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#表現の自由 言論の自由 私はお腹の大きな女性を見るたび気持ち悪いと思ってしまう 理由はよくわからん でもなんか気持ち悪い みんな誰かのお腹に新しい人間ができるたび お
pureegrosburst04 · 3 months
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〜数日前〜
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防聖孤島「食事だ🍴😋🥢」
高級ゴールドデューク/バズー「おい、腹が減って死んじまいそうなんだ……ガケガニのアヒージョでもいいからよこしてくれ…」超電波油「でもってなんだよ。お前みたいなゴミクズに食用ポケモン様なんて必要ない」御茶ヶ滝「アイエフさんは俺達如きに命を受け継ぐ資格があると言って⬇︎のドラマを見せてくれた」ゴールドバズー「同じ旨いに違いなんてねえだろ!頼むから寄越せよ‼️」
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防聖孤島「常人の感情エネルギーが砂つぶならアイエフさんは宇宙だ 心そのものが広くて大きい 良い意味じゃなくてどんな意味でも。6種類の味覚の数値も含めてだ、一億円の笑顔は誇張じゃないんだよ真実だ(黄金の真実)」ゴールドバズー「ひとごろし!!」超電波油「うるせえ」カチっドンドン‼️‼️
〜現在〜
超電波油「相棒〜疾風の柊って人から今度は寿司セットが届いてるぞーー、」 御茶ヶ滝「何で見ず知らずの俺にここまでするんだろ、変なの🫨」
〜醤油ちょんちょん、お付きのワサビでパクっ✨〜 
御茶ヶ滝「う〜ん、コレ自家製だね。何を考えてるのかわからないけど悪意は一切無い」超電波油「だよな……マタドガスが握った🏴‍☠️殺人寿司☠️より美味いのは当然の事だけど、」御茶ヶ滝「今のうおべいと平宗よりは全体の★が5ランク劣ってるレベル」超電波油「失礼だよ、タダで送って貰っといて……」御茶ヶ滝「いや聞いて。独学だとしたらこの味が出せるのは凄いよ、回転寿司が馬鹿にされてた時代はとっくに終わってる。俺は今の列車寿司の時代と比べてる訳だから 特筆するのはウニの獲れたてのような新鮮さにネタとシャリの温度 よく勉強してある。それに安心したかった気持ちもある」超電波油「怨霊の類いではなく訳のある善人」
表主人公二人「話しを纏めると全然不気味じゃない。彼女はちゃんとした味方だ」
御茶ヶ滝「ただ……香氣04さんみたいに中度のいじめ被害者にされた訳でもないのに俺を選んだ理由だけ気になってる」超電波油「もっと調べてみたい。マリオワンダーの通信で一緒に遊べるか聞いてみよう」
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超電波油「よーし、まずは上のどれが該当するか見極めてみようぜ」御茶ヶ滝「チャット作るから待ってて。そういえば香氣04さんは鳥タイプだったね 相棒はちんぱん😇」
〜チャット〜
疾風の柊「ゲームは大好きですよ‼️特にスパイダーマンシリーズとバイオハザード5をよくプレイしてます」御茶ヶ滝「ブログとか出してたらいいなあ おせーてくだせえ👍😊」疾風の柊「いいですよ、タイトルはスマイルアップ推しの会💚」
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防聖孤島「この会社の売りっ子達が好きなのか、😳」疾風の柊「酷い事件があったけど……ファンとしてお金を落とすと私の罪は消えて、きっとあの子は救われるの…」
防聖孤島「……?😦?………では貴方に対して最低限の共感出来る趣味を弁えておきたいので一週間程。待ってて下さい、では👋」
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御茶ヶ滝「確か香氣04さんがコンテンツを楽しみたいからパスワードを適当にして失くしたIDはコレだね、前世の十五歳でバイオ5をトロコンしたのは賞賛出来るが高校で陸上部に入ってたから時間は取れない時期だったらしい(go-suto、ゴーストw🤗w)」超電波油「探偵気分が盛り上がって参りました🎵あのコスチューム使おうぜ😎」
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御茶ヶ滝「スパイダーマンシリーズのプレイ動画ブログ観たけど初見から上手い割に最低難易度のFRIENDLY NEIGHBORHOODでやってるよ(゚o゚;;」超電波油「バイオハザード5の方なんてアマチュアで満足してる 死ぬケースのほぼ全てが回避不可ぐらいまで追い詰められてタコ🐙殴りされるものばかり。”””なのに後ろからマジニに掴まれそうになると銃を構えて100%回避してる。亀タイプのエンジョイ勢か?”””」
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御茶ヶ滝「”””その評価は正確じゃないね””” この人はテレビゲームそのものを全くやらない。語彙力があってツイッターでは顔を隠しながらフォロワーも多い、シリーズ通して雑魚敵のロケットランチャーに一回も当たった経験すらないのにモーションがない攻撃だけ喰らい過ぎてるのはおかしい。個人の遊びを本気でやった事がなく…球技系スポーツで大活躍しそうな動体視力」
防聖孤島「[[リア充だ]]」
御茶ヶ滝「暫く一緒に通信して遊んでから、社会現象にまでなった”””霧島04(ラスボス)”””について議論してみようよ」疾風の柊「あの子はいじめられたから歪んじゃっただけだって私は信じてるよ……悪仲間にカッコいい所を見せようとして冷酷ぶってるけど根は良い子だって。かりちゅまなのが本来の姿だって」防聖孤島「………俺が女の子だったら、”””今西健太さん””””との方が真剣に恋人になりたい(赤き真実) 切るね」プツッ
防聖孤島「完全に騙されてる。疾風の柊さんは頭が悪い プロファイルは的中してるな、いや正確には女性特有の短所が現れてる」富豪05「女なんて劣等生物だからそんなもんだぜ。こいつらはどの世界でも良い悪い以前につまら��え、一番放置したくなるうんこ製造機なんだよ。」防聖孤島「おい‼️、人として礼儀は弁えて。゚(゚´Д`゚)゚。」富豪05「(び、ビビッた……)」御茶ヶ滝「女性には神としての素質はないけど…愚かだけど、愉快なおばあちゃんが好きだった。」富豪05「御免なさいすみませんでした」
〜数日後〜
ともちん「私、今まで疾風の柊って名乗ってきたけどね…実はコードネームですらないの。本名はもっと好きじゃない」超電波油「名乗らなくて良いよ、まだ一週間の付き合いだぞ 出会い厨じゃねえんだから😂」ともちん「ともちんって呼んで、今写真送ったから」ピコン❣️ 超電波油「マジでお姉さんだ😱」御茶ヶ滝「貴女、口が軽すぎるから特定されないように気を付けてね スパイダーマンの世界には絶対行くなよ、家族に危険が及ぶから(赤き真実🥶)」知球GrassShining1 チー牛「俺の参上と共に攻めますが、女性ゲーマーって媚びだけの三流でしょww 飾りこそしないものの一度オールクリアしたゲームを二度と遊ばないのは勿体無い😞と、黄金の精神を持ってるんですかともちん❓‼️‼️」超電波油「やめときなチー牛さん、この”疾風の柊”改め””””ともちん””””は滅茶苦茶ゲーム強いよ。俺達二人シンクロさせてでも敵わない」知球1チー牛「そんなお世辞…珍しいですね」御茶ヶ滝「ソニックワールドアドベンチャーを初見で全コースSランク突破してる。詰み要素がない限り本気を出せばどうとでもなる第三形態まで発揮すると呼ぶべき糞馬鹿みたいな全力を隠してる。しかもリア充」知球GrassShining1 チー牛「はあ?頭がオカシイですよ。
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””香氣04さん””はアスペルガー症候群、調べたら前世で子供の頃から手元にあるゲームはほぼ30周以上する人ですよ。でも眼球の筋肉を使わないからどの視力も落ちるばかりで学校では球技系が誰よりも苦手。動いている物が遅く見えた事が極度の睡眠不足の時だけで人生で一度くらいしか無かった(赤き真実)。しかし廃人キョコウさんを超えたNPCなんかじゃない女性ともちん、俺達インドア派と仲良くなれそうですね💚」御茶ヶ滝「だから、、、ともちんはリア充だよ。ごくたま〜にの間隔で神ゲーしかやらないもん」
超電波油「彼女は誤解覚悟で言うと原始的だな、昔のカードでいうなら強いヒロインか女戦士 ただし文化が発展してると勉強とスポーツが得意なお姉さん。生きている時代を楽しめる最もお得な万能気質」
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防聖孤島「タイトルに喧嘩を売ってる訳じゃないけど世界を救うのは個人的にはオタクだけではないと思ってる(赤き真実)。オタクが築いた文化と誰かを傷付けるかもしれない負の遺産を正しく扱うヒーローが現れて冒険を実現させてくれるメンバー。十人十色な役割を持ってるから皆んなが幸せになれる(黄金の真実) ともちんなら”””霧島04(裏ストボス)”””が100人いても薙刀持ちゃ片手で倒せる」
ともちん「ベタ褒めしてくれるなんて嬉しいなあ〜〜💚、そんなに私が好きなら抱かせてあげていいかも〜w」御茶ヶ滝「純粋硬派柱舐めんな!(🔵 ˃̶͈̀ロ˂̶͈́)੭ꠥ⁾⁾ 俺達みたいなのはなぁ😠 世界を救って出会ってきた仲間達が笑顔で帰ってみんな幸せになった時に、内なる狂気系絶対悪に負けてロックなネットの海に溶けるのさ💢🫠/💎」ともちん「…(そんなの、ハッピーエンドじゃないよ……山の頂上に登った時に、家族が欠けてたら喜ぶ事なんて私には出来ない)」
〜白昼夢〜
ともちん「私があの子を食い物にした。穢して自殺に追い込んじゃった…償いたいのにもういないの。見下してた時はあんなに上手く行ったのに、手に入れて可愛くなったら何もうまくいかない。情報収集でスパイとして聞き上手に徹した時もそう、私達が心を開いて本音で話し始めた瞬間に居なくなる一族 気遣って再現しようとしても無駄だった。 
ある日こんなお遊びな会にあの子達が来てくれた。絶対台無しにしない……こんなに、上手い話しが転がってるんだから…」
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〜数時間後〜 
女の子A「まだ部屋の中に居るのよね?呼び鈴押した?」女の子B「ピンポンダッシュ💨防止のため係員さんに外してもらったんだって」
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ともちん「結論から言うと表版仮想大鉱山の変なキモいクズ男しか来なかった…、2ちゃんねるではミソジニストが無価値無意味と大炎上(だから無印04が来た時は嬉しかったかな…でも”””私は神❗️、ノートを噛み噛み‼️”””って一日中絶叫して私達が鬱になってから顔中から湯気を出してキングボンビーデストロイ号みたいな(👎💢😡💢🖕)大暴れして屋台を滅ぼしていった後は虚無だったよね。私達はお祭り感覚で来てくれた怯えてる一般の人がいたから力づくで止められなかった ああ、””無印04(大ボス)””はいじめられっ子になる前(産まれた瞬間)から頭がぶっ壊れてるんだって、上手い話しなんてないんだ……って浮かぶ中二病みたいな不安をお姉さんらしくないから押し殺したの⬇︎💚😩 
本命の子達は忘却の深淵に消えかけて、解散する当日に爽やかな顔で出てきた(刑務所かよ)。嗚呼、最悪の七年間だった⬇︎⬇︎💔😵❌
ともちん「何で上手くいかないのかな??」 富豪05「香氣04が守護女神に恋をしたのは二次元だとか���ネットの関係だったからという条件とは何の関係もなく、青い宝石💎に満たされていると心の奥底から勘違いしていたからです。劣る人間に嫉妬されたりクーリストな秀才キャラとして見てもらえない限り恋をする事は二度とありえません 彼にとって、自分を可愛いと思う人より名誉を捧げる下位互換のクズの方が自分から笑いかけられる大切な存在だからです。幸せにしてあげたいと考え始めてしまった人こそ切り捨てられるしかありません アイエフさんはずっと処女だから防聖孤島が童貞を卒業する事もありません(黄金の真実)。アニメのヒーローとは対極である純粋硬派柱の恋愛はあらゆる者の喉を不気味、異質と鳴らさせる威厳の上に成り立つものなのですから(黄金の真実)
表版仮想大鉱山のように女を劣等生物だと見下している邪悪ほど童貞を無事に卒業する(赤き真実)」
💀???(ラスボス)は青臭い球磨川禊より赤く、防聖孤島より発達が遅い大器晩成型で、香氣04よりスタイリッシュな神に近い あと真の裏ストボスがもし命を落としたらこの”””???”””が一番悲しまない。理由はずっと超えられないから媚びを売ってるだけな為 驚いたり感情が豊かで涙を流す演技が女より複雑だから文字通りの絶対悪じゃないと騙される人もいるが、ちゃんと読んでる人なら”””霧島04(裏ストボス)”””が根っこから冷酷だってわかる。こいつには人の心なんてない(赤き真実)🏴‍☠️
御茶ヶ滝君は姿が似てるだけなのに好きになった、でも私は難しい哲学の話題なんてわかんない。あの子達は自分の愛くるしい正体を見られたら、きっと容赦なく永遠に切り捨てる(赤き真実)」
スパイダーマン2号「考えちゃ駄目だよ。もう君は……自分ののんきなところに救われなきゃいけないんだ その冷徹な選別は、法律に守られる自由だから」スパイダーマン「自分が悪いと懺悔する人を虐殺する完全な正義と戦うんだ。あなたなら出来る 水と油コンビなら大丈夫だよ(黄金の真実)」ともちん「え?」
〜現在〜
超電波油「話しを戻すけど、貴女でも今の”””””DIO様(トゥルーグランドの頂点)”””””には到底敵わないよ( ̄▽ ̄)」
ともちん「……😁。あれーー?その吸血鬼さん、過去の中ボスに負けたって聞いたけど〜www」超電波油「半端な悪だったから狂気系絶対悪に飲み込まれてただけだよ、DIO様の著作存在にはもっと魅せたい詳細があったはずだ。この語られるべき物語を面白い事カッコいい事まで時に我慢して削る、人はもっと複雑なんだ。自分の幸せを見つけた瞬間にDIO様はラオウ様と変わらない景色を見始めた。生命の尊さでB(バグ)の家族達を超えたんだよ(赤き真実)」
御茶ヶ滝「香氣04さんなんて小物より、凄い奴しかいない現実。仕事なめんじゃないよo(`ω´ )o」
香氣04「暴言を直接は返さずに威厳とプライドが全てだ!捧げないなら切り捨てる!消えろ!ゴミが!要らねえんだよ!吹っ飛べー!俺の自由だ!理解しないから切り捨てられるんだよ!身障のび太の話題?俺の何を見てきた!ほらもう終わりか?。と、怒鳴り散らしながらフォローして来る人を何十人もブロックする日々 そんな事を繰り返して賑やかだったお誘い欄を消し飛ばしたある日、誰も表示されない誇りを貫いた時に何故か涙が溢れ出た」
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siro123 · 11 months
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もう10年以上前、東京都の「非実在青少年」条例が論争になっていた頃の話。
 古い知り合いがやっていた不登校の子どもたちに勉強を教える教室が、NPO法人化するしないの話になって、その辺の制度に詳しい人間ということで私が呼ばれた。最終的に法人化は見送りになるのだけど、昔のよしみで色々と事務とか助成金に関することを頼まれてしまい、そこの教室の事務所にたまに顔を出して、スタッフとか保護者会の人たちとかに、あれやこれやの事務のコツを教えるようなことをしていた。
 ある日、保護者のボランティアの人から会計ソフトの導入かなんかについて相談されて、事務所でお茶をしながら話していた時だったと思う。そのボランティアの娘さん(教室に通ってる不登校の中学生)と、その友達のやはり不登校の中学生が私のところにやってきて、挨拶もそこそこに、「新聞見たよ!」と地方紙の切り抜きを出してきた。けっこう前に市民センターでやった討論会についての小さな記事。私が司会をやっている様子の写真が載っていた。わざわざ図書館で調べてコピーしてきたようだった。人口減少時代の地域公共交通のあり方みたいなテーマで、地方議員とかが集まって討論した時の記事だったと思う。
 てっきり若者が地域の問題に関心を持ってくれたんだと嬉しくなり、どういう切り口でこの討論会の意義について話そうかと思ったんだけど、彼女たちの用件は、私にとってまさに予想の斜め上のものだった。
「石原慎太郎に会わなきゃいけない。言いたいことがある。何とかならないか」という相談に、私はびっくりして、どうして都知事に会いたいのかと質問した。
 その子は、「銀魂」というマンガの大ファンで、東京都の青少年健全育成条例の改正内容次第では、「銀魂」が今までと同じようには続けられなくなってしまうかもしれないという話をどこかで聞きつけ、それを止めるために石原慎太郎と会って抗議しようと思い立ったのだという。
 一人の子は、ものすごくしゃべる子だった。漫才を披露するようにハキハキとしゃべり、落ちをつけて笑わそうとしてきた。
 もう一人の子は、あまりしゃべらず、まとめてきた資料と、自分の意見書のようなものを渡してきた。四コマの解説漫画のようなものまで付いていた。
「荻野さん、政治家にコネがある人なんでしょう?」と期待をしてくれたけど、残念ながら私には石原慎太郎のアポをとれるような伝手はない。
「うちの子、マンガ大好きで、最近は、この青少年条例反対の話ばっかりで」みたい感じで母親は笑っていた。「アグネス・チャンさんが新聞のインタビューかなにかに答えてる古い記事も、インターネットで読んだらしくて。朝も起きられないくらいに落ち込んじゃったかと思ったら、次の日から、もう怒った、絶対に石原を許さない、表現の自由を守るんだとか言って、反対活動家になっちゃったんですよねぇ」という。
 率直に、面白い話だなと思った。
 必ずしも似た経験とは言えないかもしれないけど、そういえば私も15歳くらいのとき、地元の図書館の司書たちが、蔵書の廃棄を要求してきた市民運動に抵抗して戦う様子を報道で目にして、表現の自由という問題が心に引っ掛かっていたのを思い出した。目の前の子どもたちが、そういうことに関心を持ってくれたこと自体に、何か嬉しい感じがした。だから、石原慎太郎のアポは取れないけど、代わりに静岡大学の先生あたりにお願いをして、表現規制の問題についての勉強会を開いて、皆に聞いてもらうのはどうだろうかと提案をした。
 そうして、最初の小さな勉強会を、静岡の貸会議室で開催した。図書館とか憲法を専門にしてる知り合いが講師を引き受けてくれて、子どもたちにも分かりやすく、条例による漫画規制の論点について説明をしてくれた。勉強会には、石原慎太郎に会わせろといってきた二人の子どもたちも来てくれた。色々と準備に時間がかかって年度が明けてしまい、既に2人は通信制の学校に通う高校生になっていた。これが、まだ「うぐいすリボン」という名前もなかった時代の、いわば「第0回目のイベント」ということになる。このとき、告知もほとんどしなかったのに、東京や関西からそこそこの人数が来て、私はさらに驚かされた。いったい何が起こっているんだろうと不思議になった。
 静岡では、この第0回目を含めて数回の勉強会をやったけど、そのたびに、地元の人間以上に東京と関西から参加者がやっ��きた。BL系の同人サークルのグループとか、フリーランスのゲーム作家のコミュニティの人たちで、私にとっては、それまであまり接点のない世界の方々だった。その人たちから、東京や関西でも勉強会を開いて欲しいと頼まれ、最初は講師を紹介するから自分たちでやってはどうかと言ったんだけど、オーガナイズする人がいないからぜひという話になり、言い出しっぺの子どもたちからも「やってあげなよ」みたいなことを言われてしまい、東京や関西でイベントをやっている内に、うぐいすリボンという組織ができあがっていった。
 少し長くなったけど、今回の本題は、ここからだ。
「非実在青少年」の条項がなくなった条例改正案が都議会で可決された少し後、石原慎太郎に会わせろと言ってきた子と、市内のガストで偶然出くわして近況を聞いた。
 高認をとって、大学でデザイン系の勉強をしたいので準備中でみたいな普通の話の後、予言者のようなことを言い出した。
「私もオタクだから分かるんだけど、オタクはたぶん面倒くさいし、これから大変なことになる」と彼女は言う。
 色々と話してくれたが、オタクの人たちの「悪いクセ」が出て、要らんことにこだわったり、要らん挑発や嫌味を言って、せっかくうまくいった話を台無しにしてしまうのではないかみたいな心配をしているようだった。
 それから、とても気になるこんな話をしてくれた。
「正直に言うと、自分は普通のオタクだから、石原慎太郎に腹は立ったけど、そんなに人生を悲観していたわけじゃなかった。条例が改正されても18歳になるまで大っぴらに本を買うのを我慢すればいいだけのことだから」と。
「でも、自分の友達のあの子は違う。あの子は現実の男にも女にも恋愛しない子で、恋愛とか性の気持ちは、マンガの中にしかない。描いたり読んだりすることでしか、自分が何者かを知ることも伝えることもできない。だから条例でそれが禁止されるかもしれないと知ってからは、本当に精神的に追い込まれていた。それに、条例では終わらないと聞いた。児童ポルノ法とかが改正されて、そういうマンガを描いただけ、持っているだけで逮捕される時代になるかもしれない。自分は、もちろん反対はするけど、もし法律がそうなってしまったら、いったんそういうジャンルとは距離を置く選択もできると思う。でも、あの子は、逮捕されても、死刑になるとしても、そういう絵を描くのを止めないし、一生自分の原稿や大切な本を捨てることができないと思う」と。
 マンガ等の表現規制問題を論じるとき、「絵や記号や物語を性的対象にする人たち」の存在について考慮することを、私はずっと提唱してきたけど、その辺りについて、もう一歩踏み込んで何かできないかと考えている。
 実は、だいぶ後になって、もっと詳しい話を本人から聞く機会があった。  子ども時代、その子はウンザリしていたという。周りの人たちは、きっと善意だったんだと思う。「彼女」がどうしてそんなグロテスクなお化けみたいな生物だらけの酷いマンガを描きたがるのか理解できなかった。何か良くないことさえ取り除けば、大人になって出会いがあれば、きっと素敵な恋愛をするようになるはずだと信じていたのかもしれない。でも、違った。本人にとって恋愛とか性的なことというのは、自分の身に降りかかって欲しくない禍々しい「厄災」のようなものだった。性についての興味や欲望はあっても、それは男性(あるいは女性やその他の人)と恋に落ちてどうこうというものではなかった。 「自分のことがとにかく知りたかった。そのためには頭の中のことを出してみる必要があった」のだという。「イラストだけじゃなく小説もたくさん書いた。誰とも恋したくない。自分は女でも男でもない。小さい頃から本当は分かっていたはずの、たったそれだけのことなのに、自分で信じられるようになるためには、あんなに大量の落書きが必要だった」と。
私が「表現の自由」の仕事をするようになった理由
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ritwuals · 2 years
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𓇬 ਏਓ 𓂂 🪷 𓂂 ਏਓ 𓇬 𓂂𓂂 𓇬 𓂂 ਏਓ 𓂂 𓇬
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shiri1124 · 2 years
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表現の自由 言論の自由 私はお腹の大きな女性を見るたび気持ち悪いと思ってしまう 理由はよくわからん でもなんか気持ち悪い みんな誰かのお腹に新しい人間ができるたび おめでとう というけれど 果たしてめでたいのか?自分の遺伝子を残すことはめでたいのか? 喜ばしいことなのか? 自分の遺伝子を含んだ愛らしい人間が生まれることが嬉しいのか? それとも自分と他人との遺伝子を組み込まれた人間が生まれることで他人と共に生きるための手段となることが嬉しいのか? 後者の場合言葉も出ないほどに気持ち悪い 吐き気を催す 親は子を選べる これは紛れもない事実 嫌な話をするけれど 子を産み育てることができないなら産まなきゃいい 気に食わない子供が産まれてくるとわかったら産まなきゃいい 産んでから無理だと思えば他人に委ねればいい しかし子供は生まれた以上生きて行くしかない 子供にとって死という選択肢はほとんどら無いに等しいのだ でも生きて行く上では誰かを頼らなければならない 子供にとって頼れる人といえば親だろう その親に 愛されなかった時 その親が子供を愛す度量を持っていなかった時 親から無償の愛をもらえなかった子供はどう思う?お前のそのエゴで悲しまずに済んだ命を悲しませるんじゃないよ "やめよう 性行為"
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skf14 · 3 years
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愛読者が、死んだ。
いや、本当に死んだのかどうかは分からない。が、死んだ、と思うしか、ないのだろう。
そもそも私が小説で脚光を浴びたきっかけは、ある男のルポルタージュを書いたからだった。数多の取材を全て断っていた彼は、なぜか私にだけは心を開いて、全てを話してくれた。だからこそ書けた、そして注目された。
彼は、モラルの欠落した人間だった。善と悪を、その概念から全て捨て去ってしまっていた。人が良いと思うことも、不快に思うことも、彼は理解が出来ず、ただ彼の中のルールを元に生きている、パーソナリティ障害の一種だろうと私は初めて彼に会った時に直感した。
彼は、胸に大きな穴を抱えて、生きていた。無論、それは本当に穴が空いていたわけではないが、彼にとっては本当に穴が空いていて、穴の向こうから人が行き交う景色が見え、空虚、虚無を抱いて生きていた。不思議だ。幻覚、にしては突拍子が無さすぎる。幼い頃にスコンと空いたその穴は成長するごとに広がっていき、穴を埋める為、彼は試行し、画策した。
私が初めて彼に会ったのは、まだ裁判が始まる前のことだった。弁護士すらも遠ざけている、という彼に、私はただ、簡単な挨拶と自己紹介と、そして、「理解しない人間に理解させるため、言葉を紡ぎませんか。」と書き添えて、名刺と共に送付した。
その頃の私は書き殴った小説未満をコンテストに送り付けては、��沙汰のない携帯を握り締め、虚無感溢れる日々をなんとか食い繋いでいた。いわゆる底辺、だ。夢もなく、希望もなく、ただ、人並みの能がこれしかない、と、藁よりも脆い小説に、私は縋っていた。
そんな追い込まれた状況で手を伸ばした先が、極刑は免れないだろう男だったのは、今考えてもなぜなのか、よくわからない。ただ、他の囚人に興味があったわけでもなく、ルポルタージュが書きたかったわけでもなく、ただ、話したい。そう思った。
夏の暑い日のことだった。私の家に届いた茶封筒の中には白無地の紙が一枚入っており、筆圧の無い薄い鉛筆の字で「8月24日に、お待ちしています。」と、ただ一文だけが書き記されていた。
こちらから申し込むのに囚人側から日付を指定してくるなんて、風変わりな男だ。と、私は概要程度しか知らない彼の事件について、一通り知っておこうとパソコンを開いた。
『事件の被疑者、高山一途の家は貧しく、母親は風俗で日銭を稼ぎ、父親は勤めていた会社でトラブルを起こしクビになってからずっと、家で酒を飲んでは暴れる日々だった。怒鳴り声、金切声、過去に高山一家の近所に住んでいた住人は、幾度となく喧嘩の声を聞いていたという。高山は友人のない青春時代を送り、高校を卒業し就職した会社でも活躍することは出来ず、社会から孤立しその精神を捻じ曲げていった。高山は己の不出来を己以外の全てのせいだと責任転嫁し、世間を憎み、全てを恨み、そして凶行に至った。
被害者Aは20xx年8月24日午後11時過ぎ、高山の自宅において後頭部をバールで殴打され殺害。その後、高山により身体をバラバラに解体された後ミンチ状に叩き潰された。発見された段階では、人間だったものとは到底思えず修復不可能なほどだったという。
きっかけは近隣住民からの異臭がするという通報だった。高山は殺害から2週間後、Aさんだった腐肉と室内で戯れている所を発見、逮捕に至る。現場はひどい有り様で、近隣住民の中には体調を崩し救急搬送される者もいた。身体に、腐肉とそこから滲み出る汁を塗りたくっていた高山は抵抗することもなく素直に同行し、Aさん殺害及び死体損壊等の罪を認めた。初公判は※月※日予定。』
いくつも情報を拾っていく中で、私は唐突に、彼の名前の意味について気が付き、二の腕にぞわりと鳥肌が立った。
一途。イット。それ。
あぁ、彼は、ずっと忌み嫌われ、居場所もなくただ産み落とされたという理由で必死に生きてきたんだと、何も知らない私ですら胸が締め付けられる思いがした。私は頭に入れた情報から憶測を全て消し、残った彼の人生のカケラを持って、刑務所へと赴いた。
「こんにちは。」
「こんにちは。」
「失礼します。」
「どうぞ。」
手錠と腰縄を付けて出てきた青年は、私と大して歳の変わらない、人畜無害、悪く言えば何の印象にも残らない、黒髪と、黒曜石のような真っ黒な瞳の持ち主だった。奥深い、どこまでも底のない瞳をつい値踏みするように見てしまって、慌てて促されるままパイプ椅子へと腰掛けた。彼は開口一番、私の書いている小説のことを聞いた。
「何か一つ、話してくれませんか。」
「え、あ、はい、どんな話がお好きですか。」
「貴方が一番好きな話を。」
「分かりました。では、...世界から言葉が消えたなら。」
私の一番気に入っている話、それは、10万字話すと死んでしまう奇病にかかった、愛し合う二人の話。彼は朗読などしたこともない、世に出てすらいない私の拙い小説を、目を細めて静かに聞いていた。最後まで一度も口を挟むことなく聞いているから、読み上げる私も自然と力が入ってしまう。読み終え、余韻と共に顔を上げると、彼はほろほろ、と、目から雫を溢していた。人が泣く姿を、こんなにまじまじと見たのは初めてだった。
「だ、大丈夫ですか、」
「えぇ。ありがとうございます。」
「あの、すみません、どうして私と、会っていただけることになったんでしょうか。」
ふるふる、と犬のように首を振った彼はにこり、と機械的にはにかんで、机に手を置き私を見つめた。かしゃり、と決して軽くない鉄の音が、無機質な部屋に響く。
「僕に大してアクションを起こしてくる人達は皆、同情や好奇心、粗探しと金儲けの匂いがしました。送られてくる手紙は全て下手に出ているようで、僕を品定めするように舐め回してくる文章ばかり。」
「...それは、お察しします。」
「でも、貴方の手紙には、「理解しない人間に理解させるため、言葉を紡ぎませんか。」と書かれていた。面白いな、って思いませんか。」
「何故?」
「だって、貴方、「理解させる」って、僕と同じ目線に立って、物を言ってるでしょう。」
「.........意識、していませんでした。私はただ、憶測が嫌いで、貴方のことを理解したいと、そう思っただけです。」
「また、来てくれますか。」
「勿論。貴方のことを、少しずつでいいので、教えてくれますか。」
「一つ、条件があります。」
「何でしょう。」
「もし本にするなら、僕の言葉じゃなく、貴方の言葉で書いて欲しい。」
そして私は、彼の元へ通うことになった。話を聞けば聞くほど、彼の気持ちが痛いほど分かって、いや、分かっていたのかどうかは分からない。共鳴していただけかもしれない、同情心もあったかもしれない、でも私はただただあくる日も、そのあくる日も、私の言葉で彼を表し続けた。私の記した言葉を聞いて、楽しそうに微笑む彼は、私の言葉を最後まで一度も訂正しなかった。
「貴方はどう思う?僕の、したことについて。」
「...私なら、諦めてしまって、きっと得物を手に取って終わってしまうと思います。最後の最後まで、私が満たされることよりも、世間を気にしてしまう。不幸だと己を憐れんで、見えている答えからは目を背けて、後悔し続けて死ぬことは、きっと貴方の目から見れば不思議に映る、と思います。」
「理性的だけど、道徳的な答えではないね。普通はきっと、「己を満たす為に人を殺すのは躊躇う」って、そう答えるんじゃないかな。」
「でも、乾き続ける己のままで生きることは耐え難い苦痛だった時、己を満たす選択をしたことを、誰が責められるんでしょうか。」
「...貴方に、もう少し早く、出逢いたかった。」
ぽつり、零された言葉と、アクリル板越しに翳された掌。温度が重なることはない。触れ合って、痛みを分かち合うこともない。来園者の真似をする猿のように、彼の手に私の手を合わせて、ただ、じっとその目を見つめた。相変わらず何の感情もない目は、いつもより少しだけ暖かいような、そんな気がした。
彼も、私も、孤独だったのだと、その時初めて気が付いた。世間から隔離され、もしくは自ら距離を置き、人間が信じられず、理解不能な数億もの生き物に囲まれて秩序を保ちながら日々歩かされることに抗えず、翻弄され。きっと彼の胸に空いていた穴は、彼が被害者を殺害し、埋めようと必死に肉塊を塗りたくっていた穴は、彼以外の人間が、もしくは彼が、無意識のうちに彼から抉り取っていった、彼そのものだったのだろう。理解した瞬間止まらなくなった涙を、彼は拭えない。そうだった、最初に私の話で涙した彼の頬を撫でることだって、私には出来なかった。私と彼は、分かり合えたはずなのに、分かり合えない。私の言葉で作り上げた彼は、世間が言う狂人でも可哀想な子でもない、ただ一人の、人間だった。
その数日後、彼が獄中で首を吊ったという報道が流れた時、何となく、そうなるような気がしていて、それでも私は、彼が味わったような、胸に穴が開くような喪失感を抱いた。彼はただ、理解されたかっただけだ。理解のない人間の言葉が、行動が、彼の歩く道を少しずつ曲げていった。
私は書き溜めていた彼の全てを、一冊の本にした。本のタイトルは、「今日も、皮肉なほど空は青い。」。逮捕された彼が手錠をかけられた時、部屋のカーテンの隙間から空が見えた、と言っていた。ぴっちり閉じていたはずなのに、その時だけひらりと翻った暗赤色のカーテンの間から顔を覗かせた青は、目に刺さって痛いほど、青かった、と。
出版社は皆、猟奇的殺人犯のノンフィクションを出版したい、と食い付いた。帯に著名人の寒気がする言葉も書かれた。私の名前も大々的に張り出され、重版が決定し、至る所で賛否両論が巻き起こった。被害者の遺族は怒りを露わにし、会見で私と、彼に対しての呪詛をぶちまけた。
インタビュー、取材、関わってくる人間の全てを私は拒否して、来る日も来る日も、読者から届く手紙、メール、SNS上に散乱する、本の感想を読み漁り続けた。
そこに、私の望むものは何もなかった。
『あなたは犯罪者に対して同情を誘いたいんですか?』
私がいつ、どこに、彼を可哀想だと記したのだろう。
『犯罪者を擁護したいのですか?理解出来ません。彼は人を殺したんですよ。』
彼は許されるべきだとも、悪くない、とも私は書いていない。彼は素直に逮捕され、正式な処罰ではないが、命をもって罪へ対応した。これ以上、何をしろ、と言うのだろう。彼が跪き頭を地面に擦り付け、涙ながらに謝罪する所を見たかったのだろうか。
『とても面白かったです。狂人の世界が何となく理解出来ました。』
何をどう理解したら、この感想が浮かぶのだろう。そもそもこの人は、私の本を読んだのだろうか。
『作者はもしかしたら接していくうちに、高山を愛してしまったのではないか?贔屓目の文章は公平ではなく気持ちが悪い。』
『全てを人のせいにして自分が悪くないと喚く子供に殺された方が哀れでならない。』
『結局人殺しの自己正当化本。それに手を貸した筆者も同罪。裁かれろ。』
『ただただ不快。皆寂しかったり、一人になる瞬間はある。自分だけが苦しい、と言わんばかりの態度に腹が立つ。』
『いくら貰えるんだろうなぁ筆者。羨ましいぜ、人殺しのキチガイの本書いて金貰えるなんて。』
私は、とても愚かだったのだと気付かされた。
皆に理解させよう、などと宣って、彼を、私の言葉で形作ったこと。裏を返せば、その行為は、言葉を尽くせば理解される、と、人間に期待をしていたに他ならない。
私は、彼によって得たわずかな幸福よりも、その後に押し寄せてくる大きな悲しみ、不幸がどうしようもなく耐え難く、心底、己が哀れだった。
胸に穴が空いている、と言う幻覚を見続けた彼は、穴が塞がりそうになるたび、そしてまた無機質な空虚に戻るたび、こんな痛みを感じていたのだろうか。
私は毎日、感想を読み続けた。貰った手紙は、読んだものから燃やしていった。他者に理解される、ということが、どれほど難しいのかを、思い知った。言葉を紡ぐことが怖くなり、彼を理解した私ですら、疑わしく、かといって己と論争するほどの気力はなく、ただ、この世に私以外の、彼の理解者は現れず、唯一の彼の理解者はここにいても、もう彼の話に相槌を打つことは叶わず、陰鬱とする思考の暗闇の中を、堂々巡りしていた。
思考を持つ植物になりたい、と、ずっと思っていた。人間は考える葦である、という言葉が皮肉に聞こえるほど、私はただ、一人で、誰の脳にも引っ掛からず、狭間を生きていた。
孤独、などという言葉で表すのは烏滸がましいほど、私、彼が抱えるソレは哀しく、決して治らない不治の病のようなものだった。私は彼であり、彼は私だった。同じ境遇、というわけではない。赤の他人。彼には守るべき己の秩序があり、私にはそんな誇り高いものすらなく、能動的、怠惰に流されて生きていた。
彼は、目の前にいた人間の頭にバールを振り下ろす瞬間も、身体をミンチにする工程も、全て正気だった。ただ心の中に一つだけ、それをしなければ、生きているのが恐ろしい、今しなければずっと後悔し続ける、胸を掻きむしり大声を上げて暴れたくなるような焦燥感、漠然とした不安感、それらをごちゃ混ぜにした感情、抗えない欲求のようなものが湧き上がってきた、と話していた。上手く呼吸が出来なくなる感覚、と言われて、思わず己の胸を抑えた記憶が懐かしい。
出版から3ヶ月、私は感想を読むのをやめた。人間がもっと憎らしく、恐ろしく、嫌いになった。彼が褒めてくれた、利己的な幸せの話を追い求めよう。そう決めた。私の秩序は、小説を書き続けること。嗚呼と叫ぶ声を、流れた血を、光のない部屋を、全てを飲み込む黒を文字に乗せて、上手く呼吸すること。
出版社は、どこも私の名前を見た瞬間、原稿を送り返し、もしくは廃棄した。『君も人殺したんでしょ?なんだか噂で聞いたよ。』『よくうちで本出せると思ったね、君、自分がしたこと忘れたの?』『無理ですね。会社潰したくないので。』『女ならまだ赤裸々なセックスエッセイでも書かせてやれるけど、男じゃ使えないよ、いらない。』数多の断り文句は見事に各社で違うもので、私は感嘆すると共に、人間がまた嫌いになった。彼が乗せてくれたから、私の言葉が輝いていたのだと痛感した。きっとあの本は、ノンフィクション、ルポルタージュじゃなくても、きっと人の心に突き刺さったはずだと、そう思わずにはいられなかった。
以前に働いていた会社は、ルポの出版の直前に辞表を出した。私がいなくても、普段通り世界は回る。著者の実物を狂ったように探し回っていた人間も、見つからないと分かるや否や他の叩く対象を見つけ、そちらで楽しんでいるようだった。私の書いた彼の本は、悪趣味な三流ルポ、と呼ばれた。貯金は底を尽きた。手当たり次第応募して見つけた仕事で、小銭を稼いだ。家賃と、食事に使えばもう残りは硬貨しか残らない、そんな生活になった。元より、彼の本によって得た利益は、全て燃やしてしまっていた。それが、正しい末路だと思ったからだったが、何故と言われれば説明は出来ない。ただ燃えて、真っ赤になった札が灰白色に色褪せ、風に脆く崩れていく姿を見て、幸せそうだと、そう思った。
名前を伏せ、webサイトで小説を投稿し始めた。アクセス数も、いいね!も、どうでも良かった。私はただ秩序を保つために書き、顎を上げて、夜店の金魚のように、浅い水槽の中で居場所なく肩を縮めながら、ただ、遥か遠くにある空を眺めては、届くはずもない鰭を伸ばした。
ある日、web上のダイレクトメールに一件のメッセージが入った。非難か、批評か、スパムか。開いた画面には文字がつらつらと記されていた。
『貴方の本を、販売当時に読みました。明記はされていませんが、某殺人事件のルポを書かれていた方ですか?文体が、似ていたのでもし勘違いであれば、すみません。』
断言するように言い当てられたのは初めてだったが、画面をスクロールする指はもう今更震えない。
