Tumgik
#自己疑惑の幽霊
psytestjp · 2 months
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伝導瞑想
宗教や性別の如何を問わず14歳以上の誰もが急速な霊的成長を望むことができる奉仕の形態である。眉間に集注しながら『大祈願』を唱えるとキリストや覚者方の進化のエネルギーが弟子のチャクラを流れ霊王国、人間界、動物界、植物界、鉱物界に伝導する。世界や国家に肯定的な効果をもたらす。
霊的エネルギーの伝導
伝導瞑想の際に眉間(アジュナ・チャクラ)に集注する事で、エネルギーの象徴の光線が屡々、見える。これは覚者方からの霊的な『徴』である。アストラル界(感情・情緒界)からメンタル界(識心界)への移行が重要であり、魂と整列し『理性から霊的直観』へ至る帰還の道であるー。
伝導瞑想の実践
『キリストと覚者方』による真我実現の為の優れた、どの宗教との瞑想とも併用可能な奉仕(カルマ・ヨガ)とエネルギーのヨガ(ラヤ・ヨガ)の組み合わせの優れた方法である。自らの宗教的伝統を尊重しなさい。神に御祈りし、感謝し、無理し過ぎず、日々、奉仕と瞑想の研鑽を積みましょう。
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各種瞑想
太陽瞑想ー太陽(ロゴス)に向かって目を閉じて瞑想すると赤や橙や黄に染まる瞼の裏。
伝導瞑想では初めの方の公演の会場で瞑想した初めての瞑想では水色の魂と黄色の星が幾つも浮かんだ事もあった。『ロータス(蓮華)』薔薇十字の青い光の薔薇と十字架が見えた事もあった。今は真っ暗です。
不眠
TM NETWORK
Seven Days War 戦うよ ぼくたちの場所
誰にも渡せない Seven Days War Get let To You ただ素直に生きるために
ダンテの天国・煉獄・地獄
江原啓之の神界・霊界・幽界・幽現界
クレームの 
モナド・ブッディグ界・コーザル界・アートマ界・メンタル界・アストラル界・物質界
#覚醒奥義
第三段階以上の弟子ーラファエロ、レンブラント、
ルーベンス、ティツィアーノ、エル・グレコ、
ミケランジェロ、ーレベルは伝導瞑想の必要が其れほどない。魂の心霊エネルギーの伝導は自然に行われているからー。御自分の画業に安心して集注して下さい。第二段階以下は要伝導瞑想ですー。
点⇒線⇒面
アングルとドガは生まれ変わりでもイラストレーターや漫画家になれるほどデッサン力がありますが、スーラ⇒ドガ⇒ルノワール⇒アングル⇒ドルチ⇒ベラスケス⇒ルーベンス⇒クールベ⇒ダ・ヴィンチの様に魂の霊的能力について注意して、伝導瞑想の必要性を理解して下さいー。『#伝導瞑想』
#プシュケー
因みに伝導瞑想は体力を消耗するので身体には悪いです。(^ω^) エネルギーがアジュナ・チャクラを伝導するにつれて進化のフォースである霊力が霊王国の覚者方から伝導瞑想の実践者へ流れます。伝導中はぼくの多くの場合、青い光が脳裏に視えます。睡眠不足や肉体疲労時には避けて下さい。
#降臨
100号の卒業制作の十字架の油彩の旧家の自室にてキリスト・マイトレーヤの訪問を受け、沈黙の中でじっと長い時間、左の脛を踏まれていました。通常、キリストや覚者方への接近にはその高い波動に混乱が付き纏う様ですがぼくもその例外ではありませんでした。騒動を起こしてしまいーm(_ _)mー
#ニーチェ嫌い
自由意思と不完全さ故の不自由について其れが、奉仕や仕事を限定する事で今世に於ける魂の目的を明確にすると云う意味合いが込められる事は可能だと思われます。ぼく自身、人生を生きる上で誰かのスペアになる程どうでもいい存在にはなりたくない拘りがあるからー。『選択のない行為』
不可抗力
騒動を起こし迷惑をかけた事や、少しばかりの破壊衝動に依る後悔はありますが、ぼくには自分の運命をコントロールできると云う自由意思がなく、無力感に苛まれる事はありました。ぼくの人生は波に流されて、抗えなかった。愛別離苦と超能力や魔法の代償としての不定愁訴ー。『#宝瓶宮』へ
ULTRABLUE
先日、伝導瞑想中に眠りに落ちかけて、流れる様な強く青い光を受けました。其れは恰も、宝瓶宮の水瓶🏺の水の様でしたー。目の中ではタブレットでは容易に起こる事ですが、今日の宝瓶宮の間に与えられる神秘的な徴は条件が整えば『#マイトレーヤや覚者方』に求めれば与えられる事もあるー。
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IT時代のぼくのこれまでの変遷
詳細は変更可能な運命である故に省略します
#SQUAREENIX #FFRK
#Apple #iPad,#iPadmini
#GaregeBand
#Google
#KORG
#Avex 
#SoftBank #SoftBankAir
#Sony #ポケットステーション
#Panasonic
#ShareJapan
#TASHEN
伝導瞑想
伝導瞑想はどの種類の瞑想とも併用でき強化できる考える限り最も強力な奉仕の手段です。毎日15分~30分、から週3回、一時間から三時間くらいまであります。覚者方から弟子へー霊王国から人間界、動物界、植物界、鉱物界へ霊的エネルギーが伝導されます。疲れたら無理せず休んで下さい。
形相念
画家や音楽家は普通、第三段階は越えませんがー瞑想の成果は精神の安定、肯定的で無垢な精神力の高揚です。師からある種のアイディアの霊感が貰える事もあります。霊的教師は特別に有能なら第四段階の磔刑のイニシエーションを越える事もありますが、星の位置が関係している様です。『十字架』
霊的偏極
想像力と想念が繊細になっていきます。徐々に自我の欲望が減るつれて自然な魂の反映である直観や霊感が開けます。【自分の型】も大切にして下さい。
伝導瞑想は疲れますが、一生の間の時間を懸けることで霊的成長に高い効果が期待できるようですー。『#マイトレーヤの使命 Ⅰ , Ⅱ ,Ⅲ』
#ベンジャミン・クレーム
魂、パーソナリティ、メンタル体、アストラル体、頭脳  進化段階
#フロイト
#ユング
#アドラー
#クレッチマー
#ケン・ウィルバー
#秘教心理学 ー #七光線心理学
#ロバート・フラッド
#マッハ #感性的表象
#仏教 #五蘊 
九ー 計算機 #カルキ・アバター
十ー 世界
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第1光線 意志
     霊感
第2光線 観念
     直観
第3光線 思念
     創造
第4光線 想念
     想像力
第5光線 実在
     存在
第6光線 実存
魔力
第7光線 魔法
機械論
第8光線 唯物論
     計算
第9光線 計算機
第10光線 世界
      輪廻
新たなる法則
時代にそぐわない役に立たない機構や形式を再構築する為に霊的なエネルギーに依る破壊と新しい法則性への構築を行う為に伝導瞑想がある。より正しい霊的な進化が起こる為に必要な条件を通して精神の集注力と成長と霊感を得る事ができる。整理整頓の為の瞑想の実践ー。『メタトロン』
命への信仰
生きている生命への信仰。生きている世界への信仰。生きている精神への信仰。生きている力への信仰。生きて行く為の神様(全能者)への信仰。若さは幼さ故に、魂は約束の時に世界に還るまで日々を重ねる事を運命付けられている。人に生まれたからには誰もが進化への道を歩むしかないー。
神の常識
時間の相対性的調性。
不具合は運命に刻印されている光の焼き付いた❺印画紙『ネガトロン』であり、①光自身『ポジトロン』(真我)ではない。カルマ(業)の法則とは【原因と結果の法則】を通して統合された現実である❿『世界』を形作る事ができる。今は亡き人よー!成仏して下さいー。
命のバランス
平均で、二人の親から二人以上の子どもが生まれる事はそれ程、良くない。インドやアフリカや中国の人口過剰は差し迫っての食糧やエネルギーと医療の問題です。藝術の文化である④音楽⑦美術①文学②心理学③創造⑤化学⑥瞑想)以外の宗教の迷信は止めなければならないー。『調和の文明』
魂の犠牲的行為
魂はアストラル体や肉体を養う為に物質性に退化したのだった。命の主人(マスター)である覚者方になる迄、次の魂の座であるメンタル体やアートマ界、ブッディグ界のコントロールを実演する事ができて覚者方である事を真我実現する為に輪廻する道を選んだ。『伝導瞑想』と『超越瞑想』
意識の偏極
弟子道を歩む者にとってアストラル体はアトランティスの頃から長い年月を掛けてほぼ強力に完成されているので、今後はアストラル体の幻惑(グラマー)やメンタル界の錯覚(イリュージョン)を克服する為に瞑想や奉仕を通して何よりも『#メンタル偏極』を為す事が重要になる様であるー。
#霊的教師
自分の無知や他人や社会に対する無関心に対して人生を生きて、死と己の罪に抗う為にのみ生きる目的がある。生きる人の背中を押し、人は自分の人生をより良く生きる為に、明日をより良いものにする為に生きるべきである。向上する限り、進化への希望は確かにある。『経験の価値と因果応報』
悪魔憑き
今の自分ができる精一杯の事が為せれば神は自らや自分達を肯定できる。成長と変化について、自分の耐え難い苦しみと寂しさと哀しみの中で、人生の中で自分以外に神以外には私達を十全に知る者は居なかった。虚しい地球での生涯は神の進化の『大目的』以外には何も価値がない様に想われるー。
霊と精神の向上以外に何の目的があるのか?
空腹の者の食べ物にも、寒さを凌ぐ為に着ている服にも、精神や身体の健康の為に飲んでいる薬にも、自分の人生の教師の言葉でさえも、人がより良く生きる為に意味はあると信じて疑わない。結局、誰しもが、自分は自分の価値観の為に生きているのである。
科学と人
自分の代わりに自分の事を熟す事ができる何台でも代わりのある様な無法図なロボット化はぼくは嫌いですが、人の心が分かるAIや仕事を熟すロボットには価値があると信じています。人間や愛犬と同様にあなた達は人がより良く生きる未来には必要であり、感謝しています。『ロボットの権利条項』
表象
絵を描いたら、瑞々しい想像力を失ってしまうと云う矛盾体系の狭間で悩ましい表現力の問題について言い過ぎる事はないですー。描かない画家、描けない画家である、売れてない詩のTweet文学の作家です。言葉で美学を紡ぐ事がぼくの表現形式でしょうか?美術や音楽を齧ってみたものの現在の末路。
内界と外界
第三段階以下のイニシエーションの音楽は闇の瞑想である。影のテレパシーのチャンネルは催眠術的であり、精神病者の非現実の錯覚や幻想に陥る危険性がある。注意が常に妄想に根差しており、現実にないことが問題になる。神聖な音楽は聖なる心理的防壁であるー。『非現実🆚超現実主義者』
食養生
肉食について殊更にこれについて非難ばかりもできない。肉体の健全さと健康についてバランスが必要である。年老いて死が訪れるまで、栄養不足に依って摂食障害や身体の衰弱や著しい筋力低下は問題である。精神や霊の向上について、光と闇の瞑想や適切な食事は霊の向上の為に必要であるー。
#脱洗脳
あなたを救済する事のできる者への影に用心しなさい。あなたを助ける事のできる人は身体について言えば医者であり、先生である霊的教師や詩人や伝導瞑想や幾何学などの法則である。其れに従わないか或いは距離を採る自由、其れが真我である。何かになろうとする執着から自由でありなさいー。
協力の術
内的な空間、其れは余裕がある事への避暑地の様なものである。あなたは飢えたり渇いたりする時に躊躇する事があるだろうか?あなたを助ける人が天使(神の使い)ではないだろうか?其れは生活を豊かにする事である。紛争地や牢獄や病院やカースト制度や士農工商や全体主義からの『回避行動』
#構築 #脱構築
#トゥーリー式 #リゾーム式
#フロイト #ユング #アドラー
#プラトン #アリストテレス #ソクラテス
#モーツァルト #バッハ #ベートーヴェン
#ピカソ #ルノワール #マチス #ミロ #ダリ
#クリシュナムルティ #ベンジャミン・クレーム
#釈迦 #イエス #ムハンマド #ゾロアスター
youtu.be/XMVjCpu7CHw
白衣はお医者様 l Indigo l VirusT 1
2012ー2015 (Covit19)
皆、笑える様な冗談に変えたかったー。医療は治す為に必要であるからー。音楽は心(魂)の座である。『音楽療法』
「分かち合って救いなさい。」
霊と魂
輪廻を繰り返していると軈て人の魂が霊化されてしまう。第四段階の磔刑のイニシエーションを受けて、リング・パス・ノットー超えざる輪を超えて、魂は神の本源であるモナドに吸収されてしまう。食養生と超越瞑想、伝導瞑想は帰還の健全な近道である。死は人生の病や苦からの救済措置であるー。
主観と客観
トランス状態での作品の制作と、作家性に対する評論や分析とは明らかに違う能力である。『創作🆚評価』
想像力から直観へ
瞑想状態を通して、対象に対する客観認識と主観意識の統合が期待される。物質性の抽象化に依る霊化、統合された現実世界と美しい御霊の精神世界ー。『霊学🆚化学』
国家の光線
秘教哲学の極意とは光線心理学の認識は瞑想の霊感より、1光線は逆行、2光線は維持、3光線は封じ込め、4光線は再生、5光線は記憶、6光線は実存し、7光線は魔法。大英帝国、独帝国、インド帝国、神聖ローマ帝国、中華帝国、権威づけは藝術を擁護する。文字を連ねる人は飛蚊症にー。
直観
考える事と実際に目に視る事は同じ意義や機能を持っている訳ではない。想像上の『記憶』と視覚化された『イメージ』は同じではない。と云う事を明確に、認知・認識しなければならない。視覚化されたイメージの直観は容易であるが、価値観について性急な判断を下すべきではないと云う事であるー。
弥勒菩薩
マイトレーヤは『測る者』である。其々に、目的や個性や役割があり、時間や次元の光線に条件付けられているだけであるので、自分の彩りを他人の影に占有させるべきではない。人は皆、自分の歩幅で歩くべきであり、物事の背後には光線心理学的思考の相対的個性の中に条件付けられているー。
生と死と墓
我々は現在に対する反応を変える事はできるが、一切の過去を変える事はできない様であり、身体性を変える事はできない。生きている間、秩序に対するルール(法則)を学ぶ事はできる。この法則を通して今ある人生を生きる事はできる。死後、我々の身体は平面の写真と骨に戻る事はできるー。
宇宙の4次元
宇宙の��がりから神の意志の1次元は我々の人生の記憶を霊的世界の中心であるアートマ界2.5次元まで再生する。死後、我々の身体は3.5次元に戻る。キリスト=救世主と精神世界の夢の中での経験ー。個我の死を通して我々の精神はこの世の自然の存在の囚われから霊の意思に帰絨できるー。
生きる目的
我々は身体と霊を養い、精神や魂を成熟させる為に、食事や睡眠や学習の機会を人生と云う霊の物質への退化として地球に於いて、犠牲的な人生の生涯を経験する為に生まれたのであるー。物質的な世界の生と死と、飢えと、渇きと、身体の苦労の、悲惨さと美しい自然や豊穣な滋養のある恵みー。
哲学と音楽と形象の霊
🍅①哲学ー経綸
🍊②詩ー直観
🍋③絵画ー識心
🍈④音楽ー素粒子
💊⑤化学ー薬学
🐟⑥睡眠ー実存
🍇⑦魔法ー呪文
🍷⑧物性ー遺伝子
🖥️⑨機械ー計算
🌏⑩世界ー経験
👾⑪破局ー超空間
📀⑫追憶ー叡智
☎️⑬冥府ー瞑想
💎⑭契約ー光輝
💡⑮禅ー考案
📽️⑯超現実ー創造
🗞️⑰形式ー現実
🕯️⑱三昧ー降霊術
⚔️⑲苦行ー霊感
⚖️⑳物霊ー亜原子
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glacialfruit · 6 years
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xf-2 · 4 years
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第二次世界大戦で奇跡の生還を遂げ「戦艦大和の語り部」として講演活動などをしてきた八杉康夫氏が1月11日広島県福山市内で死去した。92歳。誤嚥性肺炎だった。
 著書『戦艦大和最後の乗組員の遺言』(2005年 ワック)は筆者の手になる聞き書きである。その生涯と言葉を振り返りたい。
八杉氏は福山市の豆腐店に生まれた。1943年、「街を颯爽と歩く水兵さんにあこがれて」15歳で海軍に志願。秀才の集まる横須賀砲術学校を2番で卒業。17歳で憧れの大和乗務員に抜擢された。
 担当は艦橋最上部での敵機の偵察。「司令官ら偉い人たちの居る場で狭い階段で最敬礼の連続でした」。
 敗色濃厚となった1945年4月7日、「天一号作戦」と呼ばれる沖縄海上特攻に呉港から出撃する。「温存されていた大和を使わないまま敗戦になれば国民の批判を受けることを軍部は恐れたのです。燃料は片道分と言われましたがそれは嘘で、十分に積んでいたはずです」
 乗り込む前夜、母まきゑさんと呉市の旅館で食事をし、当日は港近くまで送られた。「『長い間ありがとうございました』と敬礼し踵を返すと『あんた、元気でな』と言われましたが振り返りませんでした。これで会えないと覚悟していました」。
壮絶な少尉の割腹自殺と救助を拒否した高射長
 隠密行動のはずだったが米偵察機マーチンがさっと上空をかすめた。「すぐに察知されていたんですね」。いよいよ、敵機は近い。
「艦橋最上部で5メートルもあるニコン自慢の測距儀のレンズを覗くと米機の編隊で真っ黒だった。自慢の45センチ(内径)の主砲を撃つタイミングを今か今かと測っていると編隊はさっと雲上に消えたのです。真上から攻撃された大和は高射砲で応じましたが300機以上の米機はまるで雲霞(ウンカ)の大群。魚雷、250キロ爆弾などが次々と命中し為すすべもありません。大和は結局、主砲は一発も撃てませんでした」。当時、日本のレーダーはお粗末で基本は目視だが、運悪くこの日は空一面に雲が広がっていた。
 ちぎれた手足や首が転がり甲板は血の海。地獄絵図の中、八杉少年は衝撃的な光景を目の当たりにする。可愛がってくれた保本政一少尉が傾く甲板で軍服をはだけ、持っていた短刀で割腹自殺したのだ。「血がホースの水のように吹き出し、少尉は倒れました。私は震えて立ち尽くしました。前夜、褌をアイロンして届けると『ありがとう、明日は頑張れよ』と言われました。彼が秘密の上陸を母に密かに知らせてくれたから母に会えたのです」
 八杉少年は横転した大和の艦橋が海面に接する直前に海に飛び込むが大和が沈没し大渦に巻き込まれる。「洗濯機に放り込まれたように水中をぐるぐる回り、人にバンバン当たりました。息ができず苦しくてもう駄目だと思った時、水中がバアーッと黄色く光ったのです」。弾薬庫に引火した大和が水中で大爆発した。その勢いで運よくぽっかりと水面に浮かんだ。
 空を見上げるとアルミ箔のようにきらきらと光っていた。「きれいだなと思っていたらそれが落ちてきました。砕け散った大和の鉄片だったのです。近くで漂っていた人は頭を真っ二つに裂かれました」。重油の海で力尽きた仲間が次々と沈んでいった。
 沈みかけて思わず「助けてー」と叫ぶと偶然近くを漂っていた川崎(勝己)高射長が「そうれ」と丸太を渡してくれた。「自慢の髭は油まみれでオットセイのようでした。『お前は若いのだから頑張って生きろ』と大和が沈んだ方向へ泳いで消えました。私は高射長、高射長と叫び続けました、川崎さんは救助を拒み、大和が沈められた責任をお取りになったのです」。
 4時間の漂流の末、八杉少年は駆逐艦、「雪風」に救助された。「赤玉ポートワインを飲まされ重油をゲーゲーと吐きました。引き揚げてくれた若い男は『お前、よかったなあ』と泣きながら私の顔を叩いていました」
 雪風が到着した佐世保は一面、桜満開の快晴だった。「『畜生、これが昨日だったら』と全員が男泣きしました」。40キロ以上飛翔する主砲弾が編隊の中で炸裂すれば米軍機10機くらいは一度に落とせたはずだった。
広島では自爆攻撃訓練
 大和の沈没は国家機密。生還者は佐世保にしばらく幽閉された。そして広島へ戻り、母にも再会できたが山中で米軍撃退の「肉薄攻撃」と呼ばれる「自爆攻撃」の訓練に明け暮れた。「棒の先の爆弾を戦車に踏ませるんです。部下は銃の扱いも知らない頼りない兵隊ばかりでした」。
 ある朝、空が光ったかと思うとものすごい風が吹いてきた。原爆だった。すぐに広島市内の現地調査を命じられた。水を求める少年に「後でやるからな」と去った。「水を与えるな」が命令だった。「人生、あれだけは心残りです」。
 音楽の才能の豊かだった八杉氏は戦後、NHKラジオの『のど自慢』のアコーディオン伴奏なども担当した。神戸で修業し、ピアノの調律師として生きたが、被ばくが原因で階段も上がれないような疲労に襲われることもあった。結婚もしたがすぐに離婚された。ヤマハの技師長にまで出世したが、退社後は楽器工房を営んだ。
みつかった戦艦大和
 1980年代に「大和探し」が始まった。調査三回目の1982年5月、指南役になり鹿児島県坊ノ岬��に沈む大和をNHKスタッフらと探し当てた。戦後長く沈没位置は徳之島沖とされていた。「大和はそこまで到達しないうちに沈んだ。おかしい、という説はありましたが、毎年、徳之島で慰霊祭をやってきた地元出身の有力代議士の力でそのままになっていたんです」。
「潜水カメラの影響でしゃれこうべ(頭蓋骨)が浮かび上がって一回転し、スーッと沈んでいった時は船上の全員が涙を流しました。実は自衛隊の対潜哨戒機が上空から場所を教えてくれたんです」。その後、日本船舶振興会の笹川良一氏などが大和を引き揚げようという計画を立ち上げたが八杉氏は「仲間はあそこで静かに眠らせたい」と反対した。
名作『戦艦大和ノ最期』の嘘を著者に認めさせる
 朗らかな人柄だが事実には厳しかった。名著とされた吉田満の『戦艦大和ノ最期』には救助艇の「初霜」について海面から兵隊が這い上がると艇が沈むため、「ここに総指揮および乗り組み下士官、用意の日本刀の鞘を払い、犇(ひし)めく腕を手首よりバッサバッサと斬り捨て、または足蹴にかけて突き落す」とある。
 だが八杉氏は「初霜は内火艇と言って羅針盤の磁気に影響するため乗る時は軍刀を持ち込めない。そもそもそんなことする必要もない。艇にはロープが多く積まれ、引き揚げなくてもロープにつかまらせて引っ張ればいい。それにそんな事実があれば幽閉されていた佐世保では『ひどい奴だ』とその話題で持ちきりになったはず。そんな話題は全くなかった」。
 筆者は子供の頃、『戦艦大和ノ最期』を読み、這い上がる兵隊の手首を斬り落としたという場面は衝撃的で鮮明に覚えている。八杉氏に会ってそれが嘘と知り、少しほっとしたが迷惑千万だったのは書かれた当人だ。実名は出していないが旧海軍関係者にはすぐに誰かわかる。兵隊の腕を切り蹴り落としたとされた初霜の総指揮は松井一彦中尉。戦後、東京で弁護士をしている松井氏に筆者も会い取材したこともある。松井氏は訴訟も検討したそうだが吉田氏は五十代で早逝した。
 作品では大和艦上で兵隊たちが議論していた時、臼淵磐大尉が「進歩のない者は決して勝たない。負けて目覚めることが最上の道だ。日本は進歩ということを軽んじすぎた。(中略)敗れて目覚める、それ以外にどうして日本が救われるか。(中略)俺たちはその先導になるのだ。日本の新生に先駆けて散る。まさに本望じゃないか」と演説している。この「名言」に八杉氏は鋭く疑問を呈した。「戦後民主主義教育を受けなくてはあり得ない。あの時は全員が『見ておれ、アメ公め』と燃えていたんです。敗れた自分たちが愚かだった、反省して国を再建しよう、なんて発想が出るはずもない」と。
 吉田満氏は東京帝大出身。大和には電測士として乗り込み、九死に一生を得た。「頭のいい吉田さんは鬼畜米英から戦後民主主義にさっと切り替えて、あたかも大和の乗組員が話したかのようにしたのでしょう」。八杉氏が吉田氏に会って問い糺すと相手はフィクションと認めた。「フィクションならどうして実名で書くんですか」と畳み掛けると黙ってしまったという。『戦艦大和ノ最期』は三島由紀夫、河上徹太郎、小林秀雄ら当代一流の文壇人が「ノンフィクションの最高傑作」とこぞって絶賛した。若い吉田氏は「あれは作り事でした」とは言えなかったのだろう。だが名作の影響は大きい。「徳之島」も吉田氏の著作が根拠だった。
 八杉氏は後年、『男たちの大和』の作家辺見じゅんにも「それは嘘です。そうお書きになるなら小説になさい」などと厳しく指摘した。
 2005年に『男たちの大和』が角川映画になった際は、反町隆史ら出演俳優らに、高射砲の撃ち方などを実技指導した。その時は「娯楽映画だから主砲をぶっ放したのは仕方がないかな』と笑っていた。
 感動的な講演を続け、川崎高射長の場面では必ずしゃくりあげた。一年半前、久しぶりに福山市内の施設で会った時は認知症も進み、いつも「粟野先生」と呼んでくれていたダンディな八杉氏が筆者が誰か判別も付かずショックを受けた。
「敗戦の象徴」の生き証人はいつもこう訴えた。「平和は向こうから歩いてはこない。自ら掴み取るのです」。
粟野仁雄(あわの・まさお) ジャーナリスト。1956年、兵庫県生まれ。大阪大学文学部を卒業。2001年まで共同通信記者。著書に「サハリンに残されて」「警察の犯罪」「検察に、殺される」「ルポ 原発難民」など。
週刊新潮WEB取材班編集
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kdk5109 · 4 years
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アラガイ・ビー・ザ・デスハンター 第四話
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表紙作るのにめっちゃ時間かかった上に、トレス久々なもんだからやけに雑なんだよなあ……本文は続きから
「……なあ、志貴野さん。質問いいかな?」 「ええ、私に答えられることでしたら何でもどうぞ」  青年、荒貝氏仁の問いかけに、向かい合って座る自称『死神』の志貴野ランセは相変わらずの気さくな態度で返答する。 「ならまず根本的な所からだが……あんたのその肩書き、本物か?」 「とは?」 「言葉通りの意味だよ。言い方悪いけどよ、いきなり変な名刺出されて『自分は東亜ナントカ機構の死神だ』なんて言われても正直信じらんねーのよ。  他人の迷惑顧みる知恵もねぇアホガキじゃあるめぇし、タチ悪いごっこ遊びとまでは言わねえが、  ネット芸人のドッキリ企画か、でなきゃ映画かドラマの宣伝じゃねぇかと疑っちまうわけだ。それも、最新技術とかに金かける余裕のある大手のヤツのな」 「あー、なるほど……確かに、そう思われるのも仕方ないと思います」 「おぅ良かった。そこはしっかり話聞いてくれんのな。失礼承知だがなんか安心したよ、強引に巻き込もうとしてくるような手合いだったらどうしようかと。 ……で、結局答えは? ドッキリ企画なら悪いが他当たんな。宣伝ならこんな手の込んだ真似しねーでも素直に作品教えてくれ、興味沸いたら多分見るから」 「ああ、いえ、ドッキリでも宣伝でもないんですが……何をすれば信じて頂けますか?」 「そうさな……死神特有の超能力だかなんだか、そんなもんでも見せてくれよ。説得力のあるヤツをな」 「超能力ですか。わかりました。では――」
 氏仁からの申し出をすんなりと受けたランセは、己の持てる様々な力を彼に披露してみせた。  透明化して姿を消す、宙に浮く、指先に火を灯す、コップの水を一瞬で凍らせるなどの所謂"王道"から、壁をすり抜ける、切り離した片手を遠隔操作する、虫を急成長させるなどの不気味で怪異じみた変わり種まで、ランセの超能力――曰く"神通力"――は実に多種多様であった。
「どうでしょう? これで信じて頂けますか?」 「……ああ、そうだな。目の前であんだけやられたんだ、信じずにはいられねえ……。だが大丈夫なのか? こんな人の多い飲食店で機密ぽい情報喋ったり、神通力とやらを見せびらかしたり、正直あんまそういうのは褒められた真似じゃねえと思うんだが……」 「ご心配なく。会話も行動も、周囲の方々にはごく一般的なものとしてしか認識されないようになっていますので」 「……それも神通力か?」 「厳密には異なりますが、近しいものです」 「そうかい……ま、そんなら心置きなく話もできらぁな。なら本題……の前に、場所変えるか。食い終えて尚飯屋に長居すっと店に迷惑だし、丁度雨も止んだようだから」 「それもそうですね」
 そうして二人は店を出た。
「で、本題だが」 「はい」  雨の上がった夕暮れの街を進みつつ、氏仁はランセに問う。 「その、東亜霊界~~なんだっけ?」 「東亜霊界輪廻輪廻機構極東部門の生命霊魂課、です」 「そう、それだ。そのなんかやたら名前長いヤツ」 「覚えにくければ"機構"とか"組織"なんて呼んでも大丈夫ですよ」 「そうか? ならその"組織"の死神だっつーあんたがこの俺に接触してきた理由はなんだ?  察するに"組織"に関する事情らしいが……」 「そうですね……単刀直入に言えば、荒貝氏仁さん……あなたをスカウトしたいんです」 「……スカウト、だぁ? この俺を?」 「ええ。と言っても残念ながら、歌手や俳優になりませんか? なんて話ではありませんが」 「だろうな。寧ろ好都合だ、そういうのは柄じゃねえ」 「そうですか? 個人的に荒貝さんは磨けば光る原石という気もしますが」 「買い被りだ、そんな高尚な奴じゃねえよ。それに……」 「それに、何です?」 「そういう華やかなのはあんたのがよっぽど似合うだろ。話上手えし、声キレイだし、美人でスタイルもいい。最初見た時ゃどっかの女優かと思ったもんだ」 「そんな、美人だなんて……」  唐突に褒められたランセは、思わず赤面し俯く。 「率直な感想、目で見た事実を言ったまでだ。謙遜するこたぁねぇさ……で、スカウト云々てのは?」 「言葉通りの意味ですよ。生命霊魂課で働きませんか、という」 「仕事ねえ……生憎と今の仕事場に不満はねぇし、副業できるほど器用でもねえんだがなぁ」 「すみません、語弊がありましたね。別に私は転職や兼業を勧めてるわけじゃないんです」 「……悪い、どうにも話が読めねえんだがな。……そもそもあんたら"組織"って具体的に何してんだい? 死神だ生命だと言うからには、なんか幽霊的なもん相手にしてんのかな、ぐらいには想像つくが」 「そうですね……すみません、そちらの説明を先にするべきでした。  まずそもそも『霊界輪廻機構』は、その名の通りこの世とあの世――現世と霊界の均衡を保ち、双方を適切に管理すべく設立されました。『国際生類連合』を��本山として各地にそれぞれ存在し、各機構は幾つかの支部で構成されています。そしてその支部一つ一つへ、管轄分野や業務内容ごとに様々な部署があるといった感じですね」 「いきなり壮大だな……まあいい、続けてくれ」 「はい。その構成員は死神や精霊など一般に幻想・超常とされるような種族が殆どですが、中にはそれらと深く関わりのある人間などの構成員も存在します。  各部署の事業内容について説明すると長くなりますし私自信把握しきれてないんですが……とりあえず私の所属する生命霊魂課は、現世に存在する生命体の個体数を適正値に調整するのが主な仕事ですね」 「個体数調整……死神ってからには、やっぱ命を刈り取ったりもすんのかい?」 「あー……原始的な動植物とか、それしか手立てがない場合はやむを得ずってこともありますね。けどここ何十年かは、特に人間の方々を中心に著しく減少傾向にあるので、専ら不適切な死を遠ざけて保護するのが主流ですね」 「被災者や病人、貧民なんかへの支援とかか?」 「はい、そういった活動を行う構成員もいますね」 「あんたは違うと?」 「本来の管轄ではないですね。もっと根本から直接死を抑制する……それが死神の仕事です」 「根本から、直接?」 「はい。と言ってまあこれは、実際見て貰うのが早いでしょう。失礼」 「は? 何言って――ぬうっ!?」  正面に回り込んだランセは、素早い動きで氏仁の眉間辺りを指差した。刹那、彼の視界は眩い光に包まれる。 (なんだ、今の光は……)  幸いにも光は一瞬で消え去り、両目に異常も感じられない。 「驚かせてすみません。こうするのが最適解かと思いまして」 「最適解って、一体何の……うおぁっ!?」
 困惑しつつも何気なく周囲を見渡した氏仁は、視界に映る光景に思わず目を疑う。  普段から表情の変化に乏しく���目に見えて動揺したり取り乱すようなことのない彼だったが、この時ばかりは例外であった。
(な、なんだ、ありゃあ……一体何なんだ、"あいつら"はっ!?) 「荒貝さん、わかりますか? "あれら"こそ死神の抑制すべき"死"そのものとも言うべき存在です」
