Tumgik
#お歳暮は徳丸屋のお菓子の詰め合わせにしました
yoooko-o · 1 year
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15/12/2022
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2ttf · 12 years
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groyanderson · 4 years
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ひとみに映る影 第三話「安徳森の怪人屋敷」
☆プロトタイプ版☆ こちらは無料公開のプロトタイプ版となります。 段落とか誤字とか色々とグッチャグチャなのでご了承下さい。 書籍版では戦闘シーンとかゴアシーンとかマシマシで挿絵も書いたから買ってえええぇぇ!!! →→→☆ここから買おう☆←←← (あらすじ) 私は紅一美。影を操る不思議な力を持った、ちょっと霊感の強いファッションモデルだ。 ある事件で殺された人の霊を探していたら……犯人と私の過去が繋がっていた!? 暗躍する謎の怪異、明らかになっていく真実、失われた記憶。 このままでは地獄の怨霊達が世界に放たれてしまう! 命を弄ぶ邪道を倒すため、いま憤怒の炎���覚醒する!
(※全部内容は一緒です。) pixiv版
 ◆◆◆
 1989年十月、フロリダ州の小さな農村で営業していた時の事だ。 あの村で唯一と言っても過言ではない近代的施設、タイタンマート。 グロサリーを買いこむ巨人の看板でお馴染みのその大型ショッピングセンター前で、俺はポップコーン屋台付き三輪バギーを駐車した。 エプロンを巻き、屋台の顔ポップ・ガイのスイッチを入れ、同じツラのマスクを被り、  「エー、エー、アーアー。ポップコーン、ポップコーンダヨ」 …スピーカーから間の抜けたボイスチェンジャー声が出ることを確認したら、俺の今日の仕事が始まる。
 積載電源でトウモロコシを爆ぜていると、いつもならその音や匂いに誘われて買い物客が集まってくる。 だがその日は駐車場の車が少なく、やけに閑散としていた。 ひょっとして午後から臨時閉店か?俺は背後のマート出入口に張り紙でも貼っていないか、様子を見に行った。 一歩、二歩、三歩。屋台から目を離したのは、たった三歩の間だけだった。
 ガコッ!ガコガコガシャン!突然背後から乱暴な金属音がして俺は振り返った。 そこには、一体どこから湧いて出たのか、五~六人の村人が俺の屋台バギーを取り囲んでいた。 奴らはポップ・ガイの顎を強引にこじ開けた。 ガラスケース内のポップコーンが紙箱受けになだれ込む。それを男も女も、思い思いにポリ袋やキャップ帽などを使って奪い合う。
 「あぁー!!?何しやがるクソッタレ!!!」 俺はマスクを脱ぎ捨て、クソ村人共を押しのけようとした。その時。 サクッ。…背後で地面にスコップを突き立てたような音がした。 振り返るとそこには、タイタンマートのエプロンを着た店員と…空中に浮く、木の棒? いや、違う。それは…俺の背中に刺さった、鉈か鎌か何かの柄だ。 俺は自分の置かれた状況が理解出来なかった。背中を刺されたという事実以外は。 ただ、脳が痛覚を遮断していたのか、痛みはなかった。異物感と恐怖心だけがあった。 目の前では相棒が、俺のポップ・ガイが、農村の狂った土人共にぶちのめされている。 奴らはガラスケースを割り、焼けた調理器に手を突っ込んでガラスの破片とポップコーンを頬張り、爆裂前のトウモロコシ粒まで奪い合いながら、「オヤツクレ」「オカシ」「カシヲクレ」などとわけのわからない事を叫んでいやがる。
 そのうち俺を刺しやがったあのクソ店員が、俺のジーンズからバギーのキーを引ったくり、屋台を奪って急発進させた。 ゾンビめいた土人共がそれにしがみつく。何人かは既に血まみれだ。 すると駐車場の方からライフルを抱えたクソが増えた。 ターン、ターン、ターン。タイヤを撃たれたバギーが横転する。ノーブラで部屋着みてぇなブタババアが射殺される。俺の足に流れ弾が当たる…痛ぇな、畜生!
