Tumgik
thereareonlydeer · 10 months
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不定期的に覗いてるブログなんだけど、この回は文章がとてもよかったからおすそわけ。
ただこのつくりのうまさがね!
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thereareonlydeer · 10 months
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スイングバイ
これは驚くべき真実なのだけれど、レオパレスには大人の体重を支えられるだけの柱や梁が存在しない。その証拠にボクの部屋にはAmazonで買った無駄に伸縮性のあるロープと負荷に耐えられず折れたドアノブが散らかっている。
久しぶりにキーボードを叩いている。心が機首上げの時期を迎えたようだ。機首を上げるにはある程度の速度が必要で、速度を上げる手っ取り早い方法は落ちることだ。波状飛行は本質的にスイングバイと似ている。
現代は――この言葉が何時を指すのかは分からない――軟着陸を目指す時代らしい。マクロ的に言えば、これは少子高齢化や社会格差、戦争、災害といった如何ともし難い事情によって規定されている。成長の見込めない世界で出来るのは、落下の角度をなだらかにし被害を小さくすることだけだ。当然の進路だ。もはやそれ以外の選択肢はないように思える。 しかし果たしてボクたちは無事に着陸することができるのだろうか。ボクたちが存在してるところのこの地球には9.807 m/s²の重力がある。ボクらを地面に縫い留めんとする力が常に働いている。24時間365日だ。 パイロットは多額の保険金を掛けている。ミクロの視点で見れば軟着陸のインセンティブは小さいようにも思われる。ハドソン川は一つしかない。
さとうささらの動画を見漁っている。とても可愛いと思う。ささらちゃんの時代が来てほしい。だのに今はずんだもんが強すぎるのだ。配膳ロボットにまで進出するのはびっくりなのだ。ずんだもんがいちばん可愛いのだ。
「怪物」を観た。クソみたいなテンポだな、これだから邦画は。と思いながら最初の30分を過ごした。1時間かもしれない。映画館で時計を見る人をボクは軽蔑する。正直なところこの手の映画は懲り懲りだった。学校ないしは家庭という名の密室。そこで起きるウミガメのスープ仕立てのミステリー。悪意と愛。邦画特有のなんか暗い画面。実は他者を傷つけていた何気ない一言。暴力。不協和音。残虐な子供あるいは年不相応に思いやりのある子供。もうたくさんだ! 異質なものを押し付けるのはやめてくれ!
ちなみにこういう話をするとき、ボクの脳みそは「女王の教室」と「告白」に支配されている。前者についてはカッターナイフを素手で掴むシーンとガキ使のアレしか覚えてないし、後者はそもそも小説を読んだだけである。浅識が極まって自家中毒を起こすなんてよくあることだ。
結果的には面白かったと思う。端的に言えば悲恋&心中ものだった。悲恋と心中は古来より擦られつづけてきた王道のテーマだし、王道は間違いがないから王道なのだ。 そしてこの映画は、ロマンティックで大仰なテーマを現代日本に落としきったのだ。これはとてもすごい。しかも主人公たる小学生を取り巻く環境を適切なピースとして上手く扱っている。虐待や家庭内の不和、ズレた若者、教員問題、いじめ、セクシュアリティ。物語の構成力は本当に素晴らしいと思う。 逆に個々の人間の機微については精彩を欠いていたように感じる。ボクがニブチンなのもある。
それから、この映画は諏訪が舞台なのだけれど、諏訪湖を望むカットがとても良かった。広い湖と後景の山々、その間で窮屈そうにしている住宅街。美しさと息のしづらさが同居していた。「『ドニ―・ダーコ』は田舎の閉塞感を味わう映画だよ」と言っていた人のことを思い出した。 主人公2人が遊具に登るシーン――ここでも後ろに諏訪湖が映っている――や、秘密基地で緑の中仲を深めていくシーンはいふべきにもあらず。
音楽に関して、ラストシーンの曲が感動的なのは満場一致だろうけれど、トロンボーンの音も非常に良かった。ホルンとの不協和音が滑らかに嵐の中へ続いていくのがあまりに心をかき乱した。それまでのシーンではトロンボーンの音はヘタクソながらも足を止めさせるような、事態の悪化を食い止めるような音色だっただけに歪なメロディへの移行がとても怖かった。
さて、映画の最後で主人公2人は心中をする。2人が死んだ明確な描写がないのは分かっている――なおそれを暗示する演出は幾つかあった――し、死んだとして「心中」が適切な表現でないのも理解している。しかし彼らは如何ともし難い事情を前にして、軟着陸することを拒んだ。ナマケモノになることを拒んで怪物になった。これを心中と呼ばずにはいられない。やけに感動的な音楽とばかみたいにさわやかな青春の1ページの画は、決断と実行をした者にだけ許されるものだ。
ボクたちは彼らのやり方を参考にするべきだろう。
エンジンを切れ。重力に身を委ねろ。ビッグクランチはすぐそこにある。
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thereareonlydeer · 1 year
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つべばかりみている
https://www.youtube.com/watch?v=PvCfdTJGVcw
https://www.youtube.com/watch?v=DdF-u3fe5pg
https://www.youtube.com/watch?v=rptLcA0E4ps
https://www.youtube.com/watch?v=52avIJWQWAY
https://www.youtube.com/watch?v=0yoM7ETNPIY
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thereareonlydeer · 1 year
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仕事
最近は専らデジタル関係のバイトをしてる。画像編集の仕事。詳しく言うと、無料の画像素材を加工する仕事だ。
この仕事で求められるのは次の3つ。 ①ウォーターマーク(コピー防止用の透かし)を消すこと ②AIに元の画像と同じだと判断されない程度に歪ませる(ディストーション)こと ③違和感ないようにこれらの加工を施すこと
