Tumgik
#車両遺棄
hangorin · 8 months
Text
東京五輪から2年 湾岸はいま
Tumblr media
悪夢のようなTOKYO2020大会から2年が経った。 五輪のために姿を変えられたあの場所は、巨額の資金を費やして建てられた会場は、白いフェンスに閉ざされていた公園は、いま一体どうなっているのか。 湾岸エリアを中心に、フィールドワークを行った。
①築地市場
築地本願寺から場外市場に向かう。日曜日。外国人観光客、親子連れ、カップル。賑わいは築地市場があった頃と変わらないように見えた。どの店にも、昼食を目当てに沢山の人が並んでいる。
Tumblr media
立体駐車場の最上階から市場のあった方を見下ろす。縦横に走るターレ、魚の並ぶケース、積み上げられたトロ箱、林立する仲卸の看板――それらが全て消え去り、でこぼこの、剥き出しのコンクリートだけが灼熱の太陽に焼かれていた。その一部は駐車スペースに。数台の自家用車。物悲しくなるぐらいしょぼい。
駐車場のわきに、築地市場の仲卸とおぼしき店名のプレートを付けたターレが放置されていた。よく見ると、ナンバープレートを外した痕がくっきりと残っている。
Tumblr media
石原元都知事が主導した2016年五輪招致当時、築地市場を潰してメディアセンターを作るという話が出ていた。2020東京大会ではそれが「駐車場」にかわり、市場は2018年10月に東京都によって閉鎖された。選手村から競技場への輸送のために新たに作られた環状2号の全面開通は、五輪閉幕から1年以上も過ぎた2022年12月。五輪招致が、都民の台所を打ち出の小づちのように利権を生み出す空虚な「一等地」に変えてしまった。
築地を舞台にしたある連載漫画の中で、目利き一筋の主人公は何故か移転に何の葛藤もないまま「豊洲で頑張っていこう」と仲間に呼びかけていた。築地市場83年の歴史は、急速に「なかったもの」にされようとしている。
②月島
東京では五輪の前から、競技会場と直接関係のない場所でも各地で再開発が起こっていた。晴海にも程近い、湾岸エリアに位置する月島もまたその1つ。もんじゃストリートで有名なこの町は、一本裏道に入ると古い木造家屋が軒を連ねる下町らしさが残っている。私たちが2017年に訪問した際は、月島1丁目西仲通り地区再開発計画のためにもんじゃストリートの店舗が軒並み閉店していた。
Tumblr media
そして今回訪ねてみると、MID TOWER GRANDなる地上32階、高さ121mの超高層マンションが建ち(2020年10月竣工)、その1階にもんじゃ屋などの店舗が入っていた。 月島ではさらに地上48階、高さ178.00mのタワマンを建てる月島三丁目南地区第一種市街地再開発事業、地上58階、高さ199mのタワマンを建てる月島三丁目北地区第一種市街地再開発事業が控えている。フィールドワークの後で知ったことだが、この月島三丁目再開発計画には反対運動や行政訴訟も起こっているとのこと。長年暮らしてきた人々の息吹が聞こえるような町並みが、大手開発業者によって姿を変えられようとしていることには胸が痛む。
Tumblr media Tumblr media
③晴海選手村
Tumblr media
カンカン照りの選手村跡地。ここはHARUMI FLAGなる高層マンション群として開発され、完成すれば5,632戸12,000人が暮らす街になるという。未だ工事中で通行できるのはメインストリートの車道のみ。焼けつくような暑さの中、誰もいないコンクリートだらけの空間は殺伐とした雰囲気が漂っていた。
Tumblr media
選手村をめぐっては、東京都が適正価格の10分の1という不当な安さで都有地を三井不動産ら11社のデベロッパーに売却したとして住民訴訟が起きている。五輪という祝賀的なイベントが作り出す例外状態によって、公共財産が民間資本に吸い上げられた象徴的な場所だ。
Tumblr media
街の中心に近づくと、左手には、大会中、大量の食材廃棄が問題となった食堂の跡地が、中央区立の小中学校(2024年度開校予定)として整備されていた。
Tumblr media
右手には三井不動産の商業施設「ららテラス」。その1階には「東京五輪を振り返りスポーツの力を発信する施設」として「TEAM JAPAN 2020 VILLAGE」が設置されるらしい。五輪と三井不動産のどこまでも続く蜜月がうかがえる。
Tumblr media
その先では道路を挟んで左右両方の街区で50階建ての2棟の超高層タワーマンションが目下建設中だった。
Tumblr media
選手村を訪れるとき、2018年、建設工事中に2人の労働者が亡くなったことを思わずにはいられない。その街区は、労働者の死という痛ましい現実を塗り固めるようにSUN VILLAGE(太陽の村)という輝かしい名前で分譲されている。 この街区だけではない。この街全体が、五輪によって引き起こされた問題などまるで何もなかったかのように成り立っている。この街ではとても生きていけない、生きた心地がしない。生気を抜かれたようにその場を後にした。
④潮風公園、お台場海浜公園
Tumblr media
ビーチバレーボールの会場設営のため何年もフェンス封鎖されていた潮風公園。わたしたちは初めて公園内に入った。こんなに広かったのか!無観客のくせに、この公園全体を占拠していたなんて、ほんとうに厚かましい。
Tumblr media
東京湾の対岸の埠頭にはコンテナが並んでいる。海をみてみると、うっ!海水は泥沼のような色。しかし、なぜか匂いはせず、潮の匂いさえもしない。ファブリーズでもしているのか?
Tumblr media
わたしたちは、野宿の人たちが寝ていた場所を探して公園内を歩いた(東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織員会による追い出し→https://x.gd/ZJP4d)。木がたくさんあってなかなか住み心地よさそうだと思っていたら、屋根のある排除ベンチにたどり着いた。なんて醜いデザインなのだろう。
Tumblr media
次に「トイレのようなニオイ」と話題になったお台場海浜公園のビーチへ、匂いを確認しに行った。「遊泳禁止」の看板があり、スクリーニングのためと記してあったが、やはり汚染が懸念されているのだろろう。このビーチの海水も濁っていて、潮の匂いさえもしない。怪しい水質だ。
Tumblr media
しかし、暑すぎる。灼熱の日差しの下で、ビーチバレーボールや、トライアスロンをやって、汚い海に飛び込んでいたのか。 知れば知るほど、オリンピック・パラリンピックは地獄だ。
⑤有明
Tumblr media
有明の旧会場エリアへ。グーグルマップで見ると、どうやらこの一帯は「有明オリンピック・パラリンピックパーク」と名付けられたらしい。いまや地に落ちた電通がオリンピックでちゃっかりゲットした、唯一黒字と言われる有明アリーナへ。SNSではステージが見えない席があると不評を買っていたが、「ディズニーオンアイス」をやってるらしく、猛暑の折、駅から会場まで大勢の人だかり。
Tumblr media
有明体操競技場はこの5月に「有明ジメックス」と名を変え、株式会社東京ビックサイトが運営する展示場としてオープンしたらしい。第一印象は「・・・神社?」世界的ウッドショックの最中に木材を山のように使って、10年程度で取り壊される予定とのこと。こんなに立派にする必要あったのか?
Tumblr media
そこからゆりかもめの駅を越えると、フェンスで囲われた草ぼうぼうのワイルドな一角が。有明BMX会場跡地だ。グーグルマップには「有明アーバンスポーツパーク(2024年4月開業)」とあるが、いまのところ影も形もない。スポーツ施設より原っぱ公園の方が需要あるのでは?
Tumblr media
有明テニスの森公園は工事パネルが外されて、開放感に溢れていた。こんな素敵な場所を何年もオリンピックのために囲って、市民を排除してきたかと思うとあらためて腹が立つ。
Tumblr media
真夏の炎天下に火を燃やし続けた聖火台があった夢の大橋にも立ち寄った。観覧車が無くなっていた。東京都はこの夢の大橋を含むシンボルプロムナード公園の一角に、新たに聖火台置き場をつくって飾っている。東京都はいつまでオリパラの亡霊にすがる気か。。
⑥辰巳・東京アクアティクスセンター
Tumblr media
アクアティクスセンター
「威圧」を形にしたような巨大建造物。
建物の周りには木陰がなく、取ってつけたような弱々しい植栽が施されている。
Tumblr media
正面外の、広すぎる階段は、車いす利用者でなくても、大げさすぎてびっくりする。コンクリートが日射で熱い。ゴミ一つ落ちていないのは、人が寄り付かないからだろう。
その下にたたずんで私は、ピラミッド建設のために��働を強いられている人のような気持ちがした。
ここは、公園の一部であった。近くに団地もある。誰でも入って、海からの風を感じながらくつろぎ、出会う場所だったはずだ。
5年前に訪れた時は、工事中で巨大な支柱がそびえたっていた。三内丸山遺跡にインスパイアされたのかと思ったが、出来上がったのは帝国主義の終点のようなしろものだった。
Tumblr media Tumblr media Tumblr media
「お前たちが来るところではない。」という声がどこからか聴こえる気がした。
知ってる。だから入ってみた。静かだ。人っ子一人いない、空調が効いて冷え切っている。だだっ広いロビーの小さな一角に、TOKYO2020オリパラのポスターたちがいまだに展示されていた。
Tumblr media
競争をあおり、序列化し、勝者に過剰な価値を与え、「感動」を動員するスペクタクルがここで続けられるのだ。
Tumblr media
生きていくのに必要な潤いをもたらす公園に、このような醜悪なものが君臨しているのを私は許せない。
Tumblr media
炎天下の湾岸エリアを丸1日かけて回った。TOKYO2020跡地は、廃墟になっていると思いきや、むしろ多くの場所でまだまだ開発が続いていた。開発への飽くなき欲望と「レガシー」への執着、五輪災害は閉幕後も延々と残り続けている。 この日撮影した映像を使って「オリンピックって何?東京からパリ五輪1年前によせて」という動画を作成し、1年後に五輪開幕が迫るパリでの反五輪の闘いに連帯を示すメッセージとした。 From Tokyo To PARIS, NOlympicsAnywhere
youtube
17 notes · View notes
kennak · 1 year
Quote
近畿大学の学生が酒の一気飲みで死亡したことをめぐり遺族らが賠償を求めていた裁判で、3月31日に大阪地裁は当時同席していた元学生ら16人に賠償を命じました。 2017年12月、当時近畿大学2年生だった登森勇斗さん(当時20)は大阪府東大阪市で行われたテニスサークルのサークルの飲み会でウォッカなどの酒を大量に一気飲みし、急性アルコール中毒で死亡しました。 登森さんの両親は大学が指導を徹底せず、ほか同席していた学生らも適切な救護措置を怠ったため死亡したとして、大学と当時の学生ら18人に約1億500万円の賠償を求めていました。 3月31日の判決で、大阪地裁は「放置すれば死亡する危険の状態に陥るとことを認識していたのにもかかわらず、救急隊を要請するなどの措置をとらなかった救護義務違反が認められる」などとして飲み会に参加していた元学生らに約4200万円、介抱役の元学生らに約2500万円、あわせて16人に賠償を命じました。 大学と両親の間では大学が両親に弔意を示し再発防止策を実施するなどの内容で和解が成立しています。亡くなった勇斗さんの両親がコメント「救急車呼ぶことはできたはず…知らなかったは許されない」判決後に亡くなった登森勇斗さんの両親は次の通りコメントしました。 「私たちは、突然の息子の死を受け入れることができない中、あの日、一体何が起きたのか、真実が知りたいという思いで学生から聞き取りを行いました。その結果、息子は事故ではなく事件によって命を奪われたのだと確信しました。『息子のために最後にしてあげられることをしよう』ただその思いで走ってきました。今回の裁判では、イッキ飲ませやアルコールハラスメントの違法性だけではなく、意識を失った者が放置されたことが問題であると訴えました。救急車さえ呼んでいれば、息子の命は確実に助かっていました。過去にもそのことが理由で亡くなった方も多く、息子もまた、昏睡状態で放置されたことが原因で死に至っています。今回、一部の学生らは過失致死罪で略式起訴されました。しかし、昏睡状態にある者を放置することは、保護責任者遺棄致死罪にも値する行為であり、このことが、広く周知されることを願います。今回の判決では、被告らの責任が軽減されていますが、意識のない状態にあった息子がどうすればよかったのか、この判断を受け止めることができません。また、一部の学生について責任が否定されていますが、関与した全ての学生が、息子が意識を失っていたことを認識し、また救急車を呼ぶことができたはずであり、『自分は知らなかった』という言い分は許されないと思います。今回の判決に対する不服申し立てについては、これから検討したいと思います。今後、二度とこのような事件が起きないことを強く願います」
【速報】サークル飲み会で近畿大学生が一気飲みし死亡…同席の元学生ら16人に賠償命じる 救護義務違反など認める 大阪地裁 遺族「二度とこんなことは起きないで」(MBSニュース) - Yahoo!ニュース
4 notes · View notes
yotchan-blog · 1 day
Text
2024/4/18 20:00:46現在のニュース
関西万博、米国パビリオン起工式 駐日米大使「平和な試み重要」(毎日新聞, 2024/4/18 19:59:29) 公園のゴミ巡り口論の末、女児殴った疑い 75歳逮捕 熊本(毎日新聞, 2024/4/18 19:59:29) 愛媛・高知で12人重軽傷 70代女性、地震で転び顔面骨折(毎日新聞, 2024/4/18 19:59:29) 愛媛・高知両県で震度6弱の観測は初 1919年の公表以来 | 毎日新聞([B!]毎日新聞, 2024/4/18 19:57:12) 地面から「ゴオオッ」 立っていられず、棚にしがみつき 愛媛で地震 | 毎日新聞([B!]毎日新聞, 2024/4/18 19:57:12) 「フィリピン海プレート内部での地震か」識者 愛媛、高知で震度6弱 | 毎日新聞([B!]毎日新聞, 2024/4/18 19:57:12) 「1週間程度は地震続く」 京大防災研究所の教授 愛媛・高知で地震 | 毎日新聞([B!]毎日新聞, 2024/4/18 19:57:12) 「ドーンと強い揺れ」 酒瓶が落ち散乱 震度6弱観測の高知・宿毛 | 毎日新聞([B!]毎日新聞, 2024/4/18 19:57:12) 中東・ドバイで集中豪雨 空港が水没 「人口雨が原因?」と疑う声も(朝日新聞, 2024/4/18 19:54:14) 出版社「国内発の海賊版は根絶」 漫画村元運営者に17億円賠償命令(朝日新聞, 2024/4/18 19:54:14) G7外相会合、イランへの制裁を議論 イスラエルに自制求める動きも(朝日新聞, 2024/4/18 19:54:14) インド総選挙、19日から投票 与党が優勢か 夏季五輪招致も公約に(朝日新聞, 2024/4/18 19:54:14) 高知・宿毛「経験したことない揺れ」 愛媛、高知両県で震度6弱 | 毎日新聞([B!]毎日新聞, 2024/4/18 19:51:47) 伊方原発、モニタリングポストの値も異常なし 原子力規制庁など | 毎日新聞([B!]毎日新聞, 2024/4/18 19:51:47) 四国電力「伊方原発、運転を継続」 公式Xで投稿 愛媛、高知で地震 | 毎日新聞([B!]毎日新聞, 2024/4/18 19:51:47) 愛媛・高知で震度6弱 地震学者「南海トラフ地震誘発ないだろう」 | 毎日新聞([B!]毎日新聞, 2024/4/18 19:51:47) 共産・山添拓議員が不起訴と報告「同じことないよう留意」 鉄道写真撮影で線路横断:東京新聞 TOKYO Web([B!]東京新聞, 2024/4/18 19:51:17) 「事件に関わったかも」出頭の男性関与ほのめかす 那須2遺体遺棄(毎日新聞, 2024/4/18 19:50:48) 名古屋で展示の市電車両にもアスベスト 06年以降に飛散防止措置(毎日新聞, 2024/4/18 19:50:48) 法人税優遇、減収は過去最高2.3兆円 「隠れ補助金」企業は非公表(朝日新聞, 2024/4/18 19:46:15) 【そもそも解説】租税特別措置とは 税制優遇の一つ、検証に課題も(朝日新聞, 2024/4/18 19:46:15) 作家ウズィ・ヴァイルさん「イスラエル人とは 再考迫られている」([B!]読売新聞, 2024/4/18 19:45:58) 緊急地震速報を「訓練放送」 防災無線を誤る 大分・中津 | 毎日新聞([B!]毎日新聞, 2024/4/18 19:40:31) 南海トラフ地震の「前兆」とはいえない…豊後水道のM6・6で気象庁([B!]読売新聞, 2024/4/18 19:40:22) 本屋大賞の宮島未奈さん「滋賀に帰って参りました」 成瀬の今後は…(朝日新聞, 2024/4/18 19:38:10) 情報整理が苦手、「表現力」求められる記述式も…日本の小中学生、克服できる? 全国学力テスト([B!]産経新聞, 2024/4/18 19:34:03) 群馬県の元公式サイト、「ドメイン」を第三者が使用 県が自前化 | 毎日新聞([B!]毎日新聞, 2024/4/18 19:34:01)
0 notes
shukiiflog · 2 months
Text
イキヤ真澄樹しみれーと24 衝突 トキさん来訪
捨てられない死体、母親の死に際、遺伝する夭折、薬を真澄に託したトキさん、衝突
「…… … 何でだろ 殺せるのに …殺したあとに 俺 捨てられないかもしれない … 」
「ーーーー自分に起きたことをナメてんじゃねえ …そこで笑ったら許さねえ …二度とわらうな その笑みは この俺への侮辱と侮蔑だ」
真澄に起きたことを お前自身が簡単に踏み躙ってくみたいな こと…は 俺 耐えられ ない …
波乱… カガリを待ち構えて殺すか…? いや…焦ると死ぬ… イキヤ真澄はまず悪夢の治療とかをきちんとやらせていくべきなのか…
4949cry — 昨日 23:59 …(゚ロ゚) 2024年3月3日
4949cry — 今日 00:00 すーぱーインモラルルートに突入するならカガリくん…もありだが たぶんもう真澄はよっぽど死にはしない… イキヤくんはわからんが
sz — 今日 00:01 カガリはイキヤ真澄に殺されたら死ぬ間際にでも「ありがと…」って心からの感謝を告げる… どこにも居ないはずで居るままより死んだほうがカガリはずっとらく… イキヤももう死にはしないな 真澄になにかあったらどう転ぶか分からんが… すーぱーインモラルルート…死体遺棄的な…?(O O)
4949cry — 今日 00:07 うん ますみんがさねつぐさんとこにカガリくん持ってって埋葬する
sz — 今日 00:08 (゚ロ゚)… イキヤはそのときは食おうと思ってるぽいぞ
4949cry — 今日 00:11 「プリオン病になるからやめな」
sz — 今日 00:11 「プリオン病(O O)?」 人間も肉じゃねえのか…(O O)
4949cry — 今日 00:14 「同種の生物で共食いをすると発現する感染症因子だ」
sz — 今日 00:16 「…(O O)殺すのに…食ってもやれねえのか…
4949cry — 今日 00:17 「…。まぁ…うつひこがしたいようにしな」
sz — 今日 00:18 「感染症(O O)?にはなりたかねえけど… 食わねえんなら… ほんとに 殺す だけなのか… 」 「…… … 何でだろ 殺せるのに …殺したあとに 俺 捨てられないかもしれない … 」 オオミズアオも標本にしてあるしな…
4949cry — 今日 00:22 「そうか」…
sz — 今日 00:23 カガリを殺して 殺したあとも…死体を大事にするかもしれない …死体を大事にって… 俺 死体をなんだと…?思ってんだろ… 「食う以外にどうすればいいのかわからない…」
4949cry — 今日 00:28 「…お母様はどうしたんだ」
sz — 今日 00:29 「庭で死体とずっと一緒にいた 抱きしめて …でも、客がきて 見つかって …引き離されて 俺はそのとき目が見えなくなってて耳も聞こえなくなってたから 何がどうなってるのか何もわかんねえまま 師匠…昔から世話んなってる大人、に、…いろいろ任せっきりになって 葬式やったのかとかもよく分かってねえ… 実家にあれはある、なんか装飾が細かくて豪華なやつ(O O)」
sz — 今日 00:37 両開きんなっててローソクとか立ててあるやつ あれの使い方よくわかんねえ(O O) なんなのかもほんとはよく知らねえ…(O O) でも母さんがあれになったとは思えねえ
4949cry — 今日 00:39 のそ… ぎゅ
sz — 今日 00:40 (O O)…ぎゅ… 「死ぬのは …しかたない 仕方なくねえけど、でもいつか死ぬから …でも 死体と …お別れ…?できるように なったほうが… …ならなきゃいけないのか… ?」 ぎゅ… 「いつか真澄が死んだら …俺はお前の死体とお別れ でき ない … 」 「…真澄が死んだあとも ずっとそばにいていい?」
4949cry — 今日 00:48 「…うん」
sz — 今日 00:50 「救急車呼んで運んでもらったり 火葬にしたり 葬式したり ぜんぶしないで …ただずっとそばにいてもいい? …いつか俺も死ぬまで」
4949cry — 今日 00:53 「…。うん」ぎゅ…
sz — 今日 00:54 ぎゅ… 「…真澄は長生きしたい?」
4949cry — 今日 00:58 「わからない …」
sz — 今日 01:00 「……真澄が死ぬとき 幸せに死ねるように 俺がする …俺より先に死んでくれる?」
4949cry — 今日 01:03 「…。そうしたいのか?」
sz — 今日 01:04 ���うん。…それに真澄より先に死にたくない」 先に死にたくない… でも 俺はそんなに長く生きられないかもしれない … どうすればいい 「…………」 どうすればいいんだ ( ・∇・)いふわんのときのようにトキさんにお助けキャラになって登場してもらうか…?
やってみるか…? 掻っ攫われそうな雰囲気が漂ったらそこでピシャーンと終了、引き返しで…?
