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#パンフレットを買う時 とにかくずっと見てしまった衝撃で
yoshiyoshigoodnight · 4 months
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映画を100本観た
 LINEを溜めないだの1年目から有給休暇を全日消化するだの、妙に現実的かつ妙に無謀な目標ばかりを立てて無邪気にスタートした2023年。LINEの通知は2月までは一桁をキープしていたものの、節操なく撮りまくった卒業写真の処理をキッカケに、現在に至るまでLINEは溜まりに溜まっている。有給休暇といえば20日のうち4.5日という最悪の取得状況で、10月頃に「休め」と私を叱った上司をいまや「頼むから休んでください」と泣かせている。
 今年達成できた目標といえば「死なない」ことと「仕事を辞めない」ことくらいだった私だが、一つだけ数値的功績を残せたものがある。
 【目標:映画を100本観る】
 今年観た映画はなんと112本。「健康で文化的な暮らし」に憧れて立てた軽薄な目標だったものの、達成した今となればかなり有益な目標だったと感じる。自分が何に対して魅力を感じ、心動かされるのか、はたまた何に対して嫌悪感を抱くのかも明確にわかった。映画雑誌を買い漁っては自分の映画知識の少なさに絶望したりもしたが、映画評論家を目指してるわけじゃないしな!と開き直ってシュレックを見た。名前も知らなかった良作に出逢うたびに映画配給企業にエントリーシートすら出さなかったのを呪ったりもした。
 私の2023年の映画体験を語るに絶対的なのが、『怪物』だ。
 間違いなく今年ベストムービー。それどころか人生ベストムービーだ。これを超える映画は現れないだろうと絶望すらした。6回観に行った。シナリオブックと文庫本も買った。パンフレットも何故か2冊買っている。来月Blu-rayが発売される。買うに決まっている。
 是枝監督は”こども”を描く天才だし、極めて日常的なのに節々でときめかされる台詞回しは坂元脚本ならではだ。全編を通じていかに人間が無意識のうちに片面的な捉え方をしているかという社会的な問題提起と並行して、少年の葛藤と逃避行を痛々しいほど爽やかに描き切った最終章は、感動どころか大きすぎる衝撃で当初の私を立てなくさせた。さらに坂本龍一の劇中曲が物語のテーマを最大限に引き立て、まさに”一線を画している”。どの映画を観ても「坂本龍一が曲を手掛けていたら…」というタラレバに陥るようになってしまった。酷い。
 衝撃と言えば豊田利晃監督作品との出会いもそうだ。
 『青い春』を観た時、「やば…」と思った。ウンコが異常にリアルで、新井浩文がウンコを素手で踏みつけてしまうシーンは軽くトラウマになった。ウンコもウンコなのだが、作品の”色”がかなり強烈に尖っていて、バイオレンスで狂気的、グロテスクな人間観は唯一無二だ。同監督の『9souls』も9人の死刑囚を描いたなかなかハードコアな作品。けれど双方に共通するグロテスクかつ華々しさは中毒性があって、鮮烈な展開に魅了される。けたたましい(音量設定を間違えているとしか思えない)ロックサウンドと共に終わる『青い春』のラストシーンは未だに頭から離れない。そして何より松田龍平と瑛太の使い方が上手い。
 
 『西部戦線異状なし』もまた、最も喰らった映画の1つだ。一言で言えば戦争映画だが、詳細に言っても戦争映画である。主人公にフォーカスはしているものの、ただ淡々と戦争の様子を2時間映し続ける。そこに一切の美談の余地はない。何千万人が死に、爆撃で体が粉々になっていく描写に、逆にもはや「グロテスク」と感じない。こうした感覚麻痺こそが観客への問いかけなのではないかと思わされた。
 喰らった映画を記録し始めるとキリがない。特に『くれなずめ』や『佐々木、イン・マイマイン』は今年初めて友人を亡くした私は大いに喰らいまくり、ウルフルズを聴きまくって夜道を泣きじゃくりながら帰ったりした。『サマーフィルムに乗って』を見てモラトリアムから抜け出せなくなったり、『かもめ食堂』を見てコーヒーを淹れるのにハマったり、『ケイコ 目を澄ませて』『百円の恋』を見て近所のボクシングジムの月額まで調べたりした。
 私の中ではビジュアルもかなり重要な要素なので、ビジュアルやコンセプトが好みの作品に劇場で出会った際には、惜しまずパンフレットを買った。『aftersun』、『PERFECT DAYS』、『ゴーストワールド』 は本当にデザインが良く、迷わず買った。『シチリア・サマー』も物語に脳味噌をブン殴られた後、放心状態のまま気がついたら手にしていたが、買ってよかった。パンフレットで得られる実感がいい。
 さて、そんな2023年、私の人生を文化的に彩ってくれた112本の愛すべき作品たち。
 来年はやらないけど、ゆっくり見たいものを見ていきます。ありがとう。
 
1. ハーフ・オブ・イット 面白いのはこれから
2. ハウルの動く城
3. さかなのこ
4. 百花
5. マイ・ブロークン・マリコ
6. ベイビー・ブローカー
7. 燃ゆる女の肖像
8. LEON
9. 光のお父さん
10. 梅切らぬバカ
11. エゴイスト
12. これからの人生
13. RUN
14. 哀愁しんでれら
15. PLAN 75
16. 湯道
17. 私をくいとめて
18. キングス・オブ・サマー
19. アンチャーテッド
20. くれなずめ
21. 黒い司法 0%からの奇跡
22. タイムトラベル家族 1991年から愛を込めて
23. 佐々木、イン・マイマイン
24. ちひろさん
25. ルームロンダリング
26. 架空OL日記
27. レディ・バード
28. MONDAYS
29. グッバイ、リチャード!
30. エスター ファースト・キル
31. 告白
32. かもめ食堂
33. リトル・ガール
34. 秘密の森の、その向こう
35. 劇場版美しい彼 エターナル
36. こちらあみ子
37. 母性
38. ペイ・フォワード
39. あのこは貴族
40. ミッドナイト・スワン
41. 西部戦線異状なし
42. 怒り
43. 望み
44. 明日の食卓
45. 街の上で
46. アザーフッド 私の人生
47. SABAKAN
48. ケイコ 目を澄ませて
49. まほろ駅前 多田便利軒
50. ハケンアニメ!
51. もっと超越した所へ。
52. 百円の恋
53. 怪物
54. 万引き家族
55. キャロル
56. べいびーわるきゅーれ
57. 渇水
58. 日日是好日
59. サマーフィルムにのって
60. 誰も知らない
61. 羊たちの沈黙
62. ピンポン
63. あの頃。
64. ある男
65. サマータイムマシン・ブルース
66. 青い春
67. ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー
68. aftersun
69. 君たちはどう生きるか
70. 場所はいつも旅先だった
71. 海街diary
72. ボーイズ・オン・ザ・ラン
73. ブルーアワーにぶっ飛ばす
74. 世界で一番しあわせな食堂
75. いつかの君にもわかること
76. 9souls
77. パプリカ
78. ヴィレッジ
79. プロミシング・ヤング・ウーマン
80. リベンジ・スワップ
81. 歩いても 歩いても
82. 塔の上のラプンツェル
83. 劇場版SPEC 天
84. 劇場版SPEC 漸
85. 劇場版SPEC 爻
86. SPEC 翔
87. ザ・ホエール
88. 宇宙人のあいつ
89. リトル・マーメイド(実写版)
90. リトル・マーメイド(原作)
91. SPEC 零
92. アステロイド・シティ
93. BAD LANDS
94. SMILE
95. シェフ 三つ星フードトラック始めました
96. カラダ探し
97. BOYS
98. リリーのすべて
99. CLOSE
100. 桐島、部活やめるってよ
101. キリエのうた
102. 月
103. 君が君で君だ
104. 愛にイナズマ
105. シチリア・サマー
106. 最後まで行く
107. ザ・キラー
108. PERFECT DAYS
109. リバー、流れないでよ
110. ザリガニの鳴くところ
111. 中村屋酒店の兄弟
112. ゴースト・ワールド
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mikanjiru · 4 months
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取り急ぎ、Evernoteからサルベージしてきたもの。我ながら熱量の高すぎる感想書いててこの頃の私、すごいなと思った(笑)
風立ちぬ 感想
公開二日目にレイトショーで見てきました。
日曜の夜なのにけっこうな人手があった。時間帯もあって、年齢層は高め。20代、30代を中心に、50〜60代くらい?と思われる観客も居た。これまでのジブリ作品では見られなかった現象。番宣効果かな。大人向け、零戦設計者がモデル、という認識が浸透しているのかな、という客層。
映画公開前、原案はモデルグラフィックスという雑誌の連載漫画、と聞いた瞬間に思い浮かんだのは、今回は紅の豚のような、趣味全開の映画なのかな?という事。
公開直前に番宣番組を見て、どうやら本当にそのような映画だな、と��信したので安心して見に行けるな、と思った。安心して、っていうのは、前作の崖の上のポニョの衝撃を未だに引きずっていたから。
別にポニョが面白くなかったわけじゃない。ストーリーがまったく理解出来ないにも関わらず、謎の感動に包まれて涙してしまったシーンもあったし。ただものすごく毒気が強い作品だった。表向きは幼児向けの皮を被った可愛らしい画面作りなのに、その実、老いと死の匂いが濃厚に漂う内容は、私にはまだ早すぎたみたいだ。もしくは遅すぎた。
アレは固定観念で凝り固まっていない幼児か、逆に人生経験豊富でどんな表現にも感情移入できる老人か、もしくはそのようにピュアな心を保ちながらある程度達観している大人じゃないと平静に見られないものなんじゃないかと。
宮崎作品の転換期は今までに何度かあったが、監督本人が今までの総括と言っていたもののけ姫が傍目に一番わかりやすい変化ではないかと思う。
事実、もののけ姫に見られたモチーフはほとんどそれまでの作品(シュナの旅など、映像作品以外のものを含む)に出てきたものばかりだったし、私のように物心ついた頃から宮崎作品を見てきた人にとってはどこかで見た事がある、お馴染みの、安心して見ていられる映画だったんじゃないかと思う。ただ、この映画が大ヒットして社会現象にまで発展していったところを見ると、生粋の宮崎駿ファン以外にとってはとても斬新なものだったようだ。
公開当時、私はこの映画が最後の宮崎駿監督作品になるんじゃないかと思った。それ以前にも、一本撮り終わるごとに引退引退と言っていたけれど、ここまで過去作品を凝縮したようなものを作ってしまってはもういよいよ次はないだろうなと思ったのだ。
その認識は、次回作品の千と千尋の神隠しで大きく覆されたわけだけど。この作品には、本当に久しぶりに度肝を抜かれた。それこそ、ナウシカ以来の衝撃だった。まだこんな引き出しがあったなんて、と驚愕した。
続くハウルの動く城では、この新しい引き出しを広げる幅をもっと増やして、ポニョでとうとう引き出しを全部引っ張りだしてしまったように思えた。
引き出しというのは、要は無意識への扉を開くという事。これは意図してやったというよりは、年齢的なものもあって、自然とそういう方向に向かっていったのかもしれない。もののけ姫は、意識側に留まって物語を構築した最後の作品なんじゃないかと。
だから、ポニョを見終わった時は、ああ、いよいよこれが最後の作品になるのかなぁとまた思った。これが遺作になるのかな、と。
だったら、この難解で不気味で理由もわからず不安にかられるこの作品を、何年かかってでも良いから理解出来るようになりたい、と思って、公開直後から他人の感想を聞いたり読んだり、
ネットの考察サイトを巡ったり、何度も繰り返して見たりして、なんとかしてこの作品への自分なりの感想を言葉で表せるようになりたい、と今現在も努力を続けている。
そんな事をしていたら、また新作やりますよ、とある日ネットで情報が流れてきたわけである。目を疑ったよ。一瞬呼吸が止まったよリアルに!!
もちろん嬉しいですけど!!!当然映画館に見に行くけどな!!!!
ただ、ポニョ以上にぶっ飛んだ内容だったらどうしよう…さすがに物心ついた頃からの妄信的パヤオ信者にして生粋のジブリストの私でも着いていけんくなるかもしれん……という一抹の不安を感じたんだ。
そういう意味の「安心して見に行ける映画みたいだな、楽しみだな」という意味でした。前置き長過ぎィ!!!
実はもう三回も見に行っている。初回では買いそびれたパンフレットも二回目の鑑賞時に無事に買えました。
パンフレットによると、鈴木プロデューサーが「これは宮さんの遺言なんですか?」と訪ねたら、監督は「そうかもしれない」と答えたとの事。失礼だが、年齢的に考えても、今度こそそうなる可能性は高いだろう。
そうだとしたら、ずいぶんと親切な作品を作ってくださったものだ。この映画はたいへんわかりやすい。親切で丁寧な構成で、たぶん初めてジブリ作品、宮崎駿作品を見る方にもお勧め出来る映画だ。実際のところ、人にどんな映画だった?と聞かれて、こんなに説明に苦労しなかった宮崎作品って初めてです。
パンフレットには宮崎監督が初めて地に足の着いた作品を作った(庵野秀明氏談)とも書かれている。確かに、今回の主人公空を飛ばないよね。でももののけ姫のアシタカもサンも厳密には飛んでないと思うけどな、跳びはするけどな。とか、まぁそういう事ではないんだろうけど。
ポニョでピークに達した、あのなんとも説明出来ない得体の知れない不気味さがないなと感じた。人声SEは良い意味で不気味だったが、あれは心象風景の表現としてピッタリハマっていたと思う。
ともかく私のような凡人にも安心して見られる映画ってのはやはり良いものです。
今回の目新しいところとしては、けっこう露骨なラブシーンがある、というところ。あくまで宮崎作品にしては、という括りなんでその他の作品と比べたら全然なんですが。こないだ放映した平成狸合戦ぽんぽこの方が全然エロエロしかったですが、それでも宮崎監督作にしたらこれだけの描写を入れるってのは相当革新的な事だと思った。
それは元ネタの小説のヒロインのキャラがそうだからなのかもしれないけど、元ネタを見てないのでわかんない。それでも、今までの宮崎さんなら、意図してそういう部分は描かなかっただろうと思うんです。
未来少年コナンの時、宮崎さんは意図してラナのキャラクターを原作から変えていた。カリオストロの城のクラリスについても、おしっこもうんこもしなさそうな女の子だと同業者に言われて、そんなその辺に居そうな女の子を描いても楽しくないから、と答えている。
そういう意味では菜穂子もその辺に居そうな女の子ではないが。菜穂子のキャラクター造形としては、良い家のお嬢さんで、上品で、清楚で、芯が強くて、と宮崎ヒロインのテンプレみたいなキャラクターではある。しかし、実はこういう完璧美少女って宮崎作品には久々に登場したキャラクターだったりする。
宮崎作品のヒロイン像は、一見するとどの作品も同じようなキャラクターに見えるけど、ちょっとずつ変化している。
おしっこもうんこもしなそうと言われたラナ、クラリスをピークとして、段々と「完璧な美少女」のイメージを崩していって、千と千尋でついに見た目も美少女とは言い難い少女をヒロインに据えてきた。ハウルのヒロインは少女と老婆の両面を持つという点で宮崎アニメのヒロインの集大成ともいえるが、それ故に少女とは呼べない存在になった。その後のポニョに至っては、もう少女っていうか人間という括りですらない。
それがここにきて、ヒロインの造形が昔の完璧美少女に戻ったわけだ。菜穂子の完璧さは声優さんによるところも大きい。瀧本美織さんの演技はとても良かった。島本須美さんのような透明感、上品さ、清楚さを感じました。
しかし、菜穂子が昔の宮崎アニメに出てきた完全無欠なヒロインかというと、そういうわけでもない。
菜穂子の存在は、この物語に置けるミューズだ。創造者にインスピレーションを与え、モチベーションをアップさせる女神のような女性。元型像でいうと、妖精的なアニマだ。男性を誘惑して、官能の世界に導き、果ては破滅へ向かわせる事もある、美しいけども危険な存在。しかしそれは言い換えれば、男性に性の悦びを通して生きる力を目覚めさせる存在にもなる。傷心の二郎は菜穂子との交流を経て創作意欲を取り戻して立ち直っていく。
そして二郎の夢が叶えられた瞬間、菜穂子は去っていく。それは、菜穂子が美しいままで二郎のそばにいられる時間の終わりであり、同時に二郎に与えられた「創造者に与えられた10年」の終わりを表しているのだと思った。
宮崎監督の求める完全無欠なヒロインとは、少女であると同時に母親でもあるが、母性と官能性は相反する要素だ。菜穂子はその意味で完全無欠ではない。
しかし、菜穂子は二郎が創造者としての命をかけて愛するに値する美少女でなくてはならなかった。菜穂子の官能性はそのために敢えて付随した要素ではないかと思いました。
初めて官能と死の世界を描いたことによって、新たなステージに旅立って行かれたんだと思った。
宮崎さんが完璧な美少女を、初めて出会った瞬間にこの女の子のためならなんだって死ぬ気でやれると思う完璧なヒロインを描き出すことに情熱を燃やした期間もちょうど10年くらいだという事を重ねて見ると、ラストシーンはより味わい深いものに感じる。
朽ち果てた戦闘機の残骸や、儚く去っていく零戦。その後に現れる菜穂子は相変わらず美しいままで、二郎に呼びかける。生きて、と。
これまでインタビューや書籍の中で色々と難しい言葉を発してきた宮崎監督だけど、作品世界で訴え続けた事はかなりシンプルな事だと思う。もののけ姫のおトキさんの台詞、「生きてりゃなんとかなる」これに尽きるんじゃないかなと。
創造者としての命は尽きても人生が続く限り生きるのだ。生きてりゃなんとかなるんだから。
・2015年の地上波初放映後の感想補足
最近になって、このラストの菜穂子の呼びかけは当初の構想では「来て」だったという事を知った。が、これに答える二郎の声を当てたのは、庵野秀明氏である。
庵野氏と宮崎監督のエピソードで印象深いのは、旧劇場版エヴァを制作中に、テレビ版エヴァですべてを出し切り燃え尽きて、これ以上何も出せないのに新しく映画を作らなきゃいけない状況で追い詰められた庵野氏が、もう死にたい、と宮崎監督に相談した話だ。
宮崎監督は、死んでもいいじゃないか、エヴァ作って39歳で死ぬなんてカッコいいよお前、という旨の言葉をかけたとの事。これは宮崎監督の本音なんだろうなと思った。与えられた10年を使いきり、社会現象を巻き起こすほどの作品を遺せたならばもういつ死んだって構わないのだろうな、と。だから一本作り終わるごとに引退する引退すると言い続けたんだろう。
しかし実際は宮崎監督はずっと生き続けて、それこそ棺桶に足を突っ込みながらも何度も世の中に爪痕を残し続けた。その最後のメッセージが「生きて」とは…感無量の表情で空を仰ぎながら発する庵野秀明氏演じる主人公の「ありがとう」が染み入るように心に滑り込んできた。
私は、物心ついた頃から宮崎アニメをずっと見てきた。
最後の長編作品のラストメッセージが「生きて」で本当に良かった。私は宮崎監督が映画を作らなくなってもまだ生きなくてはならないので。人生の大半どころかほとんど全部を占めてきた大きな存在を失う覚悟を決めかねていて、今までずっと「ありがとう」とか「今までお疲れ様でした」と言い兼ねていたが、今なら言える気がします。
今までずっと、美しい夢を見せてくださってありがとうございます。本当にお疲れ様でした。
・2016年 終わらない人宮崎駿 視聴後、その後の新作長編映画制作発表を受けての感想補足
クッソまた騙されたァァァクソがァァァァァァァァ!!!
はい��と、いうわけでね!!またいつもの辞める辞める詐欺でしたね!!よかったねーまた安心して生きていけるわー公開楽しみだなぁ♪…ってなるかぁ今度こそは!!!本気だと信じちゃったでしょうが!!!!
いや、パヤオはいつでも本気で言ってるとは思う。失礼だが年齢的に見ても次回作は予定通りに進行するとは思えないし、最悪の事態も覚悟しなくてはならないでしょう。
しかしこれ、鈴木Pの手のひらの上って事なんでしょうなぁ。正直高畑宮崎コンビだけではジブリはこんなにポンポン映画作れなかったと思うよ。鈴木Pありがとうございます。そしてドワンゴは犠牲になったのだ…
宮さんはパクさん見習って死ぬまで映画作ると言って欲しいよいい加減。何度ファンの心を弄べば気が済むのか。あーもう本当に、こんな人を物心ついた頃から神推ししている己が不憫。でもこれからも推す、神だから。神が天に昇られた後も推す、この命尽きるまで。
でも正直なところちょっと言っていいかな?
神だけど!逆に◯ね!!新作がんばってください応援してます!!!!
