Tumgik
findareading · 19 hours
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世の中が騒々しく、すさんでいる時にこそ、一人心を落ち着け、戦争や年金や失業や憲法とは遠く離れた物語の世界を、旅したくなる。今、人間社会があれこれと大変なのは分かった。だからせめて夜のひとときくらい、本のページの静けさに心を泳がせる自由を、存分に味わいたいのだと、誰にともなく訴え掛けたくなる。
— 小川洋子著「異界を旅する喜びを味わう──『家守綺譚』」(『博士の本棚』2016年5月Kindle版、新潮文庫)
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findareading · 2 days
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二時間ばかりの後、帰宅してから為永春水の『春色梅美婦禰』をおもしろく読み、惜しみ惜しみ栞をはさんで、シャワーを浴びた。寝酒のシェリーもうまくて上機嫌で眠りについた。
— 丸谷才一著『輝く日の宮』(2013年4月Kindle版、講談社文庫)
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findareading · 3 days
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閉じた瞼を灼く光の眩しさに、私は眉をひそめて顔を背けた。 何度か細かな瞬きをして明るさに目を慣らし、ゆっくりと窓を見る。 細く開いたカーテンの隙間から真っ白な光が射し込んでいた。ゆうべは一時過ぎまで本を読んでいて電池が切れたようにベッドに入ったので、きちんと閉めきれていなかったらしい。
— 汐見夏衛著『ないものねだりの君に光の花束を』(2020年6月Kindle版、KADOKAWA)
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findareading · 4 days
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区役所通りには、新藤凉子さんという女性詩人がやっていた「トト」というお店があってね。講談社系の水上勉とか中村真一郎という人たちが来ていた。そこにバーテンと称して奥のほうで本ばかり読んでいる男がいてね。それがデビュー前の半村良だな。ママが店を空けるときは彼に任せて、後で営業日誌を書かせるんだけど、一から十までデタラメばかりだったという話だね(笑)。
— 種村季弘著「焼け跡酒豪伝」(『雨の日はソファで散歩』2010年7月、ちくま文庫)
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findareading · 5 days
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灰色の夜明けになっても彼女は片腕に頭をのせてまだ本を読んでいる。『ドン・キホーテ』でも、プルーストでも、他のどんな本でも──
— ジャック・ケルアック著/真崎義博訳『地下街の人びと』(平成9年3月、新潮文庫)
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findareading · 6 days
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同時に、そんな感覚の自分に不安を感じて、できるだけ一人の時間を増やした……本を開いては、答えを探すつもりで読みふけった。
— 瀬川雅峰著『辰巳センセイの文学教室 下 「こころ」を縛る鎖』(2021年5月Kindle版、宝島社文庫)
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findareading · 7 days
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ふと見ると、男性が座っていた座席に、文庫本が置いたままだった。手に取って確かめると「桐の花」──北原白秋歌集。なんとなく、栞の挟まっているところを開いてみた。
— 瀬川雅峰著『辰巳センセイの文学教室 上 「羅生門」と炎上姫』(2021年5月Kindle版、宝島社文庫)
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findareading · 8 days
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そのぬくとく、空腹からも完全に解放された状況のもとで読む、源氏鶏太の明朗サラリーマン小説は、また格別の面白さがあった。
— 西村賢太著「瓦礫の死角」(『瓦礫の死角』2022年6月Kindle版、講談社文庫)
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findareading · 9 days
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私は、かつて講談社文庫に収録されたこの作品と、高校のときに出逢う。その世界を身体のすみずみに染み通るように深く感受し、とろけるように愛してしまった。畦地梅太郎のカバー、小沼丹の解説とともに忘れがたい。以来、無数の作家と作品に出逢いながら、庄野潤三という名前は別格。いわば、神棚に供えて祀り上げる存在となったのだ。
— 岡崎武志著『ここが私の東京』(2016年6月Kindle版、扶桑社BOOKS)
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findareading · 10 days
