#090 ロックミシンがやってきた
「複合機」の誘惑
クライ・ムキ式ソーイングスクールでロックミシンを何度か触ってみて、どうにかワタシでも使えるようになりそう…との手応えがあったので,夏コミの準備が終わった8月上旬についに購入を決めた。
さて、何を買うか?である。教室ではいずれカバーステッチミシンも使うらしい。ロックミシンは布の端をかがるだけだが,カバーステッチミシンなら裁ち目かがりをしながら縫い合わせて、オモテにはシンプルな2本の直線の縫い目だけを出す…という縫い方ができるらしい。これだけだとなんだかよくわからないが、要は、市販のTシャツの袖や裾なんかに使われている縫い方だ。カバーステッチミシンがなければロックミシンで端かがりをした後で普通のミシンで裾上げすればいいので、服作りに必須というわけではない。でもあったら既製品っぽいのが作れて楽しいよねぇ…。
置き場所的にも予算的にも,普通のロックミシンとカバーステッチミシンを両方買うという選択肢はなかった。そこで目についたのが「複合機」と呼ばれるものだ。1台にロックミシンとカバーステッチミシンの機能が両方搭載されているらしい。おぉ、これはお得!
「おすすめしません」
いま出回っていてそこそこ人気がありそうな複合機は2つ。フラッグシップモデルの「縫希星(ほうきぼし)」は40万円以上と飛び抜けたお値段の上に、いろんな機能てんこ盛りでワタシにはオーバースペックなのでパス。「縫工房(ぬいこうぼう)」も30万弱で決して安くはないが,高機能のロックミシンとカバーステッチミシンを両方買うよりは安いかな…といったところ。
ところが,ソーイングスクールの先生に聞いてみたところ,なんと、複合機はトーカイ店舗では普段取り扱いがないとのこと! 取り寄せは可能だけどセール対象にならず、教室で普段扱う機種とも異なるためサポート面でも限界があるよ、とのお話だった。特に「よくない点」についての言及はなかったが,推奨してはいない様子…。
そこで,千葉市でミシンといえば、というぐらい歴史ある有名ミシン店の某Tミシン店にも話を聞きに行ってみた。縫希星も縫工房も展示はあったが,店員さんは「複合機は正直言っておすすめしません」ときっぱり。ロックとカバーステッチの切り替えの時に,針だとかテーブル(?)だとか、付け替えなきゃならない部品が多くて設定もいろいろ面倒くさいんだって。
複合機にネット上の口コミもあまりないし,2つのお店で「あまり…」という反応だったことですっかり萎えた。素直に普通のロックミシンを買おう。
Imagine WAVE
糸取物語WAVE JETと最新のSAKURA (ちょっと高くてだいぶデカくて重そう!)で迷ったけど、縫うことについての基本性能は変わらない様子。SAKURAでは、針糸通しが少し楽になったとか,押さえ上げレバーの位置が変わったとか,ふところが広くなったとかその程度の違いのようなので,重くて高いSAKURA じゃなくても糸取物語WAVE JET でいいかな…ということに。
そして買う場所。お教室に通ってると割引もあるらしいからトーカイ店舗で買うのが普通なんだろうけど,長く使うことを考えると修理対応も大事だ。うちの近くのトーカイはそれほど大規模ではないので、状況次第では撤退もあり得る。そういう意味では地元で長くやってる専門店の方が、簡単には無くならないのではないか? カメラやスマホなら遠くに持ち込み修理を出すのも簡単だけど,ミシンは送るのも持ち込むのもだいぶ大変なわけで,近場に確実な修理拠点がある方がありがたい…というわけで、創業から90年(らしい)の老舗の某Tミシン店で買うことに。
ちなみに安さだけならネットで買うのがいちばん安い。ワタシの場合、使いこなせる自信があんまりないものなので何かあったら気楽に聞ける人がいるのは安心なわけで、そこにお金を払うことにしたわけです。
そんなわけで糸取物語WAVE JET(BL69WJ)を買おうと某Tミシンに行ったら、それでもいいけどこちらの方がお買い得かも,と勧められたのがImagine WAVE(BLE3ATWJ)という機種だった。同じベビーロック製で、スペックは糸取物語WAVE JETとほぼ同じだけど、型落ちなのか(ネットの口コミでは海外向け製品かも…という話も)、出回ってる台数が少ないみたいで少しだけ安い。押さえの上がる量が糸取物語WAVEより1mm少ないとかで、厚物縫いの時には最初に布を挟むのがちょっとやりにくい…ということだが、まぁそれくらいなら目をつぶってもいいような気がする…多分。
そしてImagine WAVEでは普通は別売りになるはずの押さえ金いろいろがセットでついてくるからお得、ということだった。
多分これでいいんじゃない?ということで決定。お値段は155790円也。
ジェットエアスルー
ロックミシンのセッティングは、お教室で3〜4回先生に泣きつきながらなんとか覚えたので自宅でもわりとすんなりできた。
ルーパー糸通しを空気の力で簡単にできる…というエアスルーシステム。これは教室でも使ってたんだけど,進化したやつは「ジェットエアスルー」といって、さらに強力になっていた。上ルーパー糸と下ルーパー糸が同時に通せて、スピードもはやい。ただ、エアボタンを押すとゴゴゴ…とかなり大きな音がするのにはちょっとびっくりした。
糸は何を使う?
教室で使っていた糸は、オゼキというメーカーのミロマルチという糸。何も考えずにこれを買ってもいいんだけど、ちょっとお高いのよね…。ネットでいろいろ見ると、フジックスのニットソーイング糸とかハイスパンとかキングスパンとかの方が人気でお安いので、家ではこの辺を用途に応じて使うことにしよう。
そして、糸は手芸店価格に比べてAmazon価格がだいぶ安いことに気づいた。ワタシはAmazon prime会員だから大抵の糸なら注文翌日に届くし,わざわざ店に出向かなくても家で生地に合わせた糸が買えた方がいいと思ったので初期投資として糸の見本帳を取り寄せてみた。やっぱりスマホとかの画面で見るのと,実際にサンプルを生地にあてて見るのとでは違うからね。
ちなみにシャッペスパンの見本帳も既に買ってあって,家で生地と見比べながら注文することが多い。
とりあえずは買ったミシンにハイスパンの白が4つセットされていたので、試し縫いと練習はこれでやろうっと。
なんかいろいろついてきた
付属品の押さえ金のセットはいずれ使いこなせる時が来るのだろうか。透明バルキー押さえっていうのは縫うところの周囲がよく見えそう。これは標準の押さえの代わりに常用するのが良さそうなので変更しておく。
そしてルーパースレッダーなる針金。これはウーリー糸なんかをルーパーに通す時に便利らしい。細い糸をウーリー糸の先端に結びつけてエアスルーで通す…というのを教室ではやってたけど、スレッダー使った方が早いかな?
そしてこんなオマケも。
これは何?と思ったら,ロックミシン専用の糸じゃなくてシャッペスパンとかの小さい糸巻きに巻かれた糸をセットするためのツールのようだ。コスパ悪いからあんまり使わないと思うけど,ほんのちょっとしか使わない糸だと,シャッペをボビンに小分けに巻いて使ったりするのもありなのかも?(ルーパー糸にするとあっという間になくなりそうだけど)
ついでに、ミシン屋さんのおまけで直線ミシン用の糸をもらった。
フジックスのポリスパンとい見慣れない糸で,ネットで調べてみると,よくおまけについてくる糸だとか。シャッペスパンよりもかなり安いらしい。服には使わないけどちょっとした小物とか、急に足りなくなった時用に保管しとこうかな。
切りくず受けが欲しい
今回入ってはいなかったけど早めに買いたいと思った付属品が,トリムビン(切りくず受け)だ。
自宅で試し縫いをしてたら部屋が糸くずと布の切れ端だらけになった。ロックミシンでは生地を切りながら縫うので布の断端がゴミになる。ほつれた断端を切り揃えるだけの時なんかは切りくずにはならず,かなり細かい糸くずになるので掃除が大変そう…。早めに買っておこう。
練習その1:巾着袋
早速なにか作ってみることに。お教室で使い残した花火柄の布が中途半端に残っていたので巾着でも作ろうか。ロックミシンだけで巾着を作る方法はよくわからないけど,まぁテキトーにやれそうじゃない?
裏地はつけないつもりなので、紐通し口は屏風畳みで無理やり作ってしまう。あ、その前に紐通し口のところをほつれないように裁ち目かがりしとかないと。
んで、まわりを一周ぐるっと縫ったらおしまい。
一応できたんですけどね、なんか端がグシャってなってるよ。
練習その2:ズボンの裾上げ
夏のはじめに買ったGUのリブプルオンパンツ。これは店舗での裾上げサービスがないんだけど、まぁ裾上げしなくても穿けるんじゃない?…と勢いで購入。だってこの上なく楽なんだもん。
しかしワタシとしたことが、己の足の短さにまだまだ無自覚であった。駅の階段を登るときに裾を踏んづけてコケそうになってんの。間抜けだ。
重い腰を上げてノーマルミシンで裾上げしようと思ったが,これ、かな〜り伸び〜るニット地なのだ。ワタシのスキルで普通のミシンで綺麗にできる気がしない。そもそも元々がカバーステッチミシンで縫われてるんだよ? 複合機にしなかったからカバステないしなぁ…どうするか。
そういえばこないだお教室で習った巻きロック、あれでやってみたらどうだろう? どうせ失敗してふにゃふにゃヨレヨレになるぐらいなら,最初っからふにゃふにゃヨレヨレに伸ばして縫ってしまったらいいんじゃない?
