【2018年秋冬パリコレクション ハイライト2】パワーウーマン、ボディコンシャス、日本アヴァンギャルド・・・80年代要素も長期トレンドに
(写真 ルメール/Courtesy of LEMAIRE)
2018年秋冬パリコレクション前半では60年代と共に80年代スタイルも続いている。マニッシュなアイテムを着た力強い女性像やボディコンシャスなアイテム、アシメトリーなどを使った非構築的なアバンギャルド。もちろん、80年代スタイルをストレートに使うだけではない。
数シーズン前にシャネル(CHANEL)などが打ち出した宇宙ルックなどに代表される60年代スタイルや、民族的なデザインなどの70年代風、更に90年代的要素など、異なる時代の要素をリミックスすることによって新しさを出している。チェックなど、イギリスのモチーフをプラスすることで強さとクラシックを共存させるデザインも定着している。
◆アン ドゥムルメステール(ANN DEMEULEMEESTER)
アン ドゥムルメステール(ANN DEMEULEMEESTER)は同ブランドらしい禁欲的なムードやアバンギャルドスタイルの中にセクシーさやボディコンシャス的要素などをプラス。80年代スタイルの中にあるまったく対照的な要素を共存させたコレクションを見せた。
いつものように黒や白を中心に使ったコレクションだが、透ける素材を使い、肩パットを見せたデザインや荒々しいレザーとフェティッシュなロングブーツ、レザー、肩を見せるデザインなども登場。アバンギャルドや禁欲的な強さだけでなく女性の身体の生み出す美しさとセクシーさなどをミックスすることによって表現の幅を広げている。
◆ルメール(LEMAIRE)
ルメール(LEMAIRE)は80年代スタイルと70年代的なリラックスしたムードを共存させた。メンズスタイルのジャケットとパンツはリラックスした雰囲気で、アシメトリーなドレープをプラス。
千鳥などを使ったビッグシルエットのコートを中心にしたオーバーサイズのレイヤードスタイルや数シーズン注目のボリュームスリーブを使ったトップスなども、力強くしかもリラックスした独自のスタイルに昇華している。アシメトリーやドレープをアクセントにしたデザインも印象的だ。
◆ツモリチサト(TSUMORI CHISATO)
ツモリチサト(TSUMORI CHISATO)は、60年代のレトロフューチャースタイルとグアテマラの自然のモチーフなどをリミックスした。グアテマラへの旅からインスパイアされた今シーズン。円のモチーフを多用した未来派スタイルや宇宙ルックなど、60年代的デザインやディテールをツモリチサトらしいリラックスしたアイテムの中に取り入れたデザインや未来的なムードと土着的要素が共存するコレクションを見せた。アクセントになっているのはリスや鳥、インコなどのモチーフ。
自然からのインスピレーションはツモリチサトが繰り返して使っているものだが、未来的な要素と共存することで新しいムードを生み出している。動物や鳥などのモチーフを未来的にしたギズモなどを彷彿させるデザインはどこか80年代的にも見えるが、すべてはツモリチサトの世界になっている。また、プレゼンテーションとともにブランド設立28周年、パリ進出15周年を記念したアニバーサリー・ブック「TSUMORI CHISATO」のローンチ・パーティとパリコレクション進出以降の代表的な服を並べた作品のインスタレーションなども行われた。
◆ギ・ラロッシュ(GUY LAROCHE)
ギ・ラロッシュ(GUY LAROCHE)は80年代スタイルとアートをリミックスした。透明のテントを作り、コレクションを行った今シーズン。前身頃はオーバーサイズで後ろから見ると細身のドレスなど前後でシルエットの異なるアイテムや黒と白を中心とした色、アフリカ的な柄。
それらとは対照的な構築的シルエットで表現したパワフルな女性像。ゴールドやアート的なムードも効果的なアクセントとなっている。ボディコンシャスやシャープなスーツを現代的なバランスにすることで力強くありながらも、バブル時代へのノスタルジーではない今の服に仕上げている。
◆アトライン(ATLEIN)
アトライン(ATLEIN)も、機能的なスポーツウエアなどと80年代テーストを共存させたコレクション。冬にぴったりの暖かそうなコートなどのアウターや細身のドレスをベースに、黒を中心とした色、レイヤードスタイル、非構築的なデザインなどをプラスしていく。タックなどを使ったデザインは日本のアバンギャルドとも共通するが、オーバーサイズやレイヤードスタイルだけでなく今のバランスや身体にフィットしたスタイルにすることで、違いを強調しているよう。また、チェックなどを使ったイギリス的なクラシックを再構築したデザインも登場している。
◆ルシアン ペラフィネ(LUCIEN PELLAT-FINET)