4949cry — 今日 01:35 www イキヤくん抱いてしばらくはセックスしなかったのかな リベンジでもっかい真澄がイキヤくんだいじにだいじに抱いてそうだな その翌日以降とかかな
sz — 今日 01:37 うおおおイキヤが抱いてもらえとる 翌日以降の夜、ますみんの部屋の窓が外からスルッと開きます 空いた窓の淵に乗って、部屋にはまだ上がり込んでこないトキさん 風に靡くあの絨毯がもう部屋の中にばさあっと広がってるが 真澄は起きてるかな
4949cry — 今日 01:44 起きてるだろうな…悪夢に関わるようなことはまだ何も変わってない カガリくんが入ってきたときも意に介さず入れちゃってたみたいに、まだ家の感覚もあまり成長してない 他ルートでトキさん入れてたのといっしょだな
sz — 今日 01:47 トキさん顔だけ真澄のほう向けて、にんまり… 「良い夜だ 」 「虚は手前の なんだい 」
sz — 今日 01:54 トキさん… ここまでのイキヤ真澄を見てきててだいたい知ってるくせに聞く…
4949cry — 今日 01:57 「…?うつ?」 鬱 ? … うつひこ?
sz — 今日 01:59 「俺が誰だか大体の見当はついてんじゃあねえのかい」
4949cry — 今日 02:00 「…貴方はだれ?」
sz — 今日 02:01 「行屋疾彦 あれの父親だ」 「んなこたぁいいさ 虚は このままいくと永くねえぜ 虚の間抜けは今に始まったこっちゃあねえが、これに関しちゃ遺伝的なモンだ 今頃途方に暮れてるだろうよ」ひっひ…
4949cry — 今日 02:08 「…ときひこさん…」ぽそ…つぶやく
sz — 今日 02:09 ふいにますみんのほうへ大量の薬のストックを放って投げて渡す…
4949cry — 今日 02:09 遺伝 …この人は幾つなのか…うつひこが長く生きたいって話は聞いたことがない キャッチ … くすり… 何の印も形状の特徴もない …「くれるんですか」これ
sz — 今日 02:11 「上手く使いな 手前らの様子は眺めてる分にも面白味がある 続けろ」 トキさん窓枠で立ち上がってふらっと出ていく、手前でとまって
sz — 今日 02:20 「ーーーー手前の不眠と悪夢 治してえんなら自分が被害者だってことを早々に認めるんだな」
4949cry — 今日 02:21 ますみんトキさんの方を見ている… 「…治すべきだと思いますか」
sz — 今日 02:26 「べきだろうとなかろうと治しちまえ」 「…ふぅん… よっぽど手放したくねえ悪夢でも見んのか?」にまぁ…
4949cry — 今日 02:35 「手放したら僕は僕じゃなくなるようで …」俯く 怖いんです、…←声には出してない
sz — 今日 02:36 トキさん恐怖心を見ているし感じている… 「虚と生きるよりその悪夢を大事にしてえんなら後生大事に抱えてりゃいいさ 手前がどれだけ変わっちまおうと虚は手前を愛すだろうよ」
4949cry — 今日 02:42 「…」ますみん薬置いて部屋出た イキヤくんの部屋にいく すたすた ガチャ ばたん! ノックもせずにドア開けて入った イキヤくん寝ててもぎゅー!ってする
sz — 今日 04:36 「! …」 イキヤも眠れなくて、横になってるだけで起きてた 真澄をそっと優しく抱きしめ返して自分のほうにさらに引き寄せるみたいに真澄の後頭部撫でてあやす… 「真澄… …どした?」なでなで…さすさす… このトキさんイキヤにも気づかれないようにうまく気配殺してるので、イキヤでもトキさんが今隣の部屋に来てることを察知できないし、このままたぶん気付けない
sz — 今日 04:43 真澄の後頭部や背中を優しく撫でさすりながら… …悪夢みた?一緒に寝ようか って言おうか迷っている…
4949cry — 今日 05:01 ぎゅ…「…ときひこさんが…うつひこは長生きできないって」頭撫でてもらいながら顔伏せたまま 「遺伝って なに」
sz — 今日 09:59 イキヤぞっとして真澄の身体をよく撫でて全身スキャンする…「あいつに会ったのか いつ 何もされてねえか」 …なんとなく生きてる感じはしてたけど 生きてたのか…
4949cry — 今日 12:43 「…話を。うつひこのことと…僕の悪夢のことを、一言二言話した。見守ってるよってさ」こてん…顔横向かせてイキヤくんの胸元にのっける… 心臓の音… 「まだ隣の部屋に居るかも」←テリトリー内なので居たらますみんわかるんだけど、イキヤくんに離てほしくないので断定はしない… もういなかったら「さっきまで隣の部屋で。今はもういない」って言うかな
sz — 今日 13:07 まだ隣の部屋にいてくつろいでるかも��…w 「……生きてたのか あいつも」
4949cry — 今日 13:10 「…ときひこさんからの遺伝なの?お母様のほう?」
sz — 今日 13:12 「あの父親と母さん、そんなに遠くねえ親戚なんだ どっちからどう俺に遺伝しても あんま変わんねえ…のかも」 「あいつは…まだ生きてんなら長生きだ 今四十くらいじゃねえの… 俺んちの 特に男親 三十代でだいたい死んでた気がする」
4949cry — 今日 13:17 「そう…」
sz — 今日 13:18 「身体が弱いとかってんじゃねえから… 打つ手ない 歳取るごとに …発狂?…する それで気付けずに無茶なことして死ぬ …そんだけ」 「特に酷かったのに八十くらいまで生きたひいじーじゃんみたいな特例もいるから、俺がどうなるかもまだ分かんねえけどさ」 真澄の頭に顔寄せる…耳元で言い聞かせるように囁く…
sz — 今日 13:29 「俺は案外けろっと長く生きるかもしれねえよ? 母さんみたいな精神症状も出てねえし、あいつみてえに無茶に身体を酷使した生き方もしてない 躁でも 鬱でも ない …接してても、こうしてちゃんと話通じるだろ …大丈夫 …俺は大丈夫 」 最後のほう自分に言い聞かせるみたいになってるな
4949cry — 今日 13:35 「…うつひこ」かおあげる…イキヤくんみる 「僕が死んだとき わかる?」
sz — 今日 13:38 一度眼を閉じてすぅー…っとゆっくり呼吸する… 「……うん」 「わかるよ」 真澄に死が近づいても 分かる だからその時 俺は必ずお前のそばにいる 絶対に …そのためには俺のほうが真澄より長く生きなくちゃ …どうしても真澄より長く生きなくちゃ 5分でも、ほんの一秒でもいいから、真澄より 長く… どうすればいい? …なんなんだよ… …なんだってんだよ… 遺伝ってなんだよ …畜生
sz — 今日 13:49 慧さんが 遺伝も要は発現するかしないかで環境如何だから縛られすぎずに健康的な生活しろ、呪われ過ぎるな、…って 言ってた …
4949cry — 今日 13:56 「…僕は …誰なんだろうな」
sz — 今日 13:57 「(O O)真澄。」 「…お前 あいつになんか言われたろ? なに言われた、 あいつは人が傷つくことを際限なくいくらでも言う、なんとも思わずに、あいつの言葉に惑わされんな、」 ーーー! 居るのか、隣の部屋 イキヤになにか勘付かれたことに勘付いたトキさん、ゆらあっとイキヤ真澄のいる部屋のドアの前まで来た
sz — 今日 14:04 トキさん、当然のようにドア開けてイキヤ真澄の姿も見ずにすいすいまっすぐ部屋に入ってくる
4949cry — 今日 14:10 起き上がるますみん…
sz — 今日 14:12 「ーーーっは! いい笑い種 手前ら萎れてお互いにしなだれ掛かった細百合かなんかか? そのくだらねえ脆さを早いとこどうにかしな じゃねえと遺伝がどうのこうの言ってる間もなく死神に喰われて終わりだ 俺は高みの見物だ 湿っぽいばっかじゃ興醒めだ もっと客席沸かせな」 イキヤの部屋の窓からヒョイっと外に飛び降りて出てった… イキヤ言い返す暇もなかった… けど真澄のことしっかり胸の中に抱き込んだぞ トキさんから見えないくらいにしっかり まもる…
4949cry — 今日 14:18 抱き込まれてイキヤくんの腰に腕回しておく…けどトキさんすぐ出て行った…
sz — 今日 14:19 窓の外に向かって大声で怒鳴り散らし返したいイキヤ 真澄が優先なので我慢している
4949cry — 今日 14:19 「…」すり 抱き寄せられた胸元に頬擦りする… 「傷付けられてないよ あの人は惑わすようなことは何も言ってない …」
sz — 今日 14:22 「言い方あんだろ… 」
4949cry — 今日 14:24 「…言い方もべつに…」イキヤくん見上げる「悩みを言い当てられたところはあるけどね。…うつひこあの人のこと嫌いか?」
sz — 今日 14:25 …、嫌い… 嫌い? 「憎んで る… ? 俺がアイロン押し当てられるのを 屋根の上にいて ぜんぶ知ってて 見物?…してた … …?」
sz 「イキヤくんのこれまでの人生 惨めで憐れで悲惨なものに …あなたがするんだ ふ ふふ っ…」
sz — 今日 14:30 カガリのこれが発動してんなぁ…( ・∇・) 今まではそれを 単に最低な父親だってしか 特に思ってなかったけど… … 「……いや、嫌いだ。色がうるさいから。」←自分で原点復帰した 「真澄はあいつのこと嫌いか?」
4949cry — 今日 14:34 「…とくにどうとも」
sz — 今日 14:34 「悩みってなんだ(O O)」
4949cry — 今日 14:35 「…でも」イキヤくんの胸元に手あてて「うつひこを助けてくれなかったなら 嫌い」
sz — 今日 14:37 「(O O)…」じぃ…っ 悩みってなんだ…
4949cry — 今日 14:38 「…ああ 睡眠が足りてないだろ 僕もうつひこも」 そのことだよ …「僕が悪夢をみていることを知っていた」
sz — 今日 14:39 「あいつも なんか見るから。…俺の目と似てる」 睡眠… 「真澄が飲んでる眠剤を俺も飲んだらいいのか…?(O O)」 「悪夢… 見ないで眠れたことねえのか(O O)」…
4949cry — 今日 14:47 「そんなことはない」(はず…)「…でも みなかったらみなかったで…不安になる 自分が誰かがわからなくなるような」 イキヤくんの手とる…ベッドに腰掛けて手いじる …きれいな手 雄弁な 「…どんな夢なのかを話したことがあったっけか」
sz — 今日 14:49 「樹さんの…昔あったこと… じゃねえのか」 (O O)詳しく聞いた…あれじゃなくて、バリエとかあんのか…それとも内容いつも定まってねえのかな
4949cry — 今日 14:52 「最近ではうつひこが襲われるときのこともみる」ふ…「みたことねえはずなのに」 「…前の恋人の…ことも…」
sz — 今日 14:55 「…なんでみる?」 なにか 自分で 分かってそうだ
4949cry — 今日 14:59 「樹と僕が双子なのは知っての通りだけど …あのことがあるまで僕らはそっくりだったんだ」 離れたところで育つと余計に似る、って実験結果もあるくらいだから 自然なことだったんだろう …「遺伝子的には全く同じ …おなじ存在のイフを、僕らは互いにみることができた」
sz — 今日 15:01 「…」
4949cry — 今日 15:04 「あの時 樹が … あれからだ、僕たちの外見や…意識の状態に違いが顕れだした …もしかしたら死んでいたかもしれないけれど結果的に死ななかった自分が継続して今生きているのなら 僕たちはそこで死んだ自分も同時に存在することができる … …僕は …樹じゃない … …樹じゃない自分が …」許せない 「樹じゃない自分になったのが …あの時だ そう思ってんだろうよ、この脳みそが」
sz — 今日 15:08 「逆だったらよかったと思うのか」
4949cry — 今日 15:10 「…いいや。樹に憧れてるのが楽しかったし もし僕がされたら樹は僕以上に自分を責めたかもしれない …あの時も 樹は僕の名前を呼んだ途端に冷静になって声を上げるのをやめたように見えた、 …、…」 俯く…表情が ますみん泣きそう…
sz — 今日 15:13 イキヤ、真澄の目をまっすぐ見つめている…いつものあの目で 「ーーーここに樹さんが居ないから 言うけど 俺はずっと 不思議で仕方ない なんで酷い目にあったのが樹さん一人だってことになってんだ? 双子で 見た目に違いが出て それがその時のことのせいでも なんで酷い目に遭った側と、遭わなかった側の、真逆に分かれたモンみてえにいうんだ
sz — 今日 15:22 真澄と樹さんに起きたことはどっちも酷いことだ 同じ場所、同じ日に、同じ酷いことの最中に居させられたけど それぞれにまったく違う酷いことが起きた 違う目に遭ってんだからその後も違くなるだろ 樹さんに起��たのは強姦 真澄に起きたのは拷問だ どっちも 子供が受けてただで済むもんじゃねえよ
4949cry — 今日 15:25 「拷問て」 ふ、って笑うますみん
sz — 今日 15:25 おおーっとイキヤがカチンときたぞ?!
4949cry — 今日 15:25 (・∀・)
sz — 今日 15:26 真澄の胸ぐら掴んでグイッと顔引き寄せて凄い目で睨みつけるぞ
4949cry — 今日 15:26 !
sz — 今日 15:27 「ーーーー自分に起きたことをナメてんじゃねえ …そこで笑ったら許さねえ …二度とわらうな
4949cry — 今日 15:28 「…、…悪い」
sz — 今日 15:28 その笑みは この俺への侮辱と侮蔑だ」
4949cry — 今日 15:29 「…」うぐ…
sz — 今日 15:29 微動だにせずじっ…と同じ体制で真澄を睨み下げる…
4949cry — 今日 15:32 少しため息ついて目ふせるますみん「…防衛反応で笑っちまうこともあるんだぜ?馬鹿にしたわけでも笑い飛ばしたわけでもねえよ…」
sz — 今日 15:34 「なら復唱するか? てめえ 一言なんつった」
4949cry — 今日 15:34 「…」
sz — 今日 15:37 「……壊し方が甘かったか その脳みそ、まだまだ壊したほうがいいらしいな 」
4949cry — 今日 15:38 「!?」ますみんちょっと抵抗しかけたな 身じろぎして瞬き忘れてイキヤくん見詰め返した
sz — 今日 15:39 イキヤが胸ぐら掴んだまま引き寄せて真澄にキスするぞ ここでトラウマキス
4949cry — 今日 15:40 ひええ イキヤくん起きたことを急に全部受け入れられなくて一旦矮小化して飲み込むのは防衛反応の一種にあるんやで…(・∀・) ますみんさすがにじたじたって手足あばれた…一瞬だけど すぐイかされてしまうかな
sz — 今日 15:41 イキヤはそういうのなにも知らんからなあ…(°°) しばらくそのまま深いキスしたらぷはって一度離すけども… イかせるだけじゃなくて深いキス続けたのは自分がキレてるのが愛情由来なのを伝えるためみたいな… じゃないと今のイキヤ、かおが ガチギレすぎて… こわい( ・∇・)
4949cry — 今日 15:46 真澄もさすがに嫌われたかもとか見捨てられ不安がチラついてたな 愛情伝われ… さすがにキスされて急にイかされて泣くかなますみん 緊張してたからイかされる強引さがだいぶしんどかったろうし
sz — 今日 15:48 それ拷問やぞ…おまえがますみんに拷問してどないすんねんイキヤ…
4949cry — 今日 15:49 www
sz — 今日 15:50 真澄が泣いたらさらにキスするかも… 今度はあやすようなニュアンスも入ったかんじの キスだんだん優しくあまくしてく 胸ぐら掴んでる手も真澄の頭くしゃってしたりするほうに変わる
4949cry — 今日 16:32 ビクついてたますみんがだんだんイキヤくんの様子確かめるみたいにゆっくり目ひらく
sz — 今日 16:35 イキヤもうガチギレ顔してない… いつもの顔… 目元すこし優しめに眇めてるくらい
4949cry — 今日 16:39 ぽろ…って涙おちた… 生理的な涙のようなガチギレされてない顔でほっとしての涙のような
sz — 今日 16:40 キス極限まで優しいほうに振ったキスをしばらく続けてから、そ…っと唇離す… 顔近いまま そのまま、呟くみたいな弱くなった声で でもしっかり伝える… 「…ごめん  伝え…ること… まちがった バカにしたわけでも 笑い飛ばしたわけでもないんだと しても 俺は …傷ついた 傷ついた … … だからもう やめろ  真澄に起きたことを お前自身が簡単に踏み躙ってくみたいな こと…は 俺 耐えられ ない … 」 目にすうっと涙が浮かんだ 零れ落ちないで目元に溜まってく 眉が下がって眉間に悲痛な皺が寄った…
4949cry — 今日 16:51 「…、…」掛ける言葉もない… … …、「…うつひこ 今僕のこと殺せる?」
sz — 今日 16:53 「…殺してほしいか?」 …真澄を殺す ……いつかじゃなくて 今?
4949cry — 今日 17:00 「うん」
sz — 今日 17:03 「ーーー殺せるよ 
…けど、今は殺さねえ お前が自分で死のうとするなら、阻む 俺はお前にまだなにもできてない お前のことを…知らない そんなうちから 殺せるほど お前のことどうでもよくない ………手を尽くす ……苦しめてんなら、ごめん
4949cry — 今日 17:09 「ちがうよ …幸せだから」ぺしゃ…ってベッドに倒れ込む
sz — 今日 17:10 ますみん抱きしめて倒れる衝撃和らげて庇うみたいにいっしょに倒れたかも 「なら幸せから逃げようとしてんじゃねえよ… そんなら殺さねえ」 ぎゅうー…
4949cry — 今日 17:13 「…逃げか …そうかもな」 抱きしめ返す…
sz — 今日 17:14 イキヤの涙がほどよくシーツに吸われてって溢れずに済んだ 抱きしめて真澄の頭撫でる… 「…つづき 話せるか?」
4949cry — 今日 17:15 「続き?」
「夢の話、してたろ 昔の話も あの続きだ 俺は お前に起きたことをお前の口から 聞きたい …口にすんのが…しんどいんなら ゆっくりでも ちょっとずつでもいいから 」 なにが起きたのかあの時あらましを話したのは樹さんだった それじゃだめだ
4949cry — 今日 17:23 「…続きはない …いや …、どこから続ければいい?」
sz — 今日 17:25 「あの時、なんか言葉に詰まったろ なにを考えてた? なにが頭に浮かんだ どういう気持ちだった? 出来事だけ把握したいってんじゃねえ… わいた気持ちを ぜんぶ言葉にして 教えろ」
4949cry — 今日 17:28 「… わからない」わからない …気持ち なんて …その都度 決めて も、 …あの時の気持ちを今考えることさえ 難しい … 「ただ…樹と三人で居た時に樹が話した、あれを聞くまで僕は樹を見捨ててただ隠れていたんだと思ってた 助けられるところでただ見ていて…助けなかったんだと」
sz — 今日 17:31 「ただ隠れてたって言い方…やめろ それは 多分 正しくねえ」
sz — 今日 17:39 「自分の身を守ることを強要されてんじゃねえか それも、お前が個人的に助けたかったり、人道的に助けなきゃいけなかったり、そういう複雑な葛藤を踏み潰されて、お前自身の意に反してたかどうかさえの境界までもを内側から曖昧にさせられたんだろ 隠れてたあいだ、ずっとそんな時間が お前の身に降り積もった …これが拷問じゃなくてなんなんだ? もっと酷い言葉になら言い換えられるかもしれねえ」
sz — 今日 17:49 「生きながら殺されて その先死ぬことも禁じられて まっとうな生き方を強いられて …樹さんのことじゃねえぞ お前のことだ これは」
4949cry — 今日 17:50 「…っ」 そう…なのか? …いや… わからない わからない…けど「まぁ…それは…ともかくとしても、あの日うつひこに樹が話すのを聞いたことで…助けを呼びに行ってたってのを、初めて知った」 完全に見捨てては居なかった …いや、それはともかく 「記憶の曖昧さってのを痛感したよ。…悪夢に縋ったってあの日を間違い無く繰り返し見ているわけではない」
sz — 今日 17:59 「話は聞く …けど俺が言ったとこを曖昧なままにすんな …その時の気持ちを俺が訊いて お前は、分からない、っつった ……それがお前の 被害の形だ 分からなく させられた。…分からねえのが、お前がどれだけ酷い目に遭ったのかの度合いだ ……お前にとっては 納得いかねえか、そういうことにはしたくねえかもしれねえけどな 俺は そういうことにする お前は俺の言葉にぜんぶ塗りつぶされろ …俺はお前にそうする」 「記憶も気持ちも過去も曖昧だ、夢も。ならお前のことは俺が決める お前の輪郭は俺が作る」
sz — 今日 18:07 「ーーーつっても素材がねえとなんも作れねえから もっと話せ」
4949cry — 今日 18:08 「そ …さすがにそいつは横暴だろ、…」
sz — 今日 18:11 「じゃあ加工されたくねえ素材には印つけて寄越せよ …できんのか?」 「悪夢見ねえと自分が誰かも分かんなくなるんだろ でもお前が悪夢で魘されてるのも、それでちゃんと眠れてねえのも、俺が嫌だ お前も、眠れるようになるっつった ぜんぶ俺と生きるためだ 俺と幸せに生きるため なら、お前が誰なのか決めるのは、俺だ」
4949cry — 今日 18:17 「…、…言いなりの人形でいいのかよ それが誰なのかを自分で言い聞かせて見出す虚像は一人遊びとどう違う」
sz — 今日 18:19 ふ…「おい 俺は絵描きだぞ?」 「一人遊びのプロで、一人遊びをそれだけで完結させねえプロだぜ」 「虚像だと思うんなら安心しろよ 俺はもともと ただの虚(うつろ)だ 」 果てない虚で包み込んでやる どうしようもなく安楽ななにもなさで永遠に守ってやる
4949cry — 今日 18:31 「…加工されたくねえ素材には印つけろとか言ったな」
sz — 今日 18:31 「印つけても加工しねえかどうかは俺の判断だけどな」 「加味するくらいはする」
4949cry — 今日 18:35 「…。なら渡さない …何も言わねえでおくさ」
sz — 今日 18:38 「加味するっつってんだろ(O O)寄越せ。俺の仕事の出来栄えはよく知ってんだろ(O O)」
4949cry — 今日 18:39 「これは仕事じゃない」調子もどってきたなますみん(・∀・)
sz — 今日 18:39 「だだこねるなよ… お前、往生際悪りいぞ(O O) 俺と生きてくんだから腹くくれ」
4949cry — 今日 18:43 「…うつひこが好き」真顔 「どんな風に好きで …どうしたいと思ってるか 全部は自分でもわからねえし変わってくかも …お前が掌握できるとも思えない だから加工するな」
sz — 今日 18:49 「俺はいっぱい眠ってきもちよかった、お前にもそうなってほしい、つった そしたらお前も、そうなりたい、つった。 …無加工のままちゃんとそんなふうに眠れるようにまでなるんだろうな…?(O O)」
4949cry — 今日 18:53 無加工と言えるかは正直怪しいけどな… とさっきもトラウマキスされたのを思い出して内心びく…とするますみん 「どうしたら眠れるのかはわからないけど… 病院にでもかかってみるかな」
sz — 今日 18:55 「びょういん… 悪夢と不眠の…? あてがあんのか(O O)」 何科…?の、なんだ…?(O O)?あ、画家に精神やられて不眠症なって精神科の世話んなるやつ多いな…精神科…?
