Tumgik
#微塵も信用しちゃいけないような悪の顔してるのが好きでぇ……
spheredotorb · 1 month
Text
こっちでマルク絵見ると「誰だこのお目々きゅるきゅるぶりっ子は⁉️⁉️⁉️⁉️」って思ったりするけど、擬人化するにあたって公式画像じっくり見たら大体そうだった お目々きゅるきゅるぶりっ子だった ごめんな
0 notes
quuyukadaisuki · 2 years
Text
NieR:Automata
2B9Sの話(支部から移動※過去SS加筆修正あり)その1
Tumblr media
 茫漠と広がる砂の山。
 乾いた風が赤と白の大地に舞う。
 砂漠地帯。
 アンドロイドにとってはあまり好ましくない環境である。砂塵は義体の隙間に入り込んでしまうし、とくに空中を浮遊する砂の粒子は視界のセンサー不良を起こす原因にもなり得る。
 加えてもう一つ。
「うわっ、また砂が靴に入った! はぁ、何度来ても慣れそうにないですよこれ」
 顔を顰め、心底嫌そうな声を上げたのは少年のような外見の持ち主。ヨルハ九号S型。通称9S(ナインエス)と呼ばれる情報収集、調査が専門のスキャナーモデルのアンドロイドである。
「2Bは平気そうですね」
「なにが?」
 9Sから声が掛かり、2Bは歩行速度をやや緩めた。2B (トゥビィー)とは正式にはヨルハ2号B型という。揺れ動く裾広がりのスカートから垣間見える形の良い脚、なだらかな曲線を持つ輪郭は成人女性のものだ。しかし正確には成人とも女性ともいえない。アンドロイドには生物学的な性別というのは存在しないのだ。一見、華奢にも思える身体つきとは裏腹に、機械生命体との戦いに特化したバトルモデルのアンドロイドである。
「砂ですよ」
「歩行に問題はないし――」
 9Sを窘めるように2Bは口を開いた。
 砂だらけの場所を移動しているのだから、靴の中に砂が入ってしまうのは致し方ないことだ。
 さらに言えば、戦闘にも支障はない。
「――9Sは気にしすぎだ」
「えー、そうですか? 靴底でじゃりじゃりするのが気になるし、って言ってたら口の中まで砂が……、うぇぇ。2Bは気持ち悪くないですかこれ。例え支障はなくたって、気分は最悪というか」
「ならない。それに些細な事で振り回されないよう感情を持つことは禁止されている。とくに今は任務中……」
 ヨルハ部隊員は感情を持ってはならない。
 何故なら任務を遂行するために些細な感情の揺らぎも時に致命傷に成り得るからだ。2Bにとって感情は不要なものであった。
 もっとも9Sにとってそうとは限らなかったが。
「はーい」
 やや拗ねたような9Sの声。2Bに対する9Sのいつもの反応だ。最初の方こそ畏まっていたが、今やお決まりとも言えるやり取りを二人の間で交わすのは何度目となるのか。だからか、つい口を滑らせてしまった。
「……でもキミらしいと思う」
 ぼそりと2Bは呟いた。
 それを9Sが聞き逃すはずがなかった。
「えっ?!」
 不覚だった。感情を持つなと9Sに注意しながら、何故それを肯定するようなことを言ってしまったのか。
 2B自身も分からない。
「2B、今のは」
 9Sからの問い。
 2Bはゴーグル越しに見透かされたような感覚に陥った。
「………、」 
 答えられないまま、黙り込む。
 靴底に入り込んだ砂利が、初めて不快に感じられた。
「警告:前方、アクセスポイントに敵性個体反応多数」
 2Bと9Sの間に流れた奇妙な沈黙は随行支援ユニットであるポッド042の警告音によって破られた。
 これほど敵との遭遇がありがたいと思ったことはあっただろうか。
 敵に感謝? 否、感情は――不要だ。
 不要でなければならない。
「殲滅する!」
 並走する9Sを振り払うかのように2Bは軍刀を構えながら加速していく。機械生命体が群がるアクセスポイントまで一気に駆け抜けて、一刀両断。剣撃から放たれた衝撃波が機械生命体たちを真っ二つに切り裂いた。
「ポッド!」
 2Bの声にポッド042は即座に反応し、ポットプログラムによる特殊兵装を解き放つ。光の槍が地面から直線上に次々といくつも突き出して、機械生命体を串刺し蹂躙する。 
 砂煙が立ち上り、アクセスポイント一帯は一時好戦状態となった。
「2B……!」
 間が悪いと言うべきか。2Bの真意を伺う絶好の機会であったのに。
 当の本人は敵陣の真っ只中だ。もう聞くことはできないだろう。
「ああもう! こうなったら早く終わらせるしかないか。援護します2B!」
 がくりと肩を落とした9Sは2Bの後を追う様にアクセスポイントへ向かう。
 爆風が9Sの頬をかすめる。
 遅れてやってきた砂塵が視界を覆いつくした。
  
 ―――以上で報告を終わります。
 人類文明の遺物、自動販売機に偽装された「重要施設」アクセスポイントの通信障害はやはり機械生命体によるものであったと伝える。
 バンカーへの報告を終える際に「今日は良いことがあったようですね」とオペレーターである21О (トゥワンオー)から指摘を受けて9Sは微笑んだ。
 
 ふとした拍子に見える2Bの感情。
 本人はあれで隠しているつもりらしいが、観察を得意とするS型、9Sにとっては分り易いものだ。2Bが器用か不器用かで言えば、不器用な方だろうと思う。時折見せる優しさが何よりの証拠だ。 
 そんな2Bが今日に至っては、9Sの事を認めてくれているかのような気がした。いや、あれは気のせいではない。確かめようにも、僅かに見えた2Bの本音は機械生命体との戦闘による爆炎と熱風によってかき消されてしまったに違いないが。 
「あ、分かります? 今日は少し嬉しいことがあったんですよね」
1 note · View note
skf14 · 3 years
Text
11180143
愛読者が、死んだ。
いや、本当に死んだのかどうかは分からない。が、死んだ、と思うしか、ないのだろう。
そもそも私が小説で脚光を浴びたきっかけは、ある男のルポルタージュを書いたからだった。数多の取材を全て断っていた彼は、なぜか私にだけは心を開いて、全てを話してくれた。だからこそ書けた、そして注目された。
彼は、モラルの欠落した人間だった。善と悪を、その概念から全て捨て去ってしまっていた。人が良いと思うことも、不快に思うことも、彼は理解が出来ず、ただ彼の中のルールを元に生きている、パーソナリティ障害の一種だろうと私は初めて彼に会った時に直感した。
彼は、胸に大きな穴を抱えて、生きていた。無論、それは本当に穴が空いていたわけではないが、彼にとっては本当に穴が空いていて、穴の向こうから人が行き交う景色が見え、空虚、虚無を抱いて生きていた。不思議だ。幻覚、にしては突拍子が無さすぎる。幼い頃にスコンと空いたその穴は成長するごとに広がっていき、穴を埋める為、彼は試行し、画策した。
私が初めて彼に会ったのは、まだ裁判が始まる前のことだった。弁護士すらも遠ざけている、という彼に、私はただ、簡単な挨拶と自己紹介と、そして、「理解しない人間に理解させるため、言葉を紡ぎませんか。」と書き添えて、名刺と共に送付した。
その頃の私は書き殴った小説未満をコンテストに送り付けては、音沙汰のない携帯を握り締め、虚無感溢れる日々をなんとか食い繋いでいた。いわゆる底辺、だ。夢もなく、希望もなく、ただ、人並みの能がこれしかない、と、藁よりも脆い小説に、私は縋っていた。
そんな追い込まれた状況で手を伸ばした先が、極刑は免れないだろう男だったのは、今考えてもなぜなのか、よくわからない。ただ、他の囚人に興味があったわけでもなく、ルポルタージュが書きたかったわけでもなく、ただ、話したい。そう思った。
夏の暑い日のことだった。私の家に届いた茶封筒の中には白無地の紙が一枚入っており、筆圧の無い薄い鉛筆の字で「8月24日に、お待ちしています。」と、ただ一文だけが書き記されていた。
こちらから申し込むのに囚人側から日付を指定してくるなんて、風変わりな男だ。と、私は概要程度しか知らない彼の事件について、一通り知っておこうとパソコンを開いた。
『事件の被疑者、高山一途の家は貧しく、母親は風俗で日銭を稼ぎ、父親は勤めていた会社でトラブルを起こしクビになってからずっと、家で酒を飲んでは暴れる日々だった。怒鳴り声、金切声、過去に高山一家の近所に住んでいた住人は、幾度となく喧嘩の声を聞いていたという。高山は友人のない青春時代を送り、高校を卒業し就職した会社でも活躍することは出来ず、社会から孤立しその精神を捻じ曲げていった。高山は己の不出来を己以外の全てのせいだと責任転嫁し、世間を憎み、全てを恨み、そして凶行に至った。
被害者Aは20xx年8月24日午後11時過ぎ、高山の自宅において後頭部をバールで殴打され殺害。その後、高山により身体をバラバラに解体された後ミンチ状に叩き潰された。発見された段階では、人間だったものとは到底思えず修復不可能なほどだったという。
きっかけは近隣住民からの異臭がするという通報だった。高山は殺害から2週間後、Aさんだった腐肉と室内で戯れている所を発見、逮捕に至る。現場はひどい有り様で、近隣住民の中には体調を崩し救急搬送される者もいた。身体に、腐肉とそこから滲み出る汁を塗りたくっていた高山は抵抗することもなく素直に同行し、Aさん殺害及び死体損壊等の罪を認めた。初公判は※月※日予定。』
いくつも情報を拾っていく中で、私は唐突に、彼の名前の意味について気が付き、二の腕にぞわりと鳥肌が立った。
一途。イット。それ。
あぁ、彼は、ずっと忌み嫌われ、居場所もなくただ産み落とされたという理由で必死に生きてきたんだと、何も知らない私ですら胸が締め付けられる思いがした。私は頭に入れた情報から憶測を全て消し、残った彼の人生のカケラを持って、刑務所へと赴いた。
「こんにちは。」
「こんにちは。」
「失礼します。」
「どうぞ。」
手錠と腰縄を付けて出てきた青年は、私と大して歳の変わらない、人畜無害、悪く言えば何の印象にも残らない、黒髪と、黒曜石のような真っ黒な瞳の持ち主だった。奥深い、どこまでも底のない瞳をつい値踏みするように見てしまって、慌てて促されるままパイプ椅子へと腰掛けた。彼は開口一番、私の書いている小説のことを聞いた。
「何か一つ、話してくれませんか。」
「え、あ、はい、どんな話がお好きですか。」
「貴方が一番好きな話を。」
「分かりました。では、...世界から言葉が消えたなら。」
私の一番気に入っている話、それは、10万字話すと死んでしまう奇病にかかった、愛し合う二人の話。彼は朗読などしたこともない、世に出てすらいない私の拙い小説を、目を細めて静かに聞いていた。最後まで一度も口を挟むことなく聞いているから、読み上げる私も自然と力が入ってしまう。読み終え、余韻と共に顔を上げると、彼はほろほろ、と、目から雫を溢していた。人が泣く姿を、こんなにまじまじと見たのは初めてだった。
「だ、大丈夫ですか、」
「えぇ。ありがとうございます。」
「あの、すみません、どうして私と、会っていただけることになったんでしょうか。」
ふるふる、と犬のように首を振った彼はにこり、と機械的にはにかんで、机に手を置き私を見つめた。かしゃり、と決して軽くない鉄の音が、無機質な部屋に響く。
「僕に大してアクションを起こしてくる人達は皆、同情や好奇心、粗探しと金儲けの匂いがしました。送られてくる手紙は全て下手に出ているようで、僕を品定めするように舐め回してくる文章ばかり。」
「...それは、お察しします。」
「でも、貴方の手紙には、「理解しない人間に理解させるため、言葉を紡ぎませんか。」と書かれていた。面白いな、って思いませんか。」
「何故?」
「だって、貴方、「理解させる」って、僕と同じ目線に立って、物を言ってるでしょう。」
「.........意識、していませんでした。私はただ、憶測が嫌いで、貴方のことを理解したいと、そう思っただけです。」
「また、来てくれますか。」
「勿論。貴方のことを、少しずつでいいので、教えてくれますか。」
「一つ、条件があります。」
「何でしょう。」
「もし本にするなら、僕の言葉じゃなく、貴方の言葉で書いて欲しい。」
そして私は、彼の元へ通うことになった。話を聞けば聞くほど、彼の気持ちが痛いほど分かって、いや、分かっていたのかどうかは分からない。共鳴していただけかもしれない、同情心もあったかもしれない、でも私はただただあくる日も、そのあくる日も、私の言葉で彼を表し続けた。私の記した言葉を聞いて、楽しそうに微笑む彼は、私の言葉を最後まで一度も訂正しなかった。
「貴方はどう思う?僕の、したことについて。」
「...私なら、諦めてしまって、きっと得物を手に取って終わってしまうと思います。最後の最後まで、私が満たされることよりも、世間を気にしてしまう。不幸だと己を憐れんで、見えている答えからは目を背けて、後悔し続けて死ぬことは、きっと貴方の目から見れば不思議に映る、と思います。」
「理性的だけど、道徳的な答えではないね。普通はきっと、「己を満たす為に人を殺すのは躊躇う」って、そう答えるんじゃないかな。」
「でも、乾き続ける己のままで生きることは耐え難い苦痛だった時、己を満たす選択をしたことを、誰が責められるんでしょうか。」
「...貴方に、もう少し早く、出逢いたかった。」
ぽつり、零された言葉と、アクリル板越しに翳された掌。温度が重なることはない。触れ合って、痛みを分かち合うこともない。来園者の真似をする猿のように、彼の手に私の手を合わせて、ただ、じっとその目を見つめた。相変わらず何の感情もない目は、いつもより少しだけ暖かいような、そんな気がした。
彼も、私も、孤独だったのだと、その時初めて気が付いた。世間から隔離され、もしくは自ら距離を置き、人間が信じられず、理解不能な数億もの生き物に囲まれて秩序を保ちながら日々歩かされることに抗えず、翻弄され。きっと彼の胸に空いていた穴は、彼が被害者を殺害し、埋めようと必死に肉塊を塗りたくっていた穴は、彼以外の人間が、もしくは彼が、無意識のうちに彼から抉り取っていった、彼そのものだったのだろう。理解した瞬間止まらなくなった涙を、彼は拭えない。そうだった、最初に私の話で涙した彼の頬を撫でることだって、私には出来なかった。私と彼は、分かり合えたはずなのに、分かり合えない。私の言葉で作り上げた彼は、世間が言う狂人でも可哀想な子でもない、ただ一人の、人間だった。
その数日後、彼が獄中で首を吊ったという報道が流れた時、何となく、そうなるような気がしていて、それでも私は、彼が味わったような、胸に穴が開くような喪失感を抱いた。彼はただ、理解されたかっただけだ。理解のない人間の言葉が、行動が、彼の歩く道を少しずつ曲げていった。
私は書き溜めていた彼の全てを、一冊の本にした。本のタイトルは、「今日も、皮肉なほど空は青い。」。逮捕された彼が手錠をかけられた時、部屋のカーテンの隙間から空が見えた、と言っていた。ぴっちり閉じていたはずなのに、その時だけひらりと翻った暗赤色のカーテンの間から顔を覗かせた青は、目に刺さって痛いほど、青かった、と。
出版社は皆、猟奇的殺人犯のノンフィクションを出版したい、と食い付いた。帯に著名人の寒気がする言葉も書かれた。私の名前���大々的に張り出され、重版が決定し、至る所で賛否両論が巻き起こった。被害者の遺族は怒りを露わにし、会見で私と、彼に対しての呪詛をぶちまけた。
インタビュー、取材、関わってくる人間の全てを私は拒否して、来る日も来る日も、読者から届く手紙、メール、SNS上に散乱する、本の感想を読み漁り続けた。
そこに、私の望むものは何もなかった。
『あなたは犯罪者に対して同情を誘いたいんですか?』
私がいつ、どこに、彼を可哀想だと記したのだろう。
『犯罪者を擁護したいのですか?理解出来ません。彼は人を殺したんですよ。』
彼は許されるべきだとも、悪くない、とも私は書いていない。彼は素直に逮捕され、正式な処罰ではないが、命をもって罪へ対応した。これ以上、何をしろ、と言うのだろう。彼が跪き頭を地面に擦り付け、涙ながらに謝罪する所を見たかったのだろうか。
『とても面白かったです。狂人の世界が何となく理解出来ました。』
何をどう理解したら、この感想が浮かぶのだろう。そもそもこの人は、私の本を読んだのだろうか。
『作者はもしかしたら接していくうちに、高山を愛してしまったのではないか?贔屓目の文章は公平ではなく気持ちが悪い。』
『全てを人のせいにして自分が悪くないと喚く子供に殺された方が哀れでならない。』
『結局人殺しの自己正当化本。それに手を貸した筆者も同罪。裁かれろ。』
『ただただ不快。皆寂しかったり、一人になる瞬間はある。自分だけが苦しい、と言わんばかりの態度に腹が立つ。』
『いくら貰えるんだろうなぁ筆者。羨ましいぜ、人殺しのキチガイの本書いて金貰えるなんて。』
私は、とても愚かだったのだと気付かされた。
皆に理解させよう、などと宣って、彼を、私の言葉で形作ったこと。裏を返せば、その行為は、言葉を尽くせば理解される、と、人間に期待をしていたに他ならない。
私は、彼によって得たわずかな幸福よりも、その後に押し寄せてくる大きな悲しみ、不幸がどうしようもなく耐え難く、心底、己が哀れだった。
胸に穴が空いている、と言う幻覚を見続けた彼は、穴が塞がりそうになるたび、そしてまた無機質な空虚に戻るたび、こんな痛みを感じていたのだろうか。
私は毎日、感想を読み続けた。貰った手紙は、読んだものから燃やしていった。他者に理解される、ということが、どれほど難しいのかを、思い知った。言葉を紡ぐことが怖くなり、彼を理解した私ですら、疑わしく、かといって己と論争するほどの気力はなく、ただ、この世に私以外の、彼の理解者は現れず、唯一の彼の理解者はここにいても、もう彼の話に相槌を打つことは叶わず、陰鬱とする思考の暗闇の中を、堂々巡りしていた。
思考を持つ植物になりたい、と、ずっと思っていた。人間は考える葦である、という言葉が皮肉に聞こえるほど、私はただ、一人で、誰の脳にも引っ掛からず、狭間を生きていた。
孤独、などという言葉で表すのは烏滸がましいほど、私、彼が抱えるソレは哀しく、決して治らない不治の病のようなものだった。私は彼であり、彼は私だった。同じ境遇、というわけではない。赤の他人。彼には守るべき己の秩序があり、私にはそんな誇り高いものすらなく、能動的、怠惰に流されて生きていた。
彼は、目の前にいた人間の頭にバールを振り下ろす瞬間も、身体をミンチにする工程も、全て正気だった。ただ心の中に一つだけ、それをしなければ、生きているのが恐ろしい、今しなければずっと後悔し続ける、胸を掻きむしり大声を上げて暴れたくなるような焦燥感、漠然とした不安感、それらをごちゃ混ぜにした感情、抗えない欲求のようなものが湧き上がってきた、と話していた。上手く呼吸が出来なくなる感覚、と言われて、思わず己の胸を抑えた記憶が懐かしい。
出版から3ヶ月、私は感想を読むのをやめた。人間がもっと憎らしく、恐ろしく、嫌いになった。彼が褒めてくれた、利己的な幸せの話を追い求めよう。そう決めた。私の秩序は、小説を書き続けること。嗚呼と叫ぶ声を、流れた血を、光のない部屋を、全てを飲み込む黒を文字に乗せて、上手く呼吸すること。
出版社は、どこも私の名前を見た瞬間、原稿を送り返し、もしくは廃棄した。『君も人殺したんでしょ?なんだか噂で聞いたよ。』『よくうちで本出せると思ったね、君、自分がしたこと忘れたの?』『無理ですね。会社潰したくないので。』『女ならまだ赤裸々なセックスエッセイでも書かせてやれるけど、男じゃ使えないよ、いらない。』数多の断り文句は見事に各社で違うもので、私は感嘆すると共に、人間がまた嫌いになった。彼が乗せてくれたから、私の言葉が輝いていたのだと痛感した。きっとあの本は、ノンフィクション、ルポルタージュじゃなくても、きっと人の心に突き刺さったはずだと、そう思わずにはいられなかった。
以前に働いていた会社は、ルポの出版の直前に辞表を出した。私がいなくても、普段通り世界は回る。著者の実物を狂ったように探し回っていた人間も、見つからないと分かるや否や他の叩く対象を見つけ、そちらで楽しんでいるようだった。私の書いた彼の本は、悪趣味な三流ルポ、と呼ばれた。貯金は底を尽きた。手当たり次第応募して見つけた仕事で、小銭を稼いだ。家賃と、食事に使えばもう残りは硬貨しか残らない、そんな生活になった。元より、彼の本によって得た利益は、全て燃やしてしまっていた。それが、正しい末路だと思ったからだったが、何故と言われれば説明は出来ない。ただ燃えて、真っ赤になった札が灰白色に色褪せ、風に脆く崩れていく姿を見て、幸せそうだと、そう思った。
名前を伏せ、webサイトで小説を投稿し始めた。アクセス数も、いいね!も、どうでも良かった。私はただ秩序を保つために書き、顎を上げて、夜店の金魚のように、浅い水槽の中で居場所なく肩を縮めながら、ただ、遥か遠くにある空を眺めては、届くはずもない鰭を伸ばした。
ある日、web上のダイレクトメールに一件のメッセージが入った。非難か、批評か、スパムか。開いた画面には文字がつらつらと記されていた。
『貴方の本を、販売当時に読みました。明記はされていませんが、某殺人事件のルポを書かれていた方��すか?文体が、似ていたのでもし勘違いであれば、すみません。』
断言するように言い当てられたのは初めてだったが、画面をスクロールする指はもう今更震えない。
『最新作、読みました。とても...哀しい話でした。ゾンビ、なんてコミカルなテーマなのに、貴方はコメをトラにしてしまう才能があるんでしょうね。悲劇。ただ、二人が次の世界で、二人の望む幸せを得られることを祈りたくなる、そんな話でした。過去作も、全て読みました。目を覆いたくなるリアルな描写も、抽象的なのに五感のどこかに優しく触れるような比喩も、とても素敵です。これからも、書いてください。』
コメとトラ。私が太宰の「人間失格」を好きな事は当然知らないだろうに、不思議と親近感が湧いた。単純だ。と少し笑ってから、私はその奇特な人間に一言、返信した。
『私のルポルタージュを読んで、どう思われましたか。』
無名の人間、それも、ファンタジーやラブコメがランキング上位を占めるwebにおいて、埋もれに埋もれていた私を見つけた人。だからこそ聞きたかった。例えどんな答えが返ってきても構わなかった。もう、罵詈雑言には慣れていた。
数日後、通知音に誘われて開いたDMには、前回よりも短い感想が送られてきていた。
『人を殺めた事実を別にすれば、私は少しだけ、彼の気持ちを理解出来る気がしました。。彼の抱いていた底なしの虚無感が見せた胸の穴も、それを埋めようと無意識のうちに焦がれていたものがやっと現れた時の衝動。共感は微塵も出来ないが、全く理解が出来ない化け物でも狂人でもない、赤色を見て赤色だと思う一人の人間だと思いました。』
何度も読み返していると、もう1通、メッセージが来た。惜しみながらも画面をスクロールする。
『もう一度読み直して、感想を考えました。外野からどうこう言えるほど、彼を軽んじることが出来ませんでした。良い悪いは、彼の起こした行動に対してであれば悪で、それを彼は自死という形で償った。彼の思考について善悪を語れるのは、本人だけ。』
私は、画面の向こうに現れた人間に、頭を下げた。見えるはずもない。自己満足だ。そう知りながらも、下げずにはいられなかった。彼を、私を、理解してくれてありがとう。それが、私が愛読者と出会った瞬間だった。
愛読者は、どうやら私の作風をいたく気に入ったらしかった。あれやこれや、私の言葉で色んな世界を見てみたい、と強請った。その様子はどこか彼にも似ている気がして、私は愛読者の望むまま、数多の世界を創造した。いっそう創作は捗った。愛読者以外の人間は、ろくに寄り付かずたまに冷やかす輩が現れる程度で、私の言葉は、世間には刺さらない。
まるで神にでもなった気分だった。初めて小説を書いた時、私の指先一つで、人が自由に動き、話し、歩き、生きて、死ぬ。理想の愛を作り上げることも、到底現実世界では幸せになれない人を幸せにすることも、なんでも出来た。幸福のシロップが私の脳のタンパク質にじゅわじゅわと染みていって、甘ったるいスポンジになって、溢れ出すのは快楽物質。
そう、私は神になった。上から下界を見下ろし、手に持った無数の糸を引いて切って繋いでダンス。鼻歌まじりに踊るはワルツ。喜悲劇とも呼べるその一人芝居を、私はただ、演じた。
世の偉いベストセラー作家も、私の敬愛する文豪も、ポエムを垂れ流す病んだSNSの住人も、暗闇の中で自慰じみた創作をして死んでいく私も、きっと書く理由なんて、ただ楽しくて気持ちいいから。それに尽きるような気がする。
愛読者は私の思考をよく理解し、ただモラルのない行為にはノーを突きつけ、感想を欠かさずくれた。楽しかった。アクリルの向こうで私の話を聞いていた彼は、感想を口にすることはなかった。核心を突き、時に厳しい指摘をし、それでも全ての登場人物に対して寄り添い、「理解」してくれた。行動の理由を、言動の意味を、目線の行く先を、彼らの見る世界を。
一人で歩いていた暗い世界に、ぽつり、ぽつりと街灯が灯っていく、そんな感覚。じわりじわり暖かくなる肌触りのいい空気が私を包んで、私は初めて、人と共有することの幸せを味わった。不変を自分以外に見出し、脳内を共鳴させることの価値を知った。
幸せは麻薬だ、とかの人が説く。0の状態から1の幸せを得た人間は、気付いた頃にはその1を見失う。10の幸せがないと、幸せを感じなくなる。人間は1の幸せを持っていても、0の時よりも、不幸に感じる。幸福感という魔物に侵され支配されてしまった哀れな脳が見せる、もっと大きな、訪れるはずと信じて疑わない幻影の幸せ。
私はさしずめ、来るはずのプレゼントを玄関先でそわそわと待つ少女のように無垢で、そして、馬鹿だった。無知ゆえの、無垢の信頼ゆえの、馬鹿。救えない。
愛読者は姿を消した。ある日話を更新した私のDMは、いつまで経っても鳴らなかった。震える手で押した愛読者のアカウントは消えていた。私はその時初めて、愛読者の名前も顔も性別も、何もかもを知らないことに気が付いた。遅すぎた、否、知っていたところで何が出来たのだろう。私はただ、愛読者から感想という自己顕示欲を満たせる砂糖を注がれ続けて、その甘さに耽溺していた白痴の蟻だったのに。並ぶ言葉がざらざらと、砂時計の砂の如く崩れて床に散らばっていく幻覚が見えて、私は端末を放り投げ、野良猫を落ち着かせるように布団を被り、何がいけなかったのかをひとしきり考え、そして、やめた。
人間は、皆、勝手だ。何故か。皆、自分が大事だからだ。誰も守ってくれない己を守るため、生きるため、人は必死に崖を這い上がって、その途中で崖にしがみつく他者の手を足場にしていたとしても、気付く術はない。
愛読者は何も悪くない。これは、人間に期待し、信用という目に見えない清らかな物を崇拝し、焦がれ、浅はかにも己の手の中に得られると勘違いし小躍りした、道化師の喜劇だ。
愛読者は今日も、どこかで息をして、空を見上げているのだろうか。彼が亡くなった時と同じ感覚を抱いていた。彼が最後に見た澄んだ空。私が、諦観し絶望しながらも、明日も見るであろう狭い空。人生には不幸も幸せもなく、ただいっさいがすぎていく、そう言った27歳の太宰の言葉が、彼の年に近付いてからやっと分かるようになった。そう、人が生きる、ということに、最初から大して意味はない。今、人間がヒエラルキーの頂点に君臨し、80億弱もひしめき合って睨み合って生きていることにも、意味はない。ただ、そうあったから。
愛読者が消えた意味も、彼が自ら命を絶った理由も、考えるのをやめよう。と思った。呼吸代わりに、ある種の強迫観念に基づいて狂ったように綴っていた世界も、閉じたところで私は死なないし、私は死ぬ。最早私が今こうして生きているのも、植物状態で眠る私の見ている長い長い夢かもしれない。
私は思考を捨て、人でいることをやめた。
途端に、世界が輝きだした。全てが美しく見える。私が今ここにあることが、何よりも楽しく、笑いが止まらない。鉄線入りの窓ガラスが、かの大聖堂のステンドグラスよりも耽美に見える。
太宰先生、貴方はきっと思考を続けたから、あんな話を書いたのよ。私、今、そこかしこに檸檬を置いて回りたいほど愉快。
これがきっと、幸せ。って呼ぶのね。
愛読者は死んだ。もう戻らない。私の世界と共に死んだ、と思っていたが、元から生きても死んでもいなかった。否、生きていて、死んでいた。シュレディンガーの猫だ。
「嗚呼、私、やっぱり、
7 notes · View notes
kurihara-yumeko · 4 years
Text
【小説】氷解 -another- (上)
 誰かを傷つけた後は、自分も傷を負う。
 殴った後にその手が痛むように、それは代償として、必ず負うことになる。一方的に相手を痛めつけるなんて芸当はできない。そんな勝手は許されないのだ。傷つけた分は、傷つかなくてはいけない。たとえその痛みが、平等ではないにしても。
 傷つけるとわかっていて手を下した時は、なおさら性質の悪い傷が残る。その音が聞こえてきそうなほどに心が軋んだのを感じたり、予想通り、耐え切れなくなった涙が溢れ落ちていくのを見たりするのは、そんな風に誰かを傷つけるのは、堪える。
 いつだってそうだ。特に、怒りに任せて部下を怒鳴りつけてしまった後は。
「やっぱり、ここにいたのか」
 窓辺に腰かけ、眼下に広がる灰色の街を見下ろしていると、そんな声と共に、缶コーヒーが現れた。手に取ったそれは温かく、俺は咥えていた煙草を口元から離す。
「貝塚……」
 目線を上げて顔を見やると、その男は自分の煙草に火を点けるところだった。
「お疲れさん。さっきはすげぇカミナリ落としてたなぁ。聞こえてたぞ、こっちのブースにまで」
 貝塚はそう言って、わざとらしく笑って見せる。俺は思わず、大きな溜め息をついた。
「……一週間前に、会議の資料を作るように頼んだんだよ。今日の、重要な会議に使うやつを。それが昨日になっても出来上がってこなくて、ギリギリになってやっと持って来たと思ったら、印刷はめちゃくちゃで、おまけに、数字は一年前のデータだった」
「高倉さんかぁ。可愛いし愛想もいいんだけど、仕事がいまいちなんだよねぇ」
「資料を全部作り直すには時間がなかった。そのまま使うしかないと断念したが、数字が間違ってるんじゃ、先方だってこちらを信用できないだろう。だから耐え切れず、高倉を責めちまった。『重要な会議だって言ってあったのに、どうしてこんな』ってな」
 重要な会議の資料なんて、部下に任せず自分ひとりで作成すればよかった。もっとこまめに資料作りの進捗を確認しておけばよかった。前日のうちに残業させてでも資料を完成させて、修正する時間を今日に残しておくべきだった。
 そんな後悔が、喫煙室に紫煙となって立ち込める。
「……そしたら、あいつ、なんて返事をしたと思う?」
 貝塚は煙草を咥えたままで返事をしなかった。俺は続けて言う。
「『だって、私にとっては重要なことじゃないですし』、だとよ」
「……それで、高倉さんのことを思いっきり怒鳴りつけちゃったってことか」
 そう言う貝塚の口元は笑っていたが、その目は少しも俺のことを馬鹿にしてなどいなかった。
「あんな怒鳴られたら、高倉さん、泣いちゃったんじゃない?」
「……泣いてたよ」
 俺は力なくそう答える。
 さっき見た光景が、まぶたの裏から焼き付いて離れない。高倉はまるで子供のように、大粒の涙を零して泣いていた。私は悪くない、とでも言うように、俺のことを睨んでいた。ぽろぽろ、ぽろぽろと泣きながら、本当は文句を言いたいのであろう唇から、絞り出すように「すみませんでした」とだけ言って、それでも眼光は鋭かった。俺を非難する目だった。
「可愛い女の子を泣かせちゃったら、そりゃあ、後味悪いよねぇ」
 貝塚の苦笑に、同情の色を感じ取る。
 所属する部署も役職も異なるが同い年の貝塚は、社内で気兼ねなく話せる同僚のひとりだ。ライターを貸してやったのがきっかけで、喫煙室で言葉を交わす仲になった。
「まぁ、そんなに落ち込まないで。縞本だけが悪い訳じゃないだろ」
「……そうだな」
 どうやら、俺を励ましに来たつもりらしい。それをありがたいと感じる反面、隣の部署のやつに気を遣わせるほど部下を怒鳴りつけるなんて、と、また後悔が生まれる。放って置くとどこまでも、俺の内側から後悔ばかりが滲み出てくるような気がする。
「高倉さんの方には、井荻さんが行ってくれたから、大丈夫だと思うよ」
 缶コーヒーのプルタブを開け、一口飲もうとしたところだった。俺は思わず、動きを止めていた。
「井荻が……?」
「ちょうど定時だったから。更衣室で高倉さんと一緒になるだろうと思って、残業しないでもう帰るように伝えたんだ。あのふたり、大学時代の先輩と後輩なんだろう?」
「ああ…………」
 井荻。
 井荻沙織。
 俺は、あの澄んだ瞳に見つめられると、なんて呼べばいいのかわからない、複雑な感情を抱かずにはいられない。
 だが貝塚からその話を聞いて、多少、安堵できた。あいつが高倉の面倒を見てくれるなら、安心だ。
「そういえば高倉さん、春までに辞めちゃうんだって?」
 コーヒーを飲んでひと息ついていると、貝塚が思い出したようにそう言った。
「そうらしい。俺も次長からそう聞いた」
「高倉さん、辞めるってことを直接次長に伝えたのか。直属の上司は縞本なのに、それを飛び越して」
「『もうあんな人の下で働きたくないです』だとさ」
「ははは、そりゃあ確かに、縞本に直接は言えないよなぁ」
 貝塚は煙を吐き出しながら、朗らかに笑った。それから妙に意地の悪い笑みを浮かべると、声を落としてささやくように言う。
「高倉さんが辞めるんだったら、うちの課の井荻さん、そっちに異動させちゃおうか?」
「余計なことしなくていいぞ」
 コーヒーをあおる。缶コーヒーは、飲めないほど不味くもなければ、また飲みたいと思わせるような美味さもない。
「ああ、そうか。縞本も、春で異動なんだっけ」
「��州にな」
「大出世じゃないか」
「正直、あまり嬉しくはないな」
「寂しくなるね」
「……そうだな」
 貝塚が灰皿に煙草をこすりつけ、口から最後の紫煙を吐いた。俺はすっかり短くなった煙草を灰皿の中へと落とす。
 吹きつける風に、ガラスが小さく揺れる音がした。窓の外は曇天で、今にも雪がちらつきそうな、重たい雲で埋め尽くされている。風が強いのだろう、雲の流れが速い。
 すっかり暗くなった街を行く人々は、皆黒っぽい装いに見えた。春の訪れなど、微塵も感じさせない景色。
 だが、春は必ずやって来る。そしてその時、俺はもうここにはいない。
「コーヒー、ありがとな」
 礼を言うと、貝塚は目を伏せたまま片手を挙げて俺に応えた。もう一本吸ってから仕事に戻るつもりらしい、次の煙草を咥えていた。俺は喫煙室を出て、三階の営業部フロアに戻るため、階段に向かって歩き出す。
「――正直、もうあんな人の下で働くことに耐えられないっていうか」
 廊下を歩いていたら、そんな声が聞こえた。ちょうど、女子更衣室の前だった。
「縞本さんって、正直、人の心がわ���らないんだと思うんですよね。……あ、」
 更衣室の扉が開くと同時に、声の主は口をつぐむ。見れば、高倉志保だった。制服から着替え、今から帰社するところのようだ。まだ泣いていたのか、その目は赤く、潤んでいる。
