Tumgik
t82475 · 1 month
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FTMのお客様
1. ここは日本有数の資産家で実業家でもある旦那様のお屋敷。
厨房で仕上がったポワソン(魚料理)をワゴンに載せて晩餐ホールへ運ぶ。 配膳担当のメイドは私を含めて2名。 ホールの扉の外に立つメイドが2名。そしてホール内に控えて様々なお世話をするメイドは4名。 今夜は旦那様のプライベートなディナーでお客様はお一人だけだから、私たちメイドも最小のチーム構成で対応している。 各国政財界の要人をお招きする公式の晩餐会なら数十名から100名近いメイドが働くことも珍しくない。
扉を開けて90度のお辞儀。ワゴンを押して中に進む。 本日のホールにはオブジェが飾られていなかった。 「オブジェ」は観賞用に女性を緊縛した作品のことで、その意図はお客様へのサプライズ、あるいは旦那様の趣味だ。 縛られるのはもちろん屋敷のメイドで、私たちは日頃からそのための訓練を受けている。 大抵の晩餐ではたとえお客様が女性の場合でもオブジェを飾るのが普通だから、今夜のように何もないのは珍しい。
お食事のテーブルには旦那様と向かい合ってお客様が座っておられた。 「・・失礼します。こちら焼津沖の真鯛のポワレとヴァンブランソース、アスパラガスのエチュベ添えでごさいます」 「ありがとう」 お客様から明るいご返事をいただけた。 黒髪のナチュラルショート。お召し物はネイビーのスーツ、チェック柄のボタンダウンシャツ。 ラベンダーのネクタイとポケットチーフがよくお似合いだった。 よく見るとスーツの胸元が膨らんでいるのが分かる。腰もほんの少し括れているように見えた。 今夜のお客様は女性だった。
この方は作家の天見尊(あまみたける)様。 大学在籍中の22才でSF文学新人賞を受賞し、26才の今は次代を担う若手SF作家のホープとまで呼ばれている。 FTM(生物学的に女性、性自認は男性)のトランスジェンダーで、それを秘密にせずブログやSNSで公開されていた。 旦那様はいろいろな方を招待されるけれど FTM トランスジェンダーのお客様は初めてのはずだ。
「・・ではもう長らく男性ホルモンを?」旦那様が聞かれた。 「はい。19のとき GID 診断を受けまして、その翌年から投与を始めました」天見様がお答えになる。 「いずれ手術もお考えですかな?」 「そうですね。なかなか決心がつかないのが困ったものですが」 「いやいや、お悩みになるのが当然です」
旦那様はずいぶん熱心に質問なさっている。 これでオブジェを置かない理由も理解できる。 今夜はお客様を驚かすよりも、ご自身の好奇心を満たしたいのだろう。
「その、ホルモンを使うと、本来女性である身体にはどういった変化があるものですかな?」 「変化ですか? 声が低くなったり、他にもいろいろありますが」 「例えば月のモノがなくなるのが嬉しいと、どこかで聞きましたが」 「それはありますね。実は僕の場合・・」
私は前のお料理のお皿をワゴンに回収し、頭を下げてテーブルから離れた。 旦那様は会話がお上手だ。 相手を機嫌よくさせて、普通なら口にするのを躊躇うような話題でも聞き出してしまう。 そうしてご自身が満足されたら、今度はお客様への心遣いも疎かになさらない。
・・ヴィアンド(肉料理)かサラダの後で始まるわ。心の準備をしておいて。 私はワゴンを押して出て行きながら、ホールの壁際に控えるメイドたちに目配せする。 彼女たちも無言で相槌を返してきた。 このお屋敷に勤めるメイドなら皆が分っている。 旦那様がなさるであろうこと、そして自分たちがすべきことを。
2. アヴァンデセール(デザートの一品目)をお出しするときに旦那様が仰った。 「そろそろメイドの緊縛は如何ですかな?」 「は?」 天見様は一瞬驚いた顔になり、すぐに落ち着いて応えられた。 「なるほど、これが噂に聞くH邸のサービスですか」 「ご存知でしたら話は早い。作家である貴方なら見ておいて損はありますまい」 「拝見します。いえ、拝見させて下さい」
待ち構えていたメイドたちが走ってきて横一列に並んだ。全部で8人。 「好きな娘を選びなされ。この中から何人でも」 「僕に決めさせてくれるのですか」 「もちろん。お望みなら裸にしても構いませんぞ」
旦那様はとても楽しそうにしておいでだった。 天見様はメイドたちを見回し、そして一人を指差した。 「この人をお願いします。裸は・・可哀想なので服を着たままで」 選ばれたのは私だった。 「務めさせていただきます。どうぞお楽しみ下さいませ」 私は両手を前で揃え180度の辞儀をする。 お屋敷直属の緊縛師が道具箱を持って入って来た。
両手を背中に捩じり上げられた。 肩甲骨の位置で左右の掌を合わせ、その状態で縄を掛けられる。 後ろ合掌緊縛という縛り方だった。 柔軟性が必要といわれるけれど、私たちメイドにとって特に無理なポーズではない。
旦那様と天見様の前で1回転して緊縛の状態をご覧いただいた。 それから私は靴を脱がされてテーブルに上がった。 本来なら晩餐のためのテーブル。 テーブルクロスを敷いた上にうつ伏せに寝かされる。
右足を膝で折って縛り、その足首に縄を掛けて背中に繋がれた。 さらに左の足首にも縄が掛けられ、左足がほぼ真上に伸びるまで引かれた。 背中に別の縄が繋がれた。口にも縄が噛まされる。
足首と背中、口縄。全部の縄を同時に引き上げられた。 私はふわりと宙に浮いた。 支えのない腰が深く沈んで逆海老になった。 口縄に荷重のかかる位置が耳の下なので、首を横に捩じった状態で吊られる。
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するすると引き上げられて、天井から下がるシャンデリアと同じ高さで固定された。 床からの高さは約3メートル。 すぐ下に旦那様と天見様のテーブルが見えた。
私は無駄に動かないように努める。 これは空中で女体を撓らせて見せる緊縛だから、あらゆる関節が固められている訳ではない。 もがこうと思えばもがける。 でも今夜のお客様に対して、激しくもがく緊縛は旦那様の意図ではない。 私に期待されているのは静物。 感情を表に出さないこと。耳障りな喘ぎ声や鳴き声をこぼさないこと。 お人形のように動かないこと。 動くなら、ときどき手足の筋肉に力を入れて無力であることをお見せする程度がよい。
私の中には縄に自由を奪われる切なさとやるせなさが既に芽生えている。 でもそれをお客様に知られるのはNG。 被虐の思いは自分の中で密かに楽しもう。 女として生まれメイドとしてご奉仕できることを感謝しながら、この時間を過ごそう。
テーブルではお二人がコーヒーを楽しんでおいでだった。 ときおり天見様は感嘆の表情で私を見上げられた。 そして旦���様はその様子を満足気にご覧になっているのだった。
お二人の歓談が終わるまで約2時間。その頭上に私はオブジェとして吊られ続けた。
3. 客室の扉をノックする。 「失礼いたします」 中から扉が開いて天見様が顔を出された。 「君は・・」 「伽(とぎ)に参りました」「え、伽」 「よろしければ朝まで一緒に過ごさせて下さいませ」 「知っていると思うけど僕の身体は女だよ」 「存じております。私どもはどんなお客様にもご満足いただけるよう教育されてますからご心配ありません」 「へぇ、面白いね。じゃあどうぞ中へ」 お部屋に入れていただいた。
天見様は客室に備え付けのスリーパー(丈の長いワンピースタイプのパジャマ)の上にナイトガウンを羽織っておられた。 お立ちになると身長166の私より10センチは小さい。 でもお身体はスーツをお召しのときよりがっしりして見えた。着痩せするタイプね。
「コーヒーか紅茶でも入れよう。ミニバーにお酒もあるみたいだけど」 「それは私にやらせて下さいませ。お飲み物をお出しするのはメイドの仕事です」 「じゃあ、お願いするよ」 「ご希望はございますか? ここにない品でしたらすぐに持って来させますよ」 「それなら暖かい紅茶をストレートで。言っておくけど君も一緒に飲むんだよ」 「分かりました。今ここにはインドのダージリンとアッサム、ニルギリがございますが」 「アッサムがいいな」 「承知いたしました。しばらくお待ち下さいませ」
ケトルでお湯を沸かす。 ティーカップのセットを2客とポットを出し、お湯をかけて温めた。 温まったポットに茶葉を量って入れる。 ふつふつと沸騰したお湯をポットに注ぎ、きっちり4分間蒸らす。
「丁寧に作るんだね」 「ごく普通の淹れ方ですよ。・・さあ、どうぞお召し上がり下さいませ」 「ありがとう。立ってないでここに座って」「はい」 小さなテーブルに向かい合って座った。 「うん、美味しい」「恐れ入ります」 「その手」 「はい? ・・あ」
天見様が見つめる私の手首には緊縛の痕跡がくっきり残っていた。 「これはお見苦しいものを・・。大変失礼いたしました」 「見苦しくなんかないさ。名前があるんじゃなかったかな、それ」 「『縛痕(じょうこん)』と呼びます。肌に刻まれた縄の痕でごさいます」 「いいねぇ。君が縛られた証拠だね」 「はい」
「えっと、君の歳を聞いてもいいかな?」 「私は19才でございます」「そうか、若いなぁ」 「お食事のときは私が一番年上だったのですよ」「え?」 「他に控えていたメイドは15から17才でした。もっと若い娘をお���びになると思っておりましたのに」 「15の女の子を縛っていいの?」 「もちろん構いません。もしお客様が15才のメイドを選んでおられたら今頃はその者が伽に参ったはずです」 「15の子が僕に?」 少し驚かれたようだった。
「どうして私を選んで下さったのですか? よろしければ教えて下さいませ」 「それはね、君が初めて好きになった子に似ていたからだよ」 「まあ、それは光栄です」 「中学2年生だった。・・女の子同士の同性愛だと思ってたんだ。でも彼女を抱きたいって思うと自分が女の身体であることが気持ち悪くてね。ずっと悩んでた」 いけない。無邪気に質問して嫌なことを思い出させてしまった。 「あの、ご不快な思いをされたら申し訳ありません」 「いいんだ。今となっては懐かしい思い出さ」 天見様はそう言って笑って下さった。
「僕はね、君に感謝したいんだよ」 「感謝、ですか?」 「だって僕のために緊縛を受けてくれたじゃないか。話に聞いてはいたけど、ああいうのを直接見たのは初めてなんだ。女の子を縄で縛って吊るす。・・すごいと思った」 「お楽しみいただけたのですね。よかったです」 「どうやら僕は女性をあんな目にあわすことに興奮するらしい。サドだね。こんなことを本人の前で言ったら嫌われるかもしれないけど」 「とんでもございません。男性が若い女性の緊縛に興味を持たれるのは自然なことです。天見様は立派な男性でいらっしゃいます」 「ありがとう。・・うわ、やっぱり僕、とんでもないことを告白しちゃった気がする」 天見様は急に立ち上がると頭を掻きむしられた。 その姿が可愛らしい。笑っては失礼だから微笑むだけにしていたけれど。
このお客様なら嗜虐プレイも大丈夫ね。 きっとお悦びいただけるだろう。 私は備え付けの道具を頭に浮かべつつ提案することにした。
「天見様。もう少し、次はご自分でお試しになっては如何でしょう?」 「試す? 何を?」 「少々お待ち下さいませ」 クローゼットを開けて一番下の引出しを手前に引いた。 そこには様々な拘束具や縄束、責め具がきちんと整理して収められていた。 「そんな物まであるのか、ここには」 「H邸の客室でございますから」
私は短鞭(たんべん)と呼ぶ棒状の鞭を取り出した。 乗馬鞭の一種で長さ50センチ。先端にフラップという台形のパーツがついていて正しく打てば大きな音が鳴る仕掛けになっている。
「これでしたら初めての方でも比較的使い易い道具です」 「柄の長いハエ叩きみたいだね。おっと君はハエ叩きを知らないかな」 「存じております。これでハエではなく女の尻をお叩きになって下さいませ」 「女というのは、もしかして」 「はい」 私はにっこり笑う。 「今、女といえば私だけでございます」
4. 天見様が短鞭を持って素振りをされている。 「そうです。手首のスナップを利かせて、先端の平らな部分が対象に平行に当たるように」 「えっと、鞭を打つ練習用の台みたいなものはないのかな」 「ございません。練習でしたらメイドの身体をお使い下さいませ」
手錠を2本出してお渡しした。 私は床のカーペットにお尻をついて座り込み、右の手首と右の足首、左の手首と左の足首をそれぞれ手錠で連結していただいた。 そのまま前に転がって膝をついた。 右の頬をカーペットに擦りつけ、天見様に向かってお尻を高く突き上げる。 これでメイド服のミニスカートの中に白いショーツがくっきり見えているはず。
「私の下着を下ろしていただけますか?」 「でも」 「構いません。どうか私に恥ずかしい思いをさせて下さいませ」 天見様は両手でショーツを下ろして下さった。
「ここは僕と同じだね。でも僕よりずっと綺麗だ。それにいい匂いがする」 「ありがとうございます。・・でも、そんなに顔を近づけて匂いを嗅がないでいただけますか? 恥ずかしいです」 「恥ずかしい思いをしたいと言ったのは誰だっけ」 「あ、私でした」 二人揃って笑う。少し空気が和らいだ。 「では始めて下さいませ」 「本当にいいんだね?」 「どうぞ、天見様」
鞭を持って大きく振りかぶり、・・ぺちん。 控えめな音がした。 「もっと思い切って当てて下さいませ」 ぱち。 「もっと強く」 バチッ。 ビシッ!! 鋭い音が出た。臀部に痛みが走る。 「あぅっ」 「ごめん! 痛かったかい?」 私は顔を向けて微笑んで見せた。 「今の打ち方で合格でございます。その調子でお続け下さいませ」 「やってみるよ」 「あの、」 「?」 「私この後も声を上げるかもしれません。お聞き苦しくないよう努めますので、どうぞお愉しみ下さいませ」 「・・分かった」
深呼吸。それから連続の鞭打ちが始まった。 ビシッ!! ビシッ!!! ビシッ!!! 「あっ」「あっ」「ああっ!」 鋭い痛み。被虐感。 お尻から頭までじんじん響く。 このお客様、筋がいい。
ビシッ!! ビシッ!! 「はぅっ」「はん!」 天見様は私のお尻だけを見つめて鞭打っておられた。真剣な表情。 もうお任せして大丈夫ね。 私も自分を解放しよう。 そっと性感を放流した。胸の中、子宮、身体の隅々へ。 少しずつ、少しずつ。・・とろり。
ビシッ!! ビシッ!! ビシッ!! 「あああ!」「はあん!!」「は、あああっ」 痛みの部位が移動するのが分った。 右側、左側。太もも。 同じ個所を打ち続けないように気を遣って下さっていると理解した。 まんべんなく打ち据えられる。 嬉しい。 とろり、とろーり。
ビシッ!! 「はぁ、はあぁ・・ん!!」
鞭が止まった。 はぁ、はぁ。 天見様は鞭を握ったまま立ち尽くし、肩で息をなさっている。 額に汗が光っているからお拭きしてさしあげたいけど、今、私にその自由はない。
「辛くないかい?」 「辛いです。でも嬉しいです」 「それは君がマゾだから?」 「はい。それもありますが」 「?」 「同じ個所を何度も打たないようご配慮いただきました」 「気がついたのか」 「もちろんでございます。それからもう一つ」 「まだあったっけ」 「私、我慢できずに下(しも)を濡らしました。天見様もご一緒にお感じになって下さいませんでしたか?」
天見様の驚く顔。 今、天見様の目には赤く腫れた私のお尻、そしてその下にぐっしょり濡れてひくひく動く膣口が見えているだろう。 これは演技でやったことではない。 私は本当に官能の中で濡れてさしあげたのだった。
お客様のご満足のためにご奉仕する、それがH邸のメイドの役目だ。 メイドが醒めていたらお客様はお楽しみになれないし、逆にメイドだけが乱れてお客様を置いてきぼりにすることも許されない。 だから私たちはお客様を導き、お客様と一緒に高まるように訓練されている。 たとえ拷問を受けるときでもお客様の気持ちを測って苦しみ方を変える。
「・・うん、興奮した。僕が打つ鞭が君に痛みを与えている。その度に君が喘ぎ声を上げてくれる。たまらなく興奮したね」 天見様は仰った。 「もし僕が男の身体だったら絶対に勃起してるね。いや、男の身体で君を打ちたかったと心底思ってる。・・ん、ふぅっ」 その指先がご自身の下腹部を押さえていた。 天見様? 「ありがとう。・・これで終わろう」
5. 拘束を解いていただいた。乱れた髪と服装を整える。 ニーソックスの後ろが破れたので手早く交換した。 「お尻は大丈夫かい? 赤くなってるみたいだけれど」 「どうかご心配なく。この程度の腫れでしたら明日には消えるはずです」 本当は4~5日ってところ。 「そうか、酷くなくてよかったよ」
このお屋敷では、接待にあたるメイドの負傷はある程度避けられないとされている。 だから接待プランやお客様の嗜好データに基づいてAIがリスクを予測している。 例えば今夜の天見様ご接待の予測値は 10-20。 これはメイドが全治 10 日の軽傷を負う可能性 20% という意味になる。 予測値が高い接待では相応のスキルがあるメイドを割り当てたり、最初から大きな怪我をする前提でシフトが組まれたりする。 まれに 90-90 といった拷問そのものの接待があって、担当するメイドは命の覚悟をして臨むことになる。 当然ながらこれはお屋敷内部で管理される予測値だ。 お客様にお伝えすることは決してない。
二人並んでベッドに腰かけた。 私は自分の両手をそっと天見様の手に乗せる。 天見様が仰った。 「テストステロン(男性ホルモン)を使うとね、声が低くなったり生理が止まったりするけど、他にも変化があるんだ。それは性欲が強くなること」 そう言って先ほどと同じように指を下腹部にお当てになった。 「だからオナニーが増えたよ。女の身体が嫌なはずなのにクリを使ってね。・・実は今も触りたくて仕方ない」 「お気持ちお察しいたします。でも天見様は他の女性にご興味がおありではないですか?」 「うん。僕は FTM のヘテロ(異性愛者)だから、自分以外の女性は異性として好きだよ」 「それでしたら私も女です。私にお慰めさせて下さいませ」
私は床に降りて正面に膝をつき、天見様のスリーパーの裾を持ち上げた。 天見様は FTM 用のボクサーパンツを着用されていた。 パンツの上から触れただけで突起が分った。 「んぁ!」 「優しく触ります。どうぞお任せ下さいませ」 「ありがとう。君を、信じる」 ボクサーパンツを下ろしてさしあげた。 わずかに香る匂い。 膝を左右に開かせ、ベッドに座ったまま開脚していただいた。
そこにクリトリスが生えていた。 その長さは外に出ている部分だけで4~5センチ程度。 男性ホルモンは女の陰核をこれほど肥大化させるのか。 真上からそっと指を当てる。 「ん、あぁ」 「我慢しないで、感じるままに声を出して下さいませ」 「くぅっ、んあぁ!!」
根元を押して包皮を引き下げ、露出した亀頭を唇に挟む。 反対の手の指を膣口に挿し入れた。 そこは既に愛液で潤っていて、中指がするりと吸い込まれた。 軽く噛んで先端を舌で転がし、同時に挿入した中指の第二関節を折って内壁を刺激した。 「ひっ、・・あああっ!!」 さらさらした液体が噴出して私の顔と腕を濡らした。 あっという間だった。 この方はきっとGスポットでも自慰をなさっていると思った。
天見様は2度、絶頂を迎えられた。
6. 明け方。 私は天見様とベッドにいる。 天見様は裸の上にスリーパーだけを纏っておられた。 私は全裸で天見様に抱かれていた。
「ね、もう一回抱きしめてもいいかな」 「はい。力いっぱい抱いて下さいませ」 ぎゅう!! 強く抱きしめられ、その間息ができなかった。 「ごめん、苦しかった?」 「いいえ。でもすごいお力」 「テストステロンは筋肉が付くんだよ。でも放っておくと腹だけ膨らむから、ジムで筋トレしてるんだ」 「そうでしたか」 「・・生まれて初めて裸の女の子の抱き心地を堪能したよ。君のおかげだ。僕はここで人生最初の体験を重ねてる」 私も初めてでございました。FTM 男性との体験は。
「そういえば、君の名前を聞いてなかったね」 「私の名前はお客様がご自由につけて下さいませ」 「僕と君の間だけの名前か。面白いね。・・それなら『キツネ』ちゃんはどうかな?」 「まあ私はキツネですか?」 「君の髪がキツネ色だから」 「そんなに明るい色ではございませんよ。でもありがとうございます。可愛いお名前、私も大好きです」 「調子がいいねぇ。本当に思って言ってる?」 「あら天見様、私、商売柄調子のいいことを言いますが、嘘は申しません」 天見様はにやりと笑われた。 「いいねぇ、その返し。・・君には人を騙す尻尾が九本あるかもしれないな。あの玉藻前(たまものまえ)みたいに」 私も妖しく笑う。こういう返しは得意でございます。 「あいにく誰かに憑りついて生気を吸い取ることはしないよう努めております。前に一度やって主人に叱られましたので」 「・・ほぅ、知ってるのか」「はい、レキジョですから」 「え、本当?」「嘘です。天見様を騙しました」 「ぷ」 二人で声を出して笑った。
「君には感心したよ。賢くて機転が利く。察しがよくて心配りも行き届いてる。今どきこんな子がいるとはね」 「恐縮でございます」 私たちは皆そういうふうに躾られているのですよ。
「君なら僕がベッドでも服を脱がない理由が分かっているんだろう?」 「はい。・・ご自身の胸が目に入るのを避けておいでではありませんか?」 「そうだよ。できるなら見ないでいたいモノだ、自分の胸なんて。君はあれだけ僕の性器を刺激してくれたのに胸には一切触れなったね。女同士なら真っ先に乳首を触ってもおかしくないのに」 「天見様」 私は天見様の手を取った。それを自分の裸の乳房に当てる。 「女同士ではありません。男と女です。どうぞ男性としてこの女の胸を弄んで下さいませ」 「そうだね、僕は男だった」
きゅ。 乳首を摘ままれた。電流が走る。 「きゃん!」 天見様は悪戯をした男の子みたいに笑われた。 「自分のものでなけりゃ女の子のおっぱいはいいよね。顔を埋めたくなるよ」 「もう!」 私は身を起こし、仰向けになった天見様の上にのしかかった。 「それなら存分に埋めさせてあげます!」 乳房を顔面に押し当てて体重を乗せた。これでも一応Dカップ。 「うわぁっ」 「どうですか? 嬉しいですか?」 「て、天国」 「エロ親父ですか」
7. 作家の天見尊様がお泊りになってから4か月が過ぎた。 私は誕生日を迎えて20才になっていた。 メイドの一人が誕生日だからといって特別な行事がある訳ではない。 せいぜい仲間内でささやかなお祝いをする程度だった。
その日の午後は外出の命令があった。 お屋敷の用務かと思ったら、外部のお客様への接待だという。 本来、私たちメイドのご奉仕の対象は旦那様が招かれたお客様に限られる。 無関係な人や組織への接待は滅多に行われない。 仮に行う場合は相手に対して法外な対価が求められる。 昔、外務省からの緊急要請で同盟国の高官にメイドを派遣したとき、旦那様が要求なさったのは中央アジア某国でのレアメタル採掘権交渉を日本政府が支援することだった。 H邸に勤める者の間では今も語り継がれる伝説だ。 仮に現金で支払う場合はメイド1名に数千万円から数億円が請求されるらしい。 いったい私はいくらで派遣されるのだろう?
指定されたホテルまでお屋敷の車で送ってもらった。 ロビーでお待ちになっていたのは。 「天見様!」 「やあ、キツネちゃん! 二十歳の誕生日おめでとう。お祝いにデートしようと思ってね」 「あの、メイドの誕生日は公開されていないはずですが、どうやってお知りになったのですか?」 「電話で聞いたら教えてくれたよ」 「・・」 「とても親切だったね。君をレンタルしたいって頼んだら料金も良心的で」 「あのあの、それはおいくらか、よろしければ教えていただけますか?」 「1時間ごとに 1113円。それ東京都の最低賃金だから、せめて 2000円くらい取ればいいのにね」 「・・」 旦那様、絶対に面白がっておられる。
「さあ行こうか」 「どちらへ?」「僕に任せてくれるかい」 ホテルを出て歩道を歩き出された。 「天見様、お車は?」 「持ってないんだ。タクシーも苦手だし、地下鉄で行くよ」 「あ、あの」 「どうしたんだい?」 「私、地下鉄に乗ったことがごさいません」 「本当かい? はははは」 大きな声で笑われてしまった。
8. 自動改札機がどうしても通れなかったので、天見様が別に切符を買って通らせて下さった。 お屋敷のIDカードでは改札機の扉が閉まることを初めて知った。 カードを手で擦って暖めたり、ひらひらさせたり、いろいろ工夫してみたのだけど。
ようやく電車に乗って連れてきていただいたのは英国ブランドのブティックだった。 「せっかくのデートにそんな地味な服は駄目だよ」 私は薄いグレーのワンピースを着ていた。確かに地味かもしれない。 対して天見様が着こなしておられるのは鮮やかなワインレッドのカラーシャツと黒のカジュアルパンツ。 小柄な身体にオーバーサイズを着けているから胸の膨らみも目立たない。
天見様は私にホルターネックの真っ白なミニドレスを選んで下さった。 キュートだけどバックレスになっていて背中が腰まで開いている。 上から覗いたらお尻の割れ目まで見えてしまうのではないかしら。 「よく似合ってるね。これを君にプレゼントするよ」 「あの、もう少し身体を隠すドレスの方がよろしいのでは」 「却下。僕の好みに従って下さい」 「・・はい、天見様」 これを着て帰ると伝えたら、それなら髪を上げた方が、それならお化粧も変えた方が、とお店のお姉さんたちが集まってきてあっという間に変身させられてしまった。 この人たちも絶対に面白がっていると思った。
お店を出て天見様と並んで歩いた。 髪をアップにされた上にハイヒールも履かされたから、私の方が30センチは背が高い。 でも天見様はそれをいっこう気になさる様子はなく、笑って左の肘を差し出された。 私は少しだけ溜息をつき、それから笑ってその腕にすがって密着した。
「駅は反対側ではありませんか?」 「少し歩いて見せびらかそう」 はぁ? すれ違う人々の視線が痛かった。 露出した首筋と肩、そして背中。 まだ風が冷たい季節ではないのにぞくぞくした。 お屋敷のパーティではこんなセクシーな衣装の女性をよくお見掛けする。 思い切り肌を晒して見られるのを楽しむセレブの美女たち。 でも今、見られるのは私だった。 せめて何か羽織るものをお願いすればよかったな。
「頬が赤いよ、キツネちゃん」 「天見様!」 「前は一番恥ずかしい場所を僕に見せてくれたのに?」 「知りません!」 「でもさ、僕は落ち着き払っている君よりも今の君の方が可愛いから好きだね」 ああ、もう。 可愛いと言ってもらえるのは嬉しいけれど。
9. プラネタリウムで星座を見て、湾岸の公園で夕日を見て、オーガニックのレストランでお食事。 庶民的なデートコースだった。 天見様はセレブじゃないものね。 でも15才でお屋敷に入って以来ほとんど外に出たことのない私にとっては珍しい場所ばかり。 お食事の後はスター○ックス。 抹茶クリームフラペチーノにストローを2本挿して二人でくすくす笑いながらシェアする。 何て楽しいのだろう。 セクシーな衣装にはすっかり慣れてしまった。
気がつくと天見様の手が私の肩に乗っていた。 しばらく一緒に歩いてから指摘する。 「あの、踵を上げたままお歩きになると大変ではありませんか?」 「そう思うなら君の方で何とかしてくれないかい」 仕方ありませんね。 私はその場でハイヒールを脱ぎ捨て裸足になった。 どうですか? これでずいぶん低くなりましたでしょう? 私の肩。 「おー、ちゃんと届くようになった」 「ご命令でしたら、この後ずっと裸足でおりますが」 「ふふふ、それもいいねぇ」 「ただし水溜りがあったら私を抱き上げて下さいませ」 「え?」 「よろしいですか?」 天見様はにやりと笑ってお答えになった。 「約束しよう。じゃあ今からキツネちゃんは裸足だ。・・これはもう要らないね」 脱ぎ捨てたハイヒールを拾うと自分のパンツのポケットに片方ずつ突っ込まれた。
「ところで、たまたま偶然思い出したんだけど、近所に僕のマンションがあるんだ」 「あら、それは偶然ですこと」 「来てくれるよね」「はい、天見様」 私は素直に従う。 もとよりそのつもりだった。 お屋敷で指示された内容は「お客様のお住まいでご奉仕」だったのだから。
二人並んで歩き出した。 私だけが裸足。天見様は私の肩をお抱きになっている。 「すぐ近くですか?」 「ん-、電車で20分、いや30分くらいかな」 「怒りますよ」
10. 天見様がお住まいのマンション。 玄関横の表札プレートには『徳山誠一』とあった。 天見尊はペンネームのはずだからご本名? もちろん余計なことは詮索せず、天見様について中に入る。
上がり框(かまち)のところで天見様が振り返って言われた。 「まさか本当に裸足で歩くとはね」 私はすまして応える。 「どこかに水溜りがあればと期待しておりましたのに」 ここへ来るまでの間、私は電車の中でも裸足を通したのだった。
天見様の行動は速かった。 私はその場で抱きしめられた。 むき出しの背中を天見様の手が撫でる。 私より小さいお身体なのに、前と変わらない、いえ前よりさらに強い力で抱かれた。 「んんっ」 天見様の右手がドレスの脇から侵入して乳房に覆いかぶさった。 「だ、駄目です。・・私の足、まだ汚い」 「後で拭けばいいさ」 ゆっくり揉みしだかれた。 「あぁ・・」 官能が湧き起こる。 この間は初めて女の子を抱いたって仰っていたのに、どうしてそんなに上手に揉むのだろう。
「君のレンタルを申し込んだときにね、聞きたいことはあるかと言われたからいろいろ質問したんだ」 「はぁ・・ん」 「君に何をしてもいいのかって。・・そしたらOKだって」 「んぁ!! ・・ああ」 「酷いことをしてもいいのか。苦痛を与えてもいいのか。怪我をさせてもいいのか。・・全部OKと言われたよ」 「あ、・・あん!!」
天見様の愛撫は執拗だった。 気持ちいい。このまま身を任せてしまいたい。 でもちょっと放っておけないことを口にしてらっしゃるわね。 少し脳みそをクリアにしなきゃ。
はぁ、はぁ。 激しく喘いでさしあげながら、天見様の表情を横目でチェックする。 大丈夫。自制なさっている。 これ以上暴走する危険はないわね。 おそらく今日のデートは入念に計画されたのだろう。 この後も何かご計画があるはず。きっと私への嗜虐行為だろう。 では今必要なことは? 私がすべきことは? ・・理解していただくこと、そして安心していただくことね。
「天見様」 ゆっくり呼びかけた。 「ご安心下さいませ」 「え」 「天見様のご満足のためでしたら何も拒みません」 「・・キツネちゃん?」 「ご奉仕させて下さいませ」 「そうか、君は知ってたんだね」 「はい。私をお好きなように扱って下さいませ。酷いことでも苦しいことでもお受けいたします」 私を押さえる手から力が抜けた。 「本当にいいのかい?」 「はい、天見様」 「悪かった。乱暴なことをしてしまったね」 「いえ、どうかお気になさらず」
ご理解いただけた。 ほっとすると同時に官能が戻ってきた。 とろり。下半身が熱い。 もしあのまま押し倒されていたら、どうなっていたかしら。 ああ、私きっとエロい顔をしているわ。
11. 天見様のマンションはリビングダイニングのお部屋の奥に階段があって、その上が吹き抜けのロフトのようになっていた。 メゾネットだよと教えて下さった。 浴室は階段の隣。
私はまずシャワーをお願いして、浴室を使わせていただくことにした。 服を脱いで裸になってから、ご一緒に如何ですかと聞いたら天見様も来て下さった。 裸になってから自分の胸を隠し恥ずかしそうになさっている。 もちろん私はそこに目を向けるようなことはしない。
天見様のお身体は贅肉がほとんどなくてよく締まっていた。 特に腕と背中にはアスリートのような筋肉がついて逞しかった。 股間には肥大したクリトリスが突き出していた。 それはまっすぐ立っていても見えるほどだった。
お背中を洗ってさしあげた後、当たり前のように正面に跪いた。 そしてそれを口に含んでご奉仕・・しようとしたらずいぶん慌てられてしまった。 前にもしてさしあげましたのにと指摘すると、あのときはもっと優しくて情緒的だったと抗弁された。 はっとした。 口でご奉仕、いわゆるオーラルセックスは男性のお客様にも女性のお客様にもお悦びいただけるスタンダードなサービスだけど、トランスジェンダーのお客様にはセンシティブだった。 これは失敗。お屋敷でやらかしたら罰を受けるレベルね。 胸の方は直接見ないように注意していたのに。
失礼をお詫びして、もう一度心を込めてご奉仕させて欲しいとお願いした。 その最中は私に何をなさっても構いません。 よろしければ私の手をお縛りになりますか、と言うと天見様の眉がぴくりと上がった。 本当に何をしても構わないんだね? と聞かれて私は頷いた。
私は浴室の床に跪き、後ろで揃えた手首をタオルで縛っていただいた。 その気になれば自分で解けてしまうような拘束だけど、解くつもりは絶対になかった。 顔を斜め上に向けて天見様のクリトリスを口に含んだ。 唇と舌ででご奉仕する。 それは私の口の中でびくんと震えた。
頭の上からシャワーのお湯が注がれた。 シャワーヘッドが目の前に迫り、ほんの数センチの距離からお湯を浴びせられた。 流れるお湯で視界が覆われる。 唇と舌のご奉仕は止めない。 天見様のそれは明らかに硬さを増して大きくなった。
天見様の片手が後頭部を押さえた。 顔面にシャワーを浴びせられたまま、髪をぐしゃぐしゃにかき乱される。 前髪を掴んで引き寄せられた。目と鼻を恥丘に強く押し当てられる。 鼻孔が塞がれて空気が入ってこなくなった。 すぐに胸の酸素が尽きて私はもがき、お湯が気管に入って激しく咽(む)せた。 慌ててそれを口に含み直す。必死の思いでご奉仕を続けた。 きっと私シャワーの中に涙と鼻水をぐずぐず流してる。
シャワーのお湯が背中に移動した。背中が暖かくなる。 と、お湯がいきなり冷水になった。 ひっ! 私は震えあがり、その瞬間、クリトリスの先端に露出した亀頭を歯で扱(しご)いてしまった。 絶対に噛まないよう細心の注意を払っていたのだけど。
天見様が小さな声を上げて絶頂を迎えられた。 しばらくしてから、最高だったよ、と言われてご奉仕は終了した。
12. ぐったりされている天見様のお身体をお拭きしバスローブを羽織らせてさし上げた。 幸福感に満ちたお顔。女性のイキ顔だと思った。 これが男性のお客様なら精を放たれて醸し出されるのは満足感や征服感。 これほど幸せそうな表情はなさらない。
「・・とてもよかったよ。やる前はあんなプレイのどこが楽しいのかと思ってたんだけどね」 「それは何よりでございました」 「ねぇ、キツネちゃんは男の客が相手のときにも、あんなご奉仕をするんだろう?」 「それは本来お答えしかねるご質問です。でも天見様だけにはお教えしますね。イエスです」 「ありがとう。もう一つお答えしかねる質問だけど、いいかな」 「何でしょう?」 「相手が射精したら、君はそれを飲むとか顔で受けるとかしてくれるのかい? ・・うわっ、ごめんっ。怒らないで!」
「・・天見様は男性の射精にご興味がおありなのですか?」 「そりゃそうさ。僕には絶対に叶わないことだからね。でも今興味を感じたのは射精そのものじゃなくて、女の子が口で奉仕することなんだ」 フェラチオに興味ですか?
「人間には手があるのにそれを封じてわざわざ口で尽くしてくれる。しかも飲むんだろう? あんな扇情的な行為はないね。・・強制されてすることもあるだろうけど、僕はそれを女性が自分の意志でやってくれることに感動するよ」 自分語りのスイッチが入ったみたい。 私は黙って拝聴する。
「・・考えてみれば男の快楽のために女が奉仕するってのは尊いね。暴力的なプレイまで進んで受けてくれる。まさに君たちの仕事だよ。実に興味深い」 接待で二人きりのとき語り始めるお客様は珍しくない。ほとんどが男性。 そういうときに大切なのは、すべて聞いてさしあげること、小難しい話でも理解に努めること、適切なタイミングで相槌を打つこと。
「キツネちゃんはさっき顔面シャワーを受けてくれたよね。髪の毛を掴んで振り回されるのはどんな気持ちだろう。やはり惨めなものかい?」 「はい。でもそういう思いを甘受するのもメイドの務めでございます」 「ものすごく嗜虐的な気分になるね。もう一回ご奉仕して欲しいくらいだよ」 終わりそうにないわね。 そろそろ後のご予定を伺わないと。
「天見様、きちんとしたお召し物をお着け下さいませ。お風邪をひきます」 「ああ、そうだね」 「今夜は何かご計画があったのではありませんか?」 「え」 「私を使って嗜虐プレイをなさると思っておりましたが」 「どうして分かったんだい?」 分りますよ。 私に抱きついてさんざん "苛めたい" オーラを放っておいて、分からない方がおかしいです。
13. 天見様は壁際に置いてあった手提げケースを大事そうに持って来られた。 「あれからSMバーに通って一本鞭の練習をしたんだ。人並には打てるようになったよ」 ケースの中にはSMプレイ用の一本鞭が入っていた。 グリップ(持ち手)の先に皮を編んだ撓(しな)やかな本体が繋がっている。 長さは1.5メートルくらいか。
私はお部屋を見回してチェックした。メイドの習性だ。 吹き抜け部の天井高さは4メートル以上。広さは 2.5×3.5 メートルってところ。 大丈夫、ここなら長縄を使えるわね。
吹き抜けには梁が一本通っていて、そこに小さな滑車が取り付けられていた。 滑車からフックのついたロープが下がっているのが見えた。 「天見様、あれは?」 「ああ、あの滑車は僕が付けたんだ。安物だけど人は吊るせるよ」 「ということは、私、あそこに吊られて鞭を打たれるのですか?」 「そうだよ。・・君を宙吊りにする技術はないから、両手を吊るだけのつもりだけどね」 天見様はそう言ってにやりと笑われた。 「どうかな? 怖いかい?」 「怖いです、天見様」 「嬉しいね。そう言ってくれると」
わさわざ私の誕生日のために準備して下さったのか。 きっとそうね。あの滑車とロープは新品だわ。 ご自分で掴まってテストするくらいのことはなさっているだろう。 お一人でぶら下がっている姿が浮かび、心の中でくすりと笑った。
天見様はジムでお使いのトレーニングウェアを着てこられた。 私は生まれたままの姿で、お借りしたバスローブを肩に掛けているだけ。 下着を着けてもいいと言われたけれど、私は自ら全裸を選択した。 ほんの4か月の練習ではブラやショーツを鞭で飛ばすテクニックはおそらく無理。 であれば、最初から肌をすべて晒して鞭打たれる方がお愉しみいただけるはず。 それにこの方は女が惨めな姿であることを好まれる。先ほどの会話で分ったことだ。
天見様が頭上の滑車からフックを下ろされた。 私はバスローブを床に落として前に立つ。 「両手を前に出して、キツネちゃん」 「はい、天見様」 この先はあらゆるご命令が絶対。私は絶対に逆らわない。
お屋敷を出るときに伝えられた今回のリスク予測値は 14-30 だ。 プレイの内容が不明なので信頼性の低い参考値と言われた。 でもここまで来たら私でも予測できる。 14-50 か 20-30。 私は今から打たれる。 無事でいられるかどうかは天見様の腕次第。 ・・ぞくり。 押さえていた被虐の思いが頭をもたげる。
前で揃えた手首に革手枷を締められた。 手枷のリングにフックが掛かって、床から踵が離れるまで吊り上げられた。 私は両手を頭上に伸ばし、爪先立ちの姿勢で動けなくなった。
「綺麗だね」 天見様が私をご覧になって仰った。 「ありがとうございます。・・どうぞ私をご自由に扱って下さいませ」 「じゃあ、お尻を打つから向こうを向いて」 「はい、天見様」 言われた通り身体を回して、天見様に背中を向けた。 「よーし」 鞭を持って構えられた。深呼吸。 「・・」 「?」 「一回練習する」
天見様は向きを変え、ソファのクッションに向かって鞭を打たれた。 ひゅん! ばち! 鋭い音がした。 鞭は全然違う方向に飛んで床を打っていた。 「あれ?」
訂正。 30-50 ね。
14. 天見様の鞭はとても速かった。 肘を曲げて素早く振り下ろす上級者の打ち方をマスターされていた。 ただしコントロールが悪かった。
天見様は真っ赤な顔をして何度か振り直された。 3回目でようやくクッションが跳ねた。 「待たせたね」 「いいえ、天見様。・・あの、まことに差し出がましいことですが」 「何?」 「一度ごゆっくりお座りになられては如何でしょうか。お座りになって、私をご覧になって下さいませ」
天見様ははっとした顔をされた。 ソファに腰を下ろし、一本鞭をテーブルに置いてから私に顔を向けられた。 「ありがとう、落ち着かせてくれて」 「とんでもございません」 笑顔で仰った。 「よく考えてみれば、いきなり鞭を打つなんて勿体ないことだね」 私も笑顔で応える。 「はい。今、天見様はこんな美少女の自由を奪って飾っておいでなのですよ?」 「本当だ。・・今どさくさに紛れて美少女って言ったね? もう二十歳のくせに」 「しまった。二十歳までは美少女の範囲でございます」 「あはは」「うふふ」
それからしばらく天見様はにこにこ笑いながら私をご覧になるだけで何もなさらなかった。 両手を吊られているからどこも隠せない。 天見様の視線が胸や股間に向いているのを感じる。 嫌ではなかった。 ・・乳首が尖るのが分かった。天見様はお気付きになったかしら?
10分ほども過ぎただろうか。 天見様がお立ちになった。 「もう大丈夫。・・覚悟はいいかい? キツネちゃん」 「はい、天見様」
15. ひゅん! ばち! 衝撃が走る。 私は身を捩って耐える。
ひゅん! ばち! ひゅん! ばち! ひゅん! ばち!
お尻。背中。太もも。 肌を切り裂かれる感覚。 お上手です、天見様。
ひゅん! ばち! ひゅん! ばち!!! 「ひぁっ!!」 声を出してしまった。 サービスで上げた悲鳴ではなかった。 ひゅん! ばち!!! 「ああーっ!!」
「キツネちゃん! 大丈夫かい!?」 天見様が駆け寄ってこられた。
はぁ、はぁ・・。 私は両手吊りのまま天見様に寄りかかった。 慌てて支えて下さるその腰に右足を回して掛ける。 太ももの内側を擦りつけるようにして絡みつかせた。 「!」 天見様が驚かれた。 私の右の内ももは股間から染み出た液体で濡れていた。 左の内ももにも粘液がふた筋、み筋。 はぁ、はぁ。
「お、お願いがございます、天見様」 天見様の耳元で話しかけた。 「私に、猿轡、をしていただけませんでしょうか?」 「さるぐつわ? いったいどうして」 「女の悲鳴は高く響きます。ご近所様に聞こえると天見様にご迷惑をおかけするかもしれません」 「・・」 「ご安心下さいませ。猿轡をされても私の味わう苦痛は変わりません。お耳に届かなくても私の悲鳴は天見様に伝わると信じております」
天見様はわずかに溜息をつかれたようだった。 「君はそんなことまで気遣ってくれるのか。そこまで濡れておきながら」 「メイドの務めでございます」 私はできるだけ艶めかしく見えるよう微笑んだ。 「どうか、思う存分お愉しみ下さいませ」
「・・本当にいつも君には、」 天見様はそこまで言いかけてお止めになった。 「それで僕はどうしたらいいんだい?」 「はい、とても簡単でございます。ハンカチなどの柔らかい布をできるだけたくさん口の中に含ませて下さいませ。私が嘔吐(えず)く寸前までぎゅうぎゅうに詰めていただいて構いません。それからダクトテープ、なければガムテープでも結構です。耳まで覆うほど長く切ってしっかり貼って下さいませ。2枚切って口の前でX(えっくす)の字に交わるように貼っていただければ、より剥がれにくくなります」 一気にまくしたててしまった。少し面食らってしまわれたかも。 「わ、分かった。・・ハンカチとガムテープだね? 取ってくるよ」
お願いした通りの猿轡を施していただいた。 口腔内に大量のハンカチが充填され、声も空気も通らなくなった。 鞭打ちが再開される。
ひゅん! ばち!!! 「んっ!」 ひゅん! ばち��!! 「んんーっ!!」 鞭が空を切る音。一種遅れて肌に当たる音。 衝撃が脊髄を抜けて脳天を貫く。
ひゅん! ばち!!! 「ん、んんっ!!」 鞭の当たる部位が識別できなくなった。 どこもかしこも腫れているのだと思った。 後半身はそろそろ賞味期限。まっさらな肌をご提供しないと。 私は少しずつ身体を回す。
ひゅん! ばち!!! 「んんっっ!!!」 脇腹を打たれた。
ひゅん! ばち!!! 「んんーーっ!!」 おへその下の柔らかい部分。
ひゅん! ばち!!! 「んんんんっっ!!!」 乳房。 赤い筋が浮かび上がるのが見えた。
私は両手吊りになった身体の全周をまんべんなく打っていただいた。 ときどき爪先で体重を支えきれず、手首に体重を預けてゆらゆら揺れた。 吊られた雑巾みたいに揺れた。
天見様はただひたすら鞭を振るっておられた。 どんなお顔をなさっているのか、見ようとしてもうまく見えなかった。 ぼろぼろ流れる涙が滲んで見えないのだと気付いた。
16. 「キツネちゃん・・?」 目を開けると、ソファの上だった。 私は天見様の膝に頭を乗せて寝ていた。 手枷と猿轡は外されていて、身体にシーツが掛けられていた。
下半身にどろどろした感覚があった。 無意識に股間に手をやると、そこにはまだ性感がマグマのように溶けて渦巻いていた。 あぁ!! びくんと震えた。全身に痛みが走って顔をしかめる。 自分がどうなっているのかよく分かっていた。 鞭で打たれた箇所が赤い痣とみみず腫れになっているのだ。 血が滲んで流れたところもあるはず。
「まだ寝てた方がいい。疲れ果てているだろう?」 天見様が仰った。 「出血の場所は洗浄スプレーで洗ったから心配しないで。後で起きたら洗い直してキズパッドを貼る、・・でいいんだよね?」 私は何も言わずに微笑んでみせた。 傷の手当くらい心得ておりますよ。
髪の生え際を撫でられた。 不思議と嬉しくなった。 「よく尽くしてくれたよね。・・嬉しかったよ、ありがとう」 あれ、どうしたんだろう。 また涙が出そうな感じ。 「ん? メイドとして当然の務めでございます、とか言わないのかい?」 「もう、天見様ぁ」 「キツネちゃんでも泣きそうな声を出すんだね。可愛いよ」 からかわないで下さいませ。 本当に泣いちゃいますよ。
天見様の指は髪から首筋に移動した。 人差し指と中指でそっと押さえられる。 エクスタシーが優しくさざ波のように広がった。 どろどろしていたモノが柔らかくなった。 「ああ、気持ちいいです」 「ここはね、僕がオナニーするときに好きだったポイントさ。テストステロンを始めてからは何も感じなくなったけどね」 私は黙って両手を差し伸べ、天見様の首に子どものようにしがみついた。 少しだけ甘えさせて下さいませ。
しばらくして天見様が仰った。 「・・君は女性を鞭で打つ愉しさを僕に教えてくれたね」 「はい」 「自分にこんな嗜好があったなんて、以前の僕には想像もできなかったことだよ。・・それで今日分かったことがあるんだ」 自分に言い聞かすように仰った。 「僕は SRS(性別適合手術)を受けようと思う」
天見様はご自身の嗜虐嗜好を認識して以来、女性の身体で女性を責めることに違和感を感じたと教えて下さった。 その違和感は男性ホルモンの投与だけでは緩和できず、それまで踏み切らなかった SRS を真剣に考えるようになられた。 「鞭の練習をしながら考えてたんだ。キツネちゃんをとことん責めて、僕が本当に求めていることを確認しようってね」
天見様の首にしがみついたまま質問した。 「では、私はお役に立てたのですか?」 「もちろんだよ。キツネちゃんが鞭で打たれて苦しむとき、その前にいるべきは男の身体の僕だ」
・・私はお役に立てた。 どろどろの澱みがなくなり、雪解けの水のように流れ去った。 「ありがとうございます!」 天見様の上によじ登った。頭を抱きしめる。 全身の鞭痕がずきずき悲鳴を上げたけど、気にしないことにした。
「・・ん、んんっ」 天見様の声がくもぐって聞こえた。 「ねぇ、もしかしてわざとやってる?」 私は全裸で、天見様の顔はDカ��プの胸に埋もれていた。 「はい。痣��らけの胸でございますがお尽くしするのが務めと考えました。・・ご迷惑ですか?」 「迷惑だなんてとんでもない。キツネちゃんのおっぱいは天国だよ」 「お粗末様でございます」
17. マンションの玄関にあった『徳山誠一』は天見様のご本名ではなく私生活での通り名だった。 天見様のご本名は『徳山聖子』だと教えていただいた。 「SRS を受けて性別変更したら戸籍名を『誠一』にするつもりなんだ。そのときはまた招待してくれると嬉しいね」 「主人に申し伝えます」 「約束する。次は男性の身体でキツネちゃんを責めてあげるよ」 「はい!」
朝になって私は迎えの車でお屋敷に戻った。 鞭痕は全治20日と診断された。 全身の痣が赤から紫に変わり、数日の間、私は七転八倒することになった。
18. 天見様が再びお客様としてお越しになったとき、私は24才になっていた。 この年、天見様はSFではなく歴史小説で文学賞を受賞された。 同時に MTF トランスジェンダー女性との結婚も発表されて文壇の話題となっていた。
晩餐ホールに呼ばれて伺うと、旦那様と向かい合って天見様ご夫妻が座っておられた。 SRS を受け戸籍上も男性となられた天見様は4年前より一層筋肉のついた男性らしいお身体になっていた。 奥様は色白でとても綺麗な方だった。
「キツネちゃん!」 「お久しぶりにごさいます、天見様。ご結婚と文学賞受賞お祝い申し上げます」 「ありがとう。キツネちゃんはメイドを引退するんだって?」 「はい」 私は横目でちらりと旦那様を伺う。 「構わんよ、話しなさい」 「はい。・・婚約しました。来月結婚いたします」 「え、それはおめでとう! 聞いてもいいかな、相手は?」 「アメリカで会社を経営されています」 「そりゃすごい!」
婚約者は旦那様の事業のお相手だった。 何度かご奉仕をしてさしあげた後、先方から私を "購入" したいとのご希望があった。 表向きは結婚という体裁になる。 その金額がどれくらいなのか私は知らない。 人身売買のようだと思われるかもしれないが、彼は優しく誠実な人だ。 私は彼を愛している。 ちなみに彼の嗜好はエンケースメント(閉所拘束)。 結婚したら月の半分は妻として務め、残り半分は樹脂の中に密封されて過ごすことになる。 実は彼も FTM であることを知る人は、このお屋敷では旦那様の他数人だけだ。
「・・ところで、」 旦那様がおごそかに仰った。 「そろそろメイドの緊縛は如何ですかな?」 「え」 天見様は一瞬驚いた顔になり、それから奥様と顔を見合わせて微笑まれた。 「是非お願いします。・・ここにいる女性の中から誰を選んでもよいのですよね?」 「もちろん」 「それでは彼女を、キツネちゃんを縛って下さい。服は脱がせて全裸で、できるだけ厳しくて可哀想な緊縛をお願いします」 「ふむ!」
私は天見様に選ばれる前から前に進み出ていた。 お約束を果たすために来て下さったのですね。 今夜、私は天見様ご夫妻のお部屋に伺って責められる。 天見様と奥様が鞭打って下さるのだろうか。 それでも私と奥様が天見様から鞭打たれるのだろうか。 それは多分、このお屋敷で私の最後のご奉仕。
私は旦那様と天見様ご夫妻に向かい、両手を揃え180度のお辞儀をした。 「謹んで縄をお受けします。どうぞお愉しみ下さいませ」
────────────────────
~登場人物紹介~ キツネちゃん: 19才。H氏邸のメイド。 天見尊(あまみたける): 26才。作家。FTM(生物学的に女性、性自認は男性)のトランスジェンダー。
2年半ぶりのH氏邸です。 確認したら前々回と前回の間も2年半開いていました(笑。
今回はトランスジェンダー界隈の情報ネタをストーリーに取り込みました。 私自身は FTM でも MTF でもありませんが、これらの方々が抱く嗜虐/被虐の思いには大変興味があります。 そこでH氏邸に招かれた FTM トランスジェンダー男性がメイドさんの接待を受けて、それまで潜在的に持っていた嗜虐嗜好に目覚めることにしました。 目覚めた嗜好が理由となり SRS(性別適合手術)を決心する、という設定ですが、これは作者(私)のファンタジーです。 現実世界にそんな人はおらんやろと思っていますが、さてはて・・?
なお私は、この界隈に関してネットで得られる以上の知識がありません。 トランスジェンダーの皆様の苦痛や悩み、ホルモン治療と SRS の詳細について不適切な記述があるかもしれないこと、あらかじめお断りしてお詫びします。
さて、メイドさん側の心理行動はこれまでのシリーズを踏まえて描いています。 よくあるドジっ子メイドとは正反対の超優秀なメイドさんです。優秀だけど立派なM女です。 現実世界にそんな女の子はおらんやろと確実に思っています(笑。
次に挿絵ですが、久しぶりにAIを一切使わずに手作業で描きました。 細かい手順をすっかり忘れてしまい大変苦労しましたが、対象をイメージ通りに描くなら手書きも便利と思いました。 これからも定期的に手描きを続けることが必要だなと痛感した次第です。
最後にシリーズの今後について。 長く続いた『H氏邸の少女達』ですが、次回で最終話にしようと考えています。 サイトへの掲載はずいぶん先になると思われますが、気を長くして待っていただければ幸いです。
それではまた。 ありがとうございました。
[Pixiv ページご案内] こちら(Pixiv の小説ページ)に本話の掲載案内を載せました。 Twitter 以外にここからもコメント入力できますのでご利用ください。(ただしR18閲覧可能な Pixiv アカウント必要)
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t82475 · 9 months
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梢ちゃん、初めてのイリュージョン
1. 大阪から東京へ引っ越して、あっという間に1学期が過ぎた。 新しい学校で仲良しの友達もでき��し、まあどんな環境にもすぐに適応するのがウチの強みやな。 弟の湊(みなと)は転校先の小学校に慣れなくてちょっと苦労している感じ。 それで母ちゃんが新聞の折り込みチラシで見つけた小学生向けの造形美術教室へ行ってみたらどうか、と提案してきた。 湊はウチと違(ちご)て繊細やもんね。 ゾーケイとかビジュツとか、そういうんは向いてると思う。
母ちゃんは教室へ電話を掛けて見学の予約をした。 土曜日午後のクラス。 「梢(こずえ)も一緒に来て」 「えぇー、ウチも?」 「湊は小2やし一人で行かされへんでしょ? いつもママが付き添えるとは限らへんし、そのときはあんたが連れてくの」 「あーん、貴重な週末やのに。母ちゃんのいけずー」 「そろそろ『お母さん』かせめて『ママ』って呼んでくれへん? いつも成○石井で母ちゃんって大声で叫ばれるの恥ずかしいんやけど」 「『おかん』って言われるよりええやろ? それに高級スーパーやゆうて恥ずかしがるんは田舎モンやで。だいたい成○石井くらいアベノ橋にもあったやんか」 「あ、そうか」 「分かったらよろしい、母ちゃん」 「そうやって親を煙に巻くの止めなさい」
2. そんな訳で3人で見学に来た造形美術教室。 三田さんというおばちゃんの先生が教えていた。 生徒は10人ほどで、それに保護者のパパとママが何人か来ている。 この日はカラーキャンドルを作っていた。 使い古しのろうそくとクレヨンを削って湯せんにかける。 何色か溶かして好きな順番で型に流し込めばカラフルなキャンドルが出来上がる。
「桧垣湊くんね? よかったら一緒に作らない?」 先生に誘われて湊は頷いた。 「あのっ、ウチもやらせてもらっていいですか!」 「こら梢!」 母ちゃんが止めようとしたけど、先生は笑って許してくれた。 「湊くんのお姉さんね? もちろんどうぞ」 「桧垣梢ですっ。中学2年です! ヨロシクお願いします!!」 だってキャンドル作り、すごい面白そうなんやもん。
「うわぁー、綺麗やん!」 どや、この色のチョイスはなかなかのもんやろ? 「水色を入れたいの? ええで、お姉ちゃんが一緒に削ったげる」 クレヨンを削るのを手伝ってあげた。この教室、こんな小っちゃい子にもナイフ使わせるんか。 「ボク! そこ指入れたらあかんっ。熱いでぇ~!」 湯せんの中に指を入れかけた男の子を止めた。ホットプレートの扱いも注意させんとあかんなぁ。
気が付けばウチは子供たちの輪の中にいてあれやこれや世話をしていた。 先生は後ろに立って笑っていた。
3. 「この娘が一番楽しんだようで申し訳ありません」 他の生徒さんたちが帰った後、母ちゃんが謝った。 ま、ウチを連れてきたらこうなるのを予想せんかった母ちゃんのミスやな。 「いいんですよ。よかったらこれからも毎週来てくれたら助かるな、梢ちゃん」 「ええんですか?」 「子供、好きでしょ?」 「ハイッ、好きです! ・・母ちゃん、ウチの分の月謝もお願い」 「あのねぇ」 「月謝なんて要らないわ。むしろお給料払わないといけないくらいよ」 「えぇ! お給料もらえるんですか!」 「な訳ないやろ」 母ちゃんがウチの頭を小突いた。
「ところで、」 母ちゃんは先生に向かって聞いた。 「三田、静子先生ですよね?」 「はい」 「覚えてませんか? 30年以上前ですけど京都の中学校で」 「京都? 確かに昔、京都で教師をしていましたが」 「私、美術部でお世話になった鈴木です」 鈴木っちゅうんは母ちゃんの旧姓やな。
「・・鈴木純生(すみお)さん? あの、捻挫して松葉杖の」 「はい!」 「きゃあ~っ」「きゃあ~っ」 母ちゃんと三田先生は両手を握り合った。 それからハグして、その場で跳ねながら一回転する。よお息が合うもんやと感心した。
「チラシでお名前見て、もしかしたら思ってたんです」 「懐かしいわ!」 「よかったら、あらためて昔のお話させてください」 「そうね、そうしましょう!」
・・後ろのドアが開く気配がした。 「先生、これも倉庫に置かせてもらっていいですか」 振り返ると背の高いお兄さんが立っていた。 その後ろには可愛いお姉さんもいる。 お兄さんは大きな丸いモンを抱えていた。 イケてない兄ちゃんやな。この、もさぁっとした感じ。 ウチの見立てやと30は超えとるな。もちろん彼女いない歴イコール年齢や。 それと比べてお姉さんはずっと若くてキュート。きっとピチピチの女子高生。
「ああ、まだ生徒さんがいましたね。出直します」 「いいのよ。もう済んでるから。・・それで何を置きたいの?」 「このボールです」お姉さんが答えた。 「くす玉なんだって」 「正確には人間くす玉です」 人間くす玉って、いきなり謎のワード。
「くす玉っ!?」 素っ頓狂な声を上げたのは母ちゃんだった。 「まさかそれ、S型の人間くす玉・・」 「よく分かりますね」 お兄さんが言った。 「あなた何者ですか?」
母ちゃんは両手で胸を押さえて深呼吸して、それから一人で叫んだ。 「きゃあああ~!!」 さっき三田先生とシンクロして叫んだときよりずっと大きな声だった。 皆が驚いて見守る中、母ちゃんだけが絶叫しながらぴょんぴょん飛び跳ねていた。 46歳の母ちゃんが急に若返ってハタチになったみたいに見えた。
4. 次の土曜日の教室。 ウチは一人で湊を連れて来た。 母ちゃんは前の晩からどこかへ出かけ、朝になって上機嫌で帰って来てグーグー寝ている。 ええ歳の主婦がそないな夜遊びしてええんか? 父ちゃんは笑ってたから許してるんやろうけど。
今日の造形美術教室の題材は千切り絵だった。 いろいろな色の和紙をハサミを使わずに裂き、糊で貼って綺麗な絵にする。 子供たちは一生懸命。ウチも一緒に絵を作る。 やっぱり楽しい。 ウチには造形美術の才能があるんやないか。
「みんなーっ、クッキーだよ! あたしの手作り!!」 れいらさんがお菓子を持ってきてくれた。 玻名城(はなしろ)れいらさんは先週出会ったあの高校生だった。 造形美術教室の卒業生で、ときどき子供たちに差し入れしてくれる優しいお姉さん。
「イッくんは二日酔いらしいです」 「男のくせに駄目ねぇ」 れいらさんが報告して三田先生が笑った。 イッくんとはあのお兄さんのことで、本名はえーっと、酒井功(さかいいさお)さんやったな。 れいらさんと同じく造形美術教室のOBで今もいろいろお手伝いしてくれているらしい。
「いったい何人で飲んだんですか? 先生」 「5人ね。イッくんと桧垣純生さんと私。それに桧垣さんの知り合いっていうモデル事務所の社長さんと、京都から来たイベント会社の社長さん。イッくん以外は全員女性よ」 「えっ、ウチの母ちゃんも一緒やったんですか?」 「そうよ。昔のお話が沢山できて楽しかったわ」 「社長するような人と母ちゃんが知り合いとか、知らなかったです」 「面白い人たちだったわ。皆さんお酒もぐいぐい飲むし、盛り上がっちゃった」 「先生もぐいぐい飲んだんでしょ?」 「おほほほ」 「イッくん可哀想。おばさんたちに飲まされて」 「んま、れいらちゃんったら失礼なこと言うわねー」 「ウチにも分かります。30過ぎのおじさんでも、おばちゃんたちから見たら若い男の子ですもんね。そら可愛がられますわ」 「梢ちゃんまだ中学生でしょ? 何でそんなことが分かるの?」 「えへへ、そうゆうんは得意なんです」 「でも30は可哀想よ。彼25歳だもの」 「うわぁ、ホンマですか~! ウチが言うたってチクらんといてくださいっ」 「あはは」「きゃはは」
5. 家に帰って、ウチは母ちゃんから若い頃の話を聞いた。 母ちゃんは京都の会社でイベントの司会やイリュージョンのアシスタントをしていた。 イリュージョンって、あのマジックのイリュージョンなのか。 二十歳のときの写真と言って見せてくれたのは、チャイナ服の母ちゃんが透明な箱の中に出現したところだった。 腰まで割れたスリットから生足出して、きらきら輝く笑顔で手を振っている母ちゃん。 今の母ちゃんと同じ人とは信じられないくらいに綺麗だった。
謎の『人間くす玉』についても教えてもらった。 人間くす玉は同じ会社のアトラクションで、中から女の子が飛び出すくす玉なんだって。 先週イッくんが抱えていたのは一番小さなサイ���のくす玉。 「彼がクレクレしたから無料であげたって社長が言ってたわ。意味分からへんよね」 ウチにも意味が分かりません。
夜、れいらさんから LIME のメッセージが届いた。 『明日イッくん家に行くの。梢ちゃんも一緒にどう?』 『行きます!』 『イリュージョンを見せてくれるんだって』 またイリュージョン!? 後にして思えば、それはウチが新しい世界に足を踏み入れるお誘いだった。
6. イッくんのマンション。 「いらっしゃいませ!」 ドアを開けて迎えてくれたのは綺麗な女の人だった。 「あなたが梢ちゃん? 酒井多華乃(たかの)です。よろしくね」 「多華乃さんはイッくんの奥さんだよ。先月結婚したばかり!」 ほぇ~。ばりばりの新婚さんやないですか。 多華乃さんは七分丈スパッツの上にニットのサマーセーターを着ていた。セーターの襟ぐりが大きくて谷間がちらちら。 こんなセクシーな奥様がいるやなんて、この間は「彼女いない歴イコール年齢」とか思てゴメンナサイ!