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ichiko-movie · 5 months
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【公開記念舞台挨拶】杉咲花、渾身の映画単独初主演作公開に感動の涙…サプライズで監督から手紙を披露「『市子』に関わるすべての時間を愛しています」
抗えない過酷な宿命を背負ったひとりの女性・川辺市子の切なくも壮絶な人生を描いた映画『市子』がついに全国公開。初日翌日の12月9日(土)には都内映画館で公開記念舞台挨拶が実施され、主演の杉咲花さんん、共演の若葉竜也さん、そして戸田彬弘監督が参加しました。
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主人公の川辺市子を演じた杉咲さん。実は、映画単独初主演でもあり「嬉しい、その言葉しかないです」と封切りに感慨無量の表情を浮かべました。杉咲さんは公開初日に行われた戸田監督登壇のティーチインにもお忍びで参加したそうで「パンフレットを沢山の方が買ってくださって、監督のサインをもらうために列をなしているところを見て言葉にできない幸福に包まれました」と嬉しそうな様子。これに戸田監督は「サインが終わって杉咲さんがいることに気付きました。並んでいた方もきっと気付いていなかったです(笑)。それくらい存在を消していましたね」と杉咲さんの馴染みぶりに驚いていました。
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また杉咲さんは公開後の周囲の反響について「市子を実在している人物と捉えてもらえていることが嬉しかったです。そのような感想を多くいただきました」と手応え十分。市子と3年一緒に暮らした恋人・長谷川義則役の若葉さんも「地元の友達や映画関係者から『杉咲花ほんとヤバい!』という言葉を沢山いただいて。この作品が注目されているんだなと思いました」と好リアクションに一安心の様子。戸田監督は「俳優が魅力的に見えて評価されているのは監督としても嬉しいです」と喜びを噛みしめていました。
また戸田監督は、プロポーズのシーンに触れて「杉咲さんの感情の吐露は本番で目撃した奇跡的シーン」と見どころに挙げると、杉咲さんも「本番になった時に初めて長谷川くんの顔を見て、こんな眼差しで自分を見つめている人がいるんだと胸がいっぱいになって、自分の想像を超えたものが沸き上がってきました」と若葉さんに感謝。その若葉さんは「撮影したのがインして間もない時期で緊張していました。その緊張とプロポーズの緊張が相まって、体の状態としても嘘がなかったと思います」と舞台裏を明かしました。
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そして舞台挨拶終了間際、杉咲さんと若葉さんに向けてサプライズが発動!映画の公開を記念して、戸田監督からふたりへの手紙が読み上げられました。オファーの際に杉咲さんには手紙をしたためたという戸田監督は「若葉くんには手紙を渡せていなかったので、今更ですが書かせて頂きました」と照れ笑いしつつ「実はこの映画で監督人生を終えても良いと思っていましたが、若葉くんの映画を愛している姿を見て、ああ、こんな素敵な俳優さんが居るならまだまだ映画を続けたいなと思いました。いつかまた一緒に映画を創りたいです。それが僕の目標になりました」とメッセージ。これを受け取った若葉さんは「助演男優賞を受賞したのかと思いました。手紙をもらっていなかったことを根に持っていたので嬉しいです」とおどけながら感激していいました。
一方、主演の杉咲さんに対して戸田監督は「杉咲さんが市子を引き受けてくださったから、この映画はここまで大きくなれたのだと確信しています」と感謝を述べながら、衝撃の事実を打ち明けました。それは「これまでも何度も取材で記事になってしまった杉咲さんへのオファーの手紙ですが、実はあの手紙を僕は書いていません」というもの。驚く杉咲さんを横目に戸田監督は「僕の手書きではないという意味です。というのも僕は字が下手なので、字の綺麗な知人に代筆して頂いたんです。でも気持ちと言葉は本物。この手紙は正真正銘僕が書いています」と明かし、会場はあたたかな笑いに包まれました。
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一方、サプライズの手紙があると言われた時点で若葉さんから「泣いてるじゃん!」と突っ込まれるほど、感極まっていた杉咲さん。「誰かハンカチをください!」と大粒の涙を流しながら、戸田監督からのオファーの手紙が代筆だったという事実に、「達筆な方だと思っていたけれど、まさか代筆だとは思わず…」と泣き笑いも「作品に対する熱量や一緒に関わる人たちを信じて映画を作ろうとする姿勢に影響を受けるものがあって、嬉しかったです」と戸田監督との出会いに感謝していました。
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大感動の舞台挨拶も終了のお時間に。主演の杉咲さんは涙をこらえつつ「この映画『市子』はまたいつかと簡単に願えるくらいすぐには生まれない作品だと思っています。手前味噌かもしれませんが、自分はそう信じてやみません。素晴らしい製作陣の方々が集まって映画を作れたことを幸せに思っていますし、最高の経験になったと思っています。『市子』に関わる全ての時間が楽しすぎて、そのすべてを愛しています」と言葉を振り絞り「この舞台挨拶が終わるのが寂しいです」と本作への愛着を最後まで口にしていました。
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misttimes · 11 months
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5月19日のツイート
東京駅一番街のテレアサショップ、本日発表されたばかりの夕凪ツバサ バースデーセットのサンプルを展示してた。 #ひろプリ #precure pic.twitter.com/It7WWX7zEn
posted at 23:52:03
東京駅一番街のテレアサショップ、早くも夕凪ツバサと四葉ありすの誕生日祝いパネルを提示してた。 #precure pic.twitter.com/y3V6ByO4PK
posted at 23:49:18
餃子バーガー 芳醇黒酢ソース。目玉焼きの黄身、チーズ、芳醇黒酢ソースの味が強く、肝心の餃子の印象が薄かった。揚げ餃子ではなく焼き餃子の方が良かったかも。 #ドムドム #ドムドムハンバーガー pic.twitter.com/SXsKSkjDHO
posted at 23:45:33
domdomhamburger.com/topics/4392.html >ドムドムハンバーガーは、東京都豊島区 「池袋PARCO 本館6F 0%IKEBUKURO」 にて期間限定の体験型POP UP SHOPを開催いたします。 …(略) >■販売商品:ぬいぐるみ・マスコットほか雑貨���種 いやハンバーガーも売ってよw 没バーガー展示は面白そうだけど。
posted at 23:40:49
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RT @domdom_pr: 🐘ドムドム体験型&グッズ🐘 \✨POP UP SHOP開催✨/ 2023年6月2日(金)から、 東京にある「池袋PARCO 本館6F 0%IKEBUKURO」にて、期間限定の体験型&グッズ販売のPOP UP SHOPを開催します❗️ ドムドムの魅力を知っていただく様々な展示や体験、限定グッズなど新アイテムも登場😁🎉… twitter.com/i/web/status/1… pic.twitter.com/Bql4ATkPL7
posted at 23:38:20
時雨ビールは個人的に合わなかった。 まだ売ってるローソンあるな。 www.lawson.co.jp/lab/campaign/k…
posted at 21:34:22
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RT @2266x: ここ数ヶ月の間に販売された艦隊育成シミュレーションゲームのグッズです 「艦これ」って言うんですけどね pic.twitter.com/UxEiY8NZ5p
posted at 21:31:52
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RT @dragoner_JP: 『成恵の世界』電子版が1冊100円台になっているので、未読の方や電子が欲しい方は買いましょう。最初はゆるふわ学園モノと思ったら、最後はガチガチのSFになってるという傑作 → 成恵の世界 (全13巻) Kindle版 amzn.to/3IpWnj8
posted at 21:26:56
@famima_now 🟢一択です
posted at 21:22:21
@inunohana11 今年もありがとうございました🎂😭
posted at 21:14:13
🟢 >RT
posted at 21:12:51
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RT @famima_now: . ∫∫∫ ◥█◤ ラーメンいかがですか🍥 ねぎ好きにはたまらない!  🟢ねぎどっさり豚骨ラーメン 極太ノンフライ麺の  🟠横浜家系豚骨醤油ラーメン BIGカップで食べごたえたっぷりな2品✨ 今食べたいのはどっち? 絵文字🟢🟠で教えてね! pic.twitter.com/DcMRIVRO11
posted at 21:12:14
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RT @n28miman: みんな「スマホ」と言うのに舞さんだけ「ケータイ」と呼ぶんですよね #わたゆりお給仕中 #私の百合はお仕事です
posted at 21:09:01
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RT @CBJimandB: すごい光景だ... 歴史の教科書に載るやつや... twitter.com/nhk_news/statu…
posted at 21:08:50
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RT @wachawa_ch: 【5/20(土)18:00配信/第114回】 #たてかべ和也 さん #山寺宏一 さんら 大先輩声優🥹からいただいた言葉とは…? / 夢🎉へのバトンを繋ぐ!🌏 🔶Japan声優界 衝撃パワーフレーズ🙏 youtu.be/1NEhft9aZRs \ #KENN #たかはし智秋 #声優 #voiceactor #わちゃわちゃんねる #コミックシーモア
posted at 21:07:45
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RT @teichikujpop: 【#田村ゆかり】 一般発売前に💎 『田村ゆかり LOVE ♡ LIVE 2023 *with me?*』追加公演を5/28(日)23:59迄プレリク先行受付中🎫9/2(土),3(日)は東京ガーデンシアターで一緒に楽しもう🎀 l-tike.com/tamurayukari/ 最新ALBUM『#かくれんぼ。』もこの機会に併せてチェック🎧 www.teichiku.co.jp/artist/tamura-… pic.twitter.com/E1zMJLLK2d
posted at 20:19:38
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RT @sui72381132: 普段は「戦争反対!平和外交で何とかしろ!」とか言ってる方々が非常に重要な外交のG7広島サミットに対して、ヘルメットかぶって「粉砕!」とデモで大暴れして逮捕までされている皮肉な現実。一番平和からほど遠いのはこの人達よなぁ。 pic.twitter.com/bt9KghpawC
posted at 20:08:40
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RT @nhk_animeworld: ❤#おじゃる丸 第26シリーズ💙 8週目のゲストキャラは…… あ坊(CV:#小倉唯) うん坊(CV:#石原夏織) 二人あわせて『あうん』だ~! 小倉さん&石原さんコンビが大活躍! お楽しみに❤💙 「あうん対決」 Eテレ 23(火)朝6:40/夕方5:00 見逃し配信▶plus.nhk.jp/watch/st/e1_20… pic.twitter.com/eEqCZDIsCu
posted at 20:02:48
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RT @hana_joqr: 本日5月19日は... #菱川花菜 さんの 🎂20歳のお誕生日🎂 🎉𝐻𝑎𝑝𝑝𝑦 𝐵𝑖𝑟𝑡ℎ𝑑𝑎𝑦🎊 来週5月23日(火)17時からの放送で、ゲストの #後本萌葉 さんとお誕生日をお祝いします🎉 次回の #花菜ことば ぜひ聴いてくださいね #agqr
posted at 20:02:18
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RT @tachicol_: もしドロシーに二人の秘密を知られていたら、と思うと気が気じゃない #pripri pic.twitter.com/V2bQiHXN9C
posted at 19:59:52
選択の余地なしで押したらだいたいみんな考えること一緒だなと。 >RT
posted at 12:49:44
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RT @pps_as: 【✨フォロワー10万人突破記念✨】 いつもプリティストアのTwitterを見てくれてありがとう❣ 10万人突破を記念して、プリティストアで今年の秋に発売する「ひろがるスカイ!プリキュア」の『ハロウィンフェア』の企画を一緒に考えよう♪ みんなはどの衣装のグッズが欲しいかな?アンケートに答えてね💗
posted at 12:47:49
黄色のギターの人かっこいいなあ >RT
posted at 12:47:12
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RT @daimeiofficial: 明日5/20(土)は「服部百音がお父さんに怒られそうな音楽会」!音楽一家に育ちクラシック一筋だった服部百音が #ヒップホップ、#ドラムンベース、#ヘヴィメタ に挑戦!壮絶なコラボは必見です! #題名のない音楽会 #服部百音、#古坂大魔王、#KENTHE390、#MASAKing、#伊賀拓郎、他 #石丸幹二、#武内絵美 pic.twitter.com/mlHFRxC579
posted at 12:45:42
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RT @pripri_anime: 現在発売中の『プリンセス・プリンシパル Crown Handler』第3章パンフレットに誤植がございました。 詳細はNEWSページをご確認下さい。 pripri-anime.jp/news/?p=2904/ #pripri
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RT @YukarinStaff: 田村ゆかり LOVE ♡ LIVE 2023 *with me?*」追加公演プレリク2次先行のご案内です。 www.tamurayukari.com/information/?i…
posted at 12:09:53
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RT @kia_asamiya: 昨日は、声優、水谷優子ちゃんの命日でした。 アセンブラとCDドラマ版の鈴々はじめ、オリジナルCDアルバムでもカメラとデザインをしたりと、公私共に時間を共有したのは素敵な思い出です。 鈴々も、アルバムのカメラも優子ちゃんのご指名でした。 ありがとう。優子ちゃん。また、会いましょうね。 pic.twitter.com/JoMEFnjOgi
posted at 07:49:00
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RT @nipponkairagi: 冷飯食わされる覚悟で反対を表明してくれた自民党議員の侍の面々。選挙の事や自分の事ばかり考えている議員には絶対出来ない、国民と国を思えばこその意思表明。この方々が必ず評価される時が来る。勇気と信念に感謝して支えて参りましょう。 pic.twitter.com/vohMhGnEQO
posted at 07:48:26
追加発売するとしたら3両増結か別列車仕立て上げるのか。部外者的にも興味津々。
posted at 01:29:23
ちょうどインスタでゆかちが夕食のストーリー上げてるの見てたらこれだよw >RT
posted at 00:34:03
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RT @takahashimikako: さっきまで井口裕香さんいたよ🏠 手作り餃子と手作り豚串(北海道のやきとり)どーーん✨ ゆかち差し入れのトマトとサラダも✨ いつもながらあっという間の美味し楽しい時間でした😁 めちゃくちゃ美味しいトマトジュースもらった🍅 #yukachi pic.twitter.com/ZFNtDVKMEV
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君は放課後インソムニア第6話で菱川花菜さん確認。 pic.twitter.com/STIpIszSX3
posted at 00:17:12
菱川花菜さん20歳のお誕生日おめでとうございます🎂🍙🍺🍸️🍶🍷
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RT @Turkey_PJ: ✨✨✨✨✨✨✨ 本日5月19日は 「Turkey!」音無麻衣役 #菱川花菜 さんのお誕生日💗 おめでとうございます🎂🎉 「Turkey!」からの 続報もお楽しみに🎳 turkey-project.com #ターキー ✨✨✨✨✨✨✨ pic.twitter.com/4wFm7Wk0ra
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RT @amuleto_info: < 田村ゆかり > #私の百合はお仕事です! シフト.07 「ギャルといいますのね?」 #田村ゆかり 出演させていただきました。 ご視聴ありがとうございました。 #リーベ女学園記録係 #わたゆりお給仕中 #わたゆり twitter.com/watayuri_anime…
posted at 00:00:22
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kininarizm · 5 years
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ツジズム映画の真髄
過去最大級の台風が日本列島に来るか来ないかと目される日曜朝、
普段あまり映画を観ない自分が珍しくも、京橋の国立映画アーカイブという所でやっている
ぴあフィルムフェスティバル
という自主制作映画の映画祭を見に行ってきた。
なぜ唐突にも自主制作映画を観にいったかというと、
友人の作品が入賞したからである。
そしてその友人とは、あろうことか、M1で一緒に「手が震える」としてコンビ漫才を組んだ相方ツジことつじしんぺいである。
(参照:https://kininarizm.tumblr.com/post/165747020982/)
ただのフリーター仲間だと思っていたツジの、まさかの新進気鋭の作家の登竜門であるぴあフィルムフェス受賞は、
元相方である俺にとどまらず、界隈に大きな衝撃をもたらした。
ツジくん、君って奴は、、、
薄々感じてはいたものの、そんなにスゴい奴だったのか!?‥
ぼくはちょっぴり一���の淋しさを覚えた。
M1出場後にツジに彼女が出来た時も似たような寂寥感を覚えたが、
この取り残されるような、遠い感情はなんなのだろうか。
その悶々とした答えを探るためにも、
急遽大学時代の知り合い間で
ツジの映画を見に行く会が企画され、満を持して行ってきたのである。
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ついた。
国立映画アーカイブの側壁に揚々と鎮座するツジの堂々とした佇まいに画像に思わず笑ってしまった。
現場はまるで孫の晴れ舞台を訪れたお婆ちゃんのように、はたまた爆買い中国人観光客のようにツジ関係者一同による軽い撮影会になっていた。
僕らの他に写真を撮ってキャッキャしてる集団は皆無であったが、恥ずかしいよりも嬉しいのだ。
だってあのツジである。
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(ツジの溢れでる「巨匠」感。インド人ボリウッド監督といわれてもなんら不思議ではない。こんなん笑うやろ)
さて、という訳で開幕した
ぴあフィルムフェス。
ツジの作品「自転車は秋の底」は「東京少女」「ワンダラー」との同時上映で、トップバッターであった。
入場後時間があったので、配られたパンフレットを読んでいると
唐突にツジの作品インタビューが登場してきたので腹筋が崩壊する前に
そっ閉じした。
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さてそうこうしている間に上映の時間となっていき、
照明が徐々に暗くなっていく。
あっという間に70分が過ぎ、すべての作品の上映が終わり、
余韻を残しながら作品インタビューの時間に入った。
ここでツジ監督の時だけ
・終始止まらない横揺れ
・主演俳優が寝坊でインタビューに来ない
・ので客席にいた2回だけ撮影に参加したスタッフを急遽壇上に呼ぶ
・ツジの一挙一動ごとに会場に広がる笑い
・質問タイムがなぜかこの作品だけ司会に切り上げられる
などといったイベントがあったが、ここでは割愛する。
▽ネタバレ感想
◉自転車は秋の底(ツジ監督)
全編通してみた感じ、映画というより映像作品に近いという印象。
・表現が全体的に前衛的。
・現代美術の展覧会でインスタレーションといっしょに展示してそうな作品というとなんとなく伝わるだろうか。
・タイトルは最初には出ず、ワンルームに住むお兄さんが風呂に水をために行く所から物語(?)は始まる。
・画面は全編通して暗い。観客に緊張が与えられる。
・中盤、コンビニから帰宅する主人公が、自転車が自転車を襲うのを目撃した恐怖で、パスタがクロマキー的に回転するシーンは音楽効果と合わさって圧巻の一言。びっくりした。
・音がいい。たとえばserial experiments lainで度々サブリミナル的に挿入される電線のシーンのジーっていう音と画面表現は脳裏に焼き付くが、この映画の自転車登場の音もそんな感じ。
・自転車のライトはロボットの目に近い。ドラクエのキラーマシンさながら。よって観客もだんだん彼らを擬人化して見えてくる。
・結局の落とし所は、「なぜ自転車は人間を襲うのか」「登場人物の男女は自転車を接点に交錯するのか」あたりの「タネ明かし」「緩和」を観客は期待して中盤過ぎから見ていくと思うが、これら疑問は作品内でなんの解決されないまま作品は宙ぶらりんで完結する。
・最後の最後までほぼサイレント映画で、映像と効果音とBGMで物語を見せていく展開。ここまでやり通してたのに最後のとってつけたような喋りは蛇足のような気もするが、あれはあれで必要だった気もする。
・結局女性が(を)追っていたのは宇宙人なのかなんなのか、上映後のトークで解説されないとわからなかった。
・ED曲急にポップすぎないですか?
というわけで、本日のインパクト賞という感じだ。 間違いなく意味がわからなすぎて、観客の頭の上に沢山の疑問符を残して去っていく大雨洪水警報的な、感性のまま作って垂れ流したブツがそのまま激流となって昇華したような作品。これを狙って作ってたらびっくりだけど、インタビューで司会の方に「適当ですねw」とツッコまれるとおり、全くもって狙って作れないのがツジのツジたる非凡なところである。
◉東京少女(橋本根大監督)
・平成最後を生きる女子大生の万能感と漠然とした不安と令和改元に対する率直な感情を、ラップのような早口とテンポのいい映像と共に10分足らずで描く。
・女優の早口がすごい。
・話の構成は自己承認欲求の高そうな量産型女子大生の中身のない自分語り(というイデア)なので、見てて昔の自分を思い出しイタタタとなるようなムズ痒い感じを催した人も多かったのではないだろうか。 監督が女性じゃなくて男性だったのに驚いた。
・節々で現代っぽさは感じた。
・映像は極めてデザインチックで、作者はもう今年7作品作っているらしい。多作だね。
◉ワンダラー(小林瑛美監督)
・デンマークに家族で旅行に行こうとしたら夫に急な出張が入ってしまい、急遽一人で行くことになるも、空港に行く途中で気持ちが止めどなくなり、家で居留守を使いながら、偶然であった女性と二人で北欧旅行に行ったフリを演じていく話。
・3作品の中で唯一直球ストレートの一般的な脚本と演技で構成される映画。
・居留守中に旅行のフリ、という設定は面白かったと思う。
・テーマは女性の揺れ動く複雑な感情と虚栄心、男女のすれ違いあたりにあったと思うが、良くも悪くも邦画っぽい、起伏の少ない映画。
・最後はえっ?って感じで終わる。これも少しモヤモヤが残る。
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上映後にファンに取り囲まれ談笑するツジ。
一瞬彼がとんでもなく遠い世界に行ってしまったような気がしたが、
インタビュー時のgdgd感を思い起こし
結論から言うと、壇上に上がってもやっぱりツジはいつものツジだったので安心した。
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というわけでまさに文字通り台風の目であった今作品。
散々ネタ扱いしてきたけど本当に受賞おめでとう。
皆も行く機会があったら「自転車は秋の底」ぜひ投票してくれよな!
