Tumgik
i-381p-o · 5 years
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ミスチルという夢が醒めた話
大人になっても、こんなにミスチルが好きだとは思ってなかった。
時は2005年、13歳の春、わたしはミスチルに出会った。
お姉ちゃんの部屋にあった一面ひまわり畑の紙ジャケット。なんかすごいオシャレ。1曲目がオーケストラみたいな音楽で始まるの、オシャレ。2曲目から急にロックバラードが始まる。あ、聴いたことある曲。いい歌だなぁ、歌詞カード…こんなところに入ってたのか…ん。ん?ん、かっこいいな。桜井和寿??かっこいいな。えーーー、めっちゃかっこいい。
一目惚れだった。
とにかく、ミスチルに会いたい。
それだけがわたしの夢になった。
幸い幼い頃からピアノを習っていたので、音楽の道に進めばいつかミスチルに会えるかもしれないと思い始めた。
高校ではクラシックピアノも音楽理論もソルフェージュも勉強した。
でも、本気になれない自分がいた。「音楽」がそんなに好きではないと実感し始めたから。小さな絶望だった。
ならばとりあえず、東京へ行こう。有名な大学に入ってレコード会社とか出版社とかテレビ局とかに入社して、いつかミスチルに会うんだ、って夢見た。でもなんとなく自信がなかった。わたしには取り柄がない。東京へ行った自分がなにをどう頑張ればいいのかイメージがつかなかった。
もはや「ミスチルが好き」という事自体がわたしのアイデンティティになっていた。それ以外の動機がなかった。そんな自分が虚しくて嫌になった。
結局、地元の国立大学に進学して、
こんなはずじゃなかった、ってヤサグレた毎日を過ごしていた。ミスチルが好きって恥ずかしくて言えなかった。授業もろくに出ず、バイトもせず、遊び呆けてた。時は2010年代なのに、とりあえず渋谷系おさえとけばお洒落っしょ、ってピチカートファイブフリッパーズギターオザケンカジヒデキフィッシュマンズばっかり聴いてる時代錯誤も甚だしい大学生だった。(それはそれで楽しかった。)
2013年、ミスチルが、地元沖縄にやって来た。もう興味ないからいいや、って思ってた。チケットは申し込んですらいない。なのにやっぱり気になってしまって、音漏れを聴きに行った。桜井さんの声がする。わたしは今まで何をしてたんだろう。こんなに近くで桜井さんの声がする。憧れてたものがこんなに近くにいるのに、どうして会えないんだろう。
自分がとっても情けなかった。あのやり場のない情熱にわざわざ意味なんかつけようとせず、もっと突っ走っていればよかった。Mr.Childrenはデビュー20周年を迎えてもなお、トップを走り続けているというのに。
とはいえ、その後もわたしの生活が劇的に変化するわけではなかったし、自分が何者になりたいのかやっぱりよく分からなかった。だけどヤサグレてた日常も愛おしいものになっていて、大学を出た後は音楽関係でも出版関係でもマスコミ関係でもない地元の小さい会社に就職した。そして時は2017年、25歳の春、結婚した。お互いお金がなかったので新婚旅行の予定はなかったけれど、代わりにやりたいことがあった。わたしの25周年とミスチルの25周年を一緒に祝いたい。ミスチルのお陰で25年どうにか生きてこれたんだ、こんな節目の年に結婚もできたんだ、って感謝したい。………Thanksgiving25のチケットが取れた。大阪1泊2日弾丸旅行。京セラドーム2日目。紛れもなく圧巻のライブ。わたしの知ってるMr.Childrenではなかった。これまで何百回も聴いてきたはずの名曲たちが、全部初めて聞く曲のように胸に突き刺さった。こんなに嘘のない音楽聴いたことない。わたしはやっぱり、Mr.Childrenのこと何もわかってなかったし、けど同時に、わたしだって本当はもっと真面目で純粋で、まだまだ心に情熱が残ってる人なんだよ、って教えられた気がした。