4949cry — 今日 19:00 「精神科だろうな。もしくは内科か心療内科か…」
sz — 今日 19:01 「俺は悪夢はそんなに見ねえけど…眠れねえんなら俺も病院行ったらなんかチリョウ…されんのか?(O O)」 俺も行ったほうがいいのか…??? 「……真澄に抱かれたら100パー眠れる…」 「しかもなんか…すげえ心地よく…すげえたくさん、一生ぶん寝たいだけ寝たかもってくらい そんで起きたら体軽くて動かしやすくてどこも痛くも苦しくもしんどくもなくて、気分も良い」
4949cry — 今日 19:06 「一緒にいくか」病院「…毎日抱いたら内臓に負担かかるだろ。ごめんな」ちゅ
sz — 今日 19:08 ちゅってされてくすぐったそうに目細めた…「謝るとこじゃねえよ…」 「一緒に行こう」
4949cry — 今日 19:11 おお なんか 進んだ感…!
sz — 今日 19:13 進んだはずだぞおおお
0 notes
metal-cn · 8 months
Text
自動運転車の、意外な隙!車内犯罪!ちかん、性犯罪、すり、置き引き、盗難、強盗、緊縛、かっぱらい、泥酔強盗、昏睡強盗、カツアゲ、強迫、侮辱、強要、放火、テロ、暴言、爆破予告、立てこもり、人質、遺棄、違法薬物取引、銃器取引、カルト布教、殺傷、急病人、行き倒れ、、、
車自体の、電波ジャックだけや、なかった。ちゅう。となりに、もしや、あのショッカー?いたら、どないすんねん?それと、停電やろな。人為的なんも、含めてやろな。日本の場合は、自動運転車は、過疎地帯に、多いんやろ。だったら、叫んでも、誰もきまへん。なら、やったろ、ちゅうのが、実行犯、企図犯の、考え、やろな。恐らく、自動運転車内での、犯罪、常態化する、危険性やね。だから、本来ならば、都市部から、始めないと。被弾避け的な、意味合いも、含めてや。マフィア、カルテル地帯こそ。緊急駆け込み性。一見、それらと、矛盾するようだが。いえいえ。違う。駆け込んで、中から、鍵しめるんやろな。じゃあ、その、鍵、いわゆる、人力か、電波経由か、両方か、そうした点が、問題に。きょうのジョーカー、あさってのショッカー。
0 notes
yamanaka-lab · 11 months
Text
2023建築レビュー#2
・建築レビュー#2(設計者: ARCity Office ) 発表者 :池田 (M1) 講評者 ; 安西 -
建築レビュー第2回目 はARCity officeを取り上げた。
この建築家は2016年に張玉興とHANジンによって設立された建築事務所である。彼らは中国に拠点を置き、活動を行っている。
彼らのコンセプトは「アダプティブリユース」として本来の役割を終えた建築物に対してその歴史性を保護しつつも今までは破棄されたいたような材料などに対して新たな価値を与えることで再生する事に対して重きを置いて活動している。
今回は彼らの建築作品を3つ取り上げて紹介する。
事例1『 Shajing Village Hall 』中国 深セン(2020)
Tumblr media
中国の深セン市の廃墟となっていた発電所を活用し、先祖を称える祭りや結婚式、葬儀にも使われる中国特有の「アンセストラル・ホール」として生まれ変わらせるプロジェクトです。 
Tumblr media
主に物質的側面と精神的側面の両方からの遺跡再生を試み、基本的には、古い痕跡を最大限に保存しています。
Tumblr media
一方、赤く印した、新しい鉄骨構造やガラスは、古い遺跡を支えつつ、挿入または織り込まれることで、古いものと新しいものの絶対的な境界を曖昧にします。
Tumblr media
構造躯体だけでなく、正方形の窓の開口部や、発電所の換気ダクト設置用の丸い穴などの痕跡も、「廃墟構造」の一部となり、これらは歴史を物語り、空間に予期せぬランダムさと謎の感覚を加えます。
Tumblr media
建物の解体時に出た多くの石やレンガなどの廃材は、太い鉄筋で編んだ網に入れて壁をつくり、庭全体の仕切りとして再利用されています。
Tumblr media
事例2『Qiaotou Ruin Garden』 中国 深セン (2019)
Tumblr media
Qiaotou Ruin Gardenは深センの遺跡庭園となっている建築です。この建築は工業用建物をスラブ、屋根、壁、床が一部撤去し「廃墟構造空間」へ変化させました。
Tumblr media
もともとこの建築は1980年代に建てられましたが、長期間の空き家状態でした。そして工場跡地の周囲には広い空き地があり、多くの村人が車を一時的に駐車したり、建設用具や廃材を積み上げたりするのにも使われていました。
Tumblr media
このプロジェクトは、躯体を残しつつ床、屋根、壁を部分的に撤去する方式を採用し、見えない建物の実体を明らかにし、閲覧・活用できる新たな空間を創出します。都市空間におけるサステナブルな建築を目指します。
Tumblr media
ソフト面においても、ビエンナーレなどイベントの開催の影響もあり、村の多くのコミュニティ活動がこの工場跡地で行われるようになりました。
Tumblr media
このように、既存の活用可能な構造躯体を村のインフラとして捉えることで、将来的には、取り壊され、標準化された超高層ビルに置き換えられるかもしれない未来に、この廃墟のシンボルが根付き、発芽し始めることで、廃墟が増える都市化した村も成長が可能であることを証明しました。
事例3『Rejuvenation of Shajing Ancient Fair』 中国 深セン (2019)
Tumblr media
現存する最大の混合型歴史街区であり、歴史的および文化的価値の保護を最大化し、新しい設計コンセプトに基づいて、都市再生のモデルを探求するプロジェクトです。
Tumblr media
主に、約70メートルの模範的な河川修復と景観変換を実施します。同時に、場所の特性を維持することに基づいて、川沿いの代表的な場所を選択し、社会構造と空間の質感の崩壊を避けるために「鍼治療」のようにわずかに介入していきます。
Tumblr media
創造的なデザインと展示の助けを借りて、村人やコミュニティは歴史的遺物のユニークな美的価値を発見し、新しい文化的統合シーンを創造します。衰退する傾向にあった地元の生活コミュニティを活性化することを望んで、さまざまな種類の公共活動を実行するために組織されています。 
Tumblr media
かつてここに流れる川は、貿易と輸送に不可欠でした。その後、川は封鎖され、道路や家が川を占領し、幅2メートルの臭いの溝に変わりました。そこで、水路を2つの層に下層は下水、上層は雨水に分割し、川の原始的な魅力の体験を可能にします。
Tumblr media
さらに、川岸の両側の手すりを取り除くことによって、花の池、座席、橋、遊歩道を設計しました。川岸のスペースは日常生活に回帰し、人々が楽しみ、体験できるシーンになりました。
Tumblr media
川全体を「歴史的シーンの博物館」と見なし、川の景色を一望でき、村人が気軽に休憩して交流できる小さな居場所を与えます。
Tumblr media
こちらは、公衆トイレの屋根を使用して、大きな階段などを含むスカイブリッジシステムを構築し、村人が座ってリラックスしたり、2階レベルで歴史的建造物を見学したりできる屋外広場に変わりました。
Tumblr media
以上のように固有の展示やデザインは、一種の保存と活性化、風景と景色、更新と郷愁まど...さまざまな要素を組み合わせて、過去と未来の時間を編んでいきます。時間は全世界の共通のシルエットであり、すべての人の体が感知できる最小の体験ユニットでもあるからこそ、この実験的な行動により、時空間進化が始まることを期待しています。
私はARCity officeの設計について、主にはサスティナブルというコンセプトでありながらもこれは熱や風などの環境面ではなく中国の急速な発展に伴う建築的な資源を見直すことがこれからの中国の都市を引き立てる存在になりえるように感じた。
さらに建築的な操作としても、廃墟を受け入れつつもパッチワーク的な建築操作によって基礎、梁、柱を含む既存のコンクリート構造を補強しつつも再利用することで古い廃墟の周りに新たな建築が巻き付くことでノスタルジアな感覚が生まれるのではないかと感じた。
古いもの・新しいもので区別をするのではなく、維持しどう現代に繋いでいくのかを考えていくことが持続となるのではないかと考える。
山中は、現在急速に発展している中国だからこそ、歴史的価値のある建物というのは、ヨーロッパにあるような千年単位のようなものではなく、数十年レベルでの更新が起こっている所に中国の建築の魅力があると述べた。
また、廃墟をより廃墟らしく仕立て上げているという建築の見方をすることがこの建築の魅力を感じさせると述べた。
引用: Archi Daily
https://www.archdaily.com/974458/rejuvenation-of-power-plant-arcity-office?ad_source=search&ad_medium=projects_tab
https://www.archdaily.com/946133/qiaotou-ruin-garden-arcity-office?ad_medium=widget&ad_name=more-from-office-article-show
https://www.archdaily.com/951504/rejuvenation-of-shajing-ancient-fair-arcity-office?ad_medium=widget&ad_name=more-from-office-article-show
1 note · View note
mega-stargazer · 2 years
Text
ロシア軍いよいよ限界か? オンボロT-62再整備して前線に投入 旧式戦車に頼らざるを得ないワケ
https://news.yahoo.co.jp/articles/147ac3d1ef1803210bc7891fc306def45de6034f  2022年2月下旬から始まったロシアによるウクライナ侵攻では、ウクライナ軍の果敢な防戦により、ロシア軍の戦車をはじめとする各種戦闘車両(AFV)に多大な損害が生じているという報道がなされています。また、それらのうち少なくない数が無傷で遺棄されており、ウクライナ側が多数鹵獲(ろかく)しているとも伝えられています。  このような戦況下、ロシア軍は予備兵器として保管していたT-62戦車を、再整備のうえウクライナの戦場へと投入するようになったといいます。しかしいかんせん、近代化改修が施されたT-62Mといえども、元は半世紀以上も前に開発された旧式戦車。現代戦に対応できない恐れもあるとか。いったいどういうことなのでしょうか。  T-62戦車が開発さ…
View On WordPress
0 notes
azure358 · 2 years
Text
—深海人形特別篇— はんたの話?
御前等「…あのアカウントは……?本物か偽物か?!(野次馬根性)」
ワイ「…あのアカウントの画像に映ってる原稿が汚いので本物(確信)。」
…って言うか、公式認証マーク付ける手続き手伝ってやれよ編集!!!!(認証マーク無かったら、偽物に騙される人が、此れからも、出て来るだろ!!!!)
※…基本、及び、後半軍事ネタ、残酷、クロスオーバー注意。
[[MORE]]
…はんた連載再開確定おめでとう。
…もっと、とがしとクロロ団長の苦しんでおる所が見たい。うーん。楽しみじゃのう!楽しみじゃのう!(某邪竜並)
※某わんぴのネガティブアレ食らった時
団長「…オレはもう、団長辞める。」
ヒソカス「…どうせ、ボクは、哀れな道化さ♦︎……。」
イル兄「…オレって一家の恥だよね。」
キル「…今から、家に帰るわ……。」
ビスケ「…此んなババアなのは、仕方無い…。」
フェイタン「…どうせワタシ達、流星街のゴミよ……。」
ズシ君「…もう、努力したくない……。」
ウィングさん「…すみません。弟子としても師匠としても失格です……。」
ミル「…パパ…ママ…此んな豚で御免……。」
ゼノ爺「…静かに、暮らしたい……。」
カル「…もう、何もしたくない……。」
マチ「…全部莫迦みたい。何したって無駄よ。」
シズク「…つ、疲れた〜〜〜〜。」
ゴン「…オレ……辛い……。」
ナックル「…すまねぇ、すまねぇ、すまねぇ……。」
※とある莫迦の慈悲深い愚痴。
…はんたの話が、余計ややこしく、可笑しくなったのは、面倒臭い女さん層と旅団厨の所為だと適当に身勝手に思っているので、其の手の女さん(と其れ等とは無関係な莫迦野次馬共も)達が「…とがしが生きてた!!(野次馬根性)」だの「…連載再開やなww(右に同じ)」だのとギャンギャン騒いで居るのを見ると、複雑な気持ちになります。
…とがしは、最早、天命レベルで苛め易いのは分かるけどさ、もう、とがし苛めんな。此れからも、絶対苛めんな。本当に約束して。とがしを、もう、此れ以上、苛めるな。
…原稿が汚い?熟練のプロ程原稿は汚いんだよ。何も描いた事の無い奴等が騒ぐ事じゃない。プロの原稿が汚いのは、それだけ、熟練の描き手で真剣にやってる証だ。御前等良い加減にしろ。
…仕事しない?…漫画描くってさ、腰痛ってさ、本当に辛いんだよ。そして、持病と加齢による障害で更に苦しむ病人を、出版社の稼ぎの為に働かしてる方が、異常である事に気付けよ。
…後、出版社さんは、後々、とがし先生に訴訟されたらどうするんでしょうか。
そう言う対策取ってた方が、良いかもしれないよ?
…で、最後に、…なぁ、御前等、つい最近迄、大抵別垢でknnとかtwst関係でキャッキャッしてたろ?みたいに。もう出先に居着いちゃえよYOU。
…。
※幻影旅団の伏線回収考察
…旅団結成前後〜初期の過去回想話するのは妥当な線ですが、其れすると、「…浸り過ぎーー!!(鼻毛の人並)」「…長いわーー!!(ガ王並)」…になるので、少し短めにして頂けると……(…昔のわんぴがしていた深刻な過去回想責めに、トラウマがある者より なるとのは、別に其うでも無い)。
…以下、箇条書き。
・幻影旅団結成の理由
・旅団メンバー全員が念能力をマスターしている理由
・例のビデオ
・オモカゲとNo.8の人を含む、初期メンバーの詳細
・クルタ族の村襲撃の真相と第四王子君との関係
…。
#人間ちゃんネタ
上位存在がしょっちゅう不法投棄するゴミ捨て場にある集落に村の皆と仲間と住んでた人間ちゃんくろろ団長を上位存在が、安易に拾って飼育し始めたら、挙げ句の果てには飼い切れなくなって、最後には、団長、叩き出される様に、外に捨てられて、其の後、集落に戻ったみたいな話(※有り得そう)。
※団長ネタスペシャル
(※雄リョナ発言注意)
…『星羅から来た〜SoODL.』と『クロ新〜LotPNW.』では、慈悲と情けを掛けたけどね、本当は、くろろ団長を痛めつけたいんですよ。とがしが、本編で団員を殺処分するよりも早く、酷く(…もっと、鬼畜みたいな目に会わせたい)。
…。
くろろ団長って、念を研究する上で、最高峰の研究材料(或いは実験体)だと思う(※…次点で適して居るのは、多分、蟻勢か第四王子かじんさん)。
…。
…団長による、新たな『鎮魂歌(レクイエム)の儀(便宜的命名)』楽しみだなぁ〜〜〜〜(歪んだ楽しみ方)。
…某公式ネーム原稿二枚で、「…団長だ!!仲間が一挙に死んだから鎮魂歌(レクイエム)の儀してるんだ!!(大歓喜)」…としか見えない事で話題な奴、ワイから見たら、団長も死んでダイニングメッセージ遺してる風にしか見えなかったぞ(…相変わらず、団長の扱いが基本過酷)。
…もしも、たった数話の間に、団長「…あぁ〜〜^^仲間が死んでしまったんじゃ〜〜^^鎮魂歌(レクイエム)の儀やろ(…そして、此のオレから仲間へのレクイエムですへ……)。」みたいになってたら、辛いよね(旅団厨が 我々大爆笑)。
…ワイ等「…未だ未だ、王位継承戦続きそうやなww(…此れだから、…もう、とがしったらぁん☆)。」団長「…あれから、仲間全滅しました(震え声)。クラピカ「…他王子ほぼ全滅(ついでに旅団もほぼ壊滅しててラッキー)です(迫真)。」…かもよ??(※流石にネタです)
…団長は、例えどんな性格でも、何も変わらず、人気出てただろうな……(※…先ず、見た目と念能力が良過ぎる)。
…そして、『ぼくのかんがえたあんこく大りくへん』で素晴らしいのが、しをらしい団長(好き過ぎて咽せた)。…しをらしい男ワイ大好きだから(※例:拙作のウェイン兄弟)無茶苦茶ツボった(可愛い)。
…雄らしく戦いたいし、格闘・体術大好きだから、「…ウヴォーさん、…もっと格闘教えてよ(笑顔)。」…みたいに懐く団長が見たい(…因みに、拙作の団長は、バリバリの格闘系で、近接・ゼロレンジ重視)。
…まさかの、『レジライ=クロロ団長説(クロロ団長は実質レジライ)』来ましたね(来てない)。…あらゆる念能力者は、実質、団長(夏の猛暑で錯乱)。
…旅団で夏の夕暮れ展開、したいでーす(…団長団員皆殺しエンド)。——夏��夕暮れ オレを優しく迎えてくれるのは、海鳥達だけなのか? ——回収されたスマートフォンに残っていた録音より
…原作の時点で、『夏の夕暮れ(団長が団員と殺し合う)』だったら如何しよ(…旅団全滅の理由 …流石に、無いと思うけど)。
団長「…オレが此の手で、団員(皆)を殺したのか……(夏の夕暮れ展開)。」→…しばし、たたずむ(※RTACネタ)。
ヨークシン編で、マフィアの一人が団長の偽死体見た時、「…若造じゃねーか(一寸驚愕)。」とか言ってるの、団長の事をおっさん(30代後半〜50代前半)だと思ってたって事だよね笑う(…多分、其の人、本当のおっさんになれずに此の世を去ると思うよ……)。
…。
自分の能力で相手の能力を奪った上で、相手の物品を取り、徒党を組み、精神をもに侵食する団長及び旅団は(何せ人類だし)バイド(※雑認定)。
…。
麦わら船長「お前もう船降りろ」 クロロ団長「お前もう蜘蛛辞めろ」
…。
※雑多
…中大破風の奴、豚くんのも描くよ、…だって、可愛いじゃん。豚くん(…でも、見苦しいから、見ない方が良いよ)。
…。
本当は、第四王子ネタを擦って行きたい所だけど、何時も脳死で擦ってるのは、団長+旅団とあだるとりおネタ(※…ゆくゆく、ゆうはくネタもレベルEネタも擦って行きたい所存)。
…。
※自Twitterアカよりコピペ集
Q.旅団���達「…団長!!N1が鎖野郎にしか見えません!!(必死)」 A.団長「…其の絵描きが未熟過ぎて、N1と鎖野郎の描き分けが出来て居ないだけだ!!諦めろ!!(※クロ新的にはメタ発言)」
…ヨークシン編で、マフィアの一人が団長の偽死体見た時、「…若造じゃねーか(一寸驚愕)。」とか言ってるの、団長の事をおっさん(30代後半〜50代前半)だと思ってたって事だよね笑う(…多分、其の人、本当のおっさんになれずに此の世を去ると思うよ……)。
※…以下、軍事ネタ注意
※クロロと新世界紀行〜LoPNW. 関連
…大変不思議な感じだけど、H&K P8とHK 433と多薬室砲とトリープフリューゲルとゴリアテとアーチャー対戦車自走砲は実在してるからね(電磁銃もか?)。
…その戦闘車両は、——アーチャー対戦車自走砲。WW2期に置ける、イギリス陸軍の兵器である。…然も、二台ある。
(※中略)
…余りの、…その、兵器の珍妙さに、…愕然とするクロロ。
「…でもさ、何でさ、その戦車、後方に向かって、自走砲の砲台がついてんだよ?…普通は、砲台てモンは、前方についてるだろ?」
…ミルキが、クロロのその質問に、全力で答える。
「…知らねぇよ!!」
…その対戦車自走砲は、意気揚々とクロロに向かって砲撃する。
…。
↑…『クロロと新世界紀行〜Legacies of The New Perfect World.』の此の部分、自分で書いといて好き。アーチャーの自走砲が後方に付いてる理由だなんて私だって知らねぇよ。当時の紅茶紳士に訊いてくれ(…此れだから、英国紳士は……)。
…。
…『クロ新〜LotNPW.』、ヒソカスと団長が戦う展開欲しかったけど、没(…同じ様に、死に損ないの猿とN1とも戦う展開だった vsヒソカスみたいに 元ネタのMC,UCでの仮面騎士卿戦な感じでしたかった)。
…。
(※おまけ)
団長「…見せてやろう、此れが俺の愛車、『悪魔の鉄槌(ルシルフルズ ハンマー)』!!(※元ネタ:特拓)」イル兄「…ふーん(※興味無し)。」
(※クロスオーバー・マリギャラネタ注意)
もしも、団長がちこ達のパパだったら(…何気に女性向けな??配管工銀河ネタ)。…当然の様に、ちこ達と団員には優しいけど、ひそかとイル兄には冷たい(※御決まり設定)。…そして、亀さん大王とひそかの意地悪には、ガチの暴力を持って、報復するよ!!(※100%団長)。
補足:…テニスもするよ!!団長「…オレの念能力は108式あるぞ(←自信に満ち溢れ過ぎてる)。」ふぇいたん「…団長。…其れテニヌね(冷静)。」
ひそか「…ボクもちことして、『パパ(意味深)』に守られたいな〜〜〜〜!!(大興奮)」※…其の時、団長がひそかをプロレス技で投げる ちこ「…ねぇ、パパ、さっきの技何〜〜〜〜?!(純粋無垢)。」団長「…ジャーマンスープレックス(CV:ngnさん)。」
まち「…パパ大好き〜〜!!(※パパ活JK並)」 団長「…おい、頼むから、いつも通りに団長って呼んでくれ!!(悶絶)」ひそか(…う、羨ましい……!! ※凄まじい迄に嫉妬)
ちこ「…パパ〜〜!!(大好き〜〜!!)」団長「…ハハッ、御前等、そう焦るなよ……(完全パパ)。」ふぃんくす「…パパ〜〜!!(ふざけて呼ぶ)」しゃる「…パパ!!(屈託無く呼ぶ)」ふぇいたん「…パ、パパ……(ノリ気じゃない)。」団長「…あのさぁ(あきれ)。」(※団長ちこパパネタ)
(※クロスオーバー注意)
どろっちぇ「…其のお宝頂いた!!(例のBGM)」
団長「…あっ!!同業者!!(先制攻撃)。」
…其の後、
『我々は何者も拒まない。だから我々から何も奪うな』
↑とはんた文字で書いてある
まるく「…南無三なのサ……(同情)。」
(※クロスオーバー・残酷注意)
——「…此れが、君達の団長だよ。我々の手で彼から無駄な物を削ぎ落としたんだ。」と、研究員と思しき白衣の男は『ANGEL PAC』と文字が書かれた大きな鋼鉄製の筒をワタシに見せたね。下の方から幾つもケーブルが伸びてたね。
——某団員がある日見た悪夢の記録より
—(※クロスオーバー・残酷注意) 其の時、研究員と思しき白衣の女は、オレに何だかすっごく気持ち悪い生物を披露した。「…此れは、あのQ=WRLCCYWRLFのクローンになれなかった肉塊とバイドを掛け合わせて作った生物よ。」…キショ、普通に吐き気がする。——某暗殺一家の長男がある日見た夢の記録より
…此うして、オレが、其のキショキモ生物に、少しだけ、ドン引きしてると、其の研究員と思しき白衣の女は、更に、此う言った。「…実はね、量産にも成功してるの。見て下さる?」…実際、ケージの中に沢山其奴は居た。——某暗殺一家の長男がある日見た夢の記録(2)より
…其処でオレは
→一匹下さい
→念針を見せる
→一匹下さい オレ「…一匹下さい」研究員の女「…駄目です。此の子達は大事な実験動物なんです。」
→念針を見せる 針に興味を示す様は彼奴の遺伝子入ってるとか関係無く割と可愛い。
※…以上、自Twitterアカよりコピペ
…。
0 notes
usickyou · 2 years
Text
融雪