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geluga · 2 years
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ハートロッカー
ハートロッカー *存分にネタバレしてますご注意* 《イラクには兵隊用語で、爆発を例えて、 「"ハートロッカー(行きたくない場所/棺桶)"にお前を送り込む」 という言い方がある。》パンフレットより。 何度見ても緊張する。 いつの間にか主人公に惹かれるから一層、ドキドキして見る羽目になる。 なんかドキュメントっぽい。 しかも前に観た他のイラク戦争の映画よりか、土地の様子がリアルに感じられる。 それで、何処で撮られたものかを確認すると、ヨルダンだった。 パンフレットによるとヨルダンには、イラク人も多くおり (実際その他シリアやパレスチナの難民もいる)、中には俳優もいて、 映画に参加したそうだ。 映像ではカメラがよくブレる。わざとだろう。 有難い事に酔わない。 主人公は何度もイラクにやってくる。 イラク戦争、爆発処��が任務の米軍兵士が主役。 800個以上の爆発処理を行ってきた。 873個! それだけ死と直面してきたわけだ。 主人公に惹かれるのは、謙虚だからだと思う。地元の人の心を理解しようと 努めているように、それとも、平和を心の底から願っているのかも、と、 所々で感じられる。 これでまた不満分子が増えた、と呟く時、子供とサッカーをして遊ぶとき、 知り合いの子の行方を探すとき。 この、爆発処理の仕事を、淡々とこなしていく姿が続く。 時には、砂漠で撃ち合いになることも。 2004年のイラク。 主人公は、車に隠された爆弾の処理に当たることもあったのだが、 その爆弾が積まれた車が燃えているのを消火器で消し止め、 車中に入って仕事を行う。 こちらは、もう見ているものが信じられなくなる。 燃えている車ーそれも爆弾が積まれた!ー に近づくのも恐ろしいだろうに。 路肩に埋められた爆弾があちこちで炸裂したりするようになってしまった イラクでは、爆弾が埋められた場所に白い旗が立てられていたと言うのを 前に本で見たことがある。 主人公は、帰国し、自分の幼い子供と妻と再会する。 そしてまたイラクへ帰る。 彼は奥さんに言う。 イラクでは、子供たちに飴を配り、子供が集まってきたら 爆破するような事がある、だから行かないと。っていうような事を。 なので彼は、イラクへ何度でも戻ってくるのだ。 どうせ死ぬなら気持ちよく死にたい、なんて言って、処理に当たる。 幾つも繋がった爆弾が、土から現れる。 携帯で遠隔操作を行っている者が近くに居るかもわからない。 爆弾は厄介過ぎる。 子供たちが走り回るかもしれないのに。 あたしはとても不安になる。 その中を、主人公が次々、爆弾処理をしていく。 彼と、爆弾との闘いがずっと続く。 最初に爆弾処理に当たった人は爆風で殺された。防護服は完璧に守るものではないしとても重たそうだ。 ちょっとの爆風で、少し離れた所にいても、背中を向けて逃げる間、 背中は熱風で火傷するのだと、何かでみた。 とにかく、爆風で飛んだ何かの破片とかで、殺されたり、失明したりする というのは、よく知られている。 だからピンポイントで空爆しようと、巻き添えになる人達が 多く居るだろうなと思う。余計に人の恨みを買うだけなのではと 思うことがある。 映画では、25mだったかな?以内は、死の領域だと言ってた。 これについて、パンフレットでは、 《爆弾の破片は、毎秒およそ820メートルの早さで飛ぶ。爆発の中心地から 膨張して出てくる加圧ガスの衝撃波には殺戮能力があり、 時速21,000キロの速さ、1平方センチ辺り、110トンもの力で飛び出す》 パンフレットより。となる。 数字に弱い私には何が何やら?だが。 彼が爆弾の処理にあたることで、死なずに死んだのは 米軍兵士だけではないはずだ。 最後に出てきた人は助けられなかった。それをわかって主人公は相手の目を見つめて謝罪した。 米軍が嫌われる理由があった面も存在し、米軍を攻撃する人達がいたのは 事実で、反米でなかった人までそうなっていってしまった面もある。 テロはずっと起き続け、たくさんの兵士やイラク人、そこにいた人や、 ジャーナリストが殺されたりした。 けれど、この主人公が救ったのは米軍だけじゃないだろう。 こんな現場は決して増えないほうが良いのだけど。 爆弾の処理にあたって、もしくは爆発によって殺された人は恐ろしいほど 居ると思う。そうした事が伝えているのは、なんだろうか。 戦えば戦うだけ無意味な負の連鎖を起こしている可能性がある。 このイラク戦争に日本人のあたしも、無関心で居てはならない。 主人公はまた戦場へ。今度も帰って来れるのかは誰にもわからない。
2015年の記事
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roomofsdc · 2 years
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SDC映画の部屋「ダンサー・イン・ザ・ダーク(2001)」
アメリカの小さな田舎町、移民のセルマ(ビョーク)は小さな息子とトレーラーハウスで暮らしながら、プレス工場の勤務と内職で生計を立てている。彼女には遺伝性の眼疾患による失明の恐れがあり、同じ病を持つ息子のための治療費を密かに蓄えている。トレーラーハウスの持ち主の警官のビル(デヴィッド・モース)、同僚のキャシー(カトリーヌ・ドヌーヴ)やジェフ(ピーター・ストーメア)らの助けを受けながら、仕事を続けるセルマだったが、徐々に視力は失われ、やがて工場で大きな失敗をしてしまい職を失う… デンマークの映画作家ラース・フォン・トリアーが脚本。撮影、監督を手がけた、2000年カンヌ映画祭パルムドール受賞作。日本ではパチスロメーカーのアルゼ(現在のユニバーサルエンターテイメント)が配給スポンサーとなり、これだけ地味で暗い映画にも関わらず大ヒットを飛ばす原動力となったことが記憶に残る。ラース・フォン・トリアーはデンマークにおけるドグマ95と呼ばれる映画運動の提唱者であり、人工照明やスタジオ撮影などを極力排除する独特な映画スタイルが特徴であるが、本作品はセルマの幻想という体裁ではあるが、人工的な照明やセットによるミュージカルシーンが満載(というよりは半分くらいがビョークのミュージックビデオ)で、本来のドグマ95の作品とは言えない。それでもザラザラした音声や自然光を多用した美術、手持ちの不安定なキャメラなど、通常の商業的な洗練された作品を見慣れている観客にとってインパクトは小さくない。ちなみに本作品の舞台は「アメリカの田舎町」とだけ規定されているが、飛行機に乗らない主義のトリアー監督は、この映画の全編をスウェーデンやデンマークなどで撮影している。基本設定自体が「虚構」の上に成り立っているリアリズム映画だ。 しかも物語は一言で言えば「救いのない」映画だ。親身になって支えてくれ、思いを寄せてくれるカトリーヌ・ドヌーヴやピーター・ストーメアは優しい隣人ではあるが、彼らもまた社会的には弱い人間だ。か弱いが故に過ちを進んで犯すデヴィッド・モース(名演!)もまた然り。彼らに囲まれながらセルマだけがぶれることなく、苦しくとも自分の世界を生き続ける。白昼夢の中、幻想的な世界で歌い踊る自分の姿が彼女の生きがいだ。彼女はミュージカルが好きな理由として「ミュージカル映画では不幸なことは起こらない」と言う。現実は名実共に「暗闇」でしかない。その過酷で不条理な運命を背負った小さな女性をアイスランド生まれの歌姫ビョークは見事に演じ抜いた。 ビョークは当初音楽だけを引き受けるつもりだったが、曲作りをするうちにセルマの人生そのものが憑依するような境地に至ったらしい。最初の撮影まで一度もキャメラテストを行わなかったとトリアー監督自身も述懐している。その熱演はカンヌの主演女優賞に結実し、アカデミー賞歌曲賞などにもノミネートされている(なおアカデミー賞授賞式でのビョークのスワンドレスもやはり衝撃的だった)。音楽はほとんどがビョークの筆によるナンバーで、サウンドトラックは後日スタジオ録音で「セルマ・ソングス」としてリリースされ世界中でチャート上位に入った。私も買ったけれど、劇中で最後に披露される「最後から2番目の歌」は収録されていないのは残念至極。 本作品は完成前からビョークとトリアーの衝突が報道され、完成が危ぶまれていたが、クリエーター同士の葛藤があって初めて芸術作品が生まれるのも自明の理(「2001年」のクラークとキューブリックが良い例)。そもそも、この二人が似た者同士であることは最初の邂逅時から分かっていた、と当時のパンフレットにさえ記載されている。2021年に4Kデジタルリマスター版が公開されたが、飽きもせずビョークとトリアーが中傷合戦を再び繰り広げているのも宜なるかな。
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kazu-moin · 4 years
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浮世絵すごい
江戸東京博物館の『大浮世絵』に行ってた。今まで浮世絵とか江戸時代とか全く興味なかったんだけど、なぜか広告見て行かねばと感じた次第。会は5つのセクションに分かれていてそれぞれ、喜多川歌麿、東洲斎写楽、葛飾北斎、歌川広重、歌川国芳の作品を展示していた。
歌麿は美人画の名手。「浮世絵はどれも顔が似ていてつまらない」と思っていたが、その考えはすでに変わっていた。結構描きかたに差があって面白い。とりわけ『あらはるる恋』の解説に衝撃を受けたのだが、これは「ただならぬ姿」であるそう。教えてもらわなければ素通りしてしまいそうだけど、言われてみると確かにこの女性は今めっちゃ取り乱してる。
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とまぁ一絵師ずつ感想を書き留めておきたいが、そうもいかないものである。
浮世絵は、人の生活が現れていて見ていて楽しい。とても「リアルな生活」である。
そもそも僕が生きている時代は、街の様子からその時代の人々の生活が分かる、というのではないよな。現代で街並みの浮世絵に当たるものといえば、給湯器のパンフレットで見た家の断面図的イラストではなかろうか。あと、図版を買ってきたのだが、やっぱり本物を見ている時と気持ちが全然違うな。
今まで日本文化全般にあまり興味を持てず、楽しめるマインドになるまでとても時間がかかったが、それが最近変わってきているのはなぜだろう。
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fujimoto-h · 6 years
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ドゥルーズ=ガタリとカフカとシネ・ヌーヴォと鉱ARAGANEとノイズとイェリネクと
 仕事がかなりハードであり、小説も書けないしブログも書けないという。このままだと5人しかいない読者が減って3人とかになってしまいかねないので今月初の記事をあわてて書くのであった。
 2日、神戸映画資料館にて『カフカ──マイナー文学のために』のトークイベント。まずはオーソン・ウェルズによる映画『審判』の鑑賞。元町映画館より狭くて感動した。スクリーンは元町より大きい。久々の『審判』であるが、ラストの改変がやはりアレ。終了後、翻訳者の宇野邦一氏と、丹生谷貴志氏に鈴木創士氏という豪華メンバーによるトーク。やはり「マイナー」とはなにかということが重要な課題となるが、かなり微妙な課題であって簡単には明確な答えは出ない。そもそも文学作品についてマイナーとメジャーの違いとはどの枠内で考えるべきかがすでにわからない。なにしろ古井由吉よりはどメジャーと言えると考えている大江健三郎について知っている人物と間近で出会ったことがない。それはなに、最近出た若い人、とかきかれたりするのが現状。いろいろ面白い話をきかせてもらい、話に出てきたドゥルーズの『シネマ1──運動イメージ』と『シネマ2──時間イメージ』による自由間接話法の議論というのが気になって、終了後、受付で2冊とも購入。受付の人が一瞬焦ってた。まあな。
 10日、気が向いたので九条のシネ・ヌーヴォへ『鉱 ARAGANE』を観に行く。15日に行くつもりでいたのだけれど。改装後初のシネ・ヌーヴォ。入江悠監督のサインを探す。改装の際に行なっていたクラウドファンディングで協力して入手した招待券で観る。館内の暗闇に響きわたるノイズが心地よい。文学とはジャンクであるとはとある批評家の言で、私もそれには賛同しているが、ジャンクであるのと同時に文学にはノイズも必要なのではないだろうか。拙作についてノイズがなさすぎで、そこが同人誌臭いととある、いまや立派なプロの批評家となった、かつては拙作に原稿用紙30枚分にわたる批評を書いてくださった人に言われて以来思い込んでいることであるが、最近の作品だとどうなのだろうなあと、映画とはまったく関係ない話になってしまった。でもたしかに、言われてみると同人誌のうまい人ってノイズないんだよな。  ノイズもそうだが、小説の難しさについて最近はなんだか考える機会が多かった。そもそも文校行きだしたころから私の作品を難しいと言ってくる人物は一定数おり、同時に読みやすいし、わかりやすいと言ってくる人も同時に存在するのが現在でもつづいているので、難しいだのわかりやすいだのという意見にはまったく意味がないと肌で感じてるし、合評で言われても無視するのが大半であるが、だったらあなたは難しいとかわかりやすいとか言わないのかというと、言うのであった。どういう意味で言ってるのかまでは知りませんが。わかりやすい小説を目指すのは結構なことであるし、私も後期高齢者になったら悟りを開いてわかりやすい小説を書くようになっている可能性もなくはないわけだけれど、そもそもわかりやすさとはなにかという問題がある。わかりやすいとは意味がわかりやすいということになると思うが、そうなると、一定の読みかたしか許さないということになりはしないだろうか。もちろん、わかりやすさと読みやすさとは別で、読みやすいが、よくよく考えると(考えなくても)意味がわからないという作品も存在するだろう。この、わかる=理解できるというときの「理解」というのも厄介な代物で、これは読者がテキストを規定してしまうという運動となる。つまりわかりやすい作品とは、作品がとある一定の意味を提示し、読者のほうでもとある一定の読みかたに固定しつつテキストを享受するという関係になりやすい作品ではないのか。この、理解されることから逃れつづけるテキストとの最初の出会いというのが私にはイェリネクの『死者の子供たち』で、この小説は衝撃的であった。ベルンハルトに次いでこういうの書けたら最高だなあと思っている書き手の一人だが、私の頭脳と技術では無理と自覚しているのでご安心ください。あと、イェリネク読む前にブランショがいたのではないかとも思うが、そこは好みの問題であります。しかしヴォルフもわりと近い書きかたをしているけど、バッハマンといい、そう簡単には理解させないテキストをドイツ語圏文学者がこぞって書きつづけているのはなんだろう。フランスのヌーヴォーロマンと違ってドイツ語圏が後れを取っているように見えるのは、ひょっとしてこの独特の難解さが問題であって、ここに立ち向かわずにカフカとかに文学者が集中してしまっていたのではないかという珍説をたったいま適当に創り上げました。  そもそも今回考えだしたのは「星座盤」のA岡氏が『アンチ・オイディプス』を買っておられ、かれらの文章はとにかく意味を理解しようとせずにスピードとリズムに乗って進めていくといいですよと、私がかつて実践し、鈴木創士氏も今回勧めておられた読みかたをお伝えしたついでに、意味を理解しようとせずにリズムとノリで乗り切ればなんとかなる文章がけっこう好きだとツイートしたことがきっかけなのであった。  などということを考えつつ、『鉱 ARAGANE』のパンフレットを買い、サインをもらったのだった。
最近読んだ本 稲川方人『2000光年のコノテーション』(思潮社) 川田絢音『白夜』(書肆子午線) 平田俊子『詩七日』(思潮社) ジル・ドゥルーズ/フェリックス・ガタリ『千のプラトー──資本主義と分裂症(上)』(河出文庫) 丁章『在日詩集 詩碑』(新幹社)
最近観た映画 『散歩する侵略者』(黒沢清) 『アトミック・ブロンド』(デヴィッド・リーチ) 『審判』(オーソン・ウェルズ) 『バリー・シール──アメリカをはめた男』(ダグ・リーマン) 『三度目の殺人』(是枝裕和) 『セザンヌと過ごした時間』(ダニエル・トンプソン) 『スモーク』(ウェイン・ワン) 『ゲット・アウト』(ジョーダン・ピール) 『鉱 ARAGANE』(小田香)
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edamamemamade · 6 years
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THELMA(2017)
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2017年/ノルウェー・フランス・デンマーク・スウェーデン合作 監督 ヨアキム・トリアー 出演 エイリ・ハーボー カヤ・ウィルキンス ヘンリク・ラファエルソンほか
【あらすじ】
ノルウェーの片田舎の町で信心深く厳格な両親に育てられた少女テルマは、幼いころの記憶が抜け落ちていた。やがてオスロの大学に入学した彼女は、同級生のアンニャに、生まれて初めて恋心を抱く。テルマは湧き上がる欲望と罪の意識に苦悩するが、自分の気持ちを抑えることはできなかった。(Yahoo!映画より)
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【感想】
どーもどーも、ラーチャえだまめでございます。今日紹介する映画は_?
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「Baby Girl あたしはココにいるよ?」
学生時代「青山」という苗字なだけでついたあだ名が「テルマ」になっていた時代が懐かしい……とかそんなことはどーでも良くって
【テルマ】!!!一週間くらい前に観た映画なんですけどもまぁーこれまた「セカイ、サイコーヲ、オッタタタタタタタタマゲマシッターbyスピルバーグ」並の「衝撃作」といいますか、先日ハマヨコ一の「繁華街」関内にひっそりと未だ佇む昔ながらのラーメン屋さん的立ち位置の「イイ塩梅のレトロ」な劇場「ジャック&ベティ」さんにて今時自由席ですよ?チケットを買った順から順番に呼ばれて席を奪い合うというですね、今は亡きなかなかハードコアな劇場でありますのでココは気合を入れてチョー早めに券を買いましたよ!!2番ですよ!!2番!!!……とかそんなことはどーでも良くって
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いやー凄かったですねーコレ。前から気になっていた映画ではあったのですが、先に言っちゃうとですね、これ「ホラー」というより「オカルトサスペンス」の色合いが強いかな?
まあ、、、、、言ってしまえば本作は「空想」と「現実」という2つの要素が見事に合わさった怪作、つまり
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一人の思春期女性の「成長ドラマ」+「オカルト」の見事なフュージョン。
これまで汚れたことない無垢な少女が、家元を離れて「外のセカイ」で初めて体験するコト。そして少女から一人の女性として成長していく物語というというのが一つあって。
そしてもう一つは、ある時を堺に起きる「謎の発作」。それが元となり起こる「超自然的現象」。この2つの見事なシンクロニシティ、これぞまさに「スーパーナチュラル青春白書inオスロ」!?2つの要素の見事な配分、と言うと真っ先に思い浮かぶのはやはり【キャリー】ですか?いやいや最近やった【ROW】とかいう姉ちゃんの指をチュパチュパするアレですかね?ま似たような映画もありますけども、実は「オカルト」と言ってもあっちこっちヒッチコックの【鳥】を彷彿とさせる「黒い鳥」がいきなり飛んできたりとかですね、夜寝てる間にスネークが首に巻きついてくるとかですね、プールで泳いでたら「気づいたら天井だった」とかですね、そこまで派手なことが起こるわけではない。これまたゆっくりと、丁寧過ぎる程丁寧に一つ一つ描くスタイル。眠くなる?ああ、確かにその系統の映画かもしれません、ですがこの毒特な雰囲気、視覚的に「何か」を演出するのではなく、「スキンで感じろ」的な「観て感じる」系のですね……一体どんな監督さんが撮られたのかと思ったら
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ラース・チーズフォントリアーが親戚…だと?
ヨアキム・トリアー監督。あの「多分観たら1週間くらい鬱になるかもしれないからノリがいい時に観たほうがええよ」と言われ2次会のカラオケの後一人自宅で観て「2週間鬱になった」あの伝説の映画【ダンサー・イン・ザ・ダーク】等「なんかもう精神的にイヤー」な映画を撮り続ける鬼才、ラース・フォン・トリアー監督を親族に持つ、と一応宣伝はされていたものの、おこがましいにも程がある?これまで多数の映画祭で賞を受賞、北欧を代表する監督にも選ばれているというフツーにスゴい監督なんですねー。いやでも最近2世っていうかさ、アルフォンソ・キュアロンの息子とかリドリー・スコットの息子やらデヴィット・クローネンバーグの息子やら2世監督もどんどん出てきてますよね。やっぱり蛙の子はヒキガエルの子なのか……
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いやーその映像から観ても何かしらの「才」があるのは(←コイツ多分わかってねえな?)言うまでもなく、もうOPからですよ、この映画のスゴい所は。序盤の序盤なのに「あ、これは最後まで安心して楽しめるな」と「安心して見れる」ですよ?私はね、この後どんなにつまらなくなりそうでも本作がChests Sujinawa、つまり「一筋縄」ではいかない映画であるという「確信」を持ってしまったのです。だって雪積もるノルウェーの森でですよ?鹿狩りに出かけた親子がですよ?目の前に鹿がいてですよ?
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娘に銃向けちゃうんですから……一体なんちゅう親子だよっていう(えそこ?)
それから数年後、お酒もタバコも吸ったことない!!大学デビューでハツラツするはすが、謎の発作と怪奇現象に悩まされるテルマを演じるのは若手女優のエリー・ハーボー!いやー圧巻の演技ですよ。まさに「圧巻の痙攣シーン」にはじまり、ちょっと大人ぶって、知識人ぶって、他人を下に見る大学生?わかるわ〜(←大学生に一体何の恨みが…)隣に座る同性愛者を見てちょっと引いちゃうようなタイプのテルマがですよ
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乙女に恋せよ乙女!?
大学で出会った歌手やアーティスト、モデルとして活躍するカヤ・ウィルキンス演じるアンニャと「こぉ〜いぃ〜しちゃったんだ、多分♫気づいてないなぁ〜いでしょぉ〜♫」なカンケーになるわけなんですねー。
感じる「罪悪感」。幼少期より厳格な両親から植え付けられた信仰心がトラウマとなり彼女を苦しめる。そしてさらにカラダに起き始めた「異変」により両方から「がんじがらめ」にされさらに抑圧されるテルマ。
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「なんでフツーに生きられないの?」
次第に「自分が何者なのか」わからなくなっていく。そして「何者になるのか」という「恐怖」。そしてテルマはついに「覚醒」する。そのチカラは「呪い」か、それとも「救い」か__。
宗教的な側面も描いてはいますが、私は個人的に過保護なカホコまではいかんでも一人っ子代表として申したい事と言えば「一人娘」として育ったテルマが親から受ける抑圧、両親の「留めて置きたい」という考えが、彼女を内向きな性格にさせ、外に飛び出す勇気というか、外に飛び出している「他人」と接触するのを拒んでしまっているというか、そこから人間的に一歩前進して成長していくのと同時に強くなる「チカラ」の存在という「成長=怖さ」っていう思春期あるあるを描いているんじゃないか。まあ成長してない私が言うのも何の説得力もありませんg…
まあでも、読み込めたのって、ホントそれくらいで全体通して決して「難解」ではない。わかるっちゃあわかる。で、「視覚的」に観てそれがあーなって、こーなって、ハイハイそーいうことね。と素直に飲み込んで見たら正解なのか
いやいや絶対何かしらの「意味」があるだろおおお!!!!!と難しく考えて見るのが正解なのか
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わからない。。。。。から、まあとりあえずパンフレットは買っちゃうよね?と言うわけで買ってしまいました。普段めったに買わないドケチんぼがパンフレットを買ってしまいました。ぐらい作品の「深み」にハマるとなかなか抜け出せないような映画かもしれません。
ラストの賛否別れる?単純に良かった良かった、めでたしでぇ〜す。とハッピーなENDと捉えるか、何かヤベェ「存在」が誕生してしまったという「終わりの始まり」と捉えるか……
劇中「キリストはサタン!!」っていうシーンがあるんですよね。キリスト=サタン?表裏一体?そのチカラは呪いか奇跡か?→ラストの意味??
