家に着くなり、太宰の腕を振り払い、中也は部屋の奥へと足を進めた。
「あ」
太宰は声をあげ、咄嗟に中也を引き止めようと手を伸ばしたが、ふらふらと蝶のように予想のつかない足取りでひらりと交わされる。
「ちょっと中也、待って」
二人は呑みに行った帰りだった。といっても、初めから示し合わせたわけではなく、単なる偶然で同じ店に居合わせてしまったに過ぎなかった。
相変わらず酒に弱い中也は、太宰が見つけた頃にはもう随分と酔いが回っていた。
腐ってもポートマフィアの幹部。連れもなしにここまで酔っているのは珍しく、仕方なく太宰が家まで連れ帰ってきた。
暑いのか、ふらふらと歩きながら中也は服を脱いではその場に捨てていく。
太宰は呆れつつその服を拾い集めながら中也の後を追いかけた。
「もう中也。いい加減にしてよ」
外套とジャケットとシャツと。それから帽子にベルトにズボン。両手に抱え込んだ中也の服は全て合わせるとずっしりとした重さがあった。
下着だけの、身軽になった中也が、ひとり寝室の窓越しに外を眺めていた。
「中也、寝るならベッド行って。私もう帰るよ」
その言葉に中也は太宰を振り返った。赤く染まった顔を向けて、ゆっくり、小さく笑う。
「……四年ぶりに会った恋人が、酔ってこんな格好なのに帰るのか」
「おとこじゃねぇなぁ」と舌足らずに続いた言葉に、太宰は一瞬目を丸くさせ、そしてため息を吐き出した。
「君、酔ってないんじゃないか」
中也は楽しげに喉を鳴らして笑った。くつくつと小さく音が聞こえる。
「酔ってるぞ」
中也が笑い、太宰へと近付いた。
「酔ってたら、君は口も聞けないし明日記憶も残ってない」
「試してみろよ」
中也に肩を突き飛ばされ、太宰はベッドに沈んだ。両手に集めた服は全て床に落ちて散らばった。
見上げると、腰に乗り上げた中也が一人楽しげに笑っているのが見えた。
「ほんと、嫌な酔い方」
「嫌いじゃねぇくせに」
そう言って重ねた唇は、なぜだか太宰の好きな酒の味がした。
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