作業内容はいたって簡単。Adobeっぽいソフトで画像データを開いて、所定のブラシみたいなのでウォーターマークをなぞる。するとブラシをかけた部分が滲んで透かしが消えていく。いい感じに加工できたら、そのデータを専用のソフトに投げる。このソフトにはgoogleの画像処理AIと同じアルゴリズムが使われているらしい。先輩が言ってた。
ソフトは数秒の処理を経た後、「OK」か「NG」かのどちらかを出力する。画像が元のやつと"同じ"かどうか、このソフトが判断してくれる。「OK」だったらその仕事は終わり。データを「加工済み」フォルダに移動して、次のデータを「加工待ち」フォルダから取ってくる。「NG」のときはブラシで馴染ませる作業をやり直す。それから再度ソフトに通して見てもらう。
この作業を夜10時から朝8時まで繰り返す。電気代が安いからこの時間帯らしい。先輩が言ってた。
仕事はとても単純で、楽な作業だ。「③違和感ないようにこれらの加工を施すこと」を達成すべく本当はもっと真剣に取り組まないといけない(このことは契約書にも明記されている)のだけれど、こんなことのためにシナプスを稼働させるのはごめん被りたい。 強いて難点を挙げるなら、マウスの使いすぎで腱鞘炎になりそうなことと、眠くて死にそうなことくらいだ。おかげでボクのリュックにはサロンパスと無水カフェインが常備されている。
加工されたデータがどう使われるかは知らない。知る必要もないし、知る方法もない。ボクらはブラックボックスの中で与えられた作業をこなすだけなのだ。
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thereareonlydeer · 1 year
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最近のお気に入り
伊藤園 さくら緑茶
ほんとに桜餅の葉っぱの味がする。しょっぱい。びっくり。でも期間限定っぽいからぼちぼち売ってない。かなしい。
§
N'夙川BOYS - プラネットマジック
https://www.youtube.com/watch?v=8OyGoNreQpk
マーヤのしゃがれた声がいい。ずたずたにした紙袋を扇風機にかぶせたみたい。そしてリンダがかわいいかっこいい。もういのちの!
§
Tumblr media
船着き場の天井にくっついている謎のざる。ツバメの巣建設予定地?
§
https://coolier.net/sosowa/ssw_l/242/1672741263
実はこっそり好きなおはなし。
§
俺はサイゼリヤが好きだが、サイゼが俺のことを好きとかはない。俺がサイゼのことを好きなのと、サイゼが俺に無関心なことは両立する。そのことに気付くまでに、多くの人を傷つけてきた。
「好きとかはない」とてもいい響きだと思う。 文章全体が表す意味内容がベースで、サイゼを絡めるミドルノートがあって、「好きとかはない」って言葉がトップノートで花開いてる。すごくいい。
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thereareonlydeer · 1 year
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品薄
カイロが品薄なんだって。鉄粉が足りないんだと。鉄の世界にもハーピー・アンブッシュ法があればいいのにね。でも、それに加えて諸々の事情でサプライチェーンがなんとかかんとか。そういうことならサーバー・ボッシュート法があっても意味ないか。
ん? なに? ハーバー・ボッシュ法? そうだね、そう呼ぶこともあるだろうさ。アルファベットをカタカナ読みするのは難しいものだよ。だいたい、重箱の隅をつつくのは止めなって。煮汁の水滴とかごまのこびりついたのとかしかないんだから、そんなとこには。
そういえば、今年はおせち食べたのかい? 食べてない? だろうと思ったよ。どうせ寝正月だったんだろう。年が明けてから一度も外に出ちゃいない。
忙しかったから? だろうともだろうとも。あまりの忙しさ故にゴミ捨てもしていない。使い捨てカイロが部屋中に散らばってるし、だからボクがわざわざ掃除しに来てるんじゃないか。まったく罰当たりなもんだよ。初詣にも行かず、正月から掃除をして。いや、掃除をさせて。どうだい? 隅をつつかれる前に訂正してやったぞ?
なんだいその面倒くさそうなため息は。ため息つきたいのはこっちの方さ。しってるかい? フローリングにくっ付いた貼るカイロを剥がすのがどれだけ厄介か。シールのべたべたが残って仕方ない。いったい何週間ほったらかしにしてたのか。シール剥がしは……持ってないよね。せめてアルコールとか重曹とかはあるかい?
うんうん、分かってたさ、そんなもの持ってないことくらい。でも一応聞いておかないと失礼だろう。キミがまともな人間である可能性を信じてますって、そういう体をとらないと。でもさ、そんなだめだめなキミにもできることがあるはずだと思うんだけど。
何とぼけた顔してるのさ。買ってくるんだよ。キミが。掃除用品を。自分のお金で。
寒い? ふざけたことをぬかすんじゃないよ。その態度の方がよっぽど冷たいよ。サーモグラフィーでこの部屋を見てみな。キミのとこだけ蒼一点さ。「紅の反対は白だ」なんて言ったらぶん殴るからね。そんなめでたいカラーリングはキミには似合わない。
……。
そうだね。そんなめでたい日には邪なるものも似合わないだろうね。分かるかい? ボクも鬼じゃないって言っているんだよ。さあ、シャツを捲りな。なに頬を赤らめてるんだ。背中にカイロを貼るだけだよ。自分じゃ貼れないだろう? ほら、さっさと捲った捲った。もう袋から出しちゃったんだから、この家の最後のカイロ。早く貼っつけないと勿体ない。
こら、首回りを持つな。伸びちゃうでしょ。裾をもって脱ぎなさい。そう、そうやって腕をクロスさせてひっくり返しながら脱ぐの。あっ、脱ぐ必要はなかったか。まあいいさ。震えながら服を脱ぐ眺めるキミをこうして眺めるのも悪くはない。脱いだシャツはちゃんと畳んで置いときなよ。すぐ着るとしてもだよ。終わったら向こうを向いて座りな。
もう30cmくらいこっちに寄りな。届かないよ。
そう、そのくらい。それで丁度いい。それにしてもキミの背中はなんだか皮が薄いね。背骨のでこぼこがよく目立つ。指でなぞるとよりよく分かるよ。がたん、がたん、がたん、がたん。ジェットコースターみたいだ。がたん、がたん。ただいま頂上部まで引き上げ中でございます。がたん、がたん、がたん。
悪かったよ。悪かったからそう怒るなって。ちょっとしたおふざけじゃないか。そんなスズメバチに絡まれたみたいな反応しなくたっていいだろ。ボクの数少ない癒しの時間なんだから。
ぴしゃり。
ほら、貼ったよ。ぴったりもぴったり。背中大陸のど真ん中。内陸性気候の一番甚だしいとこだ。文句の言いようがないだろう。どうだい? 温かさは感じるかい?