『最新作、読みました。とても...哀しい話でした。ゾンビ、なんてコミカルなテーマなのに、貴方はコメをトラにしてしまう才能があるんでしょうね。悲劇。ただ、二人が次の世界で、二人の望む幸せを得られることを祈りたくなる、そんな話でした。過去作も、全て読みました。目を覆いたくなるリアルな描写も、抽象的なのに五感のどこかに優しく触れるような比喩も、とても素敵です。これからも、書いてください。』
コメとトラ。私が太宰の「人間失格」を好きな事は当然知らないだろうに、不思議と親近感が湧いた。単純だ。と少し笑ってから、私はその奇特な人間に一言、返信した。
『私のルポルタージュを読んで、どう思われましたか。』
無名の人間、それも、ファンタジーやラブコメがランキング上位を占めるwebにおいて、埋もれに埋もれていた私を見つけた人。だからこそ聞きたかった。例えどんな答えが返ってきても構わなかった。もう、罵詈雑言には慣れていた。
数日後、通知音に誘われて開いたDMには、前回よりも短い感想が送られてきていた。
『人を殺めた事実を別にすれば、私は少しだけ、彼の気持ちを理解出来る気がしました。。彼の抱いていた底なしの虚無感が見せた胸の穴も、それを埋めようと無意識のうちに焦がれていたものがやっと現れた時の衝動。共感は微塵も出来ないが、全く理解が出来ない化け物でも狂人でもない、赤色を見て赤色だと思う一人の人間だと思いました。』
何度も読み返していると、もう1通、メッセージが来た。惜しみながらも画面をスクロールする。
『もう一度読み直して、感想を考えました。外野からどうこう言えるほど、彼を軽んじることが出来ませんでした。良い悪いは、彼の起こした行動に対してであれば悪で、それを彼は自死という形で償った。彼の思考について善悪を語れるのは、本人だけ。』
私は、画面の向こうに現れた人間に、頭を下げた。見えるはずもない。自己満足だ。そう知りながらも、下げずにはいられなかった。彼を、私を、理解してくれてありがとう。それが、私が愛読者と出会った瞬間だった。
愛読者は、どうやら私の作風をいたく気に入ったらしかった。あれやこれや、私の言葉で色んな世界を見てみたい、と強請った。その様子はどこか彼にも似ている気がして、私は愛読者の望むまま、数多の世界を創造した。いっそう創作は捗った。愛読者以外の人間は、ろくに寄り付かずたまに冷やかす輩が現れる程度で、私の言葉は、世間には刺さらない。
まるで神にでもなった気分だった。初めて小説を書いた時、私の指先一つで、人が自由に動き、話し、歩き、生きて、死ぬ。理想の愛を作り上げることも、到底現実世界では幸せになれない人を幸せにすることも、なんでも出来た。幸福のシロップが私の脳のタンパク質にじゅわじゅわと染みていって、甘ったるいスポンジになって、溢れ出すのは快楽物質。
そう、私は神になった。上から下界を見下ろし、手に持った無数の糸を引いて切って繋いでダンス。鼻歌まじりに踊るはワルツ。喜悲劇とも呼べるその一人芝居を、私はただ、演じた。
世の偉いベストセラー作家も、私の敬愛する文豪も、ポエムを垂れ流す病んだSNSの住人も、暗闇の中で自慰じみた創作をして死んでいく私も、きっと書く理由なんて、ただ楽しくて気持ちいいから。それに尽きるような気がする。
愛読者は私の思考をよく理解し、ただモラルのない行為にはノーを突きつけ、感想を欠かさずくれた。楽しかった。アクリルの向こうで私の話を聞いていた彼は、感想を口にすることはなかった。核心を突き、時に厳しい指摘をし、それでも全ての登場人物に対して寄り添い、「理解」してくれた。行動の理由を、言動の意味を、目線の行く先を、彼らの見る世界を。
一人で歩いていた暗い世界に、ぽつり、ぽつりと街灯が灯っていく、そんな感覚。じわりじわり暖かくなる肌触りのいい空気が私を包んで、私は初めて、人と共有することの幸せを味わった。不変を自分以外に見出し、脳内を共鳴させることの価値を知った。
幸せは麻薬だ、とかの人が説く。0の状態から1の幸せを得た人間は、気付いた頃にはその1を見失う。10の幸せがないと、幸せを感じなくなる。人間は1の幸せを持っていても、0の時よりも、不幸に感じる。幸福感という魔物に侵され支配されてしまった哀れな脳が見せる、もっと大きな、訪れるはず���信じて疑わない幻影の幸せ。
私はさしずめ、来るはずのプレゼントを玄関先でそわそわと待つ少女のように無垢で、そして、馬鹿だった。無知ゆえの、無垢の信頼ゆえの、馬鹿。救えない。
愛読者は姿を消した。ある日話を更新した私のDMは、いつまで経っても鳴らなかった。震える手で押した愛読者のアカウントは消えていた。私はその時初めて、愛読者の名前も顔も性別も、何もかもを知らないことに気が付いた。遅すぎた、否、知っていたところで何が出来たのだろう。私はただ、愛読者から感想という自己顕示欲を満たせる砂糖を注がれ続けて、その甘さに耽溺していた白痴の蟻だったのに。並ぶ言葉がざらざらと、砂時計の砂の如く崩れて床に散らばっていく幻覚が見えて、私は端末を放り投げ、野良猫を落ち着かせるように布団を被り、何がいけなかったのかをひとしきり考え、そして、やめた。
人間は、皆、勝手だ。何故か。皆、自分が大事だからだ。誰も守ってくれない己を守るため、生きるため、人は必死に崖を這い上がって、その途中で崖にしがみつく他者の手を足場にしていたとしても、気付く術はない。
愛読者は何も悪くない。これは、人間に期待し、信用という目に見えない清らかな物を崇拝し、焦がれ、浅はかにも己の手の中に得られると勘違いし小躍りした、道化師の喜劇だ。
愛読者は今日も、どこかで息をして、空を見上げているのだろうか。彼が亡くなった時と同じ感覚を抱いていた。彼が最後に見た澄んだ空。私が、諦観し絶望しながらも、明日も見るであろう狭い空。人生には不幸も幸せもなく、ただいっさいがすぎていく、そう言った27歳の太宰の言葉が、彼の年に近付いてからやっと分かるようになった。そう、人が生きる、ということに、最初から大して意味はない。今、人間がヒエラルキーの頂点に君臨し、80億弱もひしめき合って睨み合って生きていることにも、意味はない。ただ、そうあったから。
愛読者が消えた意味も、彼が自ら命を絶った理由も、考えるのをやめよう。と思った。呼吸代わりに、ある種の強迫観念に基づいて狂ったように綴っていた世界も、閉じたところで私は死なないし、私は死ぬ。最早私が今こうして生きているのも、植物状態で眠る私の見ている長い長い夢かもしれない。
私は思考を捨て、人でいることをやめた。
途端に、世界が輝きだした。全てが美しく見える。私が今ここにあることが、何よりも楽しく、笑いが止まらない。鉄線入りの窓ガラスが、かの大聖堂のステンドグラスよりも耽美に見える。
太宰先生、貴方はきっと思考を続けたから、あんな話を書いたのよ。私、今、そこかしこに檸檬を置いて回りたいほど愉快。
これがきっと、幸せ。って呼ぶのね。
愛読者は死んだ。もう戻らない。私の世界と共に死んだ、と思っていたが、元から生きても死んでもいなかった。否、生きていて、死んでいた。シュレディンガーの猫だ。
「嗚呼、私、やっぱり、
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idiotect · 3 years
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ちょっとだけ、クラウドがホラーちっくなおはなしでっす。
なんでもOKの方推奨~~~~!
「クラウド!!!!」
 目を離した刹那。本当にそれは一瞬で。  クラウドの身体を、ヤズー��ロッズが放った銃弾が貫いていた。そして、次の瞬間、振りかぶった彼の大剣と沢山のマテリアから発動した魔法が衝突し、目も開けていられない程の白い爆発の後、どこを探しても、いくら名前を呼ぼうとも、世界中を何周としても、彼の姿はとうとう見つからなかった。  rêve ou réalité  あの日の雨で星痕症候群の患者が救われて幾日が過ぎただろうか。エッジの街はまだまだ遠方から病を治しに来る人々でごった返している。世界中に降った輝くような雨は、それを浴びた人、もの、すべてを浄化したけれども、その時、デンゼルのように屋根の下に居た人も多く、噂を聞きつけた人々で伍番街の教会は連日中に入れないほどの人出だそうだ。混乱が生じるといけないので、リーブをはじめとしたWROが指揮をとっているらしい。仲間達も手が空いている者はそれを手伝っているという。  そんな中、ティファは一人、店を再開した。  手伝いには行かなかった。仲間達も来なくていい、十分だ、と言っていたし、寧ろ、店もやらずに休んでいたらいいんじゃないか、とも言われた。それというのも、あの日から、ティファは連日連夜、クラウドを探していた。そして、そうなることは傍目に見ても分かりきっていたのに、精神のバランスを崩してしまったのだ。  特に深刻なのは睡眠だった。  ティファは、夢を見る。  その夢では、皆が見守る中、クラウドは教会の泉の中に現れて、ただいま、と言った。そして、マリンとデンゼルと4人で手を繋いで、セブンスヘブンに帰ってきた。仲間達皆で祝杯をあげてご馳走を食べて、これでもかと酔いつぶれてそして、二人、同じベッドで眠った。 「…ティファ?」  ふと、柔らかい音が響て、ティファは瞼を開いた。 「…マリン。…ごめん、寝てた?」 「うん。…あのね、そろそろ酒屋さん来る時間だな、って思って」  重たい瞼を持ち上げて、ティファは時計を見た。いつから意識を失っていたのか。確かに、もうすぐ納品の車が来る時間だ。 「もうこんな時間だったんだ。起こしてくれてありがとう、マリン」  マリンは少しだけ眉をよせて、うん、と小さくうなずいた。  睡眠障害。そう診断されて日が浅い。  日中、ぼうっとしているとすぐ寝落ちてしまうのだ。だからなのか、寝すぎて眠い悪循環で、ずっと、けだるさが体中にまとわりついている。病院にも行ったが、おそらく精神的ショックをやわらげようと、脳が眠るよう過剰に指示を出しているのでしょう、そういった診断だった。規則正しい生活をすれば、じきによくなりますよ、と。  その為、ティファは一旦クラウドの捜索を諦め、日中起きていられる時間をフルで使って店の開店準備をし、夜は精一杯働いた。働いている間は気がまぎれるし、寝落ちてしまう事もない。ティファだって、夢うつつのまどろみは望んではいなかった。そういう中途半端な眠りが、一番 精神的によくない夢を見せた。だから、ぐっすりと眠る必要があるのだ。潜在意識が届かないほどの、深い深い眠りに。 「こんにちはー!配達でーす!」  元気な声が裏口の方からして、ティファは慌てて走っていった。 「ごめんなさい、ぼんやりしてて… …あれ、いつもの方はお休みですか?」 「あ~… …あの、前の人、突然辞めたんっスよ」 「え!?何かあったとか…?」 「えっと、いや、う~ん、詳しくはわからないんです」  どこか言いにくそうに青年は笑うと、ティファが注文していた酒類の木箱を重たそうに置いた。明らかに慣れてなさそうな様子だ。   (…一昨日来た時は、いつも通りだったのに…)  顔なじみのいつもの酒屋の配達員は、もうセブンスヘブンの担当になって随分長かった。真面目な人柄で、仕事も丁寧で。それに、いつも、ちょっとした雑談とか、おまけとかしてくれるくらいには親しかった、と思っていただけに、何も言わずに突然やめた、という事実を、ティファはいまいち飲み込めなかった。人間関係のもめごとだろうか?職場環境が悪かった、とか…?そんなもやもやが、顔に出ていたのかもしれない。 「あ~、あの…」  悩んだ挙句、のような歯切れの悪さで、新担当の青年が口を開いた。 「ここだけの話なんですが、アイツ、クスリやってたみたいで…」 「え!?」 「中毒っぽくなって入院したって話なんですわ。…言わないでくださいよ。あ、オレも他の店のヤツ皆、クスリやってるヤツなんか後いませんから、そこは安心してください!」  それだけ早口で言うと、青年は帰っていった。 (クスリ、…)  世界が救われたからといって、すべてが平和になるなんて思ってはいない。ついこの間も、常連客の一人が最近店に来なくなったので、いつも一緒に飲んでいた人に聞いたところ、借金を踏み倒して蒸発したとか。 (分かってはいる、、けど…)  今更、正義漢ぶるつもりだってさらさらなかった。でも、命を落とした仲間達の事を想うと、気持ちの収まりどころが分からなくなる時も時々あった。 ***  それから数日後の事だ。その日も店は大繁盛だった。  けっして広くはない店の中、皆が幸せそうに笑っている様子を見渡していて、ふと、カウンター席の端に一人で座る男性にティファの目が留まった。彼もまた、常連客の一人だった。いつもは陽気に、他愛もない色々な話をしてくれる彼だが、今日は何かあったのか沈んだ表情をしていた。 「おかわり、作ります?」  それとなく近寄って話しかけると、空のグラスを両手で抱えて何か考え事をしていたらしい男性は、びくりと身体を震わせて、そしてあわあわと顔を上げた。 「あぁ、ティファちゃん。もう、たくさん飲んだから、この辺にしとくよ」 「ふふ、飲み過ぎは良くないですものね」  そう、ティファが頷くと、男性はほっとしたようだった。  ティファは皿を拭く続きに戻った。一枚一枚、丁寧に布巾で拭いて、棚にしまっていく。その工程をずっと見ていた男性だったが、最後の一枚が拭き終わった時、おもむろに口を開いた。 「ティファちゃんは眠れなくなったことはあるかい?」 「…私は、、最近寝すぎるくらいなので…。…眠れないんですか?」  男性はただ頷いた。 「最近、ね…。酒でも飲めば眠れるかと思ったんだけど、そうでもないみたいだ。…でも、…いや。気のせいかもな…」  そう独り言のように呟いて、そして顔を伏せた。 「あ、そうだ、これ使ってみます?」  ティファはポケットから小さな匂い袋を取り出した。ハーブの優しい匂いが香るそれは、精神を落ち着ける働きがある、とかでマリンとデンゼルと一緒に作ったものだった。 「なんだい?」 「お守りみたいなものです。昨日、子供達と作ったんです。眠れるようになるといいんだけど」  男性はその袋を受け取ると、すうっと匂いを嗅いで、そして微笑んだ。 「いい匂いだ。…よく眠れるかもしれない」  しかし、その後、それまで定期的に来てたその男性を店でみかける事はなくなった。 ***  ユフィが来た時、ティファはこの事を思い切って話してみた。 「え~、ティファの思い過ごしだって。そんなことないよ」 「でも…なんだか、気になって」 「そんなん、世の中にはごまんといるって。たまたま、店の常連客が2人来なくなっただけじゃん」 「酒屋さん入れると3人だよ」  ティファが即座に反論すると、ユフィはあからさまに大きなため息をついた。 「じゃ、3人。…だいたいさ、ティファ働きすぎなんだよ」 「そんなことないよ」 「そんな事あるって」 「だって……ユフィとか皆の方が働いてるでしょ…」 「アタシ達は、ほら、、、どこも悪くないからさ」 「私だって、ただ、寝すぎるだけで…」 「それが心配なんじゃん。皆心配してるよ。クラウドならぜったい止めてる……」  名前を出してしまって、ユフィはしまった、と顔をしかめる。  でも、ティファの表情はみるみるうちに曇っていった。 「寝すぎるとか、そんな事してる場合じゃないのにね。早く、クラウド探してあげないと…」 「あ〜……」     その時だった。ぐらっと視界が揺らいで、ティファはテーブルに手をついた。 「ティファ!?」 「ごめん、ゆふぃ、ちょっと横になる…」 「大丈夫!?苦しい??」 「ううん…だいじょうぶ…」 「全然大丈夫に見えないよ!…何か薬とか…」 「…ほんとうに、だいじょうぶだから…」  それは本当だ。これだけ強烈な眠気ならば大丈夫。今回は深い眠りに違いない。 「ねむいだけだから…」 「ティファ!」  ユフィの悲鳴のような声が遠くに聞こえて、そして、消えた。  ・  ・  ・  ・  無音の後の静寂。 「…ティファ」  真っ暗な世界に響いた、大好きな、やさしい声。  ティファは目を開いた。 「…クラウド?」 「おはよう、ティファ」 「…おはよう」  そして、そのままクラウドの首に抱きついた。 「…ティファ?」 「…怖い夢を見たの」 「……どんな?」 「…クラウドが居なくなる夢」 「俺はここに居る」 「うん。…でも、家出した」 「それはっ…ごめん。もうしない」 「絶対?」 「うん。絶対だ」  耳元で響いた、困ったような、でもどこか嬉しそうなその声に、ティファは少しだけ身体を離して、クラウドの顔を見た。  そこは二人の寝室で、そして、碧い瞳が少し心配そうに、こちらを見ていた。  だから、そのきゅっと一文字に結ばれた唇に、ティファはキスをした。即座にクラウドはそれに答えてくれて、彼女の閉じていた唇は割って入ってきた舌によって開けられる。顔の角度を変え、もう一度、と落ちてきた熱い吐息に、再度入ってきた舌に、身体の奥が疼いて熱を持ち始める。 「…ティファ」 「ん?」 「…もう少しだから」 「え?」 「…もう少しだ。だから…」  こつんと額と額が触れ、地肌に直に触れるクラウドの指に力が籠もった。次の瞬間、彼がティファを掻き抱いた腕が強くて、息が苦しい。 「……。」 「え?」 「」 「クラウド?なんて言ったの?」 「クラウド??」  パッと目が覚めた。  そこは夢に見たのと同じベッドの上。  ただ、そこにはティファ一人だった。 (…聞いちゃいけなかったんだ)    ティファは起き上がった。目を向けた窓の外は、空が白ばんでいる。夜明け前の静かな靄のかかった外の景色。窓にカーテンがかけられていないのは、そんな時間から眠っていたからだろうか。  ティファはただぼんやりと窓の外をみつめた。  徐々に外は明るさを増し、ふとした瞬間、光の糸が空に放たれ、じんわりと頭を見せた陽の輝き。それは一瞬で空を金色に染めた。 (…………そうすれば、まだ一緒にいられたのに)  深い夢は幸せに満ち溢れていて、そして残酷だ。夢はティファの発言を求めてはいない。いつも一方的に始まって、唐突に終わった。  夢の中で二人は言葉もなく飽きもせず、一晩中愛し合った。夢の中で目が覚めると、いつもそこにはクラウドの顔があって。そして、目が合う。唇が重なる。クラウドの手が服の下から肌に触る、その少しだけ冷たい感触までもありありと伝わってくる。だから、いつも全力でそれに答えてしまう。すると、煌々と濡れた唇がティファの身体中にキスを落としていく。全身に余すことなく、彼の、クラウドの感触が刻み込まれていく。そして、夜が明けるのだ。  ……でもそれは、最後まで、間違えなかった時。間違うと、今みたいに夜明け前に目が覚めてしまう。 (…次は気をつけなくちゃ)  話してはいけない、そう訴えるように、夢の中のクラウドはティファの問にはほとんど答えない。それなのに、今日の夢の中の彼は何か伝えたそうでもあった。それは、ティファが咄嗟に抱き着いてしまったからなのかもしれないが。でも、、、 (わかってる、所詮、あれは夢…)  触れる感触も、耳に響くその声も限りなくリアルで、今の生きる喜びで、でも、夢、なのだ。  と、行き場を失ったままになっていた身体の中の熱がうずいて、ティファは自分で自分を抱きしめた。  その時、違和感を感じた。  恐る恐る、自分の腕を見る。そこには、いつできたのだろうか、きつく握りしめられたような、赤い指の跡が浮かんでいた。 *** 「ティファさん…顔色悪くないですか?」 「え!?そ、そうですか…?」  常連客に突然指摘され、ティファは思わずグラスを落としそうになった。幸いにもそれはまた手の中に留まり、最悪の事態は防げたものの、一緒になって飛び跳ねた心臓はドキドキと大きな音を響かせている。 「疲れてるんじゃないかって、前から心配してたんですよ。最近、表情が暗い」  常連客は尚も続ける。  しかし、その彼の心配してくれているのであろう口調が、妙に耳に触るような気がして、ティファは俯いた。 「…昨日夜更かししたからかな。今日は早く寝ます」  ティファはそう言うと、素早く客に微笑み、そしてまた視線を落とす。  作業をしている風を装って、もう磨き上がれているグラスを再度拭き始めた。 「心配だな…僕が家族なら、早く休めって、今日はもう貴女を休ませますよ」 「ふふ、そうですね。もうすぐお店も閉店時間だし、今日は早めに閉めちゃおうかな」 「ティファさん、僕は本気で心配しているんですよ」  ああ、嫌だ、咄嗟にそう思ってしまって、ティファは耳を塞ぎたくなった。 「僕だったら、貴女みたいな人を一人で働かせたりしない」  私は、働きたくて働いているの。働かされているわけじゃない。 「そうだ、僕が代わりに皆に言いましょうか。今日は閉店しますって」  やめて。  それは、それは………クラウドの役目。  ―ティファ、休んだ方がいい。  ―すまない、今日は早いが閉店にする。  脳裏に心配そうな彼の姿が浮かんだ。その表情が夢の中のクラウドと重なる。ティファ、と心配そうにのぞき込む、吸い込まれそうなほど碧い瞳。  彼の、……クラウドの場所を、私から取らないで。  ティファは顔を上げると、にっこり、とほほ笑んだ。 「いえ、自分で皆さんに言ってきます。お会計もあるし…あ、先に頂いてもいいですか?」 「えっ、ああ…」  代金を受け取って、ティファはカウンターから出た。そして、テーブル一つ一つに声をかけていく。その後ろで、先ほどの常連客は店を出たようだった。  それからすぐの事だった。  ドン    そんな鈍い大きな音が店の外から響いた。 「なんだぁ…?」  誰かがそう呟き、誰かが外へ様子を見に行った。しばらくして戻ってきた男は、席に座りながら隣の客に言った。 「なんでも、近くで事故があったらしい。モンスター車だかに人がひかれたんだとよ」 「へぇ。千鳥足で歩いてた酔っ払いか」 「そこまでは分からなかったなぁ」  ・  ・  ・ 「ティファ」 「…クラウド?」 「おはよう、ティファ」 「…おはよう」  ティファはクラウドに抱きついた。 「…ティファ?」 「クラウド、どこに居るの?」 「………ここに居るだろ?」 「………。」  いやいやをする小さな子供のように、ティファは頭を横に振った。 「でも、」 「ティファ」  クラウドはティファの名前を呼ぶ。そして、その唇はティファの耳の外側をなぞるように触れたのち、その耳たぶを唇と唇で挟んだ。 「ん…」  漏れ出た声に、耳元に落とされた、ため息のような吐息。 「…もう少しだ」 「…。」 「……だから、それまで…」 「……。」  静かに身体はベッドの上に寝かされる。  一番最初は額だ。つぎにこめかみ。頬、そして、首筋。ゆっくりとクラウドはキスを落としていく。いつも決まった順番。むき出しの腕をなぞるように移動した唇は、手の甲で止まり、そして内側にも。指の一本一本までも。  その動きを見ていると碧い瞳と目が合う。そして彼は切なげに微笑んで、唇と唇が重なった。 「……俺は、ティファの方が居なくならないか不安だ」 「…え?」  覆いかぶさるその大きな身体が闇を作る。 「…………誰も、ティファに近寄らせたくない」 「え?」 「ティファは分かってない、」 「…クラウド?」 「…俺が…どれだけ……」 「クラウド?」  ・  ・  ・  店のドアベルが勢いよく跳ね上がり、近くのテーブルに座っていた初老の男性がそれに気が付いて顔を上げた。 「おう、いつも元気だな」 「あったりまえじゃん!」  その元気のよい声にティファが顔を上げると、それに気が付いたユフィがひらひらと手を振った。 「ティファ~お腹すいた~」 「先に連絡くれたら作って待ってたのに!」  呆れて言うティファに、ユフィは「忍がそんなことしないって」そう真顔で言い返しながらカウンター席に腰を下ろした。 「適当でいい?」 「うん。おいしーやつお願いね!」 「りょうかい」  ティファが調理を始め、ユフィはそれをにこにこ顔で眺めていたが、ふと、思い立ったように口を開いた。 「あれからは増えてない?」 「え?何が??」 「前に、ティファの思い過ごしだって言ったやつだよ」 「う~ん」 「え、また誰か来なくなったの?」 「うん…、でもそれは私のせいだから違うかな」 「ティファのせいって?」 「ちょっと、失礼な事をした、かも…」  その二人の会話が聞こえていたようだ。ユフィの隣に座っていた男が口をはさんだ。 「それさ、よくそこに座ってたヤツ?身なりの良いスーツ着て」  カウンター席はだいたい常連客が座る事が多いため、それぞれが名前は知らずとも顔見知りであることも多い。その男も大概いつも同じ席に座っていたから知っていたのだろう。 「ええ、そうです」 「あいつ、事故にあったって言ってたから、ティファちゃんのせいじゃないさ。治ったらまた来るだろうから、覚悟しといた方がいいよ」 「なんだよ、覚悟って」 「ティファちゃんはモテるんだって」 「はぁ?知ってるし」  ユフィが客に失礼な態度をとっているにも関わらず、ティファはぼうっと呟いた。 「…事故?」  あの日、一番最初に帰った彼。あの後すぐに近くで事故があったと聞いたのは、数日たってからだった。街中に入ってきたモンスターと一般人が衝突したそうだ。もし、それが彼だったのなら。それが、ここに来ていた事が原因なのだとしたら。……これで4人目だ。 (なんだろう…怖い…)  背筋に悪寒のようなものが走って、ティファは身震いをした。次々と姿を消していく顔見知りの人達。それぞれ理由があるにせよ、重なりすぎじゃないだろうか。そして、そう、ティファ自身の体調不良。規則正しい生活を心がけてはいるが、一行に改善が見られない。それどころか、日に日に悪化しているような気さえする。 「ねぇ、ユフィ、やっぱり…」  そう言いかけたティファだったが、ユフィはあ、という顔のまま、丁度電話に出てしまったところだった。 「もしもーし!ユフィちゃんだよ。…え、今?…別にいーじゃん、どこでも」  不貞腐れた顔をした彼女だったが、途端に表情が変わった。 「ティファ今仕事中だから。は?ティファなら目の前に……。……。分かった。すぐ行くよ」  電話を切るなり、ユフィはティファを見て真剣な顔になった。大きく息を吸い込み、そして、 「…ティファ、落ち着いて聞いてね。  あのさ、クラウドが見つかったって。今から一緒に行こう」  その後のあれこれを、ティファはあまり良く覚えていない。  ユフィに手伝ってもらって、急遽店を閉めると、マリンとデンゼルを預けて、二人は迎えのヘリに乗った。暗夜の闇を掻き分けるように進んだ先に見えてきたのは、海の中にぽっかりと灯りを灯した孤���だった。  ヘリはその島に一つだけある診療所の屋上上空をホバリングし、二人は飛び降りるように建物に降り立つとそのまま迎えに来ていた看護師に連れられて中に入った。  そして、一つの個室へと案内された。 「…クラウド?」  壁もカーテンもベッドも、真っ白な部屋だった。そこにクラウド���眠るようにベッドに身体を横たえていた。 「今朝、ミディール沖で見つかったようです」  静かな声でリーブが言った。 「おそらく、海底のライフストリームから吹き上げられてきたのでしょう。驚いたのは、どこにも怪我ひとつなかった点です。どうやら、ライフストリームの中で再生していたらしい。身体中のライフストリーム濃度が極端に高くなっています。でも、人体に害があるレベルではない。あくまで、傷の再生にだけつかったようです。それがクラウドさんの意思なのか、ライフストリームの意思なのか、それはわかりませんが」 「……目は、覚めない…?」  真っ白な部屋で閉じられている金色のまつ毛。それは照明に透けるように輝いてはいるが、しっかりと閉じられたままだ。 「医者が言うには、いつ覚めてもおかしくない状態らしい。…何か刺激が必要なのかもしれない。それで、ティファさんに来てもらったわけです。ティファさんが来れば、反応があるかと思いまして…」  気遣わしげにリーブは言った。「ティファさんの体調を考えて、目が覚めてからの方が良い気もしたのですが…」そう言葉を濁した。  ティファはクラウドの傍までくると、身体の横に力なく置かれている手を取った。両手で包んで、暫く待ってみた。でも、特に何も変化はなかった。 「…少し、二人きりにしてもらうことは出来ますか…?」  リーブとユフィ、そして看護師はうなづきあって部屋を出ていった。  その真っ白な部屋に、ティファは眠ったままのクラウドと二人きりになった。 「…クラウド?」  呼びかける、でも、その声は白に吸い込まれていく。  眠るクラウドは、本当にただ眠っているかのようだった。規則的に胸が上下し、顔色も良い。でも、全身の力が抜けていて、意識はまだ、どこか遠い世界にいるのが分かる。 「……帰ってきて、クラウド」  ティファはクラウドの顔を見つめた。あの碧い瞳が見たかった。そして、言って欲しかった。『ティファ』と。クラウドが言うその言葉をどれだけ夢に見たことだろう。  ティファは、クラウドの眠るベッドの上に手をついた。そして、そうっとクラウドの額に唇を落とした。つぎにこめかみ。頬、そして、首筋。ゆっくりとティファはキスを落としていく。腕をなぞるように移動した唇は、手の甲で止まり、そして内側にも。指の一本一本までも。そして、クラウドの顔を見た。 「……………………ティファ?」  薄く開いた口から、細い小さな声が漏れて、そして、ゆっくりと、碧い瞳が開かれた。 「っ、おはよう、クラウド」 「……おはよう、ティファ」    碧い瞳と目が合う。そして彼は切なげに微笑んだ。顔をそっと近づけると、ようやく、唇と唇が重なった。抱きしめた体はまだうまく覚醒していないようだったけれども、クラウドはゆっくりとティファの背中に手を回し、そしてぎゅっと力を入れた。 「ただいま」 「うん、おかえりなさい…」  笑顔と共に堪えるように、きゅっと一文字に結ばれた唇。頭を少し持ち上げると、クラウドはそこにキスをした。ティファの紅い瞳から、涙がぽろぽろと零れていった。 ***    クラウドが帰ってきて、ティファの体調は瞬く間に良くなった。マリンやデンゼルはもちろん、仲間達も店に顔を見に寄っては喜んでいった。  そして、セブンスヘブンに戻ったクラウドを、家族以外で一番?大歓迎したのはまさかの年配の客達だった。そんなに仲良かった…?とティファが思ってしまうくらいだ。彼らは配達を再開したクラウドが仕事を終えて店に戻るなり、 「おお、クラウドさん良かったな~!俺たちもこれで安心して飲める」 「やっぱり、ここにはクラウドさんが居ないとダメだな」  そう彼を囲むとバシバシと酔い任せの遠慮なしに背中を叩くものだから、クラウドが嫌がらないかと少し心配した。しかし、 「当然だ」  そうキリッとした顔で返事をしていて、思わずティファはびっくりしてしまったのだが。  その後、酒屋の配達人は退院し、客として姿を見せた。「薬!?違いますよ、俺、アル中で…だから今日はジュースお願いします」そう情けなさそうに笑った。蒸発した、と言われていた常連客もまた店に来るようになった。「え!?出稼ぎに行ってただけだって」眠れなくなっていた男も、「眠れるようになったから、溜まってた仕事を片せてやっと来れた」そう笑った。あの事故にあった男も、退院したそうだ。  でも、4人共、クラウドと顔を合わせた瞬間、ぎょっとしたように怯えて見えたのは、ただの思い過ごしだろうか。  でも、あれから、魔晄色が少し強くなった瞳をのぞき込んでティファは言う。 「やっぱり、クラウド少し変わったね…?」  ティファの紅い瞳を見上げてクラウドは答える。 「…だったらティファが教えてくれ」  軟らかい微笑みをたたえて、ティファを抱きしめ、小さく呟く。「ティファが俺を完全にしてくれる」 「どうやって?」  クラウドの唇はティファの耳をなぞり、そして囁いた。 「……夢で見たように」 fin.
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milog · 3 years
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ダンガンロンパV3をクリアした(ネタバレ注意)
ダンガンロンパ1と2めっちゃ面白くて大好きで3とV3の発表を機にロンパのためだけにVita買って絶対絶望少女やってという程度にはシリーズ好きで楽しみにしてたはずなのになんかずっとプレイしていなかったニューダンガンロンパV3をSteamのセールを機にプレイして先ほどクリアしました 発売から結構経っていることもあり話題となったオチを始めとしてツイッターで流れてくる二次創作や感想を見てあの二人関係あるんだな…あいつがあいつを殺すんだな…と完全に知っていたり予想が付いているところも少なくない状態だったのですがそれでもメチャクチャ死ぬほど面白くて心の底からプレイしてよかったと思える素晴らしいゲームでした オチに関してはアレをバレなしでぶつけられたらここまで面白かったという気持ちでクリアできたか分からないのですがそれでももっと早く何も知らない状態でプレイすればよかったな…と思います いやまあそんなことはこの世の全ての作品において当たり前なんですけど… やはり生きている間に絶対に触れようと思ってる作品は一秒も早く触れた方がいいですね 私の人生はこんなことを繰り返してばかりです…………… 以下死ぬほどネタバレ
・プロローグ・チャプター1 被害者もクロも知っていたのですがそれでもずっとワクワクが止まらなくてやっぱロンパ超おもしれー!!と一気に引き込まれました 赤松さんは朝日奈さんとかもなのですがどんな理由があっても人を殺して、殺そうとできる時点で純粋ないい子優しい人扱いはできない…(あんな状況だしあれが本来の彼女達の姿だとは思わないけど)(まあ今となってはそれも設定だしな……………となるんですけど…)と思っていたのですが物語が進んで最原くんが彼女のことをしっかり引きずっているのを見る度に新たな情が湧いてきてしまいました 私は1の苗木くんと舞園さんのカップリングが好きで赤松さんと最原くんを見ていると重ねるというわけではないんですけど舞園さんが桑田を殺すことに成功していたらどうなっていたんだろう…とか二人について考えることが多々あって切なくなりました あとプロローグの時点で少なくとも秘密子とゴン太は絶対被害者になると思っていたのですが見事なまでに外れましたね… ・チャプター2 出オチマスコット枠星くん一章で死ななかったからここで死ぬな。と思っていたらやっぱり死んだ 水槽に落ちた時の姿がおやすみ抱き枕みたいでキュートでした 斬美はこいつがクロにならなかったら誰がクロになるんだよと思いつつも完璧超人が被害者になるところ見たいなと思いながら自由行動で追い回していたら普通にクロでしたがおしおきがなかなか悲惨なものだったのでよかったです 今作はガッツリ処刑!!という感じのおしおきが多かった気がします しかしオチを知ってしまうと総理大臣全ての国民に仕える云々全てがなんだか恥ずかしいようなものになってしまってなんか……………はあ…………… ・チャプター3 是清がアンジーを殺すことは察していたので生徒会とか言い出して一(ひと)トリックありそうな研究教室も出てきてもう絶対ここやんけと確信したのですが転子については乱立するフラグに全く気付かず儀式の途中で音がした時も乗り移った!!としか思わず呼びかけても何も答えないところで初めてまさか…となって驚き私は世界一このゲームを楽しめる人間だなと思いました(脳無し) ツイッターで是清の緊縛作品をしばしば見たことがある気がしていてチャプター2でのロープに対する発言で繋がったなと思ったのですがおしおきを見てこれか…と思いました こういう事前に不正に得た情報の答え合わせみたいなのすごい罪悪感あるんですが…それはそうとしてエッチでいいですね  (追記:元々プロフィール好きなもの荒縄だったんですね) 斬美が死んでからの自由行動は(こいつもここで死ぬと悟りつつも)是清にアタックしていたのですがプレゼントに塩をあげたら塩対応されてその後儀式に塩を使っているのを見てやっぱ塩好きなんじゃん!!と腑に落ちなかったんですけどおしおきを見てまたしてもこれか……と思いました これは嬉しい気付きでした この章をクリアした翌日の仕事中の半分ぐらいは是清のことを考えていたのでお気に入りのキャラなんだと思います 青ざめて自分を抱き締めている立ち絵が好きです あと斬美とのペアがいいですね ダンガンロンパV3がアイドル物だったら見た目がいいからという理由で最初にユニットデビューさせられそうな二人ですね 男女だからないんですけど(なんの話?????) ここでやっと秘密子の生存を確信しましたが四章の冒頭の天海の動画でまた分からなくなりました ・チャプター4 キツ…………………………オモロ…………………………とクリア後完全放心してしまった………………………… 入間は下ネタ枠で生き残るな……いやでも終里と被るのか……?いやでもやっぱ生き残りそう……いやでも……と永遠に考えてたので死体を見てああーーーーーとなりましたがまあ四章入ってから明らかに怪しかったしなとも思い要するに生き残るか死ぬか最期まで予想できないキャラでした しかしクロになろうとしていたのは悲しかった… ゲームとか仮想世界とか何でもアリだけどそんな何でもアリのメチャクチャな世界の中にも確かにある制約の中で謎��解いていくのはこの作品の醍醐味ですよね 私は入間がログインしている間にログアウトした誰かがプラグを途中で入れ替えてそのショックで死んだんや!!と最後まで信じてコトダマをぶつけ続けていたのですが何もかも違いました ゴン太は絶対被害者になると思っていてこの章でも殺されなかったなと思っていたらまさかの展開で呆然してしまいました ゴン太ずっと………(学校で言ったらメチャクチャ怒られる言葉)だと思ってたけど最後まで何も分からずひたすら自分を卑下する姿はキツかったです あとトレーニング中に春川が赤松のことが好きだったのかと聞いてくるシーンで最原がじゃあどんな時に好きになるのが普通なの?と返して否定しなかったところでウワアアーーーーーとなりました  最原と春川はお互い好きな人に先立たれた主人公と相棒ポジションなんだな… ・チャプター5 百田と王馬もなんか…なんか深い関係になることは分かっていたので最初は二人は心中していてエグイサルの中にいるのはアルターエゴや!!と思っていましたが全然違いました 王馬のことはずっとキチガイ枠だけど狛枝に比べると弱すぎるな…小物っちいな…と見下していてネタばらし演説もまだ五章だしこの後さらにやばいイベントが控えてるのは明白だし完全なる噛ませか?と思っていたのですがクリアした後はキチガイじゃなかったんだな、熱い男だったな、嘘もまた真実という結論に至った今ではこいつはある種の正統派キャラだったんだなと思いました 自分でも何言ってるのかよく分かんないんですけど… あとカラーリングがモノクロでモノクマを思わせといて実はどこにも赤色が入ってないからモノクマじゃないから絶望の残党じゃないんだ!!とかも…(?) (追記:改めて見たらよく見なくても普通にボタンとか部分的に赤くてモノクマじゃん!!ミスリード!!となった) というか王馬はクライマックス推理の絵がズルいと思います あれ魅力的すぎませんか?あくまで最原くんの脳内ビジョンだと思うんですけど好感度めっちゃ上がってしまいました 百田は台本とボイスチェンジャーがあったにしても王馬の真似が上手すぎて彼のことをよく見て知っていて、それがどんな種類、形であっても二人の心が強い何かで結ばれている部分がないとあれはできない、そんな二人の関係いいなと思いました 隠さずに言うとボーイズラブだなと思いました マジでどうでもいいんですけどこの章から鳥肌展開で鳥肌が立つの100%味わいたくて部屋の唯一の冷房器具である扇風機を点けるのをやめました モノクマファイル死因熱中症 ・チャプター6 どういうオチかは知ってるけど……それでも早く物語の終わりが見たいけど……でもオチ見たくねえけど……もっとこのゲームをやってたい終わらせたくない……と複雑な気持ちで挑みましたが結論から言うと想像していたよりは傷付かないテイストでした まあ外の世界のことも含めてプレイヤーの我々にとってはフィクションなので……あの絶望を乗り越えて希望ヶ峰再建したのに結局死ぬことになってしまったかわいそうな苗木くんは存在しなかったので……あの洗脳最強伝説の3も存在しないことになったので……とポジティブに捉えることもできました(ポジティブとは?)どちらかと言うと小高してやったりとか思ってんのかな…と考えて腹が立ちました 思ったより受け入れられたのは本当なんですけどやはり過去作のキャラが現実を思い知らせてくる言葉をビシバシ突き付けてくる姿やオーディションの映像はつらくてちょっと涙を流しました 正直7割ぐらいは連日の目の酷使によるドライアイが原因だと思うんですけど… 一番キツいことするなあと思ったのは2でみんなはゲームなんかじゃないでしょと言ってくれた七海の発言なんですがこれは逆にこんな気持ちにさせられるの絶対作ってる人間の思うツボなんだろうなとキレました(何と戦いながらプレイしてるんですか?) スタッフロールを眺めながら個人的に大嫌いなタイプのオチだしなかなか飲み込めないけどこんな学級裁判でもプレイヤーキャラがキーボになったり最原があのピアノの音楽と共に反論してきたり燃える演出もあったしこのゲームをやらない方がよかった、作られない方がよかったとは思えなくて楽しませてもらった気持ちの方が圧倒的に大きくて今の感情を一言で表すことはできないけどとにかく面白かったなと思っていたところでエピローグのやっぱり現実かもしれないねというオチのオチでマジでなんなんだよ!!!!!とキレつつも心はかなり軽くなってしまいました もうこのオチに対する感情は一つに絞れないですがとりあえず今はこのゲーム自体はオチを含めたとしてもめちゃくちゃ面白かったけどこのオチを作った人間のことを考えると永遠に腹がたつので考えたくない考えないというところで落ち着いています…(追記:設定資料集のこのオチを作った人間のインタビュー読んだらちょっと思い直すところがあったのでオチ以外の気付きも含めてまた気が向いたら言語化したいです) ・キャラクターのこと キャラクターは今のところキーボが一番好きです 是清が死んだ後この中では一番好きだなと思って追い回して一周目で唯一カケラコンプしたのですが最後のおしおきの笑顔で確固たるものになりました 王馬とのロボット差別の掛け合いはこの作品のユーモアで一番笑ったところ 主人公の最原くんについては偽証とかゲームの放棄とか苗木くんと日向に比べて陰キャ寄りの彼だからこそっぽい行動、選択などが合っていてよかったです 設定とかの話は今はしてねえ!! サブイベとかラブアパートとか寄り道を全くせずにクリアしたのでこれからキャラのことをまだまだ深く知ることができるのが楽しみです ・学級裁判のこと 正直冗長すぎない?と思ったところもあったのですが追加要素がめちゃくちゃ楽しくて満足度高かったです とにかく偽証がよかった!!こんな嘘付いちゃっていいの…?いつかしっぺ返し食らうんじゃないの…?と思いつつ進めて4章で王馬にぶつけた時は体ゾワゾワ脳汁ビシャビシャになってたまらなかったです これから裏ルート埋めるのが楽しみすぎる…(追記:クリア直後は忘れてたけどやっぱ一番は議論スクラムですね これ書いて一か月経ってるのにわざわざ追記するぐらい最高) あと初めてSteamでコンシューマーゲームをプレイしたのですがキーボードでの操作をロクに調べずに適当にプレイしていたら最初の裁判で何ボタンが何キーなのか分からなすぎて積みました あと全部希望ぶつけないといけない最後のパニック議論でマウスの操作性が悪すぎてもう一生クリアできねえ…と思ってたら精神集中とかいう神機能のおかげで生きられました ありがとう精神集中、ゆとりの時代のゲーム あとブレインドライブはクソ 徹夜でチャプター2プレイしてる時窓の外が明るくなっていくのを感じながらやったブレインドライブなんか忘れられん あとって四回も使うな もう文章書くの疲れてます とりあえずクリア直後に思い付いて書き出せたのはこんな感じです さすがにもうゲームの続編は出ないと思いますし出たら死ね!!!!!と思うと思うんですけどやっぱりダンガンロンパはめちゃくちゃ面白いゲームだと思うので一年に一回記憶消して1~V3をプレイできたらいいのにな…と思いました 人間なんで記憶消せないんでしょうね 人生は一回きりで何も知らない状態でプレイできるのも一回きりってもったいないですね やはり一回きりの人生は何事もよく考えて行動していかなければならないなと思いました 本当に何の話? どうでもいいんですけどクソビビリすぎて4階の死ぬほど不気味な赤い廊下と最初は馬鹿にしていた王馬の顔芸のせいで夜トイレに行きづらくて困っているので早く周回して慣れたいです…… 2019年8月15日(23:01)
