この感想はアンメモバベル月白の既刊を全て読んだ人間のネタバレ配慮なし感想です。
相変わらず読みながら書いているので色々ご容赦を。この前のate2乾燥よりはマシな気がする………。
それでは以上大丈夫な方のみお先へ!
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〇──先触れ
この2ページで世界観に引き込んでくる古宮先生はやっぱりすごい。わからないものを散らして行くとその先も読みたくなる。そしてまた、ページをめくるのだ。
一──血汐事件
『これは平穏な日常に潜むささやかな怪奇の話ではなく、怪奇が当たり前のものとして定着した変質後の世界の話でもなく、今まさに街の生活に流れ込んできている異物との──闘争の話だ』
↑のっけから好きなんですけどどうしたらいいですか? 取扱説明書ありがとうございます。
当たり前のように黒いリボンに会釈する二人。もう怖いが?
これは個人的な話なんですが綾香さんの方向音痴、めちゃくちゃ覚えがあるんですが、それに道案内までしてくれてる蒼汰君優しすぎませんか!?!?!
幼女との出会い。そして普通に力が強いゴリラ蒼汰君。そしてめちゃくちゃ通学中に人助けしてて草。
そしてとりあえず行ったら血まみれの学校。え?
『もし、何かの入口に白線が引かれていたなら、その先に入ってはいけない』
↑いいですね〜〜〜!!!!! ホラーでは大体導入でこれに気づかず入ったDQNかカップルが酷い目にあったところから話が始まることが多いです。でも蒼汰君目線。新鮮で良き。
そして普通にこの電話は怪異の罠では? でもたった一人の家族のピンチ、行かないわけにはいかないよね。
いや、残念でした♡ 体欲しいなら怪奇を100体滅ぼしてね♡って導入やば。うける(急に語彙を無くした)
二──禁忌
赤バスの噂。最高!!!!!
ちょっと蒼汰くんwwwwww
記憶屋〜。
寄り道しまくっている蒼汰くん花乃ちゃんに追い抜かされちゃうの……なんて言うかこう。……巡り巡って花乃ちゃんのためになっているのだろうか。
バスの前に立ち塞がるの怖かった蒼汰くん、いや普通の男子高校生ならそうだわ。普通だわ。
自分の使ってる呪刀のことよく知らないの、普通に怖くないですか? と思うんだけど後でやばいことなったりするんかな……。
井上きさ子ちゃんの張り紙、そのあたりからだんだんとおかしくなって行くのいい感じの怪奇で楽しい。
『久しぶり、蒼汰くん。覚えてる?』
↑怖い。
一妃ちゃんの第一印象、怖い。なんかごめんなさい。
関係ないんだけどスポーツバッグに入ってる花乃ちゃんなんかシュールでは? 生首持ち運んでる蒼汰くんmいやこれは突っ込んだら負けゲームか。やめます。
『どこにもいないよ』
特定の言葉に反応する怪奇、好き。
『怖がると向こうが喜ぶだろ』
かっこやみ
とりあえず核がわかってさえ仕舞えば物理で叩くの、やっぱり古宮先生である。
三──三叉路
怪奇の大安売りというパワーワード。
一妃ちゃん神出鬼没怖くないですか……ずっと怖がっててすみません。
白いヒヒ、何してるんだろうな。見てるだけの怪異結構好きです。
そういえば監徒ってなんなんだろって思ったタイミングでちゃんと話出てきた。すごい。
小さい頃の友達って言っても、人間かどうかってわからないよね。
白い肉塊って普通に怖くないですか? なんかぶよぶよしてそう。
『怪奇を見にきたんだから怪奇だと思うよ!』
↑それはそう
『とこよつじ』
こわ……。
正気が頑丈なのはさすがにウケる。
そしてプードルプードル言い出す蒼汰くん。結局プードルみは排除された。え、なんだったの? プードルが怪異?
→結局プードル呼ばわりは直りませんでした。
鍋焼きうどん過激派。なんか気持ちは分かる。
監徒でたーーー!!!!
四──祟り柱
えっあっという間に読んじゃった。あのキャラ紹介の一番左の人ってそうですよね? えっ? え?