 ともかく逃げないとヤバい。こいつらきっとハッパでもキメてやがるんだ。 それにしても、俺の脳のポンコツめ。背中の痛みはないのに、なんで足はこんなに痛いんだクソッタレ!  「コヒュッ…コヒュッ…」息ができない。傷口が熱い。体が寒い。全身の血が偏ってきていやがる。 もはや立ち上がれない俺は匍匐前進でマートの死角まで這って逃げた。 そこには大量のイタチと、中心に中坊ぐらいのニヤついたガキが立っていた。 そいつは口元が左右非対称に歪んでいて、ギンギンに目の充血した、見るからに性根の腐っていそうな奴だった。 作業ツナギの中にエド・ゲインみてえな悪趣味なツギハギのTシャツを着て、右手にニッパーを、左手にカラフルな砂か何かの入った汚ねえビニール袋を持っていた。
 「おっさん、魚みてえだな」…あ?  「背中にヒレ生えてるぜ。それに口パクパクさせながら地面をクネクネ這いずり回ってさ。 ここは山ばっかだから見た事ねえが、沖に打ち上げられたイルカってこんな感じなのかな」 何言ってやがる…このガキもキチガイかよ。それにイルカは哺乳類だ。どうでもいいがな。
 「気に入ったぜ。おっさん、俺が解剖してやるよ」…は??  「心配するな。川でナマズを捌いた事がある。おいお前ら、オヤツタイムだぜ!」
 おいジーザス、いい加減にしろ!あのクソガキは俺にキチガイじみた虹色の砂をブチまけてきやがった! 鼻にツンとくるクソ甘ったるい匂い。そうか、こいつはパフェによくかかっているカラースプレーだ。しかもよく見ると、細けえキャンディやチョコレートやクッキーまで混じっていやがる。 ファック!このガキ、俺をデコレーションケーキか何かと勘違いしてんじゃねえのか!?
 「あんたのポップコーン、いつも親が買ってたぜ。油っこくて美味かった。 だからあんたの魂は俺達の仲間に入れてやるよ…」 なんでなんでなんで。なんで俺の生皮がいかれたガキのニッパーで引き裂かれてやがる。なんで俺の身体が汚ねえイタチ共に食い荒らされてやがる! カラースプレーが目に入った。痛え。だからなんで背中以外は痛えんだってえの。 俺が何をしたっていうんだジーザス。みんなの人気者のポップ・ガイがなんの罪を犯したっていうんだ。
 やだよ。こんな所で死にたくねぇよ。 こんなシケた田舎のタイタンマートなんかで…おいクソ巨人、お前の事だ!クソタイタンマートのクソ時代遅れなクソ看板野郎!なに見てやがる! 「Get everything you want(何でも揃う)」じゃねえよとっととこのクソガキを踏み殺せ!! こんなに苦しんで死ななきゃならねぇならせめてハッパでもキメときゃ良かった!死にたくねぇよ!ア!ア!ア!アー!
 そうだ。こんな物はただの夢だ。クソッタレ悪夢だ。もうハッパキメてたっけ? まあいい。こんな時は首筋をつねるんだ。俺は首筋をつねれば大概のバッドトリップからは目覚める事ができるんだ。 そう、こんな風に―
 ◆◆◆
 「あいててててて痛え!!!」 ジャックさんは首筋をつねる動作をした瞬間、オリベちゃんのサイコキネシスを受けて悶絶した。
 磐梯熱海温泉の民宿に集った私達一同は、二台繋げたローテーブルを囲い、タルパの半魚人ジャック・ラーセンさんが殺害された経緯を聴取していた。  「そんなに細かく話すな!イジワル!!」 涙目のイナちゃんが、私のモヘアニットのチュニックを固く握りしめたまま怒鳴った。 彼の話に「ライフルを持ったクソ」が出てきたあたりから、彼女はずっと私にしがみついてチワワのように震え続けている。 おかげで買ってまだSNSにも投稿していないチュニックが、ヨレヨレに伸びきってしまっていた。
 <あんたあのね、女子高生の前でクソとかハッパとか、言葉を選びなさいよ!> ローテーブルの対面で、オリベちゃんがジャックさんを叱責する。  「まあまあ。そんで死んだ後はどうなったん…なるべく綺麗な言葉で説明してくれよ」 一方譲司さんは既に、ポメラニアンのポメラー子ちゃんのブラッシングを終え、何故か次はオリベちゃんのブラッシングをさせられている。
 「まあ、その後はだな。要するに、お前達のお友達人形にされてたってわけさ」 ジャックさん、オリベちゃん、譲司さん。三人のNICキッズルーム出身者の過去が繋がった。 イナちゃんがこれから行くキッズルームは、バリ島院以外にも世界各支部に存在する。 アジア支部のバリ島院、EU支部のマルセイユ院…オリベちゃんと譲司さんが子供時代を過ごした中東支部キッズルームは、テルアビブ院だった。 (アラブ人ハーフの譲司さんは、十歳まで中東で暮らしていたんだ。)
