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#天使のはらわた 赤い眩暈
cinemaobscura · 16 days
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Angel Guts: Red Vertigo | 天使のはらわた 赤い眩暈 (1988) dir. Takashi Ishii
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celestialmega · 6 months
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Angel Guts: Red Vertigo, 天使のはらわた 赤い眩暈, Tenshi no Harawata: Akai Memai by Takashi Ishii.
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mninmt · 4 months
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2023年に観てよかった旧作映画の感想など
○洋画&邦画(順不同)
ペトラ・フォン・カントの苦い涙(1972)ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー @新宿武蔵野館
ずっと苦手意識を持っていたファスビンダー。これを観る前にオゾンのリメイクを観たので、物語を追う必要がそこまでなく画に集中できたことによって、ファスビンダー作品の"凄み"みたいなのが感じ取れたのかもしれない。これまで男性同士の恋愛映画はいくらか観てきたが、女性同士の物語はというと、性愛を含まないシスターフッドが銘打たれていたり、女性たちをエンパワーメントするような作品は好んで観るものの、私自身に差別意識はないつもりでも、なんとなしに遠ざけてしまっていたのだろう。先にも書いたようにオゾンがリメイク版で主人公とその相手役も男性のキャラクターにしていたから、個人的に取っかかりやすくなったことは否定出来ないが、作品としては全くの別物であったし(オゾン版は大大大コメディ映画)ファスビンダーの作る画は、その映画の物語とは別のところでも魅力が発揮されていると思う。そして完膚なきまで室内劇であることに大興奮だった。
偽れる装い(1945)ジャック・ベッケル @シネマヴェーラ渋谷
自分で制作した洋服にこれまで関係をもってきた女たちの名前をつけていくような、変質的(だがカリスマ性のある)主人公が、アトリエの中をぐるぐると回るカメラワークとともに狂っていく様子が素晴らしい。(性愛による)狂いの先に死がある物語も大変好み。というのは建前で、別ジャンルの推しがパリに洋裁で留学しているという設定なので、パリで洋裁をするということに対してのディテールが深まり大変良かった、同担はみんなこの映画観て~!(オタク)
ショコラ(1988)クレール・ドニ @新文芸坐
とにかくクレール・ドニの映画にでてくる黒人男性はかっこよすぎる(昨年に挙げた『パリ、18区、夜』(1994)も同じく)という言葉に尽きるのだが、主人公の幼い頃の記憶として描かれていながら、危なげで、そして艶やかなところもある彼らを写す数々の場面に魅了された。暗い部屋に佇む人の存在の緊張感とその熱を感じられるのはドニの映画特有のものなんじゃないかと思う。
ラストエンペラー(1987)ベルナルド・ベルトルッチ @シネマ・ジャック&ベティ
満を持して観た…!ちゃんと大きめのスクリーンで…!名作すぎて多くを語りたくないのだけれど、マジで映画を観て眩暈がすることってあるんだなって。世界観に浸り、酔うことができて、いい映画体験だった。
赤線地帯(1956)溝口健二 @配信 / 流れる(1956)成瀬巳喜男 @配信
吉原の女たち。芸者の女たち。同時代に2人の監督が、一つ屋根の下で支え合って生きる女たちを異なる形で作品にしていることに純粋に驚いた。『赤線地帯』を観れば、京マチ子の演じる明るさや若尾文子の強かに生きる賢いキャラクターに力付けられる。『流れる』を観れば、田中絹代の表現するなんとも形容し難い表情や、山田五十鈴の薄幸な演技、その作品のまとう物哀しさに涙する。ここにあげていない他の女優たちの演技も素晴らしくて、それを演出する監督の作品ももっと観たい。けど、成瀬作品を見ると毎回夜も眠れないほど悲しい気持ちになるので、どうしたものか!
ラヴ・ストリームス(1983)ジョン・カサヴェテス @横浜シネマリン
いままでどうしてもカサヴ��テスの映画をフィクションとして捉えられなかった。打ち出される邪悪な男性性を、あまりにもリアルに感じてしまい、まるでドキュメンタリーを観ているように、コメディだと思えないからだ。本作品は、いつも通りジーナ・ローランズの演技の素晴らしさはさることながら、これまでのわたしの観てきたカサヴェテス映画にはなかった、いい意味でふざけた演出(劇中オペラ)が、”この映画はフィクションである”と言ってくれたような気がしたのだ。カラックスの『アネット』(2021)を想起したのだけれど、この作品は関係しているのだろうか?激動する映画。
ママと娼婦(1973)ジャン・ユスターシュ @ヒュートラ渋谷
もうレオーといったらドワネル…というのは否めない、というかレオーもトリュフォーの映画じゃなくても、放浪青年役=ドワネルとして出演してるんじゃないの?とも感じてしまうくらいなのだけれど、それが嫌だとか、一辺倒でつまらないということはなく、バチバチにかっこいい映画。あらすじを簡単に言ってしまえば三角関係のお話(というかわたしの好きな映画はほとんどが痴情の縺れのお話)だが、主人公が居候している、タイトルでいうところのママの部屋が、レコードプレーヤーなどの色々なものが部屋の低いところに置いてあって(それも布団から寝ながら手を伸ばせるような位置に)、雑然としていて、とても綺麗だとは言えないが、その堕落した生活感のある部屋で起こっていることを登場人物の皆が皆、おおごとにみせていて、吸い込まれるように見入ってしまったし、別に、登場人物の誰にも感情移入はしなかったけれど、それぞれにとにかくこの三角関係をなんとかするんだという気概が台詞の端々に感じられて見応えのある映画だった。
ヘカテ デジタルリマスター版(1982)ダニエル・シュミット @配信
この映画を観たという人と話したときにどうでしたかと聞いたら、微妙な反応と共に「あんまり好きじゃないと思いますよ。」と言われ、"自分は好きだけどあなたには合わない"なのか、"自分は好きではなかった、ただそれだけ"だったのかはわからないけど、いつも"好きじゃないと思うよ"と言われると、勝手に決めんじゃねー!と思ってしまう質なので、帰って即座に観る。大抵それは外れていて(まあ関係の浅い人から言われることなんかそりゃそうなんだけれど)外交官が駐在先の灼熱の土地で出会った謎の女に狂わされるやつなんか好きにきまってんの!真っ白なスーツに、しっかり固めた髪の毛の、いかにも精悍な男が、服も髪の毛もどんどん乱れ薄汚くなっていく、汗でべたつく額と、必死に女を探すその表情が何とも馬鹿馬鹿しくて良い。姿を消してしまった人がいるであろう思いつく限りの場所を探して回る、やっとのことで見つけても、その相手にはぞんざいに扱われ、また苦しめられる…最初からやめとけって忠告されてたのにね。
利休(1989)勅使河原宏 @配信
利休と豊臣秀吉、三國連太郎と山崎努の、静と動の相対する演技。山口小夜子の出ている映画を観て(伴睦人『杳子』@国立映画アーカイブ)、他の出演作品はも観たいなと思った、きっかけはただそれだったためそこまで期待はしていなかったが非常に面白く観た(まあ勅使河原作品は元々好きなんだけどね)。学生時代、日本史なんか全然勉強してなかったから(他の科目も特段勉強したわけではないが)時代劇(や大河ドラマ)を観てて、たくさん人達や合戦にポカーンとしてしまうことが多いのだけれど、この作品は二人の張りつめた関係性、空気感が丁寧に、冗長することなく描かれていて集中して観れた。時代劇のやんごとなき人の出てくるシーンや描写が好きだ。今年は母に連れられて大友啓史『レジェンド&バタフライ』(織田信長)、北野武『首』(豊臣秀吉)も観て、図らずも安土桃山時代に…(?)
レースを編む女(1977)クロード・ゴレッタ @アテネ・フランセ文化センター
ヴァカンス先での出会いはもういっそのこと割り切って、ひと夏の恋として終わらせるに限る!(エリック・ロメール信奉者)ふたりがまた会えるかもしれないという淡くロマンティックな気持ちを抱きながら、ぐるぐるとお互いを探すシークエンスがとても長く感じ、このあと幸せな展開にはならないだろうなと、なんとなくうっすらと気付いてしまったわたしは、ふたりが再会できたとき、とても悲しくなってしまった。フランソワは自身のコミュニティの範囲で様々なところへポムを連れていくけれど、その行く先々でのポムの馴染めなさ。ポム自身はその場をありのままに楽しんでいるのにも関わらず、フランソワはその馴染めていない様子に居心地の悪さを感じ、またその居心地の悪そうなフランソワをみてポムの居心地も悪くなっていく。しまいには、君は大学に行くことには興味はないか?と聞き出すしまつ。おめ~が惹かれたポムという人間をなんもわかっちゃいね~!君は勉学に励めるような環境で育ったかもしれないけど、ポムはそうじゃない。そうじゃないから、手に職をつけるために(または、あなたと一緒にいるために)今自分にできることを精一杯頑張っているんですけど…!?運命の人かもしれないと勝手に期待したのはそっちなのにね、なんか違かったとか言っていろんな理由つけて離れていくんだ。ポムにうんざりしてもう別れたいと言うフランソワをみる友人たちの目も痛い。心の壊れてしまったポムを見舞いにきた(見舞いくるなよ)フランソワのセリフの端々から滲み出る、まだ自分のことを思ってくれているかという確認の浅はかさ。ダセーからやめな~!
不安は魂を食いつくす/不安と魂(1974)ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー @横浜シネマリン
『苦い涙』以降すっかりファスビンダーへの苦手意識が払拭され、半ば楽しみにしていた気持ちを裏切られることなく、なんて美しく純粋な物語なんだろうと思った。ふたりが一緒にいることの意味、お互いを愛する気持ちと、取り囲む人々からの見る目との齟齬が大きくなり、どれだけふたりが幸せだと感じていても不安が募り精神/身体を蝕んでいく様子が濃密に明示される。このあとに本作品の下敷きとなったダグラス・サークの『天はすべてを許し給う/天が許し給うすべて』(@早稲田松竹)を観たとき、ファスビンダーのこの完成されたメロドラマをあそこまで自分のものにし、昇華させたのかと思わず比較して再度感動してしまった。
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haura-yuki · 8 months
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202309030
彼ら二つは似すぎてしまっていたのかもしれない。だから仕事の話で固く手を結び、人生観について語り明かし、互いをいつまでも疑い続た。それはまるで、自らをまた他方をクレタ人だと名指し、自己言及のパラドックスのようで行き着く先などなかった。言葉の不足した論理がいくつかの形に凝縮してそのまま空に浮かび途方に暮れた。消えそうなそれを形付け直すことは、吐いた煙が雲に届くのを見届けるように不可能な事であった。
私が長年考え続けたことを今書きたい。それを書き始めたのは4年前に遡る。具体を排除した文節として記録された私の戯言
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「クレタ人は嘘つきである」
-仮説①クレタ人は嘘つきだとする(主張が嘘だとする)―結論①クレタ人は嘘つきであるため、"嘘つき"が嘘になり、クレタ人は正直者になる。【=仮説①に反する】
-仮説②クレタ人は嘘つきだとする(主張が正しいとする)-結論②クレタ人は嘘つきではない【=仮説②に反する】
どちらの仮説を立てても、仮説に反する結論に行き着いてしまうというパラドックス。
これを生活に落とし込むと、多くの者は「途中式なんてものはどうでもいいから結局どっちなの?」と息もつかず、あるいは露骨に深い息を吐きながら結論を迫る。結論だけを提示することがシンプルとでも言うの
201911424の私は彼女と対話をしていた。対義語と否定語はあまりにも役割が違いすぎると思い知った。彼女にとってのyesの否定語はnoだったけれど、私にとってyesの否定語はnot yesだったからだ。例外なく女子大生は恋バナをする(私は肩身の狭い恋バナ不得意勢であったが)。彼女は「好き」の否定語は「嫌い」だと捉えているようで、おそらくパートナーとは言えない人からの言動に一喜一憂し忙しなくも充実しているように見えた。「"好きじゃない"って言われたけど、なにそれ」と整えられた長い爪で今にも画面を割りそうなくらい液晶を連打した。私がある人を指して「嫌いじゃない」と状況を説明したところ、彼女の気性を逆撫でたのだろう「それは好きとは違うわけ?」、付け加えて「そういうどっち着かずの反応はキープと紙一重なんじゃない?ズルくない?」と今度は私を割ってやろうと言わんばかりに視線を向けてきた。
もちろん彼女の言わんとすることは私にも感覚的には分かったけれど、否定語を対義語と混合されることは思った以上に誤解が生じるのだなと学んだ。数学的に言えば、「行ける」の否定語は「行けない」、「行けない」の否定語は「行ける」ではなく「行けなくない」なのだ。でもこれが彼女の言う"どっち着かずの反応"である。飲み会への出欠確認なんかでは「で、どっちなの?」と煩わせる。ただ、この煩わしさの要因は文字から生じるものではなく、私情を伺うことにある。一度、情を切り離してみれば、「雨が降る」の否定語は「雨は降らない」。一方、「雨は降らない」の否定語は「雨は降らなくない」。もし天気予報士が統計をもとに"雨が降るとは断言できない"と判断すれば、「雨は降らなくもない(=雨が降る可能性もある)」としか言えないのだ。晴かもしれないし雨かもしれないし、はたまた曇りなのかもしれない。もっと一般化してしまえば、雨かどうかは"分からない"ということだ。そんなどっち着かずの反応も雨のように無機質で人臭さのないものが対象であれば、大半の人は「ハッキリしろよ」なんてテレビに向かって声を荒げない。「雨が降るのかもしれないな」と折り畳み傘を鞄の中に入れるのだ。そして、「ハッキリしろよ」と言っている者に対して、この人は聞く耳を持たない者だとすら思うのかもしれない。天気予報との明らかな違いは、私たちは統計と可能性と選択だけで動くロボットではないことだ。私たちは相手を思いやることができる熱を持ったヒトだし、他人の私情に簡単に揺さぶられつつ未熟ながらも尊く相和するのだ。だから、行けなくなくても「行く」「行けない」とハッキリと提示するし、たとえ「行けない」を選んでも、それについて誰も嘘つきだとなじる者はいないことを当然のように知っている。細かな点々がじわじわと滲んで綺麗な円になるような個人が大衆を取り巻く社会の全貌。
だが仮説は仮説だとしても、仮説としての機能を果たしている。私たちは見えない行間を読むように会話を摘まみ、否定語の否定は「分からない」という結論にしかならないけれど、「嫌いじゃない」「行けなくない」「雨は降らなくない」を含めていて(否定語の否定を肯定する要素にもならないけれど)、私情がなくてもあって身がはち切れそうでもそういう理論を受け入れていかなくてはならない。
時という流れは刻一刻と過去を増やしていき、その流れの中には取り返しのつかない選択だって紛れている。私は誰をも傷つけるべきではなかったし、私は誰からも傷つけられるべきじゃなかった。でも"起こった"ということは、粉々に割れた珈琲カップと同じことだ。どんなに手を尽くしても元には戻らない。でもそれに悲しんでいても時は流れていくから、私たちはその過去を根に持って継承したり繰り返すのではなく、許していかなければ息が尽きてしまう。許すという行為は相手以上に自分を掬いとる唯一の方法なんだ。綺麗事じゃない、私はなにも恨まないよ、たとえ私を恨んだモノたちが目の前にいてもだ。
ところで否定語については上のことが言えるけど、もし「分からない」が通用しない、真と偽の二つしかない事象があるとしたら、この種のパラドックスは避けられないのだろうか?
ある人はこう言葉を始めた。いいかい?パラドックスが生じたとき前提を疑うことだ。途中式をあの手この手で組み替えても決してそれは解決には繋がらない。なぜならそれがパラドックスだからだ。「もう一つ言うなら」、彼が人差し指を伸ばしたから思わず私はその指先に目を向けた。そこには宙があるだけだった、あるいは何もないから宙だった。「そもそもその主張は意味を宿しているの?」。私は既に眩暈を覚えている、それは孤独についての話だった。
20210330『箱の中のカブトムシ』を知り、20210508箱の中のカブトムシはヒトに与えられた生涯の孤独であると府に落とした。私たちは言語ないしは言葉を概念とともに習得してきた。箇条書きで「~というもの・こと」で表される事由をかき集めてたった一つの名詞(三角形・カラス)が成る。両者が認識している名詞であれば、少なくとも感覚的に「~というもの・こと」を共有して捉えていると言えて、逆に言えば、浸透していない言語は言葉通り意味の無い、ただの記号の羅列であり口から出る音の連続でしかない。三角形やカラスのように、それを見て多くの人が同じ色・形・大きさ・温度・音・肌触りを把握できて、これは▲だけどこれは■だね、これはカラスだけどこれはハエだね、と真剣衰弱のように照らし合せができれば随分と安心するのに、信号の色は青色か緑色か、こんな身近なものあたりから境目がぼやけはじめる。特に具体的な形や物体を伴わない、極めて外界や他人を理解するために機能する概念(痛み.好意)となれば、視界一面に薄い透明ガラスが何重にも厚みを作っているような感覚だ。口の動きは見えるのに何を言っているのか伝わらない通さ。
