Tumgik
#ジョン・コナリー
findareading · 9 months
Text
本は形のあるものじゃない。言葉と概念を運ぶものなの。ひとりひとりの読者に、違う影響を及ぼすのよ。
— ジョン・コナリー著/田内志文訳「裂かれた地図書──五つの断片」(『キャクストン私設図書館』2021年5月Kindle版、東京創元社)
10 notes · View notes
ishiiruka0421 · 10 months
Text
0 notes
misasmemorandum · 3 years
Text
『キャクストン私設図書館』 ジョン・コナリー 田内志文 訳
「ハムレット、ホームズ、ドラキュラ。登場人物が実体化して図書館に住んでいたら・・・・・・?」と言う宣伝文句をツイッターなどで見て興味を持って読むことにした。
著者さんはアイルランドの人で、舞台もおそらくアイルランド。冗談もアイルランドのものなのだろう、ちょっととっつきにくかった。
「キャクストン〜」は、人間の物語の登場人物に対する想像力が、そのキャラクターを実体化させるんだけど、ま、人によって容姿など違うように想像すると思うけどと細かいことは置いといて、面白い視点だと思った。で、初版本なり著者の直筆原稿なりがこの図書館に所蔵されてるんだけど、この、著者の書いた原稿に、書いたことを現実化させられる魔術的な力があるっての、前に読んだほんと通ずるところがあるね(この本の続きをいつか読もう!)。キャラクター達は作者の死後に現れる。
で、このキャクストンでは、ドイルがホームズをライヘンバッハの滝に叩き落として殺してしまった後に、ドイルが生きているにも関わらず現れてしまうんだ。ホームズが死んだと嘆き悲しむ読者が多かったせいだろう。この設定と、またドイルがこの実体化したホームズとワトソンに会うのも面白い。ドイルがスピリチュアルなものにハマったのが、これの影響もあってと思えて楽しく読んだ。
だけど、この本のメインは「裂かれた地図書ーー五つの断片」なのだ。で、これがオカルトで、スプラッターな描写がちゃんとあるもので、不思議な力を持つ本のせいでオカルトな事件が続くんだけど、私はオカルトを読むつもりは全くなかったので、正直嫌だったよ(涙)。
この物語では本が世界を書き変えることが出来ると言う。
「本はいつでも世界を変えているのよ。クリスチャンならば、あなたは聖書に・・・・・神の言葉に、もしくは人々の手によって搾り取られて最後に残った、聖書の残滓に変えられているわ。イスラム教だとしたら、クルアーンをごらんなさい。共産主義なら、マルクスとエンゲルスを。分からない?この世界はいつも本によって変えられているのよ。『共産党宣言』がsyっぱんされたのは一八四九年、つまり一世紀も経っていない昔だし、『資本論』はもっと新しい。だというのに、ロシアはもうその二冊にどっぷりで、他の国々だって近い将来同じ道を辿るのよ」(p245)
そして、
「本は形のあるものじゃない。言葉と概念を選ぶものなの。ひとりひとりの読者に、違う影響を及ぼすのよ。私たちの心の中に映像を焼き付けるの。そして、根をおろす。」(p246)
面白かったけど、オカルトを全く期待してないところでスプラッターが出てきて、私はちょっと嫌でした。予備知識をほとんど仕入れずに本を読むのは危険だな。
2 notes · View notes
cookingarden · 4 years
Photo
Tumblr media
ジェイ・ローチ監督『オールザウェイ JFKを継いだ男』 (その2:民主党全国大会から大統領選挙まで) 原題:All The Way 制作:HBO Films, アメリカ, 2016. 大統領選挙に立ち塞がる二つの難題 公民権法はなんとか成立に漕ぎ着けたものの、大統領選はあと4ヶ月に迫っていた。すでに共和党のゴールドウォーターは、1936年以来の保守派出身の大統領候補として活発な選挙活動を展開していた。対するジョンソンは"ALL THE WAY WITH L.B.J.(どこまでもジョンソンと共に)"の標語を掲げる。本格的に大統領選を開始するにあたりジョンソンは、「これまでとは異なる方法で闘う」と闘志を顕にしている。映画のタイトルはこのときの標語から採られたものだ。
