Tumgik
#唖然としてるような、なにかに深く感動してるかのような…
patsatshit · 6 months
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「週刊少年ジャンプ」(集英社)にて2018年14号から連載中の『呪術廻戦』が面白い。人間の負の感情から生まれる化け物・呪霊を呪術を使って祓う呪術師の闘いを描いたダークファンタジー。読者の予想を裏切りまくる展開で、数多の考察系YouTuberを幾度となく地獄に叩きつける作者のイヤラシイ才能に惚れ惚れする。ストーリー、人物造形、魅力的な術式の数々、どこをとっても見どころ満載で語り始めたらそのまま夜を駆けて呪いに転じてしまいそうなんだけど、特筆すべき点をひとつ挙げるとすれば、主要なキャラクターのひとりである羂索という呪詛師の存在。他人の身体を乗っ取り、永い時を越え自らの野望を叶えるために存在する人物。この羂索が物語を牽引するから本作は特別なものになっている。どこまでも純粋に面白いことを追求する奴が真に面白いと思ったことだけを次々に実践していく訳だから、その内容が面白くならない筈がない。
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彼が目指すのは「呪力の最適化」である。 呪霊のいない世界でも牧歌的な平和でもなく、自らの生み出すもの以上の可能性を見つけること、つまりは呪術の力で新たな世界を創造しようとしている。 呪術師・呪霊・非術師、これらは彼曰く「人間という“呪力の形”の可能性の一つ」に過ぎないらしく、さらなる呪力の可能性の探求の為に、1000年もの間、様々な術師の身体を渡り歩いて暗躍を続けていた。 そして最終目標は日本全土を対象に人類への強制進化を成すため、人類と天元を同化させることである。 おまけに乗っ取った人物の身体能力、特徴だけでなく術式等の能力をもそのまま引き継ぐことができるのだが、本人の年齢及び本来の顔、性別も未だに不詳。ここまで書けば勘の鋭い方なら既にお気づきだろう。そう、これは完全にドゥルーズの生成変化である。生成変化とは他なる物事への複数の「外在的」な「関係」の付置それ自体としての、言うなれば「関係束」としての「自他」が組み変わることである。それは万象の渾然一体ではなく、互いに区別される関係束の多様な組み変わりである。ドゥルーズの動物論は、スピノザ的「生態学的倫理」として解釈されることが多い。要するに自己の「身体の能力」を開発し、他者のそれと絡み合わせ、自他が一緒に活力を増していく「強度の共同性」を拡大することである。まさに「闘争領域の拡大」というやつだ。そしてそれは数々の漫画作品からの場面引用と構図、展開等の組み合わせで『呪術廻戦』を構築する作者の意図としても汲み取ることが可能である。
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つまりは羂索≒芥見下々であると、わざわざ声を大にして僕は言いたい訳だが、これは世界とは、断片的な物事のあらわれを「想像」に於いて「連合」した「結果=効果」であり、そして世界のいたるところに、互いに分離した想像する「精神」があるというヒューム主義を独自に咀嚼した庵野秀明原作・監督によるオリジナルアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』の概念を字義どおりに渡り歩いた芥見下々の巧みな筆捌きからも察することは容易い。『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』で作中人物の碇ゲンドウが目論んだ「アディショナルインパクト」をゲンドウ自身の言葉で要約すると「セカンドインパクトによる海の浄化。サードによる大地の浄化。そしてフォースによる魂の浄化。エヴァインフィニティを形作るコアとは魂の物質化。人類という種の器を捨てその集合知をけがれなき楽園へといざなう最後の儀式だ」ということであるが、これは羂索の最終目標である日本全土を対象に人類への強制進化を成す為、人類と天元を同化させようとする「超重複同化」と思想的にもかなり近しいものがある。『新世紀エヴァンゲリオン』は言わずもがな、他作品へのオマージュをふんだんに散りばめる『呪術廻戦』そのものが芥見下々なりの「アディショナルインパクト」であり「超重複同化」であり「生成変化」の一端であると言い切ってしまうのは、いささか暴論に過ぎるだろうか?
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『呪術廻戦』と同じく「週刊少年ジャンプ」で連載中のギャグ漫画『僕とロボコ』の第156話「オマージュとロボコ」と題された一話にはオマージュを最大の武器としている作者・宮崎周平の意図を盛り込んだ内容で、そのあまりにも大胆かつバカバカしい試みに失笑を超えて思わず仰け反った。「パクりはもう卒業しました!」と切り出す主人公ロボコは「複数の作品の良いトコロを参考にすれば、それはオリジナルになりうる!」と豪語する。そして数え切れないほどの他作品の「良いトコロ」をつまみ食いしてオリジナル漫画を描き上げては周囲を唖然とさせるも、本人は至って冷静に「オマージュの範囲内ですね」と嘯く。そしてキャリア2年目の編集者が編集長の目を盗んで本誌掲載に踏み切り、結果、見事に大炎上するという極めてメタメタで知的な内容だった。オマージュについては『リズム・サイエンス』(青土社)という書籍にも深い洞察が垣間見える。本書はヒップホップやジャズなどのブラック・ミュージックから現代音楽、果てはメタルまでを往還する境域のミュージシャンDJスプーキーが本名ポール・D・ミラー名義で上梓した渾身の音楽論である。前述のロボコが描いたオリジナル漫画のタイトルが『ドキ♡孫・D・炭太郎の青春‼︎大秘宝‼︎』であったことを鑑みれば、宮崎周平の目論見は明確である。ミドルネームの「D」それは単なる偶然にしては出来すぎた話ではないか。近/現代思想を核に、音楽、映画、小説、詩をサンプリングしながらも、「他人の思考を自分のものにするのは発明するのと同じくらい難しい」と天を仰いだその真意とは。彼の試みは確実にイギリスの批評家マーク・フィッシャーに受け継がれ、氏の没後は言うまでもなく……。
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東京を拠点に活動するラッパー、J.COLUMBUSが長野県松本市のトラックメーカーMASS-HOLEをプロデューサーに迎え、制作したアルバム『On The Groove, In The City』は、幾つもの言葉の断片が虚実の被膜ではなく、自己/他者の被膜をねっとりと愛撫するように言葉が置かれる。しかもそれらは決して打点を刻むことなく、じわじわと地中に溶解する。もはやJ.COLUMBUSの言葉とPAUL AUSTERの言葉に差異はない、否、具体的には決して交わらない他者と自己の言葉が混ざり合うことも溶け合うことも拒絶して地表に吐き捨てられる。これはストリートの詩情などという陳腐な戯れではなく、現前する意志を喪った風景を浮かび上がらせようとする稀有なる試みだ。因みに芥見下々は「パロディやオマージュの線引きは、自分の中では明確な基準がある」と明言している(コミックス16巻を参照)。ここまで記してきた僕の文章自体もWikipedia、ピクシブ百科事典、千葉雅也の論文「ジル・ドゥルーズと生成変化の哲学」を渡り歩いたものに過ぎず、無論、オリジナリティは皆無である。
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elle-p · 10 months
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P3 Club Book Akihiko Sanada short story scan and transcription.
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真田明彦の難攻不落伝説
某日深夜---ここ、月光館学園巌戸台分寮のと ある一室で、その恐ろしくもおぞましい謀略は、徐々に形を現わそうとしていた。
「許せねえ······絶対に許せねえぜ、真田サン。いや、真田明彦ぉ!」
「じゅ、順平くん。そこまで怒らなくても······」
「甘いわよ、風花!私も順平に同感。食い物の根みが恐ろしいってこと······真田先輩の骨の髄まで思い知らせてやらなきゃ!」
「別に僕は、甘いものがそれほど好きって訳じゃないですが······美味しそうでしたよね。お土産のー日限定100個の特製プリン」
「わん!」
「コロマルさんも、ひとりで10個は食べすぎだと申しているであります」
「トレーニングで疲れてたか何だか知らねえけどよ、フツー全部食うか?俺たち仲間だろ?みんなの分残しとくとか考えるだろ!?」
「あ、あうう。り、リーダー、皆さんを止めなくていいんですか?え?······別にどうでもいい? ううううう······」
あまり恐ろしくもおぞましくもないようだが、ここからが恐ろしい。
「よっし!んじゃ、満場一致で “真田先輩をギッタンギッタンにしてギャフンといわせてグウの根も出なくさせる計画”、略してトリプルGプロジェ クトの発動を宣言します!」
「おーっ!」
この今どきどうよ、というネーミングセンスのなさが恐ろしい。
ともあれ、真田の天然ぶり---というより鈍感さに端を発する、特別課外活動部メンバーの怒りの鉄槌が、真田の頭上に振るわれようとしていた。だが彼らはやがて思い知る。真田明彦の天然もまた、ボクシングの腕前と同じように、超高校級であるということを······。
~フェイズ1 伊織順平&山岸風花~
「オレの武器は······これだ」
そう言って順平が取り出したのは、普通ならスポーツドリンクなどを容れるのに使う、ストローつきの白い円筒形のボトルだった。
「トレーニングで疲れたセンパイに飲ませるための、特製栄養ドリンクって訳だ」
「あんた······敵に塩送ってどうすんのよ?」
ゆかりの言葉に、順平はちっちっちと指を振って、恐るべき事実を公表した。
「これはな 風花の······手作りだ」
「そうなの。頑張って、作ったんだよ」
どよつ。
場の温度が下がり、驚愕のどよめきが走る。
「そ、そんな······順平さん。そこまで酷いことをしなくてもっ······!」
「こ、これは、ワシントン軍縮条約に抵触する可能性すら考えられるであります!」
「きゅ~ん······」
「順平······本気ね······?恐ろしい男······」
この液体がもたらす惨劇の予感に、その場にいた全員の顔が着白と化す。ちなみに、兵器開発もとい調理担当の風花は、皆の評価によって心に深い傷を負い、壁際でしくしく泣いていた。
「お!来たぜ!」
順平の言葉どおり、朝のトレーニング帰りの真田が寮の玄関から姿を現わした。すかさず順平がタオルとボトルを持って歩み寄る。
「センパイ!お疲れさんッス!どうスか?運動あとに特製ドリンクなんて?」
「おお、順平。ありがたいな、ちょうど喉が渇いていたところだ」
「しめしめ······じゃなくて、どーぞ!いい感じに冷えて、飲み頃ッスよ!」
何の疑いもなく、真田は順平からボトルを受け取ると、ストローに口をつけて中の液体を勢いよく吸い込んだ。
ずずずずずずずず!
何だか、嫌な感じに粘度を感じさせる音が響き······そうして、真田が口を開いて叫んだ。
「美味い!これはいけるな!」
「······へ?」
予想を裏切る真田のセリフに、唖然とする順平。そこに、真田の歓声を聞きつけ、何ごとかといった表情で桐条美鶴が現われた。
「どうした、明彦?」
「いやな、順平が作ってくれた特製ドリンクが、なかなか美味だったからな。美鶴も飲むか?」
ごく自然に、真田が美鶴にボトルを手渡し、そしてごく自然に、美鶴もストローを口にくわえる。付き合いが長い上、精神年齢的に成熟しているふたりは、間接キスなど気にはしない。······してくれれば、順平の制止は間に合ったろうし、その後の悲劇も防げたのだが
ずずずずず······。
やや飲みにくそうに、美鶴は頬に力を込めて体を吸い上げ、次の瞬間。
ぶびっ。
表情を変えないまま、美鶴の鼻の穴から腐った沼のような色の液体が噴出した。
「き、 桐条センパイっ!!」
美鶴の顔色が、黄土色から紫色、さらにはオレンジ色から緑色へと目まぐるしく変化する。そして最後は、ぐりんと白目を剥き、棒が倒れるような勢いでばたんと倒れ伏した。
「せ、せんぱぁあああいっ!!」
順平の悲痛な叫びがこだまする。それは、この後に来るはずの、美鶴の報復を予感し
ての、早すぎる断末魔のように聞こえた······。
~フェイズ2 岳羽ゆかり~
「えー、牛丼をプロテイン茶漬けで食べる、真田先輩の味覚を甘く見すぎてました。そこで、食欲以外のアプローチで行きたいと思います」
「順平さんはどうしたでありますか?」
「解凍に、あと半日はかかります。ついでに、風花も部屋にこもってしまい戦力外です」
計画の第1フェイズで、すでに彼らの戦力は激減している。あまつさえ、善意の第三者であるところの美鶴まで巻き込み、もはや失敗は許されない状況へと追いやられていた。
「で、あの······ゆかりさん、今度の作戦は?」
そう言う天田は、ゆかりから目線をチラチラと外しては戻すという、不審な動きを続けていた。し かし、それも無理からぬことだった。
「ズバリ!色気で落とすっ!」
きっぱりと宣言したゆかりの服装は、いわゆるボンデージ風のタイトな超ミニワンピース。服というより、数枚のラバー生地を紐で大雑増に繋ぎました、という感じの露出過多のデザインである。胸元や背中そして左右のサイドから、これかというくらいに眩しく、白い素肌を見せつけている。日ごろ弓道部で鍛えた均整の取れたプロポーションを誇るゆかりが着ると、これが意外と悪くなかった。第二次性徴期が来たかどうか微妙な年頃の天田ですら、頬を赤らめてぼうっとなるほでの色香を放っている。
「これで真田先輩をメロメロにして、さんざんしてあそんだ挙句に捨てるという、自分の非情が恐ろしくなるほどに完璧な作戦よっ!メイクバッチリ、ヘアスタイルもオッケー!」
「胸部の追加装甲も問題なしであります」
「アイギス、ひと言余計! 」
ちなみに、いま彼女らがいる場所は、白昼のポロニアンモールのど真ん中。真田は辰巳東交番の中で、黒沢巡査と話している。出てくるところを狙って、作戦開始という段取りである。
「あ、出てきた出てきた。んじゃ、みんな。行ってくるよーっ!」
何も知らずにやってくる真田を確認し、ゆかりがゆっくりと接近していく。2メートルほど近づいたとき、ついに真田がこちらに気づき、ゆかりと目が合う。すかさず身体をくねらせ、ほどよい弾力を感じさせる太ももを見せつけるように、グラビアアイドル風のポーズを取った。
「······」
つゆつゆつゆ。
······見事に、真田はそれをスルーした。
「んなっ!?」
たとえ色気が多少足りなかったとしても、後輩このゆかりをシカトするとは······。プライドを傷つけられ、ゆかりの中の女の意地が覚醒した。
立ち去ろうとしつつある真田をダッシュで追い抜き、くるりと振り向いて真田の進路を塞ぐように対峙する。さすがに歩みを止める真田。そしてその真田の目の前で、ゆかりは前かがみになり左右の腕でバストをぎゅっと中央に圧迫した。寄せて底上げした胸が、さらに押し付けられて豊かな双丘を形作る。そして---。
「セ•ン•パ•イ (はぁと)」
微動だにしないまま沈黙する真田。手ごたえあり!と、ゆかりが心の中でガッツポーズをしかけたとき、真田がゆかりに話しかけた。
「あー······月光館の生徒か?すまんな、覚えがない。しかし平日は制服着用が定められているはずだぞ?生活指導に見つからないうちに着替えに戻ったほうがいい。それじゃ、な」
つかつかつかつか。
再び見事にスルーし立ち去る真田。取り残されるゆかり。ひゅるりら~と風が吹いた気がした。完敗、というか惨敗、というか勝負にすらなっていなかった。あろうことか、ちょっと髪型を変えて化粧をし、いつもと違う服を着ただけで、真田はゆかりを知人だと認識できなかったのだ。よく年配のオジサンたちが、若い女の子はみんな一緒に見える、などと言うが、それのさらに酷いやつである。予想の斜め上を突っ走る真田の朴念仁ぶりと言えよう。
「せ、せんぱい······会ってからもう半年たつっていうのに······もてあそばれたー!酷いぃぃ!!」
真田の無心ゆえの見事なカウンターアタックで、ゆかりは精神を破壊されかねないほどの敗北感を感じていた。その再起には、まだしばらく時間がかかりそうだった······。
~フェイズ3 アイギス&コロマル~
「ホントに、大丈夫ですか?」
残る戦力となる、天田、アイギス、コロマルの3者が、夕方のランニングをしている真田を遠くから追跡しつつ作戦会議を行なっていた。
「大丈夫であります。私とコロマルさんがいれば、十全と言えるでしょう」
今度の作戦はシンプル。真田にコロマルをけしかけ、ズボンの尻でも破いてトホホな目にあわせてやろうというものだ。
「では、アイギス行きます!」
コロマルの首に結びつけたリードをしっかりと握り、アイギスが走り始める。さすがに運動性能が高いアイギスは、天田が見守る中、どんどんと真田に接近していく。
あと20メートル。10メートル。5メートル。4、3、2、1······あっさり追い抜いた。
「あ······」
見ている天田の額から、汗が一筋垂れる。その間も、アイギスとコロマルは走る走る。どうやら、久々の広い場所が嬉しくてしかたないコロマルが、目的を見失って猛ダッシュしているようだ。念入りにリードを手に絡めていたアイギスは、前に倒れそうになりながら振り解くことも止めることもできずに引っ張られ。
コケた。
そしてそのまま。
ずるずるずるずるずるずるずる。
1機と1匹が巻き上げる砂煙が、遠く地平線の向こうに夕陽とともに消えていくのを、ただ天田は見つめるだけしかできなかった。
~��終フェイズ 総攻撃~
「正攻法で行きましょう」
各々の理由で叩きのめされ疲れ果てた面々に、天田は溜め息交じりに提案した。だが。
「ダメだ······勝てる気がしねえ······」
「見た目はともかく声ぐらい覚えててよ······」
「ぜっはっぜっはっ (散歩して満足)」
「もはや、ベコベコであります······」
部隊の士気は、嫌が応にも低かった。
