Tumgik
1225a5221 · 4 years
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意味も無く、意義も無く
「先生は、どうして学校へ行かないのですか」
なんとなく、尋ねてみる。機器と機器を接着させ螺子留めしているその背中に。
「なんとなくかなぁ。強いて言うなら、行っても何にもならない気がしたから?」
「通う理由があったら行っていましたか?」
「多分行かなかったなぁ。なんとなくだもん」
どうしたってこうしたって、行く気はないらしかった。義務教育の義務たるやなんと物寂しい色か。
私は行ってみたい気もする。
なんとなくだけど。
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1225a5221 · 4 years
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注文の多い人殺し 10話
「はぁい。実は私の仕業」
チャロアイト始めとする実働部隊が執務室を立ち去った後、アリスが少女のように手を挙げて呑気な声を出した。
「何?」
ウヴァロヴァイトはプライドの──群れの長として、血も凍るような視線をぶつけていく。ドスの効いた声からは、どす黒い怨恨の念が滲み出ている。
「招待状の手配したの。私」
ペンが折れた。ウヴァロヴァイトに握られていた万年筆。
「貴様」
「怖い顔しないで?あなた、私にチャロちゃんの相談したでしょ。面倒事から解放されたいからどうにか手を貸せって。それが故よ」
「どういうことだ」
嫌ねぇあなたってば、とアリスが笑う。アリスは無遠慮にもウヴァロヴァイトの食べかけのスイーツをスプーンで一口、奪い取った。
「事を終わらせるには、突撃するのが一番早い方法だと思わない?ねぇそうでしょう。だからほら、ルチルちゃんだけじゃなくて全員の手に、同じタイミングで平等に渡るように手配したの。ねぇここまで説明しないとわからなかった?」
この愛らしい仕草での笑い方、語り口は、アリスが取るから赦せるのかもしれない。それはアリスの人格、容姿、経歴、コネクション等、全てのアリスという要素を混ぜ合わせて目の前に人の形として顕現しているが故に、赦される言動だった。
迅速に解決へ。ただし自らと、その身内の手は汚さずに。
どこかで見たことのある手法だ。
ウヴァロヴァイトは、紅茶の水面に像を結んでいる自身と視線を合わせた。
「ねぇ。彼らは精鋭部隊だと思うわ。ルチルちゃんの身の安全は確保されたようなもの」
しかし、アリスにも誤算はある。
誤算と呼ぶよりは、予想外、不測の事態、突発的な事故。その類い。
「タロー。タロー宛てになんか手紙来てるよ」
「ありがとな、デューク。そこ置いといてくれるか」
同日、同時刻帯。程なくして新屋敷龍太郎は≪C.B.ガーデン≫を飛び出して行くこととなる。
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1225a5221 · 4 years
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注文の多い人殺し 6話
「タローはチャロちゃんのこと、一風変わった芸大生くらいに思ってるからねぇ」
艶めかしい黒髪を馬の尻尾のように結いつつ、バーの店主は言った。
貴海はその語調から感じ取った。
アリス自身、いやアリスのみならず、《C.B.ガーデン》として、この件にあまり深く介入するつもりはないようだということを。一般人である龍太郎の身を案じてのことだろうか?