この時点でほぼ同時に二つの問題が起きる。ひとつは、公民権運動「フリーダム・サマー」の活動家3人が失踪する事件である。最終的に3人は死体で発見されるが、殺害には3人をスピード違反で逮捕した白人警官のシーセル・レイ・プライス副保安官が絡んでおり、後にプライスがKKKの陰謀の片棒を担いでいたことが明らかになる。この経緯については映画でも簡明に表現されているが、事件の真相については引用文献13) に詳しい。 もうひとつは北ベトナムの空爆である。8月に入ってすぐ、国防長官ロバート・マクナマラからトンキン湾で駆逐艦マドックスが魚雷による攻撃を受けたとの情報が入る。だが、詳細を問うジョンソンに、マクナマラは明快な攻撃の証拠を示さない。確かに攻撃を受けたが被害はないという。だが、マクナマラは大きな問題があるという。いったい何が問題なのかとジョンソンが詰問する。マクナマラは「攻撃された場合、空爆する決まりになっています。残念ながら、この情報が漏れてしまいました。」という。 すぐにジョンソンは、これは国内問題に発展すると気づく。空爆しなければゴールドウォーターが「弱腰だ!」と突いてくるのは間違いない。それに世論が応じれば選挙には大きな痛手になる。だが、攻撃を受けた確たる証拠はない。ハンフリーは「確信を得てから攻撃すべきです。」と空爆を思い止まらせようとする。しかし、ここでジョンソンは苦渋の表情でマクナマラに空爆を命じる。「やれ。」これが事実上の北ベトナムに対する宣戦布告になったと言われている。14) この決定の直後ジョンソンは、彼に反対したハンフリーに「ゴールドウォーターが勝てばソ連との世界大戦がはじまる。貧困や公民権問題も忘れられる。わたしはこの国を変えたいんだ。君を副大統領にと考えた自分がバカだった。お前は慰めにもならん! 選挙の年なんだ!」と罵声を浴びせている。
公民権活動家殺害事件が生んだ新党 最初に起きた公民権活動家3人の殺害事件は、大統領選に大きな影響をもたらす。少し詳しく経緯を辿っておきたい。 被害にあった3人は、KKKによって放火された教会の調査に向かうところだった。その彼らが殺されたことで、白人への抗議はかつてない高まりを見せる。黒人の意見を議会に反映させる必要性が叫ばれ、南北戦争以来はじめてといわれる非差別・非排他的な新党MFDP(Mississippi Freedom Democratic Party:統一ミシシッピ州自由民主党 )への議席獲得運動がはじまる。キング牧師はMFDPの代理人に就任する。 これはジョンソンにとって頭痛の種だった。地元テキサスの知事ジョン・コナリーが、もし黒人に議席を与えれば、南部の多くの州が民主党党大会から退席すると通告してきたのだ。民主党全国大会は民主党が正副大統領の指名候補を選出するための大会である。ここで南部の党員が退席すれば、ジョンソンは大統領候補者の指名を得られなくなる。 ちょうどそのとき、MFDP副代表の黒人女性ファニー・ルー・ヘイマーが、1963年に彼女が有権者登録をしようとして受けたひどい仕打ちについて、会場のテレビカメラの前で証言しようとしていた。テレビ中継がはじまり、人間の尊厳を顧みない、人道にもとる暴行が語られる。ヘイマーは、「いったい、ここはアメリカなのでしょうか」と、悲痛な訴えを行う。 この訴えがリベラル派の支持を集め、南部の党員に不快感を与えれば彼らは退席してしまう。テレビの前で危機感を募らせたジョンソンは、自ら会見を開き党大会のヘイマーの会見から人々の目をそらすことを思いつく。内容などどうでもよかった。すぐに準備を整え、ヘイマ一の会見に大統領の会見が割り込む。へイマ一にしてみれば酷い話だ。 ジョンソンは記者団を前に、「副大統領候補は誰になるのか? この件は間もなく決定します。」