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sonezaki13 · 4 years
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※高2の時に書いた作品です。
リメイク版作成にあたりオリジナルをほぼそのままあげます。誤用、文章作法誤りそのままです。
しとしと降る雨のリズム(後編)
―…鞄の中にクラスの給食の残飯をつめこまれたせいで、その次の日から、絵美の鞄は新しくなっていた。それでも、やっぱりクマはついていた。
朝休み、浅賀は突然、席に座っていた絵美の目の前に自分の手をつき出した。
「見て。コレ。」
浅賀の手は絆創膏だらけだった。
「昨日あんたが私の手の平掴んだ時に、あんたの爪で引っかかれたんだけど。」
引っかかれただけで、そんな傷になるはずがない。まして、昨日、絵美は反論すらしていないし、絵美の給食袋を奪っていた浅賀の方が悪いのは確実だ。
あまりのわざとらしさに、こっちが浅賀を嘲笑してやりたくなった。
でも、もちろんそんな幼稚なことはしない。そんなことをして何になる?
このゲームにはこのゲームの常識があって、社会だとか道徳的な常識と言うものは存在しない。そんなことはわかっている。
そんなことは当たり前なのだ。
じゃあ、一体僕はどうすればいいのだろう?
「あんたってホントすぐムキになるから。中2にもなって何歳児のつもり?ちょっとは考えて行動したら?」
絵美はそう言われると、小さくうなずいた。顔はうつむき気味でよく見えなかったが、怯えているのはすぐにわかった。
「じゃあさ、今日ちょっと放課後付き合ってよ。怪我させたお礼として。謝罪の機会をあげる。」
浅賀は嫌らしい笑みを浮かべている。
あぁ、また絵美は酷い目に合わされるみたいだ。
そんな今始まったことではないようなことを今更考えると、胸がかきむしられるように熱くて、全てを、胃の中も胃も腸も肝臓も肺も心臓もこの罪悪感も迫ってくる虚無感も、みんなみんな吐き出してしまいたいと思った。
そして、そのくせ僕は黙って見ているだけの傍観者であり続けた。
―…放課後、しとしとと降り始めた雨に気付き、僕は折り畳み傘を探したが見つからず、近くのコンビ二の屋根の下へ雨宿りに入った。
どうやら通り雨のようで、雨はすぐに大粒に変わり、僕の視界に薄い白いカーテンをかけた。
冷たい空気が僕の指先から侵食してくる。
このまま凍ってしまえばいいのに。そして次に目を覚ました時には今とは全てが違う風景が広がっていて、こんな自分ではない人間でありたい。
そんなことを微かに期待して静かに目を閉じて、そっと目を開けてみた。
けれど、もちろん、そこにあるのは相変わらず降り注ぐ雨とコンビニの屋根の下でただ一人で雨宿りをしている、無様な少女だった。
ふと、何かこの目の前の世界とは異質なものが、僕の視界に入ってくるのを感じた。
そこにいたのは絵美だった。この上なくぼろぼろの絵美だった。
黒く変色した制服。傘も差さず雨に打たれて、寒そうに震えている。そして、本当にゆっくりゆっくりと一歩ずつ弱々しい足取りで歩いている。
「絵美!」
僕は名前を呼びながら手招きをした。
いてもたってもいられないのに、僕はコンビニの屋根の下から飛び出すことはできなかった。
絵美は僕に気付くと澄んだ、眼で僕をじっと見つめた。
泣いているのかは雨のせいでわからなかった。
絵美はゆっくりと僕の隣にやってきて、倒れこむようにコンビニの壁にもたれかかった。
「どうしたの?」
絵美はしばらくぼーっとしていたが、うつむいて答えた。
「別に、大丈夫だよ。」
そして、小さい体をぶるっと震わせて呼吸を置いてもう一言言った。それが寒さのせいか、恐怖のせいかはわからない。
「冬のプールは寒いなぁって思った。それだけ。」
どうして絵美はこんな目にあってるんだろう。何が原因だったのだろう。どうしてあんなゲームが始まったのだろう。
わからない。いくら考えても答えは出ない。
「そんな…」
何か言おうとするのに、言葉が出ない。こんなことですら気の効いたことの一つも言えない。言いたいのに、言わなくちゃいけないのに、言葉はバラバラになって不規則に宙をくるくると回っていた。
「私は大丈夫だよ。だから気にしないで。」
そう言った絵美の笑顔は寂しくて儚くて。ガラスのように澄んだ存在のは少し触れただけで壊れてしまいそうで。それがなんだか、悲しくて苦しくて。
僕はどうしたらいいんだろうか。
「あのさ…」
僕はいつの間にか泣きそうな声になっていた。
「痛かったら痛いって言ってもいいし、辛かったら辛いって言ってもいいし、苦しかったら苦しいって言ってもいい。だからさ、我慢なんてする必要ないんだよ。それだけ。」
自分でも何が言いたいのかわからないけれど、僕はそう言って、まだやまない雨を見た。気がつけば、今にも泣き出しそうになっていた。
絵美は暖かく微笑んで、僕を見ていた。
―…「中澤の机くっせぇ。」
廊下は狂った笑い声であふれていた。
「ってか中澤も臭いし。何そのニオイ。」
わかっているくせにわざとそう言って、下卑た笑いが起こる。そして何人かはうつむいて聞かないふり、見ないふりをする。
ちょっとぉ私アイツの近くの席なんだけど~ってか待ってよ教室中臭いしオレの席なんてすでに臭くて戻れねえようっわ授業中なんて耐えれないってどうしようそれを言うならアタシもだよホントいい迷惑だってばアイツウザすぎだよホント目障り消えろよこんなんじゃ教室に入れねえよアイツクラス中に迷惑かけてることわかってんのか
入り混じるざわめき。
絵美の机に大量にまかれた腐った給食は激しい異臭を発し、クラスメイトは全員廊下に避難していた。
雑巾を持った絵美が水道から教室へ向かうと、必要以上の幅の人の道が開いた。
人ごみの中で少しだけ見えた絵美は、強がった歩き方で、誰もいない教室へ入っていった。
広い教室の中で絵美がポツンと、教室の窓際の席で四つんばいになって、腐った給食を拭いている。
そんな様子を見て、また嘲笑が起こる。笑うようなことじゃないのに。
目を背けながらも、心配そうにしている奴だって結局は何もしない。僕も同じことだが。
牛乳を拭き取ると、絵美はまた雑巾を洗って、廊下の開けられた窓にかけた。
そして、強がった表情で自分の席に戻り、ただぼんやりと窓の外を眺めていた。
相変わらず廊下の群集は教室に入ろうとしない。
広い教室の隅で、壊れそうなぐらいに透き通った絵美が窓の外を眺めている風景はなんだか現実感のない夢のようだった。
「まだ臭うし。アイツもっとちゃんと拭けよ。」
嫌そうな顔で、クラスメイトの1人が言う。そして、それに何人かが同調する。
「ホント、アイツは何一つちゃんとできないんだな。」
「だよね。雑巾がけすら出来ないなんて、本当に何もできないんだね。」
「ああいうのをダメっていうんだよ。」
「一生拭いとけって話。」
それが次第に大きくなって、単なるごちゃごちゃした規則性のないざわめきへと変化する。
ってかマジで学校来んなって感じホント消えろよアイツいるだけで空気悪くなること自覚してないんじゃないの同じ空気吸ってるてこと自体が気持ち悪い目障りだよね存在自体がウザイし
耳を塞ぎたかった。けれど、塞げなかった。これが現実だから。これが僕の言う平和だから。
これでいいの?ホントに?
僕は自問していた。
彼らはざわめき続ける。
あぁホントうぜぇさっさと死ねよそうだよ自殺でもすりゃいいんだよさっきから窓の外なんか見て飛び降りたいんじゃないの今すぐ飛び降りろよアイツがいなくなったらどんなに平和になるか全員に死んでわびろよあははホントそうだよねなんで死なないのかな誰か殺してよ~アイツだったら殺しても罪にならないって
本当に楽しそうに笑いあっているクラスメイト。
僕がいるのはこんな世界だってことぐらいとっくに知っていた。
だから、仕方ないんだ。世界を容認するしか世界で生きていくことはできないから。
そう、仕方ない。仕方ないことなんだ。
それなのに僕は手の平から血がにじむぐらい、拳を握り締めていた。
こんなことは今始まったことじゃない。前からだ。いつもと同じじゃないか。それなのにどうして今は、こんなに苦しい?
もはや虚無感は僕のすぐ後ろで、大きな口を開けて待っていた。
僕の中の足りない部分を求める心が激しく疼いていた。
どうしてどうして。ねぇどうして?
―…何とも形容しがたい鈍い音がして、僕はすぐ隣で絵美を嘲っていた男子の顔面を、きつく結んだ拳で殴りつけていた。
殴られた方も、殴った方も、お互い何が起こったのかすぐにわからなかったらしく、僕とそいつはしばらくそままじっとしていた。
廊下が一瞬にして静まり返っていた。
何があったのか。
あぁ、そうか。
僕は
破壊しなければならないんだ。
相手が反撃してくる前に、僕はもう何発か顔面を思いっきり殴った。
血。鮮やかな赤い血が手にべっとりとついていた。
僕の手の平から流れる血と相手の血がまざりあう。
息が苦しい。
僕は逃げ出そうとした女子を思い切り突き飛ばして、上靴で腹を何発か蹴った。
そこにためらいはなかった。
その後は構わず殴った。手当たり次第だった。浅賀も、その取り巻きも、絵美を嘲った他の奴も、単なる野次馬も、見ないフリをした奴も、聞かないフリをした奴も、止めに入った奴も、とにかく殴った。
殴った。血が出る。殴った。殴った。殴った。血が出る。殴った。血が出る。血が出る。
それは永久に続く繰り返しのように思えた。
骨と骨がぶつかって、手がじんじんと痛む。でも、そんなことはどうでもいい。例え手の骨が粉々になっても僕は殴る。
反撃されて床に叩きつけられた。血でぬめぬめとした廊下は鉄臭かったが、僕はゆっくりと息を吐いて起き上がると、また殴った。
今の僕は腕がもげても、足を失っても、目が潰れても、耳が聞こえなくなっても殴るだろう。
あぁ僕は、こんなことしかできない。理由もわからない。
でも、とにかく何かしなくちゃいけないのはわかっていた。僕にはしなくちゃいけないことがあった。
こんなことになったのは欠けている部分のせいなんだろうか。
いつの間にか迫っていた虚無感は消えていた。
しかし、僕はそれと一緒に欠けている部分がわからなくなるぐらい、自分自身をごっそり失ってしまった気がする。
何もかもがめちゃくちゃだ。
こんなはずじゃなかったのに。
僕は自分自身が人間なんかじゃなくて、「殴る」という概念そのものに思えた。
狂って壊れて殴り続けた。そうした所でどうにもならないことがわかっているのに、そうしなくちゃいけない気がして、殴り続けた。
「ゆいちゃん。」
どこからだろう。どこからだろう。
優しい声が聞こえた。
「やめてよ!ゆいちゃん!」
あんなに優しいのに泣きそうだ。泣きそうな声で僕を呼んでる。
行かなくちゃ。行かなくちゃいけない。だから止めないと。殴るのを止めないと。
胸の中で得体の知れない靄が立ち込めて、僕は自分がまっすぐ立っているのかすらわからなくなった。それなのに、殴るのはやめられない。
「ゆいちゃん!」
僕が殴ろうと振り上げた右手を、絵美が両手で握り締めていた。
絵美はなんだか泣きそうで、崩れてしまいそうで。
それを見ていると、なぜだか殴りたい衝動が引いていった。
絵美の手は温かくて、僕の血まみれの手を優しく覆っていた。
僕は…
「ごめん。ごめんね。」
ずっと言いたかったのはこんなにも短い簡単な言葉で、それがわかった瞬間、僕の空っぽの心はふんわりとした何かで満たされていた。
「ごめんね。」
なんだか僕まで泣きそうになっていた。
「大丈夫だよ。ここにいるから。」
絵美が優しく笑って言った。
それがじんわりと温かくて、なんだか嬉しくて、僕は絵美の手を握り返した。
だから、もう大丈夫だ。
【2020年の作者が読んで見つけた課題】
・文章作法を知らない。
・登場人物の人間性や悩み方、暴力描写が薄っぺらいので読者は置いてけぼり。大して辛くなさそうな登場人物たちとあまり痛くなさそうな暴力描写。
・主人公がクソ無神経なのになんか良い話みたいになってるし、自分がクソであることを理解してる上で大した葛藤もなく善人ぶった上に良い話っぽく終わってるのが謎。
・言葉を羅列したり、同じ単語を並べたりして、表現力のなさを誤魔化している。
・僕っ娘の百合と暴力と言わせたい台詞と書きたい場面と語感の良い「しとしと降る雨のリズム」というタイトルを全部詰め込んだのは良いが、どれも掘り下げが浅いため「とりあえず好きなものを全部入れました」感がすごい。いろいろシチュエーションに無理がある。
・当時友達数人からも「腐った給食はどうやって用意したのか」と言われたが本当にそう。
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rmapora57 · 4 years
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仕事を辞めたいという話
自分からこのワードが出るのが爆速過ぎて笑う、まだ社会人になって1ヶ月目だというのに。
題名そのままの意味である。今の職場を辞めたいというか、医療ソーシャルワーカー(以下MSW)という職を辞めたいのだ。
なぜこんなに爆速でこの気持ちに至ったかは主に3つある。
まず1つ目、私のメンタルが弱過ぎること。前々から知っちゃあいたけど。
私は三次救急病院、在宅専門クリニック、今の職場(介護老人保健施設というところ、以下老健)の3ヶ所で実習や勤務をしてきたが、そこでの経験からいうと、MSWという職業の人は基本的に強いのだ。言動、口調、性格などあらゆる側面が。病院の特性によっても変わってくるのだろうが、三次と老健のMSWは本当に気が強い、図太い、怖い。職場内での会話が病院・施設内の他部署や他病院・施設などに対する不平不満で占められてるのだ。やれこいつ使えないだ話が通じないだ諸々。
私は昔から人が叱られてるのとか、突発的な大きい音がかなり苦手なことに加えて、舌打ちだとか溜息だとかのマイナス表現を全部『私、何かしたのかな』という風に捉えてしまいがち(本当に私に対しての可能性も十二分にあるけど)なのだ。MSWは業務内容的に色々な所と電話連絡を取る機会が多いのだが、電話対応後の相手方に対する罵詈雑言の嵐がただただキツい。
しかもその不平不満の矛先は時に自分の部署にも行くようだ。今の職場は5人+新人2人で構成されてるのだが、その元々いた人の内の一人がかなり嫌われている。その人がいない日はその人への不平不満のオンパレード。どうしてこんなことも出来ないのかとか、ちゃんとやれよとか、仕事しろよだとか。その人がいる時は勿論その話はしない。でも一歩その人が席を外したら上述の通りである。更に怖いのが、その人に限らず席を外した人に対する不平不満で盛り上がるのが頻回なのだ。
私はまだ殆ど何も分からないから、その人が本当に仕事ができない人なのかもわからない。けれどまずどこの誰であっても人の不平不満をキツい言葉で勤務時間中ずっと聞き続けるのはつらい。しかも私が席を外している時はきっと私も色々言われてるんだろうということが容易に想像がつく。(しかも私と一緒に入職した子はとても要領がよく、出来がいいのできっとわたしは良い比較対象なのだ)
勿論これはMSWが多方面と戦う職業であることも由来するとは思う。不平不満を口に出さなきゃやってけない仕事なのかもしれない。確かに相手方が全く仕事ができない人なのかもしれない。それを気にしない人ならいい。でも軟弱者の私はこの要素だけでだいぶ心が参ってしまった。
しかもメンタルが弱い人はやめちまえという発言を今の職場で何度聞いたことか。じゃあやめてやるよという気持ちになってしまった。ひょえ。
2つ目、MSWは一生勉強の職業だから。これも知っちゃあいたけど。
MSWはしょっちゅう講習会などが行われる。そしてそれは大体貴重な休日に行われる。勿論それはとても大事なことだし、学びを生かして業務に繋げていくことで、業務の質も上がる。
しかし私は元々MSW界で頂点にまで登りつめてやろう、休日を、自分をとことん犠牲にしてまで仕事に取り組んでやろう、そこまでの気持ちはないのだ。私は個人的にプライベートを大事にするために仕事をする、というスタンスなので、全てを仕事には捧げたくないのだ。全てを犠牲にしているのはごくごく一部の人だけだと思っていたが、どうやらそんなことは無いらしい。
私は結婚だってしたいし、子どもだってほしい。出来たら自分の母親のように、結婚したら一度退職して、資格職でパートで働き、空いてる時間を自分のために好きなように使いたいのだ。勿論それはお相手の経済状態とかにもよるのだとは思うけど。私が大黒柱になってもいいというような人と結婚したらまた別かもしれないけど。
MSWは女性職場だ。しかし結婚率は正直高くない。いわゆる気の強い独身ババアが多い。結婚やプライベートの時間などにこだわりがそこまでない人もいるが、現場で働く全ての人に失礼を承知でいうが、そうはなりたくないのだ。
加えて、MSWはストレスを抱える職業が故に、突発性難聴や胃潰瘍になることがザラらしいのだ。なるものですとか、なってからが本番とか言われた。私は仕事で健康を損ねたくはないのだ。
3つ目、今の職場が、元々の希望からかなり外れていること。
知ってる人もいるかもしれないが、私は元々小児病院希望。子どものために働きたかった。しかし新卒採用している小児病院は無く、それならば広い分野を知ることができる総合病院で働こう。そう思い今の職場に決めた。ところがどっこい配属先が蓋を開けてみたら介護老人保健施設という病院と老人ホームを足して2で割ったような場所だった。(就職した医療財団が総合病院の他に老健やリハビリ専門病院も抱えてたのは知ってたけど、まさか老健配属になるとは思わなかった、履歴書の希望欄でも総合病院しか希望してなかった、今思えば滅茶苦茶考えが甘かった)
上述の2つ目の理由で『自分のことをそこまで仕事で犠牲にしたくない』とは書いたが、ひっくり返すようなことを言うと、私は病気を抱える子どもとその家族のためなら、沢山勉強して、自分を犠牲にしても良いと思っているのだ。
自分がクソなことを承知で言うが、介護を受けなきゃ死ぬばかりの、自分とは何ら関係のない未来のない老人のために、私の全てを捧げようとはこれっぽっちも思わないのだ。そんな人たちのために私はなんで苦しみながら仕事をしなきゃならないのだという気持ちになってしまうのだ。実際に利用者に会うとその気持ちは薄れちゃうんだけどね。
大体こんなところである。社会人の先輩方からしたら、そんな甘ったれたこと言ってるんじゃねえよと思われてしまうだろうがそれはその通りである。どの職場でもこんな感じなのだろうか。それも私にはちょっと分からない。でも私がつらいと感じているのは事実なのだから、それに嘘はつきたくない。
大学4年間を福祉に捧げてきたのでそれ以外の選択肢が無いと思ってMSWになったけれど、親に反対されてももっと視野広く他の景色も見るべきだったと今更気づいた。私は親の期待のために生きてるんじゃなかった。安定した職に就くためのレールを22年間敷いてくれた親に言うのは酷かもしれないけれど、私はもしかしたら冒険がしたいのかもしれない。いっそまるっきり違う職業に就くのもありなのかもしれない、歌を仕事にしたり、古着屋さんになったり、アクセサリーやさんになったり、物書きになったり、他にも色々。意志強くやりたいことをやりぬく人が周りにいっぱいいて、その人達が眩しいったらありゃしないのだ。勿論その分違う苦労もいっぱいあるのだけど。安定した職が一番だって、冒険はしないほうがいいなんて、そういえば誰が決めた?
取り敢えずは這いつくばりながら今の仕事続けて、ある程度稼げるようになって貯金が貯まったらスパッとまるっきり違う職に転職するか、小児専門病院で働きたい。
最悪なことを承知で言いますが私の国家資格は、離職して、すっからかんになってしまってもどこかで再就職できる保険だと思って取ったので。
仕事ってこんなに早く辞めたくなるものなのだろうか。社会人ってこんなものなのだろうか。大人になるってこういうことなのだろうか。若輩者の私にはちょっとわからない。
激腹痛後眠れなくて書いた
仕事行きたくなくなっちゃうからもうGWはお腹いっぱい、もう結構
2020/05/05 午前6時0分
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heyheyattamriel · 4 years
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エドワード王 十一巻
昔日の王の一代記 十一巻
ロスガー山脈のふもと、レイヴン・スプリングと呼ばれる小さな村の、狭いけれど快適な宿屋で、コンパニオンたちは、一晩を過ごしました。翌朝彼らは東に向かう旅を再開しました。スカイリムとハマーフェルの国境に向かううねる丘を越え、次の2晩は澄んだ初夏の晴れた空の下でキャンプを張りました。彼らが旅を再開した3日めの朝、モラーリンは道の北側の斜面を見て、皆に南西に面している高い牧草地に通じる切り込みがあるのを見るように言いました。一団が突き出した岩の周りを曲がった時、ほぼ同時に全員がそれに気づきました。
シルクとビーチが適切なルートの偵察と、今夜のキャンプ地を探すために先行しました。黄昏までには、彼らは草地までの半分近くの道のりを終えていましたが、翌朝まだいくつかの崖を登らなければなりませんでした。もう一度キャンプを張る頃合いだと意見が一致しましたが、幸いにも翌日のお昼時にはピクニックができそうでした。
翌日の正午、それは年央の月5日の土曜日でしたが、アカトシュともう一匹のドラゴンが加わった仲間たちは、ドラゴンの村の草が生い茂る斜面で腹ばいになっていました。この二匹目のドラゴンはアカトシュよりも小さく、雌のように見えました。性格上、アカトシュはただそのドラゴンをデビュジェンと紹介しただけで、それ以上の説明はありませんでした。二匹のドラゴンは、人類たちと礼儀正しくおしゃべりをしながら自分たちの過去を懐かしんでいましたが、少し経つとデビュジェンは飛び去り、優雅に空を弧を描いて飛び、少し離れた草の茂った野原にいる雄の子牛に飛びかかりました。
アカトシュはこれに対するエドワードの反応を観察していて、そしてたずねました。「なぜしり込みをしたのだね、エドワード?このところデビュジェンは食べていなかったし、ただお前たちが今しがたしていたのと同じ振る舞いをしていたのに」
エドワードは少し微笑んで答えました「僕たちの食事はあんな風に野蛮じゃないと思うんです」
アカトシュは笑顔を返しましたが、やがて返答しました。「それはいい警告だ。我らは、同じというより似ているだけだという」
エドワードは口を閉じて真昼の太陽に目を細めました。それからドラゴンに向き直りました。「アカトシュ―どうしてあなたの村にこの場所を選んだのですか?」
「さて、山の中にあり、高さも十分で、我らにふさわしい。その上、家畜を育てるのに充分に平坦だ…鹿のための木もある…そして、我らすべてにとって、非常に防衛的だ。ここには人間が牧場と農場を作る場所もあるし、エルフたちは断崖の端の厚く茂った木々の中なら極めて快適だ。崖の表面を囲む坑道は、内部の鉱山にある我らのねぐらへの通路になる。全体として、多くの生き物の種族を含んだこのような実験を行うには、理想的な場所だ。その上、南西に面していることで、小さな生物たちを気温の低い月の間の要素から保護するのに合理的な暖かさも供給される」
エドワードが答えました。「真ん中に建物が集まっていない村って言う概念に慣れるのは難しいけど―多分、将来は発展するでしょうね。少なくとも、会議や社交のためのいくつかの建物は。それに、ここはきれいな夕陽が見られると思うな」
ドラゴンはまた笑って、そして答えました。「まったくそうだ。だが、ドラゴン族の中でそんなことに興味を持つのは我だけだ。そして、それは我らがこの場所を選んだ時には正当な考慮のうちに入っていなかった」それからもの思わしげに、「そのうちのいくつかを表す言葉を組み合わせられればいいのだが。数え切れないほどやってみようとしたが、結果はあまり…立派なものではなかった」と言うと、元気な調子に変わりました。「話は変わるが、人類のために会議場を建てるつもりにしている。取引と物々交換のための店を何軒かも」
モラーリンがぶらぶらとやって来て、腰を下ろして尋ねました。通常人類がドラゴンたちに見せる敬意の欠落は特筆すべきものでした。「こんなおかしな実験をしようなんて、何に憑りつかれたんだね、アカトシュ?」
ドラゴンは思慮深そうに間を置いてから答えました。「我が常に分析してきたように、この場合、ドラゴンの行動の歴史と言えるかもしれぬ。新しいオーレリアンの神々に対する抵抗の長い闘争は明らかに無駄なものであったが、我らがそのことを理解し、受け止めるには何世代もの時間を要した。そして、我らの次の様式は、互い同士からさえ孤立することであった。また、他のあらゆる存在からの侵入に対する抵抗でもあった。例外は、夫婦となり我らの種を再生産することだった。然りながら、その一つの活動を別にして、我らは我らの貴重な私生活を守るために戦ったのであるし、我らが特に頑固な種族であること以外には、何の正当性もなかった」
エドワードが言いました。「なら、理由がなくなってしまったずっと後も、その様式を維持してきたんですか?」
アカトシュは少し恥ずかしそうに見えました。彼は鼻をすするように言いました。「我はその通りのことを言ったと思う。我らだけがその餌食になる感傷的な生き物ではないのだ」
「アーチマジスターが多くの行動は生まれつきだって言ってました」エドワードが言いました。
モラーリンが彼に笑いかけました。「そして生まれつきの行動様式は、状態が変わるとゆっくりと変化する長命の種に顕著な問題なのだよ。お前たち短命種の人間以上に、我々エルフたちはそのせいで苦しんでいる。命は変化し、それに抵抗することになるにもかかわらず、我々がものごとをそのままにしておくのが好きな理由だ。ドラゴンはさらに長く生きる。エルフよりも長くだ。そして、結果として繁殖も遅い。しかし、社会的環境に生まれた変化が、良かれ悪しかれドラゴンの行動にどんな影響を与えるかは、誰にもわからないのだよ」
この時にはアリエラも会話に加わって、そして観察していました。「デイドラはドラゴンの行動に長らく喜んでいるに違いありませんわね」
アカトシュが答えました。「おそらくそうだろうが、我はこの提案のようなものとともに我らの…女王に接触を試みた。なぜなら、我らが種族として停滞状態に陥っていることは明らかのようであるし、我ら自身に活力を与えるために、この殻を破らねばならぬゆえに」
この時には、仲間たちは皆、声が聞こえる場所に座っていました。そしてマッツが尋ねました。「女王の許可が必要だったんですか?それと、いろんな種族との間にたくさんの困難を抱えてた?」
「許可はこの場合、極めて正確ではないな、マッツ。我らが存在している、それはなおさら、彼女が情報を手にできるように、我には彼女に伝える義務があったのだ。例を挙げるなら、他のドラゴンは軍事的な知識を求めて我を訪れる。従うことは準備を整えておくことと同一の哲学だ」
マッツはにやりと笑って言いました。「つまり、『念のため』ってことですか?だけど、エルフと人間については?」
「ああ、我が人類の王と淑女は、異なる姿かたちと習わしに対する敬意と忍耐の非凡な例となっておる。彼らはわが年若きブレトンの友エドワードと我とともに、寛大にも知識と技術を分け合ってくれる、ああ、私がここでの定住を試みるよう説得した鍛冶職人と鉱夫たちを貸し出してくれたモラーリンに感謝しているよ。ブレトンは、そうだな、多くのブレトンは、それが利益をもたらす限りは、長い間何事も徳を持って行ってきた。そして、そこから知識と技術を得ている。ノルドは個人の栄誉を渇望し、栄光がここで生産されたミスリルの鎧と武器をすばらしく利益のあるものにする―貴族以外には売らないことを主張するようになったアリエラは、まったくの天才であったよ―探索が新しいトンネルを開き、経路を提供してくれた―我らドラゴンが必要とするものに」アカトシュは少しずる賢そうに微笑みました。ドラゴンが何を必要としているかについて、彼はとても寡黙でした。「ビーチとウィローが、彼らの民にウッドエルフがここで歓迎されることを広めてくれている。ゆえに、長らく古来のハイロックのふるさとを追われた者たちが、この丘に戻ってきている」
「幸い俺は今公爵だから、ミスリルを着ることと持つことを保証されてる。あと二つばかり手に入れられたらなあ!だけど値段のせいで諦めなきゃいけないかも―」マッツが言いました
「諦めたらミスリルを手に入れられないぞ」モラーリンが指摘しました。
「俺の息子と娘はどうなんだ?その子たちのために、お前に土下座でもするか?」マッツが憤然として言いました。「俺の膝と呼吸がひと頃ほどじゃないのは認めるよ。どういうわけかここに残りたい誘惑に駆られてるのは事実で、俺は今ここにいる。だが、俺はまだ何にだって自分の斧を振るえるぜ!」
ミスが楽しそうに歯を見せて笑いました。「ノルドは勘定できないもんな。だからあいつらは利益でなく名誉と栄光を求めるんだ。名誉と栄光ってやつはあんまり多すぎて、人が指で数え上げるには向いてないからな。マッツ、もしお前が39歳だったら、俺が会ったか会ってみたいと思ってる人類の中で一番でかい10歳の人間だよ!」
「だけど、それなら探検も鍛冶もしないやつには何の利益があるんだ?」マッツが旧友を無視してこだわりました。「俺はこんな…別格の存在のすぐそばに住むのを怖がるやつがいっぱいいると思ったもんだ」最初の部分を言う時に、マッツは狡猾そうに笑いました。
「そうだな、一方ではその『別格の存在』の姿は、確実に手厚く守られていることを意味する。それに、この一帯は驚くほど肥沃で、作物がよく育つ…そして、彼らは我らのための肉を供給してくれるが、我らの食糧が占める割合は、彼ら自身が消費する分の五分の一だ。我らはまた、我が長らく疑念を持っていたことを発見してもいる―3組の種が組み合わさった場合、それぞれが孤立していると考える時よりも、より効果的に戦う―それは、それぞれの種が他の弱点を補強あるいは打ち消すからだ。少なくとも、ごく短期間でこの辺りのゴブリンが劇的に数を減らしていることは確かな事実だよ」
「その通りだ」エドワードが返事をしました。「モラーリンがモロウィンドでそう証明したよね」
「少しばかり友の助けを借りてね」モラーリンが認めました。「賞賛は享受するし、彼らが設定した基準よりも私が少々上のレベルにいるのは事実だが―時にそれは基準以上に標的のような気がするよ!」
彼の発言に笑いの波が応えました。エドワードはこだわります。「アカトシュ、あなたと他の仲間がここにいて、僕は自分の国の国境の守りが厚くなったと感じるけど、スカイリムは国境を西に動かす必要性に駆られる気がするはずだと思うの」
アリエラが尋ねました。「他のドラゴンたちにここに移ってくるよう説得するのは簡単でしたの?」
「実際に最も困難だったのは、我らの宝を新しいねぐらに運ぶことだった」アカトシュは怠惰な微笑を見せながら答えました。「蓄積した金属���、宝石や貴金属が役に立たないとわかると、すべてがうまく運んだ」でも、次にもっと深刻そうに言いました。「本質的に、我は他のドラゴンに個人的に近づかねばならなかったし、この考えには利益があると、彼らを…説得せねばならなかった。ここでもまた、我らのうちでも特に孤立した2、3の同類を説得してしまえば、ことを運ぶのか楽になった。しかし、この辺りに住んでいるのはたったの9体なのだ…そしてここには実際にあと2、3体分の場所しかない。今後の展開を見ずばなるまい」
アリエラが気が付いたように言いました。「今のドラゴンの行動を、神々と女神たちがとても好意的に捉えているのではないかと思いますわ」
「そうかもしれないな、アリエラ。だが、再び言うが、これはそのためではないのだ。しかも、彼らはまだ我らの長い敵対を覚えているかもしれぬ」
ビーチが恭しく尋ねました。「それより、この村の名前は何なのですか?」
アカトシュは嘆息して、やがて返答しました。「結論が出ることがないのではと恐れている。それぞれの種がそれについて意見を決めたゆえ。おそらく、最初の建設期間が完了すれば、そのような問題に関してさらに熟考できるだろう」
ビーチが応えました。「それは正しいことには思えません―どこにでも名前があるべきでは?」
ウィローがくすくす笑って言いました。「私たちにはそうだろうけど、ドラゴンがどう思うかなんて誰にもわからないわ。それに、人間とエルフは名前のスタイルだけじゃなくて、その詳細でも口論になるのは確実よ」
モラーリンがひどく劇的な調子で割り込みました。「エルフがとんでもなく頑固だと言っているのではないだろうね!?」そして議論は、彼らの中でひとしきりの笑いと揶揄の中に溶けてゆきました。
やがて、アカトシュが言いました。「我は『セクション22』という名が好ましい」
ビーチが彼を見つめました。「アカトシュ、詩作の難しさはよく知っていますよ。率直な意見を申し上げてもよろしいですか?それは私がこれまで聞いた中で最悪の村の名前です」
アカトシュは突発的にため息をついて、急いでビーチに詫びました―人類は、ドラゴンのため息は非常に不快で、時に本当に危険であることを発見しました。「ならば、我の意図がどう違うかわかっているのだな。我にとってはこれは大変意味があり、最も適切なのだ。『セクション16』ならもっといいのかね?違う?それなら、『セクション』という言葉が引っかかっているのかね?それは『砦』や『リーチ』や『峡谷』や『支配地』と比べてどう劣っているのかね?」
エドワードが言いました。「でもね、アカトシュ。名前は意味があるべきだと思うんです。少なくとも、人間はそう考えているよ。この場所を『22』にするなら、その前の21個のセクションがないと」
「本当?」アカトシュが言いました。「なぜだね?すべての数字は等価ではないのかね?一つの場所と他を区別するのに役に立つ。例えば、『グリーンヴェールズ』という村がいくつもあるかもしれん。そのような村を4つ知っている。『22』という数字は、魅力的だ…審美的にも。同様に、何らかの『意味』がある―少なくとも我には」
モラーリンが言いました。「アカトシュ卿は、我々が言うところの『内輪ネタ』を楽しんでいるんだと思う。私はドラゴンにそんなに無分別に教えたのだろうか―」
「モラーリンが分別がないなんて糾弾した人間がいるかしら?」シルクが言いました。
少しして、エドワードがアカトシュに尋ねました。「ちょっとだけ一緒に戦いのゲームをしてくれる?僕、ゲームの盤と駒を持ってきたんだ」
モラーリンが遮りました。「残念だが、アカトシュと私は今晩いくつかの件で話し合わねばならない―それに、お前はどうしたってまた負けるよ」彼は好ましい笑顔で付け加えました。
エドワードが返答しました。「だけど、僕は誰にだって勝てるんだよ…アカトシュ、僕があなたに勝つことがあるかしら?」
「ないね、エドワード、我に勝つことはないだろう」そしてアカトシュはエドワードの驚いた表情に少し混乱しました。そして、急いで心のこもった笑顔を見せました。
「あまり如才ない答えじゃなかったですね、アカトシュ。だけど、どうして僕は絶対に勝てないの?」
「我がお前よりずっと長い間やってきたからだ、エドワード。そして我が続ける限り、お前が追いつけることはないだろう。その上、このゲームは我が『有限の問題』と考え始めているもので、この類のものは最も簡単に解決できるものだ」
「その『有限の問題』ってのはどういうことです、アカトシュ?」マッツが尋ねました。
「起こりうる行動と結果を数えることができる問題ということだ、マッツ。このゲーム盤には81マスしかない、そして両軍は正確に27駒、それぞれの駒が特定の動きをする、そういうことだよ」
「だけど、そのゲームは本当の戦闘に似てるんじゃ?」スサースが尋ねました。
「いや、学習するにも、どのように戦闘を終わらせるかを考えるにも非常に良い練習になる―だが、我がエルフの射手は決して疲れることがないし、我がマスターメイジは常に私の求めることをする。現実の戦闘でそんなことはまず起こらぬ」
モラーリンが同意するように頷き、からかうようなずる賢さで尋ねました。「では、無限の問題の例は?」
「まさに現実の戦闘…だがまた、私にとっては詩が無限の問題だ」
「でも、すべての詩は分析できますわ、アカトシュ」アリエラがたしなめるように言いました。
「無論だ―だがそれは書かれたあとのこと。我はそれを書くという行いを決定し、あるいは固定することができぬ。だが…それは、創造する行いだ。もし我が詩を書き始めたら…可能性は数多くある」そして苦々しげに、「我は最初の1行を越えたことがない。なぜなら、1行目に書き込めるすべてのものを想像し始めるからだ…」と言いました。
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女子高生と山月記
 「虎になる」というフレーズが流行った。
 高校時代の話だ。かつて鬼才と呼ばれた男が、己の心に潜む獣に振り回されて虎になる話を習った。重い題材なのにどうにも心にひっかかる上、人間が虎になるという衝撃的展開に驚いた。加えて「尊大な羞恥心」だとか「臆病な自尊心」とかいう妙に語呂の良いワードが登場することから、わたしたちは授業が終わってもこの話を忘れられず、結果「虎になる」というフレーズを局地的に流行らせた。
 わたしたちは虎になった。主に葛藤してどうしようもない時や人間関係が煩わしい時、そして自分が嫌いになった時に。具体的に言うならテスト前や恋愛にまつわる他者とのいざこざ、理想と現実の狭間でもがいた時に、現状の気怠さを「ほんと虎になるわあ」と溜息交じりに吐き出したのだ。
 
