Tumgik
tanakadntt · 11 months
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旧東隊の頃をあまり知らない人たちの小説
(だんだん自分が何を投稿したか分からなくなってきたので重なったらすみません🙇‍♀️)
お好み焼き屋において旧東隊が話題になる話
「おー、寂しい男どもよ! ヒカリさんが来てやったぞー」
底抜けに明るい、高いトーンの声が『お好み焼き かげうら』の店内に響く。絵馬ユズルと入れ替わるように店に入ってきたのは、影浦隊オペレーターの仁礼光だった。
「おせーよ、もう食い終わったぞ」
この店の次男である影浦雅人がドスのきいた声でぼやく。動じることなく隣のテーブルの荒船隊の二人に挨拶し、仁礼は北添尋に素早く指示を出す。
「アタシにも、一枚焼け!」
「どうも、初めまして。玉狛第二の空閑です」
空閑遊真が挨拶する。おそらく今日、影浦が企画したのは、影浦隊の面々と遊真の顔合わせなのだ。
玉狛第二と影浦隊はB級ランク戦ラウンド4において戦っている。そして再び、一週間後にはラウンド7で対戦することが決まっている。
仁礼は立ったまま、ニカッと笑った。
「アタシはオペレーターのヒカリだ。よろしくな」
「こいつはアホでズボラだが、オペは上手い」
影浦が褒める。そういう男だ。仁礼も大きくうなずいた。
「こいつらは、光さんがいねえと何もできねえんだ」
誰も嘘は言っていないから、本当なのだろう。空閑は敬意をもって仁礼と握手した。
「脚が寒そうだよ、ヒカリちゃん、風邪引いちゃうよ」
北添尋が仁礼の足元をみて、ブルっと身を震わせた。
この寒いのに、仁礼は太ももを大胆に露出したホットパンツをはいている。靴下も短い。しかし、身軽な格好は彼女によく似合っていた。
「寒さには強えんだ」
膝を豪快にあげてみせる。さっぱりとした仕草に色っぽさはなく、彼女の健康的な美しさを引き立てるのみだった。
「あぶねえだろ」
しかし、ひとつ年上の隊長は心配になったらしい。
「お前、そんな格好して、柄の悪いのに絡まれたらどうすんだ?」
二、三年前と比べて、だいぶ治まったが、九時を過ぎたあたりから、繁華街は柄の悪い連中が我が物顔で徘徊し始める。第一次侵攻から復興に至るまでの間に三門市の治安が悪化した、その名残りだ。
仁礼はカカカと笑って、手を振った。北添の隣にドスンと勢いよく座る。
「大丈夫、三輪に送らせた」
意外な名前を聞いて、空閑は目を開く。その名前は久しぶりだ。彼の率いる三輪隊とは空閑が玄界にきて間もない頃に戦った間柄だ。その後、大規模侵攻において空閑の相棒であるレプリカを通して共闘したが、以後、接触はない。玉狛支部と本部、B級とA級、接点もないのだ。さらには空閑は近界民だ。近界民を憎む彼がわざわざ接触してくることもない。
一方、影浦は意外でもなんでもない顔をした。
「三輪か。こっちに用事があったのか?」
彼は本部住まいだ。
「んや。食堂に行こうとしてるところを捕まえて、送れつったから」
「それで?」
「文句言いながら、着いてきたよ。もう帰った。一応、誘ったんだけどよ、来ねえって」
「来ねえだろ」
三輪と影浦はそんなに親しくもない。
空閑が不思議そうな顔をした。
「ヒカリはミワ先輩と仲良しなんだ」
「おう、学校で同じクラスだぜ」
「なるほど」
彼も学校に通っているのかと思う。
なお、危険な時間帯に三輪が仁礼を送るのは、特段変わったことではない。ボーダーでは当然とされる行為だ。
「つーかさ、お前、なんで三輪を知ってんの?」
同席している当真勇は違和感を感じて問う。空閑の持つ黒トリガーを巡って、水面下で行われたA級同士の実戦を当の本人は知らぬはずだ。
「ちょっとね」
「?」
「申し訳ないがくわしくは言えない」
「ふうん?」
影浦は仁礼に小言を言うのに忙しく、空閑と三輪の接点の不自然さには気がついていない。
「まあいいけどよ。ヒカリ、気をつけろよ。何かあってからじゃ遅せえんだから」
「わかったよ」
仁礼は気をつけてるから送ってもらったと言いたかったが、肩を竦めて了承した。
「ミワ先輩とニノミヤさんとカコさんが同じチームでアズマさんが隊長?」
「そ、反則でしょ?」
その流れのまま、話題は昔の東隊の話になっている。東隊は仲がよくて羨ましかったよ、と北添が懐かしそうに目を細めた。仲の良い三人+アズマ隊長。空閑には想像できない。空閑にとって、それぞれの最後に見た顔は不機嫌、尊大、無邪気な表情だ。
「俺らは?」
影浦が拗ねたように言うと、
「その頃は喧嘩ばかりしてたでしょ」
と北添が返す。これも想像できない。
「かげうら先輩は昔のアズマ隊と戦ったことあるの?」
「俺とゾエはあるぜ」
影浦隊がA級に上がったばかりの時代の話だ。
「アタシが入った時は解散してたな」
仁礼が補足する。
「むらかみ先輩は?」
「いや。俺がボーダーに入ったのはカゲのずっと後だからな」
黙って、話を聞いていた村上鋼が穏やかに答えた。彼は入隊してから、変わらず鈴鳴支部にいる。
「強かったよ〜」
北添がのんびりと語る。
よほど強かったのだろう。影浦は素直にうなずいた。
「太刀川隊だって、太刀川さんが旧東隊と戦いたくなって作ったくらいだ」
「ほう、タチカワさんが」
「その頃は太刀川隊に烏丸がいたし」
「とりまる先輩が…?!」
「お前が驚くの珍しいな。知らなかったのか?」
空閑はうなずいた。
知らなかった。帰って、修とチカに教えてやろう。しかし、納得できる話だ。彼は木崎、小南と同じく最強部隊玉狛第一に所属している。
「最初、太刀川さんと烏丸だけだったんだが、中距離補強で出水が入ったんだ」
二宮、加古相手に攻撃手だけでは無理があるということらしい。
「興味深い」
まだ明かしてはいないが、現在の玉狛第二も攻撃手が二枚となっている。隊長の三雲が射手だ。これに大砲、トリオンモンスターと呼ばれる狙撃手が加わる。
「それで今のミワ隊にシューターがいないの、おもしろいな」
射手メインのチームにいたのなら、そのメリットをよくわかっているはずだ。
「そういや、そうだな」
今の三輪隊は中距離まで敵を逃がさない戦法をとっていると思う。以前、空閑が黒トリガーで戦った感触では。
「おそらくだが」
話を聞くともなしに聞いていた隣のテーブルの荒船が控えめに口を挟む。彼は戦闘に関して、人一倍研究熱心なのだ。
「以前のログはあまり残っていないんだが、旧東隊は、アタッカーが囮になって、メテオラでまっさらにして射線を通して、東さんがトドメを刺す戦法じゃないのか?」
「ああ、そしたら、ミワ先輩が射手を入れないのはわかる」
「だろ?」
「なんで?」
ピンとこなかった仁礼が聞く。
「囮はいやだろう」
「ああ、そういうこと」
「ゾエさん、いつも囮やってるよ?」
「ゾエは偉いぞ」
「褒められた」
荒船はさらに続ける。
「あとは、どっちをとるかの問題なんだが…。俺の部隊も最初そうだったが、アタッカーが一人だと、狙われやすいし、負担が大きいな」
荒船隊は現在、狙撃手三人体制の特殊な編成だが、以前は隊長の荒船が攻撃手を務めていた。
「それで、よねや先輩が入ったのか」
「多分な」
「ログが残ってるかもよ」
「どうかな」
「いや、あっても見ないよ」
空閑はキッパリと答えた。どっちにしろもうない部隊だ。意味がない。どんなに強く、厄介だったとしても、それはすべて過去の話だ。
明日と少し先の未来のことだけが、空閑の関心事なのだ。
終わり
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tanakadntt · 11 months
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梅ヶ枝餅を焼きました。
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tanakadntt · 11 months
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若村11番隊の小説(二次創作)
マリオちゃんの箱
遠征選抜第一試験閉鎖環境試験において、施設内に持ち込める私物は規定の個人コンテナに入る分だけである。
おおよそ二十センチ四方の箱の中身は持ち込み禁止のもの以外は自由だ。
七日間の生活において必要なもののチョイスはそれぞれの個性が強く現れて、試験後もしばらく話題になったものだった。
「なあなあ、閉鎖環境試験のときに私物で何を持ち込んだ?」
午後九時。
戦闘員と違い、オペレーターは七日間通して、同じ部屋を使う。
細井真織は端末の乗っているデスクの脇に設置された小さなテーブルに荷物を下ろした。荷物と言っても小さなクーラーバッグのようなコンテナ一つである。
ひとつ息を吐き出してデスクに腰掛ける。一日目が終わった。正確にはもうひと仕事が残っている。オペレーターには当日の報告書作成義務がある。
「めんどうなこっちゃ」
残業である。カメラで録画されているから、報告も何もないだろうが、その『報告書』も採点対象なのだろう。
今日はずっと喋っていたから、顎が疲れている。臨時部隊でチームメイトになったカナダ人のサポートである。彼は会話は難なくこなすが、読み書きはさっぱりだった。
彼曰く日本語による会話はトリオン体のおかげで可能であり、実際の日本語は一切出来ないらしい。
「まあ、英語で話したってや言われるよりはええけどな…」
普通の高校生程度の英語力はあるが専門的な部分までサポートするのは骨が折れる。
「…ん? カナダって英語やったっけ? フランス語やったっけ?」
端末で調べようとして手元にないのを思い出す。
三門市、という局地的な災害(と言われている)に英語も何も必要なかったが、遠征をきっかけにトリオン技術も日本だけでなく世界中から注目されつつある。これから必要になってくるだろう。
英語はやっておいて損は無い。何かあってもどこへでも行ける。あれは自由の翼だと主張するのは両親だった。その教えを受けて、英語はおろか全てにおいて人より抜きん出た兄たちを思い浮かべる。
「まあ、ええわ。何とかなるやろ」
三番目の娘は可愛がられるばかりで変なコンプレックスもなく、のほほんと普通に育った。
一方で上層部の評価は優れた並行処理能力を持つ貴重な人材となっている。
「ヒュースも日本語出来へんよって、あいこやし」
試験は始まったばかりだ。
報告書作成の前に真織は箱のような持ち込みバッグのファスナーを開けた。
入っているのは、洗顔用品、ブラシ、基礎化粧品、生理用品。これらは備え付けてあるらしいが念の為持ってきた。
あとは、
「アンタだけで寂しいかもしれんけど」
くたっとした犬のぬいぐるみを取り出す。コンテナにぎゅうぎゅう詰めたので少し潰れている。クリっとした目が真織の笑みをうつした。
「しばらくこの部屋でウチと二人で暮らすんやで」
端末の横に座らせると、今度は椅子に座り、端末を開いた。
カタカタと音をたてて、仕事に集中し始めた真織を彼は黙って眺めている。
「持ち込みの私物? 食べ物だ」
翌日の朝ごはんでの会話である。カナダ人は既に朝のシャワーを終え、さっぱりとした顔をしていた。
「へええ、食べ物の発想はなかったな」
半崎がパンを食べながら相づちを打った。ホームベーカリーのパンはできたばかりで切るのが難しく、見た目は不格好になったが、その分柔らかくて味は美味しかった。
半崎はゲーム端末と漫画、笹森は小説だったが昨日は疲れてまだ荷物を開けてもいないと言う。
若村はずっと黙っていたが、真織に問われて真っ赤になった挙句に「…写真」とボソリと呟いたので、誰もがそっとしておくことにした。
「戦場では食べ物も貴重だ」
ドヤ顔でドヤるヒュースはツッコミどころしかなく、やはりツッコむしかない。
「食いしん坊なだけやろ。だいたい、食べ物って日持ちするものなん? 冷蔵庫に入れた方がええんちゃう?」
「冷やす必要があるものは昨日食べた」
「え、部屋で?」
笹森が顔をあげる。戦場で食べ物云々と言うから、皆、携帯食料を想像していた。
「夕飯足りなかったか?」
若村が心配そうに声をかける。ヒュースは首を振った。
「いや、食後のデザートだ」
「デザート?」
若村はメニューを聞いたつもりではなかったがヒュースは真面目に答えた。
「ぶどうゼリーだ」
「ゼリーなんだ」
「ゼリーかよ」
「ゼリーかい」
若村以外の三人が同時につっこんだ。
「細井先輩は何、持ってきました?」
あとは真織だけが答えていなかったから、笹森が聞く。こういう時、ウチの隊なら流されるとこやなと思いながら答える。
「ウチは普通やな。こまごましたもんと、あとは…なんかかわいいもん」
ここで、スルッと普段は言わないようなことを正直に答えたのは普段ではない状況だったからだろう。いつもならツッコミの嵐(関西では親愛の情の表現方法の一種である)だが、ここは生駒隊隊室ではない。
予想通り、笹森はそうなんですかと言っただけだったが、一人だけ食いついた者がいた。
「なんかかわいいもんとはなんだ? 真織」
カナダ人である。
「え、いや、普通の犬のぬいぐるみやで」
「かわいい犬か…。見たいな」
そのまま、腕組みをして待っている。
(なんやの?)
