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norikazuharada · 7 years
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“高齢者に多いペダル踏み間違い事故”は本当か?
前々回の“増え続ける高齢ドライバーの交通事故”は本当か?では事故の件数は増えていないこと、前回の“高齢ドライバーの交通事故は多い”は本当か?では高齢者の事故が他の年代より多いこともなく、むしろ若年者の事故の方が多いことを書きました。高齢者の事故は多くもないし増えてもいなかったのです。
すっかり高齢者事故の代表格のようになったアクセルとブレーキの踏み間違い事故について、興味深い記事を見つけたので、今回はこれを確認してみます。データの切り口や見方もいろいろ、「高齢者に多い」の解釈もいろいろ、なかなか考えさせられる結果となりました。
記事の内容
次のグラフは「高齢者に多いブレーキの踏み間違い事故データを調査〜原因と対策」という記事に載っていたものです。H17〜H19年と少し古いデータですが、確かに40代以上では年齢が高いほど多くなっています。ただそれ以上に29歳以下の方が多いので、“若者に多い事故”とも言えそうです。全事故の件数は年齢が高い程少ないのに、踏み間違い事故は多いという指摘なのでしょうか。
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しかし記事に書いてあるのはそうした内容とは少し違って、70歳以上は踏み間違い事故を起こす比率が極端に高いと指摘する一方で、高齢者に特有の事故ではなく比較的全年代にわたって起きているとも書かれていて、少し分かりにくくなっています。データを確認しながら順番に整理していきたいと思います。
元データの確認
出典が記載されていたので元データはすぐに見つかりました。国際交通安全学会で平成22年度に行われた「アクセルとブレーキの踏み違えエラーの原因分析と心理学的・工学的対策の提案」という研究調査のものです。グラフも載っていますが、せっかく数値が載っているのでそちらを使って確認します。
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元データは5歳刻みですが、先のグラフは値を合算して10歳刻みにしています。さらに10代の分は20代に、80代以上の分は70代に合算してしまっていて、これは良くありません。特に高齢者の方は、実際は60代より70代の方が少ないのに、80代を足したことで年齢が高いほど多いように見えてしまっています。
事故の件数での評価
せっかく5歳刻みで男女別のデータがあるので、合算せずにそのままグラフにします。次の【図.1】がペダル踏み間違い事故の、【図.2】が全事故のグラフです。2つを比べてみると事故全体では50代後半くらいにあるピークが、ペダル踏み間違い事故では右に寄っています。それも男性だけに見られる傾向です。
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併せて見ておきたいのが次の運転免許保有者数です。(運転免許統計から調査と同時期のデータを使って平均値としました。)先の事故件数のグラフと似ていて、若年者の事故が多く女性の事故が少ない点以外は概ね相関していて、運転免許保有者が多い年代ほど事故も多いという単純な傾向が見られます。
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その点ペダル踏み間違い事故のグラフには、運転免許保有者とは違う特徴的な形が現れていて、ペダル踏み間違い事故は高齢者の男性に多いということが分かります。しかしそれ以上にグラフで目立っているのは20〜24歳の突出で、最もペダル踏み間違い事故を起こしているのは明らかに若年者です。
事故の割合での評価
ではその若者より高齢者がペダル踏み間違い事故を起こす比率が高いというのはどういうことでしょうか。次のグラフは元データ右側のペダル踏み間違い事故の件数を左側全事故の件数で割ったものです。つまり各年代の人が起こした事故全体の中にペダル踏み間違い事故がどのくらいあったかという割合です。
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全事故のうち概ね1%以下というペダル踏み間違い事故の割合が、高齢になるほど高くなるという傾向がはっきり見て取れます。同様な傾向は若年層側にも見られますが、その度合はかなり違います。記事で「他の年齢層の約2.5倍から約4倍と極端に高くなっている」と書かれていたのはこのことでした。
これは事故のうち特定の事故の割合、つまり起きた事故の内訳の値ですので、その事故の起こしやすさとは違います。ただ事故全体の起こしやすさが年代によってそれほど大きく変動しないことと併せて考えると、ペダル踏み間違い事故は高齢者ほど起こしやすい(高齢者に多い)と見ても良さそうです。
このグラフでもうひとつ興味深いのは、すべての年代で女性の方が割合が高いというところです。【図.1】ペダル踏み間違い事故の件数では、高齢者に多くなるのは男性だけに見られた傾向でした。実際ペダル踏み間違いが多いのは男性と女性一体どちらの傾向なのでしょうか。これはまた後で考えてみます。
事故の起こしやすさ
次に「起こしやすさ」を別の切り口で見てみることにします。起こる確率を比較するには母数を揃える必要があります。本当は総運転時間のようなデータがあれば良いのですがそれは不可能なので、先に出した運転免許保有者数のデータを使って、10万人あたりの事故発生件数にしたのが次のグラフです。
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これも高齢になるほど多くなるという傾向がはっきり現れました。そして同時に若年ほど多いという傾向も出ています。ペダル踏み間違い事故は高齢者と若年者が起こしやすいということが言えます。しかし当然ながらこれは「事故の多さ」とは違うので、高齢者と若者が多く起こしているとは言えません。
そしてこのグラフでもうひとつ注目したいのは、男女差がほとんど見られないことです。記事でも「全年齢層にわたって女性の方が起こしやすい」と結論づけていましたし、実際【図.4】のグラフでもすべての年代で女性の方が割合が高くなっていました。でも10万人あたりが起こす件数は変わらないのです。
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全事故の起こしやすさも併せて見ておきます。高齢者側にもやや上昇が見られますが、若年者側と比べればずっと緩やかで、他の年代と大きくは変わりません。若年者はあらゆる事故を起こしやすいのに対して、高齢者はペダル踏み間違いという特定の事故を特に起こしやすいという傾向が分かります。
その高齢者の特徴に注目して「ペダル踏み間違い事故の減少」を目指すのも悪くはないのですが、【図.1】と【図.2】とで左軸のスケールが二桁違うように、ペダル踏み間違い事故は事故全体の1%にも満たないことを考え合わせると、事故全体の減少に対してどれほど有効なのかという疑問は残ります。
全体に対するボリューム
そうした全体に対するボリューム感を、やはりグラフで見ておきます。各年代のペダル踏み間違い事故の件数を、ペダル踏み間違い事故の総件数で割ったものです。20〜24歳が突出していますが、そうした犯人探しがしたい訳ではなく、多い少ないの差はあっても全年代が起こしているということです。
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勝手に分類して数字を作るのはあまり好ましくないと思うのですが、分かりやすくするために、若年者・中間・高齢者に分けて帯グラフにました。ペダル踏み間違い事故のうち高齢者が起こしたのは27.3%。高齢者のペダル踏み間違い事故が仮にゼロになったとしても7割は残るということです。
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各年代のペダル踏み間違い事故の件数を、今度は事故全体の総件数で割ったものです。やはり20〜24歳が突出していますが、高齢者以外だけでなくどの年代でも起こしていることが分かります。そしてグラフの形は【図.7】とよく似ていますが、左軸のスケールは最大が0.2%となっています。
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先にも書いたように、ペダル踏み間違い事故自体が事故全体の1%未満ですから、当然このくらいの数値になります。帯グラフではほとんど見えません。「高齢者のペダル踏み間違い事故」は事故全体の0.26%、それを必要以上に問題視するより、残り97.7%の事故に目を向けた方が良いでしょう。
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男女差についての考察
最後に何度か保留した男女差について考察します。事故の件数データに現れる違いを見る前に、影響する要素を見ておきます。【図.3】で運転免許保有者のグラフを出しましたが、すべての年代で女性の方が少なく、高齢者ほどその差が大きいことが分かります。それは比率にするとよりはっきりします。
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半数近くが女性という割合が高齢者になると女性の割合が急激に少なくなり、80代以上では1割以下となります。ここまでの違いがあると事故件数のデータにも影響します。【図.1】のペダル踏み間違い事故の件数で高齢者の男性が多かったのはこの影響で、高齢者の男性が起こしやすい訳ではありません。
では【図.4】のペダル踏み間違い事故の割合はどうでしょうか。これは一見女性の方が起こしやすいように見えますが、男女の起こしやすさを比較したものとは言えません。男性の事故件数と女性の事故件数それぞれの中でペダル踏み間違い事故の割合を出して、同じグラフ上に表現しただけのことです。
男性は男性の事故の中で割合を求め、女性は女性の事故の中で割合を求めてそれを比較するのは、事故の多さや起こしやすさの違いを無視していることにななります。ペダル踏み間違い事故の起こしやすさは男女ほぼ同じなのに、事故全体の件数は男性が女性の倍以上と多いことが計算に大きく影響します。
割合というのは分子が同じなら分母が少ない方が高くなりますので、仮にペダル踏み間違い事故の件数(分子)が同じだとすると、事故全体(分母)が少ない女性の方が割合が高くなってしまいます。試しに分母をどちらも男女合計にして計算すると全く違うグラフとなり、女性の割合は低くなります。
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まとめ
高齢になるにつれてペダル踏み間違い事故を起こしやすくなるという傾向は見られるものの、若年者にも同様の傾向が強い。すべての年代で起きている事故であり、決して高齢運転者特有の事故とは言えない。
ペダル踏み間違いによる事故の7割以上は高齢者以外が起こしている。またペダル踏み間違い事故は事故全体のうちの1%に満たず、高齢者のペダル踏み間違い事故」だけを問題視することは不適当である。
統計やグラフ上で男女の差と見えたものは、事故件数の男女差や免許保有者の男女比など別の要素が大きく影響したもので、ペダル踏み間違い事故の起こしやすさにおいて顕著な男女差はないと思われる。
【結論】“高齢者に多い”は、高齢者が起こす事故における割合という意味で正しい。起こした件数が他の年代に比べて高齢者の方が多いとか、全年代の中で高齢者が起こした事故の割合が高いということはない。
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norikazuharada · 7 years
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“高齢ドライバーの交通事故は多い”は本当か?
