映画『恭しき娼婦』、『シーサイドモーテル』、『女は女である』
豊岡演劇祭3泊4日の旅や山下達郎のコンサートや新学期の始まりでバタバタしていたのでここに書くのが遅れましたが、映画を3本見ています。
『恭しき娼婦』と『シーサイドモーテル』と『女は女である』です。
『恭しき娼婦』(1952)はジャン=ポール・サルトルの同名の戯曲の映画化。フランスから取り寄せたDVDで見ました。
戯曲はニューヨークからアメリカ南部の街にやってきた娼婦リジーが部屋の掃除をしているところから始まり、彼女と一夜を過ごした男が現れ、そこから前々日リジーが列車で街に来る際、車内で揉め事があり白人が黒人を撃ち殺し逮捕されたこと、殺された黒人の仲間が白人たちに追われ逃げていることが明らかになります。
逮捕された白人は街の名士の息子で、リジーと一夜を過ごした男やその父親で上院議員の男は、黒人たちはリジーを強姦しようとしていたという嘘の証言をリジーにさせようとします。
戯曲は事件の状況が小出しに観客に伝えられるわけですが、映画はわかりやすさを重視したのでしょうか、リジーが列車に乗っているところから始まり時系列に沿って物語が描かれます。
戯曲の舞台は終始リジーの部屋です。登場人物はリジーと彼女と一夜を過ごした男とその父親の上院議員と逃亡中の黒人ほか数名。しかし、映画は列車内から警察署へ、さらにはリジーが働いているバーや上院議員の邸宅まで次々と場所が変わり、登場人物も大勢います。
映画はそうせざるを得ないのですかね、そんなはずはないと思いますが、閉鎖された空間で限られた数の登場人物によって演じられる濃厚な芝居が随分薄まってしまったような気がします。
ラストも違います。戯曲ではリジーは上院議員にうまく言い包められ嘘の証言にサインをしてしまいます。その夜、逃亡中の黒人がリジーの部屋にやってきます。リジーは黒人を匿おうとしますが、前夜ベッドを共にした男がやってきて黒人は再び逃亡。リジーは男を拳銃で撃とうとしますが撃てず、男がリジーを愛人として囲うと言い出し、自分の名前を名乗るところで幕が降ります(男はフレッドという名前ですが、それまでは名無しの権兵衛というわけです)。
一方映画ではリジーは黒人と一緒にアパートを出て、黒人をリンチにかけようとする人々から逃げて、警察の囚人護送車に乗り込みます。護送車の中で彼女は黒人を安心させるかのように彼の手をポンポンと叩きます。彼女は黒人を正当な裁判にかけ、そこで真実を証言する気だということなのでしょう。
つまり映画は騙されて嘘の証言にサインをしてしまったリジーが「正義」に目覚め、「戦い」に目覚めるという話です。わかりやすいし、後味もいいのですが、うーん、それでいいのかな。わかりやすく、後味がいいものにしようとして失ったものが多いような気がしてなりません。
このあたりのことは12月24日締め切り(!?)の『りずむ』の原稿に書こうと思います。
次に見たのは『シーサイドモーテル』(2010)。岡田ユキオなる人物の『MOTEL』という漫画を守屋健太郎なる監督が映画化したもので、出演は生田斗真、麻生久美子、山田孝之、成海璃子、玉山鉄二、柄本時生、温水洋一、古田新太、小島聖、池田鉄洋、山崎真実と非常に豪華。
海辺でもないのに「シーサイドモーテル」と名付けられた冴えないモーテルにやってくる宿泊客たちを描いた群像劇ですが、驚いたことにワタクシこの映画すでに見ていました。
そういうことって時折あるものですが、この映画に関してはラスト近くになってようやく「あっ! これ前に見た」と気づいたのですからいい加減な話です。
物語はーー
1)詐欺まがいの化粧品を売り歩いているセールスマン・生田斗真と部屋番号を間違えて教えられ彼の部屋にやってくるデリヘル嬢の麻生久美子
2)借金取りから逃げてきた山田孝之、成海璃子のカップルと、借金を取り立てにきた玉山鉄二とその手下の柄本時生と、拷問の専門家の温水洋一
3)スーパーの社長・古田新太とその若い妻・小島聖
4)キャバ嬢に大枚をはたきようやく旅行に連れ出した男・池田鉄洋とキャバ嬢の山崎真美
ーーという4組が織りなす群像劇。
決して面白くないわけではないのですが、以前に見たのを覚えていなかったことからもわかるように強い印象を残す映画ではありません。
やろうとしていることはよくわかるし、個々のストーリーも決して悪くないのに、いまひとつ跳ねないというのかな……うーん、どこがいけないんだろう。私好みの映画のはずなんですが……
『女は女である』は先頃亡くなった……というかスイスの施設で安楽死したジャン=リュック・ゴダーツの映画。アンナ・カリーナ、ジャン=クロード・ブリアリ、ジャン=ポール・ベルモンド出演のコメディーで1961年作。
『勝手にしやがれ』(1960)、『小さな兵隊』(1960)に続いてゴダールが撮った3作目の映画です。
ゴダール追悼の意味も込めて見たのですが、ちょっと驚きました。
面白いしわかりやすい映画です。
もちろんわかりやすいと言っても、ゴダールの映画としてはということですが、男と女は分かり合えないものだというコメディーで私好みです。
