Tumgik
#肌に優しい半襟
apoandbangpo · 6 months
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Jungkook Dazed インタビュー 翻訳
自らの道を走り始めたジョングク
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この夏、ノートパソコンの前で眠ってしまったジョングクを600万人のファンが見守った。ポップ界における東アジアのアーティストの扉を吹き飛ばした彼は今、私たちを「驚くべき」ソロ新時代へと誘う。
世界で最も人気のあるK-POPアイドルの一人であり、世界で最も人気のあるポップ・スターの一人であるジョングクが、彼の直感がいったいどのようなものなのかを説明しようとしている。唇の右側にある二重になったピアスをいじりながら「なんというか...」と言葉を詰まらせる。真っ白なTシャツが、右腕に刻まれたタトゥーをより際立たせている。「言葉で表せないような感じです」 と言って笑いながら、軽く額に手を当てる。「鳥肌が立つとかじゃなくて、ただ『これはいけるぞ、これだ』って感じがするだけです」
アメリカ人ラッパー、LattoをフィーチャーしたUKガラージテイストのソロ・デビューシングル『Seven』を初めて聴いたのは、彼の記憶によれば3月のことだった。そして、即座にこの曲の虜になった。「すぐにロサンゼルスでのレコーディングのスケジュールを組み、ビデオ・コンセプトの打ち合わせをしました。すべてがとても順調に進みました」と振り返る。
7月にリリースされたこの曲は、イギリスとアメリカのシングルチャートで数週間にわたってチャートインし(アメリカでは1位を獲得)Spotifyでは、わずか6日間で1億回再生を達成した史上最速の曲という栄冠に輝いた。韓国の女優ハン・ソヒが出演したミュージックビデオは、YouTubeで1日に3,900万回もの視聴回数を記録した。彼が今までに楽曲に対して揺るぎない直感を感じたのは『I Need U』(2015年)だけだという。この曲は、高い評価を得たBTSの3rd EP『花様年華 pt.1』からのファースト・シングルで、彼らをスーパースターダムに押し上げる重要な足がかりとなった作品だと広く認識されている。
ジョングクは直感的なものと無形のものを重要視している。前者は彼の現在を導くものである。一方、彼の未来は後者によって揺り動かされている。少なくとも、彼自身がアーティストとしての自分をどう見ているかという点においては。だが、この話は後にする。というのも、最近26歳になり、この10年間を超有名人として生きてきたジョングクは、今この瞬間、自分が何者であるかについて考えているからだ。「僕は自分の感情に正直なタイプだと思います」と彼は言う。「僕はすぐに変わります。今やりたいことをやらなきゃいけないんです」
HYBEのソウル本社である巨大なビルの中の何の変哲もない一室にいるジョングクとZoomを通して話している。HYBEは、2005年にBig Hit Entertainmentとしてスタートしたマルチレーベル企業で、BTS以前にはK-POPアイドルグループを育成したこともデビューさせたこともなかった。1週間前はロンドン に、その前はニューヨークに滞在していた彼は、重い風邪と闘っていたのだが、テレビの生放送では完璧なパフォーマンスを披露し、どうにかそれを隠していた。
今回の撮影が行われたロンドン北部のスタジオでは、ジョングクは辛抱強く、協力的でありながらも非常に静かで、周囲の慌しい動きに視線を注いでいた。もともと内向的な性格の彼だが、撮影現場には、ざっと数えただけでも少なくとも40人がいる。スーツ姿のボディーガード2人を含め、その半分は彼自身の関係者だ。全員の視線が常に彼に注がれ、彼の一挙手一投足、髪型や服装、表情のわずかな変化まで注視されている。何とも疲れそうだ。彼のスタッフの1人は微笑みながら「彼は慣れていますよ」と肩をすくめた。
撮影の合間に、ジョングクが挨拶に来た。私たちは以前にも会ったことがある。2018年、BTSが成層圏に突入し、アリーナで公演していたのがスタジアムを完売させるまでになった頃だ。そのときも彼は静かだったが、精神的にも肉体的にもそわそわした不安げな雰囲気を漂わせていた。依然として彼の内面には掻ききれないような痒みがあるが、以前には欠けていた、と彼自信が感じている大胆さと自信によって、それが和らいでいる。それらは、長い間ステージで体現してきた彼の持ち味でありながら、日常生活にはついてこなかった特徴だ。「ステージに立つと、さまよっていた考えや感情が静まります」と彼は言う。いつも舞台に立っていた彼にとって、その2つの世界にそれほど大きな隔たりはなかったようだ。
パンデミックによってBTSの2020年『Map of the Soul Tour』が中止に追い込まれるまで、ジョングクは2014年以来、毎年グループとともにツアーを回っていた。2021年と2022年には、ソウル、ロサンゼルス、ラスベガスで1週間にわたるレジデンシー公演を行った。その後、2022年10月に、メンバー7人のソロ活動と韓国人男性全員に義務付けられている18カ月間の兵役服務のために、一時的な活動休止を発表した。この休止期間は彼に、自身の一部を解きほぐす機会を与え、ジョングクは内面にある軋轢を解消し始めた。そのひとつが、彼自身が自称するところの「怠け者」 であり、それが野心と競争心を抑えていたという。「以前は自分のそういうところが嫌いでした。そのせいで自尊心が欠けていたんだと思います」 とジョングクは言う。答えは、そんな自分を消し去ろうとするのではなく、違う角度から自分を見ることだった。「見方を変えて以来、自分の中のもっと良い特徴を見つけられるようになりました。逃したチャンスに、くよくよしたり、怠けている自分を責めたりして『なんで、あの時できたのに、できなかったんだろう』と考えるよりも本当の自分を受け入れ、できることに集中するようになりました。自分のペースで物事を進めることで、より多くのことを得られます。一日中ベッドに横になったり、テレビを見たりしたかったら、そんな一日を過ごすのもいいんじゃないかって」
これは、彼が自分の行動やその背後にある理由を理解する上で、連鎖的な影響を与えた。「僕は有名で人気のある歌手になりたかったし、そのためにはファンとアーティストの間に相互作用が必要だと思いました。愛を贈り、愛を受け取らなければなりません。でも、僕はARMY(BTSのファンコミュニティ)に『どうして、こんなにたくさんの愛を贈ってくれるんですか?どうして僕を愛してくれるんですか?』と尋ねていました。僕は愛を受け取るために一生懸命努力したつもりですし、その愛を当然だとも思っていません」とジョングクは言う。「とてもとても感謝しています。でも今は、謙虚に受け入れるべきだと思います。時間が経ったからかもしれませんが、今は逆になったんです。ファンのみなさんから、たくさんの愛と応援をもらっているので、その人たちに僕の存在によってもっと自信を持ってほしいし、もっと自己肯定感を持ってほしいと思っています。それが、僕がベストを尽くそうとする理由なんです」
ARMYの間で長年使われているフレーズがある。「BTS paved the way( BTSが道を切り開いた)」という言葉だ。特にアメリカでは、それまで東アジアのアーティストにとって、ほんのわずかな隙間しかなかった扉を彼らが蹴破ったのだ。あまりに強烈で、急速で、予想外だった彼らの躍進に不意打ちを食らったアメリカのエンターテインメント業界は、ビートルマニアの記憶をたぐり寄せ「BTSマニア」と呼ぶしかなかった。BTSは次から次へと記録を塗り替え、グラミー賞に5度ノミネートされるほどの有名アーティストとなった。アルバムセールスは全世界で1億500万枚を超えると推定されている。
ジョングクは、長年にわたって多くのARMYと会話してきた経験から、なぜBTSが言語、年齢、性別、人種に関係なく人々の共感を呼ぶのか、その理由を正確に理解している。「僕たちの歌やパフォーマンスに込められたメッセージが(人々を)慰めたんです」と彼は言う。「僕たちは、人々が聴く音楽の範囲を多様化することに貢献してきたと思いますし、文化的な観点からも多様性は重要です」 しかし彼は、BTSが壁を打ち破れた理由は、彼らの音楽を広めようとするファン自身の努力でもあるとする。さらに、こう話す「映画、テレビ、ファッション界や世界的なステージで活躍する多くの韓国人アーティストの方々。僕たちだけの力じゃないです」。
カルバン・クラインなどの巨大ブランドの広告塔、柔軟剤からコンブチャまで、彼が使用するものは何でも売り切れる。『Euphoria』などの彼のBTSソロ曲にインスパイアされたタトゥーを誇らしげに入れるファン。こうしたジョングクのスーパースター・アーティストとしての影響力に反して、彼は素朴で謙虚だ。一般的に、大衆文化は幼いスターにとって非情なものだが、15歳でデビューしたジョングクは、然るべき時に彼の襟を正してくれるバンドメンバーたちの注意深い眼差しの下で育った。彼は気配りができ、どこまでも礼儀正しく、好奇心旺盛で、茶目っ気のあるユーモアの持ち主だ。ライター/プロデューサーのAndrew WattとCirkutと共に『Seven』をレコーディングした際、彼はこれまで挑戦したことのないジャンルでうまくやろうと意欲満々で、マイクの前に立つと目に見えて緊張した面持ちだったが、2人から称賛の言葉を浴びせられると、明らかに嬉しそうな表情を見せていた。
「自分の声でどんな音楽ができるか試すために、できるだけ多くのジャンルをやってみたいです」と彼は言う。また、ソロ・デビューシングルの成功が、これからリリースする曲のサウンドに影響を及ぼすことはないと付け加えた。「音楽を聴いて、それが良かったらジャンルに関係なく、そのまま進んでいくだけです。『おお、この人はどんなジャンルでもこなせるんだな』って言われるのは本当に気分がいいので、みんなを驚かせられたら、すごく楽しいと思います」
数年前、彼は自分が書いたものをほぼすべて削除していた。当時を思い出し、笑みを浮かべる彼のピアスに光が反射する。「実は、音楽を作っては捨ててしまう癖を直そうとしているんです。でも、過去に自分が作業した曲を聴くと、今の自分はあまり満足できないんです。完璧だと思えなければ、どんな音楽も発表したくなかったですし、そう思える雰囲気もなかったんです。だから全部削除しました」
BTSが活動を再開する日が来るまで、ジョングクは自分自身の境界線を壊したいと考えている。昨年9月、彼はBTSの『Proof』(Collector's Edition) に収められた手紙にこう書いている「『僕の人生の主人公は僕以外の誰でもない』という気持ちで生きています。どんな環境に置かれても、誰が周りにいても、流されることなく自分を守り、自分をコントロールできるというマインドを持つこと。それを忘れないように生きています」。(余談:ジョングクがDAZEDの表紙撮影でシャツを着用しないという明確な取り決めはなく、どの衣装も事前に計画されたものではなかった。だが、楽屋から出てきた彼は、黒いレザージャケットの下に何も身につけていなかった。これが彼が望んで決めた服装だったのだ。黙ってヴィンテージのメルセデス・ベンツの運転席に乗り込んだ彼の腹筋は、くっきりと割れていた。そして、彼はカメラレンズをじっと見つめた)
BTSの最年少メンバーであるジョングクは、ウサギのようなグループの末っ子という本来のイメージが依然、優勢であることを知っている。「そういうところをすごく好いてくれてる」と彼はロンドンに滞在中、最近頻繁に行っているライブ配信の中でファンに言った。「みんなが、そういうところが好きだとする。それで僕はそれだけについて行く。それじゃあ、僕が変えられるものは何なんだよ?自ら、僕の人生なのに。僕が変えなきゃいけないじゃん?僕のことを愛してくれる人たちに『僕はこうです』って話して、それを強要するわけじゃないけど。僕はいつも新しいものを探して、その次に新しいものを面白く作りたいし、それでもってまたARMYたちに認められたいし」 また、『Seven』のExplicitバージョンの必要性を感じた理由を問う声にも答えた。このバージョンでは「And that's why night after night, I'll be lovin' you right」という歌詞が「And that's why night after night, I'll be fuckin' you right」になる。彼はこう言った「そう感じられたのなら、もう、どうしようもないけど。僕ももう何歳だよ〜(笑)」 (※Weverse Liveでのジョングクの発言部分は@may66669様の翻訳を許可を得たうえで使用させていただきました。引用元:リンク)
ここ数年の彼はボクシングを始め、眉と唇にピアスを開け、耳のピアスも増やした。髪を伸ばし、たくさんのタトゥーも入れた。「極端なことが好きなんです」と彼は笑いながら言う。「いつも人から、丸くて柔らかそうに見えるって言われるんです。僕は鋭くて力強いイメージが欲しいんです」 デビューシングルについてジョングクは、「自分のイメージから脱却しようとしたわけではありません」と語る。彼から見れば、すでに進化は起きており『Seven』は現在の彼をそのまま反映しているのだ。だからこそ、あの核心を突くライブ配信で、彼は毅然とした態度で率直に語ったのだ。「新しい挑戦を通して、ソロ・アーティストとしてどれだけ成長したかを見せることが重要でした」と説明する。「居心地のいい場所に留まったり、慣れ親しんだものに甘んじたりするのではなく。それをファンのみなさんに十分に説明したかったんです」
彼がこうした透明性と誠実さを求めるのは、ARMYとの深い心の絆があるからだ。ジョングクはARMYのことを話すとき目を輝かせる。「ARMYのことを思い出したり、会いたくなったりしたときは、ライブをつけて一緒に遊びます」と彼は言う。彼はHYBEのプラットフォーム、Weverseを通じて、今年だけで20回以上ライブ配信を行なっている。そのほとんどは寝室やリビングルームからで、しかも真夜中であることが多い。真面目なものから笑えるものまで、さまざまなコメントに何時間にもわたって答えている。カラオケをしたり、料理をしたり、お酒を飲んだり、洗濯物だって畳む。6月には、ジョングクが配信中に寝てしまい、それに気づいたスタッフが配信を止めるまでの45分間、600万人がその様子を見守った。
ARMYに「もう寝て」とか「飲み過ぎないで」と言われると、彼はやんわりと拒否するが、「ARMYは僕に関心があって、僕のことを好きだからそう言うんです。だから全然気にしません」と彼は話す。ファンがジムに現れたり、食べ物を家に送ってきたりしたときは、しっかりと、しかし丁重にやめるように言う。「複雑な関係ではありません。僕はARMYに自由に話すし、ARMYも僕に自由に話せます。相手が不適切なことを言ったとしても、それを受け入れるか、無視するかは僕の判断であり、僕の自由です」