他の三人を見るとぬいぐるみには全く興味がなさそうだが、ヒュースに合わせて仕方なしに待っているようであったから、朝食も終わっていたことだし、まだ閉鎖されていないオペレーターの個室から持ってくる。
ヒュースは遠慮なくぬいぐるみの首を掴んで持ち上げた。
「ちょっ…、丁寧に扱ってや」
「こいつか…、確かにかわいいな」
「そやろ」
照れ隠しにぶっきらぼうになったが、お気に入りの子を褒められて気分が良い。
そのまま、ヒュースはぽんと犬を本棚に置いた。
「なんなん?」
「個室に置いとくよりここがいいだろう」
「アンタが見てたいだけやろ」
皿を洗い終わった笹森と半崎がキッチンから出てくる。
「そろそろ九時近い、始めようぜ」
若村が声をかける。
『彼』が見守るなか、二日目が始まった。
終わり
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tanakadntt · 1 year
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三輪秀次と嵐山さんの小説(二次創作)
オールラウンダーズ イン ザ ボックス
「万能手同士の親交を深めよう」
 という馬鹿げた話になったのはやはり馬鹿げた理由だ。
銃手は銃手で、狙撃手は狙撃手で、攻撃手は攻撃手で、よく訓練もするし、対戦もする。訓練はスポーツのような感覚があるから、部活のようなノリもある。
 射手は少々事情が異なる。隊員のほとんどがシューター用のトリガーをセットするなかで、わざわざ射手と名乗る彼らは飛び抜けて高い能力を持ち、またはセンスの塊なので合同訓練するほどもいない。数が少ないのだ。が、それはそれで仲良くしている。
 では、オールラウンダーと呼ばれる万能手はどうだろうか。アタッカー用トリガーとガンナー、シューター用トリガーの両方の個人ポイントが六千ポイント以上となる隊員を指すが、彼らは合同で訓練はしない。
 万能手と一言で言っても、
①規格外の大容量トリガーを使う玉狛第一
②スコーピオン+アサルトライフルの中距離型
③スコーピオンW使い+拳銃またはアステロイドの攻撃手型
④スコーピオンまたは弧月+拳銃の近距離型
 と様々である。
「皆の試行錯誤の結果だな」
 しみじみと言うのは、柿崎国治である。
 柿崎はアサルトライフルと弧月を使う中距離型だ。
 オールラウンダー同士で訓練しても意味はない。元々がガンナーであったり、アタッカーであるからだ。皆、それぞれのポジションで訓練している。
 一番、万能手らしいと言えば、①の多彩な攻撃ができる玉狛第一だろうから、ボーダー本部とはなじまないし、同じ部隊だから既にお互いわかっているはずだ。
 それなのに、なぜ本部の一室を使って、無茶な交流会が開かれているかといえば、やはりメディア広報室の仕業である。
 ボーダーの情報をソフトに発信していく広報誌『月刊ボーダー』で、次の特集が『万能手って何をするの?』であるからだ。
 しかも、アタッカーやシューターを差し置いての一番手の特集だ。順番的におかしいだろう。そう三輪は思うが、ちまたで圧倒的人気を誇る広報部隊嵐山隊の戦闘員は一人を除いて、全員のポジションが万能手なのだ。
 交流会というより、既に取材の一環だ。動画も流すのかカメラも入っている。
 しかし、それなりに盛り上がっている。先ほど、柿崎が言ったように、万能手はほとんどが創意工夫の末にたどり着いたスタイルなので古株が多い。気心の知れたメンバーだ。柿崎しかり、嵐山しかり、木崎しかり。彼らに合わせる形で柿崎隊、嵐山隊、玉狛第一の他のメンバーも万能手となっている者が多い。どこも器用なメンバーが集まっているのが特徴だ。そうでないものも器用という言葉がしっくりくる者ばかりだ。
 三輪も古株の一人であったが、どの系統にも属さない。もちろん器用ではない。だから、隅で空気になっている。早く作戦室に帰りたい。
 部屋の中央では嵐山が広報のインタビューに明るく答えている。周りには人が集まっている。
 嵐山のことは苦手だ。いや、嫌いだ。昔から嫌いだ。迅と仲がいいのもうなずける。二人で寄せて集めて高い高い砂の山を作っているようなところが嫌いだ。守りたいという決意はきれいだろう。尊いだろう。しかし、砂粒を一粒もこぼれないようにすることなどできるものか。「市民の皆さんを必ず守ります」という彼の本気を疑ってはいない。しかし、だからこそ嫌いだ。そんな恐ろしいことを言って、彼は笑っている。手のひらに何粒残るのか。手のひらから何粒こぼれ落ちるのか。三輪はこぼれ落ちた砂の一粒だ。死ぬも生きるもままならないのはよく知っている。三輪は誰にも守るとは言えない。
「暇そうですね、三輪先輩」
 声をかけてきたのは玉狛第一所属の烏丸京介だった。彼のトリガーは公表しにくい。取材からは外れている。三輪と同じく暇なのだろう。
「暇だ」
 烏丸は玉狛支部に異動になる前にはA級太刀川隊に所属していた攻撃手だ。現在の三輪隊ではなく、かつての東隊メンバーとしてランク戦で戦ったことがある。
「帰っちゃだめですよ。このあと写真撮影があるんですから」
「集合写真に一人抜けても構わないだろう」
「違います。俺と三輪先輩と嵐山さんで写真をとるんです」
「は?」
 聞いていない。
「スポンサーの服飾メーカーさんの企画で、ボーダーコラボでその写真をスエットにプリントして売り出すんです。狙撃手では荒船さんのトートバッグが一番人気らしいですよ」
 恐ろしい話だ。
「死んでもごめんだ」
 すぐさま逃げ出す算段をしている三輪を烏丸は無表情のままちらりと見た。ボーダーで随一モテる男だ。端正な顔に表情がないと作り込んだCGのように見える。
「嘘です」
「……相変わらずだな」
「先輩こそ変わらないっすね。嵐山さんが苦手なの」
 そういう問題ではないが、
「…誰にも迷惑をかけてない」
「木虎が気にしてましたよ」
「木虎が? どういうことだ」
 あまり��点がない。嵐山を避けているだけで嵐山隊に何かをした覚えはない。
「ほんと、先輩変わらないっすね」
「?」
 そのとき、暇そうな二人に気遣ったのか、インタビューを受けていた嵐山から声がかかった。
「三輪、近距離でバイパーをセットする理由を話してくれ。烏丸もアドバイスがほしい」
 そんな気遣いはいらない。そんな細かい趣旨の特集でもない。ほうっておいてくれ。嫌そうな顔をしたはずだが、堪えていない。待っている。視線が集まる。隣にいる木虎の目が怖い。あきらめて壁を離れ、三輪は烏丸と会場の中心に近づいた。嵐山は笑顔で迎える。
終わり
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tanakadntt · 1 year
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唐澤さんオタオメ〜
シリアス
大人のする未来の話
一 未来の話
「三輪くんは幹部候補じゃないよね」
問われた三輪秀次は何とも言えずに無表情で彼を見返した。
実際、何も言えない。わからない。わかるわけもない。
いや、どうだろう。遠征選抜試験の直前である。
隊員である自分には全容は明かされてはいないが、伺い知ることのできる内容を鑑みるにわかっておかないといけないことのようだ。
ボーダー内での自分の立ち位置、自分の能力、自分の意志をはっきりと認識しておく。
ロジカルにもフィジカルにもメンタルにも厳しい試験だ。三輪隊では、古寺の一次試験からの参加が既に決まっている。古寺頑張れ。古寺偉い。お前ならできる。
黙っているのをどう受け取ったか、
「そんなに警戒しないでも」
同じ城戸派だろと唐沢克己はニコリと顔に屈託のない笑みを乗せた。
まだ、誰もいない会議室だ。出張から今朝帰ってきて時間が中途半端に余っちゃってね、早めにきたのだと言う。三輪は会釈をして壁際に立った。
あまり唐沢と話したことはない。苦手ではない。話すことがないだけだ。忙しい人であるし、接点も少ない。この人のおかげでボーダーがまわっていると皆が口を揃えて言う。三輪もそう思う。ボーダーがボーダーたり得る体裁を保っていられるのはこの人の働きによるものだ。
そして、今回の選抜試験の最終的な決定権を持つ一人でもある。A級部隊は正式には戦闘試験からの参加となるが。
この質問は、試験の一環なのだろうかと三輪は考えた。参考程度の。
「上層部の決めることです」
「自信があるんだね」
そう返されて、戸惑う。挑発的とも取れる言葉と裏腹に唐沢からは敵意は感じられない。むしろ、彼は不思議そうに首を傾けた。
「君はここについて知らないことが多いだろうに」
「……」
ボーダーには、旧ボーダー時代に繋がる秘密がある。古参隊員と言われる自分でも触れられない部分だ。
上層部と、さらに昔から在籍する者たちがその秘密を共有している。
その僅かな人間同士は、化かしあい、足を引っ張り合っているのを三輪は知っている。だから、深く知らないほうがいいと思っていた。
あの人たちが仲がいいのか悪いのか、いつも判断に苦しむ。真剣ではあるが、彼らの化かし合いは時として楽しそうにも見えるのだ。
現に目の前の唐沢など生き生きとしている。三輪は唐沢が自分との会話の時間を取りたくてわざと早く来たのだとようやく悟った。
「隊員ですから」
知る必要がないと判断されたら、知らないままでよい。
言外に伝えると、
「殊勝だねえ」
と笑われた。
「期待してるんだよ、頑張ってよ城戸派筆頭」
城戸派閥最大の人物はあなたではないかと言いかけて、三輪は黙った。
「未来の話だよ」
急に唐沢の体が大きくなってその影に入った気がした。
「ねえ、君、幹部候補じゃなかったら何だと思ってる?」
ニ 大人の話
唐沢克己は林藤匠を待っていた。
本部地下の駐車場へ続く廊下である。会議は遅くまでかかった。この時間は歩くものはいない。
「唐沢さん、何か…?」
「長期遠征選抜試験の前にね、ちょっと」
唐沢は話���しませんかと誘った。
駅前のコーヒーショップは酒類も出すから遅くまでやっていて、しかも喫煙席がある。年々、愛煙家は肩身が狭くなる一方だから、貴重な場所だ。唐沢は根付に苦い顔をされながらも本部建物内喫煙を死守している。林藤玉狛支部長は貴重な煙吸いの同士であった。
コーヒーを飲みながら煙草を吸う、という一見器用な真似を
しながら、唐沢は口を開いた。
「今回はお金を遣いますよ」
「ああ、まあねえ」
メディアの前で大々的に打ち出した長期遠征のことである。
のんびりと林藤は煙を吐き出す。
元々、ボーダーはお金を浪費するばかりの組織だ。近界の技術や情報を小出しに売ってもこちら側には役に立たないことも多い。玄界は役に立��ことが金になる世界なのだ。
遠征の予算を計上した結果、はじき出された莫大な金額を思い浮かべた。
「でも、唐沢さんなら大丈夫でしょ」
林藤が続けると、私が何もしなくてもお金は入ってきますと唐沢は肩をすくめた。
「遠征とは随分魅力的な言葉らしくてね。
目ぼしいところはみんな我先に出してくれます。乗り遅れたくないんでしょうね」
支援者は国内だけではない。企業だけでもないことを唐沢は告げた。
思いのほか、でかい話になったと林藤は思う。
近界は、もはや得体のしれない異世界ではなく、利益を生み出す可能性を秘めた新天地であった。利権争いはもう始まっている。玄界は役に立つことが金になる世界なのだから。
拉致被害者の救出を掲げた遠征がどのような結果で終わろうとも、一度出来た道は閉じない。近界もこちら側も今までと同じではいられないだろう。トリオン研究も金があれば、さらに進む。
この遠征をきっかけとして、二つの世界は大きく変わっていくはずだ。
「この流れを作ったのが、わずか十五歳の少年とは、」
「随分、三雲を買って頂いているようですが」
林藤は唐沢の言葉を遮った。が、彼は構わず続けた。
「あの年齢であの胆力、気に入っていますよ。いやはや、先が楽しみだ」
唐沢は本当に楽しそうに最後まで言ったあと、不意に話題を変えた。
「遠征試験は幹部候補の人選も兼ねていますけど」
「そうですね」
唐沢は少し声を小さくした。
「僕も卒業の準備かなと思うわけです」
「ご冗談を」
林藤は二本目の煙草に火を点ける。唐沢との密談はたまにある。一方的に彼が誘い、本部側の情報を伝えて終わる。その情報に見合うだけのものを彼が欲しいときだ。
「外務部長のお仕事がさらに忙しくなるのはこれからでしょう」
「だからこそですよ。何事も準備がものを言います」
唐沢の言い分にも一理ある。支部長は気楽でいいと林藤は思ったが、心のうちに留めておいた。
そして唐沢は意外なことを言った。
「今度の遠征試験で見つけられたらと思ってますよ、僕の後継者を」
「後継者ですか」
五年近く前に城戸に請われて来た仕事請負人だ。請け負った仕事が終われば、いつかいなくなるかもしれないと思っていたが、後継者とは。
「唐沢派の誕生ですか?」
揶揄すると、動揺もせずにニコリと笑った。
「とんでもない。ボーダーに拾われて五年、城戸さんの元にいて考えを改めることもあってね、僕なんぞでも若者たちに残せるものがあればと思いまして」
若者たちの将来にね、と唐沢は言う。
若者のためと言いながら、辞めていく隊員の記憶操作をし、三雲を利用しようとする。二枚舌も甚だしい。林藤は本部の、城戸のやり口が嫌いだ。
わずかに眉を寄せて不快感を示した林藤にお構いなしに、唐沢は続けた。
「それで、城戸さんは誰を後継者に考えてるんでしょうね」
「先ほどね、会議前にちょっと三輪くんと話したんです」
話題転換が多い男だ。三輪秀次もまた利用されている子どものひとりだ。あれよあれよと言うに城戸派筆頭などというものに祭り上げられている。
「僕たち、こんなに先のことを考えてるのに今日、三輪くんと話したら、先のことを考えてないって言うんですよ。ただ、高校卒業後はボーダーに専念したいと」
参ったなあ、と煙草を持った手で形のいい眉毛をなぞる。そんな仕草が似合う。唐沢は伊達男だった。
「若者の特権ですよ」
「木ばかり見て森を見ない」
「それも特権です」
恐らく二つの未来があるんです、と唐沢は続ける。
「交流が始まっても、いや始まるからこそ、紛争が多発するのはどこの世界でもそうでしょう」
政治は血を流さない戦争であり、戦争は血を流す政治であると言ったのは誰だったか。
「ポストボーダーの未来の一つは現ボーダーをさらに拡充し、あちら側からの防衛を全世界に広げた機関」
地球防衛隊ですね、と呟く。その言葉はひどく滑稽に聞こえた。
「そして、もうひとつ。現在とまったく違うボーダー。
僕がここに呼ばれたのは、元々、民間組織として独立するためです。
ボーダーが民間組織である必要性を常々考えているんですよ。
国家に所属しない何か。こちら側にもあちら側にも与しない。
それはもう第三勢力と考えてもいいんじゃないですか」
「実は、僕は城戸さんは防衛機関をさっさと誰かに譲って、そちら側に行ってしまいたいんじゃないかと思ってる」
「旧ボーダー、現ボーダー、ポストボーダー」
歌うように唐沢は単語を並べた。
夢のような話だ。林藤は釘を刺しておくことにした。
「後継者を三輪とお考えのようですが、彼は選択外でしょう。未熟ですよ。もっと向いている人材はたくさんいる。幹部の中からさらに選ぶという選択肢が現実的ではないですか?」
「今のところ、城戸さんに一番考え方に近いと周りに認識されているのは三輪くんでしょう。あの通り、素直で真面目な子だ。城戸さんのやり方をそのまま残せる。近界民への敵意が難点でしたが、それも最近は落ち着いてきたようだ。
なに、若者はいくらでも伸びしろがありますよ。それに、貧乏クジを引いてくれそうな人物を考えていくと…」
「貧乏クジですか」
「貧乏クジでしょう」
唐沢はニコリと笑う。
他をあげるとすると、と続ける。
「唯我くんも候補にあがっていると言う話がありましたが」
「知っています」
林藤は固い声で答えた。
唯我尊がボーダーに入隊するにあたり、検討された事項である。
「ご実家の意向ですね。尊くん自身の適性というより利権の話になる。ここまで話が大きくなると、ボーダーを支えるのが唯我グループだけでは弱い。それに、組織が一企業に下るのは、林藤さん、あなたが許さないでしょう」
「…もう、事実上そうなっているでしょう」
そうおっしゃる? 私の力不足ですね、と営業部長は頭を下げた。
「ね、だから、貧乏クジなんです」
「あなた方はずっと喧嘩をしていらっしゃる」
「……」
誰と、とは聞くまでもない。林藤は否定はしなかった。
「あなたには、迅くんがいる。
それだけでも大きなアドバンテージを持っていらっしゃるのに、まだまだ満足されない。あの可愛らしい殿下のことは別としても、最近では、ヒュースを手に入れた。本部が排除できないように非常に巧妙に。
何より、空閑です。黒トリガーを持っている。最上氏の忘れ形見だ。実動部隊に影響力の大きい忍田さんは必ず空閑の味方になる。
そして、あの近界民が言うことを聞くのは三雲くんだけじゃないですか」
「あなたが三雲を評価するのはそのためですか?」
「普通の子ではできませんよ」
唐沢は悪びれもせずに言った。
「それだけじゃない。
風間くんは三雲くんに好意的だ。太刀川隊の、出水くん、唯我くんの弟子になったのは大きい。雨取くんのことで、東くんとも縁ができた。
鬼怒田さんは技術者だ。自分の能力が存分に振るえる場があれば満足する。そうだ、あなたにはもうひとり近界民がいましたね。根付さんも三雲くんを認めている。もちろん、僕も。
彼には大いに期待してるんですよ」
「大の大人が中学生に何を期待するのです?」
「ポストボーダーですよ」
ねえ、林藤さん。唐沢は肩をすくめた。
「子どもを利用するのはおたがいさまではないですか」
「…一緒にしていただいても困りますね」
「…喧嘩でもないんですよ。主義主張の違いという奴でね」
目指すものが違いすぎるのだ。
「喧嘩ですよ。あなた達は歩みよろうとしない。お互いに優位を競い合っている。林藤さん、また隠し玉を増やしているでしょう」
「何のことでしょう?」
ガロプラとの同盟の件は迅の予知も使って、慎重に行なった。
これは唐沢のブラフだろうと林藤は踏んだ。恐らく、本部で三雲と話して何かあると感じただけだ。
「結局のところ」
あっさり唐沢は引き下がったが、注意深くこちらを伺っている。
「鍵を握るのはあなた方二人の喧嘩の行方だ」
林藤は、腕時計を見た。
「もう、こんな時間だ。唐沢さんは明日も早いでしょう」
唐沢も客の少なくなった店内を見渡した。伝票を持ちながら、立ちあがる。それでも、なお言葉を紡いだ。
「迅くんにはどう視えているんでしょうね」
けれど、僕達にも見えますよね、未来。
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tanakadntt · 1 year
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三輪隊の小説(二次創作)
三輪隊で、たこパなんてどうだろう?