と発表する。たったそれだけの会見だった。呆気にとられる記者たちの表情が捕らえられている。黒人の権利を尊重しながらも、ジョンソンがいかに選挙戦を重視していたかがわかる。 だが、黒人の議席を求めるMFDPの要求は収まらない。考えた挙句ジョンソンは、黒人と白人にそれぞれ1議席を与えるアイデアを思い付く。その上でジョンソンは、これまでハンフリーを利用してきた全米自動車労働組合のウォルター・ルーサーに「このまま党大会が荒れればハンフリーの将来はない、そうなればお前らの利権は断たれるぞ。MFDPをなんとかしろ。」と脅しをかける。 ルーサーはハンフリーとの政治的な繋がりを利用し、組合を通じてMDFPに資金を提供してきた。利権を失いたくないルーサーはキング牧師と面会し、譲歩しなければ援助を打ち切ると伝える。組合からの援助がなくなれば、MFDPは街頭募金に頼るしかない。それでは組織が維持できない。キング牧師は2議席の妥協案を受け入れようと仲間を誘う。これにたいし、SNCC(学生非暴力調整委員会)の指導者ボブ・モーゼスは「大農場の白人経営者みたいな決め方だ」と批判する。キング牧師は「わたしは100年に一度のチャンスをムダにしたくない」と反論するが、話し合いは物別れに終わっている。 投票権のときもそうであったように、ここでもキング牧師はジョンソンの考えを支持している。キング牧師の活動に理解を示した大統領といえばケネディの名前があがることが多いが、この映画からは、実際に考えと行動をともにしてきたのはジョンソンだったと思えてくる。 寝室で行われた民主党全国大会の舞台裏 結果的に党大会では、MFDPに2議席を与えるという決定に反対したミシシッピとアラバマの代表が退席する。ジョージア州知事カール・サンダースからも、自分たちも退席すると電話がかかってくる。いまにも南部の全州が党大会を抜ける勢いだ。このときジョンソンは、会場から電話で「黒人に議席を与えれば党大会は乗っ取られます。これは信条の問題です。」と訴えるサンダース知事に、次のような説得を行う。(ジ)はジョンソン、(サ)はサンダースである。
ジ「黒人たちも民主党員なのに州大会を締め出された。」 サ「登録していないからです。」 ジ「登録させないんだ! 殴ったり銃で撃ったりして。」 サ「一部の白人の話です。」 ジ「カール、いまどき古いやり方をしていたら政治の世界では生き残れない。黒人を食い物にするのはやめるべきた。」 サ「大統領こそ、あの黒人たちを追い出さないと・・・」 ジ「分からないか!! 君こそ決断すべきだ。キリスト教徒だろう。聖書の言葉を心に刻んでいないのか。君の政治信条は? ジョージア全州民の生活を改善したくないのか?  サ「それは・・・」 ジ「君も男だろう。正しいと思うことを貫くのが男だ。それとも逃げ出すか。わたしを脅しても無意味だ。退席したいなら、早く出て行け! 違うなら──わたしの標語が書かれた帽子をかぶって、そこにいてくれ。会場で会おう!」
ここでもジョンソンは、自分が考えることを相手が自分の身で考えるように相手を誘導している。受話器を置いたサンダースはその場に止まる決断をする。これらのやりとりはすべて、ジョンソンの寝室から、パジャマ姿で電話を通して行われている。だが、会場で興奮状態にある相手を電話で説得するのは大変なことだ。 電話のあと疲れ果てて横になり、「オレはもうダメだ。バード、君はいつも逆らう、ヤツらと同じだ。放っておいてくれ。」と子どものように拗ねるジョンソンに、バードが「お断りよ。わたしを見て。あなたは世界一勇敢な大統領よ、党大会でもこの国でも。わたしの夫はダメ男じゃない。」と声を掛ける場面がある。映画とはいえこの二人の姿には、この男は国民からも愛されていたのだろうと思わせる妙な生々しさがある。 こうして、ジョンソンは民主党の大統領指名候補として選出される。副代表候補は、もちろんハンフリーだった。 大統領選を有利にしたジョンソンのメディア戦略 民主党の大統領候補者指名は獲得したものの、選挙戦に出遅れたジョンソンは苛立ち、巻き返しを図る。