Tumgik
#~煌め逝く瞬間~
electrosquash · 7 months
Text
Tumblr media
11 notes · View notes
Text
𝕬𝖎𝖔𝖗𝖎𝖆 – 光彩
~煌め逝く瞬間~ / Loop Ash Records / 2002
4 notes · View notes
thyele · 1 year
Text
2023年3月6日
未散〜MICHIRU〜さん LOOP ASH【配信】Aioria (アイオリア)2002年4月1日(月)発売「煌め逝く瞬間」 (キラメユクトキ) 最初で最後のアルバムが21年越し、2023年3月5日(日)より配信リリース決定!!!!! https://ingrv.es/yxvebx-zco-2
剪断応力 せん断応力 - Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%9B%E3%82%93%E6%96%AD%E5%BF%9C%E5%8A%9B
日韓外相、「解決策」の発表前日に電話協議 徴用工問題 [徴用工問題]:朝日新聞デジタル https://www.asahi.com/articles/ASR3653MYR36UTFK00K.html
「死後再審」開始決定の日野町事件で大阪高検、「承服しがたい」と特別抗告 : 読売新聞 https://www.yomiuri.co.jp/national/20230306-OYT1T50180/
「すし銚子丸」、回転レーン使用した商品提供を終了 脱・回転の動き強まる:迷惑行為対策 - ITmedia ビジネスオンライン https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2303/06/news124.html
松本人志、3月いっぱいで『ワイドナショー』卒業 フジが正式発表 | ORICON NEWS https://www.oricon.co.jp/news/2270429/full/
「害虫の王者」も芋虫は苦手 自然由来の農薬に期待―京都大など:時事ドットコム https://www.jiji.com/jc/article?k=2023030600102&g=soc
“ジェンダー平等”と常に対峙してきた『プリキュア』の20年「一貫して“子ども優先”のスタンス」 | ORICON NEWS https://www.oricon.co.jp/special/62521/
競泳・池江璃花子、4月から横浜ゴム所属に - 日本経済新聞 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOKC067MP0W3A300C2000000/
NCTヘチャン、ファンが住居侵入 事務所が注意喚起「精神的被害を訴えている状況」 - モデルプレス https://mdpr.jp/k-enta/detail/3635893
「スーパーマリオシアター」がTOHOシネマズに4月28日より登場! 映画をさらに楽しめる空間に - GAME Watch https://game.watch.impress.co.jp/docs/news/1483483.html
白石麻衣が木村拓哉とバディ組む新人刑事に「風間公親-教場0-」初回は4月10日放送 | cinemacafe.net https://www.cinemacafe.net/article/2023/03/06/83894.html
0 notes
left-stand-homerun · 3 years
Text
京都・観光・コロナ・デモ
2020年12月6日
add-coco はづき
京都が観光地として有名なのは言うまでもない。
日本においても、世界においても、京都といえば思い描かれるイメージがあり
京都自身も、それを心得た上で多くの人が望むような「京都らしさ」を捻出し、それを売りにして経済的豊かさを継続的に得ていこうとするのが道理であるというような風潮が、昨今、異様に盛り上がっていたものだった。
それらは当然のように開かれるはずだった「東京オリンピック」から流れてくる外国人観光客に期待を寄せた動きでもあった。
大きな資本が流入し高級ホテルが建てられまくる一方で、歴史的価値のある京町屋が残念がられながらもどこからも救いの手が伸びることなく解体されていった。
中心地に建っていたデパートは年々観光客向けの仕様に変化を重ね地元住民客を失い、ついに閉店した。
街中では、外国から来る観光客向けのドラッグストアが隙間を見つけるなり容赦なくどんどん増殖していく。
しかし、そんな中、世界的に見舞われたcovid-19によって、全ての観光地は凍った。
京都も当然、観光客が皆無になり見慣れた雑踏は影もなく消え去り、見たことのないレベルで人がいない風景のまま冬が過ぎ、底冷え状態が何ヶ月も続いた。
京都に住む誰もが「やばい」と感じる程に街中だけでなく少なくとも市内全体が閑散としていた。
普段から観光客に文句をぶつけたくてしょうがないような生活者は未だかつてなかった開放感をただただ味わっていたかもしれないが
観光地として観光客相手の商いをしていた者が多くいる街の灯りはしばらく暗いままだった。
歴史的にみても長い年月、日本の観光地の柱を担ってきた京都が経済的に凍てつくだなんて想定外の災難であることは間違いなかった。
自分もいつになく広々とした京都の町で、少しだけのびのびとした気持ちを味わいもしたが
同時にこれから起こるであろう多くのことや、片隅で個人経営の小さな商いをする友人たちのことを想い、ゾッとした。
個人の小さな店がオンラインショップやテイクアウトや配達に即座に対応できるわけではないし仕入れ代だって支払わねばならないし
自粛なんてしたらあっという間に光熱費や家賃すら払えなくなることは目に見えていた。
一体この自分にできることなどあるのだろうか?あるとすれば何だろうか?と考えてはみるものの、自分も職業上の理由から感染リスクを厳しめに避けねばならず、出歩いて懇意にする飲食店や商店に足繁く通い少しでもお金を落とす、なんてことも出来なかった。
いくつクラウンドファウンディングが立ちあがり、いくら寄付をしたら全ての事業を救えるのだろう?
幾ばくかの寄付に対する返礼の半袖Tシャツだけがタンスに増えていった。
そして観光地としての京都が売り出されるあまりに、京都にも他所にも忘れられてしまわれがちだが京都はたくさんの大学が密集する学生の町でもある。
学生たちも全ての課外活動を禁じられ殆どの講義がオンライン化したことで、下宿先のアパートを引き払って実家に帰ったという人もいたし
帰るに帰れない学生や、アルバイトが減り仕送りが減り奨学金や学費減免の対象外になる学生もいて、生活に困窮している人もいた。
また、学生が多く住む町だから当然、学生や教職員のための店も沢山ある。
学生や教職員を軸に商いが成り立つような店の多くは薄利多売で、テナント料が比較的安い路地裏などに立地しているため
薄利小売では瞬く間に成り立たなくなり、人知れず、絶望し、閉店していく後ろ姿を、悲しくもどかしい気持ちで見続けるしかなかった。
日本で行われたcovid-19による経済的ダメージへの補償は全く充分ではないだけではなく
京都府知事も京都市長も全く需要に見合うような対策が打ち出せも施せもせず
人々の忍耐力がただただ試されるばかりで、途方に暮れるか、絶望するか、くらいしか選択肢がないかのような暗い雰囲気がじわじわと染みていった。
正直、いき過ぎた観光地化には心底辟易していたけれど、京都は観光客が来ることによる収入によって街の文化や伝統や建築や店などが支えられてきたことも確かで
その事による恩恵を暮らしている一人として自分も享受していたのだという事を、今回のコロナ禍によって自覚させられた。
もしも京都が古くからの観光地じゃなかったらとっくに潰れていたのであろう道具屋とか銭湯とか喫茶店とか古本屋とか飲食店とかたくさんあることを考えると、自分には観光そのものを一刀両断に全面的に批判することが難しいと感じさえもした。しかし一方では、加速度的に進んでいく資本主義的観光地開発によってその土地が本来持ち合わせていた特有の文化や建築物など本来観光の魅力の主軸ともいえるべき部分が急速に破壊されつつあることも痛いほど肌身にしみて感じている。
冷たい風が吹き荒ぶ町の中で、しょんぼりとしながらも、ただこのままうつむいていてはいけないんじゃないか、やはり少しでも声をあげていこうと思った。
コロナ禍の混乱において世界中でデモという直接行動が必要とされるような状況が同時に出現していた。しかし、ここ日本では特徴的な事かもしれないがデモという直接行動そのものが自分たちの政治や暮らしに反映され難いという認識からも尚更「デモなんてやるのは特殊な人たちによる特殊な主義主張」であるとみなされるようなことが常日頃からあり、さらにコロナ禍においては感染リスクやそのことで集会やデモがより一層バッシングされやすい状況であることは、デモを開催することのハードルにもなっていた。国や市政の姿勢に多くの不満が募っていく一方で、身動き取れないようなジレンマにも苛まれていたけれど、黙って我慢し続けている人がいるのにこのまま黙っていたのでは何もかもなかったことにされてしまう。そんなわけにはいかない。
百万遍から声をあげていこう、と仲間たちに呼びかけていつものように小さな手づくりのデモを開催することになった。
百万遍クロスロードは、これまでも京都・左京区・百万遍を中心に生活する自分たちの感じていることを表してきた小さな集まりだ。
百万遍の石垣にずっとあり続けてきた京都大学学生たちの立看板が京都市の思惑と結託させた形で京都大学当局によって撤去されるようになったことに対する批判や
京都大学吉田寮を潰すために京都大学が寮に住む学生を相手に卑劣なやり方で裁判を仕掛けてきたことを批判して存続を訴えたり
京都市政が愚劣な自転車撤去を展開していることに対して抗議したり
京都市政が推進してきたラグジュアリーツーリズム(富裕層のための観光都市計画)のせいで、大学の街の歴史性が踏みにじられていることに対して怒りを表明してきた。
大学に通う学生たちの暮らしは周辺の環境形成とも深く関わりがあり、京都、左京区、百万遍には学生たちの暮らしと周辺地域住民の暮らしが相互に関わり合って醸成された地層のような文化が、蠢く生きものかのように町として形作られてきた歴史がある。
町に活気を放つ存在であった店や充分な補償もされないまま消えていくことも
百万遍に立てられ続けてきた立て看板が大学の職員によって冷徹に撤去されていくことも
この町に住むみんなの元気を少しずつ削っていく。
日本政府はいまだに国内のコロナ感染状況を正確に把握する術も持たず
マスク2枚をまともに配ることもままならず
10万円の補償金を日本に住む全ての人に行き届くように配ることもせず
まだcovid-19が収束していないのに旅行代理店と大手企業ばかりが得するような馬鹿げたキャンペーンに税金を大量投入し
日本国内で人が行き来したり会食をする機会を推進している。
京都市は景観条例の基準を引き下げることを検討し始めた。民間企業のマンションやオフィスビルにもそれらの低い基準で建設を許可していこうとする動きだ。
京都という古い町で辛うじて保存されてきた街並みや景観を壊していくのは大学の立て看板なんかでは決して無い。経済至上主義なんじゃないのか。
そして、そんなこと本当はみんなとっくに気づいているんじゃないのか。
このままでいいのだろうか?