というわけでやってみた。「差動」を思いっきり伸ばす側にして,さらに軽く引っ張りながら縫ってみたら…。
あ、これいい感じじゃないですかね? ワタシ的には成功!
というわけでこれから変なものいっぱい作るぞ!
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夏休みの記録 子供とお出かけ。 お隣さんとドライブ🚘 甘楽の道の駅のピザ🍕を食べ こんにゃくパークへ ・ ピザは写真なし、、、 地粉を使ったピザを 窯で焼いてくれる 厚すぎず薄すぎずの生地が 美味しかった😋😋😋 ・ #甘楽 道の駅 お決まりの看板で撮影😂 ・ #こんにゃくパーク は、 工場見学からの、バイキング。 さすが群馬らこんにゃく芋の産地だね。 ・ 人間は段ボールの補充 揃える、整えるくらい。 面白いくらいに沢山出来る。 こんなお仕事もあるのね。 ・ バイキングの写真なし 定番のさしみこんにゃく レバーこんにゃく こんにゃくステーキ 糸コンの揚げ物 玉こんにゃくの煮物 ラーメン 冷やし中華 ・ あらゆるもながこんにゃくの バイキング、、、 形状と付けタレ次第だね。 いくら形を変えても こんにゃくは、こんにゃく。笑 ・ 付けタレを作れば、 もう少し美味しいかな。 久しぶりにジャンクなお味でした。 まずは食べてみる。 何事も経験なり。 ・ 怒涛の夏休み。 部活に遊びに、 次女はコケて怪我もして、 長女は部活で足裏剥ける、、、 姉妹で生傷絶えない元気な子。 色々あるが、がんばれ👍 夏を楽しみましょう❣️ ・ #isawahitomi #life #楽生きママ #放任主義 #子を信頼できる母 #ずぼら #いい加減がいい加減 #うっかり母 #自分の時間は作る #母の権力振りかざす #母の笑顔が平和をつくる #楽に子育て出来る #伝えていきたい #生きる力 #自立した子供 #二児の母 (こんにゃくパーク) https://www.instagram.com/p/CR5qAPejT71/?utm_medium=tumblr
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誤字脱字等修正前のデータになりますので、あしからずご了承下さい。
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(シーズン2あらすじ)
私はファッションモデルの紅一美。
旅番組ロケで訪れた島は怪物だらけ!?
霊能者達の除霊コンペとバッティングしちゃった!
実は私も霊感あるけど、知られたくないなあ……
なんて言っている場合じゃない。
諸悪の根源は恩師の仇、金剛有明団だったんだ!
憤怒の化身ワヤン不動が、今度はリゾートで炸裂する!!
pixiv版 (※内容は一緒です。)
དང་པོ་
ニライカナイから帰還した私達はその後、魔耶さんに呼ばれて食堂へ向かう。食堂内では五寸釘愚連隊と生き残った河童信者が集合していた。更に最奥のテーブルには、全身ボッコボコにされたスーツ姿の男。バリカンか何かで雑に剃り上げられた頭頂部を両手で抑えながら、傍らでふんぞり返る禍耶さんに怯えて震えている。
「えーと……お名前、誰さんでしたっけ」
この人は確か、河童の家をリムジンに案内していたアトム社員だ。特徴的な名前だった気はするんだけど、思い出せない。
「あっ……あっ……」
「名乗れ!」
「はひいぃぃ! アトムツアー営業部の五間擦平雄(ごますり ひらお)と申します!」
禍耶さんに凄まれ、五間擦氏は半泣きで名乗った。少なくともモノホンかチョットの方なんだろう。すると河童信者の中で一番上等そうなバッジを付けた男が席を立ち、机に手をついて私達に深々と頭を下げた。
「紅さん、志多田さん。先程は家のアホ大師が大っっっ変ご迷惑をおかけ致しました! この落とし前は我々河童の家が後日必ず付けさせて頂きます!」
「い、いえそんな……って、その声まさか、昨年のお笑いオリンピックで金メダルを総ナメしたマスク・ド・あんこう鍋さんじゃないですか! お久しぶりですね!?」
さすがお笑い界のトップ組織、河童の家だ。ていうか仕事で何度か会ったことあるのに素顔初めて見た。
「あお久しぶりっす! ただこちらの謝罪の前に、お二人に話さなきゃいけない事があるんです。ほら説明しろボケナスがッ!!」
あんこう鍋さんが五間擦氏の椅子を蹴飛ばす。
「ぎゃひぃ! ごご、ご説明さひぇて頂きますぅぅぅ!!」
五間擦氏は観念して、千里が島とこの除霊コンペに関する驚愕の事実を私達に洗いざらい暴露した。その全貌はこうだ。
千里が島では散減に縁を奪われた人間が死ぬと、『金剛の楽園』と呼ばれる何処かに飛び去ってしまうと言い伝えられている。そうなれば千里が島には人間が生きていくために必要な魂の素が枯渇し、乳幼児の生存率が激減してしまうんだ。そのため島民達は縁切り神社を建て、島外の人々を呼びこみ縁を奪って生き延びてきたのだという。
アトムグループが最初に派遣した建設会社社員も伝説に違わず祟られ、全滅。その後も幾つかの建設会社が犠牲になり、ようやく事態を重く受け止めたアトムが再開発中断を検討し始めた頃。アトムツアー社屋に幽霊が現れるという噂が囁かれ始めた。その霊は『日本で名のある霊能者達の縁を散減に献上すれば千里が島を安全に開発させてやろう』と宣うらしい。そんな奇妙な話に最初は半信半疑だった重役達も、『その霊がグループ重役会議に突如現れアトムツアーの筆頭株主を目の前で肉襦袢に変えた』事で霊の要求を承認。除霊コンペティションを行うと嘘の依頼をして、日本中から霊能者を集めたのだった。
ところが行きの飛行機で、牛久大師は袋の鼠だったにも関わらず中級サイズの散減をあっさり撃墜してしまう。その上業界ではインチキ疑惑すら噂されていた加賀繍へし子の取り巻きに散減をけしかけても、突然謎のレディース暴走族幽霊が現れて返り討ちにされてしまった。度重なる大失態に激怒した幽霊はアトムツアーイケメンライダーズを全員肉襦袢に変えて楽園へ持ち帰ってしまい、メタボ体型のため唯一見逃された五間擦氏はついに牛久大師に命乞いをする。かくして大師は大散減を退治すべく、祠の封印を剥がしたのだった。以上の話が終わると、私は五間擦氏に馬乗りになって彼の残り少ない髪の毛を引っこ抜き始めた。
「それじゃあ、大師は初めから封印を解くつもりじゃなかったんですか?」
「ぎゃあああ! 毛が毛が毛がああぁぁ!!」
あんこう鍋さんは首を横に振る。
「とんでもない。あの人は力がどうとか言うタイプじゃありません。地上波で音波芸やろうとしてNICを追放されたアホですよ? 我々はただの笑いと金が大好きなぼったくりカルトです」
「ほぎゃああぁぁ! 俺の貴重な縁があぁぁ、抜けるウゥゥーーーッ!!」
「そうだったんですね。だから『ただの関係者』って言ってたんだ……」
そういう事だったのか。全ては千里が島、アトムグループ、ひいては金剛有明団までもがグルになって仕掛けた壮大なドッキリ……いや、大量殺人計画だったんだ! 大師も斉二さんもこいつらの手の上で踊らされた挙句逝去したとわかった以上、大散減は尚更許してはおけない。
魔耶さんと禍耶さんは食堂のカウンターに登り、ハンマーを掲げる。
「あなた達。ここまでコケにされて、大散減を許せるの? 許せないわよねぇ?」
「ここにいる全員で謀反を起こしてやるわ。そこの祝女と影法師使いも協力しなさい」
禍耶さんが私達を見る。玲蘭ちゃんは数珠を持ち上げ、神人に変身した。
「全員で魔物(マジムン)退治とか……マジウケる。てか、絶対行くし」
「その肉襦袢野郎とは個人的な因縁もあるんです。是非一緒に滅ぼさせて下さい!」
「私も! さ、さすがに戦うのは無理だけど……でもでも、出来ることはいっぱい手伝うよ!」
佳奈さんもやる気満々のようだ。
「決まりね! そうしたら……」
「その作戦、私達も参加させて頂けませんか?」
食堂入口から突然割り込む声。そこに立っていたのは……
「斉一さん!」「狸おじさん!」
死の淵から復活した後女津親子だ! 斉一さんは傷だらけで万狸ちゃんに肩を借りながらも、極彩色の細かい糸を纏い力強く微笑んでいる。入口近くの席に座り、経緯を語りだした。
「遅くなって申し訳ない。魂の三分の一が奪われたので、万狸に体を任せて、斉三と共にこの地に住まう魂を幾つか分けて貰っていました」
すると斉一さんの肩に斉三さんも現れる。
「診療所も結界を張り終え、とりあえず負傷者の安全は確保した。それと、島の魂達から一つ興味深い情報を得ました」
「聞かせて、狸ちゃん」
魔耶さんが促す。
「御戌神に関する、正しい歴史についてです」
時は遡り江戸時代。そもそも江戸幕府征服を目論んだ物の怪とは、他ならぬ金剛有明団の事だった。生まれた直後に悪霊を埋め込まれた徳松は、ゆくゆくは金剛の意のままに動く将軍に成長するよう運命付けられていたんだ。しかし将軍の息子であった彼は神職者に早急に保護され、七五三の儀式が行われる。そこから先の歴史は青木さんが説明してくれた通り。けど、この話には続きがあるらしい。
「大散減の祠などに、星型に似たシンボルを見ませんでしたか? あれは大散減の膨大な力の一部を取り込み霊能力を得るための、給電装置みたいな物です。もちろんその力を得た者は縁が失せて怪物になるのですが、当時の愚か者共はそうとは知らず、大散減を『徳川の埋蔵金』と称し挙って島に移住しました」
私達したたびが探していた徳川埋蔵金とはなんと、金剛の膨大な霊力と衆生の縁の塊、大散減の事だったんだ。ただ勿論、霊能者を志し島に近付いた者達はまんまと金剛に魂を奪われた。そこで彼らの遺族は風前の灯火だった御戌神に星型の霊符を貼り、自分達の代わりに島外の人間から縁を狩る猟犬に仕立て上げたんだ。こうして御戌神社ができ、御戌神は地中で飢え続ける大散減の手足となってせっせと人の縁を奪い続けているのだという。
「千里が島の民は元々霊能者やそれを志した者の子孫です。多少なりとも力を持つ者は多く、彼らは代々『御戌神の器』を選出し、『人工転生』を行ってきました」
斉一さんが若干小声で言う。人工転生。まだ魂が未発達の赤子に、ある特定の幽霊やそれに纏わる因子を宛てがって純度の高い『生まれ変わり』を作る事。つまり金剛が徳松に行おうとしたのと同じ所業だ。
「じゃあ、今もこの島のどこかに御戌様の生まれ変わりがいるんですか?」
佳奈さんは飲み込みが早い。
「ええ。そして御戌神は、私達が大散減に歯向かえば再び襲ってきます。だからこの戦いでは、誰かが対御戌神を引き受け……最悪、殺生しなければなりません」
「殺生……」
生きている人間を、殺す。死者を成仏させるのとは訳が違う話だ。魔耶さんは胸の釘を握りしめた。
「そのワンちゃん、なんて可哀想なの……可哀想すぎる。攻撃なんて、とてもできない」
「魔耶、今更甘えた事言ってんじゃないわよ。いくら生きてるからって、中身は三百年前に死んだバケモノよ! いい加減ラクにしてやるべきだわ」
「でもぉ禍耶、あんまりじゃない! 生まれた時から不幸な運命を課せられて、それでも人々のために戦ったのに。結局愚かな連中の道具にされて、利用され続けているのよ!」
(……!)
