Tumgik
chiaki0802-blog · 3 years
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グラズ×カプカン(ブログより)
【別離〜別れ道】
向かい合い、互いの瞳を見つめ合えばマクシム・バスーダはティムール・グラズコフの手を握りながら目を細めた。
かつては狩人と言われたこの男も今はただの病人に過ぎず、そしてかつての威厳などそこには存在しなかった。
ティムールはマクシムの手を握り返し、病床で臥せる彼の瞳を見つめて小さく呟いた。
「あんたはどうして延命を望んだ?薬で命を引き延ばしても辛いはずだ。自身の肉体にとっても精神的にも死を選択した方が良かったんじゃないか」
まだ40代半ばであるマクシムは気付かないうちに身体を病魔に蝕まれており、余命僅かという宣告を受けていた。
そんなマクシムと恋仲であったティムールは欠かさず彼の病室に足を運んでいた。日々痩せ細っていくマクシムを見るのが正直ティムールの精神に応えていた。
「…俺は最期までしぶといから」
力なくマクシムは口から言葉を漏らす。痩せ細った顔、細くなってしまった指先は微かに震えており、ティムールの顔に触れるかのように伸ばされていく。
「…死に逝くことに恐れなどない、分かった時から死を受け入れることを心に決めていたからな。ただなティムール、俺が一番怖いのは…」
マクシムの指はするりと陶器のように整ったティムールの顔に触れていた。まるでもう触れられないと言わんばかりに、慈しむかのように。
「俺が逝って、お前が別の誰かと幸せになることが一番怖い。ティムール、俺を忘れないで、俺と過ごした日々を思い出して、ずっとずっと…、俺を想ってくれないか」
マクシムはティムールに乞うかのように囁いた。ティムールは唇を強く噛み締めながらマクシムの身体を引き寄せた。
「…俺があんたを忘れる訳なんか、忘れる訳なんかないだろう?!絶対に忘れてなんかやらないっ、マクシム、あんたは何も分かってない!!置いて逝かれる俺の気持ちなんか何一つ分からないだろう…!!」
ティムールは薄い青の双璧に涙を浮かべながらありったけの想いをぶつけた。マクシムは力が入らない身体で必死にティムールの身体を抱きしめ返す。
「…俺だって本当は生きたかった、だけれどこれが運命というのなら受け入れるしかないだろう。ティムール、俺を好きになってくれてありがとう、俺を愛してくれてありがとう、俺と…」
嫌だ、嫌だ、やめてくれっ…
「俺と出会ってくれて、ありがとう…」
ティムールにどさりと身体を預けて瞳を瞑るマクシムを涙目でティムールは見つめた。
心臓の鼓動も、 穏やかな瞳も、 大好きだった温もりも。
今はもう、何も遺ってはいなかった。
ティムールは体温が失われていくマクシムの身体をより強く抱き締めながら瞳から大粒の涙を流していく。
「…Любит вас, провел день 2 снова и не вернется, так 2 градуса. Я любил тебя. Гораздо больше, чем все остальное,. Так что пожалуйста, Покойся с миром.(…あんたを愛して過ごした日々はもう二度と戻っては来ない、そう、二度とだ。俺はあんたを愛していたよ。何よりも、ずっとな。だからどうか、安らかに…)」
マクシムの身体をゆっくりと寝かせ、色白くなる彼の顔を見つめながらティムールは彼の手を握り続けていた。
もう二度と目を覚ますことのないマクシムの顔はどこか安らかで、そして幸せそうだった。ティムールの涙が一粒、伝って落ちていく。
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chiaki0802-blog · 7 years
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終わりない明日
果てない荒野が見えるその丘に私は居た。 白衣にアサルトスーツという異色の出で立ちだが、着用している白衣には出血による血が染みていて汚れていた。 「あぁ、私のイメージカラーなのに」 ハンドガンと簡単な医療器具が詰まったカバンを持ちながら私は敵兵から逃れてきた。 任務に就いた国で紛争が終わり、平和の為の条約が結ばれた朝。 私は医師団の人間として最後まで国内に残っていたのだ。 しかしスパイだと過激派から疑われた私は手負いの状態になりながらも必死に逃げてきたのだ。 抵抗した時に撃たれた傷が思っていたよりも酷く、真っ白な白衣は真っ赤に染まっていった。 このまま逃げ場がない私はどうしたら良い? 崖の下に飛び込めば良い? 分からない、分からないんだ。 終わりない明日を迎えるにはどうしたら良い? …答えなんて一つしかないだろう? 果てない荒野が見えるその丘の真下、私は覚悟を決めて足を一歩踏み出した。 真下は川で運が良ければ生きていられるだろう。 血で汚れた白衣も、 カバンに詰まった医療器具も、 マガジンの入ったハンドガンも。 