【cocシナリオ】4.DA.05
人数:2〜3人(既存PCで遊べる)
シナリオの舞台:現代日本、推理系
推奨技能:目星、聞き耳、交渉系技能
準推奨技能:心理学、戦闘技能
時間:RPを楽しんで5時間ほど
美術館へ行くシナリオです。(詳しくは上の画像をご覧ください)
以下シナリオのネタバレがあります。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
読み:4.DA.05(ヨンディーエーゼロゴー)
「どんなシナリオ?」
探索者たちに高校生3人のうち「誰が犯人なのか」を突き止めてもらい、暴走した生徒を(物理で)止めてもらうシナリオです。調べていけば必ず犯人に行き着くのと、戦闘も難しくないのでシナリオの難易度は低いです。
▼タイトルの由来
4.DA.05とは、石英をシュツルンツ分類というもので表したときの名前です。シュツルンツ分類とは、ドイツの鉱物学者カール・フーゴ・シュツルンツが1941年に鉱物学表で著した、化学組成に基づく鉱物の分類法のこと。(Wikipediaより)
「シナリオ全体の流れ」
探索者たちが美術教師(描本)の依頼を受けて美術館へ行く。
部員と一緒に搬入作業をする。
12時半に鐘望(かねもち)高校の鵜財が刺される「殺人未遂事件」が起きる。
警察が探索者に事件の協力を申し出る。
一通り探索し、犯人である小瀬を突き止める。
小瀬と戦闘を「する/しない」でエンド分岐。
エンディング
「登場する神話生物」
「キーザ(知性を持つ結晶)」という旧支配者が出てきます。(マレモンp157.158)
「小瀬との戦闘時の注意点」
装甲を壊してから戦う
「水」と「塩」両方を小瀬にかけて、装甲を「0」にします。
この両方を使わなければ、小瀬の装甲が破壊されず、探索者の攻撃が入らないので注意してください。「水」と「塩」はミュージアムショップに売っているので、店員NPCからさりげなく購入するようにおすすめしてください。もちろん露骨におすすめしても良いです。私が回したときは、記念にみなさん買ってくれていました。買っていない場合、クライマックス前に買いに行かせるチャンスを作っても良いかと思います。
「シナリオ背景」
昨年10月、美術館に改装工事が行われ、玄関ホールに天窓が設置される。
昨年11月冬、展示物に混じって美術館で眠っていたキーザは、改装時に設置された天窓から差す太陽光で覚醒する。その頃、有村才一(ありむらさいいち)という男子高校生が美術館に訪れていた。彼は他校の鵜財という生徒に弱みを握られている。心労でまともに寝ていなかったためにふらついて、キーザの入った展示ケースにぶつかってしまう。有村の強い��の感情を察知したキーザは、触手を伸ばして彼に乗り移る(このとき一瞬発光している)。取り憑いたキーザは、11月から日差しが強くなる夏にかけて、有村の精神をゆっくり蝕んでいく。
初夏の6月にキーザによる影響力が強くなり、7月に侵食がピークに達する。取り付いたキーザは、有村の精神に「鵜財(うざい)を殺して楽になろう」と語りかけるが、有村は強く抵抗する。勝手に動く手を押さえつけて何度も切りつけた結果、大量の血を流して失血死する。有村は自殺することで周りに被害が出る事態を防いだ。自力で動くことができないキーザは有村の体内に残る。
連絡がつかなくなった有村を心配して、杉内と小瀬が有村の家を訪れる。中学の頃から仲の良かった杉内は、渡されていたスペアキーで鍵を開ける。荒れた部屋の中心で、血溜まりの中に倒れ込んだ有村を発見する。手首には何度も切りつけた痕があり、結晶化している部分もあった。
杉内は警察と救急に連絡を入れる。小瀬が有村の体をゆすったとき、有村の体から小瀬にキーザが乗り移る(乗り移ったときに発光している)。落ちていた有村の日記を読んだ杉内は、駆けつけた刑事に見せる。だが刑事はただの自殺だと判断して適当にあしらった。警察への信用を無くした杉内は、とっさに日記を現場から持ち去る。同時刻、小瀬はキーザを通して有村の負の感情を感じ取る。有村と鵜財の取引現場を目撃していた小瀬は、後輩を助けられなかった後悔の念でいっぱいだった。キーザによって負の感情は増幅し、「後輩を死に追いやった鵜財を殺し、有村の無念を晴らす」と今回の事件を起こす計画を立てる。探索者たちは8月にちょうどその現場に居合わせることになる。
「登場NPC」
三見高校(みつみ)(高校名は探索者に合わせて変更可)
描本 紙杏(かきもと しあん)
美術部教師。33才。
美術展当日に抜けられない用事ができたので、あろうことか探索者たちに美術部の付き添いを頼む。
(読まなくてもよいキャラ設定です)
芸術一家の長男。画家の妹がいる。人並み以上に画力もあり幼い頃から絵を描くことが好きだったが、画家として大成できるほどのセンスは持ち合わせていないのだと学生時代に悟る。画家にならずとも、自分と同じように悩む学生たちのサポートに回ることはできるという考えから美術部教師になる。
有村 才一(ありむら さいいち)
最初にキーザに乗り移られていた人。故人。見る人を惹きつけるような魅力のある作品を描いていた。家庭環境が悪く、一人暮らしをしていた。仕送りも最低限で画材を買うにも一苦労だったため、気の迷いで店の商品に手を出してしまい、その現場を鵜財に見られて弱みを握られる。キーザによって精神を病み、鵜財を殺してしまう前に自殺する。
小瀬 仁也(こせ ひとや)
美術部部長。3年生。背が小さい。今回の犯人。部員を家族のように想っている。鵜財と有村の取引現場を街中で目撃する。個人的な理由から問い詰めることはできず、部員の自殺を止められなかったことを激しく後悔する。その感情を察知したキーザが有村の遺体から乗り移る。
杉内 大城(すぎうち たいき)
2年生部員。背が高い。不器用。有村とは中学の頃からの仲で、一番の理解者。シナリオ中、鵜財を問いただそうと館内を探していたが見つけた時には刺されていた。今日のために作品に細工を施し、中に包丁を隠している。
織田 夏菜子(おだ かなこ)
副部長。3年生。穏やかな子。有村とは恋人同士だった。有村の絵に影響を受けているため、絵の雰囲気が似ている。事件が起きたときは庭園で有村を思い出して泣いている。
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鐘望高校(かねもち)
鵜財 八津緒(鵜財 やつお)
鐘望高校の美術部。2年生。有村の万引き現場を目撃して弱みを握る。格安で絵を買取り、有村の絵を自分の絵だと偽って周りの評価を得ていた。キーザに取り憑かれた小瀬に刺されて生死をさまよう。とっても嫌なやつ。
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旧支配者(個人的な解釈あり)
キーザ:知性を持つ結晶(マレモンp157.158)
このシナリオで扱うときの設定です。(個人的な解釈を含む)
太陽光が当たる場所でのみ活動する。
キーザの触手に触れられた部分は結晶に変えられてしまう。
取り憑いた人や傷つけた人の「負の感情」を増幅させる。
鉱物を媒介して、己の思考と影響力を送れる。
キーザに取り憑かれた小瀬は装甲を「15」持っています。そのため、本体にダメージを与えるには「装甲を壊してから」戦う必要があります。
「タイムスケジュール」
美術館でのNPC達の動きをタイムスケジュールで表わしたものです。上の画像が本当に起きていた出来事です。
「導入」
一人代表して描本と会話をしてもらう。(探索者全員に同じ連絡が来ています)この時点で、有村の事件から一ヶ月経っています。
8月上旬の金曜、知り合いの美術教師である描本紙杏(かきもと しあん)から着信が入る。
描本
「よお久しぶり!元気にしてたか?
いきなりで悪いんだけど、頼みたいことがあってさ。来週金曜日に東京郊外にある○○美術館で学生美術展があるんだが、そこで展示する作品の搬入と付き添いを頼みたいんだ」
「金曜日の午前中に搬入。
午後から審査員による作品の講評がある。土曜日に一般公開だから、金曜日のうちに準備と作品の講評まで終わらせるってことだな。
9時前には美術館に着くように向かってほしい。あと、午後まで作業があるから昼飯を持参してきてくれ!