2021年の『Vogue Korea』とのインタビューで、ジョングクは自分自身のことを完璧でありたいひび割れた灰色(「まだ何にもなっていない色」)の六角形であり「もっと上にあがりたい」人間だと表現した。だが、彼はそれを淡々と、いくぶん希望的にさえ言った。なぜなら、それが彼の原動力になっているからだ。昔も今も、ジョングクの中で「もっと」とは「もっと優れた、もっとかっこいい歌手になること」なのだと彼は熱く語る。「僕の中では、僕は自分が思い描いていたような歌手じゃない。僕が抱いていた歌手像とは違うんです。だから、もっと上を目指すんです」
しかし、この「もっと」という言葉は、会話において難問を投げかける。なぜなら、それは未来の一部であり、その未来は彼にとって明確な目標よりも、より雰囲気を重視する無形の領域だからだ。だからジョングクは、その想像上のイメージが何なのかを語ることができない。「まだ、はっきりとはわからないけど、何かあるような感じがするんです」 彼は人差し指を空中に突き立てて、上を指さす。「すぐそこにあるんです。ただ、まだ辿り着いていないだけなんです」
2023年のジョングクは、その「まだわからない」状態をよしとしている。彼は今を生き、物事をシンプルに考えることを心がけている。たとえそれが「言うは易く行うは難し」であったとしても。「まったく考えないでいるのは不可能です」と言って彼はため息をつく。「考え事をすると、その考えが延々と続いて、どんどん深みにはまっていくことがあるじゃないですか。それがポジティブな結論につながることもあると思いますが、僕の場合はネガティブな結論につながることもありました。でも、今は自分にある程度、自信が持てるようになったので、余計な考えを排除できるようになってきました」 頭を落ち着かせる術を学ぶ中で、彼は「まだ起こっていないことを心配したり、『自分の期待に応えられなかったらどうしよう』と考えたりすることが少なくなった」という。
しかし、ソロ・デビューアルバムを視野に入れ、さらなる音楽制作に取り組んでいるジョングクは、振り返ってみれば自分がどれほど成長したかを知っている。「(デビューシングルでは)自分の直感を信じて『観客に届くかな、たくさんの人に届けられるかな』と考えていたんです。それが、ある意味、証明できました」 そして、あの曖昧なグレーの六角形ではなく「白になりたいです。どんな色にでも好きなように染められるので」と顔いっぱいに、可能な限りの大きな笑みを浮かべながらジョングクは言った。
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shukiiflog · 6 months
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ある画家の手記if.60 告白
知られたくない、そんな時間は終わった。
強烈に頭が痛くて目が覚めた。水分不足だ、泣いたまま寝ちゃったせいか…
ベッドからろくに体を起こせないまま、手を伸ばしてサイドテーブルの引き出しの中の非常用のペットボトルから水を飲んで、一つ上の引き出しから頭痛薬を取り出して飲んだ。
もう一度ベッドに横になって薬が効くのを待ちながら、考える。
香澄に伝えたいこと、本当に知っていてほしいと思うことだけを、もっと冷静な状態で話すべきだったのに、
昨夜の僕はめちゃくちゃだった。知られたくないことをよりによって香澄に知られて、…怯えて。
言葉がぼたぼた溢れるみたいに喉から出て、思ったことそのまま、なんの説明もない、ただの暗い内面を中途半端に香澄に晒しただけだった。
香澄にあんな話をするきっかけになったのはーーー絢…  
親戚だけど、僕と直接会ったのは数えるほどの回数しかない。名廊の本家に行かなきゃいけないタイミングで偶然会ったことが数回あるだけで。
まだ絢は小学生だったかな。親戚が集まったときに、絢が夏休みの宿題の読書感想文をフランス文学を読み解いて感想を書いたのが大きな賞をもらって、掲載したがる出版社が出てきていちいち断るのが面倒だって親戚が愚痴をこぼしていたのを聞いた。どんな些細なことでも絢の名前が知れるのは避けたかったんだろう。当時、僕は絢の書いたその感想文を読んだ。次に絢に会ったとき、「美しい訳文だと思った」っていうようなことを言った、気がする。絢と接触して会話したのはその時くらい…
でも会わなくても僕たちの関係がずっと緊張感を孕んだ繊細なものだったことも確かだ 理人さん…
香澄にちゃんと落ち着いて話したいと思う、香澄がもし聞いてくれるなら。そのために話を頭で整理する。どこまで…  どのことを…
絢が…香澄に近づいて何をしようとしてるのかまでは分からない、でも、絢にほとんど生涯を通じて僕のことを気にかけさせてしまっているのは…知ってる。僕を憎んだっていいのに、絢はそんな風には育たな��った、優しい子。
香澄を傷つけたり危害を加えるなら、そのことについてだけはたとえ絢でも許さない
でも…今回の絢の行動は…もとを辿れば僕のせいだ
絢がどこまでどう話したかは知らないけど、結果香澄を混乱させた
香澄と絢が会ってるなら 香澄を通して僕を絢に会わせてもらえれば… でも香澄から聞いたところ絢は、僕には「内緒」、僕とは、会いたくないのか…
まだ纏まらない頭でも頭痛薬は効いてきてくれた。ようやく体を起こしてベッドから出る。
リビングに行くともう食事が用意されてて、キッチンにいた香澄は僕が起きてきたのに気づいて駆け寄ってきてくれた。
「おはよう直人、朝ごはん食べられそう?…あれから眠れた?」
香澄はもう着替えてる、髪の毛、寝癖ついてる…こんなタイミングでも「かわいいな」なんて思っちゃう自分も大概だと思って小さなため息で肩を落とす。そんなこと思ってる場合じゃないんだってば…。
「…うん。話の途中だったのに…寝ちゃってごめん…」
テーブルの上を見る。香澄が作ってくれた食事はどれも柔らかくされた食べやすいもので、きっと昨日の話から心配、してくれてる…
テーブルの席に着こうとした香澄に後ろから腕を回してぎゅっと抱きついた。
香澄の後頭部に額をコツンと合わせてちゃんと謝る。
「昨日はごめんね。自分勝手に…中途半端な話しして…そのまま香澄を置いて一人で眠って…」
「……俺も…ごめんなさい…。直人に苦しいこと、無理に話させて…」
「…僕は…」
香澄が首をそらして後ろにいる僕の顔を見ようとした。その時、襟が高めの香澄の服の隙間から赤い筋がのぞいた「……っ!」香澄の体を急いで振り向かせて首元を確認する、爪で引っ掻いたみたいな痕がいくつも残ってた。急いで香澄のシャツのボタンを外して長く伸びた痕の先を見る。胸元あたりまで続いていた。
「……、」香澄の両腕を掴んだまま、その場にガクンと膝をついた。香澄の体に頭を当てる、そのままうつむいたら床に目から涙がぽたっと落ちた。僕が泣いてどうするんだ、怪我をしてるのは香澄なのに、怪我をさせたのは誰だ、そんな負荷を香澄の心にかけたのは
「…………… ごめん…」
そのあと、まだ出勤まで時間があったから香澄の服をソファの上で全部脱がせて、他にも怪我をしてないか全身を確認した。首ほど密集してないけど他にも体のところどころに引っかき傷があった。
それら一つ一つを濡らした布でそっと拭いてから消毒して、絆創膏を貼る。ひどい出血じゃないけど、服と擦れるときっと痛む。手当てしながら何度も謝って、そのたびに目から勝手にぽたぽた涙が落ちた。
「直人…。ごめん、俺… 眠ってた間で気づかなくて…油断してた…」
手当てが終わってから香澄は眉を下げて謝った。手を伸ばして僕の眦に残った涙を指先で優しく拭ってくれる。
こんなのは…僕がやったようなものだ。香澄が謝ることじゃない。香澄の頭を胸に抱き寄せて、髪の毛を優しく梳いて撫でた。
精神的にも肉体的にも、負荷をかけてしまってる。
香澄の頭を撫でながら、提案した。
「昨日半端に話したことを、ちゃんと、話したい。絢から聞いてばかりじゃ、香澄も信じていいのか混乱するだろうし、意味が…分からないことばっかりだったと思うから。…落ち着いて、話したい」
香澄は僕の胸元に頰を擦りよせながらそっと目を閉じて言った。
「俺は、直人が話したくないことは無理に聞き出したくない。昨日の直人、話してるだけですごく、…苦しそうだった……俺は…そんなの嫌だよ…。絢人くんが俺に話そうとしても、今後は彼から直人の話は勝手に聞かない。直人の話は直人から聞きたい。それも直人が俺に話したいって思うことだけで、俺はいい」
香澄の顎をとって顔を僕のほうに上げさせて、しっかり香澄の目を見つめて言った。
「…僕は…話したいよ。楽しくない話でごめんね…。それでも僕は、…今みたいな形で…香澄の中に香澄を傷つけるような形で、昨日の話を残したままにはしたくない。…それに香澄には、……知っててほしいと…思う。知って何をしてほしいわけでもない…全部もう昔の…過去の話だから。香澄も聞いたって…今さら困るかもしれない。…それでも」
一緒に、背負ってくれる…?
知られたくない、なんて時間はもう絢が終わらせてしまった。
それなら二人で一緒に抱えさせてほしい。どこまでも僕のわがままだけど。
香澄はしばらく考えるようにした後、それならと言って、次の香澄と僕の仕事の休みが重なる日を丸一日空けておいてくれることになった。
その日まであと二日ある。
僕も一度気持ちを切り替えて、仕事に行く支度を始めた。とりあえず裸の香澄の体にもう一度きちんと服を着せ直す。
ブラシで自分の髪を梳かす前に思い出して、香澄を鏡台の前に座らせて、さっき見つけた寝癖をブラシで丁寧に梳いて綺麗に整えた。
僕の髪がずいぶん伸びたから職場で不清潔じゃないように、これまで適当な安いシャンプーで洗って濡れたまま自然乾燥で放置してたのを改めて、ちょっとお高めのシャンプーとトリートメントコンディショナーを買ってドライヤーでちゃんと乾かすようになった。自然と香澄も同じものをお風呂に入る時は使ってるみたいだ。僕が香澄の髪の毛洗うことも多いけど。だから今は僕が香澄の髪に顔を寄せたら僕と同じ匂いがする。そのたびにくすぐったいような、あったかい気持ちになる。
終わったら鏡台の前でうつった香澄を見る、伸びてきた髪の毛を綺麗に梳かしてまっすぐ整えた香澄は、同じ色の長い睫毛や眉が白い肌に映えて、とても綺麗。図書館勤務になってから屋内で過ごすようになったせいか、生来の肌の白さが前より際立ってまるで絹のように美しくなった。色素が薄めで睫毛とぼさぼさの髪の毛に隠れがちだった瞳は、肌が白くなったからコントラストで存在感を増して、いくつもの色が複雑に重なって混じり合う、宝石の原石を割ったときにのぞくような不思���な放射状の模様を宿して輝いている。それが僕には眩しい太陽みたいで、強烈に憧れるような気持ちでいつもじっと見つめてしまう。
…こうして見つめているとあちこちで狙われるのも仕方ないような気になってきてしまう、いくら香澄が美しくても何も仕方なくなんてないし電車でのことも思い出すたびに僕はいまだに内心でキレてるしれっきとした犯罪なんだけど。
二人で香澄の作ってくれた朝食を食べる。どれも柔らかくて喉を通りやすくて、作ってくれた香澄の気持ちを考えただけで少し泣きそうになった。
食べる途中で香澄が「俺と食事するとき、無理してる…?」って小さな声で聞いてきた。…絢に事実以外にもなにか言われたかな。
「まさか。香澄といて無理したことなんてないよ。僕は香澄と一緒に食事できるのが嬉しい」にっこり笑ってそう答えた。実際いつも香澄の帰りが少し遅くなりそうな時でも、僕は一緒に食べようと思って食事を作ったあとも香澄の帰りをしばらく待ってることが多い。
出勤のために二人で車に乗り込んだ後で、駐車場で周りから誰も見てないことを確認してから、運転席から体を伸ばして助手席の香澄の体を引き寄せて、香澄の唇をあっためるように優しいキスをした。
続き
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hunkydorynagoya · 2 years
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【LACOSTE】L1212 S/S CLASSIC PIQUET POLO
【LACOSTE(ラコステ)】は、1933年にフランスで設立されました。プロのテニス選手で創業者のルネ・ラコステが当時ポロ競技で着用されていた襟付きの半袖ニットを初めてテニス競技で着用したことで、現在のポロシャツの原点が始まったとされています。トレードマークのクロコダイルは本人の粘り強いプレースタイルから付いたニックネームから由来しています。 ポロシャツの王道として当時から変わらないスタイルで愛され続けているラコステのポロシャツ。世界で初めてポロシャツをカジュアル用シャツとして定着させた、言わばポロシャツの元祖とされているのが、こちらの「L1212」です。ブランドのトレードマークでもあるクロコダイルが左胸に刺繍されたシンプルなデザインは、当時のスタイルを受け継いだ色あせない存在感が魅力です。単一の高級糸のみで編み上げた鹿の子素材は、程よい光沢感のある贅沢な雰囲気と高い耐久性を併せ持ち、着用を繰り返すほどに自然な経年変化が生まれて味わいのある風合いが楽しめます。特徴的なニットリブ製の襟は肌あたりも優しく、すっきりとした二つの貝ボタンで高級感を演出。また、「ちょうちん袖」と呼ばれる可動性の高い袖付けはシルエットも美しくリラックスした大人の休日を演出するエレガントな表情となっています。 2018年で誕生85周年を迎え、フレンチカジュアルのトレンドが回ってくると必ずといっていいほど注目される代表格です。今年はフレンチカジュアル回帰でもあるので愛用者も増加傾向にあり、まだお持ちでない方は是非お試しいただければと思います。デニムカジュアルはもちろん、チノパンと合わせたビジカジスタイルや、ショーツと合わせたリゾートスタイル等、幅広い着回しを楽しめます。是非、お試しください。
お問い合わせはお気軽にメール、またはお電話下さい。
オンラインストアも是非ご覧ください。 HUNKY DORY NAGOYA | ハンキードリー名古屋店 〒460-0011 愛知県名古屋市中区大須3-13-9 アンドール大須1F-D Map Tel:052-251-3390 e-mail:[email protected] Open:12:00-19:00(水曜定休)
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hiraharu · 11 months
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きのう、わざわざのある長野県も含め、関東甲信地方の梅雨入りが発表されました。ジメジメと蒸し暑い日は薄着で出かけたいところですが、気温が上がるほど気をつけたいのが室内外の温度差です。
冷房が効きすぎた施設内・車内では、薄着のままですと汗も冷えやすくなってしまいます。まだまだ、長袖シャツが手放せませんよね。
ということで今回は、薄くて軽くてサッと羽織れる、わざわざ厳選のシャツ・ブラウスをご紹介!