「たこ焼きを食べよう」
という話になったのは、三輪隊といえば焼肉、三輪隊といえばたけのこの里、三輪隊といえばコーヒー、三輪隊といえばカレーを食べたあとのお冷、である同隊にしては非常に珍しいことなのだが、いつも焼肉を遠慮する(おそらく苦手)月見蓮が珍しく興味を示したからである。
三輪隊オペレーター月見蓮は高嶺の花とも称される美しい令嬢ではあるが、同隊においてはクールな指導者で、かつマイペースな年長者だった。
皆に好みを合わせてまで一緒に食事はしない。以前、ハンバーガーを食べたことがないと聞いたことがある。飲食を伴うフランクな交流は作戦室のお茶の間まで。要は線引きがきっちりできている。
その月見がたこ焼きについて興味を持ったのだ。
元々は何の話だったか。場所はいつものお茶の間だった。
「お祭りの屋台で見たのよ」
出店は、チョコバナナにベビーカステラ、りんご飴と甘いものが多いが、たこ焼きのソースの香りと丸い見た目が印象に残っているという。
焼きそばは食べたことがあるというが、高級中華の色がついてないやつだと察せられた。
「そうなんですか? じゃあ、一緒にたこ焼き食べましょうよ?」
同隊狙撃手の古寺章平がそう誘ったのは軽い気持ちだった。買ってくればいい。チンでもテイクアウトでも、お茶の間で食べられる。今は十一月、日に日に寒さが増してくる季節だが、来年の夏になればお祭りに誘ってもいい。未成年者が多いこともあり、ボーダーにおける隊の結成期間はだいたい半年から一年と短いが、古寺には、この三輪隊が来年の夏までも、いやもっとずっと続くように思えた。
「ありがとう」
月見は微笑み、次のお茶菓子は菓子ではないけどたこ焼きだな、飲み物は何が合うだろうと考えていたところ、同隊攻撃手の米屋陽介がうなずいた。
「章平、いいこと言うじゃん。どうする? たこ焼きプレート、うちにはないぜ」
「え?」
「うちにある」
同隊狙撃手の奈良坂透が応じる。
「ええ?」
「奈良坂の家からじゃあ、ちょっと遠くねえ?」
「章平と運ぶ」
「えええ?」
古寺の驚きなどお構い無しに会話が進む。同隊隊長の三輪秀次は、そうかと言って腕組みをした。
「奈良坂、ガスか? 電気か?」
「電気だ」
「ていうか、作戦室でそういうのやっちゃっていいの?」
「加古さんだって、炒飯作ってるんだ。使ってもいいと思うが…」
三輪が顎に拳をあてて天井を仰いだ。
「…狭い」
ここで、ようやく古寺は口を挟んだ。
「作っちゃうんですか?」
「え?」
先輩三人は、意外なことを言われたような顔をして一斉に古寺を見た。顔の圧がすごい。
助けを求めて月見を見るが、抜群の指揮能力を持つ才媛もたこ焼きに関する知識がないので、頭の上にはてなマークを浮かべて、にこにこしている。
「作んないの?」
米屋が代表して無邪気に聞いた。
古寺はぐるりと狭い部屋を見渡した。狭いと言っても、作戦室のお茶の間よりはずっと広い。
(ここが三輪先輩の部屋)
たこ焼きパーティーの会場は本部住まいの三輪の部屋となった。
(シンプルだ)
予想通りというべきか。若くして人生から様々なものを削ぎ落としているひとつ歳上の隊長の私室は作戦室より更にすっきりしていた。仮設住宅住まいの古寺の部屋は二人の弟と一緒だ。漫画とトレカとゲームとランド���ル、あと何だろう。様々なものが散らばる雑多な部屋とは大違いだ。
八畳程の広さのフローリングにソファと机、丸椅子ひとつ。それだけだ。どこで寝ているのか? 真ん中に折りたたみのローテーブルがある。みんなでおじゃましたあと、部屋の主である三輪がクローゼットから出してきたから、おそらく常日頃は仕舞われている。
その上に、
「四十個も焼くの?」
おっかなびっくりプレートをセットした月見がくぼみの数を数えている。
「四十個じゃ足りないですよ」
奈良坂がコードをセットしながら言う。米屋が家から持ってきた大きなボウルを取り出している。
「章平ん家、たこ焼き焼かねーの」
月見と一緒にたこ焼きの調理家電を覗き込んでいる古寺に米屋が聞いた。
「そもそも、うちにないですね」
両親は共働きだし、収納の少ない仮設住宅の台所で母親はなるべく物を増やさないようにしている。だから、こんな巨大なものが同じく仮設住宅の奈良坂の家にあったのは驚きだ。料理好きのお姉さんとお母さんがいるせいだろうか。
「あ、奈良坂、チョコを入れるつもりなわけ?」
「定番だろう」
各々手分けして買ってきた買い物袋を整理しながら米屋と奈良坂が会話している。
「オレもチーズとカニカマ買ってきた」
「生地を作るのはそっちの部屋でやってくれ」
台所から三輪が顔を出す。
「あ、おれは何をしましょうか」
古寺も立ち上がった。
「月見さんは机周りで進行状況の確認、奈良坂と米屋は具材のセットと生地作り、古寺は材料を切ってくれ」
「了解よ」
「わかった」
「オッケー」
的確に指示を出す隊長に古寺が声をかける。
「三輪先輩、慣れてますね」
「前にいた隊ではこういうことがたまにあった」
旧東隊のことだ。現東隊の奥寺と小荒井もそうなのだが、最初の狙撃手、東春秋を隊長とする東隊に所属していた事に古寺は憧れを感じる。
「よく作ってたんですか」
「いや、たこ焼きは初めてだ」
広いとは言えない台所で、まな板を古寺に渡しながら三輪は答える。
「でも、チームメンバーだから任務と同じに考えればいいかと思った」
「そうですか…」
古寺は不覚にもじんときた。不器用、と背中に大きく書いてあるような先輩に成長を感じる。
ネギを切って、蛸を切って、カニカマを切って。一心に切っていると目の前に花があるのに気づいた。
小さな花瓶に小さな花が無造作に挿してある。十七歳男子の台所にしては違和感があった。この後、テーブルに飾るには、既にたこ焼きプレートが占拠している。
「秀次、水と泡立て器だってさ」
そのとき、計量カップとボウルを持って米屋がキッチンにやってきた。
「泡立て器はないから箸でやってくれ」
三輪が言われた分量をしかめっ面できっちり測っているのを横目に米屋が花に向かって片手をあげた。
「お邪魔してまーす」
「先輩、何をしているんですか?」
古寺の疑問を受けて代わりに三輪が答える。
「ああ、陽介は姉さんに挨拶したんだ」
「お姉さん…ですか?」
四年前の近界民侵攻で、三輪は姉を目の前で亡くしたことは知っている。
しかし、目の前には花が一輪、写真も何も無い。
「前は写真立てがあったんだが、濡れるからしまったんだ」
なんでもないように古寺に説明する。しかし、それは本末転倒である。写真が本体ではないのか。
「台所にあるのは水が汲みやすいからなんだってさ」
米屋は付け加える。
「秀次って大雑把なとこあるよな」
三輪はムッとした。
「こういうのは気持ちだ」
さらに米屋が混ぜっ返そうと口を開けたとき、ピンポンとインターホンが鳴った。モニターを見る。
「弾バカだ」
A級一位太刀川隊の天才シューター出水公平である。彼は三輪と米屋の通う第一高等学校の同級生でもある。彼も参加することはあらかじめ聞いていた。
しかし、
「なんで太刀川さんまで」
一緒にモニターをのぞいた三輪はあからさまに嫌な顔をする。隊長はこのボーダー一位のアタッカーが苦手なのだ。
『餅を持ってきたぞ』
モニターの向こうでレジ袋を振っている。
「ごめんなさい。太刀川くん、私が話したから、羨ましかったのね」
月見が奥の椅子から立ち上がってやってくる。月見と太刀川が幼なじみの関係であることを三輪隊の誰もが失念していた。
「どうする? 三輪くん」
暗に追い返してもいいと提案するオペレーターに三輪はため息をついた。
「材料も持ってきたみたいですし、いいですよ」
「あんた、たこ焼きに入れるってわかってて、なんで、でかいまま持ってくるんだ」
「これしか、売ってねえもん。それにチンすりゃいいだろうと思ったんだ」
「レンジなんてない」
「普通、あるだろ。おまえ、弁当温めないのか?」
「コンビニで温めてもらうから必要ない」
「や、ちゃんと切りますから大丈夫ですから!」
古寺は隊長二人に挟まれて泣きそうである。古寺が餅を細かく切るのに苦労しているのを見た太刀川が俺がそういうの得意と言い出し、三輪があんたがやったらまな板も切れると断って、太刀川が反論して今に至る。
「太刀川さぁん、そろそろ焼きますよぉ」
出水が助け舟を出す。
「おう」
太刀川がのっそりとキッチンを出ていって、古寺はほっとした。
「俺が切っておくから古寺も行ってこい」
三輪に促される。
「先輩はいいんですか?」
「…俺は疲れたから休んでる」
��蔵庫から買い出しのジュースをひとつ取り出して栓を開けた。
早速チョコを入れようとする奈良坂を抑えて、最初の四十個は全て蛸である。正統派だ。このあともチョコを始めとして、様々な材料が控えている。ネギと天かすを上から振る。たこ焼き用のピックは人数分買ったので全員が持っている。
最初の一口はもちろん月見へ。三輪もペットボトルを持ったまま、キッチンから眺めている。
大騒ぎを伴って作成されたそれはパラリと青のりが振られ、かつお節が踊っている。
月見は品よく口に運んだ後、熱さに苦戦しながらひとつを食べ終わり、
「とても美味しいわ」
と、頬に手を添え微笑んだ。
(終わり)
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tanakadntt · 1 year
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古寺章平の小説(二次創作)
君の戦争
彼は覚えている。災厄の日の話だ。小学六年生になったばかりの五月だった。
その日は日曜だった。中学受験に挑むことに決めた彼はようやく塾に通い始めた。誰もが遅いと言ったが大丈夫だと思う。弟が二人もいるのに何年もかけていられない。六頴館対策の模試がある日だった。彼は一人で駅前の塾に出かけていたのだ。
玉狛第二の三雲修が登場した記者会見は彼の真摯な発言と大人たちの機転により、国民には概ね好意的に受け止められている。近界への遠征計画も同様である。
なし崩しに明かされたように見えたが、城戸正宗司令の口から流れるように出てくる口上から遅かれ早かれ公表する腹積もりであったことが伺われた。
語られた計画は今まで秘密裡に行われていた遠征とは性質が違う。目的も異なる。近界の偵察、トリオン技術の取得といったものではない。攫われた無辜の市民四百名余の奪還である。
長期遠征は名誉あるプロジェクトなのだ。
「それでは古寺くん」
メディア対策室室長の根付栄蔵は立っている古寺章平の前で、手元の資料をチラリと見て確認した。
「君は遠征希望だね」
「はい」
古寺は気負いなく答えた。A級部隊にいる以上、目の前の面接官は彼にとって馴染みのメンバーだった。
次いで、忍田真史本部長が遠征に行かない者も臨時隊長に選ばれていると前置きしたうえで問う。
「理由を簡潔に述べてくれ」
長期遠征選抜試験である。
古寺は隊長面接を受けていた。
高校入試の面接のようだと思った。長机に城戸を真ん中にして根付と忍田が座っている。
古寺の椅子はない。短い質問しか用意されてないのだろう。
さらに言えば、質問内容に意味はないのかもしれない。
面接官のもう一人をチラリと見る。目が合う。彼は曖昧に笑った。
この部屋には城戸、忍田、根付、それから古寺の他にもう二人いた。端末を操作する沢村響子と、玉狛支部の迅悠一である。青い瞳はじっと古寺を見ていた。
それでも、古寺は遠征希望の理由を真面目に答えた。
…その日、実際には彼が行方不明者になっていたのだが、彼は家族を探した。自宅は破壊されていた。病院で、避難所で、犠牲者の眠る場所で。
「おつかれ」
面接を終え、声をかけてきたのは歌川遼だった。臨時部隊の隊長としては最年少で同い年、どちらもA級部隊に所属する。入隊は歌川のほうが少し早い。頭の回転がよく、器用で判断も的確だ。性格も穏やかで気が回る。隙がないというのは彼のことをいうのだろう。
宇佐美栞が発掘してきた逸材だ。
だからだろうか。彼に対して一歩引いたところがある。古寺が宇佐美栞に想いを寄せていることも色濃く影響しているのは自覚している。避けるとまではいかないが、ポジションも違う。今、面接してきた上層部よりも馴染みがないといえた。
しかし、歌川は古寺を待っていたようだった。一緒に本部の長い廊下を並んで歩き出す。
古寺の伺うような視線に
「ちょっと話をしたくて」
と歌川は応えた。
「話って?」
古寺が促すと、歌川はうなずいた。
「古寺は面接で遠征希望か聞かれたのか?」
「うん、そうだよ」
「俺もだ。希望しない者もいるって忍田さんが言ってた」
「それはそうだろう」
全員が遠征を希望するわけじゃない。実際、狙撃手界隈では希望者が少ないことを知っている。街を守ることと遠征に行くことは全く違うものだった。
「歌川は遠征希望なんだよな」
「まあ、ね」
歌川は苦笑する。しかし、理由を聞かれても本当はうまく答えられないと告白した。風間隊として行くことが任務として当たり前だったから特に理由はないのだ。それらしいことを言ったけどどうだっただろう。
「大丈夫だよ」
古寺は言った。
「迅さんがいただろう」
「ああ」
迅悠一には未来の分岐点が見える。
「もう、視えるものはみえているよ」
歌川は風間隊に所属し、遠征を繰り返している。臨時隊長の中では唯一の遠征経験者となる。B級に対して行う選抜試験ではあるが、A級からは四人が選ばれている。古寺は彼と、それから同隊の菊地原士郎が受験者に選ばれていることに少なからず驚いている。試験の意図について、もっと深く考えなければならないだろう。
「古寺は遠征希望なのかい?」
「ああ」
歌川はほっとしたように笑った。
「俺は古寺と一緒に行けたらいいとアンケートに書いたんだ」
「そうなのか?」
意外だった。
「意外そうだな」
そんなことはないと言いかけて、正直に答えることにした。
「まあ、そうだね」
「古寺なら勉強家だし信頼できると思った」
「そうかな…ありがとう」