あちなみにヨアキム・トリアーさん実はアニオタなんですか?「AKIRA」の大友克洋、今敏などの作品から影響を受けたらしいですよー。確かに願ってもいないチカラに目覚め何がなんだか分からず混乱する姿はまるで鉄雄のようでもありますなホジホジ
すでにハリウッドでリメイクされることが決定済みのようじゃあないですか。はいはい私にはわかりましたよ!!ハリウッド版【テルマ】になったらとりあえず
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ラストに学校の勧誘があります
【テルマ】
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clipfiling · 6 years
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■日本メディア検閲史 <新聞法、出版法について> | 前坂俊之オフィシャルウェブサイト http://www.maesaka-toshiyuki.com/massmedia/3838.html  
静岡県立大学国際関係学部教授 前坂 俊之
 
われわれは今、「言論の自由」を、ごく当たり前のことと思っている。 「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する」(憲法21条1項)、「検閲は、これをしてはならない」(同2項)という日本国憲法の条文を、わざわざ引き合いに出すまでもなく、当然と受け止めている。
しかし、1945(昭和20)年8月の敗戦まではそうではなかった。それ以後の連合軍による占領期間中も、言論の自由は制限されていた。 明治以来、メディアに対する検閲制度は昭和の敗戦まで約80年間続いた。
現行憲法でわざわざ検閲禁止の規定が盛り込まれているのは、この検閲の歴史の反省が込められている点を忘れてはならない。
検閲は表現の自由への公権力の規制の形式的、方法的問題であり、たんに文章や表現をチェック、削除する狭い範囲で考察するのではなく、広く言論統制、情報操作の一側面としてとらえることが必要である。 この「メディアと検閲」の章では、そうした観点から、主に日本でのメディア検閲の歴史的な関係について触れたい。
 
■1 言論の自由と検閲制度・ミルトンらで言論の自由の確立へ
秦の始皇帝(紀元前259-210年)の「焚書坑儒」を引き合いに出すまでもなく、歴史のなかであらゆる政治権力は、自らと対立する都合の悪い言論、思想を抑圧、弾圧の対象としてきた。
ギリシャ、ローマ時代はいうにおよばず、中世キリスト教の異端審問など、言論の抑圧が続いた。一五世紀の活版印刷の発明がエポックとなって、大量印刷や伝達が可能となり、マスメディアが生まれ、これを抑圧する手段としての検閲も一層、組織化、制度化され、近代検閲が生まれた。 大量に、スピーディに、安く印刷できる革命的な活版印刷の発明は、異端の広がりに厳重に目を光らせていたローマ教皇庁に衝撃を与えた。
グーテンベルクが活版印刷を発明したドイツ・マインツで、大僧正ベルトルドが1486年に出版物を取り締まるため検問所を設けたが、これがいわゆる「検閲制度」のはじまりである。 活版印刷の発明は中世ヨーロッパの宗教社会の内部から宗教対立を激化させる要因となり、宗教改革を生み、ついには市民社会の誕生の契機となったのである。 1501年には、ローマ教皇アレキサンダー六世が出版の許可主義をとった。さらに1542年には、ローマ教皇パウロ三世がカトリックに反対する出版物に対して、異端審問所の許可をとっていないものについては発行、流布を禁止した。 言論、出版の自由の歴史はこうした検閲制度との不断の戦いの歴史であり、その上に勝ちとられたものであった。
イギリスでは1586年に星室庁(当時の最高司法機関)が印刷条例をつくり、検閲を実施したが、これは後に長期議会に引き継がれて、1643年に検閲条例が定められた。 封建主義、絶対主義社会の象徴としての検閲に対して、言論、出版の自由の要求が生まれてくるが、その先駆者がミルトン(1608-74年)である。
ミルトンは『アレオパジテイカ』(許可なくして印刷する自由のためにイギリス議会に訴えるパンフレット)で「……真理と虚偽とを組打ちさせよ。自由な公開の勝負で真理が負けたためしを誰が知るか」、「他のすべての自由以上に、知り、発表し、良心に従って自由に論議する自由を我にあたえよ」と書き、言論の自由を強く訴えた。(内川芳美「新聞の自由の歴史」 稲葉三千男・新井直之 編著『新版新聞学』日本評論社、1988年、40頁)。 ミルトンは検閲条例をきびしく批判し、思想は抑圧されず自由に公開、競争される「思想の自由市場理論」と、そうすれば人間の正邪を判断できる理性によって、真理が必ず勝ち残るという「真理の自働調整作用」を唱えた。 こうしたミルトンらによって、イギリスで特許検閲法が廃止されたのは名誉革命後の1695年のことであり、新聞、出版の自由が制度的に確立されていった。
 
■2 徳川時代の検閲制度
一方、日本ではどうであったのだろうか。
徳川時代中期から出版業が盛んになってくるが、幕府は1630(寛永7)年にキリシタン関係書の売買、閲読の禁止に乗り出した。 1649(慶安2)年には、大坂の書店・西村伝兵衛が出版した『古状揃』のなかに「家康表裏之侍太閤忘厚恩」という徳川家康を誹語する文句があったことから、幕府はこの書物を没収、絶版の処分にし、伝兵衛は斬首の刑となった。 新開の前身である「読売瓦版」に対しては貞享、元禄年間の禁令をみると、検閲がおこなわれていた事実がみられる。 1722(享保7)年には、出版に関するはじめての成文法といってよい『町触れ』(現在の法律)が出された。 内容は猥褒や異説を唱えるもの、徳川家の事蹟に関する記事について禁止したほか、板本の奥づけに作者と板元名を記すことを定めたものであった。
このように、すでに江戸時代からはじまった出版物取り締まりの基本的な考え方は、明治になっても踏襲された。
 
■3 明治の新聞の誕生と言論恐怖時代の幕開け
ところで、日本での新聞の始まりは幕末の翻訳新聞、外字新聞である。
幕府の洋書調所にいた洋学者たちの翻訳によって新聞づくりがはじまった。当時は新聞、雑誌の区別はなく、この洋書調所から雑誌も翻訳雑誌として生まれた。 当初、このように幕臣による新聞が多かったため、鳥羽伏見の戦い(1868年)、江戸への薩長軍の進軍に対しては佐幕派の新聞が多数発行され、官軍を攻撃する記事や虚偽の報道、風説を流し、幕府の味方をした。 柳河春三「中外新聞」、福地源一郎「江湖新聞」、岸田吟香「もしほ草」など多くの“佐幕派新聞”に対して、明治政府は、はじめて言論弾圧に乗り出した。
1869(明治2)年2月、政府はわが国で最初の新聞紙法である「新聞紙印行条例」を発布した。 発行を許可制にし、編集者の責任を定め、政治評論を禁止するなどの内容であった。
1874(明治7)年1月、江藤新平、板垣退助、後藤象二郎らが『民撰議院設立建白書』を提出したことから、自由民権運動がまたたく間に全国に広がった。 新聞はこれを支持する民権派が多数を占め、そのなかで急進派と漸進派に分かれ、これに反対の立場の官権派が入り乱れて激しい論戦を展開し、“言論の黄金時代”を迎えた。
言論界では急進的民権派が圧倒的多数を占め、反政府運動と化したため、政府は1875(明治8)年6月に「新聞紙印行条例」を大改定した「新聞紙条例」と、新たに「讒謗律」をセットで公布した。 讒謗律は 名誉毀損罪と政治的誹謗罪が一緒になったような法律で、天皇、皇族、官吏に対する誹謗を防ぐというねらいだが、実際は反体制的言論を規制し、弾圧するのが目的であった。 言論界にとってこの両法は正に青天の霹靂であり、一大ショックを与えた。 まず「曙新聞」の末広鉄腸が、これに触れて罰金20円、禁獄3ヵ月に処せられたのをはじめ、各社の記者が続々と処罰され、獄中は新聞記者や編集者であふれかえる事態となった。 宮武外骨の調査によると、5年間でこの両法によって記者、編集者約200人が禁獄されるという“一大言論恐怖時代”を現出した。 しかし、これでも自由民権連動の大きなうねりを止めることはできず、逆に高まる一方であった。
このため、翌76(明治9)年に政府は「国安ヲ妨害スト認メラルル者ハ、内務省二於テ、ソノ発行ヲ禁止又ハ停止スヘシ」という太政官布告を出した。 この規定が「安寧秩序ヲ妨害」したものに対して「発売頒布禁止権」を行使するという出版警察の中核的な行政処分権となり、敗戦までの約七〇年間にわたり言論の自由の生殺与奪となったのである。[奥平康弘、1983、137-138頁]。
さらに、明治政府は帝国憲法の発布(1889年2月)に照準を合わせ、1887(明治20)年に「新聞紙条例」、「出版条例」を改定し、取締法規を整備、強化した。 「新聞紙条例」では内務大臣の発行禁停止権、保証金制度、陸海軍両大臣の記事差止権、その他掲載禁止事項などが定められ、一方、「出版条例」では発行10日前に製本3部を内務省に届け出ることが義務づけられた。
1889(明治22)年2月発布の帝国憲法では、「言論の自由」については「法律ノ範囲内ニ於テ言論、著作、印行、集会、及結社ノ自由ヲ有ス」(第29条)とされ、「新聞紙条例」、「出版条例」、「保安条例」、「集会条例」の4つの言論統制法の範囲内での制限つきの言論の自由しか認められなかった。
労働運動、社会主義運動が高まった1900(明治33)年2月、片山潜、安部磯雄らによって「社会主義研究会」が発足した。政府は集会、結社の取締法の集大成である「治安警察法」を制定して、きびしい取り締まりに当たり、翌年5月に片山、安部、幸徳秋水ら6人で結成された「社会民主党」は、即日解散となった。 1903(明治33)年2月、日本で初の社会主義新聞「平民新聞」(週刊)が幸徳秋水、堺利彦、西川光二郎らによって創刊された。日露戦争に対して非戦論を主張した同紙は官憲によってきびしい弾圧を受けた。同20号の幸徳の「鳴呼増税」が新聞紙条例に違反、発禁が相次ぎ、創刊一周年記念号に『共産党宣言』が翻訳掲載され、再び発禁となり、3人は起訴され、有罪となり1905(明治38)年1月に64号で廃刊に追い込まれた。
 
■4 大正の大阪朝日新聞「白虹事件」
大正デモクラシーの高揚は憲政擁護、閥族打破、言論擁護の運動でもあった。その中心的な役割を果たしたのは民衆とともに、新聞であった。大正はじめに政党と結び、憲政擁護で第3次桂内閣を倒した新聞は、今度は民衆と歩調を合わせ、寺内内閣との対決姿勢を強めた。 寺内内閣の非立憲的な態度は、新聞への姿勢でもかわらず弾圧的態度に終始した。
シベリア出兵問題(1918年)、米騒動(同年)に対して発禁を連発、とくに、米騒動に対しては一切の報道を禁止したため、『春秋会』(新聞社の社交クラブ)は「言論の自由への圧迫」として再々にわたり、取り消しを求めたが、寺内内閣は応じなかったため、内閣打倒へ立ち上がった。
1918(大正7)8月25日、寺内内閣糾弾の関西新聞社大会が大阪・中之島で開かれた。 村山龍平・朝日新聞社長を座長に関西の新聞、通信社など計86社約170人が集まって開催され、「大阪朝日新聞」は同日夕刊(26日付)社会面のトップで次のように報じた。
「我大日本帝国は今や恐しい最後の審判の日に近づいているのではなかろうか。 『白虹日を貫けり』と昔の人が呟いた不吉な兆が黙々として…‥」
この記事の「白虹日を貫けり」が問題化し、日本の言論史上に残る一大筆禍事件「白虹事件」へと発展していった。 「白虹日を貫けり」とは中国の故事で、白い虹が太陽を貫いて見えるときは、国に内乱が起きるしるしであるという意味だが、当局は「日」が天皇をさし、不敬に当たるといいがかりをつけて、記者と編集発行人を新聞紙法違反(安寧秩序素乱)で起訴、2人は禁固2ヵ月の有罪となった。 かねてより、当局は政府へ批判的な「大朝」の弾圧の機会をねらっていたのである。 この事件で鳥居素川、長谷川如是閑、大山郁夫らの編集幹部が総退陣し、村山龍平社長も退陣した。『大阪朝日新聞』は廃刊の危機を迎えたが,当時の原首相は上野理一社長を呼び、編集方針の変更などの釈明を聞いた上で、発行禁止を見合わせた。 この事件をきっかけに、新聞自体の批判精神は低下して、新聞の企業化が一層進んでいった。
 
■5 出版警察の核心・検閲は発売頒布禁止で
戦前の日本の検閲制度、出版警察の核心は 原稿検閲制による発行禁止ではなく、世界にも類例のない 内務大臣による発売頒布禁止であった。
政府は西欧ブルジョア主義の「出版の自由」を認めず、大量印刷物の流通に対して事前検閲をすることは実際上不可能であるため、ときに応じて権力を行使できる発売頒布禁止を導入したのである。[奥平康弘、1983.132頁]。 この発売頒布禁止権は新聞紙法第23条、出版法第19条でそれぞれ定められていたが、司法審査から独立した絶対的なものであった。 さらに、内務大臣が行使するこの権限は中央集権警察組織下で実質は地方の末端警察が握り、より一層、恣意的に運用、処分がおこなわれたのである[奥平、1983、160-161頁]
 
■6 検閲の基準は当局にとって伸縮自在の弾力運用
では、具体的な検閲の基準はどのようなものであったのだろうか。 当局が新聞紙法第23条、出版法第19条での「安寧秩序素乱」、「風俗壊乱」と規定する基準一検閲担当官が参考にしたものは次のようなものであった。
●【安寧秩序素乱出版物の検閲基準】(一般基準) ▽皇室の尊厳を冒涜する事項 ▽君主制を否認する事項 ▽共産主義,無政府主義等の理論、戦略、戦術を宣伝し、その連動実行を煽動し、この種の革命団体を支持する事項 ▽植民地の独立運動を煽動する事項 ▽非合法的に議主義会制度を否認する事項 ──など計13項目であった。
●【風俗壊乱の検閲基準】 ▽春画淫本 ▽性、性欲又は性愛等に関する記述で淫猥、羞恥の情を起こし、社会の風教を害する事項 ▽陰部を露出せる写真、絵画、絵葉書の類 ▽陰部を露出せざるも醜悪、挑発的に表現された裸体写真、絵画、絵葉書の類 ▽男女抱擁、接吻(児童を除く)の写真、絵画、絵葉書の類 ──などであった。(以上、内務省警保局『昭和五年中における出版警察概観』)
この基準に基づく適用については取締当局によって伸縮自在の「弾力性」をもっていた。 大正時代には-時縮小した禁止範囲は、1932(昭和7)年以降、再び急速に拡大し、社会主義、労働運動に関する著作は以前にましてきびしい取り締まりにあった。 安寧秩序素乱の取り締まりの場合は1920年代に一時禁止基準はゆるむが、30年代になると再びきびしくなった。(油井正臣 他『出版警察関係資料解説・総目次』不二出版、1938年、24頁)。
こうした発売頒布禁止制度とともに、内務省は超法規的な記事掲載差し止めをおこなった。 これは重大事件が起こったとき、この記事を掲載すると発売禁止になるぞ、とあらかじめ警告するもの。新聞側は発禁による不測の損失をまぬがれるために歓迎し制度化したが、もともとは新聞紙法上でも認められた処分ではなかった。 この“差し止め処分”は禁止事項の軽重によって、
① 示達/当該記事が掲載されたときは多くの場合、禁止処分に付すもの。 ② 警告/当該記事が掲載されたときの社会情勢と記事の態様いかんにより、禁止処分に付すかもしれないもの。 ③ 懇談/当該記事が掲載されても禁止処分に付さないが、新聞社の徳義に訴えて掲載しないように希望するもの。
以上の3種類があり、「懇談」は少なかったが、「示達」、「警告」は乱発された。これに触れること、発禁などを受けるため、無視できない。 さらに、これ以外にも、便宜的処分として発禁処分にするほどでない場合は該当の部分のみを切除する「削除」処分や注意だけの「注意」処分もあった。削除処分は1933、34(昭和8、9)年に年間200件、注意処分は1932(昭和7)年には約4,300件に達した。
 
■7 15年戦争と幕開けと言論統制の強化
1928(昭和3)年3月15日には日本共産党に対する一斉検挙のいわゆる“三・一五事件”によって、労農党の関係者ら千五百数十人を検挙し弾圧を加えた。 「新聞紙法」、「出版法」による発禁件数は一挙にはね上がっていく。
1931(昭和6)年9月、日本軍による満州事変の勃発で、中国への侵略、十五年戦争の幕が開く。言論統制は一段ときびしくなっていく。 「安寧秩序素乱」による新聞、出版の発禁件数は翌32年には4,945件と1926(昭和元)年の412件の12倍にも激増して、ピークに達した。
満州事変以降のファシズム化の過程でメディア統制の一つの特徴は新聞紙法、出版法を補完、併用する形で、他の諸規定が利用された点である。 たとえば、出版法による発禁処分に該当しない街頭での選挙ポスター、ビラの類にも、治安警察法(1900年)第16条での往来などでの表現の自由を取り締まる規定を適用するように内務省警保局は指示。これはレコードにも拡大適用され、従来は各府県ごとに任されていた取り締まりが1932(昭和8)年10月から、内務省によって統一的におこなわれ、事実上、レコードの発禁処分をおこなった。 翌34(昭和9)年8月の出版法改正によって、レコード類は出版法による発禁、差し押さえの対象となった。レコードの取り締まりの内容は圧倒的に風俗取り締まりが中心で、兵隊漫才が「軍の統制紀律をみだす」などとして取り締まられた。
1937(昭和12)年7月に、日中戦争が起きると、新聞紙法第27条が発動された。 「陸海軍大臣、外務大臣は軍事・外交の記事の禁止、制限をすることができる」という内容で、陸、海軍省令、外務省令で記事掲載が制限された。
 
■8 検閲から総合的な言論統制へ
日中戦争による本格的な臨戦体制から、マスメディア統制も従来の検閲という消極的な抑圧統制から、国民を積極的に戦争体制に協力、同調させていく方向へ転換、情報操作、プロパガンダ機能を重視した稔合的な組織、体制づくりがおこなわれた。
1938(昭和12)年4月、国家総力戦を目指した準戦時体制の国家総動員法が公布されると、メディア統制も事業面から休止、合併、解散の命令(同16条)という生殺与奪の権限が政府に握られることになった。 記事掲載の禁止、制限という言論面だけでなく、企業体としての生存にかかわる心臓部を押さえられ、その後におこなわれる新聞の統廃合、一県一紙への道を開く結果となる。
さらに、積極的なプロパガンダ体制づくりとしておこなわれたのは、内閣情報局と国策通信会社「同盟通信社」 の組織、設立である。 1936(昭和11)年1月に「電通」、「連合」の両通信社を強引に合併させて「同盟通信社」を誕生させた。内閣情報委員会が万難を排して、合併、同盟発足のために協力した。 政府は世論指導の中心に、この同盟を置き、毎年莫大な交���金を与えて、朝日、毎日、読売などの大手中央紙を巧妙に牽制しながら、言論統制を推進したのである。
情報宣伝システムはさらに太平洋戦争へ向けて整備され、言論統制の最終的な決め手となったのが、用紙統制であった。 戦時体制が進行するなかで、不要不急品の制限という目的で用紙割り当てがおこなわれ、新聞、出版にとっての死活にかかわる用紙の統制が、一つ加えられた。 政府へ批判的なこ怠納やメディアは用紙割り当てをてこに締め出され、弱小紙の整理統合が強引に進められた。 内閣情報局によって立案された統制団体である「日本出版文化協会」が1940(昭和15)年、「日本新��連盟」が1941(昭和16)年に相次いで設立される。 一県一紙を目指した新聞の整理統合は1943(昭和18)年10月に完了するが、新聞は統合前に2422紙あったのが55紙に、出版社は3664社が203社にされていた(塚本三夫「戦時下の言論統制」 城戸又一・新井直之・稲葉三千男 編『講座現代ジャーナリズム歴史』時事通信社、1974年、147頁)。
 
■9 平洋戦争下の言論統制
1941(昭和16)年12月についに日本は太平洋戦争に突入した。 太平洋戦争中にはそれ以前の日中戦争下などとは比べものにならないほど厳重な思想、情報、言論統制がおこなわれた。
【治安、警察関係】 刑法、治安警察法、警察犯処罰令、治安維持法、言論・出版・結社等臨時取締法、思想犯保護観察法 【軍事、国防関係】 戒厳令、要塞地帯法、陸軍刑法、海軍刑法、軍機保護法、国家総動員法、軍用資源秘密保護法、国防保安法、戦時刑事特別法 【新聞、出版関係】 新聞紙法、新聞紙等掲載制限令、出版法、不穏文書臨時取締法、新聞紙事業令、出版事業令 【郵便、放送、映画、広告関係】 臨時郵便取締法、電信法、無線電信法、大正十二年通信省令第八十九条、映画法、映画法施行規則、広告取締法
このほかにも、新聞にかぎると、さらに内務省差止事項、陸・海軍、外務省による禁止事項、宮内省の申し入れ、情報局懇談事項、大本営発表、指導原稿でがんじがらめにされた上に検閲が2重3重におこなわれ、情報局、内務省、陸海軍報道部、航空本部、警視庁検閲課でチェックされた。
検閲の総本山の内務省警保局検閲課には1942(昭和17)年5月当時、85人の担当者が目を光らせていた。 このなかに新聞検閲係があったが、43年中の新聞の事前検閲ほゲラ刷、またほ原稿によるもの約9万件(一日平均250件)。 このうち不許可処分は1万2000件(全体の13%)にのぼった。また、電話によるものは約5万件(一日平均140件)で、合計14万件に達した(松浦総三『戦時下の言論統制』白川書院、1975年、108頁)。
 
■10 コミュニケーションの自己崩壊
こうしたきびしい検閲で、開戦直前の日米交渉での野村・ハル会談は「朝日新聞」の特派員が60数行の特電を送稿したのに対して、最終的にたった2行半に削られてしまった。 交渉内容が書けないのは仕方ないにしても「2人はまず握手を交し」が対米親近感を表現する、「会談一時間」が交渉緊迫感をかもし出す、「交渉はなお続行されるだろう」が前途推測不可でズタズタに削られた結果であった。
太平洋戦争がはじまったころの検閲の実態について、朝日・毎日・読売とわたり歩いた名文記者として知られた高木健夫は次のように述懐している。
「新聞社に報道差止め、禁止の通達が毎日何通もあり、整理部では机の前にハリガネをはって、これらの通達をつるすことにしていた。この紙がすぐいっぱいになり、何が禁止なのか覚えているだけでも大変で頭が混乱してきた。禁止、禁止で何も書けない状態であった」
こうした徹底した検閲の一方で、太平洋戦争の報道のシンボルと化したのが、大本営発表である。 嘘と誇大発表の代名詞となった <大本営発表> だが、戦争の最初の半年間は戦果や被害はほぼ正確であった。 それ以後は戦果が誇張され、最後の8ヵ月は嘘の勝利が誇示された。戦争の全期間を通じて、戦艦、巡洋艦は10・3倍、空母6・5倍、飛行機約7倍、輸送船は約8倍もその数を水増しして発表された。
事実の徹底した秘匿、検閲というコミュニケーションの切断が逆に虚報を生み、増幅して、送り手と受け手の相互関係を成立不可能にしていく。 戦前のファシズム体制を支えたメディア統制の総合的極限的システムはこのコミュニケーションの断絶によって、自己崩壊していったのである。
[EOF]
(出典)→日本メディア検閲史 <新聞法、出版法について> | 前坂俊之オフィシャルウェブサイト http://www.maesaka-toshiyuki.com/massmedia/3838.html
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sonouncrostino · 6 years
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グラナダにくるとん!
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ついに中間テストを終え、秋休みに突入!
10/28~11/2の5日間、スペイン(グラナダ〜コルドバ〜マドリード)への旅に出て来ました。
今回はグラナダ編。出発前日に携帯会社とトラブり、ネットが使えなくなるところからスタート!←
1週間ほど前から、携帯料金の請求に異常を感じていたのですが、お店に行っても店員さんはイタリア語しか話せないし、片言のイタリア語で交渉するも電話番号を渡されここに電話しろと言われ、イタリア語しか話せないカスタマーサービスに電話するため、クラスメイトのイタリア人に助けを求め、電話してもらうもカスタマサービスの人も何も知らない、、、
そんな状況の中、唯一わかった出来事、それは私が何のプランにも入れていないこと。
んなわけ!!!!契約書にはちゃんと書いてるのに!!!!イタリア人ほんと適当すぎ!!!おこ!!!!
衝撃の事実が発覚し、際限なく消費される携帯料金に呆れて、ネットが繋がらない状態のままスペインへ旅立つことになりました。
17時半ミラノ・マルペンサ空港発〜バルセロナ乗り換え〜22時にグラナダ着。
▶︎今回はVuelingというバルセロナを拠点とする格安航空会社を利用しました。easyjet同様、オンラインチェックイン&手荷物のみでスムーズに搭乗。携帯にアプリを入れておけば、航空券を発券する手間もありません。easyjetよりも荷物や時間に関する搭乗ルールはゆるく感じました。乗り心地は可も不可もなく、いい感じ。オススメですね。
グラナダに留学中の友人が飛行場まで迎えに来てくれていたので、一緒にバスに乗り込み市内へ。
グラナダは大学町なので夜でも治安はとても良かったです。
翌日にアルハンブラ宮殿の当日券をゲットするという重大ミッションを控えていたため、その日は大人しく友人のアパートメントに帰り就寝。
翌日、早朝4時に起床。←
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▽ここでアルハンブラ宮殿について
オンラインで事前予約するのが通常の入場券入手ルートなのですが、とてつもなく人気なので3ヶ月前ぐらいから予約しないと入れません。
チケットの種類は、
ジェネラルチケット(アルハンブラ宮殿内すべてのエリアに入場可能): 14€
庭園チケット:7€
夜間チケット:(ナスル朝宮殿のみ)8€ / (ヘネラリフェのみ)5€
で、直前でもツアーなどで申し込めばチケットをゲットすることが可能ですが、価格は40€〜と高くなってしまいます。
詳しくまとまっているサイトを見つけたので、参考にどうぞ。
 http://tabijozu.com/alhambra-reservation(旅行体験記「旅上手」)
 https://tickets.alhambra-patronato.es/en/(公式チケット予約サイト)
 https://onna-hitoritabi.com/spain/granada/alhambra-ticket (ブログ)
3ヶ月前から予約しているわけもなく、私たちは当日券を狙うことに。必勝法はとにかく早起きすること。
友人の家はアルハンブラ宮殿から歩いて30分ほどのところだったので(←なかなかすごい)始発などの心配もなくテクテク早朝の山登り。
10月終わりのグラナダの��朝は本当に寒いです。冬に行く方は防寒対策をしっかりと!
6時ごろ目的地にたどり着くとすでに8人ほど並んでました。驚き。
ちなみにチケットの販売開始は8時から。チケット売り場には現金支払いのみのものと、クレジットカードのみのものがあり、事前に調べた感じではカード支払いの自動券売機が一番買える可能性が高いとか、、!
少し奥まったところにある自動券売機の前に並び、ドヤ顔の私たち。1時間ほど経過し、現金支払いの列が長くなって来たところで衝撃の事実が。
スタッフらしきおじちゃんが一言。
「そこ、使えないから。」
え。待って。え。
うそやん。現金の方もうだいぶ人並んでるし、、、。
急いで現金の列に並ぶも、再び衝撃の事実が。
「当日券:1枚のみ」
え。待って。え。
いや、無理やん。それ無理ゲーですやん。
しかし諦めきれないくるとんと友人。粘る、グラナダ留学中の友人のスペイン語でどうにかして入れる方法をききまくる。何度も無理だと追い返される。しかし粘る。それを見て並んでいる複数のフランス人がじわりだす。めげないアジア人。←
そんなところに怪しげな男性登場。←
その手にはアルハンブラ宮殿の入場券が、、!それもなんと限定20枚!!彼曰く、当日に20人の団体キャンセルが出たから売りに来たのだとか。
怪しい、、とてつもなく怪しい、、しかし藁をも掴む思いで購入。周りにいた多くのフランス人が購入するも、一部のフランス人に偽物だと言われ、絶望のどん底に。
しかもチケットを売り切った直後に男性は驚異の速さで走って消えて行きました。そこで友人が動揺のあまり後を追いかけて走って行く、、(←やばすぎ)
絶望。しかし諦めきれなかった私たちとその他4人のフランス人たちで試しに入場ゲートへ。本物かもしれない、唯一の希望を託して並んでいると後ろに並んでいた、正規のルートでチケットを購入した中国人のおばちゃんたちがめっちゃ励ましてくれました笑 自分たちの持っているチケットと私たちの購入したものを見比べ、きっといける!!本物やで!!!みたいな。笑
そして運命の瞬間、
ピッ(バーコードリーダーの音)
は、入れたぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!
本物だったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!
思わず一緒にトライしたフランス人たちとハイタッチ。謎の連帯感を感じながら一緒に記念撮影。笑
ではここから、アルハンブラ宮殿ツアーのはじまりはじまり。下手な説明つけるよりも写真を見てもらった方がすごさが伝わるので、以降、写真のオンパレードです。笑
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庭園にて。笑
塔の上に登ってグラナダの街を眺めながらぼーっとして、友人としばらく語ってました。贅沢だ、、。その景色がこちら。
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世界って広い。
もっといろんなものが見たい。
そう思わせてくれる光景でした。きっと一生忘れない。
アルハンブラは8時30分に入場したのですが、ゆっくり回って出たのが15時前。とても広いので休憩なども入れて全てをじっくり見ると5時間以上はかかりそうです。
ちなみに朝と昼の温度差が大きく、昼間は火傷しそうなぐらいの暑さでした。体温調節可能な格好で行くことをオススメします。
2時間半睡眠からの、チケット購入の試練からの7時間のwalkingで疲れ切った私たちはアルハンブラを後にして、市内にて遅めの昼食をとりました。
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とても可愛いお店。
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タジン鍋。美味しかった、、、、。
町の様子はこのような感じ。小さくて色鮮やかで、小道や坂道がたくさんあって歩き回るのに最適です。
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さすがに疲労がピークに達したので、一旦お家へ帰ることに。
3時間ほど寝て、再び衝撃の事実が。(←n回目)
友人のアパートのシャワーがガス切れを起こし、お湯が出ない事件。
夜は普通に寒いので、水風呂は厳しい、、ということでグラナダの温泉を検索してみました。すると、スパを発見!
23時半からしか空いていないということで、スペイン語を操る友人が電話で予約を取り、日本人であることになぜか爆笑され、歩いてスパへ。
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このHAMMAMというスパ、チェーン店のようでマドリードやコルドバにもパンフレットが置いてありました。有名みたいです。
水着を着て入る男女混浴型のスパで、サウナやオプショナルでマッサージ、アカスリのコースなどもあります。
(HAMMAM公式サイト:http://granada.hammamalandalus.com/en/)
私は水着を持っていなかったのでレンタルしたのですが、まさかのスクール水着。
大学生になってまさかこのタイプの水着を着ることになるなんて、、、
恥ずかしさ全開で真夜中にグラナダの混浴の温泉に入りました。いい経験←
なにはともあれホカホカしながら歩いてアパートへ帰りベッドへイン。睡眠って本当に大事。
最初はどうなることかと思いましたが、もはや同志となったフランス人たちや中国人のおばちゃんサポーターたちに出会ったり、グラナダの街を目下に将来について友人と語り合ったり、この歳でスクール水着を着たり、素晴らしく貴重な体験ができた1日でした。
翌日は大学のある友人と別れ、1人でコルドバへ行くことに。
次回はコルドバにくるとん!
