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#あとは努力の精度と方向のチューニング
isana-9 · 1 year
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⁡ ◎ はじめてシェーカーチェアを完成させたトーイくん。 ⁡ 5月から毎日かかさず、1時間早く来て自主練習をしている。 ⁡ ⁡ 日々、自分の実力の底が露呈するたび、落ち込んだりしているけれど、 ⁡ それは、ほぼ全ての家具職人が通ってきた道であって、間違ってはいないはず。 ⁡ ⁡ ↓ ⁡ #毎日更新してます #447日目 ⁡ ⁡ #ハカセもなぎささんもどうしたらトーイくんがブレイクスルーできるのかいろんな方法考えてくれてる ⁡ #あとは努力の精度と方向のチューニング ⁡ #完成した椅子はお母さんにあげるのですと(涙) ⁡ ⁡ ⁡ #chair #chairmaking #woodturning #木工旋盤 #家具職人 #家具職人見習い #見習い #修行 #woodworking #furnituredesign #家具工房 #沼垂テラス商店街 #イサナ喫茶室 https://www.instagram.com/p/CmGb19QLuBj/?igshid=NGJjMDIxMWI=
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miel8328 · 2 months
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2024/02/26
金曜日は弟と晩ご飯を食べに行って、土曜日は2週間ぶりに彼とデート、日曜日は課題やったりスーパー行ったり英気を養う日にした。そんな3連休でした。
フルタイム勤務のバイトを始めたことで、私も社会人の悩みとか疲れ方を理解できるようになって、弟ともそんな話をしてた。弟おすすめのドラマ 「不適切にもほどがある」 を一緒に見て涙がポロっとこぼれたり。弟は泊まっていったので、土曜日の午前中もまたずっと話した。「社会人として働いてると、恋愛まで手が回る余裕ってない。」 「特に女性は恋愛を判断基準の中心に置くのは危険すぎると思う。」 「自分の生活で精一杯な人も多い中、誰かに養ってもらいたいと言う人を見ると、自分自身で地に足をつけた方が良いのではと思ってしまう。」という話をして、その流れで私の彼の話をした。
「会社も有名な所だし、今アサインされてるプロジェクトがものすごく大きい物で、まだ2年目なのに作業員の中で全ての工程を把握してる唯一の人になっているらしい。自分しか把握してない物も多いから他の人からの質問対応しなきゃいけなくて、自分の業務に入るまで時間がかかっている。そしてリモートワークというのもあって、お休みの日も毎日何かしら業務をしないといけない。平日は日付を超えるまで残業してることも多くなってきて、休日出勤も毎週してる。三六協定があるから稼働時間がギリギリ規定の時間を超えないようにもしてる。こんなに自分を削るように働いて忙殺されている中でも、私と会う約束を決めようと提案してくれるのはいつも彼だし、約束を守るように努力をしてくれてるのもすごくわかる。それにとにかく正直な人。思ってないことは言えないし言わない。それが誠実さだと私は思っていて、彼を信頼してるのは絶対に嘘を吐かない人だとわかってるから。だからこそ最近月に1,2回しか会えてないけど、会えない時間に不安になることが一切ない。それに私自身が嫌で直したい所を、それが霞の可愛い所だと思ってくれる人。私がメンタルふらふらになって、昨年2回彼に申し訳ないと思って別れ話をした時も「調子が悪い時に決めることじゃないと思う」と話してくれた。私の事をよく見て、大切に想ってくれているのが言動で感じる。私が自覚する前に体調や精神的なバランスを崩しかけてると気付いてくれたり。とても賢くて私が困った時にはいつもアドバイスをくれるし、彼の前でなら素の自分でいられる。こんな素敵な人はもう私の人生で現れないかもと思う。」
こんな感じで一時間半くらい弟に彼の惚気を話してた。今会えるのが月に1回、多くて2回くらいで、LINEとかその他連絡を取るのも何か出来事や伝えたいことがあった時だけ。一週間なにも連絡取らないこともある。それでもこんなに心が落ち着いていられるのは彼だからなんだよなぁ。
付き合ったばかりの頃、遠距離になる可能性があってその事でお互い話をした時に、私のことを好きだと思って泣いた彼を見ている。それにYESマンじゃないから信頼できるんだよ。
巷でいう溺愛とか追われる恋愛とかでは多分ないけど、お互いが信頼し合って心地よい距離感でいられて、ふたりの等身大の素のままを大切にし合える関係を彼と築くことが出来て幸せ。その時々で距離をチューニングしつつ、無理のない付き合い方が出来ているし、これからも続けていけると思う。関係の持続性が高いんじゃないかな。溺愛とか追う追われるっていう概念は当てはまらなくとも、向き合って大切に思い合えてる。じんわり暖かいちょうどいい温度で長く燃える火のような感覚。
2/26頃に書いてた下書きが見つかってもったいないなと思ったので、供養投稿🙏
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t82475 · 3 years
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感染
★★★ご注意★★★ これは成人向けのフィクション小説です。 新型コロナウイルスにヒントを得て創作しましたが、本話に登場するウイルスはあくまで空想上のものです。 センセーショナルなテーマで注目を集めることを意図していませんで、SNSなどで無責任に話題にすることは避けてください。 また、筆者は医学の専門家ではありません。 それらしく記した専門用語や治療方法はすべてファンタジーです。現実のコロナと混同されないよう、くれぐれも注意してください。 本話で記した医療行為等を真に受けてトラブルが生じても、筆者が責任を取ることはできません。 (これだけ書いておけば大丈夫かな) ★★★★★★★★★ [Part.1] 1. とあるホテルの客室。 窓から外の景色を見る男性。 まだあと10日も過ごすのか。気が重かった。 日本に着いたのは3日前。 ワクチンは���種済みだった。 しかし入国時のウイルス検査で同じ飛行機の乗客から陽性者が出た。新種の変異株だった。 この変異株に対してワクチンの有効性はまだ確認されていない。 機内で座席が近かった男性は有無を言わさず2週間の隔離処理になった。 何ということか。 彼はプロの音楽家だった。 仕事はキャンセル。楽器も別便で送っていたから、この軟禁から解放されるまで楽器に触れないのも辛かった。 それに。 男性の脳裏に一人の少女の顔が蘇る。 彼女との再会を期待していたが、それも叶わない夢となったようだ。 2. ドアをノックする音がした。 「荷物が届きました。お部屋の前に置いておきます」 荷物? 僕に? 3分待ってドアを開けた。 ホテルの従業員との直接接触を避けるためのルールである。 食事や届け物は廊下に置いてもらい、自分で取り込むことになっていた。 誰もいない廊下。そこに大きな楽器ケースが立てて置かれていた。 これはコントラバスじゃないか。 思わず駆け寄った。 キャスター付きの楽器ケースをそのまま部屋に引き入れる。 蓋を開けようとして少し困った。 このケースには4桁のダイヤル錠がついていたが、番号が分からなかった。 「・・お部屋の番号でございます」 どこからともなく声が聞こえた。女性の声だった。 訳が分からなかったけれど、ダイヤルを自室のルームナンバーに合わせてレバーを引いた。 蓋が開いた。 楽器ケースの中にコントラバスは入っていなかった。 上の方には小さな包みがぎっしり詰まっていた。 そして下側には、不織布マスクをつけた少女が小さくなって収まっていた。 少女は自分でケースから抜け出てくると、立ち上がって髪と衣服を整え、そして男性に向かって深々と頭を下げた。 「柿崎様。このたびの不手際につきまして、心より謝罪申し上げます」 「え、何」 「当方の施設にお移りいただこうと努めましたが、あの石頭の知事が、・・失礼いたしました、私どもの力不足でございます。まことに申し訳ございません」 彼女が身に着けているのは黒いミニスカートのメイド服だった。 柿崎と呼ばれた男性はこのメイド服を知っていた。少女の声にも覚えがあった。 「キミはH氏のメイドだね」 「はい。お目にかかりますのは2度目でございます」 彼女は口元を隠していたマスクを外した。 「あぁ! キミに会いたいと思っていたんだ」 「覚えていてくださったのですね。嬉しいです」 それは男性が想っていた少女だった。 「それにしても、なぜコンバスのケースなんかに入って」 「ここでわたくしの存在は秘密でございます。柿崎様もどうかご他言されませんよう、お願い申し上げます」 「僕は新種ウイルスの濃厚接触者だよ。来てくれたのは嬉しいけれど、こんなところにいちゃダメだ」 「柿崎様の感染が確認された訳ではございません。それに、どのような事情であろうとお客様にご不便を強いることは許されないのです。つきましては、」 少女は微笑んだ。 「こちらにご滞在中、わたくしにお世話させてくださいませ。ご満足いただけるようお尽くしいたします」 3. フランス在住でコントラバスのソリストである柿崎陽明が初めてH氏邸に招かれたのは1年前。 当主のH氏の前で演奏し、そして夜は部屋付のメイドだった少女の伽(とぎ)を受けた。 彼は33才で独身だった。独身になる前に2度結婚し2度離婚していた。 これ以上結婚する愚を繰り返す気はなかったが、据え膳を拒むほどヤボでもない。 少女を抱き、そのベッドテクニックと細やかな気配りに驚いた。 朝になって彼女の年齢がわずか15と知りもう一度驚いた。 倍以上も歳が違う男をここまで満足させるとは。 この幼い日本人少女はサン・ドニの高級娼婦でも敵わないと思わせる一流のセックス・メイドだったのだ。 今回の来日はH氏邸への二度目の訪問になるはずだった。 柿崎は改めて目の前の少女を見る。 ショートヘアの黒髪、色白の肌。濃い目の眉ときらきら輝く瞳。 前に会ったときと少しも変わっていなかった。 ただ、少し背が伸びたか。胸も大きくなったように思えた。 記憶の中から少女の乳房を呼び戻す。 「バストは75のDカップになりました。よろしければ触ってお確かめくださいませ」 「え」 少女が笑っていた。 そうだ、この子は僕が何を考えているのか魔法みたいに分かるんだった。 「・・えっと、」 慌てて取り繕う。そうだ楽器。 「キ、キミは楽器の替わりにケースに入って来たんだね。できれば僕のコンバスを届けてくれると嬉しいんだが」 「そうおっしゃると思っておりました。柿崎様のコントラバスはお預かりしておりますが、ホテルの部屋でお弾きになるには音が大きいものですから、代わりにこれをお持ちしてございます」 「おおっ」 少女が出したのはサイレントベースだった。 アコースティックなコントラバスに近い音が出せる電気楽器である。 ヘッドフォンで音を聴くので誰に苦情を言われることもない。 柿崎自身もパリのアパルトマンでは同じサイレントベースを使っていた。 「使わせてくれるのかい?」「もちろんでございます」 椅子に掛けて楽器を受け取り、指で弦を弾き軽くチューニングする。 よし。 ヘッドフォンを着けて弓を構えた。 太い音が流れる。数日ぶりに奏でるコントラバス。 うん、いい音色だ。 いつの間にか音の世界に没入した。 4. 気が付くと少女の姿がなかった。 と、バスルームから少女が現れ、楽器ケースの蓋を開けて銀色の器具を出した。 あれはフライパンか? フライパンを手に少女は再びバスルームの中に消える。 それっきり出てこない。何をしているんだろう? 覗き込むとバスルームの中に折り畳み式の小さなテーブルが置かれていた。 テーブルの上にはカセットコンロ。その前でフライパンを振る少女。 このホテルの客室にはキッチンなんて気の利いた設備はないから、彼女はバスルームで料理をしているのだった。 オリーブオイルとバターの香りが漂う。 ああ、素敵な香りだ。 この部屋に来てから食事は冷たいサンドイッチか弁当ばかり。 暖かい食事に飢えていた。 少女が振り返った。 「練習のお邪魔をしましたか? ディナーまであと10分だけお待ちくださいませ」 「そんなところで火を使って大丈夫なの?」 