道具。その言葉を聞いた途端、私は心臓を握り潰されるような恐怖を覚えた。本来は衆生を救うために手に入れた力を、正反対の悪事に利用されてしまう。そして余所者から邪尊(バケモノ)と呼ばれ、恐れられるようになる……。
―テロリストですよ。ドマル・イダムという邪尊の力を操ってチベットを支配していた、最悪の独裁宗派です―
自分の言った言葉が心に反響する。御戌神が戦いの中で見せた悲しそうな目と、ニライカナイで見たドマルの絶望的な目が日蝕のように重なる。瞳に映ったあの目は……私自身が前世で経験した地獄の、合わせ鏡だったんだ。
「……魔耶さん、禍耶さん。御戌神は、私が相手をします」
「え!?」
「正気なの!? 殺生なんて私達死者に任せておけばいいのよ! でないとあんた、殺人罪に問われるかもしれないのに……」
圧。
「ッ!?」
私は無意識に、前世から受け継がれた眼圧で総長姉妹を萎縮させた。
「……悪魔の心臓は御仏を産み、悪人の遺骨は鎮魂歌を奏でる。悪縁に操られた御戌神も、必ず菩提に転じる事が出来るはずです」
私は御戌神が誰なのか、確証を持っている。本当の『彼』は優しくて、これ以上金剛なんかの為に罪を重ねてはいけない人。たとえ孤独な境遇でも人との縁を大切にする、子犬のようにまっすぐな人なんだ。
「……そう。殺さずに解決するつもりなのね、影法師使いさん。いいわ。あなたに任せます」
魔耶さんがスレッジハンマーの先を私に突きつける。
「失敗したら承知しない。私、絶対に承知しないわよ」
私はそこに拳を当て、無言で頷いた。
こうして話し合いの結果、対大散減戦における役割分担が決定した。五寸釘愚連隊と河童の家、玲蘭ちゃんは神社で大散減本体を引きずり出し叩く。私は御戌神を探し、神社に行かれる前に説得か足止めを試みる。そして後女津家は私達が解読した暗号に沿って星型の大結界を巡り、大散減の力を放出して弱体化を図る事になった。
「志多田さん。宜しければ、お手伝いして頂けませんか?」
斉一さんが立ち上がり、佳奈さんを見る。一方佳奈さんは申し訳なさそうに目を伏せた。
「で……でも、私は……」
すると万狸ちゃんが佳奈さんの前に行く。
「……あのね。私のママね、災害で植物状態になったの。大雨で津波の警報が出て、パパが車で一生懸命高台に移動したんだけど、そこで土砂崩れに遭っちゃって」
「え、そんな……!」
「ね、普通は不幸な事故だと思うよね。でもママの両親、私のおじいちゃんとおばあちゃん……パパの事すっごく責めたんだって。『お前のせいで娘は』『お前が代わりに死ねば良かったのに』みたいに。パパの魂がバラバラに引き裂かれるぐらい、いっぱいいっぱい責めたの」
昨晩斉三さんから聞いた事故の話だ。奥さんを守れなかった上にそんな言葉をかけられた斉一さんの気持ちを想うと、自分まで胸が張り裂けそうだ。けど、奥さんのご両親が取り乱す気持ちもまたわかる。だって奥さんのお腹には、万狸ちゃんもいたのだから……。
「三つに裂けたパパ……斉一さんは、生きる屍みたいにママの為に無我夢中で働いた。斉三さんは病院のママに取り憑いたまま、何年も命を留めてた。それから、斉二さんは……一人だけ狸の里(あの世)に行って、水子になっちゃったママの娘を育て続けた」
「!」
「斉二さんはいつも言ってたの。俺は分裂した魂の、『後悔』の側面だ。天災なんて誰も悪くないのに、目を覚まさない妻を恨んでしまった。妻の両親を憎んでしまった。だからこんなダメな狸親父に万狸が似ないよう、お前をこっちで育てる事にしたんだ。って」
万狸ちゃんが背筋をシャンと伸ばし、顔を上げた。それは勇気に満ちた笑顔だった。
「だから私知ってる。佳奈ちゃんは一美ちゃんを助けようとしただけだし、ぜんぜん悪いだなんて思えない。斉二さんの役割は、完璧に成功してたんだよ」
「万狸ちゃん……」
「あっでもでも、今回は天災じゃなくて人災なんだよね? それなら金剛有明団をコッテンパンパンにしないと! 佳奈ちゃんもいっぱい悲しい思いした被害者でしょ?」
万狸ちゃんは右手を佳奈さんに差し出す。佳奈さんも顔を上げ、その手を強く握った。
「うん。金剛ぜったい許せない! 大散減の埋蔵金、一緒にばら撒いちゃお!」
その時、ホテルロビーのからくり時計から音楽が鳴り始めた。曲は民謡『ザトウムシ』。日没と大散減との対決を告げるファンファーレだ。魔耶さんは裁判官が木槌を振り下ろすように、机にハンマーを叩きつけた!
「行ぃぃくぞおおおぉぉお前らああぁぁぁ!!!」
「「「うおおぉぉーーーっ!!」」」
総員出撃! ザトウムシが鳴り響く逢魔が時の千里が島で今、日本最大の除霊戦争が勃発する!
