Tumgik
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19.08.01.
バラックのような寂れたアーケード そこにはある事務所があった。
暗殺を生業としている男 彼がそこの主だった。
私は雨の降る日、母の運転する車に乗って 町に一軒しかないカメラ屋を訪れた。 フィルムの現像はそこしかやっていなかった。
扉を開け、店の中を見渡す 誰も居ない。 薄暗く電気はカウンターのみ付けられていて 棚や商品は埃を被っていた。 じめじめとした店内、物音に気付いたのか店主が現れた。 痩せた頬、白髪交じりの髪はセンター分けで気難しい人格のように見受けた。 時代錯誤の重たいガラス製のメガネ、汚れて黒くなっているエプロン。 私は少し怖くなった。
口を開いた店主はやや面倒くさそうな顔をして 「デジカメのプリント?」 「うち、やってないんだよねー」 「最近そういうナメた奴が多くてホント困ってるんだよね。」
���あの」
私はフィルムの現像をしたくてここに来たんだと伝えた途端 彼は頬を桃色に染めて嬉々として言った。 「なんだ!そうだったの」 「もっと早く言ってよ」 「いいよ、わかった。」 「明日とりにおいで!」
記憶はそこで途切れている。
バラックのような寂れたアーケード そこには事務所があった。
暗殺を生業としている男 彼の事務所の前に私は立っていた。
扉を開けた。
和風な造りの建物だった。 入ってすぐは土間になっており 左手に何部屋かあるのだろう引き戸で間仕切られていた。
何故私がここに訪れたのかはまったく覚えていない。 ここは仕事や面会の受付だろうか?小奇麗なカウンターがあった。 誰も居ない空間、外の喧騒だけが聞こえる。
間仕切られた部屋の一角から甘い匂いがする。 好奇心に負けた私はその扉をそっと開けてみた。
「わあ」
そこはお姫様の部屋と例えるにはあまりにも生活感が強く 夢見がちな少女の部屋と例えるには懲りすぎていた。
天上は羽衣のようなふわふわとした布があしらわれており 小さなシャンデリアのようなものも釣り下がっていた。 壁はきらきらとした宝石のような粒や、少し悪趣味な兎の絵が飾られていて 部屋の四隅にはふんわりと光を放つ丸いランプがそれらを照らしていた。
あまりにも情報量が多い部屋だが 畳の部屋に起毛素材のセンターラグが敷かれ その上にメルヘンなローテーブルが置かれている事に気付いた私は謎の安堵感を覚えた。
「お客さん?」
一目で解った。 背後に立っていたのは、先刻まで私の心を奪っていたその部屋の主だった。 白い花の柄があしらってある桃色のワンピース。ふわふわとウェーブのかかった栗色の毛。 きれいにカールした睫毛。ぱっちりとした眼。桜色の唇。
「お客さん・・・ですか?」
「あ、いえ、あの、」
何故自分がここに居て 何故自分がこんなにも泣きそうになっているのか解らなかった。
気付けば私はその『家族』になっていた。 暗殺を生業としている男の事務所 そこの管理をする者として住み込みで働いていた。
事務所の主である男は忙しく、買出し・掃除など手が回らないらしく 記憶の無い私は、なぜか成り行きで働く事になった。
この鰻の寝床の一角のような建物に私含めて4人の人間が住んでいた。 一人はここの主、職業は暗殺者 二人目は受付担当の女、彼女は元々男性だったそうだ。 ここの主が甚く気に入り一緒に住むことになったらしい。別に愛人とかそういうのではない。 三人目は姫、彼女は在る意味カモフラージュ的存在らしいが じゃあ一体この建物は何屋として世間の目を欺いているんだとおもう。 そして私。掃除・洗濯・買出し・姫の話し相手をする。 姫は料理ができ、お菓子作りが趣味のため、そこはとても助かった。私は料理ができない。
ここの生活は毎日が楽しかった。 夕暮れ、下町の八百屋や青果店、精肉店などに足を運び買出しをする。 姫と一緒に寄り道して町の夕焼けを眺めたり、笑いあったりした。 夜になると姫の部屋で内緒のガールズトークをしたりした。 タロット占いや星座の話、空想の生き物の話をした。
ここの主は帰ってくるのは太陽が昇る少し前で、昼間は寝ている事が多かったが 時間がある時は一緒に町の穴場を巡ったりした。 彼は人殺しではあるが、とてもそうは見えないくらいにチャーミングな表情をしていた。 背も高く細身で、無精ひげと伸ばされたマスタッシュ。不思議な人だった。