リビングに案内してもらうとイッくんが待っていた。 ちゃんとお話しするのはこれが初めてだった。 「お招きありがとうごさいます! ・・あの、ウチも『イッくん』って呼ばせてもらってええですか?」 「いいけど?」 「実はどう呼ぶか寝ないで考えました。『イッくん』はちょっとナレナレしい、『イサオさん』はヨソヨソしい、そやかゆうて『イッさん』やと大阪のおっちゃんみたいで」 多華乃さんがぷっと笑う。 「なんでやっぱり、れいらさんと同じ『イッくん』で行かせてください!」 「梢ちゃんって面白いね」 よっしゃ、ウケてくれた! ウチは心の中でガッツポーズをする。
「イッくん、二日酔いは治った?」 れいらさんに聞かれてイッくんは頭をかいた。 「ああ、酷い目にあったけど、タカノがいてくれたから・・」 「熱いねーっ」 大喜びで冷やかすれいらさん。 いつものウチなら一緒に囃し立てるとこやけど、さすがに初対面で遠慮したのは我ながらエライと思う。
「・・んじゃ、さっそくやろうか」 「イリュージョン!?」 「うん、新作だよ。この場所に招かれたゲストだけが見れる限定イリュージョン。そして記念すべき最初のゲストが君たちだよ」 ぱちぱちぱち。れいらさんが拍手した。 今度はウチも一緒に思いきり手を叩いた。
7. 小さなテーブルを挟んで4人がソファに座った。 手前のソファにウチとれいらさん。 向かい側にイッくんと多華乃さん。 こちらから見て向かって左にイッくん、右に多華乃さんが座っている。
イッくんは多華乃さんの腰に左手を回すと、ぐいっと引き寄せた。 多華乃さんがイッくんに密着する。 ニットの襟がでろんと伸びて白い肩が出た。その肩にブラ紐はなかった。 あの、それはお客さんが男性のときに目を惑わすための演出ですか。 女でもドキっとするんですけど。
「これはサテンの袋。長さ2メートルあるのでうちの妻が全部入ります」 イッくんは多華乃さんを左手で抱いたまま、床の袋を右手で拾い上げた。 紫色でつるつるした光沢のある袋だった。 それを多華乃さんの頭から被せる。もぞもぞと右手だけで身体全体を覆ってゆく。 ・・そやから、わざわざ密着してそういう作業をするのは何でですか。 すごくエッチに見えるやないですか。
足先まで袋を被せた。 「足あげて」 多華乃さんの膝がぴょんと伸びて、目の前に袋の先が突き出された。 「れいらちゃん、袋の口をくくってくれる」 「これでいい?」 れいらさんはサテン袋の口を絞って結んだ。
「ありがとう」 相変わらずイッくんは袋に入った多華乃さんを左手で抱いたままだった。 つるつるしたサテンの袋を右手で撫でる。 多華乃さんのボディラインがはっきり分かった。 膝、腰、頭。 うわ、そこは多華乃さんの胸。 いくら奥さんやからゆうて、人前でそないに揉みしだいたらアカンでしょ。
「次はこのシュラフ(寝袋)。梢ちゃん、シュラフって知ってる?」 「ええっとキャンプとかで使うモンですよね」 「そう、携帯用の寝具だね。綿が入ってて暖かいんだ。・・これを被せるから手伝ってくれるかい?」 イッくんに指示されてシュラフを今度は多華乃さんの足の方から被せた。 腰の下を通すとき、イッくんは左手に抱いた多華乃さんを持ち上げて通し易くしてくれた。 頭まで被せ終えると、脇のファスナーを上まで閉めた。
「こっちは縄で縛るよ。・・ん? どこかな」 右手で足元をまさぐった。 「れいらちゃん、そっちに紙袋が置いてない?」 「ええっと・・、あった!」 ウチとれいらさんが座るソファの後ろに紙袋があった。 「そこに縄が入ってるから、それでここを縛って。できるだけきつく」 れいらさんはイッくんのソファの後ろに回り、言われた通りにシュラフの口に縄を巻いて縛った。
「二人ともご苦労様でした。後は座って見てね」 ソファに座ったイッくん。 ウチとれいらさんはその反対側に座っている。 イッくんの左手はシュラフ(の中の多華乃さんの腰)を抱いたまま。
「いま、タカノは二重の袋の中。暖かい、というより暑いだろうね。呼吸するのも辛いかもしれない」 右手でシュラフを押さえた。多華乃さんのちょうど顔にあたる部分。 「この中で美女が苦しい思いをしていると考えたら、・・ちょっと興奮するよね」 「イッくん! そういうフェチな妄想してる場合じゃないでしょ! 梢ちゃんも見てるのに」 「え、ウチ? 何のことですか?」 分からないふりをしたけど、二人の会話は何となく理解できた。 じっと我慢してる多華乃さん。たぶん本当に苦しい。 そんな多華乃さんを抱きながら「興奮する」と言ったイッくん。ドSやんか。
「ごめんごめん。イリュージョンに戻ろう」 イッくんは右手でシュラフの口を縛る縄を掴んだ。 「いくよ。・・それ!!」 手前に引いた。 シュラフは腰の位置で二つに折れ曲がった。 「もう一回!」 すぐにシュラフの足先を掴んで持ち上げた。 二つ折りのシュラフが四つ折りになった。
「え」「え」 ウチとれいらさんは揃って声を上げた。 「二人で上から押さえてくれるかい」 言われた通りシュラフを押さえると、空気がしゅうっと抜ける音がした。 シュラフは四つ折りのまま潰れて平らになってしまった。
「えーっ、どうして!?」 「多華乃さんは!?」 二人で騒いでいると多華乃さんの声がした。 「お疲れ様、お茶にしましょ♥」 リビングに隣り合ったキッチンに多華乃さんがいた。 紅茶とケーキを乗せたトレイを持って笑っている。 少しだけ乱れた髪。少しだけ紅潮した頬。 とても色っぽかった。
8. 「いったいどうなってるの!?」 「それは内緒。今のところお客さんが来た時に見せられるのはこのイリュージョンだけだからね」 イッくんはタネを教えてくれなかった。 「あんなにたくさんあったイリュージョンの機材はどうしたの?」 「ほとんど人にあげるか倉庫に入れちゃったんだ。これからまた新しいのを作るよ」 「新居に汚いものを置くなって、三田先生に言われたみたい。私は気にしないんだけどね」 多華乃さんが補足してくれた。 「まあ彼のアパートにいろいろ怪しいモノがあったのは確かね」 「怪しいモノはないだろ、タカノ」「うふふ」 「イッくんはね、何でも自分で作っちゃうんだよ。イリュージョンの道具から吊り床まで」 「スゴイですね! 吊り床って何ですか?」 「あ、ゴホンごほんっ」「・・ちょっと早いかな? 梢ちゃんには」 「???」
いろいろ話をしてイッくんと多華乃さんのことを教えてもらった。 二人は同じ大学で知り合って、一緒にイリュージョン同好会を設立した。勤めるようになってからも仲間と活動を続けている。 マジックの競技会にオリジナルのイリュージョンを出して賞を獲ったこともある。 たまに造形美術教室の子供たちにもイリュージョンを見せてくれているんだって。
「最近はれいらちゃんも参加してくれてるんだ。梢ちゃんはイリュージョンをしてみたいって思わない?」 「やりたいです。ウチもあんなすごいイリュージョンができるようになりますか?」 「できるわよ。私も最初は何も知らなくて始めたんだもの」 「ならウチの親が許してくれたら。あ、日曜日しかダメですけど、いいですか?」 「ぜんぜん大丈夫」
「梢ちゃんを誘おうと思ったのは訳があるの」 れいらさんが説明してくれた。 「三田先生、10月に還暦を迎えるのよ」 「カンレキって?」 「60歳のことだよ」 「先生そんなお歳やったんですか」 「だからお誕生会を企画してるの。そこでイリュージョンも見せようって」 「ははぁ」 「いつもだったらイッくんが多華乃さんとやるんだけど、たまにはサプライズもいいでしょ?」 イッくんと多華乃さん、れいらさん。3人がウチを見て笑っている。 まさか。 「れいらちゃんがものすごく推すんだ。新しく来た梢ちゃんっていう中学生がとてもいい子だって」 「あのウチそんないい子では」 「僕も梢ちゃんと会って思ったよ。是非、誕生会のイリュージョンをやって欲しい。・・タカノはどう?」 「大賛成よ。私も梢ちゃんのことが大好きになっちゃった」 「決まりね。マジシャンはあたし、アシスタントは梢ちゃんだよ!」 れいらさんが宣言した。 どうやらウチはいつの間にかイリュージョンに出ることが決まっていたらしい。 母ちゃん、ウチ、母ちゃんと同じイリュージョンのアシスタントするんやで。怒らんといてな。
「実はこんなのを設計しているんだ」 イッくんはノートに描いた図面を見せてくれた。 スーツケース?の中に膝を曲げて入った女の人のシルエットが描かれていた。 「タカノ用に描いたんだけど、梢ちゃんなら問題ないはずだよ」 「もしかしてウチがこれに入るんですか?」 「そうだよ。それで外から剣を刺すんだ」 「えええ~っ!!」
9. 還暦祝いなんて勘弁してちょうだい。 はじめのうち三田先生はお誕生会を嫌がった。 それでも造形美術教室の卒業生がたくさん来る、保護者の皆さんもお金を出し合って準備してくれると聞いて抵抗を断念した。 「ありがとう! ・・でも赤いちゃんちゃんこなんて着せようとしたら、その場で逃亡するわよ」
母ちゃんはウチがイリュージョンするのを嫌がるどころか大喜びしてくれた。 「三田先生のお誕生日にイリュージョン? 素敵やないの!! それであんた衣装はどうするの?」 「んー、まだ何も決まってへん、と思う」 「マジシャン役はあの高校生の女の子ね? よーし、母ちゃんがまとめて面倒みたげる!!」 母ちゃんはイッくんの携帯の連絡先を聞いていたらしい。 勝手に電話して衣装製作の了解を取り、るんるん楽しそうに準備を始めたのだった。
10. 「スーツケースが手に入ったんだ。サイズをチェックしたいから来てくれる」 次の週、連絡があってウチは一人でマンションへ来た。 イッくんと多華乃さんが迎えてくれた。
さっそくスーツケースを見せてもらう。 「メ○カリで買った中古品なんだ。これをイリュージョンに使う予定」 それは思ったより小さかった。 立てて置いたら腰くらいの高さしかない。 「入ってくれるかい。梢ちゃん」 「あ、はい」 いきなりですか。 ええですよ。そのつもりでスカートやのうてショートパンツ穿いてきましたし。
イッくんが広げたトランクの中にお尻をついた。 「両手は後ろに回してくれるかい」 「後ろですか?」 「そう。手錠掛けるつもりだから」 「てじょう?」 「うん、後ろ手錠。動けないように」 !!
「イサオ! イリュージョン初体験の女の子にそんなストレートな言い方はダメっ」 多華乃さんが叱ってくれた。 「梢ちゃんフリーズしてるじゃない。・・心配しないで、梢ちゃん。マジック用の手錠だから自分で外せるわ」 「身の危険を感じました。ウチは生還できるんでしょうか?」 「んー、大丈夫だと思うよ。しらんけど」 イッくんがのんびり答えた。 ウチの関西人アンテナが反応する。 「あ、今『しらんけど』言いました? ウチも使うチャンス伺ってたんですけど」 「一度言ってみたかったんだよ『しらんけど』。今の使い方でいい?」 「グッドです。イッくん大阪でやっていけますよ」 「ナニアホナコトイッテンネン」 今度は多華乃さんが言った。 「多華乃さん、それは東京のヒトがやると割とスベるんで止めた方がええです。あとイッテンネンやのうてユーテンネンです」 「難しいのねぇ」「ドンマイです」 「ねえ、そろそろ続きをやらない?」 「イッくん人のギャグには冷淡ですねー」 「うふふ。冷たいのも彼の魅力よ」 はいはい、ごちそう様です。
トランクの中で横になった。 身体を丸くして両手を後ろに回す。 「もっと顎を引いて頭を下げてくれる」 「はい」 「あぐらを組む感じで。もうちょっとお尻下げて。・・OK、そのポジションをよく覚えておいてね」 「了解っす」 外にはみ出した髪を多華乃さんが直してくれた。 「大丈夫だね。では蓋するよ」 カチャ。 トランクの蓋が閉じて真っ暗になった。 頭の後ろが押し付けられて痛かった。 ぎゅっと折りたたんだ膝と脛、足の甲も前に当たってキツイ。 狭いやん! 「起こすよ」 ぐらり。 お尻に体重が乗った。 すっと身体が沈んで後頭部に余裕ができた。 足は全然動かせないけれど、少しだけほっとした。
「肩を捩じって、片手ずつ前に出してみて」 ごそごそ。 あ、出せた。 「右手で左の壁、左手で右の壁。触れるでしょ?」 はい、触れます。 「あとはまた両手を背中に戻す」 ごそごそ。 戻せました! 「ここまでできたら問題ないよ。ちゃんと生還できるから安心して」 はい! 「何度も練習して慣れてね。出してって言ってくれたらすぐに開けるから」 分かりました!
11. 「・・梢ちゃーん、大丈夫?」 声が聞こえた。 この声は、れいらさん!? 「はーい、大丈夫ですぅ。れいらさんですかぁ?」 「そうだよー。もう15分くらい経ったっていうから開けるよー」 え? 15分も?
ぐらり。 ウチを閉じ込めていた空間が横向きになった。 カチャカチャ音がして蓋が開く。 イッくんと多華乃さん、それにれいらさんがウチを見下ろしていた。 あ、えーっと。 「じゃーんっ、たった今、囚われの美少女が救出されました!」 あかん、誰も笑てくれへん。 仕方ないので、自分で「えへへ」とごまかして起き上がった。
「大丈夫みたいだね。静かなままだから、ちょっと心配になって」 イッくんが言った。 「ぜんぜん大丈夫です。・・何か馴染んでしもて、ぼおっとしてただけです」 多華乃さんとれいらさんが安心したように微笑んだ。
本当は、女の子を閉じ込めるってこういうことなんかと考えてた。 ちょっとえっちな妄想もしてドキドキした。 でんもそんなん恥ずかしくて言われへんやんか。ウチ純真な中学生やのに。
「そういえばれいらさん、いつの間に来てたんですか?」 「遅れてごめんね。梢ちゃんのお母さんに衣装の採寸してもらってたんだ」 「れいらさんちに行ってたんですか、ウチの母ちゃん」 それで朝からウキウキ出かけて行ったのか。 「面白いお母さんねぇ。あの人から梢ちゃんが生まれたのなら納得だわ」 「変な納得のしかた、せんといてください」 「そうだ梢ちゃんのお母さん、イリュージョンやってたって教えてくれたよ」 「え、そうなの!?」 多華乃さんが驚いた。 「らしいです。ウチも詳しくは知らんのですけど」 「むかし京都にいた頃、かなり本格的なイリュージョンをやってたらしいよ」 「なんでイサオが知ってるのよ」 「前に飲まされたときに聞いたんだ。・・あ、別にわざと教えなかったんじゃなくて、僕は余計なことは喋らないだけだよ」 「む」 多華乃さんはイッくんの首を肘で絞めて押さえ込むと、その耳の後ろをゲンコツでぐりぐりした。 「あれはスリーパーホールド。多華乃さんの得意技だよ」 れいらさんが教えてくれた。
その後イッくんがスーツケースイリュージョンの仕掛けを説明して、皆で進め方を相談した。 途中でれいらさんが「あたしもスーツケースに入りたい」と言い出して入ることになった。 「何時間でも閉じ込めていいよ」なんて言うもんやから「なら駅のコインロッカーにでも預けましょか」って返したら「うわーいっ!」と喜ばれてしまった。 多華乃さんまで「あらそれ素敵」なんて言う始末。 「手錠は?」「いいですねー」 「DID♥」「ですっ!」 もうやっとれんわ。 でも、これだけあけすけに話せるんは羨ましいな。 ウチもさっきスーツケースの中で興奮しましたって素直に告白したらよかったかな。
12. お誕生会前日の造形美術教室。 子供たちがみんなで飾り付けをしていた。
ウチは湊と一緒にケーキを作っている。 ケーキと言っても食べられない飾りのケーキだった。 ダンボールの大きな筒に模造紙を貼って、その上から色紙で作ったクリームやフルーツをつける。 「姉ちゃんっ。そこはローソクやんか」 「あ、ゴメン」 「ここのチョコプレートはボクがやる」 「ならまかせるで」 「うん」 造形美術教室に来るようになって湊はずいぶん積極的になったと思う。
立ち上がって周囲を見渡す。 手伝って欲しそうな子は・・おらへんな。 それなら部屋の隅に座り込んでちょっとひと息。 明日はいよいよイリュージョンの本番か。 昨夜見た夢を思い出した。
スーツケースに入っている夢だった。 何故か学校の制服を着���いて、後ろ手に手錠を掛けられていた。 この頃、何度も同じような夢を見る。 ウチはいつもスーツケースに閉じ込められていた。 ・・またか。 夢の中で考える。 ・・それやったら、楽しまな損。
イリュージョンと言われてスーツケースに入ったウチ。 そのままどこかへ運ばれる。 街の雑踏が聞こえる中をごろごろ転がって、静かな場所に置かれた。 コインロッカー!? スーツケースごと、コインロッカーに収納されたんか。 あの、このスーツケース、女の子が入ってるんですけど。
囚われのヒロイン。DID。 ずっと前からDIDの意味は知っていた。ウチはおませな少女なんや。 おませなウチは絶対絶命のピンチにも憧れる。 もう逃げられへん。どこかに売られてしまう。 そうや、可愛い女の子は拉致られて売られる運命にある。 諦めるってキモチ、ちょっとええと思う。
小さく折り畳んだ身体が動かせない。 もどかしい。もどかしくてウズウズする。 そやけど、このもどかしさに耐えるのが乙女の務めや。 身体じゅうが熱くなる。
「・・梢ちゃん!」 誰かに呼ばれて我に返った。 ウチの顔を覗き込んでいるのは、れいらさんだった。 「梢ちゃんがヒマそうにしてるのは珍しいね」 「ちょっと休憩中です。れいらさんはどうしはったんですか?」 「さっきね、衣装を試着してきたの」 「お~っ、どんなでしたか」 「セクシー! 自分でもびっくりしちゃった」 「母ちゃん、ウチの衣装よりもヤル気出してましたもん」 「恥ずかしいけど、あんな恰好めったにできないから頑張って着るよ。梢ちゃんの衣装は?」 「それは明日のお楽しみです。・・ええっと、あの、つかぬ事を伺いますが」 「はい?」
思い切って聞くことにした。
「れいらさん、こないだスーツケースに入ったでしょ? イッくんのところで」 「入ったねー」 「失礼なこと聞くって怒らんといてくださいね」 「うん、怒らない」 「れいらさんと多華乃さん、やっぱりマゾの人ですか?」 「へ!?」 「あのときのお二人、ドMトークで盛り上がってたやないですか。コインロッカーに預けてほしいとか手錠掛けられたいとか」 「そ、そんなこと口ばしったっけ」 れいらさんが顔を赤らめるのを見たのは初めてやないかな。 「『ICレコーダー梢ちゃん』の異名を持つウチですから間違いありません。あのトーク、なんぼかはノリで言わはった思うんですけど、羨ましかったです。あんな風に性癖を発散する女の人を見たのは初めてでしたから」 「中2のくせに性癖なんて言葉使うのね」 「ウチはおませな少女なんです」 「あははは」 豪快に笑われた。 「いいよ、教えてあげる。マジレスすると多華乃さんはドMだよ。自分でも公言してるわ。旦那様のイッくんはS」 「分かります分かります」 「あたしはMとS両方あるな。お相手によってどちらでも。・・あ、お相手って男性に限らないからね」 れいらさんはそう言ってウインクした。 「梢ちゃんはMだよね」 「あ、ウチはまだ・・」 「スーツケースに詰められて感じてるじゃない。もうみんな気付いてるわよ」 ぶわ。 冗談やなしに顔に火が点いた。
しばらくけらけら笑ってから、れいらさんは言った。 「それでいいんだよ! SとかMとか恥ずかしいことじゃないんだし」 「それやったらお願いがあるんですけど」 「何だって聞いたげるよ」 「これからはウチも多華乃さんとれいらさんのドMトークに参加していいですか? ウチもエロいこと言いたいです」 「そんなこと!? あはは、大歓迎!!」 「ありがとうございます。何かすっきりしました~」 「梢ちゃんて本当に面白くっていい子ねぇ。ますます好きになっちゃった。あたしが三田先生なら絶対にぶちゅ~ってしてるところね」 「ぶちゅう~!?」
13. 三田先生のお誕生会が始まった。 造形美術教室の生徒さん、保護者のパパとママたち、卒業生が何十人も集まっている。 イッくんと多華乃さん、それにウチの母ちゃんもちゃんと揃っていた。
司会のれいらさんが開会を宣言した。 続いてイッくんが卒業生代表として挨拶。・・その直後。 ぱーん! 正面にあったケーキからクラッカーが弾けて紙吹雪が舞った。 「三田先生っ。はっぴぃばーすでーぃ!!」 ケーキが上下に割れて、中から立ち上がったのはウチやった。 母ちゃんの作ってくれた白い衣装を着ていて、手には花束。 ケーキから出て花束を三田先生に渡した。、 子供たちは大喜び。他の人たちからも大きな拍手。
ウチが飛び出したのはケーキの形をしたびっくり箱。 その正体は前日に湊が作ったダンボール製のケーキだった。 これをイッくんがたった一晩で改造してくれた。 クラッカーを取り付けて紙吹雪が飛ぶようにした。 上下に分離できるようにして内部を補強し、小柄な女の子なら収まる空間を用意してくれた。 ホンマ、イッくんって何でもできるスーパーマン。
「ご苦労様!」 花束を渡して戻って来たウチをれいらさんが労ってくれた。 「ケーキの中でドキドキした?」 「はいっ。次にパーティするときは一緒にびっくり箱しましょ!」 「いいわね!」 ウチは皆が集まる前からケーキの中にずっと隠れていたのだった。
お誕生会はそれから子供たちが歌ったり踊ったり、造形美術教室の昔のビデオを上映したりして進行した。 そしてメインイベント。ウチとれいらさんのイリュージョンの時間になった。
14. れいらさんが衣装を着替えて出てきた。 「うわあ」「れいらちゃーん!!」 「すごーい!」「キレイ!!」 大人も子供もみんなびっくりしてるなぁ。 「みんなー! お姉ちゃんこれから頑張ってマジックするよー。立ち上がったりしないで見てねー」 「はーい!!」
れいらさんは真っ赤なボディスーツとその上に短い黒ジャケットを着ていた。 ボディスーツはハイレグで胸のカットも深い。 バニーガールみたいにも見えるし、白いブーツを履いているからレースクイーンのようにも見える。 エロくて恰好いい。 母ちゃんが「萌える~!!」と雄叫びを上げながら作ったコスチュームだけのことはある。執念がこもってるわ。 何人かのパパが見とれてしまってママから叱られているのもお約束。 さすがにこれを女子高生に着せて小学生の前に立たせるんはええのかと心配やけど、三田先生が手を叩いて喜んでるから構へんのやろうね。
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れいらさんが手招きした。さあ出番や。 「マジックをお手伝いしてくれる梢お姉さんです!」 「よろしくーっ」 ウチはスーツケースを引いて出て行く。 あの中古のスーツケースはイッくんが改造して外観が変わっていた。 正面と裏側に細長い穴が6つ。 これはサーベル(剣)を刺すための穴。 ギミックの都合でキャリーハンドルは上げたまま固定。
ウチはお客さんの方に背中を向けると両手を後ろで組んだ。 その手首にれいらさんが手錠を掛けた。 左右に引っ張って手錠が外れないことを示す。 それが済むと、れいらさんはスーツケースを倒して蓋を開いた。 スーツケースの中は仕切り類が全部外されていた。 代わりに蓋の裏に剣刺しのギミックがついて、少しだけ狭くなったけどウチが入るのには問題ない。
うちは靴を脱がせてもらって裸足になり、スーツケースの中に横になった。 膝を引き寄せて身体を丸くする。 簡単な所作やけど、一発で決まるように何回も練習したんやで。
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れいらさんはスーツケースの蓋を閉じようとする。と、中身が大きすぎるのかなかなか閉まらない。 蓋にお尻を乗せて座って閉めた。パチンとロックを掛ける。 キャリーハンドルを両手で握り、重そうにスーツケースを立てた。
れいらさんが次に手に取ったのはサーベルだった。 これもイッくんの手作りで、長さ1メートルほど。 銀色のブレード(刃)と手元が束(つか)になっている。 れいらさんはブレードを指で撫でて痛そうな顔をした。 「怖い人は目をつぶってねー」 スーツケースの後ろに立ち、一番上の穴にサーベルの先端をあてがった。 何人かの子供が自分の手を目の前にかざした。
15. カチャリと音がしてスーツケースが閉ざされた。 ウチはもう外へ出られない。 ぐらり。 スーツケースが立てられて世界が90度回転した。 いよいよここから本番。 ウチはスーツケースの中で深呼吸する。 こんな姿勢やから本当の深呼吸は無理やけど、大切なんは気持ちやからね。
スーツケースの中で身体を捩じった。 背中で手錠を掛けられていた両手を前に回した。 そんなことができるのは、左右の手錠が分離できるからだった。 手錠の鎖は紐で繋がっているだけで、その紐はリールで伸びるようになっている。
前に出した右手で左の壁をまさぐり、そこに6個並ぶレバーを探し当てた。 蓋の裏にはサーベルの一部、ブレードの先端だけが隠されている。 レバーを動かすとスーツケースの蓋の穴からその先端が突き出る仕組みにな���ている。 一方、れいらさんが持つサーベルは、スーツケースの穴に押し込むとブレードが縮んで束の中に収まる仕掛けになっているのだった。
「・・スチール製のメジャーがあるだろう? あれと同じ構造だよ。ブレードは硬いように見えて実は巻き取られてるんだ」 「?」「?」「?」 ウチもれいらさんも、一緒に聞いていた多華乃さんも、イッくんの説明はさっぱり理解できなかったと思う。 理屈は分からんでも、効果は分かった。 後ろからサーベルを押し込むのに合わせてレバーを操作したら、お客さんにはサーベルがスーツケースを貫通したように見える。 大切なのは二つ。 二人のタイミングを合わせること、それから6個ある穴の順序を間違わんようにすること。 それさえ守ればバッチリのはずや。
れいらさんが最初の穴に1本目のサーベルを押し当てた。 コツン。 スーツケースの中に音が響く。 ウチは1秒待ってレバーを下げた。 これでサーベルの先端がにょっきり顔を出したはず。
2本目、3本目。 ウチは順番にレバーを操作した。 後で聞いたら子供たちとパパママたちはビックリしていたらしい。 ウチが本当に刺されたって思った子が多かったんやて! うわぁっ嬉しいぃ、って叫んでしもたよ。 4本目、5本目、6本目。 全部のサーベルがスーツケースを突き通った。 れいらさんはそのスーツケースをくるりと回してお客さんに全体を見せた。
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今度は後半。サーベルを抜く演技になる。 レバーを逆の向きに動かせばブレードの先端が引っ込み、同時にれいらさんがサーベルを引き抜いたらええんやけど、実はこれはけっこう、ちゅうか、かなり難しい。 前半でサーベルを刺すときは、れいらさんがサーベルを押し当てる音を合図に、少し遅れてレバーを動かせばよかった。 「・・でも、抜くときに少し遅れるのは困るんだ。ちょっと考えたら判ると思うけど」 「?」「?」「?」 またしても女性3人はイッくんの説明を理解できなかった。 「後ろで引き抜いてるのに、前に出ている先端がそのまま残っているのは不自然だよ。あれ?って思われてしまう」 「そうか」 れいらさんが気付いた。 「前も後ろも同時じゃないといけないんですね」
イッくん細かい。でもその通りやな。 ウチとれいらさん、スーツケースの中と外でタイミングを完全に合わせないといけない。 何か合図が要る。でもどうやって? イッくんのアイデアは単純やった。 「それならお客さんに合図してもらおう 」
16. 子供たちに向かってれいらさんが呼びかけた。 「みんなー、梢お姉さんが穴だらけになっちゃいました! 助けてあげたいですか?」 「助けてあげたーい!」 「じゃあ、この剣を抜きまーす! 何本抜かなきゃいけないかしら?」 「ろっぽん!!」 「1本ずつ抜くから一緒に数えてくれるー?」 「はーいっ」「数えるー!」 「数え間違ったり、声が揃っていなかったりしたら、梢お姉さんは死んじゃうかもしれないよ?」 「だめー!」「やだあっ!!」 「じゃあ練習しよう! いい? せーのっ、いーち、にぃーい・・。ああぁっ、ダメダメ揃ってないっ。もう一回!」 全員が揃って1から6まで数えられるまで練習させた。 「いくよ? せーの!」 「いーっち!」 れいらさんがサーベルを引き抜くと同時にブレードの先端が引っ込んだ。 「にぃーい!」 子供たちの声が響く。リズムもペースも綺麗に揃っていた。 「さーん!」 どんどんサーベルが抜けて行く。 「しいー!」 あと2本! 「ごぉー!」 これで最後!! 「ろぉーっく!!」
「はーい! 全部抜けたねー! 梢お姉さんは無事かなー?」 スーツケースを横に倒して、ロックを解いた。 カチャリ。 横になっていたウチが身を起こした。 「うわー!!」「あれー!?」 白い衣装がピンクに変わっていた。 立ち上がって一回転して見せた。 どうかな? 母ちゃんの作ってくれた早変わり衣装。 可愛いでしょ?
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れいらさんに手錠を外してもらう。 小声で言われた。 「知らなかったよ。びっくり!」 「えへへ。黙っててスミマセン」 二人並んでお辞儀をした。
三田先生が駆け寄って来た。 「すごいすごいすごい!! どきどきしちゃった! ありがとう!!」 イッくんも来て握手してくれた。 「やられたよ。衣装チェンジとはね」
もう一度拍手を浴びながら皆でお辞儀した。 お客さんの中に母ちゃんと湊が座っているのが見えた。 湊は黙ってサムズアップしてくれた。 あんた、どこでそんなゼスチャー覚えたの。格好ええやんか。 ウチも笑って親指を立てて返す。 すると母ちゃんまで指を立ててウインクした。 母ちゃんっ、指が違う. 立てるのは中指やのうて親指やちゅうねん。
17. それから二週間経った夜。 ウチと母ちゃん、れいらさん、イッくんと多華乃さん夫妻、そして三田先生がレストランの個室にいた。 三田先生がお誕生会のお礼にと招待してくれたのだった。
「ウチ、フレンチなんて初めて」「あたしもです!」 「お箸で食べるフレンチ、いいですねー」 「友人のお店なの。形式張らずに楽しんでちょうだい」 ワインとノンアルコールのスパークリングで乾杯。 「あら、あなたたちもノンアル?」 先生がイッくんと多華乃さんに聞いた。 「僕らは後でいただきます。今は、ちょっと」 「彼、リベンジする気なんです」 多華乃さんが言った。 「タカノ、いきなり言う?」 「いいじゃない。頑張るのは私だよ?」 「あ、ぴぴっと来たっ。イリュージョンするんでしょ!」 れいらさんが言った。 イリュージョン!?
「この人、梢ちゃんの衣装チェンジに全部持ってかれたこと未だに根に持ってのよ。子供みたいでしょ? うふふ」 「そんなことはないよ。僕は」 「うん、イッくんってそうだよね」「分かるわ」「イッくん、ホンマですか?」 「ぼ、僕は・・」 「あまりイサオを苛めないであげて。その分、私が彼に苛められるんだから♥」 謎めいた微笑の多華乃さん。 他のみんなは笑っている。母ちゃんまでウンウンって頷いて。 まさかこの二人、ムチとローソクでSMプレイしてたりする?
18. 「ええっと、やろうか」「はい!」 イッくんと多華乃さんは席から立ちあがった。 一度出て行って戻って来た。 持ってきたのはあのスーツケースと紙袋。それからサーベル、ではなくて金属の細い棒。 「先日とは趣向を変えたスーツケースイリュージョンをやります。・・これは」 イッくんはそう言って金属棒を持って水平に構えた 「ステンレスの丸棒です。直径5ミリ、スーツケースの穴をぎりぎり通る太さです。先端を円錐形に削り出しました」
イッくんはスーツケースを床に倒して蓋を開いた。 れいらさんが黙ってウチの肩を叩いた。それから開いた蓋の裏を指差す。 !! あの剣刺しのギミックがない。 蓋の裏に張り付けられていた黒いパネルのような仕掛けがなくなっていた。 6個の穴がはっきり見えた。
多華乃さんがさっとシャツを脱いだ。 ブルーのスパッツ。その上は黒いブラだけ。格好いい!! スーツケースの中に入って膝をついた。 そのまま身体を逆海老に反らしてスーツケースに収まる。むちゃくちゃ柔らかいやないですか。 イッくんが多華乃さんの肌を撫でる。ああ、また。 「あら♥」「まぁ♥」 嬉しそうな声を上げたのはウチでもれいらさんでもなく、三田先生と母ちゃんだった。
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イッくんはにやりと笑うと蓋をぱたんと閉じた。 すかさずスーツケースを立てて起こす。 紙袋から縄束を出してスーツケースに巻きつけ、荷物みたいにきりきり縛った。
れいらさんがウチの耳元でささやいた。 「多華乃さん、頭下向き」 ホンマや! あのポーズで逆立ち?
イッくんはスーツケースの後ろでステンレス棒を水平に構えた。 「前後の穴を一発で通すのが難しいんだ。・・練習の成果をご覧あれ」 息を整える。 いきなり穴に突き刺した。合図も何もしなかった。 反対側の穴から棒の先端が飛び出す。 すぐに引き抜き、別の穴に突き刺した。 抜いては刺してを何度も繰り返した。 むちゃくちゃ速かった。
今度はステンレス棒を6本、スーツケースの横に並べた。 まず1本を突き刺した。 すぐに次の1本を持って突き刺した。 立て続けに全部の棒を刺してしまった。
「・・おっと失礼」 テーブルにあった紙ナプキンで、一番下の棒の先端を拭いた。 ナプキンが血に染まったみたいに赤くなった。 ひょえー。 ウチらのイリュージョンより迫力ありまくり! 多華乃さんがどうなっているのか想像できなかった。 ぎちぎちに縄で縛ったスーツケースの中で、無理なポーズで逆立ちで。
「では助けてあげましょう。彼女が無事でいるかどうか心配です」 ステンレス棒を全部引き抜き、スーツケースの縄を解いた。 床に寝かせて蓋を開ける。 入ったときと同じポーズの多華乃さんが現れた。 ぐったりしているみたいやった。 イッくんが多華乃さんの背中に手を当てて起こした。
血!! 多華乃さんの胸と脇腹から真っ赤な血が流れていた。 ええ!! まさか、大怪我!? れいらさんも驚いて固まっている。 「・・ええっと、残念ながらイリュージョンは失敗したようです。妻は天国へ旅立ちました」
ガタ! 立ち上がったのは母ちゃんやった。 自分のナプキンを掴むと、二人に近づいて多華乃さんのお腹をごしごし擦った。 「ひ、・・きゃはははっ」 多華乃さんが身を捩って笑いだした。 「あーん、ごめんなさい!!」
「あんたら、やりすぎ! これ、ケチャップでしょ?」 母ちゃんが言う。母ちゃんの目も笑っていた。 「恐れ入りました」 イッくんが謝った。 「最後まで騙せると思ってたんですけど、さすがですね」 「昔よく使ったわ。匂いで分かるからお客さんと近いときは注意が必要なの」 「勉強になります」
19. 食事が済んで、三田先生がイッくんに聞いた。 「さっき、もし桧垣さんに見抜かれなかったらどうするつもりだったの?」 「そのときは蘇生措置をして生き返らせる予定でした」 「ウソ。スーツケースに入れて持って帰るって言ってたじゃない、イサオ」 「そっちの方がよかったかな?」 「そうね。私はまる1日詰められてもイサオのためなら耐えるわよ♥」 「多華乃ちゃん」「はい?」 三田先生がいきなり多華乃さんの頬を両手で挟んでディープキスをした。 「ん! んんん~っ!!」 「素敵よ、その心がけ。でも新婚だからってサービスしすぎると、彼、図に乗るわよ」 「はぁ、はぁ、・・はい」
「次は、」 三田先生が顔を向けたのは・・、ウチやった! 「一番頑張ってくれた梢ちゃん♥」 「は、はい」 ウチは顔を近づけてくる先生から逃げられなかった。 「本当に、一番お礼を言いたかったのはあなたなの」 「うわ♥」れいらさんの歓声が聞こえた。 「これからも、お願いね」 ちゅう。 マウスツーマウスでキスをされた。 女の人相手で快感やったというと変態みたいやけど、本当に気持ちよくてうっとりしてしまった。 ウチは皆が見ている前で60歳のおばちゃんにファーストキスを奪われたのだった。
・・それからウチは長いことイリュージョンの活動をすることになった。 イッくん夫妻とれいらさんにはまだ秘密があったけど、それを知るのはずっと先のことだった。
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~登場人物紹介~ 桧垣梢(こずえ):14歳、中学2年生。一人称は『ウチ』。 桧垣湊(みなと):8歳、小学2年生。梢の弟。造形美術教室の生徒になる。 桧垣純生(すみお):46歳。梢と湊の母ちゃん。旧姓鈴木。 三田静子:60歳。小学生向け造形美術教室の指導者。嬉しいと誰が相手でもキスする癖がある。 玻名城(はなしろ)れいら:17歳、高校2年生。造形美術教室の卒業生で教室を手伝っている。 酒井功:25歳。造形美術教室の卒業生。趣味でイリュージョンをやっている。通称イッくん。 酒井多華乃(たかの):25歳。功の新妻。身体が柔らかい。
4年前に書いた 多華乃の彼氏 と 多華乃の彼氏2 での仕込みをようやく回収しました。 仕込みとは、造形美術教室の先生の名前を三田静子にしたこと、そしてイッくんが京都に行って人間くす玉をクレクレしたことです。 大抵の場合、回収方法はまったく考えずに執筆時のノリだけで仕込むので、そのまま放置で終わることも多いです。 今回はAIで作成したイリュージョン絵(=スーツケースに女の子が入って笑っている絵)が中学生のように見えたことから、この女の子を純生さんの娘にして仕込みを回収することにしました。 純生さんと三田先生のエピソード(純生さん中学3年生のとき)は『三田静子』をサイト検索すれば出てくるはずなので興味のある方はお読みになってください。
今回のイリュージョンは3つ。 イッくんのマンションでやった袋詰めからの脱出は、現実に演じることが可能と想定しています。 ただし、あの部屋(正確にはソファと隣接してキッチンがある)かつ観客が少人数でないとできないので、舞台で演じるには向きません。 袋の上から多華乃さんのボディを撫でまわすのは夫婦のイリュージョンだからできることですね。
梢ちゃんのスーツケースイリュージョンは、前記の通りスーツケースに入った女の子をAIに描かせたので、それなら剣を刺してしまえと考えたものです。 ダンボールの剣刺しはよく見かけるイリュージョンですが、スーツケースは珍しいかもしれません。 サーベル回避のギミックは、これならできそう?というものをイッくんに考えてもらいました。 刺すときと抜くときのタイミングの相違は作者のこだわりです。お読みの皆さまには面倒くさかったら申し訳ありません。
梢ちゃんのスーツケースで仕掛けを凝ったので、多華乃さんのスーツケースは一切ギミックなしの命がけです(笑)。 ダンボールよりはるかに狭いスーツケースの中、軟体ポーズでその上逆立ち。いったいどうやって6本のステンレス棒をすり抜けたのでしょうか? 最後に母ちゃんが止めたのは本当はルール違反です。 元プロだから分かっているはずですが、レストランで血まみれは悪乗りが過ぎましたね。
本話の最後で梢ちゃんの今後を示唆しました。 イッくん夫妻とれいらちゃんの秘密とは、もちろん 前話 で描いたあの趣味です。 梢ちゃんがどんなM少女に育って行くのか作者の私も楽しみです。
挿絵は今回もすべてAIで生成して一部手修正を施したものです。 一番うまくできたのはれいらちゃんのマジシャン姿。やはりAIは単純な立ちポーズなら簡単です。 ここのところAIに描かせた絵にストーリーをつける小説が続きましたが、次回以降はストーリーを先に考えて挿絵をつける従来の手順で進めたいと思います。 しばらく時間が開くと思いますが気長にお待ちください。
最後に小説ページの体裁について。 tumblr の入力エディタが更新され、従来の入力方法(HTML入力)が使いモノにならなくなりました。 大きな変化がないように努めていますが、一部違和感があるのはお許し下さい。 (例えば、後書き前の区切り線が引けない~泣)
それではまた。 ありがとうございました。
[Pixiv ページご案内] こちら(Pixiv の小説ページ)に本話の掲載案内を載せました。 Twitter 以外にここからもコメント入力できますのでご利用ください。(ただしR18閲覧可能な Pixiv アカウント必要)
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t82475 · 9 months
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Pixiv での作品案内掲載
以前 この記事 でご案内して以来、Twitter で更新案内や萌え語り、情報交換をして参りました。 多くの方と知り合い、交流できたことを深く感謝いたします。 しかしながら Twitter は近年サービスの品質が大幅に低下し、気まぐれ・思い付きにも見えるアカウント凍結やシャドウバンが多発する事態が生じています。 かくいう私もシャドウバンが数か月継続しており、アカウント凍結の可能性があると考えています。 そこで皆さまとの交流の場を維持するため、Pixiv の小説ページにサイト小説の掲載案内を載せることにしました。 あくまで主は Twitter ですが、いざというときに Pixiv でコメント交換だけは可能な状態にしておきます。 ○ Twitter でのアカウント維持に関する私の方針: Twitter に対しては自分の趣味の範囲で情報交換・意見交換できることを期待しています。 閲覧数やフォロワー数を増やすことを目的としていません。 よって運営の匙加減が変わるたび右往左往してアカウント維持にあくせくするつもりはありません。 万一アカウントが凍結された場合はサヨナラするつもりです。 ○ 代替の交流の場に関する方針と進め方: 本来であれば当サイトのコメント欄を安心安全なサービスに変更すべきですが、適切な外部サービスが見つかりません。 (ログインやメールアドレス入力が不要、かつコメント承認制の運用が可能なービスがあれば‥) かといって Twitter から他のSNSに引っ越しても、絶対主流といえるSNSが��い現状では交流の場としては期待できません。 よって次善のSNSとして Pixiv の小説ページを利用します。 (1) 当サイトの小説を Pixiv でも掲載案内します。小説本文は量が多いので掲載しません。当サイト小説ページへのリンクだけを掲載します。 (2) また当サイト小説ページにも Pixiv 掲載案内ページへのリンクを載せます。 (3) 対象の小説は、IntenseDebate のコメント欄を廃止した 2021年12月 より後のものとします。 (4) 小説のご感想などあれば、上記 Pixiv ページのコメント欄(最大140文字)からお願いします。 (5) コメント入力には Pixiv アカウント(R18閲覧可能アカウント)が必要です。ご不便をかけますが、有象無象の他SNSよりはアカウントをお持ちの方が多いのではないかと考えました。 上記は Twitter の現状を鑑みた苦肉の策であることをご理解願います。 今後、状況に応じて見直します。
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t82475 · 10 months
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美術モデル
1. 貸しスタジオの扉に『三田美術教室』の張り紙がありました。 美術モデルのお仕事は初めてです。 扉を開けて大きな声で挨拶。 「こんにちわっ。『アルパカ』から来ました!」 中には女の人が二人、床に座ってお弁当を食べていました。 二人とも食べかけのサンドイッチを口に頬張ったまま、驚いた顔でこちらを向いています。 女の人のうち、一人は年のいった感じ。 明るい色のチュニックにスキニーなジーンズ姿。この人が三田先生ですね。 もう一人はずっと若い女の子。 白いブラウスとグレーのプリーツミニスカート。ブラウスの胸には校章っぽい刺繍。高校の制服? 「あ、モデルさんですか!? 三田静子です。こっちはお手伝いのれいらちゃん」 「玻名城(はなしろ)れいらです。今日はどうもありがとうございますっ」 二人は立ち上がって挨拶してくました。 「『アルパカ』の谷村彩智です! ・・お食事中みたいですけど、もしかして私、時間間違いました?」 「そうですね、まだ1時間くらいありますね」 ありゃ、やっちゃったみたい。 「そうだ、谷村さん。よかったら一緒に食べません?」 「いいんですか?」 「どーぞどーぞ。作り過ぎて余りそうだったんです」 れいらさんが勧めてくれたランチボックスには美味しそうなサンドイッチが。 今日はバイトのシフトが忙しくてお昼ご飯を食べていませんでした。 ぐーっ。 大きな音でお腹が鳴って、お二人がくすりと笑いました。 ・・ 「美味しいです! これ、れいらさんが作ったんですか!?」 「はい。あたしの手作りですっ」 「れいらさんの名字、えーっと」 「玻名城です」 「そうそう、ハナシロさん。珍しい名字ですよね。沖縄みたいな感じで」 「おじいちゃんが沖縄なんです。変わってるけど、すぐに覚えてもらえるから得ですよ」 「ほんとだ。私もう覚えちゃいました。玻名城れいらさん」 「れいらさん、じゃなくて、れいらちゃんって呼んでくれたら嬉しいです」 「だったら私のことも彩智って呼んでください」 「はい、サチさん!」 れいらちゃん、元気で礼儀正しい子。 制服のミニスカートから伸びる太ももが眩しく見えます。 うちのチームに誘いたいくらい。 「れいらちゃん、やっぱり高校生ですか?」 「高校2年生17歳です。 ・・彩智さん、どうして高校生がこんなところにいるのって思ってるでしょ」 「はい。大人向けの教室だと思ってました」 「美術教室は15歳から参加できるんですよ」 三田先生がおっしゃいました。 「そうなんですか」 「美大の進学希望者には普通にヌードデッサンだってやらせてますし」 「え」 2. 急に黙り込んだ彩智さんが可愛いかった。 高校生でもヌードを描くって知らなかったんだろうね。 あたしも1度だけ参加させてもらったことがある。 同じ女とはいえ全裸のモデルさんを間近で見るのはけっこう刺激的だったな。 「今日は着衣のクロッキーですから、ヌードはお願いしませんよ」 三田先生が言った。 「そうですか。よかったぁー」 「谷村さん。美術モデルのご経験は?」 「いいえ、ありません」 「普段は何をなさってるんですか?」 「『アルパカ』はチアダンスのチームなんで本業はダンスです。お仕事はイベントのアシスタントやらポスターモデルやら節操なくやってますけど」 「じゃあ驚いたでしょう。こんな依頼で」 「はい。チアリーダーのクロッキー、はまだ分かりますけど・・」 緊縛、だものね。 「うちのメンバーは全員成人してますがR18の仕事はしません。でも美術教室のモデルなら挑戦しようってことになりまして」 「嬉しいわ、偏見なく受けてくださって」 「これでもドキドキしてるんですよ」 「あの、」 あたしも質問した。 「そのチームって何人もいるんですよね? そこから彩智さんが来たのは理由があるんですか?」 「ああ、それは私が一番年上の古株だから。まだ24ですけど。・・それと、」 彩智さんは少し恥ずかしそうに答えた。 「一番適性があるのは私だと、私以外の全員一致で決まりまして」 「まあ、適性ですか? 緊縛の?」 「はい。どういうことかさっぱり分からないんですけど」 「うふふ」 先生が笑った。 「おかしいですか?」 「いえ、ごめんなさいね」 どうして先生が笑ったのか、あたしにも何となく分かった。 彩智さんって、あたしより7つも年上だけどかなり奥手な人じゃないかな。 3. 「そろそろ設営しましょう」 三田先生とれいらちゃんが準備を始めました。 スタジオの中央にシートを敷き、その周りに椅子を並べるのです。 その間に私は着替えです。 用意してきた衣装はセパレートの赤いチア服。そこへ同じ色のヘアバンドを着け、シューズを履いて準備完了。 「彩智さん足長いですねー。身長いくつですか?」 「170です」 「うわーっ、羨ましいなー!」 会場のセッティングが済むと、三田先生が段取りを説明してくださいました。 「前半はフリーでポーズをとってください。3分ごとに5ポーズ。それを2セット」 「えっと、ポーズの間は動かないようにするんですよね」 「ええ。ムービングといってゆっくり動くクロッキーもありますが、この教室ではやりません。不慣れでしょうけど静止ポーズでお願いしますね」 「了解です」 フリーポーズの撮影は今まで何度も経験しています。 でもずっと動かないのは初めてでした。 チアの格好いいアクションを見せてあげたいけど、ジャンプやタンブリングは無理みたいですね。 「細かい指図はしませんので自由にお願いします。ただ、」 「?」 「最初は無理のないポーズがいいかもしれませんね」 そうか。3分って案外長いかも。 私、ずっと静止していられるかしら? でも何事も挑戦だよね。 「はい。やってみます。・・それから後半は、」 「緊縛です。ワンポーズ約30分。これは生徒さんの出来具合で少し長くなるかもしれません」 れいらちゃんが横から答えてくれました。 「ポーズはこっちで決めますからご心配なく」 「分かりました。頑張ります」 「彩智さん、緊縛も初めてですか?」 「初めて、です」 「怖いですか?」 どきっとしました。 私をまっすぐ見るれいらちゃんは笑っていませんでした。 彼女が急に大人びて見えました。 「怖いです。・・いいえ、怖くないです。うん多分、怖くない。大丈夫・・です!」 「彩智さんって面白いですね」 4. スタジオに美術教室の生徒さんが集まった。 退職して趣味で絵を描いているおじさん。仲良し主婦の二人組。勤め帰りのお兄さんと大学生のお姉さん。そして高校生で美術系志望の女の子が二人。 全部で7人。 皆さんクロッキー会は慣れているので、静かに椅子に座りスケッチブックを開いて待っている。 三田先生は後ろの壁際。 そしてあたしはストップウォッチを持ってタイムキーパー。 チアのコスチュームに赤いポンポンを持った彩智さんが出てきた。 真中のシートの上に立つと、正面を向いて片足を一歩前に出し、胸を張って両手を腰に当てた。 何だか凛々しい。さっきまでのほんわかした雰囲気はすっかり消えていた。 「では1セット目、始め」 全員が一斉に鉛筆を走らせる。 「3分過ぎました。ポーズを変えてください」 彩智さんの身体がすっと沈んだ。 長い足が前後に伸びて完璧な180度開脚。柔らかい~! そのまま前屈して両手を左右に広げる。 「はい、次のポーズをお願いします」 今度は立ち上がって右腕を真上に突き上げた。 反対側の膝を胸まで引き上げて静止する。 彩智さんは3分ごとにポーズを変えた。 とてもしなやかで、それでいて全然ぶれない。 体幹っていうのかな、すごく鍛えているのが分かった。 最後のポーズでは、右足一本で立ったまま、左足を後方に曲げた。 高く反り上がった爪先を肩の後ろで掴み、そのまま頭の上まで引き上げる。 「うわ~」生徒さんたちの間から声が出た。 床についてぴんと伸びた右足と、美しく反り返った上半身と左足。 片足立ちで逆海老のポーズ。 それでぴたりと静止してマネキンみたいに動かない。 あとで聞いたら、スコーピオンとかビールマンとか呼ぶポーズなんだって。 5. 「びっくりしましたー!! すごく綺麗で柔らかくて」 れいらちゃんが褒めてくれて、私はにやっと笑います。 人前でモーション(ポーズ)を披露するのはやっぱり楽しいですね。 「さすがプロですねー」 「ありがとー。でもチアダンスでご飯は食べれないから、もっぱらアルバイトで生きてるんだけどねー」 「えーっ、信じられない」 5ポーズ×2セットのクロッキーが済んで今は休憩時間です。 私は後半に備えてストレッチ。 スタジオでは皆さん総出でシートと椅子を片付けています。 どうやら後半は各自が椅子ではなく床に座って描くようでです。 次のポーズはいよいよ緊縛。 そういえば、私を縛る人はどこにいるんだろう? 「あの、緊縛をする方は来られないんですか?」 「縄師さんのことですか? ・・この教室、縄師を呼ぶほどの余裕はないんですよね」 「じゃあ、三田先生が縛るんですか?」 「あたしが縛ります」 え、れいらちゃんが!? 「結構上手ですよ。任せてください」 れいらちゃんは手に持った紙袋の中を見せてくれました。 綺麗に束ねた薄緑色のロープがたくさん入っているのが見えました。 6. あたしは小学校の頃から三田先生の造形美術教室に通っていた。 去年から大きな人向けの美術教室が始まって、そちらのお手伝いもするようになった。 美大に行けるほどの実力はないけど、絵を描くのは好きだった。 女の人を縛る緊縛は、造形美術教室のOBのお兄さんが教えくれた。 そのきっかけは3年前の事件だった�� たまたま一人で三田先生のところへ行ったら、先生の前でお兄さんがお兄さんの彼女さんを緊縛していた。 そのときあたしは中学2年だったけど、ぎちぎちに縛られた彼女さんを見ても全然引かなかった。 それどころか、うわーキレイって思っちゃったんだよね。 三田先生は緊縛とかセックスとか、そういう事柄を全然タブーと思わない人で、あたしが緊縛を教わることも公認してくれた。 「御両親がOKしてくださるなら構わないわ。ただし、れいらちゃんが大人になるまで他所では絶対に縛らないこと」 あたしはお兄さんの弟子になって、彼女さんを縛らせてもらったり、あたし自身が縛られたりして勉強した。 (ちなみにこの彼女さん、美人で素敵なお姉さんで、あたしも大好きな人なんだ) 今では一人で縛って大丈夫と太鼓判を押される腕前にはなっている。 クロッキー会の緊縛は今日が初めてだった。 三田先生にダメ元で提案したら、縄を掛けた人体はいいモチーフね、是非やりましょう!と言ってモデルまで探してくれた。 7. 「彩智さん、さっきみたいにキリっとした顔してください」 「無理ですぅ」 皆さん、思い思いの場所でスケッチブックを開いています。 何人かはもう描き始めているようです。 れいらちゃんに縛られるところまでクロッキーされるだなんて、聞いてないよぉ~。 「両手を前で揃えてくれますか?」 「はい・・」 れいらちゃんは私の手首にロープを巻くと、あっという間に縛ってしまいました。 しっかり締まっていて、ぜんぜん緩みません。 「動きますか?」 「動きません」 「じゃここにお尻をついて座ってください。あ、もう少し右に寄って」 「?」 「先生、巻き上げお願いします」 低い音がして、縛られた手首が上に引かれました。 !! 天井に小さなウインチ(巻き上げ機)があってロープを引いているのでした。 あ、あ、あ。 手首が頭の上まで上がって止まりました。 「もう少し上げてください」 手首がさらに上がりました。 吊り上げられる感覚。 ああ、いったい何なの、この気持ちは? 「彩智さん、もう逃げられないって思いますか?」 「・・思います」 「そう思ってもらえると嬉しいです。次は足、縛りますね」 足も縛られるんですか。 右の足首にロープが縛りつけられました。 そっちにもウインチの音。 右足が前方に引き上げられます。 「すみません、少しだけお尻を前に滑らせてください」 え? れいらちゃんに言われる前に、右足と一緒にお尻が引かれて私は前にずりりと滑るのでした。 これで両手と右足を吊られた状態。 「無理に踏ん張らないでロープに身を任せてください」 「は、はい・・」 踏ん張ってるつもりなんかないんですけど。 「あとは左足」 ひえぇ。 左の膝を折って縛られ、さらに同じロープの続きで左の足首と右の膝を合わせて縛られました。 右足に連結された左足。 もう手も足も動かせません。自由を奪われたことを実感します。 私、制服の女子高生に縛られた。
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「完成です。これだけで4分もかかっちゃった。手際が悪くてすみません」 「いえ、そんな」 「でもあたし、彩智さんのこと理解しました」 「?」 「彩智さんって、確かに適性がありますよね」 「適性、ですか?」 「ええっと、つまり、こんな風に縛られて感じてしまうマゾな人だってことです」 「!!!」 顔面がぼわっと熱くなりました。 私、わたし、制服の女子高生にマゾって言われた。 8. あたしが彩智さんの側から離れると、三田先生が立ってコメントした。 「緊縛ポーズは滅多に描けない貴重なモチーフです。時間は長めに取りますから、モデルさんの雰囲気を掴んでたくさん描いてください」 あたしはストップウォッチをスタートさせる。 時間は30分。 彩智さんにはちょっと長い時間かもしれないな。 「・・れいらちゃん、あなた最後に何をささやいたの?」 先生に聞かれた。 「いえ、特に何も」 「谷村さん、始まったばかりなのに耳まで真っ赤にして、最後まで耐えられるかしら」 「大丈夫です。被虐性が高すぎて混乱してるけど、体力のある人だから壊れてしまうことはないはずです」 「その話し方、イッくんに似てきたわねぇ」 「そうですか?」 イッくんってのはOBのお兄さんのことだ。 「そのセリフだけ聞いたら、れいらちゃんが高校2年生とは誰も思わないでしょうね」 「お褒めいただいて光栄です」 ぷっ。 先生が吹き出した。 「本当に、イッくんそのものだわ!」 「えへへへ」 「れいらちゃんが大丈夫というなら放置しましょう。それに多少は苦しんでくれた方が生徒さんも描き易いだろうし」 「先生、ドS」 「あら、そうかしら?」 7. スタジオの中は静かです。 聞こえるのは皆が鉛筆を動かす音と、ときおり誰かが立ち上がって場所を移動する音だけ。 ああ、れいらちゃんも描いている。 れいらちゃんは床に膝と手をついて猫みたいな恰好で私を描いていました。 少しお尻が痛いかな。でも大丈夫。 手首と足首のロープに身を任せるよう意識したら楽になりました。 れいらちゃんの言った通り。 それよりも私の気持ちの方が大丈夫じゃない感じがします。 縛られて、見られている。 縛られて、絵に描かれてる。 そう思うと、たまらなくなります。 もどかしくて、切なくて、胸が張り裂けそうになります。 「マゾな人」れいらちゃんに言われました。 認めたくないけど、マゾだ私。 縛られて、見られて、こんな気持ちになって、確かにマゾなんだと実感しました。 「あと10分です」 三田先生の声が聞こえました。 「モデルさんの表情が変わってきたのは分かりますか? ・・よーく見て、彼女がどんな気持ちでいるのか想像しながら描くように」 ああ、先生。 そんな解説されたら、私、もう。 8. 「お疲れ様でしたー!」 「いやぁ、面白かったです」「今日は本当に勉強になりました」「描いててドキドキしました~」 生徒さんたちが挨拶して帰って行く。 「大成功でしたねー」 「ええ、れいらちゃんがここまでできる子になってくれて嬉しいわ」 「私、先生の教室にもう10年いるんですよー。できないと思われたら困ります」 「そうだったわねぇ」 「あとは彩智さんですね」 「そうね」 三田先生と一緒に更衣室へ行くと、彩智さんがチア衣装のまま座っていた。 どこか陶然とした表情で自分の膝と手首を撫でている。 彩智さんの膝と手首には縛られた痕がくっきり刻まれていた。 「彩智さん、もう大丈夫ですか?」 「あ、れいらちゃん・・」 「それ、条痕っていうんですよ。人を縛ると肌に残る痕です。愛しいでしょ?」 「え、じょうこん?」 彩智さんは条痕に乗せていた手を慌てて振り払った。 「そんなことありませんっ」 「素直になってください。彩智さんが支配された痕跡なんですよ?」 彩智さんの顔がまたまたぶわっと赤くなった。 「・・はい。愛おしいです」 「それを触るとどんな気持ちになりますか?」 「・・胸がいっぱいになります」 「谷村さんっ、ホントいい子ねぇ~! 嬉しくなっちゃうわ!!」 三田先生が彩智さんを正面から抱きしめた。 そのまま熱烈にキスをする。彩智さんは逃げられない。 「んっ、ん~!!」 彩智さんの二番目の「ん」は裏声になっていた。 「それ先生の癖なんです。気にしないでくださいね」 9. 女の人からキスされたのは初めてでした。 男性とキスの経験もないので、これは正真正銘私のファーストキスになります。 まあファーストかどうかはともかくとして、三田先生のキスはとても甘くて鮮烈で、私は再びぽよよんと脱力してしまったのでした。 ・・ ようやく元気になるとれいらちゃんが言いました。 「今日は初めての緊縛クロッキーなので簡単な縛り方でした」 「あれで簡単だったんですか?」 「はい。次は高手小手とかホッグタイとか、もっと本格的な緊縛で行きたいと思っています」 縛り方の名前は分からないけど、今日よりもずっと厳しい緊縛だとは想像できました。 「そのときは彩智さん、また来てくれますか?」 「いいんですか? 私なんかで」 「彩智さんにお願いしたいんです。あたし、彩智さんのこと大好きになりましたから」 れいらちゃんはそう言ってにっこり笑いました。 三田先生も微笑んでいます。 「こちらこそ��願いします。喜んで縛られに来ます」 「よかった! ・・そうだ、これを」 れいらちゃんはスケッチブックにはさんでいた鉛筆画を取り出しました。 あのとき彼女が描いた私でした。 「これを彩智さんに」 手足を縛られたチア服の女性。私、こんなに綺麗だったのか。
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涙がこぼれそうになりました。 「れいらちゃん、ありがとう!!」 「ええっと、この絵は彼氏には見せない方がいいと思います。男性ってつまらないところで疑り深いでしょ?」 「はい?」 いえ、残念ながら彼氏はいないんです。 「お付き合いしている人がいないのなら、彩智さんが一人えっちするときのおかずに使ってください」 !!! 「実は、彩智さん独り身じゃないかってうすうす思ってまして、そのつもりで描いたんです」 三田先生がけらけら笑い出しました。 ひ、ひとりえっち。 たまにします。 この絵見て、いろいろ蘇って、ムラムラして、一人えっち。 ・・しない自信、ありません。 「か、活用させていただきます」 「大切に使ってくださいね!」 ああ、私、最後まで制服の女子高生に翻弄されるようです。 れいらちゃんは誇らしげに胸を張っていて、三田先生は笑い続けていました。 二人を前にどう反応したらよいのか分からず、ただ私はもじもじするだけでした。