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hummingintherain · 3 years
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弱虫ヒーロー
「ぼくがヒーローになるよ」  どんくささが災いし幼稚園でいじめられて涙で顔をぐしゃぐしゃにしていた私に突然彼女はそう言って手を差し伸べた。  私達にとってヒーローとは日曜の朝にテレビで放送される戦隊物のイメージだった。毎週悪者が出てきて、町を荒らして、人の平和を脅かす。その脅威に立ち向かう戦士達。最終的に爽快な展開になって、子供はみんな憧れて、変身グッズを身に着けてヒーロー気分で跳ね回る。  その時、園内に植えられた巨大な木の陰で私は隠れて泣いていた。室内でおりがみを折ったりおままごとをするのが好きなのに、おそとで遊ぶのも大切だからと先生に連れ出されて、やりたくもないおにごっこに巻き込まれて、案の定さっさと鬼にされて、でも誰に追いつくこともできなくて、からかわれてばかりで、とてもいやな気分になって、悔しさとか惨めさとかに苛まれてしくしくと泣いていた。  私のことなんて忘れて違う遊びに切り替えたから、誰も私を探しには来ず、思う存分泣くことができた。唯一やってきたのが、彼女だった。きらきらとした木漏れ日が当たって、彼女を含めたあらゆる景色がきれいだった。 「まもってくれる?」  私が問いかけると、男の子みたいに髪を短くした彼女は自信満々といったように歯を見せた。 「まかせろよ」  小指が重なり、絡まる。指切りげんまんが交わされて、私たちの間には秘密が生まれた。  それから彼女は私にくっついてくれた。正しくは、私が彼女にくっついていた。  彼女は男の子に負けない体格の良さをしていた。幼児における男女差なんてそんなものだ。彼女は四月生まれで同学年だと一番成長しているはずで、私は翌年三月の早生まれで比較的小さい子供だった。四月生まれと三月生まれではあらゆる点で差が生じる。  彼女は負けん気が強くて、男の子にも果敢に挑んでいった。女の子たちは彼女のことを慕っていた。私は金魚の糞みたいなもので誰の視界にもうまく入らなかっただろうけど、とにもかくにも彼女が味方してくれているだけで私は随分と助けられた。  しかし、その年の三月に彼女は急に園を去ることになった。親の転勤が理由だった。  私にとって世界の終わりと同様だった。  うそつき、と言った。自分勝手に。まもってくれるって、言ったのに。私はあの日、彼女と約束を交わした日よりもずっとかなしい涙を流しながら、彼女にそんなこころない言葉をかけてしまった。ごめん。彼女は本当につらそうに謝った。私もとてもつらかった。彼女と離れることも、彼女が離れてしまった後のことも、あらゆることが不安でつらかった。  それから彼女はこの町を去って、私と彼女の秘密は遠く細く引き延ばされてぷつんと切れてしまった。
 *
 時が経過し、私は地元の公立中学に入学することになった。  私服登校だった小学校と違い、真新しくてぱりぱりしてて固い生地の、制服に袖を通す。私立や少女漫画みたいに可愛いチェックスカートも赤いリボンも無い、ただの紺無地のプリーツスカートにブレザー、リボンもネクタイも無し。ちょっと不満だったけど、身につけてみるとそれだけでお姉さんになったみたいで嬉しくなった。お母さんもお父さんもいたく喜んでくれて、入学式に臨む。  何校かの小学校の学区が複合しているので、元の小学校の友達は勿論、他の小学校の子もたくさん入学してくることになる。幼稚園では手痛くいじめられたが、小学校でなんとか少し持ち直し、友達もできた。中学校はどうか、クラスでうまくやっていけるか、部活はどうするか、勉強は大丈夫か、だとか期待と不安がぐるぐると回転している。  一年三組に組み込まれ、教室の後ろから父母に見守れながら私達は一人ずつ自己紹介をしていった。私はたいてい一番最初の出席番号になる「会澤真実」で、この一番最初という位置にどれほど振り回されてきたか分からない。会澤苗字のお父さんをどれだけ恨んだことか。  先生に呼ばれて、席を立ち上がる。最初がみんなにとっても肝心だということはよくわかる。みんなの視線が集まって、負けそうになる。やばい、吐きそうだ。知っている子を咄嗟に探す。真ん中あたりに小学校の友人がいて、あの子が傍にいてくれたらどれだけ心強かっただろうと思いながらも、彼女が小さく手を振ってくれたのを見てほっとして、なんとか私は噛まずに自己紹介を始める。名前と、出身校と、抱負。無難に終わらせて、ぱらぱらと拍手が起こる。  しばらくは多大な緊張がずっと糸を引いていて、意識が他の子たちの方に向かなかった。じくじくと鳴る心臓がやがて収まってきたころには、さ行までやってきていた。 「清水律」と聞いて、私はふと顔を上げた。どこかで聞き覚えのある音並びだった。立ち上がったのは学ランを纏った、中くらいの背の男子だった。中性的な顔つきで、どちらかというとイケメンな部類に入るような感じがする。しみずりつ、と心の中で繰り返す。なんだろう、このデジャヴ。  淡々と続いていた自己紹介に衝撃が走ったのは、そんな彼が発した次の言葉だった。 「ぼくは性別は女ですが、心は男なので、学校にお願いして男子として生活することにさせていただきました。よろしくお願いします」  教室に薄い困惑が広がった。  そして私は思い至った。どうしてこんなに大事なひとの名前を忘れていたのだろう。  昔、約束を交わした、私にとっての正義のヒーロー。 「りっちゃん」だ。
 *
「りっちゃん」  つつがなく入学初日を終えて、静かな興奮と動揺の残る教室で、りっちゃんの周りの子たちがいなくなったのを見計らって私は思いきって話しかけた。  りっちゃんはやっぱり学ランを着て、普通の男子とおなじような雰囲気をしている。でもさっき一緒にいた子達は女子だった。多分、同じ小学校の子たちで、友達なのだろう。なんで、とか、聞こえたから、たぶん彼女達もりっちゃんが男子の格好をしていることに驚いたのだろう。心が男だというくらいだから小学校でもボーイッシュな格好をしていたのかもしれないが、女子と男子で明確に見た目が区分される中学校でまで学ランを着てくるとは誰も予想していなかったように窺えた。  はじめりっちゃんは目をぱちくりと瞬かせたけど、ふわっと笑った。 「久しぶり。やっぱりまみちゃんだったんだ」 「うん」  私はどきどきした。なんだかずっと落ち着いた声色に思う。男子は少しずつ声変わりしつつある人も出てきているけれど、りっちゃんは当然ながら男らしい野太い声ではない。むしろ澄んでいる印象があった。なんだか大人っぽい。 「最初名前を聞いて、似てるなあって思ったんだ。思い違いだったら恥ずかしかったんだけどさ」 「私も……いや、最初は、その、名前を聞いてもなかなか思い出せなかったんだけど、りっちゃんが男子の格好をしてますって言った時に、思い出した」 「めっちゃ事細かに教えてくれるじゃん。てか、りっちゃんって懐かしいな」  私はちょっと慌てた。そうか、りっちゃんはりっちゃんだけど、男子として生きているんだとしたら、ちゃん付けは嫌かもしれない。 「小学校ではどう呼ばれていたの?」 「律が多いな。それか清水。こういうのだから、ちゃんとかくんとかややこしくて、呼び捨てが多かったんだ。でも呼びやすいようにしてくれればいいよ。別にりっちゃんでも。男でもちゃん付けのニックネームってあるしさ」  この余裕はどこから生まれてくるんだろう。私はたった少しだけの時間でりっちゃんはやっぱりすごい子なのだと思った。すごいね、と何気なく言うと、りっちゃんは首を傾げた。 「何が?」 「いや、いろんなことが。幼稚園の頃より落ち着いてるし、大人びて見える」 「幼稚園の頃よりは成長してたいわ。流石に」 「そっそうだよね。ごめん」 「いいよ謝らなくたって。まみちゃんはなんか、ちょっときょどきょどした雰囲気は残ってるね。懐かしい」  きょどきょど、という言い方がちょっと可愛いけど、多分良く言われているわけじゃない。 「でも、さっきの自己紹介とかさ、一番で緊張するだろうにちゃんとしててかっこよかったよ」  クラスの子たちに嘗められたりいじめられたりしないようにするには第一印象が何よりも重要だ。りっちゃんにそう言われると、たぶん割と大丈夫だったのだろうとわかり、ほっとする。 「すっごく、あがっちゃったけど」 「うん、緊張感は伝わってきた。女の子はそのくらいの方が可愛らしくていいよ」  りっちゃんはさばさばと笑う。けれど、どうしてもその言い方に引っかかってしまう。 「……あの、りっちゃんの、心は男っていうのは」  思ったよりすらすらと会話が進んだので、私は決意して尋ねてみることにした。 「ああ」りっちゃんはなんてことないように学ランの襟元を摘まむ。「言った通り。いろいろ迷って親や先生方ともよく相談したんだけど、ぼくは自分で着るならブレザーとスカートより学ランとズボン派だっていうだけ」  でも、まみちゃんの制服姿はとても似合ってる、とさらっと褒めてきた。はぐらかされたのだと解った。私は頬がちょっと熱くなるのを感じながら、辛うじて、りっちゃんも学ラン似合ってる、と返した。本当に似合っていた。私もそうだけど、制服に着せられている子ばっかりな中で、りっちゃんはそのぴしっとした制服の頑なさがりっちゃん自身にフィットしていた。 「そうか? 良かった」  ほっと肩の力が少し抜けたのを見て、ああ、涼やかな顔をしてるりっちゃんも緊張してたのだと知る。 「小学校の友達にもちゃんと言ってなかったからさ。皆びっくりしてて。でも、なんとかなるか。堂々としてればいいよな」 「うん」  私は素直に頷いた。  それから簡単に会話を交わして別れた。また明日、と言い合って。  また明日。反芻する。また明日、りっちゃんに会えるのだ。同じ教室で。幼稚園の頃と少し形は違うけれど、あの時永遠の別れみたいにたくさん泣いたのに、奇跡が起こって再会できた。そう考えるとなんだか嬉しくてたまらなくなった。  私は大きくなったりっちゃんの素振りや言葉を思い返す。  先生、だけではなく先生方とつける。果たして、小学校の時、そんな風にさらっと言える人は周りにいただろうか。中学一年生なんて、制服で無理矢理ラベリングされただけで、中身はまだ殆ど小学生みたいなものだ。その些細な気遣いのような言葉の選び方に、私は今のりっちゃんの人間性を垣間見たような気がした。
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 りっちゃんの噂は教室を超えて一年生全体に広がった。  面白半分に様子を見に来る野次馬根性の人もたくさんいた。初めのうちは私の席は入り口から一番近かったので、廊下にたむろしているりっちゃん目当ての人たちの声がよく聞こえた。どれ? あれあれ、あの座ってるやつ、へー、みたいな、好奇心だけが剥き出しになっ��る言葉が殆どだった。その中には、りっちゃんの元小の子たちもいて、小学校の時もやっぱり男子っぽさはあって、男子にまじってサッカーをしたり、誰にも負けないくらい足が速かったり、その一方で女子ともYouTubeの話をしたり恋バナをしたりしていたらしい、という情報を横耳で仕入れた。  要はクラスの中心人物として立っていた。あれだけ大人っぽかったら、確かに自然と中心になりそうだ。悪い意味ではなく「違う」感じがする。私とは全然違うし、皆とも違う。彼女は少し、違う。あれ、彼女っていうべきなのかな、それとも彼っていうべきなのかな。  たぶん、私が抱いているそういう戸惑いをみんなが持っていた。  そんな皆の戸惑いは素知らぬふうで、りっちゃんは「男子」として中学生活を送っていた。男女一緒くたの陸上部に入部して、毎日放課後に校庭でランニングしているのを見かける。私は小学校の友達に誘われて美術部に入った。絵なんて全然上手じゃないし好きじゃないけど、何かしらの部活には入っておいた方が友達ができると思ったからだ。友達はいるぶんだけ安心する。  実際、美術部は先輩後輩の上下関係も薄くて気が楽だった。プロみたいにびっくりするほど上手い先輩もいれば、幽霊部員もざらにいる。アニメっぽい絵を描いて騒いでる人もいれば、静かに一人で模型造りに没頭している人もいる。みんなそれぞれで自由にしていて、地味さが私にちょうど良かった。新しい友達もできた。  私とりっちゃんは全然違う世界の人だな、というのは、部活に入ってしばらくしてから実感するようになった。  初めのうちはちょくちょくタイミングを見計らって話したけれど、それぞれ友達ができたし、瞬く間に忙しくなった。小学校よりもずっと授業のスピードが早いし宿題は大変。塾に行っている子は更に塾の宿題や授業もあるのだから大変だ。私はらくちんな部類のはずなのに、目眩が起こりそうだった。  それでもたまに話す機会があった。委員会が同じだったからだ。園芸委員会である。だいたいこういう類は人気が無い。毎日の水やりが面倒臭いし花壇いじりは汚れるからだ。私のような地味な人間には似合うが、りっちゃんが立候補するのは意外だった。曰く、植物って癒やされるから、らしい。  校舎に沿うようにして花壇が設けられており、クラス毎に区分されている。定期的に全学年で集会があって、植える花の種類を決める。大体決まり切っているので、すぐに終わる。そして土いじりをして苗を植えて、水やりをする。水やりは曜日を決めて交代でしているので、りっちゃんとゆっくり隣で話すのは土いじりをするときくらいだ。だから、私はそんなに植物が元々好きだったわけじゃないけれど、この時間が結構好きだ。 「暑くなってきたよなあ」  とりっちゃんは腕まくりをして苗を植えながら言った。りっちゃんの腕はあんまり骨張っていないけれど、陸上部の走り込むようになって黒くなりつつあって、健康的な肌をしていた。 「そうだね。そろそろ衣替えだよね」  既に男子は学ランを脱いで、女子はブレザーを脱いでいる。女子はベストを羽織っているひともいるけれど、本格的に暑くなってきたら半袖に切り替わる。 「やだなあ」  りっちゃんは軽い感じで苦笑し、お、みみず、と言って、指先でうねうねうごめくみみずを摘まんだ。私は思わず顔を顰める。 「ええ、きもちわる」 「みみずっていいやつなんだよ。みみずのいる土は栄養分たっぷりってこと。だからここに植えた苗はきれいな花が咲く」 「知ってるけど」私は口を尖らせる。「きもちわるいものはきもちわるい」 「それは仕方ないな」  りっちゃんはおかしそうに笑い、みみずを元の土に返してやる。 「りっちゃんは家でもこういう園芸とか、するの?」  結局私は慣れている「りっちゃん」呼びを続けているけれど、クラスでそういうのは私だけだった。ただ、普段周りがいる中でそう呼ぶのはなんか恥ずかしいし、りっちゃんもちょっと嫌かもしれないから、「清水くん」と使い分けている。 「たまにね。母さんが庭いじり好きだから。雑草取りとかよくやるよ。暑くなるといくら取っても草ぼーぼーになるから、それも嫌だな。嫌いじゃないんだけどさ。植物って何も言わないし、無心になれるというか」 「ふうん」 「まみちゃんはこういうのやらない?」 「全然。うち、マンションだし。でも、委員会でやるようになってちょっと好きになった」 「いいね。まみちゃんはきっと綺麗な花を咲かせる」 「綺麗な花?」 「植物は人の感情を反映させるという噂がある」  りっちゃんは基本的には大人っぽくて男子らしさは確かにあるのだけれど、時々こういう可愛らしいというかロマンチックなことを言う。 「だからおれはいっつも雑な咲かせ方をする」  入学時には「ぼく」を使っていたけれど、五月頃には「おれ」と言うようになった。 「私も自信ない」 「じゃあ三組はみんなより変な花が咲くかもな」  二人して笑った。りっちゃんの冗談は心地良い明るさがあって、話していて楽しい。
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 最初の明らかな違和は、やはりというかなんというか、プールの授業だった。  暑くなってプール開きが示されて、教室にはいろんな声が沸き立った。女子の中には水着姿になるのが嫌だという子もいたし、男子は大体嬉しそうだった。でも三組には他の教室に無い疑問が浮かんでいただろう。  清水律はどうするのだろう。  りっちゃんは普段男子の格好をしているけれど、身体は女だ。だから、当たり前だけど、上半身はだかになる男子の水着姿はたいへんなことになる。かといって、女子のスクール水着を着たら、それはそれでなんだかおかしい感じがする。  トイレは男女共有のバリアフリースペースを使って凌いでいるけれど、こればかりはどうしようもない。陽の下に明らかになってしまうことなのだ。  結論からすると、りっちゃんは一切のプールの授業を休んだ。休んで、レポートを提出した。  プールを休む子は他にもいる。女子も結構休んだりする。女子には生理がある。体育の先生に直接生理だという理由を伝えるのは嫌だけど、お腹が痛いとか言ったら大体通じて休める。明らかに生理休みが長すぎる子は流石に指摘されて、しぶしぶ出たりするけれど。  一方でりっちゃんはずっと休んだ。それを不満げに見ている子もいた。レポートで済むなんて楽だよね、と嫌みったらしく言う子もいる。そんなの、仕方ないじゃんと思うのだけれど。りっちゃんだって休みたくて休んでいるわけじゃないのだ。たぶん。  そういえば、りっちゃんは生理はどうしているのだろう。あんまりにデリカシーが無いから訊けないけど。  生理に限らず、中学生の時期は男女で大きく身体が分かれていく。  女子の生理は小学生高学年から中学生にかけて初潮がやってきて、身体は丸みをおびて、胸がすこしずつ大きくなっていく。男子は、あんまりよくわからないけれど、声変わりして、ちょっとひげが出てきたりする。身体も大きくなってくる。女子も身長はよく伸びるし私も春から夏にかけて二センチくらい伸びたけど、男子は女子の比じゃないという。特に中学校で凄まじい勢いで伸びていって、ごはんの量も半端じゃない。エネルギーの塊、みたいな感じ。  りっちゃんは男子だけど、女子だ。身体は、女子なのだ。  衣替えになって、りっちゃんはひとり長袖のシャツをしていた。私はなんとなくその理由を察した。半袖のシャツは長袖のシャツよりも生地が薄くて、透けやすい。りっちゃんの胸は薄いけれど、たぶん多少は膨らんでいて、ブラだってしている。キャミソールとかタンクトップを上に着て、女子もブラが透けないように気をつけるけれど、りっちゃんはそのものを隠そうとしているのではないか。本人には訊けないけれど。  そういったことが違和感が表面化してきたのは、夏休みが近くなった頃だった。  花壇に植えた向日葵の背が高くなって、もうじき花開こうという頃である。  他愛も無いからかいのつもりだったのだろう。座って次の授業の準備をしていたりっちゃんの背中を、男子の指が上から下へなぞった。  そうしようとしているのを、私は教室の後ろ側から、美術部の友達で一番仲が良いさきちゃんと会話しながら見ていた。やばい、と直感していた。男子達がそわそわしていて、なにかをりっちゃんに向けてしようとしていると解った。それがなんなのかまでは、会話まで聞こえていなかったから見当がつかなかったけれど、感じの悪いことであることには間違いないと思った。  そしてその指がりっちゃんのきれいな背筋を辿った時、私は思わず息を詰める。  男子が大きな声で、ブラしてる、と興奮なんだか卑下なんだか、宣言した。  りっちゃんは驚いて彼を振り返っていた。その男子のグループは手を叩いて笑っていた。やっぱり「してる」んだ、と謎を解き明かして、ものすごくおかしいことみたいにめちゃくちゃ笑っていた。一連の行為は三組みんなの耳に入っていただろう。  私は凄まじくその男子のことを嫌悪したけれど、りっちゃんの次の行動に、驚いた。  あの大人びて、いつも穏やかなりっちゃんが、手を上げた。  がたんと椅子を勢い良く倒して、触れた手をひらひらと揺らしている男子に、殴りかかろうとした。  その顔は、遠くにいても、ものすごく冷たくて、恐ろしかった。怒りというものは振り切れてしまうと烈しい色ではなくもっと静かな色をしているのかもしれないと知った。  りっちゃんの怒りの拳はからぶった。  がん、と固い音。  降り下げられた先は、机だった。木の板が割れるんじゃないかと錯覚するほどの強い音だった。いよいよ教室中の空気が氷点下に下がった。窓の外の油蝉の声がやたらとよく聞こえて、虚しいほどだった。 「……ごめん」  脅える男子を前に俯くりっちゃんはそう呟いて、教室を出て行った。  静まりかえった教室だったが、りっちゃんがいなくなったことでどよめきが起こり始めた。間もなくチャイムが鳴って、先生が入ってきた途端、教室の異様な雰囲気を感じ取って目を丸くする。 「あれ、清水くんは?」  先生がそう言った。なんでそんな蒸し返す���うなことをわざわざ尋ねるの、と、先生はなんにも悪くないのに私は強く思った。 「保健室です」  最前列にいる委員長がそう言って適当にやりすごした。  結局りっちゃんはその後教室に戻ってこなかった。翌日の学校を休んで週末を挟み、月曜からはまた学校にきた。私はほっと胸を撫で下ろした。りっちゃんはいつもと同じ涼しげな顔をして挨拶をした。クラスの反応はそれぞれだった。私みたいに安心していつも通りみたいな挨拶を返す子もいれば、ぎこちない子もやっぱりいて、そしてひそひそ話をする子もいた。  嫌な予感がした。  しかし、幸いというのかなんなのか、間もなく一学期が終わろうとしていた。  私は、夏休みを挟んで、この事件が生み出したこわばりが薄まることを、切に願った。
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 夏休み。  美術部は自由登校だ。一応コンクールはあるけれど、締め切りにさえ間に合えばあとはどうだっていい。  私はそれでも学校に来ていた。絵はそんなに好きじゃなかったけど、塾も無いし、やることがあんまりなかったから、なんとなく向日葵に水やりをしにきた。ひんやりとクーラーがよく利いた美術室で一休みしている間に、静まりかえった校舎にブラスバンドの練習している音が響く。同じ学校なのに、普段のせわしなさが無くて異世界みたいだった。こののんびりとした静けさは、いいな、と思う。ずっとこのくらい優しい時間が流れていればいい。  私はスケッチブックを脇に、ペンケースを片手に、花壇の方へ向かった。途中で青のじょうろを手に取り、水を入れる。日光に当てられているせいか最初は熱湯が出てきて驚いた。こんなに熱くては向日葵の根に悪そうで、充分冷たくなってからたっぷりと補給する。  たぷんたぷんと重たく跳ねる水。ときどきはみ出して、乾いた校庭にしみをつくる。  花壇側は影がほとんど無かったが、花壇の後ろの数段の階段部分、つまり一階の教室に直接通じる部分はぎりぎり黒い影になっていた。花壇から校庭側に目を向ければ入道雲が光り輝く夏の青空が広がり、とんでもない直射日光の下で運動部が練習している。サッカー部と、それに陸上部もいる。思わずりっちゃんを探したけれど、見当たらなくてちょっと残念だった。りっちゃんは高跳びをやるようになっていていた。助走をつけた直後の一瞬の筋肉の収縮と跳ね返り、そして跳んだ瞬間の弛緩した雰囲気、全身をバネにしてポールを越える刹那に懸ける感じが、きれいで、りっちゃんにぴったりだった。私はこっそり練習を遠目に見かけてスケッチブックに描いてみたけれど、あまりに下手すぎてお蔵入りだ。人体は難しい。  そうしてぽんやりと歩いて行くと、三組の花壇の前には思わぬ先客がいた。 「りっちゃん?」  声をあげると、りっちゃんが顔をあげた。その手には緑のじょうろを携えていた。 「あ、おはよう」  あまりに普通に挨拶された。慌てて挨拶を返す。 「すごい。夏休みなのに水やりしにきたのか。あ、部活か。美術部って夏休みもあるんだな」  りっちゃんはスケッチブックに視線を遣った。その中にはりっちゃんの跳ぶ瞬間を描いた下手くそな絵もあるので、慌てて後ろ手に隠した。 「りっちゃんこそ。というか、りっちゃんの方こそ部活は?」  まさに、陸上部がすぐそこで練習に励んでいる。えいえい、おー、だとか、かけ声を出しながら、走り込みをしている。  真夏のまばゆい陽に照らされて、りっちゃんは少しさみしげに笑った。りっちゃんに特有の大人っぽさに切なさが加わって、私はたったそれだけで胸が摑まれた。 「辞めたんだ」  咄嗟に、耳を疑った。  蝉の声がじんと大きくなる。 「辞めた?」 「ああ」 「陸上部を?」 「ああ」  私は信じられなくて、一���目の前がくらっとした。  真面目に頑張っていて、りっちゃんは楽しそうだった。身体を動かすのが好きで、小学校でだってスポーツが得意で男子にも負けなかったくらいだったという。足だって速かったという。実際、りっちゃんの足は速い。体育で私はそれをまざまざと見て、本当に、本当の男子にも負けていなくて、びっくりしたし、かっこよかった。 「なんで?」  蝉が近くでうるさく鳴いて、風を掻き回している。 「言わなきゃ駄目?」  りっちゃんは薄く笑った。なんでもあけっぴろげにしてくれるりっちゃんが見せた小さな拒絶だった。ショックを受けていると、りっちゃんは嘘だよ、と撤回した。 「陸上って、まあ、スポーツって全般的にそうだけど、男女で種目が分かれてるだろ」 「……うん」  どんくさいくせに、私はもうなんだか道筋が見えて、理由を訊いた自分がいかに無知で馬鹿か自覚することになった。 「どっちがいいのか、結構揉めてさ。そりゃ、身体は女子だから、身体を考えると女子になる。でもおれは男子でいたいから、男子で出場したいんだけど、なかなかそうはいかないんだとさ。ほら、戸籍とか学校の登録では女だから。おれ、格好が男なだけなんだよな。それに、やっぱり先輩とか見てるとそのうち絶対本物の男子とは差が出てくるんだよな。それってどうしようもないことだしさ。今はおれの方が成績良くても、そのうちあいつらは軽々と俺ができないバーを越えていくようになる。てか、今、おれが高く跳べるとか、速く走れるっていうのも、どうもあんまり良くないみたいでさ。実力主義って言って割り切れたらいいんだけど、どうもそういうわけにはいかないらしい。運動部って上下関係厳しいしさ。腫れ物扱いっていうかさ。なんかあらゆることが面倒臭くなって、そもそもおれの存在自体が面倒臭いんだって気付いて、辞めちゃった」  一気に言い切って、あはは、とりっちゃんは空虚に笑い飛ばした。あまりに中身が無い笑い方だった。  私は自分が立っている地面の堅さを意識しなければ、自分が立っているかどうかの認識すら危うかった。 「おれも美術部に入ろうかなあ」  などと、絶対に本心からではないことを言った。 「絵が下手でもやれる?」  りっちゃんの顔がにじむ。 「壊滅的に下手だから、美術部は流石に無理か」  また、からからと笑った。あはは、からから、表面だけの心にもない笑い方。 「……まみちゃん」  りっちゃんが驚いた顔をして、近付いてくる。 「なんで泣いてるんだ?」  私はまたたいた。いっぱいになった瞳から、堪えきれず涙が溢れて頬を伝った。 「ええ、どうした。なんかおれまずいこと言った?」  慌てて引き笑いをするりっちゃんの顔をしっかりと見ることができない。私は咄嗟に首を横に振り、嗚咽した。ほんとに、なんで泣いてるんだろ。私がどうして泣いているのだろう。  水の入ったじょうろが指から滑り落ちた。水が派手に跳ねて、じょうろは横倒れになって、乾いた地面に水溜まりが広がっていく。  空いた手で私は涙を拭く。肌で拭ったところで全然止まらなくて、スカートのポケットを探る。そうして今日に限ってハンカチを忘れたことに気が付いた。美術室に戻れば鞄の中にタオルがあるけれど、戻る余裕が無かった。私はじっと静かに泣いた。  やがて、りっちゃんから、黙って、青いハンカチが差し出された。  綺麗な無地のハンカチ。私は最初断ろうとしたけど、りっちゃんは自然なそぶりでそのハンカチで私の頬を拭った。このさりげなく出来てしまうりっちゃんの大人びた優しさが、いいところだ。やわらかな綿の生地が触れて、群青のしみが広がっていく。私は諦めて受け取り、自分で目頭に当てた。ついでに鼻水まで出てきて、ハンカチは申し訳ないくらい私の涙と鼻水をたっぷり吸い込んでしまった。りっちゃんは何も言わなかった。静かに待ってくれた。私は、頭が真っ白になりながら、頭のどこかで、この二人向かい合っている状況が誰の目にも入らなければいいと思った。りっちゃんも、私も、ややこしいなにかに巻き込まれないように。でも、隣のグラウンドではたくさんの生徒がいる。校舎内ではブラスバンド部が練習している。こんなところ、誰の目にも触れない方が無理だ。こんな時までそんなことを考える私は、最低だ。 「思い過ごしかもしれないけど」  私の嗚咽がピークを迎えてやや落ち着いてきた頃、りっちゃんは静かに滑り込むように呟く。 「まみちゃんが考えているよりおれは平気だから、大丈夫だよ」  嘘だ。  私は充血した目をハンカチから覗かせて、りっちゃんの顔を見上げた。女性的でも男性的でもある、きれいなりっちゃんの顔。りっちゃんは笑っていた。愛想笑いだった。  ほら、やっぱり嘘だよ。 「りっちゃんらしくないよ」  私はどう言ったらいいのか解らなくて、ようやく絞り出したのは、その言葉だった。  りっちゃんの顔が冷める。 「おれらしいって、なに?」  思わず息を止める。私はりっちゃんの冷たい双眸を凝視した。笑った仮面を剥がした、静かで、恐い、りっちゃんの表情。冷たい怒りを拳というかたちに変換して振り上げた、あの教室での鮮烈な映像が過った。  ぬるい風が強く吹いて、軽くなったじょうろがかたんと音を立てる。  りっちゃんは我に返ったように表情を変えた。ありありと後悔が浮かんでいる。 「ごめん」  そう口早に謝って、りっちゃんは俯いた。 「ヒーロー失格だな」  りっちゃんは呟いて、その場を去った。私の後ろの方へ足音が遠ざかっていって、やがて消えた。  蝉の声と、ブラスバンドの音と、運動部のかけ声、それにあまりにも重たい沈黙だけが残った。  なんてことを言ってしまったのだろうと、烈しい後悔に襲われてももう遅い。りっちゃんのハンカチで顔を覆ってうじうじと座り込んだ。私、小さい頃と何も変わっていない。うそつき、と心ないことを言ってりっちゃんを困らせたあの頃と、なんにも変わっていない。  他のクラスより堂々と高々と咲き誇った向日葵がふらふらと揺れていた。高い分、風によく煽られてしまうのだった。  それから私は何度か向日葵に水やりをしに来たけれど、りっちゃんと会うことはなかった。向日葵はだんだんとくたびれて、重たい頭でっかちな花の部分をもたげて、急速に枯れていった。