前記事“増え続ける高齢ドライバーの交通事故”は本当か?で、実際の事故件数は増えていないこと、減っていないのは高齢運転者が増えているためで、10万人あたりの統計では確実に減っているということを書きました。今回は高齢運転者の事故は他の年代に比べて多いのかどうかを調べてみました。
まずは免許保有者10万人当たりの年代別交通事故件数のグラフです。「第1当事者」とは事故に関った中でいちばん過失が重い人を指し、ざっくり言えば「事故を起こした人」のことです。年ごとの件数にほぼばらつきがないので、年代別の事故を起こす確率や危険度に近いものと考えられそうです。
圧倒的に多いのが10代で、かなり離れて20代が続きます。続く80代以上はやや多いものの、70代や60代は残る30代〜50代とほぼ変わらず、決して多いとは言えません。事故が多いのはむしろ若者の方であり、高齢者から免許を奪う前に、若者に免許を与えるなという声が聞こえてきても不思議はありません。 《出典:警察庁交通局 平成27年における交通事故の発生状況 17ページ》
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次のグラフは母数を揃える前のデータです。最も多かった10代や、やや多かった80代以上は最下位グループに落ちています。これは勿論母数となる人数が少ないためで、代わりにトップに立つのが20代、次いで30代、50代、40代と続き、実件数でも高齢者の事故が多いという事実はありませんでした。 《出典:警察庁交通局 平成27年における交通事故の発生状況 18ページ》
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次は最初のグラフに似ていますが、死亡事故に限ったデータになります。10代と80代がトップを争い、20代と70代が3位争いをしています。より高齢の年代ほど死亡事故が多いという傾向が見られますが、それはより若年の年代ほど多いのと同じで、どちらもほぼ同じレベルであることが分かります。 《出典:警察庁交通局 平成27年中の交通死亡事故の発生状況及び道路交通法違反取締り状況について 19ページ》
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最後は死亡事故の件数を母数10万人に揃える前のデータです。人数の少ない10代と80代以上がランクダウンし、トップに立つのが20代、次いで30代、50代、40代と続くところも交通事故全体の傾向と同じです。死亡事故の実数においても、やはり高齢者による事故が多いという事実はありませんでした。 《出典:警察庁交通局 平成27年中の交通死亡事故の発生状況及び道路交通法違反取締り状況について 20ページ》
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結論として、高齢ドライバーの事故は他の年代と比べて決して多くないことが分かりました。交通事故全体においても死亡事故に限っても、発生比率でも実件数でも他の年代と同じ程度かむしろ少ないというのが事実でした。むしろ若年ドライバーの方が多くの事故を起こしているということが明らかです。
だからといって高齢者の事故を減らすための注意喚起や防止策の必要性を否定するつもりはありません。高齢者講習や認知症対策、自主返納といった取り組みは必要でしょうし、代替交通手段なども考えて欲しいと思います。あくまで統計を正しく読むということが主題で、交通事故はその題材に過ぎません。
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norikazuharada · 7 years
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“増え続ける高齢ドライバーの交通事故”は本当か?
高齢者による交通事故が続いているためテレビや新聞で取り上げられることが多くなりました。勿論事故は無い方が良いので注意喚起や防止策といった動きには賛同するのですが、判で押したような“増える”に違和感があります。調べてみたところ、やはり「統計でウソをつく」ようなことがありました。
高齢者が増えているのですから高齢運転者も増えているでしょうし、高齢運転者による事故が増えるのはむしろ当然のことだと思います。問題は高齢運転者の増加以上に事故が増えているのかどうか、運転者全体の中で高齢運転者による事故が特筆するほど多いのかということではないでしょうか。
「事故総数は年々減少しているのに、高齢運転者による事故の割合は増加している」というのがマスメディアのほぼ共通した論調のようです。「総数」と「割合」というのを聞いてますます違和感や疑念が強くなりますが、一応根拠は示しているようですのでそのデータから確認してみます。
TBS「ひるおび!」で使われたらしいグラフの画像を見つけました。確かに交通事故の「件数」は減っているのに、高齢運転者による事故の「割合」は増えていて、先の論調の通りです。割合が出ているのですからデータはあるはずですが、高齢運転者による事故の「件数」にはなぜか触れられていません。
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ひるおびグラフの元データはすぐに見つかりました。警視庁の交通総務課という部署が作成した『防ごう!高齢者の交通事故!』というページに載っていて、ちゃんと数値も出ています。期間も同じですし、総件数の減り具合も同じ感じですが、割合の折れ線の傾きだけはちょっと違う感じですね。
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はい、右軸のゲージの範囲が違います。元のグラフでは最大40%のところを、半分の20%超にしてあります。グラフ作成時にはよくやる手ですが、割合の増加を際立たせたいという意図があったことは間違いないでしょう。ちなみに90%だとこんな感じです。3つともどれもグラフとしては正しいものです。
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グラフでの表現方法はともかく、10.9%から20.4%と10年で倍近くですから、「割合」が増えているのは事実でした。では件数はどうでしょうか。グラフにするとこうなりました。ほぼ横ばいです。数値を見ると8,789件から7,586件とむしろ減っています。事故の「件数」は増えていませんでした。
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と、ここまでやってから出典が警察庁(国)ではなく警視庁(東京都)であることに気付きました。改めてひるおびグラフをよく見てみると、タイトルの後ろに少し小さく(東京)とあるように、このデータは都内だけのものでした。全国ネットの番組でなぜ都内だけのデータを使ったのか疑問です。
全国のデータも探してみると割とすぐに見つかりました。警察庁交通局で出している『平成27年における交通事故の発生状況』という統計資料の18ページです。グラフにしてみると先程の東京都のものとそっくりになりました。件数は約10倍で、件数の減少傾向も割合の増加傾向も同じような感じです。
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先ほどと同様に「割合」を「件数」に直したのが次のグラフです。やはり横ばいで、数値を見ると10年前よりはやや多いものの、この5年は減少傾向で、増え続けているというには無理があります。増加を訴えるのにこのグラフは使えません。総数が減っているので、割合にすれば増えていることにできます。
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全体の件数が減り続けている中で減っていないということは、実質的に増えているのと同じじゃないかという反論もあるかもしれません。それは全くその通りなのですが、今回のケースでそのように判断するには不足している要素があります。高齢ドライバーの増加です。そのデータを探してみます。
『運転免許統計(平成27年版)』からデータを拾ってグラフにしました。高齢者の割合は12.4%から20.8%へと増えています。交通事故での高齢者の割合に近いものがあります。総数の変化が少ないので実数でも同様です。高齢ドライバーは約980万人から約1710万人に、10年で約730万人増えています。
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この要素を加味して、つまり交通事故の件数を運転免許保有者の人数で割って、10万人あたりの件数にしたのが次のグラフです。高齢者の事故も同じようにちゃんと減っていて、高齢者の方が件数が少ないのです。これは高齢者の方が事故を起こさない、むしろ安全なのかとさえ思えるようなデータです。
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結論として、高齢ドライバーの交通事故が増えているという事実はありませんでした。全体の件数が減っているために割合が増えているだけで、実際の件数としては横ばい、それも高齢ドライバーが急増している中でのことなので、10万人あたりの事故件数は減っている、むしろ少ないというのが事実でした。
何日連続で高齢者の交通事故などと騒ぐ向きもありますが、統計によれば事故は1日あたり1,000件以上、死亡事故でも10件以上発生しています。ドライバーの5人に1人が高齢者だということを考えれば、高齢者による事故が毎日200件、死亡事故が毎日2件あっても全く不思議ではないのです。
繰り返しますが、事故は少ない方が良いのは当然で、事故防止の取り組みを否定するものではありません。ただ、実際は増えていないものを自分たちの取り上げ方で増えているように演出する報道の姿勢と、それを受けて事実の検証もせずに慌てて対策を指示するマヌケな政府への問題提議として書きました。
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norikazuharada · 8 years
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【ミネラルウオーター回収命令】臭素酸の基準値について
発がん性の評価
▷参考:発がん性の評価の仕方と閾値(独立行政法人製品評価技術基盤機構)
発がん性物質の場合、最小毒性量(=最大無毒性量)というこれ以下であれば全く問題無いというしきい値が無く、他のリスクと比較してこれ以下であれば受容できるだろうと、社会的に合意されるリスクを“実質安全量”とみなすという考え方がとられるようです。それが“10万分の1の確率で発がんする量”ということで、確率での表現になるため対象毒性量と比べると分かりにくいですね。(宝くじで言うとジャンボの3等100万円がちょうど10万分の1ですが…)別のサイトでは“通常に生活している場合に比べ、10万分の1の確率で発ガンする可能性が増加するとされる量”と書かれていました。「発がんする量」と「発がんする可能性が増加する量」では全然違うように思いますが。いずれにしてもそれ以下なら一生涯摂り続けても全く問題ないという量です。
発がん性リスク分類
▷LIST OF CLASSIFICATIONS(IARC)
▷参考:IARC発がん性リスク一覧(Wikipedia)
国際がん研究機関(IARC)の発がん性分類において、臭素酸カリウム( Potassium bromate)はグループ2Bの“ヒトに対する発癌性が疑われる”ものに分類されています。もう少し詳しく言うと、“ヒトへの発がん性の証拠は不十分であるが、実験動物では発がん性を示す証拠が十分にある”ということで、現時点では臭素酸カリウムのヒトへの発がん作用の機序についてはよく分かっていないようです。5段階の分類(ある/たぶんある/あるかも/わからない/たぶんない)の3番目ですが、これは発がん性に関する科学的証拠の確からしさの分類で、発がん性の高さを示すものではありません。よくマスメディア等ではグループ1に分類されると「最高レベルの発がん性」などと報じることがあり、注意が必要です。
臭素酸の基準値
▷清涼飲料水評価書(案)臭素酸(食品安全委員会)
清涼飲料水の基準でも、水道水質基準でも、臭素酸の基準値は0.01mg/L以下となっています。この値の根拠を探してみたところ、食品安全委員会の汚染物質等専門調査会が作成した資料にそれらしい記述を見つけました。(p.22)それによりますと、上記10万分の1リスクに相当する実質安全量0.357μg/kg(体重/日)を、体重50kg1日2Lに換算した0.09mg/L(正確には0.008925mg/L)を“概ね丸めると”0.01mg/Lになり、それが適当である、とされています。切り上げるのはどうかと思いましたが、体重60kg換算だと0.01mg/Lを超えますし、1日2Lというのも現実的にはかなり難しいので、さほど気にすることはないのかもしれません。ヒトの実質安全量0.357μg/kgのに不確実係数で1/100にされてい���はずですし、非常に安全サイドに寄った「安心な」基準設定だと言えそうです。
【以下2016.10.31追記】
毎日27リットル?!