大統領選挙の当日11月3日まであと27日に迫った日、ジョンソンは広報ビデオの最終確認を行う。これまで観たこともない映像だ。ビデオを観終わったジョンソンは直ちに「すぐ放映しろ」と指示し、もう一度見せるように言っている。それは彼にとっても印象の強い映像だった。 原爆実験の映像を使ったこのテレビCMは、日本人のわたしには受け入れがたいものだ。しかし、映像は批判的な意図で使われたようだ。Wikipediaには、ゴールドウォーターがベトナムで核兵器を戦術利用すると発言したのを批判したものだとある。15) そしてこのビデオは、何よりも当時のアメリカ人に絶大なインパクトを与た。 「雛菊の少女」と呼ばれるこのテレビCMについて、国際政治学者の松本佐保氏は、『熱狂する「神の国」アメリカ』のなかで次のように書いている。16)
(「雛菊の少女」は)平和な雛菊の花畑が、核爆発の画面に切り替わるもので、タカ派の共和党が政権を取れば核戦争が勃発すると仄めかしたこのキャンペーン用CMは、キューバ・ミサイル危機の恐怖冷めやらぬ国民に、絶大なインパクトを与えた。大統領選での一般投票では、ジョンソンが六一・一%もの票を獲得し、ゴールドウォーターの三八・五%に大きく差をつけて圧勝したのである。(Kindle の位置No.1214-1217)
松本氏によれば、テレビCMによる民主党のネガティブ・キャンペーンで大きな敗北を期した共和党は、その後メディア戦略を見直しメディアの効果的な活用に目覚めたという。現在では主流となっているSNSの政治利用も、源流は1964年に登場したこの「雛菊の少女」にあるのかもしれない。 圧倒的勝利となった大統領選挙 いよいよ選挙戦の終盤となり、ジョンソンはルイジアナ州ニューオルリンズの党大会で演説にのぞむ。共和党候補ゴールドウォーターの支援者で埋め尽くされた会場は、「頑張れゴールドウォーター!」の叫びで包まれている。ジョンソンは「なんで民主党の集会でゴールドウォーターなんだ。」と渋面を浮かべながら壇上に上がり、「南部の皆さん聞いてください」と切り出す。 ちょうどこのときキング牧師は、10月14日に発表があったノーベル平和賞の祝賀会で演壇に立っていた。17) キング牧師は静かな口調で、いまも続く黒人への厳しい差別の現状を訴える。
わたしは公民権運動を代表して、この賞をいただきます。公民権運動は、自由と正義の国をつくるための運動です。暴行され、殺された仲間が後を絶たない。だが、わたしには���信がある。すべての人が、尊厳と平等と自由を享受できるはずだ。
一方の党大会ではジョンソンがこう訴える。
よそ者が人種差別だと騒ぎ立て、南部の人間を分断しようとしているという。だが、皆さんが手をとれば南部はもっと良くなる。それなのに、選挙になれば『ニガー、ニガー、ニガー』の憎しみにあふれている。だがわたしは、偏見を訴え騙すものを許さない。わたしたちは公民権法を手に入れた。わたしはこの法律を執行します。なぜなら、それが正しいことだからです。
このカットバック場面は、ジョンソンとキング牧師の二人がともに思いを重ね手を取り合えたことが、互いの念願だった人種差別の克服に貢献したことを伝えている。二人が共に口にしている公民権法の成立、そしてノーベル平和賞がその具体的な成果である。ジョンソンの演説する姿が選挙戦に勝利する前なのは、大義の成就を約束する未来への予言的な意味あいなのだろう。 そしてついに1964年11月3日、大統領選挙の日が訪れる。テレビが開票速報を伝える。これまで民主党の牙城だったジョージア州では共和党が勝利したことが伝えられる。しかし、南部ではジョンソンが追い上げている。そして夕刻、ニューヨーク州での投票が終わる。 そのころすでに夜になり、地元ジョンソン農場では勝利を確信した人々が集まり、祝賀ムードに包まれていた。その喧騒のなかテレビがジョンソンの勝利を伝える。
リンドン・ジョンソンが次期大統領に選出されました!