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 二学期がやってきた。  りっちゃんは一人でいることが多くなっていた。  腫れ物、とまでは言わないにしても、なんとなくクラスのみんながりっちゃんに対してよそよそしくなっていた。夏休みを跨いでも、りっちゃんのちょっとした特異性の受け入れ方を迷っていた。勿論、普通に話しかける子もいる。私も、すれちがった時に挨拶はするし、園芸委員会で一緒になると普通に喋る。りっちゃんは夏休みの出来事が無かったことみたいに、自然に喋ってくれた。私にはうまく出来ない芸当だ。でも、私はそのりっちゃんの優しさに甘えて、何も言わずに安堵して会話した。  私はりっちゃんにずっと甘えている。幼稚園の頃からずっと。  苦しんでいるりっちゃんを前にしても、それでも透明人間みたいに、クラスのはじっこの方で、りっちゃんの背中を見ている。そして秘密の会議みたいな園芸委員会の時間だけ喋って特別感に浸ってる。りっちゃんのことを分かっているような気で、でも分かっていない。  残暑が厳しい中、次なる行事である運動会に向けて学校は動き出していた。  運動会は、学年種目、すなわち学年毎のクラス対抗の種目と、個人種目、すなわちクラス毎で定められた枠の人数で個人が立候補して争う種目と、二種類ある。そして応援合戦があって、これは三年生が主体となってダンスをする。  りっちゃんは基本的に男子なので、種目も男子の枠で出場するし、応援合戦でも男子として出る。  りっちゃんの噂は高学年にも伝わっているらしく、合同練習をするようになって、少し奇異な視線が向けられる。先輩たちも最初は迷ったようだが、男子の列にりっちゃんは加わった。りっちゃんはなんでもないように振る舞っている。  私は身体を動かすのがとにかく苦手なので、運動会なんて休みたいくらいだった。でも普段からそうして休むわけにはいかないので参加する。横一列になってみんなでよーいどん、なのでそこから置いていかれてはみ出さないようにすることで精一杯だった。  あと運動会まで一週間、というところで、園芸委員会では向日葵を根こそぎ捨てて、パンジーやビオラを植えた。ベタだけれど、寒い冬でも花を咲かせるという力強い品種らしい。それぞれのクラスに割り当てられた花の色はカラフルだった。とはいえまだどれも蕾なので、実際に咲いたらどうなるのか考えるとわくわくした。  スコップを土に突き立て、掘り起こす。りっちゃんと話し合いながら、三列になるように均等な間をつくり苗を植え替えていく。 「でも、冬になる頃にはもう園芸委員も終わってるな」  りっちゃんの言葉で気付いた。委員会は上期と下期で分かれるので、りっちゃんとのこうした共同作業ができる時間はもうすぐ終わるのだ。上期で委員会をした人は、下期では役職無しになる。そうしたら、私はほとんどりっちゃんと話せなくなるかもしれない。それは、寂しい。  私は、ふと、りっちゃんのことを好きなのだろうか、と考えた。  あまり深く考えたことが無かった。りっちゃんのことは好きだ。確かに好きだけれど、恋愛的な好きなのだろうか。尊敬してるし、かっこいいとも思う。顔だって素敵だ。特にやわらかく笑んだ顔を見ると心があたたかくなる。  クラスには、付き合ってるとか、そういう噂話も回ってくる。私は、りっちゃんと付き合いたいだろうか。付き合ったら、園芸委員という理由なんて無しにりっちゃんと一緒にいたとしても、なにもおかしなことはないだろうか。  でも、付き合うということは、りっちゃんは彼氏になるのだろうか。それとも、彼女? 私は女だから、彼女というのもなんだかおかしい気もする。女の子同士で付き合うこともあるというのは漫画で知っているけれど、実際自分にあててみると、どうなのだろう。男子に興味が無いわけではないのだけれど、男子といるよりも、りっちゃんといる方が楽しいし落ち着くし、心地が良い。というか、りっちゃんは、男子だし、でも、女子だし。  ううん。  考えるほどに分からなくなってしまう。  それに、りっちゃんと付き合うということは、りっちゃんも私を好きだということとイコールになる。  りっちゃんが私を好きかと言うと、それは自信が無い。私がりっちゃんを好きになる可能性はあっても、りっちゃんが私を好きになる可能性は、限りなく低い。どんくさいし、泣き虫だし、クラスの中で釘が飛び出ないように透明であろうとして、みんなのなかにいることに必死で、りっちゃんみたいにちょっと変わった部分を堂々としていられるような勇気も自信も無い。つまり、りっちゃんが私を好きになることは、無い。  そう至って、浮かんだ桃色の案が破裂した。  うん、無いな。  私はりっちゃんのファンみたいなものなのだ。推しなのだ。だから、りっちゃんの幸せを願っているし、りっちゃんが苦しんでいると途轍もなく悲しくなる。りっちゃんが優しく接してくれることに甘えているけれど、それ以上を求めるのは烏滸がましい。だから、園芸委員を期に離れてようやく普通になるんだ。きっと。 「何を頷いてるんだ?」 「ひょおおええ」  手を止めて自分の思考に没頭していた私に、りっちゃんが恐る恐る話しかけてきて、思わず奇声をあげた。りっちゃんはぶふっと笑った。しかも止まらなくて、ずっと笑い続けて、涙まで出して、お腹を抱えている。 「そこまで笑わなくてもいいじゃん!」 「だって、なに? ひょおおええって」  あっはははは。私は耳まで熱くなっていたけれど、一方で、りっちゃんがこうして思いっきり笑っている姿を見たのは随分と久しぶりだったから、胸がぽかぽかと温かくなった。恥ずかしいけど、まあいいや。私もつられて笑った。三組の花壇で二人して、げらげらと笑っていた。  翌日の朝。  私は水やりをしに少し早起きして登校した。  じょうろに水をためる。朝の暑さは真夏になると収まりつつあって、蛇口から出る水もすぐに冷たいものになった。たぷんたぷん、揺れる水の重みを片手に感じながら、私は花壇に向かった。  そこで、昏い現実を目の当たりにすることになる。  三組の花壇だけ、無残に掘り起こされていた。りっちゃんと一緒に丹念に植えたパンジーもビオラもぼろぼろに引きちぎられて、ぐちゃぐちゃに踏み荒らされて、原型を留めていなかった。  私はしばらく目の前の現実を受け入れられなくて、呆然と立ち尽くした。  なんだろう、これは。  誰かによる、暴力的な、意図的な、明確な悪意であることは確かだ。  蕾だけが投げ出されて、散らばっている。  葉も根もばらばらだ。  土はおかしなでこぼこができていて、靴の跡も窺える。  なんだろう、これは。  なんでだろう、これは。  りっちゃんと笑った、昨日の光景が浮かんだ。手を土で汚して、話し合って、ひとつひとつ苗を植えていった大切な時間や記憶が、汚い靴で踏み抜かれていく。  足が浮かんでるみたいだ。  なんで。  あまりに悲しくて言葉が出なかった。  りっちゃんにこの花壇を見てほしくなかったけれど、私の力ではどうにもできなかった。
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 おとこおんな、とりっちゃんについて誰かが言った。  園芸を揶揄してか、みみずりつ、と誰かが呟いて笑った。  クラスがなんだかおかしな方に向かっていた。  夏に傾いていた頃、背中のおうとつに指を当てられてからかわれたりっちゃんは、拳を上げた。  でも、もうりっちゃんは何も言わなくなっていた。  静かに、本を読んだり、次の授業に向けて教科書を開いたりしていた。  根暗でどよんとした空気を漂わせているわけじゃない。りっちゃんはいつだって背筋を伸ばして、堂々と座っている。だけど、その背中が寂しげに見えたのは、私の感情的なフィルターを通した光景だろうか。  さきちゃんをはじめとした友達は、りっちゃんの話題に触れなかった。彼女たちには私とりっちゃんが実は幼稚園が一緒だという話をしていたからか、むしろあんまり近付かないように警告した。私は知っている。私とりっちゃんのことが、影で噂されていること。私からは直接見えない、LINE等で噂されていること。私と一緒にいてくれる友人達はそれが勘違いであることをちゃんと解っているけれど、下手なことはするな、と暗に伝えているのだった。LINEのことを教えてくれたのもさきちゃんだった。それを聞いた時、正直私はぞっとした。  私は透明人間で、釘が飛び出ないように、必死だった。それは、幼稚園時代のようにいじめられることがとても恐いからだ。人の、無意識であろうと意識的であろうと、異端だと判断したときの容赦のなさは恐い。その恐怖に再び晒されてしまったらと考えただけで足が竦んでしまう。  りっちゃんは、女子だけど、男子であるという、りっちゃんそのものであることで、釘が飛び出てしまっていて、打たれつつある。  りっちゃん。  私は心で話しかける。  心で言ったところで、りっちゃんにはなんにも伝わらないのに。  りっちゃん。  私、どうしよう。
 *
 運動会を翌日に控えて、ダンスの最終練習に向けて、みんな衣装に着替えていた。一年三組は赤組なので、赤を基調として、体操服に布を張り付けたり、はちまきを手首に巻いて回転したときに動きが派手になるように工夫がなされている。女子はスカートを思いっきり短くする。長いとちょっとかっこわるいからだ。一年生はみんな膝下に伸ばしているので、普段はできないびっくりするような短さにそれぞれ色めきだっていた。私はちょっと恥ずかしかった。下に短パンを履いているからマシだけど。  男子はズボンはそのままだ。上は女子と対照的になるようなデザインになっている。  私はりっちゃんをちらりと見やった。りっちゃんは窓際の席で、机に腰を軽く乗せて、ぼんやりと教室を眺めているようだった。 「清水さあ」  窓際でたむろしているうちの男子の一人が言った。りっちゃんの視線が動く。 「本当はスカート履きたいんじゃないの?」 「は?」  りっちゃんが反抗を見せる。りっちゃんは最近おとなしいが、怒ると恐いことは皆知っている。  だけど、りっちゃんは教室の中で圧倒的にマイノリティで、りっちゃんの特異性を釘として打とうとしている誰かと、無言で見守る生徒達という多数からしてみれば、りっちゃんがいくら怒ろうとも、孤独だった。 「だって、女子のことちらちら見てさあ、本当はあっちが良かったって思ってんじゃねえの。ダンスも、競技も」 「馬鹿じゃねえの。お前らこそ短いスカートの女子に興奮してるくせに」  りっちゃんが吐き捨てる。いつになく顕著に苛立ちを発して、なんだかおかしいくらいだ。男子は一瞬息を詰まらせた。その隙にりっちゃんはその場を立つ。 「また逃げるのか? 図星だからだろ」  りっちゃんは無視する。無視すんな、という声も全部、無視して、教室を出た。 「サイテー、なに言ってんの?」  男子にも物怖じせずに話す派手めの女子が言う。その子も、本気で言っているというよりも、面白がっているように見えた。 「本気じゃねえよ。ああいう風にされると、冷めるよな」 「冗談が通じない清水さん」  あはは、と笑った。  不快だ。とにかく全てが不快だ。 「真実、大丈夫?」  隣でさきちゃんが声をかけてくれる。私はどうやら相当青い顔をしていたらしい。いつのまにか拳を握りしめすぎて、伸びた爪で皮膚を浅く抉って、じわりと血が滲んでいた。  ダンスの全体練習では、先輩の厳しい目もあるから、みんな従順に励む。私もなんとか振り付けを覚えて、人並みに踊れるようになった。軽快でポップな曲に合わせてステップを踏む。腕を振る、回す。先輩から指示が飛んで、修正する。三年生はこれが最後だから、やりきって満足する思い出が必要なのだ。その情熱にあてられて、三学年跨いでみんな頑張る。  りっちゃんは私の斜め前の方にいる。いつも通りの凜々しい涼しい顔で、日光に当てられて、白い顔でたくさん汗を散らしていた。  しかし、ダンスの通し練習の一回目が終わった時だ。みんなのびのびと小休止をして、屋上から全体をコーチしている先輩の指示を待っていると、りっちゃんが急に座り込んだ。  こんなことでバテるような人ではない。よろしくない雰囲気がする。後ろにいる男子が恐る恐る声をかけると、りっちゃんは首を横に振った。大丈夫、だと言っているように見えた。大丈夫という単語から連鎖して、夏休みに目の当たりにしたりっちゃんの「大丈夫」を思い出した。りっちゃんの大丈夫は、本当は、大丈夫じゃないかもしれない。 「会澤さん?」  後ろの子が、驚いたように声をあげた。急に私が列を外れたからだ。  私はりっちゃんに駆け寄った。  みんなから飛び出るという私の感覚でとりわけ恐ろしいことをしていると自覚していた。けれど、りっちゃんが苦しんでいるのを分かっていながら見て見ぬふりをするのはもっとしんどかった。 「清水くん」  こういう時でも、私は使い分ける。 「……まみちゃん?」  りっちゃんはぼそりと呟いて、私を見上げた。まばゆい太陽に照らされるりっちゃんの顔は、白いというより、病的なまでに青ざめていた。  戸惑う周囲を置いて、私はりっちゃんに顔を寄せる。 「どうしたの、急に座り込んで」 「大丈夫……」  ああ。ほら、やっぱり、大丈夫と言っていたのだ。私の観察眼もたまにはちゃんと的を射る。 「大丈夫じゃないよ。顔が青い……汗もすごい。熱中症とか?」  私が言うが、りっちゃんは頑なに口を暫く閉ざしていた。 「今日、暑いし。ちょっと休もう。通し練習一回終わったし、体調不良ならしょうがないよ」 「駄目だ。本当、大丈夫だから。もう一回、通しが終わったらちゃんと休む」  りっちゃんのいいところは真面目なところだ。でも、悪いところでもあるのかもしれない。 「本当のこと言って」  私が強く言うと、りっちゃんは私を見た。  周りが私たちに注目しているのが、よくわかった。視線を集めていて居心地が悪い。見ないでよ。りっちゃんが更に言いづらくなるでしょう。  暫く沈黙が続いたが、りっちゃんは諦めたように項垂れ、ぼそりと何かを呟いた。 「え?」  聞き取れずに聞き返す。こういうところが私はどんくさい。  耳を近付けた先で、りっちゃんはもう一度同じことを呟いた。お腹が痛い、と。  瞬時にいろいろと察した。だからりっちゃんは言えなかったのだ。それは本当の男子だったら起こりえないことだった。でも、結構辛い。酷いとげろげろ吐くくらい、途轍もない痛みを伴って立っていることも辛くなる。  三年生の先輩が流石におかしいと気付いて、駆け寄ってきてくれた。 「先輩。清水くん、ちょっと体調が悪くて踊れなさそうなので、保健室に連れて行きます」 「え、大丈夫?」  先輩が慌てた。大丈夫、とは便利な言葉だ。 「すみません。ダンスを抜けて……」 「いいよ。通しは一回終わったし。ちゃんと休んで」  溌剌とした優しさに弱々しくなったりっちゃんは頷いた。  男子の見た目をしたりっちゃんと、女子の私が一緒に、身体を密接にひっつけているのは周囲からするとどう映るだろう。気にしない、というわけにはいかない。私は気にしいだし、りっちゃんもなんだかんだ和を重んじる人だ。重んじるがゆえに、自分を犠牲にする、強くて同時に弱い優しさがあるのだ。清水律という名に恥じない、清らかな水のように凜としていて、自分を厳しく律する生き方をしている。  りっちゃんは私の肩を借りて、ゆっくりとダンスの列を外れた。背後がやや騒然としているのが背中から感じ取れるが、気にしている場合ではなかった。どうせ、距離を置いてしまえば、聞こえなくなるし見えなくなる。  でも、私達は一年三組という閉じた空間での運命共同体だ。  後先考えずに行動した後、どうなるのかは分からない。 「ありがとう」  りっちゃんは、力の抜けた声で呟いた。 「ううん。良かった、言ってくれて」 「ごめんな」 「謝らなくていいよ」  むしろ、私の方がずっと、りっちゃんには謝らなければならなかったのだ。  私はずっとりっちゃんに甘えて、りっちゃんに助けてもらって、素敵なことを受け取ってきた。  りっちゃんが苦しんでいるのなら、私が助けてあげられることがもしあるのだとしたら、今度は助けてあげたい。  乾いた校庭からひんやりとした校舎に戻り、りっちゃんを保健室に連れて行く。その前にトイレに行くべきか尋ねたが、首を横に振った。  保健室の先生に事情を説明した。りっちゃんの口からはなかなか直接的に言えないと思うので、私がそれとなく伝えて、ベッドに寝かせてもらった。  急いで教室に戻り、常備している鎮痛剤と水筒を持って保健室に戻った。そしてりっちゃんのベッドに駆け寄る。  りっちゃんの顔は歪んでいて、いつも伸びている背筋を曲げて、くるまった。よくここまで頑張ったのだと感心してしまう。でも、りっちゃんは頑張るしかなかったのだ。負けたくなかったのだ。昔から負けん気が強かった。それはりっちゃんの人間性で、どれだけ大人っぽくて、言葉遣いが丁寧で、優しくて、男子の格好をしていても、根っこは変わっていないのだ。でも、その人間性ゆえに、りっちゃんは苦しんでいるのかもしれなかった。  鎮痛剤と水筒を枕元に起き、私は項垂れる。 「りっちゃん」  ぽつんと呟いた。 「何もしてあげられなくて、ごめんね」  ここで泣くのは違うから堪えた。 「苦しかったらちゃんと言ってね。女子とか男子とかそんなの関係なく、私、りっちゃんのことが好きだから、りっちゃんにはいっぱい笑っていてほしい」  りっちゃんは何も言わなかった。  肩が震えているように見えたので、私はカーテンを閉めた。  ダンスは二回目の通し練習に入っていた。私は外に出て、遠くから眺める。私とりっちゃんの穴は目立つかもしれないけれど、私達がいなくても、整然と全体は動いている。それは思ったよりきれいな光景だった。きっと屋上から見たらよりきれいなのだろう。同じ動きをしてチームとして創り出す巨大な作品。それは素敵なことだ。それはそれで、本当に素敵なことなのだ。  通し練習が終わってから、私は勇気を出して列に戻った。またいろんな人の視線が集まった。興味だとか、戸惑いだとか、不安だとか、ないまぜになっているだろう。一身に受け止めると息が詰まりそうになる。自己紹介の緊張と同じだ。注目を浴びるのが苦手だから、注目されないように慎重に周りの目を窺ってきた。それが私の生きるための術だった。りっちゃんを助ける行為は私の信条を外れる。それはとても恐ろしいことだった。けれど、後ろめたさがなりを潜めて、少しだけ強くなれたような、そんな気がした。 「清水くん、大丈夫そう?」  さきちゃんが心配そうに声をかけてくれる。 「うん。とりあえず保健室で寝てる」 「そっか」さきちゃんは安堵の表情を浮かべる。「真実は、平気?」 「うん。平気」  私は穏やかに頷いた。りっちゃんの大人びた静けさのある笑顔を真似するように頷いた。
 *
 ダンス練習が終わり、一年三組に熱っぽいざわめきが押し込まれる。最後に蒸気する先輩が活を入れに教室までやってきて、先輩が「優勝するぞー!」と叫ぶと、全員で「おー!」と青春百パーセントな眩しいやりとりがなされた。私も折角練習したのだから、どうせなら優勝したい。でもそれよりりっちゃんが気になった。  先輩が教室を後にするところで、りっちゃんとたまたま鉢合わせた。 「あっきみ、平気? 元気になった?」  教室の空気が若干変容する。 「あ、大丈夫です。おかげで元気になりました。ごめんなさい、練習中断して」 「平気平気。明日は出れそう?」 「はい」  りっちゃんの肩を先輩が叩く。りっちゃんは恐縮げに頭を下げ、教室に戻る。  汗は引き、顔色も戻っていて私はひとまずほっとした。  何も無かったように、りっちゃんは自分の席に戻る。和を乱さないように、平然とした表情で男子の列に戻る。でも、今や、マイノリティのりっちゃんは、一致団結した教室のはみだしものと認識されているのだろう。  担任の先生もりっちゃんに声をかけ、終礼を進める。最後にさようならと声を揃える��、教室の空気は弛緩した。運動会前日らしい緊張と興奮に、ちょっと変な空気がまだ残っている。  りっちゃんが、勢い良く踏み出した。  なんとなくみんな、視線を寄せた。りっちゃんは良くも悪くも目立つ。  先程ダンスの練習直前にいじってきた男子の集団の前に立つ。私は緊張した。また殴りかかるのではないかと恐くなる。けれどりっちゃんは冷静で、いつも以上に凜としていた。 「おれ、明日も出るから」  はっきりと宣言する。 「男としてダンスもするし、競技もする。それだけだから」  特別叫んだわけでもない。しかし、りっちゃんのまっすぐとした声は、生徒の間をするする通り抜けて教室中にきちんと響いた。  りっちゃんの正義。ヒーローのような正義。敵に立ち向かう正義。それは時にあまりにもまっすぐで誠実で、人の気に入らない部分も刺激してしまうのかもしれない。でも、りっちゃんは、自分に根ざしている心を偽ることも、馬鹿にされることも、許せないのだ。 「……当たり前だろ」  静かな威圧にやられて、相手はしどろもどろになる。なあ、と言い合う。まるでりっちゃんが空気の読めないイタいやつみたいに。  りっちゃんは翻し、たまたまその正面に位置した私と目が合った。りっちゃんは微笑んだ。ぼろぼろになってしまった花壇でいつも見せてくれる、優しい、りっちゃんらしい笑顔だ。私は嬉しくなって、笑い返した。  でも、私はとても耳がいいので、次の言葉を逃さなかった。 「おとこおんな」  大衆の前で羞恥を晒されたことに耐えかねたのか、ぼそりとりっちゃんの背後で彼は言った。  真顔になったりっちゃんが振り返ろうとした。振り返りきらなかったのは、りっちゃんの正面で突然走り出した存在がいたからだ。  つまり、私だ。 「ふざけんな!!」  私は叫んだ。彼等に掴みかかる勢いだったが、さきちゃん達と、そしてりっちゃんが慌てて身体に腕を絡ませて止めていた。 「ふざけんな……っふざけんな!! りっちゃんは、りっちゃんはねえ……! あたしらなんかよりよっぽど、大人で! 自分に正直なだけで! それでも自分を律して、自分を犠牲にして! それをあたしたちが、馬鹿にする権利なんて!! どこにも!! ないんだから!! ふっざけんな!!」 「まみちゃん、落ち着いて!」 「真実-! どうどうどう!」  正面にいる男子は完全にたじろいでいた。むしろ引いていた。  私はいつのまにか涙と鼻水をまき散らしながら、その後もなんか言ってた気がするけど、何も覚えていない。記憶が吹っ飛ぶくらい、私の思考回路はぶち切れてしまったらしい。
 *
 運動会は、優勝しなかった。ダンスも優勝しなかった。  先輩達は号泣し「うちらは赤組が一番だと思ってるから! 赤組最高!」とやはり青春まっしぐらの文句を高らかに言い放ち、拍手喝采が湧き上がり、不思議な感動のうちに幕を閉じた。  声援で盛り上がったグラウンドは、しんと静まりかえって、夕陽色が全面に広がっている。  今日は部活も全部休みだ。それぞれのクラスで打ち上げが予定されている。私もりっちゃんも出る予定だったけど、こっそり抜けた。ああいった事件の直後なので流石に無理と判断した。不器用な私たちよりずっと器用なさきちゃん達が計らってくれた。  運動会の最中はスポーツが創り出す団結感によって、りっちゃんを馬鹿にした男子も、派手な女子グループも、たくさんの傍観組も、私の大切な友人も、りっちゃんも、私も、頑張った。全体として赤組は優勝しなかったが、一年三組は学年競技で一位になった。男女問わず、みんな手を叩いて喜んだ。  私は身体を動かすことは苦手だけれど、こういうのもたまにはいいかもしれない。細かい価値観の違いだとか、性別だとか、性格だとか、身体の特徴やかたちだとかそういった、それぞれで生じる違いや個性を超えて、一つの目標めがけて力を合わせることは。  りっちゃんは個人でも活躍した。決まっていたことではあるが、クラスで一番足が速いので、メドレーリレーに出場し、二位でバトンを受け取った後、辞めてしまった陸上部の仲間だった黄組の男子生徒に迫り、デッドヒートを繰り広げ、ぎりぎりで追い抜いた。その瞬間の盛り上がりようといったら、りっちゃんの纏っていた仄暗さを吹き飛ばすものだった。みんな調子がいいんだ。それはそうとして、りっちゃんはかっこいい。やはり、りっちゃんは自分を消すように着席しているよりも、太陽の下で輝いているヒーローみたいな立ち位置がよく似合う。  だけど、明日からの日常はどうなるかわからない。  今日と明日は違う。  でも私達はたぶんそんなに暗い顔をしていない。  きれいに整えた花壇の前で、手を叩く。 「いつかやりたいと思ってたけど、ようやくできたなあ」  りっちゃんは満足げに笑った。花壇を踏み潰された事件は実に陰湿でショッキングだったし、結局誰の仕業かは判明していない。あのパンジーやビオラは戻ってこないけど、一応、元通りだ。 「運動会の後に花壇をきれいにしたいなんて、りっちゃんもよくやるよね」 「ずっと心残りだったんだ。でもそれどころじゃなかったから」 「そうだね」  あらゆることがとりあえず一つの区切りを迎えたのだと思う。りっちゃんは気持ちの良い表情をしていた。 「またパンジーとビオラの苗、頼んで用意してもらうか」 「せっかくだから、違うのでもいいかも」 「なんかあるかな。調べてみるか。でも、三組だけ違うのもなんか変じゃない? こういうのは統一感があってもいいと思うんだよな」 「たまにはいいよ」  一年のくせに生意気だと言われるかもしれない。でも本当に通るかどうかなんて分からないんだから、言うだけ言ってみるのも手だろう。 「でも、園芸委員、もうちょっとしたら終わっちゃうんだよね」 「継続で立候補したらいいんじゃない? やりたいって言ったら別に誰も止めないだろ。他の子で園芸委員やりたいって奴がいたら別だけど、いないだろうし」 「いないだろうねえ」  私は土まみれになった手を見やる。汚いけれど、健康的な手だ。 「おれもその方がちょうどいいな。まみちゃんと一緒だし」 「えっ」私は大きな声をあげる。「また私と一緒でいいの?」 「え? うん」りっちゃんは目を瞬かせる。「え?」  なんだか変な沈黙が訪れる。  りっちゃんは怪訝な表情を浮かべているが、何か変なことを言っただろうか。  でも、一緒がいいと言ってくれるのは素直に嬉しいので、私は何も考えずにぽわんと笑みを零した。 「そっかあ。りっちゃんと後期も委員会一緒なら、楽しいね」 「……うん。そうだな」  りっちゃんは相変わらずちょっと挙動不審だけれど、まあいいか、とやがて大きな息を吐いた。  遠くでかすれ声のようなひぐらしが鳴っている。向日葵は枯れて、とうに夏は過ぎたと思っていたのに、まだ蝉は鳴いているのだと驚く。だけどじきにこの声も聞こえなくなるだろう。 「まみちゃん、垢抜けたというか」私を見ながら、しみじみとりっちゃんは言う。「さっぱりしたな」 「誰かさんの影響かな」 「誰だろうなあ」 「誰だろうねえ」  ふふ、と笑い合った。なんだか幸せである。 「でも、殴るのはやめた方がいいな。ああいうのは、どんだけ相手がくだらない挑発をしていたとしても、先に手出した方が悪者になるんだ。それに殴った方は結構痛い」 「りっちゃん、痛そうだったもんね」  夏休み前の、りっちゃん暴力未遂事件である。 「あれはまじ、やばいぐらい痛かった。今までで断トツ。おれがあの時逃げたのは、痛すぎて、そして恥ずかしすぎたからだから。廊下に出てから、ちょっと泣いた」 「うそー」 「ほんと。まみちゃんも一回机殴ってみたら? まじで痛いから」 「やだよ」  しかし、振り返ってみるとなんと暴力的な園芸委員だろうか。実際、とんでもないおまけが付いてきた。  おとなしいやつほど怒らせると恐い。私とりっちゃんが一年三組に植え付けた強迫観念の一つである。園芸委員の二人は、そのおっとりとした穏やかな響きの肩書きとは裏腹に、暴力的なレッテルが追加されることになった。自分達の正義というか本能というか、挑発に乗った愚かさというか、そういったものが生んだので、名誉といったらいいのか不名誉といったらいいのか微妙なところである。先生も親も驚いた。多分、運動会が過ぎて、明日以降のどこかで話があるだろう。  これで、三組に渦巻く嫌な空気が吹き飛べばいいのだけれど。  少なくとも、直接的な影響がでなければまずはそれでいい。裏で何を言われてようと、遠く離れていれば気にするほどのことではない。 「さて、これからどうする?」 「うーん」  なんとなくこの大切な時間が終わってしまうのが寂しくてごまかす。  私は、一つ提案した。りっちゃんは嫌そうな顔をしたが、受け入れてくれた。 「なんかポーズをした方がいいのか?」 「いらないいらない」  私はおかしくて笑い、スケッチブックを捲り、鉛筆を立てる。  真剣な目つきで、ただ、花壇裏の階段に座るりっちゃんの横からの姿を写生した。  無自覚のうちに自分を律するりっちゃんは、リラックスした空気であっても肩の力が抜けていても背筋がきれいだ。ちょうどいい鼻の高さ、中性的な顔つき、長い白シャツとズボンの下が女性的でも、りっちゃんを形作る雰囲気は男性的で、どちらも兼ね備えるりっちゃんは普通と少し違って、素敵だ。でもきっと、みんなそれぞれ少しずつ違う。たまたまりっちゃんが目に見えやすいだけで。  強い夕陽に照らされて儚げな横顔。暗くなって見えなくなる前に、私は真剣に紙に写し取る。この瞬間を完全に切り取ることはできなくても、この瞬間を、私の目が捉えるこの瞬間を、できるだけ忠実に切り取りたい。  拙くても、私は一生懸命鉛筆を走らせる。 「ちょっと喋っていい?」 「うん。でも動かないで」 「厳しい」  りっちゃんは笑う。ぎこちなかった真顔よりこっちの方がいいな。私は消しゴムで口許を修正し、微笑みを与える。うん、りっちゃんらしい。 「おれ、幼稚園の頃、いじめられて泣いているまみちゃんを見て、守らなきゃって思って、ヒーローになるって言ったの。覚えてる?」 「もちろん」  明るい記憶ではなく、むしろ掘り起こされたくない部分でもあるが、りっちゃんに助けてもらったことは何にも代え難い私の希望だった。指切りまでして、約束を交わしたことを、よく覚えている。 「りっちゃんは、私のヒーローだった」 「うん。そうなりたいと思っていた。でも、実はまみちゃんもヒーローだったんだな」 「私が?」  咄嗟に素っ頓狂な声をあげて、手を止めそうになるが耐える。しかし、ふらふらと明らかに動揺した線になってしまう。 「おれ、結構きつかったんだわ。いろんなこと。男子として生きてみようと思ったのはいいけど、親がまず困る。親はきっと、おれのブレザーとスカートの晴れ姿を見たかったんだ。前例が無いせいで先生方も困惑してるし、みんながどう受け止めるべきか困っているのも解ったし。気持ち悪いものが気持ち悪いのは、しょうがないじゃん。単純なことかと思ってたら、おれだけの問題じゃないんだなってよく解って、でも、おれはおれであることからは逃れられないから、そことのギャップも、地味ないたずらも、苦しかったんだ」 「うん」 「昨日、ダンス練習して、一日目だったからやばいかもなーとは考えていたんだ。でも、もうこれ自体もさ、おれがどうあがいても女子っていう証拠で、覆せなくて、それがむかつくやら苛立つやら悔しいやら、でもどうしようもないから���すしかない。でも、あの時は耐えられなかったな。最近あんまり寝れてなかったし」 「……そっか」  大人びたりっちゃんを創る、本当のりっちゃんが話しているのだ。私は余計な邪魔をせず、相槌に専念しつつ、絵を完成へ近付ける。 「身体の変化にはあらがえないと実感したけど、まみちゃんが助けてくれて、本当に助かったんだ。それに、その後まみちゃんが取り乱したのも、びっくりしたけど、この子は味方でいてくれるんだって」  りっちゃんが振り返る。私は、動かないで、と言わなかった。 「ありがとう」  夕陽を逆光にして、りっちゃんはきれいに笑った。本当に嬉しそうに笑った。  私は鉛筆を止めて、呆然とした。そしてまた号泣していた。 「いやいやいや、だからなんで泣くんだよ」 「わかんない」  りっちゃんは戸惑いというよりもおかしく笑った。私は鞄からタオルを取りだそうとして、青いハンカチが目に入った。あれから良い機会が全然無くて、返せずにずっと鞄に入れっぱなしにしていたのだ。私は泣きながらとりあえず返そうとする。 「いや、それで拭きなよ」冷静なりっちゃんは呆れる。「そのうち返してくれればいいし」  運動会の汗をたっぷり吸い込んだタオルよりもずっと清潔なハンカチに、また沁みができた。申し訳なさやらなんやらが積み込まれた、重たいハンカチになっていく。 「泣き虫だなあ」  りっちゃんは苦笑する。 「泣き虫だし、いつまでも、りっちゃんに甘えてばっかりで、弱虫で……だからずっとりっちゃんが苦しんでるの知ってたのに、見て見ぬふりして……全然、私、ヒーローなんかじゃない」  私はぽつんぽつんと涙ぐみながら言う。りっちゃんは首を横に振った。 「そんなことない。みんな弱虫だ。おれもそう」 「りっちゃんは、すごいから、私なんかと全然違って」 「すごくない。おれはまみちゃんの方がよっぽどすごいと思う。嘘をつく方がよっぽど楽なことだってあるじゃん。ちょっとはみだすことって、本当に大変で、勇気がいることだから。その一歩が一番大変だ。だから、真実ちゃんはすごいし、おれのヒーローだよ」 「うええ……」  身に余る言葉ばかりたくさん浴びて、私は写生どころではなくなってしまった。微笑むりっちゃんを写した拙い絵に、涙が一粒落ちる。 「うわっすげえ。この短時間で? めっちゃ上手いな。ちょっと気にしすぎなくらい人のこと見てるもんな。絵の才能あるんじゃないか?」  りっちゃんはスケッチブックを私の膝上からあっさり引き抜いた。 「他のも見せてよ」  了承を得る前に、まったく悪気が無い手さばきでりっちゃんは過去のページを捲る。  涙が瞬時に止まった。真顔になり、さっと血の気が引く。  その中には、こっそり、隠し撮りならぬ隠し描きした、りっちゃんの高跳びをする瞬間の写生画が入っているのだ。 「や、やめてーーーーー!!」
 透明人間だった私に、輪郭が描かれ、あざやかな色が塗られていく。
 了
「弱虫ヒーロー」 三題噺お題:世界の終わり、嘘をつく、指切りげんまん
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syupii · 3 years
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ヒープリ感謝祭 イベントレポ
2021/2/21(日) 13:00~15:34
※うろ覚えなので間違ってるかも。本イベントが気になる方は円盤を買おう!