そんなに早くは温まらない? そうだろうね。人の優しさは後から効いてくるものだよ。って、もう服着おわったのかい。そういうところだけは素早いんだから。
せっかくの優しさを逃がさないため? 言うじゃないかキミも。まあ、それならこっちもお返しをしないとね。ちょっと待ちな。先に立つから。キミはそのままで。
はい。手を握りな。立つのを手伝ってあげるよ。サッカー選手がするみたいに。あくまで手伝うだけだからね。自分でも力をいれなよ。その重たい体全部を引き起こすだけの腕力はないんだから。
いくよ。せーの、よいしょ。
……。
あの、起き上がったなら手を離してもらえないかな。
……。
……。
ああ、もう。分かったよ。一緒に買い物に行けばいいんだろう? 分かったよ。一緒に行ってやるとも。そもそも最初からそのつもりだったさ。手繋ぎは予想外だったけど。まあいいよ。嫌じゃないんだよ、別に。そうだ、ついでに初詣にも行こうか。ちょっと遅いけどその分空いてるだろうし。その後は甘酒飲んで、福袋も買って……まだあるかな?
え? 掃除用具なんて最後でいいだろう? 忘れたりしないさ。キミと一緒にするんじゃないよ。そんな無用な心配事はいいから、早く行こうじゃないか。
カイロが効きはじめたら? 何言ってるんだい。そうなったらせっかくの人肌の温もりが薄れちゃうじゃないか。
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thereareonlydeer · 1 year
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人生
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thereareonlydeer · 1 year
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Windowsくんの好きなところ
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thereareonlydeer · 1 year
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鳥類
ボクは別に本が嫌いでも好きでもなかった。プライベートな時間で本を読むことはなかったけれど、例えば国語の教科書に載っている物語は何度も何度も読みかえした。それくらいのポジションにいた。 ボクが活字を嫌いになったのは「ペンギン・ハイウェイ」のせいだ。全く意味の分からない話だった。ついていけなかった。なぜペンギンが森の向こうからやってくるのか、なぜお姉さんはペンギンに疑問を抱かないのか、なぜ不条理な方法で事態が収まるのか。頭がどうかなりそうだった。 以来、ボクは本を読んでいない。 ハヤシダ――ハヤシダはボクの同級生だった。ボクらは同じ誕生日で、同じくらいのテストの点数だった。ボクらはいつも一緒にいた。つまり出席番号は誕生日順で座席配置は成績順だった――は、ボクが「ZOO」を読もうとしたとき「そんな気持ち悪いの読むのやめてよ」と言ってくれたけれど、本当はボクが水族館に行くのを止めるべきだったのだ。
「すずめの戸締り」を見た。
事前情報ゼロだったから、ヒロインが椅子になって笑ったし以降ずっとそのままで絵面を間抜けに感じた。これは褒め言葉だ。いい抜け感だった。
音がよかった。誰かが同じ感想を書いていたが、鈴芽の家に上がったときの草太の足音が異様にリアルだった。その直後ダイジンを追いかけるシーンのBGMもよかった。アップテンポなジャズはいいものだ。 ミミズが現れた瞬間のドゥンという効果音はシンボリックだった。コメディあるいは人情パートからシリアスパートへの移行をとても分かりやすく演出していた。鈴芽の瞳にミミズが映るのも同様に効果的だった。オタクは瞳を見つめるのが好きなのだ。
人情といえば、映画前半は概ねダーツの旅だった。新海作品で描かれるノスタルジーは美しい田舎や魅力的な少女にだけでなく、こういうところにも潜んでいる。 話が東京(として表象されることの多��ものとしての都会)へと収束するのも新海的だった。全ての道は東京に通じている。 ダーツの旅の過程で鈴芽はときに服を着替えときに装備を追加したが、最終的に選んだのは制服(と彼氏(予定)のブーツ(素足))だった。これも瞳に映るミミズと一緒で、性癖を存分に曝け出してやろうという制作陣の意気込みを感じるポイントだった。制服はJKの戦闘服だ。
解放されたミミズの姿はとてもグロテスクだった。透明感に定評のある新海作品の映像のなかで、このシーンのミミズだけが異様にマットだった。これヤバいやつだと問答無用で理解させられるおどろおどろしさだった。かたちが生き物からかけ離れているのもそれに拍車をかけていた。
芹澤君はコッテコテの「友」だった。閉じ師の設定や古文書まわりはコッテコテの「閉じ師だけど質問ある?」だった。このへんはもう失敗しようのない描写だと思う。約束されたここ好きポイント。
家出少女と養母のあれこれの件はやや無理してねじ込んだ感がある。ただこれは鈴芽の過去と年齢から自然と導出できてしまうエピソードではあるから物語の一つの軸に組み込まれるのも仕方ないことなのかなとは思う。
鈴芽の(とくにサバイバーズギルトじみた)心の傷については作品の題材上、部外者がどうこう言えることはないように感じる。地震後の描写や東北の景色も同様に。