赤信号が青信号に変わったのに、私たちは歩を進めず信号を眺めている。「私には青色に見えます。」「いいや俺には緑色に見えると言ったら、俺はあなたを信じていないことになる?」-ならないです。でも信じているということにもならない。そもそもこれは肯定と否定でも真と偽でなく、私にとっては青色に見えるということと、あなたにとっては緑色に見えるということだけであって、逆に言えばそれだけでしかないからです。「もうひとつ覚えておいた方が良いことがある」彼は赤になる前に渡ろう、と言って横断歩道の白い線を踏んだ。「あなたにとっての青色と、俺にとっての緑色は同じ色の可能性を秘めている」俺たちは中身を他人と共有し得ない箱を持たされて生きている。だから、自分のカブトムシに従って感覚や概念を伝えるしかない。しかし残念なことにどれだけ自分の考えていることを話しても、本質的には自分しか知り得ない。それが俺たちが与えられた生涯の孤独というものだ。でも不幸の中にも幸福はある。これは反証し得ない仮説と同じことなんだ。誰にも俺の緑色を否定できないし偽だとも証明できない。そのなかで、色が認識されていくときの諸条件のひとつひとつを丁寧に標本化していければ、もしかしたらあなたの言う青色と俺の言う緑色は、同じ色の符号を指している可能性がある。不思議なものだよね、青色と緑色は異なる記号の羅列であり、口から出る異なる音の連続なのに同じものを指しているなんて。その逆も然りではあるんだけどさ。
私たちの中に"カブトムシ"が何千何万匹と蠢いていることはよく分かる。ざわざわと奇妙な感触をもってこのカブトムシを感じている。この"分かる"もカブトムシのひとつなのだろう。失いたくない人を目の前にすれば、失いたくないのに好いているも愛しているも永遠も私には分からなくなる。勝ち負けや駆け引きが始まれば、言語の使われ方は本能に翻弄され意味だけが剥ぎとられ、実態を欠いた響きだけが耳に届くのだ。耳を塞ぎたい、膝を抱えたい、目を瞑りたい、この膨れ上がった頭を手放したい。でもこの耳も目も頭も割れた珈琲カップと同じなのだ。与えられた感性は仕方がないのだと散った体力をひとつに掻き集めて身体に送る。それが私というものだった。どうか信じて欲しい。私は目の前のあなたを信じていなくはない。ただ、時々、この不条理で可能性に満ちた世界を誤って拒みたくなるのだ。あなたが信じることも疑うことも放棄したことと似たように。
自己言及のパラドックスは言語の不完全性に責任を転嫁した、言語を扱う側の不完全性なのかもしれない。似すぎてしまった二つはおそらく目の前の相手に初めの一歩を踏み込んでもらうことを実は望んでいる。テイクアンドギブしか出来ない私たちが、ギブアンドテイクを惜しまない彼らのいとも簡単そうにこの暗闇から引っ張り出してしまう軽やかさを。
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eyes8honpo · 6 years
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三章 荒野に歌を祝福を
「敬人ちん」  そんなトンチキな敬称をつけて俺を呼ぶのをゆるされるのは、この学院においてただの一人しか存在しなかった。  図書室に向かう廊下の途中、背後を振り向けば、数冊の本を抱えた仁兎が真ん丸な赤い目を瞬かさせていた。腕の中の背表紙に数秒、視線をやって、要らぬ世話かと思いつつも立ち止まり、仁兎が近付いてくるのを待った。 「資料なら、進路指導室にもいくつかあるぞ」 「ん~ん。あそこはもう見たんだ。薫ちんに教えてもらった」 「羽風に?」  思いの外大きな声が出てしまい、はっと口を押さえる。廊下は静かに。貼り紙に筆で書いた己の文字を思い返していると、仁兎は噴き出すのを堪えるようにして小さく笑った。 「そ。あいつ、ああ見えて、ちゃんと考えてるんだよ。生きる、ってことをさ。まあ、それで結局、資料が要るのはおれだけになっちゃ��たわけだけど」  手元の本と、���リントの入ったファイルを見下ろして、仁兎は目を細めた。穏やかな、笑うような仕草だった。 「大学はもう決まったんだ。ただ、どの分野に進むか、やっぱり迷っててさ。色々見るなら、あそこのがいいと思って。おれ、けっこう図書室詳しくなったんだぜ~? つむぎちんたちと書庫の整理とかしてさ」  行き先が同じであることを察してか、仁兎は俺より先に歩き出した。横に並ぶと、金髪のつむじが見下ろせる。表情は伺えない。小さな歩幅に合わせてゆったりと歩を進める。仁兎は、いつもと変わらない、少し舌足らずな口調で話しながら、抱えた一冊のファイルを数ページめくった。 「ほんとはこのまま放送系に進もうかと思ってたんだけど……初年度に、うまいことコマを取れれば、一通りのことは広く浅くやれそうなんだよな。道を絞るのは、それからでも遅くないって、いっそ開き直っちゃおうかと思ってさ。ただでさえ、出遅れてるんだ」  開いたファイルを閉じる音が、ぱたん、とやけに響いた。 「おれはアイドルしかやってこなかった」 ――その一言に、どれほどの闇と傷が含まれているのか。  一年目は、斎宮宗の操る至高の天使として。  二年目は、糸のもつれた空洞の人形として。  三年目は、ようやく一人の、自我を持った人間として。 「でも、それも全部、自分で選んだことだから」  それを今、全て抱きかかえて、進もうというのだ。  小さな体の、一体何処にそれだけの力があるのだろう。不思議でたまらなかった。壊れたものは、元に戻らない。いつだったか瀬名が独りごちるようにそう言っていた。この数年の間、壊れたものなど山のように存在する。けれど仁兎も、つぎはぎ合わせの状態からここに至るまで、歩いて来たのだ。  やめようと思えばいつだってやめられた。  それは夢ノ先学院のどの生徒に対しても言えることだった。  単なる惰性だけで生き残っていられるような世界ではない。去年の大規模な革命から、その傾向はよりいっそう顕著になった。努力しなければ評価されない。それを理解した上で、惰性でなく、自己の確固たる意志をもって、信念を貫き通したものだけが、今、この緑のネクタイを首に携えている。 「……そうか」  小柄な仁兎の白いカーディガンから、俺のものと同じネクタイが覗いている。俺はその色に、仁兎の覚悟と、ここまでの道のりを想い、胸のうちで静かに称えた。
「斎宮は、海外へ行くと言っているようだな」 「はは。あいつらしいよ。芸術が芸術として、正しく評価される所へ行くんだ。むしろそれ以外有り得ないだろ? 向こうで認められるんなら渉ちんとの共演も夢じゃない」 「あぁ……昔はよくやっていたな。斎宮が演出と脚本、日々樹は……いったい何人分の役を演じ分けていたんだか……」 「すごかったよなぁ~あれ。なんで演劇科に入ってくれなかったんだ、って、あっちの先生らは結構、悩ましい顔してたみたいだぞ」  あはは、と笑う口元が、数秒してふとまっすぐに結ばれる。そっか。ひとこと放って、仁兎は黙考するように口をつぐんだ。  図書室へ向かうのであろう生徒が、立ち止った俺たち二人を追い越して歩いていく。 「でも、追いかけたりしないよ。おれは、おれの道を���くんだ。一年、いろんなやつらに恨まれながら、それでもみんなに助けられて、ここまで生きてきたんだから」  その背中を見て、焦るような気持ちは、きっともう何処にもないのだろう。  そう在るために、考え抜いて、見定めたのだろう。まっさらな大地から、己の進むべき道を。 「強いんだな、お前は」 「ううん、弱いよ。みんながいたからここまで来れた。友ちんに創ちん、光ちん、テニス部の連中、放送委員の二人、それに他のユニットの奴らも……おれだけの力じゃない。一人じゃ生きていけないんだ。人間って」  うんしょ、と資料を左腕に抱え直し、右手の親指から順に数を数え、最後にぎゅっと握りしめると、仁兎は大きく息を吸い込んだ。 「なあ、敬人ちん。おれ、天祥院に、お前のしたことは消せない、おれたちの記憶からも消えないって、言ったことあるんだ」  ス、と血の気の引くような感覚がした。  続く言葉を待つ間、指先が冷えて、眩暈でも起こすかと危ぶんだほどだった。  何を言われても、受け止めるしかない。  奥歯を噛み締めて覚悟を決めると、仁兎は、声色を変えることなく、うん、と一度頷いて、小さく微笑んだ。 「でも、同じだったんだな。あいつも、敬人ちんも、自分の足で立ち上がって、どんな道でも歩いてやるって思えるやつらを、待ってたんだろ?」  俺は、色素の薄くなった唇を、ぼう、と開けてそれを聞いた。 「よかったよ。おれは、三年間、ここに居られて」  三年間。  その全部を、大切なものとして抱きかかえ、前を向く。 「敬人ちんは、後悔してる?」  それが、一体、どれほど困難なことか。 「……後悔、しそうなことは、何度もあった」  誰にも晒したことのない、懺悔のような想いが、溢れて口から零れていった。  潰すことしか出来なかった。  それを修復する手伝いも、してやれなかった。 「けど、お前が、お前たちが。歩みをとめなかったから。俺も、前へ進むことを許されたんだと思う」  輝かしい夢を抱いて、初めて舞台袖に立ったあの子兎らが、どれほど涙を流したのか、俺には分からない。そんなものをいちいち目の当たりにしていては、どうにかなってしまうと思った。やはり、鬼龍や斎宮の言うことは当たっているのだろう。俺は、他人に何か与えることもたいがい下手だが、奪うことが得意というわけでもないのだ。  だから嬉しかった。  もう一度、天の川の下、彼らと相まみえたことが。 「……お前たちのマーチングに、励まされたんだろうな」  柄にもないことを言ってしまった、軽く咳払いをしながら視線を床に落とすと、仁兎は、へへ、とくすぐったそうに笑った。 「まだまだ続くよ、敬人ちん。あいつらのマーチングは、俺が抜けたあとも、どこまでも、空高く、続くんだ。……その道を開いてくれたのは敬人ちんだろ?」  うんと背伸びをして、満面の笑顔を見せつけるようにして、仁兎はその白い歯を見せた。 「ありがとう。あいつらに、全力でぶつかってくれて」  あぁ、こんなところでも。  ニ、と細められた、うさぎのように赤い両目。  手渡された裁縫セットの硬さがよみがえる。  礼を言われるようなことなど、何もないのに。
「あっれぇ、なずなくんじゃん。と、蓮巳くん? 何々、どういう組み合わせ?」  弾かれたように、二人して声の方を向く。  向かい側――図書室の方向から歩いてくる、くすんだ金髪に、片眉を吊り上げる。薫ちん。仁兎が呼ぶと、やっほ、と羽風は右手を振った。 「偶然居合わせただけだ。特に意味はない」 「うん。おれが資料見に行こうとして、たまたま途中で会ったんだよな~」 「ああ。蓮巳くん、暇さえあれば鬼の形相で棚の整理してるもんね。実はあれ、結構後輩に怖がられてたんだって、知ってた?」 「別に鬼の形相などしているつもりはないんだがな……」 「まあね。昔に比べたら、うんと優しい顔になったと思うけどね」  お前にそんなことを言われる筋合いはない、と言い返す間もなく、羽風は軽く後ろを振り向いて、手ぶらになった両手をズボンのポケットに突っ込んだ。 「俺は、色々と、返してきたとこ」  何を。  聞くまでもなかった。  仁兎が、両腕のそれをそっと抱え直すのを、俺は目の端で捉えていた。 「必要、なくなっちゃったから」  そっか。  仁兎が低く、けれどどこかすっきりした声で相槌を打つ。 「よかったな、薫ちん」 「あはは、うん。なんか、まだ、執行猶予付き、みたいな感じだけどね」 「大丈夫だろ~? おまえなら、きっとさ。……うん。おれはもうちょっと、色々借りてくるかな。じゃあな~!」  羽風と入れ替わるように背を向けた仁兎が、俺を置いて足早に進んでいく。手を振る羽風の、憑き物が落ちたような横顔が、どこか憎たらしくて、俺は両腕を組みながらフンと鼻を鳴らした。 「ようやく腹を決めたか」 「ええ~ちょっと……そんな親みたいな顔でほっとしないでくれる?」 「俺とて不本意に決まっている。しかし、夢ノ咲の卒業生が華々しく芸能界で活躍しないと我が校の今後が云々――などと言われる立場でもあるんだ。……まあ、そのあたり、英智の気苦労には到底及ばんだろうがな」  軽く眼鏡を直しながら当てつけがましく言い放つと、羽風は突然頬を強張らせて、表情を曇らせた。 「……蓮巳くんはさ」 ……少しばかり、言い過ぎたか。いや、こいつの進路に関して口喧しく上層部から聞かれ続けたのは事実だ。これくらいの文句は受け付けてもらわねば気がすまん。代わりに俺もあらゆる罵倒を受け流そう。それだけのことをした自覚もまた、俺にはある。 「……天祥院くんのために、薔薇色の青春時代を、棒に振ったの?」  何を言い返されるかと身構えていたところへ、存外真面目な質問を寄越されてしまい、俺は拍子抜けしてしまった。ハア、と大袈裟に聞こえるように、わざとため息を放る。顔色を伺うような羽風は、「俺、そういう馬鹿みたいに真面目な奴を、一人知ってるからさ」と案じるように続けた。 「貴様までそんなことを言うのか。……呆れてものも言えんな」  それが誰のことを指しているのか、なんとなく察しはついたが、あんな正義の味方と一緒にされてはたまらない。 「そんなわけがないだろう。俺の人生は俺のものだ。英智の掲げた目標が関わってくることも、まあ、多少はあるし、そこは否定できんが。あくまでも、共感、賛同できるから道を共にしただけだ。貴様、覚えていないのか? 一度派手に喧嘩をしたことがあったろう」 「ああ~あのなんか暑苦しいやつね、覚えてる覚えてる」 「あれだって、英智の言いなりになっていたならば、紅月は解散していたんだぞ。そんなことをさせてたまるか、全く、俺には俺の船がある。舵を取るのも俺自身だ」  そして、その航海を支えられるのは、同じ船に乗った同志だけだ。  真っ赤なオールバックと、紺碧の艶やかなひとつ結び。それでも各々、その双眸で捉えた世界の形は異なるはずだ。当然だろう。違う生き物なのだから、同じ場所に立っていても、見える景色が一緒とは限らない。 「……だから、ここまでだ。あいつと道を同じくできるのは」
 結局俺は、あの陶器の釉薬のような透き通る青の目と、同じものを見られるわけがなかったのだと、気付いたのはいつのことだったろう。  七夕祭の時? 喧嘩祭の時? いいや、本当はもうずっと前から分かっていた。  最初から最後まで、俺たちの未来図はどこか大幅にずれていたのだ。 「寂しい?」  やんわりと尋ねられ、羽風の灰色の瞳を覗く。微弱に揺れる、波のような目元を見て、あぁ、と合点がいった。それは俺に向けての疑問符でなく、同意や共感を求めるために発せられたものなのだと。  こいつも、厄介極まりない水浸しの友人と、もうじき道を別つのだ。そしてそやつは、行く道を誰にも明かさないまま卒業するのだと言う。  それが寂しいのだろう。  羽風薫という男は、存外一人では生きていけない生き物なのだと、気付いたのも今頃になってからだった。 「寂しくはないが、心配、だな。何度言い聞かせても、生き急ぐところがちっとも直らん。あいつ、次に会うのは僕の葬儀の時かもね、とか、平気で言うんだぞ。冗談に聞こえん」 「はは、うちとは真逆だ。足して半分に割れたらいいのに。もうちょっと、生き急がせたいんだけどなぁ、あの人のことは」  思い描いた人物と、遠からず近からずのところを引き合いに出されて、ぎくりと鼓動が跳ね上がる。己の寂しさを隠すための話題転換だということに、気付いてもなお、俺の動悸は収まらなかった。 「そこを、どうにかするのが、お前の役目なんだろう」  あれが命を削るに値すると判断するだけの何かを、羽風薫という男は持っている。  だから承諾したのだろう。そうでなければ動かない人だ。痛いほど分かっている。 「出来るかな」  不安がる要素など、どこにある。  あの人が共に歩くと決めたこと以上の評価が、この世界の何処に存在するというのだ。 「……出来なかった俺に、何か言う資格があると思うか?」  様々な言葉を飲み込む俺に対し、ハッと息を吸い込む音が、端からも聞こえるほどに大きく響いた。底意地の悪い言い方をしてしまった。狼狽える羽風に、申し訳なく目を逸らす。 「違う、そんなつもりじゃないよ。ごめん……ていうか、そうじゃないよ。俺だって、あんな頃の朔間さんを、どうこう出来るわけないって思うし、実際、当時はそう思ってたわけだし。それで、全部諦めて、流されて……今までずっと、情けなくぼーっとしてさ……」  ポケットに入れていた両手は、いつの間にかだらんと力なく地面に向かっておろされていた。 「朔間さんに、もっと頑張れよって言われた時だって、俺は何もしなかった」  灰色の双眸が、虚空を映すようにぼんやりと陰る。俺はこの目を知っている。あの時、あの稚拙な策略とステージを、遠巻きに見世物扱いした時と、似た色だ。虚無を抱えた瞳。全てを諦めた、戦うことを放棄した人間の目。 「俺がさ。頑張ろうと思えたのは、頑張ったら報われるんじゃないかって、嘘でもそんなことを思えるような世界になってからだよ」  それはまさに青天の霹靂と言うに相応しい出来事だった。  羽風薫という男が、あのサイリウムの渦の中に残る決意を固めたのは、本当の本当に、ここ数日のことであるらしい。  何故それを俺が知っているのかというと、あの黒髪の吸血鬼が、俺を見るなり勝手に呼び止めて、聞いてもいないのに報告してきたせいなのだが。 「多分さ、色んな人が傷付いて、色んなものをなくしたと思うよ。でも、今の子たちは……っていうか、俺もそのうちの一人だけど……その恩恵を受けてるわけじゃない。それはさ、蓮巳くんたちが、更地になったところから、種を蒔いた結果だと思うよ」  綺麗事のような話をされている、と、どこか他人事のように聞いていた。傷付いたものが元に戻ることはないし、撒いた種が芽を出す保証など何処にもなかった。  俺の、俺たちの革命は、運良く、奇跡的に、ただの破壊行為で終わらなかっただけなのだ。たまたまその奇跡を、何を思ったのか意図的に起こそうとしたモノたちがいたからこそ、俺たちの殺戮は、意味あるものとなった。 「あの人だって、何か大事なものをなくしたから、変わろうって思ったんじゃないの」  奇跡を起こせるだけの、人間離れした連中が、あらゆる場所に駒を置き、続編のようなハッピーエンドを描いたことで。 「そういうわけだから、俺はただ、タイミングがよかったってだけ。……でも、決めたからにはさ。ここからは、ちゃんと歩いていかなきゃだよね。あのおじいちゃんを、棺桶から叩き起こしてさ」  にへら、といつものように軽薄な笑みを浮かべた羽風は、じゃあね、と廊下を歩いていった。弛緩した表情に反して、その足取りは確かで、力強かった。ふわりと風が吹いても、もう何処へも流されそうになかった。決めたのだろう。この何もない更地から、一歩踏み出すことを。  あの人と共に。  不安など微塵も感じなかった。上手くやるだろう。あいつの足は、自分が思うより遠くへいくためのものを備えている。歩き出したのならば、きっとあの光の中に、居続けることができるだろう。  羨ましいか。  そうっと己に問いかけてみた。  心は静かに首を振った。おそらく、俺の物語は、ここまでなのだ。けれどもう充分だ。  この広大な世界の中で、主人公になれる一瞬があっただけで、俺はもう、それでよかったのだ。  一呼吸置いて、図書室へ向かう足を再び歩かせた。主人公であろうとなかろうと、人生は無情にも続いていく。ならば俺も、俺の道を選び取らねばなるまい。  あの小娘を、一年かけて叩き上げた成果が、ここへ来て俺の力になってくれるかもしれんな。  ふと、革命の象徴となった、未熟な少女の面影を思い起こし、微笑を浮かべた。俺の選ぼうとする道は、あの人の元へと繋がってくれるだろうか。俺の撒いた種は、いつか新芽を生むのだろうか。  英智。  いまだに入退院を繰り返す、病弱な幼馴染みの名を、小さく呼んだ。俺とお前の夢は、まだまだ続いていくと信じていいだろうか。  幼い頃の小さな背中を思い出す。  俺たち二人だけの物語は、きっともう、ここでおしまいだ。けれどいつか何処かで交差す���だろう。お前の目指す大きな野望と、俺の思い描く矮小な夢は、同じでなくとも、そう遠いところにあるわけではないのだから。