གཉིས་པ་
大散減討伐軍は御戌神社へ、後女津親子と佳奈さんはホテルから最寄りの結界である石見沼へと向かった。さて、私も御戌神の居場所には当てがある。御戌神は日蝕の目を持つ獣。それに因んだ地名は『食虫洞』。つまり、行先は新千里が島トンネル方面だ。
薄暗いトンネル内を歩いていると、電灯に照らされた私の影が勝手に絵を描き始めた。空で輝く太陽に向かって無数の虫が冒涜的に母乳を吐く。太陽は穢れに覆われ、光を失った日蝕状態になる。闇の緞帳(どんちょう)に包まれた空は奇妙な星を孕み、大きな獣となって大地に災いをもたらす。すると地平線から血のように赤い月が昇り、星や虫を焼き殺しながら太陽に到達。太陽と重なり合うやいなや、天上天下を焼き尽くすほどの輝きを放つのだった……。
幻のような影絵劇が終わると、私はトンネルを抜けていた。目の前のコンビニは既に電気が消えている。その店舗全体に、腐ったミルクのような色のペンキで星型に線を一本足した記号が描かれている。更に接近すると、デッキブラシを持った白髪の偉丈夫が記号を消そうと悪戦苦闘しているのが見えた。
「あ、紅さん」
私に気がつき振り返った青木さんは、足下のバケツを倒して水をこぼしてしまった。彼は慌ててバケツを立て直す。
「見て下さい。誰がこんな酷い事を? こいつはコトだ」
青木さんはデッキブラシで星型の記号を擦る。でもそれは掠れすらしない。
「ブラシで擦っても? ケッタイな落書きを……っ!?」
指で直接記号に触れようとした青木さんは、直後謎の力に弾き飛ばされた。
「……」
青木さんは何かを思い出したようだ。
「紅さん。そういえば僕も、ケッタイな体験をした事が」
夕日が沈んでいき、島中の店や防災無線からはザトウムシが鳴り続ける。
「犬に吠えられ、夜中に目を覚まして。永遠に飢え続ける犬は、僕のおつむの中で、ひどく悲しい声で鳴く。それならこれは幻聴か? 犬でないなら幽霊かもだ……」
青木さんは私に背を向け、沈む夕日に引き寄せられるように歩きだした。
「早くなんとかせにゃ。犬を助けてあげなきゃ、僕までどうにかなっちまうかもだ。するとどこからか、目ん玉が潰れた双頭の毛虫がやって来て、口からミルクを吐き出した。僕はたまらず、それにむしゃぶりつく」
デッキブラシから滴った水が地面に線を引き、一緒に夕日を浴びた青木さんの影も伸びていく。
「嫌だ。もう犬にはなりたくない。きっとおっとろしい事が起きるに違いない。満月が男を狼にするみたいに、毛虫の親玉を解き放つなど……」
「青木さん」
私はその影を呼び止めた。
「この落書きは、デッキブラシじゃ落とせません」
「え?」
「これは散減に穢された縁の母乳、普通の人には見えない液体なんです」
カターン。青木さんの手からデッキブラシが落ちた途端、全てのザトウムシが鳴り止んだ。青木さんはゆっくりとこちらへ振り向く。重たい目隠れ前髪が狛犬のたてがみのように逆立ち、子犬のように輝く目は濁った穢れに覆われていく。
「グルルルル……救、済、ヲ……!」
私も胸のペンダントに取り付けたカンリンを吹いた。パゥーーー……空虚な悲鳴のような音が響く。私の体は神経線維で編まれた深紅の僧衣に包まれ、激痛と共に影が天高く燃え上がった。
「青木さん。いや、御戌神よ。私は紅の守護尊、ワヤン不動。しかし出来れば、お前とは戦いたくない」
夕日を浴びて陰る日蝕の戌神と、そこから伸びた赤い神影(ワヤン)が対峙する。
「救済セニャアアァ!」
「そうか。……ならば神影繰り(ワヤン・クリ)の時間だ!」
空の月と太陽が見下ろす今この時、地上で激突する光の神と影の明王! 穢れた色に輝く御戌神が突撃!
「グルアアァァ!」
私はティグクでそれをいなし、黒々と地面に伸びた自らの影を滑りながら後退。駐車場の車止めをバネに跳躍、傍らに描かれた邪悪な星目掛けてキョンジャクを振るった。二〇%浄化! 分解霧散した星の一片から大量の散減が噴出!
「マバアアアァァ!!」「ウバアァァァ!」
すると御戌神の首に巻かれた幾つもの頭蓋骨が共鳴。ケタケタと震えるように笑い、それに伴い御戌神も悶絶する。
「グルアァァ……ガルァァーーーッ!!」
咆哮と共に全骨射出! 頭蓋骨は穢れた光の尾を引き宙を旋回、地を這う散減共とドッキングし牙を剥く!
「がッは!」
毛虫の体を得た頭蓋骨が飛び回り、私の血肉を穿つ。しかし反撃に転じる寸前、彼らの正体を閃いた。
「さては歴代の『器』か」
この頭蓋骨らは御戌神転生の為に生贄となった、どこの誰が産んだかもわからない島民達の残滓だ。なら速やかに解放せねばなるまい! 人頭毛虫の猛攻をティグクの柄やキョンジャクで防ぎながら、ティグクに付随する旗に影炎を着火!
「お前達の悔恨を我が炎の糧とする! どおぉりゃああぁーーーーっ!!」
ティグク猛回転、憤怒の地獄大車輪だ! 飛んで火に入る人頭毛虫らはたちどころに分解霧散、私の影体に無数の苦痛と絶望と飢えを施す!
「クハァ……ッ! そうだ……それでいい。私達は仲間だ、この痛みを以て金剛に汚された因果を必ずや断ち切ってやろう! かはあぁーーーっはーーっはっはっはっはァァーーッ!!!」
苦痛が無上の瑜伽へと昇華しワヤン不動は呵呵大笑! ティグクから神経線維の熱線が伸び大車輪の火力を増強、星型記号を更に焼却する! 記号は大文字焼きの如く燃え上がり穢れ母乳と散減を大放出!
「ガウルル、グルルルル!」
押し寄せる母乳と毛虫の洪水に突っ込み喰らおうと飢えた御戌神が足掻く。だがそうはさせるものか、私の使命は彼を穢れの悪循環から救い出す事だ。
「徳川徳松ゥ!」
「!」
人の縁を奪われ、畜生道に堕ちた哀しき少年の名を呼ぶ。そして丁度目の前に飛んできた散減を灼熱の手で掴むと、轟々と燃え上がるそれを遠くへ放り投げた!
「取ってこい!」
「ガルアァァ!!」
犬の本能が刺激された御戌神は我を忘れ散減を追う! 街路樹よりも高く跳躍し口で見事キャッチ、私目掛けて猪突猛進。だがその時! 彼の本体である衆生が、青木光が意識を取り戻した!
(戦いはダメだ……穢れなど!)
日蝕の目が僅かに輝きを増す。御戌神は空中で停止、咥えている散減を噛み砕いて破壊した!
「かぁははは、いい子だ徳松よ! ならば次はこれだあぁぁ!!」
私はフリスビーに見立ててキョンジャクを投擲。御戌神が尻尾を振ってハッハとそれを追いかける。キョンジャクは散減共の間をジグザグと縫い進み、その軌跡を乱暴になぞる御戌神が散減大量蹂躙! 薄汚い死屍累々で染まった軌跡はまさに彼が歩んできた畜生道の具現化だ!!
「衆生ぉぉ……済度ぉおおおぉぉぉーーーーっ!!!」
ゴシャアァン!!! ティグクを振りかぶって地面に叩きつける! 視神経色の亀裂が畜生道へと広がり御戌神の背後に到達。その瞬間ガバッと大地が割れ、那由多度に煮え滾る業火を地獄から吹き上げた! ズゴゴゴゴガガ……マグマが滾ったまま連立する巨大灯篭の如く隆起し散減大量焼却! 振り返った御戌神の目に陰る穢れも、紅の影で焼き溶かされていく。
「……クゥン……」
小さく子犬のような声を発する御戌神。私は憤怒相を収め、その隣に立つ。彼の両眼からは止めどなく饐えた涙が零れ、その度に日蝕が晴れていく。気がつけば空は殆ど薄暗い黄昏時になっていた。闇夜を迎える空、赤く燃える月と青く輝く太陽が並ぶ大地。天と地の光彩が逆転したこの瞬間、私達は互いが互いの前世の声を聞いた。
『不思議だ。あの火柱見てると、ぼくの飢えが消えてく。お不動様はどんな法力を?』
༼ なに、特別な力ではない。あれは慈悲というものだ ༽
『じひ』
徳松がドマルの手を握った。ドマルの目の奥に、憎しみや悲しみとは異なる熱が込み上がる。
『救済の事で?』
༼ ……ま、その類いといえばそうか。童よ、あなたは自分を生贄にした衆生が憎いか? ༽
徳松は首を横に振る。
『ううん、これっぽっちも。だってぼく、みんなを救済した神様なんだから』
すると今度はドマルが両手で徳松の手を包み、そのまま深々と合掌した。
༼ なら、あなたはもう大丈夫だ。衆生との縁に飢える事は、今後二度とあるまい ༽
གསུམ་པ་
時刻は……わからないけど、日は完全に沈んだ。私も青木さんも地面に大の字で倒れ、炎上するコンビニや隆起した柱状節理まみれの駐車場を呆然と眺めている。
「……アーーー……」
ふと青木さんが、ずっと咥えっ放しだったキョンジャクを口から取り出した。それを泥まみれの白ニットで拭い、私に返そうとして……止めた。
「……洗ってからせにゃ」
「いいですよ。この後まだいっぱい戦うもん」
「大散減とも? おったまげ」
青木さんにキョンジャクを返してもらった。
「実は、まだ学生の時……友達が僕に、『彼女にしたい芸能人は?』って質問を。けど特に思いつかなくて、その時期『非常勤刑事』やってたので紅一美ちゃんと。そしたら今回、本当にしたたびさんが……これが縁ってやつなら、ちぃと申し訳ないかもだ」
「青木さんもですか」
「え?」
「私も実は、この間雑誌で『好きな男性のタイプは何ですか』って聞かれて、なんか適当に答えたんですけど……『高身長でわんこ顔な方言男子』とかそんなの」
「そりゃ……ふふっ。いやけど、僕とは全然違うイメージだったかもでしょ?」
「そうなんですよ。だから青木さんの素顔初めて見た時、キュンときたっていうより『あ、実在するとこんな感じなの!?』って思っちゃったです。……なんかすいません」
その時、遠くでズーンと地鳴りのような音がした。蜃気楼の向こうに耳をそばだてると、怒号や悲鳴のような声。どうやら敵の大将が地上に現れたようだ。
「行くので?」
「大丈夫。必ず戻ってきます」
私は重い体を立ち上げ、ティグクとキョンジャクに再び炎を纏った。そして山頂の御戌神社へ出発……
「きゃっ!」
しようとした瞬間、何かに服の裾を掴まれたかのような感覚。転びそうになって咄嗟にティグクの柄をつく。足下を見ると、小さなエネルギー眼がピンのように私の影を地面と縫いつけている。
༼ そうはならんだろ、小心者娘 ༽
「ちょ、ドマル!?」
一方青木さんの方も、徳松に体を勝手に動かされ始めた。輝く両目から声がする。
『バカ! あそこまで話しといて告白しねえなど!? このボボ知らず!』
「ぼっ、ぼっ、ボボ知らずでねえ! 嘘こくなぁぁ!」
民謡の『お空で見下ろす出しゃばりな月と太陽』って、ひょっとしたら私達じゃなくてこの前世二人の方を予言してたのかも。それにしてもボボってなんだろ、南地語かな。
༼ これだよ ༽
ドマルのエネルギー眼が炸裂し、私は何故かまた玲蘭ちゃんの童貞を殺す服に身を包んでいた。すると何故か青木さんが悶絶し始めた。
「あややっ……ちょっと、ダメ! 紅さん! そんなオチチがピチピチな……こいつはコトだ!!」
ああ、成程。ボボ知らずってそういう……
「ってだから、私の体で検証すなーっ! ていうか、こんな事している間にも上で死闘が繰り広げられているんだ!」
༼ だからぁ……ああもう! 何故わからないのか! ヤブユムして行けと言っているんだ、その方が生存率上がるしスマートだろ! ༽
「あ、そういう事?」
ヤブユム。確か、固い絆で結ばれた男女の仏が合体して雌雄一体となる事で色々と超越できる、みたいな意味の仏教用語……だったはず。どうすればできるのかまではサッパリわかんないけど。
「え、えと、えと、紅さん……一美ちゃん!」
「はい……う、うん、光君!」
両前世からプレッシャーを受け、私と光君は赤面しながら唇を近付ける。
『あーもー違う! ヤブユムっていうのは……』
༼ まーまー待て。ここは現世を生きる衆生の好きにさせてみようじゃないか ༽
そんな事言われても困る……それでも、今私と光君の想いは一つ、大散減討伐だ。うん、多分……なんとかなる! はずだ!