面白かったです。私はホラーが好きなので結構そういうのを漁るんですが、人の声を真似して中に入れてもらおうとする怪異ってかなりの数の話があるんですよね。まぁそれだけ怖いのか、それとも本当にそういう怪異が多いのか。私には全くわかりませんが。
有名なのは『赤マネ』ってやつです。
家の扉を知り合いが叩く。その人の声で名前を呼び、開けてくれと頼んでくる。家族が相手だと鍵持ってるのに? と首を傾げたりで気付いたりして難を逃れる、みたいなパターンが多い。その手の怪異はこちら側が招き入れないと入ってこれないらしいのでそうやって知り合いの真似をするんだそう。
なぜ赤がつくのかは怖がった部屋の主が真似をされている人間に連絡を取ったら、ドアの前に赤い何かが張り付いていたという証言から来てるらしいです。
定番ですが、色んなところで話されている物だともしかして本当に……という期待ができていいですよね。
五──五人娘
吉野さんの話をしていたりなどしていた。いやのっけで謎の怪奇と戦ってたけど加月くん顔可愛すぎない? 二色先生、ありがとうございます。
血汐事件は他と違って異世界由来? というのは古宮先生が異世界からの干渉が好きなのかな。アンメモ世界もそうだけど、なかなかに多く出てくるキーワードな気がする。
水筒からお茶注いでくれる加月くん、すき。
武器携帯するのに存在しない剣道部出してくるの、うける。
陣内くんは巻き込まれ体質なん? せっかく白いヒヒから離れたのにかわいそうだな。なぜか床辻の禁忌に巻き込まれる。かわいそ(大事なことなので二回)。
ヤバヤバ呪刀。加月くん思ったより言葉のセンスが面白い。すき。
水晶玉、撃っていいんじゃないかって適当すぎでは?
見える人間だから当たりをひきやすい陣内くん、可哀想。強力スパムの怪奇、ほんと面白い。
変なところで折れたりしないでくれ。笑う。
怪奇のスクールシューティング、語彙!!!!
怪奇の説明してくれる一妃さん、ありがたい(さん)
『え! じゃあどのくらい好き?』
↑嫌いじゃないがじゃあすき? になるの可愛すぎる。
うーん、五人娘の話、めちゃくちゃ面白かった。それにしても空っぽの神社に友達を閉じ込める女の子五人、普通に怪奇とか関係なくめちゃくちゃ怖くないか?
六──践地の儀
一妃ちゃんの記憶😭😭😭😭
蒼汰くん、吉野さんに会ってたんだ。そしてようやく思い出してきた一妃ちゃんと遊んでた記憶(ほんとに出会っててよかった)
花乃ちゃん😭😭😭😭😭😭
儀式するらしいよ。ペンダント嬉しそうにしてる一妃ちゃんかわいいな……ほんとにこれから儀式なんてすんのかな。
常世=異世界はまぁ間違ってないと思うし普通にあの世ってのも別の世界と思えばそれが当たり前なのかもしれないなとふと。。。
『一妃が花乃を普通の人間として大事にしてくれたことがひどく嬉しかった』
↑うわぁぉぁぁぁ!!!!!!!
色んな呪いが解ける蒼太君。よかった。
『少なくとも俺の分だけでも公平にしないと、一妃に向き合う資格に欠けると思うんだ。』
↑すき。すき。すき。
急に一緒に暮らさないかって言い始めたんだけど!?!!る、、!!?、?、
ひとから認識されにくくできる一妃ちゃん。やば。
え、狩衣着てる加月くんみたい! 見たい!!!! てか白いヒヒここで出てくる!?!?
加月君母も綺麗なのか、綺麗家系か。
普通に戦闘始まってて引いた。
p355の挿絵、めっちゃよくないですか???????????? 蒼汰君は俯瞰で吉野さんは煽り。最高では? 二色先生ありがとう。
綾香さん、こんなタイミングで、まじか…………嫌な予感しかしない。
吉野さんとの戦い、いいですね。あと、太鼓の音が鳴り響いた、というタイミングで頭のどこかで「ドン」という音が響く。明瞭な想像ができる舞台。
うわーーーーーーーーーーーーーー禁忌ーーーーーーーーーーーうわーーーーーーー。
七──継承
吉野さんって、下の名前だったんかーーーーーーーーーーーーー!!!!!わざとだとは思うけどおおおお!!!!