「ちょっとした工夫です。ホテルのセキュリティシステムに細工いたしましてここの火災警報器は無効にしてございます」 「やはりキミは魔法使いだね」 「光栄です。・・サーロインの焼き加減はいかがいたしましょう?」 「任せるよ。僕の舌は音痴なんだ。でも好みを言わせてもらえばブルーレアとレアの間くらいがいいな」 「うふふ。かしこまりました」 ブランデーの瓶が振られて炎が狭いバスルームの天井近くまで立ち上がった。 5. その夜、柿崎は少女を抱いた。 少女は明らかに昨年より成熟していた。 乳房はふくよかに膨らみ、腰の括れと尻の張りも大きくなっていた。 日本女性特有のきめ細かい肌はいっそう柔らかくなっていて、あらゆる箇所の触り心地がよかった。 彼は少女の膣(なか)に2度放ち、その度に彼女は小さな声で鳴きながら震えてくれた。 「ねぇ、僕は感染していると思うかい?」 裸の少女を胸に抱きながら聞いた。 「柿崎様にそのようなことはないと信じております。ただ万一の場合は、当家の専門病院で最善を尽くします」 「キミはワクチンを打っているの?」 「はい。わたくしも柿崎様と同じです」 「何でも知ってるんだね。・・僕は本当は怖いんだ。明日にも高熱を出して倒れそうで。僕と一緒にいてキミは怖くないのかい?」 「どうして怖がるのですか? こうしてご奉仕させていただけているのに」 いい子だな。 このままずっと抱いていたいと思った。いっそ感染したらもっと一緒にいられるかな。 そう考えた途端、耳元で少女がささやいた。 「実はわたくし、悪い子なんですよ? ときどきお客様に良からぬことを思わせてしまいます」 「僕が何を考えたのか、いったいどうして分かるんだい?」 「勘です」 少女は微笑みながら、柿崎の右手を掴み自分の胸に導いた。 マシュマロのように柔らかい半球が掌の中に収まる。 「どうか、今は無事にお過ごしになることだけをお考えくださいませ。・・よろしければ、悪い子の胸を揉んでいただけますか?」 黙って少女の乳房を揉みしだいた。 「あ・・」 半球の先端に乳首が尖った。 右手の中に突然グミ菓子が現れたようだった。 「ん、あぁっ・・、お上手です、柿崎、さまっ」 柔らかい女体が波打った。 彼の男性が反応する。 少女は身を起こし、四つん這いになってそそり立つそれを口に含んだ。 おおっ。 柿崎は朝までにさらに2度放精した。 6. H氏邸からは数日おきに食材の入った小包が届いた。 それで少女が作ってくれる料理はどれも絶品だった。 ホテルからも毎食の弁当が差し入れられたが、少女が試食して「ゴミですね」と切り捨て、毎回トイレに流されることになった。 柿崎はコントラバスの練習に明け暮れ、夜はベッドで少女を抱いた。 毎朝のウイルス検査で陽性反応が出ることもなく、平穏で幸福な日々が続いた。 「あら」 H氏邸からメイドがやってきて6日目の朝、届いた食材をチェックしていた彼女が小さな声を上げた。 「どうしたんだい?」 「いえ、ちょっと頼んでいない品物が届いたものですから」 「?」 「お使いになるかどうかは柿崎様がお決めになってくださいませ。お相手は、わたくし、になりますが」 屋敷から届いたそれは、手錠、リード(紐)のついた首輪、革の手枷と足枷、猿轡、その他どうやって使うか分からない様々な拘束具だった。 「キミのところではこういうプレイもできるのか」 「はい。これらはごく軽めの拘束具ですが、ご希望があれば厳しい緊縛や拷問も承ります。メイドに苦辱を与えてお楽しみになるお客様は珍しくありません」 「拷問なんて、僕にはとてもできないよ」 「柿崎様のご嗜好はわたくしどもも承知いたしております。ですが、そろそろ新しい趣向を提案してきたのでしょうね」 「キミはどうなの? 鎖で繋がれたりして平気なのかい?」 少女の顔が少し赤くなった。 「大丈夫です。柿崎様のお気に召すようにわたくしを拘束してくださいませ」 「こういうのは初めてなんだ。教えてくれるかい」 「はい。お導きさせていただきます」 7. 揃えて出された両手に手錠を掛けた。 「お掛けになったら、わたくしの左手を持って、軽く持ち上げてくださいませ」 言われた通りに少女の左手を掴み上に引くと、手錠で繋がった右手も吊られて上がった。 「はぁ・・」 少女が溜息をついた。消え入りそうな声が混じっている。 「痛いのかい?」 「そうではありません。・・ただ、こうすることで女は拘束されていることを実感いたします」 そうか。嫌ではない、ということか。 「次は首輪を」「わかった」 首輪を巻いた。 「きつめに絞めていただいて構いません」 「絞めて欲しいんだね」 「いえ、そういう訳では」 バックルにかかる穴を二つ進めて留めた。 「はぁっ」 今度ははっきり分かる声だった。 「お、お上手です。これくらいが、苦しくなる手前です」 「手錠と首輪だけでそんなセクシーな声を出すんだね。ベッドじゃあれほど大胆なのに」 「ああ、言わないでくださいませ」 首輪から伸びるリードを少女が自分で持ち、柿崎に向かって差し出す。 「首輪を締めたら、この紐を、まるで飼い犬でも引くように、・・強く、引いてくださいませ」 黙ってリードを受け取ると、ぐいと引いた。 「あぅっ。・・も、もっと強く」 さらに力を加え、斜め上に強く引いた。 首輪が顎の下の食い込む。 少女の踵が浮いた。 「あ、ああぁっ!!」 少女は目を閉じてがくがく揺れた。 興奮していた。柿崎は少女の首を絞めることで明らかに高まっていた。 そして少女も拒んでいない。拒まないどころか、首を絞められて悦んでいるのだと分かった。 これが女性を責めて楽し���ということか。 「あ・・・」 少女の身体から力が抜けた。 そのまま崩れ落ちそうになるのを抱きかかえて支えた。 「はぁ、はぁ・・、申し訳ございません」少女が目を開けて言う。 「お導きするなどと申して、こんなに頼りない、へなちょこなメイドで・・、んっ」 少女の口を柿崎の口が塞いでいた。 「たったこれだけで大人を興奮させるなんて、本当にキミは大変な娼婦だ。・・もう我慢できない。外はまだ明るいけどキミを裸にするぞ」 「あ、あぁ、はいっ。・・ご自由に、どうぞご自由に、わたくしを使ってください、ませ」 8. 隔離が終わる日。 柿崎にウイルス感染の症状が出ることはなく、検査の結果も陰性のままだった。 夜にはパリに向けて出発しなければならない。 「帰りの飛行機でまた感染者が出ないことを願っているよ」 「ご安心くださいませ。当家のプライベートジェットをご用意いたしますので、感染のリスクはありません」 「すごいね。もしかしてキミも一緒に来てくれるのかい?」 「あいにくですが、わたくしは屋敷に戻り隔離処置を受けます。機内でのお世話は別のメイドが担当いたします」 「そうか。サヨナラするのは残念だよ」 柿崎は本当に残念そうな顔をした。 「そうだ、僕からのお礼をしよう」 「お礼、でございますか?」 「ここに座って、両手を後ろに回して」「はい」 柿崎は少女をベッドに腰かけさせた。 革の拘束具を持つとストラップを少女の二の腕に巻きつけた。 右側、左側。それぞれ強く締める。 そうして両腕を背中で組ませアームバインダーを被せた。 バインダーに3本あるストラップをすべて締め上げるた。 続けて少女の足首に足枷を取り付け、これもストラップで締め付けた。 「どうかな」 「動けません。・・嬉しいと言ったら、わたくしのこと、お嫌いになりますでしょうか?」 「僕だって嬉しいさ。こんなに可愛いメイドを自由にできるんだからね」 柿崎はそう言って少女の頬を愛おしそうに撫でた。 「キミは最高の女の子だ」 「もったいないお言葉です、柿崎様」
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少女の頭にサイレントベースのヘッドフォンを被せた。 それから椅子に座ってベースと弓を構える。 「僕の日本でただ1回のコンサートだ。心を込めて弾くよ」 コントラバスの音色が低く、ゆっくり響いた。 Canon in D(ヨハン・パッヘルベルのカノン)。 ・・あぁ、大好きな曲。 少女は目を閉じて聴いた。 身体は拘束具で囚われているけれど、音楽を聴く心は自由だった。 やがて涙が目元にあふれ、頬を伝って流れた。
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9. フランス在住の日本人音楽家・柿崎陽明氏はパリへと帰っていった。 少女は再び楽器ケースに入ってH氏邸に帰還し、検査と観察のため屋敷内で隔離された。 3日が過ぎ、いつものように朝食を取ろうとしたら味が分からなかった。 彼女はH氏グループが経営する専門病院に移された。 [Part.2] 10. ベッドの横に人影があった。 男性と女性。二人とも感染予防の防護服を着ていた。 男性はお医者様だ。女の人は、誰だろう? 「・・熱はだいぶ下がりました」お医者様の声。 「急性期の段階から抗体価が高かったとのことですが」女性の声。 「このウイルスは急性期の方が回復期より抗体価が高いことも多いのです。ただ、彼女の場合は突出していました」 「退院しても大丈夫ですか?」 「本当はまだ許可できません。・・でも、もう決まっているのでしょう?」 「決定したのはあなたがたH邸ですよ。政府と私はそれに協力するだけです」 「そうでした」 少女は女性を見上げる。 20台半ばくらいかな。綺���な人。 「目が覚めましたか?」女性が言った。 「・・どなた様、でしょうか?」 まだ頭が朦朧(もうろう)として、うまく喋れない。 「外務省北米局の武藤早矢(はや)です。高熱でずいぶん苦しんだそうですね」 「はい」 「あなたには悪いけど、すぐに出発しなければなりません」 「それは、メイドの、お役目ですか?」 「ええ。あなたが必要なの」 そうか、じゃあ、全力でお尽くししないと。 「武藤、様」 「早矢と呼んでくれていいわよ」 「では早矢様。わたくしは、どこへ」 「アメリカよ」 11. その90分後。 在日米軍基地を離陸した輸送機の中に少女と武藤早矢がいた。 少女は透明なカプセル状のアイソレーター(ウイルス飛散を防ぐ陰圧シールド)の中に寝かされ、さらに転動防止のために全身をストラップで固定されている。 アメリカ軍の飛行機とは驚いたけれど、早矢によると少女の輸送は日本とアメリカ両国政府の特認の元で行われているらしい。 スーツ姿の早矢が近くのシートに座っているのが見えた。 早矢は少女に顔を向けて何かを話そうとしているようだ。 そういえば、詳しい説明は飛行機の中でするとおっしゃっていたわね。 でもこんなに轟音が激しくちゃ、いくら声を張り上げても会話するのは難しそう。 早矢は少女の脇に来て喋ろうと考えたのだろう。シートベルトを外して立ち上がろうとして、隣にいた米軍士官に制止された。 お願い、大切な話なの! 両手を振り回して必死に訴えているが、聞き入れてもらえそうにない。 少女は少し微笑んだ。 早矢様って、落ち着いていて知的な女性と思っていたけど、可愛い。 そのとき機体が大きく傾いた。輸送機が旋回したようだ。 早矢は中腰のまま真横にこけて士官に支えられた。 スカートからストッキングの脚が真上に伸びて、まるで漫画のようにばたばた動いている。 少女の身体も真横に振られた。それと同時に全身を固定するストラップがぎゅっと締まって制止された。 拘束されていることを意識する。手も脚も動かせない。 あぁ、嫌じゃない。 H氏邸のメイドにとっては子供遊びのような拘束だけど、それでも自由を奪われるのはちょっと嬉しい。 少女はゆっくり目を閉じた。 早矢様、申し訳ありませんがご説明はアメリカに到着してから願いますね。 12. 着陸の衝撃で目が覚めた。 少女を収めたアイソレーターが搬出される。 あれ? ヘリコプター? 自分を載せてきた機体を見て気が付いた。いつの間にか輸送機からヘリに乗り換えていたようだ。 ごろごろ押されて建物の中に運ばれた。 「着いたわよ!」一緒に走りながら早矢が教えてくれる。 明るい手術室のような部屋に入ると、口髭をたくわえた背の高い白人男性が待っていた。 男性は早矢に向かって英語で話しながら握手する。 "やあ、リズ。見違えたよ。よりによって君が日本の官僚とはね" "運命のなせる業です。でもおかげでこうして再会できました、チャールソン所長" "クレア・エルトンとの親交は継続しているのかね?" "はい。彼女がエジンバラに行ってからも歳の離れた親友です" "そうか。いずれゆっくり思い出話を楽しみたいものだが、まず今は緊急事態だ" 男性はアイソレーターに収められた少女を見た。 "この娘がドナーか" "はい。16才のメイドです" "ふむ。さっそくだが採血と検査、患者には血漿投与の準備を同時並行で行う。・・拙速の極みだよ。急(せ)いては事を仕損じる、慌てて走ると転びますぞ、とは誰が言ったかな?" "ロミオとジュリエットの第2幕、ローレンス神父の台詞です" 早矢はさらりと答え、チャールソン所長はにやりと笑った。 13. 少女はアイソレーター内に拘束されたまま唾液を採取され、さらに腕に注射針を2本刺された。 約600mlの血液処理に要する時間はおよそ1時間。 採血管から得た血液は分離装置で血漿成分が取り出され、残った赤血球などの成分は返血管を通じて少女の体内に戻される。 「気分はどう?」 早矢が声をかけてくれた。 「問題ありません。そろそろ説明していただけるでしょうか。ここはどこですか?」 「ここはアリゾナ州にあるキャンベル人間工学研究所よ。キャンベル財閥による運営で、その当主はマーク・キャンベル氏」 キャンベル様ならお名前は聞いている。確か、旦那様が懇意になさっているアメリカの大富豪だ。 「わたくしのお役目は血液を提供することですか?」 「もちろんそれが一番の役目だけど、旦那様のお世話もしてもらうわ。あなたには抗体があるから」 「旦那様とは?」 「あなたのご主人よ。ウイルスに感染して、こちらの施設におられるの」 「ええっ!」 H氏は渡米中に発症し、キャンベル人間工学研究所に極秘で収容された。 新種の変異株である。治療薬や治療法は確立されていない。 感染症の権威が診断し、治療法として回復期血漿投与による受動免疫療法が提案された。 確実性はないが、現段階の症状の進行状況では効果が期待できると考えられたのである。 こうして金に糸目をつけずに世界中でドナー(血漿成分の提供者)の探索が行われた。 何人かの候補者の中にH氏邸のメイドがいた。 彼女はたまたま同時期に発症して回復期にさしかかっていた。 血液型、抗体価その他の条件が適合したことに加え、本人や家族の了解を得ることなくドナーに使えることも好都合であった。 日本で採取した血漿を調製して凍結輸送する余裕はないと考えられ、本人をアリゾナまで緊急搬送することになった。 日米両政府とアメリカ空軍の協力を得てわずか11時間の輸送だった。 14. 待機していた少女にウイルス検査の結果が伝えられた。陰性である。 アイソレーターが取り外され、全身を固定していたストラップからも解放された。 起き上がって深呼吸する。 ずっと続いていた頭痛と身体の痛み、倦怠感が消えていた。 もう大丈夫。わたしは元気だ。 体を洗って早矢が一緒に持ってきてくれたメイド服を着用する。 身だしなみを整えながら気になっていたことを早矢に聞いた。 「早矢様、チャールソン所長様は早矢様のことをリズとお呼びでしたが」 「あら、分かった?」 「盗み聞きするつもりはありませんが、お二人の会話がとても明瞭に聞き取れたものですから。早矢様はイギリスで英語を学ばれたのですか?」 「さすがH氏邸のメイドね」 「語学は厳しく教育されました。メイドとしてはまだまだ未熟です」 「でもあなたは旦那様がお選びになった女の子よ。誇りに思っていいわ」 「あの、もし間違っていたら申し訳ありませんが」 「何?」 「早矢様は、お屋敷でお勤めでしたか? メイドとして」 早矢は驚いた顔で少女を見つめる。 「どうして分かったの!?」 「勘です。わたくしたちメイドについてよくご存知ですし、早矢様ご自身がメイドを誇りに感じてらっしゃるようなので」 「どうやら後輩を舐めていたようね。・・正体を明かすわ。この仕事をする前はお屋敷にいたの」 「あぁ、やっぱり」 「17のときにこの研究所に派遣されてご奉仕したわ。リズはそのときの一生忘れないニックネーム」 「17才ですか。きっと可愛らしいメイドさんだったんでしょうね」 「私のことはもういいでしょ? 今日はこれから・・、きゃっ」 少女が早矢に背中から抱き付いていた。 「早矢様がいてくださって、本当に心強いです」 「だ、駄目でしょ」 わざとやっているのか、そうでないのか、少女の両手は早矢の胸を押さえて揉んでいる。 「あ、ふ・・」 早矢は少女に抱かれたまま後ろを向いた。 そうして、その口を少女の唇に合わせる。 「んっ・・」 少女の身体から力が抜けた。 早矢様、女同士のキスなのに、なんて上手。 やがて二人は唇を離した。 「あなたこそ、今まさに "花" だわ」 「はぁ、はぁ。・・はい」 「全力で、お尽くしするの。いい?」 「はい、早矢様」 こほん。わざとらしい咳払いが聞こえた。 "そろそろ病室へ移動してくれるかね" ドアを開けてチャールソン所長が立っていた。 抱き合っていた二人は慌てて離れる。 "エルトン博士の報告を思い出したよ。・・リズは同性相手でも性的な接待が可能である。その技術は驚くべきものだと" "所長! お願いですから、この子のいる前でそういう話はやめてくださいっ" 15. 研究所の職員に案内されて病棟へと移動した。 エアシールドの前まで来るとその先は少女だけが通される。 病室に入ると、点滴に繋がれて酸素吸入器をつけたH氏が眠っていた。 そのまわりで防護服を着た医師と看護師が立ち働いている。 わたしだけメイド服のままで構わないのかしら? すぐに気がついた。自分には防護服もマスクも要らない。 "血漿を投与しました。後は天に祈るだけです" 看護師の一人が説明してくれた。 "そうですか。わたくしは何を?" "何でも。医療行為は我々が担当しますが、それ以外はやってください" "はい" "あなたが来られたので、我々はリスク回避のため定期的な診療を除き病室から退去します。基本的な介護はあなたに任せるようにとの指示です" "分かりました。お任せくださいませ" "何かあればインタフォンで知らせてください。それから、あなたには行動制限が課せられます" "行動制限ですか?" "それは、つまり、" "病室内に24時間留まりなさい、という意味ですね? わたくし自身には抗体がありますが、わたくしの体と衣服は汚染されましたから” "あなたが聡明な女性でよかった" "恐縮でございます。行動制限を受け入れます" やがて医療スタッフは出てゆき、病室には少女だけが残された。 よし! 旦那様のお世話をさせていただくのは初めてだ。 少女はメイド服の袖をまくった。 16. 少女は献身的にH氏の看護に努めた。 メイドがご奉仕するのは当たり前のことだから辛くも何ともなかった。 お体の清拭、衣服やシーツの交換、下(しも)のお世話。点滴や呼吸器を確認、看護師作業の補助。 できることは何でもやった。 病室には個室のトイレや洗面所があり、食事も提供されたから、彼女自身が困ることはなかった。 血漿投与の翌週、昏睡状態にあったH氏の症状は快方に向かい始めた。 数日後には呼吸器が不要になった。 意識が明確になることはないものの、たまに目を開けて「水が飲みたい」など求めるようになった。 医師は受動免疫が有効に機能していると診断した。 少女にとっては大いなる喜びだった。 自分の血液が旦那様の中に流れている。そう思うだけで嬉しい気持ちになった。 「そこのお前。ここはどこだ?」 はっきりした声が聞こえた。 振り返るとH氏がベッドに寝たままこちらを見ていた。 「キャ、キャンベル人間工学研究所でございます」 慌てて頭を下げてお答えする。 「キャンベル・・? アリゾナか?」 「はいっ。そうでございます。ご病気はまもなく治るとお医者も言われておりますので、どうかご安心くださいませ」 「・・」 あれ? しばらく待って頭を上げると、H氏は再び目を閉じて眠っていた。 どきん、どきん。 心臓が止まりそうだった。 旦那様と直接言葉を交わしたのは屋敷に入って何度目だろうか。 駄目ね、わたし。 もっとご奉仕しないといけないのに。 ・・あなたこそ、今まさに "花" だわ。全力で、お尽くしするの。いい? 早矢の言葉が蘇る。 少女はインタフォンで依頼した。 "お届けをお願いできるでしょうか? 麻のロープを10メートルほど" 17. 翌日、病室にやって来たのは早矢だった。 防護服を着て、手に麻縄を入れた袋を持っている。 「所長に聞いたわ。もしかしてあなた、自縛するつもり?」 「はい。旦那様はメイドの緊縛がお好きでいらっしゃるので」 「自信はあるの?」 「実はあまり得意ではありません。でもお喜びいただけるように全力で」 「駄目よ。旦那様はとても目が肥えてらっしゃるから、中途半端な自縛はかえってご不満になるわ」 「そんなにはっきり言われると、落ち込みます」 早矢は微笑みながら縄束を取り出した。 「大丈夫、メイドの緊縛をお見せすることなら可能よ」 「早矢様、お縛りになれるんですか?」 「私、あなたの先輩よ? あなたも受ける方なら大丈夫でしょ?」 少女も微笑んだ。 「はい。まる一日中吊られたって耐えてみせます」 「じゃあ旦那様がお目覚めになる前にやってしまいましょう。・・床にうつ伏せになって両手を前に出しなさい」 言われた通りにすると、早矢は少女の手を頭の後ろで合わさせ、その手首を縄で縛った。 右腕の上腕と前腕を合わせて縛り、左腕も同じように縛った。 さらに足首を合わせて縛り、膝を折らせて足首の縄を手首まで引いて固定する。 「どう?」 「動けません。でもお優しい緊縛ですね」 「それは物足りないっていう意味?」 「いえ、そんな訳では」 早矢は立ち上がるとインタフォンで連絡した。 "準備できました。運んでください" やがて病室に防護服の男たちが現れて、棺桶のようなガラスの水槽を運び込んだ。 彼らは床に防水シートを敷き、その上に水槽を据えた。 水槽の底には金属の首輪が細い鎖で繋がっているのが見えた。 鎖の長さは30センチほどだろうか。 「これは私の友人が使っていたウォーターボーディング(水責め)のテストツールよ。彼女、被験者を女性に限ってテストしていたの」 「 "彼女"?」「そうよ」 早矢が合図すると男たちは黙って少女を持ち上げ、水槽まで運んだ。 水槽の中に寝かせると、少女の首に首輪を巻いて固定した。 そうして男たちは洗面台でバケツに水を汲み、水槽の中に注いだ。 ざば。 少女はメイド服で縛られたまま、少しずつ水の中に沈んでゆく。 顔面が水に隠れた。 しばらく息を我慢して、そして堪らず身体を反らして顔を水面から上げる。 首輪の鎖がぴんと伸びたが呼吸はできた。 ざば。 水面はさらに上昇し、身体を精一杯反らせても鼻と口が水面から出せなくなった。 酸素を求めて首を振っているうちに、身体が浮いて水槽の中で横転した。 パニックになって水中で激しくもがく。 あぶっ。 少し水を飲んで、背けた顔が一瞬水から出た。とっさに空気を吸い、再び沈んだ。 生きられる、と思った。 厳しいけれど、一生懸命頑張れば死なない程度には息ができる。 メイドの水責めを旦那様にお楽しみいただくことができる。 そう、それでいいわ。 早矢の声が聞こえたような気がした。 水槽のガラス越しに早矢とベッドに眠るH氏が見えた。 その早矢が少女に向かって親指を立てた。 ・・早矢様、まさか。 早矢は防護服を脱いだ。 その下は屋敷のメイド服だった。マスクも着けていない。 早矢は立ち上がると、少女に見えるようにその場でくるりと一回転した。 ずっと歳上のはずなのに、自分と変わらない十代のメイドのように見えた。 理解した。 早矢は少女の代わりに旦那様のお世話をするつもりなのだ。 もちろんウイルスに感染することは覚悟の上だ。 少女は水中でぶるぶる震えた。 自分も役目を果たさなくては、と思った。 私も命をかけてお尽くしする。 18. 水中のホッグタイ(逆海老緊縛)。 さらに首輪を着けられて、その首輪はわずか30センチほどの鎖で水槽の底に繋がれている。 水槽の水嵩は30センチよりもはるかに高いが、全身で波をたてて首を背ければ波の谷間でほんの一瞬空気が吸える。 少女は何度も水を飲んで意識を失いかけた。 必要なら命を捧げることも厭わないけど、今は死んではならない。 旦那様がいつお目覚めになってもいいように見苦しい姿ではいられないのだ。 水責め水槽の中で細く長く苦しみながら、そのときを待ち続ける。 どれくらい時間が過ぎたのだろうか。 メイド服の早矢がベッドに駆け寄るのが見えた。 H氏が早矢に支えられてこちらをご覧になっている。 はっきりと意志をお持ちの目だった。 ・・うむ、これはよい。 言葉では聞こえなかったけれど、少女にはH氏の思いが明確に伝わった。 [Part.3] 19. ここはH氏が所有する周囲20キロほどの湖である。 「この辺りでよかろう」 H氏は湖の中央でクルーザーを止めさせた。 