医療従事者はもう限界だと呟いているし、小さな店の扉は閉ざされ冷たいまま、充分以上にある高級ホテルがこれでもかと建設されていく。
エッセンシャルワーカー(みんなの生活を保持するための職業従事者)にはしっかりと慰労手当を含む給料を保証すべきだし
誰もがしばらく休業しても生活に困らないレベルの補償金を行き渡らせることをすべきではないのか。
百万遍クロスロードの小さなデモに小さな声が少しつ集まる
コロナ禍でデモを開催するリスクを鑑みて声があげづらくなっていたけれど、必要な対策をすればいい。
2メートルの横断幕を何本も用意し、両端を持ってもらうことで人と人との距離をあけた。
必要な人にマスクを配り、アルコール消毒液を携帯して歩く。
「黙ってられへん」「タテカンたてさせろ」「自転車撤去やめろ」
「小さな店しんどい」「裁判やめろ吉田寮存続」「京大総長選改悪許せん」
「もう無理、限界や!」「国家権力の介入を許すな!」「WE ARE THE 99%」
愉快な音楽を軽快に流しながらガタゴト引かれるDJブース屋台、マイクを握って訴えをラップする人
仮面をつけて急逝したディヴィッド・グレーバーを悼みながら歩く人
横断幕を掲げ黙々と歩く人、太鼓を打ち鳴らしながら歩く人
みんなでぞろぞろと練り歩く
どんな時でも楽しさに変える想像力や創造力が誰にでもあることが希望の灯だ。
町は呼応する。
手を振る人、立ち止まってにっこり笑う人、話かけてくる人。
クラクションを鳴らし文句を言いながらデモに反感を示す人。
こんな小さなデモに仰々しい人数の警官隊が常に管理しようとつきまとってくる。
全く窮屈だし、不要な警備でしかない。税金の無駄使いではいないのか。
百万遍に着き解散すると、京都市による自転車撤去の車が近づいてきた。
参加者の誰かが直接抗議しにいく。結果、2台くらいを撤去から守れたということで小さな歓声が上がる。
DJブースの移動式タテカン号は保管場所へと移動し、人々は近くの河原で再度集まり湯を沸かし餃子を茹でて食べた。
音楽を鳴らしながら踊る横で、いろんなことを喋ったりして過ごした。
小さなデモには、小さな喜びが煌めく瞬間がある。
それをしっかりと掴んで握りしめ、屈しないぞと自分に誓う。
いつだって誰とだって、その熱を分かち合うために、また暮らしながら考え、話し合いながら共に、トボトボと歩んでいこうと思う。
Tumblr media Tumblr media Tumblr media Tumblr media
0 notes
bluff5507 · 4 years
Text
わたのはなしべひらく④
手を伸ばしても届かないような、うつくしい月色がそこにある。 やっぱり、きれいな子だと思った。男らしさというものもありながら、どこか色のある雰囲気を持っている。ああ、何を考えているのだろうかと頭を振って麦茶を彼らの前に出した。出された麦茶を見て貞宗が顔を上げる。
「ありがとう、みっちゃん!」 「ありがとうございます。」
小さくお辞儀をした大倶利伽羅に、どういたしましてと口にした。小さなことでも礼が言える彼らは、本当に礼儀正しい。風通しの良い窓から風が吹いて、光忠の艶のある黒髪を揺らす。夏が近づく匂いがして、もうずいぶんと時が経ってしまったと気付いた。 貞宗ももう、小学校へと上がった。ランドセルを背負う姿も見ぬまま逝ってしまった夫を思って寂しくなる。屈んでいた膝を伸ばして立ち上がると、貞宗が光忠を見上げた。
「あ、みっちゃん、もう行くのか?」 「え、お邪魔でしょう。僕は晩御飯用意しとくから、ごゆっくり。」
ええ、と貞宗が声を上げた。こういったとき、普通は親というものが同じ空間にいることはあまりないだろう。普通の家庭を知らないけれど、きっとそうだと思う。ドラマや小説ではこうであったから、という憶測でしかないけれど。 茶菓子を持たせて貞宗の部屋にでも行かせようかと踵を返せば、大倶利伽羅の節ばった手が光忠の手首を掴む。その手があまりにも熱くて、やけどしてしまいそうだと感じた。掴まれた手首が熱くて、溶けてしまいそうだ。熱を帯びた手なんて、もうしばらく触れられたことがない。この手のことを、光忠は知っている。気のせいだ、と押し込めて掴む手の持ち主を見下げた。
「大倶利伽羅くん、」 「少し、だけお話いいですか。」
低い声音が縋るような響きを持つ。掴まれた手が熱くてしょうがないのだ。意味を持たないようでそうではない手を無理やりに引き剥がすことができない。きっと貞宗がいなくても、光忠は無碍にはできない。
「伽羅はみっちゃんに会いに来たんだ。」
光忠はその言葉を聞いて思わず瞳を瞬かせた。星が煌めきをもって瞬くような色を見せて、長い睫毛が上下する。癖のように髪をかき上げて、光忠は顔を赤らめる大倶利伽羅と、凡そ子供らしい笑顔を見せる貞宗を交互に見比べた。 一体、光忠にどういった用事があるのだろうか。小首を傾げる光忠と、大倶利伽羅の視線は合わない。
「うん、分かったよ。」
光忠はエプロンを外し、大倶利伽羅たちと向かい側にあるソファに座った。エプロンを横に掛けて再度小首を傾げる。
0 notes
shirokurobox · 6 years
Text
落日の欠片と瑠璃の鎹
ロイエンタール追悼。 一対のグラスとふたりが交わす約束の話。 (2016/12/16)
◆◆
 「グラス?」  「しばらく会えんからな。餞別だ。持っていけ」  包みをこちらに押し付けながら、少し首をかしげた拍子にゆれた親友の蜂蜜色の髪が星の雫のように美しく、活気のいいグレーの瞳が、目の前で柔らかに微笑むさまは、ロイエンタールには一番星の瞬きのように思えた。  ミッターマイヤーが、ロイエンタールに手渡した木箱のなかには、深紅のクロスに包まれた一対のロックグラスが収められていた。クリスタルガラスに上品なカットをほどこしたロックグラスは、手に馴染むほどよい重さで、飲み口の薄い硝子はそこに注がれた琥珀色の液体の口当たりをよくする。それはふたりが酒を飲みかわす間、幾度となく彼らの手のなかに収まり、酒を満たしていた杯で、共に過ごした時間の証ともいえるものであった。  イゼルローン要塞より発せられたヤン・ウェンリーの訃報を受けて、フェザーンへと征旅を引き返すこととなった帰路。ミッターマイヤーが宇宙艦隊司令長官として、一〇万隻の艦艇を統御し、皇帝ラインハルトと共に、途中旧同盟領へと立ち寄ることもなくフェザーンへと直行することになっている一方で、ロイエンタールは、統帥本部総長の任をとかれ、新領土総督としてあらたな印綬をおびてハイネセンへと、五二〇万の将兵を引き連れて旧同盟領へとむかうこととなっていた。  征旅を引き返すにあたり、病床にあったラインハルトの命をうけ、帝国軍の双璧たるふたりは全艦隊の列を整え、大本営の秩序を整備するなどそれぞれの軍務に忙しく、酒を飲みかわす暇などなかったが、ロイエンタールがハイネセンへむけて出立する前夜、ミッターマイヤーは、友との一時の別れを前に、ロイエンタールの顔を見に私室へ訪れたのだった。  帝国軍の双璧は、今回の征旅の帰路で別れることになっている。その餞別だと、ミッターマイヤーはロイエンタールに、離れていようとも共にあることの証に、ふたりで酒の飲みかわすたびに傍らにあったロックグラスを贈ったのだ。  ロイエンタールは、その金銀妖瞳で長く生死を共にした友人をながめやった。離れていようとも、なにも変わることはないと思えども、知りあってからいままで、この男が隣にいなかったことはなかった。幾多の戦場で肩をならべてきたのだ。これからはハイネセンとフェザーンと遠く離れることに多少の感傷をいだくのはいたしかたがないだろう。  木箱よりグラスをとりだし、手に馴染んだ重みにロイエンタールは目を細める。幾度となく互いの手のなかに収まっていたロックグラス。その酒杯を満たす琥珀色を思い出す。  ミッターマイヤーの白い肌が仄かな酔いに染まり、いつもよりグレーの瞳に宿る光が艶やかになる様も、アルコールに濡れる紅い果実のような唇も、しばらくは眺めることもできないのか。水晶のように透きとおった氷のなかに、ミッターマイヤーの鏡像が映りこみ、蜂蜜色と淡い光の粒が反射して、琥珀色の液体のなかで黄金を溶かしたようになる。それが己の手のなかで揺れるさまをみるのが楽しみだった。琥珀色の液体を喉に流し込む瞬間、親友の肌に触れるような錯覚を覚え、舌先にころがるなめらかさは、卿の唇に。酩酊をもたらす心地の良さは、卿のあたたかな指先の温度に似ているのだろう。卿の柔らかな蜂蜜色の髪に鼻先をうずめれば、鼻孔に立ちのぼるアルコールの香りのように芳しい香りがすることだろうと、幾度となく思ったことか。  だからこそ、そんな思いをアルコールに溶かし込んでは、ふいに浮き上がってこぬようにと沈み込ませていた。叶わぬことだからこそ夢想する。それは愚かなことだと承知しているが、胸のなかで思うぐらいは許されるだろう。  ――――いや、そんな邪な思いを差し引いても、この友と酒を飲みかわすひと時は、なにものにも変え難いものであった。  それを暫くのあいだ持てぬというのは、寂しいものだと、グラスを眺めていたロイエンタールの顔に寂寞の思いがうかぶ。それはほんのわずかな変化ではあったが、異なる色を持つ両の目にみえた寂しさを、隣にいたこの男の親友は見逃さなかった。  この友も、俺と同じ気持ちでいてくれるのかと、ミッターマイヤーはその横顔を眺める。――――なにもこれが今生の別れではあるまい。いままでどれほどの生命の危機をのりこえ、再び酒を飲みかわしてきたことか。ふたりの間に漂う心寂しい空気を振り払うように、ミッターマイヤーは、屈託のない笑みを親友にむける。  「次に再会したときはこのグラスで飲みかわそうではないか」  「では、酒は俺が用意しよう。とびきりの上物を探しておく」  心から暫しの別れを惜しむ友とロイエンタールは再会の約束を交わす。  そのたったひとつの約束は、どんな煌びやかな光を放つ宝石よりも輝かしく美しいものに思え、再びこの杯で酒を飲みかわす日のことを思いながら、ミッターマイヤーの暖かな笑みの記憶とともに、ロイエンタールは、その約束を胸のなかの特等席へと大切に仕舞い込んだ。  叶えることのできない願いよりも、叶えることのできる約束のほうが、どれほど価値があることか。ミッターマイヤーと共に酒を飲みかわすことのできる関係を失うなど、思いもよらぬことだと、ロイエンタールは端整な口許に笑みを浮かべた。  この先も、無事にミッターマイヤーと酒を飲みかわすことができればいいのだが。ロイエンタールの青い瞳が別れを惜しみ、そして約束を思い、友への情愛に優しい光を灯した反面、新領土総督の任を受けることとなった経緯を思い返し、黒い瞳は鋭い光を走らせていた。  異なる光を宿すロイエンタールの双眸を目にしたミッターマイヤーは、掴みどころのない不安が胸郭に満ちるのを感じた。  陛下はよからぬ噂をお信じにならず、ロイエンタールにこの度の地位をお与えになったではないか。それはとりもなおさず、信用なさっているからこそではないか。何を心配する必要があろう。  胸に満ちた不安を振り払うようにミッターマイヤーは蜂蜜色の頭をふる。だが、それでも不安の尾が心臓に絡みついて、口に出して尋ねずにはいられなかった。知りあって以降、次に再会するあてもないままに別れるのはこれが初めてではないか。よからぬ影が卿のそばに漂っていることに、俺が不安を覚えぬわけではないのだぞ。  