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karikarainasakuhe · 7 years
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贅沢な研修資料その1
こんばんは。 三連休ですね、嬉しい〜! みなさんはもう少し長いお休みですかね。 ゆっくり身体を休めてください。 そしてお仕事の方はどうぞ体調にお気をつけください。 さて今回は、前回お話しした職員アンケートの中で出てきた 「役所作成のよくわからない冊子(以下ムダ冊子とします)」 についてもう少し詳しくお話ししたいと思います。 このムダ冊子ですが、私は新人研修で観光・シティプロモーションの講義を受けたときに配布されて初めて存在を知りました。 市の名所や観光スポットの写真が載っているA4サイズのパンフレットで、厚手のマットコート紙(と思われる上質紙)を使った贅沢仕様。英語版と中国語版もあるらしく、海外へのアピールもばっちり。 もう見た瞬間に、内容に見合わずお金が掛かっているし採算取れていないだろうとは思ったのですが。 なんと市内の公共施設にて1冊200円で販売していました。 これだけでも開いた口が塞がらないのですが、さらに衝撃の事実が判明します。 「みなさんの手元にあるのは、実は最新版ではありません。一ページ目の市長の名前が前市長になっていますよね。まだまだたくさんあるのですが、使い回すわけにもいかないので、こうしてみなさんにお配りしています。」 …とりあえず、私個人の率直な感想を言っていいでしょうか。 は?正気?ばかなの? (つい口が悪くなりました…すみません) これを推進したであろう前市長は、年始早々に 「今年を観光元年とする!」 と庁内放送で宣言するなど、もう本当にどうしようもない方だったようですが。 とりあえず、私が呆れたポイントについて書いていきます。 まず、『冊子を作って販売する』 これだけインターネットが発達して世に情報があふれている時代です。 出版業界にとっては苦境の時代ですが、それも今に始まったことではありません。 そんな中でも売れている出版物は、今までと違う着眼点やセンスを使って、情報を発信する力に優れているように思います。 情報そのものでなく、ありきたりでない価値観やセンスに対してお金が支払われる時代です。 そんな昨今において、役所の作ったありきたりでセンスも面白みもない冊子が何故売れると思ったのか…。 加えて私の働いている自治体は工業都市なので、そもそも観光産業があまり発達していません。 つまり観光地としてのブランド力が全くないのです。 これが観光地としてブランドのある東京や京都だったら、まだ多少は売れたかもしれません。 だとしても、ただ観光地を紹介するだけの内容でお金を出して買おうとする人がどれだけいるでしょうか。 それなら無料で配布されているポケットサイズのパンフレットでも十分ですよね。 まして観光地でもない、ただ街を紹介した冊子なんて、無料でも欲しくありません。 ブランド力があれば知名度はおのずと上がりますし、逆にむやみに知名度を上げてもブランド力がなければ『何の面白みもない、大したことのない街』で終わります。 知名度が上がる=ブランド力が上がるではないことを、一体どれだけの方が理解しているのでしょうか…。 前回触れたゆるキャラなんかはまさにそれで、ゆるキャラが有名になっても街自体に魅力はないままなんですよね。 ひこにゃんとかくまモンが成功したのは、単にキャラデザインに依るだけではなくて、元からあった魅力ある観光地にもスポットが当てられたからだと思います。 それに私が勤めている自治体は、名前だけで言えばそれなりに知名度はあるんです。 ただ残念なことに負の知名度なんですよね。 だからこそ、なおさらブランディングが必要なんです。 マイナスイメージをどう転換していくのか。 観光としての見どころがないなら、何か一つの分野に徹底的に特化した政策でも、今までやっていない取り組みを始めてもいい。 そういったことをおざなりにして、ゆるキャラで知名度アップ!なんて、呆れて言葉もありません。 しかも8月になってからはPCを立ち上げると、強制的に投票ページが表示されるようになってより一層気分が悪い…。 (なんとか消そうとしましたが、管理者権限が必要で断念…) 税金で観光冊子を作ったもののろくに売れず市長が変わって全回収、新人研修用の配布資料なんて笑えません。 税金をどぶに捨てるとは、こういうことを言うのではないでしょうか。 これだけでかなり長くなってしまったので、続きは次回に。 それではみなさま、よい夜をお過ごしください。
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akimizu-itsuki-blog · 7 years
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アウギュステの迷い猫(GRANBLUE FANTSY)
 風が渡る。  あの日少年の心に灯った果てない冒険への夢は、数奇な出会いを経て大空へと伸び、強く風を掴んだ。  幾多の出会い。  幾多の別れ。 それらは少年の瞳に様々な物を見せる。  喜びも怒りも涙も全て巻き込んで、ファータグランデを行く風のように。  騎空艇は少年の夢を乗せ、今日も駆ける。 [1章 陽だまりの休日]  計器の数値に目をやりながら込み上げてきた欠伸を何とか抑え込み、眼前に広がる雲海に目をやると、それがうっすらと光を帯び始めて行くのが見てとれる。  夜明けが近いのだ。  数日前に少し大きな依頼を片付けた僕たちは休暇と補給、それと船の整備の為にアウギュステ列島に向けて進路を取っている。  航海は概ね順調で、予定では今日の昼頃には港に着く算段だ。 「まとまった休暇が取れるのも久しぶりだなぁ」  三か月ほど前に、アガスティアを中心に在ったエルステの帝政が崩壊した。  動乱のさなか、元凶たる皇帝は行方不明。  その下で秘密裏に暗躍していた宰相も失脚し、空域全土を巻き込んだ一連の衝突は一応の決着を見た。  けれど、戦争は軍事行動が止まればそれで終わりと言うわけではない。  旧王都であるメフォラシュにおいて新政権が動き出した事により、ファータグランデ空域では政治・外交のみならず通商事情にも大きな変動が起��っている。  動乱後の混乱を抑え復興が出来るだけ円滑に進むようにと、シェロカルテ商会を中心に新しい通商ルートの確保、復興に必要な建築資材や食料品に関する価格帯の調整交渉等が整備され始めており、僕らは暫くの間シェロの手伝いで各地を回っていたのだった。  ガコンとドアが開き、大きく伸びをしながら無精髭の操舵士兼騎空艇オーナーのラカムが艦橋に入ってくる。  どうやら交替の時間のようだ。 「おはようラカム」 「おう、おはようさん。特に異常は無えか?」 「うん、計器も問題無いし天候もいいし進路方向にも異常無しだ」  一通りの報告をして僕は席を立ち、替わりにラカムが操舵席に座る。 「順当に行けば昼にはミザレアの港に着くだろう。近くなったら起こしてやるからお前さんは寝ていていいぞ」  そう言ってラカムは煙草に火をつける。 「ありがとう。それにしてもアウギュステも久々だね。カッタクリさん達、元気かな」 「ハッ、あの島の漁業関係者は殺しても死なねえタフなオッサンばっかりじゃねえか。心配するだけ損だ。損」 「はは……そうだね」  アウギュステはこの旅を始めて以来何かと縁のある島で、水の星晶獣の加護を受けた美しい島だ。  僕らは仕事や観光問わず何度も訪れたことがあり、顔見知りも多い。  特に漁業関係者には世話になった人が多く、休暇中に彼らと再会できるかもしれない事は僕が楽しみにしている事の一つだった。 「さて、と」  ラカムに後をお願いして艦橋を離れた僕は、自室に戻る前に甲板に出た。  アウギュステ周辺空域は比較的温暖な気流とは言え、早朝のひんやりとした風に思わず身震いする。  朝日に染まる雲海の絶景を独り占めと思ったのだ。  けれど、甲板にはどうやら先客が既に一人。 「随分と早起きだね、アルベール」 「……む、グランか」  こちらに向き直った銀髪の剣士は流れるような所作で剣を鞘に収めた。  こんな時間から素振りでもしていたらしい。  彼は余り自分の過去の多くを語らないのだが、某国の騎士団出身であると話してくれた事がある。  故有って国を出て旅をしていた折に僕らと知り合い、何やら思うところあったのか以後こちらの旅に同行してくれている。  神業の様な剣の腕前で、ウチの騎空団では正直一対一の剣術試合でこの人に勝てる人なんて居ないし、帝国との決戦の最中にも何度か彼が本気で剣を振るっているのを目の当たりにしたけれど、正直速過ぎて剣の軌道を目で捉えきれる気になれなかった。  時々稽古を着けて貰ったりもしているけれど、彼から一本取れる様になるにはどれ程修練を積まなきゃいけないやら、気の遠くなる話だ。 「昨夜は寝ずの番だったんだろう?眠らんでいいのか?」 「さっきラカムと交替してもらったから、これから一眠りさせてもらうよ。お昼くらいには多分アウギュステのミザレアに着くから、それまでね」 「そうか。ならばゆっくり休むといい。俺はもう少しここで稽古をして行く。どうも年々起きるのが早くなってきて二度寝もできそうにないからな」  ……見た目色男の割に言う事がたまにおじさんぽいんだよな。  そんなツッコミを入れると決まって『誰がおじさんだ!』なんてムキになって否定するので言わないのだけれど。  僕はアルベールに手を振って船内に戻った。 「ふう、流石に徹夜は堪えるな」  自室のドアを開けると途端に睡魔が襲ってくる。  ベッドに腰掛けた僕はそのまま仰向けに倒れこんだ。  ええと、街に着いたらとりあえず船の修繕を手配して。  水と食料と雑貨を買い付けに行って。  ああ、先に商業組合の方に顔出してシェロからの手紙を届けなきゃ……それから……。  天井を見上げながら上陸後の予定を考えていたものの、眠気には勝てずに僕の意識はそこで途切れた。  夢を見ている、と言う認識を持って夢を見る事は珍しい。  幼い頃の自分が、ザンクティンゼルの生家で竜の子供ビィと遊んでいるのが見える。  一緒に絵本か何か読んでいるみたいだった。  ビィは竜族だけれど、人と同じ言葉を操り、文字も読める不思議な竜だ。  長い時を生きた高位の竜族には人と同じ言葉を理解する者もいるけれど、子供のうちから人語を話す竜と言うのは非常に稀だ。  物心ついた時から彼は僕の一番の友達であり、兄弟でもあった。  どちらがお兄さんかって言ったら多分先に生まれたのはビィの方だろうからビィの方がお兄さんなんだろうけど、ビィは昔と姿が全く変わらないし性格もやんちゃなままなので村の皆に聞いたら、今じゃ逆に見えるって言うかもしれない。  ともあれウチは父さんが頻繁に旅に出て家を空ける事が多かったし、最後に会ったのさえもう年何も前だ。  近所の人達も何かと手助けしてくれたけれど、父さんが長旅に出てから僕が家族と呼べる存在はビィだけだった。  僕は、母さんの顔を知らない。  父さんからは、何も聞かされていない。  母さんがどこの国の何と言う人で、どんな人だったのか。  今も生きているのか。  既に死んでいるのか。  その辺りはビィも知らないみたいだし、村の人達も知っているのか知らないのか、終ぞ僕が旅に出るまで誰も教えてくれる事は無かった。  こうなるともういよいよ空の最果てに行ってしまった父さんをとっ捕まえて本格的に尋問しないとわからないので、正直なところこの先もわからないままかもしれないと思うようになった。  やがて夢は次々と場面を変えて流れていく。  全てが動き出した旅立ちの日。  超常の存在、大星晶獣との戦い。  そして空域を巻き込む帝国の動乱。  ファータグランデでの旅を続けるうちに色んな人達の生き方をこの目で見てきた。  平和な都市で穏やかに暮らす、絵に描いたような幸せな家族も居た。  戦乱で傷付いても、魔物に国を荒らされても、強い絆で結び付いて歩み続けた人達も居た。  僕は王様でもなければ政治家でもないので、国全体の平和を守るとか言う話は正直よくわからないし出来るとも思わない。  けれど、少なくとも僕が見てきた人達は互いを絆みたいなもので守りあっていた様に思う。  帝国に囚われていたルリアにとって世界の景色を一変させたのは、国を捨ててまで彼女の自由を守り抜いたカタリナさんだ。  どこか達観して本音を見せなかったロゼッタさんの心を溶かしたのはどこまでも本音でぶつかっていくイオだった。  オイゲンも黒騎士さんとの長年のわだかまりを少しずつ解消していってる様に見えるし、リーシャもモニカさんの信に応えるため偉大な父と言う目標を追って頑張っている。  僕は人が人と支えあう、目には見えない不思議な力を信じたいと思うし、そう言う人達には微力であれ出来得る限りの力を貸していきたい。  あの日、空より高い空から降ってきた彼女も、きっとまだ見ぬ母親との絆を信じているのだから。  目を開けると、目の前に人の寝顔が在った。 「…………」  起き抜けで状況がよく掴めない。  何だか、ほんのり甘い香りがする。  淡い桃色がかった長い髪の……少女。 「――うわあぁっ、アーミラっ⁉」  予想外の状況に思わず跳ね起きる。  自分の顔が一瞬で真っ赤になっていくのがわかる。  何しろ相手は年頃の女の子だ。  知らない顔ではなかったが、知ってる顔なら良いと言うものではない。 「……んん……」  心臓をバクバクさせている僕をよそに、心地よさそうに寝返りをうって、おまけに涎まで垂らしている。 「……お肉……お魚……えへへ」  食い意地の張った寝言に思わず脱力してしまった。  彼女は、アーミラと言う。  今から一年ほど前、ある空域を飛行中のグランサイファーに、突然彼女は上から『落ちて』きた。  一体どこから落ちたのか、落下の衝撃か何かでそれ以前の事をよく覚えていないらしく、彼女の素性を知る手掛かりはまるで掴めなかった。  ただ、どこにあるのかもわからない『ヘルヘイム』と言う地に居る母親を探していると彼女は言い、空の最果て星の島イスタルシアを目指して各地を旅する僕らの旅に同行する事になったのである。  彼女は天真爛漫でよく笑い、よく怒り、よく食べ、よく眠る。  眉目秀麗な顔立ちからはちょっと想像できないほど表情豊かで、奔放な立ち振る舞いは時に子供の様に危なっかしくもあった。  親探しと言うどことなく自分の境遇と通じる物を感じた僕は、以後彼女の力となる事を決めたのだ、が。 「アーミラ、ねえ起きてよ、アーミラ」  未だ夢の中で食事中らしいアーミラを起こすべく、肩をゆすって声を掛ける。  この状況を誰かに目撃されるのはマズい。  誓ってやましい事はしていなくとも、上手く言えないが大変マズい気がする。 「う……ん……ふあ……あれ?……グラン……?」  目を擦りながら欠伸をしている。  もう……『グラン……?』じゃないよまったく……。  どうにもこう、やや世間ズレしている部分は否めない。 「どうしてアーミラが僕の部屋で寝てるんだ……」 「んー……朝御飯の時グラン居ないなーって思ってラカムに聞いたら部屋で寝てるって聞いたから、持ってきた」  見るとテーブルの上に食事が乗っている。 「最初はね、起きるの待ってたけどグラン中々起きなくて」 「……うん」 「何か気持ちよさそうに寝てるなあ……って思ったから」 「……うん」 「寝た」 「……うん……うん?」  いや……最後の部分おかしいだろう。  置いといてくれたら後で食べたのに、と言いかけてテーブルの上の食事に目をやる。  そこで、パンもスープも僕一人分にしては量が多い事に気が付く。 「あれ?……もしかしてアーミラも朝御飯まだ食べてないの?」 「うん、まだだよ」 「どうして?お腹減ってたんでしょ?」 「お腹は減ってたけど……」 「……けど?」 「グラン、一人で御飯になっちゃうよ?」  そして、ぱっと笑顔になり、 「御飯は誰かと一緒の方が、美味しいが沢山になるんだよ」  アーミラの発した台詞にちょっと面食らってしまい少しの間の後、僕は思わず吹き出してしまった。  今の言葉はアーミラと旅をする様になって間もなく、団に馴染めておらず一人甲板でパンをかじっていた頃の彼女に僕が言ったものだ。 「はは、参ったな」 「……?」  小首を傾げるアーミラに、 「いや、何でもないよ。ありがとう。じゃぁ、一緒に食べようか」 「やった!いただきます!」  言うが早いか飛び起きて彼女はパンにかぶりつく。  僕も彼女の向かいに座り、朝食を摂ることにした。  スープは冷めてしまっていたけれど、満面の笑顔で頬張るアーミラと食べる食事はとても美味しいと感じた。  以前訪れた時とは違いアウギュステの観光シーズンは少し前に終わっていて、ミザレアの街の賑わいも幾分落ち着いているように見えた。  船のメンテナンスをラカム達に任せた僕は、ミザレア中心部にあるアウギュステ商工協会にシェロからの書状を届けた後、雑貨の買い出しと食料の買い出しに班を分けて市内を廻っていた。 「ねえグラン!これも美味しいよ、ほらほら!」  買い込んだ荷物で両手が塞がっている僕の口に、アーミラが露店で買った串焼きを次々に突っ込んでくる。 「ひょんひゃにひゅへないっひぇふぁ(そんなに食えないってば)」  アーミラは加減を知らないのでうっかりすると串が喉に刺さりかねないからこちらとしたらヒヤヒヤ物だ。 「ふむ。香辛料関係がもう少し必要だな」  串焼きの強制お替りを必死で回避しつつもごもごやっている僕の横で買い出し品のリストにチェックを入れているアルベール。  こう広い商店街だと個別の店を探すのも一苦労するところだけど、こちらのグループには強力な戦力が付いている。 「香辛料と調味料のお店は……見つけた、こっちよ」  ソーンさんが先頭に立って人混みを縫っていく。  千里を見通す神眼と、千里を射貫く神弓の使い手だ。  とある事情から偶然手にした古代の武器『二王弓』をめぐる騒動をきっかけに出会った全空に名高い最強無敵のお姉さんが僕達一行に付いてきてくれているのにはどんな気紛れがあったのか。  その辺りには未だもって謎が多いのだけれど、 「ねえねえグラン君、この後バターも買い足しておきたいのだけれど。さっきお肉も玉葱もマッシュルームも買ったし、船の調理場で仕込んであるサワークリームも今朝見たらいい感じだったし、今夜は頑張ってビーフストロガノフ作っちゃうんだから」  ……どうも人々の噂に上る『十天衆のソーン』の姿とは大分かけ離れているらしい事は一緒に旅をしていて実感している。  何だか美男子揃いで有名な楽団のレコード盤やら公演の時のパンフレットとかいくつも持っていたし流行りものに敏感な様で、もしかしたら仲間内では一番俗っぽいのかもしれない。  ラカムやオイゲンに言わせると、ああいう感じの性格を『ミーハー』って言うらしいけれど。  そんなこんなで。  当面必要な物資を一通り買い付けた僕らが港に戻る途中。  アーミラがいきなり足を止めたので危うくぶつかりそうになる。 「っとと、……どうしたの?」  アーミラは一点を見つめて動かない。  視線の先を辿っていくと、旧市街へ向かう川に架かる橋の脇、ゴンドラ船の船着き場近くに小さめの箱が置いてあるのが見える。 「……何か、居る」  そう言い終える前に橋の方に駆け出した。 「……居る?」 「ああー、あれは確かに居るわね」  アーミラとソーンさんにはあそこに在る(この場合『居る』と言うべきか)物が何か見えている様だが、僕とアルベールには流石に箱状のような物しか見えていないので慌ててアーミラの後を追いかける。 「グラン!これ!」  僕らが追い付くと、置いてあった木箱を持ち上げたアーミラがこちらに向き直る。  ……ああ、これは確かに『居る』だな。 「ワン!」  仔犬である。 「……仔犬か」 「仔犬ね」  おそらくまだ一歳に満たない茶色のぶち模様のある仔犬が、木箱に敷き詰められた毛布から顔だけ出している。 「ねえキミ、何でこんな所に居るの?」 「クーン?」  アーミラは何やら仔犬に話しかけている。 「ねえねえグラン、この子は何でこんな箱に入ってるの?ここに住んでるの?」  余程特殊な環境の土地で育ったのか、アーミラは俗世と言うか、人間社会の仕組みそのものに疎い。  世の仕組み等に疎い彼女にどう説明したものだろうか。 「……いや、その、この仔犬��多分……捨て犬なんだ」 「捨て犬?」 「何て言ったらいいかな……。人と一緒に暮らしていたんだけど、一緒に住んでいた人間が何かの事情でそれが出来なくなって、それで……ここに置かれたんだと思う」 「……キミ、お家無いのか」 「……キュウン」  奇妙な会話が成立し始めているのか同じタイミングで意気消沈している。 「うーん、手紙でも入ってればと思ったけど、捨てた飼い主の手掛かりになりそうなものは特に無さそうねえ」  箱の中を覗き込みながらソーンさんが言う。  しかしこれは困ったな。  生まれ持っての野良犬と違い、人の家で飼われていた仔犬が捨てられた場合、その先無事に生きて行ける可能性は著しく低下する。 「全く無責任な飼い主も居たものだな。こんな仔犬が放り出されたらどうなるのか想像もできんのか」  アルベールはやれやれと言った風に肩をすくめた。  ミザレアのような都市圏では愛玩動物として飼われる犬は大半を宅内で過ごす場合が増えているらしいので、正直こんな場所に野生のかけらもない仔犬の身で捨てられてはたまったものではないだろう。  僕らの会話を聞いて暫く何事かを考えていたアーミラはやがて僕の方に仔犬の入った箱をずいっと近付けてくる。  ああー……、まあやっぱりそうなるよね。 「グラン、この犬――」 「……連れて帰りたい、って言うんだろう?」 「だめ?」  ……犬と一緒に見上げて来るんじゃない。  どの道言い出したら聞きそうにないし、孤独な身の上故にそう言った事に心を動かされやすいのは充分過ぎる程理解できた。 「僕も一緒にお願いしてあげるから、まずラカムに話を通す事。それからこの子の世話をちゃんとする事」 「やった!良かったね!」 「ワン!」  仔犬の箱を持ったまま飛び跳ねている。  騒々しい休暇になりそうだなと、日の暮れ始めた空を見上げてアルベールが苦笑いした。  正直僕はラカムが難色を示すんじゃないかと思っていたのだけれど。 「やれやれだな、全く。ウチのお嬢さん方は怖いねえ」  どうやら小動物に心を奪われた女性陣の有無を言わせぬ圧力に気圧されたらしい。  餌やりや掃除をきちんとする事と航海の安全上機関室のある区域には近付けない様に廊下に柵を設置する事を条件に、仔犬の乗船は許可される事になった。  とりわけルリアとイオなんかはもうすっかり気に入ってしまったらしく、代わる代わる延々撫でまわす始末だった。  軍出身のカタリナさんは「上手く躾ければ、狩猟等で活躍できるのではないか」みたいな事を大真面目にリーシャと話していたけれど、あの野生のカケラも無い、撫でまわされる能力特化みたいな小型犬に何を期待しているんだろうか。  ああ、ビィなんかは逆に舐め回されて涎でベトベトになってしまって辟易していたからビィにだけは効果覿面かもしれない。  まぁそんな感じで船の同居人(?)が増えたまでは良かったが、僕個人的には非常に由々しき懸念事項が発生している。  一つは、機関室エリアから最も遠く、何やかんや空きスペース等の観点からあの犬の居室が当面僕の部屋になった事。もう一つは―― 「こら!ダメだろ!」  ……廊下をバタバタと騒がしいのが近付いてくる。  『彼』が出入りするため半開きにしてあるドアから全身ずぶぬれの仔犬が駆け込み、僕の膝の上に飛び乗ってくる。 「うわっと」  ああ……冷たいよ。  もう僕のズボンまで……。  その後からブラシを持った髪も服も泡まみれのアーミラが突入してきた。 「グラン!『だんちょー』捕まえてて!私は『だんちょー』をお風呂に入れなければいけないんだ!」  ……。  まぁ、お察しの通り。  『だんちょー』とは団長の意味ではあるが僕の事ではない。  今僕の膝上に鎮座しているお犬様に付けられた名前だ。  