一応駅の隣にコンビニがあるけど、美術館からはちょっと遠いから持ってきた方が楽だぞ」
探索者同士が知り合いでなければ、お互いの特徴が描本から伝えられる。
…美術部について知識
この学校の美術部に自殺した生徒が居た。名前は有村才一(ありむら さいいち)。
たびたび精神的に不安定な書き込みがSNSに投稿されていたという。
描本にその件について聞けば、
「知ってたのか。ニュースにもなってたしそりゃそうか。一ヶ月前に亡くなったんだけど、色々思い詰めてたのかな。自殺だったよ。
今日付き添い行けないのも、有村くん関係で片付いてない用事もあってさ。当日は迷惑かけちゃうけど、よろしく頼む」
「美術館に到着」
▼駅に寄る場合
駅の隣にはコンビニがあり、周りは見渡す限り田んぼか畑しかない。そこから徒歩で美術館へ到着すれば、20分ほどかかるだろう。
▼美術館に直接行く場合
車を止め、美術館前の広場へ向かう。朝と言っても真夏の8月。20分ほど歩いただけで既に汗がとまらない。じりじりと照りつける太陽を背に、探索者たちはアスファルトの上を歩いていく。美術館への門を通り石畳の道を進むと、美術館の広場に到着する。広場は美術展に参加する県内の高校生たちでいっぱいだ。
美術館に目星
…最近工事でもしたのだろうか。外壁の汚れなどもなく、とても綺麗であることがわかる。
あたりを見渡せば、正面入り口の前に目当ての高校の制服を着た美術部員達を見つける。探索者に気づいた三人の生徒が駆け寄ってくる。
小瀬
「もしかして、付き添いにきてくれた方々ですか?先生から話は聞いています。突然のことなのに引き受けてくださり、ありがとうございます!」
探索者たちにペコリと頭を下げる。物腰柔らかな話しやすい生徒で、黒いリュックを背負っている。
「僕は小瀬 仁也(こせ ひとや)です。3年生で、美術部の部長をしています。それでこちらが副部長で3年生の織田さんと、背の高い彼が2年生の杉内くんです」
織田は礼儀正しくぺこりとお辞儀をし、杉内は軽く会釈する。杉内は背が高く筋肉質だ。運動部に所属していそうな見た目をしており、白いエナメルバッグをかけている。織田は大人しい見た目の女子生徒で、小さめのショルダーバッグをかけている。
小瀬が探索者たちに説明をする。
小瀬
「今日は主に作品の搬入…展示物を運び入れて飾るまでをするのですが、中にはとても重たい彫刻とか、一人では持てないサイズの絵があるので、一緒に運ぶのを手伝っていただきたいんです」
探索者が了承してくれたところで目星
…小瀬の横で、杉内が遠くを睨みつけていることに気づく。目線の先を辿れば、富裕層が通うことで有名な鐘望(かねもち)高校の方を見ているようだ。どうかしたのか聞いても「別に。何でもない」と返され、何事もなかったかのように目線を外す。
その後、扉の奥に職員が現れ、正面入口の鍵を開ける。広場に集まった学生たちは職員の後に続いて吸い込まれるように館内へ入っていく。
職員が歩きながら説明をする。
職員
「大きな荷物は二階の休憩室へ置いてください。休憩室は広いので、みなさんでお使いいただけます。スマートフォンや財布などの貴重品は、一階にある鍵付きのロッカーへ入れるか、肌身離さず持っていてください」
「搬入」
荷物を置いた探索者たちは作品の搬入作業に入る。学生による美術展は2階で行われるそうだ。この美術館にはエレベーターがないため、階段を使って2階へ運んでいくという。
小瀬
「落としたり傷つけたりしないように、慎重にお願いします」
絵画か彫刻、探索者にどちらを持つか選んでもらう。
探索者が3名の場合は、絵画へ2名割り振ると良い。
【絵画を運ぶ】
大きな油絵。木枠が付いているためとても重い。丁寧に梱包されているため中の絵は見れないが、表の作品票に名前のみ書かれている。そこには「有村 才一(ありむら さいいち)」とあった。
疑問に思う探索者に気づいた小瀬が話しかけてくる。
小瀬
「有村くんは暇さえあれば絵を描いてた人でした。明るくて前向きな絵を描いていて、そのどれもが人を惹き付ける魅力のある作品でした。身近にすごい才能のある人がいたら描く気が起きなくなることもあるんですけど、彼の絵からは、僕も頑張らなくちゃ!って元気をもらえたんです」
「でも有村くんの最後の絵は…。見てもらった方が早いかもしれないです」
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【彫刻を運ぶ】
梱包材でよく見えないが、石膏でできた彫刻だとわかる。とても重いので、STR×3で判定を行う。
…成功
持ち上げたとき少しバランスを崩すが、しっかり支えることができた。前にいた杉内がじっとこちらを見ている。
声をかければ、
「いや、それ俺の作品なんで気になって。重いっすよね、すんません」
と探索者を気遣う。何事もなくすたすたと階段を登っていく。
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…失敗
指先が滑って階段の角に落としかけてしまう。が、間一髪で拾い上げることができた。探索者の慌てた声に気づいた杉内がすごい剣幕で振り返る。
杉内
「おいっ!!危ねえだろうが!!」
しかし、すぐにハッと我に帰ると
「俺の作品だからついカッとしちまった。…すんません、怪我とかないっすか」といって探索者を気遣う。)
杉内はバツが悪そうにすたすたと階段を登っていく。心理学を振ろうとしても、落としそうになった探索者達は動揺してできない。
「有村の絵」
絵画や彫刻が展示室へ次々に運び込まれ、所定の位置に飾られていく。絵画を運び込んだ探索者のもとに織田が近寄ってくる。(このとき、彫刻を運んできた探索者も合流する)
織田
「有村くんの作品飾るの手伝います。私はまだ見ていないから楽しみな��です」
梱包材を剥がしていく。織田の表情が曇る。
織田
「これが有村くんの絵…?」
絵画を確認すれば、それは真っ黒なキャンバスだった。執念深く塗り潰されていて、一体何を描いているのかわからない。見続けていると胸の奥がざわつくような、不安に駆られる絵だ。
0/1の正気度チェック
(有村の現場に行った小瀬と杉内はこの絵画を既に見ている)
「嫌な奴」
「なんだい?その絵は」
探索者の後ろから、突然声が掛かる。振り返れば、鐘望高校の制服を着ている男子生徒だった。彼は有村の絵をしげしげと眺めた後、小馬鹿にしたように口の端を歪めてこちらに喋りかけてくる。
鵜財 八津緒(うざい やつお)
「その作品、最後の作品にしてはずいぶんと暗いんだねえ!自分の才能の無さに絶望したのかなあ…。僕の真似しかできない、彼の無能さがよく表れてるよねえ。
(探索者の方をじろりと見て)見ない顔ですけど、あなた方は?
(返事を待って)…へえ、そうなんですねえ。こんなに大事な美術展に、顧問が不在だって!笑っちゃうね!部外者に全部丸投げってさ。
(織田を見て)もしかして君たち、先生に大切にされてないんじゃない?」
まあいいや。今日の最優秀賞は僕の絵で決まりだよ。誰が見ても、やっぱり僕の絵が一番だからね。優秀な先生方が平等に審査してくれるよ」
高笑いしながら持ち場へ帰っていく。
〜〜
織田
「あいつは鐘望高校の鵜財。相手にしないほうがいいです。有村くんに特に突っかかってきてた面倒くさい奴なの。あれだけ人間性に問題あるのに、作品の方は世界観も技術力もすごいんですよね…。お父さんが審査員だからって調子に乗ってるとしか思えないわ」
鵜財の作品を見ると、絵を描かない人が見ても上手いと思うだろう。人を引き付ける魅力があるようで、通りがかる人は皆絵を見上げて感嘆の声を漏らしている。
「作品の印象」
作品も定位置に置き、搬入が一段落する。少し時間ができ、4人の作品を見ることができる。絵について詳しく見るには、目星または芸術系技能を振る。
(有村・杉内・小瀬・織田)
▼有村の作品
黒く塗り潰されて何が描いて��るかわからない。
目星
…塗りが甘い部分を見つける。暗い絵の下にうっすらと別系統の色が見える。塗りつぶされた下に別の絵があるのではないかと思う。
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▼杉内の作品
手の石膏像。
目星
…よく見ると荒い作りだ。作り手の努力が見て取れる作品。手の形や大きさから、おそらく杉内自身の手をモデルに作られたのだろう。
「まだ勉強中なんす。オレ、絵が壊滅的に下手だったんで、先輩や有村に立体で作品つくってみたらどうかってアドバイスもらってから彫刻を学んでるんです。最近やっと楽しさがわかってきたっていうか」
心理学
…作品に自信がないのか、あまり見て欲しくないように感じる。
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▼小瀬の作品
人物と建物が描かれた油絵。
目星
…部長というだけあって絵の完成度が高い。デッサンは正確で狂いがなく、物体が細部まで描かれていることで絵に説得力が出ている。そして、絵画からどこか悲しい印象を受ける。
「もうすぐ卒業で、美術部のみんなとお別れだと思い始めたら寂しくなってしまって。それが作品にも現れちゃったんですかね」
心理学
…他にも理由があるのではないかと感じる。
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▼織田の作品
動物モチーフの可愛らしい油絵。
目星
…鵜財の絵とどこか似たものを感じる。
鵜財と似ていると言われれば、織田に
「そんな!!あいつと似てるなんて嫌です!」と返される。
鵜財を相当嫌っているようだ。
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作品を見終わると、お昼ご飯を食べに休憩室へ移動する。
「昼休憩」
時刻は12時。講評は13時半なのでまだ時間に余裕がある。みんながお弁当を広げ始めると、小瀬が立ち上がる。
小瀬
「お昼忘れちゃったからコンビニまで行ってくるね。何か欲しいものあったらお使いします。溶けそうなやつは無しだよ」
…車で送るよと探索者に言われた場合、
「無理して来ていただいたのに、そこまでお願いするのは申し訳ないです。コンビニまで歩いて片道15分くらいですし、走って行ってくるので大丈夫ですよ!」と断る。
※事前に買ってきた物しか出せないので、用意できていないお菓子以外のものを要求されたら「売り切れてた・忘れてた」と嘘をつく
小瀬は荷物を背負って休憩室を出て行く。(この後、有村のスマホを使って鵜財を呼び出す)
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続いて、織田と杉内も順番に休憩室から出ていく
織田が急に立ち上がり
「緊張をほぐすために外の空気吸ってきます…」とふらふらと出ていく。
さらに杉内が立ち上がり、
「腹痛いんでちょっとトイレ行ってきます」と出て行く。
3人とも荷物を持って出て行ってしまう。
探索者がついていこうとしても姿が見えなくなってる。
聞き耳(3人が休憩室を出た後)
…遠くの方で着信音が聞こえる。音のした方を見ると、鵜財がスマホを凝視している。恐ろしいものでも見るような引きつった表情だ。
鵜財は慌てて休憩室から出ていく。
(有村のスマホからメッセージが来ていた。鵜財を誘き出すために、有村のスマホから小瀬が送信している)
「うわさ話」
隣で他の部員がお弁当を食べながら何やら噂話しをしている。
「あれ見たかったのにまだ見つかってないんだね」
「ね、もう闇市場とかで売られちゃったりしてるのかな」
【他の部員から聞けること】
噂話をしている部員…2年生2人と話す。
・水晶について
…11月に盗難事件があった。普段は常設展示で玄関ホールに置かれていたらしい。犯人はまだ見つかっていない。
・有村について
…とても絵が上手で優しい先輩だった。
だが一部で、「鐘望高校の鵜財の絵を真似しているのではないか」という噂が立っていた。誰もそのことを口に出さなかったが、色使いや表現がとてもよく似ていたという。
・有村の自殺の原因について
…知らない。だけど11月あたりから元気がないように見えた。部活も休みがちになっていき、6月ごろ急に体調をくずしていた。それからは学校や部活に顔を出さず家で制作していたらしい。
話を聞き終えると出て行った3人がバタバタと休憩室に帰ってくるが、なぜかそれぞれ顔色が悪い。小瀬は部員に頼まれたお菓子を配っている。
そうしていると、突然展示室の方から大人の男性の叫び声が聞こえる。
「事件発生」
声のした方に駆けつけると、そこは展示会で使われていないはずの展示室6だ。入り口の周りには人だかりができていて、その奥には中年男性が尻餅をついている。全員の視線は部屋の中央に釘付けになっている。
中年男性
「や、八津緒…!!!」
展示室6の天井につけられた小さな窓から真昼の光が部屋全体に差し込んでいる。その光の下では、鵜財が無惨な姿で横たわっていた。胸部が赤く染まり、流れ出た血があたりの床を赤く染めている。凄惨な現場を見た探索者は
1/1d4+1 の正気度チェック
近づく
…微かに息をしていることがわかる。すぐに治療を受ければ助かるかもしれない。
探索者達は、警察が到着するまで現場を調べられる。
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【鵜財】
目星
…胸部に刺し傷がある。家庭で使うような包丁くらいの大きさの傷だ。しかし、刺されたにしては血の量が少ないと感じる。そう思うのと同時に不思議なことに気づく。流れ出た血液と傷口の肉が、煙がかった透明感のある六角柱状の結晶に変化していた。
明らかにおかしい現象に 0/1 の正気度チェック
【周辺】
目星
…凶器らしいものは見つけられない。制服のポケットから鵜財の端末を発見する。不用心なのかパスワードはかかっていない。開くと、死んだはずの有村からメッセージが届いている。
『展示室6に来い』
これより以前のメッセージはない。削除したような形跡が見られる。
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【中年の男性】
話を聞けば、この美術館の館長で鵜財の父親だという。
中年男性
「先生方とお昼を食べてから生徒達の作品を見てまわっていたんです。使われていない部屋も確認のために一応まわっていました。そうしたら息子がここで倒れていて…!」
「警察」
「みなさん!この美術館からは一歩も出ないでください!!」
どたどたと警察と救急が駆けつけ現場に入ってくる。鵜財は救急に運び出され、警察が現場を調べ始める。探索者たちは展示室6の前で事情を聞かれる。探索者のアリバイについては、休憩室にいた部員と話していたこともあり証明される。
目隠警部
「君たちは学生じゃないようだが、どうしてここに?関係者かい?」
(探索者達の事情を聞いた後)
すると、展示室にいた警察官や鑑識が一斉に飛び出してくる。目の前を走り去って行く彼らは、皆慌て��いたりや不安そうな顔をしている者ばかりだった。
※現場を詳しく調べられないように、キーザに取り憑かれている小瀬が結晶に触った警察官たちの感情をコントロールして部屋から追い出している描写です。
目隠警部
「な、なんだ!?一体どうしたね君たち!」
遅れて展示室から出てきた警察官が目隠警部に事情を説明する。
警察官
「け、警部ーっ!!!部下も鑑識も、急にみんな居なくなってしまいました…!外に干した洗濯物が飛んでいっていないか心配だとか、不気味で怖いから帰るって言ってるやつもいて…!捜査に人手が足りません!!」
目隠
「何だと~~!?お前たちそれでも警察官か!!!」
突然警官が「ううっ!」と頭を抱えた後、
「私も…私もなんだか家の鍵をかけてきたか心配で気が気じゃないので、帰らせていただきます警部!!」
と、許可も得ず走り去っていく。
※遅れて、この警察官もキーザに遠隔で操られています
現場を調べていた警察官は一斉にいなくなってしまい、目隠だけが残されてしまった。
〜しばし沈黙〜
目隠警部が探索者をじっと見て、何かを感じ取ったのか一人で頷いている。彼はコホンと一つ咳払いをすると、探索者に告げる。
目隠警部
「どういうわけか、私以外の警察がみんないなくなってしまった。このままでは捜査するにも人手が足りん。
…私は昔から人を見る目だけはあるのだが、君たちからは困難に立ち向かっていくようなアツい眼差しを感じる。
ぜひとも、この事件の犯人を暴いてほしい。協力してくれるだろうか」
【目隠警部から聞けること】
☆鵜財について
「犯行時刻は12時から12時半の間。つい先ほど刺されたようだ。鋭い刃物が凶器だろう」
傷口の結晶について話すと、次のように返ってくる。
「不可解な現象だったのでこの情報は一部の関係者しか知らないが、自殺した有村くんの傷口にも、このような結晶ができていたんだよ」
☆有村の事件について
・有村死体の第一発見者は?
