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#必死でワインとか色々と抱えてたな
keredomo · 11 months
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心臓
 課の会議中に、会社に受診を義務づけられている健康診断の結果がメールで届いた。今年は健康診断前にうっかり食事を摂るようなミスも回避できたのできっとよい結果になっているだろなと喜び勇んで開いたところ、画面にあらわれた判定はEだった。思わず「いー」と口走る。突然の奇声に、課のメンバーから怪訝な顔を向けられて「すみません何でもないです」と取り繕う。連日連夜の野蛮な飲酒にとうとう肝臓が悲鳴を上げたかと診断をスクロールすると、警告よがしに表中の列が真っ赤に塗られている項目は心臓だった。
 心電図を採るためには、ベッドに横たわって上衣をめくりあげ、身体のあらゆるところに冷たい機械をあてられる。手早く特定箇所に機器を当てるこの担当女医に、私の乳と腹はどう見られているのだろうかと不安に思いながらも、被験者の矜持があるので微動だにしない。
 女医は医師として無数の乳房を見てきたのだろう。品評するだろうか。乳首の形と色とがさまざまであることを誰よりも知っているだろう女医は、乳房というものをどう捉えているのだろうか。そんなことを考えているうちに検査が終わり、次の部屋への移動を促されてそれに従う。結果、私の脈は不正で、疾患を疑われるほどの異常値を叩き出していたのだった。乳房の優劣のことを考えていたせいだろうかと一瞬よぎったが、専門機関で精密検査を受けるまではその真偽はわからない。検査で異常を確認するのがなんとなく億劫で、病院にはまだ行っていない。
 *
 父も、心臓をやって死んだ。あの人の場合は、糖尿病を患って、酒も煙草も大いにやったあげく脳もだめにしていたから、死因は心臓とは断言できない。私も父と同じく酒と煙草をやるが、酒については父のおそらく倍量以上を煽りつつも、煙草の量は吸わない人間と大差ない程度だ。それでも、身体的遺伝とは怖いものである。
 顔のつくりはまったく似なかった。美男の色男であった父の美醜の感覚で「ブス」と面と向かって蔑まれる程度には可愛くない容姿に生まれついたにもかかわらず、疾病だけは執念深く遺伝するのだから面白くない。
 父から引き継いだ心臓の弱さによって死ぬことで、父をもう一度殺したい。父が容姿の醜さを笑って娘の自尊心をずたぼろにした結果が私の孤独死であると、見せつけてその心のなさを責めてやりたい。
 病気を糧に親を責めたい気持ちがむくむくと湧く。とはいえ、父はそのだらしなさがゆえに数年前にとっくに死んでいて、たとえ私が父の遺伝のせいで若くして死んだところで彼にはもはや何のダメージもないのだった。一人相撲の、この徒労感。私と父は、生きていても死んでいても、どのみち交わらないのだった。
 おのれの死を父に見せつけて父の未熟さを思い知らせたい、などと馬鹿げたことを妄想して鼻で笑う。くだらない未練だと思いつつ、これがあの男の心臓なのだと思うと、死んで地獄でやりあおうかという気にもなるのだった。お前の心臓を受け継いで死んで、お前と殴り合ってやろうかと。
 そんなことを考えるということは、おそらく、私は今になってようやく父を愛しているのだった。彼が死ぬまで愛せなかった父を、死後になってから悪あがきのように愛しているのだから愚かなことこの上ない。
 *
 心臓の疾患を疑われた以外は、私の身体はほとんどがAの判定を受けていた。当然だ。一般的でない飲酒量とそれを切実に必要とする不眠以外、私に不摂生はなかった(まあ、それこそが致命的なのだが)。毎日、おびただしい量の野菜を摂取する異常な食生活。過剰な飲酒による酩酊と気絶がもたらす十分な暴力的睡眠。適度な運動。ノイローゼを呼ばない程度の仕事量。すべてを肯定してくれる友人たち。この世の誰よりも健康的な日々を送っている。心だけが異常に繊細で、激しい怒りや激しい悲しみのあまりストレスで生理が止まったりはするが、そういうことがあっても、女だなあと思うだけだった。
 毎晩ワインを一本あけるほどの過分な飲酒にもかかわらず、肝臓の数値は良好だった。煙草を吸うわりには血圧もヘモグロビン量も正しい。理想的な痩身を保っているわけではないが、BMIも適正値だった。
 ただ、父親から受け継いだ心臓だけがだめになっていた。ばかな男。私をまともに愛さなかったくせに、形骸的に執着して、まさか引き連れていきたいのか? 否、そんな情は奴にはあるまい。母に対する恋情はずっとあった。倒れて理性を失ってからも、うわごとで母に「愛してます、結婚してください」と語り続けていた男だ。私の母と結婚する以前に二度結婚して子供を作って、その子供たちは父の死後に弔問に来て「父には可愛がってもらった」と思い出を口にしていた。私だけが、父の愛を知らない。
 けれど私は、父親の愛を知らないからこそ未だに父に執着していて、父の本来の愛情深さを想像してはそれが自分に振り向けられなかったことを恨みながらも、愛情深い人間であった父を無碍にできないのだった。なぜか。心臓の疾患のみならず、その愛情深さも、私に遺伝しているのだろうか。わからない。なぜなのだろう。父の死後、その死をきっかけに私の知らなかった父の生を聞かされるたび、私は父に自分を投影してしまう。父の人生が私の人生であるように思えてしまう。私だけが一方的に父を愛しているのだった。
 私の死因がもしあなたからの遺伝によるなら、いいよ。受け入れる。ほかのどの死因よりいいよ。あなたと同じ死に方をして、ようやく私は父親とのつながりを思い知ることができるんだ。ようやく愛されたと思えるんだ。
 *
 ずっと、「私を殺してくれる男」を待ち侘び続けてきた。
 私をはるか凌駕している男。私の命がその手にかけられることに悦びを感じられるほどの男。圧倒的存在をずっと待っていて、十何年かけてずっと探して、ようやく見つかったと思ったらその男は私を深く愛してしまったので、私を殺すことなどとうていできなくなった。そりゃそうだよな。ふつう、愛する人には生きていてほしいものだ。
 心臓のことが判明して、死因のことを考えて、ここに書いて、私が探していたのは「父」だったのだと、ようやく思い至った。「父」の不在が、私に「私を殺してくれる男」を探させた。
 それがゆえに私の人生はこうなった。安定も安心も遠ざけて、苛烈な情念だけを頼りに猛獣のように世界に牙を向ける人生。けれど心の奥底には「父」を持てなかった少女がうずくまって泣いていて、父親にあたたかく抱きしめてほしいという感情をこらえている。あなたにあたたかく抱きしめてほしいという感情がずっとくすぶっている。父に抱きしめられたい。父に愛されたい。父を愛したい。大好きだと叫んで抱きしめたい。
 どうしてそれが叶わなかったんだろう。男を使い捨てても使い捨てても満たされない理由をようやく自覚して、ぽかんとしている。埋める努力をしたところでどうしたって埋まることのない穴を、私はこれから先、どう扱えばいいんだろう。これまでについた不毛な傷を、どう見捨てればいいんだろう。
 いつ、父親への執着が消えるのだろう。もうこれ以上苦しみたくないのに。
 できるだけ早く心臓が破裂して、私が死んでしまえたらいいなと思う。父親のせいで狂ってしまった人生を、父親のせいで終わりにしたい。あなたの娘はあなたに愛されなかったせいで、彼女が決死の思いで築きあげた素晴らしく美しい人生をあっけなく台無しにして死にましたよ。死後の父にそう伝えて、後悔に苦しんでほしい。
 そんな日は永遠に来ないことはわかっている。私は心臓の疾病を放置して、不整脈が起こるたびに父を呪う。父を愛する。父を憎む。酒を飲む。煙草を吸う。男を抱く。絶対に許さない。私を愛さなかったことを許さない。せめて私を早く殺してほしい。受け継いだ心臓の疾患で、私を殺してほしい。すでに不在となった者へのこの憎しみから、この愛情から、愛おしさから、執着から、苦しみから、もう逃れたい。逃してほしい。あなたを思うことから、逃してほしい。
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⑥イエス②仏陀③イマム・マーディ
好みは別れるが、パン🍞やご飯🍚とチーズ🧀🍳とワイン🍷適量の🥗菜食や🍯フルーツや木の実や必要なら🐟などを推奨します。個人的にはあまり🥓肉食自体は好みません。あまり贅沢は言えないですね。老化や消耗するので過度の食事や睡眠や労働は避けるべきです。
拒絶
戦争は受容できない。❺破壊兵器やその使用自体はナンセンスの塊であり反キリストである。身体は魂の牢獄であるが、生を受けたことは否定できず人生の営みは尊い。破壊は凄惨である。病気や老化は酷いが存在は否定できない。哲学は❶父であり、意識②子は維持し、❸聖霊は創造的知性であるー。
超心理学
以前、世界大師キリスト・マイトレーヤに抱えられたサイババ大聖(木星のアバター)白黒が視え、縦の列に並んだ黄色の3つボタンが木星に生きて横たわるサティア・サイババの霊の姿が見えた。神の化身の前世のシルディ・サイババ、現世はプレマ・サイ、として輪廻転生する事が予言されている。
悪魔
殺人や���傷行為や傷害行為自体が悪魔的であり、悪霊(悪魔霊媒)的である。反キリストは物質界に封じ込めらるべきである。キリストはいつもあなたの事を愛しているから互いを敬って助け合って優しく生きなさい。世界を分かち合って救いなさい。所で『気候帯の調和』(ハーモニクス)が急務である。
イエス覚者
想像力の中でプロンプトのスターシェル・カスタムの様な打ち上げ花火が上がって、空に浮かんだイエス覚者の姿を見上げるエル・グレコの『オルガス伯の埋葬』が記憶の霊的視覚の中に展開された。覚醒時の間のぼくの瞳のARの拡張にコントロールされたイマジネーション(幻想)の極致でしたー。
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光合成
🌳葉緑素の緑と🚰水と土は大事です。
豊かな実りは根を張り大地を繋ぎ止め、潤いを与え、木々の緑は水H2Oと土と二酸化炭素CO2の栄養から酸素O2を生み出します。蛋白質の栄養素🍳🍟と糖質🍚🍞🍜🍝🍕🍣と光の摂取に野菜🥗は有効です。食事は自分にあった節度を選びましょう。『野菜とオゾン層』
🌿『調和』ハーモニクス
❺水素(チャーム)のクリーンでクールなエネルギー源は空気を澄んだものにし、世界の温暖化を防ぎ、環境を救う。太陽の横道帯の運航によると⑥パイシス(双魚宮)星団から❼アクエリアス(宝瓶宮)星団との整列の時代に入った。②融合と❶統合と④調和のエネルギーが世界を満たす。
チャクラの開放
❼頭頂(ヘッド)への集注❌
⑥眉間(アジュナ)⭕への集注はメンタル偏極を達成するのに大切で伝導瞑想は強力です。
❺喉(スロート)⭕
④胸(ハート)⭕
❸太陽神経叢は❌
②仙骨❌
❶脊柱基底❌
ヨガは荒療治であり、少々の危険は伴いますが、『覚者方』がコントロールしてくださいます。
邪悪さ
日本の軍部とヒトラー、ムッソリーニが魂が切り離された狂人であったとか、物質性の大主方のオーバーシャドウを受けていたとか、反キリストの顕現であったことにはある程度同意できるが、政治的・経済的に追い詰められた国がどういう行動を取るかは其ほど想像に難くないー。『戦争責任』
顕示体
もう既に幾度か述べたが、旧家にて #キリスト・マイトレーヤ の訪問を受けた事がある。彼とは一言も言葉を交わさなかったが、ぼくの描いた油彩画のイエスの足に打たれた杭を彷彿とさせる様にぼくの足は彼に思いっきり踏まれた。今想えばその痛みでその後、違う宮の夢の中に入った様だったー。
『ダリ全画集』ー旧家にて、フロイトのインクで描かれた様なダ・ヴィンチの自画像の『床の染み』の幻と、二人の覚者。木製の家屋、後に老人ホームに顕れた『光の十字架』の徴。窓から見えたイエス抜きの『ルーベンスの最期の審判』の雲☁️の形相。夢の中のメタルで出来た手との握手ー。次元旅行ー。
信仰の対象
物質界に於ける身体は霊的触媒であり、生と死を掛けた人生の存在の光芒である。死や病や老いがある以上は、生きる事は苦痛を伴う地獄に近く深刻であるが、愛する人や愛する作品が在る限り、生きた事は後悔できない。
ただ『感動と感謝』しかない。
『不定愁訴と愛別離苦』に悲し涙ー。
覚者方
死を悟る事は比較的容易である。然し、死後の霊魂の不滅を証明する数学は難しい。『キリストの再臨』に際して真なる修行と客観的で厳格な秘教数秘術的なイニシエーションの段階と光線が紹介されている書物に出逢うことは稀であり、この『伝導瞑想』の機会を掴み採る事は比較的幸運であろうー。
不自然と霊性の深刻さ
私自身は神のような存在に為るための自己犠牲は幾らでもする覚悟はある。
修行が容易である筈もなく、道はいつまでも続く程、長い。1850万年前から今まで途方もない長い時間の間留まれらている義理堅い『地球奉仕の道』に残られている覚者方の忍耐には全く頭が上がらないー。
魔法のランプ
神が与え給うた運命ならば其れは仕方のない事である。全ては神の配剤であるならぼくも運命を受け入れよう。イエスの大きな犠牲を無駄にしないように生きようと神に誓う。自分が変わるしかないなら使命を果たそう。ぼくにできる細やかな事を生きる中で宇宙の調和のシステムに成ろうー。
Balance Is Restores (FFⅥ)
愛する人と夢
もしも、ピアノが弾けたなら想いの全てを歌にして愛するあなたに伝えたいー。俳優に全く向いてないぼく。音楽への、歌手への、作曲家への、愛と感謝は筆舌に尽くしがたい。雄弁に語る歌の力と俗世との距離を計る必要が在るかもしれない。凡ゆる犠牲を捧げても神様であることが目的ー。
イタワリ
先日の夢で、ーサッカー選手同士が抱き締め合って板を割る光景(!)ーは試合の後お互いのユニフォームを交換し合う事の象徴的な表現であり、まるで友情の溢れる様な犬同士がじゃれ合うような、スマートで体力の要る労働者の階級の好むまともなスポーツである。『#インターナショナルの理由』
世界大師
#外国語 の国際的な文化交流や相互理解ができる。「真に知的である事は、平和を愛する事である。」
『色で分けること 血を選ぶこと』❸FREEDOM
ー如来(キリスト)よ地上に戻られ給え!ー神の意志、
④阿弥陀如来、❶大日如来、❸薬師如来、②釈迦如来、ー風・火・地・水ー
#七光線心理学
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yuupsychedelic · 2 years
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詩集『グロリアス・モーニング』
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夢中
これまで夢中になっていたことに 夢中になれなくなる ふと気づいた瞬間 いつも屁理屈ばかり捏ねてさ
それが大人になる意味ならば もう大人になりたいと言わない 子供と言われたってかまわないよ 自分を殺めるくらいなら
目の前のことに夢中になりすぎる 悪いことだって信じてた あの頃の僕に手を差し伸べてくれた 君の声に応えたい
ユートピアにようこそ
ここは憂いだらけの世界 生きることも 死ぬことも 好奇の目に晒されて
愛や夢を外套に 誰もが「正義のミカタ」を気取って 空想ばかりを主張する 知識まみれの操り人形たちよ
今こそ飛び立とう 歴史を忘れよう 自分の都合のいいことだけ ずっと考えていよう
契約書
地球という名のちっぽけな星 私はくれてやります あなたに託してしまった方が よっぽど上手くいく気がしますから
凡庸な人間に 気まぐれな自然 争いばかりの自惚大戦に 私は心から疲れ果ててしまったのです
宇宙船の群れが見えます これから地球は変わっていくでしょう 私はこの瞬間より王になりました さあ地���よ私色に染まりなさい
寂しがり屋のルンバ
恋愛に薔薇を 綺麗事に拳銃を 永遠にピリオドを 大統領にシャンプーを
いつまでも報われないと 嘆いてばかりじゃ始まらないけど 今日くらいはワインに物を言わせて 泣き明かしてもいいじゃない?
一匹狼じゃ眠れない 人は独りじゃ生きられない ほんとは私も寂しがり屋 お願いだから誰か構ってよ
大切だった君へ
君の手をぎゅっとする仕草とか 必ず「おはよう」のメッセージをくれるとことか あんなに大好きだったのに どうして浮気してしまったんだろう?
いつも使っている香水じゃない 気づいた時にはもう遅かった その理由は嘘ばかりだったけど かつての私は涙を必死に我慢してた
さよなら大好きだった君へ とびきりの愛と優しさに感謝を さよなら大嫌いになった君へ 街角で新しい彼女とすれ違うたび 泣きそうになる
かつて親友だった貴女へ 私の恋人を奪って嬉しいですか かつて友達だった貴女へ せめて彼を幸せにしてください
チケットをご用意できませんでした
人の群れにすれ違うたび あの日の私を責めたくなる どんなに頑張っても上手くいかずに 神様にさえも見放された
SNSを開くと「最高でした!」の声 ひとつだけの悪意にメンションを送り やっとの想いで保たれる あまりにちっぽけなプライド
かつての私はもっと素直だったよ 匿名アカウントに閉じこもってなかった どれだけ傲慢なんだよ 夜の静寂に声なき声が響く
勇者たちの産声
遥か悪魔城の彼方 ユートピアに勇者は立つ 大いなる船出に授けられた 伝説のエクスカリバー
燃えたぎる情熱と 愛を護る勇気よ 大切な人を想うシンフォニア 胸の鼓動は速くなる
青春の終わりに 君は闘いへ出た 嵐が吹き荒れ 明日を告げる鐘は鳴る ここに新たな伝説の幕が開く 夜明けを信じてその剣を振るえ
本音
優しくなりたいと願うほど 掌から滑り落ちてくようで 僕は何から始めりゃ良いのか 人生がわからなくなっちゃうよ
きっかけは些細なこと 隣の人がお年寄りに席を譲ってた そっと言い出せないのが辛くて イヤホンの音量を上げた
優しさを偽善と勘違いされ いつか貶されたことがあったから 未だ優しさの意味を知らずに 目の前の温もりに嫉妬してばかり
失恋3秒前
いきなり空き教室に呼び出された 彼氏が憮然とした表情で立ってた そして「別れよう」の一言を告げ スローモーションで去っていった
私は何が起きたのか解らなかった 今も心の中は整理できないままで 友達から見せられたフェイク動画 貴方も私を信じられなかったんだ
人は大きすぎる悪意を目にした時 何も出来ぬまま立ち尽すしかない そんな現実に私もやっと気付いて 大切な思い出にそっと火をつけた
私はアンドロイド
あなたが「人間の心はないのか?」と訊ねた時、 心という言葉がインプットされていないことに気づき、 私は慌てて図書館へ走った。
図書館で国語辞典を開くと、 まったく考えたことのない概念が目の前に広がり、 私は雷に打たれたような気持ちだった。
惑星征服のためのアンドロイドとして生まれ、 その任務を遂行するためにここにいるのに、 人間を好きになっては何も出来ないじゃないか。
運命と宿命の間で、 私は仲間の宇宙人たちとの親交を断ち、 目の前のあなたを好きになってみることにした。
幕末大掃除
この世の中を掃除しよう 常識すべてを洗濯しよう 無垢な偏見を整理しよう もっと良い世の中を作ってこう
平穏だった江戸の世に 突然黒舟が現れて 殿様方は慌てふためき やっと気付いた現実
箱庭の中で酒を飲んでるばかりじゃ 井の中の蛙大海を知らず 閉じ篭ってたばかりのニッポンに 風雲急を告げる 嵐が来る
新たな夜明けをこじ開けろ 古い時代にケリをつけろ 源氏も足利も徳川も為し得なかった より良い世の中を作ってこう
俺たちの妄想のような 綺麗事ばかりじゃねえ 幕末!
それでも生きてく
真夜中になると死にたくなる 自分のことを傷つけたくなる
時々真昼間でもこうだから ほんとに自分のことが嫌いになる 根暗人間と呼ばれて ずっとここまで生きてきた
愛する人がいると 裏切ってしまうんじゃないかって不安になる 大切な人といると 嫌われちゃうんじゃないかって不安になる
光陰矢の如し かつてのような能天気な僕に還りたい
最後のキッスはさよならの痕に
思わず抱きついてしまったよ まだ離れたくなくて 春になったら別れると決まっていても 運命に逆らいたくなったの
あんなに泣かないって決めたのに 今は涙が止まらなくて ドライマティーニで恋を醒まそうとしても 少しも喉は渇きそうにない
目の隈をメイクで誤魔化して なんとか悟られまいと頑張った あれほど燃え上がった恋の結末は 舌を絡ませた口づけ
サヨナラで終わらせられなくて あなたを困らせちゃってごめんね いつだって独りよがりだったのかもしれない もう私は二度と恋をしないよ
Great Traveler
幾千光年先の新たな銀河へ行こう 僕らは開拓者(コロニスト) 時代の申し子さ かつて地球で生まれし 希望の種族は今 幾多の喜びと悲しみの果てに 宇宙へ旅立った さあ 誇りを胸に 愛を忘れてはいけない 蒼き星で生まれた希望 歴史が憶えている 僕たちも跳べる 明日を描いてゆける 超光速で 宇宙(ソラ)を駆けて 偉大なる夢を創ろう
Wind Express
渋谷センター街の スクランブル交差点で ふと周りを見渡して 悲しみに覆われた
生きてくことが怖くなり 愛や夢も掴めずに 誰にも負けない情熱が
少しずつ沈んでいった
アイドルは希望を歌うけど 僕らに未来なんてない 見せかけの宿命に 答える勇気もない
時代に惑わされるな 風の電車に乗れ! 時代の波を越え 大切なものを掴もう
私とパルコ
近所のパルコが閉まるらしい 閉店セールに群衆集まる そんなことならこうなる前に もっと行ってりゃ良かったのに
背伸びしたくなる季節 誰もがそんな時があるさ ラブにピースにHere WEGO!! 青春時代を染め上げたこの場所
だから今夜は踊り明かそう パルコ パルコ 青春ロコモーション 時間を戻して Let's Party!! パルコ パルコ いとしのパルコ
みかんのうた
みかん みかん 僕のみかん みかん みかん 君のみかん みかん みかん 一粒つぶ みかん みかん 一口でも
酸っぱくて顔を顰めるキミも 甘くてサムズアップするキミも まるで恋愛のようなその味に ずっと一目惚れしたままなんです
僕らはきっとみかんが好き あなたもきっとみかんが好き 和歌山 愛媛 静岡 熊本 みかんと一緒に大きくなる
だってさ
口を開くと言い訳ばかり クラスにひとりはいる こんな奴のせいで空気は最悪
小さなミスも気づけば大事 形にならなきゃ Feel So Good そのくせ脳天気だから手に負えない
薄々みんな気づいてた 文化祭終わりの打ち上げで 彼がいないからって悪口大会
人間の薄汚さを現してるよう 悪いヤツじゃないって信じたい 僕はいつだって性善説
幼馴染の話
いつも気さくに話しかけてくれて モジモジしてたら連れ出してくれた まるでフィクションのように優しいキミは 僕の唯一の幼馴染
中学になっても高校になっても その人懐っこさは変わらなくって ちょっとした反抗期できつく当たって 泣かせてしまったこともあった
意地ばっかり張ってさ 本音で話せなかった僕を きちんと叱れる強さを持っていた そんなキミが今でも憧れ
偏愛の21世紀
黄金の20世紀に 僕らは憧れ 縋りついてる
権威なんか嫌いだと 宣ってる奴でさえ 鎖から逃れられない
もし手を上げられるなら 打ってしまいたい奴もいる 思わないなら聖人君子だろう
ヒステリックにニュースは流れる サイケデリックに世論は揺らぐ 差別も格差も君は大好きだ
まだ間に合うかな
学生時代に好きだった人 最近のことがちょっと気になって SNSで名前を打ち込んだ そこに現れたのはあの日の君だった
こんなこと側から見れば あまりにキモすぎて 伝えられなかった名残惜しさ 僕は未だ青春を卒業出来ずにいる
風に流されぬようにと 想えば想うほど流されて 失うものは何もないのに
目に見えないものばかりを気にして 僕は大人になってしまった
たえなる時に
真夏の昼下がり 僕らは森に迷い込んだ 何かを探していたのかもしれない 少年時代の気まぐれ
いつの日か思い出す時に ぽっかりと欠けたパズルの一ピース 抜け落ちているからこそ さらに尊くなる
抱きしめたいほどの過去を あなたは持っていますか? 愛おしくなるほど大切な人が あなたにはいますか?
少年時代の思い出 安らかに眠れと 昨日の僕に語りかける 名もなき君の歌よ響け
楽天主義
全部全部嘘と言ってしまいたい 積み木を崩してしまいたい もしもタイムマシンで過去に戻れるなら 生まれた頃に戻ってしまいたい
なんとかなるさと ここまで生きてきた でも、なんとかならなかった それが人生というもの
やっと気付いた頃 とうに大人になってた 久遠の少年時代よ もし時を巻き戻せるのなら
恋愛とか勝てなかった試合とか そんなものに興味はない 明日を描けるだけの 希望を掴めればそれでいい
だけど 僕は器用じゃない 過去を活かせないだろう どんなに作られた筋書きも 一つの道しか選べない
だから 僕はこのまま行く ありのままに生きていく
どんなに不器用な生き方でも 自由に生きれば なんとかなるさ!
恋愛使い捨て論
「次の日曜日にまた逢えるかな?」
そんな会話が街から聞こえる 僕らが生きる希望という名の未来 振り返れば何も出来ない過去
優しさの意味を強さと勘違いして 大切なものも捨ててしまった 僕は愚かさに慣れすぎて 誠実さを忘れた
もう一度だけ…… 何度も耳にした口約束に意味はあるか 恋愛さえも使い捨てるような奴らに 明日を語る資格はない
好きを惜しみなく
帰り道のふとした瞬間 下を向いていたら 君とぶつかった
話すと同じクラスだと知り ずっと無意識だったのに 恥ずかしくなった
想像よりも世界は狭くて 嫌になりそうなこともある 君と付き合っているうちに 自分の嫌いな部分も好きになれる気がした
好きを言わなきゃ伝わらない 当たり前に気付いたのは別れてから
人は今をちゃんと見つめられない 大きすぎる明日を見つめてしまうもの
アイドルになるということ
アイドルになると決めた日から そのためだけに頑張ってきた 自分に自信なんて無いけれども 頑張ったことだけは自信を持って言える
涙と悪意を希望に変えて 仲間に夢を誓ったあの日 半信半疑の目 疑心暗鬼の私 すべては自分を裏切らぬために
ここに立てたよ 見てますか? やっと叶えられた夢 さらに翼を広げて 明日を描くと 今日は終わりと始まりの日
此処は怪獣共栄圏
一般人より出動要請 ジャケットとヘルメットを身に纏い 片手に麻酔銃 もう片手にはタブレット 殺しなんてご法度だから
街で暴れる怪獣たちに この身ひとつで立ち向かう 時々居なくなる仲間もいるけど 私たちがやらなきゃ誰がやる
地球が好きだから 人間が好きだから ここを通すわけにはいかないと 覚悟決めてやるしかないのさ
加古川に生まれて
川の流れを見つめて あの街を思い出す 今も住んでいるはずなのに 何故だか懐かしくて
日常の色と違う 何かを求めているんだろう 変わらぬものに心を託せば 楽になると信じていた
どんな想いも あの街は抱きしめてくれた 友も恋人も今は街を出たけど 僕は故郷を信じてみたい
あなたへ
ちっぽけなプライドを振りかざして 隣街にマウントばかり取る いくら政治が上手くいってるからって 暴言を言われりゃ苛々するさ
そんな時代じゃないだろう? 連帯がお好きなんだろう?
私の中の悪魔に蓋をして 天使気取りでいるのも辛いものさ こうはなりたくないと思うほど 気づけば嫌いに近づくだろう 意識すれば意識するほど 自分のことが見えなくなる
Oh baby ムカつくやつは写し鏡 明日のあなただ
まだ見ぬ君に
いつか友になる君や 恋人になる君へ 私のことをいくつか伝えるから ちゃんと聞いてほしい
まず気まぐれ人間で いきなり悲しくなるし 急にテンション上がったと思えば 夢中になると止まらないし
こんな私と繋がってくれてありがとう ずっと背中を押してくれてありがとう
離れてしまった人も 最近繋がった人も
こんな私と繋がってくれてありがとう ずっと背中を押してくれてありがとう
決して立派な人じゃない でも自虐的になるのをやめてみるから ここから未来を見据えて 無邪気に生きてみるよ
まだ見ぬ君のために 私だって誰かの好きになりたいよ
青春の夜明け
いくつになっても わからない 大人になること その意味が かつての僕なら 否定する 笑顔も涙も 抱きしめて
青空に突然 銀色の雨が降る 傘も差すのが 面倒な時もある 青春の気まぐれよ 時に逆らったまま 面白いことを 始めてみたい
迷ってばかりじゃ つまらないよ 走り出してみよう あなたらしく
青春の夜明けに ここから一歩踏み出す 勇気があれば それでいい
失恋した夜 泣き明かして 親友にLINEして 愚痴を吐いた かつての私が 通り過ぎた 夢の背中に あなたがいる
止まない雨などない 叶わぬ夢などない そんな言葉を 信じたいわけじゃない 青春の気まぐれよ 明日を教えてくれ 面白いだけじゃ 勿体無いから
焦ってばかりじゃ 見えないよ 顔を上げてみよう あなたらしく
青春の夜明けに ここから一歩踏み出す 希望があれば それでいい
泣いてばかりじゃ わかんないよ そう私の目を見て 微笑んでほしい やりたいことが出来ない人生だから せめて面白いことに素直になりたい
迷ってばかりじゃ つまらないよ 走り出してみよう あなたらしく
青春の夜明けに ここから一歩踏み出す 勇気があれば それでいい
詩集『グロリアス・モーニング』 Credits
Produced / Written / Designed by Yuu Very Very Thanks to My family, my friends and all my fans!!
2022.5.17 Yuu
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sakurasou-onsa · 3 years
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#3.11 #10年前は22歳でした #研修中に起きた地震 #必死でワインとか色々と抱えてたな~ #1時間歩いて帰ったっけ #暗い世になっちゃうのかなぁ。とか #いろんな想いがあったなぁ。。。 #未成熟さを持ち合わせた自分に懐かしくもある。 #それぞれがあの時を胸に刻んで10年目 #アロマ音叉の最終章 #サロンオープンの準備したりと忙しくしていたから #ブラッシュアップは全部行けなかったなぁ #だけど、沢山のキラキラなお星様な仲間と出会えた事に感謝しかない #キラキラな仲間に出会える場所を提供していたマイアー&ノーリーに感謝✨ #ド派手に飾ってケーキお持ち致しました(`・ ω・´)ゞビシッ!! #こころ庵のねね様方、ありがとうございますした⸜(*ˊᵕˋ*)⸝‬💕✨ #楽しい楽しい2日間でした♥ #やかましいと思うけど、また行くで~(^-^)/笑 #そんな仲間たちとこれから共に歩み、学び、進んで行く未来には楽しい事しかないと想って私は爆走します♥ #音叉の講座へ通い始めの頃に比べたら、魂レベルかなり上がりました✨ #世は、コロナだワクチンだなんやかんや騒いでおりますが #そんな下層階でウガ┌ (°Д゚)┐ウガやってても自分を滅ぼ���だけだと見ていて思いますね。 #みんながある程度の所まで知識を共有すればなーんともない事をやかましくする輩はグーパンチしたい✊💥 #色々な場面に居合わせる事が多いけど #何事にも思いやりを持つ事がとても大切かと♥ https://www.instagram.com/p/CMTTWEkFYxUd-R5kNybnx9pH1e2T0C7mDDfZo00/?igshid=97hh8hgrn4p3
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cookingarden · 2 years
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濱口竜介監督『ドライブ・マイ・カー』
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原題:ドライブ・マイ・カー 制作:日本, 2021年.