「ロイエンタール。また無事に会えるだろうな?」  ミッターマイヤーの名を呼ぶ声に滲む不安を、ロイエンタールは感じ取る。  先日、ロイエンタールに対して行われた審問が、ミッターマイヤーの思考に暗い影をおとし、思わずその不安に背中をおされるように問いかけてしまったのだ。完全には拭い去れない不安が熾火のようにミッターマイヤーの胸のなかで燻っている。あのヤン・ウェンリーも地球教の凶刃の前に倒れた。どこに災厄がひそんでいるかはわからない。暫く会うこともままならない友を、ミッターマイヤーが心配するのはやむおえないことだろう。  真っ直ぐな瞳がロイエンタールをみつめる。真摯に向けられる視線に含まれる不安は、先日の審問によるものだろう。心の底から心配をしてくれる相手がいるというのは悪くないものだとロイエンタールは思う。しかし、その不安を十分に拭ってやることができないのが残念だ。  不安げに見つめるミッターマイヤーに、ロイエンタールはふっと目を細めて笑う。  「なんだ。随分と別れがたそうにしているが、次に再会したときには奥方にするようにキスのひとつでもくれるのか?」  ミッターマイヤーの表情に滲んだ不安に気づかぬふりをして、ロイエンタールは、口の端をにやりとつり上げて笑う。  「な!? 馬鹿なことをいうな」  驚き慌てた表情を浮かべた親友の姿に、ロイエンタールは笑い声を零して、人の悪い笑みを浮かべていう。  「下士官たちのあいだで噂になっていたぞ。ミッターマイヤー元帥は愛妻家だと。そうだな。我が友にまさる妻思いの人間はいないだろう」  ロイエンタールのからかうような口調にミッターマイヤーはますます頬を赤く染めていく。怒りとも困惑ともつかない感情を装い膨らんだ頬は、薔薇の蕾のように赤くそまり、愛らしい。  「で、再会のキスはくれるのか」  ロイエンタールは、しなやかな指先で、「ここにキスしろ」とばかりに、己の唇を、とんとんと指さす。その仕草に、ミッターマイヤーのグレーの瞳に呆れが浮かび、肩をすくめて首をふった。  「妙な冗談をいってくれるな」  「冗談ではないのだがな?」  「本気なのか?」  ロイエンタールは、友にひどく真剣な視線をなげつける。その視線に含まれるものが、本気か冗談なのかを掴みきれず、ミッターマイヤーの眉が訝しげによる。真剣にミッターマイヤーを見つめるロイエンタールの瞳に、なんと答えていいものかと思案する色がミッターマイヤーの顔に浮かび、沈黙がふたりの間におとずれた。どちらも視線を逸らすことなく、見つめ合う。言葉を間違えば今にもふたりの関係が砕けてしまいそうな緊張感が漂っていたが、それは長くは続かなかった。ふいにロイエンタールの口許が耐えかねたように歪んだのを合図に、ふたりの間に漂っていた空気が柔らかなものにかわり、どちらともなくその口から笑い声が零れおちた。  「すまん、冗談だ」  「まったくだ」  零れたふたりの笑い声は穏やかに夜に溶けていく。ミッターマイヤーが感じた不安を、冗談にまぎらわせようとしたロイエンタールにむかって、困ったように頬をかく蜂蜜色の髪をした親友をみやり、ロイエンタールは右目の黒と左目の青に、それぞれにことなる感情を浮かべていた。  「卿の愛情はすべて奥方のものだ。俺などが掠め取る余地もないさ」  まるで眩しいものをみるかのようにロイエンタールは色の異なる目を細めて笑うが、笑みを浮かべた口から零れた言葉は、どこか真剣な色合いを帯びていて、ふたたびミッターマイヤーの眉をしかめさせた。  感情と理性が揺れ動く隙をついて零れ落ちたその言葉は本心か否か。それはロイエンタール自身にもわからない。指の隙間から零れ落ちる砂のように口から滑り出ていたのだ。  「ロイエンタール……」  「いや、妙なことをいったな。忘れてくれ」  ロイエンタールは手にしていたグラスを木箱に戻し、グラスの表面を大切なものに触れるように撫でた。その指先は酷く優しく、グラスをみつめるロイエンタールの視線はどこまでも愛おしいものをみるようで、この男でもこんな目をすることがあるのかと、ミッターマイヤーは驚いた。  まるで愛しいものを慈しむような目ではないか。いままで多くの時間を共に過ごし、数えつくせぬほど様々な表情をみてきたはずなのに、無償の愛を注ぐような、その表情から目が離せなくなる。ミッターマイヤーは思わず口を開き、ロイエンタールに「なぜ、そんな顔をするのだ」と問いかけたくなったが、ぐっと唇を引き締めて思いとどまり、その衝動を堪えた。  ――――問いかけてはならない。問いかけ、ロイエンタールが口にするこたえに俺は応じることができるのか?  酒杯を重ねるあいだに、ロイエンタールからむけられた熱を含んだ視線のなかに、酔い以外のものがまざっていなかったとは言い切れないではないか。それでも、互いに酔っているせいだと、口実を用意していた。それ故に踏み入ることのできない境界線上で、隣にたつことができるのだ。むけられる視線に含まれるその感情に明確な形があるかはわからないが、時折、愛しげに大切なものを眺めるようにむけられたロイエンタール視線に、俺自身が心地よさを覚えなかったとはいえない。  ロイエンタールが愛しげに眺める視線の、その感情をむけられた先になにがあるのか。俺はこたえることができぬというのに。身勝手に問いかけることはできないのだとミッターマイヤーは自らを戒める。  ロイエンタールから顔を背けるようにして、わずかに顔を伏せたミッターマイヤーを視界の端に捉えたロイエンタールは、困らせるつもりではなかったのだが、と苦笑をうかべた。  目の前にある一対のロックグラスを眺めならが、ロイエンタールはいう。  「目に見える形というのもよいものだな。これは卿が俺にくれる友諠の形だ。共に酒を飲める時間があるというのはいいものだ。はやくこれで卿と酒をのみたいものだな」  それはロイエンタールの偽ることのない本心だった。共に過ごすことができる時間があるという。それ以上なにを望むというのか。  珍しく素直なことをいう親友に、ミッターマイヤーは笑みをかえす。  「なに、しばらく会えんが、すぐに酒を飲みかわせるさ。陛下が全宇宙を統一なさるのはすぐのことだろう。そうなれば俺もそちらに行くこともできるだろうからな。そのときに新しい時代の到来と変わらぬ我らの友諠を誓って飲もうではないか」  「ああ、もちろんだとも。ハイネセンでまっている」  ふ��りは互いに顔を見合わせて笑いあう。それは離れていようとも何もかわらないことを確かめるかのようであった。  「ではこのグラスは預かっておくとしよう」  「ああ、そうしてくれ」  ふたりのあいだに置かれた一対のロックグラスが、次に酒を満たすことになるのはいつのことだろうか。そう遠いことでなればいいのだが。  再会の日を心待ちにして目の前で嬉しそうに笑うミッターマイヤーの笑みを、ロイエンタールは、黒い右目と青い左目に焼き付けるようにみつめるのだった。
◆◆
 なんのてらいもなく笑うミッターマイヤーの笑みは、まるで陽の光のようにあたたかい。 暗く冷たい水に射し込む、暖かな光のそのもののような笑みに呼ばれるようにして、ロイエンタールが瞼を開くと、青と黒の瞳に艦橋の無機質な灰色の天井が映りこんだ。靄がかかったような意識は、身体に広がる痛みによって覚醒し、昏睡している間に自分が夢をみていたのだと気がつく。  意識を失っている間に見た夢は、友と再会の約束を交わした記憶。  夢の余韻がロイエンタールの意識に絡みついている。それはひどく懐かしく、恋しいものであった。  もう随分と昔に交わした約束のような気がする。今の俺に卿との約束を叶える資格はあるのだろうか。それでもその約束を叶えたいと願う自分は、なんと度し難いことか。  ――――最後にみる顔が親友の顔であるならば、それは充分に上出来な人生ではないか。  ロイエンタールの口許に自然とうかんだ微かな笑みは、自嘲のようでもあり、心の底より友との再会を待ち望むもののようでもあった。  旗艦トリスタンが跳躍した際に、ロイエンタールの左胸の傷口が破れ再び出血し、一時意識を失っていた。死の淵にいつ滑落してもおかしくない状態から、ロイエンタールが引き返してきたのは、ひとつの約束を思い出したからだ。  ロイエンタールは腕に繋がる輸血の管を一瞥して、何事もなかったかのように、指揮シートから身体をおこした。こちらの容体を不安げに見守る部下や軍医に、青ざめた顔色に不遜なまでに平静な笑みを浮かべ、すこし眠っていたようだなと嘯き、傍から部下を引き下がらせた。
 左胸の傷口にロイエンタールは手をあてる。そこに添えられた自身の手はまるで生きている者の血色ではなく、氷のように重く冷たい。  死の淵がすぐそこまで迫っている。冥府からの迎えが、いまかいまかと手ぐすねをひいて待っている。  手招きする白い髑髏の手を一瞥しながら、ロイエンタールは青ざめた顔に笑みをうかべる。死ぬことは恐ろしくはないが、約束を果たせぬのは、いささか心残りにはなるか。  惑星ハイネセンへ戻るまでに幾度となく昏睡し、その度に死者がくぐるべき門の前より追い返されている。左胸の傷の痛みも随分と身体に馴染んだものだ。身体の中心から末端まで広がっている痛みによって生きていることを感じる。それを感じなくなったとき俺は死のまえに跪くことになるのだろう。いまだ死と抱擁を交わすことをできずにいるのを思うと、俺はまだあと少し生きていていいようだ。だがそれもわずかなことだ。少しずつ、冥府の扉が開いていくのがこの目にみえる。  ――――だが、天上へと至る階段をのぼるにはまだ時間がある。  青ざめた顔に、青と黒の両眼に光を宿す。その光はすぐそばに死が控えている者の光ではなかった。ロイエンタールは、いつものごとく友との再会を待ち望むように笑みをうかべてみせる。  「再会の約束を果たそう。冥府の門をくぐるまでに、せめてそのぐらいの時間はあるだろう。 なに、疾風ウォルフの足ならば間に合うだろう。追いかけてこい、ミッターマイヤー。ハイネセンで待っている」
◆◆
 星々はどんなときでも変わらずに瞬いている。ロイエンタールと共に駆け抜けた幾多の戦場や惑星から、共に見上げた夜空もかわることなく星が瞬いていた。そして、ここハイネセンの夜空もまた同じだ。ロイエンタールが天上へと旅だったそのときも、紺碧の夜空には星が静かに瞬いていたことだろう。