「前任からの引き継ぎがうまく行っておらず名前がすぐに出てこない。申し訳ないが、追って連絡する」
※第一発見者は小瀬と杉内です。
序盤から犯人の目星がつかないように
後から情報を出してください。
・ほんとに自殺?
「カッターナイフで手首を切ったことによる失血死。SNSには去年の11月頃から『不安でたまらない、どうしたらいいのかわからない』といった書き込みもあり、精神的に不安定だったようだ」
「現場はめちゃくちゃで、部屋の物が散���していた。財布などの貴重品は残っており、盗まれた形跡がなかったことから、有村君自身が暴れたあとだと思われる。事件性が見られないことから、自殺だと判断された」
「それと、有村は軽い日焼けをしていた。窓辺に置いてあった物が日焼けしていたことから、長い間カーテンが開きっぱなしで生活していたと思われる」
※キーザの動力源は太陽光だというヒント
最後に付け加える
「役に立つかわからんが、鑑識が置いて行ったこいつも持っていくと良い」
…ルミノール判定試薬が入ったスプレーをもらう。
(血液が付着していればその箇所が暗闇で光るというもの。)
※後に出てくる杉内の包丁が、事件に使われた物でないと判断するためのもの。実際の凶器は小瀬から出たキーザの触手のため、シナリオ内で反応が出る物は無い
「聞き込み」
アリバイのとれていない3人が犯行時刻にどこにいたのか話していく。
小瀬
「コンビニまでお菓子を買いに行っていました。頼まれたものならすでに部員のみんなに渡しています。急いでいたのでレシートはありませんが…」
杉内
「この美術館ぼろいんで、1階の綺麗なトイレに行ってました。腹が痛かったんでかなり長いトイレになっちゃいましたけど」
織田
「午後の講評のことを考えたら緊張して、いてもたってもいられなかったので、外の空気を吸いに行っていました」
以下の6箇所を探索できる
庭園 / 休憩室 / 玄関ホール
ミュージアムショップ / 展示室1
展示室6の前(学生3人・目隠と話をする場所)
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探索者が行く場所を決めた後で
聞き耳
…窓の外でぽちゃんという音が聞こえた。
(小瀬がみんなの目を盗んで庭園の池に有村の携帯とロッカーの鍵を投げた音)
「庭園」
最初に集まった広場を出て左にまわると、そこには小さな庭園がある。綺麗に剪定された木々に囲まれた池には何匹もの鯉がスイスイ泳いでいる。休館日でも散歩に訪れる人もちらほら見える。
その中で気になる人影を発見する。そこには身を乗り出して池を見つめている子どもと、それを止めようと引っ張っている母親がいる。
母「危ないし汚いからやめなさい!」
子「だってあそこらへんになんかあるもん!」
(探索者が声をかける)
母「この子が池に入ろうとするんですよ」
子「さっき、キラキラしたなんかがあそこから落ちてきてポチャンってなったんだよ」
「あそこの窓からだよ」
子どもが指を指した先を確認すれば、先ほど自分たちがいた展示室6の前だ。
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子供に物が落ちた先を教えてもらうと、横切っていく鯉たちの間に光る物が見える。しかし、池のふちから3mほど先にあるため、ここからだと腕を伸ばすだけでは届かない。
▼池にある物を自由な発想で取ってもらう。
(例)
池にそのまま入って行って取る
周辺に幸運をし、網を見つけて取る
館内のトイレからモップを持ってきて取る
芸術:投げ縄を振って取る
どうにかして取る
…光るものを2つ拾い上げる。
①濡れたスマートフォン
電源は入らない。(美術部のみんなに見てもらえば有村のものだとわかる)
②小さな鍵
「056」と書かれたプレートがついている。→「ロッカー」が探索可能になる
子「なにそれ、キラキラの玉かと思ったけど違うのかあ。いらね〜。お兄さん(お姉さん)たちにあげるよ」
▼親から聞ける情報
(織田のこと。亡くなった恋人である有村のことを思い出して泣いている)
「休憩室(荷物を調べる)」
休憩室の荷物を調べる。判定無しで気になるものを見つけられる。
白いエナメル、黒のリュックサック、ショルダーバッグ
▼白いエナメルバッグ
…定規サイズのL字に曲がった「金属製の薄い板」が見つかる。使用方法は不明
▼黒のリュックサック
…ノートが見つかる。内容は、講評で言われた作品の良いところ・改善点などが忘れないようにメモ書きされている。その他、美術部の活動記録から部員の悩み相談まで書かれている。部員を非常に大切に想っていることがわかる。
リュックサックにアイデア
…朝見たときよりもリュックの膨らみが小さい。荷物が少なくなったのではないかと思う。
▼ショルダーバッグ
…気になるものが2つ見つかる。
①塩アメが入っている。熱中症対策だろうか。
②有村と織田の写真。背景は観光地のようで、二人の距離は近く親しげに写っている。服装を見れば春先くらい
(今年の春に撮った写真。デートで撮ったもの)
「玄関ホール」
搬入のためにすぐ二階へ上がったので、詳しくは見ていない。受付には女性と、少し離れたところにカラの展示ケースがある。
▼玄関ホールを見渡す
…吹き抜けのさらに上にある天窓から午後の光が差している。天窓は最近取り付けたもののように綺麗だ。そこから差し込む太陽の光が、カラの展示ケースに当たっている。
▼カラの展示ケース
…上部の空いた、大きめの展示ケースだ。作品説明を読むと「スモーキークォーツ」という結晶が飾ってあったことがわかる。前代の館長が一般の方から寄贈されたものを気に入り、それからずっと展示していたようだ。
▼「スモーキークォーツ」について知識
…水晶の一種。色彩は茶色や黒色をしており、煙がかっている。また、パワーストーンとしても有名な物だ。それを踏まえてネットで検索すれば、詳しい情報が出そうだと思う。
調べる
…以下のような情報が得られる。
パワーストーンは数多くの人の元を訪れており、その過程で様々な気を浴びているので定期的な浄化が必要。浄化をすると、石の持つ力はより強力になる。
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スモーキークォーツの効果
・精神の安定
・恐怖や不安の解消
・マイナスエネルギーをポジティブエネルギーに変換
スモーキークォーツの浄化方法
[ 効果的な方法 ]
・水をかける
・塩をかける
[ 劣化してしまう方法 ]
・太陽光をあてる
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※キーザの効果はパワーストーンとは真逆。そのため、キーザに効果的なのは水・塩。
▼受付の女性
女性は俯いたまま視線を机の下に向けている。近づいてみればスマートフォンでゲームをしているようだ。話しかけると手で端末を隠しつつ、ばつが悪そうに対応する。受付の内側には小さなモニターがあり、そこから防犯カメラの映像が流れている。
・犯行時刻、誰か外に出て行った?
「今日は搬入で一般の人は入れないから、注意深く見てなかったわ。防犯カメラを見ればわかるかもしれませんけど…」
探索者が警察の手伝いをしていると伝えれば、防犯カメラの映像を見せてくれる。
▼防犯カメラ
…正面入り口に設置された一台のみ動いている。犯行時間、織田だけが外に出ているのが確認できる。美術館にお金がないため、他の監視カメラはダミーだという。
【以下、職員から聞ける情報】
・盗まれた作品ってどんなやつ?
…色彩は茶色みがかった黒色で、縦横50cmくらいの大きさ。この大きさではバレずに持ち帰るのは難しそうだ。
・盗まれた時の状況は?
…盗まれたのは11月。特にあやしい人物は写っていなかった。だが、一瞬だけ防犯カメラの映像が強い光で見えなくなる瞬間があった。
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※キーザが有村に乗り移ったときの光。その際、自身の大きさを変えて小さくなっているので、周りからは水晶が忽然と消えたように見える。
・美術館について
「10月に美術館の改装工事をしたの。通常なら、作品の保護のために人工照明をよく使うんだけど、玄関ホールにも自然な光を取り入れようって話が出てね。そのとき玄関ホールの天井にも天窓をつけたのよ」
・なぜ天窓の下に水晶を置いたのか
「通常なら水晶に太陽光なんで浴びせたら良くないのだけど、移動中にうっかり太陽の光を当ててしまったときがあってね。そうしたらなんと結晶の輝きが増した気がしたのよ。太陽光で輝く姿がとても美しいからって、あえて天窓の下に置くことにしたの」
その結晶を見に訪れるお客さんが押し寄せるぐらいには好評だったわよ。盗難にあってからはそんなこともないけどね」
・職員に起こった話
「去年の冬に友達と海外に行く予定だったんだけど、私ってばドタキャンしちゃったのよね。飛行機が墜落するかもって急に不安になっちゃって。今は大丈夫なんだけど」
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※���性化したキーザの近くにずっといたため、影響を受けてマイナス思考になっていた。キーザが消えてからは元通り。
「ミュージアムショップ」
レジには暇そうにしている店員がいる。ずっと暇をしており窓の外を見ていたので、この店員から情報を引き出すことはできない。
バイト
「本当は休みなんですけど、今日は学生向けに開けてるんです。警察の人が出て行ったり騒がしかったですけど、上で何かあったんですか?
