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#川口マーン恵美
ari0921 · 2 years
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対ロシア制裁でドイツのガス価格は「1000㎥あたり2000ユーロの新世界」へ
「ノルドストリーム2」は死んだのか?
川口 マーン 惠美
対ロシア制裁の苦悩
「ノルドストリーム2」という言葉を、オラフ・ショルツ独首相(社民党)は決して口にしなかった。
バイデン米大統領との会談でも、ウクライナのゼレンスキー大統領との会談でも、あるいは、記者団の「もし、プーチン大統領がウクライナに侵攻したら、ノルドストリーム2はロシアに対する制裁の一部に入るのか」などという質問に対しても、「すべての選択肢は卓上にある」と言うのみ。
ノルドストリーム2とは、運転開始を待つばかりの、ロシアとドイツを直結する海底ガスパイプラインである。ロシアの国営企業ガスプロムを筆頭に、ドイツ、オーストリア、フランス、スイスなどの民間企業のコンソーシアムが進めている巨大プロジェクトだ。
社民党のダブル党首の1人であるラース・クリンクバイル氏がテレビのインタビューで、「ショルツ首相が言っている『すべての選択肢は卓上にある』とはどういう意味か」と問い詰められ、苦し紛れに、「テーブルの横でも下でもなく、上にあるということだ」と言って質問者を苦笑させた。
それほど、ノルドストリーム2は社民党にとってのタブーだった。そして、ウクライナ問題の拡大につれ、まるで喉元に刺さった骨のように社民党を苦しめた。なぜなら、ドイツは自国のエネルギー不足を、このパイプライン無しでは容易に解消することができないからだ。
この10年、原発を減らし、石炭火力を減らし、その代わりに再エネにさまざまな援助を与えてその設備容量を画期的に増やしてきたドイツだが、再エネの発電量は不安定を極めた。結局、頼りになるのはガス火力ということでガスに需要が集中した結果、ガスの需要と供給のバランスが崩れた。
ガスの逼迫はすでに世界的問題だが、ドイツでは特に顕著で、家庭のガス料金が今年から平均6割も上がっている。
その深刻なガス不足をようやく解消できるのが、ノルドストリーム2のはずだった。しかし、政治状況が変化した現在、運開が宙に浮いている。このままではドイツのガスはさらに逼迫し、値段が上がるだけでなく、最悪の場合、ブラックアウトの危険さえある。そんなことになったら、社民党政権は吹き飛ぶだろう。
つまり、対ロシア制裁といえども、社民党はそう簡単にノルドストリーム2を犠牲にするわけにはいかなかった。
輸入ガスの55%以上をロシアに依存
社民党の1番の苦悩は、このノルドストリーム2を、メルケル前政権の悪しき置き土産として片付けられないことだ。なぜなら、これは、メルケル政権で連立を組んでいた自分たちの虎の子プロジェクトでもあるからだ。
それどころか、パイプラインの到着地であるメクレンブルク=フォーポメルン州は社民党の牙城で、これまで州首相を始め、皆がパイプラインの建設に全力を注いできた。他に大した産業もないこの州にとっては、パイプラインまさに希望の星だった。
ちなみに、この壮大な独露共同プロジェクトの生みの親は、社民党のシュレーダー元首相である。当然、社民党とロシアの関係も悪くない。
ノルドストリーム2は、「2」というだけあって、当然「1」がある(正式には1本目のガスパイプラインの名称は「ノルドストリーム」のみ)。これこそがシュレーダー元首相のパイプラインで、2011年から稼働しており、年間550億㎥のガスをロシアからドイツに運ぶ。その横に建設されたのがノルドストリーム2で、本来なら2020年に完成し、海底パイプライン経由のガスの輸入量は倍増するはずだった。
ドイツのロシアのエネルギーに対する依存は大きい。ノルドストリーム以外でも、陸上パイプライン経由でロシアのガスは入っている。2020年、ドイツの輸入ガスにおけるロシアシェアは55%を超えた。ヨーロッパは40%で、これも多いが、ドイツは桁外れに多い。
そんなわけでドイツは今、慌ててその他の調達法を探しているというが、ノルウェーやオランダからは輸入を増やそうにもパイプラインが飽和状態だ。
一方、カタールや米国からのガスはLNG(液化天然ガス)なので、それを気体に戻すターミナルが必要だ。しかし、ドイツでは今、2基が建設中なだけで、まだ受け入れ態勢が整っていない。当面、LNGの輸入はオランダなど他国経由となる。
さらにドイツは原油と石炭の輸入も、それぞれ34%、45%がロシア産だから、これでどうやってロシアに制裁ができるのかがよくわからない。結局、よほど困ったら、石炭、褐炭を燃やすのだろう。ショルツ首相が口を噤んだのは当然のことだった。
己の正義に陶酔するドイツ人
ところが、2月21日、プーチン大統領がドンバス地方のドネツクとルガンスクを正式に独立国として承認した後、ショルツ首相はついに、ノルドストリーム2の認可手続きをストップすると宣言した。
ということは、代替ガス調達の目処がついたのか? それとも、あちこちからのプレッシャーが大きくなり過ぎたためか?