(Courtesy of LUCIEN PELLAT-FINET)
今シーズンもプレゼンテーション形式で作品を発表したルシアン ペラフィネ(LUCIEN PELLAT-FINET)は英国貴族文化からインスパイアされたコレクション。
アレキサンドル・シン伯爵のライフスタイルから発想したデザインはレジメンタルストライプやレオパードのトップスなど高級素材を使ったアイテムにジャージのボトムスなどをコーディネートすることでリラックスしたムードを生み出している。
Text&Photo by Shinichi Higuchi
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【2018年秋冬パリコレクション ハイライト3】躍進する日本人デザイナーたち
(写真 LVMHプライズショートリスト ダブレット デザイナー 井野将之)
2018年秋冬パリコレクションでは自然からインスピレーションを得たデザインも目を引く。自然の強さを表現したコレクションやボタニカルなモチーフや柄をスポーツアイテムやダウンなどに取り入れたり、チェックなどとミックスしたりしている。また、チェックなど英国的なクラシックも残る中で、伝統的なテクニックに再注目するブランドもある。
◆イッセイ ミヤケ(ISSEY MIYAKE)
イッセイ ミヤケ(ISSEY MIYAKE)は「Silent Energy」をテーマに自然が持つ本質的な力を表現した、強く、ぬくもりのあるコレクションを見せてくれた。ニットとスチームストレッチによるプリーツという2つの素材を融合。太番手の毛糸を織り込むことによって温かみと弾む軽さの両方を持った素材を開発した今シーズン。この新素材はハイテクで遊び心がありながら、それを感じさせないほどナチュラルで、しかもウォッシャブル、つまり洗うことができるものだという。また、雪と光、あるいはシロクマを思わせる白のダウンとファーのような素材を使ったコートなどのアイテムも、強さとぬくもり、冬の寒さから身を守る暖かさ、イヌイットのイメージなどを感じさせる。
アクセントのサングラスも印象的だ。これまでは素材やテクニックが前面に出ていたが、より自然の本質を捉えたように自然で、心や軽さ、人を包み込む服作りなどがこれまで以上に強くなった。テクニックや素材、造形美の実験、新しい方向性などはもちろん、現代の服に必要なぬくもりや快適性、ほっとする部分と野生の力、エネルギーという自然の本質が共存するコレクション。もちろん、これはイッセイ ミヤケの本質でもあり、宮前が次のステップに移行しようとしていると言えるのかもしれない。
◆アンダーカバー(UNDERCOVER)
アンダーカバー(UNDERCOVER)は若くフレッシュなコレクションを発表した。「WE ARE INFINITE」をテーマにした今シーズン。プチパレすぐ近くの透明のテントに登場するのは少女のようなモデルたち。スエットをモチーフに光沢のある素材などで表現したデザインやしわくちゃのTシャツをデフォルメし、形状記憶させたようなデザイン。70年代を思わせるレトロなスポーツやカレッジスタイル、アイビールックをモチーフにしたアイテム、大学のロゴ風モチーフを取り入れたスタイルなどが続く。色は鮮やかな赤やグリーンがアクセントになっている。足下のブーツにも「WE ARE INFINITE」という文字が書かれている。
1年前のコレクションで見せた、ハチのようなシルエットのクチュール的ドレスとも前回の双子のリバーシブルで見せたシリアスさとも、メンズコレクションで見せた60年代や宇宙ルックとも違う、トラッドでありながらも若く軽い。前回のコレクションの若いモデルの延長でありながらも、アバンギャルドでもクチュールでもない、いい意味での裏切り、自由にその先に行ったと言えそうなコレクションだ。
◆マメ(mame)
既に知名度がある東京のデザイナーに、パリコレ会期中のショー開催をサポートする「FASHION PRIZE OF TOKYO」第1回受賞デザイナーに選ばれた黒河内真衣子のマメ(mame)がパリでプレゼンテーションを開催した。モデルを使い2018年秋冬コレクション16ルックを発表するとともに、荒木経惟とのコラボレーションによる作品「アラマメ」など、これまでの活動やブランドを紹介した。1年前のコレクションでは東北への旅や伝統工芸からインスパイアされた作品を発表し、日本的な美しさも表現しているマメ。
今シーズンは地方に残る日本の伝統的な技術や素材を同時代の感覚で表現したシャルロット・ペリアンのように、日本に脈々と続く技術を駆使したデザインを改めて強調した。受賞デザイナー発表会での「ショーを行うことが最終目的ではありません。これをきっかけにして海外での新しいビジネスを広げたい」という言葉通り、身近でじっくりとみせることでハンドクラフトを駆使したデザインをわかりやすく伝えるとともに、それを機械編みのニットに落とし込んだデザインなども提案した。