全て此処に置いていこうか。 私は最後まで善良なる医師であったのだろうか。 か弱き者に手を差し伸べて、温かな光を見せることが出来たのだろうか。 …私には出来なかったのだろう。 だからこそ私はスパイだと疑われ、そして身体に傷を負って此処に居るのだろう。 「さよなら、終わりない明日に夢見る者たちよ」 一歩踏み出して堕ちていけば後は思うことなんてなかった。 あぁ、私は最期まで。 結局最期まで後悔しかなかったんだ。 堕ちていく中で頰を伝っていく涙に思いを馳せていく。 次に目を覚ます時にはどうか。 終わりない明日を望める側に居れますようにと願いを込める。 水の冷たさが、心地良かった。 ドク先生の国境なき医師団時代のお話を妄想で、
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chiaki0802-blog · 7 years
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chiaki0802-blog · 7 years
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グラズ×カプカン(ブログより)
【別離〜別れ道】 向かい合い、互いの瞳を見つめ合えばマクシム・バスーダはティムール・グラズコフの手を握りながら目を細めた。 かつては狩人と言われたこの男も今はただの病人に過ぎず、そしてかつての威厳などそこには存在しなかった。 ティムールはマクシムの手を握り返し、病床で臥せる彼の瞳を見つめて小さく呟いた。 「あんたはどうして延命を望んだ?薬で命を引き延ばしても辛いはずだ。自身の肉体にとっても精神的にも死を選択した方が良かったんじゃないか」 まだ40代半ばであるマクシムは気付かないうちに身体を病魔に蝕まれており、余命僅かという宣告を受けていた。 そんなマクシムと恋仲であったティムールは欠かさず彼の病室に足を運んでいた。日々痩せ細っていくマクシムを見るのが正直ティムールの精神に応えていた。 「…俺は最期までしぶといから」 力なくマクシムは口から言葉を漏らす。痩せ細った顔、細くなってしまった指先は微かに震えており、ティムールの顔に触れるかのように伸ばされていく。 「…死に逝くことに恐れなどない、分かった時から死を受け入れることを心に決めていたからな。ただなティムール、俺が一番怖いのは…」 マクシムの指はするりと陶器のように整ったティムールの顔に触れていた。まるでもう触れられないと言わんばかりに、慈しむかのように。 「俺が逝って、お前が別の誰かと幸せになることが一番怖い。ティムール、俺を忘れないで、俺と過ごした日々を思い出して、ずっとずっと…、俺を想ってくれないか」 マクシムはティムールに乞うかのように囁いた。ティムールは唇を強く噛み締めながらマクシムの身体を引き寄せた。 「…俺があんたを忘れる訳なんか、忘れる訳なんかないだろう?!絶対に忘れてなんかやらないっ、マクシム、あんたは何も分かってない!!置いて逝かれる俺の気持ちなんか何一つ分からないだろう…!!」 ティムールは薄い青の双璧に涙を浮かべながらありったけの想いをぶつけた。マクシムは力が入らない身体で必死にティムールの身体を抱きしめ返す。 「…俺だって本当は生きたかった、だけれどこれが運命というのなら受け入れるしかないだろう。ティムール、俺を好きになってくれてありがとう、俺を愛してくれてありがとう、俺と…」 嫌だ、嫌だ、やめてくれっ… 「俺と出会ってくれて、ありがとう…」 ティムールにどさりと身体を預けて瞳を瞑るマクシムを涙目でティムールは見つめた。 心臓の鼓動も、 穏やかな瞳も、 大好きだった温もりも。 今はもう、何も遺ってはいなかった。 ティムールは体温が失われていくマクシムの身体をより強く抱き締めながら瞳から大粒の涙を流していく。 「…Любит вас, провел день 2 снова и не вернется, так 2 градуса. Я любил тебя. Гораздо больше, чем все остальное,. Так что пожалуйста, Покойся с миром.(…あんたを愛して過ごした日々はもう二度と戻っては来ない、そう、二度とだ。俺はあんたを愛していたよ。何よりも、ずっとな。だからどうか、安らかに…)」 マクシムの身体をゆっくりと寝かせ、色白くなる彼の顔を見つめながらティムールは彼の手を握り続けていた。 もう二度と目を覚ますことのないマクシムの顔はどこか安らかで、そして幸せそうだった。ティムールの涙が一粒、伝って落ちていく。
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chiaki0802-blog · 7 years
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懐かしいね