「さて、儂はこうして帰ってくることができた」 そこに揃った屋敷の幹部たちに向かって話し始めた。 「無事に回復できたのは皆の働きの賜物である。特に血液を提供したメイドには感謝せねばならぬ」 そこまで言って少女に視線を向けた。 「そろそろ頭を上げてはどうだ?」 「はい」 少女は主人に向けて恐る恐る頭を上げる。 旦那様が使用人に感謝の言葉をお述べになるなんて、聞いたこともなかった。 「褒美をとらせたい。近くに来なさい」 「はいっ」 H氏は自分の前に少女を立たせると、麻縄で縛り始めた。 高手小手縛りの上、10本の手指すべてに縄を掛ける。 メイド服に食い込む二重菱縄。そして太もも、膝、脛、足首。 時間をかけた丁寧な緊縛だった。 かつてH氏の緊縛は荒々しく女体を締め上げる緊縛だった、 しかし今はH氏自身がゆっくり楽しみながら16才のメイドを縛っているのがよく分かった。 少女にとっては縄の一本一本が身に余る光栄だった。 近頃は旦那様が自ら縄をお持ちになること自体珍しいのである。 緊縛が完成すると、少女の足首に50メートルの係留用ナイロンロープが繋がれた。 浮力を相殺するために300号(約1.1kg)のオモリを2本取り付ける。 「よいか?」 「どうぞ如何様にもなさってくださいませ」 少女は縛られたまま湖に投げ込まれた。 輝く湖面と青い空。それに続いて無数の泡と頭上にクルーザーの船底が見えた。 その船底は次第に遠く、暗くなってゆく。 自分の命を繋ぐロープが細く伸びている。 湖に投げ込んだメイドを沈めておくのか、引き上げるのか、それは旦那様のお気持ち次第だ。 20. 「うむ」 がんじがらめに緊縛したメイドが水中に消えると、H氏はクルーザーをゆっくり走らせるように命じた。 デッキに丸めたロープがどんどん出て行く。 「よい天気だ」 空を見上げてゆっくり言われた。 そこには、今までと変わらない自信に満ちたH氏の姿があった。
~登場人物紹介~ 少女: 16才。H氏邸のメイド。勘がいい。 柿崎陽明: 33才。フランス在住音楽家。 武藤早矢: 24才。外務省北米局所属。元、H氏邸のメイド。 セオドア・チャールソン: 70台半ば。キャンベル人間工学研究所所長。 久しぶりの投稿です。 H氏邸シリーズとなるとほぼ3年ぶり。 コロナ禍で憂鬱な日々が続く中、H氏がウイルスに感染することを考えました。 最初にアイディアが浮かんだのは昨年の始め頃。 世界中で様々な治療法が模索されていた時期で、受動免疫療法もその一つでした。 それからポツポツと書いては中断を繰り返し、ワクチン接種も現実になった今になってようやくアップできました。 冒頭の「ご注意」は、念のために記載しておきます。 Part.1 では、メイドさんがコントラバスの楽器ケースに入って届きます。 コントラバスのケースはとても大きいので、中に女性を入れるのは問題ありません。 ただし今回は一つの楽器ケース内に同梱物が多数です。 サイレントベース、携帯ガスコンロやフライパンその他調理器具一式、数食分の冷蔵/冷凍食材、さらに小型のキッチンテーブルまでもがメイドさん本体と共にパズルのように隙間なく収納されています。 いったいどんな風に詰まっているのか、ぜひ見てみたいものです。 なお、サイレントベースは正式には「エレクトリック・アップライトベース」と呼びます。 長くて書きにくいので本話ではよく通じると思われるサイレントベース(某社の商品名)にしました。 Part.2 は『異国のクリスマスパーティ』のアリゾナが舞台です。 リズさん��お屋敷のメイドを卒業して今は外務省のキャリアです。 彼女くらい優秀なら国家公務員総合職試験に一発で合格することは全く問題ないでしょう。 クレアさんについては少し悩んだ結果、再登場なしです。 彼女のようなスペシャリストは7年も経てば別のステージに進んでいるのが普通だと思いますので。 また、以前お約束しておきながら スザンナ姫 を絡めることはできませんでした。すみません。 Part.3 は短いですが一番やりたかったシーンです。 日本の湖で周囲20キロは田沢湖や摩周湖と同程度ですね。 こんなのを個人で所有できるのか謎ですが、H氏なら何でもアリということでww。 さて、前の記事でお知らせしましたように10月半ばには FC2 の旧ブログを閉鎖します。 突然 Page not found になると思いますが、特に案内はしませんのでご了承お願いします。
~(追記)コメ��ト送信トラブルについて~
コメント送信でエラーになる事象が発生している模様です。 私の環境で試してみたところ、 A.「お名前」を日本語にすると「お名前が長すぎるか、短すぎるようです」とメッセージが表示  「お名前」を英文字にすると「コメントを公開する前に」という謎の文言が表示されるものの送信 B.「コメントを投稿」を押下しても送信完了しない   Windows: Chrome/Firefox は A、Edge は B   Android: Chrome は A   iOS/iPadOS: Safari は B が発生します。(OSやブラウザのバージョンによる差異は未分類) IntenseDebate の問題と思われますが、古いサービスのため解決されるかどうか分かりません。 しばらく様子を見て解決しないようであれば、Twitter でのメッセージ交換を公開することにします。 それまでの間、恐れ入りますがメッセージの送信は pixiv からお願いします。
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crydayz · 5 years
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190509 TL
【0:00】 予算がないとジャンボリオンのエンジンが買えないやつですね
[LINK] https://twitter.com/AItoiI/status/1126079781139697671
--- 【0:30】
今後も怒りと悲しみの感情を好んで摂取アンド放出し続けるだろうけれど、それをパワハラ、モラハラ的な方向性では使用しない(つまり、特定の個人や集団にぶつけない)し、自分で自由にその感情を解除できる鍵が手に入った。
遅かった。非常に遅かった。遅すぎた。
「鬱なんかに負けてたまるか!」と思っていたけど、鬱を手放さない努力をしていたのは自分の方だったのだ、やっぱり、ほんとに、予想してた通り。
予想通りだからショックではないものの、とても虚しい。今はな。だって、鬱期間の中で積み上げてきたストーリーが、9割消えてしまったのだもの。
データは消えた。歳はとった。そんな感じ。一応、技術がちまちま成長しててくれてたから食いっぱぐれる事はないものの、10年前の絵を見て思う…
「当時の方が目がいいな」、と。
そんで、今は目が悪いのか?というと、順当に成長した場合の「2013年」くらいの成長度まで回復したと思う。つまり、この10年間、成長速度が1/3くらいに減っていた。
実質的な損失は5年程度ってとこか。しかし、5年成長しつづければほんとに全然違うところへ行っていたぞ。
とにかく、結果的に目はそれほど悪くなっていない。まだ見える。いい経典もいくつか手に入った。教祖としての活動を再開する。
--- 【1:30】
別にこれを真似できるやつはフツーに絵画描けるやつだから必勝テクでも裏ワザでもなんでも無いし、だからこそオープンにしてしまうが…
たぶん、筆ペン使ってアクリル絵の具でふつうに絵、描ける。
しかも凄く繊細なコントロールしつつ。
超高級面相筆のような精度、たぶん出せる。
できるヒト、やってみて。
当然、筆ペンのタンクからインクが流れてこないようにする、中身が空のタンクを使うんです。
びっくりすると思うよ、あまりの描きやすさに。カサカサになるまで育てたやつも使ってね。
水筆とは若干違うチューニングされてるから、筆ぺんの穂先って。
僕、まだやってないけどね。あるタイミングからそれが自分の主力武器というかスタイルになる気がする。
--- 【5:00】
自分で描いた絵を忘れるなんてことあるの?
―と思っていたが、ラフからペン入れ、、マスク切り程度まで順調に3時間以内に終えて一段落ついてしまった絵というのは、その後 別件入ると忘れるっぽい。
見れば思い出すけどね。別のことやってる間に原画を隠されたりデータ消されたらたぶん一生思い出さない。
ただ、なんとなく「今日これしか描かなかったのになんでこんな疲れてるんだ? あれーっ?」って思うだけ。
FANBOXに描きかけで載せている絵、本当に記憶にない…
更新の義務感でラフ載せて「ふぅ…義務果たしたぜ…」という満足感によって忘却してしまうのだ。
だから配信をしなければならない。そしたら「あれどうなったんですか?」って突っ込んでもらえる。
--- 【7:30】
鬱をほぼ抜け、性格変わったな…という実感を感じたので久しぶりに性格診断をやった。
◆結果
とにかく、随分長らく「寂しさ」に苛まれ様々な事が手に付かない日々だった。それは自分が「差別」をしてしまう事への恐怖と、差別される事の恐怖だ。
今はその恐怖も減ったし、レイシストの事もアンチレイシストの事も人間そのものとしては平等に扱いたいと思う。
ただし何かをやる上での戦力として計上する場合は別問題。
能力は能力。能力に対する対価において、平等というものはあり得ない。劣っているものを貶める事はせずとも、優れているものを評価しないという事もまた、あり得ない。
「需要に応えている存在」は、それが大勢が同意できるレベルで「誰かに対する侮辱行為」や「損失を与える行為」を働いていないかぎり、いたずらに差別すべきではない。
臆病風に吹かれ自身のアイデンティティを嫌悪し、無欲で無害な存在を装うことで優しさを分けてもらおうという「乞食めいたアプローチ」はもうおしまいだ。
あとで「しっぺ返し」を食らうような場当たり的で無計画な行動を封じた上で、行動回数自体は増やせばいい。
--- 気づけば、終わってた --- 【拍】
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uniudonuni · 5 years
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『トリツクシマ』反省
(2019年3/8(金)〜3/10(日))
まず稽古中の反省から、これは自分だけの問題ではないと思うし基本になってくることだな。
芝居に取り組むにあたって、もちろん台本を読んで戯曲解釈をしたりセリフを覚える作業は大事になってくるけど、それ以前に自分自身の身体・精神の問題を整えること。稽古の中でこれが上手くいかないあれができないとかそういうのはいい。でも友人関係が〜恋人が〜生活が〜とかプライベートの問題が稽古に持ち込まれるべきでは無いし、昨日飲みすぎた〜風邪引いた〜とか体調管理の甘さも持ち込むべきではない。芝居に入る以前に自分を整える段階がまず第一段階にある。
次に、自分がやりずらいのは芝居中における役やセリフ、動きのやり方の問題なのか。当たり前のことだけど、まずは何が問題なのか考える。その場面だけのセリフの言いづらさなのか全体なのか、それは役の感情と行動の整理で、解決にはトライアンドエラー、別パターンで動きだけやる、声だけでやるとにかくやり散らかしてみる等。これは役へのも場面へのも、チューニングというかピントを合わせる作業で、自分と役の割合をどの程度にするのか決める作業でもある。
結局は考えるか、行動するか?やるか、考えるかならちょっと考えてやる方がいい。
1個目に関して、脳と身体のバランスが大事だなと思う。今回やってる時に疲労もあったし神経過敏になって全然寝れなかったりとかしたけど、それを次の日の稽古に持ち込むべきではない。ではその問題をどう解決するか。自分の身体の状態って目に見えづらいし数値化されてる訳でもないから分からないこともあるけど、だからこそ一番大事にするべき。役者は体調が悪くても普段と変わらないように見せるべきって1年���に言われたんだけど、まず体調悪くないのが一番だしね。だから自分の調節にかかる労力を惜しんではいけない。風呂に入って自律神経を整える。バランスのいい食事をする。便が出ないなら整腸剤を飲むなり下剤を飲むなり病院に行く。まず寝てる時に体を冷やさないための環境を作る。加湿や空調や寝具を惜しまない。(ルナルナは男性にも効果があるらしい)