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narichan777 · 2 years
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今夜は「天使のはらわた 赤い眩暈」を
名古屋シネマスコーレで観ま~すヽ(^。^)ノ
#桂木麻也子 #竹中直人 #小林宏史 #山内ゆうほ #泉じゅん #江崎和代 #木築沙絵子 #柄本明 #石井隆 #天使のはらわた #シネマスコーレ
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c2-cinemaconnection · 2 years
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シネマKING週末映画情報「コロナに負けるな!映画の力を信じて!」 ▶︎35mmフィルム上映『天使のはらわた 赤い眩暈』7/9(土)→シネマスコーレにて http://www.riverbook.com/C2/CINEMAKING.html #天使のはらわた #シネマKING #movieattheater https://www.instagram.com/p/CftyKMfLqA6/?igshid=NGJjMDIxMWI=
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touyouaromahati · 2 years
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天気痛と胸鎖乳突筋
こんばんは。4月ももう終わり、ゴールデンウイークが始まりますね。
皆さんどこかにお出かけでしょうか?
道中気をつけて、楽しい旅行や行楽をされてください〜o(^_^)o
私はというと、新年度に入ってからは、ご新規さまも来てくださり、ありがたいなと思いながら、毎日を忙しく過ごしています✨
「春は3日の晴れ間なし」🌞☔️
春になると格段に雨の日が増えます。そして、雨の前日や台風が近づいてくると、頭痛や眩暈(めまい)などが出て、体調が悪くなる方がけっこうおられます。
これは、「天気痛」と呼ばれ、
「昔なら、天気を予言したり、雨乞いの祈祷をする巫女さんになれたのではないですか」と、わたしが言うと、皆さん笑ってくださりますが、実際のところ本人にとってはお辛いですよね・・💦
 天気痛は、耳の内耳にあるセンサーが、気圧の変化を感じ取って、自律神経に影響し、痛みや不調を引き起こします。
先日も某テレビ番組で、天気痛について特集していました。これまで原因が分からなかったこの不調のことが解明され、予防法や治療法、周囲の理解も深まることは、とても喜ばしいことです。
天気痛については、よいサイトを見つけましたので、こちらを参考にされてみてください ↓  ↓  ↓
https://www.zenyaku.co.jp/k-1ban/detail/weatherpain.html
『胸鎖乳突筋のお話』
さて、今日私が、1番お伝えしたいのは、「胸鎖乳突筋」のお話。
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⬆️ 骨男さん。青い部分=胸鎖乳突筋
「きょうさにゅうとつきん」と呼びます。
この筋肉は、鎖骨と胸骨から、斜めに細長く伸びて、耳の下の骨の出っ張り部分(乳様突起)についています。(写真の青い部分)
首が凝るというと、首の後ろばかり気にされる方もいますが、頭痛、めまい、寝違い、肩こり、顎の痛み、そして先ほどあげた天気痛などの症状は、前頸部(首の前側の筋肉)が原因であることも多く、
実際、ハティのお客様でも、背面からの施術だけで肩や首のこりが緩まない方は、前側からのアプローチが有効であることが度々あります。
【胸鎖乳突筋の働き】
首を捻ったり、前に傾けたりする。 
歩いている時には頭を支える
首を前傾しがちなデスクワークの方や、手をよく使う仕事をされている方も、特に女性は男性より筋力が弱いため、負担がかかりやすく、この筋肉に硬結(トリガーポイント)ができておられます。
リンパ管や血管も豊富なデコルテや頸部は、繊細な施術が必要になりますので、ハティでは浅い鍼(散鍼)や置き鍼、アロママッサージをよく行います。
お家でもできる簡単な胸鎖乳突筋やデコルテケアの方法を載せておきますので、肩こりや首に症状のある方はやってみてください。
【おうちでのデコルテケア】
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胸鎖乳突筋(写真の青い部分)を指で挟み、体から引き剥がすようにつまみ上げる。固くて張っているとつまみにくいが、皮だけでもひっぱるとよい。上から下へ全体にする。右手で右側を、左手で左側を行うとやりやすい。       
テニスボールを両手で持ち、写真の赤いラインのところにボールをあてて、両手でゴロゴロを転がしてマッサージする。
あとがき・・
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⬆️ 昨年の12月に友人からいただいたネコちゃんのコップ。すごく可愛くて気に入り、使い出したのですが、すぐ落としてしまい、持ち手がバラバラに割れてしまいました😭
そこで金継ぎキットを買って、直してみました。うるしは使わず樹脂なので、なんちゃってですが、簡単で、まずまずの仕上がりでした。
なにわともあれ、これからは落とさないよう、茶碗を欠かさないよう気をつけなくちゃ💦
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⬆️ 休日、近所のUTANOコーヒーロースタリーさんへー🚲
モッコウバラがもう見頃です。
いつも素敵なお庭と美味しいコーヒーに癒されています。最近、近所にもう一軒、新しいコーヒー焙煎所ができました。皇子山のあたりはコーヒー天国になりつつあります☕️ うれしや、うれしや。
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milkteabonbon · 3 years
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八月後半日記
8/16
園芸店で小さなフランスゴムとストレリチアを買ってホクホク。お盆休み最終日を噛み締めながらアイスチャイを飲んだ。
8/17
今週いっぱいはリハビリです。帰りにサロンでお顔のメンテしてもらってすっきり。これがなかったら出勤できなかったな……。帰ったら家人がバターチキンカレーを作っておりました。これで彼の得意料理はカオマンガイ・煮魚・スパイスカレーとなったワケ。料理を教えるときにいつも「これで私が死んでもお料理作れますね」と言うのですがそのたび予防接種に連れていかれるイヌのような顔をする。
8/18
眉マスカラを使うと良いとのアドバイスを得たので早速excelのカラーオンアイブロウを購入。パウダーで眉を埋めてからマスカラで色をつけたのですが一瞬で雰囲気が変わってびっくりした。透明感!これはツヤ肌メイクに合うわね……。秋冬に向けて練習しようと思いました。クリーム系のアイシャドウと合わせたい。具体的に言うとアイグロウジェムのスチーミーマット。絶対合う。アディクションのリキッドチークも良いなあ。仕事用のメイクはキリッと強そうな顔よりハッピー感あふれる顔のほうが実は攻撃力が高いことを最近知りました。知らないほうが良かったな。
8/19
ソファ届く。サイコーに良い。もうゴロンゴロンです。勢いに任せてダイニングテーブルも購入。椅子はまだない。太ももを鍛えようと思います。
8/20
夜が涼しくて窓を開け放っています。観葉植物たちが葉っぱを揺らしている。早くもストレリチアが新芽をのばしています。アジアンタムは雨の当たる場所に当てていたらしっかり復活していた。枯葉取って栄養あげて、寒くなる前に家の中に入れてあげようね。健気ないきものです。
8/21
パンケーキを焼いてむしゃむしゃとたべた。
8/22
通院日。立秋過ぎたらほんとに秋が来たとか、薔薇の寿命とかそういう話をした。それから焙煎所に行って豆を二種類買って、おうちでお饅頭を相手にアイスコーヒーを飲みました。まだ店頭には夏ブレンドが並んでいた。
8/23
今月のアンドプレミアムは映画特集。「中国の植物学者の娘たち」、観たいと思いながらまだ観てないのを思い出した。今秋公開の「TOVE」も特集が組まれており。
8/24
初めて不織布のカラーマスクをつけてみたらとっても顔色が冴えてうれしい。盛れるわあ。
8/25
朝ごはんに梨を剥いてくれる人と暮らすのは幸せなことです。
8/26
ダイニングテーブルが届いて踊っている。天板がオーバルで、なおかつバタフライになっている!狭小住宅にぴったりですね。ちなみにまだダイニングチェアはありません。中腰になって嬉しがっています。
8/27
金曜はどうしようもなく眩暈がする。神経が疲れている……。
8/28
ストレリチアからヨックモックのごとき新芽。こんなに生長が早いとは。赤穂で見た、ほぼ野生に帰って咲いていた極楽鳥花を思い出す。ぐんぐんと夏空に向かって伸びる、ベトナム製の竹団扇のような葉っぱと蛍光オレンジ。
8/29
天気が良いのでコインランドリーでカーペットを洗う。やたらハイテク化が進んでいて、操作はアプリ、支払いは電子決済に切り替わっていた。便利な世の中だなあと思いながら小銭入れをふくらましている百円玉をぢゃらぢゃら言わしている。
8/30
景気づけにフレンチトーストで朝ごはん。メープルシロップの海で遊んだ。
8/31
ゴロンゴロンとソファと戯れているとお口にシャインマスカットを放り込まれました。おいしい。今度やり返そうと思います。
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rosaliaolenyeva · 3 years
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📛 078 「Souvenirs Aus Tokyo」 #15。
先日、かつては "NFC" とか "東京国立近代美術館フィルムセンター" なんて呼ばれていました 独立行政法人国立美術館 「国立映画アーカイブ」 で催される予定の 上映企画 「逝ける映画人を偲んで 2019 - 2020 (In Memory Of Film Figures We Lost In 2019 - 2020)」 のちらしを、とあるゴッサムシティの街角で頂いて来まして、そのちらしを 珈琲を片手に タリラリラーンと眺めていましたら、どの上映作品にも 上映する日時が書かれていなくって、遊びに行かない間に nfcも変わったね、なんて思っていたのですけれど、 ちらしの端っこに "上映スケジュールは国立映画アーカイブ ホームページをご覧ください" なんて書いてあることに気がつきました。こういうご時世ですから、さういう遠回しな感じ (当日のチケット販売が無かったりという不自由さも含む) での上映会は致し方無いかなとは思いますけれど、全55作品の上映予定が まるで分からないのもどうかと思い (行く行かないはさておき) テキトーに転写してみました。
・上映企画 「逝ける映画人を偲んで 2019 - 2020 (In Memory Of Film Figures We Lost In 2019 - 2020)」 。
(2021年7月20日から9月5日。国立映画アーカイブ 大ホール。定員 通常310名のところ、グッと減らして155名。2021年7月17日現在の上映予定です。突然の変更があったりなかったりするかもしれません。)
・2021年7月20日 火曜日
雨月物語 (12:30)
牝犬 (15:30)
・2021年7月21日 水曜日
大阪の女 (12:30)
濡れ髪牡丹 (15:30)
弁天小僧 (18:20)
・2021年7月22日 木曜日
坊ちゃんとワンマン親爺 (13:00)
拳銃は俺のパスポート (16:00)
・2021年7月23日 金曜日
愛と死の記録 (13:00)
紅の流れ星 (16:00)
・2021年7月24日 土曜日
前科・仮釈放 (12:30)
野良犬 1973年版 (15:00)
黒木太郎の愛と冒険 (18:00)
・2021年7月25日 日曜日
白毛女 (13:00)
共喰い(16:00)
・2021年7月27日 火曜日
蝶々夫人 (15:00)
ロマンス娘 (18:00)
・2021年7月28日 水曜日
夫婦 (13:00)
処刑遊戯 (15:30)
音楽活劇 ドレミファ娘の血は騒ぐ (予告編) と ドレミファ娘の血は騒ぐ (18:20)
・2021年7月29日 木曜日
嗚呼!おんなたち 猥歌 (12:30)
ピンクのカーテン (15:30)
わたしのSex白書 絶頂度 (18:20)
2021年7月30日 金曜日
どですかでん (12:00)
真夜中の顔 (15:30)
日本妖怪伝 サトリ (18:00)
・2021年7月31日 土曜日
遥かなる甲子園 (12:00)
戦争と青春 (14:50)
チルソクの夏 (17:50)
・2021年8月1日 日曜日
月山 (12:00)
Murder!と 麻雀放浪記 (14:50)
・2021年8月3日 火曜日
仁義なき戦い (12:30)
岸和田少年愚連隊 (15:30)
ビー・バップ・ハイスクール 髙校与太郎行進曲 (18:20)
・2021年8月4日 水曜日
ねむの木の詩うた (12:30)
映像評伝 仁科芳雄 現代物理学の父 と 伝統工芸技術記録映画シリーズ #28 読谷山花織 與那嶺貞のわざ (15:00)
ケメ子の唄 (18:20)
・2021年8月5日 木曜日
黒木太郎の愛と冒険 (12:30)
野良犬 1973年版 (15:20)
影の車 (18:10)
・2021年8月6日 金曜日
スパイ・ゾルゲ (12:30)
蕨野行 (17:50)
・2021年8月7日 土曜日
牝犬 (12:00)
濡れ髪牡丹 (14:50)
真夜中の顔 (18:00)
・2021年8月8日 日曜日
花札渡世 (13:00)
実録 私設銀座警察 (16:00)
・2021年8月10日 火曜日
紅の流れ星 (12:30)
前科・仮釈放 (15:30)
愛と死の記録 (18:00)
・2021年8月11日 水曜日
戦争と青春 (12:30)
ありふれた愛に関する調査 (15:30)
坊ちゃんとワンマン親爺 (18:30)
・2021年8月12日 木曜日
チルソクの夏 (12:00)
遥かなる甲子園 (15:00)
白毛女 (18:00)
・2021年8月13日 金曜日
音楽活劇 ドレミファ娘の血は騒ぐ (予告編) と ドレミファ娘の血は騒ぐ (12:30)
ビー・バップ・ハイスクール 髙校与太郎行進曲 (15:00)
岸和田少年愚連隊 (18:00)
・2021年8月14日 土曜日
ロマンス娘 (12:30)
夫婦 (15:10)
蝶々夫人 (17:50)
・2021年8月15日 日曜日
霧の夜の男 (13:00)
動乱 (15:30)
・2021年8月17日 火曜日
弁天小僧 (12:30)
火の鳥2772 愛のコスモゾーン (15:00)
宇宙からのメッセージ (18:10)
・2021年8月18日 水曜日
天使のはらわた 赤い眩暈 (12:00)
濡れ牡丹 五悪人暴行編 (14:30)
シャルロット すさび (16:50)
・2021年8月19日 木曜日
蕨野行 (15:10)
女子大学生 私は勝負する (18:20)
・2021年8月20日 金曜日
鉄道員 1999年作品 (15:00)
ユキとニナ (18:10)
・2021年8月21日 土曜日
ケメ子の唄 (12:00)
日本殉情伝 おかしなふたり ものくるほしきひとびとの群 (14:30)
ふたり 1991年版 (17:20)
・2021年8月22日 日曜日
映像評伝 仁科芳雄 現代物理学の父 と 伝統工芸技術記録映画シリーズ #28 読谷山花織 與那嶺貞のわざ (13:00)
愛の嵐の中で (16:20)
・2021年8月24日 火曜日
動乱 (13:00)
スパイ・ゾルゲ (16:40)
・2021年8月25日 水曜日
拳銃は俺のパスポート (12:30)
霧の夜の男 (15:00)
どですかでん (17:30)
・2021年8月26日 木曜日
Murder!と 麻雀放浪記 (12:30)
花札渡世 (15:30)
実録 私設銀座警察 (18:10)
・2021年8月27日 金曜日
影の車 (12:30)
月山 (15:10)
ありふれた愛に関する調査 (18:00)
・2021年8月28日 土曜日
ピンクのカーテン (13:00)
嗚呼!おんなたち 猥歌 (15:10)
濡れ牡丹 五悪人暴行編 (18:00)
・2021年8月29日 日曜日
火の鳥2772 愛のコスモゾーン (13:00)
ねむの木の詩うた (16:30)
・2021年8月31日 火曜日
ふたり 1991年版 (14:30)
日本殉情伝 おかしなふたり ものくるほしきひとびとの群 (18:00)
・2021年9月1日 水曜日
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女子大学生 私は勝負する (12:30)
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処刑遊戯 (18:00)
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女子高生と山月記
 「虎になる」というフレーズが流行った。
 高校時代の話だ。かつて鬼才と呼ばれた男が、己の心に潜む獣に振り回されて虎になる話を習った。重い題材なのにどうにも心にひっかかる上、人間が虎になるという衝撃的展開に驚いた。加えて「尊大な羞恥心」だとか「臆病な自尊心」とかいう妙に語呂の良いワードが登場することから、わたしたちは授業が終わってもこの話を忘れられず、結果「虎になる」というフレーズを局地的に流行らせた。
 わたしたちは虎になった。主に葛藤してどうしようもない時や人間関係が煩わしい時、そして自分が嫌いになった時に。具体的に言うならテスト前や恋愛にまつわる他者とのいざこざ、理想と現実の狭間でもがいた時に、現状の気怠さを「ほんと虎になるわあ」と溜息交じりに吐き出したのだ。
 