བཞི་པ་
所変わって御戌神社。姿を現した大散減は地中で回復してきたらしく、幾つか継ぎ目が見えるも八本足の完全体だ。十五メートルの巨体で暴れ回り、周囲一帯を蹂躙している。鳥居は倒壊、御戌塚も跡形もなく粉々に。島民達が保身の為に作り上げた生贄の祭壇は、も���や何の意味も為さない平地と化したんだ。
そんな絶望的状況にも関わらず、大散減討伐軍は果敢に戦い続ける。五寸釘愚連隊がバイクで特攻し、河童信者はカルトで培った統率力で彼女達をサポート。玲蘭ちゃんも一枚隔てた異次元から大散減を構成する無数の霊魂を解析し、虱潰しに破壊していく。ところが、
「あグッ!」
バゴォッ!! 大散減から三メガパスカル級の水圧で射出された穢れ母乳が、河童信者の一人に直撃。信者の左半身を粉砕! 禍耶さんがキュウリの改造バイクで駆けつける。
「河童信者!」
「あ、か……禍耶の姐御……。俺の、魂を……吸収……し……」
「何言ってるの、そんな事できるわけないでしょ!?」
「……大散、ぃに、縁……取られ、嫌、……。か、っぱは……キュウリ……好き……っか……ら…………」
河童信者の瞳孔が開いた。禍耶さんの唇がわなわなと痙攣する。
「河童って馬鹿ね……最後まで馬鹿だった……。貴方の命、必ず無駄にはしないわ!」
ガバッ、キュイイィィ! 息絶えて間もない河童信者の霊魂が分解霧散する前に、キュウリバイクの給油口に吸収される。ところが魔耶さんの悲鳴!
「禍耶、上ぇっ!!」
「!」
見上げると空気を読まず飛びかかってきた大散減! 咄嗟にバイクを発進できず為す術もない禍耶さんが絶望に目を瞑った、その時。
「……え?」
……何も起こらない。禍耶さんはそっと目を開けようとする。が、直後すぐに顔を覆った。
「眩しっ! この光は……あああっ!」
頭上には朝日のように輝く青白い戌神。そしてその光の中、轟々と燃える紅の不動明王。光と影、男と女が一つになったその究極仏は、大散減を遥か彼方に吹き飛ばし悠然と口を開いた。
「月と太陽が同時に出ている、今この時……」
「瞳に映る醜き影を、憤怒の炎で滅却する」
「「救済の時間だ!!!」」
カッ! 眩い光と底知れぬ深い影が炸裂、落下中の大散減を再びスマッシュ!
「遅くなって本当にすみません。合体に手間取っちゃって……」
御戌神が放つ輝きの中で、燃える影体の私は揺らめく。するとキュウリバイクが言葉を発した。
<問題なし! だぶか登場早すぎっすよ、くたばったのはまだ俺だけです。やっちまいましょう、姐さん!>
「そうね。行くわよ河童!」
ドルルン! 輩悪苦満誕(ハイオクまんたん)のキュウリバイクが発進! 私達も共に駆け出す。
「一美ちゃん、火の準備を!」
「もう出来ているぞぉ、カハァーーーッハハハハハハァーーー!!」
ティグクが炎を噴く! 火の輪をくぐり青白い肉弾が繰り出す! 巨大サンドバッグと化した大散減にバイクの大軍が突撃するゥゥゥ!!!
「「「ボァガギャバアアアアァァアアア!!!」」」
八本足にそれぞれ付いた顔が一斉絶叫! 中空で巻き散らかされた大散減の肉片を無数の散減に変えた!
「灰燼に帰すがいい!」
シャゴン、シャゴン、バゴホオォン!! 御戌神から波状に繰り出される光と光の合間に那由多度の影炎を込め雑魚を一掃! やはりヤブユムは強い。光源がないと力を発揮出来ない私と、偽りの闇に遮られてしまっていた光君。二人が一つになる事で、永久機関にも似た法力を得る事が出来る!
大散減は地に叩きつけられるかと思いきや、まるで地盤沈下のように地中へ潜って行ってしまった。後を追えず停車した五寸釘愚連隊が舌打ちする。
「逃げやがったわ、あの毛グモ野郎」
しかし玲蘭ちゃんは不敵な笑みを浮かべた。
「大丈夫です。大散減は結界に分散した力を補充しに行ったはず。なら、今頃……」
ズドガアアァァァアン!!! 遠くで吹き上がる火柱、そして大散減のシルエット!
「イ��ーイ!」
呆然と見とれていた私達の後方、数分前まで鳥居があった瓦礫の上に後女津親子と佳奈さんが立っている。
「「ドッキリ大成功ー! ぽーんぽっこぽーん!」」
ぽこぽん、シャララン! 佳奈さんと万狸ちゃんが腹鼓を打ち、斉一さんが弦を爪弾く。瞬間、ドゴーーン!! 今度は彼女らの背後でも火柱が上がった!
「あのねあのね! 地図に書いてあった星の地点をよーく探したら、やっぱり御札の貼ってある祠があったの。それで佳奈ちゃんが凄いこと閃いたんだよ!」
「その名も『ショート回路作戦』! 紙に御札とぴったり同じ絵を写して、それを鏡合わせに貼り付ける。その上に私の霊力京友禅で薄く蓋をして、その上から斉一さんが大散減から力を吸収しようとする。だけど吸い上げられた大散減のエネルギーは二枚の御札の間で行ったり来たりしながら段々滞る。そうとは知らない大散減が内側から急に突進すれば……」
ドォーーン! 万狸ちゃんと佳奈さんの超常理論を実証する火柱!
「さすがです佳奈さん! ちなみに最終学歴は?」
「だからいちご保育園だってば~、この小心者ぉ!」
こんなやり取りも随分と久しぶりな気がする。さて、この後大散減は立て続けに二度爆発した。計五回爆ぜた事になる。地図上で星のシンボルを描く地点は合計六つ、そのうち一つである食虫洞のシンボルは私がコンビニで焼却したアレだろう。
「シンボルが全滅すると、奴は何処へ行くだろうか」
斉三さんが地図を睨む。すると突如地図上に青白く輝く道順が描かれた。御戌神だ。
「でっかい大散減はなるべく広い場所へ逃走を。となると、海岸沿いかもだ。東の『いねとしサンライズビーチ』はサイクリングロードで狭いから、石見沼の下にある『石見海岸』ので」
「成程……って、君はまさか!?」
「青木君!?」
そうか、みんな知らなかったんだっけ。御戌神は遠慮がちに会釈し、かき上がったたてがみの一部を下ろして目隠れ前髪を作ってみせた。光君の面影を認識して皆は納得の表情を浮かべた。
「と……ともかく! ずっと地中でオネンネしてた大散減と違って、地の利はこちらにある。案内するので先回りを!」
御戌神が駆け出す! 私は彼が放つ輝きの中で水上スキーみたいに引っ張られ、五寸釘愚連隊や他の霊能者達も続く。いざ、石見海岸へ!