稽古とはなんとなくを潰していく作業という言葉が出た(議長から)、出来ないなら出来るように、出来たのならなぜ出来たのか、自分自身の自覚は大事だな。Twitterで出来ないことを意識すれば出来るように、意識すれば出来ることを無意識に出来るように、というのを見たことがあるけど無意識に出来るようになった事に対する自覚は忘れては行けないし、それは他人との比較で生まれることだと思う。イメージではなく実証。
次に全体に関して、���人芝居で55分間、多分50分位は舞台出っぱなしで半分くらいはセリフ喋ってたけど、終わった心証としては二人芝居って共演することさえ出来ればめちゃくちゃ楽なんだなぁということ。楽しかった。自分自身の役者としての状態が3年やってて今までで1番よかったのだけど、それはセリフを覚える早さに1番出てて、3ページくらいの一人の台詞を渡された次の日には8割入ってるって今までの自分だったら考えられない事だった。(3月末の話だけどそれでも当日に覚えられるような人もいる、そこを目指すべき)それは台本を読んで、一つ一つの場面や感情の流れ、行動とか相手との関係性を明確にして行く作業の副産物だと思うんだけど、俺が最後に芝居をした2018年の9月までではそこまで過剰に考えてはいなかったから、ある意味で芝居の作り方やアプローチが変化してしまっていて、自分でも意識せずに新しいことをしていて戸惑いが大きく、出来ないと感じた時にじゃあこうしよう!というのがすぐ出てこなくなってしまった。これは完全に何回もやって慣れていくしかないなとも思うし、このやり方でとりあえずいいかなとも思う。また変化する時期が来たら変化すると思うし、練習の仕方や課題はこれから見つけていくべき。
全体としておおむね良かったし、自分のやるべきこと、出来ることの7割くらいは出来たのではと思う。でも共演相手の問題にしっかりと向き合わなかった、自分なら解決できたかもしれない問題を一時見過ごしてしまったのは大きな間違いだった。減点。それは作品を作る上で必須であることだし、人と自分を比べすぎた。
相手がどんな努力をしているのか、どんな生き方をしてどんな人と関わってどんなことを考えて生きてきたのか。その全てを知らないし知れるはずもないのに、それを見ないで人の能力を羨むのは筋違いだ。大切なことはいつも忘れる。自分だって理不尽に妬まれることもされてきたのだから、自分が他人にそれをしてはいけない。曇った景色を見ているつもりが、雲をまとっているのは自分の眼だったりする。
他人と自分を比べるのはいい。他人は自分を写す鏡だし、他人がいることで自分自身を知ることは沢山ある(これは別で書く)。でもそれがストレスになってはいけない。例えばオーディションで落ちたとして、よく言われるけどその作品が合わなかったか、自分の準備不足の点が大きい(準備については別で書くか…?)。
ほか細々。
癖として気がついたら口開いてる。なんでやねん。(稽古でも動画で何回か確認するべきだな)
連絡遮断しない。マジでしない。反省してます。
集客に関して、身内以外の集客を増やす(これは3月中にずっと考えてたので別で書く)。
今回俺がやった事って結構正しい面が強かったし、このやり方、目線を常に自分に向けられるようになりたい、自分に厳しく。
人に話せない何かがある時、それを打ち破るのはすごく勇気と労力がいるし怖いけど、やることでしか解決しない。
本番中に観てくれている人を見る。自信を持つ。自分を見せる意識、隠れない、表情、身体を使った表現。自分の身体を扱えるようにする(お客さん見すぎてトチった、見すぎも良くない。)。
遅刻、寝坊、連絡。ホントこれ。
人より何かを知っているということは、全てのことに繋がる。自分の中にある×や△をどれだけ〇に変えられるか、それでしか成長はない。
声、身長、顔、頭等そこそこいい条件は揃ってる。自分に厳しく。
一番好きで一番楽しいことが一番大変。
色々これはやる、これはダメ、こうしてみようかなはあるけど、それでも一度バラバラになることを恐れない。バラバラになるのめっちゃ怖いけど。
今後学んでいくものとして、テクニカルは知識として持っておくべきだなと。それは個人的には明かりよりも音響に。音=声の側面が強いから。
まだ死ぬ時期じゃないな、生きる為にやってるんじゃない、生きてるから好きなことをしてるんだ。
勤勉さ、柔軟さ、素直さを忘れない。吸収。
ちなみに夏休みの宿題は8月31日に終わらなくて始業式を休むタイプ。そういうとこ。
連絡遮断しない。
以上、金曜の夜の集会 番外集会 『トリツクシマ』反省。
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carguytimes · 6 years
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関西の意地と気合で最速記録を塗り替えた! その3・トライアル3LツインターボZ編【OPTION 1985年4月号より】
谷田部で日々、繰り広げられていた最高速トライアル。ステージが茨城県内の日本自動車研究所(通称:谷田部)なだけあり、やはり関東のメーカー&ショップが有利なのはいうまでもありません。 そんな中、はるばる500km以上の距離を移動してのトライを続けていた関西軍団。カーショップF-1や黒金Zでお馴染みMレーシング、カキモトレーシング、そしてチャレンジ(後のトライアル)などが名を馳せていました。その中のトライアルがついに! それまでの最高速記録だった光永パンテーラの記録、307.69km/hを超す大記録を叩き出したのです。では、そのトライアルZをチェックしてみましょう! ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ データの積み重ねからこの記録は生まれた! トライアル3LツインターボZ 307.95km/h 最高速307.95km/hをあっさりとマークしたトライアルZ 3Lツインターボ。このレコード達成の原点は、OPT1984年8月号で紹介したトライアル3.1Lシングルターボの記録、279.07km/hだった(※clicccarでは未紹介デス)。 そしてこのスピードをマークした時点から、ツインターボ化したもう1台のS130Zを製作する計画は始まっていた。1984年6月ごろから少しずつ、慎重に細心の注意を配って、エンジンを完成させたのが8月。しかし、谷田部スペシャル的なエンジンにしたくなかったため、ピストンクリアランスは6/100mmであった。 このクリアランスは、ストリート用で耐久性を重視したものだが、当然きちんとしたナラシは不可欠だ。じっくりと3000kmのナラシを行い、最高速トライに向け、細部のセッティングが続けられていった…。 今回の記録は決して運が良くて出たものではなかった。まず過去の最高速マシンの情報を集め、その中のデータと、自らが今まで貯えてきたノウハウをミックスして、トライアルの全精力が注ぎ込まれた。 たとえばキャブレターにしても、ソレックスでのトライでは、ブーストを1kg/cm2かけるとガソリンがにじみ出てきてしまう。対策を行ったが1.2kg/cm2以上にはどうしても耐えられなかった。そこでOERのキャブに変更してテストを行ってみたところ、1.4kg/cm2のブーストでもガソリンがにじんでこない。そこでキャブをOERに決定した。 口径については45φにすれば吸入抵抗などからも有利。口径を決めた後は、どんどんセッティングを詰めていった。カムシャフトについても、シングルターボでのデータを生かして改良を加えたものとしている。 排気量については、3.1Lや3.2L用に使用するLD28用のロングストロークのクランクを使わずに、高回転域での伸びを重視したL28用のクランクを使用して2947cc。この点もやはり今までの谷田部での結果を冷静に判断したものだ。 ブースト圧については、地元のテスト中に1.4kg/cm2で5速6000~6100rpmに保ってセッティングを行っていた。が、ミッションがパワーに負けてトラブルが続出してしまった。そのため、セーフティマージンを考えて、1.1kg/cm2に下げて再度セッティング。このためパワー的には570psくらいから460psほどに低下した。しかし一発勝負的でマイナートラブルを許さない谷田部でのトライには、逆に安心感を生む結果となった。 空力面については、いかに空気を味方にするかがポイントだった。ラジエター、インタークーラーを通った空気をどのように抜いていくか? とにかく空気の抜けだけを細かく考えていった。S130にL型エンジンの場合、ボンネット上方に空気を抜くのは形状の問題で難しい。そこで下方によりスムーズに抜いていくことにした。フロントスポイラーについても、過去のテストドライバーのコメントとテストカーの写真からセレクトしていき、今回のチャレンジアップレーシング製に決定した。 足まわりについては、3.1Lシングルターボの足を基本として、バンクでの走行をより安定したものにするべく細部のリセッティングを行った。 最後に基本に戻って、どのようにしてこの記録が出たかを考えてみよう。関西からの参加は地域的に不利だ。そしてトライに出場する回数も関東地方のショップに比べると少ない。が、これらの不利な点が、必然的に1回のトライに向けた内容の濃いチューニングやセッティングを生み、セーフティマージンを大きくとったことがマイナートラブルの発生を抑えたのだ。 トライアルのこれらの努力の結晶が、スピードとなって表れた数字、それが307.95km/hだ。 <正直コメント> トライアル 牧原道夫 もう体中��Vサインの塊になったような気がしたネ。記録が出なかったり、エンジンブローした時の、谷田部から大阪への道は信じられないほど遠かったのに、今回はすぐに大阪に着いたようだった まぁ今回のZに関しては、半年以上かけてターゲットを絞ったものだったし、関西人のイジを見せたい、まさに背水の陣で臨んだものだったんですヨ。記録が出たから良かったけれど、もし出なかったらショックが大きかっただろうネ。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ はるばる関西からの遠征なだけあり、失敗は気持ち的にもダメージが大きい。そこからの研究と努力の結果で生まれた最速記録! 記念に「東京オートサロン2018」で撮った画像もプラスして掲載しますね!(トライアル牧原さん+RE雨さんのツーショットもレアな感じ?) さて次回その4では、OPTテストではなかった(涙)この3台の300km/hマシンをドライブした2名のドライバー・・・井上晴男さんと大川光一さんの「声」を聞いてみましょう! [OPTION 1985年4月号より] (Play Back The OPTION by 永光やすの)   【関連記事】 最高速で日本初のオーバー300km/h! 最強伝説となった深紅のパンテーラ【OPTION 1982年2月号より】 ついに出た! 国産車初の300km/hオーバーはHKSセリカXX「M300」だった! その1【OPTION 1984年3月号より】 国産車初の300km/hオーバーマシン、HKSセリカXX「M300」のメカニズムをチェック! その2【OPTION 1984年3月号より】   あわせて読みたい * あの「大川ソアラ」も300km/hオーバーを記録! その2・TRUSTツインターボソアラ編【OPTION 1985年4月号より】 * 夢の300km/hマシンがついに続々誕生した! その1・RE雨宮13BツインターボRX-7編【OPTION 1985年4月号より】 * 超高級車トヨタ・ソアラがトラスト+ドリキン土屋のレース仕様へ変身! その違いは? 後編【OPTION 1984年10月臨時増刊号より】 * 土屋圭市選手のJSSデビューマシン「JSSトラスト・ソアラ」にDai稲田が乗った! 前編【OPTION 1984年10月臨時増刊号より】 * 究極のプライベーター・武田ポルシェの全貌がこれだ!【OPTION 1983年6月号より】 http://dlvr.it/QMD0gJ
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kkagtate2 · 5 years
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偽善者の涙[六]
[六]