吉野さんとの蒼汰君の境遇似てるの辛いな。ていうかやっぱり、好きじゃん……最初の顔だけ見てなんでこんな引き当てるん……。つらいな……。綾香さんのこと見た時に嫌な感じしたけどやっぱりか……って感じだな……つらいな……。
100年も持たなそうってそれ、夢見さんのこと分かってたんか????????? ひどいなぁ……。
夢見さんがどうなったのか見ると割としんどいな……花乃ちゃんどうなってるんだ……でも花乃ちゃんは生きてるしな……。
自分の名前言わされる蒼汰くん。普通にピンチだった。
一妃ちゃんの前の迷い家主人、夢見さんだった?
白線が、くるぞーーーーー
八──白線
やっぱり一妃ちゃん昔会ってなかったんか!?、!!??、、?! ていうかずっとお姉さんだったんか!?、!!? 誰なの!???? こわい!!!!
夢見さんんンンンンん
お姉さんだった、よかった……。
え? ちがう?(大混乱の女)
九──異郷
一妃ちゃん……おぬし、、、、、、、、。こ……こわ……。人ではない世界外の存在の思考、そんなの人間に理解できるわけないよね。
体を返せって言われて、「え、やだ。」って答える一妃ちゃん…………。
蒼汰くんまじで、力イズパワー。これがちから。力が欲しいか、じゃない。蒼汰君の意志の力こそが運命に争う力そのもの。
十──呼び声
一妃ちゃんの姉、怖くないですか? 以上です。
ていうか普通にのっけの話から蒼汰君騙されてるんだよね。
事故にあった両親が助けを請う電話が本物かどうかわからないほど執拗な嫌がらせを続ける世界外の存在、こわすぎ。
二重の意味で花乃ちゃんは一妃ちゃんに助けられてるわけだけど、なかなか、色々……。
というわけで、読了。
綺麗に終わったけどちゃんと続きが読みたいお話でした! 私がホラー好きなのもあるけど最近だと一番好きかもしれない。ありがとうございました!
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【小説】氷解 -another- (上)
誰かを傷つけた後は、自分も傷を負う。
殴った後にその手が痛むように、それは代償として、必ず負うことになる。一方的に相手を痛めつけるなんて芸当はできない。そんな勝手は許されないのだ。傷つけた分は、傷つかなくてはいけない。たとえその痛みが、平等ではないにしても。
傷つけるとわかっていて手を下した時は、なおさら性質の悪い傷が残る。その音が聞こえてきそうなほどに心が軋んだのを感じたり、予想通り、耐え切れなくなった涙が溢れ落ちていくのを見たりするのは、そんな風に誰かを傷つけるのは、堪える。
いつだってそうだ。特に、怒りに任せて部下を怒鳴りつけてしまった後は。
「やっぱり、ここにいたのか」
窓辺に腰かけ、眼下に広がる灰色の街を見下ろしていると、そんな声と共に、缶コーヒーが現れた。手に取ったそれは温かく、俺は咥えていた煙草を口元から離す。
「貝塚……」
目線を上げて顔を見やると、その男は自分の煙草に火を点けるところだった。
「お疲れさん。さっきはすげぇカミナリ落としてたなぁ。聞こえてたぞ、こっちのブースにまで」
貝塚はそう言って、わざとらしく笑って見せる。俺は思わず、大きな溜め息をついた。
「……一週間前に、会議の資料を作るように頼んだんだよ。今日の、重要な会議に使うやつを。それが昨日になっても出来上がってこなくて、ギリギリになってやっと持って来たと思ったら、印刷はめちゃくちゃで、おまけに、数字は一年前のデータだった」
「高倉さんかぁ。可愛いし愛想もいいんだけど、仕事がいまいちなんだよねぇ」
「資料を全部作り直すには時間がなかった。そのまま使うしかないと断念したが、数字が間違ってるんじゃ、先方だってこちらを信用できないだろう。だから耐え切れず、高倉を責めちまった。『重要な会議だって言ってあったのに、どうしてこんな』ってな」
重要な会議の資料なんて、部下に任せず自分ひとりで作成すればよかった。もっとこまめに資料作りの進捗を確認しておけばよかった。前日のうちに残業させてでも資料を完成させて、修正する時間を今日に残しておくべきだった。