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私は宿に戻って、燃え尽きていくランプの灯芯を上げて読書を始めました。隣の部屋に泊まっておられる老紳士が私の懶惰と憂鬱を戒める意味で貸してくださった、幸田露伴博士の『人の道』という珍し い本です。
— 李箱著/斎藤真理子訳「〔紀行文〕山村余情──成川紀行中の何節か」(『翼〜李箱作品集〜』2023年11月Kindle版、光文社古典新訳文庫)
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findareading · 11 days
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航海中はほんとに退屈しきっているらしく、持ちこんだ長大作をひたすら桑の葉をむさぼるカイコのように──ただし、いちいち頭をふらずに──読みまくっているらしい。
— 開高健著『珠玉』(1993年1月、文春文庫)
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findareading · 12 days
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橋本さん(引用者注・橋本治)は私なんかとは違って、何色もの糸を使った精緻な編み込みを編んでおられたので、脳の処理能力という面ではまるで比較にならないが、一つだけ共通かもしれないのは、身体を使った読書のパワーということだ。 すっかり習慣化した編み手にとって編み棒は手の延長で、身体の一部にすぎない。そして、身体を使うことが読書に拍車をかけているのは間違いないだろう。これは、乗り物に揺られているときに読書に集中できることとも通じるのではないだろうか。
— 斎藤真理子著「編み物に向く読書」(『本の栞にぶら下がる』2023年9月、岩波書店)
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findareading · 13 days
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まいったなあ、年末から年始にかけては、いい加減受験勉強に身を入れなきゃいけないのに、全然集中できません。なんて、ニヤニヤしながら言うことじゃないんですがね。こういう時の方が読書って捗るんでしょうか。本当に困りました。でも、四月以来ささくれ立っていた気分が、ミステリーを読むと落ち着いていくのを感じます。それだけ没頭しているんですかね。読んでなかった頃と比べて、精神は安定しているかも。
— 阿津川辰海著「二〇二一年度入試という題の推理小説」(『入れ子細工の夜』2022年5月Kindle版、光文社)
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findareading · 14 days
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その年、エイコは七歳になった。小学校一年生だ。 そして、その日は、今日よりも寒い冬の日だった。 エイコはランドセルを背負い学校から帰ってきて早々、居間で本を読み始めた。 これは、いつも通りのことだった。いつも本の続きが気になって、友達と遊ぶのもそこそこにエイコは帰宅し、居間のこたつに入ったり、ベッドに寝そべって本を読む。今日はとても寒かったので、こたつにした。 こたつに置いてある籠に入ったみかんに目もくれず、黙々と本を読み進める。
— 三萩せんや著『神さまのいる書店 冬を越えて咲く花』(平成28年3月Kindle版、ダ・ヴィンチブックス)
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findareading · 15 days
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井上さん(引用者注・井上靖)に、そののちきいたことであるが、よく、このアパートから等持院まで歩いて、松林の陽だまりを見つけて腰をおろして読書したものです、とか、あのうどんやさんがなつかしい、などとおっしゃっていた。
— 水上勉著『文壇放浪』(2021年8月Kindle版、中公文庫)
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findareading · 16 days
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これは宋の姚鉉の編んだ『唐文粋』に出ているところだが、当時ひろく流布されていて多くの日本人が読んだ宋の黄堅編の『古文真宝後集』にもあって、恐らくこのあたりを踏まえているにちがいない。
— 加藤楸邨著『芭蕉の山河』(2000年3月第7刷、講談社学術文庫)
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findareading · 17 days
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新しい本を読むときはいつも、気分が高揚して胸が高鳴ったりするが、今は少し違う感じがした。知らない世界に足を踏み入れることに対する一種の怯えというか、ひるむ気持ちがあった。 冷静に、と念じながら頁を繰る。そのうち本にのめり込み、するすると頭へ内容が入ってくるようになった。
— 後白河安寿著『貸本屋ときどき恋文屋』(2016年3月、集英社オレンジ文庫)
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