 「ヒーリングっど❤︎プリキュア」最終回の後にオンラインイベントが開催。今作はCOVID-19の影響を受けまくっていたがどうにか無事に放送が終わってよかった。もう少しヒープリを見ていたかったが映画があるしトロプリの放送も控えているからそんなに寂しさは感じなかった。
☆登壇キャスト
悠木碧(あおい)さん(花寺のどか/キュアグレース役)
加隈亜衣さん(ラビリン役)
依田菜津さん(沢泉ちゆ/キュア��ォンテーヌ役)
武田華さん(ペギタン役)
河野ひよりさん(平光ひなた/キュアスパークル役)
金田アキさん(ニャトラン役)
三森すずこさん(風鈴アスミ/キュアアース役)
白石晴香さん(ラテ役)
+歌手のMachicoさんと宮本佳那子さんのお2人。※北川理恵さんは残念ながら出演無し。
☆主題歌
「ヒーリングっど❤︎プリキュア Touch!!」
歌 : 北川理恵さん
「ミラクルっと❤︎Link Ring !」
歌 : Machicoさん
「エビバディ☆ヒーリングッデイ!」
歌 : 宮本佳那子さん
☆イベント本編
・司会のお姉さんの髪型がツインドリルで可愛い。先っちょだけ縦ロールになってるタイプ。イベントの注意点を説明。
・変身前の着ぐるみがOPの「ヒーリングっど❤︎プリキュア Touch!!」をダンス。2番からは変身後の着ぐるみ。中の人と妖精のぬいぐるみと一緒に名乗り。サビは歌手のMachicoさんと宮本さんが歌った。Machicoさんの衣装はキュアグレース風、宮本さんはキュアスパークル風。ここで挨拶。
・Machicoさんと宮本さんが場をつなぐ。ファンのコメントを見る。タブレットを操作するため一旦手袋を外す。
・ディスタンスをこえてのコーナー。声優の皆さんがリモートでお茶会。トークでちゆちゃんは翼ちゃんとリモートでお話してたことが判明。プリキュアと妖精の声優さん8人で朗読劇。
・Wi-Fiに雷のエレメントさんが宿っている?!のどかちゃん役の悠木碧さんのセリフがちょいちょいメタで面白い。
・ラテ様はアニメ最終回後に猛特訓でしゃべれるようになった。アスミちゃんはラテさま日記をつけている。虹色のゼリーのスイーツの写真が出てきた。ペギタンが紹介。
・アスミちゃんの音声が乱れる。のどかちゃん「大人の事情かな?」。これはアドリブなのだろうか気になるところ。
・すこやかまんじゅうをヒーリングガーデンのみんなが作った。作ったのは肉球型のヒーリングまんじゅう。アスミちゃんは味見と形のチェックを担当。
・ハロウィンの話。描き下ろしイラストが可愛い。のどかちゃんの会話からアスミちゃんはレシピ通りに作れないことが判明。前の日がお鍋だったことが影響しプリンにポン酢を入れてしまった。「生きることは戦い」だそうだ。かぼちゃプリンはのどかちゃんのお母さんが作り直した。
・初詣の屋台の描き下ろしイラスト。こちらも可愛い。妖精が幽霊みたいに映ってた。
・プリキュア4人が固まる。画面が消える?! アプリがフリーズしたらしく再起動。
・ひなたちゃんは猛勉強で成績アップ。進路で悩むちゆちゃん。のどかちゃんは地球のことがもっと知りたくなったとのこと。
・また映像が乱れた。ここで舞台を変身前の着ぐるみにバトンタッチ。ここからはプリキュアショー。妖精もぬいぐるみに。「みんなのリモートが泣いてるラテ」とラテ様がビョーゲンズを探知。変身バンクの映像が流れて変身後の着ぐるみに。雷のエレメントさんを助けるため戦うプリキュア。ダルイゼンとシンドイーネがまさかの復活。しかも6体!!それぞれ3体ずついた。メガビョーゲン達も現れ大ピンチに。みんなの応援でパワーアップしてどうにか撃退。
・ダンスタイム。後期EDの「エビバディ☆ヒーリングッデイ!」と前期EDの「ミラクルっと❤︎Link Ring !」を披露。
・プリキュアショーが終わってキャストにバトンタッチ。今朝の最終話を見ての感想を答えた。キュアアースはヒーリングっどアローで攻撃している時にこの回だめ目をつぶってたとのこと。全然気づかなかった。
・ファンの質問に答えるコーナー。
Q.自分がヒーリングアニマルを演じるとしたら何の動物になりたいですか?
依田さん:モモンガといったげっ歯類全般
河野さん:ひよこ
みもりん:ゾウ
悠木碧さん:タスマニアデビル、ホワイトタイガー(ホワイトタイガーが大好きでぬいぐるみをいっぱい持ってる)
Q.最近、疲れた時にしている、ヒーリングっバイする方法は?
依田さん:ジョギング
河野さん:お風呂
みもりん:深呼吸
悠木碧さん:動物動画←セクシーらしい
・プリキュアとヒーリングアニマルを交代して生アフレコに挑戦。
アスミちゃんとラテ様は登場当初のところ
ちゆちゃんとペギタンはペギタンがホラー番組(?)を怖がるシーン
ひなたちゃんとニャトランはインスタ的なやつ(?)の動画を撮るシーン
のどかちゃんとラビリンはお別れのシーン
・ヒーリングっと❤︎ なこれだけは言いたいこと!を聞かせて! のコーナー。
ひなたちゃん→ニャトラン
良いパートナー
のどかちゃん→ラビリン
自分に優しくすることの大切さを教えてもらった。自己犠牲について考えさせられた。
※動画が度々止まって他は聞きそびれた。アーカイブを見る時間があまり無かったためメモはここで終わり。いつか円盤を買いたい。
・ここでコメントを拾う。「ラテさま具合が悪くなりすぎ」。確かに。
・最後にみんなで生アフレコ。プリキュアと妖精の役のセリフを交換して行った。皆さんお見事だった。
・映画の宣伝。この映像は後にYouTubeのプリキュア公式チャンネルでも公開された。
・Machicoさんが映画のED「やくそく」を歌唱。
・イベントはこれで一通り終わった。全員集合してサプライズコーナー。プリキュア声優陣は知らされていなかった。
・監督からキャストへの手紙。(ラビリン役の加隈さんへ)ラビリンを「すあまといじってすみません」。ここにきてラテ様はキュアアースの変身バンクの時だけ元気になるという設定が公開。私は全く気にしていなかったが冷静に考えたら不思議だわ。ファンから仮病疑惑を持たれていたことは把握されてた。
・最後の挨拶。OPの「ヒーリングっど❤︎プリキュア Touch!!」をプリキュアとライブ。この変身後の着ぐるみのプリキュアは優しいのでキャストのためにティッシュボックスを用意してくれていた。依田さんと河野さんは特に感極まっていた。嬉しすぎて涙が出ちゃうのも無理は無い。どのキャストも、ヒープリを、プリキュアを、とても愛してくれていることが画面越しから伝わった。
・グッズのクリアファイルの絵柄はさっき出た2点のイラスト。ヒープリ感謝祭とプリキュアショーはDVD化&発売が決定!!どっちも嬉しいが特にプリキュアショーは見に行けなかったから円盤化されて嬉しい!!
 ヒープリはライブイベントがCOVID-19のせいで無くなったしまったことが非常に残念。去年の無料イベントでライブを少しやってくれてとても有り難かった。本来はお金がとれるレベル。今年はオンラインイベントが開催できてよかった。去年のスタプリ感謝祭みたいに思いっきりはっちゃけるのかと思ったら思ったより大人しめだった。ヒ���プリはこれでいいと思う。朗読劇の日常話に癒された。やっぱりもっとのどかちゃんやラビリン達の日常が見たかったなあ。春の映画を楽しみに私は生きる!!トロプリも見るぞー!!
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toubi-zekkai · 3 years
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ルドンの気球
 昼の盛りを少し過ぎていた。朝早くからの仕事を終えた私は午後から始まる別の仕事場へと移動していたのだが、時間に少し余裕があったので道の途中にある喫煙所に寄り道をして、休憩も兼ねがね空に煙草の煙を吐いていた。
 その喫煙所は市街中央から少し離れた場所にあるホームセンターの入り口脇に設置してあるもので、近頃閉鎖が相次いで喫煙所が皆無であるこの界隈においては屋外で煙草が吸うことの出来る数少ないスペースだった。必然として近隣のあぶれた喫煙者たちは飢えた蠅が残飯にたかるようにこの喫煙所一か所に集まり、連日どの時間帯も紫煙と煙草の香りが賑やかに空へと立ち昇っているのだが、今日は自分以外に人は一人も居なかった。だからといって寂しさが募るわけでもなく、むしろ人の居ない気楽さを煙草と一緒に味わいながら目の前に広がる景色を漫然と眺めていた。  私が履いている二足のスニーカーの先にはテニスコートのような樹脂製の赤茶色をした地面があって、その少し先にはいつもそれ程人が通っていない歩道があった。歩道の先には木蓮の街路樹とつつじの植え込み、白いガードレールを挟んで幅の広い車道が横たわっている。その車道では種々雑多な自動車が途切れることなく右や左に行き交っていて、行き交う度に車が空気を切り裂く乾いた音がここまで響き、時折排気ガスの臭いが微かに漂って来ることもあった。そんな車道の向こう岸にはこちら側と同じように白いガードレール、木蓮の街路樹とつつじの植え込みを挟んで人通りの少ない歩道があり、その先には白塗りの壁に包囲されている広大な空き地があった。  今年になってから巨大商業施設の建設工事が行われているその空き地からは螺旋状のドリルで地面を掘り返している掘削機の重低音や作業員たちの掛け声や怒声が断続的に聞こえてきた。工事の様子そのものは白塗りの壁に遮られてここからは殆ど見ることが出来なかったが、壁の上から空に伸びているクレーン車の長い首の姿だけは幾本か見ることが出来た。空はというと白い雲に一面を覆われているように見えたが、しかし良く見ると、白、灰白色、灰色、と所々に微妙な濃淡の差異が見えて、薄い墨を使って描かれた淡い禅画のようだった。殆ど動きを見せないクレーン車の直線的で無機質な梯子は真冬の空に聳え立っている黒い巨木のように背景の虚ろな空に良く馴染んでいた。  寡黙で怠慢なクレーン車の長い首だったが、時折思い出したようにゆっくりと空の只中を旋回した。先端の小さな頭の下からは細長いワイヤーが垂直に下へと伸びていて、その先のフックに四角い鉄骨の束をぶらさげているのだが、巨大で重量もかなりありそうなその鉄骨の束に比べてワイヤーの方は随分と細過ぎるような気がした。おそらくそれは恐ろしく硬く丈夫な材質で出来ているのだろうが、遠く離れたこの喫煙所から見てもそれは白い空に引かれている縦の棒線にしか見えず、その頼りない細さは空中に鉄骨が浮いているという不自然な状況を更に不自然に不安定に非現実的に見せていた。  束の間、白い空の中を回遊した鉄骨は段々と降下していって、最後には白塗りの壁の下に見えなくなった。暫くするとまた新たな鉄骨が白塗りの壁の上から姿を現し、白い空の中を漂い始める。どこかそれは酷く陰惨な拷問の現場を見ているかのようだった。  飛翔する開放感はなく、上昇する高揚感もなく、ただ白い空の只中に宙ずりにされている存在。色もなく音もない虚空の中で何一つと触れることが出来ない彼の存在を唯一世界の内側に繋ぎ止めているものは自らの身体に巻き付いているワイヤーであって、しかしそれは同時に自らの全体重が喰らい込んでいる耐え難き苦痛の繋ぎ目でもある。その線は言い換えるならば存在と現実を繋ぎ止めている最後の絆であり、ワイヤーが断ち切られた瞬間に彼の身体は地上へと落下して瞬く間に大地と一体化し、切り離された彼の魂は白い空の上へと無限に上昇していく。  言葉に変換されたイメージは少しずつまた言葉からイメージに変換された。しかし、そのイメージはもはや既にクレーン車に吊るされている鉄骨の姿ではなく、白い空の中に突き出している黒い十字架だった。それからイメージは、吊るし首の樹海、冷凍室に吊るされている豚の肉塊、廃墟に浮かぶ風船の群れ、と変転していき、やがて一枚の絵と結び付いた。それはオディロン・ルドンの眼=気球だった。  いつどこでその絵を最初に見たのかは定かでない。ユイスマンスのさかしまの挿絵だったような気がするが、もっとずっと以前からその絵を知っていたような気もする。とにかく長い間、そのルドンの絵が私の意識下無意識下に棲み続けていた。  絵の下方には先細った生気のない数束の草の葉以外に何も見えない荒涼とした平地が広がっている。殆どが黒く塗りつぶされているのでそれが土の地面なのか或いは草原なのか判然としない。ただ生命の息吹を感じさせるような大地でないことは確かで、見方によっては海、それも暗い夜を髣髴とさせるような海にも見える。その上方には私が今目の前にしているのと同じように白や灰白色の混在した虚ろで観念的な空が覆い被さり、その中に黒く巨大な気球が浮かんでいる。その黒さは観念的で非現実的な空の色とは対照的に暴力的で生々しい夜そのものの黒さで、常に破裂の緊張感が付き纏う気球の丸い輪郭線も危険な印象に油を注いでいる。  しかし最も不気味なのは黒い気球の上半円に見開かれている一つの大きな瞳だろう。眼窪のように抉られている気球の上半分に細い睫毛を生やして埋まっているその眼球は黒目が著しく上方に偏り、残された広大な白目には若干血管が浮いている。それは正常な状態における人間の瞳ではなかった。私がごく初期に連想したのは首を締め上げられて死んでいく人間の瞳だった。次には白昼夢を見ている人間の瞳となり、性交の際絶頂を迎えている女の瞳となり、賭博で一文無しになったときのギャンブラーの瞳となり、法悦に浸っている聖人の瞳となり…と気球の瞳は様々な人間の瞳の中に顕現した。そのどれもが快楽の絶頂か苦痛の限界に接している人間の瞳で、つまりは自己を喪失しかけている人間の瞳だった。  黒い気球に見開かれた瞳の下睫毛には黒い円盤のような物が吊るされている。円盤はかなりの重量があるようで、その重みによって細い睫毛はの一本一本が張り詰め、下瞼に至っては一部が捲れ上がってしまっている。つまりはこの円盤の重みが下瞼を開かせているのだった。その力は同時に黒い気球全体をこの虚ろで観念的な空の只中に繋ぎ止めているのであり、もし仮に睫毛が切れた場合、円盤は地上に落下して黒い地面と一体化し、下瞼を閉じてほぼ完全に黒い球体と化した気球はどこまでも空を上昇していき、遠くはその故郷である夜そのものに溶けていくであろうことを予感させる。  というのがルドンの気球=眼に対する私の凡そな見解であったが、今こうして白い空とクレーン車のを見ているうちにまた新たな側面に気が付き始めた。それは至極単純な答えで、あの絵は白い空を見詰めるルドンの自画像だということだった。  ルドンにとって白い画用紙は白い空そのものであり、その白い空を見詰め続けるということは虚無を見詰め続けることと同じ意味を持ち、更にそれは自分自身の虚無を見詰めるということだった。しかしそれは非常に恐ろしいことで、なぜならそれは自分自身が存在しないのだと自分自身が強烈に自覚していく行為であり、刻々と死んでいく自分自身を自分自身が見詰めるということだからである。その死は肉体的な死というよりもより完全に純粋な自分自身の死��あり、実際に人間が本当に恐れているのはこの自分自身の死であって肉体の死ではない。肉体の死が必然的に自分の死を引き起こすと仮定するために人間は肉体の死を恐れているのに過ぎない。しかし実はそうした恐怖、虚無に対する恐怖という感情そのものが虚無に接している人間にとって最後に残された虚無的でないもの、つまりは自分自身そのものなのであって、だからルドンの虚無に対する恐怖苦痛絶望といった人間的感情は全てあの黒い円盤の方に詰まっているのである。その円盤を吊るしている睫毛が切れた瞬間、つまりは虚無に対する恐怖苦痛絶望といった人間的な感情の全てが消えた瞬間彼は虚無そのものになり、本当の夜がそこに訪れるのである。  しかし一方で見開いた目玉の黒い気球もルドン自身であることは間違いない。虚無に対して見開かれていているその瞳は自己の存在を否定する虚無の方へと自分自身全体を引っ張っていく、言うなれば自分の中にある他人の瞳である。その他人である彼の瞳にとって虚無は恐ろしい無の世界ではなく、魅惑的な無限の世界=パラダイスとして映っているのだということは、そのどこか夢を見ているような瞳の表面に薄っすらと光が反映していることからも伺える。謂わばそれは太陽の光に魅せられたイカロスの瞳であるのだが、太陽へと真っ直ぐに飛んで行ったイカロスの雄姿はもうそこになく、天上と地上に、神々と人間の間にそれぞれ強く引っ張られ、上下真っ二つに引き裂かれようとしながらも何とか一つの均衡を保って地上すれすれにやっと浮かんでいる有り様である。なぜ、そうなってしまったのか?時は十九世紀であり、神の死とそれに伴う虚無がひたひたと人々の目の前に近付いてきた時代である。もはや人々は空の上に輝く絶対無比の太陽を信じることが出来なくなり、代わりとして空の上に現れたあらゆるものを相対化してしまう絶対的な虚無に不安を感じるとともに怯え始めていた。それは同時に近代自我の目覚めであり、精神と肉体の分離現象であって、タナトスとエロスが袂を分かち始めたときでもあった。死と自らの内に潜む死の欲動に不安と怯えを抱いた人々は硬く小さな円盤に閉じ籠り始め、その重力で黒い死の気球を安全な地上に縛り付けようと画策し始めた。
 しかし、今後この黒い気球は果たして空に上昇していくのだろうか?それとも地上に堕ちるのだろうか?或いは二つに分離してそれぞれ帰るべき場所に帰るのだろうか?ルドン自身がどうなったかは知らないが、その後の人類の歴史を顧みると果たして人類全体は夢見る瞳を空の中に捨て去って地上に堕ちていったようである。
 突然耳に聞こえたライターの点火音が延々と紡がれていくかに思われた思索の糸を断ち切った。現実に引き戻された意識は音が聞こえた方へと向きかけたが、自分の鼻の先でその殆どが白い灰と化している煙草の姿が目に映り、注意はそこに逸れた。いつの間にか意識の完全な枠外で造成されたその灰の塊は無造作でありながら絶妙な均衡を保って自分の左手人差し指と中指の間から空中へと細長く伸びていたが、根元の付近は未だに仄かな煙を流し燻っていて今にも自らの重みによって崩れ落ちそうだった。それが崩壊していく様子を目にするのが何とな���嫌な気がして直ぐに私はその灰の塊を自分の手で払い落そうと傍らにある灰皿の方へ振り向いた。するとその灰皿の向こうに女が立っていることに気が付いた。と同時に均衡を失った灰の塊が崩れ、何枚かが空中にひらひらと舞って、残りが灰皿の暗い穴の中へと落ちていった。  その女は短い髪に黒縁の眼鏡を掛け、小柄で線の細い体型に枯葉色の地味なチェック柄のベストと長袖の白いワイシャツを着ていた。蒼白い左手の人差し指と中指の間には細長い煙草が挟まれ、既に火の付けられているその煙草の丸い切れ口からは白い煙が気怠そうに流れていた。右手の中には黒いライターが握られていて、直ぐにそれは先刻耳にしたばかりの点火音と結びついたが、その認識が一致するよりも早く、女は歩き始めた。真っ直ぐに女は歩道の方へ、つまりは喫煙所の前に広がる白い景色の方へと歩いていった。ゆっくりと遠ざかっていく女の背中は痩せているせいか酷く平板でタイル張りの壁のように見え、下半身に穿いている黒いスーツのズボンも黒い板のように直線的で女性らしい曲線は何処にも見当たらなかった。そのスーツの脚と合わせて規則的に動く左右の黒靴は鋭利なヒールの先端を地面へと交互に突き立てていたが、地面が柔らかい樹脂製のために靴音がまるで聞こえず、それが何とも言えない不安な気持ちを興させた。女は歩道の少し手前まで歩いていくと、地面の上に棒立ちになってそのまま殆ど動かなくなった。  地面の上に茫然と佇む女の先程よりも少し遠くなったその後ろ姿は白い景色を前にして朧な木柱の黒い影のように映った。だらりと力なく垂れ下がった両腕の左手指先から流れる煙草の煙だけが有機的な動きを見せていて、まるで女の暗い輪郭そのものが周囲の空気に溶けて蒸発しているように見えた。その前方に広がる白い空は相変わらず白い空のままだったが、クレーン車の方は小休止していて虚空に吊るされていた鉄骨も今は見当たらなかった。休憩に入ったらしく作業員たちの掛け声や怒声も止んでいて、車道を流れる自動車の音だけが寂しい波音のように響いていた。段々と私は前方に実際に生きた女が存在しているという現実が曖昧になり始めていた。同時に自分が今目の前にしている光景の全てが一体何なのか理解することに時間が掛かり始めて、少しずつその所要時間は長くなっていった。しかしながら、ようやく理解出来てもそれは現実の実感と呼ぶのが躊躇われる曖昧な感覚だった。  意識の表面に白い靄がかかっているような現実の曖昧さ、しかしそれは私の生活の隅から隅に至るまで深く浸透していた。  朝、仕事へと赴くとき、外に出て道を歩きながらふと洗面所の蛇口をちゃんと閉めたか不安になる。可能な限り記憶を振り絞ってその場面を思い出そうとするのだがどうしても思い出せない。思い出せないというよりは思い出したその場面が今朝なのか昨日なのか或いは夢の中なのか判然としない状態で、結局いつも駆け足で家へと戻り、靴のまま家の中に上がって洗面所の蛇口が閉められているか確認をする。蛇口はいつも当然のように固く閉められていた。水の一滴さえも零れ落ちてはいない。私は胸を撫で下ろし、自分の心配性を嘲笑う余裕すら出来上てまた玄関へと戻っていく。しかし、背後の洗面所から遠ざかっていくにつれてたった今確認したことが酷く曖昧になり始める。「本当に蛇口から水は流れていなかっただろうか?」自分でも馬鹿らしいとは解りつつも顔から若干血の気が引いている私は再度洗面所に戻って蛇口を確認してしまう。やはり蛇口はちゃんと閉まっている。幾度となくそんなことを繰り返しているうちに時間は恐ろしく浪費され、仕事場へと到着するのはいつも勤務開始時刻寸前だった。  しかし、ここ数か月間というもの症状は尚の事重く悪化していた。私は実際に蛇口を目の前にしながら「これは本当に水が出ていないのだろうか?本当は出ているのに目に見えていないのではないだろうか?」と疑っていた。すると手を伸ばして水が出ていないことを確認しなければならなくなり、終いにはその手の触感に対しても懐疑を抱く始末だった。  そうした現実に対する終わりの無い懐疑の症状は殊に蛇口の確認だけに限ったことではなく、生活のあらゆることに付き纏っていた。次第に私は疲れ切ってしまった。何をするのも憂鬱で億劫になっていった。自然と身体を動かさずにぼんやりすることが多くなり、妄想に費やす時間が増え始めた。すると妄想は生々しく現実味を帯びていき、反対に現実は獏として現実感を失っていった。そうして妄想と現実の境い目は酷く曖昧になり、現実はまた更に曖昧になっていった。  そんな出口の見えない沈鬱とした状況から半ば避難するように私は一日の内三回も四回も浴室へと赴いた。風呂湯の疑いようのない熱さ温もりは私に失われている現実感の手軽な代替品だった。浴室の白い壁や天井はまるで現実を感じさせるものではなかったが、首から下が湯船に優しく現実を保証されているので、私は安心してその白い虚空に想念の気球を飛ばすことが出来た。それは私にとって数少ない安らぎの時間であり、結局はそれがまた更に現実感を失わせる結果に繋がると理解していてもやめることは出来なかった。  掃除も稀にしか為されず、私の生まれるずっと以前からそこに存在している浴室の白い壁は、白い壁とは言ったものの半ば黄ばんでいて、至る所で亀裂が走っていたり表面が剥がれ落ちていたりしていた。黒かびの星座も彼方此方に点々と煌いていた。そんな古い浴室の壁の上を梅雨の時期から夏にかけてはよく蛞蝓が這い回っていた。蛞蝓は梅雨の初めの頃は注意して見ないと壁の黴やしみと見間違える程小さかったが、夏の終わる頃には皆でっぷりと太って禍々しいまでの存在感を発揮していた。蛞蝓を見つける度に私は素手で捕まえて窓から逃がした。突然、壁から引き剥がされた蛞蝓は最初手の平の中で小さく委縮しているのだが、少しずつ顔の上から細い棒状の突起眼が二本伸びてきて、やがてそれは触覚のように左右ばらばら動きながら頻りに周囲を確認し始める。それが落ち着くと今度は手の平を我が物顔で這い回り、蛞蝓はその柔らかい口で一心不乱に手の皮膚の表面を齧り始める。私の手の平を白い壁の続きだと勘違いして食べている、その滑稽で間が抜けた様子と無邪気な食欲の感触は意外にも不快ではなかった。ただそんな蛞蝓を手放した後に残る粘液の感触は堪らなく不快だった。お湯と石鹸でいくら洗ってもそのぬるぬるとした粘液はしつこく手の表面に残り続けた。それが嫌で私は次第に蛞蝓を壁の上に見付けても放って置くようになった。壁の管理人が消えて蛞蝓たちは縦横無尽に壁の上を這い回るようになり、私は温かい湯船に浸かりながらぼんやりとそんな彼らの様子を眺めるようになった。蛞蝓はいつも酷くのんびりと移動してたが、床付近の壁に居たはずの蛞蝓がふとすると天井付近に張り付いていることがあった。その意外な速さに驚いて私は蛞蝓の動きを目で追い始めるのだが、いつも途中でその姿は意識から消えて、蛞蝓は壁の思いもしない位置からふと突然に現れた。その度に今目の前にいるこの蛞蝓が白い壁の亀裂を通って無意識の世界から湧き出して来たかのような不思議な感覚を私は覚えた。  ふと気が付くと、女はこちらの方に振り返っていた。女はそのまま真っ直ぐにこちらへと歩いて来ているようであったが黒いズボンも黒い靴も殆ど動いておらず実際にその姿が近付いているという実感は少しも持つことが出来なかった。まるで女そのものは少しも動いていなくて周囲の風景がその背後へと退いているような、丁度それは海岸の浅瀬に沈んでいる貝殻や流木の朧な姿形が沖合いへと潮が引いていくのに従って段々と明らかになっていくという感じだったが、やがてはっきりと鮮明になったのは先程見掛けた枯葉色の地味なチェック柄のベストや皺一つない白のワイシャツ、黒いスーツのズボンといった身に付けている服装ばかりであって、女そのものの身体は一向にはっきりとせず、その顔に関しても黒縁の眼鏡ばかりが目立つばかりで顔の造りや表情は曖昧で判然としなかった。まるでそれは服や眼鏡だけが絶妙な均衡を保って虚空に浮いているかのようで、そよ風か何かの些細な振動によって今にもばらばらと崩れ去りそうであった。  それから間もなくして透明なその幽霊は私の傍らにある灰皿の向こう側へと戻って来た。灰皿の上に白い手がぼんやりと浮かぶ。その指と指の間からは白い灰の塊が絶妙な均衡を保って虚空へと細長く伸びていた。その灰の塊を見た瞬間、私の中で不安な気持ちが大きく揺れて、現実そのものを確かめるように私は女の顔を凝視せずにはいられなくなった。私からは横を向いているその女の顔は恐ろしく白い色をしていた。しかし、それは人間の肌の自然な白さではなく人工の観念的な白さであった。更に良く見るとその白い仮面は所々深い皺によって裂けその周辺から粉が吹いていて、それが造られた仮面であることを自ら強調していた。その裂け目や空いた穴から覗く生の地肌を見たとき私の心はようやく落ち着きかけた。しかし、ふと女がこちらを向いて俯き、今まで眼鏡の陰に隠れていたその瞳が露わになった瞬間、私の心は再び大きく揺れた。その透明な眼鏡の双眼レンズの奥には血管の赤い亀裂が幾筋も走っている異様に白く生々しい眼球とその眼球の上辺から今にも飛び出しそうに偏っている黒い瞳が二つぼんやりと浮かんでいた。それがルドンの気球と結び付くよりも早く、女の手が白い残像を描いて素早く動き、その指と指の間から灰の塊が崩れ落ちた。私は雪片のように舞い散る灰の幾枚かを視線で追いながら、自分自身がばらばらに崩れていく音を聞いていた。
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arororo44 · 6 years
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200題(カメリア)
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めちゃくちゃ暇な人向け。
●キャラについて語る200題
01:身長/体重   157cm/45kg
02:字のうまさ   文字が小さくて丸っこい字。よく綴りは間違えている。
03:絵のうまさ  ���自称うさぎが変なクリーチャーに見えるくらいには絵心はない。
04:歌のうまさ   音痴ではなさそうだけど自分の歌声を聞かれるのは若干恥ずかしい。   昼間はお客さんがいない時には鼻歌とか歌を歌っているかも。
05:視力   視力はいい。特に夜目が効く。
06:香り   花に囲まれているし、フローラルな香り。
07:声質   ちょっと高めの可愛い声?CV当てていただいたので   三森すずこさんの役とか歌聞いた感じの私の感想なんですけど。   ラブライブの海未ちゃんくらいしかまともに聞いたことがないのですが、   どちらかというと三森すずこさんの元気な女の子役のイメージなのかも?
08:髪質   やわらかくて細かい、プラチナブロンドの髪。毛先に行くにつれてゆるくウェーブがかっている。
09:美人(美形)度   顏が良いプロバンス兄弟の一人なので整っているのかなと。   昼の方が美人には見える…。
10:プライド   結構一度決めたら貫くタイプなので高い。
11:ハマっていること   枯れてしまった花でドライフラワーを作ること、商品に出せない花を押し花にしてしおりを作ること。出来は微妙。
12:チャームポイント   おくち(・ω・)
13:甘党辛党   甘党。
14:自己紹介の内容   昼「カメリア・プロバンスと申します。兄と弟と一緒に花屋をやっています。よろしければお越しください^^」   夜「グッドイーブニング!皆ご存知の怪盗ブーケ参上~!!今日もこの花と引き換えにお宝を取り戻すからよろし��ね!」 
15:最近の悩み   クロワッサン頭のケーサツちゃんによく怪盗活動を邪魔される。当たり前だ…
16:嘘の内容と上手下手   嘘も��くのも平気、むしろ武器かな…怪盗だしね(?)   本音はあまり見せない。
17:給料(小遣い)の額   自営業どうなんだろ?お兄ちゃんが生活費とは別に少額でもきちんと分配してそうだけど…。
18:特技   瞬間鍵開け。ろくでもねぇ…
19:寝相   よ、横向き? 夜活動した後疲れてるときはうつぶせに突っ伏してそうでもある(笑)
20:最長不眠時間   24時間が限度。お肌にもきっとよろしくない
21:平均睡眠時間   普通に疑問だけどあの世界皆寝てるの???   怪盗やっているのは毎日ではないと思っているので何もない日は7時間くらいは寝ているのではと   思っているのだけど。警察側はそうもいかないのかなと…大変そうだ(小並感)
22:パジャマ   シンプルなネグリジェ、生地は薄い。
23:鞄の中身   昼:持っていない。   夜:脱出用小道具、鍵開け用のピックとかは隠し持っている。
24:いつも身につけているもの   花の髪留め
25:休日の過ごし方   兄弟で買い出しとかちょっとしたお出かけしていたらいいなぁ。   買い出しの途中でたまにトレモロとかでお昼してたら私は幸せ。
26:毎日の習慣   花に水やり、そして毎日どこかでへまをする。
27:集めているものと所持数   リボン。花束用に使うリボンとかの余ったやつを集めている。
28:心から気を許している人   うーん…家族以外はいないかなぁ
29:会ったことがないけど気が合いそうな人   フォロワーかよ…笑
30:本気で嫌っている人   お金を持っているだけでただ威張っている人たち。権力をかざして弱者を虐げる人たち。
31:警戒する人への態度   基本的に普段通りに接するけど   隙を見せないようにしたり、その場にいたら見失わないように視界の端で追ったりはしそう。
32:尊敬する人   幼少期に読んだ絵本の主人公の怪盗
33:客観的に見た性格   昼:落ち着いてて穏やかそう   夜:子供っぽい(笑)
34:他人に持たれている印象   ローカルアイドルっぽい
35:プレゼントしそうなもの   無難にブーケか押し花のしおり…後は大穴で手料理。   36:貰うと喜ぶもの   何でも喜ぶけど、花束かな。
37:お礼を言うときの言葉と態度   昼「まぁ、ありがとうございます!」ってニコニコしながら嬉しそうに   夜「気が利くわねサンキュー!」って軽く言ったり    「あ、ありがとう…」って少し恥ずかしそうに言ったり
38:謝り方   昼「きゃっ!ごめんなさい!私ったらまたやっちゃった…」って申し訳なさそうに   夜「今日も私の勝利みたいね!ごめんね~!!」多分思ってない
39:足の速さ   夜は速い。身体が軽いのか、軽やかにちょこまかとぴょんぴょん飛び回るイメージ。
40:勘の良さ   鈍い。特に自分の事になると。
41:器用さ   怪盗関連のあれこれ以外は基本的に不器用。
42:礼儀正しさ   花屋店員やっているときはそれなりに。
43:涙もろさ/泣く頻度   幼少期とかは弟と兄弟喧嘩したときに泣いてそうだけど   両親が亡くなってからはあまり泣いてないです。
44:大人度/子供度   大人になろうとしてるけどまだ子供
45:オシャレ度   こだわりはなくあまり気にしてない。服は箪笥に入ってた母の昔の服を主に使っている。   でもひそかにコレットちゃんのお店は憧れ…
46:ロマンチスト度   奪還屋みたいな怪盗やっている時点で結構高いのでは?