 その当時テルアビブ院には、魂を持つ不思議な人形と、それを操って動かす黒子の少年がいた。 少年は人形と同じ顔のマスクを被っていて、少年自身の意思を持っていなかった。 でもある日突然、少年は人形を捨て、冷酷な本性を剥き出しにしてNIC職員や子供達を惨殺して回ったという。 つまり、少年…生き物の魂を奪って怪物を作る殺人鬼、サミュエル・ミラーは、人形のジャックさんという仮面を被ってNICに近づき、油断した脳力者の魂を収��したんだ。
 「その辺の話は、俺よりお前ら自身の方が嫌でも覚えてるだろ。 あいつがわざわざ変装用の魂をこしらえたのは、オリベ…お前みたいに人の心を覗ける奴が、NICにはわんさかいるからだろうな。 俺は自分が自分の黒子に殺された事なんざ忘れちまってたし、 用済みになった後も奴の脳内に格納されて、長い眠りについていたようだ。 友達や先生方の死に面を拝まずに済んだ事だけは、あのクソサイコ野郎に感謝だな」 ジャックさんがニヒルに笑う。殺人鬼の隠れ蓑にされていたとはいえ、彼とオリベちゃん達の間の友情は本物だったんだろう。 仮面役に彼が選ばれたのは、生前の彼が子供達に愛されるポップコーン売りだったからだと私は推測した。
 サミュエルは殺人に、怪物タルパを取り憑かせたイタチを使うらしい。 人間のお菓子や人肉を食べるように調教されたイタチは人間を襲い、イタチに噛まれた人間は怪物タルパに取り憑かれる。 取り憑かれた人間は別の人間を襲う。その人間も怪物に心を支配され、別の人間を襲う。 そうしてゾンビパニック映画のように、怪物に操られた人間がねずみ算式に増えていく。 サミュエルはこのようにして、自ら手を下さずに集団殺し合いパニックを引き起こすんだ。 1990年。二十年前のNIC中東支部を襲った惨劇も、この方式で引き起こされた。 幼い頃のオリベちゃんはその時、怪物タルパとイタチを一掃するために無茶なサイコキネシスを放った後遺症で構音障害になった。そして…
 「なあジャック」譲司さんが口を開く。  「アッシュ兄ちゃんって、覚えとるか? 弱虫でチビやった俺を、一番気にかけてくれとった」  「ん、ああ。勿論覚えてるさ。 ファティマンドラの種をペンダントにしていた、サイコメトリーの脳力児。あいつがどうかしたのか」 ジャックさんがファティマンドラという単語を口にした瞬間、譲司さんは無意識に頭に手を当て、  「ハァー、…フーッ」肺の空気を入れ替えるダウザー特有の呼吸をした。そして、  「…アッシュ兄ちゃんは。俺の目の前で、サミュエルに殺された。 その時…兄ちゃんの魂は胸の種に宿って、ファティマンドラになったんや」胸元に手を当てて言った。  「なんてこった…!」 ジャックさんは目元を強ばらせる。
 話を理解できなかったイナちゃんが、私のチュニックをクイクイと引っ張った。  「ええとね…ファティマンドラっていうのは、簡単に言えば動物の霊魂を宿して心を持つ事ができる霊草の事なの。 譲司さんの幼馴染のアッシュさんは、殺された時、その種を持っていたおかげで怪物に魂を取られずに済んだけど、代わりに植物の精霊になっちゃったんだ」  「そなんだ…。ヘラガモ先生、今も幼馴染さんいるですか?」  「ああ。種はもう花を咲かせてなくなっとるけど、兄ちゃんは俺と完全に溶け合って、二人合わさった。 せやから、アッシュ兄ちゃんは今俺の中におる」  「すまねえ…あいつの事を思い出せなくて、お前らみたいなガキ共を巻き込んじまって。本当にすまねえ」 ジャックさんがオリベちゃんと譲司さん、そして譲司さんと一つになったというアッシュさんをまっすぐに見つめる。 一方、当のオリベちゃん達は、ジャックさんが謝罪する謂れはないとでも言いたげに、彼に優しい微笑みを向けていた。
 「ヒトミちゃん」 しんみりとしたムードの中、イナちゃんが芝居がかった仕草で私のチュニックを掴んだ。  「ごめんなさい、チュニック、伸ばしちゃたヨ。 お詫びにあげたい物あります。お着替え行こ」  「え?」  「ポメラーコちゃんにも!」  「わぅ?」 私はポメちゃんを抱えたイナちゃんに誘導され、別室に移動した。
 ◆◆◆
 「へえ、韓国娘。あんた粋なことするじゃないの」 高天井の二階大部屋。剥き出しの梁の上では人間体のリナが、うつ伏せで頬杖をついたまま私達を見下ろしていた。 その時イナちゃんが着ていたのが水色のパフスリーブワンピースだった事も相まって、まるで不思議の国のアリスとチェシャ猫みたいな構図だ。 二階に上がったのは私とイナちゃん、ポメラー子ちゃんにリナ。階下に残ったのは中東キッズルーム出身の三人のみ。 そういう事か。  「『後は若い人達に任せましょう』。私が好きな日本のことわざだモン」 胸を張ってイナちゃんが得意気に言う。それ、ことわざだったっけ…?