一方その頃、――正確には佳奈枝のもとに多佳子がやつて来るつい三十分ほど前であるが、里也と沙霧はシンフォニーホールのとある席、――正確には舞台真向かひの二階席、ちやうど正面に指揮台のある演奏を楽しむのにはうつてつけの席、――そこに並んで座つてゐた。外に出るとめつきり喋ることの無くなる彼女は、今日はいつも以上に静かであつた。里也が例へば、
「意外とガラガラやな。やつぱりラフマニノフの一番て、人気無いんやろか」
と云つても、
「さうですね。……」
としか返つてこない。道を歩いてゐる時ならまだしも、ホールの中に入つてもこの調子なのは珍しく、普段沙霧とコンサートへ訪れて上記のやうな適当を云ふと大抵の場合、やんわりと訂正した後普段喋らない分饒舌に薀蓄���りが始まるのである。それが無いといふことは、やつぱり気分では無くなつたからだらうか、それともゝう疲れてしまつたからだらうか。
今日の彼女はそれとは別に妙に小奇麗であつた。普段は洗つてゐるのかも分からないボサボサの髪をばう〳〵にして、ちやんとしても微妙に時期を外した格好をしてゐる姿に見慣れてゐる里也は、よくもまあこゝまで綺麗になつたものだと感心してゐた。先日に佳奈枝がふらりとゞこかへ出かけて、何故か梳きバサミを買つてきて、まさかと思つてゐたらほんたうに練習台にされて、そのせいで彼はすつかり髪が薄くなつてしまつたのであるが、シャクシャクと小気味良い音を立たせながら綺麗になつて行く沙霧の姿を見られたゞけでも安いものである。彼女が押し黙るやうになつたのは、その時からなのであつた。以前美容室に連れて行つた時は、嫌々ながらも鏡を見てほつと安心したやうに息をつくだけであつたけれど、いつたいどうしたのであらうか。化粧も服も含めて慣れない自分の姿に戸惑つてゐるのであらうか、それとも髪を切るなどとは彼女には伝えてなかつたから機嫌を損ねてしまつたのであらうか。
何はともあれ里也は久しぶりに沙霧と一緒にコンサートに来ることが出来て満足であつた。上手く返事が返つてこないとは云へ、彼に手を引かれて歩いてゐる彼女の顔には笑みが見られたし、今も食ひ入るやうにプログラムやらパンフレットやらを見つめてゐる。かう云ふ時に話しかけては興も削がれるであらう、――里也はさう思つて自分も今日の演目を眺めることにした。前曲、中曲は兎も角として、やはり楽しみなのはメインのラフマニノフの交響曲第一番である。
かの作曲家の作品は往々にしてあひだの曲、――交響曲なら第一番と第三番のあひだにある第二番、ピアノ協奏曲なら第一番と第四番に挟まれた第二番三番が特に有名なのであるが、だからと云つて他の曲に味はひが無いかと云へば全くさうではない。単に知られてゐないだけで、例へばピアノ協奏曲第一番に関して云へば、耳をつんざく運命的なピアノの下降音形から始まり、ラフマニノフ特有の音と音を隙間なく丁寧に繋いで奏でられる耽美な旋律や、後年を思はせる第三楽章の一転して小気味良いリズム、それにオクターヴで駆け上つて絶頂へ達する華々しいクライマックスが聞ける。後期の作品よりもさらに哀愁に満ちた息の長い旋律には、ピアノ協奏曲第一番にしか持ちえない美しさと希望の薄さがある。だが、何に増してピアノ協奏曲第一番が素晴らしいのは、神秘に満ち溢れた第二楽章であらう。人気のある第二第三番と比べて緊迫感の無い楽章ではあるけれども、人間の不安とか焦りだとか、さういふものとは関係のないところで音楽が鳴つてゐるやうな気がして、ほんたうに何時間だつて聞いてゐられる。ラフマニノフの評論で必ず云はれる甘く切ない旋律も鳴りを潜め、ただ〳〵美しい調べが止まること無く永遠に続いて行く。若い時分には後年のアダージョのやうに絶望と希望の減り張りに大いに感動を憶えたものであるが、このピアノ協奏曲第一番に関してはそんな緊迫感なぞ無い方がいゝ。絶望と希望に揺れ動くことすらないほどに打ちのめされたある一人の男が、川のせゝらぎを聞きながらじつと佇んでその時を待つてゐるやうな情景は、それこそこの緩徐楽章の味である。有名なピアノ協奏曲第二番ではもう少し希望はあつて、第一楽章で提示された鐘の音がかなり絶望的ではあるけれども、曲を追ふに連れて見えてくる天からの微かな希望を、決して届かないと云ふのに手を伸ばして掴まうとしたり、もう諦めてしまつたかのやうに項垂れたり、何とか自分を奮ひ立たせて立ち上がつたり、でもやつぱり掠りもしないから恨めしく天井を仰ぎ見たり、……そんな絶望と希望のあひだを行つたり来たりするところが、第二番第二楽章の味と云つたところであらう。尤もこの場合は本来はロマンスであるから、希望云々といふ話は邪道かもしれないが、しかしそのやうな葛藤がピアノ協奏曲第一番では見られないのである。兎に角ラフマニノフのピアノ協奏曲第一番は、作曲者自身が後年になつて改訂したとは云へ、他のピアノ協奏曲とは若干違ふ、苦くも決して不味くはない味はひを持つてをり、どうしてこれがもつと世に知られないのか、里也は疑問に思つてゐるのであつた。
そしてその疑問は今日聞くことになつた交響曲第一番でも云へるのである。だがこれについては確かな理由があるかもしれない。
「グラズノフも酷いもんだよな、あんな酔つ払つて指揮するなんて。ロシア人つて云ふのはそんなに酒飲みなんやろか」
何でも初演時に、指揮を努めたアレクサンドル・グラズノフが酷く酒に酔つたまゝ舞台に上がつてしまひ、それは〳〵大変な演奏をしてしまつたらしい。当然笑ひ話で済むはずがなく、その結果、ラフマニノフはピアノ協奏曲第二番を途方もない神経衰弱に陥つたまゝ作曲したと云ふ。
「………」
沙霧は相変はらず静かであつた。チラリとこちらを見てきたやうな気がするが、このときに振り向いてしまふと余計に押し黙つてしまふので、こちらも変はらずパンフレットに目を落としてゐると、
「実は、最近ではさうでもないみたいです。………」
と聞き取れるか聞き取れないか怪しい音量で云つてくる。振り向くとすぐに目線を逸らされてしまつたが、話は続いた。
「と、云ふと?」
「えつと、………兄さんもご存知ですよね、この曲の楽譜が一旦喪失したことを」
「たしか亡命時に家に置きつぱなしで、以来行方不明なんやつてな」
そして今日に至るまで元々の総譜は発見されてゐない。
「さうです、さうです。さすが兄さんです。それでラフマニノフの死後、レニングラード音楽院の図書館からパート譜が発見されて、そのパート譜からスコアが復元されて、一九四五年にアレクサンドル・ガウクの指揮で復活した、……とこゝまではいゝのですが、そのパート譜からスコアを復元する時に問題があつたさうで」
「ほう? と、云ふと?」
沙霧はむず痒く笑つて話を続けた。
「その復元されたスコアとパート譜の食ひ違ひがあまりにも多いらしいのです。例へば、……例へば、………えつと、第一楽章のオーボエの第二主題の、………」
「どこだ、………」
「あ、……えと、こゝです。………」
と身を寄せて小さく歌つた。それは中々一言が云ひ出せない朴訥な男が語りかけてくるやうな、聞いてゐる側からすればもどかしい主題で、沙霧がうたふとひどく魅惑的であつた。
「あゝ、そこか。思ひ出したわ。哀愁があつて綺麗なんやけど、なんか微妙やな」
「ふふ、……さうですよね。でも、その微妙さこそが原因なのです。ラフマニノフの交響曲は往々にしてリズムだとか音量の濃淡が重要でして、……あ、それは第二番を実際に演奏なさつた兄さんの方がお詳しいですよね」
「うむ。……あんなに細かく強弱記号で音量を指定されたのは初めてだつた」
これは楽譜をたゞ眺めるだけでも分かることであるが、ラフマニノフの交響曲第二番は鬱陶しいまでに強弱記号で演奏者を縛つてゐる。冒頭にある教会での礼拝からしてピアニッシモからクレッシェンドデクレシェンドで音量を支配されるし、その後のディエス・イレを思はせる動機もまた、たつた三小節弱の旋律ではあるけれども五つもの強弱記号が付いてゐる。そんな風に、その後も裸のまゝ投げ出される音符は無いと云つても云ひ過ぎではないのだが、そこへ持つてきて第一主題ではさらに一小節刻みでpoco rit. だとかa tempo と云つたリズムの変化も細かく指定される。交響曲第二番はさうやつて出来た緩急の匙加減が演奏における醍醐味と云つたところで、客席に居る者は交響曲と云ふよりはむしろヴォカリーズを聞くやうな心地にさせられるのである。たゞし、素���らしい演奏では気が付かないほど巧妙に料理されて出てくるので、コンサートなぞで聞いた暁にはもう一度聞きたい衝動に駆られてしまふ。恐らく一度も演奏しないまゝ、一度も楽譜を見ないまゝ、何も考へず何も意識すること無く聞くのが、交響曲第二番を味はへる最高のコンディションであらう。
「先程のオーボエの主題における濃淡といふのは、リズムの濃淡でして、らら~、ら~ら、らら~、……とほとんど同じことを繰り返すだけなんです。だから記憶にもあまり残らないし、なによりはつきりとしないので、うつかり記譜を間違へてしまうんです」
「それでスコアとパート譜が食ひ違つてるつて訳か」
「――えゝ。スコア譜では先程の音形が、……らら~、らら~、らら~、………になつてゐたりします。あ、それで話を戻しますと、ラフマニノフが死んだ後に復元されたスコアで、しかも主題でそんな間違ひを犯すほどですから、初演時には一体どれだけの不備があつたことやら、……」
「なるほどなあ、……確かにそれはあかんなあ」
「で、最近ではそんな記譜上の曖昧さが混乱に次ぐ混乱を呼んで、結果、演奏もはなはだひどかつたと、そんな見解が広がつてゐるらしいです」
「へえ、なるほどなあ。練習の時にグラズノフは何も文句を云はなかつたんかな」
「さあ、どうでせう? あの演奏はかなり放漫であつたらしいですから、それこそ酒に酔つて、練習も本番も勢ひで乗り切つたのかもしれませんね」
ふゝ、と沙霧はさも可笑しさうに笑つた。
「はゝゝ、かもな。ありがたう、勉強になつたよ」
「いえ、そんな、……私はこのあひだ読んだことを話したゞけですから、……」
「いや〳〵、同じラフマニノフ信者な俺でも知らなかつたんだから、そんな謙遜せんでえゝんやで。さすが沙霧やん」
「そんな、……ふゝ、そんなおだてゝも、これくらゐしか出てきませんよ。ふゝゝ、……」
「あゝ、さうだ。さう云ふ話を佳奈枝にもしてやつてくれ。まだネタはたくさんあるだらう? あいつはすぐ俺を知識で負かさうとしてくるから、ぎやふんと云はしたつてくれ」
と、里也は、普段あゝだかうだ云つてくる佳奈枝の顔が突然浮かんできたので、冗談めかしくさう云つたのであるが、
「………」
と沙霧の顔からみる〳〵うちに消えていく。
「沙霧?」
と再三呼びかけたが、崩れた笑みはもう戻つてこなかつた。
今日の客入りはほんたうに少ないらしく、開演時間間近になつても自分たちの両隣に人が居ないほど空席が目立つてゐた。少しばかり立ち上がつて一階席の方を覗き込むと、いつも客席を埋めてゐるご老人方がそれなりに居るやうであるけれども、やはり数は少ない。かう云ふ折には大学生くらゐのキラキラとした集まりがいくつもあるものだが、それもまたちらほら見かけるだけである。里也は日本のオーケストラを聞くのは学生の頃以来で、昔はよく講師の先生からチケットを安く買つては佳奈枝と共に訪れてをり、今日はその思ひ出にも浸らうかと密かに考へてゐたのであつたが、かうも学生が少ないと少し残念にも感じられる。学生として最後に訪れたコンサートは、たしかセザール・フランクの交響曲ニ短調を聞いた時であつたゞらうか。折良く定期演奏会の一月前に同じ曲をプロの演奏で聞けると云ふので、練習終はりに同じ金管楽器の連中と、楽器を背負ひながらこのシンフォニーホールに訪れたことはよく憶えてゐる。もちろんその時も佳奈枝は居て、隣りに座つてきたかと思へば、ブルックナーと同じくオルガン奏者であつたフランクへの愛を熱く語つてゐた。この交響曲の魅力はやつぱり何と云つてもその重厚かつ上品な響きにあつてゞすね、今日はそれが楽しみで来たんですけど、演奏に依つてはほんたうにオルガン版とオーケストラ版つて同じ響きをしてゐてゞすね、あ、でも悲壮感はオルガン版の方が上ですね、やつぱりあの強烈な響きには勝てません、やつぱりフランス人なのでオーケストラにするとどうしても音が華々しくなつてしまうんですかね、ま、兎に角、暗雲立ち込める冒頭からしばらく経つて、空が晴れ渡つた時の、あの天が歌つてゐるやうな抱擁感! もう素晴らしいとしか云へません。と云ふより、そも〳〵調性がニ短調の時点ですでに天上の音楽ですよね。それで、第三楽章へ向けてのあの例の主題がですね、――これ以降は忘れてしまつたが、演奏に関しては佳奈枝の望む通り、重厚かつ上品な響きに美しい旋律がそつと乗つてゐるやうな、そんな印象を受けた記憶がある。たゞあまりにも素晴らしい演奏をしてくれたものだから、第二楽章でやつぱり寝てしまつて、後で佳奈枝にこつぴどく怒られてしまひ、今でもコンサートの前には必ずと云つていゝほど寝ないでよね、と里也は云はれてゐるのであつた。