 高倉は俺の顔を見て咄嗟に、もうひとりいた女子社員の後ろへと隠れた。そのもうひとりは、井荻沙織だった。
 ふたりは、今日俺が叱責したことについて、話をしていたのだろう。俺は思わず、足を止めていた。高倉は井荻の陰で動かないまま、こちらを見ようとしない。何か言葉を発しようともしない。
 俺は彼女にとって、顔も見たくない相手なのかもしれない。口にした言葉が俺を非難する内容であっても、それを即座に謝罪する気にもならないのかもしれない。上司の陰口を叩くのは良くないことかもしれないが、それは恐らく、高倉の本心であるに違いない。
 こんな人間の下で働きたくないと、そう言って泣く彼女を否定するのは、間違っている。退職を決め、次長にそう告げた彼女の感情は、本物だ。それをあれこれ言うのは間違いだ。少なくとも俺に、そんな権限はない。
 だがこの苛立ちは、どこへ向かわせればいいのだろうか。
 俺は小さく息を吸い、波立つ自分の感情を抑制する。
「井荻、」
「あ、はい」
 呼ばれた井荻は一瞬、きょとんとした表情をしたが、すぐに返事をした。
「今日、行くのか?」
「はい。行きます」
 どこに、と言わなくても、井荻はそう返事をした。ちゃんと通じたようだ。
「あっそ」
 高倉のいる前で、それ以上の長話をする気にはなれなかった。俺は再び歩き始める。階段を登り、定時を過ぎたがまだ半数近い社員が残っている営業部フロアへと足を踏み入れる。
 俺の机の上には、まだやらなければいけない仕事が積んであった。目の前の書類に集中しろ。自分にそう言い聞かせる。とりあえずは、今日の会議の大失態の後処理だ。どうやって先方の信頼を回復するか。まずは、それから考えよう。
「……人の心がわからない、か」
 仕事に取りかかろうと思っているにも関わらず、先程の高倉の言葉をつい反芻してしまう。誰かからそう言われたのは、これが初めてという訳ではなかった。思い出す。土下座して、額を畳にこすりつけて頭を下げていても、罵声を浴びせられ続けたあの日のこと。
 ――あなたは自分のことが、図々しいとは思わないんですか。私たちの心なんて、あなたにはわからないんでしょうね。
 そんな風に言ったあの人の言葉を、今でもときどき、夢に見る。その言葉は後悔となって、感情を掻き乱し、俺のことを痛めつける。
 俺は誰の心もわからない。わかりようがない。たとえばそれは、上司に叱責された部下の、責任を逃れたいという甘い言い訳であり、あるいは、息子の自殺を止めることができないでいた、ふがいない親である自分たちへの怒りであり、もしくは、素直に感情を口にすることができなかった、恋人に対しての猜疑心だ。
 俺はそういった誰かの感情を、わからないままでいる。わからないから他者を傷つけ、そうして、俺自身も傷を負ってきた。傷つけたのと同じ数だけ、痛みを感じた。
 そしてそんな俺の心も、誰にも理解などされない。
 だが、わかってなんてくれなくていい。共感も同情も、必要とは感じない。ありふれた安易な言葉で癒されたいと思うほど、俺はまだ堕ちてはいない。
「……わからなくって、結構だ」
 そう、独り言をつぶやいたら、やっと仕事に取りかかる気になった。
 今の俺にはすべきことがあり、それは誰かの傷を癒すことではない。
 たとえそれが、自分自身の傷なのだとしても。
    人間が自殺するきっかけなんて、ほんの些細なことにすぎないということを、俺は知っているはずだった。
 ある年の、気が滅入るような雨と湿度の高い日々が終わらないでいた七月の初め、前職の会社で働いていた俺は、この春に入社した新入社員のひとりが自殺をしたという報告を部長から受けた。自殺した井荻公介は、俺が初めて受け持った部下のひとりだった。
 その報告を受けた時、「一体、どうして」という疑問が湧き、そして同時に、その疑問を掻き消すかのように、「人が死ぬ理由は、大層なものとは限らないよな」と思う自分がいた。
 井荻公介が自殺した理由を、俺は知らなかった。だが、彼が時折、暗い顔をして机に座っているのを見たことはあった。かと言って、死を覚悟して思い詰めているという風にも見えなかった。俺と話をする時はいつだって朗らかであったし、冗談を言って周囲を笑わせることだってあった。時間の空いた時や飲み会の席では世間話をすることもあったが、プライベートなことを深く聞いたことはなく、たとえばまだ独身だった彼に恋人がいるのかとか、両親や家族と上手くやっているのか、そういったことは知らなかった。
 だから部長から、「縞本、最近、井荻くんに何か異変とかなかったか?」と尋ねられた時、正直に、「少し沈んだ様子の時もありましたが、深刻そうな様子ではありませんでした」と答えた。
 その時、部長が妙に神妙な顔つきになり、「そうか……」と、独り言のようにつぶやいて深く頷いていたことに、俺は違和感を覚えたが、部長の様子が何を危惧しているのかはわからなかった。後になってから思い返してみると、恐らく部長は、この時すでに、この先に起こり得るであろう未来を予想していたに違いなかった。
 井荻公介が自ら命を絶ったということはショックではあったが、それはどこか、俺の手が及ばない、遠くの出来事であるようにも感じられた。実際、その後の俺にできたことは、彼が受け持っていた仕事を整理し、他の部下たちに割り振ることだけだった。
 仕事を片付けているうちは、彼がすでにこの世にいないという事実は実感できなかった。それは葬儀に参列している時だけは別であったが、結局、社内の自分の机に座っている間は、井荻公介は病欠で長期休養しているのと変わらない気持ちでいた。彼が突然の不在となって混乱したのは最初の一週間程度で、それを過ぎてしまえばいつも通り、机に積まれていく書類を右から左へと処理していくだけだった。
 その状況が一変したのは、彼の両親が、彼の遺書を手に会社を訪ねて来た時で、そしてその時初めて、井荻公介が「上司からパワーハラスメントを受けていることが苦痛でたまらない」ということを理由に、自らの手で命を絶つと、そう書き残していたことを知った。
 俺を含め、井荻公介と同じ課に所属する社員たちは、常務と役員が待つ会議室にひとりずつ呼び出され、面談を受けた。二週間にも及んだ聞き取り調査の結果、井荻公介に嫌がらせをしていたのは課長であったということが判明し、これには多くの社員がそう証言したことによって、ほぼ確定だと判断された。
 確かに、入社直後から、課長と井荻公介は折り合いが悪かった。それは恐らく、ふたりの性格が真っ向から正反対であったということと、自身の学歴を鼻にかけている節があった課長より、さらに有名な大学を井荻公介が卒業していたということが、そもそもの原因であるように思われた。
 俺は何度か、課長が井荻公介を指導しているところに居合わせ、時に過剰なのではないかと思うほど叱責をされている時、間に入ってそれを止めたことがあった。仲裁に入ると、課長はそれ以上彼を叱ることはしなかったが、「そもそも、井荻がこんな体たらくなのは、直属の上司であるお前がしっかりしないからだ」と、怒りの矛先を俺へと向けた。
「井荻には、俺からよく言って聞かせますので」と頭を下げても、俺に対する課長の文句はすぐには止まなかった。十五分以上にわたる説教から解放され、自分の席へと戻った時、隣の席の井荻は少しほっとしたような顔をしていた。課長にはわからないように、声を出さないまま「ありがとうございます」と井荻の口元が動いた時、俺は小さく苦笑して、「別に、気にすんなよ」と声をかけたものだ。
 そうやって気にかけてはいたが、結局のところ、井荻公介は俺の目が届かないところで課長から嫌味を言われ、嫌がらせをされ、日々少しずつその心に傷を負っていっていたのだった。
 同じ課の社員たちは、自らの上司を糾弾することを恐れ、「これは同じ課の人から聞いた話なんですが……」などという前置きを挟み、あたかもそれが、直接自分が見たり聞いたりしたのではないとしながらも、課長がどんな回りくどい手を使って優秀な新入社員をいたぶっていたのかを話した。それは、まるでクラスの悪ガキが考えつきそうないかにも幼稚なものから、思わず耳を疑いたくなるようなものまであったが、結局のところ、課長からパワーハラスメントが行われていたことには違いないと、役員たちには判断された。
 そこで、ひとつの問題が持ち上がった。いけ好かないこの課長は、社長の遠い親戚筋に当たる人物だった。そういった後ろ盾があるにも関わらず、いつまでも課長のまま昇進しないのは、それだけこの課長が無能であるということの何よりの証明であったのだが、役員たちはこの課長を庇うことを決断したらしかった。課長が新入社員にパワーハラスメントをして自殺にまで追い込んだという事実は、会社の信頼の大きな損失に繋がり、ただでさえ低迷している直近の売上額がさらに低下するのは避けられない。そう考えた役員たちは、俺に貧乏くじを引かせた。
 井荻公介に対するパワーハラスメントは存在しなかった。だが、直属の上司である俺には、監督不行き届きなところがあった。
 結局、社内では「そういうこと」として処理がされた。
 俺はその責任を負い、退職勧告の処分を受けた。それはつまり、俺が井荻を死に追いやったのだと、そういう解釈になってもおかしくはない結果だった。
 その話を部長から告げられた時、いつも頼れる上司であったはずの部長が、なんとも悲痛な面持ちでうつむいていたことを、まるで昨日のことのように思い出せる。
「役員たちには抗議したんだが……。すまんな、縞本。俺の力不足だ」
「いえ……。井荻のことをもっとちゃんと見てやれなかった、俺にも責任がありますから……」
「すまんな……本当に、すまん」
「部長、もういいですよ」
「すまん…………」
 部長はこのことがよっぽど後ろめたかったのだろう、「知人に会社を経営している人がいて、その人にお前のことを雇ってもらえないか、なんとか頼み込んでやるから」と、次の就職口の世話までしてくれた。俺の処分も、懲戒解雇にならずに勧告で済んだのは、この人の尽力があったからだった。
 途端に、俺の両肩に、井荻公介の死は重くのしかかってきた。不思議な話だが、その重量を知って初めて俺は、井荻の死を実感として受け止めることができたのだった。つまりそれは、取り返しのつかない、拭い去ることのできない現実で、それは過去のものではなく、未来にまで影響を及ぼす絶対的な事実だった。
 井荻公介の両親のもとへ、謝罪のために訪ねた頃、長かった梅雨はようやく明け、代わりに俺は、容赦のない日射しに焼かれ続けていた。
 週末の昼下がりに訪れた井荻家は、外の熱気などまるで嘘のように、空気は重く凍てついていて、それは最愛の息子を突然失った両親の、怒りと悲しみが入り混じって吐き出される冷気だった。
 異様とも思えるほどの存在感を放つ真新しい仏壇が置かれた和室で、俺は井荻公介の遺影と並んで座ったその両親の前、自分が彼の直属の上司であることと、社内にパワーハラスメントの事実はなかったということを伝えた。
 その途端、ふたりは激昂し、俺のことを非難した。
「そんな言葉は嘘だ、公介は上司からのパワーハラスメントを苦に自殺したのだ」、と。
「公介は、私たちの最愛の息子は、あなたのせいで死んだのだ」、と。
「あなたが、殺したのだ」、と。
 そうだ。俺の言葉は、真っ赤な嘘だ。井荻公介を苦しめていたパワーハラスメントは実際にあった。だが苦しめていたのは俺じゃない。課長だ。俺は以前から、あの課長が気に食わなかった。俺だけじゃない。社内で課長を好いている人間なんて、恐らくいない。皆、表立って声や顔に出��ないだけで、あの人のことを嫌っている。なのに、誰も口出しできなかった。だから井荻公介は死んだ。俺が、俺たちが殺したのも同然だ。見ていたのに。聞いていたのに。誰も止めなかった。誰も助けなかった。だから、井荻公介は。自らの手で、命を――。
「沙織、そこで何をしているの」
 井荻公介の母親がそう言った声で、俺は思わず、下げ続けていた頭を上げそうになった。目線だけ動かして仰ぎ見る。
 和室の入り口に、ひとりの少女が立っていた。黙ったまま、こちらをじっと見ている。高校の制服を着て、エナメルのスポーツバッグを肩から提げていた。日焼けした額に、汗で前髪が張り付いている。今日は土曜日だから、学校は休みなんじゃないのか。部活動の練習でもあって、その帰りなのだろうか。
「帰ってきたら、ただいまって言いなさいって、いつも言ってるでしょう」
 少女は俺と目が合っても、挨拶の言葉を発しないどころか、会釈のひとつもしなかった。ただ、何かを探ろうとしているような深い瞳で、俺のことを見つめていた。その仕草は、死んだ井荻公介に似ていた。それからやっと、井荻には妹がひとりいるらしいことを思い出し、この少女こそが、その妹なのだとわかった。
「もういい、二階へ行っていなさい」
 父親がそう言うと、少女は返事もしないまま、俺からふっと目線を逸らして、廊下の向こうへと歩いて行った。やがて、階段を登って行く音が聞こえてくる。
「……すみません。今のが、娘の沙織です」
 どこか落胆したような声音で、父親がそう言った。
「以前から、あまりおしゃべりな子ではなかったのですが、公介が亡くなってからは、口数がほとんど……」
 肩を落として言う父親の姿は憔悴しきっていた。ついさっき、「出て行ってくれ。もう二度と、この家の敷居を跨がないでくれ」と、菓子折りの箱を投げつけてきたのが嘘のようだ。
 だがそれは、そのひと時だけだった。父親はそう口にしたことで、息子が死んだのは、今目の前にいるこの男のせいだということを思い出したようだ。ぷつぷつと汗が噴き出していくかのように、俺への非難が始まっていく。
 俺はふたりの前で頭を下げ続けた。何を言われても、会社から言われた通りのことを、言われたように繰り返した。パワーハラスメントはありませんでした。そういった事実は確認できませんでした。
 井荻の両親はそれを否定し続けた。嘘つき、嘘つき。人殺し人殺し人殺し。息子を返して。私たちの息子を返して。
「あなたは自分のことが、図々しいとは思わないんですか。私たちの心なんて、あなたにはわからないんでしょうね」
 母親が吐き捨てるようにそう言って、それから、わっと泣き出した。今日何度目かになる嗚咽を漏らしながら、不明瞭な声で息子の名を呼ぶ。
 呼ばれた息子は遺影の中で、穏やかな笑みを浮かべている。その笑みは、もうこの先、絶えることがない。彼はずっと微笑んだままだ。実際の井荻公介は、もう二度と笑うことも、母親に返事をすることもできないのに。
「もう、お引き取りください」
 父親が、耐えかねたようにそう告げた。
「あなたが来ることは、公介の供養にはなりませんから。もう、結構です」
 窓の向こうから、蝉の鳴き声がする。母親はおいおいと泣き崩れている。俺が持参した菓子折りの箱が、ひしゃげて畳に落ちている。蛍光灯の点いていない、昼間でも薄暗い部屋で、仏壇の蝋燭の火がゆらゆらと揺れる。
 ああ。
 俺はこんな光景を、以前にも見たことがあった。
 真奈が死んだのも、こんな暑い日のことだったっけ。
 あんな風に遺影の中で、ただ静かに笑っていたっけか。
 ※『氷解 -another-』(下) (https://kurihara-yumeko.tumblr.com/post/634221127908098048/) へと続く
2 notes · View notes
sonezaki13 · 4 years
Text
※サークル内企画「自分の過去作品をリメイクしよう!」で書いた作品です。
高2の時の作品「しとしと降る雨のリズム」のリメイクです。オリジナル版は下にあります。
中途半端なモブキャラF②
「嬉しいなぁ」
 クマを買った帰り道、エミはにこにこしていた。きっと今だってエミはあの時のままの気持ちなんだろう。いや、さすがにそれは私のただの願望か。
「そんなに嬉しい?」
 手にとってクマばかり見ているので何度も自転車に轢かれそうになるエミの手を引きながら私は訊いた。
「とってもとっても嬉しいよ」
 クマにアテレコしながらエミは答えた。親指と人差し指で器用にパタパタとクマの手を動かし、顔を隠して照れさせたりする。どうしてエミはこんなに私に懐いているのだろう。何が好きなんだろう。どこも良いところがないのに。魅力なんて一つもない。エミが私と一緒にいるメリットがない。
「私なんかとお揃いで何が良いんだか」
 赤信号の向こうで細い雲が流れている。空が高い。
「私はユイちゃんがいなかったらダメダメだよ」
 はいはい、と聞き流す。エミはいつも優しい。良い子だ。誰にでもだ。私がいなくたってエミは強くて優しいだろう。エミが外国人に道案内している時も、うずくまっているおばあさんに声をかけて救急車を呼んでいる時も、私はぼーっと突っ立って、いないふりをしていた。関係ないですよ、とモブに徹していた。なぜそれで私を見損なわないのか、見放さないのか。むしろ不自然だ。何を企んでいるんだ。いや、きっと、エミが優しすぎるせいだろう。企みがあるならさすがにもう実行してるはずだ。あまりにも一緒に過ごした時間が長すぎる。エミは私を見捨てられない。エミはこの通り私にとにかく甘いので、私はどんどん弱くなる。依存させられているような気もする。ダメにさせられている。エミのせいで私は嫌な奴なのかもしれない。でも別に良いや。エミが助けてくれるし。エミがいるから、私はいつもエミ頼みだ。エミがいなかったら友達いないもん。
「人を助けたいとか、心配、とか初めて思ったのが、タコ公園でユイちゃんを見た時なんだよ」
 エミは横断歩道の白いところだけを楽しそうにひょこひょこ歩いた。私はそれを見ながらのそのそと歩く。
「記憶力すごいねー。えらいえらい」
「あー! 信じてないでしょ」
 エミがむすっと膨れる。きっとエミの中ではそういうつもりなのだろう。そんなのどうせ勘違いなのに。だから私なんかに懐いているのだ。私がこんなに性格が悪いのに、クラスで浮かないのも、いじめられないのも、エミの明るさのお陰だ。エミはクラスの他の仲良しグループとも上手くやっている。私はエミがいないと一人ぼっちだけど、エミは違う。エミはどこへでも行けるし、何でもできる。きっとそのうち自分の勘違いに気付いて、私なんていらなくなるだろう。エミの目と頭がまともになったら、私がエミに見捨てられるのだ。私なんかに構うのはエミがどこかイカれてるからだろう。まともになったら嫌われるに決まってる。
「汚い」
 明らかに自分からぶつかりに行ったくせにチサトは死んだ顔で吐き捨てた。どんどんエスカレートしていく。きっとまだまだ酷くなる。
「ゴミの菌で死んじゃうー」
 取り巻きがまたふざけて騒ぎ出す。エミとぶつかったチサトの肩を大袈裟に拭いて、別の子にタッチする。
「何すんのキモすぎ」
 きゃーきゃーと黄色い声をあげながら、鬼ごっこが始まる。触られたところを大袈裟にごしごしと擦る。
「ゴミちゃん洗ってあげるよ。このままじゃ汚すぎて死んじゃうよ。ゴミちゃんを綺麗にしてあげる。ほら」
 鬼ごっこをしていた子分Cがエミをトイレに連れて行こうとする。汚い汚いと騒いでいたくせに動こうとしないエミの腕を掴んで引っ張る。加勢が来て、笑いながら背中を押したり、小突いたりしている。そして思い出したように「もう、触っちゃったじゃん」などと言いながら、うへぇという顔をしてみせる。
 誰か来ないだろうか。大人とか、正義感あふれるヒーローとか。先生とか見回りに来れば良いのに。誰かモブじゃない人。いや、先生が来たって無駄だ。助けてくれない。私たちを助けてくれる人なんていないのだ。チサトたちも馬鹿じゃないので目立つ時間帯でエミをいじめることもない。それに、救世主が現れたところで私たちはこの事実を隠すだけだろう。そして「本当に何でもないんだな」と念押しされたのを頷き、去られたところで落胆するのだ。結局は無駄。関係ない人しかいないのでどうしようもない。
 一度、勇気あるクラスメイトによって担任に告発され、学級会が開かれた。その子にとっては関係があったんだろうか。しかし、告発者は匿名だった上、エミも黙り込んでいて、結局はチサトたちの説明だけで終わった。結局モブはモブ。役に立たないし無駄だった。その時の説明だと、チサトとエミが喧嘩をして小突き合いになったのだということだったので、チサトとエミはお互いに「ごめんなさい」を言い合わさせられ、私たちは拍手をした。茶番だ。バカバカしい。でも誰も茶番だなん��指摘しなかった。ただモブたちは何の責任も負わず、勝手にがっかりしていた。チサトたちがいない休み時間の会話には、先生の対応への落胆が色濃く出ていた。しかし、誰一人そんなことが言える権利なんてないのだ。だって、主張してない。今だってもしヒーローが現れても、私たちは素知らぬ顔をするのだろう。だってモブだし。むしろ隠蔽に協力するのだろう。自分は悪くない、関係ない、気付いてくれない、助けてくれないのが悪い。関係ないから仕方ない。
 無駄に正義感の強そうな英語教師が、ラクガキされたエミの机やノートを見つけ「誰にされた」と騒ぎ出したことがあったが、今度は、何度訊かれても「自分でやった」とエミがきっぱり言い切ったことで、先生から気味悪がられただけで終わった。エミもまた素知らぬ顔をして隠蔽に協力している。一番の当事者なのに何故なのだろう。まるで傍観者だ。らしくない。いや、未だにチサトを可哀想と思っているのだろうか。エミならあり得る。まだチサトを助けようと思っているのかもしれない。何でそこまでするのだろう。チサトになんてそんなに構ってやる義理はない。チサトが犯されて、虐待されても、地獄に堕ちても、私には関係ない。勝手にされてれば良いし、勝手に地獄に行けと思う。むしろ地獄に堕ちろ。
「ゴミちゃん、頭うんこ臭いんじゃない?」
 トイレからずぶ濡れのエミが出てくる。廊下に出てきているのに、にやにや笑いながら子分がエミの背中をデッキブラシで擦っている。まだ新しい鮮やかな緑。毛がしっかりとしていて、痛そうだ。
「こいつ便器に頭突っ込んで水流で洗ったんだよ。やばくない? 」
 手を叩いて笑いあっている。自分でやるわけがない。どうせやらせたのだろう。最低だ。いや、でも今日はマシだ。便器に投げ捨てられたお弁当を食べさせられていた日もあった。それに比べればマシだ。腹を壊したり、吐いたりする危険性はない。濡れたままだと風邪を引くかもしれない程度の危険性なので、今回のはまだ良かった。大丈夫。マシだ。エスカレートの一方ではなかったということだ。そうだ。そのうち飽きないだろうか。飽きてくれれば良い。ただの遊びならどうせそのうち飽きる。
 やはりエミもチサトも気持ち悪いほどの無表情だった。もう何も感じないようにしている。何も見ないようにしている。知らないふりをして生きている。気付いてないふり。分からないふり。彼女たちもまた、私のような傍観者に近いのだ。
「死んでよ。汚れてる。どんだけ磨いてあげても綺麗になんないよ。生きてたってどうせ逃げられない。死んだ方が良い」
 ゴシゴシとデッキブラシで擦られるエミに向かってチサトは言った。なんだかエミはぽかんとしている。もうここにはいないのだろうか。
 チサトはきっと自分自身に言っている。これは他人を使った自傷行為なのだ。優しいエミを凶器にして。エミが何でこんな目に遭わないといけないのか。前世で殺人でもしたんだろうか。いや、前世なんかないし、死んだら終わりだ。エミのどこに落ち度があったんだろう。「あの子ももっと反抗したら良いのに」と誰かが小声で言ったのが聞こえた。そうだ。反抗しないということは受け入れているのだ。エミは喜んで受け入れているのだ。好きで殴られ、汚物扱いされ、水をかけられているのだ。そういう趣味なのだ。世の中にはいろんな人がいる。多様性を受け入れるべきだ。仮にエミが嫌がっていたとしてそれは明確に表明しないエミが悪いのだ。表明の仕方が足りないのだ。傍観者たちにも、チサトたちにも伝わるわけがない。伝わってないなら思っていないのと同じだ。
 別に誰もこの醜悪な行為を嫌悪していない。受け入れているのだ。不快に思う者なんて一人もいないし、その必要もない。許容しているのだ。仕方ないことなのだ。チサトも、エミも、子分たちも、傍観者たちも、甘んじて、喜んで受け入れているのだ。そこに何も悪いことなんてないし、変えないといけない部分もない。このままで良いのだ。
 ※
 私が堂々と生きていたことなんてあっただろうか。いつもこそこそして、卑怯に、自分だけは傷付けられまいと、関係ありません、という顔をして嵐が過ぎるのをただ待っている。
 暴力を見ていた。幼稚園児の頃はいちいちピーピーギャーギャー騒いでいた気がする。その頃は怖がる役のモブだったんだと思う。いつだって黄色い声をあげるのはモブの役目だ。外で暴力があった時も叫ぶのはモブ。別に殴ってる人も、殴られている人もギャーギャー言わないものだ。私はそう思っているし、そういうものだ。でも騒ぐのも面倒になってきた。だって騒いでも無駄だし。仕方ないし。
 母が泣いている。父が怒鳴っている。小学生の私は居間でドリトル先生を読んでいる。本を読むのにとても集中しているので周囲のことなんて見えていない。それまで読んでいた学校の怪談シリーズを読み終わってしまったので何を読もうか迷っていたら、エミが薦めてくれた。
 父が寝室に戻って、母は一人で洗い物をしながら泣いている。そして、何を思ったのか、泣きながら皿を床に叩きつけた。私はビクッと思わず飛び上がる。驚いただけだ。怖いとは少しも思っていない。そんなこと思う気持ちもないし。それより、ドリトル先生は動物と話せるのだ。それは勉強の賜物なので、勉強を頑張っていれば大抵のことはできるようになるのだと思っていた。映画のドリトル先生はそういう能力という設定になっていることを後から知って、落胆した。
「宿題もうやったの」
 破片を集めながら母が私に話しかけてきた。
「終わってる」
 さっきまでこの場でやっていたのに、この人は私を何も見ていないんだなと思った。目の前のことで精一杯なんだ。本来なら優しい娘は母が叩き割った皿の破片拾いを手伝ってやるべきなのだろう。しかし私は優しい娘じゃないのでしない。私は家でもただのモブだ。父と母の夫婦喧嘩の背景映像だ。這い蹲っている母を椅子から見下ろしている。「ユイは冷たいね」と母も言っていた。そうなんだろう。そう言われるからそうなんだと思う。しかし、だからと言って母を責めてはいけない。母も一人の人間なんだから仕方ない。母は悪くない。苦しんだり、悲しんだり、ストレスが溜まることもある。仕方ない。大人は大変なのだ。「子供は良いよなぁ」と酒を飲みながら父も言っていた。子供は楽してるんだから、辛いことばかりの大人を受け入れてあげないといけない。「子供に戻りたい」と母は泣いていた。そんなに羨ましいんだ。これが羨ましいんだ。私は楽をしている。私は良い。グッド。マーベラス。大人になったら一体どんな地獄が待ってるんだろう。大人ってそんなに辛いのか。まだまだこれからもっと苦しいことや辛いことが待っている。まだまだだ。これからだ。頑張れ。ファイトだ。負けるな。頑張って生きろ。耐えろ。歯を食いしばれ。これくらいで音を上げるな。
「嫌だねぇ」
 エミが言った。私が、家に帰りたくないと言った時の話だ。おとうさんとおかあさんがけんかするからかえりたくない。馬鹿だ。なんでそんなことを言ったんだろう。言っても仕方のないことなのに。言ったって先生もクラスメイトも「大変ね。仲をとりもってあげてね」とか「うちもそんなもんだよ」とか笑うくらいなのに。
「嫌じゃないよ。大丈夫だよ。これくらいで嫌なんて言っていたら大人になれない」
「でも嫌なものは嫌じゃん」
 どうせエミも心の中では「それくらい」と笑っているんだろう。うるさいな。大人が喧嘩してるところなんて見たこともないくせに分かったような口をきくな。家族で仲良く過ごしてることくらい知ってるんだからな。私はエミのこういうところが嫌いだ。大嫌いだ。知りもしないくせに、他人の地獄にずかずか上がってきて生ぬるい共感をするな。分からないくせに。理解できないくせに。モブでいとけよ。本当は、私は心のどこかでずっとエミを鬱陶しいと思っていたのかもしれない。こんなに長く一緒にいれば当然エミにイライラすることもあったし、疎ましく思うこともある。本当は邪魔だったのだ。要らなかったのだ。だからエミからこうして引き離されてせいせいしているんだ。関係ない立場になれて心底良かったと思っているんだ。エミがいない方が良いんだ。エミだって、私なんかといない方が良い。私がエミの価値を下げている。
 私は自分が辛いと思っていた。でも違った。とても恵まれている。もっと辛い人がたくさんいるのに、私はそれを微塵も助けようとは思わない。辛いわけがないじゃないか。バカバカしい。私は他人の地獄にずかずか上がり込むような真似はしない。勝手に苦しんでいて下さい。どうせ放っておいても大人になったら辛いことや苦しいことでいっぱいなのだ。どうしてわざわざ苦しみに行く必要があるのか。チサトはもっと地獄を見ているだろう。エミはもっと地獄を見せられているだろう。私は襲われたことも、殴られたことも、便器の弁当を食わされたこともない。私は楽をしている。地獄には底がない。私はきっとまだまだ地獄に堕ちる。痛めつけられている人間をただ眺めているだけで済むなんて、なんて幸福なんだ! すごいね!
4 notes · View notes
karasuya-hompo · 5 years
Text
RDR2:52:変人たちと遊ぼう!1
 ……本日前半はスクショが……コピーしようとして間違って削除したので……動画撮ってた部分にしかなくて……。゚(゚´ω`゚)゚。  せめてPS4、スリープするまででもいいから、削除した動画とかスクショにアクセスできるゴミ箱フォルダ用意してくれないのかっっ(੭ु ˃̣̣̥᷄⌓˂̣̣̥᷅ )੭ु  ちなみに今回・次回で、変な人たちのところをうろうろする予定でいますが、今回の中盤はレニーのプチミッション、駅馬車強盗についても触れています。
Tumblr media
 さて。  そんなわけで、プレイ中には撮ってなかったスクショでも、動画から撮影しなおして誤魔化し……。  まずは、サンドニで出会った変なおっさんから頼まれてる、密造酒の強盗に行くことにしました。よってこの犯罪用のダッサい格好に着替えたわけです。普段絶対に身につけないイモい格好です。だって、お気に入りのおようふくで指名手配覚えられたくないしぃ( ತಎತ)
Tumblr media
 ……まあ、すまん。御者一人くらいなら、縄で引きずり落として縛っておくんだが、四人もいるとなるとこうせざるをえない(´・ω・`)
Tumblr media
 ほい、デッドアイ中、一気に四人ヘッドショット。
Tumblr media
 スパパパーン★(´・ω・`)  うまくいったけど、本意じゃないんだ。こんなことするミッションだと知ってたら、そもそも引き受けなかったかもしれないが、引き受けてしまった以上、この道通ると強制的におまえらがやってきて、無視すると強制的に失敗になって、強制的にやり直しさせられるんだ(´・ω・`) だから仕方ないんだ(´・ω・`)  あとまあ、変なおっさんがなにしようとしてるのかには、興味あるしな(´・ω・`)
Tumblr media
 よっこらせと。まあ密造酒なんて違法なものなわけだし、心底真っ当な人たちではないってことで、納得しておくしかあるまい。
Tumblr media
 だからというわけでもないとは思いますが、名誉レベルは微動だにしませんでした。このへん、たまに謎ですな。無法者とかギャング名の出る相手ならともかく、「見知らぬ人」でも犯罪扱いされないことがけっこうあります。  密造酒を届けると、警察署長に実験の許可をもらってきてくれと言われます。それより報酬どうなってんだよと言い募るアーサーさんですが、答えないという必殺の無敵回答。そしてにも関わらず、素直にのこのこと出かけるアーサーさん。お人好し(´ω`*)
 このあたりからスクショがないのですが。゚(゚´ω`゚)゚。、行くついでにきちんと着替えていつものブラックガンマンになり、シャルルの展覧会に寄りました。  受付から「見る価値があるかどうか……。私は責任負いませんよ」みたいなこと言われます。  絵は基本的にヌードばかり。これはもらったスケッチから予想してたけど……まあ、上手くはないんじゃないかな(´・ω・`) 俺みたいな下手の横好きっていうか、素人の手慰みとは違うけど。  何故着衣じゃないのか、とか言い出すのはまあ、現代の感覚からするとあまりにも堅苦しい話ですが、「これはうちの旦那の尻じゃないか」と言い出したおばちゃんがおりまして。  そこから、これはうちの妻じゃないかetc...。家人に知らせず勝手に戻るになってる人ばかり、イコール、シャルルと寝てるんだろうと。  そんなわけで案の定乱闘騒ぎになり、シャルルはまたどっかの人妻のところに身を隠しました。
 さて、そのまま警察署に行くと……やってもいいけど、100$の費用がかかるだとぉ?  ……「交渉する」を選ぶと、どうしたアーサーさん、おばかさんとは思えないくらい流暢に、電気椅子の存在意義について説明するじゃないか!?( ゚д゚)  というのはさておき、囚人に苦痛を与えずに処刑する人道的で近代的、画期的な道具だと説明し、50$にまけてもらえました。半額かよ。うあーん、それにしてもこの出費、戻ってくるんだろうかな( ತಎತ)  と思いつつアンドリュー3世のところに戻ると、今度はモルモ……被験体が必要だと。手頃なのがいると渡されたのは、殺人、重婚……それから字幕では動物虐待と出ますが、ヒアリングでは獣姦ゆーてるぞおい( ತಎತ) 手配書見てもAnimal husbandryと書かれてますな。報酬は95$。てことは、値切り交渉していれば、こいつの報奨金で黒字になるってこと?(´ω`*)ナラ イイヤ  動物好きなアーサーさんとしては、心置きなく電気椅子に座らせられる相手でしょう。  というわけでとっとこ出掛け……手下か仲間か知らないけど、全滅させると「化物かよ」みたいに言われますな。そんで逃げたのはとっとと縛り上げて、と。  「愛してるから」みたいなことをほざくのは殴って黙らせ、密造酒パクった相手の仲間が来たのはとっとと始末し、そんなことより、道中アーサーが喋る「雷に撃たれた農場なら見たことがある」がめちゃくちゃ人が悪くて楽しかったです(´ω`*)  「電気と雷は違うから安心しろ」と言いつつ、「嵐が来てるのを見てなかったら悪魔の仕業だと思っただろうなぁ」とか、悲惨な現場を説明するという。つまりアーサーさん、電気椅子が人道的で苦痛のない方法だとは微塵にも思ってなくて、雷で死ぬのと同じようなことになると思ってるんだなこれ。  少なくとも、電圧とかいろんな調整がされてないかぎりは、そうでしょうなぁ。しかも実験第一号なんだしこれ。  そうして教授のもとにモルモットを配達。……うーん、ここではまだ報酬もらえないから……処刑会場に運んでいくのについていったけど、ミッションはまだ出ないし。また今度かな。捕まえたのは捕まえたんだから、所長のとこ行ったら後でもらえるのかも?