なかでもオススメは、首元もすっきり涼しげな襟なしシャツ。気軽さと上品さをしっかりと兼ね備えているので、夏用のフォーマルな服装としても重宝しますよ。
▼HW collarless shirt|ASEEDONCLOUD https://wazawaza.shop-pro.jp/?pid=163515745
ベーシックなデザインが特徴の、ASEEDONCLOUDのカラーレスシャツ。両肩、背中や袖口にギャザーを寄せていますので、窮屈感がなくゆったりとした着用感になっています。生地に上質なギザコットンを使用し肌さわりがなめらかで、品の良い素材感になっています。
▼バンドカラーシャツ アイリッシュリネン|James Mortimer https://wazawaza.shop-pro.jp/?pid=167152925
マットな質感、さらりとしたドライな肌触りが特徴のシャツ。半袖では肌寒い場面など、羽織りとしても使いやすい1着です。これから秋まで着こなしを変えながら、リネンの心地よさを味わえます。
リネン生地は、最初は少しかたくゴワっとした感触になっていますが、洗い込むごとに生地が馴染んで変化していきます。リネンシャツならではの程よいシワ感も含めて、着るほどに楽しみが増えるシャツです。
わざわざではこのほか、生地や縫製の良さから、着心地の良い衣類をセレクトしてご紹介しています。通気性に優れた素材のもの、汗が目立ちにくいもの、などなど、これからの季節も着やすいシャツをぜひわざわざで探してみてくださいね。
・・・・・・・・・・・・・・・ ▼わざわざオンラインストア https://waza2.com/
▼わざわざのパン・お菓子 https://kinarino-mall.jp/brand-2482
▼【限定クーポンが届くかも】メルマガ登録はこちら https://wazawaza.shop-pro.jp/secure/?mode=mailmaga&shop_id=PA01189522
#パンと日用品の店わざわざ #わざわざ #wazawaza
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lostsidech · 11 months
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3-①
×××
 ニューヨーク州クイーンズ区、フラッシング・メドウズ・コロナ・パーク。
 紅葉に包まれた一一月の公園内の道を、大会目的の観光客や関係者が出入りしている。旧国連仮本部も置かれた広大な公園内には急遽巨大な仮アリーナが建設され、開花異能者たちの戦いを擁するトーナメント場になっている。  二〇世紀前半のニューヨーク万博時代から名所である、地球儀を模したモニュメント。その正面にアリーナは入り口を開けていた。その周囲にたくさんの出店や案内板が並び、観光客と出番を待つ出場者たちの憩いの場と写���スポットになっていた。  会場にはやってきたものの、望夢たち補欠がすることはほとんどない。ポップコーンやホットドッグ売り場で適当に食べ物を調達し、アリーナの周囲を練り歩いた。  試合については事前に説明を受けていた。参加チームは全部で三二。トップが決まるまでは五試合だ。一試合ごとにゲーム内容は変わる。内容は告知されているレパートリーの中から直前に開催委員のくじ引きで決定される。ゲームには基本的に二人組で出場する。ただし連続して二試合以上同じメンバーが出場することはできない。参加組織は、各ラウンドで所属メンバーの強みを活かしながら、これからくじで引かれる選択肢にも備えて戦力を温存する必要があった。 「あ、いたいた。アメリカチームだ。壮観だね」  隣を歩いていた新野がのんびりと言った。彼は開会式中は雑用係で会場のほうに呼ばれていたらしいが、ようやく一息ついて望夢に合流してきたのだ。逆に開会式中一緒だった翔成は、大会出場者に召集が掛かると同時にパネルディスカッションに参加する莉梨から呼び出しを受け、一旦別会場に向かっている。万一補欠の出番が来たら一試合以上前に呼び戻すことになっていた。  新野がこの状況で瑠真や他の子供たちを心配していないはずはない。しかし彼が努めて穏やかでいるように見えるのは、当人なりに真剣にリラックスしている結果だろう。重い事態でこそ力を抜くタイプだ。瑠真はと訊くと控室に籠もっていると肩をすくめていた。  望夢はフライドポテトをつまみながら、 「ん。どこ?」 「あっち」  新野が指さす。その指先を追い、会場前でミーティングらしく顔を合わせている、無国籍なチームを発見する。中には見覚えのある金髪とカチューシャの髪飾りの姿もあった。 「……なんつーか、層が厚そう」 「うん、そういう話だ。日本も負けてないはずなんだけどね、ちょっとさすがのアメリカは見栄えは違うね」  SEEP設立時、中心となった国の一つであるアメリカは当然のように協会所属者人数も多く、優勝候補国だ。それから次点で優勝候補とみなされているのが、社会的にSEEPの影響が強い日本。比較的遅くに協会相当機関が設立された南米や西アジアの諸国に関しては、異能統括組織としての力が弱くそれほど戦力も充当できないらしい。  そのアメリカのトーナメント代表チームは、中央で胸を張る小柄なシオンを取り巻いて、仲良さげに談笑していた。  一番小さい人影がシオン。その次に若いらしいのが、ハイティーンに見えるそばかすの少女だ。堀りの深さと褐色の肌を見るに、南米系の血が入っているのだろう。身長はすらりと高いが表情の動きは小さく、ぼそぼそと喋る声はこちらまでは聞こえない。シオンに笑いかけられると慌てたり戸惑ったりする様子が見える。気弱なのかもしれない。  次に青年が二人いた。片方は不健康なほど細い色白の青年。学生か社会人かといった年代だ。帽子を目深に被った下から長い前髪が覗いており、裾の長いシャツを着ている。積極的に発言しているようだが口調には棘がある。もう片方はがっしりした身体つきの男で、肌色は黒く、こちらもアメリカ系の顔立ちではない。年齢はますます分からないが、原色の赤いシャツの上からジャケットを羽織った服装の雰囲気からいって少なくとも二十代半ば以上といったところだろう。  最後の一人は小さな老齢の男だった。ラフな開襟シャツにくしゃくしゃになったズボン、手には赤い石のついた大きな指輪を嵌めている。大岩のような男と並ぶと短い枯れ木のようだが、シオンに負けず劣らぬ存在感の笑顔で話している。シオンを除く若者たちが、あまりフレンドリーな性格には見えない中、この男性のコミュニケーションが場を和やかに繋いでいるように見受けられた。全員に目を向け、愉快げに笑いながら頷く。若くても六〇近くに見えたが、動きは活き活きと若々しかった。 「モリー・スミス、アンドリュー・キング、ドミニク・エジャー、シルヴェスタ・ローウェル。シオンはもう芸名みたいなもので、フルネームは分からないね」  新野が指さしながら一人一人を名指す。手には公式の参加者が載せられたパンフレットがある。 「ふぅん」 「それぞれ何が得意かだとか、調べてる?」 「いや、別に……俺たち出場者じゃないし。ていうか別に勝ちたいわけでもないし……」 「それはそうなんだけどね」  新野は苦笑しているようだった。 「君は自分の仕事に忠実だからな。せっかくなら試合を楽しんでもいいんじゃない。日本と違う協会の華、特等席で見られるチャンスだし。シオンは知っての通り舞台パフォーマンスが得意、モリーは絵を描くらしいよ。アンドリューは音楽家、ドミニクはスポーツ、シルヴェスタは事業家」 「それって奴らの超常術に関係あるの?」 「さあ……。紹介に書いてあること読んだだけ」  新野もそれほど熱心な観戦者でもないようで間の抜けた返事を返した。望夢はフライドポテトを頬張りながら無遠慮にアメリカチームを眺めた。  絵を描くと言われたモリーは斜め掛けに画材が入りそうな大きさの鞄を提げている。アンドリューの恰好は日本チームの深弦や隼二を思わせる、ただしそれより主張が強いロック風シャツだ。ドミニクの服の裾から覗く手足には引き締まった筋が見て取れる。事業家と言われたシルヴェスタのこの話しぶりは経歴から来るものだろうか。  と、ふいにシオンと目が合った。  シオンがにっこりとこちらに手を振る。モリーが慌てたようにシオンの手を下げさせた。シオンが不満げに何か英語で喋る中、アンドリューがこちらにずかずかと進んできた。 「え?」 「So you are the one of our Japanese counterparts Sion said, right?」 「えーと」 「What do you think about Holly Children?」 「ん?」 「Boy──」  目の前に黒いロック青年がぬっと立ちふさがってまくしたてる。英語自体にというより、その剣幕に気おされてとっさに何を言われているのかわからなかった。新野が横で目をしばたいた。 「ホーリィチルドレン──ヒイラギ会のこと、訊かれてるんじゃない」 「ああ、……ハロー?」  とりあえず返事しようと話しかけたとき、慌てて追いついてきたモリーが目の前のアンドリューの手を取った。 「Sorry(ごめんなさい)。No, Andrew, come on, now come back(だめよ、アンドリュー、おいで、戻ってきて)」  アンドリューは不満げにモリーを振り向いて何か言った。モリーは何度か首を振って答える。後ろを垣間見ればドミニクやシルヴェスタは様子を変えることなく、ただ黙ってこちらを眺めている。  シオンが向こうから声を張り上げた。 「悪いね。失礼をするつもりはなかったんだ」  どうやら日本語を流暢に話せるのは彼だけらしい。 「ヒイラギ会は日本発祥だからね。みんなやっぱり気になってるんだよ」  しばらく目の前で押し問答をした末、モリーに丸め込まれたらしいアンドリューがそのままアメリカチームの元いたほうへ引き戻されていく。こちらを振り向いてまだ何か言いたげな顔をしていた。望夢はきょとんとしている新野に向かってぼそりと「何がなんだか」と呟く。 「あの子とは知り合い?」  新野がシオンを示して尋ねる。望夢は頷いた。 「気になられたって、俺たちだって何も言えない」  こちらもアメリカチームに聞こえるように声を張ると、シオンは向こうでにやりと笑った。 「そうかぁ。まあ、リヴィーラーズ・システムからすると目の敵だものね」 「……なんだよ」 「失礼をしたって言ったでしょ。それに試合で君たちの術を見たいとも」  嫌味な言い方だ。開場前の通路を通り抜ける人々がこちらの会話に気が付いたのかざわざわと近くでささめいている。純粋に通路を挟んでこんな会話をしていたら邪魔だろう。望夢は首を振った。 「俺は出場者じゃない」 「じゃあ伝えておいてよ」  そんなふうに、何故かこんなところでライバルのような会話を交わした直後、会場アナウンスの音声が鳴り響いた。
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pulpwagon · 1 year
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久米繊維工業(クメセンイコウギョウ)
MEN'S WOMEN'S 長袖Tシャツ
Style: 03ハイネックロングスリーブTシャツ
Color:黒
屋外で首元を暖かく、室内で効きすぎた暖房でも暑すぎないTシャツ素材の使い勝手の良いハイネックです。ちくちくしない地肌に優しい綿素材で快適にお過ごし頂けます。ビジネスシーンのカジュアル化が進む今、ジャケットやコートに合わせても襟が汚れず、首元をスマートに見せる多様なシーンで使える便利な1枚です。
久米繊維工業(クメセンイコウギョウ)
それは1950年半ばの事、まだ日本でTシャツという呼び名さえ広く知られていなかった時代。銀幕に映るTシャツ姿のハリウッドスターに憧れた下町の莫大小(メリヤス)製造所二代目。久米信市が弟の利男と共に国産アウターTシャツの開発をはじめました。生地、型紙、色、縫製全てに工夫を重ねたその1枚は「色丸首」と名付けられ日本のTシャツ文化の始まりを告げるべく東京本所石原町の私達の工場で産声をあげました。以来、熟年の職人が半世紀以上にわたりこの国で紡ぎ編んだしなやかな生地を細やかな心配りで縫い上げてまいりました。
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PULP WAGON
北海道釧路市錦町5ー1 幅口ビル 1F
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denll · 2 years
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# 春崎エアル #夏タグ後書き
忙しそう×楽しそう を体現してるな、この人。って思って書いたお話でした。あとはそうだな、この人肌白い割には半袖開襟シャツが似合いそうだな…って思ったので、バチバチに冷や汗かかせてやろうと思いました。決して不埒な輩ではございません、アイアムアイドル。そして気が付いたらこの人も別れが迫っていて、ああ惜しいなあ、と。優しくて愛らしくて、丁寧なんですこの王子。文字に関しても、言葉に関してもあったけえな優しいな、って感じました。正直、まだまだ絡み足りない節はあるんですけどねえ、うん。悔しい、中々距離が縮められなかった。でも、絶対来世で会うんで。何その自信って言うのは一旦置いといて、会うんで!!!密かにこれからも春崎エアルを応援し続けます。んでもって、貴方自身もどうか、これからに幸あれ。