歌川のてらいのない言葉に古寺は赤面した。
「ただ、古寺は遠征に行くつもりがあるかわからなかったから聞いておきたかったんだ」
長期遠征選抜試験は、これによりしばらく開催されないランク戦昇格戦の代わりも兼ねている。また、漆間亘の指摘により、遠征参加を希望するしないに関わらず選抜が行われ、辞退した者にも遠征手当(月十五万円相当)が支給されることとなった。
ここまでの情報で誰もが試験選抜に真剣に取り組むであろうと予測されるし、むしろ選抜されたにも関わらず辞退して残留する者にメリットが大きい。
街を守ることと遠征に行くことは違うものなのだ。
古寺は明確に遠征に行きたい。
自分自身が何がなんでも街を守りたいとは思っていない。もう遅いのだ。古寺の住む町は四年半前に壊されてしまっている。記憶のなかの町は少しずつ古寺の中でも遠くなっていく。
近界は己の都合で違う世界の人間を攫ったり、殺したりする者たちの住む世界だ。道理が相容れない。少なくとも古寺の道理には。
取り戻すのだ。せめて、奪われた市民を。それは、もうなくなったあの日以前の街に生きていた人々だ。
…結局、中学受験は断念し六頴館には高校から入学した。
教室で授業を受けていると、近界もボーダーに在籍する自分も遠い世界にいるように感じる。古寺と歌川の通うのは進学校だ。本当は、二人ともこの街を出ていくことができる学力を持っている。卒業生も都会の大学に進学する者がほとんどだ。古寺の家族がいまだ仮設住宅に住んでいるのには理由がある。古寺の大学進学と同時に父は三門市を離れることを考えている。
古寺はそのつもりはない。
なぜなら、この街に生まれた以上戦うべきではないかと思っている。
古寺は覚えている。あの日、この街で何が起こったのか。
だから、戦おうと思う。
終わり
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tanakadntt · 1 year
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米屋陽介の小説(二次創作)
戦場の少年
 米屋陽介は戦うことが好きだ。
 敵を狙い追い詰め、刃を交え、相手を仕留める。逆に仕留められる時もある。
 たとえ、首を落とされ、胴を二つにされても、ここでは本当の死ではない。トリオン体におけるそれは偽物の死なのだ。
 しかし、米屋はその度に死んでいると思っている。相手をその度に殺していると思っている。
 だって、その方が絶対面白いじゃん。
 剣呑である。
「お前のそういうところ、ひくわ」
 そう言うのはボーダーに入ってからの友人である出水公平だった。
 彼はトリオン量の多さを見込まれてボーダーに入隊した。時期は米屋より一年近く早い。友達と連れ立って、ノリで入隊試験を受けに行ったら、出水だけが合格だった。家にボーダーの偉い人(今思えば忍田本部長だよなあ。唐沢さんも来てた。母ちゃんがイケメンイケメンうるさかったよ。父ちゃんを説得してたもん。でも、城戸司令来てたら、母ちゃんビビって断ってたわ)が来て大変だったという。
「そんで、俺はそのままなんとなくの入隊だからな」
 入隊した彼は瞬く間にA級部隊の一員となったという。遠征にも行く。近界への遠征はA級隊員に限定して秘密裏に行われている。顔が広く、聞くともなしに情報の集まってくる米屋でも最近知ったことだ。彼の属するB級隊員では知らない者が多い。
 俺も行ってみたいなと米屋は思う。
 そこが最前線だ。
 行くためにはA級を目指さねばならない。ボーダーの基準では地道にランクを上がっていくしか方法がない。
 偽物なら命のやりとりが何回でもできるのがいいけれど、では、なんのために偽物の命で戦っているのか。
実際に殺すためだろう。
 病的な衝動ではない。正確に言えば、彼がよく揶揄されるような戦闘狂のそれでもなかった。
 彼のきわめて健康な精神からくるものだ。
 その大元はやはり近界民による第一次侵攻に由来する。
 災厄の日は日曜日だった。
 当時、米屋の家にいたのは十二歳だった彼と、年寄りと、年老いた犬だった。突然の地響きと唸るような何かの音、避難を促すサイレンが響いた。何かが起こったのだ。一体、何が? テレビの地方局はずっと静止画像を映し続けていた。防災無線は避難を呼びかけているが、どこへ逃げろとは告げない。
 年に一度の町内会で行っている避難訓練の経験が役に立った。振る舞われる炊き出しのおにぎりと豚汁を目当てに毎年通っていたのだ。犬にリードをつけ、私は家に残るからお前は逃げろという祖母の手を引いて外にでた。人々は大声を出しながら、てんでバラバラの方向に逃げ惑っていた。
 少年は不思議と冷静だった。犬と祖母のおかげかもしれない。街にでかけたはずの両親のことはひとまず考えない。中学生になってようやく買ってもらったばかりの携帯端末にも連絡はなかった。耳障りな音や煙、地響きは東の方角からだったから、北西にある高台に向かった。車がすごい勢いで追い越していくのを避けて、むしろゆっくりと迂回して高台を目指した。頭上を戦闘機が轟音をたてて飛んでいった。祖母を助けながら、たどり着いた高台の神社から、彼は『それら』を初めて見た。『それら』に街が蹂躙されるのを見た。
 圧倒的な暴力に恐怖は感じなかった。遠くからだったかもしれない。ただ、頭の中は回転し、このあとどうすべきかを淡々と算段していた。
 両親は無事で、米屋の家は被害に会う事はなかったが、その思考は、ボーダーと名乗る謎の組織が『それら』を駆逐し、三門市にひとまずの 安心が訪れても途切れることなく続いた。『それら』の正体が近界民であると説明され、災厄は異世界からの侵攻であると断定され、廃墟に巨大な本部建物ができ、警戒区域にしか近界民が現れないと保障されてからも。
 徐々に日常は戻り、時折聞こえてくる閃光と爆音に人々は最初はおびえ、その後慣れていったが、彼はおびえも慣れもしなかった。
 ボーダーと国庫からくる潤沢な資金を糧に三門市は急速に復興が進んだが、それゆえ大きな矛盾を抱え、住民の、特に若い年齢層の一部は荒んでいた。
 その頃から、ボーダーは十代の若者に対して隊員募集を大々的に始める。出水が入隊したのもその頃だ。
 一方、米屋は急に幅をきかせてきた柄の悪い連中と付き合いはじめ、頻繁に喧嘩沙汰を起こした。問い詰める両親に彼は「戦う練習をしたかった」とあっけらかんと答えた。ボー��ーに入ることはなかった。祖母が強く反対したのだ。
 明るく優しい子という評価はどこでも変わらず、それなりの二年余りを彼は過ごした。
 しかし、災厄の日からボーダーに入隊するまでのその間、確かに彼は一人で戦場にいたのだった。
終わり
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tanakadntt · 1 year
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奈良坂透の小説(二次創作)
王国防衛戦
玄関から声をかけると、しばらくして階段から駆け下りてきた叔母は取り乱していた。
「透、よく来てくれたわ。救急に電話をかけても繋がらなくて。玲は今は眠っているけど、やっぱり苦しそうで早くちゃんとした呼吸器をつけないと」
早口で一気にまくし立てたあと、甥がずぶ濡れの上に煤だらけであることに気がついてないかのように、
「姉さんは?」
とだけ聞いた。
奈良坂の母のことだ。
「動かせる車を探してる」
奈良坂家の車は家ごと潰されていた。この家の車両もショッピングモールの立体駐車場の瓦礫の下に埋もれている。
「叔父さんは?」
「連絡が取れないの」
叔母の美しい顔が苦悩で歪んでいる。
「どうして、こんな時にこんなことが起こるの?」
言ってもせん無い事だ。玲には聞かせられない。どちらが『こんな時』で、どちらが『こんなこと』なんだろう。どちらも緊急事態だった。因果関係はあるかもしれない。地響きが止まない。戦闘機が高度を低くして飛んでいく。衝撃で家が嫌な音を立てて軋む。玲の身体には障るだろう。
「俺、病院まで連れていくよ」
「透ちゃん」
叔母は思わず小さい頃の呼び名で呼んだ。奈良坂は十二歳の少年だったが背は高い。
「玲は軽いから大丈夫だ」
叔母は頷いた。
「そうね。私も一緒に行くから交代で背負いましょう」
開けっ放しの引き戸の玄関から雨の音に交じって、ウォォと咆哮のような音が聞こえる。人の声なのか『あれ』の声なのか。
「いつもの道は通れない。『あれ』を避けて通らないと」
「そうね」
覚悟の決めた表情の叔母は階段を上がって行った。雨で玲が濡れないようにしないといけない。奈良坂は勝手知ったる家の中を物色し始めた。
奈良坂透の第一印象はなんと言っても、品のある端正な顔立ちである。街を歩いていればすれ違った人間が振り返る程の美形である。筋の通った鼻梁といい、切れ長の目、引き締まった口元といい、隙のない造作であった。男女問わず、密かに『ナラサカ王子』と呼ばれている。
しかし、浮いた噂はない。
「あまりのイケメンぶりに遠巻きにされている��というのが同学年で同じ六頴館高校に在籍する辻新之助の分析で、辻が彼とよく一緒にいる理由は彼の威光を借りて女子を遠ざけるためである。辻は女性が苦手なのだ。『奈良坂フィールド』とは辻と同じ二宮隊の犬飼澄晴が命名した現象で、そう揶揄するほどに不思議なバリアがあった。
原因は整いすぎた顔だけではない。彼の無関心にも由来する。
女子の熱い視線も何処吹く風といった態度なのはやはり環境だろう。美しい母、母によく似た姉、母の妹であるたおやかな叔母、そして叔母の娘である那須玲である。よく似た顔立ちの美しい一族。女性を意識するのが難しいほど、彼は子供時代を彼女たちと過ごした。
同い年のいとこである玲は病弱だったが、現在はトリオン技術の被検体になることでボーダーに所属している。
彼女は実験にしては期待以上の活躍をしてのけた。彼女には才能があった。突出した変化弾の遣い手と呼ばれ、A級トップの出水公平に並び、弾バカと呼ばれているほどだ。
指揮能力にも優れている。那須隊を結成、エースであり、隊長を務める。
「透、ありがとう」
叔母はよく涙ぐんで礼を言い、奈良坂を困惑させる。
「こんなに楽しそうな玲を見ることが出来るなんて」
彼女のそれまでの十六年間が楽しくなかったとは奈良坂は思わない。子供の頃から、彼女は聡明で、さらに気が強いところがあった。女王のように奈良坂に振舞ったものだ。しかし、トリオン体で飛び跳ねる玲を見るのは奈良坂自身が楽しい。叔母と叔父もそうだろう。
·····あの日、危ういかと思われた玲の容態は混乱の中でも受け入れてくれた医療関係者の尽力により落ち着いたのだが、すぐさま他県への転院を迫られていた。
ベッドが足りないのだ。重傷者の数も許容を遥かに超えている。しかも、急にメディアに姿を現すようになったボーダーという組織によれば、まだ『あれ』は、やってくるのだという。
病弱な一人娘を中心に動いている叔母の家にとって、転院は三門市から出ていくことを意味する。
しかし、そうはならなかった。
家もなくなり、ひとまず叔母の家に身を寄せている奈良坂はあれやこれやと忙しい大人たちの代わりに姉と交代で玲の傍にいたから、玲が両親と医師にそう宣言した時もそこにいた。
「私は動きません」
彼女は身を起こすこともまだできないでいた。
「残ることにします」
「玲·····」
玲は口角をあげた。無理やり笑ったのだ。
「お母さん、私、死ぬならこの街がいいわ」
たしかにこの状態で、見知らぬ土地に動くことは賭けになるかもしれなかった。
彼女は残ることを決定した。
ならば、奈良坂のすることはただひとつだった。
終わり
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tanakadntt · 1 year
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三輪秀次の小説(二次創作)
【4】
四 七月 古寺章平
E per me nuovo Capir nol so.
(初めてのことで、僕にもよくわからないのだ)
ウォルフガング・アマデウス・モーツァルト『フィガロの結婚「恋とはどんなものかしら」』
 スマホの音楽アプリに、有名なアリアをダウンロードするくらいには古寺の頭はおかしくなっていた。
 三門市も梅雨が明ける。もう夏が始まる。中三の彼にとっては受験生の夏である。しかし、塾の夏期講習はキャンセルした。
 ボーダーに入隊したのは二ヶ月前、ポジションは最初から狙撃手を選んだ。自分に合っていると思ったからだ。昔から、何事も遠くから俯瞰して眺めるくせを持っている。
 近界民侵攻から三年、仮設住宅にもようやく慣れてきた。壁は薄い、部屋は狭い。寒いと暖房が、暑くなるとクーラーの効きが悪いと母親はいつもぼやいている。男子三人を抱える家庭にとって、特に夏休みは母さん発狂案件だった。長期休みが来るたびにそろそろ新しい家をという話になる。
それは、三門を離れるか残るかという話でもあった。司法書士である父ならば他の土地でも仕事はできる。それでも、故郷の街を離れるのはかなりの勇気がいるらしい。しかし、この土地に住み続けるにはある一定の覚悟が必要だった。街が近界との境目に位置しているからだ。国と三門市からは住宅斡旋の補助が出ているが、再び住居を手に入れるにはまだ覚悟が足りない。そんな人たちが仮設住宅にはたくさん住んでいる。
 古寺はこの歴史のある街に愛着があ��たので、ボーダーに入隊することで、家族の気持ちを後押ししたい気持ちがあった。
 愛着があるだけではない。古寺には三門市を離れたくない理由が他にもあった。
 古寺には近くにいたい人がいるのだ。いま、離れたくない人が。この気持ちがどういうものなのか、彼は知りたい。
E per me nuovo Capir nol so.