ルリアが「何かグランに目つきが似てると思うんです」とか言い出したせいで女性陣を中心に謎の盛り上がりを見せ、「ムスッとした時の顔が似ている」だの何だのと散々な言われようだった。  あまりに皆のツボにハマったのか危うくそのまま僕の名前を奪われそうだった所をどうにか役職の方を献上する事で事なきを得たのだ。  ……自分で言ってて悲しくなってきた。  しかし捕まえててとは言われたものの、捕まえようにもヘタに動けばすぐ逃げそうだぞ。 「あー……アーミラ、その……ほら、そこら中水浸しだし、アーミラもずぶ濡れだし」 「……だんちょー、大人しくして。キミは、私が洗うんだ」  うーん、目が血走ってるなぁ……。  船旅に於いて衛生面に気を遣う事は必要な事とは言え、事情を知らない団長(仔犬)は風呂で洗われるのが余程嫌なのだろう、アーミラの方に身構えて警戒している。 「…………」  にじり寄るアーミラ。  身構える団長。 「…………」  両者の睨みあう事しばし。 「お風呂に……入れ!」 「ワン!」  団長を捕獲しようと飛び掛かるアーミラ。 「うわっ」  一瞬速く団長(犬)が僕の膝の上から頭の上に飛び移る。 「させない!」  アーミラはそのまま返す刀で捕まえようと上に向かって手を伸ばし――  結果、団長を無理矢理空中キャッチした体制のままのアーミラが飛び込んでくる事になり、僕はアーミラを受け止めたまま勢いで後方に倒れ込む格好になった。 「む、ぐ」  丁度様子を見に来たラカムが部屋を覗き込んで来たが、 「まぁ……その、何だ。若ぇのはいいが……程々にな」  はたはたと手を振って出て行ってしまう。 「待ってくれ、誤解だ!」  アーミラに圧し掛かられた状況で誤解も何もないと言われればそれまでだが、その時の僕が絞り出せる言葉はそれだけだった。  ああ、でも、しかし。  確かにそれは何というか、とても柔らかいものなのだなと思った。  ソーンさんの郷土料理と言う夕食は皆に好評で、ソーンさん自身会心の出来だと終始自慢げだった。  何でも、彼女の故郷周辺を昔治めていた領主ストロガノフ候とか言う人に由来する料理なのだとか。  肉と玉葱とサワークリームの取り合わせは絶妙でアーミラとルリアが高速でお替りを繰り出していたが、オイゲンなどは『このシチュー美味えな』等と言っていたから細かい区別がつかなかったようだ。  食後にカタリナさんが『今度是非ご教授願いたい』とか指南を頼んでいたので、こればかりは命に代えても阻止しなければならないと何人かと目配せしたのは秘密である。  ソーンさんの気遣いで有難かったのは団長(犬)用に、薄い味付けの鶏肉のスープを別に作って冷ましておいてくれた事だ。  人間と同じ食べ物の残飯を与えたりする印象があったのだが、あれはどうも犬の胃袋的にはあまり宜しくないらしい。  幾つかお犬様レシピを教えてくれたので、今後は僕でも作る事は可能だろう。  団長は用意された食事を一心不乱に平らげて、今は僕の部屋に戻ってアーミラとまた取っ組み合いでじゃれあっていた。  僕はと言うと机でこうして航海日誌を書きつつ、僕のベッドの枕が犬の爪で引っ掛かれたり、シーツが引き裂かれたりしていく様を只々哀しみと共に横目で見届ける事しかできない状態である。 「ねえ、グラン」 「何?」 「だんちょーのお母さんて、どんな犬なんだろうね」  団長を『高い高い』しながらアーミラがポツリと呟く。  仔犬が捨てられていたくらいだ、母犬が元気で幸せに暮らしているとは想像しにくい。  けれど、それをアーミラに伝える事は酷な気がした。 「うーん、その子が茶色のぶち模様だから、同じ模様かもしれないな」  だから、僕はそんな当たり障りのない返事しか返せない。 「あはは、そっか」  団長は仔犬の体力ではしゃぎ疲れたためか、アーミラに頭を撫でられて大人しく目を細め始めている。 「ねえ、グラン」 「うん?」 「ならさ、私のお母さんも、私に似てるのかな?」 「……アーミラ」  思わず日記を書く手を止めてしまう。  そうか。  船に落ちてきたショックか何かで記憶があやふやだって言ってたけど、それはつまり母親の顔も思い出せないって事なんだな。  それでも会いたいと言う思いと、何処とも知れない地『ヘルヘイム』に行けば会えると言う謂わば根拠のない確信だけを支えに、諦める事無く生きているのだ。 「そうだね。アーミラに似て、元気いっぱいのお母さんかもしれないなあ。よく笑って、よく怒って、よく食べて、よく――」 「……ねえ……グラ……ン」 「……」 「会える……かな、お母さん……に」  アーミラの方を見ると既に半分夢の中の様で、抱え込んだ団長と共に小さな寝息を立て始めていた。 「……きっと……」  僕は、只の騎空士だ。  よくある冒険小説の主人公の様な、世界を滅ぼす悪い魔王を退治する一騎当千の勇者様でもなければ、国を治める立派な王様でもない。  僕がどんなに頑張っても、両の手で掴める人しか助けられない。  けれども――  だからこそ――  目の前に映る人一人の力になる事だけは、絶対に投げ出さないって、決めたんだ。  何よりエルステとの戦いで絶望的な状況にあっても、持ち前の明るさで隣に立って戦ってくれたアーミラが笑っている姿を、例えイスタルシアを目指すこの旅が終わった後でも見ていたいと言う思いが、僕の中に芽生え始めていた。 「連れて行くよ、アーミラ。君のお母さんの所へ。だから、一緒にヘルヘイムへ行こう」  眠りに着いた彼女に毛布を掛けた所で、自分の独り言に急に気恥ずかしくなってきた僕は、慌てて椅子に座り直して航海日誌の続きを書き始めたのだった。 「……寝る場所……どうしよう」  秋の初め、アウギュステの夜は更けていく。                                                      水のにおい       砂のぬくもり              貝殻のこえ  風のおと      星のひかり           お母さんのて [2章 宿り木]  ――まずい。  身動きが取れない。  思考も上手く働かない。  息苦しさに目を覚ました僕は、視界が開けない事に違和感を覚えた。  これは、一体何だろうか。  顔に何か、ふかふかした柔らかいものが覆いかぶさっている。  確か僕は……そう、遊び疲れて僕のベッドで眠ってしまったアーミラに毛布をかけて航海日誌を書き終えた後、自分の寝床をどうするか頭を悩ませることになったんだ。  アーミラが僕のベッドで眠ってしまったからと言って、僕がアーミラのベッドで眠るわけにもいかない。  とは言え表で寝るのも間違いなく風邪をひく。  そう言う経緯もあって結局、予備の毛布だけ取り出して床で寝る事にしたんだった。  ……つまり、その。  この部屋には僕とアーミラが居て。  僕の顔に覆いかぶさってるとても柔らかい、けれど程よく弾力のある、もふもふとした…………もふもふ? 「…………」  僕はその存在の事を思い出し、顔に圧し掛かった『それ』を引き剝がした。 「……お前か」  そこに居たのは茶色いぶち模様の仔犬。  ミザレアの街に捨てられていた所を買い出しで街に出ていた僕らが拾い、この騎空艇で飼うことになったのだ。  名前は『団長』と言う。  ……団長である。  目つきが似ているとか言う理由で危うく『グラン』と名付けられそうだった所を苦肉の策で回避した結果なのだが……。 「それにしても寝相の悪い犬だなあお前」  引き剥がされて宙ぶらりんの状態でもまるで起きる気配がない。  元の所に戻そうと団長を抱え上げて立ち上がると、アーミラはアーミラで僕が掛けておいた毛布をものの見事に蹴っ飛ばし、あまつさえベッドから上半身だけがずり落ちている有様だった。  何と言うか、これはこれでもう曲芸の域ではないだろうか。 「ああもう……!」  流石にこれも放置すれば体調を崩しかねないし、この状態に毛布だけ掛けるのもそれはそれで可哀そうと言うものだ。 「アーミラ、風邪をひくよ、アーミラってば」 「……うー……ん……」  ゆすっても小さく呻くだけだ。  ……こちらも動かざること山の如しか。  それならそれで、そもそもこんな体勢にならないで欲しいものだが。  とりあえず団長を枕の上に寝かせ、今度は爆睡しているアーミラを抱え上げる。  幸せそうな寝顔だが口の端からはしっかり涎を垂らしていた。  また食事の夢でも見ているのだろう。  僕は思わず苦笑して、 「魚は美味しいかい、アーミラ」  眠っているアーミラにそんな言葉を投げかけて、ベッドに下ろそう��したその時だった。 「……もどりかつをぬす!待てー!」  夢の中であの巨大魚でも捕まえようとしたのか、いきなり前方を抱え込もうとその腕が動き、僕はそのままアーミラにしがみつかれる様な形で倒れ込む。 (ちょっと、アーミラ!苦しい苦しい死ぬ死ぬ死ぬ!)  夜中で騒ぐわけにもいかなかったので小声で何とかアーミラを起こそうとするが彼女は依然夢の中。  余談だが、アーミラはその細腕に反して団内最強の怪力を持っている。  その力には彼女が持つ特別な魔力が起因しているのではあるが……今はそんな悠長な事を言っているうちに僕が天に召されかねない。  どうにか自分の首とアーミラの腕の間に自分の腕を差し入れて空間を確保し、絞め殺されるだけは回避したが、それ以上は最早どうにも逃げられそうになかった。 「ふへへー……かつおぬすー……あるばこあー……」  この上なく呑気な寝言が至近距離の蠱惑的な唇から漏れ出てくると言う状況と、寝ぼけたアーミラに締め殺されるかもしれないと言う極限状態が同居する中、彼女が起きるまでの間、色んな意味で命の危険と戦う事となったのである。  翌朝甲板で項垂れていた僕の肩をポンポンとラカムが叩き、諭す様に言った。 「まぁ……その……ナンだ。若気の至りも程々に、な」 「断じて違う!」  僕の弁解は、虚しくアウギュステの空に吸い込まれて行く。  ミザレアからやや北西、地理的な意味でのアウギュステ本島中心部にバルハと言う地域がある。  元々は郊外の漁村だったが、その砂浜の美しさと波風の削り出した雄大な景観を売りにこの十年程でアウギュステ観光業の主軸となった。  夏場は休養地としてファータグランデ中から観光客が訪れるが、海水浴のシーズンも終わり秋になると人影もややまばらになりつつあった。 「よお、騎空士の兄ちゃん達……よぉく生きて帰って来やったなぁ……!心配しちょったきに……!」  宿に着くと、懐かしい顔が出迎えてくれた。 「お久しぶりです。お元気そうで何よりです」 「馬鹿を言うなぁ、坊主が一丁前の口利くようくじゅうて……十年早いぜよ」  そう言って笑いながら僕の肩をバンバンと叩く。  年月を重ねた眼尻には小さく涙が見える。  そうか、最期に会ったのアガスティアに乗り込む前だったもんな。  カッタクリさんはこのバルハ近郊の漁村で最高齢の漁師だ。  これまでに釣り上げた大物は数知れず、地元はおろか、アウギュステ中の漁業関係者で知らない人は居ない。  シェロから聞いた話では、僕らが去年漁の手伝いをした時期から間もなく遠出の漁からは退いたらしい。 「お魚釣るの止めちゃったって聞いて心配してたんですよ!」  以前から懐いていたルリアは再会の嬉しさで飛び付いたりしている。  孫でも可愛がる様にルリアの頭をポンポンとやりながら、 「まぁカツウォヌスみたいな遠出の大物釣りはなぁ。去年腰痛めてからは控えちょった」  漁協の若手が育ってきた事もあって、ぼちぼち後進に道を譲ると言うことらしい。 「けんどシェロの嬢ちゃんから宿の方でおらの包丁の方を振るってくれって話になってなぁ。最近はここの板前の方が本業になっちゅうが」  慰労も兼ねて宿を手配してくれたのはシェロだったけれど、ここもシェロの経営する宿だったのか……。 「なんつーか、もうどこで何を買ってもアイツの掌の上って気がしてくるな」  ラカムと僕は顔を見合わせて苦笑するしかなかった。  カツウォヌスを始めとした地元の魚介を使った料理は素晴らしいの一言だ。  タタキに煮魚焼き魚、吸い物揚げ物より取り見取りである。  カッタクリさんの料理は、優れた料理人だった今は亡き奥さんから継承したと言う知識と技術に裏打ちされた確かな物だ。  特に彼が出す料理に使われる『味噌』『醤油』と言った調味料はファータグランデには元々無かった他空域由来の『東方文化』の産物らしく、このあたりの文化圏の僕らはこれまで殆ど触れる事のなかった味付けだ。  そのお陰もあって宿の人気は上々とのことだった。  僕などはどれから手を付けていいか逆に迷ってしまったほどである。 「いくらでも食べられますね!」  地酒を旨そうに味わっているロゼッタさんとカタリナさんの横で、ルリアが猛烈な勢いで海鮮丼をお替りしていた。  さっきから時折イオがルリアの口元を拭いてやり、インターバルを挟んだ食の獣が再度動き出すと言った光景が繰り返されている。  いつも感心するのだけれど、あの量の食べ物があの細身の一体どこに吸い込まれているんだろうか……。  かと思えば僕の隣ではアーミラがカツウォヌスの塩焼きに頭からかぶりついている。 「アーミラ、カツウォヌスは骨が大きいから丸かじりはしなくていいんだよ……」 「もご?」  一方我らが団長(犬)はと言うと、煮魚を薄味で作って貰ったものをソーンさんが冷まして食べさせてくれていた。  この人は本当に細かい気遣いができる人だなぁ。 「でも、貸し切りだなんて豪勢な話よねえ。私もシェロとは長い付き合いだけれど、あの子本当に底が知れないわ」  ハーヴィン族は一見しただけでは年齢がわからないので実際シェロカルテが何歳なのか僕は知らないし、女性にそれを聞くのははばかられる。  各国の政治経済の中核に対するあの人脈の広さと、それを相手取りながら着実に影響力を拡大する卓越した商才は一朝一夕でものにできるとは思えないし、実のところ身内で一番謎が多いのは彼女かもしれない。  何にせよ、アガスティアの動乱が決着してから戦後処理の手伝いで走りっぱなしだった僕らにとっては願ってもない労いと言えた。 「ほらほらグラン!これも美味しいよ!」 「ふぉーふをいひふぁひふっふぉふふぉひゃひぇひゃやい(フォークをいきなり突っ込むのやめなさい)  ……アーミラからの労いは少しばかり力押しが過ぎるとは思うのだけれど。  明くる日、僕らはそのまま海岸で思い思いに羽根を休める事となった。  泳ぐには少々涼しくなっているとは言え、普通にしている分にはまだまだ薄着で問題ない陽気だ。  逆にシーズンが過ぎて海水浴客がいないのをいいことにオイゲンとラカムは昨年もやっていたサーフィンとか言う波乗り遊びに興じている。  曰く、多少海水が冷たくても関係ないらしい。  ルリアとイオはカッタクリさんに釣りを教えて貰うと言う話になって、保護者のリーシャ、ロゼッタさん、それとカタリナさんもそれに付き添って、堤防の方でワイワイやっているらしい。  ルリアの頭の上にパタパタ羽ばたく小さい影が見えるからビィもそっちに行っているようだ。  そして僕とアーミラ、ソーンさんとアルベールの四人及び団長はどうしているかと言うと。 「ほら、アーミラちゃん。あの岩の間の水���まりに蟹が沢山いるわよ」 「おおー……変な動き」 「ワン!」  家事炊事からお子様の引率まで何でもござれのソーンお姉さんが岩場の水棲生物やらの課外授業中なのであった。  僕はてっきり彼女は船虫とかがダメだったりするのかと思ったのだけれど、 「私、山育ちで多足系見慣れてるから」  ……との事である。  それと、普段あの十天衆の正装(?)らしき仰々しい格好をしているので、こうして非常にラフな格好をして磯遊びしているソーンさんと言うのも中々珍しく新鮮な感じがした。  アーミラと団長は蟹を捕まえようと先ほどから何度か狙いを定めて手を伸ばしているが、意外と素早い蟹を中々捕まえる事ができないようだった。 「ここは俺に任せて貰おう」  いつの間に用意したのか、釣り糸の先に干したイカの切り身を結び付けたものを垂らしたアルベールが器用に蟹を釣り上げて見せる。 「昔取った何とやら、というやつだ」  あれ子供の頃村の池でザリガニ釣るのに似たような方法を父さんに教わったことがあるなあ。  アルベールがあの生真面目な顔つきで案外わんぱくな子供だったのかもしれないと想像すると面白くてちょっと吹き出しそうになる。 「グラン!見てみて!凄いでしょ!」 「ワン!ワン!」  アルベールに釣って貰った蟹をバケツに入れて自慢気に見せてくるアーミラと団長。  『何で君らが誇らしげなの』と内心苦笑しつつ、アーミラ達の頭を撫でてやる。  屈託のない笑顔を見ているだけでこちらまで元気が湧いてしてしまうのだから僕も現金なものだ。  只一点、やりとりを眺めていたソーンさんがニヤニヤしながら『グラン君、お父さんの目になってるから気を付けた方がいいわよ』とこっそり耳打ちしてきた事には遺憾の意を表明したいと思った。  散々遊んだ後、浜の方へ戻る途中で仲良く手をつないだ母子連れとすれ違う。  アーミラは何度か振り返った後、 「私もお母さんと手を繋いでみたかったな」  などと言い出した。 「…………」 「…………」 「……わ、わかったわよ」  僕とアルベールによる無言の圧力を受けて、 「アーミラちゃん、ほら」  と、アーミラの手を取るソーンさん。 「おお……えへへ」  余程嬉しいのか、繋いだ手をぶんぶん振っている。 「うーん、何なんでしょうね、この感じ」 「ああ……何なんだろうな」  僕とアルベールはそんな二人のやりとりに思わずほっこりしながら後を追う。  ソーンさんも隣であの無邪気オーラにあてられてすっかり癒されている様だったが『お母さんの顔になってますよ』と言う言葉は言い終える前に顔面を撃ち抜かれそうな気がするので流石に止めておこうと思った。 「凄いなルリア達、大漁じゃないか」  僕達が砂浜に戻ったのとそう変わらないうちに、釣り組もサーフィン組も上がって来た。  ルリアとイオは小さめのバケツ、カッタクリさんは大きめのバケツに目いっぱいの釣果が入っている。 「嬢ちゃん達はげにまっこと筋がいいちゃ。こいつぁおらもざんじ追い越されちまうかぁらん」 「やりましたね、イオちゃん」 「ま、このくらいはね」  釣り名人のカッタクリさんに褒められて、二人は嬉しそうに顔を見合わせている。  後ろでカタリナさんが微妙な顔つきをしていたので、 「……ビィ、カタリナさん具合でも悪いの?」 「あー……姐さんホラ、釣り餌のイソメがダメみたいでよ……察してやってくれ」  そう言えばこの人虫とかウニョウニョ系全般ダメだもんな……。  約一名が精神的負傷を負った事を除けば各々海を満喫出来たようだ。 「こりゃあ今日も旨い魚にありつけそうだぜオイ」  オイゲンもラカムも酒の肴に期待出来ると上機嫌だった。  このおじさん達は二日続けて宴会するつもりなのだろうか……。  陽も傾き始めた宿への帰り道。  疲れて寝てしまった団長(犬)を抱え、アーミラがポツリと呟く。 「毎日こんな楽しかったらいいのにね」 「……そうだね」  段々と赤く染まっていく空を見ながら僕も頷く。  現実がそう都合よく行かないのはわかっている。 帝国の動乱はひとまずの終結を見たけれど、ファータグランデ空域だけで考えても外交的に揉めている国家なんて沢山あるし、強力な魔物との戦いが終わらない地域もある。  種族も文化も異なる勢力が混在した世界で、それぞれが各々の側の幸福を最大限取るために動けばどうしたって歪は出る。  一枚の布を引っ張り合えば、掴めない者や掴んだ部分が破けてしまう者もいるのだ。  アーミラ自身も僕らと一緒に旅をしていて、自分の呟いた言葉が現実と乖離している事は直感的に理解しているのだと思う。  だからこそ、それは世界の在りようと関係なく真っ直ぐな彼女の口から出た混じりっ気のない『願い』であるように思えた。  夕食の後僕達がロビー通ると、宿の支配人さんが困ったような顔で誰かと話をしているのが目に入った。  支配人さんが話している相手は旅行者風の二人で若い母親と七、八歳くらいの娘さんの様で―― 「……あれ?」  あの親子、昼間海ですれ違った親子連れではないだろうか。 「……何とか、お願いできませんでしょうか」 「うーん……そうは言いましても……」  母親の方が何か頼んでいるみたいだけれど。  アルベールが支配人に何かあったのかと聞くと、親子連れが宿泊希望で来たのだが、貸し切りと言う事になっているのでお断りしていたらしい。  だが他の宿屋は観光シーズンにしか営業していない所が大半で最後に辿り着いたのがここらしく、母親は客室でない空き部屋でもいいから何とか……みたいな話をしているようだった。  娘さんの方なんてもう眠そうでウトウトしているようにも見える。  僕が皆の方を見ると一同意図を理解してくれた様で、すぐに頷いてくれた。  僕は支配人さんに、 「僕達でしたら構いませんよ。貸し切りと言っても元々シェロが取ってくれたものですし」 「いや……そうはおっしゃいましても……」 「シェロの方には後で僕らから事情を伝えますから、どうか、お願いします」 「……畏まりました。ではそのように」  言って支配人は従業員に部屋の手配を命じ、親子連れに状況を説明する。 「ありがとうございます……何とお礼を言ったらいいか」  母親の方がこちらに向き直って恭しくお辞儀をしたが、 「あ、いや全然気になさらないで下さい。それよりお子さん、眠たそうですしゆっくり休ませてあげた方が」  何だか照れ臭くなってしまい、僕はその場を後にしたのだった。 「……あのご婦人、おそらくワケ有りだな」  僕とアルベールの部屋に酔っぱらったラカムとオイゲンが押しかけてきて、例の親子連れ���ついてあれやこれやと勝手な妄想を垂れ流している。  最初はおじさん二人組だけで盛り上がっていたのだけれど、酒を飲まされたアルベールまでこんな事を言い始める始末で、僕はすっかり辟易してしまった。 「もう三人とも好き勝手な事言って、あの人達に失礼だよ」 「かーっつ、お子様にはまだワカランかねぇ。ああ言うちょっと陰のある美人がよう、年端も行かねえ子供と二人で旅してるってんだぜ?」 「ズバリ、未亡人しかねえやな?」  酔っ払いの下世話な妄言とは言え、素面の僕はこれ以上付き合いきれないと思ったので三人が寝てしまうまで部屋を出ることにした。  とは言えどうしたものか。  色々考えたが女性陣の部屋にお邪魔するわけにもいかないので、食堂に降りてお茶を貰いしばらく呆けて過ごす……事にしたのだが、 「少し、よろしいですか?」  ドキリとして顔を上げると、先程の母親が立っていた。 「えっ、あ……はい、どうぞ」  僕が慌てて姿勢を正して座り直すと彼女は少し柔らかく笑って向かいに座る。  癖のない、艶やかな黒髪の美人で落ち着いた雰囲気を全身くまなく纏っている。  何て言うか、大人な人だな……いや、実際大人なんだけれども。  仲間内ではロゼッタさんあたりも大人の女性然としてはいるのだけど、ロゼッタさんは何というか、非常にアグレッシブなアピールがある。  一方この人はそれとはまた少し違う感じがする。  形容するのが難しいのだけれど、敢えて評するならオイゲンが言っていた『少し陰のある美人』と言う言葉がまぁ、一番妥当なのかもしれない。 「本当に、助かりました。どこも夏場だけの営業か、やっている宿は満室ばかりでどうしようかと思っていたんです」 「ああ、いや全然、構わないんですよ!貸し切りって言ったって、知り合いの商人に仕事の慰労で取って貰った宿でしたし……」  ううむ、何か緊張して上手く言葉が出てこない。 「まぁ、まだお若いのにそんな大きなお仕事しているんですか?」 「あ、ええその、僕ら一応騎空団で……その知り合いの商人が沢山仕事振ってくれていて」 「騎空団……では色んな島を旅してらっしゃるの?」 「ええ、あの、はい」  何て気の利かない返答をしているんだ、僕は。 「…………そう」 「あ、そのスミマセン、その……」  僕はもしかしてこの人に、顔も知らない、生きているかもわからない母さんを重ねて見ようとしているのだろうか。  いやいや流石にそれは年齢的に失礼過ぎるだろう僕。  ああどうにも調子が狂う。 「ふふ、面白い人」 「…………」 「娘に旅疲れが出ていたので、本当に助かりました」 「あ、グラン君!