今日はそんな彼女がゐないので、里也は意識が遠のくほど存分に、自分の世界に入り込んで演奏を聞くことが出来た。プログラムもよく把握しないまゝに訪れた演奏会ではあつたけれども、ラフマニノフの死の島が始まつた途端から、船に纏はりつくやうにうねる海に心が囚われてしまつた。隣に座つてゐる沙霧は、里也以上に演奏に聞き入ってゐるのか瞬き一つすらしない。昔、彼女から聞いた話ではこの曲は、アルノルト・ベックリンの「死の島」といふ油絵か何かを見たラフマニノフが、その霊感に感動して作曲したさうだが、なるほど確かに原画を思ひ浮かべながら聞くと一つのストーリーのやうなものが現れる。死の島と云ふからおどろおどろしい想像をしてしまふけれども、ベックリンの意図では全体が墓場となつてゐる島ださうで、そのことを頭に入れておくと、不思議なことに不吉さは感じられず、代はりに何かしら形容し難い存在、いや、存在と云ふよりも概念と云つたところであらうか、それこそ死の概念がすぐに頭に上るけれど、しかしそんな人を恐怖に陥れるやうな概念ではない、葬送と追悼の意味をも込められた畏れ多い何かを、ラフマニノフの死の島を聞いてゐると感じる。里也は美術についてはかなり疎く、いまいちこの曲についても理解出来てゐないところがあるのだが、それでも同じ交響詩である岩よりも好きであつた。想像以上の演奏に、オーケストラの団員が舞台から去つても彼は目をつむつたまゝ、しつとりと心地よく響いてくる話し声や足音にじつと耳を傾けてゐた。
ふと隣を見てみた。隣では沙霧もまた彼と同じやうに静かに、身動きすること無く、演奏の余韻に浸つてゐるやうであつたが、なぜかじいつと里也の目を見つめてゐた。普段ならば目を合はせるとすぐに逸らされてしまふけれども、今だけは首を彼女に向けてもしつかりと見つめ返して来てゐる。軽く笑つてみてもそれは変はらず、つひにこちらが耐えきれなくなつて目をそらすと、彼女は目を閉じて深呼吸を一つした。
「兄さん、話しておきたいことが一つあります」
と沙霧は決意を新たに背筋を伸ばして座り直す。その目はやはり里也を真直ぐに捉へてゐる。
「どうした、そんなに真面目な顔して、何かあつたか?」
「いえ、……あ、いえ、あながち間違つてはゐませんが、さうではありません。これはずつと、……ほんたうは一生黙つてゐるつもりでしたが、どうしても兄さんにはお知りになつていたゞきたくて、……」
一生、の部分で彼女の手が震へてゐるのに気がついて、里也はそつと手を伸ばしたが、静かにはねのけられてしまつた。
「すみません、せつかくのコンサートにこんな真面目なことを。ご容赦くださると、たいへんありがたく存じます」
そこで沙霧が頭を下げたので、一旦目線は途切れることになつた。里也はほつとしたやうな心地になりはしたが、再び頭を上げた彼女の目元から、コンサートホールの薄暗い照明に淡く照らされて、一筋の涙のこぼれ落ちるのが確かに見えた。
「……よし、準備出来たぞ。なんかよくわからんが、もし何かあつても見捨てたりはせえへんからな、云つてくれ」
「ありがたうございます、兄さん。愛してをります。ですが、こゝまで真剣になつておいてかう云ふのも何ですが、私が大げさな態度を取つてゐるだけで、もしかすると大したことないかもしれません。気楽にお聞きになすつてください。それと、今日はこのことがどうしても気になつて、兄さんの言葉に反応できる余裕がなく、大変失礼な態度を取つてしまひました、ほんたうにすみません。………」
「大丈夫〳〵、かうしてその原因を語つてくれるんだから、別に何も気にしてへんよ。――ぢや、気楽に聞くとするかな。俺の分のパンフレット返して」
と客席に座る際に預けたまゝになつてゐたパンフレットを受け取つてから、里也は何気ない体を装つて眺め始めた。実際には手が震へるほど動揺してゐるのであるが、かつて壁に話しかけるやうにそつぽを向いて、自身の身の上を曝け出した彼女を思ふと、やはり今日も自分は物云はぬ壁になつた方が良いやうな気がした。それになぜか嫌な予感がするのである。彼女の云ふとおり、大したことがなければいゝのだが、………
沙霧はありがたうございます、と再び云つてから一つとして言葉に詰まること無く語りだした。それは十年以上昔のことながら日付まで憶えてゐるほどに細かゝつたが、要点を掻い摘んで云ふと、私が中学生の時分に受けたいぢめの中には、兄さんに云つてゐない部分が多々ある。それは当時伝へきれなかつたものから、別に伝へなくてもよいものまで多数あるが、今から話��ことはその中でも後者に属してゐた(点々)ことである。と云ふのもこれは佳奈枝お姉さんに関することで、単刀直入に云ふと彼女にも私はいぢめられてゐたのである。その内容はありきたりなものだつた。ある日は隠された教科書の在り処を訪ねる私を門前払いしたり、ある日はいくつも鞄を持たされた私を嘲笑つてゐたり、ある日はこちらを見て友達数人と大きな声で陰口を云つたり、そんなことは日常茶飯事であつたので、何も感じてゐないと云へば嘘になるが今では記憶が薄れつゝある。が、絶対に忘れられないことが一つあつて、それは体育の授業中に三人の組を作らなければいけなかつた際、ちやうど一人でぼんやり立つてゐた佳奈枝お姉さんに勇気を出して話しかけたところ、(――こゝから先は涙声で上手く聞き取れなかつた。)嫌さうな目だけをこちらに向けて、あつち行けと云はんばかりに背を向けられてしまつた。言葉は無かつた。あの時の目は今でもお姉さんの姿を見るだけで思ひ出される。鬱陶しさうな、冷たい、憎しみすら紛れ込んでゐる恐ろしい目、――あんな目を見せたのは今にも後にもお姉さんたゞ一人だつた。怖かつた。今でも怖い。いつまたひよつこりあの目が私の前に現れるかと思ふと、怖くて仕方がない。あの人を前にすると私は萎縮してしまふ。あの人の声を聞くと私の頭の中は空つぽになつてしまふ。あの人に髪を切られてゐると、命を刈り取られてゐるやうな気分になつてしまふ。私はもうお姉さんとは自然にお話が出来ないかも知れない、もうお姉さんとは仲良くなれないかも知れない、でも私にとつてはかれこれ十四年ぶりの友達だから、しかも趣味を同じくしてゐて、とても私では敵はないほど沢山のことを知つてゐて、人望もあつて、何でもかんでも出来て、私の理想とも云へる人だから、それに、今度の京都ではいよ〳〵二人きりで行動するのだから、……でも怖い。怖いし、何より当時の恨みがどうしても思ひ浮かんで良からぬことを企んでしまふ。もうずつと〳〵〳〵、あの人に対する恨みが募つて〳〵〳〵、どうすることも出来なくなつてしまつた。でもあの人は兄さんの、兄さんの、―――
「沙霧、もういゝ、いゝから、――」
と里也はたうとう耐へきれなくなつて沙霧の言葉を遮つた。
「沙霧、……もう何も云うな、云ひたいことはだいたい分かつたから。今はもう、何も考へずにゆつくりと演奏を楽しんでくれ。いゝな?」
沙霧はありがたうございます、と消え行く声で云つて、ゆつくりと目を閉じた。濡れた瞼の縁から溢れ出た涙を拭はうと、里也はハンカチをポケットから取り出したのであるが、今直ぐでは一層涙を誘ひ出しさうな懸念があるので差控へた(パクリなので変える?)。
気がつけば舞台の上ではオーケストラがオーボエのA の音を基準にチューニングを行つてゐた。ふつと力の抜けた里也には突然聞こえてきたやうなものなのであるが、さうかうしてゐる間に指揮者が壇上へとやつて来て、拍手が鳴り止まぬうちに交響曲第一番の復活を意図する強烈な一手が聞こえてきた。指揮者が出てきた時に弱々しく拍手をしてゐた沙霧の方を見てみると、項垂れてはゐるけれどもゆつくりと呼吸をしてゐるらしく、平らな胸元が静かに上��してゐる。クラリネットで奏でられる最初のDies irae を聞きながらひとまず話に区切りがついてほつとした里也は、沙霧の話は後で考へることにしてそつと深く腰掛けると、長く息をついて自身も項垂れてしまつた。交響曲はもう冒頭部分が終はつたらしく、最初の頂点を目指すべくトロンボーンで奏でられるDies irae が聞こえてきて、本来ならば耳を澄ますところなのであるが、しかしいつたいどうしてこんな時にこんな不吉な曲を聞かねばならないのか。
ラフマニノフの交響曲第一番には人間に優しいところなぞ何一つ無く、そこには神によつて無理やり復活させられた一人の人間の、気が狂つて必死に慈悲を乞うまでの物語があるだけである。冒頭から聞こえて来るグレゴリオ聖歌のDies irae を聞くだけで、もうこの曲は死の曲なんだな、といふことが分かる。と云ふのもDies irae は当時の作曲家、――例へばフランツ・リストだつたり、エクトール・ベルリオーズだつたりが死を象徴するモチーフとして使つたからで、同じロマン派に属するラフマニノフがその意図でDies irae を使はなかつた訳はなく、むしろ最初から最後まで幾度となく聞こえてくるところを顧みると、幻想交響曲のやうにある楽章だけ、と云ふのではなく全楽章に渡つて死後の世界が描かれてゐるのであらう。そして冒頭の強烈な三連符を、キリストによる死者の蘇生だと解するならば、明日があるさなどと呑気に云つてゐる場合ではない、天国に行けるよう目まぐるしく動き回らなければならない。最初の頂点を経て沈静部に入つた時こそ諦めに身を投げだしてゐるやうな気持ちであるが、やがて思ひ出したかのやうに暴れまはる。しかし男にはやましいことがあるのであらう、何度も〳〵もDies irae を聞くうちに正気を失つていき、ひとたび神が強烈にDies irae の主題をうたふ、――のかは知らないが、神の楽器による途方もない冷たさのDies irae が聞こえてくるとつひに気が狂ひ、大声で泣き叫ぶ。それが収まるのが第一楽章の後半、フルートで奏でられる悲哀の籠もつた美しい旋律が流れてゐる箇所であらうか、男は落ち着きを取り戻すものゝ、最初の審判を目にするや直ぐさま不安に襲はれ、再びDies irae が聞こえると共に気を失ふ。
第二楽章はそんな男の見た夢であらう。悲劇的な第一楽章の結尾から一転して可愛らしい妖精のスケルツォではあるけれども、いゝところでDies irae に邪魔をされる。が、実に良い夢である。舞踏会そのもの、と云ふよりは舞踏会を抜け出して、この世にあらざる者たちの踊りを見に行くやうな背徳感を感じる。しば〳〵天から降り注ぐDies irae は、しかし甘いお菓子に塩を加へるのと同じく、可愛らしい妖精たちの踊りをより可愛らしく見せるのに役立つてをり、彼女たちもそれに上手く乗つて踊る。が、最後の最後でヴィオラ以下の弦楽器によつて突然奏でられるDies irae はひどくおぞましい。今まで楽しく遊んでゐた妖精たちが突然踊りを止めたかと思ひきや、一斉にこちらを向いてDies irae を歌ふ、そんな心地がして一気に背筋が冷たくなつてしまふ。しかもそこで唐突に曲が終はるものだから、嫌な感覚のまゝ目を覚まさゞるを得ない。しかし、目を開けるとそこにはかつて愛してゐた女性がこちらに手を差し伸べてきてゐ、彼女に導かれるまゝ、最後の審判で沸き起こる人々から遠ざかり愛を囁き合ふ。遠くでは神が次々と判決を下してゐるのが見え、これが長くは続かないことを悟る。――第三楽章はそんな甘く切ない愛のシーンであらう。せつかくオーボエが甘美な旋律を歌ひ上げてゐるといふのに、ヴァイオリンが耳障りな音でそれに纏わりついたり、ホルンのシンコペーションで強烈に不安を煽られたりするが、ラフマニノフ特有の永遠に続きさうな旋律によつて表現された二人の優雅な愛が、その甘さで観客をとろけさせつゝも屋根の元で暮らすやうな安堵感を与へる。