~登場人物紹介~ 谷村彩智(たにむらさち):24歳。チアダンスチーム『アルパカ』のメンバー。美術モデル初体験。 玻名城れいら(はなしろれいら):17歳、高校2年生。美術教室の生徒兼お手伝い。 三田静子:59歳。元中学美術教師。三田美術教室を運営。 赤いチアリーダーの緊縛と緊縛デッサン会。 どちらも以前書いたことがありますが再び登場です。 実はAIに描かせた緊縛絵の中に赤いチア服があって、昔の嗜好が再燃したのでした。 本話では語り手が二人いるので、本文の文字色を分けています。 赤が彩智さん。青がれいらちゃんです。分かりますよね? 主人公の彩智さんはチアダンスのプロです。でも24歳にして男性経験皆無。 チアのポー��を格好良く決める姿と、れいらちゃんに縛られるときの天然M女っぷりを私好みに描きました。 彼女はこの仕事で初めて自分の性癖を自覚しました。 きっとこれからは、ぐっと色っぽくなってすぐに彼氏もできるのではないでしょうか。 れいらちゃんは『多華乃の彼氏』で小学4年生だった女の子です。 7年経って高校2年生になりました。 本話では緊縛の縛り手ですが、縛られる方もきっと拒まないはず。作者的には使い勝手のいいキャラです^^。 また別のお話で活躍させたいですね。 そして、OBのお兄さんとその彼女さんはもちろんあのカップル。 今では25~6歳くらいになっているはずです。 本話に登場させることも考えましたが、当たり前にサラリーマンをしてそうでプロットが浮かびませんでした。 れいらちゃんの再登場があれば改めて検討することにします。 上記のように挿絵は今回もAI生成です。 思い通りの緊縛はなかなか描いてくれないので、一部を自分で描いて mask 機能で取り込みました。 それでも腕と手指は変な造形だし、生成を繰り返すうちに縄の色は薄緑にww。 挿絵としてなら満足ですが、単品の作品で通用する品質ではありませんね。 変化の激しいAIイラスト生成の世界。今や時代は LoRA らしいです。 自分の環境では使えませんし、そもそも出生の怪しい LoRA を使うのは道義的に躊躇します。 私自身は当分、旧式の方法で細々とやっていくつもりです。 2枚目の鉛筆画は無料の変換サービスで生成したものです。 さて、AIで生成した挿絵からお話を作るシリーズ(シリーズにしたつもりはありませんが結果的に^^)。 次はイリュージョンを描かせてみたいものですね。 どうやったら描いてくれるのか、まだ全然分かりませんが。 それではまた。 ありがとうございました。 [2023.8.10 追記] こちら(Pixiv の小説ページ)に本話の掲載案内を載せました。 Twitter 以外にここからもコメント入力できますのでご利用ください。(ただしR18閲覧可能な Pixiv アカウント必要)
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t82475 · 11 months
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続・こしろさま
1. 芙紗子(ふさこ)の家は森と田んぼの境界に建つ一軒家で、映画のトトロの女の子の家にちょっと似ている。 家から学校まで車道を歩けば30分。 田んぼの畦道(あぜみち)を抜けて近道すれば25分。 小学二年生の女の子が通うには少し遠いけど、村の子供にとってそれくらいの通学は当たり前のことだった。 このところ芙紗子が頑張っているのは自転車の練習だ。 裏の庭には古い農具を置いていた納屋があって、去年それを取り壊して芝生を植えたから、今は自転車の練習に頃合いの広場になっていた。 毎日学校から帰ると、ママに呼ばれるまで練習する。 ペダルを外した自転車で地面を蹴って走るのは、もうだいたい大丈夫。 明日は土曜だからパパに頼んでペダルをつけ直してもらおう。 家の前に自動車が止まった。初心者マークをつけた赤い軽ワンボックスカー。 女の人が降りてきた。 カーキ色のカーゴパンツにゆるゆるのTシャツ。髪の毛は肩上のボブカット。 琴姉ちゃん!? 芙紗子が走って行くと琴音はぎゅっとハグしてくれた。 「芙紗子ちゃんっ、久しぶりだね!!」 2. 室谷琴音(むろたにことね)は芙紗子と同じ室谷姓で、家では「文吾さんのところの琴音ちゃん」と呼んでいた。 村民の半分が室谷だから、苗字が室谷の人間はたいてい下の名前で呼ばれるのだった。 文吾さんは琴音の祖父で、芙紗子のパパの伯父にあたる。 つまり琴音は芙紗子の再従姉妹(はとこ)である。 今は東京で大学生になったけど、高校を卒業するまでは村にいて芙紗子の面倒をよく見てくれた。 「自転車の練習?」 「うんっ。今年中に乗れるようになるのが目標だよ」 「そうだ、芙紗子ちゃん宛の荷物、郵便局で預かってきたよ。『こしろさま』の瓶でしょ? これ」 「あ、届いたんだ!!」 それは前の週にママと通販サイトで選んだガラスの瓶だった。 『こしろさま』にお越しいただくための特別なガラス瓶。 「わざわざ済みませんねぇ」芙紗子のママが礼を言う。 「いえいえ。近くへ行くなら届けてくれって、東京の郵便局なら考えられないですねー、あははは」 しばらく笑ってから琴音は二人に報告した。 「実は私、今年の大祭で巫女をすることになって」 「あら」「本当!?」 「それで今から神社に挨拶に行くんだけど、芙紗子ちゃん、その瓶一緒に出しに行く?」 芙紗子は真新しいガラス瓶に自分の名前を書いた紙を入れた。 それを紙袋に入れて両手に抱える。 「きちんと挨拶してお渡しするのよ」 「分かってるよっ」 芙紗子はママに手を振って琴音の車に乗り込んだ。 3. 『こしろさま』は秋の大祭で子供だけがもらえる神様だった。 ガラス瓶に入った綺麗な女の子の姿をしていて、そのためのガラス瓶は自分で用意して神社に提出することになっていた。 提出を忘れた子供には神社側で確保した瓶を使ってくれるけど、古い酒瓶や牛乳瓶になるから、どの子も嫌がって出し忘れる子なんていない。 運転席でハンドルを握る琴音が言った。 「ネットで買ったガラス瓶かー。私らの頃は佃煮の空き瓶とかだったなぁ」 「買ってもらえなかったの?」 「ネットもなかったし、わざわざ買うなんて思いもしなかったもの。・・でも、どんな瓶でも『こしろさま』は来てくれたよ」 「ね」「ん?」 「琴姉ちゃんの『こしろさま』ってどんなお姿だった?」 「そうだねー。最後にもらった『こしろさま』は中学生くらいに見えたな。髪の毛が長くて綺麗だったよ」 「あたしが去年もらったのはね、お人形さんみたいに目の大きな子だったよ!」 「よかったわねぇ。今年はどんなお姿か楽しみだね」 「うんっ」 村から祠川(ほこらがわ)沿いに車で10分ほど。 瑞鳳山(ずいほうざん)の中腹に大祠(おおほこら)神社がある。 御祭神である『おしろさま』はその昔、洪水から村を守るために自ら人柱になったお姫様。 そして『こしろさま』はその『おしろさま』の分身と言われる。 「しろ」は「祠閭」と書いて「しりょ」が正しい読み方だけど、言いにくいので今の読み方に変わったらしい。 琴音は麓の駐車場に車を駐めた。 祠川にかかる石造りの神響橋(しんきょうはし)を渡り、鳥居をくぐって参道を登る。 ブナの森に囲まれた境内に神社の本殿があった。 4. 社務所に行くと白衣に紫の袴を履いた宮司がいた。 この人は橘秋人(たちばなあきひと)、75歳で長年にわたって宮司として神社を守っている。 「室谷芙紗子ちゃんね。・・はい。確かに預かりました」 橘は芙紗子からガラス瓶を受け取り帳面に記録した。 「『こしろさま』のお渡しはお祭りの日の夜7時だからご両親と一緒に来てくださいね」 「はい!」 芙紗子はちゃんと挨拶をして瓶を渡せたことに安心する。 「おーい、今年の巫女さんが来ましたぞ」 橘が振り返って呼ぶと、奥から和装で総白髪の老人がもっそり現れた。 「え? 村長さん!?」琴音が驚いた。 「大祭の打ち合わせでね、ちょうどいらしてたんですよ。・・村長、こちら助務に入ってくれる室谷さん」 「室谷琴音ですっ。よろしくお願いします」 室谷仁三(むろたにじんぞう)は室谷本家の長で、90歳を超えて今なお現職の村長だった。 「文吾んのとこの琴音さんか。綺麗になったもんじゃ」 「あ、ありがとうございます」 「学校は休んでも構わんのかね?」 「はい、ゼミの方は大丈夫です。就職も決まりましたし」 「おお、東京で就職かね?」 「はい」 「若い人は村を離れてゆくのぅ」 村長は寂しそうに呟いた。琴音は何も返せない。 「そうじゃ、琴音さん」 「はい」 「仕事を辞めて結婚するときは、村のもんの嫁になってくれませんかな」 「ええっ。それは、まだ何とも」 「それとも都会で気になる男がいますのか」 「村長! お気持ちは伝わったから、琴音ちゃんを困らさんで」 帰りの車中。 琴音はちょっと怒っているようだった。 「いくら過疎の村だからって、人の結婚のことまで決めないで欲しいわよねっ」 「琴姉ちゃん、東京で結婚するの?」 「分からないわよ。相手もいないんだし」 「えー? もうお付き合いしてる人、いると思ってた」 「もう、芙紗子ちゃんったら・・」 琴音の顔が赤くなる。可愛いなと芙紗子は思った。 「もし琴姉ちゃんがお嫁さんになって村に帰ってきてくれたら、あたしは嬉しいな」 「分かったわ」 琴音が笑って答えてくれた。 「お嫁さんになれるかどうか分からないけど、戻ってこれるように頑張る」 5. 半月後。お祭りの当日になった。 芙紗子はパパとママに連れられて神社にやってきた。 森の中を登る参道は人でいっぱいだった。 この辺りの村々だけでなく、近隣の各県からも見物客が訪れているようだった。 「有名になったものねぇ」 「こんな田舎で "奇祭" が続いているのが珍しいんだってさ」 「村の人間には普通のお祭りなのにねぇ」 パパとママが話している。 芙紗子には奇祭の意味が分からない。 本殿に近づくとお囃子の音。境内に立ち並ぶ屋台。 社務所の隣には絵馬やお守りを売る臨時の授与所が設けられていて、そこに琴音がいた。 巫女服をまとった琴音はとても綺麗で眩しくて、芙紗子もちょっと巫女さんになりたいと思ったくらいだった。 「琴姉ちゃん!」 「あら、芙紗子ちゃん」 「その服よく似合ってるよ」 「ありがとっ。芙紗子ちゃんが褒めてくれると嬉しいな」
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「忙しそうだね」 「まあね。もう『おしろさま』にお会いした?」 「ううん、まだ」 「じゃあ行ってらっしゃい。少し並ぶかもね」 「うん」 琴音の言った通り、本殿の入り口には行列ができていた。 『おしろさま』の御神体は平時は何重にも囲まれた箱の中にあるけど、大祭の日だけは誰でも拝めるようになっている。 薄暗い本殿で芙紗子は両親と共に『おしろさま』に向かって両手を合わせたのだった。 6. 「ふっさこちゃーん!!」 本殿を出てすぐ声が聞こえた。 屋台に囲まれた広場にクラスの女の子たちが集まって手を振っていた。 「パパっ、行っていい!?」 「行っておいで。お小遣いは大切に使うんだよ」 「うん!」 芙紗子が入って女の子8人のグループになった。 村の小学校は1学年に1クラスだけ。そのクラスも男女合計14人しかいないから、クラスの女子全員が集まったことになる。 「何する?」「金魚すくい!」「やろうやろうっ」「勝負だねー」 金魚すくいの屋台へ向かって行こうとしたそのとき。 「ねえ、キミたち、この辺りの子?」 スマホを構えた男性に話しかけられた。 「ちょっとお話聞かせてもらっていいかな? あ、僕ユーチューバーの突撃大二郎です」 「はい、何ですか?」 「キミたちはこの神社の御神体のこと、知ってる? 箱に入った白い棒だけど」 「『おしろさま』ですか? 知ってます」 「そうそう。『おしろさま』って、実は人骨だって聞いたことある?」 「人骨って?」 「ヒトの骨のことだよ」 何だ、そんなこと。 「はい。昔のお姫様の骨です。他にもいろいろな女の人の骨がありますけど」 「おおぉ~っ!」 その男性は大げさに驚いて、スマホに向かって喋り始めた。 「何ということでしょう。地元の子供たちはまったく疑問に感じていない。この令和の時代に人骨を拝んでいるのです~っ!」 琴音が小走りでやって来た。後には村の青年団の若手も何人かいる。 「そこの方っ。子供たちに変な話を吹き込まないでください」 「なんだよ。あんた」 「あなた、さっき無断で『おしろさま』の写真を撮ってたでしょ? 撮影禁止って強く言われたはずですけど」 「いや、無断で、だなんて僕は何も」 男性はスマホで何か操作しようとする。 「え? 圏外!? どうして!!」 「この境内だけどうしてか電波が入らないのよねー。こっそりアップロードなんて無理ですから」 「くそっ」 逃げようとする男性を青年団が取り押さえた。 「はいはい、社務所でそのスマホ調べさせてもらいますねー」 「そんなぁ~」 男性が連れていかれるのを芙紗子たちは肩をすくめて見送った。 7. 日が暮れて、東の空から満月が上った。 秋大祭は必ず満月の日と決められている。 一旦帰った子供たちが再び集まって来た。 そこに観光客はいない。 昼間の『おしろさま』が公開なのに対して、夜の『こしろさま』は外部に告知しない秘密の儀式だった。 ろうそくが灯る本殿。 宮司が一人ずつ名前を読み上げ、読まれた子は前に出てお祓いを受ける。 「邪気払い、清めて祠閭の加護を受けよ」 そして巫女から黒布に包まれた瓶を受け取るのである。 大人たちが後ろで見守っている。 自分の子が『こしろさま』を受け取るとどの親もほっとした表情をするのだった。 これでまた一年間、子供たちは健やかに過ごすことができる。 「はい。芙紗子ちゃん」 巫女の琴音が黒布の包みを渡してくれた。 芙紗子は受け取った包みを両手で捧げ持つ。 二人はそっと微笑みあった。 8. ・・『こしろさま』は神様だから、大切に扱うこと ・・お会いするときは、一人だけで、礼儀正しくすること ・・人前にお姿を晒さないこと。写真に撮ったり、絵に描いたりもしないこと ・・瓶の蓋は絶対に開けないこと。開けたら罰(ばち)が当たると心得ること ・・一人で最後までお世話すること これが『こしろさま』をお預かりした子供が守るべき約束だ。 大人たちも理解しているから、『こしろさま』がいらっしゃる間は無闇に子供の部屋に入らない。 『こしろさま』に会えるのは本人だけで、たとえ家族でもタブーだった。 自分だけの部屋がない家では、子供が一人で会える環境を配慮する。 芙紗子も床の間がある和室を一人で使うことが許された。 夜はそこで眠っていい。 もちろん一人寝が寂しいときは、今までのように両親と一緒の部屋で寝てもいい。 「ずっと起きてないで、少しは寝なさいね」 布団を敷いてくれたママがそう言って和室を出て行った。 これも配慮の一つだ。 この村では、大晦日と『こしろさま』がいらっしゃった日だけ、子供が夜更かししても叱られない。 部屋には芙紗子と『こしろさま』の包みだけが残された。 深呼吸してから『こしろさま』の前に正座した。 「こんばんわ、『こしろさま』。室谷芙紗子です。開けさせていただきます」 黒布の結び目をゆっくり解いた。 あのガラス瓶が姿を現す。 御神水を満たして封印を貼った瓶。 そしてその中に裸の女の子が浮かんでいた。
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肌の色が薄めの女の子だった。 長い髪が瓶の中に広がってゆっくり揺れている。 身体は芙紗子よりもずっと成熟していた。胸も脚も柔らかそう。 でも目を閉じて眠る顔は幼い感じで、芙紗子と変わらない年頃のようにも見えた。 ・・きれい。 芙紗子は両手で自分の胸を押さえた。 どき、どき。 心臓が大きく鳴っているのが自分で分かった。 9. 目を覚ますと青い光があふれていた。 ここ、どこ? そうだ、床の間のお部屋だ。 縁側に面した障子が光っている。 芙紗子は布団から起きて障子を開けた。 月光が地面を照らしていた。 山の稜線。近くの森のシルエット。 真夜中なのに世界がくっきり見えた。 背中に別の光を感じた。 振り返ると、枕元に置いた『こしろさま』の黒布の包みから光が漏れていた。 怖くはなかった。 『こしろさま』は神様なんだから怖いはずはないと思った。 芙紗子はその包みを両手で持った。 どき、どき。 『こしろさま』を大切に抱えて、縁側から裸足で外に降りた。 パパとママは眠っているのだろう。家の中は明かりが消えて真っ暗だった。 夜中に家の外へ一人で出るのは初めて、両親に黙って出るのも初めてだった。 どき、どき。 いつも自転車の練習をしている裏庭にやって来た。 芝生にパジャマのまま腰を下ろした。 どき、どき。 見上げると空に満月があって、そこから月光がシャワーのように降り注いでいた。 包みを前に置き、結び目を解いた。 金色の光が溢れた。 『こしろさま』が瓶の中で眩しいくらいに輝いていた。 どき、どき。 どき、どき。 どうしよう? どうしたらいいんだろう? 芙紗子はパジャマの胸元のボタンを外した。 パジャマを上も下も脱いで丁寧に畳み、それから下着も脱いでパジャマの上に置いた。 生まれたままの姿になって『こしろさま』の瓶を裸の胸に抱いた。 どうしてそんなことをしたのか分からなかった。 ただ、そうした方がいいと思ったのだった。
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明るく輝く『こしろさま』が笑ってくれたような気がした。 10. 次の日、学校では『こしろさま』の話題でもちきりだった。 「すっごく小っちゃな女の子だった! 可愛くて可愛くて泣いちゃった」 「わたしのは大きなお姉ちゃんっ。胸大きくって色っぽいのーっ」 「ボクのもおっぱい大きかった。あれ巨乳って言うんだろ?」「やだ、えっちー!!」「何でだよー」 「芙紗子ちゃんは?」 「髪の毛がすごく多くて瓶の中にふわって広がってるの」「へぇーっ、いいなぁ」 クラスじゅうで報告しあう。 芙紗子も自分の『こしろさま』を説明したけど、外に出て服を脱いだことは恥ずかしくて言わなかった。 家に帰ると、琴音が来てママと話していた。 「琴音さん、東京へ帰るんだって」ママが言った。 「大祭も終わったし、大学に戻らないとね」 「そうなの? 寂しいな」 「またすぐに会えるわよ。・・それでどうだった? 今年の『こしろさま』は」 芙紗子は琴音を裏庭に連れ出して二人だけになった。 「『こしろさま』はね、すごく綺麗な美人さん。見ているだけでドキドキするの。・・実はね、」 芙紗子は昨夜のことを話した。 琴姉ちゃんには全部話そうと決めていた。 夜中に『こしろさま』が輝いて、一緒に外に出たこと。 そして『こしろさま』の前で裸になったこと。 「そうか、冒険したんだね。芙紗子ちゃん」 叱られるかもしれないと思っていたけど、琴音は全然怒らなかった。 「あたし、いけないことしちゃったかな?」 「いけないことじゃないよ。私は芙紗子ちゃんのこと、素敵な女の子だと思うな」 「どうして?」 「だって、『こしろさま』にお尽くししたいって思ったんでしょ?」 ああ、そうか。 芙紗子はあのときの自分の気持ちを理解した。 あたしは『こしろさま』にお尽くししたかったんだ。 『こしろさま』みたいに綺麗な裸になって。 「裸になるって、女の子だけにできるお尽くしの方法だよ」 「『こしろさま』に伝わったかな?」 「きっと伝わったわ。・・でも約束。芙紗子ちゃんのママやパパが見たらびっくりしちゃうし、もう裸になるのはやめようね」 「うん。約束する」 「でも、ちょっと羨ましいな」 「?」 琴音はいきなり芙紗子を抱きしめるとおでこにキスをした。 「ひゃん!」 「芙紗子ちゃんの冒険、私もしてみたかった!」 次の日、琴音は東京の大学へと戻っていった。 11. 芙紗子は毎日学校から急いで帰って『こしろさま』に話しかけた。 『こしろさま』はずっと眠っているけれど、たまに目を閉じたまま微笑んでくれた。 口元から小さな泡がぽこりと出て浮かび上がることもあった。 『こしろさま』の身体は本当に綺麗だった。 自分も服を脱いで寄り添いたいと何度も思ったけど、琴音との約束を思い出して我慢した。 やがて『こしろさま』の周囲が薄く白く変わる。 御神水が濁り始めたのだった。 『こしろさま』が瓶の中にいらっしゃる期間はおよそひと月。 絶対に変えられない決まりだった。 芙紗子はその姿を忘れないように見つめ続ける。 次の満月の夜。 ほとんど真っ白になった御神水の中に『こしろさま』は溶けるように消えた。 『こしろさま』との時間は夢のように過ぎて行ったのだった。 年が明け、春になり、芙紗子は三年に進級した。 自転車も上手に乗れるようになって、一人で遠くの友達の家に行けるのが嬉しかった。 12. 老人と老婆ばかり10人ほどが大祠神社に集まっていた。 村の長老と呼ばれる人たちである。 瑞鳳山の上に幾重にも重なる頭巾雲が現れ、二筋の鮮やかな紫色の光彩が目撃されたのはその前の週のことだった。 「何年ぶりかな。お告げがあったのは」村長の室谷仁三が聞いた。 「前のお告げは17年前でした」宮司の橘が答える。 「それで神託の名前は?」 「室谷琴音です。今は東京で働いておられます」 「文吾の家の孫じゃな。確か前の祭りで、」 「はい。巫女の助務をしてくれた娘さんです」 「あれはいい���じゃ。明るくて礼儀正しい」 「そうですね」 「・・納骨の方は大丈夫ですかな?」 役場で助役を務める老人が聞いた。 「それは問題ありません。室谷の血筋ですから確実に応じてもらえます」 「そうか、では、」 村長は一旦言葉を止めて、琴音の顔を思い出した。 村の者の嫁になって欲しい、などと余計なことを言ってしまったな。 「では、そのときのために万時準備の程頼みましたぞ」 13. 「ストーカー殺人、被害者は一人暮らしのOL」 ニュースが流れたのはその年の8月だった。 「都内在住の会社員・室谷琴音さん(22)が帰宅中に刃物で刺されました。室谷さんは病院へ搬送されましたが死亡が確認されました。 警察は自称ユーチューバーの○○○(27)を殺人の疑いで緊急逮捕。容疑者は半年間にわたり室谷さんにつきまとっていた模様です」 14. ごり、ごり。 橘は作業の手を止め、タオルで汗を拭いた。 人骨を削る作業。 橘はこの作業をたった一人で40年間やってきた。 もう80歳に近いから、あと何年続けられるか分からない。 今はまだ名目だけの禰宜(ねぎ:宮司の補佐役)である息子に引き継ぐ日も近いだろう。 自分がある日突然、先代宮司の父親から『こしろさま』の準備を命じられたときのように。 境内の古井戸『神鏡井(かみかがみい)』から湧く御神水を子供たちから集めたガラス瓶に満たす。 そこへ『おしろさま』から削り出した骨粉を耳かきに半量ずつ入れる。 蓋をして封印を貼り、黒布に包む。 これを日々祈祷すれば、次の満月の日までに瓶の中に『こしろさま』が現れる。 『おしろさま』の御神体は若い女性の大腿骨だった。 毎年、複数の大腿骨から少しずつ骨粉を削り出す。 そこで削られる合計量は大腿骨の長さ約2センチに相当する。 大腿骨の全長は平均40センチ。 つまり約20年で大腿骨一本分を消費する。 消費するには供給が必要だ。 求められるのは村で生まれ育った若い女性の大腿骨である。 村で生まれ村で死ぬ者がほとんどだった時代は、若い女性が亡くなればその片方の大腿骨を神社に納めてもらうのに困ることはなかった。 しかし今は都会に出て行って戻らない者がほとんどである。 でも神様はちゃんと道を与えてくれた。 不思議なことに次の大腿骨の候補者はお告げで知らされる。 お告げを得たら、その情報は村の長老の間で秘密裡に共有され「その時」に備える。 当人に危害を加えたり、まして殺人を犯す訳ではない。 ただ待っていれば「その時」が訪れるのである。 琴音のときは遠い東京での事件だった。 それでも、村へ遺体の搬送、葬儀、火葬前の大腿骨取り出しなど、滞りなく処置できたのはお告げを受けて準備が整っていたからだ。 琴音の大腿骨は洗浄して炭酸ナトリウム1%溶液で煮込む処置を施した。 こうすることで保存性の高い白骨が得られ、菰(こも)を巻いて乾燥させるよりずっと早く「使える」骨になる。 これは橘が骨格標本の製作方法を参考に始めた手順だった。 今の時代、科学の知識を活用することが重要と橘は考えている。 『こしろさま』のお姿は元の骨の主に似ると言われる。 だから橘は、同じ子供に同じ骨を2回使わないように注意して管理している。 今年の『こしろさま』はどんなお姿かな? 子供たちには毎年ワクワクする気持ちを楽しんでもらいたいじゃないか。 今年の大祭では誰かの『こしろさま』に琴音の姿が現れるだろう。 ごり、ごり。 作業を再開した。額に再び汗が流れる。 橘は無心に人骨を削り続けるのだった。 15. 琴姉ちゃん!! 『こしろさま』の包みを開けた芙紗子が驚いた。 六年生になって今年が最後の『こしろさま』だった。 ガラス瓶の中に浮かんで眠るショートヘアの女の子。 そのお顔は琴音にそっくりだった。 3年前の事件は衝撃だった。 お葬式では泣きに泣いて大人たちを困らせたけど、今は落ち着いて琴音のことを思い出せるようになっていた。 ねぇ、琴姉ちゃん。『こしろさま』になってあたしに会いに来てくれたの? 二階の窓に風が吹いてカーテンが揺れた。 芙紗子の家は改築されて念願の子供部屋を作ってもらえたのだった。 窓から丸いお月様が見えている。 考えてみれば今まで『こしろさま』がいらっしゃた夜に月が陰っていた記憶はない。 雲ひとつない夜空に必ず満月が輝いていて、世界を青白く照らしているのだった。 芙紗子は月光が好きだった。 部屋の明かりよりお月様の明かりの方がずっと素敵だと思う。 芙紗子は照明を消す。 『こしろさま』の瓶を持って窓際へ行った。 ガラス瓶を掲げて月光にかざすと、琴音にそっくりな『こしろさま』がふわりと金色に光った。 ・・大きくなったね、芙紗子ちゃん。 「琴姉ちゃんっ、やっぱり来てくれたんだね」 ・・今日は神社に来てくれてありがとう。 「え? 神社にいたの?」 ・・いたよ。これからもずっといるから、いつでも会えるわよ。直接お話しできるのはこれで最後だけどね。 「行くっ。お話しできなくても絶対に行くよ!!」 ・・待ってるわ。 『こしろさま=琴姉ちゃん』がきらきら輝いている。 綺麗だな。あたしもこんなに綺麗になれるかな。 「ねぇ、あの約束覚えてる?」 ・・『こしろさま』の前で裸にならないって約束? 「うん。あたしずっと守ってきたんだよ。でも、もう破ってもいいかな」 芙紗子は思い切って言った。 「あたし、琴姉ちゃんにお尽くししたい」 芙紗子は着ていた服を脱いだ。下着も全部脱いで裸になった。 2年生のときよりずっと身長が伸びて胸も膨らみ始めていた。 初々しい少女の身体を『こしろさま=琴姉ちゃん』に見せた。 ・・素敵な女の子になったね。芙紗子ちゃん。 「あたし、もう12歳だよ」 ・・そうだったね。もうすぐ大人になるんだ。 「だからね、もう知ってるんだよ」 ・・うふふ、何を知ってるの? 「女の子が裸でお尽くしするって、本当はエッチな意味だってこと」 笑い声が響き、『こしろさま=琴姉ちゃん』の身体が眩しいくらいに輝いた。 16. 深夜。 二階から階段を下りる足音がした。 芙紗子の両親はぐっすり眠っていて目を覚まさなかった。 玄関の扉がそっと開き、ガラス瓶を抱いた女の子の影がするりと出て行った。 天空に満月。 降り注ぐ月光を浴びて、全裸の芙紗子が『こしろさま』の瓶を抱いて踊る。 瓶の中には金色に輝く小さな裸の女の子。 二人の冒険の時間はもうしばらく続きそうだった。
~登場人物紹介~ 室谷芙紗子(むろたにふさこ) :8歳、小学2年生。ガラス瓶に入った神様『こしろさま』を受け取る。 室谷琴音(むろたにことね) :22歳、芙紗子の再従姉妹(はとこ)。東京の大学に通っている。 橘秋人(たちばなあきひと) :75歳、大祠神社宮司。 室谷仁三(むろたにじんぞう) :90歳、室谷一族の長で村長。 前回のお話 の約10年後の出来事です。 前はAIに描かせた挿絵に適当に文書をつけただけでしたが、今回はきちんとプロットを作成して少し長めのお話になりました。 神社の御神体である人骨の設定は作者の嗜好です。 グロの要素はないつもりですが、苦手な方がおられたら申し訳ありません。 あと、前回の主人公(一人語りの「私」)は本話の琴音さんです。もうお判りですよね。 挿絵は今回もAIに生成させました。 立ちポーズの巫女さんを描かせるのは簡単でしたが、水中に浮かぶ『こしろさま』は試行錯誤を繰り返しました。 手足のバランスやポーズが難しいのもさることながら、裸体絵なので Tumblr の規制に抵触しそうな絵を描きがちなのですよ。 それでも水中に広がる髪が美しく(よく見ると変な部分もありますが)描けたのはさすがAIです。こんなの自分では絶対に描けません。 大祠神社に纏わる部分は(ロケーションやいろいろな名称、お祓いの祝詞に至るまで)自然言語AIの ChatGPT に考えてもらいました。 こういう設定は下調べに手間取るので、AIがそれらしく適当に決めてくれるのは助かります。 例えば、宮司の橘さんが御神水を汲んだ境内の古井戸。ChatGPT によるその名前の提案と解説は次の通り; 古井戸の名前として「神鏡井(かみかがみい)」という名前を提案します。 この名前は、神聖な鏡を意味する「神鏡」と、水が湧き出る井戸を表す「井」を組み合わせたものです。 「神鏡井」は、古式の風情と神聖さを感じさせる名前で、神社の境内に佇む御神水を象徴的に表現しています。 この井戸から湧き出る水は清らかで、神職や参拝者にとって特別な存在とされています。 どうですか。命名の根拠は2行目だけ。 後の説明は雰囲気で押し切っていて、それでも「なるほど」と思わされてしまいそうになるのは流石ww。 テレビドラマでよくある広告コンペのプレゼンなどはもうAIに任せれば十分ですよね。 私も引き続き遠慮なくAIに頼らせてもらうことにします。 さて、『こしろさま』の連作はこれで終わりです。 次の発表までまた時間がかかると思いますが、ゆっくりお待ちください。 ありがとうございました。 [2023.8.10 追記] こちら(Pixiv の小説ページ)に本話の掲載案内を載せました。 Twitter 以外にここからもコメント入力できますのでご利用ください。(ただしR18閲覧可能な Pixiv アカウント必要)
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t82475 · 1 year
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こしろさま
小さい頃、一年で一番待ち遠しい日はクリスマスでもお正月でもなくて秋の縁日だった。 この日は大祠神社の大祭で、大人も田んぼや畑の仕事は休み。 みんな着飾ってお詣りに行く。 境内には屋台がたくさん出ていて、普段は食べられない綿菓子やりんご飴を買ってもらえる。 クラスの友達と金魚すくいや射的の勝負をするのも楽しい。 たくさん遊んだ後、本殿で黒い袋に入った『こしろさま』をいただいて帰るのが習慣だった。 『こしろさま』は小学生の子供だけがもらえる。 枕元に置いて寝ると健やかに成長すると言われていて、たぶんどの子の家にもあったと思う。 黒い袋には御神水を満たして封印を貼ったガラスの瓶が入っている。ちょうど牛乳瓶くらいの大きさ。 瓶の中に小さな女の子が生まれたままの姿で眠っている。 これが『こしろさま』。 大祠神社の御祭神は、昔、洪水から村を守るために自ら人柱になったお姫様で『おしろさま』と呼ばれている。 『こしろさま』はその『おしろさま』の分身なんだ。 だから小さな女の子に見えても神様。 家の中に大切に置いて、預かった子供は責任をもってお世話しないといけない。 他人に見せるのは禁止。 ���とえ家族でも無闇に見せてはいけないのが決まりだった。 『こしろさま』のお姿はその年によって、預かった子供によっても違う。 3~4歳くらいの幼女のこともあれば、ずっと年上のお姉さんのこともあった。 共通しているのは美少女であること。 本当に綺麗で可愛くて、うっとり見つめているとあっという間に時間が過ぎてしまう。 どの子も『こしろさま』の前で夜遅くまで起きているものだから、縁日の翌日に学校へ行くと皆が眠そうな顔をしているのが当たり前だった。
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六年生の秋、私���最後に預かった『こしろさま』は中学生くらいに見える女の子だった。 今もはっきり覚えている。 少しウェーブの入った髪を身体の横に流して、手足が長くて胸もふっくらしていて、切れ長の目が恰好よくて、それでいてちょっと寂し気な雰囲気がするお姉さんだった。 じっと見ていると、その口元から小さな泡がぽこりと出て水面まで浮かび上がった。 ・・生きてるんだ!! そのときの感動は何と表現したらいいだろう。 私はただ黙って『こしろさま』の瓶を胸に抱きしめたのだった。 『こしろさま』がいらっしゃる期間はひと月程度。 子供たちは自分の『こしろさま』を少しでも長く保つために工夫する。 『こしろさま』が落ち着けるように瓶を毛布で包んだり、『こしろさま』が好むとされる線香花火を見せたり、キンモクセイの鉢の近くに置いたりする。 それでも御神水がだんだん濁って、やがて真っ白になると『こしろさま』はそこに溶けて消えてしまう。 みんな泣きながら『こしろさま』とお別れして一つ成長する。 クラスの男の子で、消えてしまいそうな『こしろさま』の封印を剥がして蓋を開けた子がいて大騒ぎになったことがあった。 絶対にバチがあたるよって陰で言ってたら、その男の子の家が火事で燃えたのは当時の同じ学年の子なら誰もが知っていることだ。 『こしろさま』を見送った後、白濁した御神水は庭にまいて家を守ってもらう。 ガラスの瓶は神社に返してもいいし、そのまま持っていてもいい。 私の実家にはガラス瓶が6本大切に保管されている。 これは私と『こしろさま』が一緒に過ごした記憶だ。 東京に出て大学生になったとき、常識だと思っていた『こしろさま』を知る人がいなくて驚いた。 それどころか水の中で生きていた女の子の話をしたら、ホラーじゃんって笑われてしまった。 誰も信じてくれない。 ちょっと悔しいけど、それでいいような気もする。 もし世間に知れ渡ったら、きっとマスコミが大勢集まって『こしろさま』の秘密を暴こうとするでしょ? そうなったら『こしろさま』は二度と来てくれなくなるかもしれない。 21世紀の現代だって少しくらい不思議なことがあってもいいと思うんだ。
とある地方の風習について、そこで育った女性の一人語り。 とても短いSSとも言えない文章の断片です。 今回は先に挿絵を描いて、それに合うストーリーを後から考えました。 今まで小説の挿絵は、他所からイラストや写真をいただいた場合を除き、すべて自分で描いた絵を使っていました。 しかしながら私のウデで描き上げるには小説本文の執筆と変わらない熱量が必要です。 そこで試験的に無料のAI作画ツールを導入して瓶入り少女を描かせてみました。 手や足先の形状が不完全であるなどAI絵の欠点がありますが、自分で描く絵と比べればはるかに高品質。挿絵には十分使えるレベルです。 とはいえ、今すぐAI絵を全面採用することはありません。 自在なポーズや衣装、緊縛などの表現をする技術がないので、練習しながら少しずつ使って行くつもりです。 『こしろさま』の世界については改めて書こうと思っています。 本話だけで済ますのは勿体なさすぎる設定ですからね。 ではまた。ありがとうございました。 [2023.8.10 追記] こちら(Pixiv の小説ページ)に本話の掲載案内を載せました。 Twitter 以外にここからもコメント入力できますのでご利用ください。(ただしR18閲覧可能な Pixiv アカウント必要)
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t82475 · 1 year
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Bondage Model その7・スキンヘッドの代役
~ご注意とお願い~ この小説に登場するイリュージョニスト兄妹は実在のアメリカ人イリュージョニストの兄妹にインスパイアされて創作しました。 ただしあくまで架空のキャラクターであり、実際の人物や団体とは関係ありません。 本話の登場人物はすべて作者のファンタジーです。 皆様に誤解と迷惑をかける意図はありませんので、よろしくご了解ください。 1. うす暗いギャラリー。 点々と並ぶスポットライトの中に縄で縛った女の子たちが飾られていた。 衣装はさまざま。縛り方もさまざま。床に転がされている子や吊られている子、小さなガラス箱の中に詰められている子もいる。 私は壁に掛けた木製フレームに固定されていた。 一辺140センチの矩形、その角に90度に開いた足を緊縛。 斜めに垂れた上半身は両腕を背中で縛られている。 全身の体毛を剃ってスキンヘッドの私がフルヌードでこんなふうに飾られると、自分でもアートだと思う。
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「きゃっ、動いたぁ!」 私の前で二人連れの女性が素っ頓狂な声を上げた。 前に立ってじっと見てくれたから、サービスで指をぴくぴく動かしてあげたんだけどね。 まさかマネキンだと思った? ちゃんと生きた女だよ。 ここは都心の画廊。 モデル事務所ジャイ・アイ・ケーが年に1度開催する「ボンデージ・アートサロン」。 アンティークの拘束具と拷問器具、そして生緊縛の女の子を飾って、ソファで紅茶とケーキをいただきながらゆっくり談笑できるようになっている。 緊縛作品は私を含めて12体。 そのときどきの「旬」の縄師による作品ということになっているけれど、実際には事務所の女社長の趣味で縄師を指名しているらしい。 今年の縄師はサンフランシスコから呼ばれたアメリカ人ボンデージアーティスト。 社長の古い友人という彼は、たった一人で2時間かけて12人を縛り上げたのだった。 「辛クナイデスカ?」 そのアメリカ人縄師が近くに来て話しかけてきた。 背の高い人だった。顔立ちは東洋人っぽい感じ。 年齢は50歳くらいかしら。 「いいえ、大丈夫です」 「アナタダケ、逆サ吊リナノデ、少シ心配シテイマス」 "下半身がしっかり固定されているのでまったく不安は感じません。すばらしいテクニックだと思います" "おお、あなたは英語が話せるんですね" "帰国子女なんです。あなたの日本語も上手" 「アリガトゴザイマス。妻ハ日本人デス」 彼はそう言って笑い、私も逆さ吊りのまま微笑み返した。 2. サロンが終わって女の子たちが解放された。 どの子も顔を赤らめている。 自分の胸や両足の間を押さえて震えている子、スタッフの手が肩に触れただけでイク子もいた。 そりゃ程度の差こそあれ皆M女だものね。 自由を奪われて何時間も展示物になってたんだから、おかしくなっても不思議じゃない。 ん、ふ~~~っ。 私は深呼吸して立ち上がった。 素敵な時間だったな。太ももに残る縄目が綺麗。 「千亜季ちゃん、4時間吊られてまさかのノーダメージ? 」小木洋子社長があきれたように言った。 「全然平気ってことはないですけど、まだ行けます」 「さすが、耐久チアキねぇ」 どうやら私は並の女の子より緊縛や拷問に強いらしい。 『耐久チアキ』ってのは事務所の縄師さんにつけられた仇名だ。 「タイキュウ、トハドンナ意味デスカ?」アメリカ人の彼が社長の言葉を聞きつけて質問した。 「え、耐久? えーっと」 社長に代わって教えてあげる。 "タフという意味です" "なるほど、確かにあなたはタフだ。ところでお名前をまだ聞いていませんでした" "袖原千亜季です。フリーで緊縛モデルをしています" "チアキですか、素敵な名前ですね。よろしければ身長も教えてください" "158センチです" "えっと、5'2(5フィート2インチ)くらい。ふむ。・・早速ですがあなたにお願いしたいことがあります" "私にですか?" 「あらリチャード、さっそく彼女のオファー?」 社長が笑いながら口をはさんだ。 「スミマセン。ソノ話ハアトデ」 「いいのよ。・・さあ、片付いたら打ち上げに行くわよ。千亜季ちゃんも来るでしょ?」 「あ、はい」 「リックとは10年ぶりの再会だもの。ご家族の話も聞かせてもらわなくちゃ!」 3. 日系アメリカ人のボンデージアーティスト、リチャード・フジタ氏からの依頼は緊縛の仕事ではなかった。 近々来日するイリュージョンチームのアシスタントをして欲しいという。 イリュージョンとは大がかりな仕掛けで演じられるステージマジックのことだ。 "予定していたアシスタントがキャンセルになりまして、代わりに出る女性を探しています" "どうして私なんですか? そういう経験はまったくありませんけど" "あなたのタフさなら問題ないと判断しました。それにそのスキンヘッドも都合がいい" "?" 「そのイリュージョンチームはリックのクライアントなの?」小木社長が質問する。 「ハイ。アシスタント欲シイノハ、ワタシノ作品デス」 「なるほど」 「あの、どういう意味でしょう?」 「あのね、リックの本業はイリュージョン・メーカーなの」 イリュージョン・メーカーとはイリュージョンのステージ全般に係る企画と機材のデザイン製作を請け負うビジネスで、彼はその会社の社長だった。 緊縛はサイドビジネスだったのね。 小木社長も賛成して私はアシスタントの依頼を受けることにした。 "お願いしたいイリュージョンプログラムは一つだけです。・・そうそう、イリュージョニストの名前はケビン・マーランド。なかなかのイケメンですよ" 4. 家に帰ってからネットでケビン・マーランドを検索した。 1件だけそれらしい動画が見つかった。 アメリカの視聴者参加番組に出演した白人の男の子と女の子。 デニムのオーバーオールと白いシャツでお揃いのコーデ。 男の子は栗色の髪。 "ケビン・マーランド、9歳です" 女の子はブロンド。 "エレイン・マーランド、7歳です" 司会者から "ラストネームが同じということは、君たち夫婦?" と聞かれて "いいえ、彼女は僕の妹です" と答えるケビン。 初々しいねぇ、可愛い。 しかし演技が始まると兄妹から初々しさが消えた。 ケビンは妹のエレインをテーブルに寝かせ、上からダンボールを折って作った箱を被せた。 箱の片側からエレインの首、そして反対側に脛から下の足先が出ている。 ダンボール製のノコギリで箱を二つに切断する。 下半身の箱を引き離して別のテーブルに移動させた。 エレインの首はもちろん、離れたテーブルの脚も動いている。 ケビンはその脚のオーバーオールの裾を膝まで折り上げ、さらにソックスも脱がせた。 カメラが寄って舐めるように映した。 そこに見える素足とぴくぴく動く足指は明らかに生身の女の子のものだった。 右手を差し上げてポーズを決めるケビン。 よくできたステージだった。 子供だけでやるのは無理だろう。きっとバックに大人がついていると思った。 それにしても私の雇い主って9歳なの? 改めて見ると動画の日付は9年前だった。ということは、彼は現在18歳。 ケビンくん、大きくなってプロのイリュージョニストになったんだね。 5. 一か月後、私はマーランド・イリュージョンチームのマネージャーで演出も担当するニコル・ランディ氏と会っていた。 そこは千葉の港湾地区にある倉庫で、ショーに使う機材の搬入整備と一時保管のために確保された場所だった。 ランディ氏は30代半ばくらい。背が高くて金髪の美人だった。 彼女はいろいろな準備と調整のために、イリュージョンチームの本隊に先行して日本に来ているのだった。 "あなたのことは聞いてるわ。チアキ・ソデハラ、24歳のシバリモデル。耐久チアキって呼ばれてるんですって?" "はい" "スキンヘッドにしているのは何故?" "楽だから。それともう一つ、モデルは個性的な方が有利だから" "OK、その回答で満足よ。リチャードの推薦だから信頼するけどテストはさせてもらうわ。明日の午後、時間をとれるかしら?" "今からでも構いません" "助かるわ。さっそく始めましょう。ラバースーツは着た事ある?" "何度も。イリュージョンはラバースーツで行うんですか? ランディさん" "テストに使うだけよ。それから私のことはニコルと呼んでちょうだい" ニコルの指示でスタッフが木箱を運んできた。中に入って横になれる大きさ。 "トイレを済ませて、着ているものを全部脱いで" 私は裸になって全身を覆うラバースーツを着た。 首から上にも全頭マスクを被り、開いているのは鼻と口だけになった。 箱の中に仰向けに寝て、鼻口に呼吸マスクを装着された。 少し息苦しい、闇の中。 がたん。蓋を閉じる音がした。 "耐えられなくなったら金切り声を上げて。すぐに助けてあげるわ" 外からニコルの声が聞こえた。 これは何のテストだろう? そういえばイリュージョンって、小さな箱から女性が登場したりするわね。 これはそのチェックかしら? しゅるしゅるという音が聞こえた。背中が暖かい。 まるでお湯でも注がれたみたいに暖かさの嵩(かさ)が増して全身を包んだ。 その暖かさが次第に硬くなる。 無意識に首を振ろうとしたらできなかった。手も足も動かせない。 石膏? 自分は固められたと理解した。 BDSMの世界で人間をプラスターに埋めるプレイがあるのは知っているけれど、体験するのは初めてだった。 こんなとき、どうすればいいのかしら。 そう、死なないことね。 とりあえず呼吸をチェックする。 舌を引くと口の中に空気が入るのが分かった。マスクのチューブはちゃんと外に出ているらしい、 肩を固められたから胸呼吸は難しいな。 腹式呼吸を試してみよう。OK。ちゃんと息ができる。でも深い呼吸は無理。 ゆっくり小さな呼吸を繰り返した。 大丈夫。私は死なない。 "発泡ウレタンフォームを注入したわ。生きてたら声出してくれる?" "生きてます" "パニックに陥らないのは、さすがね。・・しばらく放置してもいい?" "どうぞ" 私は承諾の返事をした。 プロの緊縛モデルだもの。耐えてみせる。 それにしても発泡ウレタンってすごいな。あっという間に固められちゃったね。 6. 固化したウレタンの中で時間が過ぎる。 長時間の拘束を平穏に過ごすコツは眠ってしまうことだ。 よほどの苦痛でない限り、私はぎちぎちに緊縛されていても眠ることができる。 むしろ多少の痛みを感じるくらいの方が落ち着いて眠れるから、ドMだよね私も。 でもウレタン固めはちょっと違った。 苦痛どころか快適だった。眠るなんてできなかった。 外部から途絶された空間。認識できるのは物体化した肉体だけ。 固められるってこんなに気持ちいいものだったのか。 どき、どき。 鼓動が高まって胸が酸素を求め、深呼吸しようとしてできないことに一層興奮した。 短い呼吸をハイペースで繰り返す。 こうして呼吸すること自体本当は許されないのではないかと思って我慢できる限り息を止めたりもした。 ああ、一人マゾモード全開。 この時間。エクスタシーだ。 永遠に固められていても、いいかな。 7. ごつごつ音がした。ゆらりと持ち上げられる感覚。 私を閉じ込めていたウレタンが剥がされて、自由な空間に引き出された。 全頭マスクを外される。 額に流れる汗を拭いてもらい、差し出されたストローボトルのドリンクをぐびぐび飲んだ。 「オカエリナサイ!」 目の前にニコルの笑顔があった。 "セクシーな表情よ、チアキ" "今、何時ですか?" "5時よ。あなたは3時間固められていたの" "そんなに? 30分くらいかと思った" "どんな気持ちだった?" "悪くなかったです。本当は・・、" "本当は何?" "下品な感想でもいいですか?" "もちろん" "濡れました。ヴァギナにバイブを挿して放置されたらもっと素敵だったかも" "あらっ" 彼女は破顔して、それから私の頬を両手ではさんでキスをした。 女同士のキスでも嫌な気持ちはしなかった。 "テストは合格よ! あなたには適性があるわ。安心してわたしの代役を任せられるわね" "あなたの代役?" "そうよ。膝の軟骨を損傷しちゃったの。代役を立てたんだけど、その人も都合で駄目になって" そう言われて、私はようやく気がついた。 ニコルが左手に杖を突いていることに。 "驚きました。あなたがイリュージョンのアシスタントもしていたなんて" "チームには女性アシスタントとダンサーが30人いるけど、彼女たちには頼みにくいプログラムもあるのよ" "それにあなたが出演していたんですね" "そう。だから、" ニコルは自分の前髪を掴み、べりっと引き剥がした。 ええっ!! 私はもう一度驚いた。 彼女のブロンドはウィッグで、その下は私と同じスキンヘッドだった。 "あなたはわたしの代役に適任なの" 8. ケビン・マーランドとイリュージョンチームの本隊が来日した。 さっそく朝の生放送情報番組にケビンが呼ばれて出演した。 私は自宅のテレビで番組を見ていた。 彼とはまだ対面していなかったから18歳になったケビンを見るのはこれが初めてだった。 あの動画でぎこちなく笑っていた9歳の少年は、甘いマスクの美青年になっていた。 真っ白のシャツに派手な赤いネクタイ。栗色の髪はオールバックに。 脚が長い! 身長だって180センチ以上は確実。 リチャードが言っていたのは本当だった。こりゃイケメンだわ。 番組キャスターに促され、ケビンはスタジオに特設されたミニステージに立った。 軽やかな音楽。 ミニイリュージョンショーが始まる。 アシスタントの女の子が6人がかりでガラスの水槽を押してきた。 NFLやNBAのチアリーダーみたいな丈の短いへそ出しトップスとショートパンツのコスチューム。 チアリーディングはマーランド・イリュージョンチーム日本公演のステージコンセプトだった。 彼女たちが押してきた水槽は高さ約2メートル、直径1.5メートルの円筒形。 中には水がいっぱいに入っていて、その水面が大きく波打っているのがガラス越しに見えた。 ケビンが水槽の上に立ち、赤いネクタイを外して投げ捨てる。 大きく息を吸い、そして水の中に飛び降りた。 すかさず黒い円筒形の蓋が上から吊られて降りてきた。 その蓋は水槽にすっぽり被さると、ちょうど広口瓶にキャップを締めるかのように、ひとりでに回転して止まった。 アシスタントたちが駆け寄り、全体に鎖を掛けて南京錠で固定した。 水槽の中にはケビンが立って浮いている。 音楽に合わせてダンスが始まった。 6人のチアリーダーが大きなフラッグ(旗)のついたポール(竿)を振って踊る。 ポールの長さは2メートル以上はありそう。 彼女たちは水槽の前で左右に分かれ、両側からフラッグを差し出して交差させた。 水槽がフラッグに隠れて見えなくなる。 音楽が止まり、フラッグが引き払われた。 「おおーっ」スタジオに驚きの声があふれた。 水槽の蓋の上にケビンが立っていた。髪と衣装が濡れている。 そして水槽の中には・・、女性が入っていた。 ピンクの髪色、黄色いビキニ。胸とお尻が大きいセクシー美女が水の中で手を振っている。 いったいどうなっているんだろう? 水槽が見えなくなった時間はほんの数秒だった。 その間にケビンが脱出して、美女が出現したのだ。 チアたちが水槽に取り付き、その場でくるりと一回転させた。蓋の上に立つケビンと水中の美女が一緒に回る。 これで終わりと思ったらそうではなかった。 蓋の上に立つケビンは人差し指を立て、カメラに向かって "もう1回!" と叫んだ。 再び音楽が鳴り、チアリーダーたちが踊る。 水槽の前でフラグが交差した。 「うわあっ」「何ぃ?」またもや驚きの声。 美女が増えていた。 黒髪で真っ赤なビキニ。先の美女に負けず劣らずセクシーな美女が出現して、水槽の中にはビキニ美女が二人。 再びチアたちが水槽を回転させた。 黄色いビキニと赤いビキニ。水中で手足を絡めて抱き合った美女たちを全方向から眺める。 うん、いい絵。このシーンずっと見ていられるわ。 彼女たちの姿が私の中で緊縛されたM女に被さった。 逆さ吊りにした女体の縄が捩れて回る情景。あれ、女の子の表情が苦し気で色っぽいのよね。 と、水の中にいる美女たちの笑顔もこわばっているのに気がついた。明らかに何かに耐えている。 そうか、あの子たちずっと息を我慢してるんだ。黄色ビキニの彼女なんてもう何分間も。 やっぱりSMと似ているかも。 やがて南京錠と鎖が外されて蓋が上昇し、助け出された美女たちが前に出てきた。 腕を組んで立つケビンの左右に膝をつき、彼の腰に手を当て微笑む美女たち。 その肩が大きく揺れている。ああ、やっぱり苦しかったんだ。 ケビンたちの後方で水槽の蓋が再び降りるのが見えた。 何かがざぶんと落ちる。水槽の中に渦巻く泡と波打つ水面。 「え?」今度声を出したのは私だった。 水中に新たな女の子が出現していた。 金髪でワンピースの競泳水着。 さっきのビキニ美女にセクシーさでは負けるけど、手も脚もすらりと長い美少女。 分かった。この子ケビンの妹だ。 お兄ちゃんと二つ違いだから、今は16歳のはず。 "エレイン・マーランド、僕の妹です" ケビンは水槽から出てきたエレインの手を取って紹介したのだった。 9. その日の午後。 顔合わせと通し稽古のために全員が集合した。 もちろん、ケビン、エレインの兄妹とマネージャーのニコルも揃っている。 イリュージョンショーは14日間で30回のステージが予定されている。 金曜と土曜の夜は「プレミアムナイト」。これはR12(小学生以下のお客様禁止)でテイストが変わる。 ニコルが私を紹介した。 メンバーの降坂や交代は珍しいことではないようで、私はごく自然に受け入れられた。 私がアシスタントとして出演するのはプレミアムナイトだけのプログラムだ。 前の週、私はニコルの指導で練習してOKをもらうレベルになっている。 あとは演者のケビンと実際に合わせる稽古が残っているだけだった。 "やあ、よろしく! ニコルが怪我したときは驚いたけど、君が来てくれたなら安心だよ、チアキ" ケビンはそう言うといきなり私を抱きしめた。 ちょ、挨拶にしては強く抱きすぎ。 "あの、息が苦しいです" "おっとこれは失礼" 彼はすぐに離してくれたけど、まだニヤニヤ笑っている。 間近で見るとあらためてイケメンだ。 何ということのないポロシャツとジーンズの私服姿も格好いい。 でもちょっとキモいぞ、ケビンくん。 "どうして安心だと言えるんですか? 私はまだ何もお見せしていないのに" "僕には分かるのさ。そうそう、君は髪の毛を剃ってくれたそうだね" そのとき私は黒髪のウィッグを着けていたけど、彼は私のスキンヘッドを知っているらしい。 "別にショーのためでは" "ありがとうっ。嬉しいよ!!" ケビンの両手が私の肩にかかった。え? 彼は私をくるりと回すと、後ろから首筋に唇を這わせた。 ひぇっ。 そのまま甘噛みされる。あんたは吸血鬼か。 "じゃ、またあとで!" にこやかに手を振って去る彼を唖然と見送る。 "初めましてっ、あたしエレインよ!" 妹のエレインが来て握手してくれた。 "変でしょ? ウチのアニキ。あれで喜ぶ女もいるから本人はサービスしてるつもりなのよね" "なるほど。モテそうですものね、お兄さん" "まあね。でも実はケビンには女性に対する性的関心がないの" "もしかしてLGBTQのGの人ということですか?" "正解。シアトルにボーイフレンドがいるわ" エレインは笑ってウインクした。 "だからケビンの行為はただのスキンシップ。受け流してくれたら、それ以上酷いことはしないわ" "分かりました。うっかり頬を叩いたりしないよう気をつけます" "うん、ありがとうっ" たぶんこの子、ケビンが初対面の女性に余計なことをする度フォローしてるんだろうな。 妹として苦労が耐えないわね。ちょっと同情した。 夜になって私はケビンとイリュージョンの合わせを行った。 彼の指導はお互いの立ち位置や細かい動きのタイミング、演者にあしらわれるアシスタントの所作まで仔細にわたったけれど、とても親切で優しかった。 やたら肩を抱かれたり、胸やお尻を触られる行為は相変わらずだった。 でも大げさに反応しないよう注意していたら、やがて察したように "君は落ち着いた女性だね" と言って過剰なスキンシップはしてこなくなった。 気づくのが遅いけれど、賢い人ではあるのね。 10. イリュージョンショーの公演初日。 私は客席の後ろに会場スタッフとして立っていた。 出演するのはプレミアムナイトのみだけど、こういう現場でバイリンガルの人間は重宝されるらしく、追加で契約したのだった。 ショーはマーランド兄妹の幕前挨拶から始まった。 ケビンは紺のジャケット、エレインはオフショルダーの赤いドレス。 イケメンの兄と美少女の妹。きっと日本でも評判になると思った。 幕が上がると、舞台には何もなくて後ろ半分が少し高い段になっているだけだった。 ケビンとエレインはその段の上に分かれて立った。 上から大きな幕がふわりと落ちてきて全体を隠し、そして床に落ちた。 二人の間に自動車が1台出現していた。真っ赤なワーゲンの初代ビートル。 ビートルの窓には人の姿が見えた。 どうやら女の子が何人も乗っているようだ。いや、ぎゅうぎゅうに詰まっているようだった。 ケビンがドアを開けると、素足にソックスとバスケットシューズを履いた脚がにゅっと突き出た。 その脚を兄妹で引っ張る。 車から出てきたのは、あの番組に出ていたチアリーダーのアシスタントだった。 一人、また一人とチアを引っ張り出し、全部で15人まで現れたところで今度はフロントのトランクを開けた。 何とそこから3人のチアが身を起こした。リアのエンジンルームからも2人。 合計20人のチアリーダーがずらりと並んでポーズをとった。 このビートルはハリボテでも何でもない本物の乗用車だ。 ビートル自体の出現は客席からの視覚を利用したマジックだけど、大量チアリーダーの登場には特別な仕掛けはない。 彼女たちはあの小さな車の中に本当に入っていたんだ。 カブト虫こと初代ビートルには人間が何人乗れるかのチャレンジがあるらしくて、ギネス記録は25人。 これを知ったアシスタントが集まって試してみたら、室内だけで20人収まってまだ余裕があったとのこと。 マネージャーのニコルはこれを日本公演でやることに決め、アメリカからビートルを運ばせた。 開演前の舞台準備を見ていた私はその周到さに感心した。 ビートル内の女の子の位置や姿勢、出入りの順序はその日の出演メンバーに合わせて綿密に決められていて、彼女たちはそれに従って車内に入り、折り重なって密着した状態で開演前から待機していたのだった。 ケビンが大きな布を広げてかざした。 エレインがドレスの裾をひるがえしながらその後ろに隠れる。 数秒待って布を外すと、エレインは他のアシスタントたちと同じへそ出しショートパンツのチアリーダーに変身していた。 チアの一人が大きなグレーの包みを持ってきて床に置いた。 ケビンは自分を親指で指すと、包みの下に潜り込んだ。 すぐにその包みがむくむくと膨らんでカバの着ぐるみになった。 頭が大きすぎる二頭身で、その頭のまた半分が口になっているのはちょっと不気味。 背中に『MARLAND HIPPO』のロゴマーク。ヒッポ(HIPPO)は英語でカバって意味だ。 アメリカのプロスポーツリーグでは各チームにマスコットキャラクターがいて、チアリーダーと一緒に試合を盛り上げてくれる。 ヒッポはマーランド・イリュージョンチームのマスコットという位置づけなのだ。 ステージは本格的なチアリーディングショーになる。 明るいマーチと虹色のライトにのせてチアリーダーたちがダンスを始めた。 エレインも一緒に踊っている。 きびきびしてエネルギッシュなダンスだった。 一斉に上げる脚が揃って全然乱れない。ジャンプで空中開脚するポーズなんてまるで体操選手。 肩を組んだ3人の上に1人が立って、その上にさらに1人が立った。スタンツっていうんだっけ。 よく見たら一番上のチアはエレインだ。うわぁI字開脚っ。そこから床までジャンプ!? まさに本場のNFLかNBAのハーフタイムショーだった。 あの女の子たち、ビートルの中に何十分も密着して詰められてたんだよ? プロのイリュージョンアシスタントってすごいなぁ。 カバのヒッポも踊っていた。 お世辞にも可愛いとは言えないマスコットだけど、短い手と足を振りながら跳ねる姿はユーモラスで観客の笑いを誘う。 やがて彼は踊っているチアリーダーにちょっかいを出し始めた。体当たりしたりお尻を触ったり。 チアが悲鳴を上げると、まるで悪戯っ子のように笑うポーズをして逃げるだった。 エレインがヒッポの前に立ちはだかった。両手を腰に当てて𠮟りつける。 ヒッポは口を大きく開けた。白い歯列から喉の奥まで見えた。 そのままエレインにかぶりつき、彼女を頭から呑んでしまった。 巨頭なカバの口からショートパンツの足が生えてしばらくバタバタしていたけれど、すぐに呑み込まれて消えてしまう。 カバがチアの女の子を食べちゃった!! 客席から驚きと笑いの声が上がる。 チアたちがひと抱えもある大きなハンマーを担いできた。 そのハンマーを振りかざしてヒッポを追いかける。 ハンマーが空振りして床を叩く度にピコピコと音が響いた。 ヒッポは敏捷だった。お腹の中にはエレインがいるはずなのにぴょんぴょん跳ねながら右に左に逃げ回る。 とうとう囲まれて、ハンマーのお仕置きを受けた! ピコ!! 紙風船が潰れるかのようにヒッポの着ぐるみは潰れてぺしゃんこになった。 中にいたはずのケビンとエレインはどうなったの!? ・・誰かが私の肩を叩いた。 振り返るとケビンがいた。その横にはエレイン。 私はそれまで立っていた客席通路からさっと移動して、後ろの二人と入れ替わった。 チアリーダーたちが一斉にこちらを指差した。 明るいライトに照らされてケビンとエレインが手を振る。 兄妹はいつの間にか着ぐるみの中から客席の後ろに移動していたのだった。 二人が舞台に掛け上がるまで間、私は客席の後ろにうずくまって目立たないようにしていた。 はぁ~。びっくりした。 合図されたら場所を開けてね、とは言われていたけど、まさかあのタイミングで来るとは。 あの兄妹、いったいどうやって瞬間移動したのだろう。 11. "初日の感想を聞かせてくれる、チアキ" ニコルに聞かれた。 私は少し考えて答える。 "すばらしかったわ。不思議なイリュージョンがたくさん。セクシーでドキドキするダンス。イリュージョンショーがあんなに華やかで夢があるなんて、初めて知った" "何そのネットの提灯記事みたいな感想" "ダメかな。本当にそう思ったんだけど" "では、あなたが欲情したイリュージョンを答えなさい" "その質問はセクハラです、先生" "チアキ、ここはどこだと思ってるの?" "ニコルと同じベッドの中です" ここはニコルが泊っているホテルの部屋。 ニコルも私も服を着ていなかった。 つまり、私たちはそういう関係になっていた。 "素直に答えなさい" "はい(Yes, sir)。・・欲情って程ではないけど、エレインの空中浮遊には刺激されたわ" それは、魔法使いのマントを羽織ったケビンが魔法の杖(ワンド)を振ると真っ白なドレスのエレインが浮き上がるイリュージョンだった。 彼女は5メートル近くも上昇して、そのままふわふわと漂い続けた。 ケビンがワンドを前後左右いずれかに向けると、エレインは浮かんだままその方向へ移動した。 ワンドの先をくるくる回すと、エレインの身体も空中でくるくる回転した。 頭が下になり上になりプロペラのように回転するエレイン。 ケビンは観客の中から一人、小さな女の子を舞台に上げた。 その女の子にワンドを持たせてエレインを自由に操らせた。 女の子がワンドを振るとエレインがそれに合わせて動く。ワンドを回すとエレインも回転する。 回転するエレインの頭がちょうど下を向いたとき、ケビンが「ストップ!」と叫んだ。 エレインは逆立ちで停止し、それより後はワンドをどう振っても逆立ちの状態で移動するだけだった。 ドレスのスカートの前がまくれ上がらないよう手で押さえながら、ちょっと困った顔をしてエレインは漂い続けるのだった。 "私の推測だけど、エレインは本当に操られていたんじゃない?" "そうね。空中でポーズをとるのは彼女のアクティビティだけど、移動や回転はコンピューターの制御よ。彼女に権限はないわ" "エレインを上下逆にするのもニコルの演出?" "もちろん! 楽しいでしょ? 女の子を杖一本で操るのって" "うん、楽しい" "イリュージョンは仕掛けより演出が勝負なの。使い古されたマジックだってやり方次第で新鮮に見えるし、最新技術のイリュージョンも下手をしたら小学校の学芸会以下になるわ" "それを決めるのがあなたの仕事なのね、ニコル" "そうよ。・・チアキも思ったんじゃない? 自分もあんな風に操られてみたいって" "否定はしないわ" "うふふ" ニコルは私の右脚を持って開いた。私の下半身が彼女の前に露わになる。 びくっ。 太ももの内側、大陰唇からほんの3センチの場所を舐められた。 "いい匂い" "恥ずかしいわ" "うそ。喜んでいるくせに" そうかもしれない。 私は後ろ手に縛られていた。 こんな状態でいるときは、いつもの2倍か3倍感度が高まる。 相手の性別なんて関係ない。 "ニコル、女同士のときはいつもタチ(Top)なの?" "何でもするわ。今はあなたがマゾだから尽くしてあげてるのよ。こんなふうに" ニコルの舌が移動した。 はうっ。 ぎりぎり触るか触らないかの加減で木の芽を転がされて、私はのけぞる。 "あら、匂いが増したわ" "ばか。ニコル膝に怪我してるんでしょ。激しく動いちゃ駄目じゃない" "全然動いてないわよ。動いてるのはチアキの下半身のほう" ああっ。 行為が済んで私たちはキスをした。 スキンヘッドの女同士の舌が絡み合う。 縛られた腕の筋肉に目一杯力を込めると、エクスタシーがいっそう増加する。 自由を奪われていることが快感。 "そろそろ縄を解く?" "このままでいいわ。今夜はずっとニコルの支配下でいたい" "本当に変態。これは褒めているのよ" "ありがとう" "そういえば、チームの中にBDSMに興味のある子が何人かいるの。その一人はエレインなんだけど" "エレインが? 彼女まだ16歳でしょ��" "年齢は関係ないわ。もう何年も吊られたり切られたりのイリュージョンをしてるのよ。あなたも感じた通り、あれはある意味ライトなBDSMだわ” 確かに性癖に年齢は無関係ね。 私だって緊縛に憧れたのは中学生・・13歳だった。 "彼女、チアキの仕事を聞いて目を輝かせていたわ。いろいろ質問してくるかもしれないわね" "どうしたらいいの?" "何でも教えてあげてちょうだい" "構わないの?" "シバリは奴隷(submissive)と主人(dominant)の世界だけのものじゃない。今やエンタテーメントなのよ。だから知識を得るのはウェルカム。・・実はね、" ニコルはにやっと笑った。 "エレインが18になったら日本からシバリ・パフォーマーを招いてイリュージョンとコラボする企画があるの。一切仕掛けのないダイナミックなロープパフォーマンスをするわ。その生贄に捧げられるのはイリュージョニストの美しき妹。素晴らしいと思わない?" "その企画、本人は知ってるの?" "知らないに決まってるでしょ。チアキも言っちゃ駄目よ" "今、初めてあなたのことを酷い人って思ったわ。ニコル" "まあ、そう言ってくれて嬉しいわ" 12. 翌日の昼公演では、前の日になかったイリュージョンが登場した。 何度も通ってくれる熱心なマニアもいるので、毎日少しずつ構成を変えて���ログラムを決めているらしい。 人が立って入れるくらいの細長い箱が二つ、キャスター付きの台に乗って運ばれてきた。 箱は左側が赤、右側が青。どちらの箱も4つに区切られていて上から『1』『2』・・と番号が描かれている。 「おっ、ミスメイドが二つ!」「ダブルミスメイドやな」 近くに座っている男性の会話が聞こえた。イリュージョンのマニアらしい。