カンヌ映画祭で4冠を果したことでこの作品を知った。村上春樹原作とある。それで短編小説集「女のいない男たち」を読んだあと、映画を観ることになった。読んでみて、同名の短編より「木野」の方が印象に残った。小説よりも映画に強い響きを思ったのは、そのせいかもしれない。
映画を観た日の夕方、つぎのようなツイートをした。
Hironao KUBO(@CookinGarden) 濱口竜介監督『ドライブ・マイ・カー』を観ました。「言葉を聞く」をテーマに、家福が妻おとの言葉を掴み取るまでの苦悩が描かれていた。出口のない言葉を抱えてさ迷うおと、クルマの言葉を聞くみさき、別人格に言葉を憑依させたみさきの母。顕れも隠れもする言葉の象徴的な描き方が見事だった。
映画を観ながら、ウクライナ侵略の深い闇を思わずにいられなかった。西欧人とプーチンも、どこかで互いの言葉の深みを聞く耳を捨てたのではないか。家福が西洋にも、プーチンにも思えてならない。カンヌが『ドライブ・マイ・カー』を聞き止めたのが、せめてもの救いだと思った。
以下の文章は、ツイートに記した二つのメッセージの間にある思いを綴ったものである。
二人を包む都会の温度
映画の冒頭で、40分もの時間をかけて家福と妻音(おと)との生活が描かれる。これは音楽でいうところのヴァース、導入部だろう。それにしても長いヴァースだが、少し青みがかった白っぽいトーンで描かれる二人の暮らしがよく現われていた。誰もいない部屋に置かれた、グラスのなかの白ワインのような温度感が漂っている。
いつも黒っぽい服を着た穏やかな家福の姿が、この温度は彼の性格によるものだと思わせる。小説「木野」の主人公木野と同じものだ。もしかしたらこれは、村上春樹が描く人物に共通のものかもしれない。
だが、彼らはいわゆる冷たい人間というわけではないようだ。温度を求めない人たちなのだろう。生活に熱のようなものはいらない、熱はなくても愛しあえるし幸福だと思っている人たち。家福はこんなセリフと口にする。
「ぼくたちは愛し合っていた。二人は幸せだった」
なんと現代的で都会的なのだろう。都会に生き、都市に体温を奪われた人たち。これが村上小説が描く主人公の姿なのだろうか。
崩れていく温度の平衡
妻の音は家福の温度を受け入れ馴染でいるように見える。しかしその姿とは裏腹に、音は熱を抱えている。どうやらこの熱は、音が最初から持っていたものではないらしい。
家福と音の間には娘がいた。しかし、4歳のとき病気で亡くしている。若くして幼子を失った二人は悲しみの火を燃やすはずだった。多くのカップルがそうするように二人も、悲しみを交換することで熱を冷まし、娘の死をともに乗り越えていくはずだった。
しかしそうはならなかった。家福の熱は彼のなかで静かに消え、音は体内に熱を押し込んだ。家福は音の事情を知ろうとはせず、その後の20年あまりを過ごしたことになる。一方、音のなかでは、熱がいまも出口を求めて渦巻いている。音は熱を自分の手で取り出すことができない。本来なら家福が手を添え、音の身体を抱き包むことで熱を吸収するはずだった。だが、家福はそれをしなかった。セックスをしながら音は、家福に熱を伝えることができないでいる。もどかしさが残る。
二人に必要とされた、ある大切な交換の仕組み。その仕掛けの壊れが、家福と音が抱える不幸の原点なのである。なぜ壊れているのか、なぜ家福は熱を失ったのか、なぜ拒否するのか? 映画はその理由を明示することなく保留し、懊悩をさ迷い深い壊れから解放される家福の姿を描くことにすべてを費やしているように見える。
熱を言葉に託す音
熱の高まりに耐えかねた音は、セックスを通じて熱を放出しようとする。俳優であり演出家でもある家福のために音が選んだのは言葉だった。セックスが解放する体内からの叫びを家福に聞かせたかった。性の叫びは深奥にある熱につながっているはずだ。音はセックスを通じて引き出した炎を物語に込め、家福に届けようとしたのである。その行為ははじめ、家福の肉体との間だけで行われるはずだった。しかし、壁のようにたちはだかる温度差を、音はどうしても突き破ることができない。
物語を聞かせることが唯一の手段の音にとって、言葉を引き出すためのセックスは多い方がいい。こうして音と交わる男たちは、性行為の最中に音が語る奇妙な物語を聞かされることになった。俳優の高槻もその一人だった。しかし、熱を伝える相手はあくまで愛する夫、家福ひとりである。けれども、演出家の家福はすでに彼の一部だったチェーホフの戯曲のように、音の発する物語を聞き流すばかりだ。それは音が望むものではなかった。
ワーニャのセリフを抜いて音が吹き込んだ本読みテープも、音にしてみれば家福に自らの熱を届ける手段だったろう。しかし家福は、音が語る奇妙な物語にも、ワーニャとなって音の声と言葉を交わす仕事からも、そして音との肉体の交わりからも、音が発する生の言葉を聞くことはなかった。家福は言葉のプロでありながら、もっとも近くから届く言葉を聞き分けることができない。
虚空に消えた音の言葉
フライトのキャンセルで予定を変更して自宅に戻った家福は、高槻とセックスにふける音の姿を目にする。男に突かれ背中に指を突き立てながら叫ぶ音。呆然としながらも家福は静かにドアを閉め、その場から立ち去る。彼は音の不実を追求しようとしない。ドアを閉めるのと同じように家福は、音が放つ熱気を断つのだった。
その一方で音は、突き上げる快楽に喉を鳴らす裸身に、追求の鞭を受けたかった。罵倒され、激しく打たれ、全身に罵声を浴びたかった。家福の熱火で焼かれたかった。しかし家福は、存在が見えないかのように、空中に放たれ埋め尽くされる音の言葉を見ようとはしない。彼がいつも着ている黒い服は、何ごとのアクセスも寄せ付けない、冷温さの象徴なのだろう。
そうして音は、熱源のスイッチを切るように、玄関でひとり息を引き取る。突然訪れた脳梗塞のせいだった。この日家福は、音から求められた話し合いを避け、深夜になるまで帰宅を遅らせていた。何という悲しい末路だろう。
クルマの言葉が聞こえる無口な女
だた一人だけの冷え切った世界に、運転手のみさきが現われる。亡くなった娘と、ちょうど同い年だという。みさきは無口だが、クルマの声を正しく聞き分けることができる。クルマはこれから家福がたどる道行きの象徴なのだろう。車体が赤色に変更(原作では黄色)されているのは、みさきが熱を持ち音の熱を仲介する役割であることを思わせる。
冒頭のツイートにも書いたように、『ドライブ・マイ・カー』のテーマは「言葉を聞く」にある。ここでいう「言葉」は、存在の本質を指すものだ。表象は肉体でもいい、色でもいい、無口でもいい、意味不明の外国語でもいい。伝えるべき本質は表象にはない。この映画はその表象を、聾唖者と多言語によりさらに解体してみせる。聾唖で音声を絶ち、異国語で言葉の意味を絶ち、赤いクルマは口を持たない。表象は本質ではないのだ。しかし、表象は本質が姿するための媒体になる。
言い換えれば、無口でも、肉体でも、物体でも、聾唖者でも、異国語でも、そこには本質が内在する。表象にはその本質を言葉として引き出す役割が与えられている。しかし言葉が引き出せても、本質は言葉を受け入れる者にしか入り込めない。言葉は熱を受け止めて交換されなくてはならないからだ。映画は家福に問いを投げかける。
「お前は音に対して、壊れていないか?」
言葉のプロであるはずの家福にとって、何と厳しい問いだろうか。もし、家福が都会と現代の象徴であるなら、これは濱口監督が現代人に向けた問いでもあるはずだ。あなたたちもまた、「壊れていないのか?」と。
みさきに託された救い
二人は北海道のみさきの生まれ故郷にたどり着く。世界を覆い尽くす雪は、家福の象徴でもあるのだろう。冷え固まった家福に、みさきが一筋の光明をもたらす。
みさきと家福は、ともに肉親を殺した過去を持っている。家福はその理由を知らないままに、音が死んだのは自分のせいだと考えている。みさきは、生きたまま土砂に埋もれた母親を見捨てたとき、母が別人格に憑依させた娘を殺したことを悔いている。みさきは、その娘は母の胎内から出て姿し、みさきと交わろうとする母の化身だったことを理解している。みさきは母が育てた化身に気付き愛したが故に、娘を葬った自分を悔いているのである。みさきにとって母は表象であり、母の本質が憑依した娘は母からの言葉だった。
みさきの実家は朽ち果てて瓦解し、屑となって雪に埋れている。瓦礫を前に立ち尽くす二人。用意した花を投げながら、母を見捨てたみさきの告白が続く。投げた花が白一色の雪に、ひとつ、またひとつと、小さな色を落としていく。みさきの声を聞くうちに、家福は嗚咽し泣き崩れる。
「自分が悪かった。自分は音を知らなかった」 「知ろうとしなかった」
その叫びは、かつて家福が口にした「愛し合っている」を否定するものだ。自分は音を愛してなどいなかった。音の事情を知ろうとしなかった。
なぜ家福はいまになって、みさきの言葉を聞き分けることができたのだろうか? それはみさきが、家福に届けられた修復の最後の手引きだったからだ。あるべき家福の化身を見たからだ。家福だけに観ることを許されたその姿を。
見殺しにされたみさきの母親に、家福は音の姿を見たことだろう。みさきを壊した母親から憑依した愛くるしい娘に、音の声を聞いただろう。土砂のなかから手を差し伸べる母の化身に、消えゆく音の言葉を聞いたことだろう。それは広島から北海道へと、みさきの運転する赤いクルマで旅してきた家福にこそ入り込める言葉だったのである。
そしてついに家福は、その化身の視線の先に気付く。そこにいるはずの自分に。そこにいるべき自分の姿を・・・だが、そこには誰もない。白い空白がただ口を開けている。音の視線の先に空白を見た家福は、あまりにも虚しく恐ろしい光景に激しく慟哭するばかりだった。自分はなんと酷いことをしたのか。なんと酷いことを。
「赦してほしい。音、どうか赦してくれ。赦してくれ」
それは、音と過ごしたすべての経験が消え去る、恐ろしくも辛い気付きだったはずである。
そのとき家福は、雪に埋もれた廃屋を見遣るみさきに、空白を埋めて立つべき自分の姿を見る。そしてみさきを抱き寄せる。それは音がみさきに仮託した最後の言葉、赦しそのものだった。音の心を載せたサーブは、やっと家福のもとに届けられたのだ。家福はその回答へと導いてくれたみさきに、道行きを無言で支え役割を終えた赤いサーブを託すことにする。クルマはすぐれた運転手とともにいるのがいい。自分はあらたな人生を歩むことにする。音から受けた温もりを携えながら。
考えつくされた本作の要素
以上が、自分にとっての『ドライブ・マイ・カー』の印象と解釈である。それにしても、考えるほどに、この映画に埋め込まれた要素は意味深い。
道行きの「ドライブ」、熱の「赤」、言葉が発する「音」、表層的な言葉を解体し遮断する聾唖者と多言語による戯曲。これらの仕掛を通じて本作には、家福という一人の都会人を主人公に、愛する者が発した言葉を聞き届けるまでの旅が、実に巧みに構成されていた。そして、表象に惑わされることなく、内奥にある言葉に耳を傾けることの掛け替えのなさが、切々と心に沁みた。本当によくできた映画作品だと思う。
「言葉を聞く」ことの普遍的な意味
この映画が提示した「言葉を聞く」というテーマは、実に深く重いものだ。このことはとりわけ、今日的で普遍的な意味を持っている。韓国人の俳優、撮影地が日本と韓国であることから、その思いは日本と韓国の歴史を引き寄せる。韓国に対するすべての賠償が、国際法のもとで適正に行われていることは事実だ。しかし、「日本の政治家の言葉は本心をともなわない」という韓国人からの声は後を絶たない。これもまた事実だろう。まさに、映画に示された家福と音の不幸の原点がここにもある。
ツイートの後半に記した、プーチンによるウクライナ侵略もそうだ。2022年2月24日にはじまったプーチンのウクライナ侵略が正当化されることは一粒たりともない。それでも、これだけの悪意、怒り、激高が起こる理由が何なのかが問われなくてはならない。西欧とロシアの歴史に刻まれた、深く重い歴史を見過ごしてはならない。国家の主権と民族の自決は境界が異なる。民主国家と専制国家の線引だけでは、世界の秩序は保てないからだ。家福が陥った過ちを国家の紛争に拡げてはならない。
西欧とロシアは互いの言葉を聞いてきたのか、聞こうとしてきたのか。相手の言葉を聞き尽くしてもなお、これほどに悲惨な犠牲が出るというのなら、人類は存在に値しない。しかし、言葉を聞くことで少しでも不幸を遠ざけることができるなら、わたしたちは互いの言葉を聞き、不幸を避けながら共に生きる道に立つことができる。『ドライブ・マイ・カー』はその希望を与えてくれる。
「言葉を聞く」ことの壊れは、日本の都会に生きる家福と音がそうであったように、愛する二人を深い悲しみと不幸へと誘う。少しその風景を広げれば、それは都市と地方、日本と韓国へと広がり、ついには西欧とロシアをも飲み込むことになる。「言葉を聞く」ことは、家福を通じて示されたように、人類普遍の導きなのである。
人間がどれほど時を重ね、どれほどテクノロジーを極め生活が豊かになったとしても、わたしたちは言葉を聞くことを止めてはならない。映画『ドライブ・マイ・カー』を観て、いつになくその思いを強くした。ウクライナとロシアが互いの言葉を聞き届け、一刻もはやく互いの不幸から逃れることを願って止まない。
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yunarinofficial · 3 years
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自己紹介
こんちゃ!おはようございます。ゆなりんです。
YouTubeやTwitterなどからお越しの皆様、いつも有難うございます。
そして初めましての貴方、まずははじめまして。ゆなりんという名前で活動しているものです。主にYouTubeでゲーム実況や歌ってみたなどを載せていますのでもし良かったらリンクから飛んで動画観てみてください!
ということで告知はこれくらいにして、早速本題の自己紹介を書きたいと思います。
ゆなりん(♀)
好き
オカルト
映画
ゲーム
料理/お酒
動物
黒色
サントラ
苦手
ブロッコリー、カリフラワー、ししゃも
ピンク色
日光
運動
ということでまずは好きなものと苦手なものを箇条書きにしたので、次により詳しく書いていきたいと思います。
ここから長くなるのでお時間ある時に是非読んでみて下さい。
好きなもの1つ目
オカルト!
何を隠そう、私は小さい頃から心霊映像やホラー映画をこよなく愛するオカルトオタクです。
オカルトと一括りに言ってもジャンルなどが様々で結構ホラー好きの間でも「このジャンルはいけるけど、このジャンルは苦手…」みたいな会話をしたりします。
そんな中で私はかなり色々なジャンルに触れてきて、耐性もあるので基本的にはオールオッケー。
…と言いたいところですが、唯一虫だけはNGです。NGと言っても虫が出ている映画を観たらトイレに行けなくなる!とか、虫の画像を見るだけでも無理!とかではないです…ただ好みじゃないです(笑)
唯一と言いましたが、後のジャンルは基本いけます。心霊、悪魔、怪談、サイコホラー、ゾンビ、スプラッタから都市伝説まで!夢のハッピーセットですね。
なぜオカルトが好きになったのかはまた後々話したいと思いますのでとりあえずオカルトの話はここら辺で。ビビりな皆さんはここで目を開けて次の文を読んでください。
好きなもの2つ目
映画!
これもまた、小さい頃から慣れ親しんだものです。
そしてこれもまた、一括りに全ジャンルが好き!というわけではなく…恋愛映画だけはあまり好まない傾向にあります。
何故恋愛映画が好みじゃないのか!理由はただ1つ!振られる側を想うとしんどくなるから!
何故か恋愛映画って2番手の方が優しくて、感情豊かで、面白くて、かっこいい/可愛い気がする。
映画は起承転結を練り込まなきゃいけないので、やっぱり "最初は苦手だったけどだんだん好きに…" みたいなストーリーになっちゃうんでしょうね。
しかし私は騙されない!主役の子が悲しい時慰めてくれたのは2番手だったぞ!主役の子を笑わせてくれたのは2番手だったぞ!
…はい、ちょっと話が逸れましたね。要するに恋愛映画以外は観ます。
特に好きなのはやはりホラー、そしてコメディ。SFなんかも結構観ているのでその辺は後々映画紹介などをしていきたいと思います。
はい、次!
好きなもの3つ目
ゲーム!
いやぁ、この世にゲームを生み出してくれた方有難うございます。
小学生の夏休み。私を楽しませてくれたのは牧場物語とボクの夏休みでした。ぼくぼく。
基本的に外に出ることが苦手だったので(理由は後で)、家で遊ぶしかなかったんですよね。折り紙とか、読書とか、お絵描きとか…。
その中でも特に楽しかったのがゲーム!
今でも時間がある時は基本ゲームをしています。YouTubeでもゲーム実況を上げるほどです。
今となってはホラーゲームばかりやっている私ですが、一応プロセカやマイクラ、APEXなどのゲームもやっています。
そんな私が初めて触れたホラーゲーム。それがドリームキャストのBIOHAZARD CODE:Veronica。襲ってくるゾンビが本当に怖くて、最初に火の中から出てくるゾンビ見ただけで電源切りましたね。普通に元々は怖がりだったので。
次に触れたのがDSのナナシノゲエム。これ、あまり有名じゃないみたいなのですが結構怖いホラーゲーム。プレイすると7日後に死ぬゲームがテーマです。
ゲーム紹介はブログで紹介するというよりは、YouTubeで実際に実況していくつもりなので是非登録してね!
好きなもの4つ目
料理!お酒!
この2つは私のTwitterを見てくれている人はわかると思いますが、料理をするのとお酒を飲むのがすこぶる好きです。
結構その日の気分によって食べたいものを作る、という感じなのであまり得意料理みたいなものはないと思うのですが、強いて言うならイタリアンが得意かな?
白ワインが好きなので、カルボナーラとかカプレーゼとかチキンソテーとか結構な頻度で作っちゃいます。
日本酒も好きなのですが、日本酒は結構料理する必要のないもの(刺身とか)が合うのであまり料理しないかも。最近カツオのユッケが異常に美味しいということに気付いたので作っています。
ビール以外は基本飲みます。こう、改めて自分のこと紹介していると「好きなものの中で〇〇以外なら基本いける」みたいなのが多いですね、私。全部を好んでいけたら楽しさ倍増なんだろうけど、なーんかダメ…。苦いですよね。焼酎はいけます。
もしお酒と料理が好きな人がいたら、是非私のTwitterまでお越しください。色んな飯テロしてます。
好きなもの5つ目
動物!
特に猫。ねこちゃんは何であんなに可愛いのでしょう…。まぁどちらかと言えば猫派、というだけで犬も好きだしウサギもハムスターもチンチラも鳥も馬も羊も動物は基本好きです。嫌いな動物いないです。狼とかかっこいいですよね。
察しているかもしれませんが、お家では猫ちゃんと暮らしています。茶トラのオスでめる。めるたんって呼んでます。
Tumblr media
茶トラのオスは結構ヤンチャで甘えたがりの子が多いのですが、めるたんも本当に甘えたがりで夜は一緒に寝るし、出かける時は玄関までお見送り、帰ってきたら玄関まで駆けてきてくれます。可愛い。
Twitterでもよくめるたんの画像を投稿していますが、こちらのブログでもたまにめるたんの近況報告なんかをしていく予定です。
最近はYouTubeでチンチラのASMR聴いたりしてます。あの、ご飯をカリカリ食べてる動画です。もうめちゃくちゃ可愛い。もっふもふ。両手で掴んで食べてるのがまた愛くるしいんです…。
皆さんは動物お好きですか?苦手な動物とかいますか?
好きなもの6つ目
黒色!
はい、唐突の色です。好きな色は黒です。結構黄色とかそういう蛍光色が苦手なので(電気とかも苦手)、黒色みたいな暗めの色落ち着きますね〜。
スマホのホーム画面とかも結構暗めの画像にしてます。ちなみに今はバイオハザード8の画像を使ってます。
深海とかも好きなので暗めの青とかも好み。女の子っぽい色が逆にあまり得意じゃないかもしれません。
ただ、メイクする時は赤とか結構ぱっきりした色を使います。
好きなもの7つ目
サントラ!
私元々音フェチと言っていいのか分かりませんが、音が好きな方で雨音とか雪を踏む音とか電車の音とか…環境音が好きなんですよ。
ただ、あまりガヤガヤした人混みの音とかは得意じゃなくて、そういうところに行く時はイヤホンで音楽を聴くんです。
で、そういう時に聴く音楽がサントラです。
ゲームのサントラとか、映画のサントラとか、大好きです。サントラって、その音楽が流れていたシーンやその瞬間の自分の気持ちだったりを思い出せるから好き。
ゲームのサントラで言うと、有名なUNDERTALEというゲームのサントラが大好きで結構聴いてます。
UNDERTALE自体が良い作品なんですが、そのボス戦の音楽から日常の音楽まで全部脳に馴染む。テンション上げたいとき、落ちつきたいとき、その場にあった音楽が全部詰まってて私は好きです。
このシーンはこのキャラがこんなセリフを言って…って浸るのも好き。
そんなこんなで私がイヤホンをしている時は大体サントラを聴いています。
と、ここまで長々と好きなものを語らせていただきました。まだまだ語り足りないですが、この後苦手なものも紹介するつもりなのでこの辺で終わらせておきましょう。
質問があったら是非コメントしてください!
苦手なもの
苦手なものを語るってのもよく分からないのでここからはテンポ良く紹介していきます。
まず虫。女性で虫をわざわざ好きって言ってる人あんまりいないと思いますけど、普通に苦手です。
アリと蝶々とハエが特に苦手です。アリは噛むし、蝶々は近付いてくる。ハエは羽音がうるさすぎる。
ブロッコリー(以下略)
食感がモシャモシャしてるものが苦手です。子持ちししゃもは勿論、子持ちエビも苦手。数の子も苦手。
いくらはモシャモシャしないので好きです。
私、趣味で苦手を克服するのが好きなのですが、このモシャモシャ系の食べ物は何回トライしてもダメです…ごめんなさい…。
むしろ食べやすい食べ方があったら教えてください。
ピンク色
黒色が好きって書いたところで既に書きましたが、女の子らしい色が苦手なのでピンク色のものとかバッグとか持ってないです。
可愛いな〜とは思いますが、私に似合うと思えなくて…黒色の方が引き締まってて好きですね。
可愛い子がピンク色のワンピースとか着てるのを見るのは好きです。似合ってます。
日光
紫外線アレルギーってご存知でしょうか?
小さい頃に日焼けしたら湿疹が出てしまい、診察したところ「紫外線アレルギーですね〜」と…
根っからの引きこもりじゃん!と言われたりもしますが、日焼け止めを塗っていたり、日傘をさしていれば日光に当たることはないので 別に引きこもりではないです(笑)
ただ、そのアレルギーがあるのであまり小さい頃は外に出ることはなく、そのままそれが染み付いてしまったので、今の歳でも積極的に「海に行きたい!」とか「山に行きたい!」とかは思わなくなりました。虫もいるし
屋内で過ごすのが好きなので、休日に外出しても水族館とかゲーセンとかに行くことが多いです。
運動
これはもう苦手!というか運動音痴!
小さい頃から50m10秒台だったり、普通に運動出来ない方だったのに何を血迷ったか中学はバスケ部に入ってしまいました。
小学校の体育の授業でやったバスケが楽しかったんです…ただそれだけの理由で舐めて入ってしまいました…
貧血も相まって、毎回走り込みをした後はトイレに駆け込んで戻す私…何故バスケ部に入った!(笑)
でもこんな私にも唯一得意なことが。それはフリースロー!何故なら "10本打って外した数×10周走り込み" という罰ゲームを課されていたから。
「走り込みだけは避けたい…!」というので10本中9本入れることが出来ました。罰は人を突き動かしますねぇ…。
この経験が功を奏して(?)アメリカの高校に通っていた時フリースロー対決で学年1位になったこともあります。訳が分からん。
と、いうことでここまで好きなものと苦手なものを紹介させていただきました。同じ!という人も、逆だ!という人もいると思います。
自己紹介ってこんなじっくりと文字にして書く機会がないので結構楽しく書けたかなと思います。
…ここまで読んでる人います??凄い。
では、最後に今現状で抱えている悩みを少し書きたいと思います。
唐突に悩み相談。
喉について
半年ほど前、人と話すと急に咳が出るようになり、それがどんどん悪化して話せなくなりました。声を出そうとすると掠れて喉が締まってしまうんです。
呪怨の声みたいな、あんな感じのアアアア゛って声しか出ない状態から何とかリハビリをして小声で話せるように…そこから更に薬とリハビリで何とか少しは話せるようにまで回復しました。
ただ、前のように普通に話せるわけではなく、たまに吃音のような感じでクッと喉が締まって言葉が止まってしまう時があります。
以前は歌を歌うことも大好きだったのですが、すぐ喉が詰まってしまうので上手く歌えなくなってしまい、今歌うことはお休みしています。
そんなこんなで、話せるようにはなったけど聴いてると少し喉が詰まっているような感じの声になってしまいました。
正直ショックですが、話せなかった��間が長かったのでそれに比べたらマシ!と思うようにしています。
乱視みたいな感じで調子良い日と悪い日があるので調子が良い日はお風呂で歌ったりもしてます。嬉しい。
もし同じような症状で悩んでいる人がいたら、気持ち分かってあげられると思います。周りはあまり気にしていなくても自分では気になってしまう…だってどう頑張っても詰まるんだもん!
YouTubeの実況中も聞き苦しい声になっていたらすみません。頑張ります!
まとめ
拙く長い文章を読んでいただき有難うございました。自己紹介でした。もしこのブログを読んで私に興味持ってくれる人がいたら嬉しいです。
オカルト好きな方や、ゲーム好きな方と語り合いたいのでもし良ければコメントお願いします!
YouTubeでも実況や配信しているのでそちらも宜しくお願いします!
これからブログで色々なことを発信していきたいと思っているので是非ファンになってください!(笑)
有難うございました〜!