人波のなかでジョンソンが叫ぶ、「当選したぞ、バードを呼んでくれ! バードはどこだ?」その背後からバードの声がする。「いつだって、後ろにいるわ」と。当選と同時に妻の名前を叫び、背後から声を掛けるバードの姿に、共に戦ってきた二人の姿が滲み出ている。 開票結果は記録的なものだった。ジョンソンは50州のうち44州とコロンビア特別区を制する大勝利を収めた。ラッセルの地元ジョージアは共和党が勝利したが、共和党保守派は拒絶されたことになる。さらに、ジョンソンは一般選挙で61.1%の得票率を獲得した。これは1820年以降の大統領候補者が得た最高の得票率と言われている。18) こうして1964年は、7月の公民権法の制定、10月のキング牧師のノーベル平和総受賞、そして11月の大統領選での民主党ジョンソンの圧勝という歴史的な変化が、アメリカの政治と国民の意識に刻まれる年となったのである。 悲劇を招いた北ベトナム空爆 しかし、ジョンソンがケネディから引き継いだのは公民権法だけではなかった。公民権法が山場を越えたあと、大きな問題として残されたのがベトナム戦争だった。 ジョンソンは人種差別の克服に大きな功績を残したが、同時にベトナム戦争の拡大をもたらした大統領でもあった。ジョンソンは選挙戦のさなか北爆を命令する。前述のように、このときマクナマラから伝えられた情報は不確かなものだったが、ジョンソンは選挙戦で不利になることを恐れ攻撃の道を選んだ。その判断は正しかったのだろうか。映画にはその後日譚が微妙なタッチで描かれている。 当選が伝えられ祝賀気分に包まれるジョンソン農場には政府の高官たちもいた。祝賀会が中盤に差し掛かったころ、ラッセルとの電話が終わるジョンソンを待つマクナマラの姿があった。マクナマラは「こんなときですが、お詫びがあります。」と、サイゴン(現在のホーチミン)大使館から届いた報告書を手渡す。 映画に描かれているのはこれだけだが、マクナマラが口にした「お詫び」は、8月にマクナマラが報告した魚雷の攻撃が間違いだったことを暗示しているように見える。映画からはその具体的な内容を窺い知ることはできないが、北爆がその後も激化していくことを考えれば、当選祝賀会の夜にこのような形で何か決定的な「反省」が伝えられたとは考えにくい。はたしてこの場面は史実なのだろうか。 映画の範囲を超えるが、この話は4年後のいわゆる「トンキン湾捏造事件」へと発展する。ペンタゴン秘密文書の公開により、攻撃がホワイトハウスで仕組まれていた事実が明らかにされるのだ。ジョンソンが議会に提出し採択された「トンキン湾決議」自体も取り消された。 公民権法で人種差別の解消に務める一方、それを実現するための政治判断が事実の捏造にもとづくベトナム戦争の拡大だったことは大きな矛盾だった。もちろんジョンソンには、もし攻撃を思い止まったことで選挙に負ければ、ゴールドウォーターが世界大戦の口火を切るとの思いがあった。しかし、歴史の事実に「もし」はない。ジョンソンは大きな汚点を残すことになった。 このことは、ジョンソンの政治生命に大きな影響をもたらす。ジョンソンは1968年3月31日夜、次の大統領選挙についてテレビ演説を行い、次の考えを述べたという。6)
アメリカ軍の兵士たちが遥か彼方の戦場にいて、アメリカの未来が国内で危機に瀕し、全世界が平和を願おうと、毎日が不安定な状態にある時、私は自分の時間の1時間、1日たりとも、1個人・1党派の目的追求のために捧げるべきではないと考えます。大統領という大きな義務以外の如何なるものも、自分の時間を捧げるべきでないと信じます。
したがって私は次期大統領候補として、民主党の指名を求めることも、受諾することもありません。
この大統領選挙不出馬の表明は、ベトナム戦争の失敗により、国民との信頼関係が持てなくなったことを表している。その前年の1967年11月には、マクナマラ国防長官が辞意を表明している。さらに、追い討ちを描けるようにテレビ演説の4日後の1968年4月4日、キング牧師が凶弾に倒れる。不出馬を表明したころのジョンソンは想像を絶する悲劇のなかにいたことだろう。映画に描かれた4年前とは状況は様変わりしたのである。このころのジョンソンが映画に描かれることはないだろう。 こうしてジョンソンは、1963年11月22日にケネディ暗殺により大統領に昇格したあと、1969年1月20日を最後に第36代アメリカ大統領の政治人生を閉じた。在任期間は5年と59日だった。それから4年後の1973年1月22日、ジョンソンは永眠した。64年の生涯だった。死因は映画のなかでも持病として描かれた心疾患によるものだった。 プライバシーに見るジョンソンの現実主義と映画のスタンス 本稿を終える前に、この映画のもう一人の重要な登場人物、首席補佐官のウォルターについて触れておきたい。ウォルターは補佐官として常にジョンソンに仕える人物として描かれている。ほとんど使い走りやなだめ役のような描き方であり、政策決定に影響するような会話もない。しかし、ジョンソンからの信頼は厚く、ウォルターは25年間をともにする家族のような存在だった。補佐官として、実際にはジョンソンに影響を与えたと思われるが、映画にはそうした描写はない。 そのウォルターが大統領選挙を目前に、突然、風俗犯罪取締官によって逮捕される。