ミネラルウオーターから基準超の臭素酸で回収命令(NHK NEWS WEB)
報道によると“(山梨)県は毎日27リットル余り飲み続けた場合は、健康に影響を及ぼすおそれがあるとしています”とのことです。逆に言うとこのミネラルウォーターを毎日それだけ飲まなければ大丈夫ということですが、そもそもそんなに飲める訳がありません。0.02mg/Lの濃度で27Lですから、基準値の0.01mg/Lであれば毎日54Lまで大丈夫ということです。基準値を超えたため回収命令を出したというのは解りますが、毎日54Lという非現実的な数値を見ると、基準として低すぎるのではないかという疑問も湧いてきます。以前調べたベンゼンもヒ素も、70年間毎日2L飲み続けても健康に影響が出ないレベルという考え方で基準値は設定されていました。それが臭素酸だけ54Lというのはおかしいのではないでしょうか。
先に上げた食品安全委員会の資料に、非発がん毒性を指標とした場合のTDI(1日耐容摂取量)として11μg/kg(体重/日)という数値があり、これを体重50kgに換算すると550μg/kg=0.55mg、それを今回の検出値0.02mg/Lで割ると27.5Lとなり、どうやらここから「27リットル余り」が出てきたようです。資料では非発がん毒性と発がん毒性の両方を評価し、より少ない量(前述の実質安全量0.357μg/kg)で影響の出る発がん毒性の方を根拠として基準値0.01mg/Lを決めています。発がんを考慮しなければ0.02mg/Lでも毎日27.5Lまでは飲んでも影響なく、発がんを考慮すると毎日1Lまでは影響ない(つまり毎日1Lを越えると発がんの確率が上がる)という状況で、後者ではなく前者の数値だけを公表したのは間違いではないかと思われます。
【2016.11.12追記】 山梨県の衛生薬務課に確認しましたところ、やはり「27リットル余り」は非発がん毒性を指標とした場合の耐容摂取量(TDI)から算出されたもので、発がん毒性による実質安全量(VSD)は考慮されていなかったとのことでした。改めて食品安全委員会に相談されたところ、TDIにしてもVSDにしても、基準値を定めるために用いた数値であって、基準値や今回の計測値の濃度から逆算して求めた量をリスク判断の基準とすることは適当ではないとのことです。(勿論その量をしきい値のように考えるべきでないという意味で、参考値としてリスクの程度を大まかに捉えるくらいは問題ないのでしょうけども。) ▷ミネラルウォーターの安全性について(山梨県) ▷2Lミネラルウォーター2品からの臭素酸検出の原因と弊社の他のミネラルウォーター商品の安全性について(ポッカサッポロフード&ビバレッジ株式会社) ▷ミネラル水に発がん性物質=746万本回収-ポッカサッポロ(時事ドットコムニュース)
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norikazuharada · 8 years
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【豊洲市場地下水問題】ベンゼンとヒ素の“基準値超え”について
地下ピットのたまり水問題が沈静化してきたタイミングで、残念ながら今度は地下水から基準値を越える濃度の汚染物質が検出されました。このニュースをどう見たら良いか、またネットで必要な情報を集めてみました。
まずは一次情報から
豊洲市場用地における地下水のモニタリング(第8回)の結果について(速報)(東京都中央卸売市場プレスリリース)
豊洲市場の敷地内には地下水の水位や水質を観測するための井戸が201箇所されています。今回そのうち青果棟のある5街区で、2箇所から基準値を上回るベンゼンが、1箇所から基準値を上回るヒ素が検出されました。この地下水のモニタリングというのは、土壌汚染対策が完了した一昨年の11月から今年11月まで、2年間に計9回実施する予定の調査の8回目で、環境基準を越える値が検出されたのは今回が初めてのことです。検出された値はベンゼンが0.014mg/Lと0.011mg/L、ヒ素が0.019mg/Lとなっています。
適用する基準について
地下水の水質汚濁に係る環境基準について(環境庁告示)
その値が超えたという基準はこちら、地下水の環境基準です。別表及び付表で確認しますとベンゼンも砒素も0.01mg/Lとなっており、確かに先の値はそれを上回っています。次にこの基準の性質ですが、リンク先の説明に「健康を保護する上で維持することが望ましい基準」と書かれているように、行政上の目標値を定めたもので規制の対象では無く、水質汚濁防止法によって規制を受ける排出基準(ベンゼン・砒素共に0.1mg/L)とは性質が異なります。そしてその値は、70年間毎日2L飲み続けても健康に影響が出ないレベルとされています。
環境基準を適用する理由
豊洲市場では飲用は勿論、トイレなどの雑用水としても地下水は利用されないため、ゼロリスクに近い安全性を求める声がある一方で、飲む訳でもないのに対策が過剰過ぎるとの声も一部ありました。また法律上も、土壌汚染対策法に基づく措置としては人への摂取経路を遮断するだけで良く、遮水壁で囲んでコンクリートかアスファルトでフタをしてあれば十分であるところ、生鮮食料品を扱う市場用地としての安全・安心を確保するため、法令で求められる水準を上回る手厚い内容の対策をとることにしたというのが東京都の説明でした。
環境基準か排水基準か
その対策のあり方を検討した専門家会議の最終報告書において、建物建設地については環境基準への適合を目指した地下水浄化が、それ以外については排水基準に適合する地下水管理と、将来の環境基準達成が提言されました。地下ピットのたまり水は建物内のことなので当然環境基準への適合が目標となりますが、今回問題となった3箇所はいずれも屋外の観測井とされていますので、適用すべきは排水基準ではないかと思われます。ベンゼンもヒ素も排水基準はクリアしていますし、いずれにしても微量であることには変わりません。
【2016/10/5追記】 建物建設地は環境基準、建物建設地以外は排水基準という専門家会議での方針は、その後の技術会議で変わっていました。第7回の資料「評価・検証に際しての視点」の中に、以下のように書かれています。
“経費及び工期短縮の観点から、建物建設地と建物建設地以外の区域を区別せず、建物建設前に環境基準まで浄化する。”
専門家会議で設定した目標基準を、技術会議でさらに基準を上げた形になっています。また、同時に建物建設地外周の遮水壁も止めたようです。経費及び工期短縮の視点からということですので、排水基準達成で安全上は問題無いとしていた専門家会議の結論が変わった訳ではないのですから、環境基準(排水基準の1/10)を超えたことは問題にならないはずです。適用する基準が同じということで、次項に書いた疑問は解けました。“基準値超え”について注目すべきは、安全かどうかという点ではなく、法律上の要件に移りそうです。 【追記おわり】
屋内か屋外か
一部報道では3カ所とも屋外と書かれていますが、プレスリリースには記載が無く、観測井設置箇所の図面は公開されているものの、建物が入っていないため確認できません。過去の回の調査結果一覧や計量証明書などを見ても、屋外か屋内かの記載が無く、適用する基準が違うはずなのにその区別が無いのは疑問です。建物のある図面と見比べると2箇所が建物と重なるように見えたので、大きさを合わせて重ねてみましたが、手作業のため正確性は微妙です。一応建物の外に見えますが、ここは是非明らかにして欲しいところです。
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地下水モニタリングの目的
土壌汚染対策法 要措置区域等の指定状況(東京都環境局)
勿論水質と水位を維持するための計測なのですが、2年間に9回というのは行政手続上の目的もありそうです。豊洲市場のある豊洲六丁目は土壌汚染対策法により『形質変更時要届出区域』に指定されています。これは土壌汚染はあっても摂取経路が遮断されていて健康被害が生じる恐れがないため、汚染の除去等の措置は不要だが土地の形質変更時には届け出が必要という区域です。市場内は汚染の除去が完了しているため指定の解除が可能なのですが、その条件が1年に4回以上の計測と汚染のない状態の2年間継続なのです。
法律の条文が難解なため、土壌汚染対策法における「汚染のない状態」の定義が確認できていません。恐らく地下水環境基準以下であることを指すのではないかと思われますが、全ての観測地点での全ての回の計測で一度も超えないという厳格なものかどうか分かりません。ただ環境基準の達成が法律上の要件だなのであれば、法令で求められる水準を上回る対策というこれまでの東京都の説明に疑問が湧きます。指定解除のために環境基準の達成は法令で求められる水準であるはずなのに、解除は必要無いと考えていたということでしょうか。
指定解除と市場認可
もし11月までの2年間で汚染の無い状態が確認されれば、来春には指定解除されたものと思われますが、今回基準を越える汚染物質が検出されたため、向こう2年間は解除できなくなったはずです。土壌汚染対策法上は土地の利用に特に制約は無いようですが、市場の移転は卸売市場法により農林水産大臣の認可が必要となります。汚染の程度が微量とは言え、この社会情勢の中で認可が下りるかどうか疑問です。当初開場予定だった11月は最短での指定解除より前ですので、その辺りがどのように考えられていたのかが気になります。