ちなみに、前髪が長い現場リーダーは、フェイズ2の頭あたりで、ばったり会ったクラスメイトの友近と、はがくれのラーメンを食べに行ってまだ帰ってきてはいない。ぐだぐだである。
全員が集まった寮のラウンジに、どよんと重く苦しい空気が沈殿する。と、そこに。
「おう、みんな。何だか元気がないようだが、どうした?風邪か?食中毒か?」
攻撃目標 • 真田明彦が現われた。トラウマがかった「ひぃ」という悲鳴を、誰かが上げる。
いったい、どうやって戦えば······どうすれば、勝てるんだ······。この、痛みを感じない (それ以外のものもあまり感じない) バケモノのような人に、どうやって太刀打ちすれば······?いっそ復讐代行サイトにでも依頼を······。
そこにいる全員が、絶望に覆われ心を闇に侵食されかけた、そのときである。
「おう、こら、アキ!」
「ん?どうしたシンジ?」
今日は朝からどこかに出かけていた荒垣真次郎だった。いつの間にか寮に帰ってきていたらしく、二階からドスドスと音を立てて降りてくる。そして、鋭い声がラウンジに響いた。
「てめぇ······昨日美鶴が買ってきた限定プリン、全部食いやがったんだってぇ!?」
「ああ、悪かったな。まぁでも普通のプリンと味は変わらなかったぞ。牛乳と卵と砂糖の味だ。今度コンビニで代わりを買ってきて---」
順平たちが問い詰めたときと同じ。謝っているようで、まったく謝罪の意味をなさない、それどころか被害者の神経を逆なでする、無神経な言葉の羅列。昨日は、この真田の態度にさんざん文句をつけたのだが、“たかがプリン” に目くじらを立てるということが、どうしても真田には理解できず、最後までこちらの怒りが伝わらなかったのだ。荒垣も真田の無反省な態度には怒り心頭に······発してはいなかった。むしろ、またかよ、と呆れたような 顔。そして。
「おい、アキ。ちゃんと謝らねえと······」
何を怒られているのか、わからない風の真田に、荒垣が投げかけた言葉は。
「絶交だぞ」
「ごめんなさい!」
真田のリアクションは、これがまた早かった。
「もう、人の分まで食うんじゃねえぞ」
「あ、ああ、わかった」
「食った分、おめえが買ってこいよ?」
「もちろんだ!」
その様子を見て、呆然となるラウンジの面々。
「あんなんで······良かったんですか?」
「今度から······荒垣先輩に頼もうね」
「その作戦を推奨するで、あります······」
そして、力尽きた後輩たちは、バッタリとソファに倒れこみ、そこからしくしくとやるせない泣き声が漏れ始める。その泣き声は、翌日の朝から行列に並んだ真田が、限定プリンを人数分買ってくるまで続いたのだった。
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shukiiflog · 22 days
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ある画家の手記if.?-8 雪村絢視点 告白
朝起きたら乾ききった大量の血でベッドのシーツはシワになったまま固まっちゃってた。 してる間ずっと端によけてた布団は無事、だけど血痕が、床にも壁にもそこらじゅうに飛んじゃってるから、大掃除して色々買い換えないと。前の家にいた頃、完全に乾いた布とかの血を洗って落とすのは至難の技だったから無駄に時間消費してないで血で汚れたものは丸ごと捨てちゃってた。今は綺麗に落とせる洗剤とか売ってたりするかな。 部屋やベッドはひとまず放置して先に人体。
二人でお風呂にお湯をためて使いながら、弱く出したシャワーで派手な血の跡を体から軽く流して落とす。真澄さんの背中はまだ生乾きの部分もあったから、広範囲の傷自体を流したりはしないでおいた。 少し思う、真澄さんってどこか…弱い? まったく同じように転んで同じように怪我しても、出血が激しい人と滲む程度にしか血も出ない人といる。血圧とか血液量とか血液の凝固のスピードとか皮膚の違い? 理人さんは後者に近くて、血みどろになるような日はもっと激しい暴力があった日だった。真澄さんの派手な出血量と凝固の遅さが気になる。元からの体質がこうじゃないなら、体が弱ってるか深刻な病気の可能性もある。 「……」 体を拭いて着替えて、リビングのソファに座って真澄さんに両手の指の手当てをしてもらう。真澄さんの背中を手当てするには俺がまともに指使えないと話になんないし。 俺の指は包帯とガーゼで綺麗に巻かれた。とれた爪はどうにもなんない、割れたり指に刺さった爪を丁寧にピンセットで動かしながら処置された。出血が止まるのが遅いのに痛覚は鈍い、俺も弱ってる。
次は俺の番。真澄さんの背中、まだ生乾きだから止血帯大きく貼ろうかな…とかやり方考えてたら、インターホンが鳴った。約束の時間より少し早いけど、たぶん香澄だ。今日デートの約束してたから。 「…。」 「……」 真澄さんと顔を見合わせる。 この状況を今からバタバタ隠そうとしてもな、寝室見られたら事が起きた場所は一目瞭然だし、背中の怪我、いろいろと言い逃れるのは無理。香澄がどこまで察するかだって分かんないんだし、とりあえず下手に取り繕うのはスッパリ諦めよう。 鍵を開けて香澄が来るのを待つ。 ドアを開けて入ってきた香澄は、まず俺の指を見て唖然とした。 「香澄おはよ~。キッチンにハーブティーあるから飲んで待ってて。今手が離せなくてさ。すぐ終わるから」 いつものちょっと気怠げなような穏やかなようなゆったりした口調で話す。以前よりさらに口調から覇気が抜けた。ここも省エネ。 場に緊張感がないことを香澄に示すためにあくびとかしながら、玄関からリビングのもといたソファの位置にぽすっと座って、真澄さんの手当て続行。 香澄は紅茶も入れずソファにも座らず、俺たち二人を見ておろおろしてる。明らかに自分も何かをすべき状況に見える、でも何をすべきか何もわからない、ような感じかな。ごめんね、話せること、今回はすごく少ないんだ。 「ど…したの…その、怪我…」 香澄のほうに微かに走る緊張感と不安と恐怖、いつも通りを徹底することでこの異常事態を平常に錯覚させるとか俺にできるかな…真澄さんの協力があればできるかな。 「どれも病院行くほどのやつじゃないから。そろそろ終わりそうかも。香澄、俺の部屋からコート取ってきて~」 「うん…」 二人とも処置が終わって怪我をいつもの服で覆い隠して、ぱっと見だけでも装って、香澄の目につく頻度が落ちれば少しは気にせずに楽しく過ごせるはず。…楽しい記憶を、幸せな記憶を一つでも 多く香澄の中に遺したい
香澄が俺の部屋にコートを取りに行ってる間に、痛まないようにそっと真澄さんの背中に頬を寄せてすり寄った。 本当は傷を労わって今日はずっとそばについてたかった。でも俺も指を怪我してちゃきっと大したことできないし。もともと今日は香澄と約束してた。それを前日に事態をこじらせたのは俺だ。 昨日はずっと予想外のことが続いたけど予想外のことが起きる可能性には前もって思い到れたはずだ、踏み込んだ話をするんだから。俺がもっとスケジュールに余裕みて真澄さんと話すべきだった。 ソファから立ち上がったらコートを体にかけてくれる香澄と二人で玄関に向かおうとして、真澄さんのほうを振り返る。「絢…」呼ばれて香澄のほうを振り返る。定まらない視線が二人を交互に行き来した末に、床に落下した。 こんなのは嫌い。 とどめられなかったどうしようもなく溢れる感情の発露とか、それで泣いたり怒ったりとか、体力いるから苦手だけど嫌悪してるってほどじゃない、特にこの家に来てからは、なるべく自分の素直な感情を圧し殺さないって決めたから。 でもこれは、そういうのとも違う。二人の間でどっちにするのか俺はどうするのかうじうじ俯いて悩んで、二人に決めてほしいアピールみたいで鬱陶しい… 「光を迎えに行くからそこらまで乗ってくか」 真澄さんが言い出してくれた。怪我させといて、また助けられてる…。 この場で俺が一番呑気でいい身分なのに。怪我も少ないし、ひどく詰られた訳でもないし、香澄みたいに事態の詳細がわからないまま俺も真澄さんも両方の怪我を心配してなくてもいい。 視線だけ俯いたまま動けずにいたら、頭にスポッと帽子被せられた。 「まだ家に居るんなら先に出るよ。もし出掛けるなら戸締まりしといて」 いつも通りの真澄さんに、背中の怪我は?って訊こうとして、結局訊けないまま俺も香澄も、さっさと廊下の横を通り過ぎて玄関から出ていく真澄さんの背中についていった。 「香澄、せっかくだしピアスのお店の近くに降ろしてもらおーよ。歩かずに済むし」 駐車場まであくまで笑っていつもみたいに歩きながら、先を行く俺の手を取ろうとした香澄が手をとめた。俺の指が痛むのを心配して。 香澄はいつも必要なときは真澄さんと接してるけど、多くを語る気はそんなにないみたい。これまでがこれまでだから、ってのは香澄の記憶の欠損で成り立たない。あるいはその欠損がギリギリ今の関係を保ってる、こっちかな。二人からは馴れ合いたくないというより不要に馴れ合えないみたいな、磁石のプラスとマイナスみたいなのを感じる。心配してることくらい語っていい気がするけど。 「今日は香澄が運転したら?うちの車、運転そんなに難しくないと思うよ」 暗に込めた意味をこれくらいなら香澄は十分察する。 「えっ うっうん…いや、あの」 「…」 察したせいで狼狽えてる。でもやっぱり詮索はできない。怪我の理由も、何があったかも。 俺は昨日の真澄さんとのことは、感情面や会話内容やしたことまでは詳しく話したくない。事実関係ならバレても平気だけど、…でもどこから寿峯に伝わるか分かんないし、知られればそこで寿峯の中では終わるって思うたびに、追い詰められるような、常軌を逸した悪いことをしてるみたいな気がして なんでそうなるのか分かってるけど解らないのがもどかしい、なんだって反論なら簡単だけど信じるものが違えばこうなる、多くの人が信じるものを寿峯も信頼してるから社会を形作る信頼を損なうなって指を指される俺は 悪者じゃなくて、ただの少数だよ。少数だってことを悪にするのが、悪だ。 「保険適応さしてねえからお前はだめだ」 「ち、ちがう!」 俺がごちゃごちゃ考えてる前後で真澄さんと香澄が言い合いしてる。ちょっとだけいいなとか思ったり。 「兄ちゃん怪我してるんだから運転はしちゃだめでしょ。車の運転は責任重大だよ!」 「お前話聞いてたか?大した怪我じゃねえって絢がそう言ったろう」 「うぐ…。…でも絢は兄ちゃんのこと心配してるよ」 「…」 三人で車に乗る。運転は真澄さんが緩やかに押し切った。 店の近くで二人で車から降りた。
いつもみたいに香澄の腕にまとわりつかないで、香澄の指先を包帯だらけの指先でキュッと軽く握った。香澄が俺のほうを見る前に、横顔で小さく呟く。 「俺、真澄さんのことが好きなんだ」 「……」 光さん、ごめんなさい。 家庭内だけに関係も事実もとどめて絶対外に漏らさないことで、誰からも許されなくても結実する関係だって。俺の想いを認めて、迷う俺に道を示してくれた、その条件が誰にも言わないことだったのに。 黙って静かに聞いてる香澄は”好き”の意味をちゃんと理解したかな。もっと小さな囁やくような声で付け足す。 「…まこには内緒にしてね」 眉を下げて、悲しく微笑む。 香澄も小さく「��かった」ってだけ答えた。 寿峯と��度少し似たケースで揉めた香澄なら責め���いでいてくれるかも。直にぃとだけ結ばれたい香澄には理解不能で呆れられるかも。香澄も直にぃも愛す情香さんのことを知ってるから静かに納得してくれるかも。 俺は香澄にどれだけのことを求めてるんだろう。俺に守らせてくれるなら、俺の願いはたったひとつそれだけだったはずなのに。 「兄ちゃんのこと心配だよね?…戻る?」 隣から少し顔を傾けて俺のほうを見てくる香澄に、にっこり笑って返す。 「大丈夫。真澄さんは俺が香澄と一緒にいるほうが嬉しいと思う」 ピアス店の中に入っていきながら、真澄さんに借りた手袋をはめる。 店内が寒いわけじゃないけど包帯が目立つから。香澄は逆に手袋を外してた。白い毛糸の、ポンポンがついたクリスマスに俺が編んで香澄にあげたやつ。あの日の服に合わせて作ったけど、意外と香澄がはめてたら他の服とも合わないことない。俺の耳にはかいじゅうピアス。
綱渡りは避けるほう。100パーセントの安全がどこにもないにしろ、俺は俺の納得できるラインまで安全度が満ちるまでじっと待つ。でも同時に、ある程度のリスクと不確定の未来の恐怖に晒されてはじめて得られる堅実な安心や信頼ってものもある。 人間関係の深度が一気に進むときはそういうところを起点にしてたりとか。これまで築いたものが壊れる時に発生する。全てに言えるわけじゃないけど。 この前光さんが読んでた仏語の本を軽い気持ちでめくった、そこにあった”l’homme est d'abord ce qui se jette vers un avenir,et ce qui est conscient de se projeter dans l'avenir.”っていう一説。「人は賽子のように自分を人生の中へ投げる」? 本当の意味は知らないけど、言葉面だけならあんな感じなのかな。 黒髪に戻してからここまで外を出歩いたのって初めてだ。ここまで車だし、近場だけど。 来てるのはピアスのお店。寿峯が連れてきてくれた。香澄も寿峯とだいぶ前に来た記憶があるっぽい。
「思い立ってもさ、あの人の好みとか普段どういう系統の服着てるとか、俺なんも知らないんだよね。会ったのもほんの数回だし。そこで香澄の出番です。ピアス選ぶための手がかり知らない?」 ずらっと並んだピアスを二人で見ながら、横の香澄に振る。俺がピアスをあげたいのは情香さん。 最近、寿峯と香澄が少し衝突して仲直りした、なんの問題かは俺が本人たちに問うべき筋じゃないとしても察しはつく、香澄は寿峯の言い分に返す言葉がなくて情香さんに連絡した。情香さんは電話一本ですぐその場に来てくれて、香澄が傷つきすぎる前に寿峯と物理的な距離を離させた。 これはやや憶測混じり。だいぶ後になって和解も済んでから、香澄が俺との通話中にあのとき情香さんが来てくれたことを話したから、そこから。 「うーん…会ったばっかりの頃はカジュアルめなスーツとかだったけど、あれは仕事の都合だったみたいだし…最近は夏ならタンクトップとデニムに編み上げブーツとか、冬もロンTとデニムとか、ピアスはたくさんしてるけど飾り気なくてシンプルな…あ、靴はいつもすごく高いヒール履いてる」 「…」 それって護身用の武器としてのヒールじゃないかなぁ、とか思ったり。 情香さん、やり方は正攻法だけど同時に大胆でもある。誰かを守るとき仕方なく他の誰かから不興を買うことになっても大して意に介さないというか。俺は俺にとって瑣末なたった一人でも敵を増やさないように動くほうだから。 にしても、結果寿峯は香澄とは和解しても情香さんには不愉快な気持ちを抱えてた。おそらく情香さんが香澄を連れ出すときにそうなるように印象操作した、寿峯の中で香澄の立場が悪くならずにネガティブな感情は情香さん一人に集まるように。 一年前に真澄さんと話してた通り。情香さんはおそらく一生香澄を家族として守ってくれる。 それはおそらく、家族だからとか息子だからとか、そういう固定観念に縛られて愛情を落とした強迫的な守護の意思というより…愛情を基軸にした情香さんにとってごく自然なことだから。ただ自分だけにとって自然な行いっていうなら以前の直にぃもそうかもしれないけど、情香さんは自分の逸脱に仔細な自覚がある。 あの人柄なら、例えばいつか直にぃと香澄が完全に離別して戸籍も分けて他人として別々に生きるようになったとしても、情香さんは今とほとんど同じように香澄に関わり続けるだろう。 直にぃと香澄の関係は、情香さんと香澄の関係にそれほど影響しない、情香さんの価値観の中では、多分。 「あ、香澄のピアスあった」 指をさして香澄に見せる。ロップイヤーのピアス。 耳から下がるタイプより耳たぶに綺麗におさまるような小さめのがいいかな。香澄なりふり構わず唐突な動きとかするし。 「香澄はピアスしないの?」 「うーん、俺の服とピアスって合うかな」 「耳たぶからジャラジャラ下がってるアクセよりは小ぶりのが香澄は似合うかな?服には合うやつ探せばいいじゃん、ふんわりしたモチーフのさ、これとか」 目先にあった冠かぶったうさぎのピアスを掲げて見せる。 「か、かわいい… !」目を輝かせてピアスを見てる。確かにさっきのロップイヤーよりデザインがかわいいかんじ。 「まあ王子さまうさぎって実質俺だし。」 軽口叩きながらピアスを手に取る。これは俺から香澄へのプレゼント。香澄にはまだピアス穴も何もないし、これから穴あけてつけろって強要の意味でもない。 ピアス穴は放置し続けたらいつか自然に塞がってなくなる。またあけたくなれば香澄が自分であければいいだけで、そこには香澄の意思に基づいた決定と行動がある。刺青なんかより、ずっといい。 香澄が見つけた情香さんのピアスと、俺が見つけたインペリアルトパーズのピアスと、王冠うさぎ、これらを持ってカウンターに行こうとして、意外な二人組とはちあった。