メディアはこのニュースを、ドイツ政府がようやく重い腰を上げ、正しい道に戻ったというように肯定的に扱った。国民は国民で、ロシアに対する自国の毅然とした態度に大いに満足しているようだった。しかし、ここで私は大いに戸惑う。ガス不足はどうなるのだろうかと。
後のことを考えずに、己の正義や理念に陶酔するのはドイツ人の特徴で、2011年、皆で脱原発を祝った時もそうだった。ただ、そのせいでドイツの電気代はEUで一番高くなり、おまけにロシアガスへの過度な依存を招いているのに、誰も反省していないどころか、今、また同じことを繰り返そうとしている。
本来なら、昨年の暮れに止めたばかりの原発の再稼働や、今、動いている最後の3基の原発の稼働延長あたりが、電気の安定供給からも、エネルギーの安全保障からも、CO2の削減からも、一番妥当だと思うが、それはテーマにならない。そこがドイツらしいといえば、ドイツらしい。
いずれにせよ、現実として、ドイツはやはり上を下への大騒ぎになった。翌22日には、経済・気候保護大臣であるロバート・ハーベック氏(緑の党)が、ノルドストリーム2の認可手続き停止については「以前から準備はしてあった」ので、「ガスの供給は安全だ」と保証しつつも、「ただ、一時的にガス価格は上がるだろう」ということを、苦渋の表情で発表した。
蛇足ながら、緑の党はつい最近まで、ガスはCO2を排出するし、ノルドストリーム2はロシアを潤すから潰すべきだと主張していたのだ。
一方、ロシアの元大統領ドミトリー・メドヴェージェフ氏が間髪をおかず、「1000㎥あたり2000ユーロを払うことになる新世界へようこそ!」と皮肉のツイートを放った。この日のガスの値段は1000㎥当たりすでに828ユーロだったが、今後、さらに2倍以上に高騰すると警告しているわけだ。
本当にそうなれば、ドイツ経済は破滅だ。そして、その時、拳を振り上げて政府を批判するのは、おそらく、今、政府に拍手を送っているのと同じ人たちだろう。
さらに23日、緑の党のベアボック外相は厳しい顔つきで言った。
「我々は、自由で民主的な主権国家ウクライナのために、国家として経済的な不利益を甘受する覚悟がある。それを示すことが、我々ドイツ政府にとっては非常に重要だ」
こういう悲壮で犠牲的な言葉に、ドイツ国民はいたく自己陶酔する。
認可手続停止という「トリック」
さて、では、すでにガスが充填され、ゴーサインを待っているだけの1250kmのパイプラインは、このまま葬り去られるのか?