憧れはいつしか | (・×・) http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=7021646
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chiaki0802-blog · 7 years
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まとめた
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chiaki0802-blog · 7 years
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スクショまとめた。
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chiaki0802-blog · 7 years
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R6Sお題
ルクドクで「喧嘩別れ」
もっと続きますがひとまず1200字
さらに読む
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chiaki0802-blog · 7 years
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ジャッカルのお話。
【足跡】 眠れない夜を何度過ごして来ただろうか。大切な兄を亡くし、俺に残された道は『復讐』だけだった。 毎日瞳を閉じれば映るのは亡き兄の顔で辛く歪んで苦しげな表情を俺に向けてくる。 『お前が死ねば良かったんだ』 幻影に沈む兄は俺に対して恨み、そして怒りの言葉を口にする。 あぁ、そうだな。 俺があんたの代わりに死ねればどんなに楽だったか、どんなに悲しい思いをしなくて済んだのか。 心の中じゃ俺が一番分かってる。 あんたを殺した犯人を追うためにどんな跡だって俺は追うさ。俺は唯一の肉親である兄を心から尊敬し、愛していたから。 だからこそ。 跡を追い、手を下した奴を捕まえるまでは俺は眠らない。何度夜を越えたとしても俺は瞳を閉じない。 そう、あんたが生きていた証を覚えているこの『瞳』に光が灯っている限りずっとずっと。 血を流し、 涙をぬぐい、 そして銃を抜く。 さぁ、踊ろうか。 俺と死の舞踏を共に。 どこまでも追い詰めてやる、復讐の采は投げられたのだから。
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chiaki0802-blog · 7 years
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『好き』だと言えたら良かった | (・×・) http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=7795641
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chiaki0802-blog · 7 years
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ルークとドク
【血と灯火と温もりと。】 『死ぬときはあなたの腕の中がいい』 いつか、こんなやり取りをしたことを思い出す。私の腕の中で青い瞳を持つ彼は震えながら私の手を握り締めてくる。 「…ド、ク…あなたに怪我が��くて良かった…」 「…君が庇ってくれたからだ。ルーク、止血を…」 「もう、間に合わない、俺はもう消えかけの灯火状態だっ、かはっ…」 私を庇って敵からの凶弾に倒れた君は私の腕の中で赤い血を流して震えている。 消えかけの灯火、私も君も分かってはいるさ。長い間共に相棒として君と時を共にして来たのだから…。 「長くは持たない、そう言いたいんだな?…ルーク、君はかつてこんなやりとりを私としたことを覚えているかな。『死ぬときはあなたに腕の中がいい』と。…ルーク、私はメディックだ。例え消えかけの灯火だろうが仲間を見捨てたりはしない。私は戦場に立ち、命を救うために此処にいる。少しだけ我慢して居なさい。すぐに助けてやる」 私は腕の中で失血により青白くなっていく相棒をありたっけの包帯と薬剤で止血を施していく。 そして最後の一本であるスティムピストルを打ち込み、ルークを抱き寄せた。 「…どう、して…あなたを庇って死ねるなら本望だったのに…なんで助けたんだ、スティムピストルだって最後の一本だっただろう…」 「君は馬鹿なのか」 私は彼の身体を離し、そして透き通る青い瞳をきつく睨みつける。 「…簡単に死んでもらっては困る。私はね、君みたいな若い子が英雄を気取るのが一番嫌いなんだ。…大っ嫌いなんだよ!!」 「…ドク…」 「それにな、君は私を置いて先に逝くのが趣味なのか?