 かたん、かたんと車輪の音が響き、続くレールの先を雪が埋め尽くしていた。見渡す景色は田畑、家並み、街、取り囲む山々、全てがくすんだ白色に覆われている。窓に貼り付いた雪の模様へあくびをこぼした神谷奈緒を見て、北条加蓮がかすかに笑い、二人だけを乗せて、たった一両の列車は進んでいく。 「退屈?」 「まあ、こんだけ代わり映えしないとな」 「最初ははしゃいでたくせに」 「しょ、しょうがないだろ、加蓮だって」  少しだけむくれた口もとへ差し出されるポッキー。誰が見るはずもないのに、奈緒は周囲を見回してから一口かじる。もう一口、と開いた唇から逃げ出したポッキーはそのまま加蓮に食べられて、いたずらな笑顔から目をそらした、奈緒の頬は冬に似合いの朱に色づいた。
『当車両は、当駅にて五分間停車します』  アナウンスを聞いて目を合わせた二人は、『開』『閉』のボタンにとまどいながらホームへ足を踊らせる。一本の傘を差し、新雪を踏みしめる、子供のような姿だった。 「すごいね、ほんとにきゅっきゅ言うんだね」 「ホントだ、なんか癖になるな」 「ね。こんなにきれいだと、食べたくなる気持ちわかるなあ」 「ダメです! 絶対に許しません!」 「あはは、何それ」 「マジで食べそうだから怖いんだよ、加蓮は」 「食べないって……たぶん」 「こら!」  雪の中で無垢に染まっていく二人を追い立てるように、発車のベルが鳴り響いた。慌てて扉をくぐり(あらためて『開』のボタンに苦戦しながら)、冷たくなった指先をこすり合わせる。  ふと、何か思いついたように加蓮は席を奈緒の隣へ移した。いぶかしげに見つめる奈緒へ微笑みを返し、加蓮はただ手を差し出している。 「なに?」 「手、冷たいなあ」 「それで?」 「女の子に言わせる気?」 「……はいはい」  諦めに似たため息は抵抗ではなく、奈緒は(本当に、自分よりずっと冷たい)加蓮の両手を、手のひらで包み込んだ。  二人の指先が温まるまで、加蓮のじいっと見つめる視線を、奈緒はずっと他所を眺めながら、時折そっと見返して、重なって、目をそらして、そんなことを繰り返していた。
 終点の一歩手前、降り立った無人駅。ささやかな木造の屋根の下、二人は身を寄せ合う。  バスの到着までは四十分。  解いた髪を揺らした、たった一度だけの、かすかな咳。 「加蓮、これ巻いて」 「平気だって」 「いいから、巻きなさい」 「奈緒だって寒いでしょ」 「鍛え方が違うよ」 「ひどーい���私だってがんばってるんですけど」 「わかってるけど」 「はあい」  奈緒のマフラーを巻いて、ありがと、と呟いた、その声は白い結晶になって空へ昇り、また二人へ降り注ぐ。加蓮の左手は、奈緒のポケットの中で右手と、はじめからそうだったように重なっている。  また一つ、二つ、押し殺した咳。 「加蓮」 「これでいいでしょ」  加蓮が鼻先までマフラーでくるむ、その姿で奈緒は(しかし不安げに)口をつぐんだ。  さらさらと、雪の降る音だけが二人を包み込んでいた。
 バスを降りた、加蓮の言葉を波がさらっていった。奈緒が聞き返すその声も波は簡単に洗い流し、次は奪われないようにと、加蓮は奈緒の耳元を両手で覆った。 「ほんとにさ」 「く、くすぐったいって」 「我慢して、ほんとに、砂浜って雪が積もらないんだね」 「ああ、ホントだ……っていうか、こんなんしなくても聞こえるよな?」 「聞こえなーい、よ」  打ち寄せる波は厳しく、波濤は防波堤を遥かに越えて昇っているが、決して轟音ではない。ただ、そうしたかったと、加蓮は決して奈緒へは明かさない。 「ああ、もう風が強いな」 「捕まえててね」 「ん?」 「飛ばされちゃうよ」  その言葉を信じたわけではなく、しかし奈緒はポケットの内で加蓮の手をかたく繋いだ。海岸線に沿って続く道を歩きながら、奈緒の手に不規則な振動が伝わる。二回、三回、間を置いてまた三回。頻度は不規則的で、しかし悪化の傾向を感じて奈緒は加蓮を見つめるが、その視線は絶えず進む先を見つめている。  もしも。  その時は、自分が。  空想に怯え、けれど喉の奥である言葉を繰り返す奈緒の耳へ、加蓮の声が届いた。  見つけた、と。
 立ち入り禁止。色褪せた札に貼り付いた雪を剥がし、その表示を確かめる。しかし、倒れた赤のコーンや埋もれた黄色のテープと同様、それは既に意味を失っていた。堅く閉ざされたはずの扉さえ(誰かの手によって壊された南京錠と鎖が地面に落ちている)、二人を妨げることはない。  加蓮が扉を開き奈緒が続く、そこは、教会。もしくは、かつて教会だった場所。木製の長椅子は朽ち果て、床には枯れた草木や遺棄物、壁には落書き、ガラスの割れた窓からは風雪が絶えず吹き込んでいる。 「気をつけろよ」 「……」 「……加蓮」 「え? なに?」 「足下、気をつけてな」 「あ、うん……ありがと」  呆然と、どこか憑かれたような加蓮の足取りを、奈緒が導いた。潰れた缶を踏んでよろめいて、ガラス片やビニールの音に驚いて、その度に奈緒へ体重を預ける加蓮は、ただその空間の中心を求めている。  しかし、そこには何もなかった。聖像も、教台も、ステンドグラスもオルガンも、およそそこを定義するものは存在せず、やがて加蓮は、朽ちかけた長椅子のまだ形を保っている一つに腰を下ろす。  その隣で、奈緒はもう一度、加蓮の手をかたく握る。それで、目を醒ましたように見返した、加蓮の瞳はぐらぐらと揺れ動いていた。  開き、淀み、閉じてはまたどうにか開いて、唇は絶えず震えている。 「ごめんね、付き合わせて」 「好きで来たんだよ」 「うそ」 「ほんとだよ」  白い頬を涙が伝うが、加蓮は気付かない。滴が落ちても、きっと凍ったとしても。  綺麗だと、奈緒はそれを見つめている。 「……昔ね、来たことがあったんだ。すっごく、きれいだったんだよ」 「うん、見たかったよ」 「真っ赤な、沈む前の夕日が射し込んで、そしたら、もう一度って」 「うん」  奈緒の指先が、涙を拭う。加蓮の肌は一瞬だけ緊張して、それから、奈緒の感触を受け入れる。 「帰ろう、加蓮」 「……いやだって言ったら?」 「泣いて追いすがってやる。毎日、毎日。家の前まで行ってさ、呼び続けてやるから」 「……らしくないね」 「本気だよ。加蓮がいないと、イヤなんだ」 「ふふ、告白みたい」 「加蓮が戻るなら、なんだっていいよ」  そんなことを言って、そう呟いて、加蓮は目を閉じる。そうして、頬をなでる奈緒の指先に触れて、確かめるように、刻み込むように、溶け合わせるように、何度も、何度も触れて、触れて、繰り返す。 「ねえ、お祈りしようか」  目を閉じたまま、加蓮はささやく。 「このまま?」 「そう、このまま」  頷いて、奈緒は瞳を閉じた。  祈るべき像はなく、見届ける誰かもなく、加蓮が、奈緒が何を祈ったか。  それは、誰も知らない。
0 notes
shinjihi · 2 years
Text
これは凄いリスト‼️
ロシアが失った全車両の証拠画像付きリアルタイム更新リスト
2022年4月7日現在
ロシア軍は既に2583台を喪失, 内、破壊1327, 部分破壊38, 遺棄237, ウクライナ軍が鹵獲981
(内、戦車450喪失,破壊221, 部分破壊6,遺棄:41, 鹵獲182)
https://shinjihi.hatenablog.com/entry/2022/03/07/033029
7 notes · View notes
kennak · 9 months
Quote
宮城県山元町坂元の海岸に同居の男性の遺体を埋めて遺棄したとして、死体遺棄罪に問われたいずれも角田市岡北谷で無職の男A(75)、B(67)両被告の判決で、仙台地裁は19日、それぞれ懲役1年、執行猶予3年(ともに求刑懲役1年)を言い渡した。  東尾和幸裁判官は「葬式代の支払いを免れるためという短絡的な動機に酌量の余地はない。死者への哀悼の念を欠いた悪質な犯行だ」と指摘。一方で、両被告に前科がないことや反省していることを踏まえ、執行猶予を付けた。  判決によると、両被告は共謀して昨年12月29日ごろ、同居していたAのおい=当時(68)=の遺体を山元町の海岸の土中に埋めて遺棄した。 「お金がないので、埋めよう」  「葬式代がなかった」。宮城県山元町坂元の海岸に同居男性の遺体を埋めた死体遺棄事件。法廷供述などから、貧困や孤立の中で社会的支援にたどり着けず、事件に発展する事情が浮かび上がった。  A(75)のおい=当時(68)=は昨年12月下旬ごろ、角田市内の自宅の居間で座椅子に座ったまま亡くなった。糖尿病などを患い、1週間ほど前から体調不良を訴えていた。遺体には大きな外傷はなく病死とみられる。  「お金がないので、埋めよう」。Aは、もう一人の同居人で知人のB(67)に犯行を持ちかけ、Bも「Aさんがそう言うなら」と了承した。  両被告は同29日、車で遺体を海岸に運び、穴を掘って埋めた。「土やわくて(軟らかくて)いがったな」。ドライブレコーダーに二人の会話が残っていた。  両被告とも年金暮らし。収入は2カ月に1回で「約6万円」(A)「5~8万円」(B)。常に金に困っていた。  かつて同居していたAの姉が亡くなった際、葬式代が出せずに親戚に工面してもらって以降、縁を切られ、頼れる親戚もいなかった。  Aは「近所に亡くなったことが伝われば葬式をせざるを得なくなる」と周囲の目を気にし、「おいは東北大病院に入院している」と犯行を隠した。遺体は一部が地表に露出し今年3月16日、近くを通りかかった釣り人に発見された。  「行政への相談は考えなかったのか」。検察官からの問いかけに、Aはしばらく黙り込み「お金がなかった…」と繰り返すだけだった。  検察幹部は「両被告のように積極的に埋めているものは一発アウト」としつつ「行政に届け出る方法を知ら���いだけだった場合など起訴をためらうケースも多い」と明かす。  県内では身内の遺体を遺棄する事件が相次ぐ。角田市社会福祉課の担当者は取材に「行政は知らなければ動けない。相談してくれれば何とかなる。民生委員や市の窓口にまず相談してほしい」と話す。(報道部・佐藤駿伍)
貧困と孤立の中で支援届かず 海岸に死体遺棄の2被告に猶予付き判決 仙台地裁 | 河北新報オンライン
2 notes · View notes
petapeta · 3 years
Quote
「次室士官心得」 (練習艦隊作成、昭和14年5月) 第1 艦内生活一般心得 1、次室士官は、一艦の軍規・風紀の根源たることを自覚し、青年の特徴元気と熱、純  真さを忘れずに大いにやれ。 2、士官としての品位を常に保ち、高潔なる自己の修養はもちろん、厳正なる態度・動  作に心掛け、功利打算を脱却して清廉潔白なる気品を養うことは、武人のもっとも  大切なる修業なり。 3 宏量大度、精神爽快なるべし。狭量は軍隊の一致を破り、陰欝は士気を沮喪せし  む。忙しい艦務の中に伸び伸びした気分を忘れるな。細心なるはもちろん必要なる  も、「コセコセ」することは禁物なり。 4 礼儀正しく、敬礼は厳格にせよ。次室士官は「自分は海軍士官の最下位で、何に  も知らぬのである」と心得、譲る心がけが必要だ。親しき仲にも礼儀を守り、上の   人の顔を立てよ。よからあしかれ、とにかく「ケプガン(次室士官室の長)を立てよ。 5 旺盛なる責任観念の中に常に生きよ。これは士官としての最大要素の一つだ。命令を下し、もしくはこれを伝達す  る場合はは、必ずその遂行を見届け、ここに初めてその責任を果したるものと心得べし。 5 犠牲的精神を発揮せよ、大いに縁の下の力持ちとなれ。 6 次室士官時代はこれからが本当の勉強時代、一人前になり、わがことなれりと思うは大の間違いなり。 7、次室士官時代はこれからが本当の勉強時代、一人前にをり、わがことなれりと思うは大の間違いなり。公私を誤  りたるくそ勉強は、われらの欲せざるところなれども、学術方面に技術方面に、修練しなければならぬところ多し。  いそがしく艦務に追われてこれをないがしろにするときは、悔いを釆すときあり。忙しいあいだにこそ、緊張裡に修  業はできるものなり。寸暇の利用につとむべし。   つねに研究問題を持て。平素において、つねに一個の研究問題を自分にて定め、これにたいし成果の捕捉につと  め、一纏めとなりたるところにてこれを記しおき、ひとつひとつ種々の問題にたいしてかくのごとくしおき、後となり   てふたたびこれにつきて研究し、気づきたることを追加訂正し、保存しおく習慣をつくれば、物事にたいする思考力  の養成となるのみならず、思わざる参考資料をつくり得るものなり。 8、少し艦務に習熟し、己が力量に自信を持つころとなると、先輩の思慮円熟をるが、かえって愚と見ゆるとき来るこ  とあるべし、これすなわち、慢心の危機にのぞみたるなり。この慢心を断絶せず、増長に任じ人を侮り、自ら軽ん   ずるときは、技術・学芸ともに退歩し、ついには陋劣の小人たるに終わるべし。 9、おずおずしていては、何もできない。図々しいのも不可なるも、さりとて、おずおずするのはなお見苦しい。信ずる  ところをはきはき行なって行くのは、われわれにとり、もっとも必要である。 10、何事にも骨惜L誤をしてはならない。乗艦当時はさほどでもないが、少し馴れて来ると、とかく骨惜しみをするよう  になる。当直にも、分隊事務にも、骨惜しみをしてはならない。いかなるときでも、進んでやる心がけか必要だ。身  体を汚すのを忌避するようでは、もうおしまいである。 11、青年士官は、バネ仕掛けのように、働かなくてはならない。上官に呼ばれたときには、すぐ駆け足で近づき、敬  礼、命を受け終わらば一礼し、ただちにその実行に着手するごとくあるべし。 12、上官の命は、気持よく笑顔をもって受け、即刻実行せよ。いかなる困難があろうと、せっかくの上陸ができなか   ろうと、命を果たし、「や、御苦労」と言われたときの愉快きはなんと言えぬ。 13、不関旗(他船と行動をともにせず、または、行動をともにできないことを意味する信号旗。転じてそっぽを向くこと  をいう)を揚げるな。一生懸命にやったことについて、きびしく叱られたり、平常からわだかまりがあったりして、不  関旗を揚げるというようなことが間々ありがちだが、これれは慎むべきことだ。自惚があまり強過ぎるからである。  不平を言う前に已れをかえりみよ。わが慢心増長の鼻を挫け、叱られるうちが花だ。叱って下さる人もなくなった   ら、もう見放されたのだ。叱られたなら、無条件に有難いと思って間違いはない。どうでも良いと思うなら、だれが  余計な憎まれ口を叩かんやである。意見があったら、陰で「ぷつぷつ」いわずに、順序をへて意見具申をなせ。こ  れが用いらるるといなとは別問題。用いられなくとも、不平をいわず、命令には絶対服従すべきことはいうまでもな  し。 14、昼間は諸作業の監督巡視、事務は夜間に行なうくらいにすべし。事務のいそがしいときでも、午前午後かならず  1回は、受け特ちの部を巡視すべし。 15、「事件即決」の「モツトー」をもって、物事の処理に心がくべし。「明日やろう」と思うていると、結局、何もやらずに  沢山の仕事を残し、仕事に追われるようになる。要するに、仕事を「リード」せよ。 16、なすべき仕事をたくさん背負いながら、いそがしい、いそがしいといわず片づければ、案外、容易にできるもので   ある。 17、物事は入念にやれ。委任されたる仕事を「ラフ」(ぞんぎい〕にやるのは、その人を侮辱するものである。ついに    は信用を失い、人が仕事をまかせぬようになる。また、青年士官の仕事は、むずかしくて出来ないというようなも   のはない。努力してやれば、たいていのことはできる。 18、「シーマンライク」(船乗りらしい)の修養を必要とす。動作は「スマート」なれ。1分1秒の差が、結果に大影響を    あたえること多し。 19、海軍は、頭の鋭敏な人を要するとともに、忠実にして努力精励の人を望む。一般海軍常識に通ずることが肝要、   かかることは一朝一夕にはできぬ。常々から心がけおけ。 20 要領がよいという言葉もよく聞くが、あまりよい言葉ではない。人前で働き、陰でずべる類いの人に対する尊称    である。吾人はまして裏表があってはならぬ。つねに正々堂々とやらねばならぬ。 21、毎日各室に回覧する書類(板挟み)は、かならず目を通し捺印せよ。行動作業や当直や人事に関するもので、    直接必要なる事項が沢山ある。必要なことは手帖に抜き書きしておけ。これをよく見ておらぬために、当直勤務   を間違っていたり、大切な書類の提出期目を誤ったりすることがある。 22、手帖、「パイプ」は、つねに持っておれ。これを自分にもっとも便利よきごとく工夫するとよい。 23、上官に提出する書類は、かならず自分で直接差し出すようにせよ。上官の机の上に放置し、はなはだしいのは   従兵をして持参させるような不心得のものが間々ある。これは上官に対し失礼であるばかりでなく、場合により   ては質問されるかも知れず、訂正きれるかも知れぬ。この点、疎にしてはならない。 24、提出書類は早目に完成して提出せよ。提出期口ぎりぎり一ぱい、あるいは催促さるごときは恥であり、また間違   いを生ずるもとである。艦長・副長・分隊長らの捺印を乞うとき、無断で捺印してはいけない。また、捺印を乞う    事項について質問されても、まごつかぬよう準備調査して行くことが必要。捺印を乞うべき場所を開いておくか、   または紙を挾むかして分かりやすく準備し、「艦長、何に御印をいただきます」と申し出て、もし艦長から、「捺して   行け」と言われたときは、自分で捺して、「御印をいただきました」ととどけて引き下がる。印箱の蓋を開け放しに   して出ることのないように、小さいことだが注意しなければならぬ。 25、軍艦旗の揚げ降ろしには、かならず上甲板に出て拝せよ。 26、何につけても、分相応ということを忘れるな。次室士官は次室士官として、候補生は候補生として。少尉、中尉、   各分あり。 27、煙草盆の折り椅子には腰をおろすな。次室士官は腰かけである。 28、煙草盆のところで腰かけているとき、上官が来られたならば立って敬礼せよ。 29、機動艇はもちろん、汽車、電車の中、講話場において、上級者が来られたならば、ただちに立って席を譲れ。知   らぬ顔しているのはもっとも不可。 30、出入港の際は、かならず受け持ちの場所におるようにせよ。出港用意の号音に驚いて飛び出すようでは心がけ   が悪い。 31、諸整列があらかじめ分かっているとき、次室士官は、下士官兵より先にその場所にあるごとくせ。 32、何か変わったことが起こったとき、あるいは何となく変わったことが起こったらしいと思われるときは、昼夜を問わ   ず第1番に飛び出してみよ。 33、艦内で種々の競技が行なわれたり、または演芸会など催される際、士官はなるべく出て見ること。下士官兵が    一生懸命にやっているときに、士官は勝手に遊んでおるというようなことでは面白くない。 34、短艇に乗るときは、上の人より遅れぬように、早くから乗っておること。もし遅れて乗るような場合には、「失礼い   たしました」と上の人に断わらねばならぬ。自分の用意が遅れて定期(軍艦と陸上の間を往復し、定時にそれら   を発着する汽艇のこと)を待たすごときは、もってのほである。かかるときは断然やめて次ぎを待つべし。    短艇より上がる場合には、上長を先にするこというまでもなし。同じ次室士官内でも、先任者を先にせよ。 35、舷門は一��の玄開口なり。その出入りに際しては、服装をととのえ、番兵の職権を尊重せよ。雨天でないとき、   雨衣や引回しを着たまま出入りしたり、答礼を欠くもの往々あり、注意せよ。 第2 次室の生活について 1、我をはるな。自分の主張が間遠っていると気づけば、片意地をはらす、あっさりとあらためよ。  我をはる人が1人でもおると、次室の空気は破壊される。 2、朝起きたならば、ただちに挨拶せよ。これが室内に明るき空気を漂わす第一誘因だ。3、次室  にはそれぞれ特有の気風かある。よきも悪きもある。悪い点のみ見て、憤慨してのみいては   ならない。神様の集まりではないから、悪い点もあるであろう。かかるときは、確固たる信念と決心をもって自己を修め、自然に同僚を善化せよ。 4、上下の区別を、はっきりとせよ、親しき仲にも礼儀をまもれ。自分のことばかり考え、他人のことをかえりみないよ  うな精神は、団体生活には禁物。自分の仕事をよくやると同時に、他人の仕事にも理解を持ち便宜をあたえよ。 5、同じ「クラス」のものが、3人も4人も同じ艦に乗り組んだならば、その中の先任者を立てよ。「クラス」のものが、次  室内で党をつくるのはよろしくない。全員の和衷協力はもっとも肝要なり。利己主義は唾棄すべし。 6、健康にはとくに留意し、若気にまかせての不摂生は禁物。健全なる身体なくては、充分をる御奉公で出来ず。忠  孝の道にそむく。 7、当直割りのことで文句をいうな。定められた通り、どしどしやれ。病気等で困っている人のためには、進んで当直を  代わってやるぺきだ。 8、食事に関して、人に不愉快な感じを抱かしむるごとき言語を慎め。たとえば、人が黙って食事をしておるとき、調理  がまずいといって割烹を呼びつけ、責めるがごときは遠慮せよ。また、会話などには、精練きれた話題を選べ。 9、次室内に、1人しかめ面をして、ふてくされているものがあると、次室全体に暗い影ができる。1人愉快で朗らかな  人がいると、次室内が明るくなる。 10、病気に羅ったときは、すぐ先任者に知らせておけ。休業になったら(病気という程度ではないが(身体の具合い   が悪いので、その作業を休むこと)先任者にとどけるとともに、分隊長にとどけ、副長にお願いして、職務に関する  ことは、他の次室士官に頼んでおけ。 11、次室内のごとく多数の人がいるところでは、どうしても乱雑になりがちである。重要な書類が見えなくなったとか  帽子がないとかいってわめきたてることのないように、つねに心がけなければならぬ。自分がやり放しにして、従  兵を怒鳴ったり、他人に不愉快の思いをきせることは慎むべきである。 12、暑いとき、公室内で仕事をするのに、上衣をとるくらいは差し支えないが、シャツまで脱いで裸になるごときは、   はをはだしき不作法である。 13、食事のときは、かならず軍装を着すべし。事業服のまま食卓についてはならぬ。いそがしいときには、上衣だけ  でも軍装に着換えて食卓につくことになっている。 14、次室士官はいそがしいので一律にはいかないが、原則としては、一同が食卓について次室長(ケプガソ)がはじ  めて箸をとるべきものである。食卓について、従兵が自分のところへ先に給仕しても、先任の人から給仕せしむる  ごとく命すべきだ。古参の人が待っているのに、自分からはじめるのは礼儀でない。 15、入浴も先任順をまもること。水泳とか武技など行をったときは別だが、その他の場合は遠慮すべきものだ。 16 古参の人が、「ソファー」に寝転んでいるのを見て、それを真似してはいけない。休むときても、腰をかけたまま、  居眠りをするぐらいの程度にするがよい。 17、次室内における言語においても気品を失うな。他の人に不快な念を生ぜしむべき行為、風態をなさず、また下士  官兵考課表等に関することを軽々しく口にするな。ふしだらなことも、人秘に関することも、従兵を介して兵員室に  伝わりがちのものである。士官の威信もなにも、あったものでない。 18、趣味として碁や将棋は悪くないが、これに熱中すると、とかく、尻が重くなりやすい。趣味と公務は、はっきり区別  をつけて、けっして公務を疎にするようなことがあってはならぬ。 19、お互いに、他の立場を考えてやれ。自分のいそがしい最中に、仕事のない人が寝ているのを見ると、非難した   いような感情が起こるものだが、度量を宏く持って、それぞれの人の立場に理解と同情を持つことが肝要。 20、従兵は従僕にあらず。当直、その他の教練作業にも出て、士官の食事の給仕や、身辺の世話までするのであ   るからということを、よく承知しておらねばならぬ。あまり無理な用事は、言いつけないようにせよ。自分の身辺の  ことは、なるべく自分で処理せよ、従兵が手助けしてくれたら、その分だけ公務に精励すべきである。