 初めての気持ちで、古寺にもよくわからないのだ。
 だから、彼自身にもそれが恋だとか何だとかはまだ言えない。恋とはどんなものなのだろうか。
 作戦室目的で奈良坂を入れたと豪語するわりには、米屋は部屋に居つかなかった。相変わらず個人ランク戦に忙しい。
 作戦室はまだ備え付けのロッカーとテーブル、オペレーター用のデスクがあるだけの部屋だ。三輪はA級の部屋よりは狭いなと感じる。
 …やはり、狙撃手二人体制がいい。
 奈良坂は自分のノートを見ながら、そう主張した。やりたいことがいろいろあるらしい。
 三輪は奈良坂の意欲が嬉しい。一緒にあーだこーだ言っていると、大抵、米屋はもう個人ランク戦行ってきていい?と言い出す。聞いてないわけでない。理解したし了承したから、もういいだろうというサインだ。了承しなければ、要所要所で口を挟む。わかってきた三輪はあとで俺たちも行くからなと送り出す。それがここしばらくパターンとなっていた。
「で、目星はついているのか?」
「候補がいる」
 優しげな風貌だが、見た目に反して俺様であるスナイパーは胸をはった。
「それなら、まかせる」
 狙撃手のことは狙撃手に任せたほうがいい。それよりも、戦闘員四人体制のチームについて、考えることはたくさんあった。楽しい。楽しいだけではなく、問題もある。四人体制のチームは少ない。オペレーターに負担がかかるのだ。月見との細かい打ち合わせも必要だった。
「えー、俺はこれから辻ちゃんと戦うんだけど」
対戦ブースである。
辻新之助は二宮隊の一員である。その縁で、三輪もここ最近で知り合った人物だ。さすが二宮が選んだだけあり、かなり優秀なアタッカーである。控えめな印象を受けるが話せば明るくて人当たりもいい。コミュニケーション能力が高い人間であると思うが、何故か女性に対してはそうもいかないらしい。
「秀次と奈良坂にまかせるよ」
 奈良坂の推す狙撃手に会って来るのだが、と誘ったところ、案の定、米屋は個人戦を優先したいようだ。
「秀次だって、奈良坂に任せてるんだろ」
「俺はいいよ、米屋くん行ってきなって」
遠慮する辻に申し訳ないが、三輪と奈良坂では進む話も進まない可能性がなきにしもあらずだ。奈良坂には言えないが、三輪は奈良坂が自分と同類ではないかと思っている。つまり、コミュニケーション能力が低い側だ。
辻には詫び、三人で待ち合わせをしているというロビーに向かう。
 
何、このキラキラ感。
顔面偏差値の高い集団に囲まれて、古寺は赤面している。彼は年頃ではあるが、容貌についてはそれほど頓着しない。ましてや、ここは実力主義のボーダーである。これは、あれだ、あれ。教室で女子が読んでる漫画。アレのキラキラ感。読んだことはないのだが。
高いのはそれだけではない。戦闘力である。古寺の家にも積まれている小学生男子のバイブル的漫画(侵攻で一度焼失したが下の弟のためにサンタが去年持ってきてくれたものだ)で登場するアイテム、スカウターで測れば戦闘力は五十三万までは行かなくとも結構な値が出るのではと思わせた。
新人王である奈良坂は言わずもがな、A級隊員だった三輪、個人ランク戦強者の米屋、この三人が隊を結成したその日にはC級隊員に激震が走った。
B級ランク戦に再び波乱の予感だ。ランク戦を見たくて、ボーダー入りしたC級隊員は意外と多い。
その三人がなぜ自分に。
「話はわかりました。でも、なんで俺なんですか?」
「奈良坂が決めたから」
「奈良坂が推すから」
アタッカー二人は、奈良坂を見る。古寺も当然向いた。
「奈良坂先輩?」
奈良坂は表情を変えずに、首を少しかしげた。
「マップ」
「え」
「…合同訓練のときにマップを読むのが俺よりうまいと思った」
狙撃手は正隊員との合同訓練で三週連続で上位十五%以内に入ることにより、B級に昇格し、正隊員となる。夏期講習をキャンセルした罪悪感を消化するため、ひたすら訓練に励んだ結果、結構な速度で古寺はB級へと進んだ。しかし、特に目立つことはなかった。いまや狙撃手は人気ポジションであって次々と話題のスナイパーが登場するし、転向してくる隊員も多い。さらに不動の上位陣は常識外れなほどに技量が高かった。
奈良坂は上位陣の中でもトップに君臨する一人である。
光栄な話だ。二つ返事でひきうけたい。
でもでもでも。
古寺は未練があるのだ。
宇佐美栞は、古寺より一つ年上の風間隊のオペレーターである。今シーズンで風間隊はA級へ駆け上がった。正確に言えば、まだ、A級への挑戦権を行使していないが、おそらく、駆け上がるであろう台風の目である。
その立役者と言われるのが、高校一年生になったばかりのオペレーターだった。宇佐美だ。風間隊のコンセプトを立案し、その戦略に沿った人間をスカウトして実現した。もちろん、隊長である風間が主体だろうが、それを差し引いてもおよそ、高校生のできることとは思えない。
しかし、古寺は宇佐美らしいと思った。彼女ならば、お手のものだろう。得意分野だ。
宇佐美とは同じ中学で生徒会に在籍していた。彼女は改革者だった。彼女の手腕により、学校があっという間に新しい姿に変わっていく様子は恐ろしいほどだった。苛烈ではない。現状を肯定しながらも、いつの間にか現状自体が変わっている。
彼女が三年生の途中で、ボーダー入隊のために辞めてしまったのは、おそらく彼女の理想の形に変革し終わったからだろう。
「章平くんとは眼鏡仲間だね」
彼女と話していると、頭の中がきれいに整理されていくようだった。頭の良い人と話すとはこういうことかと、感心したものだ。
彼女と話すのは好きだった。彼女のことを天然と揶揄するものもいたが、理路整然としているのに、型にはまらない喋り方が心地よかった。
ボーダーに入隊した彼女を追うようにボーダーに入ったのは、思い詰めてではない。あの声をまた聞きたいとなんとなく、そう、なんとなく思ったのだ。なんとなく離れがたくて。
「章平くん、ボーダーに入ったんだ」
もちろん、宇佐美は古寺を覚えていてくれた。また、声が聞けて嬉しかったけれど。
それから先の感情は古寺はまだ知らない。意図的だろうか、おそらくそうに違いない。頭の良い人だ。現状を把握するのも上手い。そして、現状を肯定しながら操るのは彼女の得意分野だ。
やんわりとそこから先にすすむことは拒否された。何か態度に出たわけでもない。言葉はない。けれども、この初めての感情がそこでストップされてしまったのだ。
もちろん、今更、風間隊に入れるわけもない。
古寺は今、ただ途方にくれている。
古寺の葛藤は表面には出なかったようだ。
「マップ?」
「マップ?」
奈良坂の意見にアタッカー二人は、意外そうな表情をしている。
「マップは月見さんが担当だろう」
「それがいけないと思う。三輪も米屋も、マップが読めていないだろう」
「読める」
「戦術の問題だ」
「わかっている」
地図の読めない男だと言われた三輪は反論する。東にも、月見にも散々叩き込まれているのだ。急に喧嘩腰で喋り始めた奈良坂と三輪を目の前にして、古寺はこの人たち、仲いいなあと思うだけだ。
「古寺がビビってんじゃん」
地図の読めない男そのニがフォローに入る。
「いえ、そんな。皆さん、仲がいいんですね」
ありがたい話というのは別として、この仲良し三人のなかに自分が入ってやっていけるのか。
「大丈夫だ。別に仲がいいわけじゃない」
古寺の不安を見透かして、奈良坂が言った。
「こいつら、相性とか気にしないらしいから」
奈良坂の顔は端整すぎて表情が読めない。
「どうする?」
終わり
五に続く
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五 七月 三輪隊
三輪隊への入隊届を出した、その足で作戦室に向かった。初めて足を踏み入れた作戦室は殺風景だった。
案内するほどもない狭い作戦室の壁際に小さな机が置いてある。
「古寺くん、受験生でしょう。ここで勉強したらと思って」
月見は古寺に遠慮するすきを与えず、テキパキと椅子に座らせた。
「広さはどうかしら?」
「ありがとうございます」
「奈良坂から聞いた。六穎館だろ」
「はい、一応」
「スゲエ」
米屋が腕を後ろにまわしたまま、大げさに感嘆の声をあげる。奈良坂が気遣わしげに見てくる。彼は中学受験組だったそうだ。
地域一番校である六穎館高等学校の今年の入学審査が今までにない激戦であるのは周知の事実だ。
今年度の受験生が小学六年生のときに近界民侵攻は起きた。このため当時、中学受験を断念した者が多く、彼らのうち、県外に出なかった者は高校からの入学を目指す。さらにボーダー提携校になったことも非常に大きい。同レベルの高校を目指していたものが、六穎館に志望校を変更する者も多い。内申点四五/四五を誇る古寺であっても、本来ならば気を抜いていいものではない。皆の心遣いが嬉しかった。
自然と笑みが浮かぶ。途方にくれた、寄る辺のなさはまだあるけれど、それはそれで悪くないと思えた。
「がんばります」
「明日はここに学校が終わったら集合、打ち合わせをしながら昼。明日は、みんな、午前で学校終わりだろ」
「そうだっけ?」
「終業式よ」
「通知表、みんな持ってこい」
「なんで」
「確認するわ、成績は任務遂行の上でも大事よ」
「誰が決めたんですか」
「城戸司令」
「ホントですか?」
「夏休みかぁ、プール行きたい。今年オープンした市営プール、超いいらしいぜ。栞が風間隊で行ったらしい」
「風間隊!? 栞って、宇佐美先輩のことですか?」
「ああ」
米屋はこの展開に相当馴れているらしく、すぐに、ニヤリと笑った。
「宇佐美栞は俺のいとこ」
「マジですか〜?」
「俺はプールは行かない」
「泳げないんだろう」
「そんなことない」
「海もよくね?」
夏が来たのだ。
次のシーズンが始まる。
終わり
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tanakadntt · 1 year
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三輪秀次の小説(二次創作)
【3】
三 六月 奈良坂透
「結局、エントリーしなかったじゃん、ランク戦」
「スナイパーが見つからなかったからな」
「遠距離かあ」
 出水は箸を動かす手をとめて、うーんと首をひねった。三輪隊はいまだ結成されていない。
 昼休みの学校である。米屋、出水と共に机を囲んでいる。米屋はもちろんのこと、出水とも弁当を食べる機会も出来て、三輪はうれしい。射手の天才も話してみれば普通の高校生だ。人間とは奥深い。
「スナイパーがブームだから探せば見つかるんじゃねえの?」
 隊を解散した直後から、東はスナイパーの育成に力を入れている。『最初の狙撃手』である彼の指導が直接受けられるとあって、狙撃手訓練室は希望者が殺到している。
 確かにそうなのだが。
「と、思うじゃん?」
 米屋がパックの野菜ジュースを指揮棒のように振ってみせた。
「何か問題があるのかよ」
 どや顔で、あるんだなと返す。
「もったいぶるなって」
「ウケるんだって。前の隊で一緒だった狙撃手の腕がすごすぎて秀次の狙撃手に求めるレベルがおかしい件。」
「は?」
 出水はしばし沈黙した。
「あーあーあー、それ?」
「それ」
「それかあ。ないわ、それはないわぁ」
 三輪は黙って、あんパンを食べるしかない。
 既に暦も来週には七月である。
 先だって、二宮隊、加古隊両隊とも晴れてランク戦デビューを果たした。両隊とも現在、いい成績も残している。
 今回、三輪は参加を見送った。ふたりでやろうぜと言う米屋に悪かったが、三輪は諾としなかった。二人で戦って勝つ道筋はやはり難しいと判断したからだ。部隊結成の申請もまだである。
 狙撃手に求めるレベルがおかしい件。であるが、それほどおかしいレベルを求めているとは三輪自身は思っていない。実戦で使えるレベルと考えると、最近入隊したばかりの新人では難しい。育てていく余裕は今の三輪にはない。実力をそろえておきたい。同じく狙撃手をチームに入れた二宮にも相談したら同意見だったが、二人とも感覚がおかしくなってるのだと言うのが、米屋の主張である。
 そんな話をした午後、三輪は米屋と本部にいた。五月からこちら、なるべく米屋と一緒に防衛任務にあたるようにしているが、近くで戦うほどに米屋の底知れなさを感じている。強いだけではない。彼は優れた戦術家だった。判断が早く的確で、しかも独断専行しない、必ず周りの状況に気を配る。連携がしやすいのだ。チーム戦にとって、この連携が重要だと三輪は考えている。エースはいらないというのが、三輪の結論だった。
 任務を終えてさらに、米屋はブースに行くという。個人戦の約束があるらしい。 三輪は米屋の個人戦を見学するか、ロビーで月見を待つかを迷っていたときであった。
 彼独特の軽い口調が三輪の名を呼んだ。
「よお、秀次」
「……」
 三輪はただ、沈黙で答えた。
 食う?と差し出された菓子袋は無視した。油菓子は嫌いである。遠慮なくと言いながら、米屋が手を突っ込んでいる。コミュ強者め。挨拶のように、対戦を申し込んでいるが残念ながらS級は個人戦はできないはずだ。ごめんなあというヌルい返事を聞く。早くこの場を立ち去りたい。
 迅悠一は、三輪が一方的に距離を置いている人物である。身も蓋もない言い方をすれば、敵であると言っていい。少なくとも三輪はそう思っている。
 彼の能力は未来を見晴るかす。神のサイコロを持つ男である。同時に、神を欺くいかさま師でもあった。なぜなら、覗き見た未来を自分の望む方角に寄せることができるのだから。
このチーターが一体どういう経緯で、ボーダーという民間組織に身を置いているのか、三輪は知らない。
 この男の何がいやなのか。まだ十五才の三輪には明確な理由をあげるのは難しい。立っている場所が違う。見ている方向が違う。同じ方向をみるつもりはない。三年前から、三輪は未来などいらないのだ。それをつゆほども気にせず、話しかけてくるのが腹立たしい。何者なのだ。何者のつもりなのだ。お前が正しいのか。この分け隔てなさも不気味なのだ。もう放っておいてくれと思う。一度は彼の選択した未来から外れた身の上なのだ。
「ああ、秀次」
 いつものふわふわとした口調で彼はついでのように付け加えた。
「いま、ブースに行かないほうがいいと思うよ」
「行く」
「秀次、待てってば」
 本部ブースである。行くしかないだろう。前を行く三輪に、米屋がいささか呆れ気味でついてくる。元々の目的地でもある。そこには果たして米屋を待つ人物がいた。
「米屋ぁ、遅い」
「当真さん、ごめんよ」
 リーゼント頭の彼は当真勇という。入隊時期は米屋と一緒である。一つ年上の背の高い男だ。約束していたのは、この男らしい。
 三輪は黙って頭を下げた。
「ああ、東さんとこの坊主」
 一コしか違わないだろうと言いたいところをぐっと我慢する。彼はスナイパーである。彼を指導する東は冗談で『デューク』になれる逸材だと賞賛していたが、三輪にはその比喩はちょっとわからなかった。が、彼はスナイパー向きではないと密かに思っている。突出した才能とそれゆえにある自負が邪魔をして後方支援には向かない。
「早速、対戦しようぜ」
 ところが、当真は眉を下げた。
「それがなあ、米屋。ちょっと、予定が入ってな」
 えー、と米屋がぶうたれる。
「わりいな」
 真木ちゃんがさあと続ける。この男は最近結成された隊に入ったばかりだ。ボーダー上層部の思惑どおり、B級隊の結成ブームである。
「あのきつい感じのコねえ、当真さん、いっつも怒られてそう」
 米屋の軽口にそうなんだよと応えながら、こちらを見下ろした。
「お前ら、組んだのか」
「はい」
「登録まだだろ。部隊結成の届け出も出していないのかよ。二人だけでも出せるだろう?」「遠距離手が決まっていないので」
「ぼやぼやしてんな。俺んとこなんざ、俺とマキリサの二人だぜ」
 そうは言われても、スナイパーとオペレーターだけの構成で申請するのがおかしいのだが、三輪は何も言わなかった。自分も少し前までは同じような立場だったし、どのみち、彼は狙撃手でありながら、いわゆるエース向きという変わり者なのだ。
 当真は顎をかいた。
「んじゃ、ドタキャンのお詫びに俺の次にうまい狙撃手を紹介してやるよ」
 俺としても好都合だし、とつぶやく。米屋がちらりと三輪を見た。先程の迅との一方的な会話が嫌でも思い返された。
『ああ、秀次。いま、ブースに行かないほうがいいと思うよ』
 未来視か。
 なんのつもりだ。いや、なんのつもりもないのだろう。ただの気まぐれだ。
 そういうわけで三輪は不機嫌である。
 出来ることなら断りたかったが、当真が純粋な好意から申し出ているのもわかっている。もしかしたら、迅が関与していない可能性もなきにもあらずだ。
 当真とともに訪れた狙撃手訓練室にはイケメンがいた。
「おおい、奈良坂ぁ」
 合同訓練、個別訓練ともすでに終わったらしく、閑散としている。見学席でノートに何かを��きとめていたイケメンは、ちらりとこちらを見たあと、ふいっと顔を背けた。無視か。
「おうおう、無視すんなよ」
 慣れているらしい。当真は気にせず、彼の横に腰を下ろす。ノートをちらりと見て、真面目だねえと言えば、イケメンはさっと鞄にしまった。
「どお、こいつ、お買い得だぜ」
「は? お買い得ってなんですか? 当真さん」
 随分とんがったイケメンである。
「こいつら、スナイパーを探している米屋と三輪。一コ下だからお前とタメだろう? 一緒に隊を組んでやったらどうだ?」