 イナちゃんは中身を詰めすぎて膨らんだスーツケースの天板を押さえながら、布を噛んだファスナーを力任せに引いて開けた。 ミチミチの服と服の間から、哀れにも角がひしゃげたユニコーン型化粧ポーチを引き抜くと、何かを探すように中身を床に取り出していく。 「ボタニカル・ボタニカル」のオールインワン下地、「リトルマインド」のリップと化粧筆一式、「安徳森(アンダーソン)」の特大アイシャドウパレット… うーん、錚々たるラインナップ!中華系プチプラブランドの安徳森以外、どのコスメも道具も、高校生のお小遣いでは手を出し難い高級品だ。 蝶よ花よと育てられた、いい家のお嬢様なのかもしれない。
 「あったヨ!」 ユニコーンポーチの底からイナちゃんが引き抜いたのは、二重丸の形をした金色のペンダント。  「ここをこうしてネ…ペンダントと、チャームなるの」 二重丸の中心をイナちゃんが押し上げると、チリチリとくぐもった金属音を立てて内側の円形が外れた。それは留め具付きの丸い鈴だった。  『링』  『종』  中央が空洞化してリング型になったペンダントと鈴の双方に、それぞれ異なる小さなハングル文字が一文字ずつ刻印されている。 それを持ったイナちゃんの両手も、珍しく左右で手相が全然違う模様なのが印象的だった。 左は生命線からアルファベットのE字状に三本線が伸びていて、右は中央に大きな十文字。手相には詳しくないから占いはできないけど。
 イナちゃんはE字手相の左手でペンダントを私の首にかけ、右手の鈴はポメちゃんの首輪に括りつけた。 金属のずっしりとした重量感。これも高価な物なんだろうと察せる。  「イナちゃん、これ貰っちゃっていいの?まさか金じゃないよね?」私は恐る恐る聞いた。  「『キム』じゃないヨ。それは、『링(リン)』と読みます。リングだからネ。 キーホルダーは『종(チョン)』、ベルを意味ですヨ」  「い、いやいや、ハングルの読み方を聞いたんじゃなくて」チャリンチャリンチャリン!「ワンワンっ!」 私のツッコミは鈴の音を気に入って飛び跳ねるポメちゃんに遮られた。  「ウフッ、ジョークジョーク。わかてますヨ、ただのメッキだヨ」  「な…なんだ、良かった。それでもありがとうね」
 貰ったペンダントを改めて見ていると、伸びたチュニックが一層貧相に見えてきた。 この後私達はお蕎麦屋さんに夕食を予約している。さすがにモデルとして、こんな格好で外を出歩くわけにはいかない。 折角貰ったいいペンダントに合わせて、私は手持ちで一番フォーマルな服に着替える事にした。 切り絵風赤黒グラデーションカラーのオフショルワンピースだ。
 「アハ!まるで不思議の国のアリスとトランプの女王だわ」 梁から降りたイナが、私とイナちゃんが並んだ様子を比喩する。  「そういうリナはさっきまで樹上のチェシャ猫だったじゃない」  「じゃあその真っ白いワンコが時計ウサギね」 私達は冗談を重ね合ってくすくす笑う。こんな会話も久しぶりだな。 そこにイナちゃんも加わる。  「ヒトミちゃん、ジョオ様はアイシャドウもっと濃いヨ」 さっき床に散らかしたコスメの中から、チップと安徳森のアイシャドウパレットを持って、イナちゃんはいたずらに笑った。 安徳森、アンダーソンか…。そういえば…
 「私…磐梯熱海で、アンダーソンって名前のファティマンドラの精霊と会ったことがあるな」 私はたった今思い出した事を独り言のように呟いていた。 イナちゃんの目が好奇心に光る。  「さっき話しした霊草の魂ですか?ここにいるですか!」  「うーん、もう3年前の事だけどね…」