釣床を釣っ  てくれ、食事の給仕をしてくれるのを有難いと思うのは束の間、生徒・候補生時代のことを忘れてしまって、傲然と  従兵を呼んで、ちょっと新聞をとるにも、自分のものを探すにもこれを使うごときは、わがみずからの品位を下げゆ  く所以である。また、従兵を「ボーイ」と呼ぶな。21、夜遅くまで、酒を飲んで騒いだり、大声で従兵を怒鳴ったりす  ることは慎め。 21、課業時のほかに、かならず出て行くべきものに、銃器手入れ、武器手入れに、受け持ち短艇の揚げ卸しがある 第3 転勤より着任まで 1、転勤命令に接したならば、なるべく早く赴任せよ。1日も早く新勤務につくことが肝   要。退艦したならば、ただちに最短距離をもって赴任せよ、道草を食うな。 2、「立つ鳥は後を濁さず」仕事は全部片づけておき、申し継ぎは万遺漏なくやれ。申し  継ぐべき後任者の来ないときは、明細に中し継ぎを記註しおき、これを確実に託し   おけ。 3、退艦の際は、適宜のとき、司令官に伺候し、艦長・副長以下各室をまわり挨拶せよ4、新たに着任すべき艦の役務、所在、主要職員の名は、前もって心得おけ。 5、退艦・着任は、普通の場合、通常礼装なり。 6、荷物は早目に発送し、着任してもなお荷物が到着せぬ、というようなことのないようにせよ。手荷物として送れば、早目に着く。 7、着任せば、ただちに荷物の整理をなせ。 8、着任すべき艦の名を記入したる名刺を、あらかじめ数枚用意しおき、着任予定日時を艦長に打電しおくがよい。 9、着任すべき艦の所在に赴任したるとき、その艦がおらぬとき、たとえば急に出動した後に赴任したようなと時は、  所在鎮守府、要港部等に出頭して、その指示を受けよ。さらにまた、その地より他に旅行するを要するときは、証  明書をもらって行け。 10、着任したならば、当直将校に名刺を差し出し、「ただいま着任いたしました」ととどけること。当(副)将校は副長に   副長は艦長のところに案内して下さるのが普通である。副長から艦長のところへつれて行かれ、それから次室  長が案内して各室に挨拶に行く。艦の都合のよいとき、乗員一同に対して、副長から紹介される。艦内配置は、   副長、あるいは艦長から申し渡される。 11、各室を一巡したならば、着物を着換えて、ひとわたり艦内を巡って艦内の大体を大体を見よ。 12、配置の申し継ぎは、実地にあたって、納得の行くごとく確実綿密に行なえ。いったん、引き継いだ以上、全責任  は自己に移るのだ。とくに人事の取り扱いは、引き継いだ当時が一番危険、ひと通り当たってみることが肝要だ。  なかんずく叙勲の計算は、なるべく早くやっておけ。 13、着任した日はもちろんのこと、1週間は、毎夜巡検に随行するごとく心得よ。乗艦早々から、「上陸をお願い致し  ます」などは、もってのほかである。 14、転勤せば、なるべく早く、前艦の艦長、副長、機関長、分隊長およびそれぞれ各室に、乗艦中の御厚意を謝す   る礼状を出すことを忘れてはならぬ。 第4 乗艦後ただちになすべき事項 1、ただちに部署・内規を借り受け、熟読して速やかに艦内一般に通暁せよ。 2、総員起床前より上甲板に出で、他の副直将校の艦務遂行ぶりを見学せよ。2、3日、当直ぶりを注意して見てお   れば、その艦の当直勤務の大要は分かる。しかして、練習艦隊にて修得せるところを基礎とし、その艦にもっとも  適合せる当直をなすことができる。 3、艦内旅行は、なるぺく速やかに、寸暇を利用して乗艦後すぐになせ。 4、乗艦して1ヵ月が経過したならば、隅々まで知悉し、分離員はもちろん、他分隊といえども、主たる下士官の氏名  は、承知するごとく心がけよ。 第5上陸について 1、上陸は控え目にせよ。吾人が艦内にあるということが、職責を尽くすということの大部である。職務を捨ておいて   上陸することは、もってのほかである。状況により、一律にはいえぬが、分隊長がおられぬときは、分隊士が残る  ようにせよ。 2、上陸するのがあたかも権利であるかのように、「副長、上陸します」というべきでない。「副長、上陸をお願いしま   す」といえ。 3、若いときには、上陸するよりも艦内の方が面白い、というようにならなけれぱならない。また、上陸するときは、自  分の仕事を終わって、さっぱりした気分で、のびのびと大いに浩然の気を養え。 4、上陸は、別科後よりお願いし、最終定期にて帰艦するようにせよ。出港前夜は、かならず艦内にて寝るようにせよ。上陸する場合には、副長と己れの従属する士官の許可をえ、同室者に願い、当直将校にお願いして行くのが慣例  である。この場合、「上陸をお願い致します」というのが普通、同僚に対しては単に、「願います」という。この「願い  ます」という言葉は、簡にして意味深長、なかなか重宝なものである。すなわち、この場合には、上陸を願うのと、  上陸後の留守中のことをよろしく頼む、という両様の意味をふくんでいる。用意のよい人は、さらに関係ある准士   官、あるいは分隊先任下士官に知らせて出て行く。帰艦したならば、出る時と同様にとどければよい。たたし、夜   遅く帰艦して、上官の寝てしまった後は、この限りでない。士宮室にある札を裏返すようになっている艦では、か   ならず自分でこれを返すことを忘れぬごとく注意せよ。 6、病気等で休んでいたとき、癒ったからとてすぐ上陸するごときは、分別がたらぬ。休んだ後なら、仕事もたまってお  ろう、遠慮ということが大切だ。 7、休暇から帰ったとき、帰艦の旨をとどけたら、第1に留守中の自分の仕事および艦内の状況にひと通り目を通せ。  着物を着換え、受け持ちの場所を回って見て、不左中の書類をひと通り目を通す心がけが必要である。 8、休暇をいただくとき、その前後に日曜、または公暇日をつけて、規定時日以上に休暇するというがごときは、もっと  も青年士官らしくない。 9、職務の前には、上陸も休暇もない、というのが士官たる態度である。転勤した場合、前所轄から休暇の移牒があ  ることがあるけれども、新所轄の職務の関係ではいただけないことが多い。副長から、移牒休暇で帰れといわる   れば、いただいてもよいけれども、自分から申し出るごときことは、けっしてあってはならぬ。 第6部下指導について 1、つねに至誠を基礎とし、熱と意気をもって国家保護の大任を担当する干城の築造者たることを心がけよ。「功は部下に譲り、部下の過ちは  自から負うは、西郷南洲翁が教えしところなり。「先憂後楽」とは味わうべき言であって、部下統御の機微なる心理も、かかるところにある統御者たるわれわれ士官は、つねにこの心がけが必要である。石炭  積みなど苦しい作業のときには、士官は最後に帰るようつとめ、寒い  ときに海水を浴びながら作業したる者には、風呂や衛生酒を世話してやれ。部下につとめて接近して下情に通せよ。しかし、部下を狎れしむるは、もっとも不可、注意すべきである。 2、何事も「ショート・サーキット」(短絡という英語から転じて、経由すべきところを省略して、命令を下し、または報告する海軍用語)を慎め。い  ちじは便利の上うたが、非常なる悪結果を齋らす。たとえば、分隊士を抜きにして分隊長が、直接先任下士官に命じたとしたら、分隊士たる者いかなる感を生ずるか。これは一例だか、かならず順序をへて命  を受け、または下すということが必要なり。 3、「率先躬行」部下を率い、次室士官は部下の模範たることが必要だ。物事をなすにもつねに衆に先じ、難事と見ば、 真っ先にこれに当たり、けっして人後におくれざる覚悟あるべし。また、自分ができないからといって、部下に強制  しないのはよくない。部下の機嫌をとるがごときは絶対禁物である。 4、兵員の悪きところあらば、その場で遠慮なく叱咤せよ。温情主義は絶対禁物。しかし、叱責するときは、場所と相  手とを見でなせ。正直小心の若い兵員を厳酷な言葉で叱りつけるとか、また、下士官を兵員の前で叱責するなど  は、百害あって一利なしと知れ。 5、世の中は、なんでも「ワソグランス」(一目見)で評価してはならぬ。だれにも長所あり、短所あり。長所さえ見てい  れば、どんな人でも悪く見えない。また、これだけの雅量が必要である。 6、部下を持っても、そうである。まずその箆所を探すに先だち、長所を見出すにつとめることが肝要。賞を先にし罰を  後にするは、古来の名訓なり。分隊事務は、部下統御の根底である。叙勲、善行章(海軍の兵籍に人ってから3  年間、品行方正・勤務精励な兵にたいし善行章一線があたえられ、その後、3年ごとに同様一線あてをくわえる。  勇敢な行為などがあった場合、特別善行章が付与される)等はとくに慎重にやれ。また、一身上のことまで、立ち  入って面倒を見てやるように心がけよ。分隊員の入院患者は、ときどき見舞ってやるという親切が必要だ。 第7 その他一般 1、服装は端正な��。汚れ作業を行なう場合のほかは、とくに清潔端正なるものを用いよ。帽子がまがっていたり、「  カラー」が不揃いのまま飛び出していたり、靴下がだらりと下がっていたり、いちじるしく雛の寄った服を着けている  と、いかにもだらしなく見える。その人の人格を疑いたくなる。 2、靴下をつけずに靴を穿いたり、「ズボン」の後の「ビジヨウ」がつけてなかったり、あるいはだらりとしていたり、下着  をつけず素肌に夏服・事業服をつけたりするな。 3 平服をつくるもの一概に非難すべきではいが、必要なる制服が充分に整っておらぬのに平服などつくるのは本末  顛倒である。制服その他、御奉公に必要をる服装属具等なにひとつ欠くるところなく揃えてなお余裕あらば、平服  をつくるという程度にせよ。平服をつくるならば、落ちついて上品な上等のものを選べ。無闇に派手な、流行の尖   端でもいきそうな服を着ている青年士官を見ると、歯の浮くような気がする。「ネクタイ」や帽子、靴、「ワイシャツ」  「カラー」「カフス」の釦まで、各人の好みによることではあろうが、まず上品で調和を得るをもって第1とすべきであ  る。 4、靴下もあまりケパケパしいのは下品である。服と靴とに調和する色合いのものを用いよ。縞の靴下等は、なるべく  はかぬこと、事業服に縞の靴下等はもってのほかだ。 5、いちばん目立って見えるのは、「カラー」と「カフス」の汚れである、注意せよ。また、「カフス」の下から、シャツの   出ているのもおかしいものである。 6、羅針艦橋の右舷階梯は、副長以上の使用さるべきものなり。艦橋に上がったら、敬礼を忘れるな。 7 陸上において飲食するときは、かならず一流のところに入れ。どこの軍港においても、士官の出入りするところと、  下士官兵の出入りするところは確然たる区別がある。もし、2流以下のところに出入りして飲食、または酒の上で  上官たるの態度を失し、体面を汚すようなことがあったら、一般士官の体面に関する重大をることだ。 8、クラスのためには、全力を尽くし一致団結せよ。 9、汽車は2等(戦前には1、2、3等の区分があった)に乗れ。金銭に対しては恬淡なれ。節約はもちろんだが、吝薔  に陥らぬよう注意肝心。 10、常に慎独を「モットー」として、進みたきものである。是非弁別の判断に迷い、自分を忘却せるかのごとき振舞い  は、吾人の組せざるところである。
hiramayoihi.com/Yh_ronbun_dainiji_seinenshikankyouikugen.htm
20 notes · View notes
shukiiflog · 6 months
Text
ある画家の手記if.80 雪村絢/名廊直人視点 告白
俺は 俺の意思だけで生きてこれたわけじゃなかった たくさんの人の支えがあった その中に この人への憎悪と関心 見つかったことの恐怖や 見つけてもらえたことへの戸惑いや あの人へ演じ続けた本物と 演じた偽物の自分 ほとんど会ってもないのに加害であって被害でもある傷つけあった関係  そういう、すべてが あった
電車でしばらく行ったらすぐに最寄駅に着けた。 探さないでもすぐ分かった。ここからぱっと見て徒歩五分圏内に、30階もある高さのマンションは一つしかなかったから。 それなりの高級住宅街ではあるのかな。階数はなくても周りも綺麗なマンションとかアパートが多い。手入れされてない荒れた公園とか、無秩序にゴミや廃棄物の積まれたエリアとかは、行き着くまでに見かけなかった。 近づくほどに思う。このマンション…本当に直にぃが選んだのか? あの人のことよく知らないけど、小学生の俺が会った時の直にぃの格好は、よれたシャツに履き古して色の落ちたデニム、髪はぼさぼさでいい加減に後ろでひとつに縛ってた、それもなんか輪ゴムとかだったような。ちょっと本家に寄るだけにしてもあまりに浮きすぎてて印象に残ってる。 実際すごい顰蹙かってたけど、直にぃはまるで気にしてなかった。俺と話してる短い時間の途中で皮肉をかけていった親戚もいたけど、気にしてないどころか直にぃには言ってることの意味がわからないみたいだった。 俺の中の直にぃの心象は、そのときの本人の様子とそこから俺が類推できることで形作られてる。その心象からこのマンションにはたどり着かないけどーーー実際がどうかは、これから会えばわかる。
絢が無事だった。 誠人くんの話しぶりでは絢がもう死んだみたいだった。つい最近まで香澄と会って、元気に仲良くしてるみたいだったのに… そう思ってた頃に、沈んでたのが態度に出ちゃってたのか、香澄が知ってることを話してくれた。僕に話すとこうやって態度に出ちゃうから黙ってたんだって。香澄が絢の安全を優先してくれてて嬉しかったから香澄を褒めてお礼を言った。 僕は血縁者ーーーいとこか、ではあるし、理人さんを介しての関係なら…あったけど、絢本人と個人的な繋がりはーーーない。 …でも、ずっと忘れてたことだけど、香澄から初めて絢の名前が出てきた日に、思い出したこともあった。 そういういろんなことを、絢とちゃんと話したい、例えば僕が嫌われてて、たった一度でもう二度と会えないことになったとしても。そう思って、電話をした。 午前の日が眩しい。香澄は今は起きてて、リビングのソファにいる。 ここ最近、香澄は僕の部屋の本棚から『星の王子さま』の古い本を出してきて読んでた。今はその本を開いたページで胸に乗せてソファでうとうとしてる。絢が引用したって言ってたっけ。 …香澄もきっと、絢に会いたい。 まだ自傷がおさまらなくて僕の腕には引っかき傷が残ったままだけど、僕は怪我が治るのも早いからひどく傷んだりはしてない。 それで僕は今はお昼ご飯を作ってる。
1705室のインターホンを押した。 香澄の声で応答がきたから「絢です」って言ったらろくに本人確認の質疑応答もないまま解錠された。見つかりそうになって誰かから逃げてきたとか思われちゃったかな。特にマスクとか帽子とかは何もつけてないから、香澄ならモニターで顔見れば俺だってわかるか。 エレベーターに乗って17階まで上がる。聞いたところによると直にぃは画家だった頃に相当な数の自殺未遂を繰り返してるんだとか。経歴うまく伏せるかごまかしてマンション買ったな。じゃないと17階なんて、不動産屋やオーナーやかかってるなら病院の審査に通るわけない。ここ高そうな物件だしいくら財産持ってても厳しいはずだ。…遠くからマンションの外観を見たときと同じブレがある。直にぃがうまく自分の経歴をごまかす? 誰か別の人の名義で買ってでもいるのか…部屋を譲られたとか…なにか、直にぃに変化があった、画家をやめたのとここを買ったのは同時期かもしれない。…でも昨日話した直にぃは昔の心象からそれほどズレてない。まぁ…ひとが綺麗にまっすぐな一本道で今日につながってるわけないから、怪しむほどでも、ないのか…どうか
扉を開けたところで香澄が待ってて、エレベーターから降りてきた俺を部屋の前で一度ぎゅっと抱きしめた。 体を離して、香澄が先に口を開いた。 「勝手に直人に話して…ごめんなさい…」 しょんぼりした香澄の頭を撫でて「いいよ」って笑う。 「…なんて呼んだらいい?」 「今の名前は雪村絢だよ。香澄の好きに呼んで」 絢の一文字が残ったら嬉しいって言ったら絢の一文字だけでとくに何もくっつけられずに他全部ぶっとばされた。真澄さんらしいな…。 「絢…」 香澄が感慨深そうに俺の名前を口にした。 「なに?」 優しく笑って返事したら香澄は眉を下げてにこにこした。つられて俺もにこにこする。 香澄の体に腕を回してぎゅっと抱きついたら香澄もまた抱き返してきた。香澄の肩に頭を乗せて、頭を傾けて頰を肩にくっつける。…あったかい
香澄が部屋の前でドアを開けて待つって言うから、僕は突然のことに急いで畳んだまま置いてた洗濯物とかを寝室に運び込んだりしてた。 絢がきた、って、昨日「近いうちに」なんて言ってただけだったのに、何も準備してない、せっかく会えるなら、受け取ってくれるかはわからないけど絢にもなにかプレゼント準備したかったな… 廊下で話してたのか、少ししてから香澄と一緒に部屋に一人の青年が入ってきた くすんだ金髪の、香澄と同じくらいの背で、 「ーーーーーーー………」 靴も脱がずに玄関から廊下にいる僕をじっと見つめる、大きな両目はどこか少し心細そうで、繊細な印象をしてた 「…………絢…」 「直にぃ。久しぶり。…ほとんど初めましてに近いけど」 そう言って柔らかく笑って、靴を脱いで香澄と一緒に部屋に上がってきた 「…………絢。…こっちにきて」 僕は絢に歩み寄って、その背に腕を回してダイニングの方のテーブルの前に誘導した。 適当にそこらのいらない紙をとってテーブルに置いて、近くにあったペンを一本、絢に差し出す。 「絢。ここにこう書いてくれる?ーー………、」 絢はしばらく無言でじっと白紙を見つめてたけど、おもむろにペンをとった 淀みなくすらすらとした筆致に筆跡を偽るような気配は感じられなかった 一目見て確信することができた 「やっぱり、あれは絢だったんだね」
“名廊雅人”
ほとんど癖のない綺麗な楷書だけど毎回同じだれかの筆跡だってことだけは分かった 視たものをまだちゃんと覚えてる 僕に兄さんの名前を名乗っていくことの意味を深く考えたことなんてなかったし、今も僕にはわからない 昔は なにもかもそのままで終わっていって過ぎ去っていってた  意味なんてものは問わなかった  なにに対しても 僕にはそのことに痛みも悲しみも なにもなかった でも僕はいま聞いてみようと思う、僕にはわからないことを、相手を大切にするために、心から知りたいと思うから 「どうして僕に…この名前を名乗ったの?」
久しぶりに会った直にぃは、少し身なりがこざっぱりしたくらいで、ほとんどなにも変わってないみたいだった これまでの話より何より真っ先にさせられることが これだなんて思ってなかった ほんとうのことなんて 言えるわけない でも隣で背に優しく手をあてて微笑んだまま俺をまっすぐ見つめて捉えて離さない瞳が、いま、この場で、このことについてだけは、俺にいっさいの嘘を許さなかった 言ったことをなんでもそのままにすべて信じる、滑稽なほど正直で素直な、非武装の姿をそのまま惜しげなく晒す  昔となにも変わってない  危うい生き方だ  危険な視線だ  その無防備さが対峙した相手にも武装を解くように訴えてくる なぜか、ただ愚直だと笑い飛ばせる類のものじゃなかった この人はこれで40年以上生きてきた いつも真剣で  自分の愚直さに気づけないほどにいつも一生懸命だ 他のことならいくらでも嘘もつくし事実も捻じ曲げよう、この人にできないのなら俺がやろう、そう思って その当人から、こんなことを問われてる 俺のことを深く知らないにしたってそんなことと関係なくあんまりにも心ってものに無神経すぎるよ それでも俺は このことについては 嘘をつけない さっきまでの快活な口調でいられなくなって 俯いて 喉が詰まる  小さな声しか出なかった 「…雅人さんの遺体の第一発見者が、直にぃだって本家で聞いたんだ。それで …苦しめばいいと思った。作品のむこうにいる俺にまで…まっすぐな目を向けてくるから 悪意もなく  無自覚に  暴きたててくる視線が怖かった それが  ずっと  つらかった…」
絢の言ってることは、僕にはわかるようでわからない 作品ーーーあの、感想文か、『星の王子さま』の 僕は作品から作者を見ることはほとんどない  特にあの頃はそうだったと思う でも絢の表現は絵ではなかった 文章は一目瞭然じゃないから、僕は絢の書いたものを視たんじゃなくて「読んだ」 その頃の僕は今よりもっと文章や特に物語を読むのが苦手で、文章は知識を頭に入れていくだけのもので、感想も解釈も僕の中には生まれなかった 絢の書いた意訳と感想文を眩しく思ったのを覚えてる でもそれだけではなかった 文章の向こうに 痛切に姿を隠そうとする誰かが視えた 僕は視えたものが���然ひとだったから、あのとき声をかけた 絢に 思ったことを言った でも���ーーあの頃の僕は  どうやってひととモノを分けて  視ていたっけ すべては描けるかどうかで、描けるならそれは  それそのもの以外の何でもなかった  それだけのものだったはずだ ーーー昔の感覚が 覚えていられなかったはずの過去の記憶に引き寄せられる 絢は僕に 苦しめられていた そんなことは知ってた  でも、理人兄さんのことを抜きにしても、…そうか、関係して  続いてたんだ  絢の中では 僕に見つかって怖かった…  僕は言ってはいけないことを言っていた? 「………」 少し俯いて首を傾けた絢の大きな目に睫毛に支えられるみたいにして涙がいっぱい溜まってる  …ああ なんて美しい かけがえのないものだろう 簡単に謝ろうとした言葉をのみこんで 絢の背にあてた手を肩に回して引き寄せて、絢の頭にこつんと僕も頭をあてて 目を閉じる 肩に回した手をそっと頭にあてて金髪を撫でる 絵も文章もない触覚だけの くらい世界 それでもたしかに 絢はここにいる 
あのとき直にぃに見つかった俺は、ただ怯えて戸惑って感情のやり場を失った でもあのことがなかったら、俺は理人さんを亡くした くらい部屋の中から歩みだして、何かを最後にしておこうなんて 思っただろうか なんとなくのその延長線上でフランス文学やフランス語、翻訳や意訳を続けたことが、今の俺が生活していく支えになろうとしてる 意訳は俺にできるギリギリの自己表現だったんだろう 直にぃみたいに絵なんて直接的なものはあらわせなかったし、隠れ蓑がないと怖かった だから訳をしてた 原著を書いたのは俺じゃないから でもどうしても意訳をしたくなる癖が抜けなかったのはーーー寂しかったんだ 誰かに見つけてほしかった 見つかりたくないのと 同じくらいに 目に溜まっていた涙がとうとうボロっと溢れてテーブルに落ちた 背中から回ってた直にぃの大きな手が俺の頭を体ごと引き寄せて、俺の顔を自分の肩口にそっと押し付けさせた 直にぃのシャツに涙が吸われて沁みていく 俺は確かにこの人にも生かされてた 幸せを願ってたよ 憎んでたのと同じくらいに その憎しみを、ようやく手放す時がきたのかもしれない そんなものに縋らなくても、俺にはもうしたいことや守りたいものがあって、生きていけるようになったから
今日まで生きてこれたことを心から喜べると思う  それだけではないけど それでも ここに至るまでにどんな思惑があったんだとしても、言葉にして伝えたいことは…
「「生きててくれて  ありがとう」」
二人、ほとんど同じタイミングで発した同じ言葉が重なった しばらく顔を見合わせてお互いにぽかんとしたけど 二人して思わず吹き出して笑ってしまった
直にぃから離れてぼんやり部屋の中を見渡す俺の後ろに静かに香澄がきて、俺の手を握った 握られた手を握りかえす テーブルの上に一冊の本が置きっぱなしになってた 俺が香澄に暗誦したのを覚えててくれたのかな
香澄の体に軽く背中を預けて、香澄の首筋や両腕や爪の傷口を刺激しないようにしながら、香澄の両腕をひいて後ろから俺の体を包むみたいに前で絡ませた 香澄の額に俺の額をそっと合わせて静かに目を閉じる 明るい室内にむけて 優しく囁くように物語の終幕を暗誦した