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hananien · 3 years
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【SPN】見えない手錠
警告:R18 ※スカ描写(排尿シーン)、性描写
ペアリング:サム/ディーン
登場人物:ディーン・ウィンチェスター、サム・ウィンチェスター、アーサー・ケッチ
文字数:約7800字
設定: バンカーにて、賢人アイテムに呪われて拘束されたディーンと、兄をないがしろにして後悔するサム。
言い訳: 拘束シチュを最大限活かさなかった。 いつも通りの謎時系列で兄弟の他にケッチが出てきます。
 今日も今日とて賢人基地の謎は深い。  ここのところ曜日を決めて基地の倉庫の整理をしている。その日は他のハンターたちからのヘルプコールがなければ事件には関わらず、食料も前日のうちに買い込むか、残り物だけで済ませて外出はしない。朝から晩まで資料とアイテムに埋もれ続ける平和で知的冒険心が満たされる(サムにとっては)休日だ。サムは地道に整理分類を続けていたが兄のディーンにそこまでの情熱はなかった。  サムは兄の態度が不満だった。サム以上にこのバンカーを”我が家”として認識している兄が、その我が家にどんな秘密が隠されているのか――もしかしたら時限付きの危険物だってあるかもしれない――無関心なことが理解できない。  今日もまた予定していた休日。ベッドから出てこないディーンを無理やり引きずり出してコーヒーを淹れさせ(この鬼!と怒鳴られた)、ハムとチーズのサンドイッチを手に倉庫へ直行する(飯くらいキッチンで食べろよ、とディーンはいう)。  サンドイッチを齧りながらデスクに向かい、前回整理した目録を確認していると、コーヒーをすすってぼーっと突っ立っているディーンが目の端に入る。「ヒマならその棚の埃でも払っといてよ」と若干いらつきながら指示する。声音は穏やかだったはずだが弟のいらつきに敏感な兄は「ハイハイわかったよ」と逆らわずに棚へ向かった。  パタパタとディーンが働く音だけを耳にしながら目録をデータベースに入力する作業に没頭していた。しばらく後に「あ」と声がしたが他に大きな物音もしなかったので無視した。コーヒーに手を伸ばすとすっかり冷めていたので集中しすぎてあっという間に一時間程度は経ったんだなと思う。  「なあサム」 棚の間からディーンが声をあげる。  「何だよ、もう飽きたの?」  「そうじゃなくて、なあ」  「何だよ、もう」  ため息を吐いて立ち上がり、兄のもとへ向かう。ディーンは壁に設えられた棚の前に立ち尽くしていた。こっちを向いて後ろ手に腕を組んでいる。  「何? ナチのお宝でも見つけた?」 軍隊の”休め”のポーズに似ていたのでまた質の悪いジョークを思いついたのかと眉を寄せる。そうじゃなくて、と返す兄の顔が少し強ばっているのにようやく気づく。  そういえばこの棚はまだ手を付けてない。サムが把握していないアイテムが並ぶ棚は、ディーンの偶に発揮される凝り性によってきれいに埃が払われていた。  「ディーン……?」  「おれ、呪われたみたいだ」  ゆっくりと後ろを向いたディーンの腕は、まるで手錠にかけられたように手首が交差して重なっていた。  棚にはいかにも呪われたアイテムっぽい骸骨の手があって、土台にはご丁寧にギリシャ語で「見えない手錠」と書かれていた。
 『見えない手錠?』  ディーンが呪いのアイテムに拘束されてから半日、サムは倉庫をひっくり返す勢いで解呪の資料を探したが全く手がかりがない。ディーンは今のところ”後ろ手で卵を割る”遊びにハマっていて楽観的だが、サムはそうはいかない。自分のおざなりの指示でディーンが呪われてしまったのは痛かった。  「そう書いてあった。同じ棚には他にもアイテムはあったけど、全部封印されたままだったしディーンの状態からして原因はそれで間違いないと思う」  電話の相手はアーサー・ケッチだ。かつての敵で今も腹で何を考えているのかわからない相手に自分たちの窮状を話すのは抵抗があるというかはっきりと嫌だったが、賢人のアイテムについて尋ねるのに彼を除外するわけには��かなかった。  『君たちといると退屈しないね』とケッチがいうのでサムは「いないだろ」という言葉を飲み込んだ。  『まあ端的にいうと仲良くなるまで外れない手錠だ』  「は?」  『乱交大好きなギリシャの富豪が十七世紀に作らせたものだったと聞いてる。アイテムが置かれた土地の所有者とアイテム自身が認識する所有者が連動する。主人以外の人物が触れると拘束し、その拘束は主人と激しいファックをすることでしか解けない』  「おい……」  『つまりアイテムは君がその基地の主人だと判断した、ディーンではなく。確かヘンリーは君たちの父方の血筋だったな? ふーん、興味深い……』  「やめろ、僕らの血筋について興味を持つな」 サムは髪をかきあげた。「ふざけないで解呪方法を教えてくれ。どうしたらいい」  『だいたい君は賢人の道具の扱い方を心得てない。しまい込まれた道具にはそれなりの理由があるんだ、封印された位置にすら。まあ、確かに放置するには危険だし、五十年代のアメリカ賢人の収集品を整理するのは意義があることだが……サム、君には疎い分野だし、アドバイザーが必要だ。今回のようなことがないように、次からは私も付き合おう。もちろん、君たち兄弟がよければ』  「いや、よくない。ありがとう。さっさと解呪方法を教えてくれ」  急に無音になった電話に、通話口をふさいで舌打ちするケッチの姿を想像する。コホンと咳が聞こえて通話が再開した。  『解呪方法はさっき言ったとおりだ。本来は複数人での性行為中にランダムで誰かが拘束されるのが正しい遊び……使い方だったと記憶してる。他に誰もいなければ勝手に土台に戻るはずだが、側に置いておいたほうがいいな。ほら、骸骨の手首があっただろ? あれが土台だよ』  「それはわかってる」  『他に何か聞きたいことは?』  「ない」  『そうか、お役に立てて何より。次の木曜日に伺う……』  サムは黙って通話を切った。
 ギリシャのふざけた富豪が作った乱交目的の拘束具が、なぜアメリカの賢人たちの手によって基地に保管されていたのかその理由を聞けばよかったとサムは思った。だけど、聞くまでもないと思い直す。これまできっと、数えきれないほど悪用されてきたに違いない。  「というわけなんだ」 解呪方法の説明を黙って聞いているディーンに、サムの罪悪感の嵩は増す一方だ。「ケッチが言ったことの裏は取れてないけど嘘をつかれてる感じでもなかった。もっと調べることもできるし、最悪、ロウィーナに聞くこともできるけど……」  「そいつは最悪だ」 ディーンは唇をすぼめる。  「だろ? 見返りに何を要求されるかわかったもんじゃない」  二人は無言になった。サムはいたたまれなくなって自分の足を見つめる。呪いを解くためにファックするなんてどうかしてる。兄の呪いを早く解いてやりたいけど、そのために早く自分と寝ようなんて軽々しく口には出せない。  「サム、おまえとやるのはいいんだが、その前に何か食いたい」  「へっ?」  「腹減った。何か食わせてくれ」
 ディーンが割りまくった卵でフレンチトーストを作ろうとしたが、色々と怪しい手つきを見てディーンが「スクランブルエッグでいい」というのでそっちにした。  調理台のスツールに座ってディーンはサムが食器やら飲み物やら用意するのを眺めていた。腕が使えていたら頬杖でもついていたに違いないのんびりとした表情だった。サムはディーンのやわらかい視線を感じながらフレンチトーストを諦めたパンをオーブンで温め、山盛りのスクランブルエッグと共に調理テーブルに並べた。  冷蔵庫からビールを取り出そうとすると、ディーンに止められた。  「すぐにやるんだからワインがいい。やってる最中にげっぷ出まくったらやだろ?」  サムはガタガタ音を立ててビールを冷蔵庫に押し戻し、グラスにワインを注いだ。  「喉が渇いた」  というので先にワインを飲ませてやる。今更ながら解呪方法を探すのに忙しくしていて、肝心の兄本人の世話を全くしていなかったことに気が付いた。後ろ手でドアは開けるし卵も割れるかもしれないが、コップから水を飲むことはできない。自分は兄を呪いにかけてしまっただけでなく飢えさせていたのだと思うと自己嫌悪で鉛を飲んだように胸が重くなった。  「卵」「パン」と指示されるままに兄に給仕していく。そのうちディーンは何もいわなくなった。サムも無言になった。自分が運ぶスプーンが兄の唇に包まれるさま、兄が咀嚼して飲み込むまでの一連の動きから目が離せなくなる。  ディーンに注いだワインを飲み干してしまうと、彼はにやっと笑っていった。  「サミー、もっと、楽しもうぜ」  サムは自分にと注いだグラスにまだなみなみとワインが残っているのに気が付いた。手を伸ばしてグラスをつかみ、ゆっくりと仰いで咥内に留める。ディーンはまたあののんびりとした表情をしてサムが顔を近づけてくるのを待っていた。  グラスが二つとも空になると、ディーンは酔いでうるんだ瞳でサムを見つめた。  「トイレに行きたい、サム」
 二人してバスルームに駆け込んだ。後ろ手で拘束されているディーンは上に着ているTシャツとネルシャツは脱げない。サムが下半身だけ脱がせ、シャワーブースに入った。裸になったディーンのを後ろから抱き込み、下腹部にシャワーの湯をかけた。  「あれ、当たってるぞ。おまえ、脱いだ?」  「うん」  「なんで?」  「だってお湯がかかるから」  「あー、おまえだけ、ずるい」  「お尻は僕が洗ってあげる」  そういって湯のすべりを借りて指を潜らせると、「バカ!」と怒られ肩で胸を突かれる。「朝からトイレ我慢してんだ! 先にオシッコさせろ!」  「ええ? トイレ、一度も行ってないの?」  地底を這いつくばるような声でディーンはいった。「行ったよ、ああ、見えない手錠で両手が繋がれててもトイレには行ける。でもな、足の指でベルトは外せない!」  「ごめん」 サムは指を抜いて尻を撫でた。「全然気づかなくてごめん。おしっこしていいよ」  ディーンはうーんと唸って首を落とした。ネルシャツの襟もとからすんなり伸びたうなじにサムの食欲が湧く。ディーンは排尿に集中しようとしているようだが、ワイン一杯分の酔ったふりでは羞恥心を打ち消すには至らず、苦労しているようだった。  サムはディーンのペニスに手を伸ばした。  「サミー!」  「両手で持つ? 片手で持つ? いつもどうしてるの?」  ディーンは首を振ってまたうなった。「両手……」  サムはシャワーを壁に固定して、両手でペニスを持って構えた。  「これでいい? ディーン、目をつぶって。僕も目をつぶるよ。シャワーで全部流れるまで目をつぶってるから」  肩口に顔を乗せて、ディーンにも見えるように目をつぶる。ハア、と熱い溜息が頬にかかった。シャワーの熱気に一瞬なじみのある臭気が混じる。どういうわけかそれにますます食欲をそそられて、サムはすぐ側にあるうなじに嚙り付いた。ひっとディーンは仰け反って、排尿の勢いが増したのがサムにはわかった。まるでイッたみたいだ、と思った。  「あ、あ、サム……まだ出る……」  顎、それから開かれた口にもかぶりついて、サムはいいよ、と励ました。それから僕も、といった。「僕も出していい?」  朝からトイレのことなんて頭になかったから、今さらもよおしてきた。サムは片手をディーンのペニスから放して彼の顎をつかみ、きつく唇を押し付けて下半身も密着させる。熱気に喘ぎながら唇を吸って、サムは溜まっていたものを排出した。  ディーンのペニスを握りながらディーンの尻におしっこをかけている。これってファックするよりもどうかしてるよな。  「あ……つ………」  ディーンが漏らす言葉を飲み込みながら、ああ、向かい合ってすればよかった、とサムは思った。そうすれば自分もディーンの熱いおしっこをかけてもらえたのに。  自分が出し終わってディーンのペニスを何度か根本からしごくと、ディーンが肩を回してやめるよう訴えてきた。  「もう終わった、終わったから」  「じゃあ洗うけど、いい?」  「ああ……」  「中もだよ?」  「いいって言ってんだろ」  ディーンは疲れているみたいだ、と思った。当然だ、一日中腕を拘束されて過ごしているのだ。言わないだけで腕は強ばっているだろうし痛みもあるに決まってる。呪われてパニックになるサムをよそにディーン本人は「どうにかなる」といって泰然としていた。もしかしたら長期戦になると思って体力を温存していたのかもしれない。ディーンはそういう野生動物みたいなところがある。
 貪るように体を重ねていたのはサムが地獄に落ちる前のことで、お互いまだ精神的にも肉体的にも若かった。不安や疑惑を欲望のエンジンにお互いを引きずり落としあうようなセックスができたのは若く未熟だったからだ。  サムにとっても我が家となった基地にメアリーが戻ってきてから、何となく関係を控えるようになった。全くやらないわけではないが、今日我慢すれば明日は出先のモーテルでやれるという場合は諦めるのもそれほど苦ではなかった。昔は衝動が起こったら今すぐにファックしなければ死んでしまうと思うくらい切羽詰まっていたからずいぶんと平和に落ち着いた。  平和? 平和などまやかしだ。一時の小康状態にすぎなかったのだ。きっかけさえあればサムはいつでも欲望に火をつけることができるし、言い訳があればなおのこと大胆になれる。  呪いを解くために。腕を後ろ手で拘束された兄の負担が減るように。  上に乗ってくれる? そのほうが、ディーンが一番楽だと思うんだ。  ただ騎乗位の兄が見たいだけのサムの提案を、吟味する間もなくディーンは頷いた。楽というならもっと別の体位がありそうなのは、サムよりよほどマニアックな性技にくわしいディーンならわかるだろうに、バスルームでの洗浄と執拗な拡張ですっかりのぼせていて、考えが巡らないようだった。本当なら休ませるべきだとわかっていたが、ここで言い訳、一刻も早く呪いを解いてあげないと。  激しいファックってどれくらい激しくしなきゃならないのかな。  ディーンは膝立ちでベッドの上を移動して、サムの腰をまたいだ。さすがに体幹がいいから腕がきかなくても倒れ込んだりしない。今はのぼせているから、ちょっとフラフラしているけど。  勃起したサムの上を、ディーンが前後に揺れながら下りてくる。  「ゆっくりでいいから……」  体の自由を奪われた相手を、自分のいいように動かす。久しぶりに感じる、たまらない愉悦。  よだれを垂らしそうになりながら兄が太腿を震わせて挿入に苦労しているのに見入っていたので、彼が涙の溜まった瞳で睨みつけているのに気づくのが遅れた。  「えっ?」  「えじゃねえよ、まぬけ。鬼。ビッチ。入るわけねえだろ、少しは手伝えよこっちは手が使えねえんだぞ」  「え、大丈夫、入るよ。先端がちゃんとハマればあとは自然と入ってくるって。中をあれだけ柔らかくしといたんだから」  唖然とした兄の頬にぽろりと涙がこぼれた。本人の胸に弾かれてサムの腹に落ちる前に消えてしまったが、美しいものを見てサムは興奮した。  「ディーン、僕も手伝うから、一個お願いを聞いてくれる?」  返事もきかずにサムはディーンのネルシャツの裾をまくって内側にまるめ、上に引き上げていく。何かを悟ったが信じられないという表情の兄に首をかしげてみせ、開かれた口の中にまるめた裾を押し込んだ。  日に焼けても赤くなるだけですぐに色が引いてしまうディーンの今の肌は真っ白だ。体毛のない腹から胸にかけてのなだらかな曲線、ピンと立った赤い乳頭がいじらしくおいしそうで、見ると唾液が湧いてくる……  鼻息が荒くなったサムにディーンが身を引いた。サムは両手を伸ばして脇腹を掴む。そのまま手を上にすべらせて親指で乳首をこすった。  「んーっ!」 シャツの裾を強く噛んだあと、ペっと吐き出してディーンは叫んだ。「お、おまえは、おれを、何だと」  「ごめん、本当にごめん」 兄をいじめたいが、この状況では不謹慎にもほどがある。「呪いを解こう。ちゃんとやるよ。僕が当てるからちょうどいいと思ったら下りてきて」  ハアハアと荒い息を抑えながらディーンは弟をにらみつける。  「偉そうに、呪いが解けたら、ぶん殴ってやるからな」  サムはディーンの尻を左右に開いて先端を割れ目に押し当て、ぬかるんだ鍵穴を探した。腹をむき出しにしてディーンが仰け反る。ぷっくりと縁がふくらんだ穴にペニスの先が当たったのを感じると、サムは尻を支えていた手を放した。疲れ切ったディーンが自然に落ちてくるまで時間はかからなかった。  「これ……いつ……解けるんだ?」  挿入を続けながらディーンは目を閉じた。  「さあ。ケッチに騙されたのかも」  「あ――あ――やばい、サム、やばい……今……」 根本まで入りきったと思ったすぐだった。急にディーンの顔色が変わり、一瞬にして上り詰め、風船が割れるように弾けた。何が起こったのかサムにも本人にもわからなかった。  くたくたとディーンが倒れ込み、サムは慌てて肩を支える。紅潮した全身から発汗した彼は起き上がるとき、サムの胸に手をついていた。  「……嘘だろ?」 サムは茫然とつぶやいた。「今のが、激しいファック?」  あまりに唐突なので拍子抜けしてしまった。サムは動いてもいないし、ディーンだってそうだ。理解できなくてサイドテーブルに置いた土台の骸骨の手を見つめてしまう。”見えない手錠”が土台に戻ったからといって”見えない”ままなのは変わらないが――。  明言はされなかったが、ケッチのあの言いようでは、”主人”である自分がフィジカルな絶頂を迎えた時が解呪のタイミングだと思っていた。  「なんだ……何が不満だ……悲しそうな顔すんなよ……サミー」 すぐ側で、汗と涙できらめいた睫毛がまたたいた。ディーンが熱い手でサムの頬をつつむ。パタパタと軽く叩いて笑い、ちゅっと口に吸いついた。  「――入れただけで相手をイかせて呪いを解くなんて、ハ、たいしたご主人様じゃねえか」  サムは息を呑んだ。  「……ディーン……ワオ……ディーン……そのせりふ、かなりやばいよ」  「殴るのはもうちょっと後にしてやる」 ディーンは自由になった腕を上げてシャツを脱いだ。
 きっかけはサムの失態から呪われてしまったディーンを解呪するための”激しいファック”だったが、おかげで以前の狂った情動がなくても情熱的に愛し合えると再確認できた。何となく周りに気まずいからという理由で遠慮するのをやめた。  ディーンは幸せそうだしサムもそうだ。仮初の平和は消えたが、今まで築いてきた兄弟の関係が変わったわけでもない。ただ一つ、今までと変わったことといえば、彼が時々拘束されたがるようになったことくらいだ――本当に手錠を使ったりしない。呪いを受けたときのように、”見えない手錠”を使う。ディーンは拘束されたふりがうまい。  同じ疑念が三回目に心に浮かんだとき、サムはディーンの携帯端末からこっそりケッチの電話番号を消してしまおうとした。だが思いとどまって、目録の備考欄に一文を付け足した。    ――”見えない手錠”――愚かな臆病者を目覚めさせるあなたの策略それから愛
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marinaota · 3 years
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晴々とした気持ちの良い日ですね~🌅
今日は2020年ダイヤモンドプリンセス号隔離前日ということで、ブログを書いてみようと思います♪♪♪
なかなか言えないし、なかなか書けなかったので(書いたら叩かれるみたいな事も)笑、船内で起こったこと、助けていただいたこと包み隠さず書いてみようと思います。
隔離が余裕と考えていた私にやってきた衝撃の事実もあります。
今後もしかすると皆さんにやってくるであろう隔離が辛くならないためにも(ちょっと違うタイプかもしれませんが)笑
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当時は鍼灸学士を授与するための “生活習慣病に対する鍼治療の効果の検討” というレポートを書ききらないまま忙しい船に乗ったのでその年に申請するのは無理かと考えていたのですが、絶妙なタイミングの隔離中に書き上げることができ、無事中国の大学院に行くチケットを手に入れられそうです。論文を読んでは書いて読んでは書いて、キャプテンのアナウンス時は足のエクササイズしながら録音♪みたいなルーティーンが1ヶ月続きました。
ここまではラッキーな話ですが、後からやってくるこんな状況も。。。
1、筋力低下。隔離が10日ほど経ったころやっと1時間だけデッキに出られる時間をもらえたのですが、階段を2階分降りただけでガクガクと足が笑っている。。。
(隔離前前日までホノルルマラソンを目指して毎日1時間走っていた足とは思えません。😂)
2、視力低下。論文レポート等かなり読むものもあったのですが、太陽光のない部屋の薄暗い灯でさらに遠くを見る事もなかったので急激に悪化しました。
3、精神状態。拘禁反応というのでしょうか。ここは後からゆっくり触れたいと思います^^笑
 ヨガをやっているから精神的に大丈夫~なんて考えていましたが、甘かったですね(笑)
洞窟に入ったつもりで瞑想三昧とも思っていたのですが、自ら入るのと入れられるのとの違いが身に染みました><💧
そして、裏にはこんな事実もありました。
悲しいことですが、ダイヤモンドプリンセス号が隔離終了後、その他の船も次々と隔離になっていき1週間のうちに3人の船員が終わりの見えない隔離中に自らの命を断ったとのニュースもありました。
いつ帰れるかわからない。いつ終わるのかわからない。自分が陰性か陽性かもわからないという状態で隔離を続けるのは精神的にもかなりの負担があったように思います。←ここは一般的な隔離と違うかもしれません。
隔離中、心配してお電話をいただいた方もいたのですが、自分では普通に振る舞っていたのですが、だいぶ弱っていたよと後から教えていただきました。
今思えばいい経験。貴重な経験。とも言えますが、当時はあまりそう思えず。電話がなってもイライラ。非常事態だからこその周囲の人間関係にも敏感に。発熱した時は死の覚悟もしました。
帰ってからも夢にうなされる事も。意外とデリケートだったんですね、私(笑)
当時は船員のお友達、支えてくれたパートナー、よく知っているジャーナリストさん、IWJさん、厚生労働省の検疫の方々のおかげで私は約1ヶ月の隔離(20日は窓無し部屋)を終えることができました。きっと皆さんより10日ほど早く出られることができたのではないかと思います。
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2020年2月3日、
私はダイヤモンドプリンセス号の専属鍼灸師として乗船しており、ベトナムの美味しいフルーツとワインを友人と一緒に楽しんでいました^^ 目の子ジワをとる注射も打って翌日どうなるかとドキドキしていた頃です。
船は速度を早めて到着予定よりも1日早く横浜港へ入港。
その次の航海で到着するはずだった清水港で別れた彼から私の荷物を全て受け取る予定でしたが、ダイヤモンドプリンセス号は横浜港からピタリとも動かず、私の人生の行き先は変わっていきます(笑)
船内も急にWi-Fiがフリーになり、ちょっとただ事じゃない?!というような雰囲気でした。
私は前日に母から「あんたの乗ってる船、武漢で流行ってるコロナに感染した人が載ってたんじゃない?」と聞かされていましたが、ほとんどの人が知らない状態。横浜到着当日に各部署のマネージャーに船の司令塔から知らされていたようです。
私も変わらず黙々と治療を続けておりました。
それもそのはず。Wi-Fiは普段高くあまりネット情報など見ません。船内のテレビもありますが、ニュースではまだ武漢の事ばかり。→ゆくゆくは船のニュースを自分の乗っている船の中で見ることになりました。
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私は感染者さんを降ろす日本語の話せるスタッフとして出されました。
後は隔離されているゲストの部屋にお薬を届けるお仕事。ひっきりなしに鳴るコンシェルジュ電話の対応手伝いなど。
2、3日そのように働きましたが、お薬を届ける際は扉を開けるたびにクレーム!!!
閉じ込められて薬も届かずイライラしているゲストが当たってきます。遅すぎる!!!と。
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中には隔離中、視力を失ってしまったゲストや、心臓の薬が届かず救急搬送されてまた船に戻ってきたゲストもおりました。脳梗塞で倒れて病院に運ばれるまでにかなり時間のかかってしまったゲストもおりました。
色々なドラマを見ながら朝から1番寒い日にギャングウェイで数時間。。。
感染者さんともすれ違っている。
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私はその日の晩に発熱しました。単純です(笑)その後複数回発熱したのですがPCRは2回とも陰性だったようです。これは隔離期間ずっっと知らされず、途中で陽性の人は降ろされているので陰性だから降ろされていないのではという噂で知りました。
私は発熱があったことを報告したので数日後に個室で隔離されることになりました。
さぁ、これは今まで書けなかったレポートに集中しろということだな。内心ラッキーとも思いました。
それが、、、1日2日はまだいいのですが、1番辛かったのは3日目、4日目。朝か夜かもわからない薄暗い部屋で1人。窓がないので携帯電波も届かず、Wi-Fiは混線していて接続が悪い。
船内の状況はどうなっているのか、外部との接続を断たれるのがこんな不安になるとは。他の船員ががんばって働いているのに申し訳ない気持ちもあり、不安はますます募りました。
唯一救われたのは同じスパメンバーや船内の友人が気づかって色々お世話してくれたこと^^
そして5、6、7、8日。。。
気分はどんどん憂鬱に。個室隔離になってから私は朝起きてヨガ、スクワット300回、キャプテンのアナウンスを聞いてはレポート論文まとめ。。。食事は持ってきてもらっていたのですが、忘れられた時にはレストランで働いているお友達が持ってきてくれました。1日10時間以上座って繰り返し繰り返し書いていました。少しでも免疫力を上げるため漢方生薬の入った足浴も行っていました。
レポート内容は“生活習慣病に対する鍼治療の効果の検討”をやめ気分転換に“感染症と鍼灸”になっていきました(笑)後1週間経って最後まで書ききれそうな方を提出しよう。
それにしても長い隔離。いつ出られるかもわからない。どうにかしてちょっとでも外の空気を吸いたくなりました。この期間何人もの個室隔離されている船員が部屋の外へ出たと言います。(日本人を除く)本当に日本人は辛抱強いですね。実は私はカウンセリングを受けたり、あの手この手で出ようとしました。
私を心配してくれた知人のジャーナリストさんが、ある日電話をくれました。
あなたは今ある意味人権を無視されていて、陰性か陽性かも知らされていない。人間を2日以上窓のない部屋で1人で閉じ込めるのはしてはいけないことなんだよ。と聞きました。
もう1人の鍼灸師の友人も同じことを言っていて、Aminesty(国際人権NGO)に相談したらとアドバイスをくれました。その子が送ってくれた太陽光と同じくらいのルクスのライトは私の憂鬱な気分を救ってくれました。部屋が明るくなるだけでこんなに気持ちも晴れるとは。
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日中明るさを感じ、夜は暗く。これが狂うと人間の生理機能や精神状態も変わります。
隔離になるまでわからなかった単純なことですが。
それ以降外に出たいという気持ちも強くなり、私は船内D-pat(災害派遣精神医療チーム)の人にコンタクトが取れるよう友人にお願いして数日後やっと連絡が取れました。14日終わったら出られますよ~と聞かされました。この時は本当に心からほっとできました。
その友人の図らいのお陰と辛抱強いカウンセリングでようやく1日1時間夜ですが外の空気を吸う時間が個室隔離されているクルー全員に許可されました。
取り計らってくれた友人は医療班D-mat&D-patさん達と一緒に仕事をしていたので、朝のミーティング状況も詳しく教えてくれ、彼らと仲良くなり通してくれたようです。本当に感謝です。(涙)これが個室隔離での生活が10日経った頃。もちろん船の都合により出られない日もありましたが出られる日は毎回出ました。たまに昼に出られることもあり、久しぶりに見る太陽に大量の涙が流れました。これは嬉し泣きではなく、眩しすぎて出てくる涙です(笑)
隔離アルアル😄
そして約束の14日。。。私は荷物もきれいにまとめていつでも出られる準備をしていました。しかし、いつまで経っても室内の電話もかかってきません。ここから6日後に私は解放されるのですが、ここからがとてつもなく長く感じました。
そしてイライラ、息苦しさ、閉塞感、生理が止まる意外に私の体にやってきたのが幻聴。
目覚ましもセットしていないのにピピピピピピぴっっと頭の中で鳴るのです。
キター!これが人生初幻聴体験。人間長期間閉じ込められるとこうなるのかと思いました。
困惑し、拘禁反応と調べてみると私の身に起こっていることがずらずらと。。。
今は全くありませんが、自分の体でいい体験ができたなと思います。
医療班の方になぜ出られないのかと聞くと2月24日は祝日なので厚生労働省の判断が遅れるとのこと。。。えっっっっ本当に?!!!笑 
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そしてようやく4日後!下船。。。すぐに陰性者は埼玉県の税務大学和光校舎で最隔離?!
約束と違~う!><出られるはずでしたが。。。ここでは少し前から連絡をとっていた厚生労働省の方が最後に和光校舎に行ったら〇〇さんと会ってくださいと下船前に耳打ちしてくれました。
そして場所が変わって1日○○さんとは一向にお会いできず、以前船内で感染者さんを降ろす時に一緒に働いていた検疫の方が隔離施設のミーティングの様子を見て私の部屋にCallしてくださいました。「今日暴れないとまたここから14日間の隔離になっちゃいますよ。とにかく暴れてください。とのこと。」
この方は他にも日本の判断が遅く国に帰れない人を国とわず返してあげてきた人です。
私は隔離棟の受付に電話をかけ、「もうずっと○○さんがくるのを待っていますが、一向にきてくれません。電話の前で1日ずっと待っているのですが。今来ないなら私は隔離部屋から出てそちらへ行きますよ。」
これでやっと動いてくれました。ここで悔しかったのが最後の最後にまた発熱したということ。何度測り直しても38度以上の熱。そして普段上が90くらいの私の血圧は130を超えました。
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また出られなくなるのではないか。。。でもこれは怒りの熱だったのではないかと思います。
そしていよいよ、ドンに会えました。
この人が○○さんか。
「どんな理由で私はまだ出られないのですか?船が隔離されて1ヶ月、個室に隔離されて20日間。陸でも陽性者の人ですら自宅で隔離する程度なのに。」(この時隔離の終わった船のゲストが帰ってから陽性になったということでニュースでかなり厚生労働省が責められていたのです)
「家族にも同じことをしますか?隔離期間も終わった私をこの部屋に入れたままにする意味を教えてください。」
ここでようやく解放。。。3月1日の夜中になりかけた頃でした。
船内隔離が2月3日から2月28日(内個室窓無し部屋が20日間)、船外隔離(和光校舎で3日間)、その後自宅隔離14日間と隔離尽くしの2月、3月でした。
その後ももう意地でもうつってやるかと家に引きこもっていましたね(笑)
ここには書き切れないほどの細かい記事がありますが、知人ジャーナリストさんの紹介で繋げて頂いた岩上安心さん率いるIWJの皆さんは本当に熱心に取材して頂き、がんばって出ましょうね。と言ってくださいました。加藤厚生労働大臣の会見では閉じ込められたまま後回しにされている長期隔離の日本人陰性者についてツッコむことができ、サラッとかわされてしまったと方向句して頂きましたが、大臣にたどり着いて物申してくれただけで大感謝です。
記事の取材を受けるとまた叩かれ、悪い噂もたち、頭おかしいのでないかとのことも。その時はもうある程度どう思われてもいいともいました。
そしてまぁ周りのスマートな方々から私の立場について色々な情報が入ったので、怒りも沸き声を上げましたが、何も知らずヨガをして平穏に暮らすこともできました。ただこの時は物申すと決意。
何も言わずに言われるがまま隔離を受けるというのもありですが、必要以上に自由を奪われるということに納得できませんでした。理由も大きな政府機関が世間に責められないための処置としてだったので。
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私が解放されたその翌日、翌々日も陰性の日本人長期隔離の方々は帰っていかれたようです。
まだまだ書き切れていませんが、かなり長くなってしましましたね😅
この隔離を通して、鍼灸、漢方についてかなり向き合う時間ができたこと、そして自分の体を介して色々な急性ストレスを味わえたこと。精神状態も含め改めて自分を見つめ直すことができたこと。こんな私でも自由のために戦うことができたこと。そしてたくさんの人に協力して頂き手に入れた10日間の自由。流石に涙は溢れました。
その後船に戻れそうな気配はなく開業することを決意。
レポートは結局、“感染症と鍼灸”でなく“生活習慣病に対する鍼治療の効果の検討”にしましたが、鍼灸の免疫に対する有効な発表の記事もたくさん読みましたのでまたいずれ記事にしたいと思います。
何千年と行われた鍼灸が血圧や、コレステロール、中性脂肪、血糖値にまで影響を与えることもわかりました。
高血圧、低血圧、脂質異常症、糖尿病の方への治療を研究するというのも今後の私の目標です。
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前回の記事( https://bit.ly/3osXyS1 )でお話した飛松先生が軍医として満州へ行かれていた頃のお話ですが、2畳に17人もの人が押し込まれ、いつ帰れるかもわからない状態で7,8年の時を過ごしたようです。そんな時に催眠療法(自分への)は効かなかったと言われていました。当人にしかわからない相当お辛い経験をされたのですね。
それに比べると私の経験は比ではありませんが、終わりのない苦しみというものは丈夫な人でも弱らせてしまうのだなという経験ができました。元気が出てくるまで少し時間を要しましたが、今ではスッカリ!!!元気です☺️ ただ隔離は2度とやりたくないと思ってます(笑)
隔離なんて経験する方が珍しいかもしれませんが、部屋を選べる時は照明、窓があるか、運動メニューを怠らないこと。精神が安らかに維持されるようストレスフルな情報はコントロールすることをお勧めします。
隔離中に亡くなられた方の冥福を祈ると共に、鍼灸師として予防できる最大限のことを今後も発信していきたいと思います。
今年もよい年でありますように!!!
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nejiresoukakusuigun · 3 years
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『心射方位図の赤道で待ってる』読書会レジュメ
この記事について
この記事は、文芸同人・ねじれ双角錐群が、2019年の第二十九回文学フリマ東京にて発表した第四小説誌『心射方位図の赤道で待ってる』について、文学フリマでの発表を前に同人メンバーにて実施した読書会のレジュメを公開するものである。メンバーは、事前に共有編集状態のレジュメに自由に感想や意見を書き込み合った上で読書会を実施した。読書会当日の熱気は残念ながらお伝えできないものの、レジュメには各作品を楽しむための観点がちりばめられているように思われる。『心射方位図の赤道で待ってる』読者の方に少しでもお楽しみいただけたならば幸いである。
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『心射方位図の赤道で待ってる』についてはこちら
神の裁きと訣別するため
一言感想
実質まちカドまぞく
岸部露伴とジャンケン小僧的な
サウダージを感じる
むらしっと文体はミクロとマクロをシームレスに語るのに向いている、というか何を書いても神話っぽい感じがする。神待ちという地獄に誘う詩人ウェルギリウス的なポジとして冒頭に置かれているのがとてもいい。読者は思わず一切の望みを捨ててしまうだろう
いつもよりむずかしくなくて(?)そのぶんむらしっと文体の魅力に意識を割いて読めた
一読した印象として、古川日出男っぽいなというのがあった
完全なグー まったき真球〜チョキまでのくだり、かっこよさの最大瞬間風速
細部
箇条書きって進むポイントというか切れ目が明確? みたいな感じはあって、ノベルゲー(いや別にノベルゲーでなくても良い。ゲームで)で次のテキストに進むために決定ボタンを押すじゃないですか。なんかそういう感覚がある。箇条書きが一つ一つ切れていることが。
連打していく感じになる
それが後半で長いのがでてきたときに効いてくる
あとなんか連打のだるさみたいなのがあるじゃないですか? 別に箇条書きじゃなくてつながってるのと負荷変わってないはずなのに。ゲームもつながった文章を読むのと変わらんはずだが決定ボタンを押すリズムがこう負荷を作ってるよな。
上記は箇条書きがあげている効果について書いたんだけれども、そもそもどうしてこの作品は箇条書きなんだろうか? その意図というか、狙ったことがあるんだろうか? そこまでないにしてもなぜ箇条書きにしようと思ったんだろうか?
●のシーン。ナツキ(本田圭佑)が導入されてじゃんけんの話をしてこの時点でギミックと言うか、じゃんけん強いというのが、すでに引き込む力がある。じゃんけんからの視点の飛躍、特に蝉が木から落ちる下りで「次の年」っていきなりなるのは良いなと思った。
池袋西口、昔のおとぎ話、宇宙、キムチチャーハン、みたいな、遠近が入り乱れている世界観に特色がある気がする
★の家族のところが印象強くて、いたりいなかったりする兄とか、石を食べて予言をする姉っていうのが、マジックリアリズムな感じもありつつ、グラース家的なイメージも感じたりした。
▲のところで、つまり地の文のまなざしは父性だったということになるんだけど(実質)、それが変質していくというか、悪夢が変形する感じがちょっとあって。おとぎ話はグイグイ来て良い。
じゃんけんに関する要素が入れ子みたいになっている
完全なグー、外界を寄せ付けない孤独の象徴
P16「完全なグーについて」「ナツキの孤独について」で、ナツキがじゃんけんに絶対に勝ってしまい疎まれることが語られる。孤独。
●の部分がグーということなんだろうけど、ここでナンパの男にじゃんけんで勝ち続けて気味悪がられるナツキの孤独が語られている
完全なパー、記録すなわち過去の象徴
P18「完全なパーについて」「ナツキの記憶について」で、ナツキ(というより、「ぼく」)のナツキのはじめてのじゃんけんの記憶が語られる。
★の部分が(この完全なグーチョキパーを語っているところを含めて)ナツキの過去を語っており全体が記録、過去になっている
完全なチョキ、繋がりを切断する、他者との関係の象徴
P21「完全なチョキについて」ここはグーとパーと異なり「ナツキの●●について」という言葉は続かないんだけど、他者との関係、そしてそのつながりの切断についてということになるんだろう。家族のことが語られる
▲の部分が、逆に★の部分で語られなかった相手である「ぼく」、父親との関係とその断絶になっている
P21ではじめてのじゃんけんでナツキに無意識に出された手が、完全なチョキであったことの意味を噛みしめてる感
我が子に関係を「切断」されたということを否定したくて(その完全性を壊したくて)、躍起になったのかな
ところどころナツキが負けたがっていることを知っている描写があり、自分がナツキの完全性を否定することが彼女の救いになることもわかっているはずだ
でもなんか挑発的だし、やっぱり負けたのがすごく悔しかったのかもしれない
官吏(仮)も天体望遠鏡の順番決めでじゃんけんをしていた。むしろじゃんけんのほうをたのしみにしているようにも読める(P14)。
父もナツキに負けたことで、宇宙をいくつかまわって再び勝負をしかけるくらい入れ込んでいた。
父も実はじゃんけん自信ニキだった?
本田圭佑vs本田圭佑
全然関係ないが、じゃんけんする人の国民的ポジションを一瞬で本田圭佑がサザエさんから奪い去ったのすごいな
自信ニキにしてはパー(過去)を出すのにも「失敗したキムチチャーハン」で負けるあたり、舐めていたのか、地力が低かったのか、ナツキが強すぎたのか。
父は抱きしめてやるべきだったんだよこれ。
おとぎ話、これなんなんだ?
最強の手「グーチョキパー」と、官吏が囚人とのじゃんけんで出した手が官吏にしか分からない(グーとチョキとパーいずれかを事後報告できる)ということは、似ている
並行宇宙の話をしてたから、つまり重ね合わせの状態の手を出しているということか(???)
