Tumgik
#レスリー・キャロン
team-ginga · 10 months
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映画『恋の手ほどき』
 U-Nextでヴィンチェント・ミネリ監督、レスリー・キャロン、モーリス・シュヴァリエ、ルイ・ジュルダン出演のミュージカル映画『恋の手ほどき』(1958)を見ました。
 原作はフランスの女性作家コレットの短編小説『ジジ』ーー商売柄、コレットは『青い麦』、『牝猫』、『シェリ』、『シェリの最後』、『さすらいの女』など結構読みましたが、この短編は読んだことがありません。
 ヒロインのジジ(レスリー・キャロン)は祖母と一緒に暮らしています(オペラ歌手である母親も一緒に住んでいるはずですが、歌の練習をしている声が聞こえるだけで、一度も登場しません)。
 ジジは毎週火曜日、大叔母(祖母の姉)のところへ礼儀作法の勉強に行っています。
 ジジの家にはよくガストンという大金持ちでプレイボーイの青年がやってきます。関係がよくわかりませんが、一家の古くからの友人ということのようです。
 ガストンとジジは仲良しで、おしゃべりをしたりトランプをしたりしています。あるとき、ガストンはトランプの勝負に負けてジジとその祖母をトゥルヴィルの浜辺へ連れて行くことになります。
 トゥルヴィルでガストンとジジが仲良く遊んでいるのを見て、祖母と大叔母はジジをガストンの愛人にしようと考え、男に気に入られる術を徹底的にジジに伝授します。
 祖母からジジを愛人にしないかと提案されたガストンは喜んで提案を受け入れます。
 私はこの辺りで「え?」と思ってしまいました。
 だって……それって体のいい人身売買、体のいい売春じゃないですか。
 しかし、ジジはガストンの前で提案をはねつけます。
 「いいぞ、ジジ、怒れ。ガストンなんかボコボコにしてやれ」と私は思いましたが、ジジは怒りません。それどころか最終的にガストンの提案を受け入れます。
 ガストンはジジを連れてマキシムにいきます。現在もあるパリの有名なレストランですね(ついでに言っておくと、この映画にはブローニュの森の中にあるレストラン・プレ・カトランも出てきます。マキシムには行ったことがありませんが、プレ・カトランは二度行きました。私が行った時はまだ二つ星でしたが、現在は三ツ星の名レストランです)。
 ジジは大叔母に教わった通り、ガストンのために葉巻を選んだり火をつけたりします。でも、ちっとも魅力的ではありません。無邪気で陽気で生意気で平気でガストンに憎まれ口をきいていた以前のジジの方がずっと魅力的でした。
 ガストンもそう思ったのでしょう、彼はジジを実家に連れ戻し、置き去りにして外に出ます。
 しばらく夜の街を彷徨った彼は、そのままジジのところに引き返し、祖母に「ジジと結婚させてください」と言います。
 え? これでおしまい? これってハッピーエンドなの? 
 ジジはそれでいいの? ガストンも「昔のジジの方が良かった」、「昔のジジに戻って欲しい」って口で言わないとわかってもらえないんじゃないかな?
 なんだかいろいろモヤモヤする終わり方でした。
 音楽は作曲がフレデリック・ロウ、作詞がアラン・ジェイ・ターナー。
 ストーリー展開も音楽も『マイ・フェア・レディ』に似ているなと思っていたら、『マイ・フェア・レディ』の作詞・作曲のコンビでした。
 なるほど……
 コレットの『ジジ』は映画化の前にニューヨークで舞台化されていて、その時に主演を務めたのがオードリー・ヘップバーンだとか。コレットは当時はまだ無名だったオードリーを気に入って抜擢したそうです。
 いろんな意味で『マイ・フェア・レディー』につながっていきますね(舞台で主演したのはオードリー・ヘップバーンではなく、ジュリー・アンドリュースですが、それはまた別のお話です)。
 モーリス・シュヴァリエ演じるホノール・ラシュイユはガストンの叔父で、要所要所に登場はしますが、物語にはさほど絡んできません。
 でも、トゥルヴィルの海辺でジジの祖母と再会し、かつて二人は恋人だったことがわかるシーンで歌うシーン(シュヴァリエが思い出話をして「あのとき君は黄金色のドレスを着ていた」と言うと、ジジの祖母が「青いドレスよ」と訂正するところが素敵でした)や、恋に悩む甥のガストンを見ながら I'm glad that I'm not young any moreと歌うシーンは素敵でした。
 コレットはミュージックホールでパントマイムやダンスをしていた時期があり、モーリス・シュヴァリエと会ったこともあるようで、『さすらいの女』にはチラリとですがシュヴァリエがモデルだという人物も出てきます。
 いや、だからどうという話ではありませんが……
 でもなあ、ジジは金持ちの貴族の囲いものになれと言われるわけですよね。それならもっと怒って抵抗しても良かったんじゃないですか。
 まあ、そうするとさらに『マイ・フェア・レディー』に近づくことになりますが……
 次は『マイ・フェア・レディー』の元になった『ピグマリオン』を見てみることにします。
追記:  どうでもいい話ですが、ジジの祖母が夕食に豚のカスレを作っていて、ガストンがそれに惹かれてパーティーに行くのをやめて一緒にカスレを食べる場面がありました。  カスレとはガチョウの肉やソーセージをインゲン豆と一緒に煮込んだフランス・ラングドック地方の郷土料理で、ガストンは贅を尽くしたパーティーの料理より素朴な家庭料理に惹かれたことを示しているわけですが、字幕ではこれを「カツレツ」と訳していました。  「カスレ」と書いても誰も意味がわからないし、説明をつけるにはスペースが足りないということで、日本人に馴染みのある「カツレツ」にしたのでしょうが、個人的にはちょっと違和感がありました。
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