 それは私が上京する直前のこと。 ヒーローショーの悪役という、一年間の長期スパンの仕事を受ける事になった私は、地元猪苗代を発つ前にここ磐梯熱海温泉に立ち寄った。 和尚様と萩姫様にご挨拶をするためだ。 するとその日は、駅を出るとそこらじゅうに紫色の花が咲いていた。 私は合流した萩姫様に伺い、それがファティマンドラの花だと教わった。 そしてケヤキの森で、それらの親花である魂を持つファティマンドラ、アンダーソン氏を紹介して頂いた。 アンダーソン氏は腐りかけの人脳から発芽したせいで、ほとんど盲目で、生前の記憶もかなり欠落していた。 ただ一つ、自分の名前がアンダーソンだという事だけ辛うじて覚えていたという。
 とはいえ、元警察官の友達から聞いた話では、ファティマンドラは麻薬の原料にもなり日本では栽培を許可されていないらしい。 ファティマンドラには類似種の『マンドラゴラ・オータムナリス』というよく似た花があるから、駅に咲いていたものに関しては、オータムナリスだったのかもしれない。
 「改めて今熱海町に来たら、もう駅前の花はなくなってるし、さっきケヤキの森を通った時もアンダーソンさんはいなかったの。 もう枯れちゃったかな…魂はどこかにいるかも」  「だといいネ。私も見てみたいです。 そのお花さんに因みな物あれば、私スリスリマスリして呼び出せるですけど」  「え、すごいね!イナちゃん降霊術もできるんだ…」
 スタタタタ!…私達が話している途中から、誰かがものすごい勢いで階段を駆け上がる音がした。 二階部屋の襖がターン!と豪快に開き、現れたのはオリベちゃん。  <そのファティマンドラよ!今すぐ案内して頂戴!!>  「オモナっ!」驚いたイナちゃんが顔の前で手を合わす。
 「え!?ど、どういう事ですか?」  <サミュエルは最後に逃亡する直前、ジャパニーズマフィアの薬物ブローカーだったの。そして麻薬の原料としてファティマンドラの種子を入手していた。 だからそれを発芽させるために、ブローカー仲間の女子大生を殺害して、その人の肉や脳を肥料に与えていたというのよ>  「ああ…女子大生バラバラ殺人の事ですね。指名手配のポスターで有名な」 物騒な話題にイナちゃんは顔を引きつらせる。またストレスで悪霊を呼び寄せないように、すかさずリナは彼女の体を抱き寄せて頭を撫でた。
 イナちゃんは知らないだろうけど、実はサミュエルの通名、水家曽良という名は日本では有名だ。 彼は広域指定暴力団の薬物ブローカーで、ブローカー仲間だった女子大生を殺害した罪で指名手配されている。 だから駅や交番のポスターには、彼の名前と似顔絵がよく貼ってあるんだ。
 <その女子大生から生まれたと思しきファティマンドラがね…なんと、眠っていたジャックを呼び覚まして助けた張本人らしいのよ!>  「そうなんですか!」 オリベちゃんに続き、そろそろとジャックさんと譲司さんも二階に上がってきた。 ただ譲司さんは、興奮気味のオリベちゃんとは裏腹に煮え切らない顔をしている。  「いや、せやけどなオリベ。殺された女子大生は『トクモリ・アン』って名前やろ。 ジャックが言っとったファティマンドラは『アンダーソン』って名乗っとったらしいし…『アン』しか合っとらんやん」 トクモリアン?ああ、はい。 私とイナちゃんとリナは三人同時に察して、ニヤリと顔を見合わせた。
 「ダウザーさん、その被害者の名前の漢字、当ててあげようか」挑発的にリナが譲司さんに微笑む。 リナが目配せすると、イナちゃんはあのアイシャドウパレットを譲司さんの前に持っていった。  「あん、とくもり…安徳森!何で?」  「そです。でもちがうヨ!中国語それ『アンダーソン』て読みます」  「なるほど!」  「そういう事だったのか」  <え…ど、どういう事ですって?> 譲司さんとジャックさんが納得した一方、ユダヤ人のオリベちゃんだけは頭にはてなマークを浮かべた。 私はパレットの漢字を指さしながら、非アジア人の彼女に中国語と日本語の漢字の読み方を解説した。