卸売市場法を見ますと、第十条に認可の基準として「生鮮食料品等の卸売の中核的拠点として適切な場所」が挙げられ、さらに卸売市場整備基本方針の中では立地に関する事項として「安全・衛生上適切な環境にある地域であること」と書かれていますので、基準を満たさないとして認可されない可能性は十分に考えられると思われます。また、一部こちらの資料を根拠に指定区域での卸売市場開設は不可能と断定する論もあるようですが、それは汚染の除去を行わない場合の話であって、豊洲市場のケースは当てはまりません。
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まとめ
環境基準は健康への影響が無いよう十分に低い値に設定されているため、基準をわずかに超えたかどうかは安全・衛生上はほとんど問題になりません。ただ、法律上は土壌汚染対策法による指定が解除されるかどうかという大きな違いとなります。卸売市場法の方は「適切」という定性的な基準のため、汚染の程度という実態を評価するのか、区域指定が外れていないという形式を重視するのか分かりませんが、ともかく難しい判断となりそうです。いずれにしても、科学的な適否より政治的な要素が今以上に大きくなるのは確実でしょう。
参考記事
ベンゼンやヒ素が出た豊洲市場は危険なのか 報道から受ける印象と異なる実態(BuzzFeed News) 豊洲新市場の地下水から環境基準値を上回るベンゼン・ヒ素が検出されたので、事実関係を整理します(東京都議会議員おときた駿氏ブログ) 築地市場の豊洲移転問題(弁護士大城聡氏ブログ)
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norikazuharada · 8 years
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【豊洲市場たまり水問題】シアン化合物検出について
既に騒動は沈静化しつつある印象ですが、前回のエントリでこの件に関してご質問がありましたので、当方素人でお答えするような立場に無いのですが、とりあえずネットで調べられる範囲で事実関係(と思われる内容)の整理だけしてみたいと思います。
ことの発端
都議会公明が採取の水 シアン化合物を検出(2016.9.21公明党東京都本部 最新ニュース)
記事にある通り、都議会公明党が独自調査にてシアン化合物が検出されたと公表し、マスコミ各社でもほぼ同様にその内容を報道されました。この記事では「あくまで参考の値で、極端に高いとは言えない」というコメントのみで、実際に検出された値は載せていません。また、先に行われた東京都による調査や、微量のヒ素が検出されたという都議会共産党による調査でもシアンは検出されていませんが、そのことにも触れていません。調査は民間の分析機関に依頼したとありますが、依頼先や検査方法も載せていませ��。ここは是非、公表したという成分調査結果をウェブサイトに掲載して頂きたいところです。
計測値と基準値
地下水の水質汚濁に係る環境基準について > 別表及び付表 シアン化合物の定量限界値について
報道によれば同調査で検出された濃度は0.1mg/Lとのことです。東京都が建物建設地で適合することを目指していた地下水環境基準では「検出されないこと」となっていますので、0.1mg/Lの検出が事実であれば基準に適合しておらず、目指していた対策が不完全ということになります。一方でこの0.1mg/Lという値はシアン化合物の定量下限値(正確に計測できる最小の値)で、これ未満は「不検出」となるようです。基準に適合してはいないもののごく微量であり、検出されるかどうか、基準に適合するかどうかの境目の値だということです。「極端に高いとは言えない」値などではなく明らかに「かなり低い」値です。
計測方法
日本工業規格 JIS K 0102(HTML版)(完全版はこちら)
先の環境基準別表を見ますと測定方法はJISで決められており、ベンゼンについては規格K0102の38.1.2〜38.5あたりに書かれています。見てもさっぱり理解できませんが、かなり難しそうです。日経新聞によれば都議会公明党は「自分たちで水を採取しており、専門家による正式な調査ではない」とコメントしたようですが、果たして専門家によらずにできるような調査なのか疑問が湧きます。ネットで検索してみますと簡易的な検定器や簡易検査キットも販売されていて、こうしたものを使用したのかもしれません。いずれにしても正式ではない調査の境目の値に振り回されることなく、正式な調査の結果が待たれます。
その他の参考記事
豊洲市場たまり水「水質に問題ない」 専門家会議 豊洲新市場「微量のヒ素」大丈夫なの?猛毒イメージ強いけれど・・・実は毎日摂取
たまり水については専門家会議も問題ないとの見解を示しました。理由は濃度が環境基準値を満たしていることや、設置済みの「地下水管理システム」が今後稼働予定(つまり現状は未稼働)であるということからです。環境基準値を満たしていないはずのシアン化合物(都議会公明党独自調査)についてはスルーされている感じです。ついでに、「環境基準の4割に及ぶ値」で検出された猛毒のヒ素(都議会共産党の独自調査)についても、基準値よりかなり低く安全性に問題ないとの認識が示されています。議会にもマスコミにも、冷静かつ客観的な対応を期待します。
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norikazuharada · 8 years
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【豊洲市場盛土問題】専門家会議の資料から読み取れること
まず対策内容の整理
豊洲市場の「土壌汚染」の問題について、対策の妥当性を考えるためには、汚染の対象を分けてそれぞれ見ていく必要がありそうです。土壌自体の一次汚染、それが雨水で浸透するなどして起こる地下水への二次汚染、そして地下水中から汚染物質が揮発することによる空気への三次汚染です。
土壌自体の汚染対策としては、まず旧地盤面から深さ2mまでは、汚染の由来や程度によらず、とにかくすべての土壌を採掘して入れ替え、それより下については処理基準を超過した部分について基準以下になるように処理するとされています。計画地盤面は旧地盤面より2.5m上なので、採掘した分を元の高さに戻すだけでなく、さらに盛土が必要になります。これは高潮対策として豊洲地区全体で行われていることで、A.P.+6.5mという盛土の高さは市場移転が決定する前から決まっていたのです。
▷資料 豊洲地区の概要(『豊洲土地区画整理事業における建設発生土の受入れ基準等検討委員会』第1回検討委員会 の参考資料より)
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従って盛土は仮に土壌汚染の問題が無くても行われたことです。それを話の展開の中で「土壌汚染対策」に含めて記載してしまったのが後の混乱の元で、今考えれば失敗だったと言えるでしょう。汚染を除去する以外の有効な対策は、汚染土壌に人が直接触れないように隔離することですが、その場合環境確保条例で求められるのは厚さ50cm以上の土壌で覆うこと、それがコンクリートなら10cm、アスファルトならわずか3cmで良く、土壌汚染自体の対策としては合計4.5mもの盛土は必要ないものです。
次に地下水汚染の対策としては、汚染された地下水を浄化処理して汚染物質の濃度を下げること、地下水面より上に砕石層を設けて毛細管現象によって土の中を地下水が上昇するのを遮断すること、地下水位のモニタリングと汲み上げによって水面上昇を防ぐことが考えられ、これらの対策はすべて実施されることになっています。砕石層が必要になる理由からも解るように、土がある方が汚染地下水の毛管上昇による曝露の危険性が高まりますので、盛土は汚染水対策としても必要ないものです。
【2016/9/26追記】 地下水対策としてもうひとつ遮水壁の設置があります。地下水の移動範囲を限定する目的で、各街区の外周と建物建設地の周囲に不透水層の深さまで設けられます。
最後に空気汚染の対策です。今回問題となっている汚染物質のうち、揮発性の高いベンゼンについては空気汚染についても考慮する必要があります。上記の通り、盛土は土壌汚染や地下水汚染の対策としては有効ではありませんので、消去法で盛土はこの空気汚染の対策として必要なのではないかと推察されます。空気より重い気体が4.5mの高さを上がってくるのかという素朴な疑問も湧くのですが、土には汚染物質を吸着する効果があるそうで、それだとある程度の厚みが必要になるのも頷けます。
前置きがすっかり長くなってしまいましたが、ここから専門家会議の資料を見ていくことにします。
初めに盛土ありき
資料6 東京都が予定している土壌汚染対策
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これは第1回専門家会議での配布資料の一部です。建物建設地にも2.5m盛土する予定であったことが表6-1や図6-1で確認できます。つまり専門家会議が始まった時点で既に盛土することは決まっていたのです。(※専門家会議の設置から遡ること10年前に開発整備計画で決定していた。)盛土があることを前提にして検討が進められたのですから、検討の前提が変わったという批判はもっともだと思います。前提が変わったことによって評価が変わるのであれば、当然その部分は再検証が必要でしょう。
ただ、盛土が特に専門家会議で必要性を指摘して対策に盛り込まれたものではなく、元々の決定が踏襲されただけのものであれば、メディアで盛んに言われているような「専門家会議の提言を無視した」というのとはかなりニュアンスが違ってきます。勿論そうした決定プロセスを検証することも大切ですが、やはり一番の関心事は、盛土にどんな効果があって、無いとなぜ問題なのかということではないでしょうか。
盛土の目的や効果は?