(探索者の話を聞いて)
それは大変そうですね、警察のお手伝いか…。まあでもせ��かくなので、何かお土産に買っていくのはどうですか!?」
商品を見れば、美術作品をグッズに落とし込んだものや、芸術家と地域の特産品とコラボしたパッケージの商品などが売っている。
▼ミュージアムショップの商品
・美術館オリジナルウォーター(500ml)…150円
・絵はがき…110円
・海の塩…500円
・手鏡…500円
・びじゅつかんちゃんキーホルダー…750円
・美術館オリジナルトートバック…1500円
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※商品の解説
水・塩
…戦闘時に装甲を剥がすために両方必要です。NPCからぜひおすすめしてください。
手鏡
…太陽光をこれで当てたりすると、小瀬による攻撃のダメージが倍になってしまう。買わなくて良いものです。
びじゅつかんちゃんキーホルダー
…白い長方形のぬいぐるみに、素朴な笑顔がついたもの。あまり売れない。
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「ロッカー」
細長いスペースにあるロッカー。突き当たりの小さな窓から光が差している。
詳しく調べるには、「池で拾った鍵」が必要となる。
056の扉を開けると、ロッカーに押し込まれた黒い手提げ袋がある。引っ張り出せばとても軽い。中身を確認すると、入っていたのは大量のお菓子だった。スナック菓子やガム、飴、おつまみまで様々。
お菓子の山に目星
…お菓子の山の中にくしゃくしゃになったレシートを見つける。広げれば驚くほどに長いレシートが出てくる。購入した日付は一ヶ月前で、散らばっているお菓子の品名がズラリと並んでいる。
お菓子にアイデア
…チョコ系の溶けそうなものはない。
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※小瀬がアリバイ作りのために用意したお菓子。コンビニに行かなくてもいいように大量に買っている。手提げ袋の中には大量のお菓子の他に、キーザ本体の欠片も入っている。
お菓子が見つかった時を考えて、あらかじめ手提げ袋に忍ばせているもの。
〜水晶の欠片イベント〜
探索を終え、次の探索箇所が決まり次第イベントを起こしてください。
調べ終えたところで、背後でコロンという音がする。振り返ってみると、小さな結晶の欠片が落ちていた。突き当たりの小窓から午後の光が差し込んで、透き通った水晶はうっすらと輝いている。
よく見る
外の光で照らされているだけでなく、結晶の内側からも光っていることに気づく。結晶自ら光るなんて聞いたことがない。
そう思った瞬間、欠片からキチキチと石同士が擦れる音がする。探索者が危険を感じた瞬間、細長い霜のような形の鋭い触手が
勢い良く探索者に向かって伸びてきた。
DEX×5 または 回避
▼成功
ロッカーの入り口まで逃げると、触手の動きが途端に鈍くなる。雲で日差しが遮られたのだろうか、結晶のある場所が日陰になっている。シュルシュルと触手を引っ込めるとそのまま沈黙する。
これを見た探索者は、不可解な現象に1/1d5 の正気度チェック
次の探索場所へ
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▼失敗
逃げ切れず、触手からの攻撃を受ける。
①触手が1d7の場所に巻きつく
【目、胸、右腕、左腕、腹、右足、左足】
触手に傷つけられた箇所が凍りつくように煙がかった黒い鉱物組織へと変わっていく。
これを見た探索者は不可解な現象に1/1d5 の正気度チェック
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※一時的狂気に陥った場合は以下の狂気に陥る。
「極度のマイナス思考になる or 小さい悩みや不安に思っている気持ちが増幅する」
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ロッカーの入り口まで逃げると、触手の動きが途端に鈍くなる。
雲で日差しが遮られたのだろうか、結晶のある場所が日陰になっている。シュルシュルと触手を引っ込めるとそのまま沈黙してしまう。
▼結晶ができた箇所に塩/水をかけてみる
内側の光が弱まっていく。しかし結晶自体は消えることはない。
※効いてはいるが、本体である小瀬を倒さない限り探索者の結晶は消えない
「展示室1」
探索者たちが手伝った三見高校の作品が展示してある部屋。搬入の時は梱包材に包まれていたのと急いで設置していたので、作品を触ってみたり注意深く見ることはしなかった。
作品全体に目星
…杉内の彫刻が気になる。ぐるりと回してみれば、石膏像の底に細長いすき間がある。
専用の何かを差し込んで引っ掛ければ開きそうだ。
金属の板を使う
…石膏像の中は空洞になっており、そこに新聞紙で包まれた何かが入っている。
取り出すと包丁が入っている。
包丁にスプレーを吹きかける
…ルミノール判定試薬が入ったスプレーを吹きかけ、暗所で見てみるが特に反応はない。(犯行に使われたものではないとわかる)
「展示室6(殺害未遂現場)」
展示室の前には警察と学生3名がいる。各々と話ができる。
※犯人である小瀬が、杉内や織田よりも早く聞きこみされた場合は少し会話をしたあと、核心に迫られるより前に「少し休ませてください」など言い訳をして、他のNPCに聞き込みするよう促してください。
▼織田
・鵜財と絵が似ている気がするけど…
「あいつとですか!?私はあんな人の絵を真似したりしません!」
・誰かの絵を参考にしているのか?
「尊敬していたのは有村くんですね。彼には基礎的なことから、どうしたら良い絵になるのかなどたくさん教えてもらいました。でも、彼の真似をするのではなくて自分なりに落とし込んで描いています」
・写真を見たけど、有村とどういう関係だったのか?
…驚いた表情を見せると、照れた表情で話し出す。
「有村くんとは恋人でした。みんなに知られると恥ずかしいので、このことは誰にも話していません。でも突然有村くんが死んじゃって、一ヶ月経っても気持ちの整理がつかなくてどうしようもなかったから、犯行時刻は庭園に行って誰にも見られないように木の下で泣いていました」
「その写真は、今年の春に遊んだ時に撮ったものです。少しでも元気になるかなと思って…。何に悩んでいるのか聞いたのですが、教えてくれることはありませんでした」
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▼杉内
・有村について
「中学校からの付き合いだった。俺がやりたいことなくて部活迷ってたら、あいつが一緒に美術部でもどうだって誘ってくれたんだよ。俺自身絵は下手くそだったけど、先輩たちにアドバイスもらって彫刻に挑戦したりできた。有村のお���げで高校生活楽しく過ごせてたんだ」
ナイフの話を杉内に振られたら以下のイベントが起きる
〜杉内のナイフイベント〜
「俺は鵜財をやってない!…だけど」
目隠警部の様子を伺っている。どうやら探索者たちだけに話したいらしい。
「警察の捜査は適当だから、あの警部には話したくねえんだ。…あんたたちは信用できるのか?」
話していいものか警戒しているようだ。
交渉系技能に成功
…杉内の鋭い視線が和らぐ。
「包丁は俺が用意した。だけど本当に殺してなんかいない。鵜財を脅して、話を聞こうとしたんだ。でも見つけたときには誰かにやられてた。
それと…あいつの傷口にもよくわかんねえ結晶ってのがあったんだろ?有村のと一緒だ」
「俺、有村を見つけた第一発見者なんだよ。連絡が取れなくて心配したから、小瀬先輩と見に行ったんだ。そしたらあいつ手首切って死んでて…」
「あんたたちに見せたいものがある。有村の部屋で見つけた日記だ。あんたたちなら、ここに書かれている話を信じてくれるかもしれない」
そう言って、後ろのポケットから小さめの手帳を取り出す。
有村の日記を公開する
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有村の日記
「昨年9月
また賞を逃した。
今回は自信があっただけに残念だ。でも賞をもらえない理由はわかっている。全て自分のせいだ。思いつめないでおこう。
10月
鵜財へ作品を渡しに行った。代わりに金を貰う。これで何度目だろうか。
金が無く、気の迷いで画材を万引きしたところを鵜財に見つかってからこの取引を持ちかけられた。
弱みを握られているから仕方がないとは言え、金のために絵を鵜財に売っていることは杉内にも部活のみんなにも絶対知られたくない。
この生活を続けて良いことはないなんて自分でもわかっている。でもこれ以外に手っ取り早く稼ぐ方法なんてない。
もし置かれた環境が違ったなら、まともに生きていけたんだろうか。
渡してしまった作品も、
いつか自分の名前で出してみたい。
大学の学費を稼ぐまで我慢だ。
11月
気分転換に美術館へ行ってきた。
展示物が飾ってあるケースにぶつかってしまったのでヒヤリとした。帰る頃に美術館が騒がしくなっていたけど、何かあったんだろうか。
ひどい夢を見た。鵜財を殺す夢だ。
交わした会話や刺した感触がとてもリアルな夢だった。先輩たちや杉内に話すわけにもいかないので、黙っておく。
(日付が空いて)
6月
あんなに好きだった絵が思い通りに描けない。美術展が来月に差し迫っているというのに。先月から悪夢を見る回数が増えつつある。全て鵜財を殺す夢だ。頭がおかしくなる。悩みの元凶を殺せと命令されているみたいだ。殺して解決だなんて冗談じゃない。
最近は窓からの強い日差しで目が覚める。
そういえば、いつカーテンを開けたんだろう。覚えがない。
7月(自殺する前日)
あいつをころしてしまう
そうなるまえにぼくがぼくをころさないと���
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・なぜ警察に見せなかったのか?
「俺はこの日記を読んで、有村は自殺なんかじゃない。
何か別の物が有村の中にいたんじゃないかって思った。だからすぐに刑事にこれを読ませたんだ。
でもその刑事、最低な奴でさ…
『芸術家ってのはみんなどっかおかしいもんだろ。こいつも精神的におかしくなって壊れちまったんだよ』って言って全く相手にしてくれなかった。だから日記はとっさに隠して持ち帰った。
有村は中学の頃に両親を亡くして遠い親戚に引き取られたけど、そいつらは有村の養育費目当てだった。ずっとほったらかしにされて、今まで一人暮らしをしてたんだ。
有村は気楽でいいって言ってたけど、鵜財と取引して金を作ってたなんて知らなかった。
昔から一緒にいたのに、俺は気づいてやれなかったんだ」
杉内は最後に付け加える
「小瀬先輩が有村の体を揺すったときに、一瞬部屋が光った気がした。ちゃんと見ていたわけじゃないから見間違いかもしれないけど」
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▼小瀬
・ノートについて聞く
「部員のみんなが楽しく活動できるように配慮するのも部長の役目なので、ああやってまとめているんです。有村くんが苦しんでいたことには気づいていたのですが、深く問い詰めるのは逆効果だと思って聞き出せませんでした。でも今は、もっと話を聞いておけば良かったと本当に後悔しています」
心理学
…本当のことを言っていると思う。
・リュックの中に大量のお菓子を入れていたんじゃないか?