ལྔ་པ་
御戌神の太陽の両眼は、前髪によるランプシェード効果が付与されて更に広範囲を照らせるようになった。石見沼に到着した時点で海岸の様子がはっきり見える。まずいことに、こんな時に限って海岸に島民が集まっている!?
「おいガキ共、ボートを降りろ! 早く避難所へ!」
「黙れ! こんな島のどこに安全が!? 俺達は内地へおさらばだ!」
会話から察するに、中学生位の子達が島を脱出しようと試みるのを大人達が引き止めているようだ。ところが間髪入れず陸側から迫る地響き! 危ない!
「救済せにゃ!」
石見の崖を御戌神が飛んだ! 私は光の中で身構える。着地すると同時に目の前の砂が隆起、ザボオオォォン!! 大散減出現!
「かははは、一足遅いわ!」
ズカアァァン!!! 出会い頭に強烈なティグクの一撃! 吹き飛んだ大散減は沿岸道路を破壊し民家二棟に叩きつけられた。建造物損壊と追い越し禁止線通過でダブル罪業加点! 間一髪巻き込まれずに済んだ島民達がどよめく。
「御戌様?」
「御戌様が子供達を救済したので!?」
「それより御戌様の影に映ってる火ダルマは一体!?」
その問いに、陸側から聞き覚えのある声が答える。
「ご先祖様さ!」
ブオォォン! 高級バイクに似つかわしくない凶悪なエンジン音を吹かして現れたのは加賀繍さんだ! 何故かアサッテの方向に数珠を投げ、私の正体を堂々と宣言する。
「御戌神がいくら縁切りの神だって、家族の縁は簡単に切れやしないんだ。徳川徳松を一番気にかけてたご先祖様が仏様になって、祟りを鎮めるんだよ!」
「徳松様を気にかけてた、ご先祖様……」
「まさか、将軍様など!?」
「「「徳川綱吉将軍!!」」」
私は暴れん坊な将軍様の幽霊という事になってしまった。だぶか吉宗さんじゃないけど。すると加賀繍さんの紙一重隣で大散減が復帰!
「マバゥウゥゥゥゥウウウ!!!」
神社にいた時よりも甲高い大散減の鳴き声。消耗している証拠だろう。脚も既に残り五本、ラストスパートだ!
「畳み掛けるぞ夜露死苦ッ!」
スクラムを組むように愚連隊が全方位から大散減へ突進、総長姉妹のハンマーで右前脚破壊!
「ぽんぽこぉーーー……ドロップ!!」
身動きの取れなくなった大散減に大かむろが垂直落下、左中央二脚粉砕!
「「「大師の敵ーーーっ!」」」
微弱ながら霊力を持つ河童信者達が集団投石、既に千切れかけていた左後脚切断!
「くすけー、マジムン!」
大散減の内側から玲蘭ちゃんの声。するうち黄色い閃光を放って大散減はメルトダウン! 全ての脚が落ち、最後の本体が不格好な蓮根と化した直後……地面に散らばる脚の一本の顔に、ギョロギョロと蠢く目が現れた。光君の話を思い出す。
―八本足にそれぞれ顔がついてて、そのうち本物の顔を見つけて潰さないと死なない怪物で!―
「そうか、あっちが真の本体!」
私と光君が同時に動く! また地中に逃げようと飛び上がった大散減本体に光と影は先回りし、メロン格子状の包囲網を組んだ! 絶縁怪虫大散減、今こそお前をこの世からエンガチョしてくれるわあああああああ!!
「そこだーーーッ!! ワヤン不動ーーー!!」
「やっちゃえーーーッ!」「御戌様ーーーッ!」
「「「ワヤン不動オォーーーーーッ!!!」」」
「どおおぉぉるあぁああぁぁぁーーーーーー!!!!」
シャガンッ! 突如大量のハロゲンランプを一斉に焚いたかのように、世界が白一色の静寂に染まる。存在するものは影である私と、光に拒絶された大散減のみ。ティグクを掲げた私の両腕が夕陽を浴びた影の如く伸び、背中で燃える炎に怒れる恩師の馬頭観音相が浮かんだ時……大散減は断罪される!
「世尊妙相具我今重問彼仏子何因縁名為観世音具足妙相尊偈答無盡意汝聴観音行善応諸方所弘誓深如海歴劫不思議侍多千億仏発大清浄願我為汝略説聞名及見身心念不空過能滅諸有苦!」
仏道とは無縁の怪獣よ、己の業に叩き斬られながら私の観音行を聞け! 燃える馬頭観音と彼の骨であるティグクを仰げ! その苦痛から解放されたくば、海よりも深き意志で清浄を願う聖人の名を私がお前に文字通り刻みつけてやる!
「仮使興害意推落大火坑念彼観音力火坑変成池或漂流巨海龍魚諸鬼難念彼観音力波浪不能没或在須弥峰為人所推堕念彼観音力如日虚空住或被悪人逐堕落金剛山念彼観音力不能損一毛!!」
たとえ金剛の悪意により火口へ落とされようと、心に観音力を念ずれば火もまた涼し。苦難の海でどんな怪物と対峙しても決して沈むものか! 須弥山から突き落とされようが、金剛を邪道に蹴落とされようが、観音力は不屈だ!
「或値怨賊繞各執刀加害念彼観音力咸即起慈心或遭王難苦臨刑欲寿終念彼観音力刀尋段段壊或囚禁枷鎖手足被杻械念彼観音力釈然得解脱呪詛諸毒薬所欲害身者念彼観音力還著於本人或遇悪羅刹毒龍諸鬼等念彼観音力時悉不敢害!!」
お前達に歪められた衆生の理は全て正してくれる! 金剛有明団がどんなに強大でも、和尚様や私の魂は決して滅びぬ。磔にされていた抜苦与楽の化身は解放され、悪鬼羅刹四苦八苦を燃やす憤怒の化身として生まれ変わったんだ!
「若悪獣囲繞利牙爪可怖念彼観音力疾走無辺方蚖蛇及蝮蝎気毒煙火燃念彼観音力尋声自回去雲雷鼓掣電降雹澍大雨念彼観音力応時得消散衆生被困厄無量苦逼身観音妙智力能救世間苦!!!」
獣よ、この力を畏れろ。毒煙を吐く外道よ霧散しろ! 雷や雹が如く降り注ぐお前達の呪いから全ての衆生を救済してみせよう!
「具足神通力廣修智方便十方諸国土無刹不現身種種諸悪趣地獄鬼畜生生老病死苦以漸悉令滅真観清浄観広大智慧観悲観及慈観常願常瞻仰無垢清浄光慧日破諸闇能伏災風火普明照世間ッ!!!」
どこへ逃げても無駄だ、何度生まれ変わってでも憤怒の化身は蘇るだろう! お前達のいかなる鬼畜的所業も潰えるんだ。瞳に映る慈悲深き菩薩、そして汚れなき聖なる光と共に偽りの闇を葬り去る!