◆アンドリュー ゲン(ANDREW GN)
イヴ・サンローランや自然へのオマージュとでも言えそうなコレクションを見せたのはアンドリュー ゲン(ANDREW GN)。構築的でマニッシュなジャケットに自然のモチーフを表現した刺しゅうを施したデザインや、花の刺しゅうとともに花のように広がる袖がアクセントになったオートクチュール的なドレス。数シーズン前はデニムなどが印象的だったアンドリュー ゲンだが、今シーズンはクチュールやエレガントなアプローチで変化を出した。
◆クリスチャン ワイナンツ(CHRISTIAN WIJNANTS)
クリスチャン ワイナンツ(CHRISTIAN WIJNANTS)も自然からインスパイアされたウインター・ボタニカル、アーバン・ナチュラルと呼べそうなコレクションを打ち出した。花や植物などボタニカルな要素と空のような青と大地を感じさせる土の色。そこにクチュール的な結びのテクニックやボタニカル柄とチェックのコーディネート、ダウンなどのスポーツアイテムとボタニカル柄のミックスなどで新しさを出している。スポーツやクチュール的な要素を加えたことでエスニックというよりも都会的なムードが強いコレクション。
◆LVMH カクテルレセプションパーティー
(アキコアオキ デザイナー 青木明子)
また、3月1日にはLVMHプライズショートリストに選ばれたデザイナーとコレクションを紹介するカクテルレセプションパーティーが開催された。
日本から出席したアキコアオキ(AKIKO AOKI)の青木明子は「光栄です。選ばれるとは思っていませんでしたが、世界的な賞で興味がありました。今回、見ていただいて『すごく日本的』と言われました。自分の持っているものと西洋的なものの違うと良い勉強になりました。これからのものづくりやコレクションに生かしたい」。
ダブレット(doublet)の井野将之は「単純にうれしい。やるべきことを精いっぱいやってきたことが認められたのだと思っている。ただ、今回選ばれたからといって、ものづくりは変わらないし、そんなことで変わったら駄目だと思う」などと話した。
Text&Photo by Shinichi Higuchi
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ジュンコ シマダ
(JUNKO SHIMADA)
PFW 2018AW
デザイナー 島田 順子
ジュンコ シマダ(JUNKO SHIMADA)はアフリカへの旅のようなコレクションを見せた。動物の剥製の置かれた会場に登場するのは、アフリカのようなムードとデザイン。カラフルなボーダーニットとチェックのスカート、襟やポケットがアニマル柄のファーになったデザイン、チェックの布を巻き付けたようなスタイル。アメリカンフットボールやゴリラのように肩を広くしたマルチカラーボーダーのニット。ジュンコ シマダらしいチェックなどイギリス的なムードや若く未来的な60年代的なムードも共存している。
前回は森のようなムードだったが 、今シーズンはよりパワフルで、セクシーさも更に強調されている。
公式サイトはこちら
Text by Shinichi Higuchi
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【2018年秋冬パリコレクション ハイライト4】ピカソとアライアに捧ぐコレクションを発表したヨウジヤマモトの他 、トムブラウン、クロエなどが登場
(写真 シクラス/Courtesy of Cyclas)
2018年秋冬パリコレクションではアートモードやボディコンシャスもキーワードになっている。また、そうしたインパ クトの強いデザインとは対照的に、現代のファッションに求められ るシンプルで快適さを追求するブランドもある。
◆ヨウジヤマモト(YOHJI YAMAMOTO)
ヨウジヤマモト(YOHJI YAMAMOTO)はピカソのキュービズムとアライアへのオマージュ。ヨウジヤマモトらしいコートは襟や袖、ポケットなどが、一見すると四角い箱そのままのように立体的になっている。袖などのパーツもピカソの描く女性の顔のように立体的であり、しかも通常ではあり得ない方向に伸び、ひねられ、何枚ものコートを重ね着しているように見える。一方、ウエストをマークしたシェイプの美しいコートやコルセットは外科医が手術をしたように、切り刻まれ、また、厚く、広がる素材と身体にフィットした透ける素材などを複雑に組み合わせ、更にアシメトリーなどのアバンギャルドな味付けを加えている。