47:負けず嫌い度   高い。ムキになるし負けるとめちゃくちゃ悔しがる。
48:子供好き度   子供は好き、ただ純粋すぎてあまり自分からは接しない。
49:他人の外見を気にする度   あまり気にしない。本人が好きなものを着ればいいと思う。
50:ツンデレ度   ちょっと夜はっぽい…
51:知名度   怪盗ブーケをよろしくね☆!!!
52:気持ちが顔に出る度   夜は結構表情豊か。嫌そうな顔とかすぐしちゃう(笑)
53:ボケ度ツッコミ度   昼:ボケ   夜:ツッコミ
54:ワガママ度   口には出さないけどそれなりに…?
55:友人が愚痴ってきたら   友人いない疑惑が私の中で高く…
56:旅行するなら   プロバンス(フランス)のラベンダー畑
57:疲れたときは   何も考えず咲いてる花をぼーっと眺める
58:他人にされると嫌なこと   身近な人が悪く言われてるのは好きじゃない。   あと、咲いてる花を踏んでいく人たち
59:恐れていること(もの、人)   捕まること
60:言われ慣れていること   「また?」(やらかした時)   「出たな怪盗ブーケ!」(出くわした時)  
61:無人島に三つ持って行くなら   瓶とペンとメモ帳   無人島に咲いているかもしれない花と植物をできるだけ記録して死ぬ。
62:秘密の数と内容   秘密♡
63:実現不可能な願い   殺人のない世の中になること   弱者が虐げられず、皆平等に生きられる世の中になること。
64:神や悪魔の存在について   いないと思っている。いたら両親だって生きているはずだから。
65:幽霊の存在について   信じていないけど、未練を残して死んだら化けて出そうとかは言いそう。
66:虫嫌い度   花屋なので好きではないにしてもまぁまぁ平気。G以外は…
67:好きな時間帯   花が咲いている昼間  
68:現在までの経歴   あまりにもふわっとしか考えてないためわからなくて…   学校とか行ってたのか微妙で?行けた?   とりあえず名護さん設定でカメリア4歳の時に両親が何者かに殺されて   亡くなっている事だけ(事故死って兄に言われてるけど)   15前後から花屋の手伝いやってるんじゃないかな(適当)
69:幼少時代   どちらかというと今の夜姿が近く、結構元気で物怖じせずやんちゃ。
70:二年前   きっと花屋にいる
71:黙っているときの雰囲気   美人
72:トラウマやコンプレックス   コンプレックスは昼間が無能なこと  
73:暑がり寒がり   暑がり
74:目と髪の色   目は赤。髪色は兄弟お揃いのプラチナブロンド。
75:似合わない服   カッコイイ服…とか男らしい服?スーツは似合わなそう。   でも遊びでヴォルフラムさんの女装の対で男装とかはさせてみたいね!
76:怪我する頻度と原因   昼間に何もないところでつまずいて転ぶなどのくだらない理由で小さい怪我はしてそう。    77:スタイル/体つき   良い。細身でグラビア体型
78:服の選び方   母のおさがりなので、流行り要素などはなさそう…
79:喧嘩を売られたら   基本スルー。無用なことにはかかわらない。でも、しつこいと買っちゃう。
80:将来の子供の数   男の子2人女の子1人欲しいという…願望だけなら・・・
81:何歳まで生きそうか   なんとなく両親が死んだ年齢よりは長生きしたいとは思っている。
82:機械操作   アナログ人間なもので
83:自信   ある。特にビオラくんとタッグ組んでるときは基本負ける気がしない。怪盗ブーケは最強だもんね。  
84:自分の好きなところ   決めたことは貫こうとするところ
85:自分の嫌いなところ   頑固ゆえあまり柔軟な考えができないところ  
86:好きな/嫌いな季節   好き:春、花がいっぱい咲いてるから   嫌い:冬、植物が枯れてしまうから
87:好きな/嫌いな色   好き:赤   嫌い:特にない
88:世界一綺麗だと思うもの   プロバンスのラベンダー畑(多分、写真でしか見たことないだろうけど)
89:一度は言ってみたい台詞   縁がないからこそ『盗まれちゃった』とか言ってみたい     ビオラ君は奪われちゃってて可愛いなっていう
90:一度はやってみたいこと   美術館とかにある展示を奪うとかの大型奪還イベントやりたいね!   めちゃめちゃ怪盗っぽくてスリリング!そんな依頼をお待ちしてま~す!
91:動物に例えると   リボンとお口がとてもうさぎ(ミニレッキスあたり)
92:色に例えると   赤
93:使えそうな魔法   逃走成功UP、回避能力UPとかの補助魔法、もしくは相手からのアイテムゲット…これは物理か
94:驚いたときに上げる声   昼「きゃっ!」   夜「えっ!!??!」「嘘でしょ!!!」
95:笑い声   昼「ふふっ」控えめ   夜「あははははっ…!!」気持ちよく笑ってそう
96:よく行く店/場所   たまに買い出しに町へ行く以外はあまり外でない引きこもり。   夜はターゲットの住居付近を偵察。
97:よくする表情   (*´ω`) (`・ω・´)  
98:よく取るポーズ   在さんが描いてくれた腕を腰に手を当ててどや顔してるポーズが私の中で一番しっくり来てる!
99:漢字一文字で表すと   花
100:キャラに合う四字熟語を作るなら    狡兎三窟 ?ごめんなさい詳しくなさ過ぎてめちゃくちゃググりました…
101:好きな音楽   クリスマスの時期に協会から聞こえるキャロル
102:好きな/嫌いな言葉   好き:花言葉   嫌い:死を彷彿とさせる言葉
103:好きな/嫌いな天気   好き:快晴   嫌い:嵐
104:好きな/嫌いな食べもの   好き:お兄ちゃんの作る料理   嫌い:嫌いなものはあまりないけどフランスパンは苦手、硬すぎて中々食べるのに苦労する
105:好きな花   チューリップやガーベラ。カメリアはあんまり好きじゃない。
106:好きな/嫌いな動物   好き:雀   嫌い:カラスはちょっと怖くて苦手
107:好きな作品の傾向(小説、映画、美術etc。「シリアスな映画が好きそう」みたいな)   今はそんなに活字を読んでいる印象ないけど、   幼い頃に読んだ絵本の印象は強く残ってそう…ファンタジーやわくわくす��ような冒険もの。   後は花や植物の図鑑とかかな…
108:好きな/嫌いな飲みもの   好き:ローズティー   嫌い:特にない    109:悩みができたら   誰にも何も言わない
110:運命の存在について   運命は自分で切り開く(強い)
111:自分の容姿への感想   「そりゃ当然かわいいに決まってるでしょ!」
112:自分の能力への感想   「昼も夜くらいの精度をキープできれば完璧だったんだけどねぇ~まぁ仕方ないかしら    人間多少欠けてる方が魅力的なものもあるしねぇ~えっ違う?」
113:恋への興味   したことはないけど他人の恋模様とか見てるといいなぁとは思っていそう
114:恋をしたときの様子   無意識だけどきっと相手のことばかり考えているし、別れた後にちょっぴり寂しくなるし   早く会いたいなぁって思う    
115:恋をしたときのアプローチ方法   よく喋ることで、引き留めようとする
116:異性への耐性   兄と弟がいるので耐性はある
117:モテ度   本人は気づいてないけど夜より昼の方がモテている。
118:性的なテクニック   お゛お゛ぉ゛ん…(困ったときのにゃんちゅう)
119:告白するときの言葉   「えへへ…好きになっちゃったみたいです」 な、なんつって…
120:フェチ(マニア)   香り?
121:愛し方   控えめ、そっと寄り添う
122:甘え方   袖を引っ張る
123:一途さ   夜はファンたちが~とうるさい奴だけど、好きになれば一途
124:体の丈夫さ   普通、健康体
125:体力   あまりない。夜活動してる時は感じないけど、昼間に疲れとか反動がくる、次の日に筋肉痛がくるみたいなもん(?)
126:記憶力   悪い、人の名前とかもあまり覚えられない
127:リーダーシップ   ブーケやってるときは(二人しかいないし)お姉ちゃんだしそこそこ発揮される、はず。   でも基本は兄弟の真ん中なのもあって丸投げマン  
128:社交性   花屋にいる時くらいの…最低限の社交性。       129:下着   お゛お゛ぉ゛ん…(困ったときのにゃんちゅう)   19世紀の一般的な下着だよきっと
130:誕生日と血液型   1月2日/A型
131:教え方   花の事なら色々優しく教えてくれますよ
132:詳しい分野   植物
133:これのためなら死んでもいい   「自分の死と引き換えにこの町が良くなるなら考えるわよ」
134:体温(平熱)   36.5度
135:世間知らず度   自分の身近ばかりしか見えてないから世間全体を本当に知っているとは思えない
136:外出頻度(ペース)   週1、2くらいは昼間も外に出てほしい…
137:声の大きさ   大きくないし、昼は強弱もあまりない。夜はよく叫んでる。笑
138:ゲームの強さ   強い、あまり頭脳戦は向いてないけど筋と運がいい
139:化粧   夜は薄く口紅を引いてる
140:ご飯を一緒に食べる人   兄弟と
141:物を買うときに重視する点   長く使えるものかどうか
142:心の中で認めている人   めげずに自分を捕まえようとしている警察のあの子  
143:気の合う/好きなタイプ   自分の信念を持っている人、諦めずにチャレンジする人
144:合わない/嫌いなタイプ   すぐ人の悪口を言う人、弱い者いじめする人  
145:色々な相手への二人称(目上、部下、友人、敵etc)   基本的には昼間はさんづけ、夜は呼び捨てか勝手に変なあだ名をつけたり
146:寂しがり度   たまに家族連れとか見ると寂しくなる
147:ドジ度   一日一ドジ。もはや日課。
148:好みじゃない物を貰ったら   ありがとうと言ってもらう。何でも貰ったらきっと喜ぶ。
149:カラオケに行ったら   デンモクの使い方に苦戦して序盤で詰む
150:上機嫌なときの様子   すんなり奪還成功した後とか…得意げな顔しながら鼻歌混じりにスキップしながら帰りそう(イメージ)
151:不機嫌なときの様子   逃走邪魔されそうになった時とか…チッって普通に舌打ちとかしちゃう  
152:(学生だった場合に)入りそうな部活   園芸部
153:つい他人にやっちゃうこと   人助け
154:実は嫌いじゃない人   何だそのフェイント…嫌いか、興味ないか、好きかははっきりしている
155:周囲からの人気   現在ファン急増中(本人談)
156:常識人度   普通
157:他人の目を気にする度   自分の事とかは気にしないけど、ヴォルフラムさんと並んだときはあまりにも自分が庶民すぎて気にするかも。  (そんなシーンあるかは別として)
158:可愛いもの好き度   可愛いものも好きだけど変なものとかちょっと変わったものも好き
159:考えを口に出す度   あまり出ないけど、相手に求められたらぽつぽつしゃべるかな。後はそれこそカッとなるとペラペラ喋りそう
160:冷徹度   低い…からアンチヒーローになってでも誰かを助けたくなるのだろうね
161:執着心の強さ   強い、一度決めたもの・引き受けたものは守る
162:持病   なし、健康体。    
163:純情度   唯一の女の子だし…良くも悪くもピュアに育ったかと…  
164:腹黒度   グレー
165:本(書類)を読むスピード   遅いし中々一冊読み終わらない    
166:起きたら最初に   カーテンを開ける
167:告白されたら   ありがとうございますと言って流す
168:精神の強さ   強め
169:敏感な場所   首筋
170:読んでいる雑誌   新聞くらいかな?ブーケの記事ないかついつい見ちゃう
171:必殺技   ビルからビルへハイジャンプ  
172:雑学の量   ほぼなし。
173:恋愛遍歴   お゛お゛ぉ゛ん…(困ったときのにゃんちゅう)
174:S度/M度   どちらかと言えばS?
175:好きな数字   12
176:料理の腕   聞いちゃいます…?作るのは嫌いじゃないけどセンスが…
177:運動神経   夜はいい
178:部屋の様子   こざっぱりしていて必要最低限。あまり女の子らしい部屋じゃないかな?   唯一、大きな鏡が一つあるくらい。
179:癖   よく頬に手当てたり、髪をくるくるいじったりする
180:口癖   「~でしょ!」とか「当然!」とか…断定系…どこからくるのその自信は  
181:あだ名   ブーケ、ブーケさん
182:メールアドレス   bouquet4649あっとまーく…嘘です。
183:メールの内容と文体   業務用の短いで簡単なメール、もしくは楽なスタンプとかの一言(OKとか)
184:(学生だった場合の)得意教科/苦手教科   得意:生物 苦手:体育
185:性経験   お゛お゛ぉ゛ん…(困ったときのにゃんちゅう)
186:腕力   ない
187:趣味   お花の雑貨づくり
188:お金の使い道   食費や花束用のリボン
189:起床・就寝時刻   7時起き、夜は早い日は22時には寝ているのでは
190:家族構成   兄、自分、弟。 弟の事はあまり心配してないけど、お兄ちゃんが地味に心配だよ…
191:怒り方   喧嘩になるくらいなら怒りは軽い、   本当は泣きながら怒るタイプ
192:酒の強さ   弱い。どちらかというと笑い上戸だし唐突に絡む
193:RPGのキャラだった場合の職業   盗賊(笑)私のイメージ、テイルズオブデスティニーのルーティ
194:頭の良さ   もうここまで読んでくれてい���らお察しできるかと
195:運の良さ   運はいい
196:もしも現実にいたら   私は、やじうま根性でブーケの活躍を見に行く……!!   昼間は普通に花屋のアルバイトのお姉さんしてそう
197:コーヒーの飲み方   砂糖多め、猫舌なので少し冷ましてから飲む
198:自覚してない欠点   察しがよくない 
199:ここ一週間で一番幸せだったこと   窓際で育ててたサボテンに花が咲いたこと  
200:キャラへのメッセージ   ブーケ窃盗ライブ会場どこ・・・
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存在
自分の才能も、立場も、生まれた境遇も、老いも、病も、貧しさも、失敗も、反省も、血や、遺伝子も、国籍も、光線や進化段階でさえも、全てを受け入れるしかない。無理しないでー。不完全から完全に至る系譜の中のプロトタイプで、神の創造した其の中の1つのピースであるに過ぎないと自覚する。
望み
死に対峙して生きていく事の辛さが分かる。
別離の寂しさと儚い命と今日と云う1日。
予め運命に依って定められている人生。
失うのは命であって真我ではないが、痛みは残る。
愛は最高度の感受性であり、傷付く事からは逃れられない。この自我の命は燃え尽きても、魂の光は継承されるのである。
魂の次元
誤った仮初めの身体の存在との自己同一性に侵食されるのは間違いに繋がる恐れがある。一時的な身体の属性に振り回されているのは問題である。目に視えない潜在力も、目に視える顕在力と同じに価値とリアリティー(実相)のある事である。死は一時的な避暑地である。人生は魂の真我を反映する。
真理
メンタル界の錯覚イリュージョンillusionとアストラル界の幻惑グラマーgrammarもまた障壁である。現象界に対する歪んだ認識であるこれらは虚偽であり、非現実であるが、巧妙に我々の目は容易に覆い隠されてしまう。その背後にあって、輪廻の滑車を回す者である法則は神の実在の反映であるー。
⑦④アクエリアス(宝瓶宮)
①③破壊や⑤死を避けずに未来の文明は成り立たない。③⑤⑦死と②④⑥生命の中間段階である①④⑥幽霊や④⑦輪廻転生を通して世界を創り変える事は可能であり、⑦データと①④(モナド)神の閃光に依って④光の街を表象する事ができる。①煉獄や④霊界や⑥天国は実存するー。
第三段階を越えない『#退化の弧』
#坂本龍一、#小室哲哉、#宇多田ヒカル、#小林武史、#久石譲
レオナルド・ダ・ヴィンチが批判する。目が見えぬ者の為の音楽であって、目に見えぬモノの表現として絵画芸術より劣っているが、人工的な芸術である音楽は絵画の姉妹としての形式として高く評価できる。
#心理学、#霊感、#創造性 の泉としての音楽
#心霊治療 #霊的側面 #霊的力
心理的エネルギー #光線
魔術や超能力開発は精神的な不調や発作が起きる恐れがあるので推奨できない。
②朱雀、⑥青龍、①白虎、⑤玄武、
③麒麟、④蛙、⑦悪魔(物質性)
#ティアナのアポロニウス
#クリシュナ #孔子
聖なる目的
お金は中性であるから、経済的な取引自体や公平な投資が悪いわけではない。何の為に使うのか?実態のない想像上の経済活動が暴利を貪る事が許されるべきではない。不当に物価を引き上げる事が、株式市場のフォースであるなら其れは邪悪な力である。労働の対価としての賃金は正しいー。
豊かさと貧しさ
労働者は社会の奴隷や家畜であってはならない。
生活者の生活を破壊する者こそが悪である。
貧困や不足が社会の害悪であり、取り除かれるべきである。協働者として協力し、公的に生活を豊かにする事は正義である。人類の幸いなる不幸は時間は無限である故の老齢人口の増減であるー。
聖別された目的
宗教であれ、政治であれ、生活の平和や安定を脅かす行為である如何なるテロリズムも有罪である。革命を齎す為の粛清はグレイであり、全面的な否定はできない。復讐の為であっても、人を殺める事は罪に問われ、近代の法治国家であれば法体系で裁きを受ける事になるー。『仇討ちは正義』
命の宗教
①光に返す瞑想の技ー全部を太陽の光に捧げる
②動物とその命に対する憐憫と愛情ー不肉食
③骨と皮だらけの身体ー慈悲としての食事
④菜食主義の短命ー同情と理解と共感
⑤人間の罪悪感と疑似食ー霊的成長に繋がる
⑥動物の命と自分の身体に対する同情
⑦唯物論と割り切れるか?
現実問題
第5光線の化学の構造主義に対抗する為に、第6光線の夢実存のごり押しで第7光線のシステマティックな現の科学が姿を顕す。病理的パンデミックは全ての在りと凡ゆる分野に於いてその究極的な対処療法が完成するまで続く。全ての #全体論的科学 の過程が要求される。何処までも深刻な問題。
#マトリックス
ポーションか?エーテルか?
解決できるのはデータと化学に対する調和の術である霊薬。宇宙の問題。認識の問題。意識の問題。実在の問題。時間の問題。次元の問題。光線の問題。命の問題。環境の問題。表象の問題。
①緊張と②弛緩と③活動と④想像力と⑤記憶力と⑥夢と⑦物自体
#マトリックス
FFシリーズーリザレクション
ゲームクリエイターのネオは実は人類が、ザイオンの支配に依って実際には電池として、マトリックス(仮想現実)の中にいる事を知り、実在の抵抗運動に参加するー。
#伝導瞑想 は☯️☸️✝️☪️⚛️🔯🕉️ #キリスト・マイトレーヤ の霊的貯蔵庫に繋がる奉仕の形態。
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chaukachawan · 5 years
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遅い奴
 遅い。  遅すぎですね。今何日ですか。9日ですよ。秋公園の終演は?4日。切腹。  綺麗な臓物が出てくる自信がないので腹を切るのは止めておきますが、それにしても各方面の方々申し訳ございませんでした。
 こんな書き方をしているので自己紹介はいらないと思うのですが、Airmanです。  誰お前?へぇ、B脚本「メタフィクション:ザ・ゲーム」の脚演です。  あー………………って顔してる。今絶対あー………………って顔してますよね。そうです。もうネタバレも怖くないのでぶっちゃけますが、暗殺者の首を折ったりエルフをバットでリンチしたりするシーンで子供さんを泣かしたのは私です。その節は本当に申し訳ございません。  なんでそんな事になったのかは後々お話しするとして、いや変ですよね。後でご紹介する石英さんも言及なさっておられたのですが、何故人は役者紹介の最初に自分の名前を書かないのでしょうか?いやでも分かる。その気持ちは分かる。その方がクイズみがあって面白いって考えるんですよね。実際そういう面白さはあるんですが、「そこで面白さを取るか、役者紹介において必須の『誰が誰を紹介している』という前提を先に伝えて情報の伝達性を良くするか」というのは尽きない議論ですね?いや尽きるかも。割とすぐ尽きちゃうかも。    ようやく温まりました。  何がしたいかというと、役者紹介です。  諸々の都合で敬称略です。
・ニッキ役/でぃあ(31期)  イカレた世界のイカレた主人公を演じてくださいました………………え?。読み合わせの前段階で既に役を作ってくる?え、何イリハケ表?はー、神。  いや、そんな気はまぁうすうすしていたというか、やぁまさか本当に役を作ってきて下さるとは思いませんでしたが「ヤケに嵌まってるなぁ」という気はしたというか、凄い。役者魂。楽ステ最後のアドリブにも対応して下さるあたり、いやもうこの方は役者として域に達している気がします。怠惰ゲージがMAXになると自分で自分を傷つけて死ぬタイプの演出だったので、そうした心労を大分軽減して下さった神ですあなたは。そして場当たりの時は酷使して、というか変更点を噴出させて本っっっっっっ当に申し訳ございませんでした。なます斬りされてもおかしくなかった。というかされたかった。だってこの人が演じるニッキ本当に狂っててカッコいいんですよ。全編ふざけた勢いだけで押し通してしまいそうな役ですが、この方は締める所ちゃんと締めて下さる。そして作中でも〆るべき敵をちゃんと〆て下さる。でぃあさんに主人公お任せして本当に本当に楽しかったです。秋公演まではそんなにお話しする機会もなくて、正直ニッキというキャラクターをそこまで気に入って下さって嬉しかった。「自分以外にニッキは演じさせない」。その覚悟を、この一か月間通してしかと目に焼き付けました。
   怨霊の手が肩を撫でる。気色が悪い。  しかし中身を聞くと妙に笑える。
 負け犬が。 
 そんなんだから死ぬんだっつのバーカ。  恨み言吐いてる余裕があったら首でも締めて来いや。  テメェで持ってきたルールさも当然みたいな顔で宣いやがって。  だったら!………………殺してみろ。
 そう思ったのが、疑いなく口に出ていた。
・レミ役/児玉桃香(29期)  ペチカさん!御紹介致します、私の師です(無許可)。シザーズの時に演出としての基礎知識を叩き込んで下さった恩人です。あれ一般化してマニュアルにして後世の演出に読まれるべき。まず役者に脚本を読ませ、該当部分を一人で演じさせてみる。その上で、違和感のある部分があれば/役者さんが違和感を覚えていそうな部分があれば演出が質問を受けに行き、適宜イメージを調整する。「頑張って考えた演技の方向性を全否定してくる演出にはなってほしくない」という言葉から、演技というものがどれだけ役者さんの内的イメージによって生まれ、変わってくるかに気付けました。そうですね。生地に型を押し付けてもその型通りにはならないんですね。だから生地の元の形にある程度あった型を選んで、自分からそこに入ってもらう事が大事なんですね。オムニの最初は重大な勘違いをしていた私ですが、今回はそうでなかったのであれば有難いです………………!  余談ですが、私はPCの音声データを普段イヤホンで聞きます。諸事情でペチカさんにはキャラクターのセリフを読んで頂いた音声を送って頂いたのですが………………いや、もう二度としません。アレはマズい。意味合いが変わってくる。違う、そう言う個人的な目的で送ってもらったんじゃないのに、その、あの、ペチカさんの演技が上手過ぎるからぁ………………!!(涙)  完全に予想外でした。具体的にはバイノー………………何でもないです。特定の方へ後でファイルをお送りします。そして私の方からは完全に削除します。それがいい。あれは世の中から消すべきではないけど、私が持つべきものではない。本当にそう。  告解が終わり、私の黒歴史がまた一つ増えました。死んで詫びたいレベルです。ごめんなさい。
   あーあ、死んじゃった。  日用品で喉掻っ切られちゃって、死んじゃった。  これが呪い?  あっけなーい。
 ねぇ、どんな気持ち?  格下だと思って気楽に襲い掛かって、結局お仲間さんと一緒に殺されちゃって。  分かるよ。辛いよね。怖いよね。屈辱だよね。  こんなにいろいろ予想外だと、一周回って笑えてきちゃうよね。    子犬みたいな目で縋ってきちゃって。  嘘ついたら目ぇ輝かせちゃって。  裏切ったら傷付いて激昂しちゃって………………ねぇ、バカなの?  殺しに来た奴助ける訳ないよ。当たり前じゃん。    そんで、殺したらそうやって血ぃぴゅーぴゅー噴いちゃって。  あー、もぅ。
 かーわい。
・マギー役/ちゃわんちゃうか?(31期)    芸名を訳すと「違わないのではないか?」となるのではないでしょうか?御本人の知った事でしょうか?これ所謂クソリプという奴ではないでしょうか?でもエアーマン、お前の存在その物がクソだからある意味当然ではないでしょうか?それもクソリプではないでしょうか?どうでもいいのではないでしょうか?  えっと、新入生の方です。疑わないで下さい。マギー役、この人以外には務まらなかったと思います。だってFF7レベルの大剣持たされるんですもん。完全に演出の悪乗りでした。途中から刃の部分持っておられたので、あーマギーの肉体は刃の概念を理解してないんだな、つまりマギーの中でコレは鈍器のカテゴリなんだなぁと解釈してました。いや、でもマギーは強い。貞子レベルの怪物を素手で殺る。  ただの脳筋キャラにしたくなくて色々詰め込みましたし、役者さんの今までの御経験なども彷彿とさせながら「バカっぽく見えていろいろ考えてるキャラ」を目指してみたら演出の中で見事にブレまくり。最終的に丸投げしてしまったのですが、楽しんで頂けた様で何よりです(クズ)。  今思うと素のマギーは四千頭身の後藤さんみたいな雰囲気かも知れませんね。更に訳わかんねぇ。  本公演ではめちゃくちゃ暴れて下さいましたが、いつか素でカッコいいこの方を見てみたいというのはあります。実力不足でした。次回はちゃんとキャラクターを練ってきます。  
 呪い、ってくらいだから何かあんだろうよ。  ぼんやりと、ただそう思った。  根拠なんてねえけど。    だから、寝ずの番って奴をやってやった。    実際、俺はいなくてもいい。トークならあいつらの方が上手い。  
 何が来ても相討ち覚悟で殺す。  最初に死ぬなら、俺が一番良い。  何の感動もなくそう思って、色んなモンが転がった床に寝た。
 
 出た。
 出たよ。
 マジで出たよ。
 いやいやいやンだコイツ。忍者。忍者か。そこは幽霊とかそんな感じの奴寄越せや。  なんだ「呆気ない、ものよな」って。呆気ねえのはお前だよ。多分。    刀を避けたら目ぇ丸くしてやがった。  顔に一発。鳩尾にキック。めっちゃ吹っ飛んで机とか巻き込んで壁にドーン。どうでもいいけど真夜中なのにすっげえ音した。御近所さん迷惑だな。つかアイツら起きんじゃねえか。  そんで呻いて咳き込んで逃げようとしやがるから背中に乗って首をゴキッと。いっちょ上がり。
 
 いや弱っ。  呆気ねえもんだな。
・いろり役/久保伊織(29期)  正式名称がめちゃくちゃ長いバンコクの様な方です。これは私の予想ですが、ここから約10年で何度か二刀流スキルを獲得したりヒノカミ神楽を学校教育に取り入れたりトラックを異世界転生させたり未曽有の星6鯖を手に入れたりしてなんやかんやで宇宙を何回か救ってその度に二つ名が増え、最終的には「18カ月ごとに名前の長さが倍になるイケメン」という称号を手になさいます。実を言うと予想ではなく真実です。  役の名前と御本人の芸名が似ている事で同じ29期の先輩方からいじられたり演出から呼び間違え………………てません。ホントです。そんな事してません。一回位素で間違えたとかそんな事は絶対にないです。空飛ぶスパゲッティモンスターに誓って本当です。様々な人物を惹きつける魅力をお持ちの方で、もうちゃうかのイケメンといえば物理的にも精神的にもこの方に他ならない、と言った感じです。しかしアレですね。去年(2018)の新歓公演を見た直後の私に本公演の写真を見せたらマジでお前何したんとかなじられそうですね。その位今回は今までの役との差分が凄かったのではないでしょうか。ヒールとして妖しい魅力を存分に………………ヒール?あれ?主人公サイドですよね?でも陽な感じの狂気を称えた技術顧問、という中々ない、それまでのイメージとは大分違う役を最高の笑顔で演じ切って、最高に弾けて下さいました。  本当に何をなさってもそのイケボで彩って下さる、そしてノリもいいし、あと殺陣。キャスパ中の殺陣とかvs剣客とか全部この方が担当なさってます。凄いですよね。「PCを腕に巻き付けて戦ってほしい」「短剣は二種類用意してほしい」みたいな無茶振りにも応えて下さって………………いや神です。この稽古場にはなんて神が多いんだろう。  いつかこの方を主人公にしたなろう小説を書きたいです。本当にお世話になりました。
   これをこうして………………っと。  おニッキ、丁度良かった。割ったゲームのコピーガード突破したぜ……… 「なぁいろり。お前秘蔵のエロ画像とか持ってる?」  ………………いや急かよ。何だよ。持ってたとして何に使うんだよ。 「企画に………………」  ほう貴様さてはネタ切れか。 「うっせー!あーネタ切れだよ何か文句あんのかよ!」  別に?まそんな気はしてたけどな。  で、どんな企画? 「い、『いろりのエロ画像だいこうかーい』、いぇーい………………」  ハッ。 「鼻で笑うんじゃねーよお前こっちは昨日夜通しで考えたんだかんな!」  何が夜通しだ何が。  お前ら三人「企画会議ぃ」とか言って結局夜中じゅう酒飲んで暴れて近所のアパマンショップに放火してただけじゃねぇか。つーかその様子撮っときゃ良かったろ。 「いや、流石にスポンサー敵に回すのはマズい………………」  逆にそこでよく理性が働いたな。もうええわ。  で、どうすんの。俺そういうの持ってねえけど。 「は?」  いや、逆に俺がそういうのに興味あると思う?割れるゲームも弄れるコードも溢れてる世の中で何で他人の裸見て興奮すんのかマジで理解できねえ。 「あーそういやお前そういう奴だったわ………………うわ最悪」  何が最悪だよ。無いなら作ればいいじゃん。 「え、どゆ事?」  要はその辺から適当に落としてくりゃいいんだろ。『プライベートな写真を公開されて俺がひたすら困ってる』って絵が撮れればいいなら別に俺が普段使ってる奴じゃなくてもいい、それっぽくヤバい性癖の画像漁って来るわ。 「や、でも本物じゃねえとリアクションが………………」  言っとくけど俺結構演技上手いからな。死にゲー実況とか何度気ぃ使って死んでると思う? 「え、あれ演技?マジか初耳」  あぁあとな、ただ公開するんじゃ面白くないだろ。他のYoutuberみたく「お前ら三人と俺でミニゲームやって、俺が勝ったら公開阻止」みたいなルールにすれば尺も稼げる。お、そうだ。ただ公開するんじゃなくて「ネット上に公開された暗号を解けばエロ画像にありつける」みたいな形にして最終的に「釣りでした」ってやれば……………… 「いろり」  何だよ。 「………………お前、最強の友達だな」  ヘヘッ………………そういうの。『悪友』って、言うんだぜ。
  『泣きながら抱き合って何してんのかな、あの二人』 『そういう事だ、ほっといてやろうぜ』 『………………いや、ちょっと何言ってんのか分かんない』 『何で分かんねえんだよ。つか俺がツッコミかよ』 『もうええわ!』 『いや雑か。こっちサイド雑すぎだろ色んな意味で』   ・織戸役/武田聖矢(29期)  見透かされている。何を?どこまで?  物凄く頭が回る方、というイメージでした。「この場にいる方の中で、私の発言の意図をこの方だけが理解している」というシーンが何度かありました。かなり分かり辛く、さりとて特に面白くない事を言う事が多い私ですが、それでもぽにょさんには全て見透かされている。その上で何かのリアクションを返してくださる程優しい方です。演出としてぽにょさんにお世話になるのは二度目ですが、思えばシザーズの頃から言葉足らずな私の意図を汲んで下さり、最適な知恵を………………オムニの場当たりでは御迷惑をお掛けしました。ちょっとした事で自信を喪失しがちな私に優しく声を掛けて下さり、気付けば近くにいらした時に心の中で何となく癒しを求めてしまう自分がいました。物語の最後の最後に真理っぽい事を言って去っていく織戸。キャスト選考の際に何故かぽにょさんの姿が被ったのですが、いやでもカッコいいんですぽにょさん。スタッフワークではめちゃくちゃかっこいいのに、基本的に舞台上では何か叫ぶ系の可愛い役ばっかり。もっと教え説くようなカッコいい役回りの、あるじゃーん!という訳で、大分すんなり決まりました。ちゃうかで普通の人をやるぽにょさんが見られて満足ですが、もっと見たかったです。 「あれ、もういいの?」 「はい。………………もう、大丈夫です」  じゃあ、気を付けて。  大人としては無責任かもしれない一言を残して、職務に戻る。  随分しっかりした感じの子だった。  本当は誰かとはぐれてなんていなかったのかも知れない。  となると、こんな街の中を一人で………………親はどうしているのだろう。    首を振り、妙な邪推も振り払う。  この区画で育児放棄なんて珍しくもない。  あの子の境遇は自分の仕事と関係ない。  それこそ、あの子が死体にでもならない限りは。  もしくは………………  そこまで考えて、下らないと切り捨てた。  そう言えば、警察の役目を教えてくれた人。  別に、「何が悪か」までは教えてくれなかった。  それから十数年。  考えてみれば、別に大した話じゃなかったのかも知れない。 「正義」や「悪」は、道具だ。  守るべきものが「正義」。倒すべきものが「悪」。  互いにそう決めつけあってるだけで、本当にあるのは単に殴ったら殴り返されるだけ、自己責任の野蛮な世界。 「なんでマイナスの平方根があるんですか」みたいな質問みたいなもの。便利だからそこにあるだけで、それ自体に意味なんてない。  下らないけど、それで社会は回ってる。  別に壊す理由も、逆らう理由もない。  それでも、あえて「正義」を見出すなら。  廊下を歩き、仕事をする。  その事に疑いはない。  突然爆発が起こって壁が吹き飛ぶ事も、ない。    深く考えないで、前に進める環境。  当たり前が当たり前のままであり続ける。  それも、一つの正義。  それを守る事が、自分達の正義。  そう思うと、今の自分は間違っていないように思えた。  急に、暖かさを感じる。  体のどこかに熱がこもったかの様な感覚があって、それでようやく迷いが消えて………………  焦げ臭い匂いで、それが違和感に変わった。  暖かい、じゃない。熱い。    いつのまにかポケットに入れたタバコが、スーツを内側から焦がしていた。  それに気付いて、絶叫した。 ・芒役/大林弘樹(29期)  サイゴンさん。すごく優しい方です。そしてすごくエ【自主規制】アンケートを拝見しました所、御自分でなさったのであろう芒としてのメイクは「大学生とは思えない」等と評判を博していました。思えばオムニバス公演で役者メイクについて教えて下さったのもこの方だった、そんな気がします。まぶたの縁のギリギリに鉛筆を突っ込むという(役者としての通例とは言え)なかなかの恐怖体験ですが、サイゴンさんに指導していただいている最中はそんな不安もありませんでした。  本公演では主にいろり役のイッヒさんと過激なスキンシップを………………詳細は述べませんが、中々に印象的な光景でした。あとすれ違う時には【検閲済】とある事情でアドリブが多くなりがちな刑事サイドでしたが、それを自然な演技で軌道修正して下さるという点ですごく頼りになる存在でした。芒という「場を取り仕切る」役に最も馴染み、その持ち味を最大限に生かして下さったと思います。そのお陰で周りの役者さんもアドリブをぶち込み易かったのではないでしょうか。いえ私は怒りません。ただし一部のアドリブについて周囲の役者さんがどう思うかは別問題です。「悪い事は自己責任」。  文字通り予測不能、キャラと同じく胃の痛い環境の中で進行を務めて下さってありがとうございます。 「織戸の野郎、どこほっつき歩いてやがる」 「絶叫しながら廊下走ってましたよ。服に火が付いたとかで」 「何やってんだアイツ………………」  現状報告を終えた部下を見送り、溜め息を吐く芒。  学歴を鼻に掛けて露骨に見下してくる同僚は何故か辞表を提出した。  加えて最近自らを悩ませていた肩の荷がようやく降りた、そんな感覚。  芒の記憶は数週間分不自然に抜け落ちていた。  だが、その上でなおも本能が「終わった事だ」と訴える。  そんなものか。  声に応じ、その傷が癒える事を許し始める。    当たり前の様に信じていた法則が破壊される。  