Tumblr media
 ともあれすぐには何もないようなので、拠点に戻って一晩明かし……だからそこで顔洗わないでよ:( •ᾥ•):  と思いつつ、今日は、レニーの馬車強盗にでも付き合うかなぁ。
Tumblr media
 「馬車強盗だよ。護衛もいないらしいから俺一人で行こうと思ってる」と言うレニーに、お節介気味についていこうとするアーサーさんw  誰か一緒に来てもらうっていうなら、もちろんあんたに頼むよ、しゃーないなぁ、みたいな感じで二人でお出かけです。……スクショはたまたま二人とも目ぇ閉じてるへっぽこですが、それはそれで面白いのでね。
Tumblr media
 あんたは屋敷の中で寝てるじゃないか、俺たち若い連中は外だぞ、と言うのに答えてアーサー。レニーってまだ10代だったのか。そのわりにしっかりしてるなぁ(´ω`*)  と思いつつ移動中会話など聞いていると、レニーがはぐれたのは、父親を殺した連中を殺してのことだそうで(´・ω・`) 2章で聞いたレニーの夜話、最初から最後まできちんと聞いてたらそのへん語ってたのかな? ともあれ、だったらあの父親からの手紙、受け取った当時はもしかすると「鬱陶しい親父だなぁ、うるさいよ」とか思ったかもしれなくても、今となっては立派な教師だった父の形見、大切なものなのだな。  それにしてもジョンも孤児で12くらいで拾われ、アーサーも15くらいでギャングに。レニーも数年は逃亡生活していたと言ってるので、15くらいでそうなって、半年くらい前に拾われたって感じか。みんな子供のときから苦労してるのね(´・ω・`)  ちなみに、馬車の情報ソースについては、大丈夫だ信用できる、としか言わないレニーですが……。
Tumblr media
 見張りもいない楽勝な馬車だと思ったら、中から出てきたのは法執行官。  つまりこれは、馬車強盗を捕まえるための罠。もちろん情報だって偽物。アーサーは、そういうことがあると知っていればこそ、うますぎる話からピンときて、レニーについていこうとしたわけですな。
Tumblr media
 そんなこともあるさ。でも生き残ったんだからいい。気にするな。  とだけ言うアーサー。恩着せがましいことも説教くさいことも言わないのは、レニーは自分でこの体験から学ぶと信じてるからでしょう。  んー……せっかくドラマが良いゲームなんだから、これはちょっと……アーサーの日記にも書かれない出来事だし……。アーサーがレニーを一人前にしよう、生き抜けるように後見してやろうと思ってること、その気持ちがきっと以前より強いだろうことは、表現してほしかったなと思います。だってねぇ。アーサーもまだ35くらいですけど、それにしたって、自分より若い弟分や妹分たちが先に死んでいくのは見たくないでしょうよ。  あんまりいつまでもジメジメ引きずってるのも鬱陶しいと思いますけど、”例の件”はその後のドタバタもあって、ありにもあっさりと流れ去った感(´・ω・`)カワイソ だからせめてこういう場面、アーサーの日記の中でだけでも、そんな思いがあること、あの出来事がちゃんと刻まれてることを出してほしかったなと思ったのでありました。
 それからのこのことやってきたのはバレンタイン。  やっぱりミッキーいないなぁ。あと、そういえば四人のガンマン倒すだけ倒して、伝記作家のとこ報告にもなんにも行ってないやと脇道の酒場にも寄りたくて。しかしここにあの作家もキャロウェイもいなかったので、オートミール食べて、さて、ストロベリー方面へ向かおうか。  というのは、すっかり放置してる賞金首です。かなりの腕のガンマンで殺し屋。なのに生け捕りにしろっていうなかなかの無茶振りのあれ。寄り道しまくって途中でやめて引き返して、それっきりだもんな。
Tumblr media
 と思ってたのに、「?」見つけて近寄ってみたら、この双子でした。  今度は……殴れ? 自分のほうがタフだと証明したいわけか。あほだな(´・ω・`)
Tumblr media
 まあ殴るけど☆∵;.c=(´・ω・` )qウリャ  顔を殴り……腹を殴り……は? 股間を殴れ??
Tumblr media
 実際には蹴りましたけどね?  金にもならん暇つぶしだけど、このあほな双子たちが次はなにを言い出すのか、楽しみにしていようと思います。エスカレートして命にかかわらなきゃいいけどなぁ(´・ω・`)
Tumblr media
 ちなみにひんなちょっとした荒事でも、すげー逃げてるアラブw  これは邪魔にならん場所までってことで、どんな馬でもここに来るのかな。教会の墓地で草食べてました。死体の養分吸って育った草はうまいか?(ㅍ_ㅍ)
Tumblr media
 そんなことしてたらすっかり夜になってしまっていたので、本日(ゲーム内)はここまで。バレンタインのホテルにお風呂と部屋頼んで、ここ数日の旅の汗と垢を落とします。きれいにしとかないと、メアリーに嫌われちゃうしね(´・ω・`)  夢中になってうろうろしてると、風呂に入ったのかせ何日前だったか忘れるんですよねぇ。転んだりして泥だらけにでもなればすぐその日にとか、次にどこかの町に寄ったらと思うのですが。  そーいや、なんでシェイディベルの屋敷に風呂場がないんでしょうか? 他の2箇所は完全に屋外だったから仕方ないけどさぁ。
 次回はストロベリーに賞金首捕まえに行ってのすったもんだですw
3 notes · View notes
ryoutafilter · 6 years
Text
euphoria
Tumblr media
2018.09.12
FILTER 1st Full Album “euphoria“ Release
いよいよ、FILTERが1st Full Albumをリリースします。
2018年5月CAMPASSのステージで発表して夏に詳細解禁してMV出して、もうリリース!早い...時間経つのが早すぎます。
今日はこのeuphoria発売、という大きな波までのFILTERをツラツラ書いていこうかなと。いつものごとく長いし、裏話すぎてつまらないかもな笑
前回は“Cold Mountain PACKが新宿タワレコで取り扱い開始!わーい!”まででしたね。※是非前回までのブログも見て欲しい!
そう、去年FILTERが自主制作で出したCold Mountain PACK。これはアルバムまでの布石というか、これをキッカケにアルバムまでガッツリいこう!というつもりで当初から製作していた。
前回のブログの通り、水面下でも個人のレベルでは動けるだけ動いた。その結果か予想を上回る反応を頂いて、アルバム、今しかない。と個人的に思っていた。がその反面ちょっと焦りというか不安もあった。
その不安とは前々からメンバーで話していた”1st Full Albumを出すにあたり自主レーベルは辞めよう“って事だった。FILTERは自主レーベルで”invitation to color“ “grace moments“をリリースしている。
なんで自主は嫌なのか、単純にやれることは全てやって限界を感じていた。
自主レーベルってなんでも自分達でやってDIYな感じがしてかっこいいと思われがち(そうでもないか?)かと思うんだけど。俺達の場合は正直、やるしかないから自分達でやっていた。(CAMPASSはDIYの良さとか大事にしているけどね)もちろん一長一短だし、ことFILTERにおいては作曲しながら事務もしてと、誰か手伝ってくれるなら手伝ってくれ。と思い続けていた。
業務的なメールも大量にするし全ての管理もメンバーだった、元々そういうの嫌いじゃないからいいんだけど、単純に音楽を広めるって意味では非効率で個人のマンパワーで広がる範囲に限界も感じていた。
振り返る2017年、俺たちの当面目標は水面下でFILTERに協力してくれるレーベルを見つけることだった。思えば今まで大々的にデモCDを各方面送ったり、したことなかったなぁと思った。俺たちはすぐに資料を用意して各方面に音源を送って見た。前作のCold Mountain PACKがありがたい事に各方面で好評を得てくれていて、色々な反応もあった。
資料送りながらも知人にも「FILTERをリリースしてくれるレーベルないかなぁ?」と聞いて回ったりもした。
意外な反応が多かった。ほとんどの人が
「え?FILTERってレーベルとか興味あったの?」
「全部自分たちで出来てるし、自主でいいんじゃない?」
「CAMPASSとしてレーベルやってみれば?」
「大人とか介入させないんで、っていう雰囲気なのかと思ってた笑」
的な意見をめちゃくちゃ貰った。
そこで初めて今までアクションを全く起こしてこなかった事を後悔した笑 いやいや!好きで自主じゃねぇーんだよなー!助けて欲しいなー!泣 ってな具合に。
そんな中でもありがたい事にCold Mountain PACKの噂を聞きつけた事務所やレーベルの人がライブに来てくれている状況にもなっていた。2017年夏。
いくつかの事務所の人達とはライブの後お話もして近況を共有したりしていた。
とても印象的だったのが
「いやーいいですねーFILTER〜、メンバーさん皆おいくつくらいですか?」
と聞かれ
「平均30歳くらいっすねー(超笑顔)」と答えると
一気サーッと引いていく、なんてこともあった(笑)
…音楽を年齢で聞くな馬鹿野郎ちくしょー!!!!!!FU◯K!!!!!!!!
そんなこんなで俺たちにもポリシーがあって、曲げたくない部分などもあり。反応はあるものの中々ここだ!という会社には巡り会えずに時間だけが過ぎて行った、Cold Mountain PACKを出してから一年が経とうとしていた。
表面的にも水面下的にも動きに動いていた2017年、そんな中今思うとFILTERをずーっと気にかけてくれていた男がいる。今回リリースさせてもらうLD&Kの佐久間という男だ。
昔接触はしているけどお互い初めましての状態から始まり、今回のレーベルを探そう!となったかなり早いタイミングで連絡を取り合っていた。初めは長文のラインで(うざかっただろうなぁー)
実際会ってみると、うん、友達だ!という感じで歳も近いし、レーベル・バンドという枠を超えて単純に仲良くなっていた。そんな感じなので常に近況も話すし相談もする仲になっていた。佐久間はとにかくライブハウスにいる。住んでるの?全部お前の家なの?ってくらいにいる。
佐久間から貰った言葉で印象に残ってるのが
「レーベルはねぇー、本当にすぐ会えてすぐレスがあるような人がいいんじゃないかなー」
って言葉だった。その時は
「はぁー、なるほどねー、あ、アイスコーヒーくださーい」くらいだった
そんな不思議な関係で友達であり相談役でありライブハウスに住んでいる人でありの関係が続く中、FILTERは憧れの気持ちがある某レーベルと少しだけ突っ込んだお話をしていた。
しかし2017年冬、お互いのタイミングが悪いこともあり今回は厳しい、と判断せざるを得なかった。俺たちはどうしても2018年内にアルバムを出すべきだと考えていた。結構途方にくれた。途方にくれつつ夜の宇都宮歩いたのすげー覚えてる、寒かった。
そんな時も結局連絡・相談するのは佐久間だった。俺は佐久間が前に言ってた
「レーベルはねぇー、本当にすぐ会えてすぐレスがあるような人がいいんじゃないかなー」
って言葉を思い出してて
「ん…それって、佐久間じゃない?」と気がついた(遅)
完全に友達としての関係値が急上昇していた頃だっただけに、なんか変な感じだったが佐久間にLD&KからレーベルとしてFILTERをリリースすることは可能か聞いて見た。
…そこからは本当に凄いテンポだった。
佐久間は最強に仕事が早かった。
即他の人と絡めたMTGを開いてくれ、俺は想いをぶちまけた。FILTERの音楽が秘めてる可能性。俺たちの目指すビジョンと方向性、活動の仕方やポリシーなんかを話しした。
すごく、すごくワガママを言うと俺は自分の美学を曲げずにFILTERをやりたい。でも、信頼を置く人・一目置いている人の意見は聞いてみたい。そういう人達の意見でいいかもなーって部分は取り入れたい。
LD&Kの方々もそんな俺達を受け入れてくれた。これは本当にありがたい事だった、嬉しいというのもあるけど、ありがたかった。
そうしてめでたく1st Full Albumのリリースが決まった。
そこから佐久間との二人三脚が始まり、打ち合わせの連続、マジで毎日ラインしてるし週4とかで会う日もあった。
佐久間だけじゃなくレコーディング、MV撮影、プロモーションと色々な人が動いてくれた。
「いいですねぇーいいですねぇー」と楽しくRECしてくれたLD&K伊藤さん
デザインを手伝ってくれたLD&K水野さん(思考がハードコア)
お馴染み最高のMVを撮ってくれたハヤト
FM802で最速解禁を決めてくれた関西の宣伝チーム
ラジオのパワープレイを沢山持ってきてくれたLD&K佐藤さん(the xxのTシャツ着ているナイスレディー)
各地で展開してくれるレコードショップのスタッフ。
まだまだいるけど、毎日FILTERの為に貴重な時間を使ってくれている人がここ1年ですごく増えた。
毎度同じような事を書くけど、めちゃくちゃにありがたい事だ。
アルバム発売、嬉しいし達成感もめっちゃくちゃにある、本当に念願だったからね。でも現実になってみると今はそれ以上に前向きな責任感がとにかく大きい。俺はずっとFILTERの音楽ってめちゃくちゃ可能性がある。と一人で思っててそれをまずはメンバーが同意してくれて、今ではその可能性を信じて各方面に勧めてくれる人がいる。
今書いているだけでも、そんな事あるのかな?ってくらい嬉しい。ずっと自分達だけでやって来たから。
自分の音楽の為に時間を割いてくれる人がいる、それは買って聞いてくれる人もそうだと思う。裏方でもお客さんでも、そういう人達のおかげでFILTERの5人はもうすでに圧倒的な多幸感を感じているし、責任感も感じてると思う。
だからこそ、ここからただただ夢中にeuphoriaの曲達を鳴らして行こうと思う。余計な思考は捨ててただただ細胞が踊るような音楽を鳴らし続けて大爆発がしたい。CDで感じ切った多幸感をライブで数倍に膨れさせたいし、FILTERはそれができるバンドだ。すますつもりなんて微塵もなく、ただただ全力で歌って汗かいて青春してるから。
今はとにかく皆でeuphoriaを使って騒ぎたい。人の繋がりとか喜びを皆でリンクさせて爆発させる音楽。FILTERはそういうバンドだなーと。だからこういう裏話とかも皆に知ってもらいたいな、俺は。
別にあえて出す話じゃないよね、とも思うけど。
FILTERってただ音楽作って鳴らしてるだけ、それ以上でも以下でもないじゃなくて、途方にくれた日とか、何か夢が叶った日とか、誰かに助けられてた日とか、最悪も最高もあるんだよね。
皆の日々もそうだと思うし。
だからこそメンバー・スタッフ・皆、その場にいる全員で垣根を超えて喜怒哀楽の喜楽だけ集めて爆発できる場所があってもいいじゃねーかと思う。
そういう人間的なドラマを経た上での喜楽をFILTERは鳴らしてる。
M-1  Symphony of Hopeから始まってラストM-10のPray tonight (Not to end this night)では楽しいんだけどなんだか泣けてくる、そんな音楽だと思ってる。
FILTER 1st Full Album euphoria
どうかよろしくお願いします。
3 notes · View notes
retepom · 3 years
Text
【キラキラ輝くために】No.076【僕らはめぐり逢ったと思うから】
先程は失礼しました、全頁に満遍なく推しが存在していて感想が一生まとまらない私です。とりあえずヒロアカで膝をついて号泣し、脳内アンケート会議が平家の趣き。毎週悩みますよね…ロボコにアンケ入れます。前文から脱線芸を見せてしまいました、情緒不安定本誌ネタバレ感想のお時間となりますので、未読の方と推しへの言及が多い感想が苦手な方は回れ右で何卒。
「今回の作戦で最も危険な男…」
「それが不減のクリードだ」
  最 も 危 険 な 男
 冒頭から顔が良すぎる。最も危険な男の不敵な笑みにハートキャッチプリキュアされてるイカれたオタクなので主人公からその危険性がティーンズに示唆されるのヤバすぎてヤバい(初手から語彙をドブに捨てる音)
アンディにタンクトップの理が追加された瞬間左肩大胆キャストオフなの勘弁してほしいですね。不死は白タンクトップって決まりでもあるの?中年の肌着っぽさで加齢が加速しているけれど大丈夫で…あ、いや違うんだ決してビリー隊長をディスったわけでは うん あの
身体は再生すれど戻らぬ衣服にクロちゃんの不在を感じて寂しさを覚える。先週蜂の巣にされた分も再会するまではそのままなんだよな……風クロちゃん早く帰ってきてぇ!アンデラコンプライアンス委員会最後の砦!!
不死の俺でも再生が追い付かず成す術が…なんだけれど例えばヴィクトルの再生力でも難しいんだろうか。ていうかヴィクトルには是非一度UNDER全員と闘って欲しくて…戦勝の神、言葉は厳しいけれどコーチが上手だからさ……
「だが互いの力を信頼し能力を最大限出せば お前達は最強コンビだ!」
トップくんのバディ枠は一心だと思っていたんですが、最近はすっかり姿を見せませんね…同年代で正反対の能力コンビは勿論アツいのだけれど!
アンディ、この距離感で二人と接していてトップくんからはまだ名前で呼んではもらえないのか。しかしチカラくんがUNIONに加入する時に黙って頭に手を置いたのとか、シェンへの拳骨とか、今回のダブル頭撫でとか、アンディから他者への接触行動にどんどん“感情”が乗っかっていってるの、心の臓に沁みて仕方が無い。その時“必要かどうか”じゃなくて“自分がそうしたいから”やってる雰囲気。風子相手だけじゃないんだよなぁ…
「チカラ!目を閉じろ!!」
「閃光だ!!」
 うわやっぱり使ってきた!!!先週は腕に巻いてある装備の作画無かったから装備品曖昧な部分もあったけど持ってるよね…そうだよね…不死に最凶とまで言わせるだけあって、容赦なんて微塵も無い…目潰しアイテムの代表格ですよねスタングレネードは……そもそも身体がデカいから掌ひとつとっても死角なんていくらでも作れてしまうのも恐ろしい…いやマジでデカいな?2mは確実だと思っていたけど実は3mある??ヴィクトルの肩幅と同じでどんどん伸びるの???
 [無理にでも!! 距離を…]
 [詰め…]
 [天井のガレキと粉塵で俺と不動対策?]
 [あくまで俺を撃ったとみせかけて!?]
ヒェ…………ッ
 [能力だけじゃない… コイツは…]
「チカラ!!」
「このっ!!」
「チカ…」「ラ…」
……ハァ"………ッ……………
「これでもう」
「不動は使えねぇ」
……お"…………ッ………ァ………………………
これもう現行犯逮捕だよ………………………(???)
恐怖演出が過ぎない?アンデッドアンラック、いつからサイコホラーアクション漫画だった…??シェンの腹に穴が空いた時も生きた心地はしなかったけれど、何、この…事件性が高い………(??)深夜枠じゃないと放送できないよ…………
義手の脱着方法、円卓では手動で外していたのにいつの間にか転送式になってるし……またUNDERの謎テクノロジーが更新されてしまった…
いやしかし、ホントに…瓦礫と粉塵で遮られた空間で身体が自分の倍以上ある大男に胸ぐら掴まれてゴーグル叩き割る威力で顔面殴られる恐怖エグ過ぎん…??数ヶ月前まで高校生だった少年が耐えられる種類のソレじゃないだろ……大人でも気絶するわ普通に。
「大丈夫かチカラ!!」
 [ダメだ…勝てない…]
トップくんが口に出さないまでも“勝てない”って判断するの、そこそこ冷静な分析なのも含めて心が折れる。仮にも1度は成人男性の首を折った蹴りを「軽いな」って言われてるのがまずもって辛過ぎるんだよ…ビリー様の首が座ってなかった可能性も微レ存だけれど(ふざけないと心が死ぬ)どんな鍛え方してんのやっぱバケモノじゃん……すき…装備もだけど肉体が既に人間をやめている。延髄への強打も顎への強打も効かないってそれ人と呼べる…??不可触アタックの折にファンがクリードを助けた理由も何となく察せる。こりゃ能力で他人に殺されるには惜しい人材だよなジジイ…
「敗因はお前だ」「不停止」
「不動はよくやったよ 船で見た腰抜けとは別人だ」
「だがトドメを刺す役割の不停止に」
「攻撃力が無さすぎる」
で、でたァ〜〜〜ッ!!アンデラ名物、落として上げて落として冷静な分析で色濃い絶望を与える男達!!!
「不動の発動まではお前たちの優勢だった!」
「何故そんな意味のねェ組み合わせで挑んできやがった!」
ギィイ……ぐうの音もでん…こっから先はトップくんの戦意を削ぐ精神攻撃的な意味も含んでるだろうからあえて不動を上げて大声出してるんだろうし、追撃も一切緩めないの、マジで戦闘のプロは伊達じゃないんだよな…“能力だけじゃない”ことに絶望するのはファンの時にもあったが…
「半端なダチに頼るから仕留め損なった!!」
「能力を極めるなら自己で完結すべきなんだよ」
いよいよファンみたいなこと言い出したじゃん…こわい……推しがこわ、……ん………半端なダチ……?…能力を極めるなら自己で完結………??なんか、なんか含みが、含みがないかこれ……声がヤケにデカいような………これは贔屓目で見てるからそう思うだけですか助けて第三者委員会
「速く走れて何になる」
…ハンドガンのスライドを口で引くの最高すぎんか………?いや、面装備の段差に引っ掛けてるから正確には口では無いけれど…“左腕が無い”って事実の再確認含めて良…良……
そういえばビリーはリボルバーなんだけどクリードはオートマチックなんだよなぁ。クリードの手のサイズを考えたらデザートイーグルか?ベレッタM92Fっぽさも……??デザイン的にはSIG SAUER P320も近い……??でも後々チカラくんの足を撃ち抜けてる(吹っ飛んでない)あたり威力は低め……??何方か!!この中に拳銃特定班の方はいらっしゃいませんか!!?!?お願いします!!!!推しの愛銃で救われる命があるんです!!!!!!!
ガチでバイオシリーズのラスボス前か?となる程度には武装全積の推しだけれど本人のスペックがタイラントないしネメシスのそれだし一度や二度撃退した程度では許してもらえないアレ こわい 助けてスーパーコップ
 [やるっきゃねーのか…]
これは追い詰められた事による勝てなくても俺が戦わねばのやるっきゃねーなのか、それとも何かあんまり実戦したくない奥の手があってのやるっきゃねーなのか…
「お前ら2人はすぐには殺さない」
「ビリーの能力に」「必要なんでな」
ボスとか隊長じゃなくて呼び捨てだ!命令に笑顔()でアイアイサーするけど畏まるつもりは無さそう。任務だけ確実に遂行していく人間ほど怖いモンはない。この振る舞いで意外とビリー心酔派って可能性も捨て切れないけれど、国盗りは独立した野望だろうから、そのために今為すべきはビリーに協力してUNIONの殲滅と春退治をすることだと判断して行動しているのかなぁ。
この発言だとやっぱりビリーのコピー能力はコピーした否定者が生存していないとダメみたいですね。まぁそうでなきゃUNIONはもっと人数を削られているからな…リスク無し(痛いけどすぐ治る)不停止なんてめちゃくちゃ使い勝手良いし……
「あ"あ"」
「チカラ!!」
おい!!UNIONのスーツ!!!防弾は、防弾はどうしたんだ!!上半身だけか!!!!
「邪魔な手足はもいでも構わんだろ」
構うわ!!構えよ!!!アンタも腕1本持ってかれてんだろ!!!!
「これでテメェの能力は死んだ」
「次はてめぇだ」「不停止」
悪役テンプレ台詞の千本ノックがUNSTOPPABLEじゃん。本当に口が減らねえな!!!そういうとこも好きだけど!!!!
「トップくん」「ボクは大丈夫」
なんも大丈夫やないで……大丈夫やない………
「アンディさん言ってたでしょ」
「ボク達は」
「最強のコンビだって…」
重野力ァ……………………………………(頭抱え)
「クッ」「クク」
「自分だけ逃げるたぁいい判断じゃねぇか!!」
「感心だぜ!!テメーらはもっと甘っちょろい奴だと思ってたよ!!」
「いい相棒だなぁ!」「チカラくんよぉ!!」
『チカラくん』って呼び方、この場でトップくんは使ってないんだよな…これ完全に円卓で風子が使ったニュアンスで煽ってきてるじゃん……こわ…記憶力というか語彙の引き出しもエグい。
しかしまぁよく喋るんだよな。言葉も武器のうちというか…恐怖心を煽って実力差で戦意を喪失させていく様な圧…ファンの口上は主だってシェンやアンディに向けられていたからそういう威圧感は無かった(圧倒的過ぎる強さは不気味だったけれど)ところ、クリードはそれを発している相手が中高生男子の年齢層なのが問題なのよ……いやまぁファンもムイちゃんと風子絶対殺すマンになってたけどさ…ファンが「死ね小娘」って言うより生かしたまま目を潰して足を撃ち抜いてくるクリードの方がヤバく見えるの何で?いやどっちもヤバいとかいうレベル超えてるやろもしもしポリスメン??
「お前は誰かに命を預けるのが…」
「怖いんだ」
アッ…ち、チカラくん、待って、そのへんの分析は、まだ無理して喋らなくても、いいよ!!?クリード、今回は全頁面装備そのままだから目でしか表情が読めないんだけれど、公式の台詞でそこらへんに言及されたら私は供給過多で身体が破裂して死ぬ。助けてまだ死にたくない!!
「ボクは知ってる」
「誰かを信じて戦うのがどれだけ強いか」
風子の後ろ姿やアンディの声を思い出してるの本当に…もう……今はそんなアンディの背中を押して、風子を助けようとしてるんだもんな。やっと自分も、その立場にいる、っていう、そういう…そういうアレなのよ………(感情)
「トップくんは…」
「ボクを信じて走り出したんだ」
「そんな事も分からず トップくんをバカにした」
足、あ、撃たれてるのに、眼だって痛いとかいう次元じゃない筈なのに……もうやめてチカラくんが、チカラくんが………ッ……!!!
「それがお前の敗因だ」
「クリード!!」
もう、震え、ない……………………
  「動くな」
「ボクが信じる友達が 光の速さに届くまで!!」
ハァッ……ア……………!!!!!!
重野力ァアーーーーーッッッ!!!!!!!!!
ア"ア"ア"ア"ァ"ッ"(号泣)
お前の敗因を宣言できるのはもう実質空条承太郎の精神力なのよ……たったひとつのシンプルな答え…(3部承りとチカラくんはタメ)
ていうかトップくん何しに…死ぬ程助走つけて戻ってくる?ネクタイ外した理由は何だ??いやこれ、一心お手製の武装転送フラグ?風で変身ベルトを??あ〜か〜いあか〜い〜赤い仮面のV3???ていうかもうこの引きは来週主題歌と言う名の処刑用BGMがかかること間違い無しなのよ(ニチアサ脳)クリードの念入りなフラグ建築がガッツリ回収されてしまうな!!!!
 余談ですが、夏編におけるファンとの闘いの時はテーマのひとつに『家族』があったと思うんですよね。それでいうと今回の場合は『友達』かな。UNIONサイドの不動と不停止の友情ってだけじゃなくて、トップくんが“仲間”にこだわる言動が多い理由とか過去の掘り下げ、クリードが今の人格を形成するに至った切っ掛けの掘り下げなどが『友達』という関わりを軸に進行していく気がしている。ただVSファンよりは因縁が無くて尺も取らないだろうから来週か再来週には決着してしまう可能性もあるんだよなぁ。ファンには少しの救済(一縷の涙)があったけれどクリードは多分そういう形の救済がされないと思うのでいっそ完全な悪として華々しく…いや……もうあれだ…許されなくても…………みっともなくても……………生きてくれ…………………(情緒グズグズのオタク)
アンデラキャラ“目的の為の蹂躪”ランキング、堂々の第1位はやっぱりファンだと思うしそうなると2位がクリード?となりますが、アンディとてUNION入りの為にボイドとジーナを手にかけて風子を守るためにショーンを真っ二つにしてるので結構いい勝負してる気がして来た。リップはこの頃すっかりガラは悪いけど人の良いお兄さんだからな…この人かて他人の腹かっ割いて尋問してるんでなかなかですよね?ヴィクトルは風子へのアレをどうカウントするか悩むところ(?)
 最後も半分脱輪して終わりましたが今自分の持つ倫理観と推しへの愛が脳内会議で殴り合っていて決着が全くつかないので来週の本誌までに力尽きていたら骨は拾ってください。
1 note · View note
groyanderson · 3 years
Text
ひとみに映る影シーズン2 第五話「大妖怪合戦」
☆プロトタイプ版☆ こちらは無料公開のプロトタイプ版となります。 最低限の確認作業しかしていないため、 誤字脱字誤植誤用等々あしからずご了承下さい。 尚、正式書籍版はシーズン2終了時にリリース予定です。
(シーズン2あらすじ) 私はファッションモデルの紅一美。 旅番組ロケで訪れた島は怪��だらけ!? 霊能者達の除霊コンペとバッティングしちゃった! 実は私も霊感あるけど、知られたくないなあ…… なんて言っている場合じゃない。 諸悪の根源は恩師の仇、金剛有明団だったんだ! 憤怒の化身ワヤン不動が、今度はリゾートで炸裂する!!