YMCA(キリスト教青年会)の男子トイレで陸軍の軍人と共に捕まったというのだ。当時としてはこれは「事件」だった。ジョンソンは、すっぱ抜かれたら選挙に不利になると考える。報告に来たFBI長官のフーバーはもみ消しを口にするが、ジョンソンはそんなことは当てにならないとして、健康上の問題を理由にウォルターを辞任させる。 なぜ25年も一緒にいて気づかなかったのかと落胆したジョンソンは、フーバーに「どうやって見分けるんだ、その性癖を」と尋ねる。フーバーは「独特の気配り、物腰、服の着こなし、髪の整え方、歩き方も違う」と答える。そのフーバーに「君がいうなら・・・本当だろう」とつぶやくジョンソンの視線に釘付けになり、息を飲んでジョンソンを凝視するフーバーの表情がリアルだ。 この場面は、フーバーの性癖を知る者にユーモアを誘うが、実話であるウォルターの描き方も含め、この映画は登場人物のプライバシーを笑いものにはしていない。妻のバードは、ウォルターはいまや敵だというジョンソンに、「あなたは間違っている。わたしは友達が大切なの。これから声明を出すわ。」とキッパリと反論してみせる。こうした描き方は2016年に制作された伝記映画がプライバシーを扱う際の、ひとつのスタンスなのだろう。 映画の描写はここまでだが、ウォルターに関するWikipediaによれば、逮捕の翌日には大統領補佐官の逮捕は一面トップのニュース記事となり、ウォルターは一躍全米で知られる人となった。19) しかし、ジョンソンの心配をよそに、選挙への悪影響はほとんどなかったようだ。20) ジョンソンは選挙を気にしすぎるあまり、ウォルターに大きな犠牲を背負わせたことになる。ここには、情報が不確かなまま北爆を選んだときと同じ構図がある。 キング牧師の性癖も描かれている。キング牧師は女好きで複数の愛人がいたことが知られているが、21) 映画ではその内実がFBIによって盗聴され、テープに記録された情交の様子が脅しに使われる場面が描かれている。フーバーは自らの性癖を隠しながら、他人のそれを攻撃していたことになる。フーバーはその録音テープをジョンソン聴かせながら、「不貞を働くなど、とんだ偽善者です」と逮捕をそそのかす。しかしジョンソンは、「南部の牧師が聖歌隊と懇ろになるとはな」と笑って茶化しながらも、「妻一筋でない政治家や聖職者を逮捕していたら、誰もいなくなる」とフーバーの考えをいなしている。 これは、ジョンソンの大らかさや寛容さによるものではなく、キング牧師を逮捕すれば公民権法の制定には不利になるという判断からだ。ジョンソンは自分の信念の前にはどこまでも現実主義を貫く人物だったことを伺わせる。そのジョンソンの姿勢は公民権法制定の原動力となったが、同時にベトナムに戦禍をもたらし、近親者に不幸をもたらすものでもあった。 映画『オールザウェイ』を振り返って 以上、史実を補足しながら、本作がどのように当時の状況を描いているかを見てきた。振り返って思うのは、1964年にリンドン・ジョンソンが経験した一年間の驚くべき濃さである。その濃密さは、ジョンソンという人物の情熱と、公民権法の重い希望から生み出された。 リンドン・ジョンソンという名前を聞いて、アメリカの大統領の一人だと思い出す人は少なくないだろう。しかし、リンカンやケネディ、最近ではオバマやトランプなどの大統領に比べ、その印象は薄いのではないだろうか。わたし自身そうだった。しかし、この映画はその必ずしも目立たない一人の昇格大統領が、公民権法制定の真の立役者だったことを教えてくれる。 映画『オールザウェイ』に描かれた公民権法制定の舞台裏は、アメリカの政治が人種差別問題にどのように取り組んできたかを知る貴重な記録だと思う。それが貴重であるのは、完成した法律の条文だけではわからない、社会の事情や人が心に抱く動機が描かれているからだ。私たちはそうした人生の経験なしには何事も生み出せない。 ジョンソンを人種差別の克服に駆り立てた原点は、青年時代の教師体験にあった。その動機を妻のバードや補佐官のウォルターは側で支えた。そして、キング牧師との共闘は動機に社会的な広がりをもたらした。こうした事情は映画を通じてこそ知ることができるものだ。 その一方で、公民権の法制化は人種差別克服の動機に具体性を与え、劇的な効果をもたらした。本文で示したように、法制化によりアフリカ系アメリカ人に白人と同等の権利がもたらされ、彼らの社会進出が拡大した。これは事情や動機だけでは実現できないことだ。 しかし、法制化がそれほどの効果をもたらしたにもかかわらず、半世紀以上が経過したいまも人種差別は一向に解消される様子がない。そのことについて本田創造氏は前掲書のなかで次のように書いている。8)
「黒人問題」は、すでに詳しく述べた公民権運動の数々の輝かしい差別撤廃の成果にもかかわらず、依然として解決されていないということである。(…)黒人大衆の経済状態は、最近では、むしろ悪化さえしている。それは、かれらの存在そのものが、最高度に発達したアメリカ資本主義の重要な存立基盤のひとつとして、この国の社会経済機構の中に差別されたかたちで構造的に組み込まれているからである。 (Kindle の位置No.2903-2908).