だったら許さない。私の隣に立つのも、背中を預けたいと思うのもルーク、君だけなんだから。ほら、私の肩に身体を預けろ。君を支えながら此処を出る」 敵は他の仲間が殲滅してくれた。 私はルークの体重を支えながら歩き始めていく。ルークの失血は応急処置とスティムピストルのおかげでだいぶ治まって来たようだ。 歩きながらルークは小さな声で呟いた。 「ドク」 「なんだ?」 「…俺、やっぱりあなたの側に居たいんだ」 「また死にたがる気か?」 「違うよ、あなたの隣で生きて行きたい。ドク、あなたは強くて気丈で優しい。俺が死にかけていたあの一瞬、あなたは酷く泣きそうな顔をしていたんだ。『守られる存在』から『守る存在』になりたい。俺はあなたが大切なんだ…。この命に替えてもな」 「…私の腕の中で死にたいなんて二度と口にするな。戦場に立つ度に君を思う、『私の目の前で傷つかないで欲しい』と。ルーク、私は君を…」 彼の青い瞳と視線がぶつかり、やがて外に出れば仲間が待っていた。ルークはバラクラバを外し一瞬だけ唇を重ねてくる。 「…な、何を…」 「あなたがして欲しそうな顔をしていたから。…俺は怪我人だからこれしかあなたを労う方法が分からなかったんだ。ドク、俺はあなたが大切なんだ。誰よりも、ずっとね」 もう、本当に…。 君は心臓に悪いんだから。 「…ルーク、今日は私の部屋に来なさい。怪我の状態をちゃんと見るから。それに君にきちんと伝えたいんだ。私の気持ちを…」 青い瞳は優しく、そして穏やかに細められていく。私は君が先に逝くのが許せないんだ。 大切な君を失いたくはないのだから。 …私には君しか居ないんだ。
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chiaki0802-blog · 7 years
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か、かわいい…
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猫ドク
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chiaki0802-blog · 7 years
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夜明け前 ドク×カプカン
【夜明け前】 白衣の白には穢れなど存在せず、またそれを纏う男の瞳にも曇りなど一つもなかった。 「君とは此処までだ、この関係を終わりにしよう。もう少しで夜が明ける、そしたら私と君は赤の他人さ」 男は細く清らかな指を目の前の男の顔に伸ばして触れていく。鋭い瞳を持つ一人の男は目を伏せながら呟いた。 「…そうだな、あんたとは此処までだ。一時的な繋がりであったとしても俺はあんたを忘れたりはしない」 「そうか、それは嬉しい言葉だな」 医務室で交わす言葉はきっとこれが最後になるであろう。男は限られた時間の中で目の前の狩人をしっかりと見つめた。 「あんたとの縁はきっと来世でも繋がっていると信じている。そんな顔をするんじゃない、別れはいずれにしてもやってくることに違いはなかったんだ。それが早まっただけだろう?」 「…そうだ、その通りだよ…。私は別に、そんな…」 「泣きそうな顔をしないでくれ、あんたに愛された時間を思い出として遺して逝きたいのに。そんな顔をしないでくれ…」 狩人は男を愛しげに見つめて色素の薄い瞳をゆっくりと細めていく。男は狩人の手をそっと握りしめながら涙を流す。 「…君の命の灯火が消えてしまっても、私も君を愛した時間を忘れないよ。私と過ごした時間が君にとっての宝物になるように…。ゆっくりと眠ってくれ」 「…ありがとう、ギュスターヴ…軍医殿…」 狩人の目は閉じられたまま二度と開くことはない。永遠という眠りについた彼を男は涙を浮かべながら愛しげに見つめて外を眺めた。 「もう夜が明ける。…君は二度と起きることはないだろう。短い時間の中で愛しあったことは私にとって幸せだった。ありがとう、そして…」 「さようなら、マクシム…」 愛した狩人の命の灯火が消えたあと、男はゆっくりと額にリボルバーを押し当てる。 夜明け前。 散って逝く命は永遠の愛よりも深く、そして清らかなものだった。
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chiaki0802-blog · 7 years
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ROOK〜THE beginning blood〜