3月11日は終業式だった。いつもより何時間か早く家に帰ると、母親がテレビにくぎ付けになっていた。ニュースの映像では航空機が波にさらわれていた。ボクは鑑賞者だった。
4月14日はパーティに参加していた。留学生が多くいた。 警報が鳴り、ボクたちは折りたたみテーブルの下に身を隠した。大きいといっても死を感じるほどの揺れではなかった。せいぜい震度4くらいだった。「こんなの日常茶飯事だよ」とヨーロッパから来た学生に言った。その直後に「お前の地元熊本だったよな」と言われた。すぐに実家に電話をした。無事だった。ボクは「断水になっても江津湖があるから大丈夫だね」と笑った。念のため娘――ボクからみた妹――と一緒に小学校の体育館へ避難するのだとシングルマザーの母は言った。ボクは「スマホの充電は大事に」と言って連絡を止め、ベッドにもぐった。 16日の揺れはもはやちょっと大きい余震でしかなかった。
ボクは阿蘇の山道を何度も通った。ボクの実家は熊本にあり、実家の実家は大分にある。阿蘇山を通り抜けるのは特別なことではなかった。 ボクは運転の練習にと、カルデラの街を望む道を車で走った。初めはほとんど封鎖されていた道が、ボクの運転が上達するのに併せるように解放されていった。震災から2年後には黒川温泉に遊びにも行った。 大きながけ崩れがあった場所も、傷痕を残しながらではあるけれど通れるようになった。その場所では通行車は徐行するのがマナーになっている。運転手が惨状を見る時間を作るためだ。PTSDを起こす心配のない人たちが崩れた山肌を流し目で見ながらゆっくりと去っていく。自然公園のパノラマを眺めるみたいに。
益城町で再建に奮闘する神社の記事をネットニュースで見た。それを魚拓にとって保存した。
真面目君がボランティアに行かないかと誘ってきた。ガクチカ稼ぎかよとボクは断った。
図書館へ行って調べものをした。 日本の地下には龍が住んでいることを知った。 ミンダナオ島から東北地方にかけて、黒潮流域の地下に蛇(あるいは龍、鯰、蚯蚓)が生息していることを知った。 阿蘇山には鯰と巨人が住んでいたことを知った。巨人がカルデラの淵を蹴飛ばしたことを知った。
いつかの電話で母は「ああいうときはやっぱり見るんだねえ」と言っていた。黒い影が視界に入り続けたのだと。避難するときに開けた車のトランクからその影は飛び出たのだと。ひび割れたアスファルトや落ちた看板や水を求めて並ぶ行列やふと目を覚ました夜の闇の中や体育館でうずくまるわが娘のそばに、その影は佇んでいたのだと。 ボクはドラマや映画の見すぎだといった。母は「黄泉がえり」の映画を見たことがあったし、ボクはその小説を読んだことがあった。
去年の今頃、CAMKで「こわいな!恐怖の美術館 展」があった。 コーダ・ヨーコのインスタレーションでは「ヨルのキオスク」の裏に自由帳が置いてあった。旅館や観光地の駅に置いてあるような、客が自由にメッセージを書き込むノート。髑髏の絵が描かれたページの裏に「精神こわれた 弟とともに 寝れない夜」と、太くなった鉛筆で殴り書きされていた。ボクはそのページの写真を撮った。それからいしいしんじの展示に行き、小泉八雲の左目についてのコピーを取って建物を出た。
テレビを見るときも、パーティに出ているときも、車を運転するときも、ニュース記事を読むときも、ボランティアを断るときも、調べごとをするときも、人の話を聞くときも、美術館を歩くときも、小説を読むときも映画を見るときも、ボクはただの鑑賞者だった。空飛ぶ鳥が、揺れる大地を、はるか上空から悠々と見下ろすように。
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thereareonlydeer · 1 year
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じじい
最近膝調子頗悪。 左ひざの靭帯が緩みきっている気がする。踏ん張ろうとすると崩れてしまう。寝るときの姿勢が悪いのだと思う。寒くなってからというもの、丸まって膝を抱えた状態で眠っている。ちゃんと毛布を買おうと思う。引っ越すたびに布団を捨ててしまうのはボクの悪い癖だ。
ぜんざいを作った。 小豆を戻す段階で「これ絶対鍋の取っ手に袖引っかけたりしてひっくり返すぞ」って思ってたから完成したときは飛び上がって喜んだ。その拍子に砂糖をひっくり返した。泣いた。ついでに何も考えずに小豆一袋分全部茹でちゃったせいですごい量になった。これだけで冬を越せるくらいの量。ぜんざいにウェルシュ菌とか発生しないよね。怖いんだけど。
冬休みになって、ちっちゃい子どもの声をよく聞くようになった。帰省しているのだと思う。声というより叫び声。多分保育園~小学校低学年くらい。朝っぱらからキーキー言っている。ノイローゼになりそう。どうして一日中大声を出していられるのか。いったいどれほど強靭な喉をもっているのか。将来、カラオケオールして喉が枯れるなんて経験はしないだろう。羨ましい。
それかあるいは声帯を複数持っているのかも。キングギドラなのかもしれない。キングギドラの幼体。ボクはその子の姿を見たことはないわけで、声の主が怪獣である可能性は否定できない。きっと卵から孵ったばかりなのだ。帰省した子どもが山で拾った卵。久しぶりに会った孫をおじいちゃんが山へ連れていって――これは田舎あるあるなのだが、山に土地を持て余している高齢者は多い――山遊びを教える。そういう経験も必要だからと。けれどコンクリートとタブレットの液晶しか見たことのない今どきの子どもは車から降りたくないと言う。手入れのされていない木々。好き勝手に成長した杉が乱立している。幹だけが、枝分かれもなく葉をつけることもなく突っ立っている。林冠から僅かに届く光線が、木々を照らし、その合間を抜けて林床にぶつかる。茶色い落ち葉の絨毯が朝露でテカテカ光っている。それが怖くて車から出られない。けれどもおじいちゃんの軽トラに暖房なんてついてないから寒くて寒くて、先に車から降りたおじいちゃんは付いてこいとばかりに背中を向けて歩いていってるし、それでしょうがなしにドアを開けたところに転がっている白い楕円形の球体。