デュークのふわふわの金髪を撫でつつ、アリスは目を細める。
「それに私、犬より猫派だからねぇ」
「そうか?犬も、ルールを守ってきちんと躾けて、飼い慣らせば可愛いと……俺は思うがな!」
言葉の裏に見え隠れする意図を汲んでか汲まずか、ファレンは元気に受け応えする。
「チャロってさっき来たちょうちょ?」
デュークの脳裏には蝶のタトゥーが色濃く残っているらしく、両手を重ねてひらひらと蝶が羽ばたくポーズをして見せた。
ファレンと貴海とルチルの前に、龍太郎手製のチップスなどの軽食が置かれる。
貴海と面識はあるものの、龍太郎にとって、彼らの扱いは客だ。
情報屋として?否、飲食店として。
「なんでいきなり犬と猫の話?」
先程からアリスとファレンの不思議なやり取りを見ていて先行きを案じていたこの医大生は、こっそりと貴海に耳打ちする。貴海も首を捻るポーズを取って、その問いに曖昧に返すしかなかった。
一方で、ルチルは影のように潜むが如く何も言葉を発することはない。食事にも手を付けない。
「そうねぇ、ハンバーグは好き?」
アリスは優雅に笑って見せる。
「とある山奥に、ハンバーグが人気のお店があるらしいわ。口コミやネットで知れ渡ってるみたいなんだけれど。かなり評判って聞いてるから、行ってみて、是非レビューを聴かせてちょうだい?」
カウンター越しの微笑みから、また貴海は感じ取る。
このカウンターが彼らとの境界線なのだと。
この場で得られるのは、協力ではない。
あくまで、“情報”だ。
あとは美味い飲み物と食べ物だな。
──というやり取りがあったのが、本日より三日程前。
ルチルは今、波風に透けるように輝くプラチナブロンドを靡かせながら、チャロアイトと対面している。
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☟☟To Be Continued☟☟
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1225a5221 · 4 years
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注文の多い人殺し 3話
「チャロ、飯食ってくか?」
その言葉に、男は懐っこい犬の如く瞳をきらきらと輝かせた。ふさふさの尻尾が千切れんばかりに振られているのが空目できる。こんな姿からは、チャロアイトの生きる場所がアンダーグラウンドな世界だなんて、誰にも想像が及ばないところだろう。
「いいの、龍太郎さん。嬉しいなぁ。僕のお願いまで聞いてもらってるのに、お昼までご馳走になっちゃって」
「俺に出来ることがあれば、だけどな。精一杯協力はするよ。オムライスを作る予定だけど、苦手なものはないか?」
因みに、話相手のこの荒屋敷龍太郎という男は、彼の出自については微塵も無知だった。件の頼み事に重犯罪の影が鎖の様に絡んでいるなどとは、龍太郎には思いも寄らないところだ。
そんな彼らの関係性は、「友人」である。
真っ黒なフライパンの上から、ぽとりと真っ黄色の塊が零れ落ちて、真っ白な皿の上に移動した。
そこへ騒々しい足音を響かせてダイニングへやってくる気配が一人分。
「オムライス・メイド・イン・タロー!」
「こらデューク。どかどか走るな。っつーかそれを言うならメイド・バイ・俺じゃないか?」
長くカーリングした睫毛を瞬かせて、走って来た少年は首を傾げる。身に纏うTシャツには"We are ALIEN."という筆記体と共に、味のある独特な宇宙人のイラストが描かれている。
「僕の祖国はアメリカじゃないから、文法が間違っていても仕方ないよね」
ふざけているようでふざけているわけではないのがこのデューク少年だ。既にちゃっかりと食卓に付いていて、宗教画から飛び出して来た天使のような見事な金色の髪を物憂げに指に巻くなんてして、頬杖まで突いて料理に最後の仕上げが施されるのを待っている。
真っ赤なケチャップの装飾は、彩りのみならず所有の名義を大々的に発信している。
「タローのお友達?」
脚をぶらぶらさせてデュークは目の前のチャロアイトに問う。“友達”という単語に、アゲハ蝶を携えた秀麗な顔付きが、再度柴犬に変化する。
「僕と龍太郎さんはとっても仲の良い友達なんだ!君も龍太郎さんと友達なら、友達の友達は友達だよね?つまり君と僕ももう既に友達なんだ!」
龍太郎は笑いを堪えつつグラスに麦茶を注いだ。やっぱり腰周りには千切れんばかりに振られる尻尾の残像が見える気がする。
「僕とタローは友達じゃないんだけど」
(あ、今チャロアイトからションボリ、って効果音が聞こえた)
デュークは平然と、手を合わせていただきますと挨拶をした。それに呼応して龍太郎も召し上がれ、と声を掛ける。
明らかに眉毛も下がって気分の落ち込み気味なチャロアイトは、スプーンをふわふわの玉子に突き刺そうとした。
瞬間、
ザクッ
チャロアイトの手が置かれているそのすぐ横に、スプーンが突き刺さった。木製のテーブルに、垂直にスプーンが突き刺さった。
龍太郎は食事の前に、あらかじめ調理器具の洗い物をしているところだ。
「いただきますして」
瞬きもせずに海を思わせる真っ青な瞳が見つめてくる。特段目力が強いというわけでは、ない。
チャロアイトはめげもしない。
なぜならその次の発言がこうだ。