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エレインともう一人のアシスタントがケビンに手を取られて登場した。 ブロンドの髪をポニーテールに括ったエレインは赤いレオタードとタイツ。 もう一人はシルバーアッシュのポニーテールで青いレオタードとタイツ。 エレインの可愛さに負けない。この子もしっかり美少女だよ。 二人はそれぞれのコスチュームと同じ色の箱に入り、ケビンが蓋を閉じた。 ケビンは左の赤箱の区切りに金属板をそれぞれ2枚ずつ刺した。 右の青箱の区切りにも金属板を2枚ずつ刺した。 アシスタントのチアリーダーたちが赤箱を4つの小箱に分けて床に置いた。 同じように青箱も4つに分けて床に置いた。 思い出したよ。このイリュージョンはどこかで見たことがある。 確か、ばらばらになった小箱を間違った順に積んで前の蓋を開けたら、中の美女の身体もその順になっている。 美女の顔があり得ない位置にあって、にっこり笑うのよね。 ミスメイドっていうのか。さっきの男性の言葉を思い出す。 今やってるイリュージョンはそれを二人の女の子で同時にやっているんだ。 ケビンとアシスタントたちが小箱を左右に4個ずつ積み上げた。色も番号もでたらめだった。 赤の『1』は右側の上から2番目。青の『1』は右側の一番下。二人の顔はここにあるはずね。 ケビンが蓋を上から順に開けて見せた。 ああ、やっぱり。 思った通りの場所にエレインともう一人の女の子の顔があって笑っていた。 美少女二人の顔が上下に並んでいるのが不思議な感じ。
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「え? どうやって片側に二人も入ってるんだ?」 さっきの男性の声が聞こえる。えらく感心している様子だった。 イリュージョンをよく知らない私には、これがどれだけすごいのか分からない。 二人の女の子を同時にばらばらにして積み上げたのは面白いと思うけど。 ケビンとアシスタントたちは、箱をもう一度積み上げ直した。 違うよー! 客席から声がかかった。 それぞれ左右に積まれた箱の番号は正しく『1』『2』・・の順だけど、青と赤の色が入れ替わっている。 刺されていた金属板を引き抜き、蓋を開ける。 左側からエレインが出てきた。エレインのコスチュームはレオタードとタイツの下半分が青色に変わっていた。 右側からシルバーアッシュの髪の子が出てきた。彼女のコスチュームはレオタードとタイツの下半分が赤色に変わっている。
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楽しい! 会場スタッフでなければ私も拍手したいところだった。 ニコルの言った通りだわ。昔からあるイリュージョンでも演出次第でこんなに面白くなる。 「・・頭は下から2番目じゃないと困るだろ?」「やなぁ」 マニアの男性たちはまだ不思議そうに喋っていた。 13. "チアキ!" エレインに声を掛けられた。 彼女は女の子を連れていた。さっきの四分割イリュージョンにエレインと一緒に出ていたシルバーアッシュの髪の子だった。 昼公演と夜公演の間の空き時間ということもあって、彼女たちはラフなスポーツウェア姿だった。 エレインはスポーツブラの上にパーカーを羽織り、ボトムはボクサーパンツ。 もう一人の子は丈の短いタンクトップと膝上のショートパンツ。 "紹介するわ。彼女はジュリア・マーチン。あたしと同じ16歳でとっても身体が柔らかいの" "ジュリアです。よろしくね、チアキさん" "彼女はあたしのダミーボディもしてくれてるのよ" "ダミーボディって?" "そうか、知らないよね" エレインが教えてくれた。 美女の人体切断イリュージョンでは、切り離された下半身は人形を使うか、またはテーブルや箱の中に隠れている別の女性が脚を出して演じる。 この下半身役の女性をダミーボディと呼ぶそうだ。 9年前、視聴者参加番組のイリュージョンで切断されたエレインの下半身。 あのときテーブルの中から脚を出してぴくぴく動かしていたのがジュリアだった。 二人とも当時は7歳。 "出演が決まったとき、あたしと似た体つきの女の子を探してもらったの。それがジュリア。今は親友よ!" エレインは自分の腕をジュリアの腕に絡めて笑った。ジュリアは黙って微笑んでいる。 なるほどよく見れば二人は身長も体格も同じ。肌の色もよく似ている。 顔は別人だし髪色も違うけれど、首から下なら同じ女の子といって騙せるわね。 このジュリアという女の子、エレインと一緒に成長しながらずっとダミーボディを務めてきたのか。 "ねぇ、そろそろ" ジュリアが小さな声で言った。 "そうそう。あたしたちチアキに教えて欲しいことがあったの" "何かしら?" "これ、チアキでしょ?" エレインはパーカーのポケットからスマホを出して見せた。 その画面には緊縛写真が映っていた。全裸でスキンヘッドの頭を斜め下に向けて吊られた女性の後ろ姿。 ボンデージ・アートサロンでリチャードに縛られた私だった。 "どこでこれを?" "ニコルが送ってくれたわ" にやりと笑うニコルの姿が浮かんだ。 いつの間にか彼女のプランに乗せられている気がした。 "これは東京のギャラリーでシバリの仕事をしたときの写真よ" "ギャラリーで? まるでチアキが美術品になったみたい!" "そうね。12人のモデルが縄で縛られてディスプレイされたわ。ちゃんと作品プレートもつけてね" "わーお、クール!!" "ファンタジックだわ!" エレインとジュリアが揃って歓声を上げた。 "あなたたち、そういうことに抵抗は感じないのねぇ" 私が聞くとエレインは胸を張って答えた。 "当たり前じゃない。縛った女性をアーティスティックに飾るんでしょ? ぜひ見てみたいわ!" "・・チアキさん、イリュージョンにも美女のディスプレイがあるのを知ってますか?" ジュリアに聞かれた。 "イリュージョンにも?" "はい。首のない美女を椅子に座らせて、テントの中で見せるんです" "他にもあるわ! 美女の生首をテーブルに置くとか、ブランコに乗った下半身のない美女とか" "へぇ~" "そういうイリュージョンを展示する博物館が日本にもあったわ。マネキンじゃないのよ。生きた女性をディスプレイしてたの!" "何年か前に閉館しちゃったそうです。行きたかったのに残念だわ" "その博物館に行って自分たちはプロのイリュージョニストですって名乗ったら、やらせてくれたかしら" "あり得ないっ" "きゃはは!!" 勝手に盛り上がる二人を見て理解した。 ショービジネスの世界で9年もやってきたこの子たち、彼女たちにとってはシバリもエンタテーメントなのかもしれない。 "ところで、エレイン。さっき私に教えて欲しことがあるって言ってたけど" "そうっ、あたしたち東京でシバリ・パフォーマンスを見たいの。どこで見られるのか、チアキなら知ってるでしょ?" "まあね。教えてあげてもいいけど、それにはニコルの許可が要るわ" "ニコルならノープロブレムです。相談したらチアキに教えてもらいなさいと言われましたから" "オリエンタルなシバリを見たいわ! あたしたち、ヌードを見せられても平気よ。楽屋じゃみんな裸で過ごしてるんだから。・・あとはそうね、できるだけハード(strict)なパフォーマンスがいいなっ" 私、どうやら完全にニコルの計画の片棒を担がされている。 どこかの緊縛ライブに連れて行ってあげたら次は「縛られたいっ」て言い出しそう。 それで道を誤って将来有望な美少女イリュージョニストが私みたいな縄好きの変態女になっても知らないよ? 14. いよいよプレミアムナイト。 私はこの中で「エンベッド(embed)」��いうプログラムに出演する。 プレミアムナイトのステージはややアダルトな雰囲気で、アシスタントのベースコスチュームもチアリーダーからショーガールに変わる。 このコスチュームはチーム内ではショーガールと呼んでいるけれど、私から見れば「ウサギ耳と尻尾がないバニーガール」だ。 特にハイレグのカットがきわどくて、元々スタイル抜群の彼女たちがこれを着ると同性でも見とれる超足長セクシー美女になってしまう。日本人体形の私には素直に羨ましい。 オープニングでは、赤いビートルからチアリーダーが登場する替わりに、巨大なワイングラスの中にショーガールが20人出現した。 エレインのコスチュームも赤いボディスーツのショーガール。 タキシードを着けたケビンと並んで立つ姿には客席から「セクシー!」と声が上がったらしい。 私は楽屋で待機していた。 個室なんて使わせてもらえる身分ではないから合同の大部屋だけど、たまたま他の女の子たちがステージに出払っていて、楽屋には私一人だけだった。 ニコルが杖をついて入ってきた。 "心の準備はできた?" "どうにかね。これから舞台に出るなんて未だに信じられないわ" "立って。衣装をチェックしてあげる" ニコルは椅子に座ると私を前に立たせ、衣装を確認してくれた。 薄い水色のリネン(麻)ワンピース。スカートは膝下まで届くロング丈。 足元は裸足で何も履かない。下着もストラップレスのブラとショーツだけ。 スキンヘッドにはシルバーのロングウィッグ。ブルーのカラーコンタクトにシルバーのアイブロウとマスカラ。全身に白っぽいファンデーションを塗って一見白人のように見せている。 "OK! ・・はい、スカートの裾を持って" 言われた通りにすると、ニコルは私のショーツを膝まで下げた。 「ほぇ?」 "切迫感のない悲鳴ねぇ" "いまさらニコルに見られてもトキメキはないもの" "言ったわね。これならどう?" ぐいっ。 股間に異物が挿さった。 「はんっ!」 "薄型のリモコンバイブよ。完全防水でクリの吸引機能付き。強弱調整も私のスマホから自由自在" "ニコル、どういうつもり?" "いつかの願望をかなえてあげようと思って持って来たの。でもチアキが生意気だから罰として使うかもしれないわ" ニコルは私の腰にベルトを締めてバイブが落ちないように固定した。 ショーツを上げてスカートの裾を下ろす。 バイブが薄型のせいか、下半身のシルエットに変化はなかった。 "ほら、分からないでしょ? チアキが怪しいデバイスを着けてるなんて" "ケビンに気づかれないかしら。その、音で" "うふふ” やおらニコルはスマホを出すと画面をタッチした。 !! 膣(なか)のディルドが振動した。同時に前方の突起が吸われた。 ほんの数秒間の刺激。 それでも腰が引いて膝が立たず、ニコルに寄りかかってしまった。 "チアキってシバリモデルのくせに、こういう責めには弱いのねぇ" "はぁ、はぁ。・・ばか" "超静音タイプの最新型よ。何も聞こえなかったでしょ?" "そ、そんな。聞こえたか聞こえなかったかなんて分からない" "安心して。あなたが乱れて変な声上げない限り、誰にもばれないわよ" "もし私が乱れたらニコルの大切なステージが台無しになっちゃうのよ?" "おお、それは困るわ。わたしマネージャーを首になってしまうかもね。それじゃあ、ドゥ・ユア・ベスト!!" ニコルは手を振って出て行ってしまった。 こら、もうちょっと私をケアしてから行けよ。 あんたのせいで私、乱れてるんだぞ? 変な声出しそうなんだぞ? 15. イシュージョン「エンベッド(embed)」はちょっとしたストーリー仕立てになっている。 ケンタッキーの小さな村に現れた殺人鬼とその殺人鬼に誘拐される娘。 殺人鬼はケビン。そして娘の役が私だ。 幕が上がると、そこは夜の墓地。 背景に十字架の墓石群がシルエットで見えている。 舞台中央に高さ2メートル少し、幅3メートルほどのレンガ作りの壁。壁の中央部はレンガが崩れていて、下地の漆喰(しっくい)が露出している。 その漆喰の部分は大きく人型(ひとがた)に窪んでいた。 黒いフードを被った殺人鬼が現れた。 後に部下の男が二人が続いて、麻袋を担いでいる。 その麻袋をどさりと床に置いて、中から娘を引きずり出した。 娘は背中で組んだ手首を布で縛られている。 ・・目を開けると、自分を照らすライトが眩しくて客席は見えなかった。 ニコルに仕掛けられた高ぶりは、袋の中で待っているうちに治まったようだ。 股間のディルドが邪魔ではあるけど、慣れてしまえばどうということはない。 手首の拘束が外される。 ケビンが私を立たせて手を引いた。 私は抵抗する素振りをしながら彼に引かれてついてゆく。 漆喰の窪みの中に立たされた。 お腹にベルトを掛けられる。 私は大げさにもがいて逃れられないふりをする。 実際にこのベルトは漆喰の裏にある丈夫な金属板に繋がっていて、私が前方に転倒する危険を防止している。 部下の二人が大きなバケツを持ってきた。 二人とも工事作業員のようにヘッドランプの点いたヘルメットをかぶっている。 先がプロペラになった電動ミキサーをバケツに差し入れ中身を撹拌(かくはん)する。 どろどろに練り上がったのは漆喰だった。 男たちはコテで漆喰をすくうと、私が立つ窪みに塗り付けた。
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私は足元から次第に塗り込まれてゆく。 長い髪も容赦なく漆喰にまみれて埋められる。冷たい感触が薄い衣装の中まで染み込むのを感じた。 彼らのヘッドランプの青白い輝きの中、漆喰がしくしくと硬化する。 やがて私は漆喰に包まれ、顔面だけが露出する状態になった。 ケビンが私の顔を覗き込んだ。 手に漆喰を乗せたコテを持っている。 殺人鬼らしく憎々しい笑いを浮かべながら、その漆喰を私の顔面に塗り付けた。 数百人の観客が見ている前で、私は壁の中に生きたまま塗り込められたのだった。 その後、作業服の二人が漆喰の表面をコテでならした。 ケビンがコンコンと叩いて固まっていることを観客に示した。 16. 口にストローの先端が入って来た。 顔面に漆喰を塗り付けた直後、ケビンは漆喰の上から私の口を狙ってすばやくストローを刺してくれたのだった。 すかさず肺に貯めた空気を一気に吐き出す。 抵抗感。そしてずるっと空気が通る感触。・・成功! 硬化前の柔らかい漆喰を突き抜けたストローの中には漆喰が入っている。これを強く吹いて外へ飛ばさないと空気が通らない。 もたもたしていると詰まった漆喰が固まって吹き飛ばせなくなる。 絶対に失敗できない命がけの作業。まあ「命がけ」はちょっと大げさかも。 でもこれで私は呼吸できる。 長さ数センチのストローが私の命の通り道。 ちなみに、この漆喰。 私を塗り込めた後、あっという間に固くなった不思議な漆喰。 これはもちろん普通の漆喰ではなく、イリュージョン・メーカーのリチャードが開発した特殊な素材だった。 粘土の中にUVレジン(紫外線硬化樹脂)が練り込まれていて、紫外線を当てるとその箇所が数秒で硬化する。 固くなるとツヤのない普通の漆喰に見えるのが特徴だった。 その上、この素材は以前体験した発泡ウレタンと違って女の子に優しいんだ。 固くなるのは紫外線を浴びた表面だけだから、内部は柔らかい粘土状。 身動きできないことに変わりはないけれど、深呼吸くらいなら支障ない。 殺人鬼の部下役が点けていた青白いヘッドランプはUVランプだった。 彼らはコテで漆喰を塗りながら、巧みに紫外線を当てて表面を硬化させていたのだった。 漆喰を塗り始めて娘を完全に埋めるまでの時間は3分と30秒。 この作業が長くなると観客が退屈して間が持たない。 アメリカでの初演時は6分近くかかったけれど、皆で効率を上げる工夫をして時間を短縮してきたそうだ。 さて、私の出番はこれで終わりだった。 壁に埋め込まれた娘が生還するシーンはなく、別のダミー(人形)が出現することになる。 だから私はただ掘り出してもらうのを待っていればいい。 ひとときの生き埋め放置。 悪い気分じゃない、もとい、かなり嬉しい。 ドキドキしながらこの時間を楽しもう。 そう思った瞬間、下半身に装着されたバイブが起動した。 強烈な振動と吸引の刺激。 こ、これを忘れてたぁ~!! あんたには優しさっちゅうんものがないのかニコルぅ~。 17. 私の惨状をよそに、ちゃんとイリュージョンは進行していた。 舞台にエレイン扮する女性警官が登場した。 プレミアムナイトらしいセクシーなコスチュームは、半袖のポリスシャツにネクタイ、ローライズのショートパンツとロングブーツ。 ショートパンツとブーツはわざとワンサイズ小さいものを着けてぴちぴちの生足を強調している。 殺人鬼を追ってきた彼女は、彼らを逮捕しようとして逆に捕まってしまう。 エレインは目隠しと猿轡、手錠を掛けられて薄べったい棺桶の中に閉じ込められる。 棺桶の前面の蓋を開けると中でもがく彼女の姿。 ケビンはその蓋を閉じ棺桶に火を点けた。 燃え上がる棺桶とエレインの悲鳴。 やがて棺桶は燃え落ち、その場所には仰向けに横たわった骸骨が現れた。 同じタイミングで背後の漆喰壁が崩れ落ちた。そこに現れたのはベルトで拘束された娘の骸骨。 高笑いする殺人鬼。どよめく案客。 そこへ天井からロープが下がって来た。ロープの先に掴まって降りてきたのはエレインだった。 彼女が合図をすると大きな網が落下してきて殺人鬼の一味を覆う。 網の中でもがくケビンとその部下たち。その手に手錠を掛けてキュートなポーズをとるエレイン。 脈絡なくショーガールのダンサーたちが現れてエレインと共に踊った。 最後にもう一度全員でポーズ。 拍手。 18. 棺桶の中でもがいていたのはエレインのダミーボディであるジュリアだ。 エレインはその間に舞台の天井に移動していたのだった。 棺桶と一緒に燃やされたジュリアがどうなったのか、私にはさっぱり分からないけどね。 そして崩れた漆喰壁の仕掛け。 私が埋められていたはずの壁から骸骨が現れたのは、レンガ壁と漆喰壁の構造に秘密がある。 長さ3メートルのレンガ壁。中央でレンガが崩れた箇所の幅はおよそ70センチ。その開口部を通して見える下地の漆器壁。 実はこの漆喰壁はレンガ壁に密着していない。 レンガ壁の後方で引き戸のように左右にスライドできる構造になっている。 ケビンたちが私を埋めた後、漆喰壁は全体が左へ90センチスライドする。 私を埋めた部分はレンガ壁の後方で左へ移動し、代わりに右から骸骨を仕込んだ部分が出てくるという次第だ。 漆喰壁はガラスや鏡と違って表面の凹凸が見えるから、観客の前で急にスライドすると動いているのが分かってしまう。 でもゆっくり動かせばどうだろう? そう、女性警官が登場し、棺桶に閉じ込められ、火を点けられるまでの時間、たっぷり3分かけて移動すれば(分速30センチ!)気づく人はいない。 ニコルはこのからくりを誇らしげに語ってくれた。 考案したのはリチャードなんだから、あんたが自分で考えたみたいに自慢するのは止めなさい。 19. どれくらい過ぎたのだろう。 私は壁の中からスタッフに「発掘」された。 硬化した表面を電動ハンドカッターで切り出し、粘土状の漆喰を掻き出して中の女体を引き出す。 私は汗と涙と愛液でぬめぬめになっていた。 漆喰にまみれて固まったウィッグはスキンヘッドから剥がれ落ち、一部が硬化した衣装も破れて脱げていた。 スキンヘッドが都合いい理由はこれだ。もし地毛があったらボールドキャップで覆わないといけない。 ニコルがアメリカでやっていたときも髪の毛の処理が大変で、思い切って剃ってしまったんだって。 下半身に装着されていたリモコンバイブはしばらく前から停止していた。 私を掘り出したときニコルがさっとタオルで隠してくれたけれど、スタッフの何人かには絶対に見られたな。 もしバイブが動いたままだったら、私はどうなっていただろう。 きっと壁の中からよがり続ける女が発掘されて、それはそれで面白いと思うぞ。 さすがにそれを避けたのはニコルの優しさなんだろうね。 "今、��時?" "あら、前もどこかで同じ質問をされた気がするわ" "いいから、何時なの?" "22時よ" "え? もう終演時間を過ぎてる?" ニコルはにたぁっと笑った。 "すぐに出してあげたかったけど、この劇場バックステージが狭くて。・・ほら、お客様がいるのに舞台袖で漆喰を掘るなんてできないでしょ?" "それが今になって分かったの?" "そうなの。ごめんなさいね" んな訳ない。絶対に確信犯だ、この女。 今22時ってことは、私の生き埋め時間は3時間か。 バイブが止まったのは彼女の優しさなんかじゃない。ただの電池切れだ。 "チアキ、ひょっとして怒ってる?" "怒ってるわ。いろいろな理由でね。・・でも楽しかったから許す!" そう言うと私はニコルの右手を掴んでぐいと引き寄せた。 杖をついた彼女は簡単によろけて、私はそれを両手で受け止めた。 ぐずぐずに汚れた身体で彼女をハグする。 "わ、漆喰がつくじゃない!" "私をオモチャにして遊んだ罰よ。我慢しなさい" "・・よかったわ。楽しんでくれて" "ニコルがやったときはどうだったの? 楽しかった? それとも切なかった?" "ん-、忘れちゃったわ" "あ、ずるーい!!" 20. 2週間の公演でプレミアムナイトは4回。その全部で私は壁の中に3時間埋められた。 リモコンバイブは止めるとニコルは言ってくれたけど、逆に私の方から要求して装着を続けてもらった。 あの時間を何の刺激もなく過ごすなんて、それこそ切なくて我慢できないと思ったからだ。 チームのスタッフは見て見ないふりをしてくれたようだ。 千秋楽となる最終日は昼の部で終了した。 そして夜は日本公演成功のアフターパーティが開かれた。 少し遅れて会場に来たら、立食パーティの真ん中で盛り上がっていたのはジャイ・アイ・ケーの小木洋子社長だった。 「千亜季ちゃ~ん!!」 目が合うと両手を振って呼ばれてしまった。この人はやたら声が大きいんだ。 「プレミアムナイト見たわよ! すごかったわね~っ」 「それはどうも」 「リックも一緒に見てたのよっ。本当はこのパーティにも出席する予定だったのに奥様に6人目が生まれるとかでサンフランシスコに帰っちゃったわ」 「そうですか。・・え、6人目?」 リチャードには会いたかったな。 "チアキ、この人と知り合い? 誰なの彼女は?" ニコルに聞かれた。 "やたらフレンドリーだからメンバーの誰かの友人と思っていたら、誰も知らないのよ" "この人は東京にあるモデル事務所の社長よ" 「あ、どーも! マイ、ネーム、イズ、ヨーコ、オギ! コール、ミー、ヨーコ!! ・・ところで千亜季ちゃん、この人誰?」 どうやってパーティに潜り込んだのかは謎ながら、やたらフレンドリーな小木社長はパーティ会場を勝手にうろうろして誰とでも乾杯しまくり、そして仲良くなった。 とてつもない陽キャだね、この人は。 気がつけばエレインとジュリアを相手に3人でけらけら笑っている。 怪しい英語しか喋れないくせに、どうやって16歳の女の子たちを笑わすんだろうか。 "チアキ! ヨーコってイリュージョンの専門家よっ" "いろいろ詳しくて驚きました" "そうなの、あたしたちがやったダブルミスメイドの考案者を教えてくれたわ。全然知らなかったわ!" "リチャード・フジタという人が発明したトリックだそうです" 「おほほほっ。それくらい常識よ。ユア、パフォーマンス、ベリー、ベリー、インプレッシブ!!」 "わお、ありがとう!" エレインとジュリアが箱に入って4分割されたイリュージョンが蘇った。 あれもリチャードの作品だったのか。私だって知らなかったよ。 そういえば、この子たちから頼まれた宿題があったな。 二人が帰国するまでにどこかで緊縛を見せてあげないといけない。 未成年だからねぇ。誰か頼める人いるかしら。 「チアーズ!! 大丈夫よっ。どんなアルコールだっていただくわ!」 社長は今度はケビンをつかまえて乾杯していた。 「はい、ご返杯~。え? ケビンくんお酒飲めないの? ならミネラルウォーターで、はいっ、チア~ズ!!」 ケビンが苦笑している。あのぐいぐい行く感じ、すごいスキルだわ。 はたと気がついた。 目の前ではしゃいでいる小木社長。この人は緊縛関係のプロデュースをしてるんだった。 21. シバリ・パフォーマンスを見せられないか。 私の相談を社長は二つ返事で引き受けてくれた。 その上、スタッフ含めて経費はすべて事務所側で持ってあげてもいいとまで言ってくれた。 「その子たち、えっと・・エリーとジュリー」 「エレインとジュリアです」 「そうそう。何を見せても構わないのね?」 「はい」「じゃあ・・」 社長はにたぁっと笑った。 ニコルとそっくりな笑い方だった。 「エリーとジュリーには中途半端なパフォーマンスじゃ駄目だわ、本格的な責めを見せましょ」 だからエレインとジュリアだってっば。 「それから受け手には千亜季ちゃんを指名するわ。もし袖原千亜季以外のモデルを使う場合は経費を全額請求します」 げ。やられた。 「あとね、拷問の記録動画は株式会社ジャイ・アイ・ケーが権利を有します。配信利益が出た場合は二次使用料を支払うわ。だってギャラなしで出演してくれるんでしょ? 感謝してそれくらいはお応えするということで、どう?」 「分かりました。一言だけいいですか?」 「なあに?」「鬼!」 「まあ、そう言ってくれて嬉しいわ!」 22. という訳で、ここは東京近郊のスタジオ。 吊床や磔などの設備があって水責めもできる和風のSMスタジオを小木社長が確保してくれたのだった。 スタッフは緊縛担当のテルさんと他に助手の男性が一人。 テルさんは事務所で最古参の縄師で、私に『耐久チアキ』のニックネームをつけてくれた人でもある。 "わーお、オリエンタルな会場ね!" スタジオに来たエレインが喜んだ。 彼女と一緒にジュリアとニコルも来ている。お客様はこの3人だけ。 スタジオの反対側にエアマットを敷いてエレインとジュリアに座ってもらった。膝の故障で床に座れないニコルにはパイプ椅子。 ニコルはケビンも連れてきたいと思ったらしいけど、彼はシアトルから来たボーイフレンドと京都旅行に行ってしまって不在だった。 小木社長が今日のコンテンツは女囚責めであることを説明した。 さらに、一人の女囚が三種類の拷問を受けること、それぞれの拷問は女囚が意識をなくすか30分耐えきるまで継続すること、そしてどの拷問にもトリックは一切ないことを説明した。 それを聞いた3人が神妙な表情になったから、どうやら社長のカタカナ英語でもちゃんと伝わったらしい。 手首を背中で縛られた私が登場した。 衣装は浅黄色の女囚衣。着物の下に六尺褌の締め込み。 髪は腰まで届く黒色ロングのウィッグをつけ、それを首の後ろでまとめて荒縄で縛っていた。 "チアキなの・・?" エレインが小さな声で聞くのが分かったけれど、私は何も答えない。 BGMなし。照明は固定のスポットライトのみ。 煌びやかなイリュージョンショーでもアーティスティックなシバリでもない、地味で残酷な女囚責めが始まった。 1本目「石抱き」。 私は算盤板(そろばんいた:三角の突起を並べた板)に正座させられ、背後の柱に上体を縛り付けられた。 膝に石板を乗せられる。江戸時代の記録では石板1枚の重さは約50キロもあったらしいけど、私は20キロを乗せられた。 それでも脛に食い込む算盤板の痛みは凄まじくて、ぎゅっと閉じた目から自然と涙が滲む。 10分経過して、石板が1枚追加される。 さらに10分が過ぎて、もう1枚追加。合計3枚60キロが膝に乗せられた。 テルさんは私の表情を見て口に丸めた手拭いを噛ませてくれた。そういう気配り拷問では反則じゃないかな。でもありがとう。 開始から30分経過した。 さっさと落ちて(=失神して)やろうと思っていたのに最後まで苦しみ続けることになった。自分の耐久性が恨めしい。 石板を外されるときに最高級の激痛。 うわぁ!! ついに声を出してしまった。 縛めを解かれてその場に昏倒。視界がぼやけてエレインたちの様子が分からない。 ほとんど休みなく新しい縄が手首と足首に掛けられた。 2本目「駿河問い」。 手首と足首をまとめて逆海老に縛られ天井の滑車から吊られた。さらに口縄を掛けて後方に引き足首に繋がれた。 腰に縄を巻いてコンクリートのブロックを吊られる。重さ10キロ。 ぐっと腰が下がった。折れそう。石抱きのダメージで筋肉に力が入らない。 そのまま滑車を引いて高さ2メートルまで引き上げられた。ゆっくり振り子のように揺れる。 テルさんが手を伸ばし私をぐるぐる回して縄を捩じった。 手を離すと私はよじれた縄の戻りに合わせて回転する。一定回転して今度は逆向きに回る。 頭に血が上るのが分かった。江戸時代の拷問ではこれが続くと視界が真っ赤になって目鼻から血を吹いたらしい。 30分でそこまでいくのは無理。 そう思っていたら、今度はテルさんがブロックに両手を掛けてぶら下がった。 背骨から脳髄まで衝撃が走った。私は口縄の下で悲鳴を上げ、その勢いでウィッグが落ちた。 "チアキ!!" エレインとジュリアが同時に叫ぶのが聞こえた。 何度も繰り返して回された。 テルさんは度々ぶら下がり、さらに途中でコンクリートブロックを1個追加された。 3本目「水責め」。 私はまだ意識を保っていた。 手先と足先が充血して真っ赤だった。縄の掛かっていた箇所の感覚がない。 着物を脱がされて締め込み一本になった。そうして今度は手首を高い位置で交差させた高手小手縛り。 膝と太もも、脛を縛られて滑車で逆さに吊られた。 目の前にイリュージョンチームの3人がいる。上下逆の景色の中でエレインとジュリアが手を握り合って裸の私を見ていた。 頭の下に木桶が運ばれてきた。直径1メートル。中には水が入っていて、逆さ吊りの私を膝まで沈められる深さ。 逆さ吊りの状態でバケツの水を顔面に浴びせられた。 一瞬息が止まり、子宮がきゅんと縮んだ。 拷問続きでふらふらのはずなのに、まだ被虐に興奮する私。 テルさんの合図で拷問が始まった。 ざぶ。 私は一気に水中に沈み、そして引き上げられた。 水責めの拷問は単純。ただ女囚を沈めたり引き上げたりするだけ。 その間に私が意識を無くしたら拷問タイムは終了する。 滑車の縄を引く男性たちは大変だと思う。私、決して重くないつもりだけど、きっと汗だくになるね。 ざぶん。口と鼻から空気が抜ける。そのまま水中でしばらく苦しむ。 引き上げられて激しくむせた。苦しい。 さぶん。水を飲む。苦しい。 このまま死ぬかも。それでもいいって思ってしまう私、やっぱりドマゾ。 23. 「・・千亜季ちゃん、千亜季ちゃん!」 軽く頬を叩かれた。ん、んん~っ。 「ほれっ」 背中を叩かれた。げぼっと水を吐く。 「脈拍正常、呼吸もOK。・・大丈夫、しばらく寝てなさい」 暖かい毛布に包まれた。私は再び眠りに落ちる。 気がつくと私はエアマットで寝ていた。 手を動かすと自分の乳房に触れた。縄の縛めはなくなっていた。 "チアキ、起きた?" 隣にニコルが座っていた。 "1時間くらい寝てたわよ。あの女社長は救護の専門家なの? てきぱき処置していて感心したわ" "あの人のことは何も知らないのよ。ただの仕事相手だから" "そう。でもチアキが無事でよかった" ニコルはにっこり笑った。 "抱きしめてあげたいけど、できないの" ニコルは縄で緊縛されていた。ジャケットの上から高手小手縛り。 "あなたを拷問した紳士が縛ってくれたわ。これほど完璧なシバリは初めて。被虐の喜びを実感するわね" "ショーはどうだった?" "あれをショーと呼ぶなら最低ね。わたしもあの子たちもスタイリッシュなシバリ・パフォーマンスを期待していたから。・・ただ" ニコルは真面目な顔になって言った。 "告白するわ。あの拷問を最後まで目を反らさずに見ていられるとは思わなかった。チアキが苦しむ姿は、同じ女として、興奮したわ" "正直に答えてくれてありがとう。そういえばエレインとジュリアは?" "今、着替えてるわ" "?" エレインとジュリアは私の拷問を見てショックを受けた様子だったという。 しばらく茫然としていたけど、やがて二人で相談してニコルに申し出た。 "自分から縛られたいって言ったのよ、あの子たち" "それは何となく予想していたけれど" "拷問も体験したいって" "あらま" "そうしたらこちらの社長さんから、水責めならできるって" "え、16歳に水責め!? あの社長、いったいどういうつもりで" "チアキのときより安全に気を配ってくれるそうよ" "でも、" "私は反対しなかったわ。あの子たちの将来に役に立つと思ったから" "だからニコルも縛られたの?" "ああ、これは" ニコルは恥ずかしそうに笑った。 "二人が着替えに行ったあと、縛りましょうかって誘ってくれたのよ。断ったら申し訳ないでしょ?" "あなたのような図太い人でも頬を赤らめるのねぇ" 赤くなった顔を一層赤くしてニコルが何か言おうとしたとき、スタジオのドアが開いた。 小木社長に連れられてエレインとジュリアが戻って来た。 二人とも髪を括っていて、ビキニの水着を着けている。 "チアキ!! 起きたの? どこも悪くない?" "ニコル!! どうして縛られてるの!?" 24. テルさんがエレインとジュリアを緊縛した。 エレインは肘を折った右手を肩の上から、左手を下から捩じり上げて繋ぐ鉄砲縛り。 ジュリアは左右の掌を背中で合わせた後ろ合掌縛り。 若いっていいね。 柔らかくてしなやかで、それに縛られても可愛い。 二人は縄で連結されて背中合わせになった。 そうして足首に縄を掛けられて、水が入った木桶の上に逆さ吊りにされた。 「じゃっ、オーケー!?」 横に立つ小木社長が聞く。彼女たちは揃ってイエスと答え、胸いっぱいに息を吸った。 さぶん。 二人は水中に膝まで沈んだ。 きっちり5秒数え、引き上げる。 "わーお!" エレインが叫んだ。ジュリアは黙って耐えている。 少し置いてもう一度水中へ。 私とニコルはその様子を見ていた。 マーランド・イリュージョンチームの将来を担う女の子たちの水責め拷問。 彼女たちに顔を向けたままニコルが言った。 "チアキ、アメリカに来る気はない?" "あら、まだ私を壁に埋めたいの?" "違うわ。わたしの膝は次のツアーまでに治る見込みだもの" "じゃあ次はニコルがあの特別な時間を楽しむのね" "そう。・・あなたが一緒に来てくれたらバイブのコントロールを頼めるんだけど" "やっと本心を明かしたわね。他の人には頼みにくいプログラムだなんて言って、実は自分が楽しんでたんだ" "もうチアキは騙せないもの" ニコルは私を見て笑った。私も笑い返した。 やっぱりニコルは私と同じだった。 "じゃあ私をアメリカに呼ぶ本当の理由は何? まさかイリュージョンチームのアシスタントに正式スカウト?" "それは断じてあり得ないわ。身長も低い、ダンスも踊れない。そんな人を雇う訳ないでしょ" "そこまではっきり言われるとショックだなぁ" "チアキに来て欲しいのは、将来チームでシバリ���するためよ" "エレインを緊縛するって話、本気なのね?" "もちろん。ペアでジュリアも縛るわ。そのときはプロのシバリモデルから指導して欲しい。ステージのプロモートも協力をお願いするわ" "私にできるかしら" "あなたの経験なら問題ないわ。来年にはプロジェクトをスタートする予定よ。役職はサブマネージャー。どうかしら?" 行きたいと思った。 シバリのサポートはともかく、ニコルと働けるのはとても魅力的なオファーだった。 さぶん。 エレインとジュリの水責めが続いていた。 二人とも、ぎゅっと目をつぶり、顔を赤くして耐えている。 テルさんが二人に顔を寄せて、ここで止めるかどうか聞いている。 二人は揃って頭を横に振った。 もうこれ以上は無理という意味か、それとも止めないで欲しいという意味か。 さぶん。 水責めが再開された。あの子たち、拷問体験の継続を希望したんだ。 エレインが水を吐いた。ジュリアは少し咳き込んでいるようだ。 きゅん、と胸が鳴った。 きっと苦しいはず。でも止めてと言わない。助けを求めない。 何て健気なんだろう。16歳の女の子たち。 可哀想。でも綺麗。 私も責めて欲しいと思った。 あれだけ自分が拷問を受けた後なのに、エレインとジュリアの拷問を見て羨ましいと思う私。 縛られたい。苦しめられたい。 私はニコルに答えた。 "素敵な提案だわ。本当にありがとう。・・でも私は、ただの緊縛モデルでいたい" "アメリカには行かない、という意味?" "そう。日本で、ぎちぎちに縛られて、モノみたいに飾られて、ときどき拷問も受けて苦しむモデルでいたいの" "分かった" ニコルは微笑んでくれた。今までにない優しい表情だった。 "それがチアキの答えなら、あなたの道を邪魔はしないわ" "あの子たちが18歳になってマーランドイリュージョンでロープ・パフォーマンスをするとき、そのときはあなたの国まで見に行くわ" "待っているわ" 私は毛布を身体に巻いて立ち上がった。 椅子に座った状態で高手小手緊縛のニコルの背に立つ。 そしてやおら彼女に抱きついた。 首筋を舐める。胸を揉む。キスをする。 "きゃ! や、止めてっ" "さっき気がついたの。ニコルは縛られてるのよね。そして私は自由" "チアキっ、お願いだから・・" "このチャンスを無駄にするなんて、私にはとてもできないわ" "ああ~~~っ!!" エレインとジュリアの傍らにいる小木社長が何事かとこちらを見た。 滑車の縄を引くテルさんも手を止めて驚いた顔をしている。 エレインとジュリアは高く引き上げられて、全身からぽたぽた水を垂らしている。半ばグロッキーの彼女たちに私たちは見えていないだろうね。 "うぎゃあ! け、け、け" ニコルは身を捩りながら、ついに変な声を上げて笑い出した。 社長が吹き出した。男性たちも笑っている。 16歳の美少女を二人逆さ吊りにして水責めにかけながら、同性のセフレ美女を縛って弄ぶ。 これって、むちゃくちゃ贅沢じゃね? 私は思いながらニコルのスカートに手を入れるのだった。
~登場人物紹介~ 袖原千亜季(そではらちあき):24歳、フリーの緊縛モデル。帰国子女で日本語/英語のバイリンガル。髪を剃ってスキンヘッドにしている。 ニコル・ランディ(Nicole Randy):34歳。アメリカ人。マーランド・イリュージョンチームのマネージャー。事故で左足を怪我。彼女もスキンヘッド。 ケビン・マーランド(Kevin Marland):18歳。アメリカ人。マーランド・イリュージョンの主役イリュージョニスト。9歳のときから妹と共にイリュージョンに出演。 エレイン・マーランド(Elaine Marland):16歳。アメリカ人。ケビンの妹。同、イリュージョニスト・アシスタント。 ジュリア・マーチン(Julia Martin):16歳。アメリカ人。エレインの親友。イリュージョンでエレインのダミーボディを務める。 リチャード・フジタ(Richard Fujita):50歳。日系アメリカ人。ボンデージアーティスト。本職はイリュージョン・メーカー。 小木洋子:モデル事務所ジャイ・アイ・ケー社長。 テルさん:モデル事務所専属のベテラン縄師。 久しぶりの新作です。Bondage Model シリーズとなると4年ぶり。 イリュージョン+緊縛拷問の展開はそのままキョートサプライズと称しても通りそうな内容になりました。 仕切ってくれるのはもちろん洋子社長。 この人、スーパーウーマンなので作者にとってありがたいキャラです。 本話はプロのイリュージョンチームの公演なので、できるだけオリジナルで新しいイリュージョンを考えました。 見た目の不思議さだけでなく、それを実現するトリックを考えるのはやっぱり楽しいですね。 では、以下いろいろな話題とネタばらしです。 (イリュージョンのトリックに触れている箇所があるので小説をお読みでない方は、先に本文の方をご覧いただくことをお勧めします) ○イリュージョニストの兄妹 現実世界の兄妹イリュージョンはこの動画で知りました。  youtube.com/watch?v=hh2eGrLXxpk (Twitter で紹介した URL は非公開になったようなので、同じ内容で別の URL です) 彼らが今もプロのイリュージョニストとして活躍していることを知ったとき、ケビンとエレインのアイディアが浮かびました。 4章のイリュージョンはこの動画の雰囲気に似せています。 なお冒頭記したように、いらぬ誤解を避けるため兄妹のプロフィールをここに書くのは止めておきます。 上記動画に名前が出ていますので、興味のある方は辿って下さい。 ケビンとエレインの設定は次の通りです。 元々、兄妹は芸能事務所に所属していた無名の子役タレントでした。 ケビン9歳エレイン7歳のとき、視聴者参加番組(実態はタレント事務所が新人を売り込む番組)に出演が決まり、指導を受けて初めてイリュージョンを練習。 そのとき事務所がダミーボディ役として見つけてきたのがエレインと同い年のジュリアでした。 番組内のイリュージョンは大成功。プロのイリュージョニストから声がかかりステージに参加。 3年後独立してマーランド・イリュージョンチームを結成。このとき舞台演出家のニコルをマネージャーとして招きました。 ○水槽イリュージョン ケビンとエレインがテレビの生放送で披露した円筒形水槽からの脱出と人体出現。 美女は一人出現するだけでもイリュージョンとして面白いと思いますが、出現イリュージョン大好きな私の趣味で三人出現させました。 まずケビンが蓋の上に脱出→ほぼ同時に美女が一人出現→もう一人出現して水槽内は二人に→この二人を水槽の外に出した後もう一度蓋をする→最後の一人(エレイン)が出現、という流れ。 マジックとしては従来からある水槽イリュージョンの組み合わせなので、トリックもそれらの組み合わせでできると思います。 最後の一人の出現は少し悩みましたが、蓋を一旦上昇させてもう一度下ろせばよい(一瞬視界から消える・・あ、書いちゃった^^)ことに気づいて解決しました。 ○ビートルの出現 ビートルそのものの出現より、ビートルの中に女の子がたくさん詰まっているのを見せたかったイリュージョンです。 その昔はビートルに何人乗れるかの競技があって、ときどき新聞やテレビで報道されてましたね。 ギネス記録は25人とのこと。これはたぶん室内のみに収まった人数です。 本話ではトランクやエンジンルームからもチアリーダーを登場させましたが、あの狭いスペースに複数の人間が入れるかは謎です。 ビートルを改造(例えばエンジンを外すなど)して空間を広げるのは自分としては反則。 極端に軟体の女性がわずかな隙間に収まっていたことにしたいですね。 ○チアリーダーを食べるマスコット アメリカのNFL、NBAなどのスポーツリーグには、人間を食べてしまうマスコットキャラクターたちがいます。 この動画はおそらく一番有名なNBAトロントラプターズの The Raptor くんです。  youtube.com/watch?v=1_GmKqln-Fo ご覧のようにエアーで膨らむ(inflatable)構造なので、女の子をお腹に呑んだ状態で歩き回ることができます。 初めて見たときはそのブラックさに驚きましたが、いろいろなマスコットがチアリーダーを呑み込むシーンを見ているとそれが楽しみになってしまいました。 このような着ぐるみは正にイリュージョン向きですよね。 ケビンとエレインの瞬間移動ネタに使わせてもらいました。 実際のステージで十分可能なトリックだと思います。どこかでやってくれないかな~。 ○ダブルミスメイド ダブルソーイング(美女二人を同時に人体切断)はよくあるイリュージョンのネタですが、ダブルミスメイドはなかなか見つかりません。 ネットで情報を探すと、これくらい。  Mismade Girl|Celebrity Wiki この記事に載っている Lance Burton さんのダブルミスメイドはたぶんこれ。  youtube.com/watch?v=Af07xBczO3k 同じ記事にある、女優さんのビキニブラが入れ替わるダブルミスメイドは画像/動画を見つけることができませんでした。 ご存知の方、またその他のダブルミスメイド動画をご存知の方、ぜひお教えくださいませ! せっかくダブルミスメイドをするなら、左右で同じミスメイドをやるのはもったいないですよね。 そこで本話では、  1) 切断して積み直した際、女性二人の頭部を右側にまとめて積む。  2) 上から3段目の箱が頭部、4段目の箱が足先というミスメイド定番パターンにしない。  3) 最後に再構成するとき、女性二人のコスチュームを互い違いに入れ替える。 を工夫しました。 トリックの実現方法としては、Barton さんのように左右繋がったテーブルに乗せること、さらにテーブル厚みを確保してデザインの工夫でそうと分かり難くすること。 上から2段目のエレインはコンプレスイリュージョンのようなイメージです。 従来のミスメイド以上に中(二人)と外で息を合わせる必要がありますけどね。 ○エンベット・イリュージョン embed 本話のメインとなるイリュージョンです。 これをやりたくてチアキさんをスキンヘッドにしてしまいました。 女性を壁に埋めたように見せかける(フェイクで済ませる)方法はいくらでもあるだろうに、本当に埋めて固めるのは我ながら無茶苦茶。 さすがにファンタジー満載なので実現するのは難しいでしょう。 さて、無茶苦茶なりに壁埋めを実現する方法を考えました。 石膏やセメントは硬化時間や発熱の理由から却下。 最初に考えたのは、本話5章でも使った発泡ウレタンフォームです。 発泡ウレタンは液状なので壁面に塗るのは困難ですが、壁面に立たせた女性に噴射器で吹き付ければどんどん固まってくれそうな気がします。 しかし猛毒のイソシアネートを生じるためマスクとラバースーツが必須であると分かり、イリュージョンには適さないと判断して諦めました。 (発泡ウレタンの注意事項は故 Jeff Gord 氏サイトの Forniphilia 解説ページに詳しいです。成人了解が必要なサイトなので URL は載せません) 次に目をつけたのが紫外線硬化樹脂でした。 紫外線を浴びた箇所が数秒で硬化するゲル状の素材なので、壁面にコテで塗り付けることができそうです。 さらに、歯科治療に使われるほどの素材なので人肌が触れてもおそらく安全。 難点は費用ですが、これはファンタジーで押し通します。マーランド・イリュージョンチームはきっとお金持ちですww。
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イラストは久しぶりに3種類も描きました。 相変わらず拙い絵ですが、百聞ならぬ百文は一見にしかず、緊縛やイリュージョンの構図が伝わったかなと思います。 それではまた。 最後までお読みいただき、ありがとうございました。 [2023.8.10 追記] こちら(Pixiv の小説ページ)に本話の掲載案内を載せました。 Twitter 以外にここからもコメント入力できますのでご利用ください。(ただしR18閲覧可能な Pixiv アカウント必要)
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t82475 · 2 years
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高校生探偵 小江戸タケシの冒険
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1. 「アクション!」 カチンコが鳴った。 ブレザージャケットの制服を着た少年を黒ずくめの女性軍団が取り囲んだ。 少年は高校生探偵の小江戸タケシ。軍団は悪の組織『ZZ』の戦闘員である。 女戦闘員は歌舞伎の隈取のような化粧をしているので顔立ちは分かりにくいが、身体の方は超ハイレグレオタード、網タイツとブーツを着用して全員が相当なナイスバディである。 「へっ」 タケシは親指で鼻の下を擦ると、ジャケットを脱ぎ捨てワイシャツ姿になり空手の構えをとった。 彼はあらゆるスポーツ格闘技が得意なのだ。 「かかりなさい!」 組織の女幹部ミゼラブルが合図をすると、全員が一斉に襲い掛かってきた。 一斉にといっても一人ずつ順番に挑んでくるのがヒーローもの戦闘シーンのお約束である。 最初の戦闘員を正拳で倒し、次の戦闘員に回し蹴りを放つ。三人目はジャンプしてかわし、四人目にデコピンをかまして倒した。 女が相手だからといって悪の組織に容赦はしないのだ。 10人以上いた戦闘員が倒されるまで3分もかからなかった。 「へっ」再び鼻の下を親指で擦るタケシ。 そのとき物影から見ていた女子高生が叫んだ。 「タケシっ、後ろ!」 タケシと同じ高校の同級生である彼女は、名前を神木ユウという。 ユウがどうしてタケシを呼び捨てにするかというと、二人は近所に住む幼馴染なのであった。 「!?」 タケシが振り返ったその瞬間、ミゼラブルが巨大な棍棒を振り下ろした。 彼女は伊達に悪の組織の幹部に上り詰めた訳ではない、超セクシーな美女なのである。 101-59-92(公式)のダイナマイトボディの肌を覆うのは肩アーマーと乳爪の生えたブラ、Tバックボトム。あとは真っ赤なレザーの手袋と膝上丈のピンヒールブーツのみ。 ブラは左右に分かれてドッジボールのような乳房を両側から支えている。戦闘アクションの際はこの胸が大きく揺れて相手の目を錯乱するのである。 さらにピンヒールは高さ20センチ。バレリーナのような姿勢を強要されるので歩けるようになるまで1週間かかったと着用している本人がブログで告白したほどである。 説明が長くなったが、このように恐ろしい敵にタケシは背中を攻撃されたのである。 「ぐわ!」ダメージを受けて膝をつくタケシ。 「ほぉー、ほっ、ほっ」 ミゼラブルは高笑いしながら逃げようとするユウを捕まえた。 「さあ、可愛い彼女を無事に生かしておきたければ、いさぎよく組織の捕虜になりなさい!」 ユウの腕を後ろに捻り上げる、 「ああ、タケシっ。助けて・・」 絶体絶命である。 ヒーローものにおいて、時にヒロインはあまりに軽々しく敵に捕まりヒーローを困らせるのだ。 「卑怯だぞ!」 膝をついたままタケシは悔しがる。 と、何かを思い出したようにズボンのポケットから小さな包みを出した。 それはユウが探偵稼業の安全を願ってタケシにプレゼントした伏目稲荷大社のお守りであった。 「これだ!」 目にも止まらない速さでお守りを投げるタケシ。 それは輝く光線となってミゼラブルの胸に突き刺さった。 「ぎゃあ~っ」 ミゼラブルのブラが乳爪ごとはじけ飛んだ。 一瞬、ぶるんと揺れる巨乳が見える。 ちなみにブラをはじけ飛ばしたシーンはCG合成ではない。 マニアの熱い声に応え、ワイヤーワークを駆使してミゼラブルの胸から本当にブラを飛ばしているのである。 技術チームが執念で実現した特殊アクションなのだ。 「やったわね! おぼえておきなさい!!」 ミゼラブルは谷間を強調するように両手で巨乳を押さえ、くねくねと身を捩らせた。 その姿は次第に薄くなり。やがて背後の景色に溶けて消える。 後には、ユウ、タケシ、そして地面に転がったままの女戦闘員たちが残された。 「よぉ・・、お前を守ったぜ、ユウ」 タケシは力尽きてその場に倒れこんだ。 「タケシ!!」駆け寄るユウ。 「死なないでっ、タケシ!」 この程度のダメージでヒーローが死ぬ筈はないが、それでもユウは涙をこぼしながらタケシに覆いかぶさる。 「へっへっ・・。お、お前のこと、」 タケシはいいところまでセリフを言って意識を無くした。 「タケシぃ~!!」 ユウがタケシに抱きついた。 そのまま顔を近づけ、唇をタケシの口に押し付ける。 2. 「はい、カット!! OKです!」 「ぷは~っ!!」 ユウ役の少女は唇を離して大きく息をついた。 「由布子ちゃん、キスシーンでぷは~はないんじゃない?」 タケシ役の俳優が不満気に言った。 「だっていつまでもカットがかからないんだもん。息が苦しくて」 由布子と呼ばれた少女が返事をした。 ここは先週クランクインした映画『大転換! ~高校生探偵 小江戸タケシの冒険~』のロケ現場だった。 タケシを演じるのは玉木翔一19歳。変身ヒーロードラマでお母さんたちの熱い視線を集める長身イケメン俳優である そしてユウを演じるのは人気絶頂のアイドル羽村由布子17歳であった。 「じゃあ、皆さんそのままで。シーン #022 行きますよー!!」 「はぁ~いっ」 地面に転がったままの女戦闘員たちが返事をした。 続くシーンでも彼女たちはそのまま倒れて背景を務めるのである。 玉木が立ち上がり、替わりにやってきた少女が同じ場所に横たわった。 少女の髪は肩までぎりぎり届くセミショート。 顔立ちは玉木に似ているが、身長は150センチほどしかない。 それでいて身長180センチの玉木と同じサイズの男子制服を着ているからだぶだぶである。 胸だけは大きく育っていてワイシャツを内側から大きく盛り上げていた。 スタイリストが走り寄って彼女のシャツのボタンを上から三つ外し、肩と胸の谷間をでろんと露出させる。 少女はノーブラであった。 「OKですーっ」 待機していた由布子が覆いかぶさり、さっき玉木に抱きついたのと同じポーズで少女と唇を合わせた。 「シーン #022 行きますっ。・・3、2、1、キュー!!」 少女は目を見開いて、素っ頓狂な声で叫んだ。 「うへ?」 ユウを突き飛ばして立ち上がる。 ガニマタで立ち尽くして自分の身体をあちこち叩く。 「うお~!! 何じゃあ、これは~!!!」 「え? 何? どうなってるの・・?」 隣で尻をついたユウも驚いて少女を見上げている。 カメラがぐっと引いて、画面の中央に少女とユウの後ろ姿、そして背景に倒れている女戦闘員たちを映した。 だぶだぶのズボンが少女の腰から落ちた。いわゆる裸ワイシャツである。 カメラが回り込んで少女を正面から映した。 せっかくの裸ワイシャツがいまいち色気に欠けるのは、彼女が男性用の縦縞ガラパンを穿いているからであろう。 少女は自分のシャツの胸元を覗き込み、それからガラパンの中に手を入れ、股間を大げさに擦って確かめた。 「な、ない~!!」 素っ頓狂な叫び声が荒地に響き、彼女は両手で自分の頭を抱えた。 そのままカメラが再び後方に回り込む。 びゅうっと風が吹き、ユウの髪と少女のシャツが揺れた。 風の中でガラパンがずり落ち、ぷりんとしたお尻が輝くのであった。 さて、もうお判りであろう。 タケシはユウとキスすることによって美少女に変身(性変換)したのである。 なぜ、このような事態が生じたのか? それはかつてタケシが悪の組織に潜入して捕まったときに飲まされた薬のためだった。 変身に要する時間はわずか0.5秒。 タケシは女性とキスすると一瞬で女体化する体質になってしまったのである。 元の男の体に戻るためには、今度は男性とキス、ではな���同じ女性ともう一度キス、でもなかった。 もちろん某有名アニメのように熱湯をかぶることでもなかった。 その方法が判らず、タケシはこの先続くドラマの中で苦悶することになる。 3. この日の撮影が終了した。 「葵ちゃ~ん♥」 女体化したタケシを演じた少女をユウ役の羽村由布子が追いかけた。 少女は玉木葵。中学3年生15才で玉木翔一の実の妹である。 男性のタケシとよく似た顔立ち、小柄でキュート、さらにはおっぱいも大きいという理想のキャスティングは血の繋がった妹ならではといえよう。 葵は今までドラマや舞台の子役が長くその演技力は高く評価されているが、兄の翔一ほどの知名度はなかった。 兄妹揃ってのダブル主演となるこの映画。 所属事務所としては絶対に成功させて、葵をブレークさせたいところである。 「葵ちゃん、お芝居上手ねぇ~」 「ありがとうございます」 「葵ちゃんとキスできて幸せだったよー」 「私も羽村さんと一緒にできて嬉しかったです」 「由布子ちゃんって呼んで欲しいなぁ」 「年上の人にそれはちょっと」 「あたしは全然気にしないよー。・・ね、今夜一緒にお風呂入らない?」 葵に猛チャージする由布子である。 彼女が男性よりも女性に嗜好があることはアイドル界では有名である。 「葵ちゃんっ、本当に可愛い! おっぱい触りたい! エッチしたい!!」 人目もはばからず大声で叫ぶ由布子に、周囲のスタッフは「またか」という顔をする。 今や女の子好きを公言する女性アイドルは珍しくないが、由布子はそれに加えてやたら下ネタを口走るのだった。 「ねっ。何じゃこれは~っ、のところ、もう一回やってくれない?」「はい?」 「お願い! あのシーンで葵ちゃんのこと本当にすごいって思ったんだもん」 「じゃ一回だけ、」「うん!」 葵は両足を肩幅に開けて立った。いたって無表情である。 大きく深呼吸すると、やおら大声で叫んだ。 「何じゃあっ、これは~!!!」 ガニマタになり、落ち着きなく自分の身体を触って確かめる。 「お、お、お、」 シャツを引っ張って胸元を覗く。その場でズボンを下ろし下着の中に手を入れて股間をまさぐる。 「な、ない~っ!!!」 両手で頭をかきむしった。 「・・本当はここでお尻を出しますが、それは許してください」 葵は静かに言って、ぺこりと頭を下げた。 ぱちぱちぱちっ。 いつの間にか集まっていたスタッフが拍手をした。 この子、やっぱりすごい! 兄貴よりスゴイんじゃないか。 ・・あれ、由布子ちゃんは? 由布子は興奮のあまり地面に転がって悶絶していた。 4. 『高校生探偵』の撮影は佳境を迎えていた。 この日はユウとタケシ(♀)の最大のピンチシーンである。 薄暗がりの廃工場。 「ほぉー、ほっ、ほっ」 悪の組織の女幹部ミゼラブルが高笑いした。 相も変わらず肌を見せまくる露出狂的コスチュームである。 前回、タケシ(♂)の攻撃によって吹き飛ばされた乳爪ブラはより進化していた。 乳爪は一回り大きくなって先端から怪光線を発射可能である。 この光線を浴びた一般市民は男も女も悪の組織『ZZ』の戦闘員に変身してしまうのだ。 そして最大の目玉は『たゆんぱー』と呼ばれる新ギミックである。 小型の油圧機構によって戦闘中でなくても自動的にブラを振動させ巨乳を「たゆゆん」と揺らすのだ。 もちろんスタッフが離れたところからリモートで動かすことも可能である。 意図せず突然胸が「たゆゆん」するので腰が立たなくなり、慣れるまで1週間かかったと着用している本人がブログで告白したほどである。 説明が長くなったが、このようにパワーアップした敵によってユウとタケシ(♀)は捕られの身になっていた。 ユウは縄で後ろ手に縛られ、クレーンで高さ3メートルに吊られていた。 衣装は水色のミニスカワンピ。 空中で必死にもがくその姿をカメラがパンチラしない絶妙な角度で映している。 ちなみにユウ役の羽村由布子は衣装の下に着けたボディハーネスにワイヤーを掛けて吊られている。 両腕は縛られているが、体重はハーネスで受けるので苦痛はまったくないのだ。 「ユウを開放しろ!!」 タケシ(♀)が叫んだ。 衣装はユウから借りたという設定のジーンズとボーダー柄のTシャツである。 彼女は頭の上で縛られた手首を高く吊られ、爪先だけが床に届く状態で立っていた。 なおこの拘束にトリックはなかった。 スタッフからはハーネス使用の提案があったものの、タケシ(♀)役の玉木葵はガチで吊られることを希望したのである、 「ほぉー、ほっ、ほっ、・・はぅっ」 再び笑うミゼラブルの声が途中で途絶えた。 彼女の巨乳が突然「たゆゆん たゆゆん」といささか不自然に揺れたためである。 どうして不自然だったかというと、それは左右の乳房が逆の方向に揺れたからである。 どうでもいいことだがこれを乳房振動の位相が逆転しているいう。 まったく驚くべき『たゆんぱー』の能力であった。 ミゼラブルは眉間にシワを寄せながら、揺れまくる自らの乳房に何とか耐えた。 「はぁ、はぁ、高校生探偵もこれで終わりね」 「俺は絶対に負けないっ」 「女になったあなたに何ができるのかしら?」 タケシ(♀)のジーンズが地面に落ちた。 ミゼラブルが脱がせたのである。再びの裸ワイシャツならぬ裸Tシャツ! 「うふふ♥ 猫みたいに可愛いわ」 ミゼラブルはタケシ(♀)のシャツの裾を両手で掴んだ。 びりびり!! シャツが左右に裂けて開き、胸の谷間と下乳が現れた! 例によってタケシ(♀)はノーブラだった。 さあ、いよいよタケシ(♀)の被虐シーン。この映画一番の見せ場である。 哀れな少年いや少女を魔の手が襲う! ちなみに後日配信された動画では、この瞬間の一時停止率が98%に達した。 皆がタケシ(♂)いや葵の乳房を凝視したことはデータから明白である。 しかし破れたシャツとミゼラブルの手の位置が絶妙で、いくら目をこらして見ても乳首はおろかピンク色の片鱗すら分からないのであった。 わずか数秒のおっぱいシーン編集のために数十人のスタッフが心血を注いだという事実。 ああ、またどうでもよいことを説明してしまった。 タケシ(♀)の被虐シーンに戻ろう。 ミゼラブルはにやぁ~っと笑った。 ・・ごめんね葵ちゃん。 小さな声で謝ると両手でタケシ(♀)いや葵の胸を鷲掴みにした。 柔らかい乳房に食い込む指が大写しになる。 「ひ」 一瞬恐怖の表情を浮かべるタケシ(♀)。 構わずミゼラブルはその胸を揉み上げた!! 「うわああああっ」 小さな身体が跳ねた。 ショーツ1枚の下半身が暴れ、2本の足が宙を蹴る。 完全に両手吊りの状態である。 10秒、20秒。 ミゼラブルの攻撃は止まらない。 葵は苦悶の表情で叫びながら、罠に掛かった小動物のように激しく暴れ続けた。 手首に食い込む縄が痛々しい。 誰もが息をのむ迫真の演技だった。 5. 「カーットォ!!」 「映像チェックしますっ。そのまま待機して」 葵が動きを止めた。膝を折ってぐったりと縄に体重を預けた。 その身体をミゼラブルが抱きしめる。 「はい、OK!! 休憩に入りまーすっ」 スタッフが駆け寄って縄を解いた。 床に座り込んだ葵を毛布で包み、同時に医療スタッフが手首の状態を確認する。 「あたしも葵ちゃんを抱きたーい!」 由布子が空中で叫んでいるが構う者はいない。 次のシーンでもユウの拘束は続くので、由布子は休憩中も縛られたままで置かれるのだ。 「玉木翔一さん、入りまーす」 スタンバイしていた翔一が入って来た。 楽屋に下がる葵の頭をぽんと叩いて労う。 ここから先はタケシ(♂)が華麗に活躍するシーンである。 葵が責められていた場所に今度は翔一が立った。 その手にスタッフが縄を掛ける。 「オッケーでーす!」 「シーン #257 行きまーす。・・3、2、1、キュー!!」 ミゼラブルは目をむいた。 タケシの身長が伸びて20センチヒールの自分と並んでいた。 「あ、あなた、いったい・・」 「へへっ、覚悟しろよ」 タケシ(♂)は腕に力を込めて手首の縄を引きちぎった。 破れたシャツを脱ぎ捨てると、両手を広げてジムで鍛え上げた筋肉を見せつける。 完全に男性の肉体であった。 さて、もうお判りであろう。 女体化したタケシが男に戻る手段は胸を揉まれることであった。 それも軽く触る程度では効果なく、ぐいぐいと激しく揉み込むことが必要なのである。 なお、この設定は主人公の肉体を復元する最も効果的な手段として、原作者と構成作家が議論を重ねた結果決められたものである。 安直過ぎるとの批判があることは承知しているが、決して手抜きではないのである。 まして葵ちゃんのおっぱいを見たいとか揉みたいとか、そのような願望を抱いたことは断じてないと強調しておきたい。 タケシはミゼラブルに背を向けて地面に落ちたジーンズに足を通した。 ここでどうしてジーンズを穿くかというと、男が女モノのショーツ1枚で立ち回ると変態に見えるためである。 その辺りはミゼラブルもよく理解していて、彼の着替えの間に攻撃するような無粋なマネはしないのであった。 「へっ。待たせたな」 準備が整うと、タケシは空手の構えを取ってミゼラブルに向き合った。 上半身裸で下半身はジーンズ。 小柄な葵が穿いていたジーンズのはずなのに何故か長身の彼にぴったりなのは、気がついてはいけないお約束である。 「今度こそ決着をつけてあげるわ!」 ミゼラブルが手に持ったムチをぴしりと打ちながら言った。 タケシとミゼラブルの戦闘シーンが始まった。 ミゼラブルがムチを振るうとタケシは得意のバク転でかわした。 タケシがキックを放つとミゼラブルはしなやかに上半身を反らしてかわす。 ヒーロードラマでお馴染み、別撮りのジャンプ映像もふんだんに挿入される。 高く飛んで前転するタケシ。 180度開脚しながらコマのように回転するミゼラブル。 セクシーな肉体を見せつけように繰り出すミゼラブルの柔軟ポーズが光っていた。 さすがは悪の組織の女幹部。 映画を見る観客は彼女がただのお色気キャラではないことを知るのだ。 戦う二人の背後に高く吊られたユウが映る。 華麗な戦闘の背景に囚われの美少女。これもまたヒーローものにおけるお約束の構図といえよう。 「負けないでっ、タケシ!」 ユウが叫んだ。 任せろっといわんばかりに笑みを返すタケシ。 ミゼラブルの目が光った。隙あり! 彼女がムチを打とうと振りかぶったその瞬間、タケシが地面ぎりぎりに旋風キックを放った。 タケシはわざと隙を作って誘ったのである。 軸足を蹴られてバランスを崩すミゼラブル。 すかさずタケシが落ちたムチを拾う。それはするすると伸びてミゼラブルの身体に巻き付いた! 一瞬の神業だった。 タケシの手に渡った瞬間、ムチが長く伸びたのである。 いったいどんな技なのか。その詳細が語られることは永遠になかった。 説明を考えるのが面倒くさかったからである。 「へへっ」 全身に鞭が巻き付いて転がったミゼラブルの尻に足を乗ると、タケシは親指で鼻の下を擦った。 「お仕置きは受けてもらうぞ」 悪人のようにほくそ笑むタケシであった。 ・・フォン、フォン、フォン。 クライマックスのお約束、警察の到着シーン。 撮影費を節約するためパトカーの絵は省略され、駆け込んでくるエキストラの警官だけが映し出された。 そこにタケシとユウの姿はなく、一人ミゼラブルが縄でがんじがらめに縛られ天井から吊られて喘いでいた。 「ん、んんっ、んあぁっ・・!!」 聞く者をぞくぞくさせる声が響いている。 とても高校生によるとは思えないマニアックな緊縛であった。 実はこの緊縛はプロによる作品である。 わざわざ招いた超有名縄師がミゼラブル役の女優を3時間以上も掛けて徹底的に縛り上げた大作なのだ。 上半身は肩甲骨の後ろで高手小手縛り。 胸縄と右の太ももだけで吊られる女体は、口に噛ませた縄と右足首がわずか20センチの距離で連結されている。 よく見ると右のブーツの先端が後頭部に突き当たっていて、彼女はその足をわずかに動かすこともできないのだった。 左足は膝で折った状態で縛られ、その膝頭から伸びる縄は床に置いたコンクリートブロックに強い張力で繋がっていた。 彼女を縛るのは身動きの自由を奪う縄だけではない。 股縄、亀甲縄、乳房絞り縄と肌に食い込む細工がまるで工芸品のように女体を覆っているのだった。 悪の組織の女幹部の緊縛作品��� 正にファン垂涎の逸品である。 そのあまりの美しさに、スタッフや他の出演者も驚愕し全員で記念写真を撮ったのは映画公開後に明かされたエピソードだった。 6. 映画『大転換! ~高校生探偵 小江戸タケシの冒険~』はこの後若干の後日談が描かれる。 タケシの女体化は日常の出来事になり、その度にユウが胸を揉んで男性に戻すのであった。 大好きな葵の乳房を揉めると知って由布子が狂喜乱舞したのは言うまでもない。 7. [おまけ・その後のミゼラブル様] 映画は全年齢対象で公開され、初日だけで観客30万人を動員した。 公開後に最も注目を集めたのは、玉木翔一でも妹の葵でもなくミゼラブルを演じた女優24歳だった。 そのセクシーな肉体と美貌が人目を引くが、実は空手の有段者で趣味はボルダリングと水泳という彼女。 器械体操とダンスも得意で、ミゼラブル役のオーディションではスタンフルツイフト(ひねりをつけた助走なしバク転)をやってのけたスポーツウーマンなのである。 女優としてはアクションだけでなくヌードもベッドシーンもOK。 16のとき、某サブカルホラー映画で生きたまま胴体を切断される女子高生を演じたのはコアなマニアの間では有名である。 インタビューで「あぁっはっはっ」と豪快に笑う姿や、天然トーク(得意な料理は「腕まくり」、大阪城を「あれお寺じゃないんですか」などと発言)も話題になった。 緊縛シーンの感想を問われたときは「切ないです。女ですから」と言い切り、男性ファンだけでなく女性ファンの共感も得て一気にブレークしたのだった。 ネットでは『ミゼラブル様』と呼ばれ、ドラマやコマーシャルの出演オファーも殺到。 ついには高校生探偵のスピンアウト映画『ミゼラブルの修行の日々』の製作が決定し、主演女優の座を射止めたのであった。 「・・ヘアヌードを撮ったぁ!?」 彼女のマネージャーが叫んだ。 「はい♥、週間〇△さんのグラビアで。ダメでしたか?」 「ダメに決まってるだろ、事務所の知らないところでヘアヌードなんて」 「わたしは全然構わないんですけど。どんなお仕事も断らないって方針だし」 「苦節5年やっとブレークしたんだぞ? そんな方針は当然撤回だよっ」 「じゃ、あれもまずかったかな?」 「まだ何かやったの!?」 「はい。Takenoko さんのモデルを」 Takenoko とは映画で彼女を緊縛した超有名縄師である。 「緊縛モデル? まさか全裸で!?」 「はい、そのまさかですよー。責め縄っていうの受けました。ほら三角木馬ってあるでしょ? あれ本当にお股の間で受けるんですよ。もうマジに裂けそうで、あっはっは」 マネージャーは頭を抱えた。彼女のプロモート計画が台無しである。 「その週刊誌っていつ発売?」 「今週の木曜日。あ、明日ですね!」 「・・緊縛は」 「Takenoko さんのサイトで本日公開。ちょっとバズってるみたい」 「げ」 慌てて SNS を開く。トレンドに『ミゼラブル様責め縄』が上がっていた。 「うわぁ~っ!!!」 「いやぁ、わたしもびっくりです。あぁっはっはっ」