そんな後悔が、喫煙室に紫煙となって立ち込める。
「……そしたら、あいつ、なんて返事をしたと思う?」
貝塚は煙草を咥えたままで返事をしなかった。俺は続けて言う。
「『だって、私にとっては重要なことじゃないですし』、だとよ」
「……それで、高倉さんのことを思いっきり怒鳴りつけちゃったってことか」
そう言う貝塚の口元は笑っていたが、その目は少しも俺のことを馬鹿にしてなどいなかった。
「あんな怒鳴られたら、高倉さん、泣いちゃったんじゃない?」
「……泣いてたよ」
俺は力なくそう答える。
さっき見た光景が、まぶたの裏から焼き付いて離れない。高倉はまるで子供のように、大粒の涙を零して泣いていた。私は悪くない、とでも言うように、俺のことを睨んでいた。ぽろぽろ、ぽろぽろと泣きながら、本当は文句を言いたいのであろう唇から、絞り出すように「すみませんでした」とだけ言って、それでも眼光は鋭かった。俺を非難する目だった。
「可愛い女の子を泣かせちゃったら、そりゃあ、後味悪いよねぇ」
貝塚の苦笑に、同情の色を感じ取る。
所属する部署も役職も異なるが同い年の貝塚は、社内で気兼ねなく話せる同僚のひとりだ。ライターを貸してやったのがきっかけで、喫煙室で言葉を交わす仲になった。
「まぁ、そんなに落ち込まないで。縞本だけが悪い訳じゃないだろ」
「……そうだな」
どうやら、俺を励ましに来たつもりらしい。それをありがたいと感じる反面、隣の部署のやつに気を遣わせるほど部下を怒鳴りつけるなんて、と、また後悔が生まれる。放って置くとどこまでも、俺の内側から後悔ばかりが滲み出てくるような気がする。
「高倉さんの方には、井荻さんが行ってくれたから、大丈夫だと思うよ」
缶コーヒーのプルタブを開け、一口飲もうとしたところだった。俺は思わず、動きを止めていた。
「井荻が……?」
「ちょうど定時だったから。更衣室で高倉さんと一緒になるだろうと思って、残業しないでもう帰るように伝えたんだ。あのふたり、大学時代の先輩と後輩なんだろう?」
「ああ…………」
井荻。
井荻沙織。
俺は、あの澄んだ瞳に見つめられると、なんて呼べばいいのかわからない、複雑な感情を抱かずにはいられない。
だが貝塚からその話を聞いて、多少、安堵できた。あいつが高倉の面倒を見てくれるなら、安心だ。
「そういえば高倉さん、春までに辞めちゃうんだって?」
コーヒーを飲んでひと息ついていると、貝塚が思い出したようにそう言った。
「そうらしい。俺も次長からそう聞いた」
「高倉さん、辞めるってことを直接次長に伝えたのか。直属の上司は縞本なのに、それを飛び越して」
「『もうあんな人の下で働きたくないです』だとさ」
「ははは、そりゃあ確かに、縞本に直接は言えないよなぁ」
貝塚は煙を吐き出しながら、朗らかに笑った。それから妙に意地の悪い笑みを浮かべると、声を落としてささやくように言う。
「高倉さんが辞めるんだったら、うちの課の井荻さん、そっちに異動させちゃおうか?」
「余計なことしなくていいぞ」
コーヒーをあおる。缶コーヒーは、飲めないほど不味くもなければ、また飲みたいと思わせるような美味さもない。
「ああ、そうか。縞本も、春で異動なんだっけ」
「九州にな」
「大出世じゃないか」
「正直、あまり嬉しくはないな」
「寂しくなるね」
「……そうだな」
貝塚が灰皿に煙草をこすりつけ、口から最後の紫煙を吐いた。俺はすっかり短くなった煙草を灰皿の中へと落とす。
吹きつける風に、ガラスが小さく揺れる音がした。窓の外は曇天で、今にも雪がちらつきそうな、重たい雲で埋め尽くされている。風が強いのだろう、雲の流れが速い。
すっかり暗くなった街を行く人々は、皆黒っぽい装いに見えた。春の訪れなど、微塵も感じさせない景色。
だが、春は必ずやって来る。そしてその時、俺はもうここにはいない。
「コーヒー、ありがとな」