『ディ・ヴェルト』紙は主要紙の中ではエネルギーに関しての情報が充実しているが、やはりこの件に関しても、ダニエル・ヴェッツェル氏の興味深い解説が出ている。
記事のタイトルは直訳が難しいが、「ノルドストリーム2の延命のため、ハーベックは巧妙なトリックを使う」という意味で、政府の発表したのが運開停止ではなく、認可の手続きを停止というところが「トリック」らしい。
それによれば、
●ノルドストリーム2はすでにEU全加盟国が承認済みだが、ドイツのネットワーク庁による最終「認可」だけがまだ終了していない
●ネットワーク庁が認可するためには、ノルドストリーム2が「ドイツ、およびEUの電気とガスの供給を危険に晒すことはない」という前提条件を満たしていなければならない(エネルギー経済法4条B)
●そして、ノルドストリーム2はその前提条件を満たしていることを、すでに昨年10月、旧政権の独経済・エネルギー省に公式に承認されている
つまり、最終的な「認可」に法的な障害はない。米国の妨害など政治的な事情で、ネットワーク庁が認可に二の足を踏んでいるだけだ。
そこで新政府が考え出したのは、昨年、旧政権が出したその承認を撤回し、再度、同じ審査を申請させるということだった。つまり、この過程でノルドストリームは少なくとも4ヵ月は延命でき、その結果、「ドイツ、およびEUの電気とガスの供給を危険に晒すことはない」ということが再度認められれば、運開に一歩近づけるわけだ。
この後は、今度はそれがEUの欧州委員会に回されるので、そこでの審査でまた時間が稼げる。もし、万が一ここで、ノルドストリーム2はドイツおよびEUの電気とガスの供給を危険に晒すということになれば、今度は管轄が裁判所に移る。
裁判でどちらに軍配が上がるかはわからないが、もし、ノルドストリーム2がドイツおよびEUの電気とガスの供給にとって危険だとなれば、なぜ、古い既存の陸上パイプラインは良いのかという議論に発展するだろうから、ノルドストリーム側にはチャンスがあるかもしれない。
いずれにせよ、ノルドストリーム2はまだ死んでいない。ドイツ政府は、将来はロシアのガスなど無くても、全てのエネルギーが賄えるようになると豪語しているが、あまり説得力はない。いったいいつの話か?
ただ、日本もエネルギーの他国依存ではドイツに引けを取らない。EUの誰もが付いていかなかったドイツの自滅エネルギー転換政策に、わざわざ付いていった日本は先見の明がなさすぎる。
すでに今、日本のエネルギー価格は急激に上がり始めている。なのに、原発は動かせないし、米国の要請で、日本が発注していたLNGをヨーロッパに回しているというが、大丈夫なのだろうか?
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sqiz · 6 years
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この統計、嘘だったって話じゃあなかった?嘘をついてそれでメルケルの政党支持率大暴落したって、、ドイツに住んでる川口マーン恵美が言ってた記憶がある、だいぶ前の話だよねこれ??
メルケル首相「移民を受け入れてもドイツの犯罪率は下がっている」【海外の反応】 - ガラパゴスジャパン-海外の反応
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tamejirou · 7 years
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ドイツメディアは、イギリスや日本がもう重要ではないと言いたいのか、あるいは、安倍首相もメイ首相も、トランプ陣営とみなされて故意に無視されているのか、そこらへんのところはわからない。 今回のサミットの前、安倍首相は、トランプ大統領とEUの橋渡し役を自認していたが、ヨーロッパの首脳たちはわざとトランプ大統領との不仲を演出した。橋渡し役など、最初から誰も必要としていなかったのだろう。羽田に降り立った安倍首相、および昭恵夫人の表情がいつになく硬かったのが気になった。
EUが中国と組んで打ち出す、強力な「反トランプ作戦」の中身(川口 マーン 惠美) | 現代ビジネス | 講談社(2/3)
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ibozoo-uu · 7 years