「そんなお菓子僕は知らないです。リュックの中には、搬入で必要な道具などを入れていたんです」
心理学
…嘘をついているように思う。
・正面入り口の防犯カメラに映っていなかったよ
「僕はこの通り背が低いので、大きな人に隠れてしまって見えなかっただけだと思います」
心理学
…嘘をついているように思う。
反論に苦しくなってきたら、「犯人の特定」へと移ってください。
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「犯人の特定」
探索者が犯人を特定した後、1つだけ行動ができます。
小瀬に塩/水をかける
突然のことに小瀬は呆然として水・塩を浴びると、胸を押さえて苦しみだす。
しかし、一瞬の隙をついて探索者達の間を抜けて廊下のさらに奥にある、空き部屋になっている「展示室5」へと駆け込んで行く。
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※戦闘前に装甲を壊せるチャンスになります。
ここで「水または塩をかける」と、装甲値が半分削れるので残り「7」。
それ以外の行動をとった場合、装甲値は「15」のまま進めてください。
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「展示室5」
探索者達が小瀬を追いかけると、その展示室には大きな窓がありそこからオレンジ色の夕日が差し込んでいる。逆光で照らされた小瀬が振り返れば、肩口から何かが勢いよく伸びる。
それは霜のような触手で壁や床を傷つけると、黒い結晶が凍りつくように広がって部屋の入り口を塞いでしまった。探索者達の後を追いかけてきた警察も足止めされてしまい、部屋には小瀬と探索者達だけが残されている。
小瀬がぽつりと話し始める。
小瀬
「去年の冬、学校の帰り道に有村くんが鵜財に絵を渡してるのを見たんだ。
その後、鵜財が財布からお金を抜き取って、有村くんに渡しているのも見た。
その現場を見て、鵜財の絵は有村くんが描いたものだって確信したんだ。
だって鵜財と有村くんの絵は、違うものを描いていても絵の共通点があまりにも多かったから。
でも僕は有村くんを問い詰められなかった。
もし二人のやり取りを先生に伝えてしまったら、美術館館長が父親の鵜財によって、僕の絵が正当に評価されなくなってしまうと思ったから。
だけど有村くんの死体を目の前にして、後悔しか残らなかった。
あのとき相談に乗っていれば、僕が保身に走らなければ、有村くんは死ななかったかもしれない。
有村くんに触れて気づいたんだ。
全部鵜財くんが悪い、彼を殺せば有村くんも報われる。僕にできることは鵜財くんを殺すこと、それしかないってわかったんだ」
-----------------------------------------------------
暑い夏の日だというのに、小瀬の吐く息が次第に白くなる。小瀬が呻き体を抱え込むと、露出した肌から凍りつくようにピキピキと黒色の透明な結晶が咲き始める。
知性を持つ結晶体に取り憑かれた人を見た探索者は1d2/1d8 の正気度チェック
小瀬
「ここで見逃してくれたら探索者に危害は加えません」
- 見逃す -
「Bのエンディング」へ移ってください
- 見逃さない -
戦闘に入る。
戦闘終了条件は小瀬を戦闘不能にすること。
【塩か水をかけていた場合の描写】
小瀬の肌を見れば、塩/水をかけられた部分が爛れている。ぜえぜえと息を吐き苦しみながら探索者たちを睨みつける。
装甲値「7」からスタート。
※水を買っていない場合、展示室5に目星をして、スプリンクラーを見つけても良いです。投擲で壊したり、煙を出してスプリンクラーを反応させ、部屋に雨を降らせるなどしても大丈夫です。
------------------------------------------------------
小瀬 人也(こせ ひとや)
DEX:11
CON:11
SIZ:10
HP:11
攻撃方法(2種類)
○触手 45% 1d3のダメージ
…霜のような触手が伸びて切り裂いてくる。
切られた箇所は結晶化する。
○押しつぶし 30% 1d4のダメージ
…固い触手を振り上げて殴りつけてくる。
------------------------------------------------------
▼小瀬に勝つ
口から黒みがかった透明の水晶を吐き出して倒れる。探索者の結晶化した部分から輝きが失せ、ゆっくりと煙になって霧散していく。
結晶のあった部分はしもやけのように赤い痕が残っていた。
入り口を塞いでいた結晶も煙になって消滅すれば、向こう側にいた警察と救急隊員が駆けつけてくる。そのまま探索者達は病院へと運ばれていく。
…Aのエンディングへ
▼小瀬に負ける(探索者が戦闘不能になる・見逃す)
小瀬は探索者を一瞥した後、展示室の窓を割って飛び降りた。探索者たちが窓の下を確認しても、そこに小瀬の姿は無かった��
入り口の結晶が急にガラガラと崩れ、向こう側にいた警察と救急隊員が押し寄せてくる。
そのまま探索者達は病院へと運ばれていく。
…Bのエンディングへ
「Aのエンディング」
病院に運ばれた探索者たちは治療を受ける。
体にできた結晶は全て消え失せ、しもやけのような赤い痕が残っていた。医者からは、その傷も数日すれば綺麗に消えるだろうと診断される。
後日、探索者達は事の経緯を説明しに警察署へ訪れていた。警察からも以下のような情報が伝えられる。警察の中に科学や常識では説明できない奇妙な事件を取り扱う組織があるらしく、そこが小瀬の精神に干渉した謎の結晶について調べているらしい。
小瀬の犯行については、情状酌量の余地があると見て捜査が進められるそうだ。
長い拘束から解放され、警察署の正面入り口を出たとき、探索者のうちの一人に電話がかかってくる。
電話口から聞こえる声は描本だった。
描本
「変な事件に巻き込んじまって、本当に申し訳なかった。体調の方は大丈夫か!?」
(会話した後)
「そうだったのか…。ああ、今日電話した理由は他にもあって、お前らに直接お礼したいって生徒がいてさ」
描本が言い終わるのと同時に、電話口からガタガタとスマホを持ち替える音が聞こえ、声の主が変わる。
杉内
「探索者さん達大丈夫っすか?
あの事件ではお世話になりました。
…あの後、鵜財の野郎が一命を取り留めたんで、小瀬先輩も殺人犯にならずに済みました。先輩はしばらくの間、気持ちを落ち着ける時間が必要らしくて、病院で治療を受けています」
「それともう一つ、探索者さん達に伝えたいことがあって。あの後、油絵の修復家に有村の絵を直してもらったんです。
そうしたら、あの暗い絵の下層から別の絵が出てきたんだ。その絵には美術部のみんなが…、小瀬先輩と織田先輩と俺が笑ってる絵が描かれててさ。
それ見て俺、有村のやつは最後に描きたいもん描けたのかなって思ったんだ。黒い絵の具も、絵を傷をつけないようにあえて塗りつぶしたのかなって。
あんたたちが来なかったら、あの絵の存在にも気づかなかったし、小瀬先輩もよくわかんねえヤツに取り憑かれたままだったかもしれない。付き添いに来てくれたのが探索者さん達でよかった。
本当にありがとう」
杉内は描本に電話を代わる。
描本からも以下のような話を聞��される。
鵜財は有村の弱みにつけこんで格安で彼の作品を買い上げていた事、父親に頼んで、美術展の審査で自分の作品が優位になるように不正を行っていたことを白状した。今までの受賞経歴も見直されるらしい。杉内と織田は有村が残した絵と一緒に部長の帰りをゆっくり待つそうだ。
彼らは探索者の懸命な捜査によって救われたのだ。
[san値回復]
1d10
[結晶ができた箇所]
数日できれいに治る。
「Bのエンディング」
探索者は病院で数週間の治療を受けることになる。事情を聞いた描本が二人の見舞いに来て、「事件に巻き込んでしまい、本当に申し訳なかった」と詫びた後、その後について語る。
運び込まれた鵜財は一命は取り留めたものの、意識が戻らないということ。
そして、小瀬の行方は誰もわからないという。医師からは、結晶に変わった箇所の治療法がわからないと言われた。取り除こうにも結晶は恐ろしく硬く、傷一つつけられないという。
探索者達はあの日以来、突然不安に苛(さいな)まれる瞬間がある。しばらくすると落ち着くが、いつか自分もあの時の小瀬のように
行き過ぎた���動をとってしまうかもしれない。それでも、この結晶と上手く折り合いをつけて生きていくしかないのだ。
結晶はあなた達の体から消えることはなく、今も内側で不気味な光を放っている。
[san値回復]
1d5
[後遺症]
消えない結晶体
…時々恐怖や不安に苛まれ、感情が不安定になることがある。キーザに触れられたことによるものなので、別シナリオでキーザを倒すか眠らせるかすればどうにかできるかもしれません。
~~~~~~~~~~~~~~~~
▼あとがき
この度はシナリオをお手に取っていただきありがとうございます。初めて作ったシナリオのため、色々抜けているところがあるかと思いますが、説明されていない細かい部分はKPさんの考えで進めていただいて大丈夫です。改変はしていただいて構いません。大きく改変する場合はPLさん達に改変していることをお伝えください。
既存で遊べるシナリオになりますので、この探索者さん達が探偵っぽいことやってるの見たいな〜という時にでも遊んでいただけたらとても嬉しいです。
最後まで目を通していただき、ありがとうございました!