虚彦くんと空ちゃんが俺たちより先に喫茶店から出ていって、愛想よく見送ってからソファの上で香澄にもたれてぐったりする。 「絢、疲れた?熱ない?」 俺の額に手を当ててる香澄の首元にグリグリ頭を押しつける。 「前よりさらに体力落ちたな~ってのもあるけど、そっちより気疲れ的な…人と話すの好きなほうなんだけどなぁ」 相手が悪かった。 空ちゃんのほうはかえって本人と話してよかったような感触。やっぱりデータ上だけだと憶測入れても拾えないものが多いな。だいぶ他人行儀に接されたけど、初対面の、それも成人済みの年長相手なら常識的だ。施設育ち、か。そういう対人スキルがないとやってけない場所だったってことか、…真澄さんがまったくどうでもいい他人に接するときの最低限の礼儀だけ弁えた態度とも少し似てなくもないか…?目もとが似てるからそんな気がしたかな。 面立ち…そんなに凝視するのも失礼だからそこまで念入りに見たわけじゃないけど、やっぱり目もとが似てるかな。年齢が比較にならない気がするけど、俺の歴代彼女とかとは全然違うタイプ。 元カノ、みんな細くてか弱そうで繊細そうで、顔やスタイルはキレイ系だけど化粧とかでニュアンス可愛くしてて、服は清楚で大学生の範疇から逸脱しないかんじで、俺が「こうしよっか」て言えばなんにでもついてきちゃう、常識とか判断能力がないわけじゃないけど、少し言いなりになりすぎるところがある、みたいな。 容姿だけなら空ちゃんもあんなかんじにもなるかもしれない。でも彼女には強い意志と自我があった。本人が強いとは自覚してないかもしれないような、潜在的な強さ。 なら、香澄のトラウマの起爆剤になるかもしれない自分を彼女がもし知ったとして、そんなものに成り下がるのはごめんだって反応、香澄がどうなろうが知ったことではないって反応、いろいろあるけど、どうかな…。 虚彦くん…は、俺には少し…おかしいように、見える。 あの子、まっすぐに俺のほうを見てくる。並んで歩いてるときも首曲げて俺の目を覗き込んでくるとかって意味じゃない。俺がそういう印象をあまりにも強く受けるって話。 静かに、まっすぐ。簡単なことのようで、普通は躊躇ってできない。 俺相手には虚彦くんは真顔みたいな無表情なことが多いから、あの目で見られると俺が俺を誤認しそうになる。…まるでとうに死んだ首吊り死体を見るような目で、目の前の事実を淡々と見つめてる、だから俺が気づいてないだけで俺の方が本当は首吊り死体なんじゃないか?ってふうに。 彼のモノの見方が全てになってモノの実態と入れ替わって支配する、そういう…少しだけ似てる目を知ってる。直にぃだ。 一、二度だけ会った若い頃の直にぃはもっと顕著だった。人間を無理やり強引に静物にする目をしてた。 相手の目を見て話しなさい、なんてよく言うけど、あれはその通りにするにしても相手の肩やせいぜい顎とかあちこちに目線は適宜移動させながら、本当に相手の目だけじっと見ろってことじゃない。 本当に相手の目を長時間じっと見つめて失礼じゃない関係っていうと、恋人同士とか夫婦とか。それも多分愛し合ってる感情を伝え合うための行為に分類される。 相手をじっと見ることは、付き合いの浅い相手とのコミュニケーションにおいてはディスコミュニケーションのほうに入る。 個人差はあれど一般的に、じっと見られてる相手は居心地の悪さや落ち着かなさや不快感を覚える。そういう不快感をわざと与えることでなんらかの感情を自分相手に抱かせて、その感情を恋愛感情や強い関心なんだって相手に錯覚させていく、結婚詐欺師とかそんな感じかな。 ぶっちゃけると昔の俺がよく使った手ってだけなんだけど。 二人が出ていって早々に手袋をとった。あったかい店内ではめてると蒸れて汗がしみるから。怪我、虚彦くんにはバレてたけど。俺の包帯だらけの指先を香澄の指先がそっと撫でる。
「俺もう一杯なんか飲みたいな」 「俺も。次はコーヒーとかお茶じゃなくてジュースにしようかな」 「香澄、ぶどうジュース頼んでよ、俺カルピス頼む」 「? 俺のぶどうジュースも飲む?」 「そーじゃなくてさ、香澄と俺のジュースを二人で混ぜたら多分ぶどう味のカルピスできるじゃん?美味しそう」 俺の体をソファの上で上体だけ楽な姿勢で寝かせて、頭を膝の上に乗せさせてる、香澄は俺の髪を撫でる。 香澄と俺が初めて会って、会話っていえないような会話で話をした、そこも喫茶店だった。 あのときの香澄を、何も知らない俺は大雑把に区分してだいたいこういう人種だろって、乱暴にあたりをつけた。そうすると全部俺の都合のいいように解釈ができるから。俺と話す気なさそうで口数少ないのも楽しくなさそうなのも、ああ人見知りね、で終わっちゃうんだよな。きっとどこまでいっても俺に非がこない。 そういうとこは、つくづく理人さんに似てた。
香澄と二人で細長いガラスコップからぶどうジュースとカルピスを混ぜるのに四苦八苦して、最終的には交互にすばやく飲めば口の中で味が混ざる!なんて言って笑う。 飲み終えたら二人一緒に喫茶店を出た。 店を出るときに香澄が俺にマフラーを巻いてうさぎ耳のついた帽子を被せてくれた。 今朝家を出てくるときに真澄さんが同じことしてくれた。 ねえ香澄。血縁関係がなくたって、一緒に過ごした頃が曖昧だって、それでも香澄を育ててくれたのは真澄さんで、二人は似てないけどときどき似てるよ。
俺がそろそろ体力的にきつくなってきたから、俺の家まで一緒に帰ってきた。香澄はいつもみたいに泊まってく。 真澄さんは光さんと一緒に先に帰ってきてた。ソファで二人で話してたら光さんが途中で眠り込んじゃったかんじか、真澄さんの膝の上に小さなまん丸の頭を乗せて、光さんは珍しく俺たちが帰ってきても気づかないでぐっすり寝てた。 帰宅したときのいつもの感覚で、香澄と一緒にお風呂入ろうとして、やめた。指に爪がないのバレちゃうし、服の上から触って香澄もわかってはいるだろうけど、実物見ると怖がらせそう。痩せすぎた。運動して絞ったんじゃないからきれいな痩身でもないし。 真澄さんと光さんと香澄と俺で、寝るまでになんかして遊んだり、ただのなんてことない雑談でもいい、できたらなって思ったんだけど、帰るなり俺が熱出して、何もできなかった。 書斎で布団に入って大人しくしてながら、取り繕えなくなっていくのを感じる。前から外出した日は帰ってきたらだいたい微熱は出してたけど、普通に振る舞うことだってできた。でも今はこの程度の微熱が誤魔化せないくらいあつくて苦しくて痛い、寝てるしかできない。 香澄はずっと俺についてるつもりだったのを、真澄さんに首根っこ掴まれて書斎から引きずり出されてった。 久々に外出したんだし、外でもらってきた風邪とかインフルエンザだと確かに危ないから、一人で少し様子を見なきゃ。
そのとき真澄さんに借りた手袋返そうとして、ひっこめた。 両手で手袋を持って引き寄せて、頰にあてる。俺の手よりずっと大きな手。革の部分がきもちいい。帰ったときにすぐ殺菌消毒したから顔すりすりしても一応大丈夫なはず。 少し眠った間に、俺が握りしめてた手袋が口元からなくなってて、ほつれて解けかけて出血が滲んでた包帯がきれいに新しく処置しなおされてた。…真澄さん。 眠ってたら何時間か経って夜になってた。 急な高熱とかその前兆とかひどい頭痛や関節痛も喉の痛みも、これから発症する兆しはなにもなかったから大丈夫かなと思って、リビングに出てってみる。 途端に香澄に書斎の中に押し戻されて抱えられてベッドに入れられて布団かけられた。 「まだ安静にしてなきゃダメだよ」 熱のことか指のことか、どっちもかなこれ。 「…ひどくなんないから、いつもの疲れたときの体が火照ってる感じだと思うよ。ひとに移さないやつ」 熱って前提で話したら、俺が話すうちにも香澄はサイドテーブルに常備してる解熱剤を出して、水を用意して持ってきた。 俺もベッドの上で体を起こす。 「香澄、薬飲ませて」 指差し指の指先で自分の唇をトントン軽く叩いて示す。にこって笑いかけたら香澄が急に挙動不審になった。意味は伝わったってことかな。 俺と薬を交互に見てたけど、意を決したのか薬と水を口に含んだ。 こぼしちゃわないように唇をきれいに合わせて喉に通す。 すぐ間近に香澄の顔がある。切れ長の涼しげな、俳優さんみたいな綺麗な目。何事もなく普通に学校いって、友達作ったり、部活入ったり、そんなありきたりな愛しい時間を今日まで積み上げられたなら。香澄は容姿だけでもきっと人気者でいっぱいモテた、そんな香澄じゃなかったから直にぃと出会った。 幸せを願うことだけでも難しい。 しっかり飲み込めてから唇を離して、お互いに微妙に照れる。布団を持ち上げて俺の横のマットレスをぽんぽん叩いたら、香澄がもそもそ潜り込んできた。
ベッドの中でしばらく香澄と身を寄せあってたら、またいつの間にか眠ってた。 夜中。 一人で布団から起き上がった俺の横で香澄もぼんやり目を覚ます。 こういうことは ずっと言いたくなかった。 誰かの体について何かを強いるようなこと。強いてなくても、願うだけでも、今の姿と本人そのものを否定してるようで、 俺の気に入る姿に変わってくれって 前後にどんな事情があっても、要はそういうことだ。 それなら刺青を入れた綾瀬樹と、刺青を消せって言う俺に、何の違いがある。違わないんだ本当は。 愛から生じて香澄を守りたいがために。
刺青を入れるのも消すのも惨い苦痛を伴う。どこかで「痛いから嫌だ」って香澄に言ってほしい。 でも …真澄さん 昨夜、眠りに落ちる寸前、俺の頰に落ちてきた雫 伝い落ちて俺の唇の間に滑り込んだ 血じゃなかった 泣かないで、俺の愛する人たち 香澄の話を真剣に聞いてくれた寿峯 誰より香澄を生涯愛してくれる直にぃ 二人を見守ってくれる情香さん 裏で手を回してくれた慧先生 虚彦くんと空ちゃん はじめから俺が何も言わなきゃいい、香澄は気にしてないんだから。 だってそれは本人から 見えない位置にある。 だから、それを一番近くで見続けてきたのは 直にぃだ それでもきっと何も知らない直にぃはどれだけ傷つきながらも言い出すことができない なら、俺が いなくなったあとも二人が愛し合い続けられるように
香澄のまわりの愛する人が損なわれずに 明日も香澄を惜しみなく愛してくれるように
「香澄 その背中の刺青、…消してほしい」
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x751206 · 1 year
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弥勒飛鳥-運命を断ち切る魔神
ロンドの主人公、弥勒飛鳥。幼い頃から格闘技を習っており、強い肉体と意志の持ち主。 悪魔にさらわれた弟を救うため、仲間と共に悪魔との戦いに挑む。 メガテンシリーズの多くの主人公の中で、飛鳥は最も顕著な背景を持つ人物です。どうやって言う? 数え切れないほどの転生を経験し、前世に戻れば戻るほど背景が大きいからだ。 日本の鎌倉の軍神義経から、アステカの勇者、冥界の王であるハデスまで、 最初世で神への挑戦に失敗し、滅ぼされたのは太古大魔神アンラ・マンユだった。どうしてこんなに複雑なの? ロンドに登場するパートナーが多すぎるため、 飛鳥と彼のパートナーの前世をアレンジするために、 制作チームは彼のためにさまざまな好みの前世をたくさん用意しなければなりませんでした。でも大失敗でした。 パートナーが多すぎて、それぞれにプロットがありますが、非常に短いため、 全員の個性を明確に表現することは不可能です。 キャラクターは十分に明確ではなく、特徴がありません。 表現したいテーマはたくさんありますが、テーマが多すぎるからこそ、本当のテーマが見つからないことがあります。
簡単に言えば野心が大きすぎて、魚と熊の手の両方を欲しがった結果、両端が空っぽになってしまう。 その結果、好評だったはずの作品が、とんでもなく違う絵になってしまった。そういえば怒られます。 本題に取り掛かりましょう。 飛鳥には多くの過去生とさまざまなアイデンティティがありますが、プロットから共通点を結論付けることができます。 1、彼らは皆、歴史的な敗者です。 2、彼らは弱さのために敗北するのではなく。 3、強すぎるからといって、力が高く君主を揺さぶる事態もある。 4、彼らの悲劇的な死はすべて、周囲の親友の裏切りによるものでした。 5、怒り、悲しみ、絶望、憎しみが混ざり合って転生する。
以上の点から、結論を導き出すことができます。「魔神」はなぜ転生したのか?叶わぬ前世の願いを叶えるためです。 しかし、彼は成功しましたか?いいえ。 それどころか、何度も何度も失敗と引き換えに、何度も転生。 運命に抗う粘り強さで転生したが、結果は繰り返される。非常に悲劇的で、非常に運命論的で、非常に灰色です。 このゲームを初めてプレイしたとき、私は迷わず転生を選びました。 最後のステージですべてのパートナーが殺されるのを見たとき、私は唖然としました。 前世の記憶の筋書きから、飛鳥の魂の奥底に不本意を感じ、転生しなければならないと思った。 そしてパートナーは前世でも因縁があり、きっと飛鳥の側に立つと思っていた。 前世の相棒が転生したら敵を選んだのが理解できない。
「やっと残ったのは俺だけか?どうでもいい、とにかく裏切りには慣れている。 この瞬間、俺の前に立つ者は誰でも敵だ。殺す!誰も逃がさない!」 これは飛鳥が言ったのではなく、私が言ったことです。 私はゲームをプレイする際の役割交代の感覚が深く、 特にメガテンシリーズをプレイするときは傍観者ではなく、キャラクターに魂を注ぎます。 ゲームをクリアした後、私は何の喜びも感じず、虚無感を感じました。 スクウェア・エニックスのライブ・ア・ライブの中世篇である別のゲームをプレイしていたときだけ、 この感覚がありました。
「いわゆる前世のために、私はこの人生のすべてをあきらめ、兄弟、彼女、親友さえも自分の手で殺しました。 それは価値がありますか?」 と思い始めました。 「いえ、本当の結末はこうであってはなりません、メガテンシシリーズのいつものスタイルとは違います。」 そんな気持ちを胸にリセットボタンを押して分岐前の記録を呼び戻し、今回は転生しないことにした。 最終のボスは沢木秀雄が転生させたアンラ・マンユで、ゲームクリア後、自分で殺された弟の聡も復活。 冷笑するはずのハッピーエンドを見て、実はとても感動しました。
ふとあることに気がついた。 「魔神転生」の目的は「叶えられなかった前世の願いを叶える」ことではなく、「二度と同じ過ちを繰り返さないこと」。 運命に逆らって転生する、その行為自体が宿命論の一種。 そして、前世で自ら命を絶つことは、過去との別れであり、そうしてこそ真に運命の鎖を断ち切ることができる。 それはロンドが表現しようとする意味でもあります。 親愛なる皆さん、もしあなたが飛鳥だったら、どのように選びますか? それは、過去の悔しさに執着し、持てる全てを捨てるからです。 それとも、過去に別れを告げて、未来の課題に立ち向かうのでしょうか?
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mari8log · 1 year
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2019年ポケモン映画感想
名探偵ピカチュウ
(mari8rmふせったーから転載)
__________
序盤の方はキモリアルなポケモン(すみません)が出てくる都度劇場内で笑いが起こりますが、10分くらいすると慣れて誰も笑わなくなります。というか本当にリアル次元にポケモンがいるのが当たり前のように見えてくる。凄い。
キモリアルポケモン達のデザイナーさんやCG班の方々の気合いがすさまじく、ポケモン達のビジュアルや動作になにも不満点がありませんでした。これは新しいポケモンの世界の確立と言っても過言ではありません。一番危惧していたポケモンというネームバリューを借りただけの作品になってしまうのでは?という不安は一切なくなりました。
これは、先に挙げた方々に加え、本来ならそこにいないはずのポケモンをいるかのように演技をされてポケモンの存在感を確固たるものにしたキャストの皆様、制作スタッフの皆様等の努力のおかげでこの映画の新しいポケモンのリアリティーを築き上げたからだと思います。 とにかくCMやTwitterの情報から予測する名探偵ピカチュウの期待値をはるかに上回ります。本当に良かったです。
ストーリーは若干わかりづらかったです。説明はあまり時間をかけず、映像に特化したように見えました。真犯人の描写やティムの父親の描写は一瞬で掴みづらかったです。
また「これゲームのポケモンやテレビシリーズを知らないと把握しづらいのでは…?」というネタもあります。
ただ、ラストの街並みでのバトルシーンは見応えもありました。CGも当然ですが、街並みの美術もカメラワークも立体的で唖然!これぞハリウッド……凄い………。金がかかっている……。
また、犯人の方のポケモンへの想いがこう繋がるのか!という驚きがありました。日本のアニポケでは見られなかったストーリーで、こんな発想をポケモンのシナリオ作りをする上で考える方もいるのか……と。これもハリウッドスケール。
そして、明らかに原作ゲームだけでなくテレビシリーズのネタを酌んだシーンもあり、名探偵ピカチュウを作った方々の想いも感じ取れて嬉しかったです。ありがたや。吹替版には本職声優さんもアニポケ経験者声優さんが多く、ついつい笑ってしまいました。
なにはともあれ、ポケモンがリアルに生きている世界を体感したいのであればこの映画はとても良かった!!!!です。
また、職場での話題作りにもいいと思います笑。話題性は強いと思うので…。ポケモンがZIPや笑ってこらえて!で取り上げられることはとても珍しいので、各種メディアに取り上げられている今こそ見て話のネタに使いましょ!!!!というか見て……。
(追記)
5/3に吹替版、5/8に字幕版を見てきました。個人的には吹替版の方が日本人のアニポケオタクは楽しめたかな~~と思いました。
コダックはサイダックと呼ばれてるんですけど、英語版の鳴き声は「サイダックサイダック!」なんですよね。愛河さんの「コダァ??」に慣れてると 鳴き声が違う……! と衝撃を受けてしまう……私は最後まで慣れなかった笑
あと、今回の吹替、元のキャストさんに似た声の方をほとんど採用してなくて、
『アニポケ声優いっぱい引き連れて音声はなるべくアニポケに近づけたろ!』という作品になっていました。梶くんがやってたキャラクターさんの地声、まったく梶くん声ではなかったぞ。むしろ吹替梶くんは声の特徴強すぎで洋画な画面と浮いてたようにきこえて映画館でつい笑ってしまった…。竹内くんと一緒にかけあいしてると余計声の演技面での力量で浮いてたな……とも思いました。※梶くんの声は好きです。
なんにせよアニポケに馴染みが深い人は吹替の方があってるかも。一番驚いたのは、日本語版は神秘性を出すためかミュウツーの声が男性と女性の混声(山ちゃんとルザミーネさん)だったのに対し、英語版はフツーに男性声の加工だったところ。なんのこだわりなんだ吹替版。頑張ってる吹替版。
上記の理由で私は一回だけ見るのなら吹替をおすすめしちゃいますが、字幕を見るのも、もちろん吹替字幕を両方楽しむのもオタクな楽しみ方で良いと思います。
吹替と字幕(というか英語版)で若干セリフまわしが違うところがあったり(車椅子おじいちゃんの息子の逮捕あたりのセリフ)(ミュウツーの「最後にやることが残っている」のあとのティムのセリフも違ったような…?)。そういう違いチェックも洋画の楽しみだと思ってるので、字幕も見られて良かったです。あと吹替の飯豊まりえちゃんが「キャスリンの演技早口で音当てるの大変だった」と言ってましたが、たしかにキャスリン早口だったの確認できて良かったです。
(これはどうでもいい話ですが、英語版はティムは「父さん」ではなく「ハリー」と呼んでました。そりゃそうか。)
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crystallizedheaven · 1 year
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クトゥルフ小説「魔女のはじまり」完結しました!!