 仲のいいグループだけで使う暗号のような、気怠さの共有コードのような使い方をしていたのに、いつしか他のグループにも「虎になる」子が現れた。使い方を教えたわけじゃない。なのに彼女たちはわたしたちが使うように「このままじゃ虎になる」と自然に言ってみせた。
 言葉は感染する。きっとわたしたちが使うのを聞いて、自分たちのグループにも採用したんだろう。だけど説明してもいないのに完璧な用法で虎になってみせた彼女に驚くとともに、「山月記」という物語がわたしたちに与えた影響に驚いた。グループとか関係なく、わたしたちは同じものを受け取っていた。
 
 あの頃、わたしたちは言葉に出来ずとも、仄暗いものを心の中に感じていた。山月記を教わる前は各々が好き勝手に感じていたものだ。だけど中島敦が、山月記という物語を通じてわたしたちに教えてくれた。あれは間違いなく「虎」だった。
 
怪物と親交を深める
 友人たちと虎になっていたのは、もう昔の話だ。
 今は内なる虎どころか目に見える怪物と相対する年頃になった。つまり就職してお局様と出会う羽目になった。歩く脅威とはまさにこのこと。生きているだけでケチをつけられ、重箱の隅という隅をほじくり回される。
 仕事面では優秀だけど気に食わないことがあれば謎のコネで上に訴え、悪評を広め、最終的には泣き叫び壁を殴り颯爽と帰っていくお局様。人生で初めて出会う怪物がここにいた。
 