豊洲新市場予定地における土壌汚染対策等に関する専門家会議 報告書(要旨)
これが最終報告書の要旨の部分です。やはり建物建設地にも2.5mの盛土をすることが表1および図1で確認できます。しかし、盛土をする目的や、土壌汚染対策としての効果については書かれていません。メディアでは対策の中核として不可欠な対策であるかのように言われているのに、その目的や効果に一切触れていないというのはとても不思議なことです。かろうじてそれらしき内容が確認できるのが、6ページ冒頭に書かれている次の部分です。
“また、建物建設地以外の汚染地下水についても、地下水管理により地下水位が A.P.+2m 程度で管理されていれば人の健康や生鮮食料品に影響を及ぼすことはなく、盛土がきちん となされていれば地下水から揮発したベンゼン、シアン化合物を含む地上空気が人の健康 や生鮮食料品に影響を及ぼす可能性は極めて低い。”
根拠は書かれていないためよく分かりませんが、ともかく盛土が揮発による空気汚染の対策として有効であるように読み取れます。感覚的に何もないよりは土があった方が、それも厚みがあったほうが何かしらの効果で防いでくれるような気はしますし、多くの人もそう感じていることでしょう。しかしそうした効果があったとしても、これは問題になっていない「建物建設地以外」についての話です。盛土されていない「建物建設地」についてはすぐ前の5ページ最後に次のように書かれています。
“上記 3.4の方針で土壌汚染等の対策が行われることにより、新市場予定地内に操業由来の 土壌汚染は存在しなくなり、操業由来の地下水汚染も建物建設地にはなくなる。”
地下水の汚染が若干残る建物建設地以外とは違い、建物建設地には地下水の汚染自体が無くなるため、揮発による空気汚染の対策はそもそも必要無いため、盛土についての記述もありません。説明としてはむしろ逆で、生鮮食料品を扱うことになる建物建設地については特に重要なので、空気汚染の懸念が無いように、地下水の汚染自体を無くすと表現した方が適切でしょう。こうなると、効果がよく分からない盛土の有無よりも、地下水の汚染が本当に無くなったのかの方が気になります。
ここで基準について補足しておきますと、図1や図2の下に記載のある通り、建物建設地が『地下水環境基準』をクリアするのに対して、建物建設地以外は『排水基準』という別の基準が採られています。ベンゼンの数値を見ますと、地下水環境基準は0.01mg/L以下(水道水質基準と同じ)で、70年間毎日2ℓ飲み続けても問題無いレベルです。排水基準では0.1mg/L以下と10倍の開きがあるものの決して高い値ではなく、身の回りにあっても全く問題無いレベルです。先述の通りまずは生鮮食料品を扱う場所を優先した形ですが、将来的には建物建設地以外においても地下水環境基準のクリアを目指すとされています。
盛土は補助的なもの?
9.今後東京都がとるべき対策のあり方
これは同じく最終報告書のまとめにあたる部分です。ここでも当然建物建設地にも盛土はすることになっています。結論として実施する対策だけでなく、前項で触れたような優先順位付けなども含め、基本方針としてどのような考え方で、なぜそのような対策を行うのかということが書かれているのですが、やはりなぜか盛土の目的や効果の記述はありません。しかし、そこからいくつかのことを読み取ることができます。例えば9-3ページにはこのような記述です。
“上記①~③の対策を行った後、その上部に2.5mの盛土および堅固なコンクリート床 (厚さ 25~40cm)による被覆を施すことが計画されており、汚染土壌の直接曝露による人の健康リスクはより確実に防止される。”
その前の対策①から③では、〜するという主体的な書き方、もしくは〜するのが望ましいという提言として書かれているのに対して、盛土については「計画されており」という受動的な書き方となっており、検討の結果必要された対策ではないという印象を受けます。また、「より確実に防止」との表現からは、主要な①から③の対策でほぼ十分で、盛土は補助的なものという印象を受けます。さらに、健康リスクとして“直接曝露”にしか触れていないのは、盛土は単に汚染土壌との離隔を確保するだけの役目というようにも読めます。
盛土は揮発対策でもない?
3.既往土壌汚染調査・対策の評価および今後の対策に向けての課題
これは同じく最終報告書で、東京ガスが行った土壌汚染の調査・対策を評価し、東京都が行う追加の対策に対して課題を抽出した部分です。最後の方の3-5ページに“揮発性有機化合物(ベンゼン)に対する対応について”という項があり、次のように書かれています。
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空気より重いガスがなぜ上方に移動するのかはさておき、どれも対策としては不明確で具体的に何をしたら良いのかよく分かりません。しかし、ここで「書かれていること」よりも気になるのは「書かれていないこと」です。なぜ盛土について一切触れられていないのでしょう。揮発したベンゼンの対応が重要かつ不可欠なことであれば、またその対策として盛土が有効なのであれば、当然ここにそのことが書かれているはずです。最終報告書がこの程度の内容で「盛土は専門家会議が提言したこと」と言えるでしょうか。
盛土が無いとどうなるか?
7.土壌中からの汚染空気の曝露による影響の評価
これも同じく最終報告書で、汚染空気について詳しく検討している部分です。専門的な計算で大変難しいのですが、簡単に言うと、地下水の汚染がどの程度地上の空気汚染になるかを計算し、また地上の空気汚染を健康リスクの無いレベルにするには地下水濃度をどの程度に抑えたら良いかを逆算しています。その結果は、地下水で実際に測定されたベンゼンの最高濃度100mg/ℓだと、地上空気中の濃度は0.041〜0.28mg/m3と大気環境基準の0.003mg/m3を上回るものの、水中濃度を目標値3.1mg/ℓ以下に抑えれば、0.0013mg/m3以下となり基準を下回るとなっています。
その場合に生鮮食料品の表面に付着した水分中の濃度も計算されており、空気中の濃度が0.0013mg/m3だと水分中濃度0.0000057mg/ℓとなり、これは飲料水の基準0.01mg/ℓの1/1,000にも満たない微量です。実際には目標値の1/30以下の0.1mg/ℓに抑えるというのですから、地下水対策が予定通り実施されれば、健康リスクは無いと考えて良さそうです。建物建設地ではさらにその1/10の0.01mg/ℓに抑えるためリスクはもっと低そうですが、盛土が無い現状にこの計算をそのまま当てはめる訳にはいきません。当然気になるのは盛土が無い場合の計算結果です。
難解な数式の意味が判らなければ到底無理かと思いましたが、設定パラメーターの表を見ますと“Lgw:地下水までの深さ(cm)”という項目で設定値が450となっており、それが大きくなるほど地上空気中濃度が下がる式になっています。これを0にして計算すれば、盛土が無く空間だった場合の計算ではないものの、仮に地下水位が地表面まで上がってきたとした場合の空気中濃度もしくは地下ピットの底における最大空気中濃度の試算はできそうです。揮発係数を求める(2)式を見てみますと、Lgwが0だと分母が1となってH✕10^-3と素人でも計算できる簡単な式になりました。
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計算結果は、地上空気中のベンゼン濃度が0.00000227mg/m3で大気環境基準の1/1,000以下、それが生鮮食料品に付着した水分中の濃度は0.00000001mg/ℓで飲料水の基準の1/1,000,000となりました。自分の計算を疑い何度も確認しましたが、報告書に載っている元の計算式や設定値が正しければこの結果になるはずです。仮に地下水位が地表面まで上がっても健康リスクが無いのなら、建物の下に盛土が無く空��であろうと、地下ピットに地下水が入り込んで溜まっていようと、全く問題とならないはずです。
考えてみれば、源泉である地下水が飲料水として飲み続けても全く問題のないごく微量なのですから、そこからわずかに揮発する分による空気中濃度の上昇も、さらにその一部が生鮮食料品に付着した場合の水分中濃度も、こんな程度なのかもしれません。これは盛土の効果が無いという話ではなく、盛土の効果が数字上現れないほど、それ以前の対策が徹底しているということでしょう。勿論これは土壌汚染対策と地下水汚染対策が予定通り完了することが前提であり、もしその前提が大きく崩れることがあれば、盛土が無いどころの問題では済みません。
結論
建物の下に盛土がされていなかったことについて、プロセス上の問題はあったのでしょう。しかしこうして専門家会議の資料を見る限り、そのことによって安全上の問題が生じるとは全く思えません。予定した通りの対策がきちんと行われ、地下水が基準をクリアしているのかどうかの方が、盛土の有無よりよほど重要でしょう。さらに言えば土壌汚染以外にも工事落札率の問題や、使い勝手の面でもさまざまな問題が指摘されており、それらと比べるとなぜこれほどまでに大騒ぎするのか解らない、非常に矮小な問題と感じます。
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norikazuharada · 8 years
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総務省は元々「設置=使用できる状態」というNHKの解釈を認めていて、ワンセグ携帯も契約義務の対象という立場ですから、総務大臣がこう発言するのは当然でしょう。また、視聴者以外にも負担させるという現行放送法の考え方からすれば、所有しているだけで対象になる方がむしろ自然とも思えます。(そもそもその現行法の考え方には納得していませんが。)しかし、法律を盾に取って負担を強いる前に、解決すべき問題がいくつもあるのではないでしょうか。