「妖蛆の秘密」を手に入れた真名は、無事にセトを送還できるのか。
そして、いきなり現れた、謎の男性は何者か!?
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komogomo-blog · 2 years
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逃避旅行 Pt.1
七月18日。深夜、クタイシ空港からポルトガル・リスボンへ飛ぶためのバス移動。心は三日前から所在不明。ポルトガルには仕事で行く。カナさんの先輩(自分の先輩の先輩)がポルトガルのフェスに出店するらしく、自分も混ぜてもらったのがこの度の逃避旅行の始まりです。
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UZUから自分を引き剥がす事に時間がかなりかかった。ガス閉じたかとか、鍵閉めたかとか、ゴミ捨てとかないと、とかとかとか、考えだせば全てが不安になってくる。必死に掃除をして、人に色々とお願いして飛び出した深夜。掃除はロシア人の友達が一緒に手伝ってくれた。
クタイシ空港からの出発はとても簡単に済まされていく。未だに心は身体から遠く離れたところに居るようだった。家に居るのか、ドイツに居るのか。 頭と体は何とか、飛行機に乗り込みスペイン・マドリードへと運ばれる。トランジットが五時間程あり、外に出る。
スペイン朝九時。地下鉄に乗り、四、五駅先で降りる。中心地まで行かず、住宅街で降りた。地下から出てくるとだだっ広い広場に出る。地理も何も知らないので適当に直感のまま動く。 直ぐに商店街らしき通りを見つけ、そこのアジア人夫婦がやっている軽食屋に入る。ビールを頼み、噂に聞いていたお通しのオリーブに感動する。オリーブも美味しかった。
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少しまた街を周り、空港へと戻る。次はポルトガルのリスボンへと飛び立った。 リスボンに着くと、一度来た事のある自分だったので、何とか思い出しながら地下鉄のチケットを買い、街に出る。ホテルまで取り敢えず向かい、チェックインを済ましシャワーを浴びて夜の街へと繰り出す。リスボンのクラフトビール飲み歩きしている違う先輩の所に合流する。その先輩もフェスに向かうらしく、色々と今から参加するフェスの事について伺う。 BoomFestivalという名前で、ポルトガルにあるヨーロッパ最大の音楽フェスティバル。集まる人数は5万人以上とか。ドラッグも溢れるが、経済効果がとてもでかい様で、国も後押ししてやっているらしかった。 十一時くらいまで飲み、家に帰る。 帰る途中、ケバブ屋に入り、2.5€でケバブを買った。ドイツより安いし、味も悪くなかった。そのケバブ屋のおじさんは言った。「うちの店の肉はAランクだ」と。「ほかの店はどれもBランク、Aランクより100€安い肉を使ってるから、うちより不味い」と。その話を聞きながら、ビールを片手にケバブを頂いた。
朝六時には目を覚まし、荷造りを終え、七時に出発。 カナさんを空港まで向かえに行く。八時頃、空港から出て来たカナさん、自分を見てかなり安堵しているようだった。どうやらスペインで携帯を盗まれたらしく、連絡が取れなくなっていた。もし自分と合流できなければ、終わったと思い、大変だったらしい。取り敢えず、昨日自分が取ったバスの出発が迫っていたため、急ぎで行く。何とか間に合い、バスで会場近くの街に向かう。
七月19日、朝九時。カステロ・ブランコ行きのバス内にて。 ジョージアから逃げ出すかの様に出て来たポルトガル。旅をしている実感は全くなかった。ただ自分は何処かわからぬ遠い遠い所にやってきたんだな~というぼんやりと思った。ポルトガルの事について、地元民の事についても何も知らなかった。よく分からない言語も飛び交っているのだけれども、頭が受け止めれていない。拒否反応もない。ただパンクしたまま動いている様な感覚だった。 とはいえ、現地についてフェスに入れば、大波に飲み込まれ、流されるしかない楽があるだろうと、流れるように動いた。
ドイツ人やイスラエル人、ヨーロッパのフェス好きがその街に集まってきていた。自分達はカナさんの先輩、エリカさんが迎えに来るまでご飯を食べることにした。これまた軽食屋に入りサンドイッチを食べる。中に豚のステーキとレタス、チーズ、目玉焼きが入ったパンを食べる。中々美味しかった。ビールを飲みつつ、街を少し観光する。静かな町で、フェスティバルに来る外国人で潤う街らしく、とても綺麗な街並みだった。ポルトガルは飯が旨くて安い。人も優しいなと感じていた。
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エリカさんが迎えに来た。買い出し途中らしく、その買い出しをお手伝いし、現地に到着したのは夜十時。全員と初めましての挨拶を交わし、二時まで作業に参加し、就寝。エリカさんをはじめ、りょうさん、だいさん、色んな人と知合う。ドイツ在住のチベット人の人らも一緒に今回参戦ということで仲良くなる。何だか家族みたいで羨ましかった。とうとうここまで来たかと不安定な安心感を味わった夜だった。 翌日、裸で湖を泳ぎ、作業をする。昼間は35度を軽く超える。暑い中、ぜぇぜぇ言いながら動く。 まだ中でご飯を作っていないだけ、幾分かましだった。ご飯を作り始めるともう暑くて、常に上裸だった。
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仕事内容は自分は特に最年少ということもあり主にみんなの雑用を引き受けようとした。洗い物だったり、物の出し入れ、持ち運び。先輩らは凄い大人たちだった。飯に関してはしっかり旨いものを大量に作っているし、手際は皆良く、全員ヨーロッパで店長クラスの人達らしかった。 勉強になったし、中でもラーメン担当のだいさんには、良く面倒見て頂いた。良く使ってくれたし、自分も動きやすかった。とてもありがたかった。 六時間ごとのシフトで働いた後はまた六時間休憩。 休憩中に先輩と出会い、会場を案内してもらえる。
音楽のジャンルはメインはトランス、二個目はテクノとトランスの中間みたいな感じ、他にもアコースティックもあったし、会場の建築物についての説明会とかもあった。毎日ヨガマスターが朝六時に森の中でヨガを教えていた。中にあるお店屋さんも沢山あった。服やらパイプやらグッズがいっぱいあった。その中で日本人が足袋を売っていた。ワオさんという東北出身のおじさんで休憩になると毎回遊びに行った。メイン会場に近いっていうこともあり、良いChillスポットだった。 ぶっ飛びながら行ったり、クッキーを持って行って一緒に食べたり、嫌な顔せず構ってくれた。 テントの中で涼んでいると色んな人が遊びにやってくる。たまに裸の女の子がやってきて、足袋を試着していく。 その頃にはもう人の裸を見ても何も思わなくなっていた。エロい気持ちは湧き上がってこない。ただ裸ってだけ。逆に下界に降りて来た時、服を着ないといけない事を少し煩わしく思ったぐらいだ。
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一度、足の親指の爪が割れ、痛くて助けが欲しいくて、店に駆け込んだ事があった。 その時もお客さんを捌いてから、その後ワオさんに治療してもらった。インドのマジックプラスターとかいう軟膏を塗ってもらい、包帯で巻いてもらう。効き目は抜群。膿むこともなく、その後も問題なく仕事が出来た。
店で休憩中。 DJ達が挨拶にやってくる。ほぼ全員のアーティストがやってきてはりょうさんに挨拶していく。 Astrixという超有名なDJは毎日やって来て、ご飯を食べていく。ヨーロッパ全土に繋がるこのフェスコミュニティの繋がりの強さを垣間見た。
フェスティバルも終わり、解体まで一緒にやった。 自分らの店の解体後、お給料を受け取り、皆散り散りに去っていく車の後姿を見送り、残った自分一人木の下で全て終わった事に唖然とする。もう会場は砂埃が舞い始めていた。心は近づいてきたように思われたが、今度は砂埃と共に舞い浮いている。体は疲労困憊。一度、風邪もひいて、精神も体もボロボロの状態で、大変だった。 どうするのかも分からず、取り敢えず座り込みもらったお土産を一服。これから長い旅になる。いや、旅はそもそも終わっていなかったとショックを受けた。 これからどうすればいいのか本当に分からず、電話をかける。本当は黙って行きたかったが仕方が無く電話を掛ける。 ドイツに居る姉貴、イクちゃんだ。「今、ポルトガルの田舎におるんやけど、どうやってドイツまで行けば良いですか」自分は電話越しに助けを求めた。「出来れば陸路で」僕はお願いした。
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eyes8honpo · 6 years
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二章 冬の日々、憧れた春
 一度目のノック。返事はなかった。  二度目のノック。前回より、数を多く、強めに。やはり反応はない。  三度目のノック。部屋の主はようやく気付いたのか、入りたまえ、と俺を招き入れた。 「何か用かね? 生憎手を離している隙がなくてね、手短に済ませてくれると助かるんだが?」  来客に向かって目もくれず、手元に集中している斎宮は、思っていたほど機嫌を損ねてはいなかった。自己のペースを乱されることや、己の領域を侵されることに酷く神経質な彼のことだから、無視されるか、反応があるとしてもあからさまに嫌な顔をされると思っていた。 「作業中すまんな、だがこちらも生憎、用があるのはお前ではない。影片はいるか? 書類の不備があるので書き足してほしい」  ぴくり、と針を持つ手が一瞬鈍る。深い深いため息のあと、斎宮は縫い物を続けながらブツブツと小言を並べた。 「全く……あれは本当に出来損ないのガラクタだね。今回ばかりは大丈夫だろうと任せておいた結果がこれとは、嘆かわしいにも程があるというものだ。もうあと少しだけ集中力があれば、そこそこのモノになるだろうに……寄越したまえ、いつまでに書かせればいい?」 「期日はまだ先だ。しかし明後日には生徒会に再提出してくれると助かる。処理は衣更が仕切っているからな。ギリギリに書類を増やして負担をかけたくない」 「フン、甘いね、君も。在学中に慣れない仕事を山ほどさせておけば来年楽だとは思わないのかね?」 「節分祭の取り仕切りだけでも充分てんやわんやしただろう。今頃はプロデュース科の始動についても案件を抱えているはずだ。……あいつらには意地の悪いことしかしてやれんかったからな。これくらいはいいだろう」 「……まあ、君がそう言うのならば、僕がこれ以上口を出すこともない。いいだろう、すぐにでも呼びつけて書き直しを……と言いたいところだが、実はこちらも色々あってね。今あれは使い物にならない。仕方がないから、今回だけ特別に僕が書いてやろう。さ、何処を直せばいいのだね?」 「ああ、助かる。曲目の横に、分数を書くところがあるだろう、ある程度の目安で構わんが……」 「この僕が、自分の作り上げた作品の一分一秒を覚えていないとでも?」 「――言うと思ったぞ、いや、助かるな、本当に」  俺ではなく、衣更が、と続けると、斎宮はほんの少し呆れたように笑った。  さらさらと紙面にインクが乗る音を聞きながら、手芸部の部室、もとい斎宮宗の城砦を見回した。ゴシック調の衣装が所狭しと並ぶなか、間に挟まる中華風の祭り衣装。ハンガーにゆったりとかけられた羽衣のような薄布は、七夕祭の衣装だろうか。幅が広いな、と感心していると、部屋の隅に立て掛けられた二本の旗が目に留まった。 「そういえば――お前たちにも、旗を振る曲があったな」 「あぁ、あるね。それが何か?」  書いた数字を再度確認するように目を上下に動かす斎宮は、見向きもせず頷いた。 「月永がな。このところ毎日のように弓道場に旗を持ち込んで、むやみやたらに振り回している。気が散ってかなわん。よければなんだが、扱い方を教えてやってくれ」 「月永?」  ぼう、とした斎宮の視線が、ようやく俺と交わったのはその時だった。  新曲の振り付けで、旗を使いたいそうだ。説明すると、ふむ、と肯定とも否定とも取れない曖昧さで、斎宮は頬杖をついた。手に持った書類は、おそらく完璧に書き終わっている。 「……月永も、変わってしまったね」  過去を思うように遠い目をすると、斎宮は小さく溜め息をついた。 「それは、悪い意味でか?」  手元の書類に手を伸ばすと、ほとんど同時に差し出された。ありがとう、と受け取りながら、俺は伏せられた斎宮のまつげに視線をやった。 「いいや。他意などないよ、事実を述べただけだ。……まあ、あの芸術的な旋律の数々が、凡人相手に漠然と大量消費されることに対しては、大いに憤慨しているところだけれどもね!」  フン、と鼻息を荒くして、斎宮は腕を組むと、それも束の間、また針に手をやって、衣装を作り始めた。 「優しいんだな、斎宮は」  そして以前より、それが表に出るようになった。  余計なお世話なのだよと返ってくるのを待ちながら、俺は書類を確認していた。あるいは、用が済んだのなら出ていけ、だろうか、などと予想しながら。 「君ほどではない」  その一瞬、酷く間の抜けた顔をしていたと思う。 「りゅ……鬼龍がよく言っていたよ。あいつはお優しすぎるんだ、とね」  あやうく落としかけた紙切れを慌てて持ち直して、斎宮を見ると、斎宮はもう自分の手の中のものに集中していた。 「正義の鬼を名乗るには、あまりに他人を想いすぎたのだろうよ、君という人間は」  よし、と縫い目を撫で付けて頷くと、鮮やかな手つきで玉結びを施して、斎宮は糸を断ち切った。返礼祭はユニット衣装の予定、と聞いているので、出来上がったそれは別のライブで使うのだろう。表地と裏地の両方を一通り確認し、斎宮はそれを木製のハンガーに通して、クローゼットの一番奥にかけた。 「これを持っていきたまえ」  書類を握っていない左の手のひらに、斎宮が何か握らせてきた。プラスチックの、硬質で冷たい質感。手を開いて確認すると、それは小さな裁縫セットだった。意図が分からず角度を変えながら見つめると、詰め込まれた中身が、ジャラ、と音を立てる。 「じきに、必要になる時が来ると思ってね。準備のいい君のことだが、こういったものは持っていないはずだ。衣装のほつれなどは鬼龍が直していたと聞いている」 「確かにこの手の類いは所持していないが……何故俺に渡す? ホワイトデーだから、とでも言うつもりか? 生憎お前に何かやった覚えは――」  怪訝に思い斎宮の表情を伺ってはっとする。  慈愛に満ちた、愛すべきものを想う眼差し。  こいつが、こんな目をする時は。 「……仁兎のことを。黙認してくれたのは、君なのだろう。その礼だとでも、思ってくれたならいいよ」  お茶のひとつも出せなくてすまないね。  そう言うと、斎宮はまた布地を取り出して、数枚の製図と見比べ始めた。俺は、何と返せばいいのか分からず、邪魔をした、と軽く頭を下げ、斎宮の城をあとにした。
   ◆
「……噂をすれば、というやつか」  生徒会室へ向かう途中、見かけた真っ赤な髪の色と、それに対峙する暑苦しい話し声に片眉を上げた。  あいつはお優しすぎる。  斎宮の台詞を、奴の声に置き換えて再生すれば、なんともしっくりきてしまい、俺は苦々しく唇を噛んだ。 「おう、なんだよ旦那。俺の悪い噂話か?」  俺に気付いた鬼龍は、からかうように笑いながら軽く右手を挙げた。隣で話し込んでいた守沢も、蓮巳! と俺の名をでかでかと呼んだ。廊下は静かに。あの阿呆は張り紙が見えないのだろうか。もうそんな注意をするのも三年目となると疲れてしまって、俺はため息まじりに眼鏡を直した。 「勝手に悪いと決めつけるな」 「そうだぞ! お前は見た目こそ怖いが、根はとっても良い奴だからな!」 「はは。んなこと言うのはてめぇくらいだよ、守沢」 「いいや、そんなことはない。鬼龍の優しさは、きちんと周りに伝わっているさ。だからせがまれたんだろう?」  せがまれた?  俺が小首を傾げていると、鬼龍は照れ臭そうに鼻の頭をこすりながら、それを隠すように、ったく、と呆れたように言い放ち、己の腹部のあたりを見下ろした。俺も、その視線につられ、ある一点の不自然さに気付く。  ない。  ブレザーを留める、ボタンのうちの、片方が。 「こんなのよ、女どもの欲しがるもんだっつーのに、鉄のヤツ、譲らねえんだよ。絶対絶対、俺にください、ってよ。他にやるアテもねえから、くれてやったんだけどさ」 「好かれている証拠じゃないか。なぁ?」 「にしたってよぉ……なんで第二ボタンなんだろうな」 「あぁ、それについては……」 「心臓に一番近いから、だったな?」  驚いて顔を上げると、守沢は普段通りの快活な微笑みで、唖然とする俺と鬼龍に笑いかけてきた。 「意外か? こういうの、俺が知っているのは」  自分でもそう思ってのことなのだろう。  特に気分を害するでもなく、守沢は続けた。  俺は、そういえばこいつ、運動能力に目が行きがちだが、実は文系だったな、などとぼんやり思い返していた。 「この話をな、南雲たち相手にもしてやったんだが、たいそう驚かれてしまってなぁ。隊長、もしかしてロマンチストなんスか? とか、気味の悪そうな顔をされてしまったので、流石の俺も若干へこんだぞ。奏汰なんかは、なんで『しんぞう』をもっていかないんでしょうね? なんて末恐ろしいことを言い出すし……」 「はは、深海、あいつマジで怖ぇな」 「全く……お前たちのスチャラカさは相変わらずだな……聞くに耐えん」  そのスチャラカ軍団の健闘が、俺たちの計算を狂わせ、革命への一歩を生みだしたのだから、それもまた捨てたものではないのだが。  ふう、と己のペースを取り戻すように、一呼吸つく。自分の制服に一列整然と並ぶ金のボタンを見下ろして、そのひとつをそうっとつまんだ。 「……叶わぬと知っているから欲しがるんだ。ああいうものは。せめて代わりに、思い出くらいは、とな」  別れの時は、刻一刻と迫っている。  いくら決別できたと頭で分かっていても、気持ちはそう簡単に前ばかりを向けない。  お守りにでもしたかったのだろうな、と、赤いメッシュの少年を思い浮かべる。大将、大将、と随分となついていたのを、俺もよく知っている。南雲がなついてくれない、と愚痴をこぼした守沢のことも、覚えている。太陽のような少年だった。鬼龍や守沢は、自ら強く光を放つ、という意味合いで比喩を用いたが、俺はそれよりも、どこまで沈んでも、必ず明日にのぼってくる、そんな印象の方が強かった。本人は嫌がりそうなものだが、そういう所は守沢によく似ている。  諦めず、何度も何度も、不格好に立ち上がる泥臭さ。そんな人間にこそ、俺は報いがあってほしい。そしてそのための制度が、仕組みが、今の夢ノ咲にはある。