貴方はコメをトラにしてしまう才能があるんでしょうね。悲劇。ただ、二人が次の世界で、二人の望む幸せを得られることを祈りたくなる、そんな話でした。過去作も、全て読みました。目を覆いたくなるリアルな描写も、抽象的なのに五感のどこかに優しく触れるような比喩も、とても素敵です。これからも、書いてください。』
コメとトラ。私が太宰の「人間失格」を好きな事は当然知らないだろうに、不思議と親近感が湧いた。単純だ。と少し笑ってから、私はその奇特な人間に一言、返信した。
『私のルポルタージュを読んで、どう思われましたか。』
無名の人間、それも、ファンタジーやラブコメがランキング上位を占めるwebにおいて、埋もれに埋もれていた私を見つけた人。だからこそ聞きたかった。例えどんな答えが返ってきても構わなかった。もう、罵詈雑言には慣れていた。
数日後、通知音に誘われて開いたDMには、前回よりも短い感想が送られてきていた。
『人を殺めた事実を別にすれば、私は少しだけ、彼の気持ちを理解出来る気がしました。。彼の抱いていた底なしの虚無感が見せた胸の穴も、それを埋めようと無意識のうちに焦がれていたものがやっと現れた時の衝動。共感は微塵も出来ないが、全く理解が出来ない化け物でも狂人でもない、赤色を見て赤色だと思う一人の人間だと思いました。』
何度も読み返していると、もう1通、メッセージが来た。惜しみながらも画面をスクロールする。
『もう一度読み直して、感想を考えました。外野からどうこう言えるほど、彼を軽んじることが出来ませんでした。良い悪いは、彼の起こした行動に対してであれば悪で、それを彼は自死という形で償った。彼の思考について善悪を語れるのは、本人だけ。』
私は、画面の向こうに現れた人間に、頭を下げた。見えるはずもない。自己満足だ。そう知りながらも、下げずにはいられなかった。彼を、私を、理解してくれてありがとう。それが、私が愛読者と出会った瞬間だった。
愛読者は、どうやら私の作風をいたく気に入ったらしかった。あれやこれや、私の言葉で色んな世界を見てみたい、と強請った。その様子はどこか彼にも似ている気がして、私は愛読者の望むまま、数多の世界を創造した。いっそう創作は捗った。愛読者以外の人間は、ろくに寄り付かずたまに冷やかす輩が現れる程度で、私の言葉は、世間には刺さらない。
まるで神にでもなった気分だった。初めて小説を書いた時、私の指先一つで、人が自由に動き、話し、歩き、生きて、死ぬ。理想の愛を作り上げることも、到底現実世界では幸せになれない人を幸せにすることも、なんでも出来た。幸福のシロップが私の脳のタンパク質にじゅわじゅわと染みていって、甘ったるいスポンジになって、溢れ出すのは快楽物質。
そう、私は神になった。上から下界を見下ろし、手に持った無数の���を引いて切って繋いでダンス。鼻歌まじりに踊るはワルツ。喜悲劇とも呼べるその一人芝居を、私はただ、演じた。
世の偉いベストセラー作家も、私の敬愛する文豪も、ポエムを垂れ流す病んだSNSの住人も、暗闇の中で自慰じみた創作をして死んでいく私も、きっと書く理由なんて、ただ楽しくて気持ちいいから。それに尽きるような気がする。
愛読者は私の思考をよく理解し、ただモラルのない行為にはノーを突きつけ、感想を欠かさずくれた。楽しかった。アクリルの向こうで私の話を聞いていた彼は、感想を口にすることはなかった。核心を突き、時に厳しい指摘をし、それでも全ての登場人物に対して寄り添い、「理解」してくれた。行動の理由を、言動の意味を、目線の行く先を、彼らの見る世界を。
一人で歩いていた暗い世界に、ぽつり、ぽつりと街灯が灯っていく、そんな感覚。じわりじわり暖かくなる肌触りのいい空気が私を包んで、私は初めて、人と共有することの幸せを味わった。不変を自分以外に見出し、脳内を共鳴させることの価値を知った。
幸せは麻薬だ、とかの人が説く。0の状態から1の幸せを得た人間は、気付いた頃にはその1を見失う。10の幸せがないと、幸せを感じなくなる。人間は1の幸せを持っていても、0の時よりも、不幸に感じる。幸福感という魔物に侵され支配されてしまった哀れな脳が見せる、もっと大きな、訪れるはずと信じて疑わない幻影の幸せ。
私はさしずめ、来るはずのプレゼントを玄関先でそわそわと待つ少女のように無垢で、そして、馬鹿だった。無知ゆえの、無垢の信頼ゆえの、馬鹿。救えない。
愛読者は姿を消した。ある日話を更新した私のDMは、いつまで経っても鳴らなかった。震える手で押した愛読者のアカウントは消えていた。私はその時初めて、愛読者の名前も顔も性別も、何もかもを知らないことに気が付いた。遅すぎた、否、知っていたところで何が出来たのだろう。私はただ、愛読者から感想という自己顕示欲を満たせる砂糖を注がれ続けて、その甘さに耽溺していた白痴の蟻だったのに。並ぶ言葉がざらざらと、砂時計の砂の如く崩れて床に散らばっていく幻覚が見えて、私は端末を放り投げ、野良猫を落ち着かせるように布団を被り、何がいけなかったのかをひとしきり考え、そして、やめた。
人間は、皆、勝手だ。何故か。皆、自分が大事だからだ。誰も守ってくれない己を守るため、生きるため、人は必死に崖を這い上がって、その途中で崖にしがみつく他者の手を足場にしていたとしても、気付く術はない。
愛読者は何も悪くない。これは、人間に期待し、信用という目に見えない清らかな物を崇拝し、焦がれ、浅はかにも己の手の中に得られると勘違いし小躍りした、道化師の喜劇だ。
愛読者は今日も、どこかで息をして、空を見上げているのだろうか。彼が亡くなった時と同じ感覚を抱いていた。彼が最後に見た澄んだ空。私が、諦観し絶望しながらも、明日も見るであろう狭い空。人生には不幸も幸せもなく、ただいっさいがすぎていく、そう言った27歳の太宰の言葉が、彼の年に近付いてからやっと分かるようになった。そう、人が生きる、ということに、最初から大して意味はない。今、人間がヒエラルキーの頂点に君臨し、80億弱もひしめき合って睨み合って生きていることにも、意味はない。ただ、そうあったから。
愛読者が消えた意味も、彼が自ら命を絶った理由も、考えるのをやめよう。と思った。呼吸代わりに、ある種の強迫観念に基づいて狂ったように綴っていた世界も、閉じたところで私は死なないし、私は死ぬ。最早私が今こうして生きているのも、植物状態で眠る私の見ている長い長い夢かもしれない。
私は思考を捨て、人でいることをやめた。
途端に、世界が輝きだした。全てが美しく見える。私が今ここにあることが、何よりも楽しく、笑いが止まらない。鉄線入りの窓ガラスが、かの大聖堂のステンドグラスよりも耽美に見える。
太宰先生、貴方はきっと思考を続けたから、あんな話を書いたのよ。私、今、そこかしこに檸檬を置いて回りたいほど愉快。
これがきっと、幸せ。って呼ぶのね。
愛読者は死んだ。もう戻らない。私の世界と共に死んだ、と思っていたが、元から生きても死んでもいなかった。否、生きていて、死んでいた。シュレディンガーの猫だ。
「嗚呼、私、やっぱり、
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