そんなキングギドラの赤ちゃんの声を、ボクは聞きなれすぎてすっかり憶えてしまった。何人かの子どもが外で遊んでいるときも、その中から件の声を聴き分けることができる。周波数、振幅、波形。全てが手に取るように分かる。質の悪い変質者みたいで本当に嫌だ。
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thereareonlydeer · 1 year
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日記
最近『流浪地球』のネット広告をよく見かける。多分買うと思う。短編集は好きだ。ボクはD-ポップが好きなタイプだ。
この間、ふと『あなたの人生の物語』を読みなおしたくなった。ところが家のどこに置いたか分からなかった。ウチには本棚がなくて本はアマゾンの段ボールに入ってるかペットボトルと一緒に床に散らばっているかだ。だから家じゅうの段ボールを解体して床もルンバが動けるくらい片づけたのに見つからなかった。悲しい。仕方がないので記憶をたどって作品に思いを馳せた。それで我慢した。 ボクは「バビロンの塔」が好きだ。短編集の中で一番SFらしくないものを初手に持ってくるセンスに脱帽する。 表題作「あなたの人生の物語」も同じくらいのお気に入りだ。特に"あなたの人生の物語"パート(ネタバレ配慮)がいい。これはどちらかというと翻訳の技巧なのだろうけど、文体の変化がとてもいい味を出している。微笑みと号泣に同時に襲われてしまう。
書いてて思ったけど、『あなたの人生の物語』は買っていないかもしれない。図書館で借りて読んだのかも。だったら家にないのも納得。 思い違いはいつだってあるものだ。
ボクは「インデペンデンス・デイ」が好きだ。中でも"もっとコミュニケーションとろうぜ"というセリフが大好きだ。宇宙船のコクピットでスティーブンが同乗者のデイビッドと話すシーンだ。 先日ふとこの場面を見なおしたくなって、「インターステラー」を見た。 そう、ボクはこのシーンが「インターステラー」のものだと勘違いをしていた。結局最後まで見たけれど、宇宙船内のおしゃべりといえば%ジョークと親の顔より見たワープ説明だけだった。
その後「オデッセイ」も見た。"もっとコミュニケーションとろうぜ"はここでも出てこなかった。 でもこの映画も好きだ。あまりに愛着があるので『星を継ぐもの』の冒頭部分の脳内映像が火星に浸食されている。
2022年"もっとコミュニケーションとろうぜ"探しの宇宙の旅、次なる探査地は「ゼロ・グラビティ」だった。結果からいうとここでも"もっとコミュニケーションとろうぜ"を見つけることはできなかった。 ところがこの星への再訪はボクにとある疑問を思い出させてくれた。例の像は何なのだろうか、と。 この映画では終盤、主人公が中国の宇宙船に乗り込むことになる。船内には七福神みたいな見た目の像が置いてあるのだが、その詳細が前々から気になっていた。いい機会だと思って調べることにした。 最初は"中国 航海 守り神"とかでググった。媽祖しか出てこなかった。本当に媽祖しか出てこない。ボクはすっかり困ってしまった。映画に映ったのは明らかに女神ではない。でも媽祖は名前がかわいいのでイライラしたりはしなかった。まそたそ~。 最終的にtwitterで検索して参考になりそうな文献を見つけた。それによると件の像は弥勒佛像だったらしい。リンクを貼っておく。勉強になったと思う。セレンディピティだ。未知との遭遇って表現するとオシャレかもしれない。
ところで「ゼロ・グラビティ」にはこんなシーンがある。 宇宙で緊急事態に陥った主人公は地球に向けて緊急通信を試みる。ところがやっとのことで繋がったのは英語の分からない人だった。結局意思疎通はとれず、限られた通信のチャンスをふいにしてしまった主人公は心が折れてしまう。 説明のために大分端折ったが、とにかく非常に心動かされる一幕だ。 このシーンを地球で通信を受けた側から描いたショートフィルムがある。これもまた素敵な作品だ。リンクを貼っておく。 このスピンオフ短編は、とても静かで淡々としていて日常的だ。しかし細い糸を手繰った先にはっきりと宇宙を感じることができる。VRゲームを通じて宇宙人と同調するようなものだ。 そもそも、難破した宇宙船からのSOS通信の電波を地球に住む田舎者が拾う、という設定自体がいい。"難破""宇宙船""SOS""通信""電波""地球""住む""田舎者""拾う"、文節一つ一つにダブルクォーテーションマークを付けることができる。つまり全ての要素に対して深堀りしたり捻ったりする余地がある。 誰かこの設定をテーマとしたアンソロジーを作ってほしい。多分買うと思う。短編集は好きだ。ボクは日清ミニーズが好きなタイプだ。
なんかいい感じに纏まったのでこの辺で締めようと思う。 ボクは今からペットボトルの山に埋もれた『三体』を読まなければならない。その後『流浪地球』を買うのだ。
P.S.