「悲体戒雷震慈意妙大雲澍甘露法雨滅除煩悩燄諍訟経官処怖畏軍陣中念彼観音力衆怨悉退散妙音観世音梵音海潮音勝彼世間音是故須常念念念勿生疑観世音浄聖於苦悩死厄能為作依怙具一切功徳慈眼視衆生福聚海無量是故応頂……」
雷雲の如き慈悲が君臨し、雑音をかき消す潮騒の如き観音力で全てを救うんだ。目の前で粉微塵と化した大散減よ、盲目の哀れな座頭虫よ、私はお前をも苦しみなく逝去させてみせる。
「……礼ィィィーーーーーッ!!!」
ダカアアアアァァアアン!!!! 光が飛散した夜空の下。呪われた気枯地、千里が島を大いなる光と影の化身が無量の炎で叩き割った。その背後で滅んだ醜き怪獣は、業一つない純粋な粒子となって分解霧散。それはこの地に新たな魂が生まれるための糧となり、やがて衆生に縁を育むだろう。
時は亥の刻、石見海岸。ここ千里が島で縁が結ばれた全ての仲間達が勝利に湧き、歓喜と安堵に包まれた。その騒ぎに乗じて私と光君は、今度こそ人目も憚らず唇を重ね合った。
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新着記事を公式LINEでお知らせしています。友だち申請はこちらから! ICCの動画コンテンツも充実! YouTubeチャンネルの登録はこちらから! ICC FUKUOKA 2021 REALTECH CATAPULTに登壇いただいた、ジャパンモスファクトリー 井藤賀 操さんのプレゼンテーション動画【「ジャパンモスファクトリー」は、フィルター化した苔で、汚染された水や環境を浄化する】の文字起こし版をお届けします。ぜひご覧ください! ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。 次回ICCサミット KYOTO 2021は、2021年9月6日〜9月9日 京都市での開催を予定しております。参加登録は公式ページのアップデートをお待ちください。 本セッションは、ICCサミット FUKUOKA 2021 ゴールド・スポンサーのKOBASHI HOLDINGS様にサポート頂きました。 【速報】眼科医の眼をスマホに装着「Smart Eye Camera」のOUI inc.がリアルテック・カタパルト優勝!(ICCサミット FUKUOKA 2021) ▼ 【登壇者情報】 2021年2月15〜18日開催 ICC FUKUOKA 2021 Session 4A REALTECH CATAPULT リアルテック・ベンチャーが世界を変える Supported by KOBASHI HOLDINGS 井藤賀 操 株式会社ジャパンモスファクトリー 代表取締役CTO 2002年広島大学大学院理学研究科修了、博士(理学)を取得。2003年より理化学研究所植物科学研究センター研究員、2013年より同研究所環境資源科学研究センター上級研究員に従事。日本蘚苔類学会奨励賞、日本鉱業協会賞など受賞。2018年アグリテックグランプリに出場、最���秀賞を受賞。2019年スピンアウトし、株式会社JAPAN MOSS FACTORY創業、NEDO NEP 2019採択、いちかわ未来創造会議社会実験実施者に認定される。現在、環境系の理研ベンチャーに認定されている。 ▲ 井藤賀 操さん 皆さんこんにちは、ジャパンモスファクトリー代表取締役CTOの井藤賀(いとうが)です。 環境改善素材として苔の原糸体を製造 弊社は理研ベンチャーで、環境改善素材として苔の原糸体(※) を製造・加工しているスタートアップです。 編集注:コケ植物、およびシダ植物において、胞子の発芽後すぐに形成される構造(Wikipedia)。 作っているのは「コケフィルター」で、2020年末に特許も出願しました。 工場廃液の中から「金」を抽出 これを、「もったいないこと」をしている化学工場に提供したいと思っています。 どういうことかと言うと、希薄な濃度で金を含む廃液を、わざわざお金を払って産業廃棄物処理をしている化学工場があります。 そのような化学工場を弊社の顧客と考え、コケフィルターを提供することで、新たな経済価値を創造したいと思っています。 具体的に手に入るのは、金塊です。 今まで捨てていたものでも、弊社のコケフィルターを使えば、金を抽出することができるのです。 上のスライドの右側に載せている金塊は、実証実験で得た14.8gの金です。 苔の原糸体が金を濃縮回収 工場の廃液を流す塩ビ管に、左の写真のようにフィルターを装着します。 フィルターの中に入っているのは苔の原糸体で、原糸体は繊維状構造の細胞でできています。 この細胞の中に、金イオンが入ることで金を回収できる仕組みです。 スライドにあるのは透過型映像で見ている画像なので、プラズモン共鳴現象により、金はカラフルに見えています。 反射型映像で見ると、キラキラとした金に見えます。 フィルター内の苔の原糸体は、自重の10%が金になる性能を持つ新素材です。 金以外の貴金属も回収可能 化学工業日報に、この仕組みで金以外の貴金属も回収することができると取り上げて頂きました。 これは実際に論文にも記載しており、パラジウムや白金、また金の6倍の経済価値のあるロジウムも回収することができます。 JMF to Commercialize Moss Adsorbent Able to Recover Precious Metals(化学工業日報) 苔細胞壁の特性を活かし鉛も回収可能 白金族元素のものを吸着可能ですが、もう1つの特徴として鉛の蓄積もできます。 顕微鏡写真のピンクの部分が鉛ですが、鉛は繊維の表層に蓄積されます。 繊維の表層はポリガラツクロン酸やセルロースといった細胞壁を主成分とするのですが、ポイントとなるのは本来表面に存在すべきクチクラ層を、苔は欠いているということです。 実は苔は色々なものが無いことが特徴です。 スライド右下にあるのは一般的な細胞壁のモデルです。 黄色い部分がクチクラ層で、一般的な細胞壁の表面にはクチクラワックスという水を弾く成分がありますが、苔にはクチクラ層がありません。 そのため水がダイレクトにアクセスできて、細胞壁成分だけでも鉛を蓄積することができるのです。 弊社では、高機能な苔を100L規模の水槽で培養しています。 興味があれば動画をご覧ください。 光合成で永続的に増やせ、紙にもなる新素材「原糸体」 また、培養した原糸体を加工して、金属吸着剤を作っています。 特徴は、光合成で永続的に増えること、繊維状なので固液分離性能に優れエネルギーコストを抑えられること、工業プロセスでも利用でき、既存の化学処理剤の代替品としても活用できることです。 何よりも、非常に軽いので運搬が可能で、紙にすることもできます。 苔で環境汚染の浄化に取り組む 弊社のビジョンは「苔で地球環境を守る」です。 世界中に苔を届けたいと思っています。 紙にもできるようになったので、土壌や空気、水など全てを浄化していくことを考えています。 例えば、インドでは大気汚染が大きな問題となっているので、大気浄化フィルターを作りたいと思っています。 また、金の採掘を行っているフィリピンでは採掘時に水銀を使い、それを流した川や土壌を小学生が裸足で歩いていますが、そんな状態を改善したいと思っています。 日本には重金属の問題はもうないと思っている方もいるかもしれませんが、休廃止鉱山では水はきれいでも汚泥をためているダムがあり、40年間無毛の地帯になっています。 そういった場所を緑化するために、苔を使っていきたいと考えています。 太陽光を利用した持続可能な培養システム 自然界では、苔は太陽光やCO2を吸収して暮らしています。 ですから弊社も、苔の原糸体を培養する時には太陽光や自然エネルギーを使って培養したいと強く思っていました。 それが実現しました。 KOBASHI HOLDINGS と共同で、休耕田や休廃止鉱山などの排水性が悪い土地に生育できる苔を、野外で培養することに成功しました。 ニュースリリース 2021年02月12日 休耕田や休廃止鉱山で生育可能なコケ植物の屋外培養に成功(KOBASHI HOLDINGS) 持続可能な土地利用の推進 弊社では、SDGsでもゴールとなっている「陸の豊かさを守る」ことに挑戦したいと思っています。 具体的には4つのテーマがあり、特に「持続可能な土地利用の推進」に努めていきたいと思います。 これから人口は減少するのでリソースやインフラは休んでいきますが、休ませるのではなく、苔の力で土地利用を推進していきます。 ジャパンモスファクトリーでした。ありがとうございました。 ︎実際のプレゼンテーション動画もぜひご覧ください。 (終) 新着記事を公式LINEでお知らせしています。友だち申請はこちらから! ICCの動画コンテンツも充実! YouTubeチャンネルの登録はこちらから! 編集チーム:小林 雅/小林 弘美/浅郷 浩子/戸田 秀成/大塚 幸 更新情報はFacebookページのフォローをお願い致します。 The post 「ジャパンモスファクトリー」は、フィルター化した苔で、汚染された水や環境を浄化する (ICC FUKUOKA 2021) first appeared on 【ICC】INDUSTRY CO-CREATION.
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litera https://lite-ra.com/2019/06/post-4773.html 「アメリカとイランの橋渡しができるのは世界で安倍首相だけ」という掛け声は、一体なんだったのか──。関係が悪化しているトランプ大統領とイランを仲立ちすべく、昨日、イランの最高指導者・ハメネイ師と会談をおこなった安倍首相だが、またしても「外交の安倍」なる看板が羊頭狗肉にすぎないことを世界中に知らしめてしまった。 何しろ、何の成果も示せなかったばかりか、会談とタイミングを合わせたかのように、日本の海運会社が運航するタンカーがホルムズ海峡で砲撃を受けるという事件が起こったのだ。この事件についてアメリカのポンペオ国務長官は、「米政府はイランが攻撃の背後にいたと判断している」として、「日本に対する侮辱だ」と語った。 一方、イランのザリフ外相は〈米国が一切の物的証拠も状況証拠もなく即座にイランを非難したことは、安倍晋三首相によるものも含め、Bチームが妨害外交というプランBに動き、イランに対する経済テロを隠蔽しようとしていることを明確に示している〉とTwitterに投稿。「Bチーム」とは、ジョン・ボルトン米大統領補佐官やイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子、アブダビ首長国のムハンマド・ビン・ザイド皇太子を指すもので、5月にもザリフ外相は「『Bチーム』が米国に戦争をさせようとしている。自殺行為だ」として非難していた。今回の安倍首相の「伝書鳩」外交を、ザリフ外相は「Bチーム」の妨害外交のひとつと見なしているようなのだ。 現段階ではタンカー攻撃に本当にイランが関与していたかどうかは断定できないし、ポンペオのコメントはイラン攻撃の口実に利用しただけかもしれないが、少なくとも、安倍首相のイラン訪問がアメリカとイランの関係修復に何の役にも立たなかったことは間違いない。