どの宇宙でも勝つように収束する
やけに星がよく見える池袋でナツキたちのちょうど反対側にいた男の故郷(この国でいっとう星がよく見える土地)と、官吏の故郷(星がいっとうよく見える土地というのがこの世界にはある。おれの故郷はそんな場所の一つだ)の類似
わからん。もう少し考えたい
それはちょっと意識してるのかなーとおもったけど、おもったけど、その先がわからなかったな
よく側を通り過ぎている女二人は官吏の妻と、彼女と密会していた女っぽい(P33)?
あの二人はなんか意味はありそうなんだけど、そうなんですかね? なんか手がかりある?
そもそも官吏の妻が密会していた女っていうのがよくわからん。p33「隣の独り身の女と、三日にいっぺんは会っていた」も最初は読み方がわからないというか、男の誤記か、会っていたの主語は官吏の方かとか考えてしまったから、でもここでその目立つ書き方をしているってことは、通り過ぎている女二人なのかもしれないな、必然性があるはずだと考えるならば。
「~しあわせな結末が待っている/そのまえにすこしだけの試練~(P12)」「おれの女房が、じつはおれのことを好いていない~(P33)」
同性愛で、片方には少なくとも家庭があり云々っていう話で素朴に読んでました。おとぎ話と「現実」が地続きなことを示唆する描写っぽいけど、地続きだとしてどういうことになるのかはまだよくわかりません。
反対側に官吏(仮)がいるので、当然彼女たちのことも見かけているはずだけど、そういうところには踏み込んでいない。
「塔のまわりをぐるぐる回るわたしにまとわりついて、しゃべりはじめた(P30, L9)」
ナツキの父の一人称は「わたし」じゃなくて「ぼく」
ここの「わたし」が「ぼく」の誤りだったら、「実は父の回想でした」筋が通る気がするんだけど
だとしたら反対側にいる男がおとぎ話の官吏で、囚人がナツキの父親なら、ふたりともここにいる/そこにいないのはどういうことかってなるし
おとぎ話パートに一人称が出てきてもなんらおかしくないという当たり前の結論に達した
これがただのおとぎ話だとしたらやっぱり、上記の類似はなに?ってなるな
「官吏のいかさま/それを覆す方法」のどちらかが、ナツキに「勝てる方法(P30, L2)」と対応する?
「つまらない方法」でも「教訓がない」と強調されている
P16で完全なグーチョキパーと「昨日見た夢」が並列に扱われている
おとぎ話との関係ありそうか?
最後のじゃんけんのところ
「親指をひろげて」「人差し指をひろげて」「中指をひろげて」「薬指をとじて」「小指をとじて」なんかじゃんけんの最強の裏の手みたいなやつか?
『ラッキーマン』で勝利マンがじゃんけんで出す最強の手「グーチョキパー」の印象が強かったので読みながらウフフとなった
指を家族にたとえる歌「おはなしゆびさん」
「中指をひろげて おにいさんゆび」って言ってるけどこの宇宙には、もうおにいさんは「すでにいない(P22)」はず
ナツキはおにいさんが「すでにいない」ことを知らないのか
「だからおおむね、いるのだといっていいのだろう(P22)」で解決か
小指=あかちゃんゆび=ナツキ自身
「わたしはもういなくなるから」の意味とは?
めっちゃかっこいいんだが、なんで勝つと神の不在を証明できるんだ?
自分を負かす存在を待っている→やってきた男に勝つ、という構図で、テーマが神待ちだから?
(1)完全性の自覚を打ち砕いてくれるくらい完全なもの(神)に出会いたい→満を持して史上最も期待できそうなやつ(父)が現れるが、勝ってしまう→神の不在に感じ入る
(2)「勝てる方法」を使用してくる父に勝つには「最強の手」を使うしかない→勝つために「最強の手」を使った自分は完全ではなくなった→「じゃんけんの神」であるナツキはいなくなった。(※「最強の手」には完全性が宿らないという前提)
後者だと「わたしはもういなくなるから」に若干繋がりそうな気配があるが……。
「気に入らない男だけれど、負けるのはほんとうらしい(P30)」
実は勝ってないけど負けることによって勝利しているとかそういう話の可能性は、ないか。
なにもわからなくなってきた。
最後のビュレットがないことの意図
ここまでの文が全部、ナツキが最後に出した「最強の手」の動線ってことなのか。
山の神さん
一言感想
広瀬の(声 - 小野大輔)感
笹さんは本当にエッチな男だなあ
広瀬の絶妙なすけべ感がすごいいいんだよな
舞台が大正時代なのもあって、なんとなく森見登美彦風味も感じた
実質ヤマノススメ
過去と未来、機械と人が「重なって」ゆき止揚される様がいい。
私は毎回打倒笹さんを目指してカワイイ女の子を描こうと四苦八苦しているのだが、そんな私の苦闘を尻目に笹さんは毎回さらりと可憐な少女を書いてしまう。私がシャミ子なら笹さんはさながらちよももといえるのではないか? この観点からね群とまちカドまぞくの類似点について指摘したい。
ね群とまちカドまぞくの類似点について指摘するのはやめろ
おもしろい小説を書くのってむずかしい(今回なぜかとくに思った)んだけど(隙自語)笹さんはすごいよ
時代は姉SF
対比的な文体芸が楽しい
ちゃんとそれぞれの文体の思考法でおのおのの結論に至るという意味での必然性もあり
短文が素打ちされていき、隙間にとぼけた感じが挟まれるこの手の文章が自分は好きなんだよなと思った。というか、思えるくらいに自然でうまいというのがある
p58で一瞬ネタにして明示してくれるの親切というか、やっぱりそうなんだ!っていううれしさがあり、かといってそれ以上しつこくネタにしない慎み深さがある
「機械の身体」にたいする各々の対照的な考えが、登山という身体性をともなう行為によって止揚される云々!テーマの消化のしかたがきれい
おれは登山をしたことはほとんどないが……
とまれ、こういう短いキャッチフレーズにまとめられるくらいの主題があるのは大事だよなあといつも思うんですよね……
会話が四コマ漫画を連想させてまんがタイムきららだろ、これ。
意識して読んだらマジでまんがタイムきららが脳内展開された。
ドキドキビジュアルコミックス
SF的な設定について
ものすごく複雑なことをしてるわけでもないと思うんだけど、人間と機械のきょうだいってのはちょっといろいろ考えがいがありそうなんだよな
血縁がないにもかかわらず姉妹を擬制するというのはひとつの伝統なので……
義姉妹の約を結んだのか……
単純にスペア的な存在のような気が(名前が神籬だし)
医王山登りたいな
プロットで動機や結末などを「重すぎず、軽すぎず」っていう思案してたっぽいけど、それがちゃんと活かされててよいな。
細部
大正15年、大正デモクラシーの流れで前年に男子普通選挙法、昭和が目前、世界恐慌前だしそんな世情はギスギスしてない感じだろうか。張作霖爆殺が昭和3年とかなので徐々に種が撒かれてた感もあるか
舞台は金沢らしい。旧制高校のエリートである
転移時の文章のくずれのかっこよさ、これなにか書くコツとかあるのかな……
実質パプリカ(映画)なんだよな
今敏監督で映画化だ
p52で先を歩かせてるときにスカートがちらちらするのぜったい気にしとるやろがそれを明らかにせず別の理由をつけるあたりのむっつり感
「まったく許しがたいことだ」じゃあないんだよ
p.72「広瀬は次に登る山のことを考え始めた」の爽快感がすごくよかった。
でもじつは神籬のことをめっちゃ考えてたんだけど、私小説的な照れ隠しでこの書きっぷりだった可能性もあるな
エピローグ(p.72の※以降)で広瀬たちと神籬の後日談があることが最高の読後感を提供してくるんだよな
囚獄啓き
一言感想
夜ごと街を走って体力を高めるの草
え、なんで妻は罪を犯したの?
愛だ。小林さんは愛の輪郭線をたどることで愛を浮かびあがらせるのが巧い。直江兼続の兜を想起させる。そして銀河犬が気になる。
いつもよりギュッとしてる
ぼくも同じ印象を持って、最初は漢字のとじひらきがかなり過剰に閉じ寄りになってるからかなと思ったんだけど、むしろいつもより地の文が多く、強めの短文を連打してるからなのかな
どこかに魚が出てくるかなと思ったけど、なかった
ところどころに小林さんの昏い性癖が出てる気がします
冒頭にある「地獄とは心の在り方ではないか」がポイントなんすかね
平等な地獄を作ったはずの主人公が、また別の、その人固有でしかありえない、妻の不在という地獄に……という、やっぱ愛か……
刑罰ってのがそもそも歴史がありその意義などいろいろな話があり現代に照らし返せるものの多い、したがって近未来の世界の「当たり前」がどうなっているかを描くまっとうなSFに向くテーマで、そのへんを上記の愛の話のもう片手として簡潔にまとめてるので、SF!って感じがするのだよな
理屈づけのおもしろさで魅せてく鴻上さんのとか、未来ならではの思索で魅せてく笹さんやばななさんのとあわせて、SFらしさのバリエーションがでてると思う
初読時には時系列というかエピソード間の間隔のことあんま意識して読んでなかったんだけど、妻が事件を起こしてから刑を執行されるまでにけっこう時間が経ってるのがわかって、なかなか大変やなというきもちになった
と言いつつ実はちょっとわかってないんですが、二人称で語られる断章は(多少その前な箇所もあるとして、おおむね)妻が捕まって以降の話ということでいいのかな?p85の妻への言及とかも相まって自信がないんですが
そもそもそのへんの語り全体が妻の見ている地獄という解釈もあるんだろうけど……(でないとなんで語り手がこんな詳らかに知ってるのかが説明できないというのもあり)
「牛乳を含んだ雑巾」みたいな独特の比喩から小林節を感じる。
SFってガジェット自体の新規性や利便性から話の筋を作るというのもあるんだけど、そういう未来を描くことで(かえってその迂回が)現在に通用する倫理とか問題意識を切実にさせる側面もあるんじゃないか、みたいなこと考えることがあり、これはすごくそれよりな感じがします(感の想)。時代によらず共感しうるものだったり、いま揺れている倫理に地続きの問いだったりが中心に据えられている。んじゃなかろうか。
「あなた」の作る地獄(への道)を「無関心」で舗装していたのは、むしろ妻のほうか(P79の後ろからL5、あるいは全体に漂うフラットな語り口から)? 舗装、とは言い得て妙かもしれない。その下に押しつぶされているもののほうをこそ俺はなんとなく想像してしまう。
妻の犯した過ちには子供の死と、ひょっとしたら、球獄とそれを取り巻く感情が関係している。いる?
平等であるというのは、ある意味残酷なことだ。だからこそふさわしいのだろう。意思が介入せず、全くぶれない罰を与える球獄だからこそ、罪の清算(救済)が可能である。それがどんなに償い難い罪だろうと、いやむしろ償い難いものであるほどそう感じられるのかもしれない。「あなた」による偏執的な研究の日々の傍で失われていったものがあるならば、それらの重さは球獄という完全性への期待に加担する。その信仰は、妻の中にも「あなた」の中にも、いつからかあるはずだ。
「神待ち」に関して
これから堕ちる地獄(世界)の創造主(=神)に「そこで待っている」という発言をしたことが、テーマに沿っている気がしたんだけど、どうなんだろう。
こういう発言にも妻の「あなた」への共犯意識が垣間見れるし、なんかやっぱり妻の罪の動機と球獄の製作って関わってるよね。そこをあえてすっぽり省いてる気がして。
脳波の逆位相を……という発想がよく考えたみたらどういうことだってところではあるんだけど、とくに瑕疵にらなないのはいいなというのがある
性的快感の逆位相=性的快感以外のすべてがある
妻がいない世界に生きる「あなた」=妻以外のすべてがある世界に生きる「あなた」
ということで、妻の地獄と、それ以降の「あなた」の生活は相似しており、このことがp.90「僕たちは二人並んで閻魔様に裁かれて、それから長い長い地獄に落ちるんだ」に繋がるところがうまいと思った。
細部
終盤で語り手が妻だとわかるみたいな仕掛けはやっぱりグッときちゃうんだよな
p80 パパ活やってて喫茶店のスティックシュガーパクる?と思って笑ってしまった
p81 京文線、なぜか印象に残る。急に架空の(だよな?)固有名詞が差し込まれるのが異質っぽいのかな?(ワイン、とか、省、とか、固有名詞が割と排除されている空気の中で)
「顔が見えていても私はいいんだけどね」「また来ても良い?」普通は、三倍払うと言われてそれに釣られてやってきた女は、こんな好意的な反応を返さないだろうから、そこに都合の良さというか、あるいは記録者による逆のバイアスがあるのかなとか思ったりする
p82「再び端末のキーを押下」エンジニアしぐさ
p84「君の身勝手な自棄で何人の未来を奪ったんだ」なにやらかしたの?
p.86「銀河犬」「(おばあちゃん)その辺で見ませんでしたか?」の台詞がすごく好き。小林さんは一作目からこの手のシュールさを志向している印象がある
記録の語り手が妻っていうのはなるほどねと思った
p.85「それから数年にわたって女はあなたの研究室に通い続けた」以降は、妻が罪を犯した後?
p.88「語りが過ぎた。ここで記録は結ばれ、以降は記録ではなく〜」記録3の後の最後の断章は、妻が地獄執行される場面であり、妻はその場面の記録を執筆できないということを意味している
p.89「私の心は現在どのレイヤーにあるのだろうか。」レイヤー?わからなかった
杞憂
一言感想
中盤からの加速感
これ絶対あれだろと思って読んでたのにやられた
デジタルタトゥーとかそういう意味じゃないけどわかる単語がずるいよな
インディアンのネーミングについて調べてしまった(おもしろい)
この手の一般名詞(?)をそのまま訳して名前として表すやつがなんか知らんが妙に好きなんだよな
ナツメもライチも中国原産っぽい?
原産というか縁がありそう
両方とも滋養強壮できるらしい
ちゃんと資料にあたり、ネイティブアメリカンの習俗とかJKリフレの店内の様子とかそういう細かいところをしっかりさせてて、小説の足腰ができている、見習いたいんだ……おれは……神は細部に……
SF的な理屈をいかに飽きさせずに読ませるかってところで、JKリフレとの強引な対応関係をつくる手つきがすげえ上手いんだよな
馴染みのある語彙に変な言葉を紛れさせて地の文で展開する、みたいな
オーバーロードが中年男性に……(さらにはそれがエルクに……)っていう絵面的なおもしろさと設定的な必然性を両立してるのとか、漫才っぽいプレイの流れのなかでちゃんと話進めるところとか
文化盗用とかアーミッシュへの皮肉っぽい視線みたいなのは前回の感動ポルノに通じるところあるよな
バトルシーンの手の込みようとおっぱいで窒息するくだらなさの融合だけで“勝ち”なんだよな……
もしかしてこれをやりたいがためにここまでの全部を作り込んできてないか!?!?!?
古事成語オチをつけてなんかやっぱネイティブアメリカンの伝承の話だった?みたいにするふざけかたも好き
あ、ここから怒涛のあれが来るんだって予感でわくわくしてやはり来て、凄かった。
SF的な設定、未来の世界での娯楽・趣味的的な観点がけっこうよくて
意図されたであろう魅力が初読で存分に伝わるつくりで、かつ細部に注目する部分がたくさん残されているのがめちゃくちゃつよい。
人物やガジェットのネーミング、その他取り扱われている文化へのリスペクトなど。
細部
p97「俺たちの世界の理にして〜」、読み返してみると、焼き脛は序盤からちゃんとわかって言ってんだな……
侍ミーて
「ひょっとするとお忍びで欲望を満たしにきた元老院議員の可能性さえある。」ここクソ笑うんだよな。千と千尋のあれかよ。
「あれこれ無駄な心配をする痴れ者をさして杞憂と呼ぶ習慣」これ文脈的に杞憂じゃなくてマウンティングベアって呼ばれるんじゃないの??
なんか笑った
略されて使用されていくうちに逸れていく、みたいな、なんかそういう言葉いくつかある気がする。いまは思いつかないけど
用語について調べて/考えてみる
赫の終端(レッドコーダ):ハンドラ族の長
赫は赤いこと、勢いが盛んであること。コーダは音楽で終わるあれ。なので日本語とルビは直訳的に対応しているっぽい。レッドコーダーだと、競技プログラミングのあれになる。プログラミング力が高いから長なのか?
ポアソンの分霊獣
ポアソン:名前。有名どころだと数学者? ポアソン分布の。
分霊獣:分霊は分け御霊。獣?
分霊という言葉のもともとの意味は、分け御霊ということで、コピーして増えるという意味の分けるなんだけど、作中でこの獣の動きとしては、流れを分ける、分配するという意味の様子。
っていうかロードバランサだよな? だからポアソン分布なのか! 待ち行列だから神待ちなんだ!(今更気づいたの俺だけか?)
待ち行列SFらしいということは垣間みえていたんですけど、まさかこんなん出てくると思わんやろ
杞憂(キユー)
杞憂は空が落ちてくることを心配した故事成語。カタカナでキユウではなくキユーなのはなにか意味あるのかな。待ち行列のキュー?
あー!なんで杞憂なのかと思ってたら、そうか、queueか!気づかなかった……
キューとかレッドコーダーみたいな二重の意味、他のやつにもそういうのあるんじゃないかと思ったけどわからんな
キノコジュース
一言感想
光――
初手「ふざけるなよ」と感想を書こうとしていたんですが、本人がふざけているつもりないとしたらめちゃくちゃ失礼になってしまうな、と口をつぐんでいました。やはりふざけるなよでよさそうです。
そういう意味では、我々としてはかなり楽しく読めるんですが、どこまで本気でやってるのか測れない距離の読者からすれば、読んでいて不安になる可能性もあるのかもですね
購入者の感想がたのしみです(なんなら自分の作品よりも)
ふざけどころの緩急がすき
ナンセンス漫画ってやっぱ絵があるからこそギリギリ成り立つもんなのかなあと思っていたところ、それを小説で成り立たせてる腕力がすごい
理路のつながらなさをゲーム的な世界観と苦しむ顔がかわいい女を好きな思い込みの激しい男とでギリギリもたせている感じというか、一般のナンセンス文学の退屈さを補う怒涛のクリシェというか
ほかの人のはそれぞれに「自分もこういうのできるようになりたい」という部分があり、その一方で「だけど本当にそれが書けるようになることを自分は求めてるのか?」という立ち止まりもあるなかで、国戸さんのは心情的に共感みがすごいんだよな。「これをやりたいし、これをやればおれのやりたいことができるのか!」みたいな
好き。酒呑みながらブコウスキー読んだときとおんなじ仕合わせな気持ちになる作品。
実際完敗した感じはあるんだよな。旋風こよりを前にした上矢あがりみたいな。
国戸さんの料理好きな部分が出てるのか。登場する食べ物飲み物が気になる。苔とか。
笑えすぎて本当にずるい
細部
すべてが細部なので読みながら挙げていきます(正直一文一文挙げてきたいところはあるんだが……)
そもそも冒頭の大剣のくだりからしていきなりバカにしてて、そこから「エロい体」の「悪魔系の魔物」が出てきて(系ってなんだよ)、ハートがパチン、そして光——の畳み掛けで完全に引き込まれちゃうんだよな
本当に最初の3行ですごいじわじわきたところに「セクシーで人間と同じ形状をしたエロい体の悪魔系の魔物」でトドメ刺されるんだよな。笑えすぎる。
くっそお、俺はこいつが好きだ
「大型魔物」、「の」を入れないのが良い
最強の二人のもう片方、だれだっけて
双剣を捨てる言い訳から店主を攻撃して半殺しってところまで一文一文笑いどころしかない
全体的にそうだという気もするんだけど、とくに「ルシエは用心棒で〜」からのくだり、なんか妙にサガフロ2を思い出したんだよな
キノコジュースのくだり正直まったく不要で、リアリティを増すための習俗の描写を馬鹿にしまくってる感がある
そういう意味ではその前の鴻上さんの緻密さと対比的でおもしろいな
「戦闘で、全力でしゃべってるんだと感じた」突然詩的になるな+ペンダントのくだりの思い込みの激しさ
いきなり世界が壊れだしてから第三世界の長井みがこれまでにも増して、ちゃんとゲームの世界なんですよという無用の目配せに笑ってしまうんだよな
素直に強く反省する主人公
p136の唐突な暴力描写の投げやりっぷり
「まさか点滅して消えるだなんて」ほんと好き
「その勢いは凄まじく、まるで矢のような勢いで飛び込んで来たのだ。」ここも好き
ひかりごけをいきなり食��て、しかも飢えた人間へと連想���つなげるのをやめろ
もうこのあたり完全にゾーン入ってるんだよな、一文一文が常に笑える
「強い恐怖は、それまで持っていた弱い恐怖を克服する」の決め台詞感に至るまでの思考回路がくだらなすぎる
玉ねぎの連想から無理やり涙につなげて、象徴にもなってない象徴を引っ張り出したうえで「確かに」と結論づけさせるのすごすぎる
「過去の出来事が現在の状況を暗示している」みたいなありがちなアレをばかにしてる
いきなり寝ている、いきなり寝るな
「すると〜」からの段落の描写の雑さが主人公の現実認識の雑さを象徴しててめちゃくちゃいいんだよな
ダグラスの登場あたりからやにわに話が盛り上がるのだが(そもそもこれで盛り上がってる感がちゃんと出てるのがまずすごい)、インベントリがいっぱいなことを心配したり速い虫の話をしたりさらには親の回想がはじまったりしてこいつ集中力がなさすぎないか?
とても速いなにかしらの虫ってなんなんだよ、ほんとに。何回読んでも笑ってしまう
でもなんかちょっとかっこいいんだよな
p140からのなんかいいこと言ってる感の空虚さがすごいし、そもそもなんでダグラス現出してんだよだし、それらすべてが学校の机でガタンの恥ずかしさとなんかしらんが妙にリンクしてる感じがして凄みがすごい
「あれ、これだいぶ前にもやらなかったか?」で突然我に返って、読んでる方も一瞬我に返り、ページをめくると最終ページの登場である
「苦しそうな顔が〜」で最後までふざけて、ロケットが開くのもなんか勢いで、それから光——ではないんだよ
まさしく腕力
リュシー (Lucie)は、フランス語の女性名。 ラテン語の男性名ルキウス(Lucius)に対応した女性名ルキア(Lucia)に由来し、『光』を意味する。
蟹と待ち合わせ
一言感想
マァンドリン
わりと文章が硬質なんだけど擬音語擬態語とか、こういう音声的な話を印象的に使ってくる印象がばななさんにあったけど今回それが強まっている気がする
いつもより書いてて楽しそうな印象をうけた
どこかでも書いたがばななさんの導入いつもよいと思う(導入以外が、という話ではなく)
今作はわりとエキゾチックなんだよな。キャノンビーチの鳥居を蟹がくぐる光景がエモい。
全体的にアルカイックなのは意識の誕生以前の世界への回帰だからか。
おなじ文献に着想を得てるのに杞憂との落差よ。
御神体フェチ
毎回SFギミックがハードコアではあるのだけど今回もそうで、そのうえ↓の書き手の感想にあるとおり、実際書き方がより挑戦的になってる
んだけど、それなのに!夏の島のバカンスの雰囲気に包まれててめちゃくちゃさわやかなんだよな、なんなんだよ
そう、すごくさわやかなんだよな……本当に
ずっと空と海を描いていて、そのうつくしさは質感としては憧憬に近いんだけど、ラストで急にその突き抜ける青さが手元に戻ってきて調和するのがすきなんだ
人類補完でなにが起こるかのところにこの回答持ってきたのは(↓で書いた情報の出し方のおかげもきっとあるんだけど、個人的な考えとしても)個人的にはめちゃくちゃ納得感がある
収録作のなかでもアジテーション的で、わりと全体通してゆっくりアジってくるので「たしかにそうだよな……」みたいな納得感がある。あるよな?
「鯨」で強めの主張をしてからの「石球」での転調、そこからラストの「蟹」で落とす流れがきれい
というか、全体的に情報の出し方のコントロールという基本ががうまいんだよな。我慢できなくて設定語りしちゃわない?おれは我慢汁出ちゃう!
細部
ちょっと入り組んでいるので整理を試みます(みなさん適宜修正してくれ):
人類
全体と言語野を共有している
読む限り電脳である以外、形としては「普通の人間」でよさそう?
現代から100年後が舞台であること(そう遠くなく、まだ最後の電脳化が終わって間もない)、人間の肉体として考えて不自然な描写が出てこないこと
もし「異形」であるなら、相応の描写があっていいはず
自然な人間の形であるからこそ「四本足」や「七つの目」という描写が活きているんじゃないかと思って
しかし、なんでもいいというのも、この話の主題のひとつだ
「アラスカやシベリアの軍事拠点と並び、地球上で全住民の接続を完了した最後の地のうちの一つだ��た(P152)」
語り手たちはまだ完全に統合しておらず「人間らしい」雑念に溢れている(ように語っている、が)
笠木
御神体「ヘイスタック・ロック」
「キャノンビーチ」
笠木グループ:腕が各2本、脚が各2本の3体か
彼らの姿を想像することにあまり意味はなさそうだがいちおう
肉体(?)の数と一人称複数形のバリエーションの数は一致しない
p146で「三つの肉体」とあるから上記の解釈をしたんだと思うけど、最初読んだときそう読み取っていなかったのでなるほどと思った。何故かはよくわからないが、6本腕(兼ねる、脚)がある物理的には1つの塊を最初イメージした。p145で「七つの瞳」(3では割り切れない)とか、「三つの声、四つの声」とか書いてあるのを読んで、あまり整合的にわかりやすい体の形をしたものが何体かいるみたいな状況じゃないんだろうなと思ってしまったので。
でも油圧ショベルを操縦してるから、人間みたいな形をしているのだろうか(人間向けの油圧ショベルなのかどうかは定かではないが)
瞳のひとつは「対流圏から熱圏にいたる範囲を巡航する種々の飛行撮影機と衛星によって構成された視線(P163)」とのこと
なるほど!!
どうも彼らは記録をしているらしいことがわかる
マンドリングループ(たぶん)とは異なる一人称複数的な主体を維持しており、(一方的であれ)独立性を保てるらしいことがわかる
性交は非対称的な行為であること
「私たちは背中が三つある獣(P147)」すごいな
マンドリン
御神体「鯨→海自体へのイメージ」(仮)
マンドリングループ:腕が計6本、脚は計4本
……とあるけれど、海岸を歩んでいない2本があったりするかもしれないか
人類全体の意識(というべきではないかもしれないが)が共有されており、各々の肉体は物理的な入出力器官として位置付けられている、入れ替わることもあるていど自由っぽいことがわかる
「四本の足(P150)」という表現、ひとりはかならず共用スペースで開発をこなしているという描写(ここすき)
「肉体と精神の求めに応じて」とあるので海岸を散策する肉体も実際に交代してそうな雰囲気がある
「巨大な一つの意思たる海、それを身に纏う美しい惑星(P154)」(『ソラリス』だ)に自分たちの集合知としての存在を重ねる
パレイドリアがそれなり大事そうな概念として導入される
大戦があったこと、舞台が太平洋の群島であることなど、若干の歴史や場所の情報
環礁・核実験・地形などの情報からビキニ環礁だと思われる
鯨グループ:7つの眼
あとの「蟹」を読むかぎりでは笠木グループと同一であると思われるが……
パレイドリアの話の続きとして:自他の境界がない(このへんが神々の沈黙っぽい)→パターンを形作ることができず、生の感覚(?)としてしか受容できないみたいな話になってくる(現代的に見れば統合の失調ではある)
人間の意識(?)が完全に同一化するまでの過渡期らしいことがわかる
石球
御神体「石球」
「2121年9月のアラスカ」と明確に述べられている
時系列的にはちょっと前のように見えるが、正直よくわかってない
夢:イリアスっぽい描写
このへんも神々の沈黙で、ゆうたら「自他の境界がない、昔バージョン」の話
「開いた」球
視覚的な描写ができない、よね?
笠木グループっぽい
7つのうちのひとつの瞳が別の夢を見たらしい
俯瞰することの話ふただび
ここまでときどき出てくる語りのアップロードなどなどの話から徐々に彼らの生態の全体像が見えてくる形になってる
小さなボートのなかに女
「人類すべての言語野がつながったのが、いまからちょうど半年前(P152)」で七つ目の瞳は「一年以上にわたって(P160)」漂流していた女を見ていた(という夢を見ていた?)
P158で大地が揺れたことと関係がありそうなんだけど
鳥居をくぐる。今まで、あえて鳥居をくぐることはしなかった(P161)
純粋な観測者であるはずの7つ目の瞳が女をとらえて震える
「間近で見た御神体の岩肌は、海鳥の糞にまみれて白く汚れていた(P164)」は単純に美醜の描写を行ったり来たりすることで対象の存在感が強まるという効果もあるんだけど、もしかしたら「岩→女」への神性の移行ともとれる
女は一人称単数でしゃべる
濃い日焼け、脇毛ぼうぼう、乳に蟹
その前の段落の「あたしはようやく目を覚ます」の主体がちょっとあいまいで、おそらくこの女なのだけど、どうもここまでの一人称複数であった人間たちのうちの一個体のようにも読める……読めない?
むずかしい……最後の台詞の読解にかかっている気がする
ここで個としての人間が復活しているらしく、たしかにしているっぽいのだが
システムの「手足」に回収されつつある在りかたを、独立した「動物」のほうに引き戻してくれたらということなんだろうけど、この言いかただとそういう流れは止まらないと展望している
しかし七つ目の瞳のほうは、純粋な観測者としてあるまじき挙動をしていて……
もはや個を剥奪された端末になりつつある人間から全体への、人間性の逆流? といえばいいのか?
鳥居(文脈から切り離された木一般の意味が異邦で再構築される)というのが、いや鳥居に限らず漂着物の再構築などが(マンドリンもそうだ)、女の登場と構造的に対応しているように思う
単純な近似ではなく、その異質さを強調するための
イリアスパートの「怒り」は、システムに回収されつつある生の叫び(全体的な語りから読み取れる)に沿っている気がする(捕らわれたクリューセーイスの奪還と、漂着した「女」の物語的な関係やいかに。未読なので詳しくはわかりません)
鯨も同様、またソラリスの話も寓意に富む
女、オフラインなのかな(最後の台詞からははっきりと推測できない)
書こうか迷ったが、もしかしたら「正体」があるんじゃないか
P150の環礁・核実験・軍艦というワード(七つ目の瞳では観測できない海底)
ビキニ環礁のクロスロード作戦
鳥居への祈りから、日本の軍艦を連想
クロスロード作戦で沈没した日本艦は長門・酒匂
軍艦の擬人化と言えば艦これ・アズレン
双方のキャラクターの特性に照らす
「あたし」という一人称と「ささやかな乳房」という情報
「酒匂」ちゃん??
艦これの話か?
なんかこうもっとロジカルに導きたいんだけど、まだひらめきに近い
でもこう読むとすっと入ってくる描写とかある気がするんだよ
海への柔らかい執着とか、肉体の話とか
深海棲艦説としか思えなくなってきた
あー、なんかそっちっぽい!
最後の台詞がわかった気がする
元の肉体(艦)が(七つ目の瞳以外に)憧憬?をもって観測されつづけたことによって顕現できた、みたいなことか?
どうなんや
元あたし(傍点)じゃん?
いくつもあった「すれ違う」描写、しかし最後に「越境」して交わり、岐路に立つ!
つまり女の漂着は人類にとっての“クロスロード”だったんだよ!!!(キバヤシ)
ブロックバスター
一言感想
コインを振る。裏。←かっこいい
まったくわからないんだけど、いつもよりわかるよな
Cの盛り上がりがBとDのクライマックスと呼応していく感じが好き
読後感すごくいいからやっぱりこれ最後配置で正解なんだよな
津浦さんの作品一番難解なんだけど、なんか童話的な柔らかさがあるんだよな
ポリフォニック(ね群メンバーの作品は全体的にそうかもだけど)
こーしーもう一杯
王の祈る姿が比例して増えた←感謝の正拳突きしそう
細かな表現のかっこよさはもはや言うに及ばずなんだよな
Aの語りに出てくるモチーフの並置の伸縮自在さとか
あと「その大きさはもはや比喩の範疇を超えて唯一だった」がめっちゃ好き
挙げてくとキリがないのでやめます
細部
こっちもまずは整理してみる(修正求む)構成:4幕。
(1) p.168「「世界」という言葉がきらいだった」
(2) p.171「「世界」という言葉は、ずっと昔のあいまいな約束だった」
(3) p.174「「世界」という言葉は、その実なにも説明できていない」
(4) p.177「「世界」という言葉が薄い殻から芽吹くとき、その平熱の期待を逃してはならない」
語りの種類:5種類。
A:ほかと同じ明朝体のやつ
各挿話の最初に置かれ、「「世界」という言葉」からはじまる
p.168は病院に行く(お見舞い?)シーン?
p173「恋人の手」と「犬のクソ」は素晴らしいものと価値のないものを表しておりそれらを混同しないとみんな言いはるんだけど実際には紙一重だ、みたいなことを言っているように読み取れる、一方でp174では「生きている私たち��の強調によって、両者はいずれも生命を示しているというふうにも止揚されてくる
p.177「意味のある対象が〜
B:丸ゴシックのやつ
母を知らず、物語を作るハルと、魚から這い出したところを見つかった、八つ目の毛玉のキャット
八つ目!魚から!Cの「ものども」あるいは王だ!