「いただきますしたら僕と友達になってくれる?」
「いいよ」
「いただきます!」
そうして食事を口に運ぶ青年は、新しい友達が出来たことと、親しい友人の手料理を存分に味わえたことにこの上ない幸福感を浮かべて涙を流した。
「気持ちいいくらいによく食べてくれるな。作り甲斐がある。お前の友達、悪いことに巻き込まれていないと良いんだけどさ」
「そう言ってくれるととっても嬉しいよ。僕の友達のこと、自分の友達みたいに心配してくれるなんてさ……」
実際には件の友人が死んでいるなんて、この男は目の前の友人に、言わない、教えない、伝えない。
ただ、友の慈愛に感動し、涙を流し、麗かに微笑みを湛えるだけだ。
人を殺す予定があるなんていくら友達でも言えないよ。
ましてや君達は普通の人々。
都合の悪いことは口にしない。
それが裏社会の鉄則。
「もしもし。あら、ウヴァロヴァイト?どうしたの、珍しい。え?ああ、ええ。来てるわよ。会ってないけれど。今別の部屋にいるの私。会わないわよ、会うつもりない。だって……」
彼女が深く息を吸い込むと、鼻に掛かった笑い声が漏れる。
「私、野良猫は飼うけど野良犬は飼わないの」
店主、櫻庭アリスは、電話の向こうにそう言い置いた。
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1225a5221 · 6 years
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ポケットの中には
鋭い雨が降り注ぐ朝だった。
ドアの脇にうずくまる少女。 濡れた白装束は見るからに重たそうに水を含んでいて、その少女の身体に纏わりついていた。
俺はその日たまたまバーに行く用があったからこの時間に出て、でなきゃ中に篭りきりで、そうなったら温かい場所に迎えてやるのが遅れて、この子は凍えて酷く衰弱していたことだろう。
この子は誰かって、俺はそんなことも知らないけれど、でも良識のひとかけらでもあるなら誰だってその小さな身を守ってやろうと考える。はず。
「何か、口にした方がいい」
血の気の引いた唇は小刻みに揺れていて、ただ、ただ、哀憐の情を掻き立てた。
俺はバーへ持っていく予定だったそのビスケットの群をポケットから取り出した。着替えも勿論与えたが、内面から熱量を摂取することも必要だと、なにか甘いものを口にすれば少しでも彼女の力になるだろうと、そう考えてのことだった。ビニールがかさかさと鳴った。
「ありがとう、ございます」
年齢の割に丁寧な物言いに俺は少し面食らった。
ゆっくりとひとつずつ口に入れていくのを確認して、俺はミルクを温め始めた。ビスケットにはミルクがよく合う。
「キミ、名前は?」
答えなかった。名乗りたくないと全身で言っていた。
「じゃあ……」
ビスケットはどんどん彼女の口の中へ消える。
「ビスケ。ビスケと呼ぼう。仮でね」
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1225a5221 · 7 years
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Dから始まりEで終わる彼の昔話
※暗い
12月が俺は嫌い。
今でも思い出すね。

テレビを見ていた俺は、この魚とこの魚って同じ仲間だけどどこに違いがあるのかな、と疑問を抱いて部屋にいる母に聞いてみようと思ったんだ。
『ねぇねぇ、ママ…』
まだママ、って呼んでたよあの人のこと。今はもう呼びもしないけど。
そうしたら『あっちに行け!』と叫び声を浴びせつけられた。きっと泣いていた?
その頃の俺はまだ妹も生まれてなくて、小学校にも行ってないくらい小さかった。
なんで泣いてるのかも知らないし、あっちに行けと言われた手前、慰めることもできずあっちに行くしかなかった。
たぶんその次の日だった?テレビではどっかの国で内紛が起こっているのが報道されていたと思う。よく思い出せないけど、中東辺り?
俺はなんだか母の顔を見るのが嫌で、自分の部屋でむくれていた。ドアは開いていたしリビングは隣だからテレビは聞こえてた。
そうしたら母は言うんだ、『世界では戦争があって毎日人が死んでるんだよ。こっちに来て見てごらん』とかそんな風に。いじけた俺をたしなめるようにさ。
まるで『そんなことでいじけてないで、もっと大変な人もいるのよ』って言われているようだった。
そんなこと知るかよ。
俺の中の世界はこの家だけなんだよ。
母はまるで俺を見ていなかった。
母が見ているのは自分自身と、テレビの中だけ。
母は家の話をするよりも政治の話をするのが好きだ。うんざりする。俺は政治のことよりも自分の身の回りのことで忙しい。
母はずっと俺を見ていなかった。
母は液晶画面とコミュニケーションするのが好き。

それなら俺も。
あんたには関心を抱かないよ。
あんたがどこへ行って何をしようが、どうぞ構わないよ。
息子にそう思われてるあんたのこと、どう顧みても可哀想とは思わないよ。
全部自分で選んで、自分でそうなったんだし。
そんなあんただから、俺には父親がいない。

つらくて苦しいことがあるなら、逃げることだってできたのに、彼女がそうしなかったのは彼女がその道を自分で選んだからなんだろう。
逃げないことが美徳なんて思ってる?