礼を言うと、貝塚は目を伏せたまま片手を挙げて俺に応えた。もう一本吸ってから仕事に戻るつもりらしい、次の煙草を咥えていた。俺は喫煙室を出て、三階の営業部フロアに戻��ため、階段に向かって歩き出す。
「――正直、もうあんな人の下で働くことに耐えられないっていうか」
廊下を歩いていたら、そんな声が聞こえた。ちょうど、女子更衣室の前だった。
「縞本さんって、正直、人の心がわからないんだと思うんですよね。……あ、」
更衣室の扉が開くと同時に、声の主は口をつぐむ。見れば、高倉志保だった。制服から着替え、今から帰社するところのようだ。まだ泣いていたのか、その目は赤く、潤んでいる。
高倉は俺の顔を見て咄嗟に、もうひとりいた女子社員の後ろへと隠れた。そのもうひとりは、井荻沙織だった。
ふたりは、今日俺が叱責したことについて、話をしていたのだろう。俺は思わず、足を止めていた。高倉は井荻の陰で動かないまま、こちらを見ようとしない。何か言葉を発しようともしない。
俺は彼女にとって、顔も見たくない相手なのかもしれない。口にした言葉が俺を非難する内容であっても、それを即座に謝罪する気にもならないのかもしれない。上司の陰口を叩くのは良くないことかもしれないが、それは恐らく、高倉の本心であるに違いない。
こんな人間の下で働きたくないと、そう言って泣く彼女を否定するのは、間違っている。退職を決め、次長にそう告げた彼女の感情は、本物だ。それをあれこれ言うのは間違いだ。少なくとも俺に、そんな権限はない。
だがこの苛立ちは、どこへ向かわせればいいのだろうか。
俺は小さく息を吸い、波立つ自分の感情を抑制する。
「井荻、」
「あ、はい」
呼ばれた井荻は一瞬、きょとんとした表情をしたが、すぐに返事をした。
「今日、行くのか?」
「はい。行きます」
どこに、と言わなくても、井荻はそう返事をした。ちゃんと通じたようだ。
「あっそ」
高倉のいる前で、それ以上の長話をする気にはなれなかった。俺は再び歩き始める。階段を登り、定時を過ぎたがまだ半数近い社員が残っている営業部フロアへと足を踏み入れる。
俺の机の上には、まだやらなければいけない仕事が積んであった。目の前の書類に集中しろ。自分にそう言い聞かせる。とりあえずは、今日の会議の大失態の後処理だ。どうやって先方の信頼を回復するか。まずは、それから考えよう。
「……人の心がわからない、か」
仕事に取りかかろうと思っているにも関わらず、先程の高倉の言葉をつい反芻してしまう。誰かからそう言われたのは、これが初めてという訳ではなかった。思い出す。土下座して、額を畳にこすりつけて頭を下げていても、罵声を浴びせられ続けたあの日のこと。
――あなたは自分のことが、図々しいとは思わないんですか。私たちの心なんて、あなたにはわからないんでしょうね。
そんな風に言ったあの人の言葉を、今でもときどき、夢に見る。その言葉は後悔となって、感情を掻き乱し、俺のことを痛めつける。
俺は誰の心もわからない。わかりようがない。たとえばそれは、上司に叱責された部下の、責任を逃れたいという甘い言い訳であり、あるいは、息子の自殺を止めることができないでいた、ふがいない親である自分たちへの怒りであり、もしくは、素直に感情を口にすることができなかった、恋人に対しての猜疑心だ。
俺はそういった誰かの感情を、わからないままでいる。わからないから他者を傷つけ、そうして、俺自身も傷を負ってきた。傷つけたのと同じ数だけ、痛みを感じた。
そしてそんな俺の心も、誰にも理解などされない。
だが、わかってなんてくれなくていい。共感も同情も、必要とは感じない。ありふれた安易な言葉で癒されたいと思うほど、俺はまだ堕ちてはいない。
「……わからなくって、結構だ」
そう、独り言をつぶやいたら、やっと仕事に取りかかる気になった。
今の俺にはすべきことがあり、それは誰かの傷を癒すことではない。
たとえそれが、自分自身の傷なのだとしても。
人間が自殺するきっかけなんて、ほんの些細なことにすぎないということを、俺は知っているはずだった。