 簡潔かつド直球な物言いに、こんな時であったが、三輪は当真をかなり見直した。三輪にはできない。出来なくともやれ、そして隊員を見つけてきなさいと月見に言われている。イケメンはじろりとこちらを見た。塩対応をものともせずに、当真はニヤリと笑って、長い脚を組んだ。強者の貫禄だ。
「奈良坂、お前、俺と戦いたいんだろう? 隊に入れよ。俺、すぐにA級にのぼっちまうぜ」
「当真さんの紹介なんてごめんだ」
 俺は真木ちゃんと約束があるから、あとはお若い三人でと当真が消えたあと、イケメンはそう言い放った。とりつくしまもない。
「そう言われても、俺は何も悪くないんだが」
 しかし、三輪はひるまなかった。元々、迅のせいで機嫌が悪いのだ。
「まあまあ、秀次」
 米屋はさすがのニュートラル平常運転だ。
「俺、知っているぜ。今シーズンの新人王」
「まあ、一応」
 ぼそりとイケメンは答えた。
 新人王とは新入隊員でそのシーズンに一番ソロポイントを上げた隊員のことである。
三輪は目を見開いた。フリーでポイントをそこまであげるのはから相当なことだ。
「なんだよ」
 イケメンも機嫌が悪い。
「さっき、当真さんの言った通りだ。フリーと聞いたが、隊を組む気はあるのか?」
「お前らが強ければね」
 三輪はそうかと頷く。
 そうでした。ああ、そうでした。スナイパー、超めんどくさかった。前隊にいた頃、訓練で東に二宮、加古と三人で仕掛けたときを思い出す。
 対戦ブースでのイケメンとの模擬戦の最中である。ここのところ、米屋と手合わせすることが多く、スナイパーとの対戦は久しぶりだった。
「わりぃ、秀次」
 そういいながら消えていく相方を見送る途中で、三輪もヘッドショットを受けた。  結果、2ー8である。三輪にしてみれば惨敗だ。イケメンは強いイケメンだった。
 三輪をおとりにして、米屋が突っ込んだのが成功したが、一回のみ。
 斜線を切りまくって、近づいて倒したのが一回。
 とにかくイケメンの場所がわからない。気がついたときは撃たれている。しかも、予想した場所よりかなり遠くから。
「弱いね」
 フロアに出てきた彼は涼しい顔である。三輪はソファにめり込んでいた。悔しいのだ。米屋との連携もほぼ完成したつもりだったが、まだ甘さがあった。
「これで諦めてくれる?」
「いやだ」
「は? 弱いだろ」
「いや、もう一回十本やったら勝つ」
「どこからそういう自信…」
「事実に基づいた推測だ。やってみればわかる」
「やらない」
「大体、俺が弱いは関係ないだろう。俺はチームの強さの話をしている。弱いなら、お前が入ればいいだけの話だ」
「いつからそんな話になった」
「筋は通ってる。元々、俺は近距離だけでは勝てないから遠距離を探している」
「だったら、探せよ」
「当真さんからお前を紹介された」
「俺は頼んだ覚えはない」
「どっかのチームに入るんだろ? そんだけの腕を持ってたらどこでもいいだろ」
「へりくつだ」
「選ぶな」
「俺の勝手だろう」
「とにかく、もう一回対戦するぞ、お前、ええと」
 イケメンと呼ぶのは、流石にはばかられた。
「覚えてないのによく誘うな」
「俺の名前だって覚えてないだろう?」
「三輪だろ。東隊の。大体、普通、対戦ボードみるだろ?」
 果てしなく続くと思われた争いに終止符を打ったのは米屋ではなかった。米屋はずっとニヤニヤ眺めていたのだ。
「こらこら、こんな場所で喧嘩するんじゃない」
「してません」
「してない」
 二人が振り向いた先にいた人物を認識して、二人は固まる。そこにいたのは、東春秋であった。
 二人を前に、東はニコニコしている。
 なぜここに。いや、それよりも笑顔が三割増しである。おそらく、おそらくだが、自分に喧嘩できる相手がいてよかったと思っている。それがわかって、三輪は赤面して下を向いた。
「失礼しました」
 ぼそりとそれだけつぶやくと、奈良坂はぷいっと顔を背けた。彼も東に師事しているはずだ。
「…東さんがまた新しく隊を作ると聞いたんですが」
「ああ」
 イケメンをちらりと見る。
「その、新しい部隊に俺を入れてもらえませんか」
 三輪は感心する。胆力がある。言い出すタイミングもいい。間違えていない。スナイパー向きだ。
 一方、奈良坂はダメで元々の大勝負だった。東のもとでもっと技術を磨きたい。隊を結成すれば、それにかかりきりになる。彼は当真とは真逆の勤勉な狙撃手だった。
「すまんが、無理だな」
 いきなりの申し出だったが、東はよどみなく応えた。
「俺がスナイパーをするからな」
 奈良坂は諦めなかった。
「二人スナイパー構成はどうでしょうか?」
 三輪が顔をあげた。
「それ、面白いな」
「お前に聞いてないよ」
 カチンときて、ギロリとにらんだが、あまり気にしていないようだ。
 にっこり笑った東は二人の頭をなでた。俺もう高校生ですが、と言いたかったが、口に出せない。
「今度、三人で遊びにおいで」
 そのまま、ふらりと行ってしまう。三人は東の背中を見送った。
「遊びにこいって、どこに?」
 米屋の問いに三輪が答えた。
「作戦室かな? 多分、新しく作戦室を申請するんだと思う」
「いいな、作戦室あこがれねえ?」
 米屋が奈良坂に屈託なく話しかけた。
「なあ、奈良坂。一緒にやろうぜ、とりあえずでいいからさ。作戦室いいじゃん」
 秀次が狙撃手を入れないと隊の申請しないって聞かないんだぜと続ける。 そのためか。奈良坂は唐突にバカバカしくなった。
「お前らとは合わないよ」
「俺はあまり相性とか気にしないぜ」
 戦えれば、と米屋。三輪も腕を組んだまま、頷く。
「問題ない。安心しろ。俺もそういうのは考えたことはない」
 奈良坂はため息をついた。
「…他に行きたいとこができたらやめるけど」
「かまわない」
「…ほんと、それまでだからな」
「とりま、作戦室ゲットしようぜ」
【4】に続く
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tanakadntt · 1 year
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三輪秀次の小説(二次創作)
【2】
ニ 五月 米屋陽介(と出水公平)
 そして、入学式が始まる前の教室である。クラス分けの発表があったばかりだ。
 期待と緊張が入り交じり、ざわめく教室の中で三輪は誰にも声をかけられずにいた。そもそも誰がボーダーかもわからない。提携校なのだから石を投げれば当たるほどいると聞いていたが、皆が皆違うように思えた。本部で会っている者もいるはずだが、人の顔を覚えるのも三輪の苦手な分野だった。
 クラスの中でボーダー隊員であるとわかっているのは、一人だけだ。
 入学式当日に、すでに友人らしき人物と楽しげに話している陽キャを見つめた。
 出水公平である。
 三輪にとって彼は、太刀川隊の天才シューターである。ボーダー隊員のなかでもずば抜けたセンスと圧倒的なトリオン量を誇る。合成弾の開発者でもある。これにより、東隊のA級一位の立場も最後のシーズンにはひっくり返された。悔しい。その後、先輩二宮が頭を下げて教えを請うた人物だ。
 それだけではない。人なつこく明るい性格で、コミュニケーション能力が高い。
 こういう人物が隊長向きではないだろうか。三輪は我が身を省みた。月見の指摘が思い返される。
 出水の横にいる友人とおぼしき人物は、入学式というのにカチューシャで長い前髪をあげていて、やはりコミュ強者という風格だった。
 米屋陽介である。
「出水、何ビビってんの?」
 米屋陽介がちらりと三輪に視線をやった。
「しぃぃっ、視線あわすと噛みつかれるぞ」
「なにそれ」
 一方の出水は三輪の強い視線を受けて、内心戦慄していた。
 彼にとっての三輪は、東隊の狂犬アタッカーである。最近は銃も使う。その鉛弾が叩き込まれると厄介だ。容赦はない。弧月でぶった切られるときの鋭い目つきに明確な殺意を感じる。格上にも平気で挑み、勝てば当然といいたげな涼しい顔、負ければギリギリと歯ぎしりしそうな様子で悔しがっている。よく太刀川に噛みついている。迅、嵐山と誰もが好感しかいだかないであろう人物にも恐ろしいほどに攻撃的だ。何、怖い、この子。
 なんでそこまでと思うが、誰も気にしていないので、出水も空気を読んでそっとしておくことにしていた。そういえば、同い年だったなという認識だ。同じクラスになったのか。
「めっちゃ、お前のこと見てんじゃん。あいつ、知ってる。解散した東隊だった奴だろ」
 米屋とはボーダー本部のブースで知り合った。目が合うなり、いきなり個人戦に挑まれたが、それからよくつるんでいる。ノリが合うのだ。入隊は最近らしいが個人戦を重ねてあっという間にB級にあがった。とはいえ、上昇志向とは無縁で単に戦うのが好きという戦闘狂だ。米屋は無理やり思い出すようにこめかみに指を当てた。
「…確か隊員を募集してたな」
 知らなかった。
「へえ、あいつも隊を作んのか」
「『も』?」
「ああ」
 三輪は狂犬だったが、優秀な猟師にしつけられた猟犬でもあった。指揮官が描いた盤面を猟犬たちが静かに展開し、敵を次々と屠っていく様は見事なものだった。彼らの追い詰める獲物とは自分たちのことであったが、毎回、テキストをすすめるように替わる戦術と戦局を楽しみにしていたのだ。
 二宮、加古に続き、三輪までも隊を立ち上げようと動いている。
���これは面白いぜ、きっと」
「あ」
 本部である。
 三輪は現在隊に所属していないので、防衛は混成チームに参加して当たっている。誰かスカウトできないか目を光らせておけと優秀オペレーターの厳命に従い、なるべく参加しているが、彼と一緒になったのは初めてであった。
「米屋」
 カチューシャの彼はニヤリと笑った。同じクラスで、出水の友達だ。クラスの中でもとてもニュートラルな人間である。というのが、人間観察術を身につけようと努力する三輪の見立てである。誰に対しても偏見がない。無愛想で距離を置かれがちな三輪にも気軽に接してくれる人物でもある。
「米屋はボーダーだったのか」
「なんだよ。知らなかったのかよ」
 みんな知ってるぜと米屋はあきれた顔をした。
 すでに五月も中旬である。クラスでのスカウト活動は進展していない。積極的でないのもある。この一ヶ月近くは、月見に戦術をスパルタでたたき込まれている。人間観察はその修行の一端だ。鉈でざくざくと自信が削りとられていくような厳しさに、すでに三輪のライフはゼロに近い。目の下には隈が出来ている。いまだに隊員の応募もない。
 米屋はネイバーの口元にある急所にスコーピオンを叩き込んだ。
「いっちょ、あがりっと」
 軽口だがやっていることはすごい。
 防衛任務を共にこなして、三輪は米屋の強さに驚いている。二人一組で哨戒に当たっているところに門が開いたのだ。
 強い。トリオン量が少ないと言っていたが、それを補う高い技量を持っている。スコーピオンの使い方も独特で彼のセンスを伺わせた。これほど強いのなら、どんどん結成されている新しい隊に声をかけられているのではないだろうか。
 その疑問を口にすると、米屋は直接答えず、逆に問うた。
「うーん、三輪はさあ、どうしてボーダーになったんだよ」
 ボーダーではよく聞かれる質問だ。
 三輪の答えによどみはない。誰にどんな場面で聞かれても、こう答えてきた。
「近界民に殺された姉さんの仇をとりたいんだ」
「へえ」
 米屋は片眉をあげて三輪を見た。珍獣に出くわした表情だ。それもそうだろう。ボーダーに志願する者で近界民侵攻の遺族は不思議なほど少ない。逆にアンチ・ボーダーに傾く者が多かった。いまやボーダーは街を守る存在として憧れの存在だ。失ったものが多い人間には眩しすぎるのかもしれなかった。
 米屋はシンプルな感想を口にした。
「しんどくね?」
「わかってる」
 三輪は何の感慨もなく、うなづいた。よくわかっている。
「近界民をこの世から抹殺する。それが俺の目標だ」
 そのために強くなりたい、こう言うと、大抵の隊員はひきつった顔をする。憧れの隊員は誰? 好きなランク戦動画は?などという話の流れを一気に破壊する迷惑な代物であることはわかっている。だから、三輪は必要以上に隊員と交わらない。現在、隊員を募集するうえでそれが裏目に出ているわけだ。
 しかし、米屋はひるまなかった。かわりに、ははっと笑った。
「おっも」
「ああ」
「三輪って真面目そうって思ってたけど、ほんと重いのな、いつも? いつもそうなの?」
「ああ。うん、いや」
 三輪は首をひねって口ごもった。改めて聞かれると少し違う。
「なんだよ」
「いつもってわけじゃない…かもしれない。それじゃ、勝てないから」
 冷徹な戦局に復讐心は不似合いだ。邪魔になる場面は何度もあった。
「普通に強くないと勝てない…かな」
「普通ってなんだよ」
「普通は普通だ。…米屋はどうなんだ? ボーダーに入った理由。お前、強いじゃないか」
「俺?」
んん、と唸って、米屋は顎をグーでこすった。
「俺は楽しければそれでいいかな。強い奴と戦えればそれで」
「近界民でもか?」
「近界民でもさ」
 これ普通ってこと?と米屋が笑った。
「そうか」
 しばらく沈黙が落ちる。
「ふざけてるって、怒んねえの」
「お前が普通だって言うなら普通だ。そうだな、お前が、俺が重いって怒ったら怒ることにする」
「まあ、俺は楽しければ何でもいいからな」
「……前を向けって言われるのが一番こたえる」
 侵攻で生き残った者に対するケアを専門にするカウンセラーには何度も言われたことだ。前をむきなさい。このままだと悲しみに殺されるよ。それがお姉さんののぞむこと? 復讐なんて考えないで。
「しんどくね?」
 米屋はもう一度言った。
 そこに、
『門が開きました』
 このタイミングで、本部オペレーターからの指示が飛ぶ。
「んじゃ、『抹殺』しに行きますか?」
「そうだな」
 応えると、唐突に米屋が話を変えた。
「俺、応募してもいいぜ」
「は?」
「お前の隊に。募集してんだろ。本部で見たぜ」
「本当か」
 どうしてこういう流れになったかわからない
「嘘言ってどうするよ」
 三輪は弧月を抜いた。ぶうんと不吉な音をたてて、白い大きな怪物が現れる。
「詳しい話はこいつらを片付けてからだ」
「マジ? 三輪んとこ入るの?」
 本部のロビーである。
 月見との顔合わせで、米屋と待っているところを出水に声をかけられた。
「お、おお、そうなんだ。米屋をよろしく頼むぜ」
 三輪を向いて、手をあげる出水は少々テンパっている。米屋はひひひと笑った。
「こいつ、三輪が怖いからビビってんだぜ」
「おま、ここでそれを言う?」
 三輪は瞠目した。知らなかった。
「あー、何度もぶった切られてるからさ」
「…それは悪かったな。でも、俺は出水のほうが怖いと思う」
「な、なんで」
「強いから」
 思わぬタイミングでやってくる圧倒的な光の束を目の前にした絶望感がどれほどのものか出水は知らないのか。
 出水はびっくりした顔をしたあと、にへへと顔を崩した。
「早くA級にあがってこいよ」
 もちろんだと請け負う。
「すぐに追いついて、太刀川隊をボコボコにするつもりだ」
「三輪、おもしれえ」
「いやいや、三輪、これ本気でしょ」
「もちろん、本気だ」
 冗談でいうことではない。東隊最後のランク戦の恨みも忘れていない。
 出水は気が抜けてため息をついた。
「やっぱ、怖いわ」
【3】に続く
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tanakadntt · 1 year
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三輪秀次の小説(二次創作)
隊員募集中の三輪秀次さんですが全然隊員が集まらないんだけど、やっぱこれって隊長に問題があるんじゃないの?【1】
一 四月 月見蓮
「それはそのとおりね」
 月見は断言した。
 現在、三輪は自分に問題があるのではないか、という可能性に思い至ったところだった。
「そうなんですか?」
「それだけじゃないけど、そうね」
 優秀に超が三個くらいついてもいい敏腕オペレーターの月見蓮は微笑んだ。
 彼女が言うならそうなのだろう。
 東隊が解散という名の卒業式をうけて三ヶ月たった。三輪を含めて同隊隊員だった二宮、加古もそれぞれ三輪は中学、二人は高校を卒業である。ちょうどいいんじゃないかというのが東の理由だった。一体、何がちょうどいいのか。急な話にずいぶんこころもとない思いをしたものだ。三輪だけでなくおそらく他の二人もそうだろう。
 現在、三輪はフリーのボーダー隊員という立場である。
 東は隊を解散するにあたり、隊員に宿題を出した。
『隊を作って隊長になること』
「別に急がなくていい。これからのボーダーは加速的に大きくなる。部隊も増やしていかないといけない。これは当初からの忍田さんからの頼みである。お前達は隊長になるだけの素質はあるし、そのつもりで俺の持っているものを伝えてきたぞ」
 東は尊敬する人物である。師であり恩人でもある。
 彼に出会わなければ、自分は全く違う人間になっていたであろう。すさんだ気持ちをぶつけるように何も知らないまま入隊した自分がまがりなりにもボーダー隊員としてやっていけているのは彼のおかげであるところが大きい。
 恩返しには足りないが、彼の期待に応えたい。
 しかし、彼にとっては少々荷の重いミッションである。
 まずは単純に他にやることがあった。