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ドイツの主要メディアがそれを報道したのは、なんと4日も経ってからのことだった。これにより、国民もようやく、何か変だと気がつき始めた。そして、そのあとぼちぼちと、今まで伏せられていた"不都合"も報道され始めた。
ドイツ人がどうして馬鹿なのかを川口マーン恵美先生が現地から詳細に解説『川口マーン惠美「シュトゥットガルト通信」ドイツ人はなぜ偏向報道に流されるのか?「難民歓迎」熱から覚めたメディアの欺瞞と矛盾』。2016年01月29日(金)。現代ビジネス。 - ロストテクノロジ研究会
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ari0921 · 2 years
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SDGsの不都合な真実…投資目的の「脱炭素政策」は人類を幸せにするか
少なくとも日本は確実に落ちぶれていく
川口 マーン 惠美作家
地球危機説の暴走
「欧米は、ESG(環境・社会・統治)もSDGs(持続可能な開発目標)も常に投資目的だ。環境問題を項目に並べると投資家が評価してくれ株が上がる。だからすごく積極的にやるし、PRもうまい」
「だから僕は、SDGs(持続可能な開発目標)のバッジを着けるのが恥ずかしい。金融資本主義のマネーゲームに環境問題を組み入れ、ワイワイ騒ぐのはけしからんと思う」
2020年10月、日経ビジネス「賢人の警鐘」に載っていた東レの日覺昭廣社長の言葉だ。これがひどく心に残った。
ESGとは「Environment=環境」、「Social=社会」、「Governance=企業統治」の略で、いわば良い企業が満たすべき条件とされる。一方、SDGsというのは、持続可能なより良い世界を目指すための目標で、2015年に国連の音頭で始まった。
「貧困を無くそう」から始まって、「すべての人々に健康と福祉を」、「平和と公正をすべての人に」、「パートナーシップで目的を達成しよう」など合計17項あり、国連加盟国がそれらを2030年までに達成することが目標とされる。
要するに、ESGを重視する良い企業が増えればSDGsを達成することができるはずという「正論」が、現在、産業界を支配している。
今年の夏、行きすぎたSDGs思想や、地球危機説の暴走などに迫るオムニバス形式の本を作るので、何かドイツのことを書かないかという話をいただいた。完成したのが、12人の共著の『SDGsの不都合な真実 「脱炭素」が世界を救うの大嘘』(宝島社)。9月より書店に出ている。
私自身も著者の一人なので言いにくいが、読者としての率直な感想を述べるなら、これは素晴らしい本だった。テーマを平たくすれば、「脱炭素に向かう世界の政策がはたして人類を幸せにするのか」といったところか。
現在、世界で猛威を奮っている「脱炭素政策」。その構造を、各著者がそれぞれの専門知識を駆使しつつ、科学のみならず、国家主権、民主主義、犯罪、そしてイデオロギーの視点にまでくい込んで多角的に分析しているのだが、特に、SDGsと地球温暖化が切っても切れないものとして扱われていることに注目していただきたい。
同書を読み進むと、脱炭素政策は実は非論理的で、温暖化防止には役立っていないばかりか、産業の自然なイノベーションを阻害し、私たちから富を奪い、さらには途上国の発展の足を引っ張っているとわかってくる。
しかし、その一方で、ある一定の人たちには莫大な利益をもたらしているらしい。同書のサブタイトルにあるように、誰が儲けているのかを考えると、その背後にどのような意図が潜み、何が動いているのかが透けて見えてくる。
さらに衝撃的なのは、ESGやSDGsの大きな波の中で、日本が間違いなく落ちぶれていく運命であること。日本にとっての「脱炭素政策」は、かつて中国共産党が行った大躍進を彷彿とさせるほど自滅的だ。なのに私たちはよりによって、この不吉な目標に向かって突進し始めている。そして、メディアが無責任にも喝采。
おそらくそのせいだろう、同書ではどの稿からも、「このままではダメだ」、「日本をどうにかして救わねば」という著者たちの必死の気持ちが伝わってくる。そこで、是非とも多くの人に私たちの陥っている状況を知ってもらうために、本コラムでその内容を2回に分けて紹介させていただきたいと思う。
EUでは「神聖なる目標」だが…