そんな二人の甘い時間は民衆に巻き込まれる形で突如として終はりを迎へることになる。それが第四楽章の冒頭なのであるが、何と勇ましいファンファーレであらう。第一楽章への回帰と云ふドイツ人ならば必ず勝利の意味を込める構成よりも、その華々しさに目が行つて、第三楽章で寝てしまつた人のための目覚ましのやうにも感じられる。だが、第三楽章で目が覚めたと思つてゐた男も、ほんたうはこゝで目覚めるのであらう。しばらくは愛の余韻に浸るのであるが、木管の民族的な旋律が流れてゐるコントラバスの奇妙な蠢きに駆られて、やはり気が狂つてしまふ。眼の前に夢で見た妖精の踊りが見える。かと思ひきや、壮大な自然が見える。いや、今度はかつての恋人が見え、名も知らぬ肌の黒い美人が見え、一体どこの世界に居るのか、自分が生きてゐるのか死んでゐるのか分からぬ。何もかもが現れては消えていく。……そんな情景が繰り返された後、気がつけば神の御前に向かつて歩いてゐる。体の自由が効かぬまゝ無理やり一歩〳〵確実に歩かされ、絶頂へ達した民衆によつて神の元へ突き出され、一瞬の静寂のうちに必死に懇願する。懇願するが、圧倒的な存在を前に体中が焼き焦げていく。皮膚は溶け、髪の毛は抜け、目の玉は飛び出す。だが耳だけはゝつきりと聞こえる。もう何度も聞いたDies irae が確かに聞こえてくる。男は神の楽器による神の判決を聞きながら灰となつて散つていく。―――
聞いてゐると勝手にこんなストーリーが思ひ浮かぶものだから、里也はラフマニノフの交響曲第一番には何ら吉祥(きちじやう)ごとを感じられないのである。同じ天から降り注ぐ曲としても、フランクの交響曲ニ短調は神の抱擁であるが、ラフマニノフの交響曲第一番は神の審判である。いつもの彼なら、この希望の無さが素晴らしいんだよと云ひながらじつくりと耳を傾けるのであるが、やはり沙霧の話がチラついて結局最後の最後まで集中出来ずにゐた。かう云ふときには同じラフマニノフであつても交響曲第二番の方が、「暗黒から光明への道」といふベートーヴェンから続く交響曲の流れを汲んでをり、今の気分に合致してゐる。演奏が終はつた後、里也はいつものやうに動けずにゐた。違ふのはそれがなぜかと云ふことだつたけれども、自身の心の痺れから素晴らしい演奏をしてくれたのには間違ひなく、隣に居る沙霧を見てみると、彼女もまたどこか柔らかい表情をしてをり、試しに無言で笑ひかけてみたらくすりと笑ひ返されてしまつた。彼女があの後何を云ひたかつたのかは、何となく分かつてはゐる。恐らくは自分に、避けやうのない佳奈枝との関係をほんたうの意味で取り持つてもらひたいのであらう。今まで云ひ出せなかつたのは単に勇気がなかつたとしか云ひやうが無いが、今度二人きりで出かける際にもう怯えたくない。自然に佳奈枝と話し、自然に佳奈枝の友人として振る舞ひ、出来るだけ恥ずかしい事が起きないように、出来るだけ二人のあひだで問題が起きないようにしたい。もうあの旅は避けやうが無いのだから、せめて何事も滞りなく一日を過ごしたい。過去を忘れたい。さう云ふ思ひがこの二週間で募りに募つてしまつたのだ。いや、これまで佳奈枝と会ふ度に募つていつたのが、三年の時を経て今こゝで爆発してしまつたのだ。もし里也があの時沙霧と佳奈枝を引き合はせなければ、あの時佳奈枝を人生の伴侶としてしなければ、あの時佳奈枝を変な後輩だとしか思はなければ、あの時佳奈枝と出会つてゐなければ、………云ひ始めるとキリが無いが、佳奈枝の存在を彼女に伝へなければ、妹は過去のことなぞ自身の薄い胸の内に秘めて、決して外へは出さなかつたであらう。里也は自分たち兄妹の爛れた関係が変はりさうな予感がした。舞台の上ではもうすでに椅子が片付けられ初めてゐ、自分たちの周りに居たお客は皆居なくなつてしまつてゐた。
「そろ〳〵帰らう」
「………はい」
彼にとつて沙霧とはたゞの妹だつたかもしれない、愛しい恋人だつたかもしれない、物云はぬ傀儡だつたかもしれない、夢見がちなお姫様だつたかもしれない。しかしせめて今だけは、自分の妻としてこの憐れな妹を愛してあげようと思ひ、そつと手を差し出して、その冷やつこい小さなぬくもりを握り込んで、かつて新婚旅行と称して二人きりで行つた金沢への旅行に思ひを馳せた。
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madokaakodam · 7 years
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真珠湾におけるオバマ大統領の演説
安倍首相、米国民を代表し、丁重なお言葉にお礼を申し上げます。また本日この場所にお越しくださったことにも感謝いたします。今回の訪問は和解の力と日米両国民の同盟関係を示す歴史的な行為であり、戦争のもたらす最も深い傷も、友情と恒久平和に変わりうることを思い出させてくれます。
ご来賓の皆さん、米軍関係者、そして何より真珠湾攻撃の生存者およびそのご親族の皆さん、アロハ。
米国人にとって、そして特にハワイを故郷と呼ぶ人々にとって、この港は聖なる場所です。我々は献花し、あるいは今も涙を流す海に花を手向けながら、父親、夫、妻、娘であった、永遠に天国の手すりに並ぶ2400人を超える米国の愛国者たちに思いをはせます。我々は、12月7日が来るたびに少し背筋を伸ばすオアフを守った人々に敬意を表し、75年前にここで光を放った英雄的行為を思い起こします。
12月のあの日、夜が明け始めたとき、この楽園はこの上なく心地よい場所でした。海は暖かく、信じられないような青さでした。水兵たちは食堂で食事をとり、あるいはこぎれいな短パンとTシャツを着て教会に行く支度をしていました。港には戦艦カリフォルニア、メリーランド、オクラホマ、テネシー、ウエストバージニア、そしてネバダが整列して停泊していました。戦艦アリゾナのデッキでは海軍軍楽隊がチューニング中でした。
あの朝、人々の人間性は階級ではなく、心に秘めた勇気に表れました。島のあらゆる場所で、米国人たちは可能な限りの方法で応戦しました。演習弾を放ち、旧式のボルトアクション方式ライフルも使いました。通常であれば���事は清掃だけに限定されていたアフリカ系米国人の厨房係は、司令官を安全な場所に避難させた後、砲弾が尽きるまで高射砲を撃ち続けました。
我々は、戦艦ウェストバージニアの掌砲1等兵曹だったジム・ダウニングのような米国人に敬意を表します。港に駆け付けようとしたとしたとき、結婚したばかりの妻が彼の手に聖書の一説(が書かれた紙)を握らせました。「いにしえの神は難を避ける場所、とこしえの御腕がそれを支える」(申命記33章27節)。彼は自分が所属する戦艦を守るために戦いながらも、遺族が心の整理をつけられるように戦死者の名前を確認していきました。彼はこう言いました。「やるべきことをやっただけだ」と。
我々は、心がひるむような激しい炎の中で、燃える戦闘機を死力を尽くして消火したホノルルの消防士、ハリー・パングのような米国人を忘れません。彼は民間の消防士でパープルハート章を受章した数少ない一人です。
私たちはジョン・フィン上等兵曹のような米国人をたたえます。彼は20カ所以上負傷しながらも0.5口径の機関銃を2時間以上撃ち続けたことで、米軍の最高勲章である名誉勲章を受けました。
この場所で、我々は、その最も揺るぎない価値観さえも戦争によって試されることに思いをはせます。戦時中、日系米国人は自由を奪われたにもかかわらず、米国史上最も多くの勲章を受章した部隊の中に、主に日系2世で構成される第442歩兵連隊とその下の第100歩兵大隊があったことにも思いを巡らせます。この第442歩兵連隊に、私の友人で誇り高きハワイ人、ダニエル・イノウエがいました。彼は私の人生と同じほどの長きにわたりハワイ州選出の上院議員を務め、私は彼と共に上院に在籍できることを誇りに思ったものです。イノウエ上院議員は名誉勲章と大統領自由勲章を授与されただけでなく、彼の世代の最も優れた政治家の一人でした。
ここ真珠湾で起きた、第2次世界大戦における米国にとっての最初の戦いにより、この国は目を覚ましました。いろいろな意味で、米国はここで大人になったのです。米国の「最も偉大な世代」である私の祖父母の世代は、戦争を求めませんでしたが、ひるむこともありませんでした。彼らは皆さまざまな戦線で、そして工場で自らの役割を果しました。75年が過ぎ、真珠湾の誇り高き生存者たちの数は少なくなりましたが、ここで思い起こす勇気は永遠に米国民の心に刻まれています。真珠湾および第2次世界大戦で戦った退役軍人の皆さん、起立するか挙手をお願いします。米国民から感謝をささげたいと思います。
国のあり方は戦争で試されます。しかし、それが決まるのは平時においてです。この海で激戦が繰り広げられ、何万人ではなく何千万人もの命を奪った、人類史上最も恐ろしい出来事の一つを経験した後、米国と日本が選んだのは友情であり、平和でした。過去何十年にもわたり、日米同盟は両国を繁栄へと導いてきました。新たな世界大戦を防ぎ、10億人以上の人々を極度の貧困から救い出してきた国際秩序を支える一助となってきました。今日、日米同盟は共通の利益によって結び付いているだけでなく、共通の価値観に根ざしており、アジア太平洋地域の平和と安定の礎であるとともに、世界各地で進歩をもたらす力となっています。日米同盟はかつてないほど強固です。
良い時も悪い時も、我々は互いのそばにいます。5年前、(東日本大震災で)津波が日本を襲い、福島で原子力発電所事故が発生したときのことを思い出してください。米軍兵士たちは、日本の友人たちを救うため現場に駆けつけました。日米は海賊行為の取り締まり、疾病との闘い、核兵器拡散の減速、戦争で荒廃した地域での平和維持活動など、アジア太平洋地域および世界の安全保障を強化するため、世界各地で連携しています。
今年、日本は20を超える国々と共に、真珠湾近くで行なわれた世界最大の海上軍事演習に参加しました。この演習には、ハリー・ハリス海軍大将が司令官を務める米太平洋軍も参加しました。ハリス司令官は海軍士官であった米国人の父と日本人の母の間に横須賀で生まれましたが、彼のテネシー訛りからは全く想像できないでしょう。
ハリス司令官、卓越した統率力に感謝します。
この意味において、本日我々がこの場にいること、すなわち日米は政府間のみならず国民同士がつながっており、そして今日、安倍首相がこの地を訪れていることは、国家間で、そして異なる国民の間で何が可能かを再認識させてくれます。戦争は終わらせることができます。最も激しく敵対した国同士も、最も強力な同盟国になることができます。平和がもたらす恩恵は常に、戦争による略奪に勝ります。これこそが、この神聖な港が語る揺るがぬ真実です。
この地こそ、憎しみが最も激しく燃え盛るときや、同朋意識の力が最も強いときでさえも、我々は内向きになる衝動に抗わなければならないことを思い出す場所です。我々は、自分たちと異なる人たちを悪者扱いする衝動に立ち向かわなければなりません。この場所で払われた犠牲、戦争がもたらした苦悩は、人類全てに共通の神聖な輝きを求めなければならないことを我々に気づかせてくれます。そして、日本人の友人が言う「お互いのために」存在するよう努力するよう求めています。
これこそ戦艦ミズーリのウィリアム・キャラハン艦長から学んだ教訓です。キャラハン艦長は、ミズーリが攻撃を受けた後でさえ、米海軍兵士が縫った日本の国旗で日本人パイロット(の遺体)を包み、軍の儀礼にのっとり葬るよう命じたのです。また何年もたって真珠湾を再び訪れた(別の)日本人パイロットから学んだこともあります。彼は米海兵隊の老いたラッパ手と友人となり、毎月この記念碑の前で永別のラッパを吹き、バラの花を2輪、1輪は米国人戦没者に、もう1輪は日本人戦没者に供えるようお願いしたそうです。
そしてこれは、東京で学ぶ米国人留学生、米国各地で学ぶ日本の若者、共同でがんの謎の解明にあたり、気候変動の問題に取り組み、宇宙を探索する両国の科学者など、日米の国民が日常生活の中で日々学んでいることです。またイチロー選手のような野球選手は、平和と友情で結ばれた日米両国民が共有する誇りによって支えられ、マイアミの球場を沸かせています。
国家として国民として、我々は受け継ぐ歴史を選択することはできませんが、歴史から学ぶべき教訓を選び、それを元にして我々の将来の進路を決めることができます。
安倍首相、日本の国民が私を常に温かく迎えてくれたように、私は友好の精神で首相の訪問を歓迎します。戦争よりも平和から多くのものを得られる、そして和解は報復よりも多くの恩恵をもたらすというメッセージを、我々が共に世界に向けて発信できることを願います。
この静寂な港において、我々は犠牲となった人々を追悼し、両国が友人として共に勝ち得た全てのことに感謝します。
神がとこしえの御腕に戦没者を抱き、そして退役軍人と、我々を守る全ての人たちを見守ってくださるよう祈ります。皆さん全員に神の祝福がありますように。
ありがとうございました。
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