下級生の中にもそれを実感しているものが、少なからずいるはずだ。  ここから歩みを止めないための拠り所にしたかったのだろう。  憧れた人間の、最も心に近い部分を貰い受けることで。 「……鉄のやつ、本当にあんなもんでよかったのかな。もっと、なんか、いいもん欲しがりゃいいのによ。こんなちっこいボタン一つで、嬉しそうにしてよ……」 「いいんじゃないのか? あいつが欲しいって言うんなら、それが一番だろう」 「そりゃそうなんだが……あぁ、ヘタクソな自分が嫌になっちまうな。もっと、何か残してやれたらよかったなぁ」 「今さら言っても後の祭りだろう。あまり気に病むな。それに、そのあたりの不器用さは、俺も人のことを言えんからな。……己の自己満足から切り離されたところで、何かを惜しみ無く与えるという行為は、言葉にすると簡単だが、実際行うのは酷く困難だ」  梅の花咲き誇る、少し前の乱痴気騒ぎを思い出す。  あの人は、あの人の言うところの“愛し子”に、何か残せたのだろうか。最後の最後まで重い腰を上げなかったあの人が、惜しみなく与えようと思えたのは、一体何がきっかけだったのだろうか。 「……少し話が過ぎた。忘れろ、今のは」 「いいや」  やんわりとした否定に守沢の方を見やる。赤茶色の目は露ほども笑ってはおらず、真剣に俺の言葉を飲み込もうと瞬きをしていた。 「そうだな。……俺もなにか、与えられていたのなら、いいんだけどなぁ」  本当のところ、こいつは酷く真面目な奴なのだと、知らないのは関わりの薄い後輩どもだけだ。想うという行為において、守沢の横に並び立てる人物を、俺は知らない。  明星スバルという器に才能を見出した人間は数あれど、その孤独に、悲しみに、寄り添った上級生はこいつだけだった。  流星隊の一年生にしてもそうだ。何処へもいけないはみ出し者の寄せ集め。一人では歩き方も知らない、ましてや立ち方すら分からない者をわざわざ選んでユニットに加えていったのだ。初夏の頃、英智がその在り方に頭を抱えていたことも、よくよく記憶している。  自己の輝かしい最後の一年間を棒に振ってまで、こいつは後輩に何かを残すことを選んだ。一体どれほどの人間が、同じ事をできるだろう。その点において、俺は素直にこいつを尊敬している。俺は、与えるという行為が、酷く苦手らしい。 「お前さんは充分よくやったろうがよ。後輩相手に、分け隔てなく愛情振り撒いてさ。俺ぁ、そういうの苦手だからよ、すごいことだと思うぜ」 「ん? あぁ、あれはどうだろうなぁ。お節介の押し売りみたいなものだから、またちょっと別の話になるけどな」  はは、と濁すように半端に笑って、守沢は引きつった口もとをまっすぐにした。その視線は、普段と比べ驚くほど不安げで、何かを祈る子供のような気弱さがあった。 「貰うことも、あげることも出来なかった奴のことを、な。……考えていた」  鬼龍が一瞬、息を止めるのと、俺が脳裏にとある人物を思い描いたのと、どちらが先だっただろう。あれに関しては、もはや三毛縞の力をもってしてもどうにもならないところに、ぽつりとひとり佇んでいるのだ。気に病むことなどないだろうに、守沢もさぞかしあれに思い入れがあるのだと見える。それもそのはずだろう。  自らの力で奪い取ったわけでもなく、その尾びれをむしり取ったわけでもない。  あれはあれの意志で、二本の足で立ち上がり、地上で歩くことを決めたのだ。守沢千秋という男の隣で。 「……お前は、そう言うかも知れねえけどよ」  口を開いたのは、鬼龍だった。 「自分が、誰に、何を与えてやったかなんて……気付かないことの方が多いもんだぜ。なあ、旦那」  鬼龍の切れ長の目が、やんわりと弧を描く。  仁兎。  囁くような斎宮の声がよみがってきて、あぁ、と俺も頷いた。おのが為の身勝手な行為に対し、時を経て、礼を言う人間がいるかもしれない。それは、その時になってみるまで分からないものだ。 「そう、だろうか。……うん。そうだといいんだがなぁ……」  弱々しく笑うヒーローの背を、鬼龍が勢いよく叩く。守沢の悲鳴と、気合注入だ、という鬼龍の笑い声が、廊下に響いた。
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shukiiflog · 6 months
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ある画家の手記if.122  行屋虚彦視点 告白
最近は部屋でカガリの真似事しながら過ごしてる。あいつの方法論は真似したくねーから見た目だけ。この部屋で油描くのは難しそうだから。 細かいド��ーイングとかも嫌いなわけじゃない。こういう綺麗に使わないといけない部屋でおとなしく描くのにはうってつけだし。描くのが嫌いなものを見つけるほうが昔から難しい。
インターホンが鳴ったから出てみる。つってもここに訪ねて来る人は今んとこ香澄さん一人だけど。 とか思って油断しきってモニター見た途端、目に針かなんか山ほど突き立てられて思わず一歩後ろによろけて後退した、…いや、針じゃねえよ…でも目を焼く異物の痛みは片目潰したときに体感したけど相変わらずあれとよく似てんな… 目を細めてモニターに映る二人をじっと見る。香澄さんが「今日もお肉のおみやげあるよ」って言う。 …? 本人見ないことにはよくわかんねーな。鍵を開けて上がってもらう。 長い紫色のため息が自分の口から出た。その場で一度ガクッと脱力して足を折って屈み込む。香澄さんの横の針山もここに来るんだろ…  そんで肉の奪い合いになんだろ…  何でここに来るんだよ…
部屋にきた香澄さんはやっぱちょっと見慣れない色混じりになってた。 まあそういうことのほうが多いし普通ではあるけど…なんか嫌なかんじがすんな… 「……」 いらっしゃいとかも言えなくて何なのかわかんなくて玄関先で香澄さんをじっと見てたら横の見ないようにしてたやつが一声発した。 「ネッチューショーだろ」それだ。 「それ。香澄さんはあんま動かないで布団に寝ててください。体の熱がたぶんやばいことになってます」 香澄さんの手から荷物をとりあげて布団まで誘導しながらあいつもごくごく稀に役に立つこと言うなとか思う。 つーか気づいてんならこんなとこまで来させてねーで病院連れてくなり家に送り返すなりしろよ。預かった荷物を後ろをついてくるそいつに投げて渡す。 「冷凍庫あるから肉守れ」 「はいよ」 俺は香澄さんの対処に回るからな…まあ香澄さんや人間はともかく肉ならこいつもちゃんとした扱いするだろ。現に鼻歌まじりにもう冷凍庫開けてるし。 俺に若干背中押されるくらいの勢いに負けたのかおとなしく布団の上に座った香澄さんに経口補水液を渡す。飲んだのを確認してから横になってもらう。 横になった香澄さんの体に保冷剤を当てに持ってくる。足りなさそうだったから冷蔵庫の中の冷えたペットボトルも代用品にいくつか持ってきた。 「ちょっとすみません、少し触ります」 一言断るのと同時に香澄さんの着てる薄手のシャツのボタンを全部外して前を開けて、腰のベルトを外して緩めた。デニムか、できれば脱いでもらいたいけど今日はあいつも同じ部屋に居るし俺の前でもそんな格好になるのは抵抗あるかもな… いや、でもこの部屋ももともと少し寒すぎるから服は着てたほうがいいか…? 「体冷やしたいんで嫌じゃなければ服は脱いでください、上下どっちかでもいいです。俺やあいつはなんも気にしなくていいんで。」てだけ言っとく。 で、冷やす場所…  体内で体の表面に近い場所を静脈が流れる箇所…だろ…   たまにそういうのだけ見えたりもすんだけど…ググったほうが早いし確実なのか…「ここ、前頸部の両脇」横からメラメラ燃えてるみたいな色と一緒に細い腕が伸びてきてその箇所を指差した。 「…確かだろうな」こんなことでつまんねー嘘つかねえのは知ってるけど疑いの目を向けて毒づきながら言われたとおりにする。「狙える静脈探してんだろ?つぎ、腋の下。その次、足の付け根の前面」 指差されるままにそこに保冷剤当てて冷えたペットボトルを挟む。取れないようにタオルで固定した。 水分補給と体温下げて血流よくして、室内はもともと極寒だし、…やっぱ極寒とか極端なのもまずいかな今は。リモコンで空調をいじって適温まで上げる。あとは… 香澄さんの横に膝をついて考えてる俺の横からビシャッと香澄さんの体に濡れたタオルがかけられた。なんでだか香澄さんは突然の暴挙にもう慣れたみたいな顔してる。 香澄さんが持ってた濡れた服…ここにくる途中か?こいつの仕業か。 「やり方が雑すぎんだろてめえ」 「人体は理屈じゃねえ。身をもってわかってんだろ」 にまっと機嫌よさそうに笑われる。俺は眉間にこれでもかってほどしわが寄ってる、たぶん。 俺の感情と表情筋は母さんの胎内にいるときに今生の別れを告げたっぽいんだけど、なぜだかこいつの前ではそんな別離はなかったみたいに結構なんかしらの表情が自然にできたりする。だいたいこういうしかめっ面みたいのだから俺の好感度が上がる効果はない。 香澄さんが寝てる布団の横の床に深淵をひっぱってきて座る。 最近ポストに入ってた祭りの宣伝みたいな柄の入った団扇で香澄さんの首あたりに向けて扇ぎながら、香澄さんの体から上る色が目に入る。 病気で仕方なく脱いでんのにじろじろ見るのもなぁと思うんだけど、なんつーか…キリストみたいだな…キリストよく知らねーけど。香澄さんの傷跡、しっかり見えてないけどどれももう古い、生傷はない。長く拷問部屋で拷問され続けてある日突然解放された人間みたいだ。 扇いでたら香澄さんが俺のほうを目線だけで見上げてきた。普段より目が開いてないな。 「一度眠ってください。時間が遅くなりだしたら俺が直人さんに電話入れときます」 額に手をあててみる。こういう熱って額で測っていいのか知らねえけど、まだ少し熱い。 香澄さんが戸惑ってるような顔してる気がしたから立ち上がって、この部屋のアリ地獄のまわりにいつもいるウミウシを連れてくる。俺が作ったぬいぐるみ。 ウミウシを香澄さんの枕元に置いて、そのまままた座り込んで扇いでたら香澄さんは眠った。
「おいなんでそれ食ったんだよ俺が丁寧に焼いてただろ」 「このラインからこっちはぜんぶ俺のって決めたろうがよ」 「決めてねーよてめーがそういう血迷ったひとりごと言ってるのは聞いてた」 「焼き加減なんぞにこだわって肉が無事に口に入ると思ってんのかめでてーやつ」 「紛争国や僻地ばっか転々とすっからこう殺伐とした大人ができあがるんだろうな生憎ここは日本なんで」 「この国は大した文明国じゃねえよ守るべき法があるとすりゃ年功序列だ箸どけろ」 「誰がどけるかこれは俺が守りきって立派に焼く なんでそうどんどん食うんだよ生焼けのも 速度的に俺が完全に不利だろ」 「不利ってなんだよてめえが好きこのんでじっくり焼いてんだろうに どうぞいくらでも時間かけてのらくら焼けよ」 「鉄板の上にあるものぜんぶとりあえず食うとか人間として最低レベルの蛮行だからな つか自分で引いたラインすら守ってねえし」 「蛮行で上等 焼肉は戦争だろ」 「もともと俺に食わすために買ってもらえた肉だってことを思い出せよ」 「目の前にある肉を逃したことがねえ俺もついでに思い出しな」 「あの…焼くのは俺が…「「それはダメだ」」 向かいの浮浪者とちょうどハモったから交代で続ける。 「香澄さん、肉をめぐる争いってのは本人同士で殴り合わないと誰も納得しないですよ」 「そういうこった。やっぱ数でおされてるほうの人間の言葉の説得力は一味違うな」 「…」 顔だけ香澄さんのほうを向いてるまま横目でジロッと睨む。 普段は無神経な直球の暴言とかばっか爆弾みたいに投下してくだけで言語にほとんど脳内使ってねーくせに肉が絡むと少し饒舌になりやがる。 香澄さんはさっきから食べないで自分の肉を皿に確保してってる。宝の貯蔵…そういう戦争の仕方もありだな。 と思ったら香澄さんの皿に箸を伸ばして浮浪者が平気な顔してそこから肉を食べた。領土侵略だ。香澄さんは唖然としてる。 「うつひこくんに取っといたぶん…」 無意識みたいに口から出た言葉に向かいの浮浪者が床に両手をついて首を仰け反らせて笑う。 「誰の手にある皿かなんて気にするかよ」 「いや気にしろよ」 宝は俺のだったのか…。
三人で同じようなやりとりを繰り返しながら肉を焼いてたらあっという間に肉はなくなった。 ガスコンロの片付けをする前に三人で焦土と化した戦場跡に寝転がる。何日かぶりにめっちゃ食った。うちは母さんも含めて肉族だったから実家には焼肉用の庭と炭火焼ができる用意が常にある。 香澄さんは一度眠って起きたらとりあえず体は楽になったみたいだった。起きるまでの間に時間みて保冷剤を交換したりタオルを変えたりした。 「うつひこくん、さっき俺が起きるまで扇いでくれてたの疲れてない?」 今は香澄さんは布団じゃなくてアリ地獄に沈みこんでる。 「俺も深淵に座ってたから寝てたようなもんですよ」 「深淵。」 復唱されてそういえば名前はまだ誰にも何も言ってなかったのを思い出す。 「人をダメにするソファの、香澄さんが今埋まってるオフホワイトのやつがアリ地獄で、俺が今座ってる濃紺のやつが深淵、て名前です」 「なまえ…うつひこくんがソファに付けたの?」 「そうすね」 物に名前つけるの好きなーお前、とか言ってるやつを脚を伸ばして蹴る。余計なこと口走るなよ…てか覚えてたのか、いや適当言っただけか。 「あ、俺うつひこくんのお父さんに渡すものがあって…」 香澄さんが唐突に紙袋の中から絨毯みたいな綺麗に折りたたまれた布を取り出した。…あいつがいつも着てるやつ。だから今日着てねえのか。 「なんで香澄さんがそれ持ってんですか?」 「なんでお前がそれもってんだ」 同時に発した俺とあいつの声が重なって、空間に文字浮かべてみたら言ってることも内容ほぼ一緒で苦い顔になる。 「お祭りで俺が池に落っこちたとこを助けてもらって、そのとき貸してもらってたんだよ」 香澄さんは俺に���明してくれる体で話す。俺より貸した張本人のほうがなるほどみたいな顔してっけどなんでてめーは忘れてんだ。 「クリーニングに出してたからちょっと返すの遅くなったけど、あのときはありがとうございました」 香澄さんがお礼と一緒に両手で分厚い布を差し出すのをそいつは受けとると、すっと立ち上がって布の襟首部分だけ掴んでその場でバサッと広げて袖は通さずに羽織るみたいに肩に掛けた。…こいつ自身の色が一番やべーけどその絨毯の色もかなりキツイからさっさと出てってくんねーかな、座っただけで床に裾が大きく広がってやたら面積とるし。 そろそろ飲み物とか欲しくなってきたからキッチンのコーヒーメーカーでコーヒーを淹れにいく。 「香澄さんはそん時こいつと知り合ったってことですか」 豆をセットしながらリビングに向かって訊く。 「うーん…それより前にも会ってるんだけど…知り合ったってわけじゃない…のかな」 そいつとちゃんと知り合うのってなかなか難関らしいからな…。色々すっ飛ばすし、母さんと結婚するときも突然結婚したらしいし。 話題に上がってる張本人は俺が作ったウミウシとかムニムニする丸いボールとか直人さんちにたくさんいた怪獣を俺が真似て作ったやつをひとつひとつ両手で持ってはじっと見つめあってる。 香澄さんと俺のぶんのコーヒーを持ってって香澄さんに渡す。俺もコーヒー飲みながら深淵の上に腰かけ直したら、怪獣を持ってたそいつが突然部屋の中からハサミとか簡易の裁縫道具とかを探り当ててついでに俺の服もひっぱりだして容赦なくハサミを入れだした。 「オイ狂人!俺の服だぞそれ!」 よくわからない異国の言葉みたいなので歌いながらハサミが迷いのないラインで布を裂く、リズミカルにどんどん服が切り抜かれてそれを針と糸で怪獣に縫い付けながら、 唐突にそいつが首のけぞらせて笑いながら目を閉じて 空気中に高い声を発した 「ーーーー………」 尋常じゃない悪寒 聴いてはいけないもの 暗い孤独の淵からの 受け取り手のない交信を求める声 部屋の中を巨大な 部屋におさまりきれないくらいの 強い風なんて吹いてないのにまるでさざ波みたいな風が 色を連れてざあっと通りすぎていく クジラの声、だ。海中の。こいつが機嫌がいいときに出す声。というか音というか。 …俺はこいつの出すこれだけは、昔から嫌いじゃなかったりする。綺麗だ。 「…」 とか思ってるうちにハッと気づいたら目の前に変わり果てた姿の怪獣ができあがってた。声に気をとられた。 「なんでこういうことすんだよ…」 げんなりしながら見せられた怪獣を手にとる。 なんか背中の棘が増量してるし顔も微妙に凶悪になってるし指先とかあちこち全身に俺の服(黒い)がトゲトゲひらひらくっついて全体の質量が倍くらいになってっし…完全に原型留めてねえ… 「暗黒面に落ちてる…。ダース・ベイダーかよ…」 「俺記念に写メ撮っとこ」 俺の隣で意外にも抵抗感なく楽しそうに香澄さんは暗黒面に落ちた怪獣の写真撮ってる。 「あの…迷惑じゃなければこれ香澄さんがもらってください」 「でもうつひこくんが自分用に作ってたんじゃないの…?」 「いや、直人さんちにこいつがたくさん居たんで、こいつが居ると香澄さんが落ち着くのかと」 なんか俺いま押し付けがましいこと言ったな…と思って言った直後に後悔する。表情筋と感情のWi-fiが切れてるとこういうときは助かる。香澄さんは俺の言葉にむしろにこにこしてた。 香澄さんが持ってきた空になったバッグの中に暗黒面に落ちた怪獣がおさまった。 諦めて深淵の上に倒れこんでコーヒーを飲む。 …直人さんの家、香澄さんが落ち着く…か…。 「そういえば香澄さんは直人さんの運転での送り迎えとかじゃなくて今日徒歩なんすよね。この時期かなりリスキーな気がしますけど…」 熱中症なりかけてたしな。もしも重体だったら今こんなことしてられないけど、色は落ち着いてきてるし嫌な感じも鎮まってる。 今の直人さんが香澄さんを送り迎えしないでほっといたのがちょっと意外な気がしたけど…これってなんか無礼な詮索が過ぎてんのかもしれないしな… 「直人は仕事で忙しそうだから」 香澄さんがぽつりと落とした言葉が床にベシャッと広がる。…いや、それは違うんじゃ… 「…香澄さんがガンガン用事とか頼みごと言いつけないとあの人際限なく描きますよ」 あそこに引っ越してきたのがまだ最近のことだろ、であのアトリエにはあれだけ山積みになった作品やら紙面やらあってアトリエ以外の部屋にも山積みになってたけど直人さんが画家に戻ったのも多分引っ越しと同時期くらいだろ、あの人は習作をいつまでもとっとかないし、あのペースは一番むちゃくちゃに量描いてた頃の俺と同じくらいだ 俺よりあの人のほうが体力あるし、前より体鍛えられてたし、全然考えなしでああしてるんでもないんだろうけど 「俺はあの人もっと早くに死ぬと思ってましたよ。自殺未遂とかやらかすからじゃなくて、死ぬまで描くのをやめないから。…そういう風にしか描けない人間を、俺とかこいつとか画家連中は特にどうもしないけど、香澄さんは違った、ってことだったんじゃないんですか」 くたばってた深淵の上から起き上がって香澄さんのほうを見る。 「え…どういうこと…?不眠不休でずっと描き続けてたとか…?」 「………。」 これは…俺が言っていいことじゃない、のか、それとも直人さんがああだから俺以外に言える人間がもしかしていなかったりするのか…。 直人さんが今も死なずに画家として生きてるのは香澄さんの存在が大きいはずだ、それは香澄さんが画家じゃなかったからで、…だから画家のあれこれなんてものと香澄さんが無縁な存在でいることが重要なのかもしれなくて、…でも香澄さんが家族として直人さんを遠慮なくこき使うくらいがちょうどいいのもあるとは思う …全部ただの俺の勝手な想像だし、ここまで踏み込む権利もない、か 一歩間違えれば全部瓦解するような繊細な事情を孕んでんのかもしれねーし わかんねえけど… 「…や、よその家庭に出すぎたこと言いました。忘れてください」 つくづく考えたり人の事情を察したりってことに向いてねえな俺…。