着物とコルセットドレス、折り紙と彫刻、東洋と西洋、平面と立体。そしてヨウジヤマモトらしいアバンギャルドとそのアンチテーゼとしても注目されたアライアのボディコンシャス。もともと、黒の衝撃やアバンギャルドだけでなく、カルダンやディオールへのオマージュを作るなど、オマージュをヨウジヤマモトの視点で再構成し、アイロニーを加えるのは、東京シェイプマスターと呼ばれたこともある山本耀司の得意とするところ。以前「世の中を変えるのはアートしかない」と言っていた山本だが、ディオール、マルジェラ、アライアなど、回顧展が続く中で、自分の世界だけでなくアートや違うデザイナーから学び常に変化していく姿勢、山本のチャレンジを示しているようにも見えた。
◆トム ブラウン(THOM BROWNE)
トム ブラウン(THOM BROWNE)は今シーズンもトラディショナルとシュールレアリスムを共存させた。グレーのスーツやトラディショナルなデザインなどメンズコレクションと同様のモチーフやアイデアをベースにしながら、相反するオートクチュールドレスのような女性らしさを加え、ボディコンシャスやシュールレアリスムのように表現する。
画家が絵を描くような演出の中で現れるのは、マニッシュでありながら装飾性を加えたデザインや身体の線を強調したトップス。シュールレアリストが革靴の上に指を浮かび上がらせたように、女性の身体のようにバストの膨らみと曲線を描くスカート。スカートのしわはいつの間にか女性の身体に変わり、木の幹のようながらも怪しげなムードを醸し出す。
メンズでもアイビールックをモチーフにアメフトのようなデフォルメをプラスするなど、到底結びつかないものを組み合わせて生まれるシュールレアリスム的な要素は得意としているが、サンローランやミュグレー、イッセイ ミヤケなどのボディブレスレットのように身体をモチーフにしながら、トラッドと出会わせることでトムフォード時代のサンローラン以上に刺激的。トラディショナルとシュールレアリスムが共存するコレクション。
◆レオナール(LEONARD PARIS)
レオナール(LEONARD PARIS)は赤やスポーツ、60年代テイストなどを取り入れ、これまで以上に若くフレッシュなコレクションを見せた。今シーズンたくさんのブランドが使っている、プチ・パレ裏に作られた透明なテントの中を進むモデルたち。着ているのは、1年前にもトレンドとして注目された赤を使ったニットやボトムスとレオナールらしい、フラワープリントのアイテムのコーディネート。
桜の舞い散る風景や空のような、抽象的なプリントを使った自然を感じさせるデザインや一目でレオナールとわかるプリントを使ったスポーティなアイテムが新鮮だ。ミニと共に若さを強調するブーツも効果的なアクセントになっている。オリジナリティと新しさを両立させたコレクション。老舗の企業のように変わらない独自のスタイルを守るには変化することが大切だということを改めて思い出させた。
◆クロエ(Chloé)
(Courtesy of Chloé))
クロエ(Chloé)は1人の女性の多面性を表現した。フランスの階級社会やブルジョワジーに対する反感を表したという深いVネックラインやリラックスしたムードのカラー。魅惑的なシルクシャツドレスや脱構築的なスカートの、深みのあるアースカラーはシルクジャカードのプリントブラウスに溶け込み、シグネチャーである馬のモチーフは70年代のプリントとマッチしている。
また、ノンシャランな雰囲気を醸しだすカーゴパンツやジョッパーズ、メタルパーツやスパンコールが施されたセンシュアルなドレスも登場した。
◆シクラス(CYCLAS)
シクラス(CYCLAS)は3回のミニショーを開催した。Les s is moreをテーマにした今シーズン。シンプルで洗練されたデザインや快適なラグジュアリー、ディテールにこだわったデザインなどを追求した。
一見シンプルなコートやプルオーバーは丸みを帯びたシルエット。ニットは前後で表情が違う。袖のないアウターは異素材のポケットになっている。ナチュラルでありながら少しだけ未来的なムードも漂う。
◆タトラス(TATRAS)
タトラス(TATRAS)のデザイナー坂尾正中によるリヴィール プロジェクト(REVEAL PROJECT)が、パリコレクション会期中にプレゼンテーションを行った。同プロジェクトは日本人としてのアイデンティティを見つめ直し、日本の歴史と文化を未来に向け、新たなビジネスモデルとして提案するもの。
第1弾である木村染匠とのコラボレーショ ンによる、京手描友禅のシルクジャケットと着物などを展示した。パリコレクションでアピールし、一緒にやりたいというメゾンがあればという狙いもあるという。
Text&Photo by Shinichi Higuchi
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