2017年の秋に妊娠して、あぁこれからは気軽にライブ行けなくなるなぁ、でもThanksgivingサイコーだったし暫くは充分だなぁって諦めてた。
でもやっぱり…やっぱり、ライブ行きたいなぁ。
よし。職場復帰する前に、一度遠征するぞ!!と気合を入れ、取れたチケットがDome tour2019 Against ALL GRAVITY 福岡初日。………あぁこれまた、わたしの知ってるMr.Childrenではなかった。優しくて、強くて、可愛くて、荒々しくて、冷たくて、温かくて、無邪気で、セクシーで、ダサくて、かっこいい。完全無敵だ。彼らの魅力がダイアモンドみたいに、どっから見ても輝いてる。美しい。
福岡初日のライブは、産後の身体にはきつかった。受け止められる心のキャパがなかった。帰り道、知らない街の喫茶店でアイスクリームを頼むのが精一杯だった。
その一週間後。メールがきた。「チケットがご用意できました。」沖縄追加公演6月2日。
うそだ。うそだうそだうそだ。当たらないと思ってた。沖縄で、観れるんだ。沖縄で。とくに地元愛が強いわけじゃないんだけど、ミスチルが沖縄に来てくれる。それだけで幸せだった。
そして当日。これまた、たまげるくらいの神席。アリーナ3列目。残念だけど、ちょうど前列の2席が空席だった。だから実質2列目。めちゃくちゃステージが近い。開演前から鳥肌。夢が、近い。憧れが全部このステージの上に乗っている。怖い。畏怖。
本当にここにMr.Childrenが現れるのか。開演5分前になっても実感が湧かなかった。
なんならもうこのまま帰っても充分にお腹いっぱいだった。
会場の照明が消える。スくっ!と観客が一斉に立ち上がり歓声と拍手が起きる。
妖艶な照明と映像。
田原さんにスポットがあたる。ギターの指づかいが見える。ナカケーが登場する。JENが満面の笑み。ドラムの後ろから、桜井さん。カウント「ワン、ツー」
あ。全てが。わたしの夢の全てがここにある。桜井さん。目の前で。本当に歌っているのがわかる。中学生の頃、ミスチルに会いたすぎて部屋のCDコンポのスピーカー破ってしまおうかと本気で思ったことがある。ほんと馬鹿。友だち作るのが下手で、一人で公園でミスチルの歌詞カード読みふけってた。自分らしさの檻の中でもがいてるなら誰だってそうなんだ、って励ましてくれた。Worlds endのイントロは、世界の大きさを知ろうとしてた貪欲な13歳の自分に引き戻される。もっともっと、一曲ずつに思い出があるんだけど、割愛します。全てが。夢だった全てがそこにあって、過去と未来が繋がった。時の美しさと残酷さは、子どもが生まれてから特に感じるようになったけれど、6月2日、沖縄コンベンションセンターでのライブは本当に美しくて残酷で、一瞬でもまばたきしたら終わってしまうんではないかと怖かった。
でも、全ての音が鳴り止んだとき、意外にもわたしの心は強くなっていた。ミスチルが生きている。同じこの世界で一生懸命歌っている。夢じゃない。彼らの想いが、生活が、なんてことないわたしの生活にも地続きで繋がっている。彼らが新しい曲を作ってレコーディングしてライブをするように、わたしも仕事をして家に帰ってご飯を作ったり子どもの世話をする。そしてまた、ライブで会う。そう思うと、心強くてあたたかい気持ちになれた。淡々とした生活の中で、想いは廻っているんだ。
会いたくて、近づきたくてしょうがなかったミスチルに、こんな形で背中を押されるとは思ってなかった。結成30周年を迎えてもなお、4人で肩を組んで満面の笑みを浮かべる姿は本当に本当に美しかった。
わたしも、わたしの世界で精一杯生きてみる。きっと苦しいときはまたミスチルを聴く。わたしのクロスワードパズルが解けたとき、また会いに行きます。それまで、どうかお元気で。
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