こんな所に居たのね」  少し慌てた様子でソーンさんが食堂へ降りて来た。 「どうかしたんですか?」 「それが昼間はしゃぎすぎた疲れが出たみたいでイオちゃんがちょっと熱出しちゃって。今廊下で支配人さんに聞いたんだけどお医者さん、夏場以外は街まで行かないといないみたいでどうしようかと思って探してたのよ……」  ……ミザレアまで馬を飛ばしても移動だけで往復2時間はかかるけれど、この際仕方ないな。 「ソーンさん、僕今から街へ行って――」 「あの」 「ああ……すいません、僕ちょっと出なきゃいけなくなっちゃって……」 「いえ、その……お連れの方、風邪をひいてしまったんですか?」 「ええ、どうもそうみたいで……」 「でしたら少し、ここで待っていて下さい」  母親がそう言って足早に部屋の方へ戻って行く。 「何グラン君、あの人ともう仲良くなったの?」 「仲良くなったって言うか、今さっき偶然ここで会って少し話してただけですよ」  僕がそう言うとソーンさんは少し意地の悪い笑みを浮かべる。 「あんまり八方美人だと大人になって苦労するわよ?」 「べ、別に八方美人なんてつもりは……」 「将来やきもち妬かれたら……グラン君の場合、相手が相手だけに死んじゃうかもしれないし」 「い⁉いや、僕は誓ってそんな事するつもりは――」 「んー?その言い方は何だかんだやきもち妬かれたい相手に思い当たる節があるって事よねえ?」  ……この人絶対わかっててからかってるな。 「あの、お待たせしました」  そうこうしていると一旦部屋へ戻った母親が戻って来て僕に小さな瓶を二つ手渡す。 「娘も体が強い方ではないので……常備している解熱剤です。少し冷ましたお湯で飲ませてあげて下さい。もし症状が重くなる様ならもう一方も」 「薬……」 「泊めて頂いたせめてものお礼です。遠慮なさらずに」 「あ、ありがとうございます!」 「いえ……このくらいでお礼になれば幸いです。では、おやすみなさい」  そう言って彼女は再び部屋へ戻って行く。 「あ、あの!」 「……?」 「僕……グランと言います。ほんと、ありがとうございました」  僕が礼を言うと女性はふわりと微笑んで、 「サウラと言います。お休みなさい、グランさん」  軽くお辞儀をして部屋へ戻っていく。  僕はしばらくの間、彼女が去っていった方をぼうっと眺めていた。  昨夜のうちにイオの熱は下がった様で、朝食の時にはすっかり元気になっているようだった。  間もなく昼に差し掛かろうと言う頃にサウラさんが娘さんを連れて食堂に降りてきた。 「おはようございます、グランさん」 「お、おはようございます、サウラさん。昨晩は薬、ありがとうございました。ほら、イオ」 「あ、ありがとうございました」  イオがサウラさんに丁寧にお辞儀をする。 「ふふ、元気になったのなら何よりです」  サウラさんが穏やかに目を細める。  丁度イオが顔を上げると、サウラさんの後ろに隠れるように立っていた娘さんと目が合う形になった。 「この子はララと言います。生まれつきその……言葉が話せませんが、よかったら仲良くしてあげて下さいね」  サウラさんがスカートにしがみついているララちゃんの頭をポンポンとやっている。  ルリアとイオは早速ララちゃんの手を取って、 「わぁ、私、ルリアって言います!」 「イオよ。よろしくね」  などと言って握手した手をぶんぶん振り回している。  このあたり、ルリア達の適応力の高さは流石と言うほかない。  状況がよくわかっていないラカムとオイゲンが目を丸くしてこっちを見ている。  これは後で何か言われそうだな……まあおじさん達は泥酔して朝までぐっすりだったから致し方ない。  ルリア達の方に目を戻すと、団長(犬)も混じって三人と一匹でワイワイやりはじめている。  ララちゃんは感情表現が苦手なようだったが団長に興味が沸いたのか、しゃがみ込んで手を伸ばしていた。  間違って噛んでしまったりしないだろうかとヒヤリとしたけれど、団長(犬)は差し出された彼女の手を受け入れて大人しく頭を撫でられている。  ララちゃんの表情が心なしか柔らかくなったように見え、団長(犬)もその手が気に入ったのか、そのうち彼女の手を舐め始めていた。  ……ちなみに。  注釈を連発しているのは僕自身の名誉のためであるのだが。  閑話休題。 「それで、サウラさん達はどうして季節外れのこんな所に二人でおっごぅふ……!」  いきなり無粋な質問を始めたオイゲンの脇腹にカタリナさんの拳がめり込んでいる。  オイゲン……デリカシーが無いのは素面でも一緒なのか。 「サウラ殿、うちの者が大変失礼な事を……申し訳ない」 「いえ……お気遣いなく。戦争で夫が他界してから二人気ままに各地を旅しているので」  予想はしていたものの、だいぶ重たい答えが返ってきて沈黙が広がってしまう。 「あー……昼食の後、サウラさん達も一緒に浜で遊びませんか。ウチのチビ達もお嬢さんと仲良くしたいみたいですし……」  気まずい空気を解消しようとラカムが投げた提案にサウラさんはしばし考える様な仕草の後、 「そうですね。ご一緒させて貰いましょうか。ルリアちゃんもイオちゃんも、それにそのワンちゃんも、ララの事気に入ってくれた様ですし」  サウラさんの微笑みに、ラカムやオイゲンの顔が少し赤くなるのがわかった。 「仕方ないおじさん達ね全く」  ソーンさんはやれやれと言った風に苦笑している。 「グラン」  小声のアーミラが僕の袖をくいくいと引っ張ってくる。 「どうしたの?」 「んっと……んー……何かね、何だろ。やっぱり、いい」 「……?」  言いたいことがよくわからない。  ただ、こんな時いつもルリア達と一緒にはしゃいでいそうなアーミラが珍しく大人しかったので、僕はそれが少し引っ掛かった。  団長が引き波を追いかけ、次の波が来ると波に追いかけられて戻ってくるのを繰り返している。  ルリア・イオ・そしてララちゃんは団長が波に追われて戻ってくる度に団長の頭を撫でている。 「こんなに穏やかな時間は久しぶり……ララもお友達が出来て何だか嬉しそうです」  ベンチに腰掛けたサウラさんが、はしゃぐ子供達を眺めながら言う。  やはり旦那さんを亡くしての二人旅と言うからにはそれなりの苦労はあるのだろう。 「それでその、サウラさん達は……この後どちらへ行くんです?」  二人分の飲み物を持ってきたラカムが、サウラさんに片方を手渡しながら尋ねている。  話し掛けている割に彼女の方を見れていない。 「……あれ、多分惚れてるわね」 「まぁ順当に落ちた感じよねえ」  隣に来たロゼッタさんとソーンさんはニヤリとしながらそんなことを言う。 「ほんとですか?」 「あら、女の勘はこう言うの外さないものよ?」  まあ確かにいつものラカムよりテンション高い気がするし、声もちょっと上ずっている。  出会った頃からそう言った気配が全く見える事もなかったラカムが旅先で出会った未亡人に一目惚れとは。 「何だかちょっと微笑ましいから、このままちょっと眺めていましょうか」  女性陣はこの手の話がやっぱり好きなんだなあ。  ラカムとサウラさんの会話を聞いているとそのうちラカムの方から 「その、行先決めていないんでしたら、ウチの船に……暫く乗りませんかい?」  おお……これはもしかしなくても急展開ではないだろうか。  僕もロゼッタさん達と一緒につい聞き耳を立ててしまう。 「皆さんの船に……?」 「なーに、部屋はまだ空いてますし、チビどもも仲良くなってるみたいですし、それに何より、二人旅じゃ危ない事だってあるでしょう」 「よろしいんですか?……ご迷惑じゃないかしら」 「いやあ全然そんな事ありませんぜ!」  何だか必死なラカムを見ているのが自分の事の様に恥ずかしくなってしまい、ずっと聞いているのも野暮な気がしたので僕はその場を離れた。  アーミラはちょっと離れたベンチの上で膝を抱えてジュースを飲みながら、波打ち際で遊んでいるルリア達の方を見つめていた。 「アーミラ、お昼の時から何か大人しいけれど、何かあったの?」 「グラン……」  体調が悪いとかではなさそうに見えるのだけれど。 「ララを見てると、何か変な感じがするんだ」 「変な感じ……って」 「よく……わからない」 「確かに感情表現に乏しい様な印象は受けたけれど、喋れないって話だし……」 「違う」  僕の言葉を途中で遮って言う。 「……そう言うのじゃない」  何か違和感の様な物を感じている様だったけれど、結局アーミラもそれが何なのか掴めないらしく、それ以上言葉を発しなかった。  やがて先程の話がまとまったらしくラカム達からサウラさんとララちゃんが暫く同行すると言う話があると、案の定ルリアとイオは大層喜んで、ララちゃんの周りで飛び跳ねる。  歳の近い友達が旅に加わると言う話は嬉しいのだろう。 「旅に出る前は薬屋を営んでいたらしいからな、頼れる薬剤師先生だ。喜べお前ら」 「あらラカム、一番喜んでいるのは貴方でしょう」  などとロゼッタさんが茶化す。  照れ臭いのか頭を掻くラカムに吹き出す一同。  薬剤師……どうりで。  怪我はともかく病気に対応できる人が団に居てくれる事は助かる話だ。  それに母子二人であてもなく旅を続けるよりは、僕らの船に乗っていた方がきっと安全だろうから反対する理由もない。  サウラさんは改まってお辞儀を一つし、 「暫く御厄介になります。娘共々宜しくお願いーー」 「ヨロシク……しねー方が身のためだぜ、オメーら」  その声は不意に僕らの上から聞こえてきた。  そこには。  巨大な浮遊する岩石の蛇に乗り、不敵な笑みを浮かべる金髪の少女。  稀代の錬金術士は、サウラさんを指差して言うのであった。 「そいつらには気を付けねえと……オメーらみんな……死んじまうゾ?」                                                 掬い上げた綺麗な光  さらさら  さらさら  こぼれて落ちて  気が付けば  私の手には  何も残らない [3章 覆水] 「そいつらには気を付けねえと……オメーらみんな……死んじまうゾ?」  巨大な岩塊の蛇に乗り、突如現れた金髪の少女は不敵な笑みで言い放つ。  僕らは彼女の事を知っている。 「カリオストロ……⁉」 「……ようグラン、アガスティア以来だなァ」  流れるような美しい金髪に華奢な身体つき、まるで人形細工の様な顔立ちの少女。  秘術を以て悠久の時を生きる稀代の錬金術師だ。 「カリオストロ、一体どう言う事なんだ、サウラさんが何をしたって言うんだ!」  僕が問い質すとカリオストロは口の端を二ィっと吊り上げ、 「まあ事情説明は後でゆっくりしてやるさ。だがその前に……その女とガキは……拘束する!」  パチン、と彼女が指を鳴らすとサウラさんの足元の地面から無数の槍の様に岩が突出し、瞬時に檻の様な形を成した。  ララちゃんも岩の腕に掴まれて身動きが取れない状態にされてしまった。 「カリオストロてめえ!冗談にしてはタチが悪過ぎんぞ!」 「いくら貴公でも見過ごせん!」  ラカムとカタリナさんが進み出たが、生憎武器は宿に置いてきている。 「だぁから、説明は後でするって言ってんだろうが。そこで大人しくして――」 「私達の邪魔をしないで!不死身の化け物のくせに!」  カリオストロの声を遮ったのはサウラさんだった。  次の瞬間彼女を囲んでいた岩の檻と、ララちゃんを絡めとっていた岩の腕が粉々に砕け散る。  そしてララちゃんを抱えたサウラさんが地面に右手をついて何事かを短く呟くと今度は足元の砂が急激に盛り上がり始めた。 「サウラさん!」  叫んだ僕の方を見た彼女は一瞬躊躇う様な表情を見せる。 「ごめんなさい」  言い終えた直後、膨張した砂の山が巨大な塊になった時、空中で爆ぜた。 「うわっ」  辺り一面が砂嵐の様になり、視界が閉ざされる。  しばらくして砂埃が収まった時には、サウラさんとララちゃんの姿は消えてしまっていた。 「……逃げられたか。まあいい、追跡は……」  周囲を見回しながら吐き捨てるカリオストロ。  ラカムを始めその場に居たカリオストロ以外の全員が、状況を全く理解できずにいた。  高位の術者であるカリオストロの攻撃から小さな子を連れて脱出するなんて芸当が、ただの旅行者に出来るわけがない。  一体何がどうなっているんだ……。 「事情を……説明してくれ、カリオストロ」 「いいぜグラン。宿に案内しな。アップルティーとショートケーキで特別授業を開いてやるよ」  言って彼女は、また底意地の悪い笑みを浮かべるのだった。  カリオストロは千年以上前の時代に生きた天才錬金術師だ。  飽くなき探求心はその研究過程で現在に伝わる錬金術体系の大半を産んだと言う。 けれども当の本人が求めたのは死へ抗う力。即ち禁忌とされた不死の法だったらしい。  しかし『完全なる永遠の命』を作る事は叶わず、替わりに持てる知識を総動員し『究極の造形美』たる器を作成・複製し、それに魂を移し替える事で『死に抗い続ける』と言う答えを導き出したのが千年前。  異端とされた稀代の天才は一族の策謀で永らく封印されていたのだけれど、偶然僕らが封印を解除した事で現代に蘇ったのだ。  何の気紛れか星晶獣を巡る帝国との戦いに力を貸してくれていたが、アガスティアでの戦いの後、突然船を降りると言って姿を消していたのだが。 「――あの女は錬金術師だ」  カリオストロの口から静かに語られる事実。 「サウラさんが、錬金術師……」  そういえばさっきカリオストロの事『不死身の化け物』とか言っていた。  それはつまりカリオストロを知っていて、錬金術の開祖である事も認識していたと言う事だろうか。 「……だが彼女が錬金術師だからって別に敵対する理由なんざ無えだろうが」  複雑な感情が入り混じった顔のラカムはどことなく棘のある言い方になっている。  無理もない。  しかしカリオストロはさして気に留める様子もなく、 「まあ聞けよ、最後まで。短気は損気だぜ?」 「……ッ」 「現存する錬金術は元々俺様が残した研究の残骸を掻き集めたモンから派生した出来損ないばかりだが、方針や思想の違いから多くの派閥に分かれている」 「それって前にカリオストロを付け狙ってた……」 「そうだ。あの時俺様に仕掛けて来た連中はヘルメス学派だな。生命研究に熱心な連中でそのための人体実験や人攫いもガンガンやってる過激派だ」  そう言えばその連中が以前襲ってきたのもカリオストロからそっち方面の過去の研究知識を聞き出そうとしていた。 「主流派には他にも分子工学に比重を置いたアトラス学派なんてのもあって、宗教的に禁忌扱いになりやすいヘルメス学派よりも、軍事兵器開発で重宝されやすかったアトラス学派の方が研究資金も潤沢で名声も得られるから人気なんだとさ。くだらねえが、金が無けりゃ研究もお飯もままならねえって話だな」  そう言って給仕さんに持ってきてもらったアップルティーを一口やる。 「で、だ」  ショートケーキの苺だけ取って口に放り込むカリオストロ。 「グラン、帝国と戦ってる最中に幹部クラスが使ってた魔晶、覚えてるか?」 「……ああ。星晶獣の持つ力の結晶……みたいな物だろう?」 「五十点」 「…………」 「正確に言えば模造品。紛い物だ。放出されるエネルギーの波長は酷似しているが同一じゃねえ。だからすぐに暴走する」 「暴走……」  以前魔晶の力によって暴走させられた大星晶獣と戦った事や、暴走した魔晶に自我を吞まれた帝国幹部の姿が脳裏を過ぎる。 「アーカーシャを潰した後、オメーらと別れた俺様はアガスティア内に残された連中の研究施設を見付け出し、その資料と残った成果物を全て廃棄する事にした」  居なくなったと思ったら残ってそんな事していたのか……。 「だが……それとサウラ殿と何の関係があると?」  カタリナさんが質問を投げかけると、カリオストロはフォークをくるくると器用に回しながら、 「魔晶の研究を実質仕切っていたのはヘルメス学派出身の錬金術学会の連中だ。奴らに取っちゃ願ったり叶ったりだったろうよ。そして、あの女もヘルメス学派の研究員の一人だった」  言葉がない。  あの穏やかな女性が、あんな忌まわしい物の研究に携わっていたなんて。  ルリアの方を見ると、案の定青ざめた顔をしている。  無理もない。  あれは……魔晶は色んな悲劇を生みすぎた代物だ。 「けど、魔晶に関連する物を虱潰しにしていたのって何でなんだ?まあカリオストロの事だから正義感とかじゃないんだろうなとは思うけれど、やっぱりヘルメス学派と仲が悪いからなのか?」  僕は素朴な疑問を彼女ににぶつけてみる。  そこそこ長く一緒に旅をしたからわかる事だけれど、彼女は俗世の動きには基本的に興味を示さない。  善悪の概念自体は持っているが、そう言ったもので行動する物差しを持たない。  そうなると以前邪魔してきたヘルメス学派への報復か何かだと考えるのが妥当なのだが……。 「……五十点」  …………。 「魔晶に使われた『生命力を結晶化する』って研究はな、俺様が未完成で投げ出して封印してた研究成果を盗んだ理論だ」 「な……」  絶句する一同。 「生命力の結晶化……特に星晶獣クラスなんかの生命力を固形物として定着させるには確かにお誂え向きだったろうぜ。俺様が封印していたその研究は、人間の命を個体として物理的に定着させるためのものだ。星晶獣ほど精神世界と深く繋がれない人間の命じゃ長期間存在を固定できずに自壊するんで結局失敗だったんだがな」  話のスケールが大きくて把握しきれなくなってきている。 「ま、そもそもがそんな不安定な代物だ。頭の悪い連中は更にその原理をよく理解しないまま無理矢理実用化したんだ。暴走して然りだろ」 「それで……結局カリオストロはサウラさんを捕まえてどうしたいんだ?」 「……グラン、オメーはもうちっと俺様の性格わかってると思ったんだけどな」  フォークを僕の目の前に突きつけられ、思わず息をのむ。 「研究者はな、自分の研究の『未完成品』が勝手に出回るのが一番我慢ならねえんだよ。だからあの研究の成果物を使ったモノは全て消す」 「消すって……サウラさんは何か魔晶に関する物を持ち逃げしてるって事なのか?」 「……零点だな」  僕の額を小突いた彼女は、いつも通り淡々とその先を告げた。 「俺様が消すのはあのガキだ」 「どう言う事だカリオストロ!あんな年端も行かぬ子供を……手にかけるつもりか⁉子供に何の罪がある⁉」  滅多に取り乱さないカタリナさんが激高してカリオストロに詰め寄った。  他の皆もやはり納得できないようで鋭い眼差しをカリオストロへ向けていた。  けれどもカリオストロは動じる様子もなくケーキの残りを食べきってから話し出す。 「罪は無えだろうさ。が、少なくとも、あのガキはもう人間じゃねえ」 「な……」 「あの女はエルステで魔晶実用化の研究をしていたが、元になった俺様の未完成の理論を未完成のまま理解し転用しちまった。あのガキの体はな、体内の『そいつ』を核に動いてんのさ」 「どうして、そんな……」  ルリアが涙声になっていてイオが肩を抱き寄せている。  友達が増えたと思って喜んでいたのだから無理もない。 「研究所で見つけた記録じゃ丁度アガスティアが戦場になる少し前、あのガキは病気か何かで死んじまったらしい。そのガキの死体に出来損ないの燃料積んで無理矢理動かしてんだ。そっちの方がよっぽど残酷だと思うがね」  そこまで聞いて昼間のアーミラの様子がおかしかったのを思い出す。 「アーミラ、もしかしてララちゃんに感じてた違和感って」 「ずっと、変な感じしてた。……生きてるけど、生きてない感じ」  アーミラは何というか、人の生死を知覚する勘みたいなものが鋭い。  普段見せない力を行使する際には特に顕著になるが、平時に於いても多少は機能しているらしい。  僕らの中で彼女だけが、違和感を覚えていたのだ。 「だがよカリオストロ、お前さんも体の方は何回も交換して千年以上生きてるんだろう。あの子やサウラさんを否定するのはお前さん自身を否定する事になるんじゃねえのか」  ラカムが反論すると、 「全く違うね。俺様の魂魄は一度も死んじゃいねえ。複製した体に移し替える時も死んでるわけじゃねえ。あのガキはなラカム、完全に死んでるんだよ。弁解できねえ程完璧にな。あの体に魂は残ってねえんだ。体組織に残った記憶の残滓を石が感知して、そいつをフィードバックして『それっぽく動いてるだけ』だ。だから俺様はアレを消す事に迷う余地は無え」  カリオストロが告げたあまりに重たい内容とその量に皆考えの整理が付かず、その日はそれで解散になった。  皆が部屋に戻った後、食堂には僕とアーミラ、それとずっと静かに話を聞いていたアルベールとソーンさんが残っていた。 「はい、グラン君、これ」  ソーンさんが人数分のお茶を運んできてくれる。 「ああ、どうもありがとうございます……」 「……何だかやりきれないわね」  お茶を啜りながらソーンさんが呟く。  カリオストロは最後にこう言っていた。 『出来損ないの核はそう遠くなく出力が不安定になり、暴走する。宿主に魂が無いんだから帝国の将軍どもみたいに意思で制御する事も出来ないし、核を取り出せば肉体は崩壊する。俺様は明日にでもケリをつけるつもりだが、お前らはどうするんだ?』 「結局どれを選んでも救いは無いと言う事か……」  悔しそうに吐き捨てるアルベール。  アーミラは疲れて眠っている団長を抱えたまましばらく考えていた様だったけれど、 「……みんな」  僕らが彼女の方を見ると少し間をおいてから口を開いた。 「私は、お母さんに会いたくて。お母さんに会いたいから、グランと一緒にヘルヘイムを探してる。私が今までの旅で見てきた沢山のお母さん達は、みんな子供の事、大好きだったから……きっと私のお母さんも私の事好きだと思うから……だから」  彼女なりに、一生懸命言葉を探して紡いでいく。 「だからサウラは、ララの事が好きだけど、死んじゃったけど。きっとそれでも、ずっとお母さんで居たかったんだ」 「……お母さんで……居たかった、か」 「でも、ララがもう、あそこには居ないなら」 「…………」 「ほんとのララの事、思い出させてあげなきゃ」 「……どうやら俺達の中で一番真実に近い物を見ていたのは案外アーミラかもしれん」  アルベールは苦笑して残ったお茶を飲み干して席を立つ。 「あの二人を見つけて真相を問い質す。そしてカリオストロの見立てが正しければ……ララが暴走する前に、止める」 「そうね。捜索なら私の出番だし、頑張るわ」  二人はそう言って部屋へ戻って行った。  僕もお茶のカップを片付けた後、アーミラに声を掛ける。 「サウラさんの心、助けよう」 「うん」  アーミラの顔が、やっと少し、笑顔になった気がした。  誤算だった、と私は歯噛みする。  因縁浅からぬあの半不死の錬金術師に追われていただけでなく、偶然出会い、当面の宿り木にできると思った騎空団がよりによってそのカリオストロの既知の仲だったとは。 「ララ……」  横で眠る娘の髪を撫で、何とか落ち着いて逃げ延びる方法を考えようとする。  研究を私的に流用して協会の後ろ盾も無くし、帝国の庇護も既にない。  あの忌まわしい錬金術師の開祖はきっと娘を追って来るだろう。  捕まればきっとララはカリオストロによって殺されてしまう。 「他に方法が無かったのよ……」  誰にともなく呟く。  生命科学の研究にのめり込み、幼い我が子に寂しい思いをさせていたが、全て将来の娘の幸福を願っての事だった。  しかし突如として病魔は娘を襲い、あっけなく命は失われてしまった。  縋れた唯一の希望は、魔晶の研究の基礎理論として使った、あのカリオストロの研究そのものだ。  生命力を結晶化して固着させる技法。  そのお陰でララはこうして私の横で寝息を立てている。  言葉は話さなくなってしまったけれど、話しかければ反応してくれる。  私の隣に居てくれる。  私のために、存在してくれる。  私が母親である事を許してくれる。  でも、結晶化した一つの核は、長くはもたない。長くて一年、短ければもういつ不安定になり始めてもおかしくない。  何としても安全な場所に逃げおおせて、新たな核を作り出さねばならない。  それが、穴の開いた器で砂を掬い続ける様な滑稽な足掻きだとしても、私はそれを止める事はできないのだ。                                                  