ある年の、気が滅入るような雨と湿度の高い日々が終わらないでいた七月の初め、前職の会社で働いていた俺は、この春に入社した新入社員のひとりが自殺をしたという報告を部長から受けた。自殺した井荻公介は、俺が初めて受け持った部下のひとりだった。
その報告を受けた時、「一体、どうして」という疑問が湧き、そして同時に、その疑問を掻き消すかのように、「人が死ぬ理由は、大層なものとは限らないよな」と思う自分がいた。
井荻公介が自殺した理由を、俺は知らなかった。だが、彼が時折、暗い顔をして机に座っているのを見たことはあった。かと言って、死を覚悟して思い詰めているという風にも見えなかった。俺と話をする時はいつだって朗らかであったし、冗談を言って周囲を笑わせることだってあった。時間の空いた時や飲み会の席では世間話をすることもあったが、プライベートなことを深く聞いたことはなく、たとえばまだ独身だった彼に恋人がいるのかとか、両親や家族と上手くやっているのか、そういったことは知らなかった。
だから部長から、「縞本、最近、井荻くんに何か異変とかなかったか?」と尋ねられた時、正直に、「少し沈んだ様子の時もありましたが、深刻そうな様子ではありませんでした」と答えた。
その時、部長が妙に神妙な顔つきになり、「そうか……」と、独り言のようにつぶやいて深く頷いていたことに、俺は違和感を覚えたが、部長の様子が何を危惧しているのかはわからなかった。後になってから思い返してみると、恐らく部長は、この時すでに、この先に起こり得るであろう未来を予想していたに違いなかった。
井荻公介が自ら命を絶ったということはショックではあったが、それはどこか、俺の手が及ばない、遠くの出来事であるようにも感じられた。実際、その後の俺にできたことは、彼が受け持っていた仕事を整理し、他の部下たちに割り振ることだけだった。
仕事を片付けているうちは、彼がすでにこの世にいないという事実は実感できなかった。それは葬儀に参列している時だけは別であったが、結局、社内の自分の机に座っている間は、井荻公介は病欠で長期休養しているのと変わらない気持ちでいた。彼が突然の不在となって混乱したのは最初の一週間程度で、それを過ぎてしまえばいつも通り、机に積まれていく書類を右から左へと処理していくだけだった。
その状況が一変したのは、彼の両親が、彼の遺書を手に会社を訪ねて来た時で、そしてその時初めて、井荻公介が「上司からパワーハラスメントを受けていることが苦痛でたまらない」ということを理由に、自らの手で命を絶つと、そう書き残していたことを知った。
俺を含め、井荻公介と同じ課に所属する社員たちは、常務と役員が待つ会議室にひとりずつ呼び出され、面談を受けた。二週間にも及んだ聞き取り調査の結果、井荻公介に嫌がらせをしていたのは課長であったということが判明し、これには多くの社員がそう証言したことによって、ほぼ確定だと判断された。
確かに、入社直後から、課長と井荻公介は折り合いが悪かった。それは恐らく、ふたりの性格が真っ向から正反対であったということと、自身の学歴を鼻にかけている節があった課長より、さらに有名な大学を井荻公介が卒業していたということが、そもそもの原因であるように思われた。
俺は何度か、課長が井荻公介を指導しているところに居合わせ、時に過剰なのではないかと思うほど叱責をされている時、間に入ってそれを止めたことがあった。仲裁に入ると、課長はそれ以上彼を叱ることはしなかったが、「そもそも、井荻がこんな体たらくなのは、直属の上司であるお前がしっかりしないからだ」と、怒りの矛先を俺へと向けた。
「井荻には、俺からよく言って聞かせますので」と頭を下げても、俺に対する課長の文句はすぐには止まなかった。十五分以上にわたる説教から解放され、自分の席へと戻った時、隣の席の井荻は少しほっとしたような顔をしていた。課長にはわからないように、声を出さないまま「ありがとうございます」と井荻の口元が動いた時、俺は小さく苦笑して、「別に、気にすんなよ」と声をかけたものだ。