 仲のいいグループだけで使う暗号のような、気怠さの共有コードのような使い方をしていたのに、いつしか他のグループにも「虎になる」子が現れた。使い方を教えたわけじゃない。なのに彼女たちはわたしたちが使うように「このままじゃ虎になる」と自然に言ってみせた。
 言葉は感染する。きっとわたしたちが使うのを聞いて、自分たちのグループにも採用したんだろう。だけど説明してもいないのに完璧な用法で虎になってみせた彼女に驚くとともに、「山月記」という物語がわたしたちに与えた影響に驚いた。グループとか関係なく、わたしたちは同じものを受け取っていた。
 
 あの頃、わたしたちは言葉に出来ずとも、仄暗いものを心の中に感じていた。山月記を教わる前は各々が好き勝手に感じていたものだ。だけど中島敦が、山月記という物語を通じてわたしたちに教えてくれた。あれは間違いなく「虎」だった。
 
怪物と親交を深める
 友人たちと虎になっていたのは、もう昔の話だ。
 今は内なる虎どころか目に見える怪物と相対する年頃になった。つまり就職してお局様と出会う羽目になった。歩く脅威とはまさにこのこと。生きているだけでケチをつけられ、重箱の隅という隅をほじくり回される。
 仕事面では優秀だけど気に食わないことがあれば謎のコネで上に訴え、悪評を広め、最終的には泣き叫び壁を殴り颯爽と帰っていくお局様。人生で初めて出会う怪物がここにいた。
 
 上司ガチャ爆死というワードが脳裏をよぎる中図太く仕事を続け、数年経った今はお局様に個人的なドライブに誘われるなど驚くほどに良好な関係を築いた。怪物の懐にちゃっかり収まった形になる。
 努力をお局様との敵対や転職活動ではなく和解(と言ってもこちらに非は無いので向こうの軟化を待つだけ)に費やしたのは、お局様に好かれたかったからではなく、単純に可哀想だと思ったからだった。
 もちろん腹は立った。この人さえいなければ職場は良い人ばかりだし、天国だろうと考えた。だけど度が過ぎる不条理を与えられると怒りよりも疑問が湧く。何故この人はこんなにも怒っているのだろう、と。一度そう思ってしまうと止められない。わたしはお局様が人目もはばからない怪物になってしまった理由を求めてサバンナの奥地へと旅立ったのだった。
 
 この場合サバンナの奥地というのは比喩で、しかしお局様の私生活や歴史といった個人情報を知るには誰かの心の奥地、それこそサバンナのように深い場所へ踏み入らなければならないと考えていた。怪物のような同僚とはいえ、他人のことをべらべらと喋るわけがないと思っていたのだ。だけどわたしがお局様の詳細を尋ねると、先輩方はみな知ることが当然だと言わんばかりに必要以上を教えてくれた。
 
 悲しくてありきたりな話だった。偏見と既存利益に潰されていた若い女性が、ひょんなことから道を外れて二度と戻れなくなった話。詳細は書かないけれど同情の余地がある。お局様はひどい仕打ちを受けた上、助けてくれる人もいなかった。だからといって女という女をいびり倒す理由にはならないけど、性格が歪む原因としては大いに納得できる。
 
 そして過去から現在までひとりの人間を歪め続けた不幸をネタのように話せる人間に囲まれてしまったことも、お局様にとっては不幸だろうなと感じた。「昔は可愛かったのに、あの時は大変だったんだよ」と笑って言うくらいなら、あの時と言わず今助けてあげればいいのに。
 お局様の世界観にも一応の倫理はあるらしいけど、誰も興味が無いから触れない。あれだけ噂話を教えてくれた先輩も、昔は可愛かったと謎目線の上司も、お局様がお怒りになる基準を知らず天災のように諦めるだけ。お局様マニュアルというか対応心得が無いのかと尋ねれば、ぜひあなたが作ってくれと笑われた。台風の発生機序を研究し始めた頃の人間ってこんな感じなのかな、とか思ったりした。
 お局様と普通に話すようになってから、こんなことを言われた。
「これまではひとりで全部決めてきた。誰も決めてくれないから。だけどひとりで決めるのは大変だから手伝ってほしい」
 誰も決めてくれないったって、あなたが全部聞く耳持たなかったんでしょう。そう言いかけて思い出した。
 
 お局様が感情に任せた強い口調で話した後は、誰もが「あの人はああ言ってるんだよね」と腫れ物に触るような扱いをする。少し経って冷静になったお局様が前言撤回して別の意見を言うと「気分で言うことがコロコロ変わる」と冷ややかな態度を取るだけ。そして最終的に「誰からも意見が来なかったから私が決める」とお局様が決定を下す。
 この間、お局様に意見できる人は影で溜息をつくだけで何もしない。怯える人は陰口だけで何も言わない。お局様の目線からすると、確かに孤独な一本道だ。
「喧嘩がしたいわけじゃない。違う意見も聞きたい」
 そう言われた瞬間に眩暈がしたのは、自分の認識が揺らいだからだ。 
 
 何でこの人は急に普通の人っぽいことを言うんだ。目が合った奴らを全員ボコボコにするような生き方をしているじゃないか。もしこの人がこんな、いかにも普通のことを言うと、わたしはこの人を怪物じゃなくて普通の人だと思ってしまう。普通だから理不尽な仕打ちに歪んで、歪んだから手を差し伸べてもらえなくて、手を差し伸べてもらえないから怪物になった、ただの可哀想な人に見えてしまうじゃないか。
 わたしがお局様に対して行ったのは、普通のことだけ。
 何をしたか? 無視されるとわかって挨拶をして、注意をされれば非礼を詫びて、フォローされればお礼を言った。わからないことがあれば聞き、無知を咎められれば反省する。お前はわたしを特別にいじめるが、こっちはお前をなんてことのない日常の一部としか思っていないぞという反抗心からの行動だけど、特別なことは何もしなかった。
 
 特別なことなんて何もないのに、お局様はわたしを懐に入れた。先輩たちからは猛獣使いと呼ばれた。上役からはお前がお局様のハンドルを握るんだと謎の激励を受けた。だけど何も響かない。きっと褒められて、認められているんだろうけど何一つ嬉しくない。頭の中にこびりついて離れないのは、わたしが自分の意見を真っ向から言った時の、嬉しそうなお局様の顔。
 この人は普通の人なのに、こんな怪物になってしまったのか。
 一度でもそう考えてしまうと、信じて立っていた足元がぐらぐらと揺れるような、どうしようもない不安に襲われた。
おはよう自我
 性格は25歳を過ぎると変わらない、というのは友人の言葉だ。
 
 25という数字の根拠はわからない。だけど友人の体感としては大体それくらいの年頃から融通がきかなくなっていくらしい。友人はわたしが受けた理不尽(主にお局様)の話を聞くたび「凝り固まった奴らはどうしようもないよ」と諦め顔で笑う。
 友人の言葉には納得できたりできなかったりするけれど、個人的には「大人になったら性格は濃縮される」という持論を推したい。気の利く人がいつしか神経質になったり、雑な人はおおらかになったり。自我が確立した人間の性格は、とんでもない理不尽や幸運が無ければ、培った自我から派生していくものだと思っている。
 と、したり顔で喋ったものの、わたしの体感として自我の芽生えはつい最近で、偶然にも25歳の時だ。友人がどうしようもないよと匙を投げる年頃にやっと芽生えた。遅すぎる自我よ、おはよう。
 自我がない25年間は何をしていたんだと言われそうだけど、それなりに頑張って生きていた。もちろん記憶はあるし、自由意志もあるし、ちゃんと人間として過ごしていた。それでも不思議なことに、25歳の時不意に「自分はこういう人間なんだ」と納得する瞬間があったのだ。
 出来ること出来ないこと、やりたいことやれないこと。理解と諦めと希望がごちゃ混ぜになった不思議な気分だった。ふわふわと漂っていた自分の表面に薄皮が張られたような、世界の解像度が上がったような、言い知れない感覚をどう表せばいいのかよくわからない。
 だけどひとつ確かにわかるのは、自分と他人は違う人間だ、とこれまで以上に感じるようになったこと。自分の基本的なかたちがわかったから、生きるのが少し楽になった。
 大辞林によると、自我とは「意識や行為を主体としてつかさどる主体としての私」らしい。細かい定義を個人がどれだけ認識しているかはさておき、インターネット上では「最近自我が芽生えた」と呟くアカウントがいくつか存在する。自分を赤ちゃんだと思う人RT、みたいな感じではなく「主体としての私」が芽生えたのがつい最近、という雰囲気のアカウントだ。
 自我が芽生える前後のツイートを遡って見てみても、特に差異は感じない。普通に人生の断片が記載されているだけで自我の有る無しなんてわからない。それでも本人の体感として「最近自我が芽生えた」という意識があるのは、わたしと境遇が似ているようで親近感が持てた。
 そんな顔もしらないアカウント達が「自分は20代後半に芽生えた。周囲もそれくらいで芽生える人が多い」「自分は双子だから物ごころついた時から他人との違いや自我を感じて生きていた」「自我が芽生える前の生き方をよく覚えていない」などと呟く様子を眺めるのが好きだった。
 他人に求められる役割や、着せられがちな生き方がある。だけどそれよりも自分の行きたい道があって、思考しながら日々進む。思い悩むこともあるけど他人のことはあまり、気にしなくなった。
 友人たちも似たような感じだ。個人主義になったと言えばいいのだろうか。みんな自分の世界があって、他人の世界も大切にする。学生時代と違って気の合わない人たちとは距離も置けるし、大人になってからの方が楽しい人間関係を築けると確信した。
 確信した。そう、それは間違いじゃない。だけど気になることがあるのだ。
 自分というかたちを知るほど、興味のないものを全く取り込まなくなってきた。行動の自由度が高まった分、思い通りにならない時に苛立ちを感じてしまう。わたしはどんどん我儘になっている気がした。
 友人の言葉を借りれば、人間は25歳を過ぎると性格を変えることができない。
 これはもしかして「だいたい25歳あたりから自分の歩き方がわかるから進む道を譲らなくなる。結果として柔軟性が無くなり、自分を形作る価値観の再編ができない」のではないか。そしてわたしの理論では性格というのは濃縮される。価値観の再編ができないままどんどん濃くなっていく。
 
ここで一文、山月記から引用をする。
「人間は誰でも猛獣使であり、その猛獣に当るのが、各人の性情だという。己の場合、この尊大な羞恥心が猛獣だった。虎だったのだ。」
 濃縮されゆく人間の気質は、いずれ猛獣に至る。
 このまま気のおけない友人に囲まれて、自分のやりたいことをやって、見たいものだけを見ていったらわたしの性格はどんな風に濃縮されるのだろう。今現在、気の合わない人たちを排除した人間関係を築いているくらいだ、この先解放的な性格になるとは思えない。
 自分の世界を深めることは、他人が持つ世界との差異を浮き彫りにすることだ。自分の信条に合わない世界も必ずあるだろう。わたしはそれを尊重できるだろうか。
 耳に優しい言葉を聞いて、見たいものだけを見て、自分の世界を深めていく。それは風の吹かない部屋で延々と穴を掘ることと何が違うのだろう。わたしがいつか狭い穴の中で暮らすようになったら、「外は晴れてるから出ておいで」と言ってくれる人はいるだろうか。もし誰もいなかったら、わたしは永遠に穴の中で暮らす羽目になる。
 そして「穴の中より広い家の方が荷物も置けるし便利だよ」という他人の忠告を、忠告として受け取ることができるだろうか。視野が狭くなってしまえば、自分の世界以外のものは全て亜流に見えるかもしれない。「この穴の良さがわからないなんて」とか言ってしまうかもしれない。
 
 自分が世間一般から大きく外れた生き物になってしまう可能性を、初めて考えた。
 そして、冷やかな目で見られ持て余されたお局様に自分の姿が重なる。
 わたしもお局様のようになる可能性がある。
 そんな考えに至った時、心の中で虎が吠えたような気がした。
内側からの足音
 ここで改めて、山月記を復習する。
山月記 (中島 敦) 隴西(ろうさい)の李徴(りちょう)は博学才穎(さいえい)、天宝の末年、若くして名を虎榜(こぼう)に連ね、ついで江南尉(こwww.aozora.gr.jp
 ものすごく簡単にあらすじを書く。
 能力はあるのに生活が苦しい李徴という男がいる。地方の役人を辞めて詩で生きようとするものの全然売れない。家族養うには詩じゃ無理だな、と再び役人になるも、昔見下していた奴らが出世して指示出ししてくるからプライドがぼろぼろ。発狂して虎になってしまった。
 そして虎として生きていた李徴は、かつての友人である袁傪と再会する。
 李徴は袁傪と会話をする。「何かが呼んでるから外に出たら自然と走り出しちゃって、すごい夢中で走るうちに力がみなぎって、気づいたら虎になってたんだよね」「人の心と虎の心が混じってるから、うさぎ食べる時もあれば自己嫌悪がやばい時もある」「このまま虎になる予感がするけど、詩で有名になれなかったのが心底辛いからちょっとこの詩メモって」とか。
 そして「でも虎になった理由、心当たり無いわけじゃない」と、以下のように語る。
 人間であった時、己は努めて人との交りを避けた。人々は己を倨傲だ、尊大だといった。
実は、それが殆ど羞恥心に近いものであることを、人々は知らなかった。勿論、曾ての郷党の鬼才といわれた自分に、自尊心が無かったとは云わない。しかし、それは臆病な自尊心とでもいうべきものであった。己は詩によって名を成そうと思いながら、進んで師に就いたり、求めて詩友と交って切磋琢磨に努めたりすることをしなかった。かといって、又、己は俗物の間に伍することも潔しとしなかった。共に、我が臆病な自尊心と、尊大な羞恥心との所為である。
(中略)
 人間は誰でも猛獣使であり、その猛獣に当るのが、各人の性情だという。己の場合、この尊大な羞恥心が猛獣だった。虎だったのだ。これが己を損い、妻子を苦しめ、友人を傷つけ、果ては、己の外形をかくの如く、内心にふさわしいものに変えて了ったのだ。 
 そして李徴は「妻と子供にはもう死んだよって伝えて」「妻子よりも詩のことを先に話しちゃうあたりほんと虎」と自嘲しつつも「もうこの道通らないでね」「ちょっと歩いたら振り返ってみて。今の姿見せる。もう二度と君が会いたいなんて思わないように」と話して、宣言通りに虎となった姿を見せて、友人の前から姿を消す。
 以上、ざっくりとした説明だけど、引用部分には思い当たる節しか無くひたすらに心が痛い。中島敦の破壊力に怯えるとともに、これがデビュー作という事実に驚く。
 そして大事なところだから何度も引用をする。
「人間は誰でも猛獣使であり、その猛獣に当るのが、各人の性情だという。己の場合、この尊大な羞恥心が猛獣だった。虎だったのだ。」
  
 わたしの中に芽吹いた自我は、よりよい人生への切符であると同時に猛獣の幼生でもあった。自分と世界の間に線を引く術を知ってしまったから、世界を自分のことのように感じ入ることが無くなって呼吸が楽になった反面、濃縮されゆく自分自身を希釈することが難しくなった。
 自分の見える範囲、好きな範囲だけを掘り進めるのが本当に楽しいからこそ、強く思う。自我は、猛獣だ。虎だ。そして心地よい世界への入り口だ。李徴が虎になった時「身体中に力が充ち満ちた感じ」と表現された理由がよくわかる。
 自分に自信を持つことは、素晴らしくもあり恐ろしい。
 有名な動画だけど、自分を信じることの恐ろしさはこれを見るとわかりやすい。この動画ではバスケットボールが延々とパスされていく。そこで、動画の中で「白服の人が何回パスに参加したか」を答えてほしい。 
 おわかりいただけただろうか。
 この動画の目的に気づいてもらえただろうか。 
 動画には事実が映されている。そのうち、わたし達はどれだけの情報を受け取っただろうか。見たいものは見えたとしても、見なかったものは、無かったことにされただろうか。自分でも気づかないうちにかけていた色眼鏡は、いつ外せるのだろうか。
 どうしてこんなにも、わたしは自分の中にいる猛獣を恐れているのか。
 それは「素敵な自分でいたい」とか「よりアップデートされた自分でいたい」なんていうお綺麗なものじゃなくて、ただ単に身近な怪物たちが哀れで醜いからだ。
 愚痴ついでに説明するとお局様の他にもう一人、職場に怪物がいる。
 わたしと同時期に入ってきた男の子だった。素直で明るい体育会系で、愚痴をこぼすのが下手くそ。溜め込んでしまうタイプだなあと気にかけていたけど、ちょっと会わない間に怪物に変貌していた。
 彼は愚痴を言うのも、話し相手を選ぶのも下手だった。どんな悪態にも同調し、否定せず、建設的な意見よりも感情的な意見を述べ、煽ることが得意な奴とつるんでしまった結果、自分の抱く負の感情を全て「尊重されるべき真っ当なもの」と思うようになった。友人は選んだ方がいい。悪い奴じゃなくても癖のある奴は用法容量を守るべき。ちなみに癖だらけの煽りマンは、わたしがプレイしているゲームに出てくる「キャスターリンボ」という奴が本当によく似てる。
 