《視聴可否について》 視聴可能エリアが広くなったとは言え、未だ視聴できない地域もあり、屋内では映らないということもあります。「(放送法第15条)あまねく日本全国において受信できる」ことが契約義務の前提と考えられますが、ワンセグ単体も課金対象とするなら、公共放送事業者として自らの義務を果たすのが先でしょう。実際問題視聴不可エリアを無くすことは難しくても、少なくともその方向で努力はするべきところですが、その点例えばウェブサイトの「受信トラブル相談室」にはワンセグの記述が一切ありません。怠慢というだけでなく、自らもワンセグはオマケとしか考えていないことが透けて見えるようです。
《受信料額について》 視聴できないという問題に加えて、視聴できたとしても、通常の地上デジタル放送(フルセグ)に比べて、圧倒的に画質が劣る点も無視できません。NHKの受信料金には地上契約と衛星契約の2種類の種別しかありませんので、大画面テレビで高画質のフルセグを視る人も、携帯電話で低画質のワンセグしか視られない人も、同じ料金を払わされることになります。これは料金体系として著しく不公平かつ不当と言えるでしょう。テレビ非保有者のワンセグ携帯も契約対象としたいのであれば、当然地上契約よりも割安なワンセグ契約を用意することが、まずは最低限の前提であると思われます。
《端末の状況について》 iPhoneユーザーが多い日本においても、スマートフォンの半数以上はAndroidです。ワンセグの無いiPhoneに対して、Androidは大半の機種がワンセグ搭載で、ワンセグ無しとなると��択肢が著しく狭くなってしまいます。不要な機能として挙げられることもあり、搭載されていてもほとんど使わないという人が一定数いるのに、現状はオプションで選択しないということもできず、機能を制限する方法もありません。こうした状況でワンセグ携帯に契約義務を課すことは、テレビを保有しないAndroidユーザーだけに不利益を与えます。総務省はまずこの消費者の任意性が確保されていない現状を改善するべきです。
《購入時の説明について》 仮にワンセグ携帯が受信契約義務の対象だとしますと、ワンセグ搭載の携帯を選ばない人は増えると思われます。特に家にテレビの無いNHK未契約世帯の人にとっては、契約(機種選択)の判断に通常影響すると考えられますから、消費者契約法で言うところの重要事項にあたる内容です。消費者保護の観点からすれば、消費者によく理解させるべきところですが、現状は端末販売時にそうした説明はされていません。総務省が携帯電話事業者にそのような指導をしないのは、契約義務の対象だとする自らの主張に自信がないからかではないでしょうか。もしくは勧誘員の餌食にするため放置しているのかもしれません。
*NHKはスクランブル化等で有料放送となる道しか無いと思います。公共放送と言えども受益者負担の原則です。総務省は税金化の検討も始めているようですが、放送の国営化は絶対に反対です。
*さいたま地裁の判決は支持していますが、その理由は「受信設備の設置にはあたらない」というより、「放送の受信を目的としない受信設備にあたる」という方が妥当ではないかと思っています。
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norikazuharada · 8 years
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集中割合の論争に斜め下から参戦してきたという感じですね。主義主張を通すために数字が利用される見本のような話です。基地の集中度合いとして使われる統計は元々2種類ありますが、その数値が果たしてそれほど重要でしょうか。
施設数で算出すると39%というのは恐らく事実なのでしょう。しかしそれ以上でもそれ以下でもなく、面積で算出された74%という数字を否定する根拠にも、沖縄への集中を否定する根拠にもならないことは言うまでもありません。
ただそれは逆も同じで、面積で74%という事実をもって、施設数で39%という事実を覆すことはできませんし、施設数だけでは正確に実態を表せないという主張が妥当なように、面積だけで正確に実態を表せることにもなりません。
また、同じく面積で算出された22%という数値もあります。在日米軍施設全体で算出した場合の割合で、これはこれで事実です。では74%という数値は何かというと、在日米軍施設の中の『米軍専用施設』だけで算出したものです。
つまり在日米軍施設の中には『米軍専用』ではない施設があり、それらを含めると北海道が33%で一番多く、沖縄はそれに次いで二番目となります。対象範囲によって順位が入れ替わり、数字上は50ポイントも下がってしまう訳です。
勿論これは単に計算上の話であって、狭い沖縄に広く基地が存在しているという実態は何も変わりません。それなのにある人は74%という数字だけを使ってそれを殊更強調し、ある人は22%という数字を使ってそれを批判しています。
74%という数字を否定する人の多くが、『米軍専用施設』には佐世保・岩国・厚木・横須賀・横田・三沢など日米共用の基地が含まれていないと思っていて、それらも含めると22%になると思っていますが、それは全くの誤解です。
在日米軍施設は米軍専用施設(①)・日米共用施設(②)・一時利用可能施設(③)の3つに分類され、定義上は①と②を合わせたものが『米軍専用施設』とされています。つまり74%で含まれていないのは③の一次利用施設です。
用語の使い方が特殊なため誤解してしまうのは無理もないのですが、常時利用している①米軍専用と②日米共用の施設で算出すると74%で、それに③の一時利用可能な施設を含めて算出すると22%となります。どちらも事実です。
ちなみに一次利用可能施設というのは全て自衛隊の施設で、米軍専用施設が多く一次利用施設が少ない沖縄県に対し、専用施設の無い北海道には広大な演習場を含む一次利用施設が多いことが、先の割合や順位の逆転に現れています。
年間の使用日数は限られており、一時的に使用できるというだけで広大な自衛隊の施設を合算することに疑問はあって当然です。逆に除外するのが完全に正しいとも言い切れず、一方が正解で他方が不正解という問題ではありません。
指標としての妥当性を問題にするなら、面積だけでなく件数も反映すべきでしょうし、使用頻度や駐留人数なども考慮して複合的に算出すべきかもしれません。そこまでしたとしても住民の負担の大きさが測れる訳ではありませんが。 【2016.11.12追記】 リンクの資料によると駐留人数ベースでの集中度合いは49.3%でした。 在日米軍人等の施設・区域内外における都道府県別居住者数(平成25年3月31日時点)
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norikazuharada · 8 years
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波紋を拡げているこのニュース、NPOなどに旅行業法が適用されることには違和感を覚えつつも、「良いことをしているんだから(いいじゃないか)」とか「これまで黙認してきたのに(おかしい)」といった短絡的な論調は、(健全な感覚だとしても)少々危険な気がします。以前旅行会社の方に教えて頂いて、やり方によっては法に抵触する可能性があることは知っていましたが、具体的には全く理解していなかったので、この際法律を確認して、まずはどの部分にどのような違法性があるのか、素人なりに考えてみました。
***
旅行業法の規制対象は? まずは旅行業法の条文を見てみます。“旅行業等を営む者”、“報酬を得て、次に掲げる行為を行う事業”、“自己の計算において”等の文言から、この法律は、営利を目的に事業として行う者を対象としているようにしか読めません。非営利で、災害支援を目的として、一時的に行われる活動にまで当てはめようとすることはやはり無理があるように思えます。勿論災害に乗じて悪質な業者が入り込む懸念なども考えれば、一定の線引きは必要でしょうし、現行法の枠内でどうにか対処できないかと行政が考えることは理解出来ます。
参加費を徴収するとアウト? そこで観光庁が考えた線引きのひとつが「参加費の徴収」です。これは法律条文の“報酬を得て”を根拠としたものと考えられますが、報酬というのは労務などの対価ですから、運賃等の実費を徴収するだけなら、報酬を得ていることにはならないというのが普通の解釈でしょう。つまり旅行業を営んでいることにはならず、旅行業法にも抵触しないはずです。しかし観光庁は“経済的収入を得ていれば報酬となる”とか、“包括料金で取引されるものは(中略)報酬を得ているものと認められる”という独自の解釈をしています。
顔見知り同士ならセーフ? 次に考えたのが「顔見知りかどうか」です。線引というより例外ですが、旅行業に該当しない事例として、“相互に日常的な接触のある団体内部”における“団体の構成員による参加者の募集”を挙げ、その基準が顔見知りかどうかだというのです。確かに、旅行の参加者募集や費用徴収でも、団体内で幹事がすることにまで法律が介入するのは違和感がありますが、顔見知りなら法律の適用を免れるという根拠は条文のどこにも見当たりません。そのようなケースは通常報酬を得ていないから該当しないと考えるのが妥当でしょう。
2つの線引に法的な根拠は? 以上2つの線引は『旅行業法施行要領』という通達で示されているものですが、先述の通り旅行業法に照らしてみると根拠薄弱と言わざるを得ません。そして、通達は法令ではないため、行政は拘束されるものの(理論上は)国民や司法はこれに拘束されません。もし違法性を主張するのであれば、行政内部で勝手に決めた指針に過ぎない通達ではなく、法的拘束力のある法律や施行令、施行規則の条文を根拠として示すべきです。恐らく説得力のある説明は難しく、施行要領は見直しを迫られることになるのではないでしょうか。
バランスを欠く過剰規制では? 確かに参加費が無料なら不公正な取引は起きにくく、法律で規制する必要性は低いでしょう。しかしだからといって参加費を徴収するもの全てに範囲を拡げ、非営利の活動にも一律同じ法律を適用するのは、バランスを欠いた過剰な規制だと思います。恐らく行政側にもその自覚があり、拡げ過ぎを是正するために「顔見知り」という法的根拠の薄い線引を持ち出さざるを得なくなったように見えます。施行要領がこのように過剰気味となった経緯は分かりませんが、作成にあたり非営利の行為は想定されていなかったのでしょう。