そうやって気にかけてはいたが、結局のところ、井荻公介は俺の目が届かないところで課長から嫌味を言われ、嫌がらせをされ、日々少しずつその心に傷を負っていっていたのだった。
同じ課の社員たちは、自らの上司を糾弾することを恐れ、「これは同じ課の人から聞いた話なんですが……」などという前置きを挟み、あたかもそれが、直接自分が見たり聞いたりしたのではないとしながらも、課長がどんな回りくどい手を使って優秀な新入社員をいたぶっていたのかを話した。それは、まるでクラスの悪ガキが考えつきそうないかにも幼稚なものから、思わず耳を疑いたくなるようなものまであったが、結局のところ、課長からパワーハラスメントが行われていたことには違いないと、役員たちには判断された。
そこで、ひとつの問題が持ち上がった。いけ好かないこの課長は、社長の遠い親戚筋に当たる人物だった。そういった後ろ盾があるにも関わらず、いつまでも課長のまま昇進しないのは、それだけこの課長が無能であるということの何よりの証明であったのだが、役員たちはこの課長を庇うことを決断したらしかった。課長が新入社員にパワーハラスメントをして自殺にまで追い込んだという事実は、会社の信頼の大きな損失に繋がり、ただでさえ低迷している直近の売上額がさらに低下するのは避けられない。そう考えた役員たちは、俺に貧乏くじを引かせた。
井荻公介に対するパワーハラスメントは存在しなかった。だが、直属の上司である俺には、監督不行き届きなところがあった。
結局、社内では「そういうこと」として処理がされた。
俺はその責任を負い、退職勧告の処分を受けた。それはつまり、俺が井荻を死に追いやったのだと、そういう解釈になってもおかしくはない結果だった。
その話を部長から告げられた時、いつも頼れる上司であったはずの部長が、なんとも悲痛な面持ちでうつむいていたことを、まるで昨日のことのように思い出せる。
「役員たちには抗議したんだが……。すまんな、縞本。俺の力不足だ」
「いえ……。井荻のことをもっとちゃんと見てやれなかった、俺にも責任がありますから……」
「すまんな……本当に、すまん」
「部長、もういいですよ」
「すまん…………」
部長はこのことがよっぽど後ろめたかったのだろう、「知人に会社を経営している人がいて、その人にお前のことを雇ってもらえないか、なんとか頼み込んでやるから」と、次の就職口の世話までしてくれた。俺の処分も、懲戒解雇にならずに勧告で済んだのは、この人の尽力があったからだった。
途端に、俺の両肩に、井荻公介の死は重くのしかかってきた。不思議な話だが、その重量を知って初めて俺は、井荻の死を実感として受け止めることができたのだった。つまりそれは、取り返しのつかない、拭い去ることのできない現実で、それは過去のものではなく、未来にまで影響を及ぼす絶対的な事実だった。
井荻公介の両親のもとへ、謝罪のために訪ねた頃、長かった梅雨はようやく明け、代わりに俺は、容赦のない日射しに焼かれ続けていた。
週末の昼下がりに訪れた井荻家は、外の熱気などまるで嘘のように、空気は重く凍てついていて、それは最愛の息子を突然失った両親の、怒りと悲しみが入り混じって吐き出される冷気だった。
異様とも思えるほどの存在感を放つ真新しい仏壇が置かれた和室で、俺は井荻公介の遺影と並んで座ったその両親の前、自分が彼の直属の上司であることと、社内にパワーハラスメントの事実はなかったということを伝えた。
その途端、ふたりは激昂し、俺のことを非難した。
「そんな言葉は嘘だ、公介は上司からのパワーハラスメントを苦に自殺したのだ」、と。
「公介は、私たちの最愛の息子は、あなたのせいで死んだのだ」、と。
「あなたが、殺したのだ」、と。