 彼は職場の人間のうち大半を嫌いになった。もちろん顔には出さないけれど、壁に耳あり障子に目あり、キャスターリンボと話している内容は筒抜けだから彼の罵詈雑言レパートリーは皆よく知るところである。
 
 彼が人を嫌う基準は、最初こそ真っ当だった。仕事が適当だとか、やり方が強引だとか。その点、性別や見た目、歩き方やで人を嫌うお局様とは違う。しかし次第に腹を立てるハードルがどんどん下がって、人によって許す許さないの基準を大きく変えた。
 そして一度嫌いになった人間を徹底的にマークして、どんな同情的背景があろうと、その背景含めて人間性や犯したミスを延々と馬鹿にするのだ。「あいつの事情なんて俺知らない」と子どものように頬を膨らませながら。
 そして後輩たちを集めて、愚痴を肴に飲み会を開く。下には強く上には媚び、ながら唾を吐く。なお建設的な意見を表立って言いはしない。影でこそこそと、キャスターリンボや後輩たちに愚痴るだけだ。
 愚痴のレベルがえげつない彼は、今でこそ腫れ物に触るように扱われるけれど、仕事に対する誠実さや巧みな話術は目を見張るものがあって、キャスターリンボとつるみさえしなければ将来の幹部候補だったと上司が嘆いていた。でも今の彼が幹部になったらパワハラセクハラモラハラが権力と服を着て歩いているような感じになってしまう。とんだ化け物だ。そうなればすみやかに辞職しなければならない。
 
 人間の相性は化学反応のようで、理想通りには進まない。向けられた感情を鏡のように反射するコミュニケーション術を持ったキャスターリンボと、負の感情のコントロールが下手くそな彼は、壊滅的に相性が良すぎたのだろう。
 かつて同期として肩を並べていたはずの彼は、随分遠くに行ってしまった。入ってきた頃は、溜息交じりに扱い方を囁かれるような人間ではなかった。こうなる前に何か出来ることがあったのかもしれない。そんなことを考えては、現状を思い気分が沈んだ。今のわたしは彼に嫌われているから何を言っても届かない。
 
 お局様も彼も、良いところはあるものの人間として尊敬できない。好きか嫌いかで言えば嫌いだ。興味はあるし同情もするけど、こんな人間にはなりたくない。だけどわたしは最近、自分の都合で他人に苛立つことが増えた。あえて見たいものだけを見ているように思う。見たくない自分を見つめていると、二人とも、わたしの生きる延長線上に立っている気がした。
 周囲を巻き込みながらも気持ちよく生きている二人がどうにも他人事には思えない。わたしが彼に対して何かしたかったと思うのは、自分がもし怪物になった時、誰かに止めてほしいと思うからなのかもしれない。
臆病者の旅路
 「自分が行動を起こせば変わった、なんて思うのは傲慢だよ」
 
 怪物になった彼のことを引きずるわたしに、屈強なミスチルファンがそう言った。このミスチルファン(以下ファンと呼ぶ)は彼のことを友人の友人程度に知っており、彼の変貌過程も知っている。
 「あいつは成るべくしてそう成ったんだよ。あんなになっても誰も止めてくれない程度の人間関係しか築けなかったあいつ自身に問題があるから、周りがどうこうって問題じゃない。そこまで気にするのは筋違いだし踏み込み過ぎ」とファンは言う。ドライな意見に聞こえるけど自信満々に言われると一理あるような気がしてくる。
 ファンはわたしよりも早い段階で「自我」を確立していた。中学高校の時には既に今と同じ自分の世界を、自分の理論を持っていたらしい。そして「調子乗ってたらボコボコにされたけど、叱ってくれる人がいなかったら自意識モンスターになってたから良かった」と話してくれたことがある。
 
 もしかしたら、自意識モンスターという概念を持っているファンには自分が怪物になる恐怖を理解してもらえるかもしれない。そんな思いで打ち明けた。これまで書き連ねてきたことを、一から十まで長々と。
 ファンは時々頷きながら、黙って聞いてくれた。そして話が終わり、沈黙が続く。どんな反応をするかと待っていたら、ファンは突然歌い出した。
「滞らないように揺れて流れて、透き通ってく水のような心であれたら「アー↑」
 名曲HANABIである。
 「HANABIだ、まじHANABIだわ」と、ファンはひとりで納得しながら桜井さんすごいと呪文のように唱えた。そして「今度ミスチルの詩集貸すよ……曲もいいけど文字で見たら全然雰囲気違うし染み込み方が違うから」と力強く約束してくれた。ミスチルが詩集を出していたことを、わたしはその時初めて知った。
 
 ファンが言うには、HANABIという曲は「ボーカルの桜井さんが冬場金魚の水槽を掃除するときにね、水が冷たいからちょっと貯めて放置しつつ……あれ塩素抜きを兼ねてたんだっけ? まあいいけど水貯めた翌日水の中に金魚を入れたらバタバタ死んでね、金魚が死んだのは水の中に空気が無かったからなんだけど、ああ水も死ぬんだな、人間も同じだなあという思いからHANABIという曲が生まれたんだよ」ということらしい。
 ファンは歌い出し以降、わたしの怪物化への懸念に言及することなく、いかに桜井さんが素晴らしいかという話を延々と続けた。詩の作り込みが凄まじく、自分が生きる中で曲の印象が変わっていくのが面白いのだと。そして「HANABIの解釈がまたひとつ深まってしまった」「桜井さんはアップテンポな曲に容易く地獄を放り込む」と満足そうに去っていった。
 
 わたしはミスチルファン歴が浅く、桜井さんのことはまだよくわからない。だけどファンの感性や屈強さは心から信頼している。だから、わたしが怪物の話をした直後に突如歌われたフレーズをファンの回答として勝手に受け取ることとした。
 空気も水も溜まれば淀む。人だって立ち止まれば淀むのだ。透き通った心でいたいなら常に心を動かさなくてはならない……そういうことなんだろう。と思った矢先にファンからLINEが届いた。
 「今みたいに揺れるのが大事なんだと思う」「自分はこれでいいのかって悩み続けること自体に意味があって」「どんどん新しいものを取り入れていけば」「自浄作用も働くし」「周りの人からも大事にしてもらえる」
 細切れに届く言葉は胸に響くものの、お前それ面と向かって言ってほしかったし何なら歌う前に言ってくれやという気持ちが前に出る。
 
 だけどこういう想定外の行動によって、自分の思い浮かべるやりとりよりも斜め上のやりとりが生まれた時、世界はわからんことだらけだなあと驚きを感じる。面白い時も苛立つ時もあるけど、こうやって人から驚きを貰える限り、わたしの世界はおそらく滞らないのだと思う。
 問題はわたし自身が、自分の心を「揺れて流れる」ような不安定すぎる場所に置き続けられるか、ということで。驚きを与えてくれる友人がいても、結局は自分次第だ。
 心に住まう猛獣はわたし自身であり、手綱も握っている。だけど、不安がどうにも拭えない。他の人たちはわたしのように猛獣を恐れたりしないのだろうか。ただ真っ直ぐに生きているのか、それとも自分を恐れることなく律することが出来るのか。
 
 本来これは感じなくても生きていける恐怖なのかもしれない。だとしたら、そんなものに怯えているわたしは貧乏くじを引いてしまったのか、あるいは精神が未熟なのか。
 そんなことを考えている時、インターネットで出会った友人の言葉を思い出した。ぼんやりと覚えていたものを、もう一度あれ教えてと頼みこんだらログを発掘してくれたので引用させていただく。
 「文明の広がりと生命維持とか考えると色々面白いよね。例えば日本人はとても鬱になりやすいけど、統計とってみるとアフリカ(人類の起源)から離れるほどセロトニントランスポーター(心の安定に寄与する物質を運ぶもの)の働きが弱いんだってさ。つまりとても不安になりやすい」
「でも私たちがアフリカから極東に辿り着くには、それは重要なことだったんだよね。不安で周りを確認しておっかなびっくり足を踏み出す人間じゃないと、遠くの目的地には到達できない。人間どうしたってネガティブになりがちだけど、私たちはネガティブだからこそ今まで生存できてたってわけです」
「古代文明が栄えた場所も、全部あったかいところなんだよね。シュメール、アッカド、バビロニア。ほかの四大文明も。でも、時代を追うにつれて主役は北へ北へと移っていってるんだよね。やっぱりアフリカから遠く離れれば離れるほど不安だから、色々立ち止まって考えることが多くて、その結果なのかもしれないなあなんて思ったりします」
「じゃあ、移動手段と情報伝達が過度に発達した現代や未来はどうなるんだろうって思うと、途端に法則が当てはまらなくなるから困る。文明の北上は臨界点だし、等しく��術が飽和したなら、今度は環境の恵まれた南の辺りから自由な発想が生まれてくるのかもしれないし、もしかしたら、さらなる北を求めて人間は宇宙にさまよい出すのかもしれないなって思いました」
 
 この話を聞いた当時は、人間すげえや、とか何でこの人こんなこと知ってるのすごっ面白っとしか思わなかった。だけど今はこの話に励まされている。
 
 臆病者じゃないと到達できない場所がある。精神論じゃない。今わたしがここで生きているのは、過去の臆病者たちが一歩を踏み出した結果。わたしの未熟さ、抱える恐怖は、もしかしたら遥か遠くに辿り着くために必要な要素なのかもしれない。
 
 行き着く先できっとわたしは色んなものに触れて、考えて、自分を確かめては組み替える。心の中の猛獣に押しつぶされて他を顧みない怪物となれば、完結した世界に満足して旅に出る気にもならないだろう。だけど恐怖に震える間は、怪物にならず歩いて行ける。長い旅路に意味はある。現に足を伸ばしてオンラインの世界に辿り着いたからこそ友人に出会い、知識に触れ、こうして励まされたのだから。
いつか怪物になるわたしへ
 それでもやっぱり、わたしはいつか怪物になると思う。
 いずれ自分が塗り替えられるという恐怖と戦いながら、怪物化に抗いながら、最終的には成ってしまうと思うのだ。様々なものを見聞きして、考え込んで、いつか考えることを止めて。そうして引き籠る内側の世界はきっと居心地が良い。自分を疑い続けるような旅を続けるより、好きなものだけを追及する方が幸せだと思う。
 
 自分の世界の外に向けた想像力が、わたしを人間たらしめている。目の前に立っている人が見えないところで泣いている可能性を考えるし、自分の理屈が他人に通用しないことを知っている。
 だけどこの想像力を全て自分のためだけに使うのなら、誰が泣こうが喚こうが知ったこっちゃないし、理屈は押し通すものとして狡猾に立ち回るだろう。自分のためだけに生きれば毎日がもっと楽になる。
 怪物になりたくないと思うたび、怪物の良さを突き付けられる。いつの日かこんな風に悩むことすら面倒になって、全てを放り投げて大の字に寝転ぶ時が必ずやって来る。わたしは臆病な奴だから、自分を傷つけて揺るがすものから必ず逃げたくなるだろう。そして考えることを止めて、周りにイエスマンだけを置いて、自分だけの素敵な世界を作りたくなるはずだ。
 