この日記のテーマは"カオス&フラクタル"だ。感じられただろうか。 当初は、戦術的ピリオダイゼーションの話をベースにワールドカップとフットボールの戦術の話も書く予定だった。
W杯の決勝はスペクタクルだった。あまりに目が離せなさ過ぎて多くの人が寝不足になったことと思う。19日の経済指標はさぞ落ち込んだだろう。ボクも例に漏れず寝坊した。10時過ぎくらいに起きた。ふと外に出たら雪が積もっていた。寒かったので部屋に戻って二度寝した。
雪の結晶はフラクタルだ。最近なにかとフラクタルを目にすることが多い。 ちょいバズりしたアニメーションもフラクタルだし、ちょっと話題になったパズルゲームもフラクタルだった。そしてサッカーだってフラクタルだ。
サッカーを理解する枠組みとしてカオス&フラクタルという考え方がある。混沌でありながら同時に自己相似、という構造的な見方だ。
ここから"カオス"を橋頭保にマルコム博士を引っかけて「インデペンデンス・デイ」へと繋げる。そんな全体像を構想していた。でも書くのが面倒くさくなったのでやめた。
結果的にはこれでよかったと思う。一貫性があってすっきりしている。"添"だけでなく"削"も大事だ。宇宙船だって前へ進むために船体をパージするのだ。高価な高価な船体を。
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thereareonlydeer · 1 year
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銀杏・ボイチャ・ホタテ
最近、アラタくん(北海道在住・26歳フリーター)と一緒にさぶれのマルチでよく遊んでいる。
この間ディアバゼ周回をしていたら熊本城の話になった。寝落ち防止用のボイチャでのことだ。発端は「ツイッターで熊本城バズリがち」っていう話題だったと思う。
ボクは「熊本城の話してると茶碗蒸し食べたくなる」旨の発言をした。アラタくんは「なんで?」と言った。ボクは「別名銀杏城じゃん」と説明する。「ぎんなんって何?」アラタくんの素っ頓狂な声がイヤホンから聞こえる。ははーん、こいつやっぱフリーターなだけあるわ。
「これだから世間知らずの引きこもりは」 「引きこもってないです。今日も朝から船乗ってきました」 意気揚々と放つ誹りに、アラタくんはしっかり乗ってくれた。これだから好きなのだ。 ちなみにアラタくんは今はホタテ養殖場のバイトをやっている。ホタテのくっついた網を海から引き上げるだけの仕事だそうだ。5時間働いて1万2000円もらえるらしい。昼前には帰れるから時間にも余裕があるとのこと。この時期は財布も着ぶくれするのだとボイチャで言っていた。着ぶくれというより内臓脂肪だろと指摘したら「金持ちらしくていいだろ」と言われた。
バイクみたいな銃でモンスターをハチの巣にしながら、ボクはアラタくんに銀杏についてレクチャーしてあげた。 まず第一にとても臭いということ。それからざっくり言うと木の実であること。イチョウの木に成ること。臭い実を洗い落して種の中身を食べるということ。茶碗蒸しの主力具材であること。封筒に入れてレンジでチンするとおつまみになるということ。イチョウは雌雄異株だからメスの株にしか成らないこと。だから街路に植えられたイチョウの下には銀杏が落ちている場合とそうでない場合があること。銀杏が散らばった歩道を歩くのは、臭いと踏んだときの感触のダブルパンチで萎えるということ。それから何にもまして臭いということ。
ボクは話しながら手元ではコントローラで所定の操作をしつつ、さらにアラタくんの応答を聞いていた。ボクはとんでもないマルチタスクパフォーマーだと思う。
レクチャーしつつ北海道の事情を聞きつつ、たまに乙りつつしていると、驚くべき事実が判明した。なんと北海道には銀杏が(ほとんど)ないらしい。 アラタくん曰く誰も銀杏なんて知らないとのこと。茶碗蒸しの中にそんな変なものが入っているのも見たことがないと断言した。どうやら全北海道民が世間知らずの引きこもりなようだ。どうせゴキブリも台風のことも知らないのだろう。
イチョウ自体が北海道にはないのか。ボクはアラタくんに尋ねた。 アラタくんはイチョウに関しては知っているし見たこともあると答えた。この時期は黄色くてきれいだねとも言った。感想が浅すぎる。
判明した事実から推理すると、北海道のイチョウは全て雄株だということになる。 「ショタコン拗らせそうだな、道民」 「偏見がひどい」 「男主人公を見てポケモン新作買うってきめたくせに」 「関係ありませーん。欲しいものは何でも買いまーす。なぜなら我が家はホタテ御殿だから」 「うるさいフリーター」 「ニートが言うな」 「ニートじゃないし。レイブルだし。遅咲きなだけだし」 そんな感じの会話をした後お開きとなった。
スカバイが発売されたらそっちにかかりっきりになるからしばらくはモンハンのマルチする気はないとアラタくんは言っていた。 寂しくなると思う。
§
調べて知った。ホタテは1歳までは全て雄らしい。
ボクは認識を改める必要があるかもしれない。多分道民は全員男だ。
§
近くの小学校でバザーが開催されていた。
銀杏が売っていたので思わず買ってしまった。アラタくんに送りつけようかと思う。
断っておくけれど、ボクはショタコンでもロリコンでもない。
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thereareonlydeer · 2 years
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炎のANGEL
プロメアを見た。とても良かった。 カートゥーン調の画、迫力ある映像、外連味溢れる演出、盛り上がる音楽。見ていて心の底から楽しいと思える作品だった。 カラフルなアニメーション映画といえばSpider-Man: Into the Spider-Verseが思い浮かぶけど、そっちがポップ&インクなのに対してプロメアはパステル&ポリゴンって感じ。 ボクは前々からJames Gilleard氏のアートワークやPorter Robinson - FlickerのMVをいたく気に入っているのだけれど、プロメアを見終えたときの満足感はこれらの作品から受けるインプレッションと非常に似ていると思う。そうだね趣味趣向が見え隠れしているね。
ごくごく個人的な好みの話をさせていただくと、新谷真弓氏の声がめちゃくちゃ良かった。好きすぎて声豚になった。クセになるんよね、あの声。逆に堺雅人氏の声は堺雅人感が強すぎて映像やキャラクターと合っていないように感じた。ここが数少ない不満点。 そういう訳でルチアちゃんはとても魅力的だと思いましたまるちなみにボクはペニー・パーカーちゃん大好き人間です。そうだね性的嗜好が見え隠れしているね。でもエリスお姉ちゃんも可愛すぎてこまっちゃう。あのシンプルなデザインがたまらんの。