その時、久しぶりに感じる気配がして、俺が深淵から飛び起きるのと同時にあいつも目つきを少し細めて変えた。気づいたらしい。 …まだマンションの外なのか位置情報が正確に出ねーけど、ここにさらにあの人も加わったら流石に俺の対応が捌けなくてそれぞれ雑になりそうだしと思って、香澄さんとそいつをとりあえずエントランスまで押してってタクシーに乗せる。 タクシー券があったから使って、香澄さんには経口補水液のペットボトルを渡した。うっかりコーヒーとか出して完全にミスった、脱水を促すからNGだろ…。 行き先は香澄さんが帰れるように直人さんちにしたけど、こいつはまあ好きなとこで停めて勝手に降りてどっかいくだろ 「ウツ。なんかあったら呼べ」 タクシーに一緒に乗せたあいつが珍しいこと言うから咄嗟に言葉が出てこなかった。 呼べったって、ケータイも持ってねえやつをどう呼ぶんだよ…それに何かってなんだ。
そのままタクシーを見送ってから、今度約束してた金魚もらいに行かねえとな、とか思う。
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kitaorio · 2 years
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忘飲忘食
 白くつぶつぶとしたかたまりが茶碗のなかに積み上がっている。一つづつを橋でつまむこともできるだろうけれども、それぞれがねっちりとくっつきあっているので、適当な大きさに塊を分けたほうがいいだろう、と、体の中心がどっかにいってしまったようなふらつきのなかで考えていた。  こめかみの上を通るようにわっかをつくって、それが頭の中心にむかって外側からぎゅうぎゅうと締めつけてくるような痛みで目が覚めてからというもの、この締めつけに耐えて眉間にシワを寄せているか、時おり痛みよりも眠気が勝り、とろとろとした眠りに落ちるかのどちらしかなかった。  昨日、気がついたときには、自分がどこにいるのかがわからず、どうしてこうなったのかがわからなかった。  ぐっすりと眠っていたのか、それとも眠りに近い昏睡にいたのかわからないが、目が覚める直前、ほどよく暖かく、ふわふわとした波のなかにいるような、それでいて、自分の体が上を向いているのか、横を向いているのかわからないような、平衡感覚の狂いに翻弄されていた。  えらく頭が痛い。でも、トイレにもいきたい。とりあえずは、起きてトイレだけでも済ましてこようと体を動かしたところで、腕と股間にチューブが繋がれているのに気づいた。  呆然とといえばかっこがいいのだろうが、頭の痛みに邪魔され、考えることや、こうなったまでのことを思い出そうとするのを阻み、濁々とした痛みの渦のなかに思考がうずくまっているような状態だった。  一人ベッドの上で横になったり仰向けになったりともんどりうっていたところ、巡回している看護婦に見つかり、医者が駆けつけてきた。  声をかけられたり、医者が俺の状態を見るためなのか体のあちこちを動かせというので、言われるままに腕をあげてみたりしているなかで、今日の日付を聞かれ、たしか、九月の二十日だと言ったものの訂正され、今日が十月の二日だということがわかった。  日付のズレ以外は、めだった不都合もなく、ただただ頭がいたいと医者に伝えたのだが、医者は俺の今の状態に驚いていた。  俺は溺れた状態で発見され、長時間の無酸素状態から、脳の機能に大規模な損傷があるのではないかと心配されていた。もっと言うと、意識が戻らないままでいるのではないかと思われていたとのことだ。俺は痛みの波が高架線の下の騒音のように、絶え間なく押し寄せるなか、医者の話を聞いていたが、この痛みをどうにかしてほしい、というのを伝え、それでそれ以上の話ができなかった。  看護婦さんが点滴のなかに注射器でなにか薬をいれたのがわかったが、横目でそれを見ているだけであり、ああ、とも、うう、とも発声ができず、ただただ見ているだけであった。  薬のせいなのか、すこしの眠気が来たと思うと、うとうとと一眠りをし、目が覚めたところで、周囲がえらく静かなのに気づいた。  気づいたというと表現が聡明すぎるぐらいで、急に誰もいない大広間につれてこられたような、静けさの圧迫感に唖然としてしまったのだ。  病室は静寂であるようでそうでなく、隣室から聞こえてくる医療機器の電子音や、看護婦さんや医者が廊下を歩く音、なにやら診察道具らしきものを乗っけたカートが時々ガチャガチャとしたおとをたてるのも聞こえてくる。こういうのですら、頭痛の騒音から解き放たれたあとでは、「水を打ったような」などと言い表されるような静けさと感じられるのだった。  久しぶりの平穏な状況に、半ば唖然としながらベッドの上であぐらを組んでいると、看護婦がまたやって来たのだった。どうやらさっきの注射は強力な痛み止めをいれてくれていたらしく、それが効いているとのことだった。ただ、薬が切れるとまたあの痛みが戻ってくるとのことで、今のうちに医者をもう一回呼んでくるとのことだった。  そこで改めて、医者から脳の損傷の可能性について話を聞かされた。精密検査はこれから機械の予約をとるが、簡単なテストは今やっちゃいましょうと、いくつかのテストをやらされた。  今日の日付と自分の名前から始まり、家の住所、携帯の番号あたりを言わされ、その他にも医者が挙げた果物の名前を同じように言う、また、早口言葉をいくつか繰り返す、からだのあちこちに鈍い針をつき当てられ、それがどこにあるかをあてる、などの、本気でやってるのか冗談なのか判然としないような検査を一通り受けた。  とりあえず、医者の所見では奇跡的に障害が残らずとのことで、今日は夕御飯を食べてゆっくり寝ていろとのことだった。  痛みがなくなると、体が自己主張し始めるのか、今まで気にならなかった、足の爪が伸びていることや、長いことちゃんと風呂に入っていないからか、あちこちがうっすらと脂ぎっているような不快感なんかが気になりながら、布団にくるまり、鎮静を堪能していたのだった。  ほんの少し寝てしまった頃だろうか、あまり深く寝ってないせいもあり、すこしの物音で目を覚ました。  看護婦とは違う女性が夕飯を運んできた音であった。  お盆の上には小さいお椀が三つほどならび、その上にはドロリと白濁した所々に白色の粒が見え隠れする暖かなお湯状のもの、親指の先ぐらいの大きさだろうか、くすんだ赤紫で、いやにシワシワになっている小さな木ノ実らしきもの、それに深い緑色の濡れそぼった布っぽいものが単一電池ぐらいの大きさにゆるく固めてあった。  箸をもったまではよかったが、そのあとどうしていいのかがわからず、白濁した湯を底になにか入っていないかつついてみたり、緑色の布っぽいものを少しつまんでひっくり返したりしていた。  巡回してきた看護婦と目が合うと、どうしていいのかわからず、これ、どうしたらいいんでしたっけ? などと、間の抜けた質問をしてしまった。  質問された看護婦も、なにを聞かれているのかわからないようで、どうぞ召し上がってくださいなどと言っているのだが、召し上がるものがないからきいてるんであってそれが伝わってないようだ。  押し問答をしたわけではないのだけれども、これをどうしたら良いのか本気でわからないってのを力説していると、少し待っててくださいねと看護婦は言い残し、どこかに消えてしまった。  やることもないので、湯をじっとにらんでいた。  陶器を模した樹脂製のお椀のなか、白濁した緩いペーストのなかに、ほろほろと崩れてはしまって入るもののずんぐりとした楕円を思わすような小さな粒がまばらに沈んでいる。まるで、浮き上がろうとして途中でやる気を失い表面までは届かず、かといって沈むわけでもなく、放っておいたら数年後でもそこで漂っていられるだろうと思うような���力間のなさでぽつぽつとならんでいる。少し冷ましてから持ってきたのか、ゆらりと湯気が立ち上ぼり、表面にうっすらと膜が張っていた。  後遺症があるかも、と俺に伝え、受けてる方が気恥ずかしくなるような検査をしていった医者がもどってき、どうしましたと、俺に現状を説明しろと求める。  俺は、持ってこられたこれらのお椀や箸をどうしたらいいのだろうと聞いたのだが、ここで新しい質問をなげられた。  あなたにはこれがどのように見えてますか、と言う。  見えているままに伝えた。  この事を医者に伝えると、お腹が空いていますかと聞かれた。特段すいているわけでもないが、減っているわけでもない。かといって具合が悪いわけでもなく、春先の日中のように、平々凡々と何事もない、というのが今の状態だろうか。  食べたくないのですか、と聞かれたが、食べ物でないものを食べたいという感覚がわからなかった。  医者は、目の前にあるスプーンを使い、俺の目の前にある白濁したお湯を一口を自分の口に入れ飲み込んだ。  看護婦が配膳用のカートから新しいスプーンを持ってくると、医者はそれを受け取り、俺に向かい同じことをやってみろと言う。  かるく掬い上げ、スプーンに入っている分をくちびるで口のなかに閉じ込めた。  口のなかにはかろうじて形を保っていた粒が形を崩し、正体をなくして何粒かが上顎についたりしていた。粒がただよい、汁が舌の上だけではなく、上顎のしたにもくっついてくる。  医者がどうでしたと聞くが、俺は口のなかにはいているからなにもしゃべれず、手をダメだというように左右に降り、口のなかを指差して、両手でばつを作った。  飲み込んでいいんですよ、といわれ、のどの奥に追いやろうとしたができない。舌が邪魔をして喉の奥に流れていかないのだ。しょうがないので顔をうえにあげ、口と喉とを一本のまっすぐの管にしてしまえば飲み込めるだろうと思ったが、ここで俺は溺れかけた。  のどに流れ込んでいき、ひと安心とおもったら胸の奥から発作的に込み上げてくる激しい咳の連打になり、息ができなくなったのだ。  ひとしきり咳き込み、やっと咳がでなくなったが、落ち着いた後は肩で息をするほどの苦しさであった。  医者は精密検査を急ぎましょうと言うと、看護婦に何やらニ三の指示を出すとどこかに行ってしまった。  点滴には新しい袋が追加された。  また、少しうとうととしていたが、痛み止が切れたのか、鼓動に合わせきりきりと頭を締め付けながら削岩機が動脈でのたうち回っているような頭痛に襲われていた。  鎮痛剤さえ打ってくれればいいのだが、かなり強力な薬らしくなかなか追加してもらえない。眉間に力を入れすぎ額の辺りが筋肉痛になりそうなぐらいになったとき、やっと点滴の管に鎮痛剤の注射を追加してもらえた。  この痛みの退きかたというのは、正座していた足のしびれが、はじめはどうにもならないぐらいだったのが、砂時計が落ちていくみたいに少しづつ消えていくあの感じににている。その様子が顔に出ているのだろうか、やっと口が聞けそうなぐらいになったところで、医者が話始めた。
 どうやら俺は高次脳機能障害というものになっているらしい。  医者も検査がどうこうと前置きを入れ、現段階では言い切れないといっているが、そういう方向性で精密検査や今後どうするかについて対応するとのことだった。。  医者が言っていたことを正確に把握できたかわからないが、俺の脳は、一見は正常のように見えるが、あることをしようとすると、その回路だけが正常に繋がらず、うまくできなくなってしまうものらしい。医者があげていた例だと、人の顔だけがわからなくなるというのがあり、人の顔が覚えられないとか物覚えが悪いとかではなく、顔であるということがわからなくなるといった状態になってしまった例。また、話をしていると正常なのだが、数時間経つとその記憶がまるまるなくなってしまう例というのもあった。曖昧な記憶になるというわけではなく、一定の時間が経つと、キレイにそのこと自体を忘れてしまうというのもあるのだそうだ。  それで、医者が見立てるには、俺は食べ物を見ても食べ物と認識できなくなったんじゃないだろうか、それにあわせて、食べるための基本的なからだの動作、噛むとか飲み込むとかの一連が消えてしまったんじゃないだろうか、ということだった。  あまり大袈裟な障害じゃないなあ、なんて考えていたのだが、医者が言うには、死活問題であるので、なぜそうなっているのかの原因究明ができるまえに、とにかく飲み込むこと、ができないといけない。と言われた。  食べることができないと、本人の自覚は無くとも、ゆっくりと飢えていってしまう。  そこで言われたのが、食べるためのリハビリをする。ということだった。  医者の見立てではものを飲み込むことを制御できないだけであり、すこし練習すればどうにかなるだろう、とのことだった。  リハビリをするまえにいくつか試験をしたいといわれた。  なにをされるのかとおもったら、耳掻きの先程の量だろうか、黒い粉末を口のなかに放り込まれた。それで、できるだけ口のなかを動かさないようにしてじっとしていてほしい、十分ぐらいしたら見に来るから、と言い残し、医者はそそくさとどっかにいってしまった。  放り込まれるまえに、これはカーボンの粉末で、要は清潔な木炭を無味無臭にして粉にしたようなものです、などと言われ、俺はキャンプファイヤーか何かか、と思ったのだがくちにはしなかった。  舌のうえになにかが乗っていると思えば、そう思えるし、なにもないと思えばなにもないように思える。ただ、黒く鉛筆の芯の削りカスみたいなものが乗っているのだけれども、それも、そうだというのを知らなければなにもないのと変わらなかった。  医者がやって来て、口のなかをペンライトで照らしながら観察し、からだの機能としてはちゃんとものを食べることができるから、たぶん、練習で食べるという動作は元に戻るだろう、と告げると、看護婦からまずは水を飲む練習をしましょう、と言われた。  どうやら、俺の脳は意識して飲み食いしようとするとどうやるのやらわからなくなるのだが、無意識のうちであれば、どうにかこなせるようになっているのだという。なので、まずは無意識での飲み込みがどれくらいできるかの確認だと言われた。  そこで看護婦に渡されたのは、スプーン一杯の水だった。これをとりあえず口のなかに含んでおいてください、という。飲めそうだったら飲み込んで構いませんが、無理して飲もうとすると肺にはいって危険なので、自然に減っていくようであればそうしてください。という、するなとは言われるけれども、なにかをしろと言われているわけではない曖昧な指示をもらった。  スプーンから流し込んだ水は、口のなかで舌の表面をくぼませたところにためておき、それからなにをするというわけではなく、ほんのわずかな水をためておくうすらでかい容器となっていた。  舌の上でよどんでいる水は、口に入れたときにはわずかに冷たさを感じたように思ったが、ほどなく温度差は感じなくなった。いつぞや口のなかにまかれた炭素の粉と違うのは、存在しているのかどうかがわからないというものではなく、たしかに口のなかにあるのがわかるところがおおきな負担となっていた。  十分ちょっとだろうか、もしかしたらもうちょっと短い時間かもしれないが、舌がつりそうだったので、やめたくなってきた。しかし、看護婦は見当たらず、飲み込もうにも、まえに粥でむせかいり、窒息しかけたこともあり、むやみに喉の奥に送り込もうとすると危険であるということはわかっていた。  これぐらいの量ならば吐き出してしまってもいいのだが、そうしていいのかどうかも看護婦に聞いてからの方がいいであろう。そう考えると、むやみに吐き出すわけにもいかず、もて余していた。  舌のうえにとどまらせておこうと思うからつかれるんであって、動かしていたら変わるかと思い、水の置場所を変えてみる。舌の上から下にしてしまえばすこしは楽であろうとやってみると、舌は楽にはなった。  しかし、窪ませておくという動作を持続させなければならないというのがなくなったというだけであり、下にしたらしたで、そこにとどめておかなければならないというのもおっくうであった。  他に、ほほの内側に入れたり、前歯と唇の間に移したりとしていたが、どれもこれも意識して留めて置かなければならなかった。  そこで、口全体に水を伸ばし、漫然と口全体でおいておくことを思いつき試した所、これがいい結果となった。  口の中からゆっくりと喉の奥へと水が流れたのでった。  看護婦にそのことを話すと、だんだんと水の粘り気が強くなってきた。はじめは、ゆるいペースト状となったものが、だんだんと硬くなり、スプーンから口に移すのに唇に力がいるような、固いペースト状のものとなった。これらのものも、口の中でまんべんなく広がるようにしてやると、だんだんと喉の奥へ流れていくように担ったのだった。  入院してから今まで、俺の体を維持していたのは点滴による養分だった。  しかし、少しづつでも自分の口で取ることができるのであれば、そのようにしようと医者が告げられた。  つまりは、俺は、やっと生きるという事が自分でできるようになりはじめたということだ。  大げさな感動はないが、妙な高揚感と、目の前の道が暗雲だったのが、急に霧が晴れたような爽快さに近い感じがった。子供がハイハイをできるようになった時、大人のような思考能力があればこういう感じになるのではないかと思う。  その日のこと、警察官が面会したいと病室にやってきた。  そもそも俺は、溺死しかけて復活したのである。その溺死の理由について話を聞きたいという。  教えて欲しいのはこっちの方だったが、断る理由も無いので話をした。  俺は、秋の始まりにしては肌寒い日の朝、用水路に浮かんでいる所を見つかったこと、胃の中からは処方箋が必要となる薬、鎮静剤や睡眠薬が出てきたこと、そして、それらに合わせ大量のアルコールが血液から検出されたことを知らされた。  その瞬間、晴れたはずだった霧が俺の前を覆い始めた。  そして、用水路の下流に俺が履いていたであろう靴とメモ書きが残されていたとのことだった。  警察の人が言うには、今の段階ではみないほうがいい内容であるのだが、君は自分でそういう状況になるようにしたのだとのことだった。  急に息苦しく、今吸っている空気がザラザラとした不快感を感じた。  窓際に立っていた警官に頼み、窓を開けてもらう。  大きく開いた病室の窓から、初冬のよく澄んだ空に目をやりどこか別の方向に意識向けようと顔を向けると、肌に軽く力が入るような冷えきった空気が入ってきた。ほどよく暖かい病室のなかは、心地はいいのだけれども長い間呼吸で煮込まれたような淀みがあり、外から流れ込んでくる冷ややかでどこまでも透明に思える空気は、無味無臭であるはずなのだが、すこし甘美な鼻腔の刺激があった。