 この戦いの最後はどちらかの死によって彩られるだろうという予感は、決定事項のようにつきまとい、そしてミッターマイヤーの目の前に現れた。  友の死は内戦が終結したことを意味し、ミッターマイヤーは皇帝に内乱終結の報告をせねばならず、即日、惑星ハイネセンを立ち、フェザーンへと戻らねばならない。出港準備に慌ただしくなるなか、少しの間、ワーレンに後をまかせて、ミッターマイヤーは別れを告げるため、友の亡骸が納められた柩の傍にいた。  薄暗い室内には、星のあかりが微かに射しこみ、死者が眠る硝子の柩を青く照らしている。薄青い光の欠片はまるで魂の欠片のように、柩の上にかけられた軍用ケープを撫でていた。それは親友の肩にミッターマイヤーがかけてやったものであった。  横たわるロイエンタールは、血で重く濡れた軍服も整えられていて、端正な顔立ちのせいか、まるで眠っているかのようだ。そこに残された表情には死の苦痛は感じられない。穏やかな顔をみせている友を前にして、誇り高いまま逝ったのだろうとミッターマイヤーは思う。  柩の傍らに、ふたつのグラスが置かれている。それはロイエンタールがミッターマイヤーを待ち続けた証だ。グラスのなかに注がれた琥珀色の液体は落日の欠片が溶け込んだかのようであった。  ミッターマイヤーがハイネセンの総督府に辿り着いたのは、ロイエンタールが天上へと旅だった二時間後のことだった。執務室のデスクのうえに置かれたふたつのグラスを見たとき、友が死の間際まで自分を待っていてくれたことを知った。  「……待っていてくれたのか」  間に合わなかった口惜しさに胸が軋み、「ずっと待っておいででした」と従卒の少年が悔しそうに涙を流す姿に、胸が鉛玉を飲み込んだかのように苦しくなった。再会の約束を果しえぬまま、彼は逝ってしまった。  知り合ってから一一年。幾つもの戦場を共にし、つねに隣にいた。その度に、幾度となく酒杯を交わしあってきたのだ。グラスに注がれたアルコールに、別れの際にした約束をロイエンタールがどれほど楽しみにしていたのか。それを窺い知るには十分だった。
 「皇帝をたのむ」といったロイエンタールの声が耳朶にこだまする。  ――――酷い男だ。卿のために悲しむ暇もくれんのだな。
 友の最後をみとることができなかった後悔が胸を焼くが、まだ涙を零すわけにはいかない。  一対のグラスの片方を手にとり、ミッターマイヤーは、友の最後の願いに誓うように、ロイエンタールが残していった酒に口をつけた。苦さが喉を焼いたのは、アルコールによるものか、それとも別の何かによるものか。  「さすがはロイエンタールだ。良い酒だ」  美酒の香気は時間がたってしまい薄れてはいたが、それでも良い酒であることがわかる。俺との再会を心待ちにして用意していてくれたのだろう。本当ならば、卿とふたりでこの酒を飲んでいたことだろう。最後に飲みかわしたときも、この先もかわらずにいられるものだと思っていた。死の使いが彼を連れ去るそのときまで、ロイエンタールは俺を待っていたというのに、約束を果たしてやることが叶わなかった。それが酷く口惜しい。  グラスの向こうにいるべき友にむけて、ミッターマイヤーは声をたてずに話しかけた。  「赤子とは存外、重たいものなのだな。卿はあの子を抱いてやったか?」  忘れ形見の乳飲み子は、親友によく似た瑠璃色の瞳をもっていて、友の面差しと瓜二つであった。ロイエンタールはあの子の命のぬくもりを知っただろうか。  こたえることのない親友の顔をみる。ロイエンタールにむけるミッターマイヤーの視線は穏やかで、愛しさに満ちたものであった。  ――――卿は、自分には人の親になる資格はないと言っていたが、あの子の行く末を思い、俺に託したではないか。それは卿が、あの子にあたえた愛情ではないのか。子を思う心のある人間は、充分に親になる資格を持っていたとはいえまいか。  物言わぬ友に、ミッターマイヤーは力なく微笑みかける。  いつものようにその形の良い口許を皮肉げに歪めて、俺の言葉に反論してこい、ロイエンタール。  家族や伴侶について語るとき、ロイエンタールは理解できぬものだと、俺の言葉に眉を顰め、金銀妖瞳に名状しがたい光を浮かべていた。それが彼の過去に基づくものであったとしても、俺はそれだけではないといってやりたかった。  ――――この話ばかりは、いつだって平行線だったな。俺は、俺が知っているものを卿に分けてやりたかった。それだけだった。  柩の傍らに残されたグラスに、ミッターマイヤーは切なげに目を細める。  はたせなかった約束は卿の息子と果たそう。あの子が成人したら、このグラスと卿が用意した酒で、オスカー・フォン・ロイエンタールとはどんな男であったか語ってやろう。  このグラスが、今度はあの子と卿を繋ぐものになればいい。あの子にとって卿との繋がりが何もなくなってしまうのは寂しいではないか。卿は俺に、あの子を託してくれた。それが俺とおまえとの繋がりになるように。星が変わらず瞬き続けるように、我らの繋がりは何も変わりはしまい。
 夜は静かにふけゆく。  失ったものの重さがのしかかる。  もう出立しなければならないというのに、俺は、卿の前で涙も零してやれない。  美しい貌は眠っているようで、閉ざされた瞼の下にある金銀妖瞳の輝きを思いだし、その両目が俺をみることがないのだと思い知る。  二度と開くことのない瞼。その下に眠る黒曜石と瑠璃の瞳はもう俺をみない。  酒を飲みかわすたびに、ロイエンタールからむけられた愛しげな視線と出会うことは二度とないのだ。  ――――酒を飲みかわすことは叶わなかったが、あのとき卿が口にしたもうひとつの願いを叶えてやろう。  「ほら、ロイエンタール。卿が望んだ口付けだ」  重ねた唇は吐息すら存在しない。時を止めた唇は、静かに俺の口付けを受け止めるだけだ。再会と、そして別れの口付けを交わし終え、ミッターマイヤーはロイエンタールの白く冷たい頬にぬくもりを分け与えるように優しく触れた。こんなふうに触れることは初めてのことだ。  目を覚まし、その唇が俺の名前を呼んでくれることをまっている。童話であるならば、目覚めの接吻でその瞼をあけることもあろうが、冷たい唇は何もこたえない。  最後まで我らの友諠は失われることなく存在した。それ故に、この唇がもっていた温度を俺はしらない。ただ、この凍てついた氷のような唇だけを覚えて、俺は生きていく。
0 notes
sabooone · 7 years
Text
凍える土の下に眠る/03/2012
「悲しむ必要はない。その翼で自分の国に帰るはずだ」 「自分の国に?」 「そうだ、南の方の国で年中暖かく、生い茂る緑の葉や熟れた果実なんかがあるような」 「それでは、それでは仲間と一緒に元気に歌っているわね」 「ああ、勿論だ」
/////////////
「あなた、身体が冷えますわ」
秀雄は佐和子に呼ばれてゆっくりと振り返った。 いつもは着物の佐和子が珍しく夜会服を着て、首から胸にかけては豪奢な襟巻きをつけてある。 たしかに、雪が降る庭に礼服だけの秀雄は耳の先や指先がかじかむほど冷え切っていた。 薄っすらと降り積もりはじめた雪が秀雄の肩にも僅かに積もっている。 佐和子は手袋を外して秀雄の肩の雪を払った。 出来た妻のはずだ、何の不満もない。
「何だか、少し楽しそうですね」 「……楽しそう?俺がか?」 「ええ、違ったらすみません、そう見えましたの」 「――そうか」
佐和子と秀雄が結婚して数ヶ月が経った。 そして斯波と百合子が結婚してそれより少し多くの月日が経っていた。 ようやく、結婚生活に一段落して夜会や食事会に参加する余裕も出てきたのだ。 今日の夜会に斯波と百合子が来るらしいということは、伝え聞いていた。 百合子と最後に会ったのはいつのことだっただろうか、そんな風に考えていたら不思議と寒さなど感じなかった。 用意された自動車に乗り込み、またぼんやりと車窓を眺めて深く息をつく。
(遠目からでもいい、一目だけでもいい、お前を見たい)
百合子が斯波と結婚するという話を聞いて動揺を隠すことが出来なかった。 自分は諦めないつもりでいたし、百合子も同様の気持ちだと信じて疑わなかったのだ。 それが、百合子は秀雄に一言の相談もなく斯波との結婚を決めていたのだ。
「莫迦な事を言うな!何を一人で勝手に決めているんだ!」 「秀雄さんだって……」 「俺が何だ!」 「秀雄さんだって、出征するのを一人で決めたわ」 「それとこれとは話が違うだろう!」 「一緒よ……!」 「違う!お前は、お前は俺を信じられないのか? 俺は絶対に諦めたりしないと、言っただろう!」 「違うの、違う。こうするのが最善だと思ったの」 「お前は自分が何を言っているのか分かっているのか。 お前は俺に、俺に……お前の愛人になれと言っているんだぞ!」 「ち、違う……」 「何が違うんだ?そうだろう、結婚しながらもこのままの関係を続けていくつもりなんだろう! そういう関係を愛人というんだ!」
秀雄が怒鳴る。 そのせいではなく、百合子は今にも切れてしまいそうな細い精神が揺れて振り切れそうになる。 百合子の細い肩には背負い切れないほどのしがらみや重い荷がのしかかる。 野宮の家のこと、斯波のこと、佐和子のこと、秀雄のこと――。 どうして、自分の身体なのにこんなに重いのだろう。 子供の頃は羽が生えているかのように軽く、どこにだって行けそうな気がしていたのに。
「泣くな……」
秀雄の声が不意に優しくなり、秀雄の指が百合子の頬をごしごしとぬぐった。 いささか乱雑なその仕草に百合子は気が緩む。 眼鏡の奥の眸は百合子を気遣うように優しげだった。 秀雄が正しい、彼は怒りで声を荒らげていはいるがそれでもやはり優しかった。 間違っているのは百合子の方だ、それは分かっている。 声を荒げもせずに、弱々しい声で残酷な事を言っているのも理解している。 百合子はすとんと気が抜けてしまったかのように長椅子に座る。 床に膝をつき、そんな百合子をみあげながら秀雄は言った。
「俺は、お前が泣くのをみたくない。 だけど俺は、お前が俺意外の男のものになるのも耐えられないんだ!」 「私は秀雄さんのものよ」 「じゃあ、どうして!あの男と結婚するんだ!」 「それでも一番好きなのは、私が愛しているのは秀雄さんだもの!」 「お前が言っていることは支離滅裂だ!」
不意に部屋の扉が叩かれる。 斯波が百合子を迎えに来たのだ。 はっと顔を上げる百合子をまっすぐ見つめて秀雄がすがりつくように言う。
「行くな」 「……」
百合子は秀雄の瞳が正視できず、ぎゅっと目を瞑った。 そして、秀雄の気配を感じながらもすっと立ち上がり、逃げるように部屋の扉に手をかける。 これからしばらくは会えないのに、秀雄を見ることが出来なかった。
「百合子……!行くな」
辛そうに声を絞り出すのが分かる。 最後に触れたかった、口付けたかった、秀雄の石鹸の匂いやぎこちなく優しく抱き寄せられる感覚を忘れないでいたかった。 けれど、百合子が選んだのはそう言った甘い記憶とは全く別のものだった。だからこそ、最後の瞬間だけでもと思った。 百合子は秀雄を一人残して部屋をでた。
玄関を出て、自動車に乗り込むと斯波が紫煙をくゆらせていた。 その苦い匂いに百合子は僅かに嫌悪感を抱く。
「その様子だと最後の逢瀬は散々だったようだな」
百合子と秀雄の稚拙な青さを皮肉るように笑う。 斯波の言葉に先ほどまで火照っていた身体がすうっと冷え切っていくのを感じた。
「斯波さん、貴方にお話しないといけないことがあるの」 「何だ」 「私は、生娘ではありません」
覚悟して発言したつもりだが、わずかに声が震える。 斯波は少し驚いた様子だったが予想はしていたのだろう、ふっと笑って葉巻の火を消した。
「なるほど、それが貴方と軍人��を結びつけている絆なんだな」 「こんなふしだらな女を妻にしてもいいの?」 「そう思うなら、あんな約束は持ちかけてはいない」 「言うと思ったわ……」 「俺のことをよく分かっているな。――だが」
斯波は百合子の両手首をとらえて、百合子の動きを封じた。 猛禽類を思わせる鋭い目元が、それでも気丈に振舞おうとする百合子の目を射ぬいた。 嫌だ、とそれを振りほどこうと思うのを必死に堪えた。
「そうだ。貴方は俺の妻になるんだ」 「んうっ……」
無抵抗の唇に斯波は食らいつく。 妻は夫のものなのだ、だから斯波は百合子に口付ける資格が十分にある。 秀雄との口付けを知っているだけに、その差分に驚く。 こんな官能的な行為があったものかと恐ろしくなるくらいに斯波の舌は執拗に百合子の舌に吸い付いた。 息の仕方が分からなくなり無意識に息を止めるが、我慢できずに咳き込みながら斯波の身体を押し返した。