pixiv版 (※内容は一緒です。) ☆キャラソン企画第五弾 後女津親子「KAZUSA」はこちら!☆
དང་པོ་
 河童信者に手を引かれ、私達は表に出る。小学校は休み時間にも関わらず、校庭に子供達が一人もいない。代わりに何故か、島の屈強そうな男達が待ち構えていた。 「いたぞ! 救済を!」「救済を!」 「え、何……わあぁっ何を!?」  島民達は異様な目つきで青木さんを襲撃! 青木さんは咄嗟に振り払い逃走。しかし校外からどんどん島民が押し寄せる。人一倍大柄な彼も、多勢に組み付かれれば為す術もないだろう! 「助けて! とと、止まってください!!」 「「救済を……救済を……!」」  ゾンビのようにうわ言を呟きながら青木さんを追う島民達。見た限り明確な悪霊はいないようだけど、昨晩の一件然り。彼らが何らかの理由で正気を失っている可能性は高い! このままでは捕まってしまう……その時タナカDが佳奈さんにカメラを預け、荒れ狂う島民達と青木さんの間に入った! 「志多田さん、紅さん、先に行って下さい! ここは僕が食い止めゴハアァ!!」  タナカDに漁師風島民のチョークタックルが炸裂! 「タナカDーっ!」 「と……ともかく行け! 音はカメラマイクでいいから、ばっちり心霊収めてきて下さいよッ……!」 「い、行きましょう! ともかく大師が大変なんです!!」  河童信者に急かされ、私と佳奈さんは月蔵小学校を離れた。傾斜が急な亡目坂を息絶えだえに駆け上がると、案内された先は再び御戌神社。嫌な予感が募る。牛久大師は……いた。大散減を封印していた祠にだらりと寄りかかり、足を投げ出して座っている。しかも、祠の護符が剥がされている! 「んあー……まぁま、まぁまぁ……」  牛久大師は赤子のように指を咥え、私を見るなりママと呼び始めた。 「う……牛久大師?」 「この通りなのです。大師は除霊のために祠の御札を剥がして、そうしたら……き、急に赤ちゃんに……」  河童信者は指先が震えている。大師は四つん這いで私ににじり寄った。 「え、あの……」 「エヘヘ、まんまー! ぱいぱい! ぱいぱいチュッチュ!!」  大師が口をすぼめて更ににじり寄る。息が臭い。大師のひん剥いた唇の裏側にはビッシリと毛穴ような細孔が空いていて、その一粒一粒にキャビアみたいな黒い汚れが詰まっている。その余りにも気色悪い裏唇が大師の顔の皮を裏返すように広がっていき……って、これはまさか! 「ヒィィィッ! 寄るな、化け物!!」  私は咄嗟に牛久大師を蹴り飛ばしてしまった。今のは御戌神社や倶利伽羅と同じ、金剛の者に見える穢れた幻視!? という事は、大師は既に…… 「……ふっふっふっふ。かーっぱっぱっぱっぱっぱ!!」  突然大師は赤子の振りを止め、すくっと立ち上がった。その顔は既に平常時に戻っている。 「ドッキリ大成功ー! 河童の家でーす!」 「かーっぱっぱ!」「かっぱっぱっぱ!」  先程まで俯いていた河童信者も、堰を切ったように笑い出す。 「いやぁパッパッパ。一度でいいから、紅一美君を騙してみたかったのだ! 本気で心配してくれたかね?」 「かっぱっぱ!!」「かっぱっぱっぱぁーっ!!」  私が絶句していると、河童の家は殊更大きく笑い声を上げた。けどよく見ると、目が怯えている? 更には何故か地面に倒れたまま動かない信者や、声がかすれて笑う事すらままならない信者もいるようだ。すると大師はピタリと笑顔を止め、その笑っていない信者を睨んだ。 「……おん? なんだお前、どうした。面白くないか?」  大師と目が合った信者はビクリと後ずさり、泣きそうな声で笑おうと努力する。 「かかッ……かっぱ……かぱぱ……」 「面、白、く、ないのか???」  大師は更に高圧的に声を荒らげた。 「お前は普段きちんと勤行してるのか? 笑顔に勝る力無し。教祖の俺が面白い事を言ったら笑う。教義以前に人として当たり前のマナーだろ、エエッ!?」 「ひゃいぁ!! そそ、そ、その通りです! メッチャおもろかったです!!」 「面白かったんなら笑えよ!! はぁ、空気悪くしやがって」  すると大師は信者を指さし、「バーン」と銃を撃つ真似をする。 「ひいっ……え?」 「『ひいっ……え?』じゃねえだろ? 人が『バーン』っつったら傷口を抑えて『なんじゃカパあぁぁ!?』。常識だろ!?」 「あっあっ、すいません、すいません……」 「わかったか」 「はい」 「本当にわかったか? もっかい撃つぞ!」 「はい!」 「ほら【バーン】!」 「なんじゃッ……エッ……え……!?」  信者は大師が期待するリアクションを取らず、口から一筋の血を垂らして倒れた。数秒後、彼の腹部から血溜まりが静かに広がっていく。他の信者達は顔面蒼白、一方佳奈さんは何が起きたか理解できず唖然としている。彼は……牛久大師の脳力、声による衝撃波で実際に『銃殺』されたんだ。 「ああもう、下手糞」 「……うわああぁぁ!」「助けてくれーーっ!!」  信者達は蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う。すると大師は深くため息をつき、 「はあぁぁぁ……そこは笑う所だろうが……【カーッパッパァ】!!!」  再び特殊な声を発した。すると祠から大量の散減がワサワサと吹き出し、信者達を襲撃する! 「ボゴゴボーーッ!」「やめ、やめて大師、やめアバーーッ!」  信者達は散減に体を食い荒らされ、口に汚染母乳を注ぎこまれ、まさに虫に寄生された動物のようにもんどり打つ! 「どうだ、これが笑顔の力よ。かっぱっぱ!」 「牛久舎登大師! 封印を解いて、どうなるかわかってるんですか!?」  私は大師を睨みつける。すると大師は首をぐるりと傾け、私に醜悪な笑みを浮かべた。 「ん? 除霊を依頼された俺が札を剥がすのに何の問題がある? 最も、俺は最初(ハナ)からそうするつもりで千里が島に来たのだ」 「何ですって!?」 「コンペに参加する前から、千里が島には大散減という怪物がいると聞いていた……もし俺がそいつを除霊できれば、河童の家は全国、いや世界規模に拡大する! そう思っていたのだがな。封印を解いてみたら、少しだけ気が変わったよ……」  大師は祠を愛おしそうに撫で回す。 「大散減は俺を攻撃するどころか、法力を授けてくれた。この俺の特殊脳力『ホーミー』の音圧は更に強力になり、もはや信者の助けなどなくとも声で他人を殺せるほどにだ!」  信者達は絶望的な顔で大師を見ている。この男、どうやら大散減に縁を食われたようだ。怪物の悪縁に操られているとも気付かず、与えられた力に陶酔してしまったのだろう。 「もう除霊なんかやめだ、やめ。俺は大散減を河童総本山に連れて帰り、生き神として君臨してやる! だがその前に、お前と一戦交えてみたかったのだ……ワヤン不動よ!」 「!」  彼は再び私を『ワヤン不動』と呼んだ。しかもよりによって、佳奈さんの目の前で。 「え、一美ちゃん……牛久大師と知り合いなの……?」 「いいえ……い、一体、何の話ですか?」 「とぼけるな、紅一美君! 知っているぞ、お前の正体はワヤン不動。背中に影でできた漆黒の炎を纏い、脚まで届く長い腕で燃え盛る龍の剣を振るう半人半仏の影人間(シャドーパーソン)だ! 当然そこいらの霊能者とは比べ物にならない猛者だろう。しかも大いなる神仏に楯突く悪霊の眷属だと聞くが」 「和尚様を愚弄するな!」  あっ、しまった! 「一美ちゃん……?」  もう、全てを明かすしかないのか……私はついに、プルパに手をかけた。しかしその時、佳奈さんが私の腕を掴む。 「わかった、一美ちゃん逃げよう。今この人に関わっちゃダメ! 河童信者も苦しそうだし、きっと祠のせいで錯乱してるんだよ!」 「佳奈さん……」  佳奈さんは私を連れて鳥居に走った。けど鳥居周辺には何匹もの散減が待ち構えている! 「かぁーっぱっぱ、何も知らぬカラキシ小娘め! その女の本性を見よ!」  このままでは散減に襲われるか正体がばれるかの二択。それなら私の取るべき行動は、決まりきっている! 「佳奈さん、止まって!」  私は佳奈さんを抱き止め、足元から二人分の影を持ち上げた! 念力で光の屈折を強め、影表面の明暗コントラストを極限まで高めてから……一気に放出する! 「マバーッ!」「ンマウゥーッ!」  今は昨晩とは打って変わって快晴。強烈な光と影の熱エネルギーを浴びた散減はたちまち集団炎上! けど、これでついに…… 「かーっぱぱぱ!! ワヤン不動、正体暴いたり! さあ、これで心置き無く戦え「どうやら間に合ったようですね」  その時、鳥居の外から牛久大師の言葉を遮る声。そして、ぽん、ぽこぽん、と小気味よい小太鼓のような音。 「誰だ!?」  ぽんぽこ、ぽんぽこ、ぽん……それは化け狸の腹鼓。鳥居をくぐり現れた後女津親子は、私達と牛久大師の間に立ちはだかった! 「『ラスタな狸』が知らせてくれたんですよ。牛久舎登大師が大散減に取り憑かれて錯乱し、したたびさんに難癖をつけているとね。だが、この方々には指一本触れさせない」 「約束通り、手柄は奪わせてもらったよ。ぽんぽこぽーん!」  万狸ちゃんが私にウインクし、斉二さんはお腹をぽんと叩いてみせる。 「ええい、退け雑魚め! お前などに興味は【なあぁいッ】!!」  大師の声が響くと、祠がズルリと傾き倒れた。そこから今までで最大級のおぞましい瘴気が上がり、大師を飲み込んでいく! 「クアァーーッパッパッパァ! 力が……力がみなぎってくるくるクルクルグゥルゥゥゥアアアアア!!!!」  バキン、ボキン! 大師の胸部から肋骨が一本ずつ飛び出し、毛の生えた大脚に成長していく! 「な……なっ……!?」  それは霊感のない者にも見える物理的光景だ。佳奈さんは初めて目の当たりにした心霊現象に、ただただ腰を抜かす。しかし後女津親子は怯まない! 「逃げて下さい、と言いたいところですが……この島に、私の背中よりも安全な場所はなさそうだ」
གཉིས་པ་
 斉一さんはトレードマークである狸マントの裾から、琵琶に似た弦楽器を取り出した。同時に彼の臀部には超自然の尻尾が生え、万狸ちゃんと斉二さんも臨戦態勢に入る。病院で加賀繍さんのおばさまを守っている斉三さんは不在だ。一方ついさっきまで牛久大師だった怪獣は、毛むくじゃらの細長い八本足に八つの顔。頂上にそびえる胴体は河童の名残の禿頭。巨大ザトウムシ、大散減だ! 【【退け、雑魚が! 化け狸なんぞに興味はない! クァーッパッパァアア!!!】】  縦横五メートル級の巨体から放たれる衝撃音! 同時に斉一さんもシャラランと弦楽器を鳴らす。すると弦の音色は爆音に呑み込まれる事無く神秘的に響き、私達の周囲のみ衝撃を打ち消した! 【何ィ!?】 「その言葉、そのままお返し致します。河童なんぞに負けたら妖怪の沽券に関わるのでね」 【貴様アァァ!!】  チャン、チャン、チャン、チャン……爪弾かれる根色で気枯地が浄化されていくように、彼の周囲の景色が色鮮やかになっていく。よく見るとその不思議な弦は、斉一さんの尻尾から伸びる極彩色の糸が張られていた。レゲエめいたリズムに合わせて万狸ちゃんがぽんぽこと腹鼓を打ち、斉二さんは尻尾から糸を周囲の木々や屋根に伝わせる。 【ウヌゥゥゥーッ!】  大散減は斉一さんに足払いを仕掛けた。砂利が撒き上がり、すわ斉一さんのマントがフワリと浮く……と思いきや、ドロン! 次の瞬間、私達の目の前では狸妖怪と化した斉一さんが、涼しい顔のまま弦をかき鳴らし続けている。幽体離脱で物理攻撃無効! 「どこ見てんだ、ノロマ!」  大散減の遥か後方、後女津斉一の肉体を回しているのは斉二さんだ! 木々に伝わせた糸を掴み、ターザンの如くサッサと飛び移っていく。そのスピードとテクニックは斉一さんや斉三さんには無い、彼だけの力のようだ。大散減は癇癪を起こしたように突進、しかし追いつけない! すると一方、腹鼓を打っていた万狸ちゃんが大散減に牙を剥く! 「準備オッケー。ぽーん、ぽっこ……どぉーーーん!!」  ドコドコドコドコドコドォン!!!! 張り巡らされた糸の上で器用に身を翻した万狸ちゃんは、無数の茶釜に妖怪変化し大散減に降り注ぐ! 恐竜も泣いて絶滅する大破壊隕石群、ブンブクメテオバーストだ!! 【ドワーーーッ!!!】  大散減はギャグ漫画的なリアクションと共に吹っ飛んだ! 樹齢百年はあろう立派な椎木に叩きつけられ、足が一本メコリとへし折れる。その傷口から穢れた縁母乳が噴出すると、大散減はグルグルと身を回転し飛沫を撒き散らした! 椎木枯死! 「ッうおぁ!」  飛び石が当たって墜落した斉二さんの後頭部に穢れ母乳がかかる。付着部位はまるで硫酸のように焼け、鼻につく激臭を放つ。 「斉二さん!」 「イテテ、マントがなかったら禿げるところだった」 【なんだとッ!? 貴様ァ! 河童ヘアを愚弄するなアアァ!】  再び起き上がる大散減。また何か音波攻撃を仕掛けようとしている!? 「おい斉一、まだか!」 「まだ……いや、行っちまうか」   ジャカジャランッ!! 弦楽器が一際強いストロークで奏でられると、御戌神社が極彩色に包まれた! 草花は季節感を無視して咲き乱れ、虫や動物が飛び出し、あらゆる動物霊やエクトプラズムが宙を舞う。斉一さんは側転しながら本体に戻り、万狸ちゃんも次の妖怪変化に先駆けて腹鼓を強打する! 「縁亡き哀れな怪物よ、とくと見ろ。この気枯地で生ける命の縁を!」  ジャカン!! ザワワワワ、ピィーッギャァギャァーッ! 弦の一弾きで森羅万象が後女津親子に味方し、花鳥風月が大散減を襲う! 千里が島の全ての命を踊らせる狸囃子、これが地相鑑定士の戦い方だ! 【【しゃらくせェェェェェエエエ!!】】  キイィィーーーーィィン! 耳をつんざく超音波! 満ち満ちていた動植物はパタパタと倒れ、霊魂達は分解霧散! 再び気枯た世界で、大散減の一足がニタリと笑い顔を上げると……目の前には依然として生い茂る竹藪の群青、そして大鎌に化けた万狸ちゃん! 「竹の生命力なめんなあああぁぁ!!!」  大鎌万狸ちゃんは竹藪をスパンスパンとぶった斬り、妖力で大散減に投げつける。竹伐狸(たけきりだぬき)の竹槍千本ノックだ! 【ドヘェーーー!!】  針山にされた大散減は昭和のコメディ番組のようにひっくり返る! シャンパン栓が抜かれるように足が三本吹き飛び、穢れ母乳の噴水が宙に螺旋を描いた! 「一美ちゃん、一瞬パパ頼んでいい?」  万狸ちゃんに声をかけられると、斉一さんが再び私達の前に戻ってきた。目で合図し合い、私は影を伸ばして斉一さんの肉体に重ねる。念力を送りこんで彼に半憑依すると同時に、斉一さんは化け狸になって飛び出した。 【【何が縁だクソが! 雑魚はさっさと死んで分解霧散して強者の養分になればいい、最後に笑うのは俺だけでいいんだよ! 弱肉強食、それ以外の余計な縁はいらねぇだろうがああァーーッ!!!】】  大散減は残った四本足で立ち上がろうとするが、何故かその場から動けない。よく見ると、大散減の足元に河童信者達がしがみついている! 「大師、もうやめてくれ!」 「私達の好きだった貴方は、こんなつまらない怪物じゃなかった!」 「やってくれ、狸さん。みんなの笑顔の為にやってくれーーーッ!!」 【やめろ、お前ら……死に損ないが!!】  大散減はかつての仲間達を振り飛ばした。この怪物にもはや人間との縁は微塵も残っていないんだ! 「大散減、許さない!」  ドォンッ! 心臓に響くような強い腹鼓を合図に、万狸ちゃんに斉一さんと斉二さんが合体する。すると全ての霊魂や動植物を取り込むような竜巻が起こり、やがて巨大な生命力の塊を形成した。あれは日本最大級の狸妖怪変化、大(おっ)かむろだ! 「どおおぉぉぉおおん!!!」  大かむろが大散減目掛けて垂直落下! 衝撃で地が揺れ、草花が舞い、カラフルな光の糸が空を染める!! 【【やめろーーっ! 俺の身体が……力がァァァーーーッ!!!】】  質量とエーテル体の塊にのしかかられた大散減はブチブチと音を立て全身崩壊! 残った足が一本、二本と次々に潰れていく。 【【【ズコオオォォォォーーーーー!!!!】】】  極彩色の嵐が炸裂し、私は爆風から佳奈さんを庇うように抱きしめる。轟音と光が収まって顔を上げると、そこには元通りに分かれた後女津親子、血や汚れにまみれた河童信者、そして幾つもの命が佇んでいた。
གསུམ་པ་
「一美ちゃーーん!」  戦いを終えた万狸ちゃんが私に飛びついた。支えきれず、尻餅をつく。 「きゃっ!」 「ねえねえ、見た? 私の妖術凄かったでしょ!?」 「こら、万狸! 紅さんに今そんな事したら……」  斉一さんがちらっと佳奈さんに視線を向けた。万狸ちゃんは慌てて私から離れ、「はわわぁ! 危ない危ない~」と可愛く腹鼓を叩いた。私も横を見ると、幸い佳奈さんは目を閉じて何か考えているようだった。 「佳奈さん?」 「……そうだよ、怪物は『五十尺』……気をつけて、大散減まだ死んでないかも!」 「え!?」  その時、ズガガガガガ! 地面が激しく揺れだす。後女津親子は三人背中合わせになり周囲を警戒。佳奈さんがバランスを崩して転倒しそうになる。抱きとめて辺りを見渡すと、祠と反対側の手洗い場に煙突のように巨大な柱が天高く突き上がった! 柱は元牛久大師だったご遺体をかっさらって飲み込む。咀嚼しながらぐにゃりと曲がり、その先端には目のない顔。まさか、これは…… 「大散減の……足!」 「ちょっと待って下さい。志多田さん……『大散減は五十尺』と仰いましたか!?」  斉一さんが血相を変えて聞く。言われてみれば、青木さんもそんな事を言っていた気がする。 「あの、こんな時にすいません。五十尺ってどれくらいなんですか?」 「「十五メートルだよ!!」」 「どえええぇぇ!?」  恥ずかしい事に知らないのは私とタナカDだけだったようだ。にわかには信じ難いけど、体長十五メートルの怪物大散減は、地中にずっと潜んでいたんだ! その寸法によると、牛久大師が取り込んでいた力は大散減の足一本程度にも満たない事になる。ところが、大師を飲み込んだ大散減の足はそのまま動かなくなった。 「あ……あれ?」  万狸ちゃんは恐る恐る足に近付き観察する。 「……消化不良かな。封印するなら今がチャンスみたい」  斉一さんと斉二さんは尻尾の糸の残量を確認する。ところがさっきの戦闘で殆ど使い果たしてしまっていたようた。 「参ったな……これじゃ仮止めの結界すら張れないぞ」 「斉三さんを呼んでくるよ、パパ。ちょっと待ってて!」  万狸ちゃんが亡目坂へ向かう。すると突然斉一さんが呼び止めた。 「止まれ、万狸!」 「え?」  ボタッ。振り向いた万狸ちゃんの背後で何かが落下した。見るとそれは……まだ赤い血に濡れた人骨。それも肋骨だ! 「ンマアアアァァゥゥゥ!!!」 「ち、散減!?」  肋骨は金切り声を上げ散減に変化! 万狸ちゃんが慌てて飛び退くも、散減は彼女を一瞥もせず大散減のもとへ向かう。そしてまだ穢れていない母乳を口角から零しながら、自ら大散減の口の中へ飛びこんでいった。 「一美ちゃん、狸おじさん、あれ!」  佳奈さんが上空を指す。見上げるとそこには、宙に浮かぶ謎の獣。チベタンマスティフを彷彿とさせる超大型犬で、毛並みはガス火のように青白く輝いている。ライオンに似たたてがみがあり、額には星型の中央に一本線を引いたような記号の霊符。首には首輪めいて注連縄が巻かれていて、そこに幾つか人間の頭蓋骨があしらわれている。目は白目がなく、代わりにまるで皆既日蝕のような光輪が黒い眼孔内で燦然と輝く。その獣が鮮血滴る肋骨を幾つも溢れるほど口に咥え、グルグルと唸っているんだ。私と佳奈さんの脳裏に、同じ歌が思い浮かぶ。 「誰かが絵筆を落としたら……」 「お空で見下ろす二つの目……月と太陽……」  今ようやく、あの民謡の全ての意味が明らかになった。一本線を足した星型の記号、そして大散減に危害を加えると現れる、日蝕の目を持つ獣。そうだ。千里が島にいる怪物は散減だけじゃない。江戸時代に縁を失い邪神となった哀れな少年、徳川徳松……御戌神! 「ガォォォ!!」  御戌神が吠え、肋骨をガラガラと落とした。肋骨が散減になると同時に御戌神も垂直降下し万狸ちゃんを狙う! 「万狸!」  すかさず斉二さんが残り僅かな糸を伸ばし、近くの椎木の幹に空中ブランコをかけ万狸ちゃんを救出。但しこれで、後女津親子の妖力残量が尽きてしまった。一方御戌神は、今度は斉一さんを狙い走りだす! 一目散に逃走しても、巨犬に人間が追いつけるわけもなし。斉一さんは呆気なく押し倒されてしまった。 「うわあぁ!」 「パパ!!」  斉一さんを羽交い締めにした御戌神は大口を開く! 今まさに肋骨を食いちぎろうとした、その時……御戌神の視界を突如闇が覆う! 「グァ!?」  御戌神は両目を抑えてよろめく。その隙に斉一さんは脱出。佳奈さんが驚愕した顔で私を見る……。 「斉一さん、斉二さん、万狸ちゃん。今までお気遣い頂いたのに、すみません……でももう、緊急事態だから」  私の影は右手部分でスッパリと切れている。御戌神に目くらましをするために、切り取って投げたんだ。 「じゃ、じゃあ一美ちゃんって、本当に……」 「グルアァァ!!」  佳奈さんが言いかけた途中、私は影を介して静電気のような痛みを受ける。御戌神は自力で目の影を剥がしたようだ。それが出来るという事は、彼も私と同じような力を持っているのか? 「……大師の言ったことは、三分の一ぐらい本当です」  御戌神が私に牙を剥く! 私はさっき大師の前でやった時と同じように、影表面の光の屈折率を上げる。表面は銀色の光沢を帯び、瞬く間に鏡のようになる。 「ガルル……!」  この『影鏡』で御戌神を取り囲み撹乱しつつ、ひとまず佳奈さん達から離れる。けど御戌神はすぐに追ってくるだろう。 「ワヤンの力は影の炎。魂を燃やして、悪霊を焼くんです」  逃げながら木や物の影を私の姿に整形、『タルパ』という法力で最低限動き回れるだけの自立した魂を与える。 「けど、その力は本当に許してはいけない、滅ぼさなきゃいけない相手にしか使いません。だぶか私には、そうでもしなきゃいけない敵がいるって事です」  ヴァンッと電流のような音がして、御戌神が影鏡を突破した。私は既に自分にも影を纏い、傍目には影分身と見分けがつかなくなっている。けど御戌神は一切迷いなく、私目掛けて走ってきた。 「霊感がある事、黙っていてすみませんでした。けど私に僅かでも力がある事が公になったら、きっと余計な災いを招いてしまう」  それは想定内だ。走ってくる御戌神の前に影分身達が立ちはだかり、全員同時自爆! 無論それは神様にとって微々たるダメージ。でも隙を作るには十分な火力だ。御戌神の背後を取り、『影踏み』で完全に身動きを封じる! 「佳奈さんは特に、巻き込みたくなかったんです……きゃっ!?」  突然御戌神が激しく発光し、影踏みの術をかき消した。影と心身を繋いでいた私も後方に吹き飛ばされる。ドラマや舞台出演で鍛えたアクションで何とか受身を取るも、顔を上げると既に御戌神は目の前! 「……え?」  私はこの時初めてちゃんと目が合った御戌神に、一瞬だけ子犬のように切なげな表情を見た。この戌……いや、この人は、まさか…… 「ガルルル!」 「くっ」  牙を剥かれて慌てて影を持ち上げ、気休めにもならないバリアを張る。ところが御戌神は意外にも、そんな脆弱なバリアにぶち当たって停止してしまった。私の方には殆ど負荷がかかっていない。よく見ると御戌神とバリアの間にもう一層、光の壁のようなものがあるのが見える。やっぱり彼は私と同じ……いや、逆。光にまつわる力を持っているようだ。 「あなた、ひょっとして……本当は戦いたくないんですか?」 「!」  一瞬私の話に気を取られた御戌神は、光の壁に押し戻されて後ずさった。日蝕の瞳をよく見ると、月部分に覆われた裏側で太陽の瞳孔が物言いたげに燻っている。 「やっぱり、大散減の悪縁に操られているだけなんですね」  私も彼と戦いたくない。だからまだプルパは鞄の中だ。代わりに首にかけていたお守り、キョンジャクのペンダントを取った。御戌神は自らの光に苦しむように、唸りながら地面を転がり回る。 「グルル……ゥウウウ、ガオォォ!!」  光を振り払い、御戌神は再び私に突進! 私も御戌神目掛けてキョンジャクを投げる。ペンダントヘッドからエクトプラズム環が膨張し、投げ縄のように御戌神を捕らえた! 「ギャウッ!」  御戌神はキョンジャクに縛られ転倒、ジタバタともがく。しかし数秒のうちに、憑き物が取れたように大人しくなった。これは気が乱れてしまった魂を正常に戻す、私にキョンジャクをくれた友達の霊能力によるものだ。隣にしゃがんで背中を撫でると、御戌神の目は日蝕が終わるように輝きを増していく。そこからゆっくりと、煤色に濁った涙が一筋流れた。 「ごめんなさい、苦しいですよね。ちょっと大散減を封印してくるので、このまま少し我慢できますか?」  御戌神は「クゥン」と弱々しく鳴き、微かに頷いた。私は御戌神の傍を離れ、地面から突き出た大散減の足に向かう。 「ひ、一美ちゃん!」  突然佳奈さんが叫ぶ。次の瞬間、背後でパシュン! と破裂音が鳴った。何事かと思い振り向くと、御戌神を拘束していたキョンジャクが割れている。御戌神は黒い煙に纏わりつかれ、息苦しそうに体をよじりながら宙に浮き始めた。 「カッ……ガァ……!」  御戌神の顔色がみるみる紅潮し、足をバタつかせて苦悶する。救出に戻ろうと踵を返すと、御戌神を包む黒煙がみるみる人型に固まっていき…… 「躾が足りなかったか? 生贄は生贄の所業を全うしなければならんぞ」  そこには黒い煙の本体が、人間の皮膚から顔と局部だけくり抜いた肉襦袢を着て立っていた。それを見た瞬間、血中にタールが循環するような不快感が私の全身を巡った。 「え、ひょっとしてまた何か出てきたの!?」 「……佳奈さん、斉一さんと一緒に逃げて下さい。噂を���れば、何とやらです」  佳奈さんに見えないのも無理はない。厳密にはその肉襦袢は、死体そのものじゃなくて故人から奪い取った霊力でできている。亡布録(なぶろく)、金剛有明団の冒涜的エーテル法具。 「噂をすればってまさか、一美ちゃんが『絶対に滅ぼさなきゃいけない相手』がそこに……っ!?」  圧。悪いが佳奈さんは視線で黙らせた。これからこの神社は、灼熱地獄と化すのだから。 「い、行こう、志多田さん!」  斉一さん達は佳奈さんや数人の生き残った河童信者を率いて神社から退散した。これで境内に残ったのは、私と御戌神と黒煙のみ。しかし…… 「……どうして黒人なんだ?」  私は黒煙に問いかけた。 「ん?」 「どうして肉襦袢の人種が変わったのかと聞いているんだ。二十二年前、お前はアジア人だっただろう。前の死体はどうした」 「……随分と昔の話をするな、裏切り者の巫女よ。貴様はファッションモデルになったと聞くが、二十年以上一度もコーディネートを変えた事がないのかね?」  煙はさも当然といった反応を返す。この調子なら、こいつは服を買い換える感覚で何人もの肉体や魂を利用していたに違いない。私の、和尚様も。この男が……悪霊の分際で自らを『如来』と名乗り、これまで数え切れない悪行を犯してきた外道野郎が! 「金剛愛輪珠如来(こんごうあいわずにょらい)ィィィーーーッ!!!!」  オム・アムリトドバヴァ・フム・パット! 駆け出しながら心中に真言が響き渡り、私はついに鞄からプルパを取り出す! 憤怒相を湛える馬頭観音が熱を持ち、ヴァンと電磁波を発し炎上! 暗黒の影炎が倶利伽羅龍王を貫く刃渡り四十センチのグルカナイフに変化。完成、倶利伽羅龍王剣! 「私は神影不動明王。憤怒の炎で全てを影に還す……ワヤン不動だ!」  今度こそ、本気の神影繰り(ワヤン・クリ)が始まる。 
བཞི་པ་
 殺意煮えくり返る憤怒の化身は周囲の散減を手当り次第龍王剣で焼却! 引火に引火が重なり肥大化した影の炎を愛輪珠に叩き込む! 「一生日の当たらない体にしてやる!!」 「愚かな」  愛輪珠は業火を片手で易々と受け止め、くり抜かれた顔面から黒煙を吐出。たちまち周囲の空気が穢れに包まれ、炎が弱まって……いく前に愛輪珠周辺の一帯を焼き尽くす! 「ぐわあぁぁ、やめろ、ギャアアァアガーーーッ!!!」  猛り狂う業火に晒され龍王剣が激痛に叫んだ! しかし宿敵を前にした暴走特急は草の根一本残さない!  「かぁーーっはっはっはァ! ここで会ったがお前の運の尽きよ。滅べ、ほおぉろべえええぇーーーっ!!!」  殺意、憎悪、義憤ンンンンッ! しかし燃え盛る炎の中、 「まるで癇癪を起こした子供だ」  愛輪珠は平然と棒立ちしている。 「どの口が言うか、外道よ! お前が犯してきた罪の数々を鑑みれば癇癪すら生ぬるい。切り刻んだ上で煙も出ないほど焼却してくれようぞおぉぉ!!」  炎をたなびかせ、愛輪珠を何度も叩き斬る! しかし愛輪珠は身動ぎ一つせず、私の攻撃を硬化した煙で防いでしまう。だから何だ、一回で斬れないなら千回斬ればいい! 人生最大の宿敵を何度も斬撃できるなんて、こんなに愉快な事が他にあるだろうか!? 「かぁーはははは! もっと防げ、もっとその煙を浪費するがいい! かぁーはっはっはァ!!」 「やれやれ、そんなにこの私と戯れたいか」  ゴォッ! 顔の無い亡布録から煙が吹き出す。漆黒に燃えていた視界が一瞬にして濁った灰色で染まった。私はたちまち息が出来なくなる。 「ぐ、ァッ……」  酸欠か。これで炎が弱まるかと思ったか? 私の炎は影、酸素など不要だ! 「造作なし!」  意地の再炎上! だぶか島もろとも焼き尽くしてやる…… 「ん?」  シュゴオォォン、ドカカカカァン!! 炎が突然黄土色に変わり、化学反応のように爆ぜた! 「な……カハッ……」 「そのような稚拙な戦い方しか知らずに、よく金剛の楽園に楯突こうと思ったな。哀れな裏切り者の眷族よ」 「だ、黙れ……くあううぅっ!」  炎とはまるで異なる、染みるような激痛が私の体内外を撫で上げる。地面に叩きつけられ、影がビリビリと痙攣した。かくなる上は、更なる火力で黄土色の炎を上書きしないと…… 「っ!? ……がああぁぁーーっ!!」  迂闊だった。新たな炎も汚染されている! 「ようやく大人しくなったか」  愛輪珠が歩み寄り、瀕死の私の頭に恋人のようにぽんぽんと触れる。 「やめろ……やめろおぉ……!」  全身で行き場のない憤怒が渦巻く。 「巫女よ。お前は我々金剛を邪道だとのたまうが、我々金剛の民が自らの手で殺生を犯した事はないぞ」 「ほざけ……自分の手を汚さなければ殺生ではないだと……? だからお前達は邪道なんだ……!」  煮えくり返った血液が、この身に炎を蘇らせる。 「何の罪もない衆生に試練と称して呪いをかけ、頼んでもいないのに霊能力を与え……そうしてお前達が造り出した怪物は、娑婆で幾つもの命を奪う。幾つもの人生を狂わせる! これを邪道と言わずして何と言えようか、卑怯者!」 「それは誤解だ。我々は衆生の為に、来たる金剛の楽園を築き上げ……」 「それが邪道だと言っているんだ!」  心から溢れた憤怒はタールのような影になって噴出する! 汚染によって動かなくなった体が再び立ち上がる! 「そこで倒れている河童信者達を見ろ。彼らは牛久大師を敬愛していた。大師が大散減に魅了されたのは、確かに自己責任だったかもしれない。だがそもそも、お前達があんな怪獣を生み出していなければこんな事にはならなかった。徳川家の少年が祟り神になる事だってなかった!!」  思い返せば思い返すほど、影はグラグラと湧き出る! 「かつてお前に法具を植え付けられた少年は大量殺人鬼になり、村を一つ壊滅させた。お前に試練を課せられた少女は、生まれた時から何度も命の危機に晒され続けた。それに……それに、私の和尚様は……」 「和尚? ……ああ。あの……」  再点火完了! 影は歪に穢れを孕んだまま、火柱となり愛輪珠を封印する! たとえ我が身が消し炭になろうと、こいつだけは滅ぼさなければならないんだ! くたばれ! くたばれえええぇぇぇえええ!!! 「……あの邪尊(じゃそん)教徒の若造か」 「え?」  一瞬何を言われたか理解できないまま、気がつくと私は黄土色の爆風に吹き飛ばされていた。影と内臓が煙になって体から離脱する感覚。無限に溢れる悔恨で心が塗り固められる感覚。それはどこか懐かしく、まるで何百年も前から続く業のように思えた。 「ぐあっ!!」  私は壊れかけの御戌塚に叩きつけられる。耳の中に全身が砕ける音が響いた。 「ほら見ろ、殺生に『手を汚さなかった』だろう? それにしてもその顔は、奴から何も聞かされていないようだな」 「かっ……ぁ……」  黙れ。これ以上和尚様を愚弄するな。そう言いたかったのに、もはや声は出ない。それでも冷めやらぬ怒りで、さっきまで自分の体だった抜け殻がモソモソと蠢くのみ。 「あの男は……金剛観世音菩薩はな……」  言うな。やめろ。そんなはずはないんだ。だから…… 「……チベットの邪神、ドマル・イダムを崇拝する邪教の信者だ」  嘘だ。……うそだ。 「あっ……」 「これは金剛の法具だ。返して貰うぞ」  愛輪珠に龍王剣を奪われた。次第に薄れていく僅かな影と意識の中、愛輪珠が気絶した御戌神を掴んで去っていく姿を懸命に目で追う。すると視野角外から……誰かが…… 「一美ちゃん、一美ちゃーん!」 「ダメだ志多田さん、危険すぎる!」  佳奈さん……斉二……さん…… 「ん? 無知なる衆生が何故ここに……? どれ、一つ金剛の法力を施してやろうか」  逃……げ…… 「ヒッ……いぎっ……うぷ……」 「成人がこれを飲み込むのは痛かろう。だが衆生よ、これでそなたも金剛の巫女になれるのだ」  や…………ろ………… 「その子を離せ、悪霊……ぐッ!? がああぁぁああああッ!!!!」 「げほ、オエッ……え……? ラスタな、狸さん……?」  ……………… 「畜生霊による邪魔が入ったか。衆生の法力が中途半端になってしまった、これではこの娘に金剛の有明は訪れん」 「嘘でしょ……私を、かばってくれたの……!?」 「それにしてもこの狸、いい毛皮だな。ここで着替えていこう」 「な、何するの!? やめてよ! やめてえぇーーーっ!!」  ………………もう、ダメだ……。
0 notes
marisa-kagome · 3 years
Text
シナリオ『ベビーローテンション』
【概要】
所要時間:2~3時間程度 推奨人数:1〜2人 推奨技能:基本の探索技能
遠縁の親戚の家で、一晩ベビーシッターをすることになった探索者たち。 母親いわく元気だという赤ちゃんは、ある時を境にどうも様子がおかしくなり……?