本田氏が指摘する構造的差別は、本ブログで紹介した映画『ドゥ・ザ・ライト・シング』の「その2」で詳しく取り上げたように、例えば警察の収監システムなどを通じて1980年ごろから顕在化してきた。ここで注目したいのは、ジョンソンが行った取り組みのあとまた別の政治的な動機が芽生え、それが公民権法では防げない制度となり、新たな差別が生まれたことである。 重要なことは、差別とその解消はともに人の動機から生まれ、制度となって社会経済的な影響を発揮することにある。動機がある限り、それに実効性を与える仕組みが生まれてくる。そうであれば差別の解消には、差別する動機をなくする取り組みが必要になる。 しかし、現実の経済システムは差異を前提に成り立っている。マルクス・ガブリエル氏が指摘するように、わたしちは「エコノミークラスの席にたどり着くために、ビジネスクラスを通過しなくてはならない」世界に住んでいる。22) それによって消費を動機づける憧れが作り出せるからだ。わたしたちがこうした差異を当たり前のように消費している限り、人を差別する動機の解消はむずかしい。 だが、ジョンソンは大統領に昇格すると同時に、人どおしの差別を無くすことを心に誓った。ジョンソンが差別意識から自由になれたのは、小学校の教師だったころの体験の純粋さによるものだろう。しかし、そのジョンソンさえもが選挙にのめり込み矛盾を抱え込むことになった。残念だが、ひとりの人間が完璧であることはできないということだろう。 映画『オールザウェイ』からわたしは、差異の多くにはバイアスが掛かっていることを学んだ。そして、差異からバイアスを取り除いたとき、私たちの体験は純粋な体験に近くことができることも。人間には多様性がある。しかし、ベルトラン・ジョルダン氏が指摘するように、生物学的に「人種は存在しない」。23) ジョンソンがそうであったように、人としての純粋な動機を見失わないように、差異のバイアスから自由でありたいと思う。映画『オールザウェイ』は、その努力が新たな「正しいこと」につながることを教えてくれた。映画に感謝したい。 (その1:ケネディ暗殺から1994年公民権法成立まで) (その2:民主党全国大会から大統領選挙まで)
参考資料
Tumblr media
引用文献 13) アメリカンセンター Japan, 前掲資料, p.48. https://americancenterjapan.com/wp/wp-content/uploads/2015/11/wwwf-pub-freeatlast.pdf 14) 世界史の窓「トンキンワン事件」 https://www.y-history.net/appendix/wh1603-065.html
15) Wikipedia 「1964年アメリカ合衆国大統領選挙」 https://bit.ly/2EMrCr0 16) 松本佐保『熱狂する「神の国」アメリカ』文春新書, 文藝春秋, 2016. 17) 正式にノーベル賞が授与されるのは12月10日の授賞式のとき。 18) Wikipedia「1964年アメリカ合衆国大統領選挙」 https://bit.ly/2EMrCr0 19) Wikipedia "Walter Jenkins" https://bit.ly/3i4rX6y 20) Al Weisel "LBJ's Gay Sex Scandal". Out Magazine, 1999. https://bit.ly/32ZFHJD 21) 辻内鏡人, 中條献『キング牧師』岩波ジュニア新書221,  p.205. 22) マルクス・ガブリエル, 中島隆博『全体主義の克服』集英社新書, 2020, pp.186-187. 23) ベルトラン・ジョルダン『人種は存在しない』中央公論新社, 2013.