それは安倍首相との会談後、ハメネイ師がTwitterにこんな投稿を連投したことからも明らかだ。 〈我々は、安倍晋三の善意と真剣さは疑いません。しかし、あなたが米大統領から伝えられたことについていえば、私はトランプをメッセージのやり取りをするにふさわしい相手とは思っていない。トランプへの返答はありませんし、彼に答えるつもりもありません〉 〈安倍晋三氏よ、アメリカ大統領は数日前にあなたと会って、イランについても話した。しかし、日本から帰国した後、彼はすぐにイランの石油化学産業に制裁を科しました。これが誠実なメッセージですか? これで彼が嘘偽りのない交渉をする気があるということが示されると?〉 〈安倍晋三氏よ、あなたは、トランプは米国との交渉がイランの進歩につながるだろうと話していたと、そう言いましたね。我々の進歩は、交渉や制裁解除がなくとも、神の恵みによってなされゆくのです〉 トランプ大統領の「伝書鳩」として赴いたのに、ゼロ回答どころか、ハメネイ師の怒りを可視化してしまった安倍首相。しかも、笑うに笑えないのは、この「伝書鳩」役はトランプに押し付けられたわけではなく、安倍首相から手を挙げて立候補したものであるということだ。なんと、2016年にトランプが大統領に就任する前にはじめて会談した際、安倍首相は「自分ならハメネイ師に会うことができる」と持ちかけ、トランプも「そうなのか、ハメネイ師に会えるのか」と返答したのだという(朝日新聞デジタル11日付)。つまり、原油の輸入国として長く友好を築いてきた日本とイランとの関係を、安倍首相はトランプに取り入るためのカードとして最初から用意していたのである。 ところが、その結果はご覧の通り、ものの見事に玉砕。いや、それどころか、安倍首相がトランプの代弁者として振る舞った結果、築き上げた日本とイランの友好関係にもヒビが入った可能性さえあるだろう。 さらに悲惨なのは、安倍首相とハメネイ師の会談直前に、米財務省がイラン関連企業などへの追加制裁を発表したこと。ようするに、安倍首相は当のトランプ大統領から梯子を外されてしまった、というわけだ。 安倍は「トランプへの返答はないし、答えるつもりもない」とあしらわれたのに岩田記者は そもそも、アメリカとイランの関係は、トランプ大統領が、イランが核開発を制限する見返りに経済制裁を一部解除した多国間合意から一方的に離脱したことで一気に緊迫化した。オバマ前大統領が取り付けた成果を御破算にするという幼児的なその行動はエスカレートし、米軍が中東地域に空母を派遣するなど、いつ軍事衝突が起きてもおかしくはないほどの危険な状況に陥っている。 だが、安倍首相はトランプ大統領の核合意離脱を他国の首脳たちのように非難することもなければ諫めることもせず、それどころかトランプをノーベル平和賞に推薦する始末。そんな「トランプの犬」でしかない安倍首相の話にイランがおいそれと応じるわけがなく、ハメネイ師の「完全拒否」は当然過ぎる結果なのだ。 しかし、驚くべきは、安倍首相の「外交やるやる詐欺」だけではない。こんな大失敗に終わったにもかかわらず、御用メディアと安倍応援団は「大成功」と安倍首相のイラン訪問を伝えているのだ。 たとえばNHKの岩田明子記者は、昨晩放送の『ニュース7』で、こう解説した。 「ハメネイ氏が外国の首脳と会うことは多くなく、日本政府は伝統的な友好国のトップであり、なおかつトランプ大統領とも緊密な関係を維持する安倍総理大臣の助言を重視していることの表れだとみています」 「安倍総理大臣は一連の会談でイラン側の真意を引き出すことができたと受け止めている」 どう考えても「安倍首相の助言を重視」している人物が、「トランプへの返答はないし、答えるつもりもない」とあしらうはずがない。しかし、岩田記者はそうした解説はせず、「(安倍首相は)トランプ大統領の真意を正確に伝えた」とアピールに励んだのだ。 まったく頭がクラクラしてくるが、じつはこうした無理矢理な安倍イラン訪問礼賛は、NHK岩田記者だけではない。多くのマスコミがイランでの会談以前から今回の会談への期待感を煽り、「アメリカとイランの橋渡しができるのは世界で安倍首相だけ」と必死に喧伝していた。 田崎史郎は「安倍さんは米から何かカードを貰っている」と噴飯解説 その典型が、12日放送の『ひるおび!』(TBS)。安倍首相のPRマン・田崎史郎氏が登場し、「トランプさんとイランの首脳部と双方から信頼されているのが、安倍総理しかいないんですよ」「イランから見てもアメリカから見ても、安心して任せられる人が、いまは安倍総理しかいない」と強調していた。 イランが安倍首相のことを「安心して任せる」などとはまったく見ていないことが判明したいまとなっては、田崎氏の解説がいかに空っぽなのかよくわかるが、さらに田崎氏はこんなことも述べていた。 「(トランプ大統領が)来日したときの首脳会談では、安倍さんが(イランに)行くことについて、ボルトン(米大統領補佐官)さんは『グッドタイミング』と言っているわけですね。だから何かカードを貰っている可能性はある」 カードを貰うどころか、安倍首相は手ぶらでトランプのメッセージをただ伝えるという外交の無能っぷりを見せつけただけなのだが、しかし、安倍応援団としては期待を煽りに煽り、当事者から事実が突きつけられても「安倍首相の助言を重視」などと言い張って押し通せば、それで成功なのだ。 これは、安倍首相や官邸もまったく同じだ。とにかく外遊に行きまくって“やってる感”を演出し、安倍応援団に「大成功」とPRさせれば、国民なんて簡単に騙せると考えているのだろう。 そして、実際には、ロシアのプーチン大統領にはコケにされ、北朝鮮との糸口もなく、トランプ大統領にはゴマをするだけすっても梯子を外されるという失態を繰り返しても、国民はまだ“外交の安倍”というイメージを信じ込んでいる。一体いつになったら目が醒めるのだろうか。 (編集部) litera https://lite-ra.com/2019/06/post-4773.html
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名古屋の公園で見つけた嬉しい嬉しい収穫。冬枯れの木にぶら下がっていたふわふわの塊。形は崩れ、風になびいてひらひらしている。枝で採取できるほどの高さだったので引っか��てとってみると、、コケや羽根やクモの糸で丁寧に編まれた鳥の巣の一部でした。
コケと地衣類、内側にはフカフカの羽毛が。クモの糸らしきものも見えるので、エナガの巣かも?エナガの巣は縦長の楕円形とのことなので、このぺらんとした状態の感じだと去年の巣でしょうか。生命の揺りかごはこんなにも繊細なんだ。
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自然の神秘✨ Repost from @minamialps_gateway @TopRankRepost #TopRankRepost サルオガセをご存知ですか? サルオガセとは、ウメノキゴケ科、サルオガセ属の植物で「樹皮に付着して懸垂する糸状の地衣」。霧藻、蘿衣ともいうそうです。 7月14日に行われた「櫛形山トレッキングツアー」の山中で苔の専門家に遭遇しました。 それはまるで森林の中に浮遊する海藻のようであり、森を守る怪物のようでありと、とても幻想的に見えました。 10月の20日(土)より次々と「秋の日帰り櫛形山トレッキングツアー」がはじまります。 紅葉を楽しみつつ、地衣するコケ類の生態などを注意深く探るのも楽しそうですね。 「秋の日帰り櫛形山トレッキングツアー」の詳細はこちらです↓ https://coubic.com/minami1/174308 11月11日(日)には、「苔の専門家と歩く秋の櫛形山苔ツアー」も開催します。 苔をもっと知りたい方はこちらがおすすめです! 「苔の専門家と歩く秋の櫛形山苔ツアー」の詳細はこちらです↓ https://coubic.com/minami1/235278 明日15日(土)、明後日16日(日)は市営芦安駐車場での市営芦安駐車場も行います。 早朝:3時~4時半(市営芦安駐車場乗合タクシー乗り場付近) 午後:14時~17時(白峰会館) 「あったらいいな!」という南アルプス市ならではの行動食やお土産にお役立てください。 ※売切れ次第終了になります。 (株)南アルプスゲートウェイ TEL:055-269-5681 (月曜定休・祝日の場合は翌日休業となります) 南アルプス市在家塚992-1 http://minamialps-gateway.com/ #南アルプス市 #櫛形山 #苔の専門家 #トレッキングツアー #サルオガセ #サルオガセ #苔 #苔の専門家 #森を守る怪物 #お土産 #行動食 #市営芦安駐車場 #市営芦安駐車場 (Minamiarupusu-shi, Yamanashi, Japan) https://www.instagram.com/p/BoQphw9B3te/?utm_source=ig_tumblr_share&igshid=1cmjsm2r4wu5n
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手作りのコケ玉かわいい 札幌・農試公園で講習会 (2017/03/12)北海道新聞
http://dd.hokkaido-np.co.jp/cont/video/?c=event&v=5357097174001
コケを小さな球状にして育てる「コケ玉」作りの講習会が3月12日、札幌市西区の農試公園で開かれ、親子連れなど24人がかわいらしく仕上げた。公園管理事務所によると、コケ玉は手軽に作れて手入れが簡単なため、近年、静かなブームとなっているという。受講者は粘土状の土と通気性に優れた土を混ぜて球状に整えた。観葉植物のアイビーの枝1本を球状の土に差した後、コケの一種「ハイゴケ」で土を覆い、糸を巻き付けて完成させた。参加した同区の小学2年の女児(8)は「自分の部屋に飾ります」と出来栄えに満足そうだった。
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「糸状コケ駆除作戦」から一週間、その後の「経過の様子報告」ですっ!(*´ω`*)
みなさんおはようございます、ユキちゃんですっ!いつもブログに来ていただきホントにありがとうございます。
Twitterでは報告しましたが、昨日から私もGWに突入しました。そして、今日から「香川旅行」に向かうためブログ内容が若干変わります。ご了承くださいね。(*´ω`*)
ところで、先週から「リベンジ」している・・・・・・・・・
「糸状コケ駆除作戦っ!」<(`^´)>
「糸状コケは死滅できる」という希望が出てきたため再度検証という事になったのですが、果たして結果はいかに・・・・・・?
箱を開けると、ブセファンドラの葉が一枚本体から剥がれていました。やはり、水草にダメージが出ているようです。調べてみると・・・・・・・
コケが付着していたミクロソリウム・トライデントをメイン水槽に浮かべます。すると・・・・・・
「ん?なんかあるぞ」(。´・ω・)
葉を擦ってみると・・・・…
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