母を知らないっていう宣言的な言い方がDとの関係というか、そういうものを感じる
p171「私は無垢を演じているのではないかと~」からも、直截的にはそういう読み方が誘発されると思った。Dの母との問題を無視した空想の世界。p171の描写は作り物感を補強している。p172「自身のスペアを要請」
世界の果てでコインを投げる
世界の果てが出てきて殻を破るって実質ウテナじゃん
p.180「あるいは誰かのその前駆が私と私の世界を作ったのだとしたら〜」エフェメラルな雰囲気がする
最後に揺れて、そのあと魚、でもって「彼」は(世界の)棘を持つ、(Cの)大亀だわな…
C:教科書体(?)のやつ←例のクレー
彷徨し、「世界の棘」を持つ大亀、王とものども
p.183より、ものども(たぶん王も)八つ目である
最後、魚がめっちゃとんできて世界の殻が壊れる
p.183Bによれば、Bにおける「物語」が世界と同一視できそうではある
D:薄めの丸ゴシックのやつ
現代劇っぽさのあるわたし(空想が好き、大学は文学部、就職に困る)と母。二人は折り合いが悪い
p178「世界に目を向けて」という母親の言葉とそれに従わずに目を閉じる私。「世界」という言葉への反発はAにつながっているように思う。
目を閉じて以降、空に魚が出現し母が消えるので、ここで世界に背を向けたように感じられる。というかp182のBにシーン的には合流しているように読める。丸ゴシック繋がりもあり。
ふと思ったがここの「わたし」が神待ち行為を行なっていた可能性があるぞ!!!!(ないです)
最後、やっぱ空に魚(バラクーダ!)が出現する。母はいなくな
E:薄めの明朝体のやつ
わたしと「彼女」(母性を感じはする)、あやとり
p.174「わたしは彼女の暇潰しの相手に過ぎない」が、その前のp.173B「気晴らし」につながらなくはなくて、そうなると物語自体ってことになるのか?
p.183「名づけたのは他でもない、わたしだ」。「世界」を?「世界の棘」を?
「ふだん浮遊している〜彼の棘はもたらす」らしいぞ!(だいじそう)
ストーリー性は希薄で、間投される語り
p.183、やっぱ魚は大亀の斥候なんだよな
あ、ここに寝室(Dの末尾の舞台)出てくんじゃん
あえて階層構造を仮定するなら、基底から順にD→B(Dのわたしの空想あるいは物語)→C(Bのハルの物語)で、大亀による崩壊がC→B→Dと還流してるように読めなくはない気はするんだけども……(BとDは……つーか、いうたら全部上下がなく並列でもいけるか)。で、それで世界がつながるのはわかる。じゃあ「その外に残された」の外って?(火じたいは王の演説にも出てくる)
レイヤーを想定しちゃうのは悪い癖だな。読み返してたらあんま上下関係ない説の方が強まってきた
自分だったらレイヤーを想定して書くのだろうが、多分作風的にはレイヤーとかじゃないんだと思う。しかし相互の関係性とかが変奏していく感じがあって良いんだよな
テーマについて
神待ち
神の裁きと訣別するため:自分を負かす誰かを待っている→勝って神の不在を証明
山の神さん:神待ちアプリ
囚獄啓き: 「地獄とは神の不在なり」なので、不在なんじゃないかな 
杞憂:中年男性(世界を維持するための計算資源→神?)待ち、待ち行列理論
キノコジュース:ルシエが宮殿で完全性を持つであろう存在を待っていたこと
蟹と待ち合わせ:蟹待ち
ブロックバスター:亀待ち
むりやりまとめると、神待ちの「神」を、原義側に寄せた、圧倒的なものとか完全なものとかでとって書いたのが多数派、という感じだろうか
とどのつまりは祈りだ。
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heyheyattamriel · 4 years
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エドワード王 二巻
昔日の王の一代記、二巻
ファーストホールドでの再会
エドワードは赤い空に目を覚ましました。太陽は西の山々に上ったばかりです。彼らは各面が炎に輝く塔のすぐそばに来ていました。ドラゴンは急に方向を変えて近くに飛び、炎の長い息を吐き出しました。彼らが突然高度を下げると、塔の頂上で何度か光が点滅しました。エドワードのお腹はとても変な感じでした。彼はため息をついて身体を動かすと、モラーリンが右手でエドワードを抱けるように体をずらしました。彼は身体を伸ばしてあくびをしました。
「もうすぐだ。クリスタルタワーからファーストホールドまでは馬で数日だが、アカトシュは1時間以内に連れて行ってくれると思う」
「塔には寄らないの?アイリック―」
「軽々しくその名前を使うんじゃない。私にさえもだ。アーチマジスターは向こう何日かは戻らない。ユニコーンは風の兄弟分で、同じぐらい早く旅をする。荷物があってもな。だが、ドラゴンが飛ぶほどじゃない。エルフの故郷がドラゴンの帰還の始まりを迎えているのがわかるだろう。人類の幸運を祈るんだな」
エドワードの視線は深い森の中と、無骨な丘をさまよいました。人のいる印は見えませんでした。「きれいだね」彼は謙虚に言いました。「でもハイロックほどじゃないや」忠誠心からそう付け加えましたし、それは事実でした。「街も、村も農場もないの?」
「ファーストボーンは森の奥深くに住まっている。彼らは大地を引き裂かないし、新しく植えもしない。だがオーリエルが差し出すものは喜んで受け取る…そしてお返しをする。ああ、成長するものの青臭いにおいだ」
確かに、その空気はエドワードが父のカップからすすったことがあるワインと同じような感じがしました…「お腹空いた」
「そうだと思った」少し体を動かし、モラーリンの左手が小さな葉っぱの包みを取り出しました。浅黒い手は大きくて力強く、人にも動物にも見えませんでした。エドワードは嫌悪しながらその手を見つめ、やがてその手に触れないように極めて慎重に包みを取りました。モラーリンが身体を強張らせるのがわかり、エドワードを抱く手が少しその力を弱めました。エドワードは自分の行動を恥ずかしく感じました。この状況で気を悪くさせるのは、親切でも賢明でもありませんでした。モラーリンは簡単に彼を落とすことができるのです。「僕お風呂に入りたいけど、君もだよね」彼はぎこちなく言いました。モラーリンがわざと彼の反応を誤解してくれたことを、エドワードは知っていました。「ああ、私はとても汚れている」エドワードがケーキをかじると、それは見た目よりずっとおいしいことを証明しました。「母さまはそんな風に僕を見ていたよ―少なくとも、そうだった。でも多分、僕はまずお風呂に入るべきだよね?」
「お前はその選択の必要はないと思うが。ああ、やっとだ!」ドラゴンはその翼を広げて空に舞い上がり、巨大な炎の固まりを吐き出すと、広い空き地に降り立ちました。着陸は急角度で、大きな衝撃がありました。エルフたちが急に現れて、彼と、やっと目を覚まして半狂乱でぐるぐる走り回り、エドワードの足元で喘ぐシャグに腕を伸ばしました。
銅の色の炎のような髪をした背の高いエルフが、礼儀正しく彼らに挨拶しました。「ご機嫌麗しゅう、我が王よ。ご婦人がお待ちかねです。エドワード王子、ファーストボーンの地へようこそおいでくださいました。我が民に成り代わり、歓迎申し上げます。ここでのご滞在が心地よく、実りあるものでありますように」
モラーリンは恭しく頷きました。「ありがとう。わが女王は十二分にお待ちになった。すぐにお目にかかろう」エドワードの肩に置いたモラーリンの手が、彼を見たこともないほど大きな木に導きました。その幹は空洞で、中に入ると上に導かれました。開口部にはさらに階段があり、丈夫な枝に橋が架かっています。彼らは大きなひさしがついた、部屋のように椅子とチェストがしつらえられた台に着くまで、それに沿って前に進みました。金色の肌の女性が彼らに微笑みかけ、手招きをして立ち去りました。背が高くほっそりした、蒼白い肌の黒い髪の人間の女性が彼らに歩み寄りました。彼女の眼はエドワードを捉えていました。エドワードだけを。
「どうしていなくなっちゃったの!」その叫び声は彼の深いところから現れ、彼の全身に響き渡りました。その声は彼の数歩手前で彼女を立ち止まらせました。今度は彼女の目がモラーリンを見上げました。彼はエドワードが聞いたことのないような厳しい調子で言いました。「お母様に敬意を持ってお話をなさい、無作法な子だ!」その瞳の一瞥の衝撃で、彼の目に水が溜まりました。
アリエラは素早く彼に近寄り、両手を彼の胸に置きました。「おかえりなさい、旦那様。あなたと息子を無事に私の下に連れてきてくださったノトルゴを称えましょう」
「竜たちの盟主と盗賊さんにも感謝いたしますわ。彼らなしでは私のぼうやをあれ以上きれいに連れてくることはできませんでした。アーチマジスターもうまくことを運んでくださったのね」モラーリンの浅黒い手がそっと優しく彼女の腕に置かれました。彼は落ち着いて幸福そうに笑いました。でも、彼の胸に置かれた両手は、彼を労わるようでもあり、障壁を作っているようでもありました。
「私は本当に恵まれているわ。でも、息子と話すのは久しぶりなのです。二人だけなら、もっと話がしやすいかもしれません」
モラーリンの笑顔がさっと消えました。「3人でいるより2人の方が言葉が見つけやすいと?まあ、そうかもしれないね。時にはね、奥さん」彼は踵を返して去って行きました。橋が揺れて軋みましたが、彼の足は少しも足音を立てませんでした。
アリエラは彼の背中を見ていましたが、彼は振り向きませんでした。エドワードは、また彼の敵に苦痛を与えたことで、好奇心と満足感と後悔が混ざったような気持がしました。「エドワード、私の坊や。ここにきて座ってちょうだい」
エドワードはその場に立っていました。「お母さま、僕は何年も待って、答えを求めて何リーグも旅をしました。僕はもう待ちません。一歩だって動きません」
「何と言われていたの?」
「父が客の名誉を信頼しながら夜眠っている間に、魔法の助力を得て最も卑劣な方法で誘拐されたと」
「お父さまがそう言ったのね。モラーリンは?」
「完全に自分の意思で来たと言いました。あなたの言葉で聞きたいのです」
「私がなぜあなたのお父さまの下を去ったか、どうしてあなたを連れて行かなかったのか、どちらが聞きたいですか」
エドワードは間を置いて考えました。「母上、僕は本当のことが聞きたいんです。ですから、僕は本当のことを知らされなければいけません。あなたが僕を置き去りにしたことを。もう一つの方は、僕は知っていると思います。あなたがそれ以上に、またはほかに話したいと願わない限り、僕はわかっているだろうし、わかると思います」
「真実ですか?真実とは、それを理解している者から独立して存在するたった一つのものではありませんよ。でも、あなたに私の真実を話しましょう。そうすればきっと、あなたは自分の真実にたどり着くでしょう」
アリエラは静かにクッションのおかれた椅子に歩いて戻り、姿勢を正しました。ルビーの色をした小鳥がすぐそばの小枝に停まって、彼女の穏やかな声に伴奏をつけました。
「私の両親が私の結婚を故郷の習慣通りに決めてしまったのです。私はコーサイアを愛していませんでしたが、初めは彼を尊敬していましたし、良い妻でいようと努めました。彼は私を気にかけもしなければ、世話もしてくれませんでした。ですから、彼は私の尊敬を失い、手をかけてもらえない植物が枯れていくように、私は毎日少しずつ死んでいたのです。あなたといる時だけが私の幸福でしたが、コーサイアは私があなたを軟弱にすると考えました。『女みたいに』と彼は言いましたわ。そうして、あなたの3回目の誕生日のあと、私は毎日たった1時間だけ、あなたと過ごすことが許されました。あなたの泣き声を聞きながら、何も考えられずに座って泣いていました。ようやくあなたが泣き止んで私を求めると、私の心は空っぽになりました。私は護衛を一人か二人しか付けずに、長い時間一人で散歩をして、馬に乗るのが癖になりました。そんな時、モラーリンがやってきたのです。彼はロスガー山脈にある黒檀の鉱山を欲しがっていました。彼が使いたがっていた土地は、私の持参金の一部でした。彼は私たちの民に彼の技を喜んで教えてくれましたし、ダークエルフが作った武器を差し出してさえくれました。そのお礼に、私たちの民はゴブリンを遠ざける彼の手助けをして、ハイロックに彼の民の植民地を作ることを許したのです。コーサイアは土地には興味がありませんでしたし、本当に武器をとても必要としていました―最上のものでしたからね―ですから、彼はその申し入れを喜んだのです。話し合い、決めるべきたくさんの細かい事柄があって、その交渉への干渉が私にも降りかかりました。コーサイアはダークエルフを嫌っていましたし、タムリエルで最も優れた戦士として既に名声を得ていたモラーリンに嫉妬していたのです。
「でも、モラーリンは熟練の戦士以上の人でした。彼は読書家で、太陽の下にあるものすべてに興味を持っています。ヤー・フリーとジム・セイから教えを受けたように歌い、演奏することもできました。彼は、私が夢でしか会えないと思っていた、それ以上のお相手でした…誓いますわ。私たちは二人とも外にいるのが好きで、話し合いは乗馬と散歩の間でしたが、いつも彼の部下とコーサイアの部下が一緒でした。すべてが整った時、コーサイアは条約を祝って大きな宴会を開きました。ハイロックのすべての貴族がやってきて、他の地域からもたくさんの人たちが訪れました。最後に、酔っぱらったコーサイアが血でなければ洗い流せないような侮辱の言葉を漏らしました。私は他の貴婦人たちととっくに席を立っていましたから、それが何だったのかは知りません。でも、私はコーサイアがそのような言葉をため込んでいることを知る程度には、個人的に充分聞いてきました。モラーリンは決闘を申し込み、それまでに彼がウィットを取り戻すかもしれないと、コーサイアに昼までの猶予を与えました。
「そしてモラーリンが独りで私の部屋に来て、何が起きたかを話してくれました。『奥様、彼はあなたの弟君を決闘相手に選ぶだろうと思います。いずれにせよ、もう二度と関わることのできない血の河が、私たちの間に流れるでしょう。私はあなたの愛なしで生きていくことはできます。だが、あなたに憎まれることには耐えられない。共に来てください。妻として、あるいは名誉ある客人として、それはあなたの選択です。そして、ご親族の代わりに、あなたは血の代価として貢献なさるでしょう』
「そして、月明かりの下で、恐れおののいて、眠っている貴婦人たちのそばで、私は彼を愛していることを知ったのです。彼なしで生きて行けるかは疑わしかったけれど、それでも、あなたをそれ以上に愛していたの!『息子は』私は囁きました。『置いては―』『奥様、選ばなければなりません。お気の毒ですが』わかるでしょう、エドワード?もし留まれば、私の弟の死が―彼の無垢な若い血が流れるのです。あるいはあなたのお父さまの血が!あるいは、そんなことは起きないと思っていたけれど、私の愛する人の血が流れたかもしれません。モラーリンの戦闘技術はそれだけでも優れていましたし、この類の出来事には、彼は同じくらい優れている魔法の力も借りるでしょう。『連れて行けますわ』でもモラーリンは悲しげに首を振りました。『私にはそんなことはできない。父と子を引き離すことは、私の名誉に反する』
「愛する者を一人ぼっちにする、私は義務には慣れていました」アリエラは誇らしげに言いました。「あなたを父親から、あなたの大好きなおじさまから盗んで行けばよかったでしょうか?そして、おそらくコーサイアは生き残り、この件で私を責め、私を遠くにやってしまう言い訳にしたはずです。コーサイアは私がいなくなれば喜ぶだろうと考えました。彼が本当に武器を欲しがっていることは知っていました。あなたと過ごす時間を得るために、それで取引することもできると私は考えました。モラーリンが私を見ずに立って待っている間、すべてが私の中を駆け巡っていました。
「マーラ様、正しい選択をお助け下さいと私は祈りました。『本当に私を妻にしたいのですか?私は―私は厄介ごと以外何ももたらしませんのよ』
『アリエラ、私はあなたを妻に迎える。私が求めているのはあなた自身だけだ』彼はマントを脱ぎ、布団を引き剥がしながら私の体を包みました。
『モラーリン、待って―これは正しいことかしら?私がしようとしていることは?』
『奥様、もし間違いだと考えているなら、私はここに立ってなどいない!あなたに与えられた選択肢の一つは、私には最も正しいことに思えます』彼は私を抱き起して、馬に運んでいきました。そうして、私は彼のマントだけを身に着け、彼の前に座って馬に乗り、あなたのお父さまの家を去ったのです。野蛮な喜びと悲しみが混じって、自分がどう感じているかわかりませんでした。これが、私の真実です」
エドワードは静かに言いました。「でも、彼は結局、僕とお父さまを引き離した」
「本当に渋々だったのです。そして、ドラゴンが、本当には、あなたとお父さまの心は既に離れてしまっていると言ったからです。何リーグかだけのことです。これはあなたの安全を保つ方法なの。モラーリンはここに来ることを決めるのは、あなたの自発的な決断であるべきだと言いました。それと同じに、戻りたい時に戻っていいのですよ」
「モラーリンは僕をただ連れて行こうとした!アイリ―その、アーチマジスターが同意しなきゃいけないって言ったんだ」
「彼は忍耐強い性質ではないのです。そして、彼はコーサイアを傷つけてしまわないか不安でした。彼がその議論をどこかほかの場所で続けられると考えていたことは間違いありません」
「肝っ玉の小さい王だって呼んだんだ。そして笑ったよ。どうして?ダガーフォールの人の肝臓はエボンハートの人のより小さいの?第一、それに何の関係があるの?父さまはとても怒ってた。きっと戦いたかったと思うな。でも、父さまが僕を嫌ってるのは本当だよ。わかってるんだ。でも、わかりたくなかった。だからそうじゃない風にふるまっていたんだ。モラーリンはそうじゃないと思うけど」
「ええ」
「でも、彼は嘘をついた。彼は僕の父親だって言おうとしてた。わかるんだ」
アリエラは頭を後ろにそらせて、鈴を転がすような声で笑いました。彼は遠い記憶からそれを思い出し、背中がぞくぞくしました。「もしあなたにそう思ってもらえたら、きっとものすごく、心からそう言いたかったに違いないわ。彼はいつでもせっかちなの。そして、彼は誓いの下では決して嘘をつかないし、愛するものを傷つける嘘はつかないわ」
「僕のことを愛してなんかいないよ。僕のことを好きでさえないんだ」
「でも、私は愛しているのよ、私の大切な坊や。あなたは―」エドワードは彼女が大きくなった、と言おうとしているのだと思いました。大人たちはいつでも彼の成長を見てそう言うのです。一週間前に会ったばかりでも。奇妙なことに、年のわりに、彼は小さかったので。彼女はその代わり、「私が考えていた通りだわ」と母の深い満足を湛えて言いました。
「彼はあなたのことを愛してる。でも彼は使いっぱしりの小僧じゃないと言った。でも、あなたは彼がそうみたいに下がらせた」
アリエラの顔と首が真っ赤になりました。
「確かに、私は召使いに格下げされたようだね」うず高く食べ物が積まれたお盆を持って、モラーリンが静かに入ってきました。「椅子を取ってくれないか、少年。私が給仕役をやれるなら、お前も給仕役をやれるだろう。お前はお腹が空いているだろうし、妻が私の欠点の残りの部分を話す前に戻った方がいいと思ったのでね。それを挙げ連ねるのにほとんどまる一日かかるから」彼は鎧を脱いで風呂を浴び、細いウエストの周りに銀のサッシュを巻いて、洗い立ての黒いジャーキンとズボンを着ていました。でも黒い剣は、彼の横で揺れていました。
「まあ、なんてこと。小さな軍隊がお腹いっぱいになるほどの食べ物を持っていらしたのね。それに、私は朝食を済ませましたの」アリエラは小さな手でエルフの腕に触れ、愛撫するように下に滑らせて彼の手を握って力を込めると、それをまだほてっている首に持ち上げ、唇でその手をなぞりました。彼女の美しさに向かい合う浅黒い肌に居心地の悪さを感じながら、エドワードは素早く目を逸らしました。
「これは私用と、少しは坊やのためにね。でも、ご相伴してくれると嬉しいよ。君は痩せてきている。私にとっては針みたいだ、本当にね」彼女の黒い巻き毛の束を指に巻き付け、軽く引っ張ってにやりと笑いました。それから、食べ物に移ると、人間がするように指で食べるのではなく、小さな銀色の武器で飢えた狼のように襲い掛かりました。その食べ物は―素晴らしかったのです。エドワードはもう何も入らなくなるまで食べました。
「立ち聞きしていたんだが」彼は思慮深そうにもぐもぐと言いました。彼は食べている間、モラーリンの欠点を口の中でもそもそと挙げ続けていました。そして、もっと早く大きな声で言えばよかったことがわかりました。
「ゼニタールよ、坊や、君たち人間は、個人的な話を木の上全体に聞こえるような大きな声で叫んでも、私が耳に綿を詰めて聞かないでいてあげると期待しているのかね?」彼は大きなとがった耳をとんとんと叩きました。エドワードは急いで何を話したか思い出そうとしました。嘘をついたと言いました。ああ、なんてことでしょう。彼が聞いていませんように。
「それで、私は嘘つきなんだって?坊や」ヴァー・ジル、彼に救いの手を、エドワードは溺れ死ぬような気持がしました。このエルフは心を読めるのかしら?彼はそれが父親が彼に使った侮辱の言葉ではないことを願いました。「僕―僕は、そのことを考えていると思ったって意味で言ったんだ。口ごもったもの」エドワードは喘ぎました。彼はものごとを悪い方に転がしていました。
「たぶん、私は思い出そうとしてたんだよ…」皮肉っぽい響きが戻ってきました。
「僕のことなんか好きでもないくせに!」エドワードが大きな声で言いました。
「だからって、本当の父親がお前に主張するのを止めることになるようには思えないね」
「モラーリン、やめて!」アリエラが遮りましたが、エルフは片手を上げて彼女を黙らせました。
「わからないんだ」エドワードがちらりと見ました。
「どうしてあんなことを言ったんだね?」
「わからない―ロアンが言ってた―ことなんだよ―そして、僕はちっとも父さまに似てないんだ。みんなそう言うよ。そして話をやめてしまうの」
「言ってたこと―とは何だね?言いなさい、坊や!」
「二人が若かったころ、どれほど母さまがおじさまのことを好きだったかって。母さまが連れていかれたあと、彼がどんなに悲しんで怒ったかって。弟じゃなくて恋人みたいだったって彼女は言った。とってもかわいらしくそう言ったけど、何か他の意味があるみたいだった。口に出すのがとても汚らわしい何かだよ。他の時には、あの人は僕がとてもエルフっぽく見えるって。僕が結婚したあととても早く生まれたことも。あの人の一人目の息子みたいじゃなかったって」
モラーリンは跳び上がりました「何だって!戻ってあの女狐の首を絞めてやる!人間は―」彼は悪態をかみ殺しましたが、その赤い瞳は怒りに燃え上がり、筋肉がはちきれるように膨らんで、髪は逆立っていました。「お前はエルフと人間の子供には見えない。私が母上に出会ったのは、お前が母上のおなかに宿ってから4年後だ。どうやらロアンはどちらの嘘を使いたいのか決めかねたのだろうね。だが、近親姦などと!私ができないなら、ケルが代わりに鉄槌を下しますように」背の高いエルフは怒り狂って部屋の中を歩きました。カジートのようにしなやかで、片手は剣の柄を撫でています。その台が揺れて、少し下がりました。
「エドワードに比べれば、彼女は自分の息子たちに大望を持っている。疑問なのは、彼女の話を信じる者がどれほどいるかだ。彼を殺させる計画をしているなら、充分ではないだろう」アリエラのなだらかな眉に小さなしわが寄りました。「あのね、私は彼女を嫌ったことはないのよ。彼女もそう。あの方は私の立場を欲しがっていて、私はエドワードを救うために喜んで譲ったわ」
「僕に王様になってほしいんだね。そうしたら黒檀の鉱山を持てるから」エドワードはパズルを解きました。
「まあ、黒檀なんてどうでもいいの。おそらく彼が手に入れるでしょうし。あなたのお父さまがお亡くなりになったら、ロアンの子供たちと協力するより良いチャンスを持っているの。彼らには感謝する十分な理由がありますし、いい取引よ。そうは言っても、彼らの両親のことを考えると、契約にサインするのに充分なほど、自由に口が利けるかどうかは見込み薄だけれど」
「それじゃ、なぜ?僕のこと好きでもないのに」
「マーラ、お助けを!人を『好き』と思うことは人間の概念だ。ある日、彼らはお前を好む、次の日は好まない。火曜日にはまたお前のことを好んで戻って来る。私の妻は私に対してそうするが、彼女が私を好きじゃない時でも私を愛していると言うよ。彼女がどちらもしない日と、リアナの騎士団に加わる話をする時以外はね。そんな時は、私は彼女が正気に戻るまで狩りに行く」
「大げさね、そんなの一度しかなかったし、よく知っているくせに」
「回復期間は大いに楽しんだのを覚えているよ。もっとあってもいいかもね」二人はお互いににやりと笑いました。
「だけど、どうして僕に王様になってほしいの?」エドワードは食い下がりました。
「言っただろう、それはアカトシュの意思なのだ。それと、アーチマジスターのね。私は遠乗りに付き合っただけさ。彼らに聞いてごらん」
「アーチマジスターに会ったら聞いてみよう」
「素晴らしい考えだ。我々と北に旅立つ前に、お前は2、3週間タワーで過ごすことになるだろう」
「それだけ?」
「お前の母上と私と一緒に冬を過ごす計画がそんなに嬉しくないかね?」
「そんなことは…ないです。でも、アイリックと一緒に行くって言ったんだ」お前じゃなくて、口に出さなかった言葉が、二人の間にありました。
「そうなるだろう、そのうちね。今、そこでの数週間は、魔法の訓練を始めるのにちょうどいいだろう。私はお前に呪文を教えてやれる。だが、お前は強くならなければならない。お前の体が心に追いつかなければいけないんだ。それはアーチマジスターの意思なのだよ」
「戦闘の魔法?僕は他のことを勉強したいな。獣の呼び出し方、癒し方、そして浮き方…」
「それも学ぶだろう、必ずね。それと、お前は戦士は癒せないと思っているのか?それはお前がいちばん最初に学ぶ呪文だ。だが、王は戦い方を知らねばならない」
「得意じゃないんだ」
「ドラゴンの歯だよ、坊や!まさにそれがお前が学ばねばならない理由だ」
「もしできなかったら?」
「お前は勇気があって、澄んだ頭を持っていて、魔法を学ぶ潜在的な力がある。それは大抵の者が持っている以上のものだ。残りの部分は私が教える」
エドワードの頭が、不慣れな賞賛にぐるぐる渦を巻きました。「僕が?本当に?君が?」
「お前はお父上の愚かな王宮の者たちがドラゴンとユニコーンの前に丸腰で向き合って、アーチマジスターとタムリエルの英雄に、彼らの正義を要求すると思うのかね?正義だって!そんなものを前にしたら、彼らはどうにか慈悲を請うのが関の山さ、それだって疑わしいが、口が利けるものならね」
「僕、そんなことした?したのかなあ?」エドワードはすっかり驚いてしまいました。彼は知らなかった、考えたこともなかったと付け加えたいと思いました。
「ああ、したとも。そして、それはここからモロウィンドに向けて歌われる行いだ。私はそのバラードを作曲しよう―昼寝をしたらすぐにね。ドラゴンの背中の上ではあまりよく眠れないんだ」
「僕とシャグに眠りの魔法をかけたね!」
「そして城の他の者にもだ。友人に手伝ってもらってね」
「うわああ。宙にも浮けるの?見せてくれる?」
「そう急ぐな。私はドラゴンの背中に一晩中とどまっているように、動きを固める魔法を全員にかけていたんだ。休むまではマッチを使わずにろうそくに火を灯すこともできないよ」
「ああ、わかった。それでも僕は、戦士よりもアーチマジスターみたいになりたいな」
「はっ!アーチマジスターが戦えないなんて、そりゃニュースになるな!彼がお前に杖の扱い方を見せる時間があることを願うよ。初期の訓練には最適の武器だ。そして彼以上の講師は望めない。さあ、お前が前に見た四人の中で、誰が一番優れていると思う?」
エドワードは数分の間、慎重に考えました。「僕の判断は本当に粗末だけど、それでもよければ、タムリエルのチャンピオンって称号を使う人が一番優れているはずだと思う。でも、アーチマジスターは君の魔法の先生ではないの?そして武器の扱いもよく訓練されているみたいだ。だから、誰が勝っているか?ドラゴンの炎と爪と歯に太刀打ちできる人間がいるかな?それに、とても足が速くて、尖った角と蹄があること以外、僕はユニコーンのことは何も知らないんだ。とってもおとなしかったし。それで、君が尋ねたその質問には、正しく答えられそうにないんだ」
「いい答えだ、坊や!単体の近接戦闘ならユニコーンは簡単に勝てる。人間も、ドラゴンでさえ、あんなに早く一撃を当てられないし、炎で焼くこともできないし、魔法や属性の力も効かない。その蹄は致命的で、その角は一度触れただけで、どんな敵でも殺してしまう。角自体は燃えてなくなってしまうけれどね。それでも、一番強力なのは、それをすぐに再生できることだ。
「そして、4人のタムリエルの英雄は、互いに戦えばおそらく敗者になるだろうが、その称号は馬鹿げた自慢ではない!モラーリンは一流であることに慣れていない。結果として、私の行儀作法は苦しんでいるかもしれないがね」
「わが王よ、あなたには心から感謝申し上げます。あなたは僕に偉大な栄誉と貢献を与えてくださいました。ご恩返しできることがあれば、致しましょう。僕の乱暴な言葉と不躾をご容赦ください。僕は粗野で粗暴な中で暮らしてまいりました。そして、僕には父がないようです。あなたをそう呼ぶことをお許しいただけない限りは」エルフは少年に手を差し出し、彼はその手に自分の手を置きました。エドワードの味気ない気分はすっかり消え…まるで魔法のように…思考が彼の心を漂います…すると彼は手を離して、モラーリンの腰にしがみつきました。エルフの手は黒い髪を撫で、薄い肩を掴みました。
「ありがとう、奥さん。結婚からたった5年で、君は私に9歳のすばらしい息子を贈ってくれた。非凡で、本当に…魔法のようだ」
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sorairono-neko · 4 years
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エンゲージ・ペーパー・チェイス