「Si alors un enfant vient à vous, s’il rit, s’il a des cheveux d’or, s’il ne répond pas quand on l’interroge, vous devinerez bien qui il est. Alors soyez gentils. Ne me laissez pas tellement triste : écrivez-moivita qu’il est revenu……..」
”もしその時、一人の子どもがあなたたちのところへ来て、笑ったり、金髪をしていたり、質問に答えなかったりしたら、彼がだれであるかあなたには分かるはず。 その時が来たら、親切にしてほしい。僕をこんなに悲しんでいるままにしておかないで。 すぐに、僕に教えて、便りをください、「王子さまが帰ってきたよ」と………”
ーーーーーーーーーアントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ著 『星の王子さま』より
香澄視点 続き
0 notes
ari0921 · 3 years
Text
「宮崎正弘の国際情勢解題」 
令和三年(2021)2月20日(土曜日)
通巻第6805号
 ダンスを皆が踊っているときに抜け出すわけには行かない
  リーマン・ショックが近いことをブラザーたちは知覚していた。
***************************************
 リーマン・ブラザースが破綻する一年前にベア・スターンズが事実上倒産していた。JP・モルガンが、静かにベア・スターンズを買収したので、危機は深刻に認識されなかった。しかし、無茶苦茶な貸し出しを続けてきたサブプライムローンがいずれ大爆発を起こすだろうと警鐘を鳴らすエコノミストも大勢いた。
 リーマン・ショックをいまさら解説する必要はないが、「百年に一度」の金融危機と言われ、時のFRB議長だったベン・バーナンキは「ヘリコプター・ベン」の異名を取ったように金融緩和を強引に牽引する一方で、米国金融界の大再編が起こっ��。この激越なTUNAMIは日本にも深甚は悪影響を及ぼし、日本の証券、銀行が再編された。
後日、リーマン・ブラザーズの幹部が語った。
「皆がパーティに集まって、ダンスを踊っているときに抜け出すわけには行かない」と。
EVが大躍進を遂げて、自動車産業界はなにか「リーマン・ダンス」を踊っているのではないのか。EVは走行距離が短く、大型車両には不向きなうえ、スピードも出ないことは誰もが知っている。そのうえ電気消費が二倍になるが発電の手当が伴っていない。充電スタンドも決定的に不足している。
斯界では「株価をつり上げる情報操作が目的」とか「補助金を予算化するため」とかの説も出回っている。
先週、ビットコインが5万ドルを突破したが、直接の原因はテスラが15億ドルを投資したことが判明したからだ。しかしビットコインは環境社会企業統治という企業トップの重点的目標からは乖離している。
テスラ率いるイーロン・マスクは市場の特性を巧妙に掴んでの冒険主義の暴走が見られ、いずれ信長のように高転びに転ぶことにならないか。
++++++++++++++++++++++++++++++++++
 ここで、次の記事を参考にかかげたい。というのも、この加藤康子氏へのインタビューはたいへん重要なことを発言しており、その重要部分を抄録する。(「未来ネット・メルマガ」、2月19日号)。
▲脱炭素政策は素材産業を日本から追い出す政策、
 (加藤康子)環境と労働に優しくすると社会コストが高くつきます。電力や労働規制、環境規制、税金などの社会コストが高い。マーケットは大きくない。そういう悪条件下で製造業が頑張り続けるのは大変です。
 今のまま工場が全部外国に出ていったら、政策を一歩間違えれば日本は本当に借金まみれの貧しい国になってしまう。いったん海外に行ったら日本に戻すのは至難の技です。現地で再投資をしたほうが効率がよい場合が多いからです。
カーボンニュートラル(脱炭素)政策は素材産業を日本から追い出す政策、絶対に避けなくてはいけない。
 今の日本政府が地球環境を救いたいなら、まずすべきは中国の製造業を分散させることであって、日本じゃない。CO2の排出は、中国とインドが主な問題ですから。
 製造業にとって社会インフラ面のコストは人と土地と電力と水です。このうち日本で競争力があるのは水だけです。あとはいろんな規制があって日本で生産するのは諸外国に比べてものすごくコストがかかる。
だから企業は、固定資産税をタダにしますよ、電力を安くしますよ、と誘致政策をしいた街に行くわけです。利益は電力や水などの総合的なコストを引いた後のものだから。
 ▲製造業は心臓の部分を輸入に頼った瞬間から没落が始まる
 (加藤康子)これはEV(電気自動車)と共通ですが、製造業は心臓の部分、船なら主機、車ならエンジン、これを海外からの輸入に頼った瞬間に、その産業は没落が始まります。
 日本は今まで優れたエンジンを20年、30年、40年かけてイノベーションを起こしてきましたし、今や世界に冠たる自動車製造大国をつくってきましたが、それがモーターと電池になると別のビジネスモデルに変えられてしまう。
そもそも100%EVにするということ自体はありえません。
電池の産業廃棄物をご存知ですか? 全然、環境にエコじゃない。なのにそれをエコと言い切って進めること自体が、ある意味すごいと思う。ペテンですよ、本当に。
 電池の廃棄物の毒性はすごいですから。イタイイタイ病みたいな公害をまた引き起こすつもりなのかと。
有害物質がものすごく出る。電池は基本的に有害だと思わなきゃいけないのです。だって有害物質に依存した物なのだから。
 リチウムイオン電池をつくるために、コバルト、ニッケル、リチウムなどの資源が必要ですが、コンゴのコバルトは資源もあと数十年といわれています。レアメタルは経済安保を考えると中国に依存するのはとても危険です。
 ▲EV政策は重工業を弱体化させ日本の経済を丸裸にする謀かも
「(加藤康子) 「環境」が金融商品化して今の騒ぎを作っていることが大問題です。
いかに産業を強くするかという産業政策をしていたのだけど、今はいかにお金を流通させるか、投機をいかに呼び込むかという政策をやっていますね。それに乗ると国民が最後はワーッと、それこそレミング現象みたいなこと(集団で自殺)になる可能性があるわけです。
 日本の自動車産業はこのままEV推進政策に取り込まれると危険です。
カーボンプライシングでEVへの補助金を捻出しようと考えているのでしょうが、税金の無駄遣いでしょう。日本が強かった内燃機関から、中国や韓国が強い電池産業に自動車産業の産業構造を切り替えるという話ですから。
 EV推進政策は重工業を弱体化させて日本の経済をストリップアウトし、国際競争力のある日本の自動車産業を弱体化させます。
  カーボンニュートラルは、結局日本の素材産業を中国に追い出してしまう話ですよ。日本で鋼板が作れなくなります。国の予算をかけて、何兆円産業を日本から追い出す。そんなことして本当にいいのか!と誰も大きな声を上げないのが、本当に大問題。
(加藤康子(かとう こうこ)プロフィール:産業遺産情報センター長。慶応大学文学部卒。米ハーバード大学ケネディスクール(公共政策大学院)で都市経済学修士課程(MCRP)修了。一般財団法人「産業遺産国民会議」専務理事。2015年7月から19年7月まで内閣官房参与を務め、「明治日本の産業革命遺産」(長崎など8県)の世界文化遺産登録に尽力した。著書に『産業遺産「地域と市民の歴史」への旅』(日本経済新聞出版)他。
17 notes · View notes
jaguarmen99 · 2 years
Quote
群馬県太田市東矢島町の元パチンコ店員で無職T(当時36歳)は、パチンコ仲間だった栃木県河内郡南河内町(現・下野市)薬師寺のコンビニ店員O(当時25歳)と共謀し、2003年2月23日午前1時ころ、Tの元同僚である伊勢崎市のパチンコ店員A(当時47歳)を、勤務先兼住居の同市山王町「M」から向かいのコンビニへ買い物に出かける際に呼び止め、Oの乗用車に乗せて勢多郡宮城村(現・前橋市)の山林に連れ込み路上でロープで首を絞めて殺害した。Aの遺体をトランクに積み、伊勢崎市に戻ったTとOは、午前3時ころ、Aが持っていた鍵を使い警備システムを解除した上で店舗に侵入。売上金300万円を奪ったのち、埼玉県行田市北河原の福川水門までAの遺体を運び、午前4時ころ福川に投げ込んで遺棄した。Aの遺体は、3月18日午前11時40分ころに福川のさすなべ排水門付近で発見された。 伊勢崎で強奪した金は全て500円硬貨と五千円札だった。その大量の500円硬貨をOが太田市内の複数の銀行で一万円札に両替して、150万円ずつ折半し、1ヶ月ほどのうちに遊興費などで使い果たした2人は、4月1日午前2時ころ、お互いに通い詰めていた太田市浜町のパチンコ店「T」駐車場で、同店店員B(当時25歳)を襲いロープで首を絞めて殺害した。Bの財布に入っていた現金11万円と店の合鍵を盗み、店舗に侵入したが、金庫の解錠ができず売上金の窃盗には失敗した。Bの遺体は、A同様、行田市の福川水門から福川に遺棄した。3日後の4月4日午前10時30分ころ、腐乱が著しく死因の特定されていなかったAの遺留品を捜索していた埼玉県警行田警察署員によって、Bの遺体は発見された。 なお、TとOは、事件の7年前(1996年)に同じパチンコ店で働いており、その時からの間柄だった。Tが最初の事件の店に勤務していたのは、1998年2月から9月であった。さらに、Tには事件当時約150万円の借金があった。 この事件は2人の逮捕直後に隣の埼玉県熊谷市で元暴力団員らによる熊谷男女4人殺傷事件が発生し、その事件のほうがセンセーショナルであったため、本事件は陰となる形であまりメディアに取り上げられることはなかった。
群馬パチンコ店員連続殺人事件 - Wikipedia
1 note · View note
kurihara-yumeko · 3 years
Text
【小説】The day I say good-bye (1/4) 【再録】
 今日は朝から雨だった。
 確か去年も雨だったよな、と僕は窓ガラスに反射している自分の顔を見つめて思った。僕を乗せたバスは、小雨の降る日曜の午後を北へ向かって走る。乗客は少ない。
 予定より五分遅れて、予定通りバス停「船頭町三丁目」で降りた。灰色に濁った水が流れる大きな樫岸川を横切る橋を渡り、広げた傘に雨音が当たる雑音を聞きながら、柳の並木道を歩く。
 小さな古本屋の角を右へ、古い木造家屋の住宅ばかりが建ち並ぶ細い路地を抜けたら左へ。途中、不機嫌そうな面構えの三毛猫が行く手を横切った。長い長い緩やかな坂を上り、苔生した石段を踏み締めて、赤い郵便ポストがあるところを左へ。突然広くなった道を行き、椿だか山茶花だかの生け垣のある家の角をまた左へ。
 そうすると、大きなお寺の屋根が見えてくる。囲われた塀の中、門の向こうには、静かな墓地が広がっている。
 そこの一角に、あーちゃんは眠っている。
 砂利道を歩きながら、結構な数の墓の中から、あーちゃんの墓へ辿り着く。もう既に誰かが来たのだろう。墓には真っ白な百合と、あーちゃんの好物であった焼きそばパンが供えてあった。あーちゃんのご両親だろうか。
 手ぶらで来てしまった僕は、ただ墓石を見上げる。周りの墓石に比べてまだ新しいその石は、手入れが行き届いていることもあって、朝から雨の今日であっても穏やかに光を反射している。
 そっと墓石に触れてみた。無機質な冷たさと硬さだけが僕の指先に応えてくれる。
 あーちゃんは墓石になった。僕にはそんな感覚がある。
 あーちゃんは死んだ。死んで、燃やされて、灰になり、この石の下に閉じ込められている。埋められているのは、ただの灰だ。あーちゃんの灰。
 ああ。あーちゃんは、どこに行ってしまったんだろう。
 目を閉じた。指先は墓石に触れたまま。このままじっとしていたら、僕まで石になれそうだ。深く息をした。深く、深く。息を吐く時、わずかに震えた。まだ石じゃない。まだ僕は、石になれない。
 ここに来ると、僕はいつも泣きたくなる。
 ここに来ると、僕はいつも死にたくなる。
 一体どれくらい、そうしていたのだろう。やがて後ろから、砂利を踏んで歩いてくる音が聞こえてきたので、僕は目を開き、手を引っ込めて振り向いた。
「よぉ、少年」
 その人は僕の顔を見て、にっこり笑っていた。
 総白髪かと疑うような灰色の頭髪。自己主張の激しい目元。頭の上の帽子から足元の厚底ブーツまで塗り潰したように真っ黒な恰好の人。
「やっほー」
 蝙蝠傘を差す左手と、僕に向けてひらひらと振るその右手の手袋さえも黒く、ちらりと見えた中指の指輪の石の色さえも黒い。
「……どうも」
 僕はそんな彼女に対し、顔の筋肉が引きつっているのを無理矢理に動かして、なんとか笑顔で応えて見せたりする。
 彼女はすぐ側までやってきて、馴れ馴れしくも僕の頭を二、三度柔らかく叩く。
「こんなところで奇遇だねぇ。少年も墓参りに来たのかい」
「先生も、墓参りですか」
「せんせーって呼ぶなしぃ。あたしゃ、あんたにせんせー呼ばわりされるようなもんじゃございませんって」
 彼女――日褄小雨先生はそう言って、だけど笑った。それから日褄先生は僕が先程までそうしていたのと同じように、あーちゃんの墓石を見上げた。彼女も手ぶらだった。
「直正が死んで、一年か」
 先生は上着のポケットから煙草の箱とライターを取り出す。黒いその箱から取り出された煙草も、同じように黒い。
「あたしゃ、ここに来ると後悔ばかりするね」
 ライターのかちっという音、吐き出される白い煙、どこか甘ったるい、ココナッツに似たにおいが漂う。
「あいつは、厄介なガキだったよ。つらいなら、『つらい』って言えばいい、それだけのことなんだ。あいつだって、つらいなら『つらい』って言ったんだろうさ。だけどあいつは、可哀想なことに、最後の最後まで自分がつらいってことに気付かなかったんだな」
 煙草の煙を揺らしながら、そう言う先生の表情には、苦痛と後悔が入り混じった色が見える。口に煙草を咥えたまま、墓前で手を合わせ、彼女はただ目を閉じていた。瞼にしつこいほど塗られた濃い黒い化粧に、雨の滴が垂れる。
 先生はしばらくして瞼を開き、煙草を一度口元から離すと、ヤニ臭いような甘ったるいような煙を吐き出して、それから僕を見て、優しく笑いかけた。それから先生は背を向け、歩き出してしまう。僕は黙ってそれを追った。
 何も言わなくてもわかっていた。ここに立っていたって、悲しみとも虚しさとも呼ぶことのできない、吐き気がするような、叫び出したくなるような、暴れ出したくなるような、そんな感情が繰り返し繰り返し、波のようにやってきては僕の心の中を掻き回していくだけだ。先生は僕に、帰ろう、と言ったのだ。唇の端で、瞳の奥で。
 先生の、まるで影法師が歩いているかのような黒い後ろ姿を見つめて、僕はかつてたった一度だけ見た、あーちゃんの黒いランドセルを思い出す。
 彼がこっちに引っ越してきてからの三年間、一度も使われることのなかった傷だらけのランドセル。物置きの中で埃を被っていたそれには、あーちゃんの苦しみがどれだけ詰まっていたのだろう。
 道の途中で振り返る。先程までと同じように、墓石はただそこにあった。墓前でかけるべき言葉も、抱くべき感情も、するべき行為も、何ひとつ僕は持ち合わせていない。
 あーちゃんはもう死んだ。
 わかりきっていたことだ。死んでから何かしてあげても無駄だ。生きているうちにしてあげないと、意味がない。だから、僕がこうしてここに立っている意味も、僕は見出すことができない。僕がここで、こうして呼吸をしていて、もうとっくに死んでしまったあーちゃんのお墓の前で、墓石を見つめている、その意味すら。
 もう一度、あーちゃんの墓に背中を向けて、僕は今度こそ歩き始めた。
「最近調子はどう?」
 墓地を出て、長い長い坂を下りながら、先生は僕にそう尋ねた。
「一ヶ月間、全くカウンセリング来なかったけど、何か変化があったりした?」
 黙っていると先生はさらにそう訊いてきたので、僕は仕方なく口を開く。
「別に、何も」
「ちゃんと飯食ってる? また少し痩せたんじゃない?」
「食べてますよ」
「飯食わないから、いつまでも身長伸びないんだよ」
 先生は僕の頭を、目覚まし時計を止める時のような動作で乱雑に叩く。
「ちょ……やめて下さいよ」
「あーっはっはっはっはー」
 嫌がって身をよじろうとするが、先生はそれでもなお、僕に攻撃してくる。
「ちゃんと食わないと。摂食障害になるとつらいよ」
「食べますよ、ちゃんと……」
「あと、ちゃんと寝た方がいい。夜九時に寝ろ。身長伸びねぇぞ」
「九時に寝られる訳ないでしょう、小学生じゃあるまいし……」
「勉強なんかしてるから、身長伸びねぇんだよ」
「そんな訳ないでしょう」
 あはは、と朗らかに彼女は笑う。そして最後に優しく、僕の頭を撫でた。
「負けるな、少年」
 負けるなと言われても、一体何に――そう問いかけようとして、僕は口をつぐむ。僕が何と戦っているのか、先生はわかっているのだ。
「最近、市野谷はどうしてる?」
 先生は何気ない声で、表情で、タイミングで、あっさりとその名前を口にした。
「さぁ……。最近会ってないし、電話もないし、わからないですね」
「ふうん。あ、そう」
 先生はそれ以上、追及してくることはなかった。ただ独り言のように、「やっぱり、まだ駄目か」と言っただけだった。
 郵便ポストのところまで歩いてきた時、先生は、「あたしはあっちだから」と僕の帰り道とは違う方向を指差した。
「駐車場で、葵が待ってるからさ」
「ああ、葵さん。一緒だったんですか」
「そ。少年は、バスで来たんだろ? 家まで車で送ろうか?」
 運転するのは葵だけど、と彼女は付け足して言ったが、僕は首を横に振った。
「ひとりで帰りたいんです」
「あっそ。気を付けて帰れよ」
 先生はそう言って、出会った時と同じように、ひらひらと手を振って別れた。
 路地を右に曲がった時、僕は片手をパーカーのポケットに入れて初めて、とっくに音楽が止まったままになっているイヤホンを、両耳に突っ込んだままだということに気が付いた。
 僕が小学校を卒業した、一年前の今日。
 あーちゃんは人生を中退した。
 自殺したのだ。十四歳だった。
 遺書の最後にはこう書かれていた。
「僕は透明人間なんです」
    あーちゃんは僕と同じ団地に住んでいて、僕より二つお兄さんだった。
 僕が小学一年生の夏に、あーちゃんは家族四人で引っ越してきた。冬は雪に閉ざされる、北の方からやって来たのだという話を聞いたことがあった。
 僕はあーちゃんの、団地で唯一の友達だった。学年の違う彼と、どんなきっかけで親しくなったのか正確には覚えていない。
 あーちゃんは物静かな人だった。小学生の時から、年齢と不釣り合いなほど彼は大人びていた。
 彼は人付き合いがあまり得意ではなく、友達がいなかった。口数は少なく、話す時もぼそぼそとした、抑揚のない平坦な喋り方で、どこか他人と距離を取りたがっていた。
 部屋にこもりがちだった彼の肌は雪みたいに白くて、青い静脈が皮膚にうっすら透けて見えた。髪が少し長くて、色も薄かった。彼の父方の祖母が外国人だったと知ったのは、ずっと後のことだ。銀縁の眼鏡をかけていて、何か困ったことがあるとそれをかけ直す癖があった。
 あーちゃんは器用だった。今まで何度も彼の部屋へ遊びに行ったことがあるけれど、そこには彼が組み立てたプラモデルがいくつも置かれていた。
 僕が加減を知らないままにそれを乱暴に扱い、壊してしまったこともあった。とんでもないことをしてしまったと、僕はひどく後悔してうつむいていた。ごめんなさい、と謝った。年上の友人の大切な物を壊してしまって、どうしたらよいのかわからなかった。鼻の奥がつんとした。泣きたいのは壊されたあーちゃんの方だっただろうに、僕は泣き出しそうだった。
 あーちゃんは、何も言わなかった。彼は立ち尽くす僕の前でしゃがみ込んだかと思うと、足下に散らばったいびつに欠けたパーツを拾い、引き出しの中からピンセットやら接着剤やらを取り出して、僕が壊した部分をあっという間に直してしまった。
 それらの作業がすっかり終わってから彼は僕を呼んで、「ほら見てごらん」と言った。
 恐る恐る近付くと、彼は直ったばかりの戦車のキャタピラ部分を指差して、
「ほら、もう大丈夫だよ。ちゃんと元通りになった。心配しなくてもいい。でもあと1時間は触っては駄目だ。まだ接着剤が乾かないからね」
 と静かに言った。あーちゃんは僕を叱ったりしなかった。
 僕は最後まで、あーちゃんが大声を出すところを一度も見なかった。彼が泣��ている姿も、声を出して笑っているのも。
 一度だけ、あーちゃんの満面の笑みを見たことがある。
 夏のある日、僕とあーちゃんは団地の屋上に忍び込んだ。
 僕らは子供向けの雑誌に載っていた、よ���飛ぶ紙飛行機の作り方を見て、それぞれ違うモデルの紙飛行機を作り、どちらがより遠くへ飛ぶのかを競走していた。
 屋上から飛ばしてみよう、と提案したのは僕だった。普段から悪戯などしない大人しいあーちゃんが、その提案に首を縦に振ったのは今思い返せば珍しいことだった。そんなことはそれ以前も以降も二度となかった。
 よく晴れた日だった。屋上から僕が飛ばした紙飛行機は、青い空を横切って、団地の駐車場の上を飛び、道路を挟んだ向かいの棟の四階、空き部屋のベランダへ不時着した。それは今まで飛ばしたどんな紙飛行機にも負けない、驚くべき距離だった。僕はすっかり嬉しくなって、得意げに叫んだ。
「僕が一番だ!」
 興奮した僕を見て、あーちゃんは肩をすくめるような動作をした。そして言った。
「まだわからないよ」
 あーちゃんの細い指が、紙飛行機を宙に放つ。丁寧に折られた白い紙飛行機は、ちょうどその時吹いてきた風に背中を押されるように屋上のフェンスを飛び越え、僕の紙飛行機と同じように駐車場の上を通り、向かいの棟の屋根を越え、それでもまだまだ飛び続け、青い空の中、最後は粒のようになって、ついには見えなくなってしまった。
 僕は自分の紙飛行機が負けた悔しさと、魔法のような素晴らしい出来事を目にした嬉しさとが半分ずつ混じった目であーちゃんを見た。その時、僕は見たのだ。
 あーちゃんは声を立てることはなかったが、満足そうな笑顔だった。
「僕は透明人間なんです」
 それがあーちゃんの残した最後の言葉だ。
 あーちゃんは、僕のことを怒ればよかったのだ。地団太を踏んで泣いてもよかったのだ。大声で笑ってもよかったのだ。彼との思い出を振り返ると、いつもそんなことばかり思う。彼はもう永遠に泣いたり笑ったりすることはない。彼は死んだのだから。
 ねぇ、あーちゃん。今のきみに、僕はどんな風に見えているんだろう。
 僕の横で静かに笑っていたきみは、決して透明なんかじゃなかったのに。
 またいつものように春が来て、僕は中学二年生になった。
 張り出されていたクラス替えの表を見て、そこに馴染みのある名前を二つ見つけた。今年は、二人とも僕と同じクラスのようだ。
 教室へ向かってみたけれど、始業の時間になっても、その二つの名前が用意された席には、誰も座ることはなかった。
「やっぱり、まだ駄目か」
 誰かと同じ言葉を口にしてみる。
 本当は少しだけ、期待していた。何かが良くなったんじゃないかと。
 だけど教室の中は新しいクラスメイトたちの喧騒でいっぱいで、新年度一発目、始業式の今日、二つの席が空白になっていることに誰も触れやしない。何も変わってなんかない。
 何も変わらないまま、僕は中学二年生になった。
 あーちゃんが死んだ時の学年と同じ、中学二年生になった。