受付の女性の姿を見る事は無かった。 たまに来る客の相手をしていたが、若い女性が多く 彼女達をエスコートしていた。多くの女性がなぜかスマホのカメラ機能を起動させ写真を撮っていたが なぜそんな事をしていたのかわからなかったし、仮にもここは暗殺者のアジトだ。いいのだろうか。
ぼんやりとだが記憶が戻ってきたある日の事。 最近流行りの作品の映画実写化の挨拶イベントのチケットが当り、母を誘って行く事になった。 隣国の主催で、多くの人間が当選したらしい。やはりお金のある国のやる事は規模が大きい。 事務所の主は「行って来い」とアッサリ許してくれ、久々の『本物の家族』との外出になった。
なにか興味のなさそうな顔の主だったが、今思えば止めてくれたら良かったのにと今は恨んでいる。
イベントは屋外でとても広い海に面した会場だった。 天気は晴れ、会場には多くの人が押しかけており、私達は舞台が見えるかどうかといったブロックだった。 「たのしみだね」 そんな話をしていたとおもう。 何せ久々の『本物の家族』だ。とても嬉しい。
いよいよ挨拶が始まる。 司会が映画の紹介をし、出演者が登壇した。
その瞬間だった。
黒い塊が空を飛んだ。
ミサイルだ。
最初は舞台の先頭 取りこぼしの無いように次は舞台の右斜め前、左斜め前 そしてその後方・・・次々に放たれるミサイルは私達の眼前まで迫っていた。
「逃げよう!!!!」 私は母を一緒に走った。 間に合うとか命が助かればとか��係なかった。 ただ本能に従うまま走った。
そこから記憶が途切れていた。
逃げてこられたのだろう。 私は事務所に居た。主に対して私は怒った 「気付いてたのから止めてくれたってよかったのに!!!」 「・・・私も隣国の主催と解っていたのになんで行ってしまったんだろう・・・」 当時の情勢として隣国との関係は最悪で、一触即発状態だった。
気持ちがぐちゃぐちゃだった。 折角の『本物の家族』との時間が台無しになった悔しさ。 危うく命を落とすところだったその恐ろしさ。
そしてその日はやってきてしまった。
勢い良く事務所の扉が開かれた。 途端、私の頬を何かがかすめた。
銃弾だ。
私は咄嗟に部屋に逃げ込んだ。 主も臨戦状態に切り替え、弾を撃ってきた相手を狙う。相手は女だった。
突如日常に現れた混沌の中、私達は忘れていた。
いつも当たり前のように家族として存在し、また、衣食を共にし、生きてゆけると信じていた。
姫が撃たれた。 彼女は殺し屋のカモフラージュとして住んでいた。 おっとりとした彼女は逃げ遅れ、そして死んだ。
物凄くあっけなかった。 目の前でさっきまで一緒に生活していた家族が死んだ。 死んだ。 死んだ。
背中を撃たれて死んだ。 死んだ。
私は主と相手の女が撃ち合いをしている銃声をただ、耳と目を塞ぎ、うずくまってやり過ごすしかなかった。 受付の女性はその日も姿を見せる事は無かった。
それからは戦争の日々だった。 在る日、戦争試合という試合に出された。 ルールは簡単、広い浜でお互い代表者が殺し合いをするというなんとも惨い『公開型戦争』だった。 殺し屋の一員とい��事で参戦させられた。当たり前だが私は運動もできなければ武器も扱えない ただ逃げ回るだけの人員だった。今日が命日でも仕方ないとおもっていた。
相手は見覚えがあった。 姫を殺した女。そいつが居た。
どうやら、うちの人員はいつもの寝床にいるメンバー以外にも居るらしく 同い年くらいの女の子や、ぱっと見頼りなさそうな初老の男性、どこにでもいそうなおじさん すこし変わったメンバーだが、どうやら腕前は立派なものらしかった。 じゃぁ、何で私が参戦してるんだ。余計にわからない。
戦闘開始。 姫を殺した女の目はいつも真っ黒で血と争いを求めていた。 金髪に染め、肩にかからないように短く整えられた髪の毛は太陽の光を返し眩しく輝いていた。
私は逃げる。 逃げた。 そこから記憶が飛んだ。
姫のいない生活、何事もなかったように回る世界。 町は平和なものだった。 一人で買出しに行き一人で家路につく。
「ただいま」
居間の扉を開ける。 誰かがこちらを見た。 赤子? 1~2歳くらいの女の子がこちらを見て微笑んでいた。
「だれ?」
「過去のお前だ。」
留守にしているとおもっていた主が後ろからヌッっと現れる 心臓に���くないからやめてほしい。
「お前、コイツのお守りしろよな」
そういって、彼は自身の寝室へと消えていった。 独りっ子の私は子どもの世話などわからないし、そもそもこの子は会話できるのか ご飯は何をたべるのか。さっぱりわからない。あと、過去の私って何?