~登場人物紹介~ 玉木翔一(たまきしょういち):19歳 映画『高校生探偵』小江戸タケシ(男)役。 玉木葵 (たまきあおい):15歳 翔一の妹。小江戸タケシ(女)役。 羽村由布子(はむらゆうこ): 17歳 神木ユウ役。葵のことが好き。 ミゼラブル役の女優さん: 24歳 スポーツ万能で天然なお姉さん。 放置メモのレスキュー第3弾。 男性ヒーローが女体化してしまう実写ドラマを、男性と女性の俳優がダブルキャストで演じるお話です。(ややこしい) 元々は映画ではなく、中学生縄師のようなテレビドラマを2~3話やるつもりで書き始めていました。 ヒーローは何度も女体化し、その度にピンチに陥ります。酷い目に合うのはもちろん女体化役の女優さんで、裸にされたり縛られたり、敵の女幹部から胸を揉まれたり^^。 ちなみに女体化したヒーローが男に戻る方法は胸を揉まれることではなく○○二ーすることでした。 しょうもない設定はいろいろ考えましたが、案の定続けることができず中断して放置。 このレスキュー版ではミゼラブル(とミゼラブル役の女優さん)に頼って強引に完結させました。 最後の章で、この女優さんの天然トークは綾〇はるかさんのトークを取り込ませてもらいました。 イラストはフリーのポーズ集に頼って描きました。ミゼラブル様のおっぱい、まだまだ大きさが足りないと反省。 さてこれで放置メモのレスキュー版シリーズは終わりです。 他にも放置中のメモはごまんとありますので再びレスキューするかもしません。 なお次回の更新ではレスキュー版ではなく、完全新作を投稿できるように頑張ります。 これからも程々にお付き合いくだされば幸いです。 ありがとうございました。 [2023.8.10 追記] こちら(Pixiv の小説ページ)に本話の掲載案内を載せました。 Twitter 以外にここからもコメント入力できますのでご利用ください。(ただしR18閲覧可能な Pixiv アカウント必要)
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t82475 · 2 years
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街の看板娘
1. 夏の朝。 行き交う人もまだ少ないアーケード街。開店前の洋菓子店の前。 作業服を着た女性が何かを組み立てている。 コンクリートブロックとコンパネ板を敷いて台を作り、その上に人の背より少し高いパネルを立てた。 パネルには『街の洋菓子屋さん いらっしゃいませ』の文字が見えた。 どうやら洋菓子店のウェルカム看板のようだ。 「ヨシ!」 作業服の女性はパネルの取り付けを確認すると小さく喚呼する。 少し離れたところに衣装とお化粧を整えた少女が待っていた。 衣装はノースリーブのピンクウェイトレス。下町の商店街ではなかなか人目を引く恰好といえよう。 「アケミちゃん」 作業服の女性は振り返って少女を呼んだ。 「おいで。カラダ、つけよう」「はいっ」 少女を台に立たせ、パネルを背にして右手を横に伸ばす姿勢を取らせた。 立ち位置とポーズを細かく修正して、パネルに開いた小穴の位置に少女の手足がぴったり合うようにした。 「ヨシ!」 ポーズが決まったら次は資材かばんからタイラップ(結束バンド)の束を出す。 その一本を少女の右の手首に当てて背後の小穴に通した。 同じように右の肘の上と下、左手首、お腹、そして足首にもタイラップを掛けて小穴に通す。 パネルの反対側に回り、全部のタイラップを引き絞ってきつめに締め、余分な端をニッパーで切り落とした。 少女の身体がしっかり固定されていることを確認する。 「ヨシ!」 「・・松子さん」「ん?」 「いえ、何でもないです」 「恥ずかしい?」 「・・はい」 「それでいいんだよ」 松子と呼ばれた作業員は笑って少女の頭をぽんと叩いた。 少女も微笑みを返すが、彼女はもう動けない。 可愛いウェイトレスがお客様を招き入れる等身大の立看板が出来上がった。 今日、少女は洋菓子店の店頭で看板娘として働くのである。
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洋菓子店オーナーの女性が店の奥から出てきた。 「あら素敵。可愛いじゃない」 「OKですね。ではここにサインを」 松子は書類を受け取り、散らかった工具類をさっと片づけた。 「・・19時に回収に来ます。毎時1回の水分補給は忘れずにお願いしますね」 「任せてちょうだい」「では私はそろそろ」 「ねぇ太川さん、」 「私のことは名前で呼んでもらっていいですよ」 「じゃあ、松子さん」「はい」 「もしかしてこの子、新人さんかしら?」「分かりますか」 「顔赤らめてるじゃない。こんな初々しい子、初めてだわ」 「恐れ入りいます。バイトの高校生なんです」 「高校生? あたし大好きよ、若い子♥」 「よく鍛えてやってください」 「うふふ、まかせて。・・気に入ったら次もカグラ工芸さんにお願いするわ」 女性オーナーはウインクした。 あらら、アケミちゃん弄られちゃうかな? 松子は思った。思ったけど何も言わなかった。 看板業界も競争が激しいのだ。 ここはお馴染みさんになってもらうチャンス。アケミちゃんには頑張ってもらいましょ。 ふと視線を感じてそちら見ると、看板と一体になったアケミがこわばった笑顔で助けを求めるように松子を見ていた。 ホントだね。初々しい。 松子はくすりと笑うと、アケミをオーナーに引き渡し、停めていた会社のハイエースで次の現場に向かうのであった。 2. 店頭の立看板からビルの大型看板。 さまざまな看板に若い女性を取り付けてアピールする『看板娘』は今や街の風景になくてはならないものになっていた。 ふと目があった看板娘からにっこり微笑みかけられてドキドキした経験は誰にでもあるだろう。 SNSや動画サイトでは街の看板娘が次々と紹介され、人気を集めてアイドルデビューした女の子もいるほどである。 当然、看板娘は女性にも人気が高い。 全国小学生女子の将来なりたい職業4年連続ベスト3。中学や高校の看娘(かんむす)クラブは看板娘に憧れる女の子たちが集まって、看板体験やオリジナル看板娘の製作、あるいは全国看娘大会を目指して頑張っているのだった。 カグラ工芸こと神楽坂工芸社は、看板・照明の設計施工を請け負う設備会社である。 ここ数年の売り上げ頭はもちろん看板娘。 太川松子(たがわまつこ)はカグラ工芸勤続10年のベテラン主任である。 今まで納めた看板娘はキュートからセクシーまで1000体以上。 お客様の絶大な信頼を得ているのであった。 3. 国道沿いに建つ衣料品店『ファッションセンターしまくら』。 松子の運転するハイエースが駐車場に入って来た。待ち兼ねていた男性マネージャーが駆け寄る。 「松子ちゃん、悪い!」 「あのね林くん。長年お付き合いの『しまくら』さんでも本当は前日の依頼なんて受けられないのよ?」 車から降りてきた松子が言った。 この男性マネージャーとは彼が赴任してきた5年前からの付き合いである、 松子は自分より年長で独身の林を「くん」づけで呼ぶのであった。 「だから悪いって謝ってるの。本社指示来たのが昨日の朝なんだよ。これ、看板に貼る上物」 林は巻物を広げて見せる。 急いで作らせたらしいそれには『夏物一掃 売り切り半額セール!! 8月20日から』と印刷されていた。 「8月20日って今日じゃない」 「そう。ホームページだけ更新したけど、後は事前告知も新聞折り込み���何もしてない。もうお宅の看板娘に頼るしかないだろ?」 「仕方ないわねぇ。で、場所はどこよ?」「ここだよ、駐車場」 「何考えてるのっ。モロ直射日光じゃない!!」 松子は文句を言いながらもハイエースから機材を引き出した。 「そっち持って」「おれも手伝うの?」 「ったり前でしょ。男性なら黙って手伝いなさい」 二人で装置を組み立てる。 それは高さ1メートル、直径1.5メートルほどの回転台だった。 中心に立てた看板パネルがくるくる回る仕掛けである。 パネルは表と裏の両面に看板娘を二人取り付けられるが、今日は片側に一人だけだ。 「ヨシ、できた」「女の子は?」 松子は作業服を脱ぎTシャツ姿になった。頭の後ろで無造作に括っていた髪を解く。 「速攻で着替えるから15分待って。衣装はショーパンビキニだよね」 「まさか」「何よ」 「松子ちゃんがやるの!?」「私じゃ不満!?」 「い、いえ、決してそのようなことは」「ならヨシ!」 松子はにっこり笑った。 「若くて可愛い女の子はご用意できませんでした。こんなオバサンが看板娘を務めますがご了承くださいませ」 4. 30分後。 回転台の上にいる松子。その足元で林が何かをさせられている。 「これ?」 「違うっ。足首はそっちのピンクのタイラップ! バカあんま肌を触るな日焼け止めが落ちるだろーがっ」 「煩いなぁ、手伝ってあげてるんだぞ?」 「何よその文句。せっかく女の子縛らせてあげてんだから素直にできないの?」 「あのね、女の子って、さっき自分でオバサンって言ったじゃないか」 「あれはケンソンしたの! ほれ見なさい、これがおばさんの脚!?」 松子は先ほどまで作業服姿から、ローライズのショートパンツにビキニのブラ、その上に丈の短いパーカーを羽織るスタイルに変身していた。 すらりと伸びた松子の生脚は他の看板娘たちに負けず劣らず美しかった。 「む」 林は黙り込む。 「わははっ。脚なんてめったに見せてあげないんだから感謝しなさい」 「松子ちゃん、今いくつ」「あんた女に歳聞く?」 「えーっと、最初に会ったときは23で、あれから4年だっけ5年だっけ。おれ計算苦手なんだ」 「・・誰にも言うなよ」「神に誓って」「29」 「とてもアラサーには見えないな。見直したよ松子ちゃん」 「んな目で見るな。これでも人並に恥ずかしいんだぞ」 手首にリストバンドを巻き、その上からタイラップで縛る。 「構わないからきつく絞めて。んでもって吊り上げて」 「痛くない?」「この方が楽なの」 松子は手首を頭の上で交差させ、のびやかにストレッチしているようなポーズをとっている。 足元は15センチのハイヒール。 これを履いてポーズを維持するのは大変なので、あえて手首を吊り気味にしてヒールの踵にかかる体重を減らすのである。 「ふむ・・、ヨシ!」 自分の拘束を目で確認すると、松子は林にOKを出した。 「んじゃ、後は林くんに命預け���わ」 「いつでも助けるから。無理しちゃダメだよ、松子ちゃん」 「ありがと! ね、近くに寄って私の瞳を見てくれる」 「こう?」 言われた通り林が顔を近づけると、松子はすかさず顔を被せて彼の唇にキスをした。 「え」「わははは。感謝のキモチだよ!」 5. さらに1時間後。 国道に面した駐車場の片隅で夏物半額セールの看板娘がゆっくり回転していた。 派手な蛍光ピンクのパーカーの下には同じ色のビキニブラが見えている。 その下は細くくびれた腰におへそ。紺のショートパンツから伸びる長い脚とハイヒール。 黒のキャップ、サングラス、そして弾けるような笑顔。 その姿は行き交う車からもはっきり見えた。 『しまくら』の看板娘がイイ!! SNSに画像が上がり、程なく松子の周囲にはスマホを構える人の輪ができた。 同期して衣料品の売り上げも急増する。 夏物一掃半額セールの初日、販売成績は目標の倍を達成したのであった。 6. ここは神楽坂工芸社の本社事務所。 「ありがとうございます、看板照明のカグラ工芸ですっ」 社長の神楽坂花音(かぐらざかかのん)が電話を取った。 「看板娘ですか? はいっ、立看吊看壁面設置何でも承ります。女の子もレンタルしますか? それとも御社でご準備」 どうやら看板娘の注文が入ったようだ。 「うーっす」 ドアが開いて松子が高校生バイトのアケミを連れて帰って来た。 松子は『しまくら』の仕事が済んで現場を撤収、その後洋菓子店で看板娘になっていたアケミを回収して来たのである。 アケミはあのオーナーからずいぶん気に入られて、また来て欲しいと頼まれていた。 リピート客ゲットである。 「初めての看板娘あるある」といえる「ちょっぴり切ない時間」も何とか耐えきることができて、まずはめでたしであった。 松子は明日も『しまくら』で看板になる契約だった。 仕事上の関係とはいえ、マネージャーの林と相性がいいのは分かっていた。 そもそも男嫌いの自分が彼に拘束されるのは不思議と嬉しいのである。 今日は柄にもなくキスまでしてしまった。 ただの感謝の印なんだけど、誤解されたりしてないよね。 もちろん誤解されているし、実は食事に誘われたりしているのだが、鈍感な松子はそれがどういう意味か理解していないのであった。 「えーっ、いくら何でもそれは無理ですぅ」花音が受話器に向かって叫んだ。 「・・社長さんって可愛いですね、名前も『かのん』だし」アケミが小さな声で言った。 「・・あれで50近いんだからねぇ」松子も応えて笑う。 「何だか松子さんの方がおばさんみたい。あ、ごめんなさ~いっ」 松子は黙ってアケミの頭を拳骨でぐりぐりした。次は吊り看板にして高いとこから吊るしてやる。 「ま、まっちゃん、クレームなのぉ~」電話を切った花音が情けない声で言った。 「どうしたんですか?」 「先月フジコちゃんが雲島のほうで看板娘やったでしょ?」「ああ、バニークラブでしたね」 「そう。先方であのときの動画をサイトに載せようとしたら、お店の名前が違っててぇ」「え」 花音は事務所のモニタに看板娘の動画を映した。 シャンデリアのある豪華な店内。 大理石の壁に金色の大きな額縁がかかり、その中に赤いバニーガールが身体をくねらせたポーズで浮かんでいた。 むっちり大きなヒップに巨乳。肉感的でセクシーな美女である。 彼女は額縁の四隅から細いワイヤで空中に固定されていた。 手足は拘束されていないので、ときおりポーズを変え、その度に目を細めて妖しく微笑むのであった。 「こんな色っぽいお仕事もあるんですねぇ。・・うわぁ、ハイレグすごっ」アケミがモニタを見て喜んだ。 「実はわたし女の子の鼠径(そけい)部に萌えるんですー」「フェチねぇ」 「・・分かった。タトゥだ」松子はバニーの胸を指さした。 むにゅっと盛り上がってこぼれそうな乳房にタトゥシールが貼られている。 白い肌にくっきりと『KUMOSHIMA-BUNNY CRAB』の文字が読み取れた。 「クラブの綴りが違う。これじゃカニだわ」 「そーなの。うっかりしちゃって。笑うでしょー?」 「笑いごとじゃないです!」 看板の誤記は重大な瑕疵(かし)である。 「それでいったいどーするんですか?」 「明日朝一番、向こうのお店で撮り直すことになったの」「明日?」 「タトゥシールくらいすぐに作れるわ。問題は雲島まで行ける子がいないってことなのよぉ」 「フジコちゃんは?」「どこかヨーロッパのお城に侵入して人には言えないお仕事中だって」 「ということは・・」 「にゃあ~ん♥」 社長は首を傾けて右手を猫のように曲げた。これは無茶振りをするときのポーズだ。 「行ってくれない? まっつこちゃ~ん」 「私、明日は別の現場が」 「『しまくら』でしょ? アケミちゃんが行けるんじゃない?」 「お仕事ですか? やりたいです!」 あー、もう。仕方ないなぁ。 「分かりました。雲島へは私が行きます」 「ありがとーっ、うだうだ言わないで引き受けてくれるまっちゃん、大好きよ~!!」 「松子さんバニーするんですか? 鼠径部の写真送ってくださいね」 林の顔が浮かんだ。 ごめん明日は行けなくなったよ。 代わりに可愛い女子高生が看板娘になるから我慢しておくれ。 ショートパンツにビキニブラで回転するアケミを想像した。 手首を高く吊られてぴんと伸びる身体。10代の瑞々しい肢体。 やっぱり看板娘は若い子がいいよね。まして水着だし。 野次馬の数、今日の倍はいくだろうな。 ちょっと悔しい。 きっとアイツも喜ぶな。鼻の下でろーんって伸ばすぞ。 すごく悔しい。 松子は自分でも分からないモヤモヤした気持ちになる。 それは明らかに若いアケミへの嫉妬と林への好意が原因な訳だが、鈍感な松子は自分の気持ちを理解していないのであった。 「アケミちゃん!」 とりあえず忠告することにした。 「明日行ったらね、向こうのマネージャーが出てくるけど優しく相手しなくていいからね」 「はい?」 「それからね、看板娘やってるアケミちゃん見て、可愛いとか色っぽいとか言ってくるかもしれないけど、真に受けちゃ駄目よ」 「何言ってるんですか? 松子さん」 「あとね、あとね、間違っても彼のこと誘惑しちゃ駄目だからね。許さないからね。そりゃ 32 のおじさん誘惑しようなんて思わないだろうけど、若いアケミちゃんが相手だったら簡単にコロリしちゃうヤローだから」 「社長さん、松子さんが変です」「ときどきあるのよ、気にしないで」 「アイツはね、女の子の脚見てほめるんだけど、妙にほめ方が上手なのよ。嬉しくなっちゃうのよ。それに優しくしてくれるから、ついつい舞い上がったりするのよ。だからってその気になったら悲しむのは女の方なんだから。いい?」 もはやノロけているのと同じだが、延々と忠告を続ける松子であった。
~登場人物紹介~ 太川松子(たがわまつこ): 29歳。神楽坂工芸社のベテラン主任。仕事はきっちり「ヨシ!」 アケミ : 17歳。アルバイトの高校生。 洋菓子店の女性オーナー: 40歳くらい。若い子が好き。 林 : 32歳。『ファッションセンターしまくら』マネージャー。松子と仕事の付き合いが長い。 神楽坂花音(かぐらざかかのん): 48歳。神楽坂工芸社社長。うっかり者らしい。 フジコ : 謎のバニー看板娘。 放置メモのレスキュー短編、二つ目です。 「看板娘=女の子を看板にしてしまう」はときどき見るネタですね。 一般には、女性を看板に拘束して苦辱あるいはマゾ的な快感に浸らせその姿を楽しむ、というパターンが多いのではないかと思います。 このお話では看板娘を嗜虐行為ではなくあくまで本来の看板として扱い、女性本人も看板になるのを楽しんでいることにしました。 何となくキョートサプライズ(KS)の世界と似ている気がしますが作者が同じなのでお許しください。 松子の性格が支離滅裂なのは、もっと長くなるつもりのお話を無理矢理終わらせたためです。 初期の構想ではカグラ工芸には男性の社長がいて、花音さんはその奥さんで副社長でした。 バニー看板のフジコちゃんも本当は別の名前でメインキャラの一人にするつもりだったのですよ。 お話を短く端折ったので花音さんは社長になりカグラ工芸は女ばかり。ますますKSに似てしまいました^^。 カグラ工芸の話はこれで終わりですが、看板娘はまたどこかで再登場できたらいいなと思っています。 さて女の子を長時間看板にするにあたっては大きな問題があります。そう、トイレ問題です。 実はトイレ問題をどうするか、あれこれ策を考えましたが諦めました。 途中交代とか休憩はやりたくない。おむつなんて絶対につけさせたくない。かといってお漏らしさせたら看板娘に憧れる女の子がいなくなってしまいます。 という訳で、皆さま、ご安心ください(笑)。 この世界の女の子はどの子も驚異の括約筋の持ち主で、その上膀胱炎になんか絶対にならないんですよー。 次回はヒーローもの?をやります。 ありがとうございました。 [2023.8.10 追記] こちら(Pixiv の小説ページ)に本話の掲載案内を載せました。 Twitter 以外にここからもコメント入力できますのでご利用ください。(ただしR18閲覧可能な Pixiv アカウント必要)
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t82475 · 2 years
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ワンマンバス
幼いときに不思議でしかたなかったこと、って誰にでもありますよね。 私にとってそれはそれはワンマンバスの車内アナウンスでした。 バスの行先や次の停留所を案内してくれる、あの女の人の声。 その声の人がどこにいるのか、気になって仕方なかったのです。 電車の車内放送だったら一番後ろの車掌室に車掌さんがいます。 でもワンマンバスには運転手さんしかいない。 運転手さんは喋らないし、たまに喋っても男の人の声ですよね。 アナウンスの女の人はどこにいるんだろう? お母さんに連れられてバスに乗るたびに、声の主を探しました。 本当のことを知ったのは小学校3年生になったときでした。 それ以来、私はバスのアナウンスのお仕事をしたいと思うようになりました。 ・・ 「次は終点、天晴中央駅前、天晴中央駅前です。どなたもお忘れ物のないようご注意ください」 いつものように車内アナウンスが流れて、バスは終点の駅前バスターミナルに着きました。 「市民病院へ行くのは、どのバスですかの」 お婆さんが運転手さんに尋ねました。乗り換えの質問です。 「ああ、病院でしたらそこの3番乗り場から出るバスに乗ってください。次の時間は・・」 運転手さんはお婆さんに答えながら、頭上のモニタカメラに視線を向けます。 「次の市民病院行きは10時45分です。ゆっくり歩いて間に合いますよ。今日は雨で足元が濡れてますから気をつけてくださいね、お婆ちゃん」 アナウンスの女性の声が答えました。 はきはきしていて、気持ちのいい声です。 お婆さんはお礼を言って降りていったのでした。 ・・ 車庫に戻ったバスから運転手さんが降りてました。 バスの左側、後ろのタイヤのすぐ前に『放送室』と記された蓋がありました。 縦30センチ、横40センチほどの四角い蓋です。真ん中には鍵穴。 ポケットから出したキーで解錠すると鉄の蓋がぱかんと跳ね上がって開きました。 開いた中には靴底のようなモノが見えました。ローヒールのパンプスです。 どうやら誰かが仰向けに寝ているようですね。 運転手さんは腰を屈めて両手を差し込むと、後ろに下がりながら中身を引き出しました。 がらがら。 引き出しのようにベッドが出てきて、そこに若い女性が寝ていました。 バス会社の車掌の制服を着て、手にはバスの運行表を持っています。 車掌さん? ワンマンバスじゃなかったの!? 何も知らない人が見たら不思議に思うかもしれませんね。
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「ご苦労さん!」「お疲れ様でした~」 運転手さんが車掌さんの拘束を外します。 よく見ると彼女は膝と腰、肩をベッドにストラップで固定されているのでした。 ストラップを解いてもらって自由になると、にこにこ笑いながら起き上ります。 くりんとした大きな目が可愛い女の子でした。 「さっき跳ねましたよね。もみじ1丁目と2丁目の間で」 「ああ、道路工事で段差があったな。・・もしかしてどこかぶつけた?」 「おでこ打っちゃいました。ほら、たんこぶ」 「うわ、ごめん!」「大丈夫。たんこぶだけです」 「会社には内緒にしてくれるかい?」 「夕食おごってくれたら黙ってますよ~♪」 この女の子が車内放送担当の車掌さんです。 高卒で車掌になって2年目の19才。 運行中はずっと放送室にいるのでお客様の目には触れません。 美人さんなのに、ちょっともったいないですね。 何はともあれ、彼女が仕事をする放送室はバスの床下にあって、コンパクトな放送設備がついています。 『室』と呼んではいても実は棺桶みたいな箱なので、ずっと寝たままでアナウンスのお仕事をするのです。 放送室の蓋はバスが車庫を出るときと帰ってきたときだけ、運転手さんが開けてくれます。 危険防止のため非常時以外に外へ出るのは禁止です。 閉所恐怖症の人にはちょっと厳しい職場かもしれませんね。 放送室に窓はありませんが、車内と外の様子はモニタの画面で見られるので困ることはありません。 昔モニタがなかった時代は運転士さんとのブザーオペレーションで運行していたそうです。 ブザーの音だけを頼りにアナウンスするなんて、先輩の車掌さんたちはすごかったんだなと思います。 放送室にいる車掌さんにとって一番の問題は、バスが急に揺れたり急ブレーキを踏んだときです。 油断していると、転がってしまったり、さっきの会話のように天井におでこをぶつけたりするのです。 ベッドに身体を固定するのは安全のための規則なのです。 さっきは3か所しかストラップを掛けていませんでしたが、本当は足首と膝、腰、肩、そして額をすべてしっかり拘束しなければなりません。 車掌さんの身体を固定するのは運転手さんの責任です。 でも慌ただしい出庫時に手間のかかる作業は面倒なのと、なにより若い女の子をきつく拘束するのは可哀想なので、つい手抜きして簡単な拘束でバスを走らせてしまうのです。 一緒に乗務した彼女にたんこぶを作らせてしまった。 運転手さんは申し訳なく思うのでした。 このバス会社では運転手さんと車掌さんは決まったペアで行程を組んでいます。 ペアの相手、この明るくて可愛い車掌さんに運転手さんは好意を抱いてました。 ・・・ 「いただきまーす!」 ここはラーメン屋さんです。 仕事帰りの運転手さんと車掌さんがカウンター席に並んで座っていました。 二人とも明日は非番ですから居酒屋で乾杯でもしたいところですが、二十歳前の彼女にアルコールは禁止でした。 飲酒にはうるさい業界で働く二人です。 「今日、悪かったね」 「いいんです。私こそ、しっかり身体固定してなくてごめんなさい」 「それは俺のセリフだよ」 「次の乗務からは、しっかり拘束お願いします」 「分かった。平気でいられる?」 「それ、どういう意味ですか」「いや、だから」 「仕事ですから、ご想像しているようなことはありませんよーっ」 運転手さんの想像したことって、分かりますよね? そう、全身を拘束されたらどうしてもドキドキしてしまうのです。 若くて健康な女性なら仕方のないことです。 この車掌さんも表向きは否定したものの、放送室の中でもどかしさに耐えかねて悶々とすることはごく稀に、いいえ、それなりに頻繁にあるのでした。 「・・そういや、うちの会社も来年から低床車(ていしょうしゃ)導入だって」 「時代の流れですものね、バリアフリー。でも低床車って放送室はどうなるんですか?」 低床車とは、お年寄りや身体の不自由なお客様に優しいノンステップバスのことです。 客室の床がとても低くて地面に近いので、今までのように車掌さんが床下に入るのは難しそうです。 「放送室はエンジンの上だって。エントリープラグ方式になるから全然変わるね」 「エントリ・・って 何ですか?」 「国交省が決めた新しい規格さ。細長いカプセルに車掌が入って、それをカプセルごとバスにプラグインするのさ」 「すごいですね~。やっぱカプセルの中は呼吸できる液体が満たされているんでしょうか?」 「んー、それはちょっと違う」 運転手さんの説明によると、カプセルは直径40センチほどの円筒形で、内部は人型にくり抜いた低反発クッションです。 蓋を閉じるだけで完全拘束状態になり、いくら激しく揺れても、たとえバスが横転してもカプセルの中だけは絶対に安全なんだそうです。 その代わり、今までは自由に動かせた両手を含めて車掌さんはまったく動けなくなります。 お仕事はVRゴーグルを装着してすべての操作を音声コマンドで行うので、困ることはないそうです。 「カプセルはコンベアで搬送してバスにプラグインするんだって。すごいだろ? 運転手と直接顔を合わすこともなくなるんだ」 運転手さんは残念そうに言いました。 「だから今までみたいな固定チーム制は止めるみたいだね」 そうか。新型になったら、この人とのチームはなくなるのか。 車掌さんは毎朝の出庫時の儀式を思い浮かべます。 一本ずつ締められるストラップ。 緩くないか、逆に痛いところはないか、気遣いしてくれる運転手さん。 ちょっと手間はかかるけれと、互いの心を通わせる時間。 「じゃ、今日も頼むよ!」 微笑み返す間もなく放送室に押し込まれる。 蓋が閉まって鍵のかかる音。 気がつけば狭い空間の中で胸を押さえている。 どきどき、どきどき。 彼女の頬がちょっぴり赤らみました。 この人になら、ずっと拘束されてもいいんだけどな。 そうそう。お伝えし忘れていましたが、彼女もこの若い独身の運転手さんのことが好きなのでした。 「それにしてもVRとか音声コマンドとかすごい技術があるのに、やっぱり人間の車掌が乗るんですね」 「うん、車内放送の自動化なんて簡単にできるはずなのに、日本中のワンマンバスがそれ専用の女の子を載せてる。それじゃワンマンじゃねーだろって」 「あはは、突っ込んで欲しいのはそこじゃないんですけど」 車掌さんはラーメンの鉢を両手で持ってスープをずずーっと飲み干しました。 「豪快だねー」 いけない。彼の前でやっちゃった。 隣で運転手さんもスープをずずーっと飲み干しました。 「うん、やっぱりこうやって飲むのが一番美味いよね」 優しい人だなと思いました。 「ワンマンかどうかって話ですけど」「ん?」 「私たち、バスの放送設備なんですよ。人間にカウントされてない���だからワンマンバスで正しいと思います」 「なるほどね。ノンステップバスになったらもっと人間から離れるけど、君はそれでいいの?」 「私、この仕事が好きですから。・・それに、あなたと一緒に働けるのも、嬉しいし」 「え」 こんどは運転手さんの顔が少し赤くなります。 「そりゃよかった。俺も好きだよ。そう言ってくれる君のことが」 「なら、ちょっと肩くらい抱いて欲しいなって思うんですけど」 「それラーメン屋で言う?」 並んで座る二人の肩がくっつきました。 運転手さんの手が車掌さんの肩にかかったりしているようですが、ここから先はまた別のお話ですね。
~登場人物紹介~ 運転手さん : ワンマンバスの運転手。20代半ば、車掌さんが好き。 車掌さん : 車内放送担当の車掌。19才。運転手さんが好き。 またまた更新が途絶えて申し訳ありませんでした。 完全新作が難しい状況なので、書きかけで放置中の創作メモをいくつかレスキューして短編にすることにしました。 まずは5年以上眠っていた作品を。 ほとんどの方はご存知ないでしょうけれど、昔はバスに車掌さんが乗っていました。 お客様の運賃の受け渡しや、ホイッスル(笛)を吹いてバスの誘導、そして車内アナウンスが車掌さんの主な仕事でした。 実は私は、車掌さんのいる路線バスで幼稚園に通っていました。 まれに男性もいましたがほとんどが女性の車掌さんでした。 車掌さんがマイクを持って喋るのを毎日聞いていたのです。 小学校に上がる少し前、その路線はワンマンバスになり、車内放送は録音した女性の声に替わりました。 そのとき自分はこのお話のような妄想を抱いたのです。 バスのどこか、乗客から見えないところに女の人がいて、実はその人が喋っているのではないか。 いったいどこにいるんだろう? 私はバスの中に棺桶のような空間をイメージし、そこに収まった女性がアナウンスしている姿を想像していました。 まったく5歳くらいでフェチな妄想をしていたものです。 放送室の位置と大きさのイメージはイラストの通りです。 バスの構造に詳しくないのでこの位置に人間を押し込めるかどうか分かりません。 屋根の上なら確実に放送室を設置できると思いますが、それよりも客室の下に埋もれるイメージが自分の嗜好に合います。 我ながら萌えの対象がピンポイント過ぎるお話を書いたものだと思います。 よほどストライクゾーンの広い方でないと、どこが面白いのか理解できないかもしれません。 次話以降も放置メモの救済版が続きますのでご了解ください。 ありがとうございました。 [2023.8.10 追記] こちら(Pixiv の小説ページ)に本話の掲載案内を載せました。 Twitter 以外にここからもコメント入力できますのでご利用ください。(ただしR18閲覧可能な Pixiv アカウント必要)
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t82475 · 2 years
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サオリのアルバイト
[プロローグ] 今でこそイリュージョンマジックで働く私だけど、子供の頃からイリュージョンに詳しかった訳ではない。 たまたま見つけたアルバイト先が店内のステージでイリュージョンショーをやっているカフェ&バーだった。 テレビでしか知らなかったイリュージョンを初めて目の前で見て、私はとても興味を持った。 私もやってみたいとお願いしてみたら、お店のオーナーが1回だけとショーに出させてくれた。 それは私が高校3年生のときだった。 [Scene.01] 1-1. ざわざわしていたフロアが静かになった。始まった! 私は小さな檻の仕掛けの中にうずくまっている。 まさか自分がイリュージョンショーに出るなんて。 薄いレオタードのような衣装。タイツを着けているから肌の露出は少ないけれど、ボディラインくっきりで恥ずかしい。 実際、ガッチーには「ええ尻してるやないか~」って冷やされたし。 でも仕掛けに入って待っているのは嫌じゃなかった。 だって何もないところに女の子が出現するんだよ? その女の子が私なんだもん。ちょっとドキドキするに決まってるじゃない。 私の隠れた檻がステージに引き出された。 ジローさんは檻が空であることを示してから、その中にトーチで火を点けた。 檻の中で燃え上がる炎。キヨミさんが檻の上から紫の大布をかけた。 今だっ。私は仕切り板を倒して檻の中に身を伸ばす。 ほとんど同時に大布が取り払われた。 檻の中で手を振る私。 ジローさんとキヨミさんが扉を開けて私を外に出してくれた。 二人に手を取られてお辞儀する。・・拍手。 ジローさんは黒のタキシードに白手袋。 もう40をずっと超えてるらしいけど、背の高い体にしなやかな物腰はさすがにプロのマジシャンだと思う。 キヨミさんはアシスタント。私と同じレオタードとタイツを着ていて、ポニーテールの髪が可愛らしい。 すぐに照明が変わって、キヨミさんが次のイリュージョンを出して来た。 次の演目はジローさんとキヨミさんのトランクを使ったメタモだ。 私は入れ替わるように檻を押してステージの袖に引っ込む。 振り返るとバーカウンターの向こうに立つリツコさんとガッチーが揃って親指を立ててくれた。 ええへ、やったっ。初めてのイリュージョン! 誰にでもできる出現ネタを一つやっただけなのにとても嬉しかった。 袖の陰に隠れると、両手で自分の胸を押さえた。 はあ~っ。どくん、どくん・・。 心臓が今までにないくらいに激しく熱く鳴っていた。 胸だけじゃない。下半身も熱かった。 指先でそっとレオタードの前を押さえた。 あ、ふぅ。 1-2. マジックカフェ&バー『U's(うっす)』では、毎週土曜の夜にショーをやっている。 お店のオーナーでプロマジシャンの内海次郎(ジロー)さんによる本格的なイリュージョンが売りだ。 清美(キヨミ)さんはジローさん専属のアシスタント。 律子(リツコ)さんはジローさんの奥さん。 リツコさんも元マジシャン兼ジローさんのアシスタント。今は引退して、仕事で留守がちのジローさんに代わってお店を守るママだ。 私、伊吹彩央里(サオリ)は18才の高校生。ウェイトレスのアルバイトに入ってまだ1ケ月だった。 毎週やっているジローさんとキヨミさんのイリュージョンを見てときめいてしまった。 美女が空中に浮かんだり、瞬間移動したり、箱の中に出現したり消失したり。なんて不思議で華やかな世界だろう。 ・・私もやってみたい。 ダメ元でジローさんに頼んだらいきなり出演させてくれた。 出番が終わっても、私は幕の陰でずっと前を押さえていた。 どうしてこんな気分になるんだろう? 「こんなとこでデレてたんか、サオリちゃん」 「きゃ! ガッチーさん、いつの間にっ」 「ママが早よ戻ってこい言うてるで」 「あ、すみませんっ」 そうそう、このお兄さんの紹介を忘れてた。 ガッチーは U's のマスター兼バーテンをしている人。歳は25くらいかな? コテコテの関西弁を改めようとしないのは関西人のプライドなんだって。 「イリュージョンに出れてよかったみたいやな、サオリちゃん」 「えへへ、嬉しいです」 「ふぅん」「何ですか、人の顔じろじろ見て」 「いや、色っぽい顔してるなぁ、と。まるで男とエッチした後みたいや」 「ガ、ガッチーさん!!」 「あ、もしかしてまだ処女やったか? ごめんごめん」 図星だよっ。バージンで悪かったわね! 「あのですね、女の子にそんなこと言ったらセクハラって言うんですよっ」 「わははは」 1-3. お店が閉まってからジローさんとリツコさんに呼ばれた。 「来週も出ない?」 「えっ、いいんですか!?」 「実はキヨミちゃんが家庭の事情で辞めることになったんだ。事務所の方で新しいアシを探してるんだけど、いい子がいなくてね」 「そしたらガッチーくんがサオリちゃんには適性があるって言ってくれたの。バイト代も上乗せするけど、どうかしら?」 「やりたいですっ。でも私、ファイヤー・ケージしかできないんですけど」 「大丈夫だよ。しばらくウチのカミさんがメインでアシするし、サオリちゃんは少しずつレパートリーを増やしてくれたらいい」 何だろう、このラッキー。 私はジローさんのショーに毎週出ることになった。 フロアに戻るとガッチーがモップで床を掃除していた。 「おー、サオリちゃん。ジローさんに呼ばれたんやろ?」 「はいっ。ガッチーさんのお陰でアシスタントさせてもらうことになりました!」 「よかったやないか」 「どうして推薦してくれたんですか? 私、今日初めてイリュージョンやったところなのに」 「オレには才能を見る目があるんやで。と、いうのはウソで」「?」 「サオリちゃん、さっき檻から出た後エロい顔してたやろ? あれ、可愛かったからまた見たい思てな」 「・・」 「怒らせた?」 「当たり前ですっ。もうエロい顔なんか絶対しません!」 「わはは、やっぱりエッチな気分になってたんやな」「う」 「ええねんええねん、女の子はエロいも大切や。オレは応援するで。サオリちゃんが一人前のアシになるまで」 ガッチーはそう言うと、右手を私に差し出した。 その手がひらりと翻る。 次の瞬間、赤いバラが一輪握られていた。 「ほい」 「わあっ、ガッチーさんもマジックする人だったんですか?」 「いや、オレはただの雇われマスターや。これはサオリちゃんへのプレゼント。造花やけどな」 ガッチーへの好感度が急上昇した。 花1本で釣られるなんて我ながらチョロい女だと思うけど。 1-4. こうして私はリツコさんと一緒にショーに出るようになった。 今までリツコさんが担当していたステージの照明と音響操作はガッチーが代わりにやってくれることになった。 イリュージョンのアシスタントをすると、どうしてもエッチな気分になってしまうのは変わらない。 それでもいろいろ経験すると自分の性癖が分かってきた。 どうやら私は小さな箱に入ったり布やマスクを被って隠されることに感じるみたいだ。 真っ暗な仕掛けの中で身を潜めていると、自分がタネの一部になっているのを実感して興奮した。 ガッチーは明らかにそんな私に気付いていた。 いつもニヤニヤ笑って見ていたけど、それで私を冷やかすことはなかった。 [Scene.02] 2-1. その日の衣装は和風だった。 ジローさんはラメの入った紫の着物に金の袴。 リツコさんと私は、紺色のズボンのような袴と、緋色の膝丈マント。顔には狐のお面。 ド派手なマジシャンと顔を隠した謎めいたアシスタント。悪くない。 問題はマントだった。 チョーカーみたいに首で留めるだけで、前が開いていた。 マントの下にはストラップレスの黒いブラを1枚着けるだ��。 これじゃあ、普通に歩くだけでお腹が見えちゃう。肘を広げたらブラまで全開。 私、自分の身体に自信なんてない。 「これを着るんですか!?」 「セクシーなのは初めてだっけ? でもアシスタントならこれくらい堂々と着るものよ。お客さんに楽しんでもらわなきゃ♥」 同じ衣装のリツコさんは、自分でマントの前を開くと腰に手を当てるポーズを取って笑った。 リツコさん、おっぱい大きいー。 ショーの段取りは、まずジローさんが大きな羅紗(らしゃ)の布を広げ、その後ろからリツコさんが登場する。 二人で和傘を何本も出すマジック。 その後ヒンズーバスケットのイリュージョン。 まずリツコさんがバスケットに入ってサーベルを刺される。サーベルを抜いてリツコさんが生還した後、同じバスケットから私が現れる。 つまり私は最初からバスケットの中に入っていて登場することになる。 ヒンズーの次はジローさんの扇子マニピュレーション、それからリツコさんが入るキューブザク。 最後に私が空中に浮かんで消えるアシュラ・レビテーションをやってフィナーレ。 「そろそろ開演やで。行けるか?」「ガッチーさん、カウンター離れていいんですか!?」 「かまへん。今はリツコはんが常連の相手してる」 そっとフロアを覗くと、リツコさんがあの衣装のまま、お面だけ外してお客様と談笑していた。 口に手を当てて笑うたびに胸の谷間がちらちら見えた。 「大胆ですよね、リツコさんって」 「あの人、巨乳やろ」「はい」 「おっぱいでジローさん捕まえたっていつも自慢してるで。ダンナはおっぱい星人なのよって」 「あはは、本当ですかー」 「よっしゃ。笑ろたな、サオリちゃん」 「え? 私を笑わせるために?」 「ほれ、ヒンズーに入るんやろ?」 2-2. ショーが始まった。 私はバスケットの中に丸くなって待機している。 黒い布に覆われているのでバスケットの中は真っ暗だった。 狐のお面をつけたままだから息も少し苦しい。 次に外に出れるのは、リツコさんと一緒にサーベルを刺されて、リツコさんが出て、その後。 ちょっと、長い。 ドキ、ドキ、ドキ。 ぐらり。バスケットがステージに運ばれた。 黒布が取り払われて、リツコさんの足が入って来た。 そのままリツコさんは身を屈め、私たちは密着する。 バスケットに蓋が被せられた。ドキ、ドキ。 1本目のサーベルが刺された。 決めた通りの穴に、決めた通りの方向。 私とリツコさんは精一杯身を寄せてそのコースを避ける。 ドキ、ドキ。 2本目、3本目。 目の前5センチの空間を銀色のサーベルが突き抜ける。 「はぁ・・」リツコさんが小さく呻いた。 耳元ですごく色っぽい声。そんな声聞かされたら、私。 4本目、5本目、6本目。 狭い空間が突き抜けたサーベルで埋まる。 逃げ場のないバスケットの中で全身を絡め取られた女二人。 きゅん。 あぁ、駄目だ。私、もうエッチになってる。 一人だったらまだ平気なのに、二人で一緒に刺されたらこんなに感じるなんて。 7本目。 サーベルが蓋の中央から真下に向けて突き刺された。 ああ、心臓が止まりそう。 バスケットの中が明るくなった。 蓋が外されたんだ。 リツコさんが私の肩をとんとんと叩いて出て行った。拍手が聞こえる。 黒布が被せられてもう一度真っ暗になる。 バスケットごとぐるぐる回された。蓋が開く。 あ、立たなくちゃ・・。 私は明るいライトの中に立ち上がると、両手を広げてポーズをとった。 身体中が熱い。 お腹がすーすーした。とろんとした目で下を見ると自分の胸とおへそが見えた。 いけない! 勢いよく両手を広げものだから、マントが完全に開いていた。黒ブラ1枚のカラダ、丸出し。 慌てて身をすくめたら顔のお面がぴょんと外れて落ちた。 ぎゃー。 客席がどっと受けた。 ジローさんが苦笑いしている。 リツコさんも笑いながら床に落ちたお面を拾って「ドンマイ」って言いながら渡してくれた。 2-3. ショーの残り半分はへろへろになってこなした。 カラダを見せたことよりも、顔を見せたことの方が恥ずかしかった。 狭いバスケットの中でリツコさんと一緒にサーベルを突き刺されたのは強烈だった。 自分にマゾの気があるのは自覚していたけど、こんなに感じるなんて。 エロエロに感じた顔を、私はそのまま晒しちゃったんだ。 ガッチーに何で言われるだろう。 「・・こっちっ、サオリちゃん!!」ジローさんが呼んだ。 細長い台の上に広げられた黒布。 そうだ、アシュラ! ぼうっとしてちゃいけない。 私は黒布の上に仰向けになった。 その黒布をリツコさんが私の身体に巻き付けた。頭の上から爪先まで包まれて私は全身真っ黒なミイラになる。 音楽が変わった。 ジローさんが合図をすると黒いミイラが浮かび上がった。それはゆっくり浮上し、頭上の幕の後ろに消えた。 ジローさんとリツコさんが揃って「はい!」と叫ぶとばさりと黒布が落ちてきた。 二人はその布を広げて私がどこにもいないことを示す。 拍手が起こって、ジローさんとリツコさんは並んでお辞儀した。 2-4. 「大丈夫か?」「ガッチーさん!?」 台の蓋を開けてくれたのはガッチーだった。 私は今まで台の仕掛けの中で仰向けに横たわっていたのだった。 「リツコはんが様子見て来いって言わはってな」「?」 「サオリちゃんのこと、変にしちゃったのは自分かもって。ヒンズーの中でそんなに乱れたんか?」 「う・・、はい」 「そおか。次は落ち着いてやったらええ」 「笑わないんですか? ガッチーさん」 「ここで笑たら、さすがに傷つくやろ?」 「がっちいさぁん・・、」 「あんまり気にせんことや。この世界の女の子やったら普通にあることや思う。知らんけど」 「ぷっ、何ですか。最後すごい無責任」 「それでどうして欲しいんや? サオリちゃんは」 「じゃ、私をここから出してください♥」 私はガッチーに向けて両手を差し出した。 「しゃあないなぁ」 ガッチーは笑って私を仕掛けの中から引き上げてくれた。 私はその肩にすがりつく。ガッチーも私の背中を抱いてくれた。 「今度、飲みに行こか」 「私、未成年ですけど?」 「しもた」「うふふ」 私たちは抱き合ったままキスをした。 [Scene.03] 3-1. 月曜の朝。 駅の改札を出て学校へ向かう坂道で後ろから声を掛けられた。 同じ高校の制服を着た小柄な女の子だった。 「すみません、あたし、1年の川口っていいます」 「はい?」 「あの、あたしとお付き合いしてもらえませんか!」 「ごめんなさい。私、そっちの趣味はないんで」 「あーん、レズとかそういうんじゃないですっ。・・えっと、マジックのイリュージョンやったりしてませんか?」 「え、どうして知ってるの?」 「やっぱり! さっき電車の中で見かけて、ひょっとしてと思ったんです」その女の子は嬉しそうに笑った。 「おととい U's ってお店で見ました!」どき。 「ほら、ヒンズーバスケットから出てきて、狐のお面外して、すごく色っぽい顔見せてくれたでしょ?」 あの瞬間が蘇る。かあーっと顔面が熱くなった。 「すごいなーって感動しましたっ。プロを目指してるんですか? それとも高校生でもうプロ!?」 「いや、私ただのバイトだし。それにあれは事故っていうか、その、」 「よかったらお名前教えてもらせませんか? あたしは川口もと香ですっ」 「あ、3年の伊吹彩央里です」 「素敵なお名前。サオリさんって呼んでいいですか? あたしのことはモトカって呼んでください!」 モトカちゃんはよく喋る子だった。 小さい頃からイリュージョンマジックに興味があって、道具を自作したこともあるという。 「そうなんですかー。サオリさんアルバイトなんですか。あたしも雇ってもらえないかなぁ」 「どうかしら。今は募集してないと思うけど」 「いいです。今度アニキに聞いてみます」「アニキって?」 「あたしのアニキ、そのお店でマスターやってるんです」 「ガ、ガッチー!!??」 3-2. 学校が終わってモトカちゃんの家に来た。 7時から U's のバイトがあるって言ったけど、それまでの間少しだけと連れて来られたのだった。 「お兄さんは一緒に住んでないの?」 「今どこに住んでるのかも知らないんです。高校出てすぐオレは一人で生きるって宣言して出て行っちゃったんですよね」「へぇ」 「ずっと大阪の方にいたらしいんです��、最近になってマジックバーで働いてるって連絡してきて、それで一度だけショーを見せてもらったんです」 「じゃあネイティブの関西人じゃないのか」 「はい。変な関西弁喋ってるでしょ? ・・あ、あたしが話したってアニキには言わないでくださいね!」 「あはは、言わないよー」 モトカちゃんは自分で作ったイリュージョンを見せてくれた。 「ギロチンだ!」 「小さいから手首専用ですけどね」 「すごいなぁ。一人で作ったの?」 「えへへ、そこらの男の子より工作得意ですよ」 それは刃渡り2~30センチくらいのギロチンだった。 とても精巧にできていて、特に銀色に輝くギロチン刃はうっとり見とれてしまうくらいに綺麗だった。 これなら U's のバーカウンターに飾ってもらえそう。
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「マジック用に売ってるギロチンって自分で刃を押し下げるのが多いんですけど、これはロープで吊って落とす方式です」 「本物のギロチンと同じなんだね」 「はい。でも刃が軽すぎてちょっと苦労しました。・・だから鉛のオモリをつけてパワーアップしてます。ずしんって落ちます」 「すごいなぁ。何でも切れそう」 「切断できますよ。野菜でも、サオリさんの手首でも」 「うふふ。いいわねー」