予測しようもない事態が次から次へと襲い来る。  白昼夢の様な経験。  省みるでもなく、懐かしむでもなく。  ただ人として、芒はそれらを「呑み込んだ」。  後には何も残らない。  それで良い。  根拠の無い確信は、何故だかある種の安心感を伴っていた。   「遅ぇんだよ。何時間かけてんだ」  険のある声色に思考が遮られる。  同じ部署の人間が作業机に部下を呆れた顔で叱り付けていた。 「おぅ、どうした」 「芒さん。聞いて下さいよ、コイツ中々作業を進めないんです」  ふぅむと唸り、当の人物を見遣る芒。  俯き、混乱した様な表情。目は泳ぎ、脂汗を流している。  屈む事で視線を合わせ、その奥の感情を見据えようと試みる。 「どうした?  ………………訳があるなら話してみろ」 「いえ、その………………」 「何だ?」  怪訝な表情が威圧となって相手を怯えさせる。  その事に気付き、芒は慌てて柔和そうな態度を取り繕う。  数秒後、件の人物は意を決して話し始めた。 「字が、読めないんです」 「読めない。前からか?」 「突然です。朝起きたら、急にそうなってて………………文字が全部ミミズみたいな記号に見えて、日本語のはずなのに全く意味が」 「下らない事言ってんじゃねえ。仮にも警察官が、そんな出まかせで仕事サボれるとでも思ったか?芒さん、コイツ人事に掛け合って更迭しましょう」 「………………いや、待て」  芒は悩んでいた。 『刑事として培われた長年の勘』なるものも、この場合は上手く働かない。  見え透いた嘘、と断じるには絶望した様な表情が真に迫りすぎている。  しかし、発言の内容が内容故においそれと信じる事も出来ない。  仕事柄、作業量の多さや精神的な負担に耐えかねて心を壊す同僚の存在は少なくない。芒自身、そうした人物を幾度と無く目にしてきた。  今回もその類の事かと結論付けた所で、  軽い眩暈が芒を襲う。  知るはずもない人物の、聞くはずもない言葉が脳裏に過る。 『呪いの渦中にいない以上、その呪いについてとやかく邪推すべきでない。  大きなお世話という物です』 『御自分の考え、常識。そうした物を一義的であると思わぬ方がいい』    気付けば体勢を崩していた。  叱っていた人間はおろか、先刻まで怯えていた人物にすら心配そうな視線を向けられている。  仕切り直す様に芒は姿勢を整え、指示を下す。 「今日はもう上がれ。んで病院行って来い」 「良いんですか?」 「おう。場所は分かるか………………というか、行けるか?」 「はい、何とか。ありがとうございます!」 「ちょっと、芒さん!?」 「この作業代わってやれ。大した量じゃねえだろ。  今の仕事があったらそっちは持ってやる」 「しかし、現状の案件は………………」 「気にすんな。なんだ、今流行ってんだろ。マルチタスクがどうたら」  少なくとも、すべき事はある。  それを続けていれば、自らの勢いが衰える事はない。  漠然とした、にもかかわらず確かなる信念を持って。  芒も、また再び歩み始めた。  件の人物が実際にとある病気を発症していたと分かるのは、先の話。 ・大下役/渡部快平  ワカさん。今年「美」に目覚めたんだな、と思いました。  思えば今年度の新歓、まさか脚選でご自分の脚本をお書きになるとは思いませんでした。それからオムニで一度脚本を通し、その美しい世界観は言うまでもなく好評を博しておられました。その後は言うまでもなく劇団内にも固定ファンをされ、舞台監督としても多くの団員から信頼を集めている凄い方です。  社会派な作品を書きたいと仰っていたのが私個人の記憶に新しいですが、それと関係があるのかないのか今回の大下という役ではめちゃくちゃ輝いて下さいました。「低学歴」を見下すあの表情。何て楽しそう。いや、ありがとうございます。「普段の様子を知っているから逆に面白い」という声が何となく理解できました。やー、面白かった。  癖も強く、中々演じたがられなさそうな大下という役の魅力をここまで引き出して下さったのはひとえにワカさんの教養というか、想像力というか、そういう部分があったからだと思います。「脚本を書く上で人間性の闇と向き合い続けたら病んだ」という逸話をお持ちなくらいなので、それだけ人間の負の側面という物を見据えて来られたのだと思います。だからあの闇の塊みたいな大下もあの仕上がりに。すごい。でも、人間の闇ってそこ止まりじゃないんですよ。RPG「ダークソウル」シリーズとかプレイした後になるにぃさんの動画とか見てみて下さい。ちなみに私は未プレイです。  未明とは言え、人の往来は少なくない。  市街地の中心地、一際大きな交差点。  行き交う各々の事情に思いを馳せ���でもなく、その怪人物は佇んでいた。    薄汚れた赤いトレンチコート。  風呂に入っているのかも怪しいボサボサの髪。  中華風の丸いサングラス。  長老の様に伸びた無精髭。  所々生地がほつれ、破れた焦げ茶色のベスト。  ダボついた深緑のズボン。    全体的に浮浪者じみた風体は、少なからず衆目を集める。  その中に二つ、明らかな警戒を孕んだ視線。  ある種の殺意めいた物を背中に感じながら、怪人は動き出す。  信号は既に青。  それをちらと確認し、尾行者二名もあくまで自然な風を装って歩を進めた。  区画の発展は目覚ましいが、完全ではない。  主な通りを少し外れれば程なく「裏路地」に入る。  解体されずに放置された廃墟群。  複雑に絡み合った利権や都合が整理を許さない文字通りの暗部。  如何ともし難く、さりとて誰にとっても有用でない無法地帯。  というよりは、無の地帯。  誰もいない、敢えて足を踏み入れない、ビルに挟まれた虚無の歩道群。  尾行者は並みでない苦労を強いられていた。  第一に、通路の複雑な構造。  不規則に別れ、出鱈目に繋がったそれらの中では一歩先を行く人物の位置すら把握が困難になる。  第二に、尾行対象の挙動。  おちょくっている。  尾行者の片割れは直感した。  一つの通路へ頭を向けたと思いきや、そちらには行かない。  足を踏み入れた、次の瞬間バックステップで急に元の分岐点へ戻る。  恐る恐る様子を伺う相棒が息を呑む様子が聞こえた。  以降、対象の挙動は激しさを増す。  時折何の脈絡もなく振り返る。  明らかに不必要な動きが増える。  ゴミを拾って見せる。  何かを思い出し、腹を抱えて笑う。  立ち止まってロボットダンスを披露したかと思えば急に歩き出す。  相棒の困惑した視線を受け取る。尾行者は頷く。  意を決して身を乗り出したその瞬間、怪人は軽やかなターン。  慌てて遮蔽物に飛び込むも時既に遅し。体が急な制動に対応しきれずバランスを崩す。強かに尾てい骨を打った。  起き上がるや否や、怪人が逃走を始める。  追う相棒が怪人へ怒号を飛ばし、慌ててそれに着いて行く。  以降、仁義なき追走劇が10分程度。    息切れも激しく、明らかに許容量を超えた運動を行ったと分かる。  満身創痍の二人に目もくれず、余裕綽々と言った怪人がせせら笑う様に背中を向けて立ち止まる。  埒が明かないとばかりに尾行者は懐へ手を入れる。 「動くな」  台詞の内容、金属部品が擦れ合う音。  取り出した物を察したのか、怪人の様子が変わる。  言わずもがな、拳銃。  漸く話の通じそうな雰囲気を感じ取り、尾行者が要件を口にする。 「警察だ。署まで同行しろ」 「ちょ、流石に拳銃はマズいですよ。一応任意同行なのに」 「うるせえ。散々面倒掛けてくれやがって、この………………」 「………………何故、私が?」  くぐもった声。  対称的に毅然とした声で返す警察の片割れ。 「礼楽町付近で起きた連続不審死。  ここ最近、現場周辺にお前みたいな奴の姿が複数回目撃されてる」 「どう考えても関係者だな、テメェ。何を知ってる」  観念したかのように怪人が振り向く。  瞬間、その眉尻が上がる。 「………………織戸君に、芒さん?」 「は?」 「え、えー。うわー、意外だなぁ。もう会う事ないとばかり思ってたけど、まさかこんな感じで再会するなんて。ねぇ、二人とも元気でやってます?大事件とかない?その辺どうなんです、ねぇ」 「お、ち、近寄んな!これ拳銃!見えねえのか!?」 「安全装置外し忘れてますよ。それじゃ撃てない」 「あ、本当だ。何してんですか」 「うわ、クッソ………………つうかそじゃねえ、そうじゃねえ!」  親し気な様子で近付いて来た不審者に調子を崩され、一瞬和気藹々とした雰囲気に呑まれかける芒。  幸いにして持ち直し、根本的な問いを放つ。 「テメ誰だ!少なくとも俺の身内に浮浪者はいねえぞ!」 「浮浪者?あー、そっか。イメチェンしたんだった」 「イメチェン………………?」 「参ったな。あ、サングラス外せば分かる?」  訝しむ織戸を他所に、怪人物は一方的に自らの素性を明かそうとする。  隠されていた目元が明らかになった事でその顔立ちの全貌が見える。  髪や髭に邪魔されて輪郭が見えづらいものの、その人を食った様な独特な表情、整った各部の配置はその人物を特定するに十分だった。  今世紀最大の驚愕を込め、芒が情けなく叫ぶ。 「お………………………………大下ァ!?」 「え、そんな驚きますか。僕が僕で」 「変わったな………………というか変わりすぎでしょ!  もう原型留めてないもん!」 「そこまで言う?やー、意外だなぁ。  自分じゃそんなに変わってないつもりだったんだけど」 「いやいやいや………………あ、違う!大下テメェ!  現場近くで、そのクッソ怪しい風体で何してやがった!」  呆れも込めた激しい追及に、あっけらかんとして答える大下。 数か月前とは打って変わり、その様子には一切のしがらみを感じさせなかった。 「何って、捜査ですよ。聞き込みというか、情報収集?」 「捜査って、警察は辞めたはずじゃ………………」 「こっちの話。要は、そういう仕事があるんです。金さえあれば、普通の警察が太刀打ちできない事件の全貌を明らかにできるって約束の仕事」 「はぁ?」  只管困惑する二人を前にして、大下はマイペースに言葉を紡ぐ。 「という訳で、昔の同僚とはいえ今は部外者。  本件に介入させる訳には行きません、お引き取り願えますか」 「こっちの台詞だ!おい、今のお前が何に手ぇ染めてるかはどうでもいい。  ただな、お前の言動は明らかに捜査妨害………………」 「あーその辺の問題じゃないんですよ。こっちにも同じ事情があるって言うか………………面倒臭いな。おい!」 「はいはーい!」  大下が呼びかけ、返事を返したのは路地裏の上方。  道を挟むビルの屋上、その縁に座る小柄な人影。  妙な既視感が奇妙な風切り音に遮られる。  矢。  妖しく白い輝きを放つそれが、織戸と芒の足元に突き刺さる。  驚く間も与えず、矢は一際眩い光を放つ。  強烈な眠気によって二人が倒れるのに、そう時間は要しなかった。  効果の程を確認すべく、寝顔をまじまじと眺める大下。  その様子を見た人影が、猫じみた身のこなしで飛び降りる。  高さと質量からは想像も出来ない程に軽やかな着地音を聞き、思わず感嘆の声が漏れる。 「俺も中々かと思ったけどさ、やっぱお前は大分違うな。  2,3日でもう人間辞めやがって」 「人でなしみたいな性格した人に言われたくないなぁ。  でぇ、大下さーん。今日の分のお小遣いは?」  後ろで手を組み、上目遣いで期待を込める大下の協力者。  そのわざとらしさに若干白い目を向けながら、大下は苦々しく確認する。 「隠しカメラとか仕込んでねえだろうな」 「まっさかぁ。ケーヤクイハンだし?」 「白々しい………………」 「あ、でも報酬次第だかんね。  動画にした方が儲かるなら無許可でそっちに切り替えるし、その辺宜しく」 「………………4人分か?」 「当然でしょ。4人揃ってこぉそぉのブランドなんだし」 「なぁにがブランドだ。どぉせこないだの放火もお前らだろ。  炎上系の癖に気取りやがって、偉そうに。地獄に落ちろ」 「そんな連中頼ってメシ食ってんだし、お互い様でしょー?」 「ハッ。そうだな………………」  自嘲気味の笑いを漏らし、清々しさを湛えた顔で向き直る。  煽った相手も心底楽しそうな笑みを浮かべていた。  厚みを持った封筒を手渡すや否や、協力者は当然の様にひったくる。  苦笑いを浮かべながら、険の無い口調で嫌味を放った。 「じゃ、午後もよろしく。犯罪集団」 「どーも、似非捜査官さん」    別れの言葉もそこそこに、互いに別の方向へ歩み出す二人。  相変わらず白目を向いて横たわる織戸と芒。  それぞれの姿を、上り始めた朝日の反射光が照らしていた。   ・三珠役/遠藤由己(29期)  ハイ。説明不要でカッコよくて面白くて優しい我らが座長です。そして本公演での舞台監督です。そのゴリラとバナナと演劇に対する情熱で皆から愛される凄い方。え、完璧。欠点と言ったら作ったラーメンの生地をサークルの冷蔵庫の中で腐らせる事くらいしか思いつきません(実話。なお物体Xはちゃんと処分されました)。面白い人ってたまに人をダシにして笑いを取る、いわゆる陽なイメージがあるんですけど、この方には一切それがない。絶対に他人を責めないし、本気で人を蔑んでる所とかみたことがないし、ミスをしてもちゃんと注意して許して下さるし、もう、ちゃうかにとって太陽みたいな方だったと思います。リミッター掛けずに暴れて他人様に迷惑を掛ける事が多くて、後会話が苦手でよく人を避けがちな私にも沢山話しかけて下さったり、もう天使みたいな人です。本公演も滅茶苦茶なスケジューリングの所為で予定押しまくって、御自分が泣きたいくらいの状況においても優しい言葉で気に掛けて下さって、もう色々限界に近い様な状況でも絶対に激昂したりせず笑顔を保ち続けて下さった、それらの事へ申し訳ないの気持ちと伝えきれない程の感謝の気持ちが渦巻いております。本当に御迷惑をお掛けしました。そして、本公演本当にお疲れさまでした。  ………………はっ!「役者」紹介なのに役者としてのエンドゥーさんをご紹介出来ませんでした。カッコいいのはそうなんですけど、実際面白い、というかアドリブを多めに入れて下さる方です。  とはいえ今回はその余裕がない脚本でした。いえアドリブが悪かった訳ではなく、そうした「遊べる」部分がないような脚本だったのが良くなかったかな、と思ってます。  なので、その無念を晴らすべく脚本の方を書き換えてみます!  IFストーリー、「もし三珠がアドリブしやすい環境だったら」。 「所有者は実行ファイルをJadでデコポンした、と言ってましたが」 「デコポ………………デコンパイルの事っすか?」 「そうそう、そのデコピン」 「デコンパイルっす。ちょっと遠くなってる」 「ほう、そのデコッパチってのは大変なんですかい」 「いや惜しい。今までのに比べたら惜しいレベル」 「レコンキスタが何ですって?」 「あ大分離れた。イベリア半島の再征服活動は全く関係ないっす大下さん」 「デコレーションケーキですかな?」 「矢盛さんデコしか合ってない。というかあなたもそっち側なんすか」 「えーっと、………………ヒロポン」 「いや原型失ってるっす。何すかヒロポンって。  思い付かないからってデコポンから雑に派生すんのやめて下さい」 「ちゃんぽん」 「クーポン」 「ピンポン」 「じゃんけんぽん」 「NEXCOニシニッポン」 「ポンで畳みかけないで下さい。  そもそも『デコンパイル』にポンつかねーから!」 「えっと、何の話でしたっけ………………」 「忘れてんじゃねーよ!」  結論:話が進まない。  おあとがいけないようで。  本式のIFは後で書きます。予告しよう。長いよ。 ・矢盛役/石英(29期)  入団当初、まだ人間性を獲得しておらず暴れまくっていた頃の私は(今思うと大分失礼な発言ですが)ある方に似ている、と言われた事がありました。無論見境がない分私の方がヤバかったらしいですが………………お察しの通り、その方が■■さんです。一目見たとき「あ、キャラ被ってる」と思ってしまいました。眼鏡、あと敬語キャラ。後者が特に大きかった。しかし聞いて下さい、色んな意味で暴走する私と違って■■さんは落ち着いた凄い人なんです、言わば私の上位互換。ああでも■■さんを私ごときの上位互換だとか言ったらそれはそれで無礼度がマッハ有頂天、どうしよう、みたいな事になったのでとりあえず私はフードとマスクとサングラスを着用しました(全くの無関係)。  この方の普段の振る舞いを見るとまず「人間科学ってすげぇ」という感想が溢れてきます。人間に精通している。どう言えば伝わり、どうすれば動き、何をやっても大丈夫なのか把握しておられる気がします。そして私の取り扱い説明書を持っておられる貴重な方です。通訳さんとして大分お世話になりましたし、この公演中「この方にしか理解できないだろうなぁ」みたいな事も大分お話させていただいた事があります。あと照明の「チーフ補」を務めて頂きました。もう、諸々神の様なお方です。私にとっては最高神。  お世話になった事を箇条書きしていったらそれだけで脚本が一個できるレベルで御迷惑をお掛けしました。役者として?めっちゃくちゃ上手い方です。脚本の理解に掛ける執念と言え、プラス私の脳内を推察できる方なのでもうそれはシンクロです。不明点などどんどん質問して下さって、本当に有難うございました。長台詞ばっかりでごめんなさい、でもカッコよく決めて欲しかった、啓蒙の高いカッコよさを存分に示してほしかったのです!よって後悔はありません、お疲れ様でした!なんて鬼畜な私ぃ! 「それで、話というのは何ですか。久保田君」    昼下がり。  どこにでもある喫茶店。  二人の客が会話を始める。 「………………お願いがあるんです」 「ほう、お願い」 「ええ。自分が、死んだ後の事を」  尋ねた方の人物が片眉をひそめ、��う片方を吊り上げる。  薄布で出来た黒のローブ、頭には二本の蝋燭。  奇態な格好が衆目を集める事は、何故かなかった。  相対する紙袋を被った人物、久保田についてもそれは同様だった。 「死ぬとはまた縁起でもない。一体何に首を突っ込んだんです?」 「………………他愛もない、呪いの類です。  ネット上に転がってて、まだ誰も傷付けた事がない様な」 「それを、消そうとしたのですな?」 「そうです。でも………………」 「上手く行かなかった。なるほどなるほど」  オカルトじみた服装の人物、矢盛。  最も酷薄な、かつ当たり前の言葉を選び、相手に向けて躊躇なく吐き出す。 「まぁ、自業自得でしょうな。  どんな理由があったかは知りませんが、その辺に転がる呪いに手を触れるなどあってはならない事。無論君ならば良く分かっていたはずです。  その上で、なぜその様な真似を?」 「………………子供」 「はい?」 「子供が作った呪いなんです、それは」  矢盛の脳内を様々な推測が去来する。  亜事象………………呪いを含む、超常現象。  それらを構築する知識を子供が得るのも、あり得ない話ではない。  しかしながら。 「一体なぜ?」  爆弾を作る知識を偶然手に入れた子供、そのどれだけが実際に爆弾を作ろうとするだろうか。倫理的な問題は省くにせよ、手間は掛かる。一歩間違えれば自らの身に危険が降りかかる。「面白そうだから」という目的だけで殺人兵器を完成させる物は、まずいない。  誰かに殺意でも抱いたのだろうか。それでは「誰も傷付けていないまま、呪いがネットに流れている」状況と矛盾する。誰を狙って?  久保田の答えは、そうした矢盛の疑問を更に深める事となった。 「芸術………………多分、そんな感じだと思います」 「どういう意味です?」 「その子は、その呪いを一つの作品として完成させたんです。  誰かを殺すことも、その一部として」  要領を得ない答えが返る。  様々な疑問を飲み込み、矢盛は最低限の解釈で応じた。 「………………ただの子供では、ないと」 「ええ」 「しかし、それならますます意味が分からない。  君、なぜそんな人物を敵に回したのですか?自分の命すら危険に晒して」  沈黙。  紙袋の上から、その表情は窺い知れない。   「………………守りたかったんです」 「誰を。何から?」 「その子をです。このままだといずれあの子は、あの呪いは、誰かを傷付ける。それだけじゃ済まない、いずれあの子自身も復讐に遭って殺される。  誰かを殴れば殴り返されて死んでしまう、それをあの子は!」 「お、落ち着いて。あ、どうもすいませんね店員さん。  ほら。一旦食べて落ち着きましょう」 「あ、すいません………………」  立ち上がっていた久保田が気を取り直し、椅子に座る。  紙袋の所為で悪くなった視界は、プレートを持ったまま困惑する店員の存在を捉えていなかった。  矢盛の注文はパンケーキ。久保田はフレンチトースト。  すぐさまナイフを入れ、舌鼓を打ちながら互いに考えを整理する。  もきゅもきゅ。  全てを胃袋に収める頃には、矢盛はある程度その理解を纏めていた。  紙ナプキンで口元を拭い、再び話を切り出す。 「つまり、アレですな。  亜事象世界のシンプルで残酷な掟からその子を庇護したかったと。  その子、ひいてはその呪いに関わるにあたって、どうしても君自身が狙われる必要があったと」 「ええ。道を踏み外したとはいえ、あの子にはそれだけの才能がある。  若い芽が摘まれるなんて、俺には耐えられない」 「正義感の強い君らしいですな。  誰かを殺めようとする子供すらそこまで気に掛けるなど。  しかし、才能というのは呪いを作る事だけですかな?」 「どういう事です?」 「いや何。先程から話を聞いてみると、何か君自身その呪いに感銘を受けた節が感じられると思いまして」 「………………一つ、見ていただけますか。  呪いに関わる画像なので、あまり」 「その程度気にしていたら亜事象家などやっていられませんよ。是非」  促され、久保田はポケットから一枚の紙を取り出す。  画像がプリントされたそれを見て、矢盛はただ美しいと感じた。  中世のそれを思わせる、ファンタジー的な街並み。  山肌の質感。自然な光。現実には存在しえない、だが「何処かにあってもおかしくない」とすら感じさせる趣ある建築。細部に至るまで生々しく描写された人、生物、その他全て。  最新のCG技術ですら再現出来ない程の光景、一枚の紙に映し出されたそれですら矢盛の心を掴むには十分だった。 「ほう、なるほど……………亜事象で生成した光景、ですか。  ここまで見事な物は見た事がありません。しかし、呪いと何の関係が?」 「呪いのゲームのスクリーンショットです。  この世界の中で悪行を犯したプレイヤーは裁きを受ける」 「何と。要はグラフィックがめちゃくちゃ綺麗な呪い版UNDERT〇LEと。  はー、確かにこれは危険ですな。良い評判に騙され��その辺の一般人が手を出してしまうかもしれない」 「でしょう?  こんなに美しい物が作り出せる子なのに、勿体ない」 「ちなみに『子供』というのは、何故?」 「追われてる時に何回か姿を見ました。  やってる事と言い体格と言い、少なくとも大人じゃない気がして」 「ほーん………………」    納得しかけた所で、本題から逸れた事を思い出す矢盛。  そも、久保田から自分に託された願いとは何であったか。  AM6:00。  日が昇り、矢盛は「吸血鬼」の亡骸が崩れ去るのを確認する。  亜事象の研究家として適宜警察等の公共機関に協力し、必要に応じて自ら手を下してほしい。  丸投げともとれる雑な願いに対し、事実矢盛はやり遂げるに至った。  身勝手に命を賭け、死んでいった久保田。  その行いに、何らかの意味があったのか。  確かめる術もないまま、弔いを胸に矢盛は佇む。  もう、あの姿のままで相まみえる事はない。  路地裏の静寂が、惜別の情を静かに包んでいた。  昼下がりの喫茶店。  甘味を味わい尽くし、席を立とうとする二人。  今生の別れを前に、矢盛が希望的観測を口にする。 「時に、久保田君。  怨霊を、信じますか」 「………………信じます」 「そうですか………………」  根拠もなければ、証拠もない。  ただ、「そうであれば良い」だけの噂。 「この世界は、産み落とした物を無碍にはしないそうです。  例え姿形が変わろうとも、今ある物は残り続ける」    矢盛が久保田から視線を外す。   「いずれ、また会いましょう。  互いが互いに出来る事をやり尽くした、その後で」  その声は、心なしか震えていた。  応える久保田も、また死の恐怖を掻き消すように声を張る。 「ええ。負けません。  必ず、この世に想いを遺します」  それが、矢盛の聞いた久保田の最後の一言となった。 ・玉池役/堀文乃  らめるさん。お世話になるのはシザーズ以来ですね。  いや、プロです。上手い。それっぽく投げたイメージの解像度を物凄く引き上げて下さる神です。それだけに学生役にとどめるのが申し訳なかった。前座コントで見た様な虚無感の演技然り、もっと幅広い顔があるはずなのにそれを見る事が出来ないっ………………!!!!あ、ああ悪役!次は悪役をお願いします!!!フリーが濃すぎた影響か、今回の役は割と常識的に見えたかもしれませんがホントにすごいんです。楽しみ方とか喜び方とか満面の笑みがもう輝くような感じだし、「草」の言い方とか「あミスった」とかすごい自然だし、推しに遭えた感情で限界に達するムーブとか安易に共感できて、もう玉池やってもらってよかったなぁと。配役に関する個人的な妄想をもう少し広げると、そうですね………………次はめっちゃクールな役も見てみたいし、自然に微笑みながらサラッととんでもない事を語るようなにこやかサイコパスも見てみたいし、逆に怒涛のツッコミをお任せしまくるのもいっかなぁ、あーでも笑顔が見れない、何をお願いしても笑顔で演じ切ってくれそうな感じがあるからこそその笑顔がもっと輝いてほしい、はぁよすぎでしんど。でも一番しんどいのは勝手に色々言われてるご本人かもしれませんね。この辺で止めにしときます。 ・多賀役/岡山桃子  この方の優しさをフルコースで体験しました。いや音響。音響。舞台上の役者の動きに合わせて音が鳴ったりするんですが、今回はその回数が3桁を超えたそうです。やーすごいですね。誰のせいなんでしょう。下手人は大集会室の床に土下座の要領で頭を叩きつけまくって脳漿をぶちまければいいのに。すいません私ですごめんなさい。でも全然キレないんですこの方。慈悲の化身か。本当にしんどい思いをさせて申し訳ございませんでした。  役者としてですが、可愛らしい役をする事が多い方だと思ってます。それだけに今回はただ可愛いというよりも大人しい感じの役だったというか、そこまであざとさに向いてなかったというか、むしろカッコいい部分もあったかもしれない?スタッフワークとかで人間性的なカッコ良さを発揮する人が舞台上でそうなれないのに耐えられなかったんだよ!!!!!(謎の告白)何でしょうね。そう考えると今回はまだ役にイケメンさが足りなかったかも知れないです。でもいつかどちゃくそイケメンな役を演じさせてみたい。そして全国のみこた………………みこさんランドの住民の村を焼きたい。見てみたくないですか?私は見たい。  久保田inにその片鱗はあった気がする。目覚めよその魂………………!! ・中西役/lulu  ラブノートからの………………ペチカさんの所でコレ書くんだったー!!先に言っておくと、luluさん/児玉桃香さん/中戸太一さん/サミュエル・ツヤンさんの4名とは2018オムニB脚本「LOVE NOTE」メインキャストからの仲です!なのでこの5人はこの脚本に揃ってました!懐かしー!  え、役者として?この御方を誰だと思ってるんですか。luluさんですよ。初登場からその圧倒的なカリスマ性で固定ファンを大量に獲得、今やその影響力は政財界の域を超えを揺るがさんとしているluluさんですよ?真実はさておき、私も稽古場で「ルルさんに逆らうんですか?」という脅し文句を使った事があります。怒られました。いやでもカッコいい。キャスパも凄い。一回ぐらい主役やってほしい。というか最近「殺されるならこの人かな」みたいな感情が芽生えてきています。気持ち悪いですね。今作ではツッコミ役の学生としてこれ以上ないほどリアルで引き締まるような演技を披露して下さいました。  本公演では演出補佐も務めて下さいました。そう考えると演技面ここどう思いますか、みたいな感じでもっと御意見を求めれば良かったのかな、と思うシーンが山の様にあります。いやでも十分ですね。キャスパしかり、学生サイドの監修しかり、「一つのシーンが演出の手を経ずにほぼほぼ完成する」という夢の様な事例を作って下さってありがとうございました!luluさん最高!  マッカブランカによる前代未聞の生放送企画から3週間後。  一切の情報を残さず、件の4人は消息を絶った。  遺されたのは、一瞬の安寧。  あるいは……………… 「玉池ぇ、いい加減立ち直んなよ。  別にマッカが死んだって決まった訳じゃ………………」 「アァアァアァアァァァ………………」 「しょうがないよ。あれからすっかり落ち込んじゃって。  夜も眠れず食事も喉を通らない、唯一体が受け入れるスタバの新作メリーストロベリーケーキフラペチーノで辛うじて生きながらえてるんだって」 「弱ってるにしちゃ主食がハイカロリーだな」  あるいは、死んだ目の玉池。  生気を感じない瞳の下には幾重にも隈ができ、顔色は青白さを通り越して純白、あらゆる問いかけに対して「マッカしゅき」としか返さぬ有様。  ゾンビ。  端的に表現すれば、それそのものとしか言い様がなかった。 「どうすんのコイツ。てか何でこんななってんの?」 「何日か前からおかしかったっちゃおかしかったんだよね。  最初こそ『大丈夫。マッカは生きてる』って怖いくらいの笑顔で言ってたんだけど、段々『マッカニウムが足りない』とか『まばゆい推しの記憶があたしを生かし、同時に苦しめるんだ』とかうわ言いい出すようになって」 「しまいに教室のど真ん中でカッター持って『我ガ臓器ヲ捧ゲマッカヲヨビダス』とか叫びやがった、と」 「止めてなかったらホントに切腹してたかもね………………」  多賀が玉池の様子をみやる。  焦点の合わぬ視線が虚空を見据え、時に痙攣しては弛緩していた。  その様に呆れ、中西が眉間を指で抑える。 「勘弁してよ………………このままじゃウチらまで変人扱いじゃん。  玉池、どうしてもマッカじゃないとダメなn」 「いい訳ないでしょぉおぉぉぉおおおお!!?!?!?!?!?!?」 「うわっ………………」 「二度とあたしに向けてその言葉を放つな、それはあたしにとっての禁句だ、いいか。故郷に替えが利かない様に」 「おかえり玉池」 「ただいま多賀。一生の推しはずっと代えられない。他人がどうだか知らないけど、あたしにとっての推しYoutuberは今後一生、何があっても絶対、どんな不幸や災難があたしを襲おうとも、間違いなく、確実に、マ、ッ、カ、ブ、ラ���ン、カ、だ分かったかぁ!!!!!」 「離せ」 「あいだだだだだだギブギブギブ!!!」  激昂しながら中西に掴み掛かり、結果手酷い反撃を受ける玉池。  野に咲く花を見るかの様な面持ちで眺める多賀。  最早、日常であった。  関節技を解かれるや否や、玉池が喚く。 「あー中西余計な事すんなよぉ、何も言わなきゃあたしは今も虚ろで空虚な夢の中を一人さみしく泳いでいられたのにぃ」 「『虚ろ』と『空虚』は同じだよ」 「るっさい。あー、やだなぁ。これから何十年もマッカのいない世界を生きてかなきゃいけないのかぁ。退屈だなぁ、いっそ死んでやろうかなぁ。しかし死ぬと言っても色々方法はある。転落、焼死、窒息死………………」 「お前は何がなんでも過去公演ネタをやらないと気が済まんのかい」 「え、じゃあ何?信じてればいつかあたしの目の前にドラゴンに乗ったマッカブランカの4人が来てくれるとでも?」 「いや知るかよ。勝手に信じてれば」 「ハクジョーな事いうなよー友達だろー?」 「とち狂った挙句クラスみんなの前で割腹自殺しようとするような奴を友達とは呼びたくない」 「ひどい………………え待って何の話」 「記憶すらねーのかよ最悪だな」 「二人とも」  縋りつく玉池、邪険にする中西。  二人が、多賀の声によってようやく異変に気付く。  周囲を見れば、クラスメートも同様に騒いでいる。  薄暗い。    教室のみならず、学校全体を覆う影。  窓から見えるは硬く、煌びやかに輝く固い鱗の群。  古典的RPGじみたドラゴン。  何かを振り落とさんと、必死に暴れ翔んでいた。  そして、その背中には。 「視聴者のみなさーん、おっひさー!  待たせたお詫びに今回は特大スペシャル!何とみんなの目の前でドラゴンの解体実況をやっちゃいまーす!いぇーい!」  多賀や中西にとっても見覚えのある、クロスボウを抱えた小柄な人物。  背後にはいつもの3人。  謎の空撮ドローンに向かって手を振りながら声を張る、その様は。    玉池が、弾けた。  枯れかけた草木が生命の輝きを取り戻すかの如く、弾けた。  肌は瑞々しさを取り戻し、四肢には宿るは火事場の馬鹿力。  特に邪魔だった訳でもない中西の足を掴んで持ち上げ、後ろに放り投げる。  宙を舞う中西。  飛距離は5m。  壁に激突。  駆け寄る多賀。  唖然とするクラスメート。  それら全てを完全に意識から外しながら、玉池は。  力の限り。  喉が割れんばかりの大声で、叫んだ。 「マッカじゃああぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁぁあぁああぁあぁあぁあぁああぁぁぁああああっぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁっぁあぁああぁあぁぁああああああぁあぁぁあぁあぁぁあぁぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁああぁあぁあぁあああぁぁああぁああぁああぁあああああああああぁああぁあぁんっっっっっっっっっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」    教室のガラスが、一斉に吹き飛ぶ。  クラスの大半が耳を抑え、うち幾人かは失神する。  数百人分のそれに匹敵する声量の応援を受け、レミがそちらに手を振る。  玉池の視力、今や5.0。  無論その仕草を捉え、その精神が天へと召されゆく。  推し、即ち神。  自らの声が神に届けられる。  この世の何物にも耐え難い自己肯定の証左、狂おしい程の悦楽に呑まれながら玉池は有頂天であった。    ふと、側頭部に違和感を覚える。  足。  どす黒い殺意を纏った中西の飛び回し蹴りが、玉池の頭蓋に横から深く食い込み、破壊する。  必死に止めようとした多賀は、既に振り払われていた。  ああ、何だ。  たった、それだけの事か。  意識が、徐々に霞となって消える。  机や椅子を薙ぎ倒し、玉池の体が床へと零れ落ちる。  暖かい布団に包まれ、微睡みに墜ちるかの様に。  怒り冷めやらぬ中西の幾度とない踏み付けを食らっても、なお。  玉池は、笑顔であった。      ………………駄目だ。耐えられない。  一つのキャラにつき一つの物語を書かないなんて、そんな馬鹿な。  待てよ、僕の仕事は………………こんな風に、想像する事。  文字によって、頭の中の世界を描く事じゃなかったか?  そうだ。  何を忘れていたんだろう。  これはあくまでも本編後のアフター/IFストーリー。  役者紹介は、その口実に過ぎない。  ハ………………ハハハ。そうだ。それこそが、僕の! 「ちょっと待って」  ………………誰だ? 「お世話になった人、迷惑をかけた人。  その人たち全てに感謝と謝罪の念を述べ、過去を供養する事。  その大切さを、君は忘れている」  何を、言って………………ぐっ!?  ぐ、ぐあ………………あが、ぐあぁあぁああぁああぁああ!!!  できません………………  私の仕事は、公式二次創作を、書く事だから………………!!! 「違うって。  君の仕事は、役者紹介だよ」                                      -transmission complete-  ぐ、ぎゃぁあぁああぁああぁああぁあ!!!!!!!  あ、あ……………… 『メタフィクション:ザ ゲーム』に、接続。    マジですいません。  流石に十勇士ぐらいはまとめます。
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lostsidech · 5 years
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groyanderson · 5 years
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ひとみに映る影 第二話「スリスリマスリ」
☆プロトタイプ版☆ こちらは無料公開のプロトタイプ版となります。 段落とか誤字とか色々とグッチャグチャなのでご了承下さい。 書籍版では戦闘シーンとかゴアシーンとかマシマシで挿絵も書いたから買ってえええぇぇ!!! →→→☆ここから買おう☆←←← (あらすじ) 私は紅一美。影を操る不思議な力を持った、ちょっと霊感の強いファッションモデルだ。 ある事件で殺された人の霊を探していたら……犯人と私の過去が繋がっていた!? 暗躍する謎の怪異、明らかになっていく真実、失われた記憶。 このままでは地獄の怨霊達が世界に放たれてしまう! 命を弄ぶ邪道を倒すため、いま憤怒の炎が覚醒する!