同棲中のカップルのアンナ・カリーナとジャン=クロード・ブリアリが喧嘩をして、「もう口をきかない」と宣言し、本棚から本を取ってきてそのタイトルを相手に見せることで罵り合いをするシーンなぞは笑えますし、ジャン=ポール・ベルモンドが「テレビで『勝手にしやがれ』をやってるから見逃したくない」と言うシーンや、カメオ出演しているジャンヌ・モローにベルモンドが「ジュールとジムはどうしてる」と尋ね、モローが「まあまあね(モデラート)」と答えるシーンも好きでした。
もちろん『勝手にしやがれ』はゴダール監督、ベルモンド主演の映画で、『ジュールとジム』はフランソワ・トリュフォー監督、ジャンヌ・モロー主演の映画『突然炎のごとく』の原題、「モデラート」はピーター・ブルック監督、マルグリット・デュラス原作、ジャンヌ・モロー、ジャン=ポール・ベルモンド主演の『雨のしのび逢い』の原題『モデラート・カンタービレ』のことです。
楽屋オチといえばその通りですし、知らなきゃ笑えないギャグですが、個人的には好きでした。
ラストもジャン=クロード・ブリアリが「お前は恥知らずな女だ(Tu es infâme チュ・エ・アンファム」と言ったのに対して、アンナ・カリーナが「私は恥知らずじゃないわ。私は女よ(Je ne suis pas infâme. Je suis une femme ジュ・ヌ・シュイ・パ・アンファム。ジュ・シュイ・ユヌ・ファム)」と答えるというフランス語を知らなければ笑えないような「infâme(アンファム)=恥知らずな」と「une femme(ユヌファム)=女」の語呂合わせで終わりますが、それもまたよし。
私は好きですね。
ゴダール入門にはいい映画かもしれないと思いました。
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フォロワーさんで、映画6本観たと言うのが上がっていた。自分も最大は確か6本でいつだったかなぁと探して見つけた。ずいぶんと前だった。この頃は、5本とかもやっていたけど、たしかに最近映画館引きこもりやって無いなぁ。 にしても、#シーサイドモーテル がある。これ、もう一回見たいのに、配信系に無いんだよね。 https://www.instagram.com/p/ByVRPQxAhsO/?igshid=48kvhn5sdslf
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メモ
2015年くらいからほぼ更新してないのでちょっとメモ程度に更新
ここ三年位で観て良かった映画
そこのみにて光輝く、紙の月、かしこい狗は吠えずに笑う、チョコレートドーナツ、たとえば檸檬、ソロモンの偽証、赤い文化住宅の初子、laundry ランドリー、マイ・マザー、百円の恋、花とアリス殺人事件、少年は残酷な矢を射る、マミー、シーサイドモーテル、リップヴァンウィンクルの花嫁、怒り、アズミ・ハルコは行方不明、後妻業の女、包帯クラブ、ユリゴゴロ、セトウツミ、アフタースクール、湯を沸かすほどの熱い愛、サムサッカー、ドラゴンタトゥーの女、ミッドナイト・イン・パリ、ロリータ、帝一の國、万引き家族、愚行録、エスター、ミリオンダラー・ベイビー、夜は短し歩けよ乙女、ケース39、友罪
また記録、感想書けるように
少しずつ更新したいな。
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シーサイドモーテル(映画)
※ネタバレ注意
漫画原作だけあってコミカルではあるけれどもブラックユーモア溢れたグロかったりエロかったりが少々強めの作品。
引用:
『海もなく山に囲まれているのに何故か「シーサイド」と名付けられた小さなモーテルを舞台に、その4つの部屋で繰り広げられる11人のワケアリ男女による愛と金と欲のダマし合いと駆け引き、そして様々な人間模様と葛藤をコミカルに描いた一夜の物語。』
それぞれの状況が上手くリンクしていて、上手いこと繋がっている感じが良く出来てるなあと感心しました。
名優揃いなだけあってキャラも立ってるしブラックな部分が大丈夫であれば、なかなか気軽に肩の力を抜いて見れる作品だと思います。
漫画の方は見た事無いけど、何となくサイケデリックな印象も受ける不思議な作品。最後まで間延びせず楽しめました。
シーサイドモーテル - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%83%BC%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%83%89%E3%83%A2%E3%83%BC%E3%83%86%E3%83%AB
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シーサイドモーテル
シーサイドモーテル [ 生田斗真 ]
価格:4665円(税込、送料無料) (2017/2/4時点)
解説
海もないのに“シーサイド”と名付けられた、山奥のさびれたモーテルを舞台に、偶然居合わせたワケあり男女11人が4つの部屋で巻き起こす騙し合いをハイテンションかつエキサイティングに描いたアンサンブル・ストーリー!