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私は右手を差し出した。 「やってみてよ」「じゃあ、ここに手首を入れてください」 ギロチンの刃を上にあげて、枷(かせ)を開く。 半月形のくぼみに手首を置いて枷を閉じ、小さな閂(かんぬき)を締めると、私の右手はギロチンにしっかり固定された。 その閂にモトカちゃんが南京錠を掛ける。 「はい。これで美女は脱出不可能です」 「凝ってるのねぇ」 「拘束の部分は絶対に手抜きしたら駄目だと思って」「うん、同意♥」 「あとは、紐をフックから外したら刃が落ちますけど」 「こうね?」 「あ、ダメ!!」 私が左手で紐を外そうとしたら、モトカちゃんが大声を出して止めた。 「どうしたの?」 「これは趣味で作っただけで、タネも仕掛けもないんです」 「え」 「このまま落としたら、サオリさんの右手、本当になくなっちゃいます」 3-3. モトカちゃんは錠前を外して手首を開放してくれた。 「サオリさんの顔、可愛かったです」 「あのねぇ。まあ右手が無事だったからよしとする」 モトカちゃんは引き出しから鉛筆を出した。 「切れ味を確かめるのに鉛筆を使ってます。今日はサオリさんが来てくれたからサービスで5本」 鉛筆を5本輪ゴムで束ねてギロチンの穴に差し込んだ。 そのままギロチンの紐をフックから外す。 がちゃん! 大きな音がして、鉛筆の束が叩き切られて飛んだ。 「ね、迫力あるでしょ?」「ホントだ���っ」 「鉛筆でデモンストレーションした後は・・」 モトカちゃんはギロチンの刃を上げ直して、自分の手首を枷にはめ込んだ。 「いつも自分でこうやって、一人リハーサルをするんです」 喋りながら南京錠を掛け、その鍵を私に渡した。 「鍵、持っててくださいね。これであたし、もう抜けられません」 「気をつけて、モトカちゃん」 「大丈夫です。でもドキドキしますよね」 紐に指を掛けた。 「思い切ってやっちゃおうかな、って考えるときもあります」 「ちょ、モトカちゃんっ」 がちゃん!! ギロチンの刃が落ちたけど、モトカちゃんの右手は落ちなかった。 「・・怒りました?」 「怒った」 「サオリさんの顔、やっぱりすごく可愛かったです」 「もう! この鍵、返してあげないっ」 「ああーん、それは許して~」 「ダメ。・・あはは」「えへへへ」 私たちはしばらく笑いあった。 それからモトカちゃんの手首を自由にしてあげて、二人でお喋りした。 イリュージョンの美女が着けるコスチュームの話とか、モトカちゃんが作っている次の道具の話とか、U's のリツコさんのおっぱいの話とか、いろいろ喋った。 気が付けばバイトに行く時間になっていて、私は慌ててモトカちゃんの家を飛び出したのだった。 [Scene.04] 4-1. 金曜日のバイト終わり、ガッチーに誘われた。 「サオリちゃん、デートせえへんか?」 で、でえと!? 「お酒は飲まれへんかもしれへんけど食事ならええやろ。日曜日、どうや?」 うわうわうわ。大人の男性とデートなんて、初めてだよぉ。 「嫌か?」 「いえいえいえっ。こ、光栄ですっ。デートしますっ。喜んでします!」 「おーし、うまいモン食べさしたるわ」 土曜日のバイト前、モトカちゃんから電話で誘われた。 「また家に来ませんか。日曜なら定休日でバイトお休みなんでしょ?」 日曜? ガッチーとデートが。 「次のイリュージョンができそうなんです。サオリさんに見てもらいたくって」 新しいイリュージョン? 見たい! 「駄目ですか?」 「大丈夫だいじょうぶ大丈夫。ただ明日は午後に用事があって。お昼まで、ううん2時までなら」 「じゃ、お昼ご飯と衣装用意して待ってますね!」 4-2. その夜のショーは、ジローさんとリツコさんだけで進行した。 目玉はリツコさんの衣装が早変わりするイリュージョンだった。 ついたての後ろとか、ジローさんが掲げる大布の陰とか、姿が隠れる一瞬の間にリツコさんのドレスが変化した。 最後はジローさんが長いマントをリツコさんの肩に掛けた。 リツコさんはその場で一回転。正面を向いてマントを外すと、今までとぜんぜん違うタイプの衣装に変わっていた。 フリンジの装飾がついた金色のブラ。深いスリットから片足が腰まで見える薄い黄色のスカート。 ものすごく高露出。おへそくっきり、腰のくびれくっきり。 「きゃ~っ」「待ってました!」 馴染みのお客様たちから喝采があがる。 オリエンタルな音楽が流れ始めた。 リツコさんは妖しく微笑むと、腰をくいくい振って踊り始めた。 ベリーダンスだった。すごくセクシー。 肩を左右に細かく振ると大きな胸がぶるぶる震える。同性でもどぎまぎしそう。 後で聞いたけど、衣装の早変わりとベリーダンスはリツコさんがジローさんと一緒に全国を営業していた頃の十八番だった。 引退した今もときどき披露して昔からのファンにサービスしているんだって。 「どや? ママのダンスは」 フロアの後ろで見ていたらガッチーが隣に来て言った。 「すごいですー。リツコさんにあんな特技があったなんて、知りませんでした」 「オレも初めて見たときは驚いたわ」 そのリツコさんは、踊りながら8つほどあるテーブルを巡ってお客様に挨拶している。 中にはカメラやケータイを出すお客様もいて、リツコさんは気軽にツーショットやスリーショットの撮影にも応じていた。 うわぁ、身体あんなにすり寄せて。やだ、腰、抱かれてる。 リツコさん、あんなに露出して、肌の上から男性に触られて、平気で笑ってる。 私だったら・・。 「サオリちゃん、口ぽかんと開けて見とれてたらヨダレ垂れるで」 「えっ」思わず口の周りを拭う。 「わはは」「もう、ヨダレなんか流してません!」 「サオリちゃんの頭の中、分かるわ。自分が踊るとこ想像してたんやろ」 「違いますよーだ」 「なら、むき出しの脇腹、抱かれるとこか」 「・・・」 「俺は好きやで。サオリちゃんみたいな素直な娘」 「いじわる」 [Scene.05] 5-1. 日曜日。 「いらっしゃいませ、お待ちしてましたー!」 玄関ドアを開けて迎えてくれたモトカちゃんは、赤いガウンのような服を着ていた。 「サオリさん、お化粧してる! スカートも可愛い!」 その日の私はリボンの飾りがついた白シャツと淡いチェックの膝丈スカート。 デニムミニの方がいいか何度も迷って決めたコーデだった。 「この後デートですか? いいなぁ」 ぎっくう!! 「ありがとっ。新しいイリュージョン見せてくれるんだよね」 「その前に、その綺麗なお洋服、脱いでください」「?」 「衣装用意しますって言ったでしょ?」 有無を言わさず着てきた服を脱がされた。 ブラとショーツだけの下着の上に、モトカちゃんと同じガウンを羽織らされた。 「これも自分で作ったの?」 「近所のフリーマーケットで買いました。・・動かないで」 モトカちゃんは私のガウンの前から両手を入れると、その手を背中に回しブラのホックを外した。 「きゃ!」 「女の子同士だから恥ずかしっこなしです」 するするとブラが引き抜かれた。 恥ずかしさよりも、この子の器用さに驚く。・・こんなマジック、どこかになかったっけ。 「パンツも脱いでもらっていいですか?」「え」 「あたしはもう脱いでますよ、ほら」 モトカちゃんは自分のガウンの脇をちらりと開いて、ノーブラノーパン姿を見せてくれた。 「駄目ですか?」 モトカちゃんの目が私を見ていた。 ものすごい圧を感じた。この眼力に逆らうなんてできないと思った。 「お、女同士だし、構わないかな」 モトカちゃんはにっこり笑った。さっきの視線はなくなっていた。 「サオリさん、大好きです。じゃ、むこう向いてますから脱いでくださいね」 ああ、モトカちゃん私のこと絶対チョロいと思ってる。 私はショーツを脱いだ。ガウンの下、全裸だ。 頭の中に、なぜかリツコさんがあの衣装で艶めかしく踊る姿が浮かんだ。 5-2. 新しく作ったイリュージョンを見せてもらった。 それは美女の頭に被せて周囲から短剣を刺す箱だった。 縦横4~50センチくらい。正面に観音開きの扉。上面と側面には短剣を通すための角穴がいくつも開いている。 箱の底板は首枷を兼ねていて、まず美女の首に底板を取り付けてから、箱を上からはめ込んでロックするしくみになっていた。 「ダガー・チェストです。あたしは顔剣箱って呼んでますけど」 「うちのお店じゃやってないなぁ。でも仕掛けは何となく分かるよ。鏡を使うんでしょ?」 「そうです」 モトカちゃんは実際に箱を操作して説明してくれた。 顔剣箱の中には鏡を貼った仕切り板が左右に取り付けられていて、美女の顔の前で合わさる仕掛けだった。 「これで箱の中は空に見えます」「ふむふむ」 「短剣を刺しても、鏡の反対側だから絶対安全です。・・でも」 そう言うと、モトカちゃんは箱から鏡の仕切り板を外してしまった。 「鏡なしでも遊べるようにしてます。実際のイリュージョンじゃあり得ないんですけど、その方がサオリさん喜んでくれると思って」 「どういうこと?」 「ここに座ってください」 椅子に腰を下ろすと、モトカちゃんは底板の首枷を私の首に固定した。 頭の上から顔剣箱が被せられた。 前の扉が開いて、その向こうでモトカちゃんが手を振った。 「何があっても絶対に声を出さないでくださいね」 扉が閉められた。 一瞬、暗くなったけど、すぐに目が慣れた。 角穴から光が射して箱の中がうっすらと見えた。 ぶすり。 左上の角穴から短剣が刺されて右側の穴に抜けた。 箱の中に銀色の刃が斜めにそびえる。 なるほど、鏡を外した理由はこれか。私からも見えるように。 ぶすり。どき。 短剣が逆の角度で刺された。1本目よりずっと近い。 ヒンズーのときと違って、どこから刺されるのか分からないからちょっと怖い。 ぶすり。ひ。 突き刺された短剣が途中で止まった。鋭く尖った先端が眉間で揺れ、そして反対側に抜けた。 鼻筋がつんと痛くなる。まるで弄ばれているみたい。 そうか。顔剣箱って短剣を使って中の女の子を弄べるんだ。 ぶすり。きゃっ。 水平に刺された剣が眼球のすぐ前を抜けた。近すぎて焦点が合わない。 これは本当に至近距離。ほんの2~3センチかも。 下半身に力をぎゅっと込めて、太ももを強くこすり合わせた。 ぶすり。「やんっ」 短剣の腹で頬をぺちぺち叩かれた。声出しちゃったよぉ。 弄ばれてる。もう、絶対弄ばれてる。 私、モトカちゃんの思いのまま。 きゅい~んっ。 ぶすり。「いやぁっ!」 真下に向けて刺された剣が今度はおでこを撫でた。 逃れようとするけれど、私を固定する首枷はびくともしない。 ヒンズーでは身体を絡め取られたけど、ここは顔面を絡め取られてる。 じゅんっと濡れるのが自分で分かった。そういえば下着穿いてない。 きゅん、きゅん、きゅんっ。 5-3. 首剣箱から解放されて、私は床に手をついて座り込んだ。 はぁ、はぁ。どきん、どきん、どきん。 心臓が破裂しそう。 「どうでしたか? 楽しかったでしょ?」 モトカちゃんが聞いた。へろへろになった私を見て嬉しそうだった。 「モトカちゃんって、ドSだったの?」 「サオリさんはドMですよね。乳首立てて可愛い♥」 がばっと身を起こしてガウンの前を合わせた。 それは確かに固く突き出ていた。指で摘まむと快感が走った。 モトカちゃん、上手。 私より年下なのに私の気持ちを操ってる。 「バスケットから出てきたサオリさん見て、絶対マゾの人だって思ってたんです」 「か、返す言葉もございません」 トイレに行かせてもらって股間を拭いた。よかったー、モトカちゃん家ウォシュレット。 「あたしからお願いしてもいいですか?」 トイレから戻ると頼まれた。 「落ち着いたら、次はあたしに剣を刺してください」 「モトカちゃんもやられたいの?」 「もちろんです。作ったのはあたしなのに、サオリさんだけ嬉しいのは不公平でしょ?」 「・・」 「次はサオリさんがSになる番です」 5-4. やり方を教えてもらいながら、モトカちゃんの首に底板の首枷を締めた。 「扉を閉めて剣刺すの、見えないから不安なんだけど」 「このメモに刺し方を書きました。この通りにやったら大丈夫です」 「分かった。途中で何かあったら教えてね」 顔剣箱を上からはめ込み、外れないようにロックする。モトカちゃんの顔にバイバイして観音開きの扉を締めた。 短剣を手に取って深呼吸した。 刺される側はいろいろやったけど、刺すのは初めてだった。 もらったメモを見ながら1本ずつ剣を刺してゆく。 メモには刺すべき穴の位置と方向が、楽しみどころや注意点なども含めて細かく書いてあった。 『・・No.5 半分刺したら矢印の方向にゆっくり振る。柔らかいものに当たったら女の子のほっぺた。何度か叩いて楽しむ』 これ、私がされたことじゃないの。最初から決めてたのね。 いいわ。お望み通りに弄んであげる。 モトカちゃんの表情を想像しながら、短剣で頬をぺちぺち叩いてあげた。 ガウンから見える素足がびくっと動いたけど、モトカちゃんは箱の中で黙ったままだった。 楽しい。 自分にSなんて絶対に無理と思っていたけど、モトカちゃんを苛めるのは楽しかった。 それどころか、彼女が自分の行為を受け入れてくれると思うと、それが嬉しくてさらに弄んであげたいと思った。 大好き、モトカちゃん。 全部の短剣を刺した。合計9本。 ケータイを出して写メを撮り、それから剣を抜こうとしたらモトカちゃんが片手を振って止めた。 「え? 抜かないの?」 うん、お願い。モトカちゃんは手で応えた。最後まで喋らないつもりらしい。 分かったわ。私も沈黙することにした。 今の気持ちをいっぱい味わってね。 15分くらい放置した。 椅子に座って顔剣箱を被ったモトカちゃんは一言も喋らない。 少し膝が震えているみたい。可愛いな。 その膝に触りたくなったけど、直接触れるのは反則のような気がした。 肌に触れないよう注意してガウンの裾を広げ、太ももを露出させた。 「ああっ」 小さな声が聞こえて、少し開いていた膝がきゅっと閉じた。 モトカちゃんもこんな色っぽい声を出すんだね。 5-5. 顔剣箱が前後に揺れ始めた。 「そろそろいいよね?」 返事はなかったけど、私は剣を抜くことにした。 最後に刺した短剣の束を握って引いた。・・剣は抜けなかった。 「抜けないんだけど」 ぐったりしていたモトカちゃんが急に動いて、別の短剣を指さした。 「駄目。そっちも抜けないよ」 「え、どうして?」 モトカちゃんが初めて箱の中で喋った。 どの短剣も抜けなかった。観音開き構造の正面扉も開けられない。 「刺し方、間違ったのかな」 「違ってないです。それにそんなことで壊れるはずは」 「そのまま首だけ抜くとかできないの?」 「そうですね。四隅にロック��あるので外してください」 言われた通りにロックを外したけど、箱を持ち上げることができない。 「何かに引っかかってるみたい。ぜめて首を外せたらいいんだけど」 「首枷は箱を取れないと解放できないです」 打ち手なしってこと? 「こうなったらモトカちゃんの首を切断するしかないわね」 「え、あたし首切られちゃうんですか?」 「ねぇ、チェーンソーとか持ってない?」 「いいですね、それっ。あたし血塗れになってその辺歩き回りますよ」 「歩く首なし女子高生」 「ホラーっ。サオリさんホラー好きですか」「好き」「あたしも大好き」 「あはは」「えへへ」 「・・」「・・」 「で、どうする?」「どうしよう~」 5-6. モトカちゃんを救出するまでずいぶん時間がかかった。 観音扉の蝶番(ちょうつがい)を工具で壊して、やっと箱の中を調べることができた。 仕切り板を開閉するレバーが折れて短剣に噛み込んでいた。 電動工具なんて使ったことないから大変だった。 ようやく首枷が外れるとモトカちゃんは両手で抱き付いてきた。 「よかった、です」 「顔剣箱、壊しちゃったね」 「いいんですそんなこと。・・あたし、一生閉じ込められると思ました」 「その割には明るかったじゃない」 「泣きそうだったんですから」 私にしがみついたモトカちゃんの背中が震えていた。 その背中を抱いてさすってあげた。 モトカちゃんの身体は小さくて抱き心地がよかった。 ぎゅうっ。モトカちゃんの力が強くなった。 私も力を込めて抱き返す。 女の子と抱き合うって、こんなに気持ちよかったのか。 モトカちゃんが私を見上げた。なんて可愛いんだろう。 彼女の唇に自分の唇を合わせる。 二人のガウンが脱げて落ちた。 私たちはキスをしながら、すべすべした背中を互いに撫でた。 このままいつまでも過ごしていたいと思った。 ・・いつまでも? 「ねぇ。今、何時?」「えっと5時」 ぎゃー。 ばたばた服を着て、髪とメイクを直した。 「ごめんねっ、行かなきゃ!!」 「あたしこそごめんなさい。サオリさんデートだったのに」 「いや、別にデートって訳じゃ」 「相手はアニキなんでしょ?」 「!?」 私は驚いてモトカちゃんを見る。 「昨夜電話で話したんです。今日はお店の女の子とデートって言ってたんで、サオリさんかなって思ってたんです」 「ばれてたの・・」 「あたし、サオリさんがアニキとキスしても怒りませんよ」 「キスなんて、まだまだしないよぉ」 もうしてるんだけど。 [Scene.06] 6-1. 4時間遅刻して現れた私をガッチーは待っていてくれた。 「ごめんなさい!! 」 「おお、来たか。なかなか可愛いらしい恰好してるやないか、サオリちゃん」 「怒らないんですか?」 「こんなことで怒らへん。事情があったんやろ? ・・ただ、もう水族館行く時間はなさそうやなぁ」 本当にごめんなさい! もう一度頭を下げようとしたら、大きな音でお腹がぐうと鳴った。 しまった。モトカちゃん家でお昼食べ損ねた。 「わははは。忙しすぎてメシも食うてないんか」 「いや、あのその」 「ご飯にしよう!」 言うなり、ガッチーは私の手をとってぐいぐい歩き出した。 6-2. 連れて来られたのは U's だった。 シャッターを開けて中に入り、フロアの電気を点けた。 「大丈夫やで。ちゃんとママに許可もろてるし」 「ここで食事ですか?」 ガッチーはバーカウンターの後ろに入ると冷蔵庫から大きなロブスターを取り出した。 「今夜のメインディッシュや。このガッチーさんが腕を振るって料理したるさかいにな」 「うわあい!」 カウンターの椅子に座ってガッチーが料理する様を眺める。 「退屈か?」 「ぜんぜん! ガッチーさんお料理上手ですねぇ」 「大阪におるとき修行したんや」 フライパンの上で縦割りにしたロブスターが美味しそうに焼けている。 そのフライパンの柄をとんとん叩きながらガッチーが笑う。 「今日は妹と会うてたんやろ?」 「え、何で知って」 「昨夜電話で話したんや。同じ高校でイリュージョン好きの先輩と会う言うてたから、サオリちゃんのことかな思てたんや」 「・・本当にもう、この兄妹ときたら」 「何や?」「いえ、何でも」 「ほんま、久しぶりにモトカと会うたら、おかしな趣味にはまってて呆れたわ」 「でも、お店のショーを見せてあげたんでしょ? モトカちゃん、もっと呼んで欲しいって言ってましたよ」 「あのな。オレのポケットマネーで何度も払えるほど、ここのチャージは安うはないんやで」 「そんなんですかー」 ガッチーはフライパンの蓋を取った。ぶあっといい香りが立ち上る。 「さあできた。ロブスターのガーリック香草焼きや」 フロアの二人掛けのテーブルに並んで座った。 ワインの代わりにジンジャエールで乾杯。 「美味しいっ。ちょっと疑ってたけど本当に美味しい!!」 「あのなぁ。ちゃんと修行した言うたやろ?」 「大阪へ行って帰って来たんですよね」「まあな」 「変な関西弁って、モトカちゃん笑ってましたよー」「あ、あいつめ・・」 「標準語は嫌なんですか?」「トーキョー弁には戻らないと決めたんだ。やない決めたんや!」 「ぷっ。ガッチーさんやっぱり変!」「っるっせい」 6-3. デザートのフルーツまですっかり食べて、手を合わせた。 「ごちそうさまでしたっ」「おうっ」 どうしようかな? 少し迷ったけど思い切ってガッチーの腕にもたれかかった。 ガッチーも何も言わずに私の肩に腕をかけてくれた。 「・・サオリちゃんはこの先どうしたいんや? イリュージョンの仕事やりたいんか?」 「まだ分かりません。プロになれたら素敵だと思うけど。・・ガッチーさんは? ガッチーさんの夢って何ですか?」 「オレの夢は自分の店を持つことやな。マジックとか、そういうジャンルは何でもええねん。ガッチーの店とか名前つけて、おもろい仲間が集まるようにしたい」 「素敵ですねー。私、応援しちゃいますよっ」 「何か軽いなー、その応援」「あーん、駄目?」 ガッチーへの思いが高まる。 反対側の手をガッチーの胸に乗せた。頬をガッチーの肩に合わせる。 ガッチーは黙ったまま私の髪を撫でてくれた。 気持ちいい。・・ああ、私、発情してるかも。 「ええよ、そのままくっついてても」 「あ、あ、ありがとうございます!!」 あ~、私、何をお礼言ってるんだ。 もう心臓バクバク。 「そ、そういえばっ、どうしてガッチーっていうんですか?」 「大した理由はあらへん。苗字が川口やからカワグチカワグチ言われるうちにいつの間にかガッチーになった」 「あ、カワグチカワグチでガッチー。ホンマにしょうもないですねー、あはは、」 次の瞬間、ガッチーは両手で私の顔を挟んでホールドした。そのままキス。 !! 長い時間が過ぎた。 心臓のバクバクがバックンバックンになった頃、ようやくガッチーの顔が離れた。 「落ち着いた?」 「わ、わ、わ・・」「何や?」 「私、ガッチーさんが似非関西人でも大好きです!」「ここでそれ言う?」 私たちはようやく声を出して笑った。 やたっ、2回目のキス! モトカちゃんの分を合わせたら3回目だけど。 最初のときよりずっとエクスタシーだった。 濡れた。うん、幸せ! 6-4. 入口のドアが開いた。 「あら、いたのね~」 入って来たのは U's のママ、リツコさんだった。 私たちは慌てて離れる。 「いーのよ、そのままで。お邪魔したみたいでごめんなさいねっ」 「い、いいえ」 「若いっていいわねぇ。ワタシもダンナに手を付けられたのは19のときだったわ」 リツコさんは豪快にがははと笑った。 「酔うてはるなぁ」ガッチーが小声で言った。 「多いんですか?」私も小声で聞く。 「オフの日は大抵や」そう答えるとリツコさんに向かって聞いた。 「それで何の用事で来はったんですか?」 「そうそう、それなんだけど、ウチのダンナが明日からいなくなるの」 「何かあったんですか?」 「離婚するの♥」「えええ!」 「冗談よ、冗談。仕事で香港に行くの。10日間」「あのですね」 「・・と、いうことは土曜のショーが問題やな」ガッチーが冷静に言った。 「そうなのよ。ワタシとサオリちゃんの二人」「え? それは困りますぅ~」 ジローさんがいなくて、リツコさんと二人だけで全部やるなんて無理だよぉ。 「アシがもう一人いればいいんだけどねー」 「オレはアシなんて無理っすよ。バーカウンターと照明に音響もせなあかんし」 「分かってるわ。だから何とかならないか、在庫の道具を見に来たのよ」 そこまで言うとリツコさんは両手を広げて腰をくいくい振った。 「ま、いざとなればサオリちゃんと二人でベリーダンスしましょ。特訓してあげるわ♥」 「う」 そのときひらめいた。 「ガッチーさんっ。彼女、どうですか!」 「え、アイツか?」 「きっと喜んでやってくれますよ」 [Scene.07] 7-1. 土曜日の夜。 ジローさんの代わりにリツコさんがマジシャン役で登場した。 燕尾服に真っ黒なレオタードと網タイツ。やたら開いた胸元に盛り上がるおっぱい。 横に立つ私は黒い半纏(はんてん)とショートパンツに青スカーフのくのいち風コスチューム。 最初の演目は金属球を空中に浮かべるフローティングボールマジックだった。 妖艶に微笑みながら銀色のボールを自在に操るリツコさんは、さすがに元プロだった。 次はイリュージョン。 高さ1メートルの柱に乗った箱に私が入り、布を広げて隠している間にリツコさんと入れ替わっているサスペンデッド・アニメーション。 これはちょっと頑張って練習したネタだった。 イリュージョンの二つ目は、前にリツコさんもやったキューブザク。 箱に屈んで入って六角形断面の筒を刺し通される。さらに全体を上下分割した上、長い棒を何本も突き刺す。 すごく不思議に見えるけれど、中ではちゃんと生きていられる、大好きなネタ。 そして次は今夜のために取り寄せたイリュージョンだった。 台座の上に縦型の箱。人間が立って入れる大きさで、手前の扉が透明になっている。 私は手錠を掛けられて箱の中に立った。リツコさんがその私に下から黒いサテンの袋を被せてゆく。 頭の上まで被せると、袋の口をロープで縛った。 さらに袋に入って立つ私を袋ごとベルトで背板に固定し、扉を締めた。 客席からは透明な扉を通して、もぞもぞ動く黒袋が見えている。 箱の中に白煙が湧きたつ。 しばらくして煙が消えると、そこにあった黒い袋は赤い袋に変っていた。 リツコさんが扉を開け、背板のベルトを外した。 袋の口を縛るロープを解く。 ・・中から出てきたのは、手錠を掛けられた女子高生だった。 頬を紅潮させ少し恥ずかしそうに笑う女子高生。 誰? あの子? 客先がざわめいた。 今までのイリュージョンショーはもちろん、アルバイトの従業員の中にもいない女の子だった。 リツコさんに手錠を外してもらってお辞儀する女の子。 拍手。 もちろん彼女はモトカちゃんだった。 この箱の背板はどんでん返しで回る構造になっていて、裏側は人体交換の女の子を隠す空間になっている。 「あたし、ここに閉じ込められて待つんですか? うふふっ、いいですよ!」 モトカちゃんはそう言って笑うと、ショーが始まる前から袋詰めになって仕掛けの中に収まってくれた。 きっと素敵な時間を過ごしたんだと思う。私も同じだから。 7-2. 後半のイリュージョンはモトカちゃんがアシスタントを務めた。 といっても、練習の時間が短かったからネタは一つだけ。 モトカちゃんは靴を脱ぎ、首から上と足先だけが出る箱に入った。 箱の後ろについたハンドルをリツコさんがぐるぐる回す。 すると箱は上下方向に縮み始じめ、それに合わせてモトカちゃんの首と足先の距離も短くなっていった。 まるでモトカちゃんの身長がどんどん縮んでいるみたいだった。 やがて箱の高さは数センチまで薄くなり、モトカちゃんは顎と足先がほとんどくっついた状態になった。 もちろん本人はちゃんと生きていて、大きな目玉をくりくり動かしながら笑っているし、ソックスの足先もぴくぴく動いている。 ボディ・コンプレス(圧縮)と呼ぶイリュージョン。 これも今夜初めてやったネタだった。モトカちゃんに先を越された私はちょっと悔しい。 さて、このとき私はどうなっていたのか。 モトカちゃんが圧縮イリュージョンで頑張っている間、彼女と入れ替わりにどんでん返しの裏側に収まった私はちょっと困ったことになっていた。 奥行わずか30センチの真っ暗な空間。 この中で私は手錠と袋詰めの拘束から自力で抜けて、次のイリュージョンに備えなければならない。 手錠と背板のベルトは少し力を入れれば外れる。袋は内側に垂れた解き代を引けばロープで縛られた口が緩むようになっている。 標準サイズの女の子なら、厚さ30センチの空間でも問題なくできるはずの作業。 その後は、どんでん返しで元に戻るときに袋を足元に叩き落せば、私は自由になって登場する仕掛けだ。 手錠を外し、ロープの解き代を手探りで探り当てて引いた、そのときだった。 右手にあった手錠がぽろりと落ちた。 いけない! 後になって冷静に考えたら手錠をそのまま足元に落とせばよかった。でもこのときの私は冷静じゃなかった。 落ちた手錠を拾おうとした。 手錠はショートパンツの辺りに引っかかっているようだった。 腕を下げようとしたら、腰が動いて手錠が少し下がった。 股間に硬いモノが当たる。 や、やばっ。 無意識にもがくと、手錠の片輪がきっちり直角に食い込んだ。 手錠の反対側はショートパンツの上の方に噛んでいるらしい。 手を伸ばせない。身を屈めることもできない。 自分が極薄の空間にいることを意識した。 もがけばもがくほど股間が突き上げられる。股間に意識が集中する。 この感じ。昔やった角オナ。 体重を掛けて押し付ける、あの感じ。 ・・きゅん! 何をやってるのか私。こんな場所で。 モトカちゃんも耐えたのに。閉じ込められて耐えたのに。 閉じ込められて。閉じ込められて。 ・・きゅん! 「あ、・・はぁ、ん」 駄目。声出しちゃ。 こんな場所でエッチになっちゃ駄目。角オナなんて。あそこを押し付けるなんて。 「あぁっ」 ・・きゅん! 7-3. ステージは最後のネタに進んでいた。 モトカちゃんがリツコさんに導かれて再びどんでん返しの箱の中に立つ。 扉を閉めて箱の前に大きな黒布をかざした。 少し待って黒布を外すと、そこにはまだモトカちゃん。 もう一度かざして、再び外す。 ・・モトカちゃんが消えて、私が立っていた。 リツコさんがぎょっとするのが分かった。 そのときの私は誰が見ても分かるくらいに発情していた。 うるうるした目と半開きの口。笑顔なんてとても作れない。 ショートパンツから生える太ももは内股。内側が少し濡れているようだった。 バーカウンターの向こうに立つガッチーがお腹を抱えて笑うのが見えた。 リツコさんに手を取られて箱から出る。 どんとお尻を叩かれた。 「フィナーレだよ! とろんとしてないで、しっかり!」 「ふぁいっ」 二人で左右に分かれて立ち、私が出てきた箱を指差した。 その中にはモトカちゃんが隠れているはずだ。 ステージの照明が消え、フラッシュライトが激しく点滅する。 箱の側板が両側に倒れた。前の扉も手前に倒れた。 最後まで残っていた背板も向こう側へ倒れるのが見えた。 照明が戻ると、ステージには四方に崩壊した箱の残骸だけがあった。 あの女子高生の姿はどこにもない。 おお~っ。 客先から驚きの声が湧き、それは大きな拍手へと変わった。 7-4. 「あー、楽しかった!!」 残骸の中から制服姿のモトカちゃんが這い出してきて笑った。 崩壊した箱の下に埋もれた台座。その中にモトカちゃんは身体を小さくして入っていたのだった。 私だったら入るだけで苦労しそうな極小のスペース。 そこに短時間で移動したモトカちゃんは本当にすごい。 「・・あれ、サオリさん顔赤いですけど、大丈夫ですか?」 「あ、ちょっとした事故があったけど大丈夫だから」 「えっ、事故ですかっ。具合悪いんだったら、寝てた方が」 ふ、ふ、ふ、ふ。 その場にいたガッチーとリツコさんが笑った。 「もう、何がおかしいんですかっ」 「そういえば、サオリちゃんがやらかした現場に立ち入ったはモトカだけやな」 ぷっ。リツコさんが吹き出す。 「わ、わ、わ」 「なあ、モトカ。最後にサオリちゃんと入れ替わって回転板に隠れたとき、何か気ぃつかへんかったか?」 「最後に? すごく短い時間だったから・・。でもそういえば、つーんと甘酸っぱい匂いがして何だろうって」 ぎゃー。 [エピローグ] 私は高校を出て専門学校へ進み、その間ずっと U's のアルバイトを続けた。 卒業した後ジローさんのアシスタントに正式に採用されて、この世界に入った。 プロになってからはいろいろあって、今は女性だけのイリュージョンマジックチームのリーダーをしている。 モトカちゃんは私と一緒に U's でバイトをするようになった。 彼女が趣味で作るイリュージョンの道具はジローさんに認められてプロのショーで使われるほどになった。 この世界に入らないかと誘われたようだけど、断って今は可愛い2児のお母さんだ。 たまに会って女同士の濃い友情を交わしているのは彼女の旦那様には内緒。 ガッチーにはお付き合いして2年目にバージンを贈呈した。 被虐の想いが溢れて狂いそうになった私を、緊縛という愛情で救ってくれたのも彼だった。 彼自身は U's のマスターを辞めた後、フェティッシュバーの店長、怪しい秘密クラブのマネージャーなど、いろいろな仕事を渡り歩いて夢を追いかけている。 結婚とかそういうことは考えていないけれど、ずっとお互いを高め合うパートナーでいるつもり。 ジローさんとリツコさんは、もう老舗ともいえる U's を変わらず続けている。 お店のバーカウンターにはモトカちゃんが寄贈したあの小さなギロチンが今も飾られているんだって。 来月あたり、昔の仲間で集まろうと声が掛かった。 久しぶりにリツコさんのベリーダンスが見られると楽しみにしていたら、女性参加者は全員セクシー衣装持参で踊るのよと言われてしまった。 お酒さえ飲ませておけばストリップだってしてくれる人だから、モトカちゃんとはその作戦でいこうと相談しているところ。
~ 登場人物紹介 ~ 伊吹彩央里(サオリ): 18才、高校3年生。マジックカフェ&バー『U's(うっす)』のアルバイト。 ガッチー : 25才。U's のマスター兼バーテン。サオリの彼氏になる。 川口もと香(モトカ): 16才、高校1年生。ガッチーの妹。イリュージョン道具の自作が趣味。 内海次郎(ジロー): 46才。プロマジシャン。U's のオーナー。 内海律子(リツコ): 33才。元マジシャン兼アシスタント。ジローさんの妻。 清美(キヨミ): ジローさんのアシスタント。途中で退職。 『くのいち~』 『続・くのいち~』 で女性イリュージョンマジックチームのリーダーをしていたサオリさんが高校3年生の時のお話です。 今は30台後半と思われる彼女ですから、およそ18~20年の昔になります。 スマホのない時代ですね。おっぱい星人、写メ などの懐かしい言葉や温水便座などその頃の感覚を少しだけ織り込んで楽しみました。 本話に登場したイリュージョンで当時まだ発明されていないものがあったらごめんなさいです。 『くのいち~』ではとても真面目なリーダーだったサオリさん。 もちろん高校生の頃も真面目で奥手でした。 後輩のモトカちゃんにうまくコントロールされてエッチな気分にされてしまうのは、もうお約束の展開ですね。 イリュージョンの最中にネタ場の中で角オナに走るのはちょっと強引だったかも。 でも奥手な女の子の角オナはとても可愛いので大好きです(何を言ってるのだ私は)。 サオリさんのお相手になったガッチーという男性は『続・くのいち~』で秘密クラブのマネージャーとして登場した人です。 もともとサオリさんとの間に特別な関係があることを想定していましたが『続・くのいち~』では描くことができませんでした。 このお話で二人のなれそめを描いてあげることができてよかったです。 ちなみに、ガッチーは別の短編( 『視界不良な生活』 )にもチョイ役で登場しています。 お気付きの方は「うん、知ってる」とドヤ顔をしていただき、そうでない方はぜひお読みください。(イリュージョンのお話ではありません) イラストで描いたギロチンは、どうしてもブレード(刃)が自身の重量で落下する構造にしたくて、あれこれギミックを考えました。 お話の中ではタネに触れていませんが、このような外観イメージでマジック可能なはずです。 ブレード上部の箱はモトカちゃんの言う「鉛のオモリ」です。市販の鉛板を張れば1キロ以上になるでしょう。軽量なブレードでも鉛の重さで叩き切るイメージ。 この重量と衝撃に耐えるにはフレームを相当しっかり作らねばなりませんけどね。 もう一つ、イラストにサオリさんとモトカちゃんの人体交換イリュージョンの流れを描きました。  前半(モトカちゃん登場まで)  後半(箱の倒壊まで) ディテールはありませんが、参考にどうぞ。 それではまた。 次作はまったく未定ですが、これからも楽しみいただければ幸いです。 ありがとうございました。 PS. 執筆にあたり、ストーリー展開およびイリュージョンの内容でご提案ご相談くださった某くのいち様にお礼申し上げます。 [2023.8.10 追記] こちら(Pixiv の小説ページ)に本話の掲載案内を載せました。 Twitter 以外にここからもコメント入力できますのでご利用ください。(ただしR18閲覧可能な Pixiv アカウント必要)
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t82475 · 3 years
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t82475 · 3 years
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感染
★★★ご注意★★★ これは成人向けのフィクション小説です。 新型コロナウイルスにヒントを得て創作しましたが、本話に登場するウイルスはあくまで空想上のものです。 センセーショナルなテーマで注目を集めることを意図していませんで、SNSなどで無責任に話題にすることは避けてください。 また、筆者は医学の専門家ではありません。 それらしく記した専門用語や治療方法はすべてファンタジーです。現実のコロナと混同されないよう、くれぐれも注意してください。 本話で記した医療行為等を真に受けてトラブルが生じても、筆者が責任を取ることはできません。 (これだけ書いておけば大丈夫かな) ★★★★★★★★★ [Part.1] 1. とあるホテルの客室。 窓から外の景色を見る男性。 まだあと10日も過ごすのか。気が重かった。 日本に着いたのは3日前。 ワクチンは接種済みだった。 しかし入国時のウイルス検査で同じ飛行機の乗客から陽性者が出た。新種の変異株だった。 この変異株に対してワクチンの有効性はまだ確認されていない。 機内で座席が近かった男性は有無を言わさず2週間の隔離処理になった。 何ということか。 彼はプロの音楽家だった。 仕事はキャンセル。楽器も別便で送っていたから、この軟禁から解放されるまで楽器に触れないのも辛かった。 それに。 男性の脳裏に一人の少女の顔が蘇る。 彼女との再会を期待していたが、それも叶わない夢となったようだ。 2. ドアをノックする音がした。 「荷物が届きました。お部屋の前に置いておきます」 荷物? 僕に? 3分待ってドアを開けた。 ホテルの従業員との直接接触を避けるためのルールである。 食事や届け物は廊下に置いてもらい、自分で取り込むことになっていた。 誰もいない廊下。そこに大きな楽器ケースが立てて置かれていた。 これはコントラバスじゃないか。 思わず駆け寄った。 キャスター付きの楽器ケースをそのまま部屋に引き入れる。 蓋を開けようとして少し困った。 このケースには4桁のダイヤル錠がついていたが、番号が分からなかった。 「・・お部屋の番号でございます」 どこからともなく声が聞こえた。女性の声だった。 訳が分からなかったけれど、ダイヤルを自室のルームナンバーに合わせてレバーを引いた。 蓋が開いた。 楽器ケースの中にコントラバスは入っていなかった。 上の方には小さな包みがぎっしり詰まっていた。 そして下側には、不織布マスクをつけた少女が小さくなって収まっていた。 少女は自分でケースから抜け出てくると、立ち上がって髪と衣服を整え、そして男性に向かって深々と頭を下げた。 「柿崎様。このたびの不手際につきまして、心より謝罪申し上げます」 「え、何」 「当方の施設にお移りいただこうと努めましたが、あの石頭の知事が、・・失礼いたしました、私どもの力不足でございます。まことに申し訳ございません」 彼女が身に着けているのは黒いミニスカートのメイド服だった。 柿崎と呼ばれた男性はこのメイド服を知っていた。少女の声にも覚えがあった。 「キミはH氏のメイドだね」 「はい。お目にかかりますのは2度目でございます」 彼女は口元を隠していたマスクを外した。 「あぁ! キミに会いたいと思っていたんだ」 「覚えていてくださったのですね。嬉しいです」 それは男性が想っていた少女だった。 「それにしても、なぜコンバスのケースなんかに入って」 「ここでわたくしの存在は秘密でございます。柿崎様もどうかご他言されませんよう、お願い申し上げます」 「僕は新種ウイルスの濃厚接触者だよ。来てくれたのは嬉しいけれど、こんなところにいちゃダメだ」 「柿崎様の感染が確認された訳ではございません。それに、どのような事情であろうとお客様にご不便を強いることは許されないのです。つきましては、」 少女は微笑んだ。 「こちらにご滞在中、わたくしにお世話させてくださいませ。ご満足いただけるようお尽くしいたします」 3. フランス在住でコントラバスのソリストである柿崎陽明が初めてH氏邸に招かれたのは1年前。 当主のH氏の前で演奏し、そして夜は部屋付のメイドだった少女の伽(とぎ)を受けた。 彼は33才で独身だった。独身になる前に2度結婚し2度離婚していた。 これ以上結婚する愚を繰り返す気はなかったが、据え膳を拒むほどヤボでもない。 少女を抱き、そのベッドテクニックと細やかな気配りに驚いた。 朝になって彼女の年齢がわずか15と知りもう一度驚いた。 倍以上も歳が違う男をここまで満足させるとは。 この幼い日本人少女はサン・ドニの高級娼婦でも敵わないと思わせる一流のセックス・メイドだったのだ。 今回の来日はH氏邸への二度目の訪問になるはずだった。 柿崎は改めて目の前の少女を見る。 ショートヘアの黒髪、色白の肌。濃い目の眉ときらきら輝く瞳。 前に会ったときと少しも変わっていなかった。 ただ、少し背が伸びたか。胸も大きくなったように思えた。 記憶の中から少女の乳房を呼び戻す。 「バストは75のDカップになりました。よろしければ触ってお確かめくださいませ」 「え」 少女が笑っていた。 そうだ、この子は僕が何を考えているのか魔法みたいに分かるんだった。 「・・えっと、」 慌てて取り繕う。そうだ楽器。 「キ、キミは楽器の替わりにケースに入って来たんだね。できれば僕のコンバスを届けてくれると嬉しいんだが」 「そうおっしゃると思っておりました。柿崎様のコントラバスはお預かりしておりますが、ホテルの部屋でお弾きになるには音が大きいものですから、代わりにこれをお持ちしてございます」 「おおっ」 少女が出したのはサイレントベースだった。 アコースティックなコントラバスに近い音が出せる電気楽器である。 ヘッドフォンで音を聴くので誰に苦情を言われることもない。 柿崎自身もパリのアパルトマンでは同じサイレントベースを使っていた。 「使わせてくれるのかい?」「もちろんでございます」 椅子に掛けて楽器を受け取り、指で弦を弾き軽くチューニングする。 よし。 ヘッドフォンを着けて弓を構えた。 太い音が流れる。数日ぶりに奏でるコントラバス。 うん、いい音色だ。 いつの間にか音の世界に没入した。 4. 気が付くと少女の姿がなかった。 と、バスルームから少女が現れ、楽器ケースの蓋を開けて銀色の器具を出した。 あれはフライパンか? フライパンを手に少女は再びバスルームの中に消える。 それっきり出てこない。何をしているんだろう? 覗き込むとバスルームの中に折り畳み式の小さなテーブルが置かれていた。 テーブルの上にはカセットコンロ。その前でフライパンを振る少女。 このホテルの客室にはキッチンなんて気の利いた設備はないから、彼女はバスルームで料理をしているのだった。 オリーブオイルとバターの香りが漂う。 ああ、素敵な香りだ。 この部屋に来てから食事は冷たいサンドイッチか弁当ばかり。 暖かい食事に飢えていた。 少女が振り返った。 「練習のお邪魔をしましたか? ディナーまであと10分だけお待ちくださいませ」 「そんなところで火を使って大丈夫なの?」 「ちょっとした工夫です。ホテルのセキュリティシステムに細工いたしましてここの火災警報器は無効にしてございます」 「やはりキミは魔法使いだね」 「光栄です。・・サーロインの焼き加減はいかがいたしましょう?」 「任せるよ。僕の舌は音痴なんだ。でも好みを言わせてもらえばブルーレアとレアの間くらいがいいな」 「うふふ。かしこまりました」 ブランデーの瓶が振られて炎が狭いバスルームの天井近くまで立ち上がった。 5. その夜、柿崎は少女を抱いた。 少女は明らかに昨年より成熟していた。 乳房はふくよかに膨らみ、腰の括れと尻の張りも大きくなっていた。 日本女性特有のきめ細かい肌はいっそう柔らかくなっていて、あらゆる箇所の触り心地がよかった。 彼は少女の膣(なか)に2度放ち、その度に彼女は小さな声で鳴きながら震えてくれた。 「ねぇ、僕は感染していると思うかい?」 裸の少女を胸に抱きながら聞いた。 「柿崎様にそのようなことはないと信じております。ただ万一の場合は、当家の専門病院で最善を尽くします」 「キミはワクチンを打っているの?」 「はい。わたくしも柿崎様と同じです」 「何でも知ってるんだね。・・僕は本当は怖いんだ。明日にも高熱を出して倒れそうで。僕と一緒にいてキミは怖くないのかい?」 「どうして怖がるのですか? こうしてご奉仕させていただけているのに」 いい子だな。 このままずっと抱いていたいと思った。いっそ感染したらもっと一緒にいられるかな。 そう考えた途端、耳元で少女がささやいた。 「実はわたくし、悪い子なんですよ? ときどきお客様に良からぬことを思わせてしまいます」 「僕が何を考えたのか、いったいどうして分かるんだい?」 「勘です」 少女は微笑みながら、柿崎の右手を掴み自分の胸に導いた。 マシュマロのように柔らかい半球が掌の中に収まる。 「どうか、今は無事にお過ごしになることだけをお考えくださいませ。・・よろしければ、悪い子の胸を揉んでいただけますか?」 黙って少女の乳房を揉みしだいた。 「あ・・」 半球の先端に乳首が尖った。 右手の中に突然グミ菓子が現れたようだった。 「ん、あぁっ・・、お上手です、柿崎、さまっ」 柔らかい女体が波打った。 彼の男性が反応する。 少女は身を起こし、四つん這いになってそそり立つそれを口に含んだ。 おおっ。 柿崎は朝までにさらに2度放精した。 6. H氏邸からは数日おきに食材の入った小包が届いた。 それで少女が作ってくれる料理はどれも絶品だった。 ホテルからも毎食の弁当が差し入れられたが、少女が試食して「ゴミですね」と切り捨て、毎回トイレに流されることになった。 柿崎はコントラバスの練習に明け暮れ、夜はベッドで少女を抱いた。 毎朝のウイルス検査で陽性反応が出ることもなく、平穏で幸福な日々が続いた。 「あら」 H氏邸からメイドがやってきて6日目の朝、届いた食材をチェックしていた彼女が小さな声を上げた。 「どうしたんだい?」 「いえ、ちょっと頼んでいない品物が届いたものですから」 「?」 「お使いになるかどうかは柿崎様がお決めになってくださいませ。お相手は、わたくし、になりますが」 屋敷から届いたそれは、手錠、リード(紐)のついた首輪、革の手枷と足枷、猿轡、その他どうやって使うか分からない様々な拘束具だった。 「キミのところではこういうプレイもできるのか」 「はい。これらはごく軽めの拘束具ですが、ご希望があれば厳しい緊縛や拷問も承ります。メイドに苦辱を与えてお楽しみになるお客様は珍しくありません」 「拷問なんて、僕にはとてもできないよ」 「柿崎様のご嗜好はわたくしどもも承知いたしております。ですが、そろそろ新しい趣向を提案してきたのでしょうね」 「キミはどうなの? 鎖で繋がれたりして平気なのかい?」 少女の顔が少し赤くなった。 「大丈夫です。柿崎様のお気に召すようにわたくしを拘束してくださいませ」 「こういうのは初めてなんだ。教えてくれるかい」 「はい。お導きさせていただきます」 7. 揃えて出された両手に手錠を掛けた。 「お掛けになったら、わたくしの左手を持って、軽く持ち上げてくださいませ」 言われた通りに少女の左手を掴み上に引くと、手錠で繋がった右手も吊られて上がった。 「はぁ・・」 少女が溜息をついた。消え入りそうな声が混じっている。 「痛いのかい?」 「そうではありません。・・ただ、こうすることで女は拘束されていることを実感いたします」 そうか。嫌ではない、ということか。 「次は首輪を」「わかった」 首輪を巻いた。 「きつめに絞めていただいて構いません」 「絞めて欲しいんだね」 「いえ、そういう訳では」 バックルにかかる穴を二つ進めて留めた。 「はぁっ」 今度ははっきり分かる声だった。 「お、お上手です。これくらいが、苦しくなる手前です」 「手錠と首輪だけでそんなセクシーな声を出すんだね。ベッドじゃあれほど大胆なのに」 「ああ、言わないでくださいませ」 首輪から伸びるリードを少女が自分で持ち、柿崎に向かって差し出す。 「首輪を締めたら、この紐を、まるで飼い犬でも引くように、・・強く、引いてくださいませ」 黙ってリードを受け取ると、ぐいと引いた。 「あぅっ。・・も、もっと強く」 さらに力を加え、斜め上に強く引いた。 首輪が顎の下の食い込む。 少女の踵が浮いた。 「あ、ああぁっ!!」 少女は目を閉じてがくがく揺れた。 興奮していた。柿崎は少女の首を絞めることで明らかに高まっていた。 そして少女も拒んでいない。拒まないどころか、首を絞められて悦んでいるのだと分かった。 これが女性を責めて楽しむということか。 「あ・・・」 少女の身体から力が抜けた。 そのまま崩れ落ちそうになるのを抱きかかえて支えた。 「はぁ、はぁ・・、申し訳ございません」少女が目を開けて言う。 「お導きするなどと申して、こんなに頼りない、へなちょこなメイドで・・、んっ」 少女の口を柿崎の口が塞いでいた。 「たったこれだけで大人を興奮させるなんて、本当にキミは大変な娼婦だ。・・もう我慢できない。外はまだ明るいけどキミを裸にするぞ」 「あ、あぁ、はいっ。・・ご自由に、どうぞご自由に、わたくしを使ってください、ませ」 8. 隔離が終わる日。 柿崎にウイルス感染の症状が出ることはなく、検査の結果も陰性のままだった。 夜にはパリに向けて出発しなければならない。 「帰りの飛行機でまた感染者が出ないことを願っているよ」 「ご安心くださいませ。当家のプライベートジェットをご用意いたしますので、感染のリスクはありません」 「すごいね。もしかしてキミも一緒に来てくれるのかい?」 「あいにくですが、わたくしは屋敷に戻り隔離処置を受けます。機内でのお世話は別のメイドが担当いたします」 「そうか。サヨナラするのは残念だよ」 柿崎は本当に残念そうな顔をした。 「そうだ、僕からのお礼をしよう」 「お礼、でございますか?」 「ここに座って、両手を後ろに回して」「はい」 柿崎は少女をベッドに腰かけさせた。 革の拘束具を持つとストラップを少女の二の腕に巻きつけた。 右側、左側。それぞれ強く締める。 そうして両腕を背中で組ませアームバインダーを被せた。 バインダーに3本あるストラップをすべて締め上げるた。 続けて少女の足首に足枷を取り付け、これもストラップで締め付けた。 「どうかな」 「動けません。・・嬉しいと言ったら、わたくしのこと、お嫌いになりますでしょうか?」 「僕だって嬉しいさ。こんなに可愛いメイドを自由にできるんだからね」 柿崎はそう言って少女の頬を愛おしそうに撫でた。 「キミは最高の女の子だ」 「もったいないお言葉です、柿崎様」
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少女の頭にサイレントベースのヘッドフォンを被せた。 それから椅子に座ってベースと弓を構える。 「僕の日本でただ1回のコンサートだ。心を込めて弾くよ」 コントラバスの音色が低く、ゆっくり響いた。 Canon in D(ヨハン・パッヘルベルのカノン)。 ・・あぁ、大好きな曲。 少女は目を閉じて聴いた。 身体は拘束具で囚われているけれど、音楽を聴く心は自由だった。 やがて涙が目元にあふれ、頬を伝って流れた。
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9. フランス在住の日本人音楽家・柿崎陽明氏はパリへと帰っていった。 少女は再び楽器ケースに入ってH氏邸に帰還し、検査と観察のため屋敷内で隔離された。 3日が過ぎ、いつものように朝食を取ろうとしたら味が分からなかった。 彼女はH氏グループが経営する専門病院に移された。 [Part.2] 10. ベッドの横に人影があった。 男性と女性。二人とも感染予防の防護服を着ていた。 男性はお医者様だ。女の人は、誰だろう? 「・・熱はだいぶ下がりました」お医者様の声。 「急性期の段階から抗体価が高かったとのことですが」女性の声。 「このウイルスは急性期の方が回復期より抗体価が高いことも多いのです。ただ、彼女の場合は突出していました」 「退院しても大丈夫ですか?」 「本当はまだ許可できません。・・でも、もう決まっているのでしょう?」 「決定したのはあなたがたH邸ですよ。政府と私はそれに協力するだけです」 「そうでした」 少女は女性を見上げる。 20台半ばくらいかな。綺麗な人。 「目が覚めましたか?」女性が言った。 「・・どなた様、でしょうか?」 まだ頭が朦朧(もうろう)として、うまく喋れない。 「外務省北米局の武藤早矢(はや)です。高熱でずいぶん苦しんだそうですね」 「はい」 「あなたには悪いけど、すぐに出発しなければなりません」 「それは、メイドの、お役目ですか?」 「ええ。あなたが必要なの」 そうか、じゃあ、全力でお尽くししないと。 「武藤、様」 「早矢と呼んでくれていいわよ」 「では早矢様。わたくしは、どこへ」 「アメリカよ」 11. その90分後。 在日米軍基地を離陸した輸送機の中に少女と武藤早矢がいた。 少女は透明なカプセル状のアイソレーター(ウイルス飛散を防ぐ陰圧シールド)の中に寝かされ、さらに転動防止のために全身をストラップで固定されている。 アメリカ軍の飛行機とは驚いたけれど、早矢によると少女の輸送は日本とアメリカ両国政府の特認の元で行われているらしい。 スーツ姿の早矢が近くのシートに座っているのが見えた。 早矢は少女に顔を向けて何かを話そうとしているようだ。 そういえば、詳しい説明は飛行機の中でするとおっしゃっていたわね。 でもこんなに轟音が激しくちゃ、いくら声を張り上げても会話するのは難しそう。 早矢は少女の脇に来て喋ろうと考えたのだろう。シートベルトを外して立ち上がろうとして、隣にいた米軍士官に制止された。 お願い、大切な話なの! 両手を振り回して必死に訴えているが、聞き入れてもらえそうにない。 少女は少し微笑んだ。 早矢様って、落ち着いていて知的な女性と思っていたけど、可愛い。 そのとき機体が大きく傾いた。輸送機が旋回したようだ。 早矢は中腰のまま真横にこけて士官に支えられた。 スカートからストッキングの脚が真上に伸びて、まるで漫画のようにばたばた動いている。 少女の身体も真横に振られた。それと同時に全身を固定するストラップがぎゅっと締まって制止された。 拘束されていることを意識する。手も脚も動かせない。 あぁ、嫌じゃない。 H氏邸のメイドにとっては子供遊びのような拘束だけど、それでも自由を奪われるのはちょっと嬉しい。 少女はゆっくり目を閉じた。 早矢様、申し訳ありませんがご説明はアメリカに到着してから願いますね。 12. 着陸の衝撃で目が覚めた。 少女を収めたアイソレーターが搬出される。 あれ? ヘリコプター? 自分を載せてきた機体を見て気が付いた。いつの間にか輸送機からヘリに乗り換えていたようだ。 ごろごろ押されて建物の中に運ばれた。 「着いたわよ!」一緒に走りながら早矢が教えてくれる。 明るい手術室のような部屋に入ると、口髭をたくわえた背の高い白人男性が待っていた。 男性は早矢に向かって英語で話しながら握手する。 "やあ、リズ。見違えたよ。よりによって君が日本の官僚とはね" "運命のなせる業です。でもおかげでこうして再会できました、チャールソン所長" "クレア・エルトンとの親交は継続しているのかね?" "はい。彼女がエジンバラに行ってからも歳の離れた親友です" "そうか。いずれゆっくり思い出話を楽しみたいものだが、まず今は緊急事態だ" 男性はアイソレーターに収められた少女を見た。 "この娘がドナーか" "はい。16才のメイドです" "ふむ。さっそくだが採血と検査、患者には血漿投与の準備を同時並行で行う。・・拙速の極みだよ。急(せ)いては事を仕損じる、慌てて走ると転びますぞ、とは誰が言ったかな?" "ロミオとジュリエットの第2幕、ローレンス神父の台詞です" 早矢はさらりと答え、チャールソン所長はにやりと笑った。 13. 少女はアイソレーター内に拘束されたまま唾液を採取され、さらに腕に注射針を2本刺された。 約600mlの血液処理に要する時間はおよそ1時間。 採血管から得た血液は分離装置で血漿成分が取り出され、残った赤血球などの成分は返血管を通じて少女の体内に戻される。 「気分はどう?」 早矢が声をかけてくれた。 「問題ありません。そろそろ説明していただけるでしょうか。ここはどこですか?」 「ここはアリゾナ州にあるキャンベル人間工学研究所よ。キャンベル財閥による運営で、その当主はマーク・キャンベル氏」 キャンベル様ならお名前は聞いている。確か、旦那様が懇意になさっているアメリカの大富豪だ。 「わたくしのお役目は血液を提供することですか?」 「もちろんそれが一番の役目だけど、旦那様のお世話もしてもらうわ。あなたには抗体があるから」 「旦那様とは?」 「あなたのご主人よ。ウイルスに感染して、こちらの施設におられるの」 「ええっ!」 H氏は渡米中に発症し、キャンベル人間工学研究所に極秘で収容された。 新種の変異株である。治療薬や治療法は確立されていない。 感染症の権威が診断し、治療法として回復期血漿投与による受動免疫療法が提案された。 確実性はないが、現段階の症状の進行状況では効果が期待できると考えられたのである。 こうして金に糸目をつけずに世界中でドナー(血漿成分の提供者)の探索が行われた。 何人かの候補者の中にH氏邸のメイドがいた。 彼女はたまたま同時期に発症して回復期にさしかかっていた。 血液型、抗体価その他の条件が適合したことに加え、本人や家族の了解を得ることなくドナーに使えることも好都合であった。 日本で採取した血漿を調製して凍結輸送する余裕はないと考えられ、本人をアリゾナまで緊急搬送することになった。 日米両政府とアメリカ空軍の協力を��てわずか11時間の輸送だった。 14. 待機していた少女にウイルス検査の結果が伝えられた。陰性である。 アイソレーターが取り外され、全身を固定していたストラップからも解放された。 起き上がって深呼吸する。 ずっと続いていた頭痛と身体の痛み、倦怠感が消えていた。 もう大丈夫。わたしは元気だ。 体を洗って早矢が一緒に持ってきてくれたメイド服を着用する。 身だしなみを整えながら気になっていたことを早矢に聞いた。 「早矢様、チャールソン所長様は早矢様のことをリズとお呼びでしたが」 「あら、分かった?」 「盗み聞きするつもりはありませんが、お二人の会話がとても明瞭に聞き取れたものですから。早矢様はイギリスで英語を学ばれたのですか?」 「さすがH氏邸のメイドね」 「語学は厳しく教育されました。メイドとしてはまだまだ未熟です」 「でもあなたは旦那様がお選びになった女の子よ。誇りに思っていいわ」 「あの、もし間違っていたら申し訳ありませんが」 「何?」 「早矢様は、お屋敷でお勤めでしたか? メイドとして」 早矢は驚いた顔で少女を見つめる。 「どうして分かったの!?」 「勘です。わたくしたちメイドについてよくご存知ですし、早矢様ご自身がメイドを誇りに感じてらっしゃるようなので」 「どうやら後輩を舐めていたようね。・・正体を明かすわ。この仕事をする前はお屋敷にいたの」 「あぁ、やっぱり」 「17のときにこの研究所に派遣されてご奉仕したわ。リズはそのときの一生忘れないニックネーム」 「17才ですか。きっと可愛らしいメイドさんだったんでしょうね」 「私のことはもういいでしょ? 今日はこれから・・、きゃっ」 少女が早矢に背中から抱き付いていた。 「早矢様がいてくださって、本当に心強いです」 「だ、駄目でしょ」 わざとやっているのか、そうでないのか、少女の両手は早矢の胸を押さえて揉んでいる。 「あ、ふ・・」 早矢は少女に抱かれたまま後ろを向いた。 そうして、その口を少女の唇に合わせる。 「んっ・・」 少女の身体から力が抜けた。 早矢様、女同士のキスなのに、なんて上手。 やがて二人は唇を離した。 「あなたこそ、今まさに "花" だわ」 「はぁ、はぁ。・・はい」 「全力で、お尽くしするの。いい?」 「はい、早矢様」 こほん。わざとらしい咳払いが聞こえた。 "そろそろ病室へ移動してくれるかね" ドアを開けてチャールソン所長が立っていた。 抱き合っていた二人は慌てて離れる。 "エルトン博士の報告を思い出したよ。・・リズは同性相手でも性的な接待が可能である。その技術は驚くべきものだと" "所長! お願いですから、この子のいる前でそういう話はやめてくださいっ" 15. 研究所の職員に案内されて病棟へと移動した。 エアシールドの前まで来るとその先は少女だけが通される。 病室に入ると、点滴に繋がれて酸素吸入器をつけたH氏が眠っていた。 そのまわりで防護服を着た医師と看護師が立ち働いている。 わたしだけメイド服のままで構わないのかしら? すぐに気がついた。自分には防護服もマスクも要らない。 "血漿を投与しました。後は天に祈るだけです" 看護師の一人が説明してくれた。 "そうですか。わたくしは何を?" "何でも。医療行為は我々が担当しますが、それ以外はやってください" "はい" "あなたが来られたので、我々はリスク回避のため定期的な診療を除き病室から退去します。基本的な介護はあなたに任せるようにとの指示です" "分かりました。お任せくださいませ" "何かあればインタフォンで知らせてください。それから、あなたには行動制限が課せられます" "行動制限ですか?" "それは、つまり、" "病室内に24時間留まりなさい、という意味ですね? わたくし自身には抗体がありますが、わたくしの体と衣服は汚染されましたから” "あなたが聡明な女性でよかった" "恐縮でございます。行動制限を受け入れます" やがて医療スタッフは出てゆき、病室には少女だけが残された。 よし! 旦那様のお世話をさせていただくのは初めてだ。 少女はメイド服の袖をまくった。 16. 少女は献身的にH氏の看護に努めた。 メイドがご奉仕するのは当たり前のことだから辛くも何ともなかった。 お体の清拭、衣服やシーツの交換、下(しも)のお世話。点滴や呼吸器を確認、看護師作業の補助。 できることは何でもやった。 病室には個室のトイレや洗面所があり、食事も提供されたから、彼女自身が困ることはなかった。 血漿投与の翌週、昏睡状態にあったH氏の症状は快方に向かい始めた。 数日後には呼吸器が不要になった。 意識が明確になることはないものの、たまに目を開けて「水が飲みたい」など求めるようになった。 医師は受動免疫が有効に機能していると診断した。 少女にとっては大いなる喜びだった。 自分の血液が旦那様の中に流れている。そう思うだけで嬉しい気持ちになった。 「そこのお前。ここはどこだ?」 はっきりした声が聞こえた。 振り返るとH氏がベッドに寝たままこちらを見ていた。 「キャ、キャンベル人間工学研究所でございます」 慌てて頭を下げてお答えする。 「キャンベル・・? アリゾナか?」 「はいっ。そうでございます。ご病気はまもなく治るとお医者も言われておりますので、どうかご安心くださいませ」 「・・」 あれ? しばらく待って頭を上げると、H氏は再び目を閉じて眠っていた。 どきん、どきん。 心臓が止まりそうだった。 旦那様と直接言葉を交わしたのは屋敷に入って何度目だろうか。 駄目ね、わたし。 もっとご奉仕しないといけないのに。 ・・あなたこそ、今まさに "花" だわ。全力で、お尽くしするの。いい? 早矢の言葉が蘇る。 少女はインタフォンで依頼した。 "お届けをお願いできるでしょうか? 麻のロープを10メートルほど" 17. 翌日、病室にやって来たのは早矢だった。 防護服を着て、手に麻縄を入れた袋を持っている。 「所長に聞いたわ。もしかしてあなた、自縛するつもり?」 「はい。旦那様はメイドの緊縛がお好きでいらっしゃるので」 「自信はあるの?」 「実はあまり得意ではありません。でもお喜びいただけるように全力で」 「駄目よ。旦那様はとても目が肥えてらっしゃるから、中途半端な自縛はかえってご不満になるわ」 「そんなにはっきり言われると、落ち込みます」 早矢は微笑みながら縄束を取り出した。 「大丈夫、メイドの緊縛をお見せすることなら可能よ」 「早矢様、お縛りになれるんですか?」 「私、あなたの先輩よ? あなたも受ける方なら大丈夫でしょ?」 少女も微笑んだ。 「はい。まる一日中吊られたって耐えてみせます」 「じゃあ旦那様がお目覚めになる前にやってしまいましょう。・・床にうつ伏せになって両手を前に出しなさい」 言われた通りにすると、早矢は少女の手を頭の後ろで合わさせ、その手首を縄で縛った。 右腕の上腕と前腕を合わせて縛り、左腕も同じように縛った。 さらに足首を合わせて縛り、膝を折らせて足首の縄を手首まで引いて固定する。 「どう?」 「動けません。でもお優しい緊縛ですね」 「それは物足りないっていう意味?」 「いえ、そんな訳では」 早矢は立ち上がるとインタフォンで連絡した。 "準備できました。運んでください" やがて病室に防護服の男たちが現れて、棺桶のようなガラスの水槽を運び込んだ。 彼らは床に防水シートを敷き、その上に水槽を据えた。 水槽の底には金属の首輪が細い鎖で繋がっているのが見えた。 鎖の長さは30センチほどだろうか。 「これは私の友人が使っていたウォーターボーディング(水責め)のテストツールよ。彼女、被験者を女性に限ってテストしていたの」 「 "彼女"?」「そうよ」 早矢が合図すると男たちは黙って少女を持ち上げ、水槽まで運んだ。 水槽の中に寝かせると、少女の首に首輪を巻いて固定した。 そうして男たちは洗面台でバケツに水を汲み、水槽の中に注いだ。 ざば。 少女はメイド服で縛られたまま、少しずつ水の中に沈んでゆく。 顔面が水に隠れた。 しばらく息を我慢して、そして堪らず身体を反らして顔を水面から上げる。 首輪の鎖がぴんと伸びたが呼吸はできた。 ざば。 水面はさらに上昇し、身体を精一杯反らせても鼻と口が水面から出せなくなった。 酸素を求めて首を振っているうちに、身体が浮いて水槽の中で横転した。 パニックになって水中で激しくもがく。 あぶっ。 少し水を飲んで、背けた顔が一瞬水から出た。とっさに空気を吸い、再び沈んだ。 生きられる、と思った。 厳しいけれど、一生懸命頑張れば死なない程度には息ができる。 メイドの水責めを旦那様にお楽しみいただくことができる。 そう、それでいいわ。 早矢の声が聞こえたような気がした。 水槽のガラス越しに早矢とベッドに眠るH氏が見えた。 その早矢が少女に向かって親指を立てた。 ・・早矢様、まさ��。 早矢は防護服を脱いだ。 その下は屋敷��メイド服だった。マスクも着けていない。 早矢は立ち上がると、少女に見えるようにその場でくるりと一回転した。 ずっと歳上のはずなのに、自分と変わらない十代のメイドのように見えた。 理解した。 早矢は少女の代わりに旦那様のお世話をするつもりなのだ。 もちろんウイルスに感染することは覚悟の上だ。 少女は水中でぶるぶる震えた。 自分も役目を果たさなくては、と思った。 私も命をかけてお尽くしする。 18. 水中のホッグタイ(逆海老緊縛)。 さらに首輪を着けられて、その首輪はわずか30センチほどの鎖で水槽の底に繋がれている。 水槽の水嵩は30センチよりもはるかに高いが、全身で波をたてて首を背ければ波の谷間でほんの一瞬空気が吸える。 少女は何度も水を飲んで意識を失いかけた。 必要なら命を捧げることも厭わないけど、今は死んではならない。 旦那様がいつお目覚めになってもいいように見苦しい姿ではいられないのだ。 水責め水槽の中で細く長く苦しみながら、そのときを待ち続ける。 どれくらい時間が過ぎたのだろうか。 メイド服の早矢がベッドに駆け寄るのが見えた。 H氏が早矢に支えられてこちらをご覧になっている。 はっきりと意志をお持ちの目だった。 ・・うむ、これはよい。 言葉では聞こえなかったけれど、少女にはH氏の思いが明確に伝わった。 [Part.3] 19. ここはH氏が所有する周囲20キロほどの湖である。 「この辺りでよかろう」 H氏は湖の中央でクルーザーを止めさせた。 「さて、儂はこうして帰ってくることができた」 そこに揃った屋敷の幹部たちに向かって話し始めた。 「無事に回復できたのは皆の働きの賜物である。特に血液を提供したメイドには感謝せねばならぬ」 そこまで言って少女に視線を向けた。 「そろそろ頭を上げてはどうだ?」 「はい」 少女は主人に向けて恐る恐る頭を上げる。 旦那様が使用人に感謝の言葉をお述べになるなんて、聞いたこともなかった。 「褒美をとらせたい。近くに来なさい」 「はいっ」 H氏は自分の前に少女を立たせると、麻縄で縛り始めた。 高手小手縛りの上、10本の手指すべてに縄を掛ける。 メイド服に食い込む二重菱縄。そして太もも、膝、脛、足首。 時間をかけた丁寧な緊縛だった。 かつてH氏の緊縛は荒々しく女体を締め上げる緊縛だった、 しかし今はH氏自身がゆっくり楽しみながら16才のメイドを縛っているのがよく分かった。 少女にとっては縄の一本一本が身に余る光栄だった。 近頃は旦那様が自ら縄をお持ちになること自体珍しいのである。 緊縛が完成すると、少女の足首に50メートルの係留用ナイロンロープが繋がれた。 浮力を相殺するために300号(約1.1kg)のオモリを2本取り付ける。 「よいか?」 「どうぞ如何様にもなさってくださいませ」 少女は縛られたまま湖に投げ込まれた。 輝く湖面と青い空。それに続いて無数の泡と頭上にクルーザーの船底が見えた。 その船底は次第に遠く、暗くなってゆく。 自分の命を繋ぐロープが細く伸びている。 湖に投げ込んだメイドを沈めておくのか、引き上げるのか、それは旦那様のお気持ち次第だ。 20. 「うむ」 がんじがらめに緊縛したメイドが水中に消えると、H氏はクルーザーをゆっくり走らせるように命じた。 デッキに丸めたロープがどんどん出て行く。 「よい天気だ」 空を見上げてゆっくり言われた。 そこには、今までと変わらない自信に満ちたH氏の姿があった。