【ROOK〜THE beginning blood〜】 信じるべきものを失った時、人は絶望の中に取り残され輝きを失うということをこの部隊に入ってからいくつもの経験を積んで分かってきた。 俺が守るべきもの。 それは仲間の背中、 理想、夢、希望、そして命。 数多の戦場を駆け抜けて来て学んだ世界は広くて。 理想と現実なんてものが本当に繋がるのか、信じることが出来るのか。 不安に苛まれた夜を何度超えて来たことだろうか。 失われる命に差し伸べることの出来なかったことを何度後悔したことか。 …そして、何度助けられなかったことに対して後悔したか。 数えればキリが無いけれど。 俺の信じた理想と夢は現実と反比例していった。 だけど俺は絶対に忘れない。 落ち込んだ時に手を差し伸べてくれた仲間の温かさ、そして優しさを。 俺は何度だって誓おう。 この命がある限り、仲間のために戦い、自身の理想のために走り続けることを。
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chiaki0802-blog · 7 years
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自分が好きだと思える作品じゃないと意味がない。世界がつまらない。
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chiaki0802-blog · 7 years
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DOC〜THE beginning barret
【DOC〜THE beginning barrett】 人は何の為に生き、そして死ぬのか。 そしてメディックとは、何の為に命を救い戦うのか。 そして。 命を救う為には命を殺める。 いつからだろうか。 こんなにも己の手を汚すようになったのは。 キャリアを捨てて戦場に立つことに悔いはなかった。オフィスに居るよりも自分のできることがより多いと感じたからだ。 初めて手にするリボルバーの重さ、火薬の匂い、そして戦場に広がる血の香り。 あぁ、私の本望が疼いて渇望している。救える命、そして失われる命。 この『見極め』こそが真の愉悦なんだと。背筋が背徳によって震えて、そして口元には笑みが零れる。 仲間を殺し、 弱き者を殺めた敵に私は手を差し伸べた。 『地獄でまた会おう』 額にめがけて放つ弾丸は命を絶つのには十分すぎて。哀しげに歪む顔も、そして閉じられていく瞳も。 流れ出る温かな血も。 私は同情なんてしなかった。戦場に立つメディックとして出来る一番のことをしただけだから。 心を鉄に、そして気持ちは冷酷に。 一瞬たりとも隙を見せては行けない。 私が初めて人を殺めたのはあの時が初めてだった。今でも目を瞑れば思い出す。 事切れる刹那の、あの一瞬を。 隊員として、メディックとして、そして一人の人間として。守るべき命、そして時には見捨て無ければいけない時もあるということをこの数十年間で身を持って感じてきた。 オフィスにいた頃、利き手で持っていたメスはリボルバーに。 そして清潔な白衣は血に塗れたアサルトスーツに。 救える命があるのなら。 たとえ命を奪ったとしても。 私は戦場に立つことをやめない。 『背中は守ってやる』 『さぁ、行きましょう』 『俺は貴方を信じている』 背中を任せられる仲間が居るのだから。 この命の灯火が消えるまで、私は今日も戦場に立つ。血に塗れても、命を救う為に…。
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chiaki0802-blog · 7 years
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glaz
『光彩』 ああ、もう二度と筆を握ることが出来ないんだと絶望したのが約十年も前のこと。 当時、狙撃手として後方支援を担当していた時、ある任務で俺は片方の目の光を失った。 『もう二度と戦場には戻れない。それに片目だと絵を描くのにも支障が出るだろう』 所属していた対テロ組織の軍医にも周りの仲間からも絵を描くこと、戦場に戻ることを諦めろと言われていた。 俺の生き甲斐は、無地のキャンバスに鮮やかな光彩を残すこと。 自分だけが魅せることの出来る世界を描くことが俺の唯一の取り柄だった。 それが出来なくなる恐怖ほど、恐ろしい物は無かっただろう。 絶望、 恐怖、 羨望。 醜い気持ちを抱いたことだって、何回あっただろうか。 片目がちゃんと生きていれば、今どれだけ美しい情景を描いていたことだろうか。 だが今は違う。 片目はもう二度と、光を宿すことは無いだろう。 しかし、失ってから気づく事もある。 筆を握る手はちゃんと動くし、風景を見るために動かす足だって機能しているんだ。 「まだ描ける、まだ見えるんだ。鮮やかな光彩が…」 筆を握り、真っ白な無地に色を付けて行けば世界は変わる。 俺だけの、鮮やかな世界。 喪われた青と同じくらい澄んだ、スカイブルーを描いて。 今日も空を見つめる。 どうか明日も、その先も。 鮮やかな光彩を遺して行けるように。
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