かわいい かわいい 迷い猫  あなたの 涙を 拭いましょう  血肉は土に  思いは風に  そして御霊は星の海  この送り火で 照らしましょう [4章 君を連れて]  バルハからミザレアへは馬を使えば小一時間で到着する距離だ。  僕とアーミラ、アルベール、ソーンさん、それとカリオストロの五名は、一路ミザレアを目指している。 「あのチビ達を残してきたのは、お前にしちゃ上出来だぜ」  ウロボロスに乗ったカリオストロが呑気に欠伸をしながら言う。 「……別に好きで置いてきたわけじゃない。ルリアやイオにはわざわざ辛い思いをさせる事はないと思っただけだ」  騎士団出身のアルベールは乗馬はお手の物だし、ソーンさんは仕組みのよくわからない魔道具の様な足の装備を起動させて飛行している。  アーミラは乗馬経験が無いとの事なので僕の後ろに乗って貰っていた。  サウラさんとララちゃんを止めるのをこの五人でやると決めたのは僕だ。 「少数でやる。四、五人の範囲で決めろ」  今朝がた早くに僕の部屋に来たカリオストロは開口一番そう言った。  それは暗に『割り切れる奴だけ連れて来い』と言う事だった。  そうして僕がこの編成を決めた後、皆を食堂に集めて言った。 「ウロボロスの探知に反応があった場所がいくつか在る。部隊を分けて探す」  僕はカリオストロの、その嘘に乗ったんだ。 「けっ、相変わらず発想がアマちゃんだな。 まあどの道ぞろぞろまとまって動けば察知されやすいのは事実だし、いざって時に迷いが出る奴はこういう任務にゃ向かねえのさ」 「……それにしたってもう少し言い方って物があるだろう」  会話に割って入るアルベール。 「どう言ったって変わらねえよ。何せお前らときたら世界有数、とびきりのお人好しどもだ、俺様がどんだけ説明してやったって、いざ対面した途端にあのガキを説得しようとするに決まってる。説得する魂が無えのに、人の形をしてるってだけで、どうしても目に見える優しい幻想の方を信じちまう。そんな状況で奴が暴走して犠牲者が出て見ろ。それこそ一生モンのトラウマの出来上がりだ」  こう言うとひどく怒られそうなので口には出せないが、カリオストロの言う言葉にはやはりと言うか、年長者の含蓄を感じる時がある。  見た目はこんなだし口は悪いけれど、誰より長い時を生きてきただけあって、色々な苦い経験もしてきているんだろう。 「世の中な、たった一個の『愛と勇気の御伽噺』が生まれる裏で、何千何万て数の『ままならねえ理不尽な話』が転がってんだよ」  それだけ言うと、カリオストロはウロボロスの高度を少し上げてしまったので、その表情を窺い知る事はできない。 「アーミラ、大丈夫?足、痛くなったりしてない?」  僕が後ろのアーミラに声をかけると、 「だ、大丈……夫」  と、あまり大丈夫ではなさそうな返事が返ってくる。  これ、もしかして酔ったりしてないだろうな……。  自分の背中に差し迫った危機感を覚えながら、僕は手綱を握り直した。  ララの手を引いて商店通りを歩く。  港へ向かうためだ。  思えば研究に没頭していった頃、ただの一度も娘の手を引いてこんな賑やかな通りを歩いた記憶がない。  成程私は母親失格のお手本なのかもしれないなと苦笑する。  錬金術が発展し、生命研究が進めば、ララの未来は今より怪我や病に苦しまなくて済む時代になるかもしれないと思い全てを費やして研究に没頭した。  莫大な研究の資金繰りのためにエルステの軍事部門にも取り入った。  研究の発展のために、不死身の錬金術師のラボから資料まで暴き出した。  そうして走り続けた私の目に映ったものは。  帝国による戦乱と破壊、そして病に倒れた娘の死。  けれど、私にはそれを受け入れる事は到底できなかった。  ララの死を否定しなければ。  私は私の歩んできた道全てを失ってしまう。  ララを生き返らせなければ。  私は私であるための支えを失ってしまう。  体に在った命の火が失われたなら、作ればいい。  人間の生命力を結晶化する技法は、手元にあった。  そうすれば、冷たくなったララの体にまた火が灯るはずだ。  そう信じて私は。  私は――。 「核の波長を追うウロボロスでの探知じゃ細かい場所まではわからんが、奴らが向かってるのはおそらく港湾地区方面だ」  ミザレアに着いた僕らは、馬を預けてそのまま港の方へ向かっていた。  ある程度の距離まで来れば、ソーンさんの神眼で探す事もできるはずだ。 「港湾地区……島の外に出ようとしているって事か?まずいじゃないか」  アルベールが少し焦りの色を見せたがカリオストロは至って平静で、 「今日いっぱいは、貨物船連絡船含めて島を出入りする船は無いぜ。昨日から島の外周の気流が荒れてやがるんだ。そうでなきゃ、昨日無理矢理にでも追撃してる」  何というか、こういう所は抜け目ないの一言に尽きる。 「だが、カリオストロ」 「ん?」 「その、ララの体を動かしてる核は、魔晶とは違うんだろう?暴走すると具体的にどうなると言うんだ?」 「大星晶獣に匹敵する力を発揮する魔晶とは確かに違うけどな、人間一人分を一生涯活動させるだけのエネルギーが結晶化してるモンの出力調整ができなくなって短時間で溢れ出すんだ、ヘタすりゃ人の形すら保てねえはずだ」  あまりの話に気分が悪くなってくる。 「そもそもカリオストロ自身は研究段階でどうしてそんな物を作ろうと思ったんだ……」 「不死に対するアプローチはいくつも在った。  体は劣化してくると代謝……まあ、古い要素を廃して新しい血肉を作る力が弱る。これが『老い』だ。老いが加速する前に人の一生分の生命力が結晶化されたもの��取り込む事で老いを遠ざけようと試みたのさ」  横目でソーンさんの方を見ると、難しい顔で何か考えている。 「けれど失敗した?」 「最初は成功と思われたが、時間とともに拒否反応が出る様になった。核の持つ生命力の波長と肉体の波長が完全に一致しなければ、徐々にバランスが崩れて来る事がわかったのさ。それが暴走の原因にもなっていく。肉体に魂が残ってりゃ本人の根性で多少は抑え込めるようだったが、死体で実験した時はやはり半年足らずで暴走した」  僕らの会話を黙って聞きながら何か腑に落ちない表情をしていたソーンさんが、やがてカリオストロに一つの疑問を投げかけた。 「さっきから引っ掛かっていた事なのだけれど……その『人間一人分に相当する生命力』って言うのは、どこから持って来ていたの?」  その言葉を聞いて愕然とした。  言われて見ればあまりに簡単で。 「……よく気が付いたな」 「あなた……!」  あまりに考えたくない回答だ。  そう、つまり、それは。 「人の命に相当する生命力は、人から持ってきたに決まってる」 「……全く悍ましい話だな」  アルベールが吐き捨てる様に言う。  今にも抜刀しそうな眼光だ。 「まあ、今の社会通念に準えればな。ただ俺様がその研究をしていた千年以上昔はな、人口は今の十倍以上も存在し、資源は不足し、犯罪者を持て余しって世界情勢で、罪人共の命なんざゴミ同然の扱いだった。医学の発展のためと称して国主導で無数の罪人を実験台にして殺してった様な時代だ。今の倫理観で括られるのは遺憾だぜ」  やや自虐的に笑いながらカリオストロが弁明しているのを眺めていた僕は、その話を踏まえて考えるともう一つの事実が浮かんでくる事に気が付いた。 「じゃあ、カリストロ……今ララちゃんの体を動かしている核って言うのは……」  強張った僕の顔を見たカリオストロは真っ直ぐ僕の目を見据えて静かに言った。 「満点だグラン。あれが動いてるって事は、あの女は既に、死んだ娘のための核を生成する目的で人を殺してる」  もう、後戻りはできないと覚悟を決めていた。  この先ずっと、ララに生き続けてもらうために。  ララの新しい核のために。  他の命を奪い続ける事になってでも。  立ち止まらないと決めたのだから。  立ち止まらない。  立ち止まれない。  立ち止まっている。  立ち止まっている?  誰が? 「…………ララ?」  手を繋いで歩いていたララが、足を止めている。 「ララ?……どうしたの?どこか痛いの?」  話しかけても反応が無い。  わずかな表情も無く、ずっと虚空を見つめている。 「ララ、ねえ、歩いて?ママと一緒に行きましょう?これから色んな国を二人で――」  ズブ、と言う鈍い音が聞こえた気がした。  少しの間、何が起きたのかわからなかったが、やがてララの体から硬質の何かが細く伸びて、自らの腹部を貫通した事をようやく理解した。  遠くから悲鳴が聞こえた様な気がしたのは丁度カリオストロの話を聞き終えて歩き始めた直後だった。  ソーンさんがすぐに神眼を凝らす。 「……港近くの……市場のあたり!」  あの辺りは人通りも多いはずだ。  対処が遅れると被害が大きくなるかもしれない。  駆け出して少しすると、向こう側から大勢の人達が走ってきた。 「化け物だ!」 「助けてくれ!」  カリオストロは舌打ちすると、ウロボロスを呼び出して飛び乗った。 「先行する!」  空中を移動できる二人が先行し、僕とアーミラ、アルベールの三人が後を追う形になった。 「グラン!」  アーミラが走りながら僕に叫ぶ。 「サウラ、弱ってる!感じるの!」 「急ごう!」  押し寄せる人の波を搔き分けて、僕らは市場を目指した。  異形、としか形容しようがない。  人間の、幼子の形をしたものから、無数の棘が伸び、周囲の壁や物を刺し貫き、切り裂いてい行く。  近くでは、サウラさんが膝をついていて、足元には血だまりができていた。 「周りの物を無差別に攻撃している様だ」  アルベールが剣を引き抜き、静かに構えを取る。 「核が暴走しているのか……」  ルリアやイオを連れてこなくて良かったと思った。 「ありゃマジでやらねえと周りを巻き込まずに止めるのは難儀だぜ、グラン!」  ソーンさんやカリオストロが遠距離から攻撃を仕掛けてみるが無数の棘のうち何本かを折っただけで、大半は迎撃されてしまう。  折れた棘も、替わりの棘がすぐに再生してなしのつぶてだった。 「オオオォッ!」  アルベールは一振りで四本五本の棘を一遍に斬り飛ばして行くが、やはり瞬時に再生されてしまっていた。 「チィッ……ちまちまやっていては埒が明かんぞ」 「けど街中であまり火力の高い攻撃を使うわけにもいかないわよ」  ソーンさんは間合いの長そうな棘を優先して撃ち抜いて行っている。  とにかく怪我の酷そうなサウラさんを助けないと……。 「カリオストロ、サウラさんを僕とアーミラで保護する。援護をお願い」 「ああ?死にぞこないを助けんのか?あの様子じゃどうせ助からねえぜ?」 「……頼む」 「あーァはいはいわかったよ、面倒くせえな」  カリオストロの詠唱と共に二つに分かれたウロボロスが回転し、無数の棘を次々と粉砕していく。  異形の方も再生を繰り返して状況が膠着する。 「行こう!」  僕の声にアーミラが頷き、二人同時に走り出す。  僕は蹲ったサウラさんを抱きかかえて、アーミラにガードを任せて異形から一定の距離を取った。 「術が切れる!お前ら一旦替われ!」  カリオストロはソーンさんとアルベールにその場を預けると僕の方へ飛んでくる。 「……全くめんどくせえモン暴れさせやがって」  大量に出血しているサウラさんはカリオストロを見上げている。 「ラボの研究資料を暴いて転用したとは言え、そんだけの理解力があればコイツが不完全な代物なのはわかっただろうが」 「ララを……どうする気……」  その瞳には、悲しみと怒りが混在していた。 「テメーの不始末の尻拭いってのは気に喰わねえが俺様の研究を転用した欠陥品が暴れまわるのはいい迷惑だ。……アイツは俺様が消してやる。グラン、大技使うからアレの動き止めてくれ」  そう言い放って向き直り、再び詠唱を始めたその直後だった。 「……殺させない……!」  サウラさんのかざした手から何本もの光の矢が放たれ、カリオストロの体を背後から刺し貫く。 「っぎィ!……このヤロウ……とっくに致命傷のクセしやがって……!」  ウロボロスに受け止められたが、あれではまともに戦える状態ではない。 「サウラさん!」  僕は咄嗟にカリオストロに向けて追撃を放とうとするサウラさんの腕を掴む。 「離して!アイツを殺して、ララを助けるのよ!」 「何言ってるんです!止めなきゃみんな死んじゃいますよ!」 「関係ない!ララさえ生きてればそれでいい!」  背筋に冷たいものが走るのを感じた。  その瞳は僕の方を見てはいるけれど、僕の事は捉えていない。  愛などと言うものでは既になく、そこにあるのは妄執や狂気の様に思えた。  母親と言うのは、我が子の事になればここまで我を忘れ、理���を忘れ、倫理を忘れる事ができるのだろうか。 「どいて!」  逆の手で僕の方へも術を放ってくる。  伸ばしてくる植物状の何本もの細い槍を間一髪で切り落とした。 「ララ、今助けるからね!」  サウラさんが走り出そうとした時、今度はアーミラがその腕を掴む。 「……行っちゃだめだよ」 「離しなさい!」 「離さない」 「離して!あの子が死んじゃう!」 「もう、生きてないよ」  アーミラが静かに告げる。 「…………何を言ってるの」  サウラさんの表情が硬くなった。  自分を誤魔化して見ないようにしていた事実をつきつけられる事は辛いことだ。 「あの体は、生きてるんじゃないよ」 「……黙りなさい」 「ララの体だけが、ララのフリをさせられてただけ」 「黙りなさいと言っている!」  至近距離から光の矢を放つ。  矢はアーミラの掌を貫いたが、アーミラは掴んでいる方の手を緩めなかった。 「サウラは、ララを大好きだったから、ちゃんとお母さんを、したかったんだよね」 「……それ……は」  彼女の腕から力が抜けていく。  両膝をついて、もう今にも倒れ伏しそうだった。 「私は、お母さんの顔、覚えてないけど……お母さんに会いたいって、ずっと思ってる」 「…………」 「だからね、本当のララの心は、あそこじゃない、別の所でお母さんに会えるの、待ってると思うよ。なのに体だけあんなに痛そうにしてる」 「……ああ……そうね……そうだわ」 「だからもう、休ませて、あげなくちゃ」 「…………ごめんね……私がやるべきなんだけれど……もう……」  サウラさんの目から、涙が溢れていた。 「大丈夫。私が……やるから」  サウラさんを地面に横たえると、アーミラが僕の方を向いて、 「グラン、まだ、行ける?」 「勿論」  僕も立ち上がり、カリオストロに向かって叫ぶ。 「カリオストロ、大技ってのは行けるの⁉」  腕の修復だけはどうにか済ませたらしいカリオストロはウロボロスの上から、 「誰に物言ってんだテメー、キメてやるからしっかり奴を止めやがれ!」  頼もしいほど不遜な物言いを返してくる。  僕とアーミラは異形へ向けて突進する。  無数の棘をアルベールと僕で斬り落とし、打ち漏らしをソーンさんの魔力の矢が打ち砕いて行く。 「アーミラ!」  棘の半分近くを一時的に無力化した所で、アーミラが本体に向かって踏み込んだ。 「大人しく……しろ!」  叫びと共に光に包まれたアーミラの背中から一枚の翼が姿を見せ、頭からは角が姿を現していた。  あの状態の彼女はパワーも魔力ももう反則と言っていい程だが自由に扱える力ではないらしく滅多に見る事は無い。 「終わりに……する!」  異形の体を完全に捕らえ、渾身の一撃を叩き込む。  吹き飛んで壁に叩きつけられた異形の前に、ウロボロスに乗ったカリオストロが瞬時に詰め寄っていた。 「血肉は土に        思いは風に              命は星に」  普段のカリオストロからは想像できない、柔らかな言霊だった。  謡うように詠唱を終えたカリオストロが手を触れた点に輝く陣が発現し、青白い炎が遥か上空まで燃え上がった。  サウラさんはもう、視力も失っている様な状態だった。 「ガキの体は野辺送りの火で空に還した」  カリオストロはサウラさんにそう告げた。  あの青白い炎が消えた後に残ったのは、白い白い、塩の柱だった。  それは程なく、風に散って霧散してしまった。 「……そう……」  アーミラが彼女の手を握る。 「ほんとのララは、きっと空で待ってる」 「……そう……ね……」  ふうっと、サウラさんはゆっくり息を吐いた後、 「ありがとう」  小さく呟き、その旅を終えた。  予想はしていたけれど、事の顛末を聞いたルリアやイオはひどく落ち込み、多くの者にとって後味の良くない幕引きであった様だった。  これでも異形と化したララちゃんの体の事なんかの具体的な描写を避けて伝えたつもりなので、それ以上ソフトに表現するとなるとほぼ何も語らないに等しい言うのが実情なのだけれど。  ラカムは正直もっと落ち込むかと思っていたのだけれど、何だかんだで頭の中で整理を付け始めている様だ。  空に溶ける煙草の煙に、何かを見ているように思えた。  それと、カリオストロ。  事件後二日ほどで早々に旅立っていった。  別れ際に杖で僕の額を散々小突いてこんな事を言っていた。 『お前ら全員もれなくそうだが、特にグラン。リーダーやるならもう少し大局的に考えやがれ。何でも受け入れて何でも許してじゃあ、運よく回ってるうちはいいが、そうじゃない時は必ず来る。俺様が戻れば問題ねえが、魔晶研究の後始末にはもうしばらく時間がかかる。俺様が戻るまで誰も死なせるんじゃねえぞ』.  カリオストロとはまた近いうちに旅をする事になるのかもしれない。  再会した時にまたどやされないよう、それまで精進するほかないと思った。  バルハの浜が夕陽に染まっていく。  堤防に腰掛けた僕らは、徐々に暮れ行く海をぼうっと眺めていた。  サウラさんの魂は、空でララちゃんに再会できただろうか。  狂気に呑まれてしまった事は悲劇だったけれど、それほどまでに我が子を愛した母親の魂にはそのくらいの救いがあっても良いのではないだろうかと思った。 「アーミラ」 「んー?」  団長(犬)をくすぐってからかっているアーミラがのんびりとした返事をする。 「約束するよ。必ず、お母さんの所に連れていく」 「……うん」  するとしばらくの間の後、 「私も約束、するよ。グランのお父さんの所に、グランを連れ行く」  僕は思いがけない言葉に彼女の方に向き直る。 「…………それでね、みんなで御飯食べるんだ。そしたら美味しいが4人分だから、きっと、すっごく美味しいよ」  そう言ったアーミラの顔が一瞬近付いて。  僕の頬に、そっと触れた。 「ふへへ」と悪戯っぽく笑うアーミラに釣られて僕も笑った。  笑いながら、胸につかえていたものが外れた様に、僕は泣いた。  とめどなく、涙が溢れた。  紅く暮れた砂浜を、僕らは歩く。  アーミラと手を繋いで。  団長を頭に乗せて。  並んだ足跡は、きっとこの先も続いていく。  遠くで、ビィの僕らを呼ぶ声が聞こえた。                                                                                              
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fujimoto-h · 5 years
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『babel』と『白鴉』と在日朝鮮学生美術展とタル・ベーラとクラスナホルカイ・ラースローと作品と
 先日、3通の不在連絡票を経て『babel』3号が届いた。詩を1篇載せています。ほかの作品も読みごたえありますよ。ご購入いただけるかたを募集します。  それぞれ、『白鴉』31号は500円+送料手間賃400円、『babel』3号は500円+送料手間賃250円となります。『白鴉』31号と『babel』3号を同時にお買い上げいただける場合は、送料手間賃は400円のみでお得です。  なお、『白鴉』30号も少数あり、こちらは500円+送料手間賃250円です。  ご希望のかたはtwitterのDMか、このサイトに記されているメールアドレスへご連絡ください。  31号に載せた作品の感想もすこしずつ届いてきだして嬉しい。『反省しない犬』に載せた作品にも感想をいただいており、リンクさせていただいている人物��はべつの、かなりの衝撃を受けたというかたがいま「アゴアク」に臨んでおられるようで、31号のはもっと読みやすいですよと宣伝。
 14日、前に書いたとおり、第48回在日朝鮮学生美術展へ行ってきた。幼稚園から高級学校まで、あらゆる年代の学生たちの描いた絵や工作が集うのでたいへん見ごたえがあった。高級学校となってくるとテーマも表現方法も複雑になってきて、ぱっと見て、気になったら学生による説明文を読み、それを踏まえてじっくり見る、という流れになり、終了間際までゆっくり楽しめた。ちなみに「白」という作品に関しては「白」とだけ説明文にあり、うん、白だな、とうなずくしかない。「社会の縮小図」、「羞恥心」、「集まれ」、「立ち向かう」など、考えさせられる作品もたくさんあった中で、受付で渡されたアンケートのために3作品を選ばねばならず、苦心の末に選び出したのは「社会の縮小図」「立ち向かう」「白」だった。「白」はなぜか外せなかった。ハン・ガンの作品のことが頭のどこかにあったかもしれない。あと、さいきんは抽象画に惹かれるなあと思った。  自分の作品と絡めていろいろと考えたのは「羞恥心」だったか。twitterにも書いたが、「小説友達」を『樹林』に発表したとき、ミンさんのことを「在日コリアン女性」としていたところ、発表後の白鴉での合評時には「在日朝鮮人女性」にあらためた。最初に書いているときにも悩んだ末に「在日コリアン女性」としていたものだったが、この「在日朝鮮人」よりも「在日コリアン」のほうが書きやすいという心情について考えたとき、書きにくいと感じるのはそこに歴史を知る者としての疚しさがあるからにほかならないと気づいた。これに気づけたのは内藤千珠子『愛国的無関心──「見えない他者」と物語の暴力』(新曜社)を読んでいたおかげだっただろう。これが正解なのかどうかは私にはわからない。ひとえに「在日コリアン」と言っても民団系と総連系を切断してしまうのに疑問を感じるからこその呼称だという声もあるかもしれないし、それはそれで正解なのだと思う。いまや在日朝鮮人にもいろいろな背景があり、グラデーションの中に存在している。MOMENT JOONが自称するように移民としてとらえることもこれからは必要かもしれず、「朝鮮系日本人」などといった呼称が主流になってくるのかもしれない。私もふだんのつきあいの中では目の前の本人がそれ以外の呼称を自称しない限りは「在日コリアン」を使うだろう。「在日」と略されるのは引っかかるという人もいて、これもわかる。属性を雑に呼ぶのは蔑称の基本だからだ(「Jap」などを考えるといい)。「在日朝鮮人」が疚しいと感じる原因は歴史的背景のほかに、実際に「朝鮮」「朝鮮人」を差別語として使っているケースがあることも一因だろう。しかしこれは日本人がこの言葉をそういうものとして奪ってしまったからであり、私たちはこれを取り返す戦いを在日朝鮮人作家のみに求めてはいないだろうかと、私はさいきん考えるようになっている。  こういったスタンスで書くということも含めて、いろいろ勉強していきたい所存ですよ。やはり向井豊昭が指標になるのだろうか。
 15日にはいよいよタル・ベーラ『サタンタンゴ』を観た。7時間18分。10分休憩2回で、劇場拘束時間は7時間38分。1回目の休憩のあと、両隣が空くという。思わず自分の服をにおわされるが、たぶん大丈夫。何回か寝たのでのちのちパンフレットを確認したところ、やはりたいしたことは起こっていなかった。いろいろ書きたいことはあるものの、時間がない(のちのち書きたくなったら書くかもしれない)。しかしやはりクラスナホルカイ・ラースローの作品をもっと出してほしいということはこれからもずっと言っていきたい。カフカ、ベケット、ベルンハルトて、なにその最強の布陣。
最近観た映画 『サタンタンゴ』(タル・ベーラ)テアトル梅田 『神と共に──第1章:罪と罰』(キム・ヨンファ)塚口サンサン劇場
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