 <じゃあ、中国語でそれはアンダーソンになって、日本語ではアン・トクモリになるの!面白いカラクリだわ。>  「ファティマンドラ化した徳森安は生前の記憶を殆ど失っている。 その文字列が印象に残っていても、自分の名前じゃなくて有名な化粧品ブランドの読み方をしちまったのかもな。 あれでも女子大生だったし」ジャックさんが補足する。
 <となるとやっぱり、殺された女子大生で間違いないようね。 ジャックを蘇らせてくれたお礼と、サミュエルに関しての情報も聞きたいわ。 どうにかして彼女と会えないかしら?>  「ケヤキの森にいないなら…怪人屋敷に行けば何かわかるかもしれねえな。 まだあいつが成仏していなければ、だが」 ジャックさんが親指に当たるヒレをクイクイと動かす。その方角は石筵を指していた。  「怪人屋敷って、石筵の有名な心霊スポットですよね?山にある廃工場の。 実際はこの辺りで生まれたタルパとか式神達の溜まり場で、それを見た人間が『人間とも動物とも違う幽霊がいっぱいいる!』と思って怪人屋敷って呼び始めた…」  「何よ、じゃあ私も人間にとっては怪人だっていうの?失礼しちゃうわ!」 リナがイナちゃんを撫でながらプリプリと怒る。  「怪人屋敷なら俺が場所を案内できる。かつてのサミュエルの潜伏地点だ」  「そうか。よし、夕食までまだ時間がある。車で行ってみよう」
 ◆◆◆
 日が沈みかけていた。 私達を乗せたミニバンは西日に横面を照らされながら、石筵の霊山へ北上する。 運転してくれたのは、譲司さんに半身取り憑いたジャックさんだ。 生前は移動販売をしていただけあって、私達の中で一番運転が上手い。同乗していて、坂道やカーブでも全くGを感じない。 譲司さんも彼のハンドルテクに、時折感嘆のため息を漏らしていた。 故人の意識にハンドルを任せたのはギリギリ無免許運転かもしれないけど、警察にそれを咎められる人はいないだろう。
 廃工場の怪人屋敷か。私が観音寺に住んでいた頃は、そんな噂があるとは知らなかった。 でも行ったことは何度もある。 あそこには沢山の式神、精霊、タルパ、妖怪がいた。みんな幼い私と遊んでくれたいい人達だ。 人に害をなす魂がいなかったのは、すぐ近くに和尚様が住んでいらしたから、だったのかも。 私はリナと共に影絵を交えながら、そんな思い出話をイナちゃんやオリベちゃんに語った。
 「ジャックさんは、会ったことありますか?和尚様。 怪人屋敷のすぐそばの観音寺です」 私はバックミラー越しにジャックさんを見ながら話題を振った。  「残念だが、俺があの屋敷にいた時は、サミュエル本体に色々あって夢うつつだったんだ。 ファティマンドラの幻覚と現実の狭間をずっと彷徨ってた感じだ。 けど、少なくともその世界には神も仏もいなかったぜ」  「そうなんですか…。後でちょっと寄らせて下さい。紹介したいです」  「ああ、俺も知り合っておきたい。本場チベット仕込みのタルパ使いなんだろ、その坊さん。 だったらあのクソに作られた俺みてえな怪物も、いざという時に救って下さるかもしれねえよな」  「そんなこと言わないで下さい、ジャックさんいい人ヨ」 イナちゃんが身を乗り出して反論した。 ジャックさんは目線をフロントガラスに向けたまま、小さく口角を上げた。
 カッチ、カッチ、カッチ。リズミカルなウィンカー音を鳴らしながら、ミニバンは車道から舗装されていない砂利道に入る。 安達太良山の麓にそびえ立つ石筵霊山の、殆ど窓のない無機質な廃工場が見えてきた。 多彩な霊魂が行き交い、一部の界隈では魔都と呼ばれるこの郡山市でも、ここは一際邪悪な心霊スポットとして有名な場所だ。 そんな噂が蔓延しだしたのはいつ頃の事だっただろうか。 少なくとも私の知っている廃工場は、そこまで物々しい場所じゃなかったのに…。 ジャックさんが工場脇の搬入口にミニバンを駐車している間、私は和尚様の近況を案じた。