「随分と初心じゃないか。接吻の息継ぎも出来ないとは」 「あ、貴方がずっと口を塞ぐから……」 「ふん、貴方がたの接吻がいかにままごとだったか知れるな。 俺の妻になるからには、俺の口付けに慣れてもらわなくてはな」
そう言うと斯波は再び百合子の唇に唇を寄せる。 小さな赤い唇がふるふると震えているのを見て、先程よりも軽く啄む。
「なんとも良い香りだ。 彼もこの香りを知っているのかと思うと、――流石に憎らしい。 まあ、貴方には妻としてのつとめを果たしてもらうまでは彼と会わせることはない」 「分かってるわ」 「本当に分かっているのか? ……まあ、いい。次第に嫌でも分かるさ――」
ちゅ、と下唇を吸い上げて笑った。
/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/
「雪が降り始めたわ」
百合子は誰にともなくそう言った。 その言葉を聞きとった侍女が、そうでございますね、とだけ答える。 侍女数人がかりで着せられる夜会服は鮮やかな赤。 裾がふわりと丸く、螺旋状に巻き付く襞が薔薇の花のようだった。 それに二の腕までの黒く長い手袋に、斯波が百合子に見繕ったという真珠の首飾りをつけてそれに揃えた耳飾りを下げれば終わりだった。 あまりにも派手すぎて百合子は気分が悪くなったが、もうどうでもよかった。 斯波が着ろというのなら、それを着るしかない。 夜会に出ることも妻としてのつとめならば、それに従うしかない。 嫋やかな笑顔を浮かべて斯波の手を取り円舞曲を踊れというのならそうするのが妻のつとめだ。
背中の鍵留めの半ばぐらいで部屋の扉が一度だけ叩かれる。 こちらの返事も待たずに斯波が入ってきた。
「着替えの途中だわ」 「何、気にしていない。新しい服はどうだお姫さん」
気にしているのはこちらの方だと言いたかったがやめた。 斯波は侍女を下がらせると机に置いていた真珠の首飾りを取り、百合子の首に巻き付ける。
「素敵ですわ、とても派手でとても重たいの」 「よく似合っている」 「――背中、留めてくださらない?」
開きっぱなしの背中の鍵留めが気になり、斯波にそう言う。 いつもなら喜んでと笑いながら了承するのだが、今日は違った。 百合子はその空気にやっと気づく、それと同時に嫌な予感が胸をよぎった。 肩においている斯波の手は熱を持って百合子の肌を撫でる。 結い上げた髪がほつれる項に斯波の唇がすいつく。 僅かに隙間のある胸元に手を差し込み、乳房を鷲掴みにしてゆっくりと揉む。
「あなた……夜会が……」 「まだ時間はある、十分にな」
侍女を下がらせた時からその気だったのだと今になって気づく。 時間は十分にあるというが、夜会服のまま百合子の身体を堪能するだけではすみそうもなかった。 しかし、夜会服を全て脱がすほどの時間はない。 斯波の愛撫にぐったりとしている百合子の身体が姿見に映される。 乳房の先端を摘み、くりくりと転がすと次第に硬さを持ち始め、じゅんと下腹部が潤む切なさを覚える。
「だめ……」 「この香気はさながら花の香りのようだし、その蜜は花の蜜といったところだな」
耳朶を吸いながら熱い息を吹きかけるように囁く。
「流行りの香水などつけなくていい、貴方の身体から発せられるこの匂いだけで」 「お、お願い。もう……、あまり……」 「どうした、我慢出来ないか」 「ちがっ、し、染みに……」 「もうそんなに濡れているのか。 ほら、裾を持ち上げて貴方の蜜の溢れる所を見せてくれ」
斯波は百合子に夜会服の裾を捲り上げてその下半身を露にしろという。 かあと頭に血が上り、顔が真っ赤になるのを感じた。 恥ずかしさに身体中が熱くなる。 彼は見せてくれ、と言うが見るだけでは終わらないことは明白だ。
「早くしないと染みになるぞ。 貴方も汚れた夜会服で出るのは嫌だろう」 「でも――」 「どうした、俺の奥さん。 夫である俺がこんなにねだっているのに」 「っ――」
胸元の飾りと布を乳房の下まで押し下げて乳房を露にし、双丘を揉みしだき先端を指先で転がす。
「あっ、あっ……」
項から背中にかけて開いている肌に吸いつきながら、赤い跡をいくつも残した。 百合子は強く閉じていた股からとぷとぷと蜜が溢れ出し腿を伝う感触を覚え、慌てて裾を引っ掴みたくしあげる。 黒いガーターストッキングに包まれた細い両足が膝の辺りまで晒される。 羞恥心と快楽から小刻みに震える。
「もっとだ」
きゅっと乳首を潰される。身体が震えて命令通りにたっぷりとした裾を持ち上げる。 鏡に映る短めの黒いドロワーズはすでにしとどに濡れており濃い染みを作っていた。 繊細なレース細工は見た目には華美だが、その実下着としての機能は低かったようだ。
「は、早く拭ってください……」 「そんなに急がなくても、まだ時間はあると言っただろう」
斯波は百合子の胸元をきちんとしまい、背中の鍵留めをぷつりぷつりと留めていく。 一筋、二筋とほつれた髪を撫でて結い直した。 斯波の支えなしでは今にも倒れこんでしまいそうな百合子の両の足を掴むと、湿ったドロワーズをゆっくりと下げる。 にち、と蜜が粘る音がして百合子の陰部が外気にさらされる。 ごくりと斯波が生唾を飲み込むのが分かる。耐え切れず百合子は顔を背けて目を強く閉じた。
「ひぃっ、んっ、あっ!はぁっ!あっ!!」
柔らかく生えた陰毛に鼻を埋めるようにして、舌をつきだして百合子の陰唇を舐める。 ちゅ、ずちゅ、と音をたてて蜜を吸い取るも、その感覚に次から次へと膣奥から蜜が降りるのを感じる。 百合子はその足で立つことすら不可能なほどに体の力がぬける、しかしそうすると斯波の顔に体重がかかるようになりよく奥へ深くへとねだっているようにもなる。 だから百合子は夜会服の裾を強く掴んで耐えるしかなかった。 そして、百合子は絶頂に達するとひどく蜜があふれる体質で、それは寝台のシーツに大きく染みを作ってしまうほどだ。 斯波はより舐めとりやすくするために指で唇肉を押し広げ、小刻みに舌を動かしては落ちる蜜をすすった。
「あっ!だめ……あっ、……あっ、っああっ」 「ああ、お姫さん、逝きそうなのか」
斯波が花芯をしゃぶりながら聞く。 ねっとりと熱い感覚に溶かされながら、百合子は答える。
「い、逝くの……! あっ、やぁっ、純一さん!ひぃんっ!やっ、あっ!あ……あん!!」
絶頂と共に押し出された蜜を、じゅぱ、じゅぱ、と斯波が一段と音をたてて吸う。
「はう、あ……はっ、はっ……」
とろとろと熱い蜜���荒い息と一緒におりてくるのを、一滴たりとも零すこと無く飲み込んだ。 そして、蜜と汗で濡れた陰唇を、腿を伝っていた蜜すらもその舌でもって綺麗に舐めとった。 その度にひく百合子の身体が震えている。 斯波はドロワーズをそのままに、立ち上がった。 ようやく終わったというような安堵の表情が翳り、熱に浮かされとろけた瞳が、どうして、と斯波を見つめた。
「貴方を抱く」
それだけ言うと、百合子を寝台に引きこむ。 百合子が少し抵抗をしただけで斯波は気色ばみ、乱暴に二の腕をつかんだ。
「よもや嫌だとは言うまいな」 「わ、分かってるわ」
百合子は斯波に跨ると、そのまるい夜会服の裾を皺が出来ないように広げながら腰を落とした。 勃起してそそり立つ陰茎を自らの陰唇で包み込むように深く繋がる。 その醜態に百合子は羞恥心が湧き上がり、斯波の陰茎を一層強く締め上げた。
「ひうっ!」 「ああ、百合子さん!いい、ぞ。 貴方の身体は俺を受け入れたくてこんなにも熱くなって!とろとろだ……ああ、搾り取られそうだ……!」
百合子の膣口の入り口の締りが強く、少し上下に動いただけで斯波の陰茎はきつく扱かれるようだった。 その上、亀頭をつつむ襞肉はまた溢れ出した蜜にまみれ熱く蕩けていた。 百合子は自らの腰を揺さぶって斯波を絶頂へと導こうと懸命に動く。 その必死な表情を見て斯波は下から百合子を突き上げた。
「どうした、そんなに俺の子種が欲しいのか?」 「ち、……ちが……」 「そうだろう?ん?俺をこんなに扱きあげて……俺が達するようにと必死に腰を振っているじゃないか」
百合子はこの行為を早く終わらせてしまいたくて、必死に斯波の陰茎を擦り締め付けていたのだが、そうと知ってか斯波は意地悪く言う。 言い換えてみれば、絶頂の証であるあの白い白濁液が欲しい。 ただ、こうも堂々と口にされると百合子は自分がただの淫売になったようで恥じ、首を左右に振った。
「嘘を言うなよ。 毎晩、毎晩、俺の精液を搾り取るように足を絡めつけてくるのは誰だ?」 「それは、あっ、……やぁっ!」 「そうだったな、貴方は一刻も早く俺との子を成したいんだ。 だが、果たして貴方の愛する人は俺に慣らされた貴方の身体など抱きたいと思うかな。 憎い男の精液が染みこんで、その摩羅の形すら覚えこまされた身体など」
弱い所を抉り、擦り上げられ百合子は嬌声をあげる。 百合子の中の斯波がびぐりびぐりと膨らみ、奥を突き上げる。
「うっ、は、あっ、百合子さん。出すぞ……! どこに出して欲しい?貴方はどこに出して欲しいんだ?」 「んうっ、こ、このまま――」 「ちゃんと言うんだ、貴方がどこに欲しいのか」 「あっ、やっ、やぁっ、私の膣内に……純一さん、の、を……私の中に……」 「うっ、ああ、よし。貴方の中に出すぞ……」 「あ、く、ください……純一さんの……」
百合子は自分からそういった途端に膣内がぎゅうと斯波を強く包むのを感じた。 そして、一際大きく斯波の陰茎につき上げられ、子宮の入り口にごつとぶつかり熱い精液がびゅうびゅうと百合子の膣奥に注ぎ込まれる。 その瞬間斯波の身体が固くなり、全て吐き出すように百合子をぐいぐいと下から突き上げた。 全て注ぎ終わったのを確認すると、陰茎を抜く。ドロリと注ぎ込まれたものがとろけ落ちた。
「ああ、ああ……貴方のと俺のでぐちゃぐちゃだ。 流石に俺は着替えなくてはいけないな……」 「あ、わ、私……」 「無論、貴方はそのまま夜会に出るんだ。 幸い貴方が上手くやってくれたお陰で皺も染みもないようだしな。 なにドロワーズさえ替えれば……それに、この日のために用意した服だ。 貴方は出来た妻だから、夫の気持ちを無駄にしたりはしないだろう?」 「……純一さん、どうして、今日はこんなに――酷いことばかりするの? 私を試すみたいに……」
いつだって憎らしくなるくらいに余裕たっぷりの斯波だが今日は違った。 そして今だって百合子の言葉にいくらか動揺し、抱き寄せ口付けをする。
「……百合子さん」
苦しげに名を呼ぶ理由を知るのはその夜会だった。
自動車に乗り込もうとすると、慌てて侍女が追いすがる。 奥様、と声をかけられ包み隠すように渡された、中は白粉だった。 はっとして自分の胸元を見ると肌が露出するぎりぎりの辺りに斯波の口付けの跡が残っていた。 ありがとう、と伝えそれを受け取る。
「俺がやってやろう、お姫さん」
夜会服に白い粉が落ちないように極めて丁寧に白粉をはたいていく。 独特の甘い香りに包まれながら、斯波はなおも百合子の唇に吸い付いてくる。 そして気が向いたように白粉をはたいたり、耳飾りを下げたり、手袋を一指一指丁寧にはめたりするのだ。 斯波は自動車が止まっても百合子を抱き寄せ、降りる寸前まで蕩けるように口付けを続けた。 白粉をはたいた白い肌も、その激しい行為に薄桃色に肌が火照り赤い跡を浮かび上がらせる。毛皮の襟巻きでそれを隠すと斯波に手を引かれて自動車を降りた。