「こんにちは、勝生勇利です。今日からお世話になります。よろしくお願いします」  勇利はその言葉を、たどたどしいロシア語で言った。ヴィクトルがあらかじめ教えておいたせりふだ。ヴィクトルは、勇利のロシア語の発音はなんて幼くてかわいいんだとうっとりなったし、聞いているリンクメイトたちも、「子どもっぽい発音」と楽しそうに好意的な笑い声をたてた。勇利はそれをからかわれていると取ったのか、さっと頬を赤くした。するとまたみんな「純粋で可愛らしい」とささやきあった。ヴィクトルは咳払いをした。 「みんな知っていると思うけど、勇利は俺がいままで日本で教えてきた生徒だ」  全員が私語を慎み、さっとヴィクトルを見た。 「とてもスケーティングがじょうずで、学ぶところもたくさんあると思う。反対に、勇利もみんなから吸収することがあるはずだから、いい関係を築いていって欲しい。わからないことも多くあるだろう。困っていたら助けてやってくれ。勇利は口下手で控えめだけど、優しくていい子だよ」  そこでヴィクトルはいったん口を閉ざした。そしてにっこりと笑う。 「試合を目にして、彼のうつくしさにうっとりなった者もいると思う。普段の勇利も、見ての通り、かわいらしくてすてきな子だ」  ヴィクトルは、英語ではなくロシア語で話していた。そのため勇利はヴィクトルの発言が理解できないらしく、ただ、大勢の前にいることが居心地悪いというようにうつむいているだけだった。 「君たちも、彼に興味を持っただろうし、仲よくもなりたいだろう。だが、これだけはおぼえておいて欲しい」  ヴィクトルはそのひとことを、いかにも愛情のこもった様子で言った。 「勇利は俺の生徒であり、俺のスリーピングビューティだ」  優しい物言いだったにもかかわらず、全員の顔つきが緊張したものになった。ヴィクトルは笑顔で、しかし視線だけは鋭く、ひとりひとりのおもてを順ぐりに見ていった。 「この意味……、わかるよね?」  ヴィクトルの問いかけに、示しあわせでもしたかのように、全員がこっくりとうなずいた。ヴィクトルはますます笑みを深くした。 「それをわきまえたうえで、勇利と仲よくしてやってくれ。俺からは以上だ」  ヤコフがあとを引き取って話し始めた。彼は不審そうに、ときおりヴィクトルをじろじろにらんだが、ヴィクトルは平然としていた。 「ヴィクトル、ヴィクトル」  勇利が小声で呼んで、ヴィクトルのシャツの裾をひっぱった。 「さっき、なに話してたの」 「うん?」  ヴィクトルはとろけるような笑みを勇利に向け、甘ったるくささやいた。 「勇利は俺の大事な生徒だからよろしくねって言ったんだ」 「そっか」  勇利はほっと息をついた。 「大丈夫かな……。ぼく英語しか話せないし」 「リンクのみんなは、それなりに英語は話せるよ。ロシア語もすこしずつ勉強すればいい」 「うん……がんばる」  勇利が眉を下げ、ヴィクトルを見て静かにほほえんだ。ヴィクトルはまじめに、天使だ……と思った。  ヴィクトルはどうあっても勇利とともに暮らす心積もりだったのだけれど、勇利のほうで「それはよくない」と言い出し、断られてしまった。なんでも勝手にとりきめる彼なので、ヴィクトルが気がついたときにはすでに住処も決定してしまっていたし、手続きも済んでいた。ヴィクトルはその契約をぶち壊してやろうかと思ったが、勇利が怒ったら困るなと考えて、とりあえずはそのままにしておくことにした。まあいい。永遠に離れ離れで暮らすわけじゃない。近いうちに勇利をうちへ呼ぼう……そんな気持ちだった。勇利の借りた住居については、日本のスケート連盟も関係しているので、心配するようなところではない。それもヴィクトルがしばらくは静観しようと思った理由のひとつだった。 「勇利、帰ろう」 「うん」  しかし、それでもヴィクトルは勇利を毎日送っていくことにしていた。勇利は「いいよ、悪いから」と遠慮したけれど、ヴィクトルとしてはありとあらゆることが心配でこうしているのである。 「どう、こっちでの暮らしは。何も悩みはない?」  ヴィクトルは、助手席でバックパックを抱きしめている勇利が死ぬほどかわいいと思いながら、落ち着いた声で尋ねた。 「うん、みんな親切だよ。アパートのほうは管理の人が優しいし、リンクメイトもいろいろ声をかけてくれる。もっといじめられるかと思っちゃった」 「勇利をいじめるやつがいたらどうなるか見ているといい」 「え? なんて?」 「いや。それはよかった」 「うん。やっぱりヴィクトルってすごいね」  勇利がほほえんだ。 「俺? なんで?」 「だって、ヴィクトルの名前でみんな丁寧に接してくれるんだよ。ヴィクトルの生徒だってわかってるからだよ。そうじゃなかったら、ぼくみたいにちっぽけな日本人、誰も相手にしてくれないよ」  勇利は相変わらず自分の魅力がわかってないな、とヴィクトルは溜息をついた。そういう無自覚なところもいとおしいけれど、その純粋さにつけこまれなければいいが、と心配だ。勇利のことはよく見ていなくては。 「勇利は庇護欲をそそるんじゃないのか」 「え? どうして? ──あ、ぼくが子どもっぽく見えるって言いたいんでしょ。そりゃロシア人にくらべたら幼稚ですよーだ」  勇利が拗ねて頬をふくらませた。俺の天使がおそろしくかわいい、とヴィクトルは思った。 「見かけはそうかもしれないけど、でもぼくだって二十四の成人男子なんだからね。ヴィクトルはちょっと過保護だよ。こうして送ってくれるのだって……」 「ロシアは日本みたいに安全じゃないんだよ」 「それはそうだろうけど、だけどヴィクトルも疲れてるのに。こっち方面のリンクメイトもいるし、ぼく帰れるよ」 「誘われたことがあるのか?」 「うん、まあ。みんなで一緒に帰ろうって言われたことはある」 「絶対に俺が送るから」 「えぇ? なんで?」  勇利はくすくす笑った。 「ヴィクトルって自由人だけど、責任感は強いよね」  勇利はヴィクトルの態度を、コーチとしての責任だと考えているようだ。 「ヴィクトル、明日は送ってくれなくていいよ」  いつものように勇利を車に乗せていると、彼がそんなことを言い出した。ヴィクトルは、とうとう勇利に手を出すやつが現れたのか……とめまいをおぼえた。 「……なぜ?」 「帰りに一緒に食事でもって誘われたんだ」  やっぱり! ヴィクトルはますますくらくらした。 「ぼく、家のまわりの店ってよく知らないし。ひとりで食べるとき便利なところを教えてくれるって」 「……誰?」  勇利は名前を言った。ヴィクトルは、なんとなく聞いたことがあるようなないような、とぼんやりした。 「安くて美味しい店なんだって。野菜中心だから食べやすいとも言ってた」 「へえ」  ついそっけない声が出た。勇利はびっくりしたようにヴィクトルを見て、「何か怒ってる?」と尋ねた。いけないいけない……。 「いや、そんなことはないよ。俺以外の誰かと出かけることも大事だし、勉強になるからね。楽しんでおいで」 「うん、ありがとう」  勇利は素直にうなずいた。  ヴィクトルは翌日のリンクで、ヤコフに、ゆうべ勇利から聞いた名前を告げ、「どの選手?」と尋ねた。 「いまリンクにいる……ジャンプしたやつだ」 「トゥループ跳んだ?」 「ああ」 「なるほど」 「なんだ? あいつがどうかしたか? おまえがほかの選手を気にかけるなんて珍しいな」 「いや」  昼休み、ヴィクトルは食堂へ行き、その選手の前の椅子を引いてテーブルについた。彼が顔を上げた。 「やあ」  にっこりすると、「あ、ヴィ、ヴィクトル……」と彼��緊張したように赤くなった。 「勇利を食事に誘ってくれたんだって? ありがとう」 「い、いえ……。俺の彼女がその店で働いてるから、たまにならおまけしてあげられるし、毎日の食べ物に困るってカツキがぼやいてたから……」 「そうなのか。親切だね」  ヴィクトルはおもむろに一枚の用紙を取り出した。それを彼の前にすっとすべらせる。相手は目をまるくした。 「書いてくれ」 「これは……?」 「申込書だ」 「え?」  その用紙には、ありとあらゆる記入項目があった。住所、氏名はもちろん、年齢、電話番号、行き先、時刻、どんな話をするつもりか、勇利が退屈したらどんな罰を受けるつもりか、などなど。 「え? え?」 「すべて埋めて俺のところへ持ってくるように。今日の帰りまでだ。できないなら、勇利を連れていくことは許可しない」 「え?」 「何か質問は?」 「あ、あの……」 「ないか。ではそういうことで」  ヴィクトルは立ち上がると、悠々と食堂を出た。ちょうど勇利が廊下を歩いてくるところだった。 「あ、ヴィクトル」 「勇利、昼食だろう? どこかへ連れていってあげるよ」 「え? いいよ、そんなの……」 「いいから行くぞ! おいで」  ヴィクトルは勇利の腰を引き寄せ、にっこり笑った。  あの選手は、おどおどしつつも、ちゃんとヴィクトルのところに申込書を持ってきた。ヴィクトルはその夜、なかなかしゃれた飲食店に入り、そこで食事をしていた。野菜中心の献立で、値段もさほど高くない。なるほど、とヴィクトルはうなずいた。 「あれ、ヴィクトル?」  そのとき、横合いから声がかかった。勇利があの選手と一緒に立っていて、ヴィクトルの隣のテーブルにつくところだった。 「ヴィクトルもここでごはん食べてたんだー」 「まあね」  ヴィクトルはにっこりした。そしてかるく手を上げる。 「俺のことは気にせず楽しんでくれ。勇利の友人関係の邪魔はしたくない」 「邪魔だなんて……」 「ほらほら、座って。たまには友達と食事したいだろう?」 「ヴィクトルがそんな気遣いをするなんて変な感じ」  勇利はくすっと笑い、「なに食べようかな……」とつぶやいた。  ヴィクトルは、ふたりが食事をしているあいだじゅう隣にいた。ずっと彼らの話が聞こえていた。ときおり勇利が、「ねえヴィクトル」とあいづちを求めてきたけれど、「俺のことはいないものだと思ってくれ」とその都度注意した。勇利は「無理だよー」と笑顔だった。  翌日は、いつも通り勇利を車で送った。 「ゆうべは楽しかったかい?」 「うん。ヴィクトルがいたからびっくりしたけど」 「彼はなかなかまじめな青年のようだ」 「そうだね。彼女とも仲がよさそうだった」 「俺たちほどじゃないけどね」 「なに言ってるの?」  それからも、ヴィクトルは勇利が誰かと出かけると言うたびに、申込用紙を相手に書かせた。ヴィクトルとしては自然な行為だったのだけれど、そのうち勇利に知られ、とがめられてしまった。 「ヴィクトル、リンクメイトに何か書かせてるって本当?」 「本当だよ」 「なんで?」 「勇利のことが心配だから」 「そういえば、出かけるとやたらとヴィクトルに会うよね」  いまごろ気づいたのか、とヴィクトルは思った。 「あれも心配だから?」 「そうだよ」 「ヴィクトルは過保護なんだよ……」 「そうかな」  勇利は考え深そうに瞬くと、「見せて」と要求した。 「何を?」 「どんな申込書なの? 見せて」  ヴィクトルはそれを勇利に渡した。勇利はじっくりと用紙を調べ、それからくすくす笑い出した。 「思ったよりまじめな感じ」 「大事なことだろ」 「この、どんな罰を受けるつもりか、ってなに? 意味わかんない」 「大事なことだろ」 「みんななんて書いてくるの?」 「練習時間を増やすとか」 「そんなの罰でもなんでもないじゃん」  よくわからないところで勇利は疑問をおぼえているようだ。 「勇利は練習が好きだからね」 「ヴィクトルも好きでしょ?」  勇利は無邪気そうにヴィクトルを見た。俺の勇利がかわいい、とヴィクトルは思った。 「練習も好きだが勇利も好きだ」 「え? なに?」 「いや……」 「ねえ、これちょうだい」 「いいよ。でもそんなものどうするんだ?」 「ないしょ」  勇利はくすっと笑った。俺の勇利にキスしたい、とヴィクトルは思った。よし、しよう。 「ヴィクトル、信号青だよ」 「あ」  ある日の昼休み、勇利が一枚の紙切れを持ってヴィクトルのところへやってきた。彼はちょっと頬を赤くし、「これ……」とヴィクトルに差し出した。その見出しは「勝生勇利と出かけるための申込書」とあったけれど、「勝生勇利」のところが二重線で消され、「ヴィクトル・ニキフォロフ」になっていた。 ・住所 **通り ・氏名 勝生勇利 ・年齢 24歳 ・電話番号 ***-***-**** ・行き先 **レストラン ・時刻 19時~21時くらい ・どんな話をするつもりか スケートの話とか、マッカチンの話 ・ヴィクトルが退屈したらどんな罰を受けるつもりか 練習時間を減らす 「……え?」  ヴィクトルはきょとんとした。勇利は眉を下げて笑った。 「どう? 許可してくれる?」 「え?」 「ぼくにあんなに厳しいんだから、ヴィクトルを遊びに誘うならもっと大変だと思って」  ヴィクトルは思わず勇利を見た。勇利は純粋そうな目でヴィクトルを見返している。ヴィクトルはもう一度用紙に視線を落とした。 「……このレストランは? 誰かに教えてもらったのかい?」 「ううん。自分で行ってみたんだ。美味しかったから、ヴィクトルも一緒がいいなって思って」  俺の天使がかわいい……。ヴィクトルは感激して思わずまぶたを閉じた。 「なんで一緒がいいの?」  もうひと声、と思って踏みこんでみたが、勇利が「うーん……」と迷い始めたのですぐにその話をやめた。 「わかった、いいよ」 「ほんと? 今日だよ?」 「いいとも」  勇利がうれしそうに笑った。ヴィクトルのほうがよほどうれしかったけれど、あまりにうれしいのでかえって冷静になってしまった。その日は、練習が終わるのが待ち遠しかった。 「ヴィクトルの口に合うかはわからないけど……。そんなに高いところでもないし」  レストランに着くと、勇利は気恥ずかしそうにほほえんで言った。 「でもヴィクトル、長谷津ではいろんなお店に行ってたでしょ。わりとおおらかなのかなあって思ったんだ」 「勇利と食べるならなんでも美味しいよ」 「あ、そうなの?」  勇利は、ぼくそういう顔してるのかなあ、と首をひねった。 「言われたことないけど……」 「にぶいな……」 「え? なに?」 「なんでもなーいよ。さて、何を食べる。どれがお勧め?」 「って言っても、一度しか来たことないから、ぼくも豊富に知ってるわけじゃなくて……」  食事は美味しかった。勇利はスケートの話とマッカチンの話をたくさんした。ヴィクトルは、もうすこし色っぽい話題がよいと思ってそちらへ導くのだけれど、勇利がすぐに修正してしまうのだ。 「勇利、ほかの話をしよう」 「え? だってあの紙に、スケートの話とマッカチンの話って書いちゃったし……」 「…………」  くそ! くそ、なんだあんな契約書! 破り捨てたい! 一時的な感情でそう考えたヴィクトルだが、いや、勇利がくれた申込書だから、とすぐに思い直した。いいだろう、ふたりでいるならどんな話題でも問題ない。ヴィクトルは、近頃のマッカチンの様子、過去のプログラムや勇利の演技、これから勇利に与えてみたい要素など、いろいろな話をした。勇利は両手の指を突き合わせ、その上におとがいをのせて、うっとりと聞き入っていた。ヴィクトルは考えた。このあと、うちに誘ってみようか。そこでなら別の話題を出してもよいのではないか? だってあれはレストランに誘うための申し込みなのだし。 「勇利……、これから、俺のところへ来ないか。とても楽しいから別れがたいよ。そこでゆっくり……」 「え? でもあの紙に、二十一時までって書いちゃったから」 「…………」  あんな紙! あんな紙!! まったく……! ヴィクトルはしぶしぶ勇利を住居まで送っていった。 「今日は退屈しなかった?」 「え?」 「だって……、ヴィクトルが退屈したなら、ぼく、罰を受けなきゃ……」  勇利のせつなそうな表情に、ヴィクトルの胸が引き絞られた。 「勇利といて退屈なんてするわけないだろう」 「本当? よかったあ」  勇利が素直そうに笑った。ヴィクトルはこころが苦しくなった。勇利……。 「誘ってくれてありがとう」 「おやすみなさい」 「おやすみ」  おやすみのキスをしよう、と思ったら、勇利はさっさと背を向け、車から降りていってしまった。  ヴィクトルは考えこんでいた。ヴィクトルとしては、あの夜の食事はデートのつもりだった。しかし勇利はそんな気はまったくないのではないか。なぜなら、彼が友人と出かけるとき、友人はあの申込書を書いている。もちろんそれはデートではない。勇利としても、ヴィクトルと食事に行くならあれが必要なのだな、と簡単に断定したのかもしれない。もしかしたら、ロシアの古い習慣だとでも思っているのか。 「そんなわけないだろ」  こうなったら、ヴィクトルのほうから誘うしかない。正式なデートにだ。ただの食事ではない。正真正銘のデートである。 「ねえ勇利。俺もいい店をみつけたんだ。一緒に行かないか。きみとふたりきりがいいな」  丁寧に誘ってみたら、勇利はにっこり笑った。 「あれ書いて」 「…………」  いや、ちがうんだ。俺はあんなものが必要ない、れっきとしたデートにおまえを誘ってるんだ。ヴィクトルはそう言おうとした。けれど勇利が、「書いてくれないの?」とかなしそうにしたので、「いや、書くとも」と急いで答えてしまった。勇利の黒い瞳は魔法である。勇利は、あれを書いてもらわないと出かけられない、と真剣に考えているのかもしれない。それならそれで、つまり俺と一緒に行きたいということだ、とヴィクトルは前向きに考えた。 ・住所 **通り ・氏名 ヴィクトル・ニキフォロフ ・年齢 28歳 ・電話番号 ***-***-**** ・行き先 **レストラン ・時刻 19時~21時くらい ・どんな話をするつもりか スケートの話とか勇利の話、俺の話 ・勇利が退屈したらどんな罰を受けるつもりか 勇利と話す機会を減らす 「ねえ、話すつもりの内容がひろすぎない?」 「いいんだ」 「ずるいなあ。あと、この罰、なに?」 「勇利と会話できないとつらいから」 「そっかー。ぼくもヴィクトルと話せないのいやだから、今日は全力で楽しもうっと」  ヴィクトルは思わず胸を押さえた。 「どうしたの? 大丈夫? 苦しい?」 「いや……」  ヴィクトルは勇利の手を握った。勇利は不思議そうな顔をしたあと、ほのかに微笑して「楽しみだね……」とつぶやいた。  ヴィクトルが勇利を連れていった店は、さほどの高級店というわけではなかった。格式張ったところへ行けば、勇利は緊張して、いつもの彼ではなくなってしまう。気軽に入れるようなところがいい。 「よかった。ヴィクトルのことだから、格調高い店に案内されるのかと思ったよ」  勇利は安心したように笑った。 「そういうところへもそのうち連れていってあげるよ」 「えぇ? 困るなあ……」  勇利は溜息をつき、しかしすこしだけヴィクトルに顔を近づけて言った。 「でもヴィクトルに誘われるのはうれしい」  彼は丁寧な手つきで、上品に魚料理を切り分け、口に入れた。 「何の話をするんだっけ? えっと、スケートと、ぼくのことと、ヴィクトルのこと……」 「綺麗だ」  ヴィクトルは思わずつぶやいていた。勇利は振り返り、壁を見、それから店内の装飾を見た。 「そうだね」 「きみのことだ」 「ヴィクトル、酔ってるの?」 「俺は酔っても勇利みたいにならない」 「うるさいなあ。ほっといて。ぼくだって好きでああなってるんじゃないんだよ」 「かわいくて好きだけど」 「ねえ、ロシアの人ってウォッカはお酒のうちに入らないって本当?」 「本当だ」 「だからヴィクトルはお酒に強いの?」 「勇利、もっとワイン飲む?」 「酔ったぼくを罵っておいて、よくそんなことが言えるよね」 「罵ってはいない。かわいいよ」 「ヴィクトル、ぼくね、かわいいって褒められるのべつに好きじゃないんだ」 「いやだった?」 「でもね、ヴィクトルが言うと、『ヴィクトルがぼくのことかわいいって言った!』ってめろめろになる気持ちもあるんだ。なんでかな?」 「…………」  勇利はいたずらっぽく笑った。 「日本語で言ってみて。『カワイイ』」 「……カワイイ」 「あっ……だめ……すごくときめいた……」  勇利はおおげさに胸を押さえた。それから顔を上げ、ふふっと笑った。ヴィクトルは目を閉じ、こめかみを指でぐいと押した。 「大丈夫?」 「ああ……」 「ロシア語で『かわいい』ってなんて言うの?」 「ロシア語には、日本語の『カワイイ』から生じた俗語があるよ」 「えっ、本当?」  勇利が目をまるくした。 「ああ……かわいい……」  ヴィクトルはロシア語でつぶやいた。 「え? いま、なんて?」 「かわいいって」 「でもぼくがかわいいって、ヴィクトルはやっぱり変わってるよね。あんなにダサいものには���るさいのに」 「わかってないな。にぶい……」 「え? いま、なんて?」 「美味しいねって」 「あ、うん。そうだよね」  勇利がこっくりとうなずいた。彼はヴィクトルに純粋そうなまなざしを向ける。 「どうしてぼくを誘ったの?」 「どうしてこの前、勇利は俺を誘ったんだ?」  勇利はヴィクトルをにらんだ。 「ヴィクトル、ずるい……」 「ああ、かわいい」 「ロシア語?」 「そうだよ」 「ぼくがヴィクトルを誘ったのは、ヴィクトルと一緒がよかったからだよ。そう言ったじゃない」 「じゃあ、どうして俺と一緒がいいって思った?」 「ヴィクトルはどうしてぼくを誘ったの?」 「ワインを頼もうか」  勇利は、いつかのシャンパンほどではないけれど、すいすいとグラスを空けてワインを飲んだ。たちまち顔が赤くなり、目つきがとろんとなり、物言いもたどたどしく変化する。 「勇利……、これから、俺の部屋へ来ないか……」  ヴィクトルはきまじめに誘った。 「え? なに?」  勇利がまぶしそうにヴィクトルを見た。 「俺の部屋へ来ないか」 「それ……、ロシア語……?」 「英語だ」  ヴィクトルはタクシーを呼び、自宅に勇利を連れて帰った。寝室へ抱いていき、ベッドに横たえると、「寝ていいの……?」と勇利が甘えるように言った。 「だめだ」 「ここ、どこ……?」 「俺の家」 「うそつき……」  勇利がつぶやいた。 「何がだい?」 「だってあの用紙、行き先、レストランしか書いてなかったよ……」  勇利がとろとろした口ぶりでとがめる。 「時間だって……もう過ぎてる……」  上着のポケットからあの申込用紙をひっぱり出した勇利は、証拠を突きつけるように示して、「ヴィクトルのうそつき」と楽しそうに責めた。 「どれ、貸してごらん……」  ヴィクトルは万年筆を取り出し、キャップを口にくわえると、さらさらと文字を修正し、書き足して勇利に返した。 ・住所 **通り ・氏名 ヴィクトル・ニキフォロフ ・年齢 28歳 ・電話番号 ***-***-**** ・行き先 **レストラン・自宅 ・時刻 19時~翌朝まで。それからもずっと ・どんな話をするつもりか スケートの話とか勇利の話、俺の話、俺たちの将来の話 ・勇利が退屈したらどんな罰を受けるつもりか 勇利と話す機会を減らす ・勇利を気持ちよくできなかったらどんな罰を受けるつもりか 何度でも、快感を得られるまで抱く 「さあ、これでいいだろう」  勇利は眼鏡を上げたり下げたりし、「うーん、よく見えないなあ? 文字が二重になってない? ヴィクトル、器用だね」と感想を述べた。 「もうおとなしくして……」  ヴィクトルは紙を取り上げ、それを脇へ置いた。それから勇利の上着を脱がせ、シャツのボタンもはずしてゆく。 「ヴィクトル……」 「うん?」 「えっちなことするの……?」 「するよ」 「何をするか、っていう項目、なかったのに……」 「愛しあう者同士がふたりきりになれば、することはひとつさ」 「そっか……」 「そうだ」  ヴィクトルは勇利から眼鏡を取った。勇利は裸身でベッドに横たわり、自分の身体を抱きしめて隠すようにした。 「なんか、恥ずかしいなあ……」 「……かわいい」  翌朝の勇利は、ゆうべのことをおぼえているのかいないのか、きょとんとしていたけれど、とくに騒いだりはしなかった。彼はヴィクトルの腕の中であの用紙をよくよく調べ、こんなことを言った。 「ぼく気持ちよかったんだけど、それってつまりもうしないっていうこと?」 「気持ちよくできたらこんなご褒美をもらいたいと書き足しておこう」  ヴィクトルはささやき、勇利のくちびるに接吻した。 「勇利……、ここで俺と暮らさないか」  勇利はヴィクトルを楚々とした瞳でみつめた。彼はヴィクトルの耳におもてを近づけ、吐息混じりにささやいた。 「申込書、書いて……」  その色っぽい声つきにヴィクトルはぞくっとし、それからにやっと笑った。 「それ、なんていう申込書だい?」  勇利のくちびるがヴィクトルのくちびるにそっとふれた。
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ayanemutuki · 5 years
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光の庭
!Fire Emblem Heros fan fiction!
・カミュとプリシラの話。名も無き森の夢語りの続き。
・独自解釈・ネタバレ・異世界交流を含みます。カップリング要素一切皆無。
Image song:光の庭(D)
00.
ある時、美しい真白の城に美しい姫君が居た。美しい姫君は、一人の王子様に恋をしていた。幼い頃に、出会った異国の王子様。だが、王子様は黄金郷を探しに長い長い旅に出てしまった。姫君は戻って来ない王子を慈しみ、会いたいと願った。だが、彼女の前に現れたのは、美しい悪魔だった。悪魔は言った。 「お前の願いを叶えてやろう」と。
01.
たまに愚痴りたい時もある。とかつて、この世界には居ない部下のロベルトが言っていた。王だって、王子だって――たまに不満を漏らしたい時もある。 アスク城にある酒場で、レンスターの王子はミルクを飲んでいた。 「不思議な感覚だな」 目の前に居るレンスターの王子はそう言い、椅子に座りながら此方を見ていた。 「この世界に来てから、驚きの連続だと思った。セリスの父上と母上が一緒に居て、アレスの父上と…伯母上もこの世界に居る。最初は夢だと思っていたけど、頬をつねっても、夢じゃない――本当の世界なんだなって」 「リーフ王子は、どう思いますか?」 「でも…この世界に来ていない父上と母上が来たら――僕は、どんな気持ちでいけばいいんだろうって。それが不安なんだ。フィンやナンナも、僕に気を遣ってくれているけど、僕は王の器に立つのが相応しいのかどうか、悩んでいるんだ」 リーフは王の立場であるが、王の立場に相応しいかどうかは――自分自身でも分からないのだ。幼い頃に国を追われ、若き騎士と、異国の王女と共に各地を帝国軍から逃げるように転々として来た日々。とある村でエーヴェルと言う女性に救われ、村の人達と、家族のように過ごしてきた日々。その平穏な日常が、ずっと続けばいい。その平穏が――帝国軍の襲来と共に終わった時。 自分にも見覚えがある筈だ。幼い双子の王子と王女も、立場が災いし、暗い、孤独のような日々を送ってきた。王族の頂点に立つのも、王族に生まれるのも、碌な事が起きない。それがリーフ自身が理解している事であり――黒騎士カミュの悲しみでもあった。 「貴方は貴方の道を進めばいい」 だから、自分なりの言葉を贈る事が、精一杯の類でもあった。 「王族であっても、貴方は貴方の道を進めばいいのです。誰の言葉に惑わされなくたっていい、自分の、信じる道を突き進めばいい」 それが――自分自身の答えでもあり、嘗て――自分自身が下したつらい決断でもあった。だが、目の前の王子は、 「…何だか、あなたの言葉に、救われた気がするよ…有難う、カミュ将軍」 ――救われた、か。 自分は、誰かの助けになれたのだろうか。酒場からの帰路についている最中、自分自身はその言葉に悩んでいた。 『…それでも、人は何処へ行くのでしょうか』 トルバドールの女性のプリシラから言われたその言葉は――確かに、彼の胸に響いた。人は、死んだら何処へ行く。 「…カミュ将軍、聞こえていますか?」 リーフの護衛騎士であるフィンから、ハッと我に返った自分は彼の方を見た。 「先程、リーフ様と何かお話しされていましたが…どうしましたか?」 「あ、ああ…少し、彼の悩みについて相談したりしていた」 「…そうですか、有難う御座います」 フィンからいきなり感謝され、こちらも理解がイマイチ分からなかった。何故、感謝されてしまうのだろうか。 「…私でも時、リーフ様のお力に、なれない時があるのですよ。自分自身では耐えきれない、立場故や、ナンナ様の事――そして、キュアン様とエスリン様の悩みを抱えているのですから…ですが、こちらに来てから打ち明けられる人が居て、嬉しかったと思うのですよ。だからこそ――」 「いえ、いい…此方こそ、感謝する」 自分自身でもどうすることも出来ない悩みは――リーフやフィンだけが抱えているのではない、エレブ大陸の杖使いのプリシラも心配していたと言うのなら、自分は結局。一人で悩みを抱えているのだな。と苦笑しながら。
02.
「光と闇、どちらが正しいかなんて私には分からないんですが、どちらも間違っている、どちらも正しいって言うのは、人其々なんだと思います」 モノクルをクイッと片手で正し、闇魔導の使い手である彼――カナスはそう述べた。カナスの自室の書斎は彼にとって、宝庫であろう。ナーガ神についての伝承、ギムレーに関してのレポート、ラーマン経典、正の女神アスタルテの本…探究者である彼は、異国の騎士である自分にそう述べた。 「貴方が出会ったあの闇に堕ちた暗黒皇帝ハーディン…でしたっけ、彼は元々、善良な騎士だったと聞きます。オルレアンの方々から慕われていて、草原の民達からは希望だったと聞きました…例えるなら、闇に堕ちてしまえば、後は奈落の底――私は、堕ちてしまった人達を知っています」 黒い牙の者達の事を、述べたいであろう。剣を振るう『白狼』のロイド、獰猛な凶器を振るい、戦場を大暴れする『狂犬』ライナス――彼らの事を言いたげであった。自分は「何も言わなくていい」と告げ、カナスは「有難う御座います」と申し訳無さそうに言った。 「…闇は、必ずしも負の一面、悪とは限らないと、私は思うのです。歴史に葬り去られた、真実。語られざる、英雄の物語――それは、貴方が経験していると自分自身が物語っているからこそ、歴史が証明している。そう、例えばマルス王子が」 光の英雄なら、貴方は闇の英雄でしょうか。 「…妙な例え方だな、しっくり来る」 「でしょう?」とカナスは人差し指を振った。彼が椅子に座っており、机には色々書物が積み重なっていた。「バレンシア大陸の歴史」「ギムレー経典」「アステルテ経典」「魔石と魔王」「神竜ナーガとメディウスについて」知識を欲する彼が、異界の書物を欲するのも無理はない。と我ながら思う。するとカナスは、ある一冊の本を本棚から出した。 「英雄王マルスの物語」 知識を欲する彼が、この英雄譚に興味を持つのは珍しい事だ。自分の悩み故の決断力であろうか。 「マルス王子が、皆から慕われている光の英雄ならば、貴方とハーディンは闇の英雄です。ですが、彼と貴方の闇は、断然に差があり――違うのです。暗黒皇帝と化したハーディンは、心の闇に、呑まれた英雄。そして貴方は――例えるのは少し難しいのですが、歴史の闇に葬り去られた、英雄でしょう」 ああ、納得した。あの時の自分は黒騎士ではなく、ただの旅の者であった。カミュではなく、シリウスと名乗っていた。 「史実なき戦い、影に隠れた者――闇に葬り去られた者は、私の世界でも居ます。ですが…光と闇は、バランスが成り立たなければ存在意義を見出す事が出来ない。そして、貴方は――何を見出したのでしょうか。何を――」「カミュしょーぐん!マークス様とミシェイル様が呼んでるの!」 自分とカナスが振り返ると、ピエリとラズワルドが自室のドアを開けて、自分を呼び出しに来たのだろう。ラズワルドが「だ、大事な話をされていたのですね…!」と申し訳無さそうな表情をしたが、自分は「いや、良い」と手を振った。 「では、この話はまた、後程で」 まるで自分らしくない。と言い聞かせながら――自室のドアを、閉めた。 「…行ってしまいましたか」 カナスは、飛び出して行ったカミュを見つめ、ふぅ…と疲れた息を吐き出す。やはり、自分はこの世界でも探求を求めすぎている悪い癖が出てしまったようだ。 「…後で、ピエリさんとラズワルドさんに、お菓子でも贈っておきましょうか」 申し訳ない事をしてしまった表情をしたラズワルドに、お詫びの礼の品を考えておきながら、カナスは一つ、気になる事を呟いた。 「…それに、まるで彼女について話したくない素振りを、していた気がしますね…」
03.