 その不安感が現実になったかのように、ミニバンを開けた瞬間何かを察知して顔を引きつらせたのは、意外にも譲司さんではなくオリベちゃんだった。  <あの二階、何かある。何だかわからないけどとんでもない物があるわ!> テレパシーやサイコキネシスを操る彼女だけが、その有り余るシックスセンスで異変を察知したんだ。 オリベちゃんが指さした工場の二階には窓があるけど、中は暗くて見えない。 私やリナ、イナちゃん、ジャックさんには遠すぎて霊感が届かないし…、  「すまん、オリベ。あの窓はめ殺しで開かんやつやから、俺にはわからん」 空気や気圧でダウジングする譲司さんには尚更読み難い状況だ。
 「それより、あっちに…」 譲司さんが言いかけた事を同時に反応したのは、ポメラー子ちゃんだった。 ポメちゃんは鈴を鳴らしながら譲司さんの脇をすり抜け、バイク駐輪場らしきスペースに駆けていき、  「わうわお!」こっちやで!とでも言っているような鳴き声で私達を誘導した。 そこにあった物は…
 ◆◆◆
 「うぷッ」 条件反射的に私の胸がえずく。直後に頭痛を催すような強烈な悪臭を感じた。 隣でオリベちゃんが咄嗟に鼻をつまみ、リナはイナちゃんの目を隠す。 既に察していた譲司さんは冷静に口にミニタオルを当てていた。
 そこにあったのは、腐敗した汚泥をなみなみと湛えた青い掃除用バケツ。 ハエがたかる焦茶色の液体��中には、枯葉に覆われて辛うじて形を保った、チンゲン菜のような植物の残骸が見える。 花瓶に雨水が入って腐ったお墓の仏花を想起させるそれは…明らかに、ファティマンドラの残骸だった。
 「アンダーソン」ジャックさんが歩み寄る。  「もう、いないのか?��いつを待ちくたびれて、くたばっち���ったんだな」 ジャックさんは汚泥にヒレをかざしたり、大胆にも顔を突っ込んだりしながら故人の霊魂を探した。 でも、かつて女子大生の脳肉だった花と汚泥が、彼の問いかけに脳波を返す事はなかった。
 するうちリナの腕をほどいてイナちゃんが割って入る。 また彼女の精神がショックを受けて、悪霊を呼び出さないかと心配になったけど、 驚く事に彼女は腐った花に触れ、「スリスリマスリ…スリスリマスリ…」と追悼の祈りを捧げた。
 「い…イナちゃん、大丈夫なの?」私達は訝しみながら彼女の顔色を覗きこむ。 しかしイナちゃんは涼しい顔で振り返った。  「安徳森さん、ジャックさんのオンジン。だたら私のオンジンヨ。 この人天国に行ってますように、そこにいつかジャックさんも行けますように。 スリスリマスリ、私お祈りするますね」 イナちゃんが微笑む。その瞬間、悪臭と死に満ちた廃工場の空気が澄み渡った気がした。 譲司さんは前に出て、ファティマンドラをイナちゃんの手からそっと取り、目を閉じる。
 「オモナ…ヘラガモ先生?」  「サイコメトリーっていってな。触れた物の残留思念、つまり思い出をちょっとだけ見ることが出来るんや。 死んだ兄ちゃんがくれた脳力なんよ…」目を閉じたまま譲司さんが答えた。 そのまま数秒集中し、彼は見えたヴィジョンをオリベちゃんに送信する。 それをオリベちゃんがテレパシーで全員に拡散した。
 ザザッ…ザリザリ…。チューニングが合わないテレビのように、ノイズ音と青黒い横縞模様の砂嵐が視覚と聴覚を覆う。 やがて縞模様は複雑に光彩を帯びて、青単色のモノトーン映像らしきものを映し出し、ノイズ音の隙間からも人の肉声が聞こえてきた。
 ザザザ「…ん宿のミ…ム、元店ち…すね。署までご同こ」ザザザザッ「…い人屋敷へか…んな化け物を連れ」ザザ…「…っている事が支離滅れ…」「…っと、幻覚を見」ザザザザッ…
 「あかん。腐敗が進みすぎて殆ど見えん」譲司さんの額は既に汗ばんでいる。 それでも彼は…プロ根性で、ファティマンドラを握る手を更に汚泥の中へ押しこんだ! 更に、汚泥が掻き回されてあまつさえ悪臭の漂う中、「ハァー、フゥーッ…ウッ…ハァー、フゥーッ…」顔にグッショリと脂汗を湛えてえずきながら、ダウジングの深呼吸を繰り返す!