シナリオ製作者:みみみ(@trpgnomimimi)
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ハッカーと画家の共通点
2003/05/16 翻訳公開 2003/05/20 武井伸光氏より誤記の訂正を頂き、反映
(このエッセイはハーバード大学での特別講義と、 それに先立つノースイースタン大学での講演を基にしている)。
大学院で計算機科学を専攻した後、 私は絵画を学ぶためにアートスクールに入った。 コンピュータに興味を持つような人間が絵を描くことにも 興味を持つと聞いて、驚く人も多い。 どうやら、ハッキングと絵を描くことは全然違うものだと 思われているらしい。ハッキングは冷たく、精密で、几帳面なものであるのに対し、 絵を描くことは、なにか原始的な衝動に駆られた表現だと考えられているようだ。
そのイメージはどちらも正しくない。 ハッキングと絵を描くことにはたくさんの共通点がある。 実際、私が知っているあらゆる種類の人々のうちで、 ハッカーと画家が一番良く似ている。
ハッカーと画家に共通することは、どちらもものを創る人間だということだ。 作曲家や建築家や作家と同じように、ハッカーと画家がやろうとしているのは、 良いものを創るということだ。 良いものを創ろうとする過程で新しいテクニックを発見することがあり、 それはそれで良いことだが、いわゆる研究活動とはちょっと違う。
私は「計算機科学」という用語がどうにも好きになれない。 いちばん大きな理由は、そもそもそんなものは存在しないからだ。 計算機科学とは、ほとんど関連のない分野が歴史的な偶然から いっしょくたに袋に放り込まれたもので、言ってみればユーゴスラビアみたいなものだ。 一方の端では、ほんとうは数学者である人々が、DARPAの研究費を得るために 計算機科学を名乗っている。 真ん中あたりでは、コンピュータの博物学みたいなことをやっている人々がいる。 ネットワークのルーティングアルゴリズムの振舞いを調べたりとか、そういうことだ。 そして、反対側の端っこには、ハッカー達がいる。 面白いソフトを書こうとしている者達だ。彼らにとっては、 コンピュータは単なる表現の媒体にすぎない。 建築家にとってのコンクリートが、また画家にとっての絵の具がそうであるように。 これはまるで、数学者と物理学者と建築家をひとつの学科に押し込めているみたいだ。
ハッカーがやっていることは「計算機工学」と呼ばれることもあるが、 この用語も誤解を助長するだけだ。 優れたソフトウェア設計者は、建築家がエンジニアではないのと同じように、 エンジニアではない。 もちろん建築とエンジニアリングの境界ははっきりと定められているわけじゃないけれど、 確かに存在する。それは、「何を」と「どうやって」の間にある。 建築家は何をするかを決め、エンジニアはそれをどうやってするかを考え出すのだ。
「何を」と「どうやって」をあまり分けすぎるのは良くない。 どうやれば出来るかを理解せずに何をするかを決めようとするのは、 間違いのもとだ。 でも、ハッキングには確かに、ある仕様をどうやって実装するか決めること以上の ものがある。ハッキングの最良の形態とは、仕様を創ることだ--- ただ、仕様を創るいちばんの方法はそれを実装することだ、ということに過ぎない。
たぶん「計算機科学」は、ユーゴスラビアがそうなったように、 いつかそれを構成している部分ごとにばらばらになるだろう。 それは良いことなんだろうと思う。特に、それが私の故郷でもある、ハッカー国の 独立を意味するのなら。
これらの全然違う業種を一つの学科にまとめておくのは、 管理する側にとっては便利なのかもしれないが、 知的な混乱をもたらす。 「計算機科学」という言葉を私が嫌うもうひとつの理由がそれだ。 真ん中にいる人々は、まあ実験科学をやっていると言えなくはないかもしれない。 しかし両端にいる人々、ハッカーと数学者は、科学をやっているわけじゃないんだ。
数学者はきっとそんなことは気にしないだろう。 彼らは、数学科の数学者達と同じように定理を証明することに夢中になって、 自分のいる建物に「計算機科学」の看板が付いていることなど たぶんすぐに忘れてしまう。でもハッカーにとってはこの看板は問題になる。 科学と呼ばれると、ハッカー達は科学的にふるまわなくちゃならないような 気になってしまう。そして、大学や研究所にいるハッカー達は、 彼らが本当にやりたいこと、つまり美しいソフトウェアをデザインすることではなしに、 研究論文を書かなくちゃいけないような気になってしまうんだ。
運がよければ、論文は形を整えるためだけのもので済むだろう。 ハッカーはクールなソフトを書いて、そしてそれについての論文を書く。 そういう論文は、ソフトウェアそのものによって示されるべき作品の、代理となる。 でも、このミスマッチは往々にして問題となる。 美しいものを創るのではなしに、 醜いけれど論文の題目にはなりやすいものを造るほうにひきこまれてしまうのはたやすい。
残念なことに、美しいものは論文になりやすいとは限らない。 第一に、研究は独創的でなければならない--- そして、博士論文を書いた経験のある人なら誰もが知っているように、 あなたが処女地を開拓していることを保証する一番良い方法は、 誰もやりたがらないような場所へ向かうことだ。 第二に、研究にはたっぷりとした量がなければならない--- そして、妙ちきりんなシステムであるほど、たくさんの論文が書ける。 そいつを動かすために乗り越えなければならなかったいろんな障害に ついて書けるからね。 論文の数を増やす最良の方法は、間違った仮定から出発することだ。 AI研究の多くはこの規則の良い例だ。 知識が、抽象概念を引数に取る述語論理式のリストで表現できる、 と仮定して始めれば、それを動かすためにたくさんの論文を書くことになるだろう。 リッキー・リカルドが言ったように、 「ルーシー、君はたくさん説明することがあるね」ってなわけだ。
何か美しいものを創るということは、 しばしば既にあるものに微妙な改良を加えたり、 既にある考えを少しだけ新しい方法で組み合わせたりすることによって なされる。この種の仕事を研究論文にするのはとても難しい。
じゃあ、大学や研究所はどうしてハッカーを論文数で判断しようとするんだろうか。 「学習への適性」が、考えの狭い、規格化されたテストで測られたり、 プログラマの生産性がコードの行数で測られるのと同じ理由だ。 これらのテストは簡単に適用できる。 そして、簡単に適用できてとりあえず使えるテストほど便利なものはない。
ハッカーが実際にやろうとしていること、すなわち美しいソフトウェアを デザインするということを測るのは、ずっと難しい。 良いデザインを判断するためには、 デザインに対する良いセンスが必要だ。 ある人が良いデザインを認識する能力と、 その人が良いデザインを認識できると考えている自信の間には、 何の相関もないか、あったとしても、負の相関しかないだろう。
唯一の外部のテストは時間だ。 時間がたてば、美しいものは生き残り、醜いものは次第に捨てられてゆくだろう。 それにかかる時間は、残念ながら、人間の一生よりも長い。 サミュエル・ジョンソンは、作家の評価が収束するまでには100年かかると言った。 作家の影響下にあった友人達が死に、さらにそれらの追従者達が死に絶えるのを 待たねばならないからだ。
ハッカーは、自分の評価の中にランダムな要素がたくさんまぎれこむことを甘受しなければ ならないだろう。その点では、他のもの創りの人々と変わらない。 むしろ、他のもの創りよりも幸運かもしれない。 ハッキングに対する流行の影響は、絵画に対するそれ程には大きくないからだ。
人々があなたの仕事を誤解するよりも悪いことがある。 より大きな危険は、あなた自身が自分の仕事を誤解することだ。 アイディアを探す時、人は関連した分野を見にゆく。 あなたが計算機科学科にいたとしたら、 ハッキングは理論計算機科学に対する応用だとか思ってしまうかもしれない。 私は大学院にいた頃ずっと、もっと理論を知らなくちゃならないという思いが 心の底にあって、居心地の悪い思いをしていた。 期末試験から3週間後にはすっかり全部忘れてしまうことをずいぶん後ろめたく思ったものだ。
でも、私は間違っていたんだ。 ハッカーは、画家が絵の具に関する化学を理解するのと同程度に 計算理論を理解していればいい。 時間的、および空間的な複雑度の計算法と、チューリング完全の概念については 知る必要があるだろう。それから、パーザや正規表現ライブラリを 書くことになった時のために、状態機械の概念は少なくとも覚えておいた方が いいかもしれない。 実は、画家はそんなことよりもっとずっとたくさんのことを、 絵の具に関する化学で覚えなければならないんだ。
私は、アイディアの最高の源は、「コンピュータ」が名前についている分野じゃなくて、 ものを創る人々が住んでいる他の分野にあるということを知った。 絵画は計算理論よりもずっと豊富なアイディアを提供してくれたんだ。
例えば、大学で私は、コンピュータに手を触れる前に 紙の上でプログラムを完全に理解しなければならないと教わった。 でも私はそういうふうにはプログラムできなかった。 私が好んだやりかたは、紙の前ではなく、コンピュータの前に座って プログラミングすることだった。もっと悪いことに、 辛抱強く全てのプログラムを書き上げて正しいことを確認するなんてことは せずに、私はめちゃくちゃなコードをおっぴろげて、 それを次第に形にしてゆくのだった。 私が教わったのは、デバッグとは書き間違いや見逃しをつかまえる 最終段階の工程だということだったが、 実際に私がやっていたのは、プログラミングそのものがデバッグという具合だった。
随分長い間、私はそのことを後ろめたく思っていたものだ。 ちょうど、小学校で教わった鉛筆の持ち方と違う持ち方をしていることを 後ろめたく思っていたのと同じように。 他のものを創る人々、画家や建築家がどうやっているかを見れば、 私は自分のやっていることにちゃんと名前がついていると気づいていただろう。 スケッチだ。 私が言えるのは、大学で教わったプログラミングのやりかたは全部間違っていた ということだ。 作家や画家や建築家が、創りながら作品を理解してゆくのと同じで、 プログラマはプログラムを書きながら理解してゆくべきなんだ。
この気づきは、ソフトウェアの設計に大きな意味を持つ。 まず何よりも、これはプログラミング言語は柔軟でなければならないということを意味する。 プログラミング言語はプログラムを考えるためのものであって、 既に考えたプログラムを書き下すためのものじゃない。 それはペンではなく鉛筆であるべきなんだ。 静的な型付けは、私が大学で教わったようにプログラムするなら良い考えだと 思う。でも私の知るハッカー達はそんなふうにはプログラムしない。 我々に必要なのは、落書きしたりぼかしたり塗りつぶしたりできる 言語であって、型の紅茶茶碗を膝に置きながら 厳しいコンパイラおばさんと丁寧な会話をするような言語じゃない。
静的型付けの話が出たついでに、もうひとつ、 我々が科学から受けている問題で、 もの創りの人々を見ることで避け得るものを挙げておこう。 数学に対する妬みだ。 科学にかかわる人は誰しも、数学者は自分より賢いという思いを密かに抱いている。 数学者さえもそう信じているんじゃないかと思う。 結果として科学者達は、程度の差こそあれ、自分の仕事をなるべく 数学っぽく見せようとしがちだ。 物理学のような分野ではこのことはたいして悪影響を及ぼさないだろう。 しかし自然科学から離れれば離れるほど、これはより大きな問題となってくる。
数式で埋め尽くされたページは、それはそれはカッコ良く見える。 (ヒント:もっとカッコ良くしたければ、ギリシャ文字を使うといい)。 だから、重要な問題なんかよりも、形式的に扱える問題の方に 取り組みたいっていう誘惑はとても強い。
ハッカーを、作家や画家といった他のもの創りと同列に 並べて考えるなら、そんな誘惑は感じないだろう。 作家や画家は数学を妬んだりしない。 全然関係ないものだと感じるだろう。ハッカーもそう感じるべきだと、私は思う。
大学や研究所がハッカーに本当にやりたいことをやらせてくれないと したら、企業にゆくしかないのだろうか。 不幸なことに、多くの企業はやっぱりハッカーにやりたいことを やらせてはくれない。大学や研究所はハッカーに 科学者たることを強要するが、企業はハッカーに エンジニアたることを強要するからだ。