 高校には進学しないつもりだったが、ボーダー推薦もある���とだし、行ける機会があるのなら行って困るものじゃないと東以下隊のメンバー全員の意見に押され、三門市の奨学金に応募したのだ。
 先輩二人の指導の下、集中した甲斐あって奨学金の受��も決まり、満を持して始めた隊員捜しは難航していた。
 まず、セオリー通りに行った隊員募集に対して応募者はゼロであった。
 元々、印象が弱い。東隊は名前が売れているとはいえ、三輪はエースではない。むしろ、足をひっぱっていると言われ続けてきた。がむしゃらに鍛錬を重ね、トリガー構成も工夫を凝らし、ようやく三人について行ける自信ができた矢先の解散だった。
 加えて、彼に妥協はなかった。隊のコンセプトがはっきりしている。三輪なりに知恵を絞った結果ベストと考えたのが、近距離と遠距離を組み合わせで、中距離をなくした構成である。戦術は限定されるが、逆に言えば強みをとことん追求できるチームである。そのためメンバーに求める役割もはっきりしていた。
 三輪自身が近距離手のため、必要なのはもうひとり近距離手、遠距離手が一人であった。
 しかし、見つからない。元々、遠距離の人数自体まだ少ないのだ。ついでに言えば、近距離も見つからない。
 かろうじて、東に頼まれて月見がきてくれたのは僥倖だった。
 はっきりいえば、いまのところ、チームはオペレーターを除けば三輪だけなのだ。
「このままだと三輪くん、オペひとり前衛ひとりの寂しい隊になっちゃうわね」
 むろん、寂しいだけではない。ランク戦を勝ち抜く上でも不利だ。
 メディア対策室の努力の甲斐あって、ボーダーの志願者が増えてきている昨今、応募者ゼロは極端だ。
 なぜなのか。
 そこで、ひとつの可能性に思い至ったわけである。
「月見さん、もしかして俺に問題がありますか?」
 ここで話は冒頭に戻る。
「それはそうね」
 月見は断言した。
「そうなんですか?」
「それだけじゃないけど、そうね」
 優秀に超が三個くらいついてもいい敏腕オペレーターは微笑んだ。
 なるほど、彼女が言うならそうなのだろう。
 原因はともかく、問題解決の糸口が見つかりそうで三輪は正直ほっとする。
 しかし、時間切れだ。
 立ち上がる
「とりあえず、入学式行ってきます」
 今日は三門市立第一高等学校の入学式であった。
「一時からだったかしら? 間に合う?」
 頷きながら、あ、と思い出す。
「何かしら」
「もしかしたら、隊員がみつかるかもしれません」
「あら、誰か心当たりががいるの?」
「いえ、入学式でめぼしいやつに声をかければ、隊員がすぐに集まるだろうって」
 月見は頸を傾げた。
「それ誰が言ったの?」
「二宮さんです」
「そう。大雑把なアドバイスね」
「そうですか?」
 あとは自分で考えろということではないだろうか。二宮は事細かな指示を嫌う。
 先日、三人で集まってそれぞれの状況報告をしたのだが、二宮と加古には応募者はたくさん来ているようだった。
 なんともうらやましい話だが、それはそれで大変なことらしい。
 オペレーターが決まっているだけ一歩リードだと言われたが、慰められているのはわかっている。
 頼りの彼女は立ち上がって、真新しい学生服の襟元をさりげなく直してくれた。
「三輪くん」
「はい」
「入学おめでとう」
 三輪は誰からもわかりづらいと言われる笑みを口の端にのせた。
「ありがとうございます」
【2】に続く
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tanakadntt · 1 year
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旧東隊の小説(二次創作)
ホッケえいひれ揚げ出し豆腐
一月か二月の頃だった。
トリオン測定ですごい数値を叩き出した新人が二人も入るそうだというのが、その夜の話題だった。出水公平と天羽月彦のことだ。
新生ボーダーが動き出して一年半になる。『旧』ボーダーという言葉が定着するほどに、時は勢いを増して流れていく。その間に、一番仕事をしたのは開発室室長の鬼怒田本吉だった。
まず、彼は異世界に通じる門の発生ポイントを特定できるようにした。次に門の発生を抑えるトリオン障壁を一時的ではあるが生成に成功、最後に門発生ポイントを誘導する装置が開発され、三門市の安心を約束する三点セットがわずか一年で出来上がる。元々の研究分野の応用とはいえ驚嘆に値する開発速度だった。
こうして、急務だった門発生のコントロールに成功した後は研究途中で放置されていた擬似トリオン訓練室の完成、隊員増加を見越してランク戦で使う対戦ブースと八面六臂の活躍である。
短期間でこれだけのことをやってのけた彼及び彼のチームは、城戸政宗司令がどこからか連れてきた逸材だった。三門市にやってきた時には一緒だった家族とは離婚している。仕事に打ち込みすぎたせいだと専らの噂だった。
開発室以外も働いた。門がコントロールできるまではいつどこで出現するかわからない。国の機関に代わって街を守るボーダー隊員たちは昼夜を問わずパトロールを行い、近界民と戦った。
三門市民は最初、胡乱な目で彼らを見ていたが、公的機関と連携した規律ある行動に徐々にボーダーの存在は受け入れられていく。根付メディア対策室室長による世論操作も功を奏していた。
出ていく人間は出ていき、かわりに大量の物資と人材が流れ込んでくる。
ボーダーにもまた人材が集まった。
まず、市民志願者第一号として柿崎国治と嵐山准が入隊する。華々しい記者会見の後、志願者はぐっと増えた。
東春秋が部隊を結成したのもその頃だ。
この時期の部隊は自由結成と言うよりは忍田や根付の意向が強く反映していた。東隊も忍田の指示によるものだった。
忍田自身も部隊を持っていたが、本部で戦闘員を統括する役職につくために解散することが決まっている。
ガラリと引き戸をあけて顔を出したのは東春秋だった。いらっしゃいませと店員が声をかけると案内はいらないと手を振って、店内を見渡す。じきに見知った顔の並ぶテーブルを見つけて近づいた。
二十二歳だと言うが、ずっと老けて見える。外見だけではない。彼に接する人間はつい彼が二十代前半の若造だということを忘れてしまう。
後ろには背が高い男女二人がやはり背の高い東を挟んで並び立つようにいた。どちらも目を引く美男美女だ。彼らは近隣の六穎館高等学校の制服を身につけていた。
さらに後ろに中学校の制服を着た少年がひっそりと控えている。前のふたりと違って背は低い。寒いのか、マフラーをぐるぐると首に巻いていた。
三人は物珍しげに店内を見回している。
「なんだ、三人とも居酒屋は初めてか」
テーブルにいた眼鏡の男が声をかけた。既に頬は赤い。手には盃を持っている。日本酒派だ。林藤匠という。ボーダーでは古参の一人だ。歳は三十一になる。そろそろ現役を引退したいとボヤいているが、いかんせん昨今の人手不足だ。
ボーダー本部建物ができたにも関わらず、旧本部ビルから動こうとしない、なかなかの頑固者だった。
「学生ですから」
と、生意気そうに答えるのは、背の高いほうの一人である二宮匡貴だった。
「あれ、根付さんから聞いてないか? ボーダーマークの貼ってある店はボーダーなら学生でも入れるようになったんだぜ」
トリオン器官の性質上、十代の隊員は増えていく。本部でも食堂は設置しているが、彼らは三門市の飲食店にも協力を求めていた。パスポート制で十代への酒類の提供はないなどの配慮がされている。
「知ってますが…」
さらになにか言おうとする二宮を東は遮った。
「今夜は明日の確認だけしに来たんです。本部で聞いたら、ここにいるっていうから」
「明日? ああ、国の視察ね。用事は、唐沢さん?」
「俺?」
テーブルの奥から唐沢克己外務営業部長が顔を出す。彼はビール派だ。既にジョッキをほとんど空けている。まだ三十そこそこだが、やり手の男だ。鬼怒田同様、城戸司令がスカウトしてきた。元ラガーマンだという以外素性を明かさない男だったが、人当たりがよい。
今夜の飲みメンバーは林藤、唐沢に加え、エンジニア冬島慎次、戦闘員の風間蒼也、木崎レイジの三人だった。風間と木崎は二十歳前なので、烏龍茶が並んでいる。
「まあ、たってないでこっちに座れよ、東くん」
「あー、ウチはウチでご飯を食べる予定なんです」
東はお供のように控える背後の三人を見やった。東隊のメンバーだ。
「ここで食べていけばいいよ」
「はあ」
少しだけ、東の心が揺れた。老成しているとはいえ二十二の青年だ。気楽な酒の席は魅力的だ。
「大丈夫です。俺たちは帰ります」
東の心を見透かしたように、二宮が後ろの中学生の背を押して店の入口に向かおうとする。
「東」
林藤は声をかけた。
「みんなで食べてけよ。唐沢さんの奢りだ���
「あなたじゃなくて、俺ですか?」
急に振られた唐沢が満更でもなさそうに笑った。確かにこの男前は今日の面子の中で一番地位が高く、懐も暖かい。
「あら、素敵。せっかくだから、ご馳走にならない? 二宮くん」
そこで初めて、女学生が口を開いた。こちらも生意気な口調だが、軽やかでトゲトゲしいものを感じさせない。
「加古」
「ねえ、三輪くん?」
「……」
急に話を振られた中学生は無表情のまま首を傾けた。
「わかりません」
「東さんがここでお酒を飲んでるとこを見てみたくない? 面白そう」
三輪は悩みながらうなずいた。
「ほら、三輪くんもそう言ってるし」
「言ってないだろう」
「言ってないです」
「わかった、わかった」
いつもの掛け合いが始まりそうになって、東は決断する。一応、上役たちの前だ。
「ごちそうになろう。唐沢さん、ありがとうございます」
東が頭を下げると、揉めていた三人がピタッと止まって、同時に頭を下げた。よく訓練されている。東を猟師になぞらえて獰猛な猟犬を三匹飼っていると言っていたのは誰だったか。
「遠慮せずたくさん食べなよ」
唐沢はいつもの人当たりのよい笑みを浮かべた。
「追い出された」
案内されると同時に、風間と木崎が東隊の猟犬三匹のテーブルにやってきた。テーブルが窮屈になったらしい。
今夜はボーダー戦闘員と唐沢の交流会であるらしかった。
風間の兄は林藤の弟子だった男だ。故人である。木崎は東から狙撃手としてのスキルを学んでいるので、東隊の面々とは面識がある。今は林藤に従い旧本部ビルに寝泊まりしている。狙撃以外の分野では林藤に師事していた。
一方は小柄で華奢、もう一方は筋肉隆々の巨漢だ。正反対の見かけだが、どちらも恐ろしく強かった。さらに木崎はトリオン量は二宮と同程度を持っていて近界のトリガーを使いこなす。
加古の隣に木崎が座り、二宮と三輪の隣に風間が座った。スペースの有効活用の結果である。三輪は隣が風間なので緊張する。風間蒼也は様々な思惑の絡む本部で誰からも重用され、確実に任務をこなすエリートだった。
「もう、頼んだか」
「まだです」
彼らはまだ食べるつもりらしい。
「居酒屋は初めてか」
木崎が気を使って、品書きをテーブルの真ん中におく。
店員がまとめて置いていった突き出し(お通し)を配る。
「飲み物から決めよう」
と、店員を呼んでさっさと飲み物を決めてしまう。さくさくと仕切る姿が頼もしい。三人はジュースにしたが、風間と木崎はまた烏龍茶だった。
「おすすめは、揚げ出し豆腐だな。家で作るの面倒だし」
「そういう基準か」
「寺島たちに頼まれて作ったが、たくさん食べるものじゃないし、持て余した」
寺島たちと寺島雷蔵と諏訪洸太郎のことだろう。四人は同い年で気が合うようだった。諏訪は二宮と加古の同期でもある。
「おごりなら諏訪と雷蔵でも呼ぶか」
「来ないだろ」
確かにもう遅い。
「今日の当番は?」
お酒をあおる大人席では、林藤が煙草の煙を吐き出しながら聞いた。
「忍田さんとこと迅です」
迅悠一は木崎隊であったが、先日、晴れて『風刃』所持者となり、隊を離れS級隊員となっている。
「あとは嵐山隊ですね」
なんとなく大人たちは子どもたちのいるテーブルに視線を向けた。三輪がジュースを飲んでいる。迅、太刀川、嵐山と三輪の苦手な三人だ。
「明日は俺らの勤務か」
正直、オーバーワークだ。ここにいるメンバーは皆、ワーカホリック気味ではあるが、大規模侵攻からずっと働き続けている。
「入隊志願者が増えてますからもうちょっと頑張ってもらって…。部隊が増えてくれば、部隊の輪番制に移行するって城戸さんが言ってます」
「もうすぐですよ」
冬島がエイヒレに手を伸ばしながら言う。
「そう願いたい」
品書きと書かれたメニューには写真がない。並ぶ単語は知らないものが多い。
三輪が大人たちのテーブルをチラリと見れば東は刺身の盛られた皿をビール片手につついていた。嬉しそうだ。確かに、隊長ではない東は不思議な感じがした。
「秀次は刺身か」
二宮がつらつらと品書きを見ながら勧める。二宮も初めてだからよくわかっていない。
「盛り合わせがあるぞ」
「ちょっとずつ色んなのが食べたいわ」
加古がウキウキしている。
「レイジさんおすすめの揚げ出し豆腐は頼むでしょ。風間さんのおすすめは?」
「コロッケと卵焼きだな」
間髪入れずに答える。迷いがない。
「じゃあ、それー」
「また家で作れるようなものを…」
木崎がぶつくさ言うが、三輪は蕎麦を茹でるくらいしかできない。
「二宮は?」
風間が水を向けるが、彼は熟考に入っている。
「先に頼んじゃいましょ。店員さぁん」
「加古、お前なあ」
「大丈夫だ、二宮。何度でも頼めるから」
「風間さんがそう言うなら」
注文を手早く木崎がまとめる。
「三輪は決めたのか」
「じゃあ、刺身盛り合わせ(小)で」
「あと、ホッケ」
「加古、語感で決めただろう」
「干物だな。北の魚だ」
明日、視察団が来るというのに、大人組はまだまだ飲んでいる。タバコの匂いがする。
焼肉屋ともファミリーレストランともバーガー屋とも違う雰囲気にふわふわする。
「秀次」
三輪は、二宮に揺り起こされた。ひと通り食べたあと、いつの間にか眠っていたらしい。
「中学生には遅い時間だな」
木崎が気の毒そうに言う。
「大丈夫です。すみません」
彼らも高校生なのだ。
「ほら」
おにぎりが渡された。大きい。海苔がパリッとしている。
「結局、二宮くんが選んだのがこれよ」
おにぎりを優雅に食べるという器用なことをしながら、加古が教えてくれる。
「悪いか」
「いい選択よ」
「うまいな」
風間はまだ食べている。木崎はカチャカチャと皿を重ねて、テーブルを綺麗にしている。 三輪は散々食べたあとだが、おにぎりを持って、「いただきます」と言った。おにぎりは何も入っていなくて塩がきいている。
「おいしいです」
「そうか」
「東さん、あれ酔っ払ってるわ」
三人が揃って東のほうを向くと、その様子がおかしかったのか、木崎と風間が笑った。
「明日はお前らが頑張れ」
その日はみんなボーダー本部に泊まった。
終わり
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tanakadntt · 1 year
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三輪隊の小説(二次創作)
四畳半にいらっしゃい
狭い。
狭いですよね、四畳半。
すみません。
ここにお客様を通したおれ、間違ってたと古寺章平は思う。特に、背の高い彼の場合は。
「奥寺を頼むな」
B級部隊隊長、東春秋はにこりと微笑んだ。
ここは、三輪隊作戦室の奥にある四畳半ほどのスペースである。部隊に与えられた部屋は自由にやりくりしてよいのだが、三輪隊の場合、その狭いスペースに畳を敷いて使っている。用途は主にお茶をすること、靴を脱いでリラックスすることである。
おそらく間取りの帳尻を合わせるように作った狭小空間は本来使いづらく、いわば『浮いた』スペースなのだが、三輪隊においては、これが意外と役に立っていた。睡眠時間の不規則な三輪秀次がタオルケットをかぶって寝ている時もあれば、米屋陽介がタブレットを片手にゴロゴロしている時もある。奈良坂透がぼんやりと考え事をしている時もあるし、月見蓮が楽しそうに部屋に飾る絵画や花瓶を見立てている時もあった。古寺は古寺で、ふとした瞬間に彼らのそんな姿を垣間見るのが好きだった。
この空間になぜ東隊長を通したのか。
月見蓮がメインになって整えた部屋は小綺麗で品があり、賓客をもてなすのにふさわしいと思えたからだが、古寺にとって心地のよい空間であることも大きな理由である。
今日は、三月十四日で、先日、長期遠征選抜���験の内容が発表されたばかりだ。古寺は試験のために臨時に編成された部隊の隊長を務める。その際、部隊メンバーのひとりに東隊所属の奥寺常幸を選んだのだ。
東の来訪はアポイントのみで、用件には触れられていなかったが、内容は間違いなく奥寺のことであろう。立ち入った話になるかもしれないと大部屋を遠慮したのも理由のひとつだ。
作戦室には三輪と奈良坂が在室していた。米屋は個人ランク戦に出かけている。
「みんな、元気そうだな」
ところが、当然のように三輪、奈良坂も古寺と共に小さな座卓を囲んでいる。正面には東がいる。結果、部屋が狭い。
(先輩方、東さんのこと、好きすぎでしょ)
キリッとしているが、嬉しさの滲み出ている三輪を横目に見ながら思う。奈良坂も妙にウキウキしている。
二人にとって、東は、かたや元隊長、かたや師匠にあたる。
微妙に張り合っている気がしないでもない。もちろん、自分を心配してもくれてるとは思う。思いたい。
「古寺のことは心配していません」
(えー?!)