支部シナリオページはこちら。
※KP向け
築三年くらいの一軒家でホラーがワーッ!なのをやりたい方向けです。部屋数はそんなに無いのでさっくり遊べるとは思います。初心者KPさんもそこそこ回しやすい、筈。
【あらすじ】
二年前、風呂場で起きた事故で娘を亡くした母親。娘を助けられなかった詫びを残し警察官の父親は家を出て行ってしまい、翌年生まれた息子の存在を言い出せないまま時が過ぎる。
ある日、母親は条件付きで死者の霊と対話する方法を手に入れる。そうして呼び出した娘が口にしたのは、自分が父親に殺されたという内容だった。
ちょうどその寸前、息子がいることを人伝に知った父親は復縁の電話を掛けており、恨みと次は息子が殺されるかもしれないという恐怖で発狂した母親は父親の殺害、そしてその後自身も自殺することを決意する。
探索者たちは、突発的な計画が決行されるその夜、母親から息子のベビーシッターを頼まれる。
計画が実行された夜中、死してなお「子供が溺れている姿を見たい」という嗜好を持った父親の霊により、探索者たちは次々と怪奇現象に襲われることとなるだろう。また、父の来訪を知った亡くなった娘の霊は、何とかそれを伝えようと赤ちゃんに取り憑き、危機をいち早く教えてくれる。
シナリオは、その晩に死んでしまった母親の霊を呼び出し、再び父親を殺させることでクリアとなる。
【導入】
ある日、探索者は突然、遠縁の親戚から一晩だけ子供と留守番をしてくれないかと頼まれる。夕方から夜にかけてどうしても家を空けなければならない用事があるらしく、��礼もかなり弾まれることから、引き受けることになるだろう。
家に向かうと、1歳くらいの子供を抱いた女性が探索者を出迎えてくれるだろう。彼女の顔は長らく見ていない為、記憶にあるかもしれないしないかもしれない。
【NPC情報】
⭐︎母親 森永詩代子(もりなが しよこ)
⭐︎赤ちゃん 森永令人 (もりなが れいと)
1歳を迎えたばかり。つたい歩きをし始めた頃で、親のことを「まんま」車のことを「うーう」と言える程度の言語力。
アイデア、心理学:彼女が少しばかり疲れているように見える。クリティカルが出れば、かなり思いつめているようにさえ感じるだろう。
もし疲れている理由を問うならば「この子とっても元気で、すごく笑う子だけど泣く時も激しいんです」と苦笑しながら答えられる。
迎え入れられた場所は一軒家で、探索者たちは一階のリビングに通される。そこで、食事や服の場所の説明を受ける。食べ物は基本冷蔵庫、専用のご飯も作り置きがあり、洋服も汚れた時用にリビングに複数着持って来てくれている。お気に入りのおもちゃも近くのカゴにまとめてくれているようだ。
また、探索者たちの夕食も準備してくれている。
アイデア:かなり細かく説明をしているため、几帳面なのだろうかと考える。もしクリティカルが出たのなら「元来こんな性格では無かったため、少し様子がおかしいのではないか」と気づいてよい。
全ての説明を終えると、行かなければならないと彼女は立ち上がる。赤ちゃんの頭を撫で「良い子でね」と声をかけるとそのまま家から出て行くだろう。
時刻は17時頃。
以下は茶番、RPが好きな方の赤ちゃんと戯れるフェーズとなります。 そこまでお好きでない方は、食事の描写を行ったのちに夕食後の描写まで飛んで下さい。
【赤ちゃんとあそぼう!】
母親がいなくなって10分ほどして、赤ちゃんが泣き出す。KPは泣いている理由を1d4で決めること。
1.母親が見えず不安になった 2.オムツが濡れてしまった 3.お腹が空いた 4.眠い
探索者はアイデア、心理学、または子供の気持ちが分かる何某かの技能を使うことにより、これらの理由を知ることが出来る。理由に合った対処を行えば、彼は満足そうな表情を見せるだろう。
また、オムツを上手く変えられるか、上手に抱っこできるか、などを、DEX×5で決めてもよい。 上手くあやすことが出来れば、懐くような描写を入れても良いかもしれない。
ある程度RPで赤ちゃんと親交を深めたら、適当と思われるタイミングで次に進む。
ここで部屋の探索をしたい場合、以下の情報を出すこと。 また、風呂場やキッチン、トイレへの移動は自由で構わないが、何の理由もなく二階に向かおうとした場合は赤ちゃんを泣かせるなどしてやんわり止めること。 そもそも一階に全てが準備されているため、彼らが二階に行く理由は現時点ではない。
目星:小さな仏壇が隅にあることに気付く。また、部屋の隅に一枚の絵が飾られている。
⭐︎仏壇
骨壷が置かれている。写真などはなく、ただ活けたばかりと思われる綺麗な花が供えられている。
⭐︎絵
子供が描いたような絵が壁に画鋲で留められている。
アイデア、絵画に関連する技能:一人は警察官のような格好をした笑顔の男、一人は女の子に見える。
もし、剥がしてこの裏を見るのであれば、ひらがなで辿々しく何かが書かれているのを見つける。
「ぱぱとかくれんぼ ぱぱがみるじゅんばんはいつもいっしょ おふろば きっちん りびんぐ たたみのへや ちよこのへや ままとぱぱのおへや みーつけた」
【夕食後】
赤ちゃんも満足したのか専用の布団ですやすやと寝入り、探索者も自分たちの夕食を済ませると、眠気が襲ってくるだろう。布団はリビングに準備されているが、そこに辿り着くかつかないかと言ううちに、眠ってしまう。部屋の明かりもついたまま、探索者の意識は波が引くように消える。
そして、ざざ、ざざ、という音で探索者は目を覚ます。電気を消した記憶はないのに気付けば辺りは暗く、何故かリビングの真ん中のテレビだけが付いていた。
テレビは砂嵐が流れているが、探索者がそちらへ視線を向けた途端、画質の荒い映像が流れ出す。洗面所に立っている少女の動画だ。
画面には、7歳くらいの女の子が顔を洗っている様子が映っている。時折振り向きながら誰かと会話をしている様だが、声はノイズが入っていてうまく聞き取れない。カメラが徐々に近づき、洗面台の鏡に人の影が映りかけた所で映像は電源ごとぶちりと途切れた。
探索者はリモコンに触った覚えはなく、また再生デッキ等も近くに見当たらない。突然の現象にSANチェック0/1。
アイデア:ここの家の洗面台ではないか、と思う。
我に返ったと同時に次は近くからごそごそと音が聞こえる。慌てて明かりをつけようとするが、部屋の電気が点かない。 時刻を確認すると深夜一時となっている。
スマホのライトで辺りを照らすならば、仏壇の前の異変に気付く。
そこには赤ちゃんが座っており、探索者をじっと見ていた。また、何かを食べているように口をもぐもぐと動かしている。周囲を見た探索者は、仏壇にあった骨壷の蓋が開いていることに気付いてよい。
近寄って口の中を確認するならば、赤ちゃんの口からは小さな骨が出てくる。また、その手に何か握りしめられていることに気付く。
握られていたのは部屋に飾られていた子供の絵だ。ここで探索者は裏側の文字に気づいてよい。
⭐︎絵
子供が描いたような絵。先程までは壁に貼られていた。また、裏に以下の文言が書かれている。
「ぱぱとかくれんぼ ぱぱがみるじゅんばんはいつもいっしょ おふろば きっちん りびんぐ にかいのたたみのへや ちよこのへや ままとぱぱのおへや みーつけた」
アイデア、絵画に関連する技能:一人は警察官のような格好をした笑顔の男、一人は女の子に見える。
また、それを読み終わったところで、探索者は風呂場から水音のようなものが響いてくることに気付く。
※確認しない場合、そのままインターホンのイベントまで飛ぶ
Tumblr media
◎風呂場
脱衣所の明かりは付いており、浴室から水が捻りっぱなしになっている音が聞こえる。聞き耳に成功すれば、溢れているような響きであることが分かる。
浴室の扉を開けると、少女が水に沈んでいた。
彼女は仰向けの体勢で目を見開いたまま浴槽の底におり、天井をじっと見つめている。その肌は体温があると思えないほど白く、所々紫に染まっていた。また、よく見れば指先が水を吸ったように膨れていることにも気付く。
これが死体だ、と探索者ははっきりと分かるだろう。SANチェック1/1d3。
また、アイデアに成功しなくても、沈んでいるのが先ほど画面に映った少女だということが分かってよい。
死体に何か行おうとしても浴室を後にしようとしても、惨状を認識した数秒後にそれはふっと消えてしまう。蛇口も止まっており、浴槽は空っぽだ。探索者はこれが一瞬の夢や幻覚だとは思えず、気味が悪くなるかもしれない。SANチェック0/1。
◎インターホン
風呂場から出ようとした瞬間、インターホンが鳴り響く。
時刻は深夜一時だが、そんなことを気にしていないかのように、それは少し間を置いてもう一度聞こえてくるだろう。
また、廊下に出ると赤ちゃんが立っている。 彼は骨壷を腕に抱いており、そのまま真っ直ぐ探索者を見つめた。
「でちゃだ��」
探索者はそのはっきりとした言葉が、赤ちゃんの口から発せられる瞬間を見る。 唖然としていると、彼はもう一度口を開いた。
「パパがかえってきたから、だめ」
先ほどまで泣いたり笑ったりと忙しかった彼の顔は無表情で、愛らしい幼児の面影はどこにも無い。突然の信じられない出来事にSANチェック0/1。
※もし、最初から探索者が赤ん坊を連れて移動していた場合、死体を見た直後に同じイベントが起こる。また、その場合も骨壷をしっかりかかえており、離そうとしない。
アイデア:声が、女の子の声のように聞こえる。
◎かくれんぼ
赤ちゃんが喋り出した直後、玄関先から男性の声が響く。
「あぁ、鍵があったんだった」
探索者はドアノブに鍵をさす音を聞いてよい。 そして、男の声が人間の声の筈だが、どこかノイズのようなものが混じっており、人の様に思えない。
次から基本的に自由行動となる。もし、ドアに近づこうとするのなら、赤ちゃんが「にげなきゃ」と表情を変えぬまま話しかけてくる。
⭐︎父親の霊
森永明慈(もりながめいじ)。 令人と茅代子の父親、詩代子の元夫となる。
彼はドアを開けると、
①風呂場 ②キッチン ③リビング ④和室(2階) ⑤子供部屋(2階) ⑥寝室(2階)
の順で進んで行���。
念入りに子供を探している為、探索者がひと部屋を探索する間、彼もひと部屋に留まっている形になる。KPは時折「どこかなぁ」「ここかな?」「かくれんぼ上手だぁ」と言った声が聞こえて来る描写を挟むと良いかもしれない。
また、出くわしてしまった場合、子供、もしくは骨壷が連れていかれる。処理は後述。
また、窓やドアは何故か開かなくなっている。ガラスを破る様なことも出来ない。閉じ込められてしまったことに気付いた探索者はSANチェック0/1d2。
もし探索者が紙に書かれた順番に回ろうとして風呂場に最初に行くなら、赤ん坊は「あったらだめだよ」と注意をしてくる。あまり早々に鉢合わせないようにうまく誘導すること。
◎キッチン 目星、アイデア:包丁がないことに気付く。 ※KP情報:詩代子が夫の殺害の為に持ち出している。
◎電話
2階にあがろうとリビングに戻ると、突然固定電話が鳴り出す。相手は非通知である。 受話器を取ると、砂嵐の様なひどい響きに混じって男の声が聞こえてくる。
「ごめん、君にあの時2人目の子がいるなんて知らなかったんだ。もう一度一緒に暮らそう、今度こそ幸せになろう」
アイデアを振らなくても、それが玄関先で聞いた声だと気付いてよい。
※このあと、二階に上がらずトイレ等を見ようとした場合、探索者さんのクトゥルフ慣れ度的に詰みそうな雰囲気を感じれば、玄関近くのリビングと廊下をつなぐ扉を開かなくしてしまっても構わない。
◎和室(2階)
扉は雪見障子(下半分がガラス、上半分が障子)となっている。
開けるとそこは畳が見えないほど、ガラスや物が散乱していた。額縁が落とされ、中身が千切られ、ショーケースが破られている。唯一何も起きていないのは障子と、部屋の隅の金庫だけだ。 正気の沙汰と思えない状況にSANチェック0/1。
目星:床に散らばった紙の中に、写真と破れた表彰状を見つける。 写真:1人の警官が表彰される姿が写っている。 表彰状:川で溺れた近所の男の子を助けた旨が書かれている。名前は「森永明慈」となっている。
部屋を出ようとした所で、探索者は障子に映る複数の黒い影に気付く。足もガラス部分からはっきり見えており、音もなく現れたその姿に息を呑むだろう。SANチェック0/1d2。
また、その影はざわざわと何かを話している。
目星:40〜50代の女性の足の様だ。 聞き耳:噂話のような囁き声が聞こえる。「残念ねぇ、あんなに良い人なのに」「旦那さん、新築のお家も何もかも奥さんに残して出ていかれたって」「お風呂場で最初に見つけたのに助けてあげられなかったって泣いてたわ」「大体奥さんは何で家にいなかったのかしら」「学校を休んでいる子をおいて買い物に行くなんて、どうかしてるじゃない」「買い物じゃなかったのよ、きっと」
⭐︎金庫
3桁の数字を入れる形式となっている。
「214」で開き、中には一本の鍵と、「死者に触れる、還す、殺す、そのどれもが可能なのは、神職の者か、或いは同じ死者のみである」と書かれたメモが入っている。
◎子供部屋
扉を開けるとベッドや机がある。雰囲気的に女の子の部屋のようだ。
目星:床にこびりついた汚れを見つける。円のようなものが書かれているように感じる。また、窓際のカーテンがわずかに揺れていることに気づく。 床の円に医学、生物学:この円が血で書かれていることに気付く。
カーテンを開けると、窓は開いていない。 しかし、曇ったガラスに指でなぞったような文字が書いてあることに気付く。
「ねいいわかはもどこるれぼお」
⭐︎ベッド
くしゃくしゃになった紙が一枚落ちている。目星で見つけられてもよい。
紙には、以下の内容が書かれている。
【奪われた者、或いは奪った者との対話】
「死を他者より与えられた霊、もしくは与えた霊を呼び寄せる呪文である。生前の居場所に血液で魔法陣を描き、以下の文言を唱える。霊がとどまっている時間は僅かだが、運が良ければ会話などを試みることも可能である。
しかし、彼らは強い怨恨を持っている。そのため、寄せられたものは必ず何かを奪い去って行く。あるものは正気を、あるものは命を奪う。そのせいで死者が死者に二度殺され、魂が二度と形を持たなくなることも少なくはない。
また、この呪文を唱えられるのは一生に一度のみである。一度その言葉を聞いたものが、再び同じ呪文を口にすることは出来ない。」
下には呪文のようなものが書かれている。
この呪文を唱える場合、MPを6、SAN値を1d6減少させること。また、一度唱えてしまうと、唱えたものも聞いていたものも、二度とその呪文を使用できなくなる。
⭐︎机
二年前のカレンダーが置かれている。調べてみるのなら、2月14日部分にケーキの絵が書いてあることに気付く。
◎寝室
鍵がかかっている。鍵開け、もしくは金庫の鍵で開けることが可能。 開けると、この部屋だけ電気がついている。
眩しさに細めた目がその明るさに慣れれば、白い壁に書かれた文字が目に飛び込んでくる。
「絶対に私が殺す」
壁には赤黒い文字でそう綴られている。また、カッターが一本転がっているベッドにも同じ色の染みがあり、辺りには鉄臭さが充満している。技能を振らずとも、これが血であることに気付くだろう。SANチェック0/1d2。
部屋は整頓されており、ベッドと壁はひどく汚れているが、和室のような荒れ具合ではない。 また、本棚が一つある。
アイデア:直前にしっかり片付けられた印象を受ける。 目星:ローテーブルに手紙が一枚置かれている。封筒には「令人へ」と書かれている。
⭐︎手紙
中には二枚の便箋が入っている。
一枚目には「令人へ お姉ちゃんと一緒に空からずっと見守っています。元気で大きくなってね、幸せになってね。ごめんなさい」と書かれている。 二枚目には、森永令人へ全ての財産を譲る旨が書かれている。日付は本日で、名前は森永詩代子となっている。
⭐︎本棚
図書館、目星:死者と会うことを目的とした書籍が多い。また、一冊の本にメモが挟まっている。
⭐︎メモの挟まっている本
「未練や怨恨、強い嗜好を生前から持つ霊は他と比べて地上に残りやすい。また、自身が死んだ事に気付かず、死んだ直後に彷徨いながら生きていた時と同じ行動を取るのは、よく知られた話である」 
⭐︎本の間のメモ
「誰も信じてくれないかもしれません。でもあの子は父親に殺されたと言いました。また殺されるかもしれない。電話があった。殺しに来る。その前に私が殺します 殺しても死んでも二度でも三度でも殺してやる許さない絶対に許さない今日行って殺してやる殺してすぐ私も死ぬ茅代子に会いたいもういきてなんていけないゆるして令人でもアイツは私が絶対に殺す」
【エンド分岐】
★母親を呼びよせた
「子供部屋でない場所」で「血で魔法陣を描き」「森永詩代子」を呼び寄せる。身体を傷つけて血を出す場合は、1d4のHPを減少させること。そしてこの呪文を唱える場合、MPを6、SAN値を1d6減少させること。一度唱えてしまうと、唱えたものも聞いていたものも、二度とその呪文を使用できなくなる。
呪文を唱え終えると、部屋の中にゆらゆらと陽炎のようなものが立ち上がり、徐々に人の形となってゆく。その姿は森永詩代子に間違い無かったが、目は虚ろで生気は微塵も感じられず、利き手に血塗れの包丁を握っている。いつもの穏和な笑みを浮かべていない彼女は、別人にすら見えるだろう。
聞き耳:彼女がずっと「殺す殺す殺してやる」と小さく呟いていることがわかる。探索者の姿など目に入っていない様だ。 目星:彼女の首に赤い縄の跡を見つける。
亡霊の姿を見た探索者はSANチェック1/1d3。
そして、ほぼ変わらないタイミングで扉がゆっくりと開く。 その奥には、血塗れの男が立っていた。
体の至る所から血を流し、肉のえぐれた痕がある男には、明らかに致命傷と思われる傷が複数存在している。殺されたことを感じさせる生々しい姿の亡霊を見た探索者はSANチェック1/1d4。
男は惨状を微塵も感じさせない笑顔をこちらに向けている。その視線は探索者の腕の中、いつのまにか目をぱっちりと開いた子供の顔に向けられているだろう。
「やっと見つけた」
男がそう微笑んだ瞬間、天井のスプリンクラーが作動する。噴き出た水が探索者たちを襲うが、身体を1ミリも動かすことが出来ない。
男は動けない探索者に突進しようとするが、次の瞬間、絶叫が響き渡る。
探索者の前、正確には子供の前には、詩代子が立ちはだかっていた。そして、手に握られていた包丁は深く男の胸に沈められている。
絶対に殺す、と先程と同じ言葉が聞こえ、男は断末魔を上げながらゆっくりと消えて行くだろう。
男が消えると詩代子が振り向き、赤ん坊に手を伸ばす。探索者との会話は二、三言出来て構わないが、正気はやはりないも同然なのか、あまりまともな会話にはならないだろう。
血塗れの手が子供に触れると、そこからするりと抜け出す様に少女の姿が現れ、母親の手を握る。少女が風呂場で沈んでいた子供であるということには、技能を振らずとも気付いてよい。
二人は赤ん坊の頭を数度撫で、小さく謝罪の言葉を残して消えてしまう。
いつの間にか薄らと明るくなってきた部屋に、まんま、と声が聞こえ探索者は我に返る。
腕の中に目を落とせば、子供が楽しそうな顔をあなたに向けていた。
その後、森永詩代子の訃報が入る。元夫を殺し、側で首を吊っていたようだ。 探索者たちは事情を聞かれるが、妙な疑いをかけられる様なことはない。 しかし、この子供の血縁者は探索者しかいないことを警察に聞かされる。
子供を引き取っても、たまに顔を見せるだけでも、もしくはこれきりの縁にしても構わない。
どの道を選んでも、彼は案外逞しく生きていくだろう。
《エンドA:TRUE》
★娘を呼び寄せた
母親を呼ばなければ、死者に対抗する手段は無い。
もしも娘の方を呼び寄せた場合、赤ん坊からするりと影が抜け、子供の形となる。真っ白な顔をした少女は、風呂場で見た死体と変わらない姿で悲しそうに探索者を見つめるだろう。
そして、ほぼ変わらないタイミングで扉がゆっくりと開く。
その奥には、血塗れの男が立っていた。
体の至る所から血を流し、肉のえぐれた痕がある男には、明らかに致命傷と思われる傷が複数存在している。殺されたことを感じさせる生々しい姿の亡霊を見た探索者はSANチェック1/1d4。
男は惨状を微塵も感じさせない笑顔をこちらに向けている。その視線は少女に真っ直ぐに注がれている。
「やっと見つけた」
近寄ると逃げることも出来ない少女の腕を男は掴んだ。
男に何かしらの攻撃を加えようとしても、探索者の体はすり抜けてしまい触れることが出来ない。
少女は次第に苦しそうな表情となり、やがて空中に泡を一つ吐く。父親はそれを見て笑みを浮かべ、二人の姿は消えるだろう。
その後、森永詩代子の訃報が入る。元夫を殺し、側で首を吊っていたようだ。 探索者たちは事情を聞かれるが、妙な疑いをかけられる様なことはない。 しかし、この子供の血縁者は探索者しかいないことを警察に聞かされる。
子供を引き取っても、たまに顔を見せるだけでも、もしくはこれきりの縁にしても構わない。
ただ、どれだけ話しかけても何をしても、彼は笑い方を忘れてしまった様に無表情となってしまう。
また、事件後から探索者の家では夜に誰かが溺れる様な音と男の密やかな笑い声が聞こえるようになる。少女の静かな断末魔は絶えることなく、探索者の鼓膜を蝕むだろう。
《エンドB:BITTER》
★誰も呼ばなかった。
母親を呼ばなければ、死者に対抗する手段は無い。
最後の寝室にいなければ、その後父親は探索者たちを見つけるまで追いかけて来る。そして、探索者の前にその姿を現すだろう。
体の至る所から血を流し、肉のえぐれた痕がある男には、明らかに致命傷と思われる傷が複数存在している。殺されたことを感じさせる生々しい姿の亡霊を見た探索者はSANチェック1/1d4。
男は惨状を微塵も感じさせない笑顔をこちらに向けている。その視線は探索者の腕の中、いつのまにか目をぱっちりと開いた子供の顔に向けられているだろう。
「やっと見つけた」
男がそう微笑んだ瞬間、天井のスプリンクラーが作動する。噴き出た水が探索者たちを襲うが、身体を1ミリも動かすことが出来ない。
ここで探索者は幸運を振る。
成功すれば、子供が手から何かを落とす。それはしっかりと抱えていた筈の骨壷だった。 近づいて来た男はそれを拾い上げると満足そうな笑みを浮かべ、徐々に消えていくだろう。
成功した場合は、《エンドB:BITTER》へ進む。
探索者の家では少女の溺れる音が聞こえる様になり、助かった赤ん坊は二度と笑わない。
幸運に失敗した場合、気がつくと朝になっている。いつの間にかその場に倒れてしまっていた探索者は、足元に転がった小さな塊に気づく。
赤ん坊は、制帽の中に溜まった水に顔を突っ込み溺れていた。その体は、既に冷たくなっていた。
その後、森永詩代子の訃報が入る。元夫を殺し、側で首を吊っていたようだ。 探索者たちも子供が死んだことに関し事情を聞かれるが、逮捕までは至らないだろう。
しかし、事件後から探索者の家では夜に誰かが溺れる様な音と男の密やかな笑い声が聞こえるようになる。少女の静かな断末魔と赤ん坊の鳴き声は絶えることなく、探索者の鼓膜を蝕むだろう。また、時折夢に母親が現れ、恐ろしい形相で睨んでくる。
「何で助けてくれなかったの」
彼女は恨みがましそうにそう言うだろう。
《エンドC:BAD》
【生還報酬】
赤ん坊を守った:1d4 骨壷を守った:1d4
【余談】
苦手だったホラー映画を初めて見ることが出来ました。見たら新居でめっちゃ心霊現象が起きる話が見たくなりました。お察しの来る奴です。
バレンタイン近いのでチョコっぽい名前にしましたが、バレンタインは関係ございません。
楽しんでいただければ幸いです。
それと作中に描写がなく申し訳ないですが、お父さんの職業は悪事を隠ぺいしやすそうだからという理由でこんな感じとなりました。
お読み下さりありがとうございました。 今年もどうぞ、よろしくお願いいたします。
詐木まりさ @kgm_trpg
0 notes
kanno-no · 3 years
Text
宇宙原人
 子供の頃憧れた遠い遠い「宇宙」は窓の外に広がっている。いざ近くなってみると誰も見向きもしないようだ。
 「俺たちはついに宇宙に来たんだ!!」と窓の外を見ていたのはせいぜい2時間。はしゃいで故郷の奴らに連絡したりしていたのは3日ほど。最初こそ様々な質問を投げてくれていた友人らはなんの連絡も寄越さず、コンピュータは週に一度「調子はどう」という妻からのメッセージを転送してくるだけだ。街で暮らしている時となんら変わらなかった。妻がそこにいない、という点は街とは違うが、試験と訓練でこの1年は殆ど一緒に過ごさなかったからあまり変わったような感じがしない。律儀にメッセージを送ってくれる妻に、たまには愛も同封して送ってみるかとメッセージの終わりに「I LOVE YOU」を追加する。なんとなく気恥ずかしくて削除する。
 少し退屈だが、街での暮らしよりも快適ではあった。コンピュータが全てを適切な状態に保ってくれている。映画は何百本と見た。コンピュータや同僚のニールやマイク相手にゲームに興じたりもした。飯だって作らなくても美味いパックが出てくる。何不自由ないルームシェアみたいな暮らしだった。
 ただ、人を欺くなんて日常茶飯事なくそったれな試験や、血反吐を吐くくらい厳しい訓練を乗り越えてやっていることが、映画20本耐久視聴やひたすらゲームをして3日溶かす、みたいな自堕落な生活で本当に良いのだろうかという疑問もなくはなない。まぁ、これからコンピュータが労働を全てする時代が来るのだから、そのテストモデルにでもなれれば、人類の歴史に貢献していると言っても過言ではないのか。そもそもこれからの■■■星の調査がメインなのだ。その移動時間は暇つぶしをして然るべきなのかもしれない。
「■日■月■年 調査■日目
 記録者 エド.
 異常なし。順調に航宙を続ける」
コンピュータから転送しようとした途端、画面にエラーメッセージが踊る。
 は? 直そうと試みるもいつも触るホログラムディスプレイは反応しない。別の端末から試してみよう。とりあえずミーティングルームに向かう。ニールやマイクもちょうどミーティングルームに来たところだった。
「まさかお前もエラーか?」
「"お前も"ってまさか、2人ともコンピュータにエラーメッセージが出たのか」
「あぁ」
「僕たちはこれから制御ルームを見に行く所だ」
「俺も行こう」
 結局分かったのは、コンピュータがいかれやがったということだけだった。しかも、俺たちは全てをコンピュータ任せにしてきたから何も出来ない。訓練だって操縦や制御ではなく環境適応がメインだったし、今までの人生でもコンピュータを直したことがあるやつもいなかった。コンピュータが全てを予測してくれていた中で、コンピュータの故障は予測されていなかった。
 ひとまずこのまま航宙しているのも危ない。不時着するべく近くの星を計測する。奇跡的に地球によく似た環境の星が一つ見つかった。試験のためた知識がはじめて試験以外で役に立った。
 マイクのヘロヘロの操縦でなんとか着陸。あたりの安全が確認できるまで船内にいたかったが、さっきから緊急事態を告げる音が鳴り止まない。話し合いの結果、緊急時用のバッグと探索セット、動かないが一応デバイスを持って、宇宙服を着込み、俺たちは外界に出ることにした。これから死ぬかもしれないと思った時、妻にメッセージを遺したいと思った。そうして手に取ったデバイスは……起動しないのだった。忘れていた。つい電源ボタンを押してしまう。
 あたり一面、植物のようなものが茂っていた。地球でいうところのジャングルに近い状態……なのだろうか。ただ、その植物のようなものは薄ピンク色や水色で、ツルツルとしている。まるでフェイクグリーンのようだった。緑色ではないが…… 
「本当にここへ進むのか」ニールは言う。「今からでもやっぱり船内に戻るか、ここにシェルターを立ててさ……」
「蒸し返すようなことを言うなよ」
「僕が同意したのは船外に出ることだけだ。探索に関しては……」
「ふたりともやめろって。冷静に話し合おう」
「どうしてこんなに臆病な奴が宇宙飛行士になれたんだ」
「はぁ……冒険ダイスキな漫画頭と一緒にいるのは疲れるな。チームメンバーも選べたら良かったのに」
「おい、マイク、ニール。これ以上は……」
 ガサッ
 植物がうごめく。敵か。いや、攻撃する前に友好的に……一瞬の迷いが命取りだった。触手みたいなものが迫る。次の瞬間には身動きが取れなくなっていた。さっきの触手のようなもので縛られていることが分かった。 
 触手に縛られて運搬される。訓練の時の、俺らを酔わせるためだけに作られたクソみたいな機械の感覚に似ている。おえ。揺れる視界の端に逆さまに触手の主の姿が映る。
 真っ暗なところに運び込まれて、触手が緩む。逃げようにも危険すぎると本能が言っている。
《みにょにょにょにょーむ》
 触手を体内に仕舞いながら、仮面をつけた生物……おそらく生物のようなものが鳴く。
「ヒィ! 助けて……」
 ニールが半泣きで喚く。謎の生物相手にコミュニケーションを試みてみる。
「俺たちは、地球……太陽系の……惑星から来た。宇宙船が故障してしまったんだ。君たちに危害を加えるつもりはない。どうか……」
《みにょん》
 こちらの言葉が通じているのか? 少なくとも相手の鳴き声は理解出来ない
《みにょん るっぽら みにょんらるー□みにょんみにょんるーと みにょにょにょにょーむ��みにょんみにょん□みっぱら らっとん ぱんるーっと□みにょにょにょ ぱんけった るーと》
「とりあえず宇宙船……さっきの所に返してほしい」
《みにょん るっぽら みにょんらるーと》
 触手が伸びて来て、宇宙服をまさぐる。
「武器は持っていない!」
《みにょん□みりゅっぱむ ぱるぱむ□るーと》
 話が通じている気配がない。宇宙服を脱がされる。死ん……でいない。宇宙服無しでも生きられる環境なのか。首より下の衣服を全て脱がされて、触手は皮膚を剥がす場所を探しているように動く。「やめてくれ! 頼む! やめてくれ!」ニールの叫ぶ声が聞こえる。マイクも何か言っているようだが、聞き取れない。彼の母国語なのかもしれない。そのまま持ち上げられて壁に磔にされる。身動きがとれない。
 自分の体勢を確かめる。右手は開かれて、右肘を曲げた状態であげられている。左手は横にまっすぐ伸ばされて、何かを握らされた状態で固定されている。右脚は軽く膝を曲げて、その上に左足首をおかれている。体勢的にきつくはないが、触手みたいなもの……さっきとは感触が違うし、生物などに繋がっているわけではない……で固定されて全く身動きが取れない。船で見た宇宙人を研究として解剖する古い映画を思い出す。俺たちも解剖されちまうのかもしれない。
《みにょん□らるたんらっく□るーと》
 ベタベタとした液体を体になすりつけられる。触手モノのちょっとエッチな映画を思い出す。恐怖がまさって快楽なんてもっての外で、擽ったさも微塵も感じない。足元ではパチパチと紅色の炎が燃えている。魔女狩りの映画を思い出す。
《みにょん□くるるとるー もぱ□るーと》
 不時着した所に生えていたフェイクグリーンを煎じたようなものを宇宙服のマスクの中に詰め込まれる。苦くて甘ったるい変な匂いがする。口の中にも入ってくる。渋い。ゲテモノ食いの映画を思い出す。
《みにょん□もももるっぽ ぱるぱむ□るーと□みにょん ろろろ ぴょー □みにょん□ みにょんるーと》
 変な生物の付けている仮面のようなものが、頭部に恭しく乗せられる。なんかの映画の戴冠式を思い出す。
「助けて! 誰か!」
 ニールが叫んでいる。クソつまらなかったゾンビパニック映画の一番最初に死んだ奴を思い出す。
《みにょん るっぽら みにょんらるー》
 もう何時間たったのだろう。打楽器系の音が響く。火の周りをぐるぐる回りながら、リズミカルに鳴く謎の生物達……先住民と呼ぼう。俺たちは野蛮な彼らの生贄として死ぬのだろうか。何かの映画で先住民が植民地化しようとやって来た人々を殺して水に浸け、腐ったら同じ人間だと判断し、腐らなかったら悪魔であると判断したという話がでてきたのを思い出す。俺たちも殺されてから判断されるのかもしれない。でも、映画の中では地球に来た宇宙人は無条件でまず殺されているので、お約束なのかもしれない。
 死にたくない、死にたくないな。妻の顔が浮かぶ。
 触手がマスクの中に入ってきて、クソ不味いフェイクグリーンを掻きだし、変な装置をギュムギュムと押し込んで来る。
《はじめまして》
 装置から聞き慣れない声がかすかに聞こえる。
《失礼ながらあなた方の宇宙船を調査させていただきました。これはあなた方の言語を解析して作った翻訳機です。あなた方の宇宙船にあった音声出入力装置と同じように付けてください》
 手足が解放される。事態が全く理解出来ない。とりあえずマスクを外して、指示に従って、音声出入力装置……ヘッドセットのことだろうか……のようにつける。
《みょ! 仮面はそのまま! つけていて! ください!》
《仮面をつけているあなた方は私たちです》
《仮面をつけている者はみんな私たちです》
《手荒な真似をしてしまい、すみません。話が通じない状態で処置をされるのは不安だったことでしょう。解析に想定していたより時間がかかってしまいました》
「言葉が通じるのか」
《はい。あなた方は私たちです》
「俺たちは、君たちに危害を加えるつもりはなく、宇宙船が不時着してしまい……」
《えぇ。存じ上げております。大変でしたね。余計なお世話かもしれませんが、コンピュータを修理しておきました。解析に必要でしたので》
「は」
 こんな野蛮な奴らが、俺たちに出来なかったコンピュータ修理? にわかには信じがたいが、こんなにも短時間で言語を解析して地球の技術でも作り得ない翻訳機を作っている所をみると、信じざるを得ないのかもしれない。
《私たちの行ったのは疫病防止と獣除けです》
《あなた方を私たちにしました》
《失礼ですが、あなた方が何か疫病を持っている可能性がありました》
《もちろん私たちの環境が、私たちではなかったあなた方に悪影響を及ぼすかもしれません》
《あなた方の宇宙船の停まっていた場所は"仮面なし"の住処の近くでした》
《"仮面なし"は凶暴な獣です。私たちを追ってきたら大変です》
 地面に降ろされた後もあっけにとられている間、先住民たちは滔々と説明をしていた。ニールとマイクの方を見ると、彼らもポカンとしている。
 俺たちは彼らのことを口外しない約束で返してもらうことが出来た。本部には原因不明の通信障害で、今のところ問題ないと報告した。妻に「 I LOVE YOU 」と送信する。「急にどうしたの。私の愛しいエド。私も愛しているわ」妻からホログラム付きのメッセージが届く。俺たちは何ごともなかったかのように落ち着いた航宙に戻ることが出来た。
 まるで一本の映画を見ているかのようだった。現実感がなかった。野蛮な生物だと思っていたが、彼らは高度な科学力を持っていた。地球人にはなし得なかった自然との共存もしていた。
 自分達の方がよっぽど原人なのかもしれない。
 映画ならここでエンドロールだ。
宇宙原人
ーーーーーーーーーーー
回めぐる(Twitter@mawattemeguruyo)さん主催の「#プロットぐるぐる交換会」でプロットをいただいて執筆した作品です。
プロット:森村バイヲ(Twitter@Oh_nara_poo)さん
企画詳細
https://twitter.com/mawattemeguruyo/status/1352458226214686723?s=20
0 notes
skf14 · 4 years
Text
11060007
間接照明なんて小洒落たものは、この部屋には置いていない。それは私の生活に、そんなオプションにまで気を配るほど金銭的にも精神的にも余裕がないせいでもあったし、そもそもワンルームの狭い部屋でテレビ以上に程よく光を与えてくるものなどないからでもあった。
「そろそろ照明買えよ。」
「なんで。」
「だってお前、セックスする時暗いと何も見えないじゃん。かと言って部屋の電気は付けさせてくれないし。」
「明るいの恥ずかしいから付けない。それに、テレビつけてるじゃん。十分見えるでしょ。」
「そのせいで俺らは深海魚に見守られながらハジメテを迎えたわけだけど。」
「素敵な初夜じゃない。それに、強いて言うなら今日も、ね。」
そう、今日も、私と彼は、狭いシングルベッドの上で、深海のドキュメンタリー映像に見守られながら繋がった。夏の暑い日、地球に鞭打ってクーラーをガンガンに効かせ、程よい室温の中で体温を分け合った。光る四角の中では、ゆらりゆらりと奇抜な形と色をしたクラゲが、波も音も光も何もない水の底を揺蕩っている。まるで私たちみたいだ、とその様子を自嘲すれば、彼は、詩的なことはよくわからない。と眉を下げるんだろうか。
「嫌い?深海魚。」
「いや、嫌いじゃないけどさ。」
「なら良かったじゃんか。何、それともガキ使でダウンタウンに見守られながらしたかった?」
「色々アウトだよバカ。何が悲しくて、おっさんがケツしばかれるとこ見ながらイかなきゃいけないのさ。」