~登場人物紹介~ 少女: 16才。H氏邸のメイド。勘がいい。 柿崎陽明: 33才。フランス在住音楽家。 武藤早矢: 24才。外務省北米局所属。元、H氏邸のメイド。 セオドア・チャールソン: 70台半ば。キャンベル人間工学研究所所長。 久しぶりの投稿です。 H氏邸シリーズとなるとほぼ3年ぶり。 コロナ禍で憂鬱な日々が続く中、H氏がウイルスに感染することを考えました。 最初にアイディアが浮かんだのは昨年の始め頃。 世界中で様々な治療法が模索されていた時期で、受動免疫療法もその一つでした。 それからポツポツと書いては中断を繰り返し、ワクチン接種も現実になった今になってようやくアップできました。 冒頭の「ご注意」は、念のために記載しておきます。 Part.1 では、メイドさんがコントラバスの楽器ケースに入って届きます。 コントラバスのケースはとても大きいので、中に女性を入れるのは問題ありません。 ただし今回は一つの楽器ケース内に同梱物が多数です。 サイレントベース、携帯ガスコンロやフライパンその他調理器具一式、数食分の冷蔵/冷凍食材、さらに小型のキッチンテーブルまでもがメイドさん本体と共にパズルのように隙間なく収納されています。 いったいどんな風に詰まっているのか、ぜひ見てみたいものです。 なお、サイレントベースは正式には「エレクトリック・アップライトベース」と呼びます。 長くて書きにくいので本話ではよく通じると思われるサイレントベース(某社の商品名)にしました。 Part.2 は『異国のクリスマスパーティ』のアリゾナが舞台です。 リズさんはお屋敷のメイドを卒業して今は外務省のキャリアです。 彼女くらい優秀なら国家公務員総合職試験に一発で合格することは全く問題ないでしょう。 クレアさんについては少し悩んだ結果、再登場なしです。 彼女のようなスペシャリストは7年も経てば別のステージに進んでいるのが普通だと思いますので。 また、以前お約束しておきながら スザンナ姫 を絡めることはできませんでした。すみません。 Part.3 は短いですが一番やりたかったシーンです。 日本の湖で周囲20キロは田沢湖や摩周湖と同程度ですね。 こんなのを個人で所有できるのか謎ですが、H氏なら何でもアリということでww。 さて、前の記事でお知らせしましたように10月半ばには FC2 の旧ブログを閉鎖します。 突然 Page not found になると思いますが、特に案内はしませんのでご了承お願いします。
~(追記)コメント送信トラブルについて~
コメント送信でエラーになる事象が発生している模様です。 私の環境で試してみたところ、 A.「お名前」を日本語にすると「お名前が長すぎるか、短すぎるようです」とメッセージが表示  「お名前」を英文字にすると「コメントを公開する前に」という謎の文言が表示されるものの送信 B.「コメントを投稿」を押下しても送信完了しない   Windows: Chrome/Firefox は A、Edge は B   Android: Chrome は A   iOS/iPadOS: Safari は B が発生します。(OSやブラウザのバージョンによる差異は未分類) IntenseDebate の問題と思われますが、古いサービスのため解決されるかどうか分かりません。 しばらく様子を見て解決しないようであれば、Twitter でのメッセージ交換を公開することにします。 それまでの間、恐れ入りますがメッセージの送信は pixiv からお願いします。
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t82475 · 3 years
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生存報告と旧ブログ閉鎖について
ご無沙汰しております。 ウィズコロナの世の中となり、皆さまお元気でおられるでしょうか。 私自身はコロナ感染は免れていますが、外科手術で入院(完治)し、また長年にわたる単身赴任を終了するなど、生活が一変しました。 小説の投稿もしばらく途絶えた状態で申し訳ありません。 ここのところモチベーションが高まり、新作を執筆中です。 9月中にはアップできると思われますので、今しばらくお待ち下さい。 さて旧ブログ(FC2)に関しましてお知らせです。 旧ブログは長らく放置していましたが、2021年10月13日頃をもって閉鎖いたします。 FC2 運営からアダルトブログの管理強化(個人情報書類の提出、別会社サイトへ強制移行など)の方針が通告されており、これを機に退会することにした次第です。 旧ブログに掲載の小説はすべてこちら(Tumblr)に移行していますが、もし皆さまにとって気になる情報があるようでしたら、早めに閲覧なりダウンロードなりしてくださいませ。 よろしくお願いいたします。
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t82475 · 3 years
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続・くのいちイリュージョン
1. 女性だけのイリュージョンチーム「コットンケーキ」に所属していたあたし、御崎芽瑠(みさきめる)がフリーのマジシャン、谷孝輔(たにこうすけ)と出会ったのはほんの4か月前のことだった。 恋人同士になり、専属のパートナーになって欲しいと頼まれた。 悩んだ末、あたしはコットンケーキを辞め、彼のアシスタントになって生きることに決めた。 2. 以前は撮影スタジオだったというフロアの半分に客席のソファとテーブルが並んでいる。 残り半分があたし達のステージだ。 ちらりと見たところ、客席は結婚式の披露宴みたいに着飾った人ばかりだった。 ここってものすごく高級なクラブなの? 「会員制の秘密クラブさ。会費は安くないらしいよ」 「すごいね」 「みんな俺たちを見に来てくれてるんだ。ドキドキするステージにしよう」 「うん!」 〇オープニング ステージが暗くなって、中央にスポットライトが一本当たった。 ゴーン。 鐘の音のSE(効果音)。 あたし一人で進み出た。 衣装は真っ赤な忍者の上衣、ショートパンツに網タイツとブーツ。覆面で顔を隠している。 身を屈めて爪先で小走り。ときおり物陰に隠れるようにして周囲を伺う。 あたしは敵地に侵入したくのいちだ。 絶対に見つからないよう、気配を殺して・・。 〇 スネアトラップの罠 がたんっ!! 大きな音がして、くのいちが消えた。 ピーッ、ピーッ! 呼び子が響き、ステージ全体が明るくなる。 くのいちは頭上高くに吊られていた。 片方の足を縄に絡められて、逆さになって激しくもがいている。 これは森で動物などを捕獲するために使うスネア・トラップという罠だ。 目立たないように張ったワイヤを引っ掛けると、縄の輪が足に掛かり、立ち木をしならせたバネの力で吊り上げられる。 「獲物がかかったか!」 黒装束の忍者が登場した。コースケだ。 長いマントを翻し、背中に太刀を背負っている。 黒忍者は逆さ吊りになったくのいちの手首を捕らえると、後ろ手に組ませて縄で縛り上げた。 さらに覆面を剥ぎ取って、その口に懐から出した白布を詰める。 「舌を噛んで自害されては困るからな」 にやりと笑うと、前髪を掴んで前後左右に振り回した。 ・・あたしは悔し気な表情を浮かべながら振り子のように揺れた。 揺れ幅が小さくなると、再び髪を掴んで揺らされた。 全体重を片足で受けているから長く続けると足首を痛めるけれど、そのために足首部分を分厚くしたブーツを履いているから耐えられる。 〇 逆さ吊りオリガミ 黒忍者は小さな箱を載せた台を押してくると、くのいちが揺れる真下に据えた。 一辺がわずか30センチほどのサイコロ形の箱である。 その箱の蓋を開け、くのいちを吊るす縄を緩めてゆっくり降下させた。 くのいちの頭が箱に入り、続けて肩、胸、腰と沈んでゆく。 こんな小さな箱にどうやって人間の身体が入るのか不思議だった。 くのいちの膝まで箱に入ったところで、黒忍者は足首に絡んだ縄を解き、さらに左右のブーツを脱がせた。 網タイツだけになった脚を上から押し込んで箱の蓋を閉じる。 黒忍者は背中の太刀を抜くと、箱にぶすりと突き刺した。 すぐに抜いて別の角度で再び突き刺す。 これを何度も繰り返した後、黒忍者は箱の面を内側に折り込んで半分の大きさにした。 さらに折って小さくする。 箱をゲンコツほどの大きさまで折り畳むと、黒忍者はその台まで二つに畳んで運び去ってしまった。 〇 皮張り椅子からの出現 ステージが暗くなって、反対側に置いた皮張りの椅子にスポットライトが当たる。 黒忍者はその椅子に艶のある大きな黒布をふわりと被せた。 すぐに布を外すと、そこにくのいちが腰掛けていた。 縄で後ろ手に縛られ、白布の猿轡をされた姿は変わりがない。 黒忍者はその口から覗く布の端を摘むとずるずる引きだした。 咳き込むくのいち。 その首を両手で締め上げる。 くのいちは首を振りながら苦しみ、やがて動かなくなった。 ・・コースケの首絞めは容赦なしだ。 あたしは息を詰まらせ、ちょっぴり感じながら気絶する演技をする。 黒忍者はくのいちの頬を叩いて意識を失ったことを確認する。 大きなビニール袋を持ってくると、くのいちの上から被せ、袋の口を縛って床に転がした。 〇 透明袋のスパイク刺し 椅子が下げられて、キャスター付の薄い金属台が登場した。 金属台の広さは畳一枚分ほど。 黒忍者はくのいちを入れたビニール袋を金属台に乗せた。 袋の中ではくのいちが目を覚ましたようだ。 ・・あたしは身を捩ってもがくふりをする。 この後、後ろ手に縛られた縄を抜けてビニール袋から脱出するけれど、そのタイミングが難しいんだ。 コースケがアドリブで芸をすることもあるし。 痛! こらコースケっ、女の子を足で蹴るなぁ。 喜んじゃうじゃないか~!! 黒忍者がくのいちを袋の上から蹴って、くのいちが苦しむ。 その間に頭上から大きな器具が降りてきて、ビニール袋のすぐ上で停止した。 鉄板は金属台とほぼ同じ大きさで、100本以上の金属針(スパイク)が下向きに生えていた。 生け花に使う剣山(けんざん)を逆さにしたような形状である。 四隅に布ロープを掛けて吊るしているようだ。 もしロープが切れたら鉄板は落下して、鋭く尖ったスパイクがくのいちを貫くことになるだろう。 黒忍者は火のついた松明(たいまつ)を持つと、4本の布ロープに順に火を移した。 燃え上がる布ロープ。 透明な袋の中ではくのいちが必死に縄を解こうとしている。 4本あるロープの1本が燃え尽きて切れた。 鉄板は大きく揺れたが、まだ宙に浮いている。 反対側の1本も切れた。 鉄板がぐらりと傾き、それにつられて残りの2本が同時に切断された。 がちゃん!! 大きな音がして鉄板が落下した。 ちぎれたビニールの破片が舞い散る。 観客の誰もが息をのんでステージを見つめた。 金属台にスパイクが突き刺さっているが、そこに人影はなかった。 最後の瞬間まで、袋の中には確かにくのいちが閉じ込められていた。 いったいどうなっているのだろう? ステージが明るくなった。 黒忍者がマントを広げると、その陰からくのいちが現れた。 拍手の中、並んでお辞儀をする。 ・・やったね! コースケの目を見て微笑んだ。 コースケも笑ってあたしの頭を叩いてくれた。 3. 「じゃあ、お仕事うまくいったんですね!?」ノコが聞いた。 「まあね」 「いいなぁ、私も見たかったです」 「ダメよ。会員でないと入れないお店だから」 ノコはコットンケーキの後輩で、あたしとちょっと特別な関係にある女の子だ。 「・・だいたい片付きましたね」 「ありがとう、助かったわ」 「メルさんのことなら何でもお手伝いしますよ~♥」 ここはコースケのマンション。 彼の専属になって、あたしは前のアパートを引き払いコースケと一緒に住むことにした。 一緒と言っても、籍は入れない。ただの同棲だけどね。 ノコは引っ越し荷物の整理に手伝いに来てくれたのだった。 「お茶、入れるわ」 「お茶よりも・・」「何?」 「コースケさんはまだ帰らないんですよね?」 「うん。彼、ショーの打ち合わせで、戻るのは夜になるって」 「なら、触れ合いたいです、メルさんと」 「もう」 「えへへ」「うふふ」 あたし達はくすくす笑いながら着ているものを全部脱いで裸になった。 忍者の長いマントを互いの首に巻く。 マントは忍者装束が趣味のあたしがノコと一緒に過ごすときに必ず着けるアイテムだった。 「拘束してもらえますか?」 「ノコってマゾなの?」「はい、ドMです♥」 相変わらず素直ではっきり言う子。だから好きなんだけど。 ノコはマントの下で後ろに手を合わせ、あたしはその手首に手錠を掛けてあげた。 「ああ、これで私に自由はありませんよね」 後ろ手錠の具合を確かめるノコ。 その顎に指をかけて持ち上げた。そっと唇を合わせる。 キスの後、後ろから回した手で左右の胸を揉みしだく。 この子はあたしより小柄なくせに、おっぱいが大きくてふわふわ柔らかいんだ。 股間に手をやると、そこはもうしっとり濡れていた。 「はぁ・・ん」 カナリアみたいに可愛い声。 こんな声で鳴かれたら、あたしも濡れてくるじゃないの。 ソファに揃って倒れ込んだ。 乳首を甘噛みすると、ノコは全身をびくんと震わせた。 「・・俺がいないときを狙って、何やってるの」 振り向くと、ドアが開いてコースケが立っていた。 4. 「コースケ! 帰るのは夜だって・・」 「のはずだったけど、早く済んだから帰ってきたの」 コースケは頭を掻きながら呆れたように言う。 「ま、こんなことになっているだろとは予想してたけどね」 「すみませーんっ、メルさんを食べようとしちゃって」ノコが謝った。 「俺は気にしないよ。それに食べようとしてたのはメルの方じゃないの?」 「・・」 あたしはノコの上から離れた。 赤くなっているのが自分で分かる。 二人の関係はコースケ公認だけど、彼の見ている前でこの子とエッチするほどあたしの心臓は強くない。 「わははは。メル、それじゃ欲求不満だろう?」 「ばか」 「楽しませてあげるよ。ノコちゃんもね」 「うわ~い」 そんな簡単に喜んじゃダメよ、ノコ。 コイツがこんな風に言うときは、だいたいロクでもない目に会うんだから。 コースケは皮張りの椅子を持ってきた。 それ、この間のステージで使った椅子。 「はい、メル。ここに座って、前に両手出して」 「この格好で?」「もちろん」 コースケはあたしを椅子に座らせると、前に出した両手首を縄で縛った。 さらに肘を折らせて手首の縄を首に巻いて括り付けた。 あたしは手を前で合わせたまま、下げられなくなった。 椅子ごと大きな黒布を被せられた。 「動いたら後でお仕置き。いいな?」「う、うん」
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「さあノコちゃん、メルを好きにしていいよ」 「うわ~いっ」 後ろ手錠のノコが這って黒布の下に入り込んできた。
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自分は膝立ちになると、あたしのマントの中に頭を挿し入れた。 ちゅう。 「きゃ」 おへその下を吸われた。そ、そんなに強く吸わなくても。 ノコの口は下へ下へと移動する。 あ、それ下の毛! 汚いよぉ。 「そろそろ諦めて足を開いてくださぁい、センパイ♥」 だ、だ、だっ、だめぇ。 両足の間にノコの肩が割り込んだ。 「はんっ!」 クリを吸われた。 「あ・・、あん、はぁん」 舌の先で転がされる。 「あ、あ、あああ」 我慢する気はすっかり失せた。 あたしは身を反り返らせて喘ぎ続ける。 「れろれろ。メルさんのおつゆ♥ 美味しいです」 「ば、ばか。そんなとこ、」 「噛みますよぉ。イっちゃってください」 「あ、やっ」 きゅん!! 衝撃が駆け抜けた。一瞬、意識が遠のく。 ノコの顔が上がってきて耳元で囁かれた。 「抱いてあげたいんですけど、手錠してるんでダメなんです。・・代わりにキスしますね♥」 「あぁっ!」「んんっ!」 ノコとあたし、両手を拘束された女同士がディープキスをする。 はあ、はあ。 肩で息をして、もう一度吸い合った。 ぱちぱちぱち。 「いいねぇ。堪能させてもらったよ」 のんびり拍手してからコースケが言った。 「はあ、はあ。コースケぇ。もう許して」 「そうだな。じゃ、そのままバニッシュしてよ」 「そ、そんな、無理」 「無理じゃないさ。それくらいできないとこの先困るぞ」 「きっとできます! メルさんなら」 もう、ノコまで無責任に。 「じゃ、いくぜ。・・ワン、ツウ、スリー!」 コースケは椅子全体を覆う黒布を両手で持って外した。 そこには後ろ手錠のノコだけが膝立ちで屈んでいた。 あたしが座っていた椅子の座面には、半透明の液体が広がって溜まっていた。 5. 翌日。 喫茶店に現れたサオリさんは以前より綺麗になっていた。 「待たせたかしら」「いえ、あたしも来たばかり」 「メルちゃん、何だか綺麗になってない?」 「あたしこそ、サオリさんが綺麗になったって思ったんですけど」 「え? あはは」「うふふ」 コットンケーキのリーダー、サオリさんと会うのはチームを辞めて以来だった。 あたしが円満に退所できたのはサオリさんが応援すると言ってくれたからで、あたしはとても感謝している。 「どうしてるの?」 「クラブで彼とイリュージョンのお仕事をやってます」 「そっか。頑張ってるのね」 「まだ続けてできるかどうかは分からないんですけど」 「コットンケーキだって最初はそうだったわ。・・それで、どこのお店?」 「それはまだちょっと、」 あたしは言葉をにごす。 秘密クラブで拷問イリュージョンやってます、なんてこの人には言えないよ。 サオリさんの目がきらりと光った。 「そう・・、詳しくは聞かないけど、いろいろなお店があるわ。危ない仕事はしないでね」 「無茶はしません。彼を信じて頑張ります」 「分かった」 サオリさんは笑って手を握ってくれた。 「じゃあ何も言わない! 自分の信じた道を進むのよ、メルちゃん」 「はい!」 6. 「くのいちの拷問とは考えたもんでんなぁ。客の評判は上々でしたで」 クラブのマネージャーが言った。 ガッチーと名乗る不思議な関西弁を喋るおじさんだった。 あたしとコースケは先週のステージの評価を聞きに来たのだった。 「来月も頼みますわ。それも好評やったら出演枠を毎週とる、ちゅうことで」 やった! あたしはコースケとガッツポーズをする。 「・・まぁ、できたら、できたらでよろしおまっけど、次は、もちょっと過激にしてくれたら、ええかもしれませんな」 「過激に、ですか?」コースケが聞く。 「過激に、ですわ。そちらのメルさんでしたか、可愛い顔やさかいグロな演出やったら喜ばれますわ。エロでもよろしいけど」 「分かりました、やります。まかせてください」 彼が胸を叩いた。 グロかエロって、あたしがやるんだよね。 コースケ、大丈夫? 安請け合いしちゃっても。 7. 東京から車で2時間の高原。 そこは小さな湖に面したキャンプ場だった。 次の出演が決まったお祝いに、あたしとコースケは二人でゆっくり過ごそうとやってきた。 キャンプなんて面倒くさいし汚れるからホテルがいいと言ったあたしに、大人気の絶景キャンプ場だから行こうと誘ったのはコースケだ。 「・・誰もいないじゃないの」 「あれ? おっかしいなぁ~。平日は空いてるのかなぁ~?」 「コースケ、知ってたんでしょ」 「わはははっ、まあいいじゃねーか」 「こんな寂しいところで二人だけなんて、どういうつもりよ!」 「誰もいなけりゃ、エッチし放題だぜ」 「え」 「ほら、今夜は晴れてるし、外でするってのはどう?」 これで喜ぶんだから、我ながら単純な女だと思う。 コースケはキャンプの料理も上手だった。 フライパンで焼いたピザとペンネ、チキンとキノコのホイル焼きを食べるとお腹いっぱいになった。 「マシュマロ、焼けたぜ」 「わ、食べるぅ」 パチパチ燃える火を前に並んで座っていると自然といい雰囲気になる。 あたしが身を寄せると彼が肩を抱いてくれたりして。 「キャンプも悪くないだろ?」 「うん、バカにしてごめんね。・・今度はノコも連れて来たいな」 「ああ、あの子なら喜ぶだろうね」 「見てっ。星がすごーい!」 「おお、まさに満天の星だ」 「こんなにたくさんの星見るの、初めてだよー」 見上げていると、頬に彼の手が添えられた。 顔を向けてキス。 「今日は優しいのね、コースケ」 「俺はいつでも優しいぜ?」「うそ」 「どう? 今なら何されてもいいって気分にならない?」 「そうね。・・いいよ、今なら」 「よっしゃ。じゃ、早速」 へ? コースケは立ち上がると暗がりの中を歩いていった。 もう、せっかくロマンチックな雰囲気だったのに。 バタン! あれは車のハッチバックの音。 「お待たせ~」 「何、そのキャリーケース」「見てな」 コースケはポケットから鍵を出すとキャリーケースの蓋を開けた。 大きな塊がごろんと転がり出た。 サージカルテープでぐるぐる巻きにされた布の袋だった。 テープを剥がして袋の口を開くと、中に膝を抱えて小さくなった女の子が入っていた。 「ノコ!!」 「えへへ。こんばんわぁ、メルさん」 「あんた、いつから」「えっと、朝からですぅ」 朝から? じゃ、あたし達がドライブして、ランチ食べて、コスモス園行って、それからえ~っと、ともかくいろいろしてる間、ずっと!? 「はいっ、頑張りましたぁ」 「水分補給も兼ねてカロリーゼリー持たせてたから問題ないぜ。トイレは無理だけど」 「私、漏らしたりしてませんよぉ。エライでしょ? ・・そろそろ限界ですけど」 「その袋は防水だよ。中でやっちゃって構わないって言っただろう?」 「女の子なのに、そんなことできませんっ。それに私、メルさんのためならボーコー炎になってもいいんです」 「そーいう問題じゃないでしょ!」 ともかくノコを袋から出して、トイレに行かせる。 ノコは裸で汗まみれだった。 「着るものあるの? それじゃ風邪引くわ」 「大丈夫です。メルさんに暖めてもらいますから」 「え? きゃっ」 やおらノコはあたしの服を脱がせ始めた。 「コースケ! 笑って見てないで何とかしてっ」 「俺、ノコちゃんの味方」「え~っ」 コースケは全裸になったあたしとノコを向かい合って密着させた。 反物のように巻いた布を出してくると、あたし達の首から下に巻き始めた。 とても薄くてゴムのように伸びる布だった。 きゅ、きゅ、きゅ。 弾力のある布が肌を絞め付ける。 き、気持ちいいじゃない。 「マミープレイに使う布だよ。メルはぎゅっと包まれるのが好きだろ? 性的な意味で」 「性的な意味は余計っ。・・否定、しないけど」 肩と肘、手首まで布に包まれる。 これ自力じゃ絶対に抜けられない。 「おっと、これを忘れてた」 あたしとノコの股間にU字形の器具が挿し込まれた。 「ちょっと重いから落ちないようにしっかり締めててね、ノコちゃん」 「はい!」 ノコ、何でそんな殊勝に応じるの。 やがて布はあたし達の膝から足首まで巻かれ、さらに二重、三重に巻かれた。 「口開けて、メル」「んっ」 コースケはあたしの口にハンドタオルを押し込んで上からガムテを貼った。 猿轡、あたしだけ!? 「よっしゃ、頭も巻くぞ」 あたし達は首から上も布を巻かれて一つの塊になった。 そのまま地面に転がされる。 「いいねぇ、女体ミイラ」 布の巻き具合とあたし達の呼吸を確認すると、コースケはおごそかに宣言する。 「二人揃ってイクまで放置。時間無制限」 えええ~っ!? 「俺は君らを肴にホットウイスキーでも飲んでるわ」 8. まったく動けなかった。 動けないけれど、女の子二人で肌を合わせて強く巻かれているのは気持ちよかった。 ちょっと息が苦しいのはノコの巨乳があたしの胸を圧迫するせい。 まあ仕方ないわね。 「メルさぁん♥」 耳元でノコが甘い声を出した。 あたし達は頬と頬を密着させた状態で固定されているから、この子の声は耳元で聞こえるんだ。 ぺろ。ぞくぞくぅ! 「んんっ、んんん~っ!!(ひぃっ、耳を舐めるな~!!)」 思わずのけ反ると、股間のU字器具が膣壁を刺激した。 「ひゃん!」「ん~っ!(ひゃんっ!)」。 あたしとノコは同時に悲鳴を上げる。 これ、うっかり力を入れるとヤバい・・。 ぶーんっ。 そのU字器具が振動を開始した。 「あぁ~んっ!!」「んんっ~ん!!!」 双頭バイブっ!? コースケめ、仕込んだなぁ!!! ノコがびくびく震え、同期してあたしもびくびく震えた。 膣(なか)で暴れるバイブは的確にGスポットを突いた。 耐えられずに下半身に力を入れると、それは刺激となって相手のGスポットに伝わる。 そしてさらに大きな刺激が返ってきて、こちらのGスポットをいっそう強く責めるのだった。 「はん! はん! はぁんっ!!!」「ん! ん! んん~んっ!!!」 コースケは双頭バイブのリモコンを気ままに操作した。 あたし達は震え、もがき、快感を増幅し合った。 イキそうになる前にバイブは停止して、その度に二人とも半狂乱になった。 疲れ果てたけれど、眠ることも休むこともできなかった。 あたしもノコも被虐の嵐の中をどこまでも堕ちた。 明け方近くになってコースケはようやくイクことを許してくれた。 ノコが声にならない声を上げて動かなくなり、それを見てあたしも安心して絶頂を迎え、そして意識を失った。 とても幸福だった。 朝ご飯の後、コースケが撮影した動画を見せてもらった。 スマホの画面の中で、あたし達を包んだミイラがまるで生き物のようにびくびく跳ねまわっていた。 9. クラブからさらに過激なネタと求められて、コースケは新しいイリュージョンを準備した。 機材の費用はクラブが出してくれるという。 続けて出演契約できたら、という条件だけどね。 「どう? いける?」「大丈夫、いけるよ」 あたしは新調したガラス箱に入って具合を確かめている。 クリスタルボックスに似ているけれど、幅と高さの内寸が50センチずつしかないから中で身を起こすことはできない。 高価な耐熱強化ガラスで作った箱だった。 絶対に成功させないといけないよね。 「じゃ、隠れて」「分かった」 あたしは底の扉を開けて、その下に滑り込んだ。 燃え盛る火の下でも安全に過ごせる隠れ場所。 「蓋、浮いてるぞ」「え、閉まってない?」 「太っただろ、メル」「失礼ねーっ。バストが大きくなったの!」 「そりゃあり得ねー」「言ったわねー。なら今夜確かめる?」「よし、徹底的に確かめてやる」 軽口を叩き合いながら、あたしは自分の位置を調整する。 「ごめん、一度押さえてくれる」「おっしゃ」 ぎゅ。かちゃり。 仰向けになったあたしを押さる天板が下がって、あたしはネタ場の空間にぴたりとはまり込んだ。 「どう?」「気持ちいい」 「何だよそれ。・・浸ってないで、とっとと出てこい」 「もうちょっと」 「あのねぇ~」 それからあたし達は次のステージの構成を決めて、ネタの練習を続けた。 10. 次のショーの本番当日。 「ノコ、何であんたがここにいるのよ」 「えへへ。私も手伝いに来ました」 控室にはノコがいた。 コースケと同じ黒い忍者の装束で顔に覆面をしていた。 「あんたもコットンケーキ辞めさせられちゃうよ」 「大丈夫です。ちゃんと顔隠してやりますから」 「それでバレないほど甘くないと思うけど」 「やらせてやれよ。ノコちゃんも覚悟して来てるんだ」 コースケが言うなら、とあたしはノコのアシスタントを認めた。 アシスタントと言ってもノコは黒子で機材の出し入れなどを手伝う役だ。 「・・御崎メルさん、来客です。フロアへどうぞ」「あ、はい!」 来客? 客席に行くと、そこにはセクシーなイブニングドレスの女性が待っていた。 「サオリさん!! どうしてここに!?」 「コットンケーキのリーダーが秘密クラブのメンバーだったらいけない?」 「いけなくはないけど・・、驚きました」 「ショーのプログラム��『Kosuke & Meru』ってあって、もしやと思って来たらやっぱり貴女だったのね」 「知られちゃったんですね。恥ずかしいです」 「いいのわ。わたし、今日はすごく楽しみにしてるんだから」「?」 サオリさんは微笑んだ。今まで見たことのないくらい色っぽい微笑み方だった。 「ここでやるってことは、メルちゃん、きっと可哀想な目に会うんでしょ?」 「え」 「正直に言うとね、女の子が酷いことされるのが大好きなの。拷問されたり、無理矢理犯されたり」 「・・サオリさん、やっぱりSだったんですか」 コットンケーキ時代、サオリさんの指導がとても厳しかったのを思い出した。 あたし達後輩はいつも泣かされて、このドS!とか思ったものだった。 「うふふ。逆かもしれないわよ」 サオリさんは笑っている。 「ま、まさか、ドM!?」 「わたしのことはいいじゃない。ステージ、怪我しないよう頑張ってね!」 「・・はいっ」 控室に戻り、ノコに「サオリさんが来てる」と伝えた。 「ぎょぼ!」 何、その驚き方は。 11. 〇 緊縛木箱と性感責め スポットライトの中に黒忍者のコースケと黒子のノコが登場した。 テーブルを出して、その上に空の木箱を置いた。 すぐに木箱を持ち上げると、テーブルの上にはくのいちのあたしがうつ伏せになって縄で全身を縛られていた。 衣装は先月のステージと同じ赤い上衣にショートパンツと網タイツだけど、ブーツと覆面は着けていない。 その代わり最初から口に縄を噛ませて猿轡をされている。 緊縛はタネも仕掛けもない本物だった。 背中に捩じり上げてほぼ直角に交差させた両手首と二の腕、胸の上下を絞め上げる高手小手縛り。 両足は膝と足首を縛り、後ろに強く引かれて背中の縄に連結されている。 決して楽じゃないホッグタイの逆海老縛り。 ショーが始まる前からこの姿勢で木箱に仕込まれていたのである。 黒忍者はくのいちの足首の縄を首の方向へ強く引いた。 テーブルについた顎に体重がかかる。 さらにその状態で太ももの間に手が侵入し、突き当りの部分が激しく揉み込まれた。 ・・くっ! あたしは両目をぎゅっと閉じて恥辱に耐える。 きついけど、これはまだまだ序盤なんだ。 今度のショーではお客様の前で性的な責めを受ける。 コースケは本気で責め、あたしは本気で苦しみ本気で感じる。 二人で決めたシナリオだった。 やがて膝と足首の縄が解かれ、右足と左足を黒忍者と黒子が掴んで開かせた。 逆海老の後は180度に近い開脚。 黒忍者は苦無(くない:忍者が使う短刀)を持ち、先端をくのいちの股間に突き立てる。 ショートパンツが破れない程度に突くけれど、それでも確実に女の敏感な部分が責められている。 「ん、あああああ~っ!!」 ・・耐えられずに声が出た。 あたしは喘ぎながら身を震わせる。 完全に被虐モードだった。じっと忍ぶ力なんて残っていない。 スポットライトに照らされて光る粘液がテーブルを濡らす様子が客席からも見えたはずだ。 〇 鞭打ちレビテーション ぐったり動かなくなったくのいちに大きな布が被せられた。 テーブルの後ろに黒忍者が立ち、両手で持ち上げる仕草をすると、布に覆われたくのいちがゆっくり上昇した。 2メートルほどに高さに浮かんだところで、黒忍者は一本鞭を手にする。 振りかぶって布の上からくのいちを打つ。 ぴしり。「あっ!」 鞭の音と呻き声が聞こえた。 ぴしり。「んっ!」 ぴしり。「んんっ!」 ぴしり。「んあっ!」 ぴしり。「ああーっ!!」 5度目の鞭打ちで布がずれ落ちた。 ・・この鞭打ちにも一切タネがない。 布が被せられているとはいえ、あたしはコースケの鞭を本当に受けている。 絶対に逃げられない拷問。 「女の子が酷いことされるのが大好きなの。拷問されたり、無理矢理犯されたり・・」 さっき聞いたサオリさんの言葉が蘇った。 あたし、本当に酷いことされてる! 鞭で布が落ちると、そこには高手小手で縛られたくのいちが浮かんでいた。 黒忍者は両手を振ってテーブルの上にくのいちを降下させた。 もう一度布を被せ直して、再び浮上させる。 鞭打ちが再開された。 ぴしり。「あぁっ!」 ぴしり。「んん~っ!!」 黒忍者は鞭を置くと、宙に浮かぶ布の端を掴んで引き下ろした。 ばさっ。 そこにあったはずの女体は消えてなくなっていた。 〇 ミイラ短剣刺し ステージ全体が明るくなった。 隅の方に敷かれていた黒布がむくむく膨み、中からくのいちが立ち上がった。 猿轡は外れていたけれど、高手小手の緊縛はそのままだった。 その場から逃げようとするが、黒忍者が両手を合わせて呪文を唱えると、何かに固められたかのように動けなくなって黒子に捕らえられた。 黒忍者は反物のように巻いた布を持ってきた。 これはあのキャンプで使った薄くて弾力のある布だった。 その布をくのいちの頭から足先までぐるぐる巻きつけた。 薄手の布の下にはくのいちの顔が透けて見えていたけれど、何重も巻くうちに見なくなって、全体が白っぽいミイラになった。 くのいちのミイラは床に転がされた。 黒忍者は短剣を持って掲げる。刃渡り10センチほどの銀色の短剣だった。 やおらその短剣をミイラのお腹に突き刺した。 「きゃあっ!!」激しい悲鳴。 さらに3本の短剣を出して、胸の上下と顔面に刺す。 ミイラは1本1本刺される度に悲鳴を上げてびくびく跳ね、短剣を突き立てた箇所には真っ赤な染みが広がった。 〇 ガラスの棺 透明な箱が登場する。 細長い棺(ひつぎ)のような形状をしていて、人が入るとしたら横たわるしかない大きさだった。 黒忍者はミイラから短剣を抜き、肩に担いで棺の中に入れた。 黒子が蓋をして南京錠の鍵を掛ける。 黒忍者は松明(たいまつ)に火を点けた。 照明が消えて真っ暗になった。 ステージの明かりは黒忍者が持つ松明だけである。 黒忍者は棺のまわりを歩きながら、松明で棺の中を照らした。 すると、何と、棺のミイラが燃え始めた! その火は次第に大きくなって、棺の中いっぱいに燃え広がった。 わっ。観客がざわつく。 一瞬だけ、棺の中にくのいちが見えたのだ。 しかしすぐにその姿は炎の中に消えてなくなってしまった。 ・・ヤバい!! あたしは棺の底に背中をつけて隠し扉を開けようとしていた。 ガチで両手を縛られているから動かせるのは指先だけだった。 その指に、あるはずの扉のフックが掛からない。 見つからないっ、見つからないよ!! 網タイツの足がちりちり焼け始めた。 火が小さくなって静かに消えた。 やがて照明が点いてステージが明るくなる。 黒忍者と黒子が棺の前後を持ち、斜めに傾けて中身を客席に向けた。 皆が目をこらした。 棺の中は黒い粉が溜まっているだけで、その他は何も入っていなかった。 くのいちの女の子は灰になってしまったのだろうか? 黒忍者が客席の後方を指差す。 黒子がほっとしたように両手を叩いた。 そこにはくのいちが立っていた。 忍者の衣装は灰で黒くなり、網タイツは焼けて穴が開きその下は赤くただれていた。 ・・あたしはステージに向かって走っていった。 ふらふらしながら、どうにか倒れずにすんだ。 拍手の中、揃って頭を下げる。 うずうずした。 お客さんの前だけど、もう我慢できない! あたしはその場でコースケに抱きついた。 黒忍者とくのいちはそのまま長いキスをした。 12. 喫茶店。 あたしはサオリさんと向かい合って座っていた。 「怪我したって本当?」 「火傷しただけです。脚に痕が残りますけど」 「可哀想に・・」 「大丈夫です。イリュージョンするのに問題ありません」 生足を出すのはちょっと難しいけどね。 「クラブの仕事はどうするの?」 「続けます。ただ、出演は減らそうって彼と相談してます」 「それがいいかもね。クラブを辞めないのなら、わたしはメルちゃんが苦しむシーンをこれからも楽しめるし」 「サオリさん、それ酷いですよ」 「あはは。じゃあ、今度はわたしが苦しんでみましょうか」 「見たい! でもいいんですか? コットンケーキのリーダーがそんなことして」 「コットンケーキでやればいいんでしょ? 拷問イリュージョン」 「まさか本気で言ってませんよね?」 「半分本気よ。ノコちゃんもやりたいって言ってるしね。貴女達のネタ見て興奮してるみたい」 「ぎょぼ!! 知ってたんですか、あの子のこと」 「リーダーを舐めちゃダメよ。そのときはメルちゃんもゲストで参加してくれる?」 「はい!」 13. 椅子に座ったあたしにコースケが黒い布を被せた。 「さあ、皆さま、ここに黒布に包まれたくのいちが一人!」 あたしは布の下から両手を前に出してひらひら振ってみせる。 「はい!」 真上から頭を叩かれた。ぱすっ。 「おおっ」「きゃっ!」 驚きの声が聞こえる。 あたしの頭はぺたりと潰れて、肩の高さで平らになってしまったのだった。 ここは公園。 あたしとコースケは通行人の前でイリュージョンをしていた。 赤と黒の忍者装束。 ノコはスマホの撮影担当で、ときにはネタの手伝いもしてくれている。 動画サイトに上げた『Kosuke & Meru のニンジャ・イリュージョン』は少しずつ閲覧回数が増えて、ほんの少しだけど収益を出すようになってきた。 「では、最後のイリュージョン!」 コースケはあたしの身体に布を巻き始めた。 薄くて弾力のある布を何重にも巻いて、あたしをミイラにする。 全身をきゅっと締められる感覚。 その気持ちよさにきゅんと濡れてしまいそうだ。 コースケは別の大きな黒布をあたしの上に被せた。 「はい!」 その黒布はふわりと広がって地面に落ちた。 あれ? 黒布を上げると、そこにはミイラに巻いていた薄い布だけが解けて落ちていた。 中身の女性はどこに消えたの? おおーっ。パチパチ! 一斉に起こる拍手。 その音をあたしは地面に置いたトランクの中で聞く。 今日も大成功ねっ。 この後、あたしはトランクに入ったまま帰ることになる。 荷物になって運ばれるのは悪い気分じゃない。 今夜はノコも一緒に過ごすことになっているから、またきっと酷い目に会うだろう。 「・・酷い目に会う女の子が大好きなの」サオリさんのセリフ。 あたしも大好きです。 ほのかな性感と被虐感に満たされた。 狭いトランクの中で回収されるのを待ちながら、あたしは甘くトロトロした時間を過ごすのだった。
~ 登場人物紹介 ~ 御崎芽瑠(みさきめる):25才。コースケとイリュージョンの新しい仕事を始める。イリュージョンチーム「コットンケーキ」元メンバー。 谷孝輔(たにこうすけ):30才。フリーのマジシャン。メルの恋人。 ノコ : 22才。コットンケーキの現役メンバー。メルのペット。 サオリ : コットンケーキのリーダー。30台半ばくらい。 前作 でコースケに誘われたメルが彼と一緒に頑張るお話です。 布や袋を使うというお題で拷問イリュージョン。 短剣をぶすぶす刺したり、火で燃やしたり、女の子は最初から最後までずっと緊縛されているとか、いろいろ楽しませてもらいました。 無茶といえば無茶ですが、ここはメルちゃんの精神力がスゴイから可能ということにしておきましょうww。 この先コースケくんとメルちゃんは秘密クラブとユーチューバーの二足の草鞋(わらじ)で生きるのでしょうか。 それともどこかで名を売ってメジャーなイリュージョニストになるのでしょうか。 くのいちイリュージョンのお話はこれで終了しますが、機会があればいつか描いてあげたい気もします。 (お約束はしませんよ~) 挿絵の画像はいただきものです。 黒布の下には実際に女性が椅子に座っています。 2枚目は分かりにくいですが、椅子に座った女性に向かい合ってもう一人女性が膝立ちになっています。 ノコちゃんがメルを責めるシーンはこの写真に合わせて書かせていただきました。 それではまた、 ありがとうございました。 # このコロナ禍中、皆さまの健康とお仕事/商売が無事であるよう祈っております。
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t82475 · 4 years
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くのいちイリュージョン
1. 「へー、君たちマジックやってるの?」 大きな声で聞かれた。 背の高い男だった。 この男は馴れ馴れしく話しかけてきて、あげくにあたし達のテーブルに座り込んだのだ。 「はい。イリュージョンマジックですけど」 「イリュージョン? そりゃ凄いっ」 こいつ、イリュージョンって何か知ってるのか? 「私たち、コットンケーキってグループのメンバーなんです」ノコが説明した。 「おーっ、知ってるよ。女の子だけのサークルだね」 サークルじゃないって。プロのチームだから。 「実はこの俺もマジックやってるんだぜ」 「本当? じゃあ何か見せてくれる」 「おっしゃ」 彼はテーブルの割箸を取って軽く振った。 右手に握って箸の先端を自分の鼻の穴に挿す。 「見てなよ」 そのまま右手を押し上げて長い箸を鼻の中に入れてしまう。 「ま、すごい!」ノコが驚いている。 ノコよ、あんた本当にマジックチームの一員なのか? 「抜くよ~」 今度は右手を下げた。鼻からするすると箸が出てくる。 「はい、この通りっ」 テーブルに箸を置いて見せた。 「やだぁ汚い」ノコが叫んだ。 「違うよノコ。本当に入れたりしてないって」 「そうなの?」 割箸は手首の後ろに隠れて見えなかっただけだよ。 彼はあたしを見て笑った。 「さすがにこっちのキミにはお見通しかな?」 「あのねぇ、こんなの飲み屋で女の子に見せて喜ばせるネタじゃない」 「正に飲み屋で見せて喜ばせてるんだけどね」 「あなた、本当にマジックやってるの?」 「じゃあ今度はイリュージョンやってみせようか」 「え、ここで?」 2. そいつは立ち上がると、椅子を持って壁際に置いた。 テーブルが並ぶ狭い居酒屋で、そこだけ壁の前が通路で少し広くなっていた。 「はい、ここ来て腰掛けて」 壁に背を向けてあたしを座らせた。 もう! あたしはそんなに素直じゃないの。 どんなネタか知らないけど、あんたのイリュージョンの真似事に付き合うつもりはないんだから。 「はい、ここに取り出しましたる大きな布!」 一辺2メートル近くはありそうな黒布を広げた。 どこから出してきたのよ、そんな布。 その布の中央の部分がお椀のように丸く膨らんでいるのが見えて少し驚いた。 それって。 何だ何だと他の客たちが集まってくる。 彼はあたしの上から布をすっぽり被せた。 お椀の部分をさりげなくあたしの頭に合わせたけど、たぶん誰にも分からなかっただろう。 それから頭を両手で何度も押さえつけられた。 彼の大きな手が布の上からあたしの顔面とこめかみの左右をわしわし掴む。 その手が頬から顎に向かって移動した。 ひえぇぇお化粧が~、と思ったけど、すぐにどうでもよくなった。 彼の所作は気持ちよかったのだ。 肌に布が密着する感覚。自分が包まれていることを実感する。 気持ちいい。 うっとりするほど気持ちいい。 彼の手が顎の下まで移動して、首を絞めるように押さえた。 あたしは黒布に包まれてコケシのような形になっているはずだ。 「手、出してくれる?」 あたしは布の下から両手を前に出してひらひら振ってあげた。 「さあ、皆さま、ここに黒布に包まれた美女が一人」 肩に彼の手が置かれた。 「はい!」 頭を真上から叩かれた。 ぱすっ。 「きゃっ」「え~!!」 悲鳴と驚きの声が聞こえた。 あたしの頭はぺたりと潰れて、なくなってしまったからだ。 肩の高さで平らになった頭を撫でられた。 これが本当のステージだったら布を外して頭のない美女の姿を見せるところだ。 でも今はそのギミックを準備していない。 彼は後方から黒布を持ち上げ、しばらく正面で広げて振ってから、美女の姿を皆に見せた。 もちろんあたしの頭は元通り。 拍手の中、彼に手を取られて立ち上った。 笑顔で会釈しながら少し反省する。 サービスしすぎちゃったかな? 居酒屋でヘッドオフなんて。 それにしてもこんな道具持ち歩いてるこいつ、いったい何者? ・・それに。 自分の顎の下をそっと触った。 あの感触を思い出す。 黒布の上からあたしの顔面を押さえる彼の大きな手。 その手が下に降りて、首の周りにかかったとき、ぎゅっと息が詰まった。 ほんの数秒間、彼はあたしの首を本気で絞めたのだ。 不思議と驚きや恐怖はなかった。 それまでの気持ちよさが途絶えるどころか一層増加した。 首を絞めらえている間、あたしは布の中で目を閉じて快感に耐えた 両足の間から愛液がじゅんと溢れるかと思うほどの快感だった。 「よかったかい?」彼が微笑みながら聞いた。 「うん、よかった」あたしは答えた。 これが、あたし、御崎芽瑠(みさきめる)と、アイツ、谷孝輔(たにこうすけ)との出会いだった。 居酒屋を出てから、あたしは彼と LIME の���ドレスを交換した。 3. 次の週末のお仕事は某私鉄沿線の遊園地だった。 小さなイベントステージでコットンケーキのメンバーが踊っている。 衣装は黒いレオタードの上に丈の短い和装の上衣。上衣の色は赤、ピンク、青、緑、黄色など様々。 あたしの上衣は明るい紫。 そして下半身は黒い網タイツ。上衣と同じ色のブーツを履いている。 くのいち(女忍者)風のコスチューム。 個人的には下半身にもきっちり袴を穿いて引き締めたいところだけど、女の子のチームなら脚線美は必須。 網タイツの脚を振り上げて一斉にY字バランスでポーズを決めた。 最前列の席で若い家族連れのパパが鼻の下を伸ばしている。 いいんですよ。隣の奥様に叱られない程度に楽しんでくださいね。 植え込みの陰にスマホを構えるオタクがいた。動画や写真の撮影は禁止されている。 本人は隠れて撮っているつもりだろうけどステージの上からならすぐに分かる。 リーダーのサオリさんが目配せするとすぐに係員が飛んでいって、そいつを摘まみ出した。 コットンケーキは女性10名のイリュージョンマジックチームだ。 ステージのメニューは、ダンスとイリュージョンを2~3パターン。お客様をステージに上げてのゲーム。フィナーレのイリュージョン。 最後にサイン会と物品販売といったコースが普通。 あたしは子供の頃からマジックが好きで、特にイリュージョンマジックに興味があった。 テレビでよく見るイリュージョンといえば、イケメンのマジシャンとセクシーなアシスタントの美女。 (中にはイケメンとは評価しにくい人もいるけどね) 小さな女の子の目にも、綺麗な女の人が真っ二つに切断されたり空中に浮かんだりするステージは刺激的で素敵だった。 大きくなって、華やかなイリュージョンの陰で実はアシスタントの女性が大変な仕事をしていることを知り、一層イリュージョンをやりたいと思った。 そんなところにコットンケーキの第3期メンバー募集があり、オーディションを受けて採用された。 3年経って今では中心メンバーの一人として活躍している。 「・・メル!」先輩のヤヤさんが合図をした。 「はいっ」 あたしは踏み台を駆け上がって小さなガラス箱に飛び込む。 すぐに蓋が閉まって鍵が掛けられた。 ガラス箱は1メートルほどの高さにたった一本の脚で支えられていて、その中に身を縮めたあたしが入っている。 箱の正面には片手を出せるだけの小さな穴が開いていて、あたしはそこから右手を差し出した。 すかさずその手首に大きな手錠が掛けられる。これであたしは右手を引き抜くことができない。 箱全体に布が被せられた。 布にも小穴が開いていて、そこから手錠の右手を出す。 さらに巨大なフラッグ(旗)が箱の下半分に掲げられた。 手錠の右手は外に突き出したままだ。 音楽がドラムロールに替わる。次の瞬間。 フラッグの陰からあたしがひょいと現れた。 あれ? この瞬間、ぽかんと驚く観客の顔が楽しい。 箱に被せた布の小穴には、手錠の右手が引き続き見えている。 フラッグと布を外して、ガラス箱の中身を見せる。 紫の上衣のあたしが入っていた箱の中には、赤い上衣のヤヤさんとピンクの上衣のノコが抱き合うようにして入っていた。 手錠を掛けられているのはヤヤさん。 あたし一人が小さくなって入っていた空間に、さらに小さくなった二人が入っているんだ。 二人が箱から出てきた。 観客の拍手を浴びながら全員でポーズを決める。 隣に立つノコがあたしに耳打ちした。 「・・次はメルさんと抱き合って入りたいです♥」 「ばか」 あたしは笑って彼女の頭を突いた。 4. ステージが終わってからサオリさんに呼ばれた。 「これ、SNSで流れてるんだけど」 げ。 その写真は、あの居酒屋で黒布を被せられるあたしだった。 しまった、誰かに撮られてたのか。 「メルちゃんだよね?」 「・・はい」 「無断で他所のお仕事はNGだって知ってる?」 「あれは仕事じゃないんです」 「じゃあ何? ウチでやってるのとそっくりじゃない、このヘッドオフ」 「それは本当に不思議なんですけど、気がついたらノセられていたというか」 「どこの事務所の人?」 どこだろう? プロでやってるのかどうかすら、知らないよ。 「知らないんです」 「はあ?」 たっぷり叱られてしまった。 アイツめ~。 突然イリュージョンなんかさせて、要らない誤解させて、その上、そのうえ。 首を絞められた時の快感が蘇った。 ぞく、ぞく、ぞくり。 この、この、このお~っ。 その日、あたしは自分の部屋でしかしたことのないオナニーを駅のトイレでした。 5. 「それでメルは何が不満なんだよ」 「いや、だから、無断でイリュージョンしちゃって上司に叱られたっていう・・」 あたしはコースケの部屋にいた。 ベッドの中で二人とも裸だった。 最初のデートでいきなり彼のマンションに誘われてホイホイついて来てしまったのだった。 「イリュージョンやったのは俺なんだから、メルが叱られることないだろ?」 「それはそうなんだけど、・・そうだっ、あのネタっ。ヘッドオフっ。どうして練習もなしで合わせられると思ったのよっ」 「ああ、あれは見たんだよ、コットンケーキのステージで同じネタやってるの」 「知ってたの?」 「うん。誰が演じてたのかは分からないけどね。君らがメンバーだって聞いて、メルなら絶対にできると思ったね」 コースケはそう言ってにやりと笑う。 「ネタの黒布持ってたのは偶然だよ。昼間仕事で使ったのが鞄に入ってたんだ」 「あなた本当にプロのマジシャンだったの!?」 「失礼だなあ、信じてなかったの?」 「ごめんなさーい・・」 「一応これでも金もらってマジックやってるよ。フリーだけどね」 「そうだったの」 「ま、俺の正体なんてどうでもいい。大切なのは、君と俺が出会えたこと。それと、」 「それと?」 コースケはいきなりあたしの上に覆い被さると両手をあたしの首に掛けた。 「!!」 「メルはこんなことされて喜ぶ変態だって分かったこと」 「あ・・」 「殺したくなる、君を」 きゅん! 呼吸が止まる。 たちまち全身の筋肉から力が抜けた。 あたしは仰向けに横たわったまま、彼にすべてを任せる。 いいよ。殺されても、いい。 「止めた」彼の手が離れた。 「え?」 「いきなりうっとりするんだもんなぁ。ちょっとは苦しんでくれると思ったのに」 「そんなぁ、コースケぇ」 苦しいんだってばぁ。ちゃんと苦しんでみせるからぁ~。 慌てるあたしを見てコースケが笑った。 「面白いね、メルは」 「うう、好きなようにイジってくださいませぇ」 「あはは。俺、君みたいな子は好きだよ。・・突然だけど、縄で縛られたことある? 仕事以外で」 「縛られたこと?」 イリュージョンの仕事なら拘束されるのは、はっきり言って普通だ。 お客の男性を舞台に上げて演じるジプシーロープなんか、しょっちゅうやってると言っていい。 「ないわ。プライベートで縛られたことは」 縛る方なら、あるんだけど。 「よっしゃ、緊縛しよう」 「え、いきなり?」 コースケはどこからともなく麻縄の束を出した。 「そういう道具を出すのは速いのねぇ」「マジックはテンポが重要だろ?」 全裸のあたしの腕を後ろで組ませると、さらさらと縄を絡みつかせてきた。 「あん・・」 「乳首、立ってるぜ」「言わないで」 「高手小手って縛り方だよ」 高手小手くらいは知ってるわ。でもあたしは黙って彼の縄を受けた。 足首と膝を揃えて縄を掛けられ、さらにその縄尻を胸の前に繋いで固定された。 コースケの緊縛は手際がよかった。 縄が程よく締まって肌に食い込んでゆく。 「コースケ、上手」「だろ?」 背中の縄を掴んで前後に揺さぶられた。 「んっ!」 彼のなすがままだった。あたし、本当に縛られてる! 「股縄も掛けるよ」「うん」 腰に縄を巻いて縛り、両足の間から背中まで強く引いて絞られた。 「さーて、次に出しましたのは、この袋っ」 「またっ、いったいどこから」 「これ、サブトランクで使う袋」 「見りゃ分かるわよ」 あたしは彼が出した黒色の布袋をじっと見る。 袋に入るイリュージョンは嫌いじゃなかった。 布に包まれてじっと潜んでいる感覚はちょっと性癖を刺激される。 おっと、彼に余計なことを感づかれないようにしなきゃ。 コースケは袋の口を開いて床に置いた。 後ろ手に縛ったあたしを抱えて運び、袋の中に膝をつかせた。 これであたしは前屈みの膝立ち。 膝と胸元が縄で連結されているから、あまり上体を起こすことができない。 見上げると彼が嬉しそうに笑っていた。 「ね、絶望的な表情してくれる」 あたしは眉をさげて泣きそうな顔をする。 「唇噛んでよ」 「こう?」 「いいね、少し震えてみて」「はい」 あー、あたしってこんなに素直に言うこと聞く子だっけ? 「じゃあ、美女が絶対に生還できないイリュージョンをやろう」 6. 彼は袋の縁をあたしの頭の上まで引っ張り上げた。 視界が布で覆われる。 袋の口が頭の後ろでぎゅっと絞られて、ロープを掛けて縛られた。