私はこのことにはごく最近になるまで気づかなかった。 YahooがViawebを買収した時、彼らは私に何をやりたいか尋ねた。 私はビジネスのことには全然興味がなかったので、ハックしたいんだと答えた。 Yahooに入ってみたら、彼らにとってハックするということは ソフトウェアを実装するということで、デザインするということではないということが わかった。プログラマは、プロダクトマネージャのビジョン とかいったものをコードへと翻訳する技師とみなされていたのだ。
どうも、大企業ではそれが普通らしい。 そういうふうにすれば、出力のばらつきを押えることができるからだ。 ハッカーのうち実際にソフトウェアをデザインできる能力のある人間はほんのひと握りであって、 企業を経営している人々が彼らを見つけ出すのはとても難しい。 だから多くの企業では、 ソフトウェアの未来を一人の素晴らしいハッカーに託すのではなく、 委員会によって設計し、ハッカーはそれをただ実装するだけという 仕組みを作るんだ。
あなたがいつか金持ちになりたいと思っているなら、このことを 覚えておくといい。何故ならこれは、ベンチャー企業が勝つ理由の一つだからだ。 大企業が出力のばらつきを押えたがるのは、被害を避けたいからだ。 でも振動を抑制すれば、低い点は消えるけれど高い点も消えてしまう。 大企業ではそれは問題じゃない。大企業はすごい製品を作ることで勝つわけじゃないからだ。 彼らは他の企業よりも下手を打たないことで勝つ。
だから、ソフトウェアがプロダクトマネージャ達によって設計されるような 大企業とデザインで勝負する方法を見付ければ、彼らは絶対あなたには勝てない。 でもそういう機会を見付けるのは簡単ではない。 大企業をデザインでの勝負の土俵に引っ張り出すのは、 城の中にいる相手に一対一の勝負を承知させるのと同じくらい難しい。 例えば、マイクロソフトのWordより良いワードプロセッサを書くのは たいして難しくないだろうが、 独占OSの城の中にいる彼らは、おそらくあなたがそれを書いたことに気づきさえしないだろう。
デザインで勝負する良い場所は、誰も防衛を確立していない 新しいマーケットだ。そこでならあなたは、 大胆なアプローチによるデザインと、 そして同一人物がデザインと実装を受け持つことで、 大きく勝つことができる。 マイクロソフトだって最初はそこから始まったんだ。 アップルもそうだし、ヒューレットパッカードもそうだ。 恐らくどんな成功したベンチャーもそうだと思う。
だから、すごいソフトを書く方法のひとつは、自分でベンチャーを作ることだ。 でもそれにはふたつ問題がある。 一つは、ベンチャーを作ると、ソフトを書く以外のことをたくさん やらなくちゃならないということだ。Viawebでは、私は1/4の時間をハッキングに 使えたらラッキーという始末だった。そして3/4の時間に私が しなくちゃならなかったことはといえば、うんざりするかぞっとするような ことばかりだった。これにはベンチマークがある。 一度私は虫歯を治すために取締役会を抜けなくちゃならなくて、 歯医者の椅子に座ってドリルが近付いてくるのを待ちながら、 なんて素晴らしい休暇だと感じたものだ。
ベンチャーの問題のもうひとつは、 書くのが面白いソフトが金になるソフトであるということが 滅多にないということだ。 プログラミング言語を書くのは面白いし、 実際、マイクロソフトの最初の製品はそれだったわけだが、 今となっては誰もプログラミング言語には金を出さない。 金を儲けようと思ったら、誰もただではやりたがらないような 危険な問題に取り組まざるを得なくなる。
実は、これはものを創る人なら誰しも直面する問題だ。 価格は需要と供給で決まる。やっていて面白い仕事には、 顧客のありふれた問題を解決するような仕事ほどには需要がない。 オフブロードウェイで役者をしていても、 トレードショウのブースでゴリラの着ぐるみを着るほどには稼げない。 小説を書くよりは、ゴミ箱の宣伝文句を書く方が金になる。 そして、プログラミング言語をハックしていても、 顧客企業の古いデータベースとそこのWebサーバをどうやってつなげるかを 考えるほどの金にはならないというわけだ。
ソフトウェアに関しての、この問題への解答は、 実は他のもの創りの人々には既に知られている。昼間の仕事というやつだ。 この言葉はミュージシャンの間から始まった。彼らは夜に演奏するからだ。 より一般的に言えば、金のために一つの仕事を、愛のためにもう一つの仕事をする ということだ。
ほとんど全ての、ものを創る人達は、駆け出しの頃には昼間の仕事を 持っていた。画家と小説家は特にそうだ。 運が良ければ、本当の仕事と関係が深い昼間の仕事を見付けることができるだろう。 ミュージシャンはよくレコード店で働いている。 プログラミング言語やOSをハックしているハッカーは、 それらを使う昼間の仕事を見付けることができるかもしれない[1]。
昼間の仕事を持ち、美しいソフトウェアを別の時間に書くということが ハッカーへの答えだ、というのは、別に新しいアイディアじゃない。 オープンソースのハッキングとはまさにこれだ。 私が言いたいのは、オープンソースのモデルは多分正しい、なぜなら そのモデルは他のもの創りの人々によって独立して確かめられているからだ、ということだ。
雇用しているハッカーがオープンソースプロジェクトに関わるのを いやがる企業があるというのは、私にとっては驚きだ。 Viawebでは、我々はむしろそういうプロジェクトに関わっていない 人を雇うのを避けたものだ。 プログラマを面接する時、我々が主に知りたかったのは、応募者が 余暇にどんなプログラムを書いているかということだった。 何かに愛がなければ、それを本当にうまくやることはできないし、 ハックに愛があれば、いずれ自分のプロジェクトを立ち上げずにはおれないからだ [2]。
ハッカーは科学者よりももの創りに似ているのだから、 メタファーを探すのは科学者よりも他のもの創りの分野からの方が良い。 絵を描くことは、ハッキングに対して他にどんなことを教えてくれるだろうか。
絵画の例からひとつ学べること、少なくとも確認できることは、 ハックをどうやって学んだら良いかということだ。 絵を描くことは、絵を描きながら学ぶ。 大抵のハッカーは、大学のプログラミングコースを履修してハックを 学ぶのではない。13歳の頃から自分でプログラムを書くことによって 学ぶのだ。大学の講義でだって、ハックを学ぶのはハックしながらだ[3]。
画家は自らの後に作品による足跡を残してゆくから、 彼らが絵を描きながら学んでゆく様子を観察することができる。 画家の作品を時間順に並べてみれば、それぞれの絵は その前の絵で学んだことの上に創られていることがわかるだろう。 絵画上でうまくいったものがある時、通常はそれより前の作品群の 中に、より小さな形での第1版を見て取ることができる。
多くのもの創りは同じだと思う。作家と建築家はそうだ。 ハッカーも、たぶん、画家と同じようにふるまうのがいい���じゃないかと思う。 一つのプロジェクトを何年も続けて、新しいアイディアを 新バージョンとして取り込むのではなしに、 時々はゼロから始めてみるんだ。
ハッカーがハックしながら学ぶという事実は、 ハッキングと科学がどれだけ違うかということを示すもう一つの手がかりだ。 科学者は科学をしながら学ぶのではない。 実験と課題をこなしながら学ぶのだ。 科学者は、まず完璧な仕事から始める;つまり、 誰か他の人が既にやったことを再現することから始める。 そうしているうちに、独自の仕事が出来るレベルに達するのだ。 一方、ハッカーは、最初から独自の仕事をする。 ただ、最初はへたくそだろう。ハッカーはオリジナルから始め、上手になってゆく。 科学者は上手になることから始め、オリジナルになってゆく。
もの創りが学ぶもうひとつの方法は例から学ぶことだ。 ��家にとっては、美術館は技法の例の宝庫だ。 何百年もの間、偉大な画家の作品を模写することは、 画家の教育過程の一環となってきた。 模写することで、絵がどのように描かれているかを 詳しく見るようになるからだ。
作家も同じことをする。 ベンジャミン・フランクリンはアディスンとスティール[訳註1]の エッセイを要約し、それを再現しようとすることで書くことを学んだ。 レイモンド・チャンドラーは同じことを探偵小説でやった。
ハッカーも同じように、良いプログラムを見ることで プログラムを学ぶことができる。プログラムの動作を見るだけでなく、 ソースコードを見ることでもだ。 オープンソース運動の、あまり宣伝されないひとつの利点は、 プログラムを学ぶことを容易にするということだ。 私がプログラムを学んだ頃は、本にある例に頼るしかなかった。 当時、ソース見ることができた一つの大きなソフトウェアはUnixだったが、 それでさえオープンソースではなかった。 Unixのソースコードを読んだ人の多くはジョン・ライアンスの不正なコピー本[訳註2]で 読んだのではないか。その本は1977年に書かれたが、 1996年まで出版を許可されなかった。
絵画から学べるもうひとつの例は、 次第に詳細化しながら創ってゆく方法だ。 絵画はたいてい、スケッチから始まる。 そして次第に細かい部分が埋められてゆく。 だがそれは、単に隙間を埋めてゆくだけの過程ではない。 ときには元の計画が間違いだったことが分かることもある。 X線で見てみると、 手や足の位置が動かされたり表情が変えられたりしている絵画は 数え切れないくらいある。
この点で絵画から学ぶことができる。 私はハッキングもそうあるべきだと思う。 プログラムの仕様が完璧であるなんて期待するのは非現実的だ。 そのことをまず最初に認めて、 仕様がプログラムを書いている最中に変わっていっても、 それを受け入れられるような書き方をすべきなんだ。
(大企業の構造にはこれをやりにくくさせるものがあり、 これもベンチャー企業に利する点だ)。
今となっては誰もが、早過ぎる最適化の危険を承知しているだろう。 私は、同様に早過ぎる設計、つまりプログラムが何をすべきかを早く決めすぎること、 にも気をつけるべきだと思う。
正しい道具はこの危険を避けるのを助けてくれる。 良いプログラミング言語は、油絵のように、変更を簡単にしてくれる。 その点では動的な型付けの方が有利だ。 最初から特定のデータ表現にコミットする必要が無いからだ。 しかし、柔軟性について最も重要な点は、 言語をなるべく抽象的にしておくことだ。 プログラムが短ければ、変更もしやすかろう。
もうひとつ、これは矛盾しているように聞こえるかもしれないが、 偉大な絵画とは、それ自身があるべき姿よりも優れているはずだ。 例えば、レオナルド・ダ・ヴィンチがナショナルギャラリーにある ジネヴラ・ベンチ の肖像画を書いた時、彼は人物の後ろに杜松の潅木を配置した。 絵の中で彼は、松の葉を一枚一枚、注意深く描いた。 他の多くの画家だったら、これは単に人物の背景を埋めるだけのものだと 考えたかもしれない。誰もそんなにそれを注意深く見ることはしないだろうと。
レオナルド・ダ・ヴィンチは違った。 彼にとって、絵のある部分にどれだけ手間をかけるかは、誰かがそこを見るかどうかには 関係なかったのだ。彼はマイケル・ジョーダンと同じだ。妥協しないんだ。
見えない細部は、それが組合わさると、見えるようになる。 妥協しないことはこの点で重要だ。 ジネヴラ・ベンチの肖像画の横を通りかかった人々は、 すぐにその絵に気を止める。絵のラベルを見てそれが レオナルド・ダ・ヴィンチによるものだと知るより前からだ。 全ての見えない細部が組合わさることにより、 まるでほとんど聞こえないかぼそい声が幾千も合わさって一つの旋律を歌っているかのように、 ある種圧倒される何かが創られる。
偉大なソフトウェアも、同じように、美に対する熱狂的な没頭が必要だ。 良いソフトウェアの中身をみてみれば、誰も見ないような箇所でさえ 美しく創られていることがわかるだろう。 私は自分が偉大なソフトウェアを書いているなんていうつもりはないが、 少なくともコードを書く時には、それと同じ調子で日常生活を送ったら 医者から薬を支給されるだろうな、というような調子で書いている。 めちゃくちゃにインデントされたコードとか、ひどい変数名を見ると 気が狂いそうになる。
ハッカーが単なる実装者で、仕様をコードに直しているだけなら、 溝を掘る作業者みたいに端から別の端まで順番に仕上げてゆくだろう。 でもハッカーが創造者ならば、インスピレーションを考えに入れなければならない。