「ふは。」
あいにく私はブルジョアな身分じゃないただの派遣社員だし、いつ切られるか分からない首を皮一枚つなげて、なけなしの賃金は生活に消えていくし、彼は輪郭の曖昧な夢と、どこかにあるはずだと信じて疑わない「自分にしか出来ないこと」を追いかけるだけのフラフラした大人だし、未だにどんな仕事をしているのかすら知らないし、間接照明は大体部屋が沢山ある家に住むちゃんとした大人が所持するものだろう。私の家には、相応しくない。この価値観はいつどこで拾ったものなのか、どう育ったものなのか、最早分からない。
彼が煙草をやめてから、どのくらい経っただろう。気を遣って、彼が初めて家に来る時買っておいた百均の灰皿は、��ンク下の扉の中で埃を被っている。別に嗜好品まで支配する気はない、と遠回しに伝えた私に彼は、「でも好きじゃないんでしょ?なら、キスもするし、辞めるよ。」と笑った。あぁ、ダメになる。と思う。私は、いつまでも私のまま、立っていたかった。
「あ、出た、お前の好きなやつ。」
「そろそろ名前覚える気ない?」
「覚えらんないよ。こんな難しい名前。」
「ミシシッピアカミミガメより短いし、簡単でしょ。カイロウドウケツ。」
「ヘチマ乾かしたやつにしか見えねぇ。」
「もうヘチマにしか見えない。」
画面の中で、海綿体の仲間、カイロウドウケツがゆらゆらと海底に生えているのを、大して興味もなさそうに彼が私の身体越しに見ていた。偕老同穴。言葉を先に知っていた私は、己がそれを好きになった皮肉をひしひしと感じていた。いや、別に関係はない。ただ、その二酸化ケイ素、いわゆるガラスで作り上げられた骨格が美しく、惹かれただけだ。
テレビに夢中にな���ていた私を、彼は抱き寄せて頸にキスをして、好きだと言っていた腰のラインを撫でて、まるで愛用の抱き枕のように優しく扱う。彼にとって心地良い存在になっていることを、微塵も疑わなかった。少なくとも身体に関しては、細く、白く、肌触りが良いように気を付けていたし、それを褒められるのはとても幸せなことだった。少し無骨で私よりも大きな手が私を撫でる時間が、夢のような心地を私に与えた。
私と彼、どちらがエビなのだろう。カイロウドウケツは、網目構造内、胃腔の中にドウケツエビ、というエビを住まわせている。このエビは幼生のうちにカイロウドウケツ内に入り込み、そこで成長して網目の間隙よりも大きくなる。つまりは外に出られない状態となるのである。
寄生、依存、嫌な言葉はいくらでも思い浮かぶ私の脳は、「共存」というたった一言を導くことが出来ない。そう、私たちが、将来的に分化し、雄と雌の番になって一生を過ごすエビ同士だと、どうしても思えないように、私は彼のもの、彼は私のもの、そんな歪んだ物差しで、いつも彼を見つめていた。
カイロウドウケツにとって、ドウケツエビを住まわせるメリットは何もない。知らぬ間に己の中へ勝手に入り込み、出られなくなるほど大きくなり、カイロウドウケツに引っ掛かった有機物や、食べ残しを啜りながら、そのガラスの網目に守られ、身勝手にもオスメスに分裂し、安寧の中で呑気に繁殖する存在だ。これを共存などと呼んでしまえるほど私の神経が図太ければ、よかったのに。
彼は、私がなぜこの生き物を好きなのか、知らない。
「片利共生。」
「ん?何?」
「ううん、何もない。」
「そう。そろそろ寝よう。もう眠いよ俺。」
「うん、明日何時に起きる?」
「予定もないし、起きた時に起きれば良いじゃん。」
「だね。で、パン屋行って昼食にしよう。」
「だな。」
「じゃあ、おやすみ。」
「ん、おやすみ。」
テレビに釘付けな私の背後で、背中を向けた彼は布団を鬱陶しそうに胸元まで押しのけ、眠る体勢へと入った。暖かい体温を背中に感じながら、私の思考はまたカイロウドウケツへと戻ってくる。彼らのような関係を、片利共生、と呼ぶらしい。片方がメリットを享受し、片方にはメリットもデメリットもない。これが仮に、片方に寄生することで害を及ぼす場合、片害共生、と呼び名が変わる。互いに利益を及ぼす場合は、相利共生。
彼と私のような関係は、どれに当てはまるのだろう、と、カイロウドウケツを見る度に思う。勿論、人間関係が、恋愛感情が、メリットデメリットで全て片付くなんて、そんな機械的思考は持ち合わせていない。が、しかし。私は彼のガラスで出来た繊細な檻の中で自堕落に自由を堪能している能無しなのかもしれないし、彼を囲うように己の身体を組み替えて腹の中に収めている傲慢な女郎蜘蛛なのかもしれない。考えは広がり、収集がつかなくなってゆく。彼はとっくに眠りに落ち、すぅすぅと穏やかな寝息が聞こえてくる。寝つきがいいのが自慢だと、小学生のような誇らしげな顔で彼は言っていた。私はそれをBGMにしながら、思考の海を漂うのが好きだった。
揺蕩う思考の中は掌で温めたローションみたいで、冬場にしっかり保湿した私の二の腕の内側みたいで、要するに、柔らかくて気持ちがいい。微睡みにも似ているこの感覚が好きで、私は脳を休ませない。
私が彼を家に誘った時、意を決して彼にのし掛かったら、「我慢出来なくなるからやめてくれ。」なんて泣き言を言われて、柄にもなく興奮した。可愛い、と思った。だから私は、いいよ。と、ただ一言、それだけ言って、身を委ねた。初めての経験だった。苦手だった人肌も体温も、彼のものであれば共有したいと思えた。不思議だ。人間というのは、杓子定規にはいかない。私は、彼と、恋人をした。ありとあらゆる思いつくことをした。させた。付き合わせた。楽しかったのだ。どうしようもなく、まるで初めておもちゃをもらった子供のように、際限なくはしゃいだ。あれは間違いなく、初めての、恋だった。
画面の中、私の目に四角く映る白い画面の中では、名前すら判明していないカニの一種が寄り添い合って、海底に沈んだ鯨の骨を啄んでいた。ふわふわと千切れて漂う頭蓋のふやけた脂肪が、いつか北海道で見た大きな綿雪のようで、私は寒くもないのに布団に潜って、彼の背中に寄る。丸くて、暖かい。生きている人間がこうして、隣にいる。私はダメになりそうになって、ダメになってもいいか、と自分を甘やかして、明日なんて別にどうでもいい、と、心の蟠りを全部捨てて、意識はまた脳内の深海へと戻っていく。
私、貴方に、ずっと言えなかったことがあるの。そう。私、貴方の前ではそれなりにちゃんとしてたけど、本当は全然ちゃんとしてないのよ。仕事から帰ったら服は脱ぎ散らかすし、好き放題開けたピアスは毎日どこか付け忘れてみっともなく穴だけ取り残されてるし、キャッチはすぐ無くすし、しょっちゅう転がってるの踏むの。勿論、貴方から貰ったのは、ちゃんとケースに飾ってあるけど。子供は嫌いだし、マトモな生活だってしないし、ファーストフード大好きだし、お肌はたまに荒れちゃうし、それに、人の愛し方が分からなかったの。
尽くせば気持ちが伝わるって、それはただの自己満足だって、言われたわ。見返りを求めてるように見える、って。そうよね、当たり前だわ。分かってた、私。でも、それ以上の正解が見つからなかった。私に愛されちゃった貴方が可哀想で、申し訳なくって、ごめんなさいって、考える度そんな気分になるわ。謝るのだってきっと、自己満よね。
「愛、って。なんだっけ。」
ぼそり、溢れた言葉を拾う人間はいない。ゆらりゆらりと画面を横切る脳のないクラゲには、そんな芸当させられない。美しいものは、美しいというだけで、もうそれ以上すべきことはない。人間ばかりがどうにも醜いから、世界のアレやコレやをせずにはいられない。愛。愛って、何?義務?オプション?幸運?麻薬?どんな例え方をしても、しっくりこない。ただ、私は貴方を愛だと例えるし、貴方は私を愛だとは例えないだろうってことは、分かる。悲しいわ。私、貴方のことになると、年甲斐もなく悲しくなる。
窓が白んでいるのに気付いて、私はそっとスマホを傾け、時刻がもう朝の4時を迎えようとしていることに気づいた。3:58。偶数は、割り切れるから気持ちがいい。今から眠ればきっと目が覚めるのは11時過ぎで、私よりもゆっくり眠る貴方は私に起こされて、ぐずりながら私を抱き寄せるのね。
テレビを消し、意識しなければ消えていきそうな光を捕まえて、彼の方を向いて見た。相変わらず背中しか見えない。着ているスウェットからは、私の使ったことのない柔軟剤の匂いがして、私の好きな香りじゃないのに、落ち着いてしまうのが妙に悔しかった。貴方が愛されてる匂いだわ、なんて、捻くれた私は胸がチリっと焼ける気分になる。貴方のお母さんが、貴方を思って洗った服。羨ましかった。愛されても愛されても、飢えてしまう病気なのだと、私は彼の憎らしい香りを胸いっぱいに吸い込んで、軋む肋骨を摩った。
普段無駄にある語彙を尽くしても、結局、好きだと、それだけが彼に抱いていた感情だった。馬鹿みたい、そんなはしゃげる歳でもなかったのに。彼よりも歳上で、しっかりしなきゃいけなかったのに。
私は彼の背中をそっとなぞり、そして、息を潜めてぴったりくっついた。
微かに聞こえる鼓動の音。
私と同じ形の、身体。
馬鹿ね、私も貴方も。セックス、なんて、覚えたての中学生みたいに茶化しあって、感覚で快楽を共有して、繋がれるモノも場所もないのに、歪な形を自覚した上で、ここに存在するのが最上の愛だって、信じてやまないの。違和感だらけの世界で、何も考えず貴方を見上げてた刹那が、どうしようもなく、幸せだった。こんな思考なんて今すぐにでも燃えるゴミに出してしまえそうな、堕落を悪だと思わない洗脳にも近い、強烈な幸せ、だった。
うん、幸せだった。私。今更理由が分かったの。きっとあれは、私が、貴方で幸せになってた時間だったんだわ。貴方と幸せになりたかった私の傲慢さが、私にしか見えない世界で、私を道化にしたのね。
貴方がいなくなってからもう、随分と時が経った。のに。未だにベッドに眠る度、私の顔の横へ肘をついてキスに耽る貴方を思い出す。私の好きなぬいぐるみを枕に惰眠を貪る貴方を思い出す。五感に結びついた記憶は厄介だと、貴方が身をもって教えてくれた。
今更、もう一度貴方と共に、なんて、そんなことは思わない。ただ、もう少しだけ、せめて深海に潜る時だけは、貴方を思い出すことを、許して欲しい。
共に幸せになれなかった、懺悔を込めて。
2 notes · View notes
kurihara-yumeko · 3 years
Text
【小説】The day I say good-bye (2/4) 【再録】
 (1/4) はこちらから→(https://kurihara-yumeko.tumblr.com/post/646094198472409089/)
 昼休みの時間は、嫌いだ。
 窓の外を見てみると、名前も知らない生徒たちが炎天下の日射しの中、グラウンドでサッカーなどに興じている。その賑やかな声が教室まで聞こえてきていた。
 いつの間にか、僕は人の輪から逸脱してしまった。
 あーちゃんが死んでからか、それ以前からそうだったのかはもうよく覚えていない。もう少し幼かった頃、小学生だった頃は、クラスメイトたちとドッヂボールをしたり、放課後に誰かの家に集まって漫画を読んだりゲームをしたりしていた。そうしなくなったのは、いつからだったのだろう。
 教室にいると周囲のクラスメイトたちがうるさい。グラウンドに出てもすることがない。図書室へ��くと根暗ガリ勉ばかりがいるから気が引ける。今日は日褄先生が学校に来ている日だから相談室へ顔を出してみるのもいいけれど、どうせどこかのクラスの女子たちが雑談しに来ているのだろうから、却下。
 どうしてあっちにもこっちにも人がいるんだろう。学校の中だから、当たり前なんだけど。
「――先輩、」
 居場所がないので廊下をふらふらと歩いて校舎内を徘徊していたら、声をかけられた。名前を呼ばれたような気がしたけれど、よく聞き取れない。僕のことかな、と思って振り向くと、顔も名前も知らない女子がそこに立っていた。僕を「先輩」と呼んだということは、一年生だろうか。
「あの、私、一年三組の佐渡梓っていいます」
 サワタリがハワタリに聞こえて、「刃渡り何センチなの?」なんて一瞬訊きそうになる。ぼーっとしていた証拠だ。
 三つ編みの髪に、ピンク色のヘアピンがひとつ留まっている。女子の髪留めは黒か茶色じゃなきゃ駄目だと校則で決められていなかったか。自分に関係のない女子の服装や髪型に関する規則なんて、おぼろげにしか覚えていないけれど。
「あの、これ、読んで頂けませんか」
 差し出されたのは、ピンク色の小さな封筒だった。
「今?」
「いえ、その、今じゃなくて、お時間がある時に……」
「そう」
 後から考えれば、それは受け取るべきじゃなかった。断るべきだった。なのに受け取ってしまったのは、やっぱり僕がそれだけぼんやりしていたってことなのだろう。
 僕が受け取ると、彼女は顔を真っ赤にしてぺこぺこ頭を下げて、廊下を小走りに走り去って行った。一体、なんだったのだろう。受け取った封筒を改めてよく見てみると、
「あ、」
 丸みを帯びた文字で書かれた僕の名前の漢字が間違っている。少し変わった名前なので、珍しいことではない。
 差出人の欄に書かれた「佐渡梓」の文字を見ながら、一年三組の者だと彼女が言っていたことを思い出す。部活にも委員会にも所属していない僕に、後輩の知り合いはいない。小学校が同じだった後輩に何人か顔と名前をぼんやり記憶している人はいるけれど、それさえも曖昧だ。一体彼女はどういう経緯で僕のことを知り、この手紙を渡してきたんだろう。
 こういう手紙を女子からもらうことは、初めてではなかった。手紙を渡された理由は悪戯だったり本気だったり諸々あったけれど、もらった手紙の内容はどれも似たり寄ったりで、目を通したところでこれといって面白いことは書いてない。
 何かの機会に僕のことを知り、「一目惚れ」というやつを体験し、そうして会話をしたこともない僕となんとか近付きたくてこの手紙を書く。
 よくわからない。こんなものは、よくわからない。誰かを好きだという、そんなものは、僕にはよくわからない。
 受け取るのを断れば良かったな。僕はそう思った。この手紙が読まれないと知ったら、彼女は悲しいだろうか。
 僕はひとりで廊下を歩き続け、階段を降り、誰もいない西日の射し込む昇降口のゴミ箱に封も切らずに手紙を捨てた。宛名や差出人を誰かに見られては困るので、ゴミ箱の奥の方へと押し込んだ。
 昼休みももうすぐ終わる。掃除の時間になれば、誰かがこのゴミ箱の中身を袋にまとめてゴミ捨て場まで運んでくれるんだろう。誰の目に触れることもなく、誰にも秘めた想いを届けることができないまま、ただのゴミになる。
 それでいい。こんなものは、ゴミだ。
 読まなくてもわかる。僕は誰かが期待するような人間じゃない。きみが思うような僕じゃない。
 保健室に行こうかな。僕はそんなことを考える。
 保健室登校児の河野ミナモは、今日もひとりでベッドの上、スケッチブックに絵を描いているだろう。僕が顔を出し��ら、「また邪魔者が来た」という表情をするに違いない。でもそれでもいい。保健室へ行こう。他にもう行く場所もないし、あと少しの時間潰しだ。
 それに、僕なんて、どうせこの世界には邪魔なんだから。
    夏休みは特に何事もなく時間だけが過ぎ、気だるい二学期が始まった。
 始業式の後、下校しようと下駄箱へ向かうと僕の靴の中に小さな紙切れが入れられており、それには佐渡梓からの呼び出しを示す内容が記されていた。
 誰もいない体育館裏、日陰のひんやりとしたコンクリートの上に腰を降ろして待っていると、ホームルームが長引いたのだという彼女が慌てたようにやって来た。
「すみません、遅れてしまって……」
「いや」
「あの、夏休み前にお渡しした手紙、読んで下さいましたか?」
「いや」
「……え?」
 恥ずかしそうな彼女の笑顔が凍りつく。
「読んで、ない?」
「読んでないよ」
「……あの、先輩、今、お付き合いされている方がいらっしゃるんですか?」
「いない」
「なら、好きな人がいらっしゃる?」
「いないよ」
「じゃ、じゃあ、どうして……」
 どうして読んで下さらなかったのですか、とでも言いたかったのだろうか。半開きの彼女の口からはそれ以上何も聞こえてこなかった。
 ということはやはり、あの手紙は「そういう」内容だったんだろう。実は手紙を捨てた後、全く見当違いの内容の手紙だったらどうしようと、捨てたことを少しだけ後悔していたのだ。
「悪いけど、好きだとかそういうの、下らないからやめてくれる?」
 僕がそう言うと、彼女はきょとんとした顔をした。
 きょとんとした顔。表情から恥ずかしそうな笑顔が完全に消える。全部消える。消失する。消滅する。警告。点滅する。僕の頭の中の危険信号が瞬いている。駄目だ。僕は彼女を傷つける。でも止められない。湧き起こる破壊衝動にも似たこの感情は。真っ黒なこの感情は。僕にも止めることができない。
「興味ないんだ、恋愛に」
 僕はこういう人間なんだ。
「あときみにも興味がない。この先一生、きみを好きになることなんてないし、友達になる気もない」
 僕はきみが好きになるような人間じゃないんだ。
「僕に一体どんな幻想を抱いているのか知らないけど、」
 僕は他人が好いてくれるような人間じゃないんだ。
「僕のこと好きだとか、そういうの、耳障りなんだよ。何を勝手なことを言ってるのって感じがして」
 僕は。
 僕は僕は僕は僕は僕は。
 僕は透明人間なんです。
「僕のことだって、何も、」
 知らないくせに。
「やめて……」
 消え入りそうな小さい声に、僕は我に返った。
「もう、やめて下さい……」
 彼女は泣いていた。そりゃそうだ。泣くだろう。一瞬でも、たとえ嘘でも、好きになった相手に、面と向かってこんな風に言われたのだから。
「すみませんでした……」
 涙を零したまま深く頭を下げて、彼女は体育館裏から走り去っていった。僕はただその背中を見送る。それから不意に、全身の力が抜けた。
 コンクリートの上に背中から倒れ込む。軽く後頭部を打ち付けたが気にしない。
 どうしてだろう。どうして僕は……。こんなにも、どうして。どうして。どうして、どうして、どうして、どうして、どうして。
「は、はは……」
 自分でも驚くくらい乾いた笑い声が口から漏れた。
 どうして、僕は嘘をつかないと、こんなにもひどいことを言ってしまうんだろう。
 嫌になる。まるで嘘をつかないと僕が嘘みたいだ。本当の気持ちの方が嘘みたいだ。作り物みたいだ。偽物みたいだ。僕なんかいない方がいい、嘘をつかない僕なんて、死んだ方がいいんだ。
 自己嫌悪の沼に落ちかけた時、よく知っている、ココナッツの甘いにおいが漂ってきて、僕は思わず目を見張った。
「よぉ、少年」
 こちらを見下ろすように、いつもの黒い煙草を咥えた日褄先生が立っていた。
「……見てたんですか、さっきの」
「隠れて煙草吸おうと思ってたら誰かが来るもんだから、慌てて隠れたのよ。そしたらなんだか見覚えのある少年で」
「学校の敷地内は禁煙ですよ」
「ここの空気は涼しくて美味しいよ」
「先生が咥えてるそれから出ているのはニコチンです」
「せんせーって呼ぶなって何度言わせる気だよ」
 先生は僕の隣に腰を降ろした。今日も彼女は黒尽くめだ。
「ちょうど良かった、少年に渡そうと思ってさ」
 差し出されたのは、見覚えのあるピンク色の封筒。僕は反射的に起き上がった。
「なんで、それを――」
 咄嗟に伸ばした僕の手をひらりとかわして、先生は封筒をひらひらと振る。
「宛名と差出人が一目瞭然なもの、ゴミ箱に捨てるなよなー」
「ゴミ箱に捨てたものを拾ってこないで下さい。ゴミを漁るなんて、いい大人のすることじゃないでしょう」
「もらったラブレターを読まずに捨てるなんて、いい男がすることじゃないよ」
 頭を抱えた。信じられない。一ヶ月以上前に捨てたものが、どうして平然と僕の目の前にあるんだ。
「拾ってほしくなかったら、学校内で捨てることは諦めるんだな」
 再度差し出されたそれを、今度は受け取る。僕の名前が間違って書かれた宛名。間違いない、あの時彼女が僕に手渡し、読まずに捨てたあの手紙だ。僕が深い溜め息をつくと、先生は煙を吐き出してから言う。
「他人からの好意を、そんな斜に構えることはないだろう。礼のひとつくらい言っておけば、相手も報われるもんだよ」
「……僕にそんなこと期待されても困るんですよ」
「今からでも、読んでやれば?」
 先生はそんなことを言って、その後煙草を二本も吸った。
    夏が終わると、なんだか安心してしまう。
 夏は儚い。そして、醜い。道路に転がる蝉の抜け殻を見る度にそう思う。
 その死骸も、ほんの数日経たないうちに、もっと小さい生き物たちの餌食となる。死骸を食べるなんて、と思いかけて、僕が今朝食べたものも皆死骸なんだと気付く。死を食べて僕は生きている。
 もしかしたらあーちゃんも、もう何かに食べられてしまったのかもしれない。
 あーちゃんの死が、誰かを生かしているのかもしれない。
「……これはなんの絵?」
「エレファントノーズ」
「えれふぁんと? 象のこと?」
 僕がそう訊き返すと、河野ミナモは面倒臭そうに言った。
「魚の名前」
「へぇ……。知らなかった」
 不細工な顔をした魚だな、と思い、「国語の定男先生に似ているね」と言おうとして、ミナモが一度も教室で彼を見たことがないということを思い出した。言葉を飲み込む。
「この、鼻っぽいのは鼻なの?」
「魚に鼻なんてある訳ないじゃん」
「じゃあ、これ何?」
「知らない」
 ミナモはいつも通りぶっきらぼうで無愛想だ。
 ベッドの脇の机に広げた真っ白なままの画用紙に目を向けることもなく、自分のスケッチブックに不気味な姿をした生き物の姿を描き続けている。
「河野、説明したと思うけど、」
 机を挟んだ向かいに座って僕は言う。
「悪いんだけど、夏休みの課題を手伝ってくれないかな」
「いいけど、絵画の課題だけね」
「下書きからやってもらってもいいかな」
「その方が私も楽。誰かさんの描いた汚い絵に色塗るなんて、苦痛」
 そう言いながらも彼女は定男先生によく似た魚の絵を描くその手を休めない。���、彼女の三白眼が僕の方を見た。
「で? なんの絵?」
「テーマは、夏休みの思い出」
「どんな思い出?」
「特にない」
 前髪の下に隠されたミナモの双眸が鋭く尖ったような気がした。
「なんの絵を描けっていう訳?」
「なんでもいいよ、適当に、僕の過去を捏造して下さい」
「…………」
 ミナモはしばらく黙って僕を睨んでいたけれど、僕が前言を撤回しないでいるとやがてスケッチブックを傍らに置き、小さな溜め息をひとつついて白い画用紙と向き合い始めた。
 僕はミナモと違って、絵を描くのが苦手だ。夏休み中にやってくるように、と出された絵画の課題は、後回しにしているうちに二学期が始まってしまった。それでもまだやる気が目を覚ますことはなく、にも関わらず教師には早く提出するようにと迫られてたまったものではないので、仕方なくミナモに助けを請うことにした。彼女が快く引き受けてくれたのが嘘みたいだ。
 ミナモが画用紙に何やら線を引き始めたので、僕はすることがなくなった。いつもはなんてことのない雑談をするけれど、話しかけることもできない。自分から課題を手伝ってくれと頼んだので、邪魔をする訳にもいかないからだ。
 夏休みを明けてもミナモは相変わらずで、日に焼けていなければ髪も伸びていない。痩せた身体と土気色の顔は、食事をろくに摂っていないことが窺える。まだ暑い時期だというのに、夏服の制服の上には灰色のカーディガンを羽織っていた。彼女が人前で素肌を晒すことはほとんどない。長く伸ばされた前髪も、最初は目元を隠すためかと思っていたが、どうやら真相は違うようだ。
「ラブレター」
 僕が黙っていると、唐突にミナモはそう言った。
「ラブレター、もらったんでしょ」
「え?」
「後輩の女の子に、ラブレターもらったんでしょ」
「……なんで、知ってるの?」
「日褄先生が言ってた」
 あのモク中め、守秘義務という言葉も知らないのか。
「――くんはさ、」
 画用紙に目線を落としたまま、こちらを見向きもしないミナモが呼んだ僕の名前は、どういう訳か聞き取れない。
「他人を好きにならないの?」
「好きにならない、訳じゃないけど……」
「そう」
 今までは慎重に線を引いていたミナモの鉛筆が、勢いよく紙の上で滑り始める。本格的に下書きに入ってくれたようで僕は安堵する。
「河野はどうなの」
 ラブレターのことを知られていた仕返しに、僕は彼女にそう尋ねてみた。
「私? 私は人を好きにはならないよ」
 ミナモは迷うことなくそう答えた。
「人間は皆、大嫌い。皆、死んじゃえばいいんだよ」
 ぺきん、と軽い音がした。
 鉛筆の芯が折れたようだ。ミナモはベッドの枕元を振り返り、筆箱の中から次の鉛筆を取り出した。
「皆、死んじゃえばいい」、か……。彼女は以前も、同じようなことを言っていたような気がする。僕とミナモが初めて出会った、あの生温い雨の日にも。
 それにしても、日褄先生も困ったものだ。僕が読まずに捨てたラブレターを拾ってくるだけではなく、ミナモに余計なことまで教えやがって。今度、学校の敷地内で喫煙していることを教師たちにばらしてしまおうか。
「あ、」
 新しい鉛筆を手に、ミナモが机に向き直った時、その反動でベッドの上にあったスケッチブックが床へと落ちた。中に挟まっていたらしい紙切れや破られたスケッチがばらばらと床に散らばる。
「いいよ、僕が拾うから」
 屈んで拾おうかと腰を浮かしかけたミナモにそう言って、僕は椅子から立ち上がってそれらを拾い始めた。
 紙には絵がいくつも描かれていた。春の桜、夏の向日葵、秋の紅葉、冬の雪景色。鳥、魚、空、海。丁寧に描き込まれた風景の数々は、恐らく、全てミナモが描いたものだろう。保健室で一日じゅう白い紙と向き合って、彼女はこんな風景を描いていたのか。彼女がいるベッドからは決して見ることができない世界。不思議なことに、どの絵の中にも人間の姿は描かれていない。
 ふと、僕は一枚の絵に目を止めた。紙いっぱいに広がる、灰色の世界。この風景は、見たことがある。他の絵とは異なり、これは想像して描いたものではないことがわかる。
 ぱっと横から手が出てきて、僕の手からその絵を奪い去った。見れば、ミナモが慌てた様子でその絵を僕に見せまいと胸に抱いていた。
「これは、ただの落書き」
 他の絵とたいして変わらない筆致で描かれたその絵も、やはり丁寧に描き込まれているように見えたけれど。僕はそれには何も言わず、全て拾い集めてからミナモに絵の束を渡した。彼女はそれを半ばひったくるように受け取ると、礼を言うこともなくスケッチブックに挟めて仕舞う。
 僕はあの絵を知っている。あの風景を知っている。日褄先生も、あーちゃんも、あの景色を見たことがあるはずだ。
 あーちゃんが飛び降りた、うちの中学の屋上から見た風景。
 僕とミナモが出会った屋上から見える景色。
 灰色に塗り潰されたその絵は、あの日の空と同じ色だった。
    河野ミナモは、小学校を卒業する頃、親の虐待から逃れるためにこの街へ引っ越してきた。
 今は親戚の元で暮らしながら学校に通っている。彼女にとっては、たとえ教室まで行くことができなくとも、毎日保健室に来ていること自体が大変なことのはずだ。
「――くんは、」
 放課後の保健室。
 ミナモが描き始めた僕の絵画の課題は、まだ下絵も終わりそうにない。
 彼女は僕に言う。
「やっぱり、市野谷さんのことが好きなの?」
「……え?」
 本気でミナモに訊き返してしまった。彼女は何も言わず、画用紙に向かっている。
 市野谷さん?
 市野谷さんって、ひーちゃん?
 僕が、ひーちゃんのことを好き?
「……なんで、そう思うの」
「――くんは、市野谷さんのために生きてるんだと思ってたから」
 僕の分まで生きて。僕は透明人間なんです。
 あーちゃんの遺書の言葉が、脳裏をよぎる。
 なんのために生きているのか。自問の繰り返し。答えは見つからないから、自問、自問、自問。この世界で、あーちゃんが死んでひーちゃんが壊れたこの世界で、どうして僕は生きているんだろう。
 嘘ばかりついて。嘘に染まって。嘘に汚れて。そのうち自分の存在までもが、嘘のような気がしてしまう。僕なんか嘘だ。
 ひーちゃんを助けるつもりの嘘で、余計に苦しめて。
 それでも僕が、ひーちゃんのために生きている?
 ひーちゃんのため? 「ため」って、なんだよ。
 僕がひーちゃんに何をしてあげられたって言うんだ。
 僕がひーちゃんに何をしてあげられるって言うんだ。
 嘘をつくしかできなかった僕が、どうしたらひーちゃんを救えるって言うんだ。
 僕じゃない。僕じゃ駄目だ。必要なのは僕じゃない。それはいつだって、あーちゃんだった。ひーちゃんの全部はあーちゃんが持っている。僕じゃないんだ。
 あーちゃんは、透明人間なんかじゃない。本当に透明人間なのは、ひーちゃんにとって必要じゃないのは、僕の方だ。
 僕は。
 僕は僕は僕は僕は僕は。
 僕は必要になんかされていない。
「河野、」
「なに」
「あの時、僕は、」
「うん」
「河野にいてほしくなかったよ」
「そう」
「河野に、屋上に来てほしくなかった」
「でしょうね」
 ああ、また僕は、上手に嘘がつけない。
 そんな僕をまるで見透かしているかのように、ミナモは言う。
「だってあなたは、死のうとしていたんだものね」
 死にたがり屋と死に損ない。
 去年の春、あの雨の日。
 ミナモが描いていたのとそっくり同じ、灰色の景色。
 いつもの自傷癖で左手首に深い傷を作ったミナモが保健室を抜け出し辿り着いた屋上で出会ったのは、誰かと同じようにそこから飛び降りようとしていたひとりの男子生徒。
 それが、僕。
 雨が髪を濡らし、頬を伝い、襟から染み込んでいった。僕らをかばってくれるものなんてなかった。
 僕らはただ黙ってお互いと向かい合っていた。お互い何をしようとしているのか、目を見ただけでわかった。
「死ぬの?」
 先に口を開いたのは、ミナモだった。長い前髪も雨に濡れて顔に貼り付いていて、その隙間から三白眼が僕を睨んでいた。
「落ちたら、死ぬよ」
 言葉ではそう言いながらも、どこか投げやりなその口調を今も覚えている。僕の生死なんて微塵も気にかけていない声音だった。
「きみこそ、それ、痛くないの」
 彼女の手首を一瞥してからそう返した僕の声は震えていた。ミナモが呆れたように言った。
「あなただって、その手首の傷、痛くないの?」
 そう、僕もその時、ちょうどミナモと同じところから血を流していたのだ。
「それよりも、そこから落ちた方が痛いと思うけど」
 彼女にそう言われて、そうか、と僕は思う。きっとあーちゃんも痛かっただろうと思いを巡らせる。
「それは、止めてるの?」
「止める? どうして? あなたが死んで私に何かあるの?」
 ミナモはその日も無愛想だった。
「死んだ方がいい人間だって、いるもの」
 交わした言葉はそれだけだった。それきり、ミナモは僕に何も言わなかった。ただそこに立っていただけだ。彼女にしてみれば、僕がそこから飛び降りようが降りまいが、どうでも良かったに違いない。実際彼女は、僕には心底興味もなさそうに屋上から見える景色に目を凝らしていた。
 飛ぼうと思えばいつだって飛べたはずなのに、その日、僕は自殺することを諦めた。
 そしてそれ以来、屋上のフェンスの外側へは一度も立っていない。
 ミナモのスケッチブックに挟まっていたあの絵は、あの日彼女が見た風景だった。そうして、今、ミナモが画用紙に描いているのも、やっぱり――。
「なに泣いてるの。馬鹿みたい」
 涙でぐちゃぐちゃに歪んだ視界の中、白い画用紙に描かれていたのは、やはりあの屋上の風景だった。空を横切る線は、飛行機雲だろうか。
 僕はあーちゃんと飛ばした紙飛行機のことを思い出して、込み上げてきた涙を堪え切れずに零してしまう。
 ミナモは心底呆れたように、「泣き虫」と僕を罵った。
   「えーっと……」
 僕が提出した画用紙を前に、担任は不思議そうな顔をしていた。
「これは、なんの絵なんだ?」
 ミナモが描いてくれた僕の夏休みの課題の絵は、提出期限を二週間も過ぎてから完成した。ミナモが下書きしてくれた時点では素晴らしい絵画だったのだけれど、僕が絵具で着色したら、これが新しい芸術なのだと言わんばかりの常識はずれな絵になってしまった。もはや、ミナモの下書きの影もない。
「まぁいいか。二学期は美術の授業を頑張った方が良さそうだな」
 担任はそう言い残して職員室へと去って行く。
 これで、僕の夏休みの課題は全て提出されたことになる。少なからずほっとした。
 夏休みが明けても、教室の中は相変わらずだ。ミナモも、ひーちゃんも、教室に来ていない。二人の席は今日も空席で、いつものように違う誰かが周辺の席の生徒とお喋り���る時の雑談場所にされている。そんなクラスメイトたちを見やり、やっぱり僕は、あいつらと友達になれそうにない、と思う。
 僕は教室を出て、体育館の裏へと向かった。
 今朝、僕の下駄箱に紙が入れてあった。
「今日の昼休み、体育館裏に来てくれませんか」という文字が記してある。差出人の名前はない。書き忘れたのだろうか、それとも伏せたのだろうか。しかし、名前がなくても字でわかる。見たことのある字だ。
 そう、僕は読んだのだ。一度は捨てたあの手紙を。どうってことのない内容だった。手紙を書いて、それでも僕にまだ、話したいことがあるんだろうか。
 ざくざくと砂利を踏みながら向かうと、既に彼女は僕を待っていた。やっぱり佐渡梓だった。こんなところに僕を呼び出す人なんて、学校じゅうで彼女しかいない。
「……どうも」
 なんて声をかけるか悩んで、僕は結局そう言った。「こんにちは」とどこか強張った表情で彼女が返事をする。
「何か僕に用事?」
「あの……」
 彼女は今日もピンク色のピンを髪に挿している。
「先輩は、保健室の河野先輩とお付き合いされているのですか?」
「……は?」
「あ、いえ、その……一緒にいらっしゃるところをよく見かけると、友人が言っていたので、気になってしまって……」
 僕の表情を見て、彼女は慌てたように両手を顔の前で振った。
 僕がミナモと付き合っている、だって?
 僕が? ミナモと?
 ――やっぱり、市野谷さんのことが好きなの?
 当のミナモには最近、そう尋ねられたばかりだというのに。全く、笑ってしまいそうになる。それにしても、「保健室の河野先輩」なんて、ひどい呼び方だ。
「付き合って、ないけど」
 意地悪するつもりはなかった。不必要に人を傷つける趣味がある訳じゃない。でもその時、僕が尖った言い方をしようと決めたのは、そう言った時に彼女がどこか嬉しそうな顔をしたからだった。
「付き合ってなかったら、なんなの」
 そう口にした途端、彼女の表情が暗くなる。それでも僕はやめなかった。
「先に言っておく。きみとは付き合わないから。それと、こういうことでいちいち呼び出されるのは迷惑。やめてくれないかな」
 傷ついた顔。責めたいなら、責めればいいだろ。罵ればいいだろ。嫌いになればいいだろ。けれど彼女は、何も言わなかった。泣きはしなかった��のの、「すみませんでした」と頭を下げ、うつむいたまま足早に去っていった。
 本当に、これだけのことのために、僕を呼び出したのだろうか。
 彼女は一体、なんなのだろう。僕のことが好きなのだろうか。好きだなんて、笑わせる。僕の何がわかるっていうんだ。僕の何を見て好きだっていうんだ。何も知らないくせに。僕がどんな人間なのかも知らないくせに。僕が今、一体どんな気持ちできみと向き合っているのか、そんなことさえ、わからないくせに。
「あーあ、かわいそー」
 ぎょっとした。
 頭上、ずいぶん高いところから声が降ってきた。
 思わず見上げると、体育館の二階の窓からひとり、こちらへ顔を出している男子がいる。見覚えのない顔だった。僕はクラスメイトの顔さえ覚えていないけれど、そいつの顔は本当に見た記憶がない。視線を絡ませたまま、どうしようかと思っていると、そいつがにやりと笑った。
「ひでぇ振り方」
 ピンで留められた茶色っぽい前髪、だらしなく第二ボタンまで開けられたワイシャツ。そいつは見た目同様に、軽そうな笑い声をけらけらと上げている。
「あんな言い方はねぇんじゃねーの、あれじゃ立ち直れないじゃん」
 彼女を気遣うような言葉だったが、その声音に同情の色は全く滲んでいなかった。口にしてはいるものの、興味も関心もなさそうだ。
「……盗み見なんて、趣味が悪いんじゃない?」
 僕が二階からこちらを見ているそいつの耳にも聞こえるように、少し声を張り上げてそう言うと、そいつはぱっちりとした目をさらにまん丸くして僕を見た。
「あー、わりぃ。ここで涼んでたら、お前らが来たもんだから」
 悪気があるようには見えない言い訳をされた。なんだこいつ。
 僕が立ち去ろうと歩き出すと、そいつはまた声をかけてきた。
「なーなー、あんた、――くんだろ?」
 僕の名前を呼んだような気がしたが、遠いからか聞き取れない。
「ちょっとそこで待っててよ、今そっち行くからさ。うちの、ミナモの話もしたいし」
「…………え?」
 今、一体何を。
 再び顔を上げると、そいつはもう体育館の中へと頭を引っ込めていて、もう見えなかった。
 うちの、ミナモ?
 ミナモって、あの、河野ミナモ?