 怪物になったら、怪物じゃない時の理想なんて理解できないかもしれない。だから正気があるうちに「わたしが変なことを言ったらボコボコにしてほしい」と介錯願いを数人に出している。勇者を育てる魔王がいたならこんな気分なのかもしれない。どうか綺麗に殺しておくれ、わが愛しの勇者たちよ。もし君達が先に怪物化したら喜び勇んで殴りに行くね。
 いつか怪物になるわたしは、世間で触れ合う怪物どもに中指を立てて生きている。いずれ自分も辿る道、自覚も無しに通る道。哀れで醜い、と言われる側に立った時、わたしは何を見ているだろう。自分が怪物になったと気づかず、他の奴らを見下しているのだろうか。実はもうとっくに怪物なのかもしれないけど、勇者たちからの正論パンチが飛んできていないからまだセーフだと思いたい。
 ふざけて「虎になる」なんて言っていた頃から、随分遠くに来てしまった。見える景色も歩き方も随分変わったけど、わたしという人間の連続性はゆるやかに保たれながら過去から未来へ伸びていく。願わくばこの悩ましい旅路が、葛藤ばかりではなく瑞々しい驚きと喜びに満ちたものになりますように。
 この文章はいつか怪物になるわたしへ向けた弔辞であり、激励であり、備忘録だ。
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celestialmega · 6 months
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Angel Guts: Red Vertigo, 天使のはらわた 赤い眩暈, Tenshi no Harawata: Akai Memai by Takashi Ishii.
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heyheyattamriel · 4 years
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エドワード王 六巻
昔日の王の一代記、六巻
訓練
その日は、エドワードがアーチマジスターに召喚され、ミスリルの杖の贈り物とともに別れを告げられて塔を去る日でした。
彼の小部屋に戻って、エドワードは入門者用のローブを脱ぎ、灰色のシャツと黒いズボンに着替え、塔に締めてきた赤いサッシュを巻きました。彼はサッシュをいとおしそうに指でなぞりました。きちんとして見えるし、旅の土埃が目立ちにくいと言って彼の母がこのシャツとズボンを買ってくれたのです。モラーリンは彼に双子の葉っぱと花、小鳥と蝶を、ミスリルとドワーフとエルフの金属糸で刺繍した絹のサッシュを贈ってくれました。でも、彼は運河を超えるまで待っていました。アリエラが、とても大切なものだと言ったのです。彼女はモラーリンの古い服を切り詰めて作ってはどうかと提案しましたが、かのエルフは断固として彼女にそれを渡しませんでした。エドワードはそれを思い出しながら笑い、サッシュを彼の腰に二周巻き、慎重に端を結びました。彼は杖を取り、両親に会うために駆け下りました。
彼は二人に抱きつくつもりでいましたが、モラーリンは一人で、エドワードは立ち尽くしました。「母さまは?来て―」
「彼女は残ってお前のために馬を選びたいんだそうだ。ビーチに任せておけないんだね」
「馬?僕に!ほんと?」
「もちろんだ。モロウィンドまで歩いてはいけないよ」
「僕、後ろに乗るんだと思ってた―誰かの。見て、アーチマジスターが僕の杖をくださったの!きれいでしょう?」
かのエルフはそれを手に取って重さを確かめ、何度か振ったり突いたりしてみました。「お前にはいい重さでバランスもとれていると思うよ。私には軽いがね。どんなふうに使うのか見せてくれ。攻撃するふりをするから」彼は素手を使い、エドワードは防御の姿勢を取り、彼の攻撃を防ぐと、モラーリンの足の方に杖を突き刺しました。彼は軽々と避けましたが、少年を褒め称えました。
「メイジは短剣も持っておくべきだ。お前がトゥースを持ちたいかと思ってね」エドワードの目が飛び出しました。トゥースは、エボニーの刃と、本当のドラゴンの歯でできた柄を備えていました。エルフが鞘から滑り出させてエドワードに渡すと、彼は慎重に受け取りました。刀身は先端が曲がっていて、剃れるほど鋭い刃がついていました。マッツが時々それを借りていました。その柄を削り出したのは彼なのです。
「マッツは本当に気にしないの?」
「気にしないとも」モラーリンは彼のベルトを外して鞘を抜き取りました。蛇革でできたエドワードのための新しいベルトは、柔らかくてしなやかで、モラーリンのものと同じように、モロウィンドの黒い薔薇が留め金に描かれていました。「これは仲間たちからだ」彼は膝をつくと、サッシュの上からベルトを合わせてダガーを差しました。エドワードは彼の首に抱きついて言いました。「すごいや。本当にありがとう。あなたにも、みんなにも!ああ、それに僕、ずっとみんなに会いたかったんだ」
「我々もお前を恋しく思っていたよ。さあ、行こう。潮目を逃してしまう」
「母さまを心配させるのは嫌だな」努めて自分に心配してくれている母がいることが気楽に聞こえるように、エドワードが言いました。
「心配はいらない。明日の夜まで探しに来ないようにと言っておいた…念のためにね。だが、彼女を驚かせてやろう」
「いいね」
彼らはかなりの速さで船を漕ぎ、満潮になる前に入り江に着きました。
「トゥースの使い方を見せてあげようか?それとも、休憩の方がいいかね?」
「トゥースがいい!僕はボートで寝られるもの」
トゥースのひと噛みは冗談ごとではないからと言って、モラーリンは自分と、エドワードにもシールドの魔法をかけました。「僕、自分でシールドの魔法をかけられるのに」エドワードは誇らしげに言いました。「上手なんだよ。だけど、ヒールは全然なの」
「できるようになるさ。時間がいるんだ」
明らかに、トゥースにも時間が必要でした。どんなに頑張っても、彼はエルフに近付くことさえできませんでした。モラーリンが足を地につけたまま、ただ身体を揺らし、身を反らせたり左右に動かしたりしているだけなのに…しかも、笑いながら。鬱憤が溜まって、エドワードはトゥースを鞘に納めて杖を取ると両手で振るい、彼に強く打ち付けました。実害は何もありませんが、シールドをぴしゃりと打つ満足のいく音をたてました。���法の効果が切れると、モラーリンは彼に打たせましたが、いとも簡単に杖を止めました。エドワードは杖を地面に投げ出して、後ろを向きました。エルフは慰めようと彼に歩み寄りました。エドワードは鞘からトゥースを抜くとエルフの心臓めがけて突き刺しました。刃は彼の手から叩き落され、くるくると回転しました。エドワードは動くトゥースを止めて掴もうとしましたが、シールド越しでも衝撃を感じました。するとモラーリンが彼の前に膝をついて左手を右膝に置きました。彼の顔はショックと信じられないという気持ちで灰色になっていました。血が噴水のように手首から噴き出しています。「お前のサッシュを貸せ!」
「僕―僕そんな―」エドワードは歯の根がかみ合わないほど震えていました。彼は気分が悪くなり、眩暈がしました。胃液が口の中に上がってきました。「つもりじゃ――な、なかったのに」血はどんどん流れています。
「坊や、今気絶しないでくれ。お前の助けが必要だ。サッシュだ。さあ、エドワード!傷口に巻きなさい。まったく、なんてこった!」彼の片方の手が手首から半分取れかけていました。エドワードは放心したように座り、全身を震わせていましたが、彼の手は開いた傷口にサッシュを巻いていました。それから、残りの部分を手と手首に巻き付けました。「私のサッシュを取って吊り帯を作るんだ」モラーリンは怪我をした腕を吊り帯に落ち着けると、片手を離しました。彼はベルトから水筒を取り出して飲み下しました。「もっと水がいる。お前の杖はどこだ?2マイルほど戻れば井戸がある。トゥースは?探しに行きなさい。怪我をするんじゃないぞ」
「もういらない」
「モラーリンの血に浸った剣はそう多くない。幸運を連れてきてくれるだろう。言われた通りにしなさい」
「満潮だ」
「ああ。ファーストホールドにジョーンのお恵みがあるだろう。片手では魯が漕げんな」
「僕が―」
「いや、お前には無理だ。力がない。ここは流れが速い、私は地面の上で死ぬ方がいいよ。エドワード、ここに留まってはいられない。血の匂いが獣を引き寄せるからな。もし私が気絶したら、充分離れて木に登るんだ。そして祈りなさい」彼は荒い息で杖に寄りかかって立ち上がりました。「離れるなよ。だが、何があっても私にしがみつくな」彼は小さく一歩を踏み出し、またもう一歩歩きました。
「ごめんなさい」
「まったくだ。アサシンに変身するにはまずい時と場所を選んだものだ。優れたアサシンは常に離脱の手立てを持っている」
「はい」エドワードは涙を流しながら鼻をすすりました。「僕、ヒールはできないけど、少しは力を回復できるよ」
「本当かい?そりゃ助かる」エドワードが唱えた呪文に、エルフは衝撃を受けました。彼は息を呑みましたが、極力まっすぐに立っていました。衝撃が去ると、いくぶん姿勢を保ちやすくなりました。「僕、もう一度できるよ」エドワードが熱心に申し出ました。
「いや。お前は大変な力を持っているが、調節する技能がいる。だが、良くなったよ」
モラーリンは歩きやすくなり、声にも力が戻りました。エドワードは心の中にある怪我の絵を滲ませようとしました。彼らはゆっくりと歩き、時々モラーリンは木にもたれて休みました。彼らに危害を与えるものはありませんでした。無言の長い旅の果てに、彼らは古い井戸に着きました。モラーリンが水筒の水を飲み干すとエドワードが水をくみ、彼も飲みました。それからもう一度水を詰めました。
「今晩はあそこで過ごそう」 『あそこ』は、大きな荒れた建物で、明らかに人はいませんでした。エルフは鍵のかかったドアを蹴りつけて開けました。中は真っ暗でした。「明かりの魔法はいる?」エドワードが申し出ました。
「いや、私は見える。力を温存して私のそばにいなさい」何かが素早く動く音がします。ネズミです!エドワードは考えるより早く二人にシールドをかけ、トゥースを抜いてエルフの背中に自分の背をつけました。1匹のネズミが跳び上がって、刃に身を投げました。モラーリンは杖を振るい、もう2匹を倒しました。他のネズミたちは逃げて行きました。
「よくやったな、坊主!」彼らは小さな窓のない部屋を見つけ、中に入ってドアを閉めました。そこにはいくばくかの薪があるようでした。おそらく、台所の隣の倉庫か何かでしょう。モラーリンは壁際に座りました。
「で、ナイフが使えるじゃないか。全部芝居だったのかね?私を油断させるための?」
エドワードは不安と恐怖でいっぱいになりました。そうしようとしてモラーリンを傷つけたのではないと抗議しながら、涙をあふれさせました。「僕、ふざけただけだったんだ、笑わせようとしたの…最初は怒ってた、だけど自分にだよ、僕がぶきっちょだから、あなたにじゃないんだ…思いついて…本当に大好きなんだ!」
エルフは怪我をしていない方の手を伸ばし、エドワードを引き寄せました。「それなら、片手なんて安いものだ」
モラーリンが優しくとんとんと彼の肩を叩いて鎮めている間、エドワードは彼の肩にもたれて泣きました。「僕の本当の父さまだ」
「エドワード、私は…」
「いいえ、あなたがそうなんです。僕の幸せを何より大事にして、そんな値打ちがない時すら僕を愛してくださる。あなたはずっと親切で寛大で、僕の利益になること以外、何も要求したことがないんです。あなたの人生を僕に捧げてくださってる。それは本当の父親がすることです。それに僕は、あなたに痛みしか与えていないのに。僕を生ませた人は、僕がその人に似ていないからって僕と母さまを忌み嫌っていました。僕たちはあなたにも似ていないけど、それでもあなたは僕たちをとても愛してくれる。あなたがいれば、僕、もっといい子になれると思うんだ。大好きな父さま」
「私はお前に攻撃する十分な理由を与えたんだよ。私はお前から母を奪ったのだから」
「僕を父親から引き離さないために、母さまを失う危険を冒したんだよ。僕のことなんか知らないのに、それに、僕の父親は憎むべき敵だったのに。それでも僕たちのことを考えてくれてる。彼がどんなにおかしいか、あなたにはわからないよ。父さまの中にはないから」
「わかった。それでも、お前の中に反感と怒りは残っているね」
「愛してるよ!」エドワードは抗議しました。でも彼は、自分の声の中に怒りを聞きました。
「そして憎んでいる」モラーリンの声はとても穏やかで、静かで、まるで天気の話でもしているようでした。
「両方はできないよ…そうでしょ?」
「どうかな?」
「傷つけるつもりなんかなかったんだ」
「信じるよ」
「僕は―僕は邪悪なの?とても後悔しているんだ、あれをなかったことにできるなら何だって差し出すよ、だけど―僕―」
「いくらか満足のいく答えだ」
エドワードの喉が嗚咽で詰まりました。彼は口がきけませんでしたが、モラーリンの肩に向かって頷きました。エルフの手が、優しく彼を撫でていました。
「アイリックはデイドラのことを話したかね?」
「悪魔のこと?いいえ。僕にあんなことさせたのは悪魔なの?じゃあ、僕は邪悪なんだ」
「お前はそうじゃないよ。だが、デイドラはあのような行動に餌をやっている。やつらはそれを―力づけるんだ。そして、お前の怒りは彼らを引き寄せる。しかし、やつらがお前に何かをさせることはできないし、やつらも、それも、お前の中にはない。つながっているがね」
「そんなの嫌だよ。どこかに行ってほしいな。どうやったら追い払えるの?」
「なぜ嫌なのだね?そこから力を引き出すんだ。それが、お前が襲ってきたネズミから身を守るために私たちにシールドをかけさせたんだよ」
「魔力のこと?あれは悪魔からのものじゃないよ」
「そうだ。だが、それを使用する能力がね。いいかい、お前の行いの一部がデイドラの餌になる。だが、それと同時にお前はそこから力を引き出すんだ。そうすれば、どのような目的で使うにしろ、その力はお前のものだ」
「デイドラを持ってるの?」
「持っているよ。それも大きなものだ。だが、皆同じものか、それ以上のものを持っていると思っている。他の者より強いのがいる、それだけのことさ。だが、そんなことを聞いて回ってはいけないよ、慎ましい行いじゃないからね」
「僕のにはどこかに行ってほしいよ!」泣きながらエドワードが叫びました。
「お前はそう言うが、それがない振りをしていたら、それが達成されることはないだろう。デイドラを持つことは、馬に乗るようなものだ。制御し続けなければいけない。デイドラはお前のことなど気にかけない。そいつはお前の痛みや、けがや、死のようなものすべてを餌にして命に代え、新しい宿主を探している。やつらは我々がするように考えたり計画を練ったりはしないし、我々と同じように時間を経験しているとは、私は考えていない。だから、デイドラが餌にする行為はその瞬間に起こり、それに捕らわれている間は、過去も未来も存在することをやめてしまう。それは非常に強い快楽に満ちた経験だが、非常に危険にもなりうる。そして、とても中毒性が高い。だから、自分のデイドラに餌付けをすることだけを考え始める。神や愛する者、自分自身のことさえ考えるのをやめてしまう。その道を行き過ぎると、他を選ぶ意思を失ってしまうんだ」
「怖いよ!じゃあ、僕は何をしなきゃいけないの?」
「恐ろしいことだよ、人間が陥る中で最も最悪の事柄だ。今夜のことを覚えておきなさい。どう感じたかを。デイドラの飢餓が何なのかを把握し、自分の行動を考えなさい。お前は若くて、とても大変なことだが、お前はその危険に直面しているからね。ああ!」エルフの体が硬直して息が乱れました。エドワードはあの傷が痛んでいるのだと思いました。
モラーリンは少し眠らなければいけないといい、エドワードに見張りをして、一時間後に起こしてほしいと頼みました。そのあとで、ドアに鍵をかけて一緒に休むことができます。
「うん、父さま…それに、僕、何かもっとできるかもしれない。僕は鍵をかけられないけど…」ドアには掛け金がかからず、開きっぱなしでもありませんでしたが、バタンと音をたてるほど揺れていました。エドワードはその後ろの壁の近くを探って、くさびを見つけました。彼はドアを閉めてくさびを木切れと一緒に差し込みました。「思った通りだ。材木を両腕いっぱいに抱えてこんなドアを通るのはおかしいもん。こういうの、僕の―ゲラルドの宮殿にあったんだ。これで何かが入ってこようとしたら大きな音で知らせてくれる。鍵の魔法の代わりにヒールを使えるよ」
「へえ、実によく考えたね」彼は剣を取り出して、横の床に置きました。「これなら二人とも眠れるかもしれん」
彼らは身を寄せ合って眠りました。ドアと壁を引っ掻く音は頻繁に聞こえましたが、この小さなクローゼットに入ってくるものは何もありませんでした。モラーリンは夜の間何度かヒールを唱えました。朝になる頃には、「片腕の男としては」調子がいいと宣言しました。彼はサッシュの包帯を解いて傷を調べました。出血は止まっていて、片手を触るとまだ温かいままでした。触っても顔色が変わったり体が竦むようなことがない程度には痛んでもいませんでした。でもまだ傷口は開いたままで、片手は使えません。神経と筋肉、小さな骨の数本が傷ついていました。このような怪我の修復は彼の能力を超えていました。エドワードはその光景の中に食事をするデイドラを感じて、急いでそれを追いやりました。
モラーリンがにやりと笑いました。「食べさせておけばいい。害のない類の餌だ。もう済んだことだからね」
「飢えさせるつもりなんだ」エドワードがしっかりとした声で言いました。
「それをやってみてもいいし、代わりに制御することを学んでもいいが、それでも、神々とともに歩きなさい。我々はタワーに戻るのが最善だと思うね」
「うん。そこなら治せるよね?」
「どうかな。少なくとも今よりはしっかりくっつけられるだろう。ああ、そんなにうつむいてはいけない。もし塔に治療の力がなくても、どこかで見つけられる。スサースは戦の負傷は得意だし、塔のメイジたちよりも治療に優れていることで有名な寺院もある。それに、左手だからね」彼は乾いた血のしみがついた丸めたサッシュを持ち上げました。「この色はお前の母上が考えていた以上に実用的だったな。少しは洗い落とせるかやってみよう。こんなに用意の整わない旅はしたことがない。エボンハートの大通りをぶらぶらした時ぐらいのものさ。お前の母上に殺されてしまうな」
「僕を殺してからだよ」エドワードはため息をつきました。「少なくとも塔に戻って帰りが遅れるもの」彼らは明るい中庭に出ました。朝日は西の空に既に高く昇っていました。
「そうでもないぞ、エドワード。仲間たちが近くに来ている。聞こえるぞ。マーラ、どうかうまい嘘を思いつかせたまえ!」
ミスが中庭に馬を速歩で駆ってきました。「ここにいるぞ!」彼が他の者たちに声をかけました。「なんてことだ、怪我をしてるじゃないか!見せてみろ。船を漕いでいる途中で会えると思っていたんだが、岸で血を見つけてここまで追ってきたんだ。何にやられた?」
「デイドラだ」※
「デイドラって!一体どういうことだ!?昼日中のこんな開けた場所で?得物は何だったんだ?黒檀の大太刀か?」ミスが怪我を検めると口笛を吹きました。アリエラと他の者たちが駆け寄ってきて、彼女はエドワードを抱きしめました。「大丈夫?心配してたのよ」そして、夫の手を見た彼女の顔色は真っ青になりました。