「彼の王は泥から生まれた」 アカネイアの大陸一の弓騎士は、そう答えたという。泥から生まれた――その例えは、何処から来たのだろうか。レベッカはそう思った。 それは前、あの自分でさえも畏怖する力を持つ暗黒皇帝と相対していた時の事だ。ジョルジュやカミュが、苦虫を噛んだ表情をしていたのを忘れられない。それに、プリシラも、カミュやマークスについて余所余所しい態度をつい最近していたのも切っ掛けである。あまり他人の過去に突っ込みたくない(エリウッドや彼の御子息の有り難い御忠告である)のだが、ジョルジュと話をするタイミングが偶然にも弓を射る練習の休憩時に出来てしまったのだから。 「…ハーディンは、元々はオレルアン王の王弟だ。しかし、兄より劣る弟と言うのが災いなのか、少し心に歪があった」 ゼフィールもそうだった。彼は優秀過ぎるが故に、父親から忌み嫌われていた。とエリウッド様の御子息であるロイ様もそう仰っていたわね。とレベッカは納得の表情を浮かべた。それと同時に、遣る瀬無い感情が浮かび上がった。 「だが、アカネイアも元々は、高貴な血で建てられた国じゃない、それと同時に――神に守られし王国でもなかった。三種の神器を竜の神殿から盗み、其れを統治して出来上がった王国だった」 「こっちも、竜と人に歪な亀裂が入っていたのね」 「…人間、そう簡単に上手くいくもんじゃないがな。俺だってアカネイアの傲慢な貴族が嫌いだった。ラング将軍やエイベル将軍も、俺は死ぬほど嫌いだったが、アカネイアの為に、と何処かで逃げていた。現実逃避をしていたのかもしれない」 「こっちも大変なのね。ロイ様から、可愛らしいギネヴィア姫様が美しく成長したって言うから…もし会える機会があったら、見てみたかったなぁ」 「そうか…此方もニーナ様と出会える機会があったら、宜しく頼む」 分かった、約束するわ。とにこやかに微笑んだのだが――ジョルジュは口を開き、重たく、ある事を語る。 「――俺も、何時かはああなるだろう。と何処かで諦めていた」 「いつかは、ああなる…?」 「アカネイアの血を引く民が、他国の者達を蔑み、愚かだと嘲笑い、奴隷階級の者同士を戦わせ、動物の様な目でしか見ない剣闘士達の闘技場を見世物の様に観戦し…俺はそれが嫌いだった。だが、俺では何とかならなかった。ニーナ様は、その現状を変えようと必死に頑張っていた。だから俺は彼女の手伝いをしようと考えていた。だが、俺では役不足だったと…グルニア軍と戦う時に、気付いてしまった」 「あ…ああー…黒騎士の、カミュ将軍の事かしら?」 「だが、彼でしかニーナ様の心を開く事しか出来なかったんだろうな。敵国の騎士と、我々の国の王女、相容れない関係なのに、出会ってしまった。出会わなければ良かったのか、出会ってしまったのは必然だったのだろうか。それは今の俺にとっては分からない事だった」 ジョルジュの疑問に、レベッカはある事を口にしようとしたが――開けなかった。 ――ねえ、それはもう、必然だった方が良かったのじゃないかしら。辛い事や、悲しい事、楽しい事があるけれども、出会わなければ、何かが産まれなかったんじゃないかしら。 ニニアンの事を思いながら、レベッカの拳は固く握りしめた。
04.
ニノは歌を歌っている。古い、エレブに伝わる歌である。まだ幼さが残っている魔導士の少女は、アスク城のバルコニーの冷たい夜風に吹かれながらも、用意されている椅子に座って歌を歌っていた。 それを遠回しに見ていたカミュとミシェイルは、暗夜第一王女カミラの臣下である竜騎士の少女から貰った(彼女曰く、日頃レオンやマークスと接していたからそのお礼らしい)暗夜王国産のワインをグラスに注ぐ。 「何処か、遠い国の歌のように見えた」 とカミュはそう述べた。歌は、竜と人の物語を準えた叙事詩のようであった。竜と契約した者と、美しい少女の物語。エレブ大陸に伝わる、悲しい物語でもあった。 「あの少女は、雪を義理の兄と一緒に見た事があるらしい…俺も、ろくに妹であるマリアに、其れらしい事が出来なかったな」 王の激務に追われ、妹のマリアと一緒に、遊んだり一緒にお出かけする事が出来なかったらしい。その王位が、自らの父を手をかけた代償だったとしても、マリアはミシェイルが大好きだった。大好きな兄を、慕っていたのだ。 「…私も、同じ気持ちだ」 敬愛する王の子であるユミナ様とユベロ様と、一緒に遊んだり笑ったり、泣いたりする事はごく僅かで、彼等に何か残す事が出来たのか――後悔した事もあった。 カミュはそう、述べていたがミシェイルに至っては 「貴様はバレンシアであのリゲルの王子と楽しく接していたのではないか」と答えたが、カミュは首を横に振った。 (貴様は本当に優しすぎるな。それが仇となる時があるのだがな――) ミシェイルはそう思う。マリアから見たら自分は「優しい兄」だと思うのであろう。だが、自分はそう優しい兄ではない。妹のミネルバから見たら「父親殺しの自分勝手な兄」と認識された事もあった。 ニノが歌を歌い終わり、立ち上がる。バルコニーの玄関に優しい兄であるロイドとライナス、大事な人であるジャファルが居て、ニノは駆け寄ってロイドに抱きしめる。 (兄である俺が、何をしてやれたんだろうな) ミシェイルは思い悩む――すると、カミュは笑って誤魔化した。 「だとすれば、貴方も私も同じ悩みを抱えていたのではないか。優しい兄と、王子と王女に仕える騎士が、何をやれたのだろうか」 「お前は悩んでいるのか?」 「ええ、自分は――優しすぎるのではないのか。と思い悩む事があるのです。少し、コンウォル家の令嬢と出かけた時に」 あのトルバドールの少女の事か。とミシェイルはすぐに分かった。彼女は厳格な兄と、彼に使える優しげな、柔らかな声音をした修道士の従者が居る。 「…カミュ」 「…何だ」 「――ドルーアに従った者同士、同じ悩みを抱えているが…貴様も俺も、『どうしようもない大人同士』また、飲む事があったら悩みを打ち明けようか?」 「…それは遠慮しておきます」 やはりこいつは騎士であるが故に優しすぎるな。とミシェイルはそう思いながらも、最後の一杯であるワインを飲み干した。
05.
戦場を駆ける漆黒の駿馬、まるで父上の様だと最初は、そんな感想を自分の心に抱いていた。 「…おい、貴様」 プリシラはゲストルームで暗夜王国のあのドジなメイドのフェリシアが淹れた紅茶を飲んでいる最中に、ある人物と出会った。プリシラは唇をハンカチで上手に拭き取り、後ろの方を振り返る。やはり、最近召喚されたばかりの――師子王エルトシャンの息子であり、セリスやリーフと共にユグドラルの解放戦争を戦った仲でもある…。 ――黒騎士アレス。父親譲りの剣裁きをし、戦場にその名を轟かせている聖騎士だった。 「はい、何でしょうか」 自分がそう答えると、アレスは「丁度良かった、貴様に話がある」とソファに腰掛けた。ベルクトといい、ミシェイルといい、兄と同じ融通が利かない人達と何気に縁があるのだろうか。とそう思っていると、アレスは意外なことを口にする。 「…最近、カミュについて気にしているのだな」 「えっ」プリシラはティーカップを落としそうになったのだが、アレスは「いや、忘れてくれ」とそっけなく答えた。これでは話になっていないのでは。思い切って、プリシラが思い当たる部分を考え、アレスに対してある事実を口にする。 「…貴方のお父様を、思い出しちゃったの?」 無言。どうやら図星のようだ。だが、アレスは「ああ、そうだ」と答えを口にする。プリシラは「やっぱり、そうなんですね」とふふっと笑う。早速だから、彼もお茶に誘ってしまおう。と、隣に居たジョーカーに、紅茶を頼んだ。 「エルトシャン殿下と、カミュ将軍は無茶をし過ぎなんだと思います」 毎回、シグルドとミシェイルが彼等を抱えて私やセーラさんの所に駆けつけて杖の治療を受けてしまうんです。と口にする。 「父上が、シグルド…様と本当に親友だったのか」やはり彼は敵討ちのシグルドに対して敬語をつけるかどうか、まだ迷っているみたいだった。 「で、カミュがミシェイルに抱えられているのは…どんな関係なんだ?歴史書だと、ドルーア側に就いたマケドニアとグルニアの総帥だったと聞いているが」 「…どんな関係、ですか」 確か、その時カミュの事を話していたミシェイルは、友人と言うか、親友とは言い難い…所謂、共犯者?の様な態度をしていた。 「ええっと…一緒に戦った、戦友?」 上手く誤魔化しておく事にした。彼等に首を突っ込むと、余計事態が悪化してしまう。 「そうか」とアレスは納得した表情をした。 「正直、思う。俺はずっと復讐の事を考えていたが…実は、父上の背中を追っていただけだろうな。と今は思ってる」 プリシラは、何も口にしない。アレスの話を、ただ聞いているだけだ。 「…父上は、立派な騎士だったと、母上から聞かされていた。高潔で、誇り高く、優しい騎士だったと聞いていた。俺はそんな父上に憧れていた」 だが、父上が死んだ時は――全てが変わった。とアレスは何処か暗い表情で語る。 「…そうですか、誇り高い黒騎士さんでも、弱音を吐く事はあるんですね」とプリシラは、ちょっと皮肉を込めた言葉を吐き出した。 「騎士である彼等は、誰かを守る為に戦っているんです。貴方のお父様やシグルド殿下、セリス様に、エリウッド公…それに、カミュ将軍や、ミネルバ王女も、前線で戦っている。人はいつか死にます…ですが、その何かを、また次の誰かが受け継いでいるのでしょう」 アレスは「そうか」と口にすると、ソファを棚代わりにして置いているミストルティンを構える。 「…この剣は、父上が俺を見守っている証だったんだな」 プリシラは、そんな彼を見て――ゆっくりと微笑んだ。 「私も貴方も、似たような悩みを抱えているんですね。だったら、一緒にお話ししましょうか」
「んで、俺が弓兵に狙われている若を守る為に、颯爽と弓兵を背後から攻撃して、若を助けたんですよ!」 「成程…今度、ミカヤが狙われた時にはその戦法を組み込む事も考えてみるか」 「じゃあ弓兵はあたしに任せるね!マシューは魔導士をお願い!」 「いやいやいや、俺は若様命だからな!じゃあ魔導士はガイア、お前に任せるぜ!レベッカー、期待してるぜー」 「何で俺!?おい、アズ…ラズワルド、笑いを堪えるな!」 ハハハ…と、食堂で弾んでいるマシュー達の姿を見て、ルーテは考える。プリシラがカミュについて気にしている。つまり、プリシラはカミュを見て何かを思い出した可能性は高い。だとしたら、カミュと関わりのある人物を探ってみる事にした。ジョルジュ、リンダ、ミシェイル、ミネルバ、マリア、パオラ、カチュア、エスト、ベルクト、アルム…思い当たる節が見当たらない。だとすれば、まだ可能性がある筈だ。此処はプリシラに尋ねるしか方法は無いだろう。ルーテが心の中でえいえいおー!と誓った途端に、カミュがミシェイルと一緒に、食堂に入って行った。 「いっつも行動しているのは、お友達なのかしら?」とラーチェルが困惑している表情をしていた。何時だったか、覚えていない。ふと、彼等の会話が聞き取れた。 「…で、最近その御令嬢が貴様を気にしていると?」 「ああ、そうだが……恐らくは、あの一件で」「そうか」 (つまり) 「一緒に出掛けた時に、彼女の言葉が…うん…」 (プリシラさんと出掛けた――つまり、彼女の方程式に考えると、ピクニックか何処かに行ってきたのでしょう。そして、彼女の言葉を考えると――やはり、カミュ将軍の過去に何か関係が?) ルーテがその光景を見ていると――後ろからカナスが「何をやっているんですか?」と話しかけてきた。 「いえ、人間観察です」 「人間観察って…ああ、カミュ将軍の事ですか」とカナスは、何か納得した表情で見据えた。 「多分、彼等については、放っておいたほうがいいと思います」 「どうしてですか?私は非常に気になるのです」 するとカナスは――微笑み、こう答えた。 「あれが、彼等なりの答えなのですから」 (彼等なり、ですか) 恐らくは、自分が介入しなくても、無自覚に彼の善人さが――悩みを解決してくれるのだろう。ルーテはそう思い、魔導書を持ち、立ち上がる。 「カナスさん、有難う御座いました」 ルーテが立ち去った後、一人取り残されたカナスは――ちょうど部屋に帰ろうとしていたマシューを呼び出す。 「…マシュー、少し良いですか?」 「えぇ、何だぁ?」 「私の悩みも聞いてくれませんか」「は、はあ…」 恐らく、カミュについては…勝手に誰かが、悩みを解決してくれるのだろうから。
07.
「わぁー!雪だ!」 黒い天馬に乗っている軍師ルフレの娘と名乗る少女は、降り積もる雪を見て感想を述べた。護衛にはパオラが居るが、どうやら雪と聞いて駆け付けたターナと、追っかけてやって来たであろうフロリーナも参加した。ミシェイルは不満げに竜で空を飛んでいるが――そう言えば、雪なんて久々だろう。とこの時思った。 『貴様は、雪を見たと言っていたが――何時頃だ、アンリの道か?』 『アンリの道…確か、氷竜神殿に行く最中に、だ。ミシェイルは雪の中を行くと言うのか?』 『少しあの軍師の娘とやらが雪を見たいと言っていてな…全く、あの黒い牙の少女もそうだが、少しは危機感を…』 『いえ、それは構わないと思った方がいい――こんなに降り積もる雪の中で戦った時は、氷竜神殿で竜達と戦った時以来だったな。だが、こっちの方が、まだ暖かい』 『…まだ、暖かい?』 『あの時、猛吹雪で――凍えるような息吹を感じたが、ニフルで降り積もる雪は…暖かさを感じる。死を感じられない雪だ』 出発前のカミュとのやり取りを思い出す。自分が彼女らの護衛に立候補に参加したのは、マークが自分の末っ子の妹を思い出す故か、将又他の立候補役が彼女等を任せられない故なのか(ナーシェンやヴァルター)…。だが、ミシェイルはこの雪に、確かな暖かさを感じられたのは事実だった。 「…あの、ミシェイル様?どうなされましたか?」 「いや、少し昔の事を思い出してな」 「…昔の事、ですか?」 「もし、俺と貴様、どっちがマルス王子率いるアカネイア軍を討ち取れるかとしたら――貴様はどっちを選ぶ?」 カミュは自分の忽然とした問いかけに戸惑いを隠せずに居るが、『もし仮にマルス王子を討ち果たし、そしてガーネフを倒せるか』についてを答えるとしたら。まあ、小難しい問いかけに彼は答える事が出来ないだろう――と確信した矢先。 「…ミシェイル、陛下だろう」 驚きを隠せない答えだった。何故自分がマルス王子を倒せるか?とカミュに問いかけた。しかし彼は 「騎士として死ねるのなら、それでいい」と答えるだけだった。丁度その頃は、雪がしんしんと降り続いていた。 結局は、この戦いに何も意味がないと分かっていただろうか、それとも――あの双子の未来が掛かった戦い故の、結論だろうか。 この雪には何もいい思い出がない。が、カミュは気楽に答えた。勝者と敗者の答えなのか、それとも…まあ、いい。これが終わったらカミュにさっさと暖かい酒を寄越せと訴えかけてやろう――降り積もる雪に、舌打ちをしながら。
08.
あいつの顔を見る。高慢な性格のリゲルの王子であるベルクトから見た黒騎士さんについての物語と言うのを誰かはそう言う。俺は彼ではなく、リゲルにいた頃を思い返す。叔父上と話していた時に、今と違う笑い方をしていた。何となくだが、あの時は陰りがない顔をしていた――あのティータという女性と幸せそうに、睦まじく過ごしていた。だが、今の姿は――リゲルの騎士ではなく、グルニアの黒騎士団を率いる騎士の姿だ。何処か、陰りが見えたような気がした。 「貴様からしたら、どうなんだ」「だが、彼が優れた騎士であるのは間違いないだろう」 ノディオンの騎士であるエルトシャンから見たら、自分から見たら優れた騎士である事を直ぐに見抜いた。若くして死んだ者であるが、シグルドの戦友である彼の下す判断は、流石はクロスナイツ騎士団長でありながら、ミストルティンを持つ(どうでもいいが、息子も優れた騎士であるが俺と似た性格をしている)騎士である判断であろう。 「優れた騎士でも、弱点を取られると直ぐに脆くなる」「例えば?」 エルトシャンは口ごもった。きっとあのノディオンの王女や妻の事を言いたいのだろう。自分はそう易々と言及する事は無かった。自分もリネアの事を思い返していたからだ。 「父上は、そう仰っていたのか」 「そうだ」 アレスは自分の問いかけに答え「そうか…」と悩める、思春期の少年らしさをまだ残している表情をしていた。すると会話している自分達の後ろでプリシラが絵本を持って何処かに行こうとしていた。 「おい、いったい何をしに行くつもりだ?」 「あれ、ベルクトさんに…アレスさん?珍しいですね。二人で何をしていたのですか?」 「ちょっとな…貴様こそ、何をするつもりだ?」 「ノノやミルラが絵本を読みたいって言うから、書斎から絵本を取り出してきたんです。この絵本が一番好きそうかなー…と考えてしまったんです。じゃあ、私は先を急いでますから」 それでは、失礼します。と言い、彼女は先に行ってしまった。 (分からない事だらけだ、結局は――自分は皇帝にはなれないと、何処かで感じてしまったのか。だが、あいつは…王になる器になんて持っていなかった。そう言えば、カミュも何時だったか、ある事を自虐していたな) 『私は騎士の器を持っているとは思えないのですが――王には、猶更向いていなかったのかもしれません』 (…似たもの同士、って事か) 急に用事があると言い、ベルクトが立ち去った後一人取り残されたアレスも自室に帰ろうとした瞬間、後ろから肩をポンポンと叩かれた。後ろを振り返ると――不機嫌な表情をした、従妹のナンナが居た。 嗚呼、これはまた説教のパターンか。と理解したのだが…ナンナは、意外な言葉を口にした。 「ちょっと、話があるの」
09. 「最近、プリシラと言うあのトルバドールの少女とよく話してるわね…私だけじゃ、相手にならないと思っているわけ?」 伯母上譲りの気の強さが得りなナンナの言葉に、アレスは言葉を詰まらせた。別にそう言う訳ではない、ただのお茶会仲間だ。と上手く話せば、ナンナは「…そう」と溜息を吐きながらそう言った。彼女と話をするのは久々だろうか?…いや、ナンナはいつもリーフと話をしていた。そりゃあ彼女はリーフの大事な人だから…幼い頃から一緒にいた仲だろう、仕方がないとは言え、彼女に詰め寄られては困る。「気の強いナンナ様」に言い寄られては、流石の黒騎士アレスもお手上げだろう。 「…そうだな、ナンナ。俺は今、悩んでいるんだ」 「…悩んでいる?どうしたの、らしくないわよ」 らしくない、か。そうだな。と確かに今の発言はまずかっただろうか。ふと考えると、ナンナにある事を尋ねた。 「…ナンナ、一ついいか?」 「どうかしたの?」 「…お前は、フィンの事をどう思ってる?」 えっ。まさかアレスから、フィンの事を尋ねられるとは思っていなかった。これは、答えに迷ってしまう。私はフィンのことを理解している母とは違うのだ…だが、ナンナははっきりと答えた。 「大切な人よ。私やリーフを、立派にエーヴェルと一緒に育ててくれて…エーヴェルが石化した時も、支えてくれた人」 そうか。とアレスは無表情で頷き、天井を見上げた。 …アレスと別れた後、ナンナは彼の行動に不可解を感じた。 (…でも、どうしてあんな事を。いつものアレスだったら――あれ?) そう言えばプリシラと言えば、一つ気になる事がある。プリシラは別の異界で黒騎士と言われているカミュについて詳しく調べている様子が見受けられた。アレスも、プリシラとお茶会をしていたと言う訳ではなさそうだ。じゃあ、一体何の為に?とナンナが考えるとしたら――直接カミュ本人に問い質すしか無さそうだ。 「…でも、どうしてアレスは悩んでいたのかしら…あら?そういえば、カミュ将軍と、叔父上は一緒に出撃していたから…もしかして、そのせい…?」 ナンナは、やっぱりアレスの気持ちも考えた方が良いのかしら。とぼやいた。
10. ざく、ざく、ざく。プリシラはニフルの土地を歩いていた。雪が降り積もるこの国は、雪合戦でも出来そうだ。と考える程だった。そう言えばカミュも、カナスに話をしていたらしく、自分も彼も、似た悩みを持っているのだな――と思いながら、雪がじゃりじゃりとなるこの地を足で踏みしめながら、前に――カミュと一緒に森を歩いていた事を思い出した。死んだら、魂はどこへ行くのだろうか。と問いかけていた。彼は、ニーナ王女の事を語っていた。救国の聖女。と何処かの記述ではそう記され、或いは傾国の魔女。と記されていた。他者を犠牲で成り立っている平和と言うのは、あまりにも残酷だったのだろう――ロイが語っていた『女王ギネヴィア』の物語――ゼフィールの豹変、そしてベルン動乱…竜と人が、分かり合える日は何時かは来るのだろうか。もし、そうだったとしたら…この冬景色を、竜達が見られる日が来るのかもしれない。 ふと、プリシラの足元に、誰かが居た――下を見たら、竜の少女であるファが、雪を見てキラキラと目を輝かせていた。 「ファ、雪を初めて見た!」「ふふふ、そうですね。これが雪なんですよ」 あのね、ニニアンお姉ちゃんからお話しをしてもらったの!イリアの雪はね、綺麗なんだって!と健気に話す姿は、とても楽しかった。 カミュとミシェイル、それに兄とルセアも一緒に連れて来て、ファと一緒に遊ぶのも考えたのだが――雪を見て、思った。 「カミュ将軍に――また、問いかけたい事があります」 この世界にきて、どう思ったのでしょうか。私はそれが、聞きたいです。 「…」 外でニフルの雪を見て、カミュは思う。自分は役目を果たしたからそれでいい。と何処かで思っていた。だが、バレンシアのアルムやベルクト、ティータを見て――一度は考え直した。生きると言うのは、とても残酷な事だ、だが、必死に生きていれば、結果が見えてくる事もある。と言うのも、事実だ。だが、一つだけ心残りがあるとすれば――。 「…この雪を、一度だけニーナに見せてもらいたかったな」 彼女がこの世界に来るのは、まだ遠い。
11.
真白のお姫様に王子様に会える対価というのは、人の心臓でした。人の心臓を悪魔に渡せば、お前の願いは叶えてあげる。そう、1000人の人間の心臓を私に渡せ。と。 お姫様は必死に人間の心臓を食らい続け、悪魔に献上をしました。そして残り一つの心臓を悪魔に上げれば、王子様に会える――しかし、現実は残酷でした。何故なら、残りの心臓は、王子様でしたから。 そう、お姫様は、王子様の国の民や、家族の心臓を喰らい、悪魔に献上したのです。 怒り狂った王子様は、国の民や家族を殺したお姫様にこう言ったのです。 「人殺し」と。 そうして真白のお姫様の心臓は剣で貫かれ、ドレスは真っ赤に血に染まったのです。
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yokotayokota · 5 years
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20190322~26 台湾
念願の台湾!案外簡単!エバー航空で行ってきたよ。目指すは高雄空港。
日式チキンカレーをチョイス。黄桃が入ったサラダが好みだった。デザートはなめらかなういろうみたいなやつ。何やったんやろ。コーヒーも薄目で好み。
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昼食中の店員さんからSIMカードを買い、あたふたしつつもファミマで予約してたチケットを発券し、ノリで悠遊カードを買い、空港から地下鉄へ乗りこみ、ホテルのある鹽埕埔へ。
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異国なのに異国な気がしない!!!
ホテルまで歩いてすぐやけど暑い~てことで早速タピオカドリンク!
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何が何だかわかんねぇ!カウンターにいくと英語表記のメニューがあったのでなんとか注文。ジャスミンミルクティーのタピオカ小さめ。
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ホテルはエクスペディアで予約したレジェントホテルピア2。ドミトリーからファミリールームまであるし、何といってもリーズナブル!かつオシャレ~。3泊もするので安いと助かる。ツインルーム朝食付き3泊4日で約6,500円。フロントには日本語が話せるスタッフさんがいてとてもお世話になった。チェックイン時におススメの夜市を教えてもらったので、当初行く予定だった六合夜市から予定を変更してそちらへ行くことに。
地下鉄に乗り瑞豐夜市へ。ディープ!地元の人でいっぱい!怪しいゲームがいっぱいで見てるだけども面白かった。
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食べ物もいろんなジャンルのお店があって迷ったけど、事前にネットで見て気になったステーキ店へ!
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デミグラスソースがかかったあっつあっつのステーキ!チキンとビーフをチョイスして2人でシェア。その場の空気もあってかやたら美味かった。下にある麺も美味い!ご飯がなくてもこれひとつで満足いく。セルフサービスのスープも謎にうまい!肉を食べてる間見ていたのは…
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ジェラート!ステーキ店の真ん前にジェラート屋があるこの立地!わかってるな?チョコミントとシナモンクッキー味のダブルをチョイス。癒し。
鹽埕埔に戻り、愛河クルージング。安い。観光感!添乗員さん、ずっと喋ってたな。
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雰囲気が中之島に似てたな。このライオンも…大阪におるよね?
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くたくたで爆睡。
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<2日目>
朝食ビュッフェ、案外種類が豊富で食べ応えがあった。ルーローハンもできちゃう。毎朝食べた。今回の旅の目的、大港開唱へ。会場までホテルから徒歩すぐ!これ大事!天気は曇、というか小雨。
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フェス感ある!一番大きいステージではリハを行っていた。そのリハでやってた曲が超好みで、これ誰!!誰よ!!!となり、グッズ列にいた若者たちにタイムテーブルを見せステージを指さし「Who BAND?誰!?」と聞くも「わからんね~ん!」と言われ自力で解決。Spotifyで聞いてたバンド、  随性 (Random)でした~!絶対ライブを見ると決めた。
うろうろしつつチケットをリストバンドに引き換えに行った。日本のフェスなら2日間開催なら1枚のチケットで2日分だけど、このフェスは2日通し券も1枚ずつのチケットが発券された。この日は雨だったから、濡れて破れないようにこの日のチケットだけもってきたんやけど、それだど2日通しのリストバンドに引き換えれない!ということが判明。やってもーた!ホテルにチケットを取りに帰ろうとするも、スタッフさんが必死に何とかしようとしてくれた…優しい。が!思ってた以上に大変な様子!いやこれ以上困らせたくない!っちゅうことでめっちゃホテル近いから大丈夫!ありがとう!と伝えるとあちらも安心したようだった…親日親日とは聞いてたけどこんなに優しいとは思わなかったよ~!いや~勉強になった。ちなみにこのフェスは台湾以外からの参加者のチケット購入ができるシステムもある。通常よりちょい高。ゆうてもチケット代、2日通しで約7,500円やからね。日本のフェスに1日行くより安いよ!
とりあえずビールで。
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フェス飯も魅力的やったけど、結構な雨が降ってきたのでおしゃんなお店に入って食べたよ。職業柄ハンバーガーとかサンドイッチとか気になってしまう。
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腹ごしらえをしてライブハウスで伝統芸能を見る。こうゆうのがプログラムに組まれてるフェスっていいよね。これBGMが生演奏なんよね、面白い。
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音源聞いてて、ええな~てなってた共犯結構(Accomplices)。台湾ハードコア。え~日本で見たいよ~HOKAGEで見たいよ~。
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写真手前からフジロックのレインポンチョ、bachoのキャップ、京都大作戦のレインポンチョ…日本やん!!この時わりと雨が降ってたんやけどオーディエンスもぐちゃぐちゃになってて楽しかった。しかもこのステージは無料。通りすがりの人もモッシュゾーンでわちゃわちゃしててカオティック。セーラー服着た子がワイン瓶持ってたりしてて良かった。
メインステージ。雨でも安心アスファルト!
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人生音楽ってのは、「人生は音楽フェスティバル、音楽フェスティバルは人生」というこのフェスのテーマらしい。素晴らしい。泣いちゃう。
ランダムのライブ、初めて見たとは思えないほどスッと耳に入ってきた~!好き~。日本にきてくださ~い!!サブスクで買えるけどCD買っちゃったよ!
バカテクインストバンド・體熊專科(Major in body bear)、イギリスのダークサイケロックバンド・THE UNDERGROUND YOUTH、ブッチャーズ感あるオルタナバンド・非人物種(Inhuman)を見たり、ビールを飲んだり。
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会場のそばにお店がいくつもあるから、すぐに休憩できるのがいいよね~。飲食店だけじゃなくて雑貨屋もあるからついつい見てしまう。パイナップルケーキの名店、サニーヒルズまであるんやから入っちゃうよね。
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疲れた体に沁みる~お茶もうま~。
台湾バージョンの打首獄門同好会。 岩下の新生姜の新生姜が台湾産と知り驚いた!なんちゅう繋がり!魚が食べたくなったよ~。
 この日のトリは閃靈(CHTHONIC)!何気に見るのは2回目。本場のソニックさんやっぱ凄いわ。登場SEが流れると、オーディエンスが冥紙という黄色い紙を巻きまくりだす。 冥紙というのはあの世のお金。神様へ捧げるお金とのこと。沖縄にも似た風習があったはず。 この冥紙がいろんなところで舞い上げられる様子はとても綺麗で、ソニックの重みと厚みのあるサウンドとのギャップが素敵だった。
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私の近くにはドリスメイクをした幼い女の子が冥紙を持ってウロウロしていた。終わった後の掃除ってどうすんやろと疑問に思いインスタを見ていると、オーディエンスが拾って持って帰っていた。流石。
晩御飯はコンビニでカップ麺を買ってすましたけど充分美味しくて感動。
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<3日目>
快眠!朝からこち亀を見て笑う、平和な1日の始まりだよ~。前日は雨でなかなか辛かったけど、この日は雨降らず!オフィシャルグッズ欲しかったけど、1日目に売り切ったみたいで買えなかった~!日本のフェスとの違いが地味にある。韓国のメロウサーフバンド・say sue meのTシャツを購入。
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このランダムのコーチジャケットかなり欲しいな。今でも欲しい。ゲートで写真を撮りまくり、アート観光。
哈瑪星台湾鉄道館にてミニ新幹線に乗車。チケットデザイン良すぎ。
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日本じゃ子どもしか乗ったらあかん雰囲気があるけど、ここじゃ大人だけでも大歓迎!しかもこれは…JのRの…。わりと長い時間乗車。
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せっかくなので実際のメトロにも乗車。
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鉄道むすめ的な女子、駅にはパネルがあったよ。料金の支払い方法がガバガバすぎて凄い。信頼で成り立ってる。
メタルバンド・暴君を見て、昼食の為フェス会場から少し離れた港園牛肉麵へ。人気!列ができてたし、フェスに出演するアーティストもいたし、なんと日本人観光客もいた!(台湾に来てからほぼ日本人に遭遇してなかった)
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あっさりめで醤油ベースやから日本人にも食べやすい味やった。そしてボリュームが凄い!机にニンニクと唐辛子が置かれてたから、徐々に味変させて食べてたんやけど、最終的に激辛になって汗だく!甘いもん欲しいな!となり即、樺達奶茶へ。
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ここも軽く列ができてた。私がチョイスしたのはタピオカが入れれないやつやったんやけど、それでよかった。満腹!でかいな~と思ってたけどすぐに飲み切った。
名前からして見らなあかん、血肉果汁機(Flesh Juicer)、ゴリゴリの重めのミクスチャー…好きやな。ゆる~~~くsay sue me見たりyonige見たりなんやらかんやらして、女王蜂。現地の人がジュリ扇振ってるし、何回も台湾でライブしてるんかと思ったら2回目?かなんかでビックリ。大トリの滅火器(Fire ex.)!これがもう本当に台湾に来てよかった~となった。事前情報で台湾版エアージャム系バンドと聞いてて、その時点で好きやなとは勘付いてたけど、ここまで良いとは!