 あいつ、もしかして……。
「河野の、身内なのか……?」
 体育館裏の砂利の上、僕は立ち尽くしていた。
 ついさっき、二階の窓から顔を覗かせていた男子は「うちの、ミナモ」と確かに言った。あいつは河野ミナモと何か関係があるんだろう。
 やつは僕の名前を知っていた。だが僕はやつの名前を知らない。知らないはずだ。記憶を探る。あんなやつ、うちのクラスにはいなかった。廊下や校庭ですれ違っていたとしても、口を利いたのは初めてのはずだ。
「おー、わりーな、呼び止めて」
 やつは体育館の正面玄関から出てきたのか、体育館用のシューズのまま砂利の上を小走りで駆けてきた。
 何か運動でもしていたのだろうか、制服の白いシャツはボタンが留められておらず、裾はズボンから飛び出している。白と黒の派手なTシャツが覗いていた。昼休みに運動部が練習をする場合は体操着に着替えることが決められているから、恐らく運動部ではないか、もしくは部活中という訳ではなかったようだ。腰までずり下げられたズボンは、鋲の付いた派手な赤色のベルトでかろうじて身体に巻きつけられている。生徒指導部に見つかったら厳重注意にされそうな恰好だ。僕はこういう人間が、正直あまり好きではない。
「あんた、二組の――くんだろ?」
「そうだけど……」
「俺は二年四組の河野帆高。よろしくな、――くん」
 二年四組。やはり、こいつは僕のクラスメイトではなかった。同じ学年だが、その名前も知らない。いや、知らないけれど、どこかで聞いたことがあるような気もする。一体いつ耳にした名前なのかはすぐには思い出せそうにない。
 それよりも、河野。ミナモと同じ姓だ。
「河野ミナモと、親戚?」
「そ。ミナモは俺のはとこ。今は一緒に俺の家で暮らしてる」
 やつはあっさりとそう明かす。
 ミナモのはとこ。
 彼女が今、親戚の家で暮らしていることは知っていた。だがミナモの口から、身を寄せた親戚宅で一緒に暮らしているはとこが同じ学年にいることは聞いたことがなかった。
「……本当なんだよな?」
 僕がそう疑うと、やつは笑みを浮かべた。それは苦い笑みだった。
「やっぱり、話してないんだな。俺たち家族のことは」
「……河野はあまり、自分のことは話さないよ」
 保健室のベッドで一日じゅう、絵を描いて過ごしているミナモ。こちらがいくら声をかけても、返す言葉はいつも少ない。僕は何度も保健室を訪れ、言葉を交わしているからまだ会話をしてもらえるというだけだ。彼女に口を利いてもらえる人は、学校の中でも少数だろう。
 そうだ、日褄先生。彼女も先生とは、多少言葉を交わしていたような気がする。
「――くんにすら話してないってことは、他の誰にも話してないんだろうな。そりゃ、俺との関係が知られてなくて当然か」
「……僕以外の人には話しているかもしれないけどね」
 僕はミナモの人間関係まで把握はしていない。僕が知らないところで誰か親しくしている人がいたっておかしくはないはずだ。だけどやつは首を横に振った。
「そんなことはないと思うな。あんたが一番、ミナモと仲良さそうだもん」
 ――先輩は、保健室の河野先輩とお付き合いされているのですか?
 佐渡梓の言葉が耳の中で蘇る。そう疑われるほど、僕とミナモは親しげに見えるのだろうか。
 僕が黙っていると、やつは続けて言う。
「あいつ全然喋らないんだよ。俺が話しかけても無視されるばっかりでさ。もう一年も一緒に暮らしてるのに、一言も口利いたことないよ、俺」
 ミナモは家でも口を利かないのだろうか。
 彼女の口数が少なく無愛想なのは、決して彼女が性悪だからではない。ミナモは人と関わるのが怖いのだ。対人恐怖症、とまではいかないが、なかなか他人と打ち解けることができない。なんだかんだ一年の付き合いになる僕とでさえ、彼女は目を合わせて会話することを嫌っている。
「なぁ、俺と友達になってよ」
「……は?」
 唐突な言葉に、思わずそう訊き返してしまった。さっきまで苦笑いしていたはずのやつは、いつの間にかにやにやとした顔で僕を見ていた。
「ミナモと話せるあんたに興味があってさ」
「……僕はあんたに、興味ないけど」
「ははは、さっきもあんたが女の子振るとこ見てたけど、やっぱり手厳しいねー」
 軽薄な笑い声。こいつの笑い方はあんまり好きになれそうにない。
「まぁそう言わずにさー、俺と仲良くしてくんねーかなー? どうやったらミナモと打ち解けられるのかとか、知りたいし」
 なんだか厄介なやつに捕まってしまったかもしれない。いつもならこんな軽そうなやつは適当にあしらっているのだけれど、今回ばかりはそうもいかない。ミナモが関係しているとなると、僕もそう簡単に無下に扱うことはできないのだ。
「……まぁ、いいけど」
 僕が渋々そう頷くと、やつはその顔ににっこりとした笑みを浮かべる。裏があるのではないか、と疑ってしまうような、あまりにも軽々と浮かべられた笑顔だった。
「あ、今、もしかしてミナモが関わってるから、仕方なくオッケーしてくれた感じ?」
 にっこりした笑顔のまま、やつは鋭いことを言った。鈍いやつではないらしい。見た目は軽薄そうなやつだけれど、頭が悪い訳ではないようだ。
「言っておくけど俺、ミナモのこと抜きにしても、――くんに興味あるよ」
 やつはさっきから何度も僕の名前を呼んでいるようだけれど、何故だか僕の耳にはそれが上手く聞き取れない。
「僕に、興味がある?」
「そ。あんたさ、知ってるんだろ? 一年前にこの学校で自殺したやつのこと」
 どくん、と。
 僕の胸の奥で嫌な予感がした。
 一年前にこの学校で自殺したやつとは、あーちゃんのことだ。
 今まで、あーちゃんの死のことをここまであからさまに誰かに言われたことはなかった。
 僕らがこの中学に入学する一ヶ月前に亡くなったあーちゃんについて、学校側も僕らに対しては詳しい説明をしていない。
 いや、たとえどこかであーちゃんの死についてきちんとした説明がされていたとしても、どうしてこいつは僕のことを知っている? どうして僕とあーちゃんのことを知っているんだ?
 やつは変わらず笑みを浮かべている。
 体育館裏に吹く風は涼しい。まだ暑さの残るこの時期に、日陰で受ける風の心地よさはなおさらだ。だけれど僕はその風を浴び、思わず歯を食い縛った。
 厄介なやつに関わってしまったと、確信しなくてはいけなかった。
    図書館へ行って、去年の新聞が綴じられているファイルを手に取った。
 空いていた席に腰掛け、テーブルの上に分厚いそのファイルを広げる��
 あーちゃんの命日の新聞を探し、そこから注意深く記事に目をやりながら紙をめくっていく。
 新聞なんて普段読まないから、どこをどう見ればいいのかわからない。見出しだけを拾うようにして読んでばさばさとめくる。どうせ、載っているとしたら地域のニュースの欄だ。そう当たりをつけて探す。
 そして見つけた。
『またも自殺 十二歳女子 先日の自殺の影響か』
 そんな見出しで始まるその記事は、あーちゃんの命日から八日経った新聞に載っていた。
 その記事は、僕の通った小学校の隣の学区で、一週間前にその小学校を卒業した十二歳の女子児童が飛び降り自殺をした、という内容だった。生きていれば、僕と同じ中学に進学していたはずの児童だ。もしかしたら、同じクラスだったかもしれない。
 女子児童は卒業後、教室に忘れ物をしているのを担任に発見され、春休み中に取りに来るように言われていた。その日はそれを取りに来たという名目で小学校を訪れ、屋上に忍び込み、学校裏の駐車場めがけて身を投げた。屋上の鍵は以前から壊れており、児童は立ち入り禁止とされていた。
 彼女は飛び降りる前、自分が六年生の時の教室にも足を運んでいた。教卓の上には担任宛て、後ろのロッカーの上には両親宛て、そして机ひとつひとつにその席に座っていたクラスメイトひとりひとりに宛てた、遺書を残していた。
 そうして、黒板には、
『私も透明人間です』
 という文字が残されていた。
 女子児童の担任がクラス内からいじめの報告を受けたことはなく、彼女は真面目で大人しい児童だった、と記事には書かれているが、そんなものはあてにならないので僕は信じない。僕だって、死んだら「真面目で大人しい生徒」と書かれるに決まっている。
 記事はその後、女子児童が自殺する一週間前、近隣の中学校で男子生徒がひとり自殺していることを挙げ、つまりは、あーちゃんの自殺が影響しているのではないかとしていた。自分が春から在籍することになる中学校で起きた自殺の話だ、この女子児童だってあーちゃんの死を耳にしていたはずだ。
 僕は透明人間なんです。 
 あーちゃんの言葉を思い出す。「私も透明人間です」と書き残した、女子児童のことを思う。「私も」ということは、やっぱりあーちゃんの言葉に呼応した行動なんだろう。
 あーちゃんの自殺のニュースを聞いて、同じような言葉を残し、自殺した女の子。
 もしかしたら、と僕は思う。
 もしかしたら、ひーちゃんの記事が、ここに載っていたかもしれない。
 いや、ひーちゃんだけじゃない。この新聞には、僕の記事が載るかもしれなかった。
 僕が、死んだという記事が。
 たまたま、この子だった。この女子児童の記事だった。死んだのはひーちゃんでも僕でもなく、この子だった。
 そんなものだ。僕たちの存在なんて。たまたま、僕がここにいるだけなんだ。代わりなんて、いくらでもいる。
 新聞のファイルを元通り棚に戻し、僕は図書館を出た。
 出たところで、ぎょっとした。
 図書館の前には、黒尽くめの大人が立っていた。黒尽くめの恰好をよくしているのは日褄先生だ。けれど、日褄先生ではない。その人は男性だった。
 オールバックの長髪に、吊り上がった細い眉。鷲鼻、薄い唇、銀縁眼鏡。袖がまくられて剥き出しになった左腕には、葵の御紋の刺青。そうしてその左手には、薬指がない。途中からぽっきり折れてしまったかのように、欠けている。
 そんな彼と目が合った。切れ長の双眸に見つめられても、咄嗟に名前が出て来ない。この男性を僕は知っている。日褄先生とよく一緒にいる、名前は確か……。
「葵、さん?」
 日褄先生が彼を呼んでいた名前を思い出してそう呼ぶと、彼は目を丸くした。どうやら、僕は彼のことを認識しているが、彼は僕のことがわからないらしい。「どうしてこの子供は俺の名前を知っているんだろうか」と言いたげな表情を、ほんの一瞬した。
「えっと、僕は、日褄先生にお世話になっている……」
「あれ? 少年じゃん」
 僕が自分の身分を説明しようとした時、後ろからそう声をかけられて振り向いたら、そこには日褄先生が数冊の本を抱えて立っていた。やはり今日も、黒尽くめだ。
「図書館で会うの初めてじゃん。何してるの? 勉強?」
「いえ、ちょっと調べたいことがあって……」
 僕の脳裏を過る、新聞記事の見出し。
 日褄先生は、知っているんだろうか。
 あーちゃんの死を受けて、同じように自殺した女の子がいたことを。
 尋ねてみようと思ったが、やめた。どうしてやめたのかは、自分でもわからない。
「へー、調べものか。お前アナログだなー、イマドキの中学生は皆ネットで調べるだろうにさ」
「先生は、本を借りたんですか」
「せんせーって呼ぶなってば。市野谷んち行ってきた帰りでさ、近くまで来たからこの図書館にも来てみたんだけど、結構蔵書が充実してんのね」
「ひーちゃんの家に、行ってきたんですか」
「そ。まぁ、いつも通り、本人には会わせてもらえなかったけどね」
 日褄先生は葵さんと僕とを見比べた。
「葵と何しゃべってたの?」
「いや、しゃべってたっていうか……」
 たった今会ったばかりで、と言うと、日褄先生は抱えていた本を葵さんに押し付けながら、
「葵はあんま喋らないし、顔が怖いから、あたしの受け持ってる生徒にはよく怖がられるんだよねー。根はいいやつなんだけどさ」
 嫌そうな顔で本を受け取っている葵さんは、さっきから一言も発していない。僕は彼の声を聞いたことがなかった。
 薬指が一本欠けた、強面の彼が一体何者なのか、僕は知らない。けれど、ない薬指の隣、中指にある黒い指輪は、日褄先生が左手の中指にいつもしている指輪と同じデザインだ。
 この二人は、強い絆で結ばれている関係なのだろう。
 お互いを必要としている関係。
 僕はほんの少し、先生が羨ましい。
「少年は、もう帰るの? 今日は葵の運転で来てるから、家まで送ってあげようか?」
 僕はそれを丁重にお断りさせて頂いて、日褄先生と葵さんと別れた。
 頭の中では声が幾重にもこだましていた。聞いたはずはないのに、それはあーちゃんの声だった。
「僕は透明人間なんです」
「私も透明人間です」
   「あー、そうだよ、そいつそいつ」
 河野帆高は軽い口調でそう肯定した。
「屋上から飛び降りて、教室にクラス全員分の遺書残したやつ。ありゃ、正直やり過ぎだと思ったねー」
 初めて会ったのと同じ、昼休みの体育館裏。
 やつは昼休みに友人とバスケットボールをするのが日課らしい。僕がやつの姿を探して体育館を訪れると、やつの方が僕に気付いて抜け出してきた。
 ――あんたさ、知ってるんだろ? 一年前にこの学校で自殺したやつのこと。
 僕と初めて会った時、やつは僕にそう言った。
 そして続けて言ったのだ。
「俺の友達も死んだんだよね。自殺でさ。あんたの友達の死に方を真似したんだよ」
 だから僕は図書館で調べた。
 あーちゃんの自殺の後に死んだ、女子児童のことを。
 両親と担任、そしてクラスメイト全員に宛ててそれぞれ遺書を残し、卒業したばかりの小学校の屋上から飛び降りた彼女のことを。
「その子と、本当に仲良かったの?」
 僕が思わずやつにそう尋ねたのは、彼女の死を語るその口調があまりにも軽薄に聞こえたからだ。やつは少しばかり、難しそうな顔をした。
「仲良かったっていうか、一方的に俺が話しかけてただけなんだけど」
「一方的に、話しかけてた?」
「そいつ、その自殺したやつ、梅本っていうんだけどさ、なーんか暗いやつで。クラスでひとりだけ浮いてたんだよね」
 クラスで浮いている女の子にしつこく話しかけるこいつの姿が、あっさりと思い浮かんだ。人を勝手に哀れんで、「友達になってやろう」と善人顔で手を差し伸べる。僕が嫌いなタイプの人間だ。
「まぁ俺も、クラスで浮いてた方なんだけどね」
 やつは、ははは、と軽い笑い声を立ててそう言った。そうだろうな、と思ったので僕は返事をしなかった。
「梅本も最初は俺のことフルシカトだったけど、だんだん少しは喋ってくれるようになったり、俺といると笑うようになったりしてさ。表情も少しずつ明るくなってったんだよ。だから、良かったなぁって思ってたんだけど」
 だが彼女は死んだ。
「私も透明人間です」と書き残して。
「梅本は俺のこと、ずっと嫌いだったみたいでさ。あいつが俺に宛てた遺書、たった一言だけ『あんたなんて大嫌い、死んじゃえ』って書いてあってさ」
 あんたなんて大嫌い、死んじゃえ。
「それ見た時は、まじでどうしようかと思ったよ」
 やつは笑う。軽々しく笑う。
「なんつーの? 心の中にぽっかり空洞ができちゃった感じ? しばらく飯も食えなかったし夜も眠れねーし、俺も死のうかなーとか思ったりした訳よ」
 まるで他人事のように、やつは笑う。
「ちょうどミナモがうちに来た頃で、親はミナモの対応にあたふたしてたし、俺のことまで心配されたくないしさ。近所のデパートの屋上に行ってはぼーっと一日じゅう、空ばっかり眺めてた。梅本はどんな気持ちだったのかなーって。俺を恨んだまま死んだのかなーって。俺にはなんにもわかんねーなーって」
 僕は透明人間なんです。
 そう書き残して死んだあーちゃんは、一体どんな気持ちだったのだろう。
「中学入学してさ、俺もまぁそこそこ元気にはなったけど、なーんか変な感じなんだよなー。人がひとり死んだのにさ、なーんにも変わんねーのな。梅本なんてやつ、最初からいなかったんじゃねぇのくらいの感じでさ。特にあいつは友達が少なかったみたいだから、俺と同じ小学校からうちの中学きたやつらもたいして気にしてねーって感じだったし。『あいつって自殺とかしそうな感じだったよな』とか言ってさー」
 私も透明人間です。
 そう書き残して死んだ彼女は、あーちゃんの気持ちが少しは理解できたのだろうか。
「おれもそのうち、『梅本? あー、そんなやついたなー』ぐらいに思うようになんのかなーって思ってさ。逆に、『もし俺が死んでも、そんな風になるんじゃねー?』とかさー」
 世界は止まらない。
 常に動き続けている。
 誰がいようと、誰がいまいと。あーちゃんが欠けようと、ひーちゃんが歪んでいようと。ひとりの女子児童が自殺しようと。それを誰かが忘れようと。それを誰かが覚えていようと。
「でもそう考えたらさ、あの『大嫌い、死んじゃえ』って言葉にも、もしかしたらなんか意味があるんじゃねーかとか思ってさ。自分のこと忘れてほしくなくて、わざとあんなひでーこと書いたのかなとか。まぁ、俺の勘違いっつーか、そう思いたいだけなんだけど。そもそも遺書なんて、一通あれば十分じゃね? それをわざわざクラスメイト全員に書くってさ、どう考えてもやり過ぎだろ。しかもほとんど喋ったこともない相手ばっかりなのにさ。それってやっぱ、『私のことを忘れないでほしい』っていうメッセージなのかなーって思ってみたりしてさ」
 僕は透明人間なんです。
 私も透明人間です。
 私のこと、忘れないでね。
「そう考えたらさ、いや、俺の思い込みかもしんないけど、そう考えたら、ちゃんと覚えててやりてぇなーって思ってさ。あいつがそこまでして、残したかった物ってなんだろうなーって」
「……どうしてそんな話を、僕にするん���?」
「あんたなら、この気持ちわかってくれんじゃねーかなっていう期待、かなー」
「知らないよ、お前の気持ちなんて」
 僕がそう言うと、やつは少し驚いた顔をして、僕を見た。
 他人の気持ちなんて、僕にはわからない。自分の気持ちすらわからないのに、そんな余裕はない。
 だいたい、こいつは人の気持ちを自分で決めつけているだけじゃないか。梅本って女子児童が、こいつに気にかけてもらって嬉しかったのかもわからないし、どんな気持ちで遺書に「あんたなんて大嫌い、死んじゃえ」と書いたのかもわからない。
 こんな話をされて、僕が同情的な言葉をかけるとでも思っているのだろうか。そんなことを期待されても困る。
 でも。
 でも、こいつは。
「あーちゃんの自殺のこと、どこまで知ってる?」
 僕がそう尋ねると、やつは小さく首を横に振った。
「一年前、この学校の二年生が屋上から飛び降り自殺をした、遺書には『僕は透明人間です』って書いてあった。それくらいかな」
「遺書には、その前にこう書いてあったんだ。『僕の分まで生きて』」
 やつは、しばらくの間、黙っていた。何も言わずに座っていたコンクリートから立ち上がり、肩の力を抜いたような様子で、空を見上げていた。
「嫌な言葉だなー。自分は死んでおいてなんて言い草だ」
 そう言って、やつは笑った。こいつは笑うのだ。軽々と笑う。
 人の命を笑う。���分の命も笑う。この世界を笑っている。
 だから僕はこいつを許そうと思った。こいつはたぶんわかっているのだ。人間は皆、透明人間なんだって。
 あーちゃんも、ひーちゃんも、お母さんもお父さんも兄弟も姉妹も友達もクラスメイトも教師もお隣さんもお向かいさんも、僕も、皆みんな、透明人間なんだ。あーちゃんだけじゃない。だからあーちゃんは、死ななくても良かったのに。
「あんたの気持ち、わかるよ」
 僕がそう言った時、河野帆高はそれが本来のものであるとでも言うような、自然な笑みを初めて見せた。
※(3/4) へ続く→(https://kurihara-yumeko.tumblr.com/post/648720756262502400/)
0 notes
maborice · 5 years
Text
ぼくとスーパーダンガンロンパ2 CHAPT. 2
Tumblr media Tumblr media
 それは違うぞ(迫真)
 超小学生級の反省も終わったところでChapter 2の話に入ろう。 前回は見事被害者を的中させたので今回も僕の頭脳の冴えを見せてやるぜ、という意気込みでやっていく(登場人物16人のうち半分を予想に入れてたらそら最低半分は当たるわ、というツッコミは忘れてほしい)。
Tumblr media
ご丁寧に前回予想した部分をバッサリ切り捨ててくれる狛枝には困ったもんだぜ。一番反論してくれそうな人間が初手で消えたから仕方なくはあるが他のメンツがドン引きするばかりで疑問を投げかけてくれないので彼の思考が全く伝わってこない。ちゃんと疑問を投げかけたら会話にはなると思うんだけどなあ。流石に制作陣も今更単純サイコパスのつもりで設計してないでしょうし。言っても仕方ないんだが。でも君前話のラストで最後まで見届けたくなってきたよ! って言ってなかった? それはそれとして前作でさんざん真の希望とはみたいな話をやっておいてこの希望フェチはモノクマの用意した絶望を前提においた希望が最も輝く瞬間、と言っているのはテーマ的に誤りである可能性が高いので最終的にここが取り沙汰されてくれると僕が嬉しい。まあゲーマーがコロシアイは絶対許さないとか言ってるあたり最終的にこの対立軸が解消されないまま狛枝退場、というルートもありそうだが。そもそもゲーマー強くない? 舞園さやかの人当たりと霧切響子の推理力が合わさっているのは反則ですよ?
 ようやく朝が来て、日本舞踊家が臭い謎設定とモノケモノが居なくなって第二の島が開放された話を聞く。ミラクルモノミでやってたの本編時間軸なのかよ! 思い出させんな! 今回はまあ島が増えていくんだろう。前作やったプレイヤーでこの発想しない奴いるの? って感じだけど4つ目の島あたりで開放されずに路線が変わったら恥ずかしいので黙っていることにする。
Tumblr media
厨二病の扱いも委員長キャラの扱いも本当にうまい。
 ゲームのやりすぎなので島が変わったら環境もガッツリ変わると思ってたが第二の島に関してはそういうことではなく単純に拡張された形らしい。明らかに前作で見たことある門を備えた遺跡、やっぱりあった図書館、そして海の家。またシャワー壊れてるけど制作陣はシャワーに恨みでもあるの? そしてジェノサイダーの話が出てきたのでとりあえず同一時間軸ではあるらしい。腐女子のことを指してるのかは知らんけど。 んで……何? 世界の破壊者? 前作ラスボスの所属組織とイコールでいいの? ぶっ殺さなきゃいけないって言ってたけどナチュラルに対立煽るな当たり前だけど。ただまあ前作は絶望振りまいてりゃ満足って言ってたのが明確に破壊思想を表に出してきたのは新しい。いやあんだけやっといて結局リセット願望かいって思わないでもないのでそのへん絶望とか破壊とかのワード組み合わせてオサレにしてほしいけど。
 そして今回の動機として用意されるゲーム中ゲーム。相変わらず全力投球するなあ。それはそれとしてバックログが読めなくなるのは勘弁してほしい(作中設定として生徒手帳の中の機能だった気がするから正しくはあるのか?)。 なるほど記憶は返さないけど過去が存在してたことについては積極的に触っていくのか。流石に有効活用されている。前作ボスが突っ込まれた点を修正し��いくスタイル。いや本当にツッコミ入ってたのか知らんけど。
 カメラマンから狛枝の朝食の話をされる。なんか日本舞踊家のおねぇ呼ばわりといい急にフォーカス入ったな嫌な予感がするぞ。
Tumblr media
想像より縛り方が激しかった。どっから用意したその鎖。隙あらばコロシアイを煽ってくるのはもう完全に確信犯的だなあ。自由時間で既に選べなくなっていたんだけど今作1話時点で3人消えるの前作より悪化してんじゃねーか! スクールモード無かったら怒るぞ!
 トワイライトシンドロームをプレイして思ったのがやっぱゲームキャラのセリフって現実的な頭身から出てくるとこそばゆくなるね。「ごかいした」のメッセージに気づいた瞬間とりあえずボタン連打したが5回押す前に表示が終わってしまったのでこれ隠し要素逃したか!? としばらく一人で騒いでいたがゲームジャンル的にここで分岐要素あったらあとで困るということにしばらくしてからようやく気付いたので事なきを得た。なお、そもそもこの画面で押しても意味なかったことに気付くのは少し後のことになる。
 和ーちゃんに誘われて海水浴イベント。おおノゾキじゃなくて参加する方なのか、と思ったがノゾキが発生するのは風呂の方だしそれは前作でやってた。一番見たかった子はイラストに描かれてなかったがな!!!!!!!!! そして次々に登場する女性陣(ギャラリー開放する時に必要なコインが高くて笑った)、カメラマンは調子が悪いから来れないのメッセージ、海の家から走り去る日本舞踊家……あっ……。
・自由時間の話
Tumblr media
王女ストーリーを完了。制作陣の作るキャラクターと僕の推したいキャラクターが一致していることが分かったので後はどう魅せてくれるかを期待したい。豹変はやめてね。
Tumblr media
続いて軽音楽部。ほんまこいつギリギリのギリを毎回突いてくるな。 自由時間の話終わり。
 小泉真昼というキャラクターの第一印象は「ジェネリック朝日奈」だった。気の強い物言いに委員長気質……。前作ではずいぶんと振り回されたものだ。 そこに男嫌いとかいう要素までプラスされてるものだからそれはもう大いに警戒した。こいつ裁判中に「男だからこいつが犯人」とか言い出してもおかしくないな、と思うぐらいには。 蓋を開けてみればどうだっただろうか、いざChapter 1の事件が発生すれば自分の信条は脇においておいて出来ることをしっかりやり、議論にも参加し、「コロシアイなんて絶対にやらない」とスタンスをはっきりと表明し、ヘイト製造機のコントーローラーにまでなった……。今度こそ僕は元気なムードメーカーと一緒にプレイできるんだ、そう思った。
 しかし、朝日奈の残した呪いは強烈だった。彼女に向けられたヘイトが時間差で爆発してしまった(完全な被害妄想)。ついに牙を剥いた新たな犯人の魔の手は、その大いなる力によって小泉真昼に牙を剥いてしまった。 ……うん、これで2話連続被害者枠的中だな! 既に加害者を2回連続で外しているので今後の予想は全部外れることが確定的なのはまあ許してくれよな!
 この事件について考える上でまず第一に引っかかるのはやはり死体発見アナウンスである。そういえばアナウンスルールの話を聞いていなかった気がするが、前作に則るのであれば犯人で1、日本舞踊家で2、和ーちゃんで3なので日本舞踊家はシロということになる。ただこれは前作でもっとややこしいシチュエーションでせっかくやったのにまた引っ張り出してくるか? というところなのでなにかあるだろう。今更この作品が前作でやったことをチュートリアルしてくれるとは微塵も思えない。 捜査開始。キラキラちゃんのお面が露骨に出てきた。クローゼットにグミ。露骨な落とし物。シャワールーム上部の窓。いやこれ登れないっつっても道具あったら登れそうじゃない(ポイ捨て禁止ルールをまた忘れている)(結果的に正解だった)? ……ところで、突然全部知った後の目線で書くけどペットボトルから水出したんならシャワールームの床まだ濡れてなかったりしない? プレイしたのが深夜だったから細かく覚えてないんだけど最終的にその水が何処に行ったのかは誰も触れてなかった気がするんだけど……。 そしてゲーマーを連れ立ってトワイライトシンドロームをプレイ。……この女……助手枠に綺麗に収まってやがる! 前作の助手枠は……うっ、頭が……!
 うんこれD子が小泉だったら割と悪いことしてるね。というか在学中に割とガッツリ悪い子としてるっていうの第三者目線で見せられてこの後この子達をどういう目で見たら良いのかわかんないよ僕は。何処までも何処までも警戒心を煽ってくるぜ。というかF男(か、その手の者か)、E子を殺した後どうやって誤魔化したんだ? もう普通にアウトじゃん……。 メタ的にも犯人じゃないのは割と露骨なのに非協力的な姿勢を見せてしっかりヘイトを稼いでいく日本舞踊家。コントローラーがいきなりぶっ壊れたからまた逆戻りだよ。
Tumblr media
意外と上手く行っているように見えるような見えないような当時の写真を回収、狛枝の活躍で砂浜の足跡とグミ袋を回収。これがなかったら普通に日本舞踊家死んでたぞ……。罪木の検死報告、あと何回見れるんだろう……。
 ここで捜査フィニッシュ。この状況で最も怪しいのは順当に考えれば極道である。トワイライトシンドロームの件からして既に容疑度満漢全席��あるが、「俺は最後まであがくぞ……」とか言ってる当たりもはや隠す気あんのか? というレベルなので流石に何かあるだろう。ほぼ全くと言っていいほど今話で印象のなかったマネージャーあたりがクロでもまあおかしくはないがそれは流石に扱いが露骨すぎるし、そもそも登場人物A,B,Cは主人公の目で見てアリバイがあるしで他に思い当たるフシもないし……。キラキラちゃんが突然出てきて二重人格パターンはもう勘弁してほしいけど。
 裁判準備で色々入手したスキルをセット。今作は前作と違ってスキルポイントとスキルの入手タイミングが同じだからSPダダ余りとかない上に序盤からバカバカ積めるから難易度低いな、ガハハ! とか言ってた。この段階では。
 裁判開始。いきなりトワイライトシンドロームからか。逆転裁判だと最初は現場検証から入るので文化の違いを感じる。 E子が使った凶器は何? って話題が出た瞬間水着でブラックジャックでも作ったんだろ、ガハハ! SSRカードみてえだな! とか言ってたらマジで水着ブラックジャックでびっくりした。素材的にいけるのか……? と思ってたからいける扱いでちょっとびびった。というか結局どうやって処分したんだ。 ところでヤマダといえば前作に居たけど繋がりあったりするんかな。
Tumblr media
ところでその声でそれ言うのやめろ。漢字違うけど。
 そして日本舞踊家のビーチハウスに行ってない! という主張を崩す展開。これ前作の葉隠で似たようなの見たぞ?
Tumblr media
……しかしまあ、「一人で服着れないから返り血をごまかせない」っていうの、「字が汚い」並の情けなさだな。それよりも問題は相手の反論斬っていくやつで極道の発言が硬すぎることだ。10回ぐらいミスった。この後早めにセーブポイント来たから事なきを得たが危うく僕の集中力が切れてゲームオーバー寸前だった。元々そうなのかプレイ環境が悪いのか知らんがなんかレスポンスが悪くて斬りづらいんだが!?
 そしてセーブ明けに始まるロジカルダイブとかいう新モード。なんかこのポリゴンと床PS1のサルゲッチュで見たな。
Tumblr media
……ところで何か操作説明おかしくない?
Tumblr media
案の定ゲーム中で操作説明開いたら全然違うこと書いとるしよォ!!!!!!!!
それはそれとして犯人がクローゼットに隠れているまでは良かったがじゃあ何処? って聞かれてめちゃくちゃ迷った。Chapter 1でも思ったけどこの絵柄で物体の大きさを測らせるのやめて超やめてめっちゃ苦手なの!
 そのまま犯人の手口の話題になるとペコの反論が入るが入ってくる時のボイスがめちゃくちゃ格好良くて転げ落ちた。ついでに斬るやつの文字の動きもスタイリッシュで興奮した。でも耐久力無くて難易度的にはクッソ低かった。 道具使う予想までは合ってたなヤッター! とか思いながら事件再現漫画の小泉がアホみたいに可愛い
Tumblr media
ことに失われたものの重さを痛感しつつ、なおも不気味な雰囲気な犯人を追い詰めていくと……
Tumblr media Tumblr media
これだもんな。カーッ、たまんねえな!
 ……ところがどっこい、クライマックス推理でも「なんでか知らんがキラキラちゃんの犯行だと示すために面を置いたんだろう」と主人公に直接言われたように登場が唐突すぎる。そもそもこれから居なくなるキャラ掘り下げても意味ねーじゃん……と思ったがこのゲームは吊られてからが本番なのでそこはそうでもなかった。 ともかくとして、無事犯人投票に成功……と思ったら新規ルート。 なるほど~~~~、「私は人ではないので犯人ではない」は前作では出てこなかった主張だな~~~~~。新しいな~~~~。
 ここで流れを変えるきっかけになったのは王女の一言であり、毎回毎回存在感を示してくれることには感謝したい。 そしてようやく出てくる死体発見アナウンスが前作と違う仕様であることの意味。そう、キラキラちゃんなど後付け、最初から現場にはもうひとり居たのだ……と。 こうして事件の全貌が本当に明らかになり、裁判は終わった。
 マジ!!!!!!!!!!!!??????????????????????????!!!!!!!!!!!!???????????????????????!!!!!!!!!!!!!!!!!!?????????????????????? そんな設定突然生やすなや! と思ったらこれまでに単独行動する極道を誘ってたのは常にペコだったわ!!!!!!!! マジか!!!????????!!!!!!!!! ああーいけませんいけませんよこれはこういうのに弱いんですよ僕。隠してきた秘密が明らかになる瞬間っていうの本当に弱いんですよ。とくに対人関係の秘密。この突然評定バリエーションが増えたペコの破壊力が高いこと高いこと。全部張っていい? いい加減誰もネタバレ気にして見てないでしょ。貼るぞ?