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【ONLINE SHOPにUPしました!】 「ISLANDER(アイランダー)」織チェック柄 リネンコットン 開襟シャツ [2205009] アイランダーのリネンコットン半袖開襟シャツ! オーガニックな雰囲気漂う1品! ISLANDER(アイランダー)から、通好みな大人顔の開襟シャツが入荷しました! 派手なデザインではありませんが、渋シャツとしてとにかく使える優れもの! こう言った汎用性の高いシャツはクローゼットに1枚あると、コーディネートに困った時に大活躍します! まずは生地! 生地はリネン55%/コットン45%を使用! リネン(麻)のパリッとしたハリのある質感と、コットンの肌触りや強固さを併せ持った生地です! 扱いやすく、ガンガン使って、ガンガン洗えます! リネンもコットンも吸水速乾性に富んだ素材なので、洗濯後はすぐに乾くので、アイロンはあえてかけずに洗いざらしでの着用がかっこいいですね! 商品の特徴や寸法などのさらに詳しい詳細はONLINE SHOPをご覧ください! プロフィール欄のURLをクリック、または商品をタップしてご覧いただけます! (at Tokyo Japan) https://www.instagram.com/p/CflR4vgP0uy/?igshid=NGJjMDIxMWI=
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halu-kagoshima · 2 years
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MOUNTAINEQUIPMEET / QD Waffle Oversize Tee
color / OLIVE,CHACOAL
size / WS,WM
price / ¥ 9,790 in tax
ハイテクワッフル素材を使用した
クイックドライワッフルオーバーサイズTです。
素材には、ふっくらと程よく肉厚感のある
ワッフル素材でありながら軽く、
優れた吸水速乾性を持つ高機能素材を
採用しています。
肩幅と身幅がゆったりとした
半袖タイプのオーバーサイズで
蒸れを防ぎべたつきを軽減し、
快適な着心地です。
ワンピース程の着丈があるので
一枚でも着用いただけます。
シンプルなデザインなので、
アウトドアからタウンユース、
お部屋着としても幅広く活躍する
アイテムです。
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PATAGONIA / M'S QUALITY SURF POCKET RESPONSIBILI-TEE
color / SEPT,FRIL
size / XS,S,M,L
price / ¥ 5,280 in tax
1973年来のハイクオリティ・サーフ・ウェア。
アイアンクラッド保証付きです。
はぎれ生地と回収されたペットボトルを
利用したリサイクル素材100%の
このTシャツはバージン素材への依存を削減。
フェアトレード・サーティファイドの縫製を採用。
リサイクル素材を100%使用した、
パタゴニア初のカーボンニュートラル・
Tシャツです。
単独での着用にもレイヤリングにも便利な
クラシックなクルーネックのTシャツです。
チェストポケット付き。
リブニットの襟ぐりとテープ処理済みの
肩の縫い目により耐久性を強化し
快適な肌触りと着心地です。
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THOR / Totes With Lid
color / ブラック、オリーブ、グレー、コヨーテ
price / 22L,¥ 3,520in tax,
53L,¥ 4,950in tax,
73L¥ 6,050in tax
アメリカの業務用品を製造している
TRUST(トラスト)社で作られているので
耐久性はお墨付きです。
耐荷重は80kgと、
屋内外の使用にも耐えられます。
洋服やタオルなどのかさばる
布モノの収納おもちゃ箱としてや、
ガレージのカー用品や工具、
ガーデニンググッズの収納に活躍します。
キャンプやフリーマーケットなどの
アウトドアなどにもおすすめです。
ベンチやテーブルとして使うこともできます。
ハンドル付きなので、持ち運びも便利です。
ハンドル部分には、
雨水が抜けるよう穴加工がされています。
22L 幅440×奥行315×高さ275mm
53L 幅708×奥行434×高さ272mm
73L 幅708×奥行434×高さ384mm
今回ご紹介したアイテムや
インスタなどに投稿したアイテム等も
通販可能ですので
気になるアイテムございましたら
どうぞお気軽にお問い合わせ下さい。
Instagram
https://instagram.com/halu_0921?igshid=1rma1gdn5e388Online
Online
https://matheruba.shop-pro.jp/
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usickyou · 2 years
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ベイビー・マイ・スウィート
 ハーイ、あたし宮本フレデリカ。フランス人のママと日本人のパパの間に生まれた19才、アイドルやってるんだーって言うと友達はみーんなうんうん誉めてくれるんだけど、学校の先生はすっごく苦い顔になるんだー。たぶん見に来たいけど見たら好きになっちゃうからガマンしてるんだね、あーあ大人ってムズかしい、って言ったら友達に笑われたことがあって、どうしてかなあ? 聞いてみたらごめんごめんって豆乳ラテ、くれたお返しにエクレアあげたのはいつだっけ? あのこ結婚して休学しちゃったから、最近会えてないなあ、会いたいなあ。とりあえず電話しちゃえって思ってたら「フレちゃん、フレちゃん」って覗いてる、しきちゃん。「面白いもの、見つけた」ってその目はちょっとぎらぎらしてて、朝九時、季節はなんと夏、いつもなら夢もみないくらいぐっすり閉じられてるのに。「待ってしきちゃん」「えー、待てないよ」「グッドモーニング」ってほっぺにキスして、実はベッドから抜け出す時にもしてるんだけど、おはようが一日何回あったっていいよね。「おはよー」ってほっぺにキスされて、反対のほっぺを差し出して、「右のほっぺにキスされたら左のほっぺを差し出しなさい」「み心のままに」ってもう一度、光は白いレースカーテンからあふれ入って、こんないい朝が毎日続いてる、ああ、あたし、ホントにしきちゃんが好きだなあ。「朝ごはん作ってるからね」「手伝うよー」「一緒にやろー」そうしてふたりで作った、花の冠にみたいにふわっふわのエッグベネディクト。「んーメルシー」「ボークー」あっという間に食べ終わっちゃって、たまご占いは『今日はとて���よい一日になるでしょう』だって。「コーヒーいれよっか」「アイスにしよー」ってゆっくりカップを傾けて、「しきちゃん、何見つけたの?」「飲んでからでいい?」「えー気になるよー」「んふ、おいでおいで」そう言って、ネコの肉球がぽんと一つ描かれたカップ(あたしのには、イヌのおはな)を片手に歩いていく。ガレージ、ここはいっつもひんやりした空気が流れてる。階段を下りて、地下室。おっきい冷蔵庫(冷凍庫?)とかガラス棚とか、もっとひんやりした空気が漂ってる。「これこれ」ってしきちゃんが指さした、穴。穴? お部屋のすみっこに空いた穴はちょうどあたしが入れるくらいの大きさで、ライトで照らすとたまにキラキラ、ガラスのかけらみたいなのが光って、底の知れない深さを教えてる。「こわーい」ってしきちゃんを見たら、なんと、にっこり笑って(!)あたしをだきしめて(!!)穴の中へ飛び込んだ(!!!)びっくりして目をつむって、あ、落ちてるって感じは一瞬で、目を開けたら知らない景色が広がってて、あたしを抱きしめてたはずのしきちゃんは、あたしの手をにぎったまま隣でにっこり笑ってた。さて、目の前にはおっきな壁、だと思ったけどよく見たらどうやら門だった。でも、なーんか見覚えあるようなって思ってたのも一瞬、これ、凱旋門だ。「しきちゃん、これ」「うん、エトワール凱旋門」「すごーい、初めて見たー」「そうなの?」「うん、こんなにビックリしてるんだもん、初めてだよ」間近で見たらとってもおっきくて、「ちょっとくぐってみるね」「フレちゃん皇帝のご帰還だね」歩いてみれば、なんだか道行く人の様子がヘン。すっごくレトロな、昔っぽいカッコ。ふりふりのドレスの裾を引きずったり、シルクハットに似合わないおヒゲ、でも女の子のエプロンドレス(襟もとに必殺のレース!)とか男の子の半ズボンとかは超キュート。どこのブランドなんだろ。今年の流行なのかな。気になって、こんにちはってかけた声は、大ショック、ムシされちゃった。ハロー、ボンジュール、何を言っても聞いてくれなくて、なんだか寂しいきもち。そしたら、しきちゃんが隣から「今、西暦何年?」って聞いて、男の子は『1839年だよ』ってかわいい声がしたと思ったら、次の瞬間には、あたしたちは地下室にいた。辺りを見回して、見知った景色を確かめて、しきちゃんのねこちゃんみたいな笑顔に癒される。「おもしろーい!」って第一声、どうやらそれはしきちゃんのツボを突いたらしくって「でしょでしょ、今朝見つけたんだー」って上機嫌。しきちゃんが楽しそうだとあたしも幸せになっちゃうから、しょうがない、説明もなしに飛び込んだことは忘れちゃった。だって、しきちゃんずっと手を繋いでてくれたし、それにサプライズって愛のあかしだよね。「フレちゃんは、これなんだと思う?」「格安海外旅行!」「にゃはは、99点」つまりは、時間旅行が楽しめる穴なんだって。ルール①過去のどこか別の時間、別の場所に行ける。ルール②なんとなく(これが大事)思い浮かべた場所に行ける。ルール③そこで人に関わったりはできないけど、一個だけ質問ができて、答えてもらったら帰れるらしくって「もう少し試行すれば細かい法則も見えそうだけど」ちょっと科学者モードのしきちゃんは下唇を人さし指で撫でながら呟く。「けど良かったよー」「なにが?」「だってホラ、このカッコ」ねまきのあたしたち、しきちゃんは黒いタンクトップにショートパンツ、あたしはピーチピンクのキャミソールにもこもこショートパンツ「わお、セクシー」「じゃ、着替えて続きだね」「コーヒー淹れなおしとくー」「あ、お菓子も食べたいなあ」「おおせのままにー」そうやって始まったお茶会、と時間旅行。お互いに思い浮かべる場所はナイショ。まず飛び込んだのは、なんと石器時代? 草原の真ん中でぼうぼう燃える木に向かって、たくさんの人がお祈りしてる。「怒ってる神様に許してもらいたいんだね」「キレイだからもう一回見せてほしいんだよ」あたしたち、重ねた視線をふにゃってやわらげて、繋いだ指先をちょっとだけ深くからめ合う。「蓄えはもう充分?」ってしきちゃん。答があって、次の瞬間には穴の前で座ってるあたしたち。コーヒーを一口飲んで、アイスは薄くなっちゃうけど氷がないとぬるくなっちゃうのが残念だよね。でもホットの季節じゃないし、まあいっか。バームクーヘンをかじって、んー、つぶつぶお砂糖がとってもデリシャス。お店、覚えとかなくちゃ。「たくわえって?」「時代と宗教観に学説との差異がないかなって」「ふんふん、実験結果はどうでした、しきハカセ?」「明らかな材料不足だよ、フレ君」どうやら実験は失敗? でも、しきちゃん楽しそうだから「じゃ、次いこー」「おっけー」飛び込んだのは、白い砂浜、青い海、大きな顔、石像。「にゃはは、かわいー」「でしょー、あたし超好きなの」モアイ像の前でピース。指でわっかを作って、しきちゃんのファインダーにあたしたちをバッチリおさめるの。おねんねしてるモアイの隣に、ちょっとくたびれたおじいさん。「あの帽子、おしゃれですか?」『身分を表してるんだよ』残念、あたしは絶対ファッションだって思ってたのに。次は砂漠、っていうか砂と石と岩が転がるお肌に優しくない景色。「あつーい」「ささっと済ませちゃお」そのへんに立っていた、ほとんど(これ重要!)はだかの女の子をつかまえて「あなたはどこから来たの?」『……(なんて言ったんだろ?)だよ』って地下室に帰って、それから、糸車を引いてる女の子、塔の上で暮らしてるラプンツェルじゃない誰か、ラッパのついた箱を前にウンウンうなってるおじさん、舞台を降りるカッチリきめててやつれたおじさん、ビーカーの中の青白い光を眺めてる女の人、大きな教会で大勢の人と豪華な装飾に囲まれたカップル(には見えなかったけど)、あたしたちは、色んな場所へ行ってたくさんの人と話した。いちばん面白かったのは、ふかーい森の中で話す人が誰もいなかったから道行く三匹のキツネ(きっと親子だね)に「コンコン」って話しかけたら『くん』って返事で帰れたこと。