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sesameandsalt · 2 years
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職場でもらってきたポスター(年末、カレンダーだの何だのもらえる日本の会社の謎の儀式…)
兵長だ!!わーいと思って家で正式に開けたら
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このミカサのでかさにたまげた!!😲😲😲 下のほうじ茶(スケール比)ほうじ茶持てんべ、このねーちゃん エレン好き好きアッカーマンさんたちポスターだったんすね。バチバチしてら…クールビューティなお二人さんですね そしていよいよファイナル・シーズンパート2、開幕!!!!!!!🎊😭😭😭😭
#クッッッッッソ🤣😂😂😂やっぱり ウォールオブTHOMSONは罠だった、 無言で阻んできよるの…罠だとわかってたのに 好きだし泣いてしまった…#クッッTHOMSON…何故 しかしカカシ、THOMSONの隙間から見た昨晩、激アツ!!!ファイナル・シーズンパート2開幕、#直前にやってたNHKNEW-Sの視聴率凄そうだなと思ってみてたらOPが始まった ���さかのクサヴァーさんオープニング入り!!!!!(要る?)#しかもなんでかちょっと朧気… はっきりうつさないところがさらに必要なのか放送禁止なのかクサ(ヴァーさん)らしい これ絶対我々の会話見てますよ#ハンジさんの格好よさに震えた…普通のマンガだったらリヴァイを抱え川に飛び込むなんて一大スペクタクルシーンだけど、#進撃は色々なことが同時に起こりすぎて…ちょっとした出来事のようなそれがクールで恐ろしいね…なんかもう!とにかくハンジさんかっっっけーーーー#ジーク戦士長の裸は pobiさまの声がはっきり聴こえた…みててくれよって…(クっソ笑った)#ジークの奇行を通してテレパシーをするという 進んだ霊能力を我々は持ってしまったことが分かった…#さすがは裸も戦士長の風格がありましたね。 エレン派のひとたちも どういう表情で見つめてたんですかね。#なんなんですかねあの間とあの一集団 あの目線😭😂🤣 ぜったいぶらぶらしてたもん ジーク…#あのやろ~~~#お顔がいつもとろ~んとしているせいでしょうか? じわじわ笑いを誘う、彼・・・真っ直ぐな目で、髭面なのにちょっと口が半開き#唖然としてるような、なにかに深く感動してるかのような…#あの顔(表情)のままで少女(始祖ユミ?ちゃん)に身体作られているトコとか なんであんな面白風味だせるんでしょうか…#「ものすごく長い時間だったような…一瞬だったような…」#完全にはじめて風俗(ソープ)行ったオッサンのセリフですよね。#アルミンくんはやはりエレンくんを信じていましたね、アルミンが出ると あ、こういうストーリーだったねと、我に返ります。#金髪少年がクサヴァーさんをいったん引っ込めます。 コニーが口を開くといつも泣ける。 感情の代弁者という役割なのでしょうか…#しかし作り手の意図をかんじさせないぐらい自然に感情移入できるキャラ作りが さすがというかんじがいたします。#笑いもとれるキャラはいちばん泣かせるもんですよね。#…という事は?#クサ…さん、あなたはいつかワタシを泣かせますか?#あなたが大泣きしようとボクぁ誘い泣きなんてしませんからね!💦💦💦#でも…最終回まで期待してます…♡ おっっもしろかったーーー#ちなみに、 我の、”せ”の変換は、戦士長 でした 無茶苦茶笑った、呼吸止まるかと思った かんっっぜんにpobiさまの ”せ”と繋がってしまうなんて…#こんなこと(呪い)、あるミン?
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ari0921 · 3 years
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日本は韓国の二の舞か、敵基地攻撃能力保有の先送り
中国の脅威を無視して安全保障の本質的議論はできない
渡部 悦和
敵基地攻撃能力の保有に関する結論先送り
 政府は12月18日、「敵基地攻撃能力」の保有について、年内に結論を出すことなく、「抑止力の強化について、引き続き政府において検討を行う」と結論先送りを発表しました。
 安倍政権の政策を継承すると明言した菅義偉首相ですが、結局は「敵基地攻撃能力」という日本防衛の重要事項に関しては継承しなかったのです。残念でなりません。
 安倍晋三前首相に近い安全保障を重視する人々はこの決定に反発しています。
 なぜなら、安倍前首相は、退陣直前の9月11日に談話を発表し、「配備手続きの停止を決めた地上配備型迎撃ミサイル(イージス・アショア)の代替を検討し、迎撃能力を確保すべきだ。そして、迎撃だけで本当に国民の命を守り抜くことができるのか」と問題を提起していたからです。
 また、「抑止力強化のため、ミサイルを防ぐ安全保障政策の新たな方針を与党と協議して年末までにその姿を示すよう」菅政権に期待していたからです。
 自民党も8月、「相手領域内でも、弾道ミサイルなどを阻止する能力の保有を含めて、抑止力を向上させるための新たな取り組みが必要だ」と提案しています。
 つまり、「敵基地攻撃能力」という語句は使わずに、「相手領域内でも、弾道ミサイルなどを阻止する能力」と言い換えて、その保有を提言しています。
 一方、立憲民主党などの特定野党、公明党や一部のマスメディアは、専守防衛を根拠に敵基地攻撃能力の保有に反対しています。
 我が国の安全保障政策議論には、世界の標準からかけ離れた非論理的なものが目立ちます。敵基地攻撃能力に関する反対論もその一つです。
 また、「専守防衛」、「相手に脅威を与えない防衛力」など、憲法第9条に起因する不適切な主張が我が国の安全保障態勢をいびつなものにしてきたと私は思います。
 軍事力を急速に増強し、非常に戦闘的な戦狼外交を展開する中国の脅威を考えた場合、敵基地攻撃能力に関する議論は避けては通れません。
 拙著「自衛隊は中国人民解放軍に敗北する!?」(扶桑社新書)で詳しく書きましたが、中国の急速な軍事力増強の結果、自衛隊は多くの分野で中国人民解放軍(=解放軍)に凌駕されるようになりました。
 その不利な状況をさらに助長するのが敵基地攻撃能力反対論や専守防衛などであり、この状況に危機感を抱きます。
敵基地攻撃能力
 敵基地攻撃能力という言葉を聞くと条件反射的に身構える人もいるかと思います。しかし、スポーツを連想してみてください。
 柔道やボクシングで明らかなように、ひたすら防御のみで攻撃をしなければ、敗北は明らかです。防御のみの戦法は100戦100敗の戦法であり、攻撃と防御のバランスが大切なのです。
 このことは軍事においても当てはまります。ある国が日本の領土に存在する目標を攻撃した場合、その国に対して反撃するのは当然の行為です。
 もしも反撃しないと、戦場になるのは常に日本であり、日本は膨大な損害を受け、結局は敗北します。
 攻撃してくる相手の基地に対し反撃すると相手にも被害が出ます。被害が出ると敵が理解すれば、攻撃を思いとどまるかもしれません。これが敵の攻撃を抑止するということです。
 敵の攻撃に対する反撃能力を保有することは独立国家として当然の権利であり、日本の憲法でも許されています。
 政府は敵基地攻撃能力の保持は憲法上可能であると答弁しています。
 昭和31(1956)年2月29日の衆議院内閣委員会において、当時の船田中防衛庁長官が「我が国土に対し、誘導弾等による攻撃が行われた場合、他の手段がないと認められる限り、誘導弾等の基地をたたくことは、法理的には自衛の範囲に含まれ、可能である」という政府答弁を行っています。
 ただ、敵基地攻撃能力の保持は憲法上認められていますが、自衛隊は現在、敵基地攻撃能力を保有していません。
 政府が過去の国会議論において野党の反対を受けて敵基地攻撃能力を保有することを躊躇してきたからです。
 結果として、中国や北朝鮮から弾道ミサイルの攻撃を受けたとしても反撃する能力を持っていないのです。
 自衛隊は、政府の解釈として攻撃的兵器と規定されている長距離戦略爆撃機、攻撃型空母、大陸間弾道ミサイル(ICBMなど)を保有していません。そして、「F-2」や「F-15」に敵基地を攻撃して日本に帰還する能力はありません。
 反撃能力は米軍に頼るというのが建前であり、相手が日本を攻撃しても相手の本土に存在する目標に反撃する能力がないのです。
 つまり、日本単独では、敵の攻撃を抑止する能力を持っていません。
 安全保障の本質は戦争を抑止することですから、抑止力を持たないということは日本の安全保障上の致命的欠陥となります。
「専守防衛に反する」という決まり文句
 敵基地攻撃能力の保有に関し、特定の野党は憲法や国際法に抵触する「先制攻撃」と区別がつきにくいとして問題視しています。
 共産党の田村智子政策委員長は12月18日の会見で「専守防衛をかなぐり捨てるものだ」と猛反発しました(12月19日付の時事通信)。
 この記事で「先制攻撃」が出ていますが、特定野党の得意な論理のすり替えです。
 歴代政権が言及してきた敵基地攻撃能力は、相手の攻撃を抑止するための能力であり、相手が先に攻撃するのに対し反撃するための能力です。先制攻撃のための能力ではありません。
 特定野党などは、防衛省が予算要求している国産の長射程巡航ミサイル「スタンド・オフ・ミサイル」の開発にも反対しています。
 12月19日付の東京新聞は「国民的議論がないまま、閣議決定によって実質的に(筆者注:敵基地攻撃能力の)保有を進める形となり」と記述し、安住淳・立憲民主党国対委員長の言として「専守防衛と戦後歩んできた防衛政策から逸脱する恐れがある」と紹介しています。
 そして、同じく12月19日付の朝日新聞は「保有装備は『自衛のための必要最小限度』とした専守防衛の理念に反しないか。他国への打撃力の『矛』は米軍が担い、日本は日本防衛の『盾』に徹するとした、日米安保条約などで規定した日米の『盾と矛』の役割分担は変化するのか。あいまいなまま、敵基地攻撃の『手段』になりうる長射程ミサイルの整備だけが着々と進みそうだ」と批判的に記述しています。
 上記の東京新聞と朝日新聞の「専守防衛」という語句を使った敵基地攻撃能力批判には、正直言って「またか」とげんなりします。
 世界標準のまともな安全保障論議を否定するために彼らが常にワンパターンで利用する便利な言葉が専守防衛だからです。
専守防衛から積極防衛へ政策変更が急務
 我が国の憲法は、平和主義の理想を掲げ、第9条に戦争放棄、戦力不保持、交戦権の否認を規定しています。
 そして平和憲法に基づく安全保障の基本政策として、専守防衛 、軍事大国にならない、非核三原則などが列挙されています。
 これらの安全保障上極めて抑制的な言葉、とくに専守防衛が日本の安全保障論議を極めていびつなものにしてきました。しかし、専守防衛では日本を守ることはできません。
 我が国は先の大戦における敗戦後、日本国憲法が施行されてから、世界でも類のない極めて不毛な安全保障議論を繰り返してきました。
 その象徴が「専守防衛」という世界の常識ではあり得ない政策です。
 防衛白書によると、専守防衛とは「相手から武力攻撃を受けた時に初めて防衛力を行使し、その態様も自衛のための必要最小限にとどめ、また、保持する防衛力も自衛のための必要最小限のものに限るなど、憲法の精神に則った受動的な防衛戦略の姿勢をいう」と定義されています。
 専守防衛は、極めて問題のある政治的な用語です。
 専守防衛を国是とする限り、抑止力は脆弱なものにならざるを得ません。自衛隊単独では中国などの脅威に対抗できず、米軍の助けが不可欠ですが、米軍の力も相対的に低下していることが問題なのです。
 抑止および対処の観点から非常に問題の多い専守防衛ではなく、「積極防衛(Active Defense)」を政策として採用すべきです。
積極防衛は、「相手から武力攻撃を受けたときに初めて必要な防衛力を行使して反撃する」という防衛政策です。
 つまり、「日本は先制攻撃をしない。しかし相手から攻撃されたならば、自衛のために必要な防衛力で反撃する」という常識的な防衛政策が「積極防衛」です。
 専守防衛の定義で使われている「防衛力の行使を自衛のための必要最小限にとどめ」とか「保持する防衛力も自衛のための必要最小限のものに限る」などという過度に抑制的な表現を使いません。
 単純に「自衛のために必要な防衛力で反撃する」という表現が妥当なのです。
 参考までに、日本の最大の脅威になっている解放軍の伝統的な戦略が「積極防御」です。
 積極防御については、「積極防御戦略が中国共産党の軍事戦略の基本であり、戦略上は防御、自衛および後発制人(攻撃された後に反撃する)を堅持する」と定義されています。
 つまり、私が主張する「積極防衛」と意味は同じです。積極防御を主張する中国に対応するためには、日本も「積極防衛」を主張するのは妥当です。
中国の脅威を直視した安全保障議論不可欠
 我が国周辺には我が国にとって脅威となる中国、北朝鮮、ロシアが存在します。これらの国々は力の信奉者です。
 とくに中国は「中華民族の偉大なる復興」をスローガンに、急速に軍事力の増強を図り、2049年には米国を追い抜き世界一の大国になる野望を公言しています。
 また、新型コロナウイルス感染症の世界的な感染拡大を契機として、中国への批判を許さない非常に強圧的な戦狼外交を展開しています。
 日中関係においても、口では日中平和友好を唱えながら、尖閣諸島をめぐって日本領海への不法な侵入を繰り返しています。
 中国の考える日中友好は、あくまでも「日本が中国に従うこと」であって、対等の立場での関係ではありません。
 このことは、中国のサイレント・インベージョンに対し立ち上がった豪州に対する容赦ない制裁、屈服させようとする中国の姿勢を見ても明らかです。
 米中覇権争いを背景として、習近平政権の戦争をも辞さない危険な動きが目立ってきました。
 習近平主席自身が10月13日、海軍陸戦隊(海兵隊に相当)の司令部を訪問し、「全身全霊で戦争に備え、高レベルの警戒態勢を維持しなければいけない」と激しい檄を飛ばしています。
 また、解放軍の最近の増強には目覚ましいものがありますが、その背景には、解放軍の「三段階発展戦略」があります。
 各段階の目標は共産党建党100年(2020年)の「軍の機械化と情報化の実現」、35年の「国防と軍の現代化の実現」、建国100年(49年)の「世界一流の軍隊の実現」が従来発表されていた内容です。
 しかし、10月末に開催された共産党の重要会議「五中全会」では、解放軍の建軍100年(27年)の「奮闘目標」が新たに付加されました。
 コミュニケでは「全面的に戦争に備え…国家主権、安全、発展利益を防衛する戦略能力を高め、27年に建軍100年奮闘目標の実現を確実にする」と記述されています。
 つまり、2027年に解放軍を太平洋地域で作戦する米軍と同等のレベルの現代的な軍隊にするということであり、解放軍が台湾併合作戦を妨害する米軍に対抗する軍隊になることを要求しているのです。
 日本の対中政策において「政経分離」を主張する人は政界、経済界、メディアなどにおける親中派に多いと思います。
「政経分離」は、イデオロギーや政治体制の違い、外交・安全保障上の対立を棚上げにして、経済での連携を深める政策です。
 しかし、日本の「政経分離」に対して、中国は「政経不可分」を基本として対応してきています。
 とくに米中覇権争いが激しくなる状況において、日本の「政経分離」という対中政策を推進することは不適切です。韓国は良い例です。
 韓国は「安全保障は米国、経済は中国」という虫の良い政策をとりましたが、中国の「政経不可分」の原則にひどい目に遭っています。
 日本は中国の軍事的脅威を直視し、中国との経済的な���カップリングを徐々に進めていくのが妥当だと思います。
 以上のような中国の状況にもかかわらず、日本の安全保障態勢を弱体化させるに等しい主張を展開する特定野党、公明党、メディアには唖然とするばかりです。
 とくに政権与党である公明党が、日本を強くする安保政策にことごとく反対している状況は問題です。
おわりに
 バラク・オバマ大統領(当時)は、「米国は世界の警察官ではない」と発言し、米国の国際的な地位の低下を認めました。
 そして、アメリカ・ファーストを公約とするドナルド・トランプ大統領もまた、「各国は自らの責任で国防努力をすべきだ」と主張し、世界の警察官としての米国の役割を認めませんでした。
 米国は現在、日本に対して自立を求めています。
 米軍が攻撃を意味する「矛」の役割を果たし、自衛隊は防御を意味する「盾」のみの役割を果たせばよいという時代は過ぎ去ったと認識すべきです。
 我が国のより自律的な防衛努力が求められているのです。
 菅政権は、スピード重視で携帯電話料金の値下げ、行政のデジタル化など分かりやすいテーマを追求していて、その姿勢は評価できます。
 しかし、安倍路線の継承を言いながら、目指すべき国家像や安全保障観が明確ではありません。
 携帯電話が日本を守ってくれるわけではありません。
 我が国は、米中覇権争い中で難しい立ち位置にありますが、「名誉ある独立国家」として存続するためには、何よりもまず憲法を改正し、専守防衛をはじめとする極めて消極的な防衛政策を廃し、国家ぐるみでこの難局を乗り切る態勢を構築すべきでしょう。
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xf-2 · 3 years
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石平 : 『 中国共産党・暗黒の百年史 』 「 一方で権力を握ると腐敗が始まり、汚職が横行し、つぎに色欲が爆発する。カネにあかせて妾を大量につくる。そのお手当のために汚職がエスカレートする。これも毛沢東以来の、というより孫文以来の伝統なのである。 本書を読んだあとでも中国共産党を賛美する人がいたらお目にかかりたいものだ。 」 (宮崎正弘氏の書評より一部抜粋)
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皇帝🐧ペンギン
2021/07/02 07:08
・中国共産党史の暗部を描き尽くした衝撃作!