1 note · View note
itoatsuki · 5 years
Photo
Tumblr media Tumblr media
海外文学装画ワークショップ -東京創元社の本を描く- vol.2
2019年09月10日(火)~ 15日(日) 12:00~19:00
伊藤ハムスター いとうあつき 柿崎えま Tsuin 川田知希 玉垣美幸 松村真依子 米満彩子 講師:ブックデザイナー藤田知子、東京創元社 佐々木日向子 海外文学をテーマとした東京創元社の本の装画を描く ワークショップ。課題図書を描き、模擬装幀した本と 原画を展示します。 *サスペンス/ミステリ 『そしてミランダを殺す』ピーター・スワンソン 務台夏子訳 *ファンタジー 『失われたものたちの本』ジョン・コナリー 田内志文訳 *文芸 『深い穴に落ちてしまった』イバン・レピラ 白川貴子訳
ギャラリートーク 最終日15:00~
・・・・・・・・・・・・・
展示に参加します。
春から外国文学の装画WSに通っていました。
東京創元社さんから実際に発売されている本の装画を
デザイナーさん&編集さんと共に作りました。
通常の展示と異なり、作品の制作過程もパネルにして展示します!
最終日はギャラリーにて作品解説のギャラリートークも。
是非いらしてください。
9 notes · View notes
pukupukushinji · 3 years
Text
マシュー・マコノヒー主演「リンカーン弁護士」の感想・レビュー(ネタばれあり)
English🇬🇧 リンカーン弁護士 ★★★★★ 原作 ミクル・コナリー 監督 ブラッド・ファーマン 脚本 ジョン・マローノ 配給 日活 上映時間 119分 こんにちは、しんじです😉 今回はマシュー・マコノヒー主演の法廷サスペンス映画「リンカーン弁護士」の感想を書きます。 この映画は2011年の映画です。 監督ブラッド・ファーマンは2016年の「潜入者」の監督もしました。 この映画にはブライアン・クランストンとジョン・レグイザモが出演していてます マシュー含めて私のお気に入りの役者さんが多数出演しているうれしい映画です😊 あらすじ 感想 ○あらすじ ミック・ハラー弁護士(マシュー・マコノヒー)は裁判に勝つためならちょっとダークな手を使うやり手弁護士。 お金を払わねば弁護はしない「国選弁護士へ、どうぞ」となる。 そんなハラー弁護士に金になる仕事があると持ち掛けた保証金請負業のヴァル(ジ…
Tumblr media
View On WordPress
0 notes
kakuushoten · 3 years
Text
Tumblr media
#架空書店210419
⑪どんな本がある?
🏫
キャクストン
私設図書館
ジョン・コナリー
https://amzn.to/2OYmB3v
#予約受付中 #新刊 #本 #予約 #読書垢 #読書好きな人と繋がりたい #架空書店の本棚 #booktwt #キャクストン #私設図書館 #東京創元社
0 notes
kaeru-books · 6 years
Photo
Tumblr media
「失われたものたちの本」 ジョン���コナリー著 田内志文訳 東京創元社 posted on Instagram - https://ift.tt/2NN86JT
0 notes
findareading · 3 years
Quote
一方、読書は個人の楽しみだ。もちろん誰かと同じ部屋で、または夜に同じベッドの中で読書することはできる。だが、それにはお互いが納得し、しかも二人とも本好きでなければならない。二ページ読んだところで鼻歌を歌いはじめたり、指で何かをこつこつ叩いて気を引こうとしたり、ましてやラジオのチャンネルを回しはじめたりするような女性といっしょになった日にはとんだ悲劇だ。こういう女性は、そのうちこっちが読んでいる本をじっと見つめてすきあらば話しかけようとしはじめるだろう。そうなれば、平安な読書の時間をもつことはかなわぬ夢ととなる。
ジョン・コナリー著「カクストン私設図書館」(杉江松恋解説『BIBLIO MYSTERIES III』2014年11月kindle版、ディスカヴァー・トゥエンティワン)
3 notes · View notes
findareading · 6 years
Quote
しかし何はともあれ、本を読む時間がたっぷりできるというのは、悪くありませんでした。
ジョン・コナリー著/田内志文訳『失われたものたちの本』(2015年9月kindle版、東京創元社)
0 notes