あたしとしきちゃんが、名前の呼び方で言いたいことがわかるのに似てるよね、ってひんやりした地下室で笑い合ってから「アイス、食べたくなっちゃった」「さんせーい」階段を上がって、「ね、日本って行ってないね」「国際派アイドル、悪くなーい」時間を見たらびっくり、お日様はもう下ってい��時間。「時間の経ち方がおかしい? それとも、あたしたちの主観のせい?」「時計もってく?」「んー、やめとく!」じゃあ、お昼にしようね。手早く作り上げたトマトとチーズの冷製パスタ、と買い置きのジュレ(ピンクグレープフルーツ!)にしたつづみを打って、おひるねの時間。「あっついよー」「あたしもー」って言いながらソファの上、あたしたちは折り重なって眠る。晴れても雨でも雪が降っても包丁が降っても、健やかなる時も病める時も、たぶん、けんかをしても。「おやすみ」って重ねた唇から、しきちゃんが中に入ってくる。あたしも中に入りこんで、熱くてながーい、おやすみのキス。頬とか首にさわりながら、ちょっと苦しくなるくらい(でもそれがちょうどいいの)のキスをして、そうして、意識はまどろんでいく。ざあざあ、ざあざあ、射し込むまっかな夕��けと、雨の音。よいしょって起き上がってしきちゃんを見たら、(あたしにピッタリくっついてたから)ほっぺに赤いあと。ママのチークを初めて塗った日を思い出して、かわいくて、おはようってキスをする。「フレちゃん、ねぐせー」いっしょに起きたのかなあ、しきちゃんはあたしの髪をくるくるして、おかえし。「今、なんじー?」ストロベリーホイップみたいな発音。「ないしょ」「そっかー、別にいっか」「そ、どーでもいいの」冷蔵庫からアメリカンチェリーを取り出して、半分こ。「ナントカ豪雨だねえ」「気象の魔法だねえ」大きな雨粒が夕焼けをバラバラにちぎっちゃって、そのかけらをレースカーテンが細切りにして、そうやって、色とりどりの光の粒がキラキラ宝石みたいに降り注いでる。けどあたしたち、互いしか見てない。自然がどんな魔法をかけたって、その全部をあたしたちはアクセサリーに変えちゃって、なんて、勝手きままにきらめく時間を生きてるんだろう。あくびをして、にじむ涙に反射する虹の色。ああ、きれいだなあ。「フレちゃん、フレちゃん」珍しく、ぱっちりお目覚めのしきちゃん「続き、行こ」続きって? そう言おうとして、手を引かれて、そっかって思い出す。ガレージ、地下室、その穴は、変わらないかがやきであたしたちを誘ってる。しきちゃんの目も、負けないくらいにかがやいてるから、それでいっかって思って「せーの」って、あたしたちは何度目かな、過去の世界へ飛び込んだ。と、同時に目の前を横切るワインレッドのロングヘア。振り返る、残像とキャリーケースの音だけを残して、その姿は扉の向こうに消えていった。「ねえ、」って、言いかけた言葉を飲み込む。射し込む真っ赤な夕焼け、バラバラと豪雨の反響。ちょっと時代がかったインテリアが目を引くけど、たぶん普通のおうちのリビング(綺麗なままの暖炉、たぶん使われてない)に立っている、しきちゃんは綺麗な青い目をこわれちゃいそうなくらいに開いて、呼吸は静かに震えてる。その視線を追って、壁に飾られた何枚もの写真。だぼだぼの白衣を着た小さな女の子。金色のトロフィーを右手に、左手はおっきなピースサイン。右隣には額縁、賞状を抱えた男の人、左隣には女の子の頭を撫でてる女の人、二人とも体に合ったサイズの白衣を身にまとって、とっても、よく、似てる。あたしが写真を追うより早く、しきちゃんの視線はそこを去る。追いかけて、リビングの奥、カウンターキッチンの奥には写真の中にいた女の人、ちょっと年をとったみたい。その人が傾けた瓶から流れ出す赤紫色の液体、をグラスで受け取る男の人の背中。くたびれた白いワイシャツは、なんだか、泣いてるみたいに見えた。『……そんな資格、僕にはないよ』『なら、私にもないと思うけど、あの子は……』ぽつりぽつり聞こえる声、から意識を外して、隣でうずくまって耳を塞いでる、しきちゃん。しゃがみこんで、名前を呼ぶ。唇の動きで伝える。「……ルール、もう一つあったんだ」目線が、ゆらゆらと揺れ動いてる。「天候が関係してる……こんな日だった」あたしを見てって、気持ちが届かない。「フレちゃん、見ないで。お願い……知らないでいて」そうして閉じた瞳のはじから、こぼれ落ちる、その時あたしは、しきちゃんの涙を初めて見た気がした。そうしたら、とどまってはいられない。だって、しきちゃんのピンチはあたしがどうにかするって決めたから。今、たった今! 立ち上がって、歩いていく。カウンター、隣に座って、その人たちを少しだけ見上げた。ルール、それを思い出す。「教えてください」この世界にはルールがある。ここを去るための言葉、そして、愛する人をもうちょっとだけ知るための言葉を口にして、その答を胸に、あたしたちは(また少し、冷え込んだ)地下室へ帰ってくる。まだ呆然としてる、しきちゃんの手を引いて(地下室へ続く扉は閉じて)ガレージから、リビングへ。しきちゃんをソファに落ち着けて、あたしは冷蔵庫を開く。目当てを物色して、足りないから「しきちゃん、行こー」「……どこに?」「スーパーマーケットだよ」「雨は」「止んでる」ほんとだ、って今気付いたんだね、まっすぐに射し込む夕日に、眩しそうに目を細める。手を繋いで、歩いて三分のスーパーで、たった一つ、たまねぎを買う。キッチンにフライパンとおなべ、食材をごっそり並べて、さあ、始めよっか。しきちゃんは、ソファの上からぼんやり、不思議そうにあたしを見てる。ずっとそうしててって思いながら、あたしは半分に切っただけのたまねぎを、崩れないようにそっとおなべに入れる。あたしだけを、見ててほしいよ。願い続けた二時間で作り上げた、とろっとろのビーフシチュー、切り分けたフランスパン、温野菜サラダ、プレーンヨーグルト、それに調味料をたくさん並べたら「召し上がってしるぶぷれー」って食卓へ、しきちゃんをご招待。かわいいおめめをぱちくりさせる、その唇に、「はい、あーん」ってスプーンを連れていく。もぐもぐほっぺをふくらませる、その目に湧き上がる驚き、かがやき。次の一口は、自分から。もぐもぐ、ごっくん。「フレちゃん……」って、しきちゃんは、あたしの名前をいちばん綺麗に呼んでくれるんだ。「食卓に愛は宿るって、エラい人が言ってたよ」誰が言ったのか忘れちゃったけど、それはあたしにとって、紛れのない真実で、このビーフシチューのレシピ(牛肉の臭みは特に丁寧に抜いて、たまねぎは半分にしたのをとろとろになるまで煮込むこと、ニンジンは苦手だからって言ってたけど今はそうじゃないんだよ、アクはおいしさでもあるから七割取るくらいでガマンする、エトセトラエトセトラ)には確かに、あたしたちの、愛が宿ってる。「ふふーん、おいしかった?」空っぽになったお皿に(ホントに、きれいにごはんを食べるよね)にやけちゃうあたしにしきちゃんは、「おかわり!」って、くしゃくしゃな笑顔を差し出した。そうしてあたしたち食卓を囲んで「今日も楽しかった��え」「明日も楽しい日になるよ」「あ、予言?」「ぶぶー、統計。フレちゃんに会ってから、楽しくない日なんてない」「あたしも、しきちゃんに会ってから毎日楽しいなあ」そう、人生でいちばん楽しい日が毎日続いてる。それから、おふろに入って、スキンケア、鏡の前に並んで歯を磨いて、あくびがこぼれたら一つのベッドに入る。眠っちゃうまでに、たくさんの言葉とか行為とかで愛を伝え合って、でもどれだけ重ねても足りなくて、良かった、まだこの先があるんだ、ずーっと続いていくんだってあたしたちは折り重なって眠る。知ってた? 現実が満ちてると、夢も見ないんだよ。白い光が降って、目を覚ます午前八時。ケータイを開いたら届いてたのは、昨日、思い出した友達が赤ちゃんをだっこしてる超ハッピーな写真。『いつでも遊びにきてね』なんて言われたらあたしいつでも行っちゃう、けど、いつでも隣にいるしきちゃんの姿が今日はなくて、ぼんやり起き上がって「しきちゃーん、どこー」って寝室を抜け出す。あ、いいにおいって気付いたら、しきちゃんがキッチンでおなべを前にほほえんでた。「おはよう」のキス。右のほっぺ、左のほっぺ、おでこにも。「もうちょっと待っててね」ってあっためるビーフシチュー。あたしは飲み物の用意と、デザートは切らしててちょっとショック。「あの穴、塞いできたー」キッチンから、しきちゃんが呼びかける。「オッケー」って返事してぼやける目をこすってたら、おなべを食卓に置いたしきちゃんが、差し出す光のかけら。「とってきちゃった」って、穴の中でキラキラ輝いてたガラス、みたいなもの。受け取って、朝日に透かして、何か見えたような気がしたけれど、覗き返したしきちゃんの青い瞳がぐりんっておっきく見えただけだった。「思い出、また増えたね」って、窓辺の花、フランセスちゃんの隣に並べたら、きゅーんっておなかが鳴って、「フレちゃん、蠕動音もキュートだね」「やだ、誉めないで聞かないでー」って笑い合う。一日寝かせたビーフシチューはやっぱり絶品で、今日はいい一日になるって予感を確信に変えた。「なにしよっかー」ってしきちゃん。「行きたい場所があるんだー」ってあたし。「どこどこ?」「あたしのおうち」「パリの?」「ニッポン、トーキョー」「どうして?」「だって、しきちゃんのママとパパ、紹介してもらったもん」「……いいの?」「絶対しきちゃんも好きになるし、ママもパパもしきちゃんのこと好きになるよー」「……にゃは、三角、四角関係だ」「えー、困るけど、でもみんなまとめてラビューしてあげちゃお」「ラビューラビュー、あたしも今、フレちゃんとおんなじきもち」足早に、だけどちゃんと味わって食事を済ませて、お片づけ、身だしなみを整えて、「あ、ご挨拶の品、持ってない」「じゃあショッピングしてから行こー」って手を繋いで、あたしたちは真っ白な光の中へ足を踏み出していく。ハロー、こんにちは、それともボンジュール、二人で生きるこの世界。それがあんまり愛おしくってあたし、しきちゃんの唇にキスをしたんだ。
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zbame · 2 years
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肌に優しいオーガニックコットンを使った半襟です。 襟元にやわらかい感触を楽しみつつ、綿の温かさに守られる半襟 気温が下がり空気が乾燥する、これからの季節に重宝いたします。 ワンポイントの柄で着物姿に新鮮な雰囲気を。 現在は在庫が三点ですが、他の柄での制作も承ります。 お気軽にお問い合わせくださいませ。 オーガニックコットン半襟 https://zbame.thebase.in/categories/460575 ツバメ堂BASE店 https://zbame.thebase.in/ -------------------------------------------------------------------- #BASE @baseec で使える84時間限定 10%OFFクーポン配布中です クーポンコード 【black2021】 2021年11月26日(金)12:00〜2021年11月29日(月)23:59 ※商品購入画面で入力してください ※配布予定枚数を超えた場合、利用期限前に終了する可能性があります ※送料をのぞく注文金額が1,000円以上のお買い物からご利用になれます ※ネットショップおよびショッピングアプリ「BASE」を問わず、おひとり様1回限り有効です ※クレジットカード決済時も注文後の決済金額の変更はできません ※Apple Payおよびショップコインをご利用の場合、本クーポンは使用できません ほかのクーポンとの併用はできません ----------------------------------------------------------------------------------- #オーガニックコットン半襟 #着物でオーガニックコットン #肌に優しい半襟 #環境を考える半襟 #ワンポイント半襟 #普段着物 #カジュアル着物 https://www.instagram.com/p/CWXIkt5rNhC/?utm_medium=tumblr
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hayashi-karin · 2 years
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“貝” (2021)