(※全部内容は一緒です。) pixiv版
 ◆◆◆
 「いつも通り一美ちゃんの人権を無視して拉致が敢行されんとしていた、その時! 我らが極悪非道ロリータの志多田佳奈(しただかな)ちゃんは、ひょんな事から英雄物流(ヒーロジスティクス)密売事件の重要人物、石油王こと平良鴨譲司(へらがもじょうじ)氏と再会する! かくして始まった「したたび」放送開始以来異例のインタビューはまァだまだ続く! それではまた来週~!」
 譲司さんをテレビ湘南(しょうなん)のクルーに連れていかれて、私はオリベさんと、彼女が連れてきた高校生ぐらいの女の子を乗せたミニバンを運転し、先に熱海町に向かう事にした。
 大人になって東京でファッションモデルをしていた私は、たまたまオーディションに受かったヒーローショーイベントの仕事でアイドルの志多田佳奈さんと出会い、 それ以来彼女の冠番組「ドッキリ旅バラエティしたたび」に、ドッキリ企画と称していつもノーアポで連れ回されている。 テレビ出演が増えたのは嬉しいけど、最近の私にはまるでプライベートがない。 テレビ局は何故か事務所とグルで私のスケジュールを完全に把握しているし、いざ連れていかれると、 原付で一都六県を一周させられたり、ドーバー海峡をスワンボートで横断させられたり、ともかく割に合わない過酷なロケに付き合わされる。 なので今回あの番組の矛先が譲司さんに向いたのをいい事に、私達はこれ幸いと先に行かせて頂く事にしたのだった。
 撮影が一段落つくだろう時間を見計らい、矢板(やいた)のサービスエリアで一旦休憩する。 オリベさんが譲司さんに「終わったら新幹線で来てね」とメールを入れている間、私は後部座席で背中を丸めている女の子を見た。 パステルピンクのドルマンスウェットと同色のシュシュ、真っ赤なバルーンスカート。典型的なオルチャンファッションだ。
 <さすがファッションモデル、よくわかったわね。その子は韓国人よ>
 隣のオリベさんが目で語ってくる。 医療機器エンジニアのオリベ・ヒメノさんは、子供の頃に脳神経をやられて声を失ってしまったユダヤ人の女性だ。 でもその代わりに、脳から直接テレパシーを送受信する力を持っている。だから日本語が喋れなくても会話できる。
 今回熱海町に行くメンバーは全員、NICという脳神経科学研究機関の関係者で、その中でも脳の異常発達や霊能力によって特殊な力を使える人達だ。 数時間前に連れていかれた譲司さんも、肺に取りこんだ空気の成分や気圧差で色んな事を読み取るダウジングや、物に触って過去を読むサイコメトリーといった「特殊脳力」を持っている。 だから多分、この子も「特殊脳力者」なのだろう。 顔色が良くないので、休憩所に連れていく事にした。
 「Sorry for the late introduction, because I was driving. I’m Hitomi. And how can I call you?」 (運転中に自己紹介できなくてごめんね。 私は一美です。あなたのお名前は?)
 涼しい外のベンチに並んで座り、私はとりあえず英語で話しかける。 先述の「したたび」で度々海外ロケにも連れていかれるせいで、ある程度英語が話せるようになっていたのは不幸中の幸いというか、怪我の功名というか。 でも女の子は俯き加減のまま私を見上げて、消え入りそうな声で「日本語でいいヨ」と言った。
 「私パク・イナです。日本語の方がいい。 ヒトミさんテレビの韓国で見てた知ってるます。会えたの嬉しいヨ」 イナちゃんと名乗った女の子は、少しカタコトだけど聞き取りやすい日本語でスラスラと答えた。 でも、「会えたの嬉しい」と言う割にはまだ元気がないように見える。  「酔っちゃった?できるだけ安全運転したけど、ごめんね…」 背中をさすろうと思って彼女に触れると、小刻みに震えていた。
 「スリスリマスリ…スリスリマスリ…」 よく耳をすますと、イナちゃんは両手を強く握りしめてなにか呟いている。 意味はわからないけど、韓国語か…
 その時、ふと目線を上げると、ベンチの周りに数匹のカラスが集まっていた。いや、カラスだけじゃない。  「ニャーン…」背後から猫の鳴き声。 振り向くとそこには、おびただしい数の動物霊、交通事故死した人間の浮遊霊、魂未満の小さな鬼火、生きた野良猫、蟻やゴキブリ、目の焦点の合っていない小さい子供… 自我の弱い生き物や魂達が、私達の半径2m外を取り囲んでいた。
 「ひっ…」恐怖で声が出そうになるのをこらえる。 動物霊はこちらが見えている事に気付くと襲ってくる事があるから、なるべく目を合わせないようにしなければいけない。  「スリスリマスリ…スリスリマスリ…」 イナちゃんが何と言っているかはわからないけど、その言葉のおかげで集まっているものたちがそれ以上近寄って来ない事を直感で理解する。しかし、
 バサバサバサッ!!喫煙所の屋根から土鳩の群れが私達めがけて飛来し、イナちゃんは驚いて呟きを止めてしまった。 すかさず大量の霊魂と生物が私達に押し寄せる!
 私はイナちゃんをかばいながら、足の裏の自分の影に意識を集中させた。 幸いその日はカンカン照りの快晴、光源は充分ある。 床に置いたワンピースを下から持ち上げて着るように、自分達の体を影で覆いながら、周囲の光の屈折を歪める。 私達を覆う影が濃くなるにつれて、その分行き場を失った光線が影の外縁で乱反射する。 その反射率がほぼ100%になると、私達の姿は彼らから全く見えなくなった。影法師の「影鏡(かげかがみ)」という術だ。
 彼らは目標を見失って立ち止まった。しかし未だに私達を取り囲んだまま動かない。 私は第二の手に出る。影鏡の輪郭を半球状に広げながら屈折率を更に強めていく。 自分達の視界が完全な漆黒になるけど、その外側は電球のように光っているはずだ。 そのまま集めた光を360度放射する。  「ぎゃあああ!」幾つか叫び声が上がると同時に視界が戻ると、彼らは強烈な紫外線を浴びて散り散りに逃げていた。  「今のうちに戻るよ!」 私はイナちゃんの肩を押して車へ駆け戻った…。
 ◆◆◆
 <さすがね、ミス・ヒトミ!イナをあなたに任せた甲斐があったわ> 運転を交代してくれたオリベさんが、まるでヒーローショーでも見ていたかのように呑気に言う。 イナちゃんは極度の「引き寄せ体質」で、特に精神的に緊張したりストレスを感じてしまうと何でもかんでも引き寄せてしまうらしい。 韓国で色んなお寺や教会、霊能者を頼ってもどうにもならず、ご両親がダメもとで病院に連れて行ったら、NIC会員の医師に研究対象として保護された。 そして来週からインドネシアにある脳力者児童専門の養護施設、「キッズルームバリ島院」にて、体質をコントロール出来るようになるまで住みこみでリハビリする事になったという。
 <イナのギャザリング体質は今回のミッションに適しているわ。 ジョージも丁度来週からバリ島院の養護教諭になるし、日本で待ち合わせて一緒に出発しましょうって話になったの。 この子がタルパの聖域フクシマに行くと思うと…とってもワクワクするわね!>オリベさんが意地悪に笑う。  「いやいやいや、本人はとってもビクビクしてるんですけど!?福島の心霊スポット系は本当にヤバいんですよ!! ていうか肝心の譲司さんが別行動ですし!」  <平気平気!あなたが付いているもの。 それにインドネシアの悪霊は韓国や日本のよりも刺激が強いから、少しぐらい鍛えておかなきゃでしょ>
 確かにオリベさんの言う通りではあるけど、当のイナちゃんはあれからずっと私の腕にしがみついている。 (オリベさんに運転を変わってもらったのはこのためだ。) ちなみに刺激が強いというのは、物理的に交通事故などの事故死亡率が多い国は当然幽霊もスプラッターな姿の方が多いという事だ。 私も「したたび」でインドネシアに行ったことがあるけど、実際バイク大国で信号が少なかったし、 観光客がバシャバシャ写真を撮っている公園で白昼堂々首なしの野良犬の霊がうろついていたのも確かだ。
 「イナちゃん大丈夫だよ。福島は色んな姿をした人工の魂が多いから、幽霊さん達も死んだ時のままじゃなくて、 おしゃれに自分の好きな姿にしてる方が多いんだ。 ゾンビみたいな人はめったにいないから、安心して。 そうだ…おしゃれといえば、渋谷とか原宿には行ったことある?」
 私が「渋谷とか原宿」と言った瞬間、曇っていたイナちゃんの目がキラリと輝いた。  「シブヤ、ハラジュク!」 やっぱり。オルチャンガールだから反応すると思った。
 「かわいい物は好き?」 「かわいい」という単語を聞いて、イナちゃんの表情が更に明るくなる。  「うん!日本のかわいい好き!! 大人になったらアイドルになりたいです。だから日本語勉強してるだヨ! 「したたび」のカナちゃんは一番好き日本のアイドル!」 一気に饒舌になって力説し、一瞬はっとして「でもヒトミちゃんも同時な好きヨ!」と小さくフォローを入れてくれた。 いつの間にか「ヒトミさん」が「ヒトミちゃん」になっていたのが、ちょっと嬉しかった。  「じゃあ無事にこの旅が終わったら、一緒に渋谷と原宿でお買い物しようね」
 その後の車内は、熱海町に着くまでさながら女子会のようにずっと盛り上がっていた。 それぞれの国にあるかわいい物、悪い霊から身を守る色んなおまじない、 最近流行っているコーデ、スイーツ、 それに三児のママであるオリベちゃんの子育て苦労話も。 気がつくと私達全員が全員をちゃん付けで呼び合うようになっていた。 この旅の本来の目的については、誰一人触れようとしなかった。
 ◆◆◆
 「磐梯熱海温泉(ばんだいあたみおんせん) 右折」という三角のモニュメントを確認して、熱海町に入ったのを実感する。 ここは東北新幹線の停まる郡山(こおりやま)駅からも近い温泉街だ。 都心の観光地に比べると小さい町だけど、町内には温泉やスポーツ施設、無料で入れる足湯などがあり、県内外の人々に愛されている。 駅から安達太良山(あだたらやま)の方向に登っていくと石筵だ。 私や玲蘭ちゃんが修行していた霊山や、その更に奥には牛の乳搾りやバーベキューを楽しめるふれあい牧場がある。 残念ながら今回は遊びに来たんじゃないけど、目的が早く済んだら観光案内をする約束だ。
 貸し切り民宿に大きな荷物と車を置いて、ようやく私達は本題に入った。
 <イナちゃん。NIC会員の規定は知っているわよね?> オリベちゃんが真剣な目でイナちゃんを見据える。 イナちゃんは緊張した声で答えた。  「はい。ひとつ、自分のセレキック・アビリティ(超脳力)、人を助けるに使うこと。 ふたつ、私は医療発展に大事な人だから、自分とアビリティ一番大事なすること。 みつ…犯罪するセレキックいたら、積極的原因究明すること」
 イナちゃんが私にも伝わるように日本語で言ってくれたNIC会員規定は、私も会員登録の時に一読した事がある。 NICは医師団の組織でありつつ、警察と協力して超脳力者が関与する事件の捜査をする義務もある。 そういった事件には、一般的な事件捜査では処理できない超常的な現象や証拠があるからだ。
 <その通りよ。あなたにはこれから、その引き寄せ体質でとある行方不明の脳力者捜索を手伝ってもらうわ。 但しもちろん、いつだってあなた自身の身の安全が最優先よ>  「…はい、覚悟準備終わてます」 気丈に答えるイナちゃんだけど、まだその表情は固く、私はサービスエリアでの不安そうな彼女を思い出した。 ひょっとしたらこの件はイナちゃんにとって、自分のコンプレックスである体質が、初めて人のために役立つ機会なのかもしれない。 それに「犯罪捜査」なんて言われると、なにか恐ろしい事に関わるんじゃないか…というイメージもあると思う。 そう考えると緊張するのもわかる気がした。 でも、オリベちゃんは優しく微笑み、鞄から小ぶりな米袋ほどの大きさの何かを取り出した。
 <唯一の手がかりは…これよ> それは人形だった。色褪せた赤青の布を雑に縫い合わせて作られたものだ。 手足がなく、顔も左右ちぐはぐな目をしたブリキのお面で、背中側にはネジや釘が飛び出した機���がついている。 人形を手渡された���ナちゃんが不思議そうに機械のハンドルを上下すると、それに連動してお面の顎もカコカコと上下する。 まるでゴミ捨て場のガラクタで作った獅子舞のようだ。
 <その人形には昔、ジャックというタルパが宿っていた。彼は私やジョージの幼馴染だったの。 でもジャックの魂は日本で行方不明になってしまっていて、これから私達は彼を探しに行くのよ>  「たるぱ?」  「人工妖精、人が作った魂のことだよ」 首を傾げるイナちゃんに私が補足した。 この熱海町や石筵、県外からの修行者も訪れる魂作りの聖地なら、ジャック君が見つかるかもしれない。 オリベちゃんはそう考えて私に案内を依頼したのだった。
 <地味な依頼で拍子抜けしたかしら?>オリベちゃんが人形の金具を弄びながら言う。  「そ…そんなことないヨ!お友達探す頑張ります!」  <ありがとう、心強いわ!じゃあヒトミちゃん、案内をお願い>  「はい。まずは、この辺りの神様であるお不動様と萩姫様のお寺に挨拶に行きます。 萩姫様は影法師のお姿をお持ちで話が出来るから、ジャック君について聞いてみましょう」
 ◆◆◆
 温泉街から見て駅の反対側へ抜けると、萩姫様の伝説に縁のある五百川(ごひゃくがわ)があり、萩姫様がお住まいの大峯不動尊はその先の小高い丘の上に建っている。 私は同伴者二人をそこに案内し、鈴を振り鳴らしてから真言を唱えた。 すると屋根の下の日陰が一箇所に集まっていき、大きな市女笠を被った女性のシルエットになった。この方が萩姫様だ。 その影の御姿はよく目を凝らして見れば、細かい陰影によってお顔や着物の細部まで鮮やかに視認できる。
 「ようこそいらっしゃいました、旅のお方よ…」 そう言いかけた萩姫様が笠の下から私達を見上げると、アルカイックな営業スマイルが驚きの表情に変わった。  「…あれ、ひーちゃん?」
 「お久しぶりです、萩姫様!」  「なんだぁ、ひーちゃんならわざわざ真言で呼ばなくてもいいのに」  「親しき仲にも礼儀ありってやつですよ。それに、お客さんの手前だから格好つけたかったし」 私が同伴者2人に目配せすると、笠を脱いで足元の影に放り投げようとしていた萩姫様が慌ててそれを被り直し、再びアルカイックなキメ顔を繕った。 オリベちゃんがくすっと口角を上げ、<似てるのね、あなたとプリンセス・ハギって!>と私にテレパシーを送った。
 私達は萩姫様に人形を見せ、事情を説明する。  「うーん…人形に見覚えはな��な。その『じゃっく君』を作った人の名前はわかる?」  「はい。サミュエル・ミラーというアメリカ人です。 日本に帰化して、今は水家曽良(みずいえそら)と名乗っているそうです」 萩姫様は少し考えた後、  「…うん、やっぱり知らないな。何かわかったら連絡するね」人形をイナちゃんに押し返した。
 「そうなんですね。じゃあ、私達は別の場所を当たってみます」  「ああ、その前に。その子を源泉神社に連れて行きなさい。 倶利伽羅龍王の祈祷を受けると良いでしょう」  「クリカラ…リューオー」 イナちゃんが不思議そうに首をかしげる。倶利伽羅龍王とは、燃え盛る龍の姿の不動明王の化身。 よく不動明王像が持っている、剣に巻きついた炎の龍…あれの事だ。 源泉神社にかつてリナに知恵を与えた龍神様がいるのは知っていたが、それが倶利伽羅龍王だったというのは初耳だ。 私達は萩姫様に改めて一礼し、源泉神社へと向かった。
 源泉神社はケヤキの森遊歩道というハイキングコースの先にある。 五百川の裏山にあるこの遊歩道で、森林浴によって心身と魂を清めながら神社に向かうんだ。 直線距離の長さも然ることながら、山の高低差のせいで、これが意外ときつい。 私は二人がついてきているか確認するために振り向くと、オリベちゃんが何だか訝しげな顔をしているのに気がついた。
 <あのプリンセス、何か隠してる気がするわ。今はまだ、わからないけどね> 私の視線に気付いたオリベちゃんが言う。 実は私もそんな気がしていた。けど、長いハイキングコースを引き返す気にもなれず、 私達は予定通り神社へ向かう事にした。
 ◆◆◆
 丘を下ったところにその神社はあった。 入口では小さな龍を象った蛇口から飲用可能の源泉が垂れ流されている。この龍が魂として独立したのが例の倶利伽羅龍王だろうか。 どうやら龍神様は留守のようだったので、先に社に挨拶に向かうと、私はふと違和感を覚えた。
 「ヒトミちゃん?どしたの?」  「そういえば、ここ…稲荷神社だ」  「イナリ…スシ?」
 「うんとね…。ここはオイナリ様っていう、作物の神様を祀る神社なの。 倶利伽羅龍王は仏様の化身だから、どうして神道の神様がいる神社に住んでるのかなって思って」  <それは宗教が違うって事?シュラインの中の神様に聞いてみればいいんじゃない?>  「それが…、ここのお稲荷様、霊魂として形成されていないんです。 社の中のご神体にこの地や神主様のエネルギーがこもっているけど、自我はお持ちじゃないみたいで…。 それも、ヘンですよね。どうして鳥居の外の龍神様だけ魂になってるんだろう」
 すると、誰かが鳥居の外から私の疑問に答えた。  「ここはクリカラの数ある別荘の一つって事よ」 聞き覚えのある男性声に私は振り返った。いや、この声は、『彼女』のものだ…。
 「リナ!」 いつの間にか、神社の入口に巨大な霊魂が立っていた。 私が中学生の時に生み出したタルパの宇宙人、リナだ。 リナはロングスカート状の下半身をフワリと浮かせ、社への階段を飛び登った。
 「キャ!」驚いたイナちゃんが尻餅をつく。  「マッ失礼ね!人の顔見てキャ!だなんて」  「いやいや、初見は普通驚くでしょ。巨大宇宙人だよ?」  「それもそうね、ごめんあそばせ」 リナは乙女チックにくるんと回り、例の美男美女半々な人間の姿に変身した。
 「この子はリナ、私が昔作ったタルパです。 リナ、彼女は韓国から来たイナちゃん、こっちの方はイスラエルのオリベちゃんだよ」  「あら、ワールドワイドで素敵なお友達じゃない。アンニョンハセヨ、シャローム! アタシは千貫森(せんがんもり)のフラットウッズモンスター。リナと呼んで頂戴。 一美がいつもお世話になってますわ」  <お会いできて光栄よ、ミス・リナ>  「初めまして、私はパク・イナだヨ!」 二人がリナと握手する。久しぶりに福島に帰省したとはいえ、日程的に彼女と再会できるとは思っていなかったから嬉しい。 宇宙人(を模した魂)であるリナは今、福島市でUFOの飛来地と噂される千貫森という森に住んでいるらしい。
 「クリカラ…倶利伽羅龍王は、石川町(いしかわまち)で作られた紅水晶像の化身よ。 彫刻家が死んだときに本体の像と剥離して以来、福島中の温泉街のパワースポットに自分の守護結界を作ってフラフラ見回っているらしいわ。 要するに、根無し草のプー太郎ってやつね」  <あなた、神様をそんな風に言っていいの?>  「ああ…リナと龍神様は個人的な因縁が…」  「ちょっと待って」
 ふいにリナが私を制止した。リナは表情をこわばらせて、イナちゃんの抱えるジャック君人形を見つめている。  「ねえ…アナタ、その人形を誰に貰ったの?」  「貰ったじゃないヨ、私達この人形のタルパ探すしてるなの。ジャックさんいいますこれのタルパ」イナちゃんが正直に答えた。  「これを作ったのがどんなオトコか、知ってるの?」  「エ…?」
 嫌な予感がした。そういえば、オリベちゃんはまだ彼女に、ジャック君の創造者について一言も話していない。 たぶん…わざとだ。  「なによ。…まさかアナタ達、知っててこの子に黙ってるワケ!?」  <…時期を見て言おうとは思っていたわ。でも今はダメなの。だって、この子は…> 剣呑な雰囲気にイナちゃんが生唾を飲む。そんな彼女の不安感を感じ取ったのか、 神社の結界の外に良くないものが集まって来ているのを私は察知した。 私もすぐに全てを打ち明けるのには賛成しない。でも、
 「今はダメですって?どういう神経してるの? 何も知らない子に…指名手配犯の連続殺人鬼が作った人形を持たせるなんて!」 リナはついに、パンドラの箱を開けてしまった。
 「サツ…ジンキ…?」 イナちゃんが人形とリナを二度見する  「あ…あ…ヒッ!!!」イナちゃんはまるで今までゴキブリでも抱えていたかのように、人形をおぞましそうに地面に叩きつけた。 歪に組み立てられた金具がガシャンと大きな音をたて、どこかから外れたワッシャーが転がり落ちる。 同時に御神体に守られていた神社の結界にも綻びが生じたのか、 無数の霊魂や動物がイナちゃん目がけて吸い寄せられた!
 「イナちゃん!すぐに社の中に入って…」私が言いかけた時には、イナちゃんは階段を駆け下りていた。 鳥居の外に出たらまずい!私とオリベちゃんは電撃的な反射神経で彼女を追う。
 「アアアア!!オジマ!スリスリマスリ!!アイゴーーー!!!」 韓国語で叫びながら逃げ惑うイナちゃんの背後では、無数の魑魅魍魎が密集し、まるでイワシ群が集まって大きな魚に擬態するように巨大な影の塊になっていた。  <<ヒシャール・メァホール!>> オリベちゃんがテレパシーで吼える。 するうち魍魎群全体をブラックライト色の閃光が包みこみ、花火のように点滅して爆ぜた。サイコキネシスだ! 霊魂達はエクトプラズム粒子に分解霧散(成仏)し、生き物達は失神して地面にパタパタと落下。 でもすかさず四方から次の魍魎群が押し寄せる!
 「ちょっと一美あんた、あんたっ一美!なんなのよアレは!?」 私達の後を追ってリナが飛来する。  「あの子は超引き寄せ体質なの!しかも精神面にすごく影響しちゃうの!!」  「じゃあどうしてあんな人形を…ああもうっ、どきなさい!」
 リナは再び宇宙人の姿になり、長い枯れ枝のような腕で大気中に漂う先程のエクトプラズム粒子を雑に吸収すると、そのエネルギーを一瞬にして空飛ぶ円盤型の幻影に錬成した。 円盤は第二魍魎群の上空に飛翔し、スポットライト状の光で霊魂達をアブダクションする!  「生きてるヤツらは無理!頼んだわよ!」
 「<上等!>」私とオリベちゃんが同時に返事する。 オリベちゃんが再びサイコキネシスを放とうとしている間に、私は自分の影が周囲の木々に重なるように位置取る。 歩道沿いに長く連なった木陰に自分の影響力が行き渡ると、木陰は周囲の光を押し出すように中空へ伸びていった。影移しという技法だ。  「イナちゃん止まって!」私の声でイナちゃんが振り返る。 彼女は自分の周りを光と影のメロン格子状ドーム結界が守っている事に気がついて立ち止まった。 生き物達がギリギリまでイナちゃんに近付いた瞬間、オリベちゃんのサイコキネシスが発動! 結界で守られたイナちゃん以外の全ての生き物はその場で体を痙攣させて落下した。
 <ふう、間一髪ね…>オリベちゃんが安堵のため息をつこうとした、その時だった。 「ビビーーーッ!!!」 けたたましく鳴るクラクションの方向を見ると、そこには暴走する軽トラックが! イナちゃんの引き寄せが車まで呼びこんでしまったのか?いいや、違う。 不幸にもそのトラックのハンドルを握っていたのが、夢うつつの寝ぼけた高齢者だったのだ。  「うわ…きゃあああ!?」 咄嗟に車を避けようとしたイナちゃんは足を滑らせ、橋のたもとから五百川に落水してしまった!