 上司ガチャ爆死というワードが脳裏をよぎる中図太く仕事を続け、数年経った今はお局様に個人的なドライブに誘われるなど驚くほどに良好な関係を築いた。怪物の懐にちゃっかり収まった形になる。
 努力をお局様との敵対や転職活動ではなく和解(と言ってもこちらに非は無いので向こうの軟化を待つだけ)に費やしたのは、お局様に好かれたかったからではなく、単純に可哀想だと思ったからだった。
 もちろん腹は立った。この人さえいなければ職場は良い人ばかりだし、天国だろうと考えた。だけど度が過ぎる不条理を与えられると怒りよりも疑問が湧く。何故この人はこんなにも怒っているのだろう、と。一度そう思ってしまうと止められない。わたしはお局様が人目もはばからない怪物になってしまった理由を求めてサバンナの奥地へと旅立ったのだった。
 
 この場合サバンナの奥地というのは比喩で、しかしお局様の私生活や歴史といった個人情��を知るには誰かの心の奥地、それこそサバンナのように深い場所へ踏み入らなければならないと考えていた。怪物のような同僚とはいえ、他人のことをべらべらと喋るわけがないと思っていたのだ。だけどわたしがお局様の詳細を尋ねると、先輩方はみな知ることが当然だと言わんばかりに必要以上を教えてくれた。
 
 悲しくてありきたりな話だった。偏見と既存利益に潰されていた若い女性が、ひょんなことから道を外れて二度と戻れなくなった話。詳細は書かないけれど同情の余地がある。お局様はひどい仕打ちを受けた上、助けてくれる人もいなかった。だからといって女という女をいびり倒す理由にはならないけど、性格が歪む原因としては大いに納得できる。
 
 そして過去から現在までひとりの人間を歪め続けた不幸をネタのように話せる人間に囲まれてしまったことも、お局様にとっては不幸だろうなと感じた。「昔は可愛かったのに、あの時は大変だったんだよ」と笑って言うくらいなら、あの時と言わず今助けてあげればいいのに。
 お局様の世界観にも一応の倫理はあるらしいけど、誰も興味が無いから触れない。あれだけ噂話を教えてくれた先輩も、昔は可愛かったと謎目線の上司も、お局様がお怒りになる基準を知らず天災のように諦めるだけ。お局様マニュアルというか対応心得が無いのかと尋ねれば、ぜひあなたが作ってくれと笑われた。台風の発生機序を研究し始めた頃の人間ってこんな感じなのかな、とか思ったりした。
 お局様と普通に話すようになってから、こんなことを言われた。
「これまではひとりで全部決めてきた。誰も決めてくれないから。だけどひとりで決めるのは大変だから手伝ってほしい」
 誰も決めてくれないったって、あなたが全部聞く耳持たなかったんでしょう。そう言いかけて思い出した。
 
 お局様が感情に任せた強い口調で話した後は、誰もが「あの人はああ言ってるんだよね」と腫れ物に触るような扱いをする。少し経って冷静になったお局様が前言撤回して別の意見を言うと「気分で言うことがコロコロ変わる」と冷ややかな態度を取るだけ。そして最終的に「誰からも意見が来なかったから私が決める」とお局様が決定を下す。
 この間、お局様に意見できる人は影で溜息をつくだけで何もしない。怯える人は陰口だけで何も言わない。お局様の目線からすると、確かに孤独な一本道だ。
「喧嘩がしたいわけじゃない。違う意見も聞きたい」
 そう言われた瞬間に眩暈がしたのは、自分の認識が揺らいだからだ。 
 
 何でこの人は急に普通の人っぽいことを言うんだ。目が合った奴らを全員ボコボコにするような生き方をしているじゃないか。もしこの人がこんな、いかにも普通のことを言うと、わたしはこの人を怪物じゃなくて普通の人だと思ってしまう。普通だから理不尽な仕打ちに歪んで、歪んだから手を差し伸べてもらえなくて、手を差し伸べてもらえないから怪物になった、ただの可哀想な人に見えてしまうじゃないか。
 わたしがお局様に対して行ったのは、普通のことだけ。
 何をしたか? 無視されるとわかって挨拶をして、注意をされれば非礼を詫びて、フォローされればお礼を言った。わからないことがあれば聞き、無知を咎められれば反省する。お前はわたしを特別にいじめるが、こっちはお前をなんてことのない日常の一部としか思っていないぞという反抗心からの行動だけど、特別なことは何もしなかった。
 
 特別なことなんて何もないのに、お局様はわたしを懐に入れた。先輩たちからは猛獣使いと呼ばれた。上役からはお前がお局様のハンドルを握るんだと謎の激励を受けた。だけど何も響かない。きっと褒められて、認められているんだろうけど何一つ嬉しくない。頭の中にこびりついて離れないのは、わたしが自分の意見を真っ向から言った時の、嬉しそうなお局様の顔。
 この人は普通の人なのに、こんな怪物になってしまったのか。
 一度でもそう考えてしまうと、信じて立っていた足元がぐらぐらと揺れるような、どうしようもない不安に襲われた。
おはよう自我
 性格は25歳を過ぎると変わらない、というのは友人の言葉だ。
 
 25という数字の根拠はわからない。だけど友人の体感としては大体それくらいの年頃から融通がきかなくなっていくらしい。友人はわたしが受けた理不尽(主にお局様)の話を聞くたび「凝り固まった奴らはどうしようもないよ」と諦め顔で笑う。
 友人の言葉には納得できたりできなかったりするけれど、個人的には「大人になったら性格は濃縮される」という持論を推したい。気の利く人がいつしか神経質になったり、雑な人はおおらかになったり。自我が確立した人間の性格は、とんでもない理不尽や幸運が無ければ、培った自我から派生していくものだと思っている。
 と、したり顔で喋ったものの、わたしの体感として自我の芽生えはつい最近で、偶然にも25歳の時だ。友人がどうしようもないよと匙を投げる年頃にやっと芽生えた。遅すぎる自我よ、おはよう。
 自我がない25年間は何をしていたんだと言われそうだけど、それなりに頑張って生きていた。もちろん記憶はあるし、自由意志もあるし、ちゃんと人間として過ごしていた。それでも不思議なことに、25歳の時不意に「自分はこういう人間なんだ」と納得する瞬間があったのだ。
 出来ること出来ないこと、やりたいことやれないこと。理解と諦めと希望がごちゃ混ぜになった不思議な気分だった。ふわふわと漂っていた自分の表面に薄皮が張られたような、世界の解像度が上がったような、言い知れない感覚をどう表せばいいのかよくわからない。
 だけどひとつ確かにわかるのは、自分と他人は違う人間だ、とこれまで以上に感じるようになったこと。自分の基本的なかたちがわかったから、生きるのが少し楽になった。
 大辞林によると、自我とは「意識や行為を主体としてつかさどる主体としての私」らしい。細かい定義を個人がどれだけ認識しているかはさておき、インターネット上では「最近自我が芽生えた」と呟くアカウントがいくつか存在する。自分を赤ちゃんだと思う人RT、みたいな感じではなく「主体としての私」が芽生えたのがつい最近、という雰囲気のアカウントだ。
 自我が芽生える前後のツイートを遡って見てみても、特に差異は感じない。普通に人生の断片が記載されているだけで自我の有る無しなんてわからない。それでも本人の体感として「最近自我が芽生えた」という意識があるのは、わたしと境遇が似ているようで親近感が持てた。
 そんな顔もしらないアカウント達が「自分は20代後半に芽生えた。周囲もそれくらいで芽生える人が多い」「自分は双子だから物ごころついた時から他人との違いや自我を感じて生きていた」「自我が芽生える前の生き方をよく覚えていない」などと呟く様子を眺めるのが好きだった。
 他人に求められる役割や、着せられがちな生き方がある。だけどそれよりも自分の行きたい道があって、思考しながら日々進む。思い悩むこともあるけど他人のことはあまり、気にしなくなった。
 友人たちも似たような感じだ。個人主義になったと言えばいいのだろうか。みんな自分の世界があって、他人の世界も大切にする。学生時代と違って気の合わない人たちとは距離も置けるし、大人になってからの方が楽しい人間関係を築けると確信した。
 確信した。そう、それは間違いじゃない。だけど気になることがあるのだ。
 自分というかたちを知るほど、興味のないものを全く取り込まなくなってきた。行動の自由度が高まった分、思い通りにならない時に苛立ちを感じてしまう。わたしはどんどん我儘になっている気がした。
 友人の言葉を借りれば、人間は25歳を過ぎると性格を変えることができない。
 これはもしかして「だいたい25歳あたりから自分の歩き方がわかるから進む道を譲らなくなる。結果として柔軟性が無くなり、自分を形作る価値観の再編ができない」のではないか。そしてわたしの理論では性格というのは濃縮される。価値観の再編ができないままどんどん濃くなっていく。
 
ここで一文、山月記から引用をする。
「人間は誰でも猛獣使であり、その猛獣に当るのが、各人の性情だという。己の場合、この尊大な羞恥心が猛獣だった。虎だったのだ。」
 濃縮されゆく人間の気質は、いずれ猛獣に至る。
 このまま気のおけない友人に囲まれて、自分のやりたいことをやって、見たいものだけを見ていったらわたしの性格はどんな風に濃縮されるのだろう。今現在、気の合わない人たちを排除した人間関係を築いているくらいだ、この先解放的な性格になるとは思えない。
 自分の世界を深めることは、他人が持つ世界との差異を浮き彫りにすることだ。自分の信条に合わない世界も必ずあるだろう。わたしはそれを尊重できるだろうか。
 耳に優しい言葉を聞いて、見たいものだけを見て、自分の世界を深めていく。それは風の吹かない部屋で延々と穴を掘ることと何が違うのだろう。わたしがいつか狭い穴の中で暮らすようになったら、「外は晴れてるから出ておいで」と言ってくれる人はいるだろうか。もし誰もいなかったら、わたしは永遠に穴の中で暮らす羽目になる。
 そして「穴の中より広い家の方が荷物も置けるし便利だよ」という他人の忠告を、忠告として受け取ることができるだろうか。視野が狭くなってしまえば、自分の世界以外のものは全て亜流に見えるかもしれない。「この穴の良さがわからないなんて」とか言ってしまうかもしれない。
 
 自分が世間一般から大きく外れた生き物になってしまう可能性を、初めて考えた。
 そして、冷やかな目で見られ持て余されたお局様に自分の姿が重なる。
 わたしもお局様のようになる可能性がある。
 そんな考えに至った時、心の中で虎が吠えたような気がした。
内側からの足音
 ここで改めて、山月記を復習する。
山月記 (中島 敦) 隴西(ろうさい)の李徴(りちょう)は博学才穎(さいえい)、天宝の末年、若くして名を虎榜(こぼう)に連ね、ついで江南尉(こwww.aozora.gr.jp
 ものすごく簡単にあらすじを書く。
 能力はあるのに生活が苦しい李徴という男がいる。地方の役人を辞めて詩で生きようとするものの全然売れない。家族養うには詩じゃ無理だな、と再び役人になるも、昔見下していた奴らが出世して指示出ししてくるからプライドがぼろぼろ。発狂して虎になってしまった。
 そして虎として生きていた李徴は、かつての友人である袁傪と再会する。
 李徴は袁傪と会話をする。「何かが呼んでるから外に出たら自然と走り出しちゃって、すごい夢中で走るうちに力がみなぎって、気づいたら虎になってたんだよね」「人の心と虎の心が混じってるから、うさぎ食べる時もあれば自己嫌悪がやばい時もある」「このまま虎になる予感がするけど、詩で有名になれなかったのが心底辛いからちょっとこの詩メモって」とか。
 そして「でも虎になった理由、心当たり無いわけじゃない」と、以下のように語る。
 人間であった時、己は努めて人との交りを避けた。人々は己を倨傲だ、尊大だといった。
実は、それが殆ど羞恥心に近いものであることを、人々は知らなかった。勿論、曾ての郷党の鬼才といわれた自分に、自尊心が無かったとは云わない。しかし、それは臆病な自尊心とでもいうべきものであった。己は詩によって名を成そうと思いながら、進んで師に就いたり、求めて詩友と交って切磋琢磨に努めたりすることをしなかった。かといって、又、己は俗物の間に伍することも潔しとしなかった。共に、我が臆病な自尊心と、尊大な羞恥心との所為である。
(中略)
 人間は誰でも猛獣使であり、その猛獣に当るのが、各人の性情だという。己の場合、この尊大な羞恥心が猛獣だった。虎だったのだ。これが己を損い、妻子を苦しめ、友人を傷つけ、果ては、己の外���をかくの如く、内心にふさわしいものに変えて了ったのだ。 
 そして李徴は「妻と子供にはもう死んだよって伝えて」「妻子よりも詩のことを先に話しちゃうあたりほんと虎」と自嘲しつつも「もうこの道通らないでね」「ちょっと歩いたら振り返ってみて。今の姿見せる。もう二度と君が会いたいなんて思わないように」と話して、宣言通りに虎となった姿を見せて、友人の前から姿を消す。
 以上、ざっくりとした説明だけど、引用部分には思い当たる節しか無くひたすらに心が痛い。中島敦の破壊力に怯えるとともに、これがデビュー作という事実に驚く。
 そして大事なところだから何度も引用をする。
「人間は誰でも猛獣使であり、その猛獣に当るのが、各人の性情だという。己の場合、この尊大な羞恥心が猛獣だった。虎だったのだ。」
  
 わたしの中に芽吹いた自我は、よりよい人生への切符であると同時に猛獣の幼生でもあった。自分と世界の間に線を引く術を知ってしまったから、世界を自分のことのように感じ入ることが無くなって呼吸が楽になった反面、濃縮されゆく自分自身を希釈することが難しくなった。
 自分の見える範囲、好きな範囲だけを掘り進めるのが本当に楽しいからこそ、強く思う。自我は、猛獣だ。虎だ。そして心地よい世界への入り口だ。李徴が虎になった時「身体中に力が充ち満ちた感じ」と表現された理由がよくわかる。
 自分に自信を持つことは、素晴らしくもあり恐ろしい。
 有名な動画だけど、自分を信じることの恐ろしさはこれを見るとわかりやすい。この動画ではバスケットボールが延々とパスされていく。そこで、動画の中で「白服の人が何回パスに参加したか」を答えてほしい。 
 おわかりいただけただろうか。
 この動画の目的に気づいてもらえただろうか。 
 動画には事実が映されている。そのうち、わたし達はどれだけの情報を受け取っただろうか。見たいものは見えたとしても、見なかったものは、無かったことにされただろうか。自分でも気づかないうちにかけていた色眼鏡は、いつ外せるのだろうか。
 どうしてこんなにも、わたしは自分の中にいる猛獣を恐れているのか。
 それは「素敵な自分でいたい」とか「よりアップデートされた自分でいたい」なんていうお綺麗なものじゃなくて、ただ単に身近な怪物たちが哀れで醜いからだ。
 愚痴ついでに説明するとお局様の他にもう一人、職場に怪物がいる。
 わたしと同時期に入ってきた男の子だった。素直で明るい体育会系で、愚痴をこぼすのが下手くそ。溜め込んでしまうタイプだなあと気にかけていたけど、ちょっと会わない間に怪物に変貌していた。
 彼は愚痴を言うのも、話し相手を選ぶのも下手だった。どんな悪態にも同調し、否定せず、建設的な意見よりも感情的な意見を述べ、煽ることが得意な奴とつるんでしまった結果、自分の抱く負の感情を全て「尊重されるべき真っ当なもの」と思うようになった。友人は選んだ方がいい。悪い奴じゃなくても癖のある奴は用法容量を守るべき。ちなみに癖だらけの煽りマンは、わたしがプレイしているゲームに出てくる「キャスターリンボ���という奴が本当によく似てる。
 