お姉さん私実は今好きな人がいるの。同じ部署で、一年半前くらいに入ってきた人がいて、私の職場人が少ないじゃない、私だってその時入って半年経つか経たないかそのくらいだったんだけど、自然な流れ?空気で私がいろいろ教えなきゃいけなくなってしまって。でもそういうのって正直めんどうくさいじゃない、自分の仕事もあるのに新人の仕事の世話も見てなきゃいけないなんて。だからたまに気づかないふりしたりして、上司にもうまく指導をやらせたりとかやってたんだけど。まあそれはいいとして、最初はその人に教えるのと、自分の仕事を両立しなきゃでもう精一杯で、その人のこと別になんとも思わなかったの。思う暇もないし。見た目は確かに身長が少し高くて、襟足もね、いつ見ても繁忙期だろうと常に綺麗に刈られているの。一昨年お母さんとお姉さんと行った長野の高原なんか思い出しちゃうくらい綺麗なのよ。例え気持ち悪いかしら。顔はなんていうのかしら、ちょっと猫に似てるのかしら。いつも最寄り駅行く途中に歯医者さんの隣の家の前を通るでしょ、そうするとリビングの網戸越しに猫ちゃんいるじゃない、あらお姉さん見かけない?私が出るときにはいつもいるんだけれど、オレンジ茶色っぽいような毛のね猫で、正直可愛いっていうよりむっくりしてて穏やかな顔してるんだけれど、その猫に似ているかしら。体自体は細身なんだけど、顔はほんのり猫みたいな丸みがあって普通の時は目がまん丸なんだけど、笑うと面相筆で引いた線みたいになっちゃうの。そういう顔の人ってまあもてるわよね。わかってるわ��そんなの。それである時私の部署の終業時間が結構遅くなっちゃった時あって、そのまま飲みにでも行こうか、なんて流れがあったんだけど、近くのさ、お姉さんとも行ったことあるあのモツ煮屋さん、行ったのよ。私の隣にその人座ってみんなで飲み始めたのよ。ってもまあそんなみんないい歳だし小さい職場だから大騒ぎするような飲み会ではなくてね、前にいた会社の人の話とか、自分の子供が幼稚園に入園したとか、そういう他愛もない話を細々たまに笑いながら話していたのよ。三杯くらい飲んで時間も時間なので解散しましょうってなって、私だけほら私鉄じゃない、だから駅がちょっと違う方向でしょ、おつかれさまでしたって言って一人で歩いて駅に向かおうとしたのよ。そしたらその人が私もこっちなんです、って。あ、そうなんですねー、私鉄の人いなかったから誰かと帰るのは久しぶりですーて、そしたら私は駅じゃなくてここから三十分も歩かないところに住んでて、なので駅までは行かないんですけどもって。あら、でもそこそこ歩きますね、気温結構下がってきましたね。そうですね〜中に薄いダウン着てくればよかったなと後悔してます。なーんてさっきの飲み会と同じくらい普通の会話してたんだけど、そしたら道の真ん中に貝殻が落ちててさ、牡蠣とかホタテとかならあそこらへん飲み屋多いしそこの廃棄したやつかな〜なんて思うけど、明らかに綺麗な南国の海の砂浜に落ちてないとおかしいようなのでさ、えーこれなんですかねってなってケータイで調べたのよ。そしたらまあ九州とか台湾とかにいるようなやつだったんだけど、えっとねぇ名前がうーんとNHKの昔の歌謡の名前みたいな、えーと、あ、なんかいーとーまきまきみたいな歌に似てる名前なのよ、もう思い出せないわ。すごく大きくて手のひらくらいある貝なのよ。その貝を拾ったはいいけど、持って帰ります?ってなって、私そういうの集めるの好きだけど結局ごちゃごちゃしちゃって埃被せちゃうから、よかったら持ってってくださいって、なんなら見たくなったら見に行きますからって言っちゃたのよ。下心なんて〇パーセント発言よ、若い時なら計画性百パーセントでそういうことを発言できたものだけど、三十にもなると気が緩んでるからお誘いと捉えられても仕方ないことを言ってしまう。体と一緒に脳みそも緩むのね全く。その人優しいから、ではぜひ、これはキッチンの流しとかちょっと汚れやすそうなところに置いて、綺麗にするように心がけるために置いておこうかな、って言って。そうやって自然に話のレールを替えてくれるところも素敵よね。まあ自分がそういうことを言ってしまったのを後から気になり始めちゃってそれで同時多発的にその人のことも気になり始めちゃって。あんなこと言って気持ち悪いとか思ってなかったかなぁなんて次の週からソワソワしてきちゃって。まあその後もちょっと仕事教えたりとか、たまにお昼一緒に食べたりして、で最近久しぶりに貝のこと聞いてみたの。ちゃんと飾ってありますか?って。そしたら置いてありますよ!よかったら今日見に来ますか?拾った時からちょっとなんか様子が変わって、よかったら見てもらいたいんです、って言われて。これってちょっと緊張していいやつよね。化粧直しなんて普段しないけど化粧直しとかしちゃって、仕事も気のせいかいつもより丁寧に仕上げたりとかしちゃって、その人の方が早く仕事終わって先に帰ったのね、帰ったってまあその人がその人の家にってことなんだけど。で住所伝えられてたから検索して歩いて行って、手ぶらじゃあれだから小さいケーキ屋さん見つけてそこでケーキ買って。緊張しながらお家に入れてもらったのね。そしたら2LDK?の部屋にその人は一人暮らしではなくて綺麗な女の人が二人と一緒に住んでいたのね。そういう時って普通その人がすぐに紹介するか、その女の人たちが挨拶するものだと思うけど、それがなかったからお姉様ですか?って聞いたの。そしたら二人とも口角をちょっとだけ上げるだけでうんともすんとも言わないのね。それでその人に、ご家族で暮らしているんですか?ってきいたの。そしたらちょっとこちらに来てください。って言われてキッチンに連れてかれたの、リビングにつながる扉を閉められてね、なんか不気味だなと思ったんだけれど。やっぱりどうしても気になるからまたさっきの女性はお姉様ですか?って聞いたら、あの女性はこの貝から出てきました。って言うのね。いやなにを言ってるんだろうと思って、ちょっとええ〜って感じで笑っちゃったのよ。いやほんとなんです。ってその人も優しいから笑いながら言ってくれるんだけど、信じてくれないだろうけど本当なんですよ。ってずっと言うわけ。で、どういう経緯か話してくれたんだけど、あの貝を持って帰ってからしばらくして、お付き合いしてた人とお別れになったんだって、そういう人いたんだって感じなんだけど、それでまあ別れたらちょっと気分落ち込むじゃない、それで人肌さびしくなって新しい恋人の想像なんてしたんですって。それで次付き合うならこういうスタイルの人で、見た目で、性格でって、どんどん自分の思った通りの恋人を想像してたら沈んだ気分も和らいできたみたいで、ふと台所の方に目をやると煙が出てると。火事だと思って慌てて見にいくとあの貝の先っぽから煙が出ていたらしくその煙はどんどん固体のように凝固していくそうよ。呆気にとられて見ているとさっき想像してた通りの人間が出てきたそうよ。出てきた人はまるでそこにずっと住んでたかのように振舞ってそのあと「今日は近くの中華料理屋でテイクアウトして食べない?」なんてその人に言ってきたそうで。しばらく日にちが経ってからもう一度その貝を試しに使ってみたら、また理想の人が出てきちゃったもんだから今は三人で暮らしてるんだって。それでもう私はこれ以上この家に人を住まわせることはできないからこの貝良ければもらってくれませんか?って言われてね。それで貝をもらって帰ってきたの。それでたくさん頭の中で自分の思うがままに理想の人を考えたわ。着せ替え人形で遊んだ時くらいワクワクしたわ。そしたらその人が言うように貝から煙が出てきて、それはもう最高の人が出てきたわよ。お姉さん近いうち家に遊びにきてよ。
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toubi-zekkai · 3 years
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厚着紳士
 夜明けと共に吹き始めた強い風が乱暴に街の中を掻き回していた。猛烈な嵐到来の予感に包まれた私の心は落ち着く場所を失い、未だ薄暗い部屋の中を一人右往左往していた。  昼どきになると空の面は不気味な黒雲に覆われ、強面の風が不気味な金切り声を上げながら羊雲の群れを四方八方に追い散らしていた。今にも荒れた空が真っ二つに裂けて豪雨が降り注ぎ蒼白い雷の閃光とともに耳をつんざく雷鳴が辺りに轟きそうな気配だったが、一向に空は割れずに雨も雷も落ちて来はしなかった。半ば待ち草臥れて半ば裏切られたような心持ちとなって家を飛び出した私はあり合わせの目的地を決めると道端を歩き始めた。
 家の中に居た時分、壁の隙間から止め処なく吹き込んで来る冷たい風にやや肌寒さを身に感じていた私は念には念を押して冬の格好をして居た。私は不意に遭遇する寒さと雷鳴と人間というものが大嫌いな人間だった。しかし家の玄関を出てしばらく歩いてみると暑さを感じた。季節は四月の半ばだから当然である。だが暑さよりもなおのこと強く肌身に染みているのは季節外れの格好をして外を歩いている事への羞恥心だった。家に戻って着替えて来ようかとも考えたが、引き返すには惜しいくらいに遠くまで歩いて来てしまったし、つまらない羞恥心に左右される事も馬鹿馬鹿しく思えた。しかしやはり恥ずかしさはしつこく消えなかった。ダウンジャケットの前ボタンを外して身体の表面を涼風に晒す事も考えたが、そんな事をするのは自らの過ちを強調する様なものでなおのこと恥ずかしさが増すばかりだと考え直した。  みるみると赤い悪魔の虜にされていった私の視線は自然と自分の同族を探し始めていた。この羞恥心を少しでも和らげようと躍起になっていたのだった。併せて薄着の蛮族達に心中で盛大な罵詈雑言を浴びせ掛けることも忘れなかった。風に短いスカートの裾を靡かせている女を見れば「けしからん破廉恥だ」と心中で眉をしかめ、ポロシャツの胸襟を開いてがに股で歩いている男を見れば「軟派な山羊男め」と心中で毒づき、ランニングシャツと短パンで道をひた向きに走る男を見れば「全く君は野蛮人なのか」と心中で断罪した。蛮族達は吐いて捨てる程居るようであり、片時も絶える事無く非情の裁きを司る私の目の前に現れた。しかし一方肝心の同志眷属とは中々出逢う事が叶わなかった。私は軽薄な薄着蛮族達と擦れ違うばかりの状況に段々と言い知れぬ寂寥の感を覚え始めた。今日の空が浮かべている雲の表情と同じように目まぐるしく移り変わって行く街色の片隅にぽつ念と取り残されている季節外れの男の顔に吹き付けられる風は全く容赦がなかった。  すると暫くして遠く前方に黒っぽい影が現れた。最初はそれが何であるか判然としなかったが、姿が近付いて来るにつれて紺のロングコートを着た中年の紳士だという事が判明した。厚着紳士の顔にはその服装とは対照的に冷ややかで侮蔑的な瞳と余情を許さない厳粛な皺が幾重も刻まれていて、風に靡く薄く毛の細い頭髪がなおのこと厳しく薄ら寒い印象に氷の華を添えていた。瞬く間に私の身内を冷ややかな緊張が走り抜けていった。強張った背筋は一直線に伸びていた。私の立場は裁く側から裁かれる側へと速やかに移行していた。しかし同時にそんな私の顔にも彼と同じ冷たい眼差しと威厳ある皺がおそらくは刻まれて居たのに違いない。私の面持ちと服装に疾風の如く視線を走らせた厚着紳士の瞳に刹那ではあるが同類を見つけた時に浮かぶあの親愛の情が浮かんでいた。  かくして二人の孤独な紳士はようやく相まみえたのだった。しかし紳士たる者その感情を面に出すことをしてはいけない。笑顔を見せたり握手をする等は全くの論外だった。寂しく風音が響くだけの沈黙の内に二人は互いのぶれない矜持を盛大に讃え合い、今後ともその厚着ダンディズムが街中に蔓延る悪しき蛮習に負けずに成就する事を祈りつつ、何事も無かったかの様に颯然と擦れ違うと、そのまま振り返りもせずに各々の目指すべき場所へと歩いて行った。  名乗りもせずに風と共に去って行った厚着紳士を私は密かな心中でプルースト君と呼ぶ事にした。プルースト君と出逢い、列風に掻き消されそうだった私の矜持は不思議なくらい息を吹き返した。羞恥心の赤い炎は青く清浄な冷や水によって打ち消されたのだった。先程まで脱ぎたくて仕方のなかった恥ずかしいダウンジャケットは紳士の礼服の風格を帯び、私は風荒れる街の道を威風堂々と闊歩し始めた。  しかし道を一歩一歩進む毎に紳士の誇りやプルースト君の面影は嘘のように薄らいでいった。再び羞恥心が生い茂る雑草の如く私の清らかな魂の庭園を脅かし始めるのに大して時間は必要無かった。気が付かないうちに恥ずかしい事だが私はこの不自然な恰好が何とか自然に見える方法を思案し始めていた。  例えば私が熱帯や南国から日本に遣って来て間もない異国人だという設定はどうだろうか?温かい国��ら訪れた彼らにとっては日本の春の気候ですら寒く感じるはずだろう。当然彼らは冬の格好をして外を出歩き、彼らを見る人々も「ああ彼らは暑い国の人々だからまだ寒く感じるのだな」と自然に思うに違いない。しかし私の風貌はどう見ても平たい顔の日本人であり、彼らの顔に深々と刻まれて居る野蛮な太陽の燃える面影は何処にも見出す事が出来無かった。それよりも風邪を引いて高熱を出して震えている病人を装った方が良いだろう。悪寒に襲われながらも近くはない病院へと歩いて行かねばならぬ、重苦を肩に背負った病の人を演じれば、見る人は冬の格好を嘲笑うどころか同情と憐憫の眼差しで私を見つめる事に違いない。こんな事ならばマスクを持ってくれば良かったが、マスク一つを取りに帰るには果てしなく遠い場所まで歩いて来てしまった。マスクに意識が囚われると、マスクをしている街の人間の多さに気付かされた。しかし彼らは半袖のシャツにマスクをしていたりスカートを履きながらマスクをしている。一体彼らは何の為にマスクをしているのか理解に苦しんだ。  暫くすると、私は重篤な病の暗い影が差した紳士見習いの面持ちをして難渋そうに道を歩いていた。それは紳士である事と羞恥心を軽減する事の折衷策、悪く言うならば私は自分を誤魔化し始めたのだった。しかしその効果は大きいらしく、擦れ違う人々は皆同情と憐憫の眼差しで私の顔を伺っているのが何となく察せられた。しかしかの人々は安易な慰めを拒絶する紳士の矜持をも察したらしく私に声を掛けて来る野暮な人間は誰一人として居なかった。ただ、紐に繋がれて散歩をしている小さな犬がやたらと私に向かって吠えて来たが、所詮は犬や猫、獣の類にこの病の暗い影が差した厚着紳士の美学が理解出来るはずも無かった。