キャラデザの話をすると、主人公のガロ君はとてもいい見た目をしている。かなりのつり目なのにキツイ印象は一切ないという素晴らしいバランス。あのバナナみたいな前髪にかかるハイライトが終始えっちだった。 えっちといえば主人公二人のキスシーンも良かった。マウストゥマウスを躊躇しないのは流石レスキュー。主人公の貫禄。思わずキマシタワー乱立させちゃったよ。そりゃもう駅前再開発も真っ青なくらい。
今挙げたキャラクターたちもそうだけど、基本的にみんないい人だからかなりシリアスなストーリーラインにも関わらず穏やかな心持で鑑賞できたよね。「テキ、コロス」みたいなテンションなのはヴァルカンさんくらいだったし。 余談だけれど、ボクはマトイちゃんと2代目クラリスクレイスどっちが好きかと聞かれたら即断即決で後者と答えるタイプです。つまり「テキ、コロス」人間でも可愛ければ無問題(モーマンタイ)ってことです。
以上。
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thereareonlydeer · 2 years
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Thank You and Goodnight
〇ちょっとしたおはなし
昼過ぎ、学食を出たところで菊池にばったり会った。シャツに冷やし中華のタレが付いてないか軽く確認してから声をかけた。
菊池はボクの大学での3人目の恋人だ。1人目の恋人とは入学後の浮かれムードに呑まれて付き合いはじめ、当然の如くすぐに別れた。2人目はインカレで仲良くなった人だった。割と真面目にお付き合いをしていた、はずだったけど突然別れを切り出された。曰く二十歳過ぎると将来のこと考えて恋人選ばないといけないから。ごめんね。悪く思わないでね。今まであり���とう。良い4回生ライフを。 2年弱続いた関係が一晩で崩れ去るのは流石にしんどかった。しばらく家から一歩も出られなかった。そんなとき心配して頻繁にラインしてくれたのが菊池だった。最初はバイトをサボるなという旨だった。菊池とボクはバイト先が同じなのだ。やり取りを続けるうちに愚痴を聞いてもらうようになり、家に上がり込むようになり、毎週のように一緒のベッドに入るようになった。特に交際の申し出はしていないけれど、間違いなく恋人同士だ。
だから一応身なりを確認してから菊池を呼び止めた。菊池は実は気づいてましたよと言わんばかりにもったいぶってボクの方を向いた。分厚い本を何冊か小脇に抱えていた。よう。昨日ぶりじゃん。ていうかいつもするよね、それ。 要領を得ないボクに、菊池は空いた手で服の裾を払うジェスチャーをしてみせた。癖というものは案外人の記憶に残るらしい。普通に恥ずかしかったので視線を外しがてら食堂の方を指さした。冷やし中華始めました、のポスターが窓ガラスに貼りつけてある。あれ食べてたからさ。ボクは言い訳がましくぼそぼそと言った。知らんけど、と菊池は言った。確かに説明不足だった。でも敢えて引っ張るような話題でもないと思った。菊池もそれ以上追及はしなかった。 図書館行くんでしょ。うん。一緒に行かせてよ。とだけ言葉を交わして並んで歩いた。
人を犯罪から遠ざける3つの要因って何か想像つく? 軍隊と仕事と家族なんだよ。軍隊・仕事・家族。 道中、菊池がそう言った。ボクは手元をちらりと一瞥した。菊池が抱えていた本をいつの間にか持たされていた。表紙には刑事政策や刑事手続といった単語が書かれていた。 防衛大に行った方が良かったかな。何でそうなるの、さっさと内定貰えってことだよ。 菊はフッフッと鼻から息を漏らすように苦笑していた。2割くらい本心のボケだったのだけれど、ウケは上々のようだった。 大丈夫だよ、菊池が結婚してくれるから。ボクがそう言うと、菊池はグーパンでボクの二の腕を小突いた。満足気な横顔が愛らしかった。 菊池ってたまに誘導尋問じみたことするよね。そりゃそうよ、優秀な検察官にならなくちゃいけないでしょ、君を養うためにも。そんな内容の会話をした。図書館になんて一生たどり着��なければいいのにと思った。
現実は非常なので、滞りなくボクらは図書館に着いた。自分の学生証を忘れたボクは菊池の学生証を借りてこっそり侵入した。 何も言わないで、自分が一番呆れてるから。ボクは機先を制して言った。菊池は何も言わなかったけれど、水平になった両の眉と上睫のラインがすべてを物語っていた。
ボクたちは図書館の奥まで歩き、壁際に並んだ机の端から3番目のところで止まった。そこは菊池の指定席だった。ボクは抱えていた本を机の上に置いた。じゃ、ボクはボクで資料探しするから。 卒論仕上げないと就職もくそもないもんね。菊池は唇の前で人差し指を立て、無声音でそう言った。 そうだね、菊池も院試頑張ってね。ボクも喉を震わせずに言った。
菊池と分かれてから、ボクは地下の書庫へ向かった。無骨な金属製の階段を降りていく間じゅう、足音が静かに反響しつづけていた。 地下の空気はひんやりとしていた。涼しいを通り越して肌寒かった。夏場はここで避暑するのもよさそうだと思った。 ボクは書架のラベルを見ながら目当ての本を探し歩いた。人の気配はなかった。ボク一人だった。
それらしい棚を見つけるまでに10分ほど要した。地下書庫を使うのは初めてだった。 ボクは棚の下段やや右の辺りから文庫本の一冊を引き抜いた。手に取った怒りの葡萄(上)はすっかり茶色くなっていた。経変劣化かそれとも日焼けか、はたまた最初からそういう色だったのか。
ぺらぺら頁を捲っていると足音がした。びっくりして俄かに身も心も固まった。ゆっくりと大通路の方へ目を遣った。何故だか身を潜めている心地だった。疚しいことなんて何一つないのに。 しばらく通路を見つめていると、台車を推した司書が通りかかった。司書のお姉さんはボクに気づいてびくっとした。珍しく人がいたので驚いたのだと思う。図らずも目が合ってしまったボクらはお互いに会釈をした。お姉さんはそのまま通り過ぎていった。ボクも怒りの葡萄をザッピングする作業に戻った。
セルロースの甘い匂いがした。地下の空気が辺りをしっとりと包んでいた。
〇にっき
Weezerの”OK Human”をよく聞いている。特に”Grapes Of Wrath”が好きで好きで仕方ない。気が付くと口ずさんでいるほどだ。
とはいえ、口ずさむのはよいのだけれど、上手く歌うのがなかなか難しい。サビの”Grapes of Wrath”の部分をきれいに発音できず、非常にもどかしい思いをしていた。 色々研究してみてやっと最近歌えるようになってきたので、そのコツについて書いていきたいと思う。
まず問題点を整理する。といっても答えは単純で、要は早口なのが難しい。”Grapes”をきちんと発音しようとすると”Wrath”に間に合わないし、”Wrath”を意識すると今度は”Grapes”の音が潰れてしまう。