 彼は職場の人間のうち大半を嫌いになった。もちろん顔には出さないけれど、壁に耳あり障子に目あり、キャスターリンボと話している内容は筒抜けだから彼の罵詈雑言レパートリーは皆よく知るところである。
 
 彼が人を嫌う基準は、最初こそ真っ当だった。仕事が適当だとか、やり方が強引だとか。その点、性別や見た目、歩き方やで人を嫌うお局様とは違う。しかし次第に腹を立てるハードルがどんどん下がって、人によって許す許さないの基準を大きく変えた。
 そして一度嫌いになった人間を徹底的にマークして、どんな同情的背景があろうと、その背景含めて人間性や犯したミスを延々と馬鹿にするのだ。「あいつの事情なんて俺知らない」と子どものように頬を膨らませながら。
 そして後輩たちを集めて、愚痴を肴に飲み会を開く。下には強く上には媚び、ながら唾を吐く。なお建設的な意見を表立って言いはしない。影でこそこそと、キャスターリンボや後輩たちに愚痴るだけだ。
 愚痴のレベルがえげつない彼は、今でこそ腫れ物に触るように扱われるけれど、仕事に対する誠実さや巧みな話術は目を見張るものがあって、キャスターリンボとつるみさえしなければ将来の幹部候補だったと上司が嘆いていた。でも今の彼が幹部になったらパワハラセクハラモラハラが権力と服を着て歩いているような感じになってしまう。とんだ化け物だ。そうなればすみやかに辞職しなければならない。
 
 人間の相性は化学反応のようで、理想通りには進まない。向けられた感情を鏡のように反射するコミュニケーション術を持ったキャスターリンボと、負の感情のコントロールが下手くそな彼は、壊滅的に相性が良すぎたのだろう。
 かつて同期として肩を並べていたはずの彼は、随分遠くに行ってしまった。入ってきた頃は、溜息交じりに扱い方を囁かれるような人間ではなかった。こうなる前に何か出来ることがあったのかもしれない。そんなことを考えては、現状を思い気分が沈んだ。今のわたしは彼に嫌われているから何を言っても届かない。
 
 お局様も彼も、良いところはあるものの人間として尊敬できない。好きか嫌いかで言えば嫌いだ。興味はあるし同情もするけど、こんな人間にはなりたくない。だけどわたしは最近、自分の都合で他人に苛立つことが増えた。あえて見たいものだけを見ているように思う。見たくない自分を見つめていると、二人とも、わたしの生きる延長線上に立っている気がした。
 周囲を巻き込みながらも気持ちよく生きている二人がどうにも他人事には思えない。わたしが彼に対して何かしたかったと思うのは、自分がもし怪物になった時、誰かに止めてほしいと思うからなのかもしれない。
臆病者の旅路
 「自分が行動を起こせば変わった、なんて思うのは傲慢だよ」
 
 怪物になった彼のことを引きずるわたしに、屈強なミスチルファンがそう言った。このミスチルファン(以下ファンと呼ぶ)は彼のことを友人の友人程度に知っており、彼の変貌過程も知っている。
 「あいつは成るべくしてそう成ったんだよ。あんなになっても誰も止めてくれない程度の人間関係しか築けなかったあいつ自身に問題があるから、周りがどうこうって問題じゃない。そこまで気にするのは筋違いだし踏み込み過ぎ」とファンは言う。ドライな意見に聞こえるけど自信満々に言われると一理あるような気がしてくる。
 ファンはわたしよりも早い段階で「自我」を確立していた。中学高校の時には既に今と同じ自分の世界を、自分の理論を持っていたらしい。そして「調子乗ってたらボコボコにされたけど、叱ってくれる人がいなかったら自意識モンスターになってたから良かった」と話してくれたことがある。
 
 もしかしたら、自意識モンスターという概念を持っているファンには自分が怪物になる恐怖を理解してもらえるかもしれない。そんな思いで打ち明けた。これまで書き連ねてきたことを、一から十まで長々と。
 ファンは時々頷きながら、黙って聞いてくれた。そして話が終わり、沈黙が続く。どんな反応をするかと待っていたら、ファンは突然歌い出した。
「滞らないように揺れて流れて、透き通ってく水のような心であれたら「アー↑」
 名曲HANABIである。
 「HANABIだ、まじHANABIだわ」と、ファンはひとりで納得しながら桜井さんすごいと呪文のように唱えた。そして「今度ミスチルの詩集貸すよ……曲もいいけど文字で見たら全然雰囲気違うし染み込み方が違うから」と力強く約束してくれた。ミスチルが詩集を出していたことを、わたしはその時初めて知った。
 
 ファンが言うには、HANABIという曲は「ボーカルの桜井さんが冬場金魚の水槽を掃除するときにね、水が冷たいからちょっと貯めて放置しつつ……あれ塩素抜きを兼ねてたんだっけ? まあいいけど水貯めた翌日水の中に金魚を入れたらバタバタ死んでね、金魚が死んだのは水の中に空気が無かったからなんだけど、ああ水も死ぬんだな、人間も同じだなあという思いからHANABIという曲が生まれたんだよ」ということらしい。
 ファンは歌い出し以降、わたしの怪物化への懸念に言及することなく、いかに桜井さんが素晴らしいかという話を延々と続けた。詩の作り込みが凄まじく、自分が生きる中で曲の印象が変わっていくのが面白いのだと。そして「HANABIの解釈がまたひとつ深まってしまった」「桜井さんはアップテンポな曲に容易く地獄を放り込む」と満足そうに去っていった。
 
 わたしはミスチルファン歴が浅く、桜井さんのことはまだよくわからない。だけどファンの感性や屈強さは心から信頼している。だから、わたしが怪物の話をした直後に突如歌われたフレーズをファンの回答として勝手に受け取ることとした。
 空気も水も溜まれば淀む。人だって立ち止まれば淀むのだ。透き通った心でいたいなら常に心を動かさなくてはならない……そういうことなんだろう。と思った矢先にファンからLINEが届いた。
 「今みたいに揺れるのが大事なんだと思う」「自分はこれでいいのかって悩み続けること自体に意味があって」「どんどん新しいものを取り入れていけば」「自浄作用も働くし」「周りの人からも大事にしてもらえる」
 細切れに届く言葉は胸に響くものの、お前それ面と向かって言ってほしかったし何なら歌う前に言ってくれやという気持ちが前に出る。
 
 だけどこういう想定外の行動によって、自分の思い浮かべるやりとりよりも斜め上のやりとりが生まれた時、世界はわからんことだらけだなあと驚きを感じる。面白い時も苛立つ時もあるけど、こうやって人から驚きを貰える限り、わたしの世界はおそらく滞らないのだと思う。
 問題はわたし自身が、自分の心を「揺れて流れる」ような不安定すぎる場所に置き続けられるか、ということで。驚きを与えてくれる友人がいても、結局は自分次第だ。
 心に住まう猛獣はわたし自身であり、手綱も握っている。だけど、不安がどうにも拭えない。他の人たちはわたしのように猛獣を恐れたりしないのだろうか。ただ真っ直ぐに生きているのか、それとも自分を恐れることなく律することが出来るのか。
 
 本来これは感じなくても生きていける恐怖なのかもしれない。だとしたら、そんなものに怯えているわたしは貧乏くじを引いてしまったのか、あるいは精神が未熟なのか。
 そんなことを考えている時、インターネットで出会った友人の言葉を思い出した。ぼんやりと覚えていたものを、もう一度あれ教えてと頼みこんだらログを発掘してくれたので引用させていただく。
 「文明の広がりと生命維持とか考えると色々面白いよね。例えば日本人はとても鬱になりやすいけど、統計とってみるとアフリカ(人類の起源)から離れるほどセロトニントランスポーター(心の安定に寄与する物質を運ぶもの)の働きが弱いんだってさ。つまりとても不安になりやすい」
「でも私たちがアフリカから極東に辿り着くには、それは重要なことだったんだよね。不安で周りを確認しておっかなびっくり足を踏み出す人間じゃないと、遠くの目的地には到達できない。人間どうしたってネガティブになりがちだけど、私たちはネガティブだからこそ今まで生存できてたってわけです」
「古代文明が栄えた場所も、全部あったかいところなんだよね。シュメール、アッカド、バビロニア。ほかの四大文明も。でも、時代を追うにつれて主役は北へ北へと移っていってるんだよね。やっぱりアフリカから遠く離れれば離れるほど不安だから、色々立ち止まって考えることが多くて、その結果なのかもしれないなあなんて思ったりします」
「じゃあ、移動手段と情報伝達が過度に発達した現代や未来はどうなるんだろうって思うと、途端に法則が当てはまらなくなるから困る。文明の北上は臨界点だし、等しく技術が飽和したなら、今度は環境の恵まれた南の辺りから自由な発想が生まれてくるのかもしれないし、もしかしたら、さらなる北を求めて人間は宇宙にさまよい出すのかもしれないなって思いました」
 
 この話を聞いた当時は、人間すげえや、とか何でこの人こんなこと知ってるのすごっ面白っとしか思わなかった。だけど今はこの話に励まされている。
 
 臆病者じゃないと到達できない場所がある。精神論じゃない。今わたしがここで生きているのは、過去の臆病者たちが一歩を踏み出した結果。わたしの未熟さ、抱える恐怖は、もしかしたら遥か遠くに辿り着くために必要な要素なのかもしれない。
 
 行き着く先できっとわたしは色んなものに触れて、考えて、自分を確かめては組み替える。心の中の猛獣に押しつぶされて他を顧みない怪物となれば、完結した世界に満足して旅に出る気にもならないだろう。だけど恐怖に震える間は、怪物にならず歩いて行ける。長い旅路に意味はある。現に足を伸ばしてオンラインの世界に辿り着いたからこそ友人に出会い、知識に触れ、こうして励まされたのだから。
いつか怪物になるわたしへ
 それでもやっぱり、わたしはいつか怪物になると思う。
 いずれ自分が塗り替えられるという恐怖と戦いながら、怪物化に抗いながら、最終的には成ってしまうと思うのだ。様々なものを見聞きして、考え込んで、いつか考えることを止めて。そうして引き籠る内側の世界はきっと居心地が良い。自分を疑い続けるような旅を続けるより、好きなものだけを追及する方が幸せだと思う。
 
 自分の世界の外に向けた想像力が、わたしを人間たらしめている。目の前に立っている人が見えないところで泣いている可能性を考えるし、自分の理屈が他人に通用しないことを知っている。
 だけどこの想像力を全て自分のためだけに使うのなら、誰が泣こうが喚こうが知ったこっちゃないし、理屈は押し通すものとして狡猾に立ち回るだろう。自分のためだけに生きれば毎日がもっと楽になる。
 怪物になりたくないと思うたび、怪物の良さを突き付けられる。いつの日かこんな風に悩むことすら面倒になって、全てを放り投げて大の字に寝転ぶ時が必ずやって来る。わたしは臆病な奴だから、自分を傷つけて揺るがすものから必ず逃げたくなるだろう。そして考えることを止めて、周りにイエスマンだけを置いて、自分だけの素敵な世界を作りたくなるはずだ。
 