 彼の涙ぐましすぎる努力と、サイコメトリー・ダウジングの相乗効果によって、残留思念は古いVHSぐらい明瞭になった。  「新宿のミラクルガンジ…」ザザッ「…元店長の水家曽良さんですね。署までご同行願えますか」ザザザッ。 未だ時折ノイズで潰れているが、話の内容から女性警察官らしき声だとわかる。でも映像に声の主は映っていない。 ファティマンドラの低い目線視点でわかりづらいが、映像で確認できる人物はサミュエル・ミラーらしき男性だけだ。
 「あ?はは、なんだ…」ザザザッ「一体何の冗談…」ザザッ「さあ、怪人屋敷へ帰るぞ…」ザザッ。 オリベちゃんの口角が露骨に下がった。これは水家曽良、つまり殺人鬼サミュエル・ミラーの声だろう。  「言っている事が支離滅裂で…」ザザザッ「…え。彼はきっと幻…」ザザッ。 サミュエルとは違う男性と、女性の声。彼を連行しようとしている『見えない警察官』は、複数人いるようだ。
 「幻覚?何を今更。…あれも、これも!ははは!ぜんぶ幻覚じゃねえか!!!」ザバババババ!! 錯乱したサミュエルが周囲の物を手当り次第投げる。 ファティマンドラの安徳森氏は哀れにも戸棚に叩きつけられ、血と脳肉が飛び散った。 その瞬間から、またノイズが酷くなっていく。  「はいはい。後でじっくり聞い…」ザザッ「暴れな…」ザザッ「…せ!どうせお前らも俺の妄そ」ザリザリ!ザバーバーバー!! 残留思念はここで途絶えた。
 「アー!」色々と限界に達した譲司さんが千鳥足で、駐輪場脇の水道に走る。 譲司さんは汚い手で触れないように肘で器用に蛇口を回すと水が出た。 全員が安堵のため息を漏らす。幸い廃工場の水道は止まっていなかったみたいだ。山の湧き水を汲んでいるタイプなんだろう。 同じく安徳森氏に触ったイナちゃんも、譲司さんと紙石鹸をシェアしながら一緒に手を洗った。
 ◆◆◆
 グロッキーの譲司さんを車に乗せるわけにもいかず、私達は扉が開けっ放しの廃工場、通称怪人屋敷のエントランスロビーで休憩する事にした。 「あんた根性あるのね。見直したわ!」リナが譲司さんの周りをくるくる飛び回る。 対して満身創痍の譲司さんはソファに横たわり、「やめてぇ…」とヒヨコのような弱々しい声で喚いた。  <無茶した割に手がかりにならなかったわね。サミュエルはまだ指名手配犯だから、あれは警察じゃない。 でも正体はわからないままよ>手厳しいオリベちゃん。  「無茶言わんでくれぇ…あんなん読めへんもんもうやあわあ…」最後の方は言葉にすらなっていない譲司さん。 結局、あの偽警察官は何者だったのか…もし残留思念の通りなら、生きた人間じゃない可能性もある。 それでも、イナちゃんにお祈りされ、譲司さんにあそこまで記憶を読み直してもらった安徳森氏は、浮かばれるだろうと願いたいものだ。
 カァーン!…カァーン!…電気の通っていないはずの廃工場で、突然電子音質の鐘の音が鳴った。 リナとイナちゃんがビクッと身構える。…いや、リナ、あんた怪人側の人じゃん。  「俺や」音源は譲司さんのスマホだった。 彼は以前証券会社の社長だったから、これは株式市場の鐘の音なのかもしれない。 譲司さんがスマホを出そうとスウェットパンツのポケットをまさぐる。指が見えた。穴が開いているのを着続けているみたいだ。
 「もしもし?」譲司さんはスマホを耳に当てた。着信は電話だった。  (もしもし。すまない、テレビ通話にしてくれないか?) 女性の声だ。静かな廃工場だから、スピーカー越しに相手の声が聞き取れる。 電話をかけておいて名乗りもしない相手を訝しみながら、譲司さんは通話をカメラモードに切り替えた。すると…
 「あ…あなたは、まさか!」 驚嘆の声を上げた譲司さんに、私達全員が近寄る。 皆でスマホの画面を覗かせてもらうと、テレビ通話のカメラは私達の顔ではなく、誰もいないロビー奥の方向を映している。 でも画面の中では、明らかに人工霊魂とわかる、翼の生えた真っ赤なヤギが浮遊していた。
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yoooko-o · 5 months
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13/12/2023
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ちょいCafeの日替わりlunchと食後のケーキ🍴
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藺牟田池はすっかり冬の景色になっていました🦢
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その後の、徳丸屋さんで新作のピスタチオプリン🍮 トブトリノコーヒーと最強の組み合わせです👑
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今年のお歳暮🎁 和菓子よりも洋菓子を多めにチョイスしました🍪🥧 箱詰めとラッピングをしてもらって、宅配料を入れて3,000円以内におさまるのが脅威的です。
写真には撮っていませんが、ここのお店のロゴラッピングもかなり可愛いので気に入っています。 ※喪中用のラッピングもあります。
この後、コロナワクチン接種に備えて準備します💉
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