Tumblr media
「私の仕事は終わった」って聞いた時裏切り者設定もう消化するの? って思ったがそういうことでは無かった。色んな意味で手遅れになった諦めと覚悟を秘めたサイコーの顔をしている。
Tumblr media
突然歪む表情。狂った目的を達成したという満足感がみられる。
Tumblr media
トドメの表情。押し殺してきた全てが少しずつ溢れていくような印象。主人の情けなさにある種の諦めを抱いたような表情に見えなくもないのは主人の中途半端さが原因か。
 完全に油断してた。極道が犯人だとストレート過ぎるけどそれにしたってせいぜいトワイライトシンドローム関係者の内輪もめだと思ってたから突然予想外の方向からストライク送球が飛んできて死んだ。 極道に生まれながら心優しくどうしても人が殺せない跡取り息子とその用心棒としてずっと一緒に育ってきた剣。うーん、いい。いいですよ。問題はこのゲームだとこのご主人ただの役立たずなことなんですけど。
 それはともかくとして狛枝を始めとして登場人物がちょくちょく言及していた裁判全体の方向性の違和感をビッチリ決めてくる設定を打ち込んできたことに本当に感謝したい。このコロシアイの設定がこれほどまでに自己犠牲によって誰かを生かす事ができ、自己犠牲以外に自分以外の誰かを生かすことが非常に難しいという状況を見事に作り出せることに前作プレイ時点では全く気付いてなかった。まあ全員初対面という前提を勝手に思い込んでいたというのはあるが。ある意味前提をひっくり返すどんでん返しなので、今作になるまで温めていたのも納得である。 前作の2話では過去の事件の発覚を恐れた口封じ(間接的に)だったので、今作では過去の事件そのものについては誰も重要視していなかったのが綺麗に対比になっていて良い。ただ極道はこれから生き残ってどうするんだ? というのはあるが。
 前作の感想で隠し事がバレる瞬間に今まで積み重ねてきたものが崩れていくのが好きだと書いたが、今作でも形を変えて見れたのは非常に嬉しい。どちらかというと崩れるというより全貌が明らかになる瞬間、という趣だったが。 互いが互いを想いあったが本心から分かり合うことが出来なかったために間違いを止めきれなかった、というのはトワイライトシンドローム内で語られた事件とも一致しており、演出の妙が際立つ。結局、過去の事件も今回の事件も誰かがもう少し素直になれれば起きなかった事件なのだから。 お互いともに死んでほしくはなかっただろう。けれども極道には妹という動機があった。結局天秤に乗せた結果妹を取ったのか、劇場に駆られたのか、そのはっきりしない中途半端なスタンスのせいでいまいち見せ場を作りきれなかったが、もう嘆くことは許されない。賽は投げられたのだから。
 しかし犯した罪を反省する間もなく退場してしまうこのゲームにおいて、ついに後悔と反省が許されるキャラクターが現れた。そう、極道はまだ生きている。最後の瞬間に少しだけ本心で会話できたふたり(その感情が何であるのかはナードの僕には分からんので横に置いておく)、生きてほしかったという願いを受け取った彼は今後十神白夜並の手のひら返しを見せてくれるのかどうか、今後に期待したい。これで元気にヘイト製造機1号2号やってたら許さんからな。
・キャラクター所感
・ゲーマー どんどんメインヒロインとしてのポジションをガッツリ確保しにかかってる。コロシアイ絶対許さん発言といいめちゃくちゃ目立つ。最終的にどういうポジションに落ち着いて、どんな背景が合ったのかは注目していきたい。多分生き残るんだろうな。 ・ガンダム 相変わらず厨二病発言は全くなりを潜めないのにギリギリ会話が成立するギリギリの社会性を表現するのがうまい。キャラクターとして無理なくハマってしまっている。ただいい加減キャラに発展が無くなってきたので次当たりポックリいってもおかしくないかもしれない。 ・日本舞踊家 無事今回もヘイト製造機1号の立場を守り抜いてしまったのみならず、容疑者候補から復帰というぶっとい生き残りフラグを立ててしまった。完全に逆転裁判世界からやってきたかのような裁判中の煽りといい
Tumblr media
全く嬉しくない可愛さアピールといい朝日奈を超える勢いでヘイトを稼いでいる。大丈夫か? 本当に。でも極道との復習の連鎖はまだ残ってるので4話あたりでやらかしてくれるかもしれない。 ・極道 ヘイト製造機の座は暫定で脱出したが今回はマジでいいところがなかった。いや妹殺しの共犯が目の前に居たら殺りたくなるのは分かるけどカッとなってうっかりやっちゃうのはチンピラでしょ。裁判中でのスタンスも中途半端(これについては狛枝が言及していたように制作陣からそういうやつだと太鼓判を押されていることになる)だし、本当に次が大事。でも女子メンバーとのわだかまりは普通に残ってるわけだし仲良しこよしは出来そうにないよなあ……。個人的には3話でいいところを持っていって十神白夜ルート乗ったと思ったら4話で結局トワイライトシンドロームメンツと揉める展開が良いです。 ・保健委員 いじめられるならこっちだと思ったらD子の方だった。相変わらず検死が有能で着眼点もよく、しかもあまり人を殺しそうにないと非常に好感の起きやすいキャラクターとなっているがまさかトワイライトシンドロームの話がこれで完結するわけではないだろうし以下略。 ・軽音楽部 そろそろ見た目以外に言うことが無くなってきたので掘り下げが欲しい。 ・マネージャー 言うことがない。 ・オワリ 裁判に協力的と言うだけでこんなにもバカが許せるのか、と感心している。この言うこと無いトリオにそろそろ脚光当ててみてほしい。 ・ペコ 推したい、が彼女はもういない。主人の中途半端さに割を食らった感があるので無事成仏してくれることを願う。 ・王女 とりあえずキャラクター性も見えてきたし、あとはこの異常空間でどのように輝くか。天然変な趣味お嬢様路線のまま散っていくのだけはやめてほしい。 ・メカニック このギャルゲーの親友枠みたいなの地味に前作にいなかったな……と感心している。3話は軽音楽部以下のメンツの誰かに軸が置かれるはずなのでそこで生き残れるか。「生き残って欲しい」という感情をプレイヤーから稼ぎやすいキャラなので生存可能性低そう……。 ・超高校級の幸運 しばらくは危険なやつという路線で進んでいくようなので掘り下げ待ち。中の人にこいつのオファー来た時「え!? 次は思いっきり怪演していいんですか!?」ってなってそう
・番外・カメラマン
Tumblr media
殺され方まで委員長キャラ貫いたなあ……ってしみじみ。 まあ(間接的協力者とは言え)殺した側が言っていいセリフじゃないし残念ながら当然みたいなとこある。どうして前作はこうならなかった。
1 note · View note
cybercgull · 7 years
Text
bitter than sweet
※テスト投稿を兼ねたプライベッターからの転記。シクラーが登場するけど内容はケブデプ。後半はこれから書くつもり
「ヴァレンタインデーって何なの?」  オレが結婚してから初めて迎える2月にそれはやってきた。夜が明ける頃に活動を終えて隠れ家に戻り、血や泥で汚れたスーツを脱ぎ捨てて温かいベッドの中に潜り込んだ瞬間、妻のシクラーが質問してきた。 「君みたいな美人にはサプライズにしようと思ってたんだけどな」  口八丁手八丁ついでに嘘八丁のオレのことだ。デタラメがすぐに出た。ヴァレンタインデーなんてすっかり忘れていた。彼女がその慣習的行事について調べつくしてしまったかどうかはまだ分からない。オレは彼女の夜空に佇む月のような瞳を見つめた。その青みががったピンク色の肌からは獣のような香りがしていた。今日も他の魔族と寝たようだった。 「特に調べたわけじゃないけれど、ハネムーンで訪れたTOKYOではチョコレートを女性が愛する人に渡すのだって」  最近スマートフォンを使えるようになった彼女はおそらく何とかTUBEか何とかBOOKを目にしたに違いない。 「あぁ、日本ではそうみたいだな。言葉通りチョコっとでも儲かろうって魂胆で各社が必死こいてるらしい。因みにこっちじゃ男がそういう役なん……」  言ってから口を塞いだ。しまった。事情を知らない彼女に親切にも情報を与えてしまった。シクラーは静かに微笑みを浮かべると、オレの唇を覆う手のひらを取り除けた。 「ねぇ、私もそういうチョコレートが食べたい……作ってくれるかしら? だってあなたのこと、愛しているわ」 そして傷だらけの唇に軽くキスされる。"Yes, your Majesty.“ オレは恭しく返答するしかなかった。どれだけ彼女に振り回されようと、その魅力には敵わなかった。美しいものは美しい。愛は愛だ。ただ、オレはその時は見栄を気にする”俺”だった。2つ返事で請け負ったんだ。  翌週以降はとにかく多忙になった。普段のヒーロー活動(面倒なことに丁度その頃オレが結成したチームは仲間割れ状態で、その原因はオレ自身にあるということだったが、その話は各自作品を読んでくれ。そんな説明をする時間的余裕はない)に加えて各国のチョコレート事情を調べまくり、Siriの尻を叩いて有名ショップの商品を注文し、家に帰るとこっそり武器庫の奥で実験的試作を繰り返した。チョコレートを手作りしたことなんて無かったから、カカオ豆とそれ用のフードプロセッサーを輸入した。お陰で1枚カードが使えなくなった。 「うんこなら毎日もっと簡単に沢山作れるのに……」  トイレに行く度に危ない考えが頭を過ぎったけど、喜ばれても嫌だったからそれは我慢して、オレは自己流の研究を重ねた。床にはゴミとマシンガンのマガジンと共に様々なチョコレートの箱が積み重なり、生臭さと鉄の匂いと甘い香りが混じりあって嗅覚が悲鳴を上げていた。もうあと数日で当日になってしまうというのに、未だにチョコレート作りがうまくいかない。 「だぁあああくそ! 毎日カカオ豆を磨り潰し続けて脳までドロドロになりそうだ! それにこんな地味な話を誰が読むんだよ」  今すぐ手元の焦げ付いた鍋底の残飯のような歪な塊と、表面に繊細な模様の描かれた色とりどりの粒をすり替えてしまいたい。そういう衝動に駆られる。もう夜中の1時をまわった。もう徹夜4日目。もう無理。ド無理。オレはついに最後の手段に出た。 「――神様、この世界からチョコレートを無くしてください。もしくはシクラーからここ数週間の記憶を抜いてください」  オレは結構真剣だった。もうどこの誰でも良かった。切実な願いを聞き入れてくれるなら、喜んでこの命を捧げよう。そういうつもりだった。 「まぁ、何もしないよりはマシだろ……祈ることで効果があるかもしれないし」 「そうだな」  ほらみろ、これは大きなチャンス――。ちょっと待て。今の声は何だ。オレは声のした後ろを振り返った。  床から数インチ浮かぶように立っていたのはケーブルだった。デカい図体を包むような青い光と左目から溢れ出す淡い黄色の光が薄暗い武器庫に輝いた。相変わらず身体中に変なものを装備していたけど、世界中を探してもこんな奴は1人しかいないからすぐに判別はついた。 「ネイトかよ……オレ、ランプの魔人を期待してたのに」 「悪かったな。俺は魔法使いじゃないからな。期待には添えられん」  ケーブル(通称ネイト)は床に降り立つと、粉塵にむせ返りそうになりながらオレの部屋を見回した。いつもの武器類は当然あるものとしてスルーされたけど、山積みのチョコレートの箱を確認すると、何やら面白いものを見るようにオレに笑いかけた。 「凄い量のチョコレートだな。全部妻の為に買い集めたのか?」 「いや待てよ、お前こそ何でここにいるんだよ。ついに”未来”とやらが平和になって暇になったの?」  オレはいつもネイトがタイムトラベルでやってくると状況の把握から始めないとならない。ある意味一番のストレス要因だ。もう時間も気力も体力も殆ど無いっていうのに。オレはマスクを掻きむしった。シャワーだってまだ浴びてないからそろそろ痒くなってきた。 「俺が来た理由は大したものではない。それより今はお前の問題を解決するのが先だ」  壁に貼り付けたカレンダーと、失敗してぐちゃぐちゃになったチョコレートのようなものと、それからボロボロになったチョコレートの完成イメージのイラストを見比べるとネイトはオレの肩に手を置いた。ひんやりとした金属の手のひらが宥めるように擦ってきた。 「愛情は気持ちの濃さと永続性だ。形に囚われる必要はない。お前の妻はそれを誰よりも理解しているはずだ」  言葉の意味からすると、慰めてくれているようだった。普段なら気軽に触るなと風穴の1つや2つ開けそうなところだけど、今は彼の言うことを素直に聞けた。 「だって、オレに出来ることなんて人殺しと皆に嫌われることぐらいだし……今色んな事が最悪だからさ、チョコレートも今のオレみたいだ」 「シクラーには良いとこ見せたいんだよ。いつもほったらかしてるのはオレの方だし、本当は毎日一緒に寝たい」 「他の男が出入りするのは構わないけど、オレにだってプライドがあるから……その、ヴァレンタインデーくらいは……」  ぼそぼそと喋り続けるオレにネイトはずっと耳を傾けていた。喋りながら段々と胸が苦しくなって、息が詰まって、最後は無言になった。意味もなく手足が震える。いや、きっと意味はあるけど無視しているだけだ。ネイトは静かに傍に近寄ってくると今度は背中を撫でてきた。子供をあやすかのような穏やかな刺激に思わず涙腺が弛みかけてしまい、目許をごしごしと拭った。マスクがチョコレートの油分で汚れた。 「そのまま泣け。感情を殺すな」 「うるせぇ」  オレは反射的にネイトから離れた。これ以上は付き合えない。黒いものが渦巻いて、中から壊れていきそうだった。部屋を飛び出そうとして、手首を掴まれた。しかしベタベタに汚れたグローブがぬるりと金属の指をすり抜けた。 「ウェイド」  ドアノブに手をかける寸前で背後から名前を呼ばれて、振り向きざまに睨み付けた。 「だって! オレみたいなこんなひねくれてて気持ち悪いの誰が好きになるってんだよ!!」
マスクの下にある、傷だらけで醜い身体を彼は知っているのに。失敗作なのに。
「俺だ。俺はお前をそうは思わない」  静かな光がオレをじっと見つめる。見つめ続ける。オレは床にへたり込んだ。 「今お前が感じているような想いを彼女にはきちんと伝えたことがあるのか?」 「……まだない」 「今から伝えてこい。チョコレートはそれからだ。俺はここで待っている」 「でもこの恰好で……泣き顔とか見せられないし」 「問題ない。出れば分かる」  ネイトはオレを引き上げて立たせると、無理矢理ドアの向こうに締め出した。目の前にはシクラーが立っていた。 「今の人がケーブルさん? 良いこと言うのね。素敵じゃない」  どうやら話を聞かれていたようだった。オレは気遅れして、しかし踏みとどまった。 「シクラー……その、言いたいことがあって」  彼女に近付く。チョコレートに塗れた掌でその肩を抱き寄せ、髪を撫でた。彼女は嬉しそうにオレの胸に額を押し付けた。 「なあに?」  彼女からは初めて姿を見た時と同じ甘い香りがした。かつてはその瞳の暗闇の部分に吸い込まれてしまいたいとさえ思った。この醜い容貌をありのまま受け入れてくれた、大切な人だ。 「……黒っぽかったり赤かったり白かったりして、甘くて口に入れると気持ちが良くなって、すぐにドロドロになっちゃうけどまた欲しくなっちゃうものってなーんだ? ヒント。君を今一番愛してる」  考え込む素振りを見せた後、彼女は解答した。 「あなたでしょ。おまけに今日は美味しそうな香りつきね。融けて小さくなるまで楽しめるかしら」  そろりと脇腹をくすぐられて、肌が粟立った。くらくらとして目が回るような気分だった。 「自信は無いけど……4日振りだから何回かはいけるかな……身体がもつかどうか、わから……」  そこまで言ってオレは彼女の足元に崩れ落ちた。すぐに彼女の鱗に覆われた腕がオレを抱き上げた。ドアが開く音がして、ネイトが何かを指示して……後は意識が薄れてしまった。
(続く)
2 notes · View notes
groyanderson · 4 years
Text
ひとみに映る影 第四話「忘れられた観音寺」
☆プロトタイプ版☆ こちらは無料公開のプロトタイプ版となります。 段落とか誤字とか色々とグッチャグチャなのでご了承下さい。 書籍版では戦闘シーンとかゴアシーンとかマシマシで挿絵も書いたから買ってえええぇぇ!!! →→→☆ここから買おう☆←←← (あらすじ) 私は紅一美。影を操る不思議な力を持った、ちょっと霊感の強いファッションモデルだ。 ある事件で殺された人の霊を探していたら……犯人と私の過去が繋がっていた!? 暗躍する謎の怪異、明らかになっていく真実、失われた記憶。 このままでは地獄の怨霊達が世界に放たれてしまう! 命を弄ぶ邪道を倒すため、いま憤怒の炎が覚醒する!
(※全部内容は一緒です。) pixiv版
 ◆◆◆
 石筵霊山きっての心霊スポット、通称『怪人屋敷』。 表から見えるそれは、小さなはめ殺し窓が幾つかあるだけの灰色の廃屋で、さながら要塞のように霊山来訪者を威圧する。 でもエントランスに入ると、意外と明るくて開放感がある。 北側がガラス張りになっていて、外の車道から街灯のオレンジ光が射し込んでいるからだ。 そのコントラストはまるで、世間の物々しい噂と私の楽しかった思い出のギャップを象徴しているようだった。
 C字型の合皮張りソファで囲まれたローテーブルに、譲司さんはスマホを立てかけた。 煌々と輝く画面内には、翼の生えた赤いヤギが浮遊している。  「やあ、アンリウェッサ。何度もすまないね」 スピーカーから、男性的な口調のヤギの声が流れた。でもその声は人間の女の子みたいだった。 アンリウェッサとは、NIC内で使われる譲司さんのコードネームだ。 このヤギさんはNIC関係者なんだろう。  「姿を変えられたとはさっき伺いましたが…性別どころか、人間ですらなかったんですか」 譲司さんは分厚い眼鏡をつまんで画面を凝視した。
 「この方、お知り合いですか?」 私は画面を見たまま尋ねた。  「はい。彼はNIC元幹部のハイセポスさんです。 あの時中東支部でサミュエルに殺害された一人で…ほら、オリベ。キッズルームのガブリエルお兄さんや」  <ああ!もちろん覚えてるわ! 人を騙す脳力を持った、イタズラ好きの嘘つき先生ね!> 情報をまとめるとつまり、ハイセポス元幹部は本名ガブリエルさん、 中東支部でサミュエルに殺害された被害者で、キッズルームの養護教諭の一人だったらしい。 ��イセポス元幹部はにっこり微笑むと一瞬発光して、恐らく生前の姿であろう、人間の男性に変身した。  「やあ、オリベにジャックも久しぶりだね」 本当の彼は、きりっと賢そうな三白眼を持つ、小柄な黒人さんだった。
 「ハイセポス元幹部は、さっき俺とポメが新幹線に乗っとった時に電話をくれたんや。 ファティマンドラのアンダーソン氏がジャックを目覚めさせた事とか、さっくり教えてくれはってな」  「それでさっき、皆して一美がアンダーソンと会ったって話に飛びついてきたのね」 私の影でくつろいでいたリナが、胸から上だけ出てきて話題に参加した。  「それで、ご用件は何でしょうか」 譲司さんが改めて伺う。
 「ああ。すまないが、僕はアンリウェッサの補佐として、ずっとこの端末から君達を監視させて貰っていた。 そこでどうしても確認したい事を聞いてしまって。質問してもいいかな…ミス・クレナイ」 え、私?  「な…何ですか?」
 「君はさっきから、この石筵に観音寺があると話しているね」  「はい。私が小さい頃、和尚様と住んでいたお寺さんです」  「その和尚の名を教えてくれるかい?」  「いいですよ。和尚様のお名前は…」 あれ?
 「その観音寺はどこにあるのかい?」  「あ、はい。ここからすぐ近くですよ。 外に出て、丁字路を右…いや、左…」 あれ?え!?
 「ヒトミちゃん?」 イナちゃんが訝しげに私の顔を覗きこむ。 おかしい、有り得ない。そんなはずはない。 観音寺と、和尚様に関する記憶が…ほとんど思い出せないなんて!  「ちょっと待ってください。忘れるはずないんです。 だって、最後に会ったのは上京する直前…」 いや、違う。
 『ひーちゃん、和尚様は今いないから、私がお土産を渡しておくね』 私の脳裏に、ファティマンドラの安徳森さんと出会った日の、萩姫様の言葉がよぎる。 そうだ。あの日は会えなかったんだっけ。 だから最後に会ったのは、玲蘭ちゃんとハゼコちゃんの事件の時…中学一年生。 中学時代に会っているんだから、せめて和尚様の顔ぐらいは…顔ぐらいは…顔は…
 ハイセポスさんはばつが悪そうに顎を引いた。  「ミス・クレナイ。とても言い難いんだが、石筵に観音寺はないんだよ」 観音寺が、ない?  「ああ…なくなっちゃったんですか?跡継ぎ不足とかで…」  「違うんだ。ないんだよ。 …そんな寺は、この地に歴史上一度も存在していなかったんだ」 そんな…  「そんな、バカな!」
 画面から顔を上げると、みんな私を怪訝そうに見ている。 リナはまた私の影に引きこもった。  「ち…違うんです、観音寺は本当にあったんです! だって現に、私は怪人屋敷の中に入った事があるし…あ!」 そ、そうか!オリベちゃんはさっき、ハイセポスさんを『人を騙す脳力を持つイタズラ好き』って言ってたじゃないか。  「な…なーんだ!ハイセポスさん、ドッキリはやめて下さいよ! そりゃあ私は『したたび』でいつも騙されてますけど、あれはテレビの演出でして…」  「嘘だと思うなら、探してみるといい。 すぐ近くなんだろう」
 ◆◆◆
 私は咄嗟にイナちゃんの手を引いて、怪人屋敷を飛び出した。辺りは既に暗くなっている。 灯りが必要だ。私は二人分の足元の影を右手の中に集めた。 影が圧縮されて行き場を失った光源を親指と人差し指で作った輪に閉じ込めると、『影灯籠(かげどうろう)』という簡易懐中電灯になるんだ。 なにかと便利なこのテクニックを教えて下さったのだって、和尚様だったはずなのに…。
 「イナちゃんは、信じてくれるよね?」 山道のぼうぼうの草を蹴りながら私は独りごちた。  「色んな事を教えてもらったんだよ。 知ってる?チベット仏教の本尊は観音菩薩様なんだよ。 だから観音菩薩様は、タルパとか人工霊魂も、ちゃんと救済して下さるんだ」 足元でバッタが一匹逃げた。
 「ヒトミちゃん…帰ろうヨ…」 振り返ると、イナちゃんは寒そうに肩を狭めていた。 早くお寺を見つけなきゃ。お蕎麦屋さんの予約時間も近づいている。  「ねえちょっと、一美…」 影灯籠からリナが滑り落ちる。  「あんまり気が進まないけど、この際だから言うわ。あんたの和尚は…」「真言だって!」 私は苛立って声を荒らげてしまった。  「…ちゃんと言えるもん。オム・マニ・パドメ・フム…」
 「ヒトミちゃん」  「念彼観音力、火坑変成池(観音様に念じれば、火の海は池に変わり)… 念彼観音力、波浪不能没(観音様に念じれば、溺れて沈むことはない)…」
 リナは私から離れ、イナちゃんの影に宿った。 私は足を泥だらけにして彷徨った。 何だか泣けてくる。でも両目から滲み出た涙は、すかさず乱暴な北風に掠め取られる。 もうリナとイナちゃんはついてきていない。
 「オム・マニ・パドメ・フム…オム・マニ・パドメ・フム…」 夜の山の寒さと焦りも、私をあざ笑っている。
 「オム・マニ・パドメ・フム…」 真言を繰り返す度に、思い出とか、影とか、自分の色々な物が剥がれていく。
 「オム・マニ・パドメ…あ」
 我に返って見ると、手から滴り落ちた影は一筋の線になって、私達の行くべき道を示していた。  「ほら…私、ちゃんと覚えてたでしょ?」 私は再びイナちゃんの手をとって、影が示す方向へ進んだ。
 ◆◆◆
 影の糸を回収しながら進むと、私達は怪人屋敷に戻っていた。 いや、糸の先端は…怪人屋敷に隣接する、ガレージの入口で途絶えているみたいだ。
 ガレージのシャッターはやすやすと持ち上がった。鍵がかかっていなかったんだ。 背後の街灯に中が照らされると、カビ臭い砂塵が舞い上がり、コウモリや蛾がパニックを起こして飛び出してきた。 街灯の光が行き渡るようにガレージ内の影を調節すると、そこには…
 「なに、これ…」 そこにあったのは、床に敷かれたままの小さな花柄の布団。錆びついたグルカナイフ。薪と木炭。鍋。 山積みの『安達太良日報』1994年刷。どこかの斎場のタオル。塩。干し柿。干しキノコ。干しイナゴ。 誰かがここで生活していた跡のようだ。何故かすごく懐かしい感じがする。
 壁に光を当てると、おびただしい枚数の半紙が貼られている。 写経、手描きのマンダラ、チベット守護梵字、真言、女の子と観音菩薩様が仲良く焚き火を囲う絵。 そして、それらに囲まれたガレージの中央最奥には、私の背より少しだけ大きな何かが、白い布で覆われていた。
 「ヒトミちゃん、ここ怖いヨ」 イナちゃんがガレージの入口から囁いた。  「怖い?なんでかな。あ、コウモリならもういないみたいだよ」 私は天井を照らしてみせた。でも、イナちゃんはまだ萎縮している。  「出てきて、ヒトミちゃん。ここやだヨ」 どうしてそんなに怯えてるんだろう。  「平気だよ!だってここは…ここは私が住んでた観音寺だもん!」
 私は壁の半紙を幾つか剥がして、イナちゃんに差し出した。  「ほら、これ。和尚様に書道を教わってたの。 凄いでしょ、幼稚園生でこんな難しい漢字書いてたんだよ! だから私、今でも字の綺麗さには自信があるんだ」 半紙を一枚ずつ丁寧にめくって見せる。『念彼観音力』『煩悩即菩提』、どれも仏教的な文章だ。  「なーんて、本当はね、影絵で和尚様の本を写しながら書くから、こんなに上手く書けてたんだけどね」 『而二不二』『(梵字の真言)』『(マンダラ)』『金剛愛輪珠』…  「オモナアァッ!!」 突然イナちゃんが後ずさった。 手元の半紙を見ると、書かれていた文字は… いや、これは…アルファベットの『E』と『十』の字に似た、記号… どうしてイナちゃんの手相がここに…?
 「イナ?紅さん?」 怪人屋敷から皆が集まってきた。 イナちゃんはリナと抱き合い、震えている。 皆もそんなイナちゃんの怯えた様子を見て、不穏な表情になった。  「だ…大丈夫だってば!そ、そうだ! 観音菩薩様の御本尊を見てもらえば、きっと怖くなくなるよね! すごく優しいお顔なんだよ。ほら!」 私はガレージ最奥の観音像にかかった白い布を、思いっきり引き剥がした。
 「あぃぎいぃぃやああああああああ!!!!!」 隣の安達太良山にまで響くほどの声で、イナちゃんが絶叫した。
 「え…?」 イナちゃんは白目を剥き、口の両端から泡を吹き出して倒れた。  「ガウ!ギャンッギャン!!」 歯茎を見せて吠えるポメラー子ちゃんの横で、オリベちゃんと譲司さんは腰を抜かしている。 するうちジャックさんが気絶したイナちゃんに取り憑き、殺人鬼や暴力団も泣いて逃げ出すような形相で私の胸ぐらを掴んだ。
 「テメェ馬鹿野郎!!この子になんて物見せてやがる!!!」 え…なに言ってるの、ジャックさん?  「ううっ…うっ…」<ヒトミちゃん、そ…それ、隠して…!> 嗚咽しながらオリベちゃんがテレパシーを送る。 私は真横にある観音像を見た。 金色の装飾品に彩られた、木彫りの…
 「は?」 私は真横にある観音像を見た。 それは全身の皮膚を剥がされ、金色の装飾品に彩られた、即身仏のミイラだった。
 ◆◆◆
 「なに…これ…」 私は一瞬、目の前にある物が何だかよくわからなかった。 変な話、スルメイカやショルダーハムでできた精巧な人体模型がお袈裟を着てネックレスをしているような、 それぐらい意味不明でアンバランスな物体に見えた。
 <と、ともかく…公安局に連絡を! さっきのファティマンドラの件もあるし…> 腰を抜かしたままのオリベちゃんが、譲司さんを揺さぶって電話を促す。  「あ…ああ!せやな!C案件対策班に…」  「やめてください!」  「<え?>」
 私は気がつくと叫んでいた。  「つ…通報はやめてください!だ、だって…」 だって、何なのか?自分でもわからない。 ただ、ここが警察に暴かれてしまったら、何かとてつもない物を失ってしまうような気がして。
 「何言ってやがる…。ここに変死体があるんだぞ! 花生やして腐ったミンチどころじゃねえ、マジの死体がだ!!」 ジャックさんがイナちゃんの身体で私を責める。  「ち…ち…違います!観音様を変死体だなんて、罰当たりな事言わないで下さい!! これは…この人は…このしどわあぁぁ…!」 嗚咽で言葉が出てこない。もう、本当はわかってるんだ。 この即身仏は…私の…和尚様なんだ。
 混乱と涙とガレージ内のハウスダストと鼻水で、私は身も心もぐしゃぐしゃになっていた。 皆はまだ何か怒鳴ったり喚いたりしているみたいだけど、もう何もわからない。 私はただ、冷たい和尚様の足元にすがりついてひたすら泣いた。
 「ジャック、もうええやん。やめよう」 すると譲司さんがガレージに入ってきて、私の髪を掴んで逆上していたジャックさんを宥めた。  「紅さん、わかりました。通報は後でにします。 その前に…紅さんの和尚様に、ご挨拶させて下さい」 彼は私の頬を優しく指で拭い、小さい子に向けるような微笑みで言った。 そして和尚様の前に立つと、うやうやしく一礼し、  「失礼します」と呟いて、合掌されている和尚様の両手にそっと触れた。
 譲司さんはそのまましばらく静止する。和尚様の記憶を、読んでいるみたいだ。  <ジョージ…> オリベちゃんがまたテレパシーによる視界共有を提案しようとする。 でも譲司さんは視線でそれを断って、  「紅さん」 私に握手を求める仕草をした。
 「行きなさい」 リナが私を促す。  「私も知らない真実。ちゃんとぜんぶ見届けるのよ」 私は頷いて、譲司さんの手を握る。 そのまま影移しで譲司さんの影に意識を溶け込ませ、彼と同じ視界へ飛んだ。
 ◆◆◆
 ザリザリザリ…ザザザ…。視覚と聴覚を覆う青黒い縞模様とノイズ音が晴れていくと、目の前が病院の病棟内のような風景になった。 VHSじみた安徳森さんの時と違って、前後左右を自由に見ることができる。
 「ずいぶん鮮明な記憶ですね」 気がつくと隣で、ノイズがかった譲司さんが私と手を繋いで立っていた。 今、私は彼の影だ。  「和尚様は、どこでしょうか…?」 辺りを見渡すと、昼間なのに全ての病室のドアが閉まっている。 案内板を見るに、ここは精神科の閉鎖病棟らしい。 ふと、私ば病室の一つから強い霊的な電磁波を察知した。  「譲司さん」  「そこですよね」 彼も同じ部屋にダウジングが反応したみたいだ。 ただ、空気で物を感知する彼が気付いた事は霊で��なかったらしい。 彼は『水家曽良 様』と書かれたドアプレートを指さしていた。
 意識体の私達は幽霊のように病室のドアをすり抜ける。 中にいたのはベッドに横たわるサミュエルこと水家曽良と、彼を見下ろす二人の霊魂だ。 私から見て左側の霊は、すらっとした赤い僧衣の男性。 顔は指でこすった水彩画のようにぼやけていて、よく見えない。 一方右の霊は、顔と股間の部分だけくり抜いた人間の皮膚を肉襦袢のように着ている、不気味な煤煙だ。 水家曽良はまだ子供の姿。日本国籍を得て間もない頃なんだろう。
 「この子の才能は実に惜しい物だった」 肉襦袢の霊が言う。喋り方は若々しいけど、声はおじいさんみたいだ。  「タルパはそう誰でも創造できる物ではない。 まして彼は、我々が与えた『なぶろく』のエーテル法具をも使いこなした。 それを享楽殺人の怪物を生み出すために使った挙句、浅ましい精神外科医共に脳力を摘出されるとは。 この子に金剛の朝日は未来永劫訪れないだろう」 なぶろく?と聞こえた箇所だけ意味はわからなかったけど、 どうやら彼は水家に何らかの力を与えた霊魂らしい。  「エーテル法具…NICで聞いた事があります。 エクトプラズム粒子を含んだ何らかのタンパク質塊、 人間の脳を覚醒させて特殊脳力を呼び覚ます、オーバーテクノロジー…」 譲司さんはそれに何か心当たりがあるようだ。
 「ともかく、これ以上損失を出す前に、彼の魂を楽園へ送るのは諦めましょう。 彼はまだ子供ですが、余りにも残虐すぎました」 赤僧衣の霊が、隣の肉襦袢の霊の顔色を窺うように言う。まだいまいち話が見えない。  「その通りだ。しかし、私達もただで金剛の地に帰るわけにはいくまい」
 すると肉襦袢は、眠っている水家の鼻に指を突っ込んだ。  「フコッ」 水家が苦しそうな声を発する。彼の耳から水っぽい液体が垂れ、頭の中で何かがクチャクチャと動き回る音がする。 でも水家は意識がないのか、はたまた金縛りに遭っているのか、微動だにしない。 やがて肉襦袢が鼻から指を引き抜くと、その指先には、薄茶色い粘液でつやつやと輝くタコ糸のような紐が五十センチほど垂れていた。  「どうなさるおつもりですか」 心配そうに赤僧衣が問う。 肉襦袢は紐を丁寧に折りたたむと、水家の病室から去っていった。 私達と赤僧衣は彼を追いかける。
 肉襦袢は渡り廊下を通って、違う病棟に移動した。 彼が立ち止まったのは、新生児のベッドが並ぶ、ガラス張りのベビールームだった。 彼は室内に入り、生まれたばかりの赤ちゃん達の顔を一人ずつ覗いていく。 そして、壁際から五番目の赤ちゃんの前でぴたりと静止した。
 「見なさい。この子だ」 肉襦袢は赤僧衣に手招きする。 赤僧衣は赤ちゃんを見ると、感嘆のため息をついた。  「この子の顔の周りだけ、不自然に影で覆われているだろう。 天井の光が金剛のように眩しくて、無意識に影を作っているんだ。これは影法師という珍しい霊能力だ。 この子は金剛級に強い素質を持っている」 安らかな顔で眠る赤ちゃんの頭上で、肉襦袢が興奮気味に語る。 あれ、そういえば…
 「譲司さん。水家曽良が日本に来たのって、具体的にいつなんですか?」  「日付までは覚えとりませんが…たぶん、1990年の十一月上旬です。 俺日本の家に引き取られて最初の行事が弟の七五三やったんで」 1990年十一月、影法師使いの赤ちゃん…偶然か? 私の生年月日は1990年十一月六日だ。 まさかここ、石川町の東北総合病院じゃないよね?違うよね!? そんな不穏な想像が脳内で回っている一方、肉襦袢は目を疑うような行動に出た。
「金剛の力は金剛の如く清き者が授かるべきだ」 肉襦袢はさっき水家から引き出した糸を広げると、その先端を…赤ちゃんの口に含ませた! チュプ、チュプ、チュパ…ファーストキスどころか、まだお母さんのおっぱいすら咥えた事もない新生児は、本能的に糸を飲み込んでいく!  「ほら、こんなに喜んでいるだろう」  「そ…そう…ですね…」 表情の見えない赤僧衣も露骨にドン引きしている。 譲司さんが真っ青を通り越して白塗りみたいな顔色で私を見た。  「あ、あの…紅さん、一旦止めま」「譲司さんうるさい!!」「アハイすいませェェン!!!」 背中から火が出そうだ。
 永劫にも思える時間をかけて、赤ちゃんは糸を全て飲み込んでしまった。  「これでこの子はタルパの法力を得た!」 肉襦袢が人皮の手で拍手する。  「失礼ですが如来、一度穢れた者の法具を赤子に与えるのは、この子の人生に悪いのでは…?」 如来?如来って言った今!?この赤僧衣、如来って言ったの!? こんなエド・ゲインみたいな格好したモヤモヤの外道が如来!?有り得ない有り得ない有り得ない!!
 如来と呼ばれた肉襦袢はキッ���赤僧衣の方を向いた。  「ではどうしろと?サミュエル・ミラーの死後霊魂を収穫する価値がなくなったと確定した今、 これ以上金剛の楽園に損失を出してはならないだろうが!」  「ですが…「くどいっ!!」 事情を知らない私にも赤僧衣の言っている事は正論だとわかるが、彼は肉襦袢に逆らえないようだ。
 「よかろう。お前がそこまでこの子の神聖を危惧するなら、この子に金剛の守護霊を与えてやろう」 肉襦袢は赤ちゃんの胸に煤煙の指を沈めた。  「な…待って下さい!肋骨なら、私の骨を!」 肋骨?  「ええい、既に『なぶろく』を捧げたお前に何の法力が残っているというのか?出涸らしめ! 『ろくくさびのひりゅう』は金剛の霊能力を持つ者の肋骨でなければ作れん!」 肉襦袢はわけのわからない専門用語を喚きながら、赤ちゃんの胸の中で… うそ、まさか!?  「この赤子に金剛の有明あれーーッ!」
 プチン!
 まるで爪楊枝でも折ったようなくぐもった軽い音がした後、  「ニイィィィーーーギャアァァアアアアァア!!!!!」 赤ちゃんは未経験の恐怖と激痛で雄叫びを上げた。  「みぎゃーーっ!」「あーーーん!」釣られて他の赤ちゃん達も阿鼻叫喚! すかさず看護師がベビールームに飛びこんで来るが、赤ちゃんを泣かせた原因を彼女らが知ることはない。
 「お前は石英で龍王像を彫り、この金剛の肋骨を楔として奉納するんだ。 さすれば『肋楔の緋龍(ろくくさびのひりゅう)』はこの子を往生の時まで邪道から守り、やがて金剛の楽園へ運ぶだろう。 象形は…そうだな、この福島の地に伝わる、萩姫と不動明王の伝説に因んで、倶利伽羅龍王像にするといい。 この子に金剛の御加護があらん事を…」 肉襦袢は赤ちゃんの小さな肋骨を赤僧衣に手渡すと、汚らしい煤煙を霧散するようにして消え去った。 霊的な力で肋骨を一本引き抜かれた赤ちゃんの胸には、傷跡の代わりに『E』『十』の形の痣ができていた。
 「すまない…ああ、本当にすまない…」 肋骨を奪われた赤ちゃんの横で、赤僧衣の霊魂は崩れ落ちるように土下座して咽び泣いた。 看護師さん達はそんな彼の存在を完全に無視して、この突然発生したパニックの対応に追われている。
「こんなん嘘やろ…」 譲司さんが裏返った声でそう呟いた時、私は『生まれつき一本少ない』と言い聞かされていた自分の肋骨のあたりを抑えて震えていた。 それから文字通り気が遠くなるような感覚を覚え、私達はこのサイコメトリー回想から脱出した。 不気味な如来を讃える赤ちゃん達の叫び声が、だんだんと遠ざかっていった。
0 notes