 怪物になったら、怪物じゃない時の理想なんて理解できないかもしれない。だから正気があるうちに「わたしが変なことを言ったらボコボコにしてほしい」と介錯願いを数人に出している。勇者を育てる魔王がいたならこんな気分なのかもしれない。どうか綺麗に殺しておくれ、わが愛しの勇者たちよ。もし君達が先に怪物化したら喜び勇んで殴りに行くね。
 いつか怪物になるわたしは、世間で触れ合う怪物どもに中指を立てて生きている。いずれ自分も辿る道、自覚も無しに通る道。哀れで醜い、と言われる側に立った時、わたしは何を見ているだろう。自分が怪物になったと気づかず、他の奴らを見下しているのだろうか。実はもうとっくに怪物なのかもしれないけど、勇者たちからの正論パンチが飛んできていないからまだセーフだと思いたい。
 ふざけて「虎になる」なんて言っていた頃から、随分遠くに来てしまった。見える景色も歩き方も随分変わったけど、わたしという人間の連続性はゆるやかに保たれながら過去から未来へ伸びていく。願わくばこの悩ましい旅路が、葛藤ばかりではなく瑞々しい驚きと喜びに満ちたものになりますように。
 この文章はいつか怪物になるわたしへ向けた弔辞であり、激励であり、備忘録だ。
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hinagikutsushin · 5 years
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賽は投げられた
 ヒュー、ヒュイー。
 口笛を吹くような音を立てながら入ってくる隙間風。寒くて布団の中に入り包まる。もう一眠りしようかと思ったが、なかなか寝付けず目の前にある温もりに顔をくっつける。するとそれに気づいた彼が、そっと腕で私の体を寄せた。
 トモエの家に泊まったあの日から何日が経っただろうか。随分と冷え込むようになり、色付いた葉は地面を赤色や黄色に飾った。
 ―—時は既に、秋が終わる頃だ。
 いつも通りの朝だった。起きた後、私たちは普通に朝食を摂り、今日は寒いからとサクの所の近侍さんから頂いた茶葉で茶を淹れ、二人で他愛のないことをぼそぼそと話していた。そろそろ薩摩芋が美味しくなるだろうな、いつ食べようか、とか、そういう取り留めのない話だ。
 暫く話していると、ヒナギは朝食の片づけをする、と土間の方へ行った。因みに私は以前土間で手伝いをしようとしたが、危なっかしくて見ていられないという理由で部屋に返されたことがある。遺憾の意。
 暫く土間の方で洗い物をするヒナギを見ながら、足をパタパタと揺らした。この足も随分と良くなった。最近は杖なしでも歩けるほどだ。
 つまり決断の時期はもうすぐそこまで来ているという事で。
 随分と悩んだが、私は出来うることならヒナギの側にいたい。隣で、今までの恩を返していきたい。そして記憶も戻れば万々歳だ。
 ……正直、記憶に関しては諦めかけている。でも、こうして彼と、そして里の友人たちと他愛もない話をしたりしてのんびり過ごせるのなら、記憶なんぞ戻らなくてもいいのではないかと考えてしまう自分がいる。
 実際私は今、幸せを感じているのだから。
 かさかさと枯葉を踏みこちらへとやってくる人の音が聞こえた。軽いがしっかりとした歩み。それがツグモネのものであると分かった私は、部屋を出て玄関の戸を開ける。すると彼女は戸を叩こうとしたのか腕を若干あげ、こちらを少し驚いた様子で見ていた。
 ヒナギも丁度洗い物が終わったらしく、私の方へ近寄り、誰が来たんだと、戸の方を向く。
「ツグモネじゃないか。突っ立ったままで何をしているんだ」
「……いえ、戸も叩いてないというのにヤスヒコくんが戸を開けたものですから」
 では、お邪魔しますよ、と再びにこりとした笑みを浮かべて家に足を踏み入れた。
「ヤスヒコくん、元気でしたか?あの日以来ですねぇ」
 そろりと頷けば、足の方をちらと見て、またその笑みを深くする。久しぶりのツグモネの笑みは中々なんというか、やはり胡散臭い。
「随分と久しぶりじゃないか、何をしていたんだ」
「なに、少し野暮用でここを離れていたのですよ。それに、ヤスヒコくんの傷はすでにあの時にはふさがっていましたしねぇ、残すは歩く訓練だけでしたので」
「それにしちゃあ挨拶もなしに」
「おやまぁ、私が挨拶もなしに消えることなんぞ一度や二度じゃないでしょうに」
 それもそうか、とヒナギは軽くため息を吐き、ツグモネと私を部屋に上がらせた。
 慣れたように座布団を引き寄せそこに座り、重たげな大きな薬箱をいそいそと降ろした彼女は、部屋の入り口で突っ立っている私を手招きし、自分の前に座るように言った。
 もしかしたらこれが最後の診察になるかもしれない。緊張してヒナギの着物の裾を握ったが、ヒナギはその裾をゆるりと解いて私の背を押した。
 不安になって顔を見上げたが、ヒナギはいたっていつも通り、凪いだ表情をしていた。
「ヤスヒコくん、おいでなさいな」
 痺れを切らしたように私を呼んだツグモネに、私は渋々と歩み寄り、目の前に座った。
 ツグモネは以前のように私の足を触ったり、少し押してみたりして診察をしている。ひとしきり触って、私に部屋の中を歩いてみてください、だとか、その場で跳ねてみてください、だとか言い、その通りに私が難なく動くのを確認すると、大きく一つ頷き、弓なりに瞳を細めて笑った。
「もう問題なさそうですねぇ、言う事なしの完治ですよぉ」
「そうか。よかったな、ヤスヒコ」
 ふっと安心したように笑うヒナギに、私はそのまま勢いよく抱き着いた。そんな私をぎゅっと抱きしめた彼。しかし、その体はいつもより堅く、ぎこちないような気がした。
「それでは、約束通りですよ、ヒナギさん」
「……あぁ」
 そういうと、ヒナギは私をそっと自分の体から引きはがして、ツグモネの方へ背を押した。
 なぜ、と思い彼の方を振り向く。やはりいつも通りの凪いだ表情だ。でも、いつもより表情が読めない。
「どういう、こと」
「ヒナギさんとお話してですねぇ、怪我が治り次第私がヤスヒコくんを安全に過ごせる場所へと案内するという事にしたのですよ」
「そ、んな、知らない」
「すまないな、ヤスヒコ。でも決まったことなんだ」
「大丈夫ですよヤスヒコくん、私がちゃぁんと手配しましたし、実際に行ってみて安全性は確かめてますので」
「そういうことじゃない!」
 私はいつもよりも大きな声でそう反論すれば、驚いたようにその見開いた眼で二人は私を見た。
「わたしは、わたしはヒナギといっしょにいたい! どうして、どうしてわたしには何も言わずにそんなこと……!」
 私が堪え切れずそう口に出すと、ヒナギはさらに大きく目を見開き、そして俯き、私に背を向けた。
「ヤスヒコ、ここは危険だ。サクの所でこの山の事は少し調べたろう。神、あるいは主という管理者がいない霊峰とその周りは何が起こるか分からない。里を見てきたお前さんならわかるだろう。ここに未来はない」
「だけど、ここにはトモエやロクだっている!それにあたらしい友達だって……!」
「遠い地で生きたほうがいい。ここにいた事は忘れなさい。あの子たちには私が上手く言っておく」
「でも!」
「ヤスヒコ!!」
 彼の怒声で、部屋がビリビリと唸った。初めて聞くヒナギの怒鳴り声に私は体をこわばらせ、未だ背を向ける彼を見た。
「怪我が治るまで、だったはずだ、お前さんを見るのは。その傷が治った以上、私がお前さんの面倒を見てやる義理はない」
 言葉を失い、私はその場に立ち尽くした。完全なる拒絶だった。ヒナギはこちらに目も向けず、ずっと背を向けたままだ。
 何も考えられない。心に穴が開いた気分だった。ただただ、彼を呆然と眺めることしかできなかった。
 気づいたら、ツグモネが私の手を引いて、外に出ていた。
 ヒナギの背中が目にこびりついて、離れなかった。
 ツグモネに手を引かれ、山道を歩く。足元を見ながら俯いて歩いていると、彼女がふと、休憩を挟もうと提案してきた。力なく頷き、くたりと地面に座った。ふと空を見上げたが、どんよりとした曇り空で何とも気が滅入る。そんな中でも精霊たちはふわふわと光りながら空中を漂っていて、私はぼうっとその光を眺めた。
 ――面倒を見てやる義理はない、か。確かに彼の言う通りかもしれない。取り合えず怪我が治るまで、という話だったのだ。知らない間にもしかしたら私が彼に迷惑をかけてしまったのかもしれない。
 でもそれにしては急じゃないか。今日の朝までは普通だったのだ。今まで通りの、変わらない日常だったのだ。
 何かが、引っかかる気がしてならない。
「ヤスヒコくん、そろそろ行きましょうか。山を越えたらすぐですよ」
 そう言ってツグモネは私の手をひっぱる。拍子に歩みを進める。どこか有無を言わせないような、そんな態度だ。
 暫く彼女に手を牽かれ歩きながら思考を巡らせる。あの日、彼に拾われた日から何が変わったか、気になることはなかったか。
 まず、身体的な事。怪我はほぼ既に完治している。傷は残ってしまったが、問題なく歩けるし、なんなら走ることもできるようになった。そして、怪我が治るにつれて、目も、耳も、鼻もよくなった気がする。見えなかった精霊やお隣さんが見えるようになった上、足音で誰か分かるようになったし、微かな匂いも嗅ぎ分けられるようになった。元々鋭くて、怪我をした拍子に鈍くなり、それが治ったのか、それとも怪我やツグモネの言った通り、山神の影響でそうなったのかは定かではないが。
 そして、肝心な記憶と、そして自分と山神の関係について。これにしてはもうさっぱりだ。そもそもの話私はこの短期間で文字を読み書けるようにはなったが所詮習いたてでサクが読むような書物は読めるはずもない。分かったのはここの山神のほんの少しの情報と、そしてヤスヨリから聞かされた悲惨な日の話だけ。情報だよりに思い出そうとしても、私がヒナギに拾われたその前の記憶は延々と走っていることしか思い出せず、他はやはり分からない。
 ……そう、読めるはずがない。皆知っていたはずだ。私は文字が読めない。読めたとしてもとても遅い。ではなぜあの日を経験したヒナギもトモエもサクもロクも私に口頭で何も言わなかったのだろうか。ヒナギに聞けばはぐらかされ、トモエに聞けばそのころの書物を持ってくるだけ、ロクはすさまじい日だったとしか言わないし、サクはにやにやと笑うだけだ。ツグモネだってそうだ。私と初めて会ったあの日、私と山神の関係性を示唆した以降は何一つ教えてくれやしない。彼女は何かを知っているはずなのに。今まで口であの日の事を詳しく教えてくれたのはヤスヨリたった一人だ。
 そして今日の突然の拒絶。ヒナギの性格ならあんな強い拒絶はしないはずだ。あの人は、酷く優しい人だから。
 よもや、皆は何かを私に隠しているのではないか。それも、私の記憶に関する何か良くないことを。
 そこまで考えた私は歩みを止め、掴まれた手首を思い切り下に振り下げた。
 あまり強い力で握られていなかったそれは簡単に外れ、そして前を歩く彼女がこちらに振り替える。
「ヤスヒコくん?どうしたのです。手をつながないと迷子になりますよ」
「ツグモネ、話をしよう」
「なんの話です?話すことなどないでしょう」
「ツグモネは、いや、あなたたちはわたしに何をかくしているの」
 瞬間、彼女から漂う空気が変わった。
 大きく目を見開きこちらを見る彼女。灰色に濁った空色の瞳を再び弓なりに細めれば私の手を掴もうと寄ってくる。
 後ろに一歩進めば、彼女も前へ一歩近づく。繰り返せばついには木に道を塞がれ、逃げられなくなった。
 彼女はいつのまにか笑みを浮かべることを止めていた。こちらをじっと見つめている。
「何故逃げるのです。ヤスヒコくんは今から安全な地へ向かうというのに、なぜそんなにも躊躇いがあるのです」
「質問に答えてない」
「その質問に答える意味などありません。あなたはこの地を去るのだから」
「わたしがこの土地にいることで何か良くないことでもあるの。ヒナギもツグモネもヒスイのとこもロクも、ツグモネだってそうだ。わたしのきおくをさがすふりはするけど、明白なじょうほうは絶対にわたしてくれない。まるで、わたしがきおくを思い出すことは、この土地にずっといすわることはきんきなんだと言わんばかりに。  わたしに、なにを、かくしてるの」
 彼女はついに、目に見えてわかるように顔をゆがめた。そして吐き捨てるようにして言い放った。
「そうよ、私たちはあなたに隠し事をしている。私たちは、特にヒナギはあなたがどうして記憶を失ったのか、どうしてこんな現状に陥ったのか全てを知っている」
「じゃあどうしてそれをッ」
「言わなかったかって? 言ったでしょ、知る必要がないからよ!」
 彼女の顔が次第に険しくなる。いつものあの優しい声色はいずこへ、厳しく、そして今までの鬱憤を吐き出すかのように声を荒げ、鋭い犬歯をむき出しにし、こちらを睨みつける瞳は次第に人外のような、縦に割れた瞳孔へと変わっていく。
「そもそもの話私は彼が貴方を自分の元に暫く置くという事自体賛成しなかったわ。 あの時あなたをあちらへ送ってしまえばよかったのに、怪我が治るまでは面倒を見たいだなんて我儘を言って事態をややこしくしたのよあの愚か者は!」
「ヒナギのことをわるく言うな!」
「悪く? 悪くですって?! 私は事実を言ったまでよ。 そうすれば貴方は記憶に悩まされなくて済むし、ここまで人外化することもなかった! ヒナギはあなたの代理として山に還る筈だったのに、これじゃあ元の子もないわ!」
「どう、いうこと」
 私の代理? ヒナギが?
 私がしどろもどろとしていると、彼女は私に大きく詰め寄り、獣化した手で私を大木に押し付けた。胸を押され軽くせき込む。目の前を見ると、恐ろしい形相をしたツグモネが私を射抜いていた。
「そんなに知りたければ教えてあげるわよ。あなたは山主様に育てられた人間、そして奇しくも主の適正があり、山に生を捧げなばならない者。それを哀れんだあなたの本当の父であるヒナギが身代わりとして、主の力を請け負ったのよ」
「彼はこの山を立て直したら命をもって力を返上して新しい主様を迎えるはずだったのに、久しぶりに見る自分の子に目が眩んで匿うだなんて! 元々神域で暮らしていたせいで妖に近いあなたがあの均衡が崩れた霊峰にいては、いくらあの方の力をもってして記憶を封じて人間にいくら近づけさせたとしてもあちらに引っ張られて人外化するだけなのに! 人間として生きて欲しいあの方の願いはあの愚か者によって壊されたんだ!」
 あまりの情報量の多さにだんだんとツグモネの声が遠くなる。
 私が山主に育てられた人間で、でも妖に近い存在になってて、ヒナギは私の本当の父親で、そして私がしなければいけないことをヒナギがしていて、そしてヒナギは、ヒナギは、
 ヒナギは死ななければならない?
「――はなせ!!」
 私は思い切り彼女の腕をひっかいた。すると、反抗するとは思っていなかったのか力が少し緩んだ。その隙にすり抜けようとしたが、今度は頭と背中を地面に押し付けられた。肺の空気がすべて出されて苦しいし、地面に強打した頬が擦れて痛い。
「こうなったら無理矢理にでも……!!」
 唸るように言ったツグモネの手がだんだんと重く、大きくなるのを感じた。恐らく変化が始まったのだろう。彼女は本気だ。変化が終わったら私を咥えるなりなんなりして連れ去るだろう。そうなってはもう遅い。
 圧迫されて膨らみ切れない肺に精一杯空気を入れ、思い切り叫んだ。
「おとなりさん!!」
 そして、暗転。
 目を開けると、霧がかったあの場所にいた。以前より精霊が増えただろうか、地面には天の川が流れているような光が溢れ、まるで星空の中にいるような気分になる。
「危ない危ない、もう少し離れてたら連れてこれなかったよ」
 耳元で突然幼い子供の声が聞こえた。振り向くと、にこにこと人のよさそうな笑みを浮かべてこちらを見るお隣さんの姿があった。
 思わず彼女に抱き着く。彼女はそんな私をぎゅっと抱き留めると、優しく髪を撫でた。そしてゆっくりと体を離して私の頬をその小さい手で包んだ。
「可哀そうに、私たちの山の子がこんなにも傷ついて……」
「おとなりさん、ヒナギが、ヒナギが死んじゃう!」
「あの人の元に行きたいんだね、そうだねぇ、どうしようかなぁ……」
 彼女はそう言うと私の顔をじっと覗き込んだ。真っ赤な夕焼けの様な瞳が私を射抜く。その妖しさに目を奪われるも、ぐっと目を瞑り、そしてまた見つめ返すと、彼女は本当に嬉しそうに笑った。
「やっぱり私たちの山の子は本当に可愛い! このまま連れて行ってしまいたいくらい! でも今そんなことしたらあなたは怒っちゃうものね、そうだよねそうだよね!」
 私から離れてくるくると空中を踊るように回ると、再び近づいて私の手を取った。
「本当ならすぐ対価を貰うんだけど、今回は特別! 近道を教えてあげる!」
「ほんとうに……?!」
「うんうん勿論! ほら、こっちだよ!」
 そうして私の手を牽く彼女を追いかけた。
 星降る夜を駆けて行く。光の中を掻き分けていく。無我夢中だった。少しでも早くヒナギの元に辿り着きたい一心だった。
 やがて辿り着いたのは樹齢何百年とありそうな大きな杉の木の元。太い根を張り、何千もの枝と葉を天へ伸ばしているそれは、雄々しく強かで、生命感溢れる姿のように見えた。
 圧倒される私の隣に立ち、彼女は木の幹をそっと撫でた。
「この木はね、私たちの木。私たちを生んだ木。この山の源。あの人は今ここの近くにいるよ」
「どうやってそこに行けば」
「こっちにおいで、幹に触れればいい。その時にあなたの会いたい人の事を思い浮かべるの」
 そう言われ、恐る恐る近づき、大木の幹に触れる。固い幹の奥から、トクトクと、まるで心臓が脈打つかのような感覚がして目を見開いた。
 そのままもたれ掛かるように全身を幹に寄せ、耳をぐっと押し付けて、そっと目を閉じる。その静かな鼓動を耳で、肌で、全身で感じる。大きく息を吐き、そしてヒナギの事を頭に思い浮かべた。
 ――お願いします、あの人の元へ私を届けてください。
 酷い立ちくらみがして、ズルズルとそのまま地面に座り込んだ。感覚が遠くなり、寸秒で徐々に戻ってきたかと思えば、あの低い静かな鼓動の音色は既に無く、変わりに小鳥の囀りが、枯葉の掠れる音が、澄んだ水の匂いが、そしてかぎ慣れない――血の臭いした。
 はっと目を開ける。そこは随分前ツグモネと一緒にヒナギを見つけたあの泉に浮かぶ孤島だった。後ろには杉の大木。ここに繋がっていたのか。
 ふらっとする体を木を支��にして無理矢理立たせた。血の臭いが濃い。彼の匂いもする。
 ドクドクと自分の心の臓が耳に残るほど大きく脈打っていて苦しい。臭いを辿り、孤島の裏側へまわる。
 でもそれを見た瞬間、何も聞こえなくなった。
 風で揺れる緋い髪。静かに閉じられた瞳。乾いた唇。土色になった肌。そして大きく裂かれた腹から溢れ出る、泉の水さえも染め上げんばかりの大量の赤と、彼を飲み込まんとする程に群がる蔓植物。
 殆ど飛び込むかのようにしてヒナギの元へ勢いよく駆け出した。血で汚れるのもお構い無しに彼に抱きつき、頬を触った。酷く冷たい。朝はあんなに暖かかったのに!
 顔を近づけると微かに息をする音が聞こえた。
「ヒナギ……!! ヒナギ、ヒナギヒナギ!!」
 何度も呼びかける。肩を揺らし、必死に彼の名を呼ぶ。もしかしたらまだ助かるんじゃないか。淡い期待と共に続ければ、ふるりと彼の睫毛が揺れ、瞼がそっと開いた。
 しかしその奥にあるのは琥珀色の瞳。
 思わず息を飲んだ。あの時の瞳だ。光を孕んだ目だ。
 虚ろな彼の瞳と私の瞳がゆっくりと交わり、乾いた唇が微かに開いた。殆ど囁くような弱々しい声が私の鼓膜を震わせる。
「迎えに来て、くれたのか……キョウカ」
「……ひな、ぎ?」
「あの子は随分と大きくなっていた……お前にそっくりだよ」
「ヒナギ、わたしキョウカじゃないよ」
「あぁ、でも目の色は私そっくりだったな……緋い、紅玉のような……」
「ヒナギ、ヒナギ、わたしだよ、ヤスヒコだよ、ねぇ」
「あの時、あの子のすがたを見て、よくが出たんだ……そばでみていたかった……ずっと、ずっと……いつまでも……」
 瞳が濁る。光が消える。鼓動が弱くなる。呼吸が小さくなる。瞼が閉じていく。あぁ、だめだ、まだ、まだ、もう少しだけ!
「あのこを、ただ、みていたかった」
 蝋燭の炎が消えるようだった。
 彼はもう私を呼んでくれない。その大きな体で抱きしめてくないし、大きな手で撫でてくれない。
 もう、私を見てくれない。
 酷い人だ。聞きたいことが沢山あるのに、勝手に1人で逝ってしまった。なんて身勝手で、不器用で、酷い親だ。
 目の前が涙で霞む。、込み上げる感情、酷く痛む目の奥と軋む心。もう、止まれない。
 彼の亡骸を抱いて号哭する。荒い獣のような泣き声は、私の声じゃないようで。でもどうすることも出来ない。
 全てが遅かったのだ。 ← →
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donut-st · 5 years
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あなたにだけは忘れてほしくなかった
 アメリカ合衆国、ニューヨーク州、マンハッタン、ニューヨーク市警本部庁舎。  上級職員用のオフィスで資料を眺めていた安藤文彦警視正は顔をしかめた。彼は中年の日系アメリカ人である。頑なに日本名を固持しているのは血族主義の強かった祖父の影響だ。厳格な祖父は孫に米国風の名乗りを許さなかったためである。祖父の信念によって子供時代の文彦はいくばくかの苦労を強いられた。  通常、彼は『ジャック』と呼ばれているが、その由来を知る者は少ない。自らも話したがらなかった。  文彦は暴力を伴う場合の少ない知的犯罪、いわゆるホワイトカラー犯罪を除く、重大犯罪を扱う部署を横断的に統括している。最近、彼を悩ませているのは、ある種の雑音であった。  現在は文彦が犯罪現場へ出る機会はないに等しい。彼の主たる業務は外部機関を含む各部署の調整および、統計分析を基として行う未��決事件への再検証の試みであった。文彦の懸念は発見場所も年代も異なる数件の行方不明者の奇妙な類似である。類似といっても文彦の勘働きに過ぎず、共通項目を特定できているわけではなかった。ただ彼は何か得体の知れない事柄が進行している気配のようなものを感じ取っていたのである。  そして、彼にはもうひとつ、プライベートな懸念事項があった。十六才になる姪の安藤ヒナタだ。
 その日は朝から快晴、空気は乾いていた。夏も最中の日差しは肌を刺すようだが、日陰に入ると寒いほどである。自宅のダイニングルームでアイスティーを口にしながら安藤ヒナタは決心した。今日という日にすべてをやり遂げ、この世界から逃げ出す。素晴らしい考えだと思い、ヒナタは微笑んだ。  高校という場所は格差社会の縮図であり、マッチョイズムの巣窟でもある。ヒナタは入学早々、この猿山から滑り落ちた。見えない壁が張り巡らされる。彼女はクラスメイトの集う教室の中で完全に孤立した。  原因は何だっただろうか。ヒナタのスクールバッグやスニーカーは他の生徒よりも目立っていたかもしれない。アジア系の容姿は、彼らの目に異質と映ったのかも知れなかった。  夏休みの前日、ヒナタは階段の中途から突き飛ばされる。肩と背中を押され、気が付いた時には一階の踊り場に強か膝を打ちつけていた。 「大丈夫?」  声だけかけて去っていく背中を呆然と見送る。ヒナタは教室に戻り、そのまま帰宅した。  擦過傷と打撲の痕跡が残る膝と掌は、まだ痛む。だが、傷口は赤黒く乾燥して皮膚は修復を開始していた。もともと大した傷ではない。昨夜、伯父夫婦と夕食をともにした際もヒナタは伯母の得意料理であるポークチョップを食べ、三人で和やかに過ごした。  高校でのいざこざを話して何になるだろう。ヒナタは飲み終えたグラスを食洗器に放り込み、自室へ引っ込んだ。
 ヒナタの母親はシングルマザーである。出産の苦難に耐え切れず、息を引き取った。子供に恵まれなかった伯父と伯母はヒナタを養子に迎え、経済的な負担をものともせず、彼女を大学に行かせるつもりでいる。それを思うと申し訳ない限りだが、これから続くであろう高校の三年間はヒナタにとって永遠に等しかった。  クローゼットから衣服を抜き出して並べる。死装束だ。慎重に選ぶ必要がある。等身大の鏡の前で次々と試着した。ワンピースの裾に払われ、細々としたものがサイドボードから床に散らばる。悪態を吐きながら拾い集めていたヒナタの手が止まった。横倒しになった木製の箱を掌で包む。母親の僅かな遺品の中からヒナタが選んだオルゴールだった。  最初から壊れていたから、金属の筒の突起が奏でていた曲は見当もつかない。ヒナタはオルゴールの底を外した。数枚の便箋と写真が納まっている。写真には白のワイシャツにスラックス姿の青年と紺色のワンピースを着た母親が映っていた。便箋の筆跡は美しい。『ブライアン・オブライエン』の署名と日付、母親の妊娠の原因が自分にあるのではないかという懸念と母親と子供に対する執着の意思が明確に示されていた。手紙にある日付と母親がヒナタを妊娠していた時期は一致している。  なぜ母は父を斥けたのだろうか。それとも、この男は父ではないのか。ヒナタは苛立ち、写真の青年を睨んだ。  中学へ進み、スマートフォンを与えられたヒナタは男の氏名を検索する。同姓同名の並ぶ中、フェイスブックに該当する人物を見つけた。彼は現在、大学の教職に就いており、専門分野は精神病理学とある。多数の論文、著作を世に送り出していた。  ヒナタは図書館の書棚から彼の書籍を片っ端から抜き出す。だが、学術書を読むには基礎教養が必要だ。思想、哲学、近代史、統計を理解するための数学を公共の知の宮殿が彼女に提供する。  ヒナタは支度を終え、バスルームの洗面台にある戸棚を開いた。医薬品のプラスチックケースが乱立している。その中から伯母の抗うつ剤の蓋を掴み、容器を傾けて錠剤を掌に滑り出させた。口へ放り込み、ペットボトルの水を飲み込む。栄養補助剤を抗うつ剤の容器に補充してから戸棚へ戻した。  今日一日、いや数時間でもいい。ヒナタは最高の自分でいたかった。
 ロングアイランドの住宅地にブライアン・オブライエンの邸宅は存在していた。富裕層の住居が集中している地域の常であるが、ヒナタは脇を殊更ゆっくりと走行している警察車両をやり過ごす。監視カメラの装備された鉄柵の門の前に佇んだ。  呼び鈴を押そうかと迷っていたヒナタの耳に唸り声が響く。見れば、門を挟んで体長一メータ弱のドーベルマンと対峙していた。今にも飛び掛かってきそうな勢いである。ヒナタは思わず背後へ退いた。 「ケンダル!」  奥から出てきた男の声を聞いた途端、犬は唸るのを止める。スーツを着た男の顔はブライアン・オブライエン、その人だった。 「サインしてください!」  鞄から取り出した彼の著作を抱え、ヒナタは精一杯の声を張り上げる。 「いいけど。これ、父さんの本だよね?」  男は門を開錠し、ヒナタを邸内に招き入れた。
 男はキーラン・オブライエン、ブライアンの息子だと名乗った。彼の容姿は写真の青年と似通っている。従って現在、五十がらみのブライアンであるはずがなかった。ヒナタは自らの不明を恥じる。 「すみません」  スペイン人の使用人が運んできた陶磁器のコーヒーカップを持ち上げながらヒナタはキーランに詫びた。 「これを飲んだら帰るから」  広大な居間に知らない男と二人きりで座している事実に気が滅入る。その上、父親のブライアンは留守だと言うのであるから、もうこの家に用はなかった。 「どうして?」 「だって、出かけるところだよね?」  ヒナタはキーランのスーツを訝し気に見やる。 「別にかまわない。どうせ時間通りに来たことなんかないんだ」  キーランは初対面のヒナタを無遠慮に眺めていた。苛立ち始めたヒナタもキーランを見据える。  ヒナタはおよそコンプレックスとは無縁のキーランの容姿と態度から彼のパーソナリティを分析した。まず、彼は他者に対してまったく物怖じしない。これほど自分に自信があれば、他者に無関心であるのが普通だ。にも拘らず、ヒナタに関心を寄せているのは、何故か。  ヒナタは醜い女ではないが、これと取り上げるような魅力を持っているわけでもなかった。では、彼は何を見ているのか。若くて容姿に恵まれた人間が夢中になるもの、それは自分自身だ。おそらくキーランは他者の称賛の念を反射として受け取り、自己を満足させているに違いない。 「私を見ても無駄。本質なんかないから」  瞬きしてキーランは首を傾げた。 「俺に実存主義の講義を?」 「思想はニーチェから入ってるけど、そうじゃなくて事実を言ってる。あなたみたいに自己愛の強いタイプにとって他者は鏡でしかない。覗き込んでも自分が見えるだけ。光の反射があるだけ」  キーランは吹き出す。 「自己愛? そうか。父さんのファンなのを忘れてたよ。俺を精神分析してるのか」  笑いの納まらないキーランの足元へドーベルマンが寄ってくる。 「ケンダル。彼女を覚えるんだ。もう吠えたり、唸ったりすることは許さない」  キーランの指示に従い、ケンダルはヒナタのほうへ近づいてきた。断耳されたドーベルマンの風貌は鋭い。ヒナタは大型犬を間近にして体が強張ってしまった。 「大丈夫。掌の匂いを嗅がせて。きみが苛立つとケンダルも緊張する」  深呼吸してヒナタはケンダルに手を差し出す。ケンダルは礼儀正しくヒナタの掌を嗅いでいた。落ち着いてみれば、大きいだけで犬は犬である。  ヒナタはケンダルの耳の後ろから背中をゆっくりと撫でた。やはりケンダルはおとなしくしている。門前で威嚇していた犬とは思えないほど従順だ。 「これは?」  いつの間にか傍に立っていたキーランがヒナタの手を取る。擦過傷と打撲で変色した掌を見ていた。 「別に」 「こっちは? 誰にやられた?」  キーランは、手を引っ込めたヒナタのワンピースの裾を摘まんで持ち上げる。まるでテーブルクロスでもめくる仕草だ。ヒナタの膝を彩っている緑色の痣と赤黒く凝固した血液の層が露わになる。ヒナタは青褪めた。他人の家の居間に男と二人きりでいるという恐怖に舌が凍りつく。 「もしきみが『仕返ししろ』と命じてくれたら俺は、どんな人間でも這いつくばらせる。生まれてきたことを後悔させる」  キーランの顔に浮かんでいたのは怒りだった。琥珀色の瞳の縁が金色に輝いている。落日の太陽のようだ。息を吸い込む余裕を得たヒナタは掠れた声で言葉を返す。 「『悪事を行われた者は悪事で復讐する』わけ?」 「オーデン? 詩を読むの?」  依然として表情は硬かったが、キーランの顔から怒りは消えていた。 「うん。伯父さんが誕生日にくれた」  キーランはヒナタのすぐ隣に腰を下ろす。しかし、ヒナタは咎めなかった。 「復讐っていけないことだよ。伯父さんは普通の人がそんなことをしなくていいように法律や警察があるんだって言ってた」  W・H・オーデンの『一九三九年九月一日』はナチスドイツによるポーランド侵攻を告発した詩である。他国の争乱と無関心を決め込む周囲の人々に対する憤りをうたったものであり、彼の詩は言葉によるゲルニカだ。 「だが、オーデンは、こうも言ってる。『我々は愛し合うか死ぬかだ』」  呼び出し音が響き、キーランは懐からスマートフォンを取り出す。 「違う。まだ家だけど」  電話の相手に生返事していた。 「それより、余分に席を取れない? 紹介したい人がいるから」  ヒナタはキーランを窺う。 「うん、お願い」  通話を切ったキーランはヒナタに笑いかけた。 「出よう。父さんが待ってる」  戸惑っているヒナタの肩を抱いて立たせる。振り払おうとした時には既にキーランの手は離れていた。
 キーラン・オブライエンには様々な特質がある。体格に恵まれた容姿、優れた知性、外科医としての将来を嘱望されていること等々、枚挙に暇がなかった。だが、それらは些末に過ぎない。キーランを形作っている最も重要な性質は彼の殺人衝動だ。  この傾向は幼い頃からキーランの行動に顕著に表れている。小動物の殺害と解剖に始まり、次第に大型動物の狩猟に手を染めるが、それでは彼の欲求は収まらなかった。  対象が人間でなければならなかったからだ。  キーランの傾向にいち早く気付いていたブライアン・オブライエンは彼を教唆した。具体的には犯行対象を『悪』に限定したのである。ブライアンは『善を為せ』とキーランに囁いた。彼の衝動を沈め、社会から悪を排除する。福祉の一環であると説いたのだ。これに従い、彼は日々、使命を果たしてる。人体の生体解剖によって嗜好を満たし、善を為していた。 「どこに行くの?」  ヒナタの質問には答えず、キーランはタクシーの運転手にホテルの名前を告げる。 「行けないよ!」 「どうして?」  ヒナタはお気に入りではあるが、量販店のワンピースを指差した。 「よく似合ってる。綺麗だよ」  高価なスーツにネクタイ、カフスまでつけた優男に言われたくない。話しても無駄だと悟り、ヒナタはキーランを睨むに留めた。考えてみれば、ブライアン・オブライエンへの面会こそ重要課題である。一流ホテルの従業員の悪癖であるところの客を値踏みする流儀について今は不問に付そうと決めた。 「本当にお父さんに似てるよね?」 「俺? でも、血は繋がってない。養子だよ」  キーランの答えにヒナタは目を丸くする。 「嘘だ。そっくりじゃない」 「DNAは違う」 「そんなのネットになかったけど」  ヒナタはスマートフォンを鞄から取り出した。 「公表はしてない」 「じゃあ、なんで話したの?」 「きみと仲良くなりたいから」  開いた口が塞がらない。 「冗談?」 「信じないのか。参ったな。それなら、向こうで父さんに確かめればいい」  キーランはシートに背中を預け、目を閉じた。 「少し眠る。着いたら教えて」  本当に寝息を立てている。ヒナタはスマートフォンに目を落とした。
 ヒナタは肩に触れられて目を覚ました。 「着いたよ」  ヒナタの背中に手を当てキーランは彼女を車から連れ出した。フロントを抜け、エレベーターへ乗り込む。レストランに入っても警備が追いかけてこないところを見ると売春婦だとは思われていないようだ。ヒナタは脳内のホテル番付に星をつける。 「女性とは思わなかった。これは、うれしい驚きだ」  テラスを占有していたブライアン・オブライエンは立ち上がってヒナタを迎えた。写真では茶色だった髪は退色し、白髪混じりである。オールバックに整えているだけで染色はしていなかった。三つ揃いのスーツにネクタイ、機械式の腕時計には一財産が注ぎ込まれているだろう。デスクワークが主体にしては硬そうな指に結婚指輪が光っていたが、彼の持ち物とは思えないほど粗雑な造りだ。アッパークラスの体現のような男が配偶者となる相手に贈る品として相応しくない。 「はじめまして」  自分の声に安堵しながらヒナタは席に着いた。 「彼女は父さんのファンなんだ」  ヒナタは慌てて鞄から本を取り出す。 「サインしてください」  本を受け取ったブライアンは微笑んだ。 「喜んで。では、お名前を伺えるかな?」 「安藤ヒナタです」  老眼鏡を懐から抜いたブライアンはヒナタに顔を向ける。 「スペルは?」  答える間もブライアンはヒナタに目を据えたままだ。灰青色の瞳は、それが当然だとでも言うように遠慮がない。血の繋がりがどうであれ、ブライアンとキーランはそっくりだとヒナタは思った。  ようやく本に目を落とし、ブライアンは結婚指輪の嵌った左手で万年筆を滑らせる。 「これでいいかな?」  続いてブライアンは『ヒナタ』と口にした。ヒナタは父親の声が自分の名前を呼んだのだと思う。その事実に打ちのめされた。涙があふれ出し、どうすることもできない。声を上げて泣き出した。だが、それだけではヒナタの気は済まない。二人の前に日頃の鬱憤を洗いざらい吐き出していた。 「かわいそうに。こんなに若い女性が涙を流すほど人生は過酷なのか」  ブライアンは嘆く。驚いたウェイターが近付いてくるのをキーランが手を振って追い払った。ブライアンは席を立ち、ヒナタの背中をさする。イニシャルの縫い取られたリネンのハンカチを差し出した。 「トイレ」  宣言してヒナタはテラスを出ていく。 「おそらくだが、向精神薬の副作用だな」  父親の言葉にキーランは頷いた。 「彼女。大丈夫?」 「服用量による。まあ、あれだけ泣いてトイレだ。ほとんどが体外に排出されているだろう」 「でも、攻撃的で独善的なのは薬のせいじゃない」  ブライアンはテーブルに落ちていたヒナタの髪を払い除ける。 「もちろんだ。彼女の気質だよ。しかし、同じ学校の生徒が気の毒になる。家畜の群れに肉食獣が紛れ込んでみろ。彼らが騒ぐのは当然だ」  呆れた仕草でブライアンは頭を振った。 「ルアンとファンバーを呼びなさい。牧羊犬が必要だ。家畜を黙らせる。だが、友情は必要ない。ヒナタの孤立は、このままでいい。彼女と親しくなりたい」 「わかった。俺は?」 「おまえの出番は、まだだ。キーラン」  キーランは暮れ始めている空に目をやる。 「ここ。誰の紹介?」 「アルバート・ソッチ。デザートが絶品だと言ってた。最近、パテシエが変わったらしい」 「警察委員の? 食事は?」  ブライアンも時計のクリスタルガラスを覗いた。 「何も言ってなかったな」  戻ってきたヒナタの姿を見つけたキーランはウェイターに向かい指示を出す。 「じゃあ、試す必要はないね。デザートだけでいい」  ブライアンは頷いた。