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知らん曲でも知ってるように聞こえる!15年前から聞いてたんかな?ってぐらい馴染みある感じ。でも新しい~なにこれ不思議!近くにいた親切な台湾人女性が「さっき映し出されたのは高雄の前市長でね~」とか説明してくれたり、モッシュゾーンに突っ込んでったら「結構激しいよ?大丈夫??」と心配してくれたりですっごい優しかった。ライブが終わってから感謝の意を伝えたかったけど、もういなくなってた~!あの人がいなかったら今の台湾が抱える問題と、このライブの伝えたいこととかの繋がりや意味合いが理解できなかった!台湾問題のこともまともに調べずに入国した自分が恥ずかしい。沢山のオーディエンスが”台湾独立”と書かれたフラッグを掲げていた。滅火器は音楽だけじゃなく、芯が通った精神もエアージャム世代のバンドと似ている。こういった存在のバンドがいるのって凄いことやし、もっと日本人にも知ってもらいたい。と思ったら…めっちゃ来日してるやん!!せやのに私は知らなかった。え?みんな知ってた?知ってたら行ってたよこんなかっこいいバンド。でも、初めて見たライブが台湾のライブでよかった。日本で見てたらこんなに響いてなかったかもしれん。日本に来た時はまた見たい。でもやっぱりまた台湾で見たいな~。ライブが終わるとオーディエンスが落ちているゴミを拾っていた。
滅火器のライブを見て、このフェスのテーマである「人生 音楽」というのがよく分かった。フェスを終えて、台湾のオーディエンスは自由に思いっきりライブを楽しんでいるという印象が大きかった。これは日本に比べて規制が少ないということもあるんやろうけど!どうしても日本人は「こうじゃないといけない」「みんなと同じように」みたいな概念がこびりついてる気がした。10数年ライブやフェスに通っていて、これだけ新鮮な気持ちになれるとは驚いた。
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この日もコンビニ飯。全部美味い。
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マグカップに入ってる一口爆弾餅みたいな名前の冷凍食品が美味しすぎて、日本のファミマでも売ってださいってレベル。
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<4日目>
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お世話になったレジェンドホテルに別れを告げ、新幹線で台北へ。
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鉄道会社の駅弁!種類が豊富やった。肉も食べたかったけど、数日間食べてなかったので魚をチョイス。新幹線は噂通り日本の物と同じだった。
あれやこれやして台北まであっという間。あいにくの雨!初めてUberを使ったけど安いし便利でこりゃええな。ぼったくられへんし、目的地言わんでもええし。一回Uberで配車頼んだら、向かってるのと違う車がきて「あんたさっき呼んでたやろ?」て言われたのは驚いたけど…(拒否したよ)。
アニメイトに行ったり迪化街に行ったりカルフールに行ったり。 迪化街 は見るものすべて魅力的で理性を保つのに必死になった。小花園でチャイナシューズを買ったけど、履き心地良すぎて次行ったら安い店で何足も買いたいぐらい!建物がツボを突きまくってきて困った。建築目当てででも行きたいよ~。
ホテルは中山駅近くのダンディホテル天津へ。こちらも1泊約5,700円で部屋広いし朝食ついてるしバスタブあるし良すぎた~!西門町は台湾の原宿と言われるほどには東京みたいやった。どっちかゆうたら渋谷ちゃうんかな?中山に戻ってきて台湾式海鮮居酒屋へ。 日本語メニューがあるとの情報を得て33区熱炒をチョイス。たばこを吸うか聞かれ、吸わんでというと綺麗目の店舗へ通された。
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新鮮さがウリらしい。
カニみそと厚揚げを煮た?もの。エビも入ってて美味しすぎる。
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  イカとセロリの炒め物。完全にビールのアテ!
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焼き豚を酢で食べるやつ。さっぱり!天才か…。
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ビールはセルフサービス。意外と種類がある。
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1品の量が多いから2人やと3品で満足。ビックリするほど安かった。忘れたけど安かった。天満あたりにこの店欲しい。
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<5日目>
夜にめっちゃ食べたから朝飯全然食えへんわ~と思ってたけど朝食ビュッフェ、めっちゃ食べたわ。どれも美味しかったし、よく見たらスペシャルメニューがある。台湾式卵焼き!これ!食べたかったやつやん!
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頼んだら焼いて持ってきてくれた。なんて贅沢な!かなり満足した。
台北駅でギリギリ滑り込み飛行機のチェックインもして荷物も預けれた。あのシステムめっちゃええね。関空もなんばあたりでできたらええのに。
桃園空港をぶらぶら。これが噂の!
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はぁ…かわい…。飛行機は念願のサンリオジェット!
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なんにでもキティさんおるね!ちゃっかりトランプも頂き、素敵な空の旅を満喫して関空へ戻ってきたよ。
台湾、聞いてた以上に素敵な国やった。定番の観光地に行ってないのが自分らしいよね。なんせまた行きたい理由が多すぎる!知れば知るほど興味深い。まだまだ余韻に浸れるわ~。
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pnguntant · 2 years
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感無情
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誰とも会わず、
人が私の挙動に点数をつけることに怯えて
身を固くする一秒もなく、時間の���躙もない。
さむい、まぶしい、くらい、かおる、
外の風が窓を揺らし、赤色のワインを流し込み、不味そうに食べては吐いては活字を続ける。
爽快に起きて、安心して眠る
そんな事が果たしてあるのだろうか。
毛布を頭までぴたりと覆って、じっとしていれば、
はっと気を取り戻す。
三度か四度くり返して、それから、ぐっと毛布を引いて、
今度こそは朝まで。
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自分の幸福の観念と、人達の観念とが、
食い違っているような不安。
その観念へのかたまりを1つ隣人が背負ったら、
それだけでも充分執着心の取り合いになってしまうのではないのかという恐怖がある。
その為に荒っぽい大きな歓楽を避け、
自然に大きな悲哀もこない、
目をつむり暗くなりしてくれれば、寂しさもないのかもしれない。
追いもしなければ置き去りにされることも、
呼んで叫ぶ手応えのなさも捨て、
ただ立ち尽くして
日の暮れ夜露に凍えて死ぬこともないと覚えれば、
それは途端に涙の出ない慟哭で、激しく、息もできない気持ちになるのだ。
でももし、
やや満足ささる程度のいい加減な陳述を辞め、
その人にちゃんと労力をかけ応えてもらえたらのそれ以上なんて望むべくもない。
幸福の足跡が廊下から聴こえるのを、
今か今かとつぶれる思いで待っているのかもしれない。
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しばしば僕を幸せ者だと言う人は
大抵、人のいるところでは自分をさげずみ、
邪険にし、誰もなくなるとひしと抱きしめる。
世間。
僕にもそれがぼんやりわかりかけてきたような気がした。
個々の争いでしかもその場だけの争い。
どんなに自分を立場を変えようとしても決して服従はしない。
犠牲者をとなえていながら
目標は必ず個人で、奴隷には目もくれない。
個人を乗り越えてまた個人。
世間の難解は個人の難解。
世間は大洋で個人。
自殺せず、絶望せず、発狂せず、
屈せずたたかい続けて、自分をエゴイストだと疑わず、
それが当然だと確信した方が楽なのかもしれない。
いわく、
繰り返しをいったん中止し、
またそこに戻ること。
自分だけが綺麗なまま、 なんて、 ふざけるなよ。
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yamashita03 · 6 years
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迷ったら中米に行こう!~戦々恐々とコスタリカを旅する~
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20代最後の夏に思い切って中米コスタリカへ行きました。
幼稚園からの友人が海外協力隊として現地で活動しており、彼を頼りに8月10日から16日の1週間、初一人海外へ出て行きました。
コスタリカで見たものや経験はどれもみずみずしく新鮮なものばかりで、この気持ちが少しでもフレッシュなうちにメモを残しておきたいと考え、帰国の途につくコスタリカサンホセ空港にてキーボードを叩き始めました。(が結局書ききれたのがだいぶ後になってしまいました汗)散文的な内容になることを恐れずゴリゴリ書いていこうと思います。
【コスタリカの概況】
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言語はスペイン語。国教はカトリック。そのため街の要所には教会が立ち並んでいる。
コスタリカの歴史は基本的にはスペイン人統治時代から始まり、それ以前の先住民の歴史的、文化的な遺産などの観光資源に乏しいのが現状。
しかし、先住民たちが森を切り開き巨大な文明を築かなかったことと恵まれた気候から自然が非常に豊かで九州と四国を合わせた程度の国土面積に、地球全体の5%もの動植物が存在すると言われている。
国はこの点を自国の観光資源として捉え、国土の多くを国立公園として保護し、その自然の中を探索する『エコツーリズム』を世界に先駆けて始めた。これが世界に受け入れられ、それまで農業依存だった国の経済構造を好転させた。
そのほかにも軍隊を持たない平和国家として、軍事費に充てていた費用を教育や医療、再生可能エネルギーなどに投資し、前述のエコツーリズムに加え、中南米で屈指の教育、福祉、自然エネルギーの国として強い国家アイデンティティを保有している。(日本も見習いたい)
街の観光地はどこもごみが少なく、水道水も飲めるのは中米に限らず世界的にも希少な国のひとつではないだろうか。
【コスタリカの人々】
・観光地のガイドからUberのドライバー、クラブに来ていた若者に小学生まで様々な人と触れ合ったが総じて気さくで穏やかな人が多かった印象。車の運転もアジアなどに比べても丁寧な感じだった。
・観光地やホテルでは英語を話せる人が非常に多いため、スペイン語が苦手でもガイドを受けたり簡単なコミュニケーションは十分可能(ただし自分は英語もできなかったため状況は変わらなかった)
・中米の中で治安が良く経済が安定していることもあり、多くの移民が存在し、とくに貧しいニカラグア人が市街地でホームレス化している現状が社会問題となっている。そのほかにも社会情勢が不安定なベネズエラ人なども目立った。
私のコスタリカ旅行
友人が1週間のバカンス休暇を取りほぼ土地勘もコミュニケーションもできない私にほぼ24時間付き添ってくれて様々な場所に行かせてくれました。
現地で撮った写真を見ながら適当な順番と粒度でコスタリカについて語りたい��思います。
1.市街地の風景
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成田からヒューストンを経由し、サンホセ空港に到着。
駅からバスでサンホセ市街地へ出て街を散策。初めての中米だが、町の雰囲気は東南アジアとも近い印象。首都ということもあり、おそらく単純に国の経済力、発展度によって似た雰囲気の街が出来上がってしまうのかもしれない。(日本も昔はこうだったのかも)
市街地には人通りが多い。また、路上に座り大声で物売りをする人も多く見かけたが、友人曰く彼らはニカラグア移民だとのこと。あまり近づかないようにした。
2.食事
「コスタリカの食事はマズイ」と友人から聞かされていたため戦々恐々として乗り込んだものの、総じておいしかった。ただし、値段の割に(というか高い店に限って)全くおいしくない店もあり、その辺はどんな店でも一定のクオリティは保っている日本の外食店文化のありがたさを感じた。
<上流国民編> 
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初日夜は友人の現地の友達で日本に留学経験もあるというコスタリカの方とコスタリカの中ではちょっとハイソな街で夕食。とてもいい方たちだった。
写真は2件目に行ったビールバー。クラフトビールの飲み比べができた。
※ここに関わらず外食費は総じて日本よりやや安いものの大きな差はなく、中米の中では非常に高いとのこと。家族を大事にし、家での食事を重んじる国民性があるとはいうものの、平均月収が日本の数分の一ということを考えると外食はなかなか大変な出費になるのだと思う。
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山でのレジャーや森の散策を楽しめるモンテベルデ自然保護区で止まったホテルの隣にあったレストラン。モンテベルデという土地柄もあり周りは外国の観光客だらけ。
キャンドルがあったりと店の雰囲気は日本の都会のおしゃれレストランさながらな雰囲気だったが、料理は10ドル弱、ワインもボトル15ドル程度となかなかのコスパ。そして味が抜群にうまかった。この旅の中でもトップクラスに満足した食事だった。
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同じくモンテベルデでの食事。わかりづらいが、本物の大木をそのまま残し、その周りに3階建ての建物を巻きつける(?)ような特徴的な構造を持ったモンテベルデの有名レストラン。パスタは15ドル程度と結構お高め。
ただ申し訳ないが味がマズかった。4分の1程度しか食べれなかった。友人が「コスタリカの料理は味が薄い」と言っていたのはこれか!と納得。
その後パスタは宿へ持ち帰るも、部屋に置いておいたら蟻の餌食となり無事死亡。
<庶民編>
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友人行きつけという現地の食堂にて。コスタリカでは米(左)、レモンとパクチーの効いたサラダ(中央)、ポテト(右)、豆(奥)を基本セットに、そこに豚肉やチキンなどのメインが乗るワンプレート料理がスタンダード。
米はタイ米などに近く、日本のよりも細長くて水分が少ない。また、黒い豆と米を合わせて炊くとコスタリカの伝統料理「ガチョピント」となる。
だが、米と豆を別々に食べても味は大差ない。
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これは別の店だが、基本は一緒。そこに焼きバナナなどがついていた。
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モンテベルデの屋台にて。鶏むね肉とポテトというシンプルで豪快なファストフード。非常にボリューミーだが500円程度。美味しかった。
<家庭料理編>
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チフリーゴ。友人がお世話になっているホストファミリーのお家に自分もお邪魔してごちそうになった伝統料理。
ご飯に鶏肉と豆が乗っており、そこに刻んだトマトとパクチー(←これもよくコスタリカで出てくる)をお好みで載せて食べるどんぶり。鶏肉にトマトの酸味やパクチーの刺激が合わさりとても美味しかった。
米を食べる文化があるため、各家庭に炊飯器もある模様。(米があるのはありがたかった・・・)
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朝は旦那さんのほうが準備してくれた。ガーリックトーストにソーセージに卵、そしてパパイヤとかなりボリューム満点でおいしかった。
3.文化編
<原住民編>
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原住民が木の実などをすりつぶす際に使用していたとされる石の机。独特な形状が面白い。石工技術の高さがうかがえる。
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よく日本のテレビなどでもコスタリカを紹介する際に一緒に出てくる謎の石球。その製造年代や製造方法、作られた目的などが不透明で一部ではオーパーツの一つともいわれていたが、現在では研究も進みその謎が徐々に明らかになっているとかいないとか。
ちなみに写真は国立博物館にあったレプリカ。本物はコスタリカの郊外にあるため、観光地にはしばしばこのようなレプリカが置かれていた。
<建造物>
国立劇場
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コスタリカを象徴する建造物の一つ。この建物を壊したくないがために内紛が起こらない、と言われるほど現地人からも愛されているという建物。劇場内部も見学ができる。
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息を飲むほどの迫力。今なお現役の劇場として使用されており、しばしば日本の能や和太鼓の演奏なども上演されるとか。
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受付兼待合室。豪華すぎて落ち着いて待てなさそう。
ロスアンヘレス大聖堂
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首都サンホセの隣の県カルタゴにある大聖堂。国内各地から人々が巡礼に訪れる聖地で建物も非常にでかい。
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中の造りも荘厳で素晴らしい。礼拝に訪れた人は中央の通路を膝立ちで移動して祭壇へ向かう慣習があるようだった。我々は邪魔にならぬよう脇の通路を回って見学した。
<若者文化>
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現地人が多く集まる深夜のクラブへ友人と2日連続で繰り出した。入場前にID(自分の場合パスポート)と場所によってボディチェックが行われ、さらに場所によっては入場料も支払う。
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クラブで飲むのは大体ビール。他の酒より値段が安いため、お金のない現地の人もビールばっか飲んでいるとのこと。
ちなみにコスタリカのメジャーなビールはimperialとPilsenの2種類。そしてちょっと高くてマイナーなBAVARIA(写真)がある。味はimperialが薄くて軽く、Pilsenは少し香りとえぐ味が強い印象。BAVARIAはその中間といった感じ。
美味しかったのは写真に乗せたBAVARIAのゴールド。一番日本のビールに近い。時点でimperialのsilverという種類のもの。
BAVARIAはあまり扱っているところが少ないため、一通り飲んだ後はimperialを選んで飲むことが多かった。
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左の黒人Jango。入場の手続きで手間取っていると後ろから声をかけてきた。身長めっちゃ高いし超怖い。
でも本当は荷物を預ける場所を教えてくれようとしていたこのクラブ界隈の従業員?オーナー?的な人だったらしい。その後テキーラを2杯もご馳走してくれた。めっちゃ気さくでいい人。
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ぶれぶれ。お酒飲みながら爆音の音楽を聴いてるとある若者グループの輪に招かれて一緒に踊ってた。なんとなくアジア人で(自分は楽しんでたけど)周りになじめてないオーラが出ていたのか誘ってくれたのだと思う。
言葉は通じないけどお酒もあいまって身振りや表情でコミュニケーションを取る感じがなんとも楽しかった。
友人が話したところそこのグループにいたほとんどの人がベネズエラ人だったとのこと。ベネズエラといえば近年の超インフレで経済が破綻寸前、首都の治安は世界最悪と言われている国。あんなに気のよさそうな彼らの背景にそんな深刻な事情があるのか、と色々と考えさせられた。
4.自然編
上でも触れたモンテベルデ自然保護区にて、昼と夜の森林散策ツアーやキャノピーなどのレジャーを体験した。
昼はオランダ人の家族と一緒にガイドの話を聞きながら野山を散策。
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トゥカーン(の子供)
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なんか笑顔の木
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景色が一望できる!と思ったもののあいにくの雨。朝は晴れていたのに、、
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羽が透明な蛾?
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ゴミをあさっていたアライグマ。全然人を怖がらない。
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ちょっとここからはモンテベルデではないけど、
これは幻の鳥といわれるケツァールを見にいくツアーでの朝の集合場所のロッジに来ていたハチドリ。
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で、1時間以上何か所もポイントを回ってやっとお目にかかれたケツァール。 これはメスのため尾が短いが、オスはもっと尾が長く色も鮮やか。残念ながらこの日オスはお目にかかれず。
5.その他
帰国最終日にどこ行きたいかを友人に尋ねられ、彼の職場のゴミ収集センターと地域の小学校へ行くことに。
サンホセのゴミ収集センター
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回収されたごみたち。袋の中身はまだまだ分別が行き届いていない状態。
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各地から届けられたごみ袋はこの台で職員の方が一つ一つ開封し手作業でごみを仕分けている。
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普段はこの仕分け作業をおばちゃん2~3人で行うそうだが、この日は民間企業からCSR活動の一環と職場体験ということでさらに数名参加していた。エライ
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ペットボトルは無色と有色のものを分けてプレス。プレスすることで輸送にかかるコストを下げている。
これらは民間の業者に売却され、資源として再利用される。
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段ボールも同様。談笑しながらも手際よく潰してトラックにつめていた。
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外では家庭のごみなどを持ってくる人がごみを捨てていた。まだまだポイ捨てなんかも多く、ゴミに関しての市民の意識が低いとも感じられたが、このように律義にごみを持ってきて捨ててくれる人がいることがありがたいとのこと。
サンホセの小学校
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その後サンホセの小学校にアポなしで突撃するも、友人の顔パスで難なく入れた。
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カメラを向けると照れて顔をそらす子供。なんかとても開放的で自由な雰囲気。
生徒たちは全員1日学校にいるわけではなく、上級生と下級生が曜日ごとに午前、午後の授業日を交代でまわすようなカリキュラムを取っているそう。
例えば月曜日の午前が上級生の授業なら、午後には上級生は下校し、下級生が授業をする。火曜日はその逆、といった感じ。
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後者が”ロ”の字型になっており、中庭が校庭になっており、中央の礼拝堂を挟んでコンクリートのバスケコートが二面あった。
ただしバスケを行っている生徒は誰もいなかった。コスタリカ人はサッカーが好きだからフットサルコートにでもすればいいのに。
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牛乳パックを再利用してできた机だそう。木のように固い。
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体育の時間で誰もいない教室。
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パソコン教育も行われている。ここのパソコンも友人の協力隊活動の一環で企業から提供されたもので、この部屋はそのために新たに作られたものなのだそう。
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食堂。おやつにフルーツを振る舞われることも。
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帰り際に先生に挨拶をすると我々もフルーツをゲット。リンゴをむしゃむしゃ食べながら帰路についた。
さいごに:コスタリカを旅行しての感想いろいろ
1.意外と多かった、日本を親しんでくれる人々
この旅で最も印象深く嬉しかったものの一つが日本に親しんでくれている人が多かったこと。上でも述べた初日に紹介してもらった女性たちのほかにも、例えば2日目に行ったクラブでは「日本人!?」と声をかけてくれたコスタリカ人がいたのだが、彼はなんと3月まで我々の地元の宮城県の東北大学に留学していたとのこと。
さらに4日目に利用したUberの車の後ろにはなぜか日本の国旗が飾ってあって、話を聞いてみると彼は日本にこそ行ったことないものの、日本の興味があり自主的に日本語を学んでいるとのことだった。友人曰くこんなに色々と日本を知っている人に出会うことは珍しくてラッキーだったとのこと。楽しい出会いのある旅行だった。
2.中米への関心が深まった
当たり前すぎる小学生並みの感想だが、こちらも自分の心に大きな変化をもたらした。
先ほども述べたようにあまり日本人にとってなじみのないコスタリカだが、地球の裏側では日本に関心を持ってくれている若者たちがいる。そしてみんな気さくで親しみやすく、とても可愛げのある人たちだった。
日本に興味を持ってくれている人たちがこんなにもいてくれていることを考えるとすごく嬉しく感じたのと同時に、自分たちももっと海外に目を向けていかなければいけないと感じた。
さらに前述したベネズエラ人との出会いも考えさせられるものがあった。恥ずかしながら自分はベネズエラなんていう国は国名を知っている程度の知識で、彼らに出会わなければきっとこの先もベネズエラに関してここまで関心を抱くこともなかったと思う。
帰国してすぐに、超インフレが進むベネズエラでは桁を減らすための新たな通貨の単位を作るという経済政策が打ち立てられたとのニュースが入ってきた。もちろんこんな政策ではさらに経済を混乱させることになりかねないという見方が大半だ。経済が混乱すれば他国への移民問題もより深刻になるだろう。これから先中米はどうなるのか、今後の情勢には色々と関心を寄せていきたいと考えるようになった。
3.外国語を話せるようになりたいと思うようになった
今回の旅行は友人のサポートもあり様々な出会いと気づきのある非常に楽しい旅行だったが、それゆえに言葉を理解して自分の気持ちを伝えられないもどかしさを抱えていた。
例えば彼のホストファミリーの家にお世話になった際も、食事を「美味しい」という気持ちすらうまく伝えられず非常にもどかしかった。お土産に持って行った九谷焼についても、本当はその背景にある日本の文化や歴史なんかを話したいという気持ちはあれどそんな高度なコミュニケーションが取れるはずもなく、、
ホストファミリーのおじいちゃんおばあちゃんが本当に親切にしてくれただけに、自分の気持ちを言葉で伝えられない歯がゆさがあった。
海外旅行は恐らく簡単な英語と身振り手振りで頑張れば、観光地を巡ったり宿に泊まったりなどある程度の目的は達成することができると思うし、実際自分もその程度で良いと考えていた。
でも海外旅行で一番楽しいのは現地の人との生のコミュニケーションだろうと思った。その土地の人が何を考え同くらいしているのか、そういったことを言葉を介して理解し、また自分の考えも相手に伝えられるようになりたいと強く感じた。
せめて日常会話レベルの英語でも身につけたい。。30年弱の人生で今が一番外国語学習欲が高まっていると感じている。今やらないと一生やらない気がするので、ひとまず本を読みながら拙いながらも話せるように勉強中。
4.ごみのことに関心を持つようになった
友人の職場に行き、いろいろとごみへの思いを語ってくれたこともあり自分もごみへの関心が高まった。
自分が普段何気なく出しているごみも処理には多くの人手が必要ということ、作業はハードなこと、そして何よりも地球上の多くの人が関わり、今後も関わり続けていかなくてはならないものだということ。
現地の方の仕事ぶりを見て説明を受けると、自分もなにかできないか自然と思いを巡らせていた。
例えば友人はごみを出す段階で分別がされていないことがひとつの問題と言っていた。
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なるほど、確かにゴミ箱は色分けされてどこに何を捨てるべきかが分かりやすくなっている。
ただ、ちょっとデザインの観点から考えてみるとゴミ箱の上にはごみの種類が分かるような絵を入れた���、ゴミの入れ口を入れるごみの形にしてごみを捨てる行為をアフォードさせるような施策があってもよいかと感じた。
現状だと識別する要素が色と小さく書かれた文字のみのため、例えば歩きながら街を歩く人がごみを捨てようとした際に反射的に自分が捨てたいごみの正しいゴミ箱を判断しづらいのではと感じた。色とごみの種類に明確な関係性がないため、ほかの要素で使い手に正しいゴミ箱を反射的に認知させる仕掛けが必要と考えた。
日本のごみ箱はまだそのへんが少し良くできていて、入れ口の直下に何を入れるごみ箱なのかを絵と言葉で入れることでごみを捨てる人の目に必ず入るように工夫されているとともに、口の形状で何を入れるべきかを感覚的に示している。
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缶やペットボトルなど、入れ口を丸くすることでそのごみ箱が飲み物の容器を捨てるものだと把握できるのと同時に、丸い形状に筒状のものを入れたくなる人間の心理も上手に作用させている。
そんな小さな改善を重ねながら、街がもっと綺麗になってコスタリカ人のごみへの関心が高まることを願っている。
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322dayo · 3 years
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ファースト・スプリッツァ
 学生最後の夏休みにどうせなら遠いところに行ってみたいと言ったのは范無咎の方だった。例えば?と聞くと彼は、「それは考えてない」とあっけらかんと答えた。何でも言い出すのは彼の方なのに決まって中身を考えてこないから、その後のことを決めるのはいつも謝必安の役目だった。旅行雑誌をいくつか買い込んで眺めているときに、たまたま目についたのがクリムトの絵画だった。美術書ではもう何度も目にしているが実物を見るいい機会かもしれない。ウィーンに行きたいと言うと、彼は考える間もなく、「そうしよう」と言った。この男、きっとウィーンがどこの都市かも分かっていないに違いない。  少しは真面目に考えてくれとこぼすと、男は困ったような顔で笑った。「君と遠くに行けるのなら、本当にどこでもいいんだ」すまないと謝る男の横顔を見た途端、さっきまでの小さな不満は泡のように消えていった。どんなに小さなことでも嘘や誤魔化しを絶対にしない彼のことを、謝必安は心の底から好きだと思っている。
 初めて訪れた欧州の旅はとても素敵なものだった。故郷にはない石造りの豪奢な街並みに、聞き慣れない異国の言葉、ふしぎな甘い匂い。隣を歩く男はその全てに大げさなくらい感動していた。顔には出さないが謝必安だって、もちろんそうだった。  お金がない学生の貧乏旅行だったので、分け合えるものはなんでも二人で半分にした。彼は肉が好きだからシュニッツェルは彼が少し多めに、自分は甘いものが好きだからザッハトルテは自分が大きい欠片を。何を言わなくとも、互いの手は自然にそうやって動いた。  夕食は宿の近くの小さなレストランに入った。石畳の上をトランクをごろごろと転がしているときに、綺麗な赤色の看板が自然と目に入ってきたのだ。彼もそうだったのだろう、二人は同時にその看板を見上げて、それから互いに向き合って笑った。  店の中には地元のお客らしき人がちらほらと食事をしていた。出迎えてくれた若い女性の給仕は二人の姿と手にしているトランクを見るなり少し驚いた顔をして、「ヴィルコッメン!」とにこやかに笑いかけてくれた。どうやら観光客が来るのは珍しいことらしい。トランクを置く場所がないからテラスでも良いかと店の外を指されて、二人は同時に頷いた。  八月のウィーンは夕方でも首元からじわりと汗が出るような暑さだったが、とてもからりとしていて気持ちが良いものだった。 「同じ夏でも大違いだな」  地元の茹だるような蒸し暑さと比べていたのだろう。男はそう言って美味しそうに炭酸水をゴクゴクと飲み干した。 「お昼に食べたお肉、ジャガイモに甘いソースがかかってるの驚いたなあ」 「君、変な顔してたもんな。俺も一口目は驚いたけど、嫌いな味ではなかった」 「お前は好き嫌いがないからね。腐ってなければなんでも美味しく食べるだろ」 「そんなことは‥‥‥いや、あるかもしれんが」 「ふふ。お前が美味しそうに食べてる姿を見ていると、僕までお腹いっぱいになってくるよ」 「君はちょっと偏食がすぎる。チョコレートだけでは何の栄養にもならないぞ」 「小言は帰ってからにしてくれよ。夕食くらいは少し贅沢をして色々頼もうか」 「あっ、俺これが気になってた」  ガイドブックの単語帳を片手に、二人はなんだか美味しそうな気がするものをあれこれと頼んだ。あんまり勝手に頼むので、それを聞いた給仕は時々それを遮って違うメニューを指差してこっちの方が良いと助言をしてくれた。多分あまりにも肉料理が被りすぎているとか、そういう理由だったのだろう。運ばれてきた料理は葉物のサラダに始まり肉、魚、スープとバランスよくテーブルの上に並んだ。運ばれてきた料理はどれも美味しかったけれど、その全てに甘酸っぱいソースがかかっているのを見ては、二人で顔を見合わせて密やかに笑い合った。  煮込み肉の最後の一切れにフォークを刺していると、目の前の男がふと店の中を指さした。 「なあ、あれなんだと思う」  彼の指の先には一人で食事している老父の卓に置いてある、ワイングラスがあった。丸みをおびたつるりとしたグラスの中には透明の綺麗な水のような液体が入っていて、涼しげに氷が浮かんでいる。 「炭酸水じゃない」 「でもその横にボトルが置いてある。なあ、あれ氷が入ったワインじゃないか」 「そんな飲み方ある?」 「欧州は面妖なことばかりだ。ワインに氷を入れていてもおかしくない」  皿を片付けにきた給仕に彼は早速その飲み物のことを尋ねた。たどたどしいドイツ語をなんとか聞き取ってくれた彼女は、説明するより飲ませた方が早いと思ったのか足早にその場を去って、厨房からグラスとボトルを持ってきてその場でそれを作ってくれた。  ワイングラスの半分に白ワイン、それから炭酸水と氷とレモン。なんとかというカクテルらしいけれど名前は上手く聞き取れなかった。給仕の、さあ飲んで!という視線に押されて、二人はぐびっとそれを飲んで、それから「グート!」と笑い合った。その姿は若い女性の給仕にどう見えていたのだろうか。「ブルーダー?」という彼女の問いに二人はしばらく顔を見合わせて、それから小さく首を振った。自分たちは良い友人であり良い兄弟であり、間違いなく良い恋人だった。  白ワインのカクテルを二人はあれから何度もおかわりをして、店を出る頃には鼻歌でも歌い出しそうな陽気な気分になっていた。もしかしたら少し歌っていたかもしれない。 「ねえ、手を繋ごうか」  その言葉に隣を歩く男が怪訝な顔をしたのが分かった。 「こんな街中で?」 「街中だからじゃないか。僕たちが住んでる小さな村じゃない。だから咎める人なんていないし、何より僕たちのことなんて誰も気にしてないよ」  夜が深まりつつある街外れの人通りはまばらだった。手を繋ぐ若い男女、酒瓶を片手に談笑する学生たち。大きなトランクを引いて歩く観光客のことなど、彼らの視界にはちっとも入っていないことは明らかだった。  男は少し考えてから、やがてゆっくりとトランクを持つ手を入れ替えて、左手を空けてくれた。謝必安はその手をゆっくりと取って、酔いで熱��なった指をぎゅっと握った。彼の指はしばらく困ったように宙をさま��っていたけれど、やがて同じように謝必安の指を強く握りしめた。 「お前が遠くに行きたいと言ったときに」 「うん」 「辛い思いをさせているかなって、少し泣きそうだった」  謝必安の手を握る指先にぎゅっと力が入った。そうではないのだと、男は小さくぽつりとつぶやいた。 「君と一緒にいれるなら、後のことは何でもいいんだ。本当に」  からりとした異国の夏の空気を吸うたびに、謝必安は地元の蒸し暑いうんざりするような熱気を思い出す。見渡す限りの山と緑、とてつもなく広いはずなのに、二人で生きるのにはあまりにも小さく閉鎖的なあの村。数日後にはまた戻らなくてはいけない。二人で並んで歩く帰路では、もうこうやって手を繋ぐことはないだろう。 「ねえ、ウィーンは気に入った?」 「まあ、それなりに。肉は美味いし、冷たいワインも良かった」 「じゃあお前が卒業したらまた来ようか。なんなら住み着いても良いね」 「慣れない土地では君が飢えて死ぬだろう」 「お前と一緒にいれるなら、甘いソースがかかった肉もちゃんと食べるよ」  信用ならない言い草に男はしばらく眉をしかめて黙々と前を向いて歩いていたが、やがてぴたりと足を止めて謝必安の方にからだを向けた。トランクを地面に置いて小さく深呼吸をすると、おそるおそる謝必安の薄い背中に手を回してぴたりとからだをくっつけた。  謝必安は驚いて彼の腕が背中に回って、自分のからだを抱きしめるのを呆然と見ていることしかできなかった。一呼吸遅れて彼の背中を同じように抱きしめる。頬をなでるように風が吹くすばらしく気持ちが良い夜に、肌を寄せ合うことがこんなにも心地良いのだと謝必安は初めて知った。 「聞いたからな。約束は違えないでくれ」  彼の言葉は異国の空の下でも、変わりなくまっすぐだった。  謝必安はその言葉にしっかりと頷いて、背中を抱く腕に力を込めた。  
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