2019年12月、EUの欧州委員会の新委員長に就任したフォン・デア・ライエン氏(ドイツ人)が、欧州グリーンディール計画を発表。今や脱炭素政策は、少なくともEUでは神聖なる目標だ。EUは21年から10年間で、官民合わせて最低1兆ユーロのESG投資を導くと謳っている。
一方、日本でも、菅前首相がすでに就任当初、50年までに脱炭素の実現を目指すと宣言しており、この施策がこれからの日本経済に与える負担は計り知れない。
もちろんそれが本当にCO2を減らし、地球の温度を下げ、滅亡するはずだった人類が助かるのなら文句はない。しかし同書の編著者である物理学者、杉山大志氏(キャノングローバル戦略研究所研究主幹)によれば、気候危機説は「御用学者」が唱えるもので、「台風やハリケーンなどの統計を見ると、災害の激甚化などは全く起きておらず、気候危機説はフェイクに過ぎない。にもかかわらず、CNNなどの御用メディアが不都合な事実を無視し、『科学は決着した』として反論を封殺してきた」という。
ちなみに、先月末、杉山氏がこの説を唱えたビデオ2本はYouTubeから削除されてしまった。言論の自由や学問の自由が、民間企業によって侵害される恐ろしい世の中になっていることを、ここで強調しておきたい。
また、たとえ温暖化が起こっているとしても、その原因が、人間がここ100年の経済活動で排出したCO2のせいでないとすれば、膨大なお金をかけてやっていることの前提が崩れ、辻褄が合わなくなるわけだ。なのに日本の場合、その不確かな政策を、経済だけでなく、安全保障まで危険に晒してやろうとしている。
杉山氏によれば、現在の世界的な「脱炭素」の流れは、自らを途上国のリーダーと規定する中国が、「先進国が過去のCO2排出の責任を負って途上国を経済援助すべき」という理屈を駆使して、自分たちはCO2削減に身を切ることなしに膨大な利益を得ることに大いに役立っているという。
たとえば現在の中国は、日本のすべての火力発電所と同じ容量の火力発電所を、毎年増設しており、また、原子力発電所も向こう15年で150機増やす予定だという。また、太陽光パネルや風力タービンでは、国内だけでなく、世界市場を制圧しつつあり、さらにEVのバッテリーを握っているのも彼らだ。
一方、太陽光発電用の結晶シリコンの大生産地であるウイグル新疆でウイグル人などの強制労働が問題になっても、サプライチェーンで依存してしまっている先進国の対応は遅々として進まない。このままでは中国だけが躍進し、いずれ世界の太陽光パネルは、「屋根の上のジェノサイド」になってしまうと杉山氏。
外資が絡んだ「仁義なき戦い」の果てに
その太陽光発電の被害について書いているのが三枝玄太郎氏(元産經新聞記者、フリーライター)だ。「法律がない」などという理由で、日本各地でいかに危ない太陽光発電事業が進んでいるかが淡々と描かれる。
氏曰く、「(今年8月に熱海で起こった)土石流は人災どころか“殺人”と言われても仕方がないような実態」。しかも、「太陽光発電所は近所の家を押し流そうが、道路を寸断させようが、補償をしないケースが多発している」のだそうだ。
太陽光発電の乱立には物理的な危険だけでなく、さまざまな不法行為、それも、外資が絡んだ「仁義なき戦い」によって日本の土地や資源が失われていく危険もある。
現在、「日本最大級のソーラーシェアリング」を運営しているのは、中国の国営大企業である「上海電力」だという話を聞いて、背��が寒くならない日本人はいるだろうか。
しかし、小泉純一郎元首相、菅直人元首相などは、『原発は危険だ』として今でも太陽光発電を推奨して回っており、小泉進次郎前環境相は、国立公園内にまでパネルを並べようとしていた。言うまでもないが、河野太郎氏や小泉進次郎氏もまた然り。
日本がここまで貧しくなった理由
山本隆三氏(国際環境経済研究所所長、常葉大学名誉教授)の稿は、「日本人は貧しくなっている。一人当たりの所得では韓国にも抜かれた」という言葉で始まり、なぜ、日本はデフレから抜け出せなかったのかの考察から論を進める。
氏によれば、デフレの一番の原因は少子化でも需要低迷でもなく、賃金が高い製造業、建設業などにおける雇用の減少。そして、それに代わって、医療、福祉、介護など、賃金が相対的に低い産業で働く人が増えたことだという。
では、なぜ製造業や建設業が衰退したか。
「東日本大震災後は原子力発電所の停止が相次ぎ、電気料金が上昇した」
「産業用電気料金は最も上昇した時には震災前の約4割高となった」
これが徐々に企業を海外に追いやったことは疑うまでもない。