「ハンカチは洗って返すから」  ヒナタとキーランは庁舎の並ぶ官庁街を歩いていた。 「捨てれば? 父さんは気にしない」  面喰ったヒナタはキーランを窺う。ヒナタは自分の失態について思うところがないわけではなかった。ブライアンとキーランに愛想をつかされても文句は言えない。二人の前で吐瀉したも同じだからだ。言い訳はできない。だが、ヒナタは、まだ目的を果たしていないのだ。  ブライアン・オブライエンの実子だと確認できない状態では自死できない。 「それより、これ」  キーランはヒナタの手を取り、掌に鍵を載せた。 「何?」 「家の鍵。父さんも俺もきみのことを家族だと思ってる。いつでも遊びに来ていいよ」  瞬きしているヒナタにキーランは言葉を続ける。 「休暇の間は俺がいるから。もし俺も父さんもいなかったとしてもケンダルが 相手をしてくれる」 「本当? 散歩させてもいい? でも、ケンダルは素気なかったな。私のこと好きじゃないかも」 「俺がいたから遠慮してたんだ。二人きりの時は、もっと親密だ」  ヒナタは吹き出した。 「犬なのに二人?」 「ケンダルも家族だ。俺にとっては」  相変わらずキーランはヒナタを見ている。ヒナタは眉を吊り上げた。 「言ったよね? 何もないって」 「違う。俺はきみを見てる。ヒナタ」  街灯の光がキーランの瞳に���っている。 「だったら、私の味方をしてくれる? さっき家族って言ってたよね?」 「言った」 「でも、あなたはブライアンに逆らえるの? 兄さん」  キーランは驚いた顔になった。 「きみは、まるでガラガラヘビだ」  さきほどの鍵をヒナタはキーランの目の前で振る。 「私が持ってていいの? エデンの園に忍び込もうとしている蛇かもしれない」 「かまわない。だけど、あそこに知恵の実があるかな? もしあるとしたら、きみと食べたい」 「蛇とイブ。一人二役だね」   ヒナタは入り口がゲートになったアパートを指差した。 「ここが私の家。さよならのキスをすべきかな?」 「ヒナタのしたいことを」  二人は互いの体に手を回す。キスを交わした。
 官庁街の市警本部庁舎では安藤文彦が部下から報告を受けていた。 「ブライアン・オブライエン?」  クリスティナ・ヨンぺルト・黒田は文彦が警部補として現場指揮を行っていた時分からの部下である。移民だったスペイン人の父親と日系アメリカ人の母親という出自を持っていた。 「警察委員のアルバート・ソッチの推薦だから本部長も乗り気みたい」  文彦はクリスティナの持ってきた資料に目をやる。 「警察委員の肝入りなら従う他ないな」  ブライアン・オブライエン教授の専門は精神病理学であるが、応用心理学、主に犯罪心理学に造詣が深く、いくつかの論文は文彦も読んだ覚えがあった。 「どうせ書類にサインさせるだけだし誰でもかまわない?」 「そういう認識は表に出すな。象牙の塔の住人だ。無暗に彼のプライドを刺激しないでくれ」  クリスティナは肩をすくめる。 「新任されたばかりで本部長は大張り切り。大丈夫。失礼なのは私だけ。他の部下はアッパークラスのハウスワイフよりも上品だから。どんな男でも、その気にさせる」 「クリスティナ」  軽口を咎めた文彦にクリスティナは吹き出した。 「その筆頭があなた、警視正ですよ、ジャック。マナースクールを出たてのお嬢さんみたい。財政の健全化をアピールするために部署の切り捨てを行うのが普通なのに新しくチームを立ち上げさせた。本部長をどうやって口説き落としたの?」 「きみは信じないだろうが、向こうから話があった。私も驚いている。本部長は現場の改革に熱意を持って取り組んでいるんだろう」 「熱意のお陰で予算が下りた。有効活用しないと」  文彦は顔を引き締めた。 「浮かれている場合じゃないぞ。これから、きみには負担をかけることになる。私は現場では、ほとんど動けない。走れないし、射撃も覚束ない」  右足の膝を文彦が叩く。あれ以来、まともに動かない足だ。 「射撃のスコアは基準をクリアしていたようだけど?」 「訓練場と現場は違う。即応できない」  あの時、夜の森の闇の中、懐中電灯の光だけが行く手を照らしていた。何かにぶつかり、懐中電灯を落とした瞬間、右手の動脈を切り裂かれる。痛みに耐え切れず、銃が手から滑り落ちた。正確で緻密なナイフの軌跡、相手はおそらく暗視ゴーグルを使用していたのだろう。流れる血を止めようと文彦は左手で手首を圧迫した。馬乗りになってきた相手のナイフが腹に差し込まれる感触と、その後に襲ってきた苦痛を表す言葉を文彦は知らない。相手はナイフを刺したまま刃の方向を変え、文彦の腹を横に薙いだ。  当時、『切り裂き魔』と呼ばれていた殺人者は、わざわざ文彦を国道まで引きずる。彼の頬を叩いて正気づかせた後、スマートフォンを顔の脇に据えた。画面にメッセージがタイピングされている。 「きみは悪党ではない。間違えた」  俯せに倒れている文彦の頭を右手で押さえつけ、男はスマートフォンを懐に納める。その時、一瞬だけ男の指に光が見えたが、結婚指輪だとわかったのは、ずいぶん経ってからである。道路に文彦を放置して男は姿を消した。  どうして、あの場所は、あんなに暗かったのだろうか。  文彦は事ある毎に思い返した。彼の足に不具合が生じたのは、ひとえに己の過信の結果に他ならない。ジャックと文彦を最初に名付けた妻の気持ちを彼は無にした。世界で最も有名な殺人者の名で夫を呼ぶことで凶悪犯を追跡する文彦に自戒するよう警告したのである。  姪のヒナタに贈った詩集は自分自身への諌言でもあると文彦は思った。法の正義を掲げ、司法を体現してきた彼が復讐に手を染めることは許されない。犯罪者は正式な手続きを以って裁きの場に引きずり出されるべきだ。 「ジャック。あなたは事件を俯瞰して分析していればいい。身長六フィートの制服警官を顎で使う仕事は私がやる。ただひとつだけ言わせて。本部長にはフェンタニルの使用を黙っていたほうがいいと思う。たぶん良い顔はしない」  フェンタニルは、文彦が痛み止めに使用している薬用モルヒネである。 「お帰りなさい、ジャック」  クリスティナが背筋を正して敬礼する。文彦は答礼を返した。
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nagako · 5 years
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2019.06.25 ダイバーシティに溢れるポエジー
先日、乃木坂から西麻布まで、青山霊園を抜ける道を歩いている時にようやく気づいたのだった、ここが青山霊園なのだと。東京で生まれ育って45年、何度も通ったこの道に霊園があることはもちろん知っていたのだが、なぜかそれが青山霊園と直結せず、青山霊園はもっと青山一丁目方面のどこか別の場所にあって、ここは違うと思い込んでいた。
なぜそう思い込んでいたのか。まったくわからないが、理由はおそらくない。もともと方向音痴で、地図を読むのも苦手なので、勘違いした節はある。が、もっと根本的に、これまでの人生で「ここが青山霊園である」とあえて認識する機会も必要性もなく、同時に「ここが青山霊園ではないか否か」についても懐疑してこなかったため、まるっとスルーしてしまったのだろう。
時に、自分と密接なトピックや関係性のある事物以外には意識が及ばず、世界から欠落させてしまっていることがある。興味のないカルチャー、苦手な学問、海外情勢、自分の生活と地続きであるはずの地域問題などなど、様々なトピックについて思考したいのに、それらが認識の外にある場合、存在そのものに気づかない可能性も否めない。かくして視野は狭窄する。
自分が捉えている世界は、自分の認識を保有するたった1400ccの脳にある。本来の世界は外にある。見えない外を想像し、見える内を疑う視点を保ち続けなければすぐさま思考は停止する。なるべく視野を広く。自分を盲信せず。それでもスルーしてしまう事物は多くあるので、青山霊園のような日常のふとした「気づき」が意識を刺激してくれるのはとてもありがたい。
 以下、最近の日記。
◎6月14日 アジア食材を調達しに新大久保のJB HALAL FOODへ。たまたま棚卸しをやっていて、ゆっくり見れなそうだったので、東新宿のASIA SUPER STOREへ。帰宅するのが遅くなるので冷凍冷蔵を除いた食材を吟味するのだけれど、結局ゲテモノ見ちゃうよね。
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お買い物後、ワタリウムで大好きなジョン・ルーリー展「Walk this way」。眼福。凄まじいポエジー。可視域の向こう側で息づく精霊たちの遊び。固定観念の記号をはしゃぎながら破壊する無垢なる何者かの笑い声。
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ジョン・ルーリー詣。最高すぎて脳からβエンドルフィン出まくる。 ジョン・ルーリーの絵を見るといつも、子供の頃にきっちり子供をやり尽くさないまま規範の型にはめられ、大人にさせられた結果未だに成仏できずにくすぶり続けるわたしのインナーチャイルドが、大はしゃぎする。それでいいんだよって言われてる気がする。もう一度やれる気がする。もう一度くる
その後、GLASSLOFT展の打ち上げに誘っていただいて、会場に着いたらメンバーのみなさま自ら赤エプロン装着!手料理でおもてなしいただいて感激! 
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ちょっと信じられないくらい豪華なクリエイター陣が赤いエプロンしていらっしゃる豪華な打ち上げ現場!ご馳走さまでした!
◎6月15日 食材整理。英語表記さえない子はもう何が何だかわからない
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◎6月16日 原稿が進まないのでトムヤムクン制作へ逃亡
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◎6月17日 毎月第3月曜日16時台は、渋谷のラジオなのに映像部! ゲストの尚玄さんありがとうまたね!
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毎月第3月曜日16時台は #渋谷のラジオなのに映像部  📻 本日は今週末に主演映画『ココロ、オドル』の公開を控えている俳優の尚玄さんをゲストにお招きいたしました! 映画の見どころはもちろん、以前出演された映画や体作りのお話などいろいろ伺いました! 尚玄さん、聞いてくださったみなさん、ありがとうございました😊 楽しすぎて記念写真撮るの忘れました😭 また来月!
その後、ヤマト運輸の祐天寺センターへ。農家さんから取り寄せた梅3kgが、なぜか以前住んでいた祐天寺のアパートに届いちゃって、引き取りに。なかみ梅なのに段ボールはみかん。
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Amazonの住所設定がなぜか昔の住所になってしまっていて、南高梅3キロがヤマトの祐天寺センターに漂着して、転送は受け付けられないから取りに来い、さもなくば発送主に1週間後に戻すとのことで、金も払わず商品戻すのはあまりにも農家さんに申し訳ないから引き取りに来て、ダンボールを抱えてよちよち歩きながら「重い、あまりにも重い」と喘ぐ道すがら、小学生に「みかん!みかん!」と指さされ、「おいこらガキ!みかんじゃねえよ!梅だよ!」と怒鳴り散らしたい衝動を堪えたところで馴染みの蕎麦屋の前を通りかかったので、生粉打ちとろろそばをいただきながら、このダンボールを抱えてこれから1時間ラッシュの満員電車に揺られて帰宅する自信がないけれど、赤ちゃんも子供ももっと重いわけだからだっこするお父さんお母さん大変だ、気ままに生きる独り者の私ごときがたかだか3キロで弱音吐くなど片腹痛い、そうだこのダンボールは神が私に与えたもうた赤ちゃんで、この子を立派に育てるのが私の使命だとやにわに天啓を受け、蕎麦屋を出るなりダンボールに梅太郎という名前をつけてよしよしあやしながら抱きしめて歩く私をどなたか見かけたら遠慮なく通報してください
◎6月18日 原稿がどうしてもうまくいかない。煮詰まったときはみじん切りに限る。というわけで、サンダーキャッツさんのレシピでザワークラウト。
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◎6月20日 梅仕事開始。甥っ子に手伝ってもらって2kg塩漬け。梅酒用1kgは冷凍庫へ。
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夜は仕事しながらDOMMUNEで「TOKYO NEW SOURCE」特集を正座で拝見。お世話になっているWATUSIさん、大ファンのいとうせいこうさん、憧れのs-kenさん、そして中2から神と呼んでいる町田康さん。この並びにさらにOTOさんまで。無性に山本政次監督「ロビンソンの庭」を見直したくなった。
そういえば中学生の時、パンク仲間の友達のいとこが町田町蔵時代の人民オリンピックショーのライブ音源を聞かせてくれたことがあった。その中の一曲に腰が砕けて立ち上がれなくなるくらいの衝撃を受けた。音源になっていないから歌詞も曲名もわからないけれど、あまりの衝撃に5、6年くらいシリアスな精神の緊張状態を保っていたところで町田氏の歌詞集が出て、これは絶対あの曲の歌詞だと思しき詩のタイトルが「レタスと仏像」だった時、その言葉のチョイスと抜け感にやられて、ずっとシリアスに緊張していた心がおおいに緩んで思わず号泣してしまった夏の日を思い出して夜中に悶絶。
◎6月22日 gongonこと長嶋五郎画伯の個展エンディングへ。遅れちゃって本人のラップパフォーマンス見れなかったんだけど、友達とおしゃべりして、星野概念さんのトリオのライブを少し拝見。
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その後、青山CAYへ。楽しみにしていた「TOKYO NEW SOURCE」のライブ! みなさま本当に素晴らしかった。SECRET COLORSの4者4様のポエトリー。表現力が豊かで、格好良かったので、サイコーとかイエーとか叫びながら1人で拍手していたら「ナガちゃん?」って。大学の頃の旧友、みずえだった。なんと10数年ぶりの予期せぬ嬉しい再会。久しぶり、いま何してんのって聞いたらおもむろにパケ入りのナンプラー麹をくれる。作ってるらしい。やっぱりちょっと凝り性の人たちはね、みんな行くんだよ、発酵に。
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そのみずえと一緒にライブを見る。s-kenさんの年季の入ったピカピカの高級本枯れ節みたいな貴重なスポークンワーズ。神こと町田康先生のピンと張りつめたテグスのような緊張感の中にも温もりがともる聖なる朗読とお歌。いとうせいこう is the poetのダブポエトリーの、言葉と音の一部に自分が取り込まれたかのような錯覚の快楽。WATUSIさんの指から放たれるベース音が自分の足の裏をビリビリ振動させる。これはほとんど性行為だと思いますとご本人にお伝えしながら、改めてポエトリーってすごいなと感動した次第。
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音楽や朗読、執筆表現のみならず、【個々の多様性を尊重する社会】には、ポエジーが溢れている。
ひと昔前には【人間を一括りとくくりたがる社会】があった。男らしさ・女らしさのジェンダーの型。個人より全体を重んじる社会規範。全体より外れる者を断罪する同調圧力。モテるためのHOW TO。これらは、人間個人の性質を慮る以前に、先に型を示し、そこへ後付け的かつ一様に人間を押し込む型先行の方法論だった。ゆえに個に不寛容で、抑圧的だった。
私などは、それを個殺しと呼び、たかだか型の分際で、個々に異なる命を生きぬく人間より先にしゃしゃり出るな図々しい、人間を馬鹿にするのもいい加減にしろと怒りの長文コラムを認めて対抗したものだが、実際に型にはまらない人間を侮辱したり、いたずらに苦しめたりする状況は人権侵害であり、個人の自己決定権を蔑ろにしているという意味においても、まさしく人間を馬鹿にしているとしか言いようがない。
男らしさ・女らしさの型。良き父・母の型。理想の家族像。模範生。デキる男の処世術。モテる女の仕草。それらは本来、先だって多様な個性を生きてきた人間の行為や選択を参照した結果、後付け的に集約された傾向と対策、あるいは各組織の長が管理しやすい理想のコマ像であり、個々に多様な人間たちを一回りも二回りも都合よく矮小化させた空疎なデータにすぎない。そのたかだかデータに向かって、個々に多様な人間を後付け的に集約せんとする社会で、人間は人間性=個を殺され、たかだかデータの劣化コピーとして扱われる人間喪失デフレスパイラルの沼に総じて落とされた。
前時代の鬱憤や反省を受けて、現在は人権意識を改め、【個々の多様性を尊重する社会】を目指す向きにある。もっとも過渡期ゆえ、未だ【人間を一括りとくくりたがる社会】の残滓に出くわす瞬間もあれば、多様性への理解値が自分も含めて不足しているのではないかと懐疑することもある。なにしろ自分が見ている世界は、自分の1400ccの脳が自分に見せている世界だ。視野を広く持たないと、ここは青山霊園ではないと思い込みながら、青山霊園の中を歩くような頓珍漢な事態を招いてしまう。
さておき。この一様と多様がぶつかり合っては渦を巻く過渡期のカオスに、私はポエジーのうねりのようなエネルギーを感じる。型はたかだかデータであって、良くも悪くも光も闇も有象無象の矛盾もまるっと内包する人間そのものの性質を映していない。むしろ人間ならではの複雑な性質の上っ面のみを都合よく抽出して滅菌し、最低解像度で簡略化した劣化コピーキャットが型に現れる人間像である。そこに人間個人の真なる声はない。型に嵌められる怒り、型になじまない苦しみ、型に嵌らない者への侮辱、その悲しみなど、先に用意された型と対峙した時に、どうしてもこぼれ落ちてしまう各個性にこそ真なる声がある。そしてそれらは個々に多様である。
型の時代は、データ集計の都合上、男女、老若、白黒、犬猫といった二項対立や選択を容易に持ち出し、優劣をつける言説が多かった。多様性の許容を目指す現在はその「どちらかしかない」状況が苦しく、社会にも閉塞感が蔓延する。今はSNSやブログなどを通じて多様な生き方、グレースケールの振り幅、個々に異なる言葉の表現を目視できる。そこにはポエジーが溢れている。
ポエジーは、白黒の型からこぼれ落ちた個が、人間の真なる声で自らの生命を誇る賛歌であり、押し付けられた規範的な言葉では到底語りつくせない人間味を雄弁に語る表現の力だ。うまくまとめなくていい。支離滅裂でいい。超整っていてもいい。誰かにとって都合の良い言葉などほとんど嘘だから吐かなくていい。嘘をついてもいい。醜くていい。美しくていい。なんでもいい。言葉が生命の一部であることを喜び、ゆえに生命が潤う循環によって、人生が素晴らしくなるといい。この世にもっとポエジーが溢れて、人間ひとりひとりが自分の生命と楽しく、丁寧に遊べるようになるといい。
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skf14 · 4 years
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07032350
丁度幼女の左乳房を薄く剥ぎ取ったあたりでふと作業の手を止め、そもそも私は何故女児が好きなのか、と思考を巡らせ始めた。
部屋が寒い。何か羽織りたい。
ピロン、と机に放置していたスマートフォンにポップアップが表示される。ああ、設定していたスケジュールだ、と、ポップアップを消してから、隣の部屋、テレビの前へと座った。手の中にあった冷えた幼女の左乳房(といっても薄っぺらいそれは機能としては乳房だが見た目は投げつけられた水風船さながらだ)を掌で揉んで温めて一口分齧り、そして歯の力で噛み切ることの難しさを思い出して、一旦皮膚へ爪を立て、引き裂くように顎の力を込めて一部をかじり取った。
外皮を下にして舌の腹にそれを乗せれば、微かに感じるふわりさらりとした産毛、そして馴染むような吸い付くような不思議な感触。やはり人と人だと、親和性も高いんだろうか?心地いい、まるで元あった場所に帰ったかのように、私の舌の上で寛ぐ幼女。
口の中でそれを少し転がしたあと、ゆっくりしがみながら、テレビのスイッチを入れる。溢れ出る組織液はほんのりしょっぱく、舌にまとわりつく脂分も少し感じる。子供の方がむしろ皮下脂肪はある方だと、この食感がいつも思い出させてくれる。唾液腺から唾液が溢れ出て口の中に旨味の洪水をどばぁ、と作る様子が脳裏に描かれて、至福の時間が訪れたことを知らせてくれる。
アナウンサーの声が流れた瞬間忘れ物をした!と思い出して慌てて部屋に取りに戻った。いけないいけない。これを背負っておかないと、と、名札付きの赤いランドセルを背に背負う。比較的華奢で良かった。女児用のカバンだが私に背負えないこともない。肩周りが窮屈だけど背負っているうちに慣れるだろう。だってランドセルは丈夫な革で出来てるから小学校の6年間振り回したって持つような代物なんだ。考えついた人の技術に脱帽。ブラボー。スタンディングオベーション。
駆け足でテレビ前のソファー、定位置へと戻り、テレビの音量を連打して上げる。24。私の設定温度は決まって24度だ。何故なら。24は美しい数字だ。偶数、陰陽道ではその昔、陰の数だと揶揄され不吉な扱いすら受けていた偶数。割り切れる、なんて最高に気持ちが良くて素晴らしいじゃないかって私は思うけど頭の悪い世間はそうじゃなかったらしい。今でも結婚式のご祝儀とかじゃ別れることが出来るから推奨されない数らしいね。でもよく考えれば二人で仲良く分けられた方が円満に回りそうじゃない?今後の人生。って思うけどまあ結婚式に出席することなんて今までもこれからもないから気にしないでおこう。
夕方のトップニュース。見出しで一応確認はしていたが、もちろん話題は例のアレだ。分かっていたからわざわざ冷凍庫に眠っているハーゲンダッツや書斎に常備している白い恋人やらを差し置いて女児を肴に、番組の始まる2分前にアラームをセットしておいたんだ。私は予定調和が好きだから、予定通りの姿で幸せを噛みしめたい。
『先日、行方がわからなくなっていた○○県○○市の○学○年生、○○あかりちゃんですが、依然として足取りは掴めないまま、今日も早朝から地元の消防団、警察による大規模な捜索が再開されました。』
映像の中でいかつい顔の男達や年金暮らしで暇そうな年寄りどもが深刻そうな顔で列を成し、山の中、茂みの中を棒をつんつくつんつくしながら声を張り上げあかりちゃんを探している。涙ぐましい光景だなぁ。
そういえば先日近くのドラッグストアでチョコパイの安売りをしていたのに、丁度荷物が多くて買いそびれていたことを思い出した。ああ悔しい。食べたかった。今手元にチョコパイがあれば両手に花なのに。ファミリーパックはなかなかに高くて、特売日じゃないと手が出せないのに。なのになのにが多すぎて反省。あの時手間を惜しんでもう一度買いに行かなかったのは自分に甘い私だ。
何を隠そう私は甘いものには目がない。何をするにも糖分は必要だ。脳を動かすにあたって人間はブドウ糖を摂取する必要があり、身体の最上部、お上に君臨しているこの崇高な脳髄様は、最高の栄養と酸素とが入った血液を余すところなく啜り倒して思考をこねくり回している。まあ、脳髄が実際に思考をしているのかについては私の愛読書、夢野久作先生の「ドグラ・マグラ」にもある通り検証の余地があるが、概ね思考している、と言っても間違いではないだろう。脳には謎が多い。
そんなわけでブドウ糖を多量に消費する私の愛しい脳髄は、時折強烈な糖分を狂ったように欲する。脳が溶けそうな、むしろ頭が悪くなりそうな甘ったるいチョコレートやら、シロップをふんだんに混ぜ込んだココアやらホットミルクやら。果てにはガムシロップやメープルシロップやらまで欲した時には、ついに頭がおかしくなってしまったかと心配したほどだ。つまりは私にとっての甘味は失うことなど考えられない、麻薬のようなもの。上白糖に依存性があるというニュースが巷を駆け巡ったのはいつのことだったかな。
そういえば一人でテレビを見るのは寂しい。と、ニュースを見たい気持ちも引きずりつつ、(どうせ録画してあるし過去のものも含め何度だって時系列を追って見ている)部屋から妹を連れてまたテレビ前のソファーへと舞い戻った。機嫌の悪そうな、伏し目でテレビを見つめる横顔を見ながら、口の中に残っていた残りカスを手のひらに出してみる。なんだか、こう、皮の残りというのは味気のない、口の中にへばりつく薄っぺらい粘性のないガムのようになって不快だ。ガムなら飲み込めるがこれはあまり飲む気にはならない。だからいつも出して適当に捨ててしまっている。活用法がわからず、揚げたり焼いたり茹でたりでなんとか食べることもあるが生食の場合は廃棄一択。勿体無いお化けが出そう。右手に持った幼女の皮膚片から二口目を齧りとり、また口内で転がしてしがむ。じゅわりと溢れ出るしつこい皮下脂肪、この一瞬だけがどうにも至福で美味い。が、食べ過ぎると後々胃もたれを起こすから注意をしないといけない。歳はとりたくないもんだ。
眉毛が痒い。ぽりぽり、とかいたら指先にぬるつく感覚。昨日食べた尻肉の脂が、もう顔に出てきているらしかった。消化出来ないはずはないんだけど、何故か顔のテカリに反映されるあたり私ももうお兄さんではなくおじさん、いや、前言撤回。まだお兄さんでいたい。空いていた左手で顔を拭い、気紛れに隣にいた妹の顔に脂をなすり付けてみた。顔の左側にテカリの線が3本入って、民族のようにも見える。かさかさな肌が心配になって、右手に持っていた皮膚片の内側、皮下脂肪を妹の顔に貼り付け、ごしごしと皿でも洗うように塗り付けてみた。うん、いい。でも汚れてしまった。しまった、洗えないのに。
ニュース番組では事実の報道が終わり、スタジオにいるど素人のコメンテーターが神妙な面持ちで話し始めた。面白い。この瞬間が私はとても好きだ。興奮してきた、と、妹の顔に乳房の皮膚片を貼り付けたまま、妹の背中へと手を差し入れ、中に取り付けた操作用の棒を握り締めた。ふふ。もう楽しい。既に楽しい。
『こういった事件、事故が何故起こるのか、責任は一体どこにあるのか、考えなければいけません。』
「出ました。日本人特有の責任論。責任責任って、じゃあ誰かが代わりに失踪した娘に成り代われば、親御さんは満足するのでしょうか!?」
この場はまるで朝生。妹の首がぐりぐりと回り、上っ面ばかりきれいなコメンテーター達を正論でめった打ちにしていく。
この腹話術人���、作るのにかなり苦労した。初代はただ市販の人形と首を挿げ替えただけだった。動かせないことがひどく不愉快で、次は市販の人形に皮を被せた。剥製や、世界一美しいミイラのような想像をしていたけど、やっぱり素人じゃあそうは上手くいかず、萎びてそれは酷い有様だった。人はいつでも試行錯誤を繰り返し、素晴らしい成果をあげるんだ。先人達の数多の失敗の上にこそ、今の私たちの生活や人生は成り立っている、と思っている。あ、棒動かすの飽きた。喋らせよう。なんてったって今回の妹は特別カスタムを施していて、なんと、口が動く。カラクリを説明してしまえば至極簡単で、丁度舌の裏のあたりに親指が入る位の穴を開けているだけ。それだけ。天才的なアイデアは時として拍子抜けするほど簡単な構造だったりすることを、まさに思いついた瞬間私は実感した。中身をくり抜き、骨と皮を残して中を木の枠で補強して、下顎と首の可動域を広げた。それだけでかなり楽しくなるなんて、初代が知ったらどう思うだろう。私もして!って思うんだろうな。ごめんね妹、来世の私達に期待しよう。
何が面白いって、妹の頭の中に鈴を一つ入れたこのひょうきんな発想。チリン、チリリン!周りを論破するたびに小馬鹿にするように妹が鳴る。バーカバーカ!
「あれ、何の話しようとしたんだっけ。」
テレビの上の空間を暫し見つめて、やっと思い出した。そうだ、何故女児が好きなのか、だ。今日のテーマはそれだった。一旦妹を部屋に返そう。もうテレビは終わったし、朝生ごっこも妹の完全勝利Sで終わったし。最高。そうだ、喉乾いたからアップルジュースでも飲もうかな。冷蔵庫を開ける。ラインナップは水か麦茶かアップルジュース。よし、在庫あり。さすが私の記憶力。アップルジュースは、口内の粘つきやらしつこさやらを全てかっさらってくれる有能な子。オレンジジュースはダメ。酸っぱさが食べたものによっては苦さに変わるし、そもそも私の使ってる歯磨き粉がオレンジ味だから萎えちゃう。アップルジュースをコップに出して机に置いて、妹を部屋に返した。戻ってきた時つい机を蹴っちゃって、倒れかけたコップを咄嗟に支える。
「あばばばば。」
あっぶないあぶない。こんなハプニング望んでないよ私。まったくもう。おっちょこちょい。あ、ほっぺの皮膚片、そのままだ。忘れてた。あちゃー...。カピカピになっちゃうかな。まあいいか、あと片方あるし、それはそれで斬新なメイクみたいになるかな。でなんだっけ。晩ご飯までの時間潰し。あぁそうだ、女児趣味の原因。頭の中が煩雑で、いつも思考があっちこっちに飛び回るのが私の困った癖。
家族構成は、美しい母、そして静かな父、私、だった。しばらくの間は。そう、少し経って、妹が生まれたんだ。妹。初めて見た妹の姿は、夜な夜な父がむしゃぶりついているあの細い足が二本生えた股からひり出されたとはとても思えないでっぷりとした、そして管に塗れた私の可愛らしい妹の姿だった。顔はどちらにも似ていない、そして時々豚のような声を上げて唸り、周りの機械が喧しい合唱を始める。合掌。子供ながらに、「異常」が生まれたと認識した。天変地異、のような感覚だったかもしれない。ともかく、自然界にはあり得ないその異物を、私は己と血の繋がった人間、妹だと正しく認識し、むしろ愛着が湧いた。それはわかりやすくいうなら、近所のデパートの見切り品の中にあった、糸がほつれ綿が飛び出たぬいぐるみを見つけたような感覚だった。ああ、かわいい。可愛い。と、思った。本当に。まさかその可愛い妹が、父にむしゃぶりつかれてるなんて、その頃の私はよもや思うまい。未来から来たと言っても信じないだろう。
中学生だった私が、深夜トイレに起き、少し扉が開いていた寝たきりの妹の部屋を覗いた時、ちょうどこちらへ足を向けて横たわる妹の股倉に、父親が顔を突っ込んでいた。猫背気味で丸い背中。じゅるる、ずぞぞ、と、穏やかで悍しい音が聞こえた。ずぞ、じゅる、じゅっ、じゅるる。
頭を撃ち抜きたいと思った。勿論己の頭だ。衝動だった。日本に銃刀法があって良かったと心から思った。突発的な自殺に走ってしまう人の気持ちがほんの少し分かったような気がした。父は下の服を着ていなかった。
妹は異常だと思っていたが、果たして見た目の異常さと、中身の異常さはどちらが深刻で疎まれるべきものなのだろう。この問いに答えはまだ出ていない。なんて堅苦しくなっちゃったけど結局興味持ったのはあの時覗いた妹と同じくらいの歳の子だししゃぶり尽くしたいのも基本的には股倉ばっかりなんだよね。ああ、ちなみにそのあとしばらくして母が首を吊って、父は妹を置いて逃げたんだ。妹も、数年後に事故で亡くなってね。見事綺麗さっぱり無くなったから、私の人生には「しがらみ」ってものがないんだ。自由はいい。自由に憧れ続けて籠の中で死に絶えるなんて私には耐えられないよ。
考え続けて疲れてきたから、と息抜きにテレビをつけた。リモコンをぽちぽち。レコーダーに残された無数の映像は、どれも夕方のニュースを編集したもの。朝のニュースに比べて、昼から夕方、特に夕飯前のニュースには表現がリアルで、残酷なものが多いっての知ってた?朝は皆嫌なことを見たくないけど、仕事したり家事して疲れた人間たちは誰かの不幸を餌に一休みするんだなって私は思うよ。めんどくさーいって肉放置して腐らせる前に、今度こそはモチベ上げてこ。つって。
『○○は、元気で、すれ違う人に、挨拶をするような、素直な子です、だから、誰かについていってしまったとしたら、お願いですから、あの子を返して...』
と言われても、もう大半は私の内臓を通過して下水に旅立ったし、身につけてた衣類は燃やしちゃったし、髪の毛とか爪はコレクションしてるから返したくないし、どうしようもないんだよな。骨?そんなもん貰ってどうすんの?カルシウム取りたいなら牛乳飲んだ方がいいと思うな、私としては。
なんだか映像を見てたら下半身がむずむずとしてきた。生理現象か?いや、違う。これは性的な興奮のやつだ。暫しトイレにドロン。
はぁ。帰ってきたらまだ母親らしき女が泣いてる。テレビも欲しがるよね、引っ張って泣かせるような質問して。ちょっと眠くなってきた。けど、時間は17時すぎ。晩ごはんには早い、寝るにはもっと早い、昼寝には遅い。こんな時の選択肢は寝る一択。私は己の欲望を抑えるのがとても嫌いだ。寝たい時は寝るに限る。雨の日は休むに限る。でも起きたら流石に処理しないと、さっきからぷぅぷぅと何匹かハエが飛んでて頭がおかしくなりそう。なんたって私は虫が大の苦手で、部屋に殺虫剤を撒き散らして私が殺されかけたこともあるくらいの虫嫌い。よく考えたら別にそこまで美味しくて美味しくて震えるってわけでもないしむしろ顔が脂ギッシュになるのになんで食べるんだろう?分かんないけど、なんか食べたらお腹の奥がじんわり熱くなって、気持ち良くてぽわっとする。孕んだような感覚?孕んだことないけど。だから内臓は諦めるけど可食部はなるべく丁寧に食べたいんだよね。まあいいや、とりあえず眠いし、すごい眠いから一旦寝よう。おやすみなさい。
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