日本人みたいだね。
だから、彼女を母として尊敬したことは特になかった。これからもずっとそうだろう。
どうせこんな家族を持つくらいなら、孤児だった方がマシだった。それくらい俺は家族っていうものに絶望してる。
でも、爺ちゃんは好きだ。
だからさ、俺には悪いトモダチがいっぱいいるけど、俺は悪いことしたことないの、気付いてた?
爺ちゃんが悲しむ顔は見たく無いなって思って。
爺ちゃんの作るプッタネスカが好きだよ。
爺ちゃんは婆ちゃんが作るのが一番美味いっていうけど、俺は爺ちゃんが作る味しか知らないから、やっぱり爺ちゃんのプッタネスカが一番好き。
ベネベネ言いながら口の周りソースだらけにして食べてた。
タローが作るのはまだまだっていうか?なんか、レシピ通りだなぁって感じ。タロー、料理作るの上手だけどね。俺は舌が肥えちゃってるからさ、ただ美味いだけじゃbeneなんて言いたくないんだよね。
あ、でもね、二番目に好きなのはタローの作るオムライスだから。あたたかくてふわふわしたオムライス。
あれには言えるよ、"Molt bene.“
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1225a5221 · 8 years
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縁日の風景
輪投げとかボール投げとかスーパーボールすくいとか、多少歳重ねた今でこそまったくもうカンタンなお子ちゃま向けのお遊びに思えるけど、ちっこい子にとっては案外そうでもないから必ずしも楽しめるものとは限らないし、そんな姿見つけっちまうと励ましてやりたくなってほんのちょっとの成功でもベタ褒めしてやりたくなってでも自分がほんのちょっとだと思ってることがちっこい子にとってはすっげデカイことだったりして、言葉にするとチンケになるけど出来た出来なかったよりもおっきなことがあんだなって、心臓の皮つねられたみたいな気分味わったよ。
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1225a5221 · 9 years
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少女はビスケットを食べながら、そして独白する
世間話、噂や説教、ある種の議論など。
大体に於いて言葉には魂が籠っていない。
何が籠っているかと言えば怒りにも似た衝動的で扇情的な自分を見てくれと叫ぶエゴイズムだ。
それらは刺激的で攻撃的で人々の目に留まりやすいので一時は注目されるが、中身はがらんどうで結局は記憶に留められることなく消えていく。
時間を食い潰し、心を食い潰すだけの宙に浮いたセンテンスに、本当に価値はあるのか。
独りで椅子に腰掛けてぼんやりしている方がまだましだ。
「どした?」
「窓の外の景色を少し」
「それなに、食べていい?」
「あなたは、だめです」
「どして!?…仕方ない、チビっ子はたくさん食え」
「待って。やっぱり」
「ん?」
「ひとつだけなら」
「おお」
この人は、透けるように無色な私をその視界に受け容れてくれた人間のひとり。
言葉には、会話には、何の実も無い事を理解していながら私が舌を回しているその意味は、この人に私の存在を示し続けたいから。
見ていてほしいから。
知ってほしいから。
忘れないでいてほしいから。
いつか来る、その時まで。
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1225a5221 · 9 years
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一体悪いのは
始めはどうしてそのような事が起きたのか、もしかして己に何処か良くない所があったのかと考えるだろう。
しかしそんな考えは儚くもすぐ様押し退けられ、自己を守るため、他者を攻撃するため、己に悪いところなぞ毛の先程も無いと殻に閉じこもり、全て世が悪いのだと悲嘆し、また有りもしない悲劇を作り出すのだ。
一体何が悪かったのか、誰が悪かったのか。
明るみに出ることは二度となく、学ばないまま同じことを繰り返す。
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