ハッキングには、絵を描く時と同じように、周期がある。 ある時は新しいプロジェクトに夢中になって、1日16時間それを やり続ける。別の時には何も面白いと感じられない。
良い仕事を為すには、この周期を勘定に入れておかなくてはならない。 そうすることによって、周期にどう対応すれば良いかがわかるからだ。 マニュアル車で坂を登る時は、時々クラッチを戻してやらないとエンストしてしまう。 同じように、時々引いてみることは、熱意が止まってしまうのを防ぐのに良い方法だ。 絵画にもハッキングにも、恐ろしいほど無謀な試みもあれば、 楽にこなせる作業もある。エンストしてしまいそうな時のために、 楽な作業を少し取っておくことは良いアイディアだろう。
ハッキングの場合は、バグを取っておくことでやってもいい。 私はデバッグが好きだ。デバッグは、普通の人がハッキングと聞いて連想するもの そのものだ。完全に制約された問題があり、やるべきはそれを解くことだけ。 プログラムはxをするはずなのに、yをしている。 どこでおかしくなっているんだろう? あなたは最終的に勝利を収めることを知っている。 これはまるで、壁を塗っている時くらい、気楽なことだ。
絵画の例は、自分の仕事をどう管理したら良いかを教えてくれるだけでなく、 どうやって他の人と一緒に仕事をしたら良いかも教えてくれる。 過去のたくさんの偉大な芸術は、たとえ美術館での展示には一人しか 名前を挙げられていなくても、実際は複数の人間によって創られた。 レオナルド・ダ・ヴィンチはヴェロッキオの工房の見習いであったことがあり、 彼のキリストの洗礼の 中の天使の一人を描いた。 こういったことは例外ではなく、むしろ慣例と見なされていた。 ミケランジェロがシスティーナ礼拝堂の天井画の全ての像を自分自身で描くと 主張した時、人々は彼のあまりの熱意に驚きさえしたのだ。
私の知る限り、複数の画家が一枚の絵に取り組む時、 決して二人以上が同じ箇所を描くことはない。 親方が主要人物を描き、助手が他の人物と背景を描くというのはよく行われていた。 しかし、ある画家が別の画家の描いた上に描き足すということは決して無かった。
ソフトウェアにおける協調開発でも、これは正しいモデルだと思う。 協調ということをあまり押し出しすぎないことだ。 あるコードが、特定の所有者を決めずに3人も4人もの人間にハックされると、 それは共有部屋のようになる。 雑然としていて見捨てられたような雰囲気がただよい、 埃が積もってゆく。 私が思うに、協調開発の正しい方法は、プロジェクトをはっきりと定義された モジュールに分割し、各モジュールの所有者を決め、 そして注意深く、できればプログラミング言語そのもの程に明快に 設計されたインタフェースをモジュール間に定めることだ。
絵画と同様、ソフトウェアも多くは人間が見て、使うものだ。 だからハッカーも、画家と同じように、ほんとうにすごい仕事を為すには、 共感する力が必要だ。 ユーザの視点からものを見られるようにならなくちゃいけない。
私は子供の頃、いつも、人の身になってものを考えなさいと教えられた。 実際に���そう言われる時はいつでも、自分のしたいことじゃなくて 他人の望むことをしなさい、という意味だった。 だから共感なんてつまらないものだと思って、私はそれを磨こうとはしなかった。
だが、なんてこった。私は間違っていたんだ。 他人の身になってものを見るというのは、本当は成功する秘密だったんだ。 それは自己犠牲を意味するとは限らない。他の人のものの見方を理解することは、 あなたがその人の利益のために行動しなくちゃならないということには 関係ないんだ。特定の状況では、例えば戦争をしている時は、 まったく逆の行動をしたいと思うだろう[4]。
多くのもの創り達は、人間に観られ、受け取ってもらえるものを創る。 観客をひきつけるには、観客が何を必要としているかを理解しなくちゃならない。 偉大な絵画作品はほとんど全て人物を描いているが、 それは人物こそ、人々が興味を持つものだからだ。
共感能力は、おそらく良いハッカーと偉大なハッカーの、 たった一つの最も重要な違いだろう。 ハッカーの中には非常に賢いが、共感するということにかけては 全く自己中心主義の人々がいる。 たぶんそういう人が偉大なソフトウェアをデザインするのは難しいだろう[5]。 ユーザの視点でものを観ることができないからだ。
共感能力の良さをみるひとつの方法は、その人が 技術的知識の無い誰かに技術的な問題を説明する様子を観ることだ。 たぶん、他の点では優れているのに、そういう説明になると滑稽なくらいへたくそな 人を、誰でも知っているんじゃないか。 ディナーパーティで、誰かにプログラミング言語って何なの、 と尋ねられると、そういう人はたとえばこんなふうに言うだろう。 「高級言語とは、コンパイラがそれを読んでオブジェクトコードを生成するような ものさ。」 高級言語? コンパイラ? オブジェクトコード? プログラミング言語とは何かを知らない人が、 こういう用語を知っているわけがないじゃないか。
ソフトウェアがやらなければならないことのひとつに、 自分自身を説明するということがある。 だから、良いソフトウェアを書くには、ユーザがどれだけ何も知らないかという ことを理解する必要がある。 ユーザは何の準備もなくやって来て、いきなりソフトウェアに向かい、 マニュアルなんか読もうともしないだろうから、 ソフトウェアはそういう人が期待するように振舞うのが良い。 この点で、私が知っている最高のシステムは、1985年当時の、オリジナルのMacintoshだ。 それは他のほとんどのソフトウェアが決して為し得なかったことを為した。 何もしないでも、ちゃんと動いたのだ[6]。
ソースコードもまた、自分自身を説明すべきだ。 プログラミングに関して皆に一つだけ引用文句を覚えてもらえるならば、 私は「計算機プログラムの構造と解釈」の冒頭のこの文を選ぶ。
プログラムは、人々がそれを読むために書かれるべきである。 たまたま、それが計算機で実行できるにすぎない。
ユーザに対する共感だけでなく、コードを読む人に対する共感も必要だ。 それはあなた自身のためでもある。あなた自身もあなたのコードの読者だからだ。 6ヵ月前に自分の書いたプログラムを見て、それが何をするのか全くわからない という経験をした人も多いだろう。何人か、そういう経験を経て 断Perl宣言をした人を私は知っている[7]。
���感能力の欠如は知性と関連づけられることがある。 時にはそう振舞うことがひとつの流行とされることまである。 でも、私は共感能力の欠如と知性の間には何の相関も無いと思う。 共感能力が無くても数学や自然科学で高い能力を発揮することはできるし、 そういう分野にいる人は一般に賢いから、 知性が共感能力の欠如と関係あるかのように思われるのだろう。 実際は、賢くもなく、共感するのもうまくない人だってたくさんいる。 トークショーに電話をかけて質問してくる人々の会話を聞くだけでいい。 彼らは話をあっちこっちに飛ばして言いたいことを言うから、 ホストがわざわざそういう人のために質問を言い直してやらなくちゃ ならないことが往々にしてある。
さて、ハッキングが絵を描くことや小説を書くことと同じだとして、 それはクールだろうか。結局のところ、あなたには一回の人生しか与えられていない。 他のすごいことに人生を使った方がいいかもしれないじゃないか。
残念ながら、この問題に答えるのは難しい。 名声は大きく遅れてくるのが常だ。まるで遠くの星から届く光のように。 絵画は現在ではたいそう重く見られているが、 それは500年前に偉大な画家達が活躍したからだ。 彼らが活躍していた当時は、誰もそれを、今我々が考える程に重要だとは 思っていなかった。当時の人々は、 ウルビーノのフェデリーコ・ダ・モンテフェルトロ公が、 ピエロ・デッラ・フランチェスカの描いた 絵の 奇妙な鼻を持つ男、として知られる日が来ると聞いたら、ずいぶん変に思ったに違いない。
だから、ハッキングが現在、絵を描くことほどクールには思えないとしても、 絵画の栄光の時代に絵を描くことは今ほどクールに思われていなかったという ことを気に止めておく必要があるだろう。
いくばくかの自信を持って言えることは、 いつか、ハッキングの栄光の時代が来るだろうということだ。 多くの分野で、偉大な仕事は、早い時期になされた。 1430年から1500年の間に描かれた絵画は未だに他の追従を許さない。 シェークスピアは、職業としての芝居が生まれつつある時期に現れ、 そのメディアをあまりに深くまで追求したために、 その後の脚本家はすべて、彼の影の中に生きることを強いられた。 アルブレヒト・デュラーは版画で、 ジェーン・オーステンは小説で同じことをした。
繰り返し繰り返し、同じパターンが見られる。 新しいメディアが現れ、それに熱狂した人々が、 最初の2世代くらいの間にそのメディアの可能性のほとんどを探求し尽くしてしまう。 ハッキングはまさに、その段階にある。
レオナルド・ダ・ヴィンチの時代には、絵画はそれほどクールではなかったが、 彼の作品のおかげで後生ずっと重要視されるようになった。 ハッキングがどれだけクールになるかは、まさに我々がこの新しいメディアで 何ができるかにかかっている。 ある意味、クールさが遅れて来ることは利点だ。 今、コンパイラを書いていたりUnixカーネルをハックしている人に会ったとしたら、 その人が単にカワイ娘ちゃんにもてたくてやってるんじゃないことは確かだろう。
原註
[1] 写真が絵画に及ぼした最悪の影響は、もしかすると それによって画家達の普段の仕事をなくしてしまったことかもしれない。 歴史の中の偉大な画家の多くは、肖像画を描くことで生計を支えていたからだ。
[2] マイクロソフトは、従業員がたとえ仕事以外の時間でも、 オープンソースプロジェクトへ貢献するのをよしとしていない、 という話を聞いたことがある。 だが、これほどたくさんの優秀なハッカー達がオープンソースプロジェクトに 参加するようになった今となっては、 そういった方針は、一流のプログラマを雇えないことを保証するにすぎないだろう。
[3] 大学でプログラミングについて学ぶということは、 読書や服装やデートについて学ぶことに似ている。 高校時代を振り返ってみたまえ。なんてセンスが無かったんだろう、って思わないか。
[4] 共感の応用例をひとつ挙げておこう。 Viawebで、二つの選択肢のどちらを選ぶか迷った時、 我々はいつも、競争相手にとってはどっちがより嫌だろうかを考えた。 ある時、ある競争相手が、基本的に使えない機能を彼らのソフトに付け足したことがあった。 ただ、その機能は彼らにあって我々に無い数少ないものだったから、 彼らはマスコミ相手にそれを盛んに宣伝した。 我々はその機能が使いものにならないということを説明することも出来ただろうが、 それよりむしろ、うちにも同じ機能をつけたほうが相手にダメージを与えられるだろうと 考え、その日の午後のうちに新しい機能を追加したんだ。
[5] テキストエディタとコンパイラは例外だ。 ハッカーはこれらを書くのに共感能力を必要としない。 典型的なユーザは自分自身だからだ。
[6] まあ、ほとんどは。時々はRAMを無駄使いして、 ディスクがスワップしつづけて不便な思いをした。 まあ、数ヵ月我慢して新しいディスクドライブを買えば解消できたが。
[7] プログラムを読みやすくする方法は、コメントを詰め込まないように することだ。私は、アーベルソンとサスマンの言葉をさらに進める。 プログラミング言語はアルゴリズムを表現するために設計されるべきで、 それがたまたま、コンピュータにとって実行できる形式になるにすぎない。 良いプログラミング言語は英語よりもうまくソフトウェアを説明することが できるべきだ。コメントは、読者が特に気を付けなければならない ある種のツギハギを警告するためだけに必要なはずだ。 ちょうど、道路で突然の急カーブを警告するためだけに矢印の標識が用いられるように。
この原稿の草稿に目を通してくれた Trevor Blackwell、Robert Morris、 Dan Giffin、 Lisa Randall、そして、私を講演に招いてくれた Henry LeitnerとLarry Finkelsteinに感謝します。
Why Good Design Comes from Bad Design
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