ではどうすればよいのか。結論から言うと強弱を意識すればよい。 これは研究の結果分かったことだが、ボクはこのフレーズを歌うとき早口にならなければいけないという強迫観念から、強く発音すべきところを流して発音していた。具体的には”Grapes”の/eɪp/の音だ。さらに言えば/p/の音だ。元来/p/は発音に多くのエネルギーを必要とする音である。しっかりと息の勢いを溜めて破裂させなければならない。 さらに/eɪ/という母音にもエネルギーが要求される。この母音は緊張しているだけでなく、2つの音から成り立っているので、当然一つ一つの音を区別して発音することが前提となっている。間延びした/e/や/ɪ/とは全く異なる音なのだ。
そういう訳で”Grapes”の/eɪp/は強く発音しなくてはならない。そうするとどうなるか。リズムをとるために自然/g/、/r/、/s/の音が弱まり滑らかに発音される。そして/eɪp/から”of”の/v/、そして”Wrath”の/ræ/までが完璧な調和を持って繋がる。こうして初めて”Grapes of Wrath”は美しいフレーズとしてもボクのものになるのだ。
さて、ボクは英語に関してノンネイティブ故ににここまで考えてやらなければ発音一つ碌にできやしない。これが日本語なら無意識のうちにリズムやら強弱やらを調整することができたはずだ。ネイティブが何も考えずにしていることも、ノンネイティブにとっては細やかな分析の果てにしかたどり着けない極地なのだ。
そして生きることに関してノンネイティブなボクらは。
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thereareonlydeer · 2 years
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でっかい干潟
岩場もある
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タコもいる
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大きなカニさん
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茹ってないのに赤いエビ
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これはなんという名前の魚ですか
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やたら人慣れしたぬこ
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thereareonlydeer · 2 years
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D
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行ってきた。 参加アーティスト一覧の中に会田誠や鴻池朋子の名前があったから、ドラえもんがテーマとはいえ案外大人向けの展示なのかと思っていた。クリムトや芳年の絵が当然に飾ってあるような感じ。 いざ館内に足を踏み入れたらカップルと子供連れしかいなかった���なんなら建物から出てくる人とすれ違う段階で明らかに美術館らしからぬ年齢層の低さを感じていた。ついでに修学旅行中と思しき中学生集団もいた。ミュージアムってのはな、もっと殺伐としてるべきなんだよ。
以下感想。
・村上隆らしいごちゃごちゃ感と色彩感覚。とてもドラえもんらしい。 ・Mr.。萌えは抑えめ。構図が楽しい。 ・佐藤雅晴。ノスタルジー惹起映像。ニコ動画で見たことあるような雰囲気。 ・梅佳代。ドラえもんにまみれた家族写真。これほんと好き。 ・しりあがり寿。エンディングを見た子供が爆笑してたのが印象的。 ・西尾康之。プロジェクションマッピング(?)ってここまで精巧な画を描けるんだと感動。 ・町田久美。くっそオシャレ。すごい好き。 ・福田美蘭。ただただ技術がすごかった。技術としてのartでした。 ・蜷川実花。チェキverとインスタverが並べられていたのがとてもよかった。いいよねスパダリドラえもん。 ・鴻池朋子。この人の造る作品全部好きだわ。プライマルで有機的で繊細かつ大胆で。 ・小谷元彦。ハリウッドSFドラえもんだった(?)。動物とメタルとの融合がとても刺さりました。 ・奈良美智。いつもの。おめめがバシバシでかわいい。眼帯付けさせてるの性癖出てる。 ・渡邊希。漆でこんなものが造れてしまうのかと息をのんだ。しゅごい。 ・会田誠。さすがに自重したらしい。 ・コイケジュンコ。シンプルにかわいい。 ・森村泰昌。この人の作品は前見たことあるんだけど、今回一目で「あ、あの人の作品か」と分かった。ただのポートレートなのにどうしてこんなにオリジナリティを感じるんだろう。 ・篠原愛。ツノクジラ、人魚、ドラえもんとのび太。どれも違うタッチで描いてるの独特。 ・坂本友由。巨女フェチ溢れすぎ。 ・山本竜基。初めて作品を見るアーティストだったけど、一目惚れしちゃった。ぞわっとする黒い物体とかくっきりとした陰影のつけ方が良き。 ・増田セバスチャン。KAWAII‼ ・中里勇太。おきれいなペガサス! 凛々しいお目目が好き。 ・クワクボリョウタ。計算されつくされた影絵。制作過程を想像するだけで頭が痛くなるシリーズ。 ・山口英紀、伊藤航。ひみつ道具の工業デザイン的解釈実体化とその水墨画。緻密すぐる。 ・後藤映則。光の演出ヤバすぎるんだが? ・シシヤマザキ。Twitterでたまに流れてくるやつ。 ・中塚翠涛。モンドリアンな構成に「光」と「影」が映えてオシャンティ。拙者この手のグラフィックデザイン大好き侍。 ・近藤智美。首折れた。 ・れなれな。多分参加アーティストの中で一番若い人。白黒でシンと���た空気感はまさに静かな決意。
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thereareonlydeer · 2 years
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聞いた
The Head And The Heart - Hurts (But It Goes Away) Nada Surf – Popular Norah Jones - Sunrise コンテンポラリーな生活 - 彼女はテレキャスターを手放さない ねごと - ワンダーワールド Counting Crows - Mr. Jones Ben Folds - Rockin' the Suburbs The Shins - New Slang イマジン・ドラゴンズ - ブリーディング・アウト Beck - Rococo
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