私は子犬に吠えられ背中や腋に大量の汗を掻きながらも未だ誇りを失わずに道を歩いていた。  しかし度々通行人達の服装を目にするにつれて、段々と私は自分自身が自分で予想していたよりは少数部族では無いという事に気が付き始めていた。歴然とした厚着紳士は皆無だったが、私のようにダウンを着た厚着紳士見習い程度であったら見つける事もそう難しくはなかった。恥ずかしさが少しずつ消えて無くなると抑え込んでいた暑さが急激に肌を熱し始めた。視線が四方に落ち着かなくなった私は頻りと人の視線を遮る物陰を探し始めた。  泳ぐ視線がようやく道の傍らに置かれた自動販売機を捉えると、駆けるように近付いて行ってその狭い陰に身を隠した。恐る恐る背後を振り返り誰か人が歩いて来ないかを確認すると運悪く背後から腰の曲がった老婆が強風の中難渋そうに手押し車を押して歩いて来るのが見えた。私は老婆の間の悪さに苛立ちを隠せなかったが、幸いな事に老婆の背後には人影が見られなかった。あの老婆さえ遣り過ごしてしまえばここは人々の視線から完全な死角となる事が予測出来たのだった。しかしこのまま微動だにせず自動販売機の陰に長い間身を隠しているのは怪し過ぎるという思いに駆られて、渋々と歩み出て自動販売機の目の前に仁王立ちになると私は腕を組んで眉間に深い皺を作った。買うべきジュースを真剣に吟味選抜している紳士の厳粛な態度を装ったのだった。  しかし風はなお強く老婆の手押し車は遅々として進まなかった。自動販売機と私の間の空間はそこだけ時間が止まっているかのようだった。私は緊張に強いられる沈黙の重さに耐えきれず、渋々ポケットから財布を取り出し、小銭を掴んで自動販売機の硬貨投入口に滑り込ませた。買いたくもない飲み物を選ばさられている不条理や屈辱感に最初は腹立たしかった私もケース内に陳列された色取り取りのジュース缶を目の前にしているうちに段々と本当にジュースを飲みたくなって来てその行き場の無い怒りは早くボタンを押してジュースを手に入れたいというもどかしさへと移り変わっていった。しかし強風に負けじとか細い腕二つで精一杯手押し車を押して何とか歩いている老婆を責める事は器量甚大懐深き紳士が為す所業では無い。そもそも恨むべきはこの強烈な風を吹かせている天だと考えた私は空を見上げると恨めしい視線を天に投げ掛けた。  ようやく老婆の足音とともに手押し車が地面を擦る音が背中に迫った時、私は満を持して自動販売機のボタンを押した。ジュースの落下する音と共に私はペットボトルに入ったメロンソーダを手に入れた。ダウンの中で汗を掻き火照った身体にメロンソーダの冷たさが手の平を通して心地よく伝わった。暫くの間余韻に浸っていると老婆の手押し車が私の横に現れ、みるみると通り過ぎて行った。遂に機は熟したのだった。私は再び自動販売機の物陰に身を隠すと念のため背後を振り返り人の姿が見えない事を確認した。誰も居ないことが解ると急ぐ指先でダウンジャケットのボタンを一つまた一つと外していった。最後に上から下へとファスナーが降ろされると、うっとりとする様な涼しい風が開けた中のシャツを通して素肌へと心地良く伝わって来た。涼しさと開放感に浸りながら手にしたメロンソーダを飲んで喉の渇きを潤した私は何事も無かったかのように再び道を歩き始めた。  坂口安吾はかの著名な堕落論の中で昨日の英雄も今日では闇屋になり貞淑な未亡人も娼婦になるというような意味の事を言っていたが、先程まで厚着紳士見習いだった私は破廉恥な軟派山羊男に成り下がってしまった。こんな格好をプルースト君が見たらさぞかし軽蔑の眼差しで私を見詰める事に違いない。たどり着いた駅のホームの長椅子に腰をかけて、何だか自身がどうしようもなく汚れてしまったような心持ちになった私は暗く深く沈み込んでいた。膝の上に置かれた飲みかけのメロンソーダも言い知れぬ哀愁を帯びているようだった。胸を内を駆け巡り始めた耐えられぬ想いの脱出口を求めるように視線を駅の窓硝子越しに垣間見える空に送ると遠方に高く聳え立つ白い煙突塔が見えた。煙突の先端から濛々と吐き出される排煙が恐ろしい程の速さで荒れた空の彼岸へと流されている。  耐えられぬ思いが胸の内を駆け駅の窓硝子越しに見える空に視線を遣ると遠方に聳える白い煙突塔から濛々と吐き出されている排煙が恐ろしい速度で空の彼岸へと流されている様子が見えた。目には見えない風に流されて行く灰色に汚れた煙に対して、黒い雲に覆われた空の中に浮かぶ白い煙突塔は普段青い空の中で見ている雄姿よりもなおのこと白く純潔に光り輝いて見えた。何とも言えぬ気持の昂ぶりを覚えた私は思わずメロンソーダを傍らに除けた。ダウンジャケットの前ボタンに右手を掛けた。しかしすぐにまた思い直すと右手の位置を元の場所に戻した。そうして幾度となく決意と逡巡の間を行き来している間に段々と駅のホーム内には人間が溢れ始めた。強風の影響なのか電車は暫く駅に来ないようだった。  すると駅の階段を昇って来る黒い影があった。その物々しく重厚な風貌は軽薄に薄着を纏った人間の群れの中でひと際異彩を放っている。プルースト君だった。依然として彼は分厚いロングコートに厳しく身を包み込み、冷ややかな面持ちで堂々と駅のホームを歩いていたが、薄い頭髪と額には薄っすらと汗が浮かび、幅広い額を包むその辛苦の結晶は天井の蛍光灯に照らされて燦燦と四方八方に輝きを放っていた。私にはそれが不撓不屈の王者だけが戴く栄光の冠に見えた。未だ変わらずプルースト君は厚着紳士で在り続けていた。  私は彼の胸中に宿る鋼鉄の信念に感激を覚えると共に、それとは対照的に驚く程簡単に退転してしまった自分自身の脆弱な信念を恥じた。俯いて視線をホームの床に敷き詰められた正方形タイルの繋ぎ目の暗い溝へと落とした。この惨めな敗残の姿が彼の冷たい視線に晒される事を恐れ心臓から足の指の先までが慄き震えていた。しかしそんな事は露とも知らぬプルースト君はゆっくりとこちらへ歩いて来る。迫り来る脅威に戦慄した私は慌ててダウンのファスナーを下から上へと引き上げた。紳士の体裁を整えようと手先を闇雲に動かした。途中ダウンの布地が間に挟まって中々ファスナーが上がらない問題が浮上したものの、結局は何とかファスナーを上まで閉め切った。続けてボタンを嵌め終えると辛うじて私は張りぼてだがあの厚着紳士見習いの姿へと復活する事に成功した。  膝の上に置いてあった哀愁のメロンソーダも何となく恥ずかしく邪魔に思えて、隠してしまおうとダウンのポケットの中へとペットボトルを仕舞い込んでいた時、華麗颯爽とロングコートの紺色の裾端が視界の真横に映り込んだ。思わず私は顔を見上げた。顔を上方に上げ過ぎた私は天井の蛍光灯の光を直接見てしまった。眩んだ目を閉じて直ぐにまた開くとプルースト君が真横に厳然と仁王立ちしていた。汗ばんだ蒼白い顔は白い光に包まれてなおのこと白く、紺のコートに包まれた首から上は先程窓から垣間見えた純潔の白い塔そのものだった。神々しくさえあるその立ち姿に畏敬の念を覚え始めた私の横で微塵も表情を崩さないプルースト君は優雅な動作で座席に腰を降ろすとロダンの考える人の様に拳を作った左手に顎を乗せて対岸のホームに、いやおそらくはその先の彼方にある白い塔にじっと厳しい視線を注ぎ始めた。私は期待を裏切らない彼の態度及び所作に感服感激していたが、一方でいつ自分の棄教退転が彼に見破られるかと気が気ではなくダウンジャケットの中は冷や汗で夥しく濡れ湿っていた。  プルースト君が真実の威厳に輝けば輝く程に、その冷たい眼差しの一撃が私を跡形もなく打ち砕くであろう事は否応無しに予想出来る事だった。一刻も早く電車が来て欲しかったが、依然として電車は暫くこの駅にはやって来そうになかった。緊張と沈黙を強いられる時間が二人の座る長椅子周辺を包み込み、その異様な空気を察してか今ではホーム中に人が溢れ返っているのにも関わらず私とプルースト君の周りには誰一人近寄っては来なかった。群衆の騒めきでホーム内は煩いはずなのに不思議と彼らの出す雑音は聞こえなかった。蟻のように蠢く彼らの姿も全く目に入らず、沈黙の静寂の中で私はただプルースト君の一挙手に全神経を注いでいた。  すると不意にプルースト君が私の座る右斜め前に視線を落とした。突然の動きに驚いて気が動転しつつも私も追ってその視線の先に目を遣った。プルースト君は私のダウンジャケットのポケットからはみ出しているメロンソーダの頭部を見ていた。私は愕然たる思いに駆られた。しかし今やどうする事も出来ない。怜悧な思考力と電光石火の直観力を併せ持つ彼ならばすぐにそれが棄教退転の証拠だという事に気が付くだろう。私は半ば観念して恐る恐るプルースト君の横顔を伺った。悪い予感は良く当たると云う。案の定プルースト君の蒼白い顔の口元には哀れみにも似た冷笑が至極鮮明に浮かんでいた。  私はというとそれからもう身を固く縮めて頑なに瞼を閉じる事しか出来なかった。遂に私が厚着紳士道から転がり落ちて軟派な薄着蛮族の一員と成り下がった事を見破られてしまった。卑怯千万な棄教退転者という消す事の出来ない烙印を隣に座る厳然たる厚着紳士に押されてしまった。  白い煙突塔から吐き出された排煙は永久に恥辱の空を漂い続けるのだ。あの笑みはかつて一心同体であった純白の塔から汚れてしまった灰色の煙へと送られた悲しみを押し隠した訣別の笑みだったのだろう。私は彼の隣でこのまま電車が来るのを待ち続ける事が耐えられなくなって来た。私にはプルースト君と同じ電車に乗る資格はもう既に失われているのだった。今すぐにでも立ち上がってそのまま逃げるように駅を出て、家に帰ってポップコーンでも焼け食いしよう、そうして全てを忘却の風に流してしまおう。そう思っていた矢先、隣のプルースト君が何やら慌ただしく動いている気配が伝わってきた。私は薄目を開いた。プルースト君はロングコートのポケットの中から何かを取り出そうとしていた。メロンソーダだった。驚きを隠せない私を尻目にプルースト君は渇き飢えた飼い豚のようにその薄緑色の炭酸ジュースを勢い良く飲み始めた。みるみるとペットボトルの中のメロンソーダが半分以上が無くなった。するとプルースト君は下品極まりないげっぷを数回したかと思うと「暑い、いや暑いなあ」と一人小さく呟いてコートのボタンをそそくさと外し始めた。瞬く間にコートの前門は解放された。中から汚い染みの沢山付着した白いシャツとその白布に包まれただらしのない太鼓腹が堂々と姿を現した。  私は暫くの間呆気に取られていた。しかしすぐに憤然と立ち上がった。長椅子に座ってメロンソーダを飲むかつてプルースト君と言われた汚物を背にしてホームの反対方向へ歩き始めた。出来る限りあの醜悪な棄教退転者から遠く離れたかった。暫く歩いていると、擦れ違う人々の怪訝そうな視線を感じた。自分の顔に哀れな裏切り者に対する軽侮の冷笑が浮かんでいる事に私は気が付いた。  ホームの端に辿り着くと私は視線をホームの対岸にその先の彼方にある白い塔へと注いた。黒雲に覆われた白い塔の陰には在りし日のプルースト君の面影がぼんやりとちらついた。しかしすぐにまた消えて無くなった。暫くすると白い塔さえも風に流れて来た黒雲に掻き消されてしまった。四角い窓枠からは何も見え無くなり、軽薄な人間達の姿と騒めきが壁に包まれたホーム中に充満してい���た。  言い知れぬ虚無と寂寥が肌身に沁みて私は静かに両の瞳を閉じた。周囲の雑音と共に色々な想念が目まぐるしく心中を通り過ぎて行った。プルースト君の事、厚着紳士で在り続けるという事、メロンソーダ、白い塔…、プルースト君の事。凡そ全てが雲や煙となって無辺の彼方へと押し流されて行った。真夜中と見紛う暗黒に私の全視界は覆われた。  間もなくすると闇の天頂に薄っすらと白い点が浮かんだ。最初は小さく朧げに白く映るだけだった点は徐々に膨張し始めた。同時に目も眩む程に光り輝き始めた。終いには白銀の光を溢れんばかりに湛えた満月並みの大円となった。実際に光は丸い稜線から溢れ始めて、激しい滝のように闇の下へと流れ落ち始めた。天頂から底辺へと一直線に落下する直瀑の白銀滝は段々と野太くなった。反対に大円は徐々に縮小していって再び小さな点へと戻っていった。更にはその点すらも闇に消えて、視界から見え無くなった直後、不意に全ての動きが止まった。  流れ落ちていた白銀滝の軌跡はそのままの光と形に凝固して、寂滅の真空に荘厳な光の巨塔が顕現した。その美々しく神々しい立ち姿に私は息をする事さえも忘れて見入った。最初は塔全体が一つの光源体の様に見えたが、よく目を凝らすと恐ろしく小さい光の結晶が高速で点滅していて、そうした極小微細の光片が寄り集まって一本の巨塔を形成しているのだという事が解った。その光の源が何なのかは判別出来なかったが、それよりも光に隙間無く埋められている塔の外壁の内で唯一不自然に切り取られている黒い正方形の個所がある事が気になった。塔の頂付近にその不可解な切り取り口はあった。怪しみながら私はその内側にじっと視線を集中させた。  徐々に瞳が慣れて来ると暗闇の中に茫漠とした人影の様なものが見え始めた。どうやら黒い正方形は窓枠である事が解った。しかしそれ以上は如何程目を凝らしても人影の相貌は明確にならなかった。ただ私の方を見ているらしい彼が恐ろしい程までに厚着している事だけは解った。あれは幻の厚着紳士なのか。思わず私は手を振ろうとした。しかし紳士という言葉の響きが振りかけた手を虚しく元の位置へと返した。  すると間も無く塔の根本周辺が波を打って揺らぎ始めた。