 あの日、あーちゃんの背中を押したのであろう風を、僕はずっと探してる。
 青い空の果てに、小さく消えて行ってしまったあーちゃんを、僕と「ひーちゃん」に返してほしくて。
    鉛筆を紙の上に走らせる音が、止むことなく続いていた。
「何を描いてるの?」
「絵」
「なんの絵?」
「なんでもいいでしょ」
「今年は、同じクラスみたいだね」
「そう」
「その、よろしく」
 表情を覆い隠すほど長い前髪の下、三白眼が一瞬僕を見た。
「よろしくって、何を?」
「クラスメイトとして、いろいろ……」
「意味ない。クラスなんて、関係ない」
 抑揚のない声でそう言って、双眸は再び紙の上へと向けられてしまった。
「あ、そう……」
 昼休みの保健室。
 そこにいるのは二人の人間。
 ひとりはカーテンの開かれたベッドに腰掛け、胸にはスケッチブック、右手には鉛筆を握り締めている。
 もうひとりはベッドの脇のパイプ椅子に座り、特にすることもなく片膝を抱えている。こっちが僕だ。
 この部屋の主であるはずの鬼怒田先生は、何か用があると言って席を外している。一体なんの仕事があるのかは知らないが、この学校の養護教諭はいつも忙しそうだ。
 僕はすることもないので、ベッドに座っているそいつを少しばかり観察する。忙しそうに鉛筆を動かしている様子を見ると、今はこちらに注意を払ってはいなそうだから、好都合だ。
 伸びてきて邪魔になったから切った、と言わんばかりのショートカットの髪。正反対に長く伸ばされた前髪は、栄養状態の悪そうな青白い顔を半分近く隠している。中学二年生としては小柄で華奢な体躯。制服のスカートから伸びる足の細さが痛々しく見える。
 彼女の名前は、河野ミナモ。僕と同じクラス、出席番号は七番。
 一言で表現するならば、彼女は保健室登校児だ。
 鉛筆の音が、止んだ。
「なに?」
 ミナモの瞬きに合わせて、彼女の前髪が微かに動く。少しばかり長く見つめ続けてしまったみたいだ。「いや、なんでもない」と言って、僕は天井を仰ぐ。
 ミナモは少しの間、何も言わずに僕の方を見ていたようだが、また鉛筆を動かす作業を再開した。
 鉛筆を走らせる音だけが聞こえる保健室。廊下の向こうからは、楽しそうに駆ける生徒たちの声が聞こえてくるが、それもどこか遠くの世界の出来事のようだ。この空間は、世界から切り離されている。
「何をしに来たの」
「何をって?」
「用が済んだなら、帰れば」
 新年度が始まったばかりだからだろうか、ミナモは機嫌が悪いみたいだ。否、機嫌が悪いのではなく、具合が悪いのかもしれない。今日の彼女はいつもより顔色が悪いように見える。
「いない方がいいなら、出て行くよ」
「ここにいてほしい人なんて、いない」
 平坦な声。他人を拒絶する声。憎しみも悲しみも全て隠された無機質な声。
「出て行きたいなら、出て行けば?」
 そう言うミナモの目が、何かを試すように僕を一瞥した。僕はまだ、椅子から立ち上がらない。彼女は「あっそ」とつぶやくように言った。
「市野谷さんは、来たの?」
 ミナモの三白眼がまだ僕を見ている。
「市野谷さんも同じクラスなんでしょ」
「なんだ、河野も知ってたのか」
「質問に答えて」
「……来てないよ」
「そう」
 ミナモの前髪が揺れる。瞬きが一回。
「不登校児二人を同じクラスにするなんて、学校側の考えてることってわからない」
 彼女の言葉通り、僕のクラスには二人の不登校児がいる。
 ひとりはこの河野ミナモ。
 そしてもうひとりは、市野谷比比子。僕は彼女のことを昔から、「ひーちゃん」と呼んでいた。
 二人とも、中学に入学してきてから一度も教室へ登校してきていない。二人の机と椅子は、一度も本人に使われることなく、今日も僕の教室にある。
 といっても、保健室登校児であるミナモはまだましな方で、彼女は一年生の頃から保健室には登校してきている。その点ひーちゃんは、中学校の門をくぐったこともなければ、制服に袖を通したことさえない。
 そんな二人が今年から僕と同じクラスに所属になったことには、正直驚いた。二人とも僕と接点があるから、なおさらだ。
「――くんも、」
 ミナモが僕の名を呼んだような気がしたが、上手く聞き取れなかった。
「大変ね、不登校児二人の面倒を見させられて」
「そんな自嘲的にならなくても……」
「だって、本当のことでしょ」
 スケッチブックを抱えるミナモの左腕、ぶかぶかのセーラー服の袖口から、包帯の巻かれた手首が見える。僕は自分の左手首を見やる。腕時計をしているその下に、隠した傷のことを思う。
「市野谷さんはともかく、教室へ行く気なんかない私の面倒まで、見なくてもいいのに」
「面倒なんて、見てるつもりないけど」
「私を訪ねに保健室に来るの、――くんくらいだよ」
 僕の名前が耳障りに響く。ミナモが僕の顔を見た。僕は妙な表情をしていないだろうか。平然を装っているつもりなのだけれど。
「まだ、気にしているの?」
「気にしてるって、何を?」
「あの日のこと」
 あの日。
 あの春の日。雨の降る屋上で、僕とミナモは初めて出会った。
「死にたがり屋と死に損ない」
 日褄先生は僕たちのことをそう呼んだ。どっちがどっちのことを指すのかは、未だに訊けていないままだ。
「……気にしてないよ」
「そう」
 あっさりとした声だった。ミナモは壁の時計をちらりと見上げ、「昼休み終わるよ、帰れば」と言った。
 今度は、僕も立ち上がった。「それじゃあ」と口にしたけれど、ミナモは既に僕への興味を失ったのか、スケッチブックに目線を落とし、返事のひとつもしなかった。
 休みなく動き続ける鉛筆。
 立ち上がった時にちらりと見えたスケッチブックは、ただただ黒く塗り潰されているだけで、何も描かれてなどいなかった。
    ふと気付くと、僕は自分自身が誰なのかわからなくなっている。
 自分が何者なのか、わからない。
 目の前で展開されていく風景が虚構なのか、それとも現実なのか、そんなことさえわからなくなる。
 だがそれはほんの一瞬のことで、本当はわかっている。
 けれど感じるのだ。自分の身体が透けていくような感覚を。「自分」という存在だけが、ぽっかりと穴を空けて突っ立っているような。常に自分だけが透明な膜で覆われて、周囲から隔離されているかのような疎外感と、なんの手応えも得られない虚無感と。
 あーちゃんがいなくなってから、僕は頻繁にこの感覚に襲われるようになった。
 最初は、授業が終わった後の短い休み時間。次は登校中と下校中。その次は授業中にも、というように、僕が僕をわからなくなる感覚は、学校にいる間じゅうずっと続くようになった。しまいには、家にいても、外にいても、どこにいてもずっとそうだ。
 周りに人がいればいるほど、その感覚は強かった。たくさんの人の中、埋もれて、紛れて、見失う。自分がさっきまで立っていた場所は、今はもう他の人が踏み荒らしていて。僕の居場所はそれぐらい危ういところにあって。人混みの中ぼうっとしていると、僕なんて消えてしまいそうで。
 頭の奥がいつも痛かった。手足は冷え切ったみたいに血の気がなくて。酸素が薄い訳でもないのにちゃんと息ができなくて。周りの人の声がやたら大きく聞こえてきて。耳の中で何度もこだまする、誰かの声。ああ、どうして。こんなにも人が溢れているのに、ここにあーちゃんはいないんだろう。
 僕はどうして、ここにいるんだろう。
「よぉ、少年」
 旧校舎、屋上へ続く扉を開けると、そこには先客がいた。
 ペンキがところどころ剥げた緑色のフェンスにもたれるようにして、床に足を投げ出しているのは日褄先生だった。今日も真っ黒な恰好で、ココナッツのにおいがする不思議な煙草を咥えている。
「田島先生が、先生のことを昼休みに探してましたよ」
「へへっ。そりゃ参ったね」
 煙をゆらゆらと立ち昇らせて、先生は笑う。それからいつものように、「せんせーって呼ぶなよ」と付け加えた。彼女はさらに続けて言う。
「それで? 少年は何をし、こんなところに来たのかな?」
「ちょっと外の空気を吸いに」
「おお、奇遇だねぇ。あたしも外の空気を吸いに……」
「吸いにきたのはニコチンでしょう」
 僕がそう言うと、先生は、「あっはっはっはー」と高らかに笑った。よく笑う人だ。
「残念だが少年、もう午後の授業は始まっている時間だし、ここは立ち入り禁止だよ」
「お言葉ですが先生、学校の敷地内は禁煙ですよ」
「しょうがない、今からカウンセリングするってことにしておいてあげるから、あたしの喫煙を見逃しておくれ。その代わり、あたしもきみの授業放棄を許してあげよう」
 先生は右手でぽんぽんと、自分の隣、雨上がりでまだ湿気っているであろう床を叩いた。座れと言っているようだ。僕はそれに従わなかった。
 先客がいたことは予想外だったが、僕は本当に、ただ、外の空気を吸いたくなってここに来ただけだ。授業を途中で抜けてきたこともあって、長居をするつもりはない。
 ふと、視界の隅に「それ」が目に入った。
 フェンスの一角に穴が空いている。ビニールテープでぐるぐる巻きになっているそこは、テープさえなければ屋上の崖っぷちに立つことを許している。そう。一年前、あそこから、あーちゃんは――。
(ねぇ、どうしてあーちゃんは、そらをとんだの?)
 僕の脳裏を、いつかのひーちゃんの言葉がよぎる。
(あーちゃん、かえってくるよね? また、あえるよね?)
 ひーちゃんの言葉がいくつもいくつも、風に飛ばされていく桜の花びらと同じように、僕の目の前を通り過ぎていく。
「こんなところで、何をしていたんですか」
 そう質問したのは僕の方だった。「んー?」と先生は煙草の煙を吐きながら言う。
「言っただろ、外の空気を吸いに来たんだよ」
「あーちゃんが死んだ、この場所の空気を、ですか」
 先生の目が、僕を見た。その鋭さに、一瞬ひるみそうになる。彼女は強い。彼女の意思は、強い。
「同じ景色を見たいと思っただけだよ」
 先生はそう言って、また煙草をふかす。
「先生、」
「せんせーって呼ぶな」
「質問があるんですけど」
「なにかね」
「嘘って、何回つけばホントになるんですか」
「……んー?」
 淡い桜色の小さな断片が、いくつもいくつも風に流されていく。僕は黙って、それを見ている。手を伸ばすこともしないで。
「嘘は何回ついたって、嘘だろ」
「ですよね」
「嘘つきは怪人二十面相の始まりだ」
「言っている意味がわかりません」
「少年、」
「はい」
「市野谷に嘘つくの、しんどいのか?」
 先生の煙草の煙も、みるみるうちに風に流されていく。手を伸ばしたところで、掴むことなどできないまま。
「市野谷に、直正は死んでないって、嘘をつき続けるの、しんどいか?」
 ひーちゃんは知らない。あーちゃんが去年ここから死んだことを知らない。いや、知らない訳じゃない。認めていないのだ。あーちゃんの死を認めていない。彼がこの世界に僕らを置き去りにしたことを、許していない。
 ひーちゃんはずっと信じている。あーちゃんは生きていると。いつか帰ってくると。今は遠くにいるけれど、きっとまた会える日が来ると。
 だからひーちゃんは知らない。彼の墓石の冷たさも、彼が飛び降りたこの屋上の景色が、僕の目にどう映っているのかも。
 屋上。フェンス。穴。空。桜。あーちゃん。自殺。墓石。遺書。透明人間。無。なんにもない。ない。空っぽ。いない。いないいないいないいない。ここにもいない。どこにもいない。探したっていない。消えた。消えちゃった。消滅。消失。消去。消しゴム。弾んで。飛んで。落ちて。転がって。その先に拾ってくれるきみがいて。笑顔。笑って。笑ってくれて。だけどそれも消えて。全部消えて。消えて消えて消えて。ただ昨日を越えて今日が過ぎ明日が来る。それを繰り返して。きみがいない世界で。ただ繰り返して。ひーちゃん。ひーちゃんが笑わなくなって。泣いてばかりで。だけどもうきみがいない。だから僕が。僕がひーちゃんを慰めて。嘘を。嘘をついて。ついてはいけない嘘を。ついてはいけない嘘ばかりを。それでもひーちゃんはまた笑うようになって。笑顔がたくさん戻って。だけどどうしてあんなにも、ひーちゃんの笑顔は空っぽなんだろう。
「しんどくなんか、ないですよ」
 僕はそう答えた。
 先生は何も言わなかった。
 僕は明日にでも、怪人二十面相になっているかもしれなかった。
    いつの間にか梅雨が終わり、実力テストも期末テストもクリアして、夏休みまであと一週間を切っていた。
 ひと夏の解放までカウントダウンをしている今、僕のクラスの連中は完璧な気だるさに支配されていた。自主性や積極性などという言葉とは無縁の、慣性で流されているような脱力感。
 先週に教室の天井四ヶ所に取り付けられている扇風機が全て故障したこともあいまって、クラスメイトたちの授業に対する意欲はほぼゼロだ。授業がひとつ終わる度に、皆溶け出すように机に上半身を投げ出しており、次の授業が始まったところで、その姿勢から僅かに起き上がる程度の差しかない。
 そういう僕も、怠惰な中学二年生のひとりに過ぎない。さっきの英語の授業でノートに書き記したことと言えば、英語教師の松田が何回額の汗を脱ぐったのかを表す「正」の字だけだ。
 休み時間に突入し、がやがやと騒がしい教室で、ひとりだけ仲間外れのように沈黙を守っていると、肘辺りから空気中に溶け出して、透明になっていくようなそんな気分になる。保健室には来るものの、自分の教室へは絶対に足を運ばないミナモの気持ちがわかるような気がする。
 一学期がもうすぐ終わるこの時期になっても、相変わらず僕のクラスには常に二つの空席があった。ミナモも、ひーちゃんも、一度だって教室に登校してきていない。
「――くん、」
 なんだか控えめに名前を呼ばれた気はしたが、クラスの喧騒に紛れて聞き取れなかった。
 ふと机から顔を上げると、ひとりの女子が僕の机の脇に立っていた。見たことがあるような顔。もしかして、クラスメイトのひとりだろうか。彼女は廊下を指差して、「先生、呼んでる」とだけ言って立ち去った。
 あまりにも唐突な出来事でその女子にお礼を言うのも忘れたが、廊下には担任の姿が見える。僕のクラス担任の担当科目は数学だが、次の授業は国語だ。なんの用かはわからないが、呼んでいるのなら行かなくてはならない。
「おー、悪いな、呼び出して」
 去年大学を卒業したばかりの、どう見ても体育会系な容姿をしている担任は、僕を見てそう言った。
「ほい、これ」
 突然差し出されたのはプリントの束だった。三十枚くらいありそうなプリントが穴を空けられ紐を通して結んである。
「悪いがこれを、市野谷さんに届けてくれないか」
 担任がひーちゃんの名を口にしたのを聞いたのは、久しぶりのような気がした。もう朝の出���確認の時でさえ、彼女の名前は呼ばれない。ミナモの名前だってそうだ。このクラスでは、ひーちゃんも、ミナモも、いないことが自然なのだ。
「……先生が、届けなくていいんですか」
「そうしたいのは山々なんだが、なかなか時間が取れなくてな。夏休みに入ったら家庭訪問に行こうとは思ってるんだ。このプリントは、それまでにやっておいてほしい宿題。中学に入ってから二年の一学期までに習う数学の問題を簡単にまとめたものなんだ」
「わかりました、届けます」
 受け取ったプリントの束は、思っていたよりもずっとずっしりと重かった。
「すまんな。市野谷さんと小学生の頃一番仲が良かったのは、きみだと聞いたものだから」
「いえ……」
 一年生の時から、ひーちゃんにプリントを届けてほしいと教師に頼まれることはよくあった。去年は彼女と僕は違うクラスだったけれど、同じ小学校出身の誰かに僕らが幼馴染みであると聞いたのだろう。
 僕は学校に来なくなったひーちゃんのことを毛嫌いしている訳ではない。だから、何か届け物を頼まれてもそんなに嫌な気持ちにはならない。でも、と僕は思った。
 でも僕は、ひーちゃんと一番仲が良かった訳じゃないんだ。
「じゃあ、よろしく頼むな」
 次の授業の始業のチャイムが鳴り響く。
 教室に戻り、出したままだった英語の教科書と「正」の字だけ記したノートと一緒に、ひーちゃんへのプリントの束を鞄に仕舞いながら、なんだか僕は泣きたくなった。
  三角形が壊れるのは簡単だった。
 三角形というのは、三辺と三つの角でできていて、当然のことだけれど一辺とひとつの角が消失したら、それはもう三角形ではない。
 まだ小学校に上がったばかりの頃、僕はどうして「さんかっけい」や「しかっけい」があるのに「にかっけい」がないのか、と考えていたけれど、どうやら僕の脳味噌は、その頃から数学的思考というものが不得手だったようだ。
「にかっけい」なんてあるはずがない。
 僕と、あーちゃんと、ひーちゃん。
 僕ら三人は、三角形だった。バランスの取りやすい形。
 始まりは悲劇だった。
 あの悪夢のような交通事故。ひーちゃんの弟の死。
 真っ白なワンピースが汚れることにも気付かないまま、真っ赤になった弟の身体を抱いて泣き叫ぶひーちゃんに手を伸ばしたのは、僕と一緒に下校する途中のあーちゃんだった。
 お互いの家が近かったこともあって、それから僕らは一緒にいるようになった。
 溺愛していた最愛の弟を、目の前で信号無視したダンプカーに撥ねられて亡くしたひーちゃんは、三人で一緒にいてもときどき何かを思い出したかのように暴れては泣いていたけれど、あーちゃんはいつもそれをなだめ、泣き止むまでずっと待っていた。
 口下手な彼は、ひーちゃんに上手く言葉をかけることがいつもできずにいたけれど、僕が彼の言葉を補って彼女に伝えてあげていた。
 優しくて思いやりのあるひーちゃんは、感情を表すことが苦手なあーちゃんのことをよく気遣ってくれていた。
 僕らは嘘みたいにバランスの取れた三角形だった。
 あーちゃんが、この世界からいなくなるまでは。
   「夏は嫌い」
 昔、あーちゃんはそんなことを口にしていたような気がする。
「どうして?」
 僕はそう訊いた。
 夏休み、花火、虫捕り、お祭り、向日葵、朝顔、風鈴、西瓜、プール、海。
 水の中の金魚の世界と、バニラアイスの木べらの湿り気。
 その頃の僕は今よりもずっと幼くて、四季の中で夏が一番好きだった。
 あーちゃんは部屋の窓を網戸にしていて、小さな扇風機を回していた。
 彼は夏休みも相変わらず外に出ないで、部屋の中で静かに過ごしていた。彼の傍らにはいつも、星座の本と分厚い昆虫図鑑が置いてあった。
「夏、暑いから嫌いなの?」
 僕が尋ねるとあーちゃんは抱えていた分厚い本からちょっとだけ顔を上げて、小さく首を横に振った。それから困ったように笑って、
「夏は、皆死んでいるから」
 とだけ、つぶやくように言った。あーちゃんは、時々魔法の呪文のような、不思議なことを言って僕を困惑させることがあった。この時もそうだった。
「どういう意味?」
 僕は理解できずに、ただ訊き返した。
 あーちゃんはさっきよりも大きく首を横に振ると、何を思ったのか、唐突に、
「ああ、でも、海に行ってみたいな」
 なんて言った。
「海?」
「そう、海」
「どうして、海?」
「海は、色褪せてないかもしれない。死んでないか��しれない」
 その言葉の意味がわからず、僕が首を傾げていると、あーちゃんはぱたんと本を閉じて机に置いた。
「台所へ行こうか。確か、母さんが西瓜を切ってくれていたから。一緒に食べよう」
「うん!」
 僕は西瓜に釣られて、わからなかった言葉のことも、すっかり忘れてしまった。
 でも今の僕にはわかる。
 夏の日射しは、世界を色褪せさせて僕の目に映す。
 あーちゃんはそのことを、「死んでいる」と言ったのだ。今はもう確かめられないけれど。
 結局、僕とあーちゃんが海へ行くことはなかった。彼から海へ出掛けた話を聞いたこともないから、恐らく、海へ行くことなく死んだのだろう。
 あーちゃんが見ることのなかった海。
 海は日射しを浴びても青々としたまま、「生きて」いるんだろうか。
 彼が死んでから、僕も海へ足を運んでいない。たぶん、死んでしまいたくなるだろうから。
 あーちゃん。
 彼のことを「あーちゃん」と名付けたのは僕だった。
 そういえば、どうして僕は「あーちゃん」と呼び始めたんだっけか。
 彼の名前は、鈴木直正。
 どこにも「あーちゃん」になる要素はないのに。
    うなじを焼くようなじりじりとした太陽光を浴びながら、ペダルを漕いだ。
 鼻の頭からぷつぷつと汗が噴き出すのを感じ、手の甲で汗を拭おうとしたら手は既に汗で湿っていた。雑音のように蝉の声が響いている。道路の脇には背の高い向日葵は、大きな花を咲かせているのに風がないので微動だにしない。
 赤信号に止められて、僕は自転車のブレーキをかける。
 夏がくる度、思い出す。
 僕とあーちゃんが初めてひーちゃんに出会い、そして彼女の最愛の弟「ろーくん」が死んだ、あの事故のことを。
 あの日も、世界が真っ白に焼き切れそうな、暑い日だった。
 ひーちゃんは白い木綿のワンピースを着ていて、それがとても涼しげに見えた。ろーくんの血で汚れてしまったあのワンピースを、彼女はもうとっくに捨ててしまったのだろうけれど。
 そういえば、ひーちゃんはあの事故の後、しばらくの間、弟の形見の黒いランドセルを使っていたっけ。黒い服ばかり着るようになって。周りの子はそんな彼女を気味悪がったんだ。
 でもあーちゃんは、そんなひーちゃんを気味悪がったりしなかった。
 信号が赤から青に変わる。再び漕ぎ出そうとペダルに足を乗せた時、僕の両目は横断歩道の向こうから歩いて来るその人を捉えて凍りついてしまった。
 胸の奥の方が疼く。急に、聞こえてくる蝉の声が大きくなったような気がした。喉が渇いた。頬を撫でるように滴る汗が気持ち悪い。
 信号は青になったというのに、僕は動き出すことができない。向こうから歩いて来る彼は、横断歩道を半分まで渡ったところで僕に気付いたようだった。片眉を持ち上げ、ほんの少し唇の端を歪める。それが笑みだとわかったのは、それとよく似た笑顔をずいぶん昔から知っているからだ。
「うー兄じゃないですか」
 うー兄。彼は僕をそう呼んだ。
 声変わりの途中みたいな声なのに、妙に大人びた口調。ぼそぼそとした喋り方。
 色素の薄い頭髪。切れ長の一重瞼。ひょろりと伸びた背。かけているのは銀縁眼鏡。
 何もかもが似ているけれど、日に焼けた真っ黒な肌と筋肉のついた足や腕だけは、記憶の中のあーちゃんとは違う。
 道路を渡り終えてすぐ側まで来た彼は、親しげに僕に言う。
「久しぶりですね」
「……久しぶり」
 僕がやっとの思いでそう声を絞り出すと、彼は「ははっ」と笑った。きっとあーちゃんも、声を上げて笑うならそういう風に笑ったんだろうなぁ、と思う。
「どうしたんですか。驚きすぎですよ」
 困ったような笑顔で、眼鏡をかけ直す。その手つきすらも、そっくり同じ。
「嫌だなぁ。うー兄は僕のことを見る度、まるで幽霊でも見たような顔するんだから」
「ごめんごめん」
「ははは、まぁいいですよ」
 僕が謝ると、「あっくん」はまた笑った。
 彼、「あっくん」こと鈴木篤人くんは、僕の一個下、中学一年生。私立の学校に通っているので僕とは学校が違う。野球部のエースで、勉強の成績もクラストップ。僕の団地でその中学に進学できた子供は彼だけだから、団地の中で知らない人はいない優等生だ。
 年下とは思えないほど大人びた少年で、あーちゃんにそっくりな、あーちゃんの弟。
「中学は、どう? もう慣れた?」
「慣れましたね。今は部活が忙しくて」
「運動部は大変そうだもんね」
「うー兄は、帰宅部でしたっけ」
「そう。なんにもしてないよ」
「今から、どこへ行くんですか?」
「ああ、えっと、ひーちゃんに届け物」
「ひー姉のところですか」
 あっくんはほんの一瞬、愛想笑いみたいな顔をした。
「ひー姉、まだ学校に行けてないんですか?」
「うん」
「行けるようになるといいですね」
「そうだね」
「うー兄は、元気にしてましたか?」
「僕? 元気だけど……」
「そうですか。いえ、なんだかうー兄、兄貴に似てきたなぁって思ったものですから」
「僕が?」
 僕があーちゃんに似てきている?