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「絶望的な表情、してくれてる?」 「あ、はいっ」 泣きそうな顔を再開する。 彼には見えないのに、顔をつくるなんて変なあたし。 「ではここでエスケープにチャレンジしよう」 「ええ~っ、そんなのできない」 「いいから、いいから。やってみて」 ううっ・・。 腕に力を入れて左右にこじってみた。びくともしない。 身を捩って縄を抜けようとした。縄の締め付けがいっそう強くなる。 無意識に上体を反らす。 きゅ。 股縄がクリを擦った。 「ひゃん!!」 思わずふらついて、あたしは袋ごと横倒しになった。 「おお、倒れたねぇ」 「ばかぁ~っ」 身体を反らしちゃダメなのか。じゃあ。 横倒しのまま身を縮めて膝を胸元に引き寄せた。 うん、この体勢ならいける。 少しだけ、下半身に力を込める。 あそこに当たる縄が締まって気持ちイイ。 はあ~っ。 深く息をする。上半身の縄が締まる。 左右の膝を擦り合わせるように動かす。両足を縛る縄が締まる。 ああ、イイ。 全身の緊縛を肌に感じる。 「・・怠けてるでしょ」 いけない! つい陶酔しちゃったよぉ。 あたしは再び縄を外そうと無駄な努力を継続する。 く、くぅ~。 やっぱり無理。 「表情は? ちゃんと気持ちを込めてね」 ああっ。 ぷる、ぷる、ぷる。 がく、がく、がく。 無力だった。 縄で縛られて、袋に詰められて、何もできない。 何もできないのに、感じる。 心と子宮にじんじん感じる。 どれくらい時間が過ぎたのか分からなかった。 彼はあたしに手も触れず、ときどき言葉をかけるだけであたしをコントロールした。 気がつけば、あたしは床に広げた布袋の上に寝ていて、コースケが縄を解いていた。 両手が自由になって彼に抱きつこうとしたけどできなかった。 身体を起こすこともできずに、あたしはその場に倒れたままだった。 全身に快感が渦巻いていた。 うずうずするような、ふわふわするような感覚。なんだかもうトロトロ。 「縄酔いだよ。初めて、だね?」 何も答えらない。 とうにか両手を彼に向けて差し出した。お願い、抱きしめて。 コースケはにやりと笑った。 やおらあたしの首��両手を掛けて締めた。 ☆●△★※☆★!!! 何かが爆発した。 後で聞いたところでは、あたしは袋の中に約1時間縛られていた。 そして彼に首を絞められた瞬間、あたしは白目をむいて震え、呆れるほど長々とお小水を粗相して袋と部屋を汚し、それから再び気絶したのだという。 それ以来、あたしはコースケから、縄酔いと首絞めでイったおしっこ女とからかわれることになった。 7. その日のステージが済んでノコが駆け寄ってきた。 「今日のメルさん、雰囲気違いましたねーっ」 「そうかな?」 「はい、何だか色っぽくて。・・あ、いつも色っぽいんですけど、今日は特にセクシーでドキっとしました♥」 「あ、ありがと」 やっぱり分かっちゃったか。ちょっと焦った。 今日の演目はいつものジプシーロープ。 演者の女の子をロープで縛って、客席から上げた男性と一緒に衝立(ついたて)の陰に隠すネタだ。 女の子が大げさな悲鳴を上げて、さも男性にイタズラされているようにふるまう。 そして衝立を外すと男性の着ていたジャケットを女の子が縛られたまま羽織っているというオチ。 あたしは縛られる役で、サオリさんが縛る役だった。 もちろん本当の緊縛とはぜんぜん違う。 縄に締まりはないし、自分で簡単に抜けられる縛りだから、そもそも緊縛とも言えない。 なのに。なのに。 あたしはステージの上で不覚にもコースケの緊縛を思い出してしまったのだった。 彼に縄を受ける自分を重ね合わせ、ちょっと甘美な気分で縛られる演技をした。 「メルさん、マゾの女の人みたいで、見てる私も興奮しました」 「あはは、ドキドキしてくれて光栄だわ」 「次は私が縛られる番です」 「あら、」 「今夜、久しぶりに、いいですか?」 ノコはあたしをまっすぐ見て言った。 その目がきらきら輝いていた。 8. 深夜の公園。 そこはうっそうとしたクヌギの森やボートが漕げる遊水池もある広い公園だけど、夜遅い今の時間は誰の姿もなかった。 ノコとあたしの黒装束だけが暗い公園の中をひっそり歩いている。 あたしの恰好は黒の上衣と伊賀袴(いがはかま:ズボン状の細身の袴)、脛に脚絆(きゃはん)、頭には頭巾と覆面で目だけ外に出して、首から下に地面まで届きそうな長いマントを羽織っている。 コットンケーキのセクシーなステージコスチュームとは違う、本格的な忍者装束だった。 履物だけは草鞋(わらじ)とはいかず黒のジョギングシューズだけどね。 ノコも頭巾と覆面、長いマントは同じ。 マントの間から前に出した手首は黒く染めた縄で縛られていて、その縄尻をあたしが引いている。 忍者の装束はあたしの趣味だった。 恰好いいし、覆面やマントで正体を隠すのも好きだ。 布や袋に包まれるのが好きなのも、この嗜好が高じたからだと思う。 「・・は、・・はぁ、・・メルさぁん」 ノコの声がしてあたしは立ち止まる。 ほんの10分ほど歩いただけで、もう我慢できないの? 「じっとして」 彼女のマントをはだけさせた。 「やぁっ、恥ずかしいっ」 夜目にも白い女体が晒し出された。 ノコはマントの下に何も着ていない。 その替わり、乳房から両足の間の柔らかい肌に菱に編んだ縄が食い込んでいた。 下腹を縦に横切る縄に指を掛け少し強めに引いてあげた。 「あぁ・・んっ!」 「いい声よ」 あたしとノコの関係は、彼女がチームに一期後輩で入ってきたときから続いている。 そこそこ美人で愛嬌があって、胸もお尻もあたしよりずっと大きいナイスプロポーション。 言い寄ってくる男も多そうだけど、異性には興味がないらしい。 初めて抱いたとき、まだ男性を知らない身体で驚いたのを覚えている。 「お、お願いです。・・私を責めて、・・思い切り苛めて」 「いいわ。今夜はいつもと違う時間を過ごさせてあげる」 彼女の手首の縄を引いて森に入った。 頃合いのクヌギの木の前に彼女を立たせる。 手首を縛ったまま両手を頭の上にあげさせて、そのまま幹に縛りつけた。 ピンクローターを出すと股縄の奥に押し込んだ。 マントを身体の前で合わせ、胸、お腹、太もも、膝と足首の上からきつく縛った。 そして股間に埋めたローターの電池ボックスを背中と木の間に押しこんだ。 少し離れて見ると、黒の装束とマントが暗がりに埋もれてなかなかいい感じだった。 でも、生っ白い腕が生えているのが気になるな。 少し考えて、あたしは自分のマントを外し、それで彼女の指先から腰まですべて包み込み、さらに黒縄で10センチおきに縛った。 よし、これこそ闇に紛れる忍者だわ。 コースケだったらもっと上手に縛るかもしれないけど、あたしだって結構ヤレルんだから。 こんな黒い塊の中に女の子が埋まってるなんて、誰に分からないはずよ。 顔面の辺りを両手で押さえて声をかけた。 「どう?」 「な、何も見えません。・・ぜんぜん、動けない」 布の奥から小さな声が応えた。 「オッケーね。じゃあ、あなたは朝まで放置」 「ふぇ?」 「調子に乗ってあんあん鳴いたりしたら誰かに聞かれちゃうわよ」 そう言って電池ボックスのスイッチを『強』に入れた。 すぐにその場を離れて歩き出す。 朝までと言ったものは言葉のアヤだ。 ローターの電池は2時間くらいで切れるだろうから、その頃助けに来てあげよう。 9. ぶらぶら歩いて公園を出る。 着替えは駐車場の車の中だけど、この時間だし構わないだろうと忍び装束のまま通りに出た。 頭巾と覆面だけを外して袂(たもと)に入れる。 さすがにコンビニ強盗にでも間違われると困るものね。 そうだ、何か飲み物持って行ってあげよう。 あの子きっと汗だくになってるだろうし。 自動販売機を見つけてポカリを買う。 自分用にはブラックの缶コーヒーを、と。 「メル?」 背後から声を掛けられた。 振り向くと背の高い男性が立っていた。 「コースケ!!」 「何やってるの? その恰好、忍者みたいだね」 「いや、あの、ちょっとジョギングに来て。・・こ、この服は汗をかいて痩せるように、と」 慌てて嘘ついてるのバレバレだな。 「コースケこそ、こんなところで、どうしたの!?」 「俺は下北のマジックパブで仕事の帰りだよ。メルの住まいってこの辺だったの?」 そーいや、彼のマンション、すぐ近所だった! 「いえ、そこの公園まで車で来て、それでジョギングを、」 「一人?」 「うん、一人」 いきなり手首を掴まれた。 そのまま背中に向けて捩じ上げられる。 「あっ」 するすると縄が巻き付く。 またまた、いったい、いつの間に縄を。 両腕を固められた。やだ、膝も縛られた!? 「早縄ってやつだよ。趣味で練習してたけど、本当に女の子を拉致するのに使うとはね」 口に手拭いを押し込まれた。 その上から縄を噛まされて、猿轡にされる。 ひょいと肩に担がれた。 「メルは今夜は俺ん家ね。・・いやぁ楽しみだなあ、くのいちを拷問できるなんて」 ひ、ひえ~。 10. マンションに着くと、彼はあたしを床に転がして別室に消えた。 再び現れたコースケを見て驚く。 彼もあたしと同じ忍者になっていた。 「メルと同じで嬉しいね、俺も結構好きなんだ、忍者」 「ん~っ!!」 「あ、猿轡、外してなかったけ」 ようやく猿轡を解いてくれた。 「はあ、はあ。・・コースケ、あたしをどうするつもり?」 「そうだね、敵に侵入して正体を見破られたくのいちの運命ってどうなるか分かる?」 くのいちの運命? そりゃ、拷問されて、性奴隷にされて、最後は処刑。 ・・処刑!? きゅんっ!! 「何を考えてるのか大体わかるぜ」 「いいわよっ。もう、拷問でも処刑でも���きにして」 「メルは布に包まれるのも好きなんだな」 「分かるの!?」 「最初にヘッドオフやったときから思ってた。こないだの袋詰めもそんな感じだったし、それにほら」 「あ、それ」 忍者の頭巾と覆面。 「さっき縛ったときメルの胸元から落ちたんだ。これで顔も覆って隠すんだろ?」 「・・はい、そうです」 「よーし。じゃあ、アレを使おう。覆いつくしてあげるよ。・・探してくるから、ちょっと待ってて」 コースケはまた別の部屋に行ってしまった。 あたしは縛って転がされたままだ。 と、ほんの10秒も待たずに彼が戻ってきた。 手に紙袋に入れた道具を持っている。 「早すぎるわよ!」「これも芸のうちさ」 彼が持って来たのは、伸縮性の包帯と怪しげな首輪。 「あたしをミイラにするの?」 「そうさ。きちきちに巻いてやるぜ」 「分かった。頑張る」 「いいねぇ、その心掛け。じゃ、巻くぜ」 彼が包帯を巻き始めた。 爪先から上に向けて、きゅっと締めつける包帯のテンションが心地いい。 肩まで巻いたところで、首に怪しい首輪を締められた。 これは? 「ミイラの中に確かに美女がいるってことを客に示すための仕掛け」 え、どういうこと? 彼は鼻歌混じりに包帯を頭の上まで巻ききった。 眼窩の部分は特に強く巻かれて、あたしは何も見えなくなった。 「じゃあ試してみようか。・・ほれっ」 「ぎゃんっ」 首に衝撃が走って、あたしはのけ反った。 「電撃首輪だよ。犬のしつけに使う」 「あ、あたし、犬ぅ~?」 「ほれ」「ぎゃん!!」 「ほれ」「ぎゃんっ!!」 「おー、海老みたいに跳ねるねぇ」 「わ、分かったから! 電撃の威力はもう分かったから、止めて、お願い!」 「メル、もしかして涙目? 顔隠す前に試せばよかったなぁ」 「ばかばかばかぁっ。いったいどういうつもりよぉ」 「これはくのいちの拷問イリュージョンさ。ほんの思いつきだけど、ステージで使えそうな気がするな」 「?」 それはくのいちに扮したアシスタントを使うイリュージョンのアイディアだった。 くのいちの首に電撃首輪を装着する。 全身に包帯を巻いてミイラにして、ベッドに横たえる。 客をステージに上げて首輪のリモコンを持たせる。 適当にリモコンを何度か操作してもらい、その度にミイラが女の声で悲鳴を上げて跳ねるのを見せる。 しばらく遊んでから、ミイラに布を掛けて隠す。 布で隠した後でも、電撃をかけるとミイラが布の下で叫んで跳ねることを示す。 その直後、客席の後方からくのいちが登場する。 布を外すと、ミイラは包帯だけになってぺちゃんこにつぶれている。 悪趣味ねーっ。そんなネタ、普通のイベントじゃ無理でしょ。 「布で隠すのは基本形だよ。屋外の広い会場だったら灯油かガソリンをかけて燃やすんだ。すっかり燃えて灰になったミイラの中からくのいちがガサっと起き上がるっていう」 ホラーだよ、もう。 「やってみようかな」 やるって何を? 「メルに灯油をかけて燃やすんだよ」 11. コースケはミイラのあたしを抱いて運んだ。 ごとん。 硬い場所に仰向けに置かれた。 「はい。うちのお風呂」 コースケの声が響いて聞こえる。確かに浴室の中みたいだ。 「おしっこ漏らしても構わないよ」 「ばか」 「それに、ここなら多少は火を焚いても大丈夫」 え? 本当に燃やす気? 冷たい液体がお腹に注がれた。 「灯油ね」 「ひゃ、やめ、やめ、やめ」 「ほれっ」「ぎゃん!!!」 首輪から電撃が放たれてあたしはのけ反った。 「はいっ。ご覧の通り、ミイラの中には生きたくのいちが入っていまーす」 「やっ、らっ、あ、め・・」 じょあっ。 お腹が急に熱くなった。 その熱はたちまち脇腹に広がる。 「きゃああ!!!」 腰も足も熱くなった。 あたしは身を捩らせて炎から逃げようとした。 肩にも背中にも炎が広がる。 だめ、脱出なんかできない! 死んじゃうよぉ!! それからすぐに気がついた。 この暖かいの、お湯じゃないの。 12. 彼はげらげら笑いながらすぐにお湯を水に代えて冷やしてくれた。 それからずぶ濡れのあたしを拘束から開放した。 あたしがシャワーを浴びて寝室に入ると、また大声で笑われた。 「いい加減、笑うのを止めなさい!」 「ごめんごめん。でもあれ、熱湯でもないぬるま湯だったんだぜ。メルって本当に、」 「悪かったわねっ、暗示にかかり易い女で」 「苦しかった?」 「・・苦しかった」 「どう思った?」 「・・死ぬと思った」 「それで、今は?」 「・・言わない♥」 あたしはコースケの首に抱きついた。 二人でそのままベッドに倒れ込んだ。 13. 「・・いうほど冗談じゃないと思わないかい? あのイリュージョン。ミイラのまま瞬間移動だって人体切断だってできるぜ」 「そうね、あのくだらない首輪を別にしてね」 「喜んでたくせに」 「喜んでなんかいません!」 「じゃあ、どうしたら喜ぶの?」 コースケはあたしを見て笑う。相変わらず、悪戯好きの子供みたいな笑い方。 「あ、その、・・コースケの手で、首を絞めてくれたら、喜ぶ、かも」 「では、仰せの通りに」 あぁ。 あたしは目を閉じて、彼の大きな手が首に掛かるのを待った。 コースケに首を絞めてもらうのがこんなに嬉しいだなんて。 あたし、どうして彼の前ではこんなにマゾなんだろう? ノコが相手ならSでタチの百合なのに。 ・・ノコ? 「きゃあ!!」 「どうしたの?」 「い、今、何時」「4時過ぎかな」 「やっちゃった! 行かなきゃっ!」 全裸で出て行こうとしたあたしをコースケが止めてくれた。 忍者の装束はまだ洗濯機の中だったので、彼の忍者衣装を借りて袖と裾を巻き込んで着た。 それ以外の彼の服は、Tシャツがワンショルダーで着れるくらいにだぶだぶで大きすぎたのだ��� 14. 公園の中を駆けた。 一緒に来てくれたコースケも走っている。 愛犬を連れて散歩している人がちらほら見えた。 もう夜明けだから当然だ。 誰かのワンちゃんがノコを嗅ぎつけでもしたら大変な騒ぎになるよ。 あの森のクヌギの前に来ると、あたしが縛った黒布と黒縄の塊がそのまま残っていた。 急いで縄を解いて、上のマントを外した。 覆面の下の瞼は閉じられていた。 白い腕が上に伸びて縛られている。 その腕の縄を解きにかかった。 「待って!」 コースケが公園の広場の方角に向けて黒い布袋を広げて掲げ、あたし達の姿を隠した。 さすがマジシャン。感謝するよー。 下のマントの縄を解いて開くと、甘酸っぱい香りが立ち上った。 「ノコ!」 倒れかかってくる彼女を肩で受けて地面に敷いたマントに寝かせる。 ノコの身体は汗にまみれていて、股縄が食い込む股間からは今なお透明な液体がとろとろ流れていた。 「メルって、ドSだったんだなぁ」コースケが感心したように言った。 「女の子が相手のときだけよ」 「俺が相手のときは?」 「ばか。しょーもないこと言ってないでこの子を担いで」 意識が戻らないノコを可哀想だけどコースケが持って来た布袋に詰め、袋の口をロープで縛った。 その袋はあたしが以前コースケの部屋で詰められた黒い袋だった。 コースケに担いでもらって、早朝散歩の人々の奇異の視線を浴びながら駐車場の車まで運んだ。 ノコは車の中でようやく目を覚ました。 6時間近く黒布の中で固められていたにも関わらず、どこも異常はなさそうだった。 ごきゅごきゅごきゅと1リットルのスポーツドリンクを一気に飲み干す。 それからコースケがいるのも構わず、全裸のままあたしを抱きしめて離れなくなった。 「すごかったですぅ~!!!」 「わ、分かったから、離れてぇ」 彼女の巨乳があたしの顔面を塞いで息が苦しい。 これが忍者の覆面だったら嬉しいんだけど。 コースケっ、にやにや笑うな! 「さ、おうちに帰って寝ようね。明日またお仕事だし」 「メルさん、一緒に寝てくれますか?」 だからコースケ、そんなに笑うな! ノコはさっき自分を入れて運んだ布袋を持って鼻に当てている。 「これ、メルさんの香りがします。いい香りです」 「そ、そう?」 「それ、メルのおしっこの匂いだぜ」 あたしは前席に座るコースケに両手を伸ばして掴み掛かり、そのあたしの下半身にノコがしがみついた。 コースケに借りた忍者衣装のズボンがするりと脱げてお尻が出た。 しばらく3人でくんずほぐれつして、それから皆でげらげら笑った。 15. 数日後、ノコから相談された。 あたしがコースケとプレイするとき、自分も参加させてもらえないだろうか。 もちろん彼と男女の関係は求めない。コースケの彼女はあたしだ。 自分はただMドレイとして扱われるだけでいい。 「メルさんの彼氏は、メルさんに私がいること、嫌がってるんですか?」 「そんなことないよ。むしろ面白がってるみたい」 そう、コースケはあたしが女の子のペットを持つことを反対どころか積極的に賛成してくれている。 「だったら、お二人で私を責めてください。私、死ぬ気でご奉仕します!」 「彼が引き受けてくれたらね」 「あ、そうか。メルさんって、彼の前では私以上のドMなんですよね!?」 「そんなはっきりと」 「いいえっ。マゾのメルさんも素敵です。私とメルさんで揃って彼氏に縛られるってどうですか?」 この子、あたしみたいに屈折してなくて、本当に純真でまっすぐだ。 きっとコースケも喜んで3人プレイにつき合ってくれるだろう。 素直ないい子だから、コースケがノコを好きになっちゃったら困るんだけど。 コースケからも相談があった。 コットンケーキを辞めて、彼の仕事の専属パートナーになってほしい。 会員制で大人向けのイリュージョンマジックをするお店があって、そこから誘われているそうだ。 そこなら、あの、くのいちの拷問イリュージョンが本当にできるという。 拷問を受けるくのいちはもちろんあたしだ。 「水責めだって、炎を使って焼き殺すネタだってできるんだ。ガチの緊縛や拷問もありの店だぜ。かなりハードだけど、メルならできると思う」 「もしあたしが駄目だったら?」 「向こうにもそういうのが専門の女の子はいるんだ。でも俺はメルがいい。責めるならメルを責めたい」 ものすごく心が動いたのは事実だ。 拷問を受けるくのいち、やってみたい。 ガチの緊縛や拷問にもドキドキする。もしかして、あたしもトリックなしの拷問を受けさせられるんだろうか。 でも、今、コットンケーキを辞めるのは抵抗があった。 仲間がいるし、お世話になった義理もある。 「考えさせて」「おう、いつでもいいぜ」 「ねぇ」「何?」 「専属のパートナーって、仕事だけの意味? それとも、」 「メルはどっちがいい?」 「ああ~っ、ずるい! コースケ、ずるーい!!!」 「わはははは」 コースケは突然立ち上がると大きな布袋をあたしの上から被せた。 ちょ、また! いつの間にそんなモノ。 彼はあたしを袋に詰めると、床に転がしてその口をロープでがんじがらめに縛った。 中の人間がもがいて生き物のように動く袋にまたがり、上から両手でぐいぐい押さえた。 袋はどんどんつぶれて小さくなり、やがて平らになって床に広がった。 それを拾って丁寧にたたむ。 驚いて見ている周囲の人々に向かってスマートに一礼した。 「お騒がせしました」 カフェのテラスで突然行われた人体消失イリュージョン。 おーっ。 パチパチ! ヒュ~!! 一斉に拍手と歓声が起こる。 ・・本当に、もう。 また合わせちゃったじゃないの! あたしは、彼の足元に置かれたトランクの中で小さくなってぼやいた。 どこかでちゃんと出してよね。 このまま彼のマンションまでごろごろ運ばれるのは勘弁して欲しいわ。 それにしても、むちゃくちゃ強引なごまかし方だったな。 コースケらしくて、悪い気はしなかった。 これからも彼に袋詰めされるのかな。 縄で緊縛されて、首絞められて。その度にトロトロになるのかな。 ああ、こうしてネタの中にいるだけで、ちょっとトロトロ。 おいっ、コースケ! お前、今、絶対に勝ち誇ってるだろっ。 女の子入れたトランク足元に置いて、余裕かましてコーヒー飲んでるだろっ。 悔しいけど、好きだよ。 あたしをトロトロにするコースケが好きだよ。 ・・今夜、ちゃんと抱けよ。 無造作に置かれたトランク。 その狭いネタ場の中であたしは甘くトロトロした時間を過ごすのだった。
~ 登場人物紹介 ~ 御崎芽瑠(みさきめる):24才。女性だけのイリュージョンマジックチーム「コットンケーキ」メンバー。 谷孝輔(たにこうすけ):29才。フリーのマジシャン。メルの恋人。 ノコ : 22才。コットンケーキの後輩でメルのペット。 サオリ、ヤヤ: コットンケーキの先輩。 このお話はイリュージョンマジックと緊縛、そして布や袋に包まれるのが大好きという某くのいちさんにリクエストをいただいて書いたものです。 それぞれ別にイリュージョンの仕事をしている二人が恋人同士という設定は新鮮で、楽しくお話を考えることができました。 登場したイリュージョンは、Head Off、Suspended Animation、Gypsy Rope。 そしてオリジナルで袋詰からの人体消失、ミイラ巻きにしたくのいちを責める?拷問イリュージョンです。 拷問イリュージョンは作中でのコースケくんの妄想ですが、こういうダークなネタは妄想するだけでも楽しいですね。 灯油をかけて燃やすだけでなく、切断(よくある回転ノコなんかでなく真剣で一刀両断!)や手裏剣の的(くのいちですから^^。もちろんぶすぶす命中します)とかいろいろ考えましたよ。 ひどい目に会うアシスタントさんには気の毒ですが、それこそイリュージョンのフェチ的魅力。頑張ってもらいましょう。 今回、二人ともプロということで、やってみたイベントがあります。 それは冒頭と最後のシーンで、コースケくんからいきなり振られたイリュージョン(ヘッドオフと人体消失)をメルちゃんが鮮やかに合わせてやってしまうところです。 街頭ピアノの動画で、行きずりの二人が難曲を超絶テクニックで合わせてしまうなんてのがありますが(street piano performance とかで検索してみて)そのイリュージョン版だと思ってください。 作者としては結構お気に入りのシーンになりましたが如何でしょうか? 現実にはあり得ない? いえいえ、それは分かりませんよ。 これをお読みのイリュージョン好きの女性の皆さま、ある日突然、街頭でイケメンのマジシャンが貴女を大きな布袋に詰めてしまうことがあるかもしれません。 そのときは慌てたりぜず袋の中からさっと消失してください。拍手喝采間違いなしですww さて、相変わらずの寡作ぶりで申し訳ありません。 前回の更新時には、よもやこのような世の中になるとは想像もしておりませんでしたが、皆さまはお元気でしょうか? 私自身はどうにか健康でいるものの、ここ数週間の凶器のような暑さに参りそうです。 次回の更新時にはもう少し暮らし易くなっていることを願いたいものです。 ありがとうございました。
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t82475 · 4 years
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多華乃の彼氏2
1. 7月、J大オープンキャンパス。 見学に来た高校生で賑わうキャンパスではいろいろなクラブやサークルが新入部員勧誘活動に励んでいる。 それは我がイリュージョン同好会も同じだった。 「あの前でいこう」「どっちでやる?」 「そうだな、大人が多いからヒンズーで」「了解」 部長のイサオが指差したのは、生協棟の張り出しテラス。 10卓ほどの丸テーブル席に高校生と保護者たちが座っていた。 イサオに続いて台車を押すのは小柄な大塚正道くん、紙袋を担ぐのは大柄な小谷真幸くん。 私は二人のことを密かに大マサ小���サコンビと呼んでいる。 大塚くんは多少マジックの経験があるけれど、イリュージョンは二人とも同好会に入ってから始めたとのこと。 大塚くんの台車に載せているのはヒンズーバスケットとサーベル(剣)一式。 小谷くんの紙袋はギロチンの道具だから今回は使わない。 「はい皆さん、こんにちは!! イリュージョン同好会ですっ」 「出張イリュージョンやりまーすっ」 「見ていってください!!」 何だ何だと高校生とその親たちが集まった。 イサオが台車の前に立つ。 大塚くんと小谷くんは観客が近づき過ぎないように両側に立って台車を守る。 イサオが台車を覆っていた布を外してヒンズーバスケットを見せた。 「はいっ、ここにあるのは小さなバスケット!」 イサオはバスケットの中に足を入れて立った。 「このように中は空っ���です」 イサオが外に出ると、大マサ小マサコンビが白布を広げてバスケットを隠した。 数秒後、布を外すと・・。 「おぉーっ」観客から声が上がった。 バスケットの口から人の手が片方出ていた。 色白の肌に細い指。若い女性の手である。 「何と、バスケットの中に美女が出現しました!」 顔が見えなくても美女と宣言するのはお約束。 イサオが美女の指を摘んで上に導いた。 滑らかな腕が肩の近くまで伸びた。 ノースリーブの赤い衣装もちらりと見える。 と、そのとき大塚くんが近づいて手を伸ばすと、美女の脇の下をしゅるりと撫でた。 「きゃあんっ」 可愛い悲鳴が聞こえ、美女の腕はバスケットの中に引っ込んだ。 観客が笑う。 イサオはすました顔で、バスケットの口に蓋を乗せた。 蓋は楕円形の円板で、周囲に6個の小穴、中央にも大きな穴が空いている。 真ん中の穴から美女の手が再び出てきて指をひらひら動かした。 大塚くんと小谷くんが左右からサーベルを正面に差し出して交差させる。 イサオはバスケットの後方に立つと別のサーベルを水平にかざし、その中央を美女の手に握らせた。 サーベルはバスケットから出た手によって真上に差し上げられた形になる。 3人は一人ずつ順にサーベルを蓋の小穴に刺し始めた。 ずぶ。 バスケットの側面の穴からサーベルの先端が顔を出す。 美女の手はサーベルを差し上げたまま動かない。 ずぶ。ずぶ。 合計6本のサーベルがバスケットを貫通した。 台車ごとぐるりと回して、観客にバスケットが完全に貫かれていることを見せる。 イサオが美女の手に握られていたサーベルを取った。 美女の手がバスケットの中に消える。 その直後、イサオは蓋の穴に真上からサーベルを刺した。 ほんの1秒、いや0.5秒も経っていない。 美女の手が隠れたその穴をめがけてサーベルが突き刺されたのだ。 「きゃ」 口を覆って叫んだのは観客の女子高生だった。 イサオはサーベルを底に突き当たるまで刺して一度抜き、再び刺してぐりぐり捻る。 手を離してもサーベルは垂直に突き立ったままだった。 やがて3人はサーベルをすべて引き抜いた。 大塚くんと小谷くんが再び白布を広げてバスケットを隠し、イサオが布の下に手を入れて蓋を取り外した。 「はいっ、・・ワン、ツー、スリー!!」 白布がさっと払われると、そこには美女が立っていた。 「わーっ」ぱちぱちぱち。 歓声と拍手が起こる。 美女は髪をアップにして、ノースリーブの真っ赤なチャイナドレスを纏っていた。 にこやかに両手を広げてポーズ。 ふ~っ、暑い!! バスケットから登場した私は片手で額の汗を拭って笑った。 ・・それにしても脇の下をくすぐるなんて段取りになかったわ。 弱点なのに。 おかげで声出しちゃったじゃない。恥ずかしいー。 後で男の子たちをとっちめなきゃ。 2. 前の年に設立したばかりのイリュージョン同好会は、私、後藤多華乃を入れてわずか4名の小所帯だ。 2年生ばかりで1年生はゼロだから、来年は絶対に新入生を確保したい。 そのためにオープンキャンパスで宣伝しようと決めた。 もちろん活動しているのはウチだけでなく他のサークルも同じだから、ここは少しでも目立たないとダメだ。 皆で考えた作戦はモバイルイリュージョン。 機材を台車に載せて移動して、人の集まる場所があればどこでもイリュージョンをする。 ネタはギロチンかヒンズーバスケット。 女の子の多いグループなら、一人をギロチンにかけてあげる。受けが良ければ続けてヒンズー。 大人が多かったり男の子だけのグループなら最初からヒンズーを見せる。 私は最初からヒンズーのバスケットに隠れている。 もしギロチンだけで終わったらバスケットに入ったままになるけどね。 「暑そうだね。大丈夫?」大マサ小マサの二人が心配して聞いてくれた。 平気よ、これくらい。 答えようとしたら、先にイサオに言われてしまった。 「平気さ、後藤さんなら」 3. 「すみませーん!」 ビラを配り終えて撤収しようとすると、グレーのセーラー服を着た女子高生が追いかけてきた。 「あの、あたしアネモネ女学院の出水っていいます!」 「すげー、」「超お嬢様学校じゃねーか」 大塚くんと小谷くんがつぶやく。 そうだわ、アネモネといえば高偏差値の進学校。 賢いだけじゃなくて、綺麗な子ばかりって評判の女子高よね。 目の前の彼女も大きな瞳がくりんとしてて、かなりの美少女。 大マサ小マサコンビが色めき立つのも分かるわね。 隣を見るとイサオは目をぱちぱちさせているだけだった。 ホント、こんな可愛い子を前にして反応が乏しいんだから。 「さっきのイリュージョン見ましたっ。凄かったです!」 「あら、ありがとう」 「あたしの知ってるヒンズーとは全然違ってましたっ。腕を出したままサーベルを刺すなんて、もう、びっくりですー」 「キミ、ヒンズーなんて専門用語を知ってるの?」小谷くんが聞いた。 「はい、あたし高校でマジック研究会なんです」 「へぇ。じゃあイリュージョンも?」大塚くんも聞く。 「やってますっ。ぜんぜんスゴくないですけどー」 「高校生の部活でイリュージョンやってるところは少ないんだよ」 「お金持ちの学校は違うなぁ」 「あはは、学校はお金持ちでもクラブは貧乏なんですよー」 「・・キミ、名前は何だっけ」 今まで黙っていたイサオが聞いた。 「あ、出水ですっ。出水仁衣那」 「出水さん。来年、入学したらイリュージョン同好会に入ってくれるかい?」 「あ、それは分かんないですぅ」 「?」 「あたし、第一志望はT大なんで 」 「T大!? すごーいっ。じゃ、ウチは第二志望?」 「いいえ、第二はW大で。J大は何ていうか、滑り止め? あはははっ」 「・・」 4. その夜。イサオのアパート。 「あぁ」「痛い?」 「ううん、ぜんぜん」 イサオは私の胸に回した縄を背中で絞った。 上半身全体がきゅっと締め付けられて拘束感がアップした。 気持ちいい♥ 「もっときつく縛られてもいいな」 「うーん、でも僕らはまだ初心者だから」 この慎重居士め。彼らしいといえば彼らしいけれど。 イサオに縛ってもらうようになって半年。 緊縛の教習本やネットの情報、お金があるときには縛り方の講習会で教わったりしている。 彼の部屋に来ると、お布団やクッションが縄や紐で縛られているのを見るようになった。 よく生ハムっていうけど、クッションを縛ったらまさにハム。 いずれ私も生ハムになるのかしら。楽しみだわ。 私はTシャツ一枚とショートパンツで縛られている。 Tシャツの下はノーブラ。 ブラを着けないのは別に彼が喜ぶからじゃなくて、その方が気持ちいいから。 本当は裸になって素肌に直接縄を受けたい。 でもイサオは私が肌を出し過ぎると縄が擦れたときに危ないと文句を言う。 じゃどんな恰好がいいのかと聴いたら、長袖のジャージだって。 いい加減にしろって怒って、この恰好で折り合った。 上半身を縛られた後は両足に縄を掛けてもらう。 左右の足首を合わせて縛り、後は上に向けて一周巻いては下の縄に掛けて折り返し、また一周巻いては下の縄に掛ける。 ネットで知った梯子縛りという縄の掛け方。 “縛る” より “編む” と言った方が近いかも。 4メートルの縄を全部使って太ももの上まで編んだら、上端の一か所で縄を留める。 たったそれだけで足首から太ももまで締まった縄は緩まない。 「寝かせるよ」「うん・・」 全身の自由がなくなったら、そのまま彼のベッドに転がしてもらう。 ゆっくり膝を折ると、下半身全体を縄がきゅるきゅると締め上げた。 イイわ。すごくイイ。 「はぁ・・ん」 乳首がつんと立ち、私はしばらく幸福感に浸る。 「いい顔するね」 「とろけそうよ」 「本当に縛られるのが好きなんだな、タカノは」 「知ってる? 知的な女にはマゾヒストが多いのよ」 「はいはい」 そうだ。 私はごろりと転がってうつ伏せになった。 「ね、前髪を掴んでくれない?」「どうするの?」 「引き上げるの、後ろにぐいっと」 「こう?」 彼の手が前頭部の髪を掴んだ。 そのまま持ち上げられる。 「ん、もっと強く・・っ」 顎が浮いて、首が反った。 「ああっ、もっと、お願い」 上半身が逆海老に反り上がった。 ああ、この感じ。 髪を掴んで弄ばれる。何て素敵な女の子の虐め方。 「離すよ」「駄目、もっと。・・もっと私を弄んで」 どれくらい過ぎただろう。 髪を掴む力が突然緩んで、私はどすんと顔面からベッドに落ちた。 「ここまでにしよう。髪が抜けちゃうよ」 「はぁ、はぁ・・。ありがと♥ しばらく浸らせて」 イサオは笑って離れると、横のキッチンの椅子に腰を下ろした。 私はベッドに転がったまま脱力する。 動けない、何もできない。 何の自由もないのに、この開放感はどうしてかしら? 私、世界一幸福な女だわ。 イサオがコーヒーを淹れ始めた。 こぽこぽとお湯の沸く音。香ばしい匂い。 いちいち豆を挽いてドリップするのが彼の流儀だ。 イサオはいつも私を縛ったままコーヒーを楽しむ。 感謝してね。 こんな美女を緊縛放置してコーヒータイムなんて贅沢、他所じゃできないわよ(と思う)。 時間が過ぎる。 彼に見られながら過ぎる時間。 「落ち着いた?」 「ええ、ありがとう」 「髪の毛を掴まれるのが好きなんだ」 「好きよ。弄ばれる感じが最高だわ」 「そろそろ縄を解くよ。タカノにもコーヒー煎れてあげる」 「あら、もう?」 「タカノは自分から解いてって絶対に言わないね」 「言わないわよ、そんなもったいないこと」 「もし僕が君を縛ったままどこかに行ったらどうするつもり?」 「そうね、縛られたままでいるわ。もし私が死んで遺体がぐずぐずに腐ったとしても恨まないわよ」 「ごめん、僕の負け」 イサオは縄を緩め、私はおとなしく従った。 両手が自由になると抱きつく。 渾身の力を込めて最低5分はしがみついて離れない。 それからようやくキス。 私が満足するまで我慢してね。 我ながら身勝手なM女だわ。 「・・そう言えばさ、問い合わせてみたんだ」 コーヒーを飲み始めたところで、イサオが縄を片付けながら言った。 「え、何の話?」 「ほら、出水さんが言ってた」 「ああ、人間くす玉?」 「うん、いつでも見学OKだって。来週あたり、京都に行ってみようと思う」 5. そう。あれは昼間、仁衣那ちゃんをキャンパスのカフェに誘ったときのこと。 明るく笑う彼女は華があってイリュージョン同好会に入ってくれたらきっと人気者になると思った。 その仁衣那ちゃんが私を見て、センパイはくす玉にも入れそうですねーと言ったのだった。 「くす玉って?」 「知らないですか? 人間くす玉。これくらいのくす玉から女の子が飛び出すんですよー」 「これくらいって、50センチくらい?」 「はいっ、ウチの学校じゃチアリーディングで使ってますよ」 「出水さん、その人間くす玉について詳しく教えてくれる?」 イサオが聞いた。 イリュージョン同好会を始めるにあたりイサオはできるだけオリジナルのネタをやりたいと考えていた。 市販のイリュージョンは高くて手が出ないし、美女役の女子部員も私一人しかいない。 だからアイデアで勝負。 イサオは人間くす玉に興味を持ったようだ。 仁衣那ちゃんがチア部の友人を通して調べてくれた。 人間くす玉は京都にあるイベント会社の製品だった。 イサオはその会社に連絡をとって見学に行くことにした。 写真や動画でも分かるのに、わざわざ見に行くのは何故? 「この目で見たいんだ、直径50センチに女性を入れるところを。イリュージョンに使えるかどうかは分からないけどね」 「私を人間くす玉にしたいの?」 「したい。タカノをくす玉に詰めたい」 彼の私を見る目が、いつもと違っていた。 本気だと思った。 「いいわよ、イサオのやりたいことをやって。何でも付き合ってあげる」 「ありがとう」 それにしても “詰める” なんてモノみたいね。 イサオの言い方にほんの少しだけぞくりとした。 6. 深夜の駅前で声をかけられた。 「後藤っ、後藤じゃねぇか?」 背の高い色黒の男性。 「長田くん?」 「久しぶりだなー」 やな奴に会っちゃったなぁ。 長田峻(おさだしゅん)は高2のとき付き合ってた男の子だ。 何につけても強引で、女を支配したがる男。 こういうのに惹かれた私がバカだったんだけど。 「今、帰りかい?」 「うん、バイト帰り」 「後藤は何してるんだ?」 「二丁目の蛸四郎。お勧めはオムソバよ」 「バイトのことじゃねーよ。どっか学校とか行ってるのかって聞いてるのっ」 「一応、大学生だけど」 「おー、遊んでるんじゃねーのか」 ねーよ。あんたとは違うの。 「そんな怖い顔しないでくれよ。・・で、どこの大学」 「言わない」「いーじゃねーか。教えて減るもんじゃなし」 「・・J大」 「おー、すげーじゃん」 長田はそう言って笑った。 粗忽なくせに笑うと爽やかに見えるのがシャクだ。 まあ、こいつがイケメンなのは否定しない。 「バイト済んだならヒマだろ? どっか飲みに行こうぜ」 「約束があるの」 「男か?」「うん」 約束があると言ったのは嘘だった。 イサオは京都に出かけている。 「おめーのことだから股開いて誘ったんだろ? ま、俺もそうやって誘惑されたクチだけどなー」 「失礼ねっ。そんなのじゃないわ!」 ホントに失礼なヤツ。私は���を向けて歩き出した。 「おーい後藤、怒るなよ」 後ろで長田の声がする。 ついてこられたら困ると思ったけど、それはないようだ。 「また遊ぼうぜー」 私は黙って歩み去った。 ・・大学の名前、教えたのはマズかったかなぁ。 7. イサオは京都で3日過ごして帰ってきた。 大学で顔を合わせたら、お土産と言ってペナントをくれた。 二等辺三角形の布地に大文字山と五重の塔。金色の筆文字で『京都』。 こんなもん、どないせぇっちゅーのよ。 「くす玉の見学でしよ? 3日も何してたの?」 「わざわざ見にくる学生は珍しいみたいで、面白がっていろいろ教えてくれた」 「何を?」 「んー、それは内緒」 イサオが内緒って言うときは、何か考えているときだ。 オリジナルのイリュージョンのアイデアか、それとも全然別の新しいことか。 「じゃあ京都に行って正解だったのね」「うん」 「よかったっ。・・今日、イサオん家(ち)に行ってもいい?」 今夜はバイトもないし、ベッドでしっとり♥、ね? 「ごめん、帰ってすぐ作業始めちゃって、足の踏み場もないんだ」 「何やってるの?」 「だから、内緒」 「え~っ?」 「完成したらタカノを呼ぶからさ」 8. イリュージョン同好会に大きな荷物が届いた。 それは直径50センチで中身はがらんどう、真っ二つに割れた球体だった。 「もしかして人間くす玉!?」 「うん、壊れたのを処分するって言うから、欲しいって言ったら譲ってくれた。送料向こう持ちで」 すごいっ。 タダでくれるのもすごいけど、クレクレしたイサオもすごい。 「で、どうするのこれ」 「んー、どうしようかなぁ」 「決めてないの?」 大塚くんと小谷くんも寄って、皆でくす玉を調べた。 それは硬いプラスチックの球体だった。 左右に別れた球体は本当なら蝶番(ちょうつがい)で繋がっていて開いたり閉じたりできるはずだけど、これは壊れてばらばらの半球だった。 試しに私が入ってみる。 片方の半球にお尻を入れ、もう一方の半球を被せようとしたら肩が収まらなかった。 肩をすぼめて身を縮めても、自分の膝が邪魔で屈めない。 足首をクロスさせて胡座を組み、開いた膝の間に上半身を押し込んだ。 「OK、押さえてちょうだい」 むぎゅう。背中が強く押された。 後頭部が突っかかる。顎を引いて限界まで小さくなった。 ぎゅ、ぎゅ、ぎゅ。 きり、きり、きり。 全身の骨と筋肉が圧縮されて私はくす玉の中に収まった。 ・・ぐ、ぐるし。 うめきそうになった。 手も足も、身体のどの部分も動かせなかった。 あらゆる方向から力がかかって私を押し潰そうとしていた。 密閉感、圧迫感が凄まじい。何より耐え難いほどの息苦しさ。 身体の柔らかさには自信があったけど、これは無理だわ。 男の子たちも交代で挑戦してもらう。 一番小柄な大塚くんでも中に入るのは無理だった。 「やっぱり後藤さんだけだね、入れるのは」 「私でも厳しいわ。子供用じゃないの? これ」 「子供用なんてあるの?」 「んー、一応身長160センチ以下の女性用ってことになってるけど」イサオが言う。 160? どんな軟体女よ。 「後藤さんって身長いくつ?」「154」 「おー、余裕じゃん」「もっと小さくても入れるね」 大マサ小マサコンビがはしゃいでいる。 「やめてよ、無理だってば」 「いっそサーベル刺したら、ダンボールイリュージョン以上の衝撃じゃね?」 「もう、そんなことされたら本当に死んじゃうじゃわよ」 助けを求めてイサオを見ると、実に面白そうに笑っていた。 タメだ。こいつ、私をくす玉に入れて本当に剣刺しそう。 9. イサオが部屋に来てもいいって許してくれたのは翌々週になってからだった。 いったい京都で何を教わってきたのか白状してもらいますからねっ。 二人並んで大学の正門を出るところで、見覚えのある男がいた。 「へっへっへっ、会えたぞぉ。後藤」 「長田くん! あんた、どうしてここに」 「だって後藤、J大だって言ったじゃん」 ・・言った。 「ここでずっと待ってたの?」 「まぁね、たった二日で会えたんたから、俺たち相性いいんだよ」 そうだった。こいつ、蛇みたいにしつこい奴だった。 「えっと、こちらの人は?」イサオが聞いた。 「あ、彼は高校のときの友達で長田くん」 「へぇ~、これがお前の今の男?」 長田は私達の正面に立って、イサオをじろじろ見た。 「サえない彼氏だねぇ。こんな奴さっさと別れて俺とヨリを戻そうぜ」 「いやよ!」 「何なら縛ってやるぜ。俺、縄師になったんだ」 「なわし~!?」 「おうさ。後藤、お前ドエムだったろ。セックスの前に必ず尻叩かれて喜んでたじゃねーか」 あわわ。 「本当?」イサオが聞いた。 「俺が嘘つくかよ。尻だけじゃねーぞ、首絞めてくれって頼むんだぞ、こいつは。・・悪いことは言わねぇよ、あんたみたいな普通の男の手に負える女じゃねぇ」 長田がずけずけ言ったことは本当だった。 私はお尻が真っ赤になるまで叩いてもらって興奮していた。 気絶寸前まで首を絞められ、快感で下着をびしょびしょにしていた。 「そうだったのか。ごめん、気がつかなくて」 イサオは突然謝った。 「緊縛だけじゃなかったんだね。スパンキングに首絞め、他に希望があったら教えてくれる」 こんなときに何を言うのよ。 「何言ってるんだ? あんた」長田も不思議そうな顔をして聞く。 「まぁいいや。行こうぜ後藤。さっそく縛ってやっから」 「イヤよ、行かないっ」 「あの、長田さんとやら」イサオがのんびり言った。 「この人を縛るって、���こへ行かれるつもりですか?」 「どこって別に決めてねーよ。ホテルでも、カラオケでも、何なら駅の便所でもいいぜ、へっへっへっ」 「よかったら僕のアパートに来て緊縛を見せてくれませんか? たまたま、麻とアクリルのロープ、木綿ロープもありますけど」 「おおっ、そうか?」 やっぱり長田、ちょっと足りない。 普通の家にそんなにロープがある訳ないでしょ。 「後藤さんもいいかな? この人に縛られてみるのは」 タカノって言わずに後藤さんと呼ぶイサオ。 「イサ、酒井くんがそれでいいのなら」 10. イサオの部屋に入って驚いた。 四隅に木の柱。柱と柱の間に渡された金属パイプの梁(はり)。 その下に今まで通り机やベッド、衣装掛けなどが置かれている。 以前通った縛り方教室にあった設備と似ていた。 「吊り床?」 「仕上げるのに5日かかったよ」「うわぁ♥」 これはマゾの血が騒ぐわ。 長田はこれが何か理解していないようだ。 「何だよこれ、邪魔だなぁ」 とりあえずコーラと冷茶を飲んで落ち着く。 長田はビールを欲しがったけど、アルコールは置いてないと言って出さなかった。。 私は髪を括ってTシャツとショートパンツに着替えてきた。 もちろんシャツの下にはブラを着けている。 「後藤、おめぇ太ったなー」 「気安くおめぇって言うな。それに私の身体を煩く言ったら縛らせてあげないから」 「縄を選んで下さい、長田さん」 「おおっ」 長田はイサオが見せたダンボール箱から赤い綿ロープを取った。 「女を縛るならやっぱり赤だろ」 綿ロープでよかった。 硬い縄を使われてみみず腫れなんてできたら嫌だもの。 そう思って箱をのぞいたら色は様々だけと全部綿ロープだった。 イサオがウインクする。さすがイサオ♥ 11. 長田が私を縛り始めた。 「へっへっへっ」 両手を後ろで合わさせると、手首から肘にかけてぐるぐる縄を巻いた。 最後に一回蝶々結び。 何この生ぬるい縛りは。 ベッドにうつ伏せに寝かされて、足首を縛り、縄の反対側を手首に繋いで縛られた。 「知ってるか? ホッグタイっていうんだぜ」 そう言うと私の頬をぺちぺち叩いた。 「顔は触らないでっ」 「へっ、嬉しいくせに」 この顔が嬉しそうに見える? 手首の縄が緩くて解けそうだった。 いっそ自分で抜けてやろうかしら。 イサオを横目で見たら “我慢して” という風に首を振られた。 「いやぁ、すごいですねぇ」「そうかい?」 「誰かに習って覚えたんですか?」 「まあね、」 イサオが持ち上げると長田は得意気に答えた。 「ダチがプロでね。スジがいいってホめられてんだ」 その友達、絶対にプロじゃない。 「どーだい? 後藤。ドMなお前には俺みたいな男が似合ってるんだ」 「・・あんたねぇ、自分で縄師って言うから、多少はまともに縛れるのかと思ったら」 「何だよその言い方。こっちの男の方がデキるって言うのかよ」 「イサオ、やってちょうだい」 「キレるのが早いよ、タカノ。この人の縄をもっと見たかったのに」 「どうせイサオも縛って見せるつもりなんでしょ。もう我慢できないわ、こんなユルユルの縛りっ」 「ゆ、ゆるゆるぅ!?」長田は初めて驚いた顔をした。 「分かった。じゃあ、きつめの縄で縛る」 「あんた、ホントに縛れるのか!?」 「まあ一応。縛り始めて1年の初心者ですけど」 12. イサオは長田が縛った縄を解いた。 「休憩いる?」 「いらないわ。早く始めてちょうだい」「分かった」 イサオは麻縄を手にした。 私を床に立たせると、両手を後ろに捻り上げた。 手首の交わる位置は今までなかったくらいに高い。 その手首と上腕に縄が巻きつく。 ものすごい拘束感だった。ぴくりとも動けない。 こんな緊縛、初めて。 「イサオ、いつもと違う」 「京都で勉強してきたんだ」 イサオはそう言うと、吊り床の両端に縄を2本掛けて背中に繋いだ。 右足首に別の縄が縛りつけられる。 「はんっ!」 一気に引き上げられた。 体重の大半が右足首と背中に掛かって、床についた左の踵が浮いた。 「膝を曲げないて」 「ん」 太ももと膝の筋がぴんと伸びた。 「うん、綺麗だ」 このボーズは、I字バランス。 私、緊縛でI字バランスをやってるんだ。 とても安定していた。 縄に身を預けていれば倒れる気がしなかった。
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太ももの内側をすっと撫で上げられた。 ひっ! 思わず身震いしたら「動かないで」と言われた。 「タカノは僕ら男のための見せモノだ。いいね?」 「あ、うん」 「ウンじゃない。ハイって応えなさい」 「はい!」 きゅうぅ~ん。 私はイサオに支配されている。私はイサオのモノ。 「うん、色っぽいね」 「すげぇ・・」長田のつぶやきが聞こえた。 もう長田なんてどうでもよかった。 イサオが私を見てる。イサオになら何されてもいい。 「タカノのことだから、もっと責めて欲しいんだろうね」 責めて欲しい。 「逆さ吊りにされたり」 されたい。 「首を絞められたり、鞭で打たれたり」 されたい。 「怖いくらいのマゾだね、タカノは」 そう、マゾだわ。 縄で縛られて苛められるのが大好きなマゾよ。 「悪いけど僕はまだ初心者だから、これ以上難しい緊縛はできない。その替わり、」 ? 「口を開けて」 縄を3本合わせて噛まされて、首の後ろで括られた。 吊り上げられた右の脛に縄を巻いて縛り、猿轡の縄と連結された。 余り縄を丁寧に束縛りに巻いて留められた。 これで私の右足と頭は互いに固定された。 髪をぐいと掴まれた。 「こうやって弄ばれるが好きなんだよね」 「!!」 髪を掴んだ手を前後左右に激しく揺すられた。 「んっ、んん~っ!!」 頭と、猿轡に連結された右足と、そして身体全体がぐらぐら揺れた。 何の抵抗もできない。 ぞくぞくした。何て惨めなんだろう。 命じられた通り両足の膝が曲がらないように注意して、イサオのために頑張った。 私はイサオに支配されている。私はイサオのモノ。
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「し、師匠と呼ばせて下さい!!」 長田がイサオに向かって叫んだ。 13. 11月、学園祭。 去年は同好会ができたばかりで、借りてきたジグザグと胴体貫通サーベルをするのが精一杯だった。 今年はオリジナルのイリュージョンをやる。 会場は学生会館の小ホール。 小さいけど舞台袖や後の幕など一通りの設備が整っていてイリュージョンするのに都合がいい。 「師匠ー!!」 幕が開いてイサオが登場すると客席から声援が飛んだ。 長田だ。 すっかりイサオのファンになって、同好会の発表にまで来るようになったのだ。 緊縛の趣味は秘密だから誰にも言わないでと頼んであるから、そのことは口にしない。 でもイサオのことを師匠と呼ぶのは変わらないから、大マサ小マサコンビからはマジックの師匠だと思われている。 客席にはもう一人知った顔がいる。出水仁衣那ちゃんだった。 彼女は第一志望をJ大に変えて、早期推薦に見事合格。 イリュージョン同好会に入りたかったからと嬉しいことを言ってくれたけど、本当はT大やW大を目指すには偏差値が足りなかったらしい。 事情はともかく、彼女は来年からの強力な戦力だ。 この際、仁衣那ちゃん目当ての男の子も同好会に入ってくれたら嬉しい。 14. 「行くよ」「うん!」 小谷くんが声を掛けて私はバスケットの中から返事した。 最初の演目はヒンズーバスケット。 オープンキャンパスのときと同じだけどバージョンアップした自信作だ。 袖から大塚くんと小谷くんの大小コンビがバスケットを持って現れた。 バスケットは台車ではなく二人が向かい合って手で持って運んでいる。 ぱちぱちと控えめな拍手が聞こえた。 二人はバスケットを空中でくるりと回して上下逆にした。 ゆさゆさ振って中から何もこぼれないことを示した。 元の向きに戻して床に置く。 イサオが中に足を入れて立って見せた。 これでバスケットは完全に空だと示したことになる。 大塚くんと小谷くんは再びバスケットを持ち上げて、もう一度下向きにした。 後ろに立ったイサオがバスケットの底をトンと叩く。 下を向いたバスケットの口から片足が下りてきた。 爪先にペディキュアを塗った女の素足だ。 「えっ?」客席から驚きの声。 オープンキャンパスのときは美女の手だったけど、今度は美女の足だ。 美女の足はにょきにょきと太ももまで生えて、床に爪先をつけた。 拍手の中、大マサ小マサコンビは再びバスケットを回して上向きにした。 美女の足はバスケットの口から真上に向かってぴんと伸びている。 このバスケットはオープンキャパスて使ったのと同じものだ。 ただしイサオが魔改造して内側に金属のフレームとグリップを張った。 中でグリップを握って踏ん張れば、たとえ逆さで振り回されても落っこちたりはしない。 フレームを張った分多少狭くなったけど、それくらいは余裕で入っていられる。 やがてイサオは真ん中に穴の開いた蓋でバスケットの口を覆い、穴から美女の足が出るようにした。 周囲の小穴に銀色のサーベルが刺し込まれた。 1本、2本、・・全部で6本のサーベルが美女の身体を突き抜けてバスケットの反対側の穴から突き出る。 美女の足は何事もなかったように伸びていた。 ときおり足指だけがぴくぴく動いて、生きた人間の足であることをアピールしている。 大きな白布で全体を隠し、隙間からサーベルと蓋を抜き取った。 「はいっ、・・ワン、ツー、スリー!!」 布がむくむくと持ち上がる。 その下から登場したのは真っ赤なチャイナドレスの私だ。 サイドのスリットから左足を惜しげもなく出して、Y字バランスのポーズをとる。 わー! ぱちぱちぱち。 さらに左足を引き寄せてI字バランス。 揺らぎもせずに静止して微笑んでみせる。 「すごい!」「タカノさーん、素敵~♥」「エロいぞっ、後藤ー!!」 エロいは余計よ。 私は客席で喜んでいる長田を少しだけ睨んでもう一度微笑んだ。 15. 二番目の演目は大マサ小マサコンビによる美女の空中浮遊。 宙に浮かぶのは客席の女性だ。 大塚くんと小谷くんが手を取ったのは・・、出水仁衣那ちゃんだった。 「えーっ、あたしですか!?」 大げさに驚きながらステージに上がる仁衣那ちゃん。 もちろん彼女にはショーの前に了解をもらっている。 客席の女性に出てもらう場合、いきなり頼んで断られたら困るから事前に根回しするのが常識だ。 「貴女は何もしないで寝てるだけでいいのよ」 「フレームサスですか? 喜んで! ・・ただ、」 「ただ?」 「あたし今日ミニスカートなんですよね」 「心配ないわ、ちゃんとシーツで隠してあげるから」 「なら大丈夫ですね。そうだっ、浮いてる間ちょっとポーズしてもいいですか?」 「いいわよ、でも “仕込” って思われない程度にね」 「うふふ、了解です♥」 そんな訳でステージに上がった仁衣那ちゃんはテーブルに横たえられて目を閉じた。 広げたシーツを掛ける。 胸から下を覆って左右の腕と胴の間に挟み、下半身は膝の下まで覆う。 背の高い小谷くんが後ろに立って、掌を仁衣那ちゃんに向けて魔法のパワーを送った。 シーツに覆われた仁衣那ちゃんがゆっくり浮かび上がる。 大塚くんがテーブルを横に外した。 仁衣那ちゃんは宙に浮いたままだ。 大きなリングを出して仁衣那ちゃんの身体を通してみせる。 これぞお約束の空中浮遊。 と、仁衣那ちゃんが目を閉じたまま頭を後ろに反らせた。 胸の前で両手を猫のように振った。 ああ、これが彼女の言ってた “ちょっとポーズ” ね。可愛いわよ。 ほぉ~っ、ぱちぱちぱちっ。客席からも拍手が起こる。 仁衣那ちゃんの口許に笑みが浮かんだ。 片方の膝を引き寄せて上に挙げた。そのまま足先を真上に向ける。 ちょっとやり過ぎじゃない? 仁衣那ちゃん。 そんなに足上げたらミニスカートの中が。 仁衣那ちゃんは構わず反対の膝も引き寄せて、身体を反らせた。 おお~っ!! 今度は大きな拍手が鳴り響いた。 膝まで隠していたシーツがずるずるっと開き、スカートの中から下着のショーツがプリント柄まではっきり見えた。 それはまるでイサオみたいに無表情に立ち尽くす〇〇モンの柄だった。 16. ショーは小休憩に入る。 「すみません~、ちょっとノリ過ぎちゃったみたいで」 幕裏に仁衣那ちゃんが来て謝った。 「仁衣那ちゃんが平気ならいいんだけど」 「パンチラくらい何でもありません」 「それならよかったわ。客席はほとんど男性だし、いいモノ見れて盛り上がったみたいよ」 あれはパンチラというよりパンモロと呼ぶべき代物だったけど。 「うふ、部活の発表会に水着で出たこともあるんですよ」 「女子高なのに?」「女子高だからです」 私たちは笑い合った。 仁衣那ちゃん、いい子だわ。ノセたら何でもやってくれそう。 「じゃ来年のイリュージョンはビキニでデビューしてもらおうかしら?」 「その前にあたし、先輩のビキニが見たいです」 「言うわねー」 よーし。私は心の中で頷いた。 迷ってたけど今の仁衣那ちゃんのセリフで決心がついたわ。 イサオの驚く顔が楽しみね。 17. ショーを再開する。 ステージには高さ1メートルの演台がひとつ。 この演台はホールの元々の設備だ。 チャイナドレスの私が大塚くんと小谷くんに担がれて登場した。 そのまま縁台の上に立ってポーズをとる。 イサオが直径50センチの半球を持ってきて私の足元に置いた。 これはあのくす玉の片割れだ。 私はゆらゆら揺れる半球の中にお尻を入れて座ってみせた。 両手を膝の前で合わせ、頭を前に倒して小さくなった。 くす玉は壊れているからもう一つの半球を被せられることはない。 その代わりに使うのはビニール袋だった。 イサオたちは燃えるゴミの日に使う青い大きなビニール袋を私の上から被せ、半球の周囲にガムテープで貼った。 そしてビニール袋の底をハサミで切って開いた。 抜けた穴から私が手を出して振ってみせる。 そこに今度は大塚くんたちが紙吹雪を注ぎ込んだ。 頭の上までいっぱいになっても、周囲の隙間まで押し込んで詰めた。 ビニール袋が膨らんで私の姿が見えなくなったら、イサオが袋の口をホチキスで止めて塞いだ。 大塚くんと小谷くんは縁台の後ろから私の入った半球を下ろして手前の床に置いた。 替わりに演台の上にはイサオが立った。 彼が両手に持ったのはボーリングのボールだ。 その直下1.5メートルの床では私と紙吹雪の入った半球が揺れている。 まさか。 観客が不安になった瞬間、イサオはボールを半球の上に落とした。 どしん!! ビニール袋が破れて紙吹雪が舞い散った。 そこへさらにイサオ自身が飛び降りた。 再び舞い上がる紙吹雪。 チャイナドレスの美女はどうなったのだろう? 大塚くんと小谷くんが半球を持ち逆さにして振ってみせる。 半球の中は空っぽだった。 驚く観客。 その直後、イサオが客席の後方を指差した。 皆が振り返る。 ホールの入口で私が手を振っていた。 衣装は赤いチャイナドレスから赤いマイクロビキニのランジェリーに替わっていた。 ステージに上がると膝をついてイサオの腰に手を添えた。 盛大な拍手が響いた。 後藤ー! センパーイ!! 長田と仁衣那ちゃんも喝采を送ってくれている。 「その格好は何」イサオが小声で聞いた。 「驚いた?」「驚くよ」 「走りながらチャイナを脱いだの。セクシーでしょ? ほらTバックよ」 「・・」 「黙ってないで美女を抱き上げてくれない?」 「・・」 「何もしてくれないなら小谷くんに抱っこしてもらおかなぁ」 「本当にもう、この美女は」 イサオはようやく私の腰に腕を回すとお姫さま抱っこしてくれた。 私は観客に向かって投げキッスをしながら、できるだけ妖しく微笑んでみせた。 18. イサオのアパート。 学園祭のショーから1ヶ月が過ぎていた。 私はスポーツブラとショーツで縛られている。 イサオはようやくここまで肌を出して縛られるのを認めてくれたのだった。 「最近、長田氏は来ないね」イサオが縄を手繰り寄せながら言った。 「ああ、アイツ」私は答える。 「縛り方教室に行き始めたらしいわ。そこでパートナーになってくれそうな彼女を見つけたって」 「そうか。タカノもやっと解放されるのかな」 「そう願いたいわね。イサオは他の男の子が私を縛っても平気だったの?」 長田はイサオにコーチしてもらうと称して、この部屋に来ては私を練習台に緊縛の真似事をしていた。 あの無神経男が私を縛るときだけは緊張して縄を遣っていたのが面白かったけど、それも終わるだろう。 新しい彼女に相当熱を上げているようだから。 「タカノが縛られても僕は気にしてなかったよ」 「本当?」 「僕みたいな緊縛の初心者が教えるなんて、おかしいとは思ってたけどね」 「ねぇ、そろそろ初心者って強調するのは止めたら?」 彼は私の指を縛っている。 背中で手のひらを合わせて緊縛する後ろ合掌縛り。 手首を合わせて縛るだけでも動けないのに、合わせた指の一本一本に縄を絡めて固めてくれている。 ものすごく気持ちいい。 こんな縛り方、どうして初心者ができるのよ。 「僕は永久に初心者だと思うことにしてるよ。タカノに絶対にケガさせないためにもね」 「嬉しいわ。ありがとう」 「タカノこそ、もう初心者じゃないよね」 「私はイサオに身を任せてるだけよ」 「こんなポーズで、よくべらべら喋れるものだと思うよ」 私は180度の前後開脚をして上半身を前にぺたりと倒していた。 顔の前には自分の右の膝があって、その膝と首を纏めて縛られている。 その上で、イサオは前屈した私の背中に跨がって座り、後ろ合掌縛りの指に縄を巻いてくれていた。 これは体操などで行う股割りの柔軟訓練と同じで、普通の人なら拷問そのものだ。 私は自分からお願いしてイサオに座ってもらっていた。 彼の体重を受けて全身がみしみし撓む感覚。 癖になりそうなくらいに被虐的だわ。 「どう? か弱い女の子の上に座るなんて滅多にできないでしよ?」 「どこがか弱いの。嬉しそうに」イサオは呆れたように言った。 「苦しそうにして欲しい?」 「少しはね」 そうか。ちょっとやってみようかしら。 くぅっ、はぁ~。 眉を寄せて辛そうな表情をしてみせる。 「ヨガってるようにしか見えないよ」 「もう、イサオ!!」 19. しばらくして縄を解いて解放された。 「今日は早いのね」 「実はもう一つやりたいことがあるんだ」 「いいわよ。イサオになら何をされても」 私は自分の腕についた縄目をそっと撫でながら言う。 今までも縄の痕は残っていたんだけど、この頃、細かい縄目が鮮やかに刻まれるようになって嬉しい。 たぶん彼の技術が向上して縄が緩みにくくなったんだ。 イサオは京都で緊縛の指導も受けてきたらしい。 どうしてただのイベント会社が縛り方まで教えてくれるのか不思議だけど、彼が緊縛の腕を上げたのは確かだ。 私は彼に縛られる度に縄の痕を刻印さ���る。 これは私が彼に従属した証。撫でているだけで幸せになる。 縄痕を撮ってこっそりSNSに投稿してるのはイサオには秘密だ。 「どうしたの? 腕が痺れた?」 イサオに真顔で聞かれてしまった。 「大丈夫よ、何ともないわ。・・それより、やりたいことって何?」 「ああ、それは」 イサオは押し入れから大きな球体を出してきた。 「くす玉!?」 「うん、ヒンジを付けてみた」 二つの半球が繋がって開閉できるようになっていた。 「紐を引いたらピンが外れてバネで開くんだ。吊り床から懸垂できるようにフックもつけてみた。中身を吊下(ちょうか)する機構はないから、タカノはそのまま落下することになるな。まあ、下はベッドとクッションだから落ちても危険はないよ」 私は黙ってくす玉を見つめる。 以前この中に入って蓋をされたときのこと思い出した。 あの、圧倒的な狭さ、息苦しさ。 嫌だな、と思った。 さっきまでの高揚感が嘘のように消えるのを感じる。 「あれ、急に静かになったね。タカノって閉所恐怖症だっけ」 「バカね、そんなことないわよ。でも私に入れるかしら」 「入れるさ。イリュージョンのときも入っただろう?」 「あのときは蓋をしなかったもの」 そうだ。学園祭で私が消えて移動したイリュージョン。 あのときはくす玉の半球に私が入ってビニール袋を被せただけだった。 その後、演台から床に下ろすとき、演台の後ろに隠してあったもう一つの半球と交換するのは簡単だった。 私は自分でビニール袋を破って背景の黒幕に抜けたのだった。 分かってしまえば美女の瞬間移動なんて大して難しいマジックじゃない。 でも二つの半球を金具で繋いじゃったら、この先イリュージョンはどうするんだろう? あれは半球が二つあるからできたネタだ。 「もうくす玉のイリュージョンはしないの?」 「うん、このくす玉は僕の部屋でタカノ専用にするつもり」 「せっかく新しいネタを考えたのに」 「また考えるさ。今、僕にとっては大切なのは、ここに君を詰めること」 イサオはベッドの上にくす玉を開いて置いた。 「さ、入って♥」 「楽しそうね」 「楽しいよ。ずっと夢見てきたことか叶うんだから」 「私を詰めてどうするつもり?」 「何もしないよ。ただ放置するだけさ。コーヒーくらい飲むかな」 「放置、ってどれくらい」 「うーん、、とりあえずタカノが意識を無くすまで」 「!!」 「嘘だよ。様子を見て適当に解放してあげるさ」 イサオはにやっと笑った。 「怖いから許して下さいって謝れば、放置は止めるけど?」 「そ、そんなことしないわよっ」 イサオはにやりと笑った。 「ほんの5分10分でもタカノにとっては何時間に思えるかもしれないね。想像するだけで僕は嬉しくて仕方ないよ」 うー、このサディストめ。 「何時間も放っておかれたら、私、気が狂って死んじゃうかも」 「あれ? そのまま死んで遺体がぐずぐずに腐っても恨まないって言ったのは誰だっけ?」 あぁ、駄目。もう勝てない。 「ごめんなさい、私の負け。生かすも殺すも好きにしてちょうだい」 20. イサオが滑車のロープをがらがら引くとくす玉が浮き上がった。 私は身を屈めて顔を膝の間に埋めている。 前に試したから今度は平気かなと少しだけ期待したけど、そんなことは全然なかった。 限界まで小さくなって、そのまま固められた感覚。 指一本も動かせない。息が詰まりそうな恐怖。 私、本当に閉所恐怖症になったのかしら? 「どんな気分?」くす玉の外からイサオが聞いた。 辛いわ。答えようとしたら「んんー」としか喋れなかった。 「そう、悪くないんだね」 違うわよっ。また「んんっ、んーっ」と声を出す。 「何を言ってるのか分からないよ。・・まあいいか」 このヤローっ。 ・・はぁ~。 無意識に深呼吸しようとしたらできなかった。 胸が苦しい。 「ん? んんっ?」 「タカノ、息が苦しい?」 苦しい。酸素が足りない。 「京都で言われたんだ。50センチ級のくす玉は呼吸するのも楽じゃない。声を出して会話するのも無理だって」 判ってるなら助けて。 「大丈夫。その中はちゃんと空気が通ってるよ。パニックにならずに自分を保っていれば窒息しない」 自分を保つのね! 自分を保つのね!? 「慌てずに、意識して浅めの呼吸を繰り返すように」 浅め、浅めの呼吸。 「吸って。吐いて。・・吸って。吐いて」 すぅ、はぁ。・・すぅ、はぁ。 「そのまま続るんだ。怖くない怖くない」 すぅ、はぁ。・・すぅ、はぁ。 短い呼吸を繰り返して続けた。 大丈夫、私は落ち着いてる。パニックになんかならない。 「よしよし。いい子だ」 いい子は余計よ。でもほめてくれて嬉しい。 それからどれぐらい放置されたのだろう。 眺めながらコーヒーを飲むと言ってたくせに、イサオはずっと横について励ましてくれた。 心が落ち着いて不安な気持ちはなくなった。 小さな球体に密閉されて1ミリも動けないけれど、私は彼に守られている。 私はイサオのモノ。 私の心も身体も、命も、すべてイサオのモノ。 21. とろとろ、うずうず。 しばらく大人しくしていた下半身が疼き始めた。 困ったわ。もどかしくなってきちゃった。 まともに深呼吸もできないのに、うっかり発情して身悶えなんてしたら地獄よね。 そうだ、浅い呼吸、浅い呼吸。 ・・すぅ、はぁ。・・すぅ、はぁ。 「・・ん、あ♥、・・ん、あ♥」 「いい声だよ」 声が混じったみたい。イサオに聞かれちゃった。 「さすがタカノだ。いい具合に熟成つつあるようだね」 もう。熟成だなんて、人をステーキみたいに。 女の子のステーキ。 ・・きゅんっ。 ああっ、私のバカ! こんなことで感じちゃって、どーするのよ!! 大きなお皿に私が全裸で横たわる光景が浮かんだ。 後ろにはイサオがナイフとフォークを手にして構えている。 私は顔を赤らめて肩で息をしている。半開きの口。悩ましげな喘ぎ声。 何よ、このエロエロな女は。 妄想の私は片方の手で乳房を押さえ、反対の手を股間にやった。 やだ、オナニー!? イサオはにやっと笑って私の肌にナイフとフォークをあてがった。 背景に浮かび上がる『食用女体』『A5ランク霜降り肉』の文字。 ひぇーっ。 自分の守備範囲が広いのは認めるけど、カニバリズム!? しかも食べられる方~!! 普段の私なら鼻で笑うような妄想だった。 でも今は違った。 小さく押し固められた私には妄想がすべてだった。 私はお肉。食肉。霜降り肉。 苦しんで、切なくなって、濡れて、また苦しんで、発情して。 イサオが考えた熟成サイクル。 自分勝手でわがままなM女が熟成して柔らかいステーキになる。 ・・どきん、どきんっ。 心臓の鼓動が跳ね上がった。 全身の筋肉に力が入り、あらゆる器官が酸素を求めた。 苦しい。このままじゃ本当に窒息する。 彼のフォークが下腹部に突き当てられた。ナイフが陰部の裂け目にあてがわれる。 あーん、この変態タカノ!! バカバカバカ~!!! 頭の片隅で冷静な私が叫んでいたけど、もう止められなかった。 「んぁ、んんんっ、ん、ん、ん!!!」 「タカノ! 落ち着いてっ」 「んんっ!!(いいわっ!!)、んんんんーっ♥(私を食べてーっ♥)」 「今開けるからっ」 妄想の中で彼のナイフが前後に動いた。 それは狙いすましたように私の股間の一番敏感な突起を擦った。 !!!! くす玉が開いて私は空中に放り出され、下に落ちるまでのほんの短い間に絶頂に達した。
~ 登場人物紹介 ~ 後藤多華乃(ごとうたかの): 20才。大学2年。J大イリュージョン同好会の紅一点。閉所恐怖症? 酒井功(さかいいさお): 19才。大学2年。イリュージョン同好会会長。多華乃の彼氏。 大塚正道(おおつかまさみち): 19才。大学2年。イリュージョン同好会大マサ小マサコンビの小さい方。 小谷真幸(こたにまさき): 20才。大学2年。イリュージョン同好会大マサ小マサコンビの大きい方。 出水仁衣那(でみずにいな): 18才。オープンキャンパスで見学に来た高校3年生。 長田峻(おさだしゅん): 20才。多華乃が高校時代につき合っていた男。 前回 からまたまた間が開いて申し訳ありません。 多華乃さん大学2年生のお話です。 功くんのイリュージョン同好会は活動を開始しました。 メンバーの少ないのが悩みでしたが、仁衣那ちゃんという有力新人をゲットしてまずは安心というところです。 本話では多華乃さんを小さな空間に閉じ込めたくなって、久しぶりに人間くす玉を取り上げました。 とはいっても功くんが京都のイベント会社wwでクレクレしてきたくす玉は壊れていて、本来の用途には使われません。 多華乃さんは少し閉所恐怖症の気があったようですが、今回の経験できっと突き抜けられたことでしょうww。 イリュージョンのネタは、ヒンズーバスケットとフレームサスペンション、それにくす玉の半球を使った美女の瞬間移動です。 J大イリュージョン同好会は低予算のアイディア勝負を旨としているので、よくあるネタでもひと工夫してみました。 多華乃さんが箱などの中から手足を出してから登場する演出もこのときから確立したようです。 大塚くん小谷くんに凸凹コンビ。体験イリュージョン のときから「大マサ小マサ」の呼び方だけは決めていたのですが、今回ようやくセリフ付きで出してあげることができました。 功くんはいよいよ変態的な器用さを発揮し始めました。 この先もこの才能を同好会のネタ作りや多華乃さんの拘束に役立てていくことでしょう。 それではまた。 引き続き年に数回の投稿ペースになると思いますが、お許し下さい。 ありがとうございました。
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