下方からから少しずつ光の塔は崩れて霧散しだした。朦朧と四方へ流れ出した光群は丸く可愛い尻を光らせて夜の河を渡っていく銀蛍のように闇の彼方此方へと思い思いに飛んで行った。瞬く間に百千幾万の光片が暗闇一面を覆い尽くした。  冬の夜空に散りばめられた銀星のように暗闇の満天に煌く光の屑は各々少しずつその輝きと大きさを拡大させていった。間もなく見つめて居られ無い程に白く眩しくなった。耐えられ無くなった私は思わず目を見開いた。するとまた今度は天井の白い蛍光灯の眩しさが瞳を焼いた。いつの間にか自分の顔が斜め上を向いていた事に気が付いた。顔を元の位置に戻すと、焼き付いた白光が徐々に色褪せていった。依然として変わらぬホームの光景と。周囲の雑多なざわめきが目と耳に戻ると、依然として黒雲に覆い隠されている窓枠が目に付いた。すぐにまた私は目を閉じた。暗闇の中をを凝視してつい先程まで輝いていた光の面影を探してみたが、瞼の裏にはただ沈黙が広がるばかりだった。  しかし光り輝く巨塔の幻影は孤高の紳士たる決意を新たに芽生えさせた。私の心中は言い知れない高揚に包まれ始めた。是が非でも守らなければならない厚着矜持信念の実像をこの両の瞳で見た気がした。すると周囲の雑音も不思議と耳に心地よく聞こえ始めた。  『この者達があの神聖な光を見る事は決して無い事だろう。あの光は選ばれた孤高の厚着紳士だけが垣間見る事の出来る祝福の光なのだ。光の巨塔の窓に微かに垣間見えたあの人影はおそらく未来の自分だったのだろう。完全に厚着紳士と化した私が現在の中途半端な私に道を反れることの無いように暗示訓戒していたに違いない。しかしもはや誰に言われなくても私が道を踏み外す事は無い。私の上着のボタンが開かれる事はもう決して無い。あの白い光は私の脳裏に深く焼き付いた』  高揚感は体中の血を上気させて段々と私は喉の渇きを感じ始めた。するとポケットから頭を出したメロンソーダが目に付いた。再び私の心は激しく揺れ動き始めた。  一度は目を逸らし二度目も逸らした。三度目になると私はメロンソーダを凝視していた。しかし迷いを振り払うかの様に視線を逸らすとまたすぐに前を向いた。四度目、私はメロンソーダを手に持っていた。三分の二以上減っていて非常に軽い。しかしまだ三分の一弱は残っている。ペットボトルの底の方で妖しく光る液体の薄緑色は喉の渇き切った私の瞳に避け難く魅惑的に映った。  まあ、喉を潤すぐらいは良いだろう、ダウンの前を開かない限りは。私はそう自分に言い聞かせるとペットボトルの口を開けた。間を置かないで一息にメロンソーダを飲み干した。  飲みかけのメロンソーダは炭酸が抜けきってしつこい程に甘く、更には生ぬるかった。それは紛れも無く堕落の味だった。腐った果実の味だった。私は何とも言えない苦い気持ちと後悔、更には自己嫌悪の念を覚えて早くこの嫌な味を忘れようと盛んに努めた。しかし舌の粘膜に絡み付いた甘さはなかなか消える事が無かった。私はどうしようも無く苛立った。すると突然隣に黒く長い影が映った。プルースト君だった。不意の再再会に思考が停止した私は手に持った空のメロンソーダを隠す事も出来ず、ただ茫然と突っ立っていたが、すぐに自分が手に握るそれがとても恥ずかしい物のように思えて来てメロンソーダを慌ててポケットの中に隠した。しかしプルースト君は私の隠蔽工作を見逃しては居ないようだった。すぐに自分のポケットから飲みかけのメロンソーダを取り出すとプルースト君は旨そうに大きな音を立ててソーダを飲み干した。乾いたゲップの音の響きが消える間もなく、透明になったペットボトルの蓋を華麗優雅な手捌きで閉めるとプルースト君はゆっくりとこちらに視線を向けた。その瞳に浮かんでいたのは紛れもなく同類を見つけた時に浮かぶあの親愛の情だった。  間もなくしてようやく電車が駅にやって来た。プルースト君と私は仲良く同じ車両に乗った。駅に溢れていた乗客達が逃げ場無く鮨詰めにされて居る狭い車内は冷房もまだ付いておらず蒸し暑かった。夥しい汗で額や脇を濡らしたプルースト君の隣で私はゆっくりとダウンのボタンに手を掛けた。視界の端に白い塔の残映が素早く流れ去っていった。
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yoml · 5 years
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小さな牙
 必要以上にかけられた力に、勇利は小さな怒りを感じ取った。手首を抑えられている。解けないほどではない。だけど腕に力が入らないのは相手の口を追うのに必死だからで、噛みつくようなキスに抵抗、いや、対抗するように、唇に齧り付く。唾液が口の端から頬を伝った。苦しさに一瞬顎を引くと、すかさず相手は勇利の首元に口を移す。「いっ……た!」 思わず日本語で声を上げた。
 ヴィクトルはそんな声には一切構わず、勇利を、四つ年下の華奢で勝気なこの男を組み敷いたまま、剥き出した牙を少しずつ下へと降ろしていく。その体の移動に合わせ、手首を抑え込んでいた彼の手は勇利の腕の動脈をなぞり、肘裏を通過し、上腕の筋肉を滑って、脇のくぼみに触れたかと思うと、一気に背中とシーツの間に滑り込み、胸をぐっと引き寄せた。熱い舌が勇利の乳首を弄ぶ。自由になったはずの手を使う間も無く、勇利から変に高い声が漏れる。痛みと快感の判断がつかないまま、勇利は行き場のない両腕をヴィクトルの首に回して抱きついた。ふっ、と、一瞬牙から息が抜ける音。必死なようでも、笑っているようでもあった。いずれにせよ、愛撫というには乱暴すぎる。
 ベッドに入って裸になってから、それなりに時間は経っていた。言い様のない苛立ちともどかしさが、すべての動きから見て取れる。ベッドサイドに灯るキャンドルの香に混ざる汗のにおい。シーツはひどく依れ、二人分の脚の動きでほとんどベッドから剥がれていた。
       「そのあとはどうするの」
   言葉がないまま次の動きを探り合っている。ヴィクトルの腕が勇利の腰から腿へと流れ、その脚を掴み、とっくに立ち上がった硬いペニスにもう一方の手が触れようとしたその段階で、だけど勇利は確かな拒絶を見せた。体を起こし、ヴィクトルの脇に腕を入れると体を無理矢理上へと引き上げる。「こっち」 ヴィクトルはしぶしぶ体勢を起こす。「されたくない?」「僕が先にする」「子豚ちゃんは口寂しいんだ?」キャンドルの揺れる灯りの影から、勇利が下げかけていた頭を起こしてきっと睨む。「はは、噛みつきでもするの」 ヴィクトルは笑みを保ったまま、勇利の黒髪に優しく手を差し込むと、自分のそこへぐっと寄せた。
「噛んでよ」
  それは半分くらいは本心だった。噛まれてもいいとヴィクトルは思った。あるいは噛んでやりたかった。どっちでもいい。
 受ける側になるのはさておき、自分が口でするなんて勇利とセックスをする前のヴィクトルにはあり得ないことで、相手を気持ちよくさせたい気持ちはあっても咥えること自体はヴィクトルにとって本質的に苦痛だった。それが勇利には、当てはまらなかったのだ。理由はわからない。怯える腰を掴んで初めて彼のペニスに口付けた時、勇利以上に震えたのはヴィクトルだった。嫌悪なんてどこにもなかった。なんでもできる、そう思った。なんでも。
       「もし俺が違うことを望んだら――」
   だけどもちろん、そんなところをお互い噛みも噛まれもしない。口に溜めた唾液をペニスの先端にまっすぐ垂らし、人差し指で全体に塗りたくる。手で数回しごいた後、先から裏筋まで、舌で執拗に舐め回す。吸い上げては深く咥え、飲み込み、不器用ながらもそれを何度か繰り返すと、勇利は喉の奥に苦い味が広がるのを感じた。ヴィクトルが声を漏らすとたまらない。荒くなる息。呼吸が苦しい。小刻みに動いていた腰がひときわ高く持ち上げられると、勇利の喉にぐっとペニスが押しつけられた。くらっとする、した、と思った瞬間、だけどヴィクトルはもう一度黒髪を掴むと、勇利の口を自分のそこから引き離した。「だめ、いく」「いってよ」「やだよ」「なんで」ヴィクトルの手を振りほどいて、勇利は唾液でぐしょぐしょになったペニスを再び遠慮なく握った。「勇利!」「一回出したら後ろもしようよ、ね?」
 とはいえ体格差には勝てないのだ。ヴィクトルが完全に力任せに勇利の体を押し退けると、あっさりと立場は逆転した。両手首をまたしても掴んで押し倒す。「はなして」という台詞を聞かないふりをして、ヴィクトルは顔をぐっと近づける。口が触れるぎりぎりの距離。唇から声の振動が伝わる。「ねえ俺いやって言ったよね?」いつもより声が低い。「噛んでもくれなかったし」ねっとりと、ヴィクトルの舌が勇利の唇をなぞる。その遅すぎる動きがいけない。かろうじて保っていた正気の抵抗心を、ゆっくりと閉じられていくような感覚になるのだ。ひとしきり唇を舐め切ると、今度は吸い付くようなキスが来る。舌と舌の、唇と唇の、冗談と本気の境界がわからなくなる。一気に脳に熱が回って、勇利は背筋がぞくぞくした。人の生っぽい、体の奥の方の味がする。ヴィクトルの、熱を持った男の、味。
       「勇利はどうする?」
   ちゅ、とは程遠い不恰好で卑猥な音を立てて、ヴィクトルは執拗なキスからようやく唇を離した。それから無言でベッドサイドの引き出しを開けてコンドームを取り出すと、ベッドの上に放り投げる。ジェルのポンプを乱暴に押す音。ぞんざいな動作が続く。コンドームを手に取った勇利の肩をトンと押して再び寝転ばすと、その上に跨がった。左手で勇利の腹のあたりを抑えつけ、右手でコンドームを奪う。口で封を切る。自分のじゃないペニスに被せる。過剰なローションはすでに溢れて腿を伝っている。勇利はもう完全に無抵抗だった。お互い何も聞かないし、確認しない。狭いその入り口を感じたと思った直後、圧倒的な快感が下半身を駆け抜ける。ほとんど同時に声をあげた。オレンジの光。肌を伝う汗。堪え切れない声が続く。たぶんまだ痛いはずだと勇利には分かった。その痛みに、だけど勇利は遠慮しない。ヴィクトルの動きを全身で受け止め、両手でその締まった腰を掴む。汗で束になった髪がはらりと落ちてヴィクトルの顔を隠してしまうと、興奮と愛おしさで気が遠くなりそうだった。はっ、はっと重たい喘ぎを漏らしながら、ヴィクトルがその美しい体をひときわ激しく弓なりに反らせた。合図はいらない。言葉も出さない。本能のリズム、の一瞬のずれ。熱。とぶ。同時に、白く――
       「日本に帰る?」
    馬鹿みたいなキスを繰り返しすっかり腫れあがった唇を、それでもまだ二人は求めた。重ねるだけの力ないキス。湿り気を帯びている。脱力する体の重さを相手に預けて、ベッドに倒れたままいつもの恋人のように抱き合った。愛の言葉のようなものを口にしそうになって、数時間前の会話をふと思い出し、二人はそれをだまって飲み込む。代わりに勇利はヴィクトルの肩に、静かに、だけど強く歯を当てた。剥き出し切れない小さな牙。勇利を抱き締める腕に一瞬だけ力が入る。爆発しそうな愛おしさと離しがたさを苛立ちに変えてぶつけ合い、一通り終わればだけどそれで十分だった。
 これ以上大事なものなどないような手つきで、勇利は銀髪を丁寧に撫でる。汗で湿った襟足のあたりを指でくすぐり、そのままフェイスラインをなぞって、ほてった頬を右手で包む。顎骨の下、ちょうど薬指が当たるあたりを軽く押す。そこにヴィクトルの動脈がある。
「ヴィクトル、さっきの」
 指先から伝わる血流。青く濡れた目が勇利を見た。
「今度言ったらほんとに噛むよ」
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pulpwagon · 1 year
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久米繊維工業(クメセンイコウギョウ)
MEN'S WOMEN'S 長袖Tシャツ
Style: 03ハイネックロングスリーブTシャツ
Color:白 
屋外で首元を暖かく、室内で効きすぎた暖房でも暑すぎないTシャツ素材の使い勝手の良いハイネックです。ちくちくしない地肌に優しい綿素材で快適にお過ごし頂けます。ビジネスシーンのカジュアル化が進む今、ジャケットやコートに合わせても襟が汚れず、首元をスマートに見せる多様なシーンで使える便利な1枚です。
久米繊維工業(クメセンイコウギョウ)
それは1950年半ばの事、まだ日本でTシャツという呼び名さえ広く知られていなかった時代。銀幕に映るTシャツ姿のハリウッドスターに憧れた下町の莫大小(メリヤス)製造所二代目。久米信市が弟の利男と共に国産アウターTシャツの開発をはじめました。生地、型紙、色、縫製全てに工夫を重ねたその1枚は「色丸首」と名付けられ日本のTシャツ文化の始まりを告げるべく東京本所石原町の私達の工場で産声をあげました。以来、熟年の職人が半世紀以上にわたりこの国で紡ぎ編んだしなやかな生地を細やかな心配りで縫い上げてまいりました。
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PULP WAGON
北海道釧路市錦町5ー1 幅口ビル 1F
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2ttf · 12 years
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