行政指導の方は適法か? それは旅行業法も同じで、制定当初は非営利の行為を規制しようという意図が無かったことは明らかで、現行の条文でもその点は変わりません。従って、今回非営利でも旅行業法違反(無登録営業)に当たるとした観光庁の行政指導は、限度を超えた拡大解釈であり無効だと考えます。しかし施行要領が見直されない限り、行政指導の撤回あり得ません。不服であれば従わないという選択もありますし、その先司法がどう判断するかも興味のあるところですが、できればその前に関係者でよく協議して見直されることを期待します。
違法ではないが適切か? 以上はあくまで現行法の解釈の話でして、ボランティアバスが無規制で良いとは思いませんし、特に事故やトラブルが発生した場合のことなども考えると、専門の能力を持つ旅行業者に委託して催行される方が望ましいと思います。また、法の目的は旅行者の保護であり、取引の公正や利便性も大事ですが、何より安全の確保が優先で、参加費が無料であろうと、顔見知り同士の団体であろうと、例外なく必要であるはずです。現行法を無理に当てはめるのではなく、柔軟に取り込むような形での法改正を含めた議論も必要でしょう。
参考資料:旅行業法について
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norikazuharada · 8 years
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支持している訳でもなく、好きじゃないので、全く擁護したくはないのですが、高市大臣は本当に電波停止の可能性に言及したのでしょうか。答弁全文の文字起こしで確認してみました。この件に限らず批判するのに一次情報に当たらない人が多いと感じています。報道への政治的圧力がもしあれば勿論問題ですが、報道への無批判な同調もかなり危険だと思います。
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まず「電波停止の可能性」に言及したのは質問者である民主党の奥野議員であって、高市大臣はそれに答えたに過ぎません。確かに答弁の中で可能性は否定できないという見解を示していますが、可能性があると自ら言及したような書き方は事実に反します。まして「電波停止をちらつかせて威圧」のような表現は、論説でならまだしも、報道では使うべきではないでしょう。
そしてその、可能性は否定できないとしたことについても、電波の停止はしないと明言しろと迫られたのに対して、よほど極端な例で、かつ何度行政指導しても全く遵守しない場合など、絶対にあり得ないと断言はできないと言った程度です。放送事業者が自律的に守るのが基本とも発言していて、答弁を素直に読む限り、事業者を萎縮させる意図を読み取ることはできません。
勿論政治家の発言ですから、言葉通りの意味だけでなく裏にある意図も読み取る必要もあるでしょう。実際高市大臣にも電波停止をちらつかせて威圧する意図があったかもしれませんが、それはあくまで憶測に過ぎません。報道で事実を知り、他の事実と併せて推論するなら良いですが、客観報道の中に憶測が紛れ込み、事実を凌駕するように広まっている現状は問題です。
また発言の意図に注目するなら、奥野議員の方には、政府が政治的公平性の名の下に法律を恣意的に運用することによって、政権に批判的な番組を排除しようとしている、萎縮して政権の批判ができなくなるかもしれないという危惧を抱かせようという狙いが明らかです。それが的を射た懸念なのか因縁による印象操作なのか別として、その狙いは成功したと言えるでしょう。
しかしそれは印象面においてはそうでも、法律が守られなくても行政は目をつぶって放置しろと言うのはおかしな要求です。確かに、政治的公平性を誰が判断するかという問題を含め、濫用される可能性が否定できない現行法には問題がありそうです。ただそれは行政ではなく立法の問題ですので、法に従わない運用を行政に求めるのではなく、法改正の議論をすべきでしょう。
表現の自由を定めた憲法第21条に抵触するため、第4条を根拠に政府が放送に関与するのは憲法違反だという意見もあるようですが、それなら抵触しないよう法改正するなり、違憲訴訟で争うなりすれば良いのではないでしょうか。それを憲法を盾に取って、法規範性の無い倫理規範だとして法律の条文を骨抜きにしようとする主張は、論理的にかなり無理があると思います。
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norikazuharada · 8 years
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���日NHKの朝のニュースで電力自由化を取り上げ、2つの疑問点を投げかけていました。どちらも消費者のニーズとしては当然あるでしょうし、現状に対して不満に思う気持ちもよく解るのですが、今の仕組みの中ではむしろ当然のことです。それを当事者や専門家に取材して補足することなく「疑問」のまま報じた報道姿勢には不信を覚えます。このような投げっぱなしですと、今後参入者が増えて競争が進めばそういうニーズを満たす業者も現れるだろうという期待も持たせますが、当面変わる見込みはありません。
まず、電気をどこから買うか選べるようになる、消費者側の選択の自由ばかりが注目されていますが、当然小売事業者側も自由に料金を決め、お客を選ぶことができるようになります。省エネに熱心な(=あまり電気を使わない)家庭向けの料金を高く設定するのも、そうした家庭に供給しないのも事業者側の自由です。2020年までは従来の電力会社に供給義務あり、現状の認可料金も存続させることになっているため、その間は(あえてそういう選択をしない限り)現状より料金が高くなるということはありませんが、これは激変緩和の措置でもあり、自由化のデメリットを見えにくくするものでもあります。
次に、多くの人が現に契約している割にあまり理解されていない現状の契約(従量電灯B)についてですが、10電力各社で金額の違いはあるものの、月間の使用量をしきい値とした3段階料金制度が採用され、第1段階(120kWh以下)の分は安く、第3段階(300kWh超)の分は高い料金となっています。前者はナショナル・ミニマム(国が保証すべき必要最低水準)として安く、後者は省エネを促進するため政策的に高く設定されたもので、中間の第2段階がコストに対応した言わば通常料金です。つまり120kWh以下というのは、制度的に元々優遇されていて、自由化後も当面その恩恵を受け続けるのです。
自由化によって企業各社が電力小売りに参入するのは当然自社の利益のためであって、料金を下げるのはお客を獲得するひとつの手段に過ぎません。品質に全く差の無い超コモディティ化商品を扱う以上、価格競争での薄利多売にならざるを得ません。値引き余地の大きい第3段階(300kWh超)向けが各社プランの主戦場になるのは必然で、値引き余地も利幅も殆ど無い第1段階に向かうインセンティブはほとんどありません。よりはっきり言えば、そもそも自由化は省エネや環境適合という方向性とは逆行する性格のものなので、節電を頑張っている消費者に大きな恩恵があるはずがありません。
最後に「原発の電気は使いたくない」と「再生可能エネルギーによる電気を使いたい」について、残念ながら2つのニーズを満たすのは難しいと言わざるを得ません。理由は固定価格買取制度です。再エネの発電事業者にとっては、従来の電力会社が高値で買い取ってくれるのですから、他の小売事業者に買ってもらう理由がありません。結果的に再エネの大半は従来の電力会社が扱うこととなり、そこの原発が稼働していれば原発の電気と併せての販売となります。もちろん他の小売事業者と消費者が固定価格以上でも買うというなら話は別が、それは「多少高くても」というレベルではありません。
最後に「原発の電気は使いたくない」と「再生可能エネルギーによる電気を使いたい」について、残念ながら2つのニーズを満たすのは難しいと言わざるを得ません。理由は固定価格買取制度です。再エネの発電事業者にとっては、従来の電力会社が高値で買い取ってくれるのですから、他の小売事業者に買ってもらう理由がありません。結果的に再エネの大半は従来の電力会社が扱うこととなり、そこの原発が稼働していれば原発の電気と併せての販売となります。もちろん他の小売事業者と消費者が固定価格以上でも買うというなら話は別が、それは恐らく「多少高くても」というレベルではありません。
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norikazuharada · 8 years
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こんな小さなタグや缶バッジくらいで、と疑問に思うのはごく普通の感覚だと思います。ただ、ルールで決められた禁止事項に該当するものを、小さいからという理由で一部認めてしまったらどうなるでしょうか。どこまでの大きさが認められるかで揉め、または徐々に大きなものを認めざるを得なくなり、際限がなくなってしまうかも知れません。そうならないため、さらに行政として公正に執行するには、認められる大きさを規定して、入館時にサイズ計測を行うなんてことにもなりかねません。それも、もし全員が付けてきたとしたら当然全員を、たくさん付けてきたらそれらもすべ。「小さなタグや缶バッチ」のためにそんなことをするのは全く馬鹿げた話で、やはり一律すべて認めないのが正解でしょう。入館される方が外せば済む話で、政治的なメッセージではなく、示威行為にも当たらないと考えているなら、外すことに抵抗を感じる必要もないはずです。 では、東京新聞の元記事のように、その書かれている内容にまで踏み込んで、正しい主張なのに外すのはおかしいという批判はどうでしょうか。国会や議員会館に行くくらいですから、政治に高い関心を持っていることは間違いありません。タグやバッチも、ファッションではなく政治的メッセージと考えるのが自然です。それを外せと言われれば、その政治的な主張が否定されたと勘違いしてしまうかもしれませんが、タグやバッチを外すことと、政治的な主張の正当性は全く関係ありません。(例えば「9条改憲」というバッチなら入れたというのなら批判されて当然ですが。)誰でも客観的に判定できる、物理的な大きさの話とは違い、政治的な主張の正しさという裁判官にも出来ないような難しい判断を、手荷物検査の係員に出来る訳もさせる訳もありません。書かれている内容は全く関係無く、やはり一律すべて認めないのが正解でしょう。