「いいよ、べつにきにしなくて」
近くで声が聞こえた。 あたりを見回す。
「べつにいいから」
目を疑った。これは・・・目の前の女の子から発せられた声だった。
夜、その女の子は絵を描くのが好きらしく 一緒に絵を描いてすごした。 夜の風はすずしく、静かな町には虫の声が響いていた。
「でもたいへんだよねー」
女の子・・・過去の自分はそう言って紙の上で鉛筆を遊ばせて私に話しかけてきた いくら私が始めて喋った時あまりにも明瞭な日本語を話したとて こんな話のわかる子どもがいてたまるかと思いつつ会話をする。
あれから主は寝室から出てこないのでこっそり部屋を覗いた。 スーツも靴も身につけたまま、ベットに横たわり、ガーガーと五月蝿いいびきを立てて眠っていた。 ただ、一点だけ気になる事があると言えば彼の下には似つかわしくない桃色の布が敷いてあった。
少し近づいて覗いた。
姫のワンピースだった。
姫がいなくなってから、葬儀も悲しみの声も何も無かった。 姫の部屋はそのままで開けられる事の無い部屋となり まるで本当に彼女は世界から消えてしまったのではないかという感覚に陥るくらいの日々だった。
主は彼女の事を不器用ながら想っているのだろう。 そうに違いない。 とても苦しかった。泣きたくなった。 そっと戸を閉じ、私は寝る仕度をした。
ある夜の事だった。 2歳くらいだった過去の私は尋常ではない速度で成長をし、たった数日で3~4歳くらいの見た目になっていた。 すっかり二人でお風呂に入って色々な世間話をしていた夕刻風呂場の戸を叩く音がした。
「はい?何?主?」
「おう」
何かと思って思わず扉を開けた。 ビシャッ 水をかけられた。
「エッなに?なに?」
思わず声をあげる。
「これ、掃除しといてくれ」
今朝、トイレの汲み取りが終わり 洗浄につかっていた小型のタンクの清掃を私にさせたいらしい。 にしても風呂に入っている女性をわざわざ呼ぶ必要もないだろうに。何故。
そこにひょっこりと見知らぬ客人が三人。 顔が似て目がきょろっとした男の子三人。 3歳5歳10歳といった具合だろうか。子どもが三人顔を覗かせていた。
「誰?」
「新しい家族だ。俺が育てる」
そう言って洗浄用タンクの汚水をジャブジャブかけてきた。
「ちょっと!なにするんですか!!!」
ニヤニヤしながらでも、なにか物悲しそうな顔をして主は笑った。 私も笑った。 また体を洗わなければと思いつつ、今はこの奇妙な状況に甘んじた。
「ただいま」 朝の内に買出しをして帰ってきたら見知らぬ女性が立っていた。 と、日中滅多に見ない受付の彼女が立っていた。 客人かと思い、私はいつも通り台所へ向かおうとしたその時、違和感を覚えた。
白く塗られた壁 窓から入る光 窓辺に飾られた白く小さな薔薇 アンティーク調のベッドには黒地に白の花がプリントされているワンピースが 枕に足を向けるような形で寝かされている。
いつもの鰻の寝床の雰囲気とは打って変わった様相だった。 おかしい。 だってここは鰻の寝床。 窓なんて在るわけがない。
客人と思われる女性はスマホで写真を撮りながら、受付の彼女の説明を聞いている。
後ろで扉が強く開けられる音がした。
「みーつけた」
気付けば先ほどの客人も受付の彼女も居なくなっていた。 そしていつもの薄汚い我が家。 声の主はアイツ、姫を殺した金髪の女だった。 真っ黒で、血を求める眼がこちらを見ている。
主も居ない、この建物には私しかいない。 逃げるという選択肢すら無い。 どうすれば。
担いでいた銃をこちらに向けて発砲した。 私は土間の中をひたすら逃げ回る。
そこで私の記憶は無くなった。
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かわいさってうまれつき
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近所の荒物屋さん。
何度か買い物をしたが、お店の方はとても親切でやさしい方だった。
今年は沢山いこう。
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ゲーセンがすきなんですよ。
とくに写真のような巣窟のような場所が。
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「切ない書物を広げて見せてよ」
ブックカバーとして作画したもの。
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はかなシです。
Tumblrがサイトに最適な気がしてこちらに移動しようかと。
スマホとPCサイトの両立って難しいですよね。
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soranosian-hakanashi · 11 years
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soranosian-hakanashi · 11 years
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夕陽がきれいだと思った
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soranosian-hakanashi · 12 years
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まだ、しにたくない。 
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soranosian-hakanashi · 13 years
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高校の時に撮った写真
まだ、平和堂栗東店があった頃
テトリス。
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