「腕が鈍ったに違いないな。一体何をやってデイドラにこんな目に?」ミスが強い口調で訪ねました。
「この子だよ…怖がって私の腕を掴んで、シールドの呪文をしくじったんだ。彼のせいじゃない。事故だ。アリ、見ちゃいけない。エドワード、母上にお前が殺したネズミを見せて差し上げたらどうだね?」
「僕、スサースを見ていたいの」エドワードは異議を唱え、それからそのことがデイドラの養分になることを思い出しました。でも、見ていれば治癒に関する何かを学べるかもしれません。それはいいことでしょう。これは、彼が考えているよりずっと複雑なことでした。
「まあ、エドワード」アリエラが言いました。「戦いでは意識をはっきり保っておかなければなりませんよ」
「この古びた宿屋で彼がネズミを殺したんだよ。実によくやった。頭をしっかりと上げて私と背中合わせになって、両方にシールドの魔法をかけたあとにね。初めての戦闘では誰だってうろたえる。特に予想していない場合には」
最後にスサースが普段通りにやってきて、他の者たちを肘で横に追いやると、怪我の具合を調べ、シッシッという声で言いました。「なおせせせるよ。きれいな傷だっしし」彼は注意深く怪我を見ながら、腕を曲げて傷口を開きました。すると、傷口の組織の両端が触れるように手を前に出しました。彼はそれがきれいに並ぶことにとてもこだわっていました。それから、呪文を唱える間、マッツにそのまま支えさせました。外側から見える怪我の痕跡が、切り傷すら残らずに消えてしまいました。モラーリンは満足げに腕を振り、指を曲げました。「ありがとう、スサース。少し痛むが…」
「あしした、ししし仕上げをすすすするよ」
「かわいそうに」アリエラがエドワードを案じて言いました。「怖かったでしょう。それに、こんなひどい家で一晩過ごすなんて」
「僕は赤ちゃんじゃないよ。怖くなんかなかった。父さまと一緒だったもの」
※原文ではDemonの表記ですが、デイドラの意と解釈しています。
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geniusbeach · 4 years
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絶望のパレード
 魂がうわついている。まるで自分が自分でないみたいだ。ここしばらく意識は常に前方斜め下で、歩いているのは抜け殻か尻尾のようなものである。いつから、そしてなぜそのようになってしまったのだろうか。正月にかこつけて内省的になってみる。
 昨年の初めに私家版詩集を刊行した。それまでに書き溜めた僅かな詩編を、2人の詩人と編集者、美術家とともに共著の形でまとめた。処女詩集にして全集のようなおもむきがあるけれども、自分としてはそれでよい。稲垣足穂風に言うなら、以降に自分が書くものはその注釈かバリエーションに過ぎないということだ。共著者と編集者が営業に奔走してくれ、関西の大型書店のみならず、関東の書店にも置いてもらうことができた。ありがたいことに帯には人類学者の金子遊氏が一文を寄せてくださった。個人的には、自分の高校時代からの読書遍歴を決定づけた恵文社一乗寺店に置いてもらえたこと、そしてそこで一度品切れになったことが大変嬉しかった。これで一地方のマイナーポエットになることができたという感じがある。それ以上は望まないが、この営みは細々と続けていくつもりだ。
 詩集に関するあれこれが落ち着いてからは、英語の学習に明け暮れた。一昨年は仕事で繁忙を極めており、勉強どころか読書も満足にできなかったため、それを取り戻すように必死にやった。おかげで昨年度中の目標としていた点数を一発で大きく上回ることができ、すぐに違う分野へ手を出した。次はフランス語であった。気合を入れて5000円もする参考書を買い、基礎からやり直していった。ところがその参考書、誤植があまりにも多く、解説も非常に不親切で、ページをめくるのが億劫になり早々にやる気を失ってしまった。なんとも情けない話である。新しい参考書を買う気もなくなり、漢字の勉強へシフトしたところ、こちらはうまくいった。徐々に、平日はカフェで、週末は図書館で勉強するスタイルが出来上がっていった。その間も読書は続け、昨年で40~50冊程度は読むことができた。
 秋ごろには面白い出会いがあった。実存的な不安が高まったこともあり、有休を取って哲学の道を散歩していたところ、海外からの観光客に、掛かっている看板の意味を聞かれた。訛りのある英語だったため、フランス人ですか? と問うと、そうだとの答え。自分がわずかばかりフランス語が話せるとわかって意気投合し、3日間観光ガイドのようなことをした。彼の名はムッシュー・F、ひとりで日本にバカンスに来て、東京でラグビーの試合を見たりしたとのこと。七十を超える高齢だが、つい最近まで自分もラグビーをしていたと話すエネルギッシュな人物で、全く年齢を感じさせない。パリで会社を営んでいるそうで、これが私の家だと言って見せられたのは、湖畔に浮かぶ大邸宅の写真であった。週末には森を散歩したり、湖にモーターボートを浮かべたり、馬に乗ったりしているよと言う。もちろんそれらは全て私有(森や湖でさえ!)、モノホンの大金持ちである。京都では一緒にカフェに行ったり、大文字に登ったり、うどんをご馳走したり、孫用の柔道着を探したり、旅行の手配を手伝ったりした。是非フランスにおいでと言い残し、彼は去った。それから今でも連絡を取り合っている。実に50歳差の友人ができた。
 かつて自分は、日本で日々を平穏に過ごしながらたまに外国語を話す生活を望んでいたが、今になって少しばかり叶っていることに気が付いた。仕事ではしばしば英語を使う。ただ、本音を言えば、金子光晴のように海外を旅して回りたい。学生時代に思い描いていた生活はと言えば、高等遊民か世界放浪者であった。金子は詩の中で「僕は少年の頃/学校に反対だった。/僕は、いままた/働くことに反対だ。」と言った。人間は何からも自由なのである。自分も「成績」や「評価」、「管理」などには絶対に反対である。人に指示され、その目を気にして送る生活など耐えられない......。ところが、じっさいの自分には構造の外へ飛び出す勇気がない。そもそも自分は道の外から生のスタ-トを切ったのだ。そこから正道に戻るだけで精いっぱいだった。血の鉄鎖に引きずられながらもなんとか空転を繰り返した結果、保守的な思想が全身に染みついてしまった。今はなすすべもないまま泣く泣くレールの上を鈍行で走っている。窓からは、空中を並走するもうひとりの自分が見える。全てに背を向けて純粋な精神の飛翔を楽しむ自分の姿が。金子の詩友・吉田一穂は「遂にコスモポリタンとは、永生救はれざる追放者である」と言った。世界は狭量だ。自分にとっては、シュマン・ド・フィロゾフもアヴェニュ・デ・シャンゼリゼも等価である。どうにか国や所属を超越したいと強く思う。やはり勉強をし直さねばならない。
 自分の様子がおかしくなったのは10月頃からだ。一昨年度に忙殺されたせいで少なからず人間の心を失った自分は、仕事における虚脱感に苛まれていた。家における問題もあり、また昨年度新たに来た上司とは全くウマが合わず、フラストレーションも募っていた。そもそもが5年で5人も上司が変わるという異常な環境である。自分はよく耐えてきたと思う。働くことが馬鹿馬鹿しくなり、ぼーっとする時間が多くなる。そんな中、自分はある大きなミスをしでかしてしまった。それは実際大した問題ではない、誰にでも起こりうることだった。尻ぬぐいは上司とともに行うこととなった。しかし、そのミスのせいでかなり落ち込んでしまい、さらに事後対応や予防策の打ち出し方が虫唾が走るほど不快なものであったため、自分は深く考え込むこととなった。さらにそこで追い打ちのごとく転勤が告げられたため、自分はついに心身に不調をきたしてしまった。抑鬱、不眠、吐き気、緊張性頭痛、離人感、悲壮感、食欲不振……全ての事物から逃げ出したくなる衝動に眩暈がする。ある日職場で人と話している時に、どうにもうまく言葉が出てこなくなったため、何日か休む羽目になった。初めて心療内科を受診し薬をもらった。一日中涙が止まらなかった。その頃の記憶はあまりない。日々、ふわふわと悲しみのなかを漂っていたように思う。ただ、話を聞いてくれる周りの人々の存在はかなりありがたく、ひとりの人間の精神の危機を救おうとしてくれる数多の優しさに驚かされた。転勤の話は自分の現況を述べたところひとまず流れた。その際、上役が放った言葉が忘れられない。「私は今までどこに転勤しても良いという気持ちで仕事をしてきましたけどね」。他人の精神をいたずらに脅かすその無神経さに呆れて物が言えなかった。薬の服用を続け、1ヶ月半ほどかけて不調はゆるやかに回復したが、自分が何もできずに失った貴重な期間を返して欲しいと強く思う。仕事に対する考え方は世代間でもはや断絶していると言ってもよいだろう。
 労働を称揚する一部の風潮が嫌いだ。仕事をしている自分は情けない。それにしがみついてしか生きられないという点において。システムに進んで身を捧げる人間の思考は停止している。彼らは堂々と「世の中」を語り始め、他人にそれを強制する。奴隷であることの冷たい喜びに彼らの身体は貫かれている。何にも興味を持てなかった大多数の人間が、20代前半に忽然と現れる組織に誘拐され、奇妙にも組織の事業であるところの搾取に加担・協力までしてしまう。それは集団的なストックホルム症候群��でも言うべきではないか。社会全体へのカウンセリングが必要だ。尤も、使命感を持って仕事に臨む一部の奇特な人々のことは尊敬している。生きる目的と収入が合致しさえすれば、自分も進んでそうなろう。だが自分は、「社会とはそういうもの」だという諦念には心の底から反抗したい。組織とは心を持たない奇形の怪物だ。怪物は人間の心の欠陥から生まれる。ただ怪物のおかげで我々は生きられる。それをなだめすかしておまんまを頂戴しようという小汚い算段に、虚しさを深める日々。人間的であろうとする以上、この虚しさを忘れてはいけない。
 どうしようもない事実だが、労働によって人の心は荒む。労働は労働でしかない。肉体を動かすことによる健康維持という面を除けば、それ自体、自己にとっては無益なものだ。勤労意欲のない文学青年たちはいかなる生存戦略を以て生活に挑んでいるのか。彼らの洞窟を訪ねて回りたいと思う。現代には、彼らのように社会と内面世界を対立させたまま働き消耗する人々がいる。ある経営者がその現象を「ロキノン症候群」と呼んでいた。芸術に一度でもハマったことがあるような人々がそうなのだという。しかし彼らも納得はいかないながら、どこかで折り合いをつけて頑張っているはずだ。自分は彼らに一方的な連帯感を覚える。来る亡命に向けて、励まし合っているような気さえするのだ。世間様はきっと我々を馬鹿者だと罵るだろう。「なんとでもいはしておけ/なんとでもおもはしておけ」と、山村暮鳥の強い声が聞こえる。目に見えるものだけを信じるのもいいが、それを周りに強いてはならない。我々は今、ようやく開けてきた時代を生きている。だが認識は未だ模糊としている。完全な精神が保証される世界からすると、まだまだ古い時代なのだ。人間の姿を見失いがちな現代に対して言えるのはただ一つ、みんなで一緒に幸せになろう、ということだけだ。
 さて、年末に3日間の有休をぶち込んだので年末年始は12連休となった。天六で寿司を食べ、友人宅に入り浸ってジャークチキンをむさぼった。ポルトガル料理に舌鼓を打ち、サイゼリヤで豪遊した。特に予定を立てずに、ひたすら酒とコーヒーを鯨飲する毎日であった。心身の不調はマシになったものの、不運が続き、人と会わなければどん底に落ちると思った。それはまるで自分という神輿を中心にした絶望のパレードのようだった。
 休みの初日、ふと思い立ち、生き別れた父親の所在を探るべく、戸籍を請求してみた。私は父親の顔も名前も知らなかった。さほど興味がなかったというのもあるが、これまで家族に問うても曖昧な答えしか返ってこなかったのだ。働き出してからしばらくして、親戚から聞いたのは、父親は母親と同じく耳が聞こえなかったこと、暴力をふるう人間であったことの二つだけだ。養育費が払われることはなかったともどこかで聞いたような気もする。いずれにせよクズのような人間であったことは疑いようもない。生まれてから会った記憶もなく、不在が当たり前の環境で育ったため、会いたいと思ったことはほとんどない。ただ、自分の身体の半分が知らない人間の血によって構成されていることに何とも言えない気持ち悪さを覚えていた。というのも、顔は母親似だと言われるが、色覚異常の遺伝子は父親から受け継いだものであり、おかげで少年はある夢を断念せざるを得なくなったからだ。その「不可視の色」を意識するたび、自分の身の内には不在の存在がかえって色濃く反映された。違和感は自分が年を重ねるごとに増してゆくような気がした。そのため、せめて名前と消息だけでも知っておこうと思い、今回ようやく役所に出向いたのだ。職員に尋ねたところ丁寧に教えてもらえた。自分の戸籍から遡れば簡単に辿ることができる。しばらくして数枚の紙きれが手渡された。そこには聞きなれない苗字が書かれてあった。そして、案外近くにひとりで住んでいることがわかった。ふーん。何か虚しさを覚えた。自分は何がしたかったのか。カメラを持って突撃でもすれば面白いのかもしれない。ネットで調べてみると同じ名前の者が自己破産者リストに載っていた。そうかもしれないし、そうではないかもしれない。結局自分には関係のないことだ。じっさいこの文章を書いている今、父親の下の名前をまったく忘れてしまっている。思い出そうとしても思い出せないのだ。
 旅行前日の夜中に家の鍵をなくした。普段ほとんど物をなくさないのでかなり焦った。約4㎞の距離を3往復し、交番に駆け込むも見つからず。最後に寄ったコンビニの駐車場を這うように探し回ったところ、思いがけない場所で発見し安堵した。寒くて死ぬかと思った。自分は落とし物を探す能力には自信がある。物をなくさない、などと言いながらイヤホンのイヤーピースはこれまでに3度落としたことがある。しかし、その都度血眼になって道端から救出してきたのだ。今回見つからなかったら自分はどんなに落ち込んでいただろう。2時間も無駄にしてしまったが、とにかく良かった。もうお洒落を気取ったカラビナは使わない。
 中学時代の友人3名と有馬温泉に行った。ここ数年、年末の旅行は恒例行事となっている。とはいえこの4人で遊ぶために集まるのはおよそ10年ぶりだ。有馬は京都から車でおよそ1時間半。温泉街は観光客でごった返している。外国人も多い。昼飯にカレーを食べ、しばしぶらつく。細く入り組んだ坂道が続く。公園には赤く錆びついた蛇口があった。飲用可能な鉄泉だったが、衝撃的な味に顔がゆがむ。血だ。その後、目当ての温泉旅館に行くも臨時休業であった。どこの湯も混雑しており、20分待ちがザラだった。日帰り湯の看板が出ていないホテルにダメもとで聞いてみると、幸運にも入れるとの答え。客もほとんどおらず、金泉をこころゆくまで楽しめた。歩き途中、炭酸せんべいを土産に買う。特徴のない普通のせんべいだ。ここで一旦宿に戻って車を置き、再びタクシーで温泉街へ。鉄板焼き屋でお好み焼きを食べ、銀泉に入る。顔がツルツルになった。宿はそこからかなり離れた山裾にある合宿所のようなところだった。嫌がるタクシーに乗り込み、外灯のない急坂を登る。受付には緩い感じのおじさんがいて、懐かしさを覚える。鍵を受け取り、宿泊棟へ。一棟貸しなので騒ぎ放題だ。大量に仕入れた酒とつまみと思い出話で深夜までウノに耽った。翌朝気が付いたのは隣の棟の声が意外とよく聞こえるということだ。大声、というか爆音で昔の先生のモノマネやらツッコミやらを繰り返していた我々の醜態は筒抜けになっていたようだ。棟を出る時に同年代くらいの若者と鉢合わせてかなり気まずかった。ここにお詫び申し上げる。この日は朝から中華街へと移動し、料理を食らった。鰆の酒粕餡かけという聞きなれない一皿がめっぽう美味かった。バリスタのいるコーヒー屋でエスプレッソを飲み、だらだら歩いて旅行は終了。京都に着いてからなぜか3時間ほどドライブし、大盛の鴨南蛮そばを腹に入れてから解散となった。
 大晦日は友人宅で蕎麦をご馳走になってから鐘を撞きに行き、深夜まで運行している阪急で松尾大社へ。地元の兄ちゃんが多い印象。社殿がコンパクトにまとまっていて良かった。おみくじは末吉だった。年明け早々、以前付き合っていた人が結婚したことを人づてに聞く。めでたい気持ち半分、複雑な気持ち半分。元日は高校時代の友人3人と四条で酒を飲むだけに留まる。2日は友人らと蹴上の日向大神宮へ。「大」と名づくが割合小さい。社殿の奥には天の岩屋を模したと思しき巨大な岩をL字型にくりぬいた洞窟があり、潜り抜けることができる。いつ作られたものかは不明だそう。暗闇を抜けて日の光を再び浴びる時、不思議にもスッキリとした感覚になる。ここでもおみくじは小吉だった。その後は下鴨神社の露店を物色し、ケバブとヤンニョムチーズチキンなる悪魔のような食べ物に枡酒で乾杯。旧友と合流し、深夜まで酒を飲み、コーヒーで〆。怒涛のアルコール摂取はここで一旦落ち着いた。
 3日、昼に起きる。夕方ごろ喫茶店に行くもぼんやりして何もできず。3時間で本のページを3回めくったのみ。その帰りがけに初めて交通事故を起こした。自分は自転車に乗っていたが、考え事ごとをしていたかそれとも何も考えていなかったか、赤信号の灯る横断歩道の真ん中で車に真横からはねられて、初めて意識が戻った。即座に状況を理解し、平謝りする。非常に幸運なことに怪我も物損もなく、さらには運転手が気遣ってくれたおかげで大事には至らず、事故処理のみしてその場を後にした。自分はあまりにぼーっとしすぎていたのだ。赤信号はおろか、横断歩道があることさえも気づいていなかった。完全にこちらが悪い。ただ、こんなことを言ってはヒンシュクを買うだろうが、何か自分のせいではないような気もした。昔、轢かれたことのある友人が、「車は鉄の塊、人なんて無力」と言っていた。生と死は笑えるほどに近い。車の同乗者には、生きててよかったなぁ! と半ば怒った口調で言われた。果たしてそうなのか。苦しんで生きるか、知らぬ間に死ぬか、どちらが良いのか。よくわからない頭のまま先輩の家に遊びに行き、帰ってからおみくじを捨てた。馬鹿にもほどがある。
 “WWⅢ”がツイッターのトレンド入りした日に、リニューアルしたみなみ会館で映画「AKIRA」を見た。第三次世界大戦で荒廃・復興した2020年のネオ東京が舞台である。東京オリンピックの開催まで予言されていて瞠目する。作画の緻密さと色彩の美麗さ、展開のスピードが尋常ではなく、見るドラッグのようであった。見に来ていたのは意外にも20代の若者が多かった。なぜか終了30分前に入ってきた女性3人組もいた。目がぐるぐる回って、もう何が何か訳がわからなかった。溢れそうな鍋に蓋をしたところ、その蓋の上から具が降ってきた。そんな脳内で、世界の終わりというよりは、自分の終わりという感じだった。翌日から仕事だったが、変に興奮して夜中まで寝付くことができなかった。