出演俳優
生田斗真, 麻生久美子, 山田孝之, 玉山鉄二, 成海璃子
動画視聴 予備 予備
予備
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予備
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2022年に見た映画(下半期)
というわけで下半期です。
7月(2)
・『ボヘミアン・ラプソディー』(言わずと知れたクイーンの伝記映画。面白いかどうかは……)
・『トスカナの贋作』(いかにもヨーロッパの映画という感じでした。)
あれ、急に減ったぞ。何があったんだろう。
8月(20)
・『賭けはなされた』(ジャン=ポール・サルトルがシナリオを担当した映画。)
・『マンダレイ』(またしてもラース・フォン・トリアー監督の映画。『ドッグヴィル』の続編です。)
・『ゴンドラ』(AV業界の大物・伊藤智生監督が大真面目に採った映画。ある意味、これも伝説の映画です。)
・『恐怖の足跡』(これも伝説の映画ですね。)
・『毒薬と老嬢』、『オペラ・ハット』(フランク・キャプラ監督の古き良きコメディ。)
・『王妃の館』(パリを舞台にした日本のコメディ。うーん……)
・『私はパスタファリアン、空飛ぶスパゲッティーモンスター教のお話』(ドキュメンタリー映画。まじめに見るべきか、ギャグとして見るべきか、よくわからない映画でした。)
・『三人の妻への手紙』、『幽霊と未亡人』(ジョゼフ・マンキーウィッツ監督の古き良き映画。)
・『嘘をつく男』(アラン・ロブ=グリエの映画。)
・『月蒼くして』(オットー・プレミンジャー監督の古き良きコメディ。)
・『俺たちダンクシューター』、『俺たちホームズ&ワトソン』、『マーシャル博士の恐竜ランド』(3本ともウィル・フェレル主演の映画。駄作、駄作、駄作。)
・『転々』(私が愛してやまない映画です。DVDを買ったので妻と一緒に見ました。)
・『グランド・ホテル』(古き良き映画であり、一つの形式を生み出した伝説の映画でもあります。恥ずかしながら初めて見ました。)
・『草原の実験』(ほう……なるほど。)
・『ホラーマニアvs.5人のシリアルキラー』、『タッカーとデイル、史上最悪にツイてない奴ら』(いかにもなタイトルですが、結構フツーの映画でした。もっとぶっ飛んだ作品が見たかったのに。)
9月(7)
・『機械仕掛けのピアノのための未完成の戯曲』(アントン・チェーホフ原作、ニキータ・ミハルコフ監督の映画。私が愛してやまない映画の一つです。DVDを買って見ました。)
・『ドラグネット、正義一直線』(つ、つまらん。)
・『ルームロンダリング』(ジャパニーズホラーですが、なかなかいいんじゃないでしょうか。)
・『スプライス』(好き嫌いが分かれるホラー映画です。)
・『恭しき娼婦』(サルトルの同名の戯曲の映画化。フランスからDVDを取り寄せて見ました。)
・『シーサイドモーテル』(初めて見る映画だと思っていましたが、以前に見たことがありました。)
・『女は女である』(ゴダールの初期のコメディ。わかりやすい!)
10月(3)
・『ラストナイト・イン・ソーホー』(おバカホラーかと思いきや、きちんとしたサスペンスでした。)
・『ホワイト・リリー』(中田秀夫監督の日活ロマンボルノ・ブースト作品。全然ダメ。どうした中田秀夫!)
・『遊びの時間は終わらない』(論外。)
11月(7)
・『アンチポルノ』(園子温監督の日活ロマンポルノ・ブースト作品。悪くはないと思います。)
・『断食芸人』(なるほど……)
・『マスカレード・ナイト』(『マスカレード・ホテル』の続編。うーん……)
・『モネ・ゲーム』(ラストは評価します。それ以外はちょっと……)
・『バッファロー66』(伝説のカルトムービーですが、私はちょっと……)
・『サボテンブラザーズ』(うーん、私はちょっと……)
・『屍人荘の殺人』(見てから読むか、読んでから見るか。私は読んでから見ました。)
12月(4)
・『映画版、あなたの番です』(論外。ドラマ版は好きだったのに……)
・『夢幻紳士、人形地獄』(いかにもなタイトルですが、いかにもな映画でした。)
・『D5/五人の探偵』(声優たちのあの演技は私は受け付けません。)
・『大怪獣のあとしまつ』(酷評を受けた映画ですが、そんなにひどいとは思いませんでした。)
月によってかなりばらつきがありますね。下半期は全部で43本。
上半期と合わせると115本ですか。年間100本を超えたのは初めてかもしれません。
来年はどんな映画と出会えるか、楽しみです。
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