残る問題は「政治的なメッセージ」かどうかということで、ここはやや難しいところです。その点に関して記事にある「守れ」の2つの意味の話は正鵠を得た指摘で、仮に本人に政治的な意図が無く前者(違反するな)の意味で身に付けていたとしても、他社から見て政治的メッセージと受け取られる可能性がある(しかも今回の場合はその蓋然性が極めて高い)という一点で、ルール上外すべき対象としたのは妥当な判断だったと思います。正しい主張なのにおかしいと批判されていることがまさに、それが政治的主張であったことの証左だとも言えそうです。ただ、本人が認めなければ平行線になってしまい、判定基準なしでは納得できない人もいるでしょう。だからと言ってブルーリボンや赤い羽根まで持ち出しての主張は難癖のような主張は難癖というものです。メッセージが政治的かどうかというより「政治的」という言葉自体がそもそも曖昧なので、多くの人が共有出来る別の線引きが必要で、それは異なる意見の対立があるかどうかだと思います。 では、拉致被害者の救出について、賛成・反対の対立は起きているのでしょうか。ブルーリボンを見ただけで不快に感じる人がいるのでしょうか。思わぬところで引き合いに出され、拉致被害者家族の方々はどう思われるでしょうか。
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norikazuharada · 9 years
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売電するため電力会社の系統に接続する場合、50kW未満は低圧(100/200V)で、50kW以上は高圧(6600V)と決められています。これは太陽光で売電する時に限ったことではなく、電気を買う時の受電契約も同じです。電力(W)=電圧(V)✕電流(A)の式に当てはめれば分かるように、同じ電圧だと電力に比例して電流も大きくなりますが、電流が大きいと危険ですし、ケーブルも太くなって大変なので、電圧を高くすることで電流を抑えます。
また、太陽光発電システム側も50kW以上の高圧は電気事業法上「発電所」という扱いとなり、電気主任技術者の選任や保安規定の作成など、保安のための様々な義務が課せられますが、50kW未満の低圧ではそうした義務が免除されています。他にも高圧の場合は、電圧を上げるために高圧受変電設備が必要にななりますし、電力会社と連携するために必要な手続きや満たさなければならない技術要件も増える上、月額の基本料金も高くなります。
それらはすべてコストアップとなり、初期投資も維持費も高くなります。そのため、施主や業者がなるべく低圧にしたいと考えるのは当然のことで、閾値ぎりぎり49.5kWというシステムも販売されています。さらには総容量が数百kWのものを50kW未満になるように何案件かに分けて申請するケースも出てきて、 九州を中心に全国に広がりました。 これが「低圧敷地分割」と呼ばれるもので、施主にとっては経済的に大きなメリットのある手法です。
勿論これは法の趣旨に反しており、本来高圧の一案件として申請すべきところを、規制逃れのために低圧に分割する、言わば脱法行為です。2014年度以降は事実上禁止となりましたが、逆にそれ以前のものには合法だとお墨付きを与えたような形にになってしまいました。記事にある通り、鹿児島では本来 大規模太陽光発電所となるべきメガクラス(1000kW超)の案件が40区画にも分割されたものが、小規模発電設備として既に稼働しています。
禁止によって無くなったかと言えば、一時的には逆のことが起きました。改正前の駆け込みです。九電が接続保留に至った理由に、2014年3月の大量申込集中が挙げられていますが、その背景には買取価格の引き下げに加え、この件も重なっていて、低圧敷地分割での申請容量は250万kWにも及びました。中には1000以上に分割したものまであり、低圧申請のうち9割近くが 脱法行為(まともな申請は1割ほどしかない)という極めて異常な事態です。
デベロッパーが安く用地を取得してメガソーラーを建設し、50kW未満に分割して個人投資家に分譲販売するというビジネスモデルも横行しているようで、これはまさに禁止されるべき「低圧敷地分割」の最たるものです。詳述するのは一応控えますが、意図的にスキームの内容を変えられてしまうと、禁止できない(認定せざるを得ない)ケースも起こり得ると思われ、悪質な申請を撲滅できないのではないかと危惧します。
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norikazuharada · 9 years
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先日突風により多数のパネルが飛ばされる大きな被害のあった伊勢崎市の太陽光発電設備は、やはり単管パイプを組み上げた簡素な架台で、コンクリート等の基礎の無い、パイプを1mほど地中に打ち込んだだけだったようです。
架台等の強度については「太陽電池アレイ用支持物設計標準」という規格(JIS C 8955)で決められており、パネルの重量を支えられるだけでなく、風圧や積雪、地震による荷重すべての組み合わせで必要な強度を計算して設計します。
中でも大きいのは裏側からの風による巻き上げる力(負圧)で、今回のようにパネルの裏に吹き込んで強い力が働いても、パネルが飛ばされたり架台が浮き上がったりしないように、十分な架台の強度や重量が必要になります。
記事を読む限り、今回の設備はパネルの固定金具の取付強度も、架台自体の強度も、杭基礎の引き抜き強度もすべて足りなかったのではと思われ、設計時点から必要な強度を満たしていたのか、計算自体やっていたのかも疑問です。
さらに記事ではこの設備が ”低圧分割” であることにも触れていますが、これは 2014年度以降禁止された脱法行為です。その方が導入コストも維持コストも抑えられるからです。再エネでもまた安全より経済性を優先するのでしょうか。
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norikazuharada · 9 years
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太陽光パネルは後ろから風を受けると強い浮力が働き、その力は自重の何倍にもなります。そのためパネルの架台と基礎は、それに耐えられる十分な強度と重量が必要になるのですが、最近は単管パイプを組んだだけの簡素な架台や、基礎コンクレートのないものが目につくようになりました。それらがちゃんと強度を満たしているのか、それ以前に設計時点で強度計算が行われているのか、非常に気になっています。
建物の屋根などに設置する場合は確か建築基準法で風速60m/sに耐えられる取り付け強度になっていたかと思いますが、今回のような野立てのパネルは通常建築物にあたらず、どのような基準になっているのかよく分かりません。最低限その地域の基準風速には耐えられるように施工してあると思いたいところですが、調べてみたところ群馬県の基準風速30m/sに対して、昨日の伊勢崎市で観測された風速は瞬間最大で20.2m/sでした。
その程度の風速で飛ばされてしまうようでは、設計時点から十分な強度を満たしていなかったと思わざるを得ません。その辺りは施工業者によく確認して貰いたいところですし、行政でも規制の現状や施工の実態をよく点検すべきだと思います。所有者の方は見た感じ農地転用で太陽光を導入したシロウトさん、完成してから一ヶ月も経たずに壊れてしまったのお気の毒ですが、加害者にならずに済んで幸いだったと考えるべきでしょう。
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norikazuharada · 9 years
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猿島史跡見学ツアー
東京湾唯一の自然島、東京から一番近い無人島、日本初の台場(砲台場)を持つ要塞の島、そして猿は一匹もいない『猿島』へ行ってきました。京急快特で品川から横須賀中央まで45分、駅から三笠桟橋まで徒歩約10分、船で約10分と無人島に行くにしてはなかなかお手軽です。「普段は入ることができない要塞のトビラの鍵を開け…」の文句に惹かれ、急遽出かけてきました。
勝手に期待値を上げすぎたせいなのですが、要塞の内部に入れたのが火薬庫一箇所だけというのは正直期待はずれでした。「普段の」ガイドツアーでも兵舎や火薬庫に入れるので、て��きりそれ以外のところに入れるものと思い込んでいました。完全に「普段は」の解釈の相違です。通常のガイドツアーのお試し版といった内容で、冷静に考えれば料金の安さで気付くべきでしょうね。
しかし、猿島に初めて行く人や、要塞跡などを見たことが無い人には十分オススメできる内容です。遺構保護のためのネットフェンスや、遊歩道のボードウォークなど、その筋のマニア達に猿島は整備しすぎと不評なようですが、一般的にはリアルラピュタなどと呼ばれて人気があり、ジブリファンの間では聖地化されているとかいないとか。興味のある方は是非行ってみて下さい。
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今回参加したツアーはこちら。 http://portmarket.cs-yokosuka.com/2477
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