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lucewizard27 · 6 years
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Scrap Days
 古い紙特有の匂いがする。埃っぽいなと呟いて、ここに居るぞと主張する。ばさばさと音を立てて落ちて来る紙の資料の向こう側で、「あいよ」と聞き慣れた声がした。資料探しを手伝いに行ったまま戻らぬ相棒を捜して踏み入れた芸術家どもの魔の巣窟は、徹夜続きのアルコールの匂いと僅かに珈琲の匂いと交じって煙草の煙と、妙に甘い匂いがした。声、らしきものは先程返事をしたもののみで、後は唸り声ばかりが響いている。踏み入れてはならない場所に来てしまったような気がしても、何時だって後の祭りだった。そもそも、ここカルデアでは珍しくもない光景でもある。ぱっと思いつくだけでも、数多の国から色んな時代の者達が集まっているのだ。文化のサラダボウルだと言うと、エジソン辺りが合衆国の建国について一言申して来そうな気もするが、安心して欲しい。発電マニアどもはエレナ女史の付き添いで『ちょっと』遠出している。何事もマハトマのお導き、大丈夫だ問題ない。 「友よ、」と声が聞こえた。意味のある音だ。視線を向ければ、平常からしてすでに色の白い名探偵中の名探偵が、迷探偵面をして視線を空に彷徨わせていた。考えるまでもなく、何処かに中身が旅立っているようだと頷く。探偵が座るこの部屋で一番高そうな革張りの赤いソファは、何をひっくり返したものやら濡れたような染みの痕がある。すぐ横の丸い猫脚のテーブルの上には、「 absinthe 」とラベルの張られた謎の瓶が幾つも空になって転がっていて、猫脚ににゃあとも鳴かない童話作家が頭を預けて低い声で唸っている。寝心地が悪いのだろう。そう言えば静かだなと辺りを見回せば、劇作家は据わった目つきで種火はもう食べさせないで欲しいとぶつぶつと呟いており、心持ち腹が膨れているような気もした。いつものメンバーだなと安堵したところで、ここでは見慣れぬ音楽家の二人が無言でダイスを転がしてカードを出しあっており、やれ「産地チェック」だとか小さい声で呟いている。唯一正気らしい復讐者、いいや、影のどうしようもない相棒はこてりと首を傾げていつの間にか目の前に立っており、「どうかしたのか共犯者よ」とそう言いながら卒倒した。末期だ、とてつもなく世紀末だ。なんぞかの合同の死がどうとか食堂でこのメンバーが会合をしていたのは知っていたが、謀反でも起こすつもりか。いやいや、と首を横に振る。そこでもう一つ。 「ロビン!」  素直に名前を呼んで助けてくれと主張を最大限にする。早く連れ去って欲しかった。だってここは、とっても教育に悪い現場だ。 「いや、まあ、なんです?締め切り前だから助けて欲しい、時給が出るってんでして。このご時世何かと入用でしょ、お互い。いざって時の貯蓄みたいなもんですよ。」  彼の言い分はこうである。別に悪くないし、仲間との交流を深めるのは今までの彼を思えばいいことだろうと頷いた。ロビンはそんな、……カルデアのマスターを前にして、盛大にため息をつきたいのを堪えた。朴念仁とは言うまい。気の使い方は人それぞれだ。好意に鈍感でなければ、発狂しかねない程パーソナルスペースを侵されているのにこの子供は指摘しない。できようもないのであろうが。今だって、個室に二人きりという環境がどうのとマスターである子供を思って、「保護者」と主張する何名かに視線をすれ違いざまに向けられた。マスターの部屋に誰かがスタンバイしているのはいつものことだ、と誰もが理解している筈だと言うのに。そもそも、保護者と主張している何名かというか正直なところ、ロビンにとって源の大将は頭の痛い種の一つではあった。アジア人の見た目が幼いということを抜きにしても、マスターである子供は生前のロビンよりは明らかに年下だった。懐かれるのは気分は悪くなかったし、距離を縮めれば時々甘えるような言動をするのが良かった。そういう趣味を持ち合わせているわけではないのだと言い切れるが、初めてありがとうとはにかんでくれた時は一瞬息を飲んだものだ。だって、ちっとも、この子供は心から笑うということをしなかったから。  以来、ロビンは保護者ではないが傍に居る。駄目そうだなと判断すれば手を伸ばすし、まだ頑張れそうだと思えばただただ見守っている。騎士中の騎士である円卓の面々に、「忠義あふれる行いだ」などと評された時は本気で喧嘩になりかけたが、特にマスターに報告はしてはいない。だって、ロビンは騎士にはなれない。柄でもないというのもあったが、主義に合わないのだ。何処にでも居て、ただ学校に通い、どうということもなく過ごせる筈だった子供。だから誰かが守らなくては、勿論、別にロビンは自分がそうでなければいけないとは思っていない。顔を隠して、影のように付き従う復讐者のような相棒にもなれない。何もかもが中途半端な立場で、でもそれでも英霊だから。幸いただの人間に負けるようなことは在り得ない。いつかいつもの日常が戻る時、その日に備えておくのだ。抜け駆けだとは誰にも言わせるつもりはない。これは正当な報酬なのだから。 「時間延長料金は貰うつもりですけどね。」  きょとりと瞬いた子供にロビンは笑いかけて、アンタにとっても悪い話じゃないぜと囁いたのだ。  ごう、と風が吹く。白い大地に雪が降り注ぎ、果ては見えない。今どこに居るのかと問おうとして、口を閉ざした。思考が明瞭になる。懐かしい瞬間は程遠い。次の氷雪の大地へと向かう筈だった一行が、不意に妙な隙間に迷い込んでから数日。時間経過はまったくない謎の領域で、本来であれば夏だった筈の日々を過ごしている。――ルルハワってなんだっけ、妙なワードが過ったが忘れた。忘れることにした。あまつ、NYに行きたいかあと声が聞こえた気もしたが、全くの幻聴であろう。 「先輩、良いお知らせと悪いお知らせがあります。どちらからお聞きになりたいですか。」  洋画でよくある台詞って、使ってみたいけど現実に使おうと思うと使えるタイミング全くないよね、なんて会話をしたのが五分前だった。頷いていた探偵に、思わず二度見をしたがこれも気のせいだろう。だと言うのに、愛すべき後輩は天然を惜しみなく発揮させ、結果的に場の空気を和ませることに成功していた。これを奇蹟と言わずして何と言おうか、そんなムニエルの叫び声も気のせいだろう。なんだっけ、これ、いつかの惨状に似ているなと立夏は思ったがなかったことにした。シリアスな状況が続かないのは仕方のないことで、空腹すら存在しないこのただ白い景色が続く退屈な時間は、精神的にひたすら摩耗するからなのだった。何の肉を使ったか当てよう、所長のお手製料理コンテストはすでに行った。マシュのましゅましゅコントは可愛かった。ダヴィンチちゃんのうんちくトークはもうマニアックなのでやめて欲しい。様々な要求があったが、ムニエル氏のお悩み相談コーナーは異常に盛り上がった。スタッフの探偵と接する時の会話のテンポが難しい、年頃であるマシュと立夏の情操教育上に正しい行動とはだの、割と平和じゃないかなと立夏が遠い目をしたくらいには時間が経過している、筈である。曖昧な時間が、焦燥感へと変わる。その瞬間はすぐそこだとわかっているのに、何も出来ずにいた。 「……良いお知らせは、特異点を発見したことです。悪いお知らせも特異点を発見したことです。」  つまりどういうことだってばよ、と立夏は瞬いた。うっかり忍者のような物言いをしたなと思ったものの、誰も同じ国の出身者がいなかった為にそのネタは通じなかった。唯一、ムニエル氏だけが口元をにまにまとさせていた。 「つまりだね、立夏くん。特異点が見つかったんだ。この何もない筈の氷雪の大地の上に、突如として現れたんだよ。」  ドクターみたいな物言いをしたダヴィンチが、咳払いをした。意識をしたのかもしれない。立夏は小さくはにかんで、こくりと頷いた。後にすることはわかっている。特異点があるならば調査をする必要があった。何か不測の事態が発生していることは確かだったから。  そうして氷雪の大地に踏み入れた途端、立夏の足は緑に覆われた大地に辿り着いたのだ。あっという間だった。まるで目隠しをされていたかのように、そこに在った。ぶあ、と生々しい生き物の気配が襲い掛かる。情報量は急に多くなり、立夏は一瞬眩暈を覚える。でも、懐かしいと感じた。何故だろうと首を傾げた横に、ダヴィンチが降り立つ。上を見上げ青い空を、周りを見回し木々の木漏れ日を、耳を澄ませて鳥のさえずりを。「なんて、うつくしい」と幼い声でダヴィンチが言った。立夏は頷き、思い切り息を吐き出して、続けて胸いっぱいに吸い込んだ。冷たくない、温かな空気だ。マシュが恐る恐る降り立ち、探偵ことホームズは眩しそうに目を細めた。探索はいつも通り、二人で。何かあるかわからないと言う割に、ダヴィンチは危険性は低いと思うよと確信をもった様子で言い切る。ホームズは「成程、」と妙に嬉しそうに笑うのだ。 「常々、思っていたのだがね。会いたい、と言葉にしない理由を。成程、確かに願うまでもなかったわけだ。」  きょとりとする立夏に、ホームズは「さあ、行ってくるといい。懐かしい旧友に会えるだろう」と満面の笑みで言う。立夏は逆に警戒心を高めてしまいながら、マシュの手を強く握った。おや、と眉を跳ねあげたホームズは、今の言葉の何処に警戒心を高める理由があったのかということについて、すぐにダヴィンチに視線で訴えた。ところが全く伝わらず、ダヴィンチはお土産を楽しみにしていると手を大きく振ったのだった。  歩いて、歩く。踏みしめる大地の上に足跡が残る。雪に埋もれてすぐには消えない。振り返れば帰る場所へと通じる道筋はすぐにわかった。迷いそうでいて、迷わない程度にわかりやすく誰かが踏みしめたような小道があって。恐らくこの森の何処かに森の主が居るのだろうと容易に察せられた。特異点と言うからには敵も居るだろうと思ったのに、二人の行く手には何も遮るものがない。あるのはただ木々と、諸動物の気配と。人里を離れて、迷い込んだ森。そんな気分にさせられながら、立夏は歩みを進める。こんな風な場所を皆と歩いたなと思いながら、懐かしむ余裕すらでてきた。野営をすることはないだろうが、あまり遠くへは行かない様にしようかと手を繋いだマシュを振り返る。 「先輩、パンでもちぎって歩けばよかったですね。」  誰かに捨てられたわけでもないのにマシュがそう言って、立夏は食べる方が建設的��ゃないかなと肩を竦めた。色気より食い気だからと言い訳をしてみて、マシュをちらりと見て。マシュはそれでも先輩と一緒なら、と笑うのだった。森の木々は時折かさりと音を立て、二人はその度に足を止めた。でも、その度に正体までは掴めずに、必死に気配だけを辿った。まるでわざと残されているような痕跡、歩いていた足が途中から走り出して、無我夢中に。アプリコット色の髪が揺れたのが見えたら、もう駄目だった。  白衣が、翻って。困ったように笑って。樹皮に縦に割れ目の走る、赤い小さな果実を無数につけた一際背の高い木の下で。その人は申し訳なさそうに、そこに居るのだ。 「「ドクター!」」  声が揃った。繋いでいた手もそのままに走って、押し倒さんばかりでしがみつく。誰なのかも、本人なのかもわからないまま、感じ慣れた気配ただそれだけに縋りつく。涙腺が緩んだ。頬を勝手に伝うものは止められずに、恋しくて寂しくて、手を伸ばしても届かなかったその人の名前を呼ぶ。ロマニ、ロマン、永遠に消えてしまった人。助けられなかった二人。後悔はいつだって尽きない。その中でも前所長とドクターだけは、二人に焼き付いているのだ。半ば呪いのように。 「……申し訳ないけど、先に言っておくよ。ボクはロマンその人ではないんだ。生前、ダヴィンチちゃんからのお願いで、ボクはボクのAIを造っていてね。だからこれは、ボクの代替品と言うか……データの集合体でしかない。この体は確かに人間によく似たものだけれど、年を取ることはない。あ、でもボク達が旅をした日々のこと、これまで二人がここに至るまでのこと。全部把握はしているよ。何せ、これはボクの我儘でもあるんだ。形がどうであれ、ボクは君達のつくる未来が見たかった。」  両腕は二人の背に回り、疑似的な回路で体温が点った手の平が二人の背を撫でる。撫でて、それだけでは足りなくて。頭やら頬を撫でて、触感を確かめるように。「柔らかいな、女の子だもんね」と言えば、マシュに無言で睨まれたりもして。 「オリジナルのボクは、立夏くんとマシュのことをとても愛していた。データの集合体であるボクにあるこの感情を本当だと信じてくれるなら、ボクだって二人のことが大好きだ。……そういうわけで、」  少しだけ間をおいてロマニは言うのだ。 「戦闘に役立てるかと言うと全くなんだけれどね。ああ、本来のボクよりはその辺はマシになってるけれど。……―――なにより、おかえりって言えるんだ。また、キミ達に。」  また零れて来る涙を拭って、マシュが縋り付く勢いでしがみつく。何処へも行かないでもう二度と、なんて言葉を言わなくてもきっと伝わっている。偽物かかどうかなんて判断するまでもなかった。二人にはわかっていたから。  帰り道すがらにロマニを挟んで手を繋いで歩く。両手に花だと立夏が言うと、「確かに若い子を連れて歩くのは、気分はいいな。」などと神妙な態度でロマニは頷く。積もる話もあったが、いつものようなやり取りが何よりも。立夏が楽しそうに話して、マシュがロマニにほんの少し甘えた素振りをして、ロマニが困ったように笑って。何時だって、ここにダヴィンチが居て、メンバーは入れ替わっていったりもした。でも、ロマニが居なければやっぱり駄目なのだ。おかえりの声がないと言うだけで、踏みしめる足は心細くなる。もう大丈夫歩いて行けると思っていたのに、こんな風にされてはもう駄目なのだ。優しさに飢えていたわけではない。新所長や、スタッフ、ホームズもダヴィンチだって。こんな状況であっても、尽きぬものだ。人の優しさ、温かさ。触れ合って、例え壊してしまう世界の向こう側であっても。もしかしたら狡いのかもしれないと立夏が言うと、マシュが不安そうにロマニを見上げた。ロマニはやっぱり困ってしまったように笑って、 「というか、ボクそのものはボーナス支給みたいなものなんだ。そもそもの発端は君達もよく知る彼のお願いからで、ダヴィンチちゃんとボクは相応の対価と引き換えに実現したに過��ない。それでも有り余る資源はこうして今目の前にあるわけなんだけど、……よく考えてごらん。森、目隠し、そして、――イチイの木。」  今の今まで歩いて来た方向を振り返り、ロマニは嬉しそうに口にする。 「サーヴァントには好かれていないってデータがあったけれど、記録を読む限りではそうではないと思うんだ。少なくとも、『認められていた』ってね。何よりボクはあの彼にそう願われたことが、何よりも嬉しい。」  好かれているとは思わなかったのだと語る口調は楽しそうでもあって、訝し気に見上げるマシュの手を揺らして、ロマニはまあまあ、と宥める。歩いて、歩いて、その内に森の終わりが見えてきて。またふわり、と幻影のように森が消えそうになったところで、ロマニが二人の手をやんわり解いて振り返り叫んだ。  「ロビンくーーーーーーーーーーーーーん!やっぱり二人に黙って置くのはかなり無理があると思うんだ!大体使い切れないリソースを廃棄するのはもったいない。限りある資源こそ有効に使うべきだ。肉体のあるロビンくんなら、戦力としても護衛役として十分な筈だろう?!」  ぶっと噴き出したのは立夏で、マシュはぱちぱちとしきりに瞬いている。一方、叫び声の木霊する森はゆるゆると消えて行き。やがてぽつんと緑色のマントを纏う人影へと姿を変えた。あの森そのものが彼の宝具だったとは、まさか思いもよるまい。立夏は何か逸話に大幅な変更でもあったのかと首をひねるが、勢いよくフードをとったロビンは舌打ち交じりに言い放つ。 「仕様変更でも何でもねえっての。こちとら、持ってるところからせっせとバイトをして隙間産業しながら溜め込んだんだ。聖杯?上限迎えてるってのに、人に捻じ込んで来たのは何処の何方でしたでしょーか。」  じと、と見つめる視線に立夏は何と無く気恥ずかしくなり、ロマニの後ろの隠れた。何だかビミョーなお年頃のような反応をされ、ロビンは閉口する。今それか、今になってそれかと内心で突っ込みつつ、ロビンにしては積極的に歩み寄って襟首をつかんで引きずり出せば、合わせる顔がないと来たものだ。ぼそぼそと語る言葉を繋ぎ合わせれば、もう会えないと思っていたから、だの、いつかまた会えたらいいとは思っていた、だのと。 「立夏くん、そこは素直に会いたかったでいいと思うんだ。データから見ても、こういうのはリリカルな展開を経てメイ・キングなだけにメイキングラブになると思うんだ。」  ロビンがついロマニの肩を軽く小突いた。流石に今のはなかったな、とお互いに視線を交わしたところで、マシュが咳払いをし、 「つまり……、どういうことなんでしょうか。ロビンさんは、あのカルデアに居たロビンさんなんですか?」 「まあ、なんです。宝石剣をちょいとレンタルしましてね。出所については聞かないでくださいよ。面白くもない苦労話が付録につくだけだ。――あー、そもそもあの宝石剣ってのは平行世界の」 「ロビン、もっとわかりやすく。」  立夏がかみ砕いてくれと言うと、そうでしたね、とロビンは立夏の頭を撫でる。こういう時、孔明大先生が居たらなとロビンは思うのだが、居ないものは仕方あるまい。 「宝石剣で平行世界からマジックパワーを集めたよってところですかね……」 「雑だね。ロビンくん。」  ロマニに雑などと言われると、ロビンも思うところはある。思うところはあるが、突っ込みを返したところで泥沼になるのが目に見えていた。まじっくぱわあ、とぼやいた立夏はじーとロビンを見上げている。 「そんなに熱心に見つめたところで、ハンサム顔があるだけですよ。」 「クラスがキャスターになったってこと?」 「違うな???」 「でもドルイドの関係なら、キャスターわんちゃん。」 「どこぞの御子様でもあるまいに、木を燃やすなんて真似しませんよ。一面焼け野原にでもなっちまったら、隠れる場所なくなるでしょうが。」 「あー、成程。そういう流れでなしなんだ。」 「いやまあ、どっかの誰かが新たな逸話でも発見したなら在り得ない、とは言い切れないけどな。…………、この話今必要だったか?」 「あんまり。」 「ですよね。」  成程と頷いている立夏の調子が相変わらずマイペースだなと思いながら、ロビンはふっと視線を逸らす。すると目に入ったのがにやにやしているロマニと、したり顔のマシュなのだから手におえない。まだそう言うんじゃないと主張したところで、もう手遅れだろう。ダヴィンチが顔を覗かせているのが遠くに見えるし、ここから待ち受ける盛大な言い訳と、新所長への御目通りと。これからのことを思えば、決して容易い日々ではあるまい。でも、立夏はそこに居て、守りたい者とその日々は此処にあるから。
 かくて、愛と希望の日々はまだ続き、旅はまだまだ終わりそうにもない。ロビンは冷たい曇り空を見上げ、肩を竦めて。仕方なさそうな素振りで笑って返して、いつもと変わらない素振りでそこに居るのだ。
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love-ereron · 3 years
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