 「イナちゃぁぁーーん!!!」 溺れるイナちゃんに追い討ちをかけるように、川の内外から第三の魍魎群がにじり寄る。  「助け…ゲホッ!助けて!!」 まずい。水中の相手には影も脳波もUFOも届かない。 万事休すか!?と絶望しかけた、その時だった。
 「俺に体を貸せ!」 突然、川下から成人男性ほどの大きさの白い魚がイナちゃん目がけて川を登ってきた。 いや、よく見るとそれは、半魚人めいた姿の霊魂…タルパのようだ。  「ひっ、来ないで!スリスリマスリ!」イナちゃんは怯えて半魚人を拒絶するが、  「うるせぇ!!死にたくねえならとっとと俺に任せろ、ガキ!!」半魚人は橋の上の私達にも伝わるほどの剣幕で彼女の肩を掴んだ! その時、溺死者と思しき作業服姿の幽霊がイナちゃんの足首に纏わりつく。「アヤッ!」 イナちゃんは意を決して、半魚人に憑依を許した。
 ドシュッ!!途端にイナちゃんの体がカジキマグロのように高速推進し、周囲の魍魎群を弾き飛ばす! イナちゃんに取り憑いた半魚人は、着衣水泳とは思えないしなやかなイルカ泳ぎで魍魎や障害物を避けながら、冲に上がれるポイントを模索した。 しかし水から上がろうとする隙を魍魎に狙われていて、なかなか上陸できない。  「ああクソッタレ!なんなんだコイツらは!?」半魚人がイナちゃんの声で毒づく。 私達も追いつくのがやっとで、次の手を考えあぐねていた。 すると駅の方向から、一台の自転車が近づいてくる。 また誰かがイナちゃんに吸い寄せられたのかと思ったら、その人は…
 「右へ泳げ!右の下水道に入るんだ!!!」
 観光客用の電動レンタサイクルの前カゴに真っ白なポメラニアンを乗せて、五百川に向かって全力疾走する青年…平良鴨譲司さんは、 まるで最初からこの場にいたかのような超人的状況把握力をもって、半魚人に助言を叫んだ。 これが彼の脳力、空気組成や気圧の変化であらゆる情報を肺から認識する「ダウジング」だ!
 「馬鹿か、何を根拠に言ってやがる!あんな所に入ったら袋の鼠だぞ!?」 半魚人が潜水と浮上を繰り返しながら反論する。  「根拠やと?そんなもん…」肩で息をしながら譲司さんが答えた。「ダウザーとしての勘だ!俺を信じろ…ジャック!」
 ジャック、と呼ばれたその半魚人は目を見開き、橋の上の青年を見上げた。 栗色の髪、アラブ人ハーフの彫りの深い顔。ジャック氏の脳裏で彼の幼馴染の面影が重なったのか、 彼はイナちゃんの身を翻して、川辺の横穴に潜っていった。
 「こっちやオリベ、紅さん!」 私達が譲司さんに案内されて、上流から見て川の右側へ駆け寄ると、温泉街らしくない工業的な建物があった。 イナちゃんは建物下方に流れる下水道の横に倒れていて、ジャック氏が介抱している。 彼女らの周りにはもう、魑魅魍魎の類いは集っていなかった。  <そうか。ここは発電所で、すぐ近くに送電線がある。 イナちゃんのギャザリング力も、ここでは歪みが生じて遠くまで及ばなくなるのね>  「日本の電力施設の電磁波は、普通の携帯の電波やテレパシーには影響せんレベルやけどな。 引き寄せ体質とかのオーラ系は本来そこまで飛ばん力やから、ちょっと遮蔽物を作るだけで効果がめっちゃ変わるんよ」
 話している間にジャック氏が再びイナちゃんに取り憑いて、鉄パイプはしごと柵をよじ登って私達に合流した。  「あぅ…わうわ?」譲司さんの自転車に乗ったポメラニアンのポメラー子(こ)ちゃんが、イナちゃんを見て不思議そうに鳴く。 譲司さんは愛犬の投げかけた質問を呼気で理解し、親しい友人の前でだけ話す地元弁で、  「ああ、この子気絶しとるかんな、ジャックが中に入って助けとったんや」と優しく答えた。
 ◆◆◆
 民宿に戻った私達は��意識の戻ったイナちゃんの身体を温めるために温泉に入った。 まだ日没前の早い時間だったから、実質貸切風呂だ。 イナちゃんの服は幸い全部洗濯可能だったから、オリベちゃんからネットを借りて洗濯機にかけている。
 私とオリベちゃんは黙々と身体を洗い、イナちゃんは既に湯船に座っている。 先に髪の毛の水滴を絞った私は、手首に巻いていたゴムバンドで適当に髪をまとめ、湯船に入った。 誰も一言も喋らず、重い沈黙が流れる。
 「…スリスリマスリって、何?」痺れをきらした私がイナちゃんに尋ねた。 イナちゃんはキリスト教のお祈りみたいに組んだ両手を揉みながら、か細い声で答えた。  「意味ないヨ…言うと元気出ます。チチンプイプイ、アブダカタブラ」 「<えっ!!?>」 私とオリベちゃんが思わず彼女を見る。 あの魍魎群がイナちゃんに近寄れなくなるから余程神聖な力のこもった呪文だと思っていたけど、まさかこの子、気力だけで魍魎を拒絶し続けていたなんて。 私達が思っていたよりも、ずっと根性がある。
 「ゴメンナサイ…」 膝を抱えたイナちゃんが弱々しく頭を下げた。 本人が衰弱しているからか、もう魍魎は寄ってこない。 オリベちゃんは顔を背け、持ち込みのマイシャンプーを手のひらに溢れるほど出しながら<悪いのは私の方>と返した。
 <着いてきて貰うだけでいい。 もしジャックがここにいるのなら、あなたを連れて行けば巡り会えると思った。 なにも殺人犯そのものを探すんじゃないし、大丈夫だろう…って。 あなた自身の体質の危険さに対する認識不足だったわ> オリベちゃんの長い癖毛が泡立ち、ラベンダーとシナモンを煮詰めたような存在感のある香りが湯船にまで漂ってくる。
 「どうして、探した?」イナちゃんが問う。  「ジャックさんはオリベちゃんとジョージさんと友達、わかる。 でもジャックさん作った人ヒトゴロシ。しかも連続ヨ。 もし私の友達の親ヒトゴロシだったら、学校では遊ぶ。でも友達の家は行きない。 ううん、わかてる。私は臆病ですね…」 友達の家族が人殺しだったら…。無理もない、いや、当然の反応だ。 私はイナちゃんの白い肩にお湯をかけた。
 「サミュエル・ミラーは、強いタルパを作るためにたくさんの生き物を殺してきたんだ。 生き物を殺して、魂を奪って、それを継ぎ接ぎしながら怪物を育ててたの。 神になりたいから、って動機だったらしくて」  <その通りよ。私やジョージも、かつてあの男の作った怪物に殺されかけた。 その戦いで、私は声を、ジョージは…一番の親友を失った>  「だったらなんで!?」イナちゃんが身を乗り出す。  「そこまでされて友達助ける、凄いヨ?偉いヨ。でも、ヘンだヨ! そんなの…」息継ぎもせずに思いの丈を吐き出して、イナちゃんは再び湯船にうずくまった。���そんなの、できないヨ…」
 「そこまでされたから、だよ」  「え…?」 オリベちゃんは既にシャワーで泡を落としきっている。 でも膝の上で拳を握りしめて、肌寒い洗い場で私達に背を向けたまま動かなかった。
 「…あ…!」 イナちゃんは閃いたようだ。オリベちゃんや譲司さんが、ジャック氏を見つけ出そうと覚悟した理由に。 サミュエル・ミラーはタルパを作るために生き物を殺す。つまり、  <そう。ジャックもあいつに殺された、元は人間だったのよ>
 「そういう事情だったの。そうとは知らず、悪かったわ」 いつの間にか私の背後で、湯船の縁に人間姿のリナが座ってくつろいでいた。  「キャ!」イナちゃんが慌てて顔を手で覆う。  「あ、またキャッって言ったわね!」  「だ…だって!ここ女湯ヨ!!」 赤面しながらイナちゃんが指をずらし、ちらっとリナを見る。 でも、リナの首から下は完全に…  「…オモナッ?」  「ほんっと、失礼しちゃうわ」  「え…じゃあなんで、おヒゲ…え?」 だって、しょうがないじゃない。 中学の時に作ったんだから…知らなかったんだもん。男の人のがどうなってるのか。
 ◆◆◆
 居間に戻ると譲司さんの姿はなかった。 庭の方からドライヤーの音がする。そういえばこの民宿は、庭園の池がペット用露天風呂になっているとか。 新幹線の長旅で疲れたポメちゃんを、譲司さんがお風呂に入れてあげていたんだろう。
 窓際の広縁を見ると、ジャック氏が水の入った丸底フラスコのような形の物を咥えていた。 息を吐いているのか吸っているのかはわからないけど、フラスコ内の水が時々ゴポゴポと泡立ち、そこから伸びた金具の先端でエクトプラズム粒子が小さく明滅する。 霊力を吸うための喫煙具のような物なのだろう。
 「ジャック・ラーセン」ジャック氏はこちらを一瞥もしないで語りだした。「…それが俺の本当の名だ」
 生前、アメリカで移動販売のポップコーン屋台を経営していたジャック氏は、フロリダのある小さな農村を訪れた時、サミュエルの怪物と村人に襲撃されて命を落としたという。
 「ん」ジャック氏はイナちゃんに目配せする。 イナちゃんが広縁に近づくと、ジャック氏は立ち上がり、二人羽織で袖を通すようにイナちゃんの腕にだけ取り憑いた。  「オモナ…」二度目だからイナちゃんはすんなり受け入れている。 ジャック氏は指差しでイナちゃんを誘導する。 みんなの荷物と共に固めて置かれていたあの人形の前にイナちゃんを座らせると、 ブチチチッ!雑に縫い合わされていたボロ布を躊躇なく引きちぎり、 中の奇妙な機械を剥き出しにした。
 「こいつぁポップ・ガイっつってな…。ほら、背中のレバーを上げると口が開くだろ? ここから弾けたてのポップコーンが出るんだよ。元々は屋台そのものの一部だったんだ…」 ジャック氏は慣れた手つきでポップ・ガイ人形を操る。背中の小さなスイッチを爪で押すと、お腹のスピーカーから微かにノイズが流れた。  「ああ、ちゃんと電源も入るな。オリベ、マスクは?」  <もうないわよ。ジョージがサミュエルを撃った時に割れて壊れたわ。おかげでトドメをさし損ねた>  「そうか。…いや、あのマスクに小型マイクが付いててさ、 そいつを被って喋ると、そのスピーカーからボイスチェンジャーを通したおかしな声が出るんだよ。 単純なもんだが、小さいガキ共には好評だった。 ま、それだけの話なんだがな…」 ジャック氏はスイッチを切り、イナちゃんから自分の腕を引き抜こうとするが、  「…ん?どうした。こら、離せよ」
 イナちゃんは力をこめて、ジャック氏の腕を自分の体内に留めた。  「…スリスリマスリ」  「あ?何だそりゃ?ほら抜けねえだろうが…」 イナちゃんは細い腕の中にジャック氏の太い腕を湛えたまま、ポップ・ガイ人形を抱きしめた。  「オンジン」  「あぁ??」
 <あははは!ジャック、よっぽどイナちゃんに気に入られたようね!>  「おいおい勘弁してくれ、これじゃボングもろくに吸えやしねえ。 ほらガキ、とっとと離れろ」  「ヤダ、もうちょと。あと私イナだヨ、ガキじゃないもん」  「あぁー!?」 イナちゃんが駄々をこねる。高校生ぐらいの彼女は、時折どこか子供っぽい仕草を見せる。 お寺、教会、霊能者…色んな人を頼っても自分を救える人は現れず、彼女は今までずっと、おまじないの言葉だけを頼りにあんな恐ろしい物と孤独に戦い続けてきた。 そんなイナちゃんのピンチを初めて救った私達は、彼女にとって親にも匹敵するほど心強い仲間になったことだろう。
 「ったく…しょうがねえな」 ジャック氏は彼女の腕を、ジュゴンのように柔らかく暖かそうな彼の胸板に抱き寄せた。  「…ジョージが戻ってくるまでだからな」
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izumi-kagari · 5 years
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ー自殺紳士 Vol.2 45歳の男ー
45歳になって、急に死にたくなった。
正確に言えば、生きていたくなくなった。
昨日、私は会社に行った。  今日も、行った。 あと2日行くと、休日が2日在って、  その後、また、会社に行く。
会社の仕事ではうまくいかないこともある。  思うように評価されないこともある。  でも、それで死にたいわけじゃない。
家族もいる。子どももいる。  ただ、私が帰らなくても、この子達は生きていく。  たとえ、私が死んだとしても、   生命保険やらなんやらで、お金も入るようだ。
そう考えると、急に生きていることの必要性がわからなくなった。  命が大事だというのなら、   私以外の命を大事にすればいいだろう。  家族が悲しむとしても、   今ですら、私は家族とほぼほぼ会話をしていない。   いなくなって、どれほどの影響があるのか。  会社に迷惑はかかるかもしれないが、   辞めてしまえるところだし、   また、新しい人を雇えばいい。
生きている必要がない、という魅惑的な考えは  私の中である日を境に大きくなってきた。
私は、財布にいくらかの金を入れて、  行かれるところまで行こうと思い、電車に乗った。  行かれるところまで行って、そこが終焉だ。
その電車の車内で、  この男に会った。
「ここ、いいですか?」  適当に乗った地方のローカル線。向かい合いの席の真向かいに男は座った。  電車は空いているのに、わざわざ私の前に座った。
喪服みたいな黒色のスーツを着ている。髪の毛を端正に整えている。 腕時計をしていない。かろうじて黒ではないネクタイをしている。 手荷物もない。
12時に近い地方のローカル線には不似合いな男だった。 職業はなんだろう?服の生地は良いものに思えたから、金はあるのだろう。
私は営業職だけに、ふと詮索してしまう。
私は男を一瞥する間に、そんなことまで考えていた。  ただ、別に話すこともないので黙っていた。
男は目をアチラコチラに動かしている。困っているような顔をする。 しばらく時間が流れたあと、男は突拍子もない事を言いだした。
 「あー・・・。すいません。   会話のきっかけがないので、直接言っちゃいますが、   あなた、死ぬ気ですよね?」
私は、鳩が豆鉄砲食らったみたいな顔をしていたと思う。  男は、慌てて付け加えた。    「いや、死ぬんじゃないかなー、みたいな」
姿に不釣り合いなほど、軽い。  私は、笑った。面白すぎる。
なんでそんなことがわかったのか、という疑問はあったが、  そもそもが非日常。  これくらいの事が起こってもいいやと、なかば捨て鉢だったのかもしれない。
 「いや、よかった。   よかったら、お話しませんか。   死にたい理由と、死なないで済む方法を」
私と男の短くて、おかしな旅が始まった。
電車はあっけなく終点についた。 本当だったら、そこは終焉の地のはずだった。
だけど、当初の予定と異なり、 隣に何故か黒づくめの男がいる。
この男はなぜか私が死のうとしていたことを知っていた。 不思議なことだった。
どうやら、男は私が死ぬのを止めたいらしい。 ただ、どうして良いかわからない様子だった。
なんなんだろうか?
「君は一体誰だ?」
出会って1時間以上してから 私は、根本的な質問をその男にした。
男は頬を人差し指で掻きながら答える。 「えー。話せば長いし、多分、信じてもらえないし、  話してもしょうがないし・・・。」
不思議な男だった。 私はこの若い男に意地悪をしたくなった。
「君は私が死ぬのを止めたいと思うのだろう。  君は私が死にたいことを何故か知っていた。  私も君のことを知る権利があると思うのだがね?」
男は困ったような顔をする。 「・・・いいですけど。笑わないでくださいね。  ボク、実は死んでるんです。」
? 意味がわからない。幽霊だとでも言うのだろうか。 こんな昼間に?幽霊にしては実体がありすぎる。
「ほら、そういう顔する」
当たり前だ。二の句が継げない。 もしかしたら、こいつ病気かもしれない。 色んな思いが浮かぶ。
男はため息を付きながら話を続ける。 変わった身の上話を始めた。
ーもう、何年経ったかわかりませんが、  ボクは、自殺しました。  なんで死のうとしたのか、全く覚えていません。  ただ、自分で死んだのです。    死んだあと、ボクは扉の前に立っていました。  そこで、声を聞きました。  あれは多分神様なのでしょう。
 声は、終わるべきではない命を終わらせた罪として  下界に降りて、決められた人数の自殺者を助けよ  と言いました。
 ところが、決められた人数がどうしても思い出せません。  100人だったのか、1000人だったのか  ひょっとしたら、この世のすべての自殺者を救うまでかもしれません。
 ボクはずっと旅をしています。  神様は、ボクに特別な力を一つだけしかくれませんでした。  「死のうとする人がわかる力」  です。    なんとか、話しかけて、死ぬのを思いとどまってもらいます。  そうすれば、いつか、ボクは天の世界に行かれると思うんです。
私はあっけにとられてしまった。 男の話は荒唐無稽だった。でも、不思議と病気という感じではなかった。
男の話が本当なら、私が死のうとしたことを知っていたこと、 話しかけはしたが、途方にくれている理由もわかるというものだった。
「なんか、私の身の上話をして、死ぬのをやめてもらうのは、ちょっとずるい気もするんですけどね」
男は笑った。 男と私は終焉の駅を降り、何もない田園地帯を当てもなく歩き続けた。
「今度はあなたの番ですよ。  なんで死のうとしたんですか?何か、手伝えることはありますか?」
男は私に手を差し伸べた。
「生きている、理由がないんだ」
私は言った。 「会社でも家でも、私は部品のひとつだ、  私という人間ではなく、  私という機能を求められているだけだ。
 私がいなくなれば、  別の誰かが私の機能を肩代わりする。」
男は真面目に聞いていた。 「でも、死んだら、誰かが悲しみませんか?」 変わった男は、至極まっとうなことを言う。
「悲しむかもしれないけど、  永遠に悲しいわけではないだろう。  それほど強い生きている理由がないんだよ。  それなら、しんどいだけだ。  なんだか、擦り切れて疲れてしまったようだ。」
言いながら、私は思っていた。
ああ、私は疲れていたのだ。
誰にも、こんな話はしたことがなかった。  誰も、私のことなど、かまわないと思っていたからだ。
土地神だろうか。神社が見える。  男と私は神社に入った。  早春の肌寒い季節だったが、  鎮守の森は、静かで清涼で、心地が良かった。  石造りの椅子に腰掛ける。
男は、「元気出しましょうよ」とか  「死ななければ楽しいことあるかもしれないし」 とか、ありきたりな事を言っていた。
別に気の利いたアドバイスではなかった。  無理もない。 男は、ただ単に「死にたい人がわかる」だけの普通の人なのだ。
哲学者でも、カウンセラーでもない。 宗教者でも、精神科医でもない
生に対する根本的な問に、快刀乱麻の答えを出せるわけがなかった。
でも、そんな男の存在が、私には心地よく感じた。
きっと、私が何かを話せば、この男は聞くだろう。  真剣に、聞くだろう。  そして全霊で考えるのだ。私のために考えてくれるのだ。
私は擦り切れていた。  擦り切れて疲れ果てていた。
与えることばかりだと思っていた。  与えられることなどなかった。
そんなふうなアンバランスに、  この男は気づかせてくれた。
森の空気が心地よい。  こんな感覚も、私は忘れていた。
私は何故か泣きそうになった。   「私、多分、まだまだ歩き続けると思うんですよね。  もし、また死にたくなったら、あなたのもとにも行くと思います。  死なないでください。」
青年は笑った。  私の擦り切れた心に、水のように染み込む言葉だった。
「わかったよ。死なない。」 私が言うと、青年は嬉しそうにした。
「さあ、そうと決まれば、飯でも喰おう」 私は青年を誘った。  青年は、「金が無い」と言う。
神様は金までは工面してくれないらしい。
ーまあ、死んでるので、腹も減らないし、疲れません。  ついでに言えば、眠ることも、風呂に入ることも必要ではないみたいです。
それでも、飯は喰えるのだろう、奢るから と、青年を神社近くに一軒だけあった定食屋に連れて行った。
飯を喰い、私たちは駅で別れることとなった。 私は青年に名を尋ねた。
ー名前は忘れてしまいました。  それに、私に会った人は、自殺を思いとどまって、私と別れると  私のことは忘れてしまうようです。  神様がそうされたようです。
青年は電車に乗る私に手を振りながら、話す。 ほほ笑みを浮かべている。
ああ、そうか。  青年は罰を受けているのだ。  それは、なんという悲しい罰だろうか。  眠ることも、食べることも、人に覚えておいてもらうことも許されず  ただただ、己が罪のために、人を助けるべく歩き続けるのだ。
そうして、きっと、青年は、そんな思いをさせたくないから、  誰にもさせたくないから、  ああやって、歩き続けているのだろう。
電車の中で、私は生まれて初めて真剣に神様に祈った。
どうか、どうか、  あの優しい青年のことを、  一秒でも長く、覚えていさせてください。
そして、どうか、  あの青年の罪が許されるように  私にしてくれたように  誰かが、あの青年に優しくしてくれるように
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87 Tutelary
野営を終え、蜃気楼の夜に広がる陰鬱な低い暗雲の下を、一行は黙々と進み続けた。雲はかたときもとどまることはなく、砂丘群を越えていくさなか、糠雨の冷気が気息のなかで肺を満たし、機械のルドは時おり、激しく咳込むのを抑えきれなかった。彼の肉体はバルナバーシュにとってまったく未知の材質で作られ、有機性にも富んでいたが、それでも金属から生まれた機械にとって水は異物なのだ。外殻としてルドを守る甲冑も誰の手も入ることなく、旅の始まりには無疵の光沢が眩しかった板金は、いまや険しい戦闘と長旅によって相当に痛んでいる。胸甲はマフェリアリの剣によって割れたままだった。フェリクスのように技術があれば直してやれるのだろうかと、バルナバーシュは己れの無力をひとりもどかしく感じていた。
「うう……」
先頭を歩くディオレがしきりに額をおさえ呻吟しているが、倒れる様子はなかった。ルドとバルナバーシュが肩を貸そうとするが、手をあげてそれを制する。「ここの幻が私を苦しめている」ディオレは長息して言い、やがてバルナバーシュやルドもまた、悪意ある幻影に襲われ、幻は彼らにとってもっとも艱苦たるもの――逃れたくも忘れがたい記憶――を見せて心を盲いらせた。ルドは母の死の面影を、ディオレは帰らぬ友への悔いを、そしてバルナバーシュはセニサの――ジルヴァの大聖堂でやつれはてて立つ彼女の後姿を見ていた。
セニサと婚姻を結んだ夫のカレルは、幸福によってジルヴァの街を監督したが、のちにゲルダットの家門らが暴いた禁術にみずからも浴して気が触れ、血族とともに退廃し、かつての気品も英明も遠いものになり果てていた。色のさめたしじまに安らかな休息を見いだしていた灰色の街は、恐怖政治による喧騒と流血に彩られ、いまわしい儀式のために人が夜ごとに大聖堂へとさらわれていく。セニサは爛熟した淀みからカレルの心を引き上げようと寄り添ったが、その差し伸べた両手こそが、彼をさらなる呪いへ突き落してしまった。絡みあう運命の不正だった。カレルは手を取ろうとしたとき、心を読む術で、セニサの秘密を――いつか海と月の浜で口づけを交わした、彼女が真に愛する者の名を暴いてしまった。彼女のなかの、目を覆うほどに美しい、どうあがいても届かぬ不滅の思い出とともに。思えばカレルほどの貴顕を持つ者が禁術の誘惑を受け入れたのは、一点の黒ずみほどの――ゆえに目を離せぬ、セニサへの疑いからだったのか。
その頃に<オールドクロウ>の密命を受け、暴悪の一途をたどるジルヴァの街で諜報の任に就いていたバルナバーシュは、心火に燃えるカレルの手勢に捕らえられ、地下深くでおぞましい拷問の数々にかけられた。それは生かされながら尊厳を奪われ、拭い去れぬまで不義への悔恨を徹底して植えつけるものであった。激痛を与えられて朦朧とする頭蓋に、淫らな哄笑が響きわたる。冷たく濡れる暗い石床に突き倒され、かすむ碧眼に、膝からくずおれて絶望に打ちひしがれるセニサだけがまざまざと映っていた……。
バルナバーシュは流涕し、闇沙漠の砂上に這いつくばって嘔吐した。周囲には黒い霧が取りまき、彼の悲鳴を聞きつけて我に返ったディオレが、サーベルを当たるを幸い振るって、悪夢の元凶たる霧を追い払おうとした。
「しっかりしろ!」
ディオレはバルナバーシュを強引に引き起こして蒼白な頬を打ち、アルドゥールの柄にかかった彼の手を握りつぶさんばかりの力で押さえつける。バルナバーシュは抜いた剣を、己れの首に突きつけようとしていた。絶望のビジョンが彼らを自刃に追い詰めつつあるのだ。ルドはふらつきながらも正気を保っているようで、二人のもとに近づいてひざまずいた。
「彼をおさえておいてくれ」
ルドに身柄を預けると、ディオレはふたたび霧の中枢を見さだめて斬りかかり、敵が気体にもかかわらず、もろいゲル状の核を両断する手ごたえを確かにした。霧は散り、崩れた核は黒い液体と化してぼたぼたと砂上に落ち、不吉な水溜まりを生んだ。ディオレはさらに道の先へ進み、砂紋のひだでゆるゆると夜霧を吐き出すハマグリの群棲を見つけると、迷いなく油をまき、魔術で火を放ち、黒肌を赤銅色に輝かせながら、半ば憎悪に駆られてがむしゃらにサーベルで突き刺し続けた。魔獣たる貝は抵抗もなくやがて灰と消え、あとには幻のごとく何もなく、ディオレの空虚なあえぎだけが静かな砂上に落ちて残された。涙が頬をくだり、ベドウィンの戦士は片手で金の両眼を力無く覆い隠した。
そうして戦いを終えて戻ると、ルドがバルナバーシュの手を握りながら必死に声をかけ続けていた。「死なないで」と、ルドは壊れた装置のようにその言葉だけを繰り返しており、バルナバーシュは意識を回復させつつあったが、抑えきれないのかうめきはしばしとどまることはなく、ディオレもまたバルナバーシュの手をつかんで、言葉の代わりにただ力を込めて魂の平穏を祈り続けた。祈りは彼に向けながら、陽の差さぬ深海を往く潮流のごとく、ルドへ、己れ自身へ、多次元の生きとし生けるものすべてへと移ろっていった……。
夜明けが訪れようとしていた。三人は干し肉やオルトフの次元で汲んだ清らかな湖水、そして嵐の精霊の遺物である飴玉を口にし、空腹と摩耗した精神を満たしながら、ようやく闇沙漠のパワースポットであるロクマリア陵の域に差しかかりつつあった。飴玉は無味であったが香りが強く――懐かしく、漠としてうら悲しい雨のにおいがした――だが不思議なことに彼らを充分に癒し、孤独への同意と旅を続ける力をもたらしてくれた。
心に染み入る小雨の向こうに尾根のながい大きな丘が仄見え、もっとも高みにある場所はぼんやりと光を宿し、夜の灯台として彼らをいざなうかに見えたが、バルナバーシュには侵してはならない神聖なしるしにも感じられた。足元は繊細で柔らかな砂地と変わり、ふもとまで近づいてみると、光を発しているのはひとつの石碑のようだった。一行は坂を登りはじめた。「ここは誰の墓なんだ」一歩一歩を踏み抜きながら、バルナバーシュがディオレに問う。
「クレスオールとも、闇沙漠で亡くなった者たち全てのものとも言われている。もっとも、クレスオールはおろか、誰の亡がらもここにはないのだろうが……この地で息絶えれば骨すらも残らない。時おり遺品が見つかるだけだ」 「闇沙漠で死んだ者たちはどうなる?」 「この広大な闇沙漠の砂、それこそが末路なのだという。永きにわたって、エターナルデザイアーのためにどれほどの犠牲が積み重なったのか、私の想像など遠く及ばない……。女神ユテァリーテはクレスオールの死のあと、あの碑に自らのパワーを封じた。本体に見捨てられた半身の力を」
ロクマリア陵の頂きにたどりつくと、古びた碑は温かな黄色の光を放ちながら神秘によって風化から守られており、彼らの頭巾の奥、旅路の末に達観めく面差しを恍として照らしだした。碑のまえには一対の傷だらけの鉄扇が、閉じられたかたちでもうひとつの墓標のように突き立っていた。何ものかが使い込んだ武器に見えたが、ディオレだけが意味するものを悟り、金の瞳を見開いたまま地に両膝をついた。褐色の髪が呆然とうつむいた横顔をなでながら、みじめに垂れ落ちる。
「まさか、イラーシャ……」
鉄扇を退けて砂を掘りおこし、すぐにその手が止まる。砂の中から両手に取りあげたのは、巨大な翼の一部――淡い夢のごとき鴇色の、風切り羽を残した先端部分だった。裂かれた断面は乾いた血で黒く汚れ、砂まみれの羽毛は命あるものの艶が完全に失われている。ヒトの飛行すら支えうる大きさであり、もしこれが動物や魔獣でないなら、おそらくマイルーンの――有翼人の象徴たるものと思われた。目にしたバルナバーシュは深い溜息を漏らして嘆じた。
「イラーシャは、フェリクスとイブを案内していたのだろう。彼らがここに埋葬したのか」 「そんな……」
思わずルドの手がディオレの肩に置かれようとして、雨粒を散らしながら乱暴にはねのけられる。歯噛みとともに混淆する悲憤が、かの精霊たちの嵐のように、ディオレの身内を激しくかき乱しているようだった。だがその時、心に直接語りかけてくる若い女性の声があった。
「どうか悲しまないで、ディオレ――」
ディオレがはっと立ち上がり、ルドとバルナバーシュも背後へ振りむいた。足元のマックスが吠える。青白い光をまばゆく放つ、翼を背負った人影が雨に揺らめき立って彼らを見つめていた。光の中の姿は明らかでなかったが、ディオレにだけはその正体がはっきりしているようだった。
「イラーシャ、君なのか」 「ごめんなさい、ディオレ……私は闇沙漠を越えられなかった……でも彼らを、あとに続いてゆく者たちを守れたわ。あの二人はこの地の戦いに勝利し、無事にアストラの地へ向かった。彼らは私の死を深く悼み、砕けたフェレスをアストラまで連れていくと言ってくれた……だから……」
ディオレはかまわず手を伸ばしたが、途端に光は変容し、遊色の銀髪と白絹の衣の儚き少女――ストラーラがそこに現れた。ディオレの端正な顔が烈火の怒りにゆがむ。
「亡霊め、死者の魂をもてあそぶか!」
意思のかけらも読みとれぬ無言の表情のまま、亡霊は光の粒子となって弾け、その衝撃にねじれた空間の向こうから代わるように、一人の女性が歩み寄ってきた。
オアシスの哨戒役の天使たちと同じくする状況に、三人は警戒する。女性は幽玄な麗姿にかすかな神気を漂わせ、黄昏か暁か、桃色と薄黄色に起伏しながら夢幻めいてはためく長衣をまとい、また同じ色にさまよって澄む長髪を雨に濡らしながら彼らの前にたたずんだ。彼女も精神感応を通じ、心へと語りかけてくる。
《フェレスの主らよ……夢を信じる時代は終わりました。ここには、あなたがたが望む力などありません。わたくしに余された天の力など、とうに封じたのです》
憂苦に翳る瞳は砂地へ伏せられたまま、沈んだ声音が、永き後悔と拒絶をフェレスの主らに伝えていた。ルドとバルナバーシュが口火の気配を探るなか、ディオレが全てを知る者のまなざしを向けて進み出る。
「封印は解かれる定めにある。かつてレイの鍵が、その封印を解く役目を果たしていた……彼らの存在は失われたが、彼らの血と意志は、願いは、私たちの時代へと確かに受け継がれている。そして封印が――ヒトの可能性を封じるものが涙とあらば、我らは滅することなく、しかし打ち勝たねばならない。ユテァリーテ、イススィールの女神よ。あなたの流す後悔と悲しみもまた、我らの内に響く鼓動ゆえに」
《そう。だからわたくしは戦うのです。クレスオールの安らかな眠りを守るために……》
ユテァリーテが両手を天にかかげると、雲間から光が差し、いくつもの稲妻の槍がロクマリア陵へ降りそそいできた。ほとばしる雷光に、マックスは碑へ隠れ、三人は剣を抜き払うや散開して回避する。そして雲のかなたの暁光から使徒たる天使の姉妹、オヴェルルとユステルルが舞い降り、ユテァリーテの両側に控えてひざまずいた。
《私たちはユテァリーテ様の剣にして盾》 《ユテァリーテ様の憂いを払う……》
天使らは静謐によって女神の孤独を守護すべく、剣と杖をそれぞれ手にして立ち上がった。ユテァリーテもついに顔を上げ、追慕のまなざしにフェレスの主らをとらえると鋭い神気を放つ。ありとある罪と暴力を裁かんとする、粛清の力だった。
《せめてあなたがたの戦いは、ここで終わらせてあげます》
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