「顔のつくりとかは、もちろん違いますけど、なんていうか、表情とか雰囲気が、兄貴に似てるなぁって」
「そうかな……」
 僕にそんな自覚はないのだけれど。
「うー兄も死んじゃいそうで、心配です」
 あっくんは柔らかい笑みを浮かべたままそう言った。
「……そう」
 僕はそう返すので精いっぱいだった。
「それじゃ、ひー姉によろしくお伝え下さい」
「じゃあ、また……」
 あーちゃんと同じ声で話し、あーちゃんと同じように笑う彼は、夏の日射しの中を歩いて行く。
(兄貴は、弱いから駄目なんだ)
 いつか彼が、あーちゃんに向けて言った言葉。
 あーちゃんは自分の弟にそう言われた時でさえ、怒ったりしなかった。ただ「そうだね」とだけ返して、少しだけ困ったような顔をしてみせた。
 あっくんは、強い。
 姿や雰囲気は似ているけれど、性格というか、芯の強さは全く違う。
 あーちゃんの死を自分なりに受け止めて、乗り越えて。部活も勉強も努力して。あっくんを見ているといつも思う。兄弟でもこんなに違うものなのだろうか、と。ひとりっ子の僕にはわからないのだけれど。
 僕は、どうだろうか。
 あーちゃんの死を受け入れて、乗り越えていけているだろうか。
「……死相でも出てるのかな」
 僕があーちゃんに似てきている、なんて。
 笑えない冗談だった。
 ふと見れば、信号はとっくに赤になっていた。青になるまで待つ間、僕の心から言い表せない不安が拭えなかった。
    遺書を思い出した。
 あーちゃんの書いた遺書。
「僕の分まで生きて。僕は透明人間なんです」
 日褄先生はそれを、「ばっかじゃねーの」って笑った。
「透明人間は見えねぇから、透明人間なんだっつーの」
 そんな風に言って、たぶん、泣いてた。
「僕の分まで生きて」
 僕は自分の鼓動を聞く度に、その言葉を繰り返し、頭の奥で聞いていたような気がする。
 その度に自分に問う。
 どうして生きているのだろうか、と。
  部屋に一歩踏み入れると、足下でガラスの破片が砕ける音がした。この部屋でスリッパを脱ぐことは自傷行為に等しい。
「あー、うーくんだー」
 閉められたカーテン。閉ざされたままの雨戸。
 散乱した物。叩き壊された物。落下したままの物。破り捨てられた物。物の残骸。
 その中心に、彼女はいる。
「久しぶりだね、ひーちゃん」
「そうだねぇ、久しぶりだねぇ」
 壁から落下して割れた時計は止まったまま。かろうじて壁にかかっているカレンダーはあの日のまま。
「あれれー、うーくん、背伸びた?」
「かもね」
「昔はこーんな小さかったのにねー」
「ひーちゃんに初めて会った時だって、そんなに小さくなかったと思うよ」
「あははははー」
 空っぽの笑い声。聞いているこっちが空しくなる。
「はい、これ」
「なに? これ」
「滝澤先生に頼まれたプリント」
「たきざわって?」
「今度のクラスの担任だよ」
「ふーん」
「あ、そうだ、今度は僕の同じクラスに……」
 彼女の手から投げ捨てられたプリントの束が、ろくに掃除されていない床に落ちて埃を巻き上げた。
「そういえば、あいつは?」
「あいつって?」
「黒尽くめの」
「黒尽くめって……日褄先生のこと?」
「まだいる?」
「日褄先生なら、今年度も学校にいるよ」
「なら、学校には行かなーい」
「どうして?」
「だってあいつ、怖いことばっかり言うんだもん」
「怖いこと?」
「あーちゃんはもう、死んだんだって」
「…………」
「ねぇ、うーくん」
「……なに?」
「うーくんはどうして、学校に行けるの? まだあーちゃんが帰って来ないのに」
 どうして僕は、生きているんだろう。
「『僕』はね、怖いんだよ、うーくん。あーちゃんがいない毎日が。『僕』の毎日の中に、あーちゃんがいないんだよ。『僕』は怖い。毎日が怖い。あーちゃんのこと、忘れそうで怖い。あーちゃんが『僕』のこと、忘れそうで怖い……」
 どうしてひーちゃんは、生きているんだろう。
「あーちゃんは今、誰の毎日の中にいるの?」
 ひーちゃんの言葉はいつだって真っ直ぐだ。僕の心を突き刺すぐらい鋭利だ。僕の心を掻き回すぐらい乱暴だ。僕の心をこてんぱんに叩きのめすぐらい凶暴だ。
「ねぇ、うーくん」
 いつだって思い知らされる。僕が駄目だってこと。
「うーくんは、どこにも行かないよね?」
 いつだって思い知らせてくれる。僕じゃ駄目だってこと。
「どこにも、行かないよ」
 僕はどこにも行けない。きみもどこにも行けない。この部屋のように時が止まったまま。あーちゃんが死んでから、何もかもが停止したまま。
「ふーん」
 どこか興味なさそうな、ひーちゃんの声。
「よかった」
 その後、他愛のない話を少しだけして、僕はひーちゃんの家を後にした。
 死にたくなるほどの夏の熱気に包まれて、一気に現実に引き戻された気分になる。
 こんな現実は嫌なんだ。あーちゃんが欠けて、ひーちゃんが壊れて、僕は嘘つきになって、こんな世界は、大嫌いだ。
 僕は自分に問う。
 どうして僕は、生きているんだろう。
 もうあーちゃんは死んだのに。
   「ひーちゃん」こと市野谷比比子は、小学生の頃からいつも奇異の目で見られていた。
「市野谷さんは、まるで死体みたいね」
 そんなことを彼女に言ったのは、僕とひーちゃんが小学四年生の時の担任だった。
 校舎の裏庭にはクラスごとの畑があって、そこで育てている作物の世話を、毎日クラスの誰かが当番制でしなくてはいけなかった。それは夏休み期間中も同じだった。
 僕とひーちゃんが当番だった夏休みのある日、黙々と草を抜いていると、担任が様子を見にやって来た。
「頑張ってるわね」とかなんとか、最初はそんな風に声をかけてきた気がする。僕はそれに、「はい」とかなんとか、適当に返事をしていた。ひーちゃんは何も言わず、手元の草を引っこ抜くことに没頭していた。
 担任は何度かひーちゃんにも声をかけたが、彼女は一度もそれに答えなかった。
 ひーちゃんはいつもそうだった。彼女が学校で口を利くのは、同じクラスの僕と、二つ上の学年のあーちゃんにだけ。他は、クラスメイトだろうと教師だろうと、一言も言葉を発さなかった。
 この当番を決める時も、そのことで揉めた。
 くじ引きでひーちゃんと同じ当番に割り当てられた意地の悪い女子が、「せんせー、市野谷さんは喋らないから、当番の仕事が一緒にやりにくいでーす」と皆の前で言ったのだ。
 それと同時に、僕と一緒の当番に割り当てられた出っ歯の野郎が、「市野谷さんと仲の良い――くんが市野谷さんと一緒にやればいいと思いまーす」と、僕の名前を指名した。
 担任は困ったような笑顔で、
「でも、その二人だけを仲の良い者同士にしたら、不公平じゃないかな? 皆だって、仲の良い人同士で一緒の当番になりたいでしょう? 先生は普段あまり仲が良くない人とも仲良くなってもらうために、当番の割り振りをくじ引きにしたのよ。市野谷さんが皆ともっと仲良くなったら、皆も嬉しいでしょう?」
 と言った。意地悪ガールは間髪入れずに、
「喋らない人とどうやって仲良くなればいいんですかー?」
 と返した。
 ためらいのない発言だった。それはただただ純粋で、悪意を含んだ発言だった。
「市野谷さんは私たちが仲良くしようとしてもいっつも無視してきまーす。それって、市野谷さんが私たちと仲良くしたくないからだと思いまーす。それなのに、無理やり仲良くさせるのは良くないと思いまーす」
「うーん、そんなことはないわよね、市野谷さん」
 ひーちゃんは何も言わなかった。まるで教室内での出来事が何も耳に入っていないかのような表情で、窓の外を眺めていた。
「市野谷さん? 聞いているの?」
「なんか言えよ市野谷」
 男子がひーちゃんの机を蹴る。その振動でひーちゃんの筆箱が机から滑り落ち、がちゃんと音を立てて中身をぶちまけたが、それでもひーちゃんには変化は訪れない。
 クラスじゅうにざわざわとした小さな悪意が満ちる。
「あの子ちょっとおかしいんじゃない?」
 そんな囁きが満ちる。担任の困惑した顔。意地悪いクラスメイトたちの汚らわしい視線。
 僕は知っている。まるでここにいないかのような顔をして、窓の外を見ているひーちゃんの、その視線の先を。窓から見える新校舎には、彼女の弟、ろーくんがいた一年生の教室と、六年生のあーちゃんがいる教室がある。
 ひーちゃんはいつも、ぼんやりとそっちばかりを見ている。教室の中を見渡すことはほとんどない。彼女がここにいないのではない。彼女にとって、こっちの世界が意味を成していないのだ。
「市野谷さんは、死体みたいね」
 夏休み、校舎裏の畑。
 その担任の一言に、僕は思わずぎょっとした。担任はしゃがみ込み、ひーちゃんに目線を合わせようとしながら、言う。
「市野谷さんは、どうしてなんにも言わないの? なんにも思わないの? あんな風に言われて、反論したいなって思わないの?」
 ひーちゃんは黙って草を抜き続けている。
「市野谷さんは、皆と仲良くなりたいって思わない? 皆は、市野谷さんと仲良くなりたいって思ってるわよ」
 ひーちゃんは黙っている。
「市野谷さんは、ずっとこのままでいるつもりなの? このままでいいの? お友達がいないままでいいの?」
 ひーちゃんは。
「市野谷さん?」
「うるさい」
 どこかで蝉が鳴き止んだ。
 彼女が僕とあーちゃん以外の人間に言葉を発したところを、僕は初めて見た。彼女は担任を睨み付けるように見つめていた。真っ黒な瞳が、鋭い眼光を放っている。
「黙れ。うるさい。耳障り」
 ひーちゃんが、僕の知らない表情をした。それはクラスメイトたちがひーちゃんに向けたような、玩具のような悪意ではなかった。それは本当の、なんの混じり気もない、殺意に満ちた顔だった。
「あんたなんか、死んじゃえ」
 振り上げたひーちゃんの右手には、草抜きのために職員室から貸し出された鎌があって――。
「ひーちゃん!」
 間一髪だった。担任は真っ青な顔で、息も絶え絶えで、しかし、その鎌の一撃をかろうじてかわした。担任は震えながら、何かを叫びながら校舎の方へと逃げるように走り去って行く。
「ひーちゃん、大丈夫?」
 僕は地面に突き刺した鎌を固く握りしめたまま、動かなくなっている彼女に声をかけた。
「友達なら、いるもん」
 うつむいたままの彼女が、そうぽつりと言う。
「あーちゃんと、うーくんがいるもん」
 僕はただ、「そうだね」と言って、そっと彼女の頭を撫でた。
    小学生の頃からどこか危うかったひーちゃんは、あーちゃんの自殺によって完全に壊れてしまった。
 彼女にとってあーちゃんがどれだけ大切な存在だったかは、説明するのが難しい。あーちゃんは彼女にとって絶対唯一の存在だった。失ってはならない存在だった。彼女にとっては、あーちゃん以外のものは全てどうでもいいと思えるくらい、それくらい、あーちゃんは特別だった。
 ひーちゃんが溺愛していた最愛の弟、ろーくんを失ったあの日。
 あの日から、ひーちゃんの心にぽっかりと空いた穴を、あーちゃんの存在が埋めてきたからだ。
 あーちゃんはひーちゃんの支えだった。
 あーちゃんはひーちゃんの全部だった。
 あーちゃんはひーちゃんの世界だった。
 そして、彼女はあーちゃんを失った。
 彼女は入学することになっていた中学校にいつまで経っても来なかった。来るはずがなかった。来れるはずがなかった。そこはあーちゃんが通っていたのと同じ学校であり、あーちゃんが死んだ場所でもある。
 ひーちゃんは、まるで死んだみたいだった。
 一日中部屋に閉じこもって、食事を摂ることも眠ることも彼女は拒否した。
 誰とも口を利かなかった。実の親でさえも彼女は無視した。教室で誰とも言葉を交わさなかった時のように。まるで彼女の前からありとあらゆるものが消滅してしまったかのように。泣くことも笑うこともしなかった。ただ虚空を見つめているだけだった。
 そんな生活が一週間もしないうちに彼女は強制的に入院させられた。
 僕が中学に入学して、桜が全部散ってしまった頃、僕は彼女の病室を初めて訪れた。
「ひーちゃん」
 彼女は身体に管を付けられ、生かされていた。
 屍のように寝台に横たわる、変わり果てた彼女の姿。
(市野谷さんは死体みたいね)
 そんなことを言った、担任の言葉が脳裏をよぎった。
「ひーちゃんっ」
 僕はひーちゃんの手を取って、そう呼びかけた。彼女は何も言わなかった。
「そっち」へ行ってほしくなかった。置いていかれたくなかった。僕だって、あーちゃんの突然の死を受け止めきれていなかった。その上、ひーちゃんまで失うことになったら。そう考えるだけで嫌だった。
 僕はここにいたかった。
「ひーちゃん、返事してよ。いなくならないでよ。いなくなるのは、あーちゃんだけで十分なんだよっ!」
 僕が大声でそう言うと、初めてひーちゃんの瞳が、生き返った。
「……え?」
 僕を見つめる彼女の瞳は、さっきまでのがらんどうではなかった。あの時のひーちゃんの瞳を、僕は一生忘れることができないだろう。
「あーちゃん、いなくなったの?」
 ひーちゃんの声は僕の耳にこびりついた。
 何言ってるんだよ、あーちゃんは死んだだろ。そう言おうとした。言おうとしたけれど、何かが僕を引き留めた。何かが僕の口を塞いだ。頭がおかしくなりそうだった。狂っている。僕はそう思った。壊れている。破綻している。もう何もかもが終わってしまっている。
 それを言ってしまったら、ひーちゃんは死んでしまう。僕がひーちゃんを殺してしまう。ひーちゃんもあーちゃんみたいに、空を飛んでしまうのだ。
 僕はそう直感していた。だから声が出なかった。
「それで、あーちゃん、いつかえってくるの?」
 そして、僕は嘘をついた。ついてはいけない嘘だった。
 あーちゃんは生きている。今は遠くにいるけれど、そのうち必ず帰ってくる、と。
 その一週間後、ひーちゃんは無事に病院を退院した。人が変わったように元気になっていた。
 僕の嘘を信じて、ひーちゃんは生きる道を選んだ。
 それが、ひーちゃんの身体をいじくり回して管を繋いで病室で寝かせておくことよりもずっと残酷なことだということを僕は後で知った。彼女のこの上ない不幸と苦しみの中に永遠に留めておくことになってしまった。彼女にとってはもうとっくに終わってしまったこの世界で、彼女は二度と始まることのない始まりをずっと待っている。
 もう二度と帰ってこない人を、ひーちゃんは待ち続けなければいけなくなった。
 全ては僕のついた幼稚な嘘のせいで。
「学校は行かないよ」
「どうして?」
「だって、あーちゃん、いないんでしょ?」
 学校にはいつから来るの? と問いかけた僕にひーちゃんは笑顔でそう答えた。まるで、さも当たり前かのように言った。
「『僕』は、あーちゃんが帰って来るのを待つよ」
「あれ、ひーちゃん、自分のこと『僕』って呼んでたっけ?」
「ふふふ」
 ひーちゃんは笑った。幸せそうに笑った。恥ずかしそうに笑った。まるで恋をしているみたいだった。本当に何も知らないみたいに。本当に、僕の嘘を信じているみたいに。
「あーちゃんの真似、してるの。こうしてると自分のことを言う度、あーちゃんのことを思い出せるから」
 僕は笑わなかった。
 僕は、笑えなかった。
 笑おうとしたら、顔が歪んだ。
 醜い嘘に、歪んだ。
 それからひーちゃんは、部屋に閉じこもって、あーちゃんの帰りをずっと待っているのだ。
 今日も明日も明後日も、もう二度と帰ってこない人を。
※(2/4) へ続く→ https://kurihara-yumeko.tumblr.com/post/647000556094849024/
5 notes · View notes