燦々と輝く洋館はまるで真昼の様に明るかった。 白い大理石の階段に、分厚い絨毯が敷かれて上を見あげれば吹き抜けの二階に天井には雫のような硝子細工のシャンデリアが垂れ下がる。 大きな暖炉は火が煌々と焚かれ広い部屋は隅々まで暖かい。 楽団がゆっくりとした円舞曲を演奏し、人々は手をとりあってフロアの中心で踊る。
「やあ、斯波君。よく来てくれたね」 「これは、先生。お招きをどうもありがとうございます、素晴らしい舞踏会ですな」 「ははは、そうだろう。天井画を見たまえこの日のために特別に誂えたものだ。伊太利亜の職人を呼び寄せて――。 ああ、失礼。そちらは……」 「妻の百合子です」
百合子はただ目を伏せて軽くお辞儀をする。 黄金の指輪をつけて葉巻を咥える姿は成金そのものだった。洋酒で膨らんだその腹も、整えられた髭も。
「ほう、噂のね……貴方がなかなか外に出したがらないはずだ。 美しい、それも妖艶な魅力のある女性だ」
ぞわと首筋の産毛が立つのが分かる。 斯波はそれを感じ取ったのか、楽団の曲調が変わると百合子の手をさっと取った。
「おや、曲が変わったようですな。それでは、先生失礼して……」 「ああ、楽しんでください」 「じゅ、純一さん……私ダンスはあまり……」 「大丈夫、リードしますよ」
そう言うとぐいと腰を掴み添えて、手を取る。 ゆったりとした音楽に合わせてステップを踏む。 慣れない動きに困惑しながらも斯波の動きに勘よくついていく。
「そう、上手いじゃないか。ほら、感じるだろう。 人々の視線が、皆直視はしていないが目の端に貴方を映している」
耳元で囁かれてぞくりと震える。 途端に、膣に残っていたらしい斯波の精液がごぽと音をたてて垂れ落ちた。
「あっ……」 「おっと、どうした」 「あ、だめ……私、き、気分が……」
百合子が斯波に縋りつくように倒れこむ。それを抱きとめて、斯波は人垣の向こうから感じる視線に目をやった。 不敵に微笑み、腕の中で震えている百合子に耳打ちする。
「向こうの人垣を見ろ」 「え?」 「軍人殿が貴方を見ている」
そう言われ百合子は息を飲んだ。 見ろ、と言われたがとてもそちらを振り向くことができなかった。
「向こうも夫人同伴だ。随分と仲の良さそうな事だな」 「いや……」
今すぐにでもこの場から消えてしまいたかった。 こんな自分を見られたくない、そう思っているのに斯波は平然と百合子に言う。
「どうだ、挨拶でもしておくか」 「やめて、やめて……!気分が悪いの。ここに、居たくない……」 「歩けそうにないなら抱いてやるが?」 「ひ、一人で歩けます」 「くくっ、彼の青い顔を見たか?気の毒にな。 貴方のこの香りを知る彼には分かったかもしれんな、貴方が情事のすぐ後の身体で夜会に出ているのだと」 「あ、貴方……貴方は、だから――!」
支える腕を振り払い、身体を押しのけようとする。 嫌悪感から触れられるのも耐え難かった。 いつになく強い力で腕を掴まれ、自動車に押し込まれる。
「出せ」
運転手に短くそう告げると、黙って流れる車窓を見続ける百合子を強引に抱き寄せる。 すっかり抵抗はなくなっていたが、その目に宿る怒りは変わらなかった。
「女というのは存外に現実主義者<リアリスト>だな」
斯波は自身の男根を頬張る百合子の頭を愛おしげに撫でて言う。 邸に帰るなり、夜会服を着たままの奉仕を迫られて布張りのソファに寛ぐ斯波の前を開く。 最初の頃は戸惑いと羞恥からそれに手を触れるのも悍ましかったが、今ではその舌にたっぷりと唾液を乗せて根元をゆっくりと接吻するように唇を動かす。 さらさらとした黒髪がこぼれ落ち、百合子は無意識に耳にその髪をかける。 百合子の顔が動く度にコルセットでたっぷりと寄せてあげられた白い胸元がたぷりと揺れてなんとも扇情的だった。 敏感なところには触れず、陰嚢や根元ばかり責める百合子に、斯波は我慢ができないとばかりに喘ぐ。
「くっ、は、あ、随分と、上手くなったな。貴方はこちらの覚えも早いようだ」
筋張った血管を舌で舐め上げ、白く柔らかい指で陰嚢を優しく揉む。 そうは言ってもまだ手慣れない行為に百合子は耳まで真っ赤になっていた。ただ俯いて命じられたように舌と手をゆっくりと動かす。 百合子が上目づかいで斯波を見上げると恍惚とした表情で百合子を見下ろしていた、ごくりと生唾を飲む音が聞こえて喉仏が上下する。 きっちりと撫で付けた赤銅色の髪は幾分か乱れ、はだけたシャツからは浅黒く筋肉質な胸板が覗く。 大股を広げて座るその狭間には勃起した男根が腹に付きそうなほどにそそり立っている。 百合子は、震える指で夜会服の袖を外し、胸元の飾りを押し下げてコルセットを紐解いた。 形の良い乳房が露わになる。白い肌には点々と斯波の口付けの痕が残っている。 自らの胸をもってその男根を包み込み、上下に扱く。雁首に吸いつき、裏筋を舐めて先端に舌を這わせた。 口をいっぱいに使って男根を咥えて頭を上下させて飲み込む。
「ふ、くっ……ん……」 「いいっ、お姫さん……ああっ、出るッ」
びゅ、びゅと先端から精液が吐き出される。 百合子はそこに唇を寄せて精液を吸いつき舐めとった。苦く塩辛い味に軽く吐き気を催すも唾液と一緒に飲み込んだ。 わずかに漏れでている残りの汁を舌を這わせて綺麗に舐めとる。 男根を挟み込んでいた乳房から手を放して、くたりと床に座り込み白い肩を小さく震わせて喘ぐ。 斯波の逞しい男根を咥えているだけで内腿が濡れ始めているのが分かった。 唾液や精液が飛び染みが付いた夜会服は二度と着ることは出来ないだろうし、斯波は元より百合子に一度着た夜会服を二度と着させることはなかった。 些か乱暴に背中の鍵留めを外される。 着る時は数人がかりだが、脱ぐ時はあっという間だった。 背を丸めて繭から蛾が孵るように夜会服を脱ぎ捨てる。 百合子の瞳は快楽の熱に蕩かされたかのようにとろりと潤み、官能の火をともしていた。
/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/
久しぶりに見た百合子は遠目からもあの少女らしさが消えていた。 妖艶な赤い夜会服を身に纏って、控えめに夫である斯波の後をついて歩く。 美しかった。首元を飾る白い真珠は誂えたように似合っていたし、豪奢すぎる赤い夜会服も百合子の黒い髪に映える。
秀雄は喉元にせり上がってくるものをどうにか堪えた。 鼻を突く甘い香りが、あの日の記憶を無理矢理にでも呼び起こされる。 鮮烈な快楽と共に、百合子と一緒になったあの日を。 そして、百合子を脇で支える男――斯波と目が合う。 斯波は秀雄を見るなり不敵に笑うと、さも当然のように百合子の身体を支えて夜会を後にした。
あの男は、毎晩百合子を抱いているのだ。そして、今もその甘い香りを漂わせている。 弦楽器の甲高い音が耳鳴りのように頭に響き、絢爛華麗な天井画がぐるぐると回り渦を巻く。
「��なた、あなた。顔色が優れませんわ……具合が悪いの?あなた?」
秀雄は自分の名前を呼び続ける佐和子の腕を引き、早足で会場を横切る。 その慌ただしい所作に佐和子も慌てて夜会服の裾を持ち、歩きにくい靴を鳴らして付いて歩く。 自動車を正面玄関に回させて、乗り込むと乱暴にドアを閉める。 佐和子を見ると、跳ねる心臓をどうにか抑え、額に浮いた汗を手袋で拭っていた。 それだけで、秀雄に何も言おうとはしなかった。 佐和子はちらりと秀雄を盗み見、その凍���るような横顔は美術品の石膏の胸像のようだと思った。
邸に帰り、寝室に入る。夜会服の佐和子を世話しようとする侍女を手で制して下がらせた。 秀雄は礼服の釦を外し、眼鏡を取り鏡台に置くと苦しげな表情のまま佐和子に添う。 そして、佐和子の少女のように小さくか弱い身体を抱き寄せて口付ける。 驚きに唇が震え、秀雄の為すがままに受け入れるかのように目を強く閉じる。 白い首筋に唇を落とし、滑らかな胸元へ接吻づけしながら降りていく。
今、ふわりと香るのは既製品の香水と白粉の匂い。 秀雄はこの時ほど自分の記憶力の良さを呪うことは無かった。 忘れまいと脳裏に刻んだ百合子の肢体が、別の女をその腕に抱いている時でも蘇ってくるのだ。 肌の柔らかさに滑らかさ、吸い付いた皮膚の甘い香り、しっとりとした長い黒髪に戸惑うように喘ぐかすれた声。
途端に、胃の腑を殴られたような衝撃を覚えた。
「ぐっ……」
半裸の佐和子を寝台に押し倒したまま、蒼い顔をしてよろめきながら立ち上がる。 佐和子がすすり泣く声が聞こえたが、秀雄にはどうすることもできなかった。 無言でそのまま寝室を立ち去り、自室に入るなり堪えていたものを吐き出す。 饐えたような匂いと共に晩餐会でわずかに飲んだ洋酒がごぽりと吐瀉した。 額に脂汗をかき、全身が戦慄くほど疲弊する。 がんがんと痛む頭に、耳鳴りがきいんと頭中響き渡った。
百合子をこの腕で抱いたこと、一度きりの交わりがただただ秀雄のよすがだった。 そしてその一度きりの交わりに、秀雄はもうずっと苦しめられている。
あの日のようにただ一人の女を愛するということは二度と無いだろうということ。 まるで魂が融け合うように一つになったあの感覚を、他の女では味わえないだろうということはとっくに知っていた。 そして、その唯一の存在は、もう二度と自分だけのものにならないのだということも。
鳥かごの中を綺麗に掃き清めて、新しい餌と水を置く。 別の鳥かごに移していた鳥をふわりと柔らかく持ち、元の鳥かごへ戻す。 慣れない様子で鳥かごの中を行ったり来たりしていたが、落ち着くところころと喉をならして水を飲み始めた。 秀雄はその様子に満足し、ふうと大仰に肩で息をついた。 鳥は意外に神経質な生き物なのだ。 風通しのために窓を開けると、少女の笑い声が聞こえた。 その声に覚えがあり、生垣の向こうを見ると百合子が鞠をついているのが見える。 「百合子!」
秀雄の声に百合子は鞠を持ち、生垣の隙間からこちらを見た。
「秀雄さん!」 「父上にカナリアを買ってもらったんだ。見に来るか?」 「カナリア?」 「澄んださえずりが美しい小鳥だ」 「見たいけど、今鞠をついてるところなの一緒に遊ばない?」 「俺は男だぞ。鞠はもう卒業だ」 「あらうまい言い訳ね。秀雄さん鞠つき下手だもの」 「あれは、まあ、お前の遊び相手につきあってやってただけだ。 何だ見ないのか、見ないのならもういい」 「見ないとは言ってないでしょ?」
そういうとつんとむくれて跳ねて転がっていた鞠を拾って窓の近くにまで寄る。 秀雄が最近小学校に通い、男友達とつるむようになって今までのように百合子と遊ぶ機会が減ったことが気に入らないらしかった。 それまでは頻繁に付き合ってやっていた鞠つきやままごとよりも、友達と遊ぶ方が楽しく毎回断っていたのだ。
「部屋の奥のあまり日差しが当たらない所に置いてある。 巣引きさせるために今色々準備しているところなんだ」 「巣引きって何?」 「いいから、裏から回って来い」 「もう、いっつも命令ばっかり」
百合子はそう言いながら多少は興味が有るのか、裏口から秀雄の部屋へと向かった。 女中や庭師なども、百合子のことはよく知っておりお互いに行き来もよくある。 百合子が部屋に来ると、部屋の隅に置いてある鳥かごに近づく。
「ほら、これだ」 「綺麗な山吹色、黄金色かしら?」 「こういうのはyellowというんだ。待ってみろ、澄んだ声で鳴くから」