奈良坂はきっぱりと言う。
「俺もです」
三輪も負けずに宣言する。
(えーえー)
意図はわかる。いや、意図はわかるんですが。もうちょっと。
「そうだな」
東もうなずく。
「俺も奥寺のことは心配していないが、挨拶だけはと思ってな」
「こちらこそよろしくお願いします」
古寺は頭を下げた。用件は本当にそれだけだったらしい。
「しかし、この部屋はのんびりしていいな」
東は窮屈そうなのに、三人を順に見渡してそう言った。
「木虎が世話になるが、よろしく頼むな」
A級部隊隊長、嵐山准が爽やかに微笑んだ。三輪が台所で淹れてきたお茶を座卓に並べている。彼の表情筋が全く動いていない。怖い。スンが過ぎると古寺はハラハラしている。そのまま、一礼して席を外そうとした三輪を奈良坂が目で座れと言っている。
「せっかくだから、三輪も座ってくれ」
気をきかせたのか、嵐山はそう言った。メンタル強者です、嵐山さん。三輪は黙りこくったまま、座った。
今更ながらに、四畳半に通したのはまずかったかと古寺は後悔する。しかし、東さんを通した流れでそうなっちゃったんです、三輪先輩。
三輪が嵐山のことが苦手、苦手と言うより相性が良くない、相性が良くないと言うよりは三輪が一方的に避けているのは知っている。なぜかは知らない。
「こちらこそよろしくお願いします。嵐山隊からは木虎だけが遠征に参加希望なんですね」
遠征に際してのアンケートの内容を思い出しながら聞く。
「ああ、広報部隊の仕事があるにはあるんだが、本人の希望もあるし、経験を積ませてやりたいと思ってな」
ざっくばらんに嵐山が答える。
「そうなんですね···」
そこで話は途切れる。先輩二人の沈黙が重い。しかし、嵐山は平気そうだ。気まずいの、おれだけ?
そう思った時、
「お、嵐山さん、来てたんだ?」
陽介の名に恥じない明るい声が響いた。
「米屋先輩」
「米屋か」
彼は三輪と嵐山の間にどかっと座る。四畳半に十代後半男子が五人。月見が今日は席を外すわねと言った理由がわかった気がした。ぎゅうぎゅうと言っていい。
急に嵐山がクスリと笑った。は?何か文句があるのか?と言った表情で三輪が鋭く目線をあげる。やはり、嵐山はこたえなかった。
「この部屋、忍者屋敷の隠し部屋みたいでいいな」
「三浦のこと、よろしくな」
本日は三月十六日、隊長面接が終わった直後である。
若村麓郎はB級香取隊の攻撃手だ。同じく香取隊の三浦雄太が古寺のチームの一員となる。彼の機動力を買っての選出だった。
香取隊は戦闘員が十七歳と十六歳で構成されている点で三輪隊と似ているチームだ。違うのは、年長者がいないという点とエースである香取葉子がいるという点だ。三輪隊は連携を重視するチーム構成なので、エースはいない。
香取隊の隊長は香取であるはずだが、年上だからか若村麓郎は香取に替わるように古寺に頭を下げた。
「いえ、こちらこそよろしくお願いします」
若村も今回の試験で臨時隊長を務める。突然の抜擢に戸惑っているようだったが、上層部の見解として香取隊のようなエースが隊長を兼任している隊は、その役割を分けた方が望ましいとされる。嵐山隊が良い例だ。そのため若村に隊長職を担ってもらいたいのであろうと古寺は推察している。
それじゃあと別れようとした、そのときである。
ピコンと若村のタブレットに通知が入り、画面を見つめた若村の表情がみるみる険しくなった。
「···あいつ」
「どうしました?」
「あ、う、いや」
話を聞けば、香取隊の作戦室に内側からロックがかかったらしい。かけたのは、香取だと言う。若村は入れない。なるほどと古寺は思う。女子が多いチームはこういう苦労があるのか。
「あ、じゃあウチに来ます?」
東さんも嵐山さんも来てくれたことだし、若村先輩もいいだろう。
「あれ? 若村? 章平、休みじゃねえの?」
米屋が的確にツッコミを入れた。三輪隊作戦室である。
「隊長面接の帰りです。若村先輩は挨拶ですかね?」
締め出されたというのは言わなくてもいい気がする。
若村は、米屋、三輪と同じ学年で同じ高校だ。
「三浦のことは俺がわかる範囲で教えたから、大丈夫だろう」
三輪が珍しく気安い。三浦雄太は三輪と同じクラスだった。
「まあ、そうなんだけど」
若村も気安い。
「お茶はペットボトルでいいよな?」
「あ? ああ」
若村はなんでもないように返事をするが、古寺はそれはどうかと慌てた。お客様なのだ。
「いや、おれが淹れますよ」
若村は初めて入る三輪隊作戦室に興味津々だった。台所にもついてくる。
「悪いな」
「せっかくですから」
台所の横には四畳半の部屋がある。
「こんなとこに畳の部屋があるんだ。お、奈良坂いた」
くつろいでいた奈良坂が黙ってうなずく。
「女の子のいないチームっていいな」
「月見さんいるけど」
「あ、そうか。いや、違うよ。こういうとき、挨拶とかしなくていいし」
「しろよ。挨拶しにきたんだろ?」
奈良坂が呆れたような声を出した。
月見ももうすぐ出勤してくる。三輪隊の防衛任務はこれからなのだ。古寺がお茶を出してきたので、畳の部屋に上がり込む。男子三人が入って、もう狭かった。
「三輪先輩、米屋先輩、お茶が入りました」
男子二人がさらに詰め込まれる。
若村はため息をついた。
「のびのびできていいな」
「いや、狭いだろ」
奈良坂の発言に、古寺はそういう意味ではないのでは?と心のなかでツッコミをいれた。
終わり
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tanakadntt · 1 year
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グッズのマリン三輪隊の話(二次創作)
あなたの詠唱はどこから?
 三輪秀次はビリジアングリーンの毛先を持つデッキブラシをぐるりと回して、コツンと甲板に突き刺した。風がデッキを渡り、身につけたセーラー服の襟がふわりと浮いて首を包む。腰の金ボタンが僅かに震え、陽光を反射し、古寺が一瞬目を瞑った。
 『詠唱』が始まる。
 しかし、その詠唱はお粗末なものだった。
「……世界を繋ぐ青い空‼ えーと、希望の空から降り注ぐおひさまのシャワー‼ ……んん、きらめくソード‼ キュア…」
「違います!」
「違う!」
「違うってよ〜」
「違うのか?」
 隊員たちからすぐさまダメ出しされ、隊長は詠唱を途中で遮られたことに不服のようだ。
「それは詠唱じゃないな」
 奈良坂は手旗をバツ印に重ねながら言う。こちらもセーラー姿だ。本日、三輪隊は嵐山隊他と一緒に広報の撮影に来ている。メインはやはり嵐山隊で、三輪隊も「他」に入る部類なので待ち時間が多い。
 スタジオ撮影ではない。わざわざ海近くの公園まで来て、観光用に係留されている帆船を借りての野外撮影だ。そんな場所だから、隊服の撮影ではない。隊それぞれに衣装が用意されている。マリンを意識した、水兵服風だ。
 そういうのは、広報部隊だけでいいだろうと思う人間は結構いるはずだが、どうしても必要だから、とメディア広報室長の根付から、ではなく、営業部長の唐澤に爽やかに笑ってポンと肩に手を置かれると誰も断れない。三輪も同様だった。
 時期を違えて、他の隊でも撮っていると聞けば尚更だった。
「さっきから何をやっている」
 やはり撮影待ちの風間が船底からデッキに出てくる。隣には緑川もいる。嵐山隊他の「他」の仲間はこの風間蒼也と緑川駿で、なぜこの二人が隊ではなく、それぞれ呼ばれたのかは唐澤にしかわからない。
 風間は蒼也の蒼にちなんでブルーの、緑川は緑にちなんでグリーンのセーラー服を支給されている。三輪隊は隊服カラーの紫だ。皆、���ったく一緒という訳でなく、少しづつ違っている。
 そのことに言及すると、奈良坂から何を当たり前のことを?と言いたげな視線を送られたので黙った。
例えば、緑川と風間のセーラー服は造りはほぼ一緒と言えるが、色はもちろん、金ボタンの位置やズボンのデザインが違う。さらに風間はつばを深く折ったような帽子を被っていた。セーラーハットというそのままの名前の帽子らしい。一方、緑川は縁にリボンの付いたベレー帽だ。彼の衣装は横ボーダーのインナーと短い丈のセーラージャケットで、両襟をアクセサリーで留め、まるでアイドルのようだった。
「先輩たち、暇だから遊んでるんでしょ」
 中学生に訳知り顔に指摘されて赤面する。尊敬する風間の前で言われるのも恥ずかしい。しかも、図星だった。
「棒が二本あるだろ? だから、オレが槍の使い方を教えてたんだけど、スタッフさんに危ないって怒られてさあ」
 米屋陽介が説明する。
「陽介、棒じゃなくてデッキブラシだ」
「棒だろ」
 デッキブラシは撮影の小道具で三輪と古寺のふたりがブラシ係だ。奈良坂は旗係で、二本の旗を持たされている。気に入っているようでずっと持っていた。米屋は何故か皮袋だ。デッキブラシを持たせても槍にしか見えないと思われたのだろう。ネクタイも腰に引っ掛けていて、休日に出かける船乗りという設定なのか、ラフな感じがよく似合っていた。
「それで、この棒を槍じゃなくて杖ってことにして、詠唱ごっこしてた」
「詠唱?」
 風間が首を傾げる。三輪が横から説明する。
「魔法使いが杖を使って呪文を唱えるじゃないですか?」
「ああ」
「最初は適当な呪文を言ってたんですが、今度は何かを召喚してみようって話になって」
「召喚?」
 緑川が面白そう、と言っている横で さらに風間が首を傾げる。三輪は申し訳なくなってきた。元々、考えついたのは三輪ではなかったから説明もしづらい。今度は奈良坂が助け舟を出す。
「魔法使いのごっこ遊びみたいなものです。魔法で精霊を呼び出す呪文を、一番それっぽく言えた奴の勝ちというルールです」
 奈良坂は進学校の学生らしく説明が上手い。しかし、明快に言語化するとますますやっていることのバカっぽさが際立った。
「それで三輪先輩ダメ出しされてたのかぁ」
 緑川がニヤニヤする。
「……」
 彼は迅以外には大体こんな感じだから三輪も気にしないことにしている。
「三輪は全然ダメだった」
「……」
 それには反論しようもない。三輪が魔法と聞いて連想するのは、昔、姉と観ていた魔法で変身する女児向けアニメしかない。
「今度は奈良坂がやってみろよ」
米屋が言った。
「ああ」
 コホンと奈良坂は咳払いをして、旗を上に構えた。デッキブラシではなく、こちらにするらしい。奈良坂の衣装はダブル六つボタンの付いたジャケットのようになっていて、カチッとした印象だった。
 長い腕で、二本の掲げた旗をくるり回すと舞踊を見ているかのようだ。奈良坂の詠唱は短かった。
「エクスペクト・パトローナム!」
「へ? 短くね?」
 ハリーポッターに全く興味のない米屋が無表情になる。元々、目に感情が入らないから少し怖い。
「守護霊生成ですから召喚とはちょっと違うかと」
 古寺が遠慮なく指摘する。
「ダメか」
「精進しろ」
 風間もわからないながらも審査に参加する気になったらしい。
「はーい、次オレ〜」
「よねやん先輩、頑張って」
 三輪からデッキブラシを渡され 嬉しそうにひと振りする。ぶんと勢いよく、棒がしなった。槍にしか見えない。彼の上着もジャケット仕立てで、奈良坂と違うところはシングルボタンである。大きく開いた上着から青の縞模様を見せている。足元はビーチサンダルで裸足同然だ。
 彼は魔法、魔法だよなあと呟いた。
「陽介、ちちんぷいとかじゃあダメだからな」
「と、思うじゃん?」
 米屋はニヤリと笑って、デッキブラシの柄でカンッと床を叩いた。そのまま、柄を丸く滑らせていく。
「魔法陣グルグル トカゲのし…」
「パクリでしょう!」
 また古寺が突っ込む。弟が二人もいて、少年漫画に詳しいのは彼しかいないのだ。
「そういえば、作戦室で観てましたね」
「テストで誰もバトってくれねえんだもん」
「勉強しろ」
「よねやん先輩かっこ悪い」
「ちぇー、奈良坂はパクリじゃねえのかよ」
「おれが許します」
「贔屓ィ」
 古寺は咳払いだけして無視する。
「じゃあ、次は古寺だな」
 風間は冷静に順番を数えた。
「はい、風間さん」
 途端に古寺が自信のなさそうな表情をする。三輪は「がんばれ」と励ました。
 後輩はデッキブラシを三輪から受け取って、杖を握り横に構える。目を閉じる。他の隊員たちよりひとつ下の年齢を意識してか、かわいいデザインになっていた。サスペンダーをし、ネクタイもリボンのように結んでいる。靴も軽快なスニーカーだ。
 しかし、その時、周りの者には風にはためく不吉な黒いマントの幻想が見えた。
「原初の時空に彷徨う白き者よ、我が誓願を聴きたもう。我が名を持ってここに顕現せよ。我は古寺章平、黄昏の支配者にしてこの地の放浪者なり」
 みんなポカンとしていた。
「これより一切の慈悲なく我が敵を殲滅よ!」
「ハーイ、カットぉー、木虎ちゃんお疲れ様ぁ」
 向こうから嵐山隊と撮影スタッフの声が聞こえる。
「えーと、終わりました」
 デッキブラシのブラシ部分を床に下ろして、こちらを見る。いつもの古寺だ。
「なんで、そんな本格的な……」
 三輪がうめくと、メガネの縁に手をかける。
「弟とやるカードゲームによく出てくるんで覚えちゃいました」
 絶対に読み上げなければいけないルールで、と付け加える。
「スゲエよ」
 と、米屋。
「カッコイイ、古寺先輩」
「お前が優勝だな」
 奈良坂は旗をパタパタと振った。
 風間もウムとうなづく。
 頃合いよく、スタッフから声がかかる。
「そろそろ撮影に入りまーす」
「ハーイ」
終わり
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tanakadntt · 1 year
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三輪秀次の小説(二次創作)
東さんが三輪に助け船を出す話
「よう、三輪、何か前よりすっきりした顔してんな」
「髪切った?」
「……」
ああ、困ってるなと東は思う。太刀川慶と迅悠一に話しかけられて、三輪秀次は固まっている。三輪にとってニ大天敵がそろっているのだ。
緊急防衛対策会議は議了した。ふたたびの近界侵攻が予想されるが、先日の大規模侵攻から日も浅く、できる限り極秘裏とすることとなった次第だ。
太刀川も迅も悪気はない。悪気どころか、心配してくれている。東もよくわかっている。
しかし、ここは助け船を出してしまおう。
「秀次」
振り向いた三輪はあからさまにホッとした顔をした。太刀川と迅との会話を遮る形で声をかける。
「久しぶりだな、ちゃんと飯食ってるか?」
「大丈夫です」
「そうか。また今度焼肉食いにいこう」
「はい、ありがとうございます」
「お前の役目、手を抜くなよ」
去り際に迅に噛みついていたが、言えるようになっただけもいいんじゃないかなとも思う。わずかに迅と視線が絡んだ。
少々過保護と思われているかもしれない。
まあ、いいや。東は難しく考えない。俺は秀次を甘やかす側だからな。
何故、迅と太刀川が三輪の天敵になったのか。それはやはりそういう役回りだったとしか言いようがない。
東が三輪とまともに話すようになったのは、ボーダーが三輪を入れて育てると決めてからのことだったから、東の役回りは彼らと違う。
今でこそ、隊員はC級から育てていくが、当時のボーダーは適性のあるもの、縁のあるものしか受け入れない傭兵集団だった。そういう意味ではまったくの素人の入隊希望第一号だったのではないだろうか。
戦ったこともなければ、何の知識もない、ごく普通の少年である。年齢だけで言えば同い年に小南がいたが、戦闘に関しての実力は比ぶべくもなかった。経験も適性も天と地ほどの差があった。
…その頃のボーダーは、一年前に半数以上のメンバーを失っていて、皆が岐路に立たされていた。
東も縁あってきたとはいえ、新入りだったから三輪と同期と言えなくもない。
上層部にも新しい風が入り、すべてが今までと違う方向に動き始めていた。それを歓迎するものあり、苦々しく思うものあり、不���定な空気の中、
「お前、孤月使える?」
「あげせん食う?」
「……」
何もできない子どもに構うひまがあるのは同じく子どもだけだった。
本部長などという役職を得て忙しくなった忍田に言われていたのかもしれない。
それで仲良くなりそうなものだったが、結局、東のところに三輪がやってきた頃には、彼らはすっかり少年の天敵となっていたのだ。
かわりに、もう三輪も何もできない子どもではなくなっていた。隊長候補のひとりに数えられるほどに。
彼らは彼らの役回りを果たしたようだ。
終わり
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