さらに、菅直人元首相の置き土産であった再エネの固定価格買取制度が、自由経済を歪ませた。買取価格の設定が高かった太陽光電気が爆発的に増え、現在の設備導入量は「中国、米国に次ぐ世界第3位だ」そうだ。
中国や米国には、使っていない平地がいくらでもあるが、日本は森林を切り崩してパネルを並べている。しかも、どんどん増えるその買取り費用を電気代として負担しているのが産業界と家庭。この構造はすでに計画経済に等しい。
こうして電力使用量の多い産業界の負担額は膨大になり、当然、それが給与や景気にマイナスに働く。
日本政府は2050年に実質排出ゼロにするという過激な気候政策のメリットとして、エネルギー自給率向上、産業振興など、様々なプラス面を謳っている。しかし、山本氏は問う。「過去の再エネ導入は産業振興に結びついていないが、これからの再エネ設備導入は日本の産業と経済に寄与するのだろうか」と。
環境投資を呼び込むための口プロレス
また、興味深いのはEVの話。先のCOP26では、ガソリン車など内燃機関を用いる自動車の新車販売を主要市場で2035年、世界全体では40年までに停止するという宣言に24ヵ国が参加したという。停止すべき車種には、日本が強いハイブリッド車も含まれる。
岡崎五朗氏(モータージャーナリスト)は、この動きを見越していたかのように、「急進的『脱エンジン』宣言は投資家のため? 欧州メーカーの『EV戦略』にトヨタが怒る理由」というタイトルで、その矛盾と欺瞞を暴いている。
そもそも現状は、「すべてのクルマをEV化するだけのバッテリー生産量を確保できる見込みは薄く、仮に確保できたとしてもエンジン車はもちろんハイブリッド車と比べてかなり高価格になってしまう可能性が高い」。
氏はEVを全否定しているわけではないが、「エンジン車やハイブリッド車を完全に排斥し、全てをEVにするという極端な案となると話は別だ」。それどころか、これは、国家、あるいは地域ぐるみのゲームチェンジによって覇権を握ろうとしている「ドイツを中心とする欧州自動車メーカーの戦略だ」と言い切る。
つまり、「日本が得意なエンジン車やハイブリッド車を締め出す」ためである。
とはいえ、これはあまりにも「急進的」すぎて、このままでは日本を潰す前に自滅する可能性が高いと、ドイツの自動車工業会がブレーキを引き始めたという。ドイツのメーカーにとっても、完全なEVシフトなどどう考えても無理な話なのだ。
ドイツはそもそも、CO2削減はディーゼルでやるつもりだった。それが2015年のフォルクスワーゲンの不正プログラムの露見で瓦解したが、スムーズにEVにシフトする技術は今も不足している。
岡崎氏によれば、そこでフォルクスワーゲンのCEOは驚くべき行動に出た。つまり、ことあるごとにEVの輝かしい未来を語り、「エンジン車はもはや終わったとツイートしながら、涼しい顔でエンジン車を売っている」のだそうだ。
岡崎氏はそれを、「環境投資を呼び込むためのあからさまな口プロレス」と見る。ESG投資はいつの間にかEVバブルにすり替わってしまった。
日本経済の屋台骨を脅かす愚策
もう一人、「日本経済の屋台骨『自動車産業』を脅かす“自壊的”脱炭素政策の愚」というタイトルで、脱炭素を「今までのどの政策よりも日本の経済と産業構造に決定的な打撃を与える政策」と厳しく批判するのが加藤康子氏だ(元内閣官房参与、評論家)。
これまでも氏は、明治以来の産業遺産の研究に尽力、あるいは軍艦島に対する韓国の不当な言いがかりに断固として反論してきた。そして現在、総合産業としての自動車産業が日本経済に占める重要性を啓蒙し、それを守ることに全身全霊で取り組んでいる。これは日本を守ることでもある。
それだけに、氏の稿からは���小泉前環境相の国連気候サミットでの「気候変動のような大きな問題は楽しく、クールで、セクシーに取り組むべきだ」といった発言に対する憤りがひしひしと感じられ、深い共感を覚える。
「自動車工場の現場で額に汗して働く人たちにとっては、これはもちろんクールでセクシーな話ではなく、『脱炭素』という経済戦争のなかで雇用と未来の生活がかかった死活問題である」と加藤氏。
「世界で一番厳しい環境規制のなかで自動車を製造してきた日本の工場が、彼らの努力を適正に評価されず、行き場を失い、国を出て行ったら、日本の地方経済は成り立たない」
無責任な政治家に対する慟哭のような批判は鋭く、読みながら、爽快な気分と、絶望しそうになる気分が入り混じったーー。
(次回に続く)
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