言葉の通りにカナリアは小首を回しながら胸をふくらませ、ぴるるぴるるとさえずる。 その可愛らしい声に百合子ははっと息を詰めていた。
「……なんて可愛らしいの」 「巣引きが上手く行けば、お前に雛鳥をやってもいいぞ」 「雛鳥を?この子卵を産むの?」 「だから、今やってる巣引きが上手く行けば……の話だぞ。 こっちの鳥かごに雄を入れているんだ。相性が合えば交尾をして卵を産む」 「いきなり一緒に入れたら喧嘩するのね。お前たち仲良くしないとダメよ? ねえ、秀雄さん。この子達名前は何て言うの?」 「……。名前……そう言えば名前をつけていないな」 「じゃあ、どう呼んでいるの?」 「お前、とか、こいつ……とか、まあ色々だ」 「おかしなの。なら私が名前をつけてあげてもいいでしょう?」
自動車が碇国ホテルのエントランスの前に着く。
秀雄は自動車から降りると早足にメインロビーを横切った。
予め用意した部屋、重い取手を回し部屋の中へ入る。 部屋はカーテンが引かれほのかに橙色の電灯が点いており、足元は柔らかく重厚な絨毯が敷かれている。 綺麗に整えられた寝台に一瞬目をやるが、重い溜息をついてソファに座った。 コチコチ、と卓に置かれた時計の秒針がやけにうるさく時を刻む。
不意に部屋の扉が叩かれた。 あまりに唐突だったので、秀雄は返事も出来ずに息を呑む。
沈黙が降りる。 身体が鉛のように重く、柔らかいソファに沈み込み、動けなかった。
やはりコチコチと時計の秒針だけが部屋に響く。
あまりにも長い静寂のため、先程聞こえた音は幻聴だったのではないかとさえ思った。
扉の向こうから僅かに衣擦れと人の気配がして、秀雄はようやく立ち上がれた。 分厚い絨毯を踏みつけるように、歩き、扉を開ける。 すると、もう一度扉を叩こうとしていたらしい百合子と目が合った。
「あっ……」
百合子がきまずそうにあげていた手を下ろし、視線を逸らした。 扉を開いて百合子を部屋の中へ誘うも、 部屋へ入るのを躊躇しているかのような百合子を秀雄はまじろぎもせず見る。
「どうした。入らないのか」
百合子は俯いたまま首を振ると部屋へ足を踏み入れた。 秀雄はどうしようもなく切なくなって、百合子を後ろから抱きしめた。 一目だけでもいい、会いたいと思っていた夜、まざまざと斯波の物にされている百合子を見たあの日。 こんな事はもう耐えられないと思った。
「百合子、――」
百合子の髪をまとめている髪留めを外すとすとんと黒髪が肩に落ちる。 そうすると一層幼く見えた。 髪がさらりと揺れると、甘い香りが立ち上がり、それに混じって僅かに苦い葉巻の香りがする。 斯波の移り香なのだと理解すると心がずぎりと痛んだ、しかしその痛みも百合子の言葉によってかき消された。
「秀雄さん、良い匂いがする――とても」
そう言うと秀雄の胸元に頬をすり寄せるようにして抱きついてくる。 百合子の小さく柔らかな身体が愛おしく、秀雄は先程までの痛みも忘れ夢中で百合子を抱き寄せた。 秀雄の軍服の胸元あたりが温かく濡れる。
「秀雄さん……居ないのかと思った。 だって、私、――秀雄さんに、き、嫌われて、しまったと――」 「莫迦を言うな」
秀雄はそれだけ言うと百合子の顎を持ち上げて口を吸う。 震える紅い唇を舐め、漏れる甘い息を吸い上げた。 百合子の長いまつげが秀雄の頬をかすめて、ぽうと開いた口に舌を忍ばせると百合子の小さな舌が絡みつく。 どれだけそうした口付けに耽っていたかは分からないが、しばらくするうちに秀雄の身体が熱く火照る。 それは百合子も同じようで、くたりと力の抜けた身体は欲情を煽るような匂いを発していた。
「百合子、愛している」
秀雄がそう言うと、百合子も同じように頷いて秀雄の身体に身を預けて言う。
「私も――私も秀雄さんのこと愛してる」
それはどちらも本心から出た言葉だったが、初めてその言葉を使った時とは違いどちらもそのことをもう一度確かにするかのようだった。 そうしてやっと二人はもう一度ゆっくりと優しく抱きしめ合う。 秀雄は百合子の腰に回していた手を動かし、着物の帯を解く。 何度も何度も記憶の中で解いていた着物の帯紐を。 百合子はぎくりと固まって秀雄の胸を押して離れようとする。
「嫌か?」
秀雄の困ったような顔に百合子は慌てて首を振る。
「電灯、消して――」 「どうして」 「お願い――恥ずかしいから――」 「お前は前もそんな事を言っていたな。 電灯を消してしまったらお前が見えなくなるだろ」
襟元を崩し、白い肩があらわになる。 黒い髪が纏いつく首元に口付けしようと唇を寄せ、そこに蚊に食われたような紅い痕跡があるのに気がつく。 透けるほどに白い肌故に、その赤黒さのある痣は余計に目立った。 するすると着物を押し下げて、襦袢の前を開く。 乳房の丸い膨らみにも、二の腕の白く柔らかい皮膚にも、背中にも、太腿にも――。 全身に無数の痣があるのが秀雄にも分かった。
「お前が隠したかったのはこれか――」 「――」 「百合子、俺を見ろ」
そう冷静に言う自分はどんな顔をしているのだろうか、秀雄にも分からなかった。
「あの男にどのくらい抱かれているんだ?」 「お願い――秀雄さん……」 「月に何度だ?週に何度お前は――」 「やめて、お願い……」 「それとも毎晩か?」 「……」 「お前はあの男に、毎晩抱かれているのか」
それは百合子に言っているようで、秀雄自身に言い聞かせているようだった。
「お前は――お前は俺を愛していると言いながら、毎晩あの男の腕に抱かれることが出来るんだな」
秀雄は佐和子を抱こうとしても抱けなかった夜を思い出した。 それは百合子以外を愛することは出来ないのだという固い証明のようで、つながれた鎖のようで、呪縛のようで、運命のようだと――。 そう思っていたのは秀雄だけだったのかもしれない。
「秀雄さん……ごめんなさい」 「どうして、謝る。――お前が望んだことだろう」
百合子が斯波に嫁いだのは、単に野宮家の借金の問題と斯波の名誉欲しさなのだと思っていた。 だから、二人は結婚したというよりも、お互いの利益のために結びついただけなのだと秀雄はずっと思っていた。 それが違うという事が今、分かった。 斯波は百合子を愛しているのだと、――そうでなければ毎晩百合子を抱いたりはしない。 そうでなければ、名誉以外に興味のない妻ならばその不倫相手である秀雄にこんな子どもじみた嫌がらせなどするはずがない。 百合子のその身体が誰のものであるか、子供が自分の玩具に名前を彫るのと同じように口付けの痕を幾多もつけて見せつけているのだ。
「股を開け」
寝台に百合子を座らせて、命令する。 その抑揚のない声に百合子は頬が赤く染まり、ためらうように俯いた。
「どうした。あの男の前では簡単に開くくせに、俺だと嫌なのか」 「違っ……」 「では開け」 「――っ」
内股を光り照らすほどに愛液が漏れでているのを見て秀雄は失笑した。 その声に百合子はますます顔を赤くする。
「何だこれは。お前は色気違いか」
そう言いながらもその百合子の身体に一度溺れ、それ以来他の女には反応すらしなくなった自身を思い出し苦笑する。 すでに口付けをしている時から熱を帯び、軍服の前がきつくなる程大きく膨らんでいた。 百合子の恥毛の下に隠された女陰を観察するように眺める。 考えてみれば、女性の性器をまじまじと見るなど初めてのことだった。 じゅぶと蜜が溢れる小さな穴に指を入れ、入り口の皮膚と粘膜を引っ張るようにかき回す。 百合子の膣口が秀雄の指をしゃぶるように吸い付き、温かい蜜が唾液のように絡みつく。 淫唇とはよく言ったもので、秀雄はそこに接吻づけしたくなる衝動に駆られそしてその欲望のままそこに唇を寄せた。
「んっ、あ――いや、そこは」
唾液の垂れる穴に口付けそれを吸い、中の粘膜をねぶるように舌を差し入れる。 ひくひくと淫唇が快楽に震え秀雄の唇に吸い付いてくる。
「いやっ、――あっ、あっ……」
百合子の身体がびくんびくんと震えて、だらりと唾液が糸を引く。 溢れた蜜は恥毛にまで絡み纏いつく。 どれほど、きつく肌を吸って痣をつけたとしても一週間もすればそれは薄くなりやがて消え��しまうだろう。
斯波の子供じみた嫌がらせは、秀雄の心に痼りのように残る。 百合子の身体をいくら抱いてもその紅い痕が目の端をちらつき、初めて心を重ねた時のような思いになれなかった。 自分はこんなにも弱く、みっともなく、女々しく、くだらない人間だっただろうか。 そういう人間を、一番不愉快に思っていたのは秀雄自身ではなかっただろうか。 いつから、自分はこんな醜い卑怯な人間になってしまったのだろう。一体、いつから――。
/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/
「何がいけないんだ?餌か?それとも巣か?――相性だろうか」
巣引きをして数週間しても一向に産卵する気配を見せないカナリアたちに秀雄は半ば不服そうに問いかける。 特に雌のほうが機嫌が悪いらしく、自分の羽毛の繕いばかりしている。 雄が乱暴に雌の上に乗ろうとするとひどい鳴き声をあげて鳥籠中を逃げまわる。
「やれやれ」
やはり別の籠に分けようかと思っていた矢先、部屋の扉が叩かれる。 女中が連れてきたのは百合子だった。その手には小さな箱を持っていた。
「秀雄さん二人の様子はどう?」 「――まあまあだ」
秀雄は視線を逸らしてそう答える。 まあまあ、どころか最悪なのだが早く雛が見たいという百合子に真実は告げられない。
「ねえ、胡麻をすったものをもってきたの。二人にあげてもいいでしょう?」 「ああ、だが、二人ではなく二羽だ。お前は饅頭や餅なんかも一人二人と数えるのか」 「いやだわ、ひとつ、ふたつ、に決まっているでしょう」
おかしなことを言うのねとばかりに百合子が笑う。 無垢というか莫迦というか、こういうのを天真爛漫というのだろうな、秀雄はその顔を見ながら思った。 百合子は秀雄が持っていないものをたくさん持っているような気がした。 だから、こんなにも惹かれてしまうのだろうか、とか時折考えてしまう。 姉も妹もいない秀雄は、百合子を妹のように思っていた。 けれど、実際は百合子は妹などではなくただの他人なのだ。幼馴染、血のつながりのない赤の他人だ。 時折こうやって遊んだり話をしたりすることはあるが、常に部屋の外か内には女中か侍女がおり、昼前か遅くても夕方前には別れなければならない。
(瑞人君が羨ましいな、いつも百合子と一緒に居られて――)
自分にも姉や妹やそれか弟が居ればよかったのに、と何度かそう考えてみたが、やはりほしいのは妹でも姉でもない。 百合子なのだった。
「お前は変わっているな、俺の知っているどんな女とも違う」 「どこが違うの?」 「まず、よく喋る。俺の知っている女は誰も彼もいつも俯いて親の言うことに頷いているだけだ。 それによく笑うし、木に登る、あとよく食うよな」 「……秀雄さん、それは嫌味を言っているのよね」 「は?」 「だって、いつもお母様に怒られていることばかりを指折りあげたわ」 「別に嫌味を言っているわけではない」 「じゃあどういう意味?」 「興味深いと言っているだけだ」 「なにそれ」
人をカナリアか何かのように、と不満そうな百合子だが当時の秀雄としては褒めたつもりだった。 鳥の観察も、百合子の観察も興味深いが、自分の心の機微が一番難解だった。
/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/