そうだ。俺の言葉は、真っ赤な嘘だ。井荻公介を苦しめていたパワーハラスメントは実際にあった。だが苦しめていたのは俺じゃない。課長だ。俺は以前から、あの課長が気に食わなかった。俺だけじゃない。社内で課長を好いている人間なんて、恐らくいない。皆、表立って声や顔に出さないだけで、あの人のことを嫌っている。なのに、誰も口出しできなかった。だから井荻公介は死んだ。俺が、俺たちが殺したのも同然だ。見ていたのに。聞いていたのに。誰も止めなかった。誰も助けなかった。だから、井荻公介は。自らの手で、命を――。
「沙織、そこで何をしているの」
井荻公介の母親がそう言った声で、俺は思わず、下げ続けていた頭を上げそうになった。目線だけ動かして仰ぎ見る。
和室の入り口に、ひとりの少女が立っていた。黙ったまま、こちらをじっと見ている。高校の制服を着て、エナメルのスポーツバッグを肩から提げていた。日焼けした額に、汗で前髪が張り付いている。今日は土曜日だから、学校は休みなんじゃないのか。部活動の練習でもあって、その帰りなのだろうか。
「帰ってきたら、ただいまって言いなさいって、いつも言ってるでしょう」
少女は俺と目が合っても、挨拶の言葉を発しないどころか、会釈のひとつもしなかった。ただ、何かを探ろうとしているような深い瞳で、俺のことを見つめていた。その仕草は、死んだ井荻公介に似ていた。それからやっと、井荻には妹がひとりいるらしいことを思い出し、この少女こそが、その妹なのだとわかった。
「もういい、二階へ行っていなさい」
父親がそう言うと、少女は返事もしないまま、俺からふっと目線を逸らして、廊下の向こうへと歩いて行った。やがて、階段を登って行く音が聞こえてくる。
「……すみません。今のが、娘の沙織です」
どこか落胆したような声音で、父親がそう言った。
「以前から、あまりおしゃべりな子ではなかったのですが、公介が亡くなってからは、口数がほとんど……」
肩を落として言う父親の姿は憔悴しきっていた。ついさっき、「出て行ってくれ。もう二度と、この家の敷居を跨がないでくれ」と、菓子折りの箱を投げつけてきたのが嘘のようだ。
だがそれは、そのひと時だけだった。父親はそう口にしたことで、息子が死んだのは、今目の前��いるこの男のせいだということを思い出したようだ。ぷつぷつと汗が噴き出し��いくかのように、俺への非難が始まっていく。
俺はふたりの前で頭を下げ続けた。何を言われても、会社から言われた通りのことを、言われたように繰り返した。パワーハラスメントはありませんでした。そういった事実は確認できませんでした。
井荻の両親はそれを否定し続けた。嘘つき、嘘つき。人殺し人殺し人殺し。息子を返して。私たちの息子を返して。
「あなたは自分のことが、図々しいとは思わないんですか。私たちの心なんて、あなたにはわからないんでしょうね」
母親が吐き捨てるようにそう言って、それから、わっと泣き出した。今日何度目かになる嗚咽を漏らしながら、不明瞭な声で息子の名を呼ぶ。
呼ばれた息子は遺影の中で、穏やかな笑みを浮かべている。その笑みは、もうこの先、絶えることがない。彼はずっと微笑んだままだ。実際の井荻公介は、もう二度と笑うことも、母親に返事をすることもできないのに。
「もう、お引き取りください」
父親が、耐えかねたようにそう告げた。
「あなたが来ることは、公介の供養にはなりませんから。もう、結構です」
窓の向こうから、蝉の鳴き声がする。母親はおいおいと泣き崩れている。俺が持参した菓子折りの箱が、ひしゃげて畳に落ちている。蛍光灯の点いていない、昼間でも薄暗い部屋で、仏壇の蝋燭の火がゆらゆらと揺れる。
ああ。
俺はこんな光景を、以前にも見たことがあった。
真奈が死んだのも、こんな暑い日のことだったっけ。
あんな風に遺影の中で、ただ静かに笑っていたっけか。
※『氷解 -another-』(下) (https://kurihara-yumeko.tumblr.com/post/634221127908098048/) へと続く
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