・2021年7月1日の結党百周年にあわせ、1年かけて書きおろした渾身作。中国共産党による数々の大虐殺と民族浄化、驚異の裏工作と周恩来の恐ろしい正体など、日本ではよく知られていない衝撃事実を多数掘り起こして読みやすくまとめた、中国共産党史の決定版!
「本書の構成は、一般の歴史教科書のように、歴史的出来事を時系列で羅列(られつ)したものではない。むしろ、今まで日本で刊行された「中国近代史・現代史」関連の書籍で、意図的に隠蔽(いんぺい)され、無視されてきた事実を一つ一つ拾いあげ、それを「中共の暗黒百年史」として再構成したものである」(本書「はじめに」より)
<目次より> 一章 浸透・乗っ取り・裏切りの中共裏工作史 二章 繰り返される血まみれの大量虐殺史 三章 侵略と虐殺と浄化の少数民族弾圧史 四章 紅軍内大虐殺、陰謀と殺し合いの内ゲバ史 五章 周恩来、美化された「悪魔の化身」の正体 六章 女性と人民を食い物にした党幹部の貪欲・淫乱史 七章 日本人をカモにした対日外交史と反日の系譜 最終章 危険すぎる習近平ファシズム政権の正体と末路
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🔴🔴🔴  周恩来は、スパイマスターで【卑劣漢】。 虚像と実像は違う。 毛沢東の【酒池肉林】は並外れていたが、同時に多くの同志を裏切っていた。  🔴🔴🔴
     ♪ 石平  『中国共産党 暗黒の百年史』  (飛鳥新社) @@@@@@@@@@@@@@@@@@
中国共産党は悪魔である、と開口一番、ただしい歴史認識に基づいた叙述がある。日中友好の幻想にまだ酔っている人には目から鱗がおちることになればよいが。。。
毛沢東がいかなる陰謀と殺人と破壊工作で党の主導権を確立していったかは、これまでにも多くが語られた。その意味で、本書はおさらいである。 
ようするに「百周年の誕生日をむかえた中国共産党がどれほど罪深く、それほど外道なふるまいをする危険な勢力か」を徹底的に、達筆に、しかも簡潔に要点だけを抉った。 
「世界最大のならず者国家中国の軍事的脅威と浸透工作によって、我が日本が脅かされている今こそ、中共の悪を歴史的に明らかにし、マフィア同然の反日反社勢力の罪悪と危険性にあたいする日本人の認識を深める」使命があると著者は執筆動機を語る。 
なぜか。 日本の一流(?)とかの学者、ジャーナリスト、学究らは中国共産党の革命史観にそって賛美するものしか書いていないし、天安門事件前までの中国史たるや、共産党代理人が書いた書籍しか市場に流通していなかった。
そのでっち上げ史観に日本のインテリが影響を受けている実態はじつに情けないではないか。 
ウィグル族の弾圧を欧米はジェノサイドと認定し非難している。ところが、日本は与党内の親中議員と公明党によって反論が渦巻き、決議さえ出来ずにいる。
なにしろ与党幹事長を基軸に与野党を問わず親中派議員がぞろぞろと国会にいるからであり、新聞テレビで、まともに中国共産党の暗黒面を伝えるのは産経新聞しかないではないか。
経済制裁にさえ、日本の財界は加わらないで、むしろ対中投資を増やしている。この愚劣な幻想行為は、なにからおきているのか。
中国共産党のマインドコントールに嵌って贖罪意識を植え付けられ、日本が悪かった、日本が中国様に謝罪し、そのためには経済援助を惜しんではならないという善意の発想を基礎にしている。
この善意は、中国が展開した高等戦術、その洗脳工作から産まれた日本人の意識の破壊、つまり考える前提を破壊し、中国寄りに思考を組み変えることからおきているのである。 
中国的共産主義のおぞましさと残忍さの第一の例証は、かれらが権力を握る遙か以前から凄惨な内ゲバに明け暮れていたことである。
その実態は匪賊と代わらず村を襲撃して地主や有力者の財産を取り上げ、公開処刑して、村を暴力で支配し、それが解放区などと美化した。実態は大量虐殺でしかなかった。 
大量虐殺は権力を握った後の国内で更に大規模に繰り返され、つまりは皇帝毛沢東の独裁にさからう者は、たとえ「革命の同志」であっても、残忍な拷問の末に殺された。
周恩来は、毛沢東の上司であったのに、いつのまにか家来となって生きのびた。 狡猾な卑劣漢である、と著者は言う。 
ついで少数民族の虐殺と民族浄化であり、南モンゴルからチベット、そして現在はウィグル自治区でジェノサイドが続行している。 
一方で権力を握ると腐敗が始まり、汚職が横行し、つぎに色欲が爆発する。 カネにあかせて妾を大量につくる。 そのお手当のために汚職がエスカレートする。 これも毛沢東以来の、というより孫文以来の伝統なのである。 
本書を読んだあとでも中国共産党を賛美する人がいたらお目にかかりたいものだ。
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( 下記は、Amazon の レビューよりの転載です。)
日本人必読の書! 昨日届き、一気に読み終えました。 夜寝る前に読むには、「精神的に良くない本」でしたけど。
予想していたとは言え、それを遥かに超える「残酷な歴史」がまとめられています。 未だに中国に「幻想」を持っていたり、「暗黒面」に目を背け、ずぶずぶの関係にある政治家や官僚、財界人、マスコミ人、学者やコメンテーター、そして活動家たちは、こういった事実をどう考えるんでしょうか?
もし日本をはじめ世界が中国共産党の支配下に置かれたら(「自治区」や「世界統一政府」などを含む)、ここに書かれたことが間違いなく起こるでしょう。それこそ、世も末です。
私は人類は、これまで様々な「経験」や「歴史的出来事」等を通して学び、少しでも素晴らしい世の中になってきていたんだと信じていますが(もちろん「マルクス主義」や「階層史観」のことではない。私はそういった世代ではない)、中国共産党の侵略の手がさらに伸びれば、時代は大きく逆行するでしょう。
中国共産党や国民党により無残にも殺害されまくった数千万(数億人?)の人たちの尊い犠牲を繰り返さないためにも、何とかしないと大変なことになります。
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石平氏渾身のライフワーク 「はじめに」で、石平氏は、2021年7月1日の中国共産党結党百周年を「記念」して、1年以上の時間をかけ、渾身の力を振り絞って、「中共百周年の暗黒史」をテーマとする本書を書き上げたと述べている。 石平氏は1989年、日本の大学院に入り、中国近代史が日本でどのように書かれているか、日本の権威ある大手出版社から刊行された書籍を色々読んでみて、唖然としたという。日本の知識人たちが書いた中国近代史のほとんどは、中国共産党の「革命史観」に沿って書かれた、中共への賛美そのものだったからである。 中国共産党の外道ぶりと悪辣さを自分の目で見てきた石平氏は、日本の「中国近代史」の本を読んで、唖然としたり、憤ることがよくあるという。中共シンパの日本の知識人が書いた「中共史観の中国近代史」が広く読まれた結果、日本では中国共産党に親近感や甘い幻想を持つ財界人や政治家が数多くいるように思われる。
石平氏は嘘と偽りで成り立つ「中国共産党革命史観」を日本から一掃するため、そして中共の歩んだ極悪の百年史を日本の読者に示すため、この書を書いたのである。
33万人の長春市民を餓死させた「兵糧攻め作戦」、数千万人の人々を餓死させた「大躍進政策」、1千万人以上が虐殺された「文化大革命」については、これまでに石平氏の著書等で読んできたが、それ以外にも数十万人単位の大量虐殺が絶えず繰り返されてきた。 中共が好む殺人法はいつも「公開処刑」であり、必ず大衆を集めてきて、大衆の目の前で殺戮を行った。民衆に恐怖心を徹底的に植えつけて、彼らが政権に反抗できないように仕向けたのである。 「党を守るために虐殺も辞さない」という態度は、毛沢東時代に限ったものではない。鄧小平の時代においても、このような虐殺が実行された。 1989年の天安門事件では、石平氏と面識のある数名の同志たちが虐殺された。この天安門事件で殺された若者や市民の数は、今でも「最高国家機密」として封印されたままである。数千人はいると思われる。 そして他民族へのジェノサイドである。総人口の約5分の1の120万人が殺されたと推定されるチベット人虐殺は、今なお続いている。次に規模が大きいのが内モンゴルに住むモンゴル人の虐殺である。 現在、習近平政権によるチベット人、ウイグル人などの民族浄化政策は、世紀の蛮行と言っていい。習近平政権は間違いなく21世紀のナチスと化していると、石氏は述べている。
人民を奴隷として支配し、苦しい生活を強いながら、中共政権の幹部たちは贅沢と淫乱を貪る生活を送ってきた。その一方で彼らは、結党当時から残酷な党内闘争を繰り返し、殺し合いの内ゲバを展開した。時には、自分たちの仲間に対してもお家芸の大量虐殺を辞さなかった。 この極悪な中国共産党が百年に渡って存続してきたこと、そして70数年間にわたって中国を支配してきたことは、中国人民および周辺民族の最大の不幸であり、悪夢でしかなかったが、これが終わる気配は残念ながら全くない。むしろ習近平政権の下、中共のもたらす災禍はますます激しくなり、中国大陸周辺の我々近隣国にも及んできている。 幸い、この数年間、自由世界の多くの国々では中共政権の邪悪さへの認識を深め、中共政権を封じ込める中国包囲網の構築に乗り出した。 ウイグル人・チベット人に対する民族浄化の人権侵害に対し、そして彼らが香港で行っている人権侵害に対して、自由世界は一斉に立ち上がり、習近平政権への「NO」を突き付け始めた。更に安全保障の領域においても、自由世界主要国は連携して、中国共産党政権に対する総力的な闘いを挑み始めた。 中国共産党という悪魔のような政党の歴史は、習近平政権の破滅によって終止符を打たれなければならないと、石氏は主張している。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 浸透工作による百年の原動力――、まさしく中共のDNAである
本書は、中共百年の「悪のDNA」を受け継いで、世界の巨漢と化した今の習近平政権こそ、中共最後の政権となるべきである。中共という悪魔のような政党の邪悪な歴史は、習近平政権の破滅によって終止符を打たなければならない、として締め括られているが、石氏にしては歯切れが悪い。むしろ、「今後も百年は安泰」とも思える絶望的な嘆きの声と捉えるのが素直ではないか。
やはり、その辛辣さは、上塗りの中共誕生の歴史を振り返る他ない―――、袁世凱の死後の無政府状態が続き軍閥の群雄割拠の中で抜きん出てきた蔣介石率いる国民革命軍と毛沢東率いる中共の対立構造をみても、中華民国の国軍とされる国民革命軍に楯突いた中共とは何者か。
無論、国民革命軍の中核は、蔣介石と国民党の独裁体制にこそある。国民革命軍を率いて「北伐」と呼ばれる戦争で統一政府となった。その裏で実力をつけた中共は国民革命軍に殲滅されそうにもなった。しかし、二度の国共合作で生き残り、終には、武力をもって国民革命軍を中華民国の大陸から追い出し、現在の中華人民共和国を樹立に至る経緯がある。
その成功――、闇の力の原動力は、「浸透工作」にある。権謀術数を弄し、自己の打算にのみ腐心し、自分や一族のためにいつも私計を謀ろうとする「支那流為政者」は、「軍閥のDNA」と言ってよい。「腐敗の普遍化」は中共内部にも起こるのだが、「粛清によるクリーニング」(選別的な摘発)に「浸透工作」が一役買っている。それによって、「権力構造をむしろ安泰」に導くスキームが内蔵されている。これが、百年の原動力なのだ。
共産党総書記に就任して早々、習近平は唯一の政治的盟友である王岐山(おうきざん)という中共幹部を、腐敗摘発専門機関の中央規律検査委員会の書紀に就任させた。以降の5年間、習近平と王岐山コンビは二人三脚で、中共内における凄まじい「腐敗撲滅運動」を展開し、累計25万人以上の中共「幹部」が摘発され失脚し、あるいは刑務所入りとなった。この規模から言って「浸透工作」がないと実現はできやしないだろう。
さらに、「浸透工作」の凄みが本書で指摘されている――、鄧小平(とうしょうへい)が改革開放路線をスタートさせて外国資本を中国に誘い入れようとした時、中共のスパイ工作の長老格である能向暉は、新設された国策会社「中国国際信託投資公司」の副董事長兼党書紀に任命された。つまり、中共からすれば、「国民党の内部に潜り込むのも外国の資本を中国に誘い込むのも、全く同じ性格の浸透工作でしかない」と述べている。 このことからしても、普通の主権国家であれば、「外資に乗っ取られる」危険を感じるのだが、「外資を誘いこんで浸透工作を行う」という発想――、この辛辣さの凄みに驚愕するところでもあった。さらに、その一枚上を行く「コミンテルン」の視点で書かれていて、しかも随所にリアルを追求したエピソードが散りばめており、迫真に迫るものがあった。本書はお勧めできる。
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中国共産党は癌細胞! 「このやり方は、癌細胞とよく似ている。人の身体の中で健康な細胞を呑み込み、それを栄養に癌細胞はどこまでも繁殖していく。そしていずれ、寄生する母体を完全に食いつぶす。ここが、中国共産党の御家芸の浸透・乗っ取り工作の極意であり、最も恐ろしい側面である。」と石平氏は書いている。
日本国内を見ても、いろいろな部位?で癌細胞が侵食している。とくに、国会の中に寄生した中国共産党という癌細胞は最大の問題である。我々日本人はいつまでこの癌細胞と戦わなければならないのか!はやく、世界が協力してこの癌細胞に対する抗癌剤を開発しなければならない、と思う。
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