あれほど、会いたいと思っていたというのに。 会ってしまえば、この苦しい想いから解き放たれるのだとそう信じていたのに、そうではなかった。 碇国ホテルの部屋を去る百合子を見て、苦しみは以前よりも増した。 そして、何よりも、もう二人で十二階に登ることも、浅草に出掛けることも出来ないのだという事実を肌で感じた。 これからは、死ぬまでこの部屋でしか会えないのだ。 窓枠のはまった、狭く重苦しく暗いこの部屋だけが、百合子と秀雄の空間なのだ。 (何て愚かなのだ、俺は――) 秀雄はひとりきりになった部屋で己を責める。 誰も彼も不幸だ。 こんな関係を続けるなど正気の沙汰ではない。 (それだというのに、俺は――それでも――)
どうしてもっと早く自分の気持ちに気が付かなかったのだろうか。 どうして、あの時、百合子の手を掴んで止めなかったのだろう。
秀雄はホテルの部屋を飛び出していた。 早足で階段を駆け下り、ぎょっとする従業員や客になど構いもせずに百合子を追いかけた。
「百合子ッ」
秀雄はエントランス前に停まっていた自動車のドアをだんと叩く。 中に座っていた百合子が驚いて目を瞠っている。運転手があわてて飛び出し、ホテルの従業員と秀雄を止めようとする。 秀雄はそれらを振りきって自動車の運転席に押し入った。 なおも追いすがってくる運転手らに一発食らわせ、エンジンをかけて自動車を発進させた。
「秀雄さん?!何をするつもりなの?!」 「――最初からこうすればよかった」 「だめ、だめよ――ダメこんなの」 「北でも南でも、外国でもいい。二人で逃げよう」 「秀雄さん!」 「外国――そうだ、外国だ。なあ、あの――」 「だめなの、私。――どこにも行けない」
数台の自動車が秀雄の行く手をはばむように停まる。
「私、妊娠しているの。もう――どこにも行けない――」
乱暴に運転席のドアがこじ開けられ、黒い洋装をした男たちに秀雄は掴まれ放りだされた。 固い道の上に投げ出され、あちこちが痛むが放心したようにその場に座り込む。 襟元を掴まれ持ち上げられて、雑に揺すぶられて眼鏡が飛び地面に落ちる。
「やめて!やめなさい!!」
百合子が秀雄を守るように男たちに歯向かうと、男たちは従順な犬のようにその言いつけに従った。
(そうか――。だから――)
俺達は再び会えたのだ。 むしろ、そこに考えが及ばない自分がどうかしていたに違いない。 あの夜会のあった日、秀雄は百合子に結婚というものを分かっていないと一喝した。 家同士の結びつきだけではない、結婚相手の子供を産めるのか、と。
(俺の方こそ、結婚という事を軽く見ていたのだ)
怒りも、悲しみも、衝撃もない。 ただ、考えが及ばなかった己の不甲斐なさと、あの少女だとばかり思っていた百合子が女としての機能を果たそうとしているのだという驚きだった。 茫然自失となっている秀雄は、妙に冷静に落ちた眼鏡を拾い――僅かにヒビ割れがあることも気にする事無く――いつもどおりの冷静な瞳で百合子を見た。
「一週間後、碇国ホテルで」
百合子が返事も出来ずに呆気に取られているのを後目に、秀雄は早足でその場を去る。 途中、往来で自動車を拾いそのまま邸に帰る。 そして帰るなり、佐和子の部屋の扉を叩いた。
「まあ、あなた。今日は軍務と聞いていたけれど、随分とお帰りが早いのね」 「佐和子、話がある」 「眼鏡――あの、ひびが……」 「二人だけにしてくれ」
秀雄は侍女らにそう言うと、部屋から下がらせて佐和子の座る椅子の真向かいに座る。
「随分と厳しいお仕事でしたの?顔色も――」 「お前、外に男を作れ」 「……」 「俺はお前を抱けない、お前だけではない他の女もだ。 だが、お前の家の血筋が絶えることだけは阻止しなければならない」 「……子供など……いりませんわ」 「莫迦を言うな。ならば、俺の子種がないと言って離縁するよう――」 「……あなたは、酷いことを仰るのね。 あなたは、結婚して以来指一本髪の毛一筋として私に触れようとしない。 両親や親戚に子供はまだか、孫はまだかと言われる度に私は身の切られるような思いをします。 母に至っては女中を連れて子宝祈願のお参りをなさったとか」 「当然だ。お前には悪いことをしたと思っている」 「私、離縁などしません」 「佐和子――」 「もちろん、外に男も作りません。 私はあなたの妻です。たとえ名ばかりの妻だとしても――私はそれが嬉しいのです」
どうして他の女ではダメなのだろう。 どうして、百合子でなければ――。
/-/-/-/-/-/-/-/-/-/-/
「股を開け」
百合子は着物をたくしあげて女陰を露わにした。 部屋に入るなりに命令され、その剣幕に押されるままに言いなりとなった。 秀雄は自身の持ち物の鞄から小瓶と剃刀を取り出す。
「いや、いや――何をするの!」 「子供じみた嫌がらせだ」 「秀雄さ――秀雄さんやめて!」
小瓶の中の乳白色の液体を手のひらに取り、人肌に温めてから百合子の陰毛に塗り始める。 一体何をするつもりなのか見当もつかないらしく、百合子は息を潜めて秀雄の様子を伺っていた。
「妊娠したといっても、まだ腹は膨れていないんだな」 「……っ」 「おい、動くなよ」
乳液を満遍なく塗り終えると、ひやりと冷たい剃刀の刃を肌に添わせる。
「いや、嘘――やめて!」 「動くなと言っているだろうが」 「うっ、やっ――ばかっ。秀雄さんの莫迦、莫迦――」 「泣くな、手元が狂う」
嗚咽を上げて小刻みに震える百合子にぴしゃりと言い放つ。 2,3度手巾で女陰と剃刀を拭い、何度も下腹部に乳液を擦りつけては剃刀で恥毛を剃り落とす。
「これからは、ずっと。俺がお前の陰毛を剃ってやる」 「こんな――どうして。酷いわ……」 「酷い?――酷いのは、俺のことを愛している、好きだと言いながらあの男の子を孕むお前の方だろうが!」 「うっ、ああっ――」
立ったままの百合子を壁に押し付けて、がちゃがちゃと音を鳴らして軍服の前を開く。 強引に太腿を担ぎ、女陰を数回手で撫で回して解しても濡れてもいない膣に勃起した摩羅を押し込める。
「ぐ、うっ――」
閉塞感に息がつまり、わなわなと震える百合子の足を抱え直して腰を更に推し進める。 百合子はくぐもった悲鳴を秀雄の軍服に口を押し付けて殺す。 突然の挿入に痛がっていたのは最初だけで数回こすれば、ぐちぐちと音が鳴るほど蜜が溢れてきた。 乱暴に揺さぶったため、百合子の髪留めが落ちて黒い髪が広がる。 背後に壁を受け、逃げ場がない百合子は秀雄の激しい挿入につま先が浮くほど突き上げられる。
「い、行くぞっ。行くっ――ああっ、出るッ――」
じゅっじゅっと粘り気のある水音がして百合子の膣内に秀雄の子種が注ぎ込まれる。 最後は百合子の細い身体を力いっぱいに抱きしめて下半身を奥の奥にぶつけるようにして射精した。 じゅぼ、と摩羅を引き抜けば濃い白色をした子種が糸を引く。
その様子に秀雄はたまらなく惨めになった。 動物ですら子孫を残すために交尾をするというのに、既に他の男の子種を宿している女に必死になって腰を振っている。 秀雄はソファに座り、一度精を放っても一向に萎えない自身の摩羅は先端にぷくりと泡を吹きながらまだ白い液を滲ませている。
「あの男はいつもお前をどう抱くんだ。やってみろ」 「でも――」 「……」 「――っ」
百合子はソファに座る秀雄の前に跪く。 馬乗りになって挿入するのかと思いきや、そのまま猛る秀雄の摩羅を優しくしごき始めた。
「うっ――あっ、あっ」
白く柔らかい指が赤黒い秀雄の摩羅を優しく握り、ゆっくりと上下に動く。 そればかりか、百合子は秀雄の精液が滲む摩羅の先端をちゅぼと唇で吸い付いた。
「なっ、んっ、あの男、あの男は――お前にこんな――」 「んっ、んんッ――はっ、ちゅ……」 「百合子ッ、は、あっ――ああっ」
ざらざらとした百合子の舌が秀雄の先端や雁首の溝をあくまでゆっくりとねぶる。 竿を握る手は小刻みに上下され、陰嚢を優しく揉まれると切ない声を上げてしまうのを止められなかった。 射精に腰が浮き上がり、百合子の喉の奥にまで摩羅を押し込む。 絹のような手触りの黒髪を何度も撫で回し、時には指にからませて、秀雄は百合子の口内に射精した。
子供が親の愛情を確かめるために、わがままを言うように。 秀雄は百合子を抱きながら、何度も口汚く罵った。 お前など嫌いだ、淫売だ、と嘲って傷つく姿を見てようやく安心する。 次の週も、その次の週も、必ず碇国ホテルに来る百合子を見て、やはり愛しあっているのだと実感する。 百合子は秀雄が罵る度に、愛しているのは秀雄だけだと答える。秀雄はそれを否定してうそつきめと罵る。
しかし、百合子の腹が次第に大きくなるにつれて、秀雄はまだ見ぬ子供を恐ろしく思った。 あの男の子が憎い。しかし、その一方で百合子の血が流れているのだ。 百合子は、斯波と秀雄を比較して秀雄を愛しているという。 秀雄はその言葉を疑うふりをして百合子を罵り、その実その言葉に救われる。
だが、子供が産まれてしまったら、子供と秀雄を天秤にかけたらどちらに傾くだろうか。 愚かなことに、まだ産まれてもいない子供に秀雄は嫉妬しているのだ。 俺と、その子供と、どちらを愛しているのだ。と、秀雄は百合子に聞けないでいる。 自身の胎を痛めて産む子が憎いはずがない。 そして、その子供よりも秀雄の方を愛していると、答える百合子は秀雄の愛する百合子ではなかった。
自分はいつからこんなくだらない人間になってしまったのか。 子供の頃のような、きらきらとして美しい幸福感はもう二度と訪れないのだろうか。
百合子に外国に逃げようか、と言いかけた時ある思い出が蘇った。 昔飼っていたカナリアが、秀雄の不注意で鳥籠から逃げ出したのだ。 ちょうど巣引きをしている最中で、雛が生まれたら百合子にやると言っていたのだった。
黄色いカナリアは青い空に大きく羽ばたいて飛び去った。 あまりにも、百合子が悲しみ泣くので秀雄は慰めるように言ったのだ。
「悲しむ必要はない。その翼で自分の国に帰るはずだ」 「自分の国に?」 「そうだ、南の方の国で年中暖かく、生い茂る緑の葉や熟れた果実なんかがあるような」 「それでは、それでは仲間と一緒に元気に歌っているわね」 「ああ、勿論だ」 「行ってみたいわ、いつか――」 「その時は、俺がつれていってやる。約束だ」
どうせ外国に行くのなら、あのカナリアが帰った国に行こうと――秀雄は思った。 窓の外、雪が舞っている。 秀雄は百合子を抱きしめて、強く目を瞑った。
(うそつきだ) (俺はうそをついた――) (うそつきは堕落のはじまりだ――)
嘘には、いくつも種類がある。 他人を騙し、陥れる嘘。 大切な人を守るための嘘。
巣引きをしていたカナリアの雌は、死んだ。 環境に馴染めず、心労が溜まり、血が出るほど毛づくろいをして、狂ったように泣き叫び、鳥籠の中で死んだ。 雄のカナリアも、雌が死んだ後を追うように死んだ。 秀雄は二羽の死骸を庭の片隅に埋めた。
真実を告げれば、百合子が傷つき泣いてしまうと秀雄には分かっていた。 秀雄は、百合子に泣いて欲しくはなかった。傷ついて欲しくなかったのだ。 百合子のことを、好きだったから。
だから、秀雄は百合子に嘘をついた。
東京に雪が積もる。 いまごろはきっと、真っ白な美しい白骨になって二羽で寄り添っているのだろう。 魂は、故郷の青い空を飛んでいるのだろう、そして多くの仲間たちと一緒に歌を歌っているのだ。 狭い鳥籠を逃げ出したカナリアたちは、青い青い南の国の空